据え膳喰わぬは百代の死あるのみ(273)


爺「よく聞け男。お前の先祖は代々誰にも恥じぬ立派な人生を送ってきた」

男「はい」

爺「しかし誠実すぎるがゆえにことごとく晩婚を招いた」

男「はい」

爺「物心もつかぬうちに両親を失ってから、お前に頼るべき親族がほとんど居ないのも、極端に先代の子孫が少なかったからだ

爺「友人であるお前の祖父から、孫を頼むと言われている儂としては、この家訓を薦めようと思う」

男「はい」

爺「三つある。二つは今読み上げよ」

男「ひとつ、万事正直に生きよ」

男「ひとつ、人を助けよ」


爺「その桐の箱の中にある残り一つは、十八の誕生日に見るがよい」

爺「この家訓を守り生きれば、必ずやお前の人生は一族の美しき呪いを昇華せしめ、繁栄の道を築けようぞ」

男「はい」

爺「うむうむ」

爺「ところでこの前頼んでおいた幼馴染ちゃんのぱんてぃはまだかの」

男「しねくそじじい」


***

男(で、十八の誕生日に開けてみれば)

男(なんだよこれ……よりにもよって三つ目の家訓がこれかよ!)

男(あのえろじじい、なんつうもんを残してったんだよ)

男(そのくせ自分はさっさと逝きやがって……)

男(……)

男(じーさん、俺はあんたみたいな愉快な師匠を持って、十分幸せだったよ)

男(あんたなりに俺のことを考えてくれたんだろうから、家訓は守り続ける)


男(最後の一つもまあ、できるだけ、守るよ)

『男くーん!遅刻するわよ!』

男「今行きます!」バタバタ

男(いってくるよじーさん)

バタン

グラ……カタンッ

パササ……


***

幼馴染「お、おかーさん!上履きどこ!?」ブォーッ

幼馴染母「あんたの靴の上においてあるわよ」

幼母「ほら男くん、ハンカチハナカミ」

男「ありがとうございます」

幼母「また遅くまで稽古かい。熱心なのもいいけど、あんま夜更かししないように」

幼母「しっかり寝るのも仕事のうちだよ。男ってのは」


男「はい」

幼「今何時……わっ、結構ヤバい!お母さんごめん、居間に洗濯物……」

幼母「はいはい、服くらいしまっといたげるよ。ほら走った走った」

幼「ありがとう!いこ、男っ!」

男「ああ!いってきます!」

幼母「いってらっしゃーい」ヒラヒラ


プシューッ!

幼「はぁはぁ」

男「ふぅ。バスぎりぎりだったな」

幼「ね。はー暑い」パタパタ

男「にしても珍しいよな。お前が寝坊なんてさ」

幼「誰のせいだと思ってんのよ」

男「え?」


幼「なんでもないわよ。ほら座ろ」

男「ああ」

幼「今日は古文の小テストかー」

男「げ、忘れてた」

幼「そんなことだろうと思った。あんたそのうち脳みそまで筋肉になっちゃうわよ」

幼「私にまで恥かかせるようなことしないでよね。はい」

男「何だよこれ」


幼「先生がここでるぞーって言ってたの聞いてなかったでしょ。ノート貸したげる」

男「悪いな、ありがとう」

幼「礼なんかするくらいなら居眠りしないでよ。はやく覚えて」

幼「ったく世話がかかるんだからぶつぶつ」

男「るーらるすーさすしむ……うーん」

プシュー

老人「よいせっと」


男「くーくーくるくー」スクッ

幼「あっ」スクッ

男「おじいさん、席どうぞ」

老人「おや、ありがとうよ」

男「いいえ。けるけーけろけろ」

幼「……」ストン

男「けるけめけま……けも……」


幼「噛みすぎ」

男「ほっとけ」

プシュー

妊婦「ふう」

子供「ママ、人いっぱいいるよ」

幼「あ、ここどうぞ」スッ

妊婦「あら、ありがとうねお嬢ちゃん」


子供「おねーたんありがとー!」

幼「どういたしまして。ちゃんとお礼言えてえらいねー!いいこいいこ」ナデナデ

子供「えへへー」

男「……」

男「お前も普段からそういう顔してればなあ」

幼「そこ。聞き捨てならないわね今の」

男「おっと聞こえたか」


幼「普段はどういう顔してるって言いたいのよ」

男「こういう顔だよ」フガ

幼「今日の鞄、これでもかってほど教科書積んでるんだけど確かめてみる?」

男「やめとけ。バスが壊れる」

幼「ノート没収」ヒョイ

男「おまっ、それは卑怯だぞ!」

幼「あはっ。ほーれほれ返してほしーか」


妊婦「クスクス」

老人「ふぁふぁ」

幼「!」

幼「も、もうっ!笑われちゃったじゃない」

男「俺のせいかよ」

幼「あたりまえじゃない!」

子供「おねーたん、おにーたんと仲わるいの?」


幼「あっと、喧嘩してるわけじゃないんだよ。このバカがはしゃいでるだけだから」

男「誰がバカだよ。ったく……五段活用は、と」

子供「よかったー。ふーふは仲よくしないとだめだよ!ぱぱとままみたいに!」

幼「ふぇっ!?」

幼「ち、ちがうのよ!コイツとはただの……幼馴染ってだけだから」ボソボソ

子供「あれ?じゃあふーふちがうの?」

幼「そう、そうなの」

男「已然系……已然ってどういう意味だ?」


子供「あれ、おにーたん。おててだいじょうぶ?」

男「うん?」

子供「なんか、ぼろぼろ?ぐじぐじってなってる」

幼「……!」

妊婦「こ、こら!子供ちゃん!」

男「ああ、これか」

男「平気平気。これは痛いものじゃないから」


子供「そうなの?」

男「うん。これはなー、そう、悪の組織と戦った証なんだ」

幼「……」

子供「あくのそしき!?かめんろいだーみたい!」

男「そう!あいつも実は俺のなかまなんだ。世界中にも似たように、なかまがいっぱいいるんだ」

男「だから俺と似たように、ケガしてたりする人がいるかもしれないけど、心の中でがんばれ!って応援だけしておいてあげてくれないか?」

子供「ちょくせついっちゃだめなの?」


男「組織と戦ってることは秘密だからさ。俺のことも内緒だぞ?」

子供「うん!わかった!ぼく、こっそりおうえんしてるね!」

男「おお、頼んだ!」ワシャワシャ

妊婦「すいません。ほんとにこの子ったら……。」

男「いやー、元気でいい子ですね。昔の自分を思い出しますよ」

妊婦「ふふっ」

幼「……」


男「ってそこはお前、突っ込めよ」

幼「知らないわよ……ばか」

キキーッ

子供「またね、おねーたん!おにーたん!」

幼「うん。またね、坊や!」

男「元気でなー!」


男「結局ほとんど頭に入らなかった」

幼「そんな短時間で理解できるわけないでしょ。古文は三限だから休憩時間いっぱいつかってやんなさいよ」

男「あああ貴重な仮眠時間が……」

幼「……」

男「なんだよ」

幼「なんでもない。これ」

男「え?弁当……?」


幼「なによ。毎日渡してるじゃない」

男「いやだって今日は寝坊して……」

幼「そんな程度の弁当、三分もあればできるわよ。ほら遅刻しちゃうよ」

男「あ、ああ」


***

キーンコーンカーンコーン

幼「で、どうだったの。小テスト」

男「特大の丸がひとつはもらえふぉう」モグモグ

幼「それ0点ってことじゃん」

男「そうふぉも言う」ムシャムシャ

幼「弁当没収したげよっか?胃の中の分も」ゴゴ……


男「冗談ですごめんなさい。おかげさまでちゃんとできました」

幼「あ、そ」

男「それにしても……」

幼「何?」

男(三分でできるような料理か?これ)

男(おしゃれは控えめな幼だけど)

幼「?」


男(化粧とか、髪をとくとか、いろいろしたかったんじゃないのか?)

男(まったく)

幼「なによ。人の顔じろじろみて」

男「あ、いや。弁当、ありがとうと思って」

幼「ずいぶんお腹すいてたのね。朝もろくに食べられなかったし当然か」

幼「でももっとゆっくり食べてほしかったな」

男「わ、悪い」


幼「ふーんだ。お腹に入れば何でもいいのよね」

男「いや、めっちゃ美味しかったから。夢中で食べちまったよ」

幼「……へー。そう」

男「なんだよ、信じてないのか?」

男「俺が嘘つかないのは知ってるだろ!」

幼「わかったわよ。わかったからソース口元につけた顔近づけないでよ!」

ガサッ


男「ん?」

幼「え?」

後輩「あっ」

後輩「ごごごめんなさいっ、これはべつに、の、のぞいてたとかじゃわわわっ」

後輩「お、お邪魔して、ご、ごめんなさっ……!」アタフタ

幼「……」

幼「かわいい」


後輩「え?」

幼「かわいー!何この子小動物みたい!」

後輩「きゃっ」

幼「ね、君何年生?ふーん、私たちの一個しただね。後輩ちゃんっていうんだ。2-F?やだお隣さんじゃない!もうなにこの奇跡的なかわいさ。んー」ギュゥゥ

男「おい、幼。それくらいにしておいてやれ。後輩ちゃんの顔がまるでゆでだこだ」

後輩「きゅう」

幼「あら、こんなとこまで泥がついてるわよ。なくしものでもしたの?」パッパッ


男「もしそうなら手伝おうか」

後輩「あ、ありがとうございます」

後輩「人捜しを、してたんです」

幼「人捜し?」

後輩「わたし、ガーデニング部の副部長をしてるんですけど、以前から花壇にゴミがたくさん捨てられてるのに困ってて……」

男「いるよな。どこでもかしこもゴミすてる奴って」

後輩「はい……」


後輩「でも、最近になって、そのゴミを拾ってくれてる人がいるみたいで」

後輩「それも、ほとんど全部の花壇を定期的に見回ってくれてるみたいで。すっかり落ちてるとこみなくなったんです」

幼「へー殊勝な人もいるんだ」

男「捨てる神あれば拾う神あり、か」

幼「いっとくけど全然意味違うからねそれ」

男「え?」

幼「バカはほっときましょ。それで?」


後輩「は、はい。顧問の先生とか、クラスでなにかしてくれたのかなっておもったんですけど」

後輩「みんなに聞いても、たまに見かけたら拾ってるけど、さすがに全部はやってないって……」

幼「こんなおっきな校舎を囲むくらいだもんね。十人がかりでもけっこう骨がおれそう」

男「旧校舎のほうまで続いてるくらいだしなあ」

後輩「え……」

幼「へえ。よく知ってるわね」

男「ああ知ってるとも。そのまま花壇は山越え谷越えはては天竺に続いて……」


幼「適当なこと言ってんじゃないわよ」

男「そうだったらいいなっていう願望でした」

幼「ガーデニング部に悟りでも開かせたいのあんたは」

後輩「……」

幼「捜してるっていったけど、何人で捜してるの?」

後輩「今は、みんなテスト前だし、あまり部活も人が集まらなくて……」

後輩「部長も、勉強が大変みたいだから……」


男「まさか一人でか?」

後輩「はい。でもわたしがお礼が言いたくて勝手にやってることだし」

後輩「みんなにはあとで教えて、びっくりさせよっかなあって。えへへ」

幼「……」

幼「……」ギュゥゥ

後輩「ぎゃぁぁ」

男(きまってる幼きまってる)


幼「男。この子持って帰ろう。いまどきこんな純粋な子いない」

男「普通に犯罪だからやめとけ」

幼「今日はもう昼休み終わっちゃうけど、明日からは私たちも手伝ったげるね」

男「俺も決定かよ」

幼「当然でしょ」

後輩「あ、ありがとうございます。でも、大丈夫です」

後輩「わたし、副部長ですから。こういうのはちゃんと、自分でやりとげたいんです」


幼「……」

後輩「あ、えと、変なこと言いましたか?」

幼「ああもういじらしくてたべちゃいたいくらいー」モフモフ

後輩「はうぅ、き、きゃははは!く、くすぐったいです!」

男「お楽しみのところ悪いけどもう予鈴がなるぞ」

幼「あ、そうね」

後輩「はぁ……はぁ……」


幼「あ、自己紹介忘れてた。私、幼馴染っていうの。こっちは男ね」

幼「お昼はここで食べることがおおいから。なにかあったら教室にも相談にきてね」

男「俺とこいつは一番後ろの席だからすぐわかると思うぞ」

後輩「はい。ありがとうございます」

幼「さ、いこっか。あ、忘れてた。男」

男「ん?うぷっ」

後輩「!」


幼「口元ソースまみれの無様なあんたを見てても楽しそうだったけど。後輩ちゃんでおなか一杯になったわ」フキフキ

男「そりゃよかったな」グイッ

幼「ふふ。じゃね、後輩ちゃん」

男「お達者で」

後輩「は、はい」カァァ

後輩(……楽しい人たちだったな)

後輩(仲、良いんだ)


後輩(幼先輩と……)

後輩(男先輩、かぁ)

>>37 修正

幼「あ、自己紹介忘れてた。私、幼馴染っていうの。こっちは男ね」

幼「お昼はここで食べることがおおいから。なにかあったら教室にも相談にきてね」

男「俺とこいつは一番後ろの席だからすぐわかると思うぞ」

後輩「はい。ありがとうございます」

幼「さ、いこっか。あ、男」

男「ん?うぷっ」

後輩「!」

***

キーンコーンカーンコーン

幼「……」

男「くかー」

幼(また図書館で寝てる)

幼(あんな時間まで起きてるから……)

幼「……」ツンツン



男「ぐお」

幼「……」ムニッ

男「んがふっ」

幼「ぷっ」

褐色娘「幼……?」

幼「ひゃわっ!?」グイッ

男「んががっ!?」グイーッ


褐色「ご、ごめんなサイ、幼。驚かせタ?」

幼「ううん。大丈夫よ」

男「んぐ……くかー」

幼「と、冬眠中のクマかこいつは」

褐色「ア……」コソ

褐色「……男サン、よくここデ、ねテル」

幼「そうね。最近はここがお気に入りみたい」


褐色「……」

幼「大丈夫よ。人畜無害なのは私が保障するから」

幼「はい、これ」

褐色「……!ハラペコアオムシ!」パァ

幼「うちにたまたまあったんだ。しばらく貸したげる」

褐色「アリガトウ、幼」

幼「んーん。あ、返却カード書いといたから。ハンコだけおねがい」


褐色「ウン」

幼「返却本たまってるね。戻すの手伝うよ?」

褐色「ううん。幼、モウ時間デショ?」

褐色「慣れてるカラ、平気。部活頑張ってキテ」

幼「わかった。お言葉に甘えちゃうね」

褐色「ア……アノ、幼」

幼「うん」


ギュッ

褐色「……」

幼「また詩書いたら、読ませてね」

褐色「ウン。イッテラッシャイ」

タタタ……

褐色「……」

褐色(ヘンキャクボン、戻さなイト。キャタツ、どこダッケ)


ギッ

褐色(コノ本は……"い"の三、コッチは、"は"の六)

褐色(ンッ、チョット、高イ……)

カタンッ

褐色「エッ」グラァッ

褐色「キャッ……ッ!」

ポスッ


褐色「!」

男「あ、危ないなあ」

褐色「……男、サン」

男「よっと。それ、戻すよ」ヒョイ

男「ここみるわけか。"は"の六、と」グラグラ

褐色「……」

スポ


男「ラスト、と」

褐色「……」

男「その脚立変えてもらえよ。足が一つどっかいってるぜ」

男「じゃ」

褐色「ア」

褐色「……ま、待っ……」ボソボソ

男(あのハーフの子、噂になるのもわかるな。なんで俺の名前しってんだ?)


男(うーん、それにしても、マジ寝しちまった。クレーンにほっぺ引き上げられる夢とかどんだけだ)

男(部活ちょっと遅れるなこれは)

褐色「……」

褐色(あのヒト、触られてモ、イヤじゃなかっタ)

褐色(どうしテ?)

褐色(ちょっト……幼のニオイ、したカラ?)


***

生徒会役員A「先の備品置き場の最適化で、移動教室の時間が20%短縮されました」

生徒会会長「うん」

生徒会役員B「生徒、教員共に概ね好評ですが一部不満が出ています」

会長「スキー部か」

役員B「はい。対処は?」

会長「半年しか活動しない部室から半分借りることに問題はない。先送りだ。次」


生徒会副会長「野球部よりロッカーの新調をとの要望が来ています」

会長「予算は?」

副会長「調査いたしましたが、こちらの通り不足しています」

会長「ふむ」ペラ

会長「次回までに部員が規定数未満、かつ一年以内に対外的な動きのない部室を調べておきたまえ」

副会長「かしこまりました」

会長「今日の会議は以上だ、解散。副会長は残りたまえ」


ガタタッ

キィ……バタン

会長「彼女の今日の動向は?」

副会長「友人関係は変わらず良好です。本日も昼食は校舎裏の花壇で取っています」

会長「あの男も一緒か」

副会長「はい。関係性に進展はないようです」

会長「一緒にいるかどうか、だけでいい。君の主観を述べる必要はない」


会長「明らかな異変があった場合のみ教えたまえ。良いね」

副会長「……かしこまりました」

会長「下がりたまえ」

副会長「はい」

パタン

会長(……)

ガララッ


ファイトーッ ソーレッ

会長(ラケットを振る姿も美しいな君は……)

会長(生徒会長としての十分な功績をあげたら)

会長(迎えに行くから、待っていてくれたまえ……幼馴染)


***

幼「ファイトー!」

テニス部部員「そーれっ!」

ゴクゴク

幼「ふー」

幼友「やっほー幼ちゃん!あ、私にもちょうだーい」

幼「遅かったじゃない。はい」


幼友「ありがと!ごめんねー、だーりんとお話してて。んくっ、んくっ」

幼友「ぷはー!幼ちゃん味のアクエリさいっこー!」

幼「いかがわしいこと言わないでよ」

幼友「そんなしかめっ面したら、かわいい顔にしわが出来ちゃうよっ」

幼「はあ……幼友」

幼友「なに?」

幼「あなたのほうは、最近かわいくなってきてるわよね」


幼友「え!?」

幼友「きゃー!もう何いってるの幼ちゃんったら!」

幼友「もーホント、やめてよー!やーん!」

幼友「でもでも、もしそうならやっぱりだーりんのおかげかなあ。だったら嬉しいなあ」

幼「ほら。鏡」

幼友「ありがとー。そんなに変わって……」

幼友「え?」


『 非売品 』

幼友「ちょ、ちょ、な、何これ!なんでこんなシールが額に!?」

幼友「そういえばさっきだーりんがなでなでしてくれて……もしかして!」

幼「結構似合ってるわよ?」

幼友「むむ、幼ちゃんまで!」

幼「冗談よ、冗談」クスクス

幼友「うう、ちょー恥ずい……」ペリペリ


幼「でも、さっき言ったこと、半分は本当よ。幼友、前にも増して元気だし」

幼「部活でもほかの部員にいい影響出てるって部長が言ってたよ」

幼友「えへ、そう?」

幼「うん」

幼友「えへー」スリスリ

幼「こらこら。どさくさに紛れてどこにほおずりしてんのよ」

幼友「おっきー。やらかーい」ムニムニ


幼「っとにもう」キュポン

幼友「……幼ちゃんはどうなの?」

幼「ん?」ゴクゴク

幼友「男クンに告白、した?」

幼「ングッ!?」

幼「ゴホッ!急に、何を言ってるのよ……!」

幼友「あーそれだとまだ全然なカンジだね」


幼友「うかうかしてたら男クン、ほかの人にとられちゃうよ?」

幼友「女子の中でも結構話にあがってるんだから!」

幼「えええ!?そ、そうなの?」

幼友「うん」

幼友「パッとしなくてなんだか幸薄そうなのが守ってあげたくなるって」

幼「あ、そう……」ガクー

幼友「マジメな問題なんだから!彼、隙だらけだし、押しにも弱そうだし!」


幼「でも……だけど」

幼友「男クン、いつも幼ちゃんと一緒にいるじゃない。幼ちゃんのこと気にしてるよ。ゼッタイ!」

幼友「もじもじしてるの、幼らしくないよ。本当のキモチ、伝えようよ」

幼友「ね?」

幼「……」

幼友「もー、幼ちゃん返事っ!」モミッ

幼「あんっ。こ、こらっ。わかったわよ、わかったから!」


幼友「へへ。よろしい!」

幼「ほ、ほら、練習するわよ幼友!遅刻したぶん、ビシバシ鍛えるからね!」

幼友「はーい、コーチ!」


***

ズパンッ!

空手部部長「中段蹴り、一本!それまで!」

男「はぁ、はぁ」

友「お疲れ、男。ほれ」ポイッ

男「ああ……悪い」パシッ

友「にしても男、上達しねーな。そんなに鍛えてるのになんでなんだ?」


男「そんなの俺が聞きてえよ……」ゴクゴク

友「部員Aに聞いたんだけどな。他校から変なあだ名で呼ばれてるぜお前」

男「へえ」

友「シマウマだってさ。個人戦では初戦敗退ばっか、だけど団体戦だと運がいいのか勝ってばっか。白帯と黒帯いったりきたりだってよ」

男「……そうなのか」

友「そうなのかってお前な。相変わらずマイペースだな」

男「事実だろ。団体でしか勝てないのは」


男「なんか力入らないんだよな。個人」

友「へえ。はたからみたらいつでも全力に見えるんだけどな」

男「運がいいんだろ。他校の連中の言う通り」

友「そうなんかねえ……」

男「……」ゴクゴク

友「……」

友「お前、そろそろ幼にコクったのかよ」


男「ブフォア!?」ゴパアッ

友「ったねーなオイ!」

男「ゲホゴホッ!アホかお前!なんの脈絡もなくどういう話だよ!」

友「うるせえ!こっちにとっても死活問題なんだよこいつは!」

友「彼女が『幼ちゃんが幸せになるまでおさわり禁止』とか言って、最近なんにもできねーんだよ!」

男「コホッ、なんだ、そんなことかよ……」

友「そォんなこととわなんだそんなこととわっ!」


友「あんなやんわらかい生き物が目の前にいて、手を出せない苦しみはないぞ、他に!」

男「言ってろバーカ」

友「あ、おいまてよ!」

友「さっさとふんぎりつけろよな!俺のためにも……お前のためにも!」

男「……」

男「すぅ……」

男「はぁッ!」ビッ


空手部部員A(男のやつ好きだなあ。正拳の練習)

部長(男……筋はいいはずなんだがな)

男「はっ!はっ!」ビッ ビッ

男「はぁ、はぁ」

男(幼……)

『いこっ、男っ!』

男(お前は……朝から眩しすぎだっての)


『ち、ちがうのよ!コイツとはただの……もにょもにょ』

男(そんなあわてられると期待しちまうだろうが)

『かわいー!何この子小動物みたい!』

男(かわいいのはお前だ)

『口元ソースまみれの無様なあんたを見てても楽しそうだったけど』

男(お前が楽しけりゃなんでもいいよ)


男(幼はひいき目に見ても、綺麗で)

男(泣きぼくろも、長いポニテも、デカい胸も、魅力的だけど)

男(飾らず誰にでも優しいとこ、最高だよ)

男(もしこんな俺でも、チャンスがあるなら)

男(なんでもかんでも上手くいったとしたら……)


『……うれしい。私も同じ気持ちだったの』

『えへへ。キス……しちゃったね』

『いいよ、男になら……私……』

『……すき……』


男「……っ!!」

男「ずわあああアホか俺わあああんなわけがああああるぁぁぁぁぁぁぁ!!!」ビュンビュンビュンビュン!

部員A(好きってレヴェルじゃないよあれ完全に病気だよ!)

部長(み、見えない突きだと!?や、やはり悪くないッ!)

友「ダメだありゃ……」


***

キーンコーンカーンコーン

男「……」フラフラ

友「しっかりしろよな。さっきの話マジなんだからよ」

友「お前、俺、幼、幼友、四人でうまくやってきたじゃねえか。大丈夫だよ」

男「ああ……」

友「お前の気持ちだって、とっくに決まってんだろ」


友「右手の火傷負った時からよ。違うのか?」

男「……」

友「幼友のやつ、幼に背中押してもらったって言ってたぜ」

友「俺としてもよ、そのお返ししねーとバツが悪いんだよ」

友「幼だって、大切なダチだからよ」

男「友……お前」

友「あと俺の股間の為にもヨロシクな」キラキラ


男「今すぐ肩の手どけろこのクソ野郎」

幼「……へえ。それ、すごく面白そうな映画じゃない」

幼友「……やっぱり幼ちゃんもそう思う?ふふっ」

幼友「あ、だーりーん!」タッ

友「おー、幼友!さみしかったかー!俺はここにい」

ゴスッ

友「ぐごわー!目が、目がーっ!」


幼友「なんなのよこのシール!これ貼ったのだーりんでしょ!もー、恥ずかしかったんだから!」

友「ああ……悪いな。もうお前は俺のもんだって、他の野郎共に教えときたくてよ」

幼友「えっ」

友「シールはがしたって、変わんねえよ。お前は誰にもわたさねえから」

幼友「だーりん……」ウルウル

男(なんだよこれ)

幼「男」


男「ああ、幼……お疲れ」

幼「あんたもね。なによフラフラじゃない」

男「ちょっとな」

幼「ふーん。それにしても」

幼友「だありーん」ギュー

友「フ。現金なやつだぜまったく(うひょー久々の正面だっこ!)」デレー

幼「少しは公衆の面前を気にしてほしいものね」


男「お前がけしかけたんだろ。何とかしろよ」

幼「馬に蹴られたくないからやだ。いこ」

幼「じゃあね、幼友」

幼友「うん!あ、まって……」トテテ

幼友「頑張ってね、いつだって私は幼ちゃんの味方だから!」ボソッ

幼「……うん。ありがと」

幼友「じゃあね!」


友「おい男!」

男「なんだよ!」

友「お前……解ってるだろうな」

男「解ったから歯みせて唸んな」

友「よし。じゃな」

男「ああ。また」

幼友「今日はトクベツ、腕組むのはおっけーね」


友「やりいー!」

幼「……」

男「……」

幼「さ、帰ろ」

男「ああ」


***

テクテク

コソコソ

後輩(……)コソッ

後輩(男先輩……)

後輩(特に花壇には寄らないまま帰るみたい)

後輩(掃除してくれてる人、もしかしたらって思ったけど)


後輩(ずっと黙ってるなあ)

幼「……」

後輩(や、やっぱりもうちょっとだけ、ついてってみよ)

後輩(こ、これも部活だもん。恩人捜しなんだから、いいよね)ワクワク

男「……」

男「……」チラ

幼「……」


男(きっ、きまずいーっ!!)ドーンッ

幼(幼友のせいで、い、いつもよりなんか……なんか)カァァッ

男(これもそれも友のやつが……って、変な妄想したのは俺か。ああくそっ)ボリボリ

幼(別に普段通りにしてればいいの。さ、さりげなく。さりげなくよ私)

男・幼「あのさ」「ねぇ」

男・幼「あ、わり」「え、何?」

幼「そ、そっちからどうぞ」


男「や、あの……さっき友と話してさ。それで……」

幼「うん」

男「俺、その……お前が……シマウマ……」

幼「うん……え?シマウマ?」

男「あ、ああ。そう、シマウマ。俺が、大会で個人は完封されるけど、団体じゃ勝つから、白帯黒帯ばらばらだってんで……」

男「そういうあだ名で呼ばれてて、なんだかなっていう、愚痴?」

幼「何それ。言わせておけばいいじゃない」


男「ああ、そうだよな。は、ははっ!」

幼「へんなの」

男「ふぅ……で、幼の話は何だよ」

幼「え、うん。えっとね」

幼「今日幼友に聞いたんだけど」

男「うん」

幼「なんか女子で男のこと噂してる人がいるらしいんだけど、最近仲いい子いるのかなーって思って」


男「はぁ?そうなのか」

幼「うん。あ、別に深い意味はないっていうか!も、物好きもいるんだなーって思って」

男「ううーん。仲がいいってのがどういうことなのか解らんが……」

男「普段一緒にいてしょっちゅう話をするやつならいるなあ」

幼「えっ!?そ、そんなの初めて聞いたわよ!」

幼「誰よそれっ!教えなさいよ!」

男「そ、そんな大声だすなよ。お前だってば」


幼「へ」

男「だから、お前。大体ほかの女子と話する機会なんてそうそう無いっての」

幼「あ、そ、そっか。確かにそうよね……」

男「だ、大体俺が誰と仲良くなったって別にいいだろ」

幼「だっ……誰があんたに女友達できることに不満を言ったのよ!」

男「いや、別にそういう事を言ったわけじゃ」

幼「べ、別に何も困らないわよ。そもそも仲良くなりたくったってなれないクセに」


男「はぁ?俺だってその気になりゃガールフレンドの一人や二人余裕だっての」

幼「ふーん。あんたのすかすかトークにひっかかるような子見てみたいもんだわ」

男「なっ!人の話に中身が無いみてーなこと言うなよ!」

幼「みたいじゃなくてそうだって言ってんの!どぅーゆーあんだーすたん!?あ、英語じゃわかんないか!」

ギャーギャー

後輩(な、なんか言い合いしてるみたい。よく聞こえないけど)

男「大体お前だって良く男子の話題に――」


幼女「うわあ゛あ゛ああぁぁぁ!!」

男「!?」

幼「な、何?」

男「こっちのほうか」

後輩(あっ、公園に)

タタタッ

幼女「うあぁ……」


幼「よしよし。どしたのー?」

幼女「ううぅ……うぅ……」

幼「上?」

男「あれか」

幼「風船が木に……」

男「よっと」ガシッ

スルスルスル


男「ふうっ」ストン

男「はいどうぞ」

幼女「うぐぅ……えぐっ」

幼女「あ、あり゛がどぉ……」

男「どういたしまして」

タタタ

幼「……あんた、木になんか登ったことあったっけ」


男「いやあんまり。でも急がないと飛んでっちまうし。なんか、夢中でさ」

幼「ふうん……あっ」

男「?」

幼「ない……ない!」

男「お前までどうしたんだよ。何がないんだよ」

幼「フェルト人形!さっきまであったのに!」タタッ

男「なんだってんだ」


幼「ど、どこに……」ガサッ

男「歩道から走ってきたんだからこうきて……こうきて」

男「お、あった」

男「おい。あったぞ……って!」

男「なんつー恰好で探してんだよ、膝に泥つくぞ!ほら、これ!」

幼「……っ!」

幼「よかった……」ギュ


男「それ、俺が作ったやつだろ」

男「どんだけ昔の持ってんだよ。擦れちまってるじゃねえか」

幼「五月蠅いわね。私の勝手じゃない」

幼「他につけるのないから、仕方なくつけてるだけよ!バカ!」

男「ああそうかよ」

幼「紐が切れたんだ……替えなきゃ」

男「……」パンパン


幼「……」

男「停留所、バス来てるぜ」

幼「解ってるわよ」

プシュー

男「……ん」

ガラの悪い男A「……!……オラっ!」

ギャル子A「ちょ……じゃない……!」


ギャル子B「マジ……だから……っ!」

ガラの悪い男B「……っ!……そこの路地裏……!」

幼「男?早く乗りなさいよ」

男「……」

男「幼、先帰ってくれ。俺、寄るとこあるから」

幼「いいけど、遅くならないでよ」

幼「買い食いもだめよ。今日は」


男「ああ」

幼「男。さっきのフェルト人形だけど」

幼「私もあげたよね」

男「あああれなら……捨てたよ。それがどうしたんだよ」

幼「……別に」

プシュー

ブロロォォ……


男「……」ダッ

ガサッ

後輩(ここまでは一緒なんだ)

後輩(男先輩、どこいくんだろ)


***

ガラの悪い男A「だーかーらぁ、ちょっとだけ付き合えっていってるだけだろ?」

ギャル子A「いやだっつってんだろ!離せよ!」

ガラの悪い男B「いいじゃんかって。ほら、誰もこねえよここなら」

ギャル子B「触るな変態!」

男「おいっ!」

ガラの悪い男A「あーん?」


ギャル子A「え?」

後輩(せせ、先輩……)コソソッ

男「……」

ガラの悪い男B「なんだてめえ。取り込み中だよ。消えな」

男「……」スゥゥ

ガラ悪男A「聞こえねえのかよ!鼻潰すぞこのやろ……」

男「おまわりさあああん!こっち!こっちでええす!」


後輩(!?)

ガラ悪男B「なぁっ!?」

男「はやく!はやくきてください!女の人がからまれてます!」

ガラ悪男B「おい!黙らせろ早く!」

ガラ悪男A「やろォぶっ殺してやらああぁ!」

男「ひ、ひいいっ」ダッ

ガラ悪男B「待てやああぁぁ!!」ダダッ


ギャル子A・ギャル子B「……」ポカーン

ドタドタバタバタ

ガラ悪男A「くそがきいい!」

ガラ悪男B「しにさらあああ!」

男「はぁっ……はぁっ……」

男「うっ!」


テンテン

少女「ボールさんまってー」

プァーン

男「危ないっ!」

少女「え?」

プァアアアアアアン

少女「あ……」


男「うわああああああ!」ダッ

ガラ悪男A「!?」

キキーーッ!

ドタッ ゴロゴロ……

男「あつ……つ……」

少女「ふ、ふぇ……ふえぇぇん……」

男「……」ナデナデ


パッパッ

男「ほ……よかった。怪我ないな」

少女「……ぐすっ」

ガラ悪男A「……おい!コラ!」

ガラ悪男B「そこ動くなよてめぇ!」

男「!」

ダダッ


少女「……」

少女母「少女ちゃん、少女ちゃん!」タタタッ

少女「ママ、ママァ……」

少女母「よかった……!大丈夫よ……大丈夫。」

少女母「さ、さっきの人はどこに?」

ガラ悪男A「はぁはぁ……くっそ……あの野郎」

ガラ悪男B「ぜぇ、ぜぇ……ちっ!」


後輩「はぁっ……はぁっ……」

後輩「……先輩……」


***

(なんだよ……なんだよシマウマって!)タタタ

老婆「あれっ」コケ

老婆「ああ、リンゴが、リンゴが……」ゴロゴロ

ヒョイヒョイヒョイヒョイ

男「どうぞ」

老婆「おやまぁ、ご親切にどうもありが……」ビュンッ


老婆「ほえ?」

(そうじゃないだろ伝えないといけないことは!)タタタ

ミー「みゃーみゃー」ジタバタ

女性「だめざますよミーちゃん。今日こそちゃんとお医者様に……あっ」ダッ

女性「し、しまっ!まつざます!」

ミー「ふみゃあああ」ダッ

男「……!」ブチッ


男「必殺ねこじゃらし!」タシタシ

ミー「フニャッフニャッ」

ミー「シャー!」バリバリ

男「ギャー!」

男「つ、つかばえまいた」

女性「あ、あら。ありが……」ビュンッ

女性「あ、ちょっと、坊や?」


男(肝心な事は何も言えないくせに、憎まれ口はいっちょまえとか……)タタタ

店長「ま、万引きだー!その男、捕まえてくれ!」

万引き犯「へヘっ!」ダダダッ

男(まったくもってほんとにぃっ……!)ドドド……

万引き犯「ひっ!?」

男(俺は、俺はあっ……!)ドドドド……

万引き犯「な、なんだこいつ!どこまでおいかけてきやがるゥ!」ダダダダッ


男「大馬鹿野郎だああああっ!!」

ドカァッ

万引き犯「もぎゃーっ!?」ドサッ

男「ぐあえっ」ドササッ

男「う、ぐ……はぁはぁ……。っ!?」

褐色「…………」パチクリ

男「はぁ……はぁ……」


万引き犯「う……つ……」

万引き犯「お、おいてめぇ、なにしやがっ!」シュルシュル

万引き犯「うぎぎー」ギューッ

褐色「……」

男「ふぅ……ふぅ……」

ダッ

店長「はぁひぃ、や、やっと追いついた……」ノタノタ……


店長「おお、こ、これは、キミが捕まえてくれたのか?」

褐色「ちがいマス……」

褐色(男、サン……)

褐色(変な、ヒト)


***

幼「ただいま!」

幼母「おかえり。その顔、男くんとまた喧嘩?」

幼「何よ。お母さんには関係ないでしょ」

幼母「別に『私は』こまりゃしないけどさ。『私は』」

幼「……」

幼母「たまには男くんの部屋の掃除でもしてあげたら?」


幼「はぁ?なんで私がアイツの部屋なんか」

幼母「毎朝かいがいしく弁当作ったげといて何いってんの」

幼母「あんたももうガキじゃないんだから、頭冷しな」

幼「……」

ガチャ

幼(ふんっ……)ガサガサ

幼(お母さんに何がわかるのよ。)サッサッ


幼(あんな朴念仁、もう知らないんだから)

幼「っとにもう、どんだけ散らかしてんのよ」

幼「ろくに物はないくせに、出したらしまうってのを知らないんだから」

幼「桐の箱なんかぶちゃけたままで……」

幼「……」

幼「……え?」


***

サオヤー サオダケー

男「……」トボトボ

男(こんな時間か。はやく帰らねえと……)

子供「うわあぁぁぁぁ」

男(ん?橋のとこに……)

バタバタバタ

面白いから過去作あったら教えてください!

>>128
読んでくれてありがとう。

姫「御主人…様」赤騎士「あ?何か言ったかプリンセスマ○コwww」

前にここで書かせてもらったのはこいつ↑


男「どうした!」

子供「ぽちいいぃ!ぽちがあああぁぁぁうあああぁぁぁ」

男「ぽち?」

男「……!」ゾクッ

バシャバシャ

ポチ「キャンキャン!」バシャバシャ

男「……」ゾクゾク


子供「うあああぁぁ!だ、だずげてぉおおお!」

男「……」

子供「お、おにたん、だ、だずげ……!」

男(……悪いな坊主)

男(俺は、泳げないんだ!)ダッ

タタタタ……

子供「!?う、うあああぁっぁぁ!」


ポチ「キャン!キャンキャン!」バチャバチャ

子供「あううぅ……ぽち……」

「……ぉぉ……ぉ……」

子供「う……あ……」

「……おぉぉぉ……!」

子供「うえぇ?」

男「うおおおお!」ダダダダ


男「おりゃあああ!」ザブザブザブ

子供「お、おにーたん!」

ポチ「キャンキャン!」

男「おい犬!竿竹だ!こいつにつかまれ!」

ポチ「キャン!キャンキャン!」

男「よーしいいぞ!こっちにこい!」

ポチ「アン!アンアン!」



男「よく頑張った!あとはもどっ」

ポチ「フキューフキュー」ペロペロペロ

男「お、おいおい!くすぐったいからやめ……」

男「おっ!?」ツルッ

バシャーン!

男「おごっ!ごわぶりぶるっ」バシャバシャ

男「たすごぼっ、ごぼろろろっ!」バシャシャ!


男「ごぼぼっ……!」ブクブク

バシャバシャ!

バシャ……!

……

――バシャーッ!

幼母『はなせ!なにするんだよ!』

幼母『まだ中に、あの子が、あの子が!』


近所の住人『だめだ、奥さん!これだけ火が回ってちゃ危ない!』

幼母『しったことか!はなせよくそおおおお!』

幼母『!!』

おとこ『……』ポタ ポタ

近所の住人『お、おいボウズ。おまえ、水なんかかぶって何……』

おとこ『……』ダッ

近所の住人『お、おい!』


幼母『お、おとこっ!?おとこおぉっ!!』

パリーン!

おとこ『……』タタタ

おとこ『……!』

おさななじみ『……ぅ……ぁ……』

おとこ『……』ギュッ

……


男(居候させてもらってた幼の家で、火事があった)

男(俺はあの時、水をかぶり、ぬれた布巾で口を覆って)

男(屋内に飛び込み、広間で気絶していた幼馴染を抱えたまま)

男(燃え盛り崩れてくる木片を右腕で受けながら)

男(出口から飛び出した……ようだが、まったく覚えていない)

男(覚えているのは、顔をぐしゃぐしゃにした幼母に怒られながら抱きしめられたこと)

男(逃げ遅れた幼が、しっかりと俺のあげたフェルト人形を握りしめていたこと)


男(そして入るまえにかぶった、水の冷たさだけだった)

男(だからこうやって、水に触れるだけで、燃え盛るあいつの家を思い出す)

男(あいつが居なくなっちまったかもしれないって思うだけで、震えあがる)

男(足が、動かないんだ)

男(ああ……最悪だよ)

男(犬の代わりに、俺が溺れちまうなんて)ゴポッ


子供「……に……ん」バシャ

男(バカ、こっちに来るな)

子供「おに……た……」

男(お前まで溺れたいのか)ガボッ

子供「おにーたん。ここ、浅いよ?」

男(……え)

子供「ほら。僕の腰くらい」


男「あら」ザバ

男「……」

男「ぷっ」

子供「……ふふっ」

男「あっは!あははは!」

子供「きゃははっ!」

ポチ「アンアン!(鳴き声)」




ギュー ジャバジャバ

男(制服がぐしゃぐしゃだ。なにか言い訳考えないと……)

子供「おにーたん」ゴシゴシ

男「ん」

子供「あくのそしきと戦えるくらいつよいのに、泳げないの?」

男「うっせ」


子供「あはっ」

子供「……さっきおにーたん、逃げちゃったかと思った。ごめんなさい」

男「はっ。おかしいやつだな、なんで謝るんだよ」

子供「だって……」

男「ほらよく拭けよ。そんでもう帰れ」

子供「おにーたん、泳げないのに、水の中入るの怖くなかったの?」

男「うん?」


子供「ぼく、すっごく怖かった。ぽちがしんじゃうと思った」

子供「でも、何もできなくて……」

男「ちゃんと助けを呼んだじゃないか。今はそれで十分だよ」

男「それに俺だって、怖いもんは怖いさ」

子供「……」

男「でも、怖くても立ち向かわないといけない時が、だれにだってある」

男「そういう時は、上を見るんだ」


子供「上?」

男「そうさ。顔をあげてみろ。こんなふうに」

子供「うん」

男「そうしてお前の大事な人たちのことを考えるんだ」

子供「うん。ママ……ななこちゃん……ぽち……えーと、パパ……」

男「どうよ」

子供「なんだか、ふしぎなキモチ」


子供「ここが、どきどきする。なんで?なんだか、なんでも出来そう!」

男「元気出るだろ」

男「じーさんが教えてくれたんだ。へこたれたり、にげたくなったら、こうしろってな」

子供「へええ」

男「ま、もうちょっと大きくなって、プールで泳ぐ練習ちゃんとしたら、お前でもなんとかできるだろ」

男「ぽちを川に落とさないのが一番だけどな。次はもうごめんだぜ」

子供「えへっ、うん!」


子供「ねえ、おにーたん!」

男「ん」

子供「お空って、こーんなに広かったんだね!」

男「ああ」

男「そうだな……」

子供「うわー、まっかっか」

男(大事な人、か)


男(幼に、帰ったらちゃんと謝ろう。話はそれからだ)


***

男(あの坊主、いまごろこってりしぼられてるかな)

男(よし)

ガチャ

男「ただい――」

幼「おかーさん!なんて恰好でうろついてるのよ!」

幼母「いーじゃないのさ。たまの我が家なんだから羽伸ばさしとくれよ」


男「まあ゛あ゛ッ!?」グルンッ

幼母「ありゃ」

幼「!?」

幼母「あはは、まいったねぇ。間が悪かったか」

男(となりの客はよくおっぱ……なまむぎなまごめなまおっぱ……!!)ブシューボタボタ

幼「のんきいってないで早く服きて!」

幼母「はいはい」


男「……おおおっ、幼……」オソル……

幼「……」ズズズズズ

男(幼の周りが歪んで見える)

男「はの、い、いまほは、ほの……」

幼「……男」

幼「先にお風呂入っちゃって。お母さんと、待ってるから」ガチャッ

パタン


男「あ、う」

男(こっちを見向きもしなかった……)

男(はあ。とりあえず風呂で流すか。なにもかもさっぱり)


男「なん……!」

ドンッ!

バンッ!

ゴージャアアアアアアアス!

男「だと!?」

幼母「ふふ。驚いたかい」

男「これは……」


幼母「全部この子が作ったんだよ。ふぅっ、量も考えずに男くんの好物ばっかり」

幼「……」ジロッ

幼母「そう睨まなくたっていいじゃない」

幼「男、さっさと座って。冷めるから」

男「あ、ああ」

幼母「じゃ、男くんの十八の誕生日を祝って」プシュッ

幼母「カンパイ!」


男「か、かんぱーい」コツン

幼「……かんぱい」コツン

幼母「ぷはーっ!男くんを引き取って、おむつしてるころからみてたけど」

幼母「すっかり立派になったね。アイツの親友として、誇らしいよ」

男「あ、ありがとうございます」

男「俺もすっかりお世話になって、これだけ育ててもらったこと、感謝してます」

幼母「ふふ」


幼母「どうだい。ちょっと飲んでみるかい?大人の味」

男「いえ……」フイッ

幼母「ああそう。男くん、顔が赤いけど」

幼母「さっきの思い出しちゃった?」

男「ぎく」

幼母「あはは。悪かったね、こんなおばさんの粗末なものみせちゃって」

幼母「なんだったら口直しならぬ目直しにうちの子のを……」


幼「……」ギロッ

幼母「こわこわ。だれに似たんだかねあのネコみたいな目つき」

幼母「じゃ、はじまったばっかで悪いけどわたしゃいくから」

男「え、仕事ですか」

幼母「出張でねえ。海またいじゃうから戻るのは二週間くらい後だろうね」

幼母「留守番、しっかり頼んだよ」

男「はあ……」


幼「……」

幼母「ふふ」

幼母「がんばんなよ」ボソ

男「?……はい」

幼母「幼、行ってくるわね」

幼「……いってらっしゃい」

バタン


男「……」

男(うつむいた幼からの圧力がぱねーが)

男(これはチャンスだ。いま言わないでいつっ!)

男「おさなっ」

幼「……」ガタッ

男「!?」ビクッ

スタスタ


男「なじ……」

ストン

男(隣に)

幼「男」

男「へあいっ」

幼「ひざみせて」

男「?」


幼「右のひざ。みせなさいよ」

男「……」グッ

幼「何よこれ、ティッシュだけあてて……ちゃんと言いなさいよ」

男「乾けばなんとかなるかなと思って」

幼「脱衣所のジャージに血がついてたからびっくりしたわよ」

幼「大体、あの制服は何よ。洗濯機の底に押し込んだりして」

幼「そもそもクリーニングに出すものなのよ。何かやましいことでもあったわけ?ズブぬれにして」


男(やっぱりばれた)

男「悪い……足を滑らせてさ。川に落ちて」

幼「ふうん。まあいいけど。包帯まいとくから足あげて」ペタペタ

幼「……」クルクル キュッ チョキッ

幼「ごめんね、男」

男「!」

幼「学校出たとき、酷いこと言っちゃった」


幼「ほんとにごめんなさい」

男「い、いや……」

男「俺だって嫌味を言っちまった」

男「悪かったよ。ごめんなさい」

幼「……」

男「そ、それにしても、へは。情けないなーっと」

男「先に謝ろう謝ろうって思いながらさっきまではさ。だのに……」


幼「……」

男(幼は俺の誕生日だって覚えててくれて、おまけにこんな料理まで)

男(春巻き、ロールキャベツ、美味そうだなあ)

幼「……とこ」

ピトッ

男「!?」

幼「……」


チッチッチッチッ……

男(何が起きた……!?)

男(左腕に、や、やわらかくて温かい!)

男(これは、これは……これは)ギ ギ ギ

幼「おとこ……」ウルウル

男「!」

幼「……」ギュ

男「な、ま、お……」

幼「よかった。怒って、帰ってくるのがイヤになっちゃったんじゃないかって思って」

幼「すごいほっとしたの」

男「幼……」

幼「おなかすいたでしょ?たくさん食べて」

男「あ、ああ」

カチャ チャキ

男「もぐんぐ」

幼「おいしい?」

男「ああ」

幼「ふふ」

男(といいたいが味なんか一つも解らんぞ)

男(こんなひっついてどうしたんだ幼……)

幼「男の好きなティラミスだよ」

幼「はい。あーん」

男「うぐっ。あ、あー……ん。もぐもぐ」

幼「うふふ。あ、男。これ」ゴソゴソ ズイッ

男「むぐ?これは……」

幼「プレゼント。たいしたものじゃないけど。」

男「う、うわ。マジか。ありがとう。開けてもいいか?」

幼「うん」

男「結構大きいな」ガサガサ

男「おおこれは……」

幼「よく眠れる枕なんだって。男、いつも枕蹴飛ばして寝てるから」

幼「枕、合わないのかなって」

男「これいいな!柔らかいし、肌触り最高。寝心地よさそうだ」

男「サンキュー。すごい嬉しいよ」

幼「良かったあ」

幼「あ、袋片づけるね」ガサッ

男「いや、いいよ。俺が」

ピトッ

幼「あっ」

男「ひぎっ」

幼「……」

幼「お、おとこ……」

男「幼……」ドキドキドキ

ピロリロリー クジニ ナリマシタ

男「!」ビクッ

幼「あん」グイッ

男「た、たらふくごちそうになったし、そろそろ片付けないと。ね、寝る支度しようぜ」

幼「……うん。」

幼「でもダメだよ男。その前にするコト、あるでしょ?」

男「え、何だ?」

幼「……」ニコッ

***

幼「男ったら、頭からぱらぱら砂こぼしてるんだもん。ちゃんと洗ってないってわかるんだから」

幼「どうせまた水でちょっと濡らしただけでしょ」

男「お前ね、まるで見ていたように……」

男「っつーか!一緒に入る必要がどこにあるんだよ!」カポーン

幼「何よ急に大声出して。ちょっと前までこうしてたじゃない」

男(何年前の話してんだお前は!)

幼「タオルの下、水着来てるから安心なさいよ」

男「してねーよそんな心配!」

幼「毎回テストは赤点ギリギリだし、朝たたき起こしても寝坊治らないし」

幼「男は私がいないとなーんにもできないんだから。お風呂の面倒も見ないとね」

男「ぐ。痛いとこを……」

男「でも風呂の面倒はいいだろ別に。余計なお世話だ」

幼「男、背中おっきくなったね。かゆいとこある?」コシコシ

男「聞けよ」

幼「……」コシコシ

男「おい。いいよ、そこは」

幼「……」

男「おい」

幼「きっとこの右腕とおんなじだから……」

幼「男が、水嫌いな理由も」

男「……」

男「ちげーよ。風呂なんか面倒なだけだ。泳げないのも、友と川いったときにあいつがふざけて……」

幼「男、川に遊びにいったことなんてないじゃん。私、知ってるもん」

男「……」

幼「一緒にお風呂はいらなくなったのも、あの後だったから」

男「それはっ!単純に、年相応にだな」

男「お、おいっ」ギュゥゥ

幼「全身びしょぬれで、私のこと抱えて、走ってくれたよね」

幼「今度は私が抱きしめててあげる」

幼「こうしてればきっと大丈夫じゃないかなって……」

男「……」

バシャー

男「………………」ポタ

幼「男……」

男「……もういいだろ」グッ

幼「あっ。や、やっぱりだめだった?」

男「いやなんか」

幼「うん」

男(正直すげー安心したし、怖くもなんとも思わなかった)

男「何か、普通だった。水」

幼「本当?」

男(っていうか)

幼「思いつきだったけど、良かったあ」

男(お前のその……)

幼「頭、綺麗にしましょーねー」カシャカシャ

男(胸にぶら下がってる凶器の感触でそこどこじゃーねーよ!)

男(後輩ちゃん持ち帰ろうとか言い出したり強引なんだよこのアホは!)

男(……無防備すぎだっ)

幼「これで明日からはちゃんと頭洗えるね」ワシャワシャ

男「ああ、うん。うん?」

男「まさかとは思うけどこれを毎日やるつもりか」

幼「何言ってんの?お風呂なんて毎日入るものでしょ」

男「そこじゃねーよ!」

幼「はい。ばしゃー」ギュッ バシャー

男「ひとのはばぴをぶはーっ!」

幼「あは。すごいすごい。水かぶりながらお話出来るようになったじゃない」

男「やかましー!すぐに離れろ!」

幼「やん。そんなに怒らないで」

幼「もうちょっとだけ」キュッ

男(耳元で甘えた声あげんな!)

男(今日のこいつ、やっぱりなんか……なんか!)

男「おい。もういいだろ」

幼「もうちょっと」

男「もうあがる!あがるから!」

幼「まだ湯船につかってないのに」

男「さっきつかったよ!」

男(こんな状態で湯に入ったらのぼせる!)カァァ

カラララ

幼「……」

幼「もう」

***

幼「お風呂もちゃんと入れてサッパリしたし」

幼「おなかもいっぱい」

幼「枕も気に入ってくれたみたいだし。これで今日は朝までグッスリ眠れるね、男」

男「ほんとにそうだよ隣にお前がいなきゃーな」

幼「ん。ふかふかきもちーねこの枕」

男「さらりと流すなよ。おい、枕に頭のせんな!」

幼「何よ。ちょっと前まではいっしょ」

男「あああ!離れろ!俺の安眠のために!」

幼「やだ」

男「んがぎぎぎ、くっそ」ググッ

幼「くふふ。痛くならないよう手加減してくれてる?」

男「ああもう。なんだってんだ」ドサッ

男「やっぱりおかしいよ、今日のお前」

幼「……」

男「はぁ……」

男「…………」カクンッ

男(……今日はいつもにましてむちゃくちゃ眠い。い、いろいろあったしな……)

男(寝るか……)

幼「男のせいだもん」

男「はい?」

幼「これ何?」

スッ

男「それは」

男(お前がおれにくれた、フェルト人形)

幼「お部屋の掃除、勝手にしてごめんね」

幼「あの桐の箱が落ちてて……中身こぼれてて」

男「……」

幼「ほんとよく似てるよね。このぽやんとした顔とか」クス

幼「あの火事で、全身ススけて、右手も燃えちゃってることとか……」

男「……」

幼「なんで捨てたって嘘、ついたの?」

男「……捨てたには違いないよ」

男「カバンにだって二度と付ける気はなかった」

幼「私が見ると、思い出しちゃうから?」

男「……」

幼「男って、言い訳みたいな嘘はつかないけど、こういう嘘はつくよね」

幼「おじいちゃんに怒られちゃうよ。家訓、守らなきゃ」

男「じーさんにはさんざ怒られたし、いまさら一つ二つ増えたって……」

男「ん?ちょっと待て」

男「お前まさか!」ガバッ

幼「……」ピラッ

男「読んだ……のか。それを」ガクーッ

幼「おじいちゃんが考えそう。習わしとか、教訓とか、大好きだったもん」

男「……あのな」

男「正直ってのは、単に嘘つかないことをいうんじゃないんだぞ」

男「"正当な手段をもって、相手も立て、自らも立つ、互助の精神にのっとるもの"……だなんて言ってたけど」

男「ようするに俺はじーさんに怒られるようなことをしたとは思ってねーよ」

幼「……」

幼「ふふっ」

男「なっ!何がおかしいんだよ」

幼「こんなの真面目に守っちゃって」

幼「ようするに、私のためについてくれた嘘ってことでしょ?さっきの川の話だって」

男「……ちがわーよ。お互いの利益が、つまり……めんどくさくならないように」

幼「困ってる人助けたり、その為に夜中にずっと体鍛えてるのも」

幼「私ちゃんと知ってるよ」

男「……」

幼「男はシマウマなんかじゃないし、情けなくもないよ」

幼「気づいてる?男って、誰かの為ってなると、凄いんだよ」

男「俺が?」

幼「私をかるがる持ち運んで家の外まで走ったり、木にサルみたいに登ったり」

男(サル……)

幼「個人で勝てないってのも、解るな」

幼「団体だと、自分の勝敗だけじゃないから」

幼「だから、実力が出せるんじゃないの」

男「むむ、あんまり考えた事はなかったが……」

幼「きっとそうだよ」

幼「ずっと男の事見てきた私が言うんだもん。間違いないって」

男「……」

幼「これを見つけた時、すごい嬉しかった」

幼「男が私のこと、本当に大事に思ってくれてるんだって」

幼「嬉しかったんだから……」

男「……」

男(こいつはまったく……)

男(こういうことを恥ずかしげもなくぽんぽんと)

幼「だから私、今日は頑張らなきゃって……」

男(いや、そんな軽いわけねえか。疎いもんな、こういうこと)

幼「謝ってから、ちゃんと、男に……」

男(ああでもそれは、お互い様か)

幼「だから、男……私ね?」

男「……」ガシッ

幼「ひゃわっ!?な、何?」

男「幼」

幼「は、はい」

男(愛しくてたまんねーよ。このくそ生意気な幼馴染)

男「好きだ」

幼「!!」

男「……」

幼「……」ポロッ

男「わっ、お、幼……」

幼「……うれし……たしも、同じキモチ……」ポロポロ

男「幼……」

幼「男、好き。大好き」

幼「ずっとずっと好き。誰より、男のこと……」

男「……」

幼「……おとこ……」

チュッ

幼「んっ……」

男「……」

幼「えへへ。キスしちゃった……男と……えへ」

男「お、幼っ……」

幼「おとこー」ギュゥッ

男「……」

男「ちょっ!お前、まさか……」

幼「き、気づいた?」

幼「私、今日パジャマのした、な、何もつけてないんだよ」

男「……!」

幼「本当はお風呂もそうだったんだから」

幼「男に触れてるとこ、すごい気持ちいいよ……」

男「う……」

幼「ほら、見て……」プチッ

男「!」

幼「お、お母さんよりは小さいけど、私だって」ムギュッ

幼「全部見たい?いいんだよ、男になら、私」

男「はぁっ、はぁっ、だ、だめだ幼っ。俺たちにはまだ……は、早い……」ギンギン

幼「そ、そんなに見つめながら言っても、説得力ないよ」

幼「おじいちゃんの家訓守ろ?ちゃんと、食べて?」

幼「据え膳」クイッ

チラッ

男「!!」

男「お、おさなああああっ!」ガバーッ

幼「きゃっ、男っ」

幼「あっ……やーん」

…………

……

***

チュンチュン

男「がばっ!」パチクリ

幼「んっ。おはよ、男」ギュッ

男「んぐ!?」

男(そ、そうか。俺昨日、こいつと……あれ)

幼「もー……男のバカ。思い出した?」

幼「私の胸に顔埋めて、滅茶苦茶に頬ずりしながら……いきなり寝ちゃうんだもん」

幼「せっかく勇気出したのに、台無しじゃない」

男「……スミマセン」

幼「ふふ。でもコッチはちゃんと食べてくれたからいいけど」

男「う」

幼「もっかい、食べる?」

男「お、幼……!」ガバッ

幼「でも今日は大切な部活の日だから起きないとね」ヒョイ

男「うぶっ!」ビターン

幼「もうすぐ男も地区大会でしょ」

男「まあ、確かに」

幼「私、朝食作ってくるから。」

幼「そんな顔しないで。帰ったら、こ、今夜また……」

男「!」

幼「じゃ、じゃあお先に」

パタン

男「……」

ピラッ

『 ひとつ、据え膳喰わぬは百代の死あるのみ

            男よ、幸せになれ  』

男(結果的にこいつのおかげでうまくいたのか?)

男(ドン引きされると思っていたが)

男(……それにしても)

『ちゃんと食べて?』

男「……くっ」パァン!

男(そうだ、幼も言ってた通り、大事な時期なんだ)

男(他ごとにかまってる暇なんか、落ち着けー友が文化祭でやった女装を思い出して……)

ジャーッ ゴボゴボ

男(ダメでした)

幼「男、大丈夫?なんかやつれてない」

男「ははは。そんなことないさ」

男「人は何故争うのかとかいろいろ考えていたら」

幼「なにそれ。ほら、遅れちゃうから早くたべて」

男「ああ」

男「って」

男(当然のように隣に座るなよ!)

幼「何?」

男「いやなんでもない」

男(また味わからんくなる)モグモグ

幼「そういえば男」

男「うん」

幼「さっき褐色ちゃんからお昼一緒に食べたいって電話がきたの」

男「ああ、そうなのか。いいんじゃないの」

幼「本当?」

男「たまには野郎ぬきで、水入らずってやつをさ」

幼「え、男も一緒だよ」

男「は?」

幼「私にとって男と一緒に食べるのはもうデフォルトなの」

男「でふぉ……?」

幼「最初っから決まってるってこと」

幼「それとも私と一緒じゃ、イヤ?」

男「そんなことあるかよ。学校なんておまえと食べるメシが一番の楽しみ……あ、いやゴッホ!」

幼「男……」

男「あーえーとあれだ、健全な高校生たるもの腹が減ってはなんとやらというやつで。あくまで昼食が」

トン

幼「だいすき」

男(幼の髪……いい匂いがする)

男「お、俺も」

幼「でも、本当に遠慮しないで言ってね。私の勝手なわがままだし」

男「いやいいよ。あの図書委員の子だろ」

幼「さすがに知ってるか。いつも寝てるもんね。あんまり迷惑かけちゃだめだよ」

男「悪いとは思ってんだがなあ。静かだから寝安くて」

幼「保健室いったらいいのに」

男「まあそうなんだけどな……あっちはベッドに限りがあるからっつーか」

幼「ふふ。そっか」

幼「ところで、さ」

男「ああ」

幼「あの家訓のことだけど」

幼「ほかの子にアタックされたら、やっぱり男はちゃんと受け止めてあげられる?」

男「は?」

幼「たっ、たとべばの話っ!」

男「噛んでんぞ」

男「そーだなあ。大丈夫だろ。俺この年までモテ期なんてなかったしな」

幼「それ逆に心配なんだけど」

男「いやあえて言えばな……」

男(お前にはモテてたっていうかそれで十分っていうか)

幼「あえて言えばなによ」

男「あんでもね。まあ、来るものは拒まず、サルが好きなものはモモナス?だっけか」

幼「ぜんっぜん違うけど。っていうかそれだとオッケーするって意味だけど」

幼「そうだね。あんたみたいな変人が気になる物好き、いないか」

男「お前な」

幼「私だけで、十分だよね」

男「まあ、うん」

幼「……」

男「じ、自分で言って顔真っ赤にすんなよ」

幼「なによ、あ、アンタこそ」

男「じーさんだってそんな深く考えてないだろ。気にすんなよ」

男「いねえって。そんなヤツ」

幼「……うん」

幼「そう……だね」

***

キーンコーンカーンコーン

後輩「好きです、センパイっ」ドーン

男(ここにいたーっ!)

男「えーと少し落ち着こうか、後輩君」

後輩「私わかってます」

後輩「センパイは、幼さんが好きだって……」

男(女の勘おそるべし。いや、昼食してるとこ見られたらわかるか)

後輩「でも、それでも、二番目でも、お遊びでもいいですから……」

男「まてって!唐突すぎるよどうして俺なんだよ」

後輩「なんで旧校舎から出てきたんですか?」

男「ちょっと七不思議の調査に」

後輩「この空き缶とかゴミがはいった袋はなんです?」

男「トイレの花子さんと一緒に誕生会パーティやってねー」

後輩「やっぱり先輩だったんですね」

後輩「土曜日の部活の日に、校舎の花壇を掃除してくれてたんですね」

後輩「見つけられない訳です」

男「おっと鐘もなったし、そろそろ部活の時間だ」

ガシッ

男「ちょっ、後輩君」

後輩「センパイは、いつもそうなんですか?」

後輩「街の中で、困ってる人みたら声かけてあげて、ぼろぼろになりながら走り回ってるんですか?」

男「……」

男「このっ」ギリギリ

後輩「ふふ。やさしいんですね」

後輩「その気になれば、私なんか投げ飛ばせそうなのに」

男「……うん、今日は上腕二頭筋の機嫌が悪いようだ」

後輩「私が一人で花壇の掃除してるの見て、勝手に手伝ってくれるなんて」

後輩「おせっかいで、カッコよすぎます」

男「……」

後輩「私、小さい時から体も弱くて、いつも保健室に通ってて」

後輩「友達もいなくて、だからずっとお花さんに話しかけてて……」

後輩「お花さんが私の友達みたいなものなんです」

男「……」

後輩「部活にはいっても、みんなきっと忙しいんだと思いますけど、あまり活動してなくて」

後輩「ずっと心細かった。だから、すごく嬉しかった」

男「……」

後輩「お願いします、センパイ……」

男(ぐぐ……)

男(……う、うーん。しかし間近でよく見ると可愛いもんだな)

男(幼はどこか綺麗で可愛いって感じだが、目まで潤んでまあまさに小動物)

男(現実逃避はやめよう。家訓があるが、いやしかし……!)

後輩「セン……パイ……」

男(瞳閉じるな!顔よせるな!)

男(く、くそ……っ!)

男(……幼、悪い)

チュッ

後輩「んっ……あ……」

男「……おい、後輩」

男「黙って聞いてればお前なあ。自分を安売りするなよ」

男「なーにが友達は花だけだよ。少なくとも幼はお前の力になるつってたろ」

男「そいつは先輩後輩以前に友達って言うんじゃねえのかよ」

後輩「そ、それは」

男「あれはサッパリした性格だからな。やな奴には嫌いだって直接言うような単細胞なんだよ」

男「裏を返せばお前は、少なくともアイツから見てもいいやつなんだって」

男「ま、もちろん俺から見てもな」

後輩「……」

男「大体お前鏡を見ろよな。髪ぼさぼさで隠れてるけど可愛い顔してるじゃねーの」

男「花だけに見せるのはもったいないってもん……」

後輩「……」ポロポロ

男「はうっ!」

男「すすすすまん。言い過ぎた。まあつまり」

男「じっ、自分をもっと大切にね!もう少しゆっくり考えても遅くないと思うよ、うん!」

男「つーわけで悪いが、腕をは、離しちゃくれないか?」

後輩「……」スルッ

男「花壇は、よ。別に俺じゃなくてもほかの誰かが拾うと思うぜ」

男「後輩が泥まみれで、ゴミ掃除してるとこ見たらよ」

男「じゃあな」

ダッ

後輩「……あっ……ぜんば……い……」

男「……」タタタ

男(なんだよ自分を大切にって!ダサすぎあああ後輩の視線が突き刺さる)

男(部活行こう部活)

男(はあ、最低だ俺……家訓通り、くってやりゃあ)

男(あいつも泣くことは、なかったのかよ……)

後輩「……」

後輩(おでこ……先輩の感触が、ずっと残ってる)

後輩(あったかい)

後輩「……ぐすっ」

後輩「……花壇のお手入れ……しなきゃ」

ヨロヨロ

カサッ

人影「………………」

かっこつけてトリつけたら忘れた。
これであってたか

***

友「お前いつもにましてなんかひどくなかったか」

友「顔もやつれてるわ、そわそわするわ」

友「さてはお前……」

男「な、なんだよ」

友「エロ本だのAVだの見すぎてサルみてーに一人遊びしてたんじゃねえだろうな」

男「アホか」

男(部分的には合っとるわクソッタレ)

友「ったくよー。俺みてえに早く彼女作れって。いいぞぉモノホンは!」

友「俺によしお前によしっつーのに早く幼と一戦交えろよこのヘタレ」ギリギリ

男「わかったから血走った眼で首絞めんな」

友「じゃあ俺ハニーと食ってくるから」

男「ああ」

男「はあ……」

男(まだ後輩の泣き顔がはっきりと思い出せる)

男(げっそりだこりゃ)

男(深く考えないようにしよう)

チュンチュン

褐色「ココ、いい場所ダネ」

幼「うん。静かだし、きれいでしょ」

男「悪い、待たせた」

男「っと、褐色さん。こんちは」

褐色「コンニチハ」

幼「ほんっとに待ったんだから。はやくこっち」

男「ああ」

幼「私の横じゃなくてこっち!」

男「は。いやいや二人の間とか配置がおかしいだろ」

幼「いいから黙って座りなさい」

男「いやおま」

幼「はやく」

男「へいへい」ストン

幼「……?」クンクン

幼「男……」

男「何だ?」

幼「ううん。なんでもない」

男「あんだよ」

男「あ、褐色さん、こうやって挨拶するのは初めてか」

男「男です。よろしく」

褐色「よく知ってマス。幼が、アナタのコト、良く話してくれるカラ」

幼「ちょ、たまーに愚痴で言うくらいじゃない」

褐色「デモ、幼、本の話のほかにハ、大体男サンのことバカリ……」

男「お前な……道理でよくクシャミするなあと」

幼「ななな何よ!アンタの事話して何が悪いのよ」

男「悪いとは言ってないけどよ」

男(二人のときはあんなにデレデレのくせしてコイツは)

幼「何かついてるの私の顔」

男「うんにゃ?」

幼「何がうんにゃよ。褐色ちゃん見て鼻のしたのばしてんじゃないわよ」ギュム

男「ほはひてへーよ!」

褐色「クスクス」

褐色「二人ハ、本当に仲がいいんダネ」

幼「よ!よくないわよ……別に」

褐色「幼、顔真っ赤ダヨ?」

幼「錯覚よ錯覚!」

男(すぐ顔に出る)

幼「でも、確かに褐色ちゃんが言った通りだね」

幼「普通に男と会話できてるみたいだし、隣に座ってても平気みたい」

褐色「ウン」

男「ん?どういう意味だ」

幼「あんたでも相手してくれる女の子がいるって話よ」

男「はぁ」

褐色「……男サン、私、オトコのヒトと、目を合わせタリ、お話するのができナイ」

男「え」

幼「褐色ちゃんっ」

褐色「いいノ、幼……男サンになら」

幼「褐色ちゃん……」

褐色「私が生まレテすぐ、ダディが死ンデしまって、マミィは、沢山、違うオトコのヒト、家に連れてキタ」

褐色「彼らハ、マミィに暴力をふっタリ、私のカラダ、触ってきたりシタ」

男「……」

褐色「日本のグランマが、こっちに連れてきてくれテ、小学校も、中学校も、楽しかっタ」

褐色「でも、オトコのヒトは、やっぱり怖くテ……」

褐色「目を見るダケで、ふるえテ……」

男「……」

褐色「ダディの、優しく私の名前、呼んでくれたのだけ、すごく覚えテル」

褐色「ダディの故郷、日本で、日本語を覚えルト、ダディと一緒にいるミタイで好き」

褐色「幼は、私に一杯日本語の本、教えてくれテルの」

男「こいつは本の虫だからな」

褐色「おかげデ、書籍研究部の人たちトモ、少しずつお話できるようになっタ」

褐色「研究部は人が少ないケド、今ではすごく楽シイ」

褐色「幼のオカゲ」

男「ふーん。いい話じゃないの」

褐色「私、幼のこと……とても大事デス。だカラ、幼が好きな、男サンのことも、大丈夫なんだと思ウ」

幼「だ、だ、誰がこんなろくでなし」

男「いてーよ小突くな」

男「でも男が怖い、か。そんな風には見えないが」

男「今だって普通に自然にしてるし」

褐色「いつもハ幼の背中の後ろカラじゃなイト、だめなんデス」

幼「だからけっこうびっくりしてるんだよ、私も」

男「へえ」

褐色「トテモ嬉しいデス。できれバ、いつもモットお話してもいいですカ?」

男「そりゃもちろん。俺だって褐色さんと仲良くなれたら図書館で寝るの楽だしな」

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