花陽「はんたいの世界」 (51)

ラブライブss

※地の文あり
※若干性転換でもエロ無し
※まきりんぱな

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部室には、鏡が一枚あります。

にこちゃん曰く、その鏡は入部したときからあったらしいので……きっと、学校のものなのでしょう。

全身が写るくらい大きい、光をよく跳ね返す縦長の鏡。写真を撮るときに使ったり、ダンスのふりの練習にちょこっと使ったり、ぼさぼさになった髪の毛を整えるために見たり……後はにこちゃんや、海未ちゃんは密かに隠れてだけど……鏡の前でポージングしていたり、とか。
誰かだけって訳じゃなく、μ'sもよくお世話になってる、そんな鏡さん。

神妙な顔で凛ちゃんが話を始めたのは、どうしたのか汚れてしまっていたそんな鏡さんを、偶然居合わせた一年生三人で、丁寧にお掃除しているときのことでした。

凛「希ちゃんから聞いたんだけど―――鏡の向こうには、真反対の世界が広がってるらしいよ」

きゅっきゅっ、とリズムよく鳴っていた、布の擦れる音を止めて。真姫ちゃんは、すこうし眉にシワを寄せて凛ちゃんを見た後、はあ、と息を付きました。なんだか疲れた様子です。

真姫「まーた、希の訳のわからないオカルト話?私もうこりごりよ―――七不思議も含めて、ね。そんなのあるわけないでしょ――花陽もそんなのより、早く終わらせちゃいましょ」

凛「ええー!?ただ掃除するだけなんて、凛、つまんないもん!いいじゃんか、ねえかよちん!?」

花陽「え、えっと……」

たぶん凛ちゃんは、覚えたての知識を真姫ちゃんに披露したいんだろうなあ、私達いつも真姫ちゃんに教えてもらってばっかりだしなあ、でも真姫ちゃんなんだか乗り気じゃなさそうだし、でもでもちょっと花陽も気になっちゃいます……なんてうんうん考えて。

きらきらおめめを輝かせる凛ちゃんと、ちらちらとこちらを横目で伺う真姫ちゃんを見比べて――決めました。

花陽「えっと…掃除のBGM代わりってことでさ、聞いてみてもいいんじゃないかな…?ま、真姫ちゃん」

好奇心には勝てないものです。
嫌な気持ちになっちゃったかなと、そろーり、言い終わってから真姫ちゃんを伺うと、肩をすくめて、仕方ないわね、と何時ものように髪をくるくる。
口元は笑っていたので、そこまで嫌ではなかったみたい……素直じゃない、のかな。

息をつく間も無く、さっすがかよちん、分かってるにゃー!と凛ちゃんが私に抱き付いてきて、これまた何時ものようにじゃれあって――そうして、凛ちゃんは希ちゃん直伝のオカルト話を、楽しそうに話し始めたのでした。


――――曰く、鏡の向こうには『真反対』な世界があるらしい。
鏡と鏡を映すと何枚も奥に写って見えるけれど、奥の方に写った鏡は、はっきりと見ることはできないように………世界も同じ。
目に触れられる世界は、姿が鏡映しの世界だけ。でも鏡の奥の奥に映るにつれて、姿だけではない様々な形で、世界は『真反対』になっていく、らしい。
どの世界にも鏡に映されていった私達が居て、その世界で暮らしているらしいのだ。

凛「―――もし、映された一番手前の世界が奥の方の世界と入れ替ったりしたら、凛たちもいろんな『鏡映しの世界』が見られるかもしれないんだって。ちょっと面白そうだよね!」

真姫「へえ、………そうなの」

花陽「鏡映しの世界、真反対の世界かあ…どんなのがあるんだろうね?」

凛「希ちゃんが言うには、性格が真反対とかだって」

真姫「……花陽みたいなテンションの凛に、凛みたいなテンションの花陽、ってこと?なにそれ……めんどくさそう。花陽はなにか思い付かない?」

花陽「ううんと…そうだねえ、頭のよさとか真反対だったり?」

凛「な、凛が天才真姫ちゃんの頭脳ゲット!?……い、行ってみたいにゃ」

真姫「やめてよ、おバカなんて私はお断りよお断り!そうね、真反対……朝寝て夜起きる世界とか、そういうのもあるのかしらね?」

凛「真姫ちゃんも何だかんだでノリノリー!」

真姫「う、うるさいわよっ!他には……。………性別が逆、とか、ね」

花陽「男子校の音ノ木坂ってこと?………。」

凛「あ、それは見てみたいかなあ。男の子のμ'sの皆って、想像つかないよ」

真姫「そうかしら?まあ、私はきっとブレないとは思うけどね。二人も性格は変わらないわよ、きっと。凛なんかむしろしっくり来るわよ……ええ」

凛「……なんか変な口ぶり、まあでも、ズボンの制服、着てみたいなあ―――……って、おーいかよちん?ぼーっとしてるけど……」

花陽「へっ?あ、ううん……大丈夫、大丈夫」

ちょっと思うところあって、いつの間にかぼーっとしてました。いけません。気を取り直し、にっこり凛ちゃんに笑いかけます、にこにこ。

真姫「……ていうか、掃除の手すっかり止まっちゃったじゃない。
まあ、これだけ掃除すれば大丈夫だとは思うけど」

花陽「すっかり綺麗になったねえ……」

ああ、でも……

凛「んー、もうやる気分じゃないし、じゃあこれ片付けちゃおっか……バケツとぞーきん。か……」

花陽「…………」

凛「………よちんは置いておいて、まーきちゃん、そこの水飲み場まで片付け付き合ってほしいにゃー」

真姫「……。嫌と行っても連れていくんでしょうが」

凛「分かってきたね、真姫ちゃんも!」

真姫「………嬉しくない…」

凛「にししし!」

ふと、またもやいつのまにか考え込んでいた頭をあげると、ぶつくさいいながら、座っていた席から立ち上がる真姫ちゃんが居ました。
そうして扉横の凛ちゃんとならんで部屋から出ていく―――あれれ、花陽、気が付いてないだけかな、名前呼ばれてないよ?……置いてかないで?
慌てて声を出します。

花陽「は、花陽も……」

凛「かよちんは座っててー」
真姫「花陽は座ってていいわよ」

花陽「えっ?え、でも」

真姫「……だって、二人いれば十分だし、それに――」
凛「かよちんなんかさっきからぼーっとしすぎ。少しくらいここで休んでるといいにゃ。もう今日は部活もないし、早く帰ろ?」

ぽかーん、と花陽が二人からの思いがけない気遣いに色々止まっている間に、二人は部屋をさっさと後にしてしまいました。

通りすぎる直前、真姫ちゃんが小さく、

真姫「何かあるなら話しなさいよ」

と言ってくれました…ふふ、優しい真姫ちゃです。でも……
あれあれ、いつのまにやら……一人ぼっちですよ、花陽。

ここまでにして一期再放送見てきます

期待

何度見ても真姫ちゃんの愛してるばんざーい可愛くてツラい……アイドルに生きるかよちんとつれ回される凛ちゃん可愛い……本当ラブライブやばいっすね、月曜を生きる理由をお与えくださった神に感謝してます……4話はまだか………

ちまちまと再開します



なにもせずに居るのも物寂しくなって、なんとなく、ぐるりと部室を見渡せば。伝伝伝やポスターなど、きらびやかなグッズに溢れかえるなかでも、今、いやに目につくのは――やっぱりさっきまでの話題の中心、鏡さんでした。

歩み寄って、そっと触れない程度に手のひらを近付けると……なんとなく涼しげな気分。向こう側から、困ったように眉を下げる冴えない自分が、じっとこちらを見つめてきます。この跳ね返った光の壁に――薄気味悪いくらい透明な世界に存在しているのは、希ちゃんの言葉を借りるならば。花陽達の「真反対の世界」……なのでしょう。


凛ちゃんと真姫ちゃんに心配されたけれど、別に花陽は体調が悪いわけではなくて、少し考えることがあったのです。でもでも、希ちゃんの言葉について考えていた訳でもないんです。高校一年生に「鏡の向こう」なんてそんな哲学にでもできそうなこと、考えたところでまったくワケわからないくらいで……だれかたすけてーって叫んじゃいますもん。


花陽が考えていたのは至極簡単、凛ちゃんのことです。
前々から、思っていました。凛ちゃんが女の子っぽく見られないのは――花陽が、凛ちゃんよりダメだからだって。
花陽が王子様になれないから――凛ちゃんは王子様に見られちゃっていたのだと。
幼馴染みとして二人ワンセットで数えられることも多い私達―――元気はつらつでスポーツ大好きな凛ちゃんと、内気で臆病で、折り紙が大好きな花陽。
比較して、皆が、どっちを男の子みたいに見るか、どっちを女の子として見るかなんて分かりきっていて。

スカートを穿いて、μ'sの皆から可愛いって言われて。それは当然です―――だって、凛ちゃんは元から可愛かったのですから。

だからこそ理解してしまいました。
凛ちゃんは王子様ではなくお姫様なのだと気づくきっかけ、その芽を潰したのは、あの男の子達と――他でもない、花陽もなのだと。

だから、話を聞いたとき、真っ先に思っちゃいました。鏡の向こうだったなら。
そうしたら、花陽は凛ちゃんの王子様になってあげて、凛ちゃんをお姫様に、してあげられるのかなあって。………もっと、凛ちゃんの足を引っ張らないで、凛ちゃんを助けてあげられるのかな、凛ちゃんの足枷になってしまってはいないのかって、……あはは、考え出したらキリがありませんね。ただでさえノロマなのに、だから今も置いてかれてしまうのです。こんなとき、やはり鏡の向こうなら違うのでしょうか。

そうですね。

例えば性格が真反対だったら。例えば――





花陽「花陽が、男の子だったら」





ぼそり。願望を織り混ぜた何気ない一言を、吐息とともに吐き出して。
さっき言ってくれたし、真姫ちゃんにでも、相談してみようかなあ、でも、迷惑になっちゃうかなあ―――などと思いながら、いけないことと知りつつも――ぐりりと、鏡に指先を押し付けました。
かたくてひんやりした触感を、胸の奥に秘めた思いと共に、さらに指の腹に強く押し付けると―――



―――にゅっ、と。指が鏡にやわらかーくめり込みました。


………えっ。

花陽「…………へ?」


なんということでしょう、いきなり鏡がへこみました、一大事―――じゃないですかね?って、これってどうなっちゃってるのぉ!?


花陽「あ―――」


常識を超えた大事件にパニックになる私を無視して、あれよあれよの間に、どんどん腕が鏡にのめりこんでいきます――ひ、引っ張り出せない!?
一大事じゃなくて大ピンチ、じゃないかなあ?と、他人事のようにまた混乱の最中ぼーっとしていた花陽は、なんとそのまま―――


花陽「……っ、だ、だれか――りんちゃ、まきちゃ―――!!」

――慌てて絞り出した叫びむなしく、鏡に飲み込まれてしまいました―――え、ええー。
反射的にひっ、と声が漏れでちゃった。なにも見えない中、とにかく必死に叫びます。


きゃあああ!!!ひい!!!う、う、うわああ!!なんかつめたくて、とってもまっくらでいやだよお――真姫ちゃん、凛ちゃん―――あれ、なんか一周回って冷静になって―――いやいやいやそんなわけ無い!こわい、こわいよぉ、だれか、たすけ―――


ズ………



ダンッ!

花陽「―――へぶんっ!」


―――前のめりの体勢のまま、どこかに顔面から着地しました。孤独なheavenはこうして考えられたのかもしれませんね。海未ちゃんはすごい。……はなよジョークです。

一体何が起きたのでしょう。なんだか、夢でも見ているかのようです。さっき鏡に飲み込まれたような気もしましたが、勘違いでしょうか。
はっ、もしかしたら花陽は今お布団のなか………ううん、お鼻がひりひりします。夢オチではなさそうです。
現実…………うう、と唸りながら立ち上がると、そこは―――部室、の様なところでした。つのる違和感。でも、その正体がわからない―――。

明確になにかが違うときがついたのは、すぐあとのこと。
何時もの部室とは、反対方向にある扉を見て―――気が付きました。



…――まるで、『鏡に写したかのように』真反対な、この部室のおかしさに。


花陽「………………」

たっぷり三秒、固まって。振り替えれば鏡がそこに。無言で手のひらを押し付けてみるけれど――柔らかくなるどころか、びくともしません。どうしましょう。どうしたことでしょう、どうすれば――いいんだろう。脳味噌はぐるぐる頭のなかでミキサー並に回った後、ついにそのお仕事を放棄し始めちゃったので、今の花陽はぼーっとすることしか出来なくなっちゃいました。近くにあったパイプ椅子。よろめくように腰を落としました。どこからか夕日が差し込んできました。窓からに決まってますね。





………………。






はてさて、一体いくばくの時間が過ぎたのでしょうか。不意に聞こえたこんこん、と、部屋の扉をノックする音。さて、誰が来たのかと、ろくに考えもせず重い頭を回し、のろのろと視線を向けると。




事実は小説より奇なり、なんて言いますが。

フィクションの方が、まだ救いようがあったのかもしれないなあって、花陽は思います。

?「よ――。……………」

どうも耳に馴染みのあるように思えた、ハスキーな低音。扉の向こうにいた人影は、こちらを見て――その瞳をまあるく見開きました。どうにも花陽にはその人が男の子に――同い年くらいの背の高い、制服を着た青年に見えました。
青年?いやいや、音ノ木坂は女子校、それは教職員を除きいるはずのない存在です。
ならば目の前に居るのは不審者でしょうか?

―――ううん、そんなことないよ、なんて。ああ、なんで花陽は、そう思っちゃうのかなあ――!
色んなことに困惑する頭のなかを、さっきの凛ちゃんの話がぐるぐるぐるぐる、縦横無尽にめぐります。

反転した世界。鏡写しの存在。希ちゃんと凛ちゃんには悪いけど、信憑性の欠片もないものがたりを、まさか信じるはめになるなんて――花陽は、想像してもいなかったから。でも、それ以外考えられないと、思っちゃって。

ヘヴンワロタ

そうしててくてくと響く足音に気付いた時には、新しい小柄な人影がひょっこり、扉横から顔を覗かせていました。アルトを少し高音に近付けたような、これまたどうしたことか馴染みのある気のした、明るい声。

?「マーキ君、扉前なんかで立ち止まって、どうしたんだにゃ……………お、女の子っ!?
マキ君それは犯罪だぜ!?」

?「違うわっ!ああリン、お前ってやつは何時も何時も……っ、ちょっとアンタ、不法侵入か?
まあ先生に言いつけたりはしないから、早めに出てって―――」

花陽「……………凛ちゃん――――真姫ちゃん」

明るい橙髪を小さく、くくった少年と、赤髪の癖っ毛の青年に、花陽は無意識のうちにそう呼び掛けてました。もう、考える余裕もなくて。キョトンとした顔で少年―――凛ちゃんカッコカリが首をかしげます。

?「リンのこと……知ってんの?
あ、もしかしてもしかしてニコ君の言ってた!」

?「ファン、ってこと?………ふぅん、やっとμ'sも、名が知れてきたってことか……」

何を聞くべきなんだろう、どうしよう。そういや彼らの名前は、ええと、今反応したってことは、もしかしなくても。やっぱり。


花陽「…あの……えっ、と、お二人は、―――ええと、星空凛と西木野真姫………って、名前に………心当たりは」

?「にゃ?リンはリン、ホシゾラリンだよ!」

?「ああ、オレはニシキノマキだけど――……それが…?」

知ってるものとはちょびっとずれたイントネーションに、血の気の引く思いです。くらくらり―――ああ、ああ。花陽は一体どうしてあんなことを呟いちゃったのでしょう。
いやでもだって、いくら幼馴染みで大好きな凛ちゃんのためとはいえ、まさかこんなところに連れてかれてしまうなんて思うわけ、ないじゃないですか。しかも、花陽が男の子になっているわけでもないし。

本当に、中途半端で、適当な――なんと不誠実な鏡さんでしょうか。帰ったらこんな鏡、割ってやる!……まあ、花陽にそんな思いきったことはできないでしょう。無駄に安心できちゃう。ではなく。

とりあえず。帰るために―――出来ることをしなくちゃ。四つの目線に負けないよう、人見知りで固まった口元を、こじ開けるようにして。お腹にぐっと力を込めて。アイドル活動は伊達じゃないって、ちゃんと、花陽自身に――教えなきゃ。

花陽「は、花陽は――――その」

花陽「こいず、み、………、小泉花陽と、いいます……っ!」

花陽「か、鏡の向こうからっ、迷いこんでしまいましたぁ……帰る方法、教えていただけませんか……?」


まるでどこぞのアリスさんのような痛い台詞を吐く花陽に向けられたのは、暫しの沈黙と、唐突にあげられた悲鳴に近い何かの叫びでした。その音量にびっくりした花陽が慌てて扉を閉めたおかげで逃げられなかっただけ、よしとしましょう。……えっと、良いのかなあ?

今日はここまででお願いします。そこまで長くはないので明日くらいには終わるかと。では

乙乙

乙やで
期待やで

>>1です。ぼちぼち乗っけてきます

マキ「…………つまり、だ。アンタはハナヨで」

花陽「……うん」

マキ「別世界で鏡に指を突き立てたら倒れこんじゃって」

花陽「うん」

マキ「気が付いたらアンタのとこと鏡写しなこの部室にいたと」

花陽「う……うん」

マキ「……………」

花陽「……………」

マキ「本当に………イミワカンナイ」

花陽「だ、だよねえ………あはは」

花陽の知る真姫ちゃんより、はるかに短めな癖っ毛を指でいじり回す青年―――マキ君は、そんな聞き覚えのある台詞を、とても低く、さらにひどく湿っぽく呟きました。……苦笑いを浮かべる他ありません。すると、花陽の向かいに腰かけた彼の隣に座る少年―――リン君が、でもと口を開きます。

リン「確かにリン、何となくなんだけどさ……、うん、やっぱかよちんに似てるって思う。キミのこと。
口調とか、仕草とか、色々」

花陽「あ―――こっちにも、私はいるの?」

リン「うん。リンのちっちゃい頃からの幼馴染みのカヨチンがね。優しくて、カッコよくて……リンの幼馴染みには勿体ないくらいの、さ。今日はまだ来てないけど。
あ、勿論……男子だけどね?」

花陽「…………そっか」

ふむ、こちらの花陽はずいぶんとリン君に信頼されているようです。それはとっても素晴らしいことで――じゃあ、花陽はどうなんでしょう?凛ちゃんからは、花陽は―――。ぐるぐる、ぐるぐる。ぽつりと、声が聞こえました。

リン「――――ねえ、キミさあ、もしかしなくても、なんか悩んでるでしょ?」

花陽「ひぇっ!?
い、いえ、そんなこと――」

リン「あー、そういうとこだよ?リンが仕草、つったの」

にやにやと、指差された先には私の手のひら。指先は合わさってて―――あっ。

マキ「ふぅ、ん。本当にハナヨとそっくりだな……」

そっくり―――なんて。マキ君がしげしげとこちらを見てくるので、気恥ずかしくなった私は慌てて手を下ろしました。

マキ「まあ、信じるしかない、ってか」

眉間にシワを寄せながら、マキ君が溜め息をついて。その上に重ねるようにして、リン君が言いました。

リン「じゃあさ――取り合えずその悩みってやつを相談してみなよー?」

花陽「ふぇ?」

マキ「っはあ!?
おい、何言ってんだリン、元の世界に戻る解決策とかの方が、よっぽど―――」

リン「まあまあマキ君、どうせこの先多分出会うこともないんだろうしさ、お悩みはちゃちゃっと解決しちゃった方がタメになるにゃー」

マキ「曖昧すぎるわ!ああ、何でそうも楽観的に――」

リン「あ、もしかしなくても、リンがいない方がやり易い感じ?
んじゃカヨチンと探す次いでにジュース買ってくるよ。
マキ君トマトジュースだろ?どうせ。キミは何でもいいかにゃー?」

花陽「う……うん」

マキ「おいっ、リン!」

言いたいことを言い尽くすかのように吐き出して。後ろで小さく束ねた髪をぴょこんと跳ねさせながら、リン君はさっさと行ってしまいました。取り残される花陽とマキ君。ぽつーん、なんて擬音がお似合いな感じです。

じっと机を見つめて髪をくるくるするマキ君をちらちら眺めていると、入部したての頃、真姫ちゃんと二人きりになった時、一人脳内で話題探しに奔走したのを思い出して、妙にドキドキしちゃいます。

というか、マキ君の整った顔立ちにも――なんだか、ドキドキ。そっくりなつり目に、無造作ながらに整えられた、くるくるの癖っ毛。……そういえば、リン君もなかなかカッコよかったと思います。でも、マキ君に比べたら、可愛いカッコよさ、といった感じでしょうか。まーるい目の親しみやすい、元気な少年。雑誌の表紙でも、飾ってそうな……そんな感じ。
あ、考えたら、随分と久し振りに同年代の男の子と話したような気もするなあ―――だから、耐性みたいなものが、リセットされちゃったのかも。
先に口を開いたのは、やっぱり、変わらずマキ君の方でした。

マキ「…………リンは――ああなると、聞かないからな……」

花陽「うん……知ってる」

マキ「……………。なあ、女子のオレ達っていうのは、どんなの……ああ、ううん、やっぱりいい」

花陽「……?…いいの?」

マキ「………さっきリンに関係無いこと聞くなって、言ったばっかだしな」

花陽「は、花陽は別に――マキ…君、が聞きたいのなら、全然………」

マキ「………。……じゃあ、頼む」

花陽「う、うん!えっとね、じゃあ―――」

穂乃果ちゃんから始まって、海未ちゃん、ことりちゃん、希ちゃん、絵里ちゃん、にこちゃん、そして凛ちゃん――真姫ちゃんと。好きなアイドルの子をにこちゃんと二人語る時みたいに熱弁して、気が付けばぐずぐずと胸の奥に燻ってた遠慮も何もかも吹き飛んで、普段真姫ちゃんに接するみたいになってました。

……もしかしたら、違和感『しか』ないのかもしれません。性別や口調は違えども………真姫ちゃんにちょっと違和感を加えただけの、そんな存在。だから、馴染みやすいのかも――しれません。

ふと、意識が返りました。しまった、語りすぎてしまいました!

花陽「……あっ、えと、その」

マキ「……?どうかした?」

花陽「ご、ごめんなさい……花陽、ずっと喋りっぱなしで……」

マキ「…………いや、全然構わないけど。ハナヨも好きなアイドルとか語るとき、ずっとそんなんだし……。オレも、聞いてて退屈しなかったから」

花陽「そう、ですか……はぅぅ、良かったです」

マキ「……けど、向こうでも、オレはやっぱり素直じゃないんだな」

自嘲めいた苦笑いに、なんだかフォローしなくちゃいけない気がして。花陽は慌てて声をかけます。

花陽「でも、でもっ、花陽達のことをいっつも気にかけてくれて、素直じゃないことも、まあ多いけど、本当は優しくて、カッコよくて、…気遣い屋で……本当に曲も凄いのいっぱい作ってくれるし……花陽は、大切な親友だと、思って…その……」

そう言えば、マキ君は溜め息をついて。

マキ「………なら、なんで相談してやらないんだ、その……悩みってのを」

花陽「あ……相談しようとは思ったんです、けど――」


けど?言葉に詰まります。ええ、確かにここに来る直前、真姫ちゃんに相談しようと思いました。事実です。けれど、けれどしかし――思うことと、行動に移すことは必ずしもイコールでは有りません。なりたいって思ってたアイドルだって、動かなければ――背中を押してもらわなければなれなかったように。
さて、この場合、花陽の返答はこれで正しいのでしょうか。本当に花陽は、真姫ちゃんに言おうと決意していたのでしょうか?

…考えるまでもありません。尻込みしていたに違いないという確証の方が、立つのは早そう。

花陽「お、思っただけ………デス……」

マキ「………だろうな」

フッ、と笑ったマキ君は、それはもう様になっていて、思わずぽけっと見とれちゃいそうになりました。なっただけなのでせーふです。

すると、かたんと椅子を揺らしたマキ君が姿勢を正しました。つられて、花陽の背筋もぴん、と伸びます。大事な秘め事を話すように、頬を染めたマキ君はぼそぼそと。

マキ「じゃあ、本当に――その、お、オレに相談するか…?
まぁ、確かに、もう会うこともない、そういうことにはちょうどいい相手だとは……思う、けど」

花陽「………ううん」

申し訳ないくらい、否定の言葉はするっと出てきました。こっちのマキ君も、あまりこう言う『素直に』何かをすること―――この場合は心配をすること―――が苦手なのでしょう。
気恥ずかしそうでありながらきょとんとした顔の彼に、花陽は拙く、なんだか心の痛む思いでおどおどと伝えました。

花陽「え、えっとね、気持ちは嬉しいの。でも、でもやっぱり、ここでマキくんに相談するのは――ズルいことだと思うから。
真姫ちゃんに対する……なんだろう?裏切り……とかそんなんじゃないんだけど……えっと、えっと」

マキ「ああ、何となくは伝わったよ……不義理、ってことだろ?」

花陽「ふぎり……うん。多分、そうです…ね」

そう、ああ言ってくれた真姫ちゃんがいるのに、マキ君にお願いしてしまうのは、なんだかとても、不義理を働くことな気がします。短くも長い間積み上げてきた私と彼女との関係性に対しての、それこそ冒涜とすらとれるような。
これはちょっと大袈裟でしょうか?でも、花陽の気持ちとしては、そこまでおかしくは無い表現です。だから、真姫ちゃんに頼ります。……戻れたら、の話ですけど。

マキ「リンはああ言ってたけど、オレも、その方がいいと思う。きっと間違ってないよ、その判断は」

花陽「そう……ですかね」

マキ「ああ。もしその女版のオレの立ち位置にオレがいたなら……ま、別に、嫌がることは……ないだろう、し」

花陽「それは……嬉しいってこと、なの?」

マキ「んな……べっ、別にそんなんじゃねえよ!やめろよ!」

ふふ、真っ赤です。からかわれた反応まで、本当に真姫ちゃんにそっくりだなあ、と。気を緩めてついくすくすと笑ってしまえば、不服そうなマキ君が、溜め息の後、なんだか躊躇い気味に言いました。

マキ「……実を言えばな、ついさっき、ハナヨにも相談を受けたんだ」

唐突でキョトンとしてしまいます。ええと、はなよ?……私?

花陽「花陽にって……えっと……」

マキ「ああ、勿論こっちのだ。で、その内容は…まあアイツとの約束だし言えないけど…要約すれば、親友に相応しいか、それ以上の人になりたい、って言うのでさ」

花陽「……それは―――」

……そっくりです。まるで、鏡に写したみたいに――花陽の悩みと。だってそうして私は――自分自身を変えることを願いながら、鏡に指をたてたのですから。動きを止めた花陽をじっと見つめながら、マキ君は変わらない調子で続けます。

マキ「……アイツの相談なんてなかなかないからビックリした。しかも、内容が内容だ。でも、迷った末にオレはまあ、こう答えた訳だ」

ほんのちょっと、期待を込めて言葉の続きを待っていれば。マキ君は、なんとこう言いました。

マキ「――『何もしなければいい』って」

花陽「へー………っふぇぇ!?」

―――ドウイウコトナノォ!?って。椅子を蹴って、すねを思い切りパイプにぶつけて蹲ります、慌てて駆け寄ってくるマキくんになにやってんだよ!と叱られてしまいましたが、しかし、だって。

花陽「だ、だって」

マキ「だってなんだよ、」

花陽「――それじゃあ、何も変わらないじゃん!」

痛みと――燻る思いに潤んだ瞳でマキ君を睨むように見ます。だってだって、今のままじゃ、花陽と凛ちゃんは何も変わらない……同じ、ダメな花陽のままなのに!身勝手もいいところだけど。ひどく、その答えに裏切られたような――それこそ不義理を働かれた気分でした。

けれど。
彼はそんな花陽に、なんだか呆れたような、苦笑いのような反応を返します。

マキ「別に……お前の悩み事がアイツと似たようなことだとしても、そうでなくても、参考になればと思って話しただけだから。そんな反応するなよ。
……多分思考回路はどちらも似たり寄ったりみたいだし…わざわざ俺に聞かないで、答えは向こうのオレにでも聞いてみろ。……つまりこの世界に、お前の悩みを解決してくれる奴はいないんだ」

花陽「………」

マキ「そう思うだろ?いや、むしろ始めから気づいてたんじゃないのか?――リン」



リン「……ま、ね」

花陽「!?」

ビックリして振り替えれば、ドアの隙間、そこからリン君がひょこっと顔を覗かせていました。こちらはなんだか、申し訳なさそうに笑ってました。そうしてドアを開けて、ひょこひょこと入ってきます。

リン「分かってんなら黙っておいてほしいにゃ……」

マキ「お前からの将来あるであろう相談を済ませたってことで許してくれよ」

リン「………ったく」

がしがしと頭をかいて、リン君はりょーかいしました、と首を縦に軽く動かすと。片手に何本も抱えていたジュースのうちの一つを、器用にマキ君に投げつけました。きれいな放物線を描き、彼の手にすぽりと収まります。

マキ「後で払うわ」

リン「別にいーよ。全部、マキ君に任せっぱなしだったしさ。ほら、キミも」

花陽「あ、ありがと」

マキ「……自覚あんのかよ………」

リン「何?」


手渡されたパックのお茶を握って頭を下げます。お金、いいのかな。かしゅっ、と缶のプルタブを持ち上げたリン君は、缶の端を持って揺らしながら、戸惑いっぱなしの花陽の方をちらり見て、たぶんね、と口を開きます。

リン「これは、リンの考えなんだけどさ…多分、始めから物事を解決する術は元の世界にあるんだよ。きっと。
なら、ここで知ったって結果は変わらないけれど――あんまりそれはしない方が良いことだと、リンは思うんだ。
キミは、なんだか、元の世界に対して酷く尻込みしてる感じだったから……うん、マキ君なら――なにか手助けしてくれるんじゃないかと思っただけ。たいした考えがあった訳でもない。
まあ、ただの持論だから、別に解決してくれても構わなかったんだけどさ。
マキ君が元の世界で真姫ちゃんに聞いた方がいいっていうなら、リンはそれを尊重するにゃ。
反対する理由はないさ」

マキ「オレは、今、なんとなく…そうなんじゃないかって思っただけなんだがな。ったく、なんでそうも慣れてんだよお前は…」

それは、さっきのマキ君の言葉の話でしょうか。やけにリン君がすごく賢く見えます。凛ちゃんと変わらないはずなのに。よく分からずぽけっとする花陽の目の前で、マキ君がヤジを飛ばすように、不機嫌そうに言います。

マキ「……で、ハナヨは?いたのか?つーか戻る方法、そんだけ自信満々ならなんか思い付いたんだろうな」

リン「にしし、いやあ、カヨチンには会えなかったけど……あ、でも、戻る方法なら分かるよ。どうする?」

そう呼び掛けられて、我に帰った花陽は、はひっと情けない声でつい、座るマキ君を伺います。片目だけでこちらを見るマキ君は、いいんじゃないの、と言っている気がして――いえ、きっと違います。これは花陽自身が思っていることに、違いありませんね。他の人に後押しばかり求めちゃ、きっとダメなんです。それじゃあ、凛ちゃんの背中を押した人として、凛ちゃんに申し訳がたたない。首をぶんぶんと振って。

花陽「はい。帰れるなら、帰りたい、です……!リン、君が、その……できるなら、ですけど」

そう言えば、嬉しそうにリン君は頷きました。

リン「勿論だよ!んじゃあ説明するにゃ!カヨチン、手のひらを鏡につけてー」

花陽「う、うん。……こう?」

お茶を持ったのと反対の手を持ち上げ、指紋をつけてしまうことに躊躇いつつも押し付けて。ひんやりとする感覚を手のひら全体で感じながら、花陽は再び訊ねます。

リン「んで、来るときに思ったのと反対のことを思う、それだけにゃ」

マキ「は?それだけ?てかさっきから、何でお前はそんなに知ってんだよ。おい」

リン「まあまあ、……やってみてよ」

花陽「……うん」

狼狽えつつも、目をつぶってじっと念じます。反対、というのはきっとそのままでいいのでしょう。………花陽は女の子のままがいい、花陽は反対なんか要らない、花陽は、花陽は―――

花陽「今のままが、いい……ッ!!!」

そう、強く強く願った刹那。――ぐにゅり、歪む鏡。腕がぐんぐんと飲まれ始めます。わ、わ、わわわっ!

マキ「うそっ、マジかよこんなん……!」

リン「ほらマキ君!いっちゃう前に一言!」

マキ「あっえっ、あーっと、が、頑張れ、……よ?」

花陽「う、うんっ……」

リン「ヘタれかマキ君め!!えっと、元気でね、カヨチン!」

首を限界まで捻って、視界のはしにとらえた二人に頷いて、花陽も叫びます。

花陽「ふ、二人も元気でね!―――その、ありがとっ!」

リン君が手を大きく振り、マキ君は顔をそむけて髪を弄って。

そうして、顔が飲み込まれる寸前。あっ、という声の後、

リン「真姫ちゃんに、宜しくっ!」

紙パックをもう一つぎゅっと押し付けられ、握った直後――真っ暗闇に真っ逆さまに―――花陽はずぶずぶと沈んで、沈んで、沈ん―――









ず―――




どすっ。

花陽「へぶっ……!」

……孤独なheaven、再来です。また顔面から………いたいよぅ。

花陽「………んあ………?」

痛む鼻頭を押さえつつよろよろと顔を上げれば、これまた反対な部室―――いえ、はんたいのはんたい……元の部室が目の前に。

花陽「……戻って、来たの?」

茫然と一人呟けば、後ろのドアからとたとたと足音が聞こえてきました。二人分。

凛「かーよちん、変な声聞こえたけどだいじょうぶ……?」

真姫「雑巾片付け終わったわよ……ってなんであなた、床に座ってるの?」

花陽「あ、りんちゃん、まきちゃん……」

そこには、女の子の二人が、当然のように立っていて。ああ、良かった、花陽は元の場所に、自分の世界に戻ってきたのだと確信して。……それを見たら、気が抜けたから、でしょうか。

花陽「………………ふぇ」

真姫「ちょ、花陽?」

花陽「ふぇぇぇぇ………!!!」

凛「え、かよちん!?かよちんどーしたのっ!?なんで泣いてるの!?」

花陽「り゛んぢゃん、ま゛ぎぢゃん……っ!!!」

真姫「ゔぇぇ!?」

凛「にゃぁー!?」


涙が溢れて止まらなくて。その後ずっと花陽は――二人に抱きついたまま、二人に背中をさすられながら、わんわんと泣き続けてしまいました。


凛「……ほんとのほんとに、だいじょーぶ?」

花陽「ごめんね、凛ちゃん。心配かけて。本当に本当にほんとーに、大丈夫だから。ちょっと変なこと……思い出しただけだから、さ」

凛「……そっか」

真姫「凛、花陽が平気って言ってるんだから大丈夫でしょ」

凛「……うん、そうだね。じゃあじゃあ!早速帰……あ、ああっ!」

時間は全く経っていなかったようで、向こうへ行ってしまったときと変わらない夕日の中。
あの世界の話なんて、信じてもらえるとは思いませんし……黙っていようと口を閉じながら、影を踏みつつ廊下を並んで歩いていると、凛ちゃんが立ち止まって大声をあげるから。二人でビックリしてそちらを振り向きます。

真姫「な、なによ」

凛「提出の課題、放課後出すっていったままだ先生怒ってるかも……!」

花陽「え、凛ちゃん……ダメじゃん」

凛「か、かよちん!この荷物お願い!」

花陽「ふぇ!?」

凛「二人とも、玄関で待っててー!」

たったったっ、叫びながら凛ちゃんはみるみるうちに遠ざかっていきます。マッタクー、とぼやく真姫ちゃんと二人きりになりました。なんとなくちらりと隣を伺えば、どうしてかこちらを見ていた真姫ちゃんと目がバッチシ合っちゃって。なんだか、気まずい。

真姫「………何よ」

花陽「な、なんでも………」

―――思考回路はどちらも似たり寄ったりみたいだし…答えは向こうのオレに聞いて――

花陽「……なくなくない」

真姫「へ?」

思い出したのはさっきのマキ君の発言。そうだ、花陽は真実を確かめなくてはならないのです。真姫ちゃんに、義理を働かなくてはなりません。

花陽「ねえ真姫ちゃん」

真姫「………何?」

生唾をごくりと飲み込んで、息を大きく吸います。ぐっと全身に力を込めて―――尻込みしないで、花陽、いきます。

花陽「り、凛ちゃんの足を引っ張らない、凛ちゃんと対等な存在になるには…どうすれば、いいかなあ?」

真姫「それ、……相談?」

花陽「…う、うん」

じっとこちらを見つめられて、ついたじろいてしまいます。じーーーーっと私の顔を捉えて動かない視線の痛さったらないです。そうして、真姫ちゃんは少しの間を置いて。ぽつりと呟きました。

真姫「……何もしなくていいんじゃない?」

花陽「……なんで」

マキ君の言う通りだ―――その事実に、花陽はなんとも言えない顔で、真姫ちゃんの顔を見つめます。でも、花陽の反応に怪訝そうにしながらも、こちらの真姫ちゃんは、更に口を開いてくれました。だって、と。

真姫「この一年に満たない時間で、あなた一体何れだけ成長したと思ってるのよ。――自分の成長って、気が付いてないのは本人だけなのよ」

花陽「――――――」

……花陽は、成長してるの?

じっと、自分の両手を見つめます。入学したときと、なんにも変わらないように見える手のひら。横から除きこんだ真姫ちゃんは、あっ、と親指の下、赤くなった皮膚を指差しました。

真姫「擦りむいてるの?何時?」

花陽「あ、昨日、屋上で転んだときに……大丈夫だよ、別にっ」

真姫「ならいいけど………。ああ、そうね」

花陽「え?」

真姫「穂乃果ならこういうの見て言いそうよね、って思って。転んだ数も、成長の証、とか」

花陽「転んだ、数も………」

花陽は、変われたのでしょうか。μ'sに入って。みんなでいっぱい練習して、いっぱい転んで。いっぱい、ライブして。いっぱい、仲良くなって。

真姫「?まさか変わってないとでも思ったの?そんなわけ無いでしょ。この真姫ちゃんだって変わったのに、一番引っ込み思案な花陽が、変われないわけないでしょう」



当然だと言うように、真姫ちゃんは鼻をならして得意気に笑います。そうか、そうだったのですね。だからマキ君はあんな風に、向こうの花陽に言ったのでしょう。

真姫「それは、凛だって成長してるに決まってるわよ。でも、花陽はきっと凛よりもっと成長してる。だから、おんなじ……ううん、それ以上かもね。私が保証してあげる。ね、心配要らないでしょ?」

花陽「うん、………うん!」

有り難う。そう言えば、真姫ちゃんは、マキ君と同じように、照れくさそうに――顔を背け、髪の毛をくるくると弄りだしたのでした。ふふ、やっぱりそっくりですね♪

と、ふと忘れ物を思い出しました。

花陽「そういえば、はい。真姫ちゃんにプレゼント」

真姫「?何?」

花陽「えっと、………そう、貰い物!真姫ちゃんに宜しくって……」

真姫「誰からよ?」

花陽「ひ、ひみつっ!」

泣いた後、鞄にいれっぱなしだったのを思い出して、慌てて真姫ちゃんに貰ったパックのジュースを渡します。
そういえば、なぜリン君はわざわざ真姫ちゃんを名指ししたのでしょうか。不思議に思っていれば、真姫ちゃんは受け取った直後こそ訝しむようにしていた目を、即座に驚愕の色に塗り替えました。なんだかドキリとしてしまいました。

真姫「花陽、あんたまさか―――」

花陽「ふぇっ!?ナ、ナンノコトデスカ?ナニ?ナニ?」

真姫「……、……ああ、うん、何でもない」

花陽「………?えっと」

「おーいっ!」

口ごもる真姫ちゃんにどうしたのかと尋ねようとしたとき、不意に前から大きく声が響きました。あわてて振り向けば。


凛「おーい!真姫ちゃん!かよちん!おっそいよー!凛先に下駄箱ついちゃったじゃん!」

花陽「あ、うん!」

真姫「ちょ、引っ張らないでっ……!」

視界の先で、ぶんぶんと両手を振る凛ちゃん。私は真姫ちゃんの腕を引いて駆け寄ります。そうして、大きな声で、

花陽「ねえ凛ちゃん!真姫ちゃん!」

凛「なーに?」真姫「何よ」

花陽「私達、この一年で成長したかなぁ?」

凛「したよしたよ!」
真姫「だーかーら、当たり前じゃない!」

自信満々な二人に、沸き上がる笑みをそのまま浮かべます。なら、これは絶対言わなくちゃって思いました。だって、この成長は何のための成長かって、そんなの決まってます。

花陽「―――ラブライブ、絶対優勝しようねっ!」

まきりん「当然っ!!!!」

昨日より成長して、ずっとずっと強くなった負けない心で、明日も駆けていくんだって―――花陽は、そう改めて誓い、もう一歩を、踏み出したのでした。



………

………………

…………………………


花陽「でね?そのTVが……」

凛「ふんふん」

真姫「…………………」

真姫(………このトマトジュース、パッケージ鏡写しにプリントされてる……秘密にしたいみたいだから気にしないけどね。私も言ってないし)

真姫「………宜しく、か」

真姫(たしか、曲作りに行き詰まったときに、ボーイズ系の曲アイディアが欲しい、相談相手が欲しい、って思ってたら、どうしてか行っちゃったのよね……。帰る方法も分からないわ、来たわけも分からないわで、散々苦労したっけ。でも、今は…)

凛「おーい、真姫ちゃん?どうしたの?」

真姫「……。えっとね、実はちょっと、新曲のアイディアが……無くて……」

凛「にゃ!?なんと!凛の出番だね!真姫ちゃんの力になるよ!」

花陽「花陽も!て、手伝うよ!」

真姫「……ありがと」

真姫(一人で悩まなくたって、大丈夫だから)

真姫(………凛に似て素直で失礼な奴だったけど、気付かせてくれたリンには、ちゃんと、感謝しなくちゃね―――)

凛「真姫ちゃんが素直にゃー!?」

真姫「うるさいわね!もーっ!本当失礼ね凛は!!」

花陽「あはは……」

これで終わりです。


想像以上にぐだってしまった……何がしたかったのかね自分は?とりあえずまきりんぱな最高ってことで……でも凛ちゃん少なかった………お付き合いいただいた方有り難うございました。



良かったよ!

この設定なら色んな世界線の話書けるじゃん
まだまだ色んな話が読みたいな~(期待)

続け

おもしろかった

>>48
同感

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年01月10日 (土) 02:47:49   ID: -a8ehvVU

不思議で面白かったです(*´ω`*)

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