叢雲「クリ……スマス?みたいなお祭りって他に無いの?」 (83)

吹雪「クリスマスみたいなお祭り?」

叢雲「まあ、お祭りというか行事というか」

初雪「クリ、スマス……」

叢雲「発音はどうでもいいの! ねえ、なんか無いの?」

吹雪「そりゃたくさんあるよ」

叢雲「例えば?」

吹雪「お正月とか」

叢雲「もう過ぎたじゃない……」

吹雪「じゃあひな祭りとか」

叢雲「うーん……そういうんじゃなくて……お正月とかひな祭りくらいなら私も知ってるわよ」

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吹雪「?」

叢雲「未知のお祭りが知りたいの」

叢雲「ぶっちゃけて言うなら、未知の美味しいものが食べたいの」

吹雪「あー」

初雪「なるほど……」

吹雪「ケーキ、すごい幸せそうに食べてたもんね」

初雪「司令官にあーんしてもらってた……」

叢雲「あいつが無理矢理口にねじこんできたのよ……」

叢雲「まあ、それで西洋の料理も悪くないなと思って。私和食派じゃない?」

吹雪(悪くない、どころかドハマりしたんじゃ……)

初雪「和食派の癖に飲むお酒はウイスキー……」

吹雪(しかも那智さんのボトルを勝手に……)

叢雲「あんたらホント茶々入れるの得意ね……」

吹雪「わ、私は口に出してないよ!?」

叢雲「いいから! なんかこう……無いの? 美味しい思いのできる行事」

吹雪「行事じゃなくても間宮さんとか鳳翔さんに頼めば色々作ってもらえるんじゃないかな?」

叢雲「それはなんというか……恥ずかしいしプライドが許さないわ。露骨に西洋にかぶれた感じがして」

吹雪「うーん……」

初雪「叢雲って……めんどくさいね……」

叢雲「自覚してるわ」

吹雪「クリスマスに似てる行事なら……ハロウィンとか?」

叢雲「波浪……何?」

吹雪「ハロウィン」

叢雲「波浪院」

初雪「おばあちゃんかな……?」

吹雪「みんなで仮装したり、大人が子供にお菓子あげたり、かぼちゃの飾り付けするからかぼちゃのお料理が出たりするよ」

叢雲「煮付けとか?」

初雪「おばあちゃんかな……?」

吹雪「いや西洋のお祭りだから。スイーツだよ」

叢雲「酢飯津……?」

吹雪「わざとだよね? 叢雲ちゃんそんなに横文字に弱くなかったよね?」

吹雪「ちょっと豪華なおやつみたいな感じだよ」

叢雲「なんにせよ甘いものが主ってことね。なかなか良いじゃない」

叢雲「そのかぼちゃ祭りはいつなの?」

吹雪「10月の終わりだね」

叢雲「遠いわよ!」

吹雪「そう言われても……」

初雪「寝て起きて、寝て起きてを繰り返せば10月なんかあっという間……」

吹雪「それはさすがに無理がないかな」

初雪「そういえばこの前深夜1時に寝たんだよね……」

初雪「で、ぐっすり眠ったつもりで起きて時計みたら深夜の2時でさ……」

吹雪「うん」

初雪「『1時間しか寝られてない。私の体はどうにかなってしまったんじゃないか』って恐怖してたんだけどさ……」

叢雲「ええ」

初雪「実は次の日の2時だったんだよね……」

吹雪「……」

叢雲「……」

初雪「……」

吹雪「……え!? 終わり!?」

叢雲「いや何の話よ!」

初雪「25時間も寝ちゃった……えへへ」

叢雲「えへへじゃない! ほっこりしてんじゃないわよ!」

初雪「たくさん喋ったら喉乾いちゃった……飲み物もらうね……」グビグビ

叢雲「色々言いたいことはあるけど……とりあえず話を戻して良い?」

吹雪「う、うん」

叢雲「もっと近日中に開催される行事無い?」

吹雪「うーん……」

吹雪「あ! あるよ! クリスマスとかハロウィンとはちょっと毛色が違うかもしれないけど」

叢雲「ホント!?」

吹雪「うん! バレンタインデー! チョコがたくさん食べられるかも」

叢雲「ばるたん……?」

初雪「それは宇宙忍者……」

叢雲「千代子……?」

初雪「それはお酒の席での千代田さんのあだ名……」

吹雪「二人は打ち合わせでもしてきたの?」

叢雲「冗談よ。チョコレートくらいなら知ってるわ」

叢雲「で、そのバルサンはいつで、どんなお祭りなの?」

吹雪「2月14日だよ」

叢雲「あら、もうすぐじゃない」

吹雪「どんなお祭りかって言われると……うーん」

吹雪「女性が男性にチョコレートをあげる日?」

叢雲「ちょっと待って」

叢雲「意味ないじゃない。この鎮守府で得するのあのバカだけじゃない」

吹雪「大丈夫だよ。友チョコとかあるし」

叢雲「友チョコ?」

吹雪「女の子がお友達同士であげるチョコのことだね」

叢雲「ふーん……」

叢雲「……ねえ、チョコをあげるのにはなんか意味があるの?」

吹雪「? まあ、チョコじゃなくてもクッキーとかでも大丈夫じゃないかな」

叢雲「そうじゃなくて……あげること自体に何か意味とか」

吹雪「男の人にあげるなら……まあ、大抵は好きな人への愛の告白を……」

叢雲「へ、へぇ……」

初雪「……」

吹雪「な、なんか妙に恥ずかしくなってくるからそんな目で見ないでよ……」

初雪「吹雪、やけに詳しい……」

吹雪「!」

叢雲「……」

吹雪「わ、私だけじゃないよ! みんな知ってるしみんな司令官にあげるみたいだし!」

吹雪「初雪ちゃんも知ってたでしょ!?」

叢雲「初雪もあげるの?」

初雪「私はみんなのところを回って味見する役だし……」

初雪「後、司令官が食べきれなかった分をおすそわけしてもらおうかと……」

叢雲「そう……」

叢雲「まあ……私もなんとか食べる専門に……」

叢雲「別に……あいつにあげる義理はないし……」

初雪「あげとけば……ホワイトデーのお返しがあるかも……」

叢雲「え?」

吹雪「やっぱり初雪ちゃんも詳しいんじゃない」

初雪「なんかこう……バレンタインはうやむやにしてホワイトデーのときだけ司令官からどさくさでもらえないかなって……」

叢雲「お返しする日があるの?」

吹雪「3月の14日にね。来月は司令官大忙しだろうなぁ」

初雪「ホワイトデーには3倍にして返してもらえるという噂が……」

叢雲「…………」

叢雲「そ、そう。じゃああげてもいいかもね」

吹雪「うんうん」

叢雲「な、何ニコニコしてんのよ。私はお返し目当てであって……あいつが好きとかそういうんじゃないから」

叢雲「3倍になって返ってくるなら、ちょっとは色つけてやってもいいかもね。うん」

吹雪「うんうん」

初雪「叢雲ってさ……テンプレって感じだよね……」

叢雲「天ぷら?」

初雪「なんでもない……」

……………………

深雪「この深雪様がそう易々とチョコを誰かにあげるとでも~?」

叢雲「あ、そう」

深雪「いや、呆れないでよ。冗談だよ」

深雪「ちゃんと司令官にゃあげるよ。白雪磯波と合同でってことで」

白雪「深雪ちゃん、味見しかしてないですけどね……」

磯波「『美味い!』と『甘い!』しか言わないし」クスクス

深雪「立派な仕事だ!」

初雪「その役、私とかぶるから止めて……」

吹雪「…………」

磯波「叢雲ちゃんたちも何か作るんですか?」

叢雲「ん……まあね。一応ね」

吹雪「みんながどんなもの作ってるか気になって」

白雪「あら、もう包装しちゃいました……」

磯波「工夫のないチョコだからあまり参考にならなかったかも……」

初雪「余ってたり……しない……?」

深雪「ごめんなー。余りは全部食べちゃったよ」

初雪「孫子の代まで恨む……」

深雪「そこまで!?」

吹雪「他に作ってる最中の人、いないかなぁ」

磯波「あ、それなら……」

…………………

睦月「あ、吹雪ちゃんたち! やっほー!」

吹雪「やっほー!」

叢雲「絶賛調理中みたいだけど……」

叢雲「……如月の持ってるそのバケツは何?」

睦月「バケツだね」

如月「バケツね~」

望月「バケツだよ」

卯月「見ての通りバケツっぴょん。かき混ぜる入れ物が無かったからお風呂から拝借してきたっぴょん」

吹雪「『修復』の文字がとてつもなくシュールだけど」

弥生「弥生は止めた……。けど、『洗えば大丈夫だ』って卯月が……」

卯月「ちょっとくらい混じってても司令官の胃が修復されるだけっぴょん」

叢雲「修復されるなら良いけどね」

初雪「荒れそう……」

睦月「それより、そろそろかき混ぜ終わったんじゃない?」

弥生「そうだね……。じゃあ如月、こっちの容器に……」

卯月「え? それをそのまま司令官の頭からかけるんじゃないっぴょん?」

吹雪「何言ってるの!?」

如月「あら、私バケツのまま固めるのかと思ってたわ」

卯月「固めて頭上に落とすっぴょん!? なかなか鬼畜っぴょんね」

睦月「違うよ! ちゃんと小分けにして固めるの!」

卯月「小分けにしてぶつけるっぴょん?」

望月「なんで卯月は頑なに司令官にダメージを与えようとすんのさ」

弥生「……」

初雪「睦月型ってなんか……アレだよね……」

弥生「一括りにしないで欲しい……」

一旦ここまで
また後で

…………………

伊勢「……あのさ、日向」

日向「どうした? 神妙な顔をして」

伊勢「まさかやらないだろうと思ってたことをホントにやったわね……あんた……」

日向「?」

ガチャ

吹雪「失礼します」

叢雲「お邪魔するわ」

初雪「……チョコの匂い」

伊勢「あ、あら、いらっしゃい」

日向「おや、戦艦寮に来るなんて珍しいな。まあゆっくりしていけ」

叢雲「なんか机にずらっとチョコが並んでるけど……」

吹雪「わあ、すごい! 瑞雲の形だ!」

初雪「凝ってる……」

日向「ん、まあな」

吹雪「どうやって作ったんですか? 型取るの大変そうですけど……」

日向「いや、なんのことはない。瑞雲にチョコレートをコーティングしただけだからな」

吹雪「」

叢雲「」

初雪「」

日向「溶かしたチョコレートに浸して冷やした」

伊勢「ごめんね……妹がアホでごめんね……」

日向「今、甲板にも塗装しようか迷っているんだが」

伊勢「お願いだからやめてよ!」

叢雲「どうすんのよこれ……」

日向「話をしよう。この間街に買い物に行ったときのことだ」

吹雪「急になんです!?」

日向「大型量販店の菓子コーナーに卵の形をしたチョコレートがあってな」

日向「食べると中から玩具が出てくるというものだった。なんだかわくわくするだろう?」

日向「それからヒントを得てみた」

叢雲「バカなの?」

伊勢「バカなの……」

日向「何の玩具が出てくるか楽しみにしながらチョコを食べられるんだ」

吹雪「いやこの時点で瑞雲なの丸わかりですよね!?」

叢雲「あんたにとって瑞雲はおもちゃだったの?」

初雪「それにこれかじれないし……表面をひたすら舐めるしかないし……」

日向「なんだ……君たちには思いの外不評だな……」

伊勢「誰になら好評だと思うのよ!」

日向「最上や利根たちになら、きっと。提督も喜んでくれるはずだ」

伊勢「怒られるわよ! 良くて苦笑いされるのがオチよ!」

叢雲「とりあえずこれ綺麗にしときなさいよ」

日向「む……」

吹雪「なんだかしょんぼりして掃除しに行っちゃいましたね……」

伊勢「……ちょっと言い過ぎたかな」

叢雲「甘っ!」

初雪「え……瑞雲、舐めたの……?」

叢雲「違うわよ。妹に甘いって言ったの」

伊勢「いや、でもさ……本人はたぶん良かれと思ってやったのよ……。ただちょっと不器用なだけで……」

吹雪「ある意味器用ですけど」

初雪「いや、浸して冷やしただけだし……」

叢雲「……まあ、フォローはあんたに任せるわ」

伊勢「うん。責任持ってチョコは舐めとるよ」

吹雪「溶かして洗った方が早いと思います……」

叢雲「あんたも実はアホでしょ。この姉にしてあの妹ありなんでしょ」

一旦これだけ
またねっぴょん

……………………………

村雨「ねえ、この転写シートって何に使うの?」

白露「えっとね、ガナッシュをテンパリングしたチョコでコーティングしてその上に……」

村雨「意味わかって言ってる?」

白露「全然!」

夕立「書いてあったのをそのまま言っただけっぽい」

村雨「ガナッシュってなにかしら」

時雨「生チョコレートのことじゃないかな」

白露「生チョコレート……?」

白露「チョコレートに生とかあるの?」

夕立「ちゃんと火を通さないとお腹壊すっぽい」

時雨「いや、豚肉じゃないんだから」

村雨「じゃあ煮チョコレートとかチョコレートのフライとかあるのかしら」

白露「あ、生チョコレートってもしかして刺身ってことなの?」

夕立「お醤油用意しとくっぽい?」

村雨「大根切っておく?」

白露「生姜醤油でさっぱりいく?」

時雨「……助けて」

吹雪「助けて、と言われても……」

叢雲「あんたたち頭で思ったことそのまま口に出してるだけでしょ」

時雨「ねえ、やっぱり誰か助っ人が必要だよ。恐らくこのままだとチョコのような何かができるだけだよ」

時雨「茶色くて甘い不思議な何かが」

叢雲「甘さが保たれるかも怪しいけどね」

初雪「緑色の苦い邪悪な何かになってるかも……」

時雨「最悪、提督に馬刺を提供することになりそうで……」

吹雪「それはさすがに無いと思うよ!?」

村雨「そうねぇ。探り探りやるのも楽しいかと思ったんだけど」

吹雪「時雨ちゃんが教える係になれば良いんじゃない?」

時雨「うーん……僕も人に教えられるほど詳しい訳じゃないし……」

夕立「あ! じゃあ夕立が助っ人呼んでくるっぽい! さっき暇そうにしてたからちょうど良いっぽい!」ダダッ

時雨「あ、ちょっと……」

ガチャ バタン

叢雲「……誰連れてくると思う?」

初雪「司令官……」

吹雪「連れてきたらびっくりだよ!」

白露「提督が今暇そうにしてたらそれにもびっくりだよね」

時雨「不安だなぁ……」

ちょこちょこ投下でごめんっぴょん
また後で

…………………………

夕立「お待たせっぽい!」バーン

白露「お帰りー」

由良「ちょ、ちょっと夕立……あんまり引っ張らないで……」

村雨「由良さん?」

叢雲「あら、まともなのを連れてきたわね」

時雨「ほっとしたよ……」

夕立「?」

由良「?」

時雨「ごめんね由良。無理矢理来てもらっちゃったみたいで……」

由良「ううん。特に忙しくもなかったから平気だけど……」

夕立「こたつでみかん食べながら雑誌読んでたっぽい」

由良「こ、細かく言わなくて良いの!」

由良「そ、それより連れてこられた理由をまだ聞いてないんだけど?」

吹雪「夕立ちゃん、説明せずに連れてきたの?」

夕立「ぽい!」

時雨「そこは元気に肯定するところじゃないよ」

村雨「お菓子作りを教えてもらえる人が必要で……」

由良「え? ああ、なるほどね……」

叢雲「ちなみに由良、料理は詳しいの?」

由良「まあ、それなりには……」

由良「というか、私が作れなかったらどうするつもりだったの夕立……」

夕立「作れるはずだって信じてたっぽい!」

由良「そ、そう。嬉しい反面、ときどきあなたが心配になるわ……」

時雨「吹雪たちも一緒に習っていくかい?」

由良「そしたら、えっと……7人分の材料を……」

叢雲「私たちは結構よ。お邪魔したわね」

吹雪「え? 教わっていかないの?」

初雪「私は食べ専だし……」

叢雲「私もよ」

吹雪「さっきと言ってることが違う……」

叢雲「い、良いから! 行くわよ!」

由良「あら? 作っていかないの?」

叢雲「完成した頃また来るわ」

初雪「たくさん失敗して余らせといて……」

時雨「うん。善処するよ」

白露「しないよ!」

………………………

鳥海「チョコが余ってないかって?」

摩耶「あー、悪ぃ。ご期待には添えられねぇな」

初雪「がーん……」

叢雲「そもそもあんたたちもあいつにチョコ作ってあげるの?」

鳥海「ええ。日頃の感謝の意味も込めて」

摩耶「あたしは買った奴だけど。まあ、だから余るわけもないんだよな」

鳥海「私は……あ、余ったのを全部自分で食べてしまったから……」

初雪「バルジ……」

鳥海「い、言わないで……」

吹雪「二人で作らなかったんですか?」

鳥海「誘ったんだけど、頑なに断られて……」

摩耶「て、手作りチョコって柄じゃないだろあたし……あげるのですら恥ずかしいのにさぁ……」

鳥海「でも素直にあげるって公言できるようになっただけ殊勝になったと思うわ」

摩耶「う、うっせ!」

摩耶「……あたしはもうそんな意地の張り方するほど子供じゃないんだよ」

叢雲「でもいざ渡す瞬間になったらぶん投げて渡しそうよね」

吹雪(どの口が……)

初雪「どの口が……」

叢雲「うるさいわねあんたたち……」

吹雪「だから私は口に出してないよね……?」

鳥海「あなたは摩耶姉さんと違って可愛げがあるから大丈夫よ」

摩耶「おい。あたしは可愛げないのか」

摩耶「ないけどさぁ……」

摩耶「ああ、可愛げないで思い出したけど……ほら、あの綾波型のツンツンしてる駆逐艦いるだろ?」

吹雪「ひどい思い出し方ですね……」

摩耶「いや、あの可愛げの無さがあいつの魅力なんだろ。多分」

初雪「潮……?」

吹雪「絶対違うよ! 潮ちゃんは全然ツンツンしてないよ!」

摩耶「あいつはツンツンされてる方だろ。物理的に」

吹雪「物理的にってなんです!?」

初雪「私もしたことある……ツンツン……」

叢雲「どうでもいいわよ」

鳥海「司令官さんもやってたけど……よく考えたらセクハラよね、アレ……」

叢雲「それはどうでもよくないわ!」

吹雪「よく考えなくてもセクハラですよ!」

初雪「それで、潮が……?」

摩耶「だから違うって。潮はちっこくてでかいのだろ」

叢雲「……曙でしょ?」

摩耶「そう。曙がさっき甘味屋の前で挙動不審にしててさ」

摩耶「キョロキョロしながら時々間宮の中覗いてたりしたんだけど、私の顔見るなり慌てて逃げちまって……」

摩耶「エプロン握りしめてたから……まあ、そういうことなんだろうな」

叢雲「……ふーん」

摩耶「ホントはこうやって言いふらすのも悪いんだけどさ……もし見かけたら一応、あたしが謝ってたって言っといてくれな」

吹雪「?」

初雪「?」

鳥海「?」

摩耶「なんでキョトンとしてんだお前ら」

摩耶「わかるだろ? ……恥ずかしかったんだよ、きっと」

吹雪「摩耶さんと会うのが恥ずかしい……?」

鳥海「えっ……あの子、もしかして摩耶姉さんのことが……?」

初雪「『惚れさせちまってすまない』って謝っとけばいいの……?」

摩耶「なんでそうなるんだよ」

摩耶「間宮さんとこに行くのを誰かに見られるのが恥ずかしかったんだろ、って話だよ!」

吹雪「間宮さんに会うのが恥ずかしい……!?」

鳥海「えっ……あの子まさか間宮さんのことが……!?」

初雪「『悪いな、間宮はあたしの女だ』って謝っとけばいいの……?」

摩耶「お前らバカだろ!」

叢雲「あんたが回りくどく話すのも悪いと思う」

叢雲「間宮にチョコの作り方習おうとしてたんでしょ」

摩耶「そうそう」

叢雲「まあ、どっちにせよ間宮は予約でいっぱいだったでしょうけど」

吹雪「あ、ああー! なーんだそういうことかぁ」

鳥海「なるほど。ようやくエプロンという情報と話の流れが合致したわ」

摩耶「遅ぇよ! 察してくれよ!」

叢雲「なんとなくわかるでしょ……」

初雪「二人だから……わかったんじゃないの……? 曙と考え似てそうだし……」

摩耶「ん?」

叢雲「何?」

初雪「なんでもない……」

一旦ここまで
またね

………………………

吹雪「──って、摩耶さんが……」

曙「は、はぁ!? な、なんのことよ!」

初雪「恥ずかしいところを見ちゃってごめん、って……」

漣「あら、なんだかやらしい表現……」

叢雲「あんたは頭の中も外もピンク色なのね」

漣「せめて外側だけに止めておきたかった」

曙「あ、あのクソ重巡……! ペラペラと……!」

吹雪「だ、大丈夫だよ! 私たち口堅いから!」

曙「……まあ、あんたたちなら知られてもまだマシな方ね」

叢雲「逆に口軽そうなのって誰よ」

曙「駆逐艦なら陽炎とか皐月とか……」

吹雪「そうかなぁ?」

曙「ま、一番みんな漣に比べたら堅い方だけど」

漣「おっと? とんだ飛び火が」

叢雲「じゃあ一番知られたくないのに知られてるんじゃない」

漣「まあ、間宮さんに教えを乞うようにアドバイスしたのは漣なので」

曙「あっ! あんたまさかこうなることを見越して……」

漣「いやいやいやいや! 完全に予想外でした、ええ!」

漣(まさかそんなベタな目撃のされ方するとは)

漣「それより、どうする? ご主人様へのチョコ」

曙「……作るの諦めようかな」

叢雲「…………」

漣「どうしてそこでやめるんだ、そこで!! もう少し頑張ってみろよ! ダメダメダメ! 諦めたら! 周りのこと思えよ! 応援してる人たちのこと思ってみろって!」

曙「うるさいわね……」

曙「だって教えてくれそうな人はみんな忙しそうだったし……買ってきたのでもいいかなって……」

漣「市販の奴で妥協しちゃうの? そんなんじゃ甘いよ。チョコだけに」

初雪「……」

吹雪「初雪ちゃん? 難しい顔してどしたの?」

初雪「べ、別に……」

曙「だ、妥協って……私は、ちょっと気まぐれにあげようかなって思っただけで……そんな張り切ってたわけでもないし……」

叢雲「気まぐれにエプロンまで用意して準備万端だったと」

曙「うぐ……」

漣「煽っていくー」

叢雲「……別に、誰かに教わらなくてもレシピ本でも見て作ってみればいいじゃない」

曙「できるかな……」

漣「いつもの不遜な態度はどこに行ったんですかねぇ」

曙「さぁ……遠征中じゃないの」

吹雪「……」

叢雲「……」

初雪「……」

曙「黙らないで。苦笑いでもいいから笑って」

漣「ハハッ」

曙「……ぶっ飛ばしたい」

漣「ええー……」

叢雲「失敗しても良いじゃない。それを渡しちゃえば」

曙「真っ黒焦げのができたらどうするのよ……そんなに不器用じゃないとは自負してるけど……」

叢雲「真っ黒焦げでもかまわないわよ」

叢雲「頑張った、って過程が大事なんでしょ。あいつはちゃんとそれをわかってくれるから大丈夫よ、きっと」

曙「…………」

吹雪「叢雲ちゃん……」

初雪「叢雲が優しい……?」

叢雲「あんたたちホント叩きのめすわよ」

吹雪「私は感心しただけだよ!?」

曙「そっか……そうよね……」

曙「じゃあ……ちょこっとだけ頑張ってみようかな……」

漣「チョコだけに」

曙「……叩きのめしたい」

漣「ええー……」

曙「……よし。じゃあ頑張って作るわよ、チョコ」

漣「陰ながら応援してるのね」

曙「は? いや、あんたも提督にあげるって……」

漣「あ、漣は市販のチョコです」

吹雪「……」

叢雲「……」

初雪「……」

曙「……殴りたい」

一旦これだけ
また後でね

…………………………

吹雪「お邪魔しまー……うぷっ!」

叢雲「ちょ、ちょっと、何よこの異臭は!」

初雪「こ、この部屋……臭う……よ……」バタン

吹雪「初雪ちゃーん!」

谷風「ほら見ろ! 臭いで死人が出たぞ!」

霧島「BT36.8℃、BP94/68、P78、spO2は99%……大丈夫よ。ちょっと低血圧なのが気になるけど、生きてるわ」

榛名「バイタルチェックも出来るの?」

浦風「便利なメガネじゃねぇ」

浜風「感心してる場合ではありません!」

金剛「Oh……申し訳ないデース……ブッキー、ユッキー、クッモ……」

叢雲「私だけ語呂が悪い!」

吹雪「今それはどうでもいいから!」

吹雪「こ、金剛さん! なんなんですかこの臭いは!」

金剛「それがですネ……」

叢雲「いや、もう訊かなくてもわかるから。ここにいるメンバーから大体察しがつくから」

吹雪「え? ……あっ」

谷風「さあ、奥の調理場にいるのはだれとだーれだ?」

浦風「谷風、もう自棄になっとらん?」

榛名「私たちが……間違っていたのかもしれませんね……」

霧島「止めるタイミングを完全にはかり損ねてしまったわ……」

谷風「だから谷風さんはくじ引きの段階で止めてたろー!? みんなが『怖いもの見たさ』とか言うからさー!」

叢雲「あの二人が混沌の儀式を始めることになったのは何故? くじ引きってどういうこと?」

浜風「ええと……事の発端は私が金剛にお菓子作りの相談を持ちかけたことからなんです」

金剛「ティーフレーバーのクッキー、レッツクッキン!」

霧島「端的でわかりやすい説明ですね、金剛お姉さま」

叢雲「???」

谷風「そのわかりやすい説明が伝わってないみたいだねぇ」

吹雪「気にしなくて大丈夫。続けて?」

浜風「え、ええ……」

谷風「で、浜風がその話を十六駆の前で話したもんだから……」

浜風「『この前料理を教わった礼だ。私も手伝おう』って……」

榛名「金剛お姉さまもその話を私たちの前で話したものだから……」

金剛「『私も金剛お姉さまと料理がしたい!』って……」

浦風「それがそのまま金剛型と十六駆の合同料理会になったわけじゃねぇ」

霧島「それで、なんやかんやあってくじ引きでペアを作ってお菓子を作ることになって……」

吹雪「そのなんやかんやのとこすごく大事だと思うんですけど」

谷風「全員が思ったよ。『あの二人が……磯風と比叡がペアになったらどうしよう』って」

吹雪「それが現実のものとなった、と……」

浜風「引き寄せの法則という奴ですね……」

金剛「マーフィーの法則デース!」

叢雲「どっちでもいいわよ!」

吹雪「あ、あの……なんか臭いがどんどん強くなってきてるような……ごほっ!」

浜風「え?」

谷風「もう全員鼻がやられてるからわからんね」

霧島「8500Au……8600Au……信じられません! まだ上がり続けています!」

榛名「アラバスター数値も計れるのね」

浦風「ホントに便利なメガネじゃ」

浜風「だから感心してる場合ではありません!」

叢雲「8500ってどんくらいスゴいのかわからないけど……」

霧島「世界一臭い缶詰が8000弱と言われているわ」

叢雲「じゃあ今ここ世界一臭い空間じゃないのよ!」

金剛「私たち今ワールドレコードの立会人ネー」

谷風「すげぇなー。やったなー」

吹雪「現実逃避しないでください!」

一旦ここまで
またね

浜風「大丈夫かな……鎮守府全体に臭いが広まったりしてないでしょうか……」

叢雲「広まってるでしょうね」

吹雪「私たちが来たときにはこの部屋だけで済んでたみたいだけど……」

霧島「加速度的に臭いが強くなってるみたいだから……」

榛名「!? あ、あの、調理場から煙が……」

金剛「Whats!?」

浦風「ありゃ、こりゃいけんね……」

叢雲「ああ、もう! いい加減止めに行くわよ!」

霧島「もう遅いわ。ここまで来たら調理場に突撃する方が危険かもしれない。最悪何かしらが爆発するかもしれないわ」

浦風「さっきから何度も破裂音がしとるけぇ」

吹雪(鎮守府が爆発しませんように、鎮守府が爆発しませんように)

……………………

磯風「待たせたな、皆」バーン

比叡「いやー、思ったより時間がかかっちゃいました」

一同「…………」

比叡「あれ、なんだか人数が増えてますね。何故か一人寝てますし」

磯風「どうした? 皆、心なしか顔色が悪いぞ」

谷風「お前たちの持ってる菓子の色ほどじゃないよ! なんで紫色なんだよ!」

榛名「ほ、ほら……きっと紫芋を練り込んだチョコレートなのよ、きっと……」

磯風「芋など使っていないが」

浦風「なら、紫キャベツじゃね」

吹雪「斬新すぎるよ……」

比叡「キャベツも使ってません! それにこれはチョコじゃなくてマフィンです!」

叢雲「限りなく濁りきった紫水晶にしか見えないわ」

比叡「水晶ですって、えへへ」

磯風「意図した着色ではなかったが、そう褒められると結果オーライだと思えるな。比叡」

吹雪「褒められてない! 褒められてないよ二人とも!」

磯風「ともかく、味見をしてみてくれ」ズイッ

谷風「ぐお゙ぉ゙……」

金剛「谷風、レディーの出しちゃいけない声が出ましたネー……」

浜風「目の前に持ってこられるとこう……強烈な臭いだと再確認できますね……」

比叡「あ、やっぱりちょっと香りが強すぎましたかね」

磯風「一応抑えようと努力はしたんだが」

霧島「消臭力とか混ぜてませんよね、比叡お姉さま……」

比叡「トイレのを使うわけがないでしょう!」

吹雪「なんだか気になる言い方なんですけど!?」

磯風「ちゃんと食べられる物しか入れていない。私たちがそこまで阿呆に見えるか?」

叢雲「見えるわ」

金剛「……じゃ、せーので口に入れますヨ!」

谷風「え? ほ、ホントに食うの?」

金剛「い、妹のがんばりを無碍にはできまセーン!」

比叡「お姉さま!」

金剛(提督……私はここまでのようデース……)

榛名(榛名、今回ばかりは大丈夫じゃないです……)

霧島(私の計算では、一ヶ月間息を止めながら咀嚼し続ければ……あ、無理ねこれ)

浜風(浦風……金剛……またあなたたちを守ることができなかった私を許してください……)

浦風(また金剛姉さんと一緒に逝くことになってしもうたなぁ……)

谷風(死にたくない……死にたくない……)

吹雪「み、みんな黙らないで……というか、なんで私も……」

叢雲「各々辞世の句を唱えてるようね……っていうか、なんで私まで……」

比叡「みんな、そんなに気合いを入れて食べるほどの出来じゃないですよ」

叢雲「そうね、気合いを入れてもどうにもならないわこれ……」

金剛「せーの!」

パクッ

一旦これだけ
またねっぴょん

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