京子「幽体離脱~♪」 (40)

──チュン、チュン


京子「……」ペラ


京子「……」ペラ


京子「……ん?」

京子「ってうわ、もう朝だよ」

京子「あちゃー、またやっちゃった」

京子「漫画読み返してたらいつの間にか時間経ってるんだもんなぁ」


京子「はぁ……今から寝てもギリ一時間しか眠れないのか」

京子「まぁでも、少しでも一応寝たほうがいいよな」


京子「……いや、今から寝ても起きられる気がしない」

京子「娯楽部の部長が遅刻なんてしていいのか?」

京子「否!いいわけがない!」

京子「こうなりゃ徹夜だ!学校までミラクるん読むぞ!」

京子「魔女っ娘、ミラクるーん!!」

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────

京子「ふわぁぁ……」

結衣「ずいぶん眠そうだな」

京子「うん、実は昨日漫画読んでたらいつの間にか朝になっててさぁ」

京子「一睡もしてないんだよ」

結衣「またか」

結衣「まぁ、それなら自業自得だな」

結衣「お前生活のリズムおかしくなってるんだって。前もあかりやちなつちゃんに注意されたんだから、先輩としてしっかり直せよな」

京子「うぃー、善処しまーす」ウトウト

結衣「まったく……」


先生「えー、この単語は──」

京子「……」カクッ、カクッ

京子「(だ、だめだぁ……眠くてたまらん)」

京子「(やっぱ徹夜明けで授業受けるとか不可能だったんだよ……)」

京子「(これはちょっと無理だな……)」

京子「(あー、意識が……)」

京子「……zzz」




京子『…………あれっ』

先生「この文を日本語に訳すと──」

京子『私寝たよね?なんで普通に先生の声が……』


京子『って浮いてる!!?』フワフワ

京子『うわわわ』バタバタ

京子『……落ちない。しっかり浮いてる』

京子『一体どういう……』

京子『ハッ、下に私が居る』

京子『これってまさか……』

京子『幽体離脱!!?』

京子『すげぇ!ついに私も超能力に目覚めたのか!』

京子『まさか上から自分を見下ろせる時が来るとは!』

京子『おー、これ動こうと思った方向に進めるんだ』スイー

京子『はははっ、私今みんなが真面目に授業してる教室を飛んでるよ』

京子『やべぇ、超楽しい!』

京子『ほぇー、上から見たら結衣ってこうなってるんだ。意外と新鮮な光景』

京子『思えば今まで椅子に座ってる結衣を上から見ることなんてなかったっけ』

京子『うーん、せっかく幽体離脱したんだから、いつもはできないことがしたいな』

京子『なにかあったっけ』


京子『そうだ!あかりたちの教室に行ってみよう!』

京子『ちなつちゃんの授業風景を思いっきり観察しちゃうぞ~』ヒュー

────

京子『いた、ちなつちゃんとあかりだ』

あかり「……」カキカキ

ちなつ「……」カキカキ

京子『うむ、真面目にやっとるようだね。いやー、感心感心』

京子『……』

京子『見てるだけってのも暇だな』

京子『……ちょっとほっぺた突ついてみよ』

京子『えいっ』

スカッ

京子『あれ?』

スカッ

スカッ

京子『ありゃー……ダメだ、体には触れないんだ』

京子『まぁ、幽霊なんだし当然か』

京子『……なんか怖くなってきたかも』

京子『そろそろ授業終わるし戻ろっ』

キーンコーンカーンコーン

先生「はいそれじゃあ今日はここまでー」

「ありがとうございましたー」


京子「……ふがっ」

結衣「やっと起きたか」

京子「結衣……」

京子「(そっか、自分の体に触れば戻れるのか)」

京子「んー!」ググッ

京子「あーよく寝た」

結衣「なにがよく寝ただよ、授業中だぞ」

京子「そんな堅いこと言わない、いつものことじゃん」

結衣「少しは反省しろ」

京子「へーい」


京子「(ちょっと頭がすっきりした)」

京子「(幽体離脱してる間もちゃんと体は眠ってるんだな)」

京子「(……いや、ひょっとしたらあれは夢だったのか?)」

京子「(イマイチよくわからん、もう一回試してみよっと)」

京子「それじゃあ私はまた旅に出るから」

京子「次の休み時間にまた会おう」ガバッ

結衣「あ、ちょ、おい!」

結衣「……寝やがった」

京子「……zzz」


フワフワ

京子『浮いてる』

京子『離脱、完了』

ガラッ

京子『おっ、先生が入ってきた』

京子『先生が来る前に寝られるなんて私もなかなか上達したな』

京子『にしても、やっぱり夢じゃなかったのか』

京子『めちゃくちゃ意識はっきりしてるし、これ絶対夢じゃないだろ』

京子『へいっ、結衣っ結衣っ』フリフリ

結衣「……」

京子『うん、当たり前だけど人には見えないみたい』

京子『教室中飛び回ってるのに誰も騒がない時点でわかってたけどね』

スカッ

京子『すり抜ける……結衣の口から私の腕が生えてるよ』

京子『ぷっ、あははは!』

京子『なかなか面白いな』

京子『今度は結衣と重なって合体してみよう』

京子『それじゃあ、結衣さんのお膝の上お邪魔させていただきまーす』

京子『よいしょ』

結衣「……!」ビクッ

京子『え?』

京子『なんだ……お尻に確かな感触が……』


京子『まさか……』ピラッ

結衣「……!!」ガタッ

京子『やっぱり!物には触れるんだ!』

京子『あはは、結衣青ざめてるよ』

京子『服越しならいけるよな』

京子『脇腹突ついちゃえ』ツンッ

結衣「!」バッ

結衣「!!?」キョロキョロ

京子『ふふ、驚いてる驚いてる』

京子『まぁあんまりやり過ぎるのも良くないよね』

京子『てなわけだしちなつちゃんにイタズラしに行こー!』スイー

────

京子『相変わらず二人とも真面目に勉強してんなぁ』

京子『んー、ちなつちゃんにはなにしようか』

京子『とりあえず肩叩いてみよ』トントン

ちなつ「?」クルッ

京子『にしし、振り向いた』

京子『もう一回』トントン

ちなつ「……?」クルッ

ちなつ「……」キョロキョロ

京子『ふへへ、キョロキョロしてるちなつちゃんも可愛いな』

京子『あっ、いいこと思い付いた♪』

トントン

ちなつ「……」クルッ

ちなつ「……(なにもない)」

ちなつ「(やっぱり気のせいかな)」フイッ

ちなつ「……え!」ガタッ

先生「? どうしました、吉川さん」

ちなつ「い、いえ……すみません、なんでもないです」

先生「そうですか?」

ちなつ「(な、なにこの愛してるって……私こんな字書いてないよ……)」

京子『どうだ!私からの愛のメッセージだぞ!』

京子『ちなつちゃんの驚いてる顔も見れたし、もう戻るかー』

京子『さらば!』ヒュー

キーンコーンカーンコーン

ムクッ

京子「カムバック私」

結衣「お、おい京子」

京子「ん、どったの結衣」

結衣「……」

京子「なに?」

結衣「いや……なんでもない」

京子「? 変な結衣」

京子「(あ、そうか。さてはさっきのイタズラで怖くなったんだな)」

京子「(ははーん、いつもの落ち着きがないぞ。あのクールな結衣ちゃんが貧乏ゆすりなんてしちゃってさ)」

京子「(よし、からかっちゃえ♪)」

京子「えー、本当になんでもないのー?」

京子「その割には顔色悪いみたいだけどー?」

結衣「ほ、本当になんでもないから!」

京子「またまたー」ツンッ

結衣「うわぁ!?!」ガタッ

京子「へ?」

結衣「っ///なんでもないっ!」

京子「ぷっ」

京子「あっはははは!!」

結衣「笑うな!!///」


京子「(いやーこの結衣かなり面白いな、またイタズラしちゃおー)」クスクス

京子「(今度はなにしてやろうか、永遠と服の上から体中撫で回してやろうかな)」

京子「(それとも──)」

京子「……zzz」


────

結衣「おい、給食だぞ。いい加減起きろ」ユサユサ

京子「……うーん?」ムクッ

京子「って、あれ?幽体離脱は……?」

結衣「なに言ってんだお前」

京子「(もう給食の時間になってる……私あれからずっと普通に寝てたんだ)」

京子「(寝たのに幽体離脱できなかった?)」

京子「なんでだーあー」グググ

────


京子「おいーっす」

結衣「やぁ、二人とも」

あかり「あ、結衣ちゃん京子ちゃん。お疲れ様」

京子「あぁ、あかりは空飛べなくて残念だったな」

あかり「んん!?いきなりどうしたの!?」

京子「(結局あれから幽体離脱できなかったなぁ)」

京子「(なんでだろう、もう幽体離脱できなくなっちゃったのかな)」

結衣「あれ、ちなつちゃん?」

ちなつ「…………あっ、結衣先輩」

結衣「どうしたの?なにか考え事してたみたいだけど」

ちなつ「すみません。実は、今日変なことがあって……」

結衣「変なこと?」

ちなつ「はい」

ちなつ「私一番後ろの席なんですけど、授業中誰かに肩を叩かれたんですよ」

ちなつ「それで振り返ってみたら、案の定誰もいなかったってことが」

結衣「え……そ、それはひょっとして怖い話……?」

ちなつ「どうなんでしょう……私もここまでだったらそう思うんですけど、そんなに怖くは」

ちなつ「その後、誰もいなかったのですぐに体を前に戻したんです」

ちなつ「そしたら、私のものではない字でノートに愛してるって書いてあったので」

結衣「なんだそれ」

あかり「不思議だよねぇ、今日はちなつちゃんずっとそのことで悩んでるんだよ」

結衣「だから固まってたんだ」

ちなつ「まさか……あかりちゃんがやったとかじゃないよね?」

あかり「えぇ!?あかりじゃないよぉ!」

ちなつ「実はあの時透明になってやったんじゃないの?」

あかり「もぉ!!そんなことできないよぉ!!」

京子「(ぷくく、翻弄されているな)」

結衣「そういえば私も不思議なことがあったな」

ちなつ「結衣先輩もですか?」

結衣「うん、私も授業中周りに誰もいないはずなのに太ももになにかが当たる感覚があったんだ」

結衣「その後は服をめくられたり、脇腹を突つかれる感触があった」

ちなつ「セクハラじゃないですか!!」

あかり「幽霊さんなのかなぁ」

ちなつ「たとえ幽霊でも許せない!結衣先輩にセクハラするなんて!」

結衣「ま、まぁまぁ。落ち着いてちなつちゃん」

結衣「感触があったっていっても多分気のせいだと思うから」

ちなつ「でも、私も謎の現象に襲われてますし……」

結衣「うーん、なんだろうね……」

京子「(クハハハハ、君たちは私の掌の上で踊らされているのだよ)」

あかり「ところで、さっきから思ってたんだけど京子ちゃん今日はやけに静かだね」

結衣「言われてみればそうだな」

ちなつ「まさか京子先輩もなにか変な目に合ったんですか?」

京子「へっ」

京子「あぁ、いや、違う違う。私はただボーッとしてただけだから」

京子「(やばいやばい、完全犯罪の優越感に浸ってて話に参加するの忘れてた)」

結衣「お前、ひょっとしてまだ寝足りないのか?」

あかり「寝足りないって、不眠症なの?」

結衣「いや、こいつまた漫画読んでたら朝になってたんだって」

結衣「それで今日授業中ずっと寝てたんだ」

ちなつ「授業中になにしてるんですか」

京子「いい夢見てたぜ」

結衣「現実見ろよ」

京子「はい」


京子「(でも、本当に夢のような時間だったなぁ)」

京子「(また幽体離脱したい……)」

京子「(いろいろ調べたいし、帰りに本屋にでも寄っていくか)」

バッドエンド臭が…

────


京子「多分オカルト本はこの辺だな」

京子「お、さっそくそのものズバリな幽体離脱って本があるじゃん」

京子「これに詳しく書いてあるかな」ペラ

京子「幽体離脱する方法……って違う、これは知らなくていい」ペラ

京子「幽体離脱するには……だからもうしてるって」

ペラペラペラペラ

京子「うーん……幽体離脱本っていうのは、幽体離脱入門書みたいな感じでなんか違うなぁ」

京子「こういう本じゃなくて、こっちの超能力辞典みたいな本のほうがいいかも」

京子「えーと、幽体離脱幽体離脱……」ペラペラ

京子「あった、幽体離脱」


幽体離脱

それは、ある日突然目覚めるもの

眠りに着いたかと思えば、なぜか意識がハッキリ自覚でき、体が宙に浮いている

自分の体は真下にあり、半透明な幽体のみとなる

格好としては、寝る時に着ていた服を身に纏っている場合が多い

この状態では、人に触ることはできない。触ろうとしてもすり抜けてしまう

物も基本的にはすり抜けるが、触ろうと思えば触れる

自分の体に戻るには、眠っている自分の体に触ればいい


京子「なるほど」

京子「私の体験したまんまだし、なんかこの本が一番それっぽいな」


幽体離脱が発現したからといって、就寝の度に毎回幽体離脱が起こるわけではない

幽体離脱はほとんどが眠りに入ったのをきっかけに起こるものだが、なにも起こらない場合もある

幽体離脱している間体は眠ったままなため、普通に睡眠を取るのと変わらない

基本的に害はなく、体力も通常通り回復する

普段寝ている時間を有効に活用できる素晴らしい能力だ


京子「うんうん、確かにこれはいい能力だ」


しかし、一つ注意しなくてはいけないことがある

幽体離脱をしてから一時間以内に体に戻らなかった場合、二度と自分の体に戻ることはできなくなるのだ

もしも幽体離脱に目覚めた場合は、このことに注意してから楽しもう


京子「え……なんだよこれ」

京子「私、もしかしたらずっと幽霊のままだったってこと……?」

京子「こわぁ……」ゾッ

京子「毎回休み時間に体に戻っといてよかった……」

京子「(休みの日とかだったら私終わってたな)」

京子「……帰ろ」

────

京子「ふぃー、いい湯だったぁ」

京子「やることも全部やったし、もう寝るかー」

京子「タイマー付きの腕時計も用意したし、準備万端!」

京子「これで一時間オーバーして体に戻れなくなる心配はなくなるぜ!」


京子「これだけ準備したんだから、今回は幽体離脱できるといいなぁ……できるかな?」

京子「まぁ人事も尽くしたし、後は天命を待つだけだ」

京子「おやすみなさい」

京子「……zzz」



フワフワ

京子『おっ?この感覚は……』


京子『やった!幽体離脱だ!』

京子『やっほー♪』ヒュー


京子『おっと、いけないいけない。ちゃんと腕時計しとかなきゃ』

京子『タイマーは……55分後でいいか。5分もあれば戻ってこれるところまでで動けばいいし』

京子『それじゃあ出発ー♪』

ヒュー

────

京子『どうせ行くなら、やっぱり普段見られないものが見れるところがいいよな』


京子『というわけで、ちなつちゃんのお家にやってきましたー』パチパチ

京子『果たしてちなつちゃんは家で一人のときなにをしているのか』

京子『こっそり拝見させてもらうよー』スイー



ちなつ「ブツブツブツブツ……」

京子『部屋に居る、ブツブツブツブツなに言ってるんだ』

ちなつ「!」キッ

ちなつ「悪霊たいさーん!!!!!」バッ

パラパラ

京子『うわっ!?なんだ!?』

ちなつ「……こんなもんかな」

ちなつ「この幽霊撃退マニュアルによると、これが幽霊を地獄へ叩き落とす必殺技らしいけど」ペラ

京子『いったいなにをやってるんだこの子は』

ちなつ「これであのスケベ幽霊を地獄に……フフフ」

京子『……ちなつちゃんこぇぇ』

ちなつ「最後にもう一回練習しよっ」

ブツブツブツブツ……

京子『またなんか唱え始めた……』

ちなつ「悪霊退散!!!!!」バッ

ジュッ

京子『うおっ!!?』

ちなつ「へっ」

京子『なんだなんだ、ちなつちゃんの塩が当たったところがすごく気持ち悪い……!!』

京子『……これはまずい!早く逃げよう!』

京子『ちなつちゃんじゃあねー!!』ヒュー


ちなつ「? 今なにかの気配がしたような……」

────


京子『ふぅー、危なかったぁ』

京子『まさか除霊されそうになるとは……』

京子『ちなつちゃん……恐ろしい子!』


京子『気を取り直して、お次は船見さんの御宅にやってきましたー』パチパチ

結衣「…………」カチカチカチカチ

京子『黙々とレベル上げしてる』

結衣「…………」カチカチカチカチ

京子『んー……』

京子『なんか、いつも隣で見てるのと変わらないなぁ』

京子『(まぁなんていうか……結衣らしいや)』クスッ


京子『目新しさも無さそうだし、次行こ』

京子『結衣のところにはまた今度普通の体でくればいいかな』

京子『じゃあな結衣、また来るからなー』ヒュー

────


京子『いやー、面白い』

京子『いろいろ見て回ったけど、さくっちゃんの家が一番面白かったな』

京子『なんで家族間で土下座し合ってたんだろ』

京子『あとは……あかりの家で最後か』

京子『でもあかりはもう寝てるだろうしなぁ……なにかびっくり行動が見られるわけでもないしどうしようか……』

京子『よし、顔に落書きでもしよう』スイー


コォォォ……


京子『?』ピタッ

京子『なんかあっちのほうがやけに明るいな』

京子『あかりの家のほうだ、なんだろう……』




ゴォォォォォォォォ!!!!!!


バチッ、バチッ!!!


京子『! 燃えてる!?』

京子『た、たいへんだ!火事になってる!』

京子『家の周りにあかりはいない……家の中に居るんだ!!』

京子『早く助けなきゃ、今行くから!!』ダッ



────リリリリリリリリ!!!!!!!



京子『あっ、タイマーが……!!』

京子『え、もう一時間経っちゃうの……!?』

京子『嘘!?』

京子『ど、どうすれば……』

京子『…………っ!』




ダッ


京子『ごめん……!ごめんあかり……!』


京子『すぐ消防車呼ぶから……!!』




ガバッ

京子「! 早く、早く消防車呼ばなきゃ!」ピッ

プルルルルル

京子「もしもし!近所で火事が──」

────


チュン、チュン


京子「大丈夫……大丈夫……」ブツブツ

京子「あかりは絶対に助かる……」ブツブツ

京子「消防車がすぐに来て火を消してくれる……」ブツブツ

京子「私はちゃんと通報した……だからあかりは助かる……」ブツブツ


プルルルル、プルルルル


京子「!! 電話!」

京子「あかりからだ!!」

ピッ

京子「はいもしもし!!」

『京子ちゃん……?』

京子「うん!そうだよ!」


『私……あかりの姉のあかねです』


京子「えっ……お姉さん……?」

『そうよ、あかりの携帯からかけてるの』

京子「な、なんでお姉さんが私に……?」

『…………あのね、落ち着いて聞いてね』



『あかりが死んじゃった』



京子「…………え?え?」



『家で火事が起こって、それで逃げ遅れたあかりが死んじゃったの』

『私はコンビニに買い物に行ってたから無事だったけど、家に居たあかりは助からなかった』

『誰かが通報してくれたのか、私が家に着く頃には消防車が来たんだけど……』


京子「う、うそですよね……?」


『火が消えて、すぐに救急車で運ばれたけど、多分その時にはもう助からない状態だったと思う』


『だって……だって、体中真っ黒になって……ピクリとも……ぐすっ……』

『……ごめんなさい』

『あかりの着信履歴順に連絡してるの』

『京子ちゃんのが一番最初にあったから、一番最初に連絡させてもらったわ』

『他の子たちには私から連絡しとくから』

『それじゃあ……今まであかりと仲良くしてくれてありがとうね』

『朝からこんな話でごめんなさい』

ツー、ツー


京子「そんな……」



京子「(あかりが死んじゃった……?)」

京子「(私のせいで……?)」

京子「(私が逃げたから……?)」



京子「う」



京子「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

────


櫻子「うぅ……なんであかりちゃん死んじゃったんだよぉ……」グスッ

ちなつ「馬鹿……あかりちゃんの馬鹿ぁ……」

向日葵「なんで赤座さんが……こんな……」

結衣「……」

京子「……」


数日後、あかりの葬式が行われた

ちなつちゃん、さくっちゃん、ひまっちゃん、綾乃、千歳、みんな泣いていた

私と結衣は泣かなかった

結衣は涙を堪えてるようだったけど、私は泣けなかった

あかりを助けずに、自分が体に戻れなくなるのを怖がって逃げ帰ってしまったから

そんな卑怯者の私に泣く資格なんてないんだ

悔しさと罪悪感が大き過ぎて、涙が出てこなかった



あかね「今日はみんなあかりのお葬式に来てくれてありがとう」

あかね「こんなにあかりを想ってくれる人がいて、あかりも幸せだったと思うわ」

京子「お姉さん……(目が真っ赤だ)」

あかね「それじゃあ私は後片付けのお手伝いとかしなくちゃいけないから、みんなは気を付けて帰るのよ」

ちなつ「はい……」

結衣「失礼します……」

櫻子「うぅ……あかりちゃん……」

向日葵「ほら、櫻子……帰りましょう?」


結衣「それじゃ、私たちはこっちだから……」

ちなつ「はい……それではまた、学校で」

京子「うん……」


スタスタスタスタ


結衣「……なぁ、聞いたか?」

結衣「今回の火事の原因って──」

京子「放火……でしょ」

結衣「……あぁ、最近この町で起こった火事のほとんどが放火らしいな」

結衣「警察の人は、放火魔がこの町のどこかにいるはずだって言ってた」

結衣「…………」ピタッ

京子「結衣?」

結衣「さっき警察のホームページで犯人の似顔絵と特徴を調べたんだ」

結衣「私が犯人を……」

京子「危ないことしようとするのはやめて」

結衣「っ、なんで……!?そいつのせいであかりが死んだんだぞ!!?京子は悔しくないのか!!?」


京子「結衣まで死んじゃったら私耐えられないよ!!!」

京子「あかりがいなくなって!!結衣までいなくなったら私どうすればいいの!!!」


結衣「っ」

結衣「……ごめん」

京子「ううん……私こそ、大声出してごめん」


京子「……じゃ、また学校でね」タッ


タッタッタッ


京子「(結衣はなにもしなくていいんだよ)」


京子「(私が……)」



京子「(私が仇を取るから)」

それから私は毎日放火魔を探し続けた

幽体離脱をして空から町中を探し回った

できるだけ幽体離脱ができるように、いつも眠りに就く前には、目覚まし時計を私が眠った直後に鳴るよう設定して眠った

幽体離脱できないときはこれで目を覚まして、幽体離脱できるまで何度も眠り直した

幽体離脱できる頻度はそんなに高いわけじゃないらしくて、寝た直後に叩き起こされてばかりだった

おかげで目の下に隈ができてみんなから心配されたけど、そんなことどうでもよかった

空から探すのが一番可能性が高い

だから幽体離脱する必要がある

なり振り構っていられなかった

────

京子『結衣の家……いない』

────




────

京子『ちなつちゃんの家……いない』

────




────

京子『綾乃の家……いない』

────




────

京子『千歳の家……いない』

────




────

京子『さくっちゃんの家……いない』

────




────

京子『ひまっちゃんの家……いない』

────




────

京子『学校……いない』

────



ヒュー

京子『……』

京子『(いない……)』

京子『(あれから一ヶ月……放火魔はまだ出てこない)』

京子『(七森で放火が起こる周期を調べてみたら、だいたい一週間から一ヶ月に一回のペースで放火事件が起きていた)』

京子『(そろそろ出てくる頃なのに……)』


京子『ちくしょう……もう逃げやがったのか……』


コォォォ……


京子『──!』

京子『向こうが明るくなってる』

京子『あっちの方角は……まさか!!』




ゴォォォォォォォォオ!!!!!



京子『やっぱり!結衣の家だ!』

京子『クソ!なんで結衣の家まで!』

京子『とにかく早く中に入って結衣を起こさなきゃ!』


京子『結衣ーーー!!!!!』


バチバチバチバチ……

京子『くっ……!すごい火だ……!』

京子『大丈夫……熱くない……熱くない……』

京子『触ろうと思わなければ通り抜けるんだ』

京子『──行くぞ!!!』ダッ

────


京子『結衣は……結衣はどこだ!!』


ごほっ、ごほっ


京子『あっ、結衣!!!』

結衣「うぅ……熱い……あぁ……」

京子『よかった!意識はあるみたいだ!』

京子『そうか、道が火で塞がってるから逃げられないのか』

京子『家の燃え方からして、玄関までの火を消せば逃げられるよな……』

京子『なんとかしてみせるから、それまで頑張ってくれよ!!』




────リ




リリリリリリリリ!!!!!!!



京子『っ! また!!?』

京子『(なんでまたこんなタイミングで鳴るんだよ!!)』

京子『(後5分で体に戻れなくなる!!)』

京子『(どうする!?5分で結衣を助けて家に戻るなんてできるのか!?)』

京子『(……無理だ!!どう足掻いても不可能だ!!)』

京子『(体は諦めて結衣を助けるか?このままずっと幽霊として過ごすことになっても?)』

京子『…………』ギリッ


京子『やっぱりまた──』


京子『(……いや)』

京子『(あの時私はあかりを助けられなかった……! 自分可愛さに逃げたから……!)』

京子『私が逃げたせいで……!!』



京子『────!!』ブチッ

京子『こんなものいらない!!』ブンッ

ダッ

京子『(今度は逃げない!)』

京子『(体に戻れなくなるのがなんだ!結衣が死んじゃうのと比べたら全然大したことない!)』

京子『(あかりは助けられなかった、結衣まで助けられないなんて、そんなの嫌だ!!)』

京子『私はどうなってもいい……!!絶対に結衣を救ってみせる……!!』


京子『私が結衣を助ける!!!』

京子『確か前学校で習った……水で濡らした布で火を覆えば火が消えるって』

京子『この火に耐えられるくらいのなにか大きな布……』


京子『そうだ!毛布を使えばいいんだ!』

京子『毛布を風呂場で濡らせば……!』バッ

京子『まずは浴槽に水を貯めよう!』キュッ

ジャーーーーー

京子『よし!!』ビチャ


京子『それっ!!』バサッ

シュゥッ

京子『ちょっと火が小さくなった!!』

京子『もう一つの毛布も濡らして火に被せれば!!』バッ

ビシャッ

京子『もう一丁!!』バサッ

シュゥゥ……

京子『あとの火はお風呂場のシャワーで!!!』


ジャーーーーー


京子『もう一押しだ!!』

京子『バケツで一気に押し切るぞ!!』



京子『いっけぇ!!!』バシャァ!



シュゥゥ……


京子『よっしゃ!!これならなんとか!!』


京子『結衣!!結衣!!』グイッ

結衣「? げほっ……!なんだ……?服が引っ張られ……」

結衣「! 火が弱くなってる!」

京子『早く逃げて!!』

結衣「よくわからないけど、チャンスだ!」ダッ


タッタッタッ

────


結衣「ハァハァ……な、なんとか出られた……」



京子『よかったぁ……』

京子『私、結衣を助けられたんだ……』

京子『結衣が無事で、本当によかった……』


京子『……この火事、どこから起こったんだろう』

ヒュー

京子『うわぁ……上から見たらかなり酷いな』

京子『これは結衣の部屋もダメそうだな……』

京子『消防車は……もう向かってるな』

京子『この距離だとすぐに着くか』


京子『ん?』

京子『さっきからずっと見てる人がいる……?』

京子『(あの人、私が結衣の家に突っ込む前からあそこに居た……)』

京子『(野次馬が居ても不思議じゃないけど、だったら普通あんなに離れたところから見るか?)』

京子『(警察の人から聞いた犯人の特徴)』

京子『(黒い服……帽子……眼鏡……手袋……)』

京子『(それに見せてもらった人相書きを思い出せ……)』

京子『あいつは……』


京子『──放火魔だ!!』



放火魔「ふふふ……いい色だぁ」


京子『…………』


放火魔「いいぞ……燃えろ、もっと燃えろ」

放火魔「へはは……あははははは!!!」


京子『……なに笑ってんだよ』


グッ


京子『っ! お前のせいで……!!』ブンッ!

ガツン!!

放火魔「いぎっ!!??」

放火魔「な、なんだ!?石!!?」

京子『お前があかりを……!!ブンッ!

放火魔「がっは……!!」


京子『返せよ……!!』バキッ

京子『あかりを返せよ!!』


ガンッ

ベキッ

グチャッ


グチャッ


グチャッ


グチャッ


グチャッ


放火魔「…………」


京子『ハァハァ……』

京子『……やったよあかり……私、あかりの仇取ったよ』


ガヤガヤガヤガヤ

京子『人が集まってきた……こいつが見つかるのも時間の問題だな』

京子『後は誰かが見つけてくれる……』

京子『全部終わったんだ』

────


京子『ただいまー……』

京子『って、なんとなく戻って来たけど、家に戻って来ても意味ないんだよな』

京子『はぁー……これからどうしよう……』

京子『結衣を助けられたのはいいけど、ずっとこのままなんだよなぁ』

京子『目の前に私の体があるのに、もう私じゃ動かせないのか……』

京子『……まぁでも、いっか』

京子『少しすっきりしたよ、私が結衣を助けたんだ』

京子『それに仇も取った、後悔はないっ!』

京子『……完全にないとは言い切れないけどね』

京子「…………」

京子『この体とも、もうおさらばか』スッ





京子「…………」パチッ



京子「あれ……?」


京子「えっ、なんで……?」

京子「なんで戻れてるの……?」

京子「そんな……一時間経ったら戻れないはずじゃ……」





京子「あ、あはは……そうか……」

京子「あの本に載ってたことって全部デタラメだったんだ……」

京子「あの時、逃げる必要なんてなかったんだ……」

京子「あかりを助けに行っとけばよかったんだ……」

京子「あんな本、信じなきゃよかった……」



京子「あかりぃ……」



京子「くっそぉ…………」




結局私が悪かったんだ

あんなどこの誰が書いたかもわからない本なんかを信じるより、あかりを助けるべきだったんだ




あかり、ごめんね。助けてあげられなくて

なんの償いにもならないけど、これからあかりの分までしっかり生きるから

ごめんなさい

本当にごめんなさい

見捨てたりしてごめんなさい

来世とかあの世ってのがあったとして、いつかもしまた会えるなら

その時はまた、みんなで部活しよう



おしまい

こわひ

あかりが不憫すぎるけどなかなか良い

やめろや…
ラム子先生の漫画オチにしろよふざけんな

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年03月08日 (日) 21:34:23   ID: Vninwxyp

見事に本にだまされたな京子・・・

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