真姫「魔法少女……」さやか「ラブライブ……」 (92)



魔法少女まどか☆マギカとラブライブ!のクロスオーバーです。

ラブライブは基本アニメ設定ですが、今回はSID要素を含めます。

まどか☆マギカはThe different story要素もあるかも。

また地の文はあったりなかったりです。

一応前作の続きとなるので、


前作:にこ「魔法少女……?」マミ「ラブライブ……?」
にこ「魔法少女……?」マミ「ラブライブ……?」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1415882719/)



こちらを読んでからの方が楽しめるかと思います。

至らぬ所は多々でてくるでしょうが、よろしくお願いします。





SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1420534734





これは少女たちの物語。



永遠でも、叛逆でもない。



世界の理を変える、宇宙の理を変える、少女たちのキセキ―――、












小さな頃の、薄ぼんやりとした記憶。



私はとあるコンクールを見に来ていた。



まだ小学生くらいの児童が、練習した楽曲を拙いながらも発表する場。



当時は私もまだ小学生で、



でも、そのコンクール大会を見に行った時は憂鬱な感情しかなかった。



私はもう知ってしまったから。



自分が将来進まなければいけない道を、



医学と言う道を進まなければいけないことを、



音楽と言う道を諦めなければいけないことを、



知ってしまっているから。



だから、そのコンクールを見ている事は、苦痛でしかなかった。



将来が有望される児童が集まり、各々の演奏を披露する場。



私は、選べないのに。



私は、音楽の道に進むことができないのに。



彼は、彼女は、楽しげに進んでいく。



歩んでいく。



ステージの上でスポットライトを浴び、自分の音楽を披露していく子どもたち。



その姿を見て、幼いながらに込み上げてきた感情は―――嫉妬。



キラキラした純粋な音楽を聴きながら、私は一人醜い嫉妬に心を燃やしていて、



そんな自分が嫌になり、嫌いになり、悲しくなり、それでも嫉妬心は消えてくれることはなくて、



何もかもが分からなくなって、涙が込み上げてきてしまう。



コンクールに誘ってくれた母親が悪いのではない。



私のピアノの発表会を見に行けなかった埋め合わせとして、誘ってくれたものだ。



ただ、その優しさが、この時は辛かった。



辛くて、辛くて、辛くて、



隣にいる母親が心配そうに声を掛けるのにも答えられずに、私は声を押し殺しながら泣いてしまう。



溢れる感情が我慢できなくなってしまった。



……あの時の気持ち、あの時の悲しみは、今でも容易に思い出す事ができる。



思い出すと、今でも胸がチクリと痛む。



そして、同時にもう一つ思い出すのだ。



その時、出会った音色を。



♪~ ♪~



泣き続ける私の耳に届いた音。



それはコンクールに出場している一人の少年が奏でたもの。



小学生の子どもが奏でた、純粋な音。



私は、その音色を聞いた瞬間、優しい微風が胸を走り抜ける感覚を覚えた。



胸を締め付けていた黒い感情が吹き飛んでいくような気がしたのだ。



音は、理性の壁をすり抜けて、心の奥底を揺さぶった。



まるで寸前にあった悲しみなんてなかったかのように、私はその旋律に釘付けになっていた。



確かに、他の児童も子どもながらに素晴らしい演奏をしていた。



だが、その音色は次元が違った。



心の芯を揺らす、透明なメロディー。



私は、ただそれに聞き惚れていた。



演奏者の名は、分からない。



ただ、その姿は目に焼き付いていた。



一人だけのステージで立ち尽くし、バイオリンに旋律を乗せる少年。



私は一瞬だけど、救われたのだ。




その旋律に、




彼の音楽に、




救われたのだ。






小さな頃の、薄ぼんやりとした記憶。



私はとあるコンクールを見に来ていた。



まだ小学生くらいの児童が、練習した楽曲を拙いながらも発表する場。



当時は私もまだ小学生で、



でも、そのコンクール大会を見に行った時は心の底からわくわくしていた。



正直、クラシックなんて難しいことは分からなかった。



旋律の良し悪しだって分からない。



何となく良い曲だな、と子ども心に感じるくらいだ。



でも、一つだけ、私にもはっきりと分かるものがあった。



彼の音色。



幼馴染の彼が奏でる優しい音楽。



私は、彼の音楽が好きだった。



何人もの子どもたちが音を奏でていく。



それは何も分からない私でさえも感動してしまうもの



でも、本当に私が聞きたいものは違った。


♪~ ♪~



待ち続ける私の耳に届いた音。



それはコンクールに出場している一人の少年が奏でたもの。



小学生の子どもが奏でた、純粋な音。



音は、理性の壁をすり抜けて、心の奥底を揺さぶった。



今でも瞼の裏に思い描くことができる。



スポットライトを浴びる彼の姿を。



今でも頭の中で思い出すことができる



あの時の感動を。



彼の両手が産み出す柔らかな旋律を。




今でも、思い出すことができる。



心の芯を揺らす、透明なメロディー。



私は、ただそれに聞き惚れていた。



いつまでも、いつまでも、その音を聴いていたいと思っていた。




一人だけのステージで立ち尽くし、バイオリンに旋律を乗せる少年。



私は一瞬で、奪われてしまった。




その旋律に、




彼の音楽に、




心を、奪われたのだ。







真姫「会ってもらいたい人がいる?」



それは、マミ達への特別ライブが終わって直ぐのことだった。



家に帰ってくるなり、パパから力になってくれと頼まれた。



何でもパパが知り合いの病院で、長期入院となっている男の子がいるとのことで



その気晴らしに話し相手となって欲しいとの話だった。



私は、正直男の子と喋ることが得意ではない。



今まで、殆ど男友達なんていたことがなかったからだ。


というより、そもそも友達自体が……。



真姫(……思ってて悲しくなるわね、これは)



まず中学は友達自体が少なかったし、高校は女子高へと通っている。



それに男の子とは話が合わない。



大好きな音楽の話題も、男の子が聞くものと私が聞くものとはまるでジャンルが違う。



男の子が好むスポーツやゲーム・漫画なんて私はあまり見ないし……。



真姫父「大丈夫だよ。彼は元々バイオリンを習っていたみたいでね。クラシックを聴くのが趣味らしい」



そのパパの言葉に、私は興味を惹かれた。



音乃木坂に入学し、μ'sに入って友達ができたが、彼女達の中でクラシックを聞くものはいない。



クラスメイトともそこそこ話せるようになってきたが、やっぱりクラシックを話題にできるものは殆どいなかった。



正直に言って興味はある。



あるが……。




真姫父「お願いしてもいいかな、真姫?」



パパに正面から見据えられ、問われる。


先日、μ'sの活動に対してお父様と対立した事もあり、何だか断り辛い。


多分、パパも歩み寄りたいのだと思う。


私の本心を聞いて、μ'sを続けたいという私のお願いを聞いて、お父様自身思い直すことがあったのだろう。


少し不安げに揺れるパパの瞳を見て、それが分かる。



真姫「分かったわ……。その、μ'sの活動が終わった後になっちゃうけど……」



結局、私は父の頼みを受け入れた。


その直後、私は正直にそれで良かったんだと思えた。



真姫父「良いさ。ありがとう、真姫」



そう言ってくれたパパの表情が、今までに見た事のないよなものだったから。


緊張が解れたような……ホッとしたようなそんなパパの表情が見ることができたのだから。










真姫「ここね……」



その数日後、私はパパの言われた病院の前にいた。


見滝原総合病院。


秋葉原から電車で小一時間ほど離れた場所にある病院。


パパの……とまではいかなけど、それなりに大きな病院だ。




真姫(はぁ……緊張してきちゃった)


真姫(ガラじゃないわよね、こんなの……)


真姫(私、口下手だし……素直じゃないし……)



話し相手と言われて来たが、そんな大役が私に勤まるのか……。


病院の入り口で右往左往していると、何だか更にだんだんと不安が大きくなってくる。


いっそこのまま逃げ出してしまおうか、とすら思えてきてしまったが……。



???「あ~~~~~~、真姫さん!?」


真姫「ヴェエ!?」



その時だった。


そんな素っ頓狂な声が聞こえてきたのは。


思わず変な声を上げながら、私は振り向いた。


そこにいたのは―――、



真姫「あ、あなたは海未の……」


???「あ、覚えていてくれたんですか! 感動です!」


真姫「えと、確か……美樹、さん……?」


さやか「そうです。美樹さやかです!」




青髪の快活そうな少女。


確か、以前海未がおかしくなった時に手助けをしてくれたという三人の中の一人。


数日前に彼女たちにお礼を兼ねてライブを開いたばかりであった。


まさかこんなにも早く再会をするとは……。




さやか「それにしてもどうしたんですか、真姫さん。病院に用事でもあるんですか」


真姫「ええと、一応ね……あるといえばあるんだけど……」


さやか「そうなんですか? 風邪でも引いちゃったんですか?」


真姫「そういう訳じゃないわ。ただ、そのお見舞いというか……」




つい先ほど一歩を踏み出す勇気が出なかった手前、私は言い淀んでしまう。


美樹さんはコロコロと表情を変えた。


心配そうな顔をしたと思えば、天真爛漫な笑顔に。



さやか「そうなんですね! 私もお見舞いに来たんですよ! 奇遇ですね~」



羨ましいな、と少し感じてしまう。


凛や花陽と話していても時々思う感情だ。


私は素直じゃないし、変にプライドが高い。


だから、凛や花陽やこの子みたいに、素直に感情を表に出せる子が羨ましくなる時がある。




真姫(こういう役柄は私よりも、凛達や彼女みたいな人の方が向いて―――)


真姫(……っと。はぁ、ダメね。こんなんじゃ……)




思わず浮かぶ弱気な心を否定する。


ダメだ。緊張のしすぎなのか必要以上に弱気になってしまっている。






さやか「そうだ! どうせなら途中まで一緒に行きませんか?」


真姫「えっと……そうね、お願いしようかしら」



そう、これは私が引き受けた役割。


パパからのお願いを受けたのは、私。


どんな心境であろうと引き受けたなら、その責任は果たさなくてはならない。



真姫(そう、私が頑張らなくちゃいけないのよ!)



心の中で気合いを入れて、美樹さんと共に病院へ入っていく。





さやか「へー、真姫さんのお見舞い相手もこっちの病棟なんですね」


真姫「そうよ。確か神経病棟って言ってたかしら」


さやか「ええ!? そうなんですか! 私のお見舞い相手もそこに入院しているんですよ!」


真姫「そうなの? 偶然ね」


さやか「でも、羨ましいなあ~」


真姫「? 何がよ」


さやか「いやぁ、真姫さんのお見舞い相手ですよ。真姫さんみたいな美人さんにお見舞いに来てもらえるなんて……くぅ~、いいなあ!」


さやか「あ、もしかして、その相手って……彼氏さんだったり!?」


真姫「ヴェェ!? そんなんじゃないわよ!」


さやか「えぇ~、何か怪しい反応だなあ」ニヤニヤ


真姫「ち、違うわよ! 私は彼氏いない歴15年―――って、ナニイワスノヨ!」


さやか「ノリツッコミ!?」


真姫「そ、そんなんじゃないわよ! もう知らない!」


さやか「えええ! 真姫さんが勝手に言ったんじゃないですか~」


真姫「もう……」



取り留めのない会話をしながら目的の病棟へと向かっていく。


口下手な私も美樹さんに引っ張られるように、言葉がするすると口から出ていた。



さやか「あ、付きましたね! 真姫さんのお見舞い相手の部屋って何号室ですか?」


真姫「えっと……まだ確認できてないの。ナースステーションで聞いてくるわ」


さやか「そうなんですね。じゃあ、ここで」


真姫「うん……」


さやか「いやあ、真姫さんとお話できて楽しかったです!」


さやか「今度またお見舞いに行くとき連絡下さいよ。病棟まで一緒に行きましょう!」


さやか「それじゃあ。また」




そう言って、美樹さんは病棟の中を歩いていく。


何度も通っているのか、病室の場所も把握しているようだった。




真姫「……明るい子ね」




気付けば私も少し微笑んでいた。


……何だか、美樹さんと話していたら元気を貰えた気がする。


ありがとう、と心で呟き、ナースステーションへと向かっていく。


そこで病室の番号を聞き、長い廊下を歩き始めた。




真姫(あれ……こっちの方向って……)




歩いていくと気付く。


ここは今さっき美樹さんが歩いていった方向と同じであった。




真姫(凄い偶然ね……)




偶然もここまで重なると面白いものだ。


何か彼女とは縁があるのかもしれない。


と、そんな事を考えていると、教えてもらった番号の部屋を発見する。




こうして着いてしまうとやはり緊張するものだ。


一回、


二回、


深呼吸をして落ち着きを取り戻そうとする。


そして、ノックを三回。


どうぞ、という返事を聞いて、私は扉を開いた。




真姫「は、初めまして、私は―――って、美樹さん!?」


さやか「ええええ、真姫さん!!?」




そこにいたのは二人の人物。


純白のベッドの上で寝そべっている男の子と、その傍らで座る見覚えのある青髪の少女。




さやか「ま、真姫さんがどうしてここに!?」


真姫「それはこっちの台詞よ! 何であなたがここに!」


さやか「な、何でって……恭介は私の幼馴染なんですよ!」


真姫「そ、そうなの? じゃ、じゃあ―――」


さやか「これも偶然ってことですか……?」


真姫「そう、みたいね……」




私とさやかは向かい合いながら、困惑に頬を引き攣らせていた。


まさかとは思っていたが、本当にこんな事になるなんて……。



恭介「えっと……どういうことなんだい、これ?」



そして、状況が呑み込めない様子でさやかへと問いを零す少年。



―――これが私、西木野真姫と、美樹さやかと、上条恭介の出会いであった。










恭介「西木野さん、ですか……」


真姫「そう……よろしくね、上条くん」


恭介「はあ、よろしくお願いします」


さやか「真姫さんは凄いんだよ! スクールアイドルをやっててね、μ'sっていう大人気ユニットのメンバーなんだよ!」


真姫「ちょ、ちょっと、美樹さん……!」


恭介「そ、そうなんだ」


さやか「それにμ'sでは作曲を担当しててね! 良い曲をたくさん作ってるんだよ!」


恭介「作曲……ですか?」


真姫「し、仕方なくね! 他に作れる人がいないんだもの!」


恭介「すごいなあ。僕は演奏はできても作曲までは出来ないですから」


真姫「そ、そんなに大したものじゃないわよ」


さやか「またまた謙遜しちゃって~! 本当に人気あるんだから、μ'sの唄って」


さやか「聞いてると力が貰えるって、皆言ってますよ」


真姫「そ、そうなの……ま、まぁ、当然よね」



目の前で楽しげに喋るさやかと、戸惑いながらも微笑みを見せる上条君。


何とか話はできている……というより美樹さんが気を使ってくれてるのか、色々と話をしてくれている。


大雑把な性格に見えて、何かと周囲に気を配ることのできる少女なのだろう。


私は、心の中でさやかにお礼を言う。




真姫「えっと、上条くんは確かバイオリンを弾いていたのよね」



とはいえ、美樹さんにおんぶに抱っこでは話にならない。


私は彼の精神的なケアのために来たのだ。


何とか会話をして、仲を深めなければならない。


私は話の取っ掛かりとして選択したのは、バイオリンについて。


音楽という分野は、私と彼の唯一の共通点だ。


そこから少しでも会話を広げようと思ったのだが……。



恭介「……はい」



そう返事をした上条くんの表情は、余りに悲しげなものだった。


私はそこで言葉に詰まり、話を続けることが出来なくなる。


頼みの綱の美樹さんも、半笑いの状態で表情を固まらせてしまっている。



真姫(地雷、踏んじゃったかしら……)



考えてみれば当たり前のことだろう。


将来を有望視されているバイオリニストが、怪我でその手を動かせないでいるのだ。


不安を感じない訳がない。


おそらく不安に取りつかれないよう、出来るだけ考えないようにしているのだ。


そんな話題に簡単に踏み込んでいってしまった―――やらかした、というのには充分すぎる。


重苦しい雰囲気が場を包み込む。






真姫(ど、どうしよう……どうすれば……)



こういう時、μ'sの皆ならばどうするのだろうか。


希やことりなら、上手く誤魔化しながら別の話題を振るのだろう。


絵里や海未や花陽なら、正直に配慮が足りなかったと謝罪するのだろう。


穂乃果や凛なら、無理矢理に明るい話題を振ってこの重い雰囲気を笑い飛ばすのだろう。


駄目だ、どれも自分に出来る行動ではない。


この状況を誤魔化せるほど口達者じゃないし、謝罪できるほど素直ではない。


笑い飛ばすほど明るい性格でもないし……。



真姫(そうだ、もう一人いるじゃない……!)



ふと、思い出す。


もう一人、まだ連想していない人物がいることを。



真姫(そう、にこちゃんなら……)



矢澤にこ。


宇宙ナンバーワンアイドルを自称する彼女ならば、この状況をどのように潜り抜けるのか。


それは―――、






真姫「に……にっこにっこにー……」


真姫「あ、あなたの笑顔ににこにこにー……笑顔を届ける矢ざ……西木野マキマキ」


真姫「マキマキって覚えてラブマキ……」



恭介「」


さやか「」




―――元々緊張していた上に、地雷を踏み抜いてしまった事で、私は軽くパニックになっていたのかもしれない。


そう、そうに違いないのだ。


そうでなければ、こんな事をする筈などない。


私が、西木野真姫が、こんな事を――――!




真姫(に、にこちゃんのバカ~~~~~~~~~~~!!)




……場の空気は確かに一変していた。



重苦しいものから、凍えるような極寒のものへ。



ポカンと口を開けて見詰める上条君と美樹さんの視線が痛い。痛すぎる。




真姫「」スック


さやか「ま、真姫さん……?」


真姫「……帰る」


さやか「え、ええ!?」


真姫「帰るったら帰る! もうイヤ! 私もう帰る!」


さやか「ま、待ってくださいよ! 可愛かったですから! 寒くなんてなかったですから! 本当に!」




もう一刻も早くこの場から消え去りたかった。


数秒前の自分を殴れるものなら殴りたい。




帰ろうとする私と、それを必死に止めようとするさやか。


人様の病室ですったもんだする私達に―――、




看護師「静かにしなさい! ここは病院ですよ!」




雷が鳴り響いた。



ガラリと開く扉。



現れたのは中年のぽっちゃり体系の看護師さん。




看護師「全くあなた達は小学生ですか! 病院でそんな大騒ぎするなんて全く!」ガミガミ


看護師「次同じ事したら病棟からつまみ出しますからね!」ガミガミ



その怒声に、その剣幕に、私と美樹さんは抱き合うようにフリーズ。


看護師さんは怒るだけ怒ると、それっきり扉を閉めて出ていってしまう。




恭介「ハハ……一旦、落ち着きますか?」




ベッド上で苦笑する上条君の微笑みが、一層にやるせなさを加速させた。









それから一時間ほどが経過した後、私と美樹さんは肩を並べながら歩いていた。


病院から駅まで続く短い道のりを二人で進んでいく。


周囲はもう夕焼けに染まっていて、1日が終わりかけようとしていた。



さやか「いやぁ~、今日はありがとうございました!」



美樹さんは笑顔でそう言ってくれた。



真姫(気を使ってくれているのよね……色々とやらかしちゃったのに……)



そんな美樹さんの笑顔を見て、私は一層のやるせなさを感じていた。


溜め息一つ。


空を見上げると、一番星が光って見える。



さやか「大丈夫ですか? もしかして気を使わせちゃってました?」



それは私の台詞よ、とは言えなかった。


そんなに素直にものを言えるなら苦労などしない。



真姫「そんなのじゃないわよ……」



と、強がるように言うのが精一杯。


二回目の溜め息が再び口から零れてしまう。


やっぱり向いていない。


あんな訳の分からない行動をとってしまって、


看護師さんにまで怒られてしまって、



真姫(それに―――上条君にあんな嫌な思いまでさせてしまって……)



考えなしにもほどがあった。


音楽を奪われる気持ちなんて誰よりも分かっていた筈なのに……、




さやか「でも、良かったなあ」




自己嫌悪に陥りかける私を後目に、美樹さんは話し続ける。


笑顔で、満面の笑顔で、




さやか「久し振りに見ましたよ―――恭介のあんな楽しそうな顔」


真姫「―――え?」



そう、言ってくれた。



さやか「最近はずっと塞ぎ込みがちだったんです。やっぱり左手が動かないことをすごい気にしてるみたいで」


さやか「でも、真姫さんが『にっこにっこにー』やってくれた時、」


さやか(もっと言えば真姫さんが看護師さんに怒られてた時、)ボソボソ


さやか「恭介の奴たのしそうに笑ってました」


さやか「私じゃあ、どうしても一緒にいる事しかできないでいたから……」


さやか「だから、本当にありがとうございました!」



語る美樹さんの表情は、本当に嬉しそうなもので。


私は、その反応が本当に予想外で。


でも―――何故だか、心の底から嬉しいと思えた。


私でも、こんな私でも、誰かの力になることができたのだと。


そう思うと、すごく嬉しかった。




さやか「ねぇ、真姫さん。真姫さんが良ければ、これからも恭介のお見舞いに来てやって下さい」


さやか「μ'sや学校のことで忙しいとは思います。でも私、恭介にはもっと笑っていて欲しいから―――」



夕焼けをバックにそう笑う美樹さんの表情は、これまでの微笑みとはまた違ったものだった。



さやか「―――だから、お願いします」




その時、だった。


私が美樹さんの、上条君に対する想いに気が付いたのは。


幼馴染だからだけじゃない。


彼女にとって、彼は。



真姫「……大切な、人なのね」



誰にも届かないような、小さな声で呟く。






私はこの時、思えたのだ。


パパに頼まれたからだけじゃない。


私自身の気持ちで、西木野真姫自身の気持ちで、


彼等の、彼女等の力になりたいんだと。


私は心の底から思うことができたのだ。



真姫「仕方ないわねえ。そこまで言うなら、行ってあげないでもないわよ」



それでも、私はやっぱり天邪鬼で。


素直な言葉を紡ぐことだできなくて。


でも、美樹さんは察してくれたみたいであった。



さやか「ありがとう、真姫さん」


真姫「……それはこっちの台詞よ―――さやか」



ああ、今が夕暮れで助かった。


多分、私の顔は今真っ赤に染まっている筈だから。


私とさやかは歩いていく。


赤色に染まった世界を、笑い合いながら進んでいく。



以上で投下終了です。
前回は感想レスやコメントありがとうございました。
今回もゆっくりと書いていければと思いますので、よろしくお願いします。また書き溜めが出来次第投下していきます。

改行空けすぎで読みづらい
アメブロのJKかよ

レスありがとうございます。
では、書き溜め分投下していきます。







―――数日後 音乃木坂学園 屋上




海未「はい、今日の練習はここまで。皆、お疲れ様でした」



終わった……。


やはりラブライブが近いという事もあってか、最近の練習は過密なものとなっていた。


数日前にライブを終えたことなど既に忘れてしまったかのような鬼練習だ。



穂乃果「終わったー! もうへとへとだよお。一歩も動けないぃ~」



案の定、練習が終わると共に根を上げる我らがリーダー。


とはいえ、終わるまでは愚痴をいう事もなく、真剣に練習に取り組んでいるのだ。その集中力と根性は凄まじい。



穂乃果「ことりちゃ~ん。飲み物とってぇ~」



……まぁ、その変わり身の早さも凄いのだが。



すぐさま日陰に倒れ込み、ことりへ飲み物をねだる穂乃果。


練習中と普段とで、まるで別人なのではないかと真剣に考えてしまうほどのギャップである。




ことり「はい、穂乃果ちゃん。スポーツドリンクだよ」


穂乃果「わー、ありがとう。ことりちゃん!」


海未「ことり、少し甘やかしすぎです。練習終わりとはいえスポーツドリンクくらい自分で取りに行かせるべきです」


穂乃果「ぶー。良いじゃん、これくらい」


海未「私は穂乃果のためを思って言ってるのですよ! 全く穂乃果はいつもいつも―――」



ここからはもう普段のパターンだ。


穂乃果を甘やかすことりに、その光景に小言を言う海未。


更に、それに反撃する穂乃果で夫婦漫才が開始される。


本当に良くも飽きないものだ。




絵里「ふう、大分よくなってきたわね。これならラブライブ予選にも間に合いそうね」


にこ「まぁ、このにこにーが率いている訳だしい? 当然といえば当然よねー」


希「にこっちー。今日の練習で真っ先に音を上げてたのは誰だっけー?」


にこ「……えーと、にこにー、忘れちゃった~♪」


希「にこっち?」


にこ「うっ……わ、わたくし矢澤にこです」


希「ふふっ、正直でよろしい」


にこ「ほっ……」


希「でも、一回嘘吐いたから~♪」


にこ「つ、吐いたから?」


希「わしわしマックスやー!」


にこ「げっ、え、絵里! た、助け……」


絵里「あはは……ごめんね、こうなった希は私にも止められないわ」ムネカクシキョリトリーノ


にこ「絵里いいいいいいいい!!」



こっちはこっちでコントを始めてるし。


もう、本当にマトモな人間がいないというか、騒がしい人達というか。


とはいえ、そんな私もこの光景を楽しんで見ているのだから、何も言えたものではないのだが。


私も変わった……いや、素直になったというべきなのかしらね。


ともかく本当に見ていて飽きない面々だ。





凛「今日もみんな楽しそうだにゃー」


花陽「あ、あれは楽しんでるのかな?」


凛「よーし! かよちん、凛達も対抗してラーメン食べにいくにゃ!」


花陽「ソレタイコウニナッテルノオ!?」



……こちらも漫才が始まろうとしている。


これは良くない流れだ。


この流れからは確実に―――、




凛「もちろん、真姫ちゃんも一緒にだよ!」



凛の、この言葉があるからだ。


普段ならば断りはしない。


凛や花陽と共に過ごすことは楽しいし、とても大切なものだと思っている。



真姫「ごめんね、凛。今日は用事があるの」



ただ―――今は、都合が悪い。



凛「えー、また!? 最近、全然一緒に遊べてないよー!」


真姫「そ、そうだったかしら……?」


凛「そうだよ! 昨日も一昨日も用事があるって直ぐに帰っちゃったよ!」


真姫「うっ。し、仕方ないでしょ、本当に用事があるんだから!」



そう、用事があるのだ。


どうしても外せない、大事な大事な用事が。





凛「そうだけどー」ブー


花陽「凛ちゃん! 仕方ないよ、真姫ちゃんだって忙しいんだから」


凛「むー」


花陽「真姫ちゃんも気にしないで。今度、都合がついたらまたどこか行こうよ」


真姫「も、もちろんよ! ごめんね、凛、花陽」



ふくれる凛と、優しくフォローする花陽。


二人の前では自然と謝罪という行為ができるのだから不思議なものだ。



真姫「じゃ、じゃあ、私帰るから。また明日ね」




屋上の扉を閉めて、私は階段を下っていく。


もちろんこれから向かう所は決まっていた。


上条恭介と美樹さやかの待つ病院。


着替えを済ませ、音楽プレイヤーから流れる心地の良い旋律を聴きながら、道を進んでいった。









凛「真姫ちゃん、行っちゃった……」


花陽「よしよし、凛ちゃん。ラーメンは花陽が一緒に行くからね」


凛「うん! かよちん、ありがとう!」


花陽「でも、どうしたんだろうね、真姫ちゃん。最近何かあったのかな?」


凛「うーん。分かんないよー。何だか機嫌は良いんだけどにゃー」



それは不意に聞こえてきた後輩たちの会話であった。


真姫ちゃん関することで二人は何かを感じているらしい。


確かによくよく見ると真姫ちゃんの姿は陰も形もなく、すでに帰宅した後である。


ここ数日は何時もそうだ。


前までは一年生トリオで仲良く帰宅していた筈だが、最近は真姫ちゃん一人で帰る事が多い。



にこ「何よ、真姫ちゃんが何か変なの?」ズイ


凛「あ、にこちゃん。聞いてたんだ」


にこ「少しね。それで真姫ちゃんがどうしたのよ?」


気になった私は思わず二人に声をかけていた。


花陽「最近、何時もにこにこしてるというかウキウキしてるの! すごい楽しそうというか……」


凛「授業中も上の空だよね。何かあったのって聞いても赤くなって誤魔化すだけだし」


にこ「にこにこウキウキぃ? あの真姫ちゃんがぁ?」



予想外の答えだった。


確かに最近は上機嫌な気はしていたが、そこまでだったとは……。






穂乃果「なになに? 何の話?」


凛「最近真姫ちゃんの様子が変なんだよ~」カクカクシカジカ


海未「……確かに、最近浮かれているような雰囲気はありますね」


ことり「そうだねえ。何だか笑ってる事が多いし、それに笑顔が前以上に可愛くなった気もするよ」


絵里「言われてみればそうね」




皆も釣られて会話に参加してくる。


感じていたものは同じようなものらしい。



希「何か嬉しいことでもあった、とか?」



それはそうだろう。


間違いではない筈だ。



海未「作曲が上手く進んでいる、とかでしょうか」



作曲が上手くいっている……それだけでああも目に見えて変わるだろうか。


何曲もの曲を手がけている真姫ちゃんが?



穂乃果「美味しいパン屋さんを見つけたとか!」


ことり「美味しいケーキ屋さんかもしれないよお」


穂乃果「わー良いなあ。紹介してもらわなくちゃ!」



うん、論外。





にこ「……怪しいわね」



皆の話を聞いて私はある一つの結論に至っていた。


……考えたくはない。


だが、もしそうだった場合、見過ごす訳にはいかなかった。



絵里「怪しい?」


花陽「怪しいって……はっ、まさか!」


にこ「そのまさかかもしれないわよ、花陽」


花陽「そ、そんな……それは由々しき事態です!」



アイドル通である花陽は察してくれたようであった。


そう、それはよくよく有り得ることだからだ。



凛「ど、どういう事なの? にこちゃん、かよちん!」


にこ「皆、落ち着いて聞いて……」



理由不明の上機嫌、問いただせば赤くなって誤魔化す、前よりも可愛くなった笑顔……。


それらが示すものは―――、



にこ「もしかしたら真姫ちゃんは―――彼氏ができたのかもしれないわ」


みんな「「「「「「「え、ええええええええ~~~~~~!!?」」」」」」」



―――全員の驚愕が響き渡った。







絵里「か、彼氏……ハラショー」


凛「ま、真姫ちゃんに彼氏……」


海未「そ、そんな! 彼氏なんて……破廉恥です!」


穂乃果「相変わらず海未ちゃんは純情だねえ」


ことり「これは純情っていって良いのかな……?」


希「でも、それが本当やとしたら……」


にこ「そう、大問題よ!」


花陽「アイドルは恋愛禁止……」


にこ「それは遠い昔から受け継がれてきた絶対のルール……」


花陽「例えスクールアイドルであろうと、そのルールは適応されます!」



アイドルに恋愛は禁忌。それはアイドル業界の大原則とも言えた。


アイドルの称号を纏い、ファンの前でパフォーマンスをしている以上、私たちはなりきらねばならないのだ。


理想の偶像(アイドル)に。


それはスクールアイドルとて変わりはない。




にこ「この事が露見すればファンは離れ、今度のラブライブ出場に影響を与えることは必至……」


花陽・にこ「「―――止めるのよ(んです)、真姫ちゃんの暴走を!!!」」




止めなければならない。


スクールアイドル・μ'sの部長として。





ことり「で、でも、本当にそうと決まった訳じゃないんじゃ……」


穂乃果「そ、そうだよ。他の理由があるのかもしれないし……」


にこ「あっま~~~~い! ことが公になってからじゃあ遅すぎるのよ!」


花陽「こういうことは迅速な行動が重要なんです!」


ことり「そ、そうなんだ……」


穂乃果「花陽ちゃん、怖い……」


凛「凛はそんなかよちんも好きにゃー」


希「でも、確証がないのも事実やん?」


絵里「疑いだけで話を大きくするのも、ねえ……」



そう、確かに証拠はない。


だが―――、




にこ「はん! 事実を確認する手っ取り早い方法はあるじゃない!」


花陽「そ、それは!?」


にこ「それは……」


皆「それは……!?」ゴクリ


にこ「ズバリ―――尾行よ!!!」




―――証拠がないなら、証拠を見つければいい。それだけだ。






―――秋葉原


絵里「い、いいのかしら、こんなことしてて」


希「ええやん。後輩の色恋沙汰を見守るのも先輩の役目やよ」ワクワク


海未「せ、先輩後輩は禁止な筈では……」


希「海未ちゃん、細かいことはなしやで」ワクワク


絵里(か、完全に楽しんでるわね、希……)


花陽「にこちゃん、真姫ちゃんは電車に乗るようです!」


にこ「了解よ! 引き続き尾行を続けるわ!」


凛「行っくにゃー♪」


穂乃果「何だかかくれんぼみたいで楽しいね、ことりちゃん!」


ことり「あはは、そうだね」




―――電車内 真姫の隣車両


真姫「~♪ ~♪」


花陽「にこちゃん、真姫ちゃんは楽しそうに音楽を聞いております!」


にこ「了解! 引き続き監視を続けるわ!」


希「あの笑顔……これは本当の本当にありえるかもなあ~」


絵里「恋する乙女って奴ね……」


凛「女子力全開の笑顔だにゃー……」


海未「そ、そんな、本当に……」カァァ


穂乃果「海未ちゃ~ん。そろそろ落ち着かないとのぼせちゃうよー」


ことり(海未ちゃん、最後までもつかなあ?)


花陽「むっ、にこちゃん、真姫ちゃんが電車を降りるようです!」


にこ「了解! 引き続き尾行を―――って、ここは……!?」


穂乃果「あっ……」


海未「あ……」


にこ「み、見滝原!?」

―――見滝原駅


海未「うう……」


穂乃果「海未ちゃん、大丈夫? 辛いなら休んでようよ」


ことり「顔色悪いよ?」


海未「だ、大丈夫です。ここまで来たのですから、最後まで……!」


にこ「はいはい。それで体調崩しちゃ元も子もないでしょうが。誰か海未に付いててあげましょう」


にこ(辛そうね。海未は見滝原に良い思い出ないでしょうし……)


穂乃果「じゃあ穂乃果がついてるよ!」


ことり「私も!」


海未「すみません。穂乃果、ことり……」


にこ「決まりね。じゃあ、三人は駅で待ってるとして残りは引き続き真姫ちゃんを追うわよ!」


皆「「「おー!」」」




―――見滝原総合病院前


真姫「♪~ ♪~」


花陽「ま、真姫ちゃんが病院に入っていきました……!」


にこ「相手はまさか入院患者……!?」


希「医療関係者っていう可能性もあるかもなあ」


絵里「どうするの? さすがにこの人数で病院内まで尾行するのは……」


にこ「そうね……」


希「じゃあ、うちは待ってようかなー。迷惑になるのもあれやし、もしかしたら病院に入ったのはフェイクかもしれんしな」


にこ「あら、意外ね。さっきまで結構乗り気だったのに」


絵里「なら、私もそうしようかしら。待機組ね」


にこ「なら、私と凛と花陽で尾行を継続するわ」


絵里「くれぐれも静かに、絶対に迷惑になるようなことはしちゃダメよ」


希「気を付けてなー」


にこりんぱな「了解!」



―――病院内



真姫「♪~ ♪~」


にこ「迷わず進んでいくわね」ヒソヒソ


花陽「通い慣れてる、ということでしょうか」ヒソヒソ


凛「あ、着いたみたいだよ!」ヒソヒソ


真姫「すみません。お見舞いに来ました」


花陽「ナースステーションに一言声を掛けるだけで部屋へ直行……」ヒソヒソ


にこ「……本当に通い慣れてるみたいね」ヒソヒソ


凛「部屋に入った……」ヒソヒソ


花陽「ど、どうしよう、にこちゃん!」ヒソヒソ


にこ「……ここまで来たのよ! 相手がどんな人なのか確認だけでも!」ヒソヒソ


凛「に、にこちゃん……!」


にこ(扉をほんの少しだけ開けて、中の様子を見る―――!)


凛・花陽「……!」ゴクリ








―――ゆっくりと開いていく扉。


閉ざされた空間はほんの少しずつ開放されていき、私の視界に中の様子を知らせてくれる。


あったのは、至極単純な光景。


私が見たものは、赤焼けが窓より射し込む空間で言葉を交わす二人の男女。



真姫「――――、」


??「――――、」




はにかんだ笑顔の西木野真姫と、それに微笑みながら応える見知らぬ少年の姿であった。








電車に乗り小一時間。


電車を降り駅を出た後は、もはや慣れたといっても良い道を歩いていく。


見滝原総合病院へと至る道。私は軽い足取りで進む。


かつて海未に異変があった際、一度だけ訪ねたことがあったが、落ち着いて歩いてみると良い街だということが分かる。


秋葉原ほどではないが、程よく栄えた街。


さやかからオススメのCDショップやケーキ屋さんなども教えて貰った。


CDショップは相当に品揃えが良く、クラシックの名盤もあればレア盤が紛れていることがあるとのこと。


ケーキ屋さんは巴さんが一押しの店らしく、紅茶にあうケーキが売っていると言っていた。


今度、実際に行ってみたいものだが、今の目当ては違う。



看護師「あら、また来たのね」



もう顔なじみにもなった看護師さんが、挨拶をしてくれる。


私も軽く会釈をしながら迷わぬ足取りで病室を目指す。


上条恭介。


彼がいる病室へ。



恭介「こんにちは。また来てくれたんですね」



入って、私は少し臆してしまった。


今日はまださやかが来ていなかったからだ。


あれから何回か上条君の所へ見舞いへ行ったが、常にそこにはさやかの姿があった。


彼と二人きりになった事は今回が初めてであった。





真姫「お、お邪魔するわ」



思わず少し上擦った声をあげてしまった。


意識すると途端に緊張が出て、思考が白く染まってしまう。


上条君の傍らで座り、ただ私は会話を切り出すことができずに固まってしまう。


彼はさやかから送られたクラシックの名盤を聴きながら、外を眺めていた。


真姫(あ……)


彼の右手が、彼の五指が、流れるように動いている。


それが何の動きなのか、私には直ぐに分かってしまった。


バイオリンの弦を抑える動きだ。


彼はCDを聴きながら、その音楽に合わせて自在に五指を動かしている。


滑らかで、澱みのない動作。


それは私が見ても惚れ惚れするような動きで、それだけで彼がどれ程の時間をバイオリンに費やしていたのかが理解できる。


不意に、右手の動きが止まる。


代わりに、彼の背中が小さく震えていた。


窓を眺めたままで、その表情は伺い知れない。


恭介「うっ……うぅっ……」


ただ、彼の口から漏れた声で、彼が泣いているんだと察する事ができた。


真姫「―――ねえ、上条君」


そう察すると同時に、私は彼に声を掛けていた。


何時もみたいにうだうだと考えるよりも先に、自然と口が動く。


恭介「……何ですか、西木野さん?」


涙を拭い、振り返る上条君。


彼の表情はとても見覚えのあるものであった。



真姫(あの時の、私―――)


ピアノコンクールで1位が取れずに帰った日。


それでも褒めてもらえると両親に報告し、そして子どもながらに現実を知ったあの日。


全てを知り、自分の部屋に逃げ込んだ私は、見た。


鏡に映る自分の表情を。


音楽という夢を奪われた自分の表情を。


今、私の目の前にあるのは、あの時の私と同じ表情だった。




真姫「あまり、悲観的にならない方が良いわ」


恭介「え……」




気付いたら、私は励ましの言葉を吐いていた。


それは、天邪鬼な私からすれば意外なほど素直にでてきた言葉。


自分自身が一番に驚く言動であった。




真姫「大丈夫。あなたの左手は沢山のお医者さんが診てくれている」


真姫「今の医療技術は凄いんだから……きっと左手も元通りになるわよ」ニコ




かつて諦めた者から、まだ可能性の残る者への激励。


それは本心からのものだった。


今現在、医療技術はとても高度なものとなっている。


こんなにも良い病院で診て貰っているのだ。


怪我だってきっと治るに違いない。


それにパパの病院だってある。


東京でも有数の大病院であるパパの病院ならば、ここでは難しい治療だって実施することができる。




恭介「真姫さん……」


恭介「ありがとう、ございます」




彼は、そう言って微笑んだ。


嬉しそうに、少し明るい顔で笑ってくれた。


彼の笑顔に私もつられる。


私も嬉しかった。


音楽の道を進もうとしている彼に、少しでも元気が与えられた事が。


彼の道にほんの少しでも明かりを灯せたことが、


何故だか、とてもとても嬉しかった。










凛「真姫ちゃんが患者さんらしき男の子と喋ってるよ……」ヒソヒソ


花陽「本当だ。楽しそうに笑い合ってる……」ヒソヒソ




とてもじゃないが信じられない光景だった。


真姫ちゃんが、あの真姫ちゃんが男の子とあんなに楽しそうに話している。


普段のツンデレはどうしたのだ。


あの素直になれない天然のお嬢様はどこへ行ったのだ。



凛「ほ、本当に彼氏さんだったんだにゃー!」ヒソヒソ!


花陽「ホ、ホントニツキアッチャッテタノォ!?」ヒソヒソ!



隣で話し合う後輩たちの声がとても遠いものに感じる。


まるで夢の中にいるかのようだった。


ふわふわとした世界の中で、ふわふわとした時が流れる。


ただ、現実は冷酷で。


私の視界には仲睦まじく笑い合う二人の姿が映され続けていて―――私は限界を迎えた。



にこ「―――ゲフゥッ!!」


凛「あー! にこちゃんが倒れたー!」ヒソヒソ!


花陽「に、にこちゃーん!」ヒソヒソ!


凛「メディーック! メデーィック!」ヒソヒソ!


にこ「は、花陽、凛……μ'sのことは頼んだわよ……」ヒソヒソ


凛・花「に、にこちゃーん!!」ヒソヒソ


と、私達が衝撃の事実に、私たちがショックを受けている時であった。



???「あ、あのー……」


???「すみません、盛り上がってる所申し訳ないんですけど……」



何時の間にやら、私達の後ろには三人の少女がいて、


彼女達はとても見覚えのある少女たちで、



???「な・に・を・し・て・る・ん・で・す・か―――にこさん」



その中央には、額に青筋を浮かべたマミちゃんがいた―――。



少し短いですが投下終了です。
また書き溜めが出来次第投下していきます。

また読まれている方に確認したいのですが、>>27の方が言われているように改行が多いと読みにくいでしょうか?
あまりに読みにくいようなら次回から地の文の書き方を修正しようと思いますが…。
自分ではどうにも判断しにくいところなので意見を書いていただけると助かります。

乙、乙ー

特に読みづらいとは思わないけど、一行減らしてもいいんじゃねと思わなくもないかな、と
まぁでも気にせず書きやすい書き方でいいのでは?

ともかく応援してる、ガンバッテ

>>48-49
ご意見ありがとうございます。
次回からは少し調整しつつ書いていきたいと思います。
また他にも何か感じた点や分かり辛い点などありましたら、バシバシ書いていただけると幸いです。

投下していきます。





マミ「……珍しいわね。あなたが呼び出してくるなんて」


マミ「それで、何の用かしら?」


マミ「……そうね」


マミ「あれから私も考え直すところがあったわ」


マミ「本当に死を感じたのは久し振りだったから……」


マミ「何年も魔法少女を続けて、いつのまにかベテランなんて言われるようになってて……」


マミ「ふふっ、慢心っていうのは自覚ができないものなのね」


マミ「でも、あの時はあなたに助けられたわ」


マミ「礼を言うわ。ありがとう」


マミ「いやに素直? ……そうね。私も少し驚いてるわ」


マミ「気を張り続ける必要がなくなったからかしら」


マミ「―――仲間が、親友が、できたから」



マミ「あなたは、まだ一人で戦うつもり?」


マミ「……そう」


マミ「でも、これだけは言わせて」


マミ「辛くなったら、いつでも頼ってちょうだい」


マミ「あなたを警戒していた私が言うのも何だけどね」


マミ「悩みを一人で抱え続けるというのは本当に辛いことだから……」


マミ「気が向いたら、ね?」


マミ「……ええ。分かったわ」


マミ「美樹さんのことは任せてちょうだい」


マミ「最後にもう一つ? 何かしら」


マミ「……へ?」


マミ「い、いや、ちょっと意外だったから」


マミ「あなたの口からスクールアイドルなんて言葉がでてくるなんて……」


マミ「ええ、彼女は矢澤にこさん。スクールアイドルμ'sのメンバーよ」


マミ「もしかしてにこさんの唄を聞いてファンになっちゃったとか?」


マミ「今度サインをもらってきましょうか? ―――暁美さん」クスクス







それは真姫さんと知り合って数日後のある日のことだった。

退屈な授業も終わり、自由な放課後を満喫していたその時。

マミさんからある提案を受けた。


さやか「恭介と会わせて欲しい……?」

マミ「そうなの。一度どんな子なのか会ってみたくて……お願いできるかしら」


断る理由はない。

ただ疑問はある。


さやか「別にいいですけど……。どうして今になって……?」


そう、既にマミさんは恭介のことを知っている。

私の願いが恭介に関するものだということも知っている。

だが、マミさんが恭介と会いたいと言ったのはこの時が初めてだ。

何故、今更そんな風に思ったのか……私には分からなかった。


マミ「少しね……さやかさんの想い人がどんな子なのか気になっちゃって」


冗談めかしてそう言ったマミさん。

ただ、その瞳は笑ってなくて。

私はマミさんの真意が掴めずにいた。

横に立つまどかも何かを察したようで、落ち着かない様子で私とマミさんを見比べている。


さやか「……良いですよ」

さやか「……いやー、恭介のやつも羨ましいなあ! 真姫さんに続いてマミさんまで虜にするとは! 憎い奴めー!」


私はふざけるようにそう答えるしか出来なかった。

そして、私はマミさんとまどかを連れて病院へと向かい―――、


そこで発見した。





凛「真姫ちゃんが患者さんらしき男の子と喋ってるよ……」ヒソヒソ

花陽「本当だ。楽しそうに笑い合ってる……」ヒソヒソ

凛「ほ、本当に彼氏さんだったんだにゃー!」ヒソヒソ!

花陽「ホ、ホントニツキアッチャッテタノォ!?」ヒソヒソ!

にこ「―――ゲフゥッ!!」

凛「あー! にこちゃんが倒れたー!」ヒソヒソ!

花陽「に、にこちゃーん!」ヒソヒソ!

凛「メディーック! メデーィック!」ヒソヒソ!

にこ「は、花陽、凛……μ'sのことは頼んだわよ……」ヒソヒソ

凛・花「に、にこちゃーん!!」ヒソヒソ




恭介の部屋の前でふざけ合う、憧れのスクールアイドル達の姿を。

ピシリと、空気にひびが入る音が聞こえた気がした。

そろりと横を見ると、そこには引きつった笑顔を浮かべるマミさんの姿があった。



まどか「あ、あのー……」

さやか「すみません、盛り上がってる所申し訳ないんですけど……」

マミ「な・に・を・し・て・る・ん・で・す・か―――にこさん」



私達の(……というより怒ったマミさんの)存在に気付いた皆さんはびくり身体を震わせて、身を寄せ合う。



にこ「あ、あれ、マミちゃん……き、奇遇ねー……」

マミ「ホントに奇遇ですね、にこさん」

マミ「まさか後輩のお友達の病室前でにこさんがふざけあってるなんて、思ってもみませんでしたよー」アオスジピクピク

にこ「な、何だか、マミちゃん顔が怖いな~」

にこ「ほ、ほら、笑って笑って。にっこにっこにー♪」

マミ「にこさん……?」ゴゴゴ……

にこ「ひっ……!」

りんぱな「「あわわ……」」

マミ「少しお話ししましょうか」ニッコリ

にこ「ち、違うのよ、マミちゃん! この行動にはちゃんと重要な理由があって―――」アトズサリーノ

凛「わわわ、にこちゃん押さないで!」リンパナオシーノ

花陽「バ、バランスが……!」バランスクズシーノ

にこりんぱな「「「きゃあああああああああ!!」」」タオレーノ




そして、そんなマミさんから逃げるように、三人は仲良く病室へと倒れ込んだ―――。







ゆったりと時が流れる夕刻の病室。

場は静寂に包まれている。

彼の力になれたことに満足をしていた私には、その静寂すら心地よく感じる。

だが、その静寂も唐突に破られる事になる。



にこりんぱな「「「きゃあああああああああ!!」」」

真姫「ヴェェ!?」



私の感動をぶち壊しにするような形で乱入してきた三人組によって。

叫び声をあげ、折り重なって盛大に倒れ伏す三人の少女。

突然の乱入劇に、私も変な声をあげてしまう。

驚愕に目を見開きながら視線を移すと、そこには見慣れた三人の少女が。


真姫「に、にこちゃん!? それに凛と花陽も!」


にこちゃんと花陽と凛。

音乃木坂で別れた筈の三人が、目の前で倒れていた。


マミ「にこさん! ふざけてた理由、しっかりと話して貰いますからね!」

まどか「あ、あはは……」

さやか「な、何がどうなってるのやら……」


そして、にこちゃん達の後を追うように現れた三人組。

巴さんと鹿目さんとさやか。

巴さんは笑顔だが頬が怒りにピクついていて、鹿目さんとさやかは引き攣った苦笑を浮かべている。


にこ「げっ、真姫ちゃん!」


二人の上で目を回していたにこちゃんが、私に気付く。

その台詞はこちらのものだと思うのだが……。


恭介「きょ、今日は何だか賑やかだね……ハハ」


これまた引き攣った微笑みで紡がれた上条君の一言が、騒然とした場にポツリと落ちた。







―――見滝原病院 病室



真姫「はぁ!? 彼氏!?」



そして数分後、私の目の前には正座するにこちゃん達の姿が。

にこちゃんから経緯を聞いたが、頭が痛くなるような内容であった。

最近変わった様子の私を見て、彼氏ができたと勘違いをし、尾行してきたとのこと。

このにこちゃんの言葉に上条君も困ったように苦笑してしまっている。



凛「だって、真姫ちゃん浮かれてる感じだったし……」

にこ「アイドルが恋愛は禁則事項だし……」

花陽「うう、ごめんなさい……」



まったくもう、そんなに私浮かれてる様子だったかしら。

誤魔化すつもりはなかったけど、そんなに表にでていたなんて……。



マミ「だからって、病院でふざけてるのはどうかと思いますけどね」

にこ「うっ……」

マミ「にこさんは一番年上ですよね?」

にこ「そうです……」

マミ「何で、そんなにこさんが率先してこんなことをしてるんですか? 普通は止める立場じゃないんですか?」

にこ「返す言葉もございません……」



何だか巴さんは怖いし……。

というかこうして見ると、どちらが年上か分からなくなる光景だ。

にこちゃんの方が3歳も年上な筈なのに。


まどか「ま、まぁまぁ、マミさん。にこさんもμ'sや西木野さんのことを考えての行動だった訳ですし……」

さやか「そ、そうですよ! 決して悪気があった訳じゃないと思いますよ!」

にこ「そ、そうよ! アイドルの恋愛なんて公になったら本当に大変なんだから!」

凛「その通りだにゃー!」

花陽「そ、そうです!」



鹿目さんやさやかもフォローに回って、怒る巴さんを宥めている。

それに乗っかりここぞとばかりに弁解を図る凛達……やっぱり、中学生三人組の方が大人びてるわよね。



マミ「……まぁ、そこまで言うのなら……」



全員からの説得に、巴さんも折れたようであった。

瞬間、高校生三人組の表情がパァっと明るくなる。



にこ「マミちゃん、許してくれるの?」



じっと巴さんを見詰めての、にこちゃんの一言。

少し涙で瞳を潤ませ、上目づかいに巴さんを見上げている。

そこには小悪魔にこちゃんが、立っていた。


マミ「ま、まあ……その、μ'sのことを思ってていうのは本当のことみたいですし」

マミ「……こっちこそすみませんでした。私もちょっと感情的になりすぎちゃったみたいです」」


こうなれば立場は逆転したようなものだ。

私も良くやられるから分かる。

あのにこちゃんは……正直卑怯だと思う。



にこ「きゃ~、マミちゃん大好き!」

マミ「きゃっ。わわ、にこさん……」



抱き着くにこちゃんに、慌てるマミちゃん。

結果だけを見るとやっぱりにこちゃんの方が上手なのか。

何となく自分が何時もいる立ち位置を垣間見た気がする。




真姫「……で、」

真姫「誤解は解けたのよね?」



確認の問い掛け。

私と上条君は決してそんな関係ではない。

むしろそういう関係であるべきなのは、他にいる。



凛「うーん。……グレー?」

真姫「はぁっ!? 何でよ!」

凛「だって、さっきはとても良い雰囲気だったよ?」

真姫「いや、普通に悩みを聞いてただけよ!?」

凛「そんなムキになるのが余計に怪しいにゃー」ニヤニヤ

真姫「ほ、本当に違うったら!」

凛「真姫ちゃん、顔赤いにゃー」ニヤニヤ

真姫「カ、カラカワナイデ!」

花陽「凛ちゃん、あんまりからかうのは良くないよ。上条君も困ってるよ?」

恭介「あ、あはは……」

凛「あ、ごめんね、上条君……」

恭介「い、いえ、大丈夫ですよ」



からかっては来たものの、何となく凛達は気付いてくれているようであった。

一安心。変に話がこじれたら面倒ではすまなくなりそうだった。



さやか「あはは、恭介も羨ましい奴だなー。両手に花ならぬハーレム状態だよ、これ」

恭介「か、からかわないでくれよ、さやか」

さやか「お? 音楽一筋の恭介もさすがに意識しちゃうのかなあ?」

恭介「さ、さやかぁ!」



そう、上条君にはさやかがいるのだから。

笑い合う二人を見ているだけで、私も嬉しくなる。

何となく最初の時よりも二人が笑い合う様子が増えたように思う。

おそらく、元々はこういう風な関係だったのだろう。

ただ左手の怪我という出来事が、さやかにどこか遠慮を産み出し、必要以上に気を遣わせていたのだ。

確かにそれも必要なことだとは思う。

でも、それだけでは……人は悲しみに潰されてしまうのだとも思う。

こういう時だからこそ、普段通りというものが必要にもなるのだ。





真姫(……何て、ちょっと偉そうだったかしらね)フフッ



上条君と二人きりになっただけでまともに話せなくなる私が言える考えではない。

ただ、少しでも二人の力になれているのなら、それはとっても嬉しいことであった。



まどか「……あの、西木野さん」



不意に鹿目さんが声を掛けてくる。

少し緊張した様子で、何だかその様子は初めてあった時の花陽に似ていた。



真姫「どうしたの、鹿目さん」

まどか「えっと……あの……」



視線を上に下に回して、言葉を探しているようだった。

そんなにっちもさっちもいか無い状態が少し続き、



まどか「その―――ありがとうございます」



彼女は、そう言った。

やっぱりおどおどした様子で、でもその言葉を告げる時はまっすぐに私を見据えていて、言った。



まどか「さやかちゃん。上条君のこと、ずっと悩んでいたみたいで……でも、西木野さんが来てくれるようになってから、上条君が明るくなったって」

まどか「上条君だけじゃないんです! ……さやかちゃんも何だか明るくなってくれて」

まどか「いつも明るいんですけど、そうじゃなくて……やっぱり上条君のことで無理しているところがあったから……」

まどか「私じゃどうにもできないことだったから……だから―――だから、ありがとうございます!」



彼女の言葉は真っ直ぐなものだった。

私は今の鹿目さんの言葉と似た言葉を聞いた覚えがある。

確か、あの時。

夕焼けの中でさやかが私に対して放った言葉。



さやか『久し振りに見ましたよ―――恭介のあんな楽しそうな顔』

さやか『最近はずっと塞ぎ込みがちだったんです。やっぱり左手が動かないことをすごい気にしてるみたいで』

さやか『私じゃあ、どうしても一緒にいる事しかできないでいたから……』

さやか『だから、本当にありがとうございました!』



とても似ていた。

さやかが上条君に対して語ったように、鹿目さんはさやかに対して語った。

他人のことで真剣に悩み、悲しみ、喜ぶことのできる人。

と、今の鹿目さんの言葉が。

少し前、にこちゃんが巴さんとがまだぎくしゃくとしていた時。

一度、穂乃果が開こうと提案したライブを鹿目さんは断りに来てくれた。

あの時も、鹿目さんはそうだった。

ライブに行けないという巴さんの代わりに謝罪をしに来て、でも涙ながらに巴さんのことを庇っていて。

すごく、すごく―――、



真姫「あなたって、良い子なのね……」



ポツリと、本音が零れ落ちていた。



まどか「え、えええ!?」



私の言葉に顔を真っ赤にする鹿目さん。

私も自分が零した正直な言葉に、急に気恥ずかしくなる。

顔の熱が上昇するのを感じた。


真姫「ち、違うの! い、いや、違わないけど! えっと……」

真姫「その、お礼なんて良いのよ! 私だって好きでやってるだけだし!」


誤魔化しながら、私は思う。

さやかは恵まれている。

こんな友達を持っているのだ。

さやかが例え間違った道を進もうと、鹿目さんならずっと味方でいてくれる筈だ。


まどか「あ、ありがとうございます……」


あぁ、もう! 鹿目さんも真っ赤になっちゃったし……。


凛「真姫ちゃん、お熱いにゃー」ニヤニヤ


しかも、凛はまた何かニヤついてるし!


さやか「何々? まどかも真姫さんとお付き合いかなー?」

にこ「真姫ちゃんも罪な女よねー。まぁ、にこほどじゃないけどぉ?」


さやかやにこちゃんまで一緒になってくるなんて……。

ああ、本当に調子が狂いっぱなしだ。


真姫「もう、本当に……」


ただ、そんな雰囲気も悪くないと思っている自分がいる。

確かに、そんな自分がいるのだ。


にこ「……あんたはやっぱり笑顔が似合うわね」


言葉が見つからなくて押し黙っていた私に、にこちゃんが視線を向けていた。

見守るような優しげな、優しげな瞳。

その瞳に、その言葉に、上気した私の顔が更に熱くなってしまう。


真姫「な、なによ、それ!? どういう意味よ!」

にこ「もっと素直になりなさいってことよ。ほら、自分で見てみなさいよ」


そう言ってにこちゃんは手鏡を取り出して、私の方へ向けた。

確かにそこには私がいた。

にこちゃんの言う通りに、朗らかで温かい微笑みを浮かべて私が、そこにいた。


真姫「~~~~~~~ッ!!?」


今度こそ本当に私は言葉を失ってしまった。

顔が更に更に熱く火照っていくのが分かる。

そんな私の様子に皆の笑い声が重なっていく。

もう、本当に皆して意地悪なんだから。


真姫(でも、そういうのも悪くはないのかな)


多分、私は顔を赤くしながらもやっぱり笑っているのだろう。

さっきのような温かい微笑みを浮かべ続けているのだろう。

だって、それは嘘じゃない本当の感情だから。

私は笑い続けているのだろう。








それから他愛のない会話は続き、空に黒色が混じりかけてきた時、ようやく解散の流れとなった。


さやか「じゃあね、恭介。明日もまた来るから!」

真姫「私もよ。放課後、訪ねるわ」

凛「ばいばいだよ! 頑張ってね!」

花陽「今度、花陽特製のおにぎりもってくるね」

にこ「暖かくして寝なさいよー」

まどか「ばいばい、上条君」



荷物を持ち、それぞれ上条君に声をかけながら帰路へ着こうとする。


マミ「あ、そうだ」

マミ「―――ねえ、上条君。君の左手、少し見せてくれないかしら」



そんな最中のことだった。

巴さんがふと思い出したように、言った。


マミ「パワーストーンっていうのかしら? 何でも人の治癒力を高めるって噂の宝石があるの」


まるでセルースの口説き文句のような言い回しだった。

何を、と困惑する私の前で、巴さんは一つの指輪を取り出した。

黄金色の宝玉が小さく輝いた、可愛らしい指輪。

どうやら指輪についてるそれが、巴さんの言うパワーストーンであるらしい。


マミ「私の知り合いもこれで怪我が早く治ったって言っててね。ちょっと借りてきちゃったの」

マミ「まぁ、医学的な根拠は何もないんだけどね」


確かに言われてみれば不思議な宝石だ。

ママが持ってる宝石を色々と見させて貰ったことはあるが、そのどれとも違う輝きを放っている気がする。

優しげな、温もりを感じさせる輝き。

まるで巴さんの人柄を表しているかのような輝きだった。

普段はそんなオカルトじみた事をあまり信じない私だけど(希のあれは別として)、思わずこれならと感じてしまう。

それ程に不思議な雰囲気を纏っていた。


恭介「はは、面白そうですね。物は試しとも言いますし、お願いしてもいいですか?」

マミ「分かったわ。じゃあ、左手を前に出して」


かざされる宝玉。

その輝きが上条君の左手に降り注ぐ。

一秒、二秒、三秒。

時間がゆっくりと流れるが……変化は、なかった。



恭介「……駄目、みたいですね」


少し残念そうな声で呟きながら、彼は笑った。

寂しい微笑みだった。やはりほんの少しでも期待はあったのだろう。

だが、その期待が叶うことはなかった。

やはり左手は動かないままだ。


マミ「……そう、みたいね」

マミ「ごめんなさい、上条君。おかしなことをしてしまって」


巴さんは素直に謝罪し、指輪を彼の左手から下げる。

小さく溜め息を吐いたのは巴さんだけではなかった。

さやかや鹿目さん、にこちゃんまでも溜め息を吐いていた。

四人の表情は明らかに曇っている。

まるで、鼻から巴さんのオカルトアイテムを信じていたかのような……。

事態にあまり付いていけていない私と凛、花陽は顔を見合わせて、首を傾げていた。









―――真姫自宅


真姫(今日は色々と大変だったわね……)


あれから解散となり各々の家に帰った訳だが、病院から出た後も厄介の出来事が待っていた。

まず病院前や駅で待っていた穂乃果達から質問責めにあった。

私はきっぱりと否定したのだが、にこちゃんや凛がふざけて思わせぶりな回答をしたから事態が余計に拗れてしまった。

海未は顔を真っ赤にして「破廉恥です!」と説教してくるし、残りの五人は話を聞こうと目を輝かせて迫ってくるし……。


真姫(それもこれもにこちゃんのせいよ!)


私の頭には今回の騒動の主犯である矢澤にこの姿が浮かんでいた。

イタズラが発覚した子どものように舌をちょっぴりとだし、小悪魔な笑みを浮かべている。

私の頭の中だというのに小生意気な態度である。


真姫(もう~~~~~!)


両手を振るい、頭の中のにこちゃんの姿をかき消す。

苛立ちに任せてベッドへ倒れ込んで、目を瞑った。


にこちゃんの代わりに脳裏に描かれるのは、寂しげにベッドで佇む少年の姿であった。

上条恭介。

私と同じ表情をしていた少年。


真姫(少しでも……力になれたのかしら)


あの表情を見た時、私は彼を励ましていた。

何も考えずに、気付けばあんな言葉を発していた。

多分、あれは私の本心からの言葉であったから。

だから、私は恥ずかしがる事も、躊躇う事もなく、あの言葉を掛けることができたのだ。


真姫(あ……)


ふと、見える。

視界の端にある姿見。そこに映る私自身の表情。

十年前、悲しみの表情を映していたそこに、今は優しげに微笑む私の姿がある。


真姫「ふふっ……」


嬉しかった。

彼の力に―――昔の自分と同じ表情をしていた彼の力に、少しでもなれたのなら。

それはとても、とても嬉しい事であった。


真姫父「真姫……入っても良いかい?」


私が充実感に微笑み続けていると、不意にコンコンと扉が鳴った。

ノックと共に聞こえたのはパパの声。


真姫「だ、大丈夫よ!」


私は慌ててゆるんだ表情を戻し、ベッドに腰掛けるように体勢を変えた。

ま、まさかパパが帰ってきていたなんて。

病院の激務で家にいない事が殆どなのに……。


真姫父「入るよ」

真姫「どうかしたの、パパ?」

真姫父「何でもないよ……すこし時間ができたから帰って来ただけさ」

真姫「そ、そうなの……」


パパのその言葉に、私は純粋に嬉しいと感じた。

いつも仕事ばかりを優先していたパパが、私と話をするために帰ってきてくれるなんて。

やっぱりμ'sの事で対立したのが大きかったのだろうか。



真姫父「……上条君の様子はどうだい? 仲良くなれたかな?」

真姫「ふふっ、聞いてよパパ。私、彼の力になることができたのよ!」


そう思うと、私も普段よりずっと饒舌になっていた。

今日の出来事を、パパへ話す。

彼の力になれたこと、彼を励ますことができたこと。

彼だけじゃない。さやかや鹿目さん、色々な人の力になれていることを。

私はパパに語っていた。

それは多分、初めてのことだったと思う。

私は嬉しかった。

私の日常をパパに語るなんて、そんな日が来るなんて思ってもいなかったから。

だから、私は嬉しかった。

嬉しくて、嬉しくて、仕方がなかったから―――だから、気付けなかった。

私の言葉を聞くにつれて、暗く沈んでいくパパの表情に。



真姫「それでね! 酷いのよ、にこちゃんったら―――」

真姫父「……真姫。少し話をしても良いかな」


私の話を遮るように語りだしたパパの表情に、

その痛みを耐えるような表情に、

気が付くことができなかった。


真姫「あっ、ごめんなさい。私、自分のことばかり話しちゃって」

真姫父「いや、良いんだ。久し振りにお前の事を聞けて嬉しかったよ」

真姫父「ただな…………」


パパはそこまで言って、口を閉ざしてしまう。

何かを躊躇うように視線が揺れていた。

その様子に私もパパが先程までと違う事に気付いた。



真姫「パパ……?」

真姫父「真姫、聞いてくれ。上条君なんだが―――」



そして、私は知る事になる。




真姫父「―――彼の左手はもう二度と動かないんだ」




冷酷で、冷徹な現実を。


思考が、止まる。

パパが何を言っているのか、直ぐに理解する事ができなかった。




真姫父「彼の左手が治らないと知ったのは今日のことだ。あちらの医師から相談を受けてね」

真姫父「頼まれたよ、何か別の治療方法はありませんか、もしあれば教えて頂けないかと」

真姫父「その時、彼のカルテを診させて貰った。……正直に言って、もう出来るだけの治療は実行されていた」




何、を。

何を言っているのだろうか、パパは。




真姫父「例えうちの病院に来たところで、やれることに変わりはなかった」

真姫父「現時点の医学で、これ以上彼にしてやれる事はない」




してやれる事は、ない?

誰に、何を?

だって、彼は頑張って治療を受けて、必死にリハビリをしているんだ。

あんなに……あんなに頑張って。

それが、治らない?



真姫「嘘……でしょ?」

真姫「笑えないわ、パパ……そんな冗談……」



縋るような私の言葉。

パパは首を横に振るだけだった。



真姫父「……すまない」

真姫父「こうなると……上条君に治る見込みがないのだと知っていれば、お前を彼に会わせる事はなかった」

真姫父「こんにも辛い事を、お前に背負わせるつもりはなかった……本当にすまない、真姫」




彼はあんなにも頑張り、あんなにも望んでいるのに。

さやかがあんなにも願って、あんなにも祈っているのに。



真姫「嘘よ……嘘……」



彼の左手は、動かない―――。



投下終了です。
かよちん誕生日にSS書いてたら更新が遅くなってしまいました…。
また書き溜めできしだい投下していきます。

投下します。





私は悩んでいた。


おそらくあの場で、ただ一人気付いてしまったから。


真実に……彼に待ち受ける現実に、気付いてしまったから。


あの後、私は直ぐに鹿目さんや美樹さんと別れてしまった。


あれ以上、彼女達の顔を見ている事ができなかった。


今日の出来事を楽しげに話す彼女たちの表情を。



マミ(……どうすれば良いのかしらね……)



目的地がある訳でもなく、ぼんやりと街を歩き続ける。


今の思考と同じだ。


どうしよう、どうしようと同じ場所をぐるぐると回り続けている思考。


出口のない迷路に迷い込んでしまったかのような気分だ。


今日、私は初めて上条恭介君の所へ行った。


彼のことを知りたかったからだ。


美樹さんの想い人、美樹さんが願いを使おうとしている人物。


私には責任がある。


美樹さんに願いの存在を教えてしまった者として、


美樹さんに魔法少女という道を教えてしまった者として、


果たさねばならない責任が。


だから、彼と会った。


出会い、彼を知ろうとした。


そして、知った……知ってしまった。




マミ(彼の左手は……)


その残酷な現実を。


魔法による治癒ですらほんのわずかな快方すら見えなかった事実。


それが意味する事は一つ。


彼の左腕が治らない、彼の左腕は一生動かないということ。


おそらく上条君自身も、美樹さんも知らないであろう現実を、私は知ってしまった。


マミ(話すべき、なのかしらね……)


事実を正直に伝え、美樹さんがどのような行動に出るかは目に見えている。


他者の為の願い。


それはとても崇高で高尚なものなのかもしれない。


ただ、それはある意味では呪いのように願望者へ纏わりつく。


私は、知っている。


他者のために願った少女を。


その少女が行き着いた先を。


あの悲劇を。


知っている。



マミ(私は……)



願いの代償はそれだけではない。


魔法少女として戦い続けなければいけない宿命。


確かに、彼女達を魔法少女に誘ったのは私だ。


願いを叶える権利を持ちつつ、それを知らないのは不平等だと、彼女達にその道を教えてしまった。


穏やかな日常を送る彼女達に、非日常の世界を教えてしまった。


それが危険だと知っていながら、過酷な日々だと知っていながら、教えてしまったのだ。


頭では理解しているつもりだった。


体験コースと称して魔法少女の危険性を見せることで、それで彼女達に選択の自由を与えていたつもりだった。


だが、違う。


私自身が忘れていたから。


そんなつもりはなくとも、忘れてしまっていたから。


魔女との戦いがどれほど危険なものかを、忘れてしまっていたから。


数年の中で培ってきた経験が薄れさせていた。


命懸けという言葉の重さを。


その本当の意味を。


自分でも気付かない内に、忘れかけていた。


マミ(あの時、私は思い出した……)



お菓子の魔女との戦い。


油断と焦燥により、私は死の寸前まで追い詰められた。


いや、私は死んでいたのだろう。


あの時、あの戦いに向かう直前で彼女の言葉を聞いていなければ、


あの時、彼女が彼女の唄を歌ってくれていなければ、


私は、死んでいた。


マミ(魔女との戦いの恐怖……死の恐怖を、思い出した……)


私には責任がある。


鹿目さんと美樹さん。


二人の少女に魔法少女という選択肢を与えてしまった責任が。


本当の恐怖を忘れていながら、上辺だけの経験を積ませて、彼女達を勧誘したのだ。


彼女達のことを想って―――ではない。


その根幹にあった本当の願いに、私は気付いてしまっている。


マミ(私のエゴに……彼女達を、巻き込んでしまった……)


孤独が嫌だから、一人が嫌だから。


私は、彼女達を誘ってしまったのだ。


醜い心が生んだ、弱い心が生んだ、最低の願い。


それに彼女達を巻き込んでしまった。


嫌と言う程に知っていた筈なのに。


魔法少女が背負う過酷な運命を。


知っていた筈なのに、私は自分の願いを優先させてしまっていた。


マミ(けじめを付けなくちゃ、いけない……)


死の恐怖を思い出した今、以前と同じように彼女達を勧誘することなどできやしない。


だから、私は彼と出会った。


治せるのならばと、本来使うべきでない魔法を使った。


結果、私は知った。


魔法ですら覆せぬ現実を知ってしまった。


この現実を覆す方法は、一つだけだ。


奇跡。


戦いの運命を代償にして叶える事の出来る、たった一度の奇跡しかない。


マミ(美樹さんが上条君の左手の事を知れば、おそらく彼女は……)


その場面に出くわせば、美樹さんは迷わないだろう。


彼女は彼を慕い、自身の身以上に大切だと想っているから。


私にとっての鹿目さんや美樹さん、にこさんのように。


だから、彼女は迷わない筈だ。


それしか方法がないのなら、その方法を選択してしまう。


それが間違いとは言えない。


ただ、彼女は知らない。


いいや、知らないだけならまだ良い。


彼女は知ったつもりでいてしまっているはずだ。


私との魔法少女体験コースで知ったと思い込んでいるはずだ。


本当の恐怖も、本当の過酷さも知らないのに……知ったものと思い込んでいる。


それはある意味で、何も知らないということよりも厄介である。



マミ(私はどうすれば良いの……?)



結局、思考はそこに行き着く。

上条君のことを、美樹さんに伝えるべきなのか。


もし伝えたとして、私は何を彼女に言うべきなのか。


魔法少女になるのは止めなさいとでも言うのか。


私が引き込んだ道で、私自身が真っ先に裏切るのか。


希望を教え、奇跡を教え、それでいて、その選択を否定するのか。


それこそ、私のエゴではないのか。


マミ(私は……)


どれだけ歩いたのだろうか。


既に周囲は暗くなっている。


溜め息を一つ零して、私は自宅へと足先を向けた。


結局、考えは何一つとして纏まりはしなかった。


思考はグルグルと堂々巡りを続け、時間がいたずらに過ぎただけだ。


それから数分かけて自宅へと辿り着き、エレベータに揺られて上階へ行く。



???「遅いわよ。マミちゃん」


???「もう……どれだけ待ったと思ってるのよ?」



そして、エレベーターから降りたその時だった。


私の部屋の前。


そこに一人の少女が立っていた。


マミ「にこ、さん……?」



矢澤にこさん。


ずっと前に別れた筈の少女が、そこに立っていた。







マミ「にこ、さん……?」



現れたマミちゃんの顔を見て私は思った。


やっぱり、と。


憔悴した表情。顔は暗く歪んでいる。



にこ「全く分かり易すぎるのよ、あんたはもう……」


にこ「何かあったんでしょう? 話してみなさいよ」



あの時。


皆が帰ろうとした寸前で上条君の手を治療しようとしたマミちゃん。


魔法による治療は失敗に終わった。


そして、その時からマミちゃんの表情が変わった。


微笑んでいても、それは無理に創ったものにしか見えなくて。


だから、私は彼女の帰りを待っていた。


彼女から話を聞きたくて、


彼女の力になりたくて、


待ち続けていた。



マミ「どうして……」


にこ「なに言ってるのよ。当たり前でしょう」


にこ「マミちゃんが悩んでいるのなら力になる。マミちゃんが苦しんでいるのなら力になる」


にこ「にこは―――マミちゃんの親友なんだから」



親友。


そう、私達はそうだ。


一度は互いに拒絶し、離れかけた絆。


でも、それは皆に助けられて再び結ばれて。


私達は、ここにいる。

マミ「にこさん……」


マミ「……私ね、知っちゃったの……」



そして、マミちゃんは語りだす。


冷酷で無慈悲な現実を。


上条君の左手が二度と動かないんだということを、語った。




マミ「私……私、どうすればいいんだろう……」


マミ「このままじゃ……美樹さんが魔法少女になっちゃう……」


マミ「私が教えて……私が誘って……私が勘違いをさせて……」


マミ「美樹さんが……美樹さんが、魔法少女になっちゃうよお……」




マミちゃんは悩んでいた。


さやかに魔法少女の道を教えた事を。


自分と同じ苦しみを彼女に与えてしまう事を。


マミちゃんは苦悩していた。


私にもどうすれば良いのか分からなかった。


さやかの願い。


上条君の左手を治すという願い。


その願いを否定するということは、上条君の音楽への道を閉ざしてしまうことと同等だ。


だが、それを否定しなければさやかは魔法少女となってしまう。


目の前の少女と同様の道を、


辛く、苦しく、命懸けの日々を、背負わせてしまう。


どちらが正しい事なのか、分からない。


いや、きっとこの選択に正解などないのだろう。


だからこそ、私は何も言えなくなってしまう。


マミちゃんの苦しみを取り除いてあげることができない。



にこ「マミちゃん……」



でも、


でも、それでも



にこ「―――一人で背負わなくてもいいの」


にこ「さやかのことは、私にも責任があるから」




悪いのは、彼女だけじゃない。



マミ「え……? ど、どうして……」


にこ「二年前の約束……覚えてる?」


マミ「はい……忘れたことなんてありません」


にこ「私は言ったわ。私はスーパーアイドルになって、マミちゃんは仲間をつくって、また再会しようと」


にこ「それはマミちゃんに強いることになっていた……仲間をつくることを」


にこ「マミちゃんに思い込ませていた。仲間をつくらなければいけないのだと……」


マミ「そんなこと……!」


にこ「ううん。少なからずマミちゃんは感じていた筈よ。
   だからこそ、私達は再会することを避けてしまっていたんだから……」


マミ「それは……」



二年前の約束。


私達の楔となっていた出来事。


解決したと思っていた。


こうして二人で笑い合えるようになったのだから、


だから、解決したのだと思っていた。


でも、違う。


楔は確かに存在した。


その楔は今、巡り巡って美樹さやかに突き刺さろうとしているのだ。



にこ「一人で悩まなくていいの……その責任は私にもあるんだから」


マミ「にこさん……」



どうすれば良いのかなんて分からない。


だから、二人で悩み合うのだ。


少しでも良い未来へと転じるように、二人で。



陽が落ちた世界で、私達は過去の責任と再び対峙する―――、










パパから上条君のことを知らされた次の日。



私は学校には行かなかった。



何をする気にもならなかった。


布団にくるまり、ただひたすらに思い出す。



真姫父『―――彼の左手はもう二度と動かないんだ』



パパの言葉を、



真姫『今の医療技術は凄いんだから……きっと左手も元通りになるわよ』



そして、私自身の言葉を。



真姫(……最低よ……)



現実を知った今となれば無責任でしかない一言だった。


治らない彼に、きっと治ると励ました。


絶望が待ち受ける彼に、まやかしの希望を与えてしまった。



パパは言っていた。


明日にでも彼に告知をするつもりだと。


昨日の時点での明日……つまり今日には告げるつもりだという。


君の左手は動かないんだと、


一生バイオリンを弾くことはできないんだと、


上条君に告げるという。



真姫(私は……何で……)



彼は現実を知る。


知って、彼は絶望するだろう。


二度とバイオリンを握れぬ体に。


知って、彼は悲観するだろう。


これからの未来に。


音楽のない未来に。


絶望し、悲観し、それから何分もの時間が経ったのちに、ふと思い出すのだ。


何故、西木野真姫はあんなことを言ったのだろうかと。


必ず治ると、悲観的になるなと言ったのに。


なのに、治らなかった。


治らなかったじゃないか、と。


無責任に、何も知らないくせに適当なことを言いやがって、と。


彼は憤怒するだろう。



真姫(違う……違うの、私は……!)



私は彼を傷つけたかった訳ではない。


力になりたかったのだ。


絶望しようとしていた彼に、少しでも力になればと、声をかけたのだ。


それが、それがこんなことになるなんて、知らなかったの!



真姫(ごめん、なさい……ごめんなさい……ごめんなさい……)ポロポロ



涙が溢れだす。


もうどれだけ泣いたかも分からない。


布団は涙で濡れてしまっている。



真姫(上条君……さやか……)ポロポロ



ただ申し訳なくて、申し訳なくて。


謝りたくて、でも二人の前にいく勇気がなくて。


私は、私は。


真姫(ごめん、なさい……)




嗚咽だけが響き渡る部屋。


泣き続けて、泣き続けて、どれくらいの時間が経ったのだろうか。



???『真姫、真姫―――』



ふと、声が聞こえた。


甲高い少年のような声。聞き覚えのないものだった。


驚き、周囲を見渡すが、人の気配はない。



真姫(空耳……?)


???『真姫、真姫、聞こえているんだろう?』


真姫(ッ、違う……確かに聞こえる……)



今の時間はパパもママも仕事にでかけてしまっている。


お手伝いさんももう帰ってる時間だ。


家は無人。なのに声だけが聞こえる。



真姫(何、あれ―――?)



部屋の中を注意深く見渡し続け、私は気付く。


陽の光を遮るカーテン。


そこに映る影の存在に。


猫のようなシルエットをしてそれ。


ゴクリと唾を飲み込み、カーテンへと手を掛ける。


意を決して、思いっきりカーテンを開き―――そして、見た。



???『やあ、西木野真姫。初めましてだね』



純白の毛並みに赤色の瞳。


シルエット通りにネコやイヌのような……でも、確実にそれらとは違う特異な外見。




キュゥべえ『僕はキュゥべえ。ねえ、西木野真姫―――』




それは告げた。


口を動かさず、頭の中に直接。




キュゥべえ『―――僕と契約して魔法少女になってよ』



その問いを、告げた。


そして、私は知ったのだ。


この世の理の外に在る存在を。


上条君を救う事のできる存在を。


奇跡の存在を、知ってしまった―――。



投下終了。また書きダメができ次第投下していきます

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