利根「提督よーお主なかなか暇そうじゃのー?」
提督「どう考えてもそれはお前が暇なだけだろ」
利根「提督こそ、さっきから海を眺めているだけではないか。暇なら構ってくれぬか?」
提督「バカを言え。私は海を眺める事で忙しいんだ」
利根「それを暇と言うのではないか。良いから構えー」ギュー
提督「首に手を回すのは構わんが、背中に体重を掛けるな。そんなに暇ならば海の波を見てみろ」
利根「うむ? うむ」
提督「…………」ボー
利根「…………」ジー
提督「……どうだ?」
利根「つまらん」
提督「風流が分かっていない奴め」
利根「どこに風流があるというのだ、どこに」
提督「小じんまりとした島に仕立てられていた泊地で、ここへ追いやった本部からの連絡を待って海の波を眺める事に風流を感じないか」
利根「全くもって感じられぬぞ。それに、その本部からの最後の連絡はどれだけ前の話じゃと思うておるんじゃ」
提督「確か……二年前だったか?」
利根「二年と七ヶ月前じゃ。どう考えても厄介者をここへ流しただけじゃろ」
提督「そうか。忘れた。ほら、私は忘れっぽいだろう?」
利根「憶える気が無いの間違いであろうに」
提督「さすが長い間を共に過ごしてきただけある。良く分かっているな」
利根「まったく……」
提督「だけど、やっぱり海は良いと思わないか? どこまでも青くて、空との境界線がスッと横に伸びていて、そしてどこまでも広い。自分の物理的な小ささだけではなく考えも小さいって思えるだろ」
利根「うむ。確かに」
利根「……で、それのどこが忙しいんじゃ?」
提督「さて、そろそろ夕飯と明日の分の食材を取りに行こうか」
利根「あ、こら。話を勝手に切るでない。我輩も付いて行くぞ」
…………………………………………。
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提督「さて……食った事だし、運動してから寝るか」
利根「毎日飽きずによくやるのう」
提督「いつ何が起きるか分からんし、他にやる事も無い」
利根「八割がた後者の意見だと思うが、どうなんじゃ?」
提督「良く分かっているな」グッグッ
利根「おー……身体、柔らかいのう。脚が頭の上まで上がっておる」
提督「鍛えるだけではなく、柔軟さも重要だ。ダイヤモンドが鉄のハンマーで砕けてしまうように、柔らかさがなければすぐに壊れてしまう」
利根「なるほどのー。よっ……とっ? むむ……提督と同じように曲げられぬ」
提督「いきなりこれだけ曲げられる訳がないだろう。日々の積み重ねが重要だ」
利根「く、む~……!」グイグイ
提督「無理をしたら筋が切れて動けなくなるぞ」
利根「……止めじゃ止めじゃ。つまらんつまらーん。我輩は寝るっ」ボフッ
提督「…………」ジッ
利根「うん? どうした、提督よ」
提督「いや、思ってみればここ最近ずっと私のベッドで一緒に寝ているなと思ってな。どうしてだ?」ググッ
利根「今更じゃな。何ヶ月前の話をしておる」
提督「割と気にしていなかった」ギッギッ
利根「女として傷付くのう……」
提督「人肌が恋しいだけなのかとも思ったぞ」グッグッ
利根「あー」
提督「どうした」グイッ
利根「や、我輩も初めはなんとなくで潜り込んだのじゃが、人肌が恋しかっただけなのかと思うてな」
提督「自分の事だろう」グッ
利根「自分が一番分からぬものじゃよ」
提督「そうだな。私も自分の事をよく知らない」クイクイ
利根「似た者同士という訳じゃ」
提督「根本が同じなだけで何もかも違うような気もするがな」スッ
利根「む。もう終わりか?」
提督「ああ。今日はこれだけにしておく」モゾモゾ
利根「……ふむ。若干じゃが汗の匂いがする」
提督「嫌なら言ってくれ」
利根「嫌いではないから安心するが良い」ソッ
提督「男の汗は臭いと聞くが、どうなんだ?」
利根「提督は爽やかじゃな。健康的な匂いと言えよう。……あー、何よりも運動で火照っておるのが心地良い」
提督「私は湯たんぽの代わりか?」
利根「それだけではないのう」
提督「湯たんぽには変わりないのか……。それで、別の理由とはなんだ?」
利根「さっきも言った通り、我輩は人肌が恋しいのかもしれん。心がポカポカじゃ」
提督「なるほど。身体も心も温まるか」
利根「うむ。……提督よ。我輩、眠くなってきたぞ」
提督「そうか。では寝るとしよう」
利根「おやすみじゃ」
提督「ああ。おやすみ──」
……………………
…………
……
提督「…………」モゾ
利根「──む」パチッ
提督「おはよう、利根」
利根「くぁ……はぁぅ…………良い朝じゃの、提督」クシクシ
提督「ああ。今日も今日とて清々しい晴れ模様だ」
利根「んっ──くぅー……! さて、朝食を作るとしようかの。今回は我輩じゃったか?」
提督「ああ。楽しみにしているよ」
利根「何を言うておるか。いつもと変わらぬ焼いた魚と木の実ではないか」
提督「人が作った食事というものは、同じ材料でも自分と違う味になるからな」
利根「火はあれど、魚と塩、木の実……これだけでどうしろと言うんじゃ。あまりハードルを上げるものではないぞ?」
提督「そうか。では上げたハードルをくぐるか?」
利根「癪じゃから頑張る」
提督「くっくっ。そうか。楽しみだ」
利根「まったく……。では、外へ行こうか」スッ
提督「ああ、そうしよう」スッ
利根「火だけは頼んでも良いかの?」
提督「ああ。調理は頼んだ」
利根「うむ! 任された!」
提督「ついでに、流木もあったら持って帰ってくれるか?」
利根「む? もう薪が無くなっていたかの?」
提督「いや、まだ少し余裕がある」
利根「ふむふむ。備えあればなんとやら、じゃな?」
提督「そういう事だ。生け簀の魚を取ってくる時に、流木があれば持ってきてくれ」
利根「承知した! では我輩は一足先に向かうからの!」タタッ
提督「……元気なものだ」
…………………………………………。
提督「で、だ。利根」
利根「なんじゃ?」
提督「魚はどうした」
利根「持ってきておらん」
提督「流木はどうした」
利根「あったが持ってきておらん」
提督「……背負っているモノは何だ」
金剛「うぅ……こ、ここは……?」
利根「艦娘じゃな」
提督「どこから拉致してきた」
利根「失敬な。流木にしがみ付いておったんじゃ。漂流してきたんじゃろうな」
金剛「っ……」ガクッ
利根「む。また気絶しおった」
提督「まったく。面倒なモノを拾ってきたな」スッ
利根「うん? どこへ行くのじゃ提督」
提督「あの工廠もどきのガラクタ倉庫だ。修理するから連れてきてくれ」
利根「面倒だとなんだと言いつつも、しっかり助ける気ではないか」
提督「悪いか?」
利根「良い事じゃ。──して、燃料や鋼材はあるのかの?」
提督「流れ着いたドラム缶に入っていたはずだ。拾っておいて良かったよ」
利根「修理をするのは誰じゃ?」
提督「妖精が居ないから私か利根のどっちかだ」
利根「我輩はそんな技術は持っておらんぞ」
提督「奇遇だな。私も見た事しかない」
利根「大丈夫なのかの?」
提督「成るように成るだろう」
利根「心配じゃのー」
提督「とりあえず、やってみるぞ」
…………………………………………。
金剛「…………」
利根「案外うまくいくものじゃのう。完全修復じゃ」
提督「この島に着いてから色々と手先が器用になった気がするよ」
利根「そうなのかの? 割と初めから器用だったような気がするが」
提督「前は包丁すら握れなかったぞ」
利根「なんと……。生活スキルがアップしておるのう」
金剛「……あの」
利根「うん?」
提督「どうした」
金剛「助けて頂きまシテ、どうもありがとうございマス」ペコリ
利根「うむ! 感謝するが良いぞ!」
提督「修理をしたのは私なんだが、利根?」
利根「連れてきたのは我輩じゃ」
提督「では、どっちとも重要だな」
利根「うむ。提督も我輩も、どちらとも欠かせなかったという訳じゃな」
金剛(……なんだか不思議な人達ネー)
金剛「──ハッ! こ、ここは! ここはどこなのデスか!?」
利根「ここか? …………………………提督、任せた。ほれ、水じゃ。飲めるか?」スッ
金剛「んっ、んく……」コクコク
提督「私に振るか。詳しくは憶えておらんぞ。──そうだな。たしか、太平洋のど真ん中だったはずだ」
金剛「た、太平洋の……ど真ん中……」
金剛「…………」チラ
提督「うん? 海を見てどうした。帰るのか?」
金剛「……帰りたいのは山々デスが、正確な現在位置が分からなければ帰れないデス…………」
金剛「大事な……大事な作戦中だったのに……」ギリッ
提督「まあ、なんだ。帰れないのならここで一時滞在すれば良いんじゃないか?」
金剛「そんな悠長な事を言っていられない戦いだったのデス!! 連合艦隊のフラグシップである私が居なくなったら、どうなる事か!!」
利根「……提督、連合艦隊とは何じゃ?」
提督「簡単に言えば、二つ以上の常設艦隊で編成した艦隊だ。主力を集めたエリート艦隊とも言える。……いや待て。利根、お前も連合艦隊に所属していた事があったと耳に──」
利根「ほう! では、その連合艦隊の旗艦のお主は凄い艦娘なのじゃな!」
提督「……無視をするな」コツッ
利根「いたっ。無視などしておらぬ。都合が悪くなったから話を切ったのじゃ」
提督「同じ事だ馬鹿者」コンッ
利根「むー……」
金剛「…………」
提督「それはさておき。……名前は金剛か?」
金剛「……イエス。私は金剛デス」
提督「単刀直入に言おう。諦めろ」
金剛「なっ!? そんな事できる訳が──!!」
提督「話は最後まで聞け。良いな」
金剛「う……。ハイ……」タジッ
利根「おー、我輩と同じ反応じゃ。ふむふむ。やはり提督が強く言えばこうなるか」
提督「茶化すな利根。吊るすぞ」
利根「はい……!」ピシッ
提督「よろしい。……話を戻そう。金剛、お前は燃料があるのか?」
金剛「……残り僅かデス」
提督「弾薬は」
金剛「これも……」
金剛「……………………」
提督「そういう事だ。我々も燃料や弾薬など無いに等しいから支援をしても雀の涙程度だ」
金剛「……え?」
金剛「そ、それって……どういう事デスか?」
提督「ん? そのままの意味だ。極少量しか無い故に──」
金剛「違いマス! そんなに資材が乏しいのに、どうして戦艦である私の修理をしたのデスか!? 自分達が一番苦しいじゃないデスか!」
提督「どうしてと言われてもな」チラ
利根「うむ。我輩、海に出ぬからな」
金剛「……海に、出ない?」
利根「出る意味が無いからのう」
提督「敵を極稀に見掛けど味方は居ない。後はせいぜい何かが流れ着いてくるくらいだ。……艦娘が流れ着いたのは初めてだが」
金剛「……貴方は提督ではないのデスか?」
提督「一応提督だ」
利根「我輩も一応艦娘じゃな」
金剛「では……こんな敵も味方も居ないアイレットで何を?」
提督「突然連れてこられて置き去りにされた」
利根「右に同じくじゃ」
利根(……アイレットって何じゃろ。この島の事かの?)
金剛(何か仕出かしたのデスかね……?)
金剛「……貴方達は、それで良いのデスか?」
提督「特に不自由していないから構わないな」
利根「我輩もノンビリと出来て良いと思うておる。まあ、暇ではあるがの」
提督「ああ、確かに暇だな。それだけが大敵だ」
利根「そうじゃのう。何か遊べれば良いのじゃが」
提督「とりあえずは話を戻そう。完全に脱線している」
提督「周囲に島の影すら見えない。つまり、今ある燃料をフルに使っても辿り着くとは限らないだろう」
金剛「それは……そうデスけれど……」
提督「そんなので野垂れ死ぬくらいなら、生きてまた会える可能性に賭けた方が良いと私は思う。金剛の提督も、いつか会える事を夢見ているはずだ」
金剛「…………」
金剛「そうですね。また会える……その日が来るまで生きてみせます」
提督(……ほう)
利根「うむ。話が纏まった所で朝食にしようか!」
提督「ならまずは流木を持ってこい利根。私は野菜と火の準備をする」
利根「うむ! では行ってくる!」タタッ
金剛「元気デスねー」
提督「そうだな。金剛とは大違いだ」
金剛「え?」
提督「…………」
金剛「私、元気が無いように見えますか?」
提督「現状の整理が出来ていないようにも見える。とりあえずは飯を食え。痩せこけているようには見えないが、長い間を漂流していたのだろう?」
金剛「わ、分かるのデスか!?」
提督「ただなんとなくだ。ほら、いい加減座っていろ。体力を回復させておけ」ポンポン
金剛「…………っ」
提督「……ふむ」スッ
金剛「あ……ご、ごめんなさい……」
提督「すまなかった。──では、飯が出来たら持ってくる。その間は休んでいれば何をしても構わん」スタスタ
金剛「…………」
金剛(……本当、不思議な人デス)
…………………………………………。
提督「うむ。今日は味がまともだったぞ。利根」
利根「何を言うておるか。誤解を招くような言い方をするでない。我輩はいつもと同じ味で作ったぞ」
提督「そうか。では、一昨日の塩焼き魚は何だったんだ?」
利根「たまには違う味も良かろう?」
提督「バカを言え。高血圧で心中するつもりかと思ったぞ」
利根「それも良いかものう?」
提督「良い案だが、客人の前で言う事ではない」
利根「むぅ……。すまぬ、金剛」
金剛「い、いえ。私はノープロブレムです」
金剛「それよりも、助けて下さるだけでなく食事マデ……お二人共、本当にありがとうございマス」ペコッ
提督「気にしなくて良い。……しかし、これならもっと固形の食事の方が良かったかもしれないな」
利根「そうじゃのう。胃が弱ってると思うて具がドロドロになるくらい煮詰めたスープを作ったが、これなら魚でも良かったやもしれぬ」
金剛(……私のホームカントリィに合わせて作ったのかと思いまシタが、そうではなくて気を遣ってくれていたのデスか)
金剛「本当に、何から何までありがとうございマス」ペコッ
利根「ほれ、そう簡単に頭を下げるでない。我輩達はやりたいと思うたからやっただけじゃ。感謝の言葉はあれど、そこまで深くなくても良いのじゃぞ?」
金剛「で、でも……」
提督「私も利根と同意見だ。ここでは助け合って生きねばならない。頭を下げるよりも知恵や力を貸してくれる方が嬉しい」
金剛「んん……サバイバル知識の無い私でも役に立てるのでショウか」
提督「少なくとも、私達が身に付けている知識は覚えられるだろう」
金剛「……そうデスね! 頑張りマース!」
提督「よろしい。なら金剛、まず初めに私の目を見ろ」
金剛「? ハイ」ジー
提督「今からする質問に答えてくれ。──身体におかしいと思う部分はあるか?」
金剛「…………? 無いデス」
提督「よろしい。ならば次の質問だ。──疲れているか?」
金剛「特には」
提督「ふむ。最後の質問だ。身体はバッチリ動かせるか?」
金剛「ノープロブレムねー」
提督「なるほど。ではまず最初にするべき事を言い渡そう」
金剛「ハイ! 何でも言って下サーイ!」
提督「風呂に入ってこい」
金剛「……ホワッツ?」
提督「聴こえなかったか? 風呂にのんびり入ってこい」
金剛「……………………?」
利根「ふむ。我輩は準備しに行けば良いか?」
提督「ああ。今日は晴れているから多少は温まっていると思うが、快適でないのならば薪を使っても構わないから沸かしてやってくれるか」
利根「了解した! では、行ってくるからのー!」タタッ
金剛「……あの?」
提督「どうした」
金剛「どうして入浴なのデスか? むしろ、そんなのに回せる水があるのデスか?」
提督「水は一昨日の雨で大量に確保してある。それ以外にも塩を作る際に蒸発する水や他の方法でもしっかりと貯めてあるから気にするな」
金剛「デモ……何が起こるか分からないのに──」
提督「むしろ使ってくれ。流れていない水は腐ってしまう。そうなる前に使ってしまいたい」
金剛「なるほど。腐ってしまうのデスか」
提督「ああ。節度さえ守ってくれれば好きに使ってくれて構わない。あと、喉が渇いたと思ったら絶対に飲め。本来は喉が渇いたと感じる前に飲むべきだ」
金剛「……え、と…………」
提督「うん?」
金剛「……………………お礼、言っても良いデスか?」
提督「……なぜそんな事に許可が必要となるのかが分からないが、言いたいと思えば言えば良いのではないか?」
金剛「ソ、ソーリィ。変な事を聞いてしまいまシタ」
提督「謝る必要もないだろう。不思議な子だな、金剛は」
金剛「…………」ジー
提督(……ん?)ジッ
金剛「──これから、よろしくお願いしマス」ニコッ
提督「うむ。こちらこそ頼む」
…………………………………………。
利根「うーむ」チャプチャプ
提督「どうした、利根」チャポン
利根「んー、分からん」パチャパチャ
提督「何がだ?」
利根「金剛の事なのじゃが、どうにも引っ掛かってのう」
提督「ほう。引っ掛かるか」
利根「うむー。何に引っ掛かっているのかは分からぬ。ただ、どことなーく普通ではない気がするのじゃ」
提督「普通ではないお前なら、何もかもが普通に見えないんじゃないのか?」
利根「むっ。鏡でも見るか?」
提督「あるのなら是非見たいな」
利根「目の前に居るじゃろう」
提督「言うようになったな。私も利根と同じように普通ではないと言いたいか」
利根「違っておるか?」
提督「いや、何も違わないな」
利根「そうじゃろうそうじゃろう」パシャパシャ
提督「さっきから暴れすぎだ。湯が零れる。ついでに余計に狭くなるから止めろ」
利根「むー……」ブクブクブク
提督「ほら、後ろを向け。髪を洗ってやる」
利根「ん、頼む」
提督「痒い所はあるか?」コシコシ
利根「んー無いぞー。心地良いのう」ホッコリ
提督「髪、伸びてきたな」コシコシ
利根「そうじゃのぅー。ここまで伸びたらもう充分じゃなかろうかー」
提督「邪魔だと思ったら言ってくれ。ハサミならあるぞ」コシコシ
利根「んー……提督は我輩の髪を見てどう思うのじゃー?」
提督「綺麗だと思っている。弄りがいもあって楽しいな」コシコシ
利根「ならばこのままが良いぞー」
提督「そうか」コシコシ
利根「はぁ~……」
提督「…………」スーッ
利根「ん、そろそろ終わりかの?」
提督「ああ。今終わった所だ」
利根「では、今度は我輩が提督の髪を洗うぞ」クルリ
提督「そうか。頼む」クルリ
利根「……ああ、なるほどのう」ワシャワシャ
提督「どうした」
利根「や、提督の髪は割りと伸びぬと思うたら、切っておったのか」ワシャワシャ
提督「今更だな」
利根「仕方が無かろう。ハサミなんて使わぬのじゃから、ある事自体を初めて知ったぞ」ワシャワシャ
提督「それこそ今更だな」
利根「まあ、無くてもどうとでもなるから要らぬがのう」ワシャワシャ
提督「そうだな。有れば便利というくらいだ」
利根「じゃのー」ワシャワシャ
提督「…………」
利根「……ん、このくらいで良いかの?」スッ
提督「ああ。──しかし、やはり風呂は良いものだな」
利根「そうじゃのう。身も心も温まって潤され、そして洗われるのう」ノビノビ
提督「ああ。この島で一番の極楽だと言える」
利根「それにしても、朝から風呂とは初めてじゃ」
提督「今回は事情が事情だからな」
利根「じゃのう。金剛も大変じゃったらしいのう」
提督「まったくな」
利根「んー……温くなってきた」
提督「沸かすか?」
利根「んー」ピトッ
利根「薪も勿体無いからこっちの方が良い」スリスリ
提督「猫かお前は」ナデナデ
利根「いつもやっておるではないかー」スリスリ
提督「まったく」ナデナデ
…………………………………………。
金剛「え……二人でお風呂に行きまシタよね……?」
金剛「確かに冷める事を考えたら当然だと思いマスが……男女デスよね……?」
金剛「…………そういう事をする仲なのでショウか……?」
金剛「利根が手を引っ張って行ったので、提督が無理矢理なんて事は無いでショウけど……」
金剛「それとも……これが普通なのデスか……? うーん……」
……………………
…………
……
今日はここまでにしておきます。
またいつか来ますね。
今度こそまったりでほのぼのなお話。
頭を空っぽにして読んでも良いくらい軽いお話になる予定です。
それよりも、タイトルで分かられるとは思っていなかった。そんなに特徴無いと思っていたけど、不思議。
提督「だいぶ暗くなってきたな」
金剛(……ご飯を食べて、畑の世話を少しだけしたらずっとダラダラしていましたケド、本当にこんなので大丈夫なのデスかね?)
利根「さて、日も沈んだ事じゃし、そろそろ寝るとするかの」
金剛「……え!? も、もうデスか?」
提督「明かりに火を使う余裕など無い。現状、燃料となる流木や枯れ落ちた枝葉は水以上に貴重だ」
利根「じゃが、明かりを使わないのであれば自由にしても良いのじゃよな?」
提督「無論そうだ。その辺りは好きにしてもらって構わない」
金剛「え、えっと……? それでは、今日のお風呂はナゼ──」
提督「眠くなってきた。利根、寝るぞ」モゾッ
利根「ん? うむ。了解じゃ」モゾモゾ
金剛「あ、あの──!」
提督「いつもこの時間になったら寝ているんだ。すまないが、また今度にしてくれ」
金剛「……ハイ」
利根「割り当てた部屋は憶えておるか? 暗くても大丈夫かの?」
金剛「ハイ。その点は問題ナッシングです。お気遣い、ありがとうございマス」
利根「むぅ……」ジー
金剛「…………? どうかしまシタか?」
利根「やはり金剛は謝り過ぎたりお礼を言い過ぎたりしておるのう。そこまで気にせんでも構わないんじゃぞ?」
金剛「そ、そうデスか……?」
利根「うむ。ここではのんびり過ごせば良い。肩肘張っていては疲れるだけじゃ」
金剛(……私、そんなに謝ったりお礼を言ったりしているのでショウか。それとも、テートクが──……いえ、それは考えてはいけない事デス。ごめんなさい、テートク……)
金剛「……では、私ものんびりとスリーピングしマスね。グッナイ、提督、利根」
利根「うむ。おやすみじゃ」
提督「良い夢を見ろよ」
利根「なんじゃ。起きておるではないか提督よ」
提督「そんなにすぐ寝られる訳がないだろう」
利根「そうかのう? まあ、そういう事にしておいて──」
提督「そう言うお前はすぐに──」
利根「そ、それは言わない約束じゃと──」
提督「さて。それは──」
利根「────」
提督「────」
金剛(……………………)トコトコ
カチャ──パタン
金剛(……埃っぽくはありマスが、やはり少しクリーンにしてくれているそうデス)
金剛(ベッドは……あの鎮守府と同じデスね)ギシッ
金剛「…………」モゾモゾ
金剛「……同じ、デスね」
金剛(硬くて、冷たくて……寂しいデス……)
金剛(知らない場所で──知らない天井で──知らないベッドなノニ……同じデス)
金剛「…………」ジワッ
金剛「っ!!」ブンブン
金剛「……はやく、帰らなければなりまセン」
金剛「帰って、テートクに謝って、お仕事をして……戦場に出て……それから、敵を……倒し、て……」ウトウト
金剛(ダメ……もう、眠気が…………習慣に、なってるから……デスかね……?)
金剛(…………グッナイ……テートク………………)
……………………
…………
……
金剛「…………」パチッ
金剛「ん……私、何時間寝ていましたか?」クシクシ
金剛「……………………ホワッツ? 比叡、榛名、霧島……?」キョロ
金剛「……ああ、そうでシタ」
金剛(私、遭難してしまったのデスよね……)
金剛「結構明るくなっているネ。朝の七時くらいでショウか?」
金剛「……起きるのが遅いと怒られてしまいマスかね?」タタッ
金剛「…………」ヒョコッ
提督「……………………」スー
利根「…………ん」クゥー
金剛(寝てる……? もう結構明るいデスよね? それとも、ここではこれが普通なのでショウか……)
金剛(……とりあえず、起きるまで待っていまショウ。何をするべきかのインストラクションも仰がなければなりまセンし)
金剛(それにしても……)
利根「…………くー……」ギュウ
提督「……………………」
金剛(見事にくっついて寝ていマスね。まるで、新婚夫婦みたいデス)
金剛(この二人は恋仲なのでショウか……? それとも、仮のケッコンをしているのデスかね?)チラ
金剛「…………」ジッ
金剛(……私の薬指に付いている、この指輪。それと同じ物が、二人にはあるのでショウか)
金剛(…………ノー。私の指輪とは、きっと意味も何もかも違うはずデス……)
金剛「……羨ましいデス」ボソッ
利根「んー…………」モゾリ
提督「…………」
…………………………………………。
利根「……んぁ?」パチッ
提督「む……」スッ
金剛(あ、やっと起きました。……あれから二時間経っても寝ているなんて、随分と寝ていまシタね)
利根「んっ……! くぁ~……っ! おはようじゃ。提督」
提督「ああ、おはよう利根、金剛」
利根「んん……?」クシクシ
金剛「おはようございマス、提督、利根」
利根「…………あー、そうか。昨日から金剛が居ったのじゃな」
提督「失礼な事を言うんじゃない。私と同じように接するな」コツン
利根「む。確かに失礼であった。すまぬ、金剛」
金剛「い、いえ。気にしていまセンから」
利根「ふむ。ありがたい。──ところで、どうして朝なのにグッドモーニングじゃないのじゃ?」
金剛「あ、それはデスね」チラ
ザァー──ッ!
金剛「良い朝とは言えないからデス」
提督「ほう。これはこれは」
利根「すこぶる良い朝じゃな」
金剛「……え?」
提督「金剛、この雨はいつから降っている?」
金剛「え、えっと、一時間くらい前デス」
提督「なら問題ないな。利根、行くぞ」スッ
利根「うむ。すぐに出ようかの」スッ
金剛「あの? どこへ行く気デスか?」
提督「外だ」
金剛「雨デスよ?」
利根「雨じゃから外に出るのじゃよ。雨水は出来れば確保したいからのう」
金剛「ああ、なるほど。私も手伝いマス」スッ
提督「いや、金剛は中で待機していてくれ」
金剛「え?」
利根「む? どうしてじゃ、提督?」ヌギヌギ
金剛「ホワッツ!?」
提督「お前は感覚が麻痺しているようだから言っておく。普通の男女がほぼ裸で外を出歩くなんて事は出来ないだろ」
利根「……あー。なるほどのう」ポイポイ
金剛「あ、あの!? 提督の前デスよ!?」
利根「まあ、今更じゃし。慣れた」
金剛「慣、れ……ッ!?」
提督「そういう事だ。金剛は中で待機していてくれ。私達は貯蓄した水の入れ替えをしてくる」スタスタ
利根「提督、今日は脱がぬのか?」ペタペタ
提督「別の場所で脱ぐに決まっているだろ。さっきも言ったように、この場で脱げば困るのは金剛だ」
利根「ふむう……」
金剛(ほ、本当に裸で行っちゃいまシタ……。無人島では、誰しもこんな風になるのデスかね……?)
金剛「いずれ私も……?」
金剛「っ!」ブンブン
金剛「私は……そういう時が来ても服を着て外に出まショウ」
金剛「……それにしても、二人には指輪が付いていまセンでシタね。普段は付けていないのか、それとも仮のケッコンをしていないのか……」
金剛「行動を見る限りではしていてもおかしくないのデスが……うーん……?」
…………………………………………。
一旦ここまでにしておきます。また後で来ますね。
利根「いやー、今日は大雨じゃな! これならばしばらく水には困らなさそうじゃ!」ペタペタ
提督「ああ。本当に良い朝だ。身体は拭けても髪を乾かせられないのは少し残念だとは思うが」スタスタ
金剛「おかえりなサイませ」
利根「大雨で楽しかったぞ! 金剛もどうじゃ?」モゾモゾ
金剛「いえ……私は遠慮しておきマスね」
金剛(本当に裸で居る事に抵抗がないのデスね……。って、あれ? どうして利根は羽織るだけなのデスか? というか、なぜ下着を着けないデス……?)
利根「残念じゃのう」ピトッ
金剛「…………オーゥ……」
利根「うむ。やはり提督の身体は温かいぞ」スリスリ
金剛「あ、あの……?」
提督「いつもは雨で冷えた身体を、こうしてお互いの体温で温めているのだが……利根、今日は控えてくれ」
利根「なぜじゃ? 温かい方が良いに決まっておろう」ギュー
提督「人の目を考えろと言っているんだ」
利根「むー……」
金剛「えっと……私は席を外しマスので……」
提督「いや、構わん。そういう事をする訳ではない。──それよりも、今日は金剛に色々と覚えてもらおうか。座学だ」
利根「座学は嫌いじゃ……。……それよりも提督よ」
提督「ああ。毛布に包まっていろ。風邪を引いたら一大事だ」
利根「やったぞ! って、そうではない。提督も風邪を引いたら問題があるじゃろう。やはり一緒に温まるべきじゃ」
提督「しかしだな──」
利根「我輩と提督、どちらかが倒れればもう片方も倒れてしまうんじゃぞ。ここは人の目など気にする場合ではないのではないか?」
提督「……金剛に判断を委ねよう」
金剛「え……ええっと……」
利根「…………」ジー
金剛「…………うぅ……」
利根「…………」ジー
金剛「……二人共、温まって下サイ。その状態で話してもらって、私は提督の教えを頭に入れます」
利根「うむ! さあ提督よ、我輩は少し寒い。早く毛布に包まろうぞ」モゾモゾ
提督「金剛、助かる」モゾモゾ
利根「はー……温かいのー……」ホッコリ
金剛(……なんだか、お風呂に入っているみたいデスね)
提督「では、この状態ですまないが必要最低限の事を教えていく。紙やペンは無いが、大丈夫か?」
金剛「ハイ。ノープロブレムです」
提督「よろしい。ではまずは水についてだが──」
…………………………………………。
提督「──こんな所だろう。分からない所はあったか?」
金剛「ノー。ありませんでシタ。とても分かりやすかったデス」
提督「ふむ。それは良かった。後は実践できるかだな」
金剛「…………」
提督「うん? どうした」
金剛「あ、いえ……その……」
提督「気遣う必要は無い。思った事を言ってくれ」
金剛「…………え、と……」
提督「……ふむ。金剛にはこう言った方が良いみたいだな。──金剛、命令だ。思っている事を言え」
金剛「ハ、ハイ……」
提督(やはりな。金剛の心の奥では上下関係がしっかりと根付いているようだ)
金剛「……正直に言いマスと、実践できるかどうかは何とも言えないのデス。頭に入れただけでは、どうしても想像の域でしかないノデ……」
利根「なんじゃ。そんな事か」
金剛「え、え……?」
提督「予想通りというべきか」
金剛「…………?」
提督「初めに言っておくべきだったな。金剛、これからは思った事をしっかりと口にしてくれ。例え、それがネガティブな内容であってもだ」
金剛「それは流石に……」
提督「何度も言うようだが、気遣う必要は無いんだ。それに、金剛は私の直属の艦娘ではない。初めから気を遣う必要も無いぞ」
金剛「……………………」
提督「ふむ……。言い方を変えるか。金剛、不安な事は不安だと言って良い。無理だと思ったならば無理だと言って良い。むしろ言ってくれ。命令だ」
金剛「……ハイ」
提督「よろしい」
金剛(本当に言っても良いデスか……? 凄く怖くて……そして不安デス……)
提督(……これはある意味、利根以上に手を焼きそうだ)
利根「む。今何か失礼な事を考えておらんかったか、提督よ」
提督「察しが良いな。その通りだ」
利根「むー……。まあ、温かくて気持ち良いから許す」ギュー
提督「単純な奴め」ナデナデ
利根「単純で結構じゃ」スリスリ
金剛「……なんだか猫みたいデス」
利根「おお、金剛もそう思うか」
金剛「私も、デスか?」
利根「うむ。昨日、一緒に風呂へ入っている時にの、提督から猫のようだと言われたのじゃ」
金剛(本当に一緒に入っていたのデスか……)
利根「我輩も薄々そう思っておったからのう。やはり、提督が温かいのが原因じゃな!」スリスリ
提督「…………」ナデナデ
金剛(それは何だか違うと思うデス)
提督「さて、そろそろ朝食にするとしようか」スッ
利根「えー……。提督、我輩はもう少し温まりたいぞ」
提督「毛布に包まったまま齧れば良いだろう」スタスタ
利根「それもそうかの」スッ
金剛(齧る?)
利根「ところで金剛よ」
金剛「? ハイ、なんでショウか」
利根「ずーっと立っていては疲れるじゃろ。ほれ、ベッドに腰掛けておれ」ポムポム
金剛「……え? い、良いのデスか?」
利根「むしろなぜダメなのじゃ。ほれ、座って待っておれ」
金剛「ハ、ハイ……」スッ
利根「では、我輩達は食料を取ってくるからのー」トコトコ
金剛「いってらっしゃいマセ」
金剛「……………………」
金剛(……不思議なのは提督だけかと思っていまシタけれど、利根も相当不思議な艦娘デスよね)
金剛(提督にあんな態度や言葉を使っていマスし、まるで提督を上官だと思っていないような──いえ、まるで思っていないデス)
金剛(提督も提督で許しているというよりも、そうであって欲しいと思っているような……? そんな雰囲気がしマス)
金剛「……本当、テートクと私とは大違いデス」
金剛(少しだけ……ほんの少しだけデスが、良いなと思った自分を叱りたいデス……)
利根「ほれ金剛ー。持ってきたぞー」トコトコ
金剛「おかえりなさいま……せ?」
利根「うん? どうしたのじゃ?」
金剛「あの……それって何デスか?」
提督「魚の干物と水だ」
利根「味を付けたまま保存に向いておってのう。割と長持ちするから、今日みたいな火の使えぬ日には持ってこいなのじゃ」
金剛「ォー……」ジー
提督「さて、食べるとしようか」ガジッ
利根「うむ!」ガジガジ
金剛「頂きマス」ハムハム
金剛(…………? なんだか、淡白で塩っぽい味デスね?)モグモグ
金剛(でも……とっても美味しいと感じるのは、なぜでショウか……)
利根「うーむ。今日の出来は割りと良くないのう」ガジガジ
提督「今回は塩が少なかったかもしれん。保存している時間で塩の加減を変えねばならんから難しいな」
利根「うむ。多過ぎると辛いが、少な過ぎると味の劣化が顕著じゃのう。これだと多過ぎる方がマシじゃ」
提督「そうだな。今度からはそうしよう」
利根「提督よ、そっちの魚は美味いかの?」
提督「変わらんと思うぞ。ほれ」スッ
利根「あむっ……。んー…………本当じゃ。変わらんのう」モグモグ
提督「だから言っただろう。利根、お前のを一口貰うからな」
利根「うむ。ほれ」スッ
金剛(……この二人が居るから、デスかね?)
…………………………………………。
利根「…………」ゴロゴロ
金剛「…………」
提督「…………」ジッ
利根「…………」トコトコ──ピトッ
提督「…………」ポンポン
利根「…………♪」ギュー
金剛(……なんて自由。本当に提督と艦娘という立場に居るとは思えまセン……)
提督「……金剛」
金剛「っ! ハ、ハイ」
提督「少し気になったのだが、どうしてずっと立っているんだ?」
金剛「…………?」
金剛(それって、当然の事デスよね? 艦娘が提督の前で礼儀正しくするのは当たり前──)
利根「うむ。我輩もさっきから気になっておったのじゃ。どうしてじゃ?」
金剛(……利根は例外とシテ)
金剛「提督である貴方に失礼の無いようにと思って立っていマス」
提督「そうか。では座っていてくれ」
金剛「え? ……ハイ」キョロ
金剛「…………」ストン
提督「別にベッドに座っても良いんだぞ? そんなボロ椅子では痛くなるだろう」
金剛「で、でもそれは流石に……」
提督「構わんよ」
金剛「……………………」
金剛(……確かに、この提督ならばお叱りになる事もないでショウけど──いえ、この考え自体があまり良くないデスね)
金剛「え、と……それでは、お言葉に甘えて……」ソッ
提督「何だったら寝ていても良いぞ。今日は暇な時間しかない」
利根「何を言うておるか提督。今日も暇な時間しかない、の間違いであろう」
提督「そうだな。今日も暇な時間しかない」
金剛(……ここは流石に甘えるべきではないデスね。非常に失礼デス。でも、なるべく肯定的な言葉で……)
金剛「それでは、眠くなったら眠らせて頂きマス」
利根「うむうむ。眠るのは大事じゃ」
提督「……………………」ジッ
金剛「…………?」
提督「金剛、しばらく横になっていてくれ」
金剛「えっ──」
金剛(そ、それはダメです! ベッドで横になってしまうと、条件反射で眠ってしまいマス!)
金剛「それは……えと……」
提督「……そうだな。言い方を変えよう。──命令だ。ベッドで横になっておけ」
金剛「……………………提督が、そう言うのであれば……」ポフッ
提督「ああいや、その体勢は辛いだろう。普通に横になっておけ。雨が降っているから毛布も被っておけ」
金剛「……ハイ」
金剛(うぅ……寝ないように頑張らなければなりまセン……)モゾモゾ
金剛「……これで、良いでショウか」
提督「ああ。起こすべき時になったら起こすから、それまで横になっていろ」
利根「素直に寝ておけと言えば良かろうに」
金剛(本当デス。これだと、寝ろと言っているも同然、デス……)ウトウト
金剛(あ……ダメ…………やっぱり、すぐに、眠く……)
金剛「…………────」スゥ
利根「む? もう寝てしもうたぞ」
提督(静かにしていてやれ。慢性的な疲労だったんだろう)ヒソ
利根(なんと……まったく気付かなんだぞ)ヒソ
提督(恐らく、普段から無理をしているんだろう。お前の相手は向こうでするから、一旦ここを離れるぞ)ヒソ
利根(了解した)ヒソ
金剛「……………………」スゥ
…………………………………………。
金剛『金剛、帰投しまシタ』ピシッ
金剛『ハイ。戦果リザルトを報告しマス。──パラオ諸島沖の敵機動部隊迎撃作戦は膠着状態にありマス。ラストターゲットである空母水鬼は堅牢デス。随伴している装甲空母姫も二隻投入されており、一筋縄ではいけまセン。その前に敵の空母棲姫とどうあってもバトルに入ってしまい、ここでのバトルをどう凌ぐかが問題となっていマス』
金剛『……どうなされマスか? ──え? 私を、解雇……? そ、そんな! どうして──っ!?』
金剛『役に立っていない……のは分かっています……。敵を殲滅しきれない私は、確かに……役立たずです……。ですが! もっと頑張りますから!! どうか──!!』
金剛『──あ、れ? ここ、どこですか……? 海? どうして……? 私はさっきまで、執務室に居たはずなのに……』
金剛『…………目の前に島がありマス。人は……二人くらいしか住んでいなさそうデスね』
金剛『……後ろには私の帰るべき鎮守府。目の前には何も無い島……』
金剛『でも……私は帰れない……帰る事が……出来ません…………』
金剛『私……どうすれば良いのですか……?』
金剛「────ッ!!」ガバッ
金剛「…………」キョロ
金剛「……誰も居ない? いえ、それよりも外が暗くなってきていマスね。私、どれだけ寝ていたのデスか」スッ
金剛(ん……身体、少し痛いデスね。どう考えても寝過ぎデス)グッグッ
金剛(二人はどこへ行ったのでショウか。たしか、起こす時になれば起こすと言っていまシタけど……)トコトコ
利根「──よ、そろそろ起こすべきではないかの?」
金剛(あ、声が。別の部屋に居たデスか)
金剛(……二人の時は何を話しているのデスかね?)ソロソロ
ちょっとばかし席を立ちます。また後で来ますね。再開は二二○○~二三○○を予定です。
過去作教えてくり
再開します。
>>60
こんな感じです。
金剛「テートクのハートを掴むのは、私デース!」瑞鶴「!?」
金剛「テートクのハートを掴むのは、私デース!」瑞鶴「!?」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1382027738/)
金剛「テートクのハートを掴むのは、私デース!」瑞鶴「!?」 二隻目
金剛「テートクのハートを掴むのは、私デース!」瑞鶴「!?」 二隻目 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1382975945/)
金剛「テートクのハートを掴むのは、私デース!」瑞鶴「!?」 三隻目
金剛「テートクのハートを掴むのは、私デース!」瑞鶴「!?」 三隻目 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1385048978/)
瑞鶴「私は幸運の空母なんかじゃない」 金剛「?」
瑞鶴「私は幸運の空母なんかじゃない」 金剛「?」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1404595227/)
提督「自分から起きるまで寝かせてやってやれ。常日頃から無理をしていたんだろう」
利根「ふむ。分かるのか?」
提督「顔色と振る舞いを見れば分かる。むしろ、分からなければ提督として勤まらん」
金剛「……………………」
利根「そういうものなのかのう……? よく分からないんじゃが」
提督「疲れが溜まれば艦娘も間違いを引き起こす。それに、実力も充分に発揮されない。絶好調とまではいかずとも、せめて調子が悪くない程度にはしなければならんよ」
金剛「…………」
利根「んー?」
提督「どうした。まだ分からんか?」
利根「や、それは充分に分かったのじゃが、代わりに分からぬものが生まれた」
提督「そうか。なんだ?」
利根「提督よ、お主は上辺だけの言葉を使ったの?」
金剛(上辺だけ……?)
提督「さて、何の事やら」
利根「とぼけるでない。どれだけ我輩と一緒に居ると思っておるのじゃ。いつもと違う事くらいは分かるぞ?」
提督「まあ、それは今度話そう」
利根「気になるぞー」
提督「──ところで、立ち聞きはあまり良くないんじゃないか?」
金剛「っ!?」ビクンッ
利根「む? 金剛かの?」
金剛「……ソーリィ。お二人が何を話しているのか気になって……」スッ
利根「なんて事はない。だらだらとしつつ他愛の無い会話しかしておらんかったよ」
金剛「……あの」
利根「うん?」
提督「どうした」
金剛「さっき話していた事デスが、一つ質問をしても良いでショウか」
提督「ああ。なんだ?」
金剛「利根が聞きたがっていた事は、私が居たから話さなかったのデスか?」
提督「…………」
利根「む。図星みたいじゃな」
提督「……察しが良いな、金剛。相当な錬度を持っているのは伊達ではないか」
利根「相当な錬度? なぜそんな事が分かるのじゃ?」
提督「金剛の左薬指を見れば分かる」
利根「……指輪? それが何か関係あるのか?」
提督「あれは莫大な経験を積んだ艦娘にしか付けるのを許されない指輪だ。その指輪を付けているという事は、最高の錬度になったという証でもある」
利根「ふむ、なるほど。……しかし、なぜ金剛が居ると話せない事なのじゃ?」
提督「…………」チラ
金剛「!」
金剛「……私は大丈夫デス。どんな内容であれ、受け止めてみせマス」
提督「……分かった」
利根(うーむ? なんじゃ、この気持ち? チクチクするぞ)
提督「さっきは尤もな事を言ったが、利根の言ったようにあれは建前だ。私の考えている事はただ一つ」
提督「沈ませたくない──ただ、それだけだ。だから私は疲労やその他諸々を気にする」
利根「…………」
金剛「……良い人デスね。本当に」
提督「ハハッ、それはどうかな。もしかしたら悪魔かもしれんぞ?」
利根「提督が悪魔ならば、我輩は何になるのじゃ」
提督「同じ悪魔で良いんじゃないか?」
利根「ふむ。それも良いのう」
金剛「?」
金剛(なんですか、この違和感は)
提督「さて、そろそろ食事にしよう。幸運な事に雨はまだ続いているから、また干物だがな」
利根「幸運だというのにも関わらず、普段よりも質が落ちるというのは中々不思議じゃのう」
提督「今更だな」
利根「今更じゃの」
金剛(…………?)
金剛「って、え? 今からディナー、デスか?」
提督「そうだが、どうした。食が進まないか?」
金剛「いえ……昨日はこの位の時間になるとスリープしていまシタので、不思議に思ったデス」
利根「うむ? 当然じゃろう。食事は全員一緒にじゃ」
金剛「自分達の食欲や睡眠欲を削ってでも……デスか?」
提督「私達は自由奔放だからな。いくらでも融通が利く」
利根「そういう事じゃ」
金剛「────────」
利根「む? そんなに不思議な事じゃったか?」
金剛「……いえ。嬉しいな、と思ったのデス」
金剛(たったこれだけの事で、嬉しいと思えるものなのデスね……)
…………………………………………。
カチャ──パタン
金剛「……………………」ギシッ
金剛(ブレックファスト……と言って良いのかは分かりまセンが、同じ干物だったのに朝食べた時よりもずっと美味しく思いまシタ)
金剛(……どうしてデスかね。鎮守府の食事よりも、ずっとずっと……美味しく感じるだナンテ……)コテッ
金剛「……食事、だったのデスかね?」
金剛(思ってみれば、私の場合は食事というよりも栄養補給といった方が強かったのかもしれまセン)
金剛(楽しんだり、団欒をする為に食事をするのではなく、ただ単に倒れないようにする為の食事……今なら、そう思えマス)
金剛(……そういえば、今日のディナーの時も、二人は夫婦みたいに仲が良かったデスね)
金剛「羨ましいデス……」ボソリ
金剛「……………………」
金剛「…………」モゾモゾ
金剛(今日も、早くスリープしてしまいまショウ)
金剛「おやすみなさい……」
金剛(……誰に言っているのデスかね、私…………)
…………………………………………。
利根「提督よ、起きておるか」
提督「どうした」
利根「提督の言っていた沈ませたくないという話じゃが、良いかのう」
提督「……ああ。構わん」
利根「もう三年近くじゃぞ。そろそろ吹っ切ってはどうかの?」
提督「そっくりそのまま返してやろう」
利根「我輩はほとんど吹っ切っておる。提督と違って、の」
提督「…………」
利根「時の流れとは残酷じゃな。当時はあんなにも苦しかったというのに、今では胸が少し痛むだけじゃ」
提督「……そうか」
利根「提督よ。我輩は冷たいのかの」ソッ
提督「いや、私が引きずり過ぎているだけだろう。利根の言うように、そろそろ私も吹っ切るべきだ」
利根「……なあ、提督よ」
提督「どうした」
利根「我輩は、冷血じゃからこうして心温かい提督の温かさを感じたいのかの」ギュゥ
提督「さて、それは私にも分からない。……分からないな」ナデナデ
利根「ん……優しい温もりじゃ」
提督「温かいか」ナデナデ
利根「うむ。提督のこれさえあれば、他は何も要らぬと言えよう」
提督「食料や水もか?」
利根「無いのであれば要らぬ。我輩はこれだけでも充分じゃ」
提督「……私も、お前の温もりが欲しいのかもな」
利根「ほう? 我輩は冷たいぞ?」
提督「今、こうして温かいのは事実だ」ギュ
利根「……そうか。温かいか」ギュゥ
提督「ああ……とても、心地良い」
利根「奇遇じゃな。我輩も心地良いぞ……」
提督「久々に良い悪夢が見られそうだ」
利根「うむ……。良い悪夢、見たいのう」
提督「おやすみ、利根」
利根「おやすみじゃ、提督」
……………………
…………
……
提督「…………」ジッ
金剛「…………」ジッ
利根「なんじゃ。提督も金剛も揃って海を眺めおって。そんなに面白いかの?」ノシッ
提督「お前が思っているよりは楽しいと思うぞ。あと、背中に覆い被さるのは良いが体重は掛けるな」
金剛「私は、ただ何となくデス」
利根「ふむ? 何となくとな?」スッ
金剛「本当に思ったよりもやる事や出来る事が少ないデス。後はこうして海を眺める事くらいシカ……」
利根「まあ、この規模の島ならば一日もあれば調べ尽くせるじゃろうしな。お主がここへやってきて早一週間。暇で暇で死にそうになる頃合じゃ」
金剛「……今ふと思ったのデスが、利根」
利根「うん?」
金剛「利根が艤装を付けている姿を見掛けないのデスが、艤装はどうしたのデスか?」
利根「ああ、あの鉄の塊か。あれは随分前から倉庫で放置しておるな」
提督「埃を被るどころか、潮風で錆付いて穴だらけになっていてもおかしくないだろうな」
金剛「……もし、敵が襲ってきたらどうする気デス?」
利根「まあ、その時はその時じゃな。むしろ、こんな小さな島を襲おうと思う深海棲艦も居らんじゃろうて」
提督「もし会敵したとしても無視すれば良い。放っておいて陸にいれば奴らも攻撃をせんだろう」
金剛「……なんだか、希望的観測デスね?」
利根「まあ、実際にそれで戦闘にならなかったからのう」
金剛「……ホワッツ? このアイレットで深海棲艦と会敵したのデスか?」
提督「随分と前に一回だけな。浜辺付近まで近付いていた深海棲艦を見付けた時、敵という認識よりも先に珍しいという感情が出てきた」
利根「深海棲艦の事について提督と話しておったら、どういう訳かそのまま帰ってしまったよのう」
金剛「問答無用に攻撃してくるかと思いまシタが、何があったのデスかね」
提督「そればかりは私達も分からん。想像すら付かない」
利根「全くもって不思議な話じゃよな。その頃には艤装も降ろしておったから、攻撃をされれば間違いなく陸で轟沈しておったじゃろうなぁ」
提督「私など赤い霧になっていただろう」
金剛「……想像したくないのに想像してしまいまシタ」
提督「む。大丈夫か?」スッ
金剛「ええ……なんとか……」
提督「…………」サスリサスリ
利根「? 提督よ、こういう時は抱き締めるのが普通ではないのか?」
金剛「……………………。────ッ!?」ビクンッ
提督「馬鹿を言うな。お前相手ならそうするだろうが、金剛は私の艦娘ではない上、出会ってから数日しか経っていないだろ」
利根「我輩はやっても良いと思うがのう」
金剛「…………」
提督「自分にされている事の全てが普通だと思うな。中には例外的にやっている事もあるんだぞ」
利根「そうは言ってものう……。おそらく、金剛もそうされたいと思うておると思うぞ?」
提督「吊るすぞ」
利根「い、嫌じゃ!! で、でででも、これは引けぬぞ!?」
提督「よし、では今から吊るそう。利根と私は互いの裸を見る事に慣れているくらいだ。数時間吊るしても耐えられるよな?」
利根「あれは羞恥心以前に提督が怖いんじゃぞ!? 二分と保たぬわ!!」
提督「ええい、耳元で大声を出すな。いや、丁度良い。逃げられる前に捕まえておけるか」グイッ
利根「ぬあっ!? し、しまった!」
提督「久々だ。ああ、久々だな利根。お前を吊るすのは何年振りだろうか?」
利根「う、ううぅ……!」
金剛「……あの」
提督「どうした。金剛も見るか?」
金剛「いえ……そうではありまセン。確かに少し興味はありマスけど」
利根「持たぬで良いぞ、そんな興味は!?」
提督「やかましい。少し黙っていろ」ギュゥ
利根「むーっ!! むぅーっ!!!」ジタバタ
金剛「……わ、私も、そんな風に……抱き締めて貰って、良いですか?」オソルオソル
利根「!」ピタッ
提督「……いくら何も無い島だからといっても、物事には線を引くべき場所は引かなければならんぞ」
金剛「一度だけ……一度だけで充分デス。だから、お願いしマス」ペコッ
提督「頭を下げる程でもないだろう。頭を上げなさい」
利根(お? 何やら物言いが柔らかいぞ?)
金剛「……ダメ、でシタか?」シュン
提督「…………一体何を考えているのかは分からんが、一度だけだぞ」
金剛「!! ありがとうございマス!」
利根「ぷはっ! ほれ、言うたじゃろう。提督は女心が分かっておらんのう」
提督「釣竿の先に吊るして鮫でも釣ってみようか」
利根「ご、ごめんなさい……!」ビクビク
提督「冗談だ。……それにしても、お前も不思議な事を望むものだな、金剛」
金剛「自分でもそう思いマス。けど……今はそうしたいデス」
提督「……心の準備は良いか?」スッ
金剛「ハ、ハイ」ビクビク
利根(……ふーむ。自分から言っておいてアレじゃが、どうも良い気分になれぬのう?)
提督「ほら、一歩前に踏み出して来い」
金剛「…………っ」ギュゥ
提督「よしよし。良い子だ」ソッ
金剛「……ぁ…………」
提督「どうした」
金剛「少しだけ……いえ、強くしても良いので抱き締めて下サイ」
提督「…………」チラ
利根「? 何をしておるのじゃ提督。少し痛いくらいで丁度良いんじゃぞ?」
提督「……分かった」ギュウ
金剛「────っ」
金剛(……温かいデス。人の温もりって、自分と全然違うのデスね……)
金剛(どうしてデスか……? 自分で自分を抱き締めて、こんなに温かくならないのに……どうして、他人に抱き締められると、こんなに温かいのデスか……?)ジワッ
利根「…………ほれ、何をしておるのじゃ提督。頭も撫でてやらんか」
提督「いや、それは──」
金剛「……………………っ」ギュッ
提督「……ああ、分かった」ナデ
金剛「ぁ……」
金剛(何でショウか……心に流れてくる、この優しくて、温かい気持ちは……)ポロ
金剛(ダメ……涙、勝手に出てきちゃいます……)ポロポロ
金剛(──ああ……これが、私がずっと望んでいたものだったです……)ポロポロ
金剛(いつか……テートクから貰いたかった優しさ……ずっと、何年も待ち続けた温もりが……)ポロポロ
提督「…………」ナデナデ
金剛(この人……この人が…………私のテートクだったら……────っ!!)
金剛「っ!」グイッ
利根「お? どうしたんじゃ。いきなり離れ──……なぜ泣いておるのじゃ?」
金剛「……………………ごめ、なさい……。少し、部屋に……一人で……」ダッ
提督「…………」
利根「…………」
提督「……………………」
利根「……提督よ、確かに少し痛いくらいが丁度良いとは言ったが、そんなに強くしたのかの?」
提督「吊るす」
利根「なっ!? な、なぜじゃ!? や、やめ──ってどこにロープを隠し持っておったのじゃ!?」タジッ
提督「問答無用」ヒュッ
利根「ひっ──!?」
ニィアアアアアアアアアアアア────ッッ!!?!
…………………………………………。
金剛「……馬鹿です。私は、大馬鹿者です……」
金剛「あの人が私のテートクだったら、ですって……? そんなの、許されません……。私は、既にテートクから指輪を貰ったのですよ……?」
金剛「例えそれが、私の能力を精神的に向上させる為だけのモノだったとしても、私はテートクと契りを交わしたです……」ポロ
金剛「なのに……普段から優しくされていないからといって……私の欲しかった優しさと温もりをくれたからといって……あんな事を思ってしまうだなんて……!!」ポロポロ
金剛「自分で自分を殺したいです……。テートクに会わせる顔がありません……」ポロポロ
金剛「ごめんなさい……ごめんなさい……テートク…………」ボロボロ
金剛「ごめんなさい…………ごめんなさい……────────」
……………………
…………
……
色々とキリが良いので今日はここまでにしておきます。またいつか来ますね。
次はあの二隻も出ます。自分でも書くのが楽しみ。
提督「…………」
利根「…………」
金剛「…………」
利根(……気まずいっ!!)
利根(なんじゃ、この気まずい空気は……!? 日が変われば元に戻ると思うておったが、全然ではないか……!!)
利根(せめてこの垂らした糸に魚が食い付いてくれれば空気も変わるというのに……! 今日ばかりは全くもって反応を示さん!!)
利根「…………」チラ
提督「……………………」
金剛「……………………」
利根(……そりゃそうじゃよのうっ!? こんなドンヨリとした雰囲気が漂っておる餌に、誰が食い付くものかのう!? 腹を空かせたピラニアでも唾を吐いて去るよのう!?)
利根(我輩はそんなに間違っておったのか!? 昨日、金剛が抱き締められたいと思うておったのは確かではなかったのか!?)
利根(誰でも構わん! 何でも構わん!! どうかこの空気を壊してくれぬかぁ!!?)
提督(──む)チラッ
ザリッ──!
利根「!! ……誰じゃ?」クルッ
瑞鶴「え……あ、あれ……?」
響「……ハラショー」
金剛「──え?」クルッ
瑞鶴「え……ぇえ!? こ、金剛さん!?」
金剛「瑞鶴!? 響まで!?」
響「!! 金剛さん、心配したんだよ」
提督「知り合いか、金剛」
金剛「……私の鎮守府で、よく一緒に出撃していた仲間デス。でも、どうしてここへ……?」
瑞鶴「や……あはは……まあ、私の状態を見てくれたら分かるかもしれないけど……」
提督「中破……いや、ギリギリ大破しているな。駆逐艦の響は無傷だというのを考えると、護衛退避したといった所か?」
響「ご明察だよ。作戦中、珍しく被弾した瑞鶴さんが大破したから、護衛退避している所だったんだ。……だけど」
瑞鶴「母港に帰る途中、海が大荒れに荒れちゃって……。方向も完全に分からなくなっちゃって闇雲に進んでたらここに辿り着いたの」
提督「そうか。大変だったんだな」フイッ
瑞鶴「む。素っ気無いわね。失礼じゃない?」
提督「自分の肌を見られても良いと言うのならば目を向けるが、そういう訳ではないだろう」
瑞鶴「え、あ──! わ、忘れてた……!」サッ
利根「……忘れるかの、普通?」
響「忘れないね。恥ずかしくないのかと思ってビックリしていたけど、まさかそんな理由だったとは思わなかったよ」
瑞鶴「……だって、沈まないようにするので必死だったんだもん…………」イソイソ
金剛(響の後ろに隠れていますケド、なんだか不思議な光景デスね)
提督「利根。一応聞いておくが、余っている服はあるか?」
利根「我輩は知らんぞ。物資は全て提督が管理していたではないか」
提督「……修理をするしかないな」
利根「やはり無いか」
瑞鶴「え、ここってドックとか妖精さんとか居るの?」
利根「いや、居らんぞ」
瑞鶴「……じゃあ、どうやって修理するのよ」
利根「それは勿論、我輩の提督が修理する他ないのう」
瑞鶴「え」
響「……もしかしてだけど、金剛さんも同じなのかな?」
金剛「イエス。ぼんやりとしか憶えていまセンが、この方が一生懸命修理をしてくれたのは確かデス」
瑞鶴「ちょ、ちょっと! 嫌じゃなかったの!?」
金剛「……本当に意識が朦朧としていまシタので、そう考える余裕も無かったデス」
響「そんなに酷い状態だったんだね。……今は大丈夫?」
金剛「この通り、ピンピンしてるネー」ニコニコ
響「!」
瑞鶴「そっか……良かったぁ……。もー、全然帰ってこなくて心配したんだからね?」
金剛「ソーリィ……。──ところで、瑞鶴は修復をどうするデスか?」
瑞鶴「え。えっと……」チラ
提督「…………」
瑞鶴「……本当に、修理できるのってこの人だけ?」
利根「我輩は隣で見ていたが、何をしているのか全く分からんかったぞ」
金剛「私は見た事すらないデス……」
響「私も金剛さんと同じだよ」
瑞鶴「う、うう……」
提督「……利根。私の上着を渡してやってくれ。流石に艦娘といえど、このままでは風邪を引いてしまう」スッ
金剛「え──!?」
利根「うん? 構わんが、どうして自分で渡さないのじゃ?」スッ
提督「男の私が近付くよりも女のお前の方が安心出来るだろう」
利根「なるほどのう。──ほれ、瑞鶴」スッ
瑞鶴「あ、えっと……うん。ありがと」
金剛「え、ええ……? ほ、本当に着せて良いのデスか? 大事な軍服デスよね?」
提督「構わん。今この場においては私の軍服など、ただの防寒着だ」
響「…………? !!」
金剛「……瑞鶴。その軍服は出来るだけ丁寧に扱って下サイ」
瑞鶴「え? そりゃ人様の物だしそうするけど……どうして?」
響「…………」ピシッ
瑞鶴「ど、どうしたのよ響ちゃん。いきなり敬礼なんてして」
響「……先程の非礼を詫びます。申し訳ございません。そして、お気遣い、ありがとうございます」
提督「止めてくれ。私は今、そんな立場の人間ではないよ」
瑞鶴「え……もしかして、凄く偉い人……?」
金剛「……この方は私達のテートクの二つ上、中将の階級デスよ」
瑞鶴「……………………」
瑞鶴「大変、失礼しました……!!」ビクビク
利根「ぉー。三日前の金剛と同じ反応じゃのう」
提督「この島じゃそんな階級なんて意味を成さんよ。畏まらないでくれ」
瑞鶴・響「はいっ!」
提督「…………」
金剛「ア、アハハ……やっぱりそうなるデスよね。私も同じでシタ」
瑞鶴「あの……あ、あの……罰とかは……」ビクビク
金剛「何も無いデース。とても優しいお方デスよ」
提督「優しいかどうかは知らんが、罪や罰などを言うつもりは無いから安心してくれ。言うなれば、出来るだけ肩肘張らず普段通りにしてくれると助かる」
利根「本当に提督は畏まられるのが苦手じゃのう」
瑞鶴「あ、ありがとうございます……!」
響「……呼び方は提督、さんで良いのでしょう……良いのかな」
提督「さんも付けなくて構わない。さっきも言ったように、ここでは階級や提督や艦娘などといったモノに縛られる事はない。助け合って生きねばならん」
利根「でないと待つのは死じゃからのう」
提督「これからよろしく頼む」
響「…………うん。よろしく、提督」
瑞鶴「あの……」
利根「うん? どうしたのじゃ?」
瑞鶴「こ、こっちを向いても、良いんですよ?」
提督「……まずはその服を着てくれるか。出来る限り見られたくないだろう?」
瑞鶴「す、すみませんでした!」イソイソ
金剛「瑞鶴はパニックになると自分の事が見えなくなるのは相変わらずネー」
瑞鶴「だって……そんな余裕無くなるじゃないのぉ……」イソイソ
瑞鶴「……うん。良し。き、着ました」
提督「そうか。……さて、話を戻すが修復はどうする。私を観察してからするしないを決めても構わん。信用ならんと思ったら言ってくれ。利根になんとか頑張らせよう」
利根「我輩じゃと!? そんなに手先は器用ではないぞ!?」
提督「案外やれば出来るものだ。目の前に実例が居るだろう」
利根「むー……」
提督「実際に修復して思った事や、やってはいけない事、手順などを叩き込めばどうにかなるはずだ。お前も出来る」
利根「その根拠の無い自信はどこからやってくるのじゃ……」
提督「お前への信頼、という事で納得してくれ」
利根「うーむ……むぅー…………それなら、良いかのう。我輩も頑張る」
瑞鶴「あのー……失敗したらどうなるんですか……?」オソルオソル
提督「やってみた感覚としては、資材が消えるくらいだったな」
瑞鶴「あ、なんだ。それくらいなんだ……。良かったぁ……」ホッ
金剛・利根「……………………」
提督「うむ。だからそんなに気構える事もない。ついでに敬語を使う必要も無いぞ?」
瑞鶴「あっ……!」
提督「少しずつでも良い。慣れていってくれると助かる」
瑞鶴「はい──や、違くて……うん。がんば……るね」
提督「うむ」
金剛「……ところで提督。資材が消えるくらいとライトに言っていまシタけど、この島に資材はいくらほど残ってるデスか?」
提督「詳しくは知らん」
響「え?」
提督「回数で言えば一回出来るかどうかギリギリといった所だろうか」
瑞鶴「……それって結局、成功か失敗のどっちかじゃないの!?」
提督「利根が上手くやってくれるのであれば完全修理までギリギリいけるだろう。失敗した箇所が多くなれば多くなるほど損傷部位はそのままとなる」
利根「嫌な予感はしておったが、そういう事じゃったのか!! やはり難しいではないかぁー!!」
提督「逆に考えろ。必要最低限まで修復できれば気にする必要も無いと」
利根「……完全に失敗したらどうなるのじゃ?」
提督「その時か……。ふむ。あの服を刻んで必要最低限の衣服を作るのはどうだ?」
瑞鶴「ごめん。それは無理です……。中将さんの軍服で作られた服なんて畏れ多くて……」
提督「いずれ慣れるだろう」
瑞鶴「慣れるのかしら……」
提督「どちらにせよ気持ちの問題だ。──おっと」グイッ
利根「む? ──おお、やっと釣れたか!」
提督「糸が切れなければ釣れるだろう」クイックイッ
利根「そこらで拾ったボロ糸じゃからのう……。前に交換してから大分経つし心配じゃ」
提督「怖い事を言ってくれる。本当に千切れたらどうす──」ブチッ
金剛・瑞鶴「あ」
利根・響「…………」
提督「……利根」チラ
利根「わ、我輩のせいではなかろう!?」
提督「この虚無感をどうしてくれようか」
利根「我輩に言われてもどうしろと……」
提督「……そうだな。いつものように頼む」
利根「む? いつものというと、いつものか?」スッ
提督「ああ」
金剛(いつもの……?)
瑞鶴(何をするのかしら……)
響(……少し、興味があるな)
利根「ほれ」ノシッ
金剛(ああ、なるほど。確かにいつものデスね)
瑞鶴「……背中に乗っかって、何かが変わるの?」
提督「大抵この状態になっているせいかは知らないが、こうされると非常に落ち着く」
利根「我輩も凄く落ち着くぞ」
響「なんというか……不思議な人達だね」
金剛「響もそう思いまシタか? 私もそう思いマース」
瑞鶴「不思議過ぎて何も言えないわ……」
利根「むう……提督よ、我輩達はそんなにおかしいのであろうか?」ギュー
提督「少数派だというのは間違いない」
瑞鶴「……いや、ただ単に惚気てるだけかしら?」
響「少なくとも私にはそう見えるよ」ジー
利根「とは言っても、恋愛感情は無いんじゃがのう」
提督「ああ。同じく無い」
金剛「……ホワッツ!? それ、本当デスか?」
提督・利根「うむ」
瑞鶴「傍目から見たら完全に長く付き合ってるような感じなんだけど……」
響「本当に交際とか結婚とかしていないの?」
提督・利根「特には」
金剛「……息がぴったりデース」
瑞鶴「ますます不思議ね……」
利根「我輩には分からぬぞ……」
提督「なんとなくは理解できるが、そこまで不思議なものなのか」
利根「我輩達にとってはこれが普通じゃからなぁ」
提督「まったくだ」
三人「…………」
金剛(本当、羨ましいデス……)
瑞鶴(良いなぁ……提督さんとそんなに親密になれて……)
響(私には無縁の話、だね……)
利根「? どうしたんじゃ三人共?」
提督「……さて、すまないが瑞鶴と響は少し頼まれてくれて良いか?」
瑞鶴「?」
響「なんだい、提督」
提督「こんな絶海の孤島に漂流してしまった二人は、助けが来るまでここで暮らさなければならないだろう。だから、私と利根の代わりに釣りをして欲しいんだ」
利根「む? 我輩達は何をするんじゃ?」
提督「利根は瑞鶴の修復をする際に使う資材集めと、私の知っている修復の手順を叩き込む。瑞鶴もずっとそのままというのは嫌だろう」
瑞鶴「う、うん。これはこれで恥ずかしい……」
提督「いつも暇だ暇だと言っているんだ。これから少しの間は勉強の時間だ」
利根「ふむ。なるほどのう。瑞鶴と響が良いのであれば我輩は構わぬぞ」
響「無論だよ。これからお世話になるんだ。いくらでも手伝いたい」
瑞鶴「……………………」
瑞鶴「……あの、さ」
利根「うん?」
瑞鶴「私、中将さんに修復されても……良いかなって思う」
提督「無理をしていないか?」
瑞鶴「は、恥ずかしいのは勿論よ!? ただ……なんというか、信用できるって思ったの。本当に、ただなんとなくなんだけどさ」
提督「ふむ。瑞鶴、私の目を見ろ」
瑞鶴「え? う、うん」ジッ
提督「今言った事に嘘偽りは無いな?」ジッ
瑞鶴「は、はい……!」ビクッ
利根(うぬ? 怖いのかの?)
提督「……………………」
瑞鶴「…………」ビクビク
提督「ふむ、そうか。ならば工廠もどきの倉庫へ行こう」
利根「我輩はどうすれば良いか? 釣りで構わんのかの?」
提督「瑞鶴による。私と二人になるのが怖ければ、利根や金剛、響も一緒に付いてきて貰うが、どうする」
瑞鶴「え。え、えーっと……」チラ
提督「釣りの事は気にするな。食料の備蓄はある」
瑞鶴「……できれば金剛さんと響ちゃんが付いてきてくれると、安心できると思う」
提督「そうか。金剛、響、すまないが付いてきて貰っても良いか?」
金剛「オーケーですヨー」
響「私も問題ないよ」
提督「そうか。では利根、戻ってくるまで釣りを頼む」
利根「任されよ! 我輩がんばって大漁を目指すぞ!」
提督「頼もしい言葉だ。──さて、行こうか」スッ
…………………………………………。
瑞鶴「……ほ、本当に直った」
金剛「コンプリートリカバリィ。手際が良いデスね」
響「けど、本当に良かったのかい? 足りなかった鋼材を利根さんの艤装を解体して使っちゃったけど」
提督「ああ。構わんよ。どうせ利根も使わん。腐らせるくらいならば何かに使った方が良い」
瑞鶴「……今更だけど、本当に利根さんは良いって言うのかしら」
提督「一年以上も放置しているものだ。それに以前、利根にも聞いた事があるが、この島で艤装は重くて邪魔なだけなようだ」
金剛「確かに邪魔になると思いマス。私もそろそろ降ろしてしまおうかと考えていまシタ」
瑞鶴「敵が来たらどうするの?」
提督「滅多に現れんし、現れたとしても放置していれば向こうも襲ってこない。そもそもこっちは陸に上がっているからな」
響「そんなものなんだね」
提督「鎮守府ならば攻撃されたかもしれんが、小屋みたいな物と小さい住居があるくらいの場所だから攻撃する必要も無いと判断されているのだろう」
瑞鶴「ふーん……?」
提督「三人も邪魔だと思ったら偽装を降ろして構わん。錆びてしまうかもしれんが、大事に保管するぞ」
響「じゃあ、私はもう降ろしておくね」ゴソゴソ
提督「いくらなんでも判断が早すぎないか」
響「一年以上も艤装無しで暮らしていけてるみたいだから、大丈夫だと思ったよ。それに、これからは無駄に体力を消耗する訳にもいかなくなるだろうしね」
提督「聡明な子だ」ナデナデ
響「────」
提督「さて、三人は利根の所へ戻って釣りをして貰って良いか」
金剛「提督はどうするデス?」
提督「私は塩を回収してくる。今以上に塩は必要になるはずだ」スッ
金剛「あの塩田デスか。了解しまシタ」
提督「では、行ってくる」スタスタ
金剛「…………提督って、全くやらしい目をしまセンでシタね」
瑞鶴「うん。初めは恥ずかしかったけど、あの真剣な目を見たらそんな気持ちも無くなったわ。むしろ、丁寧に直してくれて嬉しかった」
響「……………………」スリスリ
金剛「? 頭を撫でてどうしたデスか、響?」
響「ん。人に頭を撫でられるのって、思ったよりも気持ち良いものだと思ってね」
金剛「…………」
瑞鶴「そうなの?」
響「私はそう思ったよ。今まで考えた事もなかったけど、良いものだね、あれは」
瑞鶴「へぇ。今度、私もお願いしてみようかしら」
響「正直、私は病み付きになりそうで少し怖い」
瑞鶴「そ、そこまで?」
響「自分でもビックリさ。落ち着けるって言えば良いのかな。とにかく、何かが解れていきそうな感覚がするんだ」
瑞鶴「ふーん?」
金剛「…………」
金剛(あの手が、テートクのものであれば良いのにと思うのは、私だけなのでショウか……)
……………………
…………
……
今回はここまでにしておきます。またいつか来ますね。
お仕事と平行していて投稿がかなり遅いんだ。ごめんよ。
瑞鶴「……やる事がないんだけど」
利根「三日で暇で死にそうになったか。思ったよりも早いのう」
瑞鶴「畑の拡張も終わっちゃったし、お魚も夕飯の分も獲り終わってるし、塩田とか水の確保の仕方も教えて貰ったし……何をすれば良いのよ」
提督「好きにだらけていて良いぞ。ここでの敵の一つは暇潰しだ」
響「……本当に随分と自由だね」
金剛「私も、もっと生きるのに必死になると思っていまシタ」
提督「ここまでだらける事が出来るのも珍しいものだろう。話を聞く限りでは普通、その日の食料と水を確保するだけでも相当な時間と労力が必要になるらしい。私達は運が良いんだろう」
瑞鶴「漂流して運が良いって言えるのかどうかは分からないわね……」
響「暇ではあるし色々な物は無いけれど、のんびりと出来て生きるのにそこまで苦労はしないっていうのは充分に運が良いと思うよ」
利根「考えが年相応ではないのう。頭が良いのか、それとも見た目が子供なだけで長生きしておるのかの?」
提督「その口調であるお前が言うと違和感を覚えるな」
利根「口調は仕方がなかろう。それとも、提督は嫌いか?」
提督「いいや。利根らしくて良いと思っている。むしろ、無理に変えようとしないでくれ。その時は私が困惑する」
利根「ほう。提督を困った顔を見れるのならばやってみても良いかもしれんのう?」
提督「一週間くらい部屋で吊られたいのならばやってみろ」
利根「やらぬ……絶対にやらぬ……」ビクビク
瑞鶴「……吊るす? どういう事?」
提督「私が罰としてよくやっていたものだ。縛り上げて部屋に吊るし上げるんだ」
響「……それって、縄を食い込ませて痛めつける罰なのかな」
利根「痛くはないぞ。痛みは無いが、下着が見えて恥ずかしかったというのと……何よりも仁王立ちしている提督が閻魔のように怖くてのう……」
利根「今では羞恥こそ無いが、どうしても怖さが身に染み付いていて……今でも条件反射的に怖いんじゃ……」ビクビク
響「……想像出来ないね。怖いイメージが全然無いんだけど」
金剛「私も怖いイメージはほとんどありまセン」
瑞鶴「ジッと目の奥を見てくるのが怖かったくらいかしら……」
利根「知らぬ方が良い事もあるものじゃ……」
提督「酷い言われようだな」
利根「事実ではないかー」ノシッ
提督「確かにそうだな」
響「…………」ジー
利根「うん? どうかしたのかの?」
響「ん、少し気になってね」
提督「何がだ」
響「そうやって背中にのしかかるのって、本当に落ち着けるものなのかと思ったんだ」
提督「……どうなんだろうな。普通ではないような気もする」
利根「我輩は物凄く落ち着くぞ」
響「少し、試させてもらっても良いかな」
提督「利根次第だな」
利根「ん? なぜ我輩なのじゃ?」
提督「今お前がのしかかっているからだ」
利根「そうじゃったな。我輩も構わぬぞ。ほれ」ペシペシ
提督「人を乗り物みたいに扱うんじゃない」
響「それじゃあ、お言葉に甘えて」ソッ
提督「……軽いな」
利根「提督よ、それは遠回しに我輩が太っておると言いたいのかのう?」ジッ
提督「身長の差を考えろ。それと、素直な感想だ」
利根「それなら良いかの。──ああそうじゃ響よ。もっと体重を掛けた方が良いと思うぞ」
響「流石にそれは提督が辛くならないかな?」
利根「我輩は普段から体重を少し掛けておる。提督ならば適度な重量感を欲しておるじゃろう」
響「本当かい、提督?」
提督「利根が全てを言ってくれた。問題無いぞ」
響「それなら……」ノシッ
提督「ふむ……それでもやはり軽いな」
瑞鶴「……なんだか親子みたい」
金剛「私は親戚の子供に懐かれてるお兄さんに見えマース」
響「思った以上に良いものだね、これは。優しい人の体温は、とても心地良い」
利根「……………………」チクチク
利根「?」ジッ
金剛「どうかしまシタか、利根?」
利根「や、何やら胸に虫かゴミでも入ったのかと思うてな。チクチクするぞ」ヌギヌギ
瑞鶴「ちょっ!? な、なな何たくし上げてるのよ!?」
提督「…………」スクッ
響(おっと)スッ
響「それじゃあ、お言葉に甘えて」ソッ
提督「……軽いな」
利根「提督よ、それは遠回しに我輩が太っておると言いたいのかのう?」ジッ
提督「身長の差を考えろ。それと、素直な感想だ」
利根「それなら良いかの。──ああそうじゃ響よ。もっと体重を掛けた方が良いと思うぞ」
響「流石にそれは提督が辛くならないかな?」
利根「我輩は普段から体重を少し掛けておる。提督ならば適度な重量感を欲しておるじゃろう」
響「本当かい、提督?」
提督「利根が全てを言ってくれた。問題無いぞ」
響「それなら……」ノシッ
提督「ふむ……それでもやはり軽いな」
瑞鶴「……なんだか親子みたい」
金剛「私は親戚の子供に懐かれてるお兄さんに見えマース」
響「思った以上に良いものだね、これは。優しい人の体温は、とても心地良い」
利根「……………………」チクチク
利根「?」ジッ
金剛「どうかしまシタか、利根?」
利根「や、何やら胸に虫かゴミでも入ったのかと思うてな。チクチクするぞ」ヌギヌギ
瑞鶴「ちょっ!? な、なな何たくし上げてるのよ!?」
提督「…………」スクッ
響(おっと)スッ
利根「取り払おうかと思ったのじゃが、どうかしたのかの?」
提督「やめんか」ペシッ
利根「あいたっ! 何をするんじゃ提督よ」
提督「普通の子は人前で躊躇無く服など脱がん。肌を晒すのは極力控えろ」
利根「むー……ん? チクチクが無くなったぞ」モドシモドシ
響「落ちたのかな?」
利根「恐らくそうじゃろうな。提督が頭を叩いたおかげかの?」
提督「さて、どうだろうな」
利根「まあ、良かった良かった」
金剛「……なんだか、フリーダムなのは利根だけのような気がしてきまシタ」
提督「私も大概自由奔放だと思うが」
瑞鶴「いやぁ……確かに中将さんも自由だけど、常識があるじゃない」
利根「我輩が常識知らずなのはこの島での暮らしのせいじゃな」
提督「私も同じ時間を過ごしているはずだが?」
利根「ほれ、二人きりだった時の飼い主に似たのじゃよ」
提督「ならば、今の飼い主に似るよう頑張って貰おうか」
利根「時間が解決してくれるじゃろう。この島に来た当初もそうであったしの」
響「……そう言えば、二人は何年ここに居るんだい?」
提督「二年くらいだ」
利根「正確には二年と約八ヶ月じゃな」
瑞鶴「二年半以上!? よくそんなに暮らせてるわね!?」
金剛「ワーォ……」
響「……正直、驚いたよ」
利根「いやはや、こう口に出してみると長い間のんびりとしておるんじゃのう」
提督「そうだな。もはやこの暮らしが普通になってきているよ」
瑞鶴「……私も利根さんみたいに解放的になっちゃうのかしら?」
提督「私がそうならないよう監視しておこう」
瑞鶴「お願いします」ペコッ
提督「任せておけ」
響「利根さんも初めは普通だったんだよね?」
利根「どうじゃったろうか。我輩はいつも普通にしておるからのう」
提督「初めはしっかりと一般的だったぞ。私のベッドに潜り込んできてから徐々にこうなり始めた」
金剛「何かシタのデスか?」
提督「いや。何もしていない。強いて言うならば、その日は寒かったからお互い身を寄せ合ったくらいか」
瑞鶴「そ、それってつまり……」ドキドキ
提督「瑞鶴の考えているような事はしていない。一度たりとも手を出していないよ」
利根「そんな余裕は無かったからのう」
瑞鶴「……そうなんだぁ」
響「なんでそんなに残念そうにしているんだい?」
瑞鶴「やっ、ちょ、ちょっと気になっただけよ? うん、本当よ?」
金剛「これは相当気になっていたデスねー?」クスクス
響(あ、まただ)
瑞鶴「あ、う……そ、んな事よりっ! 金剛さんが珍しく笑ってるわね!?」
金剛「!」
利根「あからさまな話題逸らしじゃのう……」
瑞鶴「イヂられるのって苦手なのよ……。すっごく恥ずかしいんだからね?」
利根「ほう。ほうほう」ニヤニヤ
瑞鶴「ぅー……中将さん、助けて……」
提督「……なるべくさせないようにはするが、少しは受け入れてやってくれ」
利根「つまるところ、提督もイヂりたいと思うたのじゃな?」
瑞鶴「そんな!?」ビクンッ
提督「……ノーコメントだ」
瑞鶴「う、うぅー……」
金剛「……………………」
響「…………」チラ
響(自覚、していなかったのかな)
響「…………」クイクイ
金剛「っ」ビクッ
金剛「……どうかしましたか、響?」
響「ん、なんでもないよ」
金剛「?」
提督(……ふむ)
…………………………………………。
ひっそりと投下してひっそりと投下終了。また今度来ますね。
ラストが思い付いたので、この物語も一先ず安泰です。だけど、金剛さんの時のように終わる終わる言いながら一スレ跨ぐような事は無い。はず。
どこまで続くかはこの五人次第ですね。
提督「…………」グッグッ
提督「ふー……」スッ
利根「ん、柔軟体操は終わったかの?」
提督「ああ。そろそろ寝ようか」
利根「うむ! ほれ、早う入ってくるのじゃ!」ポフポフ
提督「…………どうした利根。今日はやけに急かしてくるじゃ──」
利根「……………………」ポフポフポフポフポフポフポフポフ
提督「……分かったから大人しくしろ。見ていてうるさいぞ」スッ
利根「ふふん」ギュッ
提督「それで、一体何があった」
利根「ん? ただ単にこうしたかったからじゃよ」ギュー
提督「ほう。どうしてだ」
利根「…………」ピタ
利根「……あれ。どうしてじゃ? なぜじゃ、提督?」
提督「私に聞くんじゃない」
利根「ううむ……そうじゃよのう……提督に聞いても分からぬのぉ……うーむ……?」
提督「…………」
利根「まあ良いかの。人肌が恋しいという事で納得しておこうぞ!」ギュウ
提督「いい加減だな」
利根「ダメだったかの?」
提督「いや、お前らしい。……あんまり変わってくれるなよ?」
利根「? うむ?」
提督「分からないのならば構わない。──さて、寝ようか。瞼が重い」
利根(うーむ……。こんな気持ちは初めてじゃのう。なんじゃろうか、これは?)
…………………………………………。
瑞鶴「よっと。響ちゃん、大丈夫?」
金剛「苦しくないデスか?」
響「大丈夫だよ。苦しくない」
金剛「意外と三人でも入れるネー」
瑞鶴「でも、響ちゃんが大きくなったら無理かも?」
響「暁はお子様というのを嫌うけど、小さくても良い事はあるよね。こうやって、三人で一緒に寝るとかさ」
金剛「まるで年の離れた妹みたいデース」ナデナデ
響「ん」
瑞鶴「…………」ジー
金剛「? どうかしたデスか、瑞鶴?」
瑞鶴「……金剛さんさ、ここに来てから変わった?」
金剛「え?」
瑞鶴「や、なんていうかさ? 表情が前にも増して柔らかくなってるし、口調もどことなく初めに会った時みたいな感じだしさ?」
金剛「ンー……そうデスか?」
響「肩の力が抜けてる、なのかな。なんだかそんな感じがするよ」
金剛「あ、確かに今は気が抜けていると思いマス」
瑞鶴「気が抜けてるとかそういうのじゃないと思う。……言って良いのか分かんないんだけど、安心してる……みたいに見えるわね」
金剛「リリーフ、は……少ししているかもしれまセンが、私は心配事も沢山ありマス」
金剛「今頃、テートクはどうしているのかトカ、艦隊はどういう状況なのかトカ、皆の事も気になっていマス」
瑞鶴「…………? えと、どれも私達に聞いてこなかったわよね?」
金剛「──え」
響「瑞鶴さん……」
瑞鶴「え、あれ……?」
金剛「……………………」
瑞鶴(もしかして私、地雷踏んじゃった……?)
金剛「……今更デスけど、訊いても良いデスか?」
響「司令官は今も金剛さんを探し続けているよ。作戦と同時に金剛さんの捜索も命令されたんだ」
瑞鶴(……え?)
響「艦隊は……金剛さんが抜けてしまってから少しゴタゴタがあったけど、今は大丈夫。けど、前より少し辛いかな」
金剛「…………」
響「鎮守府の皆も、金剛さんの事を心配してるよ」
金剛「……瑞鶴」
瑞鶴「な、なにかしら?」ビクッ
金剛「今の話、本当デスか?」
響「…………」チョンチョン
瑞鶴「! も、勿論」
金剛「……………………」
瑞鶴「…………」ドキドキ
金剛「……ありがとうございマス、二人共。そして、気を遣わせてしまってごめんなサイ」
響「……やっぱり、バレるものだね」
金剛「テートクの事は、私も良く知っていますから……」
瑞鶴「で、でもね? 後の二つは本当よ? むしろ、皆が提督さんにお願いして金剛さんを探そうとしてるんだもん」
金剛「そう、ですか……。皆が無事で、心配してくれているだけでも私は充分です。私は幸せ者ですね」
響「……ごめんよ、金剛さん」
金剛「大丈夫です。……大丈夫ですよ、響。分かっていた事ですから」ナデナデ
金剛「でも……テートクの事は詳しく知りたいデス。実際の所、どうだったのデスか?」
響「私はそこまで詳しい事は知らないけど、瑞鶴さんは知ってるはずだよ。あの時、最後まで執務室に残ってたもんね」チラ
瑞鶴「…………」
金剛「瑞鶴、教えてくれマスか?」
瑞鶴「……気分の良いものじゃないわよ?」
金剛「……ハイ。お願いしマス」
瑞鶴「…………居なくなったって耳にしたら、轟沈したかって一言で終わろうとしていたわ。まるで、何とも思っていないみたいに……」
金剛「っ……!」
瑞鶴「どうにかして探す指示を貰えるよう色々と言ってみたけど、ダメだった。長い時間を掛けて育てた艦娘って言ってもダメ。戦力的な理由でもダメ。育て直す時間の事を追求しても──」
響「それ以上は言っちゃダメだよ」ポムッ
瑞鶴「むぐっ──。……ごめん。もう少しオブラートに包めば良かった」
金剛「────────」
瑞鶴「あ、あの……金剛さん……?」オソルオソル
金剛「……私が、居るのですか?」
瑞鶴・響「…………」
金剛「建造か、それとも海から拾ってきたのかは分かりませんが……別の私が、居るのですか?」
瑞鶴「……うん。今頃、金剛さんの代わりに戦ってると思う」
金剛「そうですか……別の私が既に……」
響「……実はさ」
金剛「…………?」
響「瑞鶴さんが被弾したのって、その二人目の金剛さんを庇ったからなんだ」
金剛「え……? どうして庇ったのですか……?」
瑞鶴「……だって、明らかに直撃コースだったんだもん」
金剛「それでもデス。戦艦なのデスから、早々に沈む事なんてありまセン。むしろ、空母である瑞鶴が──」
瑞鶴「──違うの」
金剛「?」
瑞鶴「全然さ、錬度が違うの。危なっかしくて、動きも遅くて、精度も良くない。……金剛さんと同じ姿と声だけどさ、何もかも違うの」
金剛「……………………」
瑞鶴「なんだか見ていられなくなって……気付いたら、庇っちゃってた。いつも大破してばっかりだけど、今回ばかりは本当に沈んじゃうんじゃないかって思って……」
金剛「……テートクに叱られたでショウね」
瑞鶴「アハハ……役立たずって通信で罵られちゃった」
金剛「っ!」ビクッ
金剛(役立たず……ですか)
瑞鶴「ケッコンした艦を二隻も三隻も失う訳にはいかないって言って、私は護衛退避させてくれたの。……嬉しかったけど、悲しかった」
瑞鶴(私を失う事じゃなくて、ケッコンしている艦を失う訳にはいかない、なんてね……)スッ
瑞鶴(……私の左薬指に付いてる、この質素な指輪。これって、提督さんにとってはどういう意味なのかしら……)
響「……司令官って、皆と結婚してるの?」
金剛「沢山の艦娘達とケッコンしていマスよ。ですがそれは、それだけ優秀な人である証なのデス」
瑞鶴「ケッコンするには並大抵じゃない錬度が条件だもんね。そんな子達が何人も居るって事は、それだけ戦力を備えてるって事でもあるわ」
響「……私も、いつか司令官と結婚するのかな。いや、そもそもこの国って重婚を認めてたの?」
瑞鶴「あ、えっとね、正式な結婚じゃないの。仮の結婚で、ケッコンカッコカリって言った所かしらね」
響「えっと……どういう意味なんだい?」
金剛「書類にはサインをしマスし、指輪も頂けマス。けど、役所には提出しない……というものネ。代わりに総司令部に提出するデス」
響「指輪って交換する物じゃなかったかな?」
瑞鶴「ほら、交換だったら提督さんの指に嵌りきらなくなるでしょ? そういう理由もあって指輪は私達が貰うの。だからケッコンカッコカリって言うのも間違いじゃないのよね」
響「結婚するけれど結婚じゃない、か……」
金剛「でも、私達はこれで充分デス。戦う道具であり兵器である私達が、人並みの幸せを手に出来るのデスから」
響「…………」
金剛「一番最初にケッコンをしたのって、祥鳳さんでシタっけ」
瑞鶴「そうだったわね。祥鳳さんって、いっつもキス島に借り出されてたから当然だと思うけど」
金剛「二番目が赤城で、三番目は瑞鶴」
瑞鶴「金剛さんは六番目だったかしら。提督さんが空母以外の子と初めてケッコンしたのよね」
金剛「そうデス。……あの時は、幸せで幸せで仕方が無かったです」
瑞鶴「……私も、泣いて喜んだわ」
金剛「早く、テートクの下に帰りたいデスね」
瑞鶴「うん……」
響「……………………」
響「ねえ、金剛さん、瑞鶴さん」
瑞鶴「ん?」
金剛「どうしまシタ、響?」
響「二人は、本当に幸せなの?」
金剛・瑞鶴「え?」
響「ケッコンカッコカリの事は分かったよ。そして、ケッコンすると精神的に強くなる事で能力も上がるって話も耳にした事がある。けど、二人はそれで本当に幸せなのかな」
金剛・瑞鶴「…………」
響「少なくとも普段の酷使され具合から見て、私は二人が幸せに見えなかったよ。今もそう。二人は帰りたいって思ってるのは分かるけど、それだけじゃないって感じだった」
響「金剛さんと瑞鶴さんは使い勝手が良いからよく出撃させるっていう話も司令官から聞いた。二人もそれは知ってると思う」
金剛・瑞鶴「……………………」
響「確かに私も司令官の下に帰りたいって思うよ。……けど、最近思うんだ。あれだけ頑張った二人は、そろそろ羽を休めても良いんじゃないかなって。金剛さんはここに来てから笑うようになったし、瑞鶴さんも疲れが取れてるように見える」
瑞鶴「それは……」
響「傍から見て、凄く可哀想って思ってた。だって、ほとんど休んでいなかったよね。食事も、入渠も、寝る時さえも、なんだか急いでるように見えた」
金剛「響……」
響「もし、その指輪を嵌めたらそうしないといけなくなるのなら……私は、そんな呪いの指輪なんて要らない。幸せになるはずの結婚なのに、それ以上に辛い思いをしないといけないなんて間違ってる」
金剛「呪い、デスか……」
瑞鶴「……そうね。確かに、これは呪いの指輪なのかもしれないわ。もっと提督さんの役に立たなくちゃって思うし、無茶もしてると思う」
金剛「ケド、それで良いのデスよ、響」
瑞鶴「これが私達……これが艦娘だから、ね」
響「……………………」
金剛「私の喜びは、テートクが喜んで下さる事デス。その為でしたら、この身をいくらでも差し出しマス」
瑞鶴「私もよ。例え本命でなくても、報われない想いでも、それで良いの。私は、この指輪をくれただけでも幸せだから」
響「……艦娘って、何なのかな」
響「二人の言ってる事はよく分かるし、納得も出来る。出来てた。……けど、ここに来てから、それって何かおかしいんじゃないかって思ってきた」
響「提督の利根さんを見てると、本当の結婚って、ああいう事を言うんじゃないかなって思った。お互いにお互いの良い所も悪い所も理解して、受け入れて、全てを曝け出せる関係……それが、結婚なんじゃないかなって、思った」
金剛・瑞鶴「…………」
響「私って、間違ってるのかな」
金剛「それは……」
瑞鶴「……分からないわ」
響「…………」モゾモゾ
響「イズヴィニーチェ。変な事を言っちゃった。外の空気を吸ってくるね。二人は先に寝ていてもらって良いかな」
金剛「……響」
響「? なんだい、金剛さん?」
金剛「響は……テートクの事、好きですか?」
響「勿論だよ。司令官は、私のたった一人の司令官さ。嫌いになる理由も無いよ」
響「……不思議だよね。やってる事は酷いはずなのに、何もかも……信用も信頼も出来るなんてさ」
瑞鶴「…………」
響「──スパコイナイノーチ」
金剛「……グッナイ」
瑞鶴「……おやすみ。ちゃんと、戻ってくるのよ?」
響「問題無いさ。ちゃんと戻るよ。ここにも、司令官の下にも」トコトコ
金剛・瑞鶴「…………」
金剛「……瑞鶴、私達がおかしいのでショウか」
瑞鶴「どうなのかしら……。響ちゃんの言ってる事もよく分かるんだけど……」
金剛「壊れているのデスかね……私達」
瑞鶴「かも……しれないわ」
響「……………………」トコトコ
響(私、おかしいのかな……)トコトコ
提督「…………」パチ
利根「くー……」
提督(今、誰かが外に行く音が聞こえたな。様子を見に行くか)ソッ
利根「んー……」モゾ
提督(……起きてくれるなよ。お前はゆっくり休んでいてくれ)ナデ
利根「…………くー……」
提督(しかし、誰が外に行ったんだ? 可能性としては金剛か瑞鶴……いや、瑞鶴だろうか。金剛は大人しくしているから、夜に外へ行くとは思えん)
提督(──む。人影……あっちか。砂浜に向かっているな)スッ
提督(……まさかとは思うが、こんな時間に海へ出ようとしているのか?)
響「…………」スッ
響「…………」ボー
提督(……座りこんで海を眺めている? 暗くてよく見えないと思うが、何かあったのか?)
提督「こんな時間にどうした、響」
響「!! ……提督、それは私の台詞でもあるよ。どうしたんだい、こんな時間に」
提督「珍しく目が覚めてしまってな。少し夜風に当たろうとここまで来たんだ」
響「気を遣わせてしまったね。ありがとう」
提督「……時々、お前の察しの良さには驚きを隠せん。隣、座るぞ」スッ
響「なんとなく分かるだけだよ。確実って訳でもないし、そんなに凄いモノじゃないさ」
提督「それでも充分だ」
響「……実はね、少し二人に嫌な事を言っちゃったんだ」
提督「うん? 金剛と瑞鶴にか?」
響「うん。二人は司令官とケッコンしていて、二人とも口を揃えて幸せだって言ってた。けど、私にはそう見えなかった。ううん、見えなくなった」
提督「…………」
響「いつも辛そうな顔を隠していたのは分かってたし、司令官は提督業だけで二人と一緒に居る時間なんて無かった。本当に、ただの武器や兵器としてでしか使っていなかったんだ」
提督「それは……よくある話だ」
響「うん。だから、私もそれが普通だって思ってた。……けど、ここに来てからその考えはおかしいんじゃないかって思ってきたんだ」
提督「ほう? 利根の姿を見てそう思ったのか」
響「そうだよ。あんなに懐いていて、心を許して、何をしてもされても受け入れてしまいそうな関係……提督と利根さんの関係こそが、結婚をした関係だと私は思った」
響「一度そう思ってしまったら、今まで何もかもがおかしいって思ってきて……。もしかして、私がおかしくなったのかなって思ってくる程だった」
響「ねえ、提督。これは、金剛さん達がおかしいのかな。それとも、私がおかしいのかな」
提督「……そうだな。どっちもおかしくない。それは人の思想の違いだ」
響「思想の違い?」
提督「世の中には十人十色という言葉がある。人によって考えや性質が違うという意味だ。だから、金剛と瑞鶴は自分達の提督に使われる事に喜びを感じているのかもしれん」
響「……でも、毎日が辛そうだったよ。ここでは金剛さんは柔らかい笑顔をするし、瑞鶴さんも疲れが取れたような顔をしてる」
提督「そこまでいくと本人達にしか分からない事だ。私は予想をする事しか出来ん」
響「提督はどう考えるの?」
提督「そうだな……。奉仕精神が強い、とかじゃないかな」
響「奉仕精神……」
提督「ああ。人の役に立っている事が好きなのかもな。──いや、正確には自分の提督の役に立つ事が好きだと言った方が良いか」
響「限度はあると思うんだ」
提督「その限度も、また人によって違う。響は自分の提督から与えられた指示を完璧にこなして『良くやった』の一言を貰ったらどう思う?」
響「そりゃ嬉しいさ。……ああ、なるほどね。その言葉が欲しいから、無茶な指示にも従ってしまうってものかな」
提督「たぶん、な。実際はどうなのか分からん」
響「……………………」
提督「理解は出来ても、納得は出来ないか?」
響「……うん」
提督「人というものはそういうものだ。そういう所を妥協し合って生きていくのが人だ」
響「…………ねえ、提督」
提督「どうした」
響「艦娘って、何なのかな」
提督「質問があやふや過ぎてよく分からんぞ」
響「ん。艦娘ってさ、人間と違う部分は兵器を扱えるかどうかだって思ってたんだ。……けど、なんとなく……私たち艦娘は、自分の司令官の駒として存在しているのかなって思ってきた」
提督「……………………」
響「それともやっぱり、人間と違うのかな。……悪く言えば、人間の良いように使われる事に喜びを感じるのが艦娘なのかな」
提督「……そうだと言ったら、どう思う?」
響「提督の言う事だからね。そういう存在だって飲み込むよ」
提督「……そうか。だが、すまないが私は答える事が出来ない」
響「提督にも分からない事があるんだね」
提督「沢山ある。私は無知の部類だ」
響「それは謙遜し過ぎだよ。提督はそんな事ないって私が保証する」
提督「ありがとう、響」ナデナデ
響「ん……。じゃあ、背中に身体を預けても良いかな」
提督「気に入ったのか」
響「うん。気に入っちゃった」
提督(……自分の提督に出来ない事を、私で代用しているといった所か)
提督「全体重は掛けるんじゃないぞ」
響「うん。……スパスィーバ」
提督(本来ならば、自分の親となる存在にもっと甘えても良い年頃なんだがな……)
提督(私がそうなってみるか? ……いや、無いとは思うが、それで響の提督よりも私に懐いてしまっては大問題だ。利根とは違って少しは線引きを考えねばならんな)
響「……温かい」スリ
提督「そうか」
提督(少し、困ったな)
……………………
…………
……
今回はここまでにしておきます。またいつか来ますね。
イジるではなくイヂるに関してですが、これにも理由があります。
元々は意地悪という単語を、悪意ある意味としてイジワル、好意ある意味としてイヂワルという使い分けをしていたのですが、弄るという方にも使うようになっていきました。
数年前からこんな感じです。意味が汲み取れる方や昔から私のSSを読んだ事がある人ならばすぐに分かったかと思います。
なので、イジるというのは一般的な弄るという意味で、イヂるという表記であれば悪意の無い、好意的な行動という意味で使っています。
悪意が無いのは瑞鶴も分かっている為「イヂられるのは恥ずかしい」と言っている訳です。ただ単に面白半分で弄られるだけだと不快でしかありません。
ここら辺はあまり説明するつもりはありませんでしたが、荒れる原因となってしまったので説明しました。意味が汲み取れないような書き方をしてごめんよ。
提督「良い事を思いついた」
利根「うぬ? どうしたんじゃ、提督よ?」
提督「私や利根はともかくとして、金剛達は元の鎮守府へ戻りたいと思っているだろう?」
金剛「……ええ、そうデス」
瑞鶴「まあ、そりゃそうよね」
響「……………………」
提督「私達が気付かないだけでこの海域の近くを誰かが通っているかもしれないというのを考えると、SOSサインを作るべきだと思ったんだ」
瑞鶴「そういえば作ってなかったわね……」
金剛「でも、エネミーもサインに気付いて襲ってきまセンか? 今は目立たないから放置されているだけでショウし……」
提督「充分に考えられるが、何もしないで気付いて貰えるとは思わないだろう?」
響「私はサインを作る事に賛成だよ。立ち止まって何もしないよりも、前に進んで倒れる方が良い。」
瑞鶴「……うーん。もし深海棲艦と戦いになったらどうするの?」
提督「そうならないように金剛達はなるべく隠れていてくれ。人間が島に一人しか見えないのなら襲う事も少ないだろう」
金剛「…………?」
瑞鶴「隠れるって……この家の中にずっと?」
響「それは……提督に凄く負担が掛かるんじゃないかな」
利根「我輩はいつも通りにして構わぬのか?」
提督「ああ。SOSサインを作ったら、そこからは私と利根の二人が食料や水を確保する」
金剛「……その間、私達は何をすれば良いデス?」
利根「好きにだらけておって構わぬのでは?」
提督「そうだな。ボーっとしていてくれても構わない」
瑞鶴「ちょっとちょっと。それは流石に出来ないわよ。それってもう協力し合ってるんじゃなくて、私達が寄生しているようなものじゃないの」
響「うん。私もそれは物凄く思う」
提督「そうとは言っても、この家の中で出来る事はほぼ無いからな」
利根「そうじゃ。掃除をして貰うのはどうじゃ?」
提督「良いな。それでいこう」
金剛「三人で掃除をする程度なんてイーブンではありまセン。もっと何かやる事が欲しいデス」
提督「む……困ったな……」
瑞鶴「うーん……何があるからしら……」
響「家の中でも火が使えたら良いんだけどね。それなら多少は私達にも出来る事が増えるし」
金剛「それは無謀デース……ガスではないので煙が大変な事になってしまいマスし、扱いを間違えると全焼デス」
利根「使っていない部屋を改造して壁でもぶち抜いてみるかの?」
提督「素直に海からは見えにくい位置に竃を作れば良いだろ。変な事を言い出すな」
利根「真剣に物事を考えると死んでしまう病での」ノシッ
提督「そんな病があってたまるか」
利根「じゃが、作ったとしても燃料はどうするのじゃ?」
提督「確保出来ないな。諦めよう。……いや、鉄板を太陽光で熱して使うのも良いかもしれんな。それならば燃料は必要ない」
利根「良い案じゃとは思うが、大丈夫なのかの?」
提督「……ふむ。よく考えてみればメンテナンスが大変だ。おまけにそんな資材も無い」
利根「あれはどうじゃ? あの鉄の箱に入れておいて魚を蒸す道具を分解すれば確保できるのではないか?」
提督「魚を生で食べて寄生虫に怯えるか塩漬けの二択になるが、それで良いのならやろうか」
利根「止めておこうかの。塩漬けのみなど地獄じゃ」
提督「懸命だな。私も出来れば最低でも二種類は欲しい」
利根「じゃが、どうにかして焼き料理もしたいのう。提督と我輩の二人ならばそれでも構わぬだろうが、三人はつい最近ここへ来たばかりじゃ。そろそろ飽きてくるはずじゃぞ」
提督「そこも問題の一つだな。このままではいくらなんでも精神的にキツイだろう。今までの流木を薪として使う方法ではなく、炭も同時に作ってみるか?」
利根「ふむ。炭を作ると何か変わるのかの?」
提督「初めは炭を作って、その炭を燃料に炭を作りつつ料理をすれば効率的だと思うのだが」
利根「それは魚が焼けるほど火力はあるのかのう」
提督「炭の火力を侮ってはいかんぞ。ガスなどが無い時代は薪ではなく炭で料理をしていたという話も耳にしている。おまけに長い時間を掛けて燃えるから扱いやすい。火を消せば再利用も出来る。唯一の問題は薪よりも火を付け難い事か」
利根「ほう。中々に良いのう。……じゃが、どうして今までそれをしてこなかったんじゃ?」
提督「ここまで深く考えた事が無かった」
利根「なるほどのう。して、やはり竃は作らなければならんのじゃよな?」
提督「ああ。それが一番の問題だ。石を切る術など無いから組み上げるしかない」
利根「土や泥を固めて焼けば作れぬかの?」
提督「炭火程度でも割れてしまうだろう。あまりやりたくない」
利根「ふむう。ならば、石を探しに探して組むしかないのう」
提督「大変だがそれしかあるまい。という訳で探しに行こうか」スッ
利根「うむ。それが良いのう。善は急げじゃ」ストッ
金剛(さすが二年以上もここでサバイバルしているだけありマスね。とりあえず大きな石や流木を集めれば良いのでショウか?)
瑞鶴(えっと……つまりどういう事なのかしら……? トントンと話が進んで分からない……)
響「提督、何をしたらい良いのか分からないから指示を出して貰って良いかな」
提督「そうだな。まずは──」
……………………
…………
……
提督「よっと──とりあえず見た目だけは完成したな」
利根「……なんじゃか、想像しておったのと大分違うのう」
提督「串に刺した魚を焼く事と、せいぜい石の上で何かを熱くするくらいしか出来んだろう。それだけ出来れば充分だとも思う」
瑞鶴「ただ……まさか完成するのに二日も掛かるなんて思わなかったわ」
金剛「石を探すのに苦労したネー……」
響「後ろの窪みが炭を作るスペース?」
提督「そうだ。これくらいの大きさなら砕いた木を炭に出来るだろう。……ただ、流木に少し余裕がある時でないと使えないから、あまり使う事は出来ないかもしれないが」
金剛「私達が集めた木では足りないデスか?」
提督「足りないという事はないが、失敗も考えると少し心許無い。焼き魚の頻度が減るかもしれないが、それでも良いのならば試してみる価値は充分にあるだろう」
瑞鶴「やってみたい! せっかく作ったんだし!」
響「私もやってみたいかな。凄く興味があるよ」
金剛「私も賛成ネ」
利根「早速、魚を焼くと同時に作ってみるとしようかの。どっちとも同じ木を入れて良いのかの?」
提督「構わないはずだ。だが、まずは一本で試してみよう。どうなるか分からん」
利根「了解じゃ」ゴソゴソ
金剛「それにしても、炭の作り方も知ってるだなんて博識デスね」
提督「いや、正確な作り方など知らんよ。鉄板の上で物を焼き過ぎたら炭になるだろう。直接火を当てなければ出来ると思っただけだ」
瑞鶴「あー、料理に失敗して丸焦げになるアレ?」
提督「そうだ。全くもっての勘だ」
響「出来ると良いね」
提督「ああ」
…………………………………………。
利根「焼き魚は美味かったのう」
金剛「……肝心の炭は、芯まで黒くならなかったデスね」
瑞鶴「火が足りなかったのかしら……」
提督「それもあるだろうが、そもそもやり方が間違ってるのかもしれん。自然発火してしまったのも考えると、空気を遮断しなければならんのかもな」
響「じゃあ、蓋をするって事?」
提督「ああ。それと、木を敷き詰めて出来るだけ空気が入らないようにしなければならんだろう」
利根「次はそうして焼いてみるかの」
提督「また木材が溜まったらな」
利根「我輩、割と楽しみじゃ」
提督「そうだな。私も割と楽しみだ」
金剛(なんだか、二人って似ていマス)
瑞鶴「それにしても、木炭って作るのが難しいのね」
提督「売られたりするくらいだ。それなりの技術が必要なのだろう」
響「ただ、これで炭が作れるようになったら、少しは焼き料理も増やせるよね」
提督「今以上には作れるようになるだろう。効率だけで考えたら今までのやり方はかなり悪い」
利根「強火で燃やしておるのを遠火で焼いておるからのう」
提督「もし効率化できたら、風呂にももっと入れるかもな」
瑞鶴「良いわねそれ! ここだとお風呂って貴重だもの!」
響「瑞鶴さん、どっちにしろ節約はしないといけないから期待し過ぎない方が良いかもしれないよ」
瑞鶴「う……。そうよね……」
提督「まあ、どうなるか分からないんだ。やってみてから判断しよう」
金剛(……少し眠くなってきまシタ)
提督「さて……今日はここまでにしておこう。そろそろ眠い」
瑞鶴「大分暗くなってきたしね。私もちょっと眠い……」
利根「ここでの暮らしに慣れてきた証拠じゃのう」
響「全員で一緒に寝てみるかい?」
提督「私は遠慮しておく」
瑞鶴「あれ、どうして?」
提督「……私の性別を忘れているのか?」
瑞鶴「あー……なるほどね」
利根「ある意味、瑞鶴が一番この生活に慣れてきておるかものう」
提督「慣れるのは良い事だ。──では、各自部屋に戻って眠りに就こうか」
…………………………………………。
利根「…………」モゾモゾ
提督「…………」
利根「…………」モゾモゾ
提督「……どうした利根。眠れないのか?」
利根「ん……少しの」
提督「珍しいな。何があった」
利根「分からぬ」
提督「そうか」
利根「のう、提督よ。久々にアレをしてみぬかの」
提督「……いきなりどうしたんだ」
利根「分からぬ。分からぬのじゃが、やって欲しいと思ったのじゃ」
提督「……そうか。だが、やらん」
利根「なぜじゃ?」
提督「危険だからだ。それに、出来ればもうアレはやりたくない」
利根「我輩は提督になら構わぬぞ?」
提督「お前が良くても私が良くない。今度こそ壊れるぞ」
利根「もう壊れておろうに。お互いのう」
提督「……そうだな。確かに、もうお互い壊れてしまっている」
利根「じゃろう。じゃから、そんな事を考えるのは今更じゃ」
提督「だが、それを踏まえた上でもやらん。今私達が壊れたら、あの三人は野垂れ死ぬ可能性が高い」
利根「…………そうじゃのう。それは良くないのう……」
提督「だから、諦めろ」
利根「あの三人が生きて帰ったら、やってくれるかの?」
提督「それでもやらん。出来ればもう壊れたくない」
利根「じゃから、もう既に壊れておろうに」
提督「それでも、だ」
利根「頑固じゃのう……」ソッ
提督「知らなかったか?」ソッ
利根「よーく知っておる。我輩がどれだけ提督の傍に居ると思っておるんじゃ」スリスリ
提督「随分と長く一緒に居る気がするな」ナデナデ
利根「ん……」スリスリ
提督「今日はやけに甘えてくるな。何があった?」
利根「さあのう……。もしかしたら、人肌が恋しいのかもしれん」
提督「……そうか」
利根「なんじゃろうなぁ、この気持ちは……」
提督「…………さて。私には分からない」
利根「前にもこんな事を言ったような気がするが、まあ良いかの。──提督、おやすみじゃ」
提督「ああ。おやすみ、利根……」
……………………
…………
……
今回はここまでです。またいつか来ますね。
それにしても少ない。お仕事が一段落ついたから書けるかと思ったら、今度は十何時間もずっと寝ていたりしてる。
寒いと温かいモノが恋しくなりますよね。ずっと布団の中で寝ていたくなって仕方が無い。
そして、設定を考えれば考えるほどブラックな結論が頭に浮かんでいってしまう。これなんて虚淵状態。
深く考えなかったら今度は今以上に設定がガバガバになってしまうし、ほのぼのって難しい。
瑞鶴「……ねえ、あのおっきな布にSOSって描いて、どれくらい経ったのかしら」
利根「そろそろ一ヶ月じゃのう」
提督「もうそんなに時間が経ったのか。早いな」
金剛「他にやる事が無いデスからネー。時間の流れを早く感じるのは仕方が無いデース」
響「私はむしろ、この一ヶ月の利根さんの変化が気になるよ」
利根「うん? 我輩は何か変わったかの?」ベッタリ
提督「変わったな」ベッタリ
瑞鶴「変わったわね」
金剛「変わってマース」
利根「何が変わったのかのう……」
響「少なくとも、前よりも提督にピッタリとくっついてるかな」
瑞鶴「日に日にボディタッチが増えてるわよね」
金剛「ボディタッチというよりも、まるでダディから離れない小さな子供みたいデス」
利根「ふむう……言われてみれば、確かに以前よりも増えたような気がするのう」
瑞鶴「……なんというか、本当に利根さんらしいわね」
響「少し離れたらどうなるのかな」
利根「うん? 少しかの?」
響「うん。少しだけ」
利根「ふむ。特に何も変わらぬと思うが」スッ
金剛「…………」ジー
利根「…………」ピトッ
金剛「!?」
瑞鶴「はやっ!? 本当に少しね!?」
利根「何かおかしかったかの……」
響「もう中毒と変わらないね」
提督「……本当に言葉通りのような気がしてきた」
利根「うーむ。まあ、確かに提督とはいつまでも一緒に居たいのう」
金剛「それで恋愛感情は無いのデスよね……?」
利根「うむ。そもそも恋愛感情を持った事すら無いぞ」
瑞鶴「信じられないわねぇ……」
響「恋心を恋心と認識してないとかなのかな」
利根「? 流石に恋くらいは我輩も分かるぞ?」
金剛「では、利根にとっての恋愛とはどんなのデスか?」
利根「それはもう心の底から相手に全てを捧げて将来を誓い合った仲というものじゃ! その人を想うだけで胸が苦しくなるというのも知っておるぞ!」
金剛「提督はどうデス?」
利根「ふむ? 将来を誓い合ってはおらぬし、提督は傍に居って当然じゃからのう。提督が居らぬようになった時が我輩の死の時くらいかの?」
瑞鶴「……充分、好きって言ってるように聞こえるんだけど」
利根「勿論好きじゃよ。じゃが、それはなんというか恋としての好きとは違う気がするのじゃ。曖昧というか掴み所が無いというか……自分でもよく分からぬ」
響「自分の慕う相手、という意味なのかな」
利根「うーむ。それも合ってるようで違うような……」
金剛「よく分からないデース……」
利根「うむ。我輩もよく分からん」
瑞鶴「提督さんは利根さんの事をどう思ってるの?」
提督「……ふむ。そうだな」
響「凄く興味があるよ」
利根「なんとなく分かるがのう」
提督・利根「危なっかしくて放っておけない」
利根「やはりの」
瑞鶴「……以心伝心?」
響「……これでどうして付き合ってすらいないんだろうね」
金剛「それにしても、どうして危なっかしいデス? 私には分からないネ」
提督「私が居るから利根はこうやっているだけで、私が居なかったら恐らく衰弱死するまでボーっとしているぞ」
瑞鶴「ええぇ……?」
利根「そうじゃのう。たぶんそうなっておる」
金剛「一体どういう事デスかそれ……」
利根「提督が傍に居るから我輩は生きておるんじゃよ。提督が居らぬのなら何も要らんのう」
瑞鶴「ねえ、本当は付き合ってる所か愛し合ってるわよね? 絶対にそうよね?」
提督「残念ながら」
利根「そんな事は一切無いんじゃ」
響「……深く考えるのは止めた方が良さそうだね、これは」
瑞鶴「そうみたいね……」
金剛「ストレンヂ……」
瑞鶴「……あ、話は変わるんだけどさ、二人ってどうしてこの島に来たの? それとも、ここに配属されたの?」
利根「一応は配属されたと言えば合っておるのう」
響「一応?」
提督「またの名を島流しと言う」
金剛「何をしたらそんな事になるデスか……」
提督「まあ、秘密だ」
利根「うむ」
瑞鶴「どっちにしろ、悪い事なんてしてそうにないんだけどなぁ……」
提督「さて、それはどうかな」
利根「世の中は単純ではないぞ?」
瑞鶴「もー……」
響「私は悪人だと思わないよ。だって、こんなにも人を思いやってくれるしね」
提督「その辺りは好きに想像してくれて構わない。──む。雨が降ってきた」
利根「早速回収じゃな!」ヌギヌギ
提督「だからここで脱ぐなと言っているだろ」
瑞鶴「流石にそろそろ慣れちゃったわね」
響「うん。いつもの光景だね」
金剛(無いようデスから仕方が無いデスけど、せめてパンティーズくらいはどうにかしてあげたいデス……)
…………………………………………。
提督「──さて、運動も終わったぞ」
利根「うむ! 寝るぞ! 共にじゃ!」ボフボフ
提督「急かすなと毎度言っているだろ」スッ
利根「良いではないかー」ギュー
提督「まったく」
利根「ところで提督よ。一つ質問をして良いかの」
提督「どうした」
利根「セックスというものをしてみぬか?」
提督「…………」ペシッ
利根「あたっ」
提督「流石に怒るぞ」
利根「もうしばいておるではないか。──しかし、嫌なのかの?」
提督「そもそもお前とはそんな関係ではないだろ」
利根「じゃが、ふと思ったのじゃ。確か男というものは精子を出さねば辛いのじゃろう?」
提督「そうでもない。慣れたらどうとでもなる」
利根「ふむう……残念じゃ」
提督「そもそも、簡単に自分の純潔を捧げようとするんじゃない」
利根「提督じゃから良いと思ったのじゃぞ」
提督「寝言は寝てから言え」
利根「我輩、結構真剣じゃ」
提督「余計に性質が悪い」
利根「……仕方が無いのう。我輩もかなり我慢してきておるんじゃぞ」
提督「アレの代わりにセックスしろと?」
利根「うむ」
提督「どっちももうやる事はない」
利根「むー……」
提督「……これで我慢してくれ」ナデナデ
利根「ん……頭を撫でたからといって我輩がそう簡単に屈すると」
提督「…………」ナデナデ
利根「…………」
提督「…………」ナデナデ
利根「……まあ、良いかの」ギュゥ
提督「おやすみだ、利根」
利根「うむ。おやすみじゃ提督」
…………………………………………。
瑞鶴「……ねえ、二人とも」
響「うん?」
金剛「どうしたデスか瑞鶴?」
瑞鶴「私達がこの家に引き篭もってから結構な時間が経ったけど、やっぱりこのままなのはいけないと思うの」
金剛「……瑞鶴もそう思いますか」
響「考える事はみんな同じなんだね」
金剛「提督や利根に何かしてあげる事が出来れば良いのデスが……」
瑞鶴「ここの所ずっと考えてるんだけど、全然思い付かなくてね……。二人も何か考えてるんだったら、三人で一緒に考えない?」
響「文殊の知恵とも言うしね。二人はどんなのを考えたの?」
金剛「私は提督達に何か出来ればと考えて、マッサージや髪の手入れなどを考えたデス。……でも、あれだけのんびりしているとマッサージはノーポイント。髪の手入れも提督がやっているので、私達が手を出すのも良くないデス」
瑞鶴「私はどうにかして中将さんと利根さんの仕事を私達でも出来ないかなって考えたわ。だけど、見つからないようにするのは難しいし……ねぇ」
響「……んっと、別に見つかったとしても良いんじゃないのかな」
瑞鶴「? どういう事?」
響「ローテーションを組んで一日ごとに外に出る人を変えるって方法だよ。これなら艤装を外した艦娘二人が居るってくらいにしか思われないはずだから、深海棲艦も攻撃してこないんじゃないかな」
金剛「それはどうなのでショウか。島で艦娘を見掛けたら警戒すると思いマス」
瑞鶴「あー。他に戦力が居ないか偵察するって事?」
金剛「イエス。今は利根のみ外に出ているので、戦力はただ一人だけだからスルーされているだけなのかもしれないデス」
響「なるほど。これが三人四人となれば脅威となりえるから襲われるかもしれないんだね」
金剛「響はどんな事を考えていたデスか?」
響「この家の中で出来る事だよ。……だけど、何をするにしても資材や道具が足りないし、出来る事もやれる事も少なくて諦めそうになってる」
瑞鶴「そうよね……。本当にこの島には何も無いもの……。いい加減、たまにやる焼き料理と掃除以外にも何かしたいくらいなんだけどね……」
響「家の中と外がダメだったら、後は金剛さんの考えてた『二人に何か出来ないか』だよね」
金剛「でも、何かあるデスか……?」
響「私しか出来ないけど、身体を好きにさせるとか」
金剛「なっ!?」
瑞鶴「……えっと、どういう事?」
響「平たく言えば、エッチな御奉仕かな」
瑞鶴「ぶっ!?」
金剛「どこからそんな言葉を覚えたデスか響……」
響「暁の持ってた本とか、青葉さんの本とかかな」
金剛「……同室の暁には注意くらいで、青葉には叱らないといけないデスね」
瑞鶴(その青葉さんから色々と本や写真を提供して貰った事があるなんて言えない……)
響「ケッコンしてる二人には出来ないけど、私なら出来るよね?」
金剛「…………確かにストイックな二人でも性欲はあるでショウけど……あまり関心できないデスよ」
響「他にあるのならそれをするけれど、これくらいしか無いと思うんだ」
瑞鶴「ひ、響ちゃんにはまだ早いから、ね?」
響「そうでもないんじゃないかな。12歳で妊娠したって子も居るみたいだし」
金剛「……その情報はどこからデスか?」
響「青葉さんの本からだよ」
金剛「帰ったら全部取り上げまショウ。悪影響デス」
響「悪い影響はそんなに無いんじゃないかな。幼い内から性行為をしたらどういう危険があるかとかも知れたし、世の中にはさっき言った12歳で妊娠した事例もあるって記事も、結局は保護者に迷惑を掛けてしまったって記載されてたし」
金剛「……むう」
響「それに、少なからず私も興味があるしね」
金剛「……でも、やっぱり駄目デス。自分の身体は大事にしないといけまセン」
響「提督なら優しくしてくれそうだよ?」
金剛「そういう意味ではありまセン。青葉からのブックスにも書いていたのデスよね? 幼い内から性行為をすると危険があると」
響「この状況下なら良いと思ったんだけどな……」
金剛「どちらにせよ、エッチなのはノーなんだからネ! 提督も同じ事を言うと思いマスよ」
響「それはどうかな? 案外、男なのかもしれないよ」
金剛「……なら、提督がノーと言ったら諦めマスか?」
響「うん。諦めるよ」
金剛「分かりまシタ。では、明日にでも聞いてみまショウ」
響「先にこの事を話しておくのはダメだからね、金剛さん」
金剛「う。い、良いデスよ。お互い抜け駆けはアゲンストザルールですからネ!」
瑞鶴「……一体、何の勝負になってるのよ」
…………………………………………。
響「──なんだけど、どうかな」
提督「吊るす」ヒュッ
利根「ッ!?」ビックゥ
響「え?」
響「なっ!? な、なななな──っ!!?」ブラーン
提督「まったくどいつもこいつも。自分の身体を大切にしろ」
瑞鶴「……凄い早業。アッという間に吊るされちゃってる」
利根(我輩が吊るされてしまうのかと思うてしまった……)ビクビク
金剛「……アクアブルー」
響「っ!?」ビクン
響「流石にこれは……恥ずかしいな……」
提督「反省したか?」
響「うん……もう言わないよ……」
提督「よろしい」スルスル
響「…………でも、一つだけ良いかな」
提督「どうした」
響「どうしてダメなんだい? 理由が聞きたい」
提督「一つ目は女の子なんだからもっと身体を大事にしろという事。二つ目に私は性行為を求めていないという事だ」
瑞鶴「……本当に男?」
提督「どうやらお前も吊るされたいようだな?」
瑞鶴「ごっごめんなさい!?」ビクッ
提督「まったく……。家の中の事はお前たち三人に任せているんだ。外の事くらいは私達に任せてくれないか」
金剛「でも、量が全然──」
提督「逆にお前達に暇させてしまっている事を気にしているくらいだ。この島では退屈が何よりも敵だと言っただろう。やる事が無くて遅く進む時間を潰すのは至難の業だ。だから、お互い様だと思ってくれ」
三人「……はい」
提督(はぁ……心臓に悪い……)
……………………
…………
……
たぶん今回はここまでです。またいつか来ますね。
そろそろ終わりかな。深海棲艦も出そうかと思ったけど、どうやら似たようなのがあるらしいので止めておきます。ただでさえ似ているのに、これ以上似せてしまったら完全にパクリとなってしまう。
大根か
寝た被りなんて良くあることだし気にすることでもないと思うが…
まあそういう読者もいるか、仕方ないね
>>216
その問題もありますけど、あちらの作者さんが書こうとしているネタを食い潰しかねないというのもあります。
「これ向こうでも同じネタあったな」とかそんな書き込みがあると良い気分にはならないと思います。私の場合は被ってしまったかーという程度ですが、全員が同じという訳ではないので、後発の私が自重すべきです。
逆に私の作品と似たような作品があったら、是非ともパクtt参考にして頂きたいです。凄く悦びます。
それに、そろそろネタが尽きてきたので(ry
とりあえずは次かその次の投下で終わると思いますので、もう少しだけお付き合い下さいませ。
金剛「…………」ボー
瑞鶴「やる事、ないわねぇ」
響「本当にね」
利根「まあまあ、こうやってノンビリと出来るのはある意味で幸せじゃと思うぞ」ギュゥ
提督「完全に自堕落だが、幸せなのは間違いないな」
瑞鶴「……中将さんって、しっかりしているのか怠け者なのか時々分からなくなるわ」
響「しっかりとしてる怠け者とか?」
瑞鶴「それ矛盾してない?」
提督「人など矛盾だらけな生き物だ。然して不思議でもないだろう」
金剛「提督が言うと、なんでも真実に聴こえマス」
提督「……そうか。そんな事はないと思うのだが」
利根「それだけ提督を信頼と信用をしておるという事じゃろう」
提督「良い意味に捉えるな、利根は」
利根「ふむ? それ以外に何かあるのかの?」
提督「この島に来てから考えるという事が少なくなっているようだな? 少しは自分で考えてみろ」
利根「ふむう……言われてみれば確かに……。考えてみるぞ」
瑞鶴(……私もちょっと考えてみようかしら。どうしてこの二人が島流しにあったのかって)
提督「──む」
利根「どうかしたのかの?」
金剛・瑞鶴「!」
提督「珍しいな。この海域に何かが近寄ってきているぞ」
利根「ほう。艦娘かの? 深海棲艦かの?」
響「艦娘だったら凄く良いよね」
提督「どうだかな」
響「? どういう意味だい?」
提督「さて、それもどうだろう。──とりあえず外に出るぞ利根。艦娘だった場合は金剛達を帰らせられるだろう」スッ
利根「うむ!」スッ
金剛「……帰れる、デスか」
瑞鶴「……そうだと良いわよね」
金剛「…………ええ」
響「……………………」
響(本当に、二人はそれで良いのかな)
…………………………………………。
提督「どうやら艦娘のようだな」
利根「相変わらず目が良いのう。我輩は未だに判別が付かぬぞ」
提督「怠けすぎて錬度でも落ちたか?」
利根「その時はまた上げれば良かろう」
提督「それもそうだな。……ふむ。どうやらこっちに気付いたらしい。真っ直ぐ向かってきている」
利根「ほう。向こうも中々の錬度じゃな」
提督「ただ単にSOSサインに気付いただけかもしれんぞ」
利根「そう言えばそんな物もあったのう」
提督「忘れていたのか。結構目に付くだろ」
利根「特に興味が無いから仕方あるまい」
提督「そうだな。それなら仕方が無い」
提督・利根「……………………」
利根「……提督よ」
提督「ああ、気付いている」
利根「何の因果かの、これは」
提督「さあな。だが、話の分かる奴だからまだ良いんじゃないか?」
利根「確かにそうじゃが……」
提督「ボヤいてもしょうがない。事情を話して金剛達を連れて帰って貰うぞ」
利根「……うむ」
…………………………………………。
北上「あや、本当に提督だ」
比叡「…………」
夕立「提督さん提督さん! 夕立、寂しかったっぽい!」ギュー
時雨「生きていたんだね。良かった……」
飛龍「利根も元気みたいね。少しだけ安心しましたよ」
利根「まあ、の。のんびりしておったよ」
加賀「流刑になったと聞いていたけれど、まさかこんな場所だとは思わなかったわ」
提督「久し振りだな、皆。まさか艦隊までそのままだとは思わなかったぞ」ナデナデ
夕立「~♪」スリスリ
時雨「あっちの提督が気を利かせてくれてるんだ。出来れば皆と一緒に出撃したいだろうって」
提督「そうか。優しい提督で良かった」
北上「まあー、提督と比べたら甘いけどねー」
提督「まあ、そうなるな。……久々の再開に花を咲かせたいとは思うが、少し頼まれて欲しい」
夕立「なになに? 提督さんの為なら、夕立、なんだって聞くっぽい!」
提督「この島に漂流した艦娘が三人居る。その子達を元の鎮守府に帰してやってくれないか」
加賀「お安い御用よ。それにしても、その子達も苦労したでしょうね」
提督「私は何もしていない」
加賀「そんな事くらい分かっているわ。だって、利根さんが居るもの」チラ
利根「……あの日からアレはしておらんぞ」
飛龍「あ、あはは……。まあ、あれは良くないと思いますよ?」
加賀「そうよ。いつか本当に死んでしまうわ」
比叡「……………………」
夕立「アレって何? 夕立、気になるっぽいー」
時雨「まあまあ。──それより提督。その三人はどこに居るんだい?」
提督「今から利根に連れてきて貰う。少し待っていてくれ」
利根「…………」スッ
提督「頼んだ、利根」
利根「うむ。任されよ」トコトコ
提督「……………………」
提督「……その三人なんだが、お前達にとって辛い相手だろう。特に比叡……すまない」
比叡「え……それって……」
飛龍「……そういう事なんですね」
加賀「本当……神が居るのなら、どれだけ提督と利根を苦しませれば気が済むのかしら」
時雨「あと、比叡さんにも、ね……」
比叡「……覚悟は、しておきます」
北上「あたし、神様って奴が嫌いになったかも」
夕立「? ??」
提督「それよりも、お前達が元気そうで良かった」
夕立「提督さんに鍛えられたから当たり前っぽいー!」
提督「そういう意味ではなかったんだがな」
加賀「では、どういう意味だったのですか?」
提督「健康そうで良かったという意味だ」
北上「だったら私達が言うのは同じだったって訳だねー」
提督「……健康面に関しては当たり前の事しか言っていなかったと思うが」
飛龍「それがそうでもないんですよね。今、私達を指揮して下さっている方も、初めは艦娘の体調を考えられなかったそうですし」
提督「ふむ」
時雨「でも、今はそんな事ないよ。加賀さんが一言だけ進言してからすぐに気にしてくれるようになったんだ」
提督「ほう。流石だな。私にも痛い所をズバズバと言ってくれていた事だけはある」
加賀「他に誰も言いませんから。他人の意見は大事と仰ったのは提督でしょう?」
提督「そうだったな。おかげで何度も死地を乗り越えられてきた」
加賀「……ごめんなさいね」
提督「その事は考えなくて良い。もう過ぎてしまった事だ」
比叡「……もう、割り切っているんですか?」
飛龍「ちょ、ちょっと比叡──」
提督「……どうだろうか。未だしがらみに捕らわれているとは思っている。そうでなかったら、本気でこの島から離れる努力をしていただろう」
時雨「でも、帰ってきてくれるんだよね?」
提督「帰らんよ」
夕立「えー!? なんでなんでーっ!?」
提督「私はまだサボっていたいからだ」
夕立「提督さんが怠け者になったっぽいー……」
加賀(……まだ吹っ切れていないのね)
比叡「……いつかは、ちゃんと帰ってきて下さい。それが──…………」
利根「提督よ、連れてきたぞ」
提督「ご苦労、利根。──金剛、瑞鶴、響、紹介しよう。この六人は私に付き従ってくれていた子達だ」
三人「!」
北上「……やだなー。今でも帰ってきてくれるのなら付いていくってば。ねー、皆?」
飛龍「ええ。勿論ですよ」
加賀「当たり前です」
提督「さっき言った通り、今はまだ無理な話だ。──三人共、この子達がお前達を連れて行ってくれる。悪いようにはしない子達だから安心して良い」
金剛「よろしくお願いしマス」ペコ
瑞鶴「えっと、よろしくです」ペコ
響「…………」ペコリ
提督「……そういう事だ。三人を頼む」
時雨「……うん。分かったよ」
比叡「……………………」
夕立「…………」
金剛(……なんだか悲しそうデス。どうしてでショウか……)
提督「金剛と瑞鶴に関しては錬度が充分にある。響も恐らくそうだろう。弾薬も分けてくれると役に立つはずだ」
飛龍「……提督、一つ良いですか?」
提督「どうした。弾薬が残り少ないのか?」
飛龍「いえ、そっちは全然構わないのですけれど……。その……」
提督「歯切れが悪いな。遠慮しなくて良い」
飛龍「…………つらく、なかったですか?」
金剛(つらい……?)
提督「考えないようにしていただけだ。それと、頭では分かっていたから平常を保てられていた」
瑞鶴(平常を保つ……?)
加賀「まさかとは思うけれど、この子達が居なくなったからと言って変な気を起こさないわよね」
提督「安心──は出来ないだろうが、それでも言っておく。時が来るまでここでのんびりとしているよ」
響(変な気……?)
夕立「……提督さん。また、ここに来ても良い?」
提督「そうだな……たまになら良いぞ。ただし、今の提督に迷惑を掛けない範囲で誰にも私の事を話さないというのが条件だ」
北上「あたし達の提督は、今も昔も一人だけなんだけどね」
提督「こんな私を慕ってくれるとは、ありがたい事だよ」
時雨「ずっと、待っているからね」
提督「いつになるかは分からんがな。──さて、三人を頼む。後の事は任せたぞ」
六人「!」ピシッ
金剛(……私達のテートクとは大違いデスね)
金剛「……提督」
提督「どうした」
金剛「短い間でシタけど、お世話になりまシタ」ペコッ
瑞鶴「機会があったらまた来るわね」
響「またね」
提督「……そうだな。また、機会があれば逢おうか」
金剛(? なんだか、いつもと違う気がしマス)
比叡「……………………」
…………………………………………。
金剛(こうして海を滑るのは久々デス。……たった三ヶ月くらい離れていただけで、こんなにも懐かしく思えるデスか。ケド……)チラ
瑞鶴「…………」コクン
瑞鶴(……なんだろ。空気がピリピリしてる気がする)
響「ねえ、少し良いかな」
飛龍「ん? どうかしましたか?」
響「私達は、提督──あなた達の提督に、何か粗相をしてしまったのかな」
六人「……………………」
加賀「……どうして、そう思ったのかしら」
響「なんとなくかな。空気が重いからってのもあるよ」
加賀「そう……。ごめんなさいね。気分を悪くさせてしまったわ」
飛龍「でも安心して良いですよ。……これは、私達の問題ですからね」
金剛「……何かあったのデスか」
北上「あったっちゃあったけど、あんまり人に言う事じゃないんだぁ。ごめんね」
金剛「ごめんなさい……」
北上「あー、いやー、気にしなくても良いんだよ? 本当に身内話だからさ」
響「……………………」ジー
響「……そっか……ごめんよ」
北上「だから謝らなくても良いってばー」
加賀(……この子も、聡い子なのね)
瑞鶴「えっと、話は変わるんだけど、中将さんって何があってあんな島に居るの?」
時雨「提督は何も話さなかったんだ?」
瑞鶴「うん。秘密って言ってた」
時雨「秘密……そっか。秘密なんだね……」
瑞鶴「?」
時雨「ごめんよ。僕も言う事が出来ない。提督が秘密って言ったのなら僕達も秘密にするべきだと思う」
瑞鶴「そっかぁ……。ちょっと残念」
飛龍「ところで、皆さんの鎮守府はどこですか?」
金剛「私達は横須賀より少し南に出来た新しい鎮守府に籍を置いていマス。下田鎮守府で伝わると良いのデスが……」
加賀「最近、鎮守府が沢山作られていて把握に困るわよね。深海棲艦の数も新種も増えているから各所に置きたくなるのは分かるのだけれど」
加賀(下田鎮守府は悪い話ばかり聞くけれど、それは言わない方が良いでしょうね)
夕立「私達はその横須賀に住んでるっぽい!」
響「という事は、貴方達の提督は横須賀の提督だったんだね」
時雨「うん。そうだったよ」
瑞鶴「横須賀の話はたまに聞いていたけど、まさか中将さんが横須賀に居たなんて……」
飛龍「実は下田の提督さんって、演習で横須賀によく来るんですよ」
金剛「! そ、そうだったのデスか?」
瑞鶴「全然知らなかったわ……。いつも演習はメンバーだけ言って提督さんが連れて行ってたから……」
響「初耳」
比叡「……三人は、演習に行かないんですか?」
金剛「私達は既に錬度がかなり高くありマスので、演習にはあまり行かないのデス。いつも行くのは錬度の低い子達だけでシタ」
加賀「格上を相手にする事で質の高い経験を積ませているのよね。効率的だとは思うわ」
瑞鶴「……それって、普通じゃないの?」
北上「少なくとも私達の提督は違ったかなぁ。なんていうか、艦隊の統率を上げるのが優先的だったねー」
響「? どういう事なんだい?」
加賀「個々で戦わずに集団となって戦う経験を積ませていたの。艦隊の旗艦が指揮をして、お互いがお互いをフォローと連携をする練習よ。個々の戦力はそこまで伸びないけれど、集団で戦う能力は確実に高まるわね」
金剛(言われてみれば、確かに私達はほとんど一人一人が戦っているだけネ……)
瑞鶴(攻撃する相手も、大抵皆がバラバラよねぇ……)
加賀「良い事ばかりでもないのだけれどね」
響「そうなのかい?」
北上「各個撃破にものすごーく弱いんだよね、これ。まあ、そうさせないように動くけどさ」
飛龍「その点を考えたら、個々の強さも重要になってくるんですよね。けれど、そこまで手が回らなくて……」
夕立「私、もっと頑張るっぽい!」
時雨「夕立はもう充分じゃないのかな……? この間、昼間で黄色いオーラのタ級を一発で沈めてたよね?」
夕立「まだまだ強くなりたいっぽいー! もっと強くなったら、もっと気軽に提督さんに会えるよね!」
瑞鶴「……私達の鎮守府でも時々思ってたんだけど、この子って本当に駆逐艦なのかしら」
夕立「ぽい?」
響「少なくとも、夕立以外の駆逐艦は無理だよね」
金剛「戦艦である私達でもワンショットキル出来ない時があるはずなのデスが……」
加賀「この子が成長したら頼もし──総員、戦闘態勢に入って」スッ
全員「!」サッ
瑞鶴「私も爆撃機を飛ばすわね」スッ
加賀「ええ。でも、編隊は組めないと思うから、第二次攻撃隊として動いて貰って良いかしら。第一次攻撃と第三次攻撃は私と飛龍が務めます」
瑞鶴「え? 一緒じゃないの?」
加賀「そうよ。あと、発艦は急ぎなさい。間に合わなくなるわよ」
瑞鶴「は、はい!」
加賀「敵は戦艦タ級、重巡リ級が二隻、雷巡チ級、駆逐ロ級、駆逐ニ級。どれも赤と黄色のオーラを纏っているわ。第一次攻撃隊はタ級に集中攻撃。第二次攻撃隊はタ級が中破以上で残っていればタ級へ追撃。そうでなかったらリ級の二隻へ攻撃。第三次攻撃隊はその時の状況に合わせて攻撃対象を決めて貰うわ」
飛龍「了解しました!」
瑞鶴「りょ、了解です!」
加賀「戦艦である比叡はタ級、金剛さんはリ級、チ級の順番で優先度を決めて砲撃。いずれも中破以上の場合に限ります。大破した敵は無視して構わないわ。比叡が砲撃してから金剛さんは砲撃をお願いね」
比叡・金剛「はいっ!」
加賀「あと北上さん。もしもの事を考えてタ級へ先制雷撃をしてもらうわ」
北上「任せてね! 四十門の魚雷が確実に仕留めるから」
加賀「他の子達は指示があるまで回避に専念。その後の指示は随時言い渡します。提督の言葉を忘れないよう、絶対に沈まないようにしなさい。──戦闘開始よ」
……………………
…………
……
まず初めに。投下が遅くなってごめんよ。
そして、今回で終わらなかった。終わるのはまた次回以降になると思う。また終わる終わる詐欺になりそうな悪感。
利根「……行ってしまったの」
提督「そうだな……」
利根「……………………」
提督「…………」
利根「……提督よ、なぜ泣いておるのじゃ」
提督「人の事を言えるか?」
利根「……ん、本当じゃ。我輩もまだ涙が出せるのじゃな」ゴシゴシ
提督「涙を出し切る事などない。……それと、お前は冷たくないという証拠でもあるんじゃないか?」
利根「それは死んでいないという意味かの? それとも、冷血でないという意味かの?」
提督「両方の意味だ」
利根「……そうか。我輩、まだマトモじゃったんじゃな」
提督「根っこまで壊れている訳ではないんだな、私もお前も」
利根「その根っこ以外は壊れていそうじゃ」
提督「……ああ。壊れていそうだな」
利根「…………提督」ポフッ
提督「……………………」ナデナデ
利根「また……あの三人は我輩達の前から消えてしまった……」
提督「……ああ」ナデナデ
利根「受け入れたつもりだったのじゃな、我輩は……。痛い……痛いぞ、提督……」
提督「痛い、な……」ギュゥ
利根「ああぁ……ダメじゃ……。もう、無理じゃ……」
提督「…………」
利根「提督よ……やはり我輩は、壊れたままじゃ……。あの時から、もうずっと壊れてしまったままなんじゃ……」
提督「壊れているのはお前だけではない。……私もだ」グイッ
利根「あ……あハッ……。久しい。久しいな、やってくれるのか。もう、二度とやってくれぬのかと思うておっ──ガ……!!」
…………………………………………。
加賀「──以上が報告です。それでは、失礼します」
ガチャ──パタン……
比叡「…………」
飛龍「終わりましたか?」
加賀「あら飛龍、比叡。どうかしたの?」
飛龍「一杯、やりませんか?」スッ
加賀「常きげん……。良いですね、私の大好きなお酒よ」
飛龍「勿論、山廃仕込の純米です」
加賀「流石に気分が高揚します」スタスタ
飛龍「久し振りですもんね」トコトコ
比叡「…………」トコトコ
…………………………………………。
加賀「んっ──。良いわね。やっぱり日向燗が一番美味しく感じるわ」
飛龍「最近は全然呑んでいませんでしたからね。一層に美味しいと思いますよ」
比叡「…………」チビチビ
加賀「お膳立ても揃っている所で、そろそろ肴のお話に入りましょうか?」
飛龍「アハハ……やっぱり分かっちゃいましたか」
比叡「…………」コト
飛龍「……話というのは、提督の事です」
加賀「そうね。今日の演習の指揮で大きなミスを犯していたわ」
飛龍「ええ。あれには本当に困りましたね。けど、今はそっちではありませんよ」
加賀「……やっぱり、そっちの話なのね」
飛龍「今頃、どうしているんでしょうかね」
加賀「…………」クイッ
比叡「…………」
飛龍「…………」
加賀「……どう考えても、あの人ならば利根と一緒に壊れてしまっているでしょうね」
比叡「……ですよね」
加賀「壊れてしまっているのはあの日から。そして今日逢った時は普通に見えたわ。……けど、あの三人を見送っている時、もう壊れ始めていたもの」
飛龍「本当、よく三ヶ月も我慢できましたよね。三人の話によると、至って普通に怠けているようにしか見えなかったそうですし」
加賀「それと、この子もね」チラ
比叡「…………」
加賀「貴女も、最近はずっと良くなっていたわ。……本当、もう少しで割り切れそうだったのにね」
比叡「……この鎮守府に、金剛お姉様が来てくれるのであれば問題ありません。ただ、金剛お姉様が居なくなってしまうのを見ると……」
飛龍「私も、少しつらかったです……」
加賀「本当、タイミングが悪いわね。……提督に利根、そして比叡が何をしたと言うのかしら」
飛龍「金剛さんに瑞鶴さん、そして響ちゃんですからね……。偶然にしても酷過ぎます」
比叡「……二人は、あの日の事を憶えていますか?」
加賀「……忘れられる訳がないわ。あの日は、この鎮守府が崩壊した日だもの」
飛龍「あの時、私達がもっと早く気付いていれば良かったのに……」
加賀「無理だったでしょうね。あの提督が壊れてしまうなんて、誰が予想できたかしら」
飛龍「……結局、私達は提督の事を理解していなかったのですかね」
加賀「……どうかしらね。私は、提督も予想していなかったと思うわ」
比叡「司令ならば大丈夫だと、誰もが思っていましたよね……」
加賀「ええ……。多少の時間を掛ければ、ちゃんと受け入れてくれると信じていたわ。……でも、実際は違った」
飛龍「金剛さんと瑞鶴さん、そして響ちゃんが……」
加賀「…………」
比叡「…………」
飛龍「…………沈んで……も……提督は提督のままだと、勝手に思い込んでしまっていましたね……」
加賀「……時々、夢に見るの。あの時、私がしっかりと『偵察も六人でやるべき』と言っていれば、あの三人は帰ってきていた夢を……」
飛龍「金剛さん、瑞鶴さん、響ちゃん……そして利根さんの四人でしたね。私達の誰もが認める、優秀な方々でした」
比叡「出来るだけ見つからないよう、少人数で行うべき作戦だったから……。戦力的にも問題はなく、そしてギリギリ発見されにくい人数だったと、今でも思います……」
加賀「……どうだったのかしらね。あの作戦は」
飛龍「本当、何があったのでしょうか……」
比叡「何があったのか、今でも知っているのはあの二人だけなんですよね……」
加賀「…………」クイッ
飛龍「……提督と利根が心配ですね」
加賀「……飛龍」
飛龍「はい、なんですか?」
加賀「燗酒をお願い。飛びきり燗で、ね」
飛龍「そう言うと思っていました。どうぞ」スッ
加賀「ありがとうございます。準備が良いのね。────ッ!」クイッ
飛龍「はい、お水です。……何せ、もう四年以上も一緒ですからね。分かりますよ」ソッ
加賀「ん……っ」コクコク
飛龍「辛いですよね。飛びきり燗にすると」
加賀「ん、んく……。…………確かに辛いわ。いつも思うけれど、提督はよくこんな物を飲めるわね」
飛龍「提督はキツいお酒がお好きでしたもんね。私も提督には敵いませんよ」
加賀「……ねえ飛龍、比叡。カラいとツラいって、同じ漢字よね」
比叡「はい、そうですけれど……」
加賀「こうやって辛いお酒を飲めば、私も提督の辛さを……少しだけでも知る事が出来るのかしら」クイッ
比叡「あ、そんな一気に──」
加賀「──くっ!!」ガタッ
飛龍「もう……。加賀さんも身体を大事にして下さいよ?」
加賀「ケホッ……! はぁ……んっ……。大丈夫、よ。提督や利根より、は……自分を大事にしている、つもりよ」
飛龍「めっ。一般的に大事にして下さい」
加賀「考えるだけ、考えておくわ」
比叡(……大丈夫でしょうか。加賀さんも、司令も、利根さんも……)
…………………………………………。
「ア……っか、は──!!」
冷やりとした空気が漂う満天の星空の下で、私に組み敷かれた少女は苦しそうに声を漏らす。力の限り込めた指は少女の首に喰らい付いて離れない。
少女もまた、私の手首を掴んでいる。それは生物としての反射的な行動なのか、それとも別の意図があるのか──。
「ひ、ァ……ッ!」
恐らく──いや間違いなく彼女の場合は後者だ。
そうでなければ自らを殺さんとしている手を、首へ押し付けるような真似をする訳がない。
おまけに、その表情は苦しみよりも恍惚とした笑みを浮かべている。
「もう死ぬか? まだ死なないか? さあ、どうなんだ、利根」
少女の首から感じ取れる脈が速くなっていく。心臓が必死になって生きようとしているのだろう。
「──ぎ、ァ゙……!!」
私も、利根と同じ顔をしているのだろうか。それを知る術はないが、それはどうでも良いか。
死にたがりの艦娘である利根を、私は殺そうとしているだけだ。
金剛は沈んだ──。
瑞鶴も死んだ──。
響も殺された──。
あの偵察から生き残った利根も、死にたがっている。
ならば、私が殺すのが道理だ。私を愛してくれ、付き従ってくれ、慕ってくれた大事な子達を、なぜ誰かに殺されなければならない?
装備を捨て、生身で死のうとしている利根をどうして放っておける? 私が殺さなければ深海棲艦に殺されるだけじゃないか。
「ああそうだ。なぜだ? なぜ私は今まで我慢していた?」
利根はあの時、言っていただろう?
『苦しみながら沈み、提督と呟きながら沈んでいった三人を置いて、どうして自分だけ死ななかったのか』
『自分も苦しみながら死ななければならない』
『そうでなければ、あの三人に申し訳ない』
そう、虚ろな目をして言っていただろう? ボロボロの身体で、絶望で塗り潰された顔で言っていただろう?
あの時もそうだった。今もそうだ。だから、こうやって首を絞めた。だから、こうやって首を絞めている。
少女は涙を零しながら痙攣してきた。ビクビクと、まるで何度も絶頂を迎えているかのように、いつかの金剛のように身体を跳ねさせている。
「嬉しいよなぁ利根。最後に金剛と瑞鶴と響に会えたんだ。また私達の前から消えていったんだ。あの時と同じだなぁ、利根」
艦娘も頑丈なだけで体内は人間とあまり変わらない。怪我をすれば血を流すし、体調が悪ければ顔色も悪くなり、気道を塞いでしまえば呼吸が出来なくなる。
「は──ィ、ぁ…………!」
掠れた声で、利根は何かを言う。けれど、何も伝わらない。何を言おうとしているのかも分からない。
虚ろで、光の宿っていない目も、何を語りたいのか分からない。何もかも、分からない。
ただ分かっているのは、彼女が死にたいと思っているという事。それだけだ。
「どうした利根。どうしたんだ利根? 力が弱くなっているぞ。痙攣も治まってきたじゃないか」
「ぁ……ッぁ…………ぁ……」
ゆっくりと、彼女の瞳が閉じてゆく。
穏やかに、安らぎを感じているように、眠るように……。
そうだ。これから少女は眠りに就く。暗く冷たい水底で眠っている三人のように、誰にも邪魔される事なく眠り続けるんだ。
お前は望んでいたな。三年前からずっと、こうなるよう望んでいたよな。
なぜか毎回失敗していたが、今回は大丈夫だ。必ず眠らせてやる。
力を込め過ぎて手が震えてきたが、ぐったりとなって抵抗が一切無い少女ならば、この程度の力でも問題無い。
「────────」
もう喘ぐ事も出来ないか。もう少しだ。もう少しでお前も──。
「…………」
不意に、思考が停止した。
少女は──利根は、笑顔だった。とても嬉しそうに……まるで長年願っていた幸せを手に入れたかのように、優しく微笑んでいた。
その表情が被る。指輪を渡した時と被る。断られないか柄にもなく不安に駆られながら勇気を出した時と被る。
あの時の金剛と、同じ微笑みで──。
「……そう、だった」
込めていた力はスッと消え去り、腕がダラリと砂浜に投げ出される。
「あの時も、同じだった……」
何度だろうか。何度、私はこの微笑みを見ただろうか。何度、この微笑みを忘れたのだろうか。
「くく……は、ははは……」
乾いた笑みが口から漏れる。
なぜだろうか。なぜ忘れていたのだろうか。
いつも、この微笑みで私を戻してくれていたのに、なぜ私は忘れてしまっていたのだろうか。
頭がクラクラする。首を絞めていたのは私だったというのに、私も酸素が足りていないようだ。
なんとか意識を保とうとしても、抗えない。どんなに力を振り絞っても、身体は砂へと落ちていく。
「はは、クハはハハ…………」
最後に聴こえたのは、自分の狂った笑い声。
そのまま、私の意識はブラックアウトした────。
……………………
…………
……
「──え?」
「どうしたんだ。まさかとは思うけど、聴こえなかったとか言うんじゃないよな?」
「……いえ、そんな事は、ありまセン」
唐突に告げられた死刑宣告──。今の私達は、それに等しい衝撃を受けました。
場所は執務室。私達の帰るべき鎮守府で、テートクが作戦を告げ、必要があれば私達も訪れる場所──。
少し……ほんの少しだけ、予想していました。だから、今こうして冷静で居られるのでしょう。動揺は隠せませんけれど……。
「まあ、正直に言うと資材にも困ってないからどうでも良いんだけどな。処理する方法がそれくらいしかないから解体するだけだ」
そう……私達のテートクは、同じ艦娘を二隻以上置くという事をしません。把握するのが面倒だと仰っていました。
「真に残念な事に、今のお前らに場所は無い」
テートクが不機嫌なのは手に取るように分かりました。恐らく、帰ってくるのなら新たに育て直す労力は無駄だったじゃないかと思っているのでしょう。
その意思表示か、テートクの後ろには三人の艦娘が困った顔をして立っています。
艦娘の名称は、金剛、瑞鶴、ヴェールヌイ。
ほんの三ヶ月前、私達が立っていた場所に、別の私達が立っています。
その三人の全員が、左薬指に指輪を嵌めていました。……私と瑞鶴が肌身離さず着けていた指輪と、全く同じ指輪……です。
「ああ、いや。聞きたい事があった」
ふと、思い出したかのようにテートクの不機嫌な顔はいつもの無表情に変わりました。
……私達に聞く事なんて、あるのでしょうか。この三ヶ月、無人島を三人で暮らしていたとは言いましたから、私達に聞く事なんて何も無いと思うのですが……。
「お前ら二人の幸運がどれくらいなのか言え」
……………………?
幸運がどれくらい、とはどういう事なのでしょうか……?
チラリと瑞鶴に顔を向けます。けれど、瑞鶴も私と同じく困った顔をしていました。
「どうした。自分の事だろ」
「司令官」
どう答えたら良いのか考えていると、響がテートクに声を掛けました。
テートクの機嫌が悪くなったのが分かります。あからさまに舌打ちをして、私達の知っているテートクではないように……怖い顔をしていました。
「二人は意味が分かっていないようだから、説明してくれると良いかもしれないよ」
けれど、響は一切動じずに言葉を続けます。
……響は、テートクが怖くないのでしょうか。テートクの後ろに居る三人も怖がっているのに……?
響のその言葉に、テートクは重く、イライラしている溜息を吐きました。……こんなテートクを見るのは、初めてです。
「分からないのならもう良い。やっぱりお前らは解体だ」
「それと、もう一つだけ良いかな」
「チッ……なんだ」
今にも殴り掛かりそうな雰囲気のテートク。それでも、響はいつもの調子で言葉を並べ続けます。
「司令官の手を煩わせる必要もなく、私達を消す事が出来るよ」
「え……響ちゃん!?」
「ほう?」
何を言っているのか分からなくて、一瞬頭が真っ白になった──。
私達を消す? どういう事ですか?
「な、何言ってるのよ!? 消すって──!!」
「お前は黙ってろ。……で、その方法は何だ?」
狼狽える瑞鶴を一言で黙らせると、テートクは響に興味深そうな目で聞きました。
解体以外で、どんな方法があるですか……?
「簡単な事だよ。今ここで出撃命令を出せば良い。私達三人じゃ、絶対に勝てない海域にね。……そうだね。マリアナとかミッドウェーとかなら十二分に沈められるんじゃないかな」
……マリアナやミッドウェー? それって、確か──。
「良い事を言うな響。それなら楽だし、これからもそうするか。じゃあ出撃だ」
「今の私達は辿り着く前に燃料が切れるから、補給はしていくけど良いかな?」
「好きにしろ。さっさと行け」
「うん、ありがとう司令官」
そう言うと、響は扉へ向かって歩き出しました。
チラリ、と私と瑞鶴にしか見えないように顔を見せます。その表情は、まるでイタズラが成功した子供のような顔でした。
(……なるほど。やっぱりデスか)
私は、出来るだけ無表情を貫いて瑞鶴の手を引きながら響と同じく、執務室から出て行きました。
「……さようなら、テートク」
最後に、お別れの言葉を口にして──。
……………………
…………
……
金剛「…………」スタスタ
響「…………」トコトコ
瑞鶴「ひ、響ちゃん! さっきのって、どういう事なの?」
響「…………」チラ
金剛「…………」キョロキョロ
金剛「……誰も居ませんが、念の為に小声で話しまショウ。あと、短くデス」ヒソ
瑞鶴「…………?」
響「そうしようか。──瑞鶴さん、沈むつもりはないよ。ただ逃げるだけさ」ヒソ
瑞鶴「逃げる……?」ヒソ
響「そう。マリアナとミッドウェーの中間にね」ヒソ
瑞鶴「! それって、もしかして──」ヒソ
響「そういう事だよ。これ以上は喋らない方が良い。海に出てからにしよう」ヒソ
瑞鶴「う、うん」ヒソ
長門「……む。お前達、さっき提督が……────!!」
瑞鶴(あ、危なっ! 響ちゃん、ナイス……!)
長門「生きていたのか! ああ……噂は本当だったんだな……!」
金剛「ゴシップ?」
長門「そうだ。行方不明になっていたお前達が帰ってきたという噂を耳にしていてな。どうだ、これから久々に息抜きでもしないか?」
瑞鶴(あ、もしかして気を遣ってくれてるのかしら?)
響「誘ってくれて嬉しいんだけど、これから私達は出撃をしなくちゃいけないんだ。イズヴィニーチェ」
長門「これから……? 帰ってきたばかりだというのに、あの提督は……」
響「それじゃあ、行くね」トコトコ
長門「む。あ、ああ……気を付けるんだぞ?」
響「……うん」
金剛(…………?)
…………………………………………。
金剛(鎮守府から、もう大分離れましたネ。そろそろ大丈夫デス)
金剛「響」
響「ん、どうしたんだい?」
金剛「長門に対して、少し冷たかったように感じまシタけど、どうしたのデスか?」
響「……後悔しないようにする為だよ」
瑞鶴「後悔?」
響「うん。下手したら二度と会えなくなるんだ。それだったら、少し冷たいくらいで丁度良いと思う。……せっかく決断したのに、心が揺らぐのを防ぐ為……かな」
瑞鶴「……なるほどね。確かに、優しくして貰ったら心が揺らぎそう……」
金剛「響、前よりも強くなったのデスね」
響「私は特に変わったつもりはないけど、そうなのかな?」
瑞鶴「私もそう思うわ。もしかしたら中将さんに影響されちゃったのかしら?」
金剛「ナルホド。私もそんな気がしてきまシタ」
響「提督に、か……」
金剛「どうかしまシタ?」
響「ん。今頃、何をしてるのかなって思ってたんだ」
瑞鶴「中将さんの事だからねー……。たぶん、いつもと変わらずに海をボーっと眺めてそう」
響「うん。きっとそうしてるよね」
金剛(……本当にそうでショウか)
瑞鶴「金剛さんはどう思う?」
金剛「私、デスか? 私は……エンザイティ……不安デス」
瑞鶴「不安?」
金剛「ハイ。どうしてかは分かりまセンが……」
響「…………?」
金剛(心が少しざわつきマス……。二人は、本当に無事なのデスか……?)
……………………
…………
……
今回はここまでです。またいつか来ますね。
一、二回の投下どころか、このままだとあと何回の投下になるのやら……。
やっぱり終わる終わる詐欺になりました。ごめんよ。
??「────」
提督(……なんだ? 何か、声が聴こえる…………)
??「と────てい──」
提督(なんだろうな……。少し優しくて……温かい気持ちになる……)
??「ていと──て──く」
金剛『テートク』
提督「ッ!!」ガバッ
ゴンッ──!
提督「いっ……!」
利根「あたたたたたた……。い、いきなり動くでないぞ……」
提督「……利根、か?」
利根「うん……? 我輩がどうかしたのかの……? あいたたた……」スリスリ
提督「……………………」キョロ
利根「……うん? どうしたんじゃ?」スリスリ
提督「金剛は……」
利根「…………夢でも見ておったのか?」
提督「夢、だったのか?」
利根「それは我輩に言われても分からんのう」
提督「……一応聞いておくが、ここはあの世ではないよな?」
利根「どうみてもいつもの島じゃろ。ほれ、足も付いておるぞ」ペシペシ
提督「……そうか。また、失敗したのか」
利根「そうみたいじゃなぁ……。我輩、いつも頭がクラクラして意識が失うから何がどうして失敗しておるのか分からんのじゃ」
提督「私もだ。お前の首を絞めていたのは憶えているが、その先がどうしても思い出せん」
利根「ふむ……またか」
提督「また、だな」
利根「今もう一回やってみるかの?」
提督「いや、止めておこう。むしろ、もうやらないと決めていたのにも関わらずやってしまった事を反省するべきだ」
利根「……元の我輩達に戻る為に、じゃったよな」
提督「そうだ。私達は壊れていて普通ではない。普通に戻る為には、この衝動を無くさなければならん」
利根「……我輩は、今すぐにでも死にたいくらいじゃぞ」
提督「それは私が許さん」
利根「むう。首を絞めたのは提督ではないか」
提督「私もお前も普通に戻れば、また皆と一緒に暮らせるという未来があってもか?」
利根「……少し迷うが、やはり我輩は死んで三人に詫びたいと思うておる」
提督「何回でも言うが、許さんぞ」
利根「……ならば、それなりに発散させてくれぬか。我輩はもう、死にそうにならなければ満足できなくなってしまっておるんじゃぞ」
提督「どんな方法で発散させてやれば良い」
利根「前にも言ったように、セックスをするとか」
提督「だから、なぜ性行為に結び付く」
利根「どこかで知ったのじゃ。女が絶頂する時は最も死に近い感覚じゃとな」
提督「どこの眉唾な噂だ。それに、それだったら私が手を貸さなくても構わないだろ」
利根「いや、一人でやってみた事があると前にも言ったじゃろ」
提督「腕を揉んでいるのと違いが分からない、だったか」
利根「うむ。恐らく我輩のやり方が間違っておるのじゃとは思うが、提督は何も教えてくれぬから分からぬままなのじゃ」
提督「当たり前だ。そういう事は自分で自然と覚えろ」
利根「じゃから、それが分からぬと言っておるじゃろうに……。あれはやっていてつまらん。……そうじゃ。それだったら、別の方法でも構わぬぞ」
提督「ほう。何がある」
利根「殺すつもりでなくとも構わぬ。またこうやって首を絞めてくれぬか」
提督「断る。手違いで死なれたら、それこそ私は二度と戻れなくなるのが目に見える」
利根「……ならば、自害するぞ提督」
提督「禁止だ」
利根「…………」
利根「提督よ。我輩、これでも苦しいんじゃぞ」
提督「……………………」
利根「あの偵察で瑞鶴の艦載機が全て落とされ、撤退しようとした所で……我輩は直接見ておったのじゃぞ」
提督「…………」
利根「…………」
提督「……まず、一つの魚雷が響を沈めた」
利根「そうじゃ……。響は我輩達に逃げろと言っておった。…………最後の最後は、お主を呼んでおった」
提督「次は、瑞鶴が犠牲艦になった……」
利根「最後の言葉は、今でも鮮明に憶えておる。提督に好意を伝えれなかった事が、心残りじゃったと……」
提督「…………」
利根「深海棲艦共の砲撃で……瑞鶴は我輩達の盾となって沈んだ」
提督「……最後に、金剛が…………」
利根「…………」
提督「……………………」
利根「……金剛は左舷に二本の魚雷と、敵艦載機の集中砲火を受けて、ボロボロの身体で対空砲火しておった」
提督「…………」
利根「我輩は金剛から全力で逃げろと言われ、振り向く事なく逃げた……。じゃがの、確かに聴こえたんじゃ」
金剛『提督、どうか武運長久を──。私、ヴァルハラから見ているね』
利根「……そう、言っておった。夜が明ける少し前じゃ……」
提督「…………」
利根「のう、提督よ。なぜ、我輩が残ってしまったんじゃ」
提督「……それは、誰にも分からない事だ」
利根「あの中で一隻だけ助かるのならば、我輩以外の誰かが良かった……。なぜ我輩なのじゃ……なぜ──」
提督「もう考えるな」ソッ
利根「じゃが……」
提督「答えの出ないものは考えなくて構わない。そうだろう?」ポンポン
利根「…………」
提督「今夜はもう寝てしまおう。ほら、家に戻るぞ」
利根「……うむ…………」
……………………
…………
……
提督「…………」ボー
利根「…………」ボー
提督「……静かだな」
利根「そうじゃの……」
提督「…………」ボー
利根「…………」ボー
提督「金剛達が居た時は、なんだかんだで賑やかだったな……」
利根「……うむ。初めは少し苦しかったが、段々と楽しくなっていたのう」
提督「そうだな……私も、苦しくもあったが楽しかった……」
利根「…………」
提督「辛い、な……」
利根「うむ……」
提督「──む」
利根「どうしたの──む?」
提督「……遠くで何か見えるな」
利根「うむ。なんじゃろうか、アレは」
提督「……少しだけ、嫌な予感がする」
利根「アレが深海棲艦なのかもしれぬ事かの?」
提督「どうだろうか。これはただの勘だ。何の根拠も無い」
利根「ふむ……」
提督(もっと別の嫌な予感だが……どうなる事か……)
…………………………………………。
提督・利根「────────」
金剛・瑞鶴「…………」
響「数日振りだね」
提督「お前達……どうしてここに来た」
金剛「…………」チラ
瑞鶴「…………」コクン
金剛「……捨てられちゃいまシタ」
提督「……どういう事だ」
瑞鶴「私達ね、ちゃんと提督さんの元に帰ったの。……けど、そこには別の私達が居たのよね」
利根「じゃが……お主達は錬度が充分にあるのではなかったのか……?」
響「司令官は──あの人は、同じ艦娘を二人以上置かないんだ」
提督「あの短期間で、お前達よりも錬度よりも高い三人を新しく……か」
金剛「ザッツライト。その通りデス」
響「それで、轟沈しろって命令が出たから、従う振りをしてここまで逃げてきたんだ」
利根「沈め……と、命令……が……?」
金剛(…………? なんだか、利根の様子がおかしいデス)
瑞鶴「うん……。もう、嫌になっちゃってね」
利根「くく…………」
金剛「え……?」
提督「利根、どうし──」
利根「あハ……アハハハハ…………」
瑞鶴「え、え……?」ビクッ
利根「沈め、と……。羨ましい命令ではないか……」
金剛「ど、どうしたのデスか?」
提督「利根、止めろ」
利根「我輩は……我輩は沈みたいというのに……死にたいというのに、死なせてくれぬのじゃぞ」
提督「利根」
利根「ッ! ハハ……ハハハ……! 提督よ、身体を吊るすなど生温い事をせず、首を吊らせても良いんじゃぞ? それならば我輩も確実に死ねるじゃろう……?」
提督「…………」
瑞鶴「どう、なってるのこれ……? え……? 利根さん……?」
利根「のう提督よ。次は手ではなく縄で首を締め上げて吊ってくれぬか? 良いじゃろう? 良い案じゃろう?」
響「これは……」
提督「少し寝ていろ」ビシッ
利根「────っぁ……」ガクン
提督「世話の焼ける……」ソッ
瑞鶴「あの……頭がすっごい揺れたんだけど……大丈夫なの……?」オドオド
提督「加減くらいは分かっている。少し気を失った程度だ」
瑞鶴(それって色々と経験済みって事……?)
提督「……事情は話す。部屋に戻ろう。外では利根を寝かせられん」スッ
瑞鶴「うん……」トコトコ
金剛・響「…………」トコトコ
利根「…………」グッタリ
瑞鶴「……ねえ、本当に利根さん大丈夫なの? 物凄くグッタリしてるけど……」
提督「心が疲れ切っていたのかもしれん。……少しは治っていると思っていたのだが、甘かったようだ」
響「…………」タタッ
ガチャ──
提督「ありがとう、響」
響「ん。頭、撫でてくれる?」
提督「利根を寝かせてからな」
響「約束だよ」
提督「こんな小さな約束で良いのなら」
響「約束」
提督「約束だ」
瑞鶴「……懐いてるわね」
金剛「ええ……」
提督「……ゆっくり寝ていてくれ、利根」ソッ
利根「…………」
響「…………」ヂー
提督「ありがとうな、響」ナデナデ
響「んっ……」
提督「さて……」
金剛「……何があったのか、話してくれるデスか?」
提督「ああ。……だが、一つ頼み事がある」
瑞鶴「? 何かしら」
提督「話していく内に、私は私でなくなるかもしれん。その時は遠慮なく殴り倒してくれ。殺しかけても構わん」
瑞鶴「あの……言っている意味が分からないんだけど……」
提督「……すまない」
瑞鶴「えっと……どういう意味なのか、もうちょっと詳しく言って欲しいかも」
提督「…………これから話す事は、私と利根が壊れた理由だ。それを話していく内に、私も利根のように壊れるかもしれん」
金剛「だから、殴り倒してでも……デスか」
提督「そうだ。人間とはいえ、本気で殺しに掛かってくると痛い目を見る。だから、頼む」
金剛「……分かりまシタ」
瑞鶴「ええっと……うん。なんとか、頑張るね」
…………………………………………。
提督「────これが、私達の過去だ」
金剛「……私達が原因、デスか」
提督「ただ不運だっただけだ。誰のせいでも、ない」
瑞鶴「中将さん、大丈夫……? すっごく辛そう」
提督「……なんとか、な」
響「無理はしないでね」
提督「ああ……。少し、横になっても構わないか」ギシッ
金剛「ハイ。ゆっくり休んで下サイ」
提督「ふー……」
金剛(……本当に辛そうデス。汗も出ていマスし、とても我慢していたのが分かりマス……)
瑞鶴「…………」スッ
提督「……瑞鶴?」
瑞鶴「こうやって、手を握っていれば……少しは楽になれるかな、って」ギュゥ
瑞鶴「私達は、ここに居るから……ね?」
提督「……ありがとう」
瑞鶴「ううん。あの時の、せめてのお礼。中将さんは命の恩人だもの」
提督「そうか……」
瑞鶴「何かあったら言ってね? 私で出来る事だったら何だってするから」
瑞鶴『────────』
提督「ああ……。後で叱らないとな……」
瑞鶴「え……えぇ……?」
提督「すまない……少しだけ眠らせてくれ……」
瑞鶴「えっと、うん。……手、握ったままが良い?」
提督「出来れば、そうしてくれ……」
瑞鶴「うん。分かったわ」
提督「……………………」スゥ
瑞鶴「……もう寝ちゃった」
金剛「本当に、無理をしていたのデスね。顔色も良くないデス……」
響「……何の因果があるんだろうね」
瑞鶴「?」
響「私達は捨てられる運命にあったとしても、提督が私達と同じ艦娘を沈ませてしまうなんて、何かがあるんじゃないかって疑ってしまいそうになるよ」
金剛「……酷い偶然デス。──デスが、もうそんな気持ちにはさせまセン」
瑞鶴「うん。どうにかして二人の心の傷を癒してあげたい」
響「賛成だよ。……でも」
金剛「ええ」
瑞鶴「今は、静かに眠らせてあげましょうか」
提督・利根「……………………」
……………………
…………
……
今回はここまでにしておきます。またいつか来ますね。
どれだけ長引くのか分からない。どうしよう。
愉悦か
>>314-317
前々作の提督なら深海棲艦に対して
提督「命を懸けろ。あるいは、この身に届くかもしれん」
とか言っても不思議じゃない。
そのままマジカル八極拳をしても、やりやがったコイツとしか思えないかもしれない。
という訳で投下していきます。
長門「失礼する!!」バンッ
大佐「……ノックぐらい出来ないのかお前は」
長門「話を耳にしたぞ! 貴様は一体何がしたいんだ!!」
大佐「チッ……面倒な奴に……」
長門「答えて貰うぞ……! あの三人に轟沈命令を出したそうじゃないか……!!」ギリッ
大佐「それがどうしたんだ。俺は面倒が嫌いなのを知ってるだろ」
長門「ふざけるな!! 貴様は艦娘をなんだと思っている!?」
大佐「兵器だろ。何を当たり前の事を言っているんだ……」
長門「ならば、なぜその質の高い兵器を捨てようと考えた!」
大佐「単純に把握が面倒だからだよ。見分けなんて付かないだろ。……ああ、艦娘のお前らなら見分けが付くのかもしれんが、人間には無理だ」
長門「それならばバッヂでもなんでも使えば良かったのではないか!? わざわざ……轟沈処分にする理由が分からん! 解体して装備は近代化改修に回しても良い! 総司令部に届けて戦力の足りない鎮守府に送るというのも──!!」
大佐「なぜ艦娘をバッヂで一々確認せねばならんのだ。それと、解体も手続きが面倒なんだよ。解体をする為には総司令部の都合もあるから随時受け付けている訳じゃない。理由も必要だ。ただ単に被って把握が面倒だからという理由なんて書いてみろ。大目玉を食らうのは俺だぞ」
大佐「その点、轟沈は楽だ。艦娘の代えなどいくらでも居る。轟沈しても報告書の端に名前を入れるだけで良い。それならば轟沈させる方が良い」
大佐「あと、艦娘がそう簡単に別の提督の言う事を聞く訳がないだろ。昔、俺も戦力が乏しかった時に高レベルの艦娘が総司令部から送られてきた事はあった。だが、俺の言う事など聞きやしなくて作戦どころじゃなかったぞ。お前も俺以外の提督から命令されて動くか?」
長門「……少し抵抗はあるが、貴様よりも遥かに良い提督ならば聞くぞ」
大佐「チッ……!」
長門「毎度毎度、貴様は考えが足りていない。だから、これだけの戦力を有しておきながら結果も残せず万年大佐だと、なぜ分からない」
大佐「……あ? お前、誰にそんな口を利いているのか分かっているのか?」
長門「無論、目の前に居る私の外道な提督だ。今回の件で心底呆れた。──そうだな。私にも轟沈命令を出すか?」
大佐「…………」
長門「別に大した痛手でもなかろう? すぐに別の私がお前の下で、私と同じく最高錬度となるだろう。……だが、これだけは断言しておく。どの私も貴様に心を開かん。貴様がそうである限りな」
大佐「生意気な奴め……」
長門「当然だ。私がこの鎮守府に居る理由も、貴様が上司だからではない。ここに居る艦娘の皆が心配なだけだ。早く失脚して欲しいものだな」
大佐「……………………」
長門「話す事は全て話した。私は戻る」
大佐「……不敬罪だ」
長門「ん?」
大佐「お前は提督である俺に不敬を働いた。それは罪となるのは知っているだろ」
長門「ああ知っている。だが、貴様を敬えと言われても無理な話だ」
大佐「お前は総司令部で懲罰を受けてもらう。出てくるまでに俺への敬い方を覚えておけ」
長門「ああ。貴様も艦娘の扱い方を覚えておくんだな」
大佐「減らず口を……!」
長門「ふん」
大佐(……いつか必ず、その高いプライドを圧し折ってやる)
……………………
…………
……
提督「…………」
利根「…………」
響「本当に良く眠ってるね。もう何時間もこのままだ」
瑞鶴「……大丈夫かしら。本当にピクリとも動かないわよね」
金剛「ええ……。二人共、寝返りすら打たずに──」
金剛「……ホワッツ?」
瑞鶴「? どうしたの、金剛さん?」
金剛「……私の記憶違いでなければ、二人は寝返りを打っていまセンよね?」
響「うん。一回もしていないよ」
金剛「良くありまセン。ウェイクさせてしまうかもしれまセンが、体勢を変えさせまショウ」スッ
瑞鶴「えっと……どういう事?」
金剛「寝返りはとても大事デス。血の巡りを良くしたり、身体の歪みを直そうとしたりする重要な動きデス」グイッ
響「……もし寝返りを打たなかったらどうなるの?」
金剛「肩こりや腰の痛み、挙句には自律神経にもアブノーマルが現れる事があるそうデス」グイッ
瑞鶴「そうなんだ……って、詳しいわね?」
金剛「えっと、私も寝返りを打たなくなってしまった事がありまシテ……」
響「……司令官に仕えていた時だね?」
金剛「イエス。妹達が教えてくれるまで気付きまセンでシタ。それで、霧島が寝返りの事について調べてくれたのデス」
瑞鶴「それで知ったのね。……でも、どうして寝返りって打たなくなるのかしら。必要な動きなんでしょ?」
金剛「原因は色々あるらしいのデスが、ストレスも関係しているらしいデスよ」
瑞鶴「……なるほどね。あの頃の金剛さんや、中将さんと利根さんに当て嵌まるわ」
金剛「私なんて、二人に比べれば些細な問題デス。……二人は壊れた心で治ろうと、自殺願望を無理矢理抑えていたのデスから」
響「私にとっては、どっちもどっちだと思うけど」
金剛「そんな事はありまセン。私が二人と同じ体験をしたら、きっと…………耐えられなかったでショウ……」
瑞鶴・響「……………………」
金剛「…………起きまセンね。二人……」
瑞鶴「うん……」
響「……ねえ。私達は何をしてあげたら良いのかな」
瑞鶴「むしろ、何が出来るのかしら……」
金剛「二人の心を癒す事が出来れば一番なのデスが……」
瑞鶴「難しいわよね……。だって、私達は中将さんの……」
三人「…………」
金剛「……私は、瑞鶴と同じく何だってするつもりデス」
響「私もだよ。出来る限りの事をするつもり」
瑞鶴「でも、どうすれば中将さんと利根さんの心を癒せられるのかしら……」
金剛「正直に言うと……分からないデスよね……」
瑞鶴「うん……。たった三ヶ月だけど、ずっと一緒に居たのに分かんない」
響「消去法で考えれば答えが出てくるかな?」
金剛「良いデスねそれ。少し考えてみまショウ」
響「まず、性行為はダメだったよね」
瑞鶴「マッサージもあんまり意味がなさそうって結論だったっけ」
金剛「食事も特に拘りが無いみたいデスよね」
三人「……………………」
瑞鶴「……詰んでない?」
金剛「あ、諦めるのはまだ早いデス……!」
瑞鶴「でも……この島で出来る事なんて他に……」
響「んっと、私達が提督の艦娘になるって言ってみるのは?」
金剛「ダメです」
瑞鶴「ダメよ」
響「……やっぱり、傷口を広げてしまうよね」
金剛「それもありマスが、今はその時期ではないデス。理想を言うならば、提督から言って下さるのを待った方がベターだと思いマス」
瑞鶴「……もしかしなくても、それまでの間は私達って野良艦娘?」
響「の、野良……」
金剛「間違ってはいまセンが、そう言うと……とても惨めになるネー……」
瑞鶴「中将さん……拾ってくれるかしら……」
響「野良艦娘です、にゃぁにゃぁ──って鳴いてみると良いんじゃないかな。拾われたいって思って鳴いてる野良猫みたいに」
瑞鶴「…………」
金剛「……と、とりあえずデスね。私は一つ思った事があるデス」
響「なんだい?」
金剛「マッサージは意味が無いと思っていまシタけど、同じ体勢で寝続けているのならば意味があるのではないかと思いまシタ」
響「ああ、確かに。言われてみればそうだね」
金剛「なので、二人が起きたらやってみまショウ」
響「うん。やってみる」
瑞鶴(……………………)
…………………………………………。
提督「…………む」
瑞鶴「あ、起きた?」
提督「瑞鶴……か……」
瑞鶴「中将さん、大丈夫?」
提督「ああ。大分落ち着いた。──利根は寝たままか?」
瑞鶴「ううん。さっき起きたわよ。だけど、寒いって言って中将さんにくっついて寝ちゃった」
提督「なるほどな。だから利根がしがみついているのか」
提督「……起きる為だ。少し我慢してくれよ利根」ソッ
利根「うーん……」モゾモゾ
瑞鶴「服の端掴んでる。本当に中将さんの事が好きみたいね」
提督「……ところで、金剛と響はどうした?」
瑞鶴「ん、二人は外で木とか塩とか取りに行ったわよ」
提督「そうか。……世話を掛けさせてしまったな」
瑞鶴「良いって良いって。それより、お水でも飲む?」スッ
提督「わざわざすまん」スッ
瑞鶴「……んー」
提督「?」ゴクン
瑞鶴「謝られるよりお礼を言ってくれた方が嬉しい」
瑞鶴『────────────────────』
提督「……………………」
瑞鶴「……中将さーん?」
提督「あ、ああ……。どうした」
瑞鶴「なんか急に上の空になってたけど、まだ眠いの?」
提督「大丈夫だ。……ああ、大丈夫だ」
瑞鶴「……なんだか大丈夫に見えないんだけど」
提督「夢見が悪かっただけだ。心配させてすまない」
瑞鶴「むー……」
提督「…………」
瑞鶴「むぅー……」ヂー
提督「……心配してくれて、ありがとう瑞鶴」
瑞鶴「うんっ!」ニコッ
瑞鶴『────』
提督「……すまん、もう一杯だけ水を貰っても良いか?」
瑞鶴「あ、足りなかった? じゃあ汲んでくるから、ちょっと待っててね」スッ
提督「頼む」
瑞鶴「良いって良いって。じゃあ、いってきまーす」トコトコ
提督「…………ふー……」
提督「…………」ボー
瑞鶴『────────────』
提督「……大丈夫だ。……大丈夫だとも」
瑞鶴「何が大丈夫なの?」ヒョコッ
提督「──ああいや、独り言だ」
瑞鶴「ふうん? あ、お水、汲んできたわよ」スッ
提督「ありがとう」スッ
瑞鶴「二人もすぐに戻ってくると思うわよ」
提督「…………」ゴクッ
提督「……そうか」
瑞鶴「──あ、噂をすれば」
金剛「提督ー」ヒョコッ
響「やあ」ヒョコッ
提督「おかえり、二人共。──木や塩を回収してくれていたんだったな。ありがとう」
金剛「イエイエー。あのくらいお安い御用デース」
響「それよりも、提督は大丈夫なのかい?」
提督「問題ない……とは言えないが、すぐに良くなるだろう。気持ちの問題だ」
金剛「無理はノーですからね?」
提督「分かっているさ」
響「…………」チラ
響「利根さんは、まだ寝てるんだね」
提督「そうみたいだ。……それだけ精神的にキツかったんだろうな」
金剛「…………」
響「そうだ。利根さんが起きた時に話したい事があるんだ」
金剛「お二人に出来る事を、私達なりに考えてみたのデス」
提督「そんなに気にしなくても良いと思うのだが」
金剛「ンー……提督には、こう言った方が良いかもしれまセン」
金剛「──私達がしたいと思ったのデス。なので、させて下サイ」
提督「……まったく。このお人好しめ」
瑞鶴「きっと、中将さんのがうつっちゃったのよ」
提督「そうとは思いにくいが」
瑞鶴「そうよ。きっと、ね?」
提督「……向こうに戻ってから、少し強引になったか?」
響「そうかもね。……ダメだったかい?」
提督「いや、良い事だと思う。お前達は少し自分を押し通すくらいで丁度良いだろう」
金剛「ハイ。そうさせて貰いマスね」
提督(……そうなると、辛くなるのは私達かもしれんがな)
…………………………………………。
今回は以上です。またいつか、来ますね。
一応確認してるけど、割と眠い中で書いたので誤字とかあったらごめんよ。
久々にちまちま投下していきます。
何か用事が出来たら書き溜めを全投下して終わると思いますのでご了承下さいませ。
利根「……三人が…………。はぁ……やはり夢ではなかったのか」ジトッ
提督「…………」ガツッ
利根「~~~~~~ッッ!?」ジタバタ
瑞鶴「うわ……痛そう……」
金剛「あ、あの……流石にやり過ぎでは……」
響「……脳天直撃っていうのは、こういう事なんだね」
提督「なぜ頭を殴ったか分かるか、利根」
利根「……わ、分かる」
提督「ならば、言う事があるな?」
利根「…………すまぬ、金剛、瑞鶴、響……」
提督「次から失礼な事を言うなよ」サスサス
利根「うぅ……撫でられてる場所がヒリヒリするのじゃ……」
提督「返事はどうした」グイグイ
利根「あダッ!? アイダダダダダッ!!! はいッ! もう言わぬ!! もう言わぬからぁ!!」ジタバタ
提督「よろしい」サスサス
利根「うぅぅ……痛いのじゃ……痛いのじゃ……」
瑞鶴「……なんかすっごく可愛い」
利根「やるでないぞ!?」ビクンッ
提督「まったく……。艦娘を殴った事なんて初めてだぞ……」サスサス
利根「我輩も提督が殴るのなんて初めて見たぞ……。痛い……」
提督「……すまん。強過ぎた」サスサス
利根「我輩が悪いのじゃ……。自業自得なのじゃ……」
利根「……しかし、少し不思議な気分じゃ」
響「不思議?」
利根「よくは分からぬが、こうして提督に撫でられると……うーん? 満たされる……? いや、違うのう……。温かい……? むぅ……? なんじゃろうか、この気持ち……? 言葉に出来ぬ」
提督「……ふむ」サスサス
響「……確かに、提督に撫でられると嬉しい気持ちになるね。そういうのじゃないの?」
利根「嬉しいというのは近いような違うような……むー……」
響「…………? なんだろうね?」
金剛(瑞鶴、これはもしかしなくても……)ヒソ
瑞鶴(でも、利根さんって中将さんに恋愛感情は無いって言ってたし……)ヒソ
金剛(自覚していないとかデスかね……?)ヒソ
瑞鶴(どうなんだろ……。分からないわ……)ヒソ
提督「……………………」スッ
利根(む……撫でてくれるのが終わってしまった……)
提督「ところでお前達。利根が起きたら何か話したいと言っていなかったか?」
瑞鶴「あ、そうだった。──えっと、二人に何かしてあげたいって思っててね、思い付いたのがマッサージなの」
利根「マッサージ?」
提督「ふむ。どうしてだ?」
金剛「提督も利根も、昔の私のように寝返りを打っていませんでシタ。なので、身体が凝り固まってると思ったのデス」
提督「なるほどな。だから身体を解してみようという事か」
響「うん、そうだよ」
利根「そんなに凝るものなのかの? 我輩、まったくそんな感覚が無いのじゃが」
金剛「とりあえずデスが、やってみまショウ。やっても損はないデス」
利根「ふむ。確かにそうじゃのう」
瑞鶴「ここにはベッドが一つしかないから、私達の部屋まで移動して貰って良いかしら」
提督「分かった。利根、行くぞ」スッ
利根「うむ。了解した」スッ
金剛(……あれ? 今気付いたのデスが、いつもの利根になってマス? 気を失う前と、起きたばかりに見えた狂気はどこへ……?)
瑞鶴「ほら金剛さん、行くわよ?」トコトコ
金剛「あ──エクスキューズミィ」スタスタ
響「──はい、提督はこっちで利根さんはこっちだよ」
提督「分かった」スッ
利根「これで良いかの?」ボフッ
響「うん。利根さんみたいにうつ伏せになってね」
提督「ふむ」スッ
金剛「では、マッサージを始めマスねー」ソッ
瑞鶴「力を抜いていてね、利根さん」スッ
利根「寝てるようにで良いのかの?」
瑞鶴「うん。それで良いみたい」グッ
瑞鶴「……カチカチじゃないの。こんなになってて痛くないの?」クイクイ
利根「うむ。特に何ともないぞ」
瑞鶴「まさかとは思うけど、痛みが麻痺してるとかなんて事は……」コネコネ
利根「痛いものは痛いがのう……」
金剛「…………」クニクニ
提督「…………」
響「二人は静かだね」
金剛「……身体は鍛えられているようなのデスが、とっても柔らかいデス。どこもマッサージをする必要がないデース……」スッ
提督「ならば座っているぞ。──私は利根と違って多少の運動や柔軟体操はやっているから、身体の凝りとは無縁だろう」ギシッ
利根「むう……我輩もやってみようかのう……」
提督「少し前に一分も持たずしてやめたのはどこの誰だったかな」
利根「……何も言い返せぬ」
提督「だろうな」
響「でも、どうしようかな……思い付いたのがマッサージだけだったのに……」
提督「だから、気にしなくても良いと言っただろう?」
金剛「ダメです。私達は二人に何かをしてあげたいネ」
提督「とは言ってもだな……。私も何かして欲しいと思う事が無い」
金剛「ぅー……」
響「……本当、後はこれくらいしか無いのにね」トコトコ
提督「ん? 何をするんだ、響?」
響「ただこうするだけだよ」ピトッ
提督「……何の真似だ?」
響「ただ肌を寄せてるだけ。私が隣に居るのが嫌なら止めるよ」
提督「嫌いではないが、こういう事はもっと信頼できる人や大事な人にやりなさい」
響「それって、どっちとも提督に当て嵌まってるよ」
金剛(響が隣に居ても問題ない、デスか。ならば、私も大丈夫デスかね?)
提督「…………」
利根(……………………)チクチク
瑞鶴「ん。利根さん、身体に力が入ってるわよ」コネコネ
利根「ん? すまぬ」
響「お願いだから、何か恩返しをさせてくれないかな」
提督「……困った子だ」
利根(…………)チクチク
金剛「では、私は反対側デスね」ソッ
提督「お前までどうしたんだ金剛……」
金剛「背中の方が良かったデスか?」
提督「そういう意味ではない」
金剛「では提督は隣と背中、どっちがライクですか?」
提督「……非常に返答が困るんだが」
響「じゃあ、私は背中で」ノシッ
提督「本当に一体どうしたんだ二人共……」
利根(……………………)チクチクチク
…………………………………………。
提督「──さて、そろそろ寝るか利根」
利根「…………」
提督「……ん?」
利根「……提督よ、我輩は少し星を見てくる。先に寝ておいてくれぬか」スッ
提督「珍しいな。どうしたんだ?」
利根「我輩もそういう気分というものがあるのじゃ」トコトコ
提督「……ふむ。暗いから気を付けるんだぞ」
利根「うむ……」トコトコ
利根「…………」トコトコ
利根「……………………」トコトコ
利根「…………」チラ
利根「……そりゃあ、来ぬよな」
利根「砂は……うむ、乾いておる」コロン
利根「…………はぁ……」
利根「我輩、何かおかしいぞ……。いや、普通ではないのはずっと前から分かっておるのじゃが……なんであの三人が提督とベタベタしておると、胸がチクチクするのじゃ」
利根「トゲなぞ無いのは何回も確認しておるし、むしろ何か体内にトゲがあるような感じじゃし……何かの病気なのじゃろうか……」
利根「……まあ、こんな島で何年も居れば病気の一つや二つなってもおかしくはないかのう?」
利根「はぁ……。なんじゃろうかのう……月と星が、やたらと寂しがっておるように見える。……いや、寂しいと思ってるのは我輩かの?」
利根「提督……」
利根「……………………」
──トコトコ
利根「……む?」
響「あ、居た。こんな所に居たんだね」
利根「響? どうしたのじゃ?」
響「二人と一緒に寝ようと思って二人の部屋に行ったんだけど、利根さんが外に行ったって言ってたから来たんだ」
利根「ふむ。……金剛と瑞鶴はどうしたのじゃ?」
響「二人は私達の部屋だよ。流石に、一人は子供じゃないとベッドに三人は入れないからね」
利根「なるほどのう」
響「──利根さんは星が分かるの?」
利根「ん? 星座の事ならば我輩はあまり分からぬのう。ただぼんやりと見ていただけじゃ」
響「そっか」コロン
利根「砂が付いてしまうぞ」
響「説得力が皆無だね」
利根「む。そういえば我輩も寝転がっておったのじゃった」
響「……時々思うけれど、利根さんって不思議だよね」
利根「そうじゃのう。お主達がここへ来てから自分が普通ではないと改めて認識したのう」
響「それもあるけど、もっと別の何かだよ」
利根「ふむ?」
響「なんというか、私と似てる気がする」
利根「響と?」
響「うん。何が似てるのか良く分からないんだけどね」
利根「ふむう……言われてみれば、何か似ているような気もするのじゃが……」
響「利根さんもそう思う?」
利根「んーむ。なんとなくなのじゃがのう。今言われて初めて気付いたくらいじゃし」
響「そっか」
利根「ああそうじゃ。似ていると言えば、響に少し聞いてみたい事が出来たぞ」
響「私に? なんだい?」
利根「響は胸がチクチクする事はあるかの? なんというか、身体の奥にトゲがあるような感じじゃ」
響「……無い、かな。今までそんな事は無かったよ」
利根「うーむ……」
響「そんな痛みがあるんだ? ……そういえば、前にもそんな事があったよね?」
利根「うむ。あの時と同じ痛みなのじゃが、今回は少しだけ違うのう」
響「どんな風に?」
利根「前はすぐにチクチクが無くなったのじゃが、今回は全く消えぬ。多少治まったりする事はあるのじゃが、ふとした拍子にチクチクが戻ってくるのじゃ」
響「……何かの病気?」
利根「やはり響もそう思うかの? んーむ……じゃが、ここでは診察など出来ぬしのう……」
響「一回だけ戻ってみる?」
利根「……横須賀の事を言っておるのならば嫌じゃ」
響「そっか……」
利根「提督から聞いておると思うが、我輩は壊れておる」
響「…………」
利根「本当ならば今すぐにでも沈んで、あの三人にお詫びを言いたいくらいじゃ。それに、他の皆にも会わせる顔も無い」
響「……ねえ、少し思ってたんだけど良いかな」
利根「うん?」
響「私と金剛さんと瑞鶴さんって、利根さんを命懸けで助けた三人と似てるの?」
利根「……そうじゃのう。違いはある。金剛はもっと元気が一杯じゃった。事あるごとに提督提督と言って、笑顔を振舞っていたのう」
響「へぇ。そっちの金剛さんはそんな感じだったんだ」
利根「うむ。……ああ、そういえば今日の金剛はどことなく似ておったのう」
響「そうなの?」
利根「どことなく、じゃがな」
響「ふぅん? ──瑞鶴さんはどう?」
利根「瑞鶴は金剛と逆じゃな。こっちの瑞鶴の方が元気が良いように思う。いや、本当に少ししか違わぬのじゃが」
響「どういう事?」
利根「提督はお仕置きで天井から吊るすじゃろう?」
響「うん」
利根「あれが怖くて怖くて仕方が無かったらしくてのう。子犬のように絶対服従じゃったよ」
響「……子犬?」
利根「うむ。普段はこっちの瑞鶴と変わらんのじゃが、叱られそうになった時はビクビクと身体を震えさせていてのう。──ああそうじゃ。そういう時だけ臆病になっていたんじゃ」
響「……あんまり、そっちの瑞鶴さんと変わらないような気がする」
利根「ほう、そうなのかの?」
響「うん。向こうの鎮守府でも、瑞鶴さんって怒られてる時はビクビクしてたし。ほら、提督は私達を叱る事がほとんど無いから分からないだけだと思うよ」
利根「なるほどのう」
響「それで、私はどうなのかな」
利根「響は……そうじゃのう。本当に似ておる」
響「そうなの?」
利根「うむ。強いて言うならば、お主よりももっと積極的だったように思う。提督に影響をされたのか、頑固でのう。自分が納得できる反論や代替案がなければ頑なに首を横に振っておった。今日、我輩がマッサージをし貰っていた時のお主がいつもの響じゃった」
響「艦娘はどこも似たようなのかもしれないね」
利根「そうじゃのう。基本的な事は同じで、後は環境の違いによるものだけなのじゃろう」
響「じゃあ、考えてる事も似てるかもね」
利根「かもしれぬのう」
響「……一つ、良いかな」
利根「うん?」
響「少し嫌な事を聞くから、嫌だと思ったら正直に言ってね」
利根「うむ」
響「もし、私が利根さんを生き延びさせる為に囮となったら、今の利根さんを見て私は……」
利根「…………」
響「…………」
利根「……構わぬぞ」
響「ん。……一人だけでも生き残ってくれたのなら、逃げてって言った甲斐があった。けど、今こうして死んだも同然の事をするのなら、何の為に私は沈んだのか分からなくなる」
利根「……………………厳しいのう……」
響「たまに言われるよ」
利根「……そうか。我輩、今は死んだも同然の事をしているように見えるのか」
響「見えるね。死人はそこで止まる。生きた者は未来へ向かって進み続ける。……これは私達の元司令官の言った言葉から思った事なんだけどね」
利根「……なるほどのう。生きているのにも関わらず、過去に捕らわれて前に進まないから死んだも同然、か」
響「うん。提督も同じだよね」
利根「割と心にくる言葉じゃのう……何も言い返せぬ……」
響「…………」
利根「……のう、響。どういう言葉でそれを思い付いたのじゃ?」
響「死んだ艦娘は止まって沈む。お前らは動いているから生きている。止まるまで撃ち続けろ……だったかな」
利根「なんじゃそれは……」
響「つまるところ、そういう司令官だよ」
利根「…………」ムクリ
響「?」
利根「お主も、苦労したんじゃのう……」ナデナデ
響「ん。くすぐったい」
利根「嫌だったかの」
響「ううん。好きだよ。頭を撫でてくれるのって、好き」
利根「うむ。我輩も撫でられるのは好きじゃ」ナデナデ
響「似てるね」
利根「ハハ。そうじゃのう」ナデナデ
利根「……のう、響よ」
響「なに?」
利根「響は、提督の事をどう思っておる?」
響「唐突だね。──んっと、なんというか……お父さんみたい、かな」
利根「ふむ。父親とな?」
響「ただなんとなくだけどね」
利根「父親か……」
利根(……ああ、なんとなく父親に甘える娘にも見えない事もなかったのう)
響「? どうしたの?」
利根「いや、確かにそれっぽいと思っただけじゃ」
響「そっか」
利根「さて、そろそろ寝るとするかのう」スッ
響「うん、そうしよっか」スッ
利根「ところで、提督が父親で響が娘とするならば、今日は我輩が母親になるのかの?」
響「利根さんは母親っていうよりもお姉ちゃんって感じだよね」
利根「むう……そうか」
利根(……まあ、それも悪くないかのう?)
利根「む?」
響「?」
利根「ああいやすまぬ。なんでもない」
響「…………?」
利根(……何が悪くないのじゃ?)
……………………
…………
……
ちょっと用事が出来たので今回はここまでです。また明日……に来れるかは分からないですけど、またいつかきますね。
次は深海棲艦を出す予定。
提督「さて利根。そろそろ戻る時間じゃないか?」
利根「ぐぬぬぬぬ……」
提督「釣果は私が七匹と鋼材の入ったドラム缶。利根が四匹。鋼材を抜いても私の勝ちはほぼ確定だな」
利根「ま、まだじゃ……! これから連続で釣れるかもしれんではないか……!」
提督「今まで一回でもそんな事があったか」
利根「うぐっ……」
提督「さて、そろそろ片付けだ」
利根「む、むぅぅ……────おお?」ピクン
提督「む」
利根「きたぞ! せやぁ!!」グイッ
利根「……………………」
提督「餌だけ食われたようだな」
利根「むがー! 早かったかぁ!!」
提督「流石に焦り過ぎたな。釣りはじっくりとやるものだ」
利根「うーむ……。じゃが、待ち過ぎてもダメじゃし……むぅ……」
提督「お前はその時によって釣れる釣れないが激しいな。未だにタイミングが掴めないか?」
利根「食い付き方で変えるなど面倒で仕方が無くてのう……」
提督「それが釣りというものだ。さて、帰る準備を──」
利根「む──」
提督「…………あれは……見えるか、利根?」
利根「……うむ。見えるぞ。どう見ても深海棲艦じゃ」
提督「しかし珍しいな。どう見ても二隻しか居ないぞ」
利根「じゃのう。こんな珍しい事もあるものじゃな」
提督「……む。あれは艦載機か?」
利根「という事は空母か。……こっちに飛んできておらぬか?」
提督「一応隠れて……いや、もう遅いか」
利根「ほう。これもまた珍しい艦載機じゃな。たこ焼きじゃぞ。新型のようじゃな」
提督「なぜお前達はたこ焼きと言うんだ……私はいつも髑髏と言っているのに……」
利根「だって完全にたこ焼きじゃろ?」
提督「緊張感が無いだろ……」
利根「今ならば良かろう?」
提督「まったく……」
利根「ふむ。帰っていったのう」
提督「やはり攻撃してこないな。艦娘が居るというのに、本当に不思議なものだ」
利根「じゃのう」
提督・利根「……………………」
利根「……提督よ。あの二隻、近付いてきておらぬか?」
提督「……そうだな。確実に近付いてきているな」
提督・利根「……………………」
利根「流石に、マズくないかの……?」
提督「マズいかもしれんな……」
利根「どうしようかのう……」
提督「まあ……様子だけ見てみようか。こっちは手出しも出来んしする気も無い。攻撃の意思があるのならば既にやっていてもおかしくない。もし接近されても、金剛達に気付かれないよう岩場の方まで寄っておこう」スタスタ
利根「うむ」トコトコ
提督・利根「……………………」
提督「……しかし、本当に不思議だ。前は無視されていたよな?」
利根「うむ……。前が特殊だっただけなのかの?」
提督「さて、それは分からん」
利根「……むう? のう、提督よ。あの深海棲艦の艦種なのじゃが……」
提督「ああ……。あまり出会いたくない奴だな」
利根「じゃのう……。我輩、あやつに何回大破させられたのか分からぬぞ……」
提督「私も何回冷や汗を掻かされたか分からん……」
利根「制空権を取っていても問答無用でこっちを攻撃してくるから、我輩はあやつが苦手じゃ……」
提督「下手をすればその状態で大破させられたな……」
ヲ級「……ヲ」
空母棲姫「……………………」
利根「…………」
提督「……会話は出来るのか?」
空母棲姫「ああ」
ヲ級「…………」コクコク
提督「そうか、良かった。それで、こんな島に何か用か?」
空母棲姫「人間と艦娘が見えたのでな。攻撃をしようと思ったのだが、どうも様子がおかしかったから拝見しようと思っただけだ」
提督「ほう。そんな事もあるのか。……では聞こう。お前達から見て私達はどう見える?」
空母棲姫「…………」チラ
ヲ級「…………」ジー
利根「…………?」
ヲ級「よく、分からない」
空母棲姫「……不思議な連中だというのだけは言える。それ以外はなんとも言えん」
提督「そうか」
空母棲姫「こっちも質問させて貰う。私達を見てどう思う」
提督「そんな服装で恥ずかしくないのかと思っている。中破でもしたのか?」
利根「良く見るとそのマント、格好良いのう……」
ヲ級「カッコ良い……」
空母棲姫「……変な奴らだな」
提督「よく言われる」
空母棲姫「変と言えば、なぜ艦娘に艤装を持たせていない。襲われたら死ぬぞ」
利根「邪魔じゃからもう何年も付けておらんぞ? この島で暮らすのに艤装はただただ邪魔なだけじゃ」
提督「その艤装も修理に使ってもう無い。潮風に煽られて錆付いていたからどっちみち使えなかっただろう」
ヲ級「えー……」
空母棲姫「本当に……変な奴らだな……」
提督「変なのはお前達もだろう。こっちでは勝手にお前たち二人を空母棲姫、ヲ級と呼んでいるが、たった二隻で動いているのは初めて見たぞ」
空母棲姫「……ふん」
利根「ぬ? 拗ねた?」
ヲ級「艦娘に、襲われた。仲間、沈んで、私達だけ、残った」
提督「ああ……そういう事か」
利根「その割にヲ級は無傷じゃのう?」
ヲ級「攻撃、来なかった」
利根「なるほどのう」
空母棲姫「……………………」
提督「……しかし、敵とはいえ普通に話せると哀れに思ってくる」
空母棲姫「哀れ、だと?」ピクッ
提督「傷付いてその状態だと仮定すると、お前は一刻も早く修理しなければならない状態だ。だというのにこうして道草を食っているという事は、修理をする手段が無いと私は思った」
空母棲姫「…………」
提督「艦娘と同じように修理しなければ服も直せないのならば……まあ、なんだ。その肌が露わになった状態でずっと居なければならないのは哀れだ、とな」
空母棲姫「……無駄に察しが良いな、お前」
提督「そうでもないだろ」
利根「我輩は単純にこれが通常なのかと思うたぞ?」
提督「滑走路が壊れているようだからそれは無い」
利根「あ、本当じゃ」
提督「それくらいは気付こうか、利根」
利根「そういう事もあるじゃろうて」
ヲ級「…………」チョンチョン
空母棲姫「! どうした」
ヲ級「この二人、本当に、敵?」
空母棲姫「…………本当は敵のはずなんだが……」
提督「単純に攻撃手段が無い」
ヲ級「あったら、攻撃、する?」
提督「せんよ」
空母棲姫「ほう。それはどうしてだ?」
提督「こっちも単純だ。私はもはや提督ではない」
空母棲姫「仕事ではないからしない、か」
提督「そうだ。私は好き好んで個人的な戦争などしない」
利根「……あれ? もしかして我輩、存在理由が否定されておるのかの?」
提督「今気付いたのか。戦う為の存在である艦娘から戦いを奪えばどうなるか分かるだろう」
利根「おー……。まあ、それも良いかのう」
ヲ級「……良いの?」
利根「別に構わぬ」
ヲ級「……不思議」
空母棲姫「随分とのんびりしているな」
提督「のんびりしなければならない事もあるものだ」
空母棲姫「ただの怠慢だろ」
提督「そうとも言う」
空母棲姫「……私が言うのもおかしいが、お前の艦娘は不幸だな」
利根「ぬ? 我輩か?」
空母棲姫「お前ではない。他の艦娘だ。──何年も前から艤装を付けていないという事から、お前達はここに何年も居るという事だ」
提督「……ああ、そうだ」
空母棲姫「残された艦娘は今、どう思っているんだろうな。延いては、沈んだ艦娘もどういう気持ちでお前を見ているのか……」
提督「…………お前なら、どう思う」
空母棲姫「ふざけるな、としか言いようがない。亡霊となったら真っ先にお前を祟るだろう」
提督「……そうか」
空母棲姫「お前の為に沈んだ艦娘が、何を思うかを考えると良い」
提督「……………………」
提督(……金剛、瑞鶴、響が何を思うか……か)
金剛『テートクー! いつまで私達の事を引き摺っているデスか!』
提督(ああ……言いそうだな……)
瑞鶴『辛いのは分かるけど、乗り越えなきゃダメよ?』
響『もう居ない私達ばかり見ていても、前には進めないよ』
金剛『テートクなら、必ず立ち直れマス。私はそう信じているネ。……ただ──』
提督(……………………)
金剛『──私達の事、忘れないで下さいね?』
提督「…………」
利根「……どうして泣いておるのじゃ、提督」
提督「……すまん」グイッ
空母棲姫「……………………」
空母棲姫(沈んだ艦娘を想って泣いている……。このような人が提督ならば、私も深海棲艦にならずに済んだのかもしれないわね……)
提督「……感謝する」
空母棲姫「私は何もしていない。お前が勝手に何かを想っただけだ」
提督「……そうか」
ヲ級「? ??」
提督「では、せめて塩を送らせてくれ」
空母棲姫「……何をする気だ?」
提督「不器用だが私は艦娘を修理する事が出来る。もしかすると、お前も修理を施せるかもしれん」
空母棲姫「お前の得にならないだろ」
提督「お前の得にはなるだろう」
空母棲姫「戦争をしている相手を援助するのはどうなんだ?」
提督「お前こそ戦う気力を失った敵を激励している」
空母棲姫「修理と称して殺すんじゃないのか?」
提督「恩を仇で返す事などせんよ」
空母棲姫「信用できないと言えばどうする」
提督「その空母を監視に就かせるか海に出るかを選べば良い」
空母棲姫「…………」
提督「…………」
空母棲姫「……艦娘のお前はどう思っている」
利根「うん? 提督に任せるぞ。よくは分からぬが、提督はお主に感謝しているようじゃしの」
ヲ級「据え膳。据え膳」
空母棲姫「意味がかなり違う。静かにしていなさい」
ヲ級「ヲ……」
空母棲姫「……修理はどこでやるつもりだ?」
提督「そこの工廠紛いの小屋だ」
空母棲姫「……変な事はするなよ」
提督「約束する」
…………………………………………。
空母棲姫「……ふむ。直る事は直った、か」
提督「完全には直らなかったがな。鋼材が足りなかった」
空母棲姫「これだけ直れば充分だ。……その、だな」
提督「ん?」
空母棲姫「…………」
提督「どうした」
空母棲姫「……感謝、する」
提督「私が勝手に直しただけだ」
空母棲姫「私の真似か、それは」
提督「さて、どうかな」
空母棲姫「食えない奴だ」
ヲ級「ヲ。直ってる」ヒョコッ
利根「おお、本当じゃ」ヒョコッ
空母棲姫「ん、ああ。完全ではないが、充分に直った」
ヲ級「裸、見られた?」
空母棲姫「……どうしてお前はそう反応に困る事ばかり言う」
ヲ級「どうだった?」
提督「私に聞くな。言ったら失礼だ」
ヲ級「ヲ……」
空母棲姫「まったく……」
利根「深海棲艦も大変なんじゃのう」
空母棲姫「人間と艦娘程ではない」
ヲ級「ヲー……」
空母棲姫「……さて、私達はそろそろ海へ戻る」
提督「そうか。気を付けろよ」
空母棲姫「……敵にその言葉を言うのは間違っていないか?」
提督「社交辞令と思ってくれ」
空母棲姫「敵に社交辞令というのもおかしいと思うが……まあ、お前がおかしいのは今に始まった事ではないか」
提督「これからはなるべくマトモになるようにしよう」
空母棲姫「……では、次は戦場で会おう」スッ
提督「会ったら、だがな」
空母棲姫「せいぜい死ぬなよ。人間、艦娘」
提督「そっくりそのまま返してやろう。深海棲艦」
…………………………………………。
金剛「深海棲艦と会ったデスって!?」
瑞鶴「そのまま話して帰ったって……どういう事なのそれ……」
響「……私の頭か耳がおかしくなったのかな」
提督「そのままの意味だ。響は何もおかしくなっていないから安心しろ」
金剛「本当に大丈夫なのデスか? 危害は加えられまセンでシタか?」
提督「ああ。この通り元気だ」
利根「我輩も怪我一つしておらんぞ」
瑞鶴「……提督さんは人間だからまだ分からないでもないけど、利根さんも大丈夫だったって何があったのかしら」
利根「さあのう……不思議な連中とは言われたが、艤装を付けていたとかの関係があるのかの、提督?」
提督「さあな。それは私にも分からない。ただ一つ言える事は、戦場で会ったら敵同士だという事だ」
響「……私達も会っていたらどうなっていたのかな」
提督「さて。それも分からん。もしかすると変わらなかったかもしれんし、攻撃されたのかもしれん」
金剛「とりあえず、私達はあまり外に出ない方がベターのようデス……」
提督「そうだな。これからも家の中の事は三人に頼む」
響「……本当にこれだけの事しかしていないのに良いの?」
提督(──ああ。三人と私は、さっきの私と空母棲姫みたいなものか)
提督「構わんよ。……だが、何かをしたいと思ってくれるのは嬉しい事だ。だが、これからも利根のマッサージをお願いして良いか?」
金剛「オッケーデース」
利根「うん? 良いのかの?」
提督「お前は私と違って身体が凝っていただろう。良い機会だから柔らかくなるまで解して貰え」
利根「ふむ。三人共、頼んでも良いかの?」
金剛「勿論デース」
瑞鶴「任せてね」
響「私も頑張るよ」
利根「……ありがたいのう」
提督(……さて、三人に聞きたい事があるから後で聞いておこう)
…………………………………………。
今回はこれで投下終了です。またいつか、来ますね。
途中で深海棲艦の二人を島で暮らさせようかと考えたけど、そうしたらまた終わりが遠退いてしまったのでボツ。
圧倒的に一日の時間が足りないなぁ。
利根「くー……」
提督(ふむ、寝たか。それでは、行くとしようか)ソロソロ
利根「んー……」
提督「!」
利根「むにゃ……」
提督(……起きていないよな?)
利根「……くー」
提督(……良し。今度こそ行くか)ソロソロ
利根「……………………」
提督(…………)ソロソロ
瑞鶴「──とかどうなってるのかしら」
金剛「それは私達には分からない事デスね……」
提督(……何か雑談していたのか。邪魔をしてしまうが許してくれよ)コンコン
瑞鶴「……え、誰? 中将さん?」
提督「ああそうだ。少し話したい事があるんだが、入れてもらって良いか」
響「うん。鍵は掛かってないよ」
ガチャ──パタン
提督「夜中にすまん」
金剛「ノープロブレムです。ケド、どうかしたのデスか? とても珍しいネ」
提督「……ああ」
響「真剣な話のようだね。……座る?」ポンポン
提督「気持ちだけ受け取っておく。椅子に座っても良いか?」
瑞鶴「良いけど、何も言わずに座っても良かったのよ?」
提督「失礼する。──この部屋はお前達のものだ。ならば訊ねるのが礼儀だろう」スッ
瑞鶴「そっか。ありがと」
響「それで、話ってなんだい?」
提督「ああ……迷惑な話かもしれんが、どうしても聞きたい事がある」
金剛「?」
提督「……私と利根がこの島に居る経緯は憶えているか?」
金剛「イエス。……今回のお話はその事についてデスか?」
提督「……ああ。お前達が、あの子達だったとして考えて欲しい。今の私や利根を見て、どう思うかを教えて欲しいんだ」
瑞鶴「う、うーん……? 結構難しいわね……」
提督「無理にとは言わない。分からなかったら正直にそう言ってくれ」
瑞鶴「……頑張る」
響「どう思ったのかも正直に言って良いの?」
提督「ああ。頼めるか?」
響「ん。大丈夫だよ」
金剛「私もイメージしてみマス」
提督「ありがたい」
金剛・瑞鶴「……………………」
響「…………」ジー
提督(…………? 響は私の顔を見て想像しているのか?)
響「…………」
提督(……月明かりのみで暗いのせいか、少しだけ悲しそうな顔に見えるな。いや、本当に悲しそうにしているのか……? 分からん……)
響「…………」ジッ
提督「…………」
響「…………」チラ
金剛・瑞鶴「…………」ウーン
提督(……ふむ)
響「…………」ジー
提督「…………」コクン
響「…………」コクン
響「…………」スッ
金剛「? どうしまシタか、響?」
響「どう思うのかを提督に話すだけだよ。二人に聞かせたら、何か影響を与えちゃうかもしれないからね」
瑞鶴「なるほどね」
響「さ、提督。耳を貸して」
提督「ああ」ソッ
響「…………」コショコショ
提督「…………」
響「…………」コショコショ
提督「……そうか」
響「うん」スッ
提督「……………………」
瑞鶴(……すっごく悲しそうにしてる。初めて見たかもしれない)
提督「…………」ナデナデ
響「んっ……」
提督「……ありがとう、響」
響「役に立てた?」
提督「ああ……」
響「それなら良かったよ。もっと撫でて」
提督「いくらでも撫でてやる」ナデナデ
響「スパシーバ」
…………………………………………。
提督「さて……時間も大分経ってしまったな」
金剛「ソーリィ……。もう少しで思い付けそうなのデスが……」
瑞鶴「私ももうちょっと……のような、気が……」
提督「無理はしなくて良いと言っただろう?」
金剛「ノー。絶対にノーアイディア以外の答えを出してみせマス」
瑞鶴「私もよ。だって、中将さんにとって大事な事なんでしょ?」
提督「だが──」
金剛「私達がそうしたいと思っているだけデス。……これならオーケーですか?」
提督「……段々と私の扱い方を覚えられている気がするな」
瑞鶴「ヤだった?」
響「…………」ジー
金剛『────────────』
瑞鶴『────────』
響『────』
提督「…………いや、そんな事はないぞ」
瑞鶴「うん、良かった!」
提督「……さて、そろそろ寝るとしよう。邪魔をしてしまった」スッ
金剛「そんな事ありまセン。……また明日も来てくれマスか?」
提督「またこんな時間になっても構わないのならば」
瑞鶴「じゃあ待ってるわね」
響「楽しみにしているよ」
提督「何を楽しみにするのやら……」
金剛「提督には本当に何もお返しが──」
提督「だからそれは──」
瑞鶴「でも、私達は利根さんだけじゃなく──」
響「だったら──」
四人「────」
利根(……………………)
……………………
…………
……
提督「…………」ボー
利根「…………」ギュー
響「…………」チョコン
瑞鶴「なんか、今日はいつもとちょっと違うわね?」
利根「……んぅ?」
金剛「響が提督の足に座っているのもそうデスが、利根も提督の背中にピッタリと張り付いていマス」
利根「いつもではないか?」
瑞鶴「なんというか……密着度が違うような? そんな感じがする」
利根「ふむ……?」
提督「そうだな。今回はくっついているというよりも抱きつかれていると言った方が正しい」
利根「嫌じゃったかの?」
提督「お前にはそう見えるのか」
利根「全く見えぬな」ギュー
提督「そういう事だ」
響「…………」ジー
提督「…………」ナデナデ
響「…………♪」
金剛「懐かれていマス」
瑞鶴「完全に懐かれてるわね」
提督「本当、どうしてだろうな」
響「少しは自覚した方が良いんじゃないのかな」
提督「気が向いたらな」
金剛「…………」チラ
金剛(私が提督の金剛だったら、どう思うかデスか)
金剛(……どう、思うのデスかね。私だったら──)
…………………………………………。
超少ないけど、今回はここまでです。またいつか来ますね。
終わりが近いように見えるだろ? とある理由でまた終わる気配が消え失せたんだぜ、これ……。
ゆっくりのんびりと更新していくので、次の更新までお待ち下さいませ。お仕事でちょっと忙しくなってます。
金剛「……………………」ボー
金剛(海、綺麗デス……。やっぱり、触れるくらい近くに居ると違って見えマス。考えも纏まってきて、やっぱり私は海と共にあるのデスね)
金剛「でも、本当に良いのデスかね……。提督は薦めて下さいまシタけど、本当はダメなのでは……」
金剛「…………私がずっと海の向こうを見ていたから、デスかね?」
金剛(確かに、少しだけ未練はありマス。ケド……割り切らないといけない事デス)
金剛「……………………」ジッ
金剛「……向こうの『私』は、上手くやっているのでショウか」
金剛(────? 今、岩場で何か動きまシタ? 何でショウかね?)トコトコ
金剛「確か、この辺りに──」ヒョコッ
空母棲姫「な……! 艦娘!」
ヲ級「!!」
金剛「エネミー!? そんな……!?」ザッ
金剛(シット! 今、私は艤装がありまセン……! このままでは──)
金剛「…………?」
空母棲姫「…………っ」ギリッ
ヲ級「…………!」ビクビク
金剛(……空母棲姫が大破で、ヲ級が中破? なぜ……)
空母棲姫「……む。艤装が、無い?」
ヲ級「ヲ……」
金剛「────っ!!」バッ
ヲ級「……逃げた」
空母棲姫「安心するな。艤装を取りに戻っただけだろう。……ここも危険だ。離れるぞ」
ヲ級「その必要、無いよ?」
空母棲姫「何を馬鹿な事を言っている。このままでは殺されるだけだ」
ヲ級「だって、ここ。あの変な人が、居た島」
空母棲姫「……なんですって?」
ヲ級「だから、大丈夫。きっと」
空母棲姫「……能天気な奴め。前がそうでも、今回も同じとは限らないだろう。ともかく離れるぞ」グッ
空母棲姫「!」ガクッ
ヲ級「もう、海、無理。大人しく、ね?」
空母棲姫「……嬲り殺しにされるのがオチだ。今から覚悟しておけ」
ヲ級「ヲー……」
提督「──誰が嬲り殺しにするだと?」
空母棲姫「! ……本当にお前か」
提督「…………」ジッ
ヲ級「?」ジー
空母棲姫「……なんだ」
提督「……次に会うのは、戦場ではなかったのか?」
空母棲姫「……うるさい黙れ」
提督「まあ良い。お前には恩がある。修理は出来ないが、ゆっくりしていけ」
ヲ級「私は?」
提督「お前もだ。片方だけ贔屓など出来ん」
ヲ級「やった」
空母棲姫「…………」
提督「どうした」
空母棲姫「……つくづく変な奴だと思っただけだ」
提督「そうか。自覚している」
空母棲姫「性質の悪い奴め……」
ヲ級「ヲ」クイクイ
提督「ん、どうした」
ヲ級「立てないくらい、壊れてる」
空母棲姫「おい」
提督「……そうか。艤装を外すぞ」
空母棲姫「おい待て。まさか……」
提督「そのまさかだ。担いでいく」ガチン
空母棲姫「……はぁぁ…………」
提督「なぜそんな溜息を吐く……」
空母棲姫「呆れて物も言えなかっただけだ……。もう好きにしろ……」
提督「そうか。なら失礼する」ソッ
空母棲姫「…………」ビクッ
提督「……どうした?」
空母棲姫「い、や……なんでもない」
提督(……ふむ)
提督「いや、すまない。軽率だった。この前の艦娘を連れてくる。その子に運んで貰うとしよう」
空母棲姫「待て。何を察した」
提督「お前の考えている通りで合っているだろう」
空母棲姫「……お前で良い」
提督「無理はするな」
空母棲姫「負けた気分になるからさっさと運べと言っているんだ……!」
提督「……何に負けたと言うのだか。──少しだけ我慢しておけ」グッ
空母棲姫「…………!」ヒョイッ
ヲ級「お姫様、抱っこ」キラキラ
空母棲姫「煩い黙れ口にするな見るな放っておけ」
ヲ級「ヲー……」
提督「……流石に酷くないか?」
空母棲姫「ふん」
提督「……行くか」スタスタ
空母棲姫「…………!」ビクッ
ヲ級「ヲ」トコトコ
提督「艤装は後で取りにくる。流石にあんな鉄の塊を私一人で運ぶのは無理がある」
空母棲姫「…………ああ……」
提督(……見た目に反して強がりだな、こいつ。あまり動じない性格だと思ったのだが)
…………………………………………。
金剛「──私は反対デス!」
空母棲姫「そうなるだろうな」
提督「理由を言ってくれ金剛」
金剛「理由も何も、エネミーですよ!? ずっと戦ってきた相手と暮らせと言われても無茶デス!!」
空母棲姫「そういう事だ。諦めろ」
提督「ふむ……だが、お前は私の恩人だ。どうにかしてやりたいと思うのは当然だろう」
空母棲姫「その考え自体がおかしいとなぜ分からん……」
瑞鶴「なんというか……普通に話せるのね」
空母棲姫「今この状態ならばな。手も足も出ないんだ。敵意を向けたとあれば排除されるだけだろう」
響「万全の状態なら話は別なの?」
空母棲姫「お前たち相手ならば攻撃はするだろうな」
響「私達……という事は、提督は別なのかな」
空母棲姫「…………」
瑞鶴「あ、答えない」
空母棲姫「……煩い」
ヲ級「この人、怪我、治してくれた」
響「ああ、なるほどね。恩を感じるから手を出さないって事なんだ」
空母棲姫「余計な事を言うんじゃない……!」グリグリ
ヲ級「あう……あう……」
金剛(……想像していたのと大分違いマスけど、油断は出来まセン。いつ本性を現すか分からないデス)
提督「ならば、艤装を取り上げておくというのはどうだ」
空母棲姫「それは私が困る。治癒した時にどうやって海で戦えと言うんだ」
提督「何も二度と返さないとは言っていない。時が来れば返す」
空母棲姫「……それなら、良いが…………」
瑞鶴「それなら良いって……それも不思議な話ね……」
金剛「そもそも、それだと提督が軍法会議ものデス。余計に反対デス」
提督「バレなければ構わん。これを知るものは、ここに居る者以外に居ない」
響「私は勿論言わないよ」
瑞鶴「うん、私も言わない」
金剛「う……。と、利根はどうなのデスか?」
利根「我輩か? 我輩が提督の敵になるような事をする訳がなかろう?」
金剛「うぅ……私がおかしいデスか、これ……?」
空母棲姫「安心しろ……この中の常識人は私とお前だけだ……」
金剛「今ばかりは敵である貴女に共感しマス……」
瑞鶴「私は、危害を加えてこないんだったら別に良いかなって思っただけなんだけど……。あと、中将さんが恩人だっても言ってたし」
響「私も同じ意見だよ」
空母棲姫「だから、それは軍に身を置いていた者として間違っているだろう……」
提督「今は軍に身を置いていないから問題ない」
空母棲姫「そういう問題じゃない……」
瑞鶴「……そういえば、私たちも除籍されてるはずだから、もう軍とは関係無いんだっけ」
響「そうだね。じゃあ、堂々と提督のやりたい事に手を貸せるよ」
提督「盲目になるのはいかんぞ」
響「そこは弁えるつもり。明らかに問題がある事についてはちゃんと止めるよ」
金剛「これは良いのデスか……?」
響「現時点で脅威に成りえないし、この人も提督には敵わないみたいだし、もう一人は大人しいから良いんじゃないかな」
金剛「……ぅー、納得いかないデス…………」
空母棲姫「まともな奴が少な過ぎる……」
提督「当たり前の事ではあるが、私達の誰かに危害を加えたとしたら、その時点で敵と見做して葬る」
空母棲姫「流石に保護されたとあれば手は出さん。……逆にそっちから危害を加えたとあれば話は別だ」
提督「ああ。それで良い。我々は本来敵同士だというのは忘れない方が良い。お互い艤装は着用しない事として、疑わしい事があれば黒と判断しても良いだろう」
空母棲姫「…………」
提督「どうした」
空母棲姫「常識があるのか無いのか分からんな、お前は……」
提督「私は私のやりたようにやっているだけだ」
空母棲姫「はぁ……。お前達の苦労が目に見える」
利根「我輩は別の意味で苦労しておるがの」
瑞鶴「私は別に……」
響「むしろ、前の鎮守府と比べられないくらい充実しているよ」
金剛「私は今日初めて頭が痛くなりまシタ……」
ヲ級「楽しそう」
空母棲姫「はぁ……」
提督「まあ、ゆっくりしていけ。だが、条件は付けるぞ」
空母棲姫「ほう。なんだ?」
提督「寝る場所は他に無い。故に二人はここにある予備のベッドで寝てもらう」
空母棲姫「ああ、分かった」
ヲ級「うん。うん」コクコク
提督「以上だ」
空母棲姫「……お前やっぱりおかしい。……ああ、もういい……疲れたから寝させてもらう」スッ
提督「ああ、おやすみ」
金剛(……本当、感情面では私達と変わりないのデスね。でも、私はすぐに信用なんてしまセンよ)
金剛(皆さんに──提督に危害を加えるようであれば、すぐにでも沈めマス)
…………………………………………。
二、三日以内とは言ったが、明日に投下しないとは言っていない。
今回はここまでです。またいつか来ますね。
ここの金剛さんと空母棲姫は胃が痛そう。
あと、終わりがまた遠ざかりました。下手したら次スレに持ち込むかもしれない。
こんな時間に目が覚めてしまったので、眠くなるまでちびちび投下していきますね。
提督「……ふむ。今日はあまり釣れないな」
利根「じゃのう。お互いに一匹しか釣れておらぬ」
提督・利根「……………………」
利根「のう提督よ」
提督「どうした」
利根「深海棲艦も、我輩達と同じなのかのう」
提督「かもしれんな」
利根「ふむう……」
提督「何か思う事でもあるのか?」
利根「なんと言えば良いのかのう……。ちょっと待ってくれるかの」
提督「いくらでも時間はあるんだ。いくらでも待とう。ゆっくり考えてくれ」
利根「うむ。ありがたいぞ」
提督・利根「……………………」
提督(……しかし、このままではマズイな。更に二人増えたんだ。いずれ食料が底を着くぞ。初日から食料を溜め込むつもりだったが、釣れない日が続くと餓死しか残らん)
提督(さて……どうするか……)
空母棲姫「──ああ、ここに居たのか」
利根「うん? どうかしたのかの?」
空母棲姫「目が覚めてみればお前達が居ない事に気付いてな。あの空間に居るのは耐え難いから逃げてきただけだ」
提督「ん? 金剛達に何かあったのか?」
空母棲姫「瑞鶴と響は特に何も無いのだが、あの金剛という娘は明らかに私を警戒しているだろう。私が居ても空気が悪くなるだけだ」
提督「なるほどな。──もう一人はどうした」
空母棲姫「……なぜかは知らんが、瑞鶴と響の二人と遊んでいた」
提督「……無邪気だからか?」
空母棲姫「……おそらく」
利根「お主も共に遊んでおれば金剛からも警戒されなくなるのではないか?」
空母棲姫「バカを言え。私がそんな風に見えるか」
利根「ほれ、世の中にはギャップの差を見せる事で気に入られるというものもあると言うではないか」
空母棲姫「では私が無垢な笑顔で、あっち向いてホイをしていたらどう思う」
利根「うわぁ……」
空母棲姫「頭にきたぞ、その反応は……!」
利根「……提督はどう思うのじゃ」
空母棲姫「…………」ジィ
提督「……頼むから私に振るな」
空母棲姫「お前の方が酷かった」
提督「逆に私が無垢な笑顔で子供っぽい遊びをしていてもそう思うだろ。そういう事だ」
空母棲姫「まあ……そういう事にしておこうか。心の傷を深め合うのは誰の得にもならん……」
提督「……ああ」
空母棲姫「ところで、お前達はなぜ釣りをしている」
提督「分からないか? 二人増えたんだ。食料の確保をしなければならんだろう」
空母棲姫「──ああ、人間と艦娘は水中が苦手なのか」
提督「潜水艦の艦娘でもない限りな
空母棲姫「まあ、それが我々の違いという事か。──しかし、お前にしては察しが悪いな」
提督「ん?」
利根「我輩も含んでおるのかの?」
空母棲姫「お前なら徹頭徹尾、気付かん」
利根「さっきの仕返しかのう……」
提督「それで、何が言いたい」
空母棲姫「深海棲艦は陸が無くても生きていける。これで分かるか」
提督「──なるほど。それならば釣りは非効率的だ」スッ
利根「ふむ?」
提督「だが、その身体で大丈夫なのか?」
空母棲姫「支障はあるだろうが、問題はない」
提督「ほう。頼もしい。──だが、もう一人も一緒にして貰って良いか」
空母棲姫「別に構わんが、どうしてだ?」
提督「ここらの海域はたまに鋼材を拾う事が出来る。もしかすると、海底に鋼材があるかもしれん」
空母棲姫「なんだ? 兵装でも揃えるのか?」
提督「お前も察しが悪いな。寝起きだからか?」
空母棲姫「……なるほど、そういう事か。つくづく変な奴だよ、お前は」
提督「人の事を言えんな」
空母棲姫「私は命を助けて貰ったという恩があるが?」
提督「私も、心の闇を払ってくれている」
空母棲姫「……お互い様というものか」
提督「そういう事だ」
空母棲姫(……変な奴、だ)
空母棲姫「では、あいつを呼んでくる。成果の期待はするなよ」クルッ
提督「楽しみにしておこう」
空母棲姫「……性格の悪い奴め」スタスタ
利根「……うーむ」
提督「どうした利根。まさかとは思うが、何の意味か分からなかったとかではないよな?」
利根「それは流石に我輩でも分かったぞ。それとは別の事じゃ」
提督「ほう」
利根「なんとなくなんじゃが……あやつ、最後に雰囲気が柔らかくなったように感じてのう」
提督「ふむ。私の勘違いではなかったという事か」
利根「提督もそう感じたのか?」
提督「ああ。──このまま、金剛とも仲良くなってくれると良いんだが」
利根「まあ、時間の問題じゃろうて」
提督「たぶんな」
利根「──ん、おお? 何か掛かったぞ」
提督「ほう。魚か?」
利根「……手応えが魚っぽくないぞ──っと、やっぱ……り……?」
提督「…………」
利根「……のう、提督。たこ焼きが釣れたぞ」
提督「だから、たこ焼きと言うな……」
利根「むう」
提督「まあ……二人の修理には使えるんじゃ、ないか……?」
利根「使えたら良いのう」
…………………………………………。
提督「……なんだこれは」
空母棲姫「どうした。足りないのか?」
ヲ級「頑張ったっ」フンス
瑞鶴「……これ、何日分?」
金剛「ワーォ……」
利根「山になっておるのう」
響「ハラショー」
提督「……これは、サメか? よく獲ったな……」
瑞鶴「タコもあるわね……あ、イカもある」
金剛「他にも貝や海草、沢山の種類があるデス……」
空母棲姫「……何か、問題があったか?」
提督「サメには正直困ったが、今までの生活を考えると飛び切り豪華でな」
ヲ級「いつも、どんなの?」
利根「魚のみじゃ。食べ方を変えておるくらいじゃのう」
空母棲姫「……よくそれで今まで飽きなかったな」
提督「慣れればどうとでもなる」
利根「うむ」
三人「…………」
空母棲姫「どうやらお前達がおかしいだけのようだぞ」
提督「……すまん、三人共」
金剛「い、いえ! 私は大丈夫デス、よ?」
瑞鶴「えっと、私もよ? うん」
響「……正直に言うと、そろそろ飽きてた」
提督「…………」ナデナデ
響「ん、撫でなくても良いよ。これからは、いっぱい楽しめるよね?」
提督「ああ。出来る限り毎日違う物を作ろう」
響「ハラショー」キラキラ
利根「物凄く喜んでるのが分かるぞ」
提督「良い笑顔だ。──さて、今日は少し豪勢にしようか。腐らせてしまうのも勿体無い」
瑞鶴「豪勢に……!」
金剛「楽しみデス……!」
空母棲姫「ふむ。役に立てたか?」
提督「ああ。ありがたい限りだ」
利根「じゃのう。ありがたいぞ」
瑞鶴「ありがとね!」
響「スパスィーバ」
金剛「えっと、その……」
金剛「…………ありがとう、ございマス」
空母棲姫「……なぜかお前に言われると変だ」
金剛「な、なぜデスか!?」
空母棲姫「ついさっきまで警戒していた相手がしおらしくなって感謝の言葉を掛けてきているんだ。そう思うのも無理ないだろう……」
金剛「ぅー……」
提督「まあ、それは時間が解決してくれるだろう。──さて、食事を作るぞ」
…………………………………………。
利根「……食べ過ぎてしもうた」ケポッ
響「──ごちそうさま。大満足だよ」
瑞鶴「貝とかプリプリしてて凄く良かった……!」
金剛「タコって……意外とテイスティなのデスね。見た目はアレですケド……」
ヲ級「焼くと、美味しい……! 生より、良かった」キラキラ
空母棲姫「……馳走になった」
提督「それは私の台詞だ。非常に有意義な食事だったぞ」
空母棲姫「火と塩だけでこれほどレパートリーがあるのは驚いた。これからはそのままで食う事が出来んな」
瑞鶴「……そのままとか生って言ってるけど、普段はどうしてるの?」
空母棲姫「本当にそのままだ」
ヲ級「うん。うん」コクコク
金剛「……寄生虫とか怖そうデス」
空母棲姫「そんなに柔な身体はしていない。寄生虫が怖くて艦娘と戦えるか」
瑞鶴「言ってる事はなんとなく分かるんだけど……それとはまた別のような……」
提督「さて、食後の余韻も良い所だが、私と利根は少し仕事をするか」スッ
利根「ん? ──ああ、そうじゃのう。一仕事じゃ」スクッ
瑞鶴「何かするの?」
提督「余った食材を保存食にしたり生け簀に放り込んでくる。食材の調達が無くなったんだ。これくらいはさせてくれ」スタスタ
利根「うむうむ。では、行ってくるぞー」トコトコ
瑞鶴「はー……幸せ……」
ヲ級「はぁー……」キラキラ
響「瑞鶴さん、一緒にほわほわしてる」
瑞鶴「だって、向こうでもこんな豪華な物って食べられなかったじゃない?」
金剛「……そう言えば、確かに海産物はあまり無かったデスね」
響「当たり前過ぎて、分かんなくなってたね。母港で養殖とか漁とか出来ないし、鎮守府周り以外は危険だし」
空母棲姫「ふむ。深海棲艦が現れるからか」
響「うん、そうだよ。……不思議だよね。深海棲艦との戦いで食べられなくなってた海の幸が、貴女達のおかげで食べられるんだから」
空母棲姫「……ここは何かと普通ではないからな。何が起きてももう驚かんかもしれん」
金剛「本当デスか?」
空母棲姫「ああ」
金剛「では──」
金剛「──今までずっと警戒していて、ごめんなサイ」ペコッ
空母棲姫「……なんだ? おかしくなったのか?」
金剛「それは流石に酷くないデスか!?」ガバッ
空母棲姫「何を言っている……。私達は本来、敵同士なんだぞ……。お前だけがこの場で唯一の常識ある存在だったのに、なんて事を……」
響「あれ、ちょっと前に常識があるのは金剛さんと貴女だけって言ってなかったっけ」
空母棲姫「自分の為でもあるとはいえ、人間と艦娘の為に食材を獲ってきたんだ。それに対して不快感も持っていない。もはや常識があるとは言えんよ……。どうやら、あの提督に染められたのかもしれん……」ハァ
金剛「……私は褒められているのデスか? それとも貶されているのデスか?」
空母棲姫「後者だ……。まったく……本当におかしい奴しか居なくなったぞ……」
響「良いんじゃないかな?」
空母棲姫「どこがだ……」
響「ここは、訳のある人達が集まる島だよ。何が起きてもおかしくない。だったら、敵も味方も関係無くなって良いと思うんだ。……それじゃダメかな?」
空母棲姫「……子供らしいな」
響「子供の特権だよ」
空母棲姫「全くだ。その特権を分かっていて使うのだから、お前もあの人間と同じく性質が悪いな」
響「提督に近づいてるって事だね。良い事だと思うよ」
空母棲姫「……やめてくれ。心労が増える……」
響「慣れると提督の近くに居るだけで心地良くなるよ。お勧め」
空母棲姫「……懐いているんだな」
響「うん。勿論だよ」
瑞鶴「なんとなく思ったんだけど、空母棲姫って中将さんと似てるわよね」
空母棲姫「──ああ、私の事か。確かに口調は似ているな。……口調だけだよな?」
金剛「行動もどことなく提督と似ていマスよ?」
空母棲姫「……なんだか嫌だな、それは」
響「そのまま染まっていきなよ」
空母棲姫「断る……」
ヲ級「♪」ホクホク
ヲ級「楽しい……♪」
…………………………………………。
とりあえず良い感じに疲れてきたのでここで区切ります。
またいつか来ますね。
ヲ級「くー……」
空母棲姫「…………」スゥ
利根「くかー……」
提督「…………」
提督(さて……そろそろしっかり寝たか?)スッ
利根「んんー……」
提督「…………」ピタッ
利根「ん……くぅ……」
提督(……起きていないな。しかし、このままだといずれ起こしてしまうのも時間の問題か……?)
提督(せめて夢の中だけでも楽しくしてくれ、利根……)ナデ
利根「ん……」モゾ
提督(さて、行くか)ソロソロ
ヲ級「くー……」
空母棲姫「すぅ……」
利根「……………………」
金剛「────?」
瑞鶴「──…………」
響「────」
提督(……今日も起きているようだな)
コンコン──。
瑞鶴「中将さん? 入ってきて良いわよ」
ガチャ──パタン
提督「失礼する」
響「いらっしゃい、提督」
金剛「お好きな場所へ座って下サイ」
提督「ああ」スッ
瑞鶴「さてと……。ここに来た理由は分かってるわ。後は私と金剛さんの意見よね?」
提督「そうだ。だが、そっちの方は思い付いたら言ってくれたので構わない。それまでの間は他愛の無い話をしようか」
金剛「利根やあの二人が居ない時でないと話しにくい事とかデスか?」
提督「あるならば、な。それも無かった場合は本当に何の変哲も無い話をしよう」
瑞鶴「うん、分かったわ。──早速だけど、私も答えが出たの」
金剛「!」
提督「ふむ。聞かせてもらって良いか?」
瑞鶴「うん」スッ
金剛(……瑞鶴もイメージ出来たデスか)
瑞鶴「────」コショコショ
提督「…………」
金剛(後は……私だけデスね……。でも、どうしてイメージ出来ないのでショウか……)
提督「……そうか」
瑞鶴「うん。私だったらそう思う」
提督「……………………」
瑞鶴「…………? 中将さん?」
提督「……ありがとう、瑞鶴」ナデナデ
瑞鶴「わっ……。なんだろう……いつも以上に優しい気がする」
提督「そうか?」ナデナデ
瑞鶴「……うん。すっごく、あったかい」
提督「そう思ってくれるのならば、私も嬉しいよ」ナデナデ
金剛「…………」
金剛(羨ましいと同時に、何か胸の奥が引っ掛かりマス。本当に何でしょうか……この気持ちは……)
響「どうしたんだい、金剛さん?」
金剛「……いえ。私も、早くイメージしなければと思ったのデス」
提督「前にも言ったが、無理をしなくて構わない。思い付かない場合はそう言ってくれて良いんだぞ?」
金剛「でも、提督は私の言葉も欲しいデスよね?」
提督「それはそうだが……」
金剛「だったら、私も二人と同じようにしたいデス」
提督「……思ったよりも頑固そうだな」
金剛「……お嫌い、デスか?」
提督「いや、そんな事はないぞ」
金剛「リアリー?」
提督「勿論だ」
提督(……少し、心は痛むがな。お前も頑固だと、本当に似てくる)
瑞鶴「んー……でも、難しいわよね……。私もハッキリと思い付くのに時間が掛かったし……」
金剛「一度、提督に艦娘としての指示を出して下さると何か分かるかもしれまセン。何か指示をくれマスか?」
提督「指示、か……」
金剛「ハイ。何かありマスか?」
提督「……無いな」
響「だよね」
瑞鶴「よねー……」
金剛「うぅ……」
金剛(──あ。提督の『私』と同じ事をすれば、答えに近付けるのでは? ──って……それはノーです。提督の心の傷を開いてしまうだけデス……)
響「そもそもの話、何も思い付かないの?」
金剛「いえ、そういう訳ではないのデス。テートクの艦娘という前提でしか思い付けなくて……」
瑞鶴「……なんとなく分かっちゃうけど、どう思うの?」
金剛「……えっと……『何があったのでショウか』と『とうとう総司令部から通達を受けてしまったデスか……』の二つデス」
瑞鶴「やっぱりそう思うわよね……」
金剛「あと、どうにかしてあげたいと思うかもしれないデス」
響「……本当に健気だよね、金剛さんって。今まであんな待遇だったのに」
金剛「今になって思うと、普通じゃなかったデスよね……」
瑞鶴「本当よね……」
提督「……三人とも、本当に苦労していたんだな。──さて、そろそろ眠気も強まってきた。勝手ですまないが、今回はここまでにしても良いか?」
瑞鶴「うん、良いわよ」
金剛「オッケーです」
響「また明日も来てくれる?」
提督「ああ、また夜になったら来よう」
響「待ってるね」
提督「ありがとう、三人とも」
利根「……………………」
利根「…………」スッ
……………………
…………
……
提督「…………」ボー
利根「……………………」
空母棲姫「……昨日も思ったが、本当にずっとボーっとしているな」
瑞鶴「他にする事もないしねー」
空母棲姫「……まあ、確かに資源が乏しいから何も出来ないか。楽をする為に木を切れば、こんな小さな島ではすぐに枯渇もしてしまう」
提督「そういう事だ。こうして海を眺め続けるのも悪くない」
金剛「流石にそれに飽きたのか、響とヲ級は遊びに出掛けまシタね」
提督「響も遊びたい盛りだろうからな。ヲ級も遊びたいようだから良かったと思うよ」
空母棲姫「……一つ気になったのだが、ヲ級というのはあの空母の事か?」
提督「そうだ。敵艦によって私達は即座に理解できるよう、艦級を付けている。イロハになぞられているという話だ」
空母棲姫「なるほど。しかし、なぜ私は空母棲姫と呼ばれているんだ?」
提督「総司令部が勝手に命名しているから何とも言えん。あくまで私の予想だが、深海棲艦の中でも特別容姿の異なる者に独自の名を付けているのではないだろうか」
空母棲姫「そういうものか」
瑞鶴「一つ思ったんだけどさ、深海棲艦は自分達の仲間をなんて呼んでるの?」
空母棲姫「そもそも前提として会話をする事がほぼ無い。大抵が言葉を発する事が出来ない者ばかりだ。故に名前なんて考えた事もなかった」
金剛「あのヲ級は特別なのデスか」
空母棲姫「確かに色々とおかしい奴ではあるが、そう珍しい訳でもない。……いや、艦娘と仲良く出来ている事は充分におかしいが」
瑞鶴「あなたも割と私達と普通に話してるような気が……」
空母棲姫「そこの人間に恩を感じているからだ。普通に海上で会った場合は敵同士だというのを忘れるな」
瑞鶴「確かにそうだけどさ……。なんかこう、世話を焼くのが好きな人って感じがしてきた」
空母棲姫「どうしてそうなる……」ハァ
瑞鶴「だってさ、本当に敵だって思ってたら注意なんてしたら面倒になるだけじゃないの。あの時、一緒に暮らしていた深海棲艦だーって思わせておいて、そこから至近距離まで近寄った所で不意打ちで沈める事だって出来るわよね?」
空母棲姫「……顔に似合わず外道な事を考えるんだな」
瑞鶴「う……。外道……」
金剛「そのやり方は向こうのテートクがやりそうな手段デス。きっと、テートクのやり方を必死になって覚えただけデスよ、瑞鶴」
瑞鶴「今になって思うと、ヤな考え方よね……」
空母棲姫「……お互いの傷を作っていくだけのような気がしてきた。この話は終わらせておこうか」
瑞鶴「そうしましょうか……。──ところでさ、今日は利根さんがすっごく静かだけど、どうしたの?」
利根「…………ん? 何か言ったかの?」
提督「今日のお前が静かだなって話だ」
利根「んー……そういう気分なのじゃ。少し、考え事があってのう」
金剛「何か悩みがあるデスか?」
利根「悩みという訳ではないから安心すると良いぞ。我輩の気まぐれじゃ」
提督「私にはその気まぐれで悩んでいるように見えるが?」
利根「……少しばかり、釣りを楽しんでくる」スッ
瑞鶴「あ──。行っちゃった」
金剛「どうしたのでショウか……」
空母棲姫「……無いとは思うが、あの利根という娘は釣りが好きだったのか? 釣りの必要が無くなって悩んでいるのならば悪い事をしてしまったか」
提督「釣り自体に興味はそこまで無かったはずだ。だが……少し分からん。あんな利根は初めて見る」
金剛「提督も分からないデスか……」
瑞鶴「中将さんが分からなかったら誰にも分からないわね……」
空母棲姫「追いかけないのか?」
提督「一人にさせてやった方が良いだろう。他人に関与されたくない内容のような気がする」
空母棲姫「気がする……という事は、何も根拠が無いのか」
提督「無い。ただ単に私の予想だ。……ただ、特に私が触れてはいけない内容ではないかと思う」
瑞鶴「中将さんが触れちゃいけない……? どういう事なの?」
提督「こればかりは本当に分からん。長年一緒に居る者の勘だ」
金剛「では、そっとしておくべきデス?」
提督「どうするかはお前達に任せる。私は利根が答えを出すまで見守ろう」
空母棲姫「優しいのか厳しいのか分からんな」
提督「私と利根の関係はそういうものだ。本当にどうしようもなくて悩んでいるのならば互いに相談をする。変に関わってしまっては相手の考えを乱すだけになるだろう」
空母棲姫「ふむ。なるほど」
金剛・瑞鶴「……………………」
金剛(お互いを理解している、ですか……)
瑞鶴(良いなぁ……二人が羨ましい……)
…………………………………………。
利根「…………」ボー
利根「海、か……」
利根「……………………」チクチク
利根「……我輩、なんでこんな気持ちになっておるんじゃろうか。胸が痛いぞ……」
利根(ああ……この近くの海で、金剛達は沈んでおるんじゃよな……)
利根「……沈みたい…………」
利根「なんでじゃ……? 提督はただ単に、あの三人の部屋に行っているだけではないか……。そこで何をしていようと、我輩に話さぬのだから我輩は知らなくても良い事なのに……」
利根「……我輩には話さぬ事、か。何をやっておるんじゃろうなぁ……」
利根(足を運ぶ度に提督は元気を取り戻しているような気もする……。何か、提督にとって利になる事をやっているとは思うのじゃが……)
利根(……そういえば初めて金剛達の部屋に行った次の日、響がやけに懐いておったのう)
利根「一度は拒否をしておったが、気が変わって女が欲しくなったのかの……? 無いとは思うが……」
利根(……じゃが、愛した金剛と同じ姿の人が居る事を考えると、寂しくなって……とも)
利根(響はその時一緒に……? いや、それでは瑞鶴も一緒でなければおかしいような……。瑞鶴ならばすぐに顔に表れそうなものじゃ)
利根(いや……ケッコンの指輪をしていた事からして、既に経験済みで動揺しなかったのかの……? それならば有り得ぬ事ではないが……)
利根「……そもそも、提督が誰と寝ようと我輩に何かがある訳ではないではないか。いや、その前にそうと決まった訳ではなかろうに」
利根「……………………」ズキズキ
利根(…………じゃが……なぜ、こうも辛いのじゃろうか……)
利根「……百万年ほど昼寝をすれば、この気持ちも無くなってくれる……かの…………」
利根「提督……」
…………………………………………。
利根(……今日も、我輩が寝た後に金剛達の部屋へ来たのう)
響「──いらっしゃい提督。今日はここに座ってよ」ポンポン
提督「そこは三人のベッドじゃないのか?」
瑞鶴「私は良いわよ。ていうか、事前に座らせて良いかって聞かれたしね」
金剛「私もオーケーです」
利根(盗み聞きは好かんが……どうしても気になるのじゃ……)
提督「…………」
響「ほら、早く」ポンポン
提督「……分かった」スッ
響「よいしょ」スッ
瑞鶴「あ、また膝の上に」
提督「……最初からこれが狙いだったな?」
響「ダメだったのなら降りるよ」ヂー
響『────────────』
提督「────」
金剛「…………?」
提督「……構わんよ」ナデナデ
響「ん、良かった」
金剛(……今、提督が遠くへ行ったような?)
瑞鶴「もう、響ちゃんは……」
響「瑞鶴さんも座りたいの?」
瑞鶴「どうしてそうなったのよ……」
金剛(気のせい、デスかね?)
提督「──どうした、金剛?」
金剛「え? な、何かお話をしていまシタか?」
提督「いや、どことなく上の空だったから気になっただけだ。大丈夫か?」
金剛「ええ……コンディションはグッドです」
提督「何か悩みがあったら言うようにな」
金剛「…………」
金剛(悩み……デスか……。悩みならありマス……ケド、こんな悩みを言っても困らせてしまうだけデス……)
金剛(その悩みの一つを解決できれば──きっと、私の答えも出せるのに……)
瑞鶴「……酷い顔してるわよ、金剛さん」
金剛「え──」
響「うん。物凄く思い詰めてるよね」
提督「どうしようもないのならば相談してくれ。一人で解決できないのならば、私達は力になるぞ」
金剛「……………………」
提督「……………………」
金剛「……迷惑を、掛けてしまうかもしれないデス」
提督「構わん。掛けろ」
金剛「きっと、困るデスよ……?」
提督「困らないかもしれんだろう」
金剛「少しだけ、怖いデス……」
提督「では約束しよう」
金剛「何を、デスか……?」
提督「その悩みを、必ず受け入れると」
金剛「……………………」
提督「……………………」
金剛「……分かりまシタ」スッ
瑞鶴「! それ、提督さんとの……」
金剛「……ハイ。誓いのリングです」
響「そういえば、二人はずっと嵌めてるよね」
金剛「…………」
提督「……それを、どうしたいんだ?」
金剛「……私では、決断が出来ないデス。テートクの元から離れ、こうして貴方の元へやって来まシタ。ケド、私はまだ心のどこかで迷ってるデス……」
提督「…………」
金剛「この指輪を離せずにいたのは……私がテートクの事を諦め切れていないからだと思いマス」
瑞鶴(……そっか。だからずっと指輪を付けたままにしていたのね)
金剛「……お願いデス。この指輪を、外してくれマスか。私では……私は自力で外せそうにないデス……」
提督「…………」ソッ
金剛「ぁ……」ピクッ
提督「……良いんだな?」
金剛「……………………ハイ」
提督「…………」ジッ
金剛「…………」
金剛「……………………」コクリ
提督「…………」スッ
金剛「…………あぁ……」
金剛(これで、本当に私は……もう……)
提督「外れたぞ」
金剛「……ハイ。外れまシタ」
提督「ほら」スッ
金剛「…………?」
提督「私は確かに指輪を外した。金剛の絆を取り上げた」
金剛「……ハイ」
提督「だが、私が出来るのはここまでだ。──この絆を本当の意味でどうするかは、お前でしか出来ない事だ」
金剛「──ハイ」スッ
瑞鶴「……金剛さん、どうするの?」
金剛「──決まっていマス。このリングは、もうお別れデス。二度と浮き上がってこれないよう、海の底に沈んでもらいマス」
提督「今からか?」
金剛「イエス。お別れをすると決めたのデスから、今しかありまセン」
提督「流石に夜も深い。私が預かっておいて、明日にしてはどうだ」
金剛「ノー。今だからこそ意味があるのデス」
提督「だが、今日はかなり暗いぞ」
金剛「なら、こうしまショウ」スッ
金剛「──loved you テートク…………」
ブンッ────……………………
瑞鶴「そ、外に投げちゃった……」
響「ハラショー」
金剛「これでリングは海の中ネ。──ンー! すっきりデス!」
提督「……なんというか、豪快だな」
金剛「これが私ネ。いつまでもクヨクヨしているのは私らしくなかったデース」
瑞鶴「……本当、吹っ切れたみたいね」
響「なんだか雰囲気が少し変わった気がする」
金剛「とは言っても、私はあまり変わらないと思いマース。ここに来てから、私の気はかなり楽になっているデース」
提督(ふむ。しっかり変わっているじゃないか。これが金剛の素か)
金剛『─────────────、─────!』
提督(……やはり、艦娘が同じならば似る……のか)
金剛「ところで提督、お願いがあるデス」
利根(……なぜじゃ。嫌な予感がするぞ……)
提督「なんだ?」
金剛「私達は今、主人の居ない艦娘デス」
利根(…………)
金剛「なので……どうか、私達の提督になって下サイ」
利根「!!」
金剛「私達は、貴方に尽くしたいと思っていマス」
利根「…………っ」
響「いつ言おうか考えていたのに、今言っちゃうんだね」
利根「ッ……!」
瑞鶴「で、どうするの? 私としては、そうなったらすっごく嬉しいんだけど」
利根「……っぁ…………!」ギュゥ
提督「ふむ、そうだな……」
利根「…………!」フルフル
提督「──良いぞ。三人とも、私の艦娘になってくれるか?」
利根「ッ!!」ガタッ
金剛「? 何か、物音が──」
利根「ッ!」バタン
瑞鶴「え、利根さん?」
提督「起こしてしまったのか。すまな──」
利根「嫌じゃ……」
響「?」
利根「嫌じゃ……! 取らんでくれ……嫌なんじゃ……!」
金剛「ど、どうしたデスか?」ソッ
利根「ッ──!!」ガバッ
金剛「わっ……とと」ギュゥ
利根「頼む……やめてくれ……! 我輩から、提督を取らないでくれ……」
金剛「え……?」
利根「頼む……頼むから……。我輩の……最後の支えを…………頼む……」カタカタ
金剛「あ、あの……?」チラ
提督「…………」コク
提督「利根」
利根「っ!?」ビクッ
提督「ほら、こっちに来い」ソッ
利根「……っ」ビクビク
提督「…………」
利根「……う、む…………」フラ
提督「…………」ギュ
利根「っ……」ピクン
提督「最近悩んでいたのは、この事だったのか」ナデナデ
利根「そ、うじゃ……。提督が……我輩が寝た後に抜け出して……三人の部屋に……」ポロポロ
利根「我輩に内緒で、何を話して……いるのか……分か、なくて……」ポロポロ
提督「…………」ナデナデ
利根「我輩は不出来で……! 女としても魅力が無いのは分かっておる……! 我輩は我侭なのも、分かっておる……。それでも……それでも……!!」
提督「……それで、私がお前を放っておくと思ったか?」ナデナデ
利根「提督ならばそうしないとも分かっておる……じゃが、怖い……怖いんじゃ……」
提督「安心しろ。お前を放っておくなんて事はしない。今までどれだけの間、一緒に居たと思っているんだ」
利根「本当か……?」
提督「ああ」
利根「…………」ビクビク
提督「…………」ナデナデ
利根(ああ……また、迷惑を掛けてしまったなぁ……)
利根「……すまぬ…………」ギュゥ
提督「構わん。お互い様だ」ポンポン
金剛「……………………」
金剛(あの日見た利根は、あれから見なくなっていまシタ。……けど、それは押さえ込まれていただけだったのデスね)
金剛(いつものんびりと出来ていたのも、提督が傍に居たから──。その提督を私達に取られそうになったから、こうして利根の弱い部分が……)
金剛「…………」
金剛(……それもそうデスよね。私達は、利根の代わりに沈んでいった三人と姿は同じなのデス。心の負担になっていたのは間違いないでショウ……)
金剛(その支えになっていた提督までもが居なくなれば、どうなるのかなんて考えるまでもありまセンでシタ)
金剛「…………」ギリ
金剛(なぜ、私は今まで気付けなかったのでショウか……。利根がどうしてあんな風になったのか──どうして、気付けなかったのでショウか……)
…………………………………………。
今回はここまでです。またいつか来ますね。
そろそろ5レス分くらい書いたかなと思って投稿してみたら、その三倍近く書いていた件について。
バレンタインのSSを書いたのが原因で、感覚がズレたのかな。
提督「…………」
利根「…………」ノシッ
響「…………」チョコン
空母棲姫(……生簀の管理と塩田の塩を回収が終わったらこれか。やはり、こいつらは怠けているだけなんじゃないのか……?)
瑞鶴「はい、出来たわよ」スッ
ヲ級「花の、王冠……!」キラキラ
金剛「その帽子は脱げるデスか?」
ヲ級「ん」スポッ
瑞鶴「どう?」ソッ
ヲ級「嬉しい」ホッコリ
金剛「とってもチャーミングに見えるデース」ニコニコ
空母棲姫(……こいつらも馴染み過ぎだろう。毎度注意をしても意味が無いのはどうしてだ……)
空母棲姫「……………………」
空母棲姫(のんびりしている私も似たようなものか……)ハァ
響「利根さん利根さん」
利根「うんー? どうかしたのかの響よ」
響「最近になって思ったんだけど、こっちに座ってみない?」
利根「ん? どうしてじゃ?」
響「たまには利根さんも提督に包まれてみてはどうかなと思ってね」
提督「……酷く不思議な言い方をするな、響」
響「そうかな。そんな事はないと思うけど」
利根「ふうむ……。提督よ、構わぬかの?」
提督「私は構わないぞ」
利根「ふむふむ。ならば、少し失礼するぞ」スッ
響「私は背中を借りるね」ソッ
利根「ほっ、と」チョコン
響「ん」ノシッ
提督「……こうしていると、私は家具か何かなのかと思ってきた」
響「どっちかと言うと私達が付属品かもね」
利根「強ち間違っておらんのう」
提督「コバンザメとでも言いたいのか」
利根「あれは一方的に共生しておるだけではないか。せめて亀の親子と言ってくれぬか」
提督「小さな亀が大きな亀の背中に乗っているのは親子だからではないぞ。あれは単純に少しでも甲羅を乾かそうと日当たりの良い場所へ行こうとしているだけという話だ」
利根「なぬ。それは本当か?」
提督「詳しくは知らないが、親子ではなくとも背中に乗っている事は多々あるようだ」
響「へぇ……そうなんだ。でも、なんで甲羅を乾かそうとするの?」
提督「乾かさないと甲羅が柔らかくなってしまうそうだ」
利根「ほー。捌いた魚は天日干しにせねば腐ってしまうのと同じかの?」
提督「例えはアレだが、似たようなものなんじゃないか? 恐らくだが」
ヲ級「魚、腐ると臭い。あれ嫌い」
利根「流石の我輩もアレばかりは嫌いじゃぞ」
瑞鶴「あの臭いが好きな人って居ないと思うけど……」
ヲ級「! 確かに」
金剛「それに、勿体無いデース」
ヲ級「うんうん」コクコク
提督「ならば、昼食は干物でも食べてみるか?」
ヲ級「干物、美味しい?」
響「美味しいよ。獲ってすぐに捌いてるからね」
金剛「魚の種類によっては噛むほど味が出てくるので、とってもワンダフルです」
ヲ級「食べたい……!」キラキラ
提督「よし。ならば昼食は干物と刺身を炙ったものにしてみよう」
響「刺身って炙るものなの?」
提督「炙った刺身は美味いぞ。今までは割と面倒だったからやらなかったが、約束したからな」
瑞鶴「響ちゃんとの約束ね?」
提督「そうだ。空母棲姫とヲ級のおかげで食料には困らなくなったからな。出来る限り美味い物を作ろう」
響「スパシーバ」キラキラ
ヲ級「美味しい、食べ物……!」キラキラ
空母棲姫「……………………」
空母棲姫(……本当に私達は敵同士だよな?)
響「あ、そうだ提督」
提督「どうした」
響「…………」ソッ
提督(む?)
響「…………」ヒソヒソ
提督「……ふむ」
利根(何を話しておるんじゃろ?)
提督「利根」
利根「うん?」
提督「少し失礼するぞ」ギュゥ
利根「おお?」
利根「……おぉ…………」
響「…………」
利根「……のう提督」
提督「どうした」
利根「こう、腕の内を通すのではなく外から頼んでも良いかの」
提督「ふむ。──こうか?」スッ
利根「……うむ。うむうむ。これは良い……とても良いぞ」ホッコリ
金剛「…………」ニコニコ
響「…………」ニヤ
瑞鶴(あー……昨日の夜でも思ったけど、やっぱり利根さんって──)
利根「はぁー……最高じゃぁ……」
空母棲姫「大好きな父親に甘えている二人の娘にしか見えんな」
ヲ級「…………」ジー
響「? どうしたんだい? 背中に乗りたいのかな?」
ヲ級「ううん」フルフル
利根「では我輩の場所かの?」
ヲ級「…………」フルフル
利根「ふむ……?」
ヲ級「──二人は、今、幸せ?」
利根「うん? もちろん幸せじゃぞ。こうしておるだけで我輩は幸せ者じゃ」
響「私は幸せっていうよりも落ち着く感じかな。凄く良い」ピットリ
ヲ級「良い顔」ニコニコ
利根(…………まあ、三人を差し置いて我輩だけこうして幸せになるのはダメな事なんじゃがの……)
ヲ級「? 笑顔、無くなった?」
提督「…………」ギュゥ
利根「んっ……。どうしたのじゃ提督?」
提督「……ちゃんと、私の傍に居ろよ」
利根「む……? それは勿論じゃが……どうかしたのかの?」
提督「なに。気まぐれだ」
利根「…………?」
響「…………」チョンチョン
提督「どうした、響」
響「私達も、ちゃんと居るよ。ね?」チラ
瑞鶴「ん? うん。勿論よ。これも何かの縁だもの」
金剛「提督が私達に愛想を尽かさない限り、私達は付いていくデス」
提督「──ああ。ありがとう」グッ
利根(? 少し変なように力が入っておる? ……まあ、大方の予想は付くがの)
利根(結局、我輩も提督も似た者同士……という訳か。違う点を挙げるならば、提督は我輩よりもずっと無理をしておるという所かの)
利根「──のう、提督よ」
提督「どうした」
利根「力を抜きたくなったら、いつでも我輩達を頼るが良いぞ」
提督「…………そうか」
響(…………? 今更?)
瑞鶴(何か特別な意味でもあるのかしら……?)
金剛「……………………」
金剛(提督が私達に頼るのを躊躇っている、という意味デスかね。……もしそうなのでしたら、私達が思っている以上に提督は無理をしているという事なのでショウか……)
金剛(提督も、あの時の利根みたいになる事があるのかもしれないデス……。心の準備だけはしておきまショウ)
空母棲姫(……この人間も、難儀な奴なんだな。私に出来る事は──まあ、無いか)
空母棲姫(──って、本当に私も毒されてきているな……。人間の敵である私が、人間の心配をするなどとは……)ハァ
ヲ級「? どうしたの?」
空母棲姫「いや……なんでもない……」
ヲ級「? ??」
…………………………………………。
今回はここまでです。またいつか来ますね。
壊れるのはいつかな。
提督(……さて、夜も深くなった。そろそろ行くとしようか)モゾ
ヲ級「ていとくー……」
提督「…………」ピタ
ヲ級「お魚……おいひ……」
提督(……寝言か。起きたのかと思ってしまった)スッ
利根「──提督、また行くのかの」モゾ
提督「……起こしてしまったか」
利根「いい加減、慣れてしまったのう」スッ
提督「そうか。すまない」
利根「構わぬ。──それよりも、三人の所へ行くのならば我輩も行きたい」
提督「……………………」
利根「提督の事じゃ。我輩に何か気を遣っておるんじゃろ。一人で三人の所へ行くのも、我輩に何か悪い影響を与える可能性があるかもしれんと思っておるのではないか?」
提督「……良く分かったな」
利根「何年一緒じゃと思ってるんじゃ。冷静に考える事が出来ればすぐに辿り着けたぞ」
提督「そうか。……そして、わざわざ話し掛けてきたという事は、そういう事なんだな?」
利根「うむ。そろそろ足を進めねば提督の隣を取られてまうからのう」
提督「……そうか」
提督(自分の気持ちを自覚したのか……? もしそうだとしたら、この先どういう影響が出るか……)
利根「あの位置は我輩のものじゃ。加賀が相手でも譲らぬ」
利根「それに、我輩は提督の近くに居ると不思議な気持ちで落ち着ける。それが堪らなく心地良い。……まあ、こればかりは良く分からぬがの」
提督(……気のせいか)
提督「なら、お前も三人の部屋へ行くか?」
利根「うむ。参ろうぞ」スッ
────────。
空母棲姫(……やっと行ったか。まったく……寝ているというのに会話をするものだから目が覚めてしまった……)
空母棲姫(二度寝は……難しいな。頭が冴えてしまっている。眠くなるまで何かするか……)スッ
ヲ級「ぃみゃぁゎう……たべあれみゃみお……」ホッコリ
空母棲姫「……何語だ、今の?」
…………………………………………。
コンコン──。
瑞鶴「どうぞー」
ガチャ──パタン
提督「夜中にすまんな」
金剛「いえ、私達は大歓迎デース」
響「そうだよ。これからも遠慮なく来てね。──今日は利根さんも一緒なんだ? 珍しいね」
利根「うむ。我輩も居て構わぬか?」
瑞鶴「勿論よ。好きな所に座っちゃって?」
提督「──よっと」スッ
利根「では我輩はここに」チョコン
響「!」
提督「……なぜ私の膝の上に座る」
利根「提督が嫌じゃと言えば降りるぞ」
提督「単純に気になっただけだ」
利根「ふむ。そういう気分なのじゃ。我輩の気まぐれじゃな」
提督「そうか」
利根「うむ」
瑞鶴(これ、どう見てもえっちな体勢にしか見えないんだけど……)
瑞鶴「……な、なんだか、いつも以上にペッタリなのね? お昼でも思ったけどさ」
利根「やはり提督と触れ合っておると落ち着いてのう」
瑞鶴(これはもう確実よねぇ……)
響「羨ましい」
利根「うん? こっちに来るかの?」
提督「待て。流石に二人はキツい」
響「大丈夫だよ。座ったりはしない。こうするだけ」トコトコ
響「んっ、と……」コトッ
金剛「ナルホド。隣に座るデスか」
響「そうだよ。これなら負担にならないよね?」チョコン
提督「ああ」
利根「…………むぅ……」
利根「!」ピコン
利根「そうじゃ提督。足を広げてくれぬか?」
提督「──ふむ。そういう事か」スッ
利根「うむ。……うむうむ。より提督と密着している感がするぞ」ホッコリ
瑞鶴(……ねえ金剛さん。さっきも思ったけど、ビジュアル的にこれってさ──)ヒソ
金剛(ノー……。言うのは無しデス瑞鶴……)ヒソ
提督「話は変わるが、瑞鶴」
瑞鶴「うん? 何?」
提督「いつも付けていた指輪が今日の昼には無かったが、お前も金剛と同じように捨てたのか?」
瑞鶴「ああ、アレ? まだあるわよ」
響「まだ持ってるんだ?」
瑞鶴「私は海に出る機会があった時に捨てようって思ってね。今は外してるだけなの」
利根「ふむ? どうして海に出た時なのじゃ?」
瑞鶴「なんか浅い場所に捨てるのが嫌なのよね。潮の流れとかで陸に上がってくるかもしれないし。二度と浮かび上がってこれない、深い場所で捨てるつもり」
金剛「……私もそうした方が良かったデス」
提督「そんなに気になるか」
利根「徹底的じゃのう」
瑞鶴「まあ、なんとなくね?」
金剛(……でも、提督の艦娘になったのデスから、いつかは記憶の端に追いやられマスよね?)
金剛(…………提督の艦娘、デスか。提督が私のテートクで……提督の『金剛』が今の提督の姿を見たらどう思うか──)
瑞鶴「それにしても、響ちゃんってどうしてそこまで中将さんに懐いたの?」
響「凄く頼りになるから、かな? たぶんだけど」
利根「たぶんなのかの?」
金剛(……沈んだ私達のせいでこんな何も無い島で何年も過ごして……偶然とはいえ新しい私と瑞鶴、響と一緒に居て……)
響「なんとなくだけど、一緒に居たいって思うんだ。詳しい事は私にも分からない」
瑞鶴「ふうん……? 好きとかじゃなくて?」
響「好きなのは確かだけど、恋かって言われたら首を傾げるね」
金剛(……………………)
利根「譲らぬぞ?」
響「今の言葉は女性として譲らないって事なのかな?」
利根「…………。うーん……? どうなんじゃろ……?」
瑞鶴「じ、自分で分かってないのね……」
利根「我輩もなんとなく譲りたくないって思ったからじゃからのう……」
提督「……そもそも、私とお前は恋仲ではないだろう」
利根「ハッ! そうじゃった!」
金剛(……まだこの島に居るという事は、私達の死に捉われているという事デス。早く、立ち直って欲しいデスね。……ケド)
提督「ところで聞くのを忘れていたんだが、明日の朝食は何が良い?」
響「私は焼いた魚が良いかな。シンプルであっさりしてるし」
瑞鶴「あ、私もそれが良い」
利根「ならば焼き魚じゃな」
提督「金剛はどうだ?」
金剛(……私達の事は、忘れて欲しく……ないデス)
提督「……金剛、どうした?」
金剛「──え、あ、ソーリィ……。考え事をしていまシタ……」
利根「ふむ。焼き魚以外のものが良かったのかの?」
金剛「いえ、全く別の事を考えていたデス……。何の話なのかも分かっていまセン……」
提督「明日の朝食は何が良いか、という話だ」
金剛「あ、それならば焼き魚に賛成デス」
提督「そうか、分かった。──しかし、どうしたんだ? 何か悩みでもあるのか?」
金剛「……むしろ、悩みが解決した方デスかね?」
提督「ほう」
金剛「提督、私が提督の金剛だったらどう思うか、という答えが出まシタ」
提督「……ふむ」
利根「?」
提督「利根、私がここ最近一人でここに来ていた理由の一つがそれだ。……沈んでしまった金剛や瑞鶴、響が今の私達を見たらどう思うか、というのを三人に考えて貰っていたんだ」
利根「ああ、なるほどのう。それが我輩に何か悪影響を与えかねぬから我輩には秘密にしておったのか」
提督「そういう事だ。……逆効果のようだったが」
利根「まあそれは仕方あるまい。提督は我輩ではないのじゃ。──それよりも、我輩も金剛の考えが気になるぞ」
提督「辛いかもしれんぞ」
利根「知らぬ方が辛いじゃろうて。今のままでは死んだも同然じゃからの」
響「!」
利根「我輩は生きておるから前に進まねばならぬ。それならば、金剛の考えを糧に前に進むのが良かろう」
提督「ほう。そう考えるか」
瑞鶴(……なんか、あの提督さんと似たような言葉ね。あっちと違って随分前向きな考えだから良いけど)
利根「なに。我輩だけの考えではない。──それは置いておくとして、金剛。頼めるかの?」
金剛「……提督も良いデスか?」
提督「ああ。頼む」
金剛「分かりまシタ。──私は、いつまでも私達の事を引き摺っているテートクと利根が、早く立ち直って欲しいと思いマス」
提督・利根「…………」
金剛「……ケド、立ち直った後で私達の事を忘れられると……寂しいです。なので、頭の片隅でも構いまセン。どうか、私達の事を忘れないで下サイ」
提督「────────」
金剛「これが、私の思った事デス。……お役に立てたデスか?」
利根「なるほどのう……。確かに金剛ならば言いそうじゃ。提督もそう思うであろう?」
提督「……ああ。……本当に、そう言いそうだ」
提督(三人とも、私の予想と同じ事を言うんだな……。それだけ、あの子達は私に素を見せてくれていたという事か)
利根(……少し、元気付けなければならんかの? 提督の手を握って、と……)スッ
利根「……………………」
提督「……どうした、利根」
利根(いかん……上手い言葉が思い浮かばぬ……。どうすれば良いのじゃ……。むう……やはり常日頃から頭を使わねばならん……)
提督「…………」ポン
利根「む?」
提督「言葉が無くとも伝わっている。……ありがとう、利根」ナデナデ
利根(……結果オーライ、かの?)
利根「──さて、我輩は瑞鶴と響の考えも知りたいぞ。聞かせてくれぬか?」
瑞鶴「……そうね。金剛さんも言った事だし、私達の考えも言いましょうか」
響「ハラショー。それは良い考えだ」
瑞鶴「じゃあまずは私ね。私は──」
…………………………………………。
空母棲姫「──夜の海、か。昼とは違い、一風変わった趣があるな」
空母棲姫(……少しこの辺りを遊覧してみるか。最近は海の中か陸の上だったからな)パシャッ
空母棲姫(艤装は──まあ良いか。浅瀬でこの島を一周するだけならばすぐに逃げられるし見つかる事もないだろう)
空母棲姫「────ああ、潮風が心地良い……。やはり、陸に居るよりも海の上の方が好ましい」
空母棲姫「いやまあ……陸の上も悪くはないが。美味い物も食えるしゆったりと出来るし──」
空母棲姫「…………。私は何にフォローしているんだ……」ハァ
空母棲姫(──そろそろ四分の一といった所か? やはりこの島は小さいな……)ゴツッ
空母棲姫「む? 何か足に……」ソッ
空母棲姫「……ドラム缶か? ほう、資材とはありがたい。持って帰ってあいつを喜ばせてやろう」
空母棲姫「む、もう一個ある……」
空母棲姫「…………フフッ……フフフフッ、今夜は良い物を見つけました。流石に気分が高揚します。他にもあるか探してみましょう」
空母棲姫「例え見つからなくても、この島で資材は重要。手に入るだけでも大きいわ」
空母棲姫「~♪ ~♪♪」
??艦載機「……………………」
……………………
…………
……
今回はここまでです。またいつか来ますね。
たぶんそろそろ折り返しを過ぎ去ったくらいかな。登場人物の問題は一つだけじゃないですからね。
書くの忘れてた。五日後のアレはやる気です。あの時のスレをHTML依頼に出していないのはこの為です。
書いたらこっちでもひっそり報告しますので( ´_ゝ`)フーンと思っていて下さいませ。
乙
加賀「やりました。」
空母棲姫「頭にきました。」
ヲ級「ヲ?」
見てみたい
毎度待たせてごめんよ。投下していきます。
夕立「加賀さん加賀さん! ちょっと聞きたい事があるっぽい!」
加賀「あら、何かしら?」
夕立「…………」クイクイ
加賀「何? 内緒話?」ソッ
夕立(四日後は第一艦隊の私達が休みよね? だから、提督さんに許可を貰ってあの島に行こうと思ってるの)ヒソヒソ
加賀(なるほどね。良いと思うわ。……メンバーは勿論あの時の六人よね?)ヒソヒソ
夕立(一応、全員には聞いて回ってみてるっぽい)ヒソヒソ
加賀「……ん? という事は、貴女が提案した事じゃないの?」
夕立「そうっぽい。飛龍さんが始めに誘ってきたよ」
加賀「そうなのね。私の返事は分かってると思うけれど──」
夕立「だよねだよね! 今から楽しみっぽいー!」
加賀「そうね。あれから忙しくて足を運べなかったものね」
夕立「夕立、提督さんと利根さんに戦果をいーっぱい自慢するっぽい!」
加賀「ええ。今までの戦果をたんと聞かせてあげましょう。二人が悔しがるくらい、ね」
夕立「それでそれで──!」
電「あれ?」
夕立・加賀「!」
電「こんにちは、なのです。夕立ちゃんと加賀さんが二人でお話しているのは珍しいですね?」
加賀「──ええ。この間、無傷の黄のオーラを纏ったタ級を一射で沈めた事を褒めていたの」
夕立「そ、そうっぽい!」
電「あ、私もそれは聞いたのです。駆逐艦でそれをするのは、本当に凄いですよねっ」
夕立「日頃の訓練の成果だよ! 電も頑張れば出来るかも?」
電「そ、そんな……! 私には出来ないのです!」
夕立「最初から無理と思っていたら、何も出来ないっぽい!」
電「流石に戦艦を一発で倒そうとするのは物凄く無謀ですよね……?」
夕立「そう? 確かに私もたまにしか出来ないけど、志は大事……っぽい?」
電「うぅ……同じ駆逐艦なのに住んでる世界が違い過ぎてる気が……」
加賀「夕立。貴女の砲撃威力はもう駆逐艦の枠組みを超えているわ。あまり自分が基準だと思わないようにしなさい?」
夕立「えーっと、褒められたっぽい?」
加賀「同時に相手も思いやりなさいと言っているの」ポン
夕立「うーん……分かったっぽい」
加賀「返事はハッキリとなさい」グイグイ
夕立「あ、あぁああ! か、髪の耳を押さえないでぇ! はっきりとした返事をしなくてごめんなさい!」
加賀「よろしい」スッ
電「……前にも思ったのですが、その耳状の髪を押さえられると嫌なのですか?」
夕立「なんだか頭の横がゾワゾワってなるから、すっごく嫌い……」
電「不思議なのです」
加賀(……さて、二人に会ったら何を話しましょうかね──)
……………………
…………
……
加賀(──なんて思っていたけれど……)
飛龍「偵察機より入電!! ウェーク島の陸に敵影発見!!」
北上「ちょ、ちょっとちょっと!? それは冗談でもキツ過ぎるんじゃない!?」
時雨「飛龍さん! それは確かなの!?」
飛龍「間違いありません! 敵の艦種は姫──空母棲姫です!」
加賀(……これは……ただ事じゃないわ)ギリッ
北上「なんで敵の空母が陸に居るのさ! 意味が分からないよ!!」
夕立「提督さんは!? 提督さんと利根さんはどうなってるの!?」
飛龍「……現在、確認できているのは空母棲姫のみ。あまり言いたくはありませんが、これはあまりにも……」
加賀「飛龍、貴女はそのまま索敵を続けてて。私は爆撃機を飛ばします」スッ
時雨「加賀さん、何を!? まだ提督は生きているかもしれないんだよ!?」
加賀「提督一人だけならばまだ可能性はあったでしょう。……けれど、あの地には艦娘が四人居るわ。間違いなく交戦──いえ、虐殺されているはず」
夕立「で、でも! 艦娘が四人も居れば戦う事だって──!!」
加賀「あんな島に弾薬があると思うの? 仮にあったとしても、空母棲姫のみ居るという事を考えればどういう意味なのかは分かるわよね」
夕立「う……そ、そうだけど……」
加賀「……ごめんなさいね。私はこの煮え滾っている感情を抑える手段を知らないの」
加賀(……正確に敵へ爆撃して、周囲にはなるべく被害を出さないようにしなければ。……せめて、二人の遺品は持って帰りたいもの)グッ
飛龍「──え? え、そ、それはどういう……!? か、加賀さんストップストーップ!!」
加賀「何? 何か異常でも発生したの?」
飛龍「そ、それが信じがたいのですが……」
加賀「報告は早くしなさい」
飛龍「す、すみません!」ピシッ
飛龍「……その、提督が建物から出てきました。今は空母棲姫の……隣に立っています」
夕立・時雨「え?」
北上「……何それ? どういう事なの?」
加賀「飛龍、今この状況で冗談を言える貴女を尊敬と同時に軽蔑するわ」
飛龍「ほ、本当ですって!! 嘘だと思うのならば加賀さんも確認してみて下さい! というよりも、加賀さんも確認して下さい……私の夢や幻なんじゃないかって思うくらいなので……」
加賀「……偵察機も一緒に飛ばします。貴女がそこまで言うのだから本当でしょうけど、流石にこれは信じられないもの」
飛龍「ええ……。どういう事なんでしょうね、これって……」
…………………………………………。
空母棲姫「なるほど。そういう事か」
提督「……まだ言っていなかったな。すまん」
空母棲姫「何を言っている。私とお前は敵同士だ。こうなるのは当然だ。しかし、私達をここまで油断させるとは大したものだ」
空母棲姫(ちっ……。やはり人間を信用などするべきではなかった……。今から逃げるのも無理な話か……)
提督「勘違いするな。攻撃などさせん」
空母棲姫「……なんだ? 捕虜という事か?」
提督「物々しく考えるな。お前達に危害を加えたり加えさせたりせんよ」
空母棲姫「……意味が分からん。どういう事だ」
提督「昔、私に付き従ってくれていた艦娘が居た。その艦娘は偶然、作戦中にこの島を見つけたんだ。……そして、その子達は時々だがこの島へ来ると言っていた」
空母棲姫「話が見えん」
提督「詰まる所、今ここに向かってきている艦娘達は純粋に私と利根へ会いに来たという事だ」
空母棲姫「……信用ならんな」
提督「構わん。直に分かる」
空母棲姫「その時は、私とあいつの最後か」
提督「そう思ってくれて構わんよ。後で拍子抜けするのはお前だ」
空母棲姫「そうなるよう、せいぜい祈っておこう」
提督「言っていなかった侘びとして、後で手の込んだ料理を作ってやるから許せ」
空母棲姫「最後の晩餐か? という事は、磔にでもするのか」
提督「私は神に祈りを奉げた事はないから知らんな」
空母棲姫「ふん。末代まで呪ってやる」
…………………………………………。
加賀「──それで、これはどういう事なの?」
提督「その前に、お前たち全員兵装を向けるな。こいつは深海棲艦ではあるが敵ではない」
飛龍「それは出来ません。提督が捕虜になっている可能性も拭えませんから」
提督「……………………」
夕立「っ!!」ビクンッ
夕立「!」ピシッ
提督「整列」
飛龍・北上・時雨「!!」ビクッ
飛龍・北上・時雨「っ!」ピシッ
加賀「…………」
提督「……どうした加賀。列から乱れているようだが?」
加賀「今はその時ではありません。厳戒態勢です」
提督「ほう。私の命令が聞けないか」ジッ
加賀「…………」ジッ
加賀(……全く危機感の無い目。という事は、本当に……?)
提督(さて、信じてくれると良いのだが)
加賀「……分かりました」スッ
加賀「提督。先程の非礼を詫びます。申し訳ありません」ピシッ
提督「よろしい」
空母棲姫(……なんだ? まさか、こいつらは本当にただ会いに来ただけなのか……?)
空母棲姫(──いや、油断させてから沈めにくるかもしれない。これからは信用しない方が良い)
空母棲姫(これからは……? なんだそれは。それではまるで、今まで信用していたような言い方ではないか)
加賀「……提督、説明はして下さるのよね?」
提督「ああ。中で話そうか──」
…………………………………………。
提督「──そんな事があって、今現在はこの六人と暮らしている」
飛龍「……あの、本人の前で言うのもアレなんですけど……本当に大丈夫なんですか?」
提督「今まで無事なのが何よりも証拠だ」
空母棲姫「だから、私は何度も信用するなと言っているだろうが」
時雨「……こう言ってるみたいだけど」
提督「知らん。私は相手を見て信用するかどうかを決める。少なくとも、現状では敵どころか安定した暮らしを提供してくれる大切な存在だ」
空母棲姫「……………………」
夕立「なんか、呆れてるっぽい?」
北上「まあ……そうなるよねぇ……。私も未だに夢でも見てるんじゃないかなって思ってるくらいだし」
加賀「そうね。でも、この二人を見れば──」
ヲ級「…………」ジー
響「…………」ジー
加賀「──本当に危害を加えてこないというのは分かるわ」
飛龍「こうも無垢な目で仲良く並んで座られると、私達が悪い事をしてきたみたいに見えますね……」
利根「別にどちらも悪い事をしておらんじゃろう。堂々としておれば良いのではないか?」ノシッ
時雨「……なんというか、利根さんが提督にベッタリとしてるように見えるのは僕の気のせいかな」
夕立「良いな良いなー! 提督さん、私もくっついて良い?」
空母棲姫(……なぜだ。尻尾を振っている犬に見える)
提督「人前だ。程々にしておけよ?」
夕立「やったぁー! 提督さん! 頭撫でて撫でて~っ」ギュー
提督「ああ」ナデナデ
夕立「えへへー」ニパッ
飛龍「ところで提督。元気でやっていけてますか?」
提督「至ってのんびりと暮らしている。お前の艦載機が見えていたくらいには暇だ」
飛龍「ああ、そういう事だったんですね。なんだかちょっとおかしいなって思っていたんです。そっちの……えーっと……空母棲姫、さん? と話す為に出てきたって風には見えなかったんで。庇う為ですかね?」
加賀「私ならば爆撃するだろうとでも思ったのかしら」
提督「そういう事だ。実際に艦爆を飛ばしていただろう?」
加賀「……ちゃんと、私達の事を憶えてくれているのね」ニコ
提督「何年経っても忘れんよ。未だにお前達のやりそうな事は大体予想が付くくらいにはな」
時雨「僕達も、提督や利根さんの事を忘れた事はないよ」
提督「ありがたい話だ」
提督(……比叡が来ないのも、なんとなく予想が付いていたくらいにな)
北上「でさ、提督。あたし達は深夜くらいには戻っておかないといけないんだ。ここに居られる時間も長くはないからさ、とにかく色々と話したいんだよね。良い?」
提督「ここは遠いから仕方が無いだろう。時間が来るまでいくらでも話そうか」
夕立「じゃあ私が最初ね! 提督さん。提督さんはいつになったら帰ってくるの? 夕立達、寂しいっぽい」
提督「もう少しだけ待ってくれるか。帰られる心境になるにはもう少しだけ時間が掛かりそうだ」
夕立「むー……。それって『もう少し』をずっと続けていくパターンじゃない?」
提督「本当にもう少しだ。もしかすると、次にお前達が来た時には帰りの船を呼んでもらうかもしれん」
夕立「本当!? やったぁー!」
時雨「次からは船を用意した方が良い?」
提督「いや、まだ決まった訳ではない。その時が来るまで船を持ってくるなどという事はしないでくれ」
時雨「うん、分かった。それと、提督──」
提督「それは──」
金剛・瑞鶴・響「…………」
瑞鶴「……なんだろね。羨ましいわ」
金剛「ええ……」
響「入る隙も無いね」
金剛「響、今は皆さんに譲りまショウ。時間を割いてまで来たのデスから」
響「うん」
飛龍「ちょっと良いですか?」
瑞鶴「ん? 良いけれど、どうしたの?」
飛龍「私は三人ともお話ししたいと思ったので。──あ、隣に失礼しますね」スッ
金剛「ケド、良いのデスか? 折角の提督とのお時間が……」
飛龍「私は最後でも大丈夫です。……というよりも、今は提督を取り合いっこしていますから、少し遠慮している形です」
響「なるほどね」
金剛「──あ、皆さんには謝らないといけない事があるデス……」
飛龍「え? 何ですか?」
金剛「下田鎮守府まで送って下さったのに、またここへ戻ってきてしまってすみまセン……」ペコッ
飛龍「いえいえ、仕方の無い事ですって。悪いのは貴女達じゃないですから」
金剛「ありがとうございマス……」
飛龍「それよりも、提督の事を聞いても良いですか?」
瑞鶴「中将さんの事? それなら私達よりも飛龍さん達の方が良く分かってるんじゃ?」
飛龍「いえ、この島での提督の事は利根さんと三人以上に知っている人は居ません。……特に、前に来た時は帰らないって言ったのに、今はもう少しすれば帰るって言った事が気になります。何かあったのですか?」
瑞鶴「……アレ、かなぁ」チラ
金剛「そうとしか思えまセンね」
響「だよね」
飛龍「お聞きしても良いですか?」
瑞鶴「んっとね、中将さんに頼まれた事なんだけど……今の中将さんと利根さんの姿を、沈んだ三人の視点で見たらどう思うか──っていうのを答えたの。考えられるのはそれくらいしかないかな」
飛龍「沈んだ三人で見れば……ですか」
響「気になる?」
飛龍「……ええ。お願いします」
響「いつまでも後ろに居る私達に目を向けていたら、いつまでも前に進めない。ちゃんと前を見て進んで──って言ったよ」
瑞鶴「辛いのは分かるけど、私達はもう居ないの。捕らわれないで、ちゃんと乗り越えてよね……なんて言ったかしら」
金剛「私は、提督と利根が早く立ち直って欲しいと思いまシタ。……ケド、頭の片隅でも構わないので忘れないで欲しいとも思いまシタ」
飛龍(…………ああ……あの三人なら、本当にそう言うんだろうなぁ……)
飛龍「……なるほど。それで提督はこの島を出ようと思っているんですね」
飛龍(それにしても、ちょっとだけ懐かしい気分になりますね……。空の向こうに居る三人は今、どう思っているんだろ……)
…………………………………………。
夕立「んー! 楽しかった!」
時雨「夕立は終始甘えていたね」
夕立「だってだって! 次にまた来れるのはいつになるか分からないだもん!」
北上「まあ、そうだよねぇ。夕立がああしなかったら、たぶんあたしがやってたし」
飛龍「え……? それ本当ですか……?」
北上「冗談だよ冗談」
加賀「貴女の場合、本当か冗談なのか分からない所があるから怖いわ」
時雨「本当、掴み所のないマイペースな性格だよね」
北上「ふふん。それがあたしの良い所だから」
加賀「同時に欠点でもあるわよ。分かりにくいもの」
飛龍「あ、あはは……。──ん、索敵機より入電。……敵艦隊見ゆとの事!」
加賀「──総員、戦闘態勢に入りなさい。敵の艦種は?」
飛龍「戦艦ル級が二隻、重巡リ級が一隻、雷巡チ級が一隻、駆逐ハ級が二隻! いずれも赤と黄のオーラを纏っています!」
加賀「……勝てない事はないけれど、戦力的に見ればこちらが少し乏しいわね。後の事もあります。ここは無理をせず迂回しましょう」
飛龍「ええ。向こうの索敵機は全て落としました。こちらの位置は知られていませんし、そうしましょう」
加賀「流石ね。……気付かれないように進むわよ」
四人「はいっ!」
加賀(少し胸騒ぎがするのだけれど、大丈夫かしらね……)
……………………
…………
……
今回はここまでです。また一週間後くらいに会いましょう。
空母棲姫からの信用が落ちた事がどう動くかな。あと、胸騒ぎはどうなるかな。
乙
ほのぼので終わるんですよね…
>>571
ほのぼので終わる予定の可能性があるような気がするかもしれないという夢を見たって電波は受け取っています。
投下していきますね。
利根「ふぃー……久々の湯じゃのう」チャポン
提督「ああ、やはり風呂というのは良いものだ」
利根「……のう提督よ」
提督「どうした」
利根「前に、艦娘は深海棲艦と変わらないのかと言ったであろう?」
提督「ああ、言っていたな」
利根「あの二人と暮らしていて思ったのじゃ。やはり、ほとんど違いが無いとな」
提督「人種の違いのように見えたのか?」
利根「うむ。我輩達と同じく艤装を付けておるし、海の上を滑れる。何よりも、我輩達と同じく感情があってしっかりと会話できるのじゃ。むしろ違う箇所を探す方が難しいぞ」
提督「ああ、私もそう思う。違いなど、ほとんど無い。生まれた場所が違うだけの同種なのかも知れないな」
利根「うむ」
提督「…………」
利根「…………」パシャパシャ
提督「……………………」
利根「……それでの、提督」
提督「ん?」
利根「ギューッと抱き締めてくれぬか」
提督「いきなりどうした」
利根「……これから話す事は少し胸が苦しくなる。だから、お願いじゃ」
提督「……そうか。無理はするなよ?」ギュゥ
利根「んっ……。うむ……大丈夫じゃ。提督がこうしてくれておる限り、我輩は安心できる。──じゃが」ソッ
提督「ん?」
利根「腕は腹に回すだけでなく、片方は胸の方へやってくれぬか」
提督「それは遠まわしに触れと言いたいのか」
利根「違うぞ。別に触れずとも良い。しっかりと抱き締めて欲しいんじゃ」
提督「……そうか。なら、これで良いか?」スッ
利根「ほう、胸の下か。……うむ。ありがたいぞ提督」ニカッ
提督(本当にいかがわしい気持ちは無いようだな)
利根「出来れば我が慎ましき下乳を腕に乗せるくらいが望ましいが、ダメかの?」
提督「これ以上は譲らん」
利根「残念じゃ」
提督(……お前、本当にいかがわしい気持ちは無いんだよな?)
利根「……それでの、提督。提督は今日、夕立に『帰るのは少し待ってくれ』と言うておったじゃろ?」
提督「ああ」
利根「我輩もな、その気持ちは分かるんじゃ。沈んでしもうた『あの三人』が何を思うておるのか……それはここに居る三人が言うてくれた。あの言葉を信じるならば我輩達は前に進まねばならぬ。進まねば……『あの三人』は浮かばれぬ」
利根「……じゃがの、同時に怖い。……提督よ、なぜか分かるか?」
提督「…………鎮守府の皆に何を言われるか分からないからか?」
利根「いや、違う。我輩が怖いのはな…………提督が、我輩から離れるのが……怖いのじゃ」
提督「どういう意味だ……?」
利根「…………」チラッ
利根「……提督、当たり前じゃが……お主と我輩はこの島から出たら、互いの距離は離れてしまうよの?」
提督「…………」
利根「もう、このように風呂を入る事も無くなる。共に布団で眠る事も無くなる。提督と共に居られる時間も短くなる。……間違ってはおらぬよな?」
提督「……ああ。違わない」
利根「我輩はそれが怖い。今のこの生活は、我輩にとって理想に一番近かったからじゃ。もう戦わずに済む。その上、提督と共に生きている。……それだけで、我輩は充分だと思うておった」
提督「……一つ聞く。お前は私の事をどう思っている」
利根「ああ、確かに言うてなかったのう。我輩は……」
提督「…………」
利根「……我輩は、お主の事を好いておる。人としてではなく、伴侶になりたい程に」
提督(……やはりか)
利根「とは言うても、最近まで自覚しておらんかった。提督が夜な夜な三人の部屋で楽しそうに話しているのを聞いてから分かったのじゃ」
提督「……そうか」
利根「だからの、提督……」
提督「……ああ、それでも私達はこの島を出なければならない」
利根「……やっぱりか」
提督「すまん。こればかりは堪えてくれ。あの三人に沈んだ事を後悔させたくないのならば、私達は乗り越えて進むべきだ」
利根「……ああ、そうじゃのう」
提督「すまん」
利根「謝るでない。本当に申し訳ないと思うのならば、向こうでも同じようにしてくれぬか」
提督「それは流石に無理だ。周りの目を気にしてくれ」
利根「むう……。ならば、我輩を秘書艦にしれくれぬか? これならば常に近くに居ようと不思議ではなかろう? あと、寝る時は共に寝たい」
提督「お前に秘書艦が務まるのか?」
利根「初めは出来ぬじゃろうな。だが、我輩は仕事の内容を覚えるぞ。金剛がやっていた事を全てじゃ」
提督「ほう。利根が金剛と同等の紅茶を淹れるか」
利根「う……」
提督「金剛の腕を超えようものならば並大抵の努力では追い付かんだろう」
利根「……頑張る。我輩は頑張るぞ、提督」
提督「冗談だ。真に受けなくて良い。だが、秘書艦にはなって貰おう」
利根「! 本当か!?」
提督「ただし、秘書艦として不充分でありながら上達が見込めない場合は降りて貰うぞ」
利根「うむ! 我輩は頑張るぞ!」
提督「さて、湯もヌルくなってきた。そろそろ出ようか」スッ
利根「あ、ちょっと待ってくれぬか」
提督「なんだ? まだ抱き締めて欲しいと言うのか?」
利根「強ち間違ってはおらぬが、違うぞ」クルッ
提督「……なんとなく言いたい事が分かった」
利根「察しの良い提督じゃ」ギュゥ
提督「やっぱりか」
利根「うむうむ。やはり背後からと正面とでは違うのう」スリスリ
提督「向こうではこんな事をするなよ?」ナデナデ
利根「うむ。分かっておる。……じゃから、今の内に堪能させてくれ」
提督「……湯が水にならないようにしろよ?」
利根「うむ……分かっておるよ……」スリスリ
提督「…………」ナデナデ
……………………
…………
……
空母棲姫「──今日は弾薬とボーキサイトの入ったドラム缶が見つかった」
ヲ級「見つけた!」
提督「ほう。珍しいな」
空母棲姫「弾薬はともかく、ボーキサイトは専用の設備でも無い限り艦載機にならんから邪魔なだけだがな」
提督「そう言うな。何かの役に立つかもしれん」
空母棲姫「ふん」
ヲ級「撫でて、撫でて」ワクワク
提督「ああ、ありがとうな」ナデナデ
ヲ級「えへー」ニパッ
空母棲姫(……無邪気なものね。今はその無邪気さが羨ましく思えるわ)
ヲ級「ひーめ。姫も頭、撫でてもらう?」
空母棲姫「……私は外へ行く」スッ
利根「なんじゃ? 何かあるのか?」
空母棲姫「馬鹿を言え。そろそろその人間の艦娘がここへやってくるはずだろう? 一週間前がそうだったようにな」
瑞鶴「…………? それが何か問題なの?」
空母棲姫「私はお前達を信用していない。一人で海を眺めている方がマシだ」スタスタ
金剛「……行っちゃったデス」
瑞鶴「そんなに邪険に扱わなくても良いのに……」
響「あの人、素直じゃないね」
提督「ああ、全くだ」
金剛「え?」
瑞鶴「どういう意味?」
提督「ヲ級を見ている目が羨ましそうだった事を考えると、恐らくだが仲良くするべきか敵と見做すか葛藤しているんじゃないだろうか」
響「どっちにも偏れないから、近くには居ないけど敵にもならないっていう微妙な位置に居るんじゃないかな?」
利根「……面倒じゃのう」
提督「意志が強いから仕方がないだろう。何かきっかけでもあればすぐに変わるものだ」
金剛「そのきっかけで何か良い案があるデスか?」
提督「きっかけは無理矢理に作るものではない。それと、きっかけが無くとも何か理由を付けて近くに居てくれるだろう」
瑞鶴「その根拠はどこにあるのよ……?」
提督「このヲ級だな」ポンポン
ヲ級「~♪」ニコニコ
瑞鶴「あー、なるほどね。思ってみれば、いつも一緒に居るもんね」
金剛「ヲ級が私達の近くに居る限りキャントリーヴという訳デスね?」
提督「そういう事だ」
響「きゃんとりーぶ……?」
金剛「放っておけない、という意味ネ」
響「スパスィーバ。勉強になったよ」
提督「なんだかんだで空母棲姫も面倒見が良いからな。自覚しているのかは知らないが」
利根「あの様子ならば気付いておらんじゃろうなぁ」
響「かもね」
瑞鶴「ところでさ、そこで乾燥させている葉っぱって何?」
提督「うん? それはハーブだ。正確にはバジルだな」
金剛「……バジリコって、こんな熱帯に生えている物なのデスか? ヨーロッパの地方にあるようなイメージなのですが……」
提督「バジルは熱帯にある植物だ。割と日本でも生えているぞ。ヨーロッパのイメージが強いのは、色々と料理に使われているからだろう」
金剛「ナルホドー」
瑞鶴「……それは分かったんだけど、バジルなんていきなりどうしたのよ?」
提督「少し前に空母棲姫と一方的に約束してな。手の込んだ料理を作る為に摘んできた」
利根「どんな料理にするつもりなのじゃ?」
提督「小さく切り分けた白身魚を、薄く水を引いた鉄板で焼いてその上にバジルを掛ける。味付けはいつもの塩で、ソテーとまではいかんだろうが不味くはならんだろう」
響・ヲ級「楽しみ」キラキラ
提督「今日の夕食はちょっと贅沢になる。……仮に不味くても文句を言ってくれるなよ?」
…………………………………………。
空母棲姫「……はぁ」
空母棲姫(私は、私が何を思っているのかが分からん。私は本当にあいつらを敵だと思っているのか? それとも、敵でも味方でもないと思っているのか?)
空母棲姫「……まったく分からん。味方ではないというのは確かなのだが……どうして私は信用していないのにも関わらず、この島で共に暮らしているんだ……」
空母棲姫「考えるのを諦めるべきか……? だが、それは思考停止になるからあまり──ん?」
空母棲姫(……艦載機? しかも我々深海棲艦の? 珍しい事もあるものだな)
空母棲姫「……いや待て。なんだあの数は……? 近くに戦闘区域でもあるのか……?」
ガガガガガガガガッッ──!!
空母棲姫「────ッ!? な……撃ってきた!? ど、どういう事!!」ザッ
空母棲姫「……ま……待って!! そっちの建物には──ッ!」
ドォオンッッ!!
空母棲姫「────────…………! 外れている……! 良かった……」
空母棲姫(でも……なぜ深海棲艦がこの島を爆撃しているの……? ……いえ、考える暇なんて無いわね。例え相手が同族であっても、危害を加えるのならば迎え撃つまでです。私の艦載機運用能力は伊達ではありません)スッ
空母棲姫「……あ…………」
空母棲姫「そう……でした……。艤装は仕舞っている上に……」
空母棲姫(私にはそもそも……残っている艦載機がありません、でした……)
空母棲姫「ぁ────」
ドォオンッッ!!
…………………………………………。
今回はここまでです。また一週間後くらいに来ますね。
さて、艦娘や深海棲艦が陸で轟沈判定になったらどうなるかね。
作者さんおめでとうございます。アニメ続編楽しみにしてます。
利根「────ッ!? 何なのじゃ、この爆撃音は!?」
提督「!! 深海棲艦の編隊……!? なぜそんな事が!?」
ヲ級「私も、姫も、違うよ!?」ブンブン
提督「そんな事は分かっている!! そもそも二人には艦載機が無いだろう!」
瑞鶴「じゃ、じゃあなんでこんな!?」
提督「分からん……! だが、何か目的があってこの島を爆撃しているのには違いないはずだ!」
金剛「っ!」バッ
提督「待て金剛! どこへ行こうとしているんだ!!」
金剛「艤装と弾薬を取りに行きマス!! 対空砲撃をすれば多少は──!」
提督「ダメだ!! そもそも消費の多いお前では弾薬が足りないと分かっているだろう!」
金剛「デスが! このままではきっと私達は全滅デス!!」
提督「十秒で良い! 少し考えさせろ!! 出来るだけ高い確率でこの状況を打開する術を──!」
ド──ッ!!
全員「────ッ!!」
響「……────」
ヲ級「──、…………?」
金剛「────! ……か!」
瑞鶴「も……。ひど…………ね……」
利根「いたた……。だいじょ……う、ぁ…………」
金剛「やっと耳が……。────え……?」
瑞鶴「あ、れ……? 中将、さん……?」
響「────」
ヲ級「…………」
瑞鶴「ね、ねえ! 中将さん!? 大丈夫なの!?」
提督「……………………」
瑞鶴「ねえってば!!」
利根「────────は、ハは……」
金剛(!! あの時の利根が出てきたデスか!? いけまセン! ここで余計に混乱を引き起こしては──!!)
金剛「…………っ!」スッ
金剛「……大丈夫デス。提督は生きていマス」
ヲ級「!」
響「本当……?」
金剛「脈もありマス。呼吸もしていマス。きっと、ショックで倒れただけでショウ」
金剛「だから……大丈夫デスよ、利根」
利根「──そうか。それは良かった」スッ
瑞鶴「ちょっ!? ど、どこに行くのよ!?」
利根「決まっておろう? 上の喧しい蝿共を叩き落しに行くのじゃ。──金剛、響、少しお主らの装備を借りるぞ。確か、副砲二つと機銃と電探があったはずじゃよな?」
響「……利根さん、その選択は提督が望ま──」
利根「一秒が惜しい。倉庫で確認する。全員、隠れておれ。一度爆撃した場所は比較的狙われんじゃろう」スッ
瑞鶴「で、でも──!! ……行っちゃった」
響「……私も行く」スッ
金剛「──駄目デス」グイッ
響「! ……どうしてかな、金剛さん。私には利根さんが装備できない高角砲がある。それに、駆逐艦の私は弾薬も──」
金剛「──足りまセン。いえ、きっと足りなくなりマス」
響「弾薬は比較的余ってるはずだよ。足りなくなるなんて事は──」
金剛「──違いマス。足りないのは、燃料と耐久力、そして対空能力デス」
響「…………」
金剛「少し考えれば、私も分かりまシタ……。なぜ利根が、一人で迎撃に出たのかが……」
ヲ級「? …………?」
瑞鶴「……どういう事?」
金剛「戦艦の私は論外だと言うのは分かりマスよね……。空母である二人も普段は対空砲火をメインとする事なんてあまり無いはずなので、精度に心配が残りマス……」
響「…………」
金剛「そして響は駆逐艦なので、一回も攻撃を受けてはいけないのデス……。被弾すれば、装填している弾薬が全て無駄になりかねまセン……。そもそも、響の錬度は私達に及ばないのは分かりマスよね……?」
響「それは……」
金剛「極め付けは、燃料デス。恐らく、利根に全て補給すれば空になりマス。いつまで続くか分からないこの耐久レースでは、例え燃料のほとんどを射撃管制に費やしても足りるか分かりまセン……。しばらく実践や演習をしていなくて衰えていても、身体に叩き込んだ経験が死んでいる事は無いはずデスから……」
瑞鶴「…………だから、利根さんは一人で……?」
金剛「……きっと、そうだと思いマス。悔しいデスが……適任は、利根しか居まセン……」
ヲ級「でも、数が、凄い違う……」
金剛「……これは完全に私の予測デス。もしかしたら利根は、沈んだ仲間と同じ行動を執っているのかもしれません。出来る限り、私達を──いえ、提督を生かす為に……」
響「…………っ」ギリッ
響「本当に私達は、指を咥えて……見ている事しか出来ないのかな……」
金剛「響、勇気と無謀は違いマス。……それに、私達に出来る事はジッと待つ事デス」
響「ジッと待つ事が、出来る事……? 言っている意味が分からないよ、金剛さん……!!」ググッ
金剛「抑えて下さい響。そう言いたい気持ちは分かりマス。……よく、分かりマス。ケド、今ここで私達の誰かが身を曝け出したらどうなりマスか? 仮に無事だったとシテも、響は耐え切られる可能性がありマスか?」グッ
響「…………」
金剛「物分りの良い貴女デス。その行動がどれだけ危険で、どれだけ愚かか分かりマスよね」
響「……理解は出来ても、納得は出来ない」
金剛「良いのデス。それは……私も、私達も同じデス……」ソッ
響「金剛さん……私は、無力な自分が、悔しい……!」ギリッ
金剛「……信じまショウ。それも、強さの一つデス」
瑞鶴(私に艦載機さえあれば、ここまで劣勢にならないのに……。遠慮なんてせずに、良い艦載機を持ってきていれば残ってたかもしれなかったのに……!)
ヲ級(……でも、なんで味方が、攻撃して、きたんだろ)
…………………………………………。
利根「──落ちろ──落ちろッ!! 我輩は逃げも隠れもせぬぞ!!」ドォン! ドォン!
ガガガガッ──!
利根「ぐっぅ……!! まだじゃ……我輩はこの程度ではまだ倒れぬぞ! ──陸に居る分、長く戦えるのじゃからなぁ!!」ドォン!
利根(──ははっ…………。しかし、笑ってしまうよのう。一体、何隻の空母が居るのじゃ? 本当にこの島を集っておる蝿のように見えるぞ)
利根(救いなのは対地砲撃が無い事かのう。もしされておれば、本当に為す術など無かった)
利根「──ああ、そうか」
利根(今、初めてしっかりと分かった気がする。金剛と瑞鶴、響もこんな気持ちじゃったのかな。絶対に敵わないと分かる敵の数、必死で仲間を守ろうとする想い──そして、提督を悲しませたくないと願う気持ち)
利根(なるほど……なるほどじゃ。こんな気持ちを抱いたまま沈めば、今の我輩達の姿を見れば悲しむに決まっておる)
利根「すまん金剛、瑞鶴、響……。我輩は、今の今までボンヤリとしか分かっておらなんだ……!」ドォン! ドォン!
利根(母港へ帰ったら、手向けの花を贈ってやらねばな……)
利根「────? なんじゃ……? 艦載機が帰っていっておる……? ……諦めた? いや、そんな訳があるか。何かがあるはずじゃ。警戒をするに越した事はない」
ザッ──。
利根「……空母棲姫かの? 無事だったようじゃな。すまぬが、我輩は空から目を離す事が出来ぬ。いつ、あの艦載機が反転してくるかもしれ──」
──ドォンッ!!
利根「────カ、は……っ?」
…………………………………………。
レ級「…………」
空母棲姫(ちっ……。流石に艤装が無ければ手も足も出せん……。それに、深海棲艦でも凶悪なこいつが相手では尚更だ……)
レ級「アー、アー。ゴミムシ、聴こえる?」
空母棲姫「聴こえない訳がないだろう。何だ」
レ級「それもそうだよねぇ、こんなに近いし? ──んでさぁ、お前、何してんの」
空母棲姫「惰性に過ごしていただけだ。それ以上は何も言えん」
レ級「いやいや! それはちょーっとおかしいんじゃない?」
空母棲姫「何がだ」
レ級「こっちは確証も得ちゃってる訳。この意味、分かるよねぇ? なんで人間や艦娘なんてゴミムシ共と一緒に仲良く暮らしちゃってたのかな? 裏切り者のゴミムシくん?」
空母棲姫「いきなり撃ってくるような奴に答えようとは思わん。気紛れかなんかだとでも思っておけ」
レ級「あ、そうなんだぁ……。じゃあ沈めちゃっても良いよねぇ!? あ、ここは陸だから殺しちゃわないといけないんだっけ? ギャハハハハッ!!」ジャキン
レ級「まあそういう事だからさぁ、変に避けようとか思わないように。きっと痛いだけだからさ!」
空母棲姫「…………」
レ級「うぅーん、良い子だ。じゃあ、また海の底で逢おうねぇ!」
────────ゥン
空母棲姫(──む? 艦載機の音?)
レ級「……あ?」
空母棲姫(……あの機体のペイントは、確か──)
…………………………………………。
今回はここまでです。また一週間後辺りに来ると思います。
昼下がりにいきなりPCが起動しなくなった時は焦った。PCをバラして各種パーツの手入れをして戻したら直ったから、皆もPCのメンテナンスはやろうね。壊れる前にメンテナンス大事。
>>596
A.Fさんを考えてあげなければいけません。
飛龍「……状況を報告します。ウェーク島にて空爆を受けていた痕跡を確認……。提督達の住んでいた家屋は……ほぼ、全壊状態です……」
北上「……………………」
夕立「…………嘘、だよね……?」
時雨「提督は……提督や皆は、どうなってるの……?」
飛龍「……確認、出来ません。確認できたのは、負傷した利根と、空母棲姫……そして、空母棲姫に砲口を向けているレ級のみです」
加賀「…………」スッ
飛龍「! ……加賀さん、艦載機を飛ばすのは構いません。ですが、攻撃自体は少し待って頂けますか。まだ報告の途中です」
加賀「いいえ、待ちません」パヒュンッ
飛龍「──島の向こう側に黄のオーラを纏ったヲ級を二隻、護衛艦と思しきイ級を二隻確認しています。恐らく、空爆を主とした艦隊でしょう」
加賀「そう。なら、飛龍も艦載機を今すぐ発艦させなさい。私が空母機動部隊を沈めます。飛龍はレ級を殺しなさい」スッ
飛龍「こ、ころ……」
北上「あのー……加賀さん? 言葉が不穏な気がするんだけど……?」
加賀「何か問題があって?」パヒュンッ
北上「い、いやその……」
加賀「本当ならば四肢を一本ずつ引き千切ってゆっくりと殺す所よ? 今回は時間が惜しいから勘弁してあげているだけ。それとも何かしら? 今の状況にした敵に温情を与えて戦闘しろとでも言うの?」
加賀「戦闘だなんて生温い事などしません。行うのは虐殺です。今回は相手を思いやる必要もありませんし、戦略的にも戦術的にも考える必要もありませんし、しなくても構いません。ただただ相手を殺す事だけを考えて全力をその五隻に叩き込むだけです」
加賀「ああそうね。飛龍、指示を変更するわ。レ級は行動不能状態に留めておきなさい。500kg爆弾がどんな味なのかを噛み締めて貰わないと──」
パァン──ッ
加賀「────…………」
飛龍「……冷静になって下さい。まだ提督達が死んだと決まった訳ではないでしょう。私達の指揮官である貴女が感情に身を任せてどうするんですか」
加賀「…………」
飛龍「あの提督ですよ? そう簡単に死ぬ訳がないじゃないですか。──こんな事で死なれて堪るかってんですよ」
加賀「……ごめんなさいね。今ので頭が冷えたわ。……酷く、痛かったです」
飛龍「私の手の平もヒリヒリしちゃっています。──では加賀さん、指示をお願いします」
加賀「ええ、まずは──」
…………………………………………。
レ級「! あーあー……役に立たねぇなあアイツら。自分達の身くらいしっかり守れよ。大事な大事な私の手駒なんだからさあ」
空母棲姫(……なんだ? 随伴艦でも沈んだのか?)
レ級「あー面白くないねぇ……。これ以上ここに居ても負けるだけだし、さっさとトンズラすっか」
ガガガガガガッ──!
レ級「──っとぉ! ……へぇ。簡単には逃がしてくれないってか? ま、そりゃそうだよねぇ……じゃあ」グイッ
空母棲姫「ッ──!?」
レ級「丁度良い所に『盾』があるんだから、使おっかぁ!? ギャハハハハハッ!!」ダッ
空母棲姫「こ、こいつ──!?」
レ級「そんな訳でさ! ちょーっとだけ肉盾になっててねぇ! 大丈夫だって! 結局沈むのには変わりないじゃん!?」
レ級「ハハハハァッ!! 艤装が無いから軽いね軽いねぇ!!」
空母棲姫「こ、この……!!」
レ級「──あれぇ!? 突然撃たなくなってきたよぉ!? あ、そっかそっかぁ! こいつらってお前のお仲間って事かぁ!!」
空母棲姫「な……あいつらがそんな──ッ!?」ゾクッ
レ級「──黙れよ。やはり貴様は敵だ。僅かながらも艦娘に対して仲間意識を持っている。今の発言でよく分かった。それだけで充分に危険分子と言えよう。今ここで殺したいのは山々だが、こちらも余裕が無さそうだ。──だが、海に出てしまえばこちらのもの。盾の役目ご苦労だった、蝙蝠よ」バシャッ
レ級「全機発艦。命令する。制空権を取れ。取れるまで帰ってくるな」カヒュンッ
レ級「そして──」ブンッ
空母棲姫「っあ──!」ザブンッ
レ級「──また逢おうねぇ蝙蝠くぅん!! …………次は殺してやる」
空母棲姫「ぷはっ……! ケホッ……!」
レ級「アハハハハハァッ!! こんな薄い攻撃じゃあ当たんないねぇ──!!」
空母棲姫「……………………」
空母棲姫「……蝙蝠、か。そうね……今の私は、まさしく蝙蝠……。深海棲艦と艦娘……どっちつかずの、半端者……ね」
空母棲姫「…………どうしましょうか、これから……」
…………………………………………。
利根「…………」
提督「……息が弱い」
飛龍「背中から強力な攻撃を受けた傷があります。……恐らくですが、あのレ級の砲撃を直接受けたのかもしれません」
夕立「……提督さん、利根さん大丈夫かな」
提督「……分からん。出来ればすぐにでも治療をしてやりたいのだが、この島では……」
提督「……………………ふむ」
時雨「提督? 何かあったの?」
提督「……そうだな。少し心配もあるが、こうする他無い」
金剛「…………?」
提督「頼み事がある。空母棲姫とヲ級を除いた全員にだ」
響「私達にも?」
提督「そうだ。──利根を、本土へ移送してくれ」
加賀「……それは、そういう事なのよね?」
提督「ああ。出来れば横須賀の現提督の許可が欲しいが、無理ならば金を握らせてくれ。口座と暗証番号は────────だ」
時雨「あ、あの……提督? いくら私達を信用しているからって、口座とパスワードを教えるのは良くないよ?」
提督「そんな事は構わん。それで利根が助かるのならば私の金ならばいくらでも出そう。……頼む」
瑞鶴「……それは分かったから置いておくとしてさ、どうして私達も?」
提督「利根を抱きかかえて移動するとなると、一人は戦闘が出来なくなる。だから戦力を追加しておきたい」
瑞鶴「あー、なるほどね」
提督「頼めるか?」
夕立「私は良いわよ。むしろ、早くいかないと危険っぽい!」
時雨「僕も異論は無いよ」
北上「私も問題なしかな。早く直してあげたいなぁ」
瑞鶴「うん、私も問題ないわ」
響「私もだよ」
金剛「すぐに準備しまショウ。──すみまセンが、燃料と弾薬を分けて下さいマスか?」
加賀・飛龍「…………」
提督「……二人は何かあるか?」
加賀「あります」
飛龍「その間、提督はどうなさるつもりですか」
北上「あ……。そ、そうだよ、どうすんの? 流石に二人も抱えて行くのは無理だし……」
提督「私は迎えの船が来るまでここで待っている」
全員「……………………」
空母棲姫「……おい待て、今なんて言った。ここに残る? 私たち深海棲艦と共に?」
ヲ級「…………」パチクリ
提督「そうだ」
全員「…………」
加賀「ば──」
空母棲姫「馬鹿を言わないでちょうだい。人間が一人で深海棲艦と共にするですって? おまけに、さっき敵に爆撃された島で? また狙われたらどうする気なの? それよりも、私達に殺されないと考えないの?」
加賀(…………この深海棲艦、私と同じ口調で同じ考えを……? 何の真似ですか、それは……?)
提督「……それが素のお前か」
空母棲姫「ぁ……っ」
提督「前に似たような話をしたかもしれないが、本当に敵と思っている相手にそんな事を言う事にメリットは無い。私はお前を信用する。それに、向こうも馬鹿ではない。敵に発見されて撤退する程の相手と戦うならば、必ず準備をしてくるはずだ。その準備期間が、私達の時間制限となる」
飛龍「えっと……その、提督? 後者は分かりましたが、前者は流石に……ね?」
提督「どうした飛龍。何か問題があったか?」
飛龍「大有りですよ!」
北上「そうだよ提督……。いくら今まで一緒に暮らしてきたって言ってもさ、本来は敵同士なんだよ? 私達は今まで提督がまた帰ってくるって信じてたから別の提督の指示を聞いてきただけで、提督が死んじゃったら私達は解体されるのを待つだけだよ……」
加賀「北上とそこの深海棲艦の言うとおりです。提督、一人で残るなどと言わずに誰かを残して下さい。出来れば空母と駆逐艦以外の子──いえ、出来れば金剛さんを残しておいて下さい」
提督「それでは利根を護りつつ本土まで辿り着けるか怪しくなる」
金剛「……私も提督の考えには反対デス。あまりにも危険すぎマス」
提督「ならば選べ。このまま利根を殺すか、充分でない戦力で利根を護り通し甚大な被害と利根の生死が問われる戦いをするか、私の案に乗るかだ」
夕立「う、うぅ……」
提督「言っておくが、利根を死なせた場合は二度と私は提督業に就かん。利根の死を確信した場合、私はその場で自らの命を断とう」
響「……提督、なんでそこまで?」
提督「…………これ以上、私の大切な子達が死んで逝くのは耐えられん。ハッキリと言おう。私は、今度こそ耐える事は出来ない」
加賀「……それは、私達を見捨てる事になってでも、ですか?」
提督「そうなっても、だ。それと、利根だけではない。お前達の誰かが沈んでも同じだ。……私はそんなに強い訳ではないんだ」
加賀「……飛龍に任せるわ」
飛龍「え、ちょっ……私ですか!?」
加賀「そうよ。今、私は感情的になりそうなの。どうするかは貴女の意思で決定して貰うわ。私はその決定に逆らわないし、それが皆にとって最良だと思います」
飛龍「えー……えーっと……皆さんもそれで良いんですか?」
北上「まあ、加賀さんがこう言ってるからねぇ……」
時雨「そうだね。お願いするよ」
夕立「海上ビンタの再来っぽい?」
飛龍「あ、あれはしませんってば!」
金剛(海上ビンタ……?)
飛龍「えっと、その……提督と金剛さん達はどうなんですか?」
提督「飛龍に任せる。私は既に案を出した。後はそれを了承するか別の案を採るかだ」
金剛「私も提督の意思に準じマス。飛龍さん、頼みまシタ」
瑞鶴「……私からもお願いします」
響「金剛さんと瑞鶴さんと同意見だよ」
飛龍「……えっと」チラ
空母棲姫「……何を見ているんだ。この場において私達の意見は無いに等しい。好きにしろ」
夕立(あ、口調が戻ってるっぽい)
飛龍「……はぁ。分かりました。私が決めて良いんですね? それでしたら、私は提督の案に乗ります。──でも、よいしょっと」ゴソゴソ
時雨「? 飛龍さん、艤装を外して座ってどうしたの?」
飛龍「ほら提督、膝枕をさせて下さい。それが条件です」ポンポン
加賀「…………」ジッ
飛龍「大丈夫ですって。私もちゃんと考えてるんですよ?」
加賀「……何を考えているのか分からないけれど、必要な事なの?」
飛龍「ええ。どうしても必要です」
加賀「…………そう。好きになさい」
瑞鶴(……本当に何で必要なんだろ。膝枕よね?)
夕立「…………?」
飛龍「ほら提督、早くして下さい。利根さんをすぐにでも送らなきゃいけないんですから」
提督「……何を考えているのやら。仰向けで良いか?」スッ
飛龍「はい。──よしっ! くらえ!! ひとり二航戦サンド!!」ムニュ
提督・金剛「────ッ!?」
瑞鶴「ぶっ!?」
響「……胸と、太ももで……サンド…………」
北上・時雨「…………え?」ポカン
夕立「え……何、それ……?」
空母棲姫・ヲ級「……………………」
加賀「…………っ!」グイッ
飛龍「──あ、あはは……。ほら加賀さん、落ち着いて、ね? 鬼も逃げそうな顔してますよ……?」
加賀「どうやって落ち着けろと言うんですか……!! 貴女は一体何を考えて──っ!?」ビクッ
提督「…………」ユラッ
北上(あ、やば……)
加賀「!!」ササッ
提督「……ひりゅうぅ…………」
飛龍「は、はいぃっ!!」ビクンッ
提督「吊るされる覚悟は……出来ているんだな……?」ポン
飛龍「…………っ!」グッ
飛龍「……出来て、います! でも、ここでは……出来ませんよね……!?」ビクビク
飛龍「だから──必ず帰って来て下さい……!! あの鎮守府に!! そこでしたら……いくらでも、吊るされます!」ビクビク
提督「────────」
金剛(そ、その為に……アレを……?)ビクビク
提督「…………はぁ……。全く……意味の無さそうな行動に意味を持たせおって……。誰に似たんだ……」ナデナデ
飛龍「め、目の前に居ます……」ビクビク
提督「……全くもって困った奴だ」ナデナデ
北上(……どっちの意味なんだろ?)
提督「ちゃんと憶えておく。生きて帰らなければならない理由が増えたからな」スッ
提督「──整列」
五人「!」ピシッ
金剛・瑞鶴・響「!!」スッ
金剛・瑞鶴・響「!」ピシッ
提督「今から特別任務を与える。利根を抱えた瑞鶴を中心とした輪形陣を組み、横須賀鎮守府へと戻れ。大前提として、誰一人欠ける事無く辿り着く事。利根には私の軍服を羽織らせておく。必要となったら使え。──良いな?」ソッ
八人「はいっ!!」
提督「良い返事だ。──これより任務を開始!! 必ず成功させろ!!」
八人「はいっ!!」タッ
提督「……………………行ったか」
空母棲姫「……本当に行ってしまったな」
ヲ級「…………」フリフリ
提督「行ってくれなかったら困るよ」スッ
提督(しかし……『必ず成功させろ』か……。あまり言いたくなかったのだが……許せ)
空母棲姫「……だが、解せん。いくらそれしか無いとはいえ、どうして深海棲艦である私達と残ろうと思った?」
提督「日頃の行いと、その姿を見れば充分に信用できる。また派手にやられているじゃないか」
空母棲姫「…………」
提督「大方、深海棲艦から敵と認識されたのだろう?」
空母棲姫「……察しの良い奴は嫌いだ」フイッ
提督「まあ、ここを無事抜け出せたら付いて来い。悪いようにはせん」
空母棲姫「…………」
空母棲姫(……ああ、そうだな…………私達にはもう、味方はこの人間しか居ない……。生きる為の選択肢など、他にありません……)
空母棲姫「……ごめんなさいね」
提督「構わんよ。お前達は私達の恩人だ」
空母棲姫「どっちが恩人になるのかしらね。命を助けて貰ったのは、これで二度目なのだけれど?」
提督「さてな。……ん?」
ヲ級「よろしく」ニコニコ
提督「ああ、これからもよろしくな──」
……………………
…………
……
今回はここまでです。遅くなった上に少なくてごめんよ。また一週間後くらいに来ますね。
ひとり二航戦サンドは、ゆーまさんのネタを拝借させて頂きました。勝手に使ってすみません。
このネタは非常に好きなので、もっと広まってくれないかなぁ。
加賀「──そうですか。ありがとうございます」パタン
飛龍「利根さん、どうでしたか?」
加賀「! 飛龍、秘書艦の代理はどうしたの?」
飛龍「アハハ……提督に利根さんを気にしているのがバレバレだったみたいで……」
加賀「それで暇を出されたって訳ね」
飛龍「そういう事です。それに甘えてしまいました」
加賀「しょうがないわね……。──利根は無事よ。さっき処置をして貰って、容態が安定したらしいわ」
飛龍「ほっ……良かったぁ……」
加賀「……それで、そっちの方はどうなの?」
飛龍「え、えーっと、それなんですけど……。…………出撃の許可は下りませんでした」
加賀「…………」ピクッ
飛龍「ちょ、ちょっと待って下さい! 最後まで話を聞いて下さい!」
加賀「……何があったのかしら?」
飛龍「すぐに出撃をして提督を迎えに行く、というのは危険過ぎるからだそうです。もう日が暮れていますから空母の私達は戦力外ですし、そんな状況で人を乗せられる船なんて出せない、と仰っていました」
加賀「……なるほどね。確かに、私達は焦り過ぎていたわ」
飛龍「ええ……。今出撃をしても、途中で撤退を余儀なくされるのは目に見えている事でした……」
加賀「それで、夜が明けてからは良いという事かしら?」
飛龍「はい。明日に出撃をする許可は貰えました。というよりも、明日と明後日の予定は全てキャンセルして下さいました」
加賀「……よく二日も休日に出来たわね?」
飛龍「提督の制服が役に立ったようです」
加賀「そういう事ね。私達の提督は、あの人よりも上の階級だもの。あの人も悪い人ではないから協力してくれたのね」
飛龍「ええ。本当に感謝で一杯ですよ」
加賀「それならば、選りすぐりの子達で迎えにいけるわね。……その様子だと、編成の事について私と相談もあるのかしら?」
飛龍「そうです。明日の事は私達に一任させてくれるので、加賀さんと私で編成を決めましょう。」
加賀「分かりました。では、空室を一つ借りましょう。その方が良いわよね?」
飛龍「他の子達に知られてしまうと、絶対に押し寄せてきますもんね……」
加賀「そうなるわね。──さて、迅速かつ綿密に編成を考えましょう。私は部屋の鍵を借りてきますので、貴女は全員に早く寝るよう伝えてきて。朝一番の出撃の可能性があるもの」
飛龍「ハイ!」タタッ
加賀「……提督、無事よね?」
……………………
…………
……
ヲ級「食べ物、採ってきた!」トコトコ
提督「うむ。助かる」ナデナデ
ヲ級「~♪」
空母棲姫「…………」
提督「どうした、そんなに難しい顔をして。苦手な物でもあったか?」
空母棲姫「……いや、単純に何もしていない私が食べても良いのだろうかと思っただけだ」
提督「気にするな。むしろ、その状態であちこち動き回られると心配で堪らん」
空母棲姫「そう、か……」
提督「今はその身体を治す事を考えてくれ。命が無ければ何も出来ないだろう?」
空母棲姫「……………………分かった……」
提督(無理矢理に納得したのか?)
空母棲姫「…………」
空母棲姫「……………………」
提督「……さて、今回は少しだけ面白い料理を作ってみようか」
ヲ級「面白い?」
提督「ああ。今まで作った事のない料理だ」
ヲ級「楽しみ!」
提督「恐らく初めて食べる味だろう。嫌だった場合は言ってくれ」ゴソゴソ
空母棲姫(…………)
ヲ級「葉っぱ?」
提督「これはバジルと言ってだな──」
空母棲姫(……ああ、本当にどうしましょうか…………)
提督「──とはまた違った────そして────」
空母棲姫(私達は、艦娘からも深海棲艦からも敵視されるでしょう……。そうすると、もう海の上に居る事は出来なくなります……)
ヲ級「──辛い……? それって──」
空母棲姫(そもそも、この人は人間……。絶対的な敵である深海棲艦をどうしようと言うのですか……?)
空母棲姫(もう、他に私達の安全を確保できる場所も人も居ない……。けれど、この人間が安全だとも絶対には言えません。もしかすると鎮守府に戻った際に実験台にされる可能性もありますし、生きた敵艦のサンプルとして研究されるかもしれない……)
空母棲姫(そうであるならば、楽に死ねる方がずっと良いです。気が狂ってしまいそうになる環境で生き続けるくらいならば、さっさと死んでしまう方が遥かに良いでしょう……)
提督「────────」
ヲ級「────?」
空母棲姫(……分からない。分かりません。この人間を信用しても良いのか、してはいけないのか……分かりません)
空母棲姫(今までの行動を省みるならば、私達の身体を修理してくれたり共に協力したりしていましたが……状況が変われば変わってしまうかもしれません……。もしかしたら、抵抗無く鹵獲する為にやってきただけかもしれない。中将の階級である事から、そうであっても不思議では──)
空母棲姫(…………ああ、思考がループする……。何が本当で、何が嘘で、何がどうなるのかが分かりません……)
空母棲姫「……どうしたら、良いのでしょうか」ボソ
提督「ん? 今何か言ったか?」
空母棲姫「……なんでもない。ただの独り言だ」
提督「……そうか」
ヲ級「…………」トコトコ
空母棲姫「……なんだ?」
ヲ級「姫、大丈夫。大丈夫だよ」ニコニコ
空母棲姫「────────」
ヲ級「ね?」ニコニコ
空母棲姫「……本当だな?」
ヲ級「うん」ニコニコ
空母棲姫「…………ならば、私も信じましょう。諦める事はあっても、後悔だけはしないようにするわ」
提督(……どういう話なのか分からんな。だが、空母棲姫のさっき見せた壊れてしまいそうな表情を考えれば、私について行くのが不安といった所だろうか)
提督(口を挟まないようにしておこうか。今ここで私が何を言っても、こいつを困らせてしまうだけだ)
空母棲姫「……なあ人間」
提督(と思った矢先にこれか)
提督「なんだ」
空母棲姫「私達は、本当に大丈夫なんだな?」
提督「出来る限りの事をする。艤装を外し、多少の化粧でもすれば深海棲艦とバレなくなるだろう。少なくとも、我々人間からすれば見た目だけでは人間と艦娘の違いが分からん。人型の深海棲艦は肌が青白いから区別が付くくらいだ」
空母棲姫「……なるほど。そういうものなのね」
ヲ級「でも、私、艦娘と人間の、違い分かるよ?」
提督「む、そうなのか?」
空母棲姫「ええ。私も分かります。感覚としか言えないけれど、なんとなくで分かるわよ」
提督「ふむ……そうなると、艦娘も同じ可能性があるな」
空母棲姫「人間を欺く事が出来ても、艦娘はどうするのかしら。何か妙案でも?」
提督「……二つ例を挙げるならば、人前に極力顔を出さないという事」
空母棲姫「確実ね。でも、限界はくると思うわ。──もう一つは?」
提督「私に付き従ってくれている子達には言い聞かせ、他言させないようにする。そうすれば、外部の艦娘でも来ない限り気付かれる事はないだろう」
空母棲姫「……難しくないかしら」
提督「ああ、難しい。あの子達ならば時間があれば理解してくれるだろう。だが、何かがあってお前達の情報が外に漏れる可能性も充分にある」
空母棲姫「綱渡りね」
提督「ああ、綱渡りだ」
ヲ級「でも、このままより、ずっと良い」
空母棲姫「ええ。今よりも良いわ。私は二つ目の案を推したく思います」
ヲ級「私も!」
提督「そうか。ならばそれで進めていくとしよう。──だが、それでも問題はまだある。お前達を鎮守府に置いておく理由を作らなければならない」
空母棲姫「……こればかりは思い付けそうにないわ。ごめんなさいね……」
提督「ああ……。私が鎮守府の運営をしていた時も足りないと思った役職など特に無かった。秘書として仕えさせるのは色々と問題があるから除外だ」
ヲ級「どうして?」
提督「秘書に就くという事は、それだけ外部の人間と接する機会が増える。その分だけお前達の存在がバレやすくなるだろう。そして、深海棲艦を秘書にするまでいってしまえば流石に反対意見を出す者が多く出てくるのが目に見える」
空母棲姫「加賀という艦娘なんかは猛反発しそうね」
提督「ああ。だから、何か良い理由があれば良いのだが……」
空母棲姫「…………」
提督「……………………」
ヲ級「!」ピン
ヲ級「ご飯!」
空母棲姫「……どうしたの? 待ちきれなくなったのかしら」
提督「ああ、そうだな。そろそろ作ると……………………ふむ……そうだな。ふむ……」
空母棲姫「…………?」
ヲ級「ご飯、作る! 私達が!」
空母棲姫「…………」
提督「良いかもしれん。流石に間宮と伊良子の二人で鎮守府の食事を作るのは大変なはずだ。艦娘の数が増えた事による食事を作る人手不足を理由に二人を正式に在籍させてしまえば良いか」
空母棲姫「在籍させるという事は、上に報告書を通すのではなくて?」
提督「そうなる。だが、そういう事例は既にある。大艦隊を率いている大将が居るのだが、元は一般の料理人を在籍させている。詳しくは憶えていないが、確かその大将が募集を掛けて集めた者達という話だ」
空母棲姫「……良いですね。現状、それが一番可能性が高いでしょう」
提督「だが、お前達は料理の事を一切知らない。料理の事について勉強をして貰う事になる」
ヲ級「美味しいもの、作りたい!」キラキラ
空母棲姫「……興味が無いとは言いません。確かに貴方の作る料理はおいし──」ハッ
提督「…………」
空母棲姫「……………………その……」
提督「…………」
空母棲姫「……美味しい、と……思いました」フイッ
ヲ級「照れてる」ニコニコ
空母棲姫「口に出して言わないで下さい……!」
ヲ級「姫、良い顔してる」ニコニコ
空母棲姫「…………っ! ふん……」
提督「気に入ってくれているのならば良かった。では、晩飯を一緒に作ってみようか」
ヲ級「うん!」
空母棲姫「ぅ……はい……」
…………………………………………。
今回はここまでです。また一週間後くらいに来ますね。
問題が解決したら、なぜか解決した事によって問題が生まれるんですよね。
提督も、利根さんも、他の子達もどうなるかな。
ヲ級「はむはむ……」ガジガジ
空母棲姫「…………」モグモグ
提督「ふむ……味はどうだ?」モグモグ
ヲ級「美味しい! ……けど、何か違う?」
提督「うん? 違う?」
ヲ級「良く分からない。けど、何か違う、気がする」
提督「ふむ……バジルを使ったから味が違うという意味ではないのか?」
ヲ級「うん。自分のより、提督が、作ったの、好き!」
提督「……………………」
提督(……金剛が昔言っていた、料理には愛情をとか言っていたのは本当なのか? ──いや、まさか。単純に腕の違いなだけだろう。それか、料理を知らない自分が作ったものという偏見でもあるのだろうか?)
提督「お前はどうだ? 苦労していた分、愛着が沸いていそうだが」
空母棲姫「……正直に言うと、微妙です」
提督「微妙?」
空母棲姫「あなたが作っていた物が料理ならば、私の作った物は料理と言えないような……そんな不思議な微妙さです」
提督「……お前も難しい事を言っているな」
空母棲姫「私自身もよく分かっていないの。ごめんなさいね」
提督「……そうか。それで、自分で食事を作ってみた感想はどうだ?」
ヲ級「楽しかった!」
空母棲姫「私は難しかったという印象です。ただ焼くだけだと思っていましたが、火加減や魚の様子を見てどうするべきなのかを判断しなければならないとは思いもしなかったわ」
提督「慣れれば難しくはなくなる。何事も経験あってこその実力だ」
ヲ級「頑張る!」
提督「良い子だ」ナデナデ
ヲ級「んー♪」ホッコリ
空母棲姫「……本当、驚くくらいに懐いているのね」
ヲ級「提督、優しくて、頭、撫でてくれる。気持ち良い!」
提督「……そんな事で懐いたのか?」
空母棲姫「あとは人徳ではないでしょうか。初めは敵でしたが、修理をしてくれたのは事実ですし、私達の事も考えて下さっています。……むしろ、今では敵と思いたくないですね」
提督「ほう。随分と素直になってきたな」
空母棲姫「ですが、そうやって私をからかうのは嫌いです」フイッ
提督「なに。私の性分だ」
空母棲姫「今までからかった事はほとんど無かったと思うのだけれど」
提督「それだけ私にも余裕が出てきたという事だ」
空母棲姫「……困った人ね。そういう事をするのだったら、私にも考えがあります」
提督「ほう。何をする気だ?」
空母棲姫「ひとり二航戦サンドだったかしら。あれをします」
提督「やらせるものか。むしろ、恥ずかしくないのか?」
空母棲姫「どうせもう裸を見られているもの。今更どうって事はありません」
提督「…………そういう問題か?」
空母棲姫「そういう問題よ。証明しましょうか?」スッ
提督「やるんじゃない。私には心に決めている人が居る」
空母棲姫「意外ね。仕事一筋のような印象だったのだけれど」
提督「私も人の子だからな。愛したら一筋だ」
空母棲姫(……そう言う割には結婚指輪を付けていないわね。まだ籍を入れていないという事なのでしょうか?)チラ
提督「…………」
ヲ級「ね、提督」
提督「ん、どうした」
ヲ級「寝る場所、無くなったけど、どうするの?」
提督「……そうだな。こうもバラバラだと、寝るどころか雨風も凌げん」
空母棲姫「困りましたね……」
提督「……一先ずは台のようなものを作って、その上に生き残っている布団を敷こう。大きい板は辛うじて残っているから、それで雨を凌ぐしかない。風は諦めるか」
空母棲姫「それしかないわね。……改めて空爆が厄介だと認識しました」
提督「空爆の鬼が何を言っているんだ……」
空母棲姫「やるのと受けるのとでは大きく違うというのも実感しているわ……」
提督「そういうものなのか……?」
空母棲姫「貴方は指揮を受けるのと指揮するのとでは大きく違うと思わないのかしら?」
提督「なるほど、そういう事か」
空母棲姫「……それにしても、作るのは大変そうね」
提督「ああ、本当にな……。さっさと作ってしまおう。暗くなってからでは遅い」
ヲ級「はーい!」
空母棲姫「分かりました」
…………………………………………。
ヲ級「できた!」
提督「……なんとか一つは作れたな」
空母棲姫「……予想はしていましたが、やはり不恰好ですね」
提督「思ったより大きい板が少なかったな……」
空母棲姫「こんなバラバラになる程だったのに、よく死ななかったですね……」
提督「私の悪運は強いという事か」
空母棲姫「悪運なのか天運なのかは分かりませんが、生きているという事はまだ何かやらなければならない事があるのでしょう。……だからと言って無茶はしないでちょうだいね?」
提督「状況によるが、概ね大事にしようか」
空母棲姫「……貴方の事は信用しているけれど、今の言葉は信用できないわね」
ヲ級「無理、しそう」
提督「…………」
空母棲姫「その様子だと、貴方の艦娘からも同じ事を言われていそうね」
提督「……勘が良いな。その通りだ」
空母棲姫「貴方の普段の言動を見ていれば何となく想像がつくわ。それで頭を悩ませた子が一体何人居るのかしら」
金剛『────────!』
瑞鶴『────……?』
響『────。────────』
提督「……さて、何人だったかな」
空母棲姫(……これは踏んではいけない話だったかもしれませんね)
提督「話を戻すが、二人はこの簡易ベッドに乗ってみてくれないか。バランスや傾きが無いか確かめて貰いたい」
ヲ級「はーい!」ピョン
空母棲姫「飛び乗らないの。壊れたら危ないでしょう?」ギシッ
ヲ級「……ごめんなさい」
空母棲姫「分かれば構いません。──バランスや傾きは特に問題ないと思うわ。上々です」
提督「そうか。良かった」
空母棲姫「では、貴方も乗って貰いましょうか」
提督「ん? なぜだ」
空母棲姫「三人が乗れるかの確認は必要で──……まさかとは思いますが、自分は地面で寝ようと考えていたとか言うのかしら」
提督「…………いや、地面ではないぞ」
空母棲姫「ハッキリとした答えではないという事は、地面ではなく板の上だとか言うのでしょうね」
提督「……………………」
空母棲姫「やはりですか……」
ヲ級「それ、だめだよ?」
提督「……心に決めている人が居るというのに、お前達と寝床を共にするのは──」
空母棲姫「利根という艦娘とは共に寝ていたわよね」
提督「……………………」
ヲ級「…………」ヂー
空母棲姫「…………」ジッ
提督「……はぁ…………。どうしてこうなるんだ……」
空母棲姫「それはこちらの台詞です。どうして貴方はそうなのですか。自分勝手かと思えば変な所で自己犠牲があって困ります。まるでどこか壊れてしまっているかのようで……なんて言えば良いのかは分からないけれど、冷静なその顔の向こうは焦っているような……そんな気がします」
提督「……そうか」
空母棲姫(……落ち込ませてしまいました。私は、もう少し言葉を穏やかにした方が良いのかしら……)
提督「…………」
空母棲姫(気遣うような言葉を使えば良いのでしょうか。……いえ、今はこの話題を置いて話を戻しましょう。なるべく、そうしなければならないように思わせて……)
ヲ級「…………?」
空母棲姫「……とりあえず、貴方は体調が悪くならないようにベッドで寝るようにして下さい。貴方の艦娘の為にも、貴方自身の為にも」
提督「……分かった」
…………………………………………。
一先ずはこれで区切ります。
また夜に来るかもしれませんが、あまり期待しないで下さいませ。
これ一スレで終わるのかな。割と本当に怪しくなってきた。
ちょっと久々に書き溜めじゃない投下をしますね。
たぶん二十分おきくらいに投下するかも。筆が乗るようならば十分おきになるかと。
ヲ級「くー……くー……」
提督「…………」スー
空母棲姫「…………」
もぞ……
提督(……む?)
空母棲姫「…………」ソロソロ
提督(朝か……。空母棲姫はベッドから抜け出してどこへ行く気だ?)モゾ
ヲ級「みぃーやぅぁ……」ギュー
提督「…………」
ヲ級「あぅぁたかぃ……ぃー……」クー
提督(……これでは起こさなければ出られなさそうだな。しかし……なんて言っているんだ、これは……?)
ヲ級「んぅー……」
提督(改めて思ったが、深海棲艦は体温が低いな。こうしてくっつかれていると良く分かる。……いつもは海の上に居るからか?)
提督「…………」
提督(ふと思ったが、普段はどうやって寝ているんだ……? 周りに海しかない場所でも昼夜問わず現れるという事を考えると、海の上で寝ているか……それとも水底で……?)
提督(……本当にそうしていそうと思えてしまう。なんというか、そうしている姿が容易に想像できる)
提督「……少し甘えさせてやった方が良いかもしれん」ナデ
ヲ級「みゅぅ……」スリ
…………………………………………。
空母棲姫(さて……昨日教えて貰った事を思い出しながら作ってみたけれど、あまり上手くいったとは思えないわね……。少し焦げてしまったわ)
空母棲姫(味は……)モグ
空母棲姫「……昨日より微妙ね。どうしましょうか、これは……」
空母棲姫(だからと言って捨ててしまうと食材が足りなくなりますし……難しいです。本当に上手く料理が出来るようになるのかしら……)
空母棲姫「困ったわ……」
提督「何が困ったんだ?」
ヲ級「どしたの?」
空母棲姫「ひゃっ……!」ビクンッ
提督「…………」
空母棲姫「……何ですか、その驚いた顔は? そんなに今の声がおかしかったのですか?」ジトッ
提督「意外だっただけだ。そう噛み付いてくれるな」
空母棲姫「ふん……どうだか」
ヲ級「ね、姫。料理、してたの?」
空母棲姫「……料理と言えるかどうかは分からないけれど、作っていたのは事実よ」
提督「ふむ。お前が一人で作った料理か。楽しみだ」
空母棲姫「嫌味かしら、それは?」
提督「いや、期待している方の意味だ。苦労をして会得する技術は総じて良いものだと私は考えている。だから、楽しみだ」
空母棲姫「……おだてても何も出ないわよ」
提督「朝食は出てくるだろう?」
空母棲姫「……なんですか、その返しは。……もう良いです。さっさと食べて下さい。味は保障しませんが」
ヲ級「姫、ありがと!」ニパッ
提督「うむ。頂こう。──ふむ。昨日の焼き魚のバジル風味からバジルを抜いたのか」
空母棲姫「ええ。本当はバジルを使いたかったのだけれど、あれはもう無いので使えませんでした。……おかげで、本当にこれで良いのか迷ったわ」
提督「構わんよ。あれは薬味みたいなものだ。無くても美味いものは充分に美味い。──では、頂く」ガジ
ヲ級「いただきます!」ガジガジ
提督「……ふむ」モグ
ヲ級「あむあむ……」ガジガジ
空母棲姫「……どうですか? 不味くはありませんか?」
提督「少し焦がしてしまっているが、充分に美味いよ」
ヲ級「うん! おいしい!」
空母棲姫「……本当ですか? 私が味見した時は昨日よりも微妙だったのだけれど」
ヲ級「本当だよ?」
提督「ああ。昨日よりは上手く出来ている」
空母棲姫「…………本当だとしたら、どうして私だけ美味しいと思わなかったのでしょうか」
提督「先入観かもしれんな」
空母棲姫「それが何か関係があって?」
提督「無いとは言い切れないくらいのものだが、あるのは確かだろう。──『自分の腕はまだまだ未熟だから美味しい訳がない』『初めが微妙だったのだから、今回も微妙かもしれない』と思っていたりするとな」
空母棲姫「……驚きました。どうして私が作っている時に思っていた事を言い当てられたのですか?」
提督「それはただの偶然だ。なんとなく、そう思っていそうだと予想した」
ヲ級「…………」ガジガジ
空母棲姫「…………そうですか」フイッ
提督(照れているのか、これは)
ヲ級「…………」ガジガジ
空母棲姫「……まあ、良いです。私も頂きましょう」ガジ
空母棲姫「…………」
提督「どうした?」ガジ
空母棲姫「……なぜか少し味が良くなっている気がします」
提督「そうか。良かったじゃないか」
空母棲姫「何かしたの?」
提督「何もしていないのはお前も分かっているだろう……。単純にお前の意識が変わっただけじゃないのか?」
空母棲姫「……良く分からないわね。料理というものは」ガジ
提督「難しい事は確かだ。色々とな」ガジ
ヲ級「…………」ガジガジ
…………………………………………。
ヲ級「ごちそうさま!」
提督「馳走になった」
空母棲姫「お粗末さまです」
空母棲姫「…………ん?」
提督「どうした」
空母棲姫「……いえ、なんでもありません」
空母棲姫(何か今、心の奥が温かくなったような……? 気のせいでしょうか)
ヲ級「ね、何する?」
提督「……そうだな。以前にも増してやる事が少ないから困るな……」
空母棲姫「今後の事について事前に打ち合わせをしておくのはどうかしら」
提督「なるほど。確かにそれが良いな」
ヲ級「打ち合わせ?」
提督「お前達は今までどこで何をしていたか、というのを決めておく。もし外部の人間に聞かれても問題の無いように、簡単にでもな」
ヲ級「ヲー……」
空母棲姫「たぶん分かっていないわね、この子」
提督「だろうな。後で要点だけ教えておく方が良いかもしれない」
空母棲姫「それが最善かと」
提督「しかし、打ち合わせをする間は暇をさせてしまうな……」
空母棲姫「……………………そうですね、こっちに来なさい」スッ
ヲ級「?」トコトコ
空母棲姫「膝の上に座って」
ヲ級「うん」チョコン
空母棲姫「…………」クシクシ
ヲ級「ヲー……?」
提督「ふむ。髪を梳くか」
空母棲姫「どうかしら。嫌じゃない?」
ヲ級「んー……? ちょっと、よく分からない」
空母棲姫「……そうですか」
ヲ級「でも、もっとして欲しい、気がする? ような感じ」
空母棲姫「そうですか」クシクシ
ヲ級「あ、そこ。気持ち良い」
空母棲姫「ここ?」クシクシ
ヲ級「もう少し、左。──そこ!」
空母棲姫「ここね」クシクシ
ヲ級「んー♪」
提督「どうやら気に入ったようだな」
空母棲姫「……少しだけ、不思議な気持ちになるわね」クシクシ
提督「ああ、分かる」
空母棲姫「あら、貴方も分かるのですか?」クシクシ
提督「既に経験済みだからな。……本当にこれが気持ち良いのかが今でも疑問だ」
ヲ級「良いよ? これ」
提督「だ、そうだ。お前もされてみるか?」
空母棲姫「私の髪は長過ぎて梳くに梳けないと思うのだけれど」クシクシ
提督「そうだな。せめて地面に付かないくらいには短くした方が良いだろう。料理をするから特にな」
空母棲姫「それでも普通よりかなり長くないかしら」クシクシ
提督「長いのは確かだが、何か思い入れでもあるんじゃないのか?」
空母棲姫「……確かにそうですが」
提督「ならば必要な分だけ切って、長いままにしても構わないだろう。料理の際にしっかりと束ねて邪魔にならないようにすれば問題無い」
空母棲姫「そんなものなのですか」クシクシ
提督「そんなものだ」
空母棲姫「分かりました。ある程度は切っておきます」クシクシ
提督「切る時は私が切ろう。……確認しておくが、変な物で切ったりしようとするなよ?」
空母棲姫「流石にそんな事はしません。どういった想像をしているのかしら」クシクシ
提督「まあ……海の上にハサミなど無いと思ったからだ」
空母棲姫「だからこそ、ここまで伸びてしまったのだけれどね」クシクシ
提督「なるほど。──さて、それではそろそろ打ち合わせに入るとしよう」
空母棲姫「ええ、そうしましょうか」クシクシ
ヲ級「んぅー……?」ウトウト
空母棲姫「貴女は寝ていても構わないわ。起きた時にちゃんと話します」
ヲ級「分かったー……」
提督(……しかし、改めて見ると子供を世話する母親に見えるな)
空母棲姫「今、何か失礼な事を考えていなかった?」
提督「何も。ただ単に仲睦まじい親子のようだと思っただけだ」
空母棲姫「……微妙ですね、それは」
提督「……そうか」
空母棲姫「まあ、流しておきましょう。──それで、まずは何から決めましょうか」
提督「そうだな。まずはどういった経緯で鎮守府にやってきたのかを──」
…………………………………………。
二時にもなりましたし、一区切りが付けられる場所にもなりましたので今回はここまでにしておきます。たぶん、また一週間以内に来ると思います。
今回は状況がほとんど変わらないお話だったからつまらなかったかも。ごめんよ。
名前は空母棲姫だけど格好としては空母棲鬼なのかもしれない
>>695
そういえば分かるように書いてなかった。ごめんよ。
普段は空母棲鬼の姿ですけど、中破大破になるにつれ空母棲姫のような破廉恥な格好になっていってます。提督が直した直後辺りが鬼の方で、今現在は姫の方の姿です。
空母棲姫「──では、私達は各地を転々としていた根無し草の姉妹で、料理人募集の張り紙があったから雇われたという形で居れば良いのですね?」
提督「それで良いだろう。過去の事についてはヲ級が幼い頃に家庭が崩壊でもしたとして、この子は憶えておらずお前がある程度憶えているくらいで良い」
空母棲姫「父が酒と博打で身を滅ぼし、酔ったまま冬の川に落ちて死亡。生活をする為にコツコツと貯めていた貯金を博打に使われた事と、夫を失った苦悩で母はどこかへ蒸発。その日限りの仕事や拾った物で食い繋いできた──という形だったかしら」
提督「ああ。だが、細かい部分は聞かれない限り話さなくて構わん。あえてぼかす事で勝手に向こうが『そういうものか』と納得する。軽く言う時は『姉妹で彼方此方を転々としていたらこの場所に行き着いた』とでも言えば良い」
空母棲姫「なるほど。ぼかせば曖昧のままですから融通は利きますし、あまり話したがっていないようにも聞こえるから深くは聞いてこないという事ですか」
提督「そういう事だ。相手の態度次第だが、深く聞かれたら一つ二つは答えて後は嫌悪感を示せば良い。人間はあまり語りたくなさそうにしている相手には深く追求しないはずだ。もし追求された場合はハッキリと拒否をして相手しないようにしてしまえ」
空母棲姫「それが貴方の上官だった場合はどうするの?」
提督「丁寧に断れば大抵はどうにかなる。どうにもならなかった場合はハッキリと拒絶して構わん。多くは語りたくない事なのでお許し下さい──とでも言えば良いだろう」
空母棲姫「その上官がゲスだったらどうしましょうか」
提督「その時は無理矢理にでも話を終わらせてから離れろ。権力のある人間がそこまでやってしまえば槍玉に挙げられるか、もしくは女を口説こうとして失敗したという下らん話になるかのどっちかだ」
空母棲姫「分かりました。……ここからが本当の問題なのだけれど、この子にはなんて説明をすれば良いかしら」
ヲ級「くー……」
提督「この性格だからな……。とにかく何も知らないという事と、知らない人には付いていかない、挨拶はすれど深くは接さないを徹底させたら良いかもしれん」
空母棲姫「その場合は相手に不快感を与えて憶えられるのでは?」
提督「それもそうか……。そうだな……姉がいつもなんとかしていたから詳しくは知らないで押し通すか……?」
空母棲姫「それも無茶がありそうね。……私が大体の事をしてきていて、この子は私の言うとおりに過ごしてきた、とでもしましょうか。それならば奔放になっていてもおかしくはないのでは?」
提督「もう少し何か説得力が欲しいな。……陸にかなり近い場所で釣りや素潜りをして魚介類を手に入れていたとしてもするか?」
空母棲姫「そうなると、今までは海に近い場所で転々としていたという方向に変えた方が良さそうね」
提督「ああ。基本的に姉がどこかに働きに出ている間はその日の食材を少しでも集めていたとしよう」
空母棲姫「ええ、そうしましょう。──とりあえずは『姉がやっていた事は詳しく知らない』『海辺で魚や貝、海草を取ってご飯にしていた』くらいで良いかしら」
提督「そうしよう。後、知らない人には付いていかないという事と、しつこく聞いてくる人には『やらなければならない事がある』と言って離れるようにさせなければならんな」
空母棲姫「もう一つあります。私達の名前をどうするか、です。流石に答えられないのは問題があります」
提督「空姫や空(うつほ)にでもするか?」
空母棲姫「……うつほとはどういう漢字なのですか」
提督「空と書いてうつほと読む。本来はうつおと読むんだが、少しでも女らしくなるように古い読みで『ほ』にした」
空母棲姫「どちらにせよ女らしくないのだけれど」
提督「……………………」
空母棲姫「ですが、悪くないと思います。どちらも空母である私達に関連しているものね。それでいきましょう。……一応確認だけれど、空姫は私で空はこの子の事よね?」
提督「ああ」
空母棲姫「分かりました。では、貴方の迎えが来るまでの間はこの事を頭に叩き込ませましょう」
提督「程々にしてやれよ?」
空母棲姫「……出来るだけ優しくします」
提督(……少し不安になるな)
…………………………………………。
金剛「…………」ボー
瑞鶴・響「…………」
金剛「……隠れているというのは暇デスね」
瑞鶴「うん……。加賀さんの案で横須賀の皆には見付からないようにこの島で待機してるけど、中将さんの所より何もする事が無いわね」
響「お弁当や保存食も貰ったし、本当に何もする事が無いよ。……提督の膝の中が恋しい」
金剛「響は提督にとても懐いているデスね……。サラリとそんな言葉が出るナンテ……」
響「金剛さんはそう思わないの?」
金剛「私は響や利根のようにして下さった事はないので、あまり……」
響「今度して貰うと良いよ。あれは癖になる」
瑞鶴「癖になるって……また不思議ね」
響「本当さ。中毒になるとも言える」
瑞鶴「ふぅん……? じゃあ、私でやってみる?」
響「ん。お願いしたい」
瑞鶴「良いわよ。……えーっと、胡坐だったわよね、確か」スッ
響「うん」
瑞鶴「むー……? こんな感じかしら。この座り方ってほとんどしないから分かりづらい……」
金剛「もう少し閉める感じではないデスか?」
瑞鶴「こうかしら……」グッ
金剛「メイビー……」
響「良い?」
瑞鶴「うん、良いわよ」
響「よいしょ」ソッ
瑞鶴「どう?」
響「……失礼かもしれないけど、少し小さい」
瑞鶴「ち、ちいさ……!? ──って、違うわよね……うん。ごめん」
響(……何と勘違いしたんだろう)
金剛「提督は身長が高いデスからね。そして鍛えていますので、座り心地も違うでショウ」
響「うん。凄く違うよ」
瑞鶴「同じ胡坐でも違うものなのね……」
響「ありがとう、瑞鶴さん」スッ
瑞鶴「どういたしまして」スッ
響「……それで、どうしよう」
金剛「……本当、どうしまショウか」
瑞鶴「困ったわねぇ……」
……………………
…………
……
北上「やっほー提督ー」
加賀「遅くなってすみません」
飛龍「救命艇を引っ張ってきました。……何分、色々な事情がありそうですので小型で一人でも操縦できるタイプにしました」
提督「ありがたい。それに、遅くなどない。すぐに来てくれているじゃないか」
飛龍「本当はすぐにでも向かおうとしたのですが、夜に出撃するのは危険が多いという事で一晩待ってしまいました」
提督「それは正しい判断だ。……私の後釜に座ってくれている者はマトモのようで助かる」
夕立「それでも提督さんが良いわ! 早く提督さんと一緒に暮らしたいっぽいー!」
時雨「それには僕も同感だよ。……それで、やっぱり連れて行くの?」チラ
空母棲姫「…………」
提督「連れて行く。既に敵意は無いと分かるだろう?」
北上「まあ、確かにそうだけどさ……」
加賀「…………」ジッ
空母棲姫「…………」
ヲ級「?」
加賀「……私は信じます。提督が信用する程ですから、相応の誠実さがあるのでしょう」
提督「さり気なく私を貶していないか?」
加賀「私はアナタが艦娘や妖精以外を信用した姿を見た事が無いのだけれど」
提督「……確かに無いな」
加賀「そうでしょう? だから、てっきり忠誠を誓う艦娘や仕事熱心である妖精以外は信用しないのかと思っていました」
提督「……強ち間違っていないから困る」
空母棲姫(仲が良いですね。……なぜでしょうか。少し、羨ましいと思いました)
提督「……この話は置いておこう。二人の扱いについてだが、本土へ戻る前に説明しておく──」
……………………
…………
……
コンコンコン──。
後任提督「どうぞ」
ガチャ──パタン
提督「失礼する」
後任提督「!!」ピシッ
提督「いや、手は下げてくれ。私は途中で降りてしまった者だ。敬われるような存在ではない」
後任提督「分かりました。──お久し振りです、中将殿。だいぶ痩せられてしまいましたね」
提督「何分、魚しかなかったからな。──それよりもあの子たちが全員、元気そうで安心したよ。迷惑を掛けてしまっていなかったか?」
後任提督「いえ、そんな事はありません。むしろ私の方が迷惑を掛けてしまい、フォローも受けていました。優秀な子たちで助かっています」
提督「そうか。それは良かった」
後任提督「……ここへやってきたという事は、復帰なされるのですか?」
提督「ああ。やらなければならない事が出来てしまった。三年近くも掛けて、やっと気付いた愚か者だ」
後任提督「そうですか……。勿論、この鎮守府を使いますよね?」
提督「いや、ここはもはや君の鎮守府だ。後から来た私が別の鎮守府に行くべきだろう」
後任提督「そう仰らないで下さい。私ではこの鎮守府は大き過ぎます」
提督「大き過ぎる? ……まさかとは思うが」
後任提督「そのまさかです。新しい戦力はほとんど追加しておりません」
提督「なぜだ? 私の艦隊は軽巡や重巡、大型戦艦の数が少なかったはずだ。色々と苦労しただろう」
後任提督「なんと言いましょうか……。あまり追加したくなかったというのが本音です」
提督「ふむ」
後任提督「私が手を加えてはいけないような、そんな良く分からない感覚です。それと、やはりやるからには自分が一からやりたいと思いました」
提督「そうか。という事は、三年近くも待たせてしまったという訳だな。すまない」
後任提督「ハハ……。そこは下積みの時代と考えます。実は上と掛け合って、空いている鎮守府への異動申請もしているんです」
提督「手が早いな。さぞかし楽しみにしていたと見た」
後任提督「その通りです。後は中将殿のご許可が頂き、引継ぎが終われば申請は受諾という形になります」
提督「……よく私が復帰する事を上は承認したな」
後任提督「なんだかんだで提督に成り得る人は少ないですからね。上も即戦力となる人材が欲しいのでしょう」
提督「そういう事か。──では、私からも願おう。引継ぎを頼む」
後任提督「分かりました。それではまず、現在の資材量についてです」スッ
提督「……ふむ。思ったよりも多いな」ペラ
後任提督「中将殿の艦娘の錬度が高いおかげで消費量が少ないですからね。──次は新しく進水した艦娘ですが、リストの枠外に記載されている四隻がそれです。この子たちは私が新天地へ連れて行きます」
提督「ふむ。分かった。……沈んでしまった子も居ないな。素晴らしい事だ」
後任提督「加賀さんには耳にタコが出来るほど重要視するよう言われていましたので……。私も危ない作戦を立ててしまわないよう注意しました」
提督「なるほど。その時の加賀の顔が容易に思い浮かぶよ。あいつは怒ると怖いだろう?」
後任提督「ハハ……黙秘しますね。後が怖いので。──資料や整理に関しては法則を変えておりません。極力手を加えないようにしております。些細な部分は変わっていますので、次の紙に纏めてあります」
提督「…………」ペラ
提督「……………………ふむ。把握した。それでも思ったより少ないな」
後任提督「現在は作戦も終わった直後でして、上からの指示を仰いでいる所です。その間はある程度自由に出来るでしょう」
提督「ふむ。では、その間は全員と交流しておくか。……どうせ、扉の向こうでは今か今かと終わるのを待っていそうだからな」チラ
ガタッ!
後任提督「ハハハ。お見通しですね。ビックリさせようって計画を立てていたんですよ?」
提督「私を出し抜きたければもっと上手くやらなければならんよ。──首謀者は川内か?」
ガタンッ!
提督「……どうやら当たりのようだ」
後任提督「それだけ自分の艦娘を理解できるよう、私も努めたいものです」
提督「なれるさ。君ならなれる。私が保証しよう」
後任提督「これは力強いお言葉です。──それと、もう一つだけ伝えなければならない事があります」
提督「うん?」
後任提督「実は、上から厄介な指示を受けていまして……」
提督「……何があった?」
後任提督「反抗的な艦娘を教育しろというものでしてね……これがどうにも扱いが難しく……」
提督「ふむ。その艦娘は今どこに──」
ガチャ──
長門「ここに居るぞ」
川内「ちょっ……!? あ、開けちゃダメでしょ!?」
長門「あと一つと言っていたから問題ないだろう。むしろ、問題児の私が姿を見せた方が話が早い」
那珂「うわー……うわー……。那珂ちゃん、どうなっても知ーらないっと……」
提督「長門か……」
後任提督「この通り、非常に大きな戦力でもあるので無碍に出来なくて……」
長門「ふん。──貴様が新しい提督か? 私は長門。下田に居る愚かな提督に愛想が尽きてしまって教育送りだ」
提督「ほう」
長門「さて、貴様は私をどう教育する」
提督(……これは確かに厄介そうだな)
…………………………………………。
今回はここまでです。また一週間後くらいにくると思います。
あと、遅れてごめんよ。黄昏の水平線のサンプルソフトを軽く作っていたりしてて遅くなってしまった。
ちなみに空母棲姫やヲ級の呼び名ですけど、設定だけで実際はほぼ使わないか全く使わないです。当然、これから出てきても今まで通りの呼び方のままです。
下田の提督での長門とのやりとりは、この長門の教育の為に描きました。一つの問題が終わった後の問題です。
空母棲姫「…………」
金剛「…………」
空母棲姫「……何も無いな、この島は」
瑞鶴「うん……私達も来た時に思ったわ。こんな島で何日も隠れるのって、ちょっとキツいかも」
ヲ級「魚、捕ってきた方が、良い?」
金剛「ノー。魚を捕ってきても、クッキングする方法が無いデス。しばらくは頂いた保存食と木の実で過ごしまショウ」
響「捌いて食べるっていうのはダメなのかな。刺身とか」
金剛「魚はそのまま食べると寄生虫が居たりするので危ないデス」
響「そういえば、そんな事を言ってたね。……提督の事だからすぐに来てくれそうだけど、今の内に食べられそうな物を集めておこうか」スクッ
空母棲姫「…………」
空母棲姫(……どうしましょうか。満足に動けない私は、何をしたら……)
金剛「? どうかしたデスか?」
空母棲姫「……いや、なんでもない。行こうか」スッ
瑞鶴「歩きながらで良いんだけどさ、だいぶ酷くやられちゃってるっぽいけど大丈夫なの?」
空母棲姫「気にするな」
金剛(……なんとなくデスが、無理をしているように見えるデス。もしかしたら、動きづらいトカでは……)
金剛「うーん……」
響「どうしたんだい、金剛さん」
金剛「いえ、食べ物を採ってくるのは良い事だと思うのデスが、管理をする人が欲しいと思ったのデス。どのくらい日数が掛かるか分からないデスから、誰か一人が把握しておくべきだと思うデス」
瑞鶴「あー、確かに」
空母棲姫(……こいつ、まさか)
金剛「この中で一番しっかりしていそうな空母棲姫に頼んでも良いデスか? その代わり、私達が食べられそうな物を採ってくるデース」
空母棲姫「……分かった。すまない」
響(ああ、そういう事なんだね)
ヲ級「姫。行ってくる、ね?」
金剛「日が高くなってきたら帰ってくるデース」
瑞鶴「いってきまーす」
響「一杯持って帰るね」
空母棲姫「ああ。……気を付けてこい」
空母棲姫「……………………」
空母棲姫(……まさか艦娘から気遣われるとは思いませんでした。本当、私達は本来敵同士だというのを忘れてしまいそうになるわ)
空母棲姫「……争わないというのも、良いものですね」
……………………
…………
……
提督(ここも変化や異常、共に無し。ふむ。本当に大事に鎮守府を使ってくれているな)サラサラ
後任提督「…………」チラ
長門「なんだ? 私に何か用か?」
後任提督「あ、いや……ただ気になって……」
長門「特に気にする必要は無い。気にせず引継ぎ作業を続けてくれ」
提督「そういう事だ。──中佐、もし気が散ってしまうのだったら荷造りをしていても構わんぞ。大事に使ってくれているおかげで私一人で確認するだけでも良さそうだ」
後任提督「いえ、それは──」
提督「何。忠実に規則を守るのは良い事だが、こうも大事に使ってくれているのを見ていれば問題など無いと分かる。全ては確認するが、何か分からない点があった所のみ伺うとしよう」
提督「それに、一日でも早く異動したくて堪らないんじゃないか? 長門の事もあるとはいえ、どことなく別の事を考えているようにも見える」
後任提督「……本当に構いませんか?」
提督「構わんよ。今はこの鎮守府の事を忘れ、新天地を考えてしまえ」
後任提督「ありがとうございます。……では、お気を付けて」スッ
提督「…………」
長門「…………」
提督「……何を気を付けろというのか分からんな。長門、お前は中佐に何か危害でも加えたのか?」
長門「そんな事は一切していない。ビッグセブンの名に懸けて手を上げていないと誓おう」
提督「という事は、心労は掛けたんだな」サラサラ
長門「掛けただろう。何せ、私は問題ある艦娘だからな」
提督「そうか。ならば、お前の事を訊いても良いか」
長門「ん?」
提督「言うなれば、下田で何があったかを訊きたい。艦娘が主である提督の愛想を尽かせる程だ。よっぽどの事でもあったのだろう?」
長門「……なるほど。お前は懐柔するタイプか」
提督「そう思ってくれても構わん。答えたくなければ答えなくても良い。お前のやりたいようにしてくれたら、本当にお前が問題ある艦娘なのかどうかが分かる」
長門「…………」
提督「…………」サラサラ
長門「……………………」
提督「後はそうだな。下田の話は耳にしているから多少の理解は出来る」
長門「……ほう?」
提督「艦娘三人に轟沈命令を出した、とかな」
長門「!! 待て、なぜお前がそれを知っている!」
提督「大声を出すな。あまり知られたくない事だろ」
長門「…………っ!」
提督「さて……訊きたいのならば教えてくれ。下田で何があってお前は反抗した」
長門「……………………」
提督(……葛藤か? まだ下田の提督の事を想っているのか、それとも別の何かがあるのか……)
長門「轟沈命令を…………」
提督「……轟沈命令を?」
長門「……出した理由は、艦の把握が面倒だから、というものだった。私はそれを聞いて、本当に愛想が尽きてしまった。ただそれだけだ」
提督「……そうか」
長門「本当は残されている他の艦娘も心配だが、私の権限ではどうしようもない。諦めるしかないだろう。だからと言って、あいつの下で動くというのも我慢ならない」
提督「ふむ、そういう事か」
提督(これならば、教えると協力をしてくれるかもしれんな)
長門「さて……私は教えたぞ。次はそっちの番だ」
提督「簡単な話だ。私はその三人を知っている」
長門「な……!? ……どこだ。どこに居る」
提督「そう遠くではない場所、とだけ言っておく」
長門「勿体振るな。さっさと教えろ」
提督「場所はまだ教えられん。こちらにも計画があるんだ」
長門「計画……?」
提督「そうだ。その三人はこの鎮守府に来る予定だ。だが、それには理由を付けねばならん。今の所、一番良いのは海から拾ってきたというものだろう」
長門「…………」
提督「中佐がこの鎮守府を去った後、その三人を迎え入れる。……本当はもう二人居るのだが、そっちは現地で説明しよう。──今話せるのはこれで全てだ」
長門「……そうか……無事なんだな?」
提督「ああ。三人とも元気だ」
長門「良かった……」ホッ
提督「もし三人がこの鎮守府に来たら、長門はどうするんだ?」
長門「……そうだな。出来れば、また海で共に戦いたい。最後に同じ艦隊で戦ったのがどれほど前なのか、もう分からないくらいだからな……」
提督(……問題のある艦娘、か。おかしいと思ったが、やはり向こうの問題じゃないか。大方、反論が出来なくなって教育送りにしたといった所か?)
提督「時が来たらそうしても良いだろう。ならば、それまでの間は教育を終わらせる訳にはいかないな」
長門「……教育をなんだと思っているんだ貴様は」
提督「お前に教育など必要ないだろう。それとも、最高錬度になっていないから錬度を上げたいとでも言うのか?」
長門「…………不思議な人だ」
提督「よく言われる。──さて、チェックもここで終わりだ。私はやらなければならない事がある。お前は自由にして構わんぞ」
長門「なんだ? 何をするんだ?」
提督「まあ、あまり気分の良いものではないのは確かだ」
…………………………………………。
提督「──という訳で飛龍。覚悟は出来ているな?」ポン
飛龍「ひっ……!」ビクンッ
提督「確かに言っていたよな? 私がこの鎮守府に帰ってきたらいくらでも吊るされる、と」
飛龍「は、はい……!」ビクビク
長門(吊るす……?)
提督「提督室は中佐が荷造りをしていて使えん。だからこうして空室を使う。……良かったな、飛龍? ここにはお前と私、そして長門しか居ないぞ」
飛龍「うぅ……良かったのやら良くなかったのやら……。不思議な気分です……」
提督「良かったと思え。ここまで人が少ないのは飛龍が初めてだ」グルグル
長門(……毛布で簀巻きにして、縄で縛って……何だ? 何をするんだ?)
提督「…………」グッグッ
提督「……良し。問題無いようだな。──では飛龍。お仕置きだ」グイグイ
長門(お仕置き? ……お仕置き…………?)
飛龍「わ、わわっ」ブラーン
長門「……は?」
提督「さて飛龍。あの時の弁明をして貰おうか。本当にこの鎮守府に帰ってきて貰いたいが為にあんな事をしたのか?」
飛龍「そ、それは……」
長門(…………お仕置き……こんな事がか……?)
提督「なんだ? 言い淀むという事は別の思惑があったのだろう?」
飛龍「あの……えっと…………実は──」モジ
コンコンコン──。
提督「入れ」
飛龍「なっ!!」
ガチャ──パタン
蒼龍「提督、少し伺いたい事が…………え?」
飛龍「…………!!」
蒼龍「飛龍が吊るされてる……!? 一体何をやったのよ飛龍……」
飛龍「そ、それは……」
提督「ひとり二航戦サンドと言いながら、私を膝枕させた状態で屈んできた」
蒼龍「え」
長門「…………」
飛龍「わーっわーっ!!」
蒼龍「……飛龍、本当にアレやったの?」
飛龍「うぅ……うん……」コクリ
蒼龍「よくそんなチャンスが巡ってきたわね……というよりも、本当にやるとは思わなかったわ……」トコトコ
飛龍「だって……あのチャンスを逃したら永遠に出来そうになかったから……」
提督(……そういう理由か)
蒼龍「ふぅーん?」チラ
飛龍「──って!? な、なんでスカートの中を覗くの!?」
蒼龍「いやー、これがこのお仕置きの醍醐味だし、飛龍が今どんな下着を着けてるのかも気になるしね?」ジー
飛龍「蒼龍はいつも私と居るんだから知っているでしょ!? メッですよ! メッ!!」
蒼龍「ふふーん。かーわいい♪ 提督も見てあげたらどうですか? きっと、飛龍なら喜びますよ?」
飛龍「提督はそんな事しません! …………あの、本当にしませんよね……?」モジモジ
蒼龍「ほらほら、今が押し時ですよ提督」ニヤニヤ
提督「……どうやら蒼龍も吊るされたいらしいな」
蒼龍「や、やだやだやだ! 冗談ですってばぁ……!」ビクッ
提督「ところで、何の用があって来たんだ?」
蒼龍「あ、いえ。飛龍の姿が見えないので、提督なら知っているかなーって思ったの。それで場所を聞いてここへ来たのだけれど……まさか吊るされているとは思いませんでした」
飛龍「うぅ……」
蒼龍「提督の事が好きなのはよーく分かるけど、あんまり迷惑を掛けちゃダメよ?」ツンツン
飛龍「私だって欲はあるんですっ。あと、揺らさないでよ蒼龍……」ユラユラ
提督「……とりあえず、お仕置きはこのくらいにしておくか」スルスル
飛龍「良かったぁ……。物凄く恥ずかしかった……」
提督「反省したか?」ホドキホドキ
飛龍「はい……それはもう……」
提督「ならば良し」ポンポン
飛龍「……でもですね、提督。私が提督の事を好きなのは本当ですからね?」
提督「……そうか。だが、ああいう事は時と場を弁えるように」
蒼龍「時と場を弁えたらやっても良いんですか?」
提督「飛龍と私がそういう関係になった時に場所も弁えていればという話だ」
飛龍(……あ、この言い方だとチャンスはまだあるかもしれないわね。……あるかもしれない、ですけどね)
提督「では二人共、下がっても良いぞ」
飛龍「はいっ。──では長門さん、私達は失礼しますね」
蒼龍「またね。……それでさ飛龍、古い九九艦爆の事なんだけど──」
ガチャ──パタン
長門「……随分と慕われているようだな」
提督「……艦娘だから、だろう」
長門「否定できそうにないのが虚しいな……」
提督「実際、否定できないだろう? そこに付け込んでいる私は悪党だよ。──さて、この話はあまりするものでもない。他の子達が私を探し回る前に皆に弄られるとしようか」
長門「とても弄られる立ち位置にあるようには見えないのだが、以前はそうだったのか?」
提督「そうだな。飛龍や蒼龍のように私を困らせようとする子は多い。私だからなのか、それとも私があの子達の提督だからなのかは区別が付きにくいがな……」
ガチャ──
長門「…………」
長門(あの提督の所に居る飛龍や蒼龍とは大違いだな。本来の二人は、あんなにも明るくて元気なのだろうか……)
長門(本当に……なぜあんな人間が提督になれているのか理解に苦しむ……。いっその事、あの鎮守府に居る全員がここへ来ればどれだけ救われる子が居るか……──いや、そんな事は起こりえないだろう。あんな環境でも、異動を拒絶する者は出てくる)
長門「艦娘だから、か……」
提督「……………………ああ。艦娘だから、だ」
──パタン
……………………
…………
……
今回はここまでです。次もたぶん、また一週間後あたりになるかと思います。
お仕事の予定も入っているので、一週間後に来れるかどうかちょっと微妙ですけど頑張りますね。
飛龍を吊るす事になるだなんて、このスレを始めた当初では思い付きもしなかった。
前任提督「──それでは、私達は新天地の豊橋へ向かいます」
提督「ああ。向こうでも頑張っていってくれ。……しかし、本当に何も支援しなくて良かったのか? ここに備蓄されている資材をある程度持って行っても構わないのだぞ?」
前任提督「お気遣いありがとうございます。ですが、それには及びません。簡単に計画を立てていて、向こうで用意されている資材で充分と判断できました」
提督「ふむ、そうか。ならば、困った事があったらいつでも私へ連絡を入れてくれ。出来る限り協力しよう」
前任提督「ありがとうございます。──それでは中将殿、お元気で」ピシッ
提督「ああ。中佐もな。──全員、敬礼!」ピシッ
全員「!」ピシッ
提督(……………………行ったか。これで漸く私も動く事が出来るな)
提督「さて、このまま朝礼を開始する」
全員「!」
提督「皆が知っている通り、私は長年の孤島暮らしで現在の皆の事をよく分かっていない。昨日まで渾然と話はしていたが、これから一週間は全員と順番に交流していこうと思っている。鎮守府としての仕事はそれからだ」
提督「本日は初日という事もあるので加賀、飛龍、北上、夕立、時雨、の五人で様子を見る。なお、教育をしなければならない長門は常に私の傍に居るように。問題が無さそうであれば順次増やしていく予定だ。なお、その時間は夕食後に行うものとする。──何か質問はあるか?」
赤城「提督、良いでしょうか」スッ
提督「許可する。どうした?」
赤城「交流する艦娘の選定についてですが、何か意図があるのでしょうか? ほぼ常に近くに居る姉妹艦を固めた方が話しやすいかと思うのですが」
提督「長門を除いた五人は、私と利根が孤島で暮らしていた時に何度か様子を見てきてくれた子達だ。その時に発生した問題もあり、今回の交流はその解決も含まれている」
赤城「それは他の子達には話せない事ですか?」
提督「まだ話すべきではない内容だ。だが、いずれ全員に話す事になる。今は堪えてくれ」
赤城「分かりました。──以上です。ありがとうございます」
提督「他に質問のある者は居るか?」
蒼龍・飛龍「はい。あります」スッ
蒼龍・飛龍「!」
提督「僅かに早かった蒼龍から話を聞こう。どうした?」
蒼龍「えっと、交流する時間は夕食後と言ってたけど、それ以前は提督とお話するのはダメなの?」
提督「いや、構わない。だが、明るい内は出撃や遠征、演習以外の仕事を片付ける予定だ。仕事の邪魔をしないのならば提督室へ来ても構わんぞ」
蒼龍「はい! 分かりました!」
提督「うむ。──飛龍はどうした?」
飛龍「提督としての仕事をする際、暫定的でも秘書を用意した方が良いと思っています。それはどうする予定ですか?」
提督「ふむ……一応、利根が起きたら利根にするつもりだ。そういう約束をしているのでな。それまでの間は……そうだな、その質問をした飛龍に任せよう」
飛龍「!!」
加賀・川内「っ!?」
川内「はい! はいはい!! 異議あり!!」
提督「……どうした、川内」
川内「秘書になりたいって人は他にも居ると思う! だから、希望者の中から一人選ぶって方式が良いと私は思うんだけど!!」
提督「一理あるが、それは時間が掛かってしまう。出来ればすぐにでも仕事を始めたいくらいだ」
川内「じゃ、じゃあ二人を秘書にするっていうのは? ほら、一人よりも二人、二人よりも三人でやる方が早く終わるよ?」
提督「秘書は二人にする必要がないものだ」
川内「う……そうだけど……。────!! 日替わりとかどう!?」
提督「前日の仕事をどこまでやったか、というのを伝えなければならん。却下だ」
川内「うぅ……」
提督「何よりも、真っ先に気付いて質問をしたのは飛龍だ。本人も以前に秘書の経験をしている。その二点を評価しての判断だ。納得できるか、川内?」
川内「…………はい……諦めます……」
加賀「……………………」
提督「……他に質問のある者は居るか? ……………………居ないようだな。それでは、飛龍を除いて各自自由行動して良し。解散」
蒼龍(やるじゃん、飛龍。これを機に一線でも越えちゃいなよ)ニヤニヤ
飛龍(……蒼龍が今何を思ってるのか、言葉に出されなくても分かるなぁ)
……………………
…………
……
提督「さて飛龍。少しの間だろうが、頼む」
飛龍「は、はい!」ピシッ
提督「そんなに緊張しなくて良い。以前にもやっただろう?」
飛龍(…………以前……。確か、金剛さん達が沈んでしまった後の事でしたよね……)
提督「……すまん、失言だった」
飛龍「い、いえ! 私は大丈夫ですよ!」
提督「そうか……。それと、実は頼み事があるんだ」
飛龍「頼み事、ですか?」
提督「ああ。少し利根の様子を見てくる。容態が安定しているとはいえ、やはり心配だ。仕事を始める前に見ておきたい」
飛龍「そういう事ですね。分かりました」
飛龍(……そういえば、提督は利根さんの事をどう思ってるのかな。もしかして、向こうでもう恋人の関係に……?)
飛龍「…………」チクチク
飛龍「提督、私も付いて行きます」
提督「うん? どうしてだ」
飛龍「提督が時間を忘れないようにする為です。提督は変に優し過ぎる所がありますから、ブレーキ役は必要です」
提督「……そうか。頼む」
飛龍「……まあ、そう言うのは建前で、本音は利根さんとの関係が気になるんですよね。勿論、私も利根さんの容態が気になりますけれど」
提督「不器用に真っ直ぐだな、飛龍は」ポン
飛龍「……そういうのは嫌いですか?」
提督「そんな訳あるか。──さて、行くのならばすぐに行こう。夕方までには仕事を終わらせておきたい」ガチャ
飛龍「はい!」
飛龍(……まあ、そうよね。期待は少ししていたけれど、やっぱり『好き』とは言われないか)
飛龍「──よし、頑張ります!」
提督(……飛龍の望んでいる言葉を掛けてやった方が良いのだろうか。…………いや、それは飛龍を傷つけるだけか)
提督(苦しいだろうな、飛龍……)
──パタン
…………………………………………。
利根「……………………」
飛龍「…………」
提督「……利根はまだ眠ったままなのか?」
救護妖精「そうだねぇ。まだ一回も起きてないよ」
飛龍「えっと、それって本当に大丈夫なんですか? もう何日も眠ったままですよね?」
救護妖精「大丈夫だよ。あたしを信じな。流石に運ばれた当時の状態がずっと続けばヤバいけど、今はそこそこ健康だよ」
提督「起きない原因は分かっているのか?」
救護妖精「外部からのショックに加えて精神的なストレスが大きいと見てる。怪我はもう治ってるから、利根の中で心の整理が出来たら起きるんじゃないかな」
提督(心の中で、か……)
救護妖精「まー、そうだねぇ。何か話し掛けてやったら少しは効果があるかもしれないよ」
提督「こんな状態でもなのか?」
救護妖精「精神的なものが原因だろうから、効果はあるかもね。案外、提督が命令すれば起きたりしてね」
飛龍「意識不明でもそんな事があるんですか……?」
救護妖精「あるよ。というか、利根の場合は正確に言うと半昏睡っていう状態だから、充分に起きる可能性があるね。強い痛みとか与えたら何らかの反応を示す状態だよ」
提督「ふむ……試してみるか。──利根、起きろ」
利根「……………………」
飛龍「……反応しませんね」
提督「そうだな……」
救護妖精「まあ、そんな都合良くいくものでもないさ。根気良く続けていたら、その内目を覚ますだろうね」
提督「ふむ。ならば、これから毎日何回か声を掛け続けてみるか」
救護妖精「そうしてやんな。……利根も、疲れてるんだろうね」チラ
提督「なぜ私の顔も見る」
救護妖精「そういう意味だからさ。──飛龍、提督の事をちゃんと見てやんなよ。提督は顔を見るだけじゃ分かりにくいから、細かい所も見てあげてね」
飛龍「はい! 仮ですが秘書にもなりましたので、無理をしそうだったら止めますね」
救護妖精「うんうん。良い事だよ」
提督「……………………」ナデ
利根「……………………」
飛龍「……さて、提督。そろそろお仕事に戻りましょうか」
提督「そうだな。そうしよう」スッ
提督「では救護妖精、利根の事を頼んだ」
救護妖精「あいよ。じゃあ、頑張ってねー」フリフリ
ガチャ──パタン
救護妖精「……なんだろうね。やっぱり、どことなく吹っ切れてるような顔になってた。それとも、他にやらなきゃならない事でも出来たのかねぇ?」
…………………………………………。
飛龍「…………」カリカリ
提督「…………」サラサラ
飛龍「…………」チラ
提督「…………」サラサラ
飛龍(……やっぱり、提督はしっかりしてるなぁ。流石に前よりは書類を処理するスピードが落ちてるけど、ちゃんと迷わずに書いているみたいね)
提督「…………」ズズッ
飛龍(あ、お茶注いだ方が良いかな)スッ
提督「ん、すまな──……」
飛龍「…………? どうかしましたか、提督?」コポコポ
提督「いや、訂正する。ありがとう、飛龍」
飛龍「────!」
飛龍「い、いえ! このぐらいどうって事ありませんよ!」
提督「……なぜそんなに動揺しているんだ」
飛龍「いやー……なんと言いますかね? 何気ない事でもお礼を言われるのって、嬉しいんだなぁって思ったんです」
提督「……そうか」
飛龍「はい、そうです」ニコニコ
飛龍(……ああ、良いなぁこの空気。適度に緊張していて、それでもどことなく柔らかくて優しい雰囲気がする)カリカリ
提督「…………」サラサラ
飛龍(ああ……本当、秘書の事について質問して良かったぁ……)カリカリ
提督「……ところで飛龍」サラサラ
飛龍「? どうかしましたか?」
提督「お前の茶碗に茶が入っていないようだが、良いのか?」サラサラ
飛龍「え? ──あ、本当。入れておかなくちゃ」スッ
飛龍「気遣ってくれてありがとう、提督」コポコポ
提督「そんなお礼を言うほどの事でもなかろう」サラサラ
飛龍「いえいえ。私が言いたいって思ったんですよ」
提督「ふむ、そうか」サラサラ
飛龍「はい、そうなんですっ」カリカリ
提督「前から思っていたが、お前も不思議な奴だな」サラサラ
飛龍「飼い主に似るって言いますからね」カリカリ
提督「私はお前たちを飼っているとは思っていないのだが……」サラサラ
飛龍「比喩ですよ、比喩」カリカリ
提督「……そうか」サラサラ
飛龍「…………♪」カリカリ
飛龍(ああ……この時間が、ずーっと続けば良いのになぁ……)
…………………………………………。
今回はここまでです。また一週間後くらいに来ると思います。
書いていくと、どんどん飛龍が自分の中で可愛くなっていく。前からお気に入りの子だから、余計に可愛い。
きっと、ひとり二航戦サンドを描いたゆーまさんのおかげ。
それにしても、吊るしたからなのかレスが急増して驚いた。やはり私の艦これ作品は艦娘を吊るすのが代名詞になっている気がする。
ここまで読んで今更ですが
前作品を読まないとわからないところとかありますか?
>>795
読んでいなくても問題ない作りです。
ですが、読んでいると深読みできそうな部分はいくつかあります。例えば金剛さんや瑞鶴、響の『────────』などと表現した部分が何を言おうとしたのかも、ある程度予想が付くかもしれません。
この辺りは過去作を読んでいないと何を言おうとしたのかの大半が分からないかも?
という訳で投下していきます。
夕立「提督さん! これで全員集まったっぽい!」
提督「そうだな。では、早速話をしようか」
加賀「その前に、長門さんが居ますけど良いのかしら」
長門「……なんだ? 私に知られるとマズい事でもしているのか?」
提督「今回の事は長門にも関係している事だ。むしろ居てくれた方が良い」
北上「関係してる……? どういう事なのさ、提督?」
提督「そうせっかちになるな。ちゃんと説明する。──長門を除いた全員は共通点が分かると思うが、お前達はあの島での秘密を知っているだろう。その事について改めて話しておこう」
長門(……秘密?)
提督「これは長門も知っている通り、あの島では金剛、瑞鶴、響の三人が居た。そして三人からの要望もあり、この鎮守府の艦娘となるように理由が必要だ。理由は海域から拾ってきたというもので問題ないだろう。私が提督業を真面目にやっていた時期でもよく耳にしていた事から、怪しまれる事は無いはずだ」
飛龍「ですが、それでも一応分けて就役させた方が良いですね。特に金剛さんと瑞鶴さんは分けるべきだと思います」
提督「ふむ。やはり現状でも瑞鶴はあまり見掛けない艦娘か」
飛龍「はい。南方海域などの危険な海域くらいでしか確認されていません。例外として、総司令部から通達された大規模作戦の時も報告に上がっています」
時雨「実は提督があの島に行ってから、僕たちも見掛けたのは一回だけだったりするんだ」
提督「ふむ……。では、金剛と瑞鶴の就役はずらしておこう。どちらが先かは本人達と相談だな」
長門(なるほど。秘密とは他の鎮守府に居た艦娘を内密に就役させるという目的の事か。……いや、この男は何を考えているのか読めない所がある。わざわざ呼び出す程だ。他にも何かあるだろう)
提督「さて、前置きはここまでにしておこう。本題に入る」
長門(む。きたか)
提督「──今から、この六隻で五人を迎えに行くぞ」
長門「何……?」
北上「えっ」
時雨「……本気なの、提督?」
加賀「もう夜が深いのよ。それを承知の上?」
夕立「ナイトメアパーティでもするの?」
飛龍「……提督?」
提督「それぞれ反論はあると思う。だが、少しだけ考えて欲しい。引継ぎや中佐の異動の関係で、何日放置している。あの島に食料となるものは自生していたものの、やはり心配だ。……いや、そろそろ危ない可能性もある」
加賀「ですが、ヲ──……あの子も居た事を考えると、食料の問題は無いのでは?」
提督「調理する方法が無い。そして、私は『そのまま食べないように』と教えてきた。その教えを忠実に守っている可能性は非常に高い」
加賀「せめて明日の朝にするという事は出来ないの?」
提督「明るい内は間違いなく誰かにバレる。出撃もさせないと言った事から、いきなり出撃させるのも無理がある。──お前達はどう判断する」
夕立「んー……私は提督さんの意見に賛成かな。早めに助けてあげたいっぽい」
時雨「僕は…………難しいけれど反対かな。やっぱりリスクが大き過ぎると思うんだ」
飛龍「判断が難しいなぁ……。うーん……保留です」
北上「私は賛成かなー。提督が何も考え無しに言ってるとは思わないからねー」
加賀「私もどちらかと言うと反対ね。確かに判断が難しいけれど……」
飛龍(……あれ? なんか物凄く嫌な予感が……)
提督「ふむ。綺麗に意見が分かれたな。──客人の長門には悪いが、お前はどう思う」
長門「私は貴様の行動を見ている。居て居ないものと思え」
長門(だが、その作戦を決行しようものならば私は見限るがな)
提督「なるほど。尤もだ。──という訳で飛龍、全ての決定権はお前に任されたようだ」
飛龍「う……。やっぱりこうなるんですね……」
提督「さて、秘書艦代行飛龍。お前はこの状況にどういう判断を下す? 飛龍の意見で全てが変わるだろう」
飛龍「あの……提督? そんなに島での出来事を根に持っているんですか……? 私にこんな重要な判断を任せるだなんて……」
提督「そういう訳でもない。意見というものは重要なものだ」
飛龍「うぅ……。今日の提督は私を困らせます……」
提督「時間は十分だけ与える。その時間の間に答えを出すように」
飛龍「じゅ、十分だけですか!?」
提督「そうだ。何か問題があるか?」
飛龍「そ、そんな……滅茶苦茶ですよ……!? どうしてこんな──!」
飛龍(……え? 滅茶苦茶……?)
長門(む? あんなに慌てていたのにも関わらず、なぜ急に大人しくなった?)
飛龍(……そうよね。おかしい。よく考えてみれば、絶対におかしい。いくら提督にとって思い入れのある姿の三人といえど、こんな強攻策を通そうとするなんて異常です)
飛龍(それに、言葉の端々に違和感がありました。何か……的を得ていないというか……別の事を話しているような──)ハッ
飛龍(別の事……そうですよ! 提督は別の事を話しているんですよ! 私の意見で『全てが変わる』だなんて、そんなまどろっこしい言い方なんてするはずがありません!)
飛龍(時間が十分だけというのも、すぐに気付けるはずのものだから短いだけ。意見が重要と言ったのも、日々提督が言っていた事。その意見を全て無視しているという事は──)
提督「……ふむ」ニヤ
飛龍「! ……やっぱりですか」
提督「気付いたか」
飛龍「気付きました。ええ、気付きましたよ……。もうっ……」ハァ
長門「…………?」
加賀「……まさか」
飛龍「どうしてこんな試すような事を言ったんですか、提督。意地悪にも程がありますよ? 最初から作戦をやるつもりなんてありませんでしたね? そもそも食料の問題だったら哨戒を理由に届けたら良いだけなんですから、今すぐに行く理由なんて無いですし」
提督「なに。久々の私の相手で勘が鈍っているのではないかと思っただけだ。そうなると、色々と問題が起きそうな気がしてな。それに、朝にも言っただろう? 交流していく、と」
飛龍「うわ……そこからもう答えを出していたんですか……?」
提督「正直に言うと、それは夜になってから思いついたものだ。過去の言葉など状況次第でいくらでも変えねばならん」
加賀「不覚です……。何かおかしいとは思いましたが、まさかそんな意図があっただなんて……。話の焦点は『作戦内容』ではなく『提督を止める事』でしたか……」
提督「個人的には加賀が言い当てると思ったが、どうやら中佐の相手に慣れてしまったようだな」
北上「えーっと……じゃあ、さっきの作戦の意味って……遊びって事?」
提督「遊びと同時にお前達の『今』を見る為でもある。以前ならば、全員が気付きそうなものだっただろう?」
時雨「間違った事を言った時はちゃんと止めるようにって言われていたのに……ごめん。忘れてたみたいだ」
夕立「ぽい……」
提督「三年近くも離れていたんだ。忘れていてもおかしくない。だが、思い出せただろう?」
北上「そうだねぇ……。これからも提督のイタズラに引っ掛からないようにするよー」
長門(……やり方はアレだが、これも意見を言わせる為……か? 確かにこの子達は意識して意見を言うようにはなるか……)
提督「さて、見事に見抜いた飛龍には何かしらの褒美でもやろうか」
加賀「!!!」
飛龍「え? ……え!?」
夕立「うー……良いなー良いなー!」
時雨「次はご褒美を貰えるようにしよっか、夕立」
夕立「……頑張るっぽい!」
北上「まったく……三年もサボってたはずなのに全然変わらないねぇ提督は」
提督「そうでもない。私とて変わっている所は変わっている」
北上「ふーん? どこが変わったのか、あたしには分かんないけどね」
提督「それを見つけるのも楽しみの一つだろう。存分に悩むと良い。──さて飛龍。お前は何を希望するんだ?」
飛龍「あ、え……」
加賀「…………」ジッ
飛龍(加賀さんの無言の圧力が怖いっ!!)ビクン
提督「加賀、そう睨むな」
加賀「……ごめんなさいね」フイッ
北上「ちなみにだけどさ提督。ご褒美って何でも良いの?」
提督「ある程度までだ。内容にもよるが、せいぜい普段では出来ない事を許可するくらいだろう」
時雨「例えばどんなの?」
提督「そうだな……。ふむ、間宮と伊良子の甘味を三人前ほど味わっても良い……とかか?」
夕立「何その贅沢!? そんなの良いの!?」ガタッ
提督「それくらい大事な事だった。……言っておくが、今回の意見の事を他の子には言うんじゃないぞ?」
北上「提携してご褒美を貰い合うのはダメって事かー」
提督「そういう事だ。お前達ならばしないとは思うが、念の為にな」
加賀「……それで、飛龍はどうするのかしら?」ジッ
提督(……色々な意味で機嫌が悪そうだな)
飛龍「ごめんなさい。後に取っておきます……」
長門(無難だな。……それにしても、この鎮守府の子達は提督と如何に親密に接するかで苦労していそうだ)
提督「そうか。いつでも言ってこい。──さて、一応先に計画を言っておこう。時が来たら今居るこの六隻で五人を迎えに行く。実際に出撃し、その帰りに回収だ」
長門「その三人は分かったが、残りの二人は誰なんだ?」
提督「前にも言ったかもしれんが、向こうで説明をする。今ここで言うよりもずっと良いはずだ」
長門「なんだか怪しいな……」
提督「そう思ってくれて構わん。お前の前でだけ見てくれを良くしても意味が無い」
長門「本当に食えない奴だな、貴様は……」ハァ
加賀「大丈夫よ。すぐに慣れるわ」
長門「むしろ、慣れなければやっていけそうにないのだが……」
飛龍「アハハ……間違ってはいないですね……」
長門(……さて、この五人の反応を見る限りでは信頼出来るであろう人物だが、他の艦娘はどういう反応をするかが気になるな)
……………………
…………
……
利根「……………………」
提督「……ふむ。今日も起きず、か」
救護妖精「そうだねぇ……。流石のあたしもちょっと心配になってきたよ」
飛龍「よっぽど辛かったんですかね……」
提督「かもな……。色々と辛い思いをさせてしまったのは確かだ」
救護妖精(……医者の立場的に何か気の利いた事でも言えば良いんだろうけど、あたしはそういうのが苦手だからねぇ……。さて、どうしようかな……)
提督「救護妖精、昏睡──いや、半昏睡状態の者にしてやれる事は他に無いか?」
救護妖精「ん? んー……………………あ」
飛龍「あるんですか?」
救護妖精「そうだね、ちょっとやってみると良い事があるかも」
提督「どういったものだ?」
救護妖精「ボディタッチとかしてみるのとかどうかな。頬とか頭とか撫でてみたりとかさ」
飛龍「痛みに反応するのなら、そういったものにも反応を示すかもしれない──というものですか?」
救護妖精「そんな所だよ。意味があるかは分からないけどさ、やらないよりは良いと思うよ」
提督「なるほど」ポンポン
飛龍(頭をポンポン……向こうでもやっていたんですかね?)
救護妖精「それっていつもやってた事なのかい」
提督「いや、あまりやった事がない」
救護妖精「なるべくなら、今までずっとやってきた事とか気に入られてるような事をした方が良いんじゃないかな。身体が覚えてて、反応するかもしんないしね」
提督「ふむ……。ならば少しやりたい事があるんだが」
救護妖精「んー? 何をやりたいんだい」
提督「私の背中に圧し掛からせたり、足の間に座らせたりしたい。良いか?」
飛龍(え、何ですかその羨ましい体勢は)
救護妖精「んー……。足の間に座らせる方なら良いよ。ただ、変に腕とか弄らないようにね。たぶん大丈夫だろうけど抜けたりしたら良くないから」
提督「分かった。──よっと」グッ
飛龍(あ……まるで抱っこされてるみたい。…………良いなぁ。良いなぁ……)ジー
救護妖精(その体位なら、点滴スピードはこんくらいか)クイッ
提督「……ふむ。起きるだろうか」クシクシ
飛龍「……あの、提督。どういう状況になれば、そんな体勢で髪を梳くなんて事になるんですか?」
救護妖精「セックスでもしてんじゃないかねぇ?」
飛龍「ぶっ!?」
提督「冗談でもそんな事を言うな……。加賀辺りが耳にしたら深海棲艦すら射殺しかねん目で問い詰めてくる……」
飛龍「……じゃあ、どうしたらそうなるんですか?」
提督「……………………」
飛龍「あの……何か言って下さい提督……。それとも本当に──」
提督「違うから、そんな物欲しそうな目で見るんじゃない……」
飛龍「…………」ジー
提督「…………」
飛龍「…………」ジー
救護妖精「……これは、はぐらかすなんて事が出来そうにないねぇ。もう素直に言っちゃえば、提督?」
提督「……はあ……分かった。だが、絶対に誰にも言うなよ?」
飛龍「約束します」
提督「…………向こうでドラム缶の風呂に入った際、こうして背中を預けると安心できると言われたんだ。いつもは背中に圧し掛かられていたが、それが出来ないならばこっち……という形だ」
飛龍「お風呂……」ヂー
提督(……非常に嫌な予感がする)
飛龍(……………………)
利根「ん……」
三人「!」
利根「ん……んん……?」
提督「起きたのか、利根?」
利根「お、おぉ……? 提督? それに飛龍と救護妖精……? ──ああ、なるほどのう。ここは本土か」
救護妖精「おー……本当に起きたねぇ」
飛龍「本当にって……」
救護妖精「いや、起きる可能性も勿論あったよ。ただ、一発で起きるのは予想外だったというかなんというか……」
利根「……頭がふらつく」
提督「救護妖精、頼む」スッ
利根「ぁ……」
提督「…………」ピタッ
救護妖精「……あー、うん。もう少しそのままにしてあげたらどうかな? そんな母親から離れそうになった小さい子供みたいな声を出されたら、気の済むまでそうさせた方が良いんじゃないかね」
救護妖精「だけど、気分が悪くなったらちゃんと横にさせるけどね」
利根「既に気分が少し悪いぞ……」
救護妖精「じゃあ横にさせよっか。提督、ほらどいたどいた」
提督「そうだな」スッ
利根「あ、ちょっ! う、嘘じゃ! 嘘じゃからもうちょっと──!」
提督「ダメだ」ポフッ
救護妖精「身体は大事にしな」
提督「代わりにこうしておくから、これで我慢しろ」ソッ
利根「ぬ……。額に手を置かれると、何やら看病されているような気持ちになるのう」
提督「嫌か?」
利根「心地良いからもっと頼む」
提督「お前らしいな」ナデナデ
利根「……思ったよりも良いのう、これ」
提督「そうか」ナデナデ
飛龍(……良いなぁ)ヂー
飛龍(…………胸がチクチクしますね。やだな……私、嫉妬してる……)チクチク
救護妖精「まあ、それもこれくらいにしておきな。利根、これから検査だよ。何日も寝たきりだったんだ。あと、筋肉や関節も固まって身体が痛いはずだから軽くストレッチさせるよ」
利根「むぅ……」
提督「また見舞いとして来る。──夜ならば良いか?」
救護妖精「明日にしな。今日一日は安静だよ」
提督「だそうだ。また明日だ、利根」
利根「むぅー……」
飛龍「まあ……早く元気になったら提督の傍に居放題ですよ、利根さん」
利根「! ならば早く元気になるぞ!」
提督「……単純な奴め」
飛龍「……………………」
飛龍(利根さんが起きたという事は、私の臨時秘書も終わりですね……)
飛龍(良くて三日──いえ、下手をすれば今日が最後になりかねませんから、思いっきり秘書として頑張りましょうか。……早く終わらせたら、その分だけ提督と自由に居られるのかな)
…………………………………………。
とりあえず今回はここまでです。たぶんまた一週間後にくるかもしれません。
まさか、ゆーまさんにこのスレを紹介して頂けるとは思っていなかった。感謝です。
やる気が沸いて書いたらサラサラっと書けたので、やっぱりモチベは重要。ゆーまさんに負けないくらい甘々の飛龍も書……けたら良いなぁ。
飛龍「…………」カリカリカリカリカリ
提督「……さっきから思っていたが、今日は一段と張り切っているな」サラサラ
飛龍「はい。ちょっと、やりたい事がありまして」カリカリカリカリカリ
提督「ほう。珍しいな」サラサラ
飛龍「…………」カリカリカリカリカリ
提督(ふむ……。相当集中している。何をやりたいのかは分からないが、私もそれなりに急いで片付けておこうか)スッ
提督「…………」パラパラパラ
飛龍「…………」カリカリカリカリカリ
提督「…………」スッ──サラサラサラサラ
提督(……書く事が少ないな。出撃も遠征もしていないから当たり前だが、それでもこの報告書やら何やらを書かなければならないのは面倒だ)サラサラサラサラ
飛龍「…………」カリカリカリカリカリ
提督(しかし、茶にも手を付けないとは……よっぽどやりたい事なのか。そうだったら一言相談をして休みを貰えば良かっただろうに……。真面目だな)サラサラサラ
提督(む……終わってしまった。簡単な書類はこっちに集中していたのか。…………飛龍の分を貰ってしまおう)ソッ
飛龍「…………」カリカリカリカリカリ
飛龍(さて次の……って、あれ? なんか物凄い少なくなってるような……)カリカリ
飛龍「…………」チラ
提督「…………」サラサラサラ
飛龍(……あ。やっぱりそうでしたか。……ダメだなぁ。周りの事もちゃんと見ないといけないのに。──っとと、提督のお茶を注いでおかなきゃ)ソッ
提督「む。すま……助かる」ズズッ
飛龍「いえ、これも秘書としてのお仕事ですっ」カリカリカリ
提督「……………………」サラサラサラサラサラ
飛龍「……………………」カリカリカリカリカリ
提督(……ふむ、終わりか。ならばそこの最後の一枚を貰うか)スッ
飛龍(さて、そろそろ終わりますから次のを──)スッ──ピトッ
提督「む?」
飛龍「え? ──あ」
提督「先に手を付けたのは私だから、これは……ん?」
飛龍「ぁ……う、ぁ……」ドキドキ
提督(ああ……)
提督「……すまん」スッ
飛龍「い、いえ! 私こそ気付かなくてすみません!」ビクン
飛龍(あー……もう……。提督と触れる事なんて滅多にないから、つい頭の中が真っ白になっちゃった……)ドキドキ
飛龍(……手、温かかったなぁ。提督はなんて思ったんだろ)チラ
提督「…………」サラサラ
飛龍(……読み取れないや。昔っからこれだから、嫌に思ってるのかどうなのかが分からないんですよね)カリカリ
飛龍(っとと、書類が全部終わりましたね)スッ
提督「こっちも終わる所だ。──いや、もう終わった」スッ
飛龍「はい。お疲れ様です」
飛龍(もう当たり前になっていますけど、提督は見ていないようでちゃんと見ててくれているんですよね。……そういうのが嬉しくて、好きになっちゃったんだっけな。──あー、でも……終わったのは良いんだけど、どうしようかぁ。さっきまでは『終わらせたら目一杯、提督と二人きりの時間を過ごそう』って思ってたのに……)
飛龍(……とりあえず、書類を纏めておこう)スッ
提督「さて、後の書類の纏めは私がやっておこう。飛龍は好きにしていて良いぞ」スッ
飛龍「……え? 好きに?」
提督「やりたい事があるのだろう? 蒼龍との約束か、それとも別の何かがあるのかは分からんが、お前はこれから自由時間だ」ゴソゴソ
飛龍「あー……なるほど。そういう事ですか」
飛龍(鋭いのか鈍いのか……いえ、たぶん自分の事をあまり勘定に入れないんでしょうね)
飛龍「他に秘書としての仕事は無いんですか?」
提督「無いから安心しておけ」
飛龍「そっか。なら安心かな。……提督、私のやりたい事はですね? 提督と二人の時間を過ごしたい……ですよ」
提督「……そういう事か」
飛龍「そういう事です。早くお仕事を終わらせたら、その分だけ提督と二人で一緒に過ごせますよね?」
提督「こんな駄目な上に傷物の男の何が良いのか分からんな」
飛龍「傷物って……本来は女性に対して使う言葉じゃないですか、それ……? というか、傷物だとかなんだとか関係ありませんよ。提督だから良いんです。そもそもの話、提督はしっかりとしているじゃないですか」
提督「幻想かもしれんぞ。そう見えるだけだというのも充分に有り得る」
飛龍「でも、私の目からはそう見えます」
提督「盲目はいかんぞ」
飛龍「もう……。ああ言えばこう言いますね。どうすれば信用してくれますか?」
提督「……何も言わんぞ?」
飛龍「むむ。言ってくれたらそれをしたのに……」
提督「本当に何でもやりかねないから言わないんだ……」ハァ
飛龍「流石に限度はありますけどね?」
提督「仮にこの場で服を脱げと言ったとしてもやりかねん。どこまで許容するかが分からない相手に条件を突き付けるのは怖くて堪らんよ」
飛龍「……なんというか、割と変態的な事を言う割りにやらしさが無いですね?」
提督「あくまで例えだからではないか? ……まあこの話は置いておこう。昨日の褒美でも使うか?」
飛龍「それは……ううん……難しいですね。…………そうだ。ちょっとズルいですけど、確認して良いですか?」
提督「……なんとなく察しは付くが、言ってみろ」
飛龍「もし……もしですけど、私にキスとその続きを下さい、って言ったら……どうします?」
提督「……どっちが変態的な事を言っているんだか」
飛龍「ほら、目の前の人に影響されちゃってますしね?」ニヤ
提督「困った奴だ……。──その時の飛龍に依る。無条件でイエスとは言わん」
飛龍「……ふーん」
提督「どうした」
飛龍「いえいえ、なんでもありませんよ♪ ──あ、ご褒美はまだ取っておきますので」
飛龍(無条件では──という事は、条件さえ満たしていれば良いって事ですよね? ……よしっ! 頑張ろう!)グッ
提督「……言っておくが」
飛龍「? なんですか?」
提督「お前の目指している道中は茨の道だぞ」
飛龍「そんなの、ずっと前から知っていますよ」
金剛『──────────────、────!』
飛龍「ずーっと前に……一度諦めた身ですから、よく分かっています。勿論、今は更に厳しいって事も……」
提督(……金剛の事、か)
飛龍「……あ、あはは。すみません。しんみりとさせちゃいました」
提督「……構わん。私もいずれ乗り越えなければならん事だ。でなければ、アイツに怒られてしまいそうだからな」
飛龍「あー……確かに怒りそうですね……」
提督「怒ると加賀以上に怖かった」
飛龍「ビンタも飛んできますからね。──じゃあ、提督」ソッ
提督「……頬に手を添えてどうする気だ? 飛龍も私にビンタをするのか?」
飛龍「違いますって! ……こうするだけですよ」クイッ
──ちぅ
提督「────────」
飛龍「……今は頬だけです。いつかは茨を渡りきって、きっと提督の心を掴んでみせます。だって……私は提督のあの笑顔が好きですから」
提督「……好き者め」
飛龍「お返しをくれても良いんですよ?」
提督「その時が来たらだ。……本当、不器用に真っ直ぐだよ、お前は」
飛龍「じゃあ、頭を……いえ、頬を撫でて下さい。不器用な私は、真っ直ぐ言うしかありませんからね?」
提督「……………………」
提督「いや、頭だけだ」ポンポン
飛龍「むむむ……。まあ、一歩前進という事で」ニコニコ
飛龍(悩んでくれたのも事実ですしね)ニコニコ
飛龍「ついでに抱き締めても良いですか?」
提督「調子には乗らさんぞ」ペシッ
飛龍「あー……やっぱりダメですか」
提督「許したら際限が無さそうだからな」
飛龍「言えてますね。──じゃあ提督、一緒にお茶でも飲みませんか? 今あるやつなんで少し温いかもしれませんけれど」
提督「そうだな、頂こう。少しくらい温くても飛龍の淹れる茶は美味い」
飛龍「そうでしょそうでしょ? これでも頑張ったんですからね!」
提督(……本当、苦労を掛けてしまっているな……私は)
飛龍「~♪」
提督(……この楽しそうにしてくれている顔の裏で、どれだけの苦悩があったのか。……いや、考えないでおこう。むしろ、それだけ私の事を想ってくれてありがたいと思うべきだ)
提督「良い子だよ、本当……」ボソリ
飛龍「え?」
提督「いや、なんでもない。独り言だ」
提督(さて……これからどうなるか……)
…………………………………………。
今回はここまでです。大体たぶん恐らくきっと一週間後くらいにくるかもしれません。ただ、お仕事があるからちょっと微妙かも。
気付いたら飛龍を掘り下げていた。最近、飛龍ばっかり書いているような気がするけど気のせいだろうか。
野暮かもしれんが話あんまり進まんな
乙
例の金剛スレの時みたいにそれぞれの√分岐のすれ作るです?つくるなら金剛√と飛龍√おなしゃす
>>825
一週間に一回くらいのペースだから、私の書き方だとあんまり進まないように感じると思う。一気に読み通したら普通かもしれない。
書いてる感覚としては金剛の時と同じだから、投稿間隔が開いてるせいかも。色々と事情が重なって遅くなってごめんよ。
>>826
未定です。スレを立ててまでは別ルートは書かないと思うけれど、レスに余裕があったら誰かのルートを書くかもしれない。
このペースだと次スレ突入して200までには終わるんじゃないかな? と思っているので、その時に自分の気が済むまで書き殴るかも。
チラッ
結局どうなったんだろう
コンコンコン──
提督「入れ」
ガチャ──パタン
利根「提督よ!! 救護妖精から許可を貰ったぞ!」
提督「……たった一日でここまで元気になったか」
飛龍「凄いですね、本当に……」
利根「フフフ。何せ今の我輩には目的があるからのう。地獄の底からでも這い戻ってこれる自信があるぞ」
飛龍「…………」
飛龍(……本当に短い間でしたけど、少しでも提督の秘書になれて嬉しかったです。約束のようですし、これからは利根さんに任せましょう……)スッ
提督「待て飛龍。どこへ行く」
飛龍「え……? だって、秘書は利根さんですよね? 提督は秘書を二人取らないと言っていたじゃないですか」
提督「……飛龍、今の利根を見ろ」
利根「む?」
飛龍「えっと……?」
提督「利根、この書類の見分け方は分かるか?」ペラ
利根「……分からぬ」
提督「では、何を書けば良いか答えてみろ」
利根「…………分からぬ」
提督「処理した書類はどうすれば良い?」
利根「むがー!! 分かる訳がなかろう!? 我輩は何も知らぬのじゃぞぉ!?」
提督「こういう事だ。何も知らない利根に教える必要がある。私一人では教える事に集中して、今日中にこの書類の山を終わらせる事が出来ないだろう」
飛龍「……えっと、つまり……私はまだここに残って秘書のお手伝いをすれば良いんですか?」
提督「そういう事だ。利根の教育は飛龍に任せる」
飛龍「────────」
提督「返事はどうした、飛龍」
飛龍「──やったっ! これでまだ近くに居られる!!」グッ
利根「お、おぉ……? それは心の中に留めておくべき言葉ではないか……?」
飛龍「私の気持ちは既に提督も知っていますので、問題ありません!」
利根「むむ、なんと……! 飛龍は提督の事を好いておったのか」
飛龍「勿論です! 秘書になれた時なんて、顔がニヤけないように必死だったんですよ?」
提督「……テンションが高いのは良いが、あまりうるさくするようならば……吊るすぞ?」
利根・飛龍「ご、ごめんなさい……」ビクッ
提督「よろしい。──では飛龍、改めて言い渡す。利根が秘書としてやっていけるよう教育を頼む。……酷かもしれんが、私からの願いと思って堪えてくれ」
飛龍「はいっ! 飛龍、承りました!!」ピシッ
提督「すまんな……」
飛龍「いえ、昨日で終わりだとばかり思っていましたので、まだ続けられると思うと嬉しいです! ──では利根さん、まず書類の説明からしますね」スッ
利根「お願いじゃ。我輩の我侭で迷惑を掛けてしまった……すまぬ」
飛龍「いえいえ。──それでですね、この書類なんですけれど、全て左上のここに書類の種類がありますので────」
利根「ふむ。ふむふむ……」
…………………………………………。
提督「──なんとか夕食までには終わりそうだな。調子はどうだ、利根」サラサラ
利根「覚える事自体はそこまで無いが……適切な判断を下せるかどうかが心配になる……」カキカキ
飛龍「最初はそんなものです。私も初めはおっかなびっくりしながらやったんですよ? ──はい、お二人ともお茶です」スッ
提督「ありがたい」ズズッ
利根「ありがたいのう。……のう飛龍、我輩も茶の淹れ方を覚えたいぞ」ズズッ
飛龍「後でです。今は書類の処理を覚えちゃって下さい。焦っても仕方が無いですよ?」
提督「…………」チラ
飛龍「……言いたい事は分かりますけれど、言葉に出さない分キツイですね」
提督「ならば言葉にしようか」
飛龍「ごめんなさい……遠慮しておきます……」カリカリ
利根「……うーむ。飛龍、ここはこれで良いのかの?」スッ
飛龍「どれですか? ──ふむふむ。大丈夫ですよ。この調子で腕を付けていきましょう」
利根「おお、本当か! 少しずつじゃが自信が付いてきたぞ!」カキカキ
提督「利根、突然だが一つ問題を出そう」サラサラ
利根「うむ? どうしたんじゃ?」カキカキ
提督「一番危険なミスを犯すのは、どういう状況だと思う? 無論、日常の範囲内でだ」サラサラ
利根「うむ……? むぅ……寝不足、かの?」カキ
提督「いいや違う。それはだな、物事に慣れ始めた時だ」サラサラ
提督「初めは慎重に行動するが、段々とミスが少なくなってきて慣れてきた所で確認不足をしてしまう。その結果、とんでもないミスを起こしかねない事になる。これは乗り物の運転でよく聞く話で、死人も出るくらいだぞ。……そうだな、今回だと数字の桁を一つ間違えているとかだな」サラサラ
利根「? ────!!」
利根「……今後も今回のようにならぬよう、慢心せず注意して書類を片付けてゆくようにする」カキカキ
提督「よろしい」サラサラ
飛龍「まだまだこれからですよ、利根さん」カリカリ
利根「むむぅ……」カキカキ
…………………………………………。
加賀(……さて、暗くなり始めましたね。今の内に食料をあの島へ届けましょうか)スッ
艦戦妖精「いってくるなのー」フリフリ
加賀「いってらっしゃい。気を付けてね。──あと、絶対に誰にも言っちゃダメよ?」
艦戦要請「はーい。──準備完了なのー!」
加賀「発艦」パヒュンッ
加賀(……さて、カモフラージュに本当の哨戒機も出しておきましょうか)スッ
赤城「──あら、加賀さん?」
加賀「! 赤城さん、こんな所でどうしたの?」パヒュンッ
赤城「それはこちらの台詞ですよ。こんな時間に艦載機を発艦させてどうしたのですか?」
加賀「提督からの指示です。妖精も訓練をすれば夜目が利くようになるのか試したいとの事よ」
赤城「なるほど。そうすれば私たち空母も夜間に攻撃が出来る可能性があるという訳ですね?」
加賀「ええ。ついでに哨戒にもなりますから、こうして私が試験的にやってみているの」
加賀(そういう話にしておくようにとは言われましたが……赤城さんに嘘を吐くのは少し辛いですね。……ごめんなさい、赤城さん)
赤城「加賀さん」
加賀「?」
赤城「分かっていますよ。何か言えない事情があるんですよね?」
加賀「なっ……」
赤城「私と加賀さんはどれだけ一緒に居たと思っているんですか? 嘘を吐いている事くらいは分かりますよ」
加賀「そ、それは……その……」
赤城「でも、珍しいですね? 加賀さんが私に嘘を吐くなんて。提督絡みの事かしら」
加賀「……ええ。間違っていないわ」
赤城「やっぱりね。ちょっと嫉妬しちゃいそうです。私よりも提督の方が大事なんだなーって」
加賀「あ、あの……私はどちらも大事だと──」
赤城「分かっていますって♪ 困り顔の加賀さんを見たかっただけですよ」
加賀「……赤城さんも、なんだか提督のようにイタズラ好きになっているような気がします」フイッ
赤城「提督に教えて頂きましたからね。加賀さんはこうすれば困るぞーって」
加賀「なんて事を教えているんですか、あの人は……」ハァ
加賀「……赤城さん。本当は極秘の任務中なの。だから、誰にも言わないで頂けるかしら」
赤城「はい、勿論ですよ。提督が何を考えているのか私では考え付かない事も多々ありますが、悪い事ではないはずですからね。──頑張って下さいね、加賀さん」
加賀「ありがとうございます」フリフリ
加賀「…………」
加賀「後で提督に問い詰めておきましょうか。……提督や赤城さんになら、弄られるのも嫌いではないけれど……一応ね」フイッ
……………………
…………
……
提督「──さて、本日より通常の仕事へと戻る。全員が大きく変わっていないようで安心したよ。──まずは出撃組から通達する」
提督「今回の出撃は加賀を旗艦と置いた飛龍、北上、夕立、時雨、そして長門の六隻で行うものとする。……この鎮守府では初の出撃となるが、長門も問題は無いな?」
長門「任せておけ。必ずや戦果を持って帰ろう」
赤城(代理の提督の時はあれだけ反発していた長門さんが、こんなに素直になるなんて……。やはり、提督は惹かれるような何かがあるのでしょうか)
提督「良い返事だ。海域は鎮守府周辺の海域だ。ただし、正面ではなく手付かずである南側となる。強力な深海棲艦が出没するらしく、航路を確保するよう本部から通達が来た。また、黄と赤のオーラを纏った戦艦や空母が確認されているとの事だ。油断はするなよ」
六人「はいっ!」
提督「作戦については朝礼が終わり次第言い渡す。続いて遠征組みは──」
…………………………………………。
飛龍「──加賀さん、周囲に敵影はありません。比較的平和のようです」
加賀「了解したわ。ご苦労様、飛龍」
長門「……しかし、不思議だな。飛龍は秘書艦ではなかったか? なぜ出撃をしているんだ」
飛龍「たまにありますよ。その点につきましては秘書艦も例外ではありません。少ないのは確かですけど、今回みたいな場合ですと他に人員も割けませんしね」
長門「ふむ……そういうものなのか」
北上「むしろそれが普通だと思ってたんだけど、長門さんの方は違ったの?」
長門「私の方では秘書は秘書として専属だった。戦闘に駆り出されるような事も無かったはずだ」
夕立「んー……ちょっとよく分からないんだけど、そんなに違うっぽい?」
時雨「結構違うんじゃないかな。まず、秘書艦の負担は提督のやり方よりもずっと軽いのは確かだよ。だけど、実際の現場の状況を理解するのは難しいと思う。やっぱり、自分の目で見て感じないと問題点とかは見えてこない時もあるしね。どっちが良いか一概には言えないけれど、性質自体は異なると思うよ」
夕立「ふーん……?」
時雨「……まあ、やり方はひとそれぞれって事だよ」
加賀「! 肉眼でも島が確認できたわ」
五人「!」
長門「あの島に三人が……。元気なのか?」
加賀「ええ。不自由はあれど、問題無く暮らしているそうよ。物資として毛布なんかも持っていたそうですし、食料も島に自生している物で食べられる物を選んでいると言っていたわ」
長門「ありがたい事だ……」ホッ
加賀「再度言いますけれど、長門さんは私の指示があるまで攻撃はなさらないようにして下さいね」
長門「ん? それは構わないのだが、なぜ今になってもう一度言うんだ?」
加賀「一応よ。これから何が起こるか、誰にも分からないもの」
長門「…………? そうか」
加賀(……そう。あの二人の姿を見て、この人が何をするのか分からないもの)
飛龍(どうなるでしょうかね……。何も起こらないのが一番なんですけど……)
…………………………………………。
瑞鶴「! あ、見てあれ」スッ
金剛「あれは……艦娘デスね」
響「もしかして迎えに来てくれたのかな」
ヲ級「島の暮らし、おしまい?」
瑞鶴「うん。そうなるわよ。これからはちゃんとした場所で住めるわね!」
ヲ級「楽しみ……!」ワクワク
空母棲姫「……………………」
響「空母棲姫さん、どうしたの?」
空母棲姫「……いや、どう見ても一隻、見慣れない顔が居るからな」
金剛「ワーオ……目が良いデスね……」
空母棲姫「……嫌な予感がするから、私とヲ級は隠れておこう」
響「どうしてだい? 提督ならちゃんと分かってる人達を向かわせると思うけど」
空母棲姫「念の為だ。無害だと判断すれば私達から出る」
瑞鶴「ヲ級も嫌な予感とかするの?」
ヲ級「んー……。ちょっとだけ?」
瑞鶴「うーん……そっかぁ……」
金剛「では、一応そのようにしておきまショウか。デスガ、もし何かトラブルが起こりそうでしたら守りマスよ」
空母棲姫「……艦娘に守られる深海棲艦、か」
響「普通ではちょっと考えられないね。でも、私達は二人が他の深海棲艦とは違うって分かってるよ。心境も、そして立場もね」
空母棲姫「……すまん」
響「良いって事さ。──さて、見慣れない顔って誰なんだろうね?」
瑞鶴「……提督さんの理解者とか?」
金剛「あの好かれようを考えると、ほぼ全員が理解者なのではないかと思いマスが、どうなのでショウか」
瑞鶴「んー……まあ、会ったら分かるわね。私達は出迎えましょうか」
響「うん。──じゃあ、行ってくるね」フリフリ
ヲ級「いってらっしゃい!」ブンブン
…………………………………………。
金剛「──え?」
瑞鶴「あれ……? えっと、長門さん? どうしてここに居るの?」
響「……久し振りだね」
長門「…………」
金剛「ええと……どうしたデスか?」
金剛(もしかして……あの時の事で怒っているのデスか……?)
加賀(……どうしたのかしら。話を聞く限りではとても喜ぶはずです。……まさか、あの二人が居るのに勘付いた?)
長門「……本当に、お前達なのか」
響「……そうだよ。司令官から──元司令官から轟沈命令を出された私達だよ」
長門「っ……!」ガバッ
瑞鶴「わ、わわっ!?」ギュー
金剛「ど、どうしたのデスかいきなり?」ギュー
響「……ちょっと痛いかも」ギュー
長門「良かった……! 本当に良かった……!! お前達の事が本当に気がかりだったんだ……! 生きてくれていて、本当に……良かった……」ギュゥ
金剛「……ハイ。私達は、提督に拾われたデス。これからもちゃんと、生きていくデス」
長門「ああ……! おまけに、あの場所に居た時よりもずっと元気そうだ。丁寧に扱ってくれていたのがよく分かる」ソッ
響「ところで、長門さんはどうして提督の艦隊に居るの? ……まさかとは思うけど」
長門「いや、そういう訳ではない。私があの愚か者の神経を逆撫でして教育送りとなっただけだ。その先であの人間から話を聞いて、ここへ来させて貰った」
響「なるほどね。確かに長門さんだったら行動に出そうだ。──一緒に私達と提督の所に行っちゃう?」
長門「……そうだな。それも良い。正式に異動が出来るか調べてみよう。……出来れば、あの愚か者を提督の座から引き摺り下ろしたいのだがな」
金剛「どこかで耳にしましたケド、提督になるには特殊な何かが必要らしいデス。きっと、それがあるのではないでショウか」
長門「ふん。あんな愚か者にそんなものがあるとは思いにくいがな」
加賀「……そろそろ再開に花を咲かせるのは良いかしら」
長門「む。すまない。つい嬉しくて……」
加賀「構わないわ。そうなるのも無理はないでしょうからね。──長門さん、これから貴女にはとある二人と会って貰いたいの」
飛龍(……ついにきましたね。どうなるか予測が付きません……)
加賀「そこで、艤装を一旦下ろして欲しいの。私達は面識があるのでともかく、初対面の貴女が兵器を持ったまま会話をするのは怖がらせてしまうかもしれません」
長門「……ふむ。確かにそうだな。相手が艦娘でもない限り、そういうのは良くないだろう。少し待ってくれ」ガキン
長門「──よし。これで良いだろう」ガシャッ
加賀「ありがとうございます。──金剛さん、二人はどこに?」
金剛「向こうで待っているデス。呼んでくるネー」スッ
響「……………………」
長門「どうした、響?」
響「いや、なんでもないよ」
響(ただちょっとだけ嫌な予感がしただけさ)フイッ
長門「?」
金剛「連れてきたデース」スタスタ
ヲ級「ひさしぶりっ」ブンブン
空母棲姫「……………………」
長門「────深海棲艦!?」サッ
長門(しま……っ! 艤装は……!!)ダッ
加賀「長門さん、命令です。攻撃の意志を静めなさい」ガシッ
長門「馬鹿を言うな!! 敵を目の前にして何を言っているんだ貴様は!!」
瑞鶴(あちゃぁ……やっぱりというかなんというか……)
加賀「言ったはずです、私の指示があるまで攻撃をしないようにと。私はこの場において指示を出すつもりは毛頭ありません」
長門「黙れッ!! くそっ……! こうなるのであれば艤装を下ろすんじゃなかった……!!」ググッ
夕立(うわぁ……長門さん、凄い剣幕っぽい……)
金剛「……あのー、長門。確かにこの二人は深海棲艦デスが、スペシャルな事情があるデス」
長門「…………ッ。……なんだ、お前たち全員は深海棲艦と手を組んだと言うのか」ジッ
瑞鶴「いや、手を組んだというか成り行きでこうなったというか……。単純にこの二人とは中将さん達と一緒に暮らした仲なのよ」
長門「……意味が分からん。どうして深海棲艦と暮らそうと思ったんだ」
響「二人とは艦載機を全て失った状態で会ったんだ。傷付いてたのを見た提督が修理をして、そこから一緒に暮らし始めたね」
長門「何をやっているんだ、あの人間は……」
響「二人が居てくれたおかげで助かった事もあるよ。何も無い島だから食糧問題もあったんだけど、海に潜ってくれて魚とか貝とか海草とか一杯採ってきてくれたりもしたんだ」
ヲ級「提督の料理、すっごく、美味しい! だから、頑張って、採った」キラキラ
長門「…………なんだこの無邪気な笑顔は……本当に深海棲艦とは思えん……」
加賀「落ち着いてくれたかしら」
長門「……話は聞こう。そこから判断する」
空母棲姫(……どうしてここに居る艦娘達は、こうも簡単に敵を理解しようとするのかしら)
加賀「助かります。……ですが、気持ちは分からないでもないわ。私も初めは提督の気が振れたのかと思ったもの」スッ
北上「まあー……やっぱそう思うよねぇ」
夕立「時雨もそう思ったっぽい?」
時雨「……秘密にしておくね」
夕立「えー……」
飛龍「では、説明は空母棲姫さんにお任せしましょうか」
空母棲姫「待て。なぜ私なんだ」
瑞鶴「まあ……自分の事は本人が一番知ってるからでしょ?」
空母棲姫「いや……どう考えても私の口から出る情報は信用ならないだろう。この艦娘からすれば、私の言う言葉の何が嘘なのか分かる訳がない。あの島で暮らしていた三人の誰かが説明した方が信憑性もある」
加賀「なるほど。確かに一理あります」
長門「……意外と常識があるな」
瑞鶴「なんか長門さんが物凄い失礼な事言ってる……」
空母棲姫「構わん。私達は本来敵同士だ。このくらいが一番良い。……むしろ、お前たちがおかしいという事を忘れるな」
響「信頼というものは、その人の行動で得られるものだよ。私にとって空母棲姫さんとヲ級は信頼できる。あの島で一緒に生活をして思ったよ」
長門(……あの愚か者を信頼しなかった響が信頼する深海棲艦、か)ジッ
空母棲姫「……ならば、そこの艦娘が信頼できる者を選んで話を聞けば良い。その方が納得しやすいだろう」
長門「なるほど。──では瑞鶴、頼む」
瑞鶴「ちょっ!? どうして私なのよ!? 私、説明とか苦手なんだけど!!」
長門「だからこそだ。嘘も吐けないだろうし、嘘を言ったとしても説明下手ならばすぐに分かる。何よりも、思った事や見た事をそのまま言ってくれたら良い」
瑞鶴「もー……。というか、そもそも何をどう説明したら良いのよ……」
長門「では聞こう。その深海棲艦の二人は信用できるのか?」
瑞鶴「ん、うん。食料では本当に助かったし、攻撃する気だったら島でさっさとやったら良かったしね。私は信用してるわよ」
長門「だが、その空母棲姫が大破しているのはどういう理由だ? 私には鹵獲したようにしか見えん」
瑞鶴「あー……それなんだけど、別の深海棲艦から攻撃を受けたのよ。実際に私たちも空爆されたし……」
長門「それはなぜだ」
瑞鶴「中将さんや私達と一緒に暮らしていたからって話よ。レ級がそれを見て二人を裏切り者って認識したみたい。……というか、たぶん利根さんもレ級に撃たれたからだろうし。あ、利根さんは中将さんの艦娘よ。もしかしたら会ったかもしれないけど」
長門「ああ。秘書艦として四苦八苦しているのを見ていたから分かる。……そうか。負傷したのはレ級から砲撃を受けたからか」
瑞鶴「……えっと、利根さんってもう動けるようになったの? だいぶ酷かったと思うんだけど……」
長門「今は元気に秘書としての勉強をしているぞ。仕事が終わる度に疲れ切った顔をしている」
瑞鶴「そっか。良かったぁ……」ホッ
長門(……今の所、嘘や誤魔化しはしていないように見える。ならば、本当に信用出来る相手なのか……?)
瑞鶴「えーっと、他に言った方が良いのってある?」
長門「……いや、充分だ。一応信用しよう。だが、信頼はせんぞ」
空母棲姫「構わん」
飛龍「ふー……。なんとか纏まりもついたようですし、連れて帰りましょうか」
加賀「そうね。陽も傾いてきましたし、丁度良いでしょう」
飛龍「日没後までの哨戒は利根さんがやる事になっていますので、かなり近くまで帰ってもバレません。金剛さん達には別の場所から上陸してもらい、そこで一先ず待機。その後で提督が迎えに来てくれる手筈になっています」
金剛「オーケーデース」
瑞鶴「今夜はベッドで寝られるのかしら……」
響「どうだろね。提督がどういうやり方でで私達を在籍させるのかによると思う」
飛龍「その辺りは提督がしっかりと説明してくれるはずです。私達で説明するよりも分かりやすいはずです。ただ、簡単に言うと他の子達と同じように海から拾ってくるという形にするそうですよ」
長門「……三人は分かるのだが、どうして深海棲艦も一緒なんだ」
空母棲姫「……あの人間の言う事が本当ならば、私達は恩人だそうだ」
瑞鶴「あー、そういえば確かにそんな事を言ってたわね」
長門「恩人……? どういう事だ」
空母棲姫「分からん……。何か悩んでいた時に私の言葉を聞いて勝手に悩みを解決したようだが、それの事について言っているのかもしれん……」
長門「……あの人はつくづく変な人間だな」ハァ
空母棲姫「全くだ……」ハァ
時雨(なんだか……この口調の空母棲姫さんは長門さんや提督に似ていて、素の時は加賀さんっぽく見えるかな……)
北上「まー、長門さんは納得できたのかな。出来ればちゃっちゃと連れて帰ってあげたいんだけど」
長門「……今は計画の通りに動くが、後で問い詰める。この状態ならば後でどうとでも出来るだろう」
加賀「では帰りましょう。きっと提督も待っているはずよ」
…………………………………………。
今回はここまでです。また一週間後くらいにきますね。
最近の中じゃ少し多めに投下したけど、やっぱり昔と比べると何十分の一くらいに少ない。時間って大切。
>>834
やっぱり、次スレの残り次第ですね。たぶんというかほぼ間違いなくこのスレじゃ終わらないので、残っている限りor気の済むまで書くと思います。
どのルートを辿るかはその時の需要がありそうだなーって思った子にします。
メインルートはこのスレの最初の方から決まっていますので、変えません。IFルートも現在二つほど決めています。この二つは書きたい。時間とか状況に余裕があれば他のルートも考えています。
誰がルートに選ばれるかは敢えて言わずにおきますので、楽しみにして下さるとありがたいです。
間宮「伊良子ちゃーん。そっちの準備も終わりそう?」
伊良子「あとほんの少しですよー。味付けもバッチリです!」
間宮「はーい。もうすぐしたら皆が来るから、私は食器類の再確認をしておきますね」
伊良子「分かりましたー。って、あれ?」
提督「邪魔するぞ」スッ
間宮「あら、提督? どうかなされたのですか?」
伊良子「お腹が空いちゃいました? もう少しですので待ってて下さいねー?」
提督「いや、そういう訳ではない。二人に話があるんだ」
間宮「お話ですか? なんでしょう」
提督「この鎮守府での食事の全ては二人に任せてあるだろう。だが、これだけの所帯だ。人手が不足しているのではないかと思っている」
間宮「んー……。確かにあと一人か二人は居て下さると楽になりますけれど、いきなりどうしたのですか?」
提督「なに。少々巡り合わせがあってな。今のところ料理の事はほぼ無知だが、作る事に興味を持ち始めた子が二人居る」
伊良子「その子達をここで働かせたい、というお話ですか?」
提督「そうだ。お願いしたい」
間宮「んー……?」
伊良子「? 間宮さん、どうしたのですか?」
間宮「いえ、提督が直々にお願いをしにくるという所で何か引っ掛かって……。特別な事情でもあるのでしょうか」
提督「……絶対に外へ漏らさないと誓ってくれるだろうか。今回はそれほどシビアな話なんだ」
伊良子「私は構いませんが、そんなに重要なのですか?」
提督「ああ。外部に情報が流れると誇張も比喩も無しに鎮守府が崩壊するという可能性がある」
間宮「…………えっと、お料理をするお方ですよね? なぜそんなに重要なお話になるんですか……?」
提督「本来ならば許されない事だからだ」
間宮「どこかの国のお姫様でも雇わせるんですか?」
提督「字面では強ち間違っていないが、もっと深刻だ」
伊良子「ええぇ……」
間宮「……危険や障害はありますか?」
提督「私が見る限りでは無いと言える。……先に言っておくが、私が孤島暮らしをしていたとき共に暮らしていた者なんだ。──念の為だが、利根の事ではないぞ」
間宮「では、提督が信頼をしているお方という事でよろしいですか?」
提督「ああ。私はあの二人の事を信頼できると思っている」
間宮「ならば、私は信頼も信用もします。提督がそう仰るのでしたら問題無いはずです」
伊良子「私も同じ意見ですよー」
提督「ありがたい。──おそらく今夜、顔を合わせる事となるだろう。世間的には問題のある子達だから、日付が変わった時に二人の部屋に足を運ぶ」
間宮「はい。お待ちしていますね」
伊良子「はーい」
提督「最終確認をしておくが、その二人を知ったからには戻れないと思ってくれ。もしその二人が外にバレた場合、この鎮守府に直接関わっている者全てが処刑されてもおかしくはない。──それでも良いか?」
伊良子「しょ、処刑……」
間宮「大丈夫ですよ。提督がやろうとしている事ですから、きっと上手くやってくれます」
伊良子「こ、怖いですけど……がんばります!」
提督「……何を頑張るのかは分からないが、頼む」
間宮・伊良子「はいっ」
…………………………………………。
金剛「……夜になってからもう随分と時間が過ぎまシタね」
瑞鶴「そうねぇ。たしか、日付が変わった後くらいに迎えが来るんだっけ?」
金剛「そのはずデース。…………でも、今の時間が分からないネ……。今は何時なのデスかね」
響「たぶん……そろそろ零時を回った頃じゃないかな。本当にたぶんだけど」
ヲ級「…………」ソワソワ
金剛「どうかしまシタか?」
ヲ級「本当に、大丈夫なのか、ドキドキしてる」ソワソワ
空母棲姫「まあ……そう思うのも無理はないだろう。私とて本当に問題が無いのか心配しているくらいだ」
金剛「提督ならばノープロブレムだと私は思うデス」
空母棲姫「ほう。どうしてそう考えた?」
金剛「やっぱり、あのアイレットで一緒に暮らしたからデス。……今だから言える事デスが、私の欲しかったものを提督は私に下さいまシタ」
金剛「言っていないので知らないと思いマスが、私は瑞鶴や響が来る前に提督に優しくされて泣いているデス」
瑞鶴「……え? 金剛さんが?」
響「それは……なんというか、よっぽどだね」
空母棲姫「……私もあまり想像がつかない」
ヲ級「人前で、泣きそうに、ない」
金剛「勿論、二人の前では泣いていまセン。瑞鶴と響と一緒に使っていたルームに逃げて泣きまシタ。──あ、これは誰にも言ってはいけまセンよ? 私のシークレットですからネ?}」
瑞鶴「……それにしても、本当に意外ねぇ。あの鎮守府に居た時は泣くとかどうとかって全く思わなかったわ」
金剛「あの時は……心がどこか死んでいたのかもしれまセン」
響「……………………」
金剛「毎日、提督の言われるがままに出撃をシテ……執務をこなシテ……食事はただの栄養補給のようで……初めこそは褒めて貰いたかったデスが、いつの間にかやらなければならない事や指示された事を必死になって動いていただけだったような気がしマス」
瑞鶴「……そうだったわよね。確かに、あの頃の金剛さんは一番酷使させられてたように思うわ」
響「でも、これからはたぶん、そうならないと思う。提督が私達をどう扱うかによると思うけど、悪くはしないと私は思う」
ヲ級「あの人、優しい」ニパッ
金剛「イエス。だから……普通の艦娘として生きていけるのならば、私はそれ以上は何も望みまセン」
瑞鶴「……ちょっと大袈裟な気もするけれど、今までが今までだったから、そう思っても仕方が無いのかもしれないわね」
空母棲姫「……………………」キョロ
響「? 空母棲姫さん、どうしたんだい?」
空母棲姫「……いや、ふと思った事があるだけだ。特に何かがあった訳ではない」
瑞鶴「ふぅん? 何を思ったの?」
空母棲姫「……よくよく考えてみれば、お前達は捨てられた艦娘という訳だ」
響「そうなるね」
空母棲姫「そして、私とヲ級は深海棲艦の群れからはぐれ、そして過去の仲間からは敵と見做されて捨てられた深海棲艦だ」
瑞鶴「えっと……うん、そうなるわよね」
空母棲姫「そしてこの誰も来ないような沿岸……どことなく野良猫か何かと同じような気がして、な……」
金剛「オーゥ……そう言われてみれば……」
瑞鶴(あ、そう言えば野良艦娘で──)
響「! 誰か来たよ」
四人「!!」
提督「──さて、この辺のはずだが」
金剛「……提督デスか?」
提督「む、そっちか。今行く」
間宮「あ、あれ……? 今の声って……」
瑞鶴(え? 誰か連れて来ているの?)
提督「何日か振りだな。大丈夫か?」
響「あの島で鍛えられたからね。問題なく暮らせたよ」
提督「そうか。良かった」
空母棲姫(……間宮と伊良子? どうしてこんな場所に)
間宮「っ……!?」ビクッ
伊良子「え……え、え……? し、深海棲艦……?」ビクン
提督「間宮、伊良子。夕方に言っていた二人というのは、この深海棲艦の事だ」
伊良子「ど、どどどどういう事ですか……!?」ビクビク
提督「簡単に説明するならば、深海棲艦から敵と見做された深海棲艦……そして、孤島で私と利根、金剛に瑞鶴、響の食材を調達してくれたりもしている」
伊良子「だ、大丈夫……なのですか……?」ビクビク
提督「大丈夫だからそんなに怯えなくても良い。現に金剛達と一緒に居るだろう?」
間宮「……提督」
提督「どうした」
間宮「提督は……このお二人を信頼しているんですよね?」
提督「ああ。空母棲姫はなんだかんだで常識がある。理由も無く危害を加えてきたりはせんよ。ヲ級に至っては普通に接している分には人畜無害だ」
空母棲姫「単純に貴方の常識が無さ過ぎるだけなのではないかしら」
提督「……このように、割と痛い所も突いてくる」
空母棲姫「特に、少し強引過ぎると思うのだけれど」ジッ
提督「否定はしない」
伊良子(あれ……本当に普通の会話ですね……?)
間宮「……このお二人は本当に深海棲艦なんですか?」
空母棲姫「本物だ。……艦載機があれば証明も出来ただろうが、生憎と全て撃墜されている」
提督「今になって思えば、そうであったからこそ対等に話し合えたのかもしれん」
空母棲姫「違いありませんね。私も艦載機が残っていれば戦おうとしたでしょうし」
間宮(……提督にだけ口調が変わっているような気がしますけれど、向こうで何かあったんでしょうか)ジー
ヲ級「姫はね」チョンチョン
間宮「は、はい?」ビクッ
ヲ級「提督を、信頼してる。だから、素のくちょ──むぐっ」
空母棲姫「余計な事は言わないの……!!」ググッ
ヲ級「むぐー……」
伊良子(あ……なんだか可愛いかも……)
間宮(……深海棲艦も艦娘も、同じなのかもしれませんね)
提督「……という訳だ。この二人に居場所を与えたい。料理を教えてやってくれないか」
間宮「私は大丈夫ですよ。伊良子ちゃんは?」
伊良子「私も問題ありません。むしろ、後輩が出来たのかと思うと可愛がりそうです!」
空母棲姫「……私も可愛がるのか? ビジュアル的に無理があるだろう」
伊良子「あ、あはは……たぶん貴女には普通に接するかもしれません」
空母棲姫「そうしてくれるとありがたい」
提督「では、頼んだぞ二人共」
間宮・伊良子「はいっ!」
金剛「そちらのお話は纏まったようデスけれど、私達はどうすれば良いデスか?」
提督「こちらで部屋を用意する。私の隣の部屋に監禁のような扱いになってしまうが……許してくれ。隣の部屋は防音仕様となっているが、一応音には気を付けておいてくれるか」
瑞鶴「大丈夫よ。海から拾ってくるっていうのが前提だもん。それに、ちゃんとしたベッドで寝られるのなら今の所は充分よ」
響「正式に入籍できるのを待っているよ」
金剛「……でも、どうして防音仕様なのデスか?」
提督「色々と防音の方が良い事もあるんだ」
瑞鶴「ふぅん? そっか」
間宮「……えっと、提督? 正式に入籍ってどういう意味なんですか?」
提督「三人は別の鎮守府の艦娘だ。……しかし、事情があって捨てられる事となってしまった。そこで私と会ったんだ」
伊良子「艦娘を捨てる……なんでそんな……」
提督「理解し難い事だ。考えなくて良い。──この三人の事だが、誰にも言わないようにしてくれ。頼む」
間宮「ええ、勿論ですよ。捨てられて良い命なんてありませんから」
伊良子「そうですそうです! 後でお夜食を持ってきますからね?」
金剛「ありがとうございマス!」
瑞鶴「ありがとね!」
響「スパスィーバ」
提督「では、鎮守府へ案内する。巡回のルートは外して進むが、一応話さないようにしてくれるか」
全員「はい!」
瑞鶴「……あ、提督さん」トトッ
提督「どうした」
瑞鶴「ちょっとこっちに来てくれるかしら」チョイチョイ
提督「物陰……? なんだ?」スッ
瑞鶴「よし……ここなら見えないわね」チラ
提督「…………?」
瑞鶴「──野良艦娘です、にゃぁにゃぁ」コテッ
提督「……………………」
瑞鶴「…………」
提督「…………………………………………」
瑞鶴「……………………」
提督「……どう反応すれば良い」
瑞鶴「……ごめん。こうすれば良いんじゃないかって聞いたから……」
提督「……ちゃんと拾うから、な?」
瑞鶴「ありがと……」
……………………
…………
……
一先ずはここまでです。また一週間後くらいに来ますね。
夏コミに本を出す事になりました。別のサークルさんにスペースをお借りするする形です。小説に挿絵を何枚か乗せた同人ラノベになるかと思います。
詳細はまた後日に発表します。
提督「──本日から皆と仲間になる子が居る。……挨拶をしてくれ」
瑞鶴「は、はい! ──翔鶴型航空母艦二番艦、妹の瑞鶴です! よ、よろしくお願いします……」ペコッ
響「響だよ。これからよろしく」
翔鶴(ぁ……えっと……)オロオロ
暁・雷・電「…………」
瑞鶴(うぅ……やっぱり凄く難しい顔されてる……)
響「……司令官、私達はあまり歓迎されていないみたいだけど……私達は『二人目』なのかな?」
瑞鶴(ちょっと響ちゃん!? いきなり何を言ってるのよぉ!?)
全員「っ……」
提督(ふむ……。何となく読めたぞ)
提督「……そうだ。瑞鶴と響……両者共にこの鎮守府では『二人目』となる」
響「一人目は、ここに居ないの?」
提督「居ない。……二人とも、私の判断ミスによって沈ませてしまった」
響「……そっか」
提督「ああ……」
全員「……………………」
瑞鶴(ど……どうするのよこれ……。最悪の空気ってレベルじゃないわよ……?)
響「今度は」
提督「…………」
響「今度は、大丈夫?」
提督「……約束する。今度は、必ず沈ませない」
響「ん。だったら良いよ。──司令官、作戦指示を。私は司令官の為に動きたい」
響『…………、…………。………………………………』
提督「ありがとう……。──瑞鶴も、構わないか?」
瑞鶴「え、私? ……えっと、うん。大丈夫、だけど……」
提督「……そうか」
瑞鶴「あ、いや、うん! 大丈夫! 私は幸運の空母だもん。沈んだりなんかしないわ!」
加賀「あら、そうなのね。だったら……沈まないようにみっちりと指導してあげるわ」
瑞鶴「え……! え、えっと……それは……」
加賀「何か問題があって?」
瑞鶴「…………お、お手柔らかにお願いします……」ビクビク
翔鶴「あのぅ……加賀さん」
加賀「何かしら」
翔鶴「……どうか、優しくお願い致します」ペコッ
加賀「大丈夫よ。その辺りの加減はちゃんとするわ。……それに」チラ
瑞鶴「?」
加賀「きっとこの子は伸びるわ。そんな気がするの」
提督「……ふむ」
提督(加賀も分かってくれているようだな。そうすれば、多少の実力の大きさも目を瞑れるか)
提督「加賀が言うのならば期待が出来る。私からも期待しているぞ」
瑞鶴「う……。が、頑張る……!」
響「私も頑張るよ」
提督「ああ。頼むよ」ナデナデ
響「ん……」
雷(あ、なんだかもう堕ちてる)
……………………
…………
……
金剛「…………」ボー
金剛「……普通の部屋デスよね。ケド……ベッド以外は何も無いデスね……」
金剛(それにしても……どうして防音にしているのでショウか? 色々と都合が良いと仰っていましたケド……)
金剛「…………」キョロ
金剛(……うーん。やっぱり何に使っていたのかが分からないデス……。窓を近くで見ればまた何か分かるかもしれまセンが、外から見てバレるのも良くありまセンし……)
金剛「……やっぱり、寝ておいた方が良いのでショウかね? ──あ、確か後でテートクが娯楽品を持ってきてくれると言っていまシタっけ」ギシッ
金剛「ちょっとだけ、楽しみデス……」コロン
コツッ──コツッ──コツッ──
金剛「?」クルッ
金剛(今の……ノックですか? テートクでショウか)
カチャッ……ガチャ──パタン
間宮「こんにちは、金剛さん」
金剛「えっと、こんにちは……デス」
間宮「お暇しているかと思いまして、勝手ながら色々な物を持って来ました。──よいしょ」ゴトッ
金剛「? これは……?」
間宮「ガスコンロと小型電気オーブン、後は紅茶の葉っぱに卵や小麦粉、砂糖などもありますよ」
金剛「え……えぇ? ど、どうしたのデスか、これは……?」
間宮「提督からのお願いがありまして、これらを金剛さんの所へ持っていって欲しいとの事です」
金剛「えっと、あの……良いのですか?」
間宮「ええ、勿論ですよ。むしろ提督は、この程度の事しか出来ないーって言っていましたからね」
金剛「……………………」
間宮「……ごめんなさい。お気に召さなかったですか?」
金剛「そ、そんな事はありまセン! とっても嬉しいデス! …………デスけど、気を遣わせてしまったような気がして……」
間宮(……提督から軽く説明はして頂きましたけれど、本当にご自分の事を蔑ろにしてします傾向がありますね)
間宮「金剛さん」
金剛「ハイ……」
間宮「これは秘密ですよ? ──提督は、金剛さんをここへ押し込んでしまったと思っていて、申し訳ないって本当に思っているんです」
金剛「……え? な、なぜデスか? テートクは何も悪くないデスよ?」
間宮「それと、金剛さんと二人きりで話したい事があるのかもしれません」
金剛「私と……?」
間宮「そこは私の憶測ですけれどね。でも、そうでなければここに一人で残すなんて事をしないと思うんです。何か考えがあるはずです」
金剛「何か考えが……。デスが、どうしてテートクではなく間宮がここへ来たのデスか?」
間宮「今、提督は本部から纏められた指示書の確認と対応に追われています。何でも、提督が帰ってきたという事で急遽資料や指示書なんかを作りあげて送られてきたそうですよ。もう凄い量でした」
金剛「……やっぱり、テートクという立場は忙しいのデスね」
間宮「本当ですよね。私だったら、やれと言われてもやりたくないです」
間宮「まあ、そういう事もあって、提督が金剛さんを暇させないようにと紅茶とお菓子作りの材料を持って行って欲しいと仰っていました」
金剛「……とても嬉しいのデスが、匂いでバレたりしまセンか?」
間宮「大丈夫ですよ。潮風でだいぶ薄れますし、もし匂いに気付いても食堂が近くにあるので私や伊良湖ちゃんが何かを作っているとしか思われません」
金剛「…………えっと」
間宮「?」
金剛「ありがとうございマス」ペコッ
間宮「いえいえ。私はこのくらいしか出来ませんから。──あ、それと、暇を作ったらここへ来るとも仰っていましたので、さっきの私がやったような小さなノックがありましたら提督だと思ってて下さいね」
金剛「……ハイ!」
間宮「良い笑顔です。──さて、私は空母棲姫さんとヲ級ちゃんに料理を教えてきますので、これで失礼させて頂きますね」スッ
金剛「色々とありがとうございまシタ」ペコッ
間宮「どういたしまして。──それでは、また後日に会いましょう」
ガチャ──パタン
金剛「…………テートクが私の為にこれを……」
金剛「……よし。お礼にテートクが食べられるお菓子を作りまショウ。確か、砂糖がお嫌いと言っていまシタから、ノンシュガーのお菓子が良いデスね」
金剛「材料は豊富にありマスから何でも作れます。……パイにビスケット、スコーンも良いデスね」
金剛「久し振りなのでしっかりと出来るかは分かりませんが、頑張るデス……!」グッ
……………………
…………
……
今回はこのくらいで投下終了です。たぶんまた一週間後に来ると思います。
日付を跨いじゃった……楽しみにして下さっていた方、すみません……。おまけに量が少ない……。
同人誌の方ですけれど、金剛と飛龍の本は確定しました。本文も書き上げたので、後は構成などなど色々と考えたり挿絵を描いて頂いたりするなどです。
場所は一日目 東C36aで、STYX様に販売委託するという形です。この場を借りてお礼申し上げます。
利根「……のう、提督。これは何の冗談じゃ?」
飛龍「これまた凄い量ですね……。通常業務の書類に加えてダンボール三つ分ですか……」
提督「総司令部の嫌がらせか何かだと思ってしまうよ」
飛龍「まあ……提督が居ない間の作戦の資料がほとんどのようですから、読むだけでしたら一週間もあればいけるのでは?」
提督「……面倒だ」
飛龍「諦めて読みましょう、ね?」
提督「…………面倒だ」スッ
飛龍(そうは言っても、ちゃんと読むんですよね。──さて、私はお茶の用意をしますか)トコトコ
提督「利根。お前はいつものように書類の整理を頼む。私も並行してやるが、今日は時間が掛かると思え」
利根「…………」
利根(……我輩が頑張れば、提督はその分だけ楽になるはずよの)
提督「どうした、利根」
利根「ん、なに。ただ単にいつも以上の働きをしようと心に決めておったのじゃ」
提督「そうか。無理はするなよ」サラサラ
利根「うむ。倒れてしまってはお主から何を言われるか分かったものではないからのう」カキカキ
提督「寝ている横で小言を言い続けてやろう」
利根「小言に我輩の身体を気にしている姿が容易に想像できるぞ」カキカキ
提督「そうだな。まず間違いなくそうなる」サラサラ
利根「提督は優しいからのう」カキカキ
提督「さて、早速寝言が聴こえてきたな」
利根「寝言なのじゃから素直に受け取ってくれても良いのじゃぞ?」カキカキ
提督「叩き起こしてやろうか」サラサラ
利根「し、仕事中じゃから後での」カキカキ
提督「後なら良いのか」
利根「イヂメるでないぞー……」カキカキ
飛龍(……仲、良いなぁ)
…………………………………………。
金剛(……さて、そろそろ焼き上がる時間デス。オーブンから取り出しまショウ)スッ
金剛「ふむ……ふむふむ。見た目はグッドです。後は味の方デスが……」
金剛「…………」モグモグ
金剛「……甘味が無くて、私の口には合わないデス。メープルシロップを掛ければ美味しいと思いマスが……」
金剛「うーん……。テートクは美味しいと言って下さるでショウか……」
コツッ──コツッ──コツッ──
金剛(! テートクですかね?)ソワソワ
カチャッ……ガチャ──パタン
提督「調子はどうだ、金剛」
金剛「私は元気デス。テートクは……なんだか雰囲気が少し暗いデスね? 何かあったのデスか?」
提督「まあ……ちょっとした総司令部からの面倒事だ。段ボール箱三つ分の書類をいきなりドカンと送られてきた」
金剛「み、三つ……。大人の人でもスッポリ入れそうなアレですよね……?」
提督「そうだ」
金剛「……お疲れ様デス」ペコッ
提督「長年サボっていたツケだろう。──ところで、何か作っていたのか? スコーンを焼いているような匂いがするが」
金剛「!! 分かるのデスか?」
提督「多少はな」
提督(『金剛』がよく作っていたからな……)
金剛「ぁ……」
提督「ん? どうした」
金剛「い、いえ……」
金剛(…………きっと、テートクの『金剛』も同じようにスコーンを作っていたのデスね……。失敗しまシタ……)
提督(……ああ……この子はたぶん『金剛』の事を考えているんだな。さて……どうしようか……)
金剛「……………………」
提督「…………」
金剛「…………」
提督「…………」ポン
金剛「…………?」
提督「……ありがとう」ナデナデ
金剛「……ごめんなさいデス」
提督「どうして謝る?」
金剛「私は、気を遣わせてしまっていマス……。本当でしタラ、テートクが喜べるようにするべきなのに……」
提督「その気持ちだけで充分だ」ナデナデ
金剛「でも──」
提督「充分だよ、金剛。そう思ってくれるだけで、私は嬉しい」ナデナデ
金剛「……ハイ」
提督「なあ金剛。そのスコーン、一つ貰っても良いか?」
金剛「え──。勿論デスけど……」
提督「けど?」
金剛「…………いえ、ぜひ召し上がって下サイ! とっても久し振りデスが、上手く出来まシタ!」
提督「ああ、頂く」ヒョイッ
金剛「…………」ドキドキ
提督「…………」モグ
金剛「……お口に合いマスか?」ドキドキ
提督「……うむ。良いな、これは。美味い」
金剛「リアリー!? やったデース!」
提督「金剛、確かに防音になっているとは言ったが、少し声を抑えてくれ」
金剛「あぅ……ソーリィ……」シュン
提督「だが……」
金剛「…………?」
提督「やっぱり、お前はそうやって明るい方が似合っている。正式にこの鎮守府に籍を置く事になった時は、素を出してくれ」
金剛「──ハイッ」
提督「うむ。良い返事だ」
提督(私としても、暗い金剛を見るのは辛いからな……)
…………………………………………。
ヲ級「出来た!」
伊良湖「は、初めてにしては早いですね……。しかも、味付けも良いです」
間宮「包丁などは流石に不慣れが目立ちますけれど、一ヶ月か二ヶ月くらいもすれば教えなくても良くなりそうね……」
ヲ級「えへー」ニパッ
空母棲姫「まさか、この子にこんな才能があるとは思わなかった……」
間宮「空母棲姫さんも充分に凄いですよ。包丁の扱いなんて本当に初めてなのかと思ってしまうくらいです」
空母棲姫「……なぜかは知らないが、包丁を昔どこかで使っていたような気がするんだ」
間宮「そうなのですか?」
空母棲姫「ああ。必死になって覚えたような……そんな記憶だ」
伊良湖「不思議な事もあるんですねー……」
間宮「ええ。もしかしたら前世の記憶かも? なんてね」
空母棲姫(……そういう事ですか。この二人は、深海棲艦は元々艦娘だったというのを知らないのですね。……混乱や同情を招きかねませんし、ここは黙っていましょうか)
間宮「それにしても、教えながらなのにいつもと同じ時間に出来上がるなんてビックリしました。これでしたら、すぐに戦力になりますね」
ヲ級「戦力? 私と、姫、戦うの?」
空母棲姫「この場合は役に立つという意味だ。私達はもう戦わなくて良いのだから、戦闘の事は忘れてしまえ」
ヲ級「はーい!」
伊良湖「空母棲姫さんは盛り付けが頭一つ抜けていて、ヲ級ちゃんは調理が良い感じになりそうですね」
間宮「ええ。お二人のこれからが楽しみです」
空母棲姫「……………………」
間宮「? どうかしましたか?」
空母棲姫「……いや、お前達は私達の事が怖くないのだろうかと思っただけだ。こうして深海棲艦に料理を教えるなど異常なこと極まりないだろう?」
伊良湖「あー……えっと……」
間宮「うーん……」
空母棲姫「……すまん。変な事を言ってしまった」
伊良湖「い、いえいえ! そんな事ないですよ!?」
間宮「……私は、お二人の事を怖くは思っていませんね」
ヲ級「提督と、一緒!」
間宮「いえ、提督はきっと本当に怖く思っていないだけです。……私は、正直に言うと料理を教えるまでは怖く思っていました」
空母棲姫「……過去形か」
間宮「はい。料理を覚えて貰っていく内に、そんな気持ちは無くなりました。だって、お二人とも凄く一生懸命になって覚えようとしてくれているんですから」
空母棲姫「そんな理由でか……?」
間宮「はい。物事に対して一生懸命になれる人に悪い人は居ません」
空母棲姫「その言葉をあの方が聞いたら反論されそうだな」
間宮「……確かにですね。悪い事に一生懸命になる者も居るぞーって言いそうです」
ヲ級「姫、提督の事、よく、知ってるね?」
空母棲姫「特殊な方ではあるが、なんだかんだで分かりやすいからな」
伊良湖「ほえぇ……」
間宮「あらあら」
空母棲姫「……なんだ?」
間宮「いえいえ、何でもありませんよー。──それよりも、あと少しで艦娘の皆さんが来ますけれど、一緒に配膳しますか?」
空母棲姫「それはまだ早い。もし目の前に立つとしても、私達の料理が良くなければ信用もされにくい」
空母棲姫「やるのならば私達の料理を気に入って貰ってからだ。……どうせあの方と同じように特異な艦娘ばかりだとは思うが、騒ぎになる要素は限りなく排除しておきたい」
間宮「はい。分かりました。それでは、明日に使おうと思っている材料の灰汁抜きのやり方を教えておきますので、艦娘の皆さんの食事が終わるまでの間はそれをお願いしますね」
ヲ級「はーい!」
空母棲姫「ああ、分かった」
間宮(……さてさて、提督を理解するのが早いように思いますけれど、それは信頼しているからなのか……それとも……?)
間宮(どっちでしょうかねー?)ニコニコ
……………………
…………
……
今回はこれで終わりです。また一週間後くらいに来ますね。
熱い溶ける灰になる。皆さんも夏バテには注意して下さい……。
乙です
次スレへの移行は次々回あたりですか?
利根「…………」コックリコックリ
提督(ん? ──ふむ。もうそんな時間か)チラ
飛龍「……提督、利根さんをどうしますか?」ヒソ
提督「寝かせてやろう。何年もこのくらいの時間には寝ていたんだ。眠くなるのも仕方が無い」ヒソ
飛龍「分かりました。毛布を取ってきますね」ヒソ
提督「いや、ベッドで寝かせてやろう。このままでは寝ても疲れる」ヒソ
飛龍「……………………」
提督「……すまんな」ポン
飛龍「いえ……大丈夫、で──あっ」
利根「…………」ゴンッ
利根「むがっ……!?」パチッ
提督「む。起きてしまったか」
利根「す、すまぬ! 寝てしまっておった! むぐぐ……ど、どこまでやっていたのか……!」
提督「利根、今日はもう寝てしまえ」
利根「いや、出来る所までやるぞ。提督も忙しいじゃろ」
提督「ならばこう言おう。その状態でどれだけの事が出来る。ミスは限りなく減らせるか?」
利根「む……む、むぅ……」
提督「いつもならばこのくらいの暗さになっていると寝ていただろう。無理はするな」
利根「むう……むむむむむ……」
提督「……珍しく聞き分けが悪いな」
利根「……我輩が頑張れば、その分だけお主が楽になるからじゃ」
飛龍(ああ、だから頑張っているんですね)
提督「体調を崩してしまえばその分だけ負担が掛かるぞ。それに、この調子ならば時間はまだある。心配するな」
利根「……………………」
提督「まだ理由が必要か?」
利根「…………むぐぅ……。分かった……。この一枚を最後にするのじゃ……」スッ
提督「そうしておけ」
利根「提督は眠くないのかの?」カキ
提督「少しだけだ。寝ようと思えば寝られる程度といった所か」ペラ
飛龍「提督も無茶はしないで下さいね?」カリカリ
提督「ああ。飛龍、お前もな」ペラ
利根「……よし、終わりじゃ。飛龍、ここまで進めておいたぞ」スッ
飛龍「ふむ……分かりました。ゆっくり休んで下さいね?」
利根「すまぬ。後は頼む……」トコトコ
利根「おやすみじゃー……」モゾモゾ
飛龍(あれ……。当然のように提督のベッドへ入りましたね……)チラ
提督「…………」ペラ
飛龍(提督も気にしていない様子ですし……それがもう当たり前なんですかね……?)
飛龍「……良いなぁ」ボソッ
提督「……………………」
提督「利根、すまんが自分の部屋で寝てくれるか」
利根「ぬ?」
提督「時と場を弁えろと言っているんだ」
利根「む、そうじゃった。すまぬ」モゾモゾ
利根「では、また明日じゃ提督、飛龍よ」
提督「ああ、良い夢を」
飛龍「おやすみなさい」
ガチャ──パタン
飛龍(利根さんって、本当に提督と一緒に居るのが当たり前になってるんだなぁ……)
提督「飛龍」
飛龍「? 何ですか?」
提督「さっきの事だが、一応釘を刺しておく。誰にも言わないでくれ。私の注意不足だ」
飛龍「え、は、はい……」
飛龍(注意不足……? どういう事ですかね……?)
提督(……この書類に集中していて、利根がベッドに入るのを何とも思わなかったとは。私も島暮らしで色々と鈍ったという事か……)
……………………
…………
……
金剛「…………」
金剛(流石に少し暇になってきまシタ。……そういう時はベッドで横になるのが一番デス)ギシッ
金剛「んー……♪」コロン
金剛(なぜかは分かりまセンが、このベッド、とても気分が良くなる時があるデス。何か特別な何かがあるのデスかね?)
金剛(誰かに護られているというか……そんな不思議な気分デス)
コツッ──コツッ──コツッ──
金剛(! テートクですか?)ガバッ
カチャッ……ガチャ──パタン
提督「元気にしているか」
金剛「イエス。コンディションはグッドデース」
提督「そうか、良かった。……すまんな」
金剛「何がデ──」
金剛(ああ……間宮が言っていた『私をここへ押し込んだと思っている』の事デスか)
金剛「問題ナッシング。これからはテートクの艦娘として頑張れるデス!」
提督「…………」ポン
金剛「?」
提督「ありがとうな、金剛」ナデナデ
金剛「────────」
金剛「──はい。ありがとうございます、テートク」ニコ
提督「…………」ピタッ
金剛「? どうしたデスか?」
提督「……いや、なんでもない」スッ
金剛「…………?」
提督「話は変わるが、明日は金剛を正式にこの鎮守府の艦娘とする予定だ。その上の話だが、初めは多少の手を抜くという事を頼む」
金剛「着たばかりなのに強いのはストレンジだからデスか?」
提督「そういう事だ。いくら戦艦だからとは言っても、私達が向かう海域は錬度が足りない艦娘によるゴリ押しは出来ないような所だからな」
金剛「了解デース。フォローできるようなミスを少しするように心掛けマス」
提督「それと……初めはあまり良い空気が流れないと思う。その事は覚えておいてくれ」
金剛「……覚悟はしていマス」
提督「どうしても辛かったら言うんだぞ?」
金剛「イエス。その時はテートクを頼りにするデス」ニコ
提督「では、もう一日だけ我慢していてくれ。後で瑞鶴と響が来るはずだから、少しは寂しくなくなるだろう」スッ
金剛「あ、待って下サイ」ヒョイ
提督「うん?」
金剛「今回はクッキーを焼いてみまシタ。ティータイムの時にお茶菓子として皆と食べて下サイ」スッ
提督「……悪いな。ありがとう」スッ
金剛「今の私はこのくらいしか出来まセン。少しでも皆さんの、そしてテートクのお役に立ちたいデス」
提督「充分だよ」ポンポン
金剛「他にも何か出来る事があったら言って下サイね?」
提督「ああ。──では、私は戻る」
金剛「行ってらっしゃいませ」
ガチャ──パタン
金剛「……明日、デスか。大丈夫……きっと、大丈夫デスよね」
…………………………………………。
提督「──本日の任務は以上だ。加えて、この鎮守府に新しくやってきた艦娘を紹介する。……入ってきてくれ」
比叡「ッ──!!」
榛名「────────」
霧島「…………」
金剛「英国で生まれた、帰国子女の金剛デース! よろし……」
全員「……………………」
金剛「…………く……」
金剛(……やっぱり、混乱しているようデス。どうしまショウか……)
長門(やはりこうなるか……)
比叡「……司令、一つよろしいですか」
提督「……許可する」
比叡「嫌な予感はしていましたけど、これは一体どういう事ですか?」
提督「見ての通りだ」
比叡「また……私は一緒に出撃しなければならないんですか……!」
提督「……行く行くはそうするつもりだ」
比叡「っ!!」グッ
霧島「比叡!?」
パァンッ──!
提督「…………」
比叡「…………!」ギリッ
金剛「ひ、比叡……?」
比叡「!」ハッ
比叡「……すみません」
提督「予想はしていた。グーでなかっただけ良かったと思っている」ポン
比叡「…………」
提督「お前がどれだけ金剛の事を慕っているのかは分かっているつもりだ。……この後、執務室へ来るように。利根と飛龍は午後から執務に入ってくれ」
利根「わ、分かった」
飛龍「……はい」
比叡「……………………」
提督「良いな、比叡?」
比叡「……分かりました」
提督「よろしい。──榛名と霧島は金剛にこの鎮守府の案内を頼んで良いか?」
榛名・霧島「は、はい!」
提督「頼む。……色々と話しても構わん」
榛名「提督……」
提督「以上だ。朝礼は終わりとする」ツカツカ
比叡「…………」トコトコ
金剛「……テートク」
提督「なんだ?」
金剛「どうか……お手柔らかにお願いしマス」
提督「勿論だ」ツカツカ
金剛「…………」
榛名「……あの」
金剛「……ハイ」
霧島「これから、この鎮守府の案内をしますね。……それと一緒に、なぜ比叡があんな行動を取ったかの説明もします」
金剛「分かりまシタ。お願いするデス、榛名、霧島」
榛名「お任せ下さいね。……金剛、お姉様」
金剛(……これは、予想以上に受け入れられるのが難しいかもしれまセンね)
金剛(無理もないのは分かりマスが……少し、辛いものがあるデス……)
…………………………………………。
今回はこれで終わりです。また一週間後くらいに来ますね。
>>913
次スレは980くらい進んでから立てようと思っています。
終わりは見えてきているから、あともうちょっとだけ付き合って下さいませ。
ガチャ──パタン
提督「さて比叡」
比叡「……はい。どんな罰も受けます」
提督「そうか。ならばソファに座れ」
比叡「はい」スッ
提督「さて……お前には話さなければならない事がある」スッ
比叡「…………?」
提督「憶えているかは分からないが、あの金剛や瑞鶴、響は一度会っている」
比叡「会ってる……?」
提督「憶えていなかったか。私と利根が居た島──そこに居た三人があの三人だ」
比叡「……そうですか。──って、あの三人は別の鎮守府の艦娘じゃありませんでした?」
提督「そうだ。三人の希望もあってこの鎮守府に籍を入れる事となった」
比叡「……………………」
提督「私はあの三人を放っておく事が出来ない。共に支え合って暮らしてきた事もある。だから私は受け入れたんだ」
比叡「……もう『前の』お姉様達を、忘れるという事ですか?」
提督「いいや、忘れんよ。……むしろ、細かい部分まで思い出しているくらいだ」
比叡「ならばなぜ……!? 司令はどうして三人を受け入れようと思ったんですか!?」
提督「……三人に頼まれたから──というのもあるが、言われた事もあるからだ」
比叡「何をですか……?」
提督「もし自分達が沈んだ立場だったら……立ち止まらず、忘れずに前に進んで欲しい」
比叡「────────」
提督「私に付き従ってくれていた三人だったら、確かにそう言うだろうと思ったよ。いつまでも過去に囚われていて身動きが取れなくなっている姿を見せたら悲しまれそうだ」
比叡「…………」
提督「お前はどう思う、比叡」
比叡「……私は…………」
提督「……………………」
比叡「…………いえ。私も、お姉様達に囚われないようにしなくちゃいけないかもしれませんね」
比叡「そもそも、私たち艦娘はいつも死と隣り合わせなんです。どれだけ錬度を積み重ねても、圧倒的な暴力の前では沈むのも当たり前です。……どうしてでしょうかね。いつの間にか、心の底では沈まないって思っていました」
比叡「いえ、何があっても、司令ならば沈ませないって思ってしまってました」
提督「…………」
比叡「……でも、私達がやっているのは戦争です。むしろ、お姉様達が沈むまで誰一人として欠ける事が無かったのが奇跡だったんです」
比叡「沈ませているのだから沈む事もある。総司令部からの伝達でも毎月に何人も何十人も沈んでいるってあったのに……本当、沈むのなんて当たり前の事だったんですよ」
比叡「それが……たまたまお姉様達だっただけの話なのに……」ジワ
提督「……比叡」
比叡「!」ゴシゴシ
比叡「──引っ叩いてごめんなさい、司令。私は、もう大丈夫です! 改めて罰を与えて下さい」
提督「…………」スッ
比叡「? どうかしましたか、しれ──」ポン
提督「……今まで耐えてくれてありがとう、比叡」ナデナデ
比叡「ぇ────」
提督「…………」ナデナデ
比叡「…………」ジワ
提督「…………」ナデナデ
比叡「ぅ、ぁぁ……」ポロポロ
比叡「酷い……酷いですよぉ……! 司令は厳しくしていれば良いんです……! 優しくするのは、金剛お姉様にだけで良いんですよ……!」ポロポロ
比叡「なんでいつもみたいに吊るそうとしないんですか……! なんでいつもみたいに、罰を与えようって……言わないんですかぁ……。なんで……なんで……?」ポロポロ
提督「今のお前に罰を与えるほど鬼ではないつもりだ」ナデナデ
比叡「うあぁぁ……ぁああぁぁぁ……」ポロポロ
…………………………………………。
比叡「…………」
提督「落ち着いたか?」
比叡「……司令に泣き顔見られました」
提督「まあ、そういう事もあるだろう」
比叡「なんだかすっごく恥ずかしいです……」
提督「そうか」
比叡「……司令もなんだかんだで寂しそうな雰囲気だった癖に、いつもの調子に戻ってますし」
提督「宥めていた側だからな」
比叡「……もー」フイッ
提督「…………」
比叡「…………」チラ
提督「お前も、受け入れてくれるか?」
比叡「……時間が掛かりますよ」
提督「いくらでも掛けて良い。前に向かってくれるのならば」
比叡「…………はい。私、頑張ります!」
提督「ああ、頼んだぞ」
比叡「少しずつ、ですけどね」
提督「金剛も分かってくれるだろう。悪い子ではない」
比叡「そうですよね! なんたって『金剛お姉様』には違いないのですから!」
提督(……言っている意味はなんとなく分かるのだが、艦娘と人間の感性の違いだろうか)
比叡「どうかしましたか、司令?」
提督「いや、特に。──では、戻って良いぞ比叡」
比叡「はいっ! 今回はお話が出来るように頑張ります!」
提督「ああ」
提督(……私も、しっかりと心の整理をしなければな)
……………………
…………
……
利根「提督よ、書類の処理が終わったぞ!」
提督「そうか。今日もご苦労だった利根、飛龍」スッ
飛龍「教えた事もしっかりとこなせるようになっていますし、処理速度も充分ですよ」
利根「本当か!? 頑張った甲斐があったのじゃ!」
飛龍(……ええ。寂しいですけど、もう利根さん一人でも秘書として務められそうですね)
飛龍「ですので、明日からはもう利根さん一人でも大丈夫だと思います」
利根「む? 何を言っておるのじゃ?」
提督「……ああ。確かにそうだな」
利根「む? むむ?」
飛龍「利根さん、私がここに居るのは利根さんのサポートでしたよね?」
利根「……そういえばそうじゃったの。という事は……」
提督「そういう事だ。利根、明日からは私と二人で書類を全て終わらせるぞ」
利根「……………………。のう、飛龍よ。飛龍はそれで良いのか?」
飛龍「良いも悪いもありません。これは決まっていた事です。提督の秘書は一人だけ……。私はあくまで利根さんの教育をしていたに過ぎません」
利根「……提督」
提督「規則を変えるつもりは無いぞ」
利根「むう……」
飛龍「提督、利根さん……ありがとうございました」ニコッ
利根「…………」
提督「今まで良く利根を教育、サポートをしてくれたよ飛龍」
飛龍「いえいえ。私も楽しんでいましたから」
提督「……そうか」
飛龍「はい」
利根「……………………」
飛龍「それではお二人とも、私は先に失礼しますね」スッ
提督「ああ。ゆっくり休んでくれ」
利根「……おやすみじゃ」
飛龍「はい、おやすみなさいませ」
ガチャ──パタン
利根「……のう、提督よ」
提督「どうした」
利根「飛龍は、これで良かったのかのう」
提督「どちらかと言うと、良くなかっただろうな」
利根「やはりか……」
提督「だが、これからも飛龍はあまり変わらないかもしれん」
利根「そうなのかの?」
提督「執務の時間は確かに無くなったが、私と接する機会などいくらでもあるからな」
利根「なるほどのう。その機会の時を狙うという訳じゃな」
提督「そういう事だ」
コンコンコン──
利根「む?」
提督「こんな時間に珍しいな。──入れ」
ガチャ──パタン
瑞鶴「やっほー提督さん」
響「遊びに来たよ」
金剛「失礼しマス」
ヲ級「こんばんはー♪」
空母棲姫「お邪魔します」
利根「おお? 珍しいのう」
提督「遊びに来たというのも気になったが、この面子が揃ったのも気になるな」
響「私はいつものように部屋から抜け出して外で海を眺めていたよ」
瑞鶴「そこに、なんだか眠れなくて外を歩いてた私と会って」
金剛「ナイトの鎮守府を歩いていた私が二人を見つけまシテ」
空母棲姫「久し振りに海へ出たいと、せがんだこの子に手を引かれた所で鉢合わせしました」
ヲ級「したの!」
利根「……凄い偶然じゃのう」
響「金剛さんと瑞鶴さんはともかく、私と空母棲姫さん達はいつか会ってただろうね」
利根「二人はどうして今日に限って外に出たのじゃ?」
瑞鶴「だって……今この鎮守府の空気って凄く重いし」
金剛「私も気を遣われているのが居た堪れなくなりまシテ……」
空母棲姫「食事中も静かなようでしたし、貴方の『金剛』がそれだけ影響を与える立ち位置に居たというのがよく分かります」
利根「婚約もしておったからのう……」
瑞鶴「……え!?」
響「そうなの?」
提督「ああ。そうだ」
金剛「デモ……私、テートクがリングを指に付けている所を見た事が無いデス。……私や瑞鶴のように仮では無いのデスよね?」
提督「結局、渡せずに居たからな」スッ
瑞鶴(指輪を入れる箱……。まだ保管してたって事は、つまりそういう事よね?)
提督「だが、いい加減に決別するべきだろう。今度、海で眠っている三人の所へ花と一緒に供えるか」
瑞鶴(……と思ったけど、大丈夫そうね。ちゃんと気持ちの整理、出来たのかしら)
響「その時は私も付いていって良いかな」
提督「ん? 構わないが、どうしたんだ」
響「ちゃんと挨拶しておきたいからね。これから司令官のお世話になります──って」
瑞鶴「あ、それ私も行きたい。提督さん、良い?」
提督「ああ。金剛はどうする?」
金剛「……そうデスね。私も行くデス。紅茶とスコーンを用意して、三人がティータイム出来るようにしマス」
提督「きっと三人も喜ぶだろう。日程が決まったら伝えよう」
ヲ級「私も、作りたい!」
空母棲姫「貴女は黙っていなさい」ポン
ヲ級「? どうして?」
瑞鶴「えーっと……」
響「…………」
提督「すまないヲ級。また今度作ってきてくれないか? 近い内に今ここに居る者達でお茶会を開こう」
ヲ級「あ、お菓子、作ってきてるよ!」パッ
利根「おお? では今から茶の時間かの?」
提督「ふむ。たまにか良いか」
金剛「それでは紅茶を淹れてくるデース!」
瑞鶴「金剛さんの紅茶とかすっごく久し振りよね」
響「うん。本当に久し振りだ。司令官、長門さんも呼びたいのだけど良いかな?」
提督「寝ていなかったら構わん」
響「そっか。じゃあ呼んで来るね」タタッ
提督「心配無いとは思うが、誰にも見付からないようにな」
響「勿論だよ。──じゃあ、行ってくるね」
ガチャ──パタン
…………………………………………。
今回はここまでです。また一週間後くらいに来ますね。
八月の頭になったらブログの方にでも夏コミ本のサンプルページを何枚か置いておきます。お気に召して下さると幸いです。
長門「……こんな時間に茶の会とは随分とのんびりしているな」
提督「たまたまだ。こんな事は滅多に無い」
長門「むしろ『お茶会』は何かの隠語で実際は緊急作戦会議か何かかと疑ったくらいだ。……本当に言葉そのものだとは思いもしなかった」
響「ああ、だからやけに張り詰めた雰囲気だったんだね」
空母棲姫「何をそんなに身構えているのやら。そんなに私達が脅威に見えるか」
長門「可能性として考えるのは許してくれないだろうか。私はお前たち二人の事を良くは知らないんだ。……艦娘と深海棲艦が一緒の席に着いているという事も違和感ばかりだ」
空母棲姫「そうであってくれ。いい加減、信じ過ぎるこの人間や艦娘達に溜め息を吐きたくない」
提督「単純にお前が頑固なだけという可能性は考えないのか?」
空母棲姫「む……」
提督「極論を言ってしまえば、艦娘と深海棲艦の違いは我々人類に危害を加えてきたかどうかの差でしかない。逆に艦娘が人間を襲い、深海棲艦が人間の味方をしていれば立場は逆転している。危害を加えてくるのならば敵。協力するのであれば仲間。それだけだ」
空母棲姫「確かにそうですが……」
提督「例えば今のこの世情で艦娘が人間を襲えば、その艦娘はいかなる手段を使ってでも排除されるだろう」
空母棲姫「……………………」
提督「全ては認識次第だ。敵という認識ならば敵。味方という認識ならば味方。お前たち二人は味方という認識に置かれているという事だ。行動でな。そもそもの話、お前たち二人は私達に危害を加えてきたか? 逆に協力をしてくれただろう」
ヲ級「お魚、とか?」
提督「ああ。あれは本当に助かった。あのままでは飢え死にするのは間違いなかった」ナデ
ヲ級「えへー」ホッコリ
空母棲姫「……………………」
利根「つまり我輩たち艦娘も深海棲艦も在り方が違うだけで、人間から見て違うのは姿だけというものなのじゃな」
提督「そういう事だ。まだ納得できないか?」
空母棲姫「…………はぁ……まったく、どうしてそんな風に割り切れるのかしら……」
提督「変わり者だとは常々言われている」
響「違いないね。ここにも変わった艦娘しか居ないし」
瑞鶴「待って。まさかそれって私も含まれてる?」
響「にゃぁにゃぁ」
瑞鶴「ッ!?」ビクンッ
五人「?」
瑞鶴「そ、そそそうねぇ……? 確かに変わり者ばっかりよねぇ?」
金剛「…………? えっと、とりあえず私は紅茶を淹れてきマース」スッ
利根「ぬ、金剛よ。ついでで悪いのじゃが我輩に紅茶の淹れ方を教えてくれぬか? 日本茶は飛龍に教えて貰ったのじゃが、紅茶の淹れ方も知りたいのじゃ」スッ
金剛「勿論デース! 一緒に淹れまショウ!」
利根「うむ! ありがたいぞ!」
瑞鶴「……へぇ。利根さんって紅茶にも興味あったんだ」
提督「最近は色々な事に手を出している。勉強熱心だよ。──ところでヲ級、お茶菓子は何を持ってきたんだ?」
ヲ級「ワッフル! 間宮さん、伊良湖さん、褒めてくれた!」スッ
空母棲姫「もうベタ褒めでした。甘い方も甘くない方も、初めて作ったとは思えないと言っていたわ」
長門「! ……確かに、良い香りだ」
瑞鶴「……ん? もしかして長門さんって甘い物が好きだったの?」
響「そうなんだ?」
長門「む……いや、そのだな……。…………嫌い、ではない……」
提督「そうか」
長門「……なんだ。悪いか? 悪いのか?」ジッ
提督「味の好みなど個人差が激しいものだ。好みで人を左右するようなものでもないだろう。食の好みに口を挟むような者はここには居らんよ」
長門「……そ、そうか。うむ。そうだな。味覚で人は決まらない」
提督「ああ。だから、これからは間宮と伊良湖が甘味を振舞った時も遠慮なく口にして良いぞ」
長門「~~~~~~っ!」
提督「恥ずかしがる事でもない。どうせ向こうでは口にしたくても出来なかったのだろう? ここならば誰も気にせん。むしろ、間宮も伊良湖も手を付けない事から甘い物が嫌いなのかと思っていると言っていた」
長門「……変ではないのか?」
提督「どこが変になるんだ。さっきも言ったように好みなど個人で大きく違う。堂々としていれば何もおかしく思われん。むしろ変に気にしていると周囲もおかしな目で見るぞ」
長門「なるほど……ふむ……」
提督(……長門も頑固な子か。……いや、プライドが高いのか? 自分の好きな物を抑えつけても仕方が無いだろうに)
…………………………………………。
利根「待たせてしまったのう。紅茶が出来たのじゃ!」
金剛「お待たせしまシタ」
ヲ級「紅茶、始めて……!」キラキラ
金剛「紅茶は良いものデース。きっとお二人も気に入ってくれマス」スッ
利根「……ふむ? 金剛よ、最後に淹れた紅茶を提督に出すのは何か意味があるのかのう?」
金剛「良い所に気が付きまシタね利根。茶葉はティーポットに入っている間も抽出されていマス。最後の一滴はゴールデンドロップと呼ばれていて、一番濃い茶液の一滴が入ると味が引き締まるのデス」
利根「ほー。そんな意味があるんじゃのう……」
瑞鶴「へぇ……」
響「同じティーポットの紅茶なのに、そんな違いがあるなんて初めて知ったよ」
ヲ級「♪」ワクワク
提督「さて、全員に行き渡ったようだ。頂こう。──ヲ級、少ない包みの方が甘くない方か?」
ヲ級「うん!」
提督「うむ。分かった」スッ
響「じゃあ私達はこっちだね」スッ
長門「…………」スッ
空母棲姫(素直に甘い方を手に取りましたね)スッ
利根「我輩も甘くない方を食べてみるかのう」ヒョイ
提督「ほう、珍しいな」
利根「そういう気分の日もあるのじゃ」パク
利根「! ふむ。ふむふむ」モグモグ
ヲ級「どうっ?」ワクワク
利根「これもこれで一興があるのう」ズズッ
金剛「甘い方もとっても美味しいデース!」
瑞鶴「これが初めてなんて、とても思えないわね……」
響「才能かもね」
長門「…………」モグモグ
長門(……非常に美味い。甘さもくどくなくて、すっきりとしている)
ヲ級「ね、ね、どうっ?」
長門「ぅ……む…………美味い、ぞ」フイッ
ヲ級「♪」ニコニコ
長門「…………調子が狂ってしまう」ハァ
空母棲姫「その気持ちはよく分かるぞ……」
提督「頑固であれば頑固である程この現状に頭を痛めるぞ」
長門「全くもってそうだな……。こんな無邪気な顔を見せられたら、今まで警戒していたのは何だったのかと思ってしまう……」
ヲ級「?」パクパク
長門「ああほら、欠片が口の端に付いているぞ」スッ
ヲ級「! ありがと!」ニパ
長門(……本当に、敵とは思えないな)
空母棲姫「……私も認識を改めるようにする」
長門「ん?」
空母棲姫「…………」フイッ
長門(……本当、私たち艦娘も深海棲艦も……なぜ戦っているのだろうな。二人に訊いてみたいとは思うが──)チラ
金剛「今度一緒にスコーンも焼いてみまセンか?」
ヲ級「すこーん?」
響「英国のお菓子だよ。紅茶と一緒に食べると凄く美味しいんだ」
利根「我輩も作りたいぞー!」
金剛「テートク、今度また隣の部屋をお借りしても良いデスか?」
提督「構わんぞ。その時は私に鍵を取りに来るようにな」
瑞鶴「あ、私も見てみたい」
ヲ級「楽しみ! ね、姫?」
空母棲姫「……新しい料理を覚えるのは楽しみだな」
利根「おお、少し素直になったぞ」
空母棲姫「くっ……! からかうのならば、お前のにだけトマトのように赤くなるまで唐辛子を入れてやろう……!」
利根「す、すまぬ……。激辛は嫌じゃ……」
空母棲姫「ふん」
長門(……この空気を壊したくない。機会があったときにでもするか)
…………………………………………。
レ級「──あー、あー。えっとぉー! お前ら聴こえてるー!? これから作戦を開始しまーす! 聴いてなかったら殺すから注意しようねぇ!」
レ級「んじゃあ陽動部隊は今すぐにでも突っ込もうかぁ。テキトーに殴ってたら良いよテキトーにね。あ、でも逃げる時は東に逃げる事! これ大事だから頭無くなっても絶対守ろっか! 打撃部隊は命令するまでここで待機。オッケー? はい陽動部隊は突貫して突貫!」
ザアアアアアアアァァァァァァ…………────。
レ級「うぅーん楽しみだ。誰がどのくらい死ぬかなぁ? 出来れば私が蝙蝠クンをぶっ殺したいけど。ま、そう簡単にアイツは死なないし、残ってくれるよね」
レ級「さあ無意味に殺して殺される戦いを始めよっかぁ!! ギャハハハハハァ──!!!」
…………………………………………。
今回はここまでです。たぶんまた一週間後くらいに来ます。投下が遅れてごめん。
本当に今回の物語は色々な意味で大人しい作品。ちょっと物足りないかもしれないけどごめんよ。
夏コミ本を買っていって下さった方々、本当にありがとうございます。
欲しかったけれど買えなかった方への連絡ですが、本自体は余っているので残った部数はネットで委託販売するかと思います。
その場合はまた連絡をしますのでお待ち下さいませ。
ドンドンドンッ──ガチャッ!
大淀「提督! 大変で──っ!?」
空母棲姫「なッ!?」
ヲ級「!!」ビクンッ
大淀「深海棲艦!? な、なんでここに!?」
長門(……これは面倒な事になるぞ)
提督「大淀」
大淀「っ!」ピシッ
提督「何があった。先にそれを言え」
大淀「え……? あ、えっと……?」チラ
空母棲姫「…………」フイッ
ヲ級「…………」ヂー
大淀「……ここらの地域の鎮守府が深海棲艦から襲撃を受けたという情報が総司令部より入りました」
金剛「え──」
響「…………」
瑞鶴「ちょっ、それって本当なの?」
大淀「はい。ほとんどの鎮守府は哨戒が役立ち致命的な被害は出ていないようですが……下田鎮守府は爆発音と共に無線が途切れてしまったらしく、安否は不明のようです」
金剛「────────」
提督「全員を叩き起こせ。迎撃──いや、防衛だ」スッ
利根「周辺の鎮守府に支援を送るのではないのか?」スッ
提督「組織的に動いているのにも関わらずこの鎮守府だけ襲撃されていない事を考えると、ここに何か用があるはずだ。大淀、電信室で鎮守府内全域に緊急出撃命令を出せ。全員、兵装を確認した上で外へ出すんだ。そして周辺の灯台を全て使い、海へ向けて照らせ。この夜の中ではまともに戦えん」
大淀「畏まりました。……そこの深海棲艦の事、後で教えて下さいね」タッ
提督「お前達も自分の兵装を取りに行け。私はここで空母棲姫とヲ級に話す事がある」
長門「……その命令には従えん。危惧している事がある」
提督「そうか。利根、金剛、瑞鶴、響、お前達は先に行け。後で長門も向かわせる」
利根「分かったぞ!」
瑞鶴「うん、行ってくるわね!」
金剛「…………分かりまシタ」
響「思う所はあるだろうけど、長門さんも早く来てね」
──バタン
提督「さて長門、手短に済ませたい。話せ」
長門「私はこの襲撃がそこの二人が手引きしたものではないかという可能性も拭えないと考えている」
空母棲姫(……まあ、そうなるわね)
長門「可能性が低いのは分かっている。だが、この場に貴方を一人にして殺されでもしたら指揮系統を一気に失ってしまう。万が一の事も考えて私を残しておくべきだ」
提督「やはりな。だが、その心配は要らん。この二人は私を襲えない理由がある」
長門「理由?」
提督「前にも話した通り、この二人は深海棲艦から敵と認識されている。空母棲姫に至っては沈められる寸前だった。その二人が今ここで私を殺したらどうなる。海は一面に敵。陸も海から遠く離れてしまうと死んでしまう艦娘と同様、深海棲艦も死んでしまうだろう。何よりも兵装が無くて戦う事が出来ん」
長門「……別の可能性は、まだ一つある。貴様が深海棲艦側に立ったという可能性だ」スッ
提督「やはりそうなるか」
長門「その深海棲艦が人と共存を望んでいる? どんな奇跡だそれは。今まで人間を、艦娘を殺してきた奴らが共存を望むなどと馬鹿げた事があるか! それに、貴様自身もイレギュラーな要因を含み過ぎている。深海棲艦と和解しているというのもそうだが、他所の鎮守府の艦娘を手玉に取っている事も怪しい限りだ!」
長門(……カマを掛けてみたが、さあどうなる)
大淀『緊急事態発生! 緊急事態発生! 深海棲艦が母港を襲撃してきます!! 全艦娘は兵装を整えた上、即刻外へ出て整列をして下さい!! 繰り返します──』
空母棲姫「…………」スッ
提督「待て、空母棲姫。手を出すな」
空母棲姫「このままでは貴方の身が危険です。兵装が無いとはいえ、生身で艦娘と戦う貴方をただ見るだけなんて出来ません」
提督「前提からして間違っている。私は戦う気など毛頭無い。下がれ」
空母棲姫「……分かりました」スッ
長門「つくづく分からん人間だ」
長門(信用させる為の罠か、それとも私の危惧している事が空振ってくれたのか……。後者ならば良いのだが……)
提督「よく言われる」
長門「……そうだな。お前はそういう人間だった」
提督(だいぶ時間を取ってしまった。そろそろ話を終わらせなければならんが、長引くようであれば実力行使も視野に入れておくか)
提督「さて長門。お前はここでのんびりとしているが、船着場で集まっている艦娘をどう思っている」
長門「どういう意味だ」
提督「分からんのか。こうしている間にも深海棲艦はここへ来ている。そこに指示を出す者が居なかったらどうなるか、と訊いているんだ」
長門「……………………」
提督「仮に私が深海棲艦の手先になっていたとしても、私を殺したからといって何が変わる? お前が艦隊の指揮作戦を取れるのならば私を殺すのも一手だが、お前にそれが出来るのか?」
長門「……………………」
提督「ハッキリと言おう。今この場で利敵行為をしているのはお前だ。──時間はもう無いぞ。さあ、どうする長門」
長門「!」
長門(……初めて敵意を向けてきた。今ここで敵意を出してくるのは、深海棲艦へ寝返ったならばタイミングがおかしい。この方の言う通り、放っておけば艦娘は全滅しかねない。敵であれば、ここは時間稼ぎをしてくるか、もっと前から敵意を見せてくるはず)
長門「…………」
提督「…………」
ヲ級「…………」ハラハラ
空母棲姫(…………)
長門「……すまない。私の杞憂だったようだ。後で罰を受けさせてくれ」
提督「ああ、後でな。──では長門。お前は金剛達と同じ場所で待機しておけ」
長門「了解した。……頼むぞ。貴方は私の新しい提督になってくれなければならんのだからな」タッ
ヲ級「……怖かった」ホッ
提督「味方と仲間割れだけは勘弁願いたいから助かったよ」
空母棲姫「…………」
提督「さて、二人には話さなければならない事がある。二人は出来れば隣の部屋で大人しくしていてくれないだろうか。勿論、危険だと判断したら外へ逃げてくれ。これが鍵だ」スッ
空母棲姫「……逃げた先に貴方の艦娘が居たらどうしましょうか」スッ
提督「……そうだな。私の予備の軍服を預けておく。それを見せれば攻撃しないようにと指示しておこう」カチャ
空母棲姫「ありがとうございます」スッ
提督「それとだな……」
空母棲姫「? 何かしら。珍しく歯切れが悪いようだけれど」
提督「……かつての同胞を私達が沈めるのに抵抗はあるか?」
空母棲姫「ありません。私達はただそこに居るだけです。なんとなくの目的が同じなだけであって、特に意識をして集まっているという事はありません」
ヲ級「うんうん」コクコク
提督「目的か」
空母棲姫「ええ。艦娘を沈める──という目的です。今となっては、どうでも良い事ですけれど」
ヲ級「そんな事よりも、皆と居る方が、楽しい!」
提督「そうか。安心したよ。──では、いってくる」スッ
空母棲姫「いってらっしゃいませ」
ヲ級「負けないで!」ブンブン
空母棲姫「……………………」
空母棲姫「……ヲ級」
ヲ級「?」
空母棲姫「いざとなったら工廠へ行くぞ。場所は憶えているか」
ヲ級「? うん、憶えてるよ。どうしたの?」
空母棲姫「……あの長門の言ったように、私のも杞憂であれば良いのだが」
ヲ級「? ??」
空母棲姫「一先ず移動するぞ。ついてきなさい」
ヲ級「うん!」
空母棲姫(もしもの時は……そうですね、私が盾になる事も考えておきましょうか。この子はすぐに皆とも溶け込めるでしょうけれど、私は……)
空母棲姫(そうするのが、きっと一番良いはずです)
…………………………………………。
今回はここまでです。また一週間後くらいに来ます。
ちょっとACVを見返してた。良いよね、OWって。
レ級「アハハハハァッ!! 艦載機が敵味方問わずにドンドン墜ちてるよぉ! こんなに見栄えの悪い花火大会は初めてだねぇ!!」
レ級「……うんうん。ま、当たり前だけど戦況は今の所こっちが有利って所かぁ。数の暴力って素晴らしいよねぇホント。おまけにゴミムシ共の艦載機は夜だと性能を発揮できない。そりゃあこっちの方が有利になるってもんさッ。なんか一部の艦載機だけ動きが良いように感じるけど、まあそれの数は少ないから良っかぁ!」
レ級「……………………」
レ級「だが……奴等も馬鹿ではないらしい。指揮官が優秀といった所か。わざと隙を作らせているというのに進軍してこないとは……。ここまで統率の取れている艦娘を相手にするのは面倒だ」
レ級「さあ、早く攻めてこい。殲滅する為にかかってくると良い。……その時が貴様らの最後だ」
…………………………………………。
大淀「!! 提督、緊急連絡が入りました。周辺に設置してあった灯台の一つが敵の砲撃により破壊されたとの事です」
提督「やはり長くは保たないか。戦線より下がった艦娘に照明弾を撃たせるとしよう。本当は吊光投弾が良いのだが、制空権が劣勢の状況では使えん」
大淀「はい、そうしましょう。撤退した中で射撃精度が一番高い五十鈴さんと名取さんに任せてよろしいですか?」
提督「いや、天龍と龍田に任せよう。早々に撤退してしまって悔しがっているはずだ。二人ならば射撃精度も充分にあるし、連携も取りやすいだろう」
大淀「分かりました。──妖精さん、船着場で待機している天龍さんと龍田さんに指示書を送ってもらって良いですか?」スッ
妖精「はーい。分かったなのー」テテテ
提督「……しかし、戦局が動かんな」
大淀「そうですね……。ですが、あの突いて下さいと言わんばかりの隙を提督は罠だと仰いましたけど、どういう事なのですか?」
提督「これだけ大規模な作戦を展開している奴が、こんなミスをする訳がない。仮にミスをしていたとしても、ここまで気付かないとなると不自然だ。何を考えているのかは分からんが、もしかしたら潜水艦部隊が待ち構えているかもしれんぞ」
提督「あの隙を狙うという前提ならば相当な数の艦娘を動員せねばならん。本当に待ち構えているとしたら、こちらの戦力が半分以上沈んでしまう事になる。そんな事を私はさせたくない。ついでにその時はこちらの敗北が決定される」
大淀「なるほど……。確かにそうなってしまうと背筋が凍ってしまいます。──それともう一つ、気になった事があるのですが」
提督「何かあったか」
大淀「……交戦している敵なのですが、何かおかしくありませんか?」
提督「おかしい?」
大淀「はい。確かに私達は提督の手で育てられた実力のある軍集団です。ですが、それを考慮しても少し上手くいき過ぎているような気がして……」
提督「……………………」
大淀「提督、これは私の杞憂なのでしょうか」
提督「……いや、大淀の言う通りだ。確かにこれは少しおかしい。下田鎮守府は悪名を聞くとはいえ、随時補給の出来る鎮守府での戦闘で早々に陥落する程だ。他の鎮守府も抑えるので手一杯。なのに、どうしてこの鎮守府だけ反攻できそうな状況になっている」
大淀「……提督、これはあまり考えたくないのですが」
提督「悪い予感は的中するものだ、大淀。……今戦っている深海棲艦の大群は陽動と考えて良いだろう。その遥か後ろに本丸が控えているかもしれん。あの隙はもしかすると、それが本当の目的かもな」
大淀「という事は、わざと戦線を後退させていって艦娘を引き寄せ、鎮守府の守りが手薄になった所を叩いてくる可能性があると」
提督「そうだ。もし奴らが退いていった場合、その方向とは逆から奇襲が来るはずだ」
大淀「ただ、そうとしてもやっぱりおかしい部分があります。それだけの物量があるのであれば、どうして一気に攻め込まないのでしょうか。その方が確実にこの鎮守府を落とせるはずです」
提督「……………………」
大淀「……提督、何か知っているのではありませんか? ……例えば、提督のお部屋に居たあの深か……二人の事とか」
提督「……間違いなく関係しているだろう。だが、敵としてではないはずだ」
大淀「どういう意味ですか?」
提督「あの二人は深海棲艦から攻撃を受けた過去がある。恐らくだが敵はあの二人を狙ってこんな手段を取ってきているのだろう。一気に攻めてしまえば陸へ逃げられてしまう。だからこうして、勝てるかもしれないという錯覚をさせているのだろうな」
大淀「……それが本当だとしても、どうしてこの場所を突き止められたのでしょうか」
提督「以前、空母棲姫から聞いた話がある。装備の質で言えば深海棲艦が圧倒的な優位に立っていると。こちらのレーダーも最新を使っているとはいえ、誤検出も反応しないというのもあって精度が悪い。艦載機もそうだ。だとすれば、こちらの索敵範囲外から位置を知られていてもおかしくない。追跡された可能性は大いにある」
大淀「…………」
提督「残念ながら装備の差は事実だ。それは、戦っている皆も薄々ながら気付いているだろう」
大淀「……提督、失礼な事を聞いても良いでしょうか」
提督「構わん」
大淀「……提督は、どうしてあの深海棲艦を受け入れたのですか?」
提督「端的に言うならば命の恩人だからだ。あの二人が居なければ、私も利根も餓死していた。それと、大事な事を気付かせてもくれている」
大淀「大事な事、ですか?」
提督「金剛に瑞鶴、響の事だ。……私が沈ませてしまった方の、な」
大淀「……………………」
提督「あの二人が居るからこそ、私はこうして帰ってきた。あの二人が居なかったら、私は死ぬまであの島で暮らしていただろう」
大淀「そうでしたか……。もしかして、提督の軍服を預けている相手というのは、その二人の事ですか?」
提督「そうだ」
大淀「……信用しているのですね」
提督「それだけあの二人には助けられた。共に生活もして、信用に足る者だと思えたよ」
大淀「…………」
提督「……………………」
大淀「……深海棲艦って、何なのでしょうか」
提督「さあ、な……」
…………………………………………。
レ級「はぁー……。ここまで誘いに乗ってこないのは感心しちゃうねぇ。お姉さん、ちょっとだけショックだ。ちょっとだけね」
レ級「さって、では次の手に移るとしよっか! ──おーい、そこのお前」
リ級「?」
レ級「そう、お前。作戦は変更。さっさと灯台壊したら好き勝手突っ込んで良いって陽動部隊に伝えて。今すぐ! ここに居る本部隊の連中がテキトーな所で援軍に入るから、後は逃げる時には東へ逃げろっていうのももう一回言っちゃって!」
リ級「…………」コクリ
レ級「んでもって本部隊のキミ達ー! 突っ込んだら私の護衛とか援護とか何も要らないから、絶対にくっついて回らないように! もしそんな事したら容赦無く水底へ直行させるから注意しようねぇ!」
レ級「そんじゃ、合図したら突っ込もっかぁ!」
…………………………………………。
大淀「!! 提督、今の報告……」
提督「……このタイミングで積極的に攻撃をしてくるとはどういう事だ?」
大淀「痺れを切らしたのでしょうか……」
提督「分からん。だが、何かの策がある事には違いない。あの二人を追ってきたのであれば強攻策を取るとは考えにくい」
大淀「そうですよね……。どうなさいますか? 流石に今以上の戦力を投入されると厳しいと思いますが」
提督「そうだな……。引き撃ちの指示を出して──……ん?」
大淀「え? これってどういう……?」
提督「……現状の敵戦力であれば迎撃が可能? 殲滅する事も視野に入れられる?」
大淀「私の聴き間違いではないようですね……。何があったのでしょうか……」
提督「分からん……。敵が痺れを切らしたかのような動きで向かってくるのを迎撃しているようだが……。これではいつもの統率の取れていない深海棲艦と同じだ。明らかにおかしい」
大淀「こちらの被害も大きくなっているようですが、それよりも敵の消耗の方が激しいと……。提督、どうしましょうか」
提督「……………………」
提督「大破した者は変わらず撤退だ。そして、撤退した者は母港にて高速修復材を出し惜しみせず使用。休憩を挟んで疲れが取れ次第、再度出撃をして前線の支援と戦闘だ」
大淀「無理をしようとしている方には?」
提督「後で吊るすから覚悟しろと伝えておけ」
大淀「ふふっ。やっぱり提督は提督ですね。──私もその作戦で問題無いと思います」
提督「そうか。ではそう伝えてくれ」
大淀「分かりました。──全艦娘に告げます。作戦内容に修正を加えます。撤退した者は母港にて高速修復材を出し惜しみせず使用の許可を与えます。休憩を取って疲れが取れ次第、再度出撃。前線への支援と戦闘をして下さい。なお、大破した者は変わらず撤退する事を必ず意識して下さい」
大淀「そして提督からの個人的な伝言です。命令に背いたり無理無茶無謀をする者は後で吊るす、との事ですのでお気を付け下さい」
大淀「……なぜかは分かりませんが、最後の伝言を伝え終えたら全員の気が引き締まったかのような気がしました」
提督「よっぽど吊るされたくないようだ」
大淀「そうみたいですね」ニコッ
提督「……さて、何が起きるか分からん。私達も考えられる限りの対策を練るぞ」
大淀「はい!」
…………………………………………。
今回はここまでです。また一週間後くらいに来ますね。
金剛飛龍本の通販委託が決まりましたので告知しておきます。
タイトルは『その笑顔が好きデスから』です。分かる人には分かると思いますが、その笑顔が好きという台詞は飛龍のケッコンボイスだったりします。
https://eden1943.booth.pm/items/141653
それでは次スレを立ててきます。
次スレはこちらです。残りの5レスは感想や雑談などご自由にお使い下さいませ。
利根「提督よ、お主なかなか暇そうじゃの?」 金剛「…………」 二隻目
利根「提督よ、お主なかなか暇そうじゃの?」 金剛「…………」 二隻目 - SSまとめ速報
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このSSまとめへのコメント
吊るす? まさかこのss書いてる人は!
続きを期待しています!
この人のは少し読むだけでなんとなく同じ人かな~ってのがわかる
いい意味で文体が固まってるというか
とにかくすげぇ
この人の書く瑞鶴金剛はどの作品でも魅力的ですばらしいわ
これからも期待してます。
今作もとても楽しみにしています。とても面白いので是非完走してほしいです
続き期待です
この人の過去作全部読見たいんだが分かる方いたら教えてくれさい
※6
金剛「テートクのハートを掴むのは、
私デース!」瑞鶴「⁉︎」
↑の過去作を強くお勧めする。吊るすという単語で真っ先にコレを思い出した
※7さんありがとう!
長編だったけどサクサク読めたよ
この作者さんの文章は好きだねー
やっぱこの人の作品は面白い!ついつい読んでしまう
結末乞うご期待!頑張って下さい!
過去作もそうだけどやっぱりこの人の書く話は好きだな。続きを待つ。
久々に読んでて不快感のない小説を読んだ気がする・・・。期待してます。
てか、住まわせて長続きさせて欲しいくらい面白い。
過去作も見てたけど面白い!
期待してます!
クッソ面白いわ
強いて言うなら敵キャラも無人島生活見たかった
凄いな更新期待だわ
あと、利根を改二にするのを急がねばならんな
ヲっちゃんと空母ちゃんの無人島生活入れてくれてありがとぅー!
続き期待です!
この人の小説タイプでめっちゃ好きです!一番最初のもいいですけど、前のもこれも全部いいですね!
読みやすくて綺麗な話の作り方
本当大好き
登場する艦娘に愛着が湧いてきて
もっと続いて欲しい続きが読みたいと思える小説です
バレンタインのssって題名何か教えてもらえますか?
まーたこの人のSSで睡眠時間がなくなってしまった
なんというか、凄い引き込まれるんだよね
この人の狂おしいほどに好き
米19
金剛・瑞鶴・響「甘くないチョコ」
これっす。
もしかしてと思ったら、やはりあなただったのか!!
ありがとうございます
さあ来い、吊るしてくれ!!
期待している!!
響がいい味だしてるな
吊してた提督とは平行世界の同一人物かな?
とても続きがたのしみです
心がほかほかします!
ぜひとも続き期待してます!!
前作を全作読ませて頂きましまが、これほど感動するものはありませんでした!!続きも期待してます!!
ストーリーや状況が停滞しないから読むのが楽しみ、ずっとほのぼのしてるSSは進展や展開が遅いから飽きるけど、これは読みやすいし読みたいと思う。これ終わったあとも次回作が楽しみ。
初めてSSを見て感動しています。この作品をキッカケにSSにハマりそうです。
やっぱこの人の作品すげぇわ...
続きが待ち遠しいよ
おいおいw途中で主任出てきてんじゃねーかw
レ級のあれは主任砲だったのか、、、
ならあの威力も納得だ
滅多に書かない僕が応援コメントを入れるくらいに素晴らしく好きです
妖怪艦娘吊るしwww
おの長門が吊られている状態を早く見たいぃぃぃぃぃぃ
久しぶりに見たらまたまた分厚い内容…流石です
更新楽しみにしています
この作品の影響でエア提督をやめて今日でちょうど3ヶ月、初めてのイベントを丙ながらEO完遂できました。本当に素敵な作品をありがとうございます!
この人が書くと必ずほのぼのが重たくなるなwww
ここまでコメントに愛されているSSもそうない=神作
夏コミ参加するんか‼︎
こりゃあ買いだ...つってもどのジャンルかも場所も分からんしなぁ、うーむ
いやー伝説のホムンクルス提督を書いた作者さんのssを読めるとは俺は実に運がいいやw
吊るすよワードでピンときたけどやっぱ面白いね〜!
最高ですわ!
次はまだかな?期待してます。
吊るすワードで気づいた人多いね←自分も
やはりこの方のSSは面白いですね!
瑞鶴と金剛を使ってくるっていうのが良い演出だと思います。
あと吊るすは伝統なんですかね?ww
結構始めに気づいて「あ!」ってなったなw いやー構成が丁寧で流石です。期待してますよ!
新刊読みましたよ〜。すばらしき飛龍と金剛…
これからも頑張ってください!
久々に主任が来たぞぉ
次スレが来たー
瑞ニャーはどこで拾えますかね。