乱文失礼いたします。
ご意見ご感想お待ちしております。
渋滞に巻き込まれた車外では、朝から雨が降り続く。
助手席に座る少女は、雨粒を数えるように窓の外を見ていた。
「――――かおる、いらない子なの?」
ふいに少女が口を開いた。
私は、車外に響く雨音とクラクションで聞こえないふりをした。
少女は、質問など無かったかのように雨粒を数えている。
渋滞は解消されそうもない。
私は、アイドルのプロデューサーをしている。
名前など有って無いようなプロダクションに所属している。
代表などここ数か月見ていないし、同僚にも会うことは無い。
今日も、アイドルをスカウトしに『市場』にやってきた。
『市場』。
正式名称「フリートレード場」。
幾ばくかの金銭や道具と引き換えにアイドルを自分の事務所から移籍をさせる場所である。
「おはようございます。本日はどのアイドルをお探しに?」
中に入ると緑色の上着を着た女性が話しかけてくる。
「[ちびっこポリス]龍崎薫。特訓前を見せてくれ。」
女性は、営業スマイルを崩さずに部屋へと案内してくれた。
ドアを開けると、5人の龍崎薫がいた。
私が部屋に足を踏み入れると、4人群がってきた。
「せんせぇ!みてみて!かおるがこのなかで、いちばんやすいんだよ!」
首からかかっているプラカードには、『スタミナドリンク(30)』と表示されている。
「せんせぇ!かおるはね。れべるがまっくすなんだよ!」
プラカードには「Lv60/60」と表示されている。
市場に出されたアイドルは云わば「契約更新されなかったスポーツ選手」である。
拾ってくれるチーム探しで必死である。
皆彼女のように、自分のアピールをしてくる。
しかし、中には一切アピールをしてこないアイドルもいる。
同じアイドルでも、差異があることを確認できるのも市場の利点でもある。
私は、プラカードから、事務的に相場を調べ、部屋を後にした。
「いかがでしたか?お気に召すアイドルはいらっしゃいましたか。」
入口で声をかけてきた女性がいつの間にか部屋の前に立っていた。
「いや。実は持ち合わせが無くてね。来週にでもまた来るよ。」
女性の言葉を待たず、私は帰路についた。
これが、先週の話である。
そして、今週というか今朝、市場に赴き助手席に座る少女を「買って」きた。
予想通り先週よりも、若干ではあるが下がった相場に買うことができた。
私が買うのは「アピールをしてこないアイドル」である。
渋滞に巻きこまれているこの車は、さながらドナドナの荷馬車である。
子牛を乗せ、私は自分が管理する寮へと向かった。
寮に到着するころには、雨が上がり、目に痛いほどに太陽が顔をのぞかせていた。
「さて、到着したぞ。降りるんだ。」
少女は、何も答えず車を降り、こう言った。
「かおるは、つぎいくらでうられるの?」
地面の水たまりを見つめる目。
警察バッチを握りしめる小さい手。
思わず生唾を飲み込んでしまう。
大丈夫だ。そう言おうとした時、寮からラフな格好をしたピンク髪の少女が出てきた。
「あ、プロデューサーお帰りなさい。じゃあ、アタシ行ってくるね。」
こっちの返答を待たず、少女は走っていってしまった。
「かおるちゃん。彼女は城ヶ崎美嘉。君は、彼女の移籍金もとい移籍アイテムで買ったんだ。」
水たまりを見つめがら彼女は、泣き始めた。
嗚咽混じりの泣き声をBGMに私は語る。
「かおるちゃん。私はね。『龍崎薫』というアイドルのためにプロデューサーをしているんだ。
そのためだったら、どんなに性能が良いアイドルであろうと、売り飛ばす。だから安心して、
ここにいる限り、君は、もう『売られない』」
かおるは、『楽園』を手に入れました。
ココにはたくさんの『龍崎薫』がいます。
時々、それ以外のアイドルがやってきますが、
すぐに売られていきます。
ココにいれば、かおるはアイドルを続けられる。
-了-
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1415810132
ご意見・ご感想ありがとうございました。
html化依頼だしてきました。
練習と勉強を重ねます。
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