おもちゃ屋「両さん、ちょっと相談ごとがあるんだけど」(84)

なんのひねりもないこち亀モノです

・・・亀有公園前交番・・・

おもちゃ屋「両さん、ちょっと相談ごとがあるんだけど」

両津「なんだ?金ならないぞ」

おもちゃ屋「違うんだ、儲け話だよ」

両津「なに!」

おもちゃ屋「ほら、この間3Dプリンターで フィギュア作っただろ」

両津「ああ。でも採算取れないって、あきらめただろう?」

おもちゃ屋「それがな、最後に作った麗子さんのフィギュアが……」

両津「あいつを大々的に売ろうって言うのか?すぐ麗子に気づかれるぞ」

おもちゃ屋「そうじゃない。あれよりリアルなやつをほしいって言ってる人がいるんだ」

両津「しかし麗子のは……この前もばれてさんざん怒られたばっかりだからなあ。またすぐそんなことして麗子の怒りを買ったら命がいくつあっても足りん」

おもちゃ屋「相手はこれだけ準備するといってる」パッ

両津「指五本ということは50万か。50万のために命を危険にさらす気にはなれん」

おもちゃ屋「ゼロがひとつ違う」

両津「500万円か。そこまで言われるとちょっと気持ちが揺らぐかも……」

おもちゃ屋「違うよ、両さん。円じゃなくてドルだよ」

両津「ドル?確か今、一ドル百円を超えていたから、えーと…5億円以上!喜んでやらせていただきます!!」

おもちゃ屋「スポンサーのリクエストは可能な限り現物に近いことなんだ」

両津「可能な限り現物に近い、か」

おもちゃ屋「この間の1/1フィギュアのデータを手直しすればできるんじゃないか?」

両津「いやダメだ。あれは1/1とはいってもフィギュア用にデフォルメされたものだ。
現物に近く、とわざわざ指定してきたということは、それを承知しているということだ。
だいたい5億も出そうって言うんだ、産毛の一本まで再現しなければ満足するはずがない」

おもちゃ屋「さすが両さん、そこまで考えているとは」

両津「スパークの研究所で、スキャナーとプリンターの精度を上げさせるのに3週間はかかる。しかしそれだけでは十分なデータが……
うーむ、麗子の行動予定は…一ヵ月後にわしと当直があるな…よし、2ヶ月待ってくれ。それまでに完成させよう。
しかしどこの馬鹿だそんなものをほしがるやつは?」

おもちゃ屋「この間、中東の王様が日本に来ただろう。そのときうちの店に来て……」

両津「ちょっと待て!何で王様がお前の店なんかに来るんだ!?いつ倒産するかわからない、吹けば飛ぶような零細小売店に」

おもちゃ屋「そこまで言わなくたっていいだろう。その王様がバービー人形の収集家でさ。掘り出し物を探しに来たんだ。
どうも東京の下町のおもちゃ屋に貴重なデットストックが眠っているのは国際的に有名らしい」

両津「そうなのか?やつらの情報網は侮れんな」

おもちゃ屋「そのとき前に試しで作った麗子ドールを見て、いくらでも良いから売れと。麗子さんの実家、貿易商だろう?
以前商談であったことがあるらしくて、それ以来ぞっこんだったらしいんだ。売り物じゃないと断ったんだが、だったら売り物を作ってくれと、500万ドルの小切手をヒラヒラと……」

両津「うーむ、しかし500万ドルとは……石油王というやつの価値観はさっぱり判らん。まあいい、話はわかった。金はスイス銀行の口座に振り込んでおいてくれ」

おもちゃ屋「スイス銀行?」

両津「国内の銀行だと、今までのツケでみんな差し押さえになっちまうんだ」

おもちゃ屋「でもスイス銀行って言う銀行は実際にはないんじゃ…?」

両津「いいんだ、そういうことは!!ゴルゴ13だってスイス銀行って言ってるだろう!!」

おもちゃ屋「わ、わかった両さん、スポンサーにはそう伝えておく。フィギュアの作成のほうは、頼んだよ」

両津「おう、まかせておけ。完璧に仕上げてやる」

両津「しかし、そんなもの何に使おうって言うんだ……まあ、それは気がつかないことにしよう」

・・・1ヶ月後 亀有公園前交番・・・

両津「おい麗子。立番代わってやろう」

麗子「ありがとう。居眠りしちゃダメよ」

両津「そんなことわかってる。コーヒー入れといたぞ」

麗子「本当に身体が冷え切っちゃったの、助かるわ」

数分後

ガタガタッ、ドサッ

両津「よし。コーヒーに入れといた睡眠薬が結構早く効いたな」

両津「細部にいたるまで完璧にデータを収集するには裸にしなければならないからな。
強めの睡眠薬を使ったことは気が咎めるが、万が一途中で目を覚まされたら間違いなく殺されるからしょうがあるまい」

両津「しかし、この顔、この身体でどうしてまだ嫁に行かないんだ。まあいい、まず手足を伸ばして……制服のボタンをはずしてと。しかしこのデカイ胸がよく制服に納まるな」

麗子「オートクチュールでサイズをちゃんととって作ってるからよ」

両津「ああ、それで……うわっ!!麗子、起きてたのか!!」

麗子「今仮眠所に入ったばかりよ。そんなすぐ寝るわけないでしょ」

両津「そうだが、しかし……」

麗子「ひょっとして、このコーヒーに何か細工でもしてあったのかしら?」ジロッ

両津「あっ、ばれてたのか……」

麗子「両ちゃん、私がこの派出所に来てから悪企みなしでお茶入れてくれたことなんかないじゃないの」

両津「日頃の信用の無さがこんなところで……」

麗子「いったい何しようとしたの?」

両津「なに、たいしたことじゃないんだ。ちょっと人形のデータを……」

麗子「またそんなことしようとしたの!部長さんに言ってしっかり油を絞ってもらうから」

両津「それだけは勘弁してくれ。今度余計なことしたらさいはて署に飛ばすと脅されてるんだ」

麗子「知らないわよ、そんなこと。さいはて署でも度井仲村でも行けば良いじゃないの」

両津「許してください、麗子さん!一生のお願い!」

麗子「もう、しょうがないんだから」

両津「何でもするから。靴をなめろといわれれば……」

麗子「いいわよ、そんなことしなくても! でも、そうねえ……なんでもしてくれるっていうのなら、土曜日の朝からお買い物に付き合ってくれる?
ちょっとまとめ買いしたいから荷物持ちして欲しいんだけど」

両津「何でわしがそんなことを」

麗子「別にいいわよ、部長さんに……」

両津「わ、わかった!ぜひ私めにやらせてください!」

・・・土曜日の午後、麗子のうちの駐車場・・・

両津「なあ、麗子。いくらなんでも買いすぎだろう。HEMTTの荷台があふれそうじゃないか。しかしどこから米軍の輸送トラックを……」

麗子「季節の変わり目だからいろいろお洋服買い換えないといけないし、それに合わせてアクセサリーも変えなきゃいけないからどうしてもいっぱい買っちゃうのよ」

両津「まあ、麗子みたいなブルジョアはそういうものかもしれんな。じゃあ、帰るぞ」

麗子「ダメよ、これお部屋まで運んで」

両津「こんなに一人で運べるか!」

麗子「そのために、両ちゃんに来てもらったんじゃないの。配達頼むと、途中でみんな力尽きちゃって部屋まで届かないんだもの。この間も一人迷子になって、まだ発見されてないのよ」

両津「こんなでかいうちに住んでるお前が悪いんだろう!わしは知らん!」

麗子「ふーん、じゃあ部長…」

両津「わかった!!運べばいいんだろう運べば!」

麗子「ありがとう」 ニコ

・・・一時間後・・・

両津「何往復したか、もうわからん。富士山に登るほうがよっぽどましだ。リビング直通の貨物用エレベータも作っとけ」

麗子「ご苦労様、またお願いね」

両津「冗談じゃない、まっぴらごめんだ」

麗子「ケチ。でも、本当に助かったわ。あ、お茶入れたわよ。ケーキ食べる?」

両津「おう、サンキュー。麗子の作る菓子は上手いからな」

麗子「両ちゃん、大酒のみのクセして甘い物好きだものね。気をつけないと糖尿病になっちゃうわよ」

両津「大きなお世話だ!」

trrrr

両津「お、中川から電話だ……どうした、中川?」

中川「先輩、今どこにいるんですか?」

両津「麗子の買い物を、部屋に運び込んでるところだ」

中川「麗子さんも一緒ですか、ちょうど良かった。先輩が乗ってみたいって言ってた新型クルーザーのスケジュールがたまたま空いたんですよ。
麗子さんも一緒にどうですか?」

両津「麗子、どうする?」

麗子「私も乗ってみたい。いくわ」

両津「そうか。中川、何時にどこへ行けばいいんだ?」

麗子「今日の夜8時ごろ江ノ島港につきますから、それぐらいに来て貰えば」

両津「わかった。じゃあな」プツッ

麗子「ねえ両ちゃん、すこし早めに行かない?」

両津「なんか用でも有るのか?」

麗子「そうじゃないけど、鎌倉をたまには歩いてみたいなと思って」

両津「あんなところ寺と神社しかないだろう。腹が減るだけだ」

麗子「そんな事無いわよ。おしゃれなスィーツのお店だっていっぱいあるのよ。それに鳩サブレ好きでしょ。あれも鎌倉のお店よ」

両津「しょうがねーな、じゃあ、つきあってやるよ」

麗子「ありがとう。じゃあ、私が車を出すわ」

・・・麗子の車、ドライブ中・・・

麗子「両ちゃんと二人で遊びに行くのって久しぶりね」

両津「そうだな。それはいいけど、お前まだ嫁に行かないのか」

麗子「なによ、急に」

両津「部長がやきもきしてるんだよ、わしらと遊んでてもろくな事無いって」

麗子「最近はそんな一緒に遊んでないじゃない。纏ちゃんや檸檬ちゃんと一緒にいることが多いから」

両津「まあ、そうだが」

麗子「それに両ちゃんにだけは言われたくないわ。両ちゃんこそ早く結婚して浅草のご両親を安心させて上げなきゃダメじゃない。結婚する気は無いの?」

両津「そういうわけじゃないが、相手がわしを嫌ったり、わしが相手にふられたり……」

麗子「フフフッ」

両津「なんだ?」

麗子「昔もそんな事言ってたわよ。でも、マリアちゃん、両ちゃんにメロメロだったじゃない?」

両津「マリアはもともと男だろ」

麗子「じゃあ、琴音さんは?」

両津「琴音は……琴音は芝居と結婚したんだ。わしにはどうすることもできん」

麗子「カッコつけてるけど、臆病なだけじゃない」

両津「なにっ!ふざけた事言うんじゃねえ」

麗子「なによ!ほんとのことじゃない。両ちゃんの事好きになった女の人のことだって、結局みんな放りっぱなしじゃないの」

両津「てめえ、そんな生意気な事言ってると……」ハンドル、グイッ

車 キキキィーッ、ドリフトーッ

ビニールのカーテン バサッ
 
麗子「わっ、何するの!ハンドルいたずらしたら危ないじゃない!普通の道路でこんな走り方したら事故起きるでしょ!……で、ここは?」

両津「ラブホテルだ」

麗子「これがラブホテルなの……」

両津「そうだ、お前みたいな超ブルジョアは来ることないだろうが」

麗子「話には聞いた事はあるけど」

両津「あんまり男を馬鹿にしてると、こういうところにいきなり連れ込まれて、いたずらされちまうぞ」

麗子「いたずらなんかいつも両ちゃんに散々されてるじゃないの」

両津「そういうイタズラじゃねえ!」

麗子「じゃあ、どういう?」

両津「どういうって、お前……」

麗子「だからどんなイタズラよ?」

両津「……つまりだ、そのなんだ……裸にひん剥かれて、チ〇ポコ咥えさせられて、ヒーヒー言わされちまう、みたいな……」

麗子「両ちゃんにそんなことできるわけないじゃない」

両津「わからないだろう!」

麗子「わかるわよ!」

両津「そんな事言ってると、このホテルに本当に引っ張り込むぞ!」

麗子「いいわよ!やってごらんなさい!」

・・・ホテルの部屋の中・・・

両津「……」

麗子「……」

両津「……麗子、謝るなら今のうちだぞ」

麗子「何を謝るのよ?」

両津「生意気な事言ってゴメンなさいって」

麗子「別に私間違った事言ってないもの。両ちゃんこそ謝りなさいよ。出来もしないことを出来るといった臆病者でしたって」

両津「そんなことはない!ただ、わしはだな、こういうことはお互いの合意が……」

麗子「無理やりイタズラするからってここに引っ張り込んだのは両ちゃんでしょ?」

両津「それはそうなんだが……」

麗子「そんな事より、シャワー浴びてきてよ。一日荷物運びして汗まみれでしょ。そんな人に触られるなんて真っ平ゴメンよ」

両津「誰の荷物運んだと思ってるんだ!」

麗子「両ちゃんが私で金もうけしようとしたからでしょ。いいから、早くシャワー行って」

・・・バスルーム・・・

両津「引っ込みが付かなくてここまで来ちまったが……麗子のやつナニ考えてるんだ、シャワーまで浴びさせて。まさか本気でしても良いって考えてるわけじゃ……」

両津「あ、そうか。わしがシャワーを浴びてる間に逃げちまおうって気だな。うーむ、こんなところにおいてかれると困るな、駅が結構遠いし。まあ、しょうがないか……」

麗子「両ちゃん、入るわよ」ガラガラ

両津「え、あ、うそ、麗子、ハダカ……」

麗子「どうしたのそんな驚いた顔して」

両津「いや、シャワーに入っている間に逃げるもんだと……」

麗子「そんな人をだますような事しないわよ、両ちゃんじゃないんだから。それとも逃げて欲しかったの?」フフン

両津「そんなわけないじゃないか。しかし、一緒に入らなくたって良いだろう」

麗子「だって江戸っ子だとか言って、いつもカラスの行水でちゃんと体洗ってないでしょ。本田さん言ってたわよ。だから綺麗になったの確認しないと」

両津「本田のヤツ余計なことを…。し、しかしだな、せめてバスタオル巻くとか」

麗子「なにそんなオロオロしてるのよ。一緒におふろ入るの初めてじゃないでしょう、あの時は手錠でつながってたけど」

両津「殴って気絶させておいて良くそういうことを言えるな」

麗子「ゴメンナサイ。だけどバスタオル一枚ずつしかないから、ぬらしちゃったら代えがないのよ。両ちゃんと同じバスタオル使うの嫌だし。
それに私も汗かいちゃったから、シャワー浴びたいの。両ちゃんにあいつ汗臭いって言いふらされたらいやだし」

両津「そんなことするか!」

麗子「良いからコッチ来て、洗ってあげるから」

両津「ガキじゃねえんだ、自分で洗える」

麗子「ちゃんと洗ってるかどうか怪しいもの。ホラ、手を貸して…コシコシ…ほんとに身体中毛むくじゃらなのね…コシコシ…」

両津「……あっ、そこはいい!!」

麗子「私に咥えさせるんでしょ?きれいになってなかったらいやだもの」

両津「馬鹿、そんな事させる訳な……」

麗子「させる訳な……?」チラッ

両津「させる訳な……いことは無いけども、だ。つまり、そのう……」

麗子「ハイ、流すわよ…ザー…じゃあ、お風呂に熱めのお湯入れといたから、よく暖まってきてね。先にあがってるわ」ガラガラ

両津「あ、麗子。ちょっとま……」

今朝はここまでです

・・・1時間後・・・

麗子「結局、両ちゃんできなかったじゃない」

両津「なに!?わしはちゃんと普通に……」

麗子「両ちゃんの咥えさせて、ヒーヒー言わせるって」

両津「馬鹿野郎、そんなことさせられるか!」

麗子「ほら、私の言ったとおりでしょ。両ちゃんには無理だって」

両津「うるさい!そんなことより、その……」

麗子「……」

両津「麗子がまさか……」

麗子「……」

両津「どうして先に言わねえんだ!わしだって、こういうことだとは思ってなかったから……」

麗子「まあ、そんな若いわけじゃないからもう少しスムーズにいくかと思ったんだけど……。もっと遊んでる女だと思ってた?」

両津「そういうわけじゃない!……が、こういうことはもっと大事にしなきゃダメだろう」

麗子「私は大事にしてるわ。今まで結婚したいと思った人以外と関係持った事無いもの」

両津「結婚したいと思う人以外とって、おまえ……」

麗子「前に、いきそびれたら両ちゃんのところにでもいこうかしらって言ったの覚えてる?」

両津「あ、ああ。なんとなく」

麗子「まあ、そんなもんでしょうね。両ちゃんは冗談と思ったんでしょうけど」

両津「あたりまえだろう」

麗子「そうね」

両津「……」

麗子「……」

両津「本気か?」

麗子「どうかしら」

両津「なら……今から浅草に行くか?」

麗子「お父さんとお母さんに紹介してくれるの?」

両津「親を安心させろって言ったのは麗子じゃねえか。まあ、紹介するって言っても、うちに泊まっていったこともあったよな」

麗子「お嫁さんとして紹介してもらうのとは別よ。お母さん喜んでくれるかしら?」

両津「そりゃあ、喜ぶさ。麗子が店番してくれれば佃煮の売れ行きが上がるって。麗子がどれくらい金持ちかわかってないからな」

麗子「じゃあ、お休みの日はお店のお手伝いに行かなくっちゃ」

両津「あんまり甘やかさないほうが良いぞ」

麗子「両ちゃんのことは甘やかさないわ」

両津「それは勘弁してくれ」

麗子「ダメよ。さ、出発しましょう。今度は運転して、道よく分からないから」

・・・一方、クルーザーでは・・・

中川「先輩遅いなあ。麗子さんと一緒だから忘れてるってことは無いと思うけど……あの二人の事だから喧嘩別れしてどっか行ってしまったのかな?」

中川「とりあえず麗子さんと連絡取るか……Trrrr……あ、麗子さん、今どこ?……浅草?何でそんなところに……せ、先輩と結婚!!なんでそんな急に?
……なんだって?麗子さんの経営してる会社を優ちゃんに譲るから手伝ってやってくれって?……いくら結婚するからっていきなり会社を放り出したらダメでしょう!
……え、佃煮の作り方を覚えるので忙しい?そんなムチャクチャな!麗子さんまで先輩みたいなことを言わな……」ピッ

中川「あ、切れちゃった。でも、ようやく先輩と麗子さんが……部長は泣いて喜ぶだろうな、ヘルファイア2,3発打ち込むだろうけど……」

とりあえず

・・・2ヶ月後 亀有公園前交番・・・

中川「おはようございます、ニューヨークの出張から帰りました……あれ、先輩どうしたんですか、抜け殻みたいな顔して?」

両津「空しい……いくら勝負とは言え、なんて馬鹿なことを……」ドヨーン

中川「耳に入ってないな……あれ、麗子さん、制服がいつもよりシンプルだね。また新しいのを買ったのかい?」

麗子「違うわ、支給の官品よ」

中川「へー珍しい。あれ?ひょっとして、先輩がたそがれてるのと関係が……」

麗子「まあ、有るような無いような。実はこの間のお給料日にね…」

・・・給料日の翌日、両津・麗子のうち・・・

麗子「え!一晩でお給料全部飲んじゃったの?」

両津「いやあ、結婚祝いだって、商店街のみんなと盛り上がって」

麗子「一ヶ月どうやって生活するのよ!」

両津「亀有の居酒屋ならどこでもツケがきく…」

麗子「お酒飲むだけじゃないでしょう!結婚したんだからちゃんとしてよ!」

両津「てやんでぃ!江戸っ子は宵越しの銭なんざ持たねえんだ!」

麗子「だからいつもお金なくてピーピー言ってるじゃないの!」

両津「金のことなんかどうでも良いだろう!お前いくらでも持ってるじゃねえか」

麗子「そういうこと言うの!わかったわ、ちょっと待ってて」

両津「なんだ?」

trrr

麗子「もしもし、みずぽ銀行さん、預金解約するからすぐ現金にして持ってきて」
「もしもし、四菱銀行さん、     ……同上……         」
以下何十行か同趣旨の文
「もしもし、五井不動産さん?家と別荘買ってくれる?え、金額が大きくなるから役員会議にかけなければいけないって?現金で持ってこられるだけで良いから早くして」

・・・4時間後・・・

両津「なんだ、このトラックの列は……うわっ、荷台が全部札束じゃないか!」

麗子「私の全財産。これ両ちゃんに全部あげる」

両津「いったいどうしたんだ?」

麗子「江戸っ子は宵越しの銭を持たないんでしょ。今晩の十二時までに全部使って」

両津「な、なに馬鹿なことを」

麗子「だけどもし使い切らなかったら、江戸っ子だから無駄遣いするなんて二度と許さないからね!」

両津「江戸っ子をなめるんじゃねえぞ!これぐらいあっという間に使い切ってやらあ!!」

麗子「勝負よ!」

両津「おう、できなかったら、月1000円で生活してやる!」

麗子「言ったわね、約束よ!」

両津「男に二言はねえ!」

・・・再び亀有公園前交番・・・

中川「麗子さんの全財産て言ったら……」

麗子「全財産て言っても、貯金と日本の家以外は優にあげちゃったあとだから。まあ、兆単位だとは思うけど」

中川「先週、日本中の銀行から現金が消えたって大騒ぎだったのはそのせいか。日本の短期金利が跳ね上がったってニューヨーク市場でもパニックだったよ。
先輩と麗子さんの夫婦喧嘩で世界経済が大混乱に陥るとは……」

麗子「だって頭に来ちゃったんだもの」

中川「だけどそのせいで、うちの系列会社も何百社か経営危機に陥ってるんだよ!」

麗子「ごめんなさい、つい……」


中川「麗子さんまで先輩のペースに合わせちゃだめじゃないか。で、まさかとは思うけど先輩はみんな使っちゃった……?」

麗子「銀座のクラブに行って、貸切の大宴会をしたらしいんだけどね、一億円も行かなかったらしいのよ。
で、もっと高くしろって交渉したみたいなんだけど、店の信用にかかわるから受け取れないって」

中川「まあ、そうだろうな」

麗子「そのあと赤坂の料亭に行って芸者さん100人ぐらいあげて大騒ぎしたり、野球の試合とかアイドルグループのコンサートをいくつか貸切で見たらしいんだけど、50億も行かなかったみたいで。
で、切羽詰って、次は証券会社に行って」

中川「証券会社?」

麗子「ハイパーインフレで今日中にデフォルトしそうな国の国債よこせって。買えるだけ買って残りはその関連株を買ったみたい。たぶん、もう価値なくなってるでしょうね」

中川「それじゃあ、本当に全額使い切ってしまったのか……」

麗子「それがね、残ったおつりでスクラッチやって、2000円ぐらい当たったんだって。それ使うの忘れて、帰ってきちゃったの。
で、私の勝ち。一文無しになっちゃったけどね。住むところもないから、両ちゃんの実家に二人して居候よ」

部長「ううっ、申し訳ない。わしが両津のバカをさっさと射殺しておけばこんなことには……。麗子君のご両親になんと言ってお詫びすれば……」

麗子「でも、一緒に住むことを両ちゃんのご両親も喜んでくれてるし、浅草の人たちもすごい良くしてくれるの。とっても楽しいわよ、やりくりは大変だけどね」

中川「麗子さんが楽しいなら良いけど……」

麗子「八百屋さんと魚屋さんは、奥さんがいないときに行けばただでいろいろサービスしてくれるし、パン屋さんでもらえる食パンの耳もいろいろ使い道があるのよ。
で、両ちゃんのたまったツケを払うのに、制服をこっそりオークションに出したら結構良い値段で売れて……自分であつらえたブランドものだから規則違反にはならないと思うんだけど、大丈夫かしら?」

中川「それで支給の制服を着てるのか……でも、なんか先輩と言うことが似てきたんじゃない?」

麗子「もう、圭ちゃんイヤな事言わないでよ。あ、でもウスターソースでびしょびしょにしたコロッケがおいしく感じるようになってきたわ」

中川「ハハハ。あれ、先輩がニュースを見てる。いつもアニメと時代劇しか見ないのに……」

麗子「違うのよ。さすがにひど過ぎるお金の遣い方したことに気がついたのか、ガックリ来てチャンネル変える気力もなくなってるの」

中川「なるほど……」

麗子「私もちょっとやりすぎちゃったかしら……両ちゃん、お茶入れたわよ」

両津「ああ」ドヨーン

麗子「ずっとあの調子よ」

中川「そうなんだ……あれ先輩、ニュースで先輩が国債買った国の話をやってますよ」

両津「どうでもいい……」ドヨーン

中川「えーと、日本から大量の投資があり、それを元手に資源開発を行った結果、油田と、ダイアモンドと金とウランの鉱山が発見されて、ついでに高純度のヘリウムが大量に噴出している場所が確認されただって!
それで、国債のデフォルトが回避されインフレもおさまり、通貨価値もざっと1000倍くらい上がったみたいですよ!!」

部長「つまり、どういうことなんだ、中川?」

中川「簡単に言うと、先輩の投資がすごい財産を生み出したということです」

両津「…すごい財産…?」ピク

部長「すごい財産て、いくらぐらいだ?」

中川「もし、1兆円投資していれば最低でも1000兆円、麗子さんの財産が2兆や3兆でおさまる訳が無いのでひょっとすると京を超えてるかも……まあ、税金でかなりひかれるでしょうが」

両津「……1000兆円……京……」ピクピク

部長「イッセンチョウ……。両津すぐ貯金しろ!!ゆうちょなら年利は低いが半年複利計算で……」

中川「部長落ち着いてください。ゆうちょには限度額が……って、そんなことよりこれからニュースの取材で大変なことになりますよ」

部長「取材?」

中川「これだけ大きな投資であれば、先輩がやったってことがマスコミに知れ渡ってるはずです。あっ、もう取材の車がいっぱい来た……」

ブーン キキーッ ザワザワ 
記者の皆さん「天才投資家の両津さんがお勤めの派出所は、こちらですか!」
記者の皆さん「投資成功のコツはなんですか?!」
ザワザワ アーデモナイ、コーデモナイ、ハヤクコタエロ……

両津「……なにやら金の匂いが……そうだ、ボーっとしてる場合じゃない!!!」シャキーン

麗子「あ、両ちゃん!」 

両津「マスコミの皆さん!私が天才投資家、両津ファンド総裁のソロス両津です!私にご資産運用をお任せくだされば1週間で太陽系ごと買い占めてご覧に入れます!!」

麗子「せっかく身軽になれたと思ったのに……。でも、ようやくいつもどおりの両ちゃんに戻ってよかった……」

                                                  おわり

ひねりも無く、肝心なオゲレツシーンもとばしてしまい申し訳ありませんでした
加えて、麗子が両さんの実家に泊まっていたかのような記述をしましたが、泊まったのは親戚の総菜屋さんだったような気がしてきました。
重ね々々お詫び申し上げます

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