幽霊「あら?」(42)

 ~ グンマー県某市 夏 ~

 ミーンミンミンミンミンミー…
 ジョワジョワジョワジョワ…

幽霊「…………」

幽霊「あ、そっか。私死んだのね」ハッ

幽霊「さすが一時は交通事故率で全国ワースト2位に輝いた県だわ」

幽霊「よく見えないけど、あの車?の間に挟まってるのが私かしら」

幽霊「…………」ソローリ…

幽霊「うわぁ」コレハヒドイ

幽霊「うーん、まさか転勤した矢先に死ぬなんて」

幽霊「人生何があるかわからないものね」ウンウン

幽霊「あ、もう死んでるのか」ハッ

幽霊「これからどうしようかしら」

幽霊「この辺りに知り合いなんていないし」ウーン

幽霊「…………」

幽霊「ま、なんとかなるかな」ケロッ

幽霊「せっかくだから色々見てまわろーっと♪」


男「ん? あの女の人……」

友(※女)「どうした男、事故が気になるのか?」

男「いや、なんでもないよ」

友「そうか? ならいいが」

男(言わない方がいいよなぁ)

友「今日はゲーセンには寄るのか?」

男「なんかめぼしいもんあったっけか」

友「あー…たしかアレに新譜が入っていたと思うが」

友「なんと言ったか、あのツマミをギュンギュンしたりボタンをギューッタンタンッとしたりする……」ナンダッケ…?

男「大体わかったからよくわからん効果音はやめてくれ」

友「む……そうか、すまない。どうも覚えが悪くてね」

男「あぁ、なんか出てこないことあるよな。とりあえず行くだけ行ってみるか?」

友「うん」コクリ



幽霊「わーお、こんな所にゲーセンが」

幽霊「ぱっと見スーパーか何かかと思ったわ」

幽霊「変な店ねぇ」

幽霊「そういえば……」スー…

自動ドア「何見てんだよ」

幽霊「すり抜けってどうやってやるのかしら」ウーン…

幽霊「……一回ぶつかってみましょうか」ウン

幽霊「失礼しまーす」

自動ドア「ちょ」

 ごちんっ

幽霊「おうふっ」イタイ…

幽霊「まあなんとなく予想はしてたけど……すり抜けっていきなりはできないもんなのねぇ」サスサス…

幽霊「どうしようかなぁー」ウーン…

男「うわぁ……」

友「男? どうかしたか?」

男「いやすまん、なんでもない」

幽霊「!」ピコーン!

幽霊「生きてる人に開けてもらえば通れるわね。無理にすり抜ける必要ないか」

男(あれってさっきの女の人だよな……)

幽霊(さっさと来ないかしら……)

男(めっちゃ見られてる……見えてるの気付かれたか?)

男(取り憑かれたらやだなぁ、tさん出張でいないし……)

友「男、大丈夫か?」

男「ん、あぁ」

友「調子が悪いなら素直に教えてくれ。君の元気がないと私は心配でたまらない」

幽霊(あらやだラブラブね……)アラマァ

男(なんか余計女の人が見てきてる気がする……)

男(なんかあったら嫌だし、今日はお暇しようかなぁ)

友「男?」クビカシゲーノ

男(上目遣いカワユス)
幽霊(なにあの子可愛い)

自動ドア「通るか通らねえかハッキリしろよド畜生ドモ」

男「なんか気分が乗らないから、今日は帰ろうか」

友「そうか。じゃあ自転車は私が漕ごう、乗ってくれ」

幽霊(! 2人乗りですって!?)ウラヤマシイッ!

男「いやそこまでじゃないし、お前そもそも自転車乗れないだろ」

友「大丈夫だ。転ぶときは2人一緒だ」キリッ

男「いい顔でバカをぬかすなと。普通に押して行こうぜ」

友「うん」コクリ

自転車「カラカラカラカラ……」

幽霊「はぁ~…、いいわね青春って感じで……」

 ――ぐいっ

幽霊「あら?」

 ぐぐ……ずりっ

幽霊「あ、あらら」ヒッパラレル…

幽霊「あららら……」トマレナイ…

幽霊「あらぁ~……?」ドコヘイクノー…?

友「それじゃあ、また明日」

男「ああ。おやすみ、友」

友「ふふっ。おやすみ、男」フリフリ

 ガチャ パタン

男「さて、鍵カギ……」ゴソゴソ… カチャ

男「ん? 開いてる……」

男(締め忘れ――いや待てこのパt)

 ガチャバコォン!!

男「へぶっ!」カオガッ!

姉「おおっと、悪い悪い」ヘラヘラ

男「……またですかお姉様」ハナサスリ

姉「またですの!」ハイ

男「酒くせえ……つかタンクトップ1枚で出てこないで。せめてズボン穿いて。できればブラも着けて」

姉「持て余す?」クネッ

男「弟相手に何を訊いてんだアンタ」

男(まあ正直何故俺は弟なんだと思いはするが……)ジ…

おっぱい「見ちゃいやん☆」

姉「やーん! 男に視姦されてるー! あはははははははははは!」ゲラゲラ

男「…………」

男「うん、俺は正常だ」ナエルワ

姉「おーとこぉ~、はよ夕餉作ってちょんまげ~」グデーン

男「ちょっその格好で抱きつくな! つーか中に戻って!」

姉「あーい」ハイ

男(畜生やわらけえなあおっぱいめ!!)マエカガミ

 ガチャ パタン

幽霊「あら、さっきの」オチャズズー…

男「」

姉「ごーめんごめんっ、待たせっちったぁ?」ケタケタケタ

男「……お姉様?」ギ ギ ギ…

姉「やーん! 男ったら目が怖いぞ☆」キャハッ

男「引きずられた?」

幽霊「そうそう」

姉「いやあ、道路をジョジョ立ちでスライドしていく幽霊を見たときは何事かと思ったね」ウン

男「ジョジョ立ち!?」

幽霊「うん。こう、ビシッと」ビシッ!

姉「┣"┣"┣"┣"┣"┣"┣"┣"┣"・・・」

幽霊「あ、自己紹介忘れてた。私は幽霊、死にたてホヤホヤの新米よ」ドヤァ

男(何故どや顔を……)

男「俺は男です。こうして話してるからわかると思いますけど……まあ、いわゆる見える人です」

姉「こらァーッ! 私にも構えー!!」タイアタリダッ!
 どーん!

男「ぐへアッ!?」フイウチ!?

 むにゅん

姉「あんっもう、男ったら大胆ね♪」ポッ

男「」コッチノセリフジャネ?

幽霊「あぁ……羨ましいわぁ……」ペタペタ

姉「あっはっは☆ はさめるくらいあるなら大丈夫大丈夫♪」ギューッ

 むにゅんむにゅん

男(窒息死するッ!)

男(あぁっ、でもいい匂いと素敵な感触が……ッ!!)ヌオオ…

幽霊「でも私も圧死させられるくらい欲しかったわぁ……」ハフゥ…

姉「やー、でも私こんなん男以外にゃ見せる機会もないんよさ」ケラケラ

男(嗚呼……お花畑の向こうに……死んだじっちゃんが……)

男(何々? オ・レ・ト・カ・ワ・レ……)

男(お断りします!!)カッ

姉「はー……男の抱き心地最高……」ギュー…ッ

 むにゅんむにゅんむにゅん

男「でへへ……」グヘヘ…

幽霊「ゆるみきってる……ノーブラeカップはまさに凶器というわけね」ウン

姉「揉んでみる?」キャハッ☆

幽霊「後が怖そうだし遠慮しておくわ」

友「はっ! 何か男の身が危ないような気がする!」ガタッ

友「待っていてくれ男――っといけない、下着を全部洗ってしまった」ゴソゴソ

友「仕方ない、少しスースーするがこのまま行こう」ヨシ

友「おとこー!」タタタ...

友「…………っと、いかんいかん」モドリー

友「全裸で出てどうする気だ私は」イソイソ…



男「何か今惜しい思いをした気がする……」パフパフ

幽霊「思春期の男の子にとっておっぱいに顔うずめる以上にオイシイ体験って何かしら……」

姉「男が浮気者でお姉ちゃん悲しいわヨヨヨ……」ギューナデナデ

男「おうふ」

小僧「そろそろ限界だ」

幽霊「ところでいつまで抱きしめてるわけ?」

姉「勃つまで♪」キャハッ☆

男「お姉様、俺を辱めてどうしようというんです」

呼び鈴「来客だゴルァ」ピンポーン

姉「ありゃ? こんな時間に誰だい」

『男ぉ~、開けてくれ~』

男「……ヤバい、友だ」

幽霊「さっき一緒にいた子かしら」

男「幽霊さんすいません、ちょっと周りの物に触らないようにして下さい」

幽霊「? いいけど、なんで?」

男「あいつ幽霊見えないんで」

幽霊「あぁ……」ナルホド

男「そして姉さんは離して。あとズボンか何かはいて」

姉「しょうがないなぁ」パッ

『おーとーこー?』

男「今開けるよ!」ドタドタドタ…

幽霊「どこにいるべきかしら……外は暑いのよね」ウーン

幽霊「!」ピコーン

ドア「リバースカードオープン!」ガチャッ

友「やあ男、大事ないかい?」

男「さっき別れたばっかだろうに。どうしたんだ?」

友「私の大事な男に危機が迫っている予感がしてね。上がらせてもらってもいいかな?」

男「そりゃいいけど……」ドゾー

男(危機というか何というか。相変わらず妙な所で勘が働くやつだなぁ)

友「おじゃまします」ペコリ

ドア「へいらっせィ」

 パタム

姉「やほー、いらはい」ゴロゴロ

幽霊「┣"┣"┣"┣"┣"┣"┣"┣"┣"┣"┣"・・・」←ジョジョ立ち

男「」

男(落ち着け俺……ッ! つっこんだらダメだ……ッ!)

幽霊「……」スゥ…

幽霊「スティッキーフィンガース!!」ビシィッ!

男「ぶっふゥ!」ブチャラティ!?

友「ぴ!?」ビクッ

友「ど、どうしたんだ男??」

男「っぐ! ゲッホゲホゴホ!」ムセタ

男「す、すまん、何でも――」

幽霊「エアロスミス!!」アリーヴェデルチ!!

男「ナランチャああああああ!!」アアアアアア!!

友「!?」

姉「うるさいにゃー」ゴロゴロ

幽霊「(´・ω・`)締め出された」

幽霊「照り返しが暑いったら……」

幽霊「――はっ! 幽霊も暑いとか感じるんだ!?」ハッ

幽霊「これは新発見だわ」ウン

幽霊「っていうか幽霊ってみんなこうなのかしら」クビカシゲーノ

幽霊「後でお姉さんに訊いてみましょう」ウン

友「大丈夫か男、病院を呼ぶか?」オロオロ

男「いや救急車な。いらねえから心配すんな」

友「するさ。心配する。男の身になにかあったら私はもう生きていけないぞ」

男「ああもう」

姉「相変わらずのデレっぷりやねー。このスケコマシ」ケラケラ

男「人聞きの悪いことを言うな!」

友「大丈夫だぞ男。私は男が何人誑かそうとも必ず私を迎えに来てくれると信じているからな」ナデナデ

男「……そりゃどうも」ハァ…


 ミーンミンミンミンミー…
 ジョワジョワジョワジョワ…

幽霊「…………」

幽霊「あっつい」

幽霊「夏場の昼間に外で呆けるなんて、いつ以来だったかしら」ウーン

幽霊「いい天気ねー……」ハー…

幽霊「……生きてる時よりも生を実感してる気がするわ」

幽霊「まあ死んでるわけだけど」ウン

 ミーンミン ミン ミン ミン ミー…
 ジーワッ ジョワ ジョワ ジョワ…

幽霊「…………」

幽霊「そういえば……」

幽霊「私、何で幽霊になったのかしら?」ハテ?

スピーカー「カァラァスゥー!何故ッ!鳴くッ!のッ!」

幽霊「ありゃ、なんか歌が……時報か何かかしら」

幽霊「あータバコ吸いたい……」ダルーン

幽霊「…………」

幽霊「あ、今気付いたけど私お茶飲んでたわね」ハッ

幽霊「あれって中身どこに行ったのかしら」オナカペタペタ

幽霊「というか今のところ人に見えない以外生きてる時と変わらないのよね」ウーン

幽霊「……この状態でゲーセンで遊んだらどう見えるのかしら」

幽霊「それにしてもヒマねぇ」

幽霊「散歩でもしてこようかしら」ウン

幽霊「あーでもベランダからじゃ飛び降りなくちゃだわ」アー…

幽霊「はぁ……ヒマだわ……」ダラダラ

<うわっ!(ズデンッ)

<ブッ!? ちょおま下着はどうした!?

<あたた……いや失礼、シャワーを浴びるつもりで――ってぇ!? 見た!? 見られた!? うわわわわわわわわっ!!

<ばっ! クッション振り回すな!

<忘れて忘れて忘れて忘れて忘れて忘れろおおおおおお!!

幽霊「あらやだ賑やかだこと」アラマァ

幽霊「…………」

幽霊「家族からハブられてるお父さんってこんな気持ちなのかしら」シミジミ

幽霊「なんかイラつくわね」ムゥ

幽霊「決めた。散歩に行きましょう」ウン

幽霊「ちょっとくらい高いところから跳んだって平気よね。幽霊だし」ヨジヨジ

幽霊「うーん、清水の舞台に勝るとも劣らない絶景だわ」フフフ…

幽霊 スー…、ハー…

幽霊「せーの」

幽霊「とうっ」タンッ




   :

   :

   :

   メ

   コ

   ッ

   !

姉「…………」

友「…………」

男「」

姉「……急に床にめり込んだりしてどしたの?」

友「ま、まさか私の中の未知のパワーが!?」ワタワタ

姉「いやそれはないわ」

友「そうかな?」ショボーン

男「お……お、お お  お ……!」ギリギリ…

姉「そんな気合い入れて何? パントマイム?」

友「おお! すごいな男、本気で頑張ってるように見えるぞ!」キラキラ

姉(冗談なんだけどにゃー……)

男「なッ ん、か……知らんが! すっげ え  重、い ッ!!」ググッ…

 ズルッ

男「ナウッ!」メコッ!

幽霊「…………」プラーン

幽霊「まさかの宙ぶらりんとか」プラーン

幽霊「掴まれそうな所には手が届かないし」プラーン

幽霊「…………」プラーン

幽霊「あれ、これ詰んだ?」プラーン


 ・ ・ ・

幽霊「つまり彼から離れられなくなったってこと?」

姉「たぶんね。何かの拍子に霊的な繋がりができたみたいだけど」

姉「でもここまで直接的に影響が出るのは珍しいわね」

幽霊「ふーん……」

男「ほいツマミ。今日はもう泊まってくんだよな?」

姉「明日休みだからねー。友ちゃんは?」

男「風呂入らせた。なんかあいつも泊まる気らしい」

幽霊「あら、じゃあ私お邪魔かしら」

男「さっきみたくはしゃいだりしなければ平気ですよ。友は基本的にアホの子ですし」

姉「そういう意味じゃないっしょこの朴念仁」

幽霊「友ちゃんも可哀想に……」

男「あのさぁ……姉さんがいるのにイチャイチャなんかできるか!」

姉「お、おう」

幽霊「あらやだ、お邪魔虫は2匹だったのね」

男「…………で」

姉「友ちゃんもう少し詰めて」ギュー

友「姿勢が……よし、いけます」ギュー

男(右におっぱい。左にもおっぱい)

男「どうしてこうなった」

男(堪えろ俺の鋼の理性!)

小僧「正直に言おう、無理だ」


幽霊「一方の私は薄暗い部屋で独り酒、なんてね」

幽霊「お酒はお清めの効果があるとか聞くけど、普通に飲めるもんなのねぇ」

<続いて今日のニュース。午後2時頃、○○市△△町交差点で――…

幽霊「あ。これ私だわ」

<死亡したのは○○市に住む××××さん、2■歳です。××××さんは――…

幽霊「あら、テレビから自分の名前が聞こえてくると違和感があるものね」

幽霊「…………ん?」

幽霊「――……へー、私昔この辺りに住んでたのね」

幽霊「案外お姉さん達と面識あったりするのかしら」

幽霊「なんて、気付かないわけないか」

幽霊「それにしても……」

幽霊「独り酒は寂しいわねぇ……」

『××ねえ、いっちゃうの?』

『ごめんね。でも、きっと帰ってくるわ』

『うん。まってる』

『あんまりお姉ちゃんに心配かけちゃ駄目よ?』

『だいじょうぶ。おれ、もうすぐおにいちゃんになるんだ』

『あら、それじゃ頑張らないとね』

『うん』

『それじゃ、またね。男君』

『ばいばい、××ねえ』

幽霊「……んあ、寝てたわ」

幽霊「幽霊でも寝るもんなのねぇ」

幽霊「……」

幽霊「あら? 何か夢を見てたような」

幽霊「うーん、思い出せないわ……」

<6時になりました。ニュースをお伝えします。

幽霊「あらやだ、もう朝じゃない」

幽霊「飲んだ後片付けしないと」

友「…………」

食器「飛んでるように見えるだろ?持ち上げられてるんだぜ、俺」スイー

友「…………ふぅ」フラッ

男「うおっと、どうした友?」ガシッ

友「男、この部屋には幽霊がいるみたいだ」

男「へ?」

男(まさか見え――)

幽霊「あら、おはよう」カチャカチャ

食器「パッと見飛んでいますが私は食器です」

男「」

友「…………ふぅ」カクン

幽霊「あら、その子もいたのね」

男「幽霊さん」

幽霊「うん?」

男「正座」

幽霊「死んでから正座させられるとは思いませんでした」ハイ

男「気絶した友は寝室に運んだけど、何か考えないとマズいかなぁ」

幽霊「そういえば学校とかは?」

男「都合良く今日から夏休みです」

幽霊「ご都合主義ってやつかしら」

男「いやフィクションじゃねえんだ……ですから」

姉「ぅーい、おっはぁー」フラフラ

姉「……あれ、なんで幽霊が正座してんの?」頭ボリボリ

幽霊「ちょっとポルターガイストやっちゃって」

姉「あー」

姉「とりあえず、外歩いて未練の心当たりでも探してきたら?」


男「と、そんなわけで外に出たわけだけど」

男「まだ朝なのにあっついなぁ」

幽霊「焦げそうだわー、幽霊だけど」

男「むしろ蒸し焼きじゃないです?」

幽霊「……なんだかそう言われるとちょっとおいしそうね」

男「いやそれはない」

幽霊「人少ないわねぇ」フヨフヨ

男「まあ田舎町ですし」スタスタ

幽霊「いつもこんなもんなの?」フヨフヨ

男「さぁ……普段から歩いてるわけでもないのでなんとも」スタスタ

男「まあ朝早いですから、車とお年寄りくらいしかそうそう――」スタスタ

 びんっ

男「がへっ!?」ビタッ

幽霊「あ、ごめん立ち止まっちゃった」

男「っはぁ!びっくりした……」

幽霊「急に引っ張られるのねぇ」フヨフヨ

男「昨日はこっちが引きずってたはずなんですけどね」

幽霊「何か条件でもあるのかしら」

2人「「うーん……」」

電信柱「隣の家に囲いができたってね」

石垣「ブローックってか」

電信柱(柴田亜美かよ)

石垣(ッ、コイツ!直接脳内に……!)

男「…………」パシャッ

幽霊「写真?」

男「まあ、はい」

幽霊「へぇ、どんなの撮ってるの?」

男「もっぱら風景ですけど……結構色々写るんですよ、これ」

幽霊「色々って言うと」

男「はい、チーズ」

幽霊「キラッ☆」

 パシャッ

男「ほら、写ってる」

幽霊「あら本当」

幽霊「あら? この隅っこのもやもやは何かしら」

男「ああ、これは猫の幽霊ですね。この辺りは多いんですよ」

幽霊「へぇ……なんだか物悲しいわね」

男「裏通りの抜け道で車をすっ飛ばしてくドライバーが多いんですよね」

幽霊「あの辺りかしら。何も見えないけど」

男「俺もぼんやり気配がわかる程度なので、消えかけてるのかもしれませんね」

幽霊「そっか。いずれは消えちゃうのね」

男「動物霊で成仏できるのは珍しいんです。昇天とも言いますけど」

男「自意識が人間に比べて希薄な分、死に対する理解が曖昧なのが原因かもしれません」

幽霊「詳しいのね」

男「父の受け売りですよ」

幽霊「ああ、そういえば霊感って遺伝的なものなの?」

男「他はわかりませんけど、うちはそうですね。確証はありませんけど」

幽霊「そっか……」

軽トラ「ちんたら走ってんじゃねーよヴォケが!!」

軽ワゴン「うるせえこちとら赤ん坊乗せとんのじゃい!!」

幽霊「この辺りは車が多いわねぇ」

男「国道ですから。すぐ近くにインターもありますし」

幽霊「それにしても車間距離狭すぎじゃない?」

男「あー……見慣れてると気にならないですけど、たまに初心者がガンガン抜かれてたりしますね」

幽霊「そりゃ交通事故も起きるわけだ」シミジミ

男「……被害の当事者なわりに随分のほほんとしてますね」

幽霊「実感ないのよねぇ。あ、死んだのは理解できてるわよ?」

男「はぁ」

幽霊「ただなんていうのかしら。死んだから何か問題が? みたいな」

男「暢気ですね……」

幽霊「危機感がないとはよく言われてたわ」

男「さいで」

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