大井「少し離れてくださいな」 北上「え、なに?」 (284)


大井「なにじゃないですよ。離れてくださいと言ってるんです」

北上「あぁ、もしかしてそれ私に言ってたの? ……へぇ~?」

大井「……なんですか?」

北上「べっつにぃ~? あの大井っちが私にそんなこというとはねぇ、おっどろきだなぁって」

大井「なにが言いたいんですか? はっきり言ったら?」

北上「いやぁどの口がのたまうのかなってさ、ちょっと前まで言う対象が逆だったのにねぇ?
    そんな簡単に手の平返しちゃうような大井っちが私に離れろって……ははっ」

大井「……そういう北上さんこそ、普段は飄々としてるくせに随分と固執するんですね。
   貴女みたいな人はどうせすぐ飽きて次に手をだして挙句最後は貴女自身が飽きられてしまうんですよ」

北上「……それ、もしかしなくても喧嘩売ってるよね?」

大井「お好きに捉えてどうぞ?」

北上「オーライ、沈めてあげるよ。墓石に書く言葉を考える時間はあげるよ」

大井「お腹に風穴あけてあげます。燃費が良くなるかもしれませんよ?」

提督「二人とも離れてくれ」

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・暇つぶし
・書き溜めない



球磨「……くまー」

提督「……重い」

球磨「女子にそれは言ってはならんクマ」

提督「例え10㎏のダンベルでも背中に乗られたら重いっての」

大井「ほら、姉さん。提督が困ってますから、ね?」

球磨「嫌だクマ。今日はこれでいくと決めたクマー」

大井「んもう……」

提督「はぁ、仕方ない。なんとか我慢する。仕事ができないわけじゃないからな」

大井「ごめんなさい。……ほら球磨姉さんも」

球磨「助かるクマー」

 (扉の開く音)

北上「提督ー、報告が……なんだ居たの」

大井「えぇいましたとも。なにか問題でも?」

北上「べつに……」


提督「なんであいつらこの状態の球磨は許せて互いは近づくだけで警戒してるんだ?」

球磨「それは提督が二人とケッコンしたからクマ」


北上「ねー提督」

提督「ん?」

北上「いまさ、大井っち出撃中だよね」

提督「あぁ、今頃タ級相手にジルバを踊ってる頃だ」

北上「そりゃホットだね。……でさ、つまりはしばらくは二人きりで居られるわけだね」

提督「ま、そうだな」

北上「ね? いいでしょ? こっちもホットに行こうよ」

提督「そうしたいのは山々だが、書類もまた山々なんだ」

北上「えー……」

提督「それに、お前の姉の目も気になる」

北上「え?」

多摩「バレたにゃ」

北上「げ、いつの間に」

提督「緞帳上がる前から居たぞ」

北上「それ、いつから上がった扱いなの……?」

多摩「大井に見張りを頼まれたにゃ。やらなきゃ腸を尾っぽ代わりにぶら下げる羽目になると脅されたにゃ」

提督「おっかねぇ、泣いちゃいそうだ」


大井「海の藻屑に!」

北上「なりなよー」

 (爆発音)

提督『よし、これであ号も完遂だ。よくやった、帰投しろ』

大井「了解、では私が先頭を。北上さんは殿をお願いします」

北上「あいあい、任せといてー」



―――


大井「ただいま帰りましたー!」 だきっ

提督「っとと、おうお疲れ、流石に貫禄のMVPだな」

大井「ふふん」

北上「ちょっとー、確かにボス戦でのMVPは大井っちだけど道中では私の方が多いんだけど」

提督「あぁ、北上もよくやってくれた。よしよし」

北上「んふふ~」

大井「ちょっと、北上さん。邪魔しないで下さいよ」

北上「邪魔なのはそっちじゃないの~? ほらほら、被弾艦はドッグに言ったら?
    あ、私は必要ないよ? なんせ無傷だからね」

大井「いまここで怪我します?」

北上「その有様で? はっ!」

提督「お前らおとなしく休んでこい」


雷「戦闘中は息ピッタリなのに丘だとこれだものね」

足柄「ま、ある意味丘でも息ピッタリではあるけどね」


大井「提督ー?」

(空っぽの執務室に声が反響する)

大井「……留守、かしら?」

大井「外套も羽織らずどこに行ったのかしら……」

大井「……」

大井「…………」

大井「……」きょろきょろ

大井「……よし」

北上「なにしようとしてんのー?」

大井「んひっ!?」

北上「おおう、すっごい声」

大井「な、なんですか!?」

北上「いやいや、こっちが聞いてるんだけどね。ま、大体想像はつくけどさ」

大井「ていうかいつから!?」

北上「大井っちがきょろってた辺りでね、前通って。扉閉めないとだめだよ?」

大井「くあぁっ……」

北上「さらにいうとそれ、既に散々私が使った後だからそんな匂いしないと思うよ」

大井「なにしてん!」

北上「今日一番のおまいう」



北上「……」

提督「……」

北上「ふぅん……」

提督「見てて面白いか? 髭剃りなんか」

北上「わりと、生えないしねぇ」

提督「ふぅ、うん?」

北上「あれだよね、女性用の剃刀と比べて切れ味やばいっていうよね、髭剃り」

提督「あー、まぁ毛質が違うからな。太いし硬いし黒いしすぐ生えてくるし、いいことねぇ」

北上「……太くて硬くて黒くて、ねぇ?」

提督「視線を下にやるな」

北上「ほら、この間も結局できなかったし」

提督「昨日もしただろ」

北上「いやいやいや、たまにはサシでさぁ」 ぐいぐい

提督「やめろ、ズボン引っ張るなベルト取ろうとすんな。つーか切れる切れる! 唇切る!」

大井「開発回し終えま……なにしてるんですか北上さん!」

北上「髭剃り」

大井「何言ってんですか!」


北上「だからぁ、提督の黒くて太くて硬くて復活が早いアレだよ」

大井「……」

提督「おい、こっちを睨むな。北上もその言い方は語弊がありすぎる」

北上「餅?」

大井「な訳ないじゃないですか。バカですか?」

北上「かっちーん」

大井「で、なにしてたんですか本当は」

提督「いやだから見てのとおりだよ」

大井「口でしようとしてる所にしか見えませんでしたけど」

北上「あれ、無視されてるよ」

大井「あぁもういいですよ。帰って」

北上「カッチーン、よし表でなよ」

大井「いいですよ、いい加減決着つけましょうか」

提督「ほどほどにな」


―――

大井「てぇぇい!」

北上「いった! いまのいったい! なんか優しいとこ入った!」

大井「魚雷魚雷!」

北上「だが残念当たらない。これが運の差なんだよねぇ」

大井「そこは数でカバーです!」

北上「うわぁ! 多い! 大井だけに」

大井「……死んでください!」

 (爆発音)


提督「……球磨ー」

球磨「なんだクマ」

提督「あの二人もう少しなんとかなんねぇかなぁ?」

球磨「球磨にはどうにもできんクマ」

提督「あの二人なら仲良くやってくれると思ってたんだけどなぁ」

球磨「仲がいいからこそ、譲れないものがあるクマ」

提督「ありがたいやらなにやら」

球磨「そこは上手いことやって欲しいクマ」

提督「頑張ってはいるけどさ」

球磨「ま、どうしてもしんどくなったらいつでも球磨の所に来るクマ。
    こんな胸でよかったら貸すク――」

 (爆発音)

球磨「いってぇクマ!」

大井「人の旦那になにかましてんですか!」

球磨「だからって非武装相手に撃つバカがいるか!?」

北上「いや、あれは撃たれてもしょうがないねうん」

球磨「上等クマ、姉の力を見せてやるクマ!」





提督「あっぶねぇ、生身で至近弾とかシャレにならん」

多摩「助けた多摩に感謝するにゃ。撫でてもいいにゃ」

提督「おう」


足柄「聞いていい?」

北上「はい?」

足柄「どっちが正妻なの? っていうか第一なの?」

大井「それは私です」
北上「そりゃあたしだよ」

大井「あ?」

北上「は?」

大井「もしかして忘れました? 私が先に指輪を渡されたんですよ?」

北上「あーあー、勘違いして可哀想に。それはただのあいうえお順でしょ?
    提督は美味しいものを後にとって置く派なんだよ?」

大井「そんなのただの食事の話ですよね? 大事な話は先にする人ですよ?」

北上「あははは」

大井「うふふふ」

北上「艤装展開」

大井「艤装展開」

 

足柄「よっこいしょっと」

雷「なんでわざわざあぁなるように仕向けたの?」

足柄「提督に真面目な話があるときあぁするのが一番楽じゃない」


(爆発音)

足柄「またやってるの?」

川内「みたいだね。……んーポン」

足柄「ん。……今日はどっちが勝つかしらね。賭ける?」

川内「北上に3万」

足柄「じゃあ大井に2万で……榛名は?」

榛名「榛名は賭け事はあまり……」

雷「賭け麻雀やってる時点で説得力ないわよ」

榛名「それは金剛お姉様に代打ちを頼まれてしまったからで!」

足柄「リーチ」

川内「げー……」

榛名「……」

雷「はい安牌」

足柄「っと、よし一発! リーヅモ平和一発一通一盃口清一。16000・8000!」

川内「ぐあぁぁ! 親かぶり!」

 (爆発音)

足柄「っとと、今日はまた激しいわね」

川内「あっ! 山崩した! チョンボ!」

足柄「いやいやいや、上がった後じゃない」

雷「なんかもう一日一回やるのがノルマみたいになってるわよね」

榛名「あの二人ですか?」

川内「まったく、騒がしいよね」

足柄「いや、夜中に騒ぐあんたよりはマシよ」


大井「で て っ て く だ さ い」

北上「なーんーでー」

大井「今日の秘書艦は私です! 北上さんはどうぞ甘味でもパクついてブイにでもなってください」

北上「別に秘書艦以外居たらダメなんてルールはありませーん。というかブイって、そこまで太れるか!」

大井「いいから出て行ってください! 仕事の邪魔ですから!」

北上「大井っちだって逆の時執務室に居るじゃんか~」

大井「私はキチンと手伝いをしています! 北上さんみたいにソファに座ってごろごろしてません!」

北上「いやぁ、落ち着くよね。ここ」

大井「くつろぐ場所じゃないですから!」

北上「なに焦ってんの大井っち~」

大井「別に焦ってません! むしろ焦ってるのは北上さんじゃないんですか?
    中破する度に露骨にパンチラさせてはしたないんですよ!」

北上「ぐはっ!? そ、それは……っていうかき、気づいてたの?」

大井「あれだけあからさまにやってて気づかない方がおかしいですよ! ね? 提督」

提督「あー、あれな。うん、まぁそうな」

北上「真似やめて……。ってかまーじでぇー?」

大井「あれには第一艦隊みんな引いてますからね? 雷なんて他の第六駆に」

 雷『あぁなっちゃダメよ?』

大井「とか言ってましたし」

北上「ぐあぁぁ……」

大井「愛宕さんも失敗した色仕掛けと言われてましたよ」

北上「あのノーパンいやらし乳でか重巡にまでそんなことを……死のう」

大井「なにいってるんですか、死んじゃだめですよ」

北上「なにさ普段は死ねぇぇとか言ってくるくせに!」

大井「だって、……んふっ。そんな心にダメージを負った北上さんを死なせるなんて……もった……ごほん」

北上「道連れにしてやんよ!」


【二人の時 大井】

大井「もっと」

提督「こうか?」

大井「んっ……いい感じです」

提督「珍しいな。お前がこんな風に甘えてくるの」

大井「だって……」

提督「ん?」

大井「こうして、二人っきりってそうそうないですし。まして夜私室でとなるともっとないですから」

提督「まぁ、そうだな」

大井「腕、緩んでます。もっとぎゅっとしてください」

提督「はいはい……しかし、さ」

大井「?」

提督「もう少しだけでいいんだけど、北上と上手いことやってくれないか? いや、俺が言うのもなんだけってぇ!」

大井「二人で居る時に他の女の名前を出さないでくださいっていつも言ってますよね?」

提督「だからって太ももつねんなよ……いってぇ~これ痕残るぞ」

大井「まったくデリカシーのない」

提督「でも、他の女っていっても北上だぞ?」

大井「例え北上さんでもダメなものはダメです。それに、上手くってこれでも上手くやってます。

提督「そうか?」

大井「そもそも北上さんじゃなければ重婚だって許してませんし」

提督「そうか……」

大井「なんですかその若干落胆交じりの感じ。もしかしてまだ……」

提督「いや! そんなつもりはない!」

大井「しょっぱなから重婚かました人の台詞なんて信じられません。……ので、身体に聞きますね」

提督「おい、ちょ。ま――」

ネタくれ
というかまぁ暇つぶしだから無理に書く必要はないんだけど

そらベタな死んだふりドッキリよ


【木曾】

球磨「いい天気だクマ」

北上「はい提督、あ~ん」

多摩「日差しが心地いいにゃ」

大井「ちょっと北上さん! いつも昼食は私が作ってるのに余計な事しないでくださいよ!」

球磨「これでもう少し静かならいうことないクマ」

北上「だからだよ! なんでいっつも大井っちが作ってるのさ!?」

多摩「でも静かだとお昼寝したくなるにゃ。だからある意味これでいいにゃ」

大井「私の方が料理上手だからですぅ~。悔しかったらレパートリーを増やしたらどうですか?」

球磨「しっかし今日も今日とて我が妹二人は軽快クマな~」

北上「にゃにを~?」

提督「はいはいお前らその辺で……」


 (扉が勢いよく開く音)

木曾「はい! 改2!」 ばばーん

大井「本当の事をいっただけですぅ~」

北上「こんのぉ~……ならこれ食べてみてよ! 鳳翔さんにならったんだからね!」

多摩「けどあれにゃ、多摩達の分も用意してくれる辺りなんだかんだいい妹にゃ」

球磨「うめぇクマ」

提督「おううめぇな」

木曾「……見てくれよ!」

提督「おん? おぉ! 改2になったか!」

多摩「くたばれにゃ」

球磨「まだ改2実装されてない姉の事をちったぁ思いやれクマ」

木曾「お、おう……すまん……」

北上「で、それだけ?」

木曾「え?」

大井「見てのとおり食事中なのだけれど」

木曾「え、えぇ~……こんなに歓迎されないとかまじか……」

提督「それでなんなんだ? その手に持ってるのは」

木曾「え、あ! そうだった! おい、勝負だ!」

球磨「あー、でたクマ」

北上「果たし状とはまた」

木曾「ふっふっふ、改2となり雷巡へと改装されさらに改修まで終えた今、全身にみなぎるパワー……
    今日こそ絶対に勝つ!」

提督「ほう、それで果たし状か」

木曾「おう! 今日はハンデもいらねえ! 両腕、両足、両目使って構わないぜ! 武器もな!」

多摩(むしろいままでそんだけハンデつけられた上で一度も勝ててなかったのかにゃ)

木曾「じゃあオレは先にいってるからな!」

 (扉の閉まる音)


提督「しゃーない。行ってくる」

大井「一ついいですか?」

提督「ん?」

大井「どうしてあんな条件に?」

提督「ん~、まず眼帯をしてるから対等に、という理由で片目を閉じて。
    海の上での戦いを主にする艦娘と丘で戦うなら足場の違いを考慮してとか言って右足を使わないようにして
    艤装を使わないんだから俺も武器は使わないって感じで、腕は……まぁバランスとかいった」

北上「でも木曾は剣使うんでしょ?」

提督「まあ。……じゃあ行ってくる」

球磨「いってらー」

多摩「ほどほどに頼むにゃ」

提督「ははは」

 ばたん

球磨「……賭けるクマ?」

多摩「別にかまわんにゃ」

北上「えー、でもそもそも賭けとして成立しないでしょ」

大井「提督に2000」

北上「ほらぁ、賭けにならない。あたしだって提督に賭けたいもん」


―――

 機密保持の為、外に出ることができない数多くの艦娘が生活する鎮守府。
敷地は広く様々な施設があり、空母が主に使用する弓道場や
自己鍛錬に励む艦娘が利用する柔剣道場もその一つである。
その柔剣道場の埃っぽい空気の中、向かい会い立つ姿が二つと離れてそれを眺める影が一つ。

(ふむ、しばらく使ってなかったがやはり多少弱ってきてるな)

 内の一人、二本の長さの違う日本刀を携えた男が裸足で床を
確かめるように二度三度踏んでから向かい合う人影に声をかける。

「それで、どうして青葉がいるんだ?」

 離れたところで眺めてた重巡洋艦青葉に軽く目を向ける。

「証人が居るだろう? お前が敗北する歴史的瞬間をな」

 至極楽しそうに問われた向かい合うもう一人――木曾は答える。
眼帯にマントという動きづらそうな服装はそのままに、
しかし節々から強い自信が見える。

「えぇえぇ青葉が本日の決闘の一部始終を嘘偽りなくみなさんに伝えますよ!」

 青葉は首から下げたカメラを実に嬉々とした表情で掲げ
パシャリと一枚フラッシュを光らせる。

「という訳だ」
「そうか、なら開始の合図は青葉に任せよう」
「はい、了解です!」

 淡々とした会話が埃舞う室内で重なる中。
しかし向かい合う二人は少しずつ緊張を高めていく。

「本当にいいんだな? ありありで」

 最後の忠告とばかりに提督が確認をとり。

「あぁ、その上で俺が勝つ」

 鼻をふふんとならし木曾が軽く答える。


 ――それを慢心と呼ばずしてなんと呼ぶか。
木曾が後悔をするのは間もなくの事。


「では反則なし。決着はどちらかが敗北を認めるか意識を失うまでと言う事で……始めッッッ!」

 そう言い切り、青葉がホイッスルが鳴らす。

「……しっ!」

 床を強く踏み鳴らす音。それは爆発音とも聞き間違う程の轟音。
五メートルはあろうかと言う距離を文字通り一足飛びに詰め、提督は小太刀を振るう。

「っ!?」

 軍刀に抜く間も無く、一瞬にして距離を詰められた木曾は
それを寸での所で上体を大きく逸らす事で回避する。
眼前に迫る、西日を受け鈍く光る刀の切っ先。

(見える! 確かに見える!)

 以前の自分ならこの時点で即首を落とされていたであろう
鋭すぎる一撃。それに確かに反応できた、認識できた、把握でき対処できた。
それは木曾の中の漠然とした自信を更に煽る。

「せぁっ!」

 後ろに仰け反った体勢、勢いをそのままに右足を
刀を振るった腕がまだ戻らぬ提督の顎目掛け高く蹴り上げる。

「……」

 見向きもせず、首を傾げるようにして回避。
空振った刀を反転、斜めに切り下ろすように二の太刀。
それをまた木曾も蹴り上げた足もそのままにバク転し避けきる。

 しかしバク転をするということ、それは目の前の敵から目を離すと言う事。
ほんの刹那、けれどそれは格上相手には致命的すぎる隙だった。

「ぬあっ!?」

 胸の前で水平に構えられた小太刀。
それは木曾が着地し、動きが止まった一瞬を狙って真っ直ぐに突き出された。
両の目をしかと開いていればそれでも把握できた攻撃。
しかしその片方の目を頑なに眼帯で塞いでいた木曾にとって、
片一方の瞳に対し真っ直ぐに放たれた突きはただの一文字にしか見えなかった。

 改2になるまで海戦を繰り返し培った経験。
前世の数多の兵達の記憶。目の前に迫る確かな死に対する生存本能。
ありとあらゆる物がギリギリの所で木曾を動かした。

 黒く艶やかな髪を裂き、頬を掠め耳を切り。それでもなんとか避け切った。

     ・ ・ ・ ・
 けど、そこまで。

「ふっ!」
「ぐあっ!」

 先の見ていない反射的な回避。
体勢は崩れに崩れ、がら空きになった白く柔らかな彼女の脇腹に
深く、深く、不覚。蹴りが刺さる。
それは皮膚を、脂肪を、筋肉を、内臓を、押しつぶす一撃。
余りにも容赦なく、余りにもえげつない全力の回し蹴り。

 二度。否、三度木曾は床にぶつかりながら吹き飛び、
やがて分厚く古い壁に強かに身体をぶつけ止まる。
そこに呻きは無く、身動ぎもなく、意識を失っている事は誰の目にも明らかだった。

「……こんな所か」

 シャリンと、鍔鳴りの音。
鞘に納まる鋼打ちの刀と呟き。

 勝負は、ほんの一分足らずで終わった。


―――

 固唾を呑んで見守っていた試合。
けれど青葉はこうなるであろうとある程度予期していた。
あるいは予想、予測。予知と言ってもいい。

 一切のハンデ無しでこの男と仕合おうなどと言えばどうなるかなんて、
そんなもの考えるまでもない。
 ・ ・
(あれは……怖かったですね)

 ここに配備される艦娘が皆々一度は受ける洗礼。
青葉自身も例外ではない。

(そもそも格闘戦を得意とする駆逐、軽巡を複数人素手で相手して
 圧勝する人間相手に単独で勝てるわけがありません)

 パシャリ、パシャリと二人の戦闘をカメラに収める。
奮戦している? と思ったのも一瞬で。

「……こんな所か」

 小さな呟きであっけなく仕合は終了した。
結局小太刀のみ、もう一本の長刀は使われないままに。

「青葉」
「っ、はい!」

 呆けている自分にかけられた言葉に自ずと背筋が伸びる。

「木曾を介抱してやってくれ、……それと明石にここの床、脆くなってて抜けそうになった。
 補修しとくように、と」
「了解!」

 返事を聞き、頷いて靴を履き退出する彼の背中を見つめ。

「……どうやったら踏み込みだけでこの床を抜きそうになるんですかねぇ?」

 自らも立つ分厚く頑丈な床を確かめるように拳で叩く。
重巡である自分がそれ目的で力一杯殴っても抜けそうに無い床に向かって一人ごちた。


 

木曾「……という訳でふるぼっこにされた」

天龍「お、おう……大変だったな」

木曾「天龍もちょっと行ってこいよ」

天龍「無茶言うな! あんなもんとやり合えるか! 俺はまだ死にたくねぇ!」

木曾「ふふふ……怖いのか?」

天龍「こえぇよ!」

木曾「……即答されるとは思ってなかったな」

天龍「はぁ……」

木曾「……」

天龍「……」

木曾「あ、そういえば」

天龍「ん?」

木曾「俺、改2」

天龍「……おう、おめっとさん」

木曾「練度、65」

天龍「だな」

木曾「……天龍はいくつだっけ? ん?」

天龍「…………77だけど」

木曾「あれ? あれあれあれ? 俺より高いのにまだ改2になってない? あっれおかしいなぁ?」

天龍「おい」

木曾「あぁ、そっか改2実装されてないのか~!」

天龍「てんめぇぇぇ!」

木曾「ほらほら改2だぜー! 後輩に抜かされたぜ~!」

天龍「上等! ぶっつぶしてやる!」

木曾「かかってこ――ごふっ!」

天龍「あ」

龍田「なぁにやってるのかしらぁ?」

木曾「い、……いつの間に」

龍田「改2がなくても、貴女を痛めつける位どうってことないのよぉ? もう一回、入渠する?」

木曾「す、すんません。龍田姐さん」



―――

提督「……しっかし、うちは喧嘩っぱやいのが多くて困るな」

大井「一緒にしないで欲しいですね、私はほらそこの相手の時だけですから」

北上「言われてるよ球磨ねえ」

球磨「なんと」

多摩「いやいやいや、お前の事にゃ」

北上「え、うそん。そこの呼ばわりか~たはー」

大井「いえ、球磨姉さんです」

球磨「ばかなっ!?」

木曾「ただいまー」

提督「おう、お帰り……あれ、お前入渠してきたんじゃねぇの?」

多摩「なんか中破してるにゃ」

木曾「天龍に改2自慢して遊んでたら龍田にやられた」

北上「へぇ~あほじゃん」

球磨「当然の結果クマ」

提督「お前の姉さん達冷たいな」

木曾「いやまったくな」

大井「で、どうだったの? 感想は」

木曾「は? なんのだよ?」

多摩「ぼこられた感想にゃ」

木曾「手も足もでなかったわ。ぶったまげたわ、本当に人間か?」

提督「おう」

球磨「嘘発見機があったら針振り切れてるクマ」

北上「先端恐怖症のあたしには厳しいね」

多摩「それも嘘にゃ、多摩以外嘘つきばっかりにゃ」

大井「それも嘘でしょうに」

提督「なんの話だ?」

木曾「本当にドライだろ俺の姉連中」

球磨「だってわかりきってた結果クマ」

大井「もうハンデ無しで挑んだ段階で"あぁ、ぼこられたいのかな”って思ったわね」

木曾「ファック!」

>>40

【してみた】

提督「死んだふり?」

球磨「そうだクマ」

提督「なんでまたそんな悪質などっきりをせにゃならんのだ?」

多摩「日々他の艦娘の精神と資材。主に弾薬を削る二人の狼狽してテンパる様を見て
    盛大に笑ってやろうという企画にゃ。溜飲をさげるにゃ」

球磨「やってくれるクマ?」

提督「いや、まぁ日頃お前らには迷惑をかけてる事は重々承知していたからな、仕方ない」

多摩「流石にゃ」

提督「後のフォローを思うと気が重いが」

球磨「では早速打ち合わせに入るクマ」

提督「そうだな、毎日顔を合わせてるんだ。死ぬにしてもそれなりの原因とかシチュエーションを詰めておかないと
    あの二人にはすぐばれそうだ」

多摩「特に殺しても死なない病気とも縁遠い提督の事にゃ
    振りのために数日かける事も視野に入れるにゃ」

提督「思っていたより大がかりだな……」

球磨「提督が言った通り、あの二人をだまくらかすにはかなり頑張る必要があるクマ。頑張るクマー!」

多摩「にゃー!」


―――

北上「健康診断?」

提督「あぁ、本部で各地の軍務関係者にな」

大井「なんでまた急に?」

提督「他所で最近新型のウィルスが確認されたんだ。完全な」

北上「完全な新型ってなにさ、不完全とかあるの?」

提督「昨今見つかってる新型ウィルスはなんらかの亜種、あるいは突然変異で元になるウィルスがある。
    だからC型とかなんとか付随した名前を付けられたりする訳だが、此度見つかったそれは
    そういった親戚が一切ないんだ。どのウィルスとも類似性がない」

大井「なるほど……けど、それがどうして提督が健康診断する理由に?」

提督「発生源があまりにも不明だからだ。上ではそれが深海棲艦の所為ではないかと言っていてな」

北上「バイオ兵器って奴?」

提督「可能性としては、生態がまるで未知の深海棲艦が体内に持っている物が人間にとって有害であるとか。
    艦娘と違って生きたまま隅から隅まで検査なんてしたことないからな、
    奴らが未知のウィルス、乃至最近を体内に保持してるかもしれない」

大井「だから接触の多い提督達って事ですか?」

北上「でも、ならなんであたしらは検査されないの……ってそりゃ兵器だからか」

提督「……ま、そういう事だな。というわけでしばらく留守にする。
   明日の朝には帰ってくるからよろしく頼む」

大井「えぇ任せてください、私がしっかり回しておきますから」

北上「いやいや、大井っちは秘書艦の仕事してなよ。代理は責任をもって――

提督「有事の際の代理指揮官は大淀に頼んである」

大井「なんでですか!?」

提督「お前らがそうやって喧嘩するからだ」

北上「あー、そりゃごもっとも」

提督「じゃ、行ってくる」

大井「「いってらっしゃい」
北上「いってらー」


北上「……」

大井「……」

北上「ってか聞き損ねたけどさぁ」

大井「えぇ、その新型ウィルスってどんな症状がでるんでしょうか?」

北上「……わざわざ健康診断とか言って各地に緊急招集かけたんだよね、あの本部が」

大井「……万が一、なんてことないですよね?」

北上「いやぁ、流石にないっしょ? 提督のノリを見る感じ」

大井「実際そうだった場合に提督の表面上の雰囲気はあてにならないと思いますけど」

北上「……」

大井「……」

北上「あの提督にまさかなんてないよね?」

大井「そ、そうですよ! えぇ、そうですとも!」


―――

提督「よっこいしょっと」

球磨「いらっしゃいクマ」

提督「で、あんな感じで大丈夫だったのか?」

川内「うん、問題ないみたいだよ!」しゅたっ

提督「お、戻ってきたのか」

川内「あれ、気付いてた?」

提督「流石にな。ずっと執務室の屋根裏に居ただろ」

球磨「状況確認の為に雇ったクマ」

提督「大方そんなところだと思ったよ」

多摩「で、様子はどうだったにゃ?」

川内「うん。勝手に想像膨らまして焦ってたよ」

球磨「よしよし、いい調子クマ。続けて大淀に追い討ちをさせるクマ」

提督「改めて性質が悪いドッキリだな」

多摩「今更にゃ」

提督「というか一つ聞いていいか?」

球磨「なんだクマ?」

提督「木曾は仲間外れなのか?」

多摩「木曾にはこういう隠し事はできないにゃ」

球磨「顔にそっこーで出るクマ」

提督「そりゃそうか」


球磨「大淀から連絡きたクマ。今から執務室に向かって接触するらしいクマ」

川内「見に行ってくるね!」 すっ

多摩「頼んだにゃー」

提督「で、大淀にはなにをやらせるんだ? 言われた通りに代理に立てといたけど」

球磨「二人にそれとなく死に至る病だと伝えさせるクマ」

多摩「不安を煽る係にゃ、シラッと嘘つける大淀向きにゃ」

提督「ふぅん……しかし、あれだよな。普通に考えたら経口感染か空気感染か粘膜感染か、
    経路もわからないウィルスを保持してるかもしれない人間を本土に呼ばないよな」

多摩「普通はこっちに人を寄越すだろうけどその辺はアバウトにゃ」

球磨「その辺に気付かないようにする為にも不安を煽るだけ煽って回転さげるクマ」

提督「お前等のそういう謎のアグレッシブさと行動力、もっと別のところに生かしてもらいたいが……」


―――

大淀「どうも、少しの間ですけど失礼します」

北上「あーどうもどうも」

大井「わざわざすみません。と、言ってもやることなんてないですし
    重要書類に関しては提督の判断が必要なので」

大淀「主にデイリー任務達成の為の出撃指揮をと頼まれましたから」

北上「なるほどねぇ、それでどうする? とりあえず計12回の出撃全部戦艦六隻艦隊で行く?」

大淀「ものすごい怒られますよね、私」

大井「まぁいつも通り潜水艦隊にオリョール行ってきて貰って、ついでに入渠と補給任務も達成させる感じで」

大淀「ですね。では早速指令書を……」

北上「はいはい、えぇっとこっちに……はい」

大淀「はいどうも」

大井「……」

北上「……」

大淀「……提督、何事もないといいですね」

北上「え? あ、うん……」

大井「……」

大淀「……ブインの方は、亡くなったらしいですから」

大井「えっ!? そ、そんな、え!?」

北上「ちょ、それマジで?」

大淀「あら、提督から聞いてないんですか?」

北上「嘘、なんか普通にふらっと……」

大井「……提督」

誰が禿だよいい加減にしろ

            (ヽ、   ノ),
        _ノ⌒ヽ、ミ(  ) 彡 ,ノ⌒ヽ、
       `ー,へく,'  )彡⌒ミ゙ ( 、,` ヘ ー'
       ノノ, , ヽ ( (´・ω・`)ノノ    \
          'ノノノノ(|   |)八ヽ)八)) )
              (γ /
               し


――― その翌日

提督「戻ったぞ」

大淀「あっ、お帰りなさ――

大井「提督!」 どん

提督「ごっふっ……!? な、なんだ大井いきなり!?」

北上「心配してたんだよ。大丈夫だったの?」

提督「心配って、軽い健康診断程度だって」

大井「嘘吐かないでください。亡くなった方がでたんですよね?」

提督「……大淀、喋ったのか?」

大淀「……申し訳ありません。当然伝えてるものと」

北上「で、大丈夫だったの?」

提督「あぁ、大丈夫だ。問題ない」

大井「本当ですか?」

提督「……あぁ、大丈夫だって。二人に誓って」

北上「そっか……よかったぁ」

大井「もうっ、心配させないでください」

提督「ごめんって」


――― そ・れ・か・ら……

提督「んぐっ……」

大井「何飲んでるんですか?」

提督「うわ、いたのか」

大井「えぇ、ずっと。……で、なにを飲んでるんですか? 薬?」

提督「いや、これは……ほらサプリだ」

大井「サプリ? 珍しいですね提督がそんなのに頼るなんて」

提督「仕方ないだろ。お前等の所為だ」

大井「私達の?」

提督「亜鉛とエビオス錠」

大井「なっ……! なにを!」

提督「はっはっは……じゃあちょっと席外すな」

大井「もー! さっさとどっか行ってください!」

提督「ひでえ」

大井「……」

大井「…………」


――― なに食わぬ顔で一週間(ネタ振りしつつ)……

北上「うえぇっ!? どしたの、シャツ真っ赤じゃん!」

提督「トマトジュースアタックを曙に食らった」

北上「なんじゃそりゃ……」

提督「練度上げに単艦出撃繰り返して大破させまくってたらやられた」

北上「それは提督が悪い」

提督「まじか」

北上「単艦で出撃する緊張とか、たった一人で敵艦に向かう恐怖とか、
    大破して一人帰還する不安とか提督は知るべきだよ。いくら妖精の加護で単艦だと沈まないと言っても」

提督「あぁ、少し焦りすぎていたかもな」

北上「最近低練度組の育成急いでるよね? ホントなににそんな焦ってるのさ?」

提督「まぁちょっと思うところがあってなぁ……」

北上「……」

提督「……」

北上「……ねぇ」

提督「ん?」

北上「……なんでもない。…………ったく! もうさっさとお風呂入ってきたら?」

提督「おう、そうするよ」

北上「なんなら背中流そうかぁ~?」

提督「遠慮しとく」


――― 球磨達の計画通りに過ぎていった……

北上「ねぇ曙」

曙「なによ」

北上「提督にトマトジュースアタックした?」

曙「はぁ? そんなことするわけないじゃない。昔じゃないんだし」

北上「……そっか、だよね。ごめんありがと」

曙「……」 ぐっ

川内「……」 ぐっ



大井「提督が最近こまめに取ってる薬なんだか知ってる?」

大淀「え、……っと。薬じゃないですよ? サプリです」

大井「あぁ、そういえばそんなこと言ってたかも。マルチビタミンとかなんとか」

大淀「そ、そうですそうです! いつも食事に気をつかってるんだし必要なさそうなんですけどね」

大井「……そうね」


――― そして

球磨「とうとう提督が死ぬ日が来たクマ」

提督「なんか嫌。その言い方」

多摩「二人の様子はどうにゃ?」

提督「最近片時も離れてくれないな。一人になりたいと言うとすげぇ顔する」

大淀「雰囲気の暗さが尋常じゃありませんね。色々と詳細を聞かれましたし」

川内「詳細? あぁ、症状のかな?」

大淀「はい。とりあえず吐き気頭痛から始まり身体の末端が痺れ吐血しだしたらもう……と」

曙「相変わらずシレッと嘘吐くわね」

球磨「おかげ様で食事の時間がすげぇクマ。北上と大井は暗いし」

多摩「多摩達は知ってるからいいけど木曾が必死に場をとりなそうとして笑えるにゃ」

提督「あ、そっか木曾なにも知らんのか」

曙「この間工廠の隅で天龍相手に泣きながらなんとかしなきゃなんとかしなきゃって呟いてたけど」

球磨「真実も知らずに笑えるクマ」

提督「ホントひでぇ姉だなお前ら」

多摩「愛あればこそにゃー」


球磨「で、ちゃんとやってくれたクマ?」

提督「あぁ、とりあえず大井には蒼龍・如月・金剛・羽黒・五十鈴を連れて出撃させた」

多摩「割とガチパにゃ。改2済み勢にゃ」

提督「防衛線押し上げの為と言ってある」

球磨「じゃあ北上は今一人で執務室クマ?」

多摩「まずは北上にゃ」


―――

 膨大な量の書類。
70年前と変わらない、軍のあり方。
戦う事は勿論。しかし軍とは多くの人間が厳しい上下関係の中
多くの金・多くの資材を消費する大きな会社である。
当然管理職の人間は一日の大半を書類と向き合う事を仕事とする。

「ちょっと外すな」

 むしろ人の在り様が、文化が、道具が、多彩になった分
70年前の大戦期よりもそれは顕著かもしれない。
机に積まれた書類の束は『北上』の中で彼等が扱っていたものよりも
多く、厚く、多岐に亘るように見えた。

「どしたの?」

 そんな作業の最中。提督は不意に立ちあがりその場を去ろうとする。
行き先は言わず、ふらりと。以前にも折につけそういう事はあったが、
本土から帰ってきてからは富に多い。
理由は、なんとなしに察しはついているけれど。

「少し、な」

 見えないなにかを摘むように人差し指と親指を突き出してそういう提督。
その表情は笑ってるようで、困ってるようで。
彼に再び命を与えられ、使命を与えられ。
艦娘としてこの地に降り立ち彼と出会ってから二年と半年。
幾度も見たその表情が、私はとても好きで。

 ……けれど今は少しだけ辛い。


 パタンと浅く扉が閉まり、
時計の針が動く音だけが僅かに響く部屋の中。
俯いて、自分が拳を握り震えてる事に気がついた。

「……大丈夫だよね?」

 問うた言葉は空虚に消える。
大丈夫、大丈夫。言い聞かせる。
提督は誓うと言ってくれた。
あの人がそう言って、嘘だったことがあっただろうか?
――ない。そうだ。だから信じていいんだ。大丈夫。大丈夫。

「失礼します」

 床に敷かれた絨毯を眺めていると二回のノックの音と共に
そんな声が転がり込んでくる。

「……どうぞ」

 答えた声は震えてなかっただろうか?
そんな自分は見せられない。表情も引き締めて、姿勢は凛と。
誰あろう私は秘書艦なんだ。最高練度の、大井っちと二人でこの鎮守府の顔なんだ。
情けないところを見せられるか。

「提督にご報告が……あら?」

 果たして入室してきたのは大淀だった。
――いま、一番会いたくない顔だった。

「……提督ならいま居ないよ、私室じゃないかな」

 大淀は、多分なにかを知ってる。
私も大井っちも知らない提督の秘密を共有してる。
それが凄く嫌だった。私は、ケッコンしてるのに。

「では、そちらを当たってみます」

 素っ気無く、一礼して部屋をでていく大淀。
その態度が、また嫌に感に障る。

 パタンと、扉の閉まる音。

「……嫌な子だな」


 カチカチと、時計の針が心をざわつかせる。

「……とりあえず片付けよ」

 提督が目を通し判を押した分だけでも、
そう思って立ち呆けて身体を動かし机に近づく。

『提督っ!?』

 声が、さっきと同じ声が、聞こえた。
否、さっきと同じなんかじゃない。
それは悲痛な色を多分に含んだ叫び声。

『提督っ! 提督っ!』

 廊下から、扉越しに聞こえる大淀の少しくぐもった大声。
幾度も幾度も提督を、呼ぶ声。

 それは、私の中のざわつきを焦燥感を
鼓動と共に加速させていく。

「っ!」

 気がつけば部屋を飛び出していた。
手に持った書類なんてぶち撒いて、扉を蹴破るように廊下に飛び出た。
息があっという間に上がっていく、苦しい苦しい。
見たくない近づきたくない知りたくない。けど、行かなくちゃいけない。

「―――!!」

 名前を呼んで走った。
肩書きじゃない、彼自身の名前を。
全力で、全力でその場所に向かって走った。
髪が崩れる、服が乱れる。そんなの知ったことか。
もっと、もっと早く走れ。

「提督っ!」

 扉が開きっぱなしになった提督の私室。
そこには――。

おやすみ


 赤、朱、紅。

「あ……あぁ……」

 予想してた。察してた。
漠然と、それでいて確信的に。
けれどどこか大丈夫だと、信じてた。
このまま信じ続けていたかった。

「提督っ!」

 血塗れた、青白い顔の提督に駆け寄る。
抱き上げていた大淀から奪い取るように提督を抱きしめて名前を呼ぶ。

「北上、か」
「そうだよ! 目を開けてよ!」

 力ない声色に、全身が粟立つ。
怖い。目の前の現実が信じられない。
なんで、どうして。わけがわからないまま単語だけがいくつも脳裏に過ぎる。

「全く情けない事だ。国土を、民草を、誇りを、守る為戦うとこの身に刻みこんだ筈が、
 まさか丘で死ぬとは、自分にほとほと愛想が尽きる」
「やめてよ! 死ぬとか、そんな事言わないでよ!」

 足元からやってくる冷たいものに。
必死で怒鳴って、駄々を捏ねて抗う。
嫌だ、嫌だ、嫌だ。

「どうしてっ!?」
「わかってるだろう? すまなかった、黙ってて。
 最後のときまで、今まで通り過ごしたかった」

 そう言って私の頬を、優しく撫でる。
ひやりとした感触が、私の涙腺を壊す。
泣いた。泣いて泣いて、泣きじゃくった。
提督はただただ頭を撫でてくれた。


「ごほっ……」
「提督!」

 小さく咳き込む、新しい血が滴る。

「俺はもう、長くない。……大淀」
「はい。用意、……して……あります」

 私の後ろに立っていた大淀が
提督の言葉に頷いて懐から注射を取り出し、提督に近づく。

「……なにそれ」

 大淀は答えない。僅かに入っていた空気を押し出して、
淡々と準備をしている。提督も、ただ黙っている。

「なにそれって、聞いてるじゃん」

 針を、提督の、腕に。

「答えろよっ!!!」

 気がつけば大淀の腕を強く掴んで叫んでいた。

「擬似ワクチンだ。今の俺の身体はウィルスの温床だ。
 感染経路もわからない以上パンデミックの危険性がある、
 だからこれを打ってウィルスを殺すんだが。副作用として摂取した人間は死ぬ、
 まぁ簡単に言えば安楽死の薬みたいなものだな」

 提督もまた淡々と答える。

「ふざけないでよ。安楽死なんて、そんなの認めない。
 まだ、まだ方法があるかも知れないじゃん! 諦めないでよ!」
「っつぅ……」

 掴んだ手に力が入る。
みしみしと大淀の腕が音を立てて軋み始めた。

「北上」

 それを止めたのは、やっぱり静かな提督の声だった。

「お前の気持ちは嬉しいが、事はそうはいかないんだ。
 俺の最後の命令だ。頼む」

 そう言った彼の表情は、
笑ってるようで、困ってるようで。

「……ずるいんだ。その顔されたら、もう、なにも言えないって、わかってて」

 手を離す。紅く掴んだところが色付いていた。

「ごめん、大淀」
「いえ、気持ちは、わかりますから」

 そこで初めて気付く。大淀の声もまた震えていた。

「……私が、やる」

 ひったくるように注射を奪う。
大淀が言い出したのか、提督が言い出したのかはわからない。
私を慮ってのことだったんだろう。
けど、その役目はやっぱり私がやるべき事だと思うから。

「……愛してるよ」

 みっともなくてもいい、恥知らずでいい。
情けなくても、汚くても、生きていて欲しかった。
もっと笑いあいたかった、もっと触れたかった。
もっと、もっと。

 ――でも、それが適わないなら。せめて。

「俺もだ、北上」

 せめて。この手で終わらせよう。


大淀「北上さん泣きつかれて眠ってしまいましたよ提督」

提督「……そうか」

曙「大成功ね。名演技だったわ二人とも」

提督「よくそんな台詞が飛び出るなお前、俺は後悔以外なにもなかったぞ」

大淀「次は大井さんですね。そろそろ帰ってきますし着替えて準備しましょうか!」

提督「……あのさぁ」

川内「次は私の出番あるんだっけ?」

球磨「そうクマ。台詞はちゃんと覚えたクマ?」

川内「ばっちり!」

提督「お前等のバイタリティはすげぇな」

多摩「大丈夫にゃ、問題にゃい」


―――

 鎮守府より約90海里。
メートル法に換算して166km北方の海上。
波静か風は無し。雲は遠く晴天也。

「吹き飛べぇぇぇぇっ!!!」

 およそ穏やかと呼べる状況。
時代が違えば客船が凪いだ海の上を遊覧するに適した海。
けれど私達が居るここはそんな牧歌的な要素を完全に打ち消した
戦いの最中にあった。

 爆音。轟音。熱風に、上がった飛沫。
黒く、そして白い深海棲艦に向けて放った酸素魚雷は
するすると敵の直下に入り込みまた一つ紅い噴水を立ち上らせる。

 至近で次々上がる蒼と紅の水飛沫。
一見すれば幻想的であるそのコントラストも
敵の体液交じりと思うと反吐が出る。
前髪から垂れるモロに浴びた海水に気分が鬱屈する。

「……ソナー、エコー共に敵影無し。状況終了、これより帰投します」

ダメだ、寝る時間だ


「蒼龍さん金剛さんは高速修復材を使用してください。
 その後羽黒・五十鈴・如月は順に一番からドックを使って、私は四番を使うから」

 海から上がり指示をだす。
提督の指示に従い五連戦。
流石に皆の顔にも疲れが見えるし、ダメージも馬鹿にならない。

「大井、ちょっといい?」

 出来る限り的確に、最低限の指示を出す。
どうせ私は大して被弾もしていないし可能なら入渠もせずに
提督の所に走りたい。いまは少しでも一緒にいたい。
けれど私を信用して任せてくれたのなら完遂しなくちゃいけない。

「川内? なにかしら、見ての通り事後処理で急がしいんですけど」

 そんな時に、川内が妙に早歩きで近づいてきて私を呼んだ。
踵を鳴らし、似合わないしかめっ面。

「提督の私室に行って」

 感情を押し殺したかのような声。
そしてその台詞。寒気が走る心臓の音がうるさい。
落ち着け、落ち着け。

「わかりました。では補給と報告書の製作が――
「いいから行けよっ!」

 ぐいと胸倉を掴まれ額をぶつける勢いで顔を近づけてくる、
首の座っていない赤子の様に頭が大きく揺れる。

「あの人は他の誰でもない、お前を待ってるんだ!」
「どういう……意味よ」

 大声がわんわんと頭に響く。
反響する声、ぐらつく視界。
それはきっと理解したくないという私の感情がそうさせるのか。

「まだ間に合うから……さっさと走れ!」

 その近づけられた顔。
いまにも泣き出しそうな、真っ赤な瞳。
言葉よりもよほど雄弁なそれに、私は全てを理解する。

「こっちは、私がやっとくから……」

 川内が最後に言った台詞。
それを聞き終える前に、足が動いた。


 廊下を走る。外し忘れた艤装が重い。
足を止めずに力任せに外して投げる。

 重たい金属がリノリウムの床に跳ねて鈍い音がいくつも連なる。
改2になって提督から与えられた五連装酸素魚雷、

 毎日磨いて大事にしていたそれも今はただ煩わしい。
壁にぶつかり床に落ちた20.3cm連装砲は視界の端で砲塔が歪むのが見えた。
関係ない。関係ない。全部全部、要らない。
たった一つ、大切なものが手元に残るのなら全部失って構わない。

「……はぁっ! はぁっ! はぁっ……!」

 樫の重い扉。その前で息を整える。
覚悟を決めろ、見て見ぬ振りはもう終わり。
直視しなくちゃいけない時が来てしまった。

「……失礼します」

 今まで何度も足を踏み入れた。
時に軽い気持ちで、時に強い決心と共に。
けれどここまでこの扉を重く感じた事はなかった。

 


「……大井か?」

 広い部屋。見慣れた内装。大きなベッド。
そこに横たわる提督が私の名前を呼びながらふらふらと右腕を上げる。

「どこだ、大井」

 なにかを探すような腕。
その意味が理解できるまで数秒の時間を要した。

「ここです。貴方の大井はここに居ますよ」

 駆け寄って、宙を彷徨う手を両手で握る。
出来る限りいつも通りに、可能な限り落ち着いて。

「はっは、そこに居たか。よかった」

 ぼんやりとした瞳。その瞳は私の少し横の当たりに向けられている。
その仕草に、胸の中がぐっと熱くなって、思わず頬を伝う物がある。

「ま、……まったく、情けないですね」
「いやいや、不甲斐無い所を見せてしまったな」

 軽い調子で、けらけらと笑う提督。
その声には力なく、握った手にも力なく。
今にも消え入りそうな儚さ。


「……」

 沈黙が部屋を覆う。

「大井、ちょっと痛い」

 知らず知らず手に力が篭っていたのか
提督が少し困った様に呟く。
謝って、でも力は抜けない。意識した瞬間、
力を緩めた途端手をすり抜けてしまいそうで。

 強く握って置かないと、繋ぎとめて置けない気がして。

「少し、眠くなってきた」

 先ほどよりも小さく、ゆっくりとした口調で提督はぽつりと零す。
それは、最後の、決定的な。

「っ! ……なら、子守唄でも歌ってあげましょうか?」

 視界が滲む。声が震える。嗚咽が漏れそうになる。
でも、提督に気付かれる訳にはいかないから、
唇を強く噛んで必死に堪える。
口の中に血の味がする、両手に更に力を籠める。

「珍しいな……お前がそんな事言うなんて、さ」
「たまには、そんな日もあります」

 言って小さく歌いだす。

  ――ねんねこ しゃっしゃりませ

「いい声だな」

 貴方の守りたいものは私が守って見せます。

  ――寝た子の かわいさ 起きて 泣く子の

「……眠い」

 貴方の後を追ったりしません。
だから、安心しておやすみなさい。

  ――ねんころろ つらにくさ ねんころろん ねんころろん

「……おやすみ大井」
「おやすみなさい……あなた」

 全部終わるまで、待っててください。
私はずっと貴方を想うから。


「提督……」

 するりと抜ける彼の手がゆっくりとベッドに横たわる。

「提督」

 二度、呼びかける。

「て、……いとくぅ……」

 三度。呼んで。返事は無くて。

「うぅぅっ……」

 泣くな、泣くな。
私にはまだやる事がある。今泣いたら、きっともう止まらない。
二度と歩けなくなってしまう。だから、泣いちゃダメなのに。

「くぅっ……ひっ……うぐっ……」

 大きく深呼吸を繰り返す、天井を睨む。
神様が居ると信じた事があった、
再び命を得たときに、北上さんと会えたときに、彼と結ばれたときに。
神様に心から感謝をした。

「……」

 もし神様が本当に居るのなら別に恨みはしない。
けど、私が艦娘として70年の時を経て彼に出会えたように
また70年後でもその先でも、どうか今一度。

急にごっつ伸びてて焦った

だが今は書けない
夜まで待ってくだしあ


――― やってきたネタばらし

「うぅ、……ん」

 救護室の片隅。いくつも並んだベッドの一つ、
白いシーツ白い枕白い布団。白、白、白の空間。

「ここは……」

 目が覚めた北上の視界に飛び込んできたのはそんな部屋。
普段余り用のない閑散とした救護室に自分が居るのだと
そう認識できたのは幾許かの時間を置いてからだった。

「て、いとくぅ……」

 横から声がしてぼうっとした頭で隣を見ると、
未だうなされている大井の姿があった。

(大井っち、出撃の直ぐ後に聞いたのかな)

 泣きはらした顔で眠る大井。
北上はそれを眺めながら自分もあんな顔をしているのかと苦笑する。

 未だ信じられない。あの提督が死んだなど。
天井を見た瞬間、あぁ夢だったのかと思ったほどに。
けれど隣で眠る大井を見るにそんな希望はなくなった様で。

「大井っち、起きて」

 起き上がり、二度自分の頬を強く叩いてから北上は
隣で眠る大井を起こす。もう少し寝かせておいても、
という気持ちが無かったわけではないが。
事ここに至ってしまった以上やらなくてはならない事が山積みで、
それを誰かに任せてしまうのは嫌だった。

「んぅ……はっ!? て、提督!」

 揺すって声をかけ、何度か寝ぼけ眼を瞬かせた後
大井は勢いよく飛び上がる。

「おはよう、大井っち」

 北上はここしばらく見せてなかった穏やかな笑みでそれを迎える。

「北上さん……ここは、救護室。ですよね」
「うん。二人してぶっ倒れたみたいだね」
「……初めて嘘つかれちゃったね」
「そうですね。誓うと言ってくれたのに」

 死と言う単語を無意識に避ける。
そしてそこまで言って、二人顔を見合して黙る。
言いたい事が沢山ある。言わないといけないことも沢山ある筈。
けれど言葉が口をでない。

「……二人とも起きたクマ?」

 そこへやってきたのは球磨だった。
渋い顔をして、二人の妹の顔をためつすがめつした後。

「今後の話をするクマ。二人とも執務室へ」


―――

 三つの足音が静まり返った廊下に響く。

「球磨姉」

 前を歩く球磨に北上が小さく声をかける。
けれど返事はなく、険しい顔を少し北上に向けるだけだった。

(……そりゃそうか。ダメージ受けてるのは私等だけじゃないもんね)

 その顔を見て、俯きながら二の句を次げず後ろを歩く。
けれど実際球磨がなにを考えているかといえば"ヤバイ〟の一言に尽きる。

(やべぇやべぇやべぇ。思わず語尾を忘れる位やべぇクマ
 ドッキリと言った直後。具体的には提督が出てきて直ぐは喜ぶかも知れないけど
 その後間違いなく沈められるクマ。曙・大淀・川内・多摩と球磨を含めて五隻沈むクマ。
 やべぇクマやべぇクマ。洒落にならねぇクマ)

 だらだらと額から冷や汗だか油汗だかわからないものを掻きながら
必死で考える。自然執務室に向かう足も牛歩になる。
後ろで俯いて黙って着いて来る二人の妹が数分後どうなるか考えるだけでも
顔が自然強張る。それが余計に二人に変な誤解を与えてる事も知らず。

(クマだって軽巡じゃ強い方という自負があるクマ。
 二人より先に転生してこの鎮守府に来て、練度だって高い方クマ。
 でもどう考えても先制雷撃で沈む未来しかみえねークマ)

 黙々と歩く三人。球磨にとって、向かう執務室が死刑執行台の様な感覚だ。
ならば後ろを歩く二人は執行官かなにかか。


 戦々恐々な心持で執務室につく。

「すぅー……はぁー……」

 深呼吸する。まぁしょうがない、なるようになれ。
とばかりに思い切り景気よく扉を開いて中に入る。

「さぁ、二人も」
「ん……」
「はい」

 中には既に待機している今回の仕掛け人が四人。
ちなみに一番のメインである提督はまだ居ないようだ。

「なにこのメンバー? 大淀は、まぁわかるけど」

 ぐるりと部屋を見渡して北上が怪訝そうに呟く。
大井も口にはしないものの似たような感想を抱いた様で
目を細めて球磨を見つめる。

「じゃあ、一人ずつ」

 球磨が音頭を取ると大淀から順にパネルを掲げる。
カタカナが一文字書かれたパネルと四人で一つずつ。

「……リキッド?」
「そう……ちげ、逆クマ。お前等出す順番逆クマ」

 逆? と大井が首をかしげ、北上と二人改めて読み直す。

「……ど、っきり?」
「YES、クマ」



[北上]    三三)   [球磨]<クマー!?
[大井]   ミ      [多摩]
        ミ     [大淀]
          ミ   [曙]
           三) [川内]<うわー!


球磨「球磨をこんな目に合わせるなんて……ゆるさ、れないのは球磨だったクマー……」大破

川内「もうダメかもわからんね」大破

曙「大淀、司令施設。私がどっちか退避させるから」

大淀「前回のFS作戦時に五十鈴さんに渡してしまったのでありません」

多摩「終わったにゃ」



[北上]    ミ     [球磨]<いてぇクマ
[大井]   ミ  ミ 三)[多摩]<ちょ、なんで先制雷撃二回になってるにゃ!
        ミ     [大淀]
          ミ三) [曙] <潮、朧、漣。私、最後まで頑張ったわ
              [川内]<マフラー燃えた……


大淀「……あ、これ私だけ二発同時に撃ち込まれるパターンですよね?」


―――以上ダイジェスト


大井「ふんっ」

球磨「すげぇ蔑みの目クマ」(完全大破)

北上「チッ」

川内「いったたた……生きてる、なんとか生きてるよ神通、那珂」

曙「悪乗りが過ぎたわね」

大井「提督が止めなければ本当に沈めてましたよ」

北上「でもよかったよ死んでなくて」

提督「だから言っただろう最初に二人に誓って大丈夫だからって」

大井「あんなん深読みするに決まってるでしょ!」

大淀「いい台本でした」

北上「……」 タンッ(主砲)

大淀「うっ――」

大井「それはそれとして、提督。こっちに」

提督「おう。好きに殴るなりしたらいい」

大井「……」ぎゅぅ

提督「……おっ?」

大井「本当に……よかったです」

提督「……ごめんな。本当に馬鹿な事をしたよ」

北上「……ん」ぎゅぅ

提督「すまなかった」

北上「いいよ別に。主犯はウチの愚姉らしいからね」

大井「後でお仕置きです」

球磨(え、まだやられるクマ?)

多摩(黙ってやられる他ないにゃ)

ギャグで逃げるしかなかった。
というかそろそろ長くなってきたから次にさっさと行きたくなった
気にしてはいけない。いいね?

次なに書くかなー
あるいは落として別ネタで建てるか

既に三つ掛け持ちしてる件

酉ちゃうんか?

他のも教えなさいよね!!

>>172
同じ

>>175
艦これのスレじゃないから教えられない

下 北上か大井か選んで


>>147

 ――― 真面目に大井視点

「……ど、っきり?」

 言葉の意味が理解できない。
否、理解することを拒んでいる。否々、理解して思考が停止しているのかもしれない。

「YES、クマ」

 にへらと笑う長姉。なんだそれ。
どっきり? は? 意味がわからない。
勿論この時代に生まれて二年と半年、
当初は70年もの空白期間に生まれた言葉や流行ったもの、
日々ジェネレーションギャップに困惑したものの今となってはドッキリの意味だってわかる。

 けど、普通に考えて。ありえる?
だって、そんな。どっきりって、そんな。

「答えてください。球磨姉さんどういう意味ですかそれは」

 熱い。寒い。
相反する感覚が同時に身体を支配する。
カンカンに熱せられたなにかが体内に渦巻いていて、
それでいて末端は氷の様に冷たくて。

「そのままの意味クマ。提督は死んでない、嘘・騙し・悪巫山戯」

 パンと拍手を打ってそう言い切る姉。
それに取り合わず部屋の中を見渡す、提督の姿はない。
まだ、それが真実かわからない。無論、本当に提督が死んでいた場合
この発言はドッキリ以上に性質の悪い発言になるわけだけれど。

「だから心配いらな――

 それ以上は、聞けなかった。

 聞く必要も感じない。
今私が感じているのは多分、生まれてこの方感じたことのない物。
怒りでは足りない、余りにも衝動的で余りにも破壊的な欲求。

 ゴンッと、鈍い音。硬い物がぶつかり合う音。
私の突き出した拳が、姉の頬骨を殴り抜けるシンプルすぎる音。


 力強く、頑丈な艦娘と言えどその体躯は人のソレ。
艤装の重量も今はなく、不意打ちでふんばる間もなく殴られれば
いともたやすく飛んでいく。

「大井っち、ストップ」

 執務室にある大きな机。書類の束が積まれた
提督が普段使いしているその机にぶつかって倒れる姉に
追撃をと動いたと同時北上さんに腕を掴まれる。

「ってて……。いやぁ殴られてぶっ飛ぶのは久々クマ。
 正直あとニ、三発は覚悟してたけど。北上助かったクマ」

 散らばる書類に血を垂らしながら、
倒れた机に手をかけてそう言って立ち上がる姉。
にへらと笑う口の端からは少量と言えない血が滴っている。

「べつに、大井っちが殴んなかったら私が殴ってたよ。
 そしたら大井っちが止めてただろうしね」

 そう言って私の腕から手を離す。
その表情は、なるほど実際に行動を起こした私が言うのもなんだけれど
今にも殴りかからんばかりの顔だった。


「まぁ、性質が悪いのは認めるクマ。
 えぇっと……」

 しゃがみこんで、膝をついて手をついて。

「ごめんなさい」

 そして額をついて謝った。

「なぜ、と聞いていいですか?」

 一発殴って、血を見て、土下座されて。
多少冷静になった頭で問う。
いくらなんでも悪巫山戯にしては行き過ぎだと思う。
やりすぎ過ぎる。ありえない。それは行った方だってわかってるはず。
なら、なんで。やっとそこに思考が行き着く。

「べつに、大した理由じゃないクマ。
 しょっちゅう喧嘩して迷惑かけてるからとか、
 提督に依存しすぎてる帰来があるからもしこんな事態が起きた場合二人はどうするかとか
 そんな事を話して、納得できるか? 納得できたら、それで終わるか?」

 歪に笑ってそういう姉。

「今回わりぃのはこっちクマ。だから土下座もするクマ。
 それでいいじゃないか」

 


「なんか開き直ってる?」

 北上さんが苛立ちながら問いかける。
私は。……私はどうだろう?
なんとなく落ち着いてしまったというか、
どことなく今は俯瞰になってしまってる気がする。
なんだろう、よくわからない。

「んん、開き直ってるというか。まぁそうとるならそう受け取ってくれても構わんクマ」
「それはもういいです。言いたいことも色々ありますが、
 とりあえず提督を出してください」

 肩を竦める球磨姉さんと詰め寄る北上さんの間に入って言う。
なにやら短い間に立場が入れ替わってる。
うぅむ。


「どういう状況だコレは」

 開け放したままだった扉。
そこから届く、声。艦娘のソレとは違う、
低くて重くて、安心する声。

「……予定まであと45分あるにゃ」

 ずっと黙っていた多摩姉が聞いて。

「早めの行動を心がけている」

 声が、答える。
声。声。声。振り返って確認したい、
確認するまでもないけど。この目で確かめたい、でも身体が上手い事動かない。

「そもそもおかしいと思ったんだ双方関係者全員の姿も見えないしな。
 もしやと思ってきてみれば、謀ったな球磨」
「もう少し遅いと思ってたクマ、あと30分は遅く伝えるべきだったクマ」

 上体を起こし一人正座の体勢で私の後ろに声をかける。

「……ふぅ」

 二度。深呼吸をして、振り返る。

「……よぉ。その節はすまなかった」

 血色良好。四肢確りと、こちらをまっすぐ見据えて
刀を二本腰に携えたいつもの私の知ってる提督がそこにいた。


 生きてる。確かに目の前に居る。
この状況になってようやく実感がわいてくる。
あぁ、本当にアレは全部嘘で。偽りで。

「っ!」

 近づいて、抱きしめる。
力いっぱい抱きしめる。
暖かい。耳を当てる、鼓動が聞こえる。

「ごめん。悪乗りが過ぎたな」

 大きな手が頭を撫でる。

「よかった、本当によかったです……」

 どんと衝撃が来る。
見れば北上さんも遅れて抱きついて来て。

「ばかたれ」

 胸に顔をうずめて悪態を吐いていました。





「……チッ」


―――

「さて、と」

 そしてしばらく後。

「よし、こい」

 私と北上さんが並んで提督と向かい合う。

「どっち行く?」

 北上さんが肩を回しながら聞いてきて。

「では、上で」
「ん、じゃ私が下だね」

 生きてたのはなによりだ。嬉しいし喜ばしい。
けど、それはそれ。これはこれ。
けじめをつけないと。

「提督。戦争終わったら俳優にでもなったら?」
「それもいいかもしれませんね。」

 うんうんと頷いて。

『名演技どうも!』

 二人声を揃えて思いっきり。


―――

「ままならねぇー」

 湯気、湯気、湯気。
白く染まる視界、首下までつかる湯から立ち上る
ふわふわしたそいつは遠く高い位置に存在する開け放たれた窓から
我先にと飛び出して消えていく。
そんなに真っ黒な私の傍にいるのは嫌か、と一人ごちては苦笑い。

「ままならんままならん……なにが兎角この世は事もなしクマ。ファッキンゴッド」

 頭にのせたこれまた白いタオルをずらし、
顔の上半分を隠す。そうやって塞いだ視界はやっぱり白かった。

「舐めてんのか!」

 混じりけなしの苛立ちをタオルにぶつけてみる。
タオルは力なく放物線を描いてタイルに着地し、
「そんなアホな」と恨みがましげにこちらを睨んでくる。
気のせいだ、タオルに目はない。
いや、そもそも恨みも持たない。奴は良い奴だからな。

「くそったれ、ブランケット・ノイーマンだってフランチェを落とすのに三日もかからなかったクマ」

 誰だそれは。
この70年で変わった常識やらを知るのに、と提督から渡された漫画に
ビック影響を受けた発言なのは理解できた。
少しでもおちゃらけた空気を生み出さないとなにかにねじ伏せられそうだった。
それはきっとお椀みたいな形をしていて上から覆いかぶさってこようとしてる。
だから軽い空気を無理して作って浮かしておかないとすぐにとっつかまる。

 とっ捕まってどうなるかはわからない。
でも良いことが起きないのだけははっきりしてる。
これは転じ様のない災い、いや単に罰なのか。自責なのか。


「……はぁ~」

 深く嘆息をついて湯からあがりのそのそと
放り投げたタオルを拾う。

「拾うくらいなら投げるなよ」

 そんなタオルの怨嗟の声には耳を傾けない事にする。
うっかり「細かい事は気にするなクマー」とか返事をしてしまったら
自分が細かい事では済まされない深い烙印を押されてしまうからだ。
具体的にはキチガイ扱いされる、っとこの言葉は現代だと使用禁止なんだったか。

「ふぅ……」

 再度湯に浸かる。ちなみに大浴場。
他に艦娘の姿はない。いたらタオルに話しかける前の段階で
脳味噌が火星くんだりまで最高速ドライブしてる事を心配されかねない。
クラッシュクラッシュ。飲むゼリータイプ。詳しいことはよく知らない。


「……」

 沈黙。曰く金也。
この状況でいきなり頭上から金が落ちてきたら入渠時間が伸びるなぁとか
益体もないことを考える。頭が悪いことこの上ない。

「んあ?」

 一度ぶん投げたタオルを頭の上にのせるのは流石に気が引けたので
手の届くところに適当に放置してぼぅっとしていると不意に脱衣所から音がした。

「誰クマー」

 声をかけてみる。できればノリが軽い奴が望ましい。
長門とか那智とかだったら早々に去ろう。思考の海に沈みかねない。

「俺だ」

 少しの間の後、扉をがらりと開いて入ってきたのは。
腰にタオルを巻いた提督だった。


―――

 なんだこの状況。

「どうだ殴られたところは」

 平然と声をかけてくる提督。
いや、まぁ別にこっちも気にするつもりはないけど。

「見てのとおりクマ。ごっついてぇクマ」

 答えるとくっくっくと喉を鳴らすように笑われた。
猫か? ネコ科か? まぁバトルモードの時の提督は近いものがあるけれど。
目が完全に野生動物狩りの儀だ。多分。確証はない。
なにせ前世では海の上、海兵と共にあり。今生でも鎮守府の外に出たことがないから
実物の野生動物なんて小鳥くらいしか知らない。あぁ、あと魚もか。動物? うぅん。

「まぁお互いしょうがないな」

 湯は濁り湯じゃない。下に目を向けるのはデンジャー。
なぜ一分前の自分は湯にタオルをつけるのはマナー違反とか謎の真面目を振りかざした。
振りかざすべきはもっと別の何かだった筈。羞恥心とか。
ないか、そんなもの。この男を相手に。

「しょうがないで済むかクマ。ありえねぇクマ。
 なんで同じ艦娘どうしで殴り合って球磨がぶっとんだのに提督は二人から同時に食らって
 一歩後ずさるだけで済むクマ、人間なら死んでるクマ」

 ちらりとさっき追いやったタオルを見る。
こっちをみんなと追い返された。ちびっかぶーんの気分だ。
朝露で飢えが凌げるか馬鹿が。

「当たり前みたいに俺を人間のカテゴライズから外すなよ。心外だな」

 いいながら目頭を抑えて上を見上げる。
釣られて上を見上げる。やっぱり白い天井があった。
湯気にあてられたっぷりと汗のかいた天井はなんとなく気に入らない。
湯気を冷やすだけ冷やした後背筋に爆撃してくる嫌な奴だ。
いつの時代も爆撃を行ってくる奴は最悪だ。


「で、どうだ?」

 上を見上げたまま再度聞かれた。
横から見ると少々間の抜けた顔。水滴が落ちてくるのを待ってるのか、変態か。

「どうもこうもさっき言ったクマ。ごっついてぇクマ。奥歯欠けた」
「はっは、気になって舌で弄って舌先も痛くなる奴だ」

 おぉう。ずばり言い当てられた。
さては経験者か。

「はぁ、そろそろでるクマ」

 くだらないことを考えすぎてのぼせてきた。
頭がカーッとなってる。湯あたり湯あたり。湯あたりに違いない。
そう言い聞かせて勢いよく立ち上がる、浴槽の端に引っかかって
湯に浸かっておらず冷えた髪が腰まで張り付いて飛び上がりそうになる。
タオルも忘れずに……、っと言うタイミングで提督がこちらをみた。

 湯からでたタイミングでこちらを直視されると流石に動揺する。
全身余すとこなくにも程がある。浴場だけにとかそんなアホな流れはいらねぇクマ。


「手強いだろ。ウチの嫁」

 けれどそんな事を考えているのは自分だけだったようで、
至って普通な様子で、でも少し楽しそうに提督はそんな核心めいた事を呟いた。
核心的で確信的で、とても胸をざわつかせる。

「なんのことかわからんクマー」

 できる限り表に出さずに白を切る。
無駄だと知りつつ他に方法を知らない。
タオルをパンと強く振って提督に背中を向け脱衣所に向かう。
否、正確には逃げる。けど。

「ま、お前が実のところなにを企んでいたのかは知らんが、
 次に俺を巻き込む時はもう少し事前に話してくれよ」

 上手くいかない上手くいかない。
途中まではよかったはずなのに。
途中までは北上も大井も提督も、キチンと動いてくれてたのに。
最後の最後であんな風に丸く収まるなんて。

 そんな、仄暗い感情を見透かされた気がした。

「だから、なんのことかわからないってるだろ」

 語尾を、付け忘れた。
つまるところ、完全敗北だった。
あんなもの最後に見せられて、次なんてあるものか。


―――

「おかえりにゃ」

 球磨型は全部で五隻。
長女の自分に次女の多摩、三四がなくてと五に木曾と言いたいが
残念ながら三四には北上と大井が順に入る。
その球磨型五隻は基本的に一つの大部屋をあてがわれていて、
当然風呂から上がって自分が帰ったのもその部屋。

「おかえり球磨姉さん」
「おかえりんりん」

 対応に困った。五隻、五隻と繰り返したものの
実情は三隻みたいなもので。三四の北上大井は大方提督の所で夜を過ごす。
単に寝てるのかあるいは寝てるのかはわからない。字面も変わらないのでわかりにくい。
とにかくうち二隻はこの部屋にこの時間帯居ないのが常だったことが伝われば良い。

 ……のに、今日に限って。いや、今日だからなのかもしれないけれど。
その北上と大井が部屋にいて、当たり前のようにくつろぎながらおかえりと言われて、戸惑った。
おかえりんりんってなんだ。

「……木曾はどこ言ったクマ?」

 どうしたものかと悩んだあげく多摩に末妹の所在を聞いた。

「今さっき風呂行ったにゃ。天龍とはしゃいでて髪の毛にアイスべったりにゃ」

 へーアホじゃん。

「って風呂?」
「風呂」

 提督が多分まだ居ると思うけど。……まぁいいか。
そういえば木曾はなにも知らないままだし、うん。サプライズということで。


「へい、今度は無視?」

 北上が唇を尖らせる。
手元の湯のみをくるくると回す姿に
さっきまでの殺気や害意は見受けられない。
それは大井も同じ事で、切り替えが早いのかなんなのか。
姉といえど判別し辛いものがあった。血のつながりが、あるわけでもなし。

「べつに、そういうつもりじゃないクマ。ただどう接するべきかわからなかったクマ」

 失敗した成功した。目的・企み・エトセトラ。
その如何に関わらず、ことここに至ってしまうと
ただただどうすればいいかわからない。
笑うことも謝ることも嘘くさくて仕方ないじゃないか。

「べっつに普段どおりでいいんじゃない?」

 北上と大井は顔を見合わせて。

「えぇ、いいんじゃないでしょうか。それに」

 最後はやっぱり声を揃えて。

『ウチの旦那は手強いでしょ?』

 とにやりと笑った。

「……」

 声がでなかった。

「まぁ冷静になって一から考えてみるとね、ぼんやりとさ」
「さっきのさっき二人で話してみてそういう結論になりました」

 ……やっぱり、提督にもこの二人にも私は勝てそうにない。


【後】

足柄「はいリーチ」

北上「残念通らない。一通一盃清一で……あれ、九飜って倍満?」

球磨「正確には平和も乗るけどどっちにしろ倍満クマ」

足柄「はい、クソ」

川内「リーロンとかついてませんなー」

足柄「はいはい、4000バックで」

北上「よっしゃー」

球磨「じゃあ次は球磨の親クマ。っと、7だから対面クマ」

川内「ドラは……七筒!」

足柄「あー親番が……っと、そういえばさなんか面白いことやってたって?」

北上「面白いことなんてなにもなかったよ」

球磨「まったくクマ。奥歯は欠けるしいいことねークマ」

川内「あっはっは、雷撃食らって沈みかけたしね」

足柄「性質の悪いドッキリなんてするからじゃない」

北上「いやホントに。木曾とか完全にとばっちりだったしね」

球磨「そういえば木曾にはネタばらししてなかったクマ」

北上「あの後風呂で遭遇してらしいけど」

足柄「あぁ、じゃあこの間全裸で泣きながら木曾が廊下を走ってたのはそれでかしら」

川内「うわ」


大淀「失礼します……あら? 提督は?」

北上「おっ、仕掛け人その3だ」

大淀「その3……って」

川内「私その2?」

北上「うん」

足柄「あぁ、大淀も噛んでたんだ」

大淀「えぇ、肩パン30回食らいました」

球磨「ワロス」

大淀「ひっぱたきますよ」

北上「で、なにしにきたのん?」

大淀「新しく配備された艦を連れてきたんですけど提督はいないようですね」

足柄「いまは道場行ってるわよ」

球磨「ちなみにどんな子クマ?」

大淀「入ってください」

リベッチオ「駆逐艦マエストラーレ級三番艦リベッチオです!」

球磨「……海外艦クマ」

川内「海外艦だ……レーベ以来の海外艦だ!」

北上「ちぇー、また駆逐艦かよー」

リベッチオ「よろしくお願いします!」

足柄「はいよろしく。とりあえず入る?」

リベッチオ「はい?」

球磨「倍満直で食らったからって逃げんなクマ」


足柄「ちっ」

北上「あ、リーチ」

川内「はい現物」

大淀「はぁ……しかし、執務室で集まって麻雀とは弛んでますね」

リベッチオ「いつもこんな感じなんですかー?」

提督「まぁ、概ねそうだな」

リベッチオ「わおっ! いつの間にか後ろに!?」

球磨「……」ちら

提督「初めましてリベッチオ。俺がここの提督だ。階級は中将、まぁ見てのとおり気楽な鎮守府だ。
    君も気負わず気楽にやってくれ」

リベッチオ「はーい! よろしくお願いしまーす」

提督「おぉ、元気がいいな」

川内「ねー提督、ここなに切ればいいかな?」

提督「ん? んー北上がリーチかけてるのか。球磨が親で七筒がドラっと……北上の癖を考えると萬子警戒だな」

川内「了解っと、通る?」

北上「んー通る。というかアドバイスはずるい」

足柄「あぁ、やっぱりこの河が迷彩なのね」

北上「んだよー……ってツモった。4000・2000」


球磨「……」

提督「どうした。急に無口になったな球磨」

球磨「うっせぇクマ。新入りの面倒でも見てたらいいクマ」

提督「へいへい、おいでリべ」

リベッチオ「はーい!」

(扉の閉まる音)

北上「……姉さん露骨すぎ」

球磨「ほっとけクマ」

足柄「ふぅん、なんだか本当に面白いことがあったみたいね」

川内「あ、天鳳」

球磨「くたばれクマ」

しょうもないミスをしてしまった

なんだこれ(困惑)

今日雷とケッコンしました


大井「いい夫婦の日だそうですね」

提督「ふむ、よくそんな事を知ってるな。最近じゃないか、そんな風な語呂合わせされるようになったの」

大井「これでも情報収集は欠かしてませんから」

提督「良いことなのかどうなのか……世俗的になっていくな」

大井「とにかく! いい夫婦の日らしいですから。いい夫婦らしくしましょう」

提督「良い夫婦らしく、ねぇ……。例えば?」

大井「例えば……こう……、抱き着くじゃないですか」

提督「おおぅ」

大井「ふむ、ふむふむ……良い感じですね」

提督「なんだこの……なんだ?」

大井「ちょっと動かないでくださいよ。良い感じなんですから」

提督「いや、作業ができないっつの」

大井「いいですよしなくて。仕事と私どっちが大事なんですか」

提督「またベタな」

北上「提督ー今日っていい――なにしてんのぉ!?」

大井「あぁ、五月蠅い人が」

北上「離れてよ大井っち!」

大井「なんでですか! 私が先に言いだしたんですからね!」

提督「いてて、いてぇ。抱きしめるのはいいがつねるのはやめてくれ大井」

北上「ほらやめてっていってるじゃん腹黒!」

大井「抱き着いてるのは良いっていってるじゃないですか馬鹿!」

提督「……あ、そろそろ遠征帰ってきてる筈だなぁ……」

北上「馬鹿はそっちだよっと!」

多摩「ただいま帰投したにゃ。北鼠大成功したにゃ」

大井「ちょっと、なにするんですか! 引っ叩きますよ!」

提督「おう、お疲れさん」

北上「いつまでも一人占めできると思うな!」

多摩「で、これはなんの騒ぎにゃ? 最近大人しかったと思うけどにゃ」

提督「良い夫婦のアレらしい」

多摩「へぇ、欠片も良い夫婦感ねぇにゃ」

ネタがないので一回落とすよ
近々前日譚スレ立てるよ
具体的にはケッコンする前の話だよ

まーじでー?

無駄に文章力高いから逆ドッキリとか何とかクマにもチャンスルートとか色々やってほしいにゃ

>>236
多摩ねえぐう聖
おk、色々やってみるよ


【実は考えてる子】

多摩「……ふぅ。ようやく、腫れが引いてきたにゃ」

 自室。鏡の前で頬を撫でながら独り言。

多摩「だぁれも気にかけてくれないけど多摩も結構痛い思いしたっつー話にゃ」

 窓の外から口喧嘩をしている北上と大井の声。

多摩「妹二人は今日もいちゃいちゃと……まったく飽きない奴にゃ」

多摩「多摩もべたべたしたいにゃー。もう、誰でもいいにゃ」

 扉の開く音。

木曾「多摩姉、ちっと付き合ってくんないか?」

多摩「……いや、やっぱお前はねぇにゃ」

木曾「よくわかんねぇけどひでぇ!」


―――

多摩「訓練なら訓練と早く言えばいいにゃ」

木曾「いや言うつもりだったよ次の台詞で、それより早く却下されるとは思ってなかっただけで」

多摩「ダメだにゃー。そんなことでよく今までやってこれたにゃ」

木曾「そんな姉の素っ頓狂な言動を必要とする場面がなかったんでな」

多摩「昨日までなかったから明日も無いと思うのは怠慢だと提督が言ってたにゃ」

木曾「場面違うよな!?」

多摩「廊下で大きな声をだすにゃ」

木曾「ぐぬぬ……」

多摩「……しかし、急に訓練。しかも柔剣道場でとは珍しい事もあるもんだにゃ」

木曾「そうか? 割とやってるつもりだけど」

多摩「相手に多摩を選ぶのが、にゃ。どういう風の吹き回しにゃ?」

木曾「んー、ま。どっこいどっこいの連中とやるのもいいけど、たまにはキチンと稽古をつけてもらおうと思ってな」

多摩「いきなり姉を呼び捨てとは良い度胸にゃ」

木曾「は? ……多摩には、じゃなくて偶にはだよ! わかってて言うな!」

多摩「にゃっはっはっは……けど、それこそ多摩でよかったにゃ?
    多摩は知ってのとおり改2じゃないにゃ、相手が務まるとは思えないにゃ」

木曾「よく言うよ。まだまだ勝てる気しないっつの」

多摩「……それならそれでよく提督にあの勢いで挑んだもんだにゃ」

木曾「あんときは、ほら。テンション上がってたから、改2直後の……徹夜明けみたいな」

多摩「知らんにゃ。同意を求めるにゃ、喧嘩売ってんのか」

木曾「どうしろってんだよ……」

ロスタイム的な扱いで行こうと思っていた

にゃるほど把握

まぁとりあえず、いつになるかはわからないけれど
順番来たら落としてどうぞというスタンスでやっていきます。まる。

>>242

多摩「……で、本音は?」

木曾「あん? ん、まぁそりゃ色々聞きたいってのとシブロクってとこだな」

多摩「ふぅ、うん? ……ま、いいにゃ。そういう迂遠なやり方とは縁遠いすぐ本音を言う所は好きにゃ」

木曾「そりゃどうも……、俺からすりゃ姉さん達のやり方がまわりくどすぎて感じだけどな」

多摩「……回りくどい、回りくどい。そうにゃ、それはまったくその通りで、擁護しようもないにゃ」

木曾「ん?」

多摩「確かに褒められたやり方じゃねーにゃ。迂遠で遠回りで、もどかしい」

木曾「おい……どうしたんだよ多摩姉」

多摩「だけど、だからこそ。そんなやり方しかできない姉だからこそ、
    多摩は応援したくて、真似できなくて、伝わってくる物があって」

木曾「だから、なにを……」

多摩「別に、回顧……ともまた違うにゃ。懺悔、後悔、これらとも似て非なるモノにゃ。
    ただ、ただ、世の中には卑怯でも高潔で狡くても崇高で間違ってるからこそ正しいものがある、ただそれだけにゃ」

木曾「……わっけわかんねえよ、多摩姉」

多摩「わけわかんなくて当然にゃ。わけわかんないように話してるからにゃ」

木曾「はぁ!? そんなもん口にすんなよ!」

多摩「まぁまぁ、いいじゃにゃいの。多摩だって板挟みでつれぇモンが溜まってるにゃ。
    愚痴くらい言わせろにゃ」

木曾「つうか今の愚痴だったのか?」

多摩「欲しかったものを手に入れた妹と、取れなかった方法を迷った末にでも行動に起こした姉を持った
    不甲斐ない傍観者の戯言にゃ」

木曾「……やっぱ、わけわかんねぇよ」

多摩「でも、木曾が聞きたかった事の答えでもあるにゃ」


木曾「俺が聞きたかったのは、もっと単純な、ほら……。
    結局のところ俺はまるで決壊した鉄砲水に巻き込まれた挙句
    でも流されもせずびしょぬれになってその場に突っ立ってたみてーなさ。
    迷惑被ったけど関わってないっていうか」



多摩「言いたいことはわかるにゃ。全部が全部、木曾にとっては
    関係ないところで始まって、そして終わったにゃ。
    ただ一つ違うところがあると言うなら、その始まりにも終わりにも姉たちが関わってた事くらいにゃ」

木曾「ぶっちゃけ焦ったし、ビビったし、正味な話泣きもしたけどよ。
    そりゃどうでもいいんだ。この際全部おふざけでしたちゃんちゃんっつーならさ」

多摩「……意外に考えてるにゃ」

木曾「どういう意味だよ!」

多摩「そのまんまの意味にゃ球磨型の筋肉担当」

木曾「そんな不名誉な担当背負った覚えはない」

多摩「当然にゃ、肩書とは自分で決めるものじゃなくて他人が決めるものにゃ」

木曾「……」

多摩「で、柔剣道場についたけど。どうするにゃ?」

木曾「はぁ……頭使って疲れたし、このところの気苦労も含めて暴れたいんでな。
    筋肉担当らしく頭空っぽにしてはしゃぎたい、付き合ってくれ多摩姉」

多摩「オーライにゃ。末っ子の力見せてもらうにゃ」


―――

 基本的に工廠、もしくは海上でその意識を発芽させ
鎮守府内と海しか知らぬ艦娘達にとって鎮守府とは家であり、
庭であり、そして世界だ。甘味処は憩いの場だし、
食堂は変則的に出撃する艦娘達が常に誰かしら食事をとっていて、
またその誰かを目当てにうろつく者もいて半ば談話室だ。
それぞれの部屋は当然数少ないプライベートスペースで大事にするものだし、
工廠は全体の半分にとっては生まれた場所で、艤装を整備する重要施設だ。
同時にドックは戦闘で負った傷を、疲れを、時には心の澱みも洗い流す場所。

 生まれて3年と言えどその家屋、施設、建造物に対する愛着は
一般人のそれとは一線を画す。けれどごく一部を除いて多くの艦娘に
『早くなくなればいいのに』と思われている場所がある。
個性的で相性がよかったり悪かったり、仲がよかったり悪かったり。
この鎮守府と言う世界の中で思い思いの思い出を積み重ねてきた彼女達が、
唯一全員共有する思い出を持つ場所。

 それが、柔剣道場だ。

「……しっ!」

 そんな艦娘達の感情由来の物かあまり手入れの行き届いていなかったこの場所は、
結果逆に現在の鎮守府内の建造物において最も真新しい外観に生まれ変わったばかりだ。

「無駄にゃ!」

 そこで拳を振るい、躱し、跳び、二転三転と打ち合うのは
柔剣道場を長良・長門・武蔵らに続いて使用する球磨型軽巡の次女と末女。
床板に散る汗の量が二人のぶつかり合いがどれだけ長く続いているかを物語っている。

「……っの!」

 木曾が繰り出した手刀は本物の猫さながらのバネと瞬発力を誇る多摩の
スウェイバックで難なく躱され空振りできた胴の正面に体勢を崩したままの多摩の蹴りが飛び込む。

「げほっ……!」
「甘いにゃ。木曾、雷巡になってむしろ弱くなったんじゃにゃいか?」

 鳩尾に深く入った爪先に堪らず後ろに木曾が飛びのく。
それを見て多摩は蹴りを放った格好のままにへらとだらしなく笑う。

「くそっ、たまんねぇよ」
「多摩にゃ」
「いや、そうじゃなくて」

 軽く蹴られた所を擦り、肩を竦める。

「まさか負け越すとは、ぶっちゃけタメ張れるかとも思ってたんだけどよ」
「あめぇにゃ、ショコラッチよりあめぇにゃ。……けど、その甘さ嫌いじゃにゃいにゃ」

 なぜここでいい台詞。と木曾が思ったかはわからない。


―――

大井「じゃんけんぽん」

北上「あっちむいて……ほいっ! ……じゃんけんぽん」

大井「あっちむいてほい……っよし、私の勝ちですね」

北上「いま一瞬遅かった! 絶対一瞬遅かった!」

大井「遅くないですー! むしろ早かったくらいですー!」

北上「もういっかい! もーいっかいだけ!」

大井「だーめ。今回はあきらめてください」

木曾「なんだありゃ」

球磨「この間の件から行われるようになった平和的解決の一環クマ」

木曾「へぇ……そりゃ重畳だ」

北上「ぐぬぬ……こうなったら力づくで……」

提督「北上」

北上「なーんて、冗談! 冗談だってばー……いや、本当に」

提督「きーたーかーみー」

北上「うぃっす……」

大井「と、言うわけで今日は私がやりますから。北上さんはどうぞ優雅なお一人様で休日を満喫してくださいな」

北上「艤装展開」

提督「北上2ポイントな」

北上「冗談ですやん。ほら、実際には展開してないし!」

提督「口答え、プラス1ポイントな」

大井「これで累計9ポイントでリーチですよ北上さん。ほらほらどうぞお帰りはあちらです」

北上「あいるびーばっく!」

球磨「ベタな台詞クマ」

北上「Fuck!」

木曾「で、具体的にはなにで揉めてたんだ。今回」

球磨「どっちかが休みでどっちかが秘書艦をやるって話クマ」

木曾「それで休みより秘書艦を二人とも選んだのか、よくやるな。休みたくないのかね」

大井「愚問です。どうせ提督と過ごせぬ休みならいりませんよ」

球磨「我が妹ながら重症にゃ」

多摩「……お前が言うにゃ」ぼそっ

球磨「なんか言ったクマ?」

多摩「言ったのは木曾にゃ」

木曾「そんな馬鹿な」

球磨「木曾、訓練」

木曾「そんな馬鹿な!」

提督「……執務室が球磨型の談話室になってる件」

大井「いまさらですね」

あ、はい

あいるびーばっく!

ここ意外で球磨書いたっけ?


金剛「てーいとくー! バーニングラァァー……ぶっ!?」 じたばた

大井「……しばらく大人しくしてたと思ったら貴女って人は」

金剛「いだだだっ! ヘイッ、スタップ! 頭が割れてしまいマース!!」

大井「もういっそ割ってしまいましょうか? まったく懲りない人ですね」

提督「大井、やめてやれ」

大井「……仕方ないですね」

金剛「oh……shit! 頭の形が変わってしまったデース……提督ー、慰めてくだサーイ」

大井「もう一発行きます?」

金剛「のーせんきゅー」


【バレンタインだもの】

大井「……」

北上「……」

大井「グーをだします」

北上「……じゃあその言葉を信じてパーをだそうかな」

大井「……」

北上「……」

大井「最初はグー」

北上「じゃんけんぽん!」

大井「……」チョキ

北上「……」チョキ

大井「……嘘つき!」

北上「そっちこそ!」


多摩「あれはなんにゃ」

球磨「どっちが先にチョコを渡すかの勝負らしいクマ」

多摩「小規模とはいえ作戦行動中に余裕にゃ」

球磨「……あっ」

多摩「どしたにゃ」

球磨「クマは用事を思い出したクマー、ちょっと行ってくるクマ」

多摩「……今のうちにとかやってバレたら二人がかりで沈められかねんにゃ」

球磨「……なんのことかわからんクマー」


【そういえば】

木曾「そういやさ」

球磨「……ん? クマに話してるクマ?」

木曾「いやいやいや、他にいねぇだろこの場に」

球磨「……あり、ホントだクマ。いつの間に」

木曾「マジか……」

球磨「いかんいかんクマ。最近ぼぅっとしがちクマ。気をしっかり持たないといかんクマ」

木曾「しっかりしてくれよ長女。……じゃなくて」

球磨「ん、どうしたクマ」

木曾「ほら、すぐ上の姉二人の事なんだけどさ」

球磨「んあ? ……あーあー、北上と大井の事クマ?」

木曾「あぁ。俺が来た時には割ともうあんな感じだったし、完全にそういうものとして受け入れていたけど。
   よくよく考えてみればさ、かなり変わった光景なんだろ?」

球磨「まーあの二人がしょっちゅうぶつかってるなんてのは他所じゃ見れない光景だクマ」

木曾「だろ? どうして二人があぁなったのか、その辺の馴れ初めってのが気になってさ」

球磨「んー、そういうのは二人に直接聞いてもらいたい所クマ」

木曾「……いや、そうしたいのも山々なんだけどさ。なんか惚気を多分に含んだ疲れる話になりそうで」

球磨「それは間違いないクマ」

木曾「だから概要だけでも知ってないかなと思ったんだが」

球磨「でも確かに木曾の想像通り。最初は大井は提督にキツかったし、北上はふわっとした接し方だったクマ」

木曾「あーやっぱそうなのか」

球磨「ただウチの大井は最初期艦だからちょいと複雑クマ」

木曾「? 初期艦は電じゃないのか?」

球磨「その電よりも前に、そもそもこの鎮守府に提督が赴任する前の段階から大井は一緒だったらしいクマ」

木曾「それは知らなかったな……」

球磨「当然クマが来るより前の事だからクマもよくは知らんクマ」

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年12月03日 (木) 11:03:44   ID: eNVABjyp

「貴方のヒストリア大井」って台詞にぞくっときた。大井っちは愛が深そうね。

2 :  SS好きの774さん   2016年01月29日 (金) 16:58:56   ID: 0wTXo2Wb

あなたの帰りを待ってる人がいるんですよ!

3 :  SS好きの774さん   2019年02月12日 (火) 11:50:41   ID: P46JlE7k

なんだ打ち切りか

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