戒斗「IS学園?」一夏「バナナ・オーレ!」 (445)
IS<インフィニット・ストラトス>と仮面ライダー鎧武のクロスSSの続きになります。
前スレは↓
戒斗「IS学園?」一夏「バナナ・スカッシュ!」
戒斗「IS学園?」一夏「バナナ・スカッシュ!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1419961833/)
今回も舞台およびストーリーのベースはIS(のアニメ5~8話)。IS世界に駆紋戒斗が乱入した形となります。
あ。今回もどうにもならなくなったら地の文が入ります。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1420913661
■序幕
<黄昏時・IS学園屋上>
貴虎『――君はあの織斑一夏の成長に手を貸しているそうだな』
戒斗「無駄話に付き合う気は無い」
貴虎『まあ待て、電話を切らないでくれ。子育てというのも悪くないものだ。光実も、子供達も、孫達も、みんな可愛かったよ』
戒斗「切るぞ」
貴虎『君だって、織斑一夏から血の影響というものを感じているのだろう?』
戒斗「……」
貴虎『その様子では、子育てを楽しんでいるようだな』
戒斗「さっさと用件を言え」
貴虎『ああ。――今朝、フランスのデュノア社が第三世代ISを発表した』
戒斗「それがどうした」
貴虎『簡単に言えば、ありえないことが起こった、ということだ』
戒斗「ほう?」
貴虎『デュノア社の第三世代IS開発は難航していた。ひと月やふた月では状況の進展が望めないほどに、な』
戒斗「だが、デュノア社は第三世代ISを完成させたのだろう?」
貴虎『そうだ。まるで――』
戒斗「黄金の果実でも得たような劇的な変化、か」
貴虎『そうだ。私はこの変化の裏に一人の天才の介入があったと見ている』
戒斗「篠ノ之束だな」
貴虎『一夜にして新しい第三世代ISを完成させるなど、ISの開発者である彼女以外には成しえないことだからな。その存在はまさに、現代における黄金の果実だ』
戒斗「それで。まだ、話は終わらないのだろう?」
貴虎『ああ。デュノア社の社長令息がIS学園に転入するらしい』
戒斗「……」
貴虎『表向きは『デュノア社の第三世代ISの稼働テスト』と『ISを使える男性の安全確保』という名目を掲げているが……』
戒斗「そいつは篠ノ之束の手駒、というわけか」
貴虎『ああ。おそらく、デュノア社は実子を篠ノ之博士に売り渡して、見返りとして第三世代ISの技術を得たのだろう。今、転校生の資料を送る』
戒斗「……ふん。愛人の子、か」
戒斗「資料では『女』ということになっているが、これは何だ」
貴虎『ああ、本当の性別は女だ。だが、男と偽っている。君か織斑一夏、あるいは両方に自然と接触を図れるように、だろう」
戒斗「接触して、それで何をするというのだ」
貴虎『……』
戒斗「どうした?」
貴虎『……。この世界のアーマードライダーや仮面ライダー達は、何者かの手によって暗殺された可能性がある。その話はしてあったな?』
戒斗「……」
貴虎『デュノア社長の令息……いや、令嬢は、君に差し向けられた刺客かもしれん』
戒斗「くくっ。くくく。はははははははは!」
貴虎『駆紋……?』
戒斗「くくっ。篠ノ之束からの挑戦状というわけか。いいだろう、受けてやる!」
貴虎『ふっ。頼もしい限りだ』
貴虎『では、駆紋戒斗。君の健闘を祈る』
戒斗「ふん」
戒斗「……見え見えの罠、か」
――戒斗は、手のひらを夕陽に透かした。その手はガラスのように赤光を通す。
戒斗「俺の残り時間は、思っていたより少ないらしい」
戒斗「いいだろう。この際だ、貴様の策略を利用させてもらうぞ、篠ノ之束!」
<同時刻・アリーナ>
一夏(強くなりたいって、ずっと思ってた)
一夏(俺は、誰かに守られてばかりだったから……)
一夏(でも)
一夏(強さって、何だ?)
一夏(単純に『敵を倒す力』じゃあない。駆紋戒斗という『負け続ける男』は、『不屈の魂』という強さを俺に示してくれた)
一夏(どうやら、強さには種類があるらしい)
一夏(……)
一夏(強くなりたい。でも)
一夏(俺は、どんな強さが欲しいんだろう)
■第一幕 駆紋戒斗のいるIS学園の日常
<朝・1年1組>
「あんたその絆創膏、まさか……」
「うん。『千冬様チャレンジ』しちゃった」
「成功……は、まあ、その様子じゃしてないわよねぇ」
「生徒会長だってダメだったんだよ? 私ができるわけないじゃん!」
「いばることか!」
「あいた!?」
「しっかし。――じゃあ、『千冬様チャレンジ』を成功させた人は、名実共に学園最強になりそうねえ」
<SHR(ショート・ホーム・ルーム)・1年1組>
山田「はーい。先生からのお知らせです。今日は、転校生を紹介します!」
シャル「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れなことも多いかと思いますが、みなさんよろしくお願いします」
一夏(え? ……お、お、お……)
「男の子の転校生!?」
「美形! 守ってあげたくなる系の!」
「地球に生まれてよかった~~~~~!」
一夏(なんだこの歓待ムード!?)
シャル「あ、あはは……」
一夏(ああ、うん。そりゃ引くよな。女子のあの圧倒的なパワーってどこから来るんだろう……)
戒斗(ふん)
戒斗(あれが、篠ノ之束が送り込んだ刺客か。――きょろきょろと周囲の目を気にする様は、まるで呉島光実だな)
<2時間目・1年3組>
セシリア(陰謀のニオイがしますわ……!)
セシリア(どんなに急いでも一ヶ月以上かかると言われていた強襲用高機動パッケージ《ストライク・ガンナー》の完成品が、昨夜届いた……)
セシリア(『駆紋戒斗を籠絡せよ』と本国からの再度の念押しと一緒に)
セシリア(強襲用高機動パッケージの完成が何者かとの取り引きの結果であることは明白ですわ)
セシリア(……)
セシリア(イギリス、だけなのかしら)
セシリア(他の国も、何らかの条件と引き換えに駆紋さんに干渉をしようとしている可能性も……?)
セシリア(駆紋さんのクラスにフランスからの転校生が来た、という噂を耳にしました。もしかしたら……)
セシリア(駆紋さん……)
<3時間目休み時間・更衣室>
一夏「しかし。この時期に転校ってのも大変だったろ、シャルル」
シャル「確かに急だったけど、仕方なかったんだよ」
一夏「何か事情があるのか?」
戒斗「デュノアが、ISメーカーデュノア社の社長令嬢だからだ」
シャル「!?」
一夏「何だシャルル、社長の息子だったのか! いやー、納得いったわ。なんとなく気品! っていうかいいとこの育ちって感じするもんなあ」
一夏「でも戒斗。社長の息子なら令嬢じゃなくて令息じゃないか?」
戒斗「……」
戒斗「そうだったな」
一夏「お前でも間違えること、あるんだな」
戒斗「ふん」
シャル(……駆紋戒斗。もしかして、僕の正体に気づいてる? 困ったな……)
シャル(僕は駆紋戒斗を暗殺しなきゃならないのに。警戒されちゃやり辛いよ)
シャル(でも……)
シャル(必ずやり遂げなきゃ)
シャル(あの人のために)
<4時間目・グラウンド>
一夏「へー。それがシャルルの専用機か」
シャル「うん。デュノア社が発表したばかりの第三世代ISなんだ。第二世代の傑作機、ラファール・リヴァイブをベースに――」
戒斗(ん?)
戒斗(……何人か、顔に絆創膏を貼っている女子がいるな)
戒斗(ふむ……)
<昼休み・屋上>
一夏「――っていうわけで。フランスからの転校生、シャルル・デュノアだ!」
セシリア「ふぁっ!?」
一夏「どうしたんだ、セシリア。変な声上げて?」
シャル「や、やっぱり僕はここにいない方が良かったんじゃあ……」
一夏「そんなこと無いって! ご飯はみんなで食べた方が美味しいしさ。な、セシリア!」
セシリア「え、ええと」
セシリア(バカですの? 織斑さんはバカですの!? 国家に何者かの介入の手が伸びているこの状況で転校生と行動を共にするなんて! ああでも、織斑さんは国々の事情なんて知らないでしょうし。ああもう、ああもう!?)
戒斗「オルコット」
セシリア「な、なんでしょう駆紋さん!?」
戒斗「高貴なる者には相応の振舞いがある。そうだな?」
セシリア「……!」
セシリア「ふ、ふん。駆紋さんに言われるまでもありませんわ! わたくしはセシリア・オルコット。よろしくお願いしますわね、デュノアさん」
シャル「うん。よろしくね、オルコットさん」
鈴「あたしは凰鈴音よ。鈴でいいわ、シャルル」
シャル「わかったよ。よろしくね、鈴」
箒「篠ノ之箒だ。私は――」
鈴「箒でいいわよ」
箒「鈴!?」
鈴「だめなの?」
箒「だ、男子に気安くと名前を呼ばれるのは……」
シャル「あはは。なら、篠ノ之さん、だね。よろしく」
箒「ああ。よろしく、デュノア」
一夏「あれ? なら、俺も箒のことは篠ノ之さんって呼んだ方がいいのか?」
箒「お前は箒でいい!」
一夏「え、何で」
箒「何でって……。それを聞くのか、バカ者!」
一夏「今、俺、何で罵られたんだろう……?」
シャル「あー……」
一夏「どうしたんだよ、シャルル。変な顔して」
シャル「だいたいわかった。一夏って、こういう人なんだね」
鈴「不本意ながらね」
箒「まったくだ」
一夏「何だよその謎の連帯感!?」
セシリア「――こほん」
鈴「どうしたの、セシリア。あらたまっちゃってさ」
セシリア「じ、実はわたくし……。今日はお弁当を作ってみましたの!」
鈴「へー。ふーん。ほー」
セシリア「そ、その意味ありげな視線は何ですの!?」
鈴「べっつにぃ。……で。セシリアはそのお弁当を誰に食べてもらいたいのかなあ?」
セシリア「べ、べべべ別にそういう意図で作ったものではありませんわ!」
鈴「ふーん。ま、いいけどね。んで、イギリス令嬢はどんなお弁当を作ったのかなー?」
鈴「……」
鈴「あ。イギリスかぁ……」
セシリア「決闘ならいつでもお受けいたしますわよ、鈴さん!?」
鈴「ごめんごめん」
セシリア「まったく。これがわたくしのお弁当ですわ」
一夏「おお。料理本の写真みたいな出来のサンドイッチ……!」
セシリア「ふふん。わたくしだって、やればこれくらいはできますのよ!」
箒(指に絆創膏が巻かれている。不慣れな中、努力したのだろう。私も最初は大変だった)
セシリア「それでは、みなさんで――」
鈴「じゃあ、一個目は戒斗が食べなさいよ」
セシリア「ふぁっ!?」
シャル「ん? もしかしてオルコットさんって」
セシリア「わーわーわー! 何でもありません! 何でもありませんわ!」
シャル「そ、そう」
戒斗「では、一つもらおうか」
セシリア「ふぁっ!?」
戒斗「……」
セシリア(あっさり食べましたわー!? ……ど、どど、どうなんでしょう……)
鈴(にやにや)
セシリア(鈴さんとはあとで決着をつけなければなりませんわね! ――そ、その。確かにお料理中に駆紋さんのお顔を思い浮かべなくもありませんでしたが! う、ううぅ)
戒斗「……」
戒斗「オルコット」
セシリア「は、はい!?」
戒斗「貴様は……――料理を何だと思っているッ!」
セシリア「ふぁっ!?」
戒斗「いずれ貴様に本当の料理を教えてやる……! 覚えて、い、ろ……」
一夏「か、戒斗が倒れたァーーー!?」
セシリア「駆紋さん!? どうなさいましたの、駆紋さん!」
箒「ほ、保健の先生を呼んでくる……!」
戒斗「それには及ばん……」
一夏「戒斗が復活したーーー!?」
戒斗「貴様は本当にやかましい奴だな……」
一夏「懐かしいなそのセリフ!?」
鈴「……」パクッ
鈴「……」モグモグ
鈴「……。やっぱ、イギリスはイギリスねえ」
セシリア「決闘ですわね!? ISを出しなさい、鈴さん!」
鈴「あたしが無事だったらね」パタン
一夏「今度は鈴が倒れたーーー!?」
箒「ほ、保健の先生を呼んでくる……!」
セシリア「どうしてですの!? どうしてこうなりますの……!」
シャル(……)
シャル(ああ)
シャル(眩しいや……)ギリッ
<5時間目休み時間・1年1組>
戒斗「聞きたいことがある」
「いいよー。その代わり、こないだの調理実習で駆紋君が作った、あの美味しいフルーツタルトのコツを教えて!」
戒斗「交換条件というわけか。いいだろう」
「ふふっ。それで、何が聞きたいのかなー?」
一夏(何だかんだで、戒斗の奴もクラスに溶け込んでるよなあ)
戒斗「貴様と、他の3人。それに他のクラスにも。額に絆創膏を貼っているな。何があった」
「あー、これねー。女の勲章ってヤツカナー」
一夏(女の勲章……?)
「あはは。この子ね、『千冬様チャレンジ』したのよ」
「はい! 挑戦してー、見事にボロ負けしました!」
一夏(千冬様チャレンジ……?)
「千冬様チャレンジっていうのはね。まあ、すっごく簡単に説明すると――」
「――織斑先生のお風呂を覗くことよ!」
戒斗「……」
一夏(は……?)
「ああ、麗しき織斑千冬様! 第1回IS世界大会《モンド・グロッソ》の総合優勝者にして、公式戦無敗の《ブリュンヒルデ》!」
「強くて美しい、世界中の女性の憧れ!」
「そしてIS学園は、最強にして最高の美女との共同生活!」
「「「これはもう、覗くっきゃないでしょ!!」」」
一夏(わ、わからない。俺には女子がわからない……)
戒斗「なるほどな」
一夏(なん……だと……)
戒斗「つまり、その『千冬様チャレンジ』とは最強に挑戦することで己の強さを見せつける行為、というわけか」
一夏(あわわわわわわわわわ。な、何かメッチャ楽しそうな顔してるよカイトォォオオオオッ!?)
戒斗「面白い。俺も一つ乗ってみるか」
一夏(うわぁあああああっ!? こいつ、やる気だーーーー!?)
一夏「戒斗! お前本気で千冬姉の風呂を覗くつもりかよ!」
戒斗「そうだ」
一夏「ふざけんなっ!」
戒斗「ほう。俺とやるつもりか?」
一夏「当たり前だ! 千冬姉の裸は――俺が守るッ!」
戒斗「ふん」
戒斗「なあ、織斑」
一夏「何を言われたって懐柔されないからな!」
戒斗「貴様は、いつまで『守られる存在』に甘んじるつもりだ?」
一夏「……。ど、どういうことだよ」
戒斗「言葉通りだ。織斑、貴様は『守られる存在』だ。特に、織斑千冬にとっては、そうだ」
一夏「それは……ッ!」
戒斗「貴様が弱者だと、織斑千冬に思われているからな」
一夏「!?」
戒斗「『守られる存在』から『守りし者』になりたくはないか、織斑?」
一夏「そ、そりゃ俺だって。……でも、そんなことどうやって……」
戒斗「簡単な話だ。貴様の強さを織斑千冬に見せつけてやればいい」
一夏「強さを、見せつける……」
戒斗「そうだ。織斑千冬が貴様の強さを認めれば、織斑は『守られる存在』から『守りし者』になれるだろう」
一夏「俺が、守りし者に……」
戒斗「『千冬様チャレンジ』は、そのためのチャンスだ。挑戦するかしないか。いや――」
戒斗「いつまで『守られる存在』でいるかは、貴様が決めるといい」
一夏「……」
一夏「…………」
一夏「やってやるよ」
戒斗「ほう」
一夏「やってやる! 『千冬様チャレンジ』に打ち勝って、俺の強さを千冬姉に見せつけてやるよ!」
<放課後・学生寮シャルの一人部屋>
――シャルは“黒幕”に報告を行っていた。
シャル「……はい。どうやら、駆紋戒斗は僕の正体に気づいているようです」
シャル「え、追加のエージェント……?」
シャル「ま、待ってください! それは、僕は用済みということでしょうか!?」
シャル「待って! ――僕を、捨てないで……」
シャル「え……? 追加のエージェントと協力して任務に当たれ、ですか……」
シャル「取り乱してしまってすみません」
シャル「はい。必ずやり遂げてみせます」
シャル「え? 駆紋戒斗の『千冬様チャレンジ』に同行しろ、ですか……?」
シャル「い、いえ、やります」
シャル「必ず、駆紋戒斗と織斑千冬の直接対決の結末を見届けます!」
シャル「はい、分かりました。それでは、また」ピッ
シャル「……」
シャル「あの人は僕を必要としてくれている」
シャル「誰も必要としてくれなかった、この僕を……」
<同時刻・1年2組>
セシリア「失礼します」
セシリア「鈴さん。突然の特訓中止の理由も合わせて、2組に呼び付けた事情を説明していただき……ま……す……」
セシリア「な、何をお造りになられているのでしょう?」
鈴「トラップ」
セシリア「一体何のために……」
鈴「一夏の奴をぶっ潰すために決まってんでしょ」にっこり
セシリア「……え、えーっと」
鈴「一夏のバカ、千冬さんのお風呂を覗くとか言いだしたらしいのよ!? これ以上あのバカのシスコンが加速したらこっちが困るのよ! ねえ、箒!」
箒「……ああ!」
セシリア(ち、力強い返事ですわね)
セシリア「み、みなさんも同じ志をお持ちで?」
「やー、アタシ達は鈴に頼まれただけなんだけどさー」
「鈴に頼まれちゃあ、やらないわけにもいかないかなぁって」
「あう。上手く曲がらない」
箒「ちょっと貸してみろ。――ハァッ!」
「篠ノ之さんすごーい!」
箒「そ、それほどでも」
「篠ノ之さんって美人だけど、照れると可愛いよね」
「近寄り辛いなーって思ってたけど、話してみるとそうでもなかったしね!」
箒「あ、あう……」
セシリア(えーっと……)
鈴「セシリア、ちょっとこっち来て」
セシリア「は、はい?」
<1年2組・教室の隅>
鈴「そもそも、発端は戒斗らしいわよ?」
セシリア「ふぇ?」
鈴「千冬さんのお風呂を覗くことが強さの証明、って聞いたら喜んで乗っかったらしいわ」
セシリア「い、意味がわかりませんわ……」
鈴「あたしもよくわかんないけど――あんた、いいの?」
セシリア「な、何がですの」
鈴「だってセシリアって、戒斗のこと好きじゃないの?」
セシリア「ふぁっ!?」
鈴「あれ? セシリアってばいつも戒斗を目で追ってるから、あたしてっきり……。違ったの?」
セシリア「……」
セシリア「正直、よくわかりませんわ」
セシリア「ただ、あの方を見ていると……」
鈴「うんうん」
セシリア「……やっぱり、よくわかりませんわ」
鈴「……」
鈴「そっか」
セシリア「笑ってもいいのですよ?」
鈴「それを笑っちゃ、あんたと友達でいられなくなるわよ」
セシリア「……ふふっ」
<1年2組・中央>
鈴「しょーじき。あたし、危機感抱いてるのよ」
セシリア「?」
鈴「一夏と戒斗よ! あいつら、距離近すぎない!?」
箒「!?」
セシリア「!?」
鈴「一夏は何だかんだでちょくちょく戒斗の方見てるし……」
セシリア「そういえば、駆紋さんも口調はツッケンドンでも、織斑さんには妙に優しいですわ……」
箒「た、確かに……」
「俺様系イケメンと熱血美少年の組み合わせかー……」
「『黙って俺のモノになれ、織斑』って? きゃー!」
「でもでも、織斑君のヘタレ攻めって線も!」
「ちょっと待って!! 1組にはフランス貴公子のシャルル・デュノア君が転校してきたんだよ!」
セシリア「!?」
鈴「!?」
箒「!?」
「まさか――薔薇の三角関係!?」
鈴「あ、ありえる……」
セシリア(ごくり……)
「ねえねえ、篠ノ之さんはどう思う?」
箒「わ、私か!? 私は……」
箒「……」
箒「駆紋に壁ドンされるデュノアが、とても絵になると思うんだ……」
鈴「……」
セシリア「……」
2組のクラスメイト達「…………」
箒(あ、あああ。は、外してしまったか……!?)
「「「「王道ね!!!!」」」」
箒(……)
箒(姉さん。私、友達が増えました)
<放課後・廊下>
一夏「本当にシャルルもやるのか?」
シャル「う、うん。一夏こそよくやる気になったね」
一夏「フッ。俺は、千冬姉に俺の強さを見せつけないといけないからな!」
シャル(な、何か燃えてるよぉ)
シャル「……」
シャル「……一夏と駆紋君って、仲良いよね」
一夏「ん? まあ、そうだなあ」
シャル「何だか微妙な反応だね……。友達なんだよね?」
一夏「どうなんだろうな?」
シャル「僕に聞かれても……」
一夏「あはは。俺も、俺と戒斗の関係なんてよく分かんねーよ」
一夏「ただ……」
一夏「俺さ、あいつを見てると、すげぇなって思うんだ」
一夏「だから。もしかしたら俺は、駆紋戒斗って男に憧れているのかもしれない」
一夏「戒斗には言うなよ? 絶対だぞ!」
シャル「う、うん」
シャル(……)
シャル(憧れてる、ね)
シャル(……)
シャル(一夏にとっての駆紋戒斗は『必要な人』なのかな)
<放課後・1年1組>
「駆紋君と織斑君、本当に『千冬様チャレンジ』するのかな?」
「やー。駆紋君ならやりそうだよね。そして、成功させそう!」
「でも、千冬様だよ? いくら駆紋君でも……」
「って言うか、駆紋君ってIS戦全敗じゃあ……」
「…………」
「すばらしいッ!」
「誰!?」
「あ、あんた達は!」
「3バカ!?」
クラスメイト3「すばらしい! エロスは原初の欲望だよ!」
クラスメイト2「『千冬様チャレンジ』。それもまた、高貴な行い――」
クラスメイト1「ったく。あいつも声かけてくれないなんて、水臭いじゃねえか」
クラスメイト1「2組が、駆紋の大将達をぶっ潰す準備をしているらしいぜ。だったら――1組がやることは、決まってるよな」
乙ありがとうございましたー!
とりあえずここまでで、一旦眠りまする。またしばらくの間、お付き合いお願いいたします。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。
お、おはようございます……(震え声
乙ありがとうございました。書く手が止まった時は乙と感想を見返して励みにしておりますー。
さて。続きを投下していきます。
■第二幕 真・クラス対抗戦!
<夜・織斑千冬が独占した大浴場>
千冬「ふー……。風呂に浸かっていると、自分が日本人だと実感させられるな」
千冬「このままゆっくりと湯船に沈んでいたいところだが」
千冬「今夜も来るだろうからな。『千冬様チャレンジ』とかいう、馬鹿げた挑戦が」
千冬「それに……」
千冬「だがまあ。もう少しゆっくりしていくか」
<夜・学生寮裏の茂み>
一夏「戒斗。お前、訓練機の《打鉄》まで用意してきたのか……」
戒斗「相手は織斑千冬だからな」
シャル(冷静に考えると、今の僕達って武装変態集団だよね……)
戒斗「事前に説明した通り、校舎の外壁に沿って大浴場の裏手を目指す」
シャル「ルート上にトラップがあるから気をつけろ、ってことだね」
戒斗「いや、無い」
シャル「え?」
戒斗「問題は大浴場に着いた後だ。――窓から顔を覗かせた瞬間に、手桶を喰らわされるそうだ」
一夏「ああ、だから額に絆創膏貼ってたのかー」
シャル「それ、ISの絶対防御を展開すれば防げるんじゃあ……?」
戒斗「それを試みた人物は、絶対防御を突き破られて昏倒させられたらしい」
一夏「さすが千冬姉、滅茶苦茶だな!」
シャル「何かちょっと嬉しそうだね、一夏……?」
一夏「それくらいじゃないと挑戦し甲斐が無いからな!」
戒斗「騒ぐな。――では、行くぞ」
<闇の中>
「ふふふふふ。1年2組が総力を上げて急造したこのトラップゾーン……。突破できるものならしてみなさいよね、一夏ッ」
「わたくしもお手伝いしましたので、セシリア・オルコットと愉快な仲間達ですわよ」
「私達がおまけになるのか……?」
「当然ですわ。わたくしは高貴ですもの!」
「しっ。足音が聞こえる。来るわよ」
<大浴場近くの茂み>
戒斗「待て」
一夏「どうしたんだ」
戒斗「どうやら、俺達を罠にハメたい奴がいるらしい」
シャル(どうしてそこで僕を見るのかな!?)
戒斗「そこに隠れている奴、出てこい」
鈴「バレちゃあしょうがないわね!」
セシリア「鈴さん、悪役みたいですわ……」
鈴「うっさいわね!?」
箒「まあ、罠を張って待ち伏せは悪役の所業だな……」
鈴「いいのよ! 大義あたし達にあるんだから!」
一夏「た、大義だって……!」
鈴「そうよ! 女の人のお風呂覗くとか普通に痴漢よ、痴漢!」
一夏「……」
一夏「……」
一夏「あ……」
鈴「気づいてなかったんかーい!?」
戒斗「惑わされるな、織斑。貴様の強さを姉に見せつけるのだろう?」
一夏「っは、そうだった! 俺は千冬姉に認めてもらわなきゃならないんだ!」
セシリア「むしろ、駆紋さんが織斑さんを惑わしてますわ……」
箒「っというか、これはやはり、一夏の駆紋に対する信頼度が高すぎるのが問題では」
鈴「シスコンでホモってか!? ますます救えないわよそんなのー!?」
シャル「よ、よくわからないけど、通してもらえないかな……?」
鈴「ダメよ! 出てきて、2組のみんな!」
2組のクラスメイト達「「おーーーー!!」」
一夏「うぇっ、何人いんだよ!?」
鈴「ふふん、これが人望よ!」
一夏「この万年クラス委員め!」
鈴「褒めてんのか貶してんのかはっきりしなさいよ!?」
シャル「……何だかどたばたしてきたけど、状況はよくないよ。さすがに2組の人達全員が相手じゃあ」
戒斗「関係無い」
シャル「え?」
戒斗「誰が敵に回ろうと関係無い。やると決めたことはやり遂げる、それだけだ」
「いやー。かっこいいねぇ、大将!」
シャル「誰!?」
戒斗「貴様らか。何――」
クラスメイト1「みなまで言うなって。ここは任せな」
クラスメイト2「神に代わって剣を振るう女――」
クラスメイト3「後藤君、例の物を」
クラスメイト5103「はい」
1組クラスメイト達「「「私達もいるよ!!」」」
一夏「み、みんな……」
戒斗「ふん。行くぞ織斑、デュノア」
一夏「おう!」
シャル「う、うん!」
鈴「逃すか! ――って、うひゃあっ!?」
セシリア「な、何ですのその銃!?」
クラスメイト3「バースバスター。メダル不足やISの登場で時代遅れとなってしまったが、こういう場面ではまだまだ現役だよ。後藤君!」
クラスメイト5103「ハァッ!」
セシリア「ちょ、ほ、本気で撃ってきますわ!?」
箒「これでは一夏達を追いかけられない……!」
鈴「ええい! それならISよ! お望み通り、あんな玩具みたいな銃を時代遅れにしてやろうじゃない!」
クラスメイト1「――フッ」
セシリア「な、何がおかしいんですの!?」
クラスメイト2「友情のために立ち上がった我らを、IS如きで止められると思うな!」
セシリア(――何ですの、この気配《オーラ》!? まるで、駆紋さんがあの黒いベルトを取り出した時のような……!?)
クラスメイト1「行くぜ二人とも!」
箒「!?」
――変……身ッ!
<大浴場裏>
一夏「戒斗ってさ。一匹狼って感じなのに、何か不思議と人が集まってくるんだよなあ」
シャル「…………」
シャル(何だよ、それ)ギリッ
戒斗「ふん」
一夏「見えた。大浴場だ!」
一夏「でも、ここからが本番なんだな……。って、戒斗、お前何してんだよ!?」
戒斗「小さな窓から覗くから、的を絞られて桶をぶつけられる。ならば!」
シャル(う、うわぁ!? 大浴場の壁をISで壊したー!?)
一夏「……」
一夏「た、確かにそれなら桶を避けられるかもしれない!」
シャル(な、納得してる……)
戒斗「……ふん」
シャル(あれ?)
戒斗「どうやら、桶よりも面白いものと戦うことになりそうだぞ」
千冬「やりすぎだ、バカ共。覚悟しろよ」
シャル(お、織斑先生、裸どころか打鉄に乗って待ち構えてたー!?)
<大浴場近くの茂み>
――クラスメイト1・2・3が目を回していた。
鈴「変身って何よ! IS展開しただけじゃない!」
セシリア「ほっとしたような、残念なような……」
箒「IS操縦の技術も大したことはなかったな」
セシリア「当然ですわ。ISの操縦は経験こそが全て。毎日特訓しているわたくし達が負ける道理はございません。――IS戦において、ジャイアントキリングはありえないのです」
箒「……」
鈴「どしたの?」
箒「いや。一夏達はどうなったのか、と思ってな」
鈴「んー。ここはみんなに任せて、あたし達は一夏達をおっかけよっか」
セシリア「そうしましょう」
鈴「みんなー! ここは任せた!!」
2組のみんな「「「任せてツルペタクラス代表!!」」」
鈴「……。あ、あんた達全員沢芽の海に沈めてやるからな!? 覚えときなさいよーー!!」
<大浴場>
シャル「一夏! しっかりして、一夏!」
一夏「あれ、シャルル? 俺、どうして……」
シャル「一夏は織斑先生に挑んで、その……」
一夏「……」
一夏「瞬殺されたんだっけ……」
シャル「うん……」
一夏「やっぱ強いなあ、千冬姉は」
シャル「……」
一夏「どうしたんだ、シャルル?」
シャル「あれ、見て」
一夏「え? …………」
一夏(二機の打鉄が互角の勝負を繰り広げていた)
一夏(千冬姉と戒斗だ)
一夏(その光景には既視感があった)
一夏(俺はかつて、千冬姉と戒斗の深夜の決闘を盗み見ている。目の前の光景は、ソレにそっくりだった)
一夏(けど……)
一夏「あ……」
シャル「どうしたの?」
一夏「前にさ。戒斗、今の形の攻防から負けたんだよ」
シャル「そうなんだ。でも、今は上手くしのいだね」
一夏(幾度となく見た、戒斗の負ける姿。――そのことごとくを、アイツは打ち破っていった)
一夏(…………)
<大浴場>
箒「一夏!」
セシリア「あら、駆紋さんの姿がありませんわ」
鈴「千冬さんとシャルルもいないわね」
箒「一夏、どうしたんだ一夏。……一夏?」
一夏「あ、ああ、箒か」
箒「どうしたんだ。何かあったのか?」
一夏「……」
鈴「一夏?」
一夏「千冬姉が、負けた」
箒「ば、バカを言うな!? 千冬さんが負けるところなんて、私は一度も見たことが無いぞ!」
セシリア「っと言うか、誰にも負けていないはずですわ。だって織斑先生は、公式戦無敗の《ブリュンヒルデ》ですもの……」
鈴「誰が」
箒「?」
鈴「誰が、千冬さんに勝ったのよ」
一夏「……」
一夏「戒斗、だよ」
一夏「そんな顔するなよ。この目で見た俺だって、いまだに信じられないんだ」
一夏「でも……」
一夏「確かに戒斗は、千冬姉に勝ったんだよ……」
<教員室に通じる廊下>
千冬「ははっ。まさか私がIS戦で負けるとはな」
千冬「駆紋戒斗……。ふふ、じいさんに聞かされていた通りの人物だったな」
千冬「不撓不屈の、本当に強い男。……ふふ。ははははは!」
千冬「しかし」
千冬「打鉄を装備して大浴場で待て、とは。あいつも妙な場所を決闘場に指定するものだ」
<帰り道>
シャル「一夏、本当に置いてきちゃってよかったのかな」
戒斗「気をとり直したら自分の足で帰ってくる」
シャル「そう……」
シャル(駆紋戒斗は、織斑先生に勝利した。それは、驚くべきことだけど)
シャル(さすがに、疲れ果てている)
シャル(暗い夜道で、周囲に人影もない)
シャル(――今なら)
戒斗「殺せる、な」
シャル「!?」
戒斗「シャルロット・デュノア。貴様を盾にしてコソコソと動いている篠ノ之束に伝えろ」
戒斗「俺を殺したければ力でねじ伏せることだ、とな」
<某所>
「――ふむ。よく報告してくれたね、シャルロット」
「ならばお望み通り、学年別トーナメントで堂々と暗殺することにしよう。君は引き続き指示を待ちたまえ」
「大丈夫。私は君を捨てたりしないよ」
「ふふっ。おやすみ、可愛いシャルロット」
「…………」
「ふふっ。はっはっはっはっは!」
「聞いたかい、束? 『篠ノ之束に伝えろ』だってさ。ははははは!」
「いいねぇ、駆紋戒斗。君の滑稽な姿は私を愉快な気持ちにさせてくれるよ」
「ああ。これは、五十年振りに口にする機会があるかもしれないねえ」
「『全部私のせいだ! ハハハハハッ!』 ってね。ハハハハハッ!」
――その高笑いを恐れて、縮こまった篠ノ之束が耳を塞いでいた。
<夜中・学生寮1025室
一夏「戒斗。さすがに今日は寝ちまったか」
一夏「……」
一夏「どんな強さが欲しいのか。その答えが出たよ」
一夏「不屈の魂で何度でも立ち上がり、最後には勝利する――」
一夏「そう」
一夏「戒斗。俺は、お前になりたい」
一夏「……」
一夏「おやすみ」
戒斗(……)
戒斗(ふん)
戒斗(そうではないのだ)
戒斗(それは、本当の強さにはほど遠いものだ)
戒斗(織斑。貴様が手に入れなければならない強さは、もっと――)
戒斗(欲深くなくてはならん)
<翌日・SHR・1年1組>
――1年1組の面々は、石を抱いて正座をしていた。
一夏「あの、千冬姉――あぃったぁっ!?」
千冬「学校では織斑先生だ」
一夏「……ご指導ありがとうございます、織斑先生」
千冬「まったく。敷地内でのISの無断使用に、大浴場の破壊。その他諸々……。浮かれ過ぎだ、バカ共めが」
一夏「はい。反省しております……」
山田「お、織斑先生。そのくらいにして、転校生の方を」
千冬「そうだったな」
一夏(転校生?)
千冬「入れ」
「――ハッ!」
一夏(なんか、ちっちゃくてキビキビした女の子だな)
千冬「挨拶をしろ、ラウラ」
ラウラ「はい、教官」
千冬「ここではそう呼ぶな。もう私は教官ではないし、ここではお前も一般生徒だ。私のことは織斑先生と呼べ」
ラウラ「了解しました」
ラウラ「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」
山田「あ、あの。以上、ですか?」
ラウラ「以上だ」
一夏(な、何だ。何なんだこの子)
ラウラ「……織斑一夏というのはお前か」
一夏「え。あ、ああ」
ラウラ「! 貴様が――」
――パシン
一夏(え……? 俺、今、なんで叩かれたんだ……?)
ラウラ「私は認めない! 貴様があの人の弟であるなど、認めるものか!」
一夏(…………)
一夏(何だかわかんねえけど、こいつは俺を千冬姉の弟とは認めないと言っている)
一夏(…………)
千冬「…………」
一夏(いや。しょうがないよなあ……)
一夏(そりゃ、こんな、石抱いて正座してるような男が千冬姉の弟って名乗ったら、俺だって張り倒すよ)
一先ず、以上になります。ちょっとご飯食べたりしてきます。
それでは、ここまでお付き合いありがとうございました。
ご飯食べて投下前のチェックをしていたら、結構時間が経っていました……。
投下再開します。第三幕の投下が終わったら、一旦離席します。たぶん、帰ってくるのは夜になるかと。
■第三幕 大嵐の前の嵐
<1時間目休み時間・1年1組>
一夏「やっと石抱き正座から解放されたー!」
シャル「次の授業はグラウンドに集合だよね。早く更衣室に行こう」
一夏「そうだな。戒斗も――」
戒斗「先に行け。俺はやることがある」
一夏「うん? よくわかんないけど、遅刻すんなよ。行こうぜ、シャルル」
シャル「う、うん」
シャル(駆紋戒斗。……今度は何をしでかすつもりなの?)
戒斗「……」
戒斗(今朝、呉島貴虎から連絡があった。ドイツから、新たな転校生が来る、と)
戒斗(ラウラ・ボーデヴィッヒ。ドイツ軍人で、第三世代ISの専用機持ち)
戒斗(そして……。恐らく、こいつもまた奴の手駒)
戒斗(だが、奴が貴虎の情報通りの人物なら……)
戒斗「ボーデヴィッヒ」
ラウラ「む。……駆紋戒斗か」
戒斗「貴様に用がある」
ラウラ「私は貴様と慣れ合うつもりは無い」
戒斗「そうか」
ラウラ「そうだ。じゃあな」
戒斗「……」
戒斗「《雪片》」
ラウラ「!? 貴様、今、何と言った!」
戒斗「織斑千冬は、雪片という長刀一本で第1回IS世界大会を勝ち抜いた。以降、雪片は最強の証となった」
ラウラ「貴様、何が言いたい!」
戒斗「織斑一夏のISは雪片を継承している」
ラウラ「な、何だと!?」
戒斗「俺の用は終わった。じゃあな」
ラウラ「ま、待て!」
ラウラ「……」
ラウラ「あいつが、雪片を受け継いだだと? 教官の後継者気取りか……ッ」ギリッ
<1時間目休み時間・更衣室>
一夏(ラウラ・ボーデヴィッヒ)
一夏(千冬姉を教官って呼んでるから、たぶん、ドイツ軍人だ。千冬姉がドイツにいた頃の教え子なんだろう)
一夏(千冬姉に育てられたなら、千冬姉を敬愛しているのも納得できる)
一夏(むしろ自然の摂理だ。うんうん)
一夏(それに、ドイツ軍の関係者なら……)
一夏(俺の不甲斐無さのせいで、千冬姉が第2回IS世界大会の決勝をすっぽかしたことも知っているんだろう)
一夏(……)
一夏(困ったな)
シャル「一夏、着替えないの?」
一夏「あ。着替える着替える!」
シャル「急がないと遅刻しちゃうよ?」
シャル(ラウラ・ボーデヴィッヒ。あの人が言っていた追加のエージェント)
シャル(……)
<2時間目・グラウンド>
ラウラ「私と戦え、織斑一夏!」
一夏「断る」
シャル(い、いきなり一触即発の空気に……!?)
戒斗「ほう。織斑、挑まれた勝負から逃げるのか?」
シャル(ええっ!? あ、煽るの!? なんで!?)
一夏「……」
一夏「ラウラ。お前は何のために俺と戦いたいんだ」
ラウラ「知れたこと。貴様が教官の唯一の汚点だからだ。貴様がいなければ教官は第2回IS世界大会の優勝を飾っていただろう――私は、貴様の存在を許さない」
一夏「わかった」
一夏「俺は千冬姉の《雪片》を受け継いだんだ。汚点とまで言われちゃ、黙ってらんないね!」
ラウラ「ふん。何より気に喰わないのは、貴様が雪片を手にしていることだ」
一夏「何だと!」
ラウラ「それは、教官が築いた最強伝説の象徴。貴様如きが持っていていいものではない」
一夏「じゃあ、何だって言うんだ!」
ラウラ「知れたこと。――私との決闘に、雪片を賭けろ」
一夏「ッ!?」
ラウラ「どうした。負けるのが怖いのか?」
一夏「い、いいぜ! 雪片を受け継いだ時から、俺は千冬姉以外の誰にも負けられなくなったんだ。お前にだって、負けやしない!」
ラウラ「その意気だけは認めてやる。――行くぞ」
一夏「来い!」
千冬「やめろバカ共!」
ラウラ「教官!?」
一夏「千冬姉!?」
千冬「学校では織斑先生だと、何度言えばわかる。――それより。放課後なら何も言わんが、授業中は授業に集中しろ」
ラウラ「……了解しました」
千冬「よろしい。織斑もだぞ」
一夏「……はい」
千冬「……」
千冬「なあ、“一夏”」
一夏「千冬姉……?」
千冬「私の名を守るというお前の心意気は嬉しいがな。それは、授業をサボタージュした決闘の景品にできるほど安いのか?」
一夏「……!」
千冬「話はそれだけだ。ほら、とっとと授業に戻れ!」
一夏「はい!」
千冬(……)
千冬(駆紋の奴、一夏とラウラを焚きつけて何をさせるつもりだ……?)
<昼休み・屋上>
シャル「――っていうことがあったんだよ」
鈴「何よそのラウラって奴、腹立つわね!」
セシリア「まあまあ、鈴さん。……それにしても」
箒「一夏。お前、千冬さんのこと好きすぎないか……?」
戒斗「不治の病だな、あれは」
鈴「そうそう。……って、いつもならこの辺で突っ込みが飛んでくるはずなのに。おーい、どうしたのよ一夏。ぽけーとしちゃってさ」
一夏「いや、その」
箒「なんだ、だらしない。そんな調子で学年別トーナメントは大丈夫なのか?」
一夏「学年別トーナメント……?」
セシリア「月末に開かれる大会ですわ。全校生徒が参加する、一週間がかりのトーナメント戦ですの」
鈴「各学年の最強を決める、ってわけね」
一夏「各学年の……最強……?」
戒斗「そうだ。最強だ」
一夏「最強……」
一夏「それだ!」
鈴「と、突然立ち上がってどうしたのよ!?」
一夏「俺、ちょっと行ってくる!」
鈴「あ、ちょ、一夏! ……行っちゃった」
セシリア「あら」
箒「どうしたんだ、セシリア」
セシリア「駆紋さんとデュノアさんのお姿もありませんわ」
<食堂>
一夏「ラウラ!」
ラウラ「……貴様か」
一夏「学年別トーナメントだ!」
ラウラ「何の話だ?」
一夏「月末に、一年の中だけど、最強を決める戦いがある。そこでならラウラの挑戦を受けていい」
ラウラ「ふん。別に、雪片を賭けた戦いならここで初めてもいいんだぞ」
一夏「……」
一夏「お前にとっての雪片は、その程度のものなのか?」
ラウラ「……何だと」
一夏「雪片は千冬姉が残した最強伝説の象徴だ。昼休みの残り時間なんて、そんな何でもない時に賭けていいのかって聞いてるんだよ」
ラウラ「なるほど。確かに、雪片を賭けた勝負にはふさわしい時と場所が必要だな」
一夏「だから、学年別トーナメントだ」
ラウラ「いいだろう。ならば、その学年別トーナメントで決着をつけてやる!」
一夏「首洗って待ってろよ!」
ラウラ「それは私のセリフだ!」
「あれれー。でも、今年の学年別トーナメントってタッグマッチになるって噂だよー」
一夏「えっ」
「タッグマッチで、しかも一回戦なんかで二人が当たっちゃったら悲惨だよねー。なんか『最強を賭けた戦い!』って感じじゃないもんねー」
一夏「……」
ラウラ「……」
戒斗「ならば、こうすればいい」
一夏「戒斗!?」
戒斗「学年別トーナメントでは、織斑とボーデヴィッヒが組む。そして二人が優勝した暁には、雪片をかけた決闘を行う。これでどうだ」
ラウラ「ふんっ。こいつとタッグなんて組めるか!」
一夏「俺だって!」
戒斗「ほう。貴様らは織斑千冬の教えを受けておきながら、トーナメントの優勝すらできない弱者だというわけか」
一夏・ラウラ「「なんだと!」」
戒斗「くくっ、仲の良いことだ」
一夏「……ッ」
ラウラ「……い、いいだろう。この足手まといがいようと、私の優勝は変わらん」
一夏「な、なんだと! それはこっちの台詞だ!」
ラウラ「ふん」
戒斗「決まりだな」
シャル(……どうしてボーデヴィッヒさんと一夏を組ませるんだ、駆紋戒斗)
<放課後・アリーナ>
箒「駆紋とデュノアはどうしたんだ?」
一夏「部屋割りの関係で、シャルルとラウラがしばらく同室になるらしくてさ。シャルルはラウラの引っ越しの手伝いだって」
セシリア「駆紋さんは、ただ一言『用がある』と」
鈴「ふーん、珍しいわね」
一夏「……」
鈴「一夏?」
一夏「特訓を! 始めよう!!」
箒「い、一夏が燃えている……」
鈴「あんた、何で急にやる気になってんのよ」
一夏「それが――」
――事情説明中。
一夏「――ってわけで。雪片を賭けてラウラと戦うことになったんだ」
箒「……それは、つまりどういうことだ。一夏の雪片弐型は白式の専用装備だ。他人に譲渡はできないだろう」
一夏「ん? ああ。もう二度とISには乗らない、ってことだよ。――俺、ラウラに負けたらIS学園辞める」
鈴「は、はあっ!? あんた何言ってんの!?」
一夏「しょうがないだろ」
箒「バカだバカだとは思っていたが、どうやらお前は本物のバカなんだな……」
一夏「な、なんだとぉっ!?」
セシリア「……」
セシリア「けど。その勝負、そもそも成立しないのではなくて?」
一夏「へ?」
セシリア「織斑さん。学年別トーナメントで優勝する、ということがどんなことか、本当に理解していますの?」
鈴「あ……」
箒「そうか……」
一夏「な、何だなんだ!? 三人とも、どうしたんだよ」
セシリア「一年には、織斑先生を倒した駆紋さんがおりますのよ」
一夏「……あ」
鈴「あんた、戒斗に勝てるの?」
箒「昨日の駆紋の勝利が奇跡だった、という可能性も無くはないが……」
セシリア「それでも、織斑先生と互角に渡り合っていたという事実が損なわれることはありませんわ」
一夏「そうか……。戒斗に勝たなきゃならないのか……」
一夏「……」
一夏「俺、ラウラのとこに行ってくる!」
鈴「え!? ……行っちゃった」
箒「むう。……昨日といい、今日といい、駆紋の行動には謎が多い」
セシリア「そうですわね」
鈴「え? でも、目的はわかりやすくない?」
箒・セシリア「「え?」」
<学生寮・シャルとラウラの部屋>
ラウラ「――これで終わりだ」
シャル「ず、ずいぶんと大きな水槽だね」
ラウラ「教官からのいただきものだからな。これが、私の捧げられる最上級の敬意だ」
シャル「そ、そう」
シャル「……」
シャル「ラウラ・ボーデヴィッヒ」
ラウラ「何だ? 引っ越しの手伝いをしてくれたことには感謝しているが、私は貴様と慣れ合うつもりは――」
シャル「君も、プロフェッサーのエージェントなんだよね?」
ラウラ「……」
ラウラ「そうだ。我がドイツはプロフェッサーの技術提供によって、トライアル段階でしかなかった第三世代IS《シュヴァルツェア・レーゲン》に量産化の目処をつけた。私がここにいるのは、我がドイツとプロフェッサーの取り引きの結果だ」
ラウラ「だが、私は駆紋戒斗の命に興味は無い。プロフェッサーの手駒になるつもりもだ」
シャル「どうして!?」
ラウラ「教官ならそうするから、だ」
シャル「……ッ!」
シャル「君は!」
――コンコン
ラウラ「おや、客人のようだ。それとも、客人を放置して言い争いをするのがフランス流か?」
シャル「……」ギリッ
<裏庭>
千冬「よう。ずいぶんと精力的に働いているじゃないか」
戒斗「ふん。貴様も片棒を担いでいたではないか」
千冬「一夏のためになるなら、私は何でもするさ」
戒斗「ブラコンめ」
千冬「ふっ。あれは私に残された最後の家族だ。大切にして何が悪い」
千冬「それに。貴様とて、やっていることは私と同じではないか」
戒斗「……ふん」
千冬「駆紋。一つ教えてやる」
千冬「あいつは、じいさんによく似ているよ」
戒斗「……」
戒斗「ふん」
<屋上>
ラウラ「――それで。いったい何の用だ、“相棒”殿」
一夏「……一緒に」
ラウラ「ん?」
一夏「一緒に特訓しよう、ラウラ」
ラウラ「ハッ。バカを言うな。誰が貴様と特訓など――」
一夏「一年に、千冬姉に勝った奴がいる」
ラウラ「……何だと?」
一夏「信じられなければ、千冬姉に聞けばいい。何なら今なら聞きに行くか?」
ラウラ「……」
ラウラ「いいだろう」
<学生寮・シャルとラウラの部屋>
戒斗「よう」
シャル(駆紋戒斗……!?)
戒斗「用件は一つだ。シャルロット・デュノア。学年別トーナメントで、俺と組め」
シャル(な、何を言っているんだ……!?)
シャル(自分を殺そうとしている人間と組むなんて、そんなのバカげてる!?)
シャル(でも……。彼は僕を『シャルロット』と呼んだ)
シャル(脅しのためだ。断れば、性別を偽って入学したことをバラすと、暗示している……)
シャル(そうなれば、僕はあの人の望みを叶えられなくなる……)
シャル(……)
シャル「とても君に利益のある提案だとは思えないけど」
戒斗「用件は告げた。じゃあな」
シャル「ま、待て! ……」
シャル「……ッ」
シャル「いったい何なんだよアイツはッ!?」
<職員室>
ラウラ「教官、聞きたいことがあります」
千冬「学校では……まあ、いいか。どうしたんだ、二人共」
一夏「千冬姉。正直に答えて欲しいんだ」
千冬「ほう?」
ラウラ「その……。ありえない話を耳にしまして。恐縮ですが教官自身に確認を
……」
千冬「前置きはいい、本題に入れ」
ラウラ「ハッ! ……その。教官がIS戦で負けた、と」
千冬「何だ、その話か」
ラウラ「ありえませんよね。あの、無敵の教官が――」
千冬「負けたぞ」
ラウラ「!?」
千冬「昨日、打鉄同士の決闘で敗北した。私に勝ったのは、一年の駆紋戒斗だ」
ラウラ「そんな!? ど、どうして教官が!」
千冬「私とて完璧ではない。負けることもある」
ラウラ「けど!」
千冬「くどい!」
ラウラ「……!?」
一夏「千冬姉」
千冬「何だ?」
一夏「お願いがあるんだ」
一夏「戒斗に勝つために、試してみたいことがある」
<学生寮・シャルとラウラの部屋>
ラウラ「――という理由で部屋変えだ。シャルル・デュノア」
ラウラ「よかったなあ。これで、暗殺の機会が増えるぞ?」
シャル「絶対に成功しないって顔をしておいて、よく言うよ」
ラウラ「当然だ。教官に勝利した男が暗殺なぞで死ぬものか」
シャル「……はあ」
シャル(一夏の提案で、僕と一夏の部屋を交換することになったらしい)
シャル(学年別トーナメントまでに、少しでもボーデヴィッヒさんとの連携を強化するためだとか)
シャル(いくら男子が入れ替わるだけって言ったって、こんな我ままが通ってしまうなんて)
シャル(一夏はシスコンだってわかってたけど、織斑先生も相当のブラコンみたいだね……)
シャル(駆紋戒斗)
シャル(これも、君の書いたシナリオ通りの展開なの?)
ラウラの言ってることっておかしくないか?
誘拐された被害者に向かって「お前のせいだ」って罵倒するのはマスゴミと大差ないと思うんだが...
女尊男卑だからか?
<学生寮・1025室>
一夏「――ってわけで、ちょっと引っ越してくる!」
戒斗「ふん。ずいぶんとやる気だな」
一夏「ああ。戒斗、絶対にお前に『まいった』って言わせてみせるからな!」
戒斗「そのために、嫌われている人間と同室になってもか?」
一夏「それなんだけどさ。俺、ラウラとは仲良くやれそうな気がするんだ」
戒斗「ほう?」
一夏「ラウラって、千冬姉が好きすぎるだけなんだよ。それだったら俺、やっていける気がする」
戒斗「……」
戒斗(ここが別れ道、だな)
戒斗「……」
戒斗「あれは救えん女だ。心を許すのは止めておけ」
一夏「え……?」
戒斗「ラウラ・ボーデヴィッヒが織斑千冬を好きすぎる。確かに、そうだろう。あいつはな、『織斑千冬になりたがっている』」
戒斗「自分に自信が持てず、他人になろうとする――最悪の弱者だ」
戒斗「だから救えない。戦う力、弱い者を踏みにじる力を持つ分、なお悪い」
一夏「……」
一夏「俺は、そうは思わない。だって――」
戒斗「それは、貴様もまた同じ種類の弱者だからだ」
一夏「!? 戒斗、お前!」
戒斗「悔しければ――強さを示せ!」
戒斗「己が弱者ではないというならば、ボーデヴィッヒは救える女だというならば、言葉ではなく強さを見せつけることで証明してみせろ!」
一夏「……ッ」
一夏「いいぜ、やってやる! 戒斗! お前に勝って、俺とラウラが『最悪の弱者』なんかじゃないって証明してやるよ!」
戒斗「ふん。――やれるものなら、やってみろ」
一夏「そっちこそ、首洗って待ってろよ!」
戒斗「……」
戒斗「……行ったか」
戒斗「ふっ。はは、ははははははははは!」
戒斗「これでは、織斑千冬のことを笑えんな」
<学生寮・ラウラの部屋>
一夏「今日からよろしく!」
ラウラ「荒れてるな、同居人」
一夏「ちょっとな! ……ったく、戒斗の奴。絶対にぶっ倒してやるからな」
ラウラ「まったく、騒がしい奴だ」
一夏「性分だ!」
ラウラ「バカもか?」
一夏「そうだ!」
ラウラ「そうか」
一夏「そうだ! ……」
一夏(あれ?)
一夏「ラウラ。その水槽って……もしかして千冬姉から?」
ラウラ「そうだ。これは教官から賜った、私の家族だ。あの子を教官だと思って、今日まで大切に育ててきた」
一夏「そっか」
ラウラ「ど、どうしてそんな顔で私を見る」
一夏「いやさ。俺、やっぱりラウラとは上手くやっていけると思うんだ」
ラウラ「バカを言うなバカ」
一夏「あはは。だって、ラウラは――カメ子の子供を大切にしてくれていたんだろう?」
ラウラ「それは……」
一夏「千冬姉はさ、信頼した人間にしかカメ子の子供を里子に出さないんだよ」
一夏「よろしくラウラ。それと、カメ子の子供を大切にしてくれていて、ありがとう」
ラウラ「む、むう……」
<学生寮・1025室>
シャル「こっちに来る時、一夏と少し話したよ。すごい剣幕だった」
戒斗「そうか」
シャル「君は何をしようとしているの?」
戒斗「さあな」
シャル「……」
シャル「どうして君は、自分を必要としてくれている人に嫌われるようなことをしたの?」
戒斗「……」
シャル「……」
戒斗「下らん」
シャル「え……?」
戒斗「人間なぞ、誰に求められずとも生きるものだ」
戒斗「ならば。生きるのは誰かのためではない。自分のためだ」
シャル「……」
シャル「でも。それじゃあ、一人ぼっちになっちゃうよ……」
戒斗「ふん」
戒斗「自分勝手に生きようと、意外と、一人にはなれんもんだ」
戒斗「例え世界の敵になろうとも、な」
シャル「……」
シャル(嘘だ)
シャル(じゃあ、どうして僕は一人ぼっちになったのさ)
一先ずここまで。ちょっとお出掛けしてきます。
ここまでお付き合いありがとうございました。
>>65
ラウラの行動と感状の本当の理由は、原作(IS2巻)の終盤で一気に明かされます。
このスレでもそれにならって後回し、ということで。お楽しみに! という形でございまする。
>>69
いや、原作のことは知ってるんですけどそれでも理不尽だと思っちゃって...
誘拐団はプロの犯罪者なんだから、ライダーでもないと返り討ちにするのは難しいんじゃないでしょうか
>>71
うん。理不尽ですよねぇ……。
しかし『一夏に誘拐された経験がある』という設定は、クロスSSを書く上ではとても面白いのですよね。
某OOOクロスでのあの設定の活かし方は、美しかった……。
あ。投下再開いたします。決戦パートの第四幕の、とりあず半分まで。
■第四幕 絆
<夢の中・沢芽市>
――ガキの頃から、俺はずっと耐えてきた。弱さという痛みにな!
戒斗「ユグドラシルタワー……。そうか、これは夢の中か」
戒斗「……」
戒斗「強者は、一方的に弱者を踏みにじる」
戒斗「あのユグドラシルタワーが、父から工場を奪ったように……」
――弱さや痛みしか与えない世界! 強くなるしか他になかった世界を、俺は憎んだ!
――俺は力を手に入れた。この力を使って、古い世界を破壊する。
――今の人間では決して実現できない世界を、俺が、この手で造り上げる。
――誰かを虐げるためだけの力を求めない。そんな新しい命で、この星を満たす!
戒斗「……ふっ」
戒斗「はは、ははははは!」
――誰もが強くなるほどに優しさを忘れていった。
戒斗「そして、優しい奴から先に死んでいった」
戒斗「だから俺は、この世界では、誰も優しいままに強くなることはできないと思っていた」
戒斗「……」
戒斗「俺は最初から諦めていたんだ」
――何故だ、葛葉。何がお前をそこまで強くした。
戒斗「ふん」
戒斗「泣きながら進むと言い切ったあのバカこそが、本当の強者――仮面ライダーだ」
戒斗「……」
戒斗「俺の、憧れだ」
――学年別トーナメントまでの日々は、あっという間に過ぎていった。
鈴「そういえば箒。一夏はラウラと組んじゃったけど、あんたどうすんの?」
箒「そ、その」
鈴「うん?」
箒「私と組んでくれないか、鈴……?」
鈴「もちろんオッケーよ! よろしくね、箒!」
箒「あ、ああ!」
ラウラ「不本意だ」
一夏「何がだよ!?」
ラウラ「私のシュヴァルツェア・レーゲンと貴様の白式の相性が悪くない、ということがだ!」
一夏「いいだろう、俺達今はコンビなんだからさ!」
ラウラ「……」
ラウラ「不本意だ」
一夏「だーかーらー!」
セシリア「……」
セシリア「余りましたわ……」
セシリア「駆紋さんはデュノアさんと、織斑さんはボーデヴィッヒさんと、鈴さんは箒さんと、それぞれ組まれました」
セシリア「……」
セシリア「い、いえ、落ちつくのよセシリア・オルコット。貴族はうろたえないのよ……!」
セシリア「……」
セシリア「はあ……」
クラスメイト2「オ・ルコット」
セシリア「あ、あなたは神代の……!?」
クラスメイト2「私と組め。君ならば、高貴な私と並ぶことも許そうではないか」
セシリア「その不遜な態度――今は不問として差し上げますわ」
セシリア「いいでしょう。このセシリア・オルコットが、貴女のパートナーとなりましょう!」
クラスメイト2「ふふっ。――ところで」
セシリア「?」
クラスメイト2「私はオリムラに押し切られるク・モーン、というものに興味がある」
セシリア「!」
セシリア(同志……!)
シャル「……」
戒斗「……」
シャル「……」
戒斗「……」
シャル(気まずい……)
鈴「え゛。篠ノ之博士から専用機が送られてきたって!?」
箒「あ、ああ。《紅椿》という……だ」
鈴「だ?」
箒「第四世代IS、らしい……」
鈴「は、はあっ!?」
――そして、大会前日。
<黄昏時・病室>
貴虎「呼び付けてしまって、すまなかったな」
戒斗「気にするな。また羊羹を作ってきたが……」
貴虎「……すまない」
戒斗「気にするな」
――ベッドに横たわる貴虎には、死相が浮かんでいた。
貴虎「二日前に倒れてな。それきり、立ち上がれなくなった。ふっ、私も歳だな」
戒斗「……」
貴虎「駆紋。織斑一夏は、どうだ」
戒斗「あいつは、俺になりたいそうだ」
貴虎「ふっ。くく、ははははは。それで。その不満顔は何が原因だ」
戒斗「俺の生き様と死に様は貴様も知っているだろう」
貴虎「ああ、よく知っている。だがな、駆紋。――子育てとはままらないものだよ」
貴虎「光実にも、我が子にも、散々思い知らされた。子育ては本当に難しい」
戒斗(ふん。楽しそうな顔をしおって)
貴虎「織斑一夏に見どころは無いか?」
戒斗「……」
戒斗「アイツはバカだ」
戒斗「だが」
戒斗「だからこそ、あいつが本当の強さを示すことができたなら――俺も、もう一度この世界を信じてみようと思う」
貴虎「くくく。――ああ、今日は良い日だ」
貴虎「駆紋。子供はな、いつまでも子供なようでいて、ある時に急に成長してみせる。その時を楽しみにしているといい」
貴虎「さて――。君を呼んだのはこの老人の弱り切った姿を見せるためでは、もちろん、無い」
貴虎「君の専用機を用意してある。これで反応の問題に悩まされることもなくなるだろう」
戒斗「よくコアが手に入ったな。ISのコアは世界に467個しかないのだろう」
貴虎「ISのコアはヘルヘイムの果実だ。ならば、ロックシードもまたコアになれるだろう?」
戒斗「まさか……」
貴虎「そう。君のISのコアは、私の使っていたメロンロックシードだ」
貴虎「そして、機体の名は――斬月」
戒斗「……」
戒斗「バロンではないのか?」
貴虎「君の専用機の名は、斬月だ」
戒斗「そうか」
貴虎「そうだ」
戒斗「……」
戒斗「お前、死ぬのか?」
貴虎「だろうな」
戒斗「そうか」
貴虎「IS。そして、その影に隠れる大きな悪意。それを残したまま死ぬのは心残りだがな……」
戒斗「――貴虎」
貴虎「何だ?」
戒斗「貴様は五十年もの長きに渡り、贖罪のために生き続けたな」
貴虎「……そうだ。かつて私が犯した過ちは、一生をかけて償うべきものだった」
戒斗「理由がどうであろうと、貴虎は生涯をかけて人々を救い続けた」
貴虎「駆紋?」
戒斗「不断の意思を貫き、贖罪に身を捧げ切った貴様は――本当に、強い」
貴虎「――フッ」
貴虎「神の座に至った君に認められたとあれば、私も、失敗ばかりの人生を誇ってもいいのかもしれんな」
戒斗「くくっ。いずれ、呉島光実に自慢するといい」
貴虎「ああ、そうさせてもらおう」
貴虎「すまないが、疲れてしまったよ。少し眠る」
戒斗「ああ。斬月はありがたくいただいて行く」
貴虎「……」
貴虎「…………」
貴虎(ありがとう、駆紋戒斗……)
<学生寮・一夏とラウラの部屋>
ラウラ「何だ、この料理は……」
一夏「俺が作ったんだよ」
ラウラ「そ、そんなものが食えるか!」
一夏「なにおう! これはな、千冬姉が勝負の前には必ず食べる料理なんだぞ!」
ラウラ「こ、これを教官が……!?」
一夏「そうだ! 何せ、働いている千冬姉の代わりに、家事は全部俺がやってたんだからな!」
ラウラ「教官が食べた料理……」
一夏「聞いてねえ……」
ラウラ「た、食べていいか!?」
一夏「ラウラと一緒に食べようと思って作ったんだ。遠慮なく喰ってくれ!」
ラウラ「……。い、いただきます」
ラウラ「! うまい!」
一夏「だろ?」
<学生寮・1025室>
『問題無い。君とボーデヴィッヒ君の機体には特別なシステムが組みこんであってね。いざとなればそれを使えばいい』
シャル「特別なシステム、ですか……?」
『そうだ。神の如き力を得る、究極のシステムだよ。起動は音声認識だ。コードは『T・T』。その時が来たら使いたまえ』
『では。期待しているよ、可愛いシャルロット』
シャル「はい!」
シャル「……」
シャル「……僕はもう、二度と一人ぼっちになりたくない」
シャル「僕を必要としてくれる人がいるなら、僕は……」
<大会初日・第1ブロック1回戦第1試合・アリーナ>
ラウラ「ほら、AIC《慣性停止結界》で一人捕まえてやったぞ」
セシリア「これがAIC!? う、動けませんわーーー!?」
一夏「零落白夜、起動!」
セシリア「う、うわーーーですわ!?」
――勝者! 織斑・ボーデヴィッヒペア!
ラウラ「――ふむ」
ラウラ「さすが雪片だ」
一夏「俺だってがんばっただろう!?」
ラウラ「貴様なんぞ教官の伝説を間借りしているだけにすぎん!」
一夏「な、なんだとぉっ!?」
<アリーナモニタールーム>
千冬「あいつら……。国家や企業の視察も兼ねている大会で、痴話喧嘩なんぞしおって」
山田「あはは。でも、織斑君とボーデビッヒさん、いいコンボですよ。シュヴァルツェア・レーゲンの制圧力と白式の爆発力を組み合わせて、上手く連携してます」
千冬「ふん。あれくらいできて当然だ」
山田「ふふっ。教え子二人が仲睦まじくてほっとしますね♪」
千冬「――山田先生。ちょっと、私とIS訓練をしようか?」
山田「ひえっ!? ご、ご勘弁を!」
千冬「ふん」
山田「し、篠ノ之さんのISも注目ですね!」
千冬「……。そうだな」
山田「第四世代IS《紅椿》。世界がまだ第三世代ISの開発に四苦八苦しているところに現れた、篠ノ之博士のIS……」
千冬「ったく、束の奴、何を考えているんだか」
山田「妹さんが可愛いんじゃないんですか?」
千冬「そういう単純な理由ならいいんだが……」
山田「対戦カードも注目ですよ。その第四世代ISと対決するのは――世界でただ一人、織斑先生に勝利したIS操縦者。駆紋戒斗君です! 乗機は訓練機の打鉄ですが、だからこそどんな勝負になるか――」
千冬「山田先生」
山田「何でしょう?」
千冬「どうやら、そういう勝負ではないようだ」
<第4ブロック1回戦第1試合・アリーナ>
鈴「戒斗! 千冬さんに勝ったからって調子に乗らないことね。行くわよ、箒!」
箒「ああ! IS展開」
シャル(あれが紅椿……。第三世代機を遥かに凌駕する機体性能を持ちながら『即時万能対応機』となった、第四世代IS……)
鈴「……戒斗。あんた、打鉄はどうしたのよ?」
戒斗「ふん」
戒斗「お節介な老人がいてな」
シャル(え?)
箒「……ロックシード? だが、表に描かれている、三日月飾りの武者のような顔は……」
――斬月!
――ロック・オン
戒斗「変身」
――ソイヤ!
鈴「ぶっ!? そ、空から顔が降ってきたーーーーーー!?」
――斬月アームズ! メロン・御免!
<アリーナ・モニタールーム>
山田「バナナに引き続き、今度は顔が……」
千冬「……」
千冬(あれは斬月の顔。となると、呉島さんか……)
<アリーナ>
鈴「な、ななな、何よそれ!」
戒斗「見ての通りISだ」
鈴「ISって……」
鈴「た、確かにサイズはISだし……」
鈴「第一世代みたいな、全身装甲《フルスキン》型だと思えばISに見えなくもない……?」
箒(……)
箒(白を基調に、緑のブレストプレートとショルダーアーマーを持つIS。手にはメロンを象った盾を持ち、腰には黒いベルト――戦極ドライバー型の端末)
箒(まさか、お父様が……? いや、そんなはずは……)
戒斗「……」
戒斗「巨大な盾などいらん。戦いは攻撃あるのみだ!」
シャル(た、盾は捨てるんだ……)
<アリーナ・モニタールーム>
山田「し、試合開始しました。駆紋君がすごい勢いで押してます!」
千冬「どうやら、あのISは駆紋が無理なく動かせるように調整されているようだな」
山田「どういうことですか、織斑先生?」
千冬「いや、忘れてくれ」
山田「……?」
千冬(ISは、駆紋にとっては拘束具でしかなかった。それが、枷を外すどころか翼になった。これは強いぞ)
千冬(どうする、一夏、ボーデヴィッヒ)
<アリーナ>
鈴「なんで!? 龍砲の軌道が全部読まれてる!? 射角なんて見えない武器のはずなのに!」
箒「おそらく、駆紋には元々読めていたんだ。そしてあのISは、駆紋の反応に忠実に追従するのだろう」
鈴「なるほど。……確かに、打鉄に乗ってた時みたいな、運動音痴みたいな動きじゃないもんね」
箒「そして、私は今、とても嫌な想像をしている」
鈴「攻撃がさっぱり当たらない、こっちはボロボロ! これ以上どう悪くなるのよ!」
箒「……あの機体。初期化《フィッティング》と最適化《パーソナライズ》がまだなんじゃないか、とな」
鈴「うそ……。ここから一次移行《ファーストシフト》するって言うの!?」
箒「おそらく……」
鈴「……」
鈴「あ。戒斗のISが光ってる……」
箒「一次移行、だな……」
鈴「えー……」
箒「さらに、その。言いにくいんだが……」
鈴「何よ、言ってみなさいよ……」
箒「紅椿は、その。高性能と引き換えに……」
鈴「?」
箒「燃費が悪い。私はエネルギー切れだ」
鈴「……」
鈴「ぎゃふん」
<アリーナ・モニタールーム>
山田「篠ノ之さん凰さんペア、降参しました」
千冬「……はあ」
<アリーナ・観客席>
ラウラ「あれが、教官に勝利した男……」
一夏「ん? 怖気づいたのか、ラウラ」
ラウラ「ば、バカを言うな! ……と言いたいところだが、悔しいかな。ああも圧倒的な力を見せつけられれば、怖れも抱く。駆紋戒斗は恐ろしい戦士だ」
一夏「そっか」
ラウラ「な、何だその反応は。お前は奴の強さが分からないのか」
一夏「戒斗の強さなんて、IS学園に入学してからずっと見せつけられてるよ。アイツがあれくらいやっても、不思議じゃない」
一夏「でも」
一夏「勝てないわけじゃない」
ラウラ「……」
ラウラ「ふっ、頼もしい限りだ」
ラウラ(……。一瞬、織斑一夏の横顔に教官が重なった)
ラウラ(少々弱気になりすぎたか……)
<放課後・学生寮1025室>
シャル「はい。おそらく、駆紋戒斗と僕のペアは、ラウラ・ボーデヴィッヒと織斑一夏のペアと決勝で当たると思われます」
シャル「はい。――決行は、決勝戦で駆紋戒斗が消耗した瞬間。了解しました」
シャル「――必ず。必ず、やり遂げてみせます。あなたのために」
シャル「……」
シャル(駆紋戒斗は強い。今日の試合を見て、鮮烈に見せつけられた)
シャル(彼は対戦相手を一人でねじ伏せていった)
シャル(ペアの僕の存在なんて、初めからなかったかのように……)
シャル(僕だって確かにあの空間にいたのに、まるで空気みたいに無視された)
シャル(フランスにいた頃みたいに)
シャル(……)
シャル(やめよう。今の僕には、必要としてくれる人がいるんだから)
――そして、大会期間は過ぎていった。
<決勝前夜・学生寮・一夏とラウラの部屋>
一夏「っていうわけで。一週間ぶりの、勝負メニューだ!」
ラウラ「……」
一夏「なんだよ、渋い顔して」
ラウラ「貴様の作る飯が美味いのが、気に喰わない」
一夏「なんでだよ!?」
ラウラ「……ふん」
ラウラ「本当に、飯は美味いな……」
一夏「俺にできることって、これくらいだったからな」
一夏「強くなりたかったけど、どうすればいいかわからなくて。でも、じっとしてはいられなくて」
一夏「……」
一夏「ラウラは知ってるんだろ? 千冬姉がドイツに行った経緯、って奴をさ」
ラウラ「ああ。第2回IS世界大会決勝戦の当日に誘拐された貴様を、大会を放り投げた教官が助けに行った。その時に、教官に貴様の居場所を教えたのが、我がドイツだった」
ラウラ「教官はその時の取り引きの結果、我がドイツに……。ということだろう」
一夏「そうだ」
一夏「――怖かった」
一夏「知らない人に掴まれて、暗い場所に閉じ込められて、拳銃を突きつけられた。銃口から、かすかに硝煙のニオイがただよっていたことを、今でも覚えているよ……」
一夏「……」
一夏「強者は、一方的に弱者を踏みにじる」
ラウラ「……」
ラウラ「そうだな。弱肉強食はこの世のルールだ。強ければ全てを手に入れ、弱ければ全てを失う」
ラウラ「身を持って、思い知ったよ」
一夏「……。もしかして、ラウラもずっと耐えてきたのか?」
ラウラ「何にだ?」
一夏「弱さや痛みしか与えない世界に、かな」
ラウラ「……ふふっ」
ラウラ「私はな、鉄の子宮から生み出されたデザインベビーだ」
ラウラ「軍に造り出された私は、強くなるしかなかった。――だが、できる限りの努力はしたが。私は、弱者になった」
ラウラ「踏みにじられたよ、魂を。あの頃は、とても痛かった……」
ラウラ「そんな時に現れたのが、教官だった。あの人は強く、凛々しく、堂々としていた。その、自分を信じる姿に焦がれたよ」
ラウラ「――ああ、こうなりたい。この人のようになりたい」
ラウラ「その想いは、まだ、胸にある」
ラウラ「いいや。――その想いこそ、私の全てだ」
一夏「なんだ。じゃあ、俺達って本当に似たもの同士なんだな」
ラウラ「バカを言うな。私と貴様が似ているものか。何せ貴様は教官への尊敬が――」
一夏「俺は、戒斗になりたい」
ラウラ「――…………」
一夏「不屈の魂を燃やして何度でも立ち上がり、最後には必ず勝利する」
一夏「駆紋戒斗の不撓不屈が、俺の憧れなんだ」
ラウラ「……そうか」
ラウラ「……」
ラウラ「お前の飯が美味いこと。まあ、許してやろう」
一夏「あはは、何だよ、それ」
一夏「……」
一夏「なあ、ラウラ」
ラウラ「何だ」
一夏「俺は戒斗になりたい。でも、それ以上に大きな想いが胸にあるんだ」
ラウラ「それは?」
一夏「『戒斗に勝ちたい』」
ラウラ「……」
一夏「ラウラはどうだ? 千冬姉に勝ちたいって思ったことは、ないか?」
ラウラ「教官に勝つ、か……。考えたこともなかった」
一夏「そっか」
ラウラ「そうだ」
ラウラ「だが」
ラウラ「熟考に値する」
<学生寮・1025室>
シャル「……」
戒斗「……」
シャル(大会期間中、僕達に会話らしいものなんてなかった)
シャル(殺さなきゃいけない相手だ、下手に心を通わせて情が沸くよりずっといい)
シャル(…………)
戒斗「デュノア」
シャル「……何かな?」
戒斗「貴様は誰だ?」
シャル(……?)
シャル「君は知っているんでしょ。シャルル・デュノア。君を殺しに来た、エージェントだよ」
戒斗「そうなる前は、誰だった?」
シャル「……それも、知っているんでしょ。シャルロット・デュノア。デュノア社の社長の、愛人の子供だよ」
戒斗「ならば、俺を殺した後は誰になる?」
シャル「え……?」
戒斗「――俺は、駆紋戒斗だ」
シャル「そ、そんなことは知ってるよ!」
戒斗「五十年前も、今も、俺は駆紋戒斗だ。それ以外の何者でもない」
シャル「き、君は何を言いたいんだッ!」
戒斗「……」
戒斗「未来は己の手で勝ちとってみろ」
シャル「は、はあ!? わけがわからないよ!」
戒斗「神託とでも思え」
シャル「…………」
シャル(ほんと、何なのこの人……)
シャル(……)
シャル(僕は駆紋戒斗が、嫌いだ)
一旦休憩! お風呂入ってご飯食べてきます!
ここまでお付き合いありがとうございました。
あ。『斬月ロックシード』の参考はこれ。未発売商品なので音声は画像からの予想、ということで。
アドレス頭の『h』を抜いてます。
では。投下再開いたします。
<決勝戦当日・観客席>
セシリア「やはり、駆紋さん達と織斑さん達が勝ち上がりましたわね」
箒「一夏に勝って欲しいところだが……。駆紋は、強い」
鈴「ここまでの対戦相手、ぜーんぶ一人で倒しちゃったもんね」
セシリア「駆紋さんは元々修羅場を潜られているようでしたから、本来の力が発揮できているのなら、不思議でも何でもありませんわ」
鈴「へー。ふーん。ほー」
セシリア「そ、その意味ありげな目線は何ですの!?」
鈴「べっつにー」
鈴「けど」
鈴「……となると、やっぱ勝つのは戒斗かなぁ」
箒「むう……」
クラスメイト3「しかし、ここで織斑君に賭けるのもまた欲望!」
鈴「うわ!? あ。1組の……」
セシリア「非公式トトカルチョの元締めさん……」
クラスメイト3「さあさあ、張った張った! 織斑君が勝てば莫大なリターンを得られるよ!」
鈴「それって、誰も一夏には賭けてないってことじゃない……」
箒「よし。私は有り金みんな一夏に賭ける!」
鈴「ほ、箒!?」
箒「一夏は勝つ! 必ず勝つ! だって……あいつは、織斑一夏なんだ!」
鈴「……」
鈴「いいじゃない! あたしも一夏に全賭けよ!」
クラスメイト3「すばらしい!」
セシリア「……」
セシリア「あ、ならわたくしは駆紋さんに」
<アリーナ・モニタールーム>
山田「織斑君ペアと駆紋君ペア、どっちが勝ちますかね~」
千冬「正直、わからん」
山田「そうなんですか? 駆紋君優勢の声が大きいですけど」
千冬「確かに駆紋は強い。だが、これはタッグマッチだ。駆紋はパートナーを無視して戦っているが……」
千冬「逆に、織斑とボーデヴィッヒはよくよく連携を仕上げてきている」
山田「なるほど。うーん、教師的には織斑君ペアに勝ってもらって、みんなに協力の大切さを学んで欲しいところですね」
千冬「……」
千冬(だが、生半可な連携では駆紋一人にも勝てないのもまた事実だ。どこまでやれる、一夏、ラウラ)
<アリーナ>
一夏「よう戒斗。ぶっ倒しに来たぜ!」
ラウラ「2対2ではあるが、貴様を倒して教官の汚名を雪ぐ!」
戒斗「ふん」
戒斗「貴様ら、雪片を賭けた決闘の話はまだ覚えているか?」
一夏・ラウラ「「あ……」」
戒斗「くくっ。つまらない試合ばかりだったが、少しは楽しめるかもしれんな」
シャル(……相変わらず、僕は『いない子』扱いだ)
戒斗「……」
シャル(え? こっちを見た……?)
戒斗「ふん」
戒斗「始めるか」
一夏「おう! 白式展開!」
戒斗「変身」
――斬月アームズ! メロン・御免!
<観客席>
セシリア「やはり盾は捨てますのね……」
鈴「まあ、あの性格に盾は合わないっしょ」
箒「それに、一夏の零落白夜相手には無意味だろうしな」
生徒・戒斗派のみなさん「「戒斗様カッコイー!!」」
生徒・一夏派のみなさん「「織斑くーん! がんばってー!!」」
生徒・シャル派のみなさん「「きゃー! デュノアくんこっち向いてー!!」」
セシリア「あれは……?」
鈴「ほら、みんなイケメンだから」
セシリア「ああ……」
<アリーナ>
一夏「フォーメーションWで行くぞ、ラウラ!」
ラウラ「いいだろう。だが、貴様が仕切るな!」
一夏「えー……」
シャル(来る……! え……?)
戒斗「――ほう。てっきり、逆に動くと思っていたが」
ラウラ「ふん。駆紋戒斗、まずは私と戦ってもらう」
一夏「シャルル! お前の相手は俺だ!」
シャル(ボーデヴィッヒさんが駆紋君に、一夏が僕に突っ込んでくる……!?)
<アリーナ・モニタールーム>
山田「織斑先生、これは?」
千冬「まずはデュノアを叩く作戦だろう。あいつには、やる気が無い。しかる後に、2対1で駆紋に挑む、ということだろうな」
山田「ボーデヴィッヒさんではなく織斑君がデュノア君に向かった理由は……?」
千冬「織斑の白式は燃費の悪い短期決戦機。ボーデヴィッヒのシュヴァルツェア・レーゲンには、時間稼ぎ向きのAIC《慣性停止結界》がある」
山田「ああ。ボーデヴィッヒさんが駆紋君相手に時間稼ぎをしている間に、織斑君が急いでデュノア君を倒す、という。……でも、そんなに上手くいくでしょうか?」
千冬「そうするしかない、というのが正しい。できなければ負けるだけだ」
<アリーナ>
シャル(……そうだ)
シャル(あの人は言った。決勝戦で消耗した駆紋戒斗を暗殺する、と)
シャル(なら僕ががんばる必要はない)
一夏「――これでトドメだ!」
シャル「ぐうっ!?」
――シャルル・デュノア機 機能停止
一夏「うわ!? だ、大丈夫かシャルル!?」
シャル「うん、大丈夫だよ。それより、ボーデヴィッヒさんが待ってるんじゃないの?」
一夏「そうだな。じゃ、またな!」
シャル(これでいい)
シャル(僕が勝つ必要は無いんだもの)
シャル(だから、負けていいんだ……)
<アリーナ・観客席>
鈴「ずいぶんあっさり負けたわね」
進ノ介「いや。あれはわざと負けたんだ」
鈴「あー、やっぱり? なんとなくそんな気が……。って、今の誰!?」
箒「どうかしたか、鈴?」
鈴「いや、今、知らない人に相槌を打たれたような気が……」
箒「……」
箒「まさか、幽霊……?」
鈴「こ、怖いこと言わないでよ!?」
<アリーナ・モニタールーム>
山田「織斑君ペア、上手く2対1の形にもっていきましたね」
千冬「ああ。だが、本当の戦いはここからだ」
<アリーナ>
戒斗(織斑とボーデヴィッヒのコンビは、よく仕上がっている)
戒斗(ボーデヴィッヒのシュヴァルツェア・レーゲンで面制圧を仕掛けながら、隙を見て白式が突撃する。2対1になれば、AIC《慣性停止結界》による拘束で詰みだ)
戒斗(並の相手なら、な)
ラウラ「教官を倒した男よ。貴様の強さは、その程度か!」
戒斗「焦るな。俺の力を――見せつけてやる!」
戒斗(AICがエネルギー兵器に弱いことはわかっている)
戒斗(一次移行で発現した、あの機能を使う……!)
<アリーナ・観客席>
セシリア「べ、ベルトを外しましたわー!?」
鈴「あ! でも、今度は赤いベルトが出てきた!」
セシリア「ああっ!? そ、空からメロンが降ってきましたわ!」
箒「いや、あれはただのメロンではない」
鈴「!?」
箒「――夕張メロンだ」
<アリーナ>
――メロンエナジーアームズ!
ラウラ「姿が変わった!? あの機体は、戦闘中にパッケージを交換できるのか……!?」
戒斗「驚いている暇は無いぞ!」
ラウラ「エネルギー弾……! だが、空など撃って何になる!」
戒斗「フッ」
<アリーナ・モニタールーム>
山田「く、駆紋君が空に向けて撃ったエネルギー弾が、メロンのオバケになりました……!?」
千冬「あれは……」
山田「ああ!? メロンのオバケから、エネルギー弾が雨みたいに降り注いでます!?」
<アリーナ・観客席>
セシリア「完全に虚を突かれましたわね。ボーデヴィッヒさんはこれで脱落でしょう」
箒「いや……」
鈴「あのバカがいるわ!」
<アリーナ>
戒斗「……ほう」
戒斗「零落白夜でエネルギー弾を切り裂いたか」
一夏「待たせたな、ラウラ」
ラウラ「……」
ラウラ「ふ、ふん。待ちくたびれたぞ」
一夏「ごめんって。でも……」
戒斗(ん……?)
一夏「ここからは、俺達のステージだ!」
戒斗(……)
戒斗「くくっ。いいだろう、かかって来い!」
<アリーナ・観客席>
セシリア「戦況が一気に変わりましたわね」
箒「ああ。駆紋にボーデヴィッヒのAICを警戒させながら、確実にシールドエネルギーを削っている」
鈴「でも……。戒斗の短弓、あれ、良い武器ね。遠距離はエネルギー弾、近距離は本体のブレード、あれ一つで完結してて隙が無いわ」
セシリア「ええ。ボーデヴィッヒさんに牽制しながら織斑さんにも対応する、なんて人間離れした芸当まで可能にしてますものね」
箒「武器の完成度もさることながら、やはり恐るべきは駆紋の実力だな……」
<アリーナ>
シャル(やっぱり、強い……)
シャル(一夏とボーデヴィッヒさんの連携は、大会までの短期間で仕上げたとは思えないほどに、ばっちりだ)
シャル(でも。それでも、駆紋戒斗を突き崩せない)
シャル(それどころか――)
ラウラ(AICか、それともレールカノンか――)
戒斗「貴様、迷ったな」
ラウラ「!?」
――メロンエナジー・スカッシュ!
一夏「ラウラ!?」
<アリーナ・モニタールーム>
山田「ボーデヴィッヒさんの機体、機能停止しました……」
千冬「これで織斑と駆紋の一騎打ちになったわけか」
山田「これは、駆紋君の優勝で決まりでしょうか……?」
千冬「いや……」
山田「織斑先生は、ここから織斑君が逆転する、と?」
千冬「してくれなければ、雪片は託せんよ」
山田「……」
山田「やっぱりブラコ……」
千冬「山田先生、あとで私とISの特訓をしよう」
山田「何でもありません!」
<アリーナ>
一夏「……一騎打ちだな、戒斗」
戒斗「ああ」
一夏「……」
一夏「戒斗、お前は強い。俺が知っている、誰よりも」
戒斗「……」
一夏「だから、俺はお前になりたい」
一夏「何度負けても、どんなに辛くても、必ず立ち上がるお前に。駆紋戒斗に、俺はなりたい」
戒斗「……」
戒斗「このバカが」
戒斗「俺の強さなど通過点に過ぎん。真の強さとは――」
一夏「ああ、わかってるよ。俺は、お前に勝つ」
一夏「……」
一夏「じゃないと、お前のことを守れないからな」
戒斗「――は?」
<アリーナ・観客席>
箒「え」
鈴「えっ」
セシリア「んまあ!」
<アリーナ>
ラウラ「は、はあ?」
シャル「え゛」
<アリーナ・モニタールーム>
山田「きゃあ!」
千冬「あのバカが……」
<アリーナ>
一夏「強者は、弱者を一方的に踏みにじる。世界は弱さや痛みばかり与える」
一夏「だから、強くなりたい」
一夏「俺は誰よりも強くなって――守りたいんだ!」
一夏「ずっと俺を守ってくれた千冬姉。幼なじみに、友達に……。それに」
一夏「駆紋戒斗! 俺は、お前を守りたい!」
一夏「俺は、みんなを守るために強くなりたいんだ!」
戒斗「……」
戒斗「織斑。何がお前に、その言葉を言わせた」
一夏「……」
一夏「じいちゃんだ」
一夏「小さな頃に死んじまったから、じいちゃんのことはほとんど覚えてない。でも、大きくて温かい手と、たった一つの言葉だけは胸に焼き付いているんだ」
戒斗「その言葉、とは?」
一夏「未来は己の手で勝ちとってみろ」
戒斗「……」
一夏「だから……。俺は勝ちとる。強くなって、みんなを守るんだ!」
戒斗「ふっ」
戒斗「ならば勝て。勝って貴様の強さをこの俺に見せつけてみろ――“一夏”ァッ!」
<アリーナの隅>
シャル(未来は己の手で勝ちとってみろ……。昨日の夜、駆紋戒斗が言っていたこと)
シャル(……)
ラウラ「ふふ。はは、はははははははははは!」
シャル「何を笑っているの?」
ラウラ「だって、笑うしかないだろう。あのバカに、私は、教官を感じてしまったんだ」
シャル「へ?」
ラウラ「未来は己の手で勝ちとってみろ。……ああ。教官もよくそう口にしていた」
シャル(……)
<アリーナ>
一夏「一撃勝負だ。――零落白夜、行くぞ!」
戒斗「来い!」
<アリーナ・観客席>
鈴「零落白夜と正面切っての勝負なんて避けるのが普通だけど……」
セシリア「駆紋さんですもの。挑まれた勝負から逃げるなんてこと、しませんわ」
箒「……」
箒(がんばれ、一夏)
<アリーナ>
一夏「戒斗ォオオオオオオオッ!」
戒斗「一夏ァッ!」
<アリーナの隅>
ラウラ「……!」
シャル「ああ! ……」
シャル「…………」
シャル「…………」
シャル「…………」
シャル「え、えー……」
<アリーナ>
――白式のエネルギー切れにより、駆紋・ボーデヴィッヒペアの勝利です
戒斗「……」
一夏「……」
戒斗「……おい」
一夏「……ごめん」
戒斗「この結果は、何だ?」
一夏「いや、その。シャルルを落とすのにちょっとシールドエネルギーを使いすぎてた、と言うか……」
戒斗「エネルギーを切らすなら、せめて激突してから切らせ! 貴様、あれだけ盛り上げておいて、斬り合う前にエネルギー切れとはどういう了見だ!?」
一夏「し、しかたないだろう!? 零落白夜はエネルギーバカ喰いのトンデモ兵器なんだからさ!?」
戒斗「そこまで読み切ってこその……! ああッ。俺はこんなのに――」
戒斗「この、バカ!」
一夏「な、なんだとお!? 今日は言わせてもらうけどな、お前だってバカじゃねえか、戒斗!」
戒斗「何だと!」
一夏「そもそも風呂覗きが強さの証明とか何だよ、頭おかしいんじゃねーか!」
一夏「それに! そんな俺様系イケメンファッションしといて、その中身が女子力高いオトメンとか何だよ! ギャップ萌えか!」
戒斗「貴様ァッ! 言わせておけばッ!」
一夏「やるかこの!」
戒斗「いいだろうッ! 今度は素手で勝負だ!」
一夏「おう、やってやろうじゃねーか。IS戦ならいざしらず、中の人勝負なら負けないぞ!!」
<アリーナ・観客席」
セシリア「えっと……」
箒「バカだな」
鈴「バカね」
セシリア「でも……」
セシリア「なんだかちょっと、羨ましいですわ」
<アリーナの隅>
ラウラ「ははははは! あいつら、ずいぶんと楽しそうだな」
シャル「……そうだね」
ラウラ「ふふっ。何だ。何なら混ざりに行くか?」
シャル「……そんなこと、できないよ」
ラウラ「そうか? 拳一つ握って殴りこめば歓迎してくれると思うぞ。ふふっ」
シャル(……暗殺の、絶好の機会だ。コード『T・T』。そう叫ぶだけで、あの人の指示を果たせる)
シャル(僕を必要としてくれる人の望みを、叶えられる)
シャル(でも、なんでだろう……)
シャル(……)
シャル(あの二人の邪魔はできない。そう、思ってしまう……)
<某所>
「――ふむ」
「デュノア君はとても憐れで面白い玩具だったが」
「まあ。ここで壊してもいいだろう。あの手の人間なんて、いくらでも代わりはいるのだから」
「悪いね、“可愛いシャルロット”。これが大人の手口なんだよ」
「――コード『T・T』」
<アリーナ>
一夏「いってぇっ!? クッソ、いいパンチ持ってるじゃねーかオトメン!」
戒斗「そう言う貴様も意外と――ん?」
一夏「あれは……」
<アリーナの隅>
ラウラ「な、何だ!? ISが!?」
シャル「これは……!?」
シャル(何で!? 何で何で何で何で何で!? ――あなたも僕を捨てるの、プロフェッサー……?)
シャル(……)
シャル「助け……て……」
<アリーナ・観客席>
セシリア「あ、ISが肥大化して、操縦者を取り込んだ……?」
箒「何だ、あれは……? 二体の白い巨人……?」
鈴「戒斗のISに似てるわね……。サイズは、3倍くらいあるけど……」
<アリーナ・モニタールーム>
山田「織斑先生!?」
千冬「VT《ヴァルキリー・トレースシステム》!? いや、違う……」
<アリーナ>
一夏「何だあれ……」
戒斗(――巨大な斬月、といったところか)
戒斗(いや……)
TT斬月「……」ザッ
TT斬月・真「……」ザザッ
戒斗(あの動きのキレ。あれは――呉島貴虎)
戒斗「くく。くくっ。ははははははははは!」
一夏「か、戒斗!? どうしたんだ、もしかして俺、変なところ殴ったか!?」
戒斗「違う」
戒斗(呉島貴虎に雪辱を果たす機会は永遠に失われた。――そう思っていたが、どうやらここに機会を得たらしい)
戒斗「一夏。デュノアを取り込んだISは俺がやる」
TT斬月・真「……」
戒斗「ボーデヴィッヒは……」
一夏「ああ」
一夏「あいつは、救える女だからな」
戒斗「……」
戒斗「ふん」
一夏「よし。白式展――」
一夏「……」
一夏「白式のエネルギー切れてるじゃないか!?」
戒斗「どうするつもりだ? 尻尾を巻いて逃げだすか?」
一夏「バカ言うなよバカ。生身だって、声は上げられる。……ああ、うん、なんとかなる気がしてきた。あの中にいるラウラに呼びかけて――」
戒斗「バカを言うなバカ」
戒斗「……ふん」
戒斗「こいつを使え」
一夏「これは……。黒い、ベルト。それに、バナナの錠前……?」
戒斗「未来を、己の手で勝ちとってみせろ」
一夏「……おう!」
<アリーナ・戒斗の戦い>
戒斗「さて」
TT斬月・真「……」
――助け……て……。
戒斗「デュノア。貴様は、自分の足で立とうとしない、最悪の弱者だ。救う価値も無い。――俺の、価値観では」
――俺がみんなを守るんだ!
戒斗「一夏。葛葉。――いいだろう。俺ももう一度だけ、この世界を信じてやる!」
――メロンエナジー・スパーキング!
<アリーナ・一夏の戦い>
一夏「ラウラ。待ってろ、すぐにそいつの中から引きずりだしてやる!」
TT斬月「……」
一夏「……」
一夏「あれ? これ、どうやって使うんだ……?」
<アリーナ・戒斗の戦い>
戒斗(同種の力では厳しいか。流石は呉島貴虎だ)
戒斗「…………」
<アリーナ・観客席>
セシリア(え……? 駆紋さん、今、こちらを……?)
鈴「セシリア、何やってんのよ! 観客の避難誘導手伝って!」
セシリア「は、はい!」
<アリーナ・戒斗の戦い>
TT斬月・真「……」
――メロンエナジー……
戒斗(奴がソニックアローにロックシードをセットした。悩んでいる時間は無いようだな)
戒斗(いいだろう。誰が黒幕かは、わかった)
戒斗(そして。織斑一夏は、もう、俺の手はいらない)
戒斗(――俺がこの学園に残る理由は、無くなった!)
<アリーナ・観客席>
鈴「セシリア!」
セシリア「……」
セシリア「鈴さん、あれ……」
鈴「え? ……嘘。何あれ……」
<アリーナ・モニタールーム>
山田「駆紋君の身体に……。植物の蔦……? あれは、先月の謎のISが怪物化した時の……!?」
千冬「……」
千冬(そうか……。お前は学園を去るか、駆紋)
<アリーナ・戒斗の戦い>
戒斗(ロードバロン)「ハァッ!」
――オーバーロード化した戒斗は、長剣《グロンバリャム》を薙いでTT斬月・真のエネルギー弾を切り払った。
TT斬月・真「……!」
戒斗「呉島貴虎。五十年の時を経て、再び貴様と戦う機会を得た幸運に、感謝するぞ!」
――戒斗は身体を液体に変えて空中を翔る。TT斬月・真に喰らいつくと、その巨体をアリーナのグラウンドに叩きつけた。
TT斬月・真「!?!?!?」
戒斗「だが、同時に俺は怒りを感じている。呉島貴虎の強さを利用した、奴に!」
――TT斬月・真を放り投げ、液状化を解く戒斗。その手には長剣《グロンバリャム》が握られていた。
戒斗「戦極凌馬!」
――ヘルヘイムの植物を操り、TT斬月・真を拘束する。
戒斗「貴様にはもう一度俺の拳を叩き込んでやる!」
――長剣《グロンバリャム》は、TT斬月・真を切り裂いた。
戒斗「……」
戒斗「これは、バナナでは勝てないかもしれんな」
戒斗「……」
戒斗「だが。こういう、人の自由を奪う悪を倒せずして――仮面ライダーにはなれんぞ、一夏」
<アリーナ・一夏の戦い>
一夏「これ、どう使えばいいんだよ!?」
TT斬月「……!」
一夏「うわ、撃ってきた!? なんだよあの剣、銃にもなるのか! ……と、取りあえず走る!」
千冬『――織斑。聞こえるか、織斑』
一夏「千冬姉!?」
千冬『学校では織斑先生と……まあ、いい。よく聞け愚弟。そのベルトは戦極ドライバー。バナナの錠前はロックシードだ』
一夏「そ、そうなのか。って、何で千冬姉がそんなこと知ってんだ!?」
千冬『そんなこと、今はどうでもいい。戦極ドライバーにロックシードをセットして、右側のカッティングブレードを下ろせ。そうすれば、お前はアーマードライダーに変身できる』
一夏「え、えっと」
TT斬月「!」
――ズドン!
一夏「うわ!? あ、危なかった……」
千冬『早くしないと死ぬぞ』
一夏「わ、わかってる!」
――バ・ナーナ!
一夏「バナナを、ドライバーにセット……!」
――ロックオン
一夏「そして――変身!」
――カモン・バナナアームズ!
――Knight・of・spear!
一夏「よし! これなら!」
――バナスピアーを振り上げ、TT斬月に叩きつける!
――ガキン。
TT斬月「……?」
一夏「ッ~~~!? 硬い! 千冬姉、こいつ、硬い!」
千冬『カッティングブレードを2度倒せ。必殺技を打てる』
一夏「わ、わかった!」
――カモン! バナナ・オーレ!
――ガキン。
一夏「千冬姉! やっぱりこいつ硬い!」
千冬『……』
千冬『バナナでは勝てないか……』
一夏「千冬姉!」
千冬『手を考える。それまで耐えろ』
一夏「わ、わかった……!」
<アリーナ・モニタールーム>
千冬(バナナロックシードでは破壊力が足りない。なら、どうすればいい)
千冬(破壊力に優れたロックシードがあれば状況は解決できるが。しかし、そんなものどこから……)
<アリーナ・一夏の戦い>
TT斬月「……!」
一夏「う、うわっ!? ……あ、危なかった」
TT斬月「……」
一夏「こいつ、強い……。戒斗とか、千冬姉みたいな、尋常じゃない強さだ。どうする? 仮に攻撃が通じたって、こいつに必殺技を叩き込むのは骨だぞ……」
一夏「……」
<アリーナ・モニタールーム>
千冬(……)
千冬(《白騎士》。10年前に世界を変えた最初のIS)
千冬(束と作った――私の、最初の愛機)
千冬(……)
千冬(行方不明になった、と言われているが)
千冬(わかる。いや、今は、信じるしかない)
千冬(《白式》こそが《白騎士》だと)
千冬(だからあのISは、一夏に力を貸してくれているのだと……!)
<アリーナ・一夏の戦い>
千冬『一夏、よく聞け』
一夏「お、おう」
千冬『白式だ』
一夏「え? でも、白式はエネルギー切れ……」
千冬『白式のコアを呼び出せ。それが、状況を打開する力になる』
一夏「な、何だかわかんないけど、やってみる! 来い、白式!」
一夏「……こ、これは」
千冬『大事に使えよ。じいさんの形見だ』
一夏「……」
一夏「ああ! そういうことなら、絶対に負けねえ!」
――クルミ
――ロックオン
一夏「変身!」
――クルミアームズ!
―― Mister Knuckleman!
一夏「ハァッ!」
TT斬月「……!」
――メロン・スパーキング!
一夏「見ててくれ、戒斗!」
――クルミ・スパーキング!
<アリーナ・モニタールーム>
山田「お、織斑君、敵機の攻撃に突っ込んでいきます!?」
千冬「捨て身、くらいしか今のアイツには勝機が無いだろうからな……」
千冬(じいさん。どうか、一夏を守ってくれ……)
<アリーナ>
ラウラ「…………」
ラウラ「こ……こ……は……。私は……?」
ラウラ(そうだ。私はISに取り込まれて……)
ラウラ(シュヴァルツェア・レーゲンが破壊されている……? いったい、誰が……)
ラウラ「!」
ラウラ「おい、しっかりしろ」
一夏「……」
ラウラ「目を開けろ! 織斑……織斑一夏!」
一夏「……へへ」
ラウラ「!」
一夏「ざまーみろ、戒斗。やっぱり救えたじゃないか……」
ラウラ「……」
ラウラ「そうだ。お前は、私を救ってくれた」
<アリーナ・モニタールーム>
山田「……ふう。何とかなりましたね」
千冬「山田先生。ちょっと離れます」
山田「へ?」
千冬「では」
山田「織斑先生!? ちょ……事後処理押しつけられたー!?」
<IS学園正門>
――戒斗は手のひらを夕陽に透かす。その手は、ガラスのように赤光を通した。
戒斗(残り時間も少ない。これで、いい)
戒斗「……」
戒斗「俺がこの学園でやりたかったことは、果たした」
戒斗「織斑一夏」
戒斗「世界で唯一ISを使える男という、『黄金の果実』になってしまったザックの――友の子孫は、本当の強さを得た」
戒斗「誰がアイツを踏みにじろうとしても――」
戒斗「未来を、己の手で勝ちとるだろう」
戒斗「……」
戒斗「あとは、現世にしがみつく亡霊に、俺の拳を再び叩きつけるだけだ……!」
戒斗「さらばだ、IS学園」
「あら。授賞式をすっぽかして、どこへ行かれるのです?」
戒斗「貴様は……」
セシリア「それとも、駆紋さんには一年生の部のトロフィーなんて無価値なのでしょうか?」
戒斗「それは一夏にやっておけ。本当の勝者は、あいつだ」
戒斗「かつて、たった一人だけ俺が負けを認めた男がいた」
戒斗「……俺は一夏に、あいつになって欲しかった」
セシリア「それは……。葛葉紘汰さん、ですわね」
戒斗「……ふん」
――俺が守りたい男は、お前だ!
戒斗「一夏があいつと同じ台詞を口にした瞬間に、俺の胸は満たされていた。……俺は、もう、負けていたんだ」
戒斗「IS学園での俺の役目は終わったんだ」
セシリア「でも――」
戒斗「何を言われても俺は止まらん」
セシリア「いいえ、引きとめてみせます」
戒斗「……」
戒斗「何故だ」
セシリア「それは……」
セシリア「……」
セシリア「わ……」
セシリア「わたくしに料理を教えてくださる、という約束が果たされていませんわ……!」
戒斗「……」
セシリア「……」
戒斗「悪いが――」
「そうだよ! 駆紋君、フルーツタルトのコツを教えてくれるって約束したよね!」
セシリア「ふぁっ!?」
クラスメイト1「どこ行くんだよ、大将。遠出するなら自転車貸すぜ」
クラスメイト2「ク・モーン。怪人となった君は、しかし、美しかった。あの姿こそ、君の誇りが形となったものなのだろう。……美しい君は、私達と共にいるべきだ」
戒斗「お前達……」
一夏「勝手に全部終わらせた気になってんじゃないぞ、バカ。俺がお前を倒すまで消えられちゃ困るんだよ」
戒斗「……。ふん。ボーデヴィッヒに肩を貸されてようやく歩けているような状態で、よくもまあそんな口を」
ラウラ「ふん。嬉し過ぎて涙が出るが、私も織斑一夏と同意見だ。教官に勝利した貴様は、私の手で倒さねばならないのだからな」
戒斗「……」
箒(鈴。私たちも言いたいことはあるが……)
鈴(うん。これ以上喋ると、ね)
鈴「……セシリア。あんた、もうちょっとがんばんなさいよ。このままじゃ、このここぞの場面で記憶に残れなくなるわよ」
セシリア「は!?」
セシリア「く、駆紋さん!」
「君。未来は己の手で勝ちとってみろって言ったよねえ?」
シャル「他人に偉そうに説教をした人が、黙ってみんなの前から姿を消すのは――卑怯じゃないかなあ」
戒斗「……む」
シャル「君は、君を必要としてくれる人がこんなにいるのに、どうしてそれをみんな捨てようとするの……?」
シャル「どうして、一人ぼっちになろうとするの……?」
シャル「ねえ。どうして……」
シャル「どうして一人ぼっちになろうとする君は、一人になれないの……?」
戒斗「それは――」
戒斗「……」
戒斗「俺には、わからん」
クラスメイト3「ハッピバースデイ!」
戒斗「!?」
クラスメイト3「ならば、この学園に残ればいい。『わからない』それは、『知りたい』という欲望を生む、すばらしい感動だ! そして――学校とは、わからないことの答えを得るためにある!」
クラスメイト3「君が二十歳だろうと、七十歳だろうと、関係無い。だって君は、1年1組の仲間なのだから!」
戒斗「……」
クラスメイト3「後藤君、例の物を」
クラスメイト5103「はい」
クラスメイト3「……オルコット君!」
セシリア「は、はひ!?」
クラスメイト3「これは、真っ先に駆紋君を引きとめた君こそが渡すべきだ」
セシリア「……」
セシリア「いえ。この、セシリア・オルコット。成果だけを横から奪うような、はしたない真似はいたしませんわ」
クラスメイト3「そうか……。高貴であれという欲望。それもまた、すばらしい」
クラスメイト3「……」
クラスメイト3「このケーキは……」
クラスメイト3「決勝戦の対戦カードが決まった時点で、1組の誰かが優勝することは分かっていたからね。クラスのみんなで作ったんだ。メッセージカードだけは、さっき書いたがね」
クラスメイト2「イチゴのスライスは私がした! ク・モーンの言う通り、私はイチゴのスライスにおいて頂点に立つ女だからな!」
クラスメイト1「メッセージカードは俺だ! ……流石に、マヨネーズじゃないからな?」
クラスメイト3「このメッセージを受け取って欲しい。これが、みんなの気持ちだ」
戒斗「……」
――『おかえり、駆紋君』
戒斗「……」
戒斗「ふん」
一夏(あ、照れてる)
セシリア(照れてますわね)
鈴(照れてるわね、あれは)
箒(照れているな)
戒斗「アリーナで見せたように、俺は怪人だ。そして、夏を前にこの身体は消え去るだろう。――それを、覚悟しておけよ」
一夏「……」
一夏「違うだろ、戒斗」
戒斗「む」
一夏「俺達は『おかえり』って言ったんだ。だったらお前は――」
戒斗「……」
戒斗「ふん」
一夏「言えよ『ただいま』!?」
<正門近くの木の陰>
千冬「……」
千冬「ふっ」
千冬「じいさん。あんたの心残り、もしかしたら叶うかもしれないよ」
<夜・学生寮1025室>
戒斗「シャルロット・デュノア。貴様の裏にいたのは篠ノ之束ではなく、戦極凌馬だな」
シャル「……」
戒斗「ふん。その反応でわかる。俺も、とんだ道化を演じたものだ」
シャル「……」
シャル「僕は、あの人にも捨てられてしまったのかな……」
戒斗「貴様のように、ボロ雑巾のように利用されるためにいるような弱者など、世の中には掃いて捨てるほどいる。戦極凌馬にとっての貴様なぞ、そこいらのゴミと変わらない存在だったのだろう」
シャル「……あはは。手厳しいね」
シャル「……」
シャル「どうして、こうなっちゃったのかな。……僕はただ、誰かに必要とされたかっただけなのに……」
戒斗「……」
戒斗「わからんか?」
シャル「……」
シャル「ひっく……ぐす……」
シャル「わかってたら、僕の頬はこんなに熱くならなかったよ……」
戒斗「……」
戒斗「ならば、ここにいればいい」
戒斗「ここにいれば、わからないことの答えを得られるらしいからな」
シャル「……」
シャル「…………」
シャル「うん……」
■終幕
<大会翌日・SHR前・1年1組>
一夏「シャルルの目が兎みたいになってる件について」
戒斗「……」
戒斗「何故、俺を見る」
一夏「原因なんてお前しかいないだろう、同室なんだからさ! 何した!? 何してシャルルを泣かせた!」
「駆紋君がデュノア君を泣かせた……?」
「きゃー! 一晩中ベッドの上でー!?」
「そーゆー意味じゃないと思うけどなー」
「それに! 駆紋君は襲い受けだって昨日の試合で証明されたじゃない!」
「いやいや、あれは織斑君相手だけで、デュノア君相手には鬼畜攻めの可能性がまだ……!」
戒斗「……」
一夏「……。俺から仕掛けといて何だけど、やめよう、この喧嘩」
戒斗「ああ……」
シャル「……」
一夏「けど。シャルル、何かあったらすぐに言うんだぞ」
シャル「どうして……?」
一夏「どうしてって。え、それ、言わなきゃダメか?」
シャル「うん。教えて欲しいな」
一夏「あー……」
一夏「……」
一夏「俺達、友達じゃん?」
シャル「……!」
戒斗「……」
一夏「な、何だよ、二人して変な顔して!?」
戒斗「二人ではない、な」
一夏「え? ……あ゛」
「きゃー! 織×デュキター!」
「何なの!? 織斑君は薔薇ハーレムを造ろうとしているの!? さすがすぎるわ!」
「キライジャナイワ! キライジャナイワ!」
「ホモハーレムマスター織斑一夏……。恐ろしい子……!」
一夏「……」
一夏「泣きたい」
ラウラ「ふっ。――お前に涙は似合わないぞ、“相棒”」
一夏「ら、ラウラ!? ……その黒のソフト帽は何だ?」
ラウラ「ハードボイルドだろう?」
一夏「わけがわからん!」
ラウラ「貴様との関係を我がドイツにいる副官に話したらな、『それは相棒だ』と教わったのだ。クラリッサの本棚は全ての日本の記憶が存在しているんだ! これで決まりだ!」
一夏「仮に本当に日本通だとしても、検索ワード間違えてるだろ!?」
千冬「いつまで騒いでいるんだ、バカ共。また石を抱かされたいのか? SHRを始めるぞ」
一夏「うわ、千冬姉――いでっ!?」
千冬「学校では織斑先生だ」
一夏「……ご指導ありがとうございます、織斑先生」
千冬「よろしい」
シャル「……」
シャル「……ふふっ」
戒斗「くくっ」
一夏「あ!? 二人とも笑うなんて酷――あでっ!?」
千冬「SHRを始めると言っただろう、バカ。騒ぐな」
一夏「……ご指導ありがとうございます、織斑先生」
千冬「よろしい。では、SHRを始める」
千冬「まずは七月の郊外特別実習期間についてだ――」
<病室>
貴虎(私の76年の人生が終わろうとしている――)
貴虎(失敗ばかりの人生だったが、悪くはなかった)
貴虎(心残りはあるが、希望もある)
貴虎(葛葉。かつてお前が示してくれた希望は、世界に未来があると信じさせてくれる)
貴虎(ありがとう。――この世界に希望があると信じられるから、私は、死が怖くない)
貴虎(……)
貴虎「誰だ」
「やあ。スクリーン越しに失礼するよ。本当は私自身が迎えに行きたかったのだけれどね。生憎と、身体がなくてね」
貴虎「貴様は……! どうしてお前が生きているんだ、凌馬……!」
戦極凌馬「おや。半世紀越しの再会に感動してくれないのかい? 私はこの五十年待ち焦がれた喜びに打ち震えて、ショートしそうだよ」
貴虎「そうか……! ISはお前が作ったんだな。だから、ISのコアはヘルヘイムの果実だった」
貴虎「――ISは、進化した戦極ドライバーだ……!」
凌馬「ご明察。流石は呉島貴虎、やはり、君を置いて他にはいない」
貴虎「何の話だ……」
凌馬「T・T《タカトラ・トレースシステム》というものを作ってみた。が、やはり贋作は贋作だね。真作に及ぶものではない。それでは至れない」
貴虎「質問に答えろ、凌馬……!」
凌馬「おお、怖い怖い。老人になっても迫力は変わらないねえ。流石、呉島主任、だ」
凌馬「ふふ。――だからこそ、君は僕の憧れなんだ」
凌馬「いいさ、質問に答えよう。私が君を何に選んだか、何をしようとしているか」
貴虎「……」
凌馬「君を、神にする! ――私の力、でね」
貴虎「バカなことを……!」
凌馬「ふふっ。まあ、話はここまでだ。君が君である限り、呉島貴虎が神になれないことは私も理解している。だから」
凌馬「――まずは、死んでくれ」
貴虎「――ッ!?」
――その日。
――最高のアーマードライダーが、命と尊厳を奪われた。
戒斗「IS学園?」一夏「バナナ・オーレ!」 本編 了
長かった……(しろめ
あと。たぶん。この世界における、メガヘクスの事件から今に到るまでの五十年も、本当に、長かったんだろうなぁと思います。
これにて本編は終了。前スレと同じく、このスレはいくつかの短編を投下した後にHTML化依頼を出して終わらせます。
そして、既に予想はついていると思われますが、本編完結編(IS3巻またはアニメ9~12話分のストーリー)が完成したら、改めて次スレを立てます。イツニナルカナー
現在予定している短編の数は九本。おそらく増減はするでしょうがー。
セシリア完結編、ラウラ完結編、シャル完結編、などをやりつつ。
『泊進ノ介最後の事件』
という短編を投下しましたら、このスレを終了いたします。
それでは。ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。
連投ですまんが>>115のペアの名前間違ってるぞ
>>149
Oh……「駆紋・デュノアペア」で脳内修正をお願いいたします……。
あ。短編1本投下します。
■短編No.1 「仮面ライダーの殺し方」
<五十年前(メガヘクス事件から一週間後)・財団X・研究者『A』のデスク>
――独りでに、パソコンが起動した。
『やあ、久しぶりだね。あい――いや。今は『A』だったか』
研究者A「君は戦極凌馬……!? 死んだはずでは……」
凌馬『だから、画面越しの再会なのさ。電子体幽霊《ワイアード・ゴースト》なんだ。そして、できるだけ声量を抑えてくれないか。周囲には聞かれたくない話なんだ』
研究者A「財団のネットワークに侵入した手腕には恐れ入るが、死人とする話なぞ……」
凌馬『死人だからできる話もある。そう、未来の話だ』
研究者A「……。死者が未来を語るなど、神がお笑いになるだろう」
凌馬『ところがそうでもない。もっとも、私が未来を見てきたとか、そういう話でもない』
凌馬『未来とは――君の未来の話だよ、『A』』
研究者A「……話してみろ」
凌馬『いつまで“悪の科学者”をするつもりだい?』
研究者A「死ぬまでだ。既に、私の研究は死人を出している。罪に汚れたこの手を、神は御許しにならないだろう」
凌馬『だがね、『A』。君には家族がいるだろう? 特に、遅くに出来た幼い息子を溺愛していたね』
研究者A「何が言いたい……ッ」
凌馬『君は息子に言えるかい? 『お父さんの仕事は人殺しだよ』ってね』
研究者A「言えるわけないだろう……!」
凌馬『なら、辞めればいいじゃないか、“悪の科学者”を。そして息子に誇れる仕事に就こう』
研究者A「馬鹿を言うな。ずっと裏の世界で研究をしてきた私が表の仕事を見つけるのは困難だ。……それに、財団からは逃げられない」
凌馬『確かに財団Xは恐ろしい組織だ。世界中にその根を伸ばし、永遠に滅びることがないように見える』
凌馬『けれどね、『A』。財団の活動に従事している人々の大半は、君のように大切な者を持つ人なんだよ』
研究者A「……」
凌馬『君は、財団の研究が最後に何を生むか、と。考えたことは無いかい?』
研究者A「それは……」
凌馬『財団にいる君なら見たはずだ。一週間前の、あの事件の顛末を』
研究者A「メガヘクスか……」
凌馬『そう。全ての命を機械に変えて一個の生命になった、あの、星の姿。――あれが、財団が最後に生むものだ』
凌馬『君は耐えられるかい? 自分の息子にメスを入れる、その冒涜に』
研究者A「……」
研究者A「わかっているよ。様々な怪人を生みだす研究が、いずれ我が子に牙を剥くであろうことは」
研究者A「だが、私はもう後戻りはできない……。そういう場所に、足を踏み入れてしまったんだ……」
凌馬『大丈夫だ』
研究者A「何を根拠に……」
凌馬『だって、君はまだ生きているだろう?』
研究者A「……!」
凌馬『断言しよう。君と、君の大切な人は、明るい未来を手にできる。とね』
研究者A「だが、どうやって……」
凌馬『ふふっ。この死人は、生前と同じく――あるいはそれよりも優秀でね。君のために用意したものが、三つある』
凌馬『一つは、表の仕事だ。『半分は優しさでできている』のCMを打っている、あの会社に君の席を用意した。綺麗な仕事だ。事が成った暁には、存分に息子君に己の仕事を誇ってくれたまえ』
凌馬『一つは、仲間だ。君と同じように『大切な人の未来』を心から望んでいる、財団のメンバー達に話をつけてある』
凌馬『一つは、贖罪の機会だ。――君と、そして君の仲間達が財団Xを倒すんだよ』
研究者A「は、ははは。そんな、夢物語のようなことを……」
凌馬『夢は実現できる。君は知っているはずだ。どんな絶望にも負けず巨悪を打ち倒す英雄――』
凌馬『仮面ライダー、を』
凌馬『“悪の科学者”達よ。大切な人のため、今こそ正義の心に目覚めて“仮面ライダー”になる時だ』
研究者A「……っ!?」
凌馬『実際にやることは単純だよ。結局、財団だって“本物の悪人”はほとんどいないんだ。だから、その“本物の悪人”さえ殺してしまえば、財団Xは消滅する』
凌馬『大丈夫。財団の中には、敵よりもむしろ味方の方が多い』
凌馬『みんな、大切な人の未来を守りたいんだよ』
研究者A「……私はいつ動けばいい」
凌馬『今から、一時間後だ』
研究者A「!?」
凌馬『財団にいる“本物の悪人”のリストを送る。そして、君と、君の近くにいる仲間が倒すべき悪の名前も』
研究者A「…………」
研究者A「いいだろう」
凌馬『ありがとう』
凌馬『“本物の悪人”の血は君の罪を洗い流し、神に許される道を開くだろう。幸運を祈る』
研究者A「待ってくれ。……どうして君は、こんなことを?」
凌馬『フッ。死んでしまうとね、たくさんの後悔が押し寄せるのさ』
凌馬『しかし、後悔の海を泳ぎ切った私は、生きている人に助言を送れる存在になった』
凌馬『だから――お節介が、したくなったのさ』
研究者A「……」
研究者A「全てが終わったら、君の墓前に花を供えるよ」
凌馬『ふふっ。ありがとう、『A』』
<電脳領域《サイバー・スペース》>
凌馬「……ふう」
凌馬「ハハッ! 科学者にならなければレッドカーペットを歩いていたかもしれないねえ、私は」
凌馬「ハハハハハハハハハッ!」
凌馬「――ふふっ」
凌馬「メガヘクス。科学者達を扇動する最後の一押しをどうしようと悩んでいたが、君達はちょうどいい材料になってくれた」
凌馬「科学が極まった世界、『神』を忘れた人類は種族の命運を機械に託した。そして、結局、ヒトは滅んでしまう。――科学者なんて人種はロマンチストのくせに、ディストピアノベルが大好きだからね。メガヘクスの模範のようなディストピアは、打ってつけだったよ」
凌馬「財団Xを片づける目処はついた。クーデターが成功しようと失敗しようと、大半の科学者を失うことになる財団Xは、『仮面ライダーの敵』を生む力を失う」
凌馬「さて。次はどうするか」
――戦極凌馬は『世界地図』を広げた。
凌馬「……ふむ」
凌馬「ずいぶんと怪しい資金の流れがあるねえ。少し調べてみるか」
凌馬「……」
凌馬「世界を、平和にしなければならない」
凌馬「それが仮面ライダーの殺し方であるし」
凌馬「予行演習でもある」
凌馬「僕が――黄金の果実になるための」
以上になります。
『敵と同じ力を使って戦う』仮面ライダーは『敵が現れなければ誕生しない』という、前スレで触れた話題の延長にある話でした。
それでは。ここまでお付き合いありがとうございました。
書き上がったのでもう一本短編投下。
他の話の準備、みたいな話になります。
■短編No.2 年表
<夜・学生寮一夏とラウラの部屋>
ラウラ「お前に難しい顔は似合わないぞ、相棒」
一夏「どういう意味だよ!?」
ラウラ「ふふっ。そうだ。そのレスポンスの早いツッコミこそ、相棒だ!」
一夏「わけわかんねーよ!?」
ラウラ「で。何を悩んでいたんだ?」
一夏「あー……いや。年表をまとめてたんだよ」
ラウラ「また妙なことをしているな」
一夏「いいだろ、別に」
一夏(白騎士事件は10年前。で。最初のIS《白騎士》の操縦者が誰なのかは、いまだにわかっていない)
一夏(でも。俺には当たりがついている。――千冬姉だ)
一夏(ISの開発者は束さんなんだから、普通に考えればテスターは親友の千冬姉だ)
一夏(千冬姉は今年で24歳だから、10年前は14歳。中学2年生)
一夏(と、いうわけで俺は恐ろしい想像をしている)
一夏(白騎士事件は、千冬姉と束さんの中二病が暴走した結果なのではないか、と……!)
一夏(宇宙船地球号の針路を変えたのは、二人の中二病だった!)
一夏(安いキャッチコピーだけど、実際に現実がそうなってしまったのだから、仕方ない)
ラウラ「それで。年表をまとめて、何かわかったのか?」
一夏「千冬姉のすごさを再確認した」
ラウラ「ふふん。そうだろう、教官は偉大だ!」
一夏「何でラウラが胸を張るかな!? ……ま、いいや」
一夏「まあ、事情があって。俺と千冬姉はじいちゃんに育てられてたんだよ」
ラウラ「例の『未来は己の手で勝ちとってみろ』の御仁だな」
一夏「ああ。……じいちゃんは俺が4っつの時に亡くなっちまって、それからは千冬姉に育てられたんだけど」
ラウラ「ほう」
一夏「よくよく考えると、その時の千冬姉って中学1年生だったんだよなあ」
ラウラ「!?」
一夏「中学生にして4歳の弟を育てつつ食い扶持も稼いだ……。千冬姉、凄過ぎるぜ」
ラウラ「さすが織斑教官だ! 日本人の教官だ、苦労されただろう」
一夏「ま。実際はちょくちょく箒の親父さんとお袋さんのお世話になってたんだけどな」
ラウラ「篠ノ之か。幼なじみだったな」
一夏「そうそう。ま、箒との付き合いは俺が小学生になってからだったんだけどな」
ラウラ「そうなのか」
一夏「そうなんだ」
ラウラ「ほう」
一夏「ラウラの部隊のメンバーも幼なじみみたいなもんじゃないか?」
ラウラ「な、なんだと!?」
一夏「だって、千冬姉がドイツにいたのって俺が小学5年から6年の辺りだろ? ラウラの部隊の仲間がその時からの付き合いなら、俺と鈴の付き合いみたいなもんだから、幼なじみじゃないか」
ラウラ「すまない相棒、ちょっと電話を!」
一夏「あ、ああ」
一夏(ラウラが部隊の仲間と電話をしている)
ラウラ「――そうだ、クラリッサ。相棒はお前達が私の幼なじみだと言うんだ」
ラウラ「――なんだと!? 幼なじみ同士はアダ名で呼び合うものだと!?」
ラウラ「――わかった。クラリッサ、これからお前のことはクラちゃんと呼ぼう」
ラウラ「――ああ。私はうーちゃんだ」
ラウラ「――では、またな。クラちゃん」
一夏(うーちゃん……?)
ラウラ「終わったぞ」
一夏「お、おう」
一夏(うーちゃん……?)
ラウラ「しかし、年表というものも面白いものだな。新しい事実が浮き彫りになる」
一夏「そうだな」
一夏(……考えてしまう)
一夏(千冬姉は中1の時、親代わりだった祖父を失い、4歳の弟の手を引きながら途方に暮れていたはずだ)
一夏(しかし、中2の時に束さんと白騎士事件を起こしたとすると、『白騎士のテストパイロット』『バイト』『俺の世話』を同時にこなしたことになる)
一夏(バイトと俺の世話だけでも大変だったはずの千冬姉が、どうして白騎士のテストパイロットを引き受けたのだろうか)
一夏(もしも千冬姉が協力を断っていれば、IS開発はどうなっていたのだろうか)
一夏「なあ、ラウラ。もしも世界にISが登場しなかったら、どうなっていただろうな」
ラウラ「相棒」
一夏「うん?」
ラウラ「その質問は、私には酷だ」
一夏「そ、そうだったのか……。ごめん」
ラウラ「相棒」
一夏「お、おう」
ラウラ「すまなかった」
一夏「な、何でラウラが謝るんだ!?」
ラウラ「転校初日に、相棒を非難した。貴様がいなければ教官は第2回IS世界大会優勝の栄光を手にしていただろう! とな」
一夏「あんなのは別に……」
ラウラ「いいや、謝らせてくれ。あれは、お前のことが大嫌いだったから因縁をつけただけなんだ」
ラウラ「そして。何故お前を嫌っていたか、という理由を今は語れないこともまた謝る。すまない」
一夏「……」
ラウラ「……すまない」
一夏「いいって。俺だって、他人には話辛い自分の事情って奴、あるし」
ラウラ「そうか……」
一夏「でも。いつか聞かせてくれると嬉しいよ」
ラウラ「……」
ラウラ「ああ、約束する。いつか必ず、お前に私の全ての気持ちを打ち明ける」
一夏「楽しみにしてるよ」
一夏「あ」
一夏「それくらい仲良くなった時は、俺もラウラのことを『うーちゃん』って呼ぶべきか……?」
ラウラ「ふふっ。心惹かれるがな。それは、クラリッサ達だけのものだ」
一夏「そっか」
以上になります。
ここまでお付き合いありがとうございました。
短編1本投下します。
ラウラ回が続くのは、僕がツルペタスキーだからです。
■短編No.3「Mの導き/相棒とはどんな存在なのか」
<土曜夜・学生寮一夏とラウラの部屋>
ラウラ「私にはカメ子がいた」
一夏「また突然どうした」
ラウラ「教官が日本に帰られても、カメ子が私の寂しさを紛らわせてくれたんだ」
一夏「ライラはまたそうやってヘビーな話を剛速球で投げてくる!?」
ラウラ「聞いてくれ、相棒。――そういうものが、必要だと思うんだ」
一夏「ごめんラウラ。話が見えない……」
ラウラ「むう」
ラウラ「……」
ラウラ「駆紋戒斗は夏の前に消えてしまうのだろう? だから、形に残るものがあれば救いになると思ったんだ」
ラウラ「相棒。お前は、あいつと仲が良いだろう? ……相棒と、言っていいほどに」
一夏「……なるほど。思い出の品、ってわけか」
ラウラ「そういうことだ」
一夏「って言っても。何をどうするって話になると、パッとは思い浮かばないなあ」
ラウラ「くくっ」
一夏「その意味ありげな笑みはなんだ!?」
ラウラ「ちょいどいい物がある」
ライラになってますよ……
<翌日・早朝・風都タワー>
一夏「これがその、ちょうどいい物か」
ラウラ「ああ。限定カラー『ふうとくん』キーホルダー。『虹の七色セット』だ!」
一夏「ふうとくんかあ……」
一夏(『ふうとくん』とは、風都のゆるキャラである。風の街の象徴として、頭が風車になっている)
一夏(うーん。沢芽の『サガラくん』よりは断然可愛いとは思うけど……)
ラウラ「私、相棒、戒斗、シャルル、セシリア、鈴、箒。全部で七人、七色ちょうどだ」
一夏「うーん。確かにちょうどと言えばちょうどなのか……?」
ラウラ「ふふん」
一夏「にしても。何だよラウラ、その格好」
ラウラ「ハードボイルドだろう?」
一夏「わけがわからん!?」
一夏(今日のラウラは、探偵みたいな服装だった。黒のソフト帽、黒のベストにスラックス。背の低いラウラがそんな姿でいると、小さな子供のコスプレみたいで可愛らしい)
ラウラ「ちなみに。この格好は事件を呼びよせるらしいぞ? ふふっ」
一夏「そんなバカな話があるかよ」
「ニャア」
一夏「へ?」
一夏(猫がいた。ブリティッシュ・ショートヘアーの、ちょっと生意気そうな顔つきだ)
一夏(なるほど。確かにラウラの格好は事件を呼んだようだ)
一夏(その猫は――尻尾が、割れていた)
一夏「猫又!?」
ラウラ「ほう、尾が二本か。日本には珍しい猫がいるんだな」
一夏「普通はいないからな!?」
ラウラ「そうなのか? 日本は妖怪の国とクラちゃんが言っていたぞ」
一夏「ま、間違ってないけど間違ってるんだよお!?」
「ニャア」
一夏(猫が、ラウラに擦り寄っていた)
ラウラ「よしよし、どうしたんだ。ん? エサが欲しいのか」
「ニャア」
一夏(猫は、こちらの言葉を理解しているのだろうか。ラウラの問いかけに首を振ると、小さな腕の中からするりと抜け出した)
「ニャア」
ラウラ「……ふむ。着いて来い、と言っているみたいだぞ、相棒」
一夏「何だか分からないけど……。行ってみるか」
ラウラ「そうこなくてはな!」
<風都・市街>
一夏(猫を追いかけて、風都を駆ける)
一夏(風都の風はやわらかかった。街のあちこちに置かれた様々な風車は軽やかに、くるくると回っている)
一夏(風の街、風都。その景色はずっと昔からほとんど変化していないらしい)
一夏(沢芽とは大違いだ)
<風都・鳴海探偵事務所跡地>
「ニャア」
ラウラ「うん? ここに連れて来たかったのか」
一夏「うー……ん」
一夏(ボロい)
ラウラ「かめビリヤード……?」
一夏「元々は、かもめ、だったんじゃないか。ほら、あの『か』と『め』の間、文字があった後がある。たぶん、『も』が落ちたんだよ」
ラウラ「なるほど」
一夏(ビリヤード場の看板の上で、壊れかけた風見鶏が風を受けていた)
「ニャア」
ラウラ「ん? ……朽ちかけていて読めんな」
一夏「んー……。なんとか探偵事務所、って書いてあったっぽいな」
ラウラ「おお、さすが相棒だ!」
一夏「あはは。どういたしまして」
一夏(しかし。この猫又は何だって俺達をこんなところに連れてきたんだ?)
「ニャア」
ラウラ「おお。中に入って行くぞ」
一夏「乗りかかった船だ。俺達も行こう」
一夏(さーて。鬼が出るか蛇が出るか)
<事務所内>
ラウラ「ひどいな……」
一夏(中は荒れ果てていた。散乱した家具の上に、埃が積っている)
「ニャア」
一夏「あ、おい。……お前、本当に妖怪なのか……?」
一夏(猫又は埃が堆積した床を歩くが、何故か足跡はついていなかった)
「ニャア」
ラウラ「相棒、あれは」
一夏「……本?」
一夏(猫は、一冊の本の前で行儀良くお座りしていた)
ラウラ「妙な本だ、タイトルがない」
一夏(ラウラは本を手に取ると、しげしげと眺めた)
「ニャア」
一夏「お前、この本を……え?」
ラウラ「どうした、相棒」
一夏「いや、その。猫が消えた」
ラウラ「消えた? ……確かに、どこにもいないな」
一夏「……」
ラウラ「やはり日本は妖怪の国なのだな」
一夏「否定できない……」
ラウラ「ところで相棒。この本、どう思う?」
一夏「分からない。装丁は立派で、背は厚い。洋書のハードカバーみたいだけど、タイトルがない。となれば、開いてみるしかないんじゃないか」
ラウラ「それもそうだな」
一夏「……」
ラウラ「これは……」
一夏「……!」
一夏(表紙を開くと、元々は白紙だったであろうページに、手書きで文が書かれていた)
一夏(荒々しい、怒りと絶望を感じさせる文体だ)
――お前の罪を数えろ。その言葉をアイツに叩きつけられない現実を、僕は呪う。
――気づくのが遅すぎたんだ。翔太郎を失った悲しみに打ちひしがれていた時間が長すぎた。
――翔太郎も、亜樹ちゃんも、照井竜も、事故死なんかじゃなかった。
――みんなアイツ
一夏(文章はそこで途切れていた)
ラウラ「……」
一夏(ぱらぱらとページをめくる。白紙のページが続くけど……あるページに、また、文が書かれていた)
一夏(一ページ目に、絶叫のように刻まれていたものとはまるで違う)
一夏(どこか涙を誘う力のある、不思議な魅力にあふれたメッセージだった)
僕の好きだった街をよろしく
仮面ライダー
左翔太郎!
君の相棒より
ラウラ「……」
一夏「……」
「ニャア」
一夏「!?」
ラウラ「猫! ……あれ。いない、な」
一夏「ラ、ラウラ! 本が!」
ラウラ「え? ……!」
一夏(本は――砂になって、崩れ落ちてしまった)
一夏(まるで、役目を終えて眠りについたように……)
<風都・鳴海探偵事務所跡地前>
ラウラ「相棒」
一夏「何だ?」
ラウラ「仮面ライダーとは、何だ?」
一夏「わからない」
一夏(以前、戒斗が一度だけ『仮面ライダー』というフレーズを口にしたことがあった。でも、戒斗は仮面ライダーとは何なのか、という質問には答えてくれなかった)
ラウラ「……ふむ。音声認識、ウェブサーフィン」
一夏(ラウラがネット端末を立ち上げる)
ラウラ「検索ワード『仮面ライダー』」
ラウラ「……」
一夏「どうだ?」
ラウラ「だめだ。何も引っかからない」
一夏「そうか……」
ラウラ「猫は、あの本を私達に見せたかったのだろうか?」
一夏「そういうこと、だと思う」
ラウラ「見せて、何になる」
一夏「それは……」
「依頼をしたかったのさ!」
ラウラ「誰だ!」
一夏「いっ!? ――ゆ、幽霊! なんでこんな真昼間から幽霊が!?」
ラウラ「ほう。白いシルクハットにタキシード、そしてマント。貴様、怪盗だな!」
一夏「何だその理論!?」
「ほう! 中々キレるじゃあないか、名探偵」
一夏「なん……だと……」
怪盗「後ろを向くがいい! 君達は猫殿の執念を知れるだろう!」
一夏「へ?」
ラウラ「……。これは、どういうことだ」
一夏(ボロボロのビリヤード場も、荒れ果てた探偵事務所も、そこにはなかった。ただただまっさらな更地だけが広がっていた)
怪盗「猫殿は君達に依頼をしたかった。『盗まれたものを取り返して欲しい』とね」
一夏「盗まれたもの……?」
ラウラ「それは何だ!」
怪盗「フッ――」
――仮面ライダー、さ。
<墓地>
「ニャア」
――ブリティッシュ・ショートヘアの猫が石畳の上を、よろよろと歩いていた。
「ニャア」
――猫は、とある墓石の前でうずくまる。
「ニャア……」
――墓石には『園崎家之墓』と刻まれていた。
「…………」
――いつしか猫の姿は消えて。
――壊れたメモリだけが、風に吹かれていた。
>>180
「ラウラ」で脳内変換をお願いします……(震え声
あ、以上になります。
ここまでお付き合いありがとうございました。
ひどい話を書いたので
反動でこんなことに
短編投下いたします。
■短編No.4「」
<夜・学生寮セシリアの部屋>
鈴「……――ってわけで。もう一度よく考えなさいな」
鈴「あんたは、あたしや箒とは状況が違うんだから」
セシリア「……はい」
鈴「んじゃ、おやすみセシリア」
セシリア「おやすみなさい、鈴さん」
セシリア「……」
セシリア「…………シャワーでも浴びましょう」
<シャワールーム>
セシリア(明日は、駆紋さんとの約束の日)
セシリア(おそらく……。駆紋さんと二人きりになれる、最後の日)
――夏を前にこの身体は消え去るだろう。それを、覚悟しておけよ
セシリア(時間は残り少ない。でも)
セシリア(わたくしは、今でもわからないのです)
セシリア(わたくしが、『駆紋戒斗』という存在にどんな想いを抱いているのか、を)
セシリア「……」
セシリア(――父が、嫌いでした)
セシリア(母の顔色をうかがってばかりの、弱い父が、大嫌いでした)
セシリア(だから、強い人を夫にする、と。決めていました)
セシリア「……」
セシリア(駆紋さんは強い人ですわ)
セシリア(強すぎて――怖くなるくらい)
セシリア(嵐の中ですら消えない、炎。それが駆紋さん。その強すぎる炎は、きっと、駆紋さん自身も、その周りにいる人も、灰にする)
セシリア「でも……」
セシリア「その炎はわたくしを惹きつけるの……」
<翌日・本屋>
セシリア「あの……」
戒斗「何だ?」
セシリア「たしか今日は、本当のお料理を教えてくれるという約束では……?」
戒斗「ああ。だからここに来た」
セシリア「てっきり、食材を買いに行くものとばかり思っておりましたが……」
戒斗「少し待っていろ」
セシリア「あ、駆紋さん!」
セシリア(あら。本棚ではなく、レジに……?)
戒斗「取り寄せの依頼をしていた、駆紋だ」
「はい。こちらの商品になりますね」
セシリア(……?)
戒斗「待たせたな」
セシリア「その本は……?」
戒斗「料理の本に決まっているだろう」
セシリア「お料理の参考にするなら電子書籍の方が都合が良いのではないのでしょうか。投影スクリーンに写せばお料理中も邪魔になりませんわ」
戒斗「いや、これでいい」
セシリア「はあ……?」
戒斗「では、スーパーに行くぞ。何をするかはわかっているな」
セシリア「ええ。今日のお料理に使う食材を、この目で見て、選ぶ。ですわね」
戒斗「そうだ」
セシリア「……取り寄せ、ではだめですの? 選び抜かれた最高級品を確実に手にできますわよ」
戒斗「貴様に本当の料理を教えてやる、という約束だ。ならば、食材も自分の手で選ばなければならない」
セシリア「は、はい」
<スーパーマーケット>
戒斗「作るのは、以前失敗したサンドイッチだ」
セシリア「あの……」
戒斗「何だ?」
セシリア「お、お料理の本を見せてはいただけませんか……?」
戒斗「何故だ」
セシリア「お料理はお写真と同じになるように作らないといけませんもの。食材選びには必要ですわ」
戒斗「オルコット」
セシリア「な、何でしょう……?」
戒斗「今回は本は参考にしない。貴様の信じるサンドイッチを作れ」
セシリア「それでは失敗してしまいますわ!」
戒斗「いいから、材料を選んでこい」
セシリア「は、はい!?」
<青果売り場>
セシリア「不安ですわ……」
セシリア「えっと……。とりあえず、緑の葉っぱ、ですわよね」
セシリア「……」
セシリア「キャベツ、レタス、サニーレタス、グリーンレタス、ベビーリーフ、春菊、ほうれん草、小松菜、ニラ……」
セシリア「い、いっぱいありますわ……」
セシリア「えっと」
セシリア「……」
セシリア「さ、先に赤を選びましょう! 赤はトマトだったはずですわ! これならすぐに決まります!」
セシリア「トマト(茨城県産)、トマト(福島県産)、トマト(熊本県産)、ミニトマト、フルーツトマト、ミディトマト、プレミアムトマト、ジュエリートマト」
セシリア「……」
セシリア「…………」
セシリア「ふぇぇ……」
<帰り道>
セシリア「食材選びってこんなに大変でしたのね」
戒斗「料理の半分は食材選びと言っていい」
セシリア「なら、以前は材料は取り寄せで済ませたわたくしは、半分しかお料理をしていなかったということになるのでしょうか?」
戒斗「そうなるな」
セシリア「……」
セシリア(なら。前回のわたくしのサンドイッチは、そもそも『完璧な料理』のスタートラインにも立てておりませんでしたのね……)
<学生寮・セシリアの部屋・キッチン>
セシリア「さーて、お料理しますわよー!」
戒斗「とは言っても、サンドイッチだ。買ってきた食材をパンに挟むだけだぞ」
セシリア「いいえ、違いますわ!」
セシリア「この、セシリア・オルコットの作るサンドイッチは完璧でなければなりません。駆紋さん、今度こそお料理の本を見せてくださいまし! 色・ツヤ・形、全てお写真通りに加工してみせますわ!」
戒斗「だめだ」
セシリア「ど、どうしてですの!?」
戒斗「オルコット。今日は、失敗してもいい」
セシリア「だめですわ!!」
戒斗「何故だ」
セシリア「だって、わたくしは完璧でないといけないのですわ」
戒斗「……」
戒斗「何故だ?」
セシリア「完璧でなければならないから、ですわ」
戒斗「ほう」
戒斗「ならば聞こう。貴様は、失敗をしたらどうなる?」
セシリア「それは……」
戒斗「……」
戒斗「ふっ。紅茶を淹れてやろう」
<セシリアの部屋>
セシリア「あら、美味しい。駆紋さん、これはどちらの銘柄でしょう?」
戒斗「さっき買っておいた、スーパーの安物だ」
セシリア「うそ……」
戒斗「初めて淹れた紅茶は飲めたものではなかったがな。いつの間にか、貴人の舌を狂わす腕になっていた」
セシリア「……」
戒斗「料理を始めたのはガキの頃だ。父が――ある企業に、会社を奪われてからだ」
セシリア「会社を、奪われた……?」
戒斗「ああ」
戒斗「自分より弱い者を踏みにじろうとする者は、どこにでもいるものだ」
セシリア「そうですわね……」
セシリア「あの」
セシリア「わたくしの話をしても、よろしいでしょうか」
戒斗「俺に話しをするというのは、壁にかけた髑髏に語りかけるのと何ら変わらん。それでも、話すのか」
セシリア「……ふふっ」
セシリア「ええ。それでも、あなたに聞いて欲しいのです」
戒斗「いいだろう、ならば好きなだけ話せ」
セシリア「ええ、そうさせていただきますわ」
セシリア「……」
セシリア「三年前に、両親を失いました」
戒斗「……」
セシリア「ふふっ、本当に壁の髑髏ですのね。……両親を失ったわたくしには莫大な遺産と『オルコット』の家名が残りました」
セシリア「両親、そして祖先が残したものを守るために、たくさんの勉強をしました」
セシリア「ISの操縦者になったのもその一環。軍事の中核を担うIS操縦者は、女王陛下の騎士。その身分と財産は手厚い保護を受けられますの」
セシリア「ふふっ」
セシリア「ずっと、戦っていました。両親の遺産を狙う金の亡者、オルコットの家名を乗っ取ろうとする薄汚い人達」
セシリア「勝利するためには、完璧でなければなりませんでした」
セシリア「わたくしは完璧でなければならないのです」
セシリア「……これで、わたくしのお話はおしまいですわ」
セシリア「もっと長いと思いましたけれど、話してみると短いものですわね。まだ、紅茶も温かい……」
戒斗「……」
セシリア「本国の紳士なら、ここで慰めの言葉をかけて、優しく抱きしめてくれるところですわね」
戒斗「そんなのは――」
セシリア「わかっています」
戒斗「……」
セシリア「わたくし、お腹が空いてしまいましたわ。今度こそお料理をしましょう、駆紋さん」
<キッチン>
戒斗「オルコット」
セシリア「何でしょう、髑髏さん。ふふっ」
戒斗「……。完璧な料理とは、何だ?」
セシリア「料理本の写真のようなお料理ですわ。誰が見ても、文句をつけられませんもの」
戒斗「なら、こいつを見てみろ」
セシリア「え……?」
セシリア(駆紋さんが買われたお料理の本……?)
戒斗「この本の写真、どう思う?」
セシリア「……」
セシリア「その。あまり美味しそうではありませんわね……」
戒斗「だろうな。これは、俺の知る限りにおいて最低の料理本だ。古い本だが、電子書籍化すらされなかった」
セシリア「……」
戒斗「この写真と同じ料理を作ったら、それは完璧な料理になるのか?」
セシリア「……」
セシリア「いえ。なりません」
戒斗「ならば作るぞ! 本にも載っていない、完璧な料理を!」
セシリア「……!」
セシリア「はい!」
<料理中……>
セシリア「緑に鮮やかさが足りない気がします……! こういう時は――絵の具!」
戒斗「オルコット」
セシリア「何でしょう?」
戒斗「今日は買ってきた食材だけを使う」
セシリア「でも……」
戒斗「レタスの根本を浅く切って、水の入ったボウルに浸せ。そうすれば、蘇生できる」
セシリア「まあ、そうでしたの!」
<料理中…>
セシリア「赤に鮮やかさが」
戒斗「オルコット!」
<料理中>
セシリア「黄色」
戒斗「オルコットォッ!」
<完成>
セシリア「できましたわー!」
戒斗「……」
セシリア「できましたわ、駆紋さん!」
戒斗「ああ、そうだな」
戒斗(……流石に少し疲れた)
セシリア「それでは、いただいてみましょう!」
<セシリアの部屋>
セシリア「いただきます!」
セシリア「……」
セシリア「……」
セシリア「……」
セシリア「何と言いますか、普通、ですわね……」
戒斗「塩、コショウ、砂糖、醤油、ソース、ケチャップは用意してある」
セシリア「では、砂糖を!」
戒斗(山のようにかけたな)
セシリア「……」
戒斗「ほら、水だ」
セシリア「あ、ありがとうございます」
セシリア「……ふう。なら今度は……お醤油ですわ!」
戒斗(パンから醤油が滴り落ちているな)
セシリア「っ~!?」
戒斗「ほら、水だ」
セシリア「ありがとうございます!」
セシリア「…………ふう」
戒斗「普通の料理、というのは実はよく出来ているものだ」
セシリア「そのようですわ……」
戒斗「ここから何かを変えたければ、今のように単純に砂糖を足す、醤油をかける、という話ではなくなる。もっと、複雑な技術が必要だ」
セシリア「完璧な料理は遠いですわ……」
戒斗「オルコット。完璧な料理を作れたとして、お前はそれを誰に食べさせる? 国では、自分の料理は使用人に作らせていたのだろう」
セシリア「そ、それは……」
戒斗「完璧な料理を誰に食べさせて、そして、何を得たかった?」
セシリア「……」
セシリア(それは……)
セシリア(……たぶん)
セシリア(……わたくしは。わたくしという存在を、少しでもあなたに)
セシリア(って。そんなの、口にできるはずがありませんわ……!)
戒斗「ふっ。オルコット。お前は普通の料理を作って、そして、こうすれば良かったんだ」
セシリア「え……?」
セシリア「え? え、えっ、こ、ここ、これはどういうことですの!?」
戒斗「俺が手ずから食べさせてやる、ということだ」
セシリア(こ、ここ、これは日本に伝わる『あ~ん』というイベント!?)
戒斗「いらないのか」
セシリア「い、いただきます!」
戒斗「そうか」
戒斗「……」
戒斗「どうだった?」
セシリア「か、顔が熱いです……」
セシリア「……」
セシリア「あ、味なんてわかりませんでしたわよ!」
戒斗「くくっ。そうか、ならもう一回だ」
セシリア「ふぁっ!?」
戒斗「嫌か?」
セシリア「い、いただきます……!」
セシリア(ああもう、この人は! 本当にわたくしの都合なんてお構いなしに振り回してきて! もう、本当に……)
セシリア「……っ」
戒斗「くくっ。嬉しそうに食べているな」
セシリア「あ、味はわかりませんけどね……!」
戒斗「くくっ」
セシリア「く、駆紋さんは意地悪ですわっ!」
戒斗「“セシリア”」
セシリア「ふ、ふぇ……!?」
戒斗「両親を失ってから一人で戦い、勝ち続けた。――お前は、強い」
セシリア「駆紋さん……」
戒斗「さて。俺も腹が減った。食事を再開するぞ」
セシリア「はい!」
<食後>
セシリア「駆紋さん」
戒斗「何だ」
セシリア「湊耀子さんは、駆紋さんのことを何とお呼びしていたのですか?」
戒斗「……」
戒斗「戒斗、だ」
セシリア「……」
セシリア「戒斗さん」
戒斗「……」
セシリア「と、お呼びしてもよろしいでしょうか」
戒斗「……」
戒斗「勝手にしろ」
セシリア「……」
セシリア「ふふっ」
戒斗「何がおかしい」
セシリア「戒斗さんの返答なんてわかりきっていました。それでも……それでも問わずにいられなかったわたくし自身が、滑稽でしたのよ」
戒斗「そうか」
戒斗「……」
戒斗「満足したようだな」
セシリア「ええ」
セシリア「わたくしは勝手にしますわ。――かつてあなたに語られた湊耀子さんのように」
<翌日・放課後・アリーナ>
鈴「今日の特訓であんたと組んだのは理由があるわ!」
セシリア「な、何でしょう……?」
鈴「おめでとう、セシリア!」
セシリア「ふぇ?」
鈴「戒斗と上手くいったみたいじゃない!」
セシリア「……いえ。別に、そういうわけではありませんわ」
鈴「え゛。だって、昼休みに名前で呼び合ってたじゃない。バカップルみたいに」
セシリア「バカップルって何ですの!? ……ただ、わたくしが覚悟を決めたというだけですわ」
鈴「覚悟……?」
セシリア「ええ。炎に焼かれると、覚悟を決めました」
鈴「セシリア……」
セシリア「勘違いしないでくださいまし。わたくしが身を投じるのは――戦いの炎、ですの!」
鈴「へ?」
セシリア「今は何をどうすればいいかわからない。けど。わたくし、必ず、戒斗さんを手に入れますわ」
セシリア「夫として。――長い人生を共に歩く、パートナーとして」
鈴「え? えっ? え? だって、戒斗、消えちゃうって……」
セシリア「消えたらまた戻せばいいだけでしょう。ふふっ」
セシリア「ねえ、鈴さん。『未来は己の手で勝ちとってみろ』いい言葉ですわね? ぞくぞくしますわ」
鈴「……あんたって強いのねえ」
セシリア「わたくしはセシリア・オルコットですもの! ふふん」
以上になります。「あ~ん」する戒斗さんが書きたかっただけー。違和感ヤバイですががが。
戒斗とセシリアの話はこれで終わり。次回は、ラウラの話をラスト。その次からは(たぶん)シャルの話になります。
それでは、ここまでお付き合いありがとうございました。
中の人的には正解だと思うんだ
クソワロタけどw
つか主任…
主任の中の人も結構おちゃめよな
短編も続きも待ってる
あとこれ映画のネタバレある?
確認だけど
あっても読むからどっちでもいいねんけどね
乙、彩りとは一体……
そういや戒斗さんの中の人、どこかのお店とコラボしてスイーツ売るんだとか
オーバーロード人気だったというスイーツ、……どんなものなのか
>>228
「ドライブ&鎧武」のネタバレはがんがん入ってます。
鎧武のキャストさん達はユニークで素敵ですね。
>>229
ぐぐって写真見てみましたが、めっちゃ美味しそうでした
短編投下いたします。ラウラ完結編。
■短編No.5「自分REST@RT」
<夜・学生寮一夏とラウラの部屋>
一夏「ラウラ。もしかして、何か悩んでたりするのか?」
ラウラ「おお。相棒は朴念仁のくせに一日に一回だけは鋭くなるな」
一夏「どういう意味だ!?」
ラウラ「ふふっ。確かに、私には悩みがある」
一夏「……お前の様子が変になったのって、風都に行った日からだよな」
ラウラ「相棒が一日に二回鋭かったとあれば、明日は雨だな」
一夏「何でだ!?」
ラウラ「大丈夫だ、相棒。――明日、決着をつける」
一夏「そ、そうか。何か手伝うか?」
ラウラ「その気持ちは嬉しいが、これは私一人で挑まなければならないことだ」
一夏「そっか。よくわからないけどがんばれよ、ラウラ」
一夏「それじゃ、おやすみ」
ラウラ「ああ、おやすみ」
ラウラ「……」
――お前の罪を数えろ。
ラウラ(いい言葉だ。……胸を抉ってくれる)
ラウラ(相棒。お前の優しさに溺れるのは心地よいが……)
ラウラ(やはり。それは罪深い)
<翌日・SHR・1年1組>
一夏(ラウラの、千冬姉を見る目が……何て言うか、変だ)
一夏(いつもは『憧れのお姉さま!』を見るような目なのに。今日は……)
一夏(殺気立ってる)
千冬「――連絡は以上だ。お前ら、今日も励めよ」
ラウラ「教官!」
千冬「学校では織斑先生だ」
ラウラ「……」
ラウラ「教官」
千冬「……ほう?」
一夏(え? え? 何だこの展開。千冬姉も、ラウラも、なんか、すごい顔して睨み合ってる……!?)
ラウラ「今日の放課後、お時間をいただけませんか」
千冬「何故だ」
ラウラ「……」
一夏(へ? 今、ラウラが一瞬こっちを見た……?)
ラウラ「私、ラウラ・ボーデヴィッヒは、織斑千冬に決闘を申し込みます」
千冬「……」
千冬(千冬姉もこっち見た!?)
千冬「いいだろう。アリーナは私が押さえといてやる。機体はどうする?」
ラウラ「両者共に訓練機の《打鉄》でお願します」
千冬「くくっ。わかった。それでは、放課後にな」
<1時間目休み時間・1年1組>
一夏「正気かラウラ!?」
ラウラ「……」
一夏「ラウラ?」
ラウラ「た゛いし゛ょうふ゛た゛… わたしは しょうきに もと゛った!」カタカタ
一夏「だめだー!? めっちゃ震えてるぅー!?」
シャル「だ、大丈夫? 保健室に行く……?」
戒斗「……くくっ」
一夏「な、なんで笑うんだよ戒斗!?」
戒斗「一夏、喜べ」
一夏「ラウラが青ざめてがくがく震えてるのに喜べるわけないだろ!」
戒斗「ラウラ・ボーデヴィッヒは本当に救える女だった。救ったのは、お前だ」
一夏「は? ……はあ……?」
ラウラ「シャルル、聞いてくれ。先週の木曜の事だ。私は車で家に帰る途中だった。
家まであと2マイルほどの所……ふと目を上げると東の空にオレンジ色の光る物体が見えていたんだ!
とても不規則に動いていた……そして次の瞬間、あたり一面が強烈な光に包まれ――
気がつくと私は家に着いていた……」
ラウラ「どう思う?」
シャル「どうって……」
ラウラ「わかった……もういい……」
一夏「……」
一夏「救えない……。俺、ラウラを救えないよ……」
戒斗「ハッハッハッハッハッ!」
一夏が千冬になってる……
<昼休み・屋上>
鈴「ち、千冬さんと決闘!?」
ラウラ「ああ」
箒「正気なのか?」
ラウラ「……」
一夏「あ」
ラウラ「……だ、大丈夫だ。私は正気に戻った!」
シャル「まだ若干怪しい気もするけど……」
セシリア「にしても。どうしてまた、そんな無謀なことを」
ラウラ「先日、私は『お前の罪を数えろ』という言葉を知った」
戒斗「……」
ラウラ「いい言葉だ。胸を抉ってくれる」
シャル「……」
ラウラ「私は、自分の罪を数えなければならない。今日まで目を背けていたが、やはり、清算は必要だ」
ラウラ「でなければ、私はいつまでも、私になれない」
セシリア「なるほど……」
<放課後・アリーナ・西側控え室>
千冬「学年別トーナメントの時」
戒斗「ん?」
千冬「一夏と戦ったお前は、こんな気持ちだったんだろうな」
戒斗「さあな」
千冬「くくっ。……悪くない。教師冥利に尽きるよ」
戒斗「織斑。そうやって、余裕ぶって笑っていられるのは今の内だぞ」
千冬「経験者は語る、という奴か?」
戒斗「……さあな」
<アリーナ・東側控え室>
一夏「でも。なんで《打鉄》なんだ? ラウラは専用機持ちだろ」
ラウラ「織斑教官が専用機の《暮桜》を今でも所持していれば、私も専用機で挑んだだろう」
一夏「うん……?」
ラウラ「教官と、同じ条件で勝負をしたいんだ」
一夏「それは……勝てるのかなあ?」
ラウラ「勝つんだ」
一夏「そっか」
ラウラ「ああ。見ていてくれ、一夏」
一夏「おう! ……あれ?」
ラウラ「おお! 雨が降ってきた。やはり、私の言った通りだったな」
一夏「な、何でだー!?」
<アリーナ・観客席>
シャル「ボーデヴィッヒさん、どういうつもりなんだろう……」
箒「千冬さんと決闘なんて、自殺行為だが……」
セシリア「ふふっ。微笑ましいじゃありませんか」
シャル「え? ……え?」
セシリア「織斑さんと和解してからのラウラさんは、鈴さんとマスコット枠を争う愛らしいお方となりましたけれど」
鈴「おい」
セシリア「あの方もまた女、ということでしょう」
シャル「……」
<アリーナ>
ラウラ「教官」
千冬「学校では織斑先生、だ」
ラウラ「……」
ラウラ「教官。本日は決闘を受けていただき、ありがとうございます」
千冬「くくっ。そこまではねっ返ったんだ、せめて五分はもたせてみせろよ」
ラウラ「ご安心を」
ラウラ「私は、あなたに勝ちます」
<アリーナ・観客席>
箒「雨足が強くなってきたな……」
セシリア「ISは元々宇宙空間での活動を目的に造られた装備。雨如きでは性能は損なわれませんが……」
鈴「雨中の決闘って、何か起こりそうよね」
シャル「……」
<アリーナ>
千冬「――ほう。私の動きを、よく研究してきたようだな」
ラウラ「初めてあなたにお会いした五年前から、ずっと『織斑千冬』を研究してきました! 戦い方、喋り方、食事の仕方まで!」
千冬「貴様はストーカーか!」
ラウラ「似たようなものです!」
<アリーナ・東側控え室>
一夏「あ、あいつ何言ってんだ……!?」
<アリーナ・西側控え室>
戒斗「……」
戒斗「くくっ」
<アリーナ>
ラウラ「『織斑千冬』は私の憧れでした。強く、凛々しく、堂々とした姿を、崇拝すらしていました!」
千冬「そうまで美化されると、ちょっとくすぐったいな」
ラウラ「ふふっ。――兵器として生み出された私には、『最強』の兵器『織斑千冬』が、羨ましかった」
ラウラ「この五年間……。私はずっと訓練を重ねてきました」
ラウラ「『織斑千冬』になるために」
千冬「……」
ラウラ「笑ってください、教官。あなたはお気づきだったのでしょう? 私の語る『織斑千冬』なぞ、この世界に存在しない。私の目の前にいるあなたは、確かに強く凛々しく堂々としていますが、それだけではない」
ラウラ「ブラコンで、私生活はずぼらで、おまけに酒癖が悪い」
千冬「五年前。私がドイツにいた時は、お前は、私の欠点から目を逸らしていたな。IS学園に転入してきた時も、お前は五年前のままだった」
千冬「だから、愚弟に難癖をつけてきた。あいつの存在は、お前が崇拝する『織斑千冬』と私を乖離させるからな。目障りだったろう」
千冬「なのに。今のお前は、私の欠点を直視している」
千冬「ラウラ。お前に何があった? どうして今になって、『織斑千冬』が幻想でしかないと認められたんだ」
ラウラ「それは――」
<アリーナ・観客席>
鈴「嫌な予感がするわ……」
箒「私もだ……」
シャル「え? え?」
セシリア「……あー」
<アリーナ>
ラウラ「恋をしました。――相手は、あなたの弟です」
千冬「……」
千冬「くくっ。ははははは!」
<アリーナ・東側控え室>
一夏「えっ」
<アリーナ・観客席>
鈴「やっぱり……」
箒「……はあ」
<アリーナ・西側控え室>
戒斗「くくっ」
戒斗「はっはっはっはっはっ!」
<アリーナ>
ラウラ「――お前の罪を数えろ」
千冬「む……」
ラウラ「先日、この言葉を知りました。いいフレーズです。心を抉られました」
ラウラ「私は、自分の罪を数えました」
ラウラ「一つ。『織斑千冬』になろうとした弱さ」
ラウラ「一つ。あなたに『織斑千冬』という偶像を押し付けた弱さ」
ラウラ「一つ。私の『織斑千冬』を汚す『織斑一夏』を逆恨みした弱さ」
ラウラ「この罪を認めない限り、自分ではない誰かになろうとしていた私は、『織斑一夏』を好きになる資格もありません」
ラウラ「この罪を認めて、私は『私』になって、『織斑一夏』を好きになったと胸を張ります」
ラウラ「この決闘は、罪深き、『誰でもなかった過去の自分』と決別するためのもの。もうしばらくお付き合いいただけますか、教官」
千冬「……」
千冬「いいだろう。来い、『ラウラ・ボーデヴィッヒ』!」
ラウラ「はい……!」
<アリーナ・観客席>
鈴「やっぱりこうなったかあ」
箒「……いずれこうなるかもしれないとは思っていたが」
鈴「思ったより早かったわねぇ」
箒「ああして、自分の想いを堂々と宣言できたラウラは、強いな」
鈴「そうね。――あたし達も、がんばらないとね。箒」
箒「……ああ!」
<アリーナ>
千冬「いい目をするようになった」
ラウラ「恐縮です」
千冬「しかし、私もまだ負けてやることは出来ん。可愛い弟を欲しいと言う泥棒猫が相手なら、なおさらだ!」
ラウラ「流石です、ブラコン教官!」
千冬「――よし。覚悟しろよ、小娘!」
<アリーナ・西側控え室>
戒斗(かつて、俺は一夏に『他人になりたがっているラウラ・ボーデヴィッヒは、救うことのできない最悪の弱者』と言ったが……)
戒斗(くくっ。どうやら、そうではなかったようだ)
戒斗(一夏。それは、ボーデヴィッヒが強くなったお前の魂に触れたからなんだぞ)
戒斗「くくっ。ははははははははは!」
<アリーナ>
千冬「ラウラ・ボーデヴィッヒ! 貴様にとって、『織斑一夏』とはどんな男だ!」
ラウラ「面白い男です! 強く、優しく、面倒見がいい。そして――超ド級のバカです!」
千冬「ほう。よく見ている」
<アリーナ・東側控え室>
一夏「え、えー……」
<アリーナ・観客席>
箒「よくわかっている……」
鈴「これは強敵ね……」
シャル「え、えー……」
<アリーナ>
ラウラ「教官。私は、あなたに勝ちます。それは過去を振り切るためであり――」
千冬「……」
ラウラ「あなたに勝たなければ、私の想いは成就しないだろうと、理解しているからです!」
千冬「フッ」
千冬「いい台詞だ」
千冬「感動的だな」
千冬「だが無意味だ」
ラウラ「!?」
<アリーナ・東側控え室」
一夏「あ。……ラウラ、あっさり負けたー!?」
<アリーナ・観客席>
鈴「まあ、千冬さんに挑んだらこうなるわよね……」
箒「私も、道場では一本を取ることすら一度もできなかったよ……」
<アリーナ>
千冬「私を倒したければ、もっと強くなれ」
千冬「『ラウラ・ボーデヴィッヒ』」
ラウラ「……」
ラウラ「はい」
<アリーナ・西側控え室>
戒斗「くくっ。どちらが本当の勝者かわからんな」
千冬「……間違いなく、教え子の勝利さ」
千冬「一つ。親友を救えなかった罪」
千冬「一つ。親友と共にISを開発した罪」
千冬「一つ。ISによって世界を変えた罪」
千冬「私は、全ての罪から逃げ続けている。贖罪を放棄して、ただ、一夏だけを守ろうとしている」
千冬「ラウラが罪と呼んだものも、そもそもは、私の罪が生んだものだ」
千冬「十五年前に兵器として生み出されたあいつは、しかし、十年前に登場したISによって存在意義を奪われてしまった」
千冬「どん底に落ちたあいつは、私という『最強の兵器』の存在を知り、それを模倣することで兵器としての存在意義を取り戻そうとした」
千冬「……。わかっていても。教官と呼び慕われていながらも、私は、本当の意味であいつを導くことはしなかった」
千冬「……」
千冬「これもまた、私の罪だな」
戒斗「……」
戒斗「貴様は、貴様自身を何者だと思っている」
千冬「織斑千冬だ。ただの、世界最強のブラコンだよ」
千冬「おっと。今は元最強、だったな」
戒斗「ふん」
戒斗「貴様の罪は、いつか織斑一夏に牙を剥くだろう」
千冬「ああ……」
千冬「だが。一夏だけは、守ってみせる」
戒斗「あいつはもう弱者ではない。自分で自分の身を守れるどころか――己の意思を貫ける、強い男だ」
千冬「……」
戒斗「貴様は何をすべきか。もう一度、考えてみるんだな」
千冬「……ははっ。これでは、どちらが教師かわからんな」
<アリーナ>
一夏「だ、大丈夫かラウラ!」
ラウラ「……」
一夏「ら、ラウラ……?」
ラウラ「あっはっはっはっはっはっは!」
一夏「そんなに、おかしいか?」
ラウラ「そうだなあ。どうしても、笑えてしまうなあ。……教官は強いなあ」
一夏「そうだな、千冬姉だからな!」
ラウラ「むう」
一夏「どうした?」
ラウラ「やはり、いずれ必ず教官を倒す。そう、心に誓った」
一夏「何でだよ!?」
ラウラ「いいじゃないか。お前だって、戒斗に勝つ気満々なんだろう?」
一夏「当たり前だ」
ラウラ「ふふっ。……ああ。ほら、見てみろ。雨が上がって、虹が出ているぞ」
一夏「ほんとだ。いつの間に……」
ラウラ「……」
ラウラ「なあ、一夏」
一夏「何だ? ――むぐっ」
<アリーナ・観客席>
箒「あ!?」
鈴「ちょっとぉっ!?」
シャル「わ、わあ」
セシリア「まあ!」
<アリーナ>
一夏(き、き、キスされた……!?)
ラウラ「日本では、気に入った相手を『嫁にする』というのが一般的な習わしだと聞いた。故に、お前を私の嫁にする」
一夏「あ、相棒ってのはどうしたんだよ!?」
ラウラ「それも魅力的ではあるが……。やはり、私はお前が好きだ。結婚して、蕩けるほどに愛し合って、子供を授かりたい」
ラウラ「覚悟しておけ。すぐに、私無しではいられなくしてやるからな!」
<夜・学生寮ラウラの部屋>
ラウラ「……っというわけで、部屋変えになった」
シャル「あー……うん。織斑先生の前で堂々と織斑君に告白しちゃったもんね。そりゃ同室ではいられないよね……」
ラウラ「『学生の内に妊娠、なんて事態は洒落にならんからな』と言われてしまった。結婚を前提としているなら問題ないと思うのだが、どうか?」
シャル「あ、あはは……」
シャル「……」
シャル「ボーデヴィッヒさん。そんなに、織斑君が、君にとって必要な人なの?」
ラウラ「ああ、そうだ。ただし、教官に抱いた気持ちとはまるで違う。『あの人になりたい』ではなく、『あの人が欲しい』だ」
ラウラ「嫁――織斑一夏という魂を得なければ、ラウラ・ボーデヴィッヒの心は満たされない」
シャル「でも、ライバル多いよ?」
ラウラ「何か問題があるのか?」
シャル「……」
シャル「君は、絶対に織斑君を手に入れられるって思っているの?」
ラウラ「そうではない。これもまた戦いだ、負けることもあるだろう」
シャル「……怖くない?」
ラウラ「怖い」
シャル「もしも負けちゃったら、どうする……?」
ラウラ「その時は付き合え。倒れるまでドイツビールを飲むぞ」
シャル「へ?」
ラウラ「それとも、何だ。本当の名を明かしていない相手の愚痴には、付き合えないか?」
シャル「……」
シャル「ごめん。うまく、答えられない」
ラウラ「なら。もしもフラれたら、またその時に聞くことにするよ、名無しの権兵衛《ジョン・ドウ》」
以上になります。次からは(たぶん)二回に分けてのシャル編になります。
>>237
>>235
の
千冬(千冬姉もこっち見た!?)
は
一夏(千冬姉もこっち見た!?)
で脳内修正をお願いします……(震え声
ここまでお付き合いありがとうございました。
時間がなーい! ので、さくさく投下していきます。
シャル編前編。
■短編No.6「WHO AM I?」
<夢の中>
――貴様は誰だ。
シャル「そんなの、僕にもわからないよ……」
――泥棒猫の娘が!
シャル「…………」
――可愛いシャルロット。
シャル「…………」
――ジョン・ドウ。
シャル「わからない……。わからないよ……」
シャル「僕は、誰?」
<翌日・2時間目・1組と2組の合同授業・グラウンド>
一夏「白式展開! 模擬戦だろうが、むしろ、だからこそ本気で行くからな。戒斗!」
戒斗「ふん。相変わらずやかましい奴だ」
――斬月アームズ! メロン・御免!!
ラウラ「がんばれ嫁! 勝ったらキスをしてやる! 負けたら、頭を撫でて慰めてやる!」
クラスメイト1「大将ー! 負けたらマヨネーズ・メリーゴーランドだかんなー!」
クラスメイト2「マ・ヨネーズメリーゴーランド!? ショ・ミーンの料理か……?」
クラスメイト3「さあさあ張った張った!」
千冬「授業の模擬戦を賭け試合にするんじゃない、この業突張りが!」
鈴「一夏ー! 今日こそカッコイイとこ見せてよねー!」
箒「が、がんばれ一夏ー!」
シャル「あはは……」
シャル(一夏と、駆紋君。二人ともタイプは違うけど、強い人だ。たくさんの人に好かれている)
シャル(たくさんの人に、必要とされている)
シャル(……)
シャル(すごく、眩しい)
<昼休み・屋上>
セシリア「あら。デュノアさんは……?」
一夏「なんか、今日は一人で食べたい気分なんだってさ」
鈴「……」
鈴「シャルルってさ、あたし達とはちょっと距離とってるよね」
鈴「あの子に何か秘密がある、ってのはわかるわ。距離をとるのもそのせいだって」
鈴「でも。どうにかしてあげたいわよね……」
箒「そうだな……」
戒斗「いや。何かをする必要は無い」
鈴「でも!」
戒斗「今は何もしてはならない。お前達も。……俺もだ」
一夏「でもさ、戒斗。シャルルは友達だ。悲しそうな顔してたら、助けてやりたいよ」
戒斗「……」
戒斗「今のアイツは、誰でもない。そんな人間に何をしてやれる? 何ができる?」
一夏「それは……」
戒斗「……」
戒斗「待っていてやれ」
戒斗「いずれ、アイツは誰かを必要とするだろう。その日が来るまで、見守ってやるといい」
戒斗(呉島貴虎が、呉島光実が立ち直るまで待っていてやったようにな)
ラウラ「……」
ラウラ「ふむ」
<同時刻・中庭>
シャル「曇り空だなあ。……日本の、梅雨っていう雨季なんだっけ」
シャル「……」
シャル(お母さんが大好きだった)
シャル(優しくて、気配り上手で、笑顔の素敵な人だった)
シャル(お母さんは、僕のことをめいっぱい愛してくれた)
シャル「……」
シャル「お母さんの死んだ日も……。今日みたいに、灰色の雲が太陽を隠してしまっていた」
シャル(二年前。お母さんを亡くした僕は、父に引き取られた)
シャル(父はデュノア社の社長だった。お母さんは、父の愛人だった)
シャル「……」
シャル(父は僕を引き取りはしたものの、顔を合わせてくれたのは二回だけ。引き取った日と、プロフェッサーに僕を売り渡した日の、二回だけ)
シャル(血の繋がりだけの父は、僕の存在を無視した。別邸に押し込んで、声もかけなかった)
シャル(一度だけ、父の本妻の人に会ったことがある。……呼び出されたんだ)
シャル(『泥棒猫の娘が!』って罵られて、殴られて。……ふふっ。あれは八つ当たりだったんだろうね)
シャル「……」
シャル「誰に必要とされないことも、誰に存在を認めてもらえないことも、二年もすれば慣れた。僕の心は凍りついたんだ。……そう思っていた」
シャル「プロフェッサー・凌馬。父から僕を買ったあの人の、甘い言葉に溶かされるまでは」
シャル「ふふっ。僕も簡単だよねえ……。『今まで辛かったね』『君は必要な人間だ』『可愛いシャルロット』なんて、月並みな台詞に……ぐすっ……泣いちゃって……ひっく……」
シャル(結局、あの人は僕を利用したいだけだった。用が済んだら捨てられちゃった)
シャル(残ったのは、心にぽっかりと空いた空洞)
シャル(溶けてしまった心が“あった”場所)
シャル(もう、凍りつかせることもできない。中身を失って、日に日に軋んでいる、僕の空洞)
シャル(誰かに必要とされたい。誰かに求められたい)
シャル(でも)
シャル(僕は誰? 僕は何者? こんな誰でもない僕を、誰が求めてくれるの?)
シャル(誰が認めてくれるの?)
シャル「あはは……」
シャル「痛い……痛いよ……」
シャル「どうして僕には心があるんだろう……」
シャル「いっそ機械だったら、こんなに苦しまずに済んだのに……」
<スクラップ置き場>
――その瞳は、看板に描かれたオレンジを見つめていた。
「思い出した」
「僕には、大切な約束があったんだ」
「行かなきゃ」
「……」
「沢芽市へ」
以上になります。話を広げて首を絞めていくスタイル(しろめ
あ。
>>251
でシャルは織斑一夏を「織斑君」と呼んでいますが「一夏」の間違いです。ごめんなさい。
では。ここまでお付き合いありがとうございました。
シャル完結編の後編を投下いたします。タイトルでバレバレですが、「キカイダーREBOOT」のネタバレがあります。
あ。今回ちょっと長いです。
■短編No.7「REBOOT」
<某所>
凌馬「ハハハハハッ! いくら探しても行方がわからなくて不思議だったが、まさかスクラップ置き場にいたとはねえ」
凌馬「……」
凌馬「アレが存在されていると困る。私のジョーカーを切れなくなるからね」
凌馬「マリ。君の任務はインプットされているね?」
マリ「はい。あの不完全な機械を破壊することです」
凌馬「そうそう。――刺し違えても、ね」
<土曜夜・学生寮ラウラとシャルの部屋>
ラウラ「何を見ているんだ?」
シャル「……駆紋君と一夏のプロフィールだよ」
ラウラ「何か収穫はあったか?」
シャル「……」
シャル「二人とも沢芽市出身、ってことくらいかな」
ラウラ「ほう。あの心の強い二人は同じ場所で生まれたのか。その沢芽という地には何か、人の心を強くするものがあるのかもな」
シャル「あはは、そんなまさか」
ラウラ「意外と馬鹿にできんかもしれんぞ」
シャル「……」
シャル「そんなことあるはずないって」
<日曜朝・沢芽市>
シャル「なんで僕は……」
シャル(ここが沢芽市。駆紋君と一夏の故郷)
シャル(港町の風だ……。空は、フランスよりも青味が強い)
シャル(地面には几帳面にそろったタイルが並べられている。歴史は感じられないけど、歩きやすい)
シャル(駅前から見える風景は画一的なビルばかりだけど、市街に入れば違うのかな……?)
シャル「何か、見つけられるのかな」
シャル「……」
シャル「ふふっ。そんなこと、ありえないよね」
<沢芽市・市街>
シャル「あれ……」
シャル(子供が泣いてる)
シャル(……。みんな、見て見ぬふりをしている)
シャル(みんな、あの子を無視している)
シャル(……)
シャル「君、大丈夫?」
「ひっく……。お姉ちゃん、だあれ?」
シャル「えっと。僕はお兄ちゃんって言うか、お姉ちゃんって言うか……えっと」
シャル「僕は」
――僕は誰?
シャル「……」
シャル「ジョン・ドウ。君は?」
「ミツコ……」
シャル「ミツコちゃん。君はどうして泣いているの?」
ミツコ「あれ……」
シャル(ミツコちゃんが指した先には、木に引っ掛かった風船があった。高さは、大人の背丈の二倍くらい。子供の手じゃ絶対に届かない)
シャル(どうしよう。IS学園外でのISの使用は禁止されてるし。かと言って、この木を僕が登れるだろうか……)
ミツコ「あの風船ね。お母さんが買ってくれたの……」
シャル「……お母さんが?」
ミツコ「うん……」
シャル「……」
ミツコ「ひっく……ぐすっ……」
シャル「わかった。ちょっと待ってて!」
シャル(木登りなんてしたことないけど……!)
シャル(……)
シャル(僕の手が届く高さに、掴める枝が無い……)
シャル「えっと……」
「ここからは、機械的に行こう」
シャル「え……?」
シャル(それは――ギターを担いだ、男の人だった)
シャル(長身で、彫刻家が彫ったみたいに整った顔立ち。真っ赤なジャケットに、青のズボン)
シャル(一世紀前からタイムスリップしてきたような、時代を感じさせる青年だった)
「……」
シャル(その人は風船を見上げると――何の予備動作も無しに、跳躍した)
「君の風船だよ」
ミツコ「ぐすっ……。お兄ちゃん、ありがとう……」
「どういたしまして」
ミツコ「うん……! ばいばい、お兄ちゃん。ばいばい、お姉ちゃん」
シャル「うん。ばいばい、ミツコちゃん」
シャル(あんなに泣いていたミツコちゃんなのに、去り際は笑顔だった)
シャル「あの、ありがとうございます」
「どういたしまして」
シャル「すごいジャンプ力ですね。アスリートの方ですか?」
「アスリート? 僕は――機械だ」
シャル「へ?」
<市街>
シャル「それじゃあ君はアンドロイドなんだね、ジロー」
ジロー「ああ。光明寺博士が作ったアンドロイド。それが僕だ」
ジロー「君は?」
シャル「僕? 僕は……」
シャル「……」
――僕は、誰?
シャル「ジョン・ドウ」
ジロー「ジョン・ドウ? それは名前不明の人物に付けるものだと、僕のメモリは記憶している」
シャル「うん。だからジョン・ドウ」
ジロー「そうか」
シャル「……君はどうして沢芽市に? それとも、ここに住んでるのかな」
ジロー「僕は約束を果たしに来た」
シャル「約束?」
ジロー「そう。大切な人達と交わした、大切な約束だ」
シャル「大切な人? ……友達、かな?」
ジロー「友達? ……どうだろう。そう定義付けたことはなかった」
シャル「そっか。……その人達とは、待ち合わせをしているの?」
ジロー「いいや」
シャル「なら、これから訪ねに行くのかな」
ジロー「いや。既に訪ねた」
シャル「……。なら、どうして君は一人なの?」
ジロー「記憶していた場所に、コウタ達は住んでいなかった」
シャル「……約束、したんだよね?」
ジロー「そうだ」
シャル「なのに、引っ越したことも教えてもらってなかったの?」
ジロー「僕達はお互いの連絡先を知らなかった」
シャル「……う、うん?」
ジロー「僕は、先日まで約束の存在を忘れていた」
シャル「い、いつ交わした約束だったの……?」
ジロー「五十年前」
シャル「え、ええっ!?」
ジロー「僕は、コウタ達と五十年前に交わした約束を果たしに来たんだ」
<御神木の神社・境内>
シャル「ちょっと休憩していいかな。考えをまとめたいんだ」
ジロー「ああ」
シャル「ジローは座らないの?」
ジロー「ああ」
シャル「そっか」
シャル(……ジローは、アンドロイド。五十年前の約束を思い出して、コウタって人とアキラって人に会いに、沢芽市に来た)
シャル(思い出した、ってなんだか不思議な響き。アンドロイドなのに、『忘れた』ってことだよね)
シャル(……)
シャル(ジローは不思議な人だ。いや、人間じゃなくてアンドロイドなんだけど。……機械的に見えて、どこか、人間臭い)
「へー。ジローってアンドロイドなんだ」
「持ちネタとかないのー?」
ジロー「……ドリフ! 志村ッ後ろー!!」
「……」
「……ほ、他には?」
ジロー「……ドリフ! だーっふんだー!!」
「……」
「……アンドロイドって、わかんねえな」
シャル「な、何してるのジロー……?」
「ジローはわたし達と遊んでくれてたの!」
「ギャグはわかんなかったけどな!」
シャル「あ、あはは……」
シャル(ほんと。不思議な“人”だ)
<昼・市街>
シャル「その、コウタさんかアキラさんの名字は覚えてる?」
ジロー「名字? ……う、あ」
シャル「ど、どうしたの!? 頭が痛いの?」
ジロー「コウタ、アキラ、マイ、ミッチ。……名字? ……沢芽市、僕は、あ、が、GA、A、GI、Ga」
シャル「ジロー!? ジロー!」
ジロー「―――――」
ジロー「……」
ジロー「大丈夫だ」
シャル「ほ、本当に? なんだか、すごく苦しそうだったけど……」
ジロー「仕方ないんだ。僕は、もうすぐ止まってしまう」
シャル「え……」
ジロー「だから、その前に、約束を果たしたいんだ」
<交番>
「――やっぱり。名前だけじゃわからないねえ」
シャル「ありがとうございます。無理を言ってしまって、すみません」
「いいんだよ。それに、泣かせる話じゃないか。半世紀も前の友情のために動くロボット、なんてさ」
シャル「……ふふっ」
シャル「そうですね」
<広場>
シャル(どうしよう。手詰まりだ……)
ジロー「ジョン・ドウ。君は、困っているのか」
シャル「うん。……よくわかったね? 機械なのに」
ジロー「僕には、心がある」
シャル「機械なのに……?」
ジロー「そうだ。光明寺博士は、アンドロイドには心が必要だと考えていた。だから、僕には心がある」
シャル(心……)
シャル「変な博士さんだね。心なんてあったって、辛いことばかりだよ」
シャル「心なんて無い方がさ、悩むことも苦しむことも無い分、完全なんじゃないかな」
ジロー「……」
ジロー「完全でいることが不完全で、案外、不完全でいることが完全かもしれない」
シャル「……。なあに、それ?」
ジロー「前野究治郎という心理学者がいた。僕の心を作ってくれた人だ。その人の言葉だ」
シャル(前の旧ジロー……? 変な名前)
シャル「僕には、よくわからないな」
ジロー「君は人間なのに、わからないのか?」
シャル「……ふふっ。僕は人間じゃないのかもしれないね」
ジロー「そうだろうか」
シャル「ふふっ」
シャル「ジロー。君はコウタさん達と、どんな約束をしたの?」
ジロー「一緒に映画を見よう、と」
シャル「タイトルは?」
ジロー「REBOOT」
<映画館>
「こちらになります」
シャル「ありがとうございます」
ジロー「何をしていたんだ?」
シャル「五十年前にこの町の映画館でやっていた『REBOOT』って映画を調べてもらったんだ」
シャル「ピノキオのリメイクなんだね」
ジロー「ピノキオ……?」
シャル「人間になった人形の物語だよ」
ジロー「……」
シャル「コウタさん達は、君に心があるって知ってたの?」
ジロー「ああ」
シャル「じゃあ、コウタさん達はジローに人間を感じていたのかもしれないね」
シャル(僕のように……)
ジロー「……そうだったのだろうか」
シャル「うん。じゃないと、君とピノキオを観ようだなんて思わないよ。それに」
ジロー「?」
シャル「コウタさん達は、君のことを友達だと思っていたはずだよ」
ジロー「どうしてそうなるんだ?」
シャル「友達じゃなきゃ、一緒に映画は観ない」
ジロー「……」
ジロー「そうか。コウタとアキラは、僕の友達だったのか……」
<黄昏時・市街>
シャル「ねえ。ジローはギターを背負ってるけど、何か弾けるの?」
ジロー「ああ」
――ジローは、ギターを爪弾いた。
シャル「何だか、悲しいメロディだね……」
ジロー「なら、こうしよう」
シャル「こ、今度は激しいメロディだね!?」
ジロー「けれど、悲しくはない」
シャル「そ、そうだけどね……!?」
ジロー「悲しいのは、悲しい」
シャル「……」
シャル「もしかして。僕を気遣ってくれたの?」
ジロー「僕は、守らなきゃいけないから」
シャル「何を?」
ジロー「守るべき心を」
シャル「どうして? もしかして君は、人を守るために造られたの?」
ジロー「確かに、僕は人間のために造られた。そして、ある人を守れ、という任務も与えられていた」
ジロー「でも」
ジロー「僕は守るべき心を守る。これは与えられた任務じゃない。僕の意思だ」
シャル「……」
ジロー「コウタとアキラは、僕の恩人だ。助けてとも言ってないのに、僕を助けてくれた」
ジロー「僕は、コウタ達との約束を果たしたい。これも、僕の意思だ」
シャル「意思……」
「おい。あんた、今、コウタとアキラって言ってなかったか……?」
シャル「ど、どちら様ですか……?」
シャル(僕達に声をかけてきたのは、アロハシャツを着たおじいさんだった。なんだか、人好きのする雰囲気がある)
阪東「俺は阪東清治郎っていってな。昔、フルーツパーラーのマスターをしていたんだ。店は息子にやっちまったが――って、今は、そんなことはどうでもいい」
阪東「もしかしてあんた、葛葉紘汰と葛葉晶を知っているのか?」
ジロー「カズラバ……?」
ジロー「…………」
ジロー「そうだ。カズラバ。カズラバコウタ、カズラバアキラ。僕の友達だ……!」
阪東「お、おお……! お前さん、あいつらを知ってるのか! ……にしちゃ、ずいぶんと若いな」
ジロー「僕は機械だ」
シャル「ぼ、僕は知り合いじゃなくて、ジローの付き添いです」
阪東「ああ、機械か。じゃあしょうがねえなあ」
シャル(そ、それで納得するんだ。懐の深いおじいさんだ……)
ジロー「阪東清治郎。あなたは、コウタ達がどこにいるか知っているのか?」
阪東「……ああ」
シャル「ほ、ほんとですか!?」
阪東「コウタは、宇宙の神様になっちまった」
シャル「え? ……え?」
ジロー「そうか……。コウタは神様に……」
シャル(な、納得するの!? 葛葉紘汰さんって何者ぉっ!?)
阪東「アキラ……。紘汰の姉ちゃんは、数年前に死んじまった。孫と子供に囲まれた、いい死に方だった……と思うよ」
ジロー「……」
ジロー「死んだ……」
シャル「……」
シャル「あ、あの」
<墓地>
――墓石には『呉島家之墓』と刻まれていた。
シャル「アキラさん、ここに眠ってるってさ……」
ジロー「……」
シャル「黙祷をしよう、ジロー」
ジロー「それは何か意味があるのか?」
シャル「難しい質問だね……」
シャル「……」
シャル「その答えは、君自身が行動してみないとわからないよ」
ジロー「そうか」
シャル(ジローが、墓石の前で手を合わせている)
シャル(お母さんの墓石の前で泣いていた僕も。ジローみたいな顔をしていたのだろうか……)
シャル(ジローは、変な機械だ。人間の僕よりも、ずっと、人間らしい)
シャル(ジローを必要としていた人もいた。友達がいた)
シャル(……)
シャル(機械のジローは、僕よりもずっと、人間らしい)
シャル(なら)
シャル(人間の僕は、何なの?)
ジロー「ジョン・ドウ。行きたい場所がある」
シャル「どこかな……?」
ジロー「海だ」
<埠頭>
ジロー「……」
シャル(夕陽を浴びた沢芽の海は悲しげで、涙を誘った)
シャル(ジローが、ギターの弦に手をかける。また、あの切ない曲を爪弾くのだろう)
ジロー「……。やめておこう」
シャル「どうして?」
ジロー「君に、悲しい顔をさせてしまうから」
シャル「……ふふっ。君は優しい機械だね、ジロー」
ジロー「……?」
シャル「何さ、不思議そうな顔をして」
ジロー「その質問に答えたかった。けど、時間切れみたいだ」
シャル「え……?」
シャル(ジローが振り返る。埠頭の入口に、女の人がいた)
シャル(長身で、彫刻家が彫ったみたいに整った顔立ち。上下黒のライダースーツ)
シャル(アンドロイドだって、直感した。彼女の表情や動作が、とても機械的だったからだ)
マリ「お前を破壊する」
ジロー「……」
シャル(ジローはすぐさまギターを下ろして、ファイティングポーズを取った)
シャル「ま、待ってジロー! 君、戦って大丈夫なの!? もうすぐ止まっちゃうってことは、壊れかけてるんじゃないの!?」
ジロー「大丈夫じゃない。戦えば、僕は止まる」
シャル「なら!」
ジロー「僕は知っている」
シャル「何を!」
ジロー「彼女が、人を傷つけるアンドロイドだと」
シャル「……っ。だ、だからって、君が戦う必要はないよ! 逃げよう? そうすれば――」
ジロー「守れる力があるのに、それを使わなくて後悔しないのか?」
シャル「な、何を言ってるの!?」
ジロー「コウタが、この言葉を教えてくれた。僕は戦いは好きじゃないけど、この言葉のおかげで、戦えるようになった」
シャル「ばか! 壊れたら、君は死んじゃうんだよ。死んだら……死んじゃうんだよ!」
ジロー「……」
ジロー「君は優しい人だ、ジョン・ドウ」
ジロー「僕は君の心も守る。これは、僕の意思だ」
――スイッチ・オン
シャル(ジローの身体が変化していく……)
シャル(人としての姿は消えてゆき……。赤と青、二色のカラーリングにわけられた、機械的な姿となってしまった)
ジロー「ここからは、機械的に行こう」
マリ「心なんて不必要なものを持った不完全な機械が、何を!」
<埠頭>
シャル(戦いは、ジローの劣勢だった)
シャル(壊れかけている、というのは本当なのだろう。拳を振り上げる度に、軸足を据える度に、不可解な硬直を見せていた)
シャル(ジローは何度も殴られた。鋼のボディは悲鳴のような音を上げて凹み、歪み、壊れてゆく)
シャル(でも……)
マリ「何故だ! どうして倒れない! 心なんてものを持った、不完全な機械が!!」
ジロー「感情は全ての行動の源だ」
マリ「……ッ!?」
ジロー「この機械《からだ》止まるまで、人間《きみたち》を守る」
ジロー「それが、僕の意思だ」
マリ「な、何をするつもりだ……!?」
シャル(敵を掴んだジローの全身が、スパークしてる……!?)
ジロー「電磁エンド」
マリ「そんなことをしたらお前も――――」
――そして、アンドロイド達は爆炎に包まれた。
<戦いの終わった埠頭>
――頭と胴体、右腕だけが辛うじて残ったジローを揺さぶる、シャルロットの姿があった。
シャル「ジロー……! 目を覚ましてよ、ジロー……!」
ジロー「……」
ジロー「……知っている」
シャル「え……?」
ジロー「過去に同じ景色があった」
シャル「何を言っているの……!?」
ジロー「不完全な機械《からだ》になってしまった。僕がそう言うと、ミツコは、人間はみんな不完全よ、と返した」
シャル「ジロー!? ジロー……!」
ジロー「心なんて無い方がさ、悩むことも苦しむことも無い分、完全なんじゃないかな」
シャル「それは……っ」
シャル(僕が、ジローに言ったことだ……)
ジロー「人間はみんな不完全だ」
ジロー「心は、あっていい」
シャル「……」
シャル「やだよ。やっぱり、心なんていらないよ……」
シャル「こんなに苦しいなら、心なんて……」
ジロー「……」
ジロー「今こそ、質問に答えよう」
シャル「え……?」
ジロー「君は僕を優しい機械だと言った。僕は不思議に思った」
シャル「……」
キカイダーコラボ回は話もアクションも良かった
でもタイミングだけが最悪だった
「デェムシュが沢芽市を襲撃!」ってところで切るんだもんなあ...
ジロー「優しいのは君だ、ジョン・ドウ」
シャル「え……?」
ジロー「君は、泣いている子供を助けようとした。他の誰もが、手を伸ばさなかったのに」
ジロー「君は、コウタ達を探す僕を助けようとした。助けてとも、言われていないのに」
ジロー「君は、泣いてくれている。人間ではない、機械の僕のために」
シャル「そんな……。それは……」
ジロー「君は優しくて、気配り上手な人だ、ジョン・ドウ」
ジロー「……」
ジロー「きっと。君の笑顔は、素敵だ」
シャル「ジロー……」
ジロー「僕は、守るべき心を守る」
ジロー「僕が死んだら、君は悲しむ。だから――僕は死なない」
――ジローは壊れかけた右腕で胸のハッチを開いた。
――“中身”を取り出し、シャルロットに差し出す。
ジロー「これは、僕の心だ。君がこれを持ってくれている限り、僕は死なない」
ジロー「君に持っていて欲しい、ジョン・ドウ」
シャル「そんな大事なもの、受け取れないよ……」
ジロー「受け取って欲しい。だって――君は、僕の友達だから」
シャル「え……?」
ジロー「コウタは、アキラは、僕を助けてくれた。助けてとも、言われてないのに。そのコウタとアキラが僕の友達なら、同じことをしてくれた君も僕の友達だ、ジョン・ドウ」
シャル「君は……」
シャル「君は、変な機械だ」
ジロー「……」
ジロー「ジョン・ドウ。君の名前も、変だ」
シャル「……」
シャル「ふふっ」
シャル「僕はね。本当は、シャルロットって名前なんだ」
シャル「名無しの権兵衛《ジョン・ドウ》じゃない。君の友達は、シャルロットだよ」
ジロー「……」
ジロー「シャルロット」
ジロー「優しくて、気配り上手で、きっと笑顔が素敵なシャルロット」
ジロー「僕の……友達……」
シャル「うん、僕達は友達だ……」
ジロー「と……も……Da……」
ジロー「――――…………」
ジロー「…………」
シャル「……」
シャル「僕はシャルロット……。ジローの、友達だ」
<夜・学生寮シャルとラウラの部屋>
ラウラ「そのギターはどうしたんだ?」
シャル「……友達の形見なんだ」
ラウラ「……」
ラウラ「こっちに来い」
シャル「う、うえっ!?」
ラウラ「狭く薄い胸だが、友達の涙くらいは受け止めてやれる」
シャル「……」
シャル「ありがとう……」
<翌日・SHR・1年1組>
一夏(山田先生が、すごく困った顔をしている)
山田「今日は、ですね……みなさんに転校生を紹介します。転校生といいますか、すでに紹介は済んでいるといいますか、ええと……」
山田「ええい! 入ってきてください!」
「はい!」
一夏「え? ……えーーーーーーっ!?」
シャル「シャルロット・デュノアです。みなさん、改めてよろしくお願いします」
山田「ええと、デュノア君はデュノアさんでした。ということです。あ、あはは……」
一夏「シャ、シャルルって女の子だったのかー!?」
シャル「うん。これからはシャルって呼んでね」
「え? デュノア君って女……?」
「おかしいと思った! 美少年じゃなくて美少女だったってわけね」
「って、あの背中のギターは何……?」
「…………。僕らの仲間かな? かな?」
一夏「な、何だかよくわかんないけど、これからもよろしくな、シャル!」
戒斗「くくっ」
ラウラ「ふふっ」
シャル「……」
シャル「うん!」
<0と1の挟間>
ジロー「僕は、約束を果たせなかった……」
紘汰「何言ってんだよ、ジロー!」
ジロー「こ、コウタ!?」
紘汰「おう、久しぶりだな! ……ジローの大切な人、守れたか?」
ジロー「ああ。僕はちゃんと守れたよ」
紘汰「そっか。おめでとう、ジロー」
ジロー「ありがとう、コウタ」
紘汰「よっしゃ! じゃあ、今度こそ映画を見に行こうぜ!!」
ジロー「……ああ!」
以上になります。IS2巻のテーマ「アンデンティティー」。そして、シャルロットの「献身」というキャラクター性。これは、「キカイダー・REBOOT」にそのまま当てはまるもの。っというわけで、ジローの登場となりました。上手くまとめられたかはわかりませんががが。
スレのシナリオ的な都合で言えば、かつて紘汰が晴人から貰い、そして紘汰からジローに渡された言葉の中継役が必要だったという。
今はシャルロットが預かっているこの言葉を、うまく繋げられたらなぁと思います。
今回で、このスレが「戒斗と一夏の物語」になったために本編から外さざるを得なくなった、ラウラとシャルの物語は終了。
次回からは、次の本編(IS3巻分)の話に向けた準備になります。
それでは。ここまでお付き合いありがとうございました。
>>295
わかる。
わかる……。
後日、あの話は鎧武とキカイダーではアクション監督が別々だったって話を聞いたのですが。その辺りの視点でもう一度アクションを見ると、新しい発見があって面白かったです。
短編投下いたします。
今回はみんなの関係の確認と、箒の話になります。
■短編No.8「“戦極”箒」
<昼休み・屋上>
シャル「みんなに話があるんだ」
ラウラ「あるんだ」
一夏「どうしたんだよ二人とも、あらたまってさ」
ラウラ「大事な話だ」
シャル「みんなあえて聞かないでくれているけど、気になってるよね? 先月の学年別トーナメントで僕とラウラのISが暴走した原因を、さ」
鈴「そりゃね。……話してくれるの?」
シャル「うん。だって、その」
ラウラ「みんな、私達の友達だからな」
シャル「これ以上、隠し事をしていたくないんだ」
箒「……」
セシリア「それで、お話とは?」
シャル「うん。――実は僕達は、戒斗を暗殺するために送り込まれた刺客だったんだ」
一夏「な、なんだってぇっ!?」
セシリア「やはり、そうでしたの」
鈴「あー、なるほどね」
一夏「な、納得してる……!?」
ラウラ「我がドイツやシャルの父は、とある人物と取り引きをした。IS関連技術の提供を受ける代わりに、IS学園に刺客を送り込む、とな」
シャル「そうして送り込まれたのが僕達。そして、学年別トーナメントでのIS暴走事件は、戒斗を殺すためのプログラムが発動した結果、だったんだよ」
一夏「え。え、え、え、え、え、え。ちょ、ちょっと待ってくれよ!?」
戒斗「うろたえるな一夏。こいつらが俺を殺すために放たれた刺客だということなど、最初から気づいていたことだ」
一夏「え、ええー……」
シャル「そうだね。転校初日に見破られてたね」
戒斗「ふん。俺を殺せる者など、宇宙に一人だけだ。何人刺客が来ようとどうでもいい」
セシリア「さすがですわ戒斗さん!」
鈴「そこ、合いの手入れる場所……?」
箒「今はもう、駆紋の命を狙ってなどいないのだろう?」
ラウラ「当然だ。私も、シャルも、戒斗のいるこの空間が好きになってしまったからな」
シャル「うん。でも、だからこそ、言わずにはいられなかったというか……」
鈴「ふふっ。大丈夫よ。ラウラも、シャルも、あたし達の友達。それは変わらないわ。ね、箒?」
箒「……」
鈴「箒?」
箒「……!? あ、ああ。その通りだ、鈴。二人が何者であろうとも、私達の友達だ」
シャル「……」
シャル「ありがとう、箒。みんな」
ラウラ「うむ。礼を言うぞ、みんな」
一夏「……あ、あのさ」
ラウラ「どうした? 嫁は……私達を許せないか?」
一夏「ううん、そういうことじゃない。二人は俺の友達だよ」
ラウラ「それはそれで腹が立つな」
一夏「……。えっと。一つ聞きたいんだけど。さっき言ってた『ある人物』って、誰なんだ?」
ラウラ「……」
シャル「……」
戒斗「戦極凌馬」
箒「……!?」
一夏「せんごく……りょうま……?」
戒斗「つまらん男だ。だが、能力はある」
――昼休み終了の予鈴が鳴った。
戒斗「時間のようだ。行くぞ」
一夏「あ、ちょ、待てよ!」
箒「……」
箒「やはり……」
<夜・屋上>
箒「何者であろうとも私達の友達、か」
箒「ふふっ。それは、私自身の願望じゃないか」
箒「……」
箒「……」
――屋上の扉が開かれた。
鈴「やっほ。こんな時間にこんな場所に呼び出してどうしたの、箒?」
箒「話がある」
鈴「明日じゃダメなの?」
箒「みんなには明日、話す」
鈴「……うん?」
箒「鈴はIS学園で一番に出来た友達だから。だから、鈴に一番に聞いて欲しい」
箒「これは、誰にも語ったことのない話だ。……怖くて、辛くて、口にすることもできなかった」
鈴(よくわからないけど……真面目な話ってことはわかるわ。手をぎゅっと握って、唇をきゅっと引き結んで、まるで告白みたいじゃない)
鈴「大丈夫。何があったって、あたし達は友達よ」
箒「ありがとう、鈴」
箒「……」
箒「それじゃあ、始める。――私の、父の話を」
<翌日・四時間目・1年2組>
鈴(もうちょっとで昼休み)
鈴(そしたら、箒はみんなの前であの話をする)
鈴(……大丈夫かしら、箒)
鈴(昨日みたいに、途中で吐いたりしないかしら……)
<昼休み・屋上>
シャル(あれ?)
シャル(箒の手が、震えてる。それに、顔色も青ざめて……)
箒「みんなに聞いて欲しいことがある」
一夏「二日連続でこの流れ……!?」
鈴「いいから真面目に聞きなさい」
一夏「お、おう」
シャル(箒、すごく辛そう)
シャル(……)
シャル(それでも君は、話さなきゃいけないんだって、勇気を出したんだね。昨日の僕達みたいに)
箒「昨日、戦極凌馬、という人物の名が上がったな?」
ラウラ「そうだな。私達を刺客としてIS学園に送り込んだ人物だ」
箒「戦極凌馬は――私の、父だ」
シャル「え……?」
一夏「ちょ、ちょっと待てよ! じゃあ、箒の親父さんが戒斗を殺そうとしたってことか!? あの、篠ノ之道場の!? あれ、でも、篠ノ之? 戦極……?」
箒「篠ノ之の家は関係無い。篠ノ之の父母は立派な方だ」
一夏「じゃあ、どういう――」
鈴「ちょっと黙ってなさい、一夏。ちゃんと話してくれるから」
一夏「は、はい」
箒「篠ノ之家には三つの時に養子に入った。篠ノ之の家は、血の繋がりのない私を温かく迎え入れてくれたよ。今でも感謝している」
ラウラ「なるほど。箒の実父がプロフェッサー・凌馬なのか」
箒「そうだ……。造られただけだから、実父と呼んでいいかは悩ましいところだがな」
ラウラ「……ふむ」
戒斗「篠ノ之。貴様は、戦極凌馬が何をしようとしているのか、知っているのか?」
箒「知らない。……父が何かをしようとしていたことは知っているが、具体的なことは、何も」
箒「だが。父がしようとした何かのために、私に刻み込まれているものがる」
セシリア「刻み込まれているもの……?」
箒「戦闘モーションだ。呉島貴虎という人物の……」
戒斗「ほう」
箒「しかし、私は父を満足させられる出来ではなかったらしい。……三歳の時のことだ」
箒「君はいらない子だ」
箒「そう言われて……」
箒「……」
箒「わ、わた、私は捨てられ……」
鈴「! はい、袋! あと、一夏と戒斗はこっち見んな!」
一夏「お、おう!?」
戒斗「ああ」
――しばらくして。
箒「……見苦しいところを見せてしまった。すまない……」
シャル「ううん。……よく話してくれたね、箒」
箒「わ、私も、みんなと友達でいたいから……っ」
セシリア「箒さん……」
箒「姉はISを開発して、世界を変えてしまった。父は……謎の多い人だが、何か大変なことをしようとしていることだけは間違いない」
箒「だから……。だから、私は、怖い。――私は何者なのか、それがとても恐ろしい」
箒「でも。私は、みんなの友達でいたかったから。だから……っ」
戒斗「……」
箒「こ、これで私の話は終わりだ。何者かもわからない私だが、みんなは友達でいてくれるだろうか……?」
ラウラ「……箒」
箒「な、なんだ……」
ラウラ「お前は篠ノ之箒だ」
箒「ら、ラウラ……?」
セシリア「そうですわね。あなたは古風で、剣道がお上手で……」
鈴「潔癖で話に入るのが下手な、篠ノ之箒ね!」
箒「り、鈴!?」
一夏「あはは。うん、確かに、箒ってそんな感じかも」
鈴「一夏までぇ……」
シャル「大丈夫だよ、箒。みんな、君がどんな存在かってわかってる」
箒「みんな……」
鈴「ほら、あんたも何か言いなさいよ戒斗」
戒斗「……」
箒「……」
戒斗「……」
箒「……」
戒斗「……」
箒「……」
一夏「戒斗ォオオオオオッ!? そこは何か言えよぉおおおおおおっ!?」
戒斗「……」
戒斗「未来は己の手で勝ちとれ」
一夏「それじいちゃんのセリフー!?」
箒「……ぷ、くくく」
箒「あはははははははははは!」
一夏「箒?」
箒「駆紋。私とお前は、友達か?」
戒斗「男は一々友情の確認などせん」
箒「そういうものなのか」
戒斗「ああ」
箒「そうか……」
箒「なら、女の私は確認をしよう。あらためてよろしく頼む――戒斗」
戒斗「……ふん」
戒斗「勝手にしろ――箒」
<夜・学生寮1025室>
――部屋に、箒が訪ねていた。
戒斗「……」
一夏「どうしたんだ、こんな時間に」
箒「一夏に話しておきたいことと、戒斗の意見を聞きたいことがあってな」
一夏「話しておきたいこと?」
箒「ああ。……と言っても、これは私の予想でしかなくて。だからこそ、戒斗に意見を聞きたいのだが……」
戒斗「言ってみろ」
箒「姉さんがISを発表したのは十年前だ。だから、ISという兵器は私と一夏が六歳の時に世界に登場した」
箒「このISを……。姉さんは、いつ、造り始めたのだろう?」
一夏「それは……」
箒「私は思うんだ。姉さんがISを造り始めたのは、今から十二年前。私達が四歳の時だったのではないか、と」
一夏「四歳の時……?」
箒「ああ。姉さんがISを造り始めたのは、たぶん――ザックさんが亡くなった日だ」
以上です。
残る短編は3本。次回のタイトルは『白騎士事件』になります。
たぶん一日じゃ書き上がらないので、日が空くと思います。
それでは。ここまでお付き合いありがとうございました。
短編投下いたします。
今回は時間が飛ぶので西暦を記述していますが、基準にしているのは仮面ライダードライブの時系列です。
ドライブの時系列では『ドライブ&鎧武(メガヘクス事件とアルティメットルパン事件)』は2014年の出来事。なのでスレのSS本編は2064年の出来事になります。
鎧武の時系列で考えると『ドライブ&鎧武』は2015年の出来事のような気がしてくるのですが、そうなると頭が痛くなってくるので(時系列の分かりやすい)ドライブ基準でいってます。
では、始めます。
<十年前(2054年)・沢芽市上空>
――《白騎士》をまとった千冬が、溜め息を吐いていた。
千冬「それで。あと何時間待てばいいんだ」
束『そんなに長くは待たせない』キリッ
千冬「切るぞ、通信」
束『あ~ん! ちーちゃんのいけずー。でも、そんなところも――』
千冬「……」
束『――本当に通信切るんだね!? それでこそちーちゃんだ!』
千冬「……はあ」
束『にゃはははは。お腹減っちゃった?』
千冬「ISを装着しているんだ、空腹なんてありえないだろう」
束『なん……だと――』
束『――ごめんなさい。もうボケないので、通信を切らないでください』
千冬「まったく」
千冬(IS《インフィニット・ストラトス》)
千冬(宇宙空間での活動を想定し、開発されたマルチフォーム・スーツ)
千冬(現行兵器を凌駕する攻撃能力や防御能力、ステルス機能など驚くべき点は多いが……)
千冬(特筆すべきは、装着者の生命維持機能だ)
千冬(ISの装着者はコアからエネルギーを摂取することで、食事を必要としなくなる)
千冬(ISが束の想定する完成度に到達すれば、宇宙で生活することも不可能ではなくなるだろう)
千冬(だが……)
束『ハッキング完了~! ちーちゃん、ショータイムだよ!』
千冬「……ああ」
千冬(束。ISを世界に発表する、というのは本当にお前の意思だったのか)
千冬(確かに。世界中にISをバラ撒いて各国に稼働テストをさせる、というのは完成を早めるための手段の一つだろう)
千冬(しかし。お前ならそんなことをせずとも、ISを真の完成形までもっていけたのではないのか)
千冬(……束)
千冬(お前はどこまでが束で、どこからが束ではないものなんだ)
<十四年前(2050年)・沢芽市・小学校・五年二組の教室・休み時間>
千冬(我がクラスには不世出の天才がいる)
千冬(天才は異端児で、問題児だ。曰く『人間の区別がつかない』。興味が無いから覚えないそうだ)
千冬(天才にとって凡才とは、人間ではないのかもしれない)
「篠ノ之さん。これ、休んでた時に配られたプリント……」
束「……」
「篠ノ之さん」
束「……」
「篠ノ之さん!!」
束「――ッ! うるさいなあ! 誰だよ君は。束さんは世紀の大発明を組み上げてる最中なの! 見て分からないの? っていうか誰だよ君は」
「ふ、ふぇぇ……」
千冬「こら」
束「あいったぁっ!?」
千冬「あとは私が引き受ける。すまないな、委員長」
「ううん、いいの。それじゃあ、お願いね」
千冬「ああ」
束「……」
千冬「どうした、束?」
束「やー。ちーちゃんに叩かれると愛を感じるよー」
千冬「意味がわからん」
千冬(天才殿は何故か、例外的に私を友達と認識していた)
<放課後の帰り道>
千冬「それで。三日も学校を休んでどこに行っていたんだ?」
束「アフリカだよー。はいこれ、お土産のお面」
千冬(……。異国の文化を感じる)
千冬「束。最近世界中を飛び回っているが、何をしているんだ?」
束「んとねー。飛行ユニットの稼働試験でしょー。それとねー、探し物があるんだよ」
千冬「探し物? 何を探しているんだ?」
束「……」
千冬「束?」
束「ヒ・ミ・ツ♪ 女は秘密を着飾って美しくなるのだー!」
千冬「意味がわからん。……お前、今日はうちに寄っていくのか?」
束「うん! おじさまに会いたいからね!!」
千冬「お前は本当にじいさんが好きだな」
束「大好きだよ! おじさまは世界に一人しかいなかったからね! ……あらら~。もしかしてちーちゃん、やきもち~? ――あたっ!?」
千冬「たわけたことを言っていると、殴るぞ」
束「殴ってから言わないでよー!?」
<織斑邸>
千冬(じいさんが束を撫でている)
束「えへへ~。おじさまー。ごろごろごろー。にゃ~ん♪」
千冬(お前は猫か。兎みたいな格好をしているくせに)
千冬(……)
千冬(束が識別できる人間は、六人。私、じいさん、一夏、篠ノ之の両親、そして妹の箒)
千冬(仲がいいのは、篠ノ之の両親を除く四人だ。……養子という話だが、両親とは上手くいっていないのだろうか)
千冬(……フッ)
千冬(両親なんて、血が繋がっていても上手くいかないものだ。そんなこと、私にはわかりきったことではないか)
束「にゃはは! 聞いて聞いておじさま! あのねあのね――」
千冬(……)
千冬(束があんなに楽しそうな顔をするのは、じいさんの前だけかもしれない)
千冬(……)
千冬(何故だ?)
<数日後>
千冬「束」
束「何だいちーちゃん? この天才の束さんが、どんな疑問も一撃粉砕してあげよう!」
千冬「お前はどうして、じいさんにあんなに懐いているんだ?」
束「……」
千冬「……」
束「そりゃあ、おじさまがステキな人だからだよ! いやー、実は初潮が来たらおじさまを押し倒すつも――」
千冬「真面目な質問だ。答えてくれ、束」
束「……」
千冬「束」
束「……声が」
束「声が、聞こえるの」
千冬「声……? 誰のだ」
束「それはね、秘密だよ。怖いからね」
千冬「……?」
束「声はね、うるさくて、こわくて、いだいなの」
束「私はKoえnおみtiびki――……」
千冬「束!? おい、どうした、しっかりしろ!」
束「……――。にゃはは。ごめん、ちょっとバグっちゃった」
千冬「バグったって、お前」
束「おじさまといるとね!」
千冬「……」
束「私は、私でいられるの」
束「声がね、聞こえなくなるの」
束「だからおじさまが好き」
千冬「……」
束「あっははー! そんな顔しなさんな、ちーちゃん。もちろんちーちゃんのことも大好きだよ! それに箒ちゃんと、いっくんも!」
束「おじさまと、ちーちゃんと、箒ちゃんと、いっくん、それと私」
束「五人でずっといられればいいなぁって思うよ」
千冬「……」
束「五人だけの世界で……」
千冬「……」
<十二年前(2052年)・病院>
――集中治療室の前に、千冬がたたずんでいた。
千冬(車に轢かれそうになっていた子供を助けて、身代りになった、なんて。あんたらしいよ、じいさん)
千冬(だが、あんたが死んじまったら残された私達はどうなる……)
千冬(束だって、ちょっと歪だけど、あんたを慕っているんだ)
千冬(どうか。どうか、生きて――)
千冬「ん……?」
――突然、病院の電気が落ちた。
千冬「じいさん……!」
<数時間後・霊安室>
千冬「――ああ。来たか、束」
束「……」
束「あの停電」
千冬「……?」
束「おじさまの手術中に起きたんだよね」
千冬「……ああ」
束「集中治療室用の非常電源も動いてくれなかった、んだよね」
千冬「……。不幸な事故だった、と思う」
束「……」
束「違うよ」
千冬「何……?」
束「あの停電も、非常電源も――――」
束「――…………――」
束「…………」
千冬「束?」
――束は千冬の手をとると、縋るように握った。
束「お願いがあるの、ちーちゃん」
千冬「……言ってみろ」
束「おじさまの形見を分けて欲しいの」
千冬「じいさんもお前が好きだった。形見を持っていてくれれば、じいさんも喜ぶだろう。けど、何を……」
束「ロックシード……」
千冬「お前!? どうしてその存在を知っている……!」
束「お願いちーちゃん。おじさまのクルミロックシードを、私にちょうだい……?」
<数日後・ユグドラシルタワー跡地・地下>
――千冬には用途も分からない、様々な電子機器が並んでいた。
千冬(……束の奴、いつの間にこんな施設を造っていたんだ)
束「ようこそちーちゃん、私達の秘密基地へ!」
千冬「いったい何の用だ、束。っと言うか、今まで何をしていた。じいさんの葬儀にも出ないで」
束「――おじさまは、死んでないよ」
千冬「は……?」
束「ロックシードにはね、人の想いがこもるんだよ」
千冬「それはクルミロックシード……。壊れていたはずだが、直したのか」
束「うん。見た目は酷かったけどね、核は無事だったから直せたよ」
――そう言って束は、ロックシードの裏のスイッチを押し込んだ。
『あんたからリーダーを引き継いで、俺は変わった。戦う意味を、誰かを守る誇らしさを知った!』
千冬「じいさんの声……!?」
束「おじさまは死んでない。このロックシードが、おじさまの魂を覚えてる」
束「手を貸して、ちーちゃん」
千冬「……何を、するつもりだ」
束「逃げるんだよ、声の聞こえない場所まで」
束「地球のどこへ逃げても、声は聞こえた」
束「声が聞こえないのは、おじさまの傍しかなかった」
束「でも……」
千冬「……」
束「ちーちゃん。私、宇宙に行きたい」
束「おじさまと、ちーちゃんと、箒ちゃんと、いっくん、それと私」
束「五人で――」
<十一年前(2055年)・ユグドラシルタワー跡地・地下>
千冬(結局、私は束に協力することにした)
千冬(……宇宙に行くことに興味はない)
千冬(ただ。日に日に変貌していく友人を一人にはできなかった)
束「見て見てちーちゃん!」
千冬「スクリーンの中で亀が泳いでいるな。何だ、亀の3Dモデルでも作ったのか? ……3Dモデルにしては、ずいぶんと精巧だな」
束「モデル? これはカメ子だよ。おじさまかからいただいた、カメ子三世!」
千冬「は……?」
束「やー、大変だったよ。カメ子三世の脳から神経組織から筋繊維までみんなデータとして再現するのは、さ」
千冬「ちょっと待て、束。お前、カメ子三世はどうした」
束「ここにいるでしょ? ほら、スクリーンを見てよ」
千冬「違う! 私が言ってるのは、現実の身体の方だ!」
束「身体? それなら、ほら、あそこに」
千冬「……!?」
――机の上に、切り刻まれて電極をぶちこまれた亀の死骸があった。
束「やー、この束さんもまだまだだね。バラさなきゃデータコピーを作れないなんて。その辺りはお父様に――」
千冬「束!」
束「何だい、――織斑君?」
千冬(……なんて冷たい目だ!? 束、お前は、本当に、束なのか……?)
千冬「……束。自分がやったことをもう一度よく考えてみろ。お前が殺したものを、もう一度よく見るんだ」
束「えー、ちーちゃん何を言って……」
束「…………」
束「――あれ」
束「ねえ、ちーちゃん。なんで私はカメ子を殺したの……? 何で、何で、何で何で何で」
束「だって、カメ子はおじさまからいただいた大切な――あ、あ、ああああああAAAAAA」
束「――…………」
束「……――――」
束「リブート完了~! にゃはははははははは!」
束「あは……。ハハハハハハハハハッ!」
千冬(……)
千冬(狂ったように嗤う束の頬に、一筋の涙が伝っていた)
千冬(……)
千冬(この時。私はこいつに何をしてやればよかったんだろう……)
<十年前(2054年)・《白騎士事件》中>
――爆炎の中から、無傷の《白騎士》が姿を現した。
千冬「すさまじいな、ISは……」
束『ぶいぶい! これで、周辺各国の軍事施設をハッキングして日本列島に打ち込んだ、2341発のミサイルの迎撃は完了だよん』
千冬「次は、《白騎士》の偵察と拿捕に来る戦力の撃退だったな」
束『そうそう。戦闘機200機、巡洋艦5隻、空母5隻、監視衛星8基くらいを潰したら終わりにしよっか。あ、別に人命なんてどうでもいいんだけど、人は死なないようにね。生かしたまま無力化できるって余裕を見せつけてやるんだから!』
千冬「……戦車と歩兵の戦力比が1:20程度だったか」
束『40年くらい前はそうだったらしいね、戦車の苦手な市街地戦なら。平地なら歩兵はもっと死んだらしいよー。どったのちーちゃん?』
千冬「いや……なんでもない」
千冬(ISは世界を震撼させるだろう)
千冬(賽は投げられた。もう、後戻りはできない)
束『にゃはははは! これでようやく。ようやく、逃げられる』
束『あの、声から――』
千冬(束)
千冬(お前は私を友と呼んでくれているが……)
千冬(お前と一緒にISを造ったことは、正しかったのだろうか)
千冬(私は、何をすればよかったんだ)
千冬(お前の、友人として)
以上になります。残る短編は(たぶん)2本。
それでは。ここまでお付き合いありがとうございました。
Vシネマでバロンと斬月の外伝が出るらしい
PVの戒斗(のそっくりさん)が素の小林豊だった
>>352
「25年間役作りしてきたっ!」キリッ
あ、短編投下します。
■短編No.10「回想」
<SHR・1年1組>
――教室に、戒斗と一夏が駆けこんできた。
一夏「……」
千冬「遅刻だぞ織斑、駆紋」
一夏「あの、千冬姉」
千冬「学校では織斑先生と――」
戒斗「うわーん! 織斑先生ごめんなさいーーー!!」
千冬「……」
千冬「えっ」
一夏「……」
一夏「不幸な事故だったんだ……」
シャル「な、何があったの……?」
一夏「食堂で、バナナの皮で滑って転んで……」
シャル「頭、打ったの……?」
一夏「豆腐の角にぶつけた……」
シャル「……」
ラウラ「なるほど」
シャル「納得するんだ!?」
千冬「……ち、遅刻の件はもういい。席に着け二人とも」
一夏「お、おう」
戒斗「はーい!」
千冬「……」
シャル「……」
ラウラ「フレッシュな笑顔だ」
千冬「……」
千冬「駆紋戒斗……。ふふ、じいさんに聞かされていた通りの人物だったな」
千冬「フレッシュな笑顔の、爽やかな男。……ふふ。ははははは!」
一夏「違うよね千冬姉!? じいちゃん、絶対にそんなこと言ってないよな!?」
ラウラ「これはこれでアリなのではないか?」
シャル「な、悩ましいとこだねー……」
戒斗「? 織斑先生、大丈夫ですかー?」
千冬「十八年前。そう、あれは小学校の入学式の日だった。私は、じいさんに御神木の神社に連れていかれたんだ――……」
一夏「千冬姉がなんか遠い目してるぅー!?」
<十八年前(2046年)・御神木の神社>
――中年の男性と、真っ赤なランドセルを背負った少女が、御神木を見上げていた。
千冬「じいさん。この樹が駆紋戒斗なのか?」
「そうだ」
千冬「駆紋戒斗……」
「戒斗は、不撓不屈の本当に強い男だった。潔癖で気難しいところもあったけど、多くの人間があいつを慕っていた」
千冬「じいさんも、その一人だった」
「そうだ。強くありたい、戒斗のように。今でもそう思うよ」
千冬「……」
千冬「世界を敵に回した男でも……?」
「そうだ」
千冬「じいさんは、世界を敵に回したいのか?」
「まさか」
千冬「……」
千冬「私には、じいさんの言っていることがよくわからない」
「……」
千冬「私は、じいさんこそ強い人だと思う。たくさんの人を助けたあんたは、町の英雄だ」
「……」
「それこそ、戒斗の強さを知っていたからこそだ」
千冬「そうなのか?」
「ああ。未来は己の手で勝ちとってみろ」
千冬「……じいさんの口癖だな」
「これはな。俺が、戒斗からもらった言葉だ」
千冬「……」
「戦う意味も、誰かを守る誇らしさも、戒斗がいたから知ることができた。あいつがいなければ俺は、チンピラのままだっただろう」
千冬「……」
千冬「一夏にも、いずれ駆紋戒斗という男の話をするのか?」
「ああ。一夏が今の千冬と同じ歳になったらここに連れてきて、あいつの話をしようと思ってる」
「戒斗の物語は、誰にでも話せるものじゃない。やっぱりあいつが世界を滅ぼす大魔王になったってことは、変えられない事実だからな」
「でも……。お前や一夏には知っていて欲しいんだ。駆紋戒斗っていうすごい男がいて、俺はそいつが大好きだったんだ、ってことをさ」
千冬「……」
千冬「駆紋戒斗……か」
――千冬は、町の守り神となった大樹を見つめた。
「もう一度チーム・バロンの衣装を着て、あいつと踊りたかった。それだけが心残りだよ……」
<4時間目・家庭科室>
戒斗「君の好きな~ キャラメルと砕いたナッツ♪ コーンフレーク♪」
シャル「う、歌い始めた!?」
クラスメイト3「こ、これは……。恋するスイーツレシピEpisode1~キミイロバナナタルト~!?」
シャル「知っているの鴻上さん!?」
クラスメイト3「レシピと連動した“恋レピ”が大人気! 歌って踊りながらスイーツを作る新感覚コンテンツ☆ だ!」
戒斗「ぜんぶ混ぜ~て焼き上げたなら コーヒータイム♪」
シャル「た、確かに歌って踊りながらスイーツを作ってるよ……!?」
ラウラ「なるほど。スイーツとはああやって作ればいいんだな。興味深い」
シャル「違うからね!?」
一夏「……」
一夏「戒斗、いつになったら元に戻るんだろう……」
<後日・織斑邸>
――物置に、千冬の姿があった。
千冬「あった」
――千冬は、木箱にかかっていた埃を払った。
千冬「じいさんと一緒に燃やすべきか迷ったが……」
千冬「……」
千冬「じいさん。私にはこれを受け継ぐ資格はないけれど……」
千冬「一夏には、その資格があると思うんだ」
――木箱の中には、壊れた戦極ドライバーと折りたたまれたコートが収められていた。
以上になります。
次回は最後の短編「泊進ノ介最後の事件」。
難航してて、たぶん、早くて金曜の夜か土曜の朝くらいに投下することになると思います。
それでは、ここまでお付き合いありがとうございました。
案の定早めに書き上がりませんでした(しろめ
お待たせしました。最後の短編を投下いたします。
■短編No.11「泊進ノ介最後の事件」
■序
<某所>
――その機械《からだ》は、ゆっくりと身を起こした。
凌馬「束、よくやってくれた。君は実に良い仕事をしたよ」
束「……ありがとうございます、お父様」
凌馬「ハハハハハッ! 電子の海を漂うのも悪くはないが、やはり実体に勝るものではない」
凌馬「まあ、五十年振りに味わう空気が油臭いというのは少々残念だが、流石に仕方ないね」
凌馬「さて」
凌馬「では、悲劇の幕を上げよう」
凌馬「演目の名は――」
――『泊進ノ介最後の事件』――
<泊邸>
――壊れたベルトに語りかける、老人の姿があった。
進ノ介「ベルトさん。貴虎さんも殺されちまったよ」
進ノ介「死因は、生命維持装置の暴走だってさ」
進ノ介「……」
進ノ介「この世界の仮面ライダーは、俺一人になっちまった」
進ノ介「……」
進ノ介「アンタとシフトカー達に先立たれた俺は、変身できない」
進ノ介「それでも俺は、仮面ライダーだ。アンタや、霧子が信じてくれたように」
進ノ介「……」
進ノ介「ベルトさん、なんとなく感じるんだ。俺は、今日――」
――その言葉を遮るように、黄金のミニカーが飛んできた。
「やあ、仮面ライダードライブ!」
進ノ介「はあ……。何の用だよ、ルパン」
ルパン「何。寂しい老人の話相手になってやろうと思ってね」
進ノ介「余計なお世話だ! ……ったく。何でお前だけが生き残ったんだか」
ルパン「怪盗が命を盗まれては世の笑い者だろう?」
進ノ介「あっそう……」
ルパン「それで、我がライバルよ。そのアタッシュケースは何だね?」
進ノ介「お前に教える義理は無い!」
ルパン「そう釣れないことを言うな。五十年来の話相手ではないか」
進ノ介「……はあ」
進ノ介「これは、切り札だ」
ルパン「切り札……? 読めたぞ。左翔太郎だな。生前の彼が君に託していたのだろう?」
進ノ介「……う」
ルパン「猫殿は言っていた。左翔太郎ほど『切り札』に愛された男はいない、と。彼は悟っていたのかねえ。君こそが最後に残される英雄だ、と」
進ノ介「……。俺はもう行く。じゃあな」
ルパン「待て」
進ノ介「何だよ」
ルパン「別れの挨拶くらい聞いてくれてもいいんじゃあないか、泊進ノ介殿」
進ノ介「……」
ルパン「英雄の名を盗むために、君に付きまとっていた。だが……」
ルパン「誇り高き英雄《仮面ライダードライブ》の称号。それは百年を超えるアルティメットルパンの怪盗人生において、唯一盗めなかったものだ。死神に自慢するといい」
進ノ介「……」
進ノ介「ルパン」
進ノ介「あんたはいけ好かない奴だけど、嫌いじゃなかったよ」
ルパン「……」
――進ノ介はアタッシュケースにベルトさんをしまうと、歩いていった。
ルパン「……」
ルパン「君の相棒の座を盗めれば英雄の名を手にできると思っていたが……」
ルパン「フフッ。今更だ」
■破
<昼前・沢芽市・駅>
一夏「帰って…………きたー!!」
一夏「……いや。寮暮らしになってから三ヶ月も経ってないんだけどさ」
一夏「やっぱ、故郷って故郷なんだなぁ」
一夏「……」
一夏(沢芽の御神木が、戒斗)
一夏(千冬姉はそう言ってた)
一夏(幼い頃から見上げてきた、あの力強い御神木こそが戒斗だと言われた時……)
一夏(パズルのピースがはまったような気がした)
一夏「……」
一夏「よし。それじゃあ行ってみるか」
一夏(仮面ライダー)
一夏(戒斗は教えてくれない。調べても出てこない、謎の言葉)
一夏(それが何なのか、御神木の神社に行けば分かる気がするんだ)
<同時刻・市街>
――聞き込みをしている、進ノ介の姿があった。
進ノ介「――ありがとうございました」
「いえいえ。それでは」
進ノ介「はい。お気をつけて」
進ノ介「……」
進ノ介(やっと尻尾を掴んだ)
進ノ介(五十年間、仮面ライダーを暗殺し続けた男)
進ノ介(その名は、戦極凌馬)
進ノ介(この町に、奴はいる)
<昼・御神木の神社>
一夏「あれ。誰かいる……?」
一夏(変な人がいた)
一夏(長身で、髪に白いメッシュを入れた男性だ)
一夏(白衣を羽織り、口にはメカニカルなマスクをつけている……)
一夏(その変な人は、御神木を――親の仇のような目で見上げていた)
「ん?」
一夏(こっちに振り向いた!?)
「君はもしかして、織斑一夏君かい?」
一夏「ど、どうして俺の名前を!?」
「何を言っているんだ、君は有名人だろう? 世界で初めてISを動かした男性として、ニュースに取り上げられたじゃないか。顔写真付きで」
一夏「……そ、そうだった」
一夏(あの時は個人情報保護はどこへ行ったんだって憤ったっけなあ)
「確か君は沢芽市の人間だったはず。これも何かの縁ということで、町の案内を頼まれてはくれないかい?」
一夏「えーっと……」
一夏(俺が答えに困っているとその人は、メカニカルなマスクを指先で叩いた)
「見ての通り、私は元医療時間旅行者《コールド・トラベラー》でね。今年の初めに目覚めて、今日ようやく沢芽市に帰ってこれたんだ」
一夏「帰って……?」
「そう。元々は沢芽市に住んでいた。が、五十年も前の話だ。町並みも変わってしまって、困っていたんだよ」
一夏「……まあ、そういうことなら」
「ありがとう。なら、早速だけど案内をしてもらいたい場所があるんだ」
一夏「どこですか?」
「ドルーパーズ」
<フルーツパーラー《DrupeRs》>
阪東(二代目)「ほい、おまちどう」
一夏「あれ。何か豪華な気が……」
阪東(二代目)「一夏のツレだからな、サービスだ」
一夏「阪東さん……!」
「ふふっ。これは得をしたね」
一夏「……そのマスクつけたまま食べられるんですか?」
「医療用だからね。融通が効くのさ」
一夏「うわっ!? 口の部分が開いた!?」
「ふふ。科学はあらゆる不可能を可能にするのだよ!」
一夏(すごいドヤ顔でパフェ食べてる……)
「一度ここのパフェを食べてみたかったんだけどね。ついに機会を得られなかった」
一夏「そうだったんですか?」
「ああ。私が眠りについた時期の沢芽市は、ちょっと治安が悪くてね」
一夏「五十年前、でしたっけ……?」
「そうだ。ヘルヘイムの侵食やメガヘクスの侵略。君が地元民なら、家族に聞かされていないかい?」
一夏「いえ……」
「ふむ」
「怪人、という言葉に聞き覚えは?」
一夏(戒斗が、自分をそう呼んでたけど……)
一夏「い、いいえ……」
「ふむ」
「怪人とは、『平和』を脅かす超生物だ。悪の組織に改造された人間や、突然変異種などがこれに該当する。人間を超える力を持ち、人を襲うもの達だ」
一夏「……」
「ヘルヘイムの侵食やメガヘクスの侵略。それは、世界が怪人に襲われたことを意味している」
一夏「……!?」
「ふふ、安心したまえ。怪人は全て倒されたよ」
「『平和』は守られたんだ。――仮面ライダーが、怪人を倒したからね」
一夏「!?」
一夏「仮面ライダーを知っているんですか!?」
「知っているよ。彼らは『平和』のために戦う戦士だ」
一夏「仮面ライダーは『平和』のために戦う戦士……」
「そう」
「怪人に対抗できるのは仮面ライダーだけ。だから、怪人が蔓延っていた旧世界では、仮面ライダーは『平和』の護り手だった」
「ただね。今の世界には、仮面ライダーはいらないね」
一夏「え……?」
「だって。今の世界には怪人がいないだろう? 怪人無き世界に、仮面ライダーは不要だ」
一夏「……」
「織斑一夏君。現代は『平和』だよ。人々は怪人の恐怖を忘れてしまった。仮面ライダーという存在と一緒にね」
「それは、誇っていいことだ。君だって、『平和』は好きだろう?」
一夏「ええ、まあ……」
「世界が『平和』になるならば、それは仮面ライダーの手によるものでなくてもいいはずだ」
「フフッ」
一夏(何だ。ニュアンスが、妙な気がする……)
「そういえば、名乗ってなかったね」
凌馬「私の名は、戦極凌馬。世界から怪人と仮面ライダーを抹消した科学者だ」
一夏「え、え……?」
一夏「……」
一夏「戦極凌馬!?」
<市街>
進ノ介(地球で暴れた最後の怪人は、五十年前に壊滅したロイミュードだ)
進ノ介(戦極凌馬はあらゆる怪人組織を潰した。その一点だけを見れば、奴は『平和』の守護者かもしれない)
進ノ介(けど……)
進ノ介(戦極凌馬を見逃すわけにはいかない)
進ノ介(それは俺が、仮面ライダーだからだ)
<廃工場>
進ノ介(目撃者の証言をまとめると……。戦極凌馬は、ここに出入りしているはずだ)
進ノ介「いつもの廃工場、って感じだな……」
進ノ介「……!」
進ノ介「どうやら、大当たりだったってわけか」
凌馬「やあ、泊進ノ介」
進ノ介「ようやく会えたな、戦極凌馬。――仮面ライダー連続殺人事件の犯人さん」
凌馬「ふふっ」
進ノ介「ずっと気になっていた。五十年も世界の裏で暗躍しながら、仮面ライダーを暗殺していった人間。どんな人間ならそんなことが可能なのか、ってな」
進ノ介「大犯罪組織のボス。ずっと、そう思い込んでたよ。……何年もその線で探していたけど、あんたに繋がる手掛かりは見つけられなかった」
進ノ介「当然だ。あんたは、組織なんて持っちゃいない」
進ノ介「謎を解く鍵は、ザックと貴虎さんの殺害方法だ」
進ノ介「ザックの死因は、交通事故の手術中に起こった停電だ。集中治療室には予備電源があったが、何故かこちらも動かなかった。そのせいで治療ができず、ザックは死んだ」
進ノ介「貴虎さんの死因は――医療器具の異常動作だ。貴虎さんは暴走した生命維持装置によって殺されたんだ」
凌馬「……」
凌馬「どちらも単なる事故じゃないかなあ? 泊進ノ介」
進ノ介「いいや。これは殺人事件だ!」
進ノ介「どちらの殺人も、電子機器の異常動作が絡んでいる」
進ノ介「戦極凌馬。あんたは、電子機器を自由に操れるんだ」
凌馬「ほうほうほう」
凌馬「それで。私はどうやって電子機器を操ったんだい?」
進ノ介「電子体幽霊《ワイアード・ゴースト》」
凌馬「……」
進ノ介「五十年前。あんたは、自分の全てをデータ化してWeb上にアップロードした」
進ノ介「そして、電子の海に潜みながら一連の事件を起こしたんだ」
進ノ介「インターネットという電子の世界にただよう幽霊。ワイアード・ゴーストこそがあんたの正体だ!」
凌馬「……」
凌馬「ハハ! ハハハハハハハハッ!」
凌馬「ご明察! 流石は刑事ライダー。君の推理通り、私はデータだ。電子の海のカウボーイとなり、目的のために行動してきた。世界中の電子機器を支配化に置いて、ね」
凌馬「電子の海はもう一つの地球だ! 冷蔵庫や電子レンジまでインターネットと接続した現代において、私に入り込めない場所は存在しない」
凌馬「例えば、こうだ」
――進ノ介の通信端末が、勝手に起動した。
――空中にスクリーンが投影される。
――スクリーンでは、凌馬が笑顔で手を振っていた。
進ノ介「お前……!」
凌馬「だがね、仮面ライダー!」
凌馬「君は私をどうするつもりだい?」
進ノ介「倒す」
凌馬「……フフッ」
凌馬「君も知っているだろう? 私は――世界を『平和』にした」
凌馬「全ての怪人組織の活動を停止させたよ」
凌馬「人々が怪人の驚異に怯えていた時代は、もはや過去のものだ」
凌馬「それは、仮面ライダーが目指していた世界のはずだね?」
進ノ介「……」
凌馬「仮面ライダーを消したのも、仕方のないことだ」
凌馬「仮面ライダーは、怪人と同じ力を用いて怪人を倒す存在だ」
凌馬「世界から怪人を消しても、仮面ライダーがいる限り、怪人の力を再現する術が残ってしまう」
凌馬「だから私は仮面ライダーを殺し、またあらゆる情報網からその存在を抹消した」
凌馬「全ては『平和』のためだよ、泊進ノ介」
凌馬「世界が『平和』になるためには、仮面ライダーはいてはならないんだ」
進ノ介「……」
進ノ介「ふざけるな」
進ノ介「調べはついてる。お前はその『平和』のために、罪の無い人を何人も殺した」
凌馬「必要な犠牲だ。科学者、考古学者……。そして、仮面ライダー。怪人を生み、あるいは蘇らせる可能性のある人物を消さなければ、『平和』にならない」
凌馬「犠牲無くして『平和』は成り立たないんだよ。仮面ライダーが、怪人を殺すことで『平和』を守っているようにね」
凌馬「私は『平和』を守りたいだけなんだよ、仮面ライダー」
進ノ介「……」
進ノ介「そういう台詞。口にするなら、もっと心を込めるんだな。この大嘘つき野郎!」
凌馬「フフッ」
進ノ介「俺は市民の平和を守る」
凌馬「何故だい?」
進ノ介「それが俺――仮面ライダードライブだからだ」
凌馬「……」
凌馬「ククッ。ハハハハハッ!」
進ノ介「何がおかしい」
凌馬「君は今年七十四歳だろうに、その迫力は恐ろしいね。ああ、やはり、思い知らされてしまうよ」
凌馬「仮面ライダーには勝てない、とね」
進ノ介「ふうん。大人しく消滅する気にでもなったか」
凌馬「まさか。泊進ノ介、君を殺すよ」
凌馬「しかし、私は仮面ライダーには勝てない。だから」
凌馬「君を殺すのは私ではない。――正義だ」
――凌馬がポケットからリモコンを取り出し、スイッチを押し込んだ。
――凌馬の足元に、ノイズが走る。
凌馬「ISのステルス機能を応用した、ちょっとしたサプライズだ」
――凌馬の足元に、縛られた織斑一夏が出現した。
凌馬「さぁて仮面ライダー、動くなよ」
――凌馬は、手首を外す。
――腕の中から伸びた銃口を、一夏のこめかみに押し付けた。
■急
<廃工場>
一夏(……)
一夏(あれ。俺、どうしたんだっけ)
一夏(……)
一夏(そうだ。ドルーパーズで眠らされて……)
凌馬「さぁて仮面ライダー、動くなよ」
一夏(!?)
一夏(じゅ、銃!? ……なんだ。何で俺、縛られてるんだ!?)
凌馬「おや。目を覚ましたかい、織斑一夏君」
一夏(こんなもの、ISなら!)
一夏「白式展開!」
一夏「……」
一夏「あ、れ……?」
凌馬「ハハハハハッ! 君のISは機能停止しているよ。開発者特権で、私が止めた」
一夏「な、何言ってんだ。ISを作ったのは――」
凌馬「今はそれを議論する時じゃない」
――凌馬は、一夏の口に銃口を捩じ込んだ。
凌馬「泊進ノ介。見ての通り、人質がいる」
進ノ介「汚い真似を……」
一夏(とまり、しんのすけ……?」
凌馬「まずは、そうだね。そのアタッシュケース。何が入っているかは知らないが、地面に置いてもらおうか」
進ノ介「……」
凌馬「早くしろ」
一夏「――ッ!?」
進ノ介「待て! 言う通りにする。だから、人質に手荒な真似はしないでくれ」
――進ノ介が、アタッシュケースを手放した。
凌馬「よーし。じゃあ、さっさと事を済ませようか」
――凌馬は一夏の口内から銃口を引き抜くと、進ノ介に向けた。
凌馬「今からこの銃を撃つ。君が避ければ、人質を殺す。どうだ、シンプルだろう?」
進ノ介「ああ、まったく――」
――廃工場に、銃声が響いた。
一夏「……!」
――銃弾は、進ノ介の脳天を撃ち抜いていた。
凌馬「即死だろうが一応、ね」
――凌馬は、さらに続けて進ノ介に銃弾を撃ち込んだ。
一夏「……」
一夏(泊さん、というおじいさんは倒れ伏したきりピクリとも動かない)
一夏(……泊さんの身体から血液が、水たまりみたいに広がっていく)
凌馬「ふう。長い時間がかかったが、ようやく終わりだ」
凌馬「さらばだ。最後の仮面ライダー」
一夏「……」
一夏(仮面……ライダー……?)
<廃工場>
凌馬「さて、と。実はどうにも気になっていることがあってね」
一夏(戦極凌馬は、泊さんの死体にゆっくりと近づいて行った……)
凌馬「泊進ノ介が持ち込んだ、このアタッシュケース。中には何が入っていたのかな?」
一夏(戦極凌馬がアタッシュケースを開く。……あれは、何だ? でっかい湯たんぽ……?)
凌馬「……! ハハハハハハッ! 流石仮面ライダー! 流石、泊進ノ介! 君の抜け目の無さときたら、左翔太郎を思い出させる!」
凌馬「ちょうどいい」
一夏(こっち向いた……!?)
凌馬「織斑一夏、君は聴衆になってくれ。ククッ」
凌馬「これは『重加速軽減機』。装着者は、重加速という特殊現象の中でも行動可能になる」
凌馬「泊進ノ介。変身できなくても、君はやはり仮面ライダーだった。ちゃんと、私の手札を読んで対策していたのだから!」
凌馬「ご明察! 私は重加速を発生させる術を得ている! だから泊進ノ介、君が最後の仮面ライダーなのさ! ハハハハハッ!」
凌馬「変身できなくとも、君は私と戦うことができたかもしれないねぇ!」
凌馬「……まあ。死んでしまっては、無意味だがね」
一夏(……ぶ、ぶん殴って機械を破壊した!?)
凌馬「やはり仮面ライダーは恐ろしい存在だ。直接対決を避けて搦め手で攻めるという私の方針は、間違っていなかった」
凌馬「……」
一夏「……!?」
凌馬「織斑一夏。君の存在も目障りだ。駆紋戒斗が『ISを操縦できる男』として世に出たために重要度が下がり、後回しにしていたが……」
凌馬「いい機会だ。死んでくれ」
――凌馬は、銃口を一夏に向けた。
一夏「……!」
一夏(覚えてる……。この臭い。この恐怖)
一夏(硝煙の臭い。自由を踏みにじられる恐怖。誘拐された五年前に感じた、あの……)
凌馬「さよならだ。――むっ!?」
一夏「……え」
一夏(泊さん……?)
<廃工場>
一夏(泊さんが、戦極凌馬を殴りつけていた)
一夏(どうして泊さんが平然と動いていられるのだろう? そんな疑問が浮かぶ)
一夏(さらに不思議なのは、腰に巻かれたベルトだ。あれは……?)
進ノ介「ピコピコ2号はブラフだよ。本当の切り札は、その下に隠してあったこいつだ」
一夏(泊さんが、通信端末を操作する。あれは携帯電話とかいう骨董品じゃないか……?)
――pi pi pi
凌馬「何故だ! 脳天を撃ち抜いたはずだ、何故生きている……!」
進ノ介「あんたなら、すぐに分かるんじゃないか」
――Standing by
進ノ介「俺が死んだからこうなった、ってさ」
――Complete
一夏「!?」
一夏「変身した……!」
凌馬「その姿は、仮面ライダーファイズ!?」
進ノ介「こいつが、左さんが残してくれた切り札だ」
進ノ介「戦極凌馬。――ひとっ走り付き合えよ!」
――ファイズに変身した進ノ介は、凌馬を殴り飛ばした。
凌馬「機械の身体は硬いね。ロイミュードみたいだ」
凌馬「……なるほど。死してオルフェノクとなることで仮面ライダーファイズに変身する資格を得たか……。だが、忘れたのかね? 私に重加速を操る力があると! 重加速――」
進ノ介「忘れてるのはあんたの方だぜ。仮面ライダーファイズの、アクセルフォームをな!」
――Complete
凌馬「――発動! ……なんだと!?」
一夏(身体が黒くなった……!?)
――Start Up
凌馬「まさか、重加速の中を強引に走り抜けるつもりか……!?」
進ノ介「その通りだよ!」
一夏(世界が静止しようとしている中。泊さんが変身した漆黒の戦士だけが、超高速で駆け抜けていた……)
進ノ介「そらよ!」
進ノ介は凌馬を蹴り上げた。
大量のフォトンブラッドが、凌馬を包囲する。
――three
進ノ介は跳躍する。凌馬を跳び越すと反転。槍のような蹴りを突き刺した。
――two
幾本ものフォトンブラッドが、次々に凌馬に突き刺さる。
――one
進ノ介は着地すると、気だるげに肩を回した。
――Time Out
爆炎が凌馬を包む。
崩壊した機械のボディは、四散していた。
――Reformation
<廃工場>
――廃工場に転がった凌馬の首が、青白いスパークを発していた。
凌馬「ハハハハハッ! 死んでも悪を討つ! その執念、恐ろしいよ。やはり仮面ライダーは強い」
凌馬「奇跡を起こす」
凌馬「私では勝てない……」
凌馬「認めよう。この場の敗者は、私だ」
凌馬「しかし! オルフェノクは既に王亡き種族。君の命、長くはあるまい。本当の仮面ライダーファイズが自壊していったように!」
凌馬「ハハ! ハハハハハハッ!!」
――凌馬の“首”はスパークを散らすと、機能を停止した。
進ノ介「……」
――進ノ介は変身を解くと、一夏の拘束を解く。
進ノ介「もう大丈夫だ。……君は、織斑一夏君だね。君のおじいさんをよく知っているよ。あの人も、仮面ライダーだった」
一夏「泊さん……!」
進ノ介「大丈夫」
――進ノ介はアタッシュケースからベルトを取り出した。
進ノ介「こいつはベルトさん。俺の相棒だった人だ。……この中には、重加速への対抗手段が詰まっている。戦極凌馬が重加速を操るなら、きっと、役に立つ」
一夏「泊さん! 泊さん! ……あなた、身体が!」
――進ノ介の身体は、灰となって崩れ落ちようとしていた。
進ノ介「一夏君。戦極凌馬は恐ろしい悪だ。見方によっては、善人に見えるかもしれない。けれど、騙されちゃだめだ」
進ノ介「戦極凌馬の語る『平和』は、アイツが選んだ人間しか生きることを許されないディストピアだ」
進ノ介「その世界には、みんなの『自由』がない」
進ノ介「それは、『平和』じゃない」
一夏「泊さん!」
一夏「あなた、どうしてそんな平然としていられるんですか!?」
一夏「どうして、他人の心配ができるんですか!?」
一夏「あなた、死ぬんですよ! ……なのに!!」
進ノ介「……ふふっ」
進ノ介「だって俺は、仮面ライダーだから」
一夏「え……?」
進ノ介「仮面ライダーは、みんなの自由と平和を守るんだ」
一夏「仮面ライダーは、みんなの自由と平和を守る……?」
進ノ介「そうだ。……それを、覚えていてくれ」
一夏「あ……」
――泊進ノ介だったモノは、灰となって崩れ落ちた。
一夏「泊さん……?」
――『泊進ノ介だった灰』を、一夏は掻き抱いた。
一夏「泊さん……。泊さん! 泊さん!! 泊さん!!!」
一夏「う……。うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
――その日。世界から『仮面ライダー』は消滅した。
以上になります。
泊進ノ介さん役の竹内涼真はファイズが好きで、「ひとっ走り付き合えよ」のポーズもファイズオマージュらしいですね。僕もファイズ好きです。ので、こういった登場に。
1スレ目は『強さ』の章でしたが、2スレ目となるこのスレは『友情』の章でした。
3スレ目にして本編完結編となる次スレは『仮面ライダー』の章。……に、なる、はずです。
一区切り付きましたので、このスレは前回と同じくHTML化申請を出します。次の物語が完成したら、あらためてスレを立てて投下します。
次のスレタイは↓
戒斗「IS学園?」一夏「バナナ・スパーキング!」
それでは。ここまでお付き合いありがとうございました。
HTMLされる前に間に合ったので。
次スレ立てました↓
戒斗「IS学園?」一夏「バナナ・スパーキング!」
戒斗「IS学園?」一夏「バナナ・スパーキング!」 - SSまとめ速報
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