天使「貴方にはまだ、他人から蔑まれる役目が
残ってます」
男「…喧嘩売ってんのか」アァン?
天使「だって無職じゃん」
男「…勤め先が倒産したんだよ」
天使「童貞でしょ?」
男「…出会いがなくて」
天使「貯蓄なし」
男「失業保険を切り詰めれば」
天使「三十路過ぎでは公務員も無理だし
男「…うっ」
天使「ほらほら、言い返して見なさいよ。
先刻の威勢はどうした、おっさん 」
男「……」
天使「あいきゃんふらい、しちゃう?」
男「…………」
天使「ほーらほーら、練炭なんてのも良いだろ?」
男「あのさ」
天使「何だよ、無職童貞」
男「…お前が小脇に抱えている『今月のノルマ』って何?」
天使「あー、…やっぱ気になる?」
男「なるなる」
天使「…あのさー、現代って無宗教の人増えてんじゃん?」
男「…らしいな。日本だけじゃなくて、
海外組も結構無宗教派閥が増えてきてるな」
天使「何だよ無職。えらく詳しいな?」
男「そりゃお前、仮にも営業組だったんだぞ?
取引先の情報ぐらい仕入れるだろ」
天使「いやいや、宗教ネタはタブーじゃん?」
男「…馬鹿野郎。俺の取引先はお前ら系の新興宗教が
多くて、身を守るために必要だったんだよ
天使「あー、わかったわかった。ご苦労さん
男「で、無宗教派閥が増えると困んの?」
天使「…困るも困らんも、困りまくるに決まってんじゃん」
男「え、そうなの?」
天使「あのなあ、今の天国の人口ってどれぐらいか分かるか?」
男「知らんよ。知るわけがない」
天使「…192兆人だぞ?」
男「多いのか少ないのか、さっぱり解らん」
天使「だいたい8km歩いて、人一人に見かければ
ラッキーな人口密度なんだぞ?」
男「…えー天国じゃないじゃん」
天使「だろ? そう思うよな?」
男「じゃあ、地獄は?」
天使「俺も詳しくないけど、1平方mに25人ぐらい」
男「…地獄や」
天使「…昔は良かったんだよ」
男「と、言うと?」
天使「人間は長生きしないし、素直な奴多かったし」
男「天国向きの人間が多かったのか」
天使「そうそう、しかしここ最近は無駄に小賢しくなるわ、長生きするわ…」
男「長生き駄目なん?」
天使「土地と風土によるが、長生きすることはそれだけ罪を犯す可能性も増えるだろ?」
男「なるほどな、地獄の人口増加か」
天使「…特に最近の信者は、傲慢系の罪持ちで氷地獄は三年待ち」
男「うわー」
天使「しかも、ここ千年の人口増加を見据え、天国用の土地をしこたま買い占めていたのに…」
男「地獄に再利用は?」
天使「童貞は、地獄の罪人を蔑む娯楽を天国に持ち込みたいんか?」
男「…そらあかんわ、後ろ暗過ぎる」
天国「ま、そういうわけで現在、天国向きの人間を絶賛青田買いしています」
男「因みにノルマは?」
天使「だいたい一年で400人ぐらい?」
男「随分微妙にリアルな数字だな…」
天使「うちは基本、自殺は認めてないけど。天国の労働力不足をかんがみれば…」
男「労働力不足?」
天使「失敬、失礼失言でした」
男「…今、労働力不足って」
天使「なんのことやら」
男「…羽ひきちぎんぞ?」
天使「ああ、はいはい。労働力不足です、労働力不足」
男「どゆこと?」
天使「早い話が土地の管理者」
男「…具体的には?」
天使「…雑草狩り、とか?」
男「仮にも天国だよな?」
天使「いかにも天国だぞ?」
男「…………」
天使「何だよ、文句あっか?」
男「…もしかして、向こうには無条件で嫁さんとかいんの?」
天使「そりゃ努力次第だな」
男「…………」ゴクリ
天使「…しかし、七人の戦乙女、七人の処女は別宗教だからな?
」
男「…………」ガクリ
天使「露骨にがっかりすんな。見ている方が辛くなる」
男「…だけどよー」
天使「あのな、別に悪いことじゃないんだぞ?」
男「?」
天使「天国ってのは、全ての苦しみから解き放たれる場所なんだ。お前みたいな童貞がこの世界でこれからの人生で受けるだろう苦しみが、チャラになるんだぞ?」
男「ぐぬぬ」
天使「どうする? 詰んだと自覚したまま最底辺の人生をだらだら生き続けるか、男らしく一発死んでみせるのか、さっさと決めやがれ」
男「…………」
天使「トロ臭え、だから童貞は童貞なんだよ」
男「……に行く」
天使「はあ?」
男「……くに行く」
天使「何だよ、聞こえねえな」
男「風俗に行ってきてやるッ!!!」
ドタドタ
バタバタ…
天使「…やれやれ、せっかちな童貞だねえ」
天使2「よっ、お疲れさん」
天使「おお、そっちもお疲れ」
天使2「結果はどーよ?」
天使「…まずまずじゃね?」
天使2「景気も悪い、天気も悪い、政治も悪い 。こんな三重苦の社会に生きてんだ。そら自殺も増えようもんさ」
天使「でもよー、このノルマは無ェよ」ヒラヒラ
天使2「…仕方あんめぇよ。人間界は経済危機ってのが近いらしいしよ」
天使「それだけ上役も本腰入れてんのかあ…」
天使2「ほらよ、『自殺防止ノルマ』寄越せ」
天使「あいよ、判子頼むわ」
天使2「ふむ」ペッタンコ
天使「…今年はあと何人救えるかねェ」
おわり
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