長門「今日こそ貴様を叩きのめし、我が提督の前へ連れ帰ってやる」
武蔵「私が誰に使えるかは私が決める。だがそうだな……もし私を倒せたならお前のいる鎮守府へ喜んで手を貸してやろう」
赤城「……っ!」ムシャリ…
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武蔵「それで?お前は私をどうやって連れ帰るつもりなんだ?まさか正面から単艦で殴りかかってくるつもりではないだろうな?」
長門「無論、そのつもりだ。貴様はこの拳で叩き潰す」
武蔵「フッ……、面白い。いいぞ、私はなぁ、バカが大好きなんだ!さぁかかってこい!!」
長門「言われなくともそのつもりだ!!」ダッ
赤城「……!」ムシャムシャ…ゴクリ…!
長門は武蔵の懐へ一気に間合いを詰め、全身全霊の力を込めた拳を真下から顎を目掛けて振り上げる。
しかし武蔵はその拳を涼しげな目で寸前まで眺め、ほんの数センチ身体を横にずらし皮一枚でかわした。
赤城「あぶない!!」
カップ麺をすする赤城が思わず大きな声を上げる。
武蔵はうっすらと笑みを浮かべ、長門とは対照的に真上から拳を振り下ろした。
メキメキメキ……!!
長門の顔を捉えたと同時に鈍い音が長門の頭から聞こえ、赤城は思わずスープを飲み干した。
武蔵「これがこの鎮守府の最高戦力か!笑わせてくれる!!」
長門「……っ!!!!」
朦朧とする中で必死に意識を保とうとする長門。しかし、頭蓋骨が悲鳴を上げ、目の前を血で覆われても長門の目は死んでいなかった。
長門「ああぁぁぁぁぁ!!!!」
武蔵「!?」
ドンッ!!
またも鈍い音が響く。しかし今度は長門ではなく武蔵を痛みが襲う。
その痛みの先に目線をやると、長門の膝がわき腹に突き刺さっているのが見える。
しかし武蔵はかまわず拳を振り下ろし、長門の頭を地面へ叩きつけた。
武蔵「ふん……、味な真似を。肋を二三本いかれたか」
長門「…………」
地面に倒れたまま動かない長門を見て、赤城は思わずたい焼きを口いっぱいに頬張った。
長門「ぐ…………」
武蔵「ほう、確実に轟沈させたつもりだったが……なるほど、ビッグセブンの名はダテではないか」
陸奥「そうよ。ビッグセブンの名はダテじゃないんだから」
武蔵「なんだ?新手か」
現れたのは長門の妹、陸奥だった。
しかし赤城は焦りを隠せない。姉であり練度も上だった長門が目の前でやられたのだから、陸奥には荷が重すぎる……しかし
陸奥「…………絶対に許さないから!!」
息も絶え絶えの姉を横に、涙を浮かべながらそう言う陸奥。
その様子を見た赤城には止めることは出来ず、ただただおにぎりを頬張る事しか出来なかった。
武蔵「お前がそいつよりやれるとは思えんが……だが売られた喧嘩は買ってやらねばなぁ!!」
陸奥「!!」
轟音を響かせ陸奥に迫る拳。その迫力は自らの身体を覆うほど大きく見える程に陸奥を怯ませる。
陸奥はその恐怖に思わず目を閉じてしまった。……その時!
赤城「……ふぅ。目を瞑っていてはダメ!!しっかり相手の拳を見てください!!」
赤城は立ち上がりお茶を飲み干してからそう叫んだ。
陸奥「……っ!!」
赤城の声に反応し、間一髪攻撃をかわした陸奥。
武蔵の拳は地面に倒れる長門を直撃した。
陸奥「その腕もらったわ!!」
陸奥は武蔵の腕へ絡みつくように飛び付き締め上げる。
まずは腕一本……一度はそう思った陸奥はだったが、様子がおかしい。
赤城も不安そうに焼き芋にかぶり付く。
陸奥「うご……かない……!?ピクリとも動かないなんて……!」
武蔵「貧弱貧弱!!」
武蔵が拳を握りしめ力を込めると容易く陸奥の拘束は解け、振り上げた反動で陸奥の身体は宙に舞った。
その拳を握りしめたまま陸奥の落下を待つ武蔵。空中で自由を失った陸奥に出来ることは体を丸め防御に徹し、来る衝撃に備える事だけ……
しかし陸奥は防御体制を全く取らず、逆に空中で拳を握りしめ攻撃態勢に入っていた。
武蔵「まったく、お前たち姉妹は揃ってバカだな!!」
陸奥「バカって言う方がバカなのよ!!バーカ!!」
いったい陸奥は何を考えているのか……赤城はただリンゴをかじる事しか出来ないでいた。
ゴスンッ!!!!
2人の拳がぶつかり合う。
だが、地に足を付け踏ん張って放たれた拳と空中で踏ん張りもきかず放たれた拳では結果は目に見えていた。
陸奥は身体ごと弾き飛ばされ数十メートル先の岩へ突き刺さるように叩き付けられた。
陸奥「がっ…………はっ……!!」
衝撃で地面が揺れる。赤城は落としてしまったたこ焼きを慌てて拾い上げ、周りに人がいないのを確かめて口へ運んだ。
武蔵「いったい何をしたかったのだ。勇敢と無謀を履き違えるな」
クスッ……
ありきたりな言葉に笑う赤城。武蔵が睨み付けると赤城は急いでたこ焼きを口に放り込んだ。取られると思ったのだろう。
陸奥「腕……は、ダメだったけど…………指一本……ね……」
武蔵「何を言って……ん?」
武蔵が陸奥を吹き飛ばした拳を見ると、中指だけが異常に腫れ上がり痛みを伴っている。
陸奥はあの時、武蔵の中指その一点だけを狙い渾身の一撃を放っていたのだ。
陸奥「指一本……だけかぁ…………」
確かに一矢は報いた陸奥。だが所詮は一矢。終わってみれば圧倒的敗北。
しかし確かに一瞬、一矢とは言え彼女は輝いていた。そう、このボーキサイトのように。
赤城はそう思いながらボーキサイトに噛り付いた。
武蔵「肋を数本と指一本か。なるほど、確かに大健闘だな」
長門「…………」
陸奥「…………」
武蔵「精魂尽き果てたか。残念だがこの程度ではこの武蔵、お前たちの仲間にはなってやれんな」
陸奥「まだ……まだ……なんだから…………!」
武蔵「いいや、もう終わりだ。今のお前達に何が出来ると言うのだ」
陸奥「まだやれるわよ……私達は……!」
武蔵「?」
ざわざわ……
陸奥2「あら、あらあら」
陸奥3「あらあらあら」
陸奥4「あらあら」
長門2「おもしろい」
陸奥5「あらあらあらあら」
突如現れたのは大量の陸奥と長門。提督の悲しき現実と称される大量の陸奥と長門……!
赤城は口いっぱいに頬張った肉がいったい何の肉なのか分からずにいた。
武蔵「物量作戦か。くだらん」
確かに、いかに長門陸奥と言えど練度が0では話にならない。
提督の悲しき現実は次々に吹き飛ばされたが、赤城はそれを見上げながら餅をついていた……
死屍累々……あたりに広がるは陸奥と長門の無残な姿だった。
予測できた事態とは言え赤城はゆっくりと腰を下ろし、餅を口に含んだ。
少しツキ過ぎて粘っこい餅が長門達の敗北を物語っていた。
武蔵「結局私にダメージを与えたのはお前たち2人だけだったな」
そう言い残し去る武蔵の背中を見つめ赤城が立ち上がり武蔵を呼び止める。
赤城「あのっ……!お醤油を持っていませんか!?」
突然の赤城からの口撃に一瞬構えた武蔵だったが、赤城が臨戦態勢で無いのを見てから首を横に振った。
赤城はその答えに悲しみの表情を浮かべ、一礼すると味の無い餅を頬張った。
赤城「これが、敗北の味なのですね……」
海へ帰っていく武蔵。ついさっきまで戦場だったそこにはまるゆが咲いていた。
長門「ぐ……っ」
陸奥「まだ……」
武蔵の姿が消えた事に気が付かず、よろつきながら立ち上がり構えようとする2人に赤城が駆け寄る……
赤城「お二人とも!もう戦いは……」
長門「まだだ!まだやれる……!」
陸奥「そうよ……!」
満身創痍の2人から放たれたとは思えない強気な言葉を聞いて赤城は口を紡いでしまった。
大怪我の2人。本当ならすぐにでも鎮守府に連れ帰らねばならない……しかし赤城は躊躇してしまう。
味噌汁が出来上がったのだ。
赤城「あの汁椀に餅を入れたら……!」
お雑煮……未曾有の誘惑が赤城を襲う。
長門「奴は、奴はどこだ!」
赤城「ふぉふぉーひ、はへひはひはほ」
必死に何かを伝えようとする赤城。
しかし無情にもその言葉は2人に届かない……
会話と食事、その両立がこれほど困難な物なのか。
赤城は今の状況に恐怖すら覚えた。
辺りに武蔵の姿が見えない状況を知り、2人はようやく今の状況を理解する。
長門「私は……負けたのだな……」
陸奥「そうみたいね……はぁーあ、ひっどい顔」
赤城「…………」
悔しさを全面に表し地面を殴る長門。
それとは逆にあっけらかんとした感じで大の字に寝そべり空を見上げる陸奥。
しかし2人の心底には悔しさだけが滲み溢れる。
そして赤城もまた放心状態。空の鍋を見つめ、完食と言う絶望から立ち直れないでいた。
そんな3人に希望の光が射す。
陸奥「ん……?あっ、あれ!まるゆじゃない?」
長門「確かに……」
一見役には立ちそうにない外見だが、まるゆは高級食材として重宝していた。
少しくらいは手土産が出来た……そんな事を考えながらまるゆを刈り取る2人を赤城と加賀は飴を舐めながら眺めていた。
このSSまとめへのコメント
お、おう…
いいセンスだ・・・
最初は何の話かと思ってたが、これ大型建造か