【艦これ】「沖縄復興府…?」 (164)
初スレ
不定期更新
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時は現代
突如海に顕現されたバケモノ―――通称、深海棲艦
曰く、艦船の成れの果て、あるいは、人の憎悪の具現化、等々
それらは最初は漁船を、次に客船を、輸送艦を、戦闘艦を、人類を
ただただ感情をぶつける、悪意と憎悪をもって―――
さあ、人類は追い詰められた
されど人類は抗う
それらに対抗しうる存在を創りだす
艦船の、英霊たちの、記憶と魂を、平和な海を取り戻すという願いをもって生み出された存在―――通称、艦娘
平和な海を取り戻さんとす提督のもとで、深海棲艦に戦いを戦いを繰り広げる―――
深海棲艦は憎しみをも以って人類を絶望を与えんと
艦娘は戦友と共に願いを、希望を与えんと
彼女たちは【その日】を夢見て戦場を駆け抜ける―――
―――――――――
――――――
―――
「俺が…司令官?」
いきなり提督になって下さいと、それを言い放った少女に目を向ける
桃色の髪を左側頭部で黒紐にて片括りにし、そのサイドテールは毛先のほうに水色のグラデーションがかかっている
黒のセーラー服に、マシュマロのような帽子を被っており、何より目につくのはルビーと思わせるような爛々と輝く紅色の瞳
13、4歳くらいの少女の名は、春雨といい、所謂艦娘と呼ばれる存在であった
今より1週間前、彼女が作戦中に敵の攻撃で気絶し、沖縄に漂着していたところに保護したのが最初の出会いである
それから怪我を治療し、療養という形で今に至るまで匿っていた
その少女は男の疑問を答えるように続けて言う
春雨「私は、帰りたいんです――横須賀鎮守府に」
この言葉を皮切りに少女は語る
横須賀鎮守府所属であること、姉たちに心配かけていること
作戦行動中に敵の攻撃で気絶してしまい、その際に姉や仲間と逸れてしまったこと
羅針盤妖精がいないため、帰るためには沖縄周辺の制海権を取らなければいけないこと
艦娘の力を発揮するのに司令官が不可欠であること―――
―――――――――
――――――
―――
「と、まあ事情は分かった―――その司令官とやらになってもいい」
春雨「…え?ほ、ほんとで―――」
「―――と言いたいが、色々問題点ありすぎなんだよな」
少女の返しに遮るように断りを入れる
すると、焦ったように男に問い詰める
春雨「な、なんでですか!?」
「ああ…春雨は1週間前に来たというか漂着したばっかなんだっけな―――なら、今の沖縄については何も知らないんだな」
男は語る、今の沖縄の状況を、何故そう至ったのかを
時は今より2年前に遡る
その頃は夏、なんでも大きな作戦があったらしく米軍基地に所属していた艦娘たちがほぼ全員出撃したこと、その1週間後に悲劇が起きた
それは沖縄本土に深海棲艦が上陸したことであった
残った艦娘らが迎え撃つも圧倒的な数の暴力に敗れ、沖縄を始め、離島の住民たちは深海棲艦による大量殺戮によって無人島化とし、占拠された
男は、語る――――地獄だった、と
兵士も警察も抵抗するも銃器が効かず、対抗しうる術がなくただただ殺されるだけ
親しかった友人が、優しかった母が、厳しくも尊敬できる父が、懐いていたお人好しな妹が目の前で死んでいった
語る、語る――――俺は地獄絵図から生き残った、と
「俺は、生き残った…ここは山の中ではあるが南の方に向かえば当時の惨状が見れるぞ」
春雨「―――っ」
「と、脱線したなすまんすまん―――で、今の状況だっけな」
からから、と男は笑う
こんな目にあったというのに何故笑えるのか少女は不思議にも気味悪くも感じた
「現状を簡潔にまとめると内地には深海棲艦はもういない…だが、囲まれてはいるな海の方で」
「更に言うと、白髪の人型がいたな…なんか目が光っていたけど」
春雨「―――えっ?」
少女は困惑した
沖縄なら本土と近いから大した敵がいないと高を括っていたがゆえにか
男の言った特徴を信じるならば、沖縄周辺の制海権を支配している深海棲艦の中に戦艦タ級がいることになる
無理もない、"英雄"と謳われし横須賀鎮守府の元帥のもとで鍛えられたとはいえど少女は駆逐艦である
駆逐艦と戦艦
それは余りにも戦力差がありすぎた
装備、火力、装甲…どれもとっても桁違い
ならば夜戦に―――と、思ったが敵の随伴艦がそれを許さないだろう
春雨(どうしよう…どうすれば、いいの?―――司令官)
助けを求めるが、ここに彼女の司令官はおらず
しかし、彼女の思いは気づかず男は更に続ける
「さっきまでのが問題点その1な、その2は―――」
男は立ち上がり、襖に手を掛ける
ゆっくりと開かれた先にあったのは布団を掛けて眠る一人の少女
青みがかった髪に横に結いたサイドテールに、透き通るような白い肌に、大きな帽子を被り、ノースリーブのセーラー服
そして、太腿より下が無く、両脚がないことが特徴か
そう、彼女は深海棲艦
それもただの深海棲艦ではなくそれらの上位種、人に近いカタチをし、思考能力も備わった"姫"級と称されるものであった―――
「お前より先に漂着した子であるし、敵意がないのは分かるよな一緒に飯食う仲だし」
春雨「はい、ですが問題点とは…?」
彼女は思う
1週間前に漂着した所に彼に助けてもらい、その際に出会った
彼女の名は、駆逐棲姫という
彼に双子かなにかと勘違いされたぐらいに余りにもそっくりで、深海棲艦でありながらも敵意がなかったので普通に接することが出来た
それにこの1週間過ごしていてわかったことがある
『楽しい海』
それが彼女の願いであり、夢でもある
そんな彼女に問題点など見当たらない、それ故に疑問に思う
「単純な話、"深海棲艦"だからだ―――俺やお前は彼女を敵どころがむしろ好いているし懐かれているくらいだ」
「―――だが、そうはいかない本土の海軍からすれば、な」
男は彼女の疑問を答える
何年も前から艦娘を率いる海軍と深海棲艦は戦い続けてきた
お互い、相容れること無く憎しみ合ってきた
それ故に海軍に所属、その深海棲艦と戦うために兵器である彼女が何も言えなかった
だが、男は嗤う
「なあ、賭けてみないか?―――俺を」
顔を歪めて、彼は嗤う
眉をしかめて、口端は引き攣り上げて、ミリミリと顔の皮膚が悲鳴を上げている
それは、まさに狂人としか言い様がない
それでも、縋りたかった―――心優しき少女は瓜二つの彼女の夢を、そして自身の夢を叶えるために
春雨「…何か考えがあるのですか?」
「おう、俺が司令官―――艦娘と深海棲艦を率いる提督になることだ」
―――からから、からと笑い、その問いに答えた
さあ、幕は開かれた
艦娘と深海棲姫と男の3人の新しき旅路が始まる――――
(>>8訂正)
「お前より先に漂着した子であるし、敵意がないのは分かるよな一緒に飯食う仲だし」
春雨「はい、ですが問題点とは…?」
彼女は思う
1週間前に漂着した所に彼に助けてもらい、その際に出会った
彼女の名は、駆逐棲姫という
彼に双子かなにかと勘違いされたぐらいに余りにもそっくりで、深海棲艦でありながらも敵意がなかったので普通に接することが出来た
それにこの1週間過ごしていてわかったことがある
『楽しい海』
それが彼女の願いであり、夢でもある
そんな彼女に問題点など見当たらない、それ故に疑問に思う
「単純な話、"深海棲艦"だからだ―――俺やお前は彼女を敵どころがむしろ好いているし懐かれているくらいだ」
「―――だが、そうはいかない本土の海軍からすれば、な」
男は彼女の疑問を答える
何年も前から艦娘を率いる海軍と深海棲艦は戦い続けてきた
お互い、相容れること無く憎しみ合ってきた
それ故に海軍に所属、その深海棲艦と戦うために兵器である彼女が何も言えなかった
だが、男は嗤う
「なあ、賭けてみないか?―――俺を」
顔を歪めて、彼は嗤う
眉をしかめて、口端は引き攣り上げて、ミリミリと顔の皮膚が悲鳴を上げている
それは、まさに狂人としか言い様がない
それでも、縋りたかった―――心優しき少女は瓜二つの彼女の夢を、そして自身の夢を叶えるために
春雨「…何か考えがあるのですか?」
「おう、俺が司令官―――艦娘と深海棲艦を率いる提督になることだ」
―――からから、からと笑い、その問いに答えた
さあ、幕は開かれた
艦娘と深海棲艦と人間の3人の新しき旅路が始まる――――
プロローグ的なものはこれにて終わり
次回からは本格的にわるさめちゃんも出ます
横須賀鎮守府にいる姉さんたち、妹たち、そして司令官、お元気ですか?
私は、元気にしてます
「おうそこの淫ピ、サボってないでキリキリ動けい」
駆逐棲姫「ハタラケ!ハタラケッ!」
でも、とんでもない所に流れ着いてしまいました、はい
しかも、駆逐棲姫―――言いにくいので彼が名づけた、姫というまんまなアダ名ですが姫ちゃんまで罵倒される始末です、はい
春雨「―――ってなんで米軍基地で拠点にしようとしているんですか!」
そう、1週間前、男――否、司令官となった彼は提督になると公言してからちょくちょく何処かへ行っていた
それがアメリカの領地である、米軍基地に入り浸っていたようだった
彼はその叫びに答える
「そりゃあ鎮守府(仮)にするためだろ、一応艦娘もいたからそれ専用の施設ぐらいあるだろうに」
春雨「そ、そうですけど…アメリカの領地ですから!」
彼女はアメリカの領地だからと説得しようとする―――しかし彼はこう言って宣った
「日米なんちゃら条約とかそんなもん肥溜めに入れてやらぁ、誰もいないし使えるもんは使うば」
それに、と付け加えて暇そうにしている駆逐棲姫に目をやり、そして春雨へ目を据える
「駆逐艦1隻じゃ戦艦どころが重巡すら勝てんだろうに―――だから、勝つために"姫の艤装を直す"」
春雨「―――えっ?」
この人は、いったい、何を言っているのだろう
姫の艤装を直す、と言い放った目の前の男は瓦礫運びを再開する
「これで納得したか?さあ、そこの塞いでいる瓦礫を退かすんだ」
命令されても彼女はフリーズしたまま動かず
されど、思考はぐるぐると考えを巡らす
戦艦と戦うためにとはいえ、姫は敵意はないとはいえ、仮にも深海棲艦なのに艤装を直す?
もし裏切られたら―――?
あるいは、敵意がないのが嘘だとしたら―――?
そもそも、彼女は同類と戦うのか―――?
必死にぐるぐる、と巡らせど答えは得ず
そんな彼女を見て気づいたのか深海棲艦である駆逐棲姫は口を開く
駆逐棲姫「ダイ…ジョウブ、シレーカント…約束したよ…」
片言ではあるが、アメジストと思わせる瞳の中に強い意志を宿し、そう言った
そんな彼女の言葉を受け、疑ってしまった自分を戒めた
春雨「う、うん…疑ってごめんなさい姫ちゃん」
「と、まあ仲間と再認識したようで何より―――で、いつ手伝ってくれるの淫ピちゃん?」
ガランガランと瓦礫積まれた手押し車を押す司令官が現れる
春雨「あ、ごめんなさい―――って司令官さっきから淫ピってなんですか!?」
「HAHAHA、淫乱ピンクちゃんは元気ですねえ」
駆逐棲姫「フフ…」
三者三様、彼はからかい、彼女は突っ込み、彼女はそれを見て笑いながら作業を進めるのであった
数時間後、瓦礫撤去作業がようやく終えて休憩も兼ねて昼飯にすることに
男は駆逐棲姫を持ち上げて胡座の上に座らせ、春雨は家出る前に作っておいた弁当を広げる
「ようやく、終わったねえ」
駆逐棲姫「シレーカン、オニギリ…とって」
春雨「姫ちゃん、はい」
駆逐棲姫に鮭入りの握り飯を渡すと美味しそうに頬張り始める
その反応を見て、ホッとする春雨
「さて、飯食いながらこれから何をすべきか話すべ」
男は握り飯を食べながらこれからどうすべきなのか彼女たちに話す
「まずは鎮守府(仮)についてだが、最優先するのは建造ドックと言いたいがまずは入渠ドック、だな」
春雨「え、なんでですか?」
「お前から艦娘や鎮守府について聞いただろ?それで艤装を素人が下手に修理するよか入渠ドックで直る可能性が高い」
「―――まあ、それでも直らなかった場合、艦娘の装備を代用しなければならんが」
そう、彼は春雨から提督としての知識を教えてもらい、1週間、いくつかの米軍基地に訪れ、必要となるものを掻き集めてきた
艦娘の装備、入渠ドックの修理部品、燃料弾薬など資源を重点に集めてきたのであった
駆逐棲姫「…シレーカンハ、センカン…タオス、ホウホウ…アルノ?」
駆逐棲姫は最初に思っていた疑問を司令官にぶつける
艤装直ったとしても姫級とはいえ、所詮駆逐艦の主砲
あのFlagShip戦艦タ級に対してまともなダメージを与えられるのだろうか
雷撃で倒すとしても近距離ではなければほぼ当たらないし近づくのが困難であるが―――
彼は、嗤う
いい質問だと言わんばかりに
「それについては、もう考えてある―――姫の協力なしでは成し得ない作戦をな」
ポンポン、と駆逐棲姫の頭を撫でながら子供がイタズラを思いついた時のように笑う―――
「それに、俺は2年間深海棲艦から生き延びてきた男だぜ―――深海棲艦の弱点知っているし弱者は弱者なりの戦い方がある」
からから、からと笑う
春雨と駆逐棲姫はそれがどういう作戦なのかどういう意味で言ったのか理解できず首を傾げるが、それらは後に知ることになる
イベント前に1話っぽいの投下完了
次回は戦艦と戦います、わるさめちゃんと春雨ちゃんの2隻駆逐縛りで挑みます
(>>16訂正)
数時間後、瓦礫撤去作業がようやく終えて休憩も兼ねて昼飯にすることに
男は駆逐棲姫を持ち上げて胡座の上に座らせ、春雨は家出る前に作っておいた弁当を広げる
「ようやく、終わったねえ」
駆逐棲姫「シレーカン、オニギリ…とって」
春雨「姫ちゃん、はい」
駆逐棲姫に鮭入りの握り飯を渡すと美味しそうに頬張り始める
その反応を見て、ホッとする春雨
「さて、飯食いながらこれから何をすべきか話すべ」
男は握り飯を食べながらこれからどうすべきなのか彼女たちに話す
「まずは鎮守府(仮)についてだが、最優先するのは建造ドックと言いたいがまずは入渠ドック、だな」
春雨「え、なんでですか?」
「お前から艦娘や鎮守府について聞いただろ?それで艤装を素人が下手に修理するよか入渠ドックで直る可能性が高い」
「―――まあ、それでも直らなかった場合、艦娘の装備を代用しなければならんが」
そう、彼は春雨から提督としての知識を教えてもらい、1週間、いくつかの米軍基地に訪れ、必要となるものを掻き集めてきた
艦娘の装備、入渠ドックの修理部品、燃料弾薬などの資源を重点に集めてきたのであった
駆逐棲姫「ソレデ…シレーカンハ、センカン…タオス、ホウホウ…アルノ?」
駆逐棲姫は最初から思っていた疑問を司令官にぶつける
艤装直ったとしても姫級とはいえ、所詮駆逐艦の主砲
あのFlagShip戦艦タ級に対してまともなダメージを与えられるのだろうか
雷撃で倒すとしても近距離ではなければほぼ当たらないしそもそも近づくのが困難であるが―――
彼は、嗤う
いい質問だと言わんばかりに
「それについては、もう考えてある―――姫の協力なしでは成し得ない作戦をな」
ポンポン、と駆逐棲姫の頭を撫でながら子供がイタズラを思いついた時のように笑う―――
「それに、俺は2年間深海棲艦から生き延びてきた男だぜ―――深海棲艦の弱点知り尽くしているし弱者は弱者なりの戦い方がある」
からから、からと笑う
春雨と駆逐棲姫はそれがどういう作戦なのかどういう意味で言ったのか理解できず首を傾げるが、それらは後に身を以って知ることになる
―――――――――
――――――
―――
あれから、何日か経ったのだろうか
施設内にあった入渠ドック―――どう見ても銭湯にしか見えないが彼らは修復作業を終えたようだった
流石、軍施設というべきか相当頑丈であっただろうか内部はそんなに壊れている所は余りなく、発電機、ポンプなど修理するだけで入渠ドックとして機能し始めた
風呂にお湯が満たされ、駆逐棲姫は艤装を展開、艤装ごと風呂の中に入る
すると、少しずつではあるが損傷部分が修復し始めるのを見届け、片や感嘆の声が、片や気持ちよさそうに
「おお、すげえなこの謎技術」
駆逐棲姫「キモチ…イイ…♪」
駆逐艦の故にか、艤装が完全に修復するのにそんなに時間はかからなかった
駆逐棲姫の艤装が直るということは、つまり―――
春雨「これで、出撃できるのですね」
「まあな、懸念要素としていくつか残っているが、それは深海棲艦に最も詳しい彼女に聞けば済むしな」
駆逐棲姫が戦えるということ
彼女は姫級であり、駆逐艦として最高峰を誇るだろう性能を発揮する時が来る
まあ、そんな彼女はお風呂という初めての快感なのか、綺麗に整った顔がだらしなく緩みきっている
駆逐棲姫「…♪」
その様子を見て、2人はかわいい、としか思えないのであった
夜、というのも時計で判断するしかなく、空を見上げればただただ瘴気に染まったかのように淀んでいる
彼らというとお偉いさんが使っていただろうと思われる部屋で作戦会議をしていた
「作戦について話したいが―――姫、もう一度あの戦艦について聞くぞ?」
駆逐棲姫「ウン…」
片言ではあるが、知る限りの情報を彼の疑問に答える
修復した後、戦艦のいる所に連れて確認してもらったが電探レーダーあるいはソナーの類を搭載していたか
―――電探は搭載していた、あと、戦艦にソナーは装備できない
あの、フラグシップ戦艦タ級が制海権を持っている
―――倒せば、制海権取ったということになり、羅針盤なしで迷うことはなくなる
倒せば、指揮下にある深海棲艦はどうなる
―――指揮系統の混乱が起き、統計が取れなくなる
「ふむ、なら―――これで最後だ、姫級であるお前だからこそ聞く…」
――――指揮官である戦艦タ級を倒した後、取って代わって指揮下である深海棲艦を支配することは可能か?
駆逐棲姫「…エ?」
春雨「―――えっ?」
こればかりは彼女たちも困惑するしかなかった
駆逐棲姫は、彼、人類側にとって駆逐するべき存在であろうと思っていたがゆえに
春雨は、何故人類の敵である深海棲艦を沈めず、あえて生かして利用するという考えに至ったのか
普通じゃ、思いつかない―――人間も、艦娘も、深海棲艦ですら
だが、彼は普通じゃなかった
「で、可能か?」
駆逐棲姫は頷いて、しまった
可能ではあるが、それでも思考は追いつかない
春雨「―――なんでですか?!」
春雨は声を荒げる
理由も分からないが、目的から考えても生かす理由がない
それ故に駆逐すべきだと、彼にとっても家族や友人の仇を取れるチャンスでもあると
「まあまあ、理由話すから落ち着きなされ」
なでりなでりと春風の頭を撫でる
落ち着かせた後、放心気味の駆逐棲姫を持ち上げ、膝の上に座らせる
そして、3本の指を立てて曰く
「―――理由は3つ」
まず1つ目―――俺達の目的は、横須賀鎮守府にたどり着くこと
これは春雨がの望みであり、俺達が動くことになったきっかけではある
深海棲艦特有というべきか制海権を取らなければ羅針盤なしでは永遠に迷うことになる、それはわかるな
で、俺達が制海権を取ったとして横須賀に辿り着いたとしよう
それで、誰もいない沖縄はどうなる?
「誰もいないことをいいことに新たな深海棲艦が制海権を取ったら?」
沖縄という性質上、本土攻略において有利な戦局を展開することになる―――深海棲艦にとってはな
それに、せっかく制海権をとって他の鎮守府が攻略する時にまた苦労するハメになるしな
と、駆逐棲姫の頭を撫でながらこう言う
「姫が成り代わることで―――制海権を奪われることはなくなる」
横須賀に向かう時、他の深海棲艦に一時的に指揮権を譲渡すればよいと
続けて、2つ目
「先ほど述べた成り代わりと深海棲艦を生かすことで大きな効果が期待できる」
指揮下に置かれている深海棲艦は指揮官の命令通りしか動けない、と
つまりだ、指揮権を持った姫がこう命令すればよい
「人を襲わず、艦娘との戦闘はせず、沖縄周辺で哨戒しろ、とな」
敢えて生かすことで、今までどおり変わらずにすれば新たな深海棲艦は現れず、カモフラージュにもなる
最後に、3つ目
「春雨と駆逐棲姫には悪いが―――これは保険だ」
春雨「ほぇ?」
春雨から素っ頓狂な声を上げる
が、それをスルーして続ける
「単純な話、姫が"深海棲艦"だからな―――春雨は信頼しているが、横須賀鎮守府の方は信用できん」
春雨が語った横須賀鎮守府の英雄、姉妹、戦友、功績の話
それらを聞けば信用はするだろうが、深海棲艦が絡むとどうなるかは分らんしその英雄さんとやら会ったこともない故に確信が持てない
「横須賀鎮守府―――海軍であり、それも対深海棲艦のプロ、その中に深海棲艦を憎むものだって少なくない…はずだ」
皆が皆、春雨のようにお人好しならばよかったがそうはいかないのが現実
それが駆逐棲姫に憎しみという感情が形となって襲うかもしれない
故に保険を作る、故に逃げ道を作る
「俺達は横須賀に行く、春雨は帰るため、その春雨を無事に送り、沖縄制海権を取り戻した功績で俺は正式に提督と認められ―――鎮守府を作り、姫と『楽しい海』という夢を実現したい」
「それが考えうる最善であろう、春雨は皆を説得しようと頑張ってくれるだろう―――だが、考えうる最悪もあるだろう」
「横須賀鎮守府の皆を説得したとしよう―――ならば、海軍本部はどう動く?姫を捕らえるか、あるいは―――」
殺されるか
男の問いに彼女は何も、言わない
あの司令官になってと頼んだあの夜と同じようにただ、顔を俯いているだけだった
男は、笑う
あの夜、彼が自分から救いの手を差し伸ばしたにも関わらず、ただ現実を突きつけた
「悩め悩め若人よ―――艦娘という兵器ではなく、生ける者として」
「だから、答えは己で出せ―――自分は何をしたいのか自分は何を為すべきなのか」
戦艦タ級を倒す術はやる―――だが、その先は己で考えろ
そう言い放ち、先ほどの言っていたことが追いつかないのか混乱状態の駆逐棲姫を抱きかかえ、仮眠室へ向かうべく部屋を出る
残された春雨は、彼の残した言葉の意味を考える―――夜は未だに明けぬ
筆が乗っている内に更新
戦闘はまだ入らない、次こそは多分
―――決戦の時、来たる
春雨、駆逐棲姫、男は浜辺で佇んでいた
本来なら爛々と輝くエメラルド色の海が見えるはずだったが、深海棲艦に支配されてからその輝きは失せ、空を見上げれば瘴気に満たされたような暗黒雲群
そんな空間の中、男は言う
「さて、先ほど言った作戦―――戦艦をブチのめす準備はできたか?」
駆逐棲姫「…ウン」
春雨「……あ、あの」
「ん?なんだ春雨、まさか怖気ついたのかい、あるいは作戦に不備でもあったか?」
からからからと笑っていた男は春雨に作戦の不備があったのか確認をしようと問いかける
が、違った―――恐怖や不安と違う感情、そこには心配するような顔であった
春雨「ち、違います―――心配しているのは、人間である司令官が"囮"になるなんて」
彼女が心配していたのはそこであった
ただの人間である彼が深海棲艦を引きつけるという無茶な行為をやらかそうとしていることであった
が、
「なんだ、そのことか」
この男はあっけらかんと言ってのけた
まるで、自分の命なんて価値が無いような物言いである
「囮になることは確実に成功させる方法だ、俺が駆逐艦や軽巡を引き寄せなければ作戦自体成功しない」
それは何度も言っただろう、と
"水上バイク"を押しながら海の方へ向かう
春雨「で、でも―――」
春雨が何かを反論しようとすると駆逐棲姫が止める
彼女は自分の司令官である男を見つめてこう言う
駆逐棲姫「…シレーカンハ、ダイジョウ…ぶ―――ソレに」
彼は言っただろう?―――深海棲艦の弱点知り尽くしている、と
ならば、今はそれを信じようと
春雨は何を思う
彼女は彼を信頼している―――彼との間に何があったのかは知らない
人間と深海棲艦
それらは互いに相容れぬ存在、分かり合えぬモノだというのに
その常識を覆す2人がここにいる、ここにある―――だから、私も、信じてみよう
舞台は整った
三者は男が立てた作戦通り位置につく
さあ、開戦の時ぞ
男から鬨の声が上がる
さあ、戦の火蓋を切られた
「さあ、始めますか」
男は水上バイクのエンジンをかける、グリップを回す、音が鳴り響く、波を掻き分け進み始める
向かう先は―――深海棲艦、FlagShip戦艦タ級
駆ける、駆ける、駆ける
水飛沫を散らしながら進み、視界に映るは深海棲艦
「さてと、」
そう呟くと、駆逐艦と思わしきモノがこちらを見た瞬間、世のものとは思えない奇声を発する
「――――――!」
「――――――!」
「――――――!」
その音に釣られ、他の深海棲艦も戦艦も男の存在に気づく
それでも、男は笑う―――嗤った
水上バイクを巧みに操り、先ほど進んでいた方向とは逆へ、逃げるように走らす
「「「――――――!」」」
戦艦タ級が命令したのだろうか、駆逐艦が、軽巡が、重巡が、動き始める
駆逐艦は口を大きく開き主砲がむき出しに、軽巡は砲塔を動かし、重巡は腕に付いている艤装を上げると砲口が男に向かって放たれる
が、砲弾は当たらない
それもそうだ、視界に入れてからすぐに距離を取っているのだから
それゆえに、動く
人間を、滅ぼすために―――まず駆逐艦が、次に軽巡が、最後に重巡が彼を追い始める
そう、指揮官であろう戦艦を置いて
「所詮、深海棲艦―――何を考えているのかは知らんが、もはや本能で人間を滅ぼすために動いているのだからな」
彼の目論見通り、動いた
戦艦は強い、砲など重巡よりも遥かに大きい、装甲も比較にならない程にブ厚い
――――それ故に遅い、だから自分より遥かに速い艦艇に命じたのだろう
こちらは水上バイクだから圧倒的に速度は勝るだろう、追いつかれないだろう
が、敵は砲撃という遠距離手段がある
だから、
「ほーれ☆」
煽るように、イラッとする発声とともに、手榴弾を投げる
爆発音とともに大きな水柱を、水飛沫をあげる―――所謂、目眩まし
それが効いたのか被弾すること無く、陸にたどり着く
人間を執拗に追う深海棲艦ならば、まもなく辿り着き、上陸するだろう
「さあ、反撃の時来たり―――とな」
男は、嗤う
からから、からと―――市街地の方へ駆ける
場面は、変わる
―――鳴り響く爆発音
―――唸る風切り音
―――砲撃の地鳴り音
彼女たちは動き始める
己に課せられた任務を果たすために
春雨「はい、白露型五番艦春雨・・・出撃ですっ!」
駆逐棲姫「クチクセイキ…シュツゲキ…スルヨ……ッ!」
出撃すべき、彼女たちは動き始める
だが、春雨だけいつもと違う格好をしていた
艤装を展開すれど、それは太腿の艤装のみ発現
背負っていた艤装はなく代わりにタンクを、いつも被っていた帽子はなく、フルフェイスマスクを被っていた
ウェットスーツがあれば、どこから見てもダイバーとしか見えなかっただろう
そんな春雨は既に海に入っている駆逐棲姫にしがみつく
春雨「まさか駆逐艦である、私に―――潜水艦になれと言われるとは思いませんでした、はい」
駆逐棲姫「ソレハ…ワタシ…モ…ヨソウガイダッタ」
作戦会議の時、彼は言った―――潜水艦になって戦艦を沈めよう、どんどんぱふぱふー!
ふざけて言っているようにしか聞こえなかったが、本気で言っていたようだった
ますます、彼がなんなのかわからなくなってきました、はい
どうしてその発想になったのか
が、彼の説明で姫の協力なしでは成し得ない作戦と言っていた意味が分かり始めてきた
「深海棲艦というのは、まあなんだ文字通り、深海の棲まうモノだろう」
「実際、2年前海から突然現れて沖縄を攻めているしな、艦艇としての本能なのか普段水上にいるが俺達はそこを突く」
―――深海棲艦である姫ならば水中で、戦艦に近づける、それも至近距離でだ
彼はそう言った
深海棲艦の本能というべきか艦艇の本能ともいうべきかそれを利用した策を講じたのであった
駆逐棲姫「ツイタ…ヨ」
駆逐棲姫がトントンと叩いたことで現実に引き戻された
回想にふけっている間に着いたのだろうか―――上、海面へ見上げれば戦艦の姿が見える
まさか、水中から来るとは思いつかなかったのだろうか海中に警戒する様子もない
ガコンッ
春雨と駆逐棲姫は共に太腿の艤装を起動―――春雨は四連装酸素魚雷を、駆逐棲姫は22inch魚雷後期型を
共にFlagShip戦艦タ級に狙いを定める
春雨は駆逐棲姫へ目で合図を送る
コクンっと頷いたのを確認、3本の指を立てる
―――3
――2
―1
3本の指が折りたたまれた同時に、魚雷を放つ―――!
―――それは、突如に訪れた
少なくとも彼女―――戦艦タ級にとっては
海中から衝撃とともに襲った爆音
それは本能からか自身の記憶からか――――それは、魚雷だということが分かった
何をされたのかは理解した、だが手遅れであった―――装甲が破られ、竜骨という部分が破壊された
つまり、それの意味することは
「―――ッ!!?」
声を発することさえ、許されず、ただ沈んでいくこと
戦艦タ級は何を思う
沈む、しずむ、シズンデユク
アノクライ、クライミナゾコニ―――また、シズンデ…
沈んでいく最中、二人の少女をみる
恐らくは彼女たちがやったのだろう、と思う―――されど、そこには憎しみはあらず
「いつかは見たあの海で―――」
ただ、それだけを願って彼女は沈んで、消えていった
―――――――――
――――――
―――
彼女たちは戦艦を沈めるという任務を果たしたため、水中から浮上し海面の上で立っていた
だが、春雨は困惑していた
作戦自体は成功した―――だが、戦艦タ級が残した、言葉
『いつかは見たあの海で―――』
それは頭の中に響くかのような、綺麗な綺麗な人間の声
彼女は多くとは言わないがそこそこの艦艇を沈めていた、艦娘の役割故に
敵深海棲艦はただ沈む、憎しみを残して―――と、そう思っていた
だからこそ、困惑した
深海棲艦は、ただ人類を憎んでいる―――?
あるいは―――
駆逐棲姫「ハルサメ、シレーカンノ…トコロ…イコウ?」
しかし思考は駆逐棲姫によって遮られた
春雨「は、はい!今行きます!」
彼女たちは男がいるであろうと陸へ向かう
残された言葉、戦艦タ級のあの悲しそうな顔を、彼女の頭にこびりついて離れないままに
―――心優しき艦娘、春雨は旅路の果てに何を想う
終わり
これから春雨の目標である横須賀へ向かいます
ここから本格的にオリジナル設定というか艦娘、深海棲艦について自分なりの考察・設定も入ります
それが嫌な人はブラウザバックで
あと言い訳になりますが、脳内でプロット組み立ててほぼ即興書いているためおかしい所があると思います
その辺は小話として補完していく形で行きます
あれから、数日経った
沖縄の制海権を奪い、指揮権は姫級である駆逐棲姫に譲渡された
そのお陰で男を追った深海棲艦は姫の命令で彼を追うことをやめ、今は周辺の海を哨戒している
で、囮となっていた男は
「あらら、俺考案の罠使わずじまいか」
と、残念そうに呟いていた
つまり、深海棲艦を倒すつもりだったようだ―――やはり、頭おかしい
それで、現在
3人は、春雨の目標である横須賀への帰還の準備を整えていた
しかし、米軍基地から掻き集めていた燃料は、戦艦への奇襲において燃料が心もとない量になっていた
が、彼から九州の制海に入るまでは駆逐イ級にボートを引っ張って貰い、そこから春雨と姫の交換で進み、上陸するという方法を提案されたのでそれで行くことに
彼はさらに提案をする
夜に、それも鎮守府や基地を避けて上陸したい
鹿児島から入り、福島へ、そこから新幹線で東京へ向かうだろう、その時1週間程東京で滞在したいのこと
前者は姫が深海棲艦のためだということ、後者は理由が分からないが彼曰く、2年も滅んだ沖縄で1人でいたんだ少し楽しんでもバチは当たらないだろ、のこと
特に変な理由もないため、特に疑うことも春雨はそれを承諾
「じゃあ、身分証とか免許証はあの家に置いてあるから取りに行くわ―――それに旅費も必要だろう?」
春雨「じゃあ、ここで待ちます」
駆逐棲姫「イッテ…ラッシャイ…」
と、彼は街の方へ向かった
春雨と駆逐棲姫はそれを見送った所で春雨はフゥ…と溜息を吐く
駆逐棲姫「…?…ドウシタ?」
春雨「あ、いえ―――ただ、色々あったなあと思っていました、はい」
彼に助けられ、姫と出会い、1ヶ月も経っていた
助けを求めたら、米軍基地で瓦礫の撤去したり
出撃かと思えば、潜水艦の真似事するハメに
などなど、まともなことがしたことない―――ん、まともなことしてない?
ま、まさか―――
「ただいま、そもそも金自体なかったからちょっと銀行から拝借してきたよー」
嫌な予感がしたと同時に間抜けた声
声した方に振り返ると小さめの肩掛けバッグに、パンパンになった大きめのバックを手に持っている彼がいた
春雨「ぎ、銀行からって…」
「おう、免許証とか身分証明出来るものはあったけど新幹線とかそういうの高いしな、足りないからかっぱらって来た」
こんな状況だからこそやる―――それが、彼の強みかもしれない
常識をとらわれずに生きる彼に少し憧れてしまった
駆逐棲姫「ソロソロ…イコ?」
「おう、その前に、今冬になっているし、本土の方は寒いだろうから服持ってきたぞ」
残っているモノで悪いがと、大きめの服を取り出して春雨、駆逐棲姫に差し出す
春雨「ありがとうございます!」
駆逐棲姫「ア、アリガトウ…!」
春雨は元気よく、駆逐棲姫は少し照れながらも感謝の言葉を出す
彼女達が着替えるため、男はこの場を去る
(見た目だけじゃなくて、こういうところも似るもんなのかね)
思考する―――彼女たちの出会いは偶然なんかではなく必然だった、のでは
(いくら考えど答えは得ず―――だが、彼女たちはここに流された、しかも似ているときた)
姫は、艦娘に敗れ、ゆわりゆらりと流されるままに
春雨は、作戦行動中に敵の攻撃で気絶して流された
しかも、見た目は瓜二つである
思考する―――コインが表裏があるように切っても切れない存在ではないだろうか
では、艦娘とはなにか?深海棲艦とはなにか?
2つの共通点は―――艦艇
(春雨から教えて貰った、艦娘とは深海棲艦に対抗するための兵器、艦艇の記憶と魂を受け継ぐ存在)
(姫から聞いた、深海棲艦は憎悪を以って人類を滅ぼすために生まれた存在、艦艇という形だが)
では、姫の存在とは何ぞや
俺が戦ってきた深海棲艦は姫の言うとおり、憎しみそのものといっても過言ではない
だが、姫、戦艦タ級―――そして、2年前に現れたあの女
彼女らは人の形に近い
人の形になるにつれてヒトの近い思考能力を持つ
彼女らはどのようにして生まれたのだろう
艦娘と人型の深海棲艦、コインが表裏があるように彼女らもまた―――
(仮説はある、されど確信はなく―――答え、確信を持てる答えは横須賀にある)
艦娘を作り上げた存在―――春雨はそう呼んでいた、妖精と
その妖精に会うことで答えを見つけよう
彼女らの正体を、根源を知ること
(人と、艦娘と、深海棲艦が共存していける世界―――彼女"たち"が願う『楽しい海』を実現する、そして彼女に見せよう)
嗤う、嗤う―――
俺はその2つの存在に大きく関わっているのだから、たとえこの身が滅びようと
からから、からと
どこか悲しくも笑い、着替え終わった彼女らの元へ向かう
駆逐棲姫「ドウ?…ニアッテイル…?」
「おう、似合っているぞ、だぼだぼで袖余りで可愛い」
駆逐棲姫「…アゥゥ」
カアアと顔赤くして照れる姫を抱き上げ、ボードへ向かう
ふと、声が聴こえる
『―――私を、忘れないでね?■■、いつかは平和な海で―――』
「……ああ、分かっているよ」
駆逐棲姫「…?」
「いんや、なんでもない―――さあ、向かうは横須賀ぞ」
ボードに乗り込み、次に春雨が乗ったのを確認、姫に命令しろと促す
が、既に命じたのだろうか、深海棲艦の駆逐艦は動き始めていた
それに引っ張られ、ボードも動き始め、九州がある、北へ向かって進み始める
ゆらりと、ゆらりと、彼らの旅路は始まる
向かうは横須賀鎮守府
さあ、その夢の旅路に彼、■■は何を想うだろう
おしり
旅立ちの時、次は横須賀についたところから始まる予定
ここから艦娘と深海棲艦と、男の謎が解き明かされるつもりです
【小話】感謝
「新幹線の予約は終わったし、出発するにしても明日の朝ぐらいだからゆっくりしようや」
売店で食い物を買うのもよし、温泉もあるから湯に浸かるのもよし、ここで体を休めるのもよし
ということで俺はここで休憩しているわ、と座椅子に座り急須にお湯を入れはじれる
駆逐棲姫「ハルサメ…オフロニハイリタイ」
春雨「じゃあ、売店で温泉セット買ってきます。待ってて下さい」
駆逐棲姫「ウン…」
彼女は売店へ向かうために部屋から出る
そして、彼と二人きりになる
「姫―――ありがとう」
駆逐棲姫「…エ?」
二人きりになった瞬間、彼から出た言葉
突然であったため、素っ頓狂な声を出してしまった
「お前がいなければ何も出来なかった、何も始まらなかった、そのまま沖縄で閉じ込められたままだっただろう」
彼は続ける、心の声がそのまま吐き出すかのように
だから感謝する、ありがとう―――と
駆逐棲姫はその言葉を受け、こそばゆく感じる
「それに、あと少しで実現する―――俺と姫の夢、楽しい海を」
「誰もが憎まず笑っていける世界、俺のような存在を生ませない世界―――人間と、艦娘と、深海棲艦の共存する世界」
からから、からと笑う
それは子供のように純粋に笑う
駆逐棲姫「ウウン…コッチモ…カンシャシテイル」
彼女も釣られて笑う
最初は人類を憎んでいた、理由も知らぬままに
だが、艦娘に敗れた―――沈むのかと思ったが運良く生き延びた
そして、出会った彼と
彼は人間だというのに不思議と憎しみは湧かず、助けられてからは信頼するようになっていた
駆逐棲姫「ワタシモ…シレーカントアワナケレバ…イマモ、ニクンダママダッタロウ…」
楽しい海なんて叶わぬ夢だっただろう、と
彼女もまた、彼に感謝する
「―――そうだな、その話は終わりにしよう、風呂に行ってくるわ」
照れ隠しなのか残ったお茶を飲み干し、立ち上がる
バッグから着替えを取り出し、ドアの方へ向かう
その様子を見ていた駆逐棲姫は突如違和感が襲う
首を傾げ、再び彼を見れば―――ブレていた
駆逐棲姫「―――エ?」
アメジストの瞳に映るのは男
だが、それは幽体離脱現象と言うのだろうか彼から白い靄がゆらりゆらりと漂うように、纏わりつくように
その様子を見た彼女は絶句するしかなかった
「どうしたのか?なんかあったような顔をして」
だが、彼はなんともないようで駆逐棲姫を心配する顔を見せる
いつの間にか靄は消えており、幻覚を見たのだろうかと
駆逐棲姫「ウウン…ナンデモナイ…」
そんなこと言っても信じないだろう、幻覚かもしれない
それゆえに彼女は心配かけないようにそう言った
「…?」
春雨「温泉セット買ってきました、はい!」
男は訝しげにしていると、春雨が売店から戻ってきたようだった
彼女はさあ行きましょうと駆逐棲姫を連れて温泉に向かうのであった
駆逐棲姫は気づかない―――それがなんなのか
もしも気づいていたのならば、変わっていたのかもしれない
だが、止まらない、止められない、それが滅びの時だということに誰も気づかない
小話その1
間に合えば今日中にその2投下します
小話その2投下しますが、一応R-18表現なのでご注意
【小話2】温泉
ちゃぷん、ちゃぷん
天井から水滴が滴る音
春雨「うーん、気持ちいいですぅ~」
駆逐棲姫「……♪」
春雨と駆逐棲姫はともに温泉に入っていた
春雨はだらしなく緩みきった顔、駆逐棲姫は2度目となるお風呂でリラックスしきっていた
しばらく、温泉を堪能した後、春雨は駆逐棲姫に見つめられていることに気づく
春雨「…?」
その視線を追えば、自身の胸
彼女は春雨の胸、そう乳房を見つめていた―――13、14歳にしては控えめながらもマシュマロのような柔らかさを誇り、それでいてハリがある
春雨「ひ、姫ちゃん…?」
彼女の問いに答えず、駆逐棲姫は自分の胸を見る
ぺたーん、という擬音がつくであろう春雨よりひとまわり、いや、ふたまわり控えめであった
駆逐棲姫「…ズルイ」
春雨「えっ?」
もにゅ、と
駆逐棲姫は手を伸ばし、春雨の胸、一般的に言えばおっぱいを触り始める
春雨「ひゃうっ!…ひ、姫ちゃん!?」
駆逐棲姫「…ヤワラカイ、ズルイ」
春雨が逃れようとするも意外と力が強く、中々抜け出せない
最初はこそばゆかったもの、揉まれているとムズムズし始め、湯に浸かっているのもかかわらず彼女の手は冷たく、それが双丘の頭頂部を刺激する
それが堪らず―――
春雨「!!ひあ――ふぁっ、あっ、らめっ」
少女にしては余りにも大人っぽく、そして色っぽくピンク色の声が出てしまう
しかし、彼女は止まらない―――余りも柔らかく、それも触り続けたくなる程魅力があった
駆逐棲姫「…ニテイルノニ…ナンデココダケ…チガウ」
揉む、揉む、揉み続ける
コリッ、と
彼女の指が頭頂部に当たったのだろうかそんな音がした…気がする
そのせいか、触れてしまった所為か、喘ぎ声が止まった―――が
春雨「――――――っ!」
ビクンッと春雨の体は跳ねる
そのお陰か、駆逐棲姫の手から離れるが、体に力が全く入らず、駆逐棲姫に倒れこんでしまう
駆逐棲姫「ドウシタノ…?!」
その手に無知なのかいきなり、倒れこんでしまったことが自分のせいだと露ほども思わず困惑の色を見せる
だが、春雨は何も言えず―――未だに痙攣は収まらず
この場に涎を垂らし、恍惚に蕩けきった顔をしている春雨と、どうすればいいのか分からずオロオロする駆逐棲姫
壁の向こうにいる、一連の流れを聞いていた男は風呂場でナニやっているんだあいつら、と呆れ返っていたそうな
小話終わり
練習も兼ねて書いた
淫乱ピンクだから仕方ないね
場所は、横須賀鎮守府―――執務室
1週間前ほど東京に着き、春雨は一足先に帰還報告のため、男と駆逐棲姫と横須賀鎮守府へ行っていた
生存報告して姉妹や上司である司令官を安心させたかった―――それに、共に着いてくれた恩人たちについて報告しなければならなかった
何故なら、その恩人たちの片方は深海棲艦であるからだ
敵ではないことを説明―――沖縄から制海権を取ったこと、ここまで連れてくれたことなど報告し、敵意はないということを証明しなければならなかった
これまで起きたことを彼女―――春雨は上司である司令官と秘書艦である大和に報告を行っていた
彼女が司令官と呼ぶ男―――白色の軍帽を深く被り、白い軍服を纏っており、初老に入っただろうと思わせるも、何より幾度の戦場をくぐり抜けているだけであって歴戦の風格を漂わせる
片や、大和という女性は、膝下まであるだろう茶髪を電探と思わしき艤装でポニーテールに、瞳色も茶色で、紅白を基調としたセーラー服を着ているが、大和撫子かと思わせる雰囲気を醸し出していた
最初、春雨が無事帰還したことに大いに喜んだ
行方不明になってから約1ヶ月半も捜索し続けていたがゆえに
しかしそんな二人は彼女の報告により驚きの色を隠せなかった
提督「――――――」
大和「――――――」
海軍の英雄とはいえど、日ノ本の軍艦の象徴とはいえど、深海棲艦が艦娘である春雨と組み戦艦を沈めたことに
そして、生き残りはいないと思われた沖縄の生き残りがいたことに
それも、今東京のホテルに滞在していることに
今までの常識が覆された気がした
それほど彼らの存在が異端であることがわかるだろう
だが、そこは多くの修羅場をくぐり抜けた英雄、すぐに落ち着きを取り戻す
提督「…その深海棲艦は敵ではないのだな、春雨」
春雨「はい!」
提督の問いに力強く、その深海棲艦を信じています!、と断言するような答えが返ってくる
しかし提督は―――彼女はお人好しだから信じてしまったのではないかと
そう思わざる得ない
過去の戦いから、2年前の戦いからして、あっちは人間に近い思考を持っていることが確認されている
だから、起きてしまった―――ブイン基地を筆頭にいくつかの基地が攻められたこと、沖縄の悲劇が起きてしまったこと
もしかしたら、生き残りはいないとされた沖縄で住んでいたその男は深海側の指揮官ではないのかと、その深海棲艦は我々を欺いているのではないかと
数多の可能性を思い浮かべ、数多の対処法を考える
提督(…彼らを捕らえ、真意を問いただすか―――?)
それだと、深海棲艦は暴れ、周りを巻き込むことになる
ならば、どうすればいい、どのようにすれば被害は起きないのか
あーだこーだと頭を抱える提督に声が掛かる
そう、更に頭抱えることになる元凶とも言える彼女からの言葉
春雨「そういえば彼が言っていました―――"1週間後にそっちに行くから美味いお茶とお茶請け用意してね☆(ゝω・)vキャピ"と」
その彼がそう命令したのか彼とやらの真似をする春雨
それを見た提督と大和は何も言えなかったが、無性に腹立った
"会ったらぶん殴ろう"
そうしようと同時に決心する提督と大和であった
純粋な彼女に何を吹き込んでいるのだと、変なことを吹き込むなと――――
かくして、彼らは出会うだろう
英雄 と 狂人
日ノ本の象徴 と 深海棲艦の小さき姫
彼らは、彼女らは『平和な海』を願って戦い続けている
分かり合えるのだろうか、想いは届くのだろうか、―――さあ、運命の分かれ道ぞ
今日はここまで
提督と大和との対面、腹の探り合い、果たして信じてもらえるのか
次回に続く
(>>58訂正)
場所は、横須賀鎮守府―――執務室
1週間前ほど東京に着き、春雨は一足先に帰還報告のため、男と駆逐棲姫と別れ、横須賀鎮守府へ行っていた
生存報告して姉妹や上司である司令官を安心させたかった―――それに、共に着いてくれた恩人たちについて報告しなければならなかった
何故なら、その恩人たちの片方は深海棲艦であるからだ
敵ではないことを説明―――沖縄から制海権を取ったこと、ここまで連れてくれたことなど報告し、敵意はないということを証明しなければならなかった
これまで起きたことを彼女―――春雨は上司である司令官と秘書艦である大和に報告を行っていた
彼女が司令官と呼ぶ男―――白色の軍帽を深く被り、白い軍服を纏っており、初老に入っただろうと思わせるも、何より幾度の戦場をくぐり抜けているだけであって歴戦の風格を漂わせる
片や、大和という女性は、膝下まであるだろう茶髪を電探と思わしき艤装でポニーテールに、瞳色も茶色で、紅白を基調としたセーラー服を着ているが、大和撫子かと思わせる雰囲気を醸し出していた
最初、春雨が無事帰還したことに大いに喜んだ
行方不明になってから約1ヶ月半も捜索し続けていたがゆえに
しかしそんな二人は彼女の報告により驚きの色を隠せなかった
提督「――――――」
大和「――――――」
海軍の英雄とはいえど、日ノ本の軍艦の象徴とはいえど、深海棲艦が艦娘である春雨と組み戦艦を沈めたことに
そして、生き残りはいないと思われた沖縄の生き残りがいたことに
それも、今東京のホテルに滞在していることに
今までの常識が覆された気がした
それほど彼らの存在が異端であることがわかるだろう
だが、そこは多くの修羅場をくぐり抜けた英雄、すぐに落ち着きを取り戻す
提督「…その深海棲艦は敵ではないのだな、春雨」
春雨「はい!」
提督の問いに力強く、その深海棲艦を信じています!、と断言するような答えが返ってくる
しかし提督は―――彼女はお人好しだから信じてしまったのではないかと
そう思わざる得ない
過去の戦いから、2年前の戦いからして、あっちは人間に近い思考を持っていることが確認されている
だから、起きてしまった―――ブイン基地を筆頭にいくつかの基地が攻められたこと、沖縄の悲劇が起きてしまったこと
もしかしたら、生き残りはいないとされた沖縄で住んでいたその男は深海側の指揮官ではないのかと、その深海棲艦は我々を欺いているのではないかと
数多の可能性を思い浮かべ、数多の対処法を考える
提督(…彼らを捕らえ、真意を問いただすか―――?)
それだと、深海棲艦は暴れ、周りを巻き込むことになる
ならば、どうすればいい、どのようにすれば被害は起きないのか
あーだこーだと頭を抱える提督に声が掛かる
そう、更に頭抱えることになる元凶とも言える彼女からの言葉
春雨「そういえば彼が言っていました―――"1週間後にそっちに行くから美味いお茶とお茶請け用意してね☆(ゝω・)vキャピ"と」
その彼がそう命令したのか彼とやらの真似をする春雨
それを見た提督と大和は何も言えなかったが、無性に腹立った
"会ったらぶん殴ろう"
そうしようと同時に決心する提督と大和であった
純粋な彼女に何を吹き込んでいるのだと、変なことを吹き込むなと――――
かくして、彼らは出会うだろう
英雄 と 狂人
日ノ本の象徴 と 深海棲艦の小さき姫
彼らは、彼女らは『平和な海』を願って戦い続けている
分かり合えるのだろうか、想いは届くのだろうか、―――さあ、運命の分かれ道ぞ
1週間経った
ついに、出会ってしまった
男たちは応接間だろうか、ソファーや、TVや冷蔵庫など備えている部屋にいた
左側に英雄と日ノ本の象徴が、右側に沖縄の生存者と深海の姫が
彼らは出会った、世にも奇妙な対面である
ピリピリと張り詰めた雰囲気が漂うだろうと思われたが、駆逐棲姫は茶菓子を美味しそうに頬張る
それ見た3人は馬鹿らしくなってきたがそれはそれ
「さて、お会いできて光栄です元帥閣下と戦艦大和さん―――俺は沖縄の唯一の生存者、こちらは深海棲艦の姫級、駆逐棲姫と言います」
と、棒読みながらも男から紹介するとともに火蓋を切った
それを受けて、答える
提督「横須賀鎮守府所属、階級は元帥、提督と言う」
大和「大和型戦艦一番艦、大和です」
「ん、ではお互い紹介した所で、事の経緯は春雨から聞いているでしょうしこちらの要望というかまあ要望でいいかな」
慣れてない敬語を無理に使っていたが所々ボロが出る
だが、気にしない、そんなことよりも彼の要望をそして真意を問いただすことが重要であるからだ
「俺達の要望は沖縄で鎮守府を、正式に海軍所属として発足して頂きたい」
提督「断る」
一刀両断
春雨からその要望を聞いてもらうため、こちらに来たと聞いているが、そもそも深海側である可能性が否めないからである
が、男は如何にも予想していましたと言わんばかり、からからからと笑う
「ま、そりゃそうだわな―――長年、敵である深海棲艦といがみ合ってきたのだから」
提督「ならば、単刀直入に聞こう―――貴様らの目的は何だ?」
カチャリ、と
提督の一歩分後ろに控えていた戦艦、大和の艤装が展開される
下らぬ理由、あるいは我々の敵ならば容赦なく撃つと警告の意味を込めて
それでも彼は笑う
「それは傍から見れば叶わぬ夢だと言うだろう、下らぬ理想だとツバを吐き捨てるだろう―――それでも、俺達の願いは変わらない」
駆逐棲姫は争いのない『楽しい海』を創りたい、と
男は人間と艦娘と深海棲艦の共存する世界を創りたい、と
そこに嘘偽り無く、己の夢を、己の理想を唱える
だが、提督は容赦なく鉄槌を下す
「その者を捕らえよ―――だが、深海棲艦は"殺せ"」
交渉決裂
いや、元々交渉なんてなかったのだろう
深海棲艦を滅ぼすための組織であるのだから答えは一つ―――深海棲艦死すべき、と
提督の命を受けた大和は動く
と、男は嗤う、嗤う―――醜くも口角を限界まで引き攣らせ、嗤う
そのさまはまさに狂人としか言い様がない
「俺が、彼らが、何もしないでここに来たと思っているんだ?英雄さんよ」
提督は彼らがと言う言葉に頭に引っ掛かるがそれをハッタリだと決め付け、大和に目を配る
それでも彼は続ける
「本当に便利な時代になったものだな改めて思うよ―――テレビって本当に便利」
大和が、止まる
彼の手にはテレビのリモコン、テレビの置かれている方向から音が聞こえる
視線をテレビに移す―――そこには彼がいた
大和「―――えっ?」
テレビに彼がいる、ここに彼がいる
混乱、と同時に、テレビ内のアナウンサーが渡された原稿を読み上げる
『速報です、なんと深海棲艦に乗っ取られた沖縄に、唯一の生存者がいたようです!』
『その生存者と名乗る男は我々の○○局に接触―――後日インタビューを受けることが決まったのです』
『気になる方は、明日の18:00にて放映されます』
と、アナウンサーの横に映る画像は目に黒線がかかるように編集されているが間違いなく彼であった
「どう?テレビ初出演するんだぜ俺―――と言っても顔と名前は隠して貰う予定だけどな」
面白可笑しそうに嗤う
提督はやられたと、流石の想定外で面食らう
速報ニュースで丁寧に時間まで告知している
つまり、その時間になっても来なかったら真っ先疑われるのは海軍だろう
彼が行く先を告げたのだろう、後日という形でインタビューを受けることになったということは間違いなくソレだろう
国を、そして民を守る軍として疑われるのは不味いことである
何しろ彼は沖縄で唯一の生存者という形で世間に知らせたということになる―――それに、一般人であるからだ
止まらない、止まらない、攻勢を転じることさえ許さない
何しろ、己と駆逐棲姫の命と、夢を文字通り賭けているのだから
追い詰められる
それも、世間では"英雄"と謳われる提督が、地位すらない一般人が
それほど、マスメディアの力は強い
特定の者からTV、新聞、あるいはネットで不特定多数者へと多量に発信される
それが例え、嘘だとしても関係者があたかも本当だと見せかけることだってある
つまり、生存者がインタビューは横須賀鎮守府に行った後で受けると、関係者に伝えていたのならばどうなる
いつまでも来ない生存者はどうなったのかと思われ、鎮守府に行ったという事実が海軍の信用に関わる
それが波紋のように広がり、"反対派"がデモや暴動を起こす可能性だってある
ゆえに、彼に対して迂闊に手を出せない
提督(やられた、こんな手を打ってくるとは―――深海側の可能性だってあるというのに)
「と、思いだろうが、俺の身分証明書―――免許証とか住民票とか見せれば深海側ではなく、ただの一般人ではなく、沖縄の生き残りだと証明できるのだからな」
ほーれ、と見せびらかすように運転免許証をパタパタさせている
写真の顔と一致、住所も沖縄のものだと分かる
「これで信じざる得ないだろう―――深海側ではなく正真正銘、生存者だと」
未だに茶菓子を頬張る駆逐棲姫の頭を撫でながら続けて言う
「だが、それはあくまで俺の安全を確保しただけにすぎない―――だから、もう一つの手を打った」
世の中色んな人がいる
その中で彼は接触した、神や仏などを信じる者、崇め信仰する者、所謂、信者というものに
「その手とは、深海棲艦を妄信的なまでに崇め信仰する宗教団体と接触したこと」
提督「は?」
意味がわからない
接触しただけで、彼女、駆逐棲姫を守る手段に成り得るはずがない
「軍人様はお頭固いですねえ」
馬鹿にするするような、見下すような声
そんな声が癇に障る
「宗教自体詳しくはないが、そのカルト教は規模が意外にもデカイし、本当に妄信的なまでに信仰する者が多かった」
そんな奴らに深海棲艦を見せたら、どうなる?と、問題発言
まさか、彼の膝の上に座り呑気に茶菓子を食べている駆逐棲姫を見せた?
狂信者とも言えるあのカルト教が見たらどうなる?
提督の中で最悪の事態が生まれる可能性が思い浮かべる
「そこで実際に見せて、如何にも俺が預言者であるように振る舞ったら色々と協力してくれたよ」
預言者は、神と接触し、神の言葉を人々に伝え広める者とされている
それを、イエスのように、モーセのように振る舞い、信者の心を掴んだ
「彼らと約束した、駆逐棲姫がいつまでも経っても帰ってこなかったら姫の命としてここに特攻するだろうねぇ」
追い詰める、追い詰める、マスコミを、世間を、信者を、味方に付けて
海軍の英雄の喉元に食らいつく
(これ以上の手はない、それでもなお協力を得られないのならば俺達は終わりだ)
彼は一見嗤って余裕を見せつけているが内心は焦っていた
最初信じてくれれば、良かったがそうも行かなかった―――それゆえに敵に回って協力を得ようと、そうしなければならない状況に追い詰めた
だが、1つ懸念があった
春雨から、海軍に詳しいであろうTV局の人から、カルト教の人から聞いた
世間では英雄と呼ばれ、称えられている
海軍のトップとも差し支えない功績もあり、実際に本土を守り通した―――その影響力は計り知れない
さあ、提督は何を思う
彼の策にしてやられたが、既に落ち着きを取り戻していた
むしろ、彼の立ち回りを称賛を贈る程余裕である―――深海棲艦から生き延び、姫級を味方につけ、そしてここに辿り着いた
その男は上手く立ちまわったつもりだろう、実際元帥である提督を追い詰めた
提督「舐めるな小僧―――追い詰めたと思っただろうが、俺は元帥だ」
反撃の鬨があがる
一旦ここまで
やっぱり、権力に勝てなかったよ…
提督は言い放った
そして、テーブルの裏に手を回して取り出すは、小さな機械―――これは盗聴器であった
笑っていた男の笑みが消える
提督「お分かりかね?―――つまり、お前が接触した関係者はこれを通して取り押さえることが可能だということに」
ことり、とテーブルの上に盗聴器が置かれる
提督は、海軍のトップとも言える元帥
男の策は予想外ではあったが、権力、地位を用いれば対処できることだった
そんな彼が命じれば憲兵団らがTV局を抑えるだろう、カルト教団を抑えるだろう
さて、男の心情は?
(これもダメか―――とならば)
最後の手段とは言えるが、これだけは明かしたくなかった
ただただ、悩む
その無様な彼を見た提督は笑う
そして大和に命じる―――さあ、捕らえよ、と
ザッ、ザッ
足音共に大和という女性が近づく
駆逐棲姫は足がない、駆逐艦故に戦艦大和に傷つけるはほぼ不可能―――それ故に対抗する術はない
ただ怯える、怯える
駆逐棲姫「タスケテ!―――シレーカン!」
彼女の叫びに思考を切り捨てる
ただ、彼女を守るために、守り抜こうと
本能なのか、あるいは過去の惨劇と被ったのかただ大和の元へ駆ける
「姫に触るんじゃねえ!」
大和「―――えっ?」
一瞬何が起こったのか分からなかった
男が駆け抜けた瞬間、大和は宙に浮かんでいた
恐らく、彼に寄って投げ飛ばされたのだろう―――普通じゃあり得ない、人ならぬ力によって
ドズンッ!
彼女は壁に叩きつけられた
壁が砕かれる音がする―――お陰で、他の艦娘も察知したようだった
"提督が危ない"
いの一番に駆けつけたのは巫女装束を纏い、両サイドお団子を結ったブラウン色の長髪の女性―――戦艦、金剛であった
彼女がドアを叩き開けた先に映った光景は異常だった
提督は呆然、大和は壁に叩きつけられたのかダメージを負いながらも立ち上がろうと
片や、ソファーに座っている少女は怯え、男は修羅の如く、怒り狂っていた
金剛「HEY…提督ぅー、どういう状況デスカー?」
ただ、それだけしか言えなかった
あれやこれや
音を聞きつけて何事だと艦娘たちも集まってきた
その中に春雨もいた
さて、怒り狂っていた彼は一瞬で爆発させてしまった感情を落ち着かせていた
「……フー、すまなかった、つい、トラウマが蘇って」
ケロッといつもの彼に戻る
その一連の流れを見てた提督は驚きの色を隠せない
提督(彼は一体何者なんだ―――あの大和を投げ飛ばすとは)
そう、あの日ノ本が誇る戦艦、大和が
数々の強大な敵を打ち砕いてきた彼女が
片や、投げられた彼女は彼に投げられた―――否、彼女は多くの艦娘と戦闘演習をこなしてきたが故に気づいてしまった
大和(一見人間ですか、確かに感じた―――その力は間違えようがない"艦娘"の力)
そう、彼は男性でありながら"艦娘"の力を持っていると
そこで、新たな疑問が浮かぶ―――艦娘は女性、それも適性あるものでしか加護を受けられないはずだ、と
「提督、悪いが話の続きをさせてもらう―――もちろんこれは壊すがな」
バキッと盗聴器を踏み潰して破壊する
この場の流れを支配する―――提督の反撃はここまで、これからは俺の攻勢
「色々、聞きたいことがあるだろう―――だが、それは後回しだ」
提督の前に立つ
黒い、黒い、どこまでも黒く淀む漆黒の瞳に提督が映る
「さっきまでの策は、元帥であるあんたの権力で握りつぶすだろう―――だから、取引だ」
提督「取引…だと?ハッキリ言っただろう深海棲艦は敵だと」
「だからこそ、取引するんだよ―――俺が何故沖縄で生き残れたのかを不思議に思わないのか?」
確かに、気になる
春雨から聞いた報告ではどうやって生き延びてきたのかは詳しく語らなかったという
そして、深海棲艦の弱点を知り尽くしているとも言っていたこと
提督(それを、知ることができればより優勢になるだろう…悪い取引ではないが)
彼と駆逐棲姫が敵ではない証拠がない
だから、それを信じることが出来ない
だが、男は再び嗤う
まあ、信じないだろうなと、だから信じられる証拠を出そうと、
「大和は感じたはずだ―――全てではないが俺の正体を、その片鱗を」
「だが先に答えを出そう―――"俺はとっくに死んでいるんだよ"」
と、爆弾発言をかます
2ヶ月も共に行動してきた駆逐棲姫、春雨、会ったばかりとはいえど提督、大和、そしてこの場に駆けつけた艦娘はその発言に凍った
そんな静寂の中に
からから、からと笑い声が響く―――
今日はここまで
色々ゴチャゴチャしてすいません
中々信じてくれない提督を信じさせるため、自分の正体と過去が語る予定
そこで2年前何があったのか、自分が死人だと、何故駆逐棲姫は彼に懐いたのか色々語ります
男が自分、死んでいますと暴露したため、横須賀鎮守府は騒動が起きたがこれはこれ
その言葉が本当なのか確かめるべく、工廠に彼らはいた
そこには、元凶の男、駆逐棲姫に提督、大和、それまでの当事者である春雨
そして、工作艦と呼ばれる明石と建造を専門とする通称"妖精さん"が集まっていた
明石と呼ばれる女性は、桃色の髪を一部おさげにした髪型に、水色のシャツの上にセーラー服を着て女袴をミニスカートにしたようなものを履いていた
片や、妖精さんは、手のひらサイズしかなく、ヘルメットにつなぎを着ていることが特徴か
そんな彼女たちは、艦娘の修理や、建造を専門としている
提督が男の正体を明かしてくれるだろうと期待を込めて呼んだのだろう
しかし、驚愕する
彼の正体を調べる内に、残酷で余りにも酷いものであった
明石はそれを現実だと受け止めて、提督らに事実をただ述べる―――述べることしか出来なかった
明石「結果から言えば―――彼が言うとおり"死んでいます"」
それも、現在進行形で滅び行く体であると
共に行動した、駆逐棲姫と春雨は驚くことしか出来なかった―――今までそんな素振りはなく、彼から何も言われなかったがゆえに
提督「わかりやすく言うなれば、ゾンビみたいなものか」
明石「はい、ただ、本能というべきなのか精神的なものによって動いて―――いえ、こうして動いている事自体が奇跡みたいなものですが」
ただ、詳しい状態など此処から先は魂を扱う妖精さんから聞かないと分かりません、と
眠りにつく男の上に立つ妖精さんを見る
おそらく、魂やら身体の状態を調べているのだろう
駆逐棲姫「アノ…シレーカンハ、ダイジョウブ…ダヨネ?」
深海棲艦である彼女から、シレーカンと呼ばれている男をただただ心配する
提督らはそんな彼女を見て、本当に深海棲艦なのかと疑いたくなる
それもそうだ、彼らからすれば2ヶ月前、春雨が参加していた艦隊とは違う別の艦隊で第二次渾作戦において敵対していたのであったのだから
そんな、彼女が憎しみなどどこにもなくたった敵であるハズの人間に心配しているのであるだから
大和「大丈夫―――この大和を投げ飛ばしたのですから」
大和が駆逐棲姫に心配ないですと
そう、優しい優しい声色で慰める
こうしている内に、妖精さんの作業が終わったようだ
人の言葉等喋れないが、艦娘を通して意思疎通を図っているのである
今回は明石を通して、彼の状態を説明し、明石が説明するものだった
だが、最初に話すことになる事実に彼らは驚愕に染まる
明石「伊四〇一―――彼の身体から潜水艦伊401のデータが見つかりました」
では、ここで艦娘について話そう
これらは艦娘、それらを率いる提督ならば常識であろう
艦娘は元々人間である
艤装をつけることで始めて艦娘となれるのである
さらに言えば解体―――艤装を解体すれば人間に戻れる
それに、誰もが艤装を付けられるわけではない
艤装とは妖精さんが作り上げたデータ―――艦艇の記憶、英霊の魂、経験等など詰まったものを艤装という形で作り出す
過去から言われるように船とは女性である
つまり、艤装をつけられるのは女性ではなければ意味が無い
そして、その女性がその艤装と適性がある、簡単に言えば魂と波長が合えば艦艇の十全の力を引き出せるようになれる
それが、海軍の一般常識である
この場に限っては海軍ではない駆逐棲姫を除けば、それが当たり前と認識しているのである
だが、明石―――妖精さんを通して放たれた言葉
潜水艦伊401のデータが彼の身体の中にあるという事実
大和は理解していた、彼に投げ飛ばされた時に感じたあの力を触れたのだから
しかし潜水艦伊401はここ、横須賀鎮守府に所属している
さらに他の鎮守府に同じ伊401もいるが、間違っても沖縄に日本の艦娘がいないこと、米軍に日本の艦娘が所属していないという事実
彼らが知る事実との違いに困惑する
「ここからは、俺が話そう―――それに、提督や大和は一先ず信じてくれただろうし」
調べるために眠らされた男が目覚める
全てを知るモノが語るであろう
何故艦娘の力を持っているのか、何故沖縄にいないはずの日本の艦娘のデータが出てきたのか、何故男は死人なのか
彼の口から語れられる
全ては、2年前の惨劇から始まったと
取り敢えずここまで
ここから過去語りです
それは春雨に話した内容と同じであった
沖縄から脱出することを決めたあの夜に語った内容と同じ
沖縄に深海棲艦が上陸したことであった
圧倒的な数の暴力に敗れ、沖縄を始め、離島の住民たちは深海棲艦による大量殺戮によって無人島化とし、占拠された
銃器が効かず、対抗しうる術がなくただただ殺されるだけ
親しかった友人が、優しかった母が、厳しくも尊敬できる父が、懐いていたお人好しな妹が目の前で死んでいった
ここまでは同じ
だが、ここからは、男はどのように生き延びていたのかは語ることはなかった
「ここまでは春雨に言った内容と同じ、報告で提督も大和も聞いただろう?」
と、確認するように目を配る
コクリッと頷くのを見て、続ける
「俺は戦った、家族を、妹を守るために―――だが、俺は死んだ」
「あの女―――姫と同じタイプ、額から角2本生えた姫級によって」
そう、言い放った
提督と大和は気づく―――彼が言ったあの女の正体を
それは間違えること無く、戦艦棲姫
大和をも超える火力、装甲など圧倒的な強さを誇るバケモノ
2年前、AL/MI作戦において本土に襲撃した
大和を、同型艦である武蔵を用いてもなお、ようやく撃退成功したほどのバケモノ
そんなバケモノによって殺された、と
彼は言う、たった1つの砲撃で、己の腹が半分吹き飛んだと
その砲撃で後ろにいた家族が死んだと、守りきれなかったと
「こうして、死にゆく俺は家族の死を見てしまった―――憎んだ、絶望した、あの女はただ嗤った」
あの光景を思い出したのか、目を瞑る
側にいた駆逐棲姫を膝の上へ運び、抱きかかえるように少し震える
これは、恐怖か、あるいは無力感からくるものだろうか
駆逐棲姫の頭に顔を埋める
決して、やましいものではないと追記しておく
男は落ち着きを戻したのか続ける
「そんな、状況で助けがきた―――俺の友人が、伊401と呼ばれる彼女が」
ここで、伊401の名が出る
それゆえに、提督は止める―――何故そこに日本の艦娘が出るのかと、
簡単に言うならば、と前置きを
「アメリカで作られた―――艦娘だからだ」
アメリカ作られるも、そのデータ、艤装と適合するものがおらず、日本人がいる沖縄で適合者を探していたという
そこで見つかった、俺の友人である彼女が適合者であることを
「こうして、友人であった彼女は艦娘になったとさ」
軽く、そう説明する
提督は頭抱えるハメになったが、史実で伊四〇一がアメリカに接収されたことがデータとして復元したのではないかと俺は思う
「さて、続きを―――」
まあ、海でもないのに潜水艦が、あのバケモノに挑むという時点で結果はお察しだろう
だが、そこからだ
そんな彼女は死に体となった俺に託した
それは艤装ではなく、艤装に乗っていただろう妖精さんを介して英霊の魂を俺に継承された
適合性あるとかの前に、男性である俺にな
だが、性別関係なく、もう死んでいるようなもの故にかあるいは奇跡なのか、繋がりがあったからなのか
その魂が己の身体に、吹き飛んだ腹を修復すると共に彼らの記憶が流れ込む
「―――こうして、俺は生き返った」
それが、問題だった
彼女は何を思い、俺に力を託したのか分からないが
死にゆく者に残されたものは、憎しみ、絶望、喪失感のみしかなかった俺は、―――"深海棲艦になった"
静寂が訪れる
誰も彼もが言葉を発しない、発することさえできない
ゆらり、ゆらりと、
彼女が、彼が、彼らは、何を思う
訪れる、訪れる、小さな小さな足音
これは名も無き男の道に歩く―――人間だった、艦娘の力を持ち、深海棲艦成り、男の旅路の終わり
悲しむことことなかれ
これは終わりではない、始まりの刻ぞ―――
「だが、男だったゆえにか中途半端な存在であった―――死に体の人間に、艦娘の力を注ぎ込まれ、負の感情しかなかったが故に深海棲艦へ」
本来ならば、男性ではなく女性ではなければいけない
偶然なのか、奇跡なのか、その力は継承されてしまった―――その男に
「ヒトに戻れず艦娘にもなれず深海棲艦にもなれず、ヒトのカタチをバケモノに成り損ないモノが出来たとさ」
駆逐棲姫は気づく
最初に出会った時、人間だと思っていた彼に憎悪も持たなかった、その理由が
駆逐棲姫「モシ…カシテ、ニクシミをモテナカッタ、リユウガ…コレ?」
「おう、間違いなくソレだろうね」
「と、まあ、こんなに風になったお陰で、あの女から見逃してもらったよ―――曰く、お前に興味を持ったとね」
「そして、中途半端ではあるが深海棲艦となった俺は理解した」
深海棲艦の意味を、存在する意味を―――ただ、ただ、ヒトがニンゲンが憎いと
そして、その暗い暗い暗闇の中から一寸の光―――これは、希望、これは『楽しい海』
己の正体を、何が起きたのかを嘘偽り無く語った
春雨は、提督は、大和は、明石は理解が追いつけなかった―――ただ、妖精さんだけ気づいていた
「妖精さんは気づいているのだろう、魂をデータ、艤装として扱うのだから―――そんな、中途半端な存在が世界から排除されるだろう」
何も言わない
だが、妖精の言葉は男に聞こえていた、中途半端と言っても力は少しながら受け継がれているのであるから
「成る程、つまり少し少しずつ魂の綻びが大きくなって最後は消えるのみ、か」
男は知っていた
自らの死すべき時が迫っていることに
ならば、ならば、それまでに夢を実現してみようじゃないか―――
「提督よ、大和よ、春雨よ」
思考を追いつかない彼らに彼女らに声を掛ける
俺の正体を知っただろう、二年前に何があったのか語っただろう、死が近づいていることに気づいただろう
「なればこそ、俺と姫の『楽しい海』を、お前たちの『平和な海』を共に目指そう」
頭を下げる―――共に手を組み、誰もが笑っていける世界を創りに行こう、と
精一杯に頭を下げる、駆逐棲姫も彼に習って頭を下げる
提督は何を思う
提督「それが叶わぬ夢だと、下らぬ理想だと言われてもなお目指すか」
彼らは、腹の底を見せた
彼は、死にゆく運命だと理解しながらも、彼女は深海棲艦ではあるのに憎しみなど無く、共に夢の実現を目指していると
ならば、俺も信じよう―――『楽しい海』を、『平和な海』を実現してみようじゃないか、と
大和もまた、彼らを信じる
大和「大和も信じましょう、微力ながらも共に夢の実現へお手伝いします」
春雨は、自分は何をしたいのか自分は何を為すべきなのかと彼に言われた意味を理解する
艦娘ではなく、"生ける者"として何をしたいのかを
春雨「私も『平和な海』を実現したいです、はい!」
三者三様、想いは1つへ―――平和な海を
人間が、艦娘が、深海棲艦が、想いは1つに―――
「沖縄…鎮守府……復興…―――沖縄復興府ってことか」
からから、からと
夢への道に一歩進んだことに笑う
かくして、舞台は整う
死に近き狂人が、深海の小さき姫が、心優しき少女が、英雄が、日ノ本の象徴が集う
決して相入れることの無い彼/彼女は出会い
偶然なのか、奇跡なのか、必然なのか彼らは1つになりて夢へ向かう
今日はここまで
ようやく、舞台は沖縄へ戻ります
【小話】深海棲艦とは何ぞや?
提督たちと結託してから数日
沖縄で鎮守府を建てるために提督が海軍本部など根回し、資源資材調達等々奔走している最中、男は暇をしていた
本部まで深海棲艦の存在知られたら知られたらで面倒のため、鎮守府外に出ることを禁じられたため、割り当てられた部屋でゴロゴロしていた
駆逐棲姫は春雨を通して他の駆逐艦と仲良くなって、どこかで談笑しているだろう
それ故に、男は手持ち無沙汰である
決して、他の艦娘から嫌われているわけではない
そもそも死にかけ、人間のくせに艦娘やら深海棲艦やらそれに近いカタチとなっていることが艦娘たちにも伝わったいるのか誰も話しかけてこない
こっちから話しかけてもよかったがいつ死んでも可笑しくない身であるから下手に関わると後味が悪くなると思い、話しかけないことにした
悲しきかな―――どうせ、死にゆく俺に情を持つことは彼女たちにとっても致命的であるからだ
「と、まあ、いつかは姫と春雨にも切り捨てて貰わんといけんな」
姫の悲しそうな顔を思い浮かぶがドアの開く音でその思考はかき消された
誰が開けただろうと上体を起こして見ると、提督の秘書艦、大和であった
「んー、何の用だ?」
大和「ええ、少し聞きたいことが」
ふむ、秘書艦である彼女が聞きたいこととは?
自分の過去、正体を含めて全て話したはずだが―――寿命か、沖縄に行った後のことか、はたまた
大和「自分は深海棲艦の弱点を知り尽くしている、と仰っていたでしょう?」
ああ、そっちか
自分死んでますという爆弾発言のインパクトで忘れ去られたのかと思ったが、やはり艦娘たちにとって有益な情報になると思っての質問か
「んーまあ、確かに言ったけど」
確かに言った、戦艦戦の前に春雨に言ったことも、提督に取引内容として持ちかけた時に言ったことも
嘘ではないが―――ただ、その弱点が艦娘である彼女たちにとっては微妙じゃないのかと思う内容であるからか口ごもってしまった
大和「あれは、嘘だったのですか」
それを大和が見逃すわけでもなく、問い詰める
その際、ふわっといい匂いがする、姫や春雨とは違う匂い―――桜の匂いだった
女性が苦手というわけではなく、駆逐棲姫や春雨、艦娘の力を譲渡し生かしてくれた親友など接点はいくつかあったがそれは彼女たちが子供だったり女性として意識したことなかった
過去に彼女のような10人が10人振り返るような、大和ほどの魅力的な大人の女性は会ったことがなかった
「ちょ、ち、近い!話すから離れてくれ!」
悲しきかな、不慣れ、照れ、免疫なしからくるテンパリよう、そこにはいつもの狂人気取りはなく歳相応ともいえる反応である
大和は自覚してないのか?を浮かべてるだろう、首を傾げるだけ
そんなこんなで
男と、大和を筆頭に数十人の艦娘は演習場らしき場所にいた
それもただの艦娘ではなく第一線で活躍する艦娘たちである
「うへぇ…こんなにいるのかよ…」
大和「愚痴言わないでください―――始めて下さい」
愚痴吐く男に、それを注意してさあ説明してくださいと促す大和
その様はまさに出来悪い弟としっかり者の姉のような光景であった
「ん、じゃあ前提、というより保険だな―――お前たち艦娘が求めるものではないと留意して欲しい」
では、深海棲艦は何ぞや?
簡単にいえば、人類の敵―――艦艇というカタチで復元された憎悪そのもの
「そこで、お前たち艦娘は迎え撃つだろう―――艦艇が具現化した艤装を背負って」
艦艇というものならば海の上で戦うのが常識であろう
だが、2年前起きた―――起きてしまった
深海棲艦による沖縄上陸
「そう、陸の上まで侵入してきたという事実―――艦艇として生まれたハズの深海棲艦がな」
ここまで、話せばなんとなく分かるだろう
俺がここにいる理由を、中途半端ではあるが陸の上で犇めく深海棲艦から生き延びた、その理由を
そこで手が上がる
青空と同じ色の瞳、春雨と同じ黒いセーラー服、黒髪を後ろで三つ編みで1つに纏めたのだろう、更に目につく特徴が犬耳のように横ハネている
彼女は、春雨の姉とも言える少女、時雨という
追記すると、第一線級で活躍する数少ない駆逐艦である
時雨「つまり、君はこう言いたいのかな―――陸の上では艦艇としての能力が失われると」
「カカカ、正解だ―――名はなんと言う少女よ」
時雨「時雨、僕は白露型駆逐艦、時雨―――春雨の姉といえば分かるかな?」
春雨の、姉
どこか似ていると思ったら犬耳っぽい髪型してたなあいつ
「まあ、時雨の言う通り、艦艇としてというか詳しく言うなら海の上で発揮されている"ばりあ"みたいなのが消える」
艦娘が言うと、装甲というものらしい
おそらく艤装の加護によるものだろう
「駆逐艦を例にすると見た目通り装甲が覆われている所はそこらの銃は通らない―――が、口径デカイ機銃やらミニガンやらは多少通るようになっている」
つまり、陸に上がってしまえば艤装の加護が剥がれ、本来の装甲と変わらぬものとなる
C4爆弾やロケットランチャーで撃てば倒せるだろう
「さらに言うと、足など装甲覆ってない部分ならばヒトと変わりない」
時雨「―――えっ?」
時雨と大和を筆頭に艦娘たちにどよめきが走る
それもそうだ、そんなこと海の上で戦う彼女たちも知るはず無いし、人々は海軍や艦娘たちの活躍で上陸を許したこと無い故に知らないのだろう
「これは上陸を許してしまったからこそ見つけた弱点でもある」
そう、沖縄の人々の死を積み重ね、力を譲渡され生き延びて来たからこそ見つけたものである
それと更に身体能力やらいくつか恩恵を受けているから砲撃が機銃が来ようとも一人で戦えたと、倒せたと
自慢するでもなく淡々と事実を述べる
「当然、軽巡重巡空母戦艦とランクアップしていくとより人型に近くなり、装甲に覆われた部分が少なくなっている傾向にある」
つまり、陸に上がったらただの人間でも武器を持てば戦えると男はそう言い放つ
大和「それは、盲点ですね―――しかし、戦艦空母となると上陸するより海から砲撃爆撃をするのでは?」
戦艦は大口径主砲を、空母は爆撃機を用いて陸地に攻撃するのが普通である
春雨の話では海では深海棲艦がいた―――が、陸に対して攻撃は一切もしなかったと
「その疑問はもっともだ―――事は単純明快」
砲撃でもなく爆撃でもなく雷撃でもない―――ならば?
「俺は"素手"で倒していたんだよ主に戦艦と空母を狙って」
ざわめく、ざわめく
長門「馬鹿にしているのか貴様!」
喧騒の最中、一人ソレを上回る声量を張り上げながら男に近づく
腰回りや腹筋をへそ出しルックスタイルで露出しながらもしっかり引き締まっており、腰より長い黒髪を靡かせながらズンズンと大きな胸を揺らしながら
百戦錬磨の武人といった堂々たる気丈夫さと凛々しさを醸しだす彼女は戦艦、長門
だが、そんな彼女と正反対に彼はうわぁ…めんどくさいのが来ちゃったよと言いたげな顔
「事実をただ述べている―――だが、不思議に思うだろう?」
どういうわけか、本来の攻撃では通じず素手や刀といった近接武器ならば通じるのだから
陸に上がれば露出している部分に攻撃すればヒトと変わりないことに、海の上では近づくのが至難ではあるがこれも同じく露出している部分で素手でやれた倒せる
「さて、これらの特徴から浮かび上がるであろう疑問―――そう、まさに艦娘に似ているよねえ」
長門「黙れ!」
大和「落ち着いて下さい長門さん!」
長門は彼の胸ぐらを掴み上げる、と同時に大和が止めに入る
だが、男は掴み上げられながらも続ける
「俺は人間として死んだ身、艦娘の力を譲渡され、家族を殺された憎しみで深海棲艦に成りかけた―――それも、男だった故に不完全に」
此処に来て、艦娘になるための艤装を創る妖精と出会い、話しを聞き、ようやく確信を得た
そう、艦艇という共通点、コインが表裏があるように切っても切れない存在、春雨と駆逐棲姫の容姿が瓜二つ
バズルのピースが埋まっていく―――予感から、確信へ
「お前たち艦娘と、深海棲艦は表裏一体―――元は"同じ存在"であると」
長門「黙れ!」
ゴッ、と
彼女の叫びと共に響く鈍い音
胸ぐらを掴み上げられていた男が殴られてもなお、嗤う
口端から血を流しながらも口角を釣り上げて嗤う男はまさに、狂人
からから、からと
「なあ、長門よ時雨よ大和よ艦娘らよ―――なんとなく感じていたのだろう、己との存在と似ているのではないかと」
「断言してもいい―――同じ存在ではあれど似て非なるものだ」
同じ艦艇の魂、記憶は受け継がれながらも違うものだと
その違いは、英霊の魂
当時乗っていただろう、艦長や搭乗員の魂のことだろう
「誰しもが同じ思いではない―――国を信じて戦ったものもいるだろう、あるいは敵を憎んで戦ったものもいるだろう、敵ではなく自国を憎む者も少なくはなかっただろう」
国のためと思い、正義を貫いた英霊の魂を受け継がれたのが"艦娘"
無理矢理兵にされ戦わされて、あるいは己を殺した敵を憎しみを残した英霊の魂を受け継がれたのが"深海棲艦"
ゆえに同じ存在で表裏一体だと
「俺はそう確信している――――だからこそ」
人が、艦娘が、深海棲艦が、共存していける世界を創りあげる
男はそう言い放った―――そこには嘘偽りもなく、自信満ちながら堂々と
艦娘は何を思う
狂人の戯言なのか、あるいは―――希望なのか
彼女たちは決心する
彼を、彼の謳う理想を、信じてみようではないか、と
彼はこの展開―――弱点を話すつもりであったが、勢いで深海棲艦の謎まで話してしまったのは予想外であった
しかし、艦娘たちの信頼を手に入れたことで素直に喜ぶのであった
小話終わり
自分なりの深海棲艦の謎、鎮守府の艦娘の信頼獲得の補完話
次の小話は初期艦娘で、敵を助けたいと思う優しい少女のお話
【小話】憧れの人
戦争には勝ちたいけど、命は助けたいって、おかしいですか?
目の前の小さな少女はそう言った
それは己の記憶からくるものなのだろうか、あるいは彼女自身の本質からなのか
だが、男はどうでもよさそうにこう言った
知るか、と
本当にどうでもよさそうに気弱な少女に突き放す
勇気を絞って言ったのだろう、彼女は震える、大きな瞳から涙が溢れる
どうしてこうなったのか、時は少し遡る
あれは深海棲艦の弱点―――正体とも言うべきか根源とも言うべきかそれを暴露してしまったその後の話
艦娘たちに、勢い任せてあーだこーだと言いくるめたのか、混乱させたのか、そう思わせるように誘導したのか
艦娘たちの反応は様々であった
深海棲艦を救いたいと、その夢は叶わないのでは、虚言なのでは、しかし提督はソレを信じたから私達も信じなければいけないのでは、
しかし、男はそれでよかったと思っている
人はそれぞれの価値観があるし、それが正しいと思う者もいれば正しくないと思う者もいる
だが、ほんの一握り―――己の夢を共に歩みたいと言う者が来てくれれば僥倖であるとそう考えていた
この先を考えると深海棲艦に対して不信感を持つ者が一人でもいたらそれは破綻してしまう恐れがあった
(これから取る方法―――共存していくにはわだかまりを排除していかなければならない)
そこから、少しずつ少しずつ、お互い理解し合い、そして世界へ知らしめる発信地になるために
お互いがお互い、歩み寄るために、その方法を模索していた―――その1つが先ほどの出来事である
姫も艦娘と談笑できる仲になっているが、それは一部の艦娘だけで不信感は大きいだろう
だから、勢いとはいえ事実となった、深海棲艦と同一の存在であるということをバラした
それがキッカケに考えを変えてくれればいいだろう、と
そう、考えていた男に後ろの方から声がかかる
ん?と振り返って見れば、小さな少女
正統派であろう白いセーラー服を着こなし、茶色の目、茶色い長髪をアップヘアーにして束ねている
服からして春雨と同い年か、幼さが目立つため一見、小学生にも見える
そんな、彼女の名は電
電「あ、あの、えっと、」
気弱で恥ずかしがり屋なのだろうか、提督以外の男は慣れていないのだろうか
しかし、予想は外れていた
電「そ、その名前を教えてください…なのです」
そう、今の今まで名前は隠していた訳ではないが全く名乗ってなかった―――駆逐棲姫や春雨にすら名乗った覚えがない
それに気づいた、姫からはシレーカンと他の人はお前や貴様など二人称で呼ばれることが多かった
意図したわけではないが、いつ死んでも可笑しくない身であると自覚しているゆえにか自然とそうなるように名乗っていなかった
それを自覚した彼は、本当の名前を名乗ることをしなかった
「…名は無い、名無し―――そう、ナナシだ」
安直ではあるが、ナナシと偽名を名乗ることに
電「ナナシさんですか…電です、よろしくお願いいたします」
彼女は特に疑うこと無く、自分の名を名乗る共に挨拶する
さて、そんな彼女は何を思って、彼と接触したのだろうか
彼女、電は深海棲艦と戦闘する度に心を痛めていた
だが、敵は容赦なく襲ってくる―――自分が生きるために倒す、倒すしかなかった
提督に敵をも助けたいと言えば、敵を情けをかけるのかこれは戦争だ、助けて背後から撃たれたら沈むのは自分だぞと切り捨てられていった
それ故に、彼女にとっての彼の出会いは運命だと思ってしまった
彼は、謳った―――誰もがあり得ない、叶うことない夢だと、切り捨てるだろうと、しかし言った、深海棲艦との共存する世界を創ると
彼女にとって、彼女の決して捨てきれぬ夢を実現させようという男にどう映ったのだろう
深海棲艦である駆逐棲姫を、艦娘である春雨を、人間である彼が3人が3人協力しあってここまで来たという事実が現実味を帯びてきた
彼女にとってそれは、希望
だからかそれ故にか
電「戦争には勝ちたいけど、命は助けたいって、おかしいですか?」
そう、聞いた
その夢を実現すべく奔走する彼に
「知るか」
バッサリと本当にどうでもよさそうに
彼は自分の部屋に戻るために踵を返す
電「ふぇ…」
勇気を絞って言ったのだろう、大きな瞳から涙が溢れる
我慢しているのだろうか、泣き喚くわけでもなく少し少し声を漏らすように
彼は春雨と同じく自分で考えて考えて、自分で答えを得るだろうと思っていたが故に
しかし、電は幼すぎた―――彼女は艦艇の記憶から敵さえも救うその姿を誇りに思っていた
それは子供がヒーローに憧れるのと近いもの、努力して努力してあの憧れの人のように敵を救おうと
しかし、現実は違った
上司である提督―――司令官はそれを許さなかった
あの時とは違う、あれはヒトではなくただのバケモノだ―――存在してはならぬモノだと
だから殺せ、だから沈めろ、だからだからと
彼女は泣いた
司令官からもナナシからも見捨てられた
かつて見たあの憧れの光景を、夢を、自身の優しさが、自分を傷つける
男は後悔した
春雨と同じように強いものだと思っていた
されどそれは、艤装なんてなかったらただの少女だというのに―――人の違いや価値観、強さなんて千差万別だというのに
「あーもう、取り敢えず俺の部屋に来い!」
語気荒くして、電を脇に抱えて自分の部屋へ向かって走る
その光景を見てしまった艦娘たちからはロリコン疑惑がかかるのは別の話
そんなこんなで
彼女が落ち着くまで慰め、泣き止んだのを確認、そして頭を下げる
すまなかった、と
「すまなかった、春雨と同じように、自分で考え答えを出すものだとそう思っていた」
電「い、いえ大丈夫、なのです」
「そうか―――で、なにゆえあの問いをしたのだ?」
切り替える
彼女の問いにしっかりと受け、答えるべく
彼女は語る
男が語った夢と、自身の艦艇の記憶から見たあの光景、そして、自分もあの人たちのようになりたいと
「敵さえも助けたいね―――その想いは正しいとも正しくもない」
それを聞いた彼はそう答える
「もちろん、俺や彼女たちの夢だってそれが正しいとは限らない、それが他人からすれば深海棲艦は害悪だとかみなす奴だっている」
むしろ、その他人の言うことが正しいと思う時さえある
だけど、それでも、俺は貫こう自身の夢を
「正しいとか正しくないとか善悪も関係ない―――大切なのはその想いを決して曲げずに貫くこと、だと俺は思う」
電「想いを…貫くことですか?」
「そそ、何時の時代だってそうだった―――正しい正しくない善や悪なんて歴史が証明する」
「だが、今を生きる俺達にとってはその答えなんてわかりやしない―――ならば、その想いをただただ貫くのみ」
俺はそうしてきた、姫もそうしてきた、春雨も、提督も、大和も、他の艦娘も―――もちろんお前も想いは捨てることさえせず密かに
俺は駆逐棲姫と出会い、姫は俺と出会い、密かに秘めていた想いを実現すべき時だと立ち上がった
「そこで、お前は電という生けるものは何をしたいのか―――その答えは?」
彼の問いに彼女は答える
想いを捨てずに、ただ密かに持っていた―――その想いが、夢を、今実現すべき時だと燃え上がる!
電「仲間も敵も、みんな助けたいのです!」
彼女は決意する
決して想いを曲げぬと、自身もあの人たちのようになりたいと、戦争のない世界を実現をしてみたい、と
それを受けて彼はからから、からと
ならば、共に行こう―――沖縄復興府へ
そこで誰もが笑っていける世界を創ろう、と―――
彼らのもとに集い始める
深海棲艦が、艦娘が、同じ想いを持ったモノたちが集い始める―――
今日はここまで
電はやっぱり仲間になるだろうと思いましてそれを補完するカタチで
同志とも言える仲間を集め、滅んだ沖縄を復興する足がかりとなります
次は駆逐棲姫視点での小話です
【小話】駆逐棲姫の出会い
がやがやと
甘い匂いを漂わせ、それに釣られた艦娘たちが集う場所は食堂である
本来ならば休日しか見られない光景ではあるが、諸事情で提督が不在のため暫く休みになっていた
そこに一見目立つのは、艦娘とは違う雰囲気を漂わせ、アルビノのような白い肌、そう駆逐棲姫である
しかしいつもの彼女ではなく、目をキラキラさせて涎垂らしている―――目の前にはデカデカと聳え立つパフェがどーんと置かれていた
周りは多くの艦娘が集っていた
敵意のない深海棲艦が珍しいのか、あるいは見極めるためなのか
だが、パフェの前にしてはしゃぐ彼女を見てそんな気は削がれてしまっている
駆逐棲姫「コレ…タベテイイノ!?」
間宮「どうぞ、召し上がれ♪」
春雨「私まで奢ってもらって…間宮さん、ありがとうございます」
いえいえ、無事に帰ってこれた記念ですよ、と
そう言って食堂の奥、厨房の方へいってしまった
それを皮切りに春雨の姉とも言える彼女たち、白露、村雨、夕立の3人が寄ってくる
本来ならばもう一人いるのだが、大和に招集掛けられたためここにはいなかった
その3人は春雨と同じ黒いセーラー服を来ており、同型艦だと分かる
明るい茶髪のボブヘアーと黄色いカチューシャが特徴なのが白露型1番艦、白露
薄い茶色の髪色と長いツインテールが特徴なのが白露型3番艦、村雨
腰まで伸びる白に近い金髪に獣っぽい耳ような髪型、首に白いマフラーを着けているのが特徴なのが白露型4番艦、夕立
ここ鎮守府に駆逐棲姫とすぐに打ち解けた艦娘たちである
因みに白露が速攻駆けつけて鎮守府の一番最初の友人となったようだ
そんなこんなで5人で無駄にデカイパフェを食べながら談笑していた
最初は駆逐棲姫と春雨が似すぎていることについて突っ込まれたが、それは後に2番艦によって演習場の出来事を話すことで驚くことになるがそれは別の話
主な話題となったのは沖縄での出来事、九州から東京へ移動してた間の事、東京滞在で起きたことなど
しかし、そんな彼女たちは一見中学生―――思春期に入った時期でもある
つまり、自然とそういう話になってもおかしくないということだ、何しろ提督以外で初めて男が鎮守府に滞在していることであるのだから
談笑している内に、演習場や幼い艦娘を泣かしたりなど現在進行形で色々やらかしている男の話題となっていた
村雨「そういえば」
村雨がふと、思いついたように2ヶ月も一緒に過ごしていたであろう春雨と駆逐棲姫にこう、尋ねる
あの人はどういう人なのか、と
春雨から聞いた話では流されていたところを助けてもらい、更にここまで連れてくれた恩人ということくらい
噂では大和に勝っただの、ロリコンだとか、実は幽霊だとか、等々色んな噂が飛び交っているが当事者に聞けばすぐに分かるだろうと判断したのだろう
白露も夕立も気になったのか興味津々で駆逐棲姫を見る
彼女たちも年頃なのだろうか、恋愛的な意味で期待しているのだろうか
しかし、最も親しいであろう駆逐棲姫はこう言った
駆逐棲姫「…ヒカリ―――キボウノ、ヒカリ」
時は遡る
それは艦娘に敗れ、生き延びたが最早生きる気力もなくゆらりゆらりと流されていた―――そして、運命の地ともなる沖縄へ漂着することになる
天を見上げれば爛々と輝く満月、波が打ち返す音以外何も聞こえない
立ち上がろうにも艤装は所々に壊れており、機能しない―――だから、動けずにいた
足はなく、腕で身体を引きずろうにも疲れ果てて動けず、艤装がなければ移動することさえ叶わない
ここで朽ちていくのだろうか、いつか艦娘に見つかり殺されるのだろうか
彼女、駆逐棲姫は孤独に、寂しく、アメジストの瞳から涙が溢れる
弱々しい声ではあるが、彼女はそう願った
―――――タスケテ
願いが届いたのか、偶然なのか、静寂の世界で聞こえたからなのか
ザッザッと砂を蹴る音がする、それもこちらに近づいている所為かその音が大きくなっていく
駆逐棲姫は恐怖を感じた
助けを求めたとはいえど、ここは浜辺―――つまり、陸の人間が近づいているということ
ザッ、ザッ、
黒い、黒い、人影が次第に大きくなるのが分かる
それが恐怖感を更に煽ったのだろう、堪らず声が出てしまう
駆逐棲姫「ヒッ―――」
そこから声が止まる
彼女の前に人間が立っていたのだから―――手に銃らしきものを持っていたのだから
駆逐棲姫はただ怯える、怯えるしかなかった
自分は殺されるのだろうか、解剖されるのだろうか、ただただ傷めつけられるのだろうか、と自分に降りかかるであろう事態を考えてしまった
振り払おうにも振り払えず、最悪の未来を考えてしまう
目の前のヒトは何も言わない
満月の光に照らされて、ヒトのカタチをしているということが分かるだけ
そんなヒトカタが銃を捨て、手を差し伸べた
「―――――イきタいか?」
何故か、ヒトカタはまるで深海棲艦みたいな独特の発音を
普通ならばそれは恐怖を包むような感覚に襲われるだろう―――それが深海棲艦である、駆逐棲姫はひどくほっとする
駆逐棲姫「イキ…タイ…―――タスケ…テ」
そう言ったと同時に、海の向こう、水平線から太陽が現れる
明け方の光が次第に闇の中に広がるように、その光がヒトカタにも照らされる
ボロボロの服に、ボサボサとなった黒髪、黒い瞳、所々にヒビ入った顔、そのモノは―――後にシレーカンと呼ぶようになる男であった
駆逐棲姫はソレを歪に感じながらも、太陽に照らされた男は"キボウノヒカリ"だと、そう確信した
これが出会い、彼との出会い
ここから互いに打ち解け、夢を語り合い、『楽しい海』の実現すべく奔走することになる―――
駆逐棲姫「コレガ、シレーカントノ…デアイ」
私にとってのヒーロー、私にとっての希望、と
そこには憧れに近いものであり希望そのものだと
それを聞いた4人はどういう人なのか聞いたはずなのに、いつの間にか出会いの話に
村雨(どういう人なのか聞いたのにますます分からなくなったよぉ)
夕立(姫の話からしてステキなヒトっぽい?)
白露(かっこいい!)
春雨(なんか美化されている気がします)
それぞれ、出会いの話を聞いて彼女の慕うシレーカンがこういう人なんだなと思う―――春雨のみ激しく違和感を持っていたが
深海棲艦である駆逐棲姫を助けたからいい人なんだろう、ヒーローのようなカッコいい人だろう、駆逐棲姫と春雨を除く三人はそう思った―――が
バンッ!!!
唐突に開かれた食堂のドアが壊れるかと思わせる音が鳴り響く
そこから食堂に、痴女としか言いようない格好をした艦娘―――島風が現れる
島風「おっそーいー!」
それはもう、馬鹿にするように煽るように誰かを挑発する
それは誰か?
「待ちやがれクソガキァ!―――ええい、退けい!重いわ!雪風ェ!」
雪風「雪風は離しませんっ!」
先ほど話題になっていた男である―――何故か背中に雪風が抱きついている
駆逐棲姫を含めた彼女たちは状況が掴めず、呆然するしかなかった
島風「私には誰も追いつけないよ!」
「キシャー!!」
雪風「行けー!」
煽りながら逃げる島風、奇声を上げながら追う男、男の背中をしがみつく雪風
そんな状況で、春雨は頭を抱える
戦闘では奇策を好んで使い、話し合いとなれば引っ掻き回し、面倒がイイと思えば突き放す、狂人かと思えば普通にいいお兄さんだったりと
少なくとも分かっていることは夢に対しては真っ直ぐでひたすらに進む人
春雨「やっぱり、どういう人なのかさっぱり分かりません」
喧騒の最中、ポツリと漏らす
取り敢えず今日分かったことは意外と子供に好かれやすい人であると、鬼化とした間宮さんが来る前に避難しようと思う春雨であった
その後、彼女たちは男のことをカッコいいとかステキな人とかそういう印象は消え去り、ただの変な人という印象しか残らなかった
もちろん、暴れた3人は間宮さんにコッテリ絞られた
夜
駆逐棲姫は浜辺で海を眺めていた
駆逐棲姫「ツキガ…月が、きれい……」
あの時と同じ、満月―――彼と出会った時と同じ満月
ザッ、と
あの時と同じように砂を蹴る音がする
振り返れば、シレーカンが歩いてこちらに来る
「よ、姫こんな所で何しているんだ」
軽く手を上げ、駆逐棲姫の隣に座る
駆逐棲姫「アノトキ、ヲ…オモイダシテイタ…」
「ああ、あの時ね―――出会った時のか」
懐かしいねえとシミジミになっているシレーカンを見続ける
あれから2ヶ月半は経ったのだろう、私は振り返る
色々あった
夢のためにとはいえ、かつての仲間を裏切り同胞を沈めた
海では経験することの出来ないことを経験してきた
横須賀に辿り着くまで様々な人を見てきた
敵であった艦娘と、普通に話せる仲になるどころが友達になってくれるものまで
「あれから色々経験してきただろう?―――人というモノを知ってもらうためにわざわざ九州に上陸したかいがあった」
シレーカンはそう言った
どうだ、こんな世界も悪くないだろうと
駆逐棲姫「…ウン」
否定しない
正体がバレても普通に接する人もいる
それが分かっただけでも嬉しかった、深海棲艦はバケモノなのだという事実があると知っていてもなお変わらず接してくれた
「これからは、本格的に動くことになる―――そして、夢を果たした時俺は死ぬだろう」
だから、俺がいなくなってもその経験をどう活かすのかよく考えてみろと
駆逐棲姫はただ頷くだけ
本当は楽しい海でシレーカンもいて欲しかった、側にいて欲しかった
されど、今シレーカンが生きていられるのは艦娘の力、英霊たちの想いがその託した艦娘の夢を果たしてもらうために彼を支えているようなものだから
夢を実現したら、その力は失われ、シレーカンは死ぬだろう
それを止める術はなく、救う方法はなく、どう転んでも変わらない
それがとても辛かった、胸を締め付けられるようで苦しかった
「おー、悲しんでくれるのか俺のために」
男は笑う―――死に近づいているというのに笑う
それがとてもとても不可解であった
駆逐棲姫「ナンデ…ワラッテ、イラレルノ…?」
「どうあがこうが死は避けられない―――人はいつかは死ぬし、それが遅いか速いかの話だけだ」
「正直に言うと生きたいさ―――だけど、約束した」
力を授けてくれた艦娘となった友人と、死んだ肉体を動かすために支えてくれる英霊たちとそして、お前
ならば、残された命を燃やしながらもその約束を、夢を実現してみよう
そして、笑って死のう―――お前たちを安心させるために
「それが、俺の役目―――笑っているのは人間として生きていた時の名残、人間であると自覚できるようにとな」
からから、からと
だからお前も覚悟しとけと、そう笑う
駆逐棲姫「ウン…」
力なく返事する
ずっと一緒にいたから、それが当たり前と思ってしまった
だけど、シレーカンは覚悟していた―――だから、私も覚悟しよう
夢を果たした時、笑って見届けられるように
セカイは動き始める
横須賀鎮守府での楽しい、楽しい日常は終わり
深海の小さな姫は密かな想いを秘め、夢の旅路を再び歩む
死にゆく狂人は約束を果たすべく、夢の旅路の終わりへ向かう
小話終わり
ここから本格的に沖縄復興へ
そのために必要なのがとある姫、も加わります
場所は移りて、沖縄
提督の協力を得、再び舞い戻ってきた
付いて行きたいと要望あった何人かの艦娘、提督からの十分な資源、妖精さん等々
取り敢えず元米軍基地―――鎮守府(仮)ではあるが、彼らはようやく動き始める
さてはて、現状を説明しよう
まずは、艦娘たちについて
横須賀鎮守府から、自らの希望でこちらに来てくれた者たちを紹介しよう
1人目は、春雨
駆逐棲姫の初めての友人にして、彼女を通して己のやりたいことを見つけた
それは駆逐棲姫と同じ夢、『平和な海』の実現である
2人目は、電
自身の記憶から見た憧れの人になるべく、そして敵をも救おうと決意した少女
3人目は、雷
妹の電と瓜二つであるが、癖のある茶髪のボブヘアーに側頭部から飛び出した髪が後頭部へ流れている独特な髪型が特徴か
妹とは違い、活発な子で面倒見が良い
彼女もまた、艦艇の記憶からなのか敵を助けることを美徳とし、彼らの夢に惹かれた1人でもある
4人目は、潮
由緒正しいセーラー服とでもいうかそれを着こなし、黒髪長髪、琥珀色の瞳、そしてヘンテコなアホ毛
駆逐艦ではあるが、先ほど述べたであろう他の艦娘よりも胸部装甲が厚いというのも特徴ともいうか
彼女も電と同じく、敵をも思いやる程優しすぎた―――そんな彼女はそんな自分に自信を持ちたいと願い、志願してきたのであった
そして、最後の5人目は、妙高
服の色は明るめの紫色を基調とした、秘書と思わせるようなそんな服、後頭部の長い髪を編み込んでいるシニヨンが特徴
自信と気品に満ち溢れた佇まいからして相当の手練だと分かる
彼女は、重巡―――ついてきた理由は聞かされてないが、第一線級で活躍している彼女がいるというのは心強い
その5人の艦娘と深海棲艦である駆逐棲姫、姫が支配下に置いた複数の深海棲艦
これで史上初とも言える艦娘と深海棲艦が合わさった艦隊が出来上がるだろう
では、そんな彼女たちは男の元へ何をするのだろうか?
「まず、復興する前にやることがある」
人間、艦娘、深海棲艦と
元米軍基地、鎮守府(仮)の会議室―――世にも奇妙な光景がそこにあった
右側の並ぶ席は艦娘が、左側の並ぶ席は人型の深海棲艦が、真ん中の一番デカく高そうな椅子にはこれから提督として動くであろう男がどっしりと座り、駆逐棲姫は彼の膝の上に座っている
そんな状況でも変わらず男はこう言う
「それは、地盤を固めること」
2年前は、デカイ作戦で殆どの艦娘たちが出払っていたゆえにあの襲撃と大きな被害
その被害を復興させるには人間の力が必要不可欠であること
だから、人間を敵から守る必要がある
と、そう説明した
そこで、艦娘側の代表ともまとめ役とも言える立場にいる重巡、妙高が手を挙げる
妙高「つまり、ここの防衛を私達が担えと?」
「否」
しっかりと、否定
理由は簡単―――艦娘は5人、深海棲艦は空母、重巡、軽巡が各1隻、駆逐艦が2隻、姫を含めれば11隻しかいない
それも深海棲艦は思考能力を持つ空母ヲ級を除くと、姫あるいは指揮権譲渡した場合の空母ヲ級の命令しか動けないという欠点がある
電「では、どうすればいいのですか?」
雷「うーん、と…わからないわ!」
潮「警戒態勢…だとやっぱり手薄になると思います…」
様々な、憶測が出るもそれらは結局手薄になってしまうものである
数少ない上、1隻でも失ったら貴重な戦力が潰れる―――ならば、どうすればいい?
春雨(…もしかして、新しい仲間を増やすのかな?)
春雨はそう思った
提督からはこれ以上の支援は出来ないとハッキリ言っていた、それは本部から疑いがかかるためである
それ故に、提督からの助力は叶わない―――なら、新たな深海棲艦を迎える、とそう考えた
その予想は当たっていたが、その仲間にするにしても思考能力持たない深海棲艦だと結局防衛に向かない
戦艦、正規空母なら期待はできるだろうがそもそも説得に応じるのか、また姫の支配下に置けばいいだろうが今度はその制海権が手薄になるという負のスパイラル
夢見る彼はどのような策を出すのだろうか、と期待をし始める
男は、やれやれと言った風に答えを述べる
「あっちにいた時、こっそりと資料を見て思いついた策―――こちらの戦力を削がずに済む策を」
自信満々に、こう言う
これは運とか奇策でもなく確実な方法だと
「陸上の防衛に特化したとも言える深海棲艦―――"港湾棲姫"を仲間にする」
シン、と
会議室は水を打ったような沈黙に閉ざされた
今日はここまで
思ったより時間が取れないので休みになる土曜日に更新します
それは確かに、陸上基地の深海棲艦であると推測され、海上に出て戦うことはないとされている
つまり、出撃は元々出来ないという反面、陸上の防衛に特化しているとも言える
つまり、彼が先ほど上げた港湾棲姫が適任であるということが分かる
だが、海に出て戦う艦娘たちはどのようにしてそこへ行くのか、仲間にするのかそこに疑問を持つ
妙高「仲間にすることは反論はありません―――ですが、どのようにしてそこへ向かわれるのですか?」
そう、道中に深海棲艦が犇めいている中、戦艦や空母など出会ってしまったら第一線級で活躍する妙高ですら苦戦を強いられるだろう
それも連戦となると撤退しなければならなくなるだろう
言ってしまえば、資源の無駄である
その旨を彼に伝える
それを聞いた男は、キョトンとしたように何を言っているのだろうかと言いたげな顔をする
「いやいや、そもそも戦わずに港湾棲姫のもとに行くつもりだよ」
そう言った
深海棲艦が犇めく中、戦わずにして辿り着く方法
聡明な彼女は気づく―――こちらは深海棲艦のみ固めて行けば戦わずにして済む、と
正解だと、彼女を素直に褒める
子供である駆逐艦たちじゃそういうのは向いてないが、彼女は理解が早い
この場にいる深海棲艦を敵を見なさずむしろ味方だと適応し、戦闘面だけではなく指揮官としての能力も備わっている
それ故に、彼は彼女なら任せられると
「よし、ここの提督として命令を下そう―――妙高を秘書艦とし、艦娘と深海棲艦の指揮を任せる」
そう、言った
続けて、彼女達にこう言う
「春雨、電、雷、潮は妙高の指示に従い、妖精さんと協力し合い鎮守府の立て直しを」
「駆逐棲姫は指揮権を空母ヲ級に一時譲渡、ヲ級は妙高の指揮下の元に彼女の命令に従い、港湾棲姫が来るまで防衛に当たれ」
「妙高は現場の状況に合わせ、指揮をしてくれ」
各々に指示を、やるべきのことを伝える
艦娘と、深海棲艦はそれに答える―――了解、と
「そして、俺は一時ここに離れ、姫と共に港湾棲姫の元へ向かう」
彼が港湾棲姫の元へ行くと言った
当然、駆逐棲姫を筆頭に彼女たちは危険だからやめてと引き止める
「姫はともかく、俺もいけば戦闘は避けられないと言いたいのだろう?」
だが、姫だけでは証明しようがない
説得力を持つために俺がついていく必要もあり、何より自分で話した方がやりやすいと
「それに、考えがあるから安心しろ―――だから、各々の役割を果たせ」
からから、からと
それぞれの役割のために行動に移り、会議室は2人しかいなかった
その2人は男と、妙高
艦娘から力を譲渡されるも憎しみ、絶望で深海棲艦になってしまった
されど、不幸中幸い―――艦艇は女性の魂が宿るために男性であった■■は成り損ねてしまったが、ヒトとしての意思はあった
人間として死に、艦娘の力は少しではあるが使用できるが艦娘にあらず、負の感情で深海棲艦に成りかけるも男の故に中途半端な存在へ
それ故に、ああそれ故に
「俺はもどきではあるが―――人間、深海棲艦、艦娘と、それらに等しい存在にもなれる」
つまり、深海棲艦と等しい存在と成り、道中戦わずにして辿り着けるとそう言った
これで納得したろ?ここから少し話が変わるが、とさらに続ける
どの存在もあやふやなために、3つの魂を宿すために、どの存在にもなれると
その代償が―――死人と等しい、肉体も魂も輪廻に廻ることなく跡形もなく消える、と
だからこそ、言わなければならない
「お前にもハッキリと言っておこう―――俺に情を持つな」
夢を果たした時は、己を支えている力が失われ死にゆく
だからこそ、この後のやるべきことを教えよう―――だから、お前に任せたい
妙高「…分かりました、"提督"」
彼女はその事実を、彼の覚悟を受け止めた
それはそれはとてもとても重いもの―――夢なんか捨ててどこかで過ごせば生きていられるのに
それを良しとせず、力を授けてくれた艦娘と、駆逐棲姫の約束を果たすために命を燃やして駆け抜ける
その生き様を、その想いが彼女の心に響く
だから、受け継ごう―――
「すまないな、こんな辛いことを背負わせて」
彼は謝る
言ってしまえば、彼女に夢を果たした後のことを託すということはそれだけ苦労をかけることになるから
人と深海棲艦の溝は深く深く、それを埋めるために立ちまわなければならないのだから
妙高「いえ、私もその夢を果たしたいと恋焦がれていたのですから―――あなたがキッカケをくれたのですよ」
彼女は感謝していた
キッカケをくれた彼に、だから背負おうと
「そう、か―――」
少し、照れたように頬をかく
感謝されることに慣れていないのだろう、子供ではなく大人の美女から感謝であるからか
時間を無駄にしないために思考を切り替える
「よし、ならお前に任せたいことがある―――俺がいない間、人間をこちらに連れてほしい」
妙高「それに何か考えが?」
「うむ、横須賀鎮守府に行く前に色々と下準備はしておいた」
それは彼女の元上司、提督と出会う前に訪れていた
それは深海棲艦を信仰する教団が集う場所
彼らと出会い、説き伏せた
深海棲艦と共に生きていける世界を創るために、協力してほしいと
彼らは躊躇うことなくそれを飲んだ
彼らが望んでいた世界でもあるのだから
「こうして、沖縄に出る前にかき集めた大金を渡し、船とかここに住むための必要なものなど整えてもらうように言っておいた」
「技師とかも集めてくれると言ってくれたから復興するために必要不可欠であることを忘れるな」
妙高は驚いた
深海棲艦信仰しているが故に鎮守府などに嫌がらせなど繰り返していた狂信者をどうやって説き伏せたのか
それも沖縄に出る前に先のことを考え、そういう作戦を作り出したことか
どちらにしろ、二十歳と若いながらもこうして着々と事が進めている
もしも、沖縄ではなくどこかの鎮守府に着任していたら英雄になれたのではないかとそう思わせる程の資質が彼にあった
「色々考えたが、深海棲艦を信仰している人間の方が1番分かり合えるしな」
そこからメディアを通して、世間を知らしめる
戦後に、他国を褒めていい国だと、いい人がいるのだと認識させたようにその同じ方法で
つまり、味方になった港湾棲姫を通して姫級を仲間にしていく
もし、説得に応じず、どうしても敵になるようならば倒すしかないがとにかく深海棲艦を仲間にしていく
「そのため全てに掛かっているのは姫だな―――俺もサポートするつもりだが、人間代表として説得力を持たすためについていくだけだからな」
駆逐棲姫が港湾棲姫をどう説得するのか、味方になってくれるのか彼女次第である
だが、彼らは知らない
その港湾棲姫は駆逐棲姫の知り合いであることに
人や艦娘のように友人や家族がいることに
こうして歯車はカチリ、と噛み合う
まるで、こうなるように進んでいるかのようにくるくると回る
同じ想いを持つものが惹かれ合う―――沖縄という舞台で集う、集い始める
休憩時間の合間にささっと書いて投下
爆乳大要塞が仲間になるのはわるさめちゃんのお陰で確定です
復興のための根回し、わるさめちゃんの存在でサクサクと夢の実現が近づいています
それを代償に男は―――
男は驚愕の色に染まっていた
それは何故か?
沖縄から一時に離れ、自ら深海棲艦もどきとなり、深海棲艦の犇めく海域を無事抜けた
駆逐棲姫に引っ張られながら南へ南へ向かってオーストラリア海域に入った
港湾棲姫がいるだろうと陸に上がる
駆逐棲姫を背負い、海辺に沿って歩いていた所、基地と思わしき場所に辿り着く―――そこに港湾棲姫がいるに違いないと予感していた
その予感は当たっていた―――が、問題はその後であった
港湾棲姫はいた
姫級であるから駆逐棲姫やあの女と同じく人型であるというのは分かっていた
額には大きな角、両手には大きな鉤爪、髪は透き通るほど真っ白な色に腰まで伸びている
腰周りはキュっと引きしまり、脚はむっちりしていて、グラマラスな体型、ノースリーブのたてセタを連想させるリブ生地のワンピースを着ている
何より、目を引くのは胸部―――それも男が驚くほどの
デカイ、ただデカイ、それだけしか言えない
横須賀鎮守府で会ったことある高雄型の人はメロンかと思わせる程の乳の持ち主であったが、これはスイカと言っても過言ではない程
彼は男性である
悲しきかな、男の性―――それに目を引かれてしまうのは仕方ないのだろう
「デケェ…」
つい、ポツリと漏らしてしまった本音
そそれは当然、背負っていた彼女にも聞こえてしまう
彼女、駆逐棲姫はその発言の意味を察した
同じ魂である春雨にも劣るその胸―――何処かの軽空母程ではないが少しコンプレックスを持っていた
だから、そんなことを呟いた彼にイラッとしてしまった
両手を大きく広げ、男の頬へ向かって引っ叩く
パァン、と
頬を叩かれ、素晴らしくもいい音を出した
「―――ぃてええぇ!」
人ならぬモノが全力で叩いたのだから
その痛みに耐え切れず、堪らず絶叫してしまう
それは当然、遠くいた港湾棲姫も気づく
何事かとその方向を見れば、2人―――男と、自身の妹である友人である駆逐棲姫がいた
港湾棲姫「クチク…セイキチャン…?」
そんなことがありまして
無事邂逅を果たした彼らは話し合いをすべく、港湾棲姫がいた基地の何処かの一室
「なあ、なんで怒っているんだ姫ェ…」
駆逐棲姫「ツーン」
港湾棲姫「…?」
引っ叩かれた原因も姫が怒っている理由も知らず戸惑う男
つーんと口で言いながら男を無視するふてくされ気味の駆逐棲姫
何が何が起きているのか分かっていない港湾棲姫
「さて、港湾棲姫…さんでいいのかな―――姫とはどういう関係なんだ?」
取り繕う間もないので一旦放置することにした男は港湾棲姫にそう聞く
出会った時、駆逐棲姫が彼女に対して"お姉さん"と呼んだことが彼にとって気になるようだった
だが、港湾棲姫は何も言わない
取り敢えず、案内はしたがこの男は人間であるのに、不思議と嫌悪感を持たないこと
そして、今は喧嘩しているようだが駆逐棲姫が彼に懐いていること
そこに疑問を持ち、警戒しているのだろう
だから、彼の質問に答えずに
港湾棲姫「オマエハ…ナニモノダ…」
「人間と艦娘と深海棲艦が混ざり合ったナニカ、―――便宜上、ナナシと呼んでも構わない」
そう言われることは予想していたのだろう
その問いに答え、ついでに自己紹介もしとく
港湾棲姫「―――ハ?」
3つの存在が混ざり合ったナニカ、と事情も知らない彼女にとって意味が分からないことだった
男は語る、己の過去を、何が合ったのかを、そして己の為すべきのことを―――
語り始めて、数十分経った
その出来事は事実だと駆逐棲姫のフォローにより、港湾棲姫は一先ず信じることにした
その内容が―――特に男の存在があり得ないと思ったが、嫌悪感持たないことがソレを証明していた
港湾棲姫「ソレデ…ワタシニ…ナニ…ヲ…モトメテイル」
事情を知った彼女は、わざわざ自分に会いに来た理由を問う
それに男は当然のように言う
「夢、さ―――姫が望む『楽しい海』、俺は誰もが共存していける世界を創る」
自分の理想を、姫の理想を
互いに手を取り合ってその理想を叶えるべく奔走していることを
「だから、お前にも協力してほしい―――理想の初まりの地となる、沖縄へ来てほしい」
駆逐棲姫「オネエサンモ、イッショに…イコウ…?」
彼と、彼女
その二人は港湾棲姫へ手を差し伸べる―――共に行こう、と
港湾棲姫は争うことが嫌いであった
誰にも邪魔されず、妹と一緒に平和で過ごしたかった
だが、それは叶わなかった
艦娘の襲撃に合い、追いやられたが、それが原因となったのか戦艦棲姫に妹に連れて行かれた
その妹は港湾棲姫に傷つけた艦娘を憎み、戦艦棲姫について行ってしまった
港湾棲姫(モシモ…カナウノナラバ―――ホッポウチャン…ト)
あの子にまた会えるのならば、また一緒に過ごせるのならば、平和に暮らしていけるようになるのならば
彼に、彼女に着いていこう
港湾棲姫は手を掴んだ
死にゆく狂人と、深海の小さき姫の手を―――
そして、望んだ―――妹を助けてほしい、と
「了解、だ―――俺も全力で助けよう」
駆逐棲姫「ウン…ワタシモ、トモダチ…ダカラ…タスケル!」
彼らは答えた
全力で助けるとそう、誓った
こうして、彼らは手を取り合った
3人は北方棲姫を助けるべく動き始める
「―――そう、港湾棲姫が動いたのね」
「やはり、あの男の出会いによって」
「フフ、港湾棲姫が動くということは間違いなく"北方棲姫"でしょうね」
クスクス、と嗤う
「北方海域に、"戦艦レ級"を向かわせなさい」
「あらあら、酷いことするものね―――当然、あの男は生かしなさい」
「裏切り者、いえ、彼に纏わり付く害虫は排除しなさい」
嗤う、嗤う
「ああ、私の愛しき者―――」
「―――もう少しで逢えます」
静かに―――"それ"は嗤う
今日はここまで
港湾棲姫のおっぱいの話をいれるつもりだったけどそれだけで軽く4000文字超えたからやめときました
港湾棲姫の約束を果たすべく、男、駆逐棲姫、港湾棲姫の3人は北方海域に入っていた
沖縄にいる彼女らに事情を話すために、燃料補給するために一度、沖縄に寄り、そのまま北方海域へ
幸いにも道中深海棲艦出会うことなく、スイスイと進んでいた
「しかし、ここまで深海棲艦が見当たらない…何か不気味だな」
片言混じった発言
深海棲艦に襲われないため、そして海の上に立つために深海棲艦になっている
そのためか微妙に発音が所々に可笑しい
それは置いとくとしよう
しかし、彼の言うことは最もであった
港湾棲姫のもとに向かうときは道中深海棲艦が彷徨いていたのに対し、北方海域は深海棲艦の姿すら見えない
港湾棲姫「ツマリ…マチブセサレテイル…コトカ?」
「…かもな、俺たちというより港湾が動いたことで固めてきている可能性がたkお゛う゛」
と、彼女の問いに答えると同時に、ドボンと海へ勢い良く沈んだ
それを見てた駆逐棲姫は慌てて彼を引っ張る
海から引っ張りあげたら彼の見た目が深海棲艦から人間へ戻っていた
立つことが出来ても移動出来ないため駆逐棲姫に引っ張って貰っていたのが幸いだった
が、突然沈んだから心配される
駆逐棲姫「ダイ…ジョウブ?」
「おう、問題ない」
そう、答える
実際は意図して解いたわけではなく、港湾棲姫が仲間になってから自身の身体に異変が起き始めていた
元々、不安定の状態であったがここにきて急に異変が起きるようになっていた
(それだけ夢の実現が近づいているのか―――それと同時に死が近いのか…)
己が今、動ける状態なのは艦娘の力、英霊たちの意志
つまり、夢が達したならその力は失われるだろう―――つまり、夢の実現が近づけば近づくほどだんだんとその力が失われていく
(ここに来て、急激な異変―――港湾の妹を救うことが夢の終わり…なのか?)
彼はそう思った
自身が生きているようなのは一種の契約みたいなものであるから、その力が薄れてきている意味はそういうことではなかろうかと
駆逐棲姫は察していた
彼の身体が滅びに近いことを、終わりが近いことを
だから、だからこそか
駆逐棲姫「シレーカン…」
彼を心配するような、彼を失うことを恐れているような、そんな声
「―――さあ先に進もう」
彼女の心情を知って知らずか男は大丈夫だと言わんばかりに振る舞う
その様子を見ていた港湾棲姫は思う
彼から、彼女から互いの互いの事情を、歩んできた道を、聞いたからか
彼女もまた察していた
男の終わりが近いことを、―――駆逐棲姫は彼を…
彼は彼女らはただただ向かう、北へ
進む、進み、北方棲姫がいるであろうという陸地が見えてきた
男は人間に戻ってしまったため糞寒い海域から抜け出せると、駆逐棲姫は久しぶりに友達に会えると、港湾棲姫は妹に会えると
それぞれに喜んだろう―――しかし、その歓喜はぶち壊されることになる
「キヒヒヒッ!」
ゾクリ、と
突如、響く笑い声
その場にいた者達が恐怖で縮み上がるような、背筋に走る悪寒
彼らはその笑い声をした方を見る
港湾棲姫「ナ…ナンデ…」
駆逐棲姫「―――?!」
驚愕するしかできなかった
本来ならば、遥か南の方にいるはずなのに、北の海にいるのか
深海棲艦である彼女たちは知っていた―――そのモノが何者かを、その恐ろしさを
白い頭髪
服についている黒いフード
白く、太い、ヘビのような尻尾
ニコニコと、どこまでもどこまでも純粋な笑顔を浮かべている
そのモノは―――戦艦、レ級
彼女を知るものならば恐れるしかない
そう、味方であっても恐れられる存在、果ては一人連合艦隊と呼ばれるほど
姫級ではないのに、姫級をも超える強さ、圧倒的な暴力
そんなものを対面してしまった
駆逐棲姫と港湾棲姫は恐れるしかなかった
港湾棲姫いるのならば陸の上ならば何とかなっただろう―――しかし、ここは海上
だが、男は違った
いや、男の見ている対象が違うというべきか
「久しぶりね―――私の愛しい、愛しい子よ」
「ああ、たまらないわ―――その、怯えきったその顔」
長い黒髪とネグリジェのようなワンピース
2本の角が生えており、妖艶な微笑みを浮かべるそれは―――2年前、彼の家族を、彼の命を奪った、あの女
姫級、戦艦棲姫
2年という永い時を得て、対面す
男の顔は歪む―――憎しみで、憎悪で、苦痛で
戦艦棲姫は微笑む―――男に出会えた喜びで、ようやく手に入れられるという歓喜で
終わりの刻は近い―――
次回、最終回
あ号消化完了
飯食ったら、最終回投下します
その状況はまさに絶望であった
そんな絶望な状況の最中に、戦艦棲姫は無慈悲に命を下す
戦艦棲姫「害虫どもを―――殺しなさい」
その言葉を聞いたレ級は動く
己の艤装である尻尾を男たちの方へ向ける―――今にも放たれんと
(落ち着け―――それくらいは予想できただろう、姫級が出るとは思わなかったが)
思考、思考、思考
この状況を突破すべき策を
(ん…?)
何かに引っ掛かった
彼女はなんて言ったのだろう―――"私の愛しい、愛しい子よ"と
2年前に彼女によって殺されたはずでは?
それから友人であった艦娘に救われ、―――それからどうなったのだろう?
そこから記憶がない
何故抜け落ちているのだろう―――深海棲艦になった故か、あるいは死に掛けだったから曖昧になっているのか
そこに何があったのか知らないが、彼女は自身を狙っているのでは?
男はそれに賭けた―――闇の中から一寸の光を掴むために
レ級の砲塔が彼らに向けているというのに、男は駆逐棲姫を、港湾棲姫を庇うように前に立つ
その行為が庇われた彼女たちを驚かせる
駆逐棲姫「ナニヲイテイルノ!?」
港湾棲姫「ムボウナコトハ…」
と言いかけて港湾棲姫は気づいた
レ級が攻撃してこない―――それどころが男の存在が邪魔なのか、苛ついているように見える
今度は男が嗤った
「なあ、戦艦棲姫よ―――俺が目的なんだろ?」
戦艦棲姫「そうよ」
即答
彼女の笑みは絶やさずに微笑む
何故なら彼女は彼ならついていくから駆逐棲姫と港湾棲姫を見逃してくれと懇願する、と思っていた
「よし、姫―――お前1人で逃げろ」
だが、その予想は裏切られた
戦艦棲姫の戸惑う間にも男は指示する
駆逐棲姫「ワカッタ」
その言葉を最後に駆逐艦としての速さを活かし、彼女1人のみその場を離脱し始める
その速さはレ級では追いつけない―――ならばもう片方を…
「港湾、指示に従って進め―――そして俺を盾にしろ」
だが、港湾棲姫は男の指示に従い、文字通り盾にする
これでは攻撃が出来ない―――何故なら、戦艦棲姫の目的は男なのだから
戦艦棲姫の笑みが消える
2年前のあの時と同じように何も出来ないだろう、と高を括っていた故に
そんな方法をするとは思わなかった
その港湾棲姫が進む先は陸地―――陸上基地深海棲艦としても能力を十全に引き出すためか
戦艦棲姫「レ級、止めなさい!」
レ級「アイツ、ムカツクシ、コロシテモイイカ?」
あいつとは、煽るように嗤っていた男のことだろう
戦艦棲姫「ダメよ、彼は、あの男は我々の"王"になるべき男なのだから―――」
王になるべき、と
深海を統べる王―――人間から言えば深海の提督というか
彼女、戦艦棲姫の目的はあの男を深海棲艦を率いる提督にすることであった
2年前に本土上陸を阻止された上、ミッドウェー島も奪還された―――あの忌々しい提督を殺すために
腹いせで沖縄で暴れた、そして偶然見つけたあの男―――殺したはずなのに、男性だから艦娘の力受け付けないはずなのに、生き残ったどころが英霊たちの魂と"適合"した
半分も吹き飛んだ腹がみるみるうちに再生、それどころが息を吹き返すまでに
だから脅威を感じた
だが、艦娘の力を適合するというのならば、"深海棲艦の力を入れたのならば?"
男は間違いなく、憎しみに、絶望に染まって死んだだろう―――艦娘の力が渡されるまでは
憎しみに染まりに染まったのならば艦娘の力を上書きし、深海棲艦に近い存在になり、間違いなくこちら側に着くだろう
そう考えた
彼女は眠っている男に近づく
まだ再生途中であるから完全に行き渡っていないだろう
少しずつ再生している腹の中に自身の血を流し込む―――姫級の力を以って
戦艦棲姫「愛しい子よ―――我らの王になりて人間を滅ぼしなさい」
この沖縄という地で深海棲艦の力を馴染ませるように深海棲艦に襲わせて育てよう
クスクス、と嗤う
ああ、楽しみだ―――どんな子に育つのだろうか、私の愛しい王に相応しい男に育つだろう
その時死んでいた彼は知らないのだろう、彼の身体には深海棲艦、それもレ級と共に追っかけている戦艦棲姫の血がながれていることに
そんなこともつゆ知らず男は次の策を考える
「港湾、あとどのくらいで着く?」
港湾棲姫「アト…スコシ、デモ…オイツカレル…!」
「時間は少し稼ぐ、そのまま突っ走れ!」
背負っていたバッグの中から、小さなパイナップルのような黒に近い緑色―――手榴弾である
沖縄の水上バイクで投げていた時とは違って港湾棲姫の肩を掴んでいるため、狙って投げやすい
「フッ!」
掛け声とともに一投
ピンポイントに追う彼女たちの進行上に投げ込まれ、ドォンと爆音とともに水飛沫を上げ、視界を遮る
レ級「クソガ!コロシテヤル!」
戦艦棲姫「くぅ!」
当然ダメージはない
が、視界を遮るだけでも時間稼ぎには効果があったようだ
人間の形をしている上、人間と近い感覚を持っているゆえに、水飛沫が目に入ったらそれだけでも効果がある
兵器には通らないが、ただの水だけならば通るだろう―――これも艦艇としての特性なのだろうか
こんなことを考えながら、的確に敵の進行上へ投げ込む
そうしているうちに、ジャリとそんな音がする
港湾棲姫「ツイタ…ゾ」
それは彼女が砂を踏んだ音だった
陸地に上がったのだろう、だがのんびりしている暇はない
「よし―――港湾、これが最後の命令だ」
男は覚悟する
戦艦棲姫とレ級を迎え撃つために、"最後の策"のために
「お前の妹、北方棲姫を連れてこの島から脱出しろ」
港湾棲姫「エ?オマエハ…ドウスルノダ?」
これには驚いた
ここで陸上基地深海棲艦として迎え撃つものだと思っていたがゆえに
「愚問、あいつらをここで迎え撃つ―――後のことは頼む」
そう言って、防水のためだろうかクリアファイルを出し、その中には封筒らしきものが入っていた
それを港湾棲姫に渡す
港湾棲姫「コレハ…?」
「脱出したら―――沖縄にいる彼女たちに渡してほしい」
この発言の意味は彼は沖縄に戻らないということ
それは何故か?
「あと、服を汚してゴメン」
その言葉で、意味を知る
白いセーターが赤く、紅く、朱く染まっていた―――男の血であることに間違いないだろう
バッと
彼を見れば腹部から服の上からでも分かるほど血が止まることなく流れている
「終わりが近い―――英霊たちの力が薄れて、2年前の傷が戻りつつある」
「あいつらを倒すことで俺の、友の、英霊の夢が果たされるだろう」
命を賭して叶える時がきた、と
港湾棲姫は何も言えない、どうすることもできない
「行け―――妹を助けたいのだろう?ならば、行け!」
男の一喝で我に返る
そして、走りだす―――妹のもとへ
彼に感謝しながらもその彼に恩を返せないことに悔しさを感じながら賭ける
彼女は駆け出したのを見届け、男は砂辺より奥の陸地へ歩き出す
ポタポタッと血を垂らし、ギチギチと自身の身体の崩壊を感じながら
男の妨害のせいで陸地に辿り着くのが遅れてしまった
それに苛立ちを感じた―――だが、それは気にしない
彼らが陸地に上がったら港湾棲姫の迎撃があるものだと思っていた故に、そっちの思考に囚われていた
戦艦棲姫(何故かしら?―――港湾棲姫の力を十全に引き出せるチャンスでもあったのに)
レ級「ソッチカラチノニオイガスルゾ!」
血?と思いながらレ級の指差す方向を見れば血の痕が
それも尋常じゃない量で民家の方へ続いている
戦艦棲姫「行きましょう―――間違いなく、あの子だわ」
2年前に自身の血を入れたからこそ分かる
誘いだしているのだろうか―――それが罠だとしてもこちらにレ級がいるのだから押さえつけることは容易い
故に、進んだ
少し歩いた所に男はいた
木で作られた長椅子に座っており、腹からは2年前に彼女が撃った痕とも言えるところから血が流れている
「よう、遅かったな」
そんな状態だというのに嗤っている
戦艦棲姫「ええ、そうね―――レ級」
ダンッと
地の蹴る音
戦艦レ級は男のもとへ駆け、ヘビのような巨大な尻尾で取り押さえる
男は弱っていたのだろう、何の抵抗もなく地に押さえつけられた
戦艦棲姫「ああ、愛しい子よ―――ようやく会えました」
ようやく、目の前に
触れ合える距離にいること恍惚の笑みを浮かべる
戦艦棲姫「愛しき子よ―――受け入れなさい」
憎しみを、憎悪を、悪意を、受け入れなさい
さすれば、死にゆく貴方は救われるでしょう
戦艦棲姫「そして、王になりなさい―――人類を滅ぼす魔王に、深海の楽園を創りあげましょう」
「断る」
彼女の誘いを蹴る
戦艦棲姫「あらあら、2年前に私の血を流し込んだのに、深海棲艦を襲わせたのに―――未だに人の意志を持つなんてね」
男は何も言わない
驚きの事実であったが、それはもう既に遅し
「そうか―――では、あんたらに聞こう」
「人が、艦娘が、深海棲艦が共存し、笑っていける世界は―――」
戦艦棲姫「興味ないわ、貴方の夢なんて」
レ級「キヒヒヒ、タタカイナイトカ、イヤダネ」
彼女たちはそもそも人類と艦娘を滅ぼすためにいるのだから
変わらない、変わるはずがない―――駆逐棲姫や港湾棲姫とは違う、全ては深海棲艦のために自身の欲望のために動いているのだから
「…そうか」
男は悲しそうに、哀れむように
夢のために奔走していたがゆえに、ただただ悲しむ
「そういや、あんたは言ったな―――まだ人の意志をもつなんて、と」
正直に言おう
俺は、憎しみに囚われていた
力を授けてくれた友の約束を、英霊たちの意志を忘れてひたすらに憎んだ―――彼女と出会うまではな
「途中まではあんたの思惑だった―――だが、変わった、戻った、夢見る少女駆逐棲姫によってな」
からから、からと
それはまるで妹を見守るかのような、そんな笑み
戦艦棲姫の顔が歪む
あの駆逐棲姫かと、苦虫噛み締めたかのように
「諦めようにも諦めきれず、少しでも前に進もうとする姿のお陰で自身の、彼女の約束を、夢を思い出した」
レ級に押さえつけられながらも、なんとかズボンのポケットから小さな機械と、拳銃を取り出す
「なあ、聞いていただろう―――」
戦艦棲姫「?―――まさか!?」
小さな機械を見て察したのだろう
彼女たちが受け入れてくれたらそんなもの必要なかった―――だが、もう遅い
その小さな機械から突如聞こえた―――その声は2人にも聞き覚えが合った
提督《ああ、聞いていた》
それは提督であった
横須賀鎮守府の英雄にして、戦艦棲姫やレ級とも何度も戦ったことがある指揮官
「ここまでの話は聞いていただろう―――"俺ごと殺せ"」
提督《…そうか―――しばしの別れだな》
ただ、それだけ
ブッと通信が切れる
2人が呆気に取られている内に拳銃―――信号拳銃を天に向けて発煙弾を撃つ
パアンと
赤い煙を撒き散らし、天まで登る
その意味は、その意味をすることは
「からから、姫はただ逃げたわけじゃない―――俺が意味もないことをする思っていたのか?」
そう、彼は備えていた
何があってもいいように、最悪北方棲姫と戦うことを頭を入れていた故に
北方海域に向かう前に横須賀鎮守府の提督に要請していた
大和たちを、陸上基地特化した装備で来てほしいと
待機していた、彼女たちを呼ぶために駆逐棲姫は離脱したのであった
勝利を確信
そして、高らかに叫ぶ
「俺の勝ちだ、俺たちの夢は彼女たちに託した――――だから、笑って死のう」
ドオオオオンッッッ!!!
爆音、いくつかの爆音があちこち響く
天を見上げれば多くの爆撃機、海の方を見れば多くの艦娘たちが砲弾を放つ姿
レ級「バカナ、イツノマニカンムスドモガ!!」
悲鳴とも言えるレ級の声
海の上なら最強と言っても過言ではなかった―――だが、陸の上ならば?
その力は発揮することは出来ないし、対抗にしようと海までは駆けるも既に遅し
日ノ本の象徴、大和を筆頭に戦艦たちは徹甲弾を、重巡航巡らは三式弾を、空母たちは爆撃機を
その島ごと沈めかねない勢いで多くの砲弾が、多くの爆撃が戦艦レ級は為す術もなく貫かれ、焼かれ、破壊される
戦艦棲姫もまた迎え撃とうにも、陸上の故に装甲が貼る事ができず無残にも壊されていく
今度は提督ではない―――死に掛けの男の策によって
戦艦棲姫「――――――?!」
悲鳴も、嘆きも、苦痛も上げるまもなく、滅びていく
その様を見届けた、男は嗤う
「なあ、俺は約束守れたかな―――」
己を生かしてくれた艦娘に、問いかける
意識が薄れていく中に「ありがとう―――■■」と聞こえたような気がした
男の、旅路はここで終わり
ゆらりと、ゆらりと燃え続けていたローソクの火が消える
からから、からと
嗤う声はもう二度と響くことはなかった―――
これにて終わり
次はエピローグと、沖縄復興府の後日談です
【エピローグ】
あれから数ヶ月経ったのだろうか
アリューシャン列島のうち、1つの島を焦土化した
だが、深海棲艦の主力級、戦艦棲姫と戦艦レ級を倒したことによって深海棲艦の支配力が急激に弱まり、一部の海域では海上輸送路が解禁された
近いうちにどの国でも物資が輸送されるようになるだろう
テレビを見れば、和解した深海棲艦が協力し、海上護衛や輸送船護衛を担っているなどニュースになっている
それは某テ○東もニュースになるほどである
人類も、艦娘も、深海棲艦も、共存していける世界に実現している
それを実現したのは、横須賀鎮守府の英雄と謳われる、提督ということになっていた
だが、誰も知らない
関わった人以外は誰にも知らないだろう
最後の最後まで、本当の名前を語ることなかった男の存在を
彼は死んだ
鎮守府内で提督からは、アリューシャン列島にて病死という形で発表された
彼と深く関わっていたもの、事情を知るものは死が近い故に確実に倒すためにおびき寄せたと理解していた
問い詰める、までもなく関係者のみ集められた
そして、提督から彼が最後に提督と通信した記録を見せることで、ある者は目を伏せ、ある者は涙をこらえ、ある者は子供のように泣いた
彼の遺体を故郷である沖縄で埋めたいという者もいたが、捜索出しても未だに見つからないというもの
焼きつくされたか、あるいは吹き飛んだのか、そのどちらかであろう
その後、彼の最後の遺品となった手紙―――遺言状が港湾棲姫から渡され、これからやるべきのことが連々と書かれていた
そして、それぞれの人関わった者たちへの手紙も配られ、それぞれやるべきことを為すためにそれぞれ行動に移す
こうして、今の沖縄は―――
人が、艦娘が、深海棲艦が1つの場所に集まり、差別もなく三者の壁もなく、それぞれが普通の生活をしている
沖縄以外の人々が見れば、それは奇妙な光景だと言うだろう
男の手引で、本土の深海棲艦を崇める宗教団体を沖縄に住んでもらうことになっていた
狂信者のゆえ、まとめるのに苦労したが、深海棲艦である駆逐棲姫の鶴の一声で統一された―――それからは脅威の速さで瓦礫撤去、仮住まい、鎮守府建て直し等々進めていった
さらに深海棲艦と共に過ごしていたゆえにか身近に感じるようになり、彼女たちを崇めるというより普通に接するようになった
それも男の画策であったのだろうか?
こうして、わずか半年で普通に過ごせる環境が整い、噂が広まっていき、興味を持った人々も集うようになり、メディアを通して世間にも知られるように
人々はこういう―――まさに平和そのものだと
かつての敵だった深海棲艦は
防衛を担当することになった港湾棲姫と北方棲姫が着任した頃は疑いの目もあったが、陸上基地の能力を十全に発揮、幾度の脅威から被害を出すこともなく守り続けたことで住民からも認められるように
北方棲姫は爺さん婆さんたちに孫と接するように飴などお菓子に与えられるなどかなり甘えられている、一方、港湾棲姫はわがままボディのせいか、多くの男性達に求婚されたりするが全て断っている
初期からいた空母ヲ級らは艦娘と共に出撃、あるいは輸送船の護衛など様々な仕事をこなし、休日には知り合った主婦に料理を教えてもらうなど満喫している
駆逐イ級は子供のおもちゃになっているがそれはそれ
そして、艦娘は
妙高は男の意志を継ぎ、提督ではないが提督代理として活躍しており、鎮守府を動かしている
彼女がいなければ沖縄に平和が訪れることはなかっただろう、と言われるほどである
復興してから半年、警察や議会など重要機関が機能していないため、彼女によって回しているのが現状
そのためか、住民たちに慕われ、彼女の負担を軽くするため自警団を設立などする者まで
電や雷、潮は艦娘として任務をこなしつつ、出撃した先に出会った深海棲艦を説得して回るなど彼女たちらしいやり方である
時には戦闘になることもあったがそれを叩き伏せ沖縄に連れていくが、もはや説得(物理)になっているが仲間である姫級を見せれば納得して仲間になるなど深海棲艦の和解を担っている
最後に、駆逐棲姫と春雨は今―――
駆逐棲姫「ヤラセハ…シナイ…ヨ……ッ!」
春雨「雷撃戦、始めます!」
沖縄の海、とある演習場にいた
その掛け声とともに魚雷が放たれる
その魚雷の進行方向は戦艦、大和
大和「くっ!」
被弾する
演習用の砲弾、魚雷のため傷つくことはないが被弾したため大破判定が下される
提督「そこまで!」
提督の掛け声で一旦演習を止める
駆逐棲姫、春雨の率いる艦隊と大和の率いる艦隊が提督のもとへ集まる
提督「…凄いな、春雨、駆逐棲姫」
そして、提督からの賞賛の声
駆逐棲姫たちが率いる艦隊は駆逐艦、軽巡しかいないのに対し、大和の艦隊は戦艦や空母などが編成されていた
つまり水雷戦隊でありながら戦艦、空母で編成された機動部隊に対して勝利をもぎ取ったということ
春雨「えへへ」
駆逐棲姫「フンスッ!」
照れる春雨、ドヤ顔の駆逐棲姫
提督「しかし、提督の指示ではなく旗艦を指揮官にする―――昔ならば可笑しくないが、艦娘となるとそれは難しい」
そう、艦娘を指揮官にすると現場の判断で艦隊を動かせる、機転が利くという利点はあるもの、それは相当の経験と戦術、判断能力などが強いられる
そんな戦い方を薦めたのは彼の遺言状から―――駆逐棲姫と春雨を現場指揮官として艦隊を率いるものであった
何を思ってそんなことを書いたのかは誰も知ることは出来ないが、事実、彼女たちは格上の相手に対して勝ちをもぎ取っている
提督「…しかし、あれは驚いたぞ―――深海側にそんな戦法取られたら対処しにくい」
深海棲艦の特性を活かした戦法
それは、戦闘中、深海の駆逐艦を海の中に潜りこませ、そこから標的に魚雷を放つという潜水艦の仕事をやり遂げる荒業
そう、初めて彼が艦隊を率い、初めての戦闘で駆逐艦2隻のみで戦艦を打ち破った戦法である
そして、その彼がいなくなってから半年、研鑽を積んできたのだから―――いつかは帰ってくるだろうと信じているから
駆逐棲姫「私は待っている―――シレーカンが帰ってくるのを」
遺体を捜索したが、半年経ってもなお、遺体が見つからない―――だから、どこかで生きていると
彼女が、彼女のみが信じていた
駆逐棲姫「シレーカンはどこかで頑張っている―――だから、強くなってあの時のように繰り返さない」
新たな決意、力強くどこまでも信じている、そんな声
沖縄の復興が進むたびに沖縄という名が世界へ知られていった
人が、艦娘が、深海棲艦が集い、住まう国
そして、興味を持った者もいるだろう
横須賀の英雄がやったことになっているが、どの軍部にもその名が知られているがゆえに彼はそんなことは出来るはずがないと
何しろ、多くの深海棲艦を沈め、何人かの姫級も倒している―――そんな男が今更、深海棲艦と和解するか?
答えは否
ならば、誰が?
それを知るために遣わされた海外の艦娘
黒いウェットスーツっぽいのを纏い、セミロング銀髪に翡翠色の瞳を、その肌は透き通るように白く、儚げな印象を受ける
そんな、沖縄には似合わない少女の名は、U-511―――通称、ゆー
ドイツから遣わされ、沖縄鎮守府に着任することとなった
彼女は燦々と照らす太陽の光に当てられながらも鎮守府の方へ向かっていった
そして、鎮守府らしき場所に辿り着き、看板を見れば名称が違っていた
彼女の提督からは沖縄鎮守府と聞かされていた
が、これはこう書かれていた
「沖縄復興府…?」
これにて物語は終わり
土曜に更新すると言ったな?あれは嘘だ
このレスから投下するものは完全に蛇足ですので注意
ゆらり、ゆらりと
燃え続けていたローソクの火が消え、想いは変わることなく、新たなローソクに火がつく
ここは人には辿りつけぬ、世界―――深海が棲まう、世界
姫級―――そして、新たなクラスとでも言えばいいのだろうか、確認されている姫級より遥かに力を持つ水鬼級
そんな彼女たちは集まっていた
空母水鬼「タダイま~、ツカレター」
空母棲姫「メイレイ…トハ…イエ、ナカマヲ…シズメルノハ…キブンヨクナイナ…」
だるーんと間延びしたような声、仲間を沈めたため意気消沈した声
戦艦水鬼「…イマイマシイ…ガラクタドモガ…」
軽巡棲鬼「オサエテ…」
ドカッと座り込んだ空母コンビに苛ついた声、それを諌める声
中間棲姫「オチツキナサイ…テイトクガクルノダカラ…」
と、軽巡棲鬼をフォローする声
そして、テイトクという言葉に彼女は大人しくなった
カツン、カツン、と足音がする
彼女たちは気づく、我らのテイトクがこちらへ近づいてくるのを
そして、皆が皆黙る―――次なる命令を聞くために、備えるために
「おう、皆揃っているな」
響く、男の声
彼女たちとは違って流暢な発音
「んじゃ、次の命令な―――今から、東へ向かう」
ここより、遥かに遠い、遠い東の島国
そこにかつて共に歩んだ、彼女たちに会えると喜びに満ちた声
「そこには、人が、艦娘が、深海棲艦が笑っていける世界が"ある"――――お前たちも受け入れてくれるだろう」
からから、から―――と鳴り響く
.
これで完全に終わり
HTML依頼出してきます
このSSまとめへのコメント
良ss発見記念(´・ω・`)