赤羽根「現実は厳しい」 (35)
高木「赤羽根君、近日中にアイドル全員が集まれる日はあるかね?なければそれでも構わないんだが」
赤羽根「え、えー、明日です…」
赤羽根「(…レッスン、レッスン、レッスン、オーディションレッスン、レッスンの繰り返し…オーディションには中々受からず、やる気は低下していく一方…はあ…)」
高木「そうかそうか、ありがとう。…モシモシ…ウム…アア…ワカッタ…マッテイル…ソレデハナ。…赤羽根君、急で悪いんだが、明日の14時頃、961プロの黒井社長が作曲家のP君を連れて、うちを訪れることになった」
千早「!」
赤羽根「く、961プロの社長がうちに!?ど、どういうこ、ことですか!?」
高木「落ち着きたまえ、君。いや実はだね、ヤツとは昔、同じ芸能事務所に勤めていてね。今でも時間が合えば、食事をするくらいの間柄ではあるのだよ」
赤羽根「そ、そうだったんですか…驚きました、まさか自分の勤めている会社の社長が961プロの社長と旧知の仲だったなんて」
小鳥「赤羽根さん、社長に失礼ですよ」
赤羽根「え、あ、す、すみません、社長!」
高木「はっは、気にせんでくれ。無理もない、相手はあの961なのだからね」
春香「Pさんってっ、あの日高舞さんのプロデューサーですよね!?」
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千早「春香、日高舞のプロデューサーという言い方は適切ではないわ。Pさんが日高舞に関わるのは、あくまで提供した楽曲においてのみなの」
赤羽根「(…舞ちゃん…どうしてあんな冴えないマネージャーなんかと結婚してしまったんだ…)」
春香「へえーそうな」
千早「 でも、春香がそういう認識をしてしまうのも無理はないわ。その理由として、日高舞の楽曲の半分以上をPさんが作曲していること、ミリオンヒットした五曲の全てをPさんが作曲していることも起因しているのでしょうけど」
春香「う、うん」
響「(なんだか千早が生き生きとしているぞ)」
赤羽根「(インゼイインゼイインゼイインゼイ…)」
千早「それよりもやはり、今や作曲家として堂々たる権威となったPさんが」
小鳥「(Pさんは元々、海外でフリーのドラマーとして活動していました。その後、イギリスの実力派ヘビメタバンドというバンドが脱退により人員補充のためオーディションを実施し、それを機に加入します。それなりの人気と知名度があったようですが、ボーカルとリードギターが薬物中毒に陥り、存続は現実的に敵わなかったようです。心身ともに疲弊し、一時的に帰国していたところに黒井社長からお声をもらったのだそうです。当時はまだドラムの技術的な価値しか見ていなかったようですが、後に日高舞を目にして、新たな才能を開花させるわけです)」
千早「日高舞ただ一人にしか曲を提供したことがないという事実と」
赤羽根「(あの一定数以上の十分な売上が約束されている著名アーティストや若手人気絶頂期アーティストの依頼も断ってるらしいからなあ)」
千早「日高舞引退に伴った雑誌の特集のインタビューで口にした『日高舞が歌ってはる姿を見とると、決まって作曲意欲に駆り立てられるんですわ。そしたら作業に取りかかんねんけど、メロディとステージ上の日高舞が勝手に浮かんできますねん』の一言が最大の要因でしょうね」
真「(再現度高いなあ)」
春香「な、なるほど」
高木「それが問題のようだ。つまり、日高舞君の芸能界引退は、同時にP君の作曲家生命の終わりを意味している。P君自身、そのことを痛切に感じていたようなのだが、流石の黒井もあれほどの能力と可能性を魅せる人材を捨て置くことはできなかったようだ」
赤羽根「まあ、そうですよね」
真「(Pさんといえばやっぱり、あの日本人離れした体つきと厳めしい顔つきでしょ。情熱大海、放送からもう1年経つのに、未だに見ちゃうもんなあ)」
高木「黒井は彼の再起を狙って、メディアを最大限に活用した広報、宣伝活動を行い、随分大がかりなオーディションを開催したのだが、誰一人として彼の琴線に触れることはできなかった」
千早「無論、存じていますが、今その話をなさったということは…もしや、Pさんがうちを訪れるわけというのは…」
春香「え、何、どういうこと?」
社長「うむ。黒井はそれでもなお諦めることができなかったようだ。彼らの、ではないな、P君は黒井に連れ回されているだけのようだからね。黒井の用件はレッスンの見学なのだが」
千早「…」
高木「なんでも今、他事務所で眠っている才能を探し回っているんだとかでね。それはうちも例外ではないようだよ」
響「(千早の目が燃え盛っているぞ)」
春香「そ、それって、私達にも可能性があるってことですよね…!?」
高木「うむ、勿論君達も、P君の琴線に触れることができれば、晴れて、華々しいデビューを迎えることができるだろう」
真「うーん、でも私、歌は苦手だか」
赤羽根「真」
真「え?あぁ…はいはい…。僕は歌が下手だから、可能性すらないだろうなあ」
赤羽根「日頃から言っておかないと、オーディションでボロが出てしまうかもしれないからな。常に意識しておかなくてはだめだぞ」
真「…ちっ」
赤羽根「真?」
真「はいはい!わかりました!」
赤羽根「よろしい」
高木「…」
小鳥「…」
小鳥「(真ちゃんの僕っ娘、響ちゃんのケモナー、貴音ちゃんの古風なお姫様キャラ…未だ成果は上がっていない)」
響「お気の毒様だぞ」ボソ
真「ありがと。でも響なんて動物の勉強までさせられてるんだからね、私はまだましだよ」ボソボソ
響「うん、自分この前、抜き打ちでテストやらされたぞ。ホント、他にやることないのかって感じだぞ」ボソボソボソ
赤羽根「ん?響?真?どうかしたのか」
響「っ、い、いや、自分も歌が苦手だから、無理だろうなって話してたんだぞ」アセアセ
真「そ、そうそう!ぼ、私達ダンスなら少しは自信があるんだけどね」アセアセ
春香「そんなこと言い出したら、私なんて…何にも取り柄がないよ」
赤羽根「何を言っているんだ春香!お前は全てにおいて平均を下回らない。言い換えれば苦手なことがないということだ。今後もレッスンを積み重ねていき、オールマイティーなスーパートップアイドルになる。俺にはその未来が見えるぞ」
春香「赤羽根さーん!」タタタ
赤羽根「春香!」ダキスリスリサワサワ
千早「(春香可愛いわ春香)」
真響「(…鬱陶しー…)」
高木「…音無君、ここにいないアイドル達には君の方から伝えておいてもらえるかい」
小鳥「…はい、かしこまりました」
高木「では、私は人と会う約束があるのでね。失礼するよ」
小鳥「お気をつけて」
真「はあ、少し早いけど、僕達もレッスン行こっか?」
響「そうだな」
律子「竜宮帰りましたー」ガチャ
小鳥「お疲れ様です」
真「げっ」
伊織「それはこっちのセリフよ、男女。ん?なんか臭うわね、何よこの臭い」
真「くっ、眩しい!このままここにいたら目がやられちゃうよ!逃げるよ響!」タタタ
伊織「っ!」
響「うん!でもあの年であんなに禿げちゃって、お気の毒だぞ」タタタ
亜美「ぷぷぷ」クスクス
伊織「なんですって!待ちなさ」
律子「伊織!これから打ち合わせなのよ!手間かけさせないで。たく…あ、音無さん、今下で社長が音無から」
小鳥「はい、明日の2時頃に961プロの黒井社長と作曲家のPさんがこちらにお見えになるとのことです」
あずさ「!」
律子「え!?な、なんでまたそんなことに」
赤羽根「カクカクシカジカというわけだが、すでに竜宮は作曲依頼を断られているんだから関係のない話だよな」
律子「はあ!?」
伊織「なんですってェ!」
あずさ「…秋月さん、打ち合わせ、早く終わらせたいんですけど」
伊織「っ…」ビク
律子「は、はい!そ、そうですね!すみませんっ。す、すぐに打ち合わせを始めましょう」ビク
亜美「打っち合わせ~打ち合わせ~」
亜美「(竜宮小町で亜美といおりんは単なるおまけに過ぎないんだもん、こうなるのもちかたないって感じだよねー……はあ…なんでアイドルなんかになったんだろ…ここに来る前に戻りたいよ…)」
小鳥「(あずさちゃんは社長にスカウトされて、答えを迷っていました。あずさちゃんは、情熱大海でPさんに一目惚れしたんだそうです。そしてPさんに会うために、社長の誘いに応じたというわけです)」
赤羽根「けっ、竜宮小町なんて、芸能界全体で見れば、かなり下の方だろ」ブツブツ
小鳥「(私は鋼の意思を持ち続けます)」
翌日 レッスンルーム
黒井「…ここには期待していたのだがな」
P「…」
P「(…なんやろな…この二人からは、今までの子らには感じひんかったもんが、なんやあるねんけど…)」
美希「いたっ」ヨロ
貴音「…」スタスタ
美希「…四条さん」
貴音「?」ピタ
美希「あなた今美希にぶつかったの」
貴音「はい?」
美希「だから、あなた美希にぶつかったって言ってるの。早く謝ってほしいの」
貴音「思い返してみれば、何かが私に触れていたような気もいたしますね。まったく、そのようなところに腰を下ろしているから。早く私に詫びなさい」
美希「なんで美希が謝らないといけないの?ぶつかってきたのはそっちなの。早く美希に謝ってほしいの」
貴音「物わかりの悪いこと。それは些事というもの、起因はあなたにあると言っているのです」
美希「そんなこと知らないの。とにかくあなたは早く美希に謝ればいいの」
P「!!…く、黒井さんっ、今頭に、あの子らがステージに立ってはる姿が浮かび上がってきましてん!…見つけたんかもしれまへん」ティン
黒井「第二の日高舞たる存在か。…ふん、ようやくか。…しかしまさか同時に二人とはな」
P「ほんまですねえ。しかしあの子ら、いつもあないして言い合っとるんやろうけど、了承してくれはりますやろか。誰でも、好かんやつとは歌いたないやろうし」
黒井「……ほお…どうやら私は固定観念に縛られていたようだ。…星井美希!四条貴音!その見苦しい言い争いを即刻止めろ」
貴音「己の過失を認めなさい」
美希「美希は悪くないの!ぶつかって来たのはあな」
黒井「…星井美希!!四条貴音!!」
美希「たっ…」ビク
貴音「っ…」ビク
黒井「…止めろと言っている」
美希「そこの人、美希に命令しないでほしいの」ムカ
貴音「なんなのですか、その物言いは。無礼ではないですか」イラ
黒井「……貴様らのような凡俗が、私の手を煩わせるな!!」カッ
美希「大きい声を出せば大人しくなると思ったら大間違いなの」
貴音「はあ…961ぷろだくしょんの底が知れますね」
黒井「」ワナワナ
P「かっか…あのよお、嬢ちゃん達、もういっぺんだけうとうてみてもらえへんかな」
美希「え、うん、べつにいいよ。歌うぐらいなら問題ないの」
貴音「ええ、かまいませんよ」
P「しかしな、君らが遅れてきてしまうもんやから、あんまり時間もないねんなあ。そやから一番だけ、1節ずつ交互にうとうてもらわれへんやろか」
美希「ええー、んー、まあでも
しょうがないからやってあげるの」
貴音「…不承不承ながら、やらせていただきます」
P「ありがとお」
美希「~~♪…」
貴音「…~~♪…」
P「…」ブルブル
黒井「(武者震いといったところか。……だが、気持ちはよくわかる。私にも似たような経験はあるからな)」
美希「~~♪♪」
美希「(♪…一番だけで終わっちゃうんだったの…もっと歌っていたいの)」
貴音「~~~♪」
貴音「(…なんなのですか、この高揚感は…)」
黒井「(待望の時を迎えたにもかかわらず、手放しに喜ぶことができんとはな。やつらは二十分遅れでレッスン場へやってきた。聞けば、今日はただのレッスンではなく、オーディションと承知していたにもかかわらずだ。悪びれた様子を見せるどころか、どことなく倦怠感を漂わせながらレッスンを始めた。あまつさえ、我々の目の前で平然と口論を始める始末)」
美希「…」
貴音「…」
黒井「(やつらの真意など到底理解に及ばん…と思っていたが、どうやらやつらは、虚栄心というものが欠落しているらしい)」
P「(こらまた、えらいもん見つけてしもたな)」パチパチパチパチ
黒井「(いわゆるカリスマ性というやつだな。ふん、まさに第二の日高舞というわけか)」
P「そしたら、単刀直入に言わせてもらおか。君らんこと、これからは俺がプロデュースさしてもらいたいねんな」
美希「プロデュース?……え」
貴音「っ…そ、それは真ですか?」
P「嘘なんて言わへんよ。今、君らがうとうてはるのを見とったらな、体がブルブル震えてくるんや」
黒井「(久々に見る姿だな。創作欲が沸々として、懸命に興奮からくる震えを抑えている)」
美希「…美希をキラキラさせてくれるの?」
P「かっか、キラキラか。少なくとも、俺の頭ん中で見た君らは、ステージの上で見事に輝きを放っとったわ」
貴音「……あのP殿、その口ぶりが気にかかります。先ほど私と星井美希の二人で歌わせたことに、他意はありませんね?」
P「…かっか、君らはデビュー言うて差し支えあらへんよな。…星井君と四条君、君ら二人で、デュオを組んでデビューしてもらいたいんやな」
美希「デュオ…?……っ嫌なの!絶対に嫌なの!」
貴音「やはりそうですか…」
P「そやけども、今うとうてみて、何にも感じひんかったんかいな」
美希「ぅー…」
貴音「…」
黒井「貴様らは、個々では真価を発揮することができんのだ。貴様ら二人の力が合わさった時にのみ、Pにとっての日高舞たる存在になり得るというわけだ」
P「有り体に言うてしまうと、そういうこっちゃな。そうしてもらわんと、君らのための曲が作られへんねん」
美希「でも…ぅー…」
貴音「…」
P「べつにあれやで、君らの関係についてとやかく口出さんよ。いんやむしろ、これまで通りにおってくれた方がええと思うわ。した方が君ららしくてええと思うし、急に仲良うなられても、気色悪いと思うねんな」
美希「なんなのなの、それ」
貴音「ふふ、理解に苦しみますね」
P「もっと言わしてもらうとやな、うとうとる時なんかは、目どころか、顔いや、体ごと背けっぱなしがええな。テレビやろうがなんやろが、繕う必要あらへん。なんなら、ステージほっぽりだして、勝手に帰ってもろてもかまわんで」
貴音「…ふふふ…真変わった方ですね。…いいでしょう、お引き受けいたします。…星井美希、あなたはどうするのですか」
美希「あ、み、美希は…美希も、お引き受けするの!」
黒井「(…これで、特別的に事務所内に新設してやった、P専用の作業部屋も無駄にならんな)」
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