子供「へんなの……でも、なんかおもしろそう」パタン
子供「いえにかえってよもーっと」タタタ
勇者「ありゃ? ここらへんに確か……」
魔法「勇者? そろそろ宿探さないと危ないよ?」
僧侶「そうですよ勇者さん。この辺は昼間は低レベル帯の魔物しか出ませんが、日が暮れてくるとドラゴンなどの終盤に出てくる魔物が」
戦士「あーくどくどうるせえ……僧侶はもう少し短く喋れねえの?」
僧侶「これでも簡潔に端的に説明しているつもりですが」
勇者「悪い悪い喧嘩すんなっつの! さっさと近くの村で宿見つけようぜ」
ーー
勇者「はあ……近くにないもんだなあ」
勇者「レベル上げだからと言って少し先走り過ぎたかな」
勇者(しかし……やっぱりパーティ組みは失敗だったな)
勇者(確かにそれぞれ素質はあるが、噛み合わないし)
勇者(んまあいいか……くく、顔も身体もいい感じの女がちょうど取れた)
勇者(特に魔法。他のパーティに取られそうなとこだったが、マスターに脅しかけた甲斐は十分だ)
勇者(……今晩くらい、誰か股開かねえかな……)
勇者(……そういや、誰の声も聞こえないな。ハァ、また迷子か?)
勇者「おーい? みんな?」クルッ
グルルルル…
勇者「ーーは?」
・・・・・・・・
一一それから、十数年一一
男「んー、魔物のネタも尽きたな。でもまだまだ経験値を上げられる余地が……」
コンコン
男「……どうぞ」パタン
ガチャッ
女兵士「失礼します。男さんでしょうか?」
男「はあ、そうですが」
女兵士「国王陛下から貴方を召集せよとの命を受けて参りました。今すぐご同行願います」
男「!?」ガタッ
女兵士「不都合があればお聞きしますが」
男「えっ……あー、いや、特に」
女兵士「準備ができ次第出発します。外に馬車をご用意していますので、どうか」
男「はい、はい。わかりましたから」
女兵士「では、お願いします」バタン
男「こ、国王って……とりあえず急がなきゃ」
――馬車内にて
ガタン ゴロゴロゴロ…ガタッ
男(――物の良し悪しなんて分からないと思っていたけれど……ここまで豪華に装飾されると、流石に分かるな)
男(この椅子もフカフカだし……悪い話をされる訳ではなさそうだ)
男(それにしても城は遠いな。もう2時間は経った気がする……日も暮れてしまいそうだ)
男(あと特筆すべきことは……この人くらいか)
女兵士「…………」
男(俺が呼ばれた兵士、しかも綺麗な女性だ)
男(流石に緊張するな……兵士としても、女性としても)
女兵士「……何か?」
男「い、いえ。すみません、ジロジロと見てしまって」
女兵士「……そうですか」
男(声色は冷たい。兵士という職業だからかもしれないが、語調は丁寧でも刺々しい感じだ)
男(会話とか、しにくくなっちゃったな……)
男(仕方ない、寝てるフリでも決め込んで時間を……ん?)
ヒヒーン ザワ ザワザワ
男(馬車が止まった? それに外がうるさい……のはこれが目立つからか……)
女兵士「着きました。お降りください」
男「は、はい」
男(出づらい……)
――城内、謁見の間
男「お、男と申します」
国王「うむ、よく来てくれた。まあ好きにかけてくれ」
男「はい……」
男(絵や本に書かれているようなきらびやかな部屋に、これまた見たことのある感じの王様)
男(ここも自分の住む国だというのに、異邦人の気分だ……)
男(ダメだ。目移りとかしてる場合じゃない)
男「本日はどんなご用でしょうか」
国王「そう固くならないでくれ。茶でもいかがかな。近頃の我が国の特産でもあるんだ」
男「は、はあ。頂きます」
男(とりあえず机の上のカップに手をかけてみる。大方これもきっと名器なんだろう)
男(味とか香りとかに浸る余裕なんかない。ただ喉を通る温度を感じるだけ)
男(……無理。いくら状況を整理したって落ち着かないものは落ち着かない)
男「す、すみません。早く本題を……」
国王「……済まない、私も少し言いづらいことでね」
国王「では単刀直入に言おう。男よ、君に
――『ぼうけんのしょ』を持ち出した君に、魔王を滅ぼして欲しい。
男(宿題を提出していないのがばれた気持ち。×2000くらいの後悔を私は覚えた……と)カリカリ
女兵士「書けたか、泥棒勇者」
男「その呼び方やめてくれませんかね……」
女兵士「早く記して仲間の募集を出しに行くんだコソ泥勇者。王国からは何の支援もせんぞ」
男「はい……」
男(……結局、罪の意識の合った自分は勇者になることを受け、こうして『ぼうけんのしょ』に1日を記録している)
男(妙な縁を感じていたこの女兵士は勇者に同行し、『ぼうけんのしょ』に嘘の記述をしないよう監視役兼パーティの一員として参加することになった)
女兵士「気持ち悪い」
男「妙な縁は妙な縁ですからね。あと監視は分かりますけど内容に口出しはしないでください」
男(そもそも盗んだのだって出来心だったんだ。しかも子供の頃の)
男(……価値に気づいてからは周りにこそこそ隠していたけれど)
男(しかも嘘八百全部書いて経験値貯めまくりのチート人生送ってたけれど)
男(……そんな自分でも、勇者にするしかなかったのは国王も辛いところだったんだろう)
男(『ぼうけんのしょ』には勇者の血筋しか記録をすることはできないはずであり、一般人には触ることすら出来ない物なのだ)
男(もちろんそれは国王も同じ。だから書に干渉できないのなら書き手に抑制をかけるのみ……そういう考えなのだろう)カリカリ
女兵士「邪推だな。あと陛下をつけろコソ泥」
男「勇者も付けてください」
女兵士「全く。大事な『ぼうかんのしょ』にこんなキモ文体の日記を書きおって」
男「だから口出しはやめてくださいって!」
男(……ともかく、今まではデタラメばかりだったけど、ここからは全て本当に勇者としてこの書に記していこうと思う)
男(前途は多難だし、やることも良く分からないが……とりあえず頑張ろうと思った)
女兵士「小学生か」
男(付き人は口うるさいがこれもその内慣れるんだろうか)
男(とりあえず明日からの英気を養うためにもここで筆を置こうと思う)
男(……大丈夫かなあ)
パタン
男「ところで、です」
女騎士「なんだ?」
男「前勇者が死んでからわりと経ってますけど、魔王音沙汰無さすぎませんか」
女騎士「ああ、言ってなかったか」
女騎士「お前には魔王の生存確認もしてもらわなきゃならん」
男「はあ……死んでたらいいなあ」
女騎士「全くもって良くない。魔界の秩序の乱れはこちらの世界との境界が」
男「わ、わかりましたから。とりあえずやることやれってことですね」
女騎士「そんなことより……お前はすごいな」
男「はい?」
女騎士「募集をかけてから一週間。誰ひとりとして来ないじゃないか」
男「そりゃあまあ王国から援助してもらわなきゃ報酬とかも出せませんし」
女騎士「金で釣ろうがろくな奴は来ない」
男「ごもっともで……」
女騎士「お前……余程この町で信用がないんだな」
男「実力も上塗りだとバレましたから……」
女騎士「自業自得だ。しかし、このままじゃ街から出られんぞ」
男「探しに行きましょうかねえ……どの面下げてって感じですけど」
女騎士「ん、よくぞ言った」バスッ
男「……なんですか、この分厚いの」
女騎士「お前が昨晩頭をすっからかんにして寝ている間にまとめた、王国内の強者たちのリストだ」
男「騎士さん……有能ですね」
女騎士「お前から認められんでも国から認められてるわ馬鹿者」
男「字が綺麗ですね」パラパラ
女騎士「ふん、昔からだ。それがどうかしたか」
男「とても見やすいです」
女騎士「もうせんからな」
男「事務系の方よろしくお願いします」
女騎士「暇があればな」
男(ちょろい)
女騎士「じゃあ行ってこい」
男「え、俺一人ですか」
女騎士「当たり前だ。することはしただろう」
男「いやだから俺の唯一の汚点全部みんなもれちゃってて」
女騎士「お前のパーティだろう。全てお前の責任だ」
男「……行ってきます」
男(といっても、捕まりっこないよなあ)
男(王国内ということで調べて貰ったけれど……この国も広い)
男(馬であれだけの時間が掛かったし、この近辺、できればこの街の近くで済ませたいな)
男(……といったら俺も顔が殆ど知れている)
男(このリストをちらっと見ても、この街にの欄には知ってる顔ばっかだし)
男(……あれ。誰だこの子)
男(職業は……ウェイトレス? なんだそりゃ)
男(元王国直属の魔法使いで現在はこの町の酒場の従業員)
男「……酒場なのにウェイトレス?」
「この街喫茶店とかないんだもの」
男「いやあるよ。ちょっと入り組んでるけど奥に」
「マジなのそれ。やっぱ勇者に着いてくのやめようかな」
男「あー嘘です一応強そうなんでキープ……え」
「キープってなによ。男ならボトルぐらい飲みきりなさいよ」
男「……お、お名前をどうぞ」
魔導「お探しの通りの魔導ですよ。折角会いに行こうとしたのに待たないからー」
男「あ、あー……とりあえず俺んち来ます?」
魔導「変な言い方すんな。面接するんでしょ」
男「初対面なのに馴れ馴れしい人苦手……ほんと苦手……」
魔導「ほれさっさと連れてけ! あたし方向音痴なの!」
女騎士「ほう。なかなか上物を捕まえてきたもんだ」
魔導「あらどうも。あたしのこと知ってるの?」
女騎士「我が国のお抱え魔導師ともあれば、名と顔ぐらいはな」
魔導「光栄よ。辞めた身でも覚えてくれてるなんて」
女騎士「ウェイトレスの服がそんなに似合わんとは検討もつかなかったが」
魔導「喧嘩売られちゃったわ勇者くん、買うべき?」
男「じっとしててもらえませんかね」
男(……ともかく、魔法要員は確保。あとは回復役が欲しいものだが)
女騎士「泥棒」
男「な、なんでしょう」
女騎士「パーティメンバーを集め始めてからもう随分時間が経っている。そろそろ出発しなければ」
男「まだひとり足りませんが」
女騎士「それ。待っている時間はないと言っているんだ。まさかここまで時間がかかるとは思っていなかった」
男「何も言えない」
魔導「まあ、3人でもたぶんこの近辺の魔物くらいなら倒せるでしょ。魔王の元へ向かう途中で探しても遅くはないし」
女騎士「ああ」
男「僕からは何も言うことありません」
魔導「んでもでも」
男「ん?」
魔導「勇者くんはともかく、そこの騎士さんは急ぐ理由がおありのようで?」
女騎士「別に。何の成果ももないままここにいるのは偲びないというだけだ」
魔導「嘘だね」
男「え、ええーとぉ」
女騎士「……」
魔導「客から聞いたよ。あんた国から追い出されるみたいにして、勇者くんとこに駆り出されたんでしょ」
女騎士「馬鹿な。何を根拠に」
魔導「あたしもちゃーんとあんたのこと覚えてるよ。七光りだのお偉いにしっぽ振っただの、有名だったじゃん」
女騎士「……貴様」
男「ちょ、あの、やめてください?」
魔導「別にあんたに恨みがある訳じゃないけどさ。あんた、実際なんでこいつらと旅なんかって思ってるでしょ」
女騎士「黙れ」
魔導「その見下した感じが昔からいけ好かなかったんだよ。実力もなく上に付け入って成り上がった癖に」
女騎士「黙れ!」
男「いや、ほんと、ご近所に迷惑が……」
魔導「焦ってるんだろ? 早く手柄を立てないと自分の立場が国になくなるって」
女騎士「……辞めた人間に、何がわかる」
魔導「わからないから辞めたんだよ。そんな気持ちならあんたはこの魔王討伐パーティにはいらな」
男「やめろっつってるだろ!!!」
女騎士・魔導「!」
男「騎士さん」
女騎士「……なんだ」
男「別に俺の事とかどんな風に思ってるとか気にしてません。けど、俺にはあなたが必要ですから。どうか居てください」
女騎士「……」
男「魔導さん。あなたが俺より騎士さんのことを知ってるのはわかりました。けど、このパーティのことを決めるのは勇者である俺の責任です」
魔導「……あ、そ」
男「これからは何かあるんだったらまず俺に言ってください。外野にされるのは、嫌いなんで」
女騎士「……了解した」
魔導「ん、りょーかい」
男「今から出発の準備をします。1時間後にまたここに来てください。……では」バタン
男「……はあ」
男(俺の責任、だよなぁ……。しっかりしなきゃなのはわかるんだけど)
男(そんなことより荷造りだ。馬車を買う余裕はないし、なるべく最低限のものを……)ブツブツ
ドンッ
男「おっ、と」
「失礼、先を急ぐ」
ヒュッ パスッ タッタッタッ…
男「あ、ごめんなさ……あれ?」
――
ダッダッダッダッ バタンッ!
男「騎士さん! 魔導さん!」
魔導「勇者くん……お取り込み中なの、わからないかなぁ……」
女騎士「いや待て。その様子だ、何かあったんだろう?」
男「そ、その……」
魔導「はぁ、せっかくふたりで仲直りしてたのに……で、なによ」
男「そ、その……言いづらいんですけど」
「『ぼうけんのしょ』、スられました」
《ここまでのたびをぼうけんのしょにきろくしますか?》
「しません」パタン
「私は認めませんよ……あの人が勇者なんて絶対に」
――
魔導「き、騎士ちゃーん? もうそろそろ許してあげたらどーお?」
男「」ギチギチ
女騎士「ええ!? 何だお前は! 盗人の癖に管理が甘いって!?」ギュィィ
男「いだだだだだ!!」ギチチチッ
魔導「あーあー綺麗な結び目だこと……じゃなくてね?」
魔導「怒るのは後、早くその盗んだ奴を探さなきゃ」
男「そ、そうですよ! もう辺りも暗くなってきちゃったし、早く探さないだだだだぁ!!?」ギチチチッ
女騎士「お前が言うなっ! 全く……」パスッ
男「ハァ、ハァ……助かった」
女騎士「では、そいつの人相や背格好、見覚えは?」
男「あ、ああ。俺より一回り小さいぐらいの短い金髪。性別はよく分かりませんでしたけど」
男「見覚えは……あるような、ないような」
魔導「いいわ。そのくらい絞れれば十分よ、探しましょう」
女騎士「街の外に出ている可能性は?」
男「この街の周りのモンスターは夜になると昼間より断然強くなるんで、たぶんありません」
魔導「余程の手練でない限りは、ね」
男「そ、そうだ! 王国に伝えて、捜索を!」
女騎士「……それは」
魔導「あたしはいいけど、あなたたち二人の立場が無いわねえ」
男「あ……す、すみません」
魔導(よくもまあ、さっき話したばっかのことを。見直したと思ったらねえ)
女騎士「そんなことはいい。早く街中を探そう」
男「わ、わかりました」
魔導「じゃ、あたしは酒場の仲間に聞いてみるね。無闇に探してもまた迷っちゃうし」
男「お願いします」
――
男(――ダメだ。わかる場所は見たし、完全に日が落ちてしまった)
男(街を出ていたとしたら……万事休すだな)
男「もう一度見て回ろう」
――踵を返そうと右足を踏み込んだその時、首筋に鋭い光を感じた。
視線を下に向けると、視界に入るのは大きめのローブから伸びた細い腕。その次に、透き通った液体の滴るナイフ。
「動くな」
その毒ナイフのように温度を持たない鋭い声で、俺は余儀なく静止をさせられた。
男「ッ!?」
背後を取られ、右腕の自由を奪われた。
男(う、嘘だろ? 足音も気配もまるで……)
「貴様が勇者、だろう」
男(……間違いない、『ぼうけんのしょ』を盗んだ奴だ)
男(ここで嘘をついてもしょうがない)
男「……ああ」
「これは本当に『ぼうけんのしょ』なのか?」
男「! それを返せ!」
「動くなと言ったはずだ」
男「ッ……くそ」
男(完全に背後を取られてる。このままじゃ、こいつの言いなりだ)
「本当の事を言え。これは偽物だろう?」
男「いいや、間違いなく本物だ」
「とぼけるな!! ならばなぜ記録ができない!!」
男「決まってる。それには勇者か王か、教会の者にしか記録はできない」
「!?」
「ど、どういうことですか……?」
男(? 口調が……)
男「だから、勇者か王か教会の者……例えば、神父とか僧侶とかにしか『ぼうけんのしょ』には記録できないんだよ」
男(今だになぜ俺が持ち出したり書けたりしたかは分かんないけど)
「そ、そんな……。わ、私は……」
男(……こいつの声、背格好、口調……やっぱり覚えが)
男(いやそんなことより動揺に乗じて逃げられるチャンスだ。こっそりナイフの届かないところへ……)ゴソゴソ
「! 動くなと言っています!」キッ
男(!? マズッ……!)
女騎士「――貴様が動くな」ジャキッ
「なっ……!?」
俺の背後を取ったローブ野郎の、更にその背後から槍を突きつけたのは女騎士だった。
どうやら俺のことを着けていたらしい。
女騎士「全く、つくづく不注意な奴だな……こいつも同じだが」
「……なぜ私が勇者を狙っていると気づいたのですか」
女騎士「『ぼうけんのしょ』に関係者以外が記録できないことは私にだって分かる」
女騎士「ならば、書に書こうとした奴がこの泥棒勇者に話を聞く道理も分かる」
「くっ……でもこちらには勇者の首が!」
男(! 今だ!)
彼、いや《彼女》の意識がこちらに向く前に、毒の刃が首筋にかかる前に。俺はしゃがみこんで奴の腕から抜けた。そのままくるりと身を翻し、右足で軸足を刈ってやれば――。
男「重心移動の甘いお前はすぐ転ぶんだ――なあ、《僧侶》っ!」
僧侶「ぐっ! うああっ!?」
コテーン
女騎士「ん、見事……で、知り合いか?」
男「昔の訓練相手ですよ。おい、立てって僧侶」
僧侶「」
女騎士「……気絶しているな」
男「えっ」
――
僧侶「」ギチギチ
男「おい、そろそろ答えろよ。見るの辛いんだけど」ツンツン
僧侶「突くな変態。絶対嫌です。辛いのなら解けばよろしいではありませんか」
男「俺の事襲った身で何を言うんだ。てか本当に俺を殺すつもりだったのか?」
僧侶「当たり前です。貴方を殺して私が勇者です」
男「毒ナイフ使って闇討ちする勇者がいて堪るか」
僧侶「大事な書を盗む方もです」
魔導「仲良さそうねえ」
僧侶「良くありません。そこのウェイトレスだか使用人だか分からない人も解いてください」
魔導「一体どこの知り合いなのよ? この盗賊だか僧侶だかの子供」
僧侶「れっきとした僧侶です。下賎な盗賊と並べないでください。あと子供じゃ――」
男「昔の訓練相手ですよ。『ぼうけんのしょ』の効果をこいつで試してたんです」
魔導「本当に勇者くん屑ね」
男「子供のころのことですから」
僧侶「いじめられた側はずっと覚えているんですからね。早く解いてください殺してやります」ジタバタ
女騎士「賊というより復讐鬼らしいな。で、どうするんだ」
男「ここに縛っておいていきましょう」
僧侶「そんなことを言わずに。私と貴方の仲ではありませんか」
男「うるさい。というか被害者ヅラしてるんじゃねえ。殺人未遂犯してるんだぞお前は」
僧侶「見る限りこのパーティ回復要員が居ないのでしょう。私が仲間になってやりますよ?」
男「そのパーティのリーダー殺そうとしてきた奴がなにを言うか……」
僧侶「ええ。ですから、条件があります」
女騎士「条件?」
男「話に乗らないでください。こいつ、付け上がりますよ!」
魔導「まあ、話だけでも聞いてみましょ」
僧侶「もし貴方たちの誰かが魔王を倒したとします。その手柄を全て私にお譲りください」
男「なっ」
女騎士「まあ」
魔導「いいわよねえ」
男「ちょ」
僧侶「つまり、その栄誉と報酬について私に過分にいただけないかと」
男「こ、この守銭奴……!?」
女騎士「まあ」
魔導「いいわよねえ」
男「ちょ、おふたりマジで言ってんすか」
女騎士「私達はなあ」
魔導「お金もあるし、騎士ちゃんは名誉はもうあるでしょ。私はそういうのいらないし」
男「え、ええぇぇえぇ……」
女騎士「それにお前自身に報酬はないぞ。この旅も執行猶予みたいなものだからな」
男「」
魔導「ってことでよろしく僧侶ちゃーん」
男「ま、まだです。そもそもこいつ僧侶なのに『ぼうけんのしょ』使えてないんですよ。おかしくないですか」
僧侶「痛いところを突きますね。でもご安心を」
男「は?」
僧侶「すみません、回復要員としては使えないかもです。私お祈りサボってたんで」
男「お前名前変えろ!」
僧侶「それでも一応、戦う術はありますし」
女騎士「あの身のこなしとナイフ捌きか」
男「欲しがってんじゃねえですよ」
僧侶「それにお祈り毎日ちゃんとすれば魔法出るんで」
魔導「ああ、らしいわね。聞くもの」
男「チョロいよ神様チョロすぎるよ」
僧侶「私実際神様信仰してないんで」
男「だから名前を変えろ!!」
女騎士「うん」
魔導「ね」
男「……マジですか」
僧侶「よろしくお願いします♪」ニコ
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