男「今年はなんだか冷えこむなあ」雪女「ごめんなさいね」 (54)


男「え?」

雪女「ご迷惑おかけしてます」


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……

男「ゆき、おんな? っていうとあの、妖怪の?」

雪女「です」

男「あなたのせいで今年の日本列島は特に寒い?」

雪女「飲み込みが早くて助かります」

男「物わかりの良さだけが取り柄ですから」

雪女「そうなんですか?」

男「大丈夫、もう大体状況に適応しました」

雪女「それはすごい」


男「それで、雪女さんが僕に何の用事でしょうか。ただ謝るために声をかけたわけでもないでしょ?」

雪女「わ、本当に適応してる。妖怪要素に動じない」

男「僕に何か手伝ってほしいことがあるとか」

雪女「わ、わ、すごい。近い」

男「ふふふ特技披露するの気持ちいい」


雪女「実は今年のわたしはモリモリしてるんです」

男「モリモリ」

雪女「ええモリモリ。つまり元気が有り余ってるんですが、それにつられて北から冷たい空気や風が入ってきてしまっているんですね」

男「ふむふむ」

雪女「助けてください」

男「分かりました」

雪女「え……本当に?」

男「はい」

雪女「さすがに物わかりの良さが過ぎません?」

男「取り柄ですから」

雪女「すごすぎる」


男「とりあえずあなたの元気を盛り下げればいいんですね」

雪女「え? いやまだ続きが」

男「そうですか。残念です」

雪女「何がです?」

男「僕がプライドをかけて磨き上げてきた気分盛り下げ術が、ついに日の目を見る瞬間かと思ったんですが」

雪女「気分盛り下げ術」

男「適切に使えば心が穏やかになります」

雪女「適切でなければ?」

男「病みます」

雪女「え」


男「使ってみませんか、気分盛り下げ術」

雪女「え、いやその。遠慮しておこうかと」

男「ですよね。ごめんなさい」

雪女「こ、こちらこそ」

男「はぁ……」

雪女「そんなに落ち込まないで」

男「大丈夫です。物わかりはいいので。ほらもう元気」

雪女「は、はあ」

つづく


男「春番?」

雪女「ええ、そうです」

男「それは一体何ですか?」

雪女「春呼びともいいます。その名の通り春の呼び寄せ役です」

男「なるほど春番を探しているのですね」

雪女「ええ。冬番から春番へとたすきが渡されて季節が巡っていくんです」

男「春になれば寒さも和らぐと」

雪女「はい。探すの手伝ってください」

男「いいですよ」

雪女「都合のいい人って言われません?」

男「稀に」


男「さてしかし春番は一体どこに」

雪女「あなたの近辺にいるはずなのですが」

男「なるほど、だから他の誰でもなく僕に声をかけた。においでもするんですか?」

雪女「飲み込みのよさが怖くなってきた……ええ、あなたからは春番の気配を感じます」

男「僕が春番の可能性は?」

雪女「ありません」

男「はっきり言われると傷つきますね」

雪女「傷つくんですか?」

男「冗談です」

雪女「ええと」


男「春番は僕に近しい人間ですか」

雪女「人間とは限りません」

男「え?」

雪女「去年は鳥でしたし、その前は大木でした」

男「それでは探すのが大変ですね」

雪女「とりあえず命あるもので引き継いでいくのが原則らしいのですが」

男「ふうむ」


男「まあ立ち話もなんですし、とりあえず家に上がっていきませんか?」

雪女「あ。ご自宅こちらでしたか」

男「ええ」

雪女「引き留めてしまったみたいですみません」

男「はい。かれこれ数十分。身体が冷えました」

雪女「本当にごめんなさい」

男「いえ、寒いのは好きです」

雪女「変な人って言われません?」

男「稀に」


男「ただいま」

母「おかえり。その人は?」

男「雪女さん」

雪女「え」

母「珍しいお客さんねえ」

雪女「え」

母「くつろいでいってくださいね」

雪女「あ、はい」


雪女「ご家族みんなあんな感じなんですか?」

男「はい。物わかりがいいです」

雪女「あ、自覚あるんだ。こうも綺麗にスルーされるとなんだか自分が雪女かどうか自信がなくなりますね」

男「人間界では苦労したことでしょう」

雪女「実はあなたも妖怪というオチとか」

男「ないです」

雪女「ないですか」

つづく


男「お茶どうぞ」

雪女「ありがとうございます」

男「さて話の続きをしましょうか」

雪女「あ、その前にこれを」

男「何ですか?」

雪女「いえ、ただで手伝ってもらうのも心苦しいので」

男「チョコですか」

雪女「今日はバレンタインデーというものらしく」

男「ありがとうございます」

雪女「え」


男「え、ってなんですか?」

雪女「いやずいぶん簡単に受け取るなあと」

男「なるほど、会って間もない女性からそういったものを受け取るのは不自然と」

雪女「はあ、まあ」

男「しかし受け取らなければそれはそれで変でしょう。お互い気まずいしなにより無償で人に動いてもらうのは罪悪感が強い」

雪女「物わかりの良さって過剰だとムカついてくるんですね。初めて知りました」

男「チョコ大好き」

雪女「取ってつけたように」


男「では春番探しですが」

雪女「はい」

男「心当たりがあります」

雪女「え」

男「はい」

雪女「なんでですか」

男「言いたくなる気持ちは分かります」

雪女「いやなんでですか」

男「なんかムカつきますよね。本当分かります」


男「生来の物わかりの良さからでしょうか、物事の解決法って大体察しがつくんですよ」

雪女「物わかりいいってレベルじゃない。今更だけど」

男「唐突ですが僕は友達が少ないです」

雪女「はい?」

男「というか一人しかいません」

雪女「はあ」

男「なんででしょうね」

雪女「そこは察しが悪いんですね」


男「とにかく家族とその一人ぐらいしか親密な付き合いはありません」

雪女「悲しいことをさらっと言いますね」

男「母は違うようなのであとは父か友人だけです。ちなみに他の生命体との交流もないです」

雪女「まるで異星人のような物言いを」

男「とりあえずその友人のところへ行ってみましょう」

雪女「はあ」


男「ここです」

雪女「家を出たばかりじゃないですか」

男「いえ、お向さんです」

雪女「え」

男「俗にいう幼馴染です」

雪女「それって友人カテゴリでしょうか」

男「他に適切なワードがないもので」


男「おーい!」

雪女「わっ」

男「おーい!!」

雪女「え? え? あの」

男「おーい!!!」

雪女「あの!」

男「こうしないと出てこないんですよ」

雪女「は?」

男「おーい!!!!」


 ガララ!


「うるさい!」


男「あ、顔出しました。二階の窓。あれが幼馴染です」

雪女「はあ」

幼馴染「なんかウザい声がすると思ったら……あんたと話すことなんかないわ。帰って」

男「分かった。帰る」

雪女「え。なぜ」

男「それでは戻りましょう」

幼馴染「あんたのそういうとこ嫌い!」ピシャリ!

雪女「あれれ?」


雪女「で、わたしたちなんで帰ってきてるんでしょうか」

男「話しても聞いてもらえそうになかったので」

雪女「まあ確かにそんな感じでしたが」

男「『本当に友人ですか?』」

雪女「本当に友人なんですか? って、え?」

男「惜しい。誤差二文字」

雪女「なんか尊敬してきてる自分がいる」


男「正確には幼馴染は友人ではありません。かつては友人でした」

雪女「かつては?」

男「はい、秋の終わりにケンカしまして」


……


幼馴染「あんたのスカした態度大嫌い」

男「なるほど」


……


男「というわけで」

雪女「ケンカ?」

中断


男「それよりどうでした?」

雪女「かわいい子でしたね」

男「ではなく。春番でした?」

雪女「ああ。ええと、どうでしょう」

男「曖昧ですね」

雪女「なにぶん遠くて短時間だったもので」

男「ふうむ」


母「お話し中ごめんなさい、ちょっといいかしら」

男「?」

雪女「何ですか?」

母「テレビがすごいこと言ってて」

男「なんでしょう」

TV「超大豪雪の見込みです」

雪女「え」

TV「全国で積雪がメートル単位でしょう」

男「これは」


母「あなたたちに何か関係あるかと思って。じゃあ下がるわね」

男「どうも」

雪女「何ですかこれは」

男「異常気象ですね」

雪女「一体なぜ急にこんな……はっ」

男「?」

雪女「あなたまさか、冬番?」

男「はい?」


雪女「ちょっと失礼。スンスン。間違いない」

男「なんと僕が冬番でしたか」

雪女「春番の気配に隠れてて気づくのが遅れました。これはまずい」

男「冬番とモリモリ雪女のコンボのせいですか?」

雪女「おそらくは」

TV「北海道が雪に沈みました」

雪女「あわわ」


TV「青森も陥落寸前です」

雪女「どうしようどうしよう」

男「……」

雪女「? どうしました」

男「行かなきゃ」

雪女「え?」

TV「東北はすべて沈みました」

あともう少し


男「おーい!」

雪女「何してるんですか?」

男「おーい!! 出てきてくれ! 話がしたい!」

雪女「……?」

男「ニュースは見ただろう! 時間がないんだ!」


 ガララ


幼馴染「……なによ」

男「好きだ!」

幼馴染「へ?」


男「秋の終わり、覚えてるかい、僕は君に告白されたんだ」

幼馴染「……」

男「僕はそれを受けたけど、君は怒ってしまった」


……


幼馴染「そ、その、あんたのことが好きかも……なんだけど」

男「うん分かった。付き合おう。ゆくゆくは結婚も」

幼馴染「あんたのそういうスカしたとこ大嫌い」

男「なるほど」


……


男「なぜだろう」

幼馴染「死ね」


幼馴染「もう帰れ!」

男「帰らない!」

幼馴染「!」

男「好きだから、帰らない」

幼馴染「え……」

男「こんなに物わかりの悪い自分初めてだ。でも、それでも伝えたいことがあるから」

幼馴染「……」

男「好きじゃ足りない。適切な言葉がないから表現できないけど……とにかく一緒にいたいんだ」

幼馴染「あ……」

男「こんな時で申し訳ないけど。付き合ってください。お願いします」

雪女「わお」


 ゴゴゴ……


雪女「? 何の音?」

男「あれは」

幼馴染「竜巻!?」

雪女「逃げなきゃ」

男「返事を!」

幼馴染「!」

男「……返事を、聞かせてほしい」

幼馴染「……」

幼馴染「……いいよ。付き合ったげる」

雪女「やった」


 シュウゥゥ……


雪女「あ、竜巻が消えた」

男「本当ですね」

母「今テレビで超大豪雪の危険が去ったって言ってたわよ。雪も消えたって」

男「やっぱり幼馴染が春番でしたか」

雪女「ええ。みたいですね」

幼馴染「ごめんわたしだけついてけてないんだけど……」


……


雪女「本当にありがとうございました」

男「どういたしまして。雪女さんはこれからどこに?」

雪女「春はわたしには暖かすぎるので白鳥に乗ってシベリアに渡ります」

男「寒いんでしょうね」

雪女「ええ、ものすごく」

男「また来年来てください」

雪女「はい。また春番探ししましょうね」


男「お待たせ」

幼馴染「別に。雪女さんとやらは行ったの?」

男「うん、シベリアに」

幼馴染「シベリア」

男「白鳥に乗って」

幼馴染「白鳥」


幼馴染「どうも信じられないのよね、雪女に冬番春番にシベリアに」

男「信じなくてもいいよ。信じられる方がおかしい」

幼馴染「……でもあんたが言うんだから信じるわよ」

男「ありがとう」

幼馴染「か、勘違いしないでよね。あんたのことが好きだからとかじゃないから」

男「好きじゃないの?」

幼馴染「ばっ……好きは、好きだけど!」

男「好きだけど?」

幼馴染「なんでこういうときに限って物わかり悪いのよ!」


男「好きだからからかいたくなる」

幼馴染「ホントたち悪い……」

男「でも好き」

幼馴染「あー分かったわよ。好きよ大好きよ」

男「……」

幼馴染「? 照れてるの?」

男「くすぐったいなと」

幼馴染「へえ? じゃあこれ渡したらどうなっちゃのかしら」

男「これは、チョコ?」

幼馴染「そうよ」

男「……」

幼馴染「照れてるの?」

男「正直すごいうれしい」


男「今こそ使うべきかもしれない」

幼馴染「何を?」

男「気分盛り下げ術」

幼馴染「は?」

おわり

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