淡「ここが白糸台高校麻雀部かー!」 (349)

淡「はるばる海を超えてやってきました白糸台!」

淡「さーて、まずはどこに行けばいいんだっけ? なんか手続きがどうのこうのって……」ウロウロ

淡「んー? こっちかな? 『関係者以外立ち入り禁止』……?」

淡「いやっ、私は関係者だから、こんなの関係ないよねっ!」

淡「押しとお――!!」

 ドンッ

淡「って痛ーっ!? ちょっと!! どこの誰だか知らないけど、いきなりぶつかってくるとか何してくれてるわけー!?」

 白糸台研究学園都市。

 人口23万人。

 東京西部白糸台を中心とした円形の都市型独立研究機関。

 研究概要:特定空間内におけるヒトの意識的確率干渉及びその相互作用について。

 研究素材:麻雀。

 研究対象:高校生雀士。

 白糸台研究学園都市に住む高校生は全員が研究対象、つまり雀士であり、ごく一部の選ばれた雀士はインターハイを始めとした一般の麻雀大会にも出場する。

 現在、白糸台研究学園都市に在籍する高校生は約一万人。

 書類上、その全員が、同じ高校の、同じ部活に所属している。

 白糸台高校麻雀部。

 これは、

 その頂点を目指す、

 少女達の軌跡――!!

 ――理事長室

健夜「要するに、大規模な高校生雀士の養成所だって思ってくれればいいの。
 ちょっとだけデータを研究に使わせてもらったり、たまにちょっとした実験に付き合ってくれればそれで大丈夫。あとは普通の高校生とそんなに変わらない。まあ……部活動は麻雀部一択なんだけどね。
 けど、その分、衣食住といった生活面で手厚い保障が受けられる。さらに、研究に貢献してくれた生徒には、当然それなりの見返りもある」

?「はい」

健夜「あと、学園都市ならではなのが、普通のカリキュラムの中に麻雀の授業が組み込まれていることかな。
 うちの売りである《能力開発》も、ここに含まれる。もちろん、攻め、守り、読み――といった専門分野の授業も充実しているよ。
 三年生になったらデジタル・オカルト分けっていうのがあるから、それまでに自分の進むべき道を決めないとね。
 卒業後の進路としては、デジタル系なら研究職か経営職、オカルト系なら現場職か教育職に就くことが多いかな。もちろん、あくまで目安だけど」

?「はい」

健夜「それから、うちの白糸台高校麻雀部――つまりこの学園都市にいる約一万人の高校生全員のことだけど――は、実力に応じて軍《クラス》を一から九まで分けていてね。生徒は自分のクラスに応じた校舎や寮に入ることになる。
 人数比でいうと、九軍の生徒は全体の四分の一で、四から九軍の生徒が全体の九割。残りの一割が、二、三軍の生徒ね。
 一軍ともなると、全体の0.05%以下しかいない――って、個人名を出したほうが早いか。今の白糸台高校麻雀部の一軍は、宮永照、弘世菫、渋谷尭深、亦野誠子。
 彼女たちは三月にあった春季大会《スプリング》のレギュラーメンバー。大会のときはもう一人いたのだけれど、彼女はもう卒業して、今は四人だけになってる」

?「はい」

健夜「一軍の四人――チーム《虎姫》っていうんだけど――を例に挙げるまでもなく、白糸台高校麻雀部がチーム制を採用しているのは有名だよね?
 うちは、基本的に五人一組のチームを最小単位として、レギュラー争いやクラス分けを行っているの。
 チームは学年やクラスに関係なく組むことができる。ただし、クラスの違う人同士が組んだ場合、そのチームのメンバー全員が、その中で一番下位の人のクラスに移ることになる。四軍以下では、まま、よくあること。
 ただ、二、三軍ともなると、基本的に同じクラス同士でしかチームを組まないかな。それくらい、上位にいくに従って、クラスごとの実力差が大きくなるの」

?「はい」

健夜「で、今は学園都市のあちこちで、夏のインターハイに向けてのチーム編成が行われてる。メンバーを五人集めて、チーム登録をするのね。
 それが終われば、今度はチーム単位でクラス選別戦を行う。この選別戦の結果で、今年一年間のヒエラルキーがほぼ決定することになるの。
 そして、クラス選別戦の結果を元に、全チームを52のブロックに分けて、《予選》と呼ばれるトーナメント戦を行う。
 で、その予選を勝ち抜いた52チームで《本選》……一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》をして、優勝したところが一軍《レギュラー》――夏のインターハイに白糸台高校麻雀部として出場する、と」

?「はい」

健夜「他にも、同時進行で個人戦の代表者も決めるのだけれどね。こちらは、軍《クラス》とは別に校内順位《ナンバー》という制度があって、純粋な個人成績を競うの。
 この《ナンバー》は、ある種の救済措置でもある。特定のチームに所属していない人でも、個人戦の成績がよければ、相応の軍《クラス》に振り分けられる。例えば、二軍だと、三割くらいがこの個人戦のみの人たちになるかな」

?「はい」

健夜「ちなみに、現在のところ、ナンバー1は宮永照ってことになってる。掛け値なしの、一万人の《頂点》。次いでナンバー2が荒川憩、ナンバー3が辻垣内智葉。この《三人》の順位は、そのまま去年のインターハイの個人戦結果に繋がっているよね。
 このあたりが、白糸台を制する者はインターハイを制する――と言われる由縁。団体戦も個人戦も、白糸台高校麻雀部が公式戦でトップを逃したことはない。
 ま、当然だよね。この学園都市の麻雀は、外の世界より数十年は先に進んでいるから」

?「はい」

健夜「あと、この軍《クラス》や校内順位《ナンバー》の他に、《支配力》とも言われる《意識的確率干渉力》の強さによって、階級《ランク》をSからFまで設定している。
 このランクSっていうのは、いわゆる《牌に愛された子》と呼ばれる特別な生徒たちのこと。
 年によってはランクSが不在のときもあるのだけれど、今年は既に五人ほどランクS指定を受けている。一人は、知っての通り、宮永照よ」

?「はい」

健夜「それから、能力開発の成績――つまりは能力の強度によっても、能力値《レベル》と呼ばれるものを設定してる。超能力相当のレベル5から、無能力のレベル0まで。
 今のところ、この超能力者《レベル5》は、学園都市に七人しかいない」

?「はい」

健夜「あなたの場合、校内順位《ナンバー》は、悪いけれど、最下位の一万位代からスタートすることになる。まあ、転校生は校内での戦績がないから、こればかりは仕方がないと諦めて」

?「……はい」

健夜「そして、あなたの階級《ランク》――これも、残念なんだけど、Fランクという結果が出ている。ただ、これは生まれつきというか、先天性が強く出るものだから、あまり気に病まないでね。もちろん、後天的要因で変動することも稀にあるし」

?「…………はい」

健夜「なんというか……こんな中途半端な時期に、半ば無理矢理学園都市に連れてきておいて、最下位ナンバーや最下位ランクっていうのは、こちらとしても本当に申し訳ない気持ちでいっぱいなんだけど……。でも、事実だから受け止めて」

?「……………………はい」

健夜「というわけで、早速今日から、あなたには《白糸台校舎》に通ってもらうことになる。
 この学園都市でも最高の学び舎――白糸台高校麻雀部に所属する約一万人の、実質最上位に君臨する二軍《セカンドクラス》の生徒たちが通う、超がつくほどの高級施設。
 当然だけど、そこに通うあなたは、既に二軍確定だから」

?「はい……はいいいいい!!??」

健夜「何をそんなに驚いてるの? まさか、もっと下位のクラスに配属されると思ってた?
 とんでもない。こんな中途半端な時期に、半ば無理矢理学園都市にあなたを連れてきたのは、一体全体なんのためだと思ってるの? それだけの《価値》が、あなたにあるからなんだよ」

?「い、いや、しかし……私は麻雀は人並み――否、人並み以下にしか打てません!? それに、ランクだってF指定の一般人なわけで……!!」

健夜「それは確かにそう。ちなみに、本当なら今ここであなたと一緒に学園都市の説明を受けるはずだった《もう一人の転校生》の場合だと、
 一年生ながらに階級《ランク》は最高にして五人目のランクS、能力値《レベル》は大能力相当のレベル4にして多才能力者《マルチスキル》、校内順位《ナンバー》も遠からず20位以内には入ると目されるほどの逸材だよ」

?「そんなとんでもない人が本当ならここにいるはずだったんですか!?」

健夜「そうなの。ただ、どこかで何かのトラブルに巻き込まれたのか……待てど暮らせど来ないみたい。困ったことに、連絡もないときてる」

?「それは心配ですね……じゃなくて!! そんなランクS指定でレベル4の超人ならいざ知らず、なんで私のような、この間まで公立高校のレギュラーにもなれなかったような凡人がっ!
 いきなり天下の白糸台高校麻雀部の二軍《セカンドクラス》だなんて……分不相応もいいところ……!!」

健夜「だから、それはさっきも言ったでしょ。分不相応なんかじゃない。あなたにはそれだけの価値がある。
 あのね、あなた、私と打ったときのこと覚えてる?」

?「もちろん覚えてます。点棒ゼロの断ラス。完膚なきまでの敗北でした。こんな結果のどこに価値を見出せばいいのでしょうか……?」

健夜「ちなみにだけど、私がもう一人の転校生と打ったときは、南場に行くことなく片が付いた。東場で大体わかったから、そこで打ち切りにしたの」

?「それが何か……?」

健夜「わからない? 方や南場に入る前に終了して、方やオーラスまできっちり打ち切った」

?「そんなの、理事長のお心一つでどうとでもなるのでは?」

健夜「じゃあ聞くけど、あの日、私があなたの学校の麻雀部の子たちと打った対局で、一局でも、南入した対局があった?」

?「それは……なかったですけど」

健夜「つまり、そういうこと」

?「意味がわかりません」

健夜「わからないかな……。あなたは、この学園都市の理事長――小鍛治健夜と打って、半荘一回を最後まで打ち切った」

?「そ、それくらいは他の方だって」

健夜「できない。可能性があるとすれば、宮永照だけだと思う」

?「じゃ、じゃあ、あのときは理事長が手加減を」

健夜「してない。私、無駄に対局を引き伸ばすほど暇じゃないから」

?「では、あのときの対局は、一体何が原因で……?」

健夜「もちろん、あなたの《能力》が原因よ」

?「……えっ?」

健夜「私の支配すら受け付けない――恐らくは歴史的、世界的に見ても類を見ない強度を誇る――あなただけの《超能力》」

?「ちょ……?」

健夜「さっき説明したように、白糸台には雀力を示すいくつかの指標がある。チームの総合力を示す《クラス》、個人の技量を示す《ナンバー》、支配力の強さを示す《ランク》――そして、能力の強度を示す《レベル》。
 レベルの最高がいくつだったか、思い出して」

?「レベル5……」

健夜「そう。でもね、研究者の間では、このレベル5のもう一つ上があるんじゃないかという仮説が、神話や伝説と同じくらいの神秘性と信憑性でもって信じられていてね。
 というか、言っちゃえば学園都市の存在意義が、この《人としての限界を超えた存在》――《神の領域の能力者》を生み出すことなの。
 私たちはそれを……超能力者《レベル5》の上――絶対能力者《レベル6》と呼ぶ」

?「それで……その幻のレベル6と、私になんの関係が?」

健夜「まだわからない? あなたは、そのレベル6に届く、唯一無二の存在かもしれないの」

?「えええええ!?」

健夜「ところで、私は学園都市のレベル5は七人いると言ったけれど、あなたがここで白糸台への転校を拒否すれば、これが六人に戻ることになる」

?「そうなんですか……」

健夜「そう。あなたは学園都市に七人しかいないレベル5の超能力者。あなた以外のレベル5は全員二軍《セカンドクラス》に所属している。有名どころで言えば、チーム《虎姫》の渋谷尭深が、レベル5の一人」

?「まさか! 全国優勝するようなチームの一員と、私が同格だなんて!?」

健夜「それは違う。同格だなんて、とんでもない」

?「そ、そうですよね、私なんか……」

健夜「あなたはレベル6になれるかもしれない唯一無二の存在――超能力者を超える絶対能力者の資質を持つ者。渋谷尭深よりも、或いは宮永照と比較しても、能力者としてのあなたは……間違いなく格上よ」

?「か、格上っ!? 私が!? あの《虎姫》のメンバーよりもですか!!?」

健夜「《虎姫》だけじゃないよ。現在の白糸台高校麻雀部――ひいては過去の白糸台……ううん、人類の歴史を見ても、あなた以上の能力者は存在しない」

?「う……嘘です……」

健夜「嘘だと思うなら、説明の前にあなたに渡した電子学生手帳――そこの所属を見てみなさい。クラスもナンバーもランクもレベルも明記されているから」

?「えっと、あ、ここですか……って、うわああああ!?」

健夜「わかった? それがあなたの《価値》」

?「そんな……私が……? 私なんかがっ!?」

健夜「というわけで、白糸台校舎と白糸台寮の場所は、その学生手帳にデータを送っておいたから、今日中に手続きを済ませること。じゃあ、私はもう一人の転校生を探さないといけないから、これで失礼するね」

?「ま、待ってください! 本当にいいんですか!? 何かの間違いじゃないんですか!? 私が……レベル5なんて……!! それも――」

健夜「私だって、あなたと初めて対局したときは、何かの間違いだと思った。けれど、その後の検査と検証で、あなたの能力は《本物》だと確定した。
 それはもう間違いないし、揺らぐこともない。あなたが自分のことをどう思っていようと、覆すことのできない、厳然たる事実」

?「私が……」

健夜「誰がなんと言おうと、あなたはこの学園都市に七人しかいないレベル5――その最高位の、第一位」

?「…………はい」

健夜「ま、そう気負わずに、学園都市での生活を楽しんで。ここは雀士なら誰もが憧れる理想郷。あなたは、その中でも選ばれた人しか入れない白糸台校舎で、世界最高水準の麻雀の勉強ができる。
 最初は戸惑うことも多いと思うけれど、あなたならすぐ馴染めると思う。これから二年ほど、よろしくね――花田煌さん」

煌「はい…………」

 ――白糸台寮へと続く道――

煌(学園都市最高のレベル5って……どうしてこんなことになったんでしょう……)

煌(まあ、しかし、なってしまったものは仕方ありません。栄誉あることですし、私にはそれだけの価値があると、あの小鍛治理事長がおっしゃってくださった。それだけでもうすばらなこと。期待には応えないといけません)

煌(そして何より、少々突然ではありましたが、憧れの白糸台高校麻雀部の一員となれた! ヘタだヘタだと嘆いている暇があるくらいなら、その名に恥じない雀士になるために精進すべきでしょう)

煌(やってやりましょう、花田煌! こんなことは、一生に一度あるかないかの幸運です。この学園都市で、これから二年間続く生活を、有意義なものにするのです!)

煌(いずれにせよ、これまで以上に麻雀の勉強に励まねばなりませんね……! なんだか燃えてきましたよー!! すばらああああ!!)

 ザワザワ

煌(ん……? あちらのほうがなにやら騒がしいですね……)

「先輩、こいつです! こいつがさっき私にぶつかってきて……!」

「それで、謝りもせずに立ち去ろうとしたってか」

「完全にうちらをナメてますよ、先輩。やっちゃってください!」

「フン……見かけねえ面だが……雰囲気からして一年か。ったく、躾がなってねえな」

?「はあ? ぶつかってきたのはそっちでしょ? っていうか邪魔なんだけど。私、行くとこあるんだから」

「っせえんだよ、ガキが!」

?「危なっ! なにすんの!?」

「その綺麗な顔に傷をつけられたくなかったら、大人しくしてろ」

?「むうううううう……!!」

煌(あれは……一人が三人に囲まれているようです。雰囲気からして一年生と上級生ですかね。恐喝……か何かでしょうか。なんにせよ、すばらくありません!
 しかし、どうしたものでしょう。急いで誰か大人を呼びに行きたいところですが、ここには今私しかいません。あの方々から目を離すわけには……)

「おいガキ。ちょっと面貸せよ。雀荘行こうぜ。そのスッカラカンの脳みそに、アタシらが先輩後輩の上下関係って言葉の意味を叩き込んでやるからよ」

?「雀荘……? なに、私と麻雀で勝負しようっていうの?」

「そうだよ。テメェが勝ったら今日は見逃してやる。負けたらそのときは……わかってるよな?」

?「ふふっ……いいじゃん。ちょうど私も、この間大負けして、むしゃくしゃしてたんだよねー!!」

「じゃあ、決まりだな……」ニヤッ

煌(ああっ!? まずいです! 移動してしまいます……!! ええい、こうなったらやるべきことは一つ! ここは覚悟を決めるのです!! 困っている人を見過ごすわけにはいきません!!)ダッ

煌「ちょ、ちょっとお待ちください! あなた方!!」

「ああ?」「なに?」「誰?」

煌「あ、う……! えっと、とにかくです! 女の子一人を上級生が三人がかりで脅かすなんて、恥ずかしくないのですか!? 詳しい事情はわかりませんが、そんなすばらくないことは即刻やめにして、今日のところは――」

?(……?)キョトン

煌(こ……この子………………すばらっ!!)

?(……?)ジー

煌(こんな綺麗な人が地球上に存在していいんですか!? 鮮やかな金髪、陶器のような透き通る白い肌、芯の強い真っ直ぐな瞳……! なんでしょう、見つめられるだけで、胸が高鳴って……!?)

「おい、なんだよテメェは。こいつの仲間か?」

煌「そ、そうです! この人は……その、私の大切な人です!!」

?(っ!?)

煌「この人に手を出すというのなら、いくら私だって黙っていませんよ!!」

「黙ってないって……じゃあどうするってんだよ」

煌「そ、その、えっと、先生に言いつけます!!」

「先生って……ぎゃっはっはっは!! バカかテメェ!? 今時そんな脅し文句でビビる高校生がどこにいるってんだよ!! 引っ込め、この鍬形頭がっ!!」ガシッ

煌「ああ……痛っ!?」

?(――!?)

煌「やめ……離してください……!!」ジタバタ

「誰が離すかよ。こんないかにも掴んでくださいって髪型しやがって!!」グッ

?「…………!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴ

「!!!?」ゾゾッ

煌(あれ……手が緩んだ……? 一体何が……)チラッ

?「あんたたち……用があるのは私じゃなかったの?」

「(な、なんだ今……こいつからとんでもない気配がしたような……)だ、だからなんだってんだよ」

?「別に粋がって私に絡んでくるのはいいんだけどさ、この私に絡んでおいて、他の人にも手を出すってのはちょっとカチーンってくるかも。
 あんたらの相手はこの私でしょ? 余所見しないで。麻雀……やるならさっさとやろうよ。
 その腐った脳みそに、私が力の上下関係って言葉の意味を叩き込んでやるから」

「い――いい度胸じゃねえか……! おい、オマエらも、行くぞ!!」

「「はいっ!!」」

煌「あ、あの……っ!」

?「私のことは心配しないでダイジョーブ。巻き込んでごめんね」コソッ

煌(こ……この子……! 私を助けるために、わざと彼女たちを挑発して……!)

?「助けてくれて、どうもありがとう。最初はびっくりしたけど、すっごく嬉しかった!」ニパッ

煌(なんて純真な笑み……! まるで天使のような!!)

?「じゃ、またどっかで会えたらいいね……名無しのヒーローさん」

煌「は――花田煌ですっ!!」

?「えっ……?」ピタッ

煌「私も、お供いたします……!! よろしいでしょうか?」

?「い、いいの? だって、あなたはただの通りすがりで、それに、私のこともよく知らないでしょ?」

煌「人を見る目はあるつもりです。それに、一度首を突っ込んだ以上、私も既に関係者の一人。ご迷惑じゃなければ、最後まで付き添わせてください」

?「……わかった。ただし、これは私が売られた喧嘩。あなたは見てるだけでいいし、危なくなったらいつでも逃げてね」

煌「わ、わかりました。あ、あの、それであなたは……」

?「大星淡。学年は一年生だけど、実力は高校百年生だよっ!!」ニパー

煌(大星淡さん……! なんて眩しい笑顔ですか!! すばらっ!!)

淡「じゃあ、ハナダ。一緒に雑魚退治に行こっか!」

煌「ど、どこへなりとも付いて行きますっ!!」

 ――雀荘

「じゃ、始めるぜ。ルールはうちの標準ルール。東南戦の一回勝負だ」

淡「望むところー!!」

煌(変な疑いをかけられないように、こうして大星さんの後ろについてみましたが……それにしても、この髪の毛……見るからにサラサラで、まるでシルクのような光沢。しかも、ふわふわといい匂いまで漂ってきて……)ポワー

淡「じゃ、ハナダ! すぐ終わらせるから、ちょちょーっと見ててねっ!」

煌「は、はいっ!」

(フン……ガキがノコノコ誘いに乗りやがって。テメェがどんなに強かろうと、アタシら三人を相手に回した時点で、テメェの負けは確定なんだよ! アタシらのナンバー上げついでに、思いっきり恥かかせてやる……!!)

淡「親は私だねっ! サイコロ回れー」コロコロ

(オマエら、わかってるな。最初から行くぜ!)

((はいっ!))

       西:うち後輩

 北:私後輩 ■ 南:アタシ先輩

       東:淡

 東一局・親:淡

淡「さーて、と。第一打は何切ろうかなー」ルンルン

煌(学園都市での麻雀は奇妙奇天烈摩訶不思議との噂でしたが、今のところ特に変わったところのない普通の麻雀に見えます……。否、なにやら、相手方の顔色が悪いですね)

(チッ、配牌クソ悪いな。面倒臭ェ)

(せ、先輩!)

(あんだよ)

(どうやら……私たち三人とも五~六向聴っぽいです。この一年だけ普通の二~三向聴。これは何かの能力ですよ!)

(レベル2の感知系能力――《他家の配牌の向聴数がなんとなくわかる》……これが偶々じゃねえってわかったのは収穫だ。助かったぜ)

(光栄です!)

(ひとまず、アタシは普通に聴牌を目指す。配牌干渉系の能力ならツモ牌まで干渉してくることはねえだろうし、なんとかやってみるさ)

(わ、わかりました。私たちは先輩の聴牌を待ちます!)

淡「(なーんかコソコソしてやな感じ。さっさと和了って終わりにしよう)決めた! 第一打はこれー!!」タンッ

 数巡後

淡「ロンッ!! 7700いただき!!」パラララッ

(くっ……こいつ!)

煌(無駄のない打牌ですね。私のいた地区の上位レベルと比べても、なんら遜色がない。軽く流しているように見えますが、小手調べの闘牌がこれとは。さすが学園都市です。麻雀の平均水準が高い)

淡「一本場~!!」コロコロ

(連荘なんてさせるかよ……!!)

 東一局一本場・親:淡

淡(むー。《絶対安全圏》はちゃんと機能してるし、大した支配力も感じない。適当に打ってれば負けないかな。つまんないの。次もこんな感じなら、さっさとアレやって三人同時にやっつけよー)タンッ

(このガキ……あからさまにやる気をなくしてやがる。今回もクソ配牌だしな。チンタラやってるとさっきみたいに先を越される。
 が、とにかく聴牌しねえことには始まらねえ!)タンッ

 数巡後

「(よし……! やっと来たぜ! 見てろよガキ、これがアタシの能力だッ!!)リーチ!!」チャ

淡(おっ? 何かやるっぽいな。いいじゃん、ちょっと見てみよう)タンッ

煌(大星さん!? なぜに和了り拒否ですかー!?)

「(先輩のリーチが来た!! よ、よし、追いつけた。これで、うちも……!)リーチです!」チャ

「(よし、これで先輩の勝ちだ!!)私もリーチします!」チャ

淡(むむ、雑魚Aと雑魚Bもリーチ? 先輩さん以外に聴牌気配はなかった気がしたんだけどな……ま、いっか)ツモッ

煌(ツモを見て、大星さんの手が止まった?)

淡(はっはーん。なるほど……そういうことかっ! ふむふむっ! 使い勝手は悪そうだけど、その分強度が高いんだね。まさかこの私が一発を掴まされるなんて!!)ニコニコ

(なに笑ってやがる……生意気なガキめ。切るならさっさと切りやがれってんだ!)

淡(とりあえず、振り込むのはヤダからこれは残しで、現物現物っと)タンッ

煌(大星さんが聴牌を崩した? もしかして、これがあの人の和了り牌ということなんでしょうか)

「(チッ……カンのいいやつだ。だが、甘ェ)ツモ。2000・4000は2100・4100だ」

煌(本当に和了り牌でした!! すごいっ、なんでわかったんでしょう!?
 いや、それよりもこの方……ツモ牌を見もせずにツモ宣言をしたような感じでしたが、まさか一発が来るとわかっていた?)

淡「あっちゃー親っ被りかー。ま、全然くれてやるけどっ!」チャ

「口の減らねえガキだな」

淡「それほどでも。で、これで終わり? 確かに、言うだけのことはあると思うよ。けどさ、フツーこんな隠し芸みたいな能力を持ってるだけで、そんなデカい態度取る? 恥ずかしいっていうか、ちょっと痛いよね~」

「テメェ――!? この一回でアタシの能力を見破ったのか? だとしたら……そっちもデカい口を叩くだけのことはあるな」

淡「私は高校百年生だからねっ!!」ドーン

煌(大星さん、百とかそういう数字で威張る高校生なんて、あなた以外にいませんよ……)

淡「次はそっちの親だよね。珍しいものを見せてもらったお礼に、私もちょっと張り切っちゃうよー!!」

(言ってろ、ガキが……!)

 東二局・親:アタシ先輩

(またこのクソ配牌か、鬱陶しいな!)タンッ

(せ、先輩、うち、なんか背筋が寒いような……)タンッ

(私もです、先輩……)タンッ

(ガキ、何かやってんのか……?)

煌(大星さんの配牌が……!!?)

淡「ほいっと、ダブリー!!」ギャギャギャ

(((ツモ切りのダブリー!?)))ゾワッ

淡「むっふふーん。どうしたのー? ダブリーくらい珍しくもないでしょー?」

「ま、まあな……」

煌(いや、珍しいですよ! あわや地和でしたよ!! この方、なんだかんだで動揺しているのでは? それとも……本当に珍しくないと思っている、とか?)

(驚いたぜ……! いや、ダブリーに、ではなく、こいつが多才能力者《マルチスキル》だってことにな。能力者の集う学園都市とは言え、複数の能力を持った雀士はそう多くない。
 この一年、白糸台に来る前は一般人と打ってたんだろうな。そりゃ、他家をクソ配牌にする能力と、自由にダブリーをする能力があるなら、一般人相手に負けることはねえだろう)

(だが……わかってんのか? ここは天下の学園都市だぜ。アタシの能力が通用したってことは、テメェの能力値は、高くてもアタシと同格のレベル4。
 その程度の能力者なら、ここの上にはゴロゴロいる。レベル4のマルチスキルは確かに脅威だが、必要以上にビビることはねえ。ここは外の世界とは違う。科学《デジタル》と能力《オカルト》が共存する世界最高峰の雀士養成都市。
 テメェ程度の、一般人相手に勝ちまくって、自分を無敵だと勘違いした能力者が……雑魚専門などと揶揄されて地に落ちる街だッ!!)

淡(む……動揺ゼロ? へえ、まだ何かあるんだ。いいじゃんいいじゃん。そうこなくっちゃ!!)

煌(大星さん! 大丈夫なんですか? あちらの先輩さんは全然戦意を失ってませんけど)

淡(大丈夫じゃないかもねー。私のダブリーとは若干相性が悪い気がするし)

煌(というと?)

淡(あっちの先輩さん、たぶん、《三家立直になると一巡以内に和了れる能力》を持ってるんだと思う。しかも、ロンする相手を選んだり、誰も振り込まなければツモを《上書き》したりっていうのも、ある程度自由に決められるみたい)

煌(そ、そんなオカルト!?)

淡(ありえないって? ここは学園都市――科学《デジタル》と能力《オカルト》が共存する街だよ。ハナダは私より先輩っぽいのに、そんなことも知らないなんて、今までここで何をやってきたの?)

煌(わ、私は今日転校してきたばっかりなんですよ!)

淡(……へえ? まあ、いいや。とにかく、私は負けないから、心配無用だよー)

煌(いや、しかし、その、大星さんの能力(?)は《自在にダブリーができる》なんですよね? なら、確かに三家立直になりやすい。
 しかも、相手の方が出和了りする相手を選べるなら、リーチしている大星さんは、さっきみたいに掴まされたら、振り込むしかない。本当に勝てるんですか?)

淡(見かけによらず慧眼だね、ハナダ。でも、そんなの関係ない。最後には私が勝つ。というか、ハナダ、私の能力の本領は《自在にダブリーができる》じゃないよ。いや、実際、自在にダブリーできるんだけどさ)

煌(できるんじゃないですか!?)

淡(でも、私の支配領域《テリトリー》は、そこだけじゃない)

煌(それは、どういう……)

淡(もうちょっと待っててね。次の角を曲がったら見せるから)

煌(なにがなんだか――って! また見逃しですか!? いま先輩さんから和了り牌出たじゃないですか!?)

淡(わかってないなー、ハナダ。いま和了ったらダブリーのみで2600じゃん。そんなもったいない和了りはしたくない。親っ被りには親っ被りをお返ししてやるんだよん!)

煌(凡人には理解できない思考です……! これが学園都市の能力者ですか)

淡(さーて、そろそろ角が見えてきた。いやー今回は深いところにあったなー)

「リーチ……!」チャ

淡(あっ、ヤバ)

煌(見逃しなんてして悠長に待ってるからです!)

「……私もリーチです」チャ

淡(ありゃりゃー)

煌(どーするんですかー!?)

淡(慌てない慌てない)ツモッ

煌(大星さん……?)

淡「……やるじゃん、先輩さん?」ニパ

「るせぇ、和了らねえなら切れよ」

淡「うんうん。雑魚でこのレベルなら、この先もなかなか楽しめそうだよ、学園都市――白糸台高校麻雀部!!」タァンッ

煌(大星さあああん!!?)

「それ、ロンだ。18000ッ!」パラララ

淡「ひゅーっ! ハネ満じゃん!? いいね、面白いっ!! 好きなだけくれてやるぅー!!」ジャラジャラ

「(こいつ……どこから来るってんだその余裕は!)……一本場だ!」

 東二局一本場・親:アタシ先輩

煌(大星さああああん!)

淡(なに、ハナダ?)

煌(なに、じゃないですよ! 負けちゃいますよ!?)

淡(負けちゃうかもねー)

煌(なんでそんなに軽いんですかー!?)ガビーン

淡(ま、でも、負けても失うものがあるわけじゃないから。というか、むしろ、私が負けたほうが、向こうをがっかりさせられるかも)

煌(どういうことですか?)

淡(たぶんだけどね、この人たち、色んな人に突っかかっては、こうやって三対一の対局を仕掛けてるんだと思う。あの先輩がアタッカーで、他の二人はサポート。
 仲間が三人いれば、三家立直に持ち込みやすくなる。あの先輩に優位な場を作れるってわけ。連携も慣れてる風だったしね)

煌(確かに、やけにリーチのタイミングがいいとは思っていましたが。しかし、目的は?)

淡(ナンバーだよ。学園都市では、個人の総合成績で校内順位《ナンバー》を決める。そして、相手のナンバーが自分のナンバーより上であればあるほど、勝ったときのナンバー上昇率が大きくなる)

煌(じゃあ、この人たちは、自分たちより強い相手に、三対一の勝負を仕掛けて、勝ちを重ねていると? それで、自分たちのナンバーを効率よく上げている、と)

淡(そゆこと。取り巻きの二人も、二位か三位にはしてもらえるわけだから、それなりに恩恵がある。かつ、もし負けることがあっても、相手はそもそも格上だから、ナンバーの下降は最小限に抑えられる。
 レベルやランクは生まれつきによるところが大きいけど、ナンバーやクラスはそうじゃない。下位クラスの人の中には、こういうやり方で上を目指す人もいるってことだね)

煌(厳しい世界なんですね……。ですが、大星さんが負けてもいいというのは? 大星さんなら当然、上位のナンバーをお持ちなんですよね? ここで負けたら、それこそあの方たちの思う壷では?)

淡(私が上位ナンバー? はっはっはー、そいつはどーかなー。下手すると最下位かもしれないよ)

煌(それは……ないです)

淡(断言したね。ま、私の実力からすれば、確かにありえないんだけど。でも、これにはちょっと事情があるんだ)

煌(まあ、とにかく、大星さんの言いたいことはわかりました。つまり、この人たちは、今ここで大星さんに勝っても、旨味がほとんどない、だから負けても失うものはない、ってことですね。けれど……)

淡(ん?)

煌(大星さんは、それでいいんですか?)

淡(まあ、ぼちぼち楽しめたし、色々見せてもらったし、得るものはあったかな)

煌(そうではなく、プライドというか、面子というか)

淡(あははっ、そーゆーこと? だーかーらー、わからないかな。さっき言ったじゃん!)

煌(なに――)ゾッ

淡(最後には、私が勝つって……!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

煌(す、すごい気迫ですっ!!)

 東二局一本場・親:アタシ先輩

淡「まったまた行っくよー、ダブリー!!」ギャギャギャ

(こいつ……慎重になると思いきやまたダブリーかよ。動揺が一切ないってのはムカつくっつーか、いっそ清々しいな。
 にしても、この溢れ出るバカげたプレッシャー。覚えがあるぜ。高ランクの化け物から感じるそれと同種のもんだ。それもとびきりヤバいやつ。ってことは、こいつ、まさかランクS……?
 いや、それはねえか。学園都市のランクSは四人だけ。こんなところでふらっと出会うようなやつらじゃねえ)

(……にしても、だとすると、こいつ何者だ? 後輩どもからカモがいるって聞いてきて、確かに只者じゃねえ――上位ナンバーの風格があったんだが、アタシは見たことねえんだよな。
 後輩どもも、どこの誰だか、名前すら知らないって言ってたが……)

(レベル4は確かに珍しくねえが、ありふれているわけでもねえ。特にこいつみたいな単純でわかりやすい能力な上に強えとくれば、この容姿でこの性格……新入生とはいえ噂くらいは入ってくるはずなんだが)

(ま、今は対局に集中するか。恐らく、こいつは根拠もなく余裕を見せるなんて真似をするやつじゃねえ。となると……まだあるんだ。上が。
 他家の配牌を悪くする。ダブリーを自在に放つ。一つ目の能力からして、三つ目の能力ってのは、発動するのが終盤なのかもな。
 それも……派手でデカいやつだ。いかにもこいつが好きそうな、それこそ、天地が二百七十度くらいひっくり返るようなとんでもねえ能力)

(まあ、推測でしかねえがな。ただ、常にダブリーでツモ切りしかできないこいつが、何かしら能動的に仕掛けてくるとしたら、おのずと手段は限られてくる。
 いや、まさかとは思うが……暗カンじゃねえだろうな? で、カンドラモロノリとか? それなら、仮に配牌でダブリーのみだったとしても、ドラ4で最低でもハネ満確定。
 い、いやいや……! さすがにそんなふざけた能力じゃねえか。そんな化け物がいたら間違いなく名が通ってるはずだしな!)

(何にせよ、仕掛けるなら序盤だ。ヘタに引き伸ばしてこいつに奥の手を出されちゃ敵わねえ。今ここで片をつける!! おい、オマエ!!)

(は、はい! 先輩!!)

(オマエの能力の使い時だ。ここで決めるぞ!!)

(わかりました! ここはうちに任せてください!!)タンッ

「ポンだッ!」タンッ

淡(鳴いた……? 何する気?)

煌(どういうことでしょうか? 鳴いたらリーチができないのに……)

(お次は……これですかねっ!)タンッ

「それもポン……!」タンッ

(最後は……これっ!!)タンッ

「(レベル3の感知系能力――《自分の手牌の中から、場の誰かが二枚以上抱えている牌を見分けることができる》――まさか、こんな早々にこいつを働かせることになるとはな!)ポン!!」ニヤッ

「(これでこの局もうちらの勝ちですね、先輩!)リーチ!!」チャッ

淡「ふぁあ!?」

「わ……私もリーチです!」チャッ

淡「ふぇえええ!!?」タンッ

「ロンッ!! 7700は8000!!」パラララ

淡「ふぉおおおおおお!!?」

「目を白黒させてどうした、ガキ。ようやくテメェの置かれた状況を理解したか? ああ?」

淡「す……い……!!」

煌(大星さん……!?)

「どうした、あまりの点差にネジが――」

淡「すっごいいいじゃん! すっごいいいよ!! そっか!! 《三家立直になったら和了れる》能力――自分以外の三人がリーチしたときにも有効なんだねっ!? まさかそういう使い方があるなんて……!
 だって、それ、普通なら自分がリーチして使おうとするじゃん!! そしたら裏ドラも期待できるし一発だってつくんだからっ!! そこを逆手に取ってくるとはなぁ……! 自分の能力をよく研究してないとできないことだよね!
 しかも! それを私が《絶対安全圏》に胡坐をかいてるこの序盤に仕掛けてくる!! タイミングも最高だよっ!!」

「…………この、ガキ……!」ギリッ

淡「すごいー! すごいー!!」キラキラ

煌(大星さん! 大星さん!! はしゃいでる場合じゃありませんよっ! 点数をよく見てください……!!)

淡「へ?」

淡:600 ア先:58600 う後:20900 私後:19900

淡(んー? 目の錯覚かなー?)ゴシゴシ

煌(現実逃避しないでください!! 何度数えても残り600点です! これでは大星さんの得意とするダブリーができません!? どうするんですか!?)

淡(…………………………どうしよう……)サー

煌(あれだけ大見得を切っておいてまさかの手詰まりですかー!?)

淡(これはあれだね、うん。とりあえず、《絶対安全圏》で嫌がらせをしつつ、その間に気合でツモるしかないね。うん。そうしよう。うん)

煌(あの、さっきから絶対安全圏絶対安全圏って、なんのことですか?)

淡(私は《他家の配牌を五~六向聴にする》ことができるんだ。最初からずっとやってるよ)

煌(…………えっ? それ、本当ですか?)

淡(ふふーん、驚いた? 《絶対安全圏》、《ダブリー》、それからフィニッシュにもう一つ。私には全部で三つの能力があるんだ。多才能力者《マルチスキル》って珍しいみたいなんだよねー)

煌(いえ、そうではなく……)

淡(ん? ……ハナダ?)

「おい、ガキ。いつまでヘラヘラしてるつもりだよ。わかってんだろうな。テメェはもうダブリーをかけることができねえ」

淡「なーにー? そんなに私の本気が見たいの? いいよ、なら……今すぐに見せてやるから――!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

(こ、こいつ……本当に何者だっ!?)ゾワッ

淡「じゃ……対局を再開しよ――」

煌「…………大星さん」

淡「なに、ハナダ? 急に真面目な顔して。いま面白くなってきたところなの。邪魔しないで。というか、近いと危ないから、少し下がってたほうが――」

煌「大星さん。大星さんは、この方々に勝つつもりなんですよね?」

淡「そうだよ?」

煌「なら……この場はどうか、私に任せていただけませんか?」

淡「は? どういうこと?」

煌「次の東二局二本場――私に代打ちさせていただけませんか?」

淡「…………本気で言ってるの?」

煌「はい」

淡「それは……私じゃ万が一で負けるかもしれないけど、ハナダなら万に一つもこいつらには負けない――ってこと?」

煌「少し……違います。大星さんの力は、ほんの片鱗だけですが、先ほどから痛いほど感じています。この『対局に』勝利するだけなら、間違いなく、大星さんが続きを打ったほうがいいでしょう」

淡「むう……?」

煌「もう一度言います。この『方々に』勝つつもりなら、私に任せてください」

淡「ふーん……。わかった。いや、わかってないけど。とにかく、いいよ。代打ちを認める。ただし、絶対に勝ってよね」

煌「はい……《絶対》に勝ちます」

「お、おい……ちょっと待て! 代打ちは正直勝手にしろって感じだが――なあ、金髪のガキ。本当に代わっちまっていいのかよ。
 もし、そこの鍬形が負けたら、変動するのはテメェのナンバーだぜ? 大体、テメェらさっき会ったばかりの他人同士だろ。そんなやつに、大事な自分のナンバーを預けるなんて――」

淡「うるさいな、先輩さん。あなたには関係ないでしょ。私はハナダを信じてる。だって、ハナダはいいやつだもん! 見ず知らずの私を助けようとするような、いいやつだもんっ!」

煌「大星さん……」

「チッ……! わあーったよッ! フン……やるならやろうぜ。さっさと座れ。ソッコーで終わらせてやる!」

煌「よろしくお願いします……」

淡(さて……ハナダが何を考えてるのかはさっぱりだけど、っていうかどうやって逆転するつもりなのかもわからないけど、最後まで楽しく見させてもらうよっ!)

 東二局二本場・親:アタシ先輩

 十一巡目

淡(ってぇー!! ハナダってば!! もう中盤も過ぎたってのにまだ三向聴っ!? なんか打ち方もへたっぴーだし!! どどどどどどど、どーすんのこれ!?)

煌「…………」タンッ

(この鍬形……何かとんでもねえ力でも使うのかと思ったが、拍子抜けだな。どっからどう見てもただの一般人。気配からしてランクも下位っぽいし、技術もあるようには見えねえ。ナンバーだって下から数えたほうが速えだろう。
 ま、何もするつもりがねえのか、できねえのかは知らねえが、この局で終わりにしてやるよ。
 行くぜ……オマエら、準備できてんだろうな!?)

((はい、先輩!!))

「リーチだッ!!」ゴッ

淡(あわわわわわ!!)

「うちもリーチです」チャ

「私もリーチです!」チャ

淡(は、ハナダー!!)

煌「………………」ツモッ

淡(………………えっ?)ゾクッ

煌(ふむ、これは要りませんね)タンッ

(は――? ツモ切りなのに、アタシの和了り牌じゃねえ……だと……?)ゾワッ

(せ、先輩……? どうして掴ませなかったんですか?)

(ツモだと、私たちのポイントが若干下がってしまうのですが……)

(う、うるせェ! アタシだって掴ませるつもりだったんだよ!! だが……どういうわけか能力がうまく発動しなかったみてえだ。悪いな、この分はどこかで埋め合わせするからよ……)

((わかりました))

(じゃあ、ま、軽く一発をツモって終わりに――)ピタッ

((せ、先輩……?))

(バ、バカな……ッ!! こんな……ありえねえ……!!?)ゾゾゾッ

((先輩!? どうしたんですか!?))

(ど、どうしたもこうしたも――)ガタガタ

煌「どうかされました? 顔色が悪いですけれども」

「テ――テメェ!! 一体何をしやがった!?」

煌「……仮に私が何かをしていたとして、それをあなたに言う義理はありませんね。さあ、ツモでないなら早く牌を切ってください」

「ク……クソがっ!!」タァンッ

淡(これは……どういうこと? あの先輩さんの能力は、《発動条件》を満たせばほぼ確実に発動するような、かなり強度の高いものだった。それこそ、私の支配下にある牌を《上書き》して、私に和了り牌を掴ませるくらいに。
 けど、ハナダが私以上の支配力を持っているとは思えない。というか、ハナダからは何も特別な気配を感じない。でも……じゃなければどうして……?)

((三家立直状態で先輩が和了れなかった!? こんなこと今までに一度もなかった……!!))アタフタ

(アタシだってこんな異常事態、過去に一度しかねえよ!! 和了り牌をあらかじめ握りつぶされるとか、《発動条件》をクリアする前に潰されたりとか、そういうのはいくらでも体験したことはあるが……こいつのはそれとは違う!
 和了り牌はまだ何枚も残っている! 《発動条件》も満たしている! なのに……どういうわけか牌の《上書き》ができねえ!!
 おかしい……何かが絶対におかしい……!! アタシの能力は――使い勝手が悪い分、他のレベル4に比べても強度は上のほう。それが……なぜ機能しない……!!?)

((せ、先輩!? 大丈夫なんですか……!?))

(ま……まあ、そう慌てんな。リーチをかけてる以上、こっちが優位なことに変わりはねえんだ。
 仮に、こいつが何らかの方法でアタシの和了りを《無効化》しているんだとしようじゃねえか。だが、それはつまり、言い換えれば場がデジタルになってるかもしれねえってこと――《古典確率論》に従って場が動いてる可能性があるってことだ。
 とくりゃ、オマエらが偶然ツモったりすることも、十分ありえるわけだぜ。そのときは遠慮は要らねえ。その瞬間に手牌を倒せ!)

((わ、わかりました……!))

(それに、だ! アタシの能力には、誰にも教えたことのねえ『裏』があるのさ……!! たとえアタシらの誰も和了れなくても、この状況――最後に笑うのはアタシら以外にありえねえんだよ!)

((はい、先輩!!))

淡(ハナダ……もしかして、ハナダは――)

煌「あの……すいません」

「ああ?」

煌「ちょっと、一つ確認をしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」

「あんだよ」

煌「申し訳ありません。私、ここの標準ルールというものを、まだきちんと把握していなくて……」

「だからなんなんだよ。勿体つけてねえで話せ!」

煌「チョンボは満貫払い、ということでよろしいんですよね?」

「そうだよ」

煌「なるほど。では、例えば、聴牌していないにも関わらずリーチをかけて、流局時にそれが発覚した場合なども、満貫払いということになるのですね?」

「「「――!!!!?」」」ゾワッ

煌「ちなみになのですが、同じチョンボを同時に二人がしてしまった場合、チョンボした人同士で点棒の移動は起こるんですか? それだと、実質の罰符が満貫分より少ないことになってしまうと思うのですが――」

「そ、そんな細かいことどうでもいいだろ!! 大体、なにがどうなりゃそんなアホみたいな偶然が起きるってんだよ!? ああ!?」

煌「わかりませんよ? ありえない、なんてことはありえません。それに、起こるか起こらないかは、今問題にしていません。私はただ、確認したいだけなのです」

「……っ!!」ギリッ

煌「答えてください。三家立直から誰も和了らず流局となり、蓋を開けてみたら、リーチした三人のうち二人が聴牌の形になっていなかった。
 この場合、チョンボの満貫払いというのは、この二人の間でも行われるものなのでしょうか。それとも、二人聴牌・二人ノーテン時のように、チョンボした人からチョンボしてない人へのみ、点棒が移動するのでしょうか。
 勉強不足の私に、どうかご教授願います」

「…………前者だよ。チョンボは常に場に対して――つまり全員に罰符を払う。タイミングは問題じゃねえんだ。同時だろうが多発だろうが、一つ一つのチョンボは、それぞれ独立のものとして扱う」

煌「ありがとうございます。これで、心残りなく流局を迎えることができます……」

(……この鍬形……!!)ギリッ

 流局

「聴牌です」パラララ

「聴牌……」パラララ

「(ふう……ひやひやさせやがって)アタシも聴牌だ」パラララ

煌「おお……!」

「どうした? あとはテメェだけだぜ。もっとも、どうせノーテンだろうがな!!」

煌「えっ、なんで断言できるんですか?」

「アタシの能力にはな、裏の面があるんだよ。
 《三家立直になったらアタシが和了る》能力――これは、裏を返せば、《アタシが和了らない限り三家立直が継続する》ってことになるんだ。つまり、アタシの能力が発動したら最後、《四家立直では流せない》んだよッ!!」

煌「そ、そんな側面があったなんて……はっ!? だから、ご自分でリーチをかけないときには、鳴いて和了っていたのですね!? 速攻で仕掛け、なおかつ、ご自分の能力の縛りを抜け出すために!!」

「ご明察だ!! さらに言うと、アタシのこの裏能力は――《点棒状況には左右されねえ》。テメェの点数が600点しかねえ――聴牌してもリーチを掛けられない状況――ってのは関係ねえんだ!!
 あくまで特定の条件下で《面前聴牌を封じる》能力なんだよ。《リーチを封じる》能力とは似て非なるもの! だから……そもそも四家立直にならねえ点数現状でも、アタシの裏能力はテメェの面前聴牌を封じるってわけだ!!」

煌「なんて詳細な能力把握……すばらです!」

「で、だ! テメェはさっき、アタシらの三家立直が成立したとき、まだ聴牌してなかったよな?」

煌「ええっ!? な、なんでそれを!?」

「いや、十中八九そうだろうって思ってカマかけただけだ。だが、当たりみてえだな。で、テメェは愚かにも、三家立直成立から今の今まで、面前を通して流局を迎えちまったってわけだ……!!」ニヤッ

煌「その……通りです……」

「テメェがどういう能力を使ってアタシの和了りを《無効化》したのかは知らねえよ。ま、一万人も雀士がいりゃ、あの《塞王》以外にもう一人くらい、アタシの和了りを防ぐ封殺系能力者がいてもおかしくはねえ……だが!!」

煌「あの……」

「アタシの和了りを封じても、アタシの裏能力まで封じることはできねえはずだぜ!? そもそもアタシの裏能力が封殺系だからな! 封殺系を封殺系で《無効化》するなんて、アタシは寡聞にして聞いたことがねえ!!」

煌「あのー……」

「とは言え、私の和了りを真正面から潰したのは、学園都市でテメェが二人目だ。その点は評価するぜ。が、まだまだ詰めが甘かったな。ノーテン罰符で終了ってのも盛り上がらねえが、それでも勝負は勝負……テメェら二人揃って、尻尾巻いて逃げるんだな!!」

煌「私、聴牌してますけど」パラララ

「」

煌「なんか、ごめんなさい。ちょっと、その、言い出しにくくて……」

「あぁ、あぁあああ、あぁあぁぁぁああああ!!!?」ガタガタ

「「せ、先輩ッ!?」」

「ありえねえ! ありえねえ! ありえねえ! ありえねえ! ありえねえ!
 ありえねえ! ありえねえ! ありえねえ! ありえねえ! ありえねえ!
 ありえねえ! ありえねえ! ありえねえ! ありえねえ! ありえねえ!
 ありえねえ! ありえねえ! ありえねえ! ありえねえ! ありえねえ!」

煌「いや、でも現に」

「じゃあ何か!? テメェは私の能力を表も裏も《無効化》したってことか!?
 ありえねえだろ!? 《発動条件》や細かい《制約》によって能力同士が衝突して、片方が潰されることはあるが……否! それだってありえねえんだよ!!
 アタシの能力値はレベル4!! しかもレベル4でも強度はかなり上のほうだ!! そのアタシの能力と正面から衝突して、表裏全てを上回るなんて、それこそ――」

煌「それこそ?」

「それこそ…………レベル5の超能力者でもねえ限り――」ゾワッ

煌「なるほど、レベル5ですか」

「だが……!! 学園都市にレベル5は六人しかいねえはずだ!! そのほとんどをアタシは知ってる!! テメェみたいな鍬形は見たことも聞いたこともねえ!!」

煌「ん……六人と言いましたか? はて、おかしいですね。私は、学園都市のレベル5は、七人いると聞きましたが」

「はあ!? 何を言って――」ハッ

煌「」ゴ

(いや、待てよ。確か、この間こんな噂を耳にした……! 曰く、理事長と対局して、きっちり半荘一回を打ち切って生き残った――とんでもねえ《怪物》がいるって……!!)

煌「」ゴゴ

(それに、これもつい最近聞いた……転校生が来るらしいって話。もしかして、その転校生ってのと……理事長と対局して生き残ったっつー《怪物》は……同一人物……!?)

煌「」ゴゴゴゴ

(というか、こいつ、さっき言ってなかったか……!? 『ここの標準ルールを把握してない』とかなんとか。けど、そんなことがありうるのか!?
 見た感じは二年っぽいが、一年だとしても、もう五月になってる! しかも、ここの学生は全員が選りすぐりの雀士だ。チーム編成も始まっている。この時期にルールを把握してないなんて、訝しいにもほどがあるッ!!)

煌「」ゴゴゴゴゴゴ

(だ、だが……それも、つい最近転校してきたばかりってんなら……つじつまが合うんじゃ――)ゾッ

煌「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

淡「ねえ……ハナダ。ハナダって、さっき、自分は転校して来たばかりって言ってたよね」

(――ッ!!?)

煌「はい。先ほどまで、理事長室で諸々の手続きをしていました」

淡「で……私、聞いたんだけど、今日から学園都市に来ることになってる転校生って二人いてさ、そのうちの一人は、超がつくほどの美少女で可愛くて性格も優良で麻雀もめちゃめちゃ強いスーパー一年生で、もう一人が――」

煌(ん? 今なんかものすごい主観が混じった説明じゃありませんでしたか?)

淡「もう一人が……あの理事長を相手に半荘一回を最後まで打ち切ったっていう、人類史上最高強度の能力者で――能力値は当然のレベル5。
 これまで六人しかいなかった学園都市のレベル5を七人に増やし、その上、序列もぶっちぎりの第一位に君臨するような……とんでもない《怪物》だって聞いたんだけど」

煌「《怪物》だなんてそんな。実物は、ただの臆病でひ弱な小市民に過ぎません」

「じゃ、じゃあ……本当にテメェが――!!?」ガタンッ

煌「いかにも。私が学園都市に七人しかいないレベル5の、第一位――花田煌です」コノデンシガクセイテチョウガメニハイラヌカー

「なああああ!!? か、《怪物》ああああ……ッ!!!」ガタガタッ

煌「そ……その反応はさすがに少々傷つきますね……」シュン

(こ、こいつ……マジでレベル5――!! しかも第一位だと……!!? バカなッ!! いや、しかし、アタシの能力がまるで通用しなかったのは事実!! 信じられねえが……けど、電子手帳のデータは弄れない! 間違いなく本物……ッ!!)

(じゃ、じゃあ……何か!? こいつはあの《ハーベストタイム》より! 《ドラゴンロード》より化け物だってのか……!? そ、そんなの……逆立ちしたって勝てる相手じゃねえだろ!!)

煌「さて、どうしますか? 対局を続けますか? しかし、何度やっても結果は同じですよ。三家立直で必ず和了れる能力も、四家立直にさせない裏能力も、今の私にとっては意味を持ちません」

「そ、そんなバカなことが――」

煌「ありえるのです。今の私からは、たとえ小鍛治理事長でも直撃を取ることはできません。逆に、私は自由に和了りたい放題です」

「ふ……ふざけんなッ!! テメェから和了ることはできねえのに、テメェだけは好きなように和了れるだぁ!? そんな――あまりに一方的過ぎるじゃねえか……ッ!!」

煌「一方的……そうですね、あなた方は進むべき方向を間違えました。即刻回れ右をして、正しい道にお帰りください」

煌「ここから先は――《通行止め》ですッ!!」

「《通行止め》だと――!? くっ……ク、クソがああああ――!!」バァン

「「先輩……!?」」

「オマエら! この対局はもう終わりだ!! レベル5の《怪物》なんか相手にしてられるか!! 取り返しがつかなくなってからじゃ遅え……棄権するぞ!!」

「「わ、わかりました……」」

煌「お待ちください」

「ああ……!? なんだよ!! こっちは負けを認めてんだ!! まだ何かあるのかよ!!」

煌「言ったはずですよ。あなた方は進むべき道を間違えた、と」

「ど、どういうことだよ!?」

煌「あなた……ご自分の能力を発動させるために――三家立直を成立させるために――後輩のお二人にノーテンリーチをかけさせていますね……?」

「は――はあ!? どこに証拠があるんだよ!! 大体、さっき流局で手牌を見せたときは、アタシら全員――」

煌「大星さんの能力――《絶対安全圏》と言いましたか。それは、《他家の配牌を五~六向聴にする》ものだとお聞きしました。その能力の影響を、あなた方は、この対局が始まったときから、ずっと受け続けていた……」

「だからどうした!? そうだよ!! あのウザったい能力……!! だが、あれこそ逆にそのガキの弱点だと思ったから、アタシは鳴きを入れて序盤に――」ハッ

煌「そうですね。鳴きを駆使すれば、たとえ大星さんの能力下においても、五巡以内に聴牌することが可能でしょう。
 しかし、私が数えていた限り、あのとき、あなたと……それにあなたの鳴きをアシストをしていた下家のあなた――」

「う、うちがなんですか……!?」

煌「お二人は、確かに五回以上、新しい牌を手に組み込んでいました。しかし、鳴きによって手番を飛ばされた大星さんと、対面のあなた――」

「私……っ!?」ビクッ

煌「あなた、あのとき、まだ四回しかツモっていませんでしたよね? なのに、リーチをかけましたよね? 先輩さんのアシストをするために、聴牌してないにもかかわらず、故意にノーテンリーチをかけた――違いますか?」

「わ、私は……」

煌「毎回そうだとは言いません。が、恐らく、何度か同じようなことをしてきたのではないですか?
 なぜなら、ノーテンリーチであれ空テンリーチであれ、三家立直の状況さえ作ってしまえば、アタッカーである先輩が和了って場が終わる。
 つまり、あなた方お二人の手牌を他家が見る機会はない――不正が発覚することはない、ということになります」

「そ……そんなのただの憶測じゃねえか!? 現場を押さえたわけでもねえのに、あることないことウダウダ言ってんじゃねえぞ!?」

煌「それはそうです。しかし、現場を押さえたら、あなた方が困るでしょう?」

「…………は、はあ……!?」

煌「戦術と言えば聞こえはいいですが、あなた方の渡っている橋は、非常に危ない橋です。その道の先には、破滅しかありません。
 先ほど、道すがら電子学生手帳に載っている《校則》の大半に目を通しました。学園都市――白糸台高校麻雀部では、麻雀における不正を厳しく禁止しています。
 あなた方のそれが露見したら……最悪退学処分になる可能性もありますよ。それは、とても困るのではないですか?」

「だ、だからどうした!? アタシらが退学処分になったとして、それがテメェとなんの関係があるんだよ!!」

煌「ありますよ。同じ白糸台高校麻雀部の仲間じゃないですか」

「な……かま……だと?」

煌「対局を見ていればわかります。道端でお会いしたときは、恐喝まがいのことをする不貞の輩だと思いましたが……麻雀に取り組む姿は真剣そのもの。
 三人で一人を狙い打つ緻密な連携プレー、大星さんの能力を的確に見抜いて即座に対応する技量、自分の能力を熟知した多彩な打ち回し――すばらとしか言いようがありません。
 あなた方のような強者が、なぜ不正スレスレの行為に手を染めるのですか? それほどまでに校内順位《ナンバー》が大切なのですか?
 真の実力ではない、その場凌ぎの打ち方で勝利を得て……それであなた方の心は満たされるのですか?」

「だ、黙って聞いてりゃ……!! 学園都市に来たばかりの、才能に溢れたレベル5様が……!! アタシらその他大勢の何がわかるってんだよ!!」

煌「わかりません。しかし、あなた方の進むべき道がそちらでないことだけは、わかります」

「ア、アタシ……! アタシは――」

『おとーさん! おかーさん! おばーちゃん、みてみて、りーちするよ!!』

『よくできたね。じゃあ、お父さんもリーチだ』

『あら、それじゃお母さんもリーチしちゃおうかしら』

『おやおや、また親子三人で競争かい? いったい誰が一番になるかな?』

 ――――

『うわー! まーた捲り合いで負けたわー!!』

『すげーな、三家で打ち合いになったら絶対アンタが勝つのな!』

『ねえねえ、もしかして、これが噂の《超能力》なんじゃない? いいなー。ゆくゆくは白糸台高校麻雀部のエースになったり?』

『そ、そうか……? あ、あはは……』

 ――――

『リーチやッ!』

『ほな、こっちもリーチ!!』

『(よ、よし……狙い通り!!)リーチだッ!!』

『』ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

『(バカな……こんなこと――)』ゾワッ

「…………小さい頃、よく家族麻雀をやったんだ。麻雀はばーちゃんに習って覚えた。覚えてからは、オヤジとオフクロとばーちゃんとアタシで打つようになった」

「うちの連中は、みんな打ち合いが好きでな。ばーちゃんの影響で全員がテンパイ即リー派だった。それで……よくオヤジとオフクロとアタシで捲り合いをしたんだ」

「アタシらん中で一番強かったばーちゃんは……アタシたちの三家立直になると、オリるようになった」

「四家立直で場を流してしまわないように、アタシたちが捲り合いを楽しめるように……現物だけを切って……笑って見ていてくれたんだ……」

「中学に上がるとき、ばーちゃんが死んだ」

「そのときだ――アタシの能力が目覚めたのは。それから、地元の中学の麻雀部に入って、必死で麻雀の勉強をして……アタシが三年のときには、地区の大会で優勝した」

「優勝を決めたのはアタシだ。三家立直から……トップをまくったんだ」

「それから、アタシは学園都市に一般受験で入学した。もちろん、麻雀をやるために。で、そこから一年は――散々だったぜ」

「なまじレベルが高いから、一年の最初は二軍に配属されたんだ。入学してすぐに、化け物じみた実力者や能力者と打つハメになった。結果は散々。そのあとも、元々使い勝手の悪い能力だったから、簡単に潰されて、負けが重なった。クラスもナンバーも落ちる一方だったぜ」

「二年になってから……アタシは、アタシ一人の力で勝つことは諦めたね。その頃からだ、自分の能力を、今みたいに使うようになったのは」

「アシスト役をはべらせて、上位ランカー狩りをする。アタシ一人では勝てなかったやつも、アタシに優位な場を作れば……勝つことができた」

「そりゃ、嬉しかったさ。久しぶりに三家立直で和了ったときは……死んじまったばーちゃんが、傍で応援してくれているように感じたぜ」

「アタシはひたすら上を目指した。せめてナンバーが300……いや、500でもいい。白糸台高校麻雀部一万人の中の、一握りの人間と呼ばれる存在に――アタシもなりたかった。なって、ばーちゃんに伝えたかったんだ……!!」

「アタシは……アタシは今もリーチしてるって! 捲り合いを楽しんでるって!! ばーちゃんに教えてもらった麻雀が大好きだってよ……!!」

「くそっ……なんで今更、こんなことを……!!」

煌「大変な苦労を……されてきたんですね……」

「……ま、最近じゃ、そんなことすっかり忘れてたけどな。ナンバー上げに躍起になって、捲り合いがただの出来レースになって、いつの間にか、アタシは勝つこと以外に興味がなくなってた。麻雀が楽しいと思えなくなっていた……」

煌「もう二度と、故意のノーテンリーチを戦略に組み込むことはしないと、誓ってくれますか?」

「そう……だな。何か、また別の方法を考えるさ。今度はもう少しクリーンなやつをよ。それで、最後の夏まで……全力を尽くして上を目指す。卒業したら、どこまで行けたか……真っ先にばーちゃんに報告しにいくさ」

煌「お祖母様思いなのですね……! すばらですっ!!」

「とりあえず……アタシは自分を見つめなおすところから始めるとするぜ。ちっとばかし道を間違え過ぎた。確かに、これ以上先に行ってたら、危ないところだったかもな。
 ま、振り返って来た道を戻っていけば、いつかは進むべきだった道を見つけられるだろうよ。悪かったな、それから……ありがとよ。《通行止め》」

煌「いえ、私は何もしていません。ただ単に、危険な道を《通行止め》にしただけです」

「それと……オマエら! なんつーか、アタシの勝手につき合わせて悪かったな。アタシはもう……オマエらの面倒は見てやれねえ。明日からどうすればいいのか、自分のことで手一杯だ……!!
 だから、もうアタシみたいなポンコツじゃなくて、もっといい能力者を見つけて――」

「私は……! これからも先輩についていきます! 今まで先輩にお世話になった分を、返したいんです!!」

「うちもですっ!! 先輩のこと、支えますから!! お傍においてください!!」

「お、オマエら……!?」

「「「うわああああああん!!」」」

煌「…………すばらです」

淡「めでたしめでたし、って感じ?」

煌「わかりません。あの方々の行く先は、あの方々だけのものですから。部外者の私が、これでよかったんだ、などと言うのは筋違いでしょう」

淡「ってゆーか、ハナダ、レベル5だったんだね。そっかー……ハナダだったんだ。私じゃない《もう一人の転校生》って!」

煌「ええっ!? では、もしかしてとは思っていましたが、やはり大星さんが――!!」

淡「そう! スーパー天才美少女雀士、大星淡とは私のことだよっ!!」

煌「そ、そうだったんですか……って!! なら、こんなところで油を売っていてはいけません、今すぐ理事長のところに――」

健夜「あー!! やっと見つけた!!」タッタッタッ

淡「あっ、あらふぉー!!」

健夜「アラサーだよ!!」ゴッ

煌(ひいいいいいい!?)ゾゾゾゾゾ

淡「あはっ、相変わらずすっげー殺気。ねえ、今から一局打たない?」ウネウネ

健夜「私はそんなに暇じゃありません。ハイ、これ、あなたの電子生徒手帳。失くさないでね」

淡「ありがとー」

健夜「あれ……? 大星さん、どうして花田さんと?」

淡「ま、色々あって」

健夜「それは……好都合。じゃあ、花田さん、私が花田さんにした説明を、大星さんにしてくれるかな? 任せていい?」

煌「任されました、と言いたいところですが、私はこれから寮へ行って手続きを済ませなければなりませんし、できれば明日へ備えて部屋で一休みしたいのですが……」

健夜「うん、その寮の部屋のことなんだけどね。あなたたち、相部屋だから」

煌「……は?」

健夜「急な転校だったから、二人部屋しか用意できなかったの。ごめんね。でも、仲良くなってるみたいだし、いいよね?」

煌「ふええええええ!!?(大星さんと相部屋……!? な、なんでしょう、血が騒ぎます!!)」テテーン

淡「私はいいよー。ハナダなら信頼できるもん。ねー、ハナダ?」ニパー

煌(無垢な笑顔!? 心が痛いです!!)

健夜「じゃあ、決まり。とりあえず、寮の前までは、私の部下に車で送らせるから。あとは寮監の久保さんの言うことをよく聞いて、今日中に手続きを済ませてね」

淡「はーいっ! じゃ、行こ、ハナダっ!!」ギュッ

煌「(手……手がっ!!)ひゃ、ひゃいいっ!!」

 ――白糸台寮・二人部屋――

淡「えー!? じゃあ、ハナダの能力って《絶対にトばない》なの? もっとこう、《条件を満たせば必ず役満が和了れる》! とか、《点棒の流れのベクトルを操作する》! とか、《実在する全ての能力を使える》! とかじゃなくて!?」

煌「ご期待に添えなくて申し訳ないですが、本当にトばないだけです。他には何もできません(大星さん……! ネグリジェ姿でベッドにうつ伏せになり、頬杖をついて足をぶらぶら! すばらですが、目のやり場に困りますっ!!)」

淡「じゃあ、さっきの対局、ハナダはハッタリをかましてたってこと? 『ここから先は《通行止め》だー!!』とか言っちゃって」

煌「決して嘘は言ってませんよ。点棒が600点の状況なら、相手は私から直撃を取れませんし、詰み棒があったのでツモでもゴミ手一回が限度、ノーテン罰符も当然回避できます。
 ま、私が和了りたい放題というのは、私とあの方々の実力差を考えればかなり誇張した言い回しでしたが、可能性はゼロではありません。
 向こうのお三方で点棒を回されると負けてしまうので、私なりに強者を演出してみせたんです」

淡「ひゅぅー! やるじゃん、ハナダ! いいねー、そういうのっ!! 私もすっかり騙されてたよ!!」

煌「お褒めに預かり光栄です。ま、今回はレベル5の第一位という肩書きに助けられましたね。その実体は、ただただ《トばない》という、本当に地味でしょっぱい能力者でしかありません」

淡「んー、ま、確かに言葉にすると地味でしょっぱい力だけど、実際のところ、私はハナダの能力が羨ましいな。どんな状況になってもトばないとか、最高にカッコいいと思うよ!」

煌「カッコいい……? トばないだけの臆病な能力がですか?」

淡「臆病なんかじゃないよ。むしろ逆かも。本当にちょーステキ。私のと交換してほしいくらいっ!」

煌「ええっ!? 《絶対安全圏》と、《ダブリー》と、それからなんでしたっけ、《カン裏モロ》の三つと……ですか?」

淡「全部あげてもお釣りが来るくらいだよ!」

煌「私の能力は……そんなにすばらなのですか?」

淡「うん、すばらだよ! ってか、さっきからちょいちょい聞くんだけど、『すばら』ってなに?」

煌「(わからないで使ったんですか今!?)すばらしい、の略です」

淡「ほー! すばら!!」

煌「はい、すばらです」

淡「すばら、すばらー!!」ルンルン

煌(大星さん……あんなにご機嫌に私の口癖を連呼して……なんだか、赤ん坊に自分の名前を教えたみたいです。なんなのでしょう、この子の、底抜けの人懐っこさは。あまりに無防備なので、いつか変な気を起こしてしまいそうです……)

淡「決めた! 私、ハナダのこと『スバラ』って呼ぶ!!」

煌「えっ?」

淡「だって、ハナダはいい人で、能力も最高だもん! まさにすばらじゃん。だからスバラ!!」

煌「えーっと……」

淡「スバラー♪ スバラー♪」

煌(ま、まあいいでしょう。悪い気はしませんし)

淡「あ、そうだ。スバラもさ、いつまでも大星さんじゃなくて、『淡』って呼んでよ」

煌「そそそそそそそんなこと!!?」

淡「ルームメイトなんだし、そもそも私のほうが年下なんだし、名字にさん付けはちょっと他人行儀過ぎると思うよー?」

煌「……わかりました。やってみます。あ、あわ、あわわわわわわ」アワアワ

淡「もうちょっと!!」

煌「あわあわわわわ――淡さん!!」

淡「ずこー!!」

煌「すいません、これが精一杯です」

淡「ふふっ。ま、それがスバラらしいのかな。その気になったら、いつでも呼び捨てでいいからねっ!!」

煌「はい……(呼び捨てでなんて、とても呼べませんよ。大星さんは私には眩し過ぎます。そして……あまりにも遠い……)」

淡「さて、っと。まだ寝るには早いかなー」

煌「つい先ほど夕食を摂ったばかりですしね」

淡「むうー! 身体がうずくよー!!」ゴロゴロクネクネ

煌(にゃ、にゃんこー!! 淡さんにゃんこですっ!!)スバラッ

淡「もー、スバラ! 私をこんな身体にした責任取ってよ!?」

煌「はっ!? え!? 私、何かしましたか!?」

淡「スバラが途中交代したから、身体が麻雀足りないって叫んでるの!! むー! 麻雀したーいっ! 親になってダブリーでカンしてインパチの流れを無限に続けたいー!!」

煌「……それが本当にできてしまう能力者だから恐ろしいです」

淡「決めた! 麻雀するっ!!」ガバッ

煌「今からですか!? しかし、もう門限を過ぎていますし、外に出ることはできませんよ?」

淡「ちっちっちー。スバラったら遅れてるよ。学園都市では、部屋にいながらにして麻雀が打てるんだよん!!」ジャーン

煌「それは……電子生徒手帳!!」

淡「これがタブレットになってるんだね。それで、ネットにも接続できる」

煌「タブレットというのは……」

淡「パソコンの薄いのって感じ。私も一台持ってる。ってか、向こうの学生はみんな持ってたよ。あ、向こうって海外のことね」

煌「淡さんは帰国子女でしたか」

淡「学園都市の内情も、ここに来る途中で調べてきたんだー」

煌「淡さん、今日転校してきたばかりなのに、理事長から説明を受けた私より麻雀部の制度に詳しかったですもんね……」

淡「天才は予習復習を欠かさないものだよ、スバラくん!!」

煌「おっしゃる通りでございます、淡先生」

淡「スバラも自分の電子手帳でやってみたら? ネット麻雀のほうが、スバラ向きだと思うよ。普通の麻雀と違って、電脳世界じゃみんな能力を使えないから」

煌「ちょっと『普通』という言葉の意味が行方不明です」

淡「さて、ふむふむ……ここから白糸台高校麻雀部専用サーバーにアクセスするのね……。おっ、学籍番号がアカウントになってるんだ! あとはハンドルネームを決めてっと……」シャッシャッ

煌「あ、あの、すいません。私、紙媒体には強いんですが、この手の電子機器はあまり馴染みがないもので。これ、どうやって進めばいいんですかね……?」コンコンバシッピコピコ

淡「スバラってば機械音痴!! もー私がやったげる、こっち来て!」バシンッ

煌(あ――淡さんの寝転がるベッドに!? しかも淡さんの隣に来いと!?)

淡「はやくー!」

煌「は、はいはい只今!!」ドキドキ

淡「はーい、ここ座って」

煌「ひゃ、ひゃい……!」

淡「こーね、指でシャーっと画面を切り替えて、カーソルを合わせて、後はタップして……ハンドルネームは『すばら』っと」

煌(ベッドの端に座った私に……淡さんが後ろから覆いかぶさるような格好で私の電子手帳を操作して……背中から淡さんの体温がじかに……!!)

淡「ハイ、これで登録完了っ!! スバラ、試しにこのまま一局打ってみてよ。操作方法を教えるついでに、スバラの雀力を確認しておきたいし」

煌「こ、このままですか!?(後ろから抱きつかれたままですか!?)」

淡「これが見やすいし教えやすいの。さ、やってやって!!」ムギュー

煌(淡さん……見た目以上にあるんですね……感触がすばらヤバいです!!)

 ――数時間後――

淡「スバラ……」

煌「はい……」

淡「激弱だよー!! 普通じゃない麻雀なのに全然勝てないじゃーん!! R1300なんて見たことないよー!!」

煌「面目ない……」ズーン

淡「そりゃ、白糸台専用サーバーだから、平均水準が高いのは仕方ないとしてもさ。
 それにしたって、せめてその平均と同じくらいにはならないと! いくら強力な能力があっても、地力が平均以下じゃ二軍《セカンドクラス》で生き残るなんて夢のまた夢だよっ!!」

煌「ど、どうすればいいのでしょうか……」

淡「とりあえず、これ!」ドン

煌「『小学生でもわかるデジタル麻雀論――著:熊倉トシ』?」

淡「これ、私が十年前に読破したやつ。スバラにあげる。古臭くて骨董品みたいな本だけど、内容はけっこう充実してるから。これを一週間以内にマスターすること!! おっけー!?」

煌「わ、わかりました……!!」

淡「あとは……ま、そのとき考えるっ!!」

煌「合点です!!」

淡「じゃ、スバラ! 今日はもうおやすみねっ、グッナイ!!」

煌「わ、私は少しこれを読んでから……」ペラペラ

淡(と言っても……実はデジタル論の本はあれしか持ってないんだよねー。私は天才だから、あれを読んだあとは一人で応用理論まで構築できたし。
 スバラにはもっと強くなってもらわないと困るんだよっ! けど、スバラはどーみてもコツコツ努力型でしかも大器晩成タイプ! 私じゃうまく教えられる自信ないよー)

淡(誰か……デジタルに強くて、普通の能力ありの麻雀も強い人。うん。明日、クラスに入ったら探してみようっ!!)

煌(わああああ!! 穴があったら入りたいっ!! 淡さんに恥ずかしいところをいっぱい見られてしまいました……!!
 これはどうしたものでしょう。とりあえず、淡さんからお借りしたデジタル論の本は熟読するとして……時間があるときはこの電子手帳で麻雀をするのがいいのでしょうか)

煌(しかし、これまで外の世界の麻雀にしか触れてこなかった私が……独学で学ぶのはさすがに限界があります。淡さんには迷惑をかけたくありませんし……どなたか、私に合った打ち方をされる人を探してみるとしましょうか)

煌(この電子手帳――ネット麻雀内では、他人の個人成績や牌譜も見れるようになっているようです。学園都市には一万人もの雀士がいて、しかも全員が私より強い方なのですから、探せば、きっと一人くらいは私の理想に近い人がいるはずです。
 これは……いよいよもって眠れぬ日々が続きそうですね……!)

 ――翌日・白糸台校舎・二年教室棟――

晴絵「このように、微分するとその関数の増減を調べることができるんだな」アレコレ

煌(ね……眠い……!!)ウトウト

晴絵「特に、一階微分した関数f'(x)が0になるところを極点という」

煌(おかげさまで、淡さんの本はひとまず読みきることができましたが)

晴絵「当然、極点において、元の関数f(x)のグラフの接線の傾きは0になるというわけだな」

煌(それにしてもこれは……うーん……この間まで私が通っていた学校は中高一貫の進学校でしたからね。五教科に関しては既に大学入試の演習をやっていたほどです。
 学園都市の授業は一般の高校と同じ。なまじ知っている内容だけに、睡魔の攻撃が猛ラッシュ……! で、ですが! さすがに転校初日で居眠りをするわけには……!!)

晴絵「さて、p31の例題1をやってみようか。このように、三次関数のグラフを書け、と言われたら、何はともあれまずは増減表を書くんだ。じゃあ、この問題を――せっかくだから、転校生の花田!」

煌「」

晴絵「おい、花田? 花田煌ー?」

?「センセー、なんや花田さん失神してますぅー」

晴絵「ええっ!? し、失神!? そんないい笑顔で……!? 黒目だってちゃんとこっちを向いているのに……意識がないなんて……」

?「ほな、ウチが花田さんを保健室に連れていきますわー」

晴絵「ああ、悪いな。頼んだぞ、保健委員」

?「まっかせてーぇ!」

 ――保健室――

煌「ジャッジメントですの!!」ガバッ

煌「………………夢……?」

煌「と、というか、ここは一体……」

 シャー

?「おっ、起きたんやね。ここは保健室やで」

煌「あなたは……! 隣の席の荒川憩さん!! 白糸台のナンバー2――《白衣の悪魔》の荒川憩さん!!」

憩「正解っ。ウチがその荒川憩さんや。そーゆーあなたは隣の席の花田煌さんやな?」

煌「いかにも、花田煌です」

憩「レベル5の第一位――《通行止め》の花田煌さんや!」

煌「…………っ!!?」

憩「なんで知っとん、って顔やな。こんなん、もう学園都市で知らんやつなんておらんでー。常識や。理事長相手に半荘一回をきっちり打ち切って、五体満足で生きて帰ってきたっちゅー《怪物》転校生が来るってなー」

煌「そ、そんな私は……」

憩「おっ、そんな構えんでええよ。なんや、昨日はちょっと面倒事に巻き込まれたそうやけど、学園都市のみんながみんながハンターってわけやない。特にここ――二軍《セカンドクラス》はレベル5があっちこっちにおるしな。
 そん中でも、ウチら二年生はすごいでー? なんとレベル5の旧第一位から第三位がおるんやもん。あ、いや、渋谷さんは正確には一軍《ファーストクラス》やけどな。ま、同じ教室で勉強しとるし、似たようなもんやろー」

煌「なるほど」

憩「花田さん、放課後になったら、きっともみくちゃにされるんちゃうかなー? 今はまだ普通の授業しかやってへんから遠慮しとるけど……これがひとたび部活やーってなったら、みんな我先にレベル5と打ちたがると思うでー。
 ちなみに、ウチもその一人」ニコニコ

煌「わ、私なんて、そんな大層な打ち手ではありません。きっと……がっかりさせてしまうでしょう」

憩「そーなん? ま、能力いうても系統もバラバラ、効果もピンキリ、発動条件もイロイロやもんなー。
 けど、レベル5ゆーたら反則級の和了りかましてくるイメージやったけどなー。特に二年のレベル5トリオなんかすごいでー? そらもー白糸台の《生ける伝説》とか言われるくらいにとんでもないことしてんねんから」

煌「なんかすいません……」

憩「気にせんでー。どういうタイプの能力にしろ、ウチは花田さんと対局するんを楽しみにしとるから。と、それはさておき、今日はどーしたん? 体調悪いん?」

煌「寝不足だったんです。転校初日だというのに、ご迷惑をおかけしまして申し訳ありません」

憩「いやいや。ウチ、数学は得意やから。ちょうど退屈してたとこを、合法的にエスケープできて、むしろラッキーやったで?」

煌「そう言っていただけると……」

憩「で、なんで寝不足なん? 例のルームメイトの美少女一年生と、夜通しいちゃついてたん?」

煌「あ、淡さんとはそういう仲では……!? ええええっ!? というか、そんなことまでご存知なんですか!!?」

憩「やから常識やってー。理事長が《宮永照の後継者》として海外からスカウトしてきた、ランクSにしてレベル4のマルチスキル――《超新星》こと、大星淡。
 そのランクSの化け物・大星淡と、レベル5の怪物・花田煌が転校初日からコンビを組んだーいうてな。
 この二人……間違いなく、約二ヵ月後のインターハイ――その白糸台高校麻雀部代表枠を巡る一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》の台風の目になるゆーて、もー昨日の夜は寮中がどえらい騒ぎやったでー」

煌「そ、そんな話になっていたなんて……」

憩「で、どーなん? 実際のところ、花田さんは大星さんとチーム組むん?」

煌「私は……まだ学園都市に来たばかりで、トーナメントのこともよくわかっていないというか、考えてもいなかったというか。いずれにせよ、淡さんに私は釣り合いませんよ」

憩「んー? けど、自分、大星さんのこと『淡さん』ゆーてるやん」

煌「そ……それは、淡さんがそう呼べって言うから////」カー

憩「…………なるほど。花田さんのほうは、完全にゾッコンなんやね?」キュピーン

煌「滅多なこと言わないでくださいっ!!」アタフタ

憩「となると……あとは大星さんの気持ち次第ってことやな。せやけど、ウチの読みが正しければ、むしろ大星さんのほうが花田さんにベッタリや。ちゃう?」

煌「知りませんっ!」プイッ

憩「ぷぷぷっ……からかうのオモロいな、花田さん」

煌「ひどいです、荒川さん……」

憩「ごめんて。機嫌直してーな? ま、とまれ、チームのことは早めに決めたほうがええと思うで?
 五人目のランクSと七人目のレベル5――超大型転校生のお二人は、みんなの注目の的、ひっぱりダコや。あんまりふらふらしとると、あらぬ方向へ行ってまうかもしれへんよー」

煌「……ご忠告痛み入ります」

憩「ほな、ウチはそろそろ戻るわ。花田さんは、しばらく寝とき。体力蓄えとかんと放課後がキツいで。ほななー」シャー

煌(荒川憩さん……ナンバー2というからもっと恐い方を想像していましたが、予想外に気さくというか、はっちゃけたというか、ぶっちゃけた方ですね)ゴロン

煌(チーム、ですか。五人一組――白糸台高校麻雀部の最小単位。その総数は単純計算で最大2000チームほど。その中でも選りすぐりの、予選を勝ち抜いた52チームが、一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》で激突する)

煌(淡さんほどの力があれば……例えば、チーム《虎姫》の抜けた穴に入っても、なんら問題ないでしょう。そうやって、新生チーム《虎姫》の一員として、かの宮永照さんと一緒にインターハイへ。すばらな未来です……)

煌(それに、荒川さんの話が本当なら、淡さんは《宮永照の後継者》として学園都市にやってきた。なら、宮永照さんの傍で麻雀をするのが……最もすばらな選択なのかもしれません)

煌(けど、どうしてでしょう。胸が苦しい……寝不足の影響でしょうか)

煌(淡さん……本当に、星のような人です。私には、遠過ぎて、眩し過ぎて、手を伸ばすことすら憚られます)

煌(淡さんなら、きっと、《虎姫》でもうまくやっていけるでしょう。目に浮かぶようです。《虎姫》のみなさんに、可愛がられて、愛されて、伸び伸びと麻雀を打つ淡さんが……)ウル

煌(な、なんで涙が――!? や、やめましょう!! 淡さんは……淡さんは強い人です。大丈夫。どこへ行こうと淡さんは淡さんのままでいるはず。
 というか……そうです! 私は、人のことをあれこれ考えていいような立場の人間ではないんです!)

煌(私は……弱い。淡さんの足元にも及ばないくらい。今のままではレベル5の鍍金も三日ともたずにはがれてしまうでしょう。
 淡さんのことを思うなら……淡さんのことをこれからも応援したいと思うなら、私自身がもっと上のステージに行かなければなりません)

煌(居眠りで授業を抜けてこんなことをするのは……少々気が咎めますが、いたし方ありません。今は一分一秒も無駄にできない。やりましょう……ネット麻雀!!)

煌(えっと……電子手帳を、こうして、ああして……っと)ピコン

煌(おっ……新しい部屋? 否、これは二軍《セカンドクラス》専用の対局室ですか。校舎内にいるから入れたんですかね……? ま、それはさておき、ログインして――)

煌(あれ……? 人が少ないですね。おかしいです、昨晩はあんなに人で溢れかえっていたのに。いくら二軍専用とは言え、二軍の方々は400人くらいいるはず――って!! 全員が今は授業中じゃないですかー!!)

煌(えっと、控え室にいるのは――『あこちゃー』さんという方と……『あわあわ』さん………………)

煌「授業中に何やってるんですか淡さん!!」ズコー

煌(……仕方ありません。実戦は諦めて、過去の牌譜の研究をしましょう。白糸台高校麻雀部の二軍《セカンドクラス》――国内最高峰の方々の麻雀というやつを、有難く拝見させてもらいます!!)

 ――数十分後――

煌(この『のどっち』さんという方……まるで機械のような人ですね。この方も能力者なのでしょうか。デジタルでこれだけ打てて、なおかつ能力を武器にしているとしたら……リアルでは一体どれほどの打ち手になるのか想像もできません)

煌(『とーか』さんという方も華麗な打ち回しです。『かじゅ』さんの冷静な対応力もすばら……!)

煌(しかしながら……少しだけ、私の求めているものとは違います。この方々の麻雀は、私にはきっと真似できない。ふむむ……デジタルにも個性が出るものなのですね。もっと……私の理想に近い方が――)

 ガラガラ シャー ギシギシッ

煌(はて? お隣にどなたかいらっしゃいましたか? どこの学校でも保健室は人気スポットなのですね)

 ピコン

煌(あっ、控え室に人が増えました! 『あこちゃー』さんと『あわあわ』さん、それに……もう一人――!! これで面子が揃いました!!)

 タイキョクヲモウシコミマスカ?

煌(申し込みますとも……! 淡さんは私に気付いているのでしょうが、まあ、いいでしょう!! 一夜漬けのデジタル論……存分に試させてもらいますよっ!!)

 ――数十分後――

煌(こ……この人……!!)プルプル

煌(すばらですっ!! なんというか、とても……とても私好みの闘牌!!
 『あこちゃー』さんの鳴きも上手いと思いましたし、『あわあわ』――もとい淡さんの力強い打ち筋も羨ましくはありますが……この人は別格です!
 淡さんではないですが、いいです! すごいいいです!! この方みたいに打てるようになりたい……!! 私も――)ハッ

煌(そう言えば、この方が控え室に来たタイミング……誰かが保健室に入ってきたすぐ後でしたね。いや、まさか……でも、間違っていたら迷惑をかけてしまうかもしれませんが……けど!)

煌(この……カーテン。この向こうに――私の理想の打ち手がいる……!! これを逃したら、またいつ出会えるかわかりません。もちろん、データとしての牌譜を眺めるだけでも勉強になりますが……直に会って、お話をしてみたい!!
 どうしてこんな打ち方をするようになったのか! リアルではどんな風に打つのか!! 会って確かめたい……!!)

煌「(花田煌……行きます――!!)あの!!!」シャー

?「っ!?」

煌「と……突然申し訳ありません!! 失礼ですが、今ネット麻雀をしていた方ではないですか!? 私は『すばら』です!! あなたは――」

?(…………!?)ドキドキ

煌「あれ……? そんな……誰もいない? ど、どこかに隠れているんでしょうか?」キョロキョロ

 ピルルルル

煌「(っと、電話? 淡さんから?)あ、はい。私です。あの、淡さん、今は授業中では……? えっ? いや、私はちょっと、体調不良で保健室に――」

煌「え……それは、本当ですか!? しかし、どうやって調べ――ハッキング? ええい、この際、方法はなんでもいいです! それは確かなんですね?」

煌「わかりました。では、放課後、全速力でそちらに向かいます!! では――あっ、授業はちゃんと受けてください! いくら学園都市と言っても、高校生の本分は学業で――切られました……」ツーツーツー

煌(淡さん……淡さんも、私と同じことを考えていたんですね。私が強くなるためにはどうしたらいいか。なんて、なんてすばらなことでしょう!! 淡さんのためにも、必ずこの方を見つけて……今より強くならねば……!!)

煌(ふう……それにしても、なんだかどっと疲れが出てきました。この方の他の牌譜を見たいのは山々ですが、限界のようです……むにゃむにゃ……)バタンキュー

?「………………」ソロソロ

煌「ZZZZ」

?「………………」ジー

 ――放課後・二年教室棟

?「じゃじゃーん!! 満を持して、私、登場なのですっ!!」バーン

憩「おー、やっぱり一番乗りは玄ちゃんやったかー」ヤッホー

玄「憩さんっ! こんにちは」

憩「残念やけど、玄ちゃんのお目当てはもうどっか行ってもうたでー」

玄「そうなんですか……って、あ、バレてましたか///」

憩「玄ちゃんは泣く子も黙るレベル5の旧第一位やからな。真っ先に来ると思ってたで。ほんで、旧第一位の玄ちゃんは、新第一位さんをどないするつもりだったん? いてまうつもりだったん?」

玄「そ、そんな物騒なことしないですよっ! ちょっとお手合わせしたかっただけです」

憩「玄ちゃんが本気で打ったら、いてまうんと一緒やろー。新第一位さんは心優しい人やから、きっと玄ちゃんと打ったら泣いてまうで。玄ちゃんは恐ーい恐ーいドラゴンさんやもんなー」

玄「また! 人をそうやって猛獣扱いして!! というか、打って相手を泣かせるのは、どっちかっていうと憩さんのほうじゃないですか!? あんなに私を弄んでおいてよく言いますっ!!」

憩「いやー、だって玄ちゃんの涙目、めっちゃ可愛えんやもん」

玄「もうっ、憩さんはひどいです!」

憩「ははっ、それ花田さんにも言われたわー」

玄「花田――花田煌さん。お友達になれる予感があったんですけど……不在なら仕方ないです」

憩「おろ? 今日もあれか、例のお仕事なん?」

玄「…………憩さんに隠し事はできないですね、困ったものです。ま、そんな感じですよ。ちょっと急な任務でして、可及的速やかに行かなくてはならないのです。
 せめて一目だけでも新しい第一位さん――花田さんに会って、ご挨拶したかったんですが」

憩「思惑が外れたってわけやね。ほな、お仕事頑張ってー」

玄「はい。花田さんに、松実玄が会いたがってましたと、よろしくお伝えください」

憩「まっかせてーぇ!」

玄「では、失礼しましたっ!!」ダッダッダッ

憩(あーあー、あんなに走って転ばへんとええけど。なんや、どうにも大変みたいやね……《アイテム》っちゅーんも――)

 ――放課後・一年教室棟――

煌「あっ、淡さん!!」ダッシュ

淡「スバラー、こっちー!!」ブンブン

煌「こ……この教室に例の方が!?」

淡「うん、たぶん。もう帰っちゃったかもしれないけど……帰ってないかもしれない。でも、大丈夫なの、スバラ?」

煌「何がですか?」

淡「その人ね、噂だと、誰にも見つけられないって話だよ」

煌「心配は要りません。昔から、ウォーリーを探せは得意でした!」

淡「そのたまに発揮される無駄な自信を麻雀にも活かしてほしいよ……」

煌「と、とにかくです! 行くしかないのですから、行くのです!! ここまで来て、あとには引けません」

淡「ま、私もできる限り協力するよ。二人いれば、見つかる確率も上がるかもだしっ!」

煌「心強いです……!! では、行きますよっ!!」

 バアアアアン

煌「たのもおおおおおおお!!!」

淡「ひゃほーい!! 殴り込みに来たよー!!」

煌「あの……! どこか――この教室のどこかにいらっしゃるんですよね? 聞こえていますよね!?」

煌「私は……花田煌と申しますっ!! 午前中――『名無し』さん……あなたとネット麻雀で対局したものです!! 保健室で、たぶん、私はあなたの隣にいました!!」

煌「『名無し』さん、私はあなたの打ち方に心惹かれました!! どうか、一度でもいい――リアルで一緒に打ってください!! 私はあなたと打ちたいんです……!!」

煌「『名無し』さん……!! お願いです、どうか、お姿を見せてくださいっ!!」

煌「わ、私は……あなたの力がほしいっ!! あなたの打ち筋に……惚れてしまったんです!!」

淡「え、ちょ、スバラ……?」

煌「『名無し』さん!! 私はあなたがほしいっ!! あなたが好みですっ!! 大好きですっ!! だからどうか――」

淡「ス、スバラ! 熱が上がり過ぎて告白みたいになってるけど!?」アワワ

煌「告白も告白ですよっ!! 私にもう退路はないのです……なら――前に突き進むしかないんですっ!!」

淡(明らかにオーバーランだよっ!! これ、聞いてたら絶対引いちゃうよっ!!)

煌「『名無し』さん……私はあなたが好きで――ちょっと、淡さん、邪魔をしないでください!」

淡「いや、私は何もしてないけど?」

煌「じゃ、じゃあ私の手を掴んでいるのは誰な――」

?「………………本当に……(頭の)おかしな人っす……」フー

煌「えっ……?」

?「すいません、ちょっと、お二人の存在が強過ぎて、認識に割り込むまでに時間がかかったっす。本当なら、『リアルで一緒に』くらいで登場するつもりだったっすけど……」

煌「で、では、あなたが……?」

?「はいっす。私が『名無し』――東横桃子、一年っす」

煌「東横……桃子さん。それが、あなたのお名前なんですね」

桃子「学園都市では《ステルスモモ》のほうが通りがいいっすけどね」

煌「ステルスモモ……では、やはり何らかの能力をお持ちで?」

桃子「そういうことっす」

淡「ちょっと! モモコとかいった? いつまでスバラと手を繋いでるの!?」ムー

桃子「おっと、これは失礼っす」サッ

煌「いえいえ、こちらこそ」ペコ

桃子「えっと……それで、私の打ち方に、なんだか甚く――というか、痛々しく興味を持っていただいたみたいで。
 でも、私、二軍《セカンドクラス》の中では、レベルもナンバーもさほど高いほうではないっすよ?」

煌「レベルやナンバーなど、関係ありません。私は『あなた』がいいのです、東横さん」

桃子「桃子でいいっす」

煌「桃子さん……」

淡(わっ! スバラったらあっさり名前呼びしてっ!! 私のときはあんなに抵抗あったのにー!!)ムムム

煌「桃子さん、あなたの打ち方は、私の理想にとても近いものでした。私は桃子さんのような麻雀が打ちたいんです。どうか、桃子さんの傍で勉強させてください。……ダメでしょうか?」

桃子「なかなかストレートにものを言う人っす。面白い、こんな私でよければ――と、言いたいところっすけど……」

煌「なにか?」

桃子「実は、私、別の先輩からも声を掛けられてるっす。その先輩は、とってもカッコよくて、強くて、頼りになる人っす。
 一方で……私はまだ、すばら先輩のことをよく知らない。もちろん、すばら先輩が私のことを気に入ってくれたのは、心から嬉しいっすけど。
 ただ、ネット麻雀の『すばら』先輩には、正直、あまり魅力を感じなかったっす。でも、リアルとネットは違うもの――打ってみなければわからないことは、たくさんあるはずっす」

煌「それは、つまり……」

桃子「今から、私と一局打ってください。私はリアルのすばら先輩を知りたい。すばら先輩もリアルの私を知りたいっすよね? これから一緒にやっていくかどうかを決めるのは、そのあとでも遅くはないと思うっす」

煌「よ……喜んで!!」

桃子「じゃあ、決まりっすね。あとは他の面子っすけど――」

淡「もちろん私が入るよ! っていうか、スバラはもうその気でいるみたいだけど、私はあなたをこれっぽっちも認めてないんだからね……モモコッ!!」

桃子「噂の《超新星》さん……あなたが入るとゲームバランスが崩れそうっすけど、まあ、混ぜないわけにはいかないっすよね。なんたって……」チラッ

煌「?」

桃子「ま、いいっす。問題はあと一人っすか」キョロキョロ

?「もしかして、面子足りてない感じでー?」

桃子「あなたは……えっと、同じクラスの――森垣友香さんっすね?」

友香「東横さん、まともに喋るのはこれが初めてだよね? よろっ」

桃子「森垣さんなら、言うことはないっす。レベルもナンバーも私より上っすし」

友香「またまたー。ぶっちゃけ、私はこの教室の中では、一番東横さんとやりたくないなって思ってたんでー」

桃子「なら、どうして名乗り出てくれたっすか? 森垣さんなら、あちこちから誘いが来てるっすよね? そっちはいいっすか?」

友香「ま、ちょっと、借りのある相手がいるんでー」チラッ

淡「?」

友香「《超新星》――大星淡……どうせ覚えてないと思うけど、私は向こうであなたと一回打ってる」

淡「ごめん、負けたやつの顔なんて覚えてないや」

煌「淡さん、失礼ですよ!?」

淡「だってー」ウネウネ

友香「いいんです、レベル5の第一位――《通行止め》さん。むしろ、私は忘れてもらって有難いなって思ってるくらいでー。だって――」

煌「森垣……さん?」

友香「どうせ記憶されるなら、負かした相手ではなく、負かされた相手として覚えられたいですからっ!!」

淡「へへっ――誰だか知らないけど、上等じゃん!!」

友香「《超新星》……あなたの能力は、ぶっちゃけ私の天敵でー。けど……今日こそそれを正面から叩き潰す。覚悟はいいんでー……!?」ゴゴゴゴゴゴ

淡「それはそれは! 楽しみだなーっ!!」ゴゴゴゴゴゴ

煌「ちょ、ちょっと、淡さん!? あんまり異次元バトルにされると困るんですが……!?」

淡「ノンノン! スバラ、私だって何も読めるのは捨て牌だけではないんだよー? 今回は空気を読んで、空気になるっ!!」

煌「は?」

淡「今日の私は支配力も能力も使わない。完全デジタルで打つよ。たぶん、そっちのほうが、モモコもスバラも本来の力を出しやすいでしょ。それに――」

友香「……なんでー?」

淡「能力を持っているから私は強いんじゃなく、能力を持っているのが私だから強いんだってことを……どーにもわかってない勘違いさんが――たぶん他にもいっぱいいるだろうからね。
 この機会にきっちり見せ付けてやるんだよ。私自身の強さをねッ!!」

友香「こ、の……!!」

淡「あなたがどんな能力を持ってて、どんな麻雀を打つのかは知らない。けど、たかが高校一年生のあなたが、高校百年生の私に勝とうなんて百年早いんだよっ!!」ゴッ

煌(な……なんだか、始まる前から荒れ模様ですね!! しかし……淡さんが妙な《支配力》とやらを使わない以上――この対局は純然たる能力と実力の麻雀対決になります。
 ここで桃子さんに認められなければ……私に明日はないっ!! やってやります! やってやりますともっ!!)

桃子「じゃあ、場所はここから一番近い対局室でいいっすか? みなさん着いてきてください。案内するっす」ユラッ

煌・淡・友(ちょ、み――見失う……!!?)アワワ

 ――対局室――

煌「ここが対局室ですか。個室なんですね。もっと、広いスペースにいくつも雀卓が置いてあるのをイメージしていましたが……」

桃子「下位クラスの校舎では、そういうとこもあるみたいっすよ。けど、ここは学園都市でも最高水準の高級施設――《白糸台校舎》っすから。たとえ練習でも、不正の余地がないよう不特定多数の外野はご法度っす」

煌(そう言えば……初日に打った雀荘も、ここほど完全ではありませんが、雀卓はパーテーションで区切られていましたっけ)

友香「しかも部屋ごとに複数のカメラが設置されていて、対局後に録画データを見ることもできるんでー」

淡「誰にも邪魔されずに対局に集中できるのはいいことだね!」

桃子「それに、個室なら情報の漏洩も最小限に防げるっす」

煌「なるほど。よく考えられているのですね」

友香「ま、説明はこれくらいでー」

淡「さっさと場決めしよっか!!」

 ――――
           南家:友香「よろっ」

西家:桃子「よろしくっす」  ■  東家:淡「起親だー!!」

           北家:煌「よろしくお願いします!!」

 東一局・親:淡

淡(さてさて。今日は《支配力》も《能力》も使わないって言っちゃったからなー。せっかくの起親なのにダブリーで連荘ができないなんてがっかりだよ。
 ま、言うほど配牌も悪くないし、ひとまず様子を見ながら和了りを目指そう。このユーカってのとモモコの二人は、どんな能力を持ってるのか知らないわけだし……)タンッ

友香(大星淡……あなたの能力――《絶対安全圏》。《他家の配牌を五~六向聴にする》レベル4の配牌干渉系能力。対して、私のはレベル3強の自牌干渉系能力――《リーチした巡目が速ければ速いほど和了りやすく且つ高打点になる》能力……)タンッ

友香(向こうで戦ったときは、速攻&高打点っていう私の持ち味がごっそり削られてしまった。もちろん、それに頼らずこいつに勝てるよう努力はしてきたつもりでー……)タンッ

友香(何にせよ、デジタルで打ってる今日の大星に負けるわけにはいかない……! ここで勝って、私のことを認めさせて――もう一回、今度はガチで勝負する!!)タンッ

友香(出し惜しみはしない……最初っから、飛ばすんでー――!!)

友香「リーチでー!!」クルッ

煌(速い……!!)

桃子(だけじゃないはずっす! 森垣さんのスタイルは速攻&高打点――序盤から畳み掛けてくる……!! ステルスが機能していない前半は、耐えるしかないっすね)タンッ

煌(い、一発に振り込みませんよーに!!)タンッ

淡(いい感じに気合の入ったリーチだね? ゾクゾクするっ! ってゆーか、四巡目のリーチなんて久しぶりの体験かも。なるほどなるほど。私が天敵っていうのはそういうことなのかなー)ゲンブツ

友香(なかなか堅い面子でー。けど、自牌を《上書き》できる私には、そんなもの関係ない……!!)ツモッ

友香「ツモッ!! 4000・8000でー!!」パラララ

煌(この巡目で倍満ですかー!?)スバラッ

桃子(しっかり高めを引いてきて、その上一発と裏ドラまで。一年生で上級生と渡り合える人はそう多くないっすけど、森垣さんはその『そう多くない』の中の一人っす)

桃子(どちらかと言えば変化球――もしくは隠し球みたいな私とは、一線を画す本格派。直球勝負で十分勝てる力を持っている。チームの誘いがあちこちから来るのも納得っす)

淡(ふーん。最安だったらリーチ平和なのに、一発ツモ断ヤオ三色裏々ってボーナスつき過ぎでしょ。私のダブリーだってボーナスはカン裏で四翻だけなのに)

淡(ま、偶然の一言で片付けるのは簡単だけど、一応、そーゆー感じの能力ってことで、デジタルなりに対策考えてみよっか)

淡(えーっと、速攻と高打点を両立する感じの力なのかな? 裏を乗せてきたところを見ると、リーチが《発動条件》に含まれているっぽい。《制約》は……これといってなさげ)

淡(リーチ条件で、高い手を和了りやすくなる、ってとこかな。コスパと汎用性から言えば、かなり扱いやすい力かも。デメリットも今のところなさそう。私の能力と違って自分の裁量でできる範囲が広いから、柔軟性にも優れている)

淡(私の《絶対安全圏》が天敵っていうことは、リーチ巡目が遅くなるほど、能力の強度が落ちちゃうんだ。この能力が巡目の影響を受けないってなったら、ちょっと手が付けられないことになるかもだよ)フンフム

友香「どうでー、大星淡。別に能力を使いたかったら使ってもいいんだけど、どうする?」

淡「あはっ! 天才に二言はないんだよっ!! まだまだ対局は始まったばかり。勝った気になるのは早過ぎるんじゃないかな、ユーカ!!」

友香「む……! けど、次は私の親っ! 止められるもんなら止めてみろでー!!」

淡「言われなくても……!!」ゴッ

淡:17000 友:41000 モ:21000 煌:21000

 東二局・親:友香

友香(今回も配牌良好! これなら押せる。多少悪形になっても、序盤にリーチをかけられれば、私の力なら強引に和了りをもぎ取れる。目指すのは最速! 打点は後からついてくる……!!)タンッ

淡(おっとっとー。一打目から中張牌って。また速そう。それに引き換え私の手は……一部を除いてすっげー微妙。仕方ないな、急がば回れってやつだよねー)タンッ

桃子(森垣さんが強いのは当然としても、この超新星さん、まったくと言っていいほど焦りが見られないっすね。ランクSにしてレベル4のマルチスキル――その力を今は全て放棄してるのに、それでもなお、勝つ気満々。
 これが《宮永照の後継者》と言われる一年生っすか。でも、私だってデジタルならそれなりに打てると自負してるっす。大能力者のデジタルがどのくらいのものか……見させてもらおうじゃないっすか!)タンッ

煌(早くも蚊帳の外感がすごいです! すばらくない……!!)タンッ

 六巡目

友香「リーチでー……!!」クルッ

桃子(来た来た……ここは、ひとまずオリつつ、できれば手を高めたいところ)タンッ

煌(合わせ打ちーっ!!)タンッ

淡(スバラは自風だからいいとして、モモコの手からも西……? 字牌整理は終わったと思ってたけど。いや、そっか。はっはーん! さてはモモコ……! おっけー。じゃ、こいつでどーかなっ!?)タンッ

桃子「(む……ステルスの発動が遅くなるから目立つ行為はさけたいっすけど、ここは仕方ないっす)ポンっす」タンッ

友香(飛ばされた……!?)

淡(そーれーっ! もう一つっ!!)タンッ

桃子「それもポンっす」タンッ

友香(またっ!? いや、でもこれで私の本来のツモが戻ってくる……!! ばっちり支配領域《テリトリー》の範囲内っ!!)

煌(ひとまず端っこから……)タンッ

淡「チー!!」タンッ

友香(ズ……ラし……!? くっ――!!)ツモッ

淡(その顔は和了れなかったんだね……? よしっ、揺さぶり作戦大成功ー!!)

友香(大星……! まさか、もう私の能力を見抜いたの!? それで捨て身の鳴かせと鳴き!? 信じられない……!!)タンッ

桃子(私の染め手に気付いて、森垣さんのツモを飛ばすためにパスを出してくるなんて……なんて柔軟で素早い対応。能力ナシでここまでの打ち手だとは、正直、思ってなかったっす。
 超新星さん、しかし、そんな端っこをチーしてしまったら、和了れる役が限られてしまうっすよね。そこまでしなければ、森垣さんに和了られていたってことっすか……?)タンッ

煌(な、何を切っても当たる気しかしません!!)タンッ

淡「またまたチーッ!!」タンッ

友香(こ……んな!! 私の支配領域《テリトリー》が……揺さぶられるっ!!)タンッ

桃子(超新星さんは鳴き三色っすかね。一応オリてはいない、と。しかし、それくらいなら和了られたところで痛くもかゆくもないっす。
 こちらは發混一赤一……やりようによっては対々も見えてくる。森垣さんを抑えてくれた上に有効牌を鳴かせてくれたことには感謝するっすけど、残念ならがら、この恩は仇で返すことになりそうっす)タンッ

煌(親リーに二副露が二人……どうなってるんですか!!)タンッ

淡(ユーカは私が無理矢理場を引っ掻き回したと思ってる。モモコも自分が和了る気満々――けど、二人とも、私の性格を全然わかってない。
 ってゆーか、ま、親リーと副露が目立って気付いてないだけかもしれないけど。わかってるかな? この場……実はまだドラが一枚も出てないんだよねー……!!)タンッ

友香(しまった……! もたもたしてると終盤に入ってしまう。まあ、たとえ終盤でも和了れるときは和了れるけど……それは限りなくデジタルに近い和了率。
 こうなってくると、悪形でリーチしたことが悔やまれる。というか、もしかして大星はそこまで見抜いて……?)タンッ

淡「…………カンッ!」パラララ

友香(は……? 親リー相手に大明カン……!?)

桃子(っていうか超新星さん、それは――!!)

煌(役牌の……ドラ4!!?)

淡「ねー、私も混ぜてよ。捲り合いっ!!」ゴゴゴゴゴゴッ

友香(こ、こいつ、何がデジタルでー!? こんな滅茶苦茶で無茶苦茶なデジタル見たことないから!!)タンッ

桃子(ドラなんて隠し持ってたっすか……『一応オリてない』とか『有効牌を鳴かせてくれた』とか、とんでもなかったっす。この人は、最初から自分が勝つためだけに動いていた……!!)タンッ

煌(み、みなさん明らかに高い手……!! 振り込むわけには……)タンッ

淡(んー、いつもなら、ここでツモれた気がするんだけどなー。一応三面で受けてるから、遠からず出て来ると思うんだけど……)タンッ

友香(てっきり鳴き三色かチャンタだと思っていたら、ドラ4の役牌を隠し持っていたとか。役があるから待ちなんて選びたい放題でー。
 こんなの読めるわけがない――というか、今の私は和了る以外はツモ切りしかできないんだけど……!!)タンッ

淡「あ、それだーっ!! ロンッ! 12000ッ!!」ゴッ

友香「っ~~~~~~~!!?」

桃子(ちゃー、赤まで隠してたっすか……それでカンしたわけっすね。見事にハネた)

友香「こんな……こんなことが……!!」

淡「ふふふ、これが私の実力だよん!!(うわー危なかったー! 出てきたからよかったけど、ホント、デジタルって心臓に悪いっ! いつ和了り牌が出てくるかわからないなんて、麻雀じゃないよねっ!?)」

桃子(驚いたっす……。いや、まあ、親リーが鳴きのドラ爆に潰されるなんて、よくある光景と言えばよくある光景っすけど)

煌(淡さん、すばらです! 本当に、淡さんは能力がなくても強いんですね。能力があっても弱い私とは雲泥の差です……)

淡:30000 友:28000 モ:21000 煌:21000

 東三局・親:桃子

煌(淡さん……淡さんはどうして、そんなに強いのに、私みたいなトばないだけの能力者に協力してくれるのでしょう)タンッ

煌(桃子さんのいる教室に乗り込めたのだって、淡さんのおかげでした。というか、淡さん、私のために、授業をサボってまで……ネットの中から私に合ったデジタル派の雀士を探してくれていた)タンッ

煌(そして、あの『名無し』さんとの対局。淡さんは『名無し』さんが私にぴったりだと見抜いた。そこから、ハッキングやらなんやらをして、『名無し』さんがあの教室にいる生徒だと突き止めた)タンッ

煌(そこからは地道な作業。あの教室にいる生徒のリアルの牌譜を片っ端から集めて、『名無し』さんと思われる人――桃子さんを見つけた。淡さん、どうしてあなたはそこまで……?)タンッ

煌(わかりません……何度考えてみても、淡さんが私に目をかけてくれる理由が想像できません)タンッ

煌(しかし、理由はどうあれ、淡さんのおかげでこうして桃子さんと出会えた。それに、桃子さんだって、他の方からチームのお誘いがある中で、貴重な放課後の時間を私との一局のために割いてくれた)タンッ

煌(必ずや……必ずや桃子さんに私を認めさせてみせますっ!)タンッ

桃子「ロンっす。5800」パララ

煌「えっ……? あれ……?」

桃子(すばら先輩、早くも私を見失ってるっす。大丈夫っすかね? 打ち方も、今のところはネット麻雀とさほど変わらない。お世辞にも上手いとはいえないっす。しかも、こんなにあっさり《ステルス》の餌食になって……。
 まあ、ここから違和感を覚えて、何か対策をしてくるかもしれないっすよね。実際、加治木先輩は、初めてステスルを体験したときも、すぐに私をまくってみせた。すばら先輩――先輩は、どんな麻雀を私に見せてくれるっすか……?)

煌(ど、どーしましょーコレ!?)

淡(スバラ、無警戒過ぎだよっ! 本来のスバラはもうちょっとだけできる子のはずなのにっ!! 学園都市での初めてのまともな対局――浮き足立ってるのかな? 私とユーカが暴れ過ぎた? それとも……モモコが何かしたのかな?)

桃子「一本場っす」ユラッ

淡:30000 友:28000 モ:26800 煌:15200

 東三局一本場・親:桃子

桃子(すばら先輩はともかくとして、森垣さんと超新星さんは、能力的にも実力的にも私より格上。レベル3の感応系能力――《私が触れた牌を他家から見えなくする力》……まだ発動までに時間がかかりそうっす。それに、デジタル的にもここは連荘したいところ……)

友香(配牌微妙でー。けど、たとえ良くても、東一局みたいにあっさり和了れるとは限らないって、さっきの大星の闘牌でわかった。悔しいけど、こいつは素で強い。出し抜くには……私も頭を使わないと)

淡「ローン!! 12000の一本付けっ!!」パラララ

桃子(なっ!?)

友香(ちょ!?)

煌「…………あ、あわわわ、あわ……!!」サー

淡「ごっめーん、スバラ! 出てきたからつい!! でも、私、別にスバラから和了らないなんて一言も言ってないよー?」テヘッ

煌「い、いえ、これは真剣勝負です。どうぞ、存分に和了ってください……(て、点棒がヤバいです……!!)」

桃子(二人はコンビ……じゃなかったっすか? いや、まあ、確かにすばら先輩の言う通り、たとえ仲間でも、真剣勝負で気を使ったり遠慮したりはしないのが礼儀っすけど)

友香(にしても躊躇いゼロでぶち当てるってのはどうなんでー? って、いやいや!! それよりも点数状況!! 大星が独走状態に入った。このままじゃ花田先輩のトビ終了もありうる……!)

淡(概ね計画通り。別に特別な力を使ったわけじゃないけど、素の実力を考えれば、他の二人よりスバラから出てくる確率が高いとは思ってた。だからこその、ダマッパネ)

淡(これで、スバラも頭が冷えたでしょ? スバラ、何を考えてるかまではわからないけど、今のスバラじゃ、ユーカやモモコに勝つのは無理だよ。
 二人は、この白糸台高校麻雀部一万人の中で、その実力と能力を評価されて二軍《セカンドクラス》に籍を置く雀士。外の世界なら、いわゆる全国区の超大型新人。外の世界で地区大会敗退レベルの高校の、レギュラーですらなかったスバラには、荷が重い相手)

淡(でもさ、スバラの麻雀の『価値』は――スバラにとっての『勝ち』は、点数で相手を上回ることなの?
 スバラ、落ち着いて考えて。これは、この場で一位になることがゴールのゲームじゃないんだよ。いかにモモコにスバラの良さをアピールするかの勝負なんだ。
 スバラなら……きっとできる。昨日だって、普通に打ったら勝てないことをわかっていながら、たった一局で、相手を棄権させて、しかも雀士として正しい方向に導いた)

淡(私は、スバラの能力もそうだけど、それ以上に、スバラなりに全力で頑張るところを、買ってるんだからね。いつまでもふわふわしてないで……がつーんと一発決めちゃって!!)

煌(淡さん……今の直撃で、私の勝ち目はほぼゼロになりました。この方々を相手に、ここからトップを取れるなど……奇跡でも起きない限り不可能でしょう。
 覆しがたい実力の差があるのは、初めからわかっていたこと。しかし、淡さんのせいというか、おかげというか、ここからは私らしい麻雀ができそうです。
 点棒は随分と減ってしまいましたが……むしろ、私の真価はここからじゃないですか! 一位を取るとか、高望みは捨てましょう。私は、私にできることをやります……!!)

桃子(すばら先輩の雰囲気が……変わった? 親になったからっすか? それとも、超新星さんの一撃で目が覚めた? わからないっすけど……ついに見れるってことでいいっすかね。
 学園都市に七人しかいないレベル5の第一位――その超能力を……!)

淡:42300 友:28000 モ:26800 煌:2900

 東四局・親:煌

淡(これは……配牌五向聴。ちょっとちょっと、こんなの本当に和了れるの? 聴牌できるかどーかも怪しいっての!!)タンッ

友香(んー、配牌もツモも微妙……というか、明確に悪いんでー。鳴いて仕掛けてみる? でも、私はどちらかといわずとも面前派だし、ヘタに鳴くとボロが出そうで恐い……)タンッ

桃子(重たいっすねー。確か、ランクSの一人がこういう場を得意にしているって聞いたことがあるような。
 いや、まあ、これくらい手が進まないのは偶然の範囲内っすけど。ただ、どうやら他のみなさんも、顔色からして手が悪いみたいなんっすよね。仮に、これが偶然じゃないとすれば……その原因は恐らく――)

煌(聴牌が遠いです……)タンッ

 流局

友香「ノーテンでー」

桃子「ノーテンっす」

淡「ノーテンだよー」

煌「私も……ノーテンです」

友香(なんだったんでー、この場は? これだけの面子が揃っていて、全員がノーテンなんて静かな局になることがあるの……?)

桃子(すばら先輩が何かしてるのかとも思ったっすけど……普通にノーテン? じゃあ、今の重たい場はただの偶然……? わけがわからないっす)

淡(ふむ……なるほどね。スバラの手が悪いから、連動して私たちの手まで悪くなったんだ。それなりに効率よく手を進めたつもりだったけど、時々、不自然な裏目り方をするときがあった。
 スバラの点数は2900。スバラ以外の全員がテンパイすると、ノーテン罰符でトビ終了。もちろん、私たちの間で点数移動が起こるパターンの場になる可能性もあったとは思う。でも、今回はこういう重たい場でトビを回避した。
 《絶対にトばない》――か。七文字で説明できる単純な能力なのに、なかなかどーして、奥が深いよね……)

淡:42300 友:28000 モ:26800 煌:2900

 東四局一本場・親:煌

淡(さってー、今回は比較的サクサク手が進む。ただ、困ったことに、ドラはいっぱいあるのに役ナシ。
 ツモるとダマでも満貫。けど、それだとスバラをトばしちゃう。ゆえに、ツモるのは《絶対》に不可能。出和了りに期待するしかないけど、そのためにはリーチをかけないといけない……)

淡(ユーカとモモコはどうかな。二人ともあんまり鳴かないタイプっぽいから、捨て牌しか情報がなくてイマイチ手牌が見えてこない……)

淡(けど、ユーカの能力……速攻&高打点――なら、当然、仕掛けてくるのはこの序盤。なのに、音沙汰なし。リーチが《発動条件》っぽいから、張ってるならリーチしてこないとおかしい……よね?)

淡(どーする? やる? やっちゃう? 形勢不明の序盤……ここはデジタル的には押し――リーチ一択。今日は和了りたいときに和了れる普通の麻雀じゃないから、和了れそうなときにはツッパらないとね。よし、決めた……!!)タンッ

淡「リー」

友香「ロンでー……5200は5500」パラララ

淡「ふみゅっ!?」

友香(どうでー、大星淡! 私だって、別に能力に頼り切った打ち方をしてるわけじゃない。あんまり見限らないでくれるかな!?)

淡(へー、やるじゃん。能力を崩せばどうにかなると思ってたけど……さすが二軍《セカンドクラス》。一筋縄じゃない。南場も楽しめそうだよっ!!)

桃子(二人とも大分勝負に熱が入ってきた。私への意識が薄れてくれるのは有難い。さて……そろそろっすかね……)ユラッ

淡:36800 友:33500 モ:26800 煌:2900

 南一局・親:淡

桃子(と……やっと《ステルスモード》に入れたってのに、どーにも手が進まないっす。さっきの東四局と同じ感じ。偶然のような気もするし、能力のような気もする。けど、何かの能力だとしても、どういう能力のせいでこうなるのか……皆目見当がつかないっすね)タンッ

煌(手が進まない……)ズーン

淡(ユーカ……張ってる?)タンッ

友香(大星……張ってるんでー?)タンッ

桃子(っと、二人ともダマで読み合いっすか? ま、そういうところに水を差して直撃を奪い取るのが私のスタイル。どうせもう振り込まないのだから、ガンガン押していくっすよ……とは言え、聴牌しないことには始まらないっすけど)

 ――流局

淡「テンパイ(ちぇー、ユーカから和了る分にはスバラの能力は関係ないと思ったけど、さすがにこれだけ警戒されたら出てこない、か。にしても、気のせいかな。さっきからちょいちょいモモコの存在を忘れそうになるんだけど……?)」

友香「テンパイ(潰し合いになっちゃったか。……って、何も考えずにテンパイとか言っちゃったけど、これ、東横さんがテンパイで花田先輩がノーテンだったらここで対局が終わっちゃうんでー!?)」

桃子「……ノーテンっす(最後まで辿り着けなかったっすか。もちろん、今トばれると困るっすから、テンパイだったとしても様子を見てから手牌を倒す予定でしたけど)」

煌「ノーテンです」

友香・桃子(先輩……首の皮一枚……!!)

淡(さっすがスバラ。私とユーカのツモを殺して、更にはモモコのテンパイも封じた。さらに、その薄氷の点棒……次からはもっと場の縛りがきつくなりそうだよ)

淡(ま、でも、それはそれとして、なんだかモモコが大人しいのが気になる。東三局のスバラの不用意な振り込みも引っかかるし。
 うーん、『誰にも見つけられない幽霊っ子』。それに、チラっと見た牌譜。なんとなくだけど、わかってきたかも。もし、もう能力が発動してるんだとしたら……私もそろそろヤバいかな……)

淡:38300 友:35000 モ:25300 煌:1400

 南一局一本場・親:淡

淡(うわー、やっぱりだ。いつの間にか、モモコの姿も捨て牌も見えなくなってる。さては感応系かー。発動されたらもうどうしようもないじゃん。参ったなー)

淡(私自身の手は、悪くない。ツモはできないにしても、出和了りなら可能。ただ、私がこうだってことは、ユーカやモモコも和了れる感じになってるんだよね。
 そして、私たち三人で打ち合いになる、と。私たちの間で点数移動が起こる分は、スバラもトばない)

淡(なーんか振りそうな予感がするなーこれ。いや、その手の感覚は今封印中だから、本当に、それこそ、根拠のないオカルトだけど。あんまり気にし過ぎても、偶然の偏りと能力の区別がついてなかった大昔に逆戻りするだけ)

淡(でも、一応試してみよっかな。モモコの能力値《レベル》は、ユーカよりも低いって話だった。なら、こんなことでも、意味があるかもしれない……)パチリ

友香(えっ、大星、どういうつもりでー?)

桃子「(超新星さんが……目を閉じた? 出和了りと鳴きの放棄っすか? よくわからないっすけど、私はいつも通り打たせてもらうっすよ……)リー……」

淡「…………」ピクッ

桃子「(え? ちょ、嘘っすよね? も、もう一回……)リー……」コソッ

淡「…………」ピクピクッ

桃子(えええええ!? もしかして、超新星さん、五感の全てを聴覚に集中させて……私のリーチ宣言に耳を澄ませてる!? というか、私のステルスに気付いてるってことっすか!?)

桃子(私の能力自体は……確かに効いてるはずっす。けど、むしろ効いてるからこそ、捨て牌が見えなくなったからこそ、目ではなく音を頼りにして……!?
 カンが良いどころじゃないっすよ。こんなわけのわからない対応を――しかも初見でしてくる人がいるなんて……世の中は広いっすね)

桃子(どうしたもんっすか。もし、リーチ宣言の声に気付かれたら、超新星さんはすばら先輩に合わせてオリるかもっすね。できれば、トップを引き摺りおろしておきたい。なら、裏をかかせてもらうっす)タンッ

淡(んー、特に変わった音はしないなー。リーチの発声はルールだから、リーチするなら絶対に声が聞こえるはずなんだけど……。もしかして、モモコ、まだリーチしてない? なら、押せ押せってことかな。よしっ!!)タンッ

桃子「ロン。3900は4200っす」パラララ

淡「なんとっ!!?」

桃子(安い和了り。けど、積み重ねていけば、逆転も可能なはずっす。超新星さん……その対応力と打牌センスだけでも、十分上位ナンバー級の実力がある。ステルスモードだからって油断は禁物っすね)

淡(あちゃー、バレたか。いや、まあ、対局中に目を瞑ったら誰だって不自然に思うよね。けど、ザンク程度で済んだのは僥倖。何もしなかったら、リーチ一発で満貫だったかもしれないし)

友香(これは……ついに《ステルスモモ》のお出ましでー? クラスでも一際異彩を放つ感応系能力者――授業で手合わせすることはあっても、ガチで対局するのはこれが初めて。大星だけを意識してると、影から刺される。要警戒でー!)

煌(ふう……何もしていませんね。お三方は、何やら異次元レベルの駆け引きをしているように見えます。はてさて、どうしたものでしょう。どうしたら……桃子さんのお心に響くような闘牌ができるでしょうか……)

淡:34100 友:35000 モ:29500 煌:1400

 南二局・親:友香

友香(大星は想像以上に強い。東横さんは本領を発揮してきた。花田先輩は……ちょっとよくわからないけど)

友香(最後の親、かなりテンポよく手が進んでる。これは、もう――やっちゃうしかないんでー!)

友香「リーチでー!!」クルッ

友香(もちろん東横さんは恐いけれど、こんな序盤に張ってるとは思えない。どうせ振り込むかもしれないなら、リーチをかけているかいないかは問題にならない。
 私の能力は、打点だけじゃなく和了率まで引き上げる。この巡目のリーチ……誰の邪魔も入らないなら、高確率でツモれる!! 花田先輩のトビ終了――これで私の勝ちだッ!!)

桃子(マズいっす……こっちはまだ二向聴! しかも、私は能力的な制約で鳴けないから、チーでズラすこともできない! 森垣さんの能力を考えれば……万事休すっす……!!)

淡(わお、来た来た四巡目リーチ……! これは、軽く一発で親倍くらいは和了ってきそうな感じ! そう――本来なら、ねっ!!)

淡(ユーカ……ユーカの能力なら、トップだろうとなんだろうと、リーチするのが正解なんだよね。捨て牌の見えないモモコがいるこの場は、常にフリテンの危険が付き纏う。和了るなら、ツモ一択。
 リーチ条件で和了率を引き上げる――《上書き》で和了り牌を引いてこれるユーカなら、わざわざダマにしておく必要はない)

淡(でも、残念だったね、ユーカ。そのツモ……《絶対》に和了れないよッ!!)

友香(来い……一発――!!)ツモッ

友香「なっ――!? え、そんな……!?」ゾワッ

桃子(南無三――と思ったら、えっ? 一発じゃないっすか? この巡目で!? ズラされてもいないのに!? あの森垣さんが……!?)タンッ

友香(お、おかしい……!! いつもなら、もっと、牌をツモる瞬間に力が漲るのに……!? どうして!? 大星は何もしていない。東横さんは能力値《レベル》が私より下だから、相性はともかく、私の能力に干渉する力はないはずなのに……!!)

桃子(これは、何がどうなってるっすか……?)

友香(くっ……またツモれなかった!! どうして!? まだまだ序盤! 支配領域《テリトリー》だってちゃんと展開できてる!! なのに……なぜ――)ハッ

煌「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

友香(まさか……!! これはあなたなんですか――レベル5……!!?)

 ――流局

友香「テンパイ(最後まで和了れなかった……)」

煌「テンパイ(なんとか海底で辿り着きました……!!)」

桃子「……テンパイっす(危ない危ない。すばら先輩、今度はテンパイしてたっすね)」

淡「………………ノーテンッ!!」モッテケドロボー

淡(もおおおおおおおお!! スバラったら、テンパイするの遅過ぎっ!! ユーカとモモコが張ってて、そのくせスバラがいつまで経ってもテンパイしないから、スバラがノーテン罰符でトばないようにずーっと私は二向聴! 完全に手が止まっちゃってたよっ!!
 しかも、思い切って鳴いてみたらそれが逆効果!! スバラにハイテイをあげちゃったから、スバラがハイテイでテンパイしても、そのあと私はツモれない。結果見事にノーテン!! 参っちゃうなー、デジタル打ちの今は、ノーテン罰符の3000点でも十分痛いのに……!!)

淡:31100 友:35000 モ:30500 煌:2400 供託:1000

 南二局一本場・親:友香

友香(思い切ってもう一回リーチ掛けてみたけど、また和了れないっ!! かと言ってリーチを捨てるわけにもいかないし……!! どうすればいいんでー!!)タンッ

桃子「ロンっす、5200は5500」パラララ

友香「(しまっ……!)……はい」チャ

桃子(ふぅ……なんとかこれでトップ。このまま最後まで逃げ切るっす!!)

淡(いやー全っ然見えないねっ! まったくもって変な能力!!)

友香(ぐぬぬ……)

淡:31100 友:28500 モ:38000 煌:2400

 南三局・親:桃子

友香(大星に気をとられ過ぎてたかもな。東横さんだって、私と同じクラスで、同じように麻雀の腕を磨いてきた人。侮っていたわけじゃないけど、どこかで大星ほどじゃないって思ってた。
 でも、この状況……ステルス発動で振り込みゼロの東横さんをまくるのは簡単なことじゃない)

桃子(いよいよ森垣さんに火をつけてしまったっすか? 恐いっすけど、ステルスモードに入ってから逆転を許すほど甘くはないっすよ、私は!)

淡(んー、これはまた我慢の局かなー。三つ巴で盛り上がってきたから、ダブリーぶちかましたい気持ちでいっぱいなんだけど……)

淡(っていうか、スバラ……まだ動かないの!? もうオーラスになっちゃうよ……? こんなに我慢してるんだから……あんまり私をがっかりさせないでよねっ!)

煌(前々局のテンパイ。少しは桃子さんに近づけたでしょうか。人の打ち筋の模倣など、慣れないことをしたから回り道になりましたが……本物を見れて、予感が確信に変わりました)

煌(桃子さん……やはり私はあなたがほしいっ! そのために、最後まで、食らいつきます……!!)

 十巡目

友香(中盤でー。ようやく張れたけど、東横さんも張ってるかも……。
 いやいや! ここで弱気になってもズルズル落ちていくだけだ。バカの一つ覚えかもしれないけど、東横さんとは一万点近く差がある、しかも直撃が取れないんだから……私にはリーチを掛けてツモるしか道がないんだっ!!)

友香「リーチでー!!」クルッ

桃子(来た……! けど、こっちも既にリーチかけてるっすよ!!)タンッ

煌(む……できればオーラス前に試してみたかったですが、この感じだと無理かもしれませんね)タンッ

淡「チー!!」タンッ

友香(大星……!!)

淡(させないよー?)

友香(大星……東横さん……強敵でー! 学園都市に来てよかった! こんなに強い人たちが、同じ学年にいるなんて! それも二人もっ……!!)

友香(くっ……またこの感じ! 力が拡散していく……!? 高めは無理かも!! けどっ……それがどうしたんでー!!)ツモッ

友香「ツモッ! 裏は――なし!! 1300・2600でーっ!!」

桃子(安め……! けど、リー棒分まくられた!?)

淡(面白い……! 面白いよ、ユーカ!! たぶん、私が一発を消したことが、かえってサポートになったのかな? その和了り、一発と裏で打点が上がったらスバラの能力に引っ掛かってたもんね!!)

友香(いっしっ! もしかして、と思ったらやっぱりリー棒のオマケ付きっ!! 高めを狙わず、ツモることだけに集中したのがプラスに働いたのかな? なんにせよこれで逆転でー!!)

淡:29800 友:34700 モ:34400 煌:1100

 南四局・親:煌

淡(いよいよもって、スバラの能力が枷になってきたかなー。直撃なら5200以上じゃないとトップには立てない。だけど、この状況……スバラの能力的にはたかが3900の手でもツモが封じられる。
 見えないモモコとトップでバリ三警戒してるユーカから、5200以上の直撃が勝利条件か……厳しいな。けど、わくわくするよっ!!)

友香(このままトップを守り抜く……幸い、私は東横さんの上家、大星と花田先輩に合わせていれば振り込みは防げる。けど、東横さんは誰からでも和了れる上に、どんな和了りでもトップ確定。守るだけで乗りきれるか……!?)

桃子(さて、いよいよオーラス。和了れば勝ち。森垣さんが守りに入ってくれれば、ステルスモードの今なら、分の悪い勝負じゃない……。ところで、ラス親っすけど、このまま終わり――なんてことはないっすよね、すばら先輩……?)

煌(オーラスですか。ここで桃子さんにいいところを見せなければ……!!)

友香(来た……!! こんなときに最高倍満の大物手、最低でも3900。ダマ……? いや、けど、さっきは和了れたんだ。私は……私の力を信じる!!)

友香「これでダメ押し……リーチでーっ!!」クルッ

桃子(森垣さん……トップなのに攻めてきた! さすがっす!!)

淡(…………リーチ……かけたね……?)ニヤッ

煌(森垣さん……!! 先程からのリーチと力強いツモ。恐らくは何かの能力なのでしょう……しかし!!)

煌(高打点の能力なのか、ツモりやすくなる能力なのかわかりませんが……あなたのそれが3900以上の和了りなら、そこから先は《通行止め》ですッ!!)

煌(森垣さん、ここは一つ、大人しくしていてください。私が桃子さんにぶちかます……最後のチャンスなんです!!)

友香(あ……これは……マズい――!?)ゾッ

桃子(一発ならず、っすか。これは偶然じゃないっすね。超新星さんでも私でもないなら――すばら先輩が何かやってるっす!!)

桃子(しかし、依然、どんな能力でそうなっているのかはわからないっす。さっきみたいに、ふとした弾みに森垣さんが和了るかもしれない。私も攻めないとっすね……)

 十一巡目

桃子(森垣さんには遅れを取ったっすけど、これで私もテンパイ。役ナシのゴミ手っすけど、受けは広い。私が先に和了るっす――!!)

桃子「リーチ……」ユラッ

桃子(さて、もう待ったなし。あとがないっすよ、すばら先――)

煌「…………」

桃子(すばら先輩、なぜ目を閉じて……まさかっ!?)

煌(淡さんが目を閉じているのを見たときは何事かと思いましたが……なるほど、確かに、見えない桃子さんが相手なら、こうやって音を頼りにしてみるのも一つの手。
 どうせ今の私はテンパイもしていないし、鳴く気もない。これくらいで桃子さんの気配がちょっとでも感じられるなら、安い代償です)

煌(さて、桃子さんの声らしきものが……ほんのちょっとですが、聞こえたような気がしました。河を見る限り鳴いたわけではない。なら発声する理由は――リーチしかありませんよね?)

煌(この状況でリーチをかけてきたということは、役ナシ――安手である可能性が高い。リーチツモのみだと、私の能力を掻い潜ってツモられるかもしれません。ならば……安手を化かしてやりましょうっ!!)

煌「カン――!!」

桃子(はあ……!? 私のリーチに気づいた直後に、オタ風を大明カン!? あまりの点差でヤケになったっすか!?)

友香(ドラを期待するにしては雑過ぎる!! かといって、カンして手がよくなった風でもない。私から鳴いたってことは、ツモを食い取りたかったとか? いや、それなら普通もっと早くに鳴くはず……まったく意味がわからないんでー)

淡(……なるほど、考えたね、スバラ。自分の能力の網に引っかかるように……わざわざ他家の手を高くするなんて!!)

煌(どうでしょう、これで少しは牽制できたでしょうか。桃子さんの手が何点かはわかりませんが、裏も含めて三つもドラを増やせば……一つくらい乗るんじゃないですか?
 もし私の狙いが成功したなら、桃子さんのツモは封じました。もっとも、私以外の三人で点棒をやり取りされたらアウトですけど……できる限り、和了りへの道は止めさせてもらいます!!)

桃子(ツモ……れず。嫌な感じがするっすね。すばら先輩のカン――あれでカンドラが二つも乗ったっすけど、それがかえって重荷になった……? すばら先輩の能力、封殺系とかそのあたりが本命っすかね……?)

煌(さて、細工は流々――と言いたいところですが、そうそううまく行くとは思えません。しかし……もし、私の作戦通りにいけば、きっと桃子さんもびっくりしてくれるはずです……!!)

淡(スバラ……なに企んでるんだろ? ぼやぼやしてると私、和了っちゃうよ……!?)

 十五巡目(山牌残り11)

煌(さて……こんな終盤なのにボロボロの三向聴……)

煌(残りのツモがこれを含めて三回……森垣さんと桃子さんからはリーチがかかっている現状、このまま流局になるとしたら……)ツモッ

煌(やはり来ましたか、有効牌。これで二向聴。ここから立て続けに穴が埋まって、海底直前にテンパイ。ノーテン罰符でトぶことはなくなる……)

煌(この対局、何度か体験しました。我ながら呆れた超能力です。本当に、トビを回避するだけの、攻撃にはまったく不向きな力)

煌(この反則級の絶対防御を持ちながら、私は断ラスに甘んじている。淡さんのように、能力がなくても強い方が持っていれば、それこそ最強なのでしょう。しかし、私はあまりにも弱い……)

煌(ええ……弱いですとも! そんなことは、百も承知。ただし、今は――ですが!!)

煌(弱くても私らしさを出せば、桃子さんに気に入ってもらえるかもしれない。そして、教えを乞う! ゆくゆくは、私なりの力の使い方を覚え、この方々に一歩でも近付く!!
 今はこれが精一杯ですが……いつか、せめて、淡さんの御傍にいるのが恥ずかしくないくらいには、強くなりたい……!!)

煌(そのために、ここは無茶をしますよ。私の力が本当に学園都市で最高のそれなら、きっと成功するはず。私は――《絶対にトばない》っ!!)タンッ

淡(ふおっ!? スバラがツモ切り……? 待って、たぶんだけど、いま三向聴くらいなんじゃないの? あと二回しかツモれないのに、自ら有効牌を捨てた……?
 いや、違うっ! 残りツモが二回しかない状況の三向聴でも、やり方次第でノーテン罰符を回避できる!! つまり、スバラは――!!)

煌(さすが淡さんです。私の浅知恵を看過しましたね? どうでしょう、これが、勝てないなりに考え出した……私の答えですっ!!)

淡(オーケー!! ばっちり見させてもらうよ、スバラ!!)タンッ

煌(はいっ……!)

友香(この重い感じ……また流局でー? くっ、当たりませんよーにっ!!)タンッ

桃子(すばら先輩、今、何かしたっすか? わからない……けど、この状況からどうやって逆転を――)タンッ

煌(っ――!!?)

桃子(すばら先輩……? なぜ、ツモらないっすか? なぜ――そんな満面の笑みで、私のことを見てるっすか……!?)

煌「やっと……!! やっと掴まえましたよ、桃子さんっ!!」

桃子(はあっ!?)

煌「それ、チーですッ!!」タンッ

桃子(わ、私のステルスが――破られた!? なぜ!!?)

煌「偶然じゃありませんよ、私はあなたを掴まえました。桃子さん……最後まで離しませんからねっ!!」

桃子(こんな……あの加治木先輩だって、ステルスモードの私は見つけられなかったのに……!!)

淡(そう……ツモが残り二回でも、鳴きを重ねれば三回以上有効牌を引き込める! しかも、ピンポイントで上家のモモコだけから鳴けるよう、恐らくはターツばかりの手にしてるに違いない!!)タンッ

友香(私には見えないままだけど……花田先輩は東横さんの捨て牌を拾ってみせた? なにがどうなってるんでー!?)タンッ

桃子(み、見えたからなんっすか!! 和了って振りきる――くっ、ツモれないっ!!)タンッ

煌「またまたチーッ!! まるっとお見通しですよっ、桃子さん!!」タンッ

桃子(な、なぜ……!? すばら先輩の能力は封殺系じゃないっすか!? けど、封殺系で感応系を《無効化》って――!? 一体なにをどうすれば……!? 意味がわからないっす!!)

淡(モモコの能力は珍しいけど、強度はレベル3相当。対してスバラはレベル5の第一位。条件さえ整えれば、スバラの能力がモモコの能力を一時的に《無効化》するのは当然の結果。となれば、次も……!)タンッ

友香(最後のツモ……! ダメだ、掠りもしないっ! いくら海底間際でも、普段ならもっと手応えがあるのに。
 花田先輩……私の能力と東横さんの能力――系統もバラバラなのに、このオーラスで、二つまとめて《無効化》している!? 能力の正体がまったくわからないんでー!!)タンッ

桃子(ラスヅモっすけど……やっぱり和了れない。ってことは、また――)タンッ

煌「チーですっ!!」タンッ

桃子「~~~~~~~~っ!!?」

淡(まったく……スバラったら最後にかましてくれたよねー。まさか感応系のモモコの能力まで《無効化》するなんて。デジタル的に見れば、やってることは、ただ鳴いて形式テンパイに持ってってるだけなんだけど、たぶん……モモコの中では、ありえないことのはずだよね)

淡(ま、スバラはよくやったんじゃないかな! 格上の実力者を相手に一矢報いた。合格点を上げちゃうよんっ!!)

淡(ただし……勝負とは非情なものなのだよ、スバラくん! まだまだ、私の相手としては、百年早いっ!!)ツモッ

煌(わかっていますよ、淡さん。今の私には……これが限界です)パタンッ

淡「ツモ――!! 海底ツモのみ、500・1000……!!」ゴッ

友香(なあっ……!? ってか、なんなんでーそれ!? 序盤から三色を捨てて、直前に断ヤオも捨てて海底のみ!? なんでわざわざ点数を下げるようなことを――!?)

桃子(超新星さん……私のことは見えてないはずなのに、すばら先輩の動きから私がリーチをかけてることに気づいたっすね。でなきゃ、その点数で手牌を倒すことはしなかったはずっす……)

淡「さて……誰が一番か、言わなくてもわかるよねっ!?」

 一位:大星淡――33800点(+8800点)

友香「完敗でー。言葉もない」

 二位:森垣友香――33200点(+8200点)

桃子「同じくっす。噂以上の化け物っすね、超新星さん」

 三位:東横桃子――32900点(+7900点)

煌「皆さんすばらでしたよ。大変……勉強になりました」

 四位:花田煌――100点(-24900点)

煌「さて、対局は終わったのですが……桃子さん」

桃子「はいっす」

煌「率直に、いかがでしたか、私は」

桃子「激弱っす。これでもかっていうくらい、激弱っす。なんで二軍《セカンドクラス》に配属になったのか、理事長の正気を疑うっす」

煌「(想像以上に辛口!?)……はい、おっしゃる通りです」

桃子「でも、オーラスの鳴き。あれにはびっくりしたっす。リアルの麻雀で、私のことを見つけたのは、すばら先輩、あなたが人生で初っすよ」

煌「それは……頑張った甲斐がありました」

桃子「……一つだけ、聞いてもいいっすか?」

煌「なんなりと」

桃子「すばら先輩の能力……もしよかったら、教えてほしいっす。森垣さんの和了りを封じて、私のステルスをも粉砕した力――その正体が知りたいっす。なんとなく、ツモを封じられていた感覚はあったっすけど、それ以上のことはわからなくて……」

煌「いいでしょう。私の能力――それは、お察しの通り、ある条件下で、相手のツモ和了りを封じます。かつ、私への直撃も封じます。場合によっては、ノーテン罰符も確実に回避できます」

桃子「それ……つまり、どうやってもすばら先輩から点棒を奪うことができなくなる、ってことっすね? それをレベル5の強度でやられたら……確かにこっちは手も足も出ない。それこそ、一方的な戦いになるっす」

煌「いやいや、一方的だなんてとんでもない。私の能力はただの《通行止め》。私に向いた攻撃のベクトルを《無効化》するだけなんです。
 というか、私の能力が最大限発揮される条件下では、実際、私は、奪われるほどたくさん点棒を持っているわけではないのですよ」

桃子「点棒がない……って――!? え、じゃあ、まさか!?」

煌「はい。私はトびません。《絶対》にです」

桃子「ト――トばない……!? それだけっすか!?」

煌「はい。トばないだけです」

桃子「じゃあ、理事長と半荘一回を打ち切ったっていうのは!?」

煌「私がゼロ点になってからは、ひたすらに膠着状態でしたね」

桃子「そんな、トばない……! トばないって!? ええっ!? じゃあ、森垣さんのツモを封じたのは説明がつくとして、私のステルスはどうやって――?」

煌「ああ、それはですね。かくかくしかじか――というわけです」

桃子「そ、それ……私や森垣さんや超新星さんの間で点数移動があったらおしまいじゃないっすか!?」

煌「そうですね。あまり上等な作戦ではなかったと思います。それでも、私は対局の中で、あなたを見つけたかった」

桃子「すばら先輩……」

煌「実力勝負ではなく、こんな奇策でしか気持ちを伝えることができなかったのが悔しいですが……しかし、これが今の、ありのままの私です」

桃子「…………」

煌「桃子さん、今一度、お願い申し上げます。これからも、私と一緒に打っていただけませんか? リアルで打って、やはり、私には桃子さんしかいないと思ったんです」

桃子「…………」

煌「桃子さん……」

桃子「…………もう一人、私に声を掛けてくれた先輩は、本当にカッコよくて、頼りがいがあって、たまに可愛いところもあったりして、なんていうか、私にないものをたくさん持ってる人っす。私は……あの先輩のことが、好きっす」

煌「そうですか……」

桃子「すばら先輩は……カッコいいタイプでもないし、後輩にも腰が低いし、麻雀は素人みたいに弱いし、唯一の取り柄の能力も地味でしょっぱいし、本当に……全然私の好みじゃないっす」

煌「そう……ですか……」

桃子「けど、すばら先輩は、私の人生で初めて、対局中に私のことを見つけた人っす。すばら先輩は私の初めてを奪った――その責任は取ってほしいっす!」

煌「そうで……えええええ!?」

桃子「ほら、そうやって簡単にアタフタする! なんなんっすか!? 私はもっと、冷静沈着で、切れ者で、クールビューティーな人が好きなのにっ! どうしてすばら先輩みたいなちんちくりんに……!!」

煌(ちんちくりんって、そんなばっさり……!?)

桃子「まあ、でも、二人ともずるいところは似てるっす! 私を――私の心を、こんなに弄んで……!!」

煌「わ、私はそんなつもりじゃ――!?」

桃子「とにかく、一緒にやるからには、強くなってくださいっすよ!! すばら先輩は、確かに私に似たところがあるっす。能力を聞いて納得したっす。私たちは、特定の条件が揃えば、《他家に振り込まない》。振り込みの危険を無視して手作りができるってことっす。
 すばら先輩は、まだ自分の能力に対する理解が不十分っす。振り込みがないなら、牌効率も期待値も普通のデジタルとは違ってくる。私たちには、私たちにしかできない打ち方があるっす。それを……私が手取り足取りレクチャーしてあげるっすよ!」

煌「も、桃子さん……!!」キラキラ

桃子(ま、またそんな子犬のような笑顔で……っ!! 加治木先輩とは真逆……今まで一度も押されたことのないツボを連打されて……なんだか変な気持ちになってくるっす!!)

桃子「と、まあ。そんなわけで今後ともよろしくっす、すばら先輩!」

煌「こちらこそ、よろしくお願いいたします、桃子さんっ!!」

友香「あーあー。完敗過ぎて悔しさも湧いてこない。大星淡――本当に大した雀士でー。向こうでボロ負けしたときよりも、さらに差が開いた感じがする」

淡「私は天才な上に、成長速度も半端ないからねっ!!」

友香「それがほぼ真実なんだから、参っちゃうんでー。ま、言われなくてもそうするんだろうけど、私のことなんかさっさと忘れて、とっとと上に行って、ちゃっちゃっと《頂点》獲ってきなよ。
 大星なら……たぶんいけると思う。たとえあの宮永照が相手だったとしても、私はあなたにBetするね」

淡「ユーカ、なにズレたこと言ってんの?」

友香「は? いや、それなりに的を得たことを言ったつもりだけど。あなたなら、宮永照や、他のどの化け物とも五分で渡り合えると思う。私の感想、何か間違ってる?」

淡「いやいや、そっちじゃないよ。そんなこと私だってわかってるよ。だって、私、最強だもん」

友香「ハイハイ大星さんは最強でー」

淡「話を逸らさないでよっ! ユーカ、私はユーカのこと、きちんと覚えたよ。二度と忘れたりしないよ。というか、なんか他人事風に言ってるけど、ユーカは負けたんだから、もう、勝った私のモノだからね?」

友香「モ――はあああ!?」

淡「やー、でもラッキーだった!! まさか、スバラの師匠探しをして、ユーカみたいな掘り出し物をゲットできるなんて!! 今回はたまたま勝てたけど、次に同じ条件でやったらたぶん、私はユーカに勝てない。偶然この一回で勝てて本当によかったよー!!」

友香「ちょ、ちょいちょい!! タンマタンマ待ったでー!! 私があなたよりも強い? そんなわけないっしょ!?」

淡「もちろん、ユーカは私よりは弱いよ。それはしょうがない。だって私は天才で無敵最強なんだもん。けど……ユーカは、能力を使わない私よりは、間違いなく強いよ。私だってバカじゃない。それくらい、この一回の対局でわかる」

友香「の、能力を使わない能力者より強いって――それがなんだって言うんでー!? 当たり前とまでは言わないけど、能力ナシのハンデ背負ってる相手より強いのは、わりと妥当なことでー!?」

淡「あのね、ユーカ。対局前に私が言ったことをもう一回言うね。私は能力を持っているから強いんじゃない。能力を持っているのが私だから強いって。
 要するに、私は能力ナシでも強いの。能力アリだと最強になるってだけで、能力ナシでも上の上。大半のやつはぶっ倒せる。校内順位《ナンバー》で言えば、50位より下は敵じゃない」

友香「け、けど、私は今の対局……能力ナシのあなたに負けたんでー。今の話で言うなら、私は、あなたが能力ナシでぶっ倒せる大半のやつの一人でしかない。ナンバーだって、実際に50位より下だし……」

淡「わっからないかなもー! 私が強いって言ってんだから、ユーカは能力ナシの私より強いのっ!!
 今回私が勝てたのは、スバラの能力を私だけが知ってたから。ユーカがスバラの能力を知ってたら、今回、私はユーカに勝ててなかったよ。具体的には、リー棒の分だけ、届かなかったと思う」

友香「リー棒……?」

淡「スバラの能力を知ってたら、ユーカはあそこでリーチしなかったと思う。あのリー棒がなかったら、私は詰んでた。ユーカは私に勝ってたよ。ガチで。マジで」

友香「そんな気休めを言われたって……私の気持ちは晴れないんでー」

淡「むううううう!!」

友香「だって……私は、向こうでボロ負けしてから、ずっとあなたに勝ちたいと思って麻雀を続けてきたんでー。正直、能力の相性は最悪だけど、それでも、私自身の力を底上げすれば、なんとかいい勝負に持ち込めると思ってた……。
 なのに、実際は、能力の相性どころか、能力ナシのハンデ戦で負けた。事前情報なんて些細な問題でしかない。私があなたより強いなんて、とてもじゃないけど思えない……思えるわけがないんでー……」

淡「なんなの……!? なんなの、その弱気な態度っ!! らしくない、らしくないじゃん、ユーカ!! さっき教室で私に勝負を吹っかけてきたあのユーカはどこに行ったの!?
 最後の最後まで諦めることなく喰らいついてきた――あの流星群《メテオストリーム》のユーカ=モリガキはどこへ行っちゃったのさっ!!」

友香「えっ……? 大星、なんで、当時の私のニックネームを――?」

淡「忘れるわけがないじゃん。《超新星》と《流星群》――私たち、二人合わせて《二大巨星》って呼ばれてたじゃん。直接対決は一回きりだったけどさ」

友香「ちょ、そんな、だって……えっ……?」

淡「私は、ユーカが学園都市にいるってわかったときから、あなたを仲間にしようって思ってたよ」

友香「だって、そんな……そういうのは……反則でー……!!」ウルウル

淡「ユーカ、私と一緒に来てくれないかな? ユーカの言う通り、私の《絶対安全圏》はユーカの《流星群》にとって天敵みたいな能力。けどさ、知ってる? 天敵って、敵だから天敵なんだよ。味方にしちゃえば……むしろ無敵だよっ!!」

友香「あははっ……それ別に上手いこと言えてないからね、大星……!」

淡「そこはファーストネームで呼んでよ、野暮ったいなー」

友香「……あ、淡っ!!」

淡「ふふーん! 頼りにしてるからねっ、ユーカ!!」

友香「まっかせろでー!!」

淡(よ、よし……作戦通りっ!!)ニヤッ

友香「………………」ジー

淡「む? なな、なにかな、ユーカ……?」

友香「…………いや、なんか、つい流れに飲まれてホロリと来ちゃったけど、淡はさっき、私のこと『掘り出し物』って言ってたような気がするんでー」

淡「き、気のせいじゃないかなー……? 言葉のあわあわ、みたいな?」

友香「白状するでー……淡。私のこと思い出したの、つい、ほんの数秒前くらいでー?」

淡「ななななななななな、なんのことかな!?」

友香「うわっ!? やっぱりそうなんでー!? もー!! 今すぐ私の感動を返すんでー!!」

淡「結局思い出したんだから細かいこと言わないー!!」

 ――数分後――

淡「で、スバラー。そっちは話まとまったー?」

煌「色々ありましたが、有難いことに、桃子さんの協力を得ることができました」

淡「やったねっ!!」

煌「はい。これから少しでも淡さんに近づけるよう、頑張っていく所存です」

淡「私くらい最強になるには百年かかるけどねっ!」

煌「百年で淡さんに並べるなら、早いものですよ。千里の道も一歩から――百年後まで待っていてください」

淡「えっ!? そ、それは、向こう百年間一緒にいよう、ってこと……?」

煌「ええ、百年でも千年でも」

淡(あわわわわわ!?)

桃子「すばら先輩、なら、私も百年間ご一緒していいっすか?」

煌「もちろんですとも! みんなでずっと楽しみましょう、麻雀を!!」

桃子(ぷぷっ……よかったっすね、超新星さん。これで百年先まで面子には困らないっすよ)ヒソッ

淡(モーモーコー!!)ゴッ

煌「それで、淡さんのほうはいかがでした? 森垣さんと仲直りできましたか?」

淡「そりゃもうっ! ユーカが仲良くしてくださいって泣きつくもんだから、参っちゃったよー」

友香「大嘘つくのはこの口でー?」ムニュ

淡「はひふふほー!?」

煌「おやおや、仲直りした途端にじゃれあって……お似合いのお二人ですね」

淡・友香「誰がこんなやつと(でー)!?」

煌「そうなのですか? 私には、眩い星が二つ並んでいるように見えますのに。熱く燃え上がる真っ赤な巨星――森垣さんは、さながら空に浮かぶルビーの如しです」

友香「ちょ、ルビーだなんて……!! わ、私なんか、向こうじゃジャパニーズ・オテンバ・ガールとか言われて! 全然、全然そんな上等なもんじゃないんでーっ!!」

煌「謙遜することはありません。照れ隠しをしてみせても、森垣さんの持つ淑やかさや品の良さは隠せませんよ。森垣さんはオテンバ・ガールなどではありません。言わば、ニュータイプ・ヤマトナデシコ!」

友香「(品が良いなんて初めて言われた……! それに大和撫子って!?)はははは花田先輩ったらお上手でー!!」

煌「私は見たままの事実を言っただけです。森垣さんは、美しく強い――とても魅力的な方です」キリッ

友香(でー……////////)

淡「スバラ! スバラ!! 私は!?」

煌「淡さんは言わずもがな。森垣さんが真っ赤なルビーなら、淡さんは透き通るように青白い乙女星。暗闇に光るパールです。優しくて純真な――とても魅力的な方です」キリッ

桃子「すばら先輩、私はどうっすか?」

煌「桃子さんはさながら孤高な朔の月。誰も目にすることができない新月です。しかし、その本来の姿が満月のように美しいことを、私はもう知っています。桃子さんはしたたかで誇り高い――とても魅力的な方です」キリッ

淡(優しくて純真だって!! つまり私が一番ってことだよねっ!!)

友香(私なんか美しくて強いんでー! つまり最高ってことでー!!)

桃子(私はしたたかで誇り高いっすから、二人みたいに低俗な争いはしないっすー!)

煌「三人とも、こそこそと何を話しているんですか?」

淡・友香・桃子「なんでもない(でー)(っす)!!」

煌「?」

淡「ま、なにはともあれ、これであと一人ってわけだねっ!」

煌「あと一人……? なんのことです? 面子なら四人で十分ではないですか?」

淡「なにを寝ぼけたこと言ってるの、スバラ? 白糸台高校麻雀部の最小単位は五人一組! あと一人いないとチームにならないでしょ!?」

煌「はて?」

桃子「超新星さん、これは本気でわかってないっすよ」

友香「えーっと、花田先輩。つまり淡はこう言いたいんです。私と花田先輩と淡と東横さんと、あと一人誰かを仲間に誘って、チームを組んで、一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》に出る」

煌「」

淡「スバラー? スバラー?」

桃子「あまりの衝撃に意識が飛んでるっす」

友香「というか、淡、チームのことは話してなかったんでー?」

淡「だって、わかりきったことだと思ってたから」

桃子「ま、私は薄々気づいてたっすけどね。すばら先輩、本当に、私にコーチをしてもらうだけのつもりで話してたっすから」

淡「ま、いっか。それよりも今は五人目っ! ユーカとモモコは、誰か味方にしたい人いる?」

友香「引き込めるかどうかを度外視するなら、宮永照一択でー」

桃子「無難なとこなら、うちのクラスのポニ子さんとかどうっすかね」

友香「ああ、南浦さんのこと?」

淡「誰?」

桃子「南場に強いレベル3強。地力もかなり高い」

淡「んー、パンチ力に欠けるなぁ。どうせならレベル5かランクSがいいっ!」

桃子「レベル5もランクSも既にいるじゃないっすか……」

友香「欲張りでー」

淡「一緒にインターハイに出る仲間だもん。ここで妥協はしたくない」

桃子「具体的には、どんなレベル5かランクSがほしいっすか?」

淡「私が攻撃特化で、スバラは絶対防御だからなー。間を取って、超バランス型っていないの?」

友香「んー、レベル5は基本、旧第一位の《ドラゴンロード》を筆頭に攻撃型ばっかって話でー。特に二年生のトリオは、白糸台の《生ける伝説》になってるとかなんとか。あ、第七位の《原石》だけは、ちょっと異色って噂だけど」

桃子「ランクSもみんな攻撃型っすかね。宮永照は言わずもがな。去年の一軍選抜戦《ファーストクラス・トーナメント》最多得点記録保持者も、ランクSの魔物だったみたいっす」

淡「ダメダメ。そんなのとチームなんか組みたくない」

桃子「どうしてっすか?」

友香「どうせあれでー。自分より点を取れるやつが同じチームにいると目立てないとか、そういうくだらない理由でー」

桃子「なるほどっす」

淡「うーん、こうなったら足で探すしかないか。学園都市には一万人も高校生がいるんだし、適当に歩いてればセンサーがビビビッと反応するよね!」

桃子「日曜でよければ、案内できるっすよ」

友香「同じくでー」

淡「よし……そうと決まれば!」

煌「」

淡「スバラ、スバラ!! 起きてっ!!」

煌「はっ!? すいません、なんかとんでもない事実が聞こえた気がして、意識を失っていました。で、なんの話でしたっけ?」

淡「スバラ、日曜日にデートするよっ!!」

煌「」

桃子「また気を失ったっす……」

友香「デートとか言うからでー」

淡「ま、しばらくすれば目を覚ますでしょ! スバラが起きるまで、暇だし三麻でもしてよっか。今度は私も能力全開でいくよっ!!」

桃子「面白いっす。そう簡単には負けないっすよ!!」

友香「返り討ちにしてやるんでー!!」

 ワイワイ ワイワイ

 ――日曜・白糸台寮エントランスホール

煌(淡さんに追い出されるように部屋を出て、ここで待っているように言われましたが……)

淡「スバラ、お待たせっ!」キラーン

煌「あ、淡さんっ!?(私服!? まさに至福の光景ですっ!!)」

淡「一昨日言った通り、今日は私とデートだからね!」

煌「えっ? 私が聞いた限りでは、桃子さんと友香さんが学園都市を案内してくれるという話ではなかったでしたっけ?」

淡「まーそーなんだけど! でも、二人は遅刻みたいだから、二人で一緒に遊びに行こうよ!!」

煌「いや、でも……」

桃子「抜け駆けは許さないっすよー」ユラッ

煌「わっ、桃子さん!? いつの間に私の背後に!?」

桃子「すばら先輩がここに来た直後からっす」

煌(全く気付かなかった!!)

淡「こら、モモコ! スバラが迷惑してるでしょ、離れて!!」ガバッ

桃子「そう言いながら、なぜ前から抱きつくっすか、超新星さん」

淡「私はいいの!」ギュー

煌(あ、当たってますー!?)

友香「おっは、お待たせ……って、淡と桃子が花田先輩をサンドイッチ? 何やってるんでー?」

煌「友香さん! 助けてくださいっ!!」

友香「いっし、決めた。私も混ざるんでー!」ダキッ

煌(さ、三人とも……私より年下なのに、なんとすばらなボリューム感!!)

 ――デート中・とあるショッピングモール――

桃子「ここが私のオススメの服屋さんっすー」

友香「ここが私御用達の紅茶屋さんでー」

桃子「ここが私がよく行く靴屋さんっすー」

友香「ここが私の好きな雑貨屋さんでー」

煌(なんともきらびやかな世界……! 目が回りそうですっ!!)

淡「さっすが高校生雀士のための街! ぶらぶらしてるだけで一日中楽しめる!」

桃子「次はどこ行きたいっすか? 遊ぶならゲーセンとか?」

友香「屋上はちょっとした遊園地みたいになってて、ジェットコースターもあるんでー」

淡「どっちも行きたーい!!」

煌「わ、私は少し休憩を……」

桃子「そっすね。朝から歩きっぱなしでしたし」

友香「なら、そこのクレープ屋さんはどうでー?」

淡「わおっ!? クレープ!!」ダッシュ

煌「あ、私、その前にちょっとお手洗いに……」

煌「さて、戻りましょうか……と、あれは本屋さん」

煌「……ちょ、ちょっとだけ……」

 ――本屋――

煌(一般書の品揃えもさることなら、専門書や麻雀の指南書の多さも学園都市ならではという気がしますね。おっ、例の熊倉トシさんの著作もあちらこちらに。淡さんからいただいた本をマスターしたあとは、ここで新しいものを探しますか……)

煌(と! あれは……私の好きな小説の最新刊!! 転校のごたごたですっかり忘れていました。これは買わねばなりますまい……!!)スッ

?「あっ」ピト

煌「えっ」ピト

?「あ、どうぞどうぞ!」アセアセ

煌「いえいえ、どうぞどうぞ!」アセアセ

?「いやいや、どうぞどうぞ!!」アセアセ

煌「そんなそんな、どうぞどうぞ!!」アセアセ

?「……って、よく見たらまだいっぱいありましたね」

煌「そうでした……なんとなく、残り一冊のような感じがして」

?「気が合いますね、私もです……」

煌「本、お好きなんですか?」

?「はい。そういうあなたもですか?」

煌「ええ、本は人を豊かにしてくれます」

「おい、そこの二人」

煌・?「…………えっ……?」

 ――――

淡「スバラ遅いなー! もうクレープ二つも食べちゃったよ! っていうか三つ目に突入だよー!!」モグモグ

桃子「そこは、一つも食べずに帰りを待っているのが正解なのでは?」

友香「淡、ほっぺたにクリームついてるんでー」

淡「むぐっ!?」

桃子「にしても……すばら先輩、何かのトラブルに巻き込まれていなければいいっすけど」

友香「ああ、たまに絡まれるよね。ここは下位クラスの雀士もよく遊びに来る。絶好の狩場でー」

淡「なんのこと?」

桃子「学園都市では、基本買い物は電子マネーっす。私たち、さっきから学生手帳で支払いしてるじゃないっすか」

友香「この学生手帳に、月ごとに定額が振り込まれるんでー」

淡「それくらい、スバラじゃないんだから知ってるよ。で、固定の生活費とは別に、成績に応じてボーナスも振り込まれるんでしょ?」

桃子「そうそう。で、そのボーナスっていうのは、対局で賭けることもできるっす」

友香「そういう『遊び』もあるってことでー」

桃子「もちろん、生活費とボーナスは、データ的に別物になっていて、どんなに遊んだって生活費がゼロになることはないっす」

友香「レートもさして高くない上に学園都市側で管理してるから、一局二局じゃ小遣い稼ぎにしかならないんでー」

淡「けど……その遊びを遊びと思わずに、組織的に行っている雑魚の集団もある――ってことか」

桃子「さすが。カンがいいっすね。で、そういう輩が、こういう人の集まるところに紛れてることがあるっす」

友香「対局は原則、互いの意思がないとできないけど、中には脅して対局を強いるやつらもいるんでー」

淡「…………スバラ、大丈夫かな?」

桃子「大丈夫じゃない気がしてきたっす」

友香「クレープ食べてる場合じゃないかもでー」

 ――――

煌(ショッピングモールの中にも雀荘があるんですね! さすが学園都市!!)

?(あ、あの、ごめんなさい。私のせいで……)

煌(なんのことですか?)

?(私、なんていうか、おどおどしてるから、マネー狩りに遭いやすいんです)

煌(マネー狩り、とは?)

?(かくかくしかじか――ってことです)

煌(なんと……!? そういったことに麻雀を利用するとは……すばらくない!!)

?(まあ、でも、そういう刺激がないと……って、理事長の秘書さんが提案したシステムらしいですよ、これ)

煌(そうなんですか……? いや、それにしても、大人数で囲んで、そのまま対局室に閉じ込めるというのは感心できませんね)

?(こっちが負けるまで帰さないつもりなんです。対局で不正はできませんから、数で圧力をかけて相手を精神的に追い詰める。あの人たちの常套手段なんです)

煌(どうしましょう……)

?(安心してください。私、こういうのは慣れっこなので、切り抜け方も心得ています。流れのままに打ってください。四、五局くらいで、この人たちを追い返してみせます)

煌(頼もしいお言葉……! あ、あの、もしかして強い方なんですか?)

?(全然強くないですよ。いくら打っても、勝てないんです)

煌(勝てない……? それで、どうやってこの場を凌ぐおつもりなんですか?)

?(私は確かに勝てません。けれど……負けることもないんです)

煌(え? それは……どういう……?)

?(打てばわかりますよ)ニコッ

「よし、東風戦でいいな。おら、さっさと始めるぞ!」

桃子「そう言えば、マネー狩りで思い出したっすけど」

友香「あっ、それ私も言おうとしたところでー」

淡「なに?」

桃子「私たち新入生の中に、『マネー狩りの組織をいくつも――それもたった一人で潰した《魔王》がいる』って都市伝説っす」

淡「は?」

友香「まだ学園都市に慣れてない新入生を狙ったマネー狩りの洗礼――毎年の恒例行事みたいなものらしいんだけど、それが……今年はちょっと様子が違ったらしいんでー」

桃子「なんでも、最初はちょっとしたことから始まるらしいっす。その《魔王》は、いかにも気弱そうで、どこにでもいるような平凡な容姿で、雀力も大したことなさそうに見える。
 『ああこいつはいいカモだ』と思って対局をふっかけるわけっすね。けど、どういうわけか、何十局と打っても、その《魔王》からは、一銭たりともマネーを巻き上げることができない」

友香「打ってるうちにだんだん焦れてきて、下っ端の連中もムキになってくる。で、なんとかして、その《魔王》からマネーを巻き上げようと、自分たちの組織の中枢まで、そいつを連れて行く。
 そして、組織のトップに立つような、麻雀の腕もそれなりに立つ連中が、寄ってたかってそいつを潰そうとするんだけど……やっぱり、どんな風に打っても、どんな能力を使っても、その《魔王》からマネーを奪うことはできない」

桃子「そのくらいになって、やっとみんな気付くらしいっす。その《魔王》が――《魔王》と呼ばれる由縁に……」

友香「気付いてしまった人は……みんな例外なく精神をやられて病院行き。未だに牌を握れずにいる人もたくさんいるとか。
 辛うじて回復した人もいるらしいけど、誰一人《魔王》について語ろうとしないから、その《魔王》がどこの誰で、どんな麻雀を打つのか、全然わからないままなんでー」

桃子「四月中に同じことが何度も起こったから、たぶん新入生の誰かだってことになってるっすけど」

淡「…………えーっと、その《魔王》は、一体何をしたわけ……?」

桃子「にわかには信じられないっすけど、都市伝説曰く」

友香「そいつが打つと、必ずポイントが――」

 ――雀荘――

(チッ、また大して稼げなかった。どうにも、この鍬形からはそこそこ点が取れるんだが……もう一人のほうが崩れないな)

(どうしますか? このままだと、ノルマを達成できませんが……)

(わかってる。次は狙いを鍬形一人に定めていくぞ)

「おい、もう一局だ。嫌とは言わせねえからな」

煌「またですか……」

?(安心してください。次の一局で、終わりにします)

煌(ど、どういうことですか?)

?(大丈夫……全て私に任せてください)ニコッ

煌(……今のところは、先ほどまでと特に変わらなく見えますが。というか、先ほどまでよりも、私の点棒がピンチです。
 暫定一位が下家の方。58200点でのトップ。次いで例の方が、29700点。上家の方は10200点と多少凹んでいますが、お仲間の方が大トップなので関係はないでしょうね)

煌(うう……それにしても、オーラスで親だというのに役ナシテンパイとは。仕方がありません、リーチしてみましょうか)

煌「リーチです!」

「(ふん、安そうだな。ここでこいつをトばせば、それなりに稼げるだろう。今の私はノってる。潰してやるぜ……!)リーチ!」

煌(大トップに追っかけられましたー!?)

?「カン」ゴッ

煌「えっ?」

?「もいっこカン、もいっこカン……!」ゴゴッ

(なに……!?)

煌(わ、私の手が……!?)

(な、何がどうなって)タンッ

煌「あ……それロンです。リーチ、ドラ6――裏9!? か、数え役満……48000です……」

「はああああああああああああああ!?」

煌「えっと、私がトップになったので、これで和了り止めにしますね……」

?「私は――またプラスマイナスゼロですね……」

「ま、待て!! 勝ち逃げなんて許さねえぞッ!! もう一回、もう一回だ!!」

(ちょ、ちょっと!! おい、落ち着けって……ヤベエ!! 成績よく見てみろって……こいつ、例の《魔王》かもしれねえぞ!?)

(は、はあ!? このいかにも弱そうなのが!? んなバカな、お前だってこいつの打ち筋は見たろ!? まるで素人みたいな……!!)

(じゃ、じゃあ……この結果はどう説明するんだよ……)ガタガタ

(な、なんだこれ!? 四連続――プラマイゼロだと……!?)ゾワ

(本当に弱いやつにこんな離れ業ができるか!? こいつが本気になったら……私らなんか一瞬で灰にされる……!!)ガタガタ

?「もう一回やりますか? 私はいいですよ。何度やっても結果は変わりませんから……」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

「「ひ、ひいいあああああ《魔王》おおおおお!? 許してくださあああい!!!」」ダッダッダッ

煌「…………行ってしまわれました」

?「ふう、よかったです。あ、最後で負け分は取り返せましたよね?」ニコッ

煌「えっ? ああ、言われてみれば……!? というか、ちょうどトータルがプラマイゼロになってます……!!」

?「私の能力なんです。私が打つと、いつもこんな風になってしまって」

煌「《プラマイゼロ》にする能力……ですか?」

?「はい。私、プラマイゼロ以外になったことがありません」

煌「それは……すばらですね! 《プラマイゼロ》ということは、相手がどんなに強くても、必ず5000点前後稼げるということですよね!? とても羨ましい……!!」

?「ま、まあ、お正月にやる家族麻雀で、お年玉を巻き上げられないようにしてたら、こうなっちゃったんですけど……くだらない、ですかね……」

煌「とんでもない! こんなすばらな能力はなかなかないですよ!!」

?「そ、そう……ですか? でも、私と打つ人はみんな、手加減しているとか、本気じゃないとか、勝てるのに勝とうとしないのはよくないとか……」

煌「私はそうは思いません。今のお話では、これは、あなたが自分のお年玉を守るために手に入れた能力なんですよね? 自分のお年玉を守り、しかも、相手のお年玉も奪わない。こんな思いやりのある能力を、私は他に知りません」

?「思いやり……ですか? そんなこと、考えたこともなかったです。みんな、私は自分のことだけを考えてるとか、人の気持ちを踏みにじっているとか……」

煌「その人たちは、あなたの力に嫉妬しているのですよ。必ず《プラマイゼロ》にできる力を持ちながら、なぜ、一位を目指さないのかと。
 しかし、そんなのは結果でしかありません。この能力は、あなたが家族麻雀という戦いの中で、必死になって手に入れた力。その努力は、他の方々がトップを取るために積み重ねている努力と比べても、なんら遜色ありません」

?「そ、そうなんでしょうか……」

煌「ええ。あなたには、あなたなりの考えがあって、あなたなりに最大限の努力をしてきた。その結果が、《プラマイゼロ》。場合によっては、勝つことよりも難しいことを、あなたはやってのけているのです。
 それのどこが手加減でしょう。あなたは、他の方と目標は違えど、本気で麻雀に取り組んでいるはずです」

?「私の能力を――《プラマイゼロ》を……そんな風に肯定されたのは、初めてです」

煌「《プラマイゼロ》。私は、すばらだと思いますよ。もちろん、それほどの力を持つあなたが、勝ちに拘ったときにどれだけの麻雀を打つのか、見てみたい気もします。が、それはそれです」

?「お、怒らないんですか? バカにされているとか思わないんですか? さっきの対局だって、私はなんだかんだで、点数調整のためにわざと点数を下げたり、わざとあなたに振り込んだり……」

煌「勝つための麻雀ならば、確かに最善ではない打牌だったかもしれません。しかし、結果的に、あなたはご自分のポイントばかりか、私のトータルポイントも《プラマイゼロ》にしてくれました。
 それは翻って、絡んできた向こうの方々の総ポイントも、《プラマイゼロ》にしたということ。あなたは、誰も傷つくことのない結果を残したのです。すばらとしか言いようがありません!」

?「すばら……?」

煌「すばらしい、の略です」

?「なるほど……。あはは……すばらっ!」

煌「はい。すばらです」

?「ありがとうございます。私、お姉ちゃんに会いたくて、この学園都市に来たんですけど……私の麻雀は、ここで真剣に勝ちを目指している人たちには、あまり受け入れられないみたいで、ずっと悩んでいたんです。
 誰も私とはチームを組もうとしないし、どうせ《プラマイゼロ》にするからっていって、対局も避けられるようになって……。それで、一人でぶらぶらしていると、さっきみたいに絡まれたりとか。
 正直、学園都市から出て行こうかなって思ってました。お姉ちゃんとは、学園都市じゃなくても、外の世界の大会で勝ち進んでいけば、会えなくもないし」

煌「ほう……?」

?「けど、今日、初めて私の能力を肯定してもらえる人に出会えました。もし、その、すばらさんさえよければなんですけど……私を、すばらさんのチームに入れてもらえませんか?」

煌「えっ?」

?「すばらさんも言ってくれた通り、どんな人が相手でも、私は一局につき必ず5000点は稼げます。ナンバーは高いほうじゃないけれど……チーム戦なら、私の能力、多少は役には立つんじゃないかと思うんです」

煌「そ、それは……」

?「ダメ、ですか……?」シュン

煌(か、可愛いっ!!? この小動物のような愛らしさ!! 淡さんの猛禽のような気高さとはまた別の魅力……! すばら!!)

?「え、えっと、その、そうだ! 私の能力、ものすごく珍しいタイプの能力みたいなんですよ? 理事長曰く、学園都市に四人しかいない点棒操作系の能力って! しかも、そのうち一人は、ついこないだ転校してきたばかりのレベル5の第一位なんだとか……!!」

煌「すば……!?」

?「あ、あと、私、ナンバーはあまり高くないんですが、こう見えて、実はランクもクラスも高かったりするんです。一緒にいれば、今日のように露払いもできますし、何かと便利だと思うんですが……どうでしょう?」

煌「あ、あの」

?「あ、ごめんなさい。ちょっと嬉しくて、焦ってしまって。そういえば、まだ名乗ってもいなかったですよね。私は一年の、宮永咲です」

煌「えっ、宮永……?」

咲「はい。私は、宮永照の妹です」

煌「じゃあ、家族麻雀っていうのは……」

咲「もちろん、お姉ちゃんと、父と母と打っていました」

煌(なんとおおおおおおおおおお!?)

咲「それで、すばらさんのほうは、お名前、なんと言うんですか?」

煌「わ、私は二年で……名は――」

 バーン

淡「いたいたー!! やっと見つけたよ、スバラ!! なんか、さっき悪そうなやつらが顔を真っ青にして通り過ぎていったけど、大丈――」ビリッ

咲・淡「!?」ピクッ

煌「……あ、淡さん? どうかされました……?」

淡「あなた――誰?」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

咲「あなたこそ……誰ですか?」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

淡「私は……大星淡。二軍《セカンドクラス》のレベル4でマルチスキル……ランクはS」

咲「私は……宮永咲。二軍《セカンドクラス》のレベル4でマルチスキル……ランクはS」

煌(ええええ!? 宮永さんってば、あの淡さんと同じスペック!? やっぱりお姉さんがお姉さんだけに、ものすごい打ち手だったんですね!?)

咲「す、すばらさん……。この金髪の人はお知り合いですか? なんだか、ちょっと恐いです……」ピタッ

淡「ちょっとおおお!! なに慣れ慣れしくスバラにくっついてんのー!?」ゴッ

咲「ひいっ!?」ギュウウウ

煌「淡さん、宮永さんは、マネー狩りに遭っていた私を助けてくださったんです。ですから、そんなにがならずに、ひとまず落ち着いて」

淡「そ、そんなこと言われても……」チラッ

咲「…………」ベー

淡「こ……の……!? スバラ、そいつ悪いやつだよ!? マジで仲良くならないほうがいいよ!?」

煌「宮永さんは私の恩人です。いくら淡さんの言うことでも、そんな失礼な真似をするわけにはいきません」

咲(すばらさん……私を庇って……/////)

淡(こいつ……ギタギタにぶっ潰す!!)ゴッ

桃子「あー、いたいた。急に走り出すからびっくり――え?」

友香「あっ、先輩。見つかってよかった――え?」

咲・淡「……!!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

桃子・友香(なんか増えてる!?)ゾゾゾゾ

煌「おお、皆さんも。ちょうどよかった。こちらの宮永咲さんが、私たちのチームに入りたいとおっしゃっているんです。とても頼りになる方だと思うのですが、みなさんはどう思われますか?」

淡「さあ……どうだろうね。一局打ってみないとわからないかな。私たちの目標は一軍《ファーストクラス》だから、こんなどこの馬の骨ともわからないようなのを、ほいほい入れたくはないんだよねー」

咲「一軍《ファーストクラス》? お姉ちゃんみたいな選ばれた人だけがなれる白糸台のトップに……すばらさんのような人格者ならともかく、あなたみたいないかにも頭の弱そうな人が? 身の程を教えてあげようか?」

淡「むーっ! ユーカ、モモコ!! 入って!! 打つよっ!!」

咲「へえ? 三人がかりってこと? 無駄に派手な外見のわりに、中身は臆病なんだね」

淡「そっちこそ、いかにも根暗ですって顔して、どーせ一緒に打ってくれる友達いないんでしょ!?」

煌(な、なんでしょう……喧嘩を止めたい気持ちでいっぱいなのですが、謎の圧力のようなもののせいで、身体が動きません)

淡「大体、スバラは誰にでも優しいんだからね! だから、あなたみたいなぼっちにも親しくしてくれるの。それを、何か特別だって勘違いしてるんじゃない!?」

咲「その台詞、そっくりそのまま返すんだけど。すばらさんの心が広いのは私だってわかってるよ。あなたみたいな我儘で自己中な人と付き合えるなんて、さすがすばらさんだよね。私は無理かなっ!」

桃子(正直……超新星さんレベルの化け物がもう一人とか、そんな卓に入るのはゴメンっす)

友香(私もでー……)

淡「まっ、今のうちに好きなだけ吼えてなよ。すぐに泣かせてやるからさ!!」

咲「そっちこそ、さっきから強気なことばかり言って。あとで恥かくことになるよ!!」

淡「さあ、座って! 打つよ!!」

咲「ふん、言われなくても……!!」

桃子・友香(ま、仕方ないっすね(んでー))ハァ

煌(み、見守ることしかできません……!!)

淡「さー、私の親番だ! 東一局で終わらせて、スバラとのデートの続きしよーっ!!」

咲「ラス親かー。オーラスで役満でも和了って、すばらさんに褒めてもらおうっと!!」

淡「一人で言ってれば、妄想女!?」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

咲「一人で喚いてなよ、暴走女!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

煌(大変なことになってしまいした……)

 ――十時間後――

淡・咲(こいつ(この人)……強い!! 私と同じくらいにっ!!)ハァハァ

桃子・友香「」チーン

煌「淡さん、宮永さん、それくらいでいいのではないでしょうか? もうそろそろショッピングモールも閉まる時間ですし……」

淡・咲「まだまだっ!!」ゴッ

煌「しかし、門限もありますから……」

淡・咲「関係ないっ!!」

煌「どうしてもというのなら、また明日にでも……」

淡・咲「今ここで決着《ケリ》つける!!」

煌「…………………………わかりました」ゴゴゴゴゴゴゴ

淡・咲(えっ……なに? スバラ(すばらさん)の雰囲気が――)ゾワッ

煌「お二人とも、ご自分のほうが強いと思っているのですね? どちらが上なのか、はっきりさせたいと。ならば、お二人のどちらが強いか……年長の私が責任を持って判断いたしましょう」

淡「ど、どうやって決めるの……?」

煌「簡単です。二人とも、今から私と対局してください。桃子さんと友香さんはお疲れのようなので、三麻で」

咲「すばらさんが直接打って、私と淡ちゃんの力を見定めるっていうんですか?」

煌「いえいえ。そのようなジャッジを下すには、私では役者が不足しています。そうではなく、いたってシンプルなルールで、お二人の優劣を決めようというのです」

淡「スバラ……それってまさか――」

煌「ええ。ルールは単純。お二人で、お好きなように、お好きなだけ私の点棒を削ってください。そして、最初に私をトばしたほうを、強いほうだと認めましょう」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

咲(ト、トばす? いいのかな、なんか申し訳ないけど……)

煌「ただし、もしお二人とも私をトばせなかった場合は、きちんと仲直りしていただきますから、そのつもりで」

咲「な、なんだかよくわからないけど……わかりました! やるからには、遠慮はしませんからね。さっ、淡ちゃん、勝負だよ!!」

淡「私、パス」

咲「ええええっ!? なに、じゃあ、負けを認めるの? いいの? 私のほうが強いってことで?」

淡「勘違いしてもらっちゃ困るよ、サッキー。どう考えたって、私のほうが強いに決まってるんだから。ただ、スバラとの勝負には《絶対》に勝てない」

咲「どういうこと……?」

淡「私たちには、もう、仲直りする以外に進める道がないってこと」

咲「え……?」

淡「はいっ、スバラ! この世間知らずに言ってやって! スバラがどこの誰で、学園都市で何と呼ばれているかをさ!!」

煌「はい」

咲「す、すばらさん?」

煌「宮永さん……咲さん。遅ればせながら、自己紹介させていただきます。私の名は――花田煌」

咲「花田……さんって――ああああああっ!?」

煌「学園都市に七人しかいないレベル5の第一位……《通行止め》です」コノデンシガクセイテチョウガメニハイラヌカー

咲「レベル5の第一位……!! じゃあ、花田さんは私と同じ――学園都市に四人しかいない点棒操作系能力者!? えっ? ってことは……さっきのルール――花田さんをトばしたほうが勝ちって……まさか!!」

煌「はい。私の能力――それは《点棒がゼロ未満にならないこと》。私はトびません。《絶対》にです」

咲「そんな……!?」

煌「試してみたいというのなら、いくらでもお相手いたしますよ。その代わり、トばせなかったら、淡さんと仲直りですからね。さあ……どうしますか、咲さん?」

咲「あ……淡ちゃんと、仲直りします……」

煌「よろしいでしょう。ハイ、では、咲さん。あなたの話すべき相手はこちらにはいません。きちんと淡さんのほうに向き直って、仲直りの握手を交わしてください」

咲「うう……あ、淡ちゃん……」アクシュ

淡「だから言ったじゃん、サッキー。スバラには敵わないって」ニギニギ

咲「うん……。あっ、でもさ、淡ちゃん」

淡「なに?」

咲「レベル5の第一位なんて一人じゃどうしようもないけどさ、ランクSの私と淡ちゃんが二人がかりで支配力を使えば、もしかすると、もしかするんじゃない?」

淡「そ、それは……考えてなかった!!」

咲「試してみる価値はっ!」

淡「あるねっ!!」

煌「す、すば……?」

淡「スバラ、ちょっと、一局だけ打とうよっ!!」

咲「花田さん、お願いです、一回だけでいいですからっ!!」

煌「い、いや、私は帰って小説の最新刊を……」ソソクサ

淡・咲「スバラ(花田さん)……そこから先は《通行止め》だよ(ですよ)!!」ガシッ

煌「すばあああああああああ!?」

淡・咲「一緒に麻雀楽しもうよっ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ――――――

 ――――

 ――

淡「と、ゆーわけで! 五人揃ったわけだけど!! どう、スバラ? この面子で要らない子とかいない?」

煌「要らないといえば……むしろ私が抜けて、もっと普通に強い方を入れたほうがいいのでは、と思ってしまいますが」

咲「花田さん、遠慮しなくていいですよ。淡ちゃんみたいな目立ちたがり屋のおバカさんはチームの恥だって、この際はっきり言ってやってください」

淡「ねえ、スバラ。私、聞きたいことがあるんだけど、そこのサッキーとかいう腹黒い子って本当に必要かな? なんか、いるだけで空気が悪くなるんだけど」

煌「淡さんも咲さんも、喧嘩はそれくらいにしてください。仲良くするって約束ですよ?」

咲・淡「はーい」

桃子「で、実際どうっすか、すばら先輩。先輩は、私たちと一緒のチームでいいっすか?」

友香「申請をしたら、少なくともインターハイが終わるまでは、今のチームを解散できない。よーく考えたほうがいいんでー」

煌「私は、これ以上ないメンバーだと思っていますよ。それぞれにそれぞれの強さがあり、魅力がある。まさにすばらなチームです。
 それより、何度も言いますが、本当に私なんかが皆さんの仲間に加わっていていいのですか?」

淡・咲・桃子・友香「もちろん!!」

煌「ならば……不肖・花田。持てる力の限り、皆さんについていきます」

淡「じゃあ、メンバーはこの五人ってことで! あと決めなきゃいけないのは、チーム名だよねっ!!」

桃子「あ、それなら私、考えてきたっす。チーム《桃花》なんてどうっすかね、すばら先輩」

煌「芳しく瑞々しい名ですね、すばらっ!」

友香「あ、私のも聞いてほしいんでー! その……チーム《友花》なんていかがでー?」

煌「愛らしく暖かな名ですね、すばらっ!」

咲「え、えっと……私も考えてきました。シンプルに、チーム《咲花》なんてどうですか……?」

煌「春めいて華やかな名ですね、すばらっ!」

桃子・友香・咲「えへへ……////」

煌「ところで、なぜ皆さんは《花》の一字を入れたがるのですか? あっ……! そういうことですか!!」

桃子・友香・咲「!?」ビクッ

煌「花の一年生が四人もいるからですね!!」

桃子・友香・咲「…………」ホー

煌「はて、皆さん? どうかしました?」

淡「スバラ! 私も考えてきたよ、チーム名!! きっとスバラも気に入ると思うんだっ!!」

煌「ほう、それは楽しみですね。聞かせてください」

淡「うん、私たちのチーム名……それは――!!」

 ――理事長室

健夜「こーこちゃん、チーム申請の書類、ちゃんと判子押してくれたー?」

恒子「現在進行形で押してるって。あー、腕がつるー」ポンポン

健夜「あっ、この子たち……」ペラッ

恒子「んー?」

健夜「例の、転校生二人組。転校してから一週間も経ってないっていうのに……もうチームを作ったんだ」

恒子「ああ、例の、すこやんが手も足も出なかったっていう」

健夜「別に負けたわけじゃないんだけどね」

恒子「それと、海外で見つけてきた子だっけ。よく見てなかったや、ちょっと貸して」

健夜「どうぞ」ペラッ

恒子「一年生四人と、二年生一人か。若いチームだなー。みんなすこやんより二十も下だ」

健夜「十コ下だよ!? あと、学園都市にいる子ってみんな大体それくらいだよっ!!」

恒子「それに、チーム名もなかなか凝ってるねー。言いえて妙というか……なるほど。チーム《煌星》か」

健夜「スルーなの……? うん、まあ、ランクS二人に、レベル5の第一位。あとの二人もレベル3でそこそこ実力もある。綺羅を纏うに相応しい子たちばっかりだよね」

恒子「どう、すこやん。この子たち、どこまで行くと思う?」

健夜「うーん、例のアレのことがあるから、ぜひとも決勝まで行ってほしいんだけど、学園都市は広いからね。特に今年はすごいよ。この間の日曜日に、あちこちで色々なことがあって、もうお祭り騒ぎ」

恒子「そっかっ! じゃあ今年も大いに盛り上がってきたってわけだ!」

健夜「うん。ごく一部の例外を除いて、ほぼ私の思惑通りに!!」

恒子「夏のインターハイに白糸台高校麻雀部として出場する一軍《レギュラー》――そのたった一枠を巡って、一万人の美少女たちがしのぎを削る……! いいねぇ、今から夏が楽しみだーっ!」

健夜「今年も、決勝の実況は任せたよ、ふくよかじゃない、こーこちゃん」

恒子「もちろん、解説はすこやかじゃないすこやんだよね?」

健夜・恒子「ふふふっ……」

恒子「いやー、待ち遠しい。あと二ヶ月もあるのかぁー」

健夜「あっという間だよ。時が経つのは」

恒子「そうだね。いつの間にか、すこやんもアラフォーになっちゃって」

健夜「アラサーだよっ!!」

恒子「ははっ、お後がよろしいようでー」

     [一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》まで、あと二ヶ月]

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