煌「すばらっ!バイトが決まりました!」 (22)

煌「私の密かな目標……それは長野へぶらりひとり旅をすること」

煌「長野を離れてそこまで日は経っていませんが、それでもやはり望郷の念は湧いてくるというもの」

煌「麻雀部での厳しい練習の合間を縫う事になるのがいささか不安ですが……」ズーン

煌「まあ、なんとかなるでしょう!」

煌「それに、興味のあったお菓子工場でのバイト。すばら!超すばらです!」

煌「やってみたかったことが出来るこの状況にまずは感謝ですね……!」キラキラ

煌「それでは行ってみましょうか!」


ーーーー

ーー




SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1420030079

リーダー「君が花田さんだね。今日から宜しくね」

煌「はい!宜しくお願いします!」

リーダー「面接の時にも説明したけど、お菓子の箱詰め、ライン作業などなどやってもらうからね」

煌「はいっ!」


煌(……などなど?)

煌(などなどには一体何が含まれるのでしょうか……)

煌(ひとつ聞いてみますか。しかしこのタイミングでは会話の腰を折ることになるか……)

煌(いや、ここで聞いておかないと後々自分の首がしまることになりそうです)

煌(……ここは確認しておいた方が良いですね!)


リーダー「じゃあ早速入ろう。一緒に作業する皆さんを紹介するから」

煌「!」ビクッ

煌「は、はいっ!」


煌(聞きそびれてしまいました……)

煌(……まあ、いいでしょう。きっと些細な事です)

煌「……」


煌(帽子にマスクだと皆顔が分からないですね……)

煌(それに、息がしづらい……)コーホー

煌(ちょっとした特殊部隊気分ですね!)


リーダー「皆さん、ちょっと」


ササッ


リーダー「今日から入ってもらう花田さんです」

煌「花田煌です。宜しくお願いします!」

おばちゃん「よろしくね。ちっちゃくて可愛らしいわねえ」

煌「えっ!?い、いや、そんな……」ドギマギ

リーダー「ハハハ。まあ、そんなわけで宜しく。何か分からないことがあったら僕かおばちゃんに聞いてくれて良いから」

おばちゃん「リーダーは管理業務が主だから、基本的には私が作業指示をすることになるからね。なんでも聞いてね」

煌「はいっ!ありがとうございます!」

おばちゃん「じゃあ作業前にフロアの掃除をしようかね」

煌「はいっ」ドキドキ

おばちゃん「これを使うんだよ」サッ

煌「これは……ヘラ、ですね」

おばちゃん「そう。これで床を刮ぐんだよ」

煌「はいっ!早速やってみます」


ゴリゴリゴリ



煌(なるほど、こうやって作業スペースの衛生を保つのですね)


おばちゃん「よし、こんなもんだろう。これは作業前に毎日やるからね」

煌「わかりました!」


煌(まずひとつ習得です。すばらです!)

おばちゃん「よし。じゃあ今日も始めるかね」

一同「はーい」

おばちゃん「きらめちゃん、ちょっと」チョイチョイ

煌「はい」

おばちゃん「きらめちゃんにはレーズンサンドクッキーを作るラインで作業をやってもらうよ」

煌「はい!」

おばちゃん「私がこの機械でクッキーを流す。そうするとレーズンとバターが途中でのっかるから、それを脇にあるクッキーで挟んで箱に並べるんだ」

煌「はい」


煌(レーズンサンドクッキーはこの会社の目玉ではないですか)

煌(早くもメインディッシュの作成に関われるのですね。すばらです!)


おばちゃん「それじゃあいくよ」

煌「はいっ!」



ウィーン



煌(来ました!)

煌(こいつをひとつひとつ重ねては箱に置き、重ねては箱に置き……)パッパッ

煌(……すばら!なかなか順調です!)パッパッ

煌(しかし、どんどん流れてきますね)パッパッ

煌(毎日こんなにも大量に生産されては出荷されて行くのですね……)パッパッ

煌(しかし美味しそうですね。少しばかり分け前を頂けないものでしょうか……なんちゃって)ポケーッ

煌(……!)ハッ

煌(なんと……!少し考えをめぐらせた隙に大量に迫ってきています!)パッパッパッパッ

煌(ぜ、全然追い付かない……まずい……!)

煌(お、落ちる……このままでは……!)パッパッパッパッ


煌「すっ、すいません……!機械を止めていただけ……!」

煌「あっ!」


グチャグチャ


煌(どんどん床に落ちる……!)


煌「す、すいません……!」

おばちゃん「ん?どうかしたかい」

煌「さ、作業が追い付かず……」ボロボロ

おばちゃん「!……あらあら、そういうことかい」

おばちゃん「今機械止まってるから大丈夫だよ」

煌「すいませんでした……クッキーをたくさん無駄にしてしまって」

おばちゃん「なあに、大丈夫さ。はじめはみんなよくやるんだよ」

煌「そ、そうなんですか?」

おばちゃん「ああ。だから気にせず、もう一回」

煌「は……はいっ!ありがとうございます!」


煌(そうですね……これしきの失敗でくじけている場合ではありません)

煌(新たな事に挑戦できる環境にあることに感謝しなくては!)


ーーーー

ーー

おばちゃん「だんだん慣れてきたね」

煌「はいっ!」


煌(最初はどうなることかと思いましたが……)

煌(やはりトライすればなんとか身につくものですね!)


おばちゃん「それじゃ、出来た箱を運んでいこうかね」

煌「はい!」

おばちゃん「トラックが来る倉庫まで運んでいくんだけどね」

煌「なるほど」

おばちゃん「この荷車に載せるんだ。うまいこと積むことで一度にたくさん運べるからね」

煌「はいっ!」


煌(なるほど、載せ方にコツがいるのですね)

煌(単純作業だけでなく創意工夫も試される環境……すばらです!)


おばちゃん「じゃ、私は別の作業があるから、任せたよ」

煌「はいっ!」


ーーーーーーーー

煌「んしょ、んしょ……」

煌「……よしっ!」


煌(こんなところでしょうか……)


ズウーン


煌(しかし、我ながらうず高く積み上げたものです……)

煌(これは、油断すると崩れそうですね……)

煌(ひとまず出発しますか!)

ゴロゴロ


煌「ゆっくり、ゆっくり……」

リーダー「花田さん、ちょっと」

煌「はっ、はいっ!?」ビクッ

リーダー「この書類、おばちゃんに渡してくれないかな」

煌「は、はいっ、わかりました!」

リーダー「宜しくね」スタスタスタ


煌(……つい反射的に請け負ってしまいましたが)

煌(用紙を持ちながら荷台を押すのは少し厳しいですね……)

煌(しかし、早く運ばなくては……ひとまず再出発しましょう)


ゴロゴロ


煌「ふう……結構重いですね……」


ガッガッ


煌「ん……?段差か……」

煌「ちょっと強引に、よいしょ……っと……」グッ


グラグラ


煌「あっ……!」


煌(しまった……!)


グシャー


煌(倒してしまった……)

煌(……今は嘆いても仕方ない、また組み直して早く運んでしまいましょう)

煌「すいません、運び終わりました。遅くなりました!」

おばちゃん「ああ、いいよ。お疲れ様。ひとりでよく頑張ったね」ニコッ

煌「……!」

煌「い、いえ……ありがとうございます……」

煌「あ、それと……」ガサガサ

煌「リーダーから、この用紙を渡すように、と」サッ

おばちゃん「ああ、ありがとう。確かに受け取ったわ」

煌「はいっ!」


リーダー「あっ、おばちゃん」

おばちゃん「あら、ちょうど今用紙は受け取りましたよ」

リーダー「あっ、分かりました。それと、今日のバイトの子が体調不良で来られなくなった件は聞いた?」

おばちゃん「いや……?初耳だねえ」

リーダー「あら……」

リーダー「花田さん、さっき一緒に伝えてって、お願いしなかったっけ?」

煌「!?」ドキッ


煌(えっ……そんなこと、聞いてない……と思うけど……)

煌(さっき箱倒したから、そこで焦って、忘れたのかな……)


煌「す……すいません……」

リーダー「困るよ。頼んだことちゃんと聞いてくれないと」

煌「はい……」

リーダー「まあいいや、おばちゃん、そういうわけで今日はひとり足りない状態になるから」

おばちゃん「はいよ。しょうがないね」

リーダー「じゃ」スタスタスタ

おばちゃん「……」

おばちゃん「ねえきらめちゃん。リーダーは本当にそのこと言ったのかい?」

煌「……」

煌「ご、ごめんなさい……」

おばちゃん「……そうかい」

おばちゃん「とにかく、作業に戻ろうかね。ひとりいないのなら頑張らなきゃね」ニコッ

煌「……は、はいっ!」

煌「お疲れ様でした!」

おばちゃん「お疲れ様。明日も宜しくね」

煌「はいっ!」


煌(結局、言い出せませんでした。私が本当にことづてを頼まれたのか……)

煌(本当は違う気がするのですが、まあ仕方ありません。はっきり出来なかった私にも非があります)

煌(しかし、叱られると、気分は落ち込むものですね……)

煌(……しかしくよくよしても仕方ありません。明日からまた、頑張りましょう!)

煌「お疲れ様です!」

おばちゃん「お疲れ様。今日も頑張っていこうかね」

煌「はいっ!」

おばちゃん「じゃあまた床の掃除からね」



ゴリゴリゴリ



リーダー「ちょっとちょっと!」ドタドタ

煌「……?」


ドクン


煌(なんでしょう、この緊張は……)

煌(……昨日のことで、リーダーに多少恐れを抱いてしまっているのかも知れません)


おばちゃん「なんだい?」

リーダー「昨日配送したクッキー、たくさん割れてるって連絡入ってるんだけど!」

リーダー「……」キッ

煌「!?」ビクッ

リーダー「花田さんだよね?運んでたの」

リーダー「倒したりしたんじゃないの?」

煌「……」ビクビク

煌「……はい」

煌「途中で、倒しました……」フルフル

リーダー「やっぱり」ハァ

リーダー「気をつけてね、ホント」スタスタスタ

煌「…………」

おばちゃん「きらめちゃん……」

ウィーン


煌「…………」パッパッ


煌(……)

煌(……やってしまったようですね)

煌(……私は、無能なのでしょうか)

煌(こんなに失敗を繰り返し……)

煌(……本当、どうしようもないですね)フフッ


グチャグチャ


煌「ああ、しまった……」


煌(昨日は出来た作業なのに……)

煌(まず機械を止めないと……!)


ピッ


おばちゃん「……」

煌「あっ……」

おばちゃん「きらめちゃん、ちょっと休憩しようか」

煌「はい……」

ウィーン

ガタンッ!


おばちゃん「これ、飲みな」

煌「!」

煌「あ、ありがとうございます……」



おばちゃん「……辛いかい?」



煌「……!」

煌「……」

煌「い、いえ!すべてが良い経験です!」

煌「…………」

煌「……私が未熟ゆえに、皆さんに迷惑をかけてしまっていますが」

おばちゃん「……」

おばちゃん「きらめちゃんは強いからね。それは一緒に仕事しててよおく伝わってくる」

煌「…………」




おばちゃん「でもね、強くあろう、強くあろうとしなくても良い場合だってあるんだ。時には弱くたって良い。そういう時もあるんだよ」


煌「……!!」




おばちゃん「ましてやきらめちゃんは入りたてだから、まだ慣れないだろう?あのリーダーも厳しいこと言うし。あっ、言っとくけど、あの人は皆に対してあんな感じだからね。きらめちゃんにだけ特別辛く当たってるわけじゃないから気楽に構えて良いよ」ニコッ

煌「そ……そうなんですか?」

おばちゃん「そうさ」

煌「…………」

煌「おばちゃん」

おばちゃん「ん?」

煌「……ありがとう、ございます。なんだかとっても、腑に落ちた……すっきりした気持ちです!!」

おばちゃん「そうかい。良かったよ」ニコッ

おばちゃん「よし、休憩は終わりだ。今日も頑張ろうか」

煌「はいっ!」

ーーーー

ーー




煌(あれからしばらくの時が経ち)

煌(おかげさまで、私もどうにかこの仕事をこなせるようになってきました。石の上にもなんとやら、とはよく言ったものです)

煌(今日は新しいバイトの子が入ってくるらしいですが、果たして……)





姫子「きょうからお世話になる、鶴田姫子です。よろしくお願いします!」

おばちゃん「よろしくね、ひめこちゃん」

煌「姫子……!」

姫子「ん……あっ、花田……!」

おばちゃん「おや、知り合いかい」

煌「はい!」

おばちゃん「そうか、良かったね」ニッコリ

おばちゃん「ひめこちゃん、こっちおいで。最初に教えるよ」

姫子「はいっ!」スタタタ

姫子「は、花田……!」

煌「はい!」ササッ

姫子「これ、どぎゃんすれば良いと……?」アセアセ

煌「ああ、これはね……」


煌(……)

煌(こんな私でも、こうして人に教える時が来るのですね)フフッ

煌(……)





煌(必要とされる。こんなにすばらなことはないのでしょうね)



カンッ

終了です
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