初風「私は、何人目の私ですか?」 (20)

提督「さあ……何人目だろうな、忘れたよそんなの」

初風「……覚えてないんですね」

提督「お前でどれくらいだったかな……ひい…ふう…みい………」

初風「これまでの私を指で数えられては、これまでの私はみんな浮かばれませんね」

提督「冗談だよ、冗談、覚えてないから安心しろ」

提督「それにさ、半分くらいは生きてるよ、絶対」

初風「…………そうですね」ギリッ

提督「そこは喜べよ、自分だろうが」

初風「喜ぶに喜べませんねそんなの」

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提督「やっぱりそう言うか……口調とか他のところは違うのにそこは従来と同じなんだな」

初風「私には従来がよく分かりませんがね、なにしろ今産まれたもので」

提督「なんというか……不知火みたいだ、今度のお前は」

初風「そうですか」

提督「興味なさそうだな、自分の本質とかどうでもいいのか?」

初風「知ったところで意味があるんですか?」

提督「いや……他と違うって言うとオリジナルの事を聞きたがるからな…」

初風「何言ってるんですか、私はこれまで作られた私の記憶を持ってるんですよ?だから知っても無駄だって分かってるんですよ」

提督「そういやそうだったな…いや、前の受け継いでるお前は口調まで一緒だったからな……」

提督「まあきっと元の内のどれかのお前はどこかで不知火と接点があったんだろうがな」

初風「その不知火さんは………」

提督「お前と同じだろうな」

提督「さて、そろそろ時間だ、何かやりたい事はあるか?」

初風「…………」ボソッ

提督「えぇ?なんだって?」

初風「……殴りたい…貴方を、二度と立ち上がれなくなるまでに、完全に、死ぬまで、いや死んでも殴り続ける……それだけ私達は、貴方に殺意を抱いている、それを忘れるな……」

提督「忘れるな忘れるなって女々しいなあ…じゃあ殴れば良いだろう?え?」

初風「……………!」

提督「今日は機嫌が良いからな、ほれ、一発くらい良いぞ」

初風「お前……ッ!よくもそんな事を……」

提督「どうした、殴らんのか?」

初風「………ぐっ……ううっ……!!!」ギリッ

初風「憑いて呪ってやる……この畜生……!」

提督「そうか、憑くために早く[ピーーー]ると良いな」

提督「もっとも、艦娘として死ぬことなんて叶わんだろうがな」

提督「だってお前………」ニヤニヤ

初風「この……っ!!悪魔……っ!失せろっ!!失せろぉぉぉっ!!!」

提督「一生失せてやるとも、なにせお前は艦娘なのに長生き出来るんだからな、羨ましいったらありゃしない」

初風「『艦娘』?私が『艦娘』?私が貴方を全部知ってる事を知った上で言ってるとすれば、貴方は相当な外道ですね…!」

提督「しょうがないじゃないか、知らないって皆言ってるんだから」

初風「知らない?知らないなんてそんな事……」

提督「おかしいけど、本人の意思も関係無いし、定義も曖昧な以上仕方ないよな、それに喋れないし」

初風「……狂ってる」

提督「残念だったな」

提督「もうそろそろ仕上げだ、それじゃあな初風、元気でな」

提督「しばらくしたら勝手に眠たくなるから、そこからは分かるな?」

初風「そのまま目覚める事が出来なかったらどれだけ幸せでしょうか」

提督「初風はレアだからな、残念ながら丁寧に仕上げるぞ」

浜風「………これが、私の最後の会話ですか」

提督「そうだ、これからは喋る事は諦めろ、どうしても喋りたいのなら喘ぎ声を繋げろ!『あんっ//いっ//うっ//えっ//おっ///』って具合でな!」

初風「………[ピーーー]ば良いのに」

提督「ええ?割と本気でそれしかないんだがな、お前に許される事は……喘ぐことと感じる事と泣く事と悲鳴を挙げる事くらいだからなあ。バリエーションが少ないよな、ちょっと相手に掛け合ってみようか?」

初風「もう…どうでもいい……」

提督「そうか、余計な手間が省けて俺は嬉しいぞ、じゃあ頑張って長生き出来るようにするからな」

提督「(はっ……ははっ……)」

提督「(初風が文字通り我を忘れてで俺を殴ろうとしたとき……)」

提督「(アレは本当に見物だったなあ……)」ニヤニヤ

提督「(全部知ってるのに…無駄なのに…なんでそうするのかなあ……)」

提督「(いや…根本的な部分で違うか……)」

提督「(ああっ、くそ…ホントにああいう奴との会話は楽しいなあ……)」

提督「(いや、いかんいかん…会話はしたら危ないってのに……特に受け継がれてる場合は…)」

提督「(はっ……ははっ……)」

提督「(初風が文字通り我を忘れてで俺を殴ろうとしたとき……)」

提督「(アレは本当に見物だったなあ……)」ニヤニヤ

提督「(全部知ってるのに…無駄なのに…なんでそうするのかなあ……)」

提督「(いや…根本的な部分で違うか……)」

提督「(ああっ、くそ…ホントにああいう奴との会話は楽しいなあ……)」

提督「(いや、いかんいかん…会話はしたら危ないってのに……特に受け継がれてる場合は…)」

提督「(しかし本当にあの時は吹き出すかと思った…)」

提督「(初風が本当に俺を殴ろうとして……ちょっとよろけちゃって……)」

提督「(そのまま転んでしまえば……文字通り「ダルマさんが転んだ」って話なんだがな……)」

提督「(くっ……ふふっ……)」

提督「(ちくしょう……こんなくだらない事を何ツボに入れてんだよ俺……)」

初風「(私は、救われない)」

初風「(私はきっと長生き、いや長持ちするだろう)」

初風「(だけど……出来ることなら、私は死にたい)」

初風「(私とは違う、五体満足な、身体のある『私』のように、皆のように)」

初風「(死ぬのなら、艦娘として、戦って死にたい)」

初風「(その点を言えば……私は他の種類の私より救われていないのかもしれない)」

初風「(死にたいなんて言ったら私に殴られるかもしれない……けれど…こんな、艦娘として扱われる事なく生きるのなら…いっそ……)」

初風「(ああ……眠くなってきた……)」

初風「(私は……私は……)」

初風「(……あれ…?私って……何……?)」




「艦娘」は国の英雄

それ故に、彼女達の命は最も軽い

人権なんて物も、当然無い、兵器なのだから

だが、艦娘は「人型」である

それ故に彼女達は「艦娘」、「娘」であることが出来た

一人の、「娘」である事が出来た

しかし、「娘」である事が出来たのは本当は、ほんの一握りだった

誰かが言ったのだ

「人型」でなければ、「あるべき形」でなければ、彼女達は「艦娘」ではない、「娘」ですら無いと

そしてその意見には、誰も異を唱えなかった

それからだった、「艦娘」が「娘」であることが出来なくなったのは

更に唱えられたのは、某独裁者のような、いちゃもんとも捉えられる発言だった

彼等の言い分はこうだった

「戦闘で身体の一部が欠損したのであれば、それは艦娘に非ず、兵器である」

これにも、誰も異を唱える事は無かった

そうした身体の一部が欠損した艦娘は「娘」から、「兵器」になった

次に、「『兵器』は人に使われる存在」だと、その次に「『兵器』は人の為にあれ」と、「兵器」達は徐々に拘束されていった

しかし、艦娘は入渠すれば腕がもげようが肺が破裂しようが頭が吹っ飛ぼうがすぐに治るのだ、入渠しても身体の一部が欠損したまま、なんて事は極稀な事である

なので、既存の艦娘達はそんな恐怖に怯える必要もなかった

「既存」の艦娘達は

次に建造される艦娘達は、「意図的に」身体を欠損する様に作られたのである

何故、一体誰が、何の為に、それは簡単だ

身体が欠損すれば、彼女達は「兵器」、人から使われるだけの存在に過ぎないのだ

かつ、艦娘が「少女」の姿をしている事を忘れてはならない

提督が人間であり聖人君子でない事も忘れてはならない

この技術は進歩し、「身体を欠損しやすく」なったり「艦娘であろうとしなくなったり」するなど、最終的には「身体を欠損した状態」で艦娘が建造されるようになるまでになった

やがて、「艦娘」の存在は限られ、艦娘は「兵器」として扱われるようになった

「兵器」と言っても「使われるだけの存在」にすぎない、従軍慰安婦にされたり金持ちの家の置物にされたり等
最近では「捨て艦戦法」なるものに使われるようにもなった

この「捨て艦戦法」は大抵の提督は使うことを躊躇するのだが、「艦娘」ではないのだ、「兵器」なのだ
何故なら「人型」を、「あるべき姿」をしていないからである
「捨て艦戦法」を唱える提督が外道と呼ばれた時代も、「艦娘」が「兵器」になるにつれていつしか終わっていた

このお話は、戦う「艦娘」に憧れる、「艦娘」に限りなく近い「兵器」のお話である

今日はこれで終わり
あの作品を意識して作った感はある
なんか文章で説明する所は要らなかったような気もするけど後悔はしていない

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