真姫「なかよしかよちん」 (88)

初投稿じゃないです。


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小泉花陽。


花陽「アルパカさーん、ごはんだよー」


今日も今日とてアルパカさんのお世話をしています。

最近、生徒会長と副会長がμ'sに加入した。
最初はちょっとみんなも距離を置きがちだったが、いつの間にか真姫ちゃんと会長さんが仲良くなっていて、少し意外だった。

花陽 「ふぅ、早く終わらせて練習行かなきゃ」


エサをあげた後は小屋の中を軽く掃除する。
そうしていると、あるものをみつけた。


花陽「なんだろうこれ…繭?」


仄かに黒い色をした繭が、小屋の壁に張り付いていた。

花陽 (こんな季節に…繭?)


もう6月の終わり、羽化できずに中で息絶えたのだろうか?

小学生の時、授業の一環で育てた蚕が、そんな風にして死んでしまったことがある。


花陽「それにしたって、この間までこんな物無かったと思うんだけど…」


今時、野生の蚕も珍しい。


花陽 「…あの繭…産まれたかっただろうな……」


そう思うのは、人のエゴだろうか。

いや、繭の時点で産まれてはいるのだが、その卵の様な形に思わずそう表現してしまう。

黒い卵に、そっと触れる。


花陽「あっ…!」


本当に優しく触ったつもりだったのだが、そのほんの少しの衝撃で繭は壁から剥がれ、落ちてしまった。


花陽「ご、ごめんなさい…」


繭の中の蚕に謝り、近くの茂みに乗せた。
既に死んでいるものなのかも知れないが、なんとなく悪い気がしたから。


花陽「さてと…凛ちゃん待たせちゃってるし、行かなきゃ」

・・・


真姫「うー…ん」

絵里「」シャカシャカ

真姫「ぐ…ぬぬ…」

絵里「」シャカシャカ

真姫「あー、ダメ、わかんないわ」

絵里「へー、案外できないものなのね」

あれからしばらくして、完全に立ち直った絵里には私の『病気』の事を伝えた。
意外にもすんなりと理解を示してくれ、自分の嘘を見抜いた方法がやっとわかってスッキリしたと言っていた。

そして今は、自分の読心術もどきの限界を計ろうと二人で実験をしている。


真姫「『イヤホンで聴いてる音楽を読み取る』のは出来ない…と」


試す事をまとめたノートに結果を書き記していく。


絵里「あとは…『テレパシー』? なにこれ?」

真姫「あぁ、それはね…」


現在、私の読心術もどきは目に見えている相手にしか効果がない、例え遮っているものが薄いカーテン一枚でもだ。

しかし、私個人に対しての思考ならば届くのではないかという仮説を建てた。


絵里「つまり、真姫を意識した思考なら無条件で読めるんじゃないかってことね」

真姫「その為には私の『病気』の事を知ってなきゃいけないからあんまり使い道はないと思うけど、一応ね」

絵里「じゃあ試しに一回やってみましょう」


絵里が目を瞑る。

絵里 (お尻大きいよね!)

真姫「ふんっ!」デコピン

絵里「痛い!」

真姫「変なこと言うから…」

絵里「言ってない…言ってはいないわ…」

真姫「そうね、言ってはいないわね、でも先生許しません」

絵里「そんな…」

花陽「あれ、真姫ちゃんと会長さん」


真姫「あら、どうしたの花陽」

花陽「ちょっと忘れ物しちゃって、取るついでにお昼食べようかなって」

絵里「あら丁度いい、じゃあ一緒に食べましょう」

そうして昼食の準備をし始め、各々の食料を取り出す。
しかし、ふと横に目をやると、私は思わず息を呑んだ。


絵里「どうしたのよ真姫、狐に化かされたみたいな顔して」





真姫「は…花陽…!? 貴女なんで…」










真姫「パン食なの…!!?」

絵里「そ、そんなに驚く事なの?」

真姫「驚くわよ…! 入学してからはや2ヶ月…初めて花陽がおにぎり以外を口にする場面を見てしまったのよ!?」

花陽「そ、それはそうだけどそんなに驚かないでよ!」

絵里 (それはそうなんだ…)

真姫「あぁ…ごめんね花陽…花陽だってたまにはパン食べるわよね…」

花陽「う、うん…」

真姫「でもなんで今日はおにぎりじゃないの? 寝坊でもした?」

花陽「うー、ん…?」

花陽「そういえば…なんでだろう…」

絵里「たまたまそういう気分だったんじゃないかしら?」

真姫「うーん…おかしな話ね」

花陽「特に理由がなければ大体おにぎりのはずなんだけど…本当に気分だったのかな…」

絵里 (なんでこんなに本気で悩んでるんだろう…)

真姫「まぁ無意識にいつもと違うことしたりするのってたまにあるしね」

花陽「考えすぎもよくないかな」

絵里「花陽ってそんなにいつもお米なの…?」

・・・


花陽「ただいまー」


母のおかえりの返事もそこそこに、部活で疲れた体を休めるために自分の部屋に向かう。

中には制服のまま寝る人もいると言うが、ごわごわとした感触のこの服で眠るのは、私としては少し理解ができそうにない。


花陽「さて……と…?」


部屋を眺めた瞬間、違和感に包まれる。
見た目はほとんど変わりはないが、よく見ると違いがわかる、自分の部屋だからわかる違い。

花陽「なんでコレがこんな所に?」


部屋の様々な物が、いつもと違う場所に置いてある。

言えば大したことでは無いのだが、なんというか、普段では置かない場所に『置き直されている』ような感じがする。


花陽「お兄ちゃん…なわけないよね…」


私の家は兄と両親、そして祖父母の6人家族だ。
しかし、用もないのに誰かが私の部屋に入る事はないし、まして部屋の物を勝手に触るなんてどこの家庭だってそうないだろう。


花陽 (ぼーっとしてた…のかな? お昼ご飯がおにぎりじゃなかった事ともしかして関係が…?)

花陽「そんなわけないかぁ…」


考えすぎだ。
何故だか悪い方に考えてしまうのは、自分の悪い癖だろう。


花陽「お風呂でも入ろうっと」


そうして私は、1日を終えた。

・・・


真姫「あーもう…どうして私がこんな事…」


時刻は夜の10時、なぜ高校生である私が補導ギリギリのこんな時間に出歩いているのかというと。


真姫「ママもパパも急な仕事って言ったって…荷物を娘に持って帰らせる? フツー」

真姫「あぁ…重い…」


ちょうど梅雨入りの蒸し暑い夜の空気に耐え切れず、遂に荷物を地面に置いてしまった。


真姫「あー…まぁ後で拭いておけばいいわよね…」


さっきも言った通り補導なんかされてはただでさえ忙しい両親の手間を更に焼かせてしまうかも知れない、急がねば。

真姫「んっ…よい、しょっ…?」

?「…」

真姫 (音ノ木の制服…?)


自分の進行方向に1人の少女が立っている。
夜の闇に溶けてよく見えないが、おそらく私と同じ高校の制服。


真姫 (っていうか…アイツ…)


その少女は少し前傾姿勢になり、右足を後ろに下げ、体重を乗せる。
まるで、スタンディングスタートのような。


真姫 (あれ、これヤバイやつじゃ、)


そう思った時にはもう遅かった、瞬きをするうちに、もう、目の前に。

もうダメだ、と目を堅く瞑る。
しかし。


花陽「ばぁ!」

真姫「ぴゃあぁ!?」


その少女は、私のよく知るあの子だった。

真姫「あの…荷物持ってくれるのはありがたいんだけどね…」

花陽「なぁに?」

真姫「貴女、こんな時間に何してるのよ…親御さんだって心配するんじゃないの?」

花陽「うーん…大丈夫、かな?」

真姫「なんで疑問系なのよ…」


ピリッ…


真姫 (…?)

今の私が言えた事では無いのだが、あの『ザ・良いこ』である花陽がこんな時間に外を出歩くなんて、信じられない。


花陽「真姫ちゃんはなんでこんな重い荷物を運んでるの?」

真姫「あぁ、それ私の親のやつなのよ、職場まで取りに行かされてね…っていうか本当に軽々と運ぶわね…」

花陽「まぁねー、えへへ」


ピリッ…


真姫 (また…)

腕を大げさに振りながら歩く花陽。
そんなに振ったら遠心力で腕がどこかに飛んでいきそうだ。


真姫「そういえばさっきも、花陽ってあんなに瞬発力あったのね、意外だわ」

花陽「うん、別に運動ができないわけじゃないからねー」

真姫「案外、凛といい勝負だったりするんじゃないの?」

花陽「いやいやー、流石に凛ちゃんとは勝負にならないよー」


ピリッ…


真姫 (ダメだ…限界だ)

真姫「…ねぇ、花陽…?」

花陽「んー? なぁに?」


花陽はニッコリと笑ってこちらを向く。


ピリピリッ…

真姫「っ……!」


私は、正体不明のその感情をまだ上手く言葉には出来ず、歯ぎしりと共に奥歯で噛み潰した。


真姫「ここまでで良いわ、貴女も早く帰りなさい」

花陽「うん、じゃあまたね、真姫ちゃん」


花陽は小走りで闇の中へ消えていった。
私はその背中を見送る。


真姫「っ……はぁ〜………」


やっと解放された、と言わんばかりに私は大きな溜息をつく。
何からだろうか。


真姫「深夜テンション、ってやつかしら…花陽の…」


…考えすぎ、だといいなぁ

・・・


花陽「ふわ…ぁ」


大きなあくびをする彼女。


凛「かよちん寝不足?」

花陽「そんな事はないと思うんだけどなぁ…」

真姫「花陽、昨日ちゃんと寝たの?」


昨日の事もある、手伝わせてしまったし寝不足なら私のせいとも言い切れない。

花陽「う、うん、ちゃんと寝たよ…?」

凛「あ、嘘だにゃ、ほっぺのもちもち感が足りない、寝不足だにゃ」

花陽「ナニソレェ!?」

真姫「そんな嘘の見抜き方があるのね…」

凛「これはほっぺたマイスターである凛だからこそ出来ることなのにゃ、一朝一夕では身につかないのにゃ」

真姫「ぜひともご教授願いたいわ…」

花陽「真姫ちゃんはなんでそんなに真剣なの…」

凛「そういえば真姫ちゃんは最近ぼーっとする事減ったね」

花陽「そう言われるとそうかも」


読心術もどきが発症してまだ日が浅い頃、私が人の心を読んでいる間は虚空を見つめているような感じで、ぼーっとしているのだと思われていたらしい。

しかし、絵里との一件の後、私の病気はオンオフが効くようになった。


真姫「そうね…慣れたってところかしら」

凛「何に?」

真姫「ひみつ」


果たしてそれは、病の進行か、完治の兆しか。

・・・

海未「…はい、そこまで!」

穂乃果「はぁぁー、疲れたぁー…」

凛「今日もハードだったにゃー」

真姫「そうね…」

放課後の練習。
相変わらず海未のメニューは厳しい。
オーバーワークで体壊したら海未に直訴しましょう。


海未「ところで、花陽」

花陽「あっ、ど、どこか変でしたか?」

海未「いえ、いつもより動きが良かったので、何か自主練でもしているのかと思いまして」

凛「凛も思った! かよちんダンス上手くなったんじゃない?」

花陽「えっと、特別なことは、してないです…振りの復習とかだけで」

真姫「じゃあ純粋に上達したってことじゃない?」

花陽「そうかなぁ…?」

海未「そうですよ、自信を持ってください」


微笑む海未に花陽は素直に頷くが、納得はしていない顔だった。
何かが引っかかる。


真姫 (久々に…心読んでみようかしら…)


しかし、照れながらも褒められて喜んでいる花陽を見ると、やはり無粋な気がした。

・・・


それから、花陽の様子が少しずつ変になっていった。

パン食が増え、苦手だったダンスが上手く、得意だった教科が苦手に。
まるであべこべ、と言うか、花陽からは考えられないような事が次々に起き始めた。

それだけなら良かったのだが、何より、その現象に対して一番動揺し、憔悴いるのが花陽自身だった。


凛「かよちん…」

真姫「花陽、大丈夫…?」

花陽「うん…平気…」


心を読むまでもなく、嘘だ。
あの時様子を見ておくべきだった。

やはり、後悔は先には立たない。

真姫「そんな顔して平気なわけないでしょ…この前だってあんな夜中に出歩いて…何かあったなら相談して…」

花陽「この前…夜中…?」


これは、私なんかじゃなくて本物のカウンセラーが必要かもしれない。


花陽「アルパカさんのお世話、当番だから、行ってくるね」

凛「かよちん…絶対変だよ!」

花陽「大丈夫、だから、先に練習行ってて」

真姫「凛…行くわよ」

凛「う、うん…」

確かに、今の花陽は一人になる方が良いかもしれない。


真姫 (だからって、放ってはおけないわ)

真姫「ちょっとお手洗い行ってくるから、先に行ってて」

凛「真姫ちゃん…」(行くなら…凛も…凛…も…)


私が花陽の所に行こうとしているのを、凛は気付いている。
その上で。


凛「うん…お願い…」


私に委ねた。


真姫「…お手洗い行くのにお願いも何も、ないでしょ」

凛「そ、そうだね! うん、穂乃果先輩たちに伝えておくから!」


凛は逃げるように駆けて行った。

きっと凛は、今まで一度も見た事のない花陽に戸惑っている。


真姫 (決して花陽が悪いわけじゃないけれど、こうなるともう個人の問題じゃあない)


アルパカ小屋に向けて走る、どうして花陽がああなったのか、何か少しでも取っ掛かりを見つけなくてはいけない。
μ'sの為にも…いや。


真姫 (私の友達、二人のために)


アルパカ小屋に着くとそこには黙々と作業をする花陽の姿があった。

物陰に隠れる。


真姫 (今の所普通…ね)


花陽はアルパカの世話を終え、手を洗う。
そして近くの植え込みに近づき、何かを拾った。


真姫 (葉っぱ…? いや、あれは)


太陽にかざす様に、それをつまんで持ち上げる。
薄黒い楕円形の球。
大きさからして。

真姫 (あれは…繭…?)

なんでこんな季節に?
そんな疑問も、花陽の行動で吹き飛ぶことになる。


花陽「はぁ……」


深呼吸をするように大きく溜息をつき、彼女はそれを地面に落とすと


花陽「よっ」


思い切り踏み潰した。

真姫「ぁ…っ……!」


念を押すように、何度も足踏みをするように踏みつけ、靴底ですり潰す。
砂に混ぜて消してしまおうというのか、最後に粉々になった繭を後ろ足で蹴り飛ばした。


花陽「これでようやく…かぁ…」


飛び出してやりたい気持ちを抑え、様子を見る。


花陽「…なにしてるの、真姫ちゃん」


と思ったらバレていた。
見入るうちに、物陰から上半身がほとんど出ていた。

真姫「…下の名前で呼ばないで、誰なのよアンタ」

花陽「誰って…小泉花陽だよ?」(☆・*→4○)

真姫「違う、アンタは心の声と喋ってる言葉がごちゃごちゃなのよ、見た目は花陽でも、花陽そのものではない」

花陽「心の声…? 何それ?」


ようやく分かった、花陽は『病気』だ。

絵里に続き、花陽までもが謎の病に罹ってしまった。

思い出される絵里の一件、そして今、花陽も病に侵されている。

取り憑いた本人からは考えられない様な事をする、それがこいつの『症状』だろう。


花陽「まぁ、バレてるなら仕方ないよね…でも私は正真正銘、小泉花陽だよ」

真姫「つまり…別人格?」

花陽「理解が早いね真姫ちゃん、私は花陽の中に繭を作った別人格、で、今ようやく出てこれたの」

真姫「この前夜道で会ったのもアンタね…あの時はどうやって出てきたの」

花陽「私って夜型だから、繭を破る前までは夜しか自由に動けないんだよね」

真姫「でも、今までだって花陽には影響はあったじゃない」

花陽「昼間はちょっとイタズラするくらいしか…『いつもと違う事をさせる』とか…」


ドンピシャだ。

真姫「そう…やっぱりアンタのせいだったのね

花陽「部屋を漁って、街に繰り出て…ようやく繭を見つけて破った、これで『小泉花陽』はもう私のもの」


他人の体を繭にして羽化した目の前のソイツを、私は許せる気がしなかった。


真姫「元の花陽に体を返しなさい…いや…元の花陽に戻りなさい、が正しいかしら」

花陽「そうだねー…その方が正しい、でも戻らないよ」

真姫「どうして?」

花陽「繭を破ったからにはこの命は私のものだから、返すわけには行かない」

真姫「元は他人の命でしょう…!」

花陽「それでも…生きてちゃダメ?」

真姫「っ…!」

命を粗末にしてはいけない。

そんな道徳の代名詞とも言えるありふれた台詞を、今までは意識することもなく遵守してきた。

しかしその言葉にこれからも忠誠を誓うならば、もう二度と私の知る『小泉花陽』には会えない。
何もかもが花陽とかけ離れたコイツが、これからの『小泉花陽』の人生を生きていく。

もしそうなれば、学校は、μ'sは、家族は、凛は、どうするというのか。


真姫「そんな…寄生しただけのアンタが命だとか言えるわけ…!」

花陽「戻したいなら、どうにかして元の花陽の人格を引っ張り出すしかない、そういう意味だとまだ救いはあるかもね」


淡々と語るその姿に、私は怒りを込めた疑問をぶつける。


真姫「…アンタ、さっき繭を破ったから出てきたのよね?」

花陽「…そうだね」

真姫「アンタは…本当に出て来たかったの…?」


ソイツは、少し間を空けて。


花陽「さぁね…でも、宿ったからには出てくるしかないんじゃないかな…人だって同じ」

真姫「それは…」


この病気は、花陽の体に宿ってしまった。
花陽のせいでもない、病気のせいでもない。

偶然、花陽が病気に罹ったから、症状は出るしかないのだ。


真姫「…でも……でも……」

花陽「…私はもう帰るから、練習は休むって言っておいてね」


『花陽』は、スタスタと校門へ歩いて行った。

戦闘シーンを書き直すのでしばらく間が空く可能性があります、申し訳ない。

真姫「…」


トボトボと屋上へ上がり、ドアを開ける。
そこでは既に本格的な練習を始めている面々の姿があった。

不安げな表情の凛も。

遅れてきた私に反応して一瞬練習が止まるがすぐに再開される。
その中でにこちゃんだけが私に歩み寄ってきた。

にこ「ちょっと、遅いんですけど」

真姫「うん…ごめんなさい」

にこ「…体調でも悪いの?」

真姫「私は、平気」


ぶっきらぼうに答えると、にこちゃんも「そう」と、一言だけ返して練習に戻った。

後を追うように私もその輪の中に入ったが、全くに身が入らなかった。

休憩時間、片隅に一人しゃがみこむ私に、足音が近づく。


凛「真姫ちゃん…その…かよちんは…」

真姫「…気分が悪いから、帰るって言ってたわ」

凛「そっか…」

真姫「そうよ…」


私はどうすれば良いのだろう、またこの力を使ってどうにかする?
いや、無理だろう、今回は私の力でどうにかなる相手ではない。

声が届かないほど心の奥底に沈められた花陽を、どう引っ張り出せばいいと言うのか。


凛「かよちんは…かよちんは、どうしちゃったの?」

真姫「…」

凛「きっと何かの病気だよね…そうに決まってる…」

真姫「…そうね」

凛「真姫ちゃんのお家で、病院で、診てもらえないの?」

真姫「…どうかしらね」

凛「真姫ちゃん……」


私もすっかり、滅入ってしまっていた

私の数少ない友人の一人、小泉花陽。
彼女は姿形、顔、声も匂いもそのままに、全く別の人間になってしまった。

そんな現実を、どう受け入れれば良いのか。
あの『病気』が産まれて来なければこんな事にはならなかったのに。

生き物には等しく命が与えられ、等しくそれを消費する。
それは、人だろうと獣だろうと虫だろうと、『病気』であろうと、全く等しい。

元の花陽と今の花陽。
どちらか片方の命を無かったことにする、そんなことは私には出来そうにない。

真姫 (なにより…今の花陽の『命』を認めている自分が…腹立たしくて…悔しくて)


涙を堪える私の耳に、突如としてそれは聞こえた。

(助けて…真姫ちゃん!)


真姫「花陽っ!?」


突然大声を出しながら立ち上がった私に、みんなが驚いて視線を向ける。


絵里「ど、どうしたのよ、真姫」

真姫「いや…その…」


思い出す、絵里との会話。


絵里『つまり、真姫を意識した思考なら無条件で読めるんじゃないかってことね』


そこでやっと気が付いた。


真姫 (今のは…テレパシー?)

凛「かよちんが、どうかしたの…?」

真姫 (もし、今のが『元の花陽』なら…)

真姫「エリー、ちょっと急用が出来たから、行ってくるわ」

絵里「…えぇ、行って来なさい」


絵里はなにかを察したように微笑む。

他の面々は、事態が飲み込めずにいるようだった。
しかし説明している場合ではない。
荷物をまとめ、扉を開ける。


真姫「じゃ!」


申し訳程度の挨拶をして、私は屋上を後にした。




穂乃果「…真姫ちゃん…最近なんていうか…フランクになったよね…」

ことり「そ、そうだね〜…」

・・・


花陽「私だって、悪気なんてないんだよ」

花陽 (うん…知ってる)

花陽「恨みがあって花陽の体に入ったわけじゃないし…でも産まれたからには私だって生きたい…」

花陽 (だれだってそう思うよ)

花陽「でもさ、このままじゃあ、ダメだよね」

花陽 (うん…私だって生きたいもん)

花陽「じゃあ、なんとかしてくれそうな人とか、いるの?」

花陽 (助けて…真姫ちゃん!)

花陽「花陽の声なんか届かないよ」

花陽 (届くよ、心の中で真姫ちゃんを呼べば、いつだって真姫ちゃんに届くんだ)

花陽「なにそれ…テレパシー?」

花陽 (うん! 真姫ちゃんはテレパシーが使えるって言ってたから)

花陽「本人が言ってたの? それ」

花陽 (盗み聞きしちゃっただけなんだけどね)

花陽「あはは、なにそれ、そんなの信じるなんて意外と子供だね」

花陽 (真姫ちゃんは嘘つかないもん)

花陽「確かに変な嘘をつくような人には見えないけど…流石にそれは」テロリン♪

花陽 (メール?)

花陽「…うそ」

花陽 (なんて書いてあるの?)

花陽「テレパシー、本当に使えるみたい…」

花陽 (…うそ)

・・・


住宅街の一角、長い階段の頂上で、沈みゆく夕日を背負いながら下を見下ろし、私は人を待っている。

もし、もしさっきのテレパシーが本来の花陽の声ならば…!


真姫 (勝機はある!)








花陽「なんで仁王立ちしてるの?」

真姫「……雰囲気よ」


程なくして私の後ろから現れてしまった彼女、小泉花陽に、私は振り返りながら問いかける。


真姫「花陽! 聞こえてる!?」

花陽 (そんなに声張らなくても大丈夫だよ〜)

真姫「なによ…案外余裕そうじゃない…」


若干の拍子抜けである。

花陽「今は、元の私を抑える力を弱めてるから…テレパシーくらいなら出来るよ」

真姫「テレパシーっていっても、私から送信は出来ないんだけどね」

花陽「そうなんだ…で、こんな呼び出しをしたってことは」

真姫「そうね、私も覚悟はできた、あんたの中身! 引きずり出させてもらうわ!」

花陽 (真姫ちゃん! 無茶はしないで!)

真姫「分かってるわよ!」

花陽「ちょっと、うるさいかも…」


花陽は自分の胸に手を当てる。


花陽 (ぁ…っ! 真姫ちゃ…! ま…ゃ…)

真姫「花陽…!」

花陽「…もう聞こえてないよ」

真姫「くっ…」

真姫「とにかく! 私はあんたを花陽とは認めないわァ!」

花陽「それは、私の命を否定するって事?」

真姫「そこまでは言ってないけど、私にとってはあんたの中にいる花陽が正しい花陽だから」

花陽「そんなの真姫ちゃんの自己満足だよ、命の重さは〜とか、教わらなかったの?」

真姫「そうよ、命はみんな同価値、でもね、もし命に優先順位がつけられるものがあるとしたら、それは」



私は、中にいる花陽にも聞こえるように、大きな声で叫ぶ。


真姫「人のエゴよ!」




花陽「じゃあ…ちゃんと私を殺してよね!」

飛びかかってくる花陽を間一髪で避ける。


真姫「…もしかして抵抗する系?」

花陽「小泉花陽は、私だ!」

真姫「うわわわっ!」


元の花陽には到底出来ないであろう、鋭い拳や蹴りをギリギリで避け、距離を置く。


真姫「くっそー…私も汎用性の高い『病気』だったら良かったんだけど…」

花陽「私を殺そうとするなら、私は精一杯抵抗するよ…」(→5・3〒:…〆)

真姫 (思考を読んで動きを予測しようにも…中にもう一人居るせいで混線してるし)

花陽「でも、花陽は貴女ならなんとか出来るって言ってたから…するならはやくしてよね」

真姫「その、[ピーーー]って表現なんとかならない? 本当アンタって気に食わないわ」

花陽「気に入らなくて結構だよ…どうせ死んじゃうんだし」

真姫「あら…私は殺されちゃうのかしら…」

花陽「邪魔だからね…μ'sは8人で頑張るよ」

真姫「本っっ当に気に食わないわ」

>>60

飛びかかってくる花陽を間一髪で避ける。


真姫「…もしかして抵抗する系?」

花陽「小泉花陽は、私だ!」

真姫「うわわわっ!」


元の花陽には到底出来ないであろう、鋭い拳や蹴りをギリギリで避け、距離を置く。


真姫「くっそー…私も汎用性の高い『病気』だったら良かったんだけど…」

花陽「私を殺そうとするなら、私は精一杯抵抗するよ…」(→5・3〒:…〆)

真姫 (思考を読んで動きを予測しようにも…中にもう一人居るせいで混線してるし)

花陽「でも、花陽は貴女ならなんとか出来るって言ってたから…するならはやくしてよね」

真姫「その、殺すって表現なんとかならない? 本当アンタって気に食わないわ」

花陽「気に入らなくて結構だよ…どうせ死んじゃうんだし」

真姫「あら…私は殺されちゃうのかしら…」

花陽「邪魔だからね…μ'sは8人で頑張るよ」

真姫「本っっ当に気に食わないわ」

真姫 (とはいえ…具体的な解決策が思いついているわけでもなし…)


花陽から逃げつつ、作戦を練る。


花陽「真姫ちゃんが…真姫ちゃんが私の正体に気付かなければ良かったのに…!」

真姫「ふん…μ'sに入らなければ仲良くもならなかったかもね…! 穂乃果に出会ったのが運の尽きと思いなさい!」

花陽「このっ…!」

真姫「おっ、と…!」


裾を掴まれかけたがなんとか立ち直す。


真姫 (速さは花陽の方が勝っているはずなのに…?)

花陽「く…そっ…」

真姫「あら、もうバテた? さっきの威勢はどうしたのよ」

花陽「っ!」

真姫「ぉわっ、と」


素早く伸ばしてきた手を咄嗟に払う。


真姫「ほらほら、さっさと私を片付けないと皆に言いふらすわよー」

花陽「…まてっ!」

真姫 (なるほど…?)


花陽との鬼ごっこ中に気付いた事がある。


花陽「つ、かまえ」

真姫 (ここで加速!)

花陽「く…っ」

真姫「やっぱりね…」


繭は花陽の身体を借りている、つまり体力は身体に依存しているのだ。


真姫 (花陽の限界は超えられるけど、肉体の限界は超えられないって感じかしら)


このままなら、この鬼ごっこは五分五分だろう。

しかし、ジリ貧もいいとこ、早々に打開策を思いつかねばならない。

繭の中から花陽を引きずり出すためにはどうすればいいのか?


真姫 (花陽に直接テレパシー送れればいいんだけど…こっちからの送信は出来ないし…)

花陽「余所見してる場合?」

真姫 (しまっ…!?)

花陽「えっ…!」


慌てた私は脚をもつれさせ、尻餅をついた。

そして、勢い余った花陽は。


花陽「ピャァッ!」

真姫「…」


電柱に激突した。

真姫「ど…どうしよ…」

花陽「…」


結構な勢いでぶつかっていた…大丈夫だろうか。


花陽「う…」


か細い呻き声を上げる花陽に私は駆け寄ろうとする。


真姫「ちょっと平気…はっ!」

真姫 (これは罠だ! 花陽の姿だからって敵を心配するほど私は甘くないわよ!)

真姫「ふん! さっさと立ち上がりなさいよ寄生虫! 花陽のフリしても無駄よ!」

花陽「い、てて…て…」

真姫「…ん?」

花陽「あれ? 真姫ちゃん…」

真姫「嘘でしょ」


戻った。

真姫「え…本当に花陽? 私結局何もしてないんだけど…」

花陽「うん…だけど今は繭ちゃんが気絶してるだけだから…すぐ戻っちゃうと思う」

真姫「あ…なるほど」


繭ちゃんって名前つけたんだ…。


花陽「ねぇ、真姫ちゃん」

真姫「なに? どうかしたの?」

花陽「繭ちゃんは本当に真姫ちゃんを[ピーーー]つもりなんかないよ…! ただ真姫ちゃんに諦めて欲しいんだと思う…だから」

真姫「もう関わるのはやめろって? お断りよ」

花陽「うぅ…」

真姫「言ったでしょ、私にとって花陽は貴女しかいない、諦めるなんてありえない」


私ははっきりと告げる。

真姫「それより、なにか気づいた事とかない?」


なにか、なんでもいい、手掛かりが欲しい。


花陽「えっと…ちょっと抽象的というか、『そう感じた』程度のことなんだけど」

真姫「構わないわ」

花陽「繭ちゃんと入れ替わる時、私も『痛い』って感じて、それで目が覚めたの」


なるほどなるほど。


真姫「ごめんもう少しだけ詳しく」

花陽「だ、だよね」

花陽「えっとだから…私が思うに、繭ちゃんと私が同じ気持ちになったら入れ替わるんじゃないかな…みたいな」

真姫「うん…ありえるわね」


ぶつかった際に表に出ていたのが繭であれ花陽であれ、肉体を共有しているからどちらとも同じ痛みを感じる。

その時、身体の主導権は『半分ずつ』になるという事だろうか。

そして結果として表に出ていた繭が気絶し、身体を花陽に渡すこととなった。


真姫「理屈は分かったわ、あとはどうやってそれを継続させるかって事ね」

花陽「そうだね…毎回頭ぶつけるわけにもいかないもんね」


今は繭が気絶しているだけ、その場しのぎの状態。
継続して花陽に主導権を渡すには、一体どうすればいいのか。


真姫「うーん…花陽は何かない?」

花陽「…」

真姫「花陽? どうしたのそんな俯い…」


その瞬間、『入れ替わった』ことにやっと気がついた。

花陽が掴みかかってくる、離してなるものかと、襟が引きちぎれるほどに握りつぶす。

咄嗟に上着を脱ぎ捨て、急いで走り出した。


真姫 (あと少し…あと少し気付くのが遅かったら…!)


もう繭からは手加減の様子を感じられなかった。
次私が捕まったら、「諦める」と言うまで加虐の限りを尽くすのだろう。


真姫 (考えろ…考えろ…考えろ…考えろ…考えろ…!)


息を切らしながら走る。


花陽「もう空が暗くなっちゃったね…」


逆に花陽の表情には少しずつ余裕が現れ始めている。


真姫「そうか……夜行性…!」


思ったより私はピンチらしい。


真姫「くそっ…!」


限界に近い脚を全力で動かす。


花陽「はぁ…」

真姫 (追ってこない…?)

花陽「そろそろ…鬼ごっこも飽きたよね…」


花陽は足元の小石を拾い上げ、それを私に向かって投げつけた。


真姫「ぁ、がっ…!!!」


くるぶしに激痛が走る、骨が砕け散るような痛みに耐えきれず、私は道路脇の茂みの中にうつぶせに転げた。

真姫 (まずい…! このまま…このままじゃ…!)

花陽「無駄に疲れちゃった…でももう終わり…」


わざとゆっくりと私に近づき、大きめの石を持ち上げる。

それを、頭上まで振りかぶる。


花陽「『鬼ごっこ』はもうおしまい…」



『死ぬ』…!

真姫「っ…!」


花陽の足首を踏みつけるように思い切り蹴飛ばす。


花陽「くっ…!」


花陽が怯んだ隙に立ち上がる、もう脚は限界を超えている。


真姫「はぁ…はぁ…ようやくわかった…!」


わかった、逆転の一手。


花陽「…なにが」

真姫「……なんでアンタが気に食わないのか」


花陽は『まだその話してるのか』と言いたげに眉をしかめる。
そんな顔を見て、私は更に確信を得る。


真姫「アンタ…可愛くないのよ…それこそ、『花陽からは信じられないくらい』にね…!」

花陽「いわせておけば…!」


私は茂みの中を、最後の力を振り絞り駆け抜ける。

花陽「逃がさない!」

真姫 (この先…あと少し…!)


駆け抜ける、これが最初で最後のチャンス。
絶対にこの一手で決める。


花陽「捕まえ…っ!」

真姫 (今!)

花陽「っ!」


私は急ブレーキをかけ、倒れるようにしゃがみこんだ。
繭はスピードを殺しきれず私につまづき、体が空中に放り出される。

そこを、ラグビーのタックルのように、飛びついた。

そのまま茂みを抜ける、その先にはーーー。

・・・

先に一つ話をしよう。

思考も嗜好もあべこべな二人の人間が居る、さてこの二人にとって唯一同じ価値のものは何か。

生き物である以上、誰にとっても同じ価値のもの、絶対に失いたくないものは何か。


それは命、即ち。







花陽「崖…!?」



『死』である。

地表目掛けて落下する私と繭そして中にいる花陽。


花陽「ちょっ…離して…!」

真姫「離さない!」


空中で、マウントを取るように花陽の肩を掴む。


真姫「ごめんね花陽!」


聞こえているかどうかは別として、先に謝っておく。


花陽「真姫ちゃんも死ぬよ!」

真姫「上等! 貴女は私と花陽諸共いなくなるの!」

花陽「んなっ…バカなっ!」


花陽にとって一番回避したいもの、繭にとっても一番回避したいもの、それに直面した時、どちらの感情が勝るのか。

答えは明白。


花陽「…だっ……!」


『二人とも同じくらい怖い』


花陽『誰か助けてェーーーーッ!!』



二人は今同じ感情、主導権が曖昧な状態になった、その瞬間を狙う。


真姫「花陽ッ!!!」


私は花陽を抱きしめ、マウントポジションから素早く上下を入れ替える。

自分を下敷きに、そのまま地表へと吸い込まれーーーー









ギシギシと、古い麻縄が音を出す。


真姫「いっ…てて……なんとか…なるものね…」

花陽「ふぇ…?」


花陽は状況を把握できずにいるようだ。

とあるマンションの裏手にあるこの崖、その下には事故防止用のネットが張られているのだ。

それを見せない為のマウントポジションだった。


真姫「はぁ…もう大丈夫よ…花陽…」

花陽「ぇ…う…」


花陽の目に涙が溢れてくる。


花陽「こ"わ"か"った"よ"ぉ"ぉ"…!」

真姫「よしよし、震えちゃって…誰がこんな酷いことを…」


花陽の頭を胸に抱え込み、撫でる。


花陽「主"に"ま"き"ち"ゃ"ん"の"せ"い"だた"よ"ぉ"ぉ"ぉ"……!!!」

真姫「ドンウォーリ…ドンウォーリ……ノーリーズン…」

花陽「イ"ミ"ワ"カ"ン"ナ"イ"ィ"…!」

その後、花陽の泣き声を聞きつけ何事かと家から出てきた住民達に手を借り、無事に私たちは生還した。

警察の厄介になりかけたものの、相手のお偉いさんがμ'sのファンで、父とも親睦があったらしく何とか誤魔化してもらえた。

本来こういうのはして貰っちゃいけないことだろうけど…まぁ私も相当体張ったし、少しは…ね?


真姫「ふぅ…カウンセリングの後は屋上に限る…」

絵里「真姫?」

真姫「あら絵里、どうしたの」

絵里「また、『病気』に会ったの?」

真姫「そ…どうしようもないやつだったわ」

絵里「花陽に聞いたんだけど、まだ病気が治ったわけではないんでしよ?」


そう、今現在も花陽の中には繭が生きている、ただ花陽が主導権を握っているだけに過ぎないのだ。

繭は『肉体の限界』を超えられない。
それはあの日に実証された。

花陽曰く、飛び降りの一件で花陽の身体に『西木野真姫には敵わない』という潜在意識が生まれたらしく、繭ちゃんは外に出られなくなったらしい。

花陽「ペットを躾けたみたいだね」

と笑っていたけどそれをペットと呼べるのは花陽だけじゃないかしら。


私の考えでは、主導権が半分ずつになった瞬間に花陽の名前を呼べば花陽が表に出てくるはず、といった算段だったが結果としてはそれ以上のことを成した。

右足と引き換えの、怪我の功名というやつだ。
怪我だけに。

絵里「ねぇ、真姫」

真姫「なぁに」

絵里「貴女…本当はもっとやれたんじゃないの?」

真姫「なにそれ、私なら『治せる』ってこと?」

絵里「だって…治すために花陽を助けに行ったんじゃ…」

真姫「買い被りすぎよ、私が出来るのはただ心を読み取ることだけ、病気そのものをどうこうなんて出来るわけないじゃない」

絵里「それは…そうだけど…」

真姫「私はただのカウンセラー、悩んでいる人に選択肢を提示するだけ、その後どうするかは患者次第よ」

絵里「そういうものなの?」

真姫「そのくらいが丁度いいの、病人が病人を治そうだなんておこがましいわよ」


嘘。
本当は怖いだけ。

勝手に『病気』なんて呼んでるけど、結局は得体の知れない何か。
それに不用意に深く関わるのが怖いだけ。


真姫 (今は救われている…今は…でも)


いつか私が『病気』に飲み込まれた時、誰か私を助けてくれるだろうか?

・・・


それから繭と花陽はなんとか上手くやっているらしい。
完全に繭が消滅したわけではないからか所々に影響が出ており、多少自信家になったというか。
変に明るくなったというか。


時々、花陽と繭はおしゃべりしている。
側から見たらただの独り言で笑っている危ない子にしか見えない。

皆には『若干情緒がアレなだけだからそうなったら私を呼んで』と言ってある。

凛には包み隠さず話した、いまいち信じてくれてはいないが、花陽の笑顔が戻ったことに満足したようで「まぁ一応真姫ちゃんのお陰だから今度ジュースでも奢ってやるにゃ」と調子に乗っていた、本数の指定をしなかったことを後悔させてやろう。

花陽「ねぇ真姫ちゃん」

真姫「どうしたの花陽」

花陽「最近クラスのみんなから『気が強くなったね』って言われるんだけど…」

真姫「自分の胸に手を当てて考えなさい…」


なんというか、彼女らしくもない。


ー 繭唾物 ー おしまい

くぅ疲、ラブライブでやる必要性は無い。
時間かけた割にあんまり良い出来にはなりませんでした。

こういうのは本編と上手い具合に絡ませてこそだと思うんだけど全然浮かばない、誰かアイデアください。

本当はコトリーにだいへんしんとか、とつげきニコークスとか考えたんだけど流石に全員分は思いつかなかった。

おやすみ。

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