理樹(二木さんと葉留佳さんの3人で逃げ出したあと僕らはアパートの一室を借りた。アパートと言っても3人が充分住めるほど広くて暮らすだけなら申し分無かった)
理樹(でも問題はなんと言ってもお金だった。そこは葉留佳さんと二木さんがバイトをして僕は親の財産を管理している伯父さんからの仕送りをなんとか多めにしてもらう事で生活は安定した。ただ家事全般は僕の仕事である)
理樹(たまに恭介達も遊びに来て実に和やかな暮らしを営んで来たが、ここ最近になって両家の二木さん達を追い込んだ側の人間が遂に絶縁状態になったので僕らは晴れてあの町へ戻ることになった。簡単な荷造りは済ませたのでこの2日間は____特に2人がバイトで僕だけが家を支配しているこの朝は物凄く暇だ、だから今日は>>3でもしよう)
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長い産業
素振り
理樹(素振りをしよう。この暮らしに慣れてからバットは恭介達が遊びに来る日曜日しか握らないし、もう少し練習しておかなくちゃ)
理樹「ふっふっ!」
ブンブンッ
理樹(気付けば昼頃になっていた。構わずベランダで勤しんでいるとドアが開く音がした。いったいどちらが帰ってきたんだろう…)
>>7
そっと除く
理樹(ベランダから出るとそっとカーテンから覗いてみた)
佳奈多「ただいまー……誰も居ないのかしら?直枝は買い物?」
理樹(少し息を潜めてみよう)
佳奈多「…やはり1人のようね。この間に着替えでも済ませちゃおうかしら」
理樹「なっ!」
佳奈多「?」
シーン
理樹(あ…危なかった…いや、今のうちに出た方がいいのか!?どうしようか)
1.早めに出てみる
2.最後まで隠れてみる
安価は次のレス
理樹(ドクドクと激しい鼓動が耳に残る。この音で気付かれないか心配な程だ)
佳奈多「……」
理樹(パサッ、パサッと二木さんを取り囲む布たちが落下する音が聞こえる。ここまで来たら抜け出す方が愚かという物だ、黙ってトイレに行くまで耐え忍ぶしかない)
佳奈多「手が荒れてきたわ…そろそろ化粧水も補充しないとね」
理樹(もしも彼女が着替えて居ないならそこで僕が『無くなってたから昨日買っておいたよ!』と言えるんだけどなあ……。幸運とも不運とも言える不思議な時間が過ぎて行く)
理樹(するとまた、けたたましいベルの音が鳴った。今度は葉留佳さんだろう)
葉留佳「やはー!ただいまーはるちんのお帰りだぁーっ」
佳奈多「あらお帰りなさい。直枝は来てないわよね?」
葉留佳「えっ、理樹君今居ないの?…ってうわお姉ちゃん下着だけじゃん!えっろ!」
理樹(一瞬、ほんの一瞬だけ二木さんのあられもない姿を想像してしまった。深い罪悪感が僕を襲う)
葉留佳「それにしてもだいぶマシになってきたね、人に見られるの」
佳奈多「ええ、こんな生活してれば嫌でも慣れるものよ」
葉留佳「さぁーってお次は佳奈多のバストスゥワイズを測りますかなー!?」
佳奈多「キャッ!ちょっと葉留佳っ!!」
理樹(二木さんの戸惑う声が聞こえたかと思うと僕が砦としていたカーテンが躊躇いもなく開かれた。その後僕が見た光景と言えばバランスを崩して転けた二木さんの顔だった)
佳奈多「あ……」
理樹「え、えっと…大丈夫?」
佳奈多「この…変態スケベ盗撮魔ーーっっ!!!」
バチンッ
理樹「と、盗撮まではしてないよ…というかあの時まで見てすら無かったし」
佳奈多「それでも結局は見たじゃない!それに何故あそこで隠れてたのよ!?」
理樹「す、素振り…」
理樹(この後も30分くらいこってり絞られた)
夕方
理樹「今日はお鍋にしちゃおうか」
葉留佳「やった!」
理樹「だから葉留佳さん買い物手伝って」
葉留佳「ナニー!?」
理樹(そしてスーパー)
理樹「えーともう調味料は買いたくないし出来合わせの奴がいいし…」
葉留佳「理樹君見て見て!」
理樹(葉留佳さんが袖を掴む)
理樹「どうしたのさ?」
葉留佳「あっちに>>14が!買ってみよーよ!」
プロテイン
理樹「いやこれは…」
理樹(葉留佳さんが指差したのは大量のプロテイン。ポップには『発注する量一桁間違えてました、これ売り切れなかったらクビが飛ぶので買ってください』ときた。買うしか無かった。)
帰り道
理樹「ま、まあ真人のお土産と思えば…」
葉留佳「ところで理樹君さあ、お姉ちゃんのことどう思ってるの?」
理樹「ええっ!?」
葉留佳「あんな何処かの映画で見る様な展開でお姉ちゃんを助け出しちゃったんだし本当の所好きなんじゃないの?」
理樹「う……」
理樹(僕は…確かに二木さんのことを意識していないと言えば嘘になる)
理樹(今はおぼろげな記憶でしかない夢の世界で過ごした時は胸を張って楽しかったといえるし、今の生活も同じぐらい好きだ。)
理樹(だけど二木さんへのこの気持ちが男女の愛かと言われると近くで過ごし過ぎて分からなくなってきている)
葉留佳「無言は肯定と受け取ったぁーっ!早速お姉ちゃんに言ってやろ!言ってやろ!」
理樹(そこまで考えていると葉留佳さんが走り出した)
理樹「ち、ちょっと待ってよ!」
葉留佳「あははー!さあ追いかけてくるのだーっ」
グツグツ
「「「いただきます」」」
佳奈多「うん。美味しいわ…やはり直枝は専業主夫ね」
理樹「えへへ…そうかな」
葉留佳「帰ってきた佳奈多を優しく介抱する理樹君。そこにハンカチを噛み締めて悔し泣きするはるちん…はあ、いとかなし」
理樹(葉留佳さんがオーバーに泣くフリをした)
佳奈多「は、はあ!?なんでこんな変態と結婚しなきゃなんないのよ!」
理樹「うわあ、それは少し傷付くなぁ」
佳奈多「えっ…いや、ごめんなさい。す…少し言い過ぎたかしら……」
理樹(二木さんが申し訳なさそうに謝った)
葉留佳「いやはや鬼の佳奈多も丸くなったものですなあ」
佳奈多「誰が鬼ですって!?」
葉留佳「おーくわばらくわばら!」
理樹「とりあえず食べようか…」
理樹(そんなこんなで今日も夜は更けていく……いよいよ明日が最後の一日だ)
続く
>>2
まったく。精進あるのみですな
朝
理樹「おはよう…早いね二木さん」
理樹(午前6時。彼女は既に普段着に着替えていてコーヒーが入ったマグカップを持っていた)
佳奈多「だってここに居られるのは今日だけですもの。直枝はコーヒー飲む?」
理樹(インスタントだけど。と付け加えて席を立った。返事を聞かずに入れてくれたのは僕が毎朝飲む習慣を知っているからだろう)
理樹(ほんの少し寒い部屋にポカポカと明るい朝日が雲の切れ間から覗く。スプーンがカップにぶつかる音以外何も聞こえない世界だ)
理樹「毎日騒がしいせいか今の時間がとても特別に思えるね」
佳奈多「葉留佳が居ないだけでこんなにとはね…」
理樹「葉留佳さんが聞いたら怒るよそれ……」
理樹(二木さんから手渡されたコーヒーを飲みながら今日どうするか考えた。せっかく2人がいるし>>20)
そっとしておく
理樹(そっとしておこう。最後くらいダラダラここで一日過ごすのも悪くない)
佳奈多「朝ご飯は買い置きのパン…か。最後の朝食がこんなに味気ないとはね」
理樹「もうお皿もしまっちゃったからね」
佳奈多「本気で言ってる訳では無いわよ」
トテトテ
葉留佳「おはよぉ…」
理樹「おはよう、葉留佳さん」
佳奈多「髪が跳ねまくってるわよ?」
葉留佳「ん…」
理樹(そのまま洗面所に行ってしまったのがなんとなく可笑しくなって笑った。二木さんの方を見ると僕に微笑み返してくれた、学校にいる頃ではあり得なかっただろう)
理樹「ごちそうさま」
理樹(クリームパンを食べるとまた眠たくなる。今日はゴロゴロすると決めたし少し眠っても……)
………
…
理樹(目が覚めた…僕はいつまで寝ていたんだろう)
理樹「ううん…」
理樹(目を開けると僕の前に>>24)
バニースーツの佳奈多さんが
理樹「………えっ」
理樹(目の前にはカジノで出てくる様なバニースーツを着た二木さんが苦虫を噛み潰した顔でこちらを見ていた)
佳奈多「くっ!」
ズブ
理樹「痛い!」
理樹(急に目潰しをされてしまったお陰で目はハッキリ覚めた。ありがとう二木さん)
理樹「どっ、どうしたのさ!?」
理樹(目を開けられないでいると葉留佳さんの声が聞こえた)
葉留佳「うわお姉ちゃんエゲツな!てゆーか目潰しとか反則!」
佳奈多「だって急に直枝が起きるからっ!」
理樹(ことの始まりはこうだった。2人は僕が寝てしまった後、暇を持て余した葉留佳さんの口車に二木さんが乗せられ、罰ゲームを用意した勝負を始めてしまったらしい)
理樹「それで罰ゲームがバニー?」
葉留佳「ちょうどあったから」
理樹(ちょうどある家庭ってなんなんだろう)
佳奈多「と、とにかく罰は受けたわ!着替えてくるからっ」
理樹「むしろ受けたのは僕の方なんだけど…」
理樹(ちなみにあの後どんな勝負内容だったのかを聞いたけど2人とも口を揃えて『喋るなら死んだ方がマシ』という答えだった)
理樹「目がシパシパする…」
佳奈多「じ、自業自得よ」
葉留佳「そりゃー無いんじゃないお姉ちゃん?」
理樹(とニタニタした葉留佳さん)
佳奈多「……何が言いたい訳?」
葉留佳「お姉ちゃんは理樹君に償いをするべきだと思います」
佳奈多「うっ…な……」
理樹(反論しようと思ったがあまりに正論だったせいでまさに「ぐぬぬ…」な感じだった)
葉留佳「おおいたわしや理樹君よ。さあ今こそ復讐の時」
佳奈多「先に言っておくけど無茶なこと言ってもやらないわよ?」
理樹「>>27」
謝罪と賠償を要求する!
理樹「じ、じゃあとりあえず謝って…?」
佳奈多「なんで疑問系なのよ…まあその……ごめんなさい」
理樹「えへん」
理樹(凄いや、二木さんを謝らせるだけでここまで満足感を得るとは!)
理樹「じゃあ次に…」
佳奈多「まだあるの!?」
理樹「なにさ?」
理樹(自然と気持ちも大きくなる)
佳奈多「後で張り倒すわよあなた…」
理樹「次に賠償を要求するっ」
佳奈多「賠償を?」
理樹「お金は生々しいから>>29で手を打つよ」
人生
理樹「代わりに君の人生をもらおう」
佳奈多「………はぁ?」
理樹「これから君の人生は僕の物さ!」
理樹(二木さんの顔がみるみる赤くなる)
葉留佳「こ、これは…」
佳奈多「そ、それは…つまり……ど…どういう事…よ」
理樹(僕は何かおかしな事を言ったのだろうか。周りの空気が一変した)
理樹「どういう事って、そのままの意味だよ」
佳奈多「あ、あんた馬鹿!?」
理樹「それでどうするのさ」
佳奈多「……少し時間を頂戴」
理樹「ダメだ、これは義務だよっ」
葉留佳「り、理樹君すご…」
佳奈多「直枝……あなた」
理樹「じゃあまず僕の番だった風呂掃除よろしくね」
佳奈多「は?」
葉留佳「へっ?」
理樹「え?」
理樹(辺りが僕が寝る前の朝のようにしんと静かになった)
理樹「どうしたの?君は僕の召使いみたいな物なんだからさ、早く動いてもらわなくちゃ」
佳奈多「……………殺してやる…」
理樹「ええっ!?」
葉留佳「オウ、マイガット!」
理樹(その後どうなったかはご想像にお任せする)
理樹「し、染みる…」
葉留佳「文句言わない!あれは流石に理樹君が悪かったですヨ。うん」
理樹「悪かったとしても引っ掻く事ないじゃないか…」
葉留佳「それにしても晩ご飯はどうするつもり?」
理樹「えっ?」
佳奈多「まさか最後の晩餐までスーパーで買ってきた弁当だなんて言わないわよね?」
理樹「ああ、それについては心配無いよ。確かもうすぐ…」
ピンポーン
理樹「ほら来た」
理樹(実に一週間ぶりの再会だけどそれも今日で終わりだ)
ガチャ
理樹(扉を開けてあげるとびっくり箱の様に彼らは飛び出してきた)
恭介「いやっほーう!サタデーナイトフィーバーだぜっ!!」
クド「わふー!」
真人「よっしゃぁぁ!盛り上がって来たぁぁああ!」
佳奈多「棗先輩…それにクドリャフカ達まで」
葉留佳「じゃあ皆で食べに行くの!?」
理樹(キラキラした顔で葉留佳さん)
理樹「うん。最後くらいはパーっとね」
葉留佳「やったー!理樹君大好き!」
来ヶ谷「おやおや、さっそく告白か?」
葉留佳「そそそそんな意味で言ってませんヨ!」
理樹「あははっ」
佳奈多「貴方もなかなかやるじゃない」
理樹「そ、そう?」
理樹(二木さんに褒められるとは珍しい)
謙吾「よぉし、では早速出発だあ!」
真人「目指せ全メニュー制覇!」
西園「やるのは構いませんが井ノ原さんは別料金ですね」
ジャーッ
小毬「ほわぁぁあ~っ鉄板が火事にぃ~っっ!?」
理樹「小毬さん、あれは心配しなくともパフォーマンスの一部だから大丈夫だよ」
小毬「そ、そうなの……?」
理樹(僕らが来たのは少し遠い鉄板焼きのお店。彼らの芸当はとても真似出来ない感動の連続で、食べるのも忘れてしまうほどだった)
佳奈多「よくこんな店見つけたわね」
理樹「恭介が協力してくれたんだ。あっ、見て!」
佳奈多「わっ」
車内
真人「へぇ~食った食った」
理樹「いやぁ、楽しかったねえ」
葉留佳「旅立つ前にいい思い出が出来ましたネ」
佳奈多「ええ。今日は素敵な時間を過ごせたわ」
恭介「礼なら理樹に言ってやってくれ」
クド「それで葉留佳さん達は明日の朝に出発でしたか?」
葉留佳「うん、なんとか日曜日に部屋を元通りにして久々の学校だー!」
真人「ふっ、理樹と寝れることをどれだけ待ちわびたことやら…」
理樹「なんだかごめんね」
佳奈多「クドは寂しくなかった?」
クド「はい。夜な夜な来ヶ谷さんや小毬さん達が遊びに来てくれたのでっ」
来ヶ谷「うむ。私には子守の才能がある事を実感出来たよ」
クド「わふー!私は赤ちゃんじゃありませんっ!」
理樹「あはははっ!」
理樹(最後まで笑って過ごせたのであのアパートを離れるのは少し寂しかった。だけどすぐにまた騒がしい毎日が始まる。そう考えると子供の様に心がワクワクしたんだ)
理樹(あれから数年後。僕は物凄くもやもやしていた、原因は自分でも分かっている)
佳奈多「………」
理樹(二木さんはニコリと笑った。あれほど幸せそうな顔は見た事がない…学生時代にいつもしかめ面だった彼女に比べると、とても喜ばしいことだ)
「~~~」
佳奈多「~~~」
理樹(ただ一つ。たった一つだけ僕をもやもやさせているのは、その笑顔が僕に向けられているわけではないということだ)
続く
理樹(僕は大学生になった。やりたい事がまだ見つからなかった時、恭介や先生からそう進められたからだ)
真人「いや、それにしても理樹が理系に入っちまったら一緒に入れない所だったぜっ」
理樹「いやまぁ僕もそこまで頭が良い訳じゃないからね…」
鈴「そういえばなんでついてきたんだお前」
真人「んなこと言うなよっ!?友達だろーが!」
理樹(皆見事にバラバラに散らばったが真人と鈴はなんとか同じ大学に入れた。本当は親友がそこに入るからという理由じゃダメなんだけど…)
理樹「とりあえず講義も終わったし帰ろうか」
真人「おうっ!」
理樹(ちなみに僕らはまた飽きず大学寮に入った)
部屋
真人「あー…疲れた」
理樹「いやいやいや…疲れたって今日も寝てたじゃないかっ」
理樹(まったく何故真人は合格出来たんだろう)
真人「なあ明日どっか遊びに行こうぜ、鈴も誘ってよ!」
理樹「ごめん、明日は予定があるんだ…」
真人「まさか…だ、大学に俺達と並ぶ親友が出来ちまったのかぁぁーっ!?」
理樹(物凄くショックな顔で頭を抱えた。そこはむしろ喜ばしいことだと思うんだけど…)
理樹「違うよ、明日は葉留佳さん達と遊びに行く予定だったんだ」
真人「『達』?」
理樹「二木さんだよ。卒業した後も何度かそうして縁があるんだ」
真人「なんだよもっと早く言ってくれれば良かったのによぉ」
理樹「いやでも……まあ真人も行きたいなら止めはしないよ。鈴にもメールしておこうか」
真人「そうだなっ」
次の日
駅前
理樹(寮から20分、着いてみると2人は何やら雑談していた)
理樹「ごめん、待った?」
葉留佳「そんなこと無いですヨっ…あっ、真人君と鈴ちゃん本当に来たんですネ!」
真人「げっ、三枝ぁ!」
理樹「いや知ってたでしょ…」
佳奈多「問題児が2人揃ってしまったわね…」
真人「誰が問題児だ!」
佳奈多「貴方の事よ!」
鈴「なんかこういうの懐かしいな」
真人「くそっ、ダメだ理樹、この姉妹は俺と愛想が悪い!」
理樹「それを言うなら相性でしょ?だから言ったのに」
葉留佳「まーここまで来ちゃったんだし、出発進行ー!」
理樹(リトルバスターズ全員じゃないとはいえ、こんな大人数で街に繰り出すのは久々で楽しかった)
真人「俺の歌を聞けぇ!!」
葉留佳「シャカシャカヘイ!さあ鈴ちゃんも一緒にっ」
鈴「…シャカシャカヘイ」
佳奈多「次は何にしようかしら…」
理樹「………」
佳奈多「…何?顔になにか付いてるかしら」
理樹「ああっ…いや何でもないよ…」
佳奈多「おかしな人」
理樹(実は僕はこの所妙に二木さんが気になる。物凄くモヤモヤして煮え切らない気持ち。どうしたんだろう、別に喧嘩もしている訳ではないのに)
あれっ、いつのまに名前欄変わってたんだ…
真人「いやぁ、久々に歌ったぜ!」
葉留佳「まさか真人君があんなに歌上手いとは思ってませんでした…」
鈴「確かに奴は得意だな」
佳奈多「あなた一度それでプロ目指してみたら?」
真人「いや照れますな!」
葉留佳「じゃあそろそろ晩ご飯行っちゃう?」
真人「賛成!」
理樹「………」
鈴「理樹、具合いでも悪いのか…?」
理樹「あ、ごめん…ちょっと考え事してた」
佳奈多「そのまま思いにふけりながら自転車に轢かれたらいいのに」
理樹「なんてこと言うんだ!?」
レストラン
理樹(なんだか、二木さんと一緒にいると理由の無い不安に襲われた時のような気持ちだ。むしろこの際、一度喧嘩してみたらスッキリするだろうか…よし、やってみる価値はある)
葉留佳「ね、メニュー貸して!」
佳奈多「自分で取りなさいよもう…ほら」
理樹「ねえ二木さん、>>45」
これとこれ二人で頼んで味見しない?
理樹「ねえ二木さん、この右のと左のを食べ比べしない?」
佳奈多「はぁ?嫌よ絶対」
理樹「お願いだよ、どちらも美味しそうだけど全部食べきれないから…」
佳奈多「なんであんたなんかと家族みたいな事しなきゃならないのよ!そんなに食べたいなら隣の親友に頼みなさい。彼なら残飯でも食べるでしょうから」
真人「えっ?俺と理樹は家族じゃねーぞ?まあそれ同然だがな」
理樹「もっと突っ込む所あったでしょ!?…じゃなくてもしかして二木さん潔癖性なの?コミュニケーション能力足りてる?」
佳奈多「異性なら誰だって嫌がるわよっ!」
鈴「私は構わないぞ」
葉留佳「私もー」
理樹「ね?」
佳奈多「あんた達がおかしいだけよ!」
理樹「もしかして二木さん友達少ないんじゃない?」
佳奈多「余計な……お節介よっ!!」
パシンッ
駅前
理樹「う…」
理樹(まだ頬がヒリヒリする…ちなみに僕の思いは解決しなかった)
佳奈多「ふ、ふん!自業自得よっ」
鈴「確かにあれは言い過ぎだった」
理樹「ごめん…」
葉留佳「じゃー帰りますか」
鈴「葉留佳達は逆方向か」
葉留佳「うん。今日は楽しかった、またね~」
理樹「またね、2人とも」
佳奈多「さよなら」
理樹(モヤモヤを残したまま踵を返し、さあ帰るぞという所で低い声が聞こえた)
「佳奈多君!」
つづく
佳奈多「あなたは…!」
理樹(知り合いなのだろう、二木さんは今叫んだ男の人の元に駆け寄った)
佳奈多「~~~」
「~~~」
理樹(2人は何やらごにょごにょと僕らの方を向いて話しあっていた)
真人「誰だあのおっさん」
理樹「葉留佳さん知ってる?」
葉留佳「いやぁ…やはは……」
理樹(訳ありなんだろう、葉留佳さんは少し困った顔で笑って誤魔化した)
「~~~」
理樹(男の人は見たところ僕らより10年は年をとっているであろう人物だった。物腰は紳士的で初対面の人間にはまず悪い印象を与えない感じだ)
理樹(2人は数分ほど話し合うと二木さんがこちらへ戻ってきた)
鈴「さっきのは誰だ?」
佳奈多「えっ…あ、ああ!彼はただの大学の友人よ、たまたま会ったから思わず話し込んでしまったわ」
理樹(顔を少し紅潮させて話した)
真人「ついに風紀委員長も年貢の収め時か…」
理樹「………!」
理樹(真人の言葉で僕は目が眩むような錯覚を受けた。両耳は火が灯ったように熱くなり、その熱がまっすぐ腹に溜まるような感覚……とても気持ち悪い、喉から思った様に声が出なくなって吐き出す息も震えている)
佳奈多「だからただの友達って言ってるでしょうが!」
鈴「顔が赤いな」
佳奈多「なってないわよっ」
理樹(二木さんが否定すればする程、腹の炎は燃えたぎる。それは彼女がすっぱり否定しているのではなく満更でもない様子だからだ)
理樹「それじゃ…今日はこの辺で……」
佳奈多「あら、少し顔色が悪いわ…大丈夫?」
理樹「だ、大丈夫…疲れただけだからさ…」
佳奈多「本当に?気持ち悪くなったら2人に助けられなさいよ」
理樹「本当に大丈夫だよ!」
佳奈多「……っ!そ、そう…」
理樹(今だけは二木さんに優しくしてほしくない…それが大声を出してしまった原因だ。恥ずかしい)
真人「おい…どうした理樹?」
理樹「あ…いや、なんでもないよっ。ごめん、こんな形で終わらせちゃって」
葉留佳「………」
葉留佳「いやいやそんな事ないッスよ理樹君!さー、帰りましょうお姉ちゃんっ」
佳奈多「ええ、また会いましょうね」
鈴「またな」
理樹「うん…」
寮
理樹「………」
理樹(今日、最後にやっと抱いていた気持ちが分かった…これは恋だ。僕は二木さんの事が好きなんだ)
理樹(でもこの感情を今になって芽生えさせたのが遅いのか元からあった想いに気付くのが遅過ぎたのか…どちらにしろ手後れかもしれない…)
佳奈多『~~~』
『~~~』
理樹(あれは何を話していたんだろう。どちらにしろあの二木さんが笑顔を向ける人はそう居ない)
プルルルル
理樹「?」
理樹(葉留佳さんからメールが来た)
『今電話出来る?』
理樹(うん、と返事をした。そしたら直ぐにかかってきた)
ピッ
葉留佳『もしもし?』
理樹「やあ葉留佳さん。いったいどうしたの?」
葉留佳『理樹君ってさ』
理樹「うん」
葉留佳『佳奈多のこと好き?』
理樹(………)
理樹「…うん」
葉留佳『まあそりゃそうだよねっなんせどこかの映画よろしく花婿から奪略してきたんだから』
理樹「あはは…」
葉留佳『今日の理樹君を見てどうしてもお姉ちゃんに聞いておかなきゃと思ったの』
理樹(もはや主語は必要なかった。そして出来れば次の言葉も聞きたくは無かった)
葉留佳『佳奈多、あの人のこと好きなんだってさ』
理樹「……ありがとう」
葉留佳『大丈夫、まだ付き合ってる訳じゃないしチャンスあるって!』
理樹「掴むには遅かったかもしれないね。数年前なら…」
葉留佳『それはもう終わっちゃったこと。だけど理樹君はそれで絶対佳奈多から好印象なはずだからさ』
理樹(他人ほど希望的観測を言う。だけど確かにまだ諦めるには早い)
理樹「うん、ありがとう葉留佳さん。やれるだけやってみるよ!」
葉留佳『その調子その調子!じゃあ引き続き動きがあったら言うから』
理樹「感謝するよ」
葉留佳『じゃあお休みなさーい』
理樹「お休み」
ピッ
真人「そうだったのか…!」
理樹「うわっ!?」
理樹(気付けば隣で真人が盗み聞きをしていた)
理樹「趣味悪いよ真人!」
真人「悪いな、理樹が何やら深刻な顔してたんでつい…」
理樹「本当に悪いよっ」
真人「だがまあ状況は把握した。理樹は二木の事が好きで二木はあのおっさんが好きでおっさんは理樹が好きな訳だな?」
理樹「なんで完璧な三角関係が結ばれてるのさ!?」
真人「えっ…違うのか?」
理樹(ここまで来たら全てを話すしかなかった)
真人「ふーん」
理樹「なんで自分からこんなことを…」
真人「まあお前が倒そうとしている敵はなかなか強敵だ。いいだろう、来ヶ谷の時のように俺が人肌温めてやるぜ!」
理樹「来ヶ谷さん?」
真人「あっ…いや、なんでもないです……」
真人「しかしそれなら他に協力者が必要だな」
理樹「そうだね…真人だけじゃ頼りないし」
理樹(誰か助けてくれそうな人は……)
1.恭介
2.謙吾
3.小毬
4.西園
5.来ヶ谷
6.クドリャフカ
>>57(複数可)
256
理樹「謙吾と来ヶ谷さん、それにクドとかどうかな」
真人「なかなか俺が頼りないと見えるな」
理樹「いやそういうつもりじゃ…」
真人「まあなかなかいい人選だなっ。ロマンティック大統領として名高い謙吾、こういうことに関しちゃなんとかしてくれそうな来ヶ谷の姉御。それから…それからなんでクド公なんだ?」
理樹「ツッコミ役が足りなくなる気しかしないからだよ」
真人「理樹らしいな!」
理樹(明日はちょうど日曜日なのでさっそく全員にメールで連絡すると余計な事を出来るだけ考えずさっさと寝ることにした。こうして夜は老けていく……)
日曜日
理樹
真人「第一回!理樹の恋煩いを解消してやろうぜ選手権~っ!!」
謙吾「いやっほーう!!」
クド「わふー!」
来ヶ谷「うむ。今度はちゃんと漢字が書けた様だな」
真人「ちなみに事情はメールで送った通りだ。それじゃ始めよう」
理樹「皆ありがとう…」
来ヶ谷「いやいや、せっかくの理樹君の頼みを無下に出来る人間は居ないよ。だが自体はややこしいな…佳奈多君はゲイに惚れていたとは……」
理樹「全然送った通りじゃないよっっ!!」
来ヶ谷「なるほど、少しおかしいと思ったのはこういうことか」
謙吾「しかしその相手は俺たちより遥かに年上なんだな?」
クド「わふー…女の人は年上の魅力に弱いのです」
理樹「クドも年上の人がいいの?」
クド「ごめんなさい、そういうのは私よく分かりませんっ」
来ヶ谷「すまないが君はもう黙っててくれ」
クド「わふー!?」
鈴「なーなー」
理樹「どうしたの?」
鈴「大学ていうのはあんなおっさんでも入れるのか?」
来ヶ谷「それは問題ない。実際私もお爺さんと呼んでも差し支えない程の年配の人間を見かけたこともあるくらいだ、しかし佳奈多君はそこの生徒とは言っていないしここは大学に勤めている側だと考えるのが妥当だろう」
謙吾「同じ大学でないのが痛いな。あちらの距離感がまったく分からん」
理樹「そこは葉留佳さんがこれから報告してくれるよ。なんだかスパイみたいで気が引けるけど…」
来ヶ谷「その程度で罪を感じてどうする?好きな者のためならどんな手段を持ってしても相手を蹴飛ばすのだ」
理樹「ううーん…」
謙吾「それにしても10歳下の人間となどそいつもロリの匂いがするな」
クド「ロリ…ってなんでしょうか?」
理樹「クドは知らない方がいいかもね」
恭介「ぶえっくしょん!」
「あらどうしたの棗君?」
恭介「いや…誰かが俺の噂をしたらしい」
「にゅふふ、それ本当に言ってる人初めて見たわっ」
謙吾「好きな奴がいる女性と付き合うというのは相当なことだがそれも親友の頼み…必ず成就させよう」
真人「ああ!こういうのはなんだか昔を思い出すな」
クド「わふー!れっつびぎん!なのですーっ!」
鈴「パス」
来ヶ谷「ふっ、久々のリトルバスターズの活動という訳か…ならば行動あるのみだ。理樹君にはさっそく>>64を命ずる。ミッションスタートだ!」
変装
~~~ミッションスタート~~~
大学
理樹「こちら理樹。大学内に潜入成功….」
来ヶ谷『いいぞ、大学ほどセキュリティが緩々な施設は無い。私も高校の時、度々別の大学の講義を受けてみた物だよ』
理樹(僕の今の格好は伊達の丸メガネに付け髭、古風なステッキとこれまたシックな帽子といった時代錯誤な変装だった)
来ヶ谷『それではさっそく例の男にコンタクトを取りにいくんだ、中庭のベンチに葉留佳君がいるはずだから彼女に案内してもらいなさい』
理樹「分かった」
中庭
理樹(中庭に着くと割とスムーズに葉留佳さんと会えた)
葉留佳「ちょっ…理樹君それ……っっ」
理樹「突っ込むのは後にしてくれないかな…泣きそうなんだけど」
葉留佳「ちえーもったいない!…まあいいや、とりあえず例の人は今お昼ご飯食べてるはずですヨ!さあこっちこっち!」
食堂
理樹(食堂はなかなか人がいた。作りがなんとなく高校の食堂と似ていてノンスタルジーを感じる)
葉留佳「ほらあそこ…」
理樹(と葉留佳さんが指差す)
「……」
理樹「………居た」
理樹(彼は1人で席に着いていた。その横顔はとても穏やかで見ている人間の心をやすらげる様な…そう、まるで恭介のようだった)
来ヶ谷『よしいいぞ、そのまま相席しろっ』
理樹「う、うん…」
理樹(素早くメニューを選ぶと他の人に座られない内に席へ近付いた)
理樹「すいません、ここいいですか…?」
「私に言っているのか?別に構わないよ、席というのは座るためにあるのだからね」
理樹「……どうも」
続く
理樹(今回変装してここへ侵入したのはこの人と話すためだけだ。来ヶ谷さんいわくどうするにしてもまずは相手を知れ、ということらしい)
謙吾『相席だけではなく話しかけることに意味がある。さあ行け理樹』
理樹「うんっ」
「ん?」
理樹「あ、いやなんでも…はは」
理樹「え、えーと…向かい合ってただお互い静かに食事を取るというのもなんだし少しお話しませんか?」
「確かにその通りだ、それでは自己紹介からと行こうか…だいたい気付いているだろうが私はここで働いてる者だ、名前はジョンとでも呼んでくれ。ああ…それと私にはタメ口で構わない」
理樹「それじゃあ僕は直枝理樹、ここの生徒です」
「生徒だというのになかなか出会ったことがないな。よろしく直枝君」
理樹(それから差し当たりない会話を通じて彼がますます紳士なことが分かりはじめた)
来ヶ谷『ジョンは良い男だな。これなら佳奈多君だって嫌うはずがない』
クド『わふージョンさんは外国の方か私と同じ混血の方なのでしょうか』
来ヶ谷『だから君はもう黙ってろ』
クド『わふー!?』
「所で君、この麻婆豆腐とそのオムライスを一口交換しないか?がっつくようで行儀が悪いかもしれないがどちらも私の大好物なんだ」
理樹「別にいいですけど…」
理樹(そういってお互い皿を出した時だった)
佳奈多「あら、こんな所に居たのねっ」
「やあ佳奈多君。どうした?」
来ヶ谷『こいつはまずいな…理樹君、一旦ここは逃げろ。今すぐだ』
理樹「………」
佳奈多「今日は一緒に食べるはずだったはずです、約束をないがしろにしないでください」
来ヶ谷『理樹君?聞こえているのかっ』
理樹「……」
「いや、悪いね。そこの彼と会話が弾んだ物で」
佳奈多「あら…紹介してくれませんか?」
真人『理樹!!』
理樹「……はっ!」
「ああ、彼は…」
理樹「す、すいません!ちょっと用事がありましてそろそろお暇(いとま)しなくてはなりません!」
理樹(考えている場合じゃない、今はとにかく逃げなきゃ!ここの状況で正体がばれたら一巻の終わりだっ)
「おっと…!………行ってしまったか。久々になかなか話せる少年だったというのに」
佳奈多「で、結局誰だったんですか?」
「直枝…理樹と言ったかな」
佳奈多「直枝…!?何故ここへ……」
「どうかしたか?」
佳奈多「い、いいえ…」
寮
謙吾「まったく何をぼうっとしていた」
理樹「…ごめん」
クド「リキは悪くないのですっ!誰だってあんな状況なら言葉も出ませんっ」
理樹「クド…」
真人「どっちにしても抜け出せたのは間違いねーんだからいいじゃねーか」
来ヶ谷「それで…理樹君から見てあの男はどうだった?」
理樹「僕は…いい人だと思う。目つきとか雰囲気がなんだか恭介に似てたな」
来ヶ谷「なかなかの強敵といった所かな?まあ我らが少年も負けていないが相手に不足はない」
真人「ああそうだ!……で、次はどうするんだ?」
来ヶ谷「次はデートに誘え」
理樹「ええっ?」
家
ピロン
佳奈多「…直枝からメール?」
理樹『もしもし』
佳奈多「メールでもしもしって何よ…」
佳奈多「どうかしたの?っと」
ピロン
理樹『今日はいい天気だな!』
佳奈多「ふざけてるの?」
理樹『そんな事はない。ところでクリスマスは暇か?よければ一緒にイルミネーションを見にいきたいんだが』
佳奈多「一応スケジュールは空いてるけど葉留佳が時間あるかどうかね。ところでさっきから口調がおかしいような…」
理樹『気のせいさ。葉留佳君の件は心配しなくてもいい、行くのは僕と君だけだ。では25日にいつもの駅で』
佳奈多「勝手に決めるな!…でも暇って言っちゃったし一応あれでも恩人だから断るのも悪いし…くぅ」
数分前
理樹「い、いきなりデートに誘うのはちょっと急じゃないかな?それに相手は好きな人がいるし断られ…」
来ヶ谷「ええいうるさいお前は恋愛初心者か」
理樹「初心者だよ!」
来ヶ谷「埒があかん」
理樹(来ヶ谷さんは机の上の携帯をかっさらうとなにやら操作した)
理樹「えっ、ちょっと!何してるのさ!?」
理樹(すぐに止めようとしたら来ヶ谷さんが鈴に携帯を放り投げた)
来ヶ谷「それ鈴君。それが佳奈多君宛てのメールだ、なんでもいいから文章を書いて遅れ」
鈴「分かった」
理樹「鈴ー!」
鈴「最初は、もしもしだな」ピロン
理樹「返してよっ」
鈴「真人っ」
パシッ
真人「おっ、返事が来てるぜ。どれ…今日はいい天気だな!っと」
理樹「唐突過ぎるし今は夜だよっ!」
真人「ほれ謙吾」
謙吾「まったく見てて飽きれるな…」
理樹(よかった!謙吾は今は常識人だ)
謙吾「ちゃんと誘え。今はちょうどクリスマスに向けてイルミネーションがやっていたな…よし」
理樹「おかしい方の謙吾だった…」
謙吾「なかなかいい具合だ。来ヶ谷返すぞ」
理樹「だから人の携帯で回して行くのやめてよ!?」
来ヶ谷「よしよし。最後にトドメを刺して…と」
ピロン
理樹(来ヶ谷さんが送信し終わってからやっと取り返せた)
理樹「うわぁ…なんなのさこれ……」
理樹(発信履歴を見て唖然とする)
来ヶ谷「ふっふっふ。まあクリスマスを楽しみにしておけ」
理樹「うう…今から頭痛薬が飲みたくなってきた……」
数日後
理樹「ごめん待った?」
佳奈多「ええ、こんな冷える日に女性を待たせるとはどういう神経をしてるのかしら」
理樹「ご、ごめん…」
佳奈多「冗談よ。さっさと行きましょう」
理樹(謙吾に(強制的に)提案されたデートスポットは確かに悪くない…予想以上に色鮮やかで素晴らしい眺めだった)
理樹「凄いね…」
理樹(思わず声が漏れてしまう)
佳奈多「あなたって本当にありきたりな事しか言えないのね」
理樹「どうすれば気の利いたことが言えるかな?」
佳奈多「シェイクスピアと友達になれば?」
理樹(くだらないやり取りをしていても2人とも目はこの大々的にライトアップされた光に釘付けだった)
理樹「……」
理樹(チラリと二木さんを覗く。今まで意識していなかったけど、恵まれた身体つきに艶やかな髪、芯が通った透き通る目。どれをとっても彼女は綺麗だった。目の前の巨大な輝きにも勝るほどに)
理樹(来ヶ谷さん達はこのままではダメだと言ってたな…告白は無理にしても何かアピールをしないと)
>>76
二木さんってどうしてそんなに綺麗なの?
理樹「二木さんってなんでそんなに綺麗なの?」
佳奈多「!?」
理樹(凄い早さでこちらを向く)
佳奈多「いっ、今なんて…」
理樹「二木さんは何故きれ…」
佳奈多「いきなり何を言い出すのよっ!?気でも狂ったのかしら!」
理樹「だって二木さんがありきたりって…」
佳奈多「貴方は極端過ぎるのよ!」
理樹「じゃあ間を取ってごほん…可愛いよ二木さん」
理樹(怒りがそうさせているのか顔がみるみる内に赤くなる)
佳奈多「殺す…」
理樹「なっ、なんでさ!ちょっとストッ…」
ドンッ
理樹「あっ、ご…ごめんなさい!」
理樹(後ずさりした勢いで後ろの人にぶつかってしまった)
「ふぇ…大丈夫、お互い様ですよぉ~」
理樹「あれっ?その声は…」
小毬「?」
理樹「小毬さん!」
小毬「あっ、理樹君だー!久しぶりだねぇー!」
佳奈多「あら神北さん?」
小毬「あっ、かなちゃんも!」
理樹「小毬さんもここへ来てたんだね」
小毬「うんっ皆と一緒にイルミネーションを見にきたのです」
理樹「皆?」
来ヶ谷「おや奇遇だな2人とも」
理樹(この人性格悪過ぎる!)
佳奈多「ち、違うんですこれは!」
「おや?」
来ヶ谷「……」
「佳奈多君、それに君達は…」
佳奈多「そんな…」
理樹(振り返らずとも正体は分かった。あの耳触りがいい低い声を聞き間違える訳がない)
佳奈多「教授…」
「前も駅であったね。あの時は挨拶が出来なくて悪かった…それで君はもしかして佳奈多君の…」
理樹(他人から見ると二木さんが僕の腕を掴んでいた所なのでこの勘違いは当然の事だった)
佳奈多「ち・が・い・ま・す!」
「凄い言われようじゃないか!」
理樹「いやまあ…」
「このまま話していたいが私も姉に無理やり連れてこられている身なんだ、名残惜しいが今日はこの辺りで行かせてもらうよ」
理樹(そういうと彼は元来た道を引き返した)
佳奈多「今…絶対勘違いされたわ……」
理樹「かもね」
来ヶ谷「…では行こうか小毬君。また会おう2人とも」
小毬「ほえ?行っちゃうの?」
理樹「またね」
理樹(皆が去るのを見送ってまた2人きりになった)
佳奈多「……ねえ直枝」
理樹「なに?」
佳奈多「今日はもう帰っていいかしら…」
理樹「いったいどう…」
佳奈多「気分が悪いの!」
理樹「……!」
理樹(二木さんは目に少し涙を貯めていた。これでは帰さない訳にはいかない)
理樹「分かった…駅まで送っていくよ」
佳奈多「いい…」
理樹(そう言ってトボトボと歩き出した…心配なので少し離れて駅まで後を追って行った)
寮
理樹「……」
クド「…この終わり方は…その…」
真人「まあそう気にするなって!まだまだこれからじゃねーか!」
来ヶ谷「その通りだ。別に嫌われた訳でも無い、次の手を考えればいいだけの話だ」
理樹「うん…」
理樹(ここまで惨めな気持ちは体験したことがない)
謙吾「今日はもう寝ろ。明日になれば元気も取り戻せるさ」
理樹「うん……そうする。ありがとう皆」
鈴「じゃあ帰るぞ」
謙吾「さて、俺も行くか」
真人「見送って行くぜ」
理樹(………)
………………
………
…
理樹(あれから数日経った。皆も集まれないので進展はない)
理樹(僕はこのまま二木さんを狙っていていいのだろうか。二木さんは間違いなくあの人の事が好きだ、そこに僕が横から割り込む様な真似をして誰が喜ぶ?そもそも僕なんかが彼女を…)
来ヶ谷「こんばんわ」
理樹「うわぁ!?」
来ヶ谷「どうした、辛そうな顔だったが…」
理樹「な、なんで来ヶ谷さんが…というか真人は…!?」
来ヶ谷「真人少年なら銭湯へ繰り出したよ。彼はこういう事に関してはムードメーカーと言いづらい」
理樹「確かに…」
来ヶ谷「聞いた所によるとずっとこの事で悩んでいるらしいな」
理樹「…お恥ずかしながらね」
来ヶ谷「……」
理樹「!」
理樹(来ヶ谷さんは僕を突然抱きしめた)
理樹「な、な…」
来ヶ谷「我慢するな。今君は誰かに甘えたいはずだろう」
理樹「………」
理樹(確かにその通りだった。僕はあれからこんな温もりをずっと欲しがっていた)
来ヶ谷「ならお姉さん存分に使え。今はこうしてやるしか出来ない」
理樹「……ありがとう」
理樹(来ヶ谷さんは僕の顔を胸に埋めた。少し息苦しかったが柔らかな感触と心地いい人肌の前ではどうでも良かった)
同時刻
佳奈多「失礼します」
「おや、佳奈多君か。どうしたこんな時間に…親が心配するだろう」
佳奈多「もう心配されるような年では無いです」
「はっはっはっ。そうかそうか」
佳奈多「………」
佳奈多(私がこの男と出会ったのは大学に入って間もない頃だった)
数ヶ月前
佳奈多(それは大学の廊下で私がバッグの中の定期券を探していた時の事だった)
ガシャン
佳奈多「きゃっ…!」
佳奈多(私は前を見ないまま角を曲がってしまったせいで白衣の男性が持っているフラスコやピペットを乗せた盆をひっくり返してしまった)
「ビーカーが…」
佳奈多「ああっ、すいません!大変、割ってしまったわ…」
「いや私も不注意だった。…しかしこいつはまずいな、ホウキを取りに戻る間に生徒が踏んでは危険だ。君、悪いが掃除道具を取ってきてくれないか?そこのロッカーだ。私は破片を集めておこう」
佳奈多(これが私と彼の最初の出会いだった)
研究室
「ありがとう、まさかここまで運んでくれるとは」
佳奈多「私が悪いんですから当然です」
佳奈多(研究室はきっちり整理整頓されていて清潔感溢れていた)
「そういえば君の名前を聞いていなかったね。いや大丈夫、報告はしないよ」
佳奈多「二木佳奈多です」
「そうか、よろしく二木君。私は…うん、ジョンと呼んでくれ」
佳奈多「何故貴方は偽名なんですか…」
佳奈多(私の疑問には答えず彼は私に背を向けて言った)
「それより見たまえ二木君」
佳奈多「はあ」
佳奈多(彼は並べられた試験管の中で一番手前にあった物を選びこちらに持ってきてきた)
「今やっとヘモグロビン以外では絶対に沈殿しない試薬を作れたんだ」
佳奈多「それがどうかしたんですか?」
「分かっていないな。どれ…」
佳奈多(そういうと千枚通しを自分の指に突き刺し、したたる血をピペットで吸い取った)
「さて…この、ほんのわずかな血液を1リットルの水に混ぜてみよう、見ろこれではふつうの水と変わりないね」
佳奈多(これから何が始まるのかよりも私は傷付けた指の方が心配だった)
「血液の割合はせいぜい100分の1ぐらいだ。だがここまで薄めた水でも私が作った物では、ハッキリとした反応が見られるはずだ」
佳奈多(彼は容器の中に白い結晶を放り込み、さらに透明な液体を数滴たらした。すると、たちまち水はにぶい赤褐色色に変わり容器の底に茶色の沈殿物が生じた)
「それみろ!こいつがあればどんな血痕でもきちんと反応するんだ。私がこの世にもう1世紀ほど早く生まれ落ちて発見していたなら私はホームズと肩を並べて賞賛を浴びたに違いない」
佳奈多「一から作れたというのは驚きですがその1世紀前もこんな施設があるといいですね」
「君は人の喜びに水を差すのが好きなのか、まるで私の母さんの様だ」
佳奈多「すいません、つい口が滑りました」
「………まあいい。所でこちらのビーカーを見ていてくれ、こちらもさっきのには負けず面白い効果を発揮するぞ…」
佳奈多(それから後で知ったことだけどこの人と私は10歳年が離れていた。でも私は知らずのうちにこの見ていて飽きない彼の行動と紳士な性格に次第に興味を抱き始めた)
佳奈多「教授」
「なんだい?」
佳奈多「あの…クリスマスのことなんですけど」
「ああ。あのボーイフレンドと…」
佳奈多「だから違います!本当にあんな奴となんかそういう関係には…」
「君がそういうのならそうなんだろうね。それで、なんの用かな」
佳奈多「…私は」
「……!?」
佳奈多「もう気付いているんでしょう。私は貴方のことが好きなんです」
佳奈多(傷が目立ちにくくなっている事もあるけれど葉留佳達のお陰で人に見せることがここまで平気になれたのは驚きだった。異性にはまた別だけど)
「なにをやってる!よせ…」
佳奈多(下着姿ではこの季節は寒くてたまらない。でもどんな時でも顔を崩せない彼を本気にさせるにはこうする以外に知らなかった)
理樹(あれからいつまで経っただろう。僕はずっと抱き合った態勢でいた、来ヶ谷さんは一言も喋っていなかった)
来ヶ谷「………」
理樹「あっ…」
理樹(来ヶ谷さんは体を離すとこう言った)
来ヶ谷「理樹君。君はこれで満足か?」
理樹「……」
来ヶ谷「ふふっ。このまま抱き合うのもいいが…本当に辛いなら次の事までしても私は構わないよ。こういう事で代用品にされるのはちょっと悲しいが君は私の恩人であり、素晴らしい理解者だ」
理樹「………っ」
佳奈多「答えて下さい。貴方なら私の全てをここで捧げても構わないっ」
「………佳奈多君…」
来ヶ谷「さあどうする?理樹君の自由だ」
理樹(僕は………)
1.来ヶ谷に甘える
2.止めておく
>>88
2
理樹「…いや、止めておくよ」
理樹(いつも来ヶ谷さんの鋭い目線を除けがちな僕だけど今だけは逸らしてはいけない気がした)
来ヶ谷「うむ、理樹君ならそう言ってくれると思っていたよ!お姉さんがなでなでしてやろう」
理樹「うわっ!く、来ヶ谷さん…恥ずかしいよ…っ」
「……魅力的だがその誘いには乗れない。君みたいな若い女性の純潔をこんな形で私のような人間に散らせる訳にはいかない」
佳奈多「私は…!」
「真剣だと?君は友人としての感情を恋に置き変えているだけに過ぎないんだよ」
佳奈多「男女間の友情なんて存在しないわ。そういう連中はどうせ心の中では相手にキスしたくてたまらないはずよ。眼中にないなら別だけど」
「自論だが、本当に愛しているならそう簡単に裸体を晒すとは思えないけどね」
佳奈多「……簡単なんかじゃないわ……」
「…悪かった。では私も真剣に君の気持ちに答えよう」
佳奈多「……」
「すまない。答えはノーだ」
佳奈多「………分かりました」
「……さあ服を着なさい。身体が冷えただろう、コーヒーはいかがかな?」
佳奈多「……ふふっ、断った相手にすぐ勧めるのがコーヒー?」
「あっ、いや悪かった!空気が読めていなかったか」
佳奈多「いいえ、そういう所が貴方らしいんですよ」
来ヶ谷「さあそろそろ帰ろうか。真人少年が帰ってくる頃だろう」
理樹(来ヶ谷さんがそういうとちょうどやかましい足音が聞こえてきた)
理樹「もう大学生なのに少年って言うのはやめてよ…」
来ヶ谷「私から見たら君も佳奈多君もまだまだ少年さ」
真人「おうーっす!あ?来ヶ谷じゃねーか」
来ヶ谷「心配するな、今帰る所だよ」
理樹「送って行くよ」
来ヶ谷「うむ、頼もしいな」
佳奈多「では私は帰ります。ありがとうございました」
「いや、お礼を言われる様なことはしてないさ…1人で帰れるかね?」
佳奈多「ここは送っていくのが常識ですよ」
「はは…確かにっ」
駅
佳奈多「最悪。次の発車は1時間後って……仕方ない、一旦降りて…」
理樹「じゃあまたね!」
来ヶ谷「ああ、よいお年を」
来ヶ谷「…おや?」
佳奈多「…うっ…」
来ヶ谷「おやおやおや?」
佳奈多「な、なんですか!」
来ヶ谷「いや…なんでもないさ。これからどこへ?」
佳奈多「………時間潰しです」
来ヶ谷「……ふむふむ」
佳奈多「なんですか私の顔をじっと見て!」
来ヶ谷「いやぁ、実にすっきりした顔だと思ってね」
佳奈多「…よく分かりましたね」
来ヶ谷「私はその道では天才だからな。…ああ、ちなみにそこで暇をしている楽しい少年がいるんだが…いやなんでもない」
佳奈多「?」
来ヶ谷「まあどうするかは君の自由だ、また会おう!はっはっは」
佳奈多「いったい何の話かしら…」
プルルル
理樹「?」
理樹(携帯が鳴った。メールで来ヶ谷さんからだ)
理樹「なんだろう…
来ヶ谷『今すぐダッシュで駅へ戻れ、少し送れた私からのクリスマスプレゼントだ。ホーホーホー』
理樹(よく分からないけどしたがった方がいいのかな…)
佳奈多「はあ…寒い。とりあえずカフェにでも行こうかしら…」
「~~~!」
「~~~」
佳奈多(よく見たらどこもカップルばかり…かなり惨めね、今の私は)
理樹「はぁ…はぁ…!」
佳奈多「あら?」
理樹「あれっ、二木さん!?」
佳奈多「どうしたの?」
理樹(もしかして来ヶ谷さんの言ってたプレゼントって…)
理樹「すぅ…はぁ……」
佳奈多「なっ…なに?」
理樹「あ、あのさ…今暇?」
佳奈多「ちょうどダイヤが乱れていたわ」
理樹「そっか…」
佳奈多「なによ、そんなに私の不幸がおかしい?」
理樹「あのさ、もしよければ僕とそこのカフェで時間を潰さない?」
佳奈多「……っ!」
理樹「あ…いや…本当によかったら…だけどさ!」
佳奈多「ぷっ…」
理樹(笑った…?)
佳奈多「こんな時に口説くつもりかしら?最低ね……。最低!あははっ」
理樹「ええっ!?」
佳奈多「さっ、早く入りましょ。今日は冷えるから」
終わり
フられてムシャクシャして描いた。後悔はしていない
それでは皆さんメリークリスマス!(血涙)
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