優希「シュレディンガーの池田?」 (40)
・咲SSです
・作中に出てくる事柄に関して、自分の知識不足から誤った事を書いてしまったかもしれません。鵜呑みにしないでください。
・ここが違っているというご指摘はどんどん下さい。
華菜「ツモった牌を確認するまでは、有効牌を引く流れか不要牌を引く流れかはわからない」
華菜「だけどあたしは牌の中身を観測することで、未来の流れを確定する!」
華菜「名付けてシュレディンガーの華菜ちゃんだし!」
優希「……って感じで、最近池田の調子がいいみたいなんだじぇ」
咲「えっと、どういう意味なのかな……?」
和「理屈が全く分かりません」
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優希「私も言ってる意味はよくわからなかったけど、どうやら配牌と第一ツモだけで、その局のツモの流れが分かるらしいじぇ」
和「流れなんて、そんなオカルトありえません。サイコロで連続して同じ目が出たからといって、次も同じ目が出るとは限らないのと一緒です」
優希「のどちゃんなら言うと思ったじぇ」
まこ「じゃが、実際あいつは攻めとオリの判断が第一ツモだけで出来とるようじゃったぞ。うちで藤田プロと打った時も、かなり善戦しとったしな」
京太郎「流れが読めたなら、その局が上がれそうかどうかもわかるって訳ですか」
優希「池田……なかなかやるじぇ」
まこ「まあ、無理に突っ張って振り込むこともあったがの。しかし、あいつそんな事言っとったのか……」
咲「相手の流れまでは見えないんですね」
和「だから、流れとかそんなオカルト――」
優希「それにしても、シュレディンガーって何だじぇ? 最近見たアニメで聞いた気がするけど……」
京太郎「俺は昔読んだマンガで見たな」
咲「箱の中に猫と毒ガスを入れるんだったっけ? 確か名前は――」
久「シュレディンガーの猫ね」
優希「部長! 遅かったじぇ!」
和「学生議会は終わったんですか?」
久「さっき終わったわ。ちょっと長引いちゃったわね。それはそうと、面白そうな話してるじゃない」
京太郎「部長はその……シュレディンガーの猫? の事、知ってるんですか?」
久「ええ、知ってるわよ。咲も少しは聞いた事があるみたいだけど、いくつか要素が足りないわね」
咲「そうなんですか?」
優希「どんな物なんだじぇ?」
京太郎「俺も気になります」
久「そうねぇ……。じゃあ、練習は後にして、先に軽く説明しちゃおうかしら」
久「さっき、咲は箱の中に猫と毒ガスを入れるって言ったけど、入れるのはそれだけじゃないわ」
久「箱の中には猫と……」
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┃ 猫<ダシ! ┃
久「放射性物質と、放射線を検出する装置、それとつながった青酸ガスの容器を入れるわ」
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┃ 検 ┃
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┃ 猫<.ニャッ!? ┃
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優希「そんな物を猫と一緒に入れるのか!?」
京太郎「なんだか想像してたものより凄いな……」
久「放射性物質が崩壊して放射線を出したら、検出装置がそれを検知して、青酸ガスの容器を開けるようになっているわ」
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┃ ☢ アッタカーイ. ┃
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┃ 検 ガスガデルデー ┃
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┃ ::::::::::猫<チーン:::::: ┃
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優希「ね、猫はどうなるんだじぇ?」
久「死ぬわね」
優希「酷いじぇ! 何故猫を殺したんだじぇ!」
久「落ち着きなさい。これはあくまでも、こういう装置を用意したら~という仮定の話で、実際に猫を箱に入れたわけじゃないわ」
京太郎「そうなんですか」
優希「なんだ、ホッとしたじぇ」
咲「でも、これは何のための実験なんですか?」
和「……量子力学ですね」
久「そうよ。さすが和ね」
優希「量子力学って、何だじぇ?」
久「簡単に言うと、物理学の一つね」
優希「……物理は苦手だじぇ」
京太郎「俺も、あまり自信ないな」
久「大雑把に説明するつもりだから、あまり難しくはしないわよ」
優希「うう……お手柔らかに頼むじぇ」
久「どこから話そうかしら……そうね、まずは光についてからにしましょう」
久「さて、問題よ。光とは、波でしょうか、粒子でしょうか?」
優希「???」
京太郎「光? そんなの、考えた事も無かったな」
咲「粒子って、粒の事ですよね……?」
優希「波って、どういう事だじぇ? 波乗りでもするのか?」
京太郎「ほら、音って音波とか言うだろ。ああいう感じじゃないか?」
優希「おお! なんとなくわかった気がするじぇ! 京太郎の癖に、中々やるじぇ!」
咲「波……それとも粒子……?」
和「その聞き方は、ちょっと意地悪ですね」
久「あら、という事は、和は正解を知っているみたいね。でも私は、どちらか一方だけだとは言ってないわよ?」
咲「え? それって……」
優希「もしかして、両方って事なのか?」
久「そうよ。それが正解」
京太郎「つまり、光とは、波であり粒子でもあるってことか」
優希「でも、それがどうしたんだじぇ?」
和「その答えは、矛盾を含んでいるんですよ」
咲「矛盾?」
久「そう。本来、波と粒子は別物で、波の性質と粒子の性質が両方とも備わっているという事はありえない筈なの」
優希「そうなのか? うまく想像できないじぇ」
久「そうね……優希、そのエトペンを見なさい」
優希「じょ?」
久「あなたはこのエトペンが、波に見える? それとも、粒子に見える?」
優希「粒子って、丸いツブツブの事だじぇ? だったら……」
京太郎「粒子……ですか?」
久「まあ、粒子って言うには大きい感じがするけど、球体なんだから粒子の方が近いわよね」
久「でも、このエトペンが波だと言われたら、納得できる?」
咲「それは……納得できないです」
京太郎「なるほど、矛盾って言われた意味がなんとなくわかった気がするぞ」
久「でしょ?」
優希「むむむ…………」
優希「わかったじぇ! つまり、のどちゃんと染谷先輩とは、全然打ち方が違うってことだじぇ!」
和「ゆーき、それはちょっと……」
久「ま、まあ、納得してくれたんだったらそれでいいわ」
久「とにかく、波であり粒子であるという事はありえない筈だったの。でも、実験の結果は違った」
久「干渉縞と光電効果という2つの現象が、光には波の性質と粒子の性質があるということを示したの」
久「まあ、現象名は覚えなくていいわ。問題なのは、この矛盾する結果にどう説明を付けるかよ」
咲「どうつけるんですか?」
久「どうもこうもないわ。光は波であり粒子である。ありえる筈のない事がありえたってだけよ」
京太郎「それって説明になってないんじゃ……」
久「仕方ないのよ。実際にそういう現象が起こるんだから、そういうものだと捉えるしかないわ」
優希「つまり、光は凄いヤツだって事なのか?」
和「光だけじゃないですよ、ゆーき」
久「その通り。皆は電子って習ったかしら?」
京太郎「電子……電子辞書とか?」
優希「電子の海……のどちゃんの独擅場だじぇ!」
和「ゆーき、化学の授業でやったでしょう。原子の構造の所ですよ」
咲「えっと、原子核の周りを回っているものだったっけ?」
久「そう、その電子よ。原子の構造の図を見たことがあるなら、電子は粒子だって思うわよね?」
京太郎「その言い方はひょっとして……」
久「ええ、電子も波と粒子の両方の性質を備えているわ」
優希「そうなのか!?」
久「もっと言うと、この世の物質は、全て波であり粒子であるといっていいわ」
京太郎「……なんだか規模が大きくなってきたな」
咲「あの、話を聞いてて思ったんですけど……」
久「あら、何かしら」
咲「うまく言えないんですけど、波のイメージって、物質の集まりの大小みたいなものだと思うんです」
優希「???」
久「なんとなく言いたいことはわかるわ。一般的な波、水面の上下運動から連想したのかしら?」
咲「だから、粒子の集まりが波みたいな性質を示すだけで、光も電子もやっぱり粒子なんじゃないかなって……」
久「いい発想ね。実際、そういう考えかたもあったわ」
京太郎「過去形……ってことは、今は違うんですか?」
久「そうよ。電子が波と粒子の両方の性質を備えているということを示す実験として、2重スリット実験があるわ」
久「実験の内容は……時間があったら話すわ。この実験で、粒子が1個だけの状態でも、波としての性質を示すという結果が出たの」
京太郎「じゃあ……」
久「ええ。残念だけど、その考え方は、実験によって下火になったわ」
咲「そうなんですか……」シュン
久「あら、気を落とさないで。そういう質問をしてくれると、話した甲斐があって嬉しいわ」
久「さて、ずいぶん前置きが長くなったけど、いよいよシュレディンガーの猫についての話よ」
優希「お、やっとだじぇ!」
京太郎「そういえば、最初はその話をしていたんだったな」
久「説明してきた通り、粒子が波の性質を示すのは実験によって明らかになったわ」
久「だけど、粒子を捕まえて観測しようとすると、1個の粒子の状態になってしまう。では、観測していないときはどうなっているのか?」
和「……重なり合った状態」
久「そう。答えは、さまざまな状態が重なり合った状態で存在している、と量子力学では定義しているわ」
久「つまり、観測していないときはAかもしれないし、Bかもしれない。両方の存在が重なり合っている。だけど、観測したらAかBの状態に収束するということよ」
咲「そんなことがあるんですか?」
優希「なんだか変な話だじぇ」
久「波と粒子の両方の性質を備えるって時点で、もう十分に変な話なのよ」
京太郎「うーん……」
久「この重なり合った状態は、ある種の核崩壊についてもいえるわ」
久「崩壊を起こして放射線を出すかどうかは、計算では求められず、観測するまでわからないわ」
咲「崩壊? それって……」
久「そうよ。箱の中に、放射性物質を入れるって言った事を覚えているかしら?」
京太郎「えーと、何を入れたんだっけ?」
和「猫と、放射性物質、検出装置、青酸ガスの容器です」
久「正解よ。そしてこの装置は、簡単に言うと、核崩壊を起こすと猫が死ぬというものなの」
久「ちなみに、核崩壊の有無以外で猫が死ぬ事はないとするわ」
久「そして、仮に核崩壊が1時間以内に起こる可能性が50%とする」
久「この時、箱の蓋を閉めて、1時間後に蓋を開けた時、猫が生きている確率は50%、死んでいる確率も50%となるわ」
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50% 50%
久「……さて、ここまではいいかしら?」
咲「は、はい」
京太郎「なんとかついていけてます」
優希「か、かくほうかい……?」
和「ゆーき、とりあえず、半々の確率で猫が死ぬという所を覚えておきましょう」
優希「わかったじぇ……」
久「さっき、崩壊を起こすかどうかは観測しないとわからないと言ったのを覚えているかしら?」
久「つまり、蓋を開けて観測しない限り、崩壊が起こっているかどうかは重なり合った状態になっている」
久「という事は、猫の生死も重なり合った状態で存在する。言い換えると、猫は半分生きて半分死んでいる事になるわ」
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久「この実験を、発表者の名前を取ってシュレディンガーの猫と呼ぶの」
咲「半分だけ生きている……?」
京太郎「駄目だ。ついていけない……」
優希「半分生きて半分死んでいるって、そんな猫いるわけないじぇ!」
久「そう、いるわけないと思うでしょう? シュレディンガーもそう言いたかったのよ」
優希「どういう事だじぇ?」
和「つまり、観測していない時は重なり合った状態で存在しているなどという事は、起こりえないと主張したんです」
久「その通り。半分死んだ猫というのは、重なり合った状態というものがいかに異常かを示すための例だったのよ」
京太郎「なんだ……結局重なり合った状態というのはデタラメなんですね」
久「いいえ。デタラメじゃないわ」
優希「じょ!?」
咲「え? でもさっきは……」
久「シュレディンガー自身はこんなことありえないと主張したかったんだけどね……」
久「でもその後、そういう事もあるんじゃないか? と論争になって、いくつかの解釈は生まれたけど、結局どれが正しいのかは結論が出ていないわ」
和「解釈の中には、平行世界を持ち出したものもありましたね」
京太郎「という事は、もしかして半分死んだ猫もいるかもしれないって事ですか!?」
久「さあ……。この世のどこかには、シュレディンガーの猫も実在するのかもしれないわね」
久「いるとしたら、ぜひ一度見てみたいわ」
久「さて、長くなっちゃたけど、シュレディンガーの猫についての話はひとまず終わりね」
久「皆、わかってくれたかしら?」
咲「重なり合った状態というのはあまり想像がつかないですけど、実験の目的はわかった気がします」
京太郎「すごいな。俺は時間をおいてもう一度聞かないと、頭の整理が追いつかないぜ」
久「まあ、私もいろいろと端折ったりした部分があるから、気になったら詳しく調べてみるのもいいかもしれないわね」
優希「わかったじぇ!」
優希「つまり、結果を見るまでは、県予選の大将戦で池田が1位になる可能性もあったって事だじぇ!」
和「それは違います。咲さんがいたのですから、結果を見なくてもその可能性はありません」
咲「の、和ちゃん……」
京太郎「それはちょっと違うんじゃないか?」
久「……まあ、例えはどうかと思うけど、和の考え方はあながち間違いではないわ」
久「重なり合った状態というのは、2つ以上の可能性が同時に存在する場合に生じるの」
久「だから、可能性が1つしかない場合は、重なり合う事も無い。箱の中に、猫と青酸ガスだけを入れたのならば、猫が死ぬ可能性しかないわ」
咲「それで部長は要素が足りないって言ったんですね」
京太郎「なるほどな」
久「それと、優希の考えには、もう一つ違う点があるわ」
久「この実験の焦点は、重なり合った状態があるのかどうかなの。結果を見ることに意味はないわ」
優希「どういう事だじぇ?」
久「麻雀に例えるなら、観測していない状態、つまりツモる前の牌は、ツモる可能性のある牌全てが重なり合った状態なのか? ってことね」
久「観測するまでは可能性を1つに絞り込めないなんて、わざわざシュレディンガーの猫を持ち出すまでもなく、当然の事よ」
京太郎「言われてみれば……」
咲「それもそうですね」
優希「あれ? 何か、池田の言ってた事と違う気がするじぇ」
久「……なるほどね。確かにそれはポイントがずれてるわ」
和「観測することで結果が確定するというのは、この実験の主眼ではありません」
優希「なるほど~」
咲「つまり、池田さんが誤用してたって事ですか?」
優希「道理でいまいちピンとこなかったはずだじぇ!」
久(そういえば、美穂子は誤用に気づかなかったのかしら)
久(……いえ、話を聞く限り、能力にかなりの自信を持っているみたいだし、下手に説明したら、自信を失うと考えたのかしら?)
京太郎「これで解決したな。部長、何から何まで教えて頂いて、ありがとうございます」
咲「よくこんな難しい事を知ってましたね。さすが部長」
久「勿論よ。伊達に学生議会長は務めてないわ」
和「…………」ジトー
久「……と言いたい所なんだけどね」アハハ
優希「じょ?」
京太郎「何かあるんですか?」
久「実はこれ、全部まこから聞いた話なのよ」
咲「そうだったんですか!?」
久「世間話をしているときに、たまたまね」
京太郎「世間話でそんな話題が出るんですか……」
久「多分、和もそうじゃないかしら?」
優希「のどちゃんも!?」
和「ええ。その通りです」
京太郎「道理でやたら詳しかったはずだ」
咲「そういえば、染谷先輩は?」
優希「あれ? いつの間にいなくなったんだじぇ?」
久「まこったら、また消えたのね」
京太郎「また? そういえば、染谷先輩ってたまに突然現れたりいなくなったりしますが」
優希「瞬間移動でも使えるのか?」
和「SOA」
咲「でも、本当にどこに行ったんでしょう」
久「カバンはここにあるし、どうせそのうち戻って来るでしょ」
久「……そういえば、瞬間移動じゃないけど、まこが面白い事を言ってたわね」
久「何だったかしら? 確か、『わしは――』」
池田「大勝利! シュレディンガーの華菜ちゃん、絶好調だし!」
池田「このまま次の局も……」
??「シュレディンガーのう……」
池田「ニャッ!? 誰だし!?」
まこ「ちょっと……言葉の使い方を間違えとらんかの?」
池田「お前は、清澄の……!?」
池田「一体何の話だし! というか、それ以前に、いつの間に現れたし!」
まこ「わしか? わしはのう……」
まこ「どこにでもいて、どこにでもいないけえのう……」
池田「ひっ! い、意味わかんないし!」
池田「大体、何しに来たんだし!」
まこ「まあええ。わしの事は、平行世界から来た、ただの猫だとでも思ってくれればええわ」
まこ「用件は……」
まこ「ちょっと、勉強を教えてやろうと思っての……」
後日
優希「そういえば、最近池田の調子が悪いらしいじぇ」
優希「なんでも、能力が消えたとか……」
和「能力とか、そんなオカルト――」
久「……どう思う、まこ?」
まこ「さあのう……」
まこ「まあ、誰かに量子力学について、教わったんじゃないかのう」
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