あずさ「ロス:タイム:ライフ」 (73)






目の前に来た列車に跳び乗れるかどうか。

それが成功と不成功、運と不運を分ける。


―ラウール・ゴンサレス・ブランコ


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はぁ、今日も面接でダメでした。

緊張してしゃべれないですね、うまくいきません。

ですがもう短大を卒業するのが近づいている今、お仕事をみつけないと。

でも、これで20社目なんですよね、どうしましょう。


「あずさちゃん、お疲れ様 今日は帰りかい?」

商店街を歩いていると、惣菜屋さんのおばさんが声をかけてきました。

短大に通い始めてからお世話になっていて、色々相談に乗ってもらっいて

母親みたいに親しくさせてもらっています。

「はい、面接の帰りなんです」

「そうなの で、どうだった?」

「ちょっと難しいですね」

私は苦笑します。


「はは、そうそううまく行かないものさね これ食べて明日もがんばんなさい」

おばさんは豪快に笑って、私の好物のコロッケを数枚包んでくれました。

「いつもすいません 売り物ですのに」

「いいって、あずさちゃんには良くしてもらってるからね なんならうちに就職したらどう?」

「はい、考えておきますね」

「あずさちゃんは娘みたいなもんだから、困ったことがあったらいつでも相談にきなさいね」

「はい~、その時はよろしくお願いします」


お辞儀をして、私はその場を立ち去りアパートにへの帰路につきます。

私が住んでるアパートというのはちょっと1人で住むには大きいのですが、格安だったのでここに決めました。

さて、もう夕暮れ時になってしまいましたのでお洗濯ものを取り込まないと。

天気が崩れそうですからね。




    人生の無駄を精算する、生涯最後の一時
  
     ――それが、ロス:タイム:ライフ


スーツを脱いで普段の部屋着に着替えます。

そういえば、お隣さんは今日はいないみたいですね。

と言っても、私以外は男性の方が一人住んでいるだけですが。

「そういえば、ビールあったわね」

冷蔵庫からビールを取り出して先ほどいただいたコロッケと一緒に食べます。

「今日はもうちょっと飲もうかな」

そんなこと言ってる間に1ケース開けてしまいました。

お金はあるのですが、体にも良くないですし節制しないと。

「まぁ、今日くらいは」

記念すべき20社目のお祈りが決まったも同然ですし。

いや、記念なんでしょうかこれ。


ビールを飲んでちょっと酔いが回ってきたところでした。

ざーっ、とガラスを叩く音がしてきました。

天気がとうとう崩れた感じですかね。

「あ、洗濯物!」

洗濯物を取り込むのを忘れていました。

急いでベランダに出て、雨の中取り込みます。

秋始めで珍しく気温の低かったからか、冷たい雨に打たれます。

ああ、もう。

今日は厄日ですね。


濡れ鼠になってずぶ濡れの洗濯物を部屋に投げ込みます。

洗濯物を取り込み終わって部屋に入ろうとした時です。

足元に何か動いてるものが・・・・

「ご、ごきぶり!?」

私はきゃっと悲鳴をあげて足を上げます。

その時バランスを崩してしまって、勢いそのままベランダに乗りかかります。

老朽化が進んだベランダは私を支えることはできず、破壊され私は宙に投げ出さ


あっと思って手を伸ばした瞬間には、もう手が届く範囲ではなく。

下は舗装された駐車場、この角度では首が折れて死にますね。

ああ、ここで私の人生も終わるのですか・・・・

空中に投げ出された体をそのままに任せて、私は少しずつ下に落ちて行くのを感じます。

諦めはつきました、せめて苦しむことのないようにお願いします神様。

私は静かに目を閉じました。

濡れ鼠になってずぶ濡れの洗濯物を部屋に投げ込みます。

洗濯物を取り込み終わって部屋に入ろうとした時です。

足元に何か動いてるものが・・・・

「ご、ごきぶり!?」

私はきゃっと悲鳴をあげて足を上げます。

その時バランスを崩してしまって、勢いそのままベランダに乗りかかります。

老朽化が進んだベランダは私を支えることはできず、破壊され私は宙に投げ出されます。


・・・・あれ? これは笛の音ですか?

私が目を開けるとそこには黄色い服をきた人が3人となにやら黒い板を持った人が私を覗き込んでいたのです。

『さぁ、試合開始の笛が鳴り響ました、今回のロスタイムに挑むのは三浦あずさ、就活に苦しむ短大生だぁ!』

『就活は苦しいですもんね 明日また頑張ろうと家事をこなしている時に起こった不慮な事故ですが、
どういう活躍を見せてくれるか楽しみです』


私は驚いて起き上がります。

確認しないで急に起き上がってしまったせいで黒い板を持つ人と頭をゴツンと当ててしまいました。

黒い板を持ってる人が後ろに吹き飛び、黒い板ががちゃんと音を立てて落下しました。

いたたた。

あらあら~、どうしましょう。


『おーっと、いきなりアクシデントです!』

『これは悪気がないのでしかたありませんね ですが、落下した電光掲示板は大丈夫なのですかね』

『ここでリプレイが入ります あー、これは痛い! 額と額が綺麗にぶつかっています』

『綺麗なヘッディングですねー ここまで綺麗に入るものはなかなか見れませんよ」

『主審から警告が入ります おでこを押さえた三浦選手が立ち上がったところで電光掲示板に三浦選手のロスタイムが出ます』


[18]

『これは18時間、ということでしょうか?』

『過去には12年という長丁場が同じ表示ありましたね』

『あの時の選手は立ち上がりは非常に悪かったのですが、最後華麗なるVゴールを決めてくれましたね』

『今回もそうなるかはわかりませんが、最短18時間、最長で18年という状況も考えられます』

『でも流石に18年間はないでしょうね 三浦選手はまだ20歳になったばかりですから』

『となると、最長でも18ヶ月というわけでしょうか』

『そうですね 今回も長丁場になる可能性がありますが、ぜひともお付き合いください』


私は状況が飲みこめませんが一つ確かめなければなりません

「あのー、私は助かったんですか~?」

笛を咥えた肩が首を横に振ります。

ああ、やっぱり。

ですが、それなら私はどうしてまだ生きてるのでしょうか?

ピッっと私に黒い板を見る様に指示します。

その板には18と表示されていました。

「もしかして、あれが私に残された時間?」

笛を咥えた方が頷きます。

18・・・・時間、でしょうか恐らく。

ですが、いきなり私の人生が残り18時間と言われても、どうしようもありません。


「とりあえず、起きてから考えましょう」

部屋に戻った私は寝る準備を始めます。

「あの、すいません 着替えたいので出て行ってもらえませんか?」

私は上着の裾をまくり上げてる途中で男性がいることを思い出します。 

ピッと笛を吹かれます。

「え? 服はこのまま?」

それは少し困ります、部屋着は部屋着ですから。

お願いしてみたところ、明日朝この服に着替える条件しぶしぶ了承していただきました。


『これは女性ですから仕方ないでしょうね ルール上は違反なのですが』

『ここは主審の寛大な裁量を賞賛すべきところですね』

『さぁ、ここで三浦選手睡眠に入ります 試合はまだ始まったばかりです!』


日の光が射してきたのを感じて私は目覚めます。

時間は午前8時、大体10時間くらいは寝てたので残り10時間くらいでしょうか。

ともかく今日は短大をお休みしてしまいましょう。

といっても、あと残り10時間ほどどうしましょうか。

お金はあるのですが、したいことが見つかりません。


そういえば、1回行ってみたかったレストランがあるんですよね。

そっちに行ってみましょう。

少し値が張るので躊躇してたんですが、最後くらいいいですよね?

大切な、貴重なお金ですし。


あれ、なにか人だかりができてますね。

「お茶の間のみなさんこんにちは! 今日はこのお店にお世話になっています!」

あー、芸能人の方が来ているのですね。

そういえば、最近アイドル戦国時代とかテレビでよく言われてますね。

アイドルですか。

私がアイドル・・・・ないですね。

何の取り柄もないですし。

私には、縁遠いこと。


店員さんに少し謝られながら席に案内されます。

そうですね、ランチセットにしましょうか。

外食はいつぶりでしたっけ。

サークルにも入ってませんでしたから飲み会とか参加したことなかったですし。

あ、このパスタおいしいですね。

私が食事を終えたころには撮影は終わっていたようです。

人生の最後でこんなこと経験できてちょっとラッキーかなって思います。


部屋に戻ってお掃除を始めます。

これから死ぬとはいえ、身の回りの整理はしておいた方がいいでしょう。

そういえば、あの黄色い服を着たみなさんの格好、どこかでみたことあると思ったらサッカーの審判さんでしたね。

今私が過ごしてる残りの時間はサッカーで言うロスタイムということでしょうか。

「ふ~、終わりました」

とりあえず、ゴミや雑誌等はまとめてしまいました。


時間的にもそろそろですね、審判の方がベランダに向かうように指示されます。

「みなさん、お疲れ様でした」

大家さんに手すりに腰掛けて審判の方たちに軽く頭を下げます。

審判の方たちが返してくれたのを見て、私は目を閉じ空中に身を投げます。

さようなら、私の人生。


「危ない!」

男性の声にはっと目を見開いたあと、私は誰かに抱きかかえられるを感じます。

きょろきょろと見回すと、隣に住んでる男性の顔がありました。

えーと、この格好はいわゆるお姫様抱っこ?

あ、あらあら~


「なんで手すりに乗るなんて危ない事をしたんですか!」

「す、すいません」

男性に怒られながらも私は何が起きたか理解するのに戸惑っていました。

ベランダを見ると審判団の方々もなにやら慌てていましたし。

それはそうですよね、ここで死なないと狂ってしまいます。


ですが、私は電光掲示板を見て驚きました。

「数字が、0になってない・・・・?」

「なに寝ぼけたこと言ってるんですか?」

「え、ああ すいません~ ちょっとゴキブリに驚いてしまって・・・・」

まぁ、嘘は言ってません。

「全く、気をつけてくださいね」

ええ~・・・・ あっさり信じるんですかこの人は。


「と、ともかくありがとうございます お陰で助かりました 

 あ、あのう そろそろ下ろしてもらえませんか・・・・?」

そういえば、私は抱きかかえられたままなのを思い出しました。

「あ す、すいません」

ゆっくりと地面に立たせてくれた男性の顔は、少し赤くなっていました。

私も少し赤面していたのは言うまでも無いことですが。


男性と別れて部屋に戻ります。

・・・・今日はなんだか疲れてしまったのでもう寝てしまいましょう。

私は布団の用意をして、服のまま寝てしまうのでした。

翌日起きて審判団の方にあいさつをします。

掲示板の数字は進まず18を表示しています。

「となると、あと18週間でしょうか」

18週間もロスタイムになるようなことがあったでしょうか。

お昼寝のしすぎでしょうか。


「ともかくあと2ヶ月半、できることをやっていきたいものですね」

しかし、この18週間というのもはずれだったようです。

1週間たっても数字は減らず、そのまま18週目を迎えました。

さらに最終日に私は酷く迷ってしまい、そのまま18週目を終えることになったのです。

「・・・・これはつまり18ヶ月 あと約15ヶ月ということでしょうか」


やっとの思いで家にたどり着いたのはいいですが、

後で私のロスタイムが終わらないことに審判団の方がなにやら協議を行いながらついてきてたのが気になります。

「あのー、私どうしたらいいんでしょうか」

私に声をかけられて審判団の方がびくりとします。

そして、なにか小突きあってます、なにやってるのでしょうか。

ともかく、このままロスタイムを続けるように指示されました。

最後のチェック兼ねてフェス殴ってきます。

再開は45分くらいに予定してます。

再開します

今回フェスきつすぎでしょこれ・・・w


あれから9ヶ月、つまり1年立ちました。

つまり、予定ならあと6ヶ月ですね。

電光掲示板は進まず、18を示したままでしたが。

表示はそのままで時間は進んでいると思うんですが。

私は、今年1年で今までやれなかったことをやってきました。

ちょっといいお洋服買ったり、旅行に行ったり、おいしいものを食べたり。

学費でカツカツでできなかったことを、卒業して自由になったお金で満喫しています。

・・・・お父さん、お母さんごめんなさい。


結局、就職はせずに惣菜屋のおばさんのところにアルバイトという形で雇っていただいてます。

今はお仕事を終えて、帰路についたところです。

そういえば、今日で審判団の方々とあって1年になるわけですね。

「今までありがとうございます、あと6ヶ月よろしくお願いしますね」

家について着替えを済ました後、ビールを開けながら言います。

もっとも、審判団の方々は飲めないそうなのですが。


あと6ヶ月、ですか。

18週目のあの日、あと1年半がんばって生きてみようと思ってやってきました。

少しは、変われたのでしょうか。

少しでも変われたのなら、顔見せる時にちょっとは胸張れるでしょうかね。


その音に反応して私は回りを見回して見ますがなにも変化が無いように・・・・

「・・・・審判団の方どうされたんですか?」

ちょっと審判団の方がざわめいているのに気づきました。

そっちの方を振り向いた瞬間、私にもその理由がわかりました。




 減っていたんです 18から17に。


一瞬なにが起きたかわからず、頭が真っ白になってしまいました。

はっとなって正気に戻ります。

これが意味することってまさか・・・・

「つまり、私のロスタイムは・・・・あと17年なんですか・・・・!?」

動揺している私に、審判団の方々は頷くしかありませんでした。


「あと、17年ですか・・・・」

部屋から出て、私は薄暗い中をふらふらと歩いて、この公園にたどり着きました。

池でカモさんがまだ元気に泳いでますね。

灯りのあるベンチに腰掛けます。

「うーん、どうしましょうかね~」

あと17年、どう過ごせばいいのでしょうか。

「審判さん、ロスタイムの放棄はできないですよね・・・・?」

聞いてみますが、審判さんは沈黙したままでした。


「・・・・なんで私のロスタイムが18年か、ちょっと心当たりがあります」

この18という数字がロスタイムなのか。

18時間や18ヶ月ではわかりませんでしたが、18年なら1つだけ。

「私、天涯孤独なのですよ 育ての親は一応いるのですけど」

私が2歳のころ、両親や祖父母と行った旅行先で落盤事故に巻き込まれたらしいです。


バスでの移動中だったらしいんですが、その時に乗っていた人は私以外全員死亡。

私だけ重症ながら奇跡的に生き残ったそうです。

その後、両親とは程遠い血縁の親戚に引き取られることとなるのですが、

両親の財産目当てに引き取ったわけで、

私はいらない子として扱われてたわけです。

そして、高校卒業間近でわずかに残った両親の遺産と共に放り出されました。

それから短大に無事合格したものの、苦しい生活が続きました。


「よく迷う私ですけど、まさかロスタイムでも迷うとはですね~」

少し、自嘲気味に笑います。

「この私に与えられた残り17年、どうしたらいいのでしょうか」

夜空を見上げると、空は雲で覆われていました。

まるで、私のこれからのように。


「おや、こんな時間に女性の一人歩きは危険ですよ」

空を見つめてぼーっとしていた私に、声をかけてくる人がいました。

「あ、どうも お仕事帰りですか?」

声のした方向を見てみると、同じアパートに住んでる男性でした。

あれから挨拶するようにはなったぐらいですが、余りお話したことはありませんでした。

「はい、最近軌道に乗り始めたばっかでして 非常にやりがいを感じますよ」

男性は少し疲れた顔をしていますが、にこやかにそう話します。


「幸せそうですね・・・・」

私とは正反対、光に満ちていました。

こっちは、あと17年どうしたらいいのか・・・・


「ん、どうしたんですか? 悩みなら聞きますよ」

少し、私が落ち込んだような表情に見えたからでしょうか、

そう聞いてきます。

「ちょっと、聞いてもらえますか」

私は話しました。

過去を、抱えてたものを。

この人なら話しても大丈夫と、なぜか思ってしまいました。


「それで、今迷子になってしまってるわけです」

何も言わずに聞いてくれました、最後まで。

ちょっと軽くなった気がします。

「それは、大変な人生でしたね・・・・」

普段なら反発してしまうような言葉でも、なぜか受け止められました。

なんでしょうね、この安心感は。


「それで、将来は真っ暗闇だと」

「そうですね、この月明かりもないような、どんよりとした将来ですね」

あと17年、なにをしたらいいのでしょうか、本当に。


「・・・・では、俺がその空に月明かりを差し込んでもいいでしょうか」

「・・・・? それはどういうことですか?」

「実は、こういうことやっていまして」

名刺ケースから名刺を取り出して、私に渡します。

ちょうど月明かりが雲の隙間から差込み、その名刺に書かれたものを、男性を映し出します。

「アイドルになりませんか?」

たまたま出歩いたその先でめぐり合った偶然。

その先で、私の止まっていた歯車が少しずつ回り始める音を聞くことになったのです。



----------------------17年後---------------------------------


某所スタジオ

「あずささん、お疲れ様でした」

「お疲れ様です律子さん
 
 私のわがままに付き合っていただいてありがとうございました」

「いいんですよ、久々に765のみんなで集まれたんですし」

あの後、私はアイドルとして数年活動した後、引退して結婚しました。

お相手は、あの時私を見出してくれた男性、プロデューサーさんです。

しばらく主婦として過ごして、それから歌手として復帰しました。


今日は所属していた765プロの企画CDということで、お仕事に来ていたわけです。

律子さんは、その時所属していた竜宮小町と言うグループのプロデューサーさんです。

プロデューサーさんと共にアイドル活動した期間は短かったのですが、

たまにお仕事についてきてもらっていました。


「あずささんの娘さんのプロデュースも私に任せてくださいね」

「プロデューサーさんがっかりしてましたよ、自分の娘をプロデュースできないって」

「実の親子だと甘えが出るので私がビシバシ鍛えてあげますよ」

プロデューサーさんとの間に、女の子を1人授かりました。

今年で12歳で、たまたま事務所に一緒に行ったら高木会長がティン!と来たそうで。

律子さんのプロデュースで来年デビューするようです。

帰ってくる度に、律子さんが怖いって泣いてましたね。


「お母さん、おかえり!」

家に着くと、愛しい声が聞こえます。

「ただいまー、いい子にしてた?」

「もう12歳なんだから子供扱いしないでよー」

「何歳になっても、親は子供の親なのよ~」

「そうなんだ・・・・ ねぇ、私のデビューライブ見にきてね!」

「うん、楽しみにしてるから 絶対に行くからね」


・・・・ごめんね、嘘つきなお母さんで。

あなたのデビューを見ることができなくてごめんなさい。


「ちょっとお母さん洗濯物いれてくるから、お買い物いってきてくれないかしら~」

「はーい」

もう少し、あなたの成長を見守りたいけれど。

でも、それは叶わないことだから。

「お母さん、いってきまーす!」

ドアを出ていく後姿を目に焼き付けて。

「いってらっしゃい、気をつけて」

そう言って送り出しました。


「・・・・さて、そろそろ時間ですかね 審判団さん」

振り返り審判団の方たちを見ます。

残り3分。

「いい、ロスタイムを過ごさせてもらいました
 
 成長を見守れないのがやっぱり残念ですけど」


プロデューサーさん、老いるまで一緒にいれなくてごめんなさい。

あなたが私の人生を変えてくれたのに。

まだその恩返しができてないのに・・・・

でもこれだけは言えます。

私は幸せでした。

プロデューサーさん、あなた。

愛しています。


独身時代から住み続けてきたアパート。

元々家族でも住めるような大きさのアパートでしたので、

同棲を始めてからもここに住み続けました。

もっとも、ここから動けなかったわけですが。

ふふ、残された側の曲を歌った私が、残す側になるとはですね。


もし神様がいるとしたら、あの人を返して。

生まれ変わっても、君をみつける。

僅かな願いを込めて。

I wanna see you .


あの日のように、手すりに腰掛けます。

「ありがとう、さようなら」

私は空中に身を投げます。

身を投げた私が最後に見たのは、空にかかる虹でした。

私はあの時のように雨の中で人生を終えるはずでした。

それが虹の架かる空に変わったということならば。

私の人生は・・・・


「みなさん今日は私のデビューライブに来ていただいてありがとうございました

 ご存知とは思いますが、昨年の秋、私の母三浦あずさが亡くなりました

 私の尊敬するアイドルであり、女性であった私の母のために一曲捧げたいと思います

 聴いてください 母の代表曲「隣に・・・・」です」 


以上で終了になります。
先人の千早や美希、やよいの方々のロスタイムライフに感動してあずささんで書かせていただきました。
投稿2作目ということで稚拙な部分も見受けられたと思いますが、
おつき合いいただきありがとうございました。

EDにはORANGE RANGEの「君 station」を是非どうぞ。

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