P「......会員制オーディション?」 (21)
ガチャガチャ
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凛「ふーん、アンタが私のプロデューサー?」
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街頭テレビが眩しい。
画面の向こうでは、俺のアイドルがトロフィーを持って微笑んでいた。
いつも俺に向けられていた微笑み。
もう遠い存在になってしまった微笑み。
俺のアイドルが『シンデレラガールズ』になったんだ...
あの日、俺は荒れていた。
酒をあおり、常連の飲み屋で暴れ、寒空の下に追い出された。
P「くそ...くそ...俺にもっと力があれば...」
俺は、アイドルのプロデューサーをやっている。
小さな事務所だ。
プロデューサー兼マネージャーの自分。
事務員の女性。
そして、社長。
三人で運営している、小さな小さなアイドル事務所。
会社がどんなに小さくても、魅力のあるアイドルを育てられると思ってた。
トップアイドルを排出し、会社も大きくなるし、大きくするつもりだった。
だが、世界は、世間はそう甘くなかった。
自分より有能な奴はいくらでもいた。
手持ちのアイドルよりも才能あふれるアイドルが山ほどいた。
でも、なんでこんなことが。
P「芸能界の闇か...まさか、ウチみたいな小さい事務所になぁ...」
今日の昼、アイドルに仕事の話が入った。
だが、それには『条件』があった。
【今晩、指定のホテルに来ること】
そう。『枕営業』を持ちかけられたのだ。
年端のいかない少女に対して、なんという仕打ちだろう。
しかし、この話を受ければ、テレビ番組に出してもらえる。
P「どう伝えろっていうんだ...」
アイドルにはまだ、伝えられないでいた。
伝えられるわけがない。
路地裏のごみ置き場で、出ているはずなのに、決めきれない答えを弄んでいた。
それから、3日ほどたった。
俺はまだ言い出せないでいた。
凛「ねぇ。プロデューサー。何か悩み事でもあるの?」
P「......いや。凛には関係ない。個人的な事だ。気にせずレッスンに集中しなさい。」
担当アイドルに気が付かれるほどか。
顔に出るとは厄介だ。
なんとか誤魔化さなければ...
まだ、決定するには早い......
凛「......ごめん。プロデューサー。実はもう知ってるんだ。」
P「.........なにを、だ?」
ペンを持つ指が震える。
歯がカチカチを音を鳴らす。
心臓の音がやけに、大きく聞こえた。
凛「えっと、テレビの仕事なんだよね?それに出られれば、私ももっと有名になれるし、事務所も大きくなるんだよね?」
P「そうなる.........かもしれない。確約はないが、チャンスではある。でも!」
自分は何を言っているんだ?
これじゃあ、行けと言っているようなものじゃないか!
凛「だから!...だから、私行くよ。べ、別に初めてっていうわけでもないし、それに、今の女子高生って色々進んでるし...」
凛「だから、大丈夫...だ、大丈夫なんだよ...」
凛はうつむき泣いた。
俺はその震えている肩を。
小さな肩に手を伸ばすことが出来なかった。
震える手が、正確に番号を押した。
おそらく、自分の声も震えていただろう。
『約束』を取り付けてしまった。
【明後日の夜7:00 千川ホテルにて】
俺は、凛に。
大事なアイドルに。
自分で、アイドルにした少女に。
『死刑宣告』をした。
その夜も、いつぞやのように、ゴミ捨て場に捨てられた。
酒を飲んでも飲んでも、酔えなかった。
その割には、頭痛と吐き気がひどい。
壁によりかかりながら、路地を行く。
ままならない足取りが、自分の未来を暗示しているようにさえ感じた。
歩きなれた家路を歩くと、見慣れない出店を見つけた。
易者が占いをするような、机に布をかぶせただけの簡素すぎる佇まい。
だが、俺は吸い込まれるように、前に立った。
店は、おそらく女性が店番をしていた。
おそらくというのは、大きめの蛍光色のフードをかぶっていたからだ。
フードからは、茶色い三つ編みのおさげが伸びている。
P「ここは、なんの店なんだい?占いかな?」
机の上には何もなく、看板すらなかった。
女?「会員制オーディションのチケットです。」
女は、胸元からスルリと、一枚の発光しているチケットを取り出した。
P「会員制のオーディション?なんだいそれは?」
俺は、そのチケットの光に目を奪われていた。
女?「会員制のアイドルのオーディションのチケットです。きっと、あなたのお悩みを解決してくれるでしょう。」
P「アイドルだって!?...それに、俺の悩みを解決って...あんた...」
胸に気味悪さと、怒りがわき起こる。
女?「千円でございます。」
P「おい!あんたに、なにがわかるっていうんだよ!!ふざけやがって!」
女?「千円でございます。」
もう、女は、何も答える気がないようだ。
その声からは、なんの感情も感じられず、現実味すらなかった。
そんな不思議な雰囲気に当てられたのだろうか。
俺は、それを買ってしまった。
チケットの裏には、地図があり、会場を示しているようだ。
幸いなことに、事務所の近くのようだ。
次の日の昼。
俺は、会場の前に立っていた。
P「事務所の近くにこんなところが...」
とはいいつつも、よくあるような雑居ビル。
しかし、こんなところに雑居ビルなどあっただろうか...
そして、ここでオーディションが行われるという...
眉唾もよいところだ。
疑いつつも、『もしかしたら』という思いがあるのも事実。
さぁ。オーディションに向かおう。
指定の階では、エレベーターを降りるとすぐ、扉があった。
扉の前には、受付があるようだが、中の様子は見えない。
チケットの受け渡しをする穴があるだけだった。
「中はいれば、あんたのアイドルが待ってる。」
そう受付は言った。
男か女かもわからない。
若いのかも老いているのかもわからない。
不思議な声。
俺は、チケットを渡すと、ドアを開けた。
部屋には、小さな壇上があり、幕が降ろされていた。
正面には、パイプイスが備え付けられていた。
俺は、しずかに腰を下ろす。
一呼吸つくと、静かに、幕が上がっていった。
愛梨「プライベート、大公開ですね!いっぱい見てください……あっ、あんまり見ちゃダメです!」
壇上には、つい先日、シンデレガールズになったばかり。
すなわち、全国規模のファン投票で1位に輝いた『十時愛梨』が立っていた。
P「ぷ、プライベート?何を言っているのか分からないけど、君がウチの事務所に来てくれるのかい?」
感じたこともないオーラに当てられながら、問う。
彼女は、ゆっくりとうなづいた。
P「......いける。彼女がいれば、凛は助かるんだ。」
十時愛梨を連れ、事務所に戻ると、事務員は言葉を失い、社長は気を失った。
凛は、ホテルには行かなかった。
否、行かせなかった。
凛も俺も、一緒になって泣いた。
俺は、凛と一緒にまた頑張ろうと思ったんだ。
愛梨の活躍で、事務所は一気に大きくなった。
凛の仕事も増え、所属アイドルも増えた。
当然、俺も多忙を極めるようになってきた。
だからだろうか、凛と過ごす時間が少なくなっていった。
P「あぁ!くそっ!なんで961のアイドルに勝てないんだ!!」
俺は、イライラしていた。
所属アイドルが軒並み、テレビやラジオ、劇の主役のオーディションに落ちたのだ。
しかも、特定の事務所のアイドルに負けた。
P「なぜだ?うちはあの『十時愛梨』がいるのに...」
すでに、肩書きだけで売っていくのは厳しいし、同じ事務所に所属しているというだけのアイドル達に、
人気1位と同等の魅力を発揮しろというのもムリな話だと思うが、当時の俺はそう考えなかった。
全てをアイドルの責任にしてしまったんだ。
所詮、ワンマンで大きくなった会社。
ずっと一人の力で支えるには大きくなりすぎた会社。
そして、俺は、それを抱えきれない小さい人間だった。
P「くそ...くそ...どうすれば?どうすればいいんだ?」
どうしたいのかすらわからず、歩きながら自問自答していた。
すると、見覚えのある出店を見つけた。
そう。あのオーディションのチケットを売ってくれた店だ。
俺は、走った。そして、店番の女の肩を掴んだ。
P「おい。まだあるんだろう?チケットを寄越せ!」
口角から泡を飛ばしながら、女をゆすった。
女は、意に反さず、胸元から、以前と同じチケットを取り出した。
P「ほら!やっぱりあるじゃないか!...そうだったな。1000円だろ?ほら。」
女?「......1万円でございます。」
P「え?前回は千円だったはず...いや。いい買う。これでウチの事務所の大逆転だ。見てろよ961!」
俺は、チケットを握りしめ、意気揚々と家路についた。
そして、俺はまたあの会場にいた。
パイプイスに座り、幕が上がるのを待っていた。
幕がゆっくりと上がる。
???「どもープロデューサーさん!ふぇいふぇいダヨー!」
知らない少女が立っていた。
見たことも無い少女。
???「私ちっちゃいコロから日本のアイドルに憧れてたダヨー!プロデューサーさんとトップアイドル目指して頑張るヨー! よろしくネー!」
俺は、目の前が真っ白になった。
この少女も逸材だ。だが、この程度なら、事務所に掃いて捨てるほどいる。
俺は、意気消沈しながら少女を事務所に連れて帰った。
P「(あのチケットは、事務所を立て直してくれる魔法のチケットじゃないのか?)」
指先が、冷たくなり、青ざめていく気がした。
気が気でなく、必死に店を探した。
店は、昨日と同じところに出ていた。
P「おい!、どういうことなんだ?!あんな発展途上の娘を出されても困るんだよ!!」
女はなにも答えず、胸元から例のチケットの束を取り出した。
女「10回分で10万円でございます。」
P「こ、こんどこそ、力のある、波が来ているアイドルが来るんだろうな?...来なかったらお前をぶっ殺してやるからな...」
そんな度胸もないのに、捨て台詞と金を投げ、そのまま会場にとんぼ返りした。
忌まわしいパイプイスに座る。
死刑を待つ囚人は、こんな気分なのだろうか。
そして、幕が。いや、ギロチンが落とされた。
幕の向こうには、前回と同様に、無名のアイドルが10人立っていた。
P「...殺してやる。あの野郎!ぶっ殺してやる!」
折角のアイドルをそのままに、俺は走った。
女は、先ほどと変わらない姿で、体勢でいた。
P「おい。俺は、事務所を救うようなアイドルが来なければ、[ピーーー]っていったよなぁ?なぁ?!」
下品な恫喝を余所に女は、胸元からチケットを取り出した。
P「もうこんなのいらないんだよ!ふざけるな!」
女「5%チケットでございます。」
振りかぶった腕が空中で止まった。
P「5%?...いままでのは何%だったんだ?」
女「それは、秘密でございます。」
P「(ここで5%が出てくるという事は、今までのはそれよりも低い確率ということだよな)...わかった。それで手をうとう。」
俺が掴もうとする、スルリとチケットが逃げる。
女「10万円でございます。」
P「てめぇ。俺にここまでの仕打ちをして、金とるつもりか!?」
女「10万円でございます。」
女のフードから、茶色い瞳が見えた。
背筋をゾクリと悪寒が走る。
P「わかった。わかったから。10万...10万だな。ほら。」
女「お買い上げありがとうございます。」
背筋に、冷や汗を感じながら、会場へと向かった。
3度目ともなると、パイプイスが尻になじむ気がした。
手に汗が滲む。
目が充血し、思考がにぶくなるのを感じる。
幕が、上がった。
蘭子「あっ…はっ、ふははは!闇に飲まれ…じゃなくて。あの…えっと、お疲れさまです!…わざわざ、遠いところまですみません!」
俺は、椅子を倒し、飛びあがりながら、ガッツポーズをした。
愛梨の同様に「2代目シンデレラガールズ」に選ばれた。あの『神崎蘭子』が目の前に立っている。
これで、961のやつらに泡を吹かせることができる!
その後は、予想通り、蘭子の破竹の活躍で、事務所は持ち直した。
P「ハハッ。あのオーディションさえあれば、うちの事務所は安泰だぜ。蘭子が落ち目になっても、また。あの会場で...」
そして、無能の俺の采配により、事務所は再び傾きかけた。
学習しない俺は、あの店に向かった。
P「なぁ。まだチケットあるか?あるなら早くくれよ?」
俺は依存していた。
中毒になっていたんだ。
あの会場の雰囲気の。
あの幕が下りる緊張の。
女「10%チケット。1億円でございます。」
P「おいおい。いくらなんでもそれはふっかけすぎじゃねぇか?だが、いいぜぇ。アンタには世話になってるからな。すぐに1億なんて取り返してやる....」
それからというもの事務所の顔になれそうなアイドルがやってくることはなかった。
だが、俺は止められなかった。
1億の時点で、会社の金に手を付けた俺は、際限なく使い込んだ。
そして、負けた。
P「金だ。金があれば、あそこへ行ける。どうすればいい?...そうか。アイドルを移籍させよう。まだ、ウチの名声が残っている。高値で売れるはずだ......」
波はあるものの、シンデレラガールズを2名も抱える事務所のアイドルは、それなりに高く売れた。
しかし、オーディションの成果は芳しくなかった。
いつしか、シンデレラの2人も売り飛ばした。
しかし、金が足りなかった。
手元に残った売れそうな最後のアイドル
P「凛。移籍だ。準備しろ。お前が行けば、事務所が助かる。」
すでに、俺は凛のことが見えていなかった。
もうなにも見えていなかったんだ。
凛「助かるのは、プロデューサーじゃないの?それにある意味、私も助かるよ。じゃあね。バイバイ。」
P「...え?ちょっとまっ..........」
ドアを閉める大きい音とともに、彼女は行ってしまった。
俺は、なけなしの1億を持って、チケットを買い、会場へ行った。
そして、『負けた』。
事務所は潰れ、俺は、借金を抱えた。
もし、もしあの時、凛だけでも残っていたら、俺はまだやり直せたのかもしれない。
だが、彼女の、凛の「3代目シンデレラガールズ」としての笑顔をみていると、これでよかったんだと思わざる負えない。
俺は、プロデューサーだった。
いまでも、プロデューサーのつもりだ。
アイドルがいて、俺がいる。
俺の、俺のアイドルは......
了
以上となります。
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