マミ「最後に残った道しるべ」 (217)

*叛逆前でマミさんと杏子が主役です。TDSみたいな感じです

*****が回想シーンで―――――が場面転換です

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―――魔法少女。

たった一つの奇跡と引き換えに、この世の呪いと戦う使命を背負った少女達を、あたし達はそう呼ぶ。

そうしてあたしは今日も人知れず、魔女と戦い続けている

あたしが今戦っているのは、牛のような形をした魔女。

こいつは、あたしが魔法少女になってから初めて戦った奴だ。

自分のテリトリーで逃げられたもんだから、落とし前つけにわざわざ隣町にまで来たんだけど...

杏子「ったた...相変わらずなんて馬鹿力なやつ!」

あの時もそうだった。

あいつの斧での力任せの攻撃には手を焼いた。

悔しいが、力ではあいつに分があるようだ。

杏子「だけど、今回はいつぞやの二の舞にはならないよ!」

そうだ。あの時はこの魔法を使えなかったが、今は違う。

この幻惑の魔法があれば、こいつとも戦える筈だ。

あたしとあたしの幻影。各々槍を構え、二人で魔女へ突撃していく。

そのうち片方が魔女へ跳びかかる。

あいつは、それを斧であっさりと切り裂いた。

でも

杏子「残念!そっちはニセモノさ!」

今度は、隙だらけになった魔女を真っ二つに切り裂いてやった。

魔女の姿は消え失せ、持っていた斧がカランと音を立てて地面に落ちた。

杏子「よしっ、やっとリベンジ果たせた!」

QB「杏子、まだだ!」

杏子「えっ?わっ!?」

突如纏わりついたもやに、あたしの身体の自由は奪われた。

杏子(駄目だ、このままじゃ―――)

あたしの嫌な予感は、魔女の姿が復元されると共に確信へと変わった。

魔女が、あたしを切り裂かんと斧を振り上げる。

杏子(―――――!)

迫りくる死の予感に、あたしは目を瞑ってしまった。

そんな時だった。




「なるほど...幻惑の魔法、面白い力だわ」

声がした。

恐る恐る目を開けてみると、魔女の斧に黄色のリボンが巻きつき、あたしへの攻撃を防いでいた。

「だけど、魔女の方も同じ能力だったのはついていなかったわね」

杏子(魔法少女...?)

リボンを操っているその人は、巨大な拳銃を召還し、あたしに銃口を向けた。

杏子「ちょっ」

「ティロ・フィナーレ!」

その巨大な銃から放たれた砲弾は、あたしの顔の真横を通り過ぎていった。

杏子「な、なにすんだよ!?」

「ごめんなさいね、少し荒っぽいやり方で」

杏子「謝るくらいなら最初から...あれ?」

きがつけば、あたしに纏わりついていたもやは綺麗さっぱり消えていた。

どうやら、彼女の砲撃で消しさられたようだった。

「間に合ってよかったわ。大丈夫?」ニコリ

いつの間にか尻もちをついていたあたしに、その人は微笑みながら手を差し伸べてくれた。

杏子「そ、その...助かったよ。あんたは...?」

「挨拶は後よ。今は魔女を倒さなくちゃ」

そう言う彼女の眼光は、とても鋭かった。年齢はあたしとさほど変わらない筈なのに、なんていうか、本当の『ベテラン』ってやつを感じた気がした。

そしてそれは気のせいなんかじゃなくて

「あの魔女、本体はおそらく斧の方ね」

杏子「え?」

「だから身体の方を倒しても復活してしまうみたい」

この魔女と戦うのが二回目のあたしですらそんなこと思いつきもしなかったのに、この人は初見で、しかもたった数回のやり取りで見抜いていた。

「私は魔女の身体と使い魔を一掃するわ。その隙にあなたは本体を破壊してくれる?」

杏子「...わかった!」

あの人の戦いは凄かった。

ベレー帽を空に投げると、その中から振ってくる大量のマスケット銃。

それを撃っては持ち替え撃っては持ち替えて、次々に使い魔を消し去っていく。

残り一体だけとなった魔女が斧を彼女に振り下ろそうとするがもう遅い。マスケット銃を大砲に変え、砲弾は魔女に放たれ、その姿は消し去られていた。

そして、それを合図にあたしは斧へ向かって駆け出した。

杏子「はあああぁぁ!!」

あたしの槍が斧に突き刺さる。耐え切れなかった斧は、音を立てて粉々に砕け散った。

杏子「や...やった!」

「お見事ね!」

あたしは喜んだ。

やっとリベンジを果たせたことを。初めて他の魔法少女と共に戦ったことを。こんな凄い人と共に戦えたことを。

とにかく喜んでいたんだ。

彼女の名前は、巴マミ。

この町へ来た理由を話したあたしは、何故だか彼女の家に招待された。

杏子「」ジュルル

マミ「...涎、出てるわよ」

テーブルに置かれた、彼女手作りのピーチパイと紅茶。

食べてみると、これがまたウマイ。職人顔負けのウマさだった。

マミ「まだまだあるから遠慮しないでね。一人じゃ食べきれないから」

杏子「いいの!?」

がっつくように、テーブルから身を乗り出してしまったあたし。マミさんは、そんなあたしの様子をニコニコと笑顔で見つめている。

そんな自分の姿を省みて、ちょっぴり恥ずかしくなった。

杏子「助けて貰ったうえにケーキまでご馳走になっちゃって、なんだか図々しいよね、あたしって」

マミ「招待したのはこっちなんだし気にしないで。私も魔法少女の子と一緒にお茶できてうれしいもの」

杏子「ならいいんだけど...」

そういえば、あたしと会ってからのマミさんはずっと笑顔だ。

あたしたち魔法少女は、毎日が戦いだ。無論、一般人を巻き込むわけにもいかないし、魔法少女同士だったら、グリーフシードの小競り合いばかり。

それを踏まえれば、嬉しくなってしまうのも当然かもしれない。

杏子「でも...あたしのほうこそ、今日マミさんと会えてよかったな」

マミ「えっ?」

杏子「あたし、魔法少女としてはまだ半人前だからさ、お茶しながら色んな話聞かせて貰って勉強になったよ」

杏子「何も考えずに闇雲に戦ってたあたしと比べて、マミさんはこれまでの魔女との戦いを自己分析してノートに纏めたり、魔法の使い方を研究したり...その上、戦いに必要な心構えもしっかり持ってて、実戦においても強くて頼りになる。こんな凄い魔法少女が隣町にいたなんてあたし驚いたんだ」

マミ「そ、そんなことないわよ///」テレ

杏子「だから...その、マミさん。お願いっていうか、図々しいついでっていうのもなんだけど...」



杏子「あたしを、マミさんの弟子にしてもらえないかな?」





――――これが、あたしと彼女の出会い。

あたしが憧れていた、彼女との出会い。

――――――――――――――――――

まただ。また、まどかが関わることを防ぐことができなかった

どうにかして、まどかと美樹さやかを巴マミから離さないと...

マミ「あなたね、キュゥべえを襲っていたのは」

ほむら「......」

マミ「沈黙は肯定とみなすわよ」

ほむら「...ええ、そうよ」

当然、巴マミは私を敵視している

今回もとりつくシマさえないに決まって...

マミ「まずは、襲っていた理由を教えてくれる?」

あれ...?

ほむら「何故?」

マミ「魔力を使ってまで追い回していたのは、それなりの理由があるからでしょう?」

ほむら「それは...」

マミ「彼女たちをキュゥべえと接触させたくなかった...違うかしら?」

ほむら「...そうよ」

マミ「そう。なら、よかったわ。二人に詳しく説明してあげたいから、あなたも一緒に来てくれる?」

...?

どうにも、この時間軸の巴マミの対応はおかしい

家族同然のキュゥべえを攻撃されたのなら、もっと怒っているはずだ。

まどかとキュゥべえが出会う可能性を減らすためならば、仕方のないリスクだと覚悟していた。

それなのに...

さやか「ん~、めちゃウマっすよ、このケーキ!」

マミ「ふふっ、ありがとう。おかわりなら、まだあるからね」

まどか「紅茶もすごい美味しいね、ほむらちゃん」

ほむら「...ええ」

どうして、私はまどか達と一緒にお茶会をしているのだろう

マミ「―――以上が、魔法少女と魔女についてよ」

まどか「魔女との戦いの人生と引き換えの願い事かぁ...」

さやか「金銀財宝とか、不老不死とか、満漢全席とか~?」ニヘラ

まどか「いやあ、最後のはちょっと...」

...やはり、二人の魔法少女への認識はまだ甘い

この辺りで釘をさしておかないと

ほむら「駄目よ、二人とも。魔法少女になんて、絶対になっては駄目」

マミ「ええ。私もそう思うわ」

ほむら「えっ」

マミ「この契約はね、普通に生きていられるあなた達が頼るものじゃない。最後まで足掻いて、足掻いて、それでもどうしようもなくなった時に、生きていくために仕方なしにするものよ」

まどか「そ、そうなんですか?」

マミ「ええ。それに、魔法少女同士の潰しあいなんてものは避けては通れない道。だから、漫画やアニメのような綺麗な存在だと思うなら、今すぐその認識を捨てなさい」

予想外だ。

いつもなら、契約は個人の意思だと譲らなかったし、巴マミはまさしく『綺麗な魔法少女』であろうとしていた。

それを、本人がこうも否定するなんて。


さやか「じゃあ、マミさんはどうして契約したの?」

マミ「私は...考える暇も無かったわ。昔、交通事故にあってね」

マミ「身体もぐしゃぐしゃに潰されて、もう死ぬしかない...そんな状況で、キュゥべえが現れたの」

マミ「私は、ただ死にたくないと願った。周りを見る余裕さえなかった。...そして、その所為で、両親を失ってしまった」

さやか「そ、その...ごめんなさい」

マミ「いいのよ。後悔は無いとは言えないけれど、あの時死んでしまうよりはって思えば...ね」

契約した理由も、そこまで変化はない。

でも、どこか違和感がある。

なら、一体なにが違うと言うの...?

まどか「...ほむらちゃんは、どうして契約したの?」

QB「それは僕からも聞きたいね。なぜか、君と契約した覚えは全くないんだ」

さやか「そうなの?」

QB「普通は、契約した子は全て記録してある筈なんだけど...」

ほむら「...あまり言いたくはないわ」

まどか「ご、ごめんね、ほむらちゃん」

ほむら「いいのよ。気にしないで」

マミ「......」

マミ「さてと、そろそろ時間じゃないのかしら?」

さやか「あっ、本当だ。もうこんな時間」

まどか「マミさん、今日はありがとうございました」

マミ「いい?グリーフシードを見つけたら、必ず私か暁美さんに連絡するのよ」

まどさや「はーい!」

今回は、巴マミは魔法少女の体験コースについて切り出さなかった

それなら、下手に憧れを持たないから、私にとっても好都合だ

ほむら「私もそろそろ...」

マミ「待って」

ほむら「...なに?」

マミ「少し、時間を貰えるかしら」

ほむら「......」

下手に断って敵対するのは好ましくない。

ここは彼女に従いましょう

ほむら「ええ。構わないわ」

マミ「ありがとう」ニコッ

マミ「キュゥべえ、あなたは席を外してくれるかしら」

QB「なぜだい?」

マミ「あなたが居ると話し辛いことなのよ」

QB「そうかい。なら、僕は散歩でもしてくるよ」スゥ

マミ「さて、これで心置きなくお話しができるわね」

ほむら「......」

マミ「あなたが契約した理由は?」

ほむら「それは、さっき言いたくないと」

マミ「答えて」キッ

巴マミの目付きが鋭くなった。

ここで下手に嘘をついて警戒されるのは好ましくない。

流石に全てを話すことはできないけど...正直に言うしかないだろう。

ほむら「友達を助けるためよ」

マミ「その友達は?」

ほむら「...もう、死んでしまったわ。でも、彼女と最期に約束したの。もう、契約させないであげて、と。だから、私は鹿目まどか達に魔法少女になってほしくないの」

マミ「なるほど...キュゥべえを接触させたくなかったのは、そのためね」

ほむら「ええ」

そう答えると、巴マミは顎に手を当て、考え始めた

でも、なにを言うかは、なんとなくわかった気がする

マミ「ねえ、よかったら、私とコンビを組んでみない?」

やはり、この辺りはいつもの巴マミだった。

翌朝

さやか「ねえ、まどか。昨日のこと...どう思う?」

まどか「うーん...イマイチ、ピンとこないんだよね」

さやか「やっぱ、知らなさすぎるのかな?使い魔っていうのには遭ったわけだけど、マミさんはあっという間にやっつけたし、アレがどのくらい危険なのかもわからないんだよね」

まどか「そうだよね。説明だけじゃどうにも...」

QB「だったら、ぼくにいい考えがあるよ」

今日はここまでです。読んでくれた方はありがとうございます。

放課後

マミ「おまたせ、暁美さん」

結局、私は巴マミとコンビを組んだ。

彼女は、佐倉杏子より上...少なくとも同等の実力者。

私の知る限りの戦力としてはこの上ない存在。それを逃す手はない。

キュゥべえを無闇に傷付けないことを条件としてつけられたけれど、彼女も契約を防ぎたいのなら、大した問題にはならなかった。

マミ「それじゃあ、行きましょうか」

ほむら「ええ」

さやか「マミさーん」タタタ

マミ「あら、美樹さんと鹿目さん」

まどか「これから魔女を探しに行くんですか?」

マミ「ええ、そうよ」

まどか「あ、あの、わたし達も連れていってくれませんか?」

ほむら「...なぜ?」

まどか「キュゥべえが、実感が沸かないのならマミさん達についていけばいいって...」

ほむら(あいつ...!)

マミ「ついて来てどうするつもり?」

さやか「...万が一、契約する時がきたら、その参考にしたくて...」

マミ「必要ないわ。今は、そんな時ではないでしょう?」

さやか「そんなの、わからないじゃないですか!もしかしたら、急に追い込まれることだって...」

マミ「その時に決めればいい。普通にくらしている以上は、契約なんて念頭におく必要なんてないの」

まどか「もしかして...迷惑ですか?」

QB「そんなことはないよ。マミは、この辺りの魔法少女でも特に強い部類だ。君たちを守りながら戦うことも、魔女ならいざ知らず、使い魔程度なら...」

マミ「キュゥべえ」

QB「...わかったよ」

マミ「ごめんなさいね、二人とも。でも魔女の結界はそれほど恐ろしい場所なの。一つの隙で、ここにいる皆の命を奪われてしまってもなんらおかしくないような、ね」

マミ「くどいかもしれないけれど、普通にくらしている間は魔法少女のことなんて忘れてしまうのが一番よ。行きましょう、暁美さん」

ほむら「え、ええ...また明日、二人とも」

まどか「う、うん...」

私は知っている。

彼女が、この町で独りで悩み、苦しみながら戦ってきたことを。

それ故に、人一倍『仲間』を欲していることを。

だから、『決めるのは自分だ』と言いつつ、恰好よくふるまって、遠回しに勧誘してしまう。

でも、今回は違う。

巴マミはハッキリとそのチャンスを棒に振ろうとしているのだ。

そのせいか、つい思ってもいないことを質問してしまう。

ほむら「その...いいの?」

マミ「なにが?」

ほむら「あなたは、魔法少女の後輩とか...欲しくないの?」

マミ「欲しくないと言えば、嘘になるわね。でも、私にはそんなことよりも優先すべきことがある。ただそれだけよ」

ほむら「...?」

マミ「...ここね。暁美さん、準備はいい?」

ほむら「ええ」

ほんとうに、この巴マミはよくわからない

結界内

マミ「いたわね」

ゲルトルート「......」

マミ「暁美さん、あなたの武器は?」

ほむら「これよ」

マミ「銃火器...ねえ。どこから持ってきたのか不思議だけど...まあいいわ」

本当の能力『時間停止』は、まだ見せない。

まだ完全には彼女を信用しきれていないからだ。

マミ「暁美さん。援護、お願いね」ピョン

彼女は、魔女のもとへ跳躍し、マスケット銃を生成した。

その数は...八丁。いつもよりだいぶ少ないわね。

両手に一丁ずつ手にし、銃弾を放っていく。

魔女の壁の周りに穴が空き、そこからリボンが伸び、魔女を絡め取った。

マミ「暁美さん」

ほむら「......」

マミ「暁美さん、トドメをお願い」

ほむら「えっ、もう終わり?」

マミ「早くしないと、魔女がリボンを切ってしまうわ」

確かに、この魔女は対して強い部類ではない。

しかし、だ。それにしても早すぎる。

いつもこの魔女にそこそこ苦戦しているのは、恰好よく見せるための演出なのかしら?

ほむら「...とにかく、後始末をしましょう」

手に持った爆弾を投げつけ、私は、身動きのできない魔女を爆破した

マミ「私はまだ魔力に余裕があるけど...グリーフシード、使う?」

ほむら「私もいいわ。ほとんど魔力を使っていないし」

マミ「そう。なら、これはあなたが持っていなさい。私には、まだストックがあるから」

ほむら「でも...」

マミ「こういう時は、素直に受け取ってくれればいいの」

ほむら「...わかった」

マミ「よろしい。私はもう帰るけど...あなたは?」

ほむら「私も帰るわ」

マミ「そう。それじゃあね、暁美さん。またあした」

ほむら「ええ。さようなら」

―――――――――――――――――


さやか「はぁ~...」

あたしは、まどか達と別れた後、恭介の病室へお見舞いに行った、のだが...

さやか(恭介...今日も荒れてたなぁ。やっぱり、辛いよね...)

なんであたしなのかなぁ...恭介の方が、よっぽど苦しんでるのに。奇跡にすがりたいのに...

マミ「あら、美樹さん?」

さやか「あっ、マミさん...」

マミ「どうしたの?浮かない顔をして」

さやか「い、いや~、その...」

...マミさんは、契約のことについては、凄く否定的だ。でも、だからこそ、聞いておいた方がいいのかな...?

さやか「マミさん、ちょっと時間あるかな?相談したいことがあるんだけど...」

マミ「ええ。いいわよ」

マミホーム


マミ「さて、何の相談をしてくれるの?」

さやか「その、契約のことなんですけど...」

『契約』

あたしがその単語を口にした途端、マミさんの目付きが変わった。

マミさんの刺すような視線で、あたしは委縮してしまった。

マミ「...ごめんなさい。続けて」

マミさんが、肩から力を抜くと共に、張り詰めた空気も一気に軽くなった

さやか「その...契約の願い事って、自分のための事柄でなきゃ駄目なのかな?」

マミ「え?」

さやか「例えば...例えばの話なんだけどさ、あたしなんかより困ってる人がいて、その人のために願い事をするのは...」

QB「別に、契約者自身が対象になる必然性はないんだけどね。前例もないわけじゃ...」

マミ「キュゥべえ」

QB「やれやれ、僕は説明すらも憚られるのか」

マミ「あまり感心できた話じゃないわ。あなたは、その人を助けたいの?それとも、その人を助けた恩人になりたいの?」

さやか「......」

マミ「同じようでも、全然違うことよ。そこをはき違えたままだというのなら、尚更契約なんてさせないわ」

さやか「その言い方は...ちょっと酷いと思う」

マミ「ごめんね。でも、今の内に言っておかないと、必ず後悔することになるから」

さやか「...そうだね。あたしの考えが甘かった。ごめんなさい」

やっぱり、マミさんは契約を否定してきた。

分かってる。二つ返事で決めることではないし、一生に関わることだってことは。

でも、欲張りと思うかもしれないけど、少しは肯定してほしかった。

そうしたら、あたしのこの気持ちに間違いはないとハッキリ言えると思うから

――――――――――――――――――――――


数日後 病院

まどか「ま、マミさん、ここです!」

マミ「教えてくれてありがとう、鹿目さん、美樹さん」

ほむら(...今までの時間通りだとするなら、おそらくあの魔女が...)

マミ「それじゃあ行くわよ、暁美さん」

ほむら「ええ」

ほむら(...ここは、なんとしても乗り切らないと)

結界内

シャルロッテ「......」

マミ「あれね、この結界の魔女は」

ほむら「そのようね」

マミ「私が相手をしても?」

ほむら「...お願いするわ」

ほむら(正直、私もあいつの中身が出てくるタイミングなんてわからないもの)

巴さんが魔女の座っている柱を折り、落ちてきた魔女をマスケット銃で殴りつけ、倒れた魔女の頭を撃ちぬく

ほむら(ここまで、特に抵抗もないわね)

魔女の身体にリボンが絡みつき、上空に持ち上げられる。

マミ「......」

ほむら(普通の魔女なら、もうどうしようもないわね...普通の魔女、なら)

巴さんがマスケット銃を巨大な銃に変化させる。

ほむら(まだ出てこない...と、なると、そろそろ...)

魔女の身体を、弾丸が貫く。

―――と、同時に

ほむら(くるっ!)

人形の中から、黒の巨体が姿を現す。

大口を開けた魔女が、巴さんに急接近すると同時に、私は時を止め


ドンッ


―――ることは無かった。

シャルロッテ「...!」バタバタ

ほむら「え...?」

マミ「おかしいと思ったわ。どんなに弱い魔女...いえ、使い魔ですら、自分に危機が迫っているなら、なにかしらの抵抗を試みるはずだもの」

ほむら(し、信じられない...私が時を止めようとする時には、彼女は既に準備を終えていた。あの魔女の動きを、完全に読んでいた!)

マミ「騙し討ちをするのなら、もっとうまくやるべきだったわね。さあ、覚悟しなさい」

右手に持っていたマスケット銃を大筒に変え、左手にも、大筒を作りだす。

魔女が噛みつく。巴さんが躱して大筒から弾を放つ。魔女が再生する。

この一連の流れを何度か繰り返し、巴さんは難なく魔女を倒してしまった。

病院

まどか「マミさん、ほむらちゃん、大丈夫!?」

マミ「ええ。この通り、ピンピンしてるわ」

まどか「よかったぁ~...二人とも、ありがとう!」

ほむら「...私は、お礼を言われることなんて...」

まどか「ううん。こうやって、来てくれるだけで凄く安心するんだよ。ね、さやかちゃん」

さやか「......」

まどか「さやかちゃん?」

さやか「うぇ!?あ、その、えっと...ありがとうございました」

まどか「もう。おかしなさやかちゃん」

マミ「......」

************************************



マミさんの弟子にしてもらってから、ひと月ほど経った。

あたしの実力は、会ったばかりとは比べものにならないほど上達していた。

そして、あたしの実力に比例して、マミさんとの連携も格段によくなっていた。

マミさんとあたしのコンビだったら、向かうところ敵なし!心から、そう思えた。

だからか、自然とこんなことを口走っていた。

杏子「今のあたし達ならさ、ワルプルギスの夜だって倒せるんじゃないかな」

マミ「ワルプルギスって...あの?」

杏子「そう。魔法少女の間で噂されてる超弩級の大物魔女。こういっちゃ大袈裟かもしれないけど、あたし達だったらそんな大物の魔女だろうと目じゃないって」

杏子「世界だって救えるんじゃないかって...そう思うんだよね」

マミ「...ふふふっ、随分大きくでたわね」

杏子「調子に乗りすぎ?」

マミ「そんなことないわよ。目標は大きい方がいいんじゃないかしら」

マミ「でも...本当にそうかもね。私達だったらきっと倒せると思うわ」

マミ「もしいつか、本当にワルプルギスの夜がやってくる時が来たら...一緒にこの町を守りましょう」

杏子「うん!」

こんなことは、戯言なのかもしれない。

でも、いつかは実現できたら、それはとっても嬉しいなって。

そんな甘い幻想をあたしは夢に描いていた。

夜 教会

魔女の反応を感じたあたしは、妹を起こさないようにベッドから飛び起きた。

反応の場所を追うと、そこは見慣れた場所。この教会の大聖堂だった。

扉に近づくと、鼻孔をつくような匂いが漏れてきた。

意を決して扉を開けてみるとそこには...

「俺たちには神様の教えなんて必要なかったんだ。そんなものに頼らなくても簡単に幸せになれる方法を知っているんだから」

「ええ、その通りですよ...」

生気を失くした虚ろな目をした父さんの信者たちが、聖書を中央に集め、それに大量の灯油をかけていた。

そんな信者たちの背後で踊る魔女に使い魔。

今まさに、魔女による宴が始まろうとしていた...

信者の一人が、マッチ箱を取り出した。

大量の灯油に火をつけたらどうなるか...そんなこと、考えるまでもない。

杏子「させるかっ!」

あたしの魔法は幻惑の魔法。

そいつを使って、マッチ箱や聖書をお菓子に変える。

とはいえ、所詮は幻惑。そのままマッチを擦られれば何の意味もないが、一瞬だけでも気を惹ければそれで十分。

杏子「いただき!」

あたしは一気にかけだし、信者からマッチ箱を奪いとった。

魔女が、餌場を荒らされたことに気付き、あたしに攻撃を仕掛けてくる。

杏子「魔女なんかに、こんな場所で好き放題させてたまるかよ」

それに対して、あたしは分身の技、『ロッソ・ファンタズマ』で対抗する。

杏子「父さんの教会も、家族も、みんな...」

分身たちが魔女に消されていく。

その間をぬって、あたしは魔女に接近し

杏子「あたしが守るんだから!」

槍で、魔女の身体を貫いた。

グリーフシードが床に落ち、魔女の魔力が消え失せた。

杏子「...厄介なもの残されたな」

床に転がる気を失った信者たちと大量の灯油まみれの聖書。

こんなことが世に広まれば騒ぎになるに違いない。

杏子(でも、夜明けまでには時間はある。それまでに片付けておけば...)



この時のあたしは、ひどく迂闊だった。

焦っていたのかもしれない。

魔女を倒せたこと、操られたみんなを助けられたこと、マミさんがいなくても一人で戦えたこと...

その事実に少しばかり気を抜いていたのかもしれない。

理由はどうであれ、とにかくあたしは迂闊だったんだ。

だから気付けなかった。





父さんが、すぐ傍にまできていることに。




数週間後

マミ「佐倉さん、具合が悪いの?近頃顔色が優れないみたいだけど」

杏子「そう?平気だよ」

マミ「...何かあったんじゃないの?」

杏子「...マミさんはさ、魔法少女になったのが原因で仲の良かった人と衝突したことってある?」

マミ「...衝突とは違うけど、すれ違いなら多いかも。私たち、戦いの毎日だから遊ぶ時間もないでしょう?魔法少女のことを普通の人に相談できるはずもないし、クラスの子との係りも疎遠になってきていると思う」

マミ「けど、今の生き方に後悔はないわ。仲間だってできたしね」

杏子「......」

杏子「マミさん、前に言ってたよね。『誰かが魔女に憑りつかれて死んでしまったら、きっと悲しむ人がいる』って」

マミ「ええ」

杏子「でもさ、あたしたちが憑りつかれた人の命を救ったとして、それが必ずしも喜ばれる結果になるとは言えないんじゃないかな」

マミ「どういうこと?」

杏子「たとえばさ、魔女の呪いでくるった人が、おかしな行動で自殺しようとしているところを、偶然身近な人に見られていたらどうなると思う?たとえ自殺を免れても、身近な人はその人を普通の目で見ることはできるのかな。
もし喜ばれない結果になるんだとしたら、誰にも気づかれずに魔女に殺されて悲しまれるのと、気付かれたことで大切な人に避けられ続けて生き続けるの、どっちがマシなんだろう」

杏子「結局みんなが嫌な思いをするのなら、最初からあたしは人助けなんてするべきじゃなかったのかな?」

マミ「もしかして、あなた...」

杏子「そうじゃないんだ。たとえ話だよ」

杏子「ただ、マミさんが誰にも魔法少女のことを話せないように、魔女の存在を知らない人達にこっちの事情を理解させるのは難しいのかなってさ...」

マミ「...確かに、私たちのしていることを全て正しいと言い切るのは難しいかもしれないわ。でも、起こり得る結果を否定して、最初から救うべきじゃないという考えには賛成できないわ」

杏子「......」

マミ「...無理はしないでね。私でよければいつでも相談にのるから」

杏子「...うん」

―――――――――
現在

ほむら(この周の巴マミは強い。私どころか、佐倉杏子ですら彼女の相手になるか分からない。これが、本来の彼女の力なのかもしれないけど...どちらにしろ、契約も迫らず、尚且つ戦力として十分であるのなら、これほど頼もしいことはないわ)

ほむら(これに杏子が加わってくれれば、今度こそワルプルギスを...!)

マミ「暁美さん、今日は違うコースを回っていいかしら」

ほむら「構わないけれど...なぜ?」

マミ「ちょっと、病院にね」

病院

QB「それが、きみの願いなんだね」

さやか「うん。あたしは、幼馴染の...恭介の腕を治してほしい。本当に叶うんだよね?」

QB「大丈夫。きみの願いは間違いなく遂げられる」

さやか「なら...やって」

シュルル

QB「わかっムグ!?」

さやか「!?」

マミ「つれないわね。せめて一言くらい言ってくれてもいいのに」

ほむら「......」

さやか「マミさん...それにほむらも...」

マミ「どうして契約しようと思ったの?」

さやか「...止めないで。あたし、見つけたんです。自分の命を懸けてもいい願い事」

マミ「その願いは?」

さやか「恭介の...幼馴染の腕を治したい。それで、あいつにもう一度バイオリンを...」

ほむら「......」

私は、いつも彼女を止めることができない。

彼女は、決して楽観的に考えているわけではない。

本当に、心の底から上条恭介を助けたいと願っている。

だから、いつも自分を追い詰めてしまう。ああいう形で絶望してしまう。

彼女の説得は難しい。それでも、彼女の契約はまどかへの危害もたかまる可能性が高い。どうにかして止めさせないと...

私はそんな思考を重ねていたが、あろうことか巴さんは

マミ「話にならないわね。キュゥべえ、この契約は取り下げよ」

そんな彼女をあっさりと否定した。

さやか「なん...で...」

マミ「...なら、逆に聞くけれど、あなたはその願いを叶えたことを彼に伝えられる?彼の人生に責任をとれる?」

さやか「え...?」

マミ「彼の人生は彼のもの。だから、バイオリンが出来なくても、今は進めなくても、立ち直って新しい道を見つけることができるかもしれない。でも、あなたのその願いは、彼にバイオリンを強制させるもの。違わなくて?」

さやか「ちがう!あたしはただ、恭介のために...」

マミ「それとも彼に振り向いてほしいの?だとしたら、尚更彼に打ち明ける必要があるわね。『あなたの腕を治したのはわたしです。だから、あなたはわたしのためだけに生きなさい』って」

さやか「ッ!!」

バチッ

ほむら「!」

マミ「......」

さやか「いい加減にしてよ...!」フーッ フーッ

さやか「あんたに何がわかるのよ!あんたに...なにが...!」

ほむら「さやか、今のは...!」

やりすぎだ。そう言おうとしたが、しかし巴さんにそれを手で制された。

マミ「...わからないわよ。だって、私はあなたじゃないんだもの」

さやか「なら、口出ししないでよ!」

マミ「だから、あなたも彼の問題に口出しするなと言ってるのよ」

さやか「!」

マミ「あなたは、彼がバイオリンを弾きたいと思っていると決めつけているけど...それが、どの程度かまでわかるの?彼が、あなたや他の人なんてどうでもいいくらいにバイオリンを弾きたがってると思うの?」

さやか「そ、それは...」

マミ「...いいのよ、わからなくて。勝手にわかったように思い込む方が、一番後悔することになるわ」

マミ「もう一度よく考えて。あなたのしようとしていることは、なにも知らない彼に罪を背負わせることだから...」

行きましょ、と促されて、私と巴さんはさやかに背を向けた。

さやか「だったら...あたしの想いは間違いなの...?」

背中に投げかけられた、弱弱しくか細い声。

ピタリと歩みを止める巴さん。

マミ「...あなたの想いが本物なら、他にもできることはあるでしょう」

さやか「......」

マミ「あなたは幸せよ。あなたの大切な人はまだ生きてるんだから」

それだけ言って、彼女は再び歩みを進めた。

今日はここまでです。読んでくれた方はありがとうございます

ほむら「......」

私はいま、魔女退治を終えて彼女と別れた後、帰ったふりをして巴さんの後をつけている。

何処に向かっているかはわからないが、帰宅途中ではないことは確かだ。

やはり、この時間軸の彼女はおかしい。一筋縄ではいかないことを感じとった私は、彼女について一から調べ上げることにした。

彼女が何を考えているか分からない。だからこそ、いつどんな不都合が起こるかわからない。もし、まどかに危害を加えることになればその時は...

ほむら(あれ...?)

ふと、彼女が歩いているこの道に概視感を覚える。

確かこの道は、何度かあの子に連れられて...

ほむら(この道は...まさか...)

巴さんが、角を曲がり、細道へと入っていく。

それに遅れて、細道へと向かうが...

マミ「......」

ほむら(動かない...?)

先程まで真っ直ぐに歩いていたのだから、道に迷ったということはないだろう。

だが、考え事をしているようにも思えない。

誰かを待っている、というよりは、誰かを待ち伏せしているように―――



「動かないで」

声をかけられ、振り返るよりも早く、私の身体が壁に叩き付けられる。

そこまで痛くはなかったが、動きを止めるには十分すぎる一撃で、抵抗する暇もなく、私は壁へと押し付けられた。

ほむら「なっ...!?」

マミ「...暁美さん?」

背後からの奇襲者は、いま私が尾行していた巴マミその人だった。

マミ「ごめんなさいね。後をつけられていたから、つい敵かと思って...」

ほむら「い、いえ...勝手に尾行していた私も悪かったし...」

通路にあったマミの身体が、リボンへと分解される。

あの角を曲がり、私の視界から外れた瞬間にダミーを作り上げていたのだ。

マミ「私になにか用があった?」

ほむら「えっと...あなたの家とは違う方向だから、どこへ行くのか気になったから...」

マミ「......」

ほむら「よければ、私も連れて行ってもらえないかしら」

思いのほか、彼女はあっさりと同行を了承してくれた。

ことここまで見覚えのある道により、私の疑念は間違えようのない確信へと変わった。

彼女が向かっているのは、佐倉杏子の教会だ。

今の巴さんとどのような関係にあるかはわからないけれど、ちょうどいい機会だ。

杏子を引き入れることができれば、今回こそあの夜を超えることができるかもしれない。

しかし、そんな私の期待は崩されることになる。

>>64 修正
マミの身体→巴さんの身体

ほむら「えっ...?」

着いたのは、確かに杏子の教会。

しかし、その有り様は私の知るそれ以上に凄惨なものであった。

まさに廃屋。いや、もはや半壊しているといった方が正しいだろう。

だが、それ以上に目をひかれたのは、教会の隣に立てられた膨大な数の木製の十字架。

誰がどうみても、この光景は異常だった。

ほむら「いったいどういうことなの...?」

マミ「...これは、私と彼女の犯した罪の数」

彼女は、一つの墓に手をおいた。





マミ「私に残された、最後の道しるべ」




短いですが、今回はここまでです。次からしばらく過去編になります

*************************************


...聞いて、父さん

今日もね、あたしは魔女を倒したんだよ。自殺しそうになってた人を一人救ったんだ

父さんがなくしたかった世の中の不幸や悲しみの芽を、あたしたち魔法少女は着実に摘んでいるんだ

これって、悪いことじゃないよね?

...あたしね、父さんの話いまでも好きだよ。だから、みんなが父さんに耳を傾けてくれたとき凄く嬉しかった

なによりさ、世の中の不幸に悲しみ続けた父さんの幸せそうな顔が見られたから。あたしは...

「全部お前が生み出した幻想じゃないか」

「私の下を訪れた者たちはみな信仰のためなどではなく、ただ魔女の力に惑わされ惹きつけられただけの哀れな人々だ」

「そうして惑わした人々をお前は手にかけるつもりだったのだろう?」

違う。

「あれは悪魔と交わした契約の生贄だったのだろう?教会の娘があろうことか悪魔に魂を売るなどと...」

あたしはそんなものなんかじゃない

「お前は最初から、私の話など聞く耳も持たれなくて当然の、誰の救いにもならない世迷言だと...そう思ってたんだろう?」

信じてよ父さん。

「ああ、全くその通りだ。私に世の中を救う力がないから、悪魔になど付け入る隙を与えてしまったんだ。お前が悪いんじゃない。全て私の責任なんだ...」

あたしは、魔女なんかじゃないんだ!

「なにが違うと言うんだ?」

「お前の力さえあれば、世の中の不幸や苦しみを着実に摘める?そんな当てつけがましい言い訳を聞かせるくらいなら、いっそ無力な父親だと罵ってしまえばいい!」

「今のお前がやっていることはなんだ?父親などいなくとも世の中は救えるのだと、信仰を踏みにじり、人を惑わし嘲り笑う悪魔の所業ではないか」




「それすらの自覚もなく嬉々として語るお前の姿を...魔女と呼ばずに何と呼ぶんだ」





母さん...どうしたの、その怪我...

「あ、あはは。ちょっとドジしちゃって」

「大した傷じゃないから大丈夫よ。だから心配しないで」

...父さんなの?

「ッ!」

あたしのせいだ...

「違うわ、杏子」

父さんは悪くないんだ、あたしが...

「誰も悪くない。父さんも杏子も、みんなのためにってずっと頑張っていただけだもの」

「大丈夫よ。今を乗り越えれば、すぐに前みたいに戻れるから」

......

「お姉ちゃん...今日もいっちゃうの?」

モモ。あたしがいない間、父さんと母さんを頼んだよ

「...今度はいつ帰ってくるの?」

...父さんは、あたしが家にいない時は大人しいんだ。だから

「やだよ...どこにもいかないで。わたし、我慢するから。絶対に泣かないから...だから!」

...ごめん、モモ





「今日はまた随分と戦ったね」

...まだだ。こんなものじゃ足りない。

「そうは言っても、これ以上の戦いは命に関わることになるよ」

それでいいんだ。命がけで戦ってれば、父さんだっていつか信じてくれる。

「せめて、マミと一緒に戦えばいいじゃないか」

マミさんには迷惑をかけられない。こいつは、あたしの責任なんだ。

「なにを怯えているんだい?」

うるさい...いまはあんたの顔なんて見たくない!どっかにいけ!




あたしは、臆病者だった。

次第に家にいる時間も少なくなり、マミさんと一緒に闘うこともなくなった。

壊れてしまった父さんに魔女と罵られるのが怖くて。

マミさんや母さんとモモも、今は優しくても、いつかは見捨てるんじゃないかって怯えて。

誰とも向き合おうとしなかった。

傷つくのが怖くて、ずっと逃げていた。

もし、父さんともっと真正面から向き合っていれば。

もし、マミさんを本当に信頼できていれば。

もし、家族を守ることから目を背けていなければ。

きっと、こんなことにはならなかったかもしれない。




杏子「ただいま...!?」

久しぶりに家に帰ってきて気がついたのは、鼻をつく匂いだった。

その匂いは、普段から戦い続けているあたしにもなじみ深い、血の臭いだ

そして、その原因となるものが、床に倒れていた。

血だまりに沈んでいるのは、父さんと母さんとモモだった。

杏子「なんで...?」

わかりたくない。嘘だと思いたい。

でも、充満する血の匂いがこれは現実だとあたしに訴えかけている。






杏子「なんでなの...マミさん」

あたしの家族の血だまりの中に、黄色の魔法少女が一人立っていた。

マミ「あら、お帰りなさい佐倉さん」

血に塗れた身体のまま、いつもの声音で挨拶をしてきた。

杏子「ね、ねえ...嘘でしょ?」

そうだ。こんなの、なにかの冗談に決まっている。

マミ「ん?ああ、これね...」

きっと、倒れているみんなの治療をしてくれたから、マミさんは血塗れなんだろう。

もう、父さんってば、どんなおっちょこちょいしたのさ。ちゃんと母さんとモモに謝っておきなよ。それともモモかな?まさか母さんじゃないよね?

マミ「酷いのよ、この人。私たち魔法少女を魔女だって罵るんだもの。あなたなんて、この人のために祈ったようなものなのにね」

ああ、そうか。マミさんは父さんを説得してくれたんだ。やっぱりすごいな、マミさんは。

マミ「何度説明しても聞いてくれないからね、もう面倒になっちゃって」

そういう時もあるよね。あたしだって、モモがワガママ言って言う事聞かない時は軽いゲンコツくらいはしたもん。

だからさ、謝らなくていいよマミさ



マミ「つい、殺しちゃったの」

息が止まる。全身を針で縫い付けられるような感覚がした。

マミ「これで私たちを否定する邪魔者はいないし、早速魔女を倒しにいきましょうか」

あの人がなにか言っているが、もう何も聞こえない。

モモ「うぅ...」

マミ「あら、まだ死んでなかったのね」

あの人が、モモの頭を踏みつける。それでも、身体は動いてくれない。

モモ「ぁぐ...」

マミ「んー、あなたは別に魔法少女をバカにしてはなかったけど...」

あの人が、マスケット銃を創り、銃口をモモの頭に突きつける。

マミ「一人だけ残しても可哀想だし...それに佐倉さんには私がいるから別にいいわよね」

あの人は、銃をモモに突きつけたまま、クルリと顔をこちらに向けた。




マミ「ねえ、佐倉さん」

あいつの満面の笑顔を見た時、あたしは弾けるように駆け出した。

―――殺す

マミ「ちょっと、なにをそんなに怒ってるのよ」

あいつがリボンであたしの槍を防ぐ。

そのままリボンごと突き刺そうとするが、あいつの蹴りが腹に入り、あたしが吹き飛ばされる。

―――殺してやる!

もう一度あいつとの間合いを詰め、槍を突き出すが、あいつにはただの一掠りもしない。

ならばと槍を本来の形である多節根に変え、あいつの全身を絡め取り、壁に叩き付けた。

そして、今度こそはと槍を突き出す。しかし右肩を撃たれ、槍を手離しはしなかったが威力と勢いを殺がれ、あいつにまた躱された槍は空しく壁を壊すだけだった。

マミ「乱暴な戦い方ね」

―――絶対にお前を許さない!

痛みを無視して、あたしはあいつのもとへ駆け出す。

そして―――




ドン


銃声が、響いた。


どれくらい経ったのだろうか。

あたしは、まだ生きているみたいだった。

あいつにもそれなりの手傷は負わせれたようだが、もう姿が見えないことから、動ける程度のものだったのだろう。

杏子「...父さん」

名前を呼ぶが、返事はない。

杏子「...母さん」

辛うじて動く左腕だけで、床を這う。

杏子「...モモ」

全力を出しているが、まだ遠い。

杏子「......」

やっとみんなのところへ辿りついたと思ったら、眠くなってきた。

もう、なにをする気も起きない。全部投げ出したい。

そう思い、意識を手放そうとしたその時





かすかに聞こえる呼吸の音に、ちょっとだけ安心した。

――――――――――――――





「教祖様が死んだ」

「なぜだ?」

「殺された」

「誰に?」

「わからない」

「この前教祖様は魔女を見せてくれた」

「そうだ、きっと魔女に殺されたんだ」

「探そう、魔女を」

「「「みんなで探そう」」」





――――――――――――――

今回はここまでです。まだしばらく過去編です。

――――――――――――――

杏子「うっ...」

医者「目が覚めたかい?」

杏子「ここは...」

医者「病院だよ。教会に重傷人がいるって通報があったんだ」

杏子「教会...っ!」

思い出した。あたしは、マミさ...あいつにやられて、父さんたちも...!

杏子「と、父さんは!?母さんは!?モモは!?」

医者「お、落ち着いて...」

杏子「早く教えろ!どうなんだおい!?」

医者「落ち着いて!」

杏子「いいから教えろ!」

わかっている。あいつは確かに自分の口で『殺した』って言ったんだ。

だから、みんなはもう...



モモ「うへへ~おねえちゃん~」zzz

医者「そ、そこに...」

杏子「」

世間では、あたしたちは強盗事件の被害者として扱われている。

一命を取り留めた母さんとモモがそう証言したらしい。

医者が言うには、母さんとモモに大した怪我はなかったらしく、むしろあたしの方が何倍も重傷だったらしい。それでも、普通の人でも一生は残らない程度だったらしいが。

ただ、父さんだけは助からなかった。

死因は、幾分かの失血と、大きな衝撃を受けたことによるショック死。

多分、あいつが殺したというのは本当だろう。

あいつは、父さんを殺したやつなんだ。

なのに、あたしは居場所も手の内も知り尽くしているあいつを殺しに行く気にはならなかった。

もし、この訳の分からない気持ちにケリをつける方法があるとすれば、それは...

病室

杏子「母さん、身体は大丈夫?」

杏子母「ええ。元々大した怪我じゃなかったみたいだから」

杏子「そっか。よかった...」

杏子母「......」

沈黙が訪れる。

母さんは気まずそうに、あたしから目を逸らす。

あたしはあたしで、いつ切り出そうか迷っていた。

だが、もう覚悟を決めるしかない。

杏子「母さん、教えてくれないかな。あの日、何があったのか」

今度こそ、自分の罪と正面から向き合うために。

見た目には、大分酷い怪我のようだったが、そこはやはり魔法少女。

回復魔法は得意ではないが、ものの三日ほどで傷は治ってしまった。

入院費もバカにならないため、あたしたちは早々に退院させてもらうことにした。

それでも、しばらくは今あるお金でやりくりするしかない。

これからは、生きるだけでも大変な試練となるだろう。

でも、その前に

杏子「...ごめん、二人とも。先に帰ってて」

杏子母「...ええ。夕飯の支度をして待ってるからね」

モモ「行ってらっしゃい、おねえちゃん!」

杏子「ああ、行ってきます」

ケリを着けなければならない。

あたしの、魔法少女としての罪に。

**********************
マミ視点



佐倉さんが私に姿を見せなくなってから、数週間が経過した。

あの相談を受けて少し経ってから、彼女はなんの音沙汰も無くなった。

キュゥべえに聞いても、『本人が拒否している』だの『僕はあくまでも中立だからね』だのと、なにかと理由をつけて教えてはくれなかった。

思えば、あの相談の時、佐倉さんは何でもないと言っていたけれど、それが嘘なのは一目瞭然だった。

あの時は、彼女の意思を尊重して深く追及はしなかった。

しかし、彼女の性格上、なにもかも抱え込んでしまう気がするし、ここまで音沙汰がないと不安になってしまう。

もし、彼女がなにか無理をしているのなら力になりたい。

そこで、私は彼女の家に行って直接調べることにした。

マミ「たしかこの辺りに...あった」

それほど多くは訪れていなかったので、地理には不安があったが、なんとか辿りつくことができた。

とはいえ、いきなりやってきて『あなたの悩みを解決してあげるわ!』などと佐倉さんに言っても、彼女は隠し通してしまうだろう。私だってそうする。

どうすれば聞きだせるか、悩んでいたその時

「―――――――――!!」

教会の中から、怒声が響き渡った。

聞こえる声は三つ。

一つは、なにやら怒鳴り散らしているような、男性の声。

一つは、それに対して反論しているような、女性の声。

最後の一つは、今にも泣き出しそうな、少女の声。

喧嘩でもしているのだろうか。

仲の良さそうな家族でも喧嘩はするだろうから、珍しくはあっても、不思議なことではない。

だが、それにしては異様だ。

うまく言えないが、喧嘩の域を超えて、今にも殺しにかかりそうな...

やがて、一切の声が止み、教会は静寂に包まれた。

流石におかしいと感じた私は、すぐに教会の扉を叩いた。

マミ「ごめんください。巴マミです。なにかあったんですか?」

だが、返事は無し。扉を更に強く叩く。更に大声で呼びかける。それでも返事は無し。

今のいままで言い合ってたのだから、寝ているなどあり得ない。

ならば、仲直りをした安心感から聞こえていないのか?それでも、ここまでして聞こえていないのは考えにくい。

まさかと思いソウルジェムを確認するが、しかし反応はないため、魔女も使い魔も関係がないようだ。

マミ「...仕方ないわね」

ただの杞憂で終わればそれまでの話だ。

幸い、扉には鍵がかかっていなかったため、すんなりと開けることができた。



―――もし、私の決断があと数分でも早ければ、もっと素敵な未来があったのかもしれない。

真っ先に目に入ったのは、椅子の上に立ち、天井から吊るされたロープで、今にも首を吊ろうとしている佐倉さんのお父さん。

なにをしているのか?決まっている。

これは―――自殺だ。

マミ「だ、ダメっ!」

すぐに変身して、マスケット銃でロープを撃つ。

ロープに体重をかけていたため、それを失った佐倉さんのお父さんのバランスが崩れ、椅子から転げ落ちた。

すぐさま駆け寄ろうとするが、しかしなにかに躓き、顔面から床に倒れ込む。

その躓いた何かを確認した時、私は己の目と正気を疑った。

そこに倒れていたのは、紛れも無く

マミ「モモちゃん...おばさん...」

床には、大量の血が飛び散っていた。

マミ「なんで...」

その血は、紛れも無くモモちゃんと佐倉さんのお母さんのもので

マミ「なんでなのよ!?」

彼女たちの有り様は、私から冷静さを奪うには十分だった。

私は、周りを見ることもなくすぐに二人に魔法をかける。

私の魔法は結びつけることに特化した魔法。

それなりの治療効果もあり、あまりにも酷い傷でなければ治すこともできる。

発見が早かったためか、流れていた血は止まり、二人の呼吸も安定してきた。とりあえずは一命を取り留めたようだ。

マミ(なにがあったのかしら)

聞こえてきた声は三つ。自殺しようとする佐倉さんのお父さんと、刺されたモモちゃんと佐倉さんのお母さんという現状。

なにが起こったかなんて考えるまでもない。

マミ(ひょっとして、強盗にでもあった...?)

だというのに、有り得ない可能性ばかり考えてしまう。

マミ(それとも、魔女か使い魔が...?)

つい先程自分で否定した可能性をあげてまで、目の前の現実から目をそらしてしまう。

そんな私が、背後に振り上げられた凶器に気付けるはずもなかった。

背中に走る灼熱、激痛に、私は前のめりに倒れる。

どうにかして身体を起こそうとするが、しかし仰向けになったところで押さえつけられてしまった。

左手で絞殺さんばかりに首を絞められ、私は呼吸すらままならなくなった。

どうして、と私が問う前に彼は喚き散らした

杏子父「お前も...なのか!」

マミ「...えっ?」

杏子父「お前も魔女なのか!」

杏子父「お前が杏子を唆し、悪魔に付け入れさせたのだな!?」

マミ「な、なにを...」

杏子父「この世から消え失せろ!この薄汚い魔女め!」

彼が、凄まじい形相で掴みかかってくる。

なんのことを言っているか分からないが、それを聞いている余裕はない。

空いている右手に包丁を持って、彼は私のお腹に突き刺した。

痛みが私の脳内を支配し、絶叫が教会に響き渡る。

それでも、まだ終わらない

包丁を私のお腹から抜き、また突き刺す。

何度も、何度も、何度も。

激痛に耐えかねた私は、無意識の内に彼の左腕を思い切り掴んでいた。

魔力で強化された身体は、一般人の能力を遙かにしのぐ。

バキリという嫌な音と共に、佐倉さんのお父さんが悲鳴をあげる。

その隙に、床を這って彼から距離をとる。

だが、そこまで。魔法少女は死ににくいとはいえ、痛覚もあれば、疲れもある。

あまりの痛みに、身体の重たさに、私はなにも考えられなくなっていた。

杏子父「なぜ抵抗する!?忌まわしき魔女風情が!」

包丁を振り上げた彼が、再び私に襲いかかってくる。

その先にあるのは、私の死。魔女との戦いで、何度も味わってきたこの悪寒。

やられる...そう思ったときだった。

モモ「やめて...パパ...」

目を覚ましたモモちゃんが、彼に必死に縋り付いた。

モモ「マミお姉ちゃんをいじめないで...ぶつならわたし...」

でも、その懇願は彼の怒りを買ってしまったようで。

杏子父「モモ...なぜお前が魔女を庇う!お前までそうなのか!?」

モモ「違う...わたしはおねえちゃんと約束したの。絶対になにをされても我慢するって...だから」

杏子父「あああ...なんということだ。せめて、魔女に唆される前にとお前たちを手にかけたというのに、既に憑りつかれていたとは...!」

彼が、モモちゃんの首を締めあげる。痛めた腕のどこからそんな力が湧いてくるのか、彼女がいくら苦しんでも彼は力を緩めない。

杏子父「魔女は生かしておけない...今度こそ浄化してやる」

マミ「やめ...ッ!」

声を出そうとしても、喉を込み上げる血塊に遮られてしまう。

だが、次の手を考える間もなく、彼の刃はモモちゃんへと振りかぶられる。






リボンがマスケット銃に変わる。

必死だった。なにも見えなくなっていた。考える暇さえなかった。

そんなものはなんの意味も為さない。

意味があるのはただ一つの事実のみ。




弾丸は、佐倉さんのお父さんの心臓を貫いた。


マミ「はぁ、はぁ...」

彼の身体に魔力を流す。

既に血は止まっている。傷口も塞がっている。

マミ「お願い...目を覚まして...」

なのに、彼は一向に目を覚まさない。呼吸をしない。

...当然だ。彼は既に死んでいるのだから。

側で倒れているモモちゃんとお母さんを見比べる。

よく見ると、顔や身体の至るところに怪我を負っている。

先のモモちゃんの言葉がよぎる。

きっと、どんな目に遭っても耐えてきたのだろう。

きっと、それでも未来を信じていたのだろう。

マミ「...ごめんなさい」

私に泣く資格などない。

マミ「ごめんなさい...ごめんなさい...」

それでも、謝罪の言葉と零れ落ちてしまう。


どれほどの時が経っただろう。1分か10分か1時間か...

涙は枯れ、頭も冷静さを取り戻していく。

私は、全てを奪ってしまった。

泣くのも後悔するのももう終わりだ。

謝罪も償いも、なんの意味もない。

ならば、私にできることはひとつだけ。




ガチャリ

杏子「マミ...さん...?」

マミ「お帰りなさい、佐倉さん」

罪は、私が全て引き受ける。


佐倉さんから受けた傷を引きずりながら、私は教会からの帰り道を歩く。

QB「マミ、どうして杏子に真実を話さなかったんだい?」

心底不思議そうに首を傾げるキュゥべえに、私は確かな苛立ちと怒りを覚える。同時に、己に対する嫌悪感も。

QB「君は自分の身と彼女の妹を守った。ただそれだけじゃないか」

真実はひとつだけでいい。

マミ「...言えるわけ、ないじゃない」

私は、自分の人生を捧げてまで力になろうとした佐倉さんの大切な人を

マミ「彼女のお父さんが、家族を殺そうとしたなんて」

この手で殺したんだ。



魔法がうまく使えない。

魔女をリボンで拘束しても、すぐに解かれてしまう。

マスケット銃の威力も、明らかに弱弱しい。

なんとか倒せたものの、これでは次の闘いではどうなるかわからない。

QB「厄介なことになったね、マミ。魔法の調子が悪いんだろう?」

マミ「...どうして?」

QB「君の願いは『生きる』ことだったね。おそらく君は潜在意識でその願いを拒絶しつつあるのだろう。魔法少女に与えられる魔法の属性は、叶えた願いの内容に直結しているからね」

QB「このままでは、いずれ魔法自体が使えなくなってしまう。そうなれば、今後の戦いは相当不利になるだろうね」

マミ「...なによ、それ」

なにをしてるんだろう、私。

お父さんとお母さんを見捨てた癖して、のうのうと生き延びて。

魔女や使い魔を倒すことを使命に置き換えて、生きる言い訳まで作って。

挙句の果てに、大切な人の大好きな人を殺したくせに。

―――自分すら、満足に守れないなんて。



雪が降っている。

私は、雪の中に埋もれている。

雪は、魔女との戦いで傷ついた私の身体から容赦なく体温を奪っていく。

眠い。疲れた。休みたい。そんな誘惑が身体から力を抜いていく。

もう、何をする気も起きない。

こんなみっともない死に方なら、私にはお似合いかもね。

そんなことを思いながら、私は眠りについた。



「...見つけたよ」

―――雪が、止んだ気がした。

今回はここまでです。続きは近々書きます







どこ...?

ここは、どこ...?

真っ暗...

私、死んだのかな...?

暖かい...

生きてる...

私はまだ生きている...!?





目が覚める。

そこには、見慣れた天井。見慣れた布団。見慣れた時計。

マミ(私...なんで...?)

今度こそ、死んだと思ったのに。

そして、ここへと運んだと思しき人は、ここにいるはずのない彼女で。

杏子「目、覚めたか?」

マミ「さ、佐倉さん...?」

杏子「悪いね、勝手に上がらせて貰ったよ」

マミ「あなた、なんで...」

杏子「......」

杏子「母さんから聞いたよ。母さんとモモを傷付けたのはあんたじゃないって」

マミ「...!」

杏子「よく考えればおかしな話だったよ。あたしのソウルジェムもあまり濁ってなかったしさ。どうせ、こっそり病院に忍び込んで浄化してたんだろ?」

マミ「...でも、あなたのお父さんを殺したのは事実だわ」

杏子「...ああ、そいつだけは許せねえ。どんな状況だったとしても、あたしはアンタを許さない」

マミ「......」

杏子「けどな、あんた大切なことを忘れてるよ」

マミ「......?」

杏子「あんたは、モモと母さんを助けてくれた。そいつもまた事実なんだよ」

マミ「!」

杏子「あたしさ、今までみんなに甘えてたんだ。誰も悪くないと慰めてくれる母さんに、こんなあたしでも信じてくれるモモに、力になろうとしてくれるあんたに」

杏子「でも、そのせいであたしは父さんをあんたに背負わせちまった。本当なら、ふんじばってでもあたしがなんとかしなくちゃいけなかったのにな」

マミ「......」

杏子「だから...さ...」

それまで強気だった彼女の肩が震えだし、語気も弱弱しくなっていく

杏子「頼む...これ以上、あたしの大切な人を失くさないでよ...」

マミ「...私、あなたのお父さんを殺したのよ?」

杏子「...わかってる」

マミ「あなたの祈りも、一番大切なものも全て奪ったのよ?」

杏子「わかってる!それでも、あたしにとって、あんたは大切な家族なんだ!」

マミ「佐倉...さん...」

杏子「だから...勝手に背負いこんで、勝手に死のうとしないでよ...」

そして、彼女は私に縋り付き、涙を流してくれた。


マミ「...ごめんなさい」

そうだ。最初から、私たちはこうしていればよかったんだ。

杏子「...許さない」

見えを張らずに、素直に感情をぶつけあって。

マミ「...ごめんなさい」

杏子「...違う」




マミ「...ありがとう」

見せかけの嘘なんて、いらなかったんだ。

杏子「...ねえ、マミさん。あたしさ、しばらく離れようかと思ってるんだ」

マミ「え...?」

杏子「やっぱりさ、このままだとどうしてもマミさんに頼りっきりになっちゃうと思うんだ。だから、あたしはもっと強くなりたい」

杏子「護られるばかりのあたしじゃなくて、護れるあたしになりたいんだ」

マミ「佐倉さん...」

杏子「だから...マミさん。今度組むときは、弟子じゃなくて相棒だ」

マミ「...わかった。けど、絶対に無茶だけはしないでね」

杏子「わかってるよ。どうしようもなくなった時は、絶対に今回みたいに隠したりなんかしない。マミさんこそ、また魔法が使えなくなるまで自分を追い込まないでよ」

マミ「もちろんよ。あなたに貰ったこの命、罪を償うまで決して無駄になんてしない」

杏子「...またね、マミさん」

マミ「またね、佐倉さん」

『それじゃまたね』って手を振って、無理に笑って寂しくなって...

でも、これは決別なんかじゃない。

これは、私たちが強くなるための約束。

もう誰も失わないために、誰にも背負わせないために必要な誓いだ。

いつか、また共に戦える日のために!

私たちはそう思っていた。





そう、思っていたんだ。

―――――――――――――――

モモ「お姉ちゃん、マミお姉ちゃんと仲直りできたかなぁ?」

杏子母「大丈夫よ。杏子は、マミさんのことが大好きだもの」

モモ「...うん、そうだよね。私もマミお姉ちゃんが大好きだもん」

杏子母(...ごめんなさい、あなた、杏子。『いつかは元通りになれる』なんて無責任なことを言って、ロクに言い返すことも向き合うこともしなかったから、こんなことになってしまった...)

杏子母(ごめんなさい、マミさん。あなたにはとても辛い目に遭わせてしまった...)

モモ「お母さん、泣いてるの?」

杏子母「ごめんね...ごめんねぇ...」

モモ「お母さん...」







「悔やんでいるのですか?」

杏子母「え...?」

「ならば、すぐに懺悔しにいきましょう」「そう、いますぐ彼に懺悔をしましょう」「そう」





「我らの教祖様に!」

―――――――――――――――――――

杏子「...強くなってやる」

マミさんの家からの帰り道、言葉に出してもう一度決意する。

杏子「もう、母さんにも、モモにも、マミさんにも失くさせなんかしない。押し付けたりなんかしない」

今まで散々助けられてきたんだ。だから、今度はあたしの番なんだ。

杏子「あたしが、みんなを助けるんだ」

あたしの戦いは、これからだ!







そんなあたしの決意は、唐突にあっけなくへし折られた。


杏子「な、なんだ...!?」

もうもうと立ち昇る煙。

方角は、あたしの教会。

杏子(まさか、火事...!?)

ふと、父さんに魔法少女のことがバレた日のことを思い出す。

あの日、信者たちは教本を燃やして火事を起こそうとしていた。

もしあたしの予想通りなら...!

杏子「母さん、モモ!」

急いで、ただひたすらに急いで木々の間を駆け抜ける。

服が枝に引っかかり、時折皮膚を裂いていくが、気にしている暇はない。

そうして教会に着いた先、あたしを待っていたのは―――


「やっときた」「魔女だ」

かつて父さんの言葉を信じさせられた彼らと目があう。

「魔女だ」

彼らの生気を失った目が、あたしを睨みつける。

「ついに見つけた」

この時、あたしは逃げるべきだったのだろうか。

「殺せ」

それとも、殺されることは承知の上で、父さんを壊した罰を受け入れ、彼らにこの身を引き渡すべきだったのだろうか。

「教祖様を殺した魔女だ」

なにが正しかったかなんてわからない。

「魔女は殺せ」「魔女は殺すんだ」

だが、あたしは自分を止めることなんてできなかった。

「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」

燃えさかる教会を背景に、打ち捨てられたそれと目が合った時、あたしは

「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」










ア タ シ ハ...







杏子「......」

気が付いた時には、辺り一面は真赤になっていた。

だいぶ暴れたせいか、教会の火も消え去っていた。

信者たちの腕が、脚が、臓物が。教会中に散らばって、メチャクチャに転がっている。

杏子「...母さん、モモ」

既にこと切れている二人の首を探し出し、抱きしめた。

杏子「......」

信者たちの首には、魔女の口付けがあった。

ここではないが、この付近のどこかで呪いを受けたのだろう。

それで父さんを失くした不満が爆発して、あたしを殺すためにここまで来たってわけか。

杏子「...ハハッ」

笑えてくる。

人間に害を為す魔女を倒す魔法少女が、自分の願いで集めて、その上魔女に操られた可哀想な一般人を殺したんだ。

家族も大勢の人も、あたしがみんな不幸にしたんだ

なんてことはない。父さんの言ってたことは正しかったんだ。

杏子「クッ...ハハハハハ...!」

...いや、魔女の方がマシだろうなぁ。

なにが魔法少女だ。なにがみんなを護るだ。

杏子「アハハハハハハハ!!」

人を壊すことしかできない、クズの癖に。

杏子(...ごめん、マミさん)

もう、こんな世界どうだっていいや。






―――――― パ リ ン







「ねえ、『人喰い教会』の噂って知ってる?」

「なにそれ?」

「ちょっと前に、隣街の外れの教会で変わった教祖様がいてね。その人の演説はとても素晴らしくて聞いた人はみんな虜になっちゃうらしいの。でも、その教祖様は強盗に殺されちゃって」

「...でね、それ以来、教祖様の怨念で、その教会に入った人は誰も帰ってこれないんだとか...」

「他にも色々と噂の種類があってね。たまたま入る前に引き返した人の話らしいけど、帰ってこれないのは、教祖様じゃなくて教会に住み着いている魔女のせいとか、もっと怖い大きな化け物の仕業とか...」

「な、なんだか怖いね...」

マミ「あなたたち」

「あっ、巴さん。おはよー」

マミ「さっきの話、詳しく聞かせてくれるかしら」

「なになに?巴さんもオカルト系に興味あるの?」

マミ「...ちょっと、ね」

今回はここまでです。たぶん、次の投下で過去編が終わると思います

教会

マミ「うっ...」

マミ(ひどい...こんなにも荒らされて...)

ソウルジェムの反応を辿ると、やはりそこには結界の入口が。

マミ「...やっぱり、魔女がいるわね」

マミ(彼女がここの魔女を放っておくはずがない...まさか...!)

マミ(いえ、きっと...きっと、モモちゃんたちと逃げてくれているはず!)

マミ「待ってて佐倉さん。すぐにこの魔女を倒してここを取り戻すから...!」


マミ「っ...!?」

結界の中に入った私を迎えたのは、立ち込める霧と、充満する異臭だった。

マミ(なによここ...こんなの初めて...!)

臭いに耐えながら、ソウルジェムの反応を辿っていく。

そして、進んだ先の大広間。私はこの異臭の原因を見た。見つけてしまった。

幾多にも積み重なる人間の胴体。

枯木に突き刺さった腐りきった頭部や手足。

床や壁に染み付いた、既に乾ききっている大量の血痕。至るところ・物にぶちまけられた内臓の一部。

そして、私の足元に転がる、数えきれないほどの腐りきった人々の遺体。

マミ「ぅぷ...!」

結界の中で人の死体を見るのは初めてではない。

だが、それでもここまでの有り様は見たことが無い。

私は、たまらず嘔吐してしまった。

マミ(いったいなんの目的でこんな...)

気持ちを落ち着かせ、回廊を進んでいく。

武士のような使い魔が端に並んでいるが、私を攻撃するどころか、行く手を阻む素振りすら全くみせない。

不思議には思ったが、無用な戦いを避けられるのなら好都合だ。

使い魔を顧みず、そのまま奥へ奥へと進んでいく。

そうして、私は結界の主と対峙した。

主は、長槍を片手に華やかな赤い衣装を身に付けた細身の人型で、頭部は蝋燭に灯された火になっており、白馬にまたがってこちらを見つめていた。

マミ「あなたが彼らを...?」

魔女「......」

マミ「...聞くまでもないわね」

マスケット銃を構え、魔女に放つ。

しかし、魔女は幻のように姿を消し、私の弾丸は空を切った。

私の右方向から槍が突き出されるが、それを寸でのところで気付くことができ、紙一重でかわす。

マミ「この...っ!」

魔女へと向き合ったとき、私は"それ"と目があった。



魔女の背後に佇むひとつの長方形のテーブル。

一番奥には、神父の服装をした男性が座っている。

左右に、モモちゃんと佐倉さんのお母さんが別れて、互いに向かい合って座っている。

そして、席はあとふたつ。

一つは空席。もう一つ、うなだれているかのように座っているのは...


マミ「佐倉さん!」

魔女の脇を通り抜け、私は彼女たちのもとへと駆け寄る。

不思議なことに、魔女は無防備な私に槍を突き立てはしなかった。

けれど、今の私にはそんなことを気にしている余裕はなかった。

マミ「しっかりして、佐倉さん!目を覚まして!」

思い切り肩を掴み、名前を呼び続けるが、彼女は反応しない。

がくがくと何度揺らしても反応はかえってこない。

当然だ。私が触れているそれはもう死体なのだから。

マミ「佐倉...さん...」

よく見れば、彼女の家族たちもそうだ。

佐倉さんのお母さんとモモちゃんは、首元に一文字の大きな傷が走っている。他の部分も全身継ぎ接ぎだらけで、まるで壊れたヌイグルミを繋ぎ合わせたかのようだった。

神父の人に至っては使い魔だ。佐倉さんのお父さん本人ですらない。

マミ「なんで...なんでこんな...」

夢だと思いたい。また共に戦おうと誓い合った彼女が、彼女が守ろうとした家族が、こんな目にあっているわけがない。

だが、彼女たちの冷たさが、乾ききった瞳が、これは現実だと突きつける。

マミ「...許さない!」

もう、理由だなんてどうでもいい。

怒りの赴くままに、元凶となった魔女へと向き合う。

敵の行動より早く銃を放つが、魔女の姿は掻き消えてしまう。

マミ(そこっ!)

ヒュッ、という風を切る音がするのとほぼ同時に背後に弾丸を放つ。

が、手応えは無し。横合いから、馬の強力な蹴りを腹部に浴びせられる。

骨が折れたような痛みだが、なんとか動ける。

体勢を立て直すと、そこにいるのは3体の魔女の姿。

複数の幻影...佐倉さんと似た能力のようだ。

魔女たちが、私の周りをぐるりと囲む。

私は、左右の魔女に銃をつきつけ牽制し、正面の魔女と睨み合う。

訪れる沈黙。

やがて、耐え切れなくなったのか、正面の魔女が動き出す。と、同時に左右の魔女も跳びかかってくる。

だが、引き金はまだ引かない。

魔女の槍が私を貫くまであと2メートル。まだよ

あと1メートル。まだまだ...

あと50センチ。もう少し

あと5センチ。いまだっ!

両手のマスケット銃を空中へと投げ、空いた両手で正面からの槍をいなす。

隙が出来た魔女の胸部へと蹴りを放ち、そのまま足場にして宙の銃の元へと跳躍する。

そして、掴んだ銃で、2体の魔女を同時に撃ちぬいた。

だが、撃ちぬいた魔女は幻影で、霧が再び魔女の姿を形成する。

マミ「―――!」

腹部に激しい痛みが走り、口から血が垂れる。

先の一撃が響いているようだ。

動けないことはないが、隙を作ってしまうのは明らかだ。

3体の魔女が、同時に槍を構えて突撃してくる。

どれが本体かなんて考えている余裕はない。

急いでマスケット銃を精製し、銃を構える。

外せば、その先にあるのは死。

狙いを定め、真ん中の魔女を撃つ。

その姿が掻き消えた瞬間、私は信じられないものを見た。



弾丸は、魔女の身体を貫いていた。

マミ「え...?」

魔女の幻影が全て消える。

残ったのは、動きを止めた一体の魔女だけ。

呆気にとられる私をよそに、魔女が距離を詰めてくる。

だが、その動きは鈍く、今の私でも武器を捌くことができた。

リボンで魔女の身体を拘束し、もう一度弾を撃ちこむ。

決着は、余りにも呆気ないものだった。


マミ「...ねえ」

魔女が答えを返す筈もない。

なのに、私はどうしても聞かなければならなかった。

マミ「どうしてあなたは当たりにきたの?」

避けなかった、ならまだわかる。

でも、この魔女は違う。明らかに、私の弾丸に当たりに来たのだ。

魔女「......」

魔女と私の立ち位置をもう一度見比べてみる

私と魔女を直線上に結ぶと、そこにあるのは佐倉さんたちの遺体。

マミ「まさか...」

もし、魔女が私を殺すことを優先したら、本体を捉えられなかった弾丸は彼女たちに当たっていた。

そこから推測すれば、答えは一つ


マミ「彼女たちを...護ったの?」

魔女「......」

魔女の身体が、霧のように大気に溶けていく。

マミ「待って...!」

聞きたいことは山ほどにある。

手を伸ばし、魔女を掴もうとする。

でも、結局それは一足遅くて。

魔女は、寸でのところで、グリーフシードを残してこの世から消え去ってしまった。

それを握りしめた時、私の視界は黒く塗りつぶされた。

***********************

もういやだ。

パパもママも佐倉さんもモモちゃんたちも、どうしていなくなってしまったの?

どうして、私だけ...

「もういいんだよ」

だれ...?

「もう無理して頑張らなくていいの。どんなに努力したって、あなたの頑張りは全部裏目に出ちゃうもの」

あなたは...小さいころの私?

「あなたが悪いんじゃない。あなたに応えようとしないみんなが悪いのよ。だからこうやって一人だけ取り残されちゃうの」

......

「でも大丈夫。あなたが独りぼっちにならない素敵な方法を見つけてきたよ」

え...?

「理想の世界を作ればいいの」

理想の...世界...?

「理想のみんなは絶対にマミを裏切らないの。佐倉さんのお父さんみたいにマミを傷付けないし、佐倉さんみたいに一時でも離れようとしない」

...楽しそう

「うん、凄く楽しいよ。時間を忘れてみんなで楽しくお茶会をするの」

そう...



私が**になってしまえば、もうこんな辛い目には...






『マミさん』






佐倉...さん?あれ、小さい私は...?

『...マミさん。あたしさ、あんたに迷惑ばっかかけてきたよね。何もかも背負わせて、なに勝手におっ死んでるんだと思ってるかもしれない』

そんなことないわ!結局、私はあなたが苦しんでいる時に何も力になれなかった!あなたは悪くない。悪いのは私よ。

『...なら、あたしの最後の我儘を聞いてくれるかな?』

...我儘?

『あたしは、誰にもこんな目に遭ってほしくない。こんな馬鹿は、あたしだけで十分だ。だから...頼む』






『あたしなんかの為に死なないでくれ。そして、こんな目に遭うやつを一人でも多く止めてくれ』


***********************


目が覚める。

手を見ると、そこには握り絞められた私のソウルジェムとグリーフシード。

私のソウルジェムの濁りは、だいぶ消え去っていた。

これは偶然だろうか。それとも...

マミ「...わかったわ、佐倉さん」

もしも、彼女がそれを望むなら

もしも、それが私への罰ならば

私は、全てを受け入れるわ。

数週間後

マミ「......」

QB「きみも変わったことをするよね。死体は結界に飲まれて消えてしまったというのに」

QB「そのうえ、杏子と家族以外にも、あの結界で消えた行方不明者全員のぶんを調査してまで墓をたてるなんてさ」

マミ「...キュゥべえ。あなたは怒るかもしれないけれど、私は決めたわ」

QB「?」

マミ「もう二度と、佐倉さんのようなことは起こさせない。絶対に、なにがなんでも止めてみせる!」

QB「それは、僕が契約するのを防ぐということかい?」

マミ「そういうことになるかな」

QB「...そうかい。なに、好きにするといい。それはきみの行動だから、僕はそれを咎めはしないよ」

マミ「ありがとう」

私はもう迷わない。

あなたとの約束がある限り、私はなんだって耐えられる。

この命が尽きるまで、戦い続ける!

だから...どうか見ていてください、佐倉さん

―――――――――――――――――――
現在


マミ「...だから、私は戦わなくてはいけない。彼女のような子を一人でも多く減らさなくてはいけない。それが、彼女へ報いる唯一の方法...」

私は、驚きを隠せなかった。

巴マミが人を殺したということも、佐倉杏子がすでに死んでいることにも。

なにより、この人がそれと向き合ってなお、こうして生きていられることに。

マミ「...ちょっと長くなっちゃったわね」

気が付けば陽は沈んでおり、辺りは闇に覆われていた。

マミ「さあ、今日はもう遅いし帰りましょう。女の子一人で夜道を歩くのはなにかと危ないわ。暁美さん...それに、美樹さんもね」

ほむら「えっ」

振り返ると、いつの間にいたのやら、美樹さやかがおずおずと木陰から姿を見せた。

さやか「マミさん...ごめんなさい、あたし...なにも知らないくせにあんなことを...」

マミ「謝らなくていいのよ。あなたの想いが本物だってことがわかったしね」

さやか「でも...でも!」

マミ「...なら、ひとつ頼まれてくれるかしら」

さやか「え...?」

マミ「あなたには、証を立ててほしいの。私や佐倉さんが出来なかった、奇跡に頼らなくても人を救えるという証を...」

さやか「証...」

マミ「そして、佐倉さんの人の為にと願った想いは、決して間違いなんかじゃないとね」

さやか「...わかりました。あたし、杏子って子の分までやってみせます!」

ほむら「......」

なぜ、彼女が私と手を組みたいと言ってきたのか、少しわかった気がする。

一人が寂しいとかじゃなくて、彼女は私を見張っていてくれたんだ。

決して後悔しないように、己の祈りで人を傷付けないようにと。

マミ「暁美さん、美樹さんをお願いできるかしら?」

佐倉杏子が死に、巴さんが背負った過去。

本来なら悼むべきことだ。その気持ちがないことはない。

なのに、私は...

ほむら「...巴さん。話があるわ」

この状況を利用しようとしている。心のどこかで、好都合だと思ってしまう。

そんな自分を嫌悪する。

それでも、私は迷うわけにはいかない。

ほむら「私の最後の戦いに協力してほしい」

全ては、あの夜を越えるために...

今回はここまでです。これで過去編は終わりです。

帰り道

マミ「ワルプルギスの夜...か」

マミ(まさか、本当に来るとはね)

QB「マミ。彼女の誘い、本当に受けるつもりかい?」

マミ「当然よ。見滝原に来るというのなら、そこで決着をつけてみせる」

QB「己の命を賭けてまでもかい?」

マミ「......」

QB「ハッキリと言わせてもらうよ。ほむらがなにを隠しているかは知らないけれど、それを差し引いても、君たちの勝算はかなり低い」

QB「当然さ。かたや、魔法少女二人。かたや、伝説とまで言われた最強の魔女。僕の言いたいことはわかってるだろう?」

マミ「...戦うな、と言いたいの?」

QB「だってそうじゃないか。この件に関しては、彼女も強制ではないと言ってくれた。それに、きみがここで死ねば、あの時の誓いも無駄になる」

QB「だったらいっそ、ここでみんなを追いこんでしまってはどうかな。きみだってもう寂しいのはいやだろう?だから、これを口実にすれば誓いを破るわけでは...」

マミ「キュゥべえ...流石に怒るわよ」

QB「...ごめんよ。でも、よく考えてほしい。杏子は、こんなところで無駄に命を散らすことを望むかな?」

QB「いや、彼女だけじゃない。まどかとさやかだって」

マミ「...キュゥべえ」

QB「...わかったよ。でも、一つだけ言わせてくれ」

QB「僕は、きみに死んでほしくない。それだけは彼女たちの願いと同じさ」

スゥッ

――――――――――――――――――――――


さやか「最強の魔女、ワルプルギスの夜か...あんたはさ、なんでそいつが来ることがわかったの?」

ほむら「...統計よ」

さやか「統計って...そんなに何度もそいつと戦ってきたの?」

ほむら「...ええ。その度に、何度も負けてきたわ」

さやか「...ねえ。あたしにも、何かできないのかな」

ほむら「......」

さやか「だってさ、こんなの悔しいよ。散々守って貰っておいて、命張らせておいて、最後までなにもしないなんて」

ほむら「...その気持ちだけでも、十分よ」

ほむら「私も彼女たちも、自分の意思で戦ってきた。だから、誰にも感謝もされなくて構わない。...でも、そうやって思ってくれる人が近くにいるのなら、それだけで彼女には救いになるわ」

ほむら「人の為に祈って、破滅していく姿を見るのは、彼女が一番辛いはずよ」

ほむら「だから、あなたたちは彼女を信じていてあげて。待つことも立派な戦いよ」

さやか「......」

ほむら「今まで勝てなかった私に、信頼される価値はない。でも、彼女は...いまの彼女は、信頼していてほしい」

さやか「...わかった。あたしは信じるよ。マミさんだけじゃなくて、あんたもね。だから、絶対に死なないでね」

ほむら「...ええ」

そう。おそらく、これが最大のチャンス...

この機は、絶対に逃すわけにはいかない。

――――――――――――――――――――

翌日

工場

仁美「さぁ...肉体から魂を解き放つのです...」

男「おぉ...」

ドボドボ

男「う、うへへへ...これで俺たちも...」

女「楽になれる...」

マミ「......」

マミ(帰り道に反応があったから来たけど...彼らの意識はもうなさそうね。暁美さんを待ってる暇もなさそうだし)

マミ「仕方ない...少々荒っぽいやり方になるけど」

ガッ

仁美「うっ」ドサッ

男「ああっ...なんだおまえは...!」

マミ「悪く思わないでね」

ガッ

男「うっ...」

ドササッ

マミ「この液体は捨てておいて...後は魔女だけね」

―――――――――――――――

結界

水中に浮かんでいるかのような、妙な浮遊感に襲われる空間。

床はあるが、だいぶ下にある。

木製人形のような使い魔に連れられて、テレビ画面から翼を生やした魔女が下りてくる。

マミ「......」

マスケット銃からすかさず一撃。息をつかせるまもなくもう一撃。もう一撃。もう一撃。

意外にも魔女はすばやく動き周り、私の攻撃を躱し続ける。

魔女は、動き回るだけでこちらになんの反撃も仕掛けてこない。

しかし、目を離すわけにはいかない。

使い魔か?頭上か?背後か?足元か?

まだ見ぬ反撃に備えつつ、じっと魔女の行動を見つめる。

それが魔女の狙いだとも知らずに。

魔女の画面に、少女の後ろ姿が映る。

マミ「あっ...」

少女は泣いていた

少女はその身を真赤に染めて、うずくまっていた。

少女は、やがてこちらを振り向いた。

マミ「佐倉...さん...」

少女は、私の忘れることのできない人...佐倉さんだった。

『ねえ...どうしてこんな目に遭わなくちゃいけないの?』

佐倉さんが問いかけてくる。

『あたしは父さんを...みんなを助けたかっただけなのに』

画面の中から、佐倉さんの両手が伸びてくる。

『あたし、何か悪いことしたの?』

佐倉さんが、優しく私の頬を包み込む。

『ねえ、教えてよマミさん』

私は、目を瞑り、確かにその温もりを感じ取った。

そして

マミ「私たちが、魔法少女だからよ」

私は、引き金をひいた。

画面が砕け、佐倉さんの形をした影が、画面の中へと戻っていく。

どうやら、敵の心に忍びこんで隙をつくり、相手を取り込む能力のようだ。

魔女が、驚いたように私から距離をとる。

だが、既に罠は張ってある。

私の魔法はリボン。

先程外した弾丸は、既に糸並みに細いリボンに変わり、魔女が無闇に動けば動くほど絡まるようになっている。

魔女の全身にリボンが絡みつき、動きが止まる。

マスケット銃を大砲に変え、魔女へと砲弾を放つ。

魔女は、抵抗するまもなく、砲弾に呑み込まれた。

ドサリ、と魔女が床へと落ちると、私を浮かばせていた力(?)も無くなり、床へと着地する。

マミ「...悪いけど、地獄はもう見飽きたのよ」

両親を見殺しにしたあの日から、何度も傷ついた。何度も死にかけた。何度も失った。何度も悪夢に責められた。何度も...

『...マ...マミ...サ...ン』

魔女の画面から、声が聞こえる。

液晶こそは半壊しているものの、佐倉さんの顔はしっかりと映っていた。

画面の中の彼女は、壊れたビデオテープのように、とりとめのない言葉を繰り返している。

『コン...コンナヤツラ...ニ...』

画面の中の顔が、佐倉さんから徐々に誰かに変わっていく。

『マモル...カチ...ナンテ...アル...ノ?』

そうして、魔女は力尽きた。

最後に、今にも泣き出しそうな私の顔を映して消え去った。

あの後、合流した暁美さんが後始末を引き受けてくれて、私は先に帰ることになった。

マミ「......」

魔力は大して使っていないのに、身体がダルく感じる。

今さら、幻覚なんかには惑わされない。

そうだ。あれは幻覚だ。その筈なのに...

『コンナヤツラニマモルカチナンテアルノ?』

魔女の最期の言葉がなぜか頭から離れない。

そして、最後に映したあの顔は、かつての私か、それとも...

その疑問は、ついぞ晴れることはなかった。



QB「......」

まどかの部屋

QB『入ってもいいかい?』

まどか「キュゥべえ?いいよ」

スゥ

まどか「こんな時間にどうしたの?」

QB「きみに伝えておかなくちゃいけないことがあるからね」

QB「まどか。きみは、マミとほむらについてどう思う?」

まどか「どう思うって...」

QB「なんでもいい。好きに感想を言ってくれればいいよ」

まどか「二人とも、魔法少女のことになると怖いかな。けど...」

QB「けど?」

まどか「マミさんは強くてカッコよくて優しいし、ほむらちゃんだって凄く優しい子だってわかるんだ」

まどか「...わたしも、ああいうふうになれたらなぁって、いつも思ってる」

QB「つまりは、好意的ということだね?」

まどか「うん。マミさんもほむらちゃんも、わたしの大好きな友達だよ」

QB「それは本当かな?」

まどか「?」




QB「マミが、過去に人を殺しているとしても、きみはそう言えるかな?」

まどか「...えっ?」

今回はここまでです。読んでくれた方はありがとうございます

****************************

赤い、赤い血だまりの中。

誰かが私の脚を掴む。

「貴様さえ...貴様さえいなければ...」

...ええ。わかっています。

あなたの命を奪った罪は、この命を持って必ず償います。でも、いまは...

「違うよ、マミさん。そんなことをしてほしいんじゃない」

佐倉さん...

「あたしは、ただあんたに―――」

ドスッ

佐倉さんの背に刃物が突き刺される。

「やったぞ、教祖様の仇を討ったんだ!」

「魔女どもを討ち取ったぞ!」

狂ったように笑う人々が、佐倉さんの身体を引き裂いていく。その背後では、彼女の家族を同じようにバラバラにしている。

―――やめて

いくら懇願しても、その手を止めることは決してない。

―――やめて!

私が押さえこもうとするその暇に、佐倉さんという存在が壊されていく。

―――やめてぇぇぇ!!

そして、気が付いた時には、私は銃を構え...


『コンナヤツラニ、マモルカチナンテアルノ?』


*************************


ガバッ

マミ「ゆめ...」

QB「おはようマミ。ここ最近よくうなされてるね」

マミ「...大丈夫よ」

あの魔女と戦って以来、同じ夢を何度も見ている。

最後によぎったあの言葉。

あの魔女の残した言葉に惑わされているのだろうか。

私は、ここまで来て、未だに戦うことに迷いがあるのだろうか。

...関係ない。

いまは、あの誓いのためにとにかく戦うだけだ。

――――――――――――――――――――――


マミ「ハッ!」

魔女「!」

マミ「追い詰めたわ、暁美さん!」

ほむら「ええ」

―――カチリ

マミ「便利ね、あなたの魔法は」

ほむら「魔女は無防備よ。今のうちに...」

マミ「ええ。わかってるわ」

言うが早いか、巴さんは銃を生成。

放たれた弾丸は、魔女の目前で静止する。

そして、私が魔法を解除すると、弾丸は魔女の脳天を貫いた。

マミ「やった...?」

魔女「」モゾ

ほむら「まだよ!」

魔女「」ブワッ

マミ「キャッ!」

ほむら「巴さん!」

マミ「だ、大丈夫。それよりも」

魔女「」シュウウウ

ほむら「どうやら、今ので力を使い切ったようね」

マミ「そう、よかった」

ほむら「...らしくないわね。あなたがこんな初歩的なミスを冒すなんて」

マミ「......」

私たちは、ワルプルギスを打倒するための正式な同盟を組んだ。

流石にここまで来て私の魔法を隠しておくワケにはいかないので、彼女にも『時間を止める』部分だけ能力を明かした。

存外、すんなりと受け入れられたのは幸いだった。

しかし、代わりに新たな問題が浮き彫りとなった。彼女のブレだ。

彼女が単独でハコの魔女と戦った日以来、彼女の強さにブレが生じている。

...巴マミという魔法少女は、精神・気持ちにより強くも弱くもなる。

魔法少女であれば、誰しもそうなのだが、今までの彼女はそれが特に顕著だった。

私が知る限りで誰よりも強い時があれば、弱い時もある。

ハコの魔女と戦う以前の彼女は、間違いなく私の知る中でも『最強の巴マミ』であった。しかし、この数日は私と同等程度かそれ以下に落ち込んでいる。

なにが彼女をそうさせているかはわからないが、ワルプルギスが来る前にどうにかして原因を突き止める必要がある。

結局、解決の糸口は見つからないのだが。

――――――――――――――――
数日後


マミ「お待たせ」

ほむら「......」

マミ「それじゃあ、さっそく」

ほむら「...今日は私一人で行くわ。あなたは休んでて」

マミ「えっ?」

ほむら「貴女、ロクに眠れてないでしょう?」

マミ「そんなことないわ」

ほむら「ならその隈はなに?鏡を見ればわかるわ」

マミ「これは...とにかく、いまはワルプルギスの夜を倒すためにグリフシードを確保し、連携を仕上げることが大切でしょう?」

ほむら「それは...そうだけど」

ほむら(とはいえ、このままワルプルギスの夜を迎えても、負けるのは明白...どうすれば、巴さんは元に戻るのかしら...)



コソリ

まどか「......」

短いですが、今回はここまでです。読んでくれたかたはありがとうございます。

―――――――――――――――――――――

私はいま、魔女退治を終えて暁美さんと別れたあと、帰路に着いている。

陽は既に落ち、辺りは暗闇に包まれていた。

マミ「......」

最近の、先程の戦闘を思い出しては怒りが込み上げてくる。

どうにも調子がよくならない。

原因はなんなのか、考えるまでもない。

わかっているからこそ不甲斐ない自分に腹が立つ。

かつて佐倉さんに教えたことも、彼女の墓前で誓ったことも、こんな程度で揺らぐほど薄っぺらなものなのか。

否、そんなことはあってはならない。それが唯一、彼女たちへの償いとなるのだから。

―――キィン

マミ(魔女の反応...!)

反応数は一つで、感じる魔力もそこまで強大なものではない。

しかし、万が一ということもある。ここは、暁美さんと合流してから...

マミ(...なにを考えてるのよ)

暁美さんを呼んで、どうする?また彼女に頼るのか?

そんな様で、ワルプルギスの夜を倒せるのか?

...駄目だ。調子が悪い今こそ、一人で戦えなければならない。

今までもそうやってきたじゃないと自分に言い聞かせる。

冷静ではないとわかっているが、それでも結界へと向かう足取りを止めることはできなかった。

―――――――――――

結界の中は、文字通り白と黒のみで作られた世界だった。

魔女は、無造作に転がる人々を捨て置き、侵入者には眼もくれずに、ただなにかに祈りを捧げていた。

足元に転がる男性の脈を測る。止まってはいない。呼吸も安定している。

魔女の動きに注意しながら、他の人も確認する。みな、眠らされているだけで、命に別状はないようだ。

だが、のんびりとはしていられない。床一面に広がる影が、人々の身体をじわじわと浸食している。

このままでは、影に吞まれてしまう。そうなる前に魔女を倒さなければならない。

まずは、様子見で弾丸を一発。

魔女は、その祈りの姿勢を崩さぬまま、地面から生やした影で弾丸を弾き落とした。

それから、なんどか小技で牽制してみるが、同じことの繰り返し。

大砲を使いたいが、今の調子では調整がうまくいかない。

ならばと、思い切って近づいてみるが、こんどは髪の毛から巨大な影を繰り出し、私を弾き飛ばす。

吹き飛ばされた先の物陰に身を潜めると、魔女はそれ以上の追撃はしなかった。

この魔女は、一定距離まで近づいたものに反応して攻撃を加えるようだ。

単純だが、だからこそ突破が難しい。

撃った弾をリボンに変えようにも、だいぶ遠くで落とされるため意味は無い。

...方法はある。でも、リスクが高すぎる。

それでも、やるしかない。全ては、   のために



...なんのために?

―――なんで、あなたがそんなことをしなくちゃならないの?

マミ「......」

―――ひょっとしたら、ここの人たちも佐倉さんたちを殺した人たちと同じかもしれないんだよ?

マミ「...うるさい」

―――きっとそうだよ。魔女に目を付けられるのは、そういう可能性のあるやつらばかりだよ

―――あんな上辺だけの誓いなんて、守らなくていいんだよ。だって、あなた本当は

マミ「うるさい!」

気が付けば、私の脚も影に侵され始めていた。

先の幻聴もそのせいだろう。

最早、悠長に考えている暇も手段を選んでいる暇もない。

今すぐにでもこの魔女を倒さなければ...

物陰から姿を現し、魔女へと駆けだす。

もちろん、魔女はそれに対して攻撃をしかけてくるが、寸でのところで躱しながら距離を詰めていく。

策でもなんでもない、ただの強行突破。

幸いというべきか、いくらか切り付けられるも、致命傷といえるような怪我はひとつもない

しかし、その幸運も長くは続かない。

あと一歩といったところで、地面から生えた影に捕らわれ、上空へと持ち上げられてしまう。

影が、動けない私の元へ集まってくる。このまま押しつぶすつもりだ。

ここまでは想定通り。

私がとったのは、攻撃に集中させることで守りの影を少しでも減らせればという、ほとんど運任せの賭けだった。

賭けには勝てたようで、私に影を集中させているぶん、護りの影は薄くなっている。

無謀でもなんでも、いまの私では魔女を倒すにはこの方法しかなかった。

「パパ...パパ?」

声のした方へ、ちらりと視線を移す。

この結界に取り込まれていた一人の少女が、目を覚ましたようだ。

パパ、と呼ばれた男性もいまにも起きそうな気配だった。

もう大丈夫よ、と心の中で励まし、魔女へ銃を構える。

パァンという音と共に、魔女へと弾丸が吸い込まれていく。

魔女は祈りの姿勢を崩し、その場へ倒れ込んだ。

一呼吸おいて、魔女の影が力を失ったように私を解放した。

虫の息の魔女に、銃を構え、引き金に指をかける。

その時だった。



「ぁぐ...」

突如、耳に届いた苦悶の声。

振り向くと、そこで行われていたのは、一方的な虐待。

先程パパと呼ばれていた男性が、虚ろな目でなにかブツブツと言いながら、己の娘の首を絞めているのだ。

その光景を見た瞬間、私の脳裏を過るのは、あの時の状況。

佐倉さんのお父さんが、娘の首を締め、罵りながら殺害しようとするあの光景。

私は、彼を止めるために銃を男性に向け...





―――やっぱりそうじゃない



―――そうやってあなたは、あの人を殺した。

そうだ。あの時もこうやって...

―――あの時、包丁だけを狙っていればあのひとは死ななかったのに。

私は、彼の心臓を...撃った。

―――なぜそんなことを?決まってるじゃない。

モモちゃんを...助けるため。

―――違う。

彼を...止めるため

―――違う。




―――ただ、生き延びたかっただけよ

生き延びたかった...

―――そうよ。あの時、彼を殺さなければ、モモちゃんの次に自分は殺される。だから殺したのよ。

私は...自分のために...

―――今までもずっとそう。佐倉さんとの約束だなんて勝手に願掛けて、本当は生きるための言い訳を作ったにすぎない。

ゼンブ...言い訳...

―――もう、こんな嘘だらけの生き方なんて終わらせましょう?

......




「マミさん!」

かけられた声に、我を取り戻す。

気が付けば、影は私の下半身を呑み込み、腹部にまで浸食を始めていた。

声がした方へと視線を戻す。

男性は地面に横たわっており、首を絞められていた少女は、見滝原中学の生徒に抱きしめられていた。

あの制服に桃色の髪は間違いない。鹿目さんだ。

まどか「マミさん、早く魔女を!」

マミ「え、ええ!」

なぜ彼女がここにいるか疑問に思ったが、それよりもこの魔女を倒さなければ。

虫の息だった魔女は、徐々に回復に兆を見せていた。

私は、大砲よりも小さめの大筒を右手に装着し、弾を放った。

魔女は、今度こそ消滅した。

―――――――――――――――――


魔女の結界が消え去ると、先程の少女と男性は再び気絶していた。

いまこの場に立っているのは、私と鹿目さんだけ。

まどか「大丈夫でしたか?」

マミ「ええ。あなたのおかげで助かったわ、ありがとう」

まどか「てぃひひ、よかった。一応、ほむらちゃんにも連絡しておいたんだけど...無事でよかったです」

マミ「......」

鹿目さんが契約したような様子はない。

なら、なぜ結界にいたのだろうか。その答えは、すぐに彼女自身に語られた。

まどか「ごめんなさい。実はわたし、マミさんのあとをつけていたんです」

マミ「...なぜ?」

まどか「マミさんが心配だったからです」

彼女の尾行に気付かないどころか、そんなに心配されるなんて。

とことんいまの自分に嫌気がさす。

マミ「...心配をかけてごめんなさい。でも、一人で結界に入るなんて危険なことは...」

まどか「じゃあなんでマミさんは一人で入ったんですか」

突然の怒気の籠った言葉に、つい狼狽えてしまう。

マミ「鹿目さん...?」

まどか「なんで危険だってわかってて、ほむらちゃんを呼ばなかったんですか」

マミ「そ、それは...」

まどか「そうやって、自分を蔑ろにすることが償いだとでも思ったんですか」

マミ「ッ!」

まどか「わたし、キュゥべえから聞いたんです。佐倉杏子ちゃんのお父さんを、事故とはいえ殺してしまったって...」

まどか「マミさんには、その事実を忘れてほしくないし、償いだって続けてほしい」

まどか「でも、それと自分を蔑ろにすることは全然違います!わたしは杏子ちゃんを知らないけれど、杏子ちゃんだって、マミさんが死ぬことなんて望んでないことくらいわかります!」

まどか「だからもっと自分を大切にしてください!マミさんがいなくなったら、悲しむ人たちがいることに気付いてください!」

珍しく強い口調で、しかし涙を流して縋り付く鹿目さんに、佐倉さんの面影が重なる。



「頼む...これ以上、あたしの大切な人を失くさないでよ...」

「あたしにとって、あんたは大切な家族なんだ!」

「だから...勝手に背負いこんで、勝手に死のうとしないでよ...」




よぎったのは、かつての彼女の言葉。

...そうだ。私は、なんで忘れていたんだろう。

私の戦う理由。それは、魔女を倒すことじゃない。

鹿目さんや美樹さんのような優しい子たちを、あんな目に遭わせないことだった。

鹿目さんは、こんな私のために涙を流し、あそこまで言ってくれた。

彼女の頭を撫でると、その温もりを感じられた。

マミ「ありがとう、鹿目さん。あなたのお蔭で目が覚めたわ」

忘れてはいけない。この温もりを

まどか「マミさん...」

忘れてはいけない。今までの痛みを、悲しみを、罪を。

マミ「あなたがくれた言葉、絶対に忘れないわ」

忘れない限り、私は戦える。




今度こそ、護るために戦える。

コソリ

ほむら「...完全に出そびれたわ」

まあ、あの様子なら巴さんももう大丈夫だろう。

まどかも、契約しようとはしなかったようなので、あとはワルプルギスに備えるだけ...

ほむら「...でも、妙ね。なぜあいつは、まどかに杏子のことを伝えたのかしら...」

QB「簡単なことだよ。マミに死なれたくないからさ」

ほむら「!」クルッ

ほむら(ほんと、コイツは前触れもなく現れるわね)

QB「マミほど感情に強さが左右されるタイプも珍しいからね。早めに手をうっておきたかったのさ」

**********************
回想


まどか「...それは、本当なの?」

QB「僕は嘘はつかないよ。さあ、どうなんだい?マミが人殺しだとしても、きみは今までと変わらず彼女と接することはできるかい?」

まどか「...わからない」

QB「わからない?」

まどか「マミさんのこともだけど...キュゥべえ、あなたがわからないよ」

QB「どういうことだい?」

まどか「どうして、そのことをわたしに教える必要があるの?言わなければ知らないままだったのに...マミさんが頼んだわけじゃないよね」

QB「......」

まどか「キュゥべえ。あなたは、マミさんの友達じゃなかったの?」

QB「まどか。つまりきみは、『マミが人を殺した』という事実だけでは彼女を見限らないということだね?」

まどか「...理由を聞かないと、わからないよ」

QB「それはよかったよ」

まどか「えっ?」

QB「僕は懸念していたんだよ。マミと関わり続ければ、いずれはこの事実に辿りつくこととなる。その時に、その事実だけで拒絶されれば、彼女もたまったものじゃないからね」

QB「だから、早めに答えを出してほしかったんだ。マミとどんな関係でいるかをね」

まどか「キュゥべえ」

QB「彼女は、ああ見えて独りが嫌いなんだ。だから、これから話す真実を聞いて、きみさえ忌避しなければ、彼女を支えてあげてほしい」

まどか「...わかった。キュゥべえにとって、マミさんは大切な人なんだね」

QB「...うん。とても大切だよ」


***************************

QB「と、いった感じだよ」

ほむら「...あなた、なにが目的なの?」

QB「だから言ってるじゃないか。僕は、マミに死んで貰いたくないだけだって」

ほむら(...とりあえず、コイツはいまは契約を迫る気はないようね)

巴さんの問題もほぼ解決し、まどかも美樹さやかもそう易々と契約はしないだろう。

油断はできないが、これでワルプルギスの夜に向けて準備を進めることに集中できる。

ようやく見えてきた光明を前に、若干浮かれていたのかもしれない。

だから、私は気づけなかった。




QB(これで、僕のノルマは確実に達成することができる)




目の前の宿敵の本当の狙いに。

今回はここまでです。読んでくれた方はありがとうございます。

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