【R-18G】春紀「暗殺者」 (14)


悪魔のリドルスレです。本編後のお話ですが、気を付けてほしいことがあり、


・グロ注意
・鬱話
・エロあり
・キャラ崩壊があるかもしれません
・オリジナル設定

ルート分岐あるかもしれません。※決定じゃないので、作者次第で変わります




SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1419608307

※一人称・三人称視点使い分けで行きます。



<寒河江家>



十年黒組の一員として、一之瀬晴を殺す為の暗殺者として過ごしたミョウジョウ学園の日々は、暗殺失敗という結果で終わった。

アタシはあれから暗殺者としての道を捨て、真っ当な道で家族を養うために過酷な肉体労働の土木関係の仕事に就職する事にした。

元々力には自信があったし、手早く多く稼ぐにはこれしかなかったという事もあって、数週間が経過した。

始めてすぐの時は苦しすぎて本気で何度も吐きそうになったし、実際トイレで吐いたこともあった。

それでもこの仕事を続けられたのは、未だに病状が良くならない入院している母親と家族の生計の為、そして迎えてくれる暖かい笑顔があったから。

……クサい台詞だけど、毎日疲れ切った体を癒してくれたのは、貧しい生活でも逞しく笑って迎えてくれる姉弟が居てくれたからだ。



 春紀「……ただいまー。」

 冬香「あ、お姉ちゃんおかえり! 伊介様?っていう人が来てるよ!」




そんなわけで、12月も後半戦、冷え込む夜道をいつも通り歩いて帰宅した訳だけど、


 伊介「……誕生日だったんでしょ?♥ お祝いだけしに来たのよ♥」

 春紀「……!?」


まだ十年黒組のクラスメイトとして過ごしていた"元"同室の伊介様が、わざわざアタシの誕生日を祝うために来ているもんだから驚いた。

それはもう、間抜けな顔で唖然とする位には。



 伊介「なにその顔、ウケるー♥」

 春紀「伊介、様……祝いに来てくれたのは嬉しいけど、」



アタシはあの時から、暗殺者に関する一切の情報を捨てたし、関わる事も止めた。

一度日陰の世界に身をおとしといて身勝手な事だってわかってるけど、それでも、アタシには守るべき家族がいるんだ、手段は選べない。

そうして、晴ちゃんや兎角サン、その他それなりに親しくなっていた連絡先も全て消したし、愛用していたガントレットやワイヤーも全て処理した。

今のアタシには必要が無いモノ、そう割り切って。

割り切ったつもりだった。




 伊介「分かってるわよ♥ アンタがこっちの道から足を洗いたがってるのはね。アシは残さないから安心しなさいよ♥」

 春紀「……誕生日、そういや今日だったな。忘れてた」

 冬香「大きなケーキとチキンを買ってきてくれたよ! はーちゃんにって!」

 春紀「そっか。…………まぁ、ありがとな、伊介様。」

 伊介「初めからそう言ってりゃいいのよ、春紀♥」



それでも、短けれど同じ時間を共にした友人との再会は、素直に嬉しかった。

※訂正

 冬香「大きなケーキとチキンを買ってきてくれたよ! お姉ちゃんにって!」

<寒河江家>


 伊介「はいこれ、アンタの分?」

 春紀「これ、ヴェルニの奴……三つも、ってことは9000円かよ!?」

 伊介「うるさ? 誕生日プレゼントくらい素直に貰っときゃいいのよ?」

 春紀「……分かった。それじゃあ早速一つ使ってみるよ。」

 
ガヤガヤといつにも増して騒がしい我が家は、伊介様が現れたことにより更に騒々しかった。

伊介様が家族全員分のクリスマスプレゼントを渡した辺りから収拾がつかなくなってしまったというのもあるんだけど。

今日くらいは良いかと苦笑しつつも、元々自分が塗っていたマニキュアから伊介様に貰ったモノへと塗り替えてみた。

 
 春紀「(……輝きが断然違う。これが安物と高級品(三千円)の違いなのかぁ)」


品物の良さに感嘆してぼーっと眺めていたら、すぐ横でにやにやと意地の悪そうな笑みを浮かべながら伊介様がこちらを見ていた

ジロ、という擬音が聞こえそうな位横目でそちらを見やるとクスクスと肩を揺らして


 伊介「アンタ、ホントにおもしろ?」

 春紀「なんだよ、アイツらと一緒に遊んでたんじゃないのか?」

 伊介「伊介はガキの相手はゴメンよ、うるさいし?」

 春紀「あはは、まぁ、そういうイメージはないな」

 伊介「ま、今日はアンタの呆け顔が見れただけ来たかいがあったし?? それと、伊介そろそろ帰らないといけないから?」

 春紀「え、またどうして」

 伊介「ママとパパが海外出張だから、その見送りよ? 別の案件を抱えてる間はついていけないの?」

 春紀「なるほどな。……最高のクリスマス、ありがとな。冬香達があんな風に笑ってるの、久しぶりに見た」

 伊介「こんな時位家族サービスしなさい? "家族は大事"だって伊介に言ってたのはアンタでしょう?」

 春紀「……だな。確かに、最近稼がなきゃって事しか頭になくてアイツらの事、見えてなかったかもしれない」

 伊介「伊介はバリバリ稼いでるから貧乏人の気持ちとかよく分かんないけどね?」

 春紀「今月も中々苦しくてね、困ったよ……」

 伊介「……」


寒河江家の金銭事情が苦しい事を伊介は知っている。知ってはいるが、しかし、この金は春紀が否定する"誰かを殺して得た金"である。

クリスマスプレゼントだから、と言っても本当は春紀が未だ複雑な心境にあるのは重々理解している、本格的に支援しようとすれば断固拒否するだろう。

彼女にとって、伊介の金は『罪の証明』なのだから。


<玄関>



 伊介「ま、悔いのないように生きなさいよ♥」

 春紀「あぁ。何とか頑張ってみるよ」


じゃあね~、と背を向け、いつもの格好に分厚いコートを羽織った伊介様を見送ったアタシは、そのまま洗面台に向かい、

手にしていたヴェルニのマニキュアを投げ捨てた。

甲高い音が響き渡ると、唇をかみしめたまま、壁に拳を叩きつけた。

伊介様のマニキュアを塗っていた爪が皮膚を裂き、ギリギリと握りしめた拳から血が流れ落ちる様を眺めて、


 春紀「(……もうこれで終わりだよ、伊介様。やっぱりアタシは、もう逃げる事にしたんだ)」


自分の事を棚に上げてるのは重々承知の上だ。でも、それでも自分には守るべき誰かが居て、彼らの為には蔑まれることも厭わないのだから。

夜は更けていく。伊介様の残したクリスマスプレゼントを、冬香達の喜ぶ姿を、アタシは最後まで冷めた瞳で眺めつづけていた。
 

―数日後―


<工事現場>


 「寒河江、お前今日調子悪かったじゃねえか。」

 春紀「そう、でしたかね?」

 「資材運びも、も、全部ダメダメの癖によく言う。……お前がいつも熱心にやってるのは分かってんだが、今日のままやり続けるってんならやめろ」

 春紀「……やり続けますよ、アタシは」

 「迷惑なんだよ。作業効率も落ちるわ、他の従業員達の士気も下がる。ハッキリ言って、青ざめた顔でやられて倒れられたら会社の責任にもなる。」

 春紀「……やりま、」

 「自分の体調管理も出来ねぇ奴に、働く資格なんてねぇ。お前は謹慎しろ。」

 春紀「ッ、アタシは稼がないといけないんだ!! アンタらは雇う側で、アタシらは労働力だ、それに見合った給料さえ出してくれりゃいい!!」

 「寒河江ッ!!」

 春紀「あぁ、ならこんなとこ止めてやる!! 別に此処で働き続けなきゃならねぇ義理はねぇよッ!!」



自分が馬鹿みたいな事言ってるのは分かってる。

現場監督さんの優しさと、そしてそれが正論だという事を頭の中では分かっていても、この時アタシは切迫した金銭面の問題のせいで気が立っていた。

そのせいで無茶なアルバイトを連日入れ、正直この時も栄養ドリンクとブラックコーヒーで無理やり体に鞭を入れて来ていた。

顔、もうちょい濃く白いメイクをしとくべきだったか。

そんな風に考えたのも一瞬で、アタシは現場から仕事も放り出して立ち去った。

現場監督がずっとこちらの背を見送っている気がしたが、構わずやるせない気持ちのまま帰路を急いだ。

……この時なら、まだ引き返せた。引き返せなくなったのは、ここからだった。

※訂正文

×「資材運びも、も、全部ダメダメの癖によく言う。……お前がいつも熱心にやってるのは分かってんだが、今日のままやり続けるってんならやめろ」

○「資材運びも、それ以外も全部ダメダメの癖によく言う。……お前がいつも熱心にやってるのは分かってんだが、今日のままやり続けるってんならやめろ」

<帰路>


 春紀「……」


現場監督と別れた後、何をやろうにもやる気が起きなくなったアタシは、作業着のまま公園のベンチで一時間居眠りをしていた。

怒鳴り疲れた事と、色々な悩み事が重なり合って心も体もボロボロだったアタシにはちょうどよかったかもしれない。

冷え切った頭で、先ほど怒鳴りつけて仕事を放り出してきた職場の事を思い出し、歯噛みしながらも、残念だけどやめるしかないだろうなぁと考えていた。

そんな時、ポケットに突っこんでいた携帯が震え出し、とある人物の名前を表示した。






走り鳰、と。





 




<ミョウジョウ学園・オリエンテーションルーム>




 鳰「寒河江春紀さん、今すぐにミョウジョウ学園最上階に来るッス。来なければ、まぁ大切なモノが壊されるッスけどね!」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 


 春紀「……」

 鳰「いやぁ~、お久しぶりッスねぇ春紀さん? ありゃ、暫く見ないうちに、顔がゾンビみたいになってるッスよぉぉぉ?」ニヤニヤ

 

呼び出された春紀は、数週間ぶりとなるミョウジョウ学園の敷地内にある主要施設、その最上階にある"オリエンテーションルーム"に来ていた。

此処では過去に裏オリエンテーションと称して、晴ちゃんを殺す為のルールの知らせがあったこともあり、懐かしさだけは感じていた。

だが、目の前でニヤニヤと下卑た笑みを浮かべる走り鳰を見て、アタシは込められるだけの力を込めて睨み付けた。

……冷め切っていた心に怒りという感情が浮かび上がろうとした途端、虚空に巨大なスクリーンが現れ、其処にこの学園の理事長である人物が映し出された

確か、百合目一とか言ってた気がする。



 目一「お久しぶりね、寒河江春紀さん。貴女の凛々しさと逞しさはとても評価していたわ」

 春紀「そりゃどうも。……黒組はもう終わった筈だ。アタシはアンタら"裏"の人間とはもう縁を切って―――」

 目一「……本気でそう考えているのなら、やはり貴女は端役の一人でしかないものね。人殺しはどうあがいても人殺し、武智乙哉さんとなんら変わらない。」

 春紀「っ……」

 目一「どうやら最近本格的に生計が苦しくなっているそうね。青ざめてロクに休みも取れていなさそうなその顔を見れば分かるわ。」

 春紀「……」

 目一「母親の容態が急変して、更に治療費が嵩張ったから貴女は金星祭の時点で急くように暗殺を決行していたようだけど、やはり何にせよお金は必要のようね。」

 春紀「だから、こうして働いてる」

 目一「人間、確かに形振り構わなければなんだって出来るかもしれないけれど、"人間は人間"よ。いつかは壊れて、そして資本である体が壊れてしまったら、破滅しかない」

 春紀「……」

 目一「体力面、効率面だけ考えれば体を売る事も出来るでしょうね。寒河江さんの容姿なら、かなりの金額に上る筈よ。でも、ソレをしないのはなぜかしら?」

 春紀「それ、は」

 目一「貴女はまだ捨てきっていない。何もかもを捨てた人間というモノは、例え泥水を啜ろうが虐げられようが縋り付く。……貴女が縋り付く為の拠り所を、提供してあげましょう。」

 春紀「……それが本題なんだろ? だったら、早く用件だけ伝えろ。」

 目一「ふふ、こうして御話しするのも初めてだから、少し楽しくなってしまったわ。 それじゃあ、そちらの事は鳰さんに任せましょうか。」

 鳰「了解ッス!」



目一の揺さぶりに、意気消沈しきってしまうかと思われた春紀の様子は至って変わらず、しかし確実に内心動揺を隠せなかった。

何よりミョウジョウ学園という組織の情報収集の速さと、目を背けようとしている現実と直面させられたこと。

タッチパネルを弄った鳰が指差した方向には、とある勢力図が表示されていた。


 鳰「……最近、葛葉と東の勢力争いが露骨に激しくなって来たみたいッス。」

 春紀「それで、これがどうしたって言うんだ?」

 鳰「両勢力が、『ミョウジョウ学園』や『十七学園』に被害を及ぼす危険性もかなり高くなってきたッスから、こりゃ大変。情報漏洩も防がなきゃ駄目ッスね」

 目一「最近ではうちの学園の男子生徒が裏通りで何者かに他殺されていたそうね。それも、あまりにも手際が良すぎるせいで公的には自殺扱いだそうよ。」

 鳰「まぁ~、一時期はミョウジョウ学園に所属していた春紀さんや他の黒組メンバーにも白刃の矢が立っちゃう訳でして、そうならない為の努力をしようとは思ったッスけど、ハッキリ言って"無理"ッス」

 春紀「何故?」

 鳰「単純に『足りない』んスよ、資金が。理事長の手を以てしても、確実に匿えるのは一組が限界ッス。それ以上匿えば、皆殺しの大虐殺になりかねないリスクがあるッスね」

 春紀「……オイ、まさか、」

 鳰「そのまさかッス。春紀さん、家族を守りたければアンタが他の黒組メンバーを殺して口封じをしてくださいッス。」

 春紀「…………」

 鳰「勿論、成功させた暁には両勢力からの絶対の保護と資金の構面、何でもござれッス。悪い条件じゃないッスよね?」



ドクン、と心臓が一度大きく跳ねあがった。

まさか、裏の世界の情勢がそんな事になっているなんて……伊介様の言っていた"用件"とは、もしかするとこれに関する事なのかもしれない。

それじゃあ、クリスマスパーティーの時、アレの真意とは、この危機を素早く伝える為じゃなかったのか?

アタシが身勝手に駄々をこねたせいで、そんな大切な情報まで聞きそびれていたとでもいうのか。

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