男「廃村取材のバイト」 (78)
監督「はい、じゃあカメラ構えて」
カメラマン「…」 スッ
ジー
監督「はい、じゃあ用意…… 3…2…」
アイドル「…はい! という訳でやって来ました! えーと…サ? サ…祭品村でーす!」
アイドル「えーと、この山奥の村には数々の伝説が残っていましてー。 えーと、ザン…ザン?」
監督「あ、カメラ止めてー」
カメラ「はい」 カチ
監督「ちょっとー、頼むよアイドルちゃん。 それはザンニンって読むの。 ちゃんと練習した?」
アイドル「ごめーん、漢字わかんないからぁ。 それにノド乾いちゃったー あと虫多くない? 虫」
監督「はぁ…」 ポリポリ
監督「あ、バイト君。 飲み物出して」
男「あっ、はい! えーと…」 ゴソゴソ
男「はい、どうぞ!」 スッ
アイドル「ちょっとォ! これお茶じゃん! あたしコーラがいい!」
男「コ、コーラはちょっと……ぬるくなっちゃいますんで買ってないです……」
アイドル「じゃー買ってきてよ! 早く!」
男「こ、この辺りは自販も無さそうですし……」
アイドル「はぁ!? 何こいつ! マジ使えない!」
監督「まあまあ~ 頼むよアイドルちゃ~ん 機嫌治してよ、ねっ? ねっ?」
アイドル「むぅ…… は~い」
男「すんません……」
アイドル「…」 プイ
監督「はい! じゃあテイク2行くよ!」
アイドル「はーい」
カチッ
ジー
『はい! という訳でぇ、やってきましたー。 祭品村でーす! かつてこの村ではぁ、ザンニンな事件があってぇ…』
『さてー、そんなウス……ウス? イワク? 曰く付きのォ村でしてー。 ん? リョウキ? リョウキテキ? な事件の真相とは!』
『わたくし、皆の恋人、アイドルちゃんがぁ、解き明かしていきたいと思いますっ! こうご期待~♪』
監督「…… カット! OK! いいねぇ~ すっごく良かったよぉ、ウン」
アイドル「えーホントですかぁ? 嬉しいです~!」
監督「イイ感じ イイ感じ~」
アイドル「ねえ、てゆうか早く車戻ろうよー ここ虫多すぎ!」
監督「えー、まだカメラ回し始めたばっかだよ? まだ村の入り口だし……」
アイドル「ちぇー」
カメラマン「…」 ジー
男「? カメラずっと回してるんですか?」
カメラマン「ああ、監督と事務所の指示でね。 こういうオフの動画も特典で入れると売れるんだよ」
男「へえ」
カメラマン「"ノンフィクションドキュメンタリー"のオフって何だよ、って感じだけどね」
男「それもそうですね」 ハハハ
カメラマン「にしても、君も大変だねぇ、バイトなんだって?」
男「ええ、大学生なんですけど、割の良いバイトだと思って……」
カメラマン「ま、学生バイトにしちゃ時給は良いよね」
男「それに、『のどかな農村で人気アイドルに付きっきりのお仕事』って書いてあったので……」
カメラマン「ハハハ、そりゃやられたね。 農村っていうか……山奥の廃村だしなぁ」
男「ま、のどかにゃ違いないですけど」
カメラマン「それに、人気アイドルっていうかどっちかと言うと落ち目……ゴホン」
男「フフッ 聞かれたらまずいですよ」
カメラマン「大丈夫だって、聞いちゃいないよ」
男「ッ!?」 バッ
カメラマン「ん? どうした?」
男「あ、いえ……」
カメラマン「おいおい、心配し過ぎだよ。 聞かれちゃいないって」 ポンポン
男「あ、はい……」
男(今……変な視線を感じたんだが…… 気のせいかな?)
監督「キャメラちゃん、バッテリ、大丈夫?」
カメラマン「ええ、十分ですよ 替えもバッチリです」
監督「よーし、とにかく数撮っちまおう」
監督「さーて、どっから手ぇ付けるかな」 キョロキョロ
カメラマン「民家とかはまだチラホラ残ってますね。 草ボーボーですが」
監督「うん、中に絵になるもんがあったらいいんだけどな 血の跡とか」
アイドル「え~ あたしそうゆうのNGかも~」
監督「冗談だってw そもそも事件だってマユツバの都市伝説みたいなもんなんだから」
アイドル「そうなんですか~?」
監督「うん、でもちゃんと『変な雰囲気』とか『寒気』とか、頼むよ~ 女優~」
アイドル「え~ 女優なんてそんな~」
監督「おっ」
男(これは……地蔵? にしては何か変だな。 どっちかっていうと石でできたコケシって感じだ)
監督「キャメラ! 撮ってる?」
カメラマン「撮ってますよー」 ジー
監督「んー、でもなんか小奇麗だな 雨風で削られちまってるし」
男(村の入り口のコケシ…… 村の守り神か何かかな?)
監督「もうちょっとこう、コケむしてたり、薄汚れてたりした方が絵になるんだよな~」
グッ
男「ちょっ、監督、何してるんですか?」
監督「こんな普通に立ってるんじゃつまらんだろ?」
グイグイ グラグラ
男「え? 引っこ抜こうっていうんですか?」
監督「ああ、そうだよ。引っこ抜いて地面に転がしてから撮る。 何だ、こいつ結構深く埋まってやがる」 グイグイ
男「ちょっ、そんな! バチ当たりますよ!」
監督「……」 グイグイ
男「監督!」
監督「るっせェなァ!!!」
男「……」
監督「素人が口出してんじゃねェぞ!! バイトの分際で!!」
男「……すいません……」
監督「おっ、よっと」 グイィ
ズボッ
監督「抜けた抜けた これを転がしてっと」 ブンッ
ドッ ゴロ…
監督「ほら、皆で土とか草で汚すんだよ ほら、手伝え」
カメラマン「……はい……」
アイドル「あははっ、楽しそう!」
ゴシュゴシュ グチャグチャ ズリズリ
男「ちょっ、何してんスか!?」
監督「おら、お前も手伝えよ」
男「……」
監督「なんだァ? 給料やらねぇぞ」
男「……」 グ…
男「…」 スッ ヌリヌリ
監督「よーし、こんなもんだろ」
男(……ひどい……)
アイドル「あははっ 土と草の汁でグチャグチャじゃん」
監督「キャメラ! しっかり撮っとけよぉ!」
カメラマン「……」 ジー
監督「 村の入り口に転がった像は、かつての村の守り神か……! 今やうち捨てられたその姿は、民に捨てられ、忘れ去られた村の象徴である……!」
監督「うん、イイねぇ!」
男「……」
ズ・・・
男「…」 ゾクッ
ビュウウウゥゥウウゥゥ!!
アイドル「きゃッ!!」
監督「うおっ!」
カメラマン「風が……!」
ビュゥゥゥゥゥゥゥゥ…
アイドル「…あー、びっくりしたぁ」
監督「ったく、これだから山間は嫌なんだよ」 ポンポン
カメラマン「……ヤな風……だったな……」
男「……」
…、…
男「え?」 キョロキョロ
カメラマン「ん? どうした?」
男「いや、今何か、声が」
カメラマン「そりゃあそうだろ、皆しゃべってる」
男「あ、いえ……その……」
監督「おーい! 次行くぞ! 何ボサッとしてんだ! 置いてくぞ!」
カメラマン「あ、はーい! ほら、急ごうぜ」
男「は、はい」
ジュル…
ペキ
休憩
───
監督「じゃ、この家から取材して行こうか」
アイドル「うえー、ボロボロだー」
監督「じゃ、キャメラ用意 3,2……」
アイドル「 はーい、どうもー 今わたしはー 事件があった家の前にいまーす 」
男(ほんとかよ……)
アイドル「じゃあ早速入ってみまーす」 ガタ
ギシ ガタ
アイドル「えー? 開かなーい」
監督「男くん、手伝って」 ボソ
男「あ、はい…」
ギッ
男「あれ、固いな……」 グッ
グッ ギシ…
ガララッ!
アイドル「ほら、どいて」
男「あ、はい…」
アイドル「 はーい、とゆうわけでー 早速中を調べたいと思いまーす」
ギシ ギシ
アイドル「やーん カビ臭ーい あ゙ー、クモの巣!」
監督「イイよイイよ~ どんどん進んじゃってー」
アイドル「 えーと、こっちの部屋はー何だろー」
ギシ… ガラッ
アイドル「 えー? 何もなーい 」
男「……」
男(何だこの部屋…… 狭いし、何も無い……)
男(ゴホッ… カビ…? いや、何だろう、据えたような、乾いた臭いだ……)
アイドル「やだぁ、臭ーい 出よ出よ」
監督「ん? 何だアレ?」
男(床に何か落ちてる…… 紙切れ?)
アイドル「これ何ー? 何か書いてあるー」 ヒョイ
ピン
アイドル「あり?」
男(落ちてるんじゃない…… 床に貼ってあるんだ)
アイドル「何て書いてあんの? これ」 グイ
カメラマン「お、おい……あんまり引っ張ると……」
ベリッ
アイドル「あ」
カメラマン「……」
男「……」
アイドル「ねー、取れちゃっ」
ギ ギ ギ ギ ギ ギ ギ ギ ギ
アイドル「な、何っ!? 何の音!?」
ギ… ギギ…
アイドル「……」
カメラマン「……」
監督「…た、ただ家が軋んだだけだろ…… ほら、もうこの部屋は撮るもん無いよ 次の家行こう」
アイドル「はーい……」 ギシ
アイドル「もうこれいらなーい あんた、捨てといて」 ヒョイ
男「あ、はい」
男(紙をもらってしまった……)
男(にしても……なんて書いてあるんだ、これ)
カメラマン「……えらい古い字だな……旧字体とも違う……」
男「崩し字って奴ですかね… っていうかこれ、お札ですよね…… 捨てたらバチ当たりませんか」
カメラマン「んー、ま、昔の田舎の村には色んな風習や宗教があったっていうしなぁ……」
男「宗教……」
カメラマン「ま、お守り代わりに持っとけば?」
男「はあ……」
アイドル「ねーもう早く次行こー ここつまんな」 ガラッ
アイドル「ーい」 ピチャ
アイドル「え」 ピチャ
アイドル「 キ」
アイドル「キャアアアアああああぁぁぁッ!!!」
監督「何!? どした!?」
カメラマン「ッ!? こ、これ、はっ!?」
男「うわっ!?」
ピチャ… ピチャ…
男「ち、血!?」
男(ろ、廊下が一面血まみれだッ!?)
監督「お、おい!! この廊下さっき通ったよな?!」
カメラマン「さっきはこんな物無かった!!」
アイドル「いやああああああぁぁぁぁァァ!!!」
監督「で、出ろッ!! この家から出るんだ!!」 ダッ
アイドル「いや……いやぁぁ……」 ブルブル
カメラマン「ほら!! 急ぐんだ!!」 グイ
アイドル「あ、あ……」 ヨロ…ヨロ…
監督「ぜぇ…ぜぇ…」
男「はぁ…はぁ…」
監督「な、何だったんだ、アレ……」
カメラマン「分かりません…」 ゼェ、ゼェ
アイドル「ねえ!! 何なの!? 何なのよぉぉ!! ドッキリなんでしょ!? いい加減にしてよ!!!」
監督「ち、違う! こんなの聞いてない! 俺にも分からない!!」
アイドル「嘘よ!!」
カメラマン「クルーを巻き込んだドッキリ……? いや……」
男「はぁ…はぁ…ゲホッ…」
男(ドッキリなんかじゃない…… あれはペンキや血糊なんかじゃない……)
男(あの生臭さ、ぬめり…… 本物の、血だった……!) グ、グッ
アイドル「もうやだ……帰る…… 帰るぅぅ!! うえぇぇえぇ……」 グス、グス…
監督「そ、そんな……! 困るよぉ!!」
カメラマン「……監督さん、一旦、車に戻りませんか」
監督「え?」
男「あ、賛成です…… ほら、ちょうど昼食の時間ですし、一旦車で休憩しませんか……?」
監督「……分かった」
アイドル「ねえええ! もうさっさと帰ろうよぉぉぉ!!! 東京帰りたいよぉぉぉ!!」
監督「ね、とりあえずさ、車戻ろ? ね、」
アイドル「うぅぅぅ……」
カメラマン「……」 ジー
男「撮ってるんですか?」
カメラマン「ああ…… 一度も電源は切っていない」
カメラマン「……さっきのアレ、車で動画チェックしよう 何か分かるかもしれん」
男「……!」
男(……何か、か……)
ガサ ガサガサ ガサ
監督「もうちょっとで車だ……!」 ガサガサガサ
アイドル「帰ってシャワー浴びたいよぉ……」 ガサガサ
監督「あった! 俺たちが乗ってきたワゴンだ!」 タタッ
監督「ッ!!」
カメラマン「監督? どうしたんですか?」
監督「……」
カメラマン「お、おいこれ……!」
男「タイヤが……全部パンクしてる……」
監督「ああああぁああぁ!! 何でだ!! 何でだよ!!」
アイドル「ねえ? 帰ろう? 帰ろうよぉぉ!」
カメラマン「これじゃ山道は走れない…… 途中はギリギリの狭い道も多かった。 これで走ったら全員死んじゃうよ」
アイドル「え゙ぇえぇ!? そんなぁ……! ウソ! ウソでしょぉぉ!?」
男「と、とにかく車の中に入りません?」
監督「あ、ああ……」 ピッ ガチャ
───
アイドル「…うぅぅ…グス…」
男「あの……」 スッ
アイドル「ぅえ?」
男「お茶、どうぞ……」
アイドル「…」 コク
監督「くそっ……一体何なんだよ……!」
男「タイヤ……ネズミか野犬にでもかじられたんでしょうか……」
カメラマン「4つとも全てか……?」
男「……」
監督「大体、あの血は何なんだ!! 俺たちは全員あそこにいたんだぞ!!」
カメラマン「……まさか……」
カメラマン「俺たちの他にもいるってことですか……誰かが」
監督「だ、誰かって……! こんな山奥にか!?」
カメラマン「分かりませんよ、ホームレスが住み着いてるのかもしれない、ヤクザが変な施設として利用してるのかもしれない」
カメラマン「そして……まだ、村民がいるのかもしれない」
監督「……馬鹿な! この村は20年前の事件以来、廃村だ! 地図から消された村なんだよ!」
カメラマン「ですが……」
監督「取材前に役所にも確認は取ったさ! 村自体が今は存在しない! 戸籍も村民も、存在しないんだよ!」
男「あの、すみません……」
監督「何だ!」
男「20年前の事件って……何ですか?」
監督「何だお前、そんなことも知らずに撮影に参加してたのか」
アイドル「あたしも知らなァい」
監督「……」 ハァ…
カメラマン「あの事件はよく覚えてますよ……まだ報道で駆け出しやってた時に、取材に関わりましたから」
男「報道?」
カメラマン「……昔の話さ」
監督「お前も聞いたことあるだろ、"血祭り村事件"って」
男「あ、はい、名前自体は…… でも、確か事件はウソっぱち、狂言だったとか、都市伝説だとか…って。」
カメラマン「20年前……」
───
ジリ… ジリリリリリリ!
ガチャ
警官「……はい、こちら警察です。 事件ですか、事故ですか?」
『……』
警官「もしもし?」
『………』
警官「もしもし? 事件ですか? もしもし?」
『………』
警官(……イタズラか)
警官「もしもーし」
カタカタ
警官(通報場所は……なんじゃ、えらい山あいやな)
警官(公衆電話か? ったく、自宅やったら後で注意もできるんやけどな)
警官「あのー? イタズラやめてくださいねー 切りますよー」
『あうえ』
警官「むッ?」
『……』
警官「もしもし? もしもし? どうしました? もしもしー?」
『……ゴポ……』
警官「……!?」
警官(何の音じゃ…… 排水口が詰まった時みたいな……)
警官「もしもし!? どうしたんですか!?」
『……ゴポ、…… ゴプ…』
警官「もしもし!? オイ!! 返事せえ!!」
『……』
警官「オイ!! すぐそっち言ったるからな!! お前は誰や!! 何があった!! オイ!!!」
『 たぁ う け れ ぇ …… ゴポ… あうけれぇぇ… ゴプ…』
警官「オイ!!! しっかりせえ!!! 本部!!本部!緊急応答! 至急現場に……」
『 ボチャッ 』
ガチャン ツー ツー ツー ツー
警官「ッ!?」
警官「くそッ!!」
ウ── ウウゥ───
ザッ 『入電。 現場、ニ〇七から北西に抜ける山間道。 被害者と思われる男性から通報有り。』
『付近の捜査員は現場へ急行せよ』
───
男「そ、それで!? 結果はどうなったんですか?」
カメラマン「……捜査員が現場の公衆電話に向かった結果、」
男「…」 ゴク
カメラマン「何も、無かった」
男「え……?」
カメラマン「何も無かったんだ」
ザッ 『あー、現場に到着した…… ゴホッ ゲホッ』
「どうした、大丈夫か」
『大丈夫じゃ。 ただ、酷い臭いや。 鼻が曲がりそうじゃ』
「臭い?」
『生臭い。 血の臭いと何や……腐敗臭みたいなもんが混ざっちょる』
「現場の様子はどうじゃ。 保護対象は確保できたか」
『いや、誰もおらん。 というより、何かがいた形跡も見当たらないんやが』
「何? 何やと?」
『通報を受けたもんの話やと、現場に水のような音がした言っちょったが』
「そうやな」
『水もなんもねぇ。 濡れたところも見当たらんぞ』
「……近くになんぞ変わったところは?」
『あー?』
「どした?」
『種や』
「タネ?」
『種が落ちとる……こりゃ、何の種じゃろ……』
「もっと変わったもんは無いんか?」
『……無いなぁ』
「……」
『どうする。 血の臭いは間違いないで。 でも人っ子一人も見当たらん……』
「……分かった。 とりあえず一旦戻って来ぃ」
『帰ってええんか? 事件性はあるんじゃろ?』
「人がおらんのじゃしょうがない……それに現状じゃイタズラかどうかの判断がつかんのじゃ」
『……了解じゃで』
───
男「それで、警察は引き揚げちゃったんですか」
カメラマン「田舎のことだし、物騒な事件も少ないからね。 イタズラだと判断したのも無理はないさ」
男「……しかし、今のところ村は全然関係ないですよね」
カメラマン「ああ、これは後の事件のきっかけにすぎなかったんだよ」
男「後の事件……?」
監督「本当に何も知らねぇんだなぁ、ゆとり世代は」
男「ムッ…」
カメラマン「その通報騒ぎの一週間後……県警にある人間の捜索願が出されてな」
男「捜索願?」
カメラマン「週刊誌……ま、もう廃刊になってる三流ゴシップ誌だが……その記者が行方不明になったんだ」
男「記者が行方不明……」
カメラマン「その、消息を絶った日時が通報のあった日と一致して……」
監督「そのことに気付いた警察が、『通報してきたのは行方不明になった記者』だと仮定して捜査を始めたってワケだ」
男「ははぁ、なるほど……」
カメラマン「そして、その記者が直前に訪れていたのが……」
刑事「祭品村ぁ?」
部下「はい……」
刑事「……話せ」
部下「雑誌社のデスクから、記者の取材ノートが見つかりまして……」
部下「そこに、予定が書きこまれていたんです。 祭品村へ行く、と」
刑事「……はあ」
刑事「よりによって、あの村か」 ボリボリ
部下「どういうことですか……?」
刑事「何だ、お前知らねぇのか」
部下「自分、配属になったばっかりなんで……」
刑事「あの村は魔境だよ このご時世に、電気も電話も通じてねぇ……」
部下「ええっ!? 今は平成ですよっ!? 世間はセガサターンで盛り上がってるっていうのに……」
刑事「セ……? とにかく、あの村は警察だって関わりたくねぇんだ。 ったく、よりによって……。 おい、コート」
部下「あ、はい」 スッ
刑事「さ、て、と」 ゴソゴソ
刑事「行くぞ」
部下「えっ、ど、どこにですか?」
刑事「決まってんだろ」
刑事「祭品村だ」
───
カメラマン「そして、村に警察が介入する事態となった……」
男「…」 ゴク
カメラマン「その結果……」
アイドル「……」イライラ
アイドル(話長いし……つまんないし!)
アイドル(っていうか、何なの! 何であたしがこんなメにあわなきゃいけないの!)
アイドル(帰ったら訴えてやる……! 事務所に言ってこいつら全員訴えてやる!)
アイドル(そうだ、マネージャーもクビにしてもらお…… あいつ、他の奴の仕事に付きやがった!)
アイドル(そのせいで一人でこんな仕事するハメに……)
アイドル(許さない……全員許さない……!)
アイドル(……スマホ……) スッ
アイドル(圏外……)ハァ
アイドル(もう! 暇つぶしもできないじゃない!) イライラ
カメラマン「それでね……」
アイドル(……もういいや、カメラで撮った動画でも見とこ)
ピッ
アイドル(……)
ピッ ピッ ジー
アイドル(……)
男「それで……どうなったんですか?」
カメラマン「その結果……」
アイドル「キャアアアアアアァアアアァッ!!!」 ガシャン!
男「ッ!?」
カメラマン「ッ!?」
監督「ど、ど、どうしたぁ!?」
アイドル「……」 ガタガタガタガタ
監督「おい! 大丈夫か?」 ユサユサ
アイドル「あ、あ、……」
カメラマン「どうしたんだい? アイドルちゃん?」
アイドル「カ、カメラ……」
カメラマン「カメラ?」
男「このカメラで……動画見てたんですよね?」 ヒョイ
アイドル「ど、動画……あたし、あ、あたしが……」 ブルブル
男「??」
カメラマン「そうだ、さっきの現場の映像……見てみようって話だったな」
男「そうですね。 再生してみましょう」
ピッ
『ねー早く次行こー ここつまんなーい ッキャアアアァァァッ!!』
『何!? どした!?』 『これはッ!?』
男「……映像は揺れてますが、ちゃんと撮れてますね」
カメラマン「ああ……それに、ここに映ってる人間に妙な動きは見られない……俺たちの誰かが血をブチ撒けるなんて無理だ」
監督「いやー、撮ってて良かったなぁ」
アイドル「……がう」
男「え?」
アイドル「ちがう」
男「違う?」
カメラマン「違うって……何が?」
アイドル「映像……それじゃない……」
監督「それじゃない?」
アイドル「私…… 私の映像……」
カメラマン「私の映像……?」
カメラマン「っ!」 ハッ
ピッ ピッ ピッ
男「どうしたんですか?」
カメラマン「まさか……!」
ピッ
『 はい! という訳でぇ、やってきましたー 』
男「これは……最初に撮った冒頭の映像……」
『 祭品村でーす! 』
男「あれ」
グニャァ…
カメラマン「ッ!? アイドルちゃんの顔が……!」
男「歪んで…… いや、」
監督「何だよこれ……」
『 かつてこの村ではぁ、ぁ、ぁあ、あ 』 ザザッ ザッ
男(目と口が……黒い穴みたいに……)
『 あ、あぁあ、あぁァアァぁぁあ 』
男「何、こ」
『 あ゙ あ゙ あ゙ ぁあ゙ あ゙ あァ ア゙ ア゙ ァァァァ!!!!!! 』
カメラマン「ッ!!?」
ガガッ ザッ プツッ…
監督「お、おい! 止まっちまったぞ!」
カメラマン「も、もう一度……」 ピッ
『 はい! という訳でぇ、やってきましたー。祭品村でーす! かつてこの村ではぁ、ザンニンな事件があってぇ』
監督「んン!? 問題ないぞ!?」
カメラマン「さっきのは一体……」
アイドル「うぅぅ……もう……もうイヤぁ……」 ポロ…ポロ…
アイドル「帰りたぁい……」 ポロ…ポロ…
男「……」
監督「……」
カメラマン「……」
帰りたい。
でも、
帰れない。
【 前編 了 】
つづきは別スレで。
↑までの奴は、俺は2chのスレをコピペしただけだよ
男「廃村取材のバイト」
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません