上条「強化外骨格?」(15)
役目を果たした刀は、鞘に収まるべき。私はその判断に従い、長い眠りに着いたはずだった。
しかし、私は目を覚ました。
機材から漏れだす、仄かな明かりだけで照らされた、薄暗い部屋で。
眠りについてから、どれだけ経ったのか、私にはわからない。
だが、私の知っている友人や、歌は、もうこの世界には無いのだろう。
それだけは、確信していた。
体を起こし周囲を眺めると、一台のバイクが音も無く、私の傍へと寄ってきた。
「モーントヴォルフ……」
無人にして無音のアーマーサイクル。優秀な、私の相棒。
その軍用犬の後ろに積まれた鞄に、私は呼びかける。
「零……」
私は正義を行う者、葉隠覚悟。牙を持たぬ人々の剣なり。
――
上条「ボランティアだぁ?」
青ピ「そうやカミやん。なんでも最近、ボランティアさせてぇ、なんて言うて、男を食べる女性がいるんやて」
土御門「食べるってのは、性的じゃなくて、物理的な意味だにゃー」
上条「物理的って、んな馬鹿な……」
土御門「実際、まるで体を溶かされたみたいな遺体が、見つかってるって話ぜよ」
青ピ「カミやんなら、その女性とまず確実に会えるんやないかな。体質的に」
上条「どういう意味ですか? 上条さんはそんな都市伝説なんて信じませんのことよ。それに、そんなおっかないのと会って、どうするんだよ」
土御門「カミやんの旗立て能力なら、都市伝説も現実になるにゃー。そしてカミやんは、その献愛女と運命の出会いを……」
青ピ「あぁ、カミやん。ボランティアさせてぇな!」
上条「気持ち悪いわ!」
――
上条「全く、バカバカしい。何が献愛女だよ……さて、今日は卵が安いだ、っと……」
???「あぁ~んっ!」
上条「悲鳴!?」
上条「(あの路地からか!)」ダッ
???「あぁ~ん! もう私、ダメ~!」
上条「(悲鳴が聞こえ路地まで走ってきたら、何やらボロボロのナース服を着た女の方が、道路にうずくまってるんですが……)」
上条「(これは、なんなんでせうか? そういう、プレイなんですかね?)」
???「あっ、そこの貴方!」
上条「は、はいっ!?」
???「私、変な男達に乱暴されちゃって、私のボディが……」ウルウル
上条「な、大丈夫ですか?」
???「恵魅、もう立てないの!」
上条「あ、えと、じゃあ病院……じゃなくて、警備員、かな……今、連絡しますんで」
恵魅「貴方の家まで連れて行って~!」ガシッ
上条「は、はい?(な、何をこの人は、む、胸を押し当てて来ているんでせうか!?)」
恵魅「こんな姿じゃ、病院にも行けないわ~!」ムニュー
上条「い、いやぁでも、ケガとかしてるかもしれないですし、病院とかの方が先決なんじゃ……」
恵魅「助けてくれた貴方に、お礼もしたいもの……」タユン
上条「え、お、お礼ですか?」
上条「(正直、こんなボロボロの服じゃ、目のやり場にとても困るんですが……)」
恵魅「だ・か・ら。貴方の家に、ね?」
上条「……不幸だ……」
――
上条「(はぁ……インデックスが小萌先生の所に行ってる時で良かった……)」
上条「(しっかし、なんなんだあの人。襲われた、って言うわりには、なんかこうケロッとしてるんだよな……)」
上条「(なんか、面倒な事に巻き込まれちまったみたいだな……)」
上条「(ま、もう慣れたけど……)」
恵魅「あ、あの……シャワーあがりました……」
上条「お、傷とかは大丈夫です……って、なんで服着てないんですか!」
恵魅「いえ、お礼しないと……」
上条「いや! 着替え置いてあったでしょう!? それに、シャワー浴びたらちゃんと病院行くって言ったじゃないですか!」バッ
恵魅「うふふ……そんな事言っても、こっちはやる気だしてるみたいだけど……」サワサワ
上条「ひぃっ!(上条さんの下条さんが!)」
恵魅「かわいそう……ねぇ、良いよ……」サワサワ
上条「あー、えっと、そうだ! 上条さんは買い物に行かなきゃならないんでした! だ、だから、買い物終わるまで、ここで待ってて下さい!」ダッ ガチャン
恵魅「あら……ウブなのね……ふふふ」
恵魅「ボランティア、させて……」
――
上条「はぁはぁ……なんとか逃げて来れた……」ゼーゼー
上条「(全く、なんなんですかあの人は! 健全な男子高校生の上条さんには、あんなの目の毒以外に無いでしょう!)」
白井「あら、貴方は……」
上条「ん……ビリビリの友達の……」
白井「白井黒子ですの。ところで、何をそんなに息を切らしてるんですの?」
上条「あぁちょっと、幸運、いや不幸から逃げてきたんだよ……」
白井「はぁ……まぁそれはいいとして、今この近辺で、事件が起きているんですの」
上条「事件?」
白井「えぇ。能力か何かによって、体を溶かされた遺体が三体も見つかりまして……今は周辺の捜索と呼びかけをしているんですの」
上条「マジか……」
白井「だから貴方も、早く家に帰って下さいまし。その右手を過信せずに、ここは我々風紀委員にお任せ下さい」
上条「あぁ、わかったよ……あーと、その犯人って、どんな見た目なんだ?」
白井「現場付近で、ピンクのナース服を着た、ショートカットの女性が何度か目撃されていますの。おそらく、それが犯人かと……」
上条「なっ……」
白井「……何かご存じで?」
上条「……俺の家に、それらしき人が……」
白井「何故その人物が貴方の家にいるのか、理由を聞いてもよろしくて?」
上条「話すと、とても長くなると思われるのですが……」
白井「いいから話して下さい」
上条「路上でボロボロになってるその人を病院に送ろうとしたら拒否されてやむを得ず保護しました」
白井「……十分簡潔じゃありませんの」
上条「病院か警備員に引き取って貰おうと思ってたんだけど、ちょうど良かったな。白井、付いてきてくれるか?」
白井「えぇ、勿論。こちらとしても、容疑者確保に直結しますからね……貴方と一緒だと、テレポートできないのが少し不便ですけど」
上条「悪いな」
白井「構いません。それでは参りましょう……あら、なんですの? あれは」
上条「ん、どうした?」
白井「あのマンションの一室から、何やら煙が出ていますが……」
上条「え……あ、あれ、俺の部屋じゃねぇか!」
白井「もしや、先程言っていた容疑者が……」シュンッ
上条「一体何が……っておい! 白井!」
上条「クソッ!」ダッ
――
上条「はぁはぁ……」ダダダッ
上条「(何だ? あの桃色の蒸気は)」
上条「クソッ、白井! 恵魅さん!」バンッ
上条「(蒸気で中が見えない……)」
上条「(この蒸気、もしかしたら……)」
上条「この右手で……」
パキューンッ
上条「や、やっぱり打ち消せたか……」
上条「(ん? リビングで倒れてるのは……)」
上条「し、白井!」ダッ
上条「おい! 大丈夫か!」ユサユサ
白井「うーん……」
上条「はぁ、良かった。気を失ってるだけか……」
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