アルミン「巡り廻りて」(749)
要望スレ>>5のお題。
「現パロ、主人公アルミン、高校1年生、エレミカ・アルクリ、過去の記憶はどこかで見たことがある程度」
先日、お婆ちゃんが亡くなりました。
田舎で一人になってしまったお爺ちゃんが心配でしたが、
僕の両親は研究職についていて、都心を離れることができません。
お爺ちゃんは田舎を離れることが嫌だそうです。
そこで、中学卒業を間近に控えた僕は言いました。
アルミン「僕が、お爺ちゃんと暮らしちゃだめかな?」
昔から、僕はお爺ちゃんっ子でした。
また、お爺ちゃんの家が好きでした。都心の洗練された高層ビル群は
背の低い僕には見上げるばかりだったし、なにか囲まれている気分に襲われます。
でもお爺ちゃんの家は違いました。木のにおいがして、昔の本がたくさんあって
それに……
アルミン(海が近いからね!)
なぜか、僕は昔から海が好きでした。
お爺ちゃんの家にくると、毎日海まで遊びに行きました。
でも……どうしてかな、一人で遊んでいても、楽しいのに楽しくないんだ。
どこか、なにか忘れているような。そんな気持ちになるんだ。
それをお爺ちゃんに言ったらこう答えたんだ。
「海は過去を洗い流しもするし、思い出させてくれる場所でもあるんじゃ」
今でもよくわからないけど、いつかわかる時がくるかもしれんなと
僕の頭を撫でてくれたお爺ちゃんと、そんなこんなで一緒に暮らすことになりました。
内定の出ていた都心の私立高校を蹴って、田舎の公立高校を受験。
正直なところ、学問のレベルは雲泥の差というか……まさかの首席をとってしまったようで
入学式で答辞を読むことになってしまいました。
アルミン(うう、あまり目立ちたくないのに……)
アルミン(中学生の時はいじめにあってたんだよね……頭は良くても、運動はからっきしだったし)
アルミン(そういうことからもリセットして、新しくスタートしたいって気持ちもあったてここに来たんだけど)
アルミン(はぁ……うまく、やっていけるかなぁ)
…続く。話の流れが出来上がるまでは亀更新予定。とりあえず1週間後から読むといいかも。
毎回題名に悩むよ…「2000年後の~」にしようかとも思えど、今回は「めぐりめぐりて」
似た名前のフリーゲームあるみたいだけど、もういいや。
…体育館。
アルミン「―ー最後になりましたが、本日はこのような盛大な入学式を開いていただき、
まことにありがとうございました。以上で、答辞とさせていただきます」
パチパチパチ…
アルミン(うわぁぁ、緊張したぁぁぁぁ)
アルミン(えっと……この後、教室に移動だっけ)
「よう、お前何組だった?」
「俺は1組だ。お前は?」
「3組だよ。今度遊びに行くぜ」
「ああ、またな!」
アルミン(……既に知り合いの人もいるみたいだ。当然か、同じ中学校から来てる人もいるだろうし)
アルミン(というか田舎だから学校の数が少なくて、高校もここか隣町の2個から選ぶって感じだったし、仕方ないか…)
アルミン(あ、4組はここか。僕の机は……一番前、か)
「ん……お前、さっき体育館でなんか読んでた奴か?」
アルミン(後ろの席の子から声をかけられた……よ、よし、がんばれ、僕!)
アルミン「うん、答辞だね」
「トウジ?って言うのかあれ」
アルミン「これからの抱負と、家族や先生方に感謝をするための言葉かな」
「へぇー……」
アルミン「えっと……僕は、アルミン・アルレルト」
エレン「ああ、オレはエレンだ。エレン・イェーガー」
アルミン「エレン……」
アルミン(あれ、どこかで聞いたことが……気のせい、かな)
エレン「お前、どこ中から来たんだ?」
アルミン「お爺ちゃんと暮らすことになって、引っ越してきたんだ」
エレン「どこから?」
アルミン「えっと……シーナから、だけど」
エレン「まじかよ! すっげぇ都会なんだろ、シーナって!」
アルミン「あ……うん、でもここの雰囲気の方が僕は好きかな?」
エレン「そんなもんか?」
アルミン「そんなもんだよ」
「エレン」
エレン「ミカサ、こいつシーナから来たんだってよ」
ミカサ「知ってる。さっき答辞で言っていた。エレンはもっと人の話をよく聞いたほうがいい」
エレン「ったくよう、お前も隣町の高校に行けば良かったのに。あっちのがレベル上なんだからさ」
ミカサ「こちらの方が家から近い。あっちは、通うには遠すぎる」
エレン「でもまさか同じクラスになるなんてなぁ」
アルミン「えっと……」
エレン「こいつはミカサ。オレの幼馴染で、家が隣なんだ」
ミカサ「ミカサ・アッカーマン」
アルミン「よ、よろしく……僕は、アルミン・アルレルト」
ミカサ「アルレルト…? もしかして、アルレルトお爺さんの」
アルミン「お爺ちゃんを知ってるの?」
エレン「こいつ記憶力よくってよ。一度会った人は覚えてんだ」
ミカサ「とても優しいおじいさんだった」
アルミン「うん! そうなんだ、物知りで、優しくて、自慢のお爺ちゃんだよ」
ミカサ「ええ、そのように記憶している」
エレン「どの辺に住んでるんだ?」
アルミン「えっと……」
ミカサ「確か私たちの家から5kmほど西。自転車なら30分程度」
エレン「へぇ。なら今度遊びに行ってもいいか?」
アルミン「もちろん!」
「……揃ったな。席につけ」
キース「担任のキース・シャーディスだ。授業では体育を担当する」
「ハゲ教師かよ」
キース「……貴様」
「げっ、聞こえてやがった」
キース「出身と名は」
コニー「ラ、ラガコ中出身、コニー・スプリンガーです!」
キース「スプリンガー。入学早々、廊下に立ってみるか」
コニー「す、すみませんでしたっ」
キース「まったく……………」
モグモグムシャムシャ
キース「…………」
モグモグムシャムシャ
キース「……貴様は何をやってる」
「……?」モグモグ
キース「貴様だ、貴様に言ってる! 貴様…何者なんだ!」
サシャ「ダウパー中出身、サシャ・ブラウスです!」
キース「サシャ・ブラウス……貴様が右手に持っている物は何だ」
サシャ「おにぎりです! 家から握ってきました!」
キース「なぜだ……なぜ今おにぎりを食べだした」
サシャ「カバンの中で押しつぶされてしまっていたので、これ以上つぶさないために今食べるべきだと判断しました」
キース「イヤ……わからないな。なぜ貴様はおにぎりを食べた」
サシャ「それは……『何故人はおにぎりを食べるのか?』という話でしょうか?」
アルミン「」
エレン「」
コニー「」
ミカサ「……」
サシャ「……?」
キース「……」
サシャ「あ!」
キース「!」
サシャ「……半分……どうぞ……」
キース「は……半…分……?」
サシャ「……フーッ」
…その日の夜。
アルミン「でね、サシャは帰るまでずっと教室の後ろに立たされてたんだ」
爺「楽しそうなクラスじゃの」
アルミン「うん! そうだ、今度エレンをうちに呼んでもいい?」
爺「もちろん」
アルミン「やったぁ!」
爺「アルミンが来てくれたおかげで、儂も楽しみが増えたわい」
アルミン「お爺ちゃん……」
爺「友達を作りなさい。たくさんな」
アルミン「……うん!」
アルミン「よし、そうと決まれば次の休日は大掃除だね。お婆ちゃんが死んじゃってから、ろくに掃除してないでしょ……」
爺「婆さんが家のことしてくれてたからのぅ」
アルミン「任せてよ。お父さんもお母さんも働いてたから、家事は得意なんだ」
爺「これはたくましい孫が来てくれたもんじゃ」
アルミン「僕だってもう高校生なんだからね?」
爺「ふぉふぉふぉ、そう言ってる間はまだまだ子供じゃて」
アルミン「……もう」
爺(……中学の時はいじめにあっておったと母親から聞いておったが、大丈夫そうじゃて)
…こうして、僕の楽しい高校生活は始まりました。
キーンコーンカーンコーン
エレン「ま、間に合ったぁ……」グデー
アルミン「おはよう、エレン、ミカサ」
エレン「おう」
ミカサ「おはよう、アルミン」
アルミン「どうしたの? 息切らしてるけど」
エレン「シガンシナからのバスって本数少なくてよ……」
アルミン「僕もシガンシナからのバスだから、一緒になるかなって思ったんだけど」
ミカサ「エレンが寝坊しただけ」
エレン「だから先に行けって言ったろ……」
ミカサ「エレンは私と一緒にいないと遅刻する」
エレン「頼んでねぇだろそんなことは……」
ミカサ「カルラおばさんに頼まれた」
エレン「……」
アルミン「ふふ、負けを認めたほうがよさそうだよ、エレン」
エレン「そういや部活は何入るか決めたのか?」
アルミン「まだ、だけど……家のこともやらなきゃだから」
エレン「ああ、言ってたな」
アルミン「入るとしても、週2くらいまでの活動の部活、かな……」
エレン「そっか……」
アルミン「エレンは何に入るの?」
エレン「オレはバスケかな。中学ん時もやってたんだ」
アルミン「運動得意そうだもんね」
「今お前バスケ部に入るって言ったのか?」
エレン「あぁ、そうだが……お前は!」
「覚えてくれていてなによりだ、エレン・イェーガー」
エレン「相変わらず悪人面だな、ジャン・キルシュタイン」
ジャン「誰が悪人面だ。お前のがよっぽどだろうが」
アルミン「……えっと」
エレン「トロスト中のジャンだよ。バスケ部で何度かやりあった」
ジャン「知り合いが4組だったから来てみたら……」
エレン「つかなんでお前いんだよ。トロスト中ならマリア高じゃなくローゼ高のが近いだろうが」
ジャン「ババアがマリアじゃねぇと行かせないって言うんだよ! 親父と出会ったのがここだからって……」
エレン「そんなん聞かずにローゼいきゃいいだろ!」
ジャン「オレには選べる頭があるからなぁ? 才能ねぇからってひがむんじゃねぇよ」
エレン「あ? やんのか?」
アルミン「ちょ、ちょっと、エレン……」
ミカサ「やめなさい、エレン」
エレン「……」
ミカサ「エレン」
エレン「……ちっ」
ミカサ「……」フゥ
ジャン「ミ、ミカサ、お前もこっち来てたのか」
ミカサ「……ええ」
ジャン(っしゃぁぁぁぁぁ!)
ジャン「エレン、お前もバスケ部に入るらしいが、オレに先にレギュラー取られても泣くんじゃねぇぞ」
エレン「……負けねぇよ」
ジャン「じゃあな。また来てやるよ」
エレン「来なくていい!」
エレン「……はぁ。嫌な奴に会った」
アルミン「ははは……」
エレン「あいつもバスケ部かよ……」
アルミン「トロスト中って強いの?」
エレン「そこそこな。あいつもオレも、キャプテンだったよ」
アルミン「すごいなぁ」
エレン「けど性格が気にいらねぇ。あいつとはあわない」
アルミン「そうかなぁ?」
エレン「ぜってぇ負けねぇ」
アルミン「ふふ、頑張ってね。今日から部活の見学始まるけど、エレンは行くの?」
エレン「ああ。速攻で入部届出してくる」
アルミン「ミカサは部活、決めたの?」
ミカサ「私は……」
エレン「バスケ部のマネージャーやるって言いだしたんだよ。お前はお前のやりたいことやれよ」
ミカサ「だからやりたいことをやっている」
エレン「はぁ……家出てから帰るまで一緒とか、やめてくれって」
ミカサ「……」
エレン「お前だって中学ん時バスケやってたじゃねぇか。しかも1年からレギュラーで」
ミカサ「それは……そう、だけれども……」
エレン「ここでもバスケやりゃいいだろ」
ミカサ「……」
アルミン「と、とりあえずミカサも一緒にバスケ部見に行こうよ! 僕も、色々見てみたいし……」
ミカサ「うん……」
アルミン「結論は別に今日じゃなくてもいいんでしょ?」
ミカサ「……うん」
アルミン「女子のバスケ部見て、雰囲気的に合わなさそうなら他の部活とか、マネージャーとか選んでみたら?」ニコッ
ミカサ「! ……うん!」
アルミン「じゃぁ今日は3人で色々見て回ろうよ。いいでしょ、エレン」
エレン「おう」
アルミン「君のことだから最初にバスケ部なんか行ったら動かなくなりそうだから、最後ね?」
エレン「う……わかった」
アルミン「決まりだね」
ミカサ(ありがとう、アルミン)ペコリ
アルミン(どういたしまして)b
エレン「??」
アルミン「放課後が楽しみだなぁ」
エレン「それまでの授業がなけりゃな」
アルミン「学生生活は部活動だけじゃないよ? エレン」
エレン「わーってるよ……」
キーンコーンカーンコーン…
エレン「終わった……」グデー
アルミン「お疲れ、エレン」
エレン「よっし、見学行くぞ見学!」ガバッ
アルミン「切り替えハヤッ」
エレン「まずはどこ行くんだ?」
アルミン「うーん、文化部から行っていいかな?」
エレン「文化部つっても色々あるだろ?」
アルミン「昨日の夜、部活動のリスト眺めてたんだけど、写真部が面白そうだなって」
エレン「写真部?」
アルミン「うん。おじいちゃんが古いカメラ持ってて使わないらしくって」
アルミン「お父さんからも去年の誕生日に一眼レフプレセントされてさ……昔は写真撮るのが好きだったみたいで」
アルミン(中学校、不登校だったから……せめて外に目を向けさそうとしてくれてたんだろうな)
アルミン「せっかくだし、使ってみようかなって」
アルミン「あ、ここだね。失礼します」コンコン
「はい?」
アルミン「えっと、見学をさせていただきたいんですが……」
「えっ、ああ、もちろん!」
エレン「あれ、1人だけ……?」
「部員は2年の私と、3年の先輩が2人の3人なんだ……。もうすぐしたら来ると思うんだけど」
アルミン「火曜日と木曜日だけの活動ってリストに書いてありましたが」
イルゼ「そうそう。その日に現像して校内に飾る写真を厳選してるんだ。あ、私はイルゼ・ラングナー」
イルゼ「後、写真コンテストなんかに応募するなら、その写真選んだりね」
イルゼ「最近はデジタル一眼レフばかり使うけど、もちろん暗室もあって好きな時に使えるよ」
エレン「色んな写真があるな」
イルゼ「人物でも風景でも、撮りたいものを撮る! だから私たちはいつでもカメラを手放さない」
イルゼ「決定的瞬間をカメラにおさめることができた時は……それはもう感動的だよ!」
イルゼ「だから部活は週2回でも、他の日も学校が休みの日も活動してるといえばしてるんだ」
アルミン「写真撮るの素人なんですけど……」
イルゼ「大丈夫大丈夫! 私も去年まではスマホで撮ってたくらいだから」
アルミン「カメラは自分の使えばいいんです?」
イルゼ「うん。というか人数の少ない部活だから、予算的に現像に必要なものを買うくらいしかできなくて」
イルゼ「だからカメラは、申し訳ないけど自己負担なんだ……」
「お、見学か」
「3人も!?」
イルゼ「あ、おはようございます。さっき話してた、3年の先輩で……」
グスタフ「グスタフだ。よろしく」
アンカ「アンカです。良かった、興味持ってくれた子がいてくれて」
アルミン「アルミン・アルレルトです。この2人はエレンとミカサ、クラスメイトで……僕につきあってもらってるだけなんです……」
アンカ「あら。でも君は写真に興味があるのよね」
アルミン「父親が趣味で写真を撮ってまして……」
アンカ「いいお父さんね」
アルミン「ありがとうございます。あ、そこのアルバム見せていただいてもいいですか?」
アンカ「ええ。これはトロスト市の街並みを広角レンズを使って撮影したもので――」
・・・・・
…1時間経過。
アンカ「で、この時は朝から夜10時までグスタフと交代で観察記録つけながらシャッター押してね」
アルミン「ふむふむ」
エレン「なぁ、アルミン……」
アルミン「え、何?」
エレン「そろそろ次行ってもいいか?」
アルミン「あああ、もうこんな時間!? すみません、また今度来てもいいですか?」
アンカ「もちろん。次は木曜日の放課後にいると思うわ」
アルミン「ありがとうございます! では、また来ます」
…パタン。
グスタフ「えらく話し込んでたな」
アンカ「ええ。とても理解の早い子だったわ。確かあの子、今年の主席入学の子よ」
グスタフ「ほう、そうなのか?」
アンカ「これでこの部活も存続決定ね!」
イルゼ「まだ入部希望いるかもしれませんよ?」
アンカ「うーん、でも私たちが1年の時は2人だけだったしなぁ。イルゼちゃんが入ってきたのも奇跡に近いというか」
イルゼ「そうなんです? でも後輩ができるって嬉しいな」
アンカ「追い抜かれちゃったりして?」
イルゼ「……ちょっと撮影行ってきます!」
アンカ「ふふふ」
アルミン「ごめんね、時間とっちゃって……昔から夢中になると周りが見えなくなっちゃうんだ」
エレン「そんな感じだな。両親共に研究者なんだっけか」
アルミン「うん。こういう時は血を引いてるなって感じるよ」
エレン「オレ、父さん医者だけどぜんっぜん感じねぇ」
アルミン「ぷ」
エレン「わ、笑うなよ」
アルミン「ごめんごめん」
ミカサ「エレンは、カルラおばさんにそっくり」
エレン「あー、それはよく言われるな」
ミカサ「優しくて、みんなから頼りにされている」
エレン「……オレが?」
ミカサ「うん」
エレン「そ、そんなんじゃねえよ」
アルミン「でも優しいってのはわかるよ。こうして文化部巡りにも付き合ってくれてるし」
エレン「なっ、ミカサにあう部活あるかもしれねえから、ついでだついで!」
アルミン「あ、ミカサのためか、そっか」
ミカサ「エレン……」
エレン「ち、ちがっ!」
アルミン「違わないよね?」
ミカサ「……ありがとう、エレン」
エレン「……おぅ」
アルミン「……」ニコニコ
エレン(アルミン……実は腹黒いだろ、こいつっ!)
アルミン「よし、次はお待ちかねのバスケ部だよ!」
エレン「! お、おう!」
アルミン「入部届もう書いたの?」
エレン「昨日帰ってからな」
アルミン「ほんと気が早いなぁ」
エレン「ジャンに負けたくねえし」
アルミン「どっちの理由で?」
エレン「あ?」
アルミン「なんでもないっ。ほら、行こう行こう」
…体育館。
ミカサ「すごい熱気……」
エレン「やってるやってる」
「トロスト中のジャン? あいつローゼ高いかなかったのか」
「家庭の事情でらしいよ」
「で、入るって?」
「明日入部届持ってくるってよ」
エレン「……まだあいつは入部届出してねぇな。えっと、すみません」
「ああ、見学希望か?」
エレン「入部希望です!」
「え? え?」
エレン「入部届持ってきました!」
「あ、うん。見学は、いいのかな?」
エレン「オレ、バスケが好きなんです。だから、入部させてください!」
「ほぅ……」
「リ、リヴァイさん!」
リヴァイ「お前……名は」
エレン「シガンシナ中出身! エレン・イェーガーです!」
「今度はシガンシナ中のエレンかよ」
「今年は豊作だなぁ」
エレン「あ、憧れのリヴァイさんに会えて、光栄です!」
リヴァイ「ふん」
「なに? リヴァイったら照れてるの?」
リヴァイ「なにをどうとったらそうなる」
「意外とお人よしだよね、あなた。卒業してからもたまに教えに来てるしさ」
リヴァイ「うるせぇクソメガネ。お前も何故ここにいる」
「やだなぁ。元マネージャーに向かってクソメガネだなんて」
リヴァイ「クソメガネ以外に名前なんてあったか?」
ハンジ「あるよ! ハンジ・ゾエって立派な名前がね!」
リヴァイ「ほぅ、初耳だったな」
ハンジ「ひどいなぁ。で、エレンだっけ?」
エレン「は、はいっ!」
ハンジ「シガンシナ中でバスケやってたの?」
エレン「はい! キャプテンしてました!」
ハンジ「でもシガンシナ中って弱いイメージしかないんだけど」
エレン「その……部員が少なくて。というか、生徒数もですけど」
ハンジ「この田舎でもさらに端っこの田舎だもんねぇ」
エレン「……」
ハンジ「ああ、でも君たちはエレンの名前知ってたよね? えっと……」
オルオ「オルオです。シガンシナのエレンと言えば、腕はともかく気合と体力だけは評価されてましたね」
ハンジ「ふーん。まぁあの中学校だと部活の顧問も掛け持ちだろうし、ちゃんと教えてもらえなかったってのもあり得そうだね」
ハンジ「で、入部届持ってきたんだっけ?」
エレン「はい! こちらです」スッ
ハンジ「ふむふむ……抜けはなさそうだね」
リヴァイ「エレンよ」
エレン「はいっ!」
リヴァイ「お前がしたいことはなんだ」
エレン「バスケ部に入って……とにかくボールを追いかけたいです」
リヴァイ「……悪くない。認めてやるよ、お前のバスケ部入部を」
エレン「!!! ありがとうございます!」
ハンジ「……あなたにその権利ないと思うけど」
リヴァイ「なにか言ったか?」
ハンジ「いんや?」
オルオ「じゃぁエレンの入部届はこちらで預かっておきますので……」
ハンジ「うん。ネス先生によろしく言っといて」
---現在公開可能な情報---
【写真部】…アルミン入部考え中
3年:アンカ、グスタフ
2年:イルゼ
【バスケ部】…エレン入部、ジャン入部予定
顧問:ネス
2年:オルオ
OB:リヴァイ、ハンジ
(今後の展開のためにリヴァイがいると強すぎるためOBになりました)
野球ならわかるんだが必要人数が多いのでバスケにした。ネットで少し調べただけなので悪しからず
一眼レフは友人が趣味でやってるから聞いた・触らせてもらった+ネットの知識のみ
…ということで遅くなると言ったが再開します。
…その日の夜。
アルミン(見学してみてわかったけど、写真を撮るのは奥が深そうだ)
アルミン(お父さんにもらったカメラ……調べてみたけど、性能もなかなか良いものみたいだ)
アルミン(カメラと言っても色々あるけど、これは一眼レフと呼ばれる種類で)
アルミン(様々な種類のレンズを交換できて、シーンに合わせて撮影するタイプだ)
アルミン(少し重いのが難点だけれど、学校に持っていくのはSDカードだけでいいから大丈夫かな)
アルミン(学校で撮影するなら、おじいちゃんのカメラを使おう。こっちは軽くて鞄にも入るサイズだし)
アルミン(フィルムを使うタイプだから、暗室で現像することになるけど……部室のものを使わせてもらうかな)
アルミン「……よし、とりあえず身近なものを撮ってみよう!」
…木曜日、写真部。
アルミン「……」
アンカ「……」
アルミン「えっと、どう、でしょうか」
アンカ「……悪くないわ」
アルミン「ほっ……」
アンカ「デスク上の文具、本、そして少し引いた視点での部屋全体」
アルミン「はい……まずは身近な物から撮ってみようと思いまして」
アンカ「最後のは、君のおじいさん?」
アルミン「ええ、祖父と2人で暮らしているんです」
アンカ「……」
アルミン「……?」
アンカ「おじいさんが、大好きなのね」
アルミン「わかるんです?」
アンカ「とてもね。髭に隠れてるけど微笑んでるのが見て取れる。ただ『本を読む老人』を撮るだけなら簡単だわ。
でもここに写っているのは『あなたのおじいさん』なのよ」
アルミン「……」
アンカ「あなたにしか見えないものが写っている。こっちの写真は『あなたのおじいさんの手』だわ」
アルミン「なるほど……」
アンカ「写真は、撮る人の心をも映すの。それが悪いこととは言わないわ。人によって撮れるものが違う、だから楽しいと私は思うわ」
アンカ「撮り方にもその人の個性が出るものよ。好きなものにはどんな角度がいいか試行錯誤するのに対し、
興味のわかないものにはとりあえず撮ってみた感が出てしまうもの」
アンカ「それをどうすれば一番綺麗に撮れるかを工夫するのもその人の腕次第だし、そうして磨いた腕は好きなものを撮影する時にも生かされる」
アルミン「……」
アンカ「人も風景も、色んなものを撮ってみなさい。あなたはまだ、経験が足りていない」
アルミン「そうですね……」
アンカ「なんて偉そうなことを言ったけど、私も先生に教えていただいたのよ」
アルミン「先生って、顧問の?」
アンカ「ピクシス先生よ。あの人、ほとんど顔も見せないけど」
アルミン「先生も写真を撮られるんですか?」
アンカ「ええ。これがまた、すごいのよ。シーナで個展開いたこともあるんだけど」
アンカ「……で、写真データを持ってきたということは」
アルミン「はい! 入部させていただこうと思いまして」
アンカ「歓迎するわ。ね、グスタフ、イルゼ」
グスタフ「もちろんだ。よろしくな、アルミン」
イルゼ「私もです。後輩だからって負けませんよ!」
アンカ「よろしく、アルミン。小さな部活ですけど、一緒に頑張りましょう」
・・・・・
アルミン「すっかり話し込んじゃった。そろそろ出ないと18時半のバスに間に合わないや」
アルミン「そういえばミカサは、結局どうするんだろ。あの後、女子バスケ2年のペトラさんって人に誘われてたけど」
アルミン「ミカサってこの辺では有名だったんだなぁ……そりゃそうか、1年からずっとレギュラーだったみたいだし」
アルミン「エレンも入れ入れって言っちゃうし……あ、でもペトラさんは気づいてたみたいで」
ペトラ『田舎だから練習試合の日程も対戦相手も被ることも多いし、練習場はもちろんココだし』
ペトラ『マネージャーじゃなく、同じ選手だから話せる悩みってのもあるものよ?』
ペトラ『逆に同じ選手だから悩みを聞いてもらうこともできるんじゃないかなぁ? あの子優しそうだし、真剣に聞いてくれると思うなー?』
ペトラ『ね? ちょっと考えてみようよ!』
アルミン「……結局入ってしまったんじゃないかな。でもペトラさんの言うことも一理あるけど」
アルミン「エレンは19時まで練習に参加するって言ってたっけ。てことはミカサもだろうし」
アルミン「明日あたり聞いてみるか……ってやばい、急がないとバスが行っちゃう。1時間に1本しかないから」
アルミン「5分くらいの遅延はよくある話みたいだけど、周りに人がいなけりゃ止まることもないし」
アルミン「……ここでの暮らしにも、慣れなきゃね」
アルミン「よかった、人がいる。バスもまだ来てないみたいだ」
アルミン(マリア高校の制服……ベンチに座ってるけど、僕より背が低そうだ)
アルミン(1年の子なのかな。でも4組にこんな小さな女の子見たことないし、他のクラス?)
アルミン(確か1年は4組までで130人くらいだったっけ……)
アルミン(シガンシナ方面から来てるのは、今年は10人くらいなんだったかな)
アルミン(朝のバスではまだ見かけたことないと思うけれど……)
アルミン(と、とりあえず、僕も座っても、いい、よね……?)ストン
アルミン(…………)
アルミン(なんか気まずい)
アルミン(てか、さっき横顔見えたけど、すっごい、可愛い??)
アルミン(こんな子、いたっけ……顔覚えはいい方だと思うし、入学式に檀上から見渡した時にこんな子いなかったと思うけど)
「……バス、遅いですね」
アルミン「えっ! あ、うん、そうだね!」
アルミン(うわぁぁぁぁ、何挙動不審になってるんだ僕は!)
アルミン(って声も可愛かったな……いやいや、何考えてんだよ僕!)
「時刻表みたけど、1時間に1本なんだね」
アルミン「う、うん。田舎、だからね」
「部活見てて遅くなったって言わなきゃ」
アルミン「はは……」
アルミン(なんで話しかけてくるの!? なに話したらいいの!?)
アルミン(え、ちょっと待って……バスの本数を知らなかったの?)
アルミン「……バス、初めてなの?」
「うん。引っ越しの関係で、今日からなんだ」
アルミン「そ、そうなんだ?」
「入学式も間に合わなくて……」
アルミン「あれ、てことは1年生?」
「あ、うん……えっと、あなたは?」
アルミン「僕は、4組のアルミン・アルレルト。1年生だよ」
クリスタ「3組のクリスタ・レンズです。ごめんなさい、いきなり話しかけちゃって。10分待っても誰も来なかったから」
アルミン「シガンシナから通ってるの、1年でも10人くらいだって聞いたよ」
クリスタ「そうなの?」
アルミン「僕も引っ越してきたから、よく知らないんだけど……」
クリスタ「あなたも?」
アルミン「うん、シーナから。おじいちゃんと暮らすことになってさ」
クリスタ「あなたも、シーナから、なんだ」
アルミン「え?」
クリスタ「私もなの。ちょっと、家庭の事情で……なんだけど」
アルミン「……」
クリスタ「にしても、1時間に1本は困ったなぁ」
アルミン「あはは、シーナじゃ電車もバスも数分に1本あるからね」
クリスタ「でも良かった、私以外にもシーナから来てる子がいて。4組なら隣だったよね?」
アルミン「うん。4組には同じくシガンシナから来てる、エレンとミカサって子もいるんだ」
クリスタ「今度お邪魔してもいい?」
アルミン「も、もちろん! 2人のことも紹介するよ!」
クリスタ「よければ、お友達にもなってほしいな。まだクラスにも馴染めなくて……」
アルミン「う、うん、僕でよければっ」
クリスタ「くすっ。あ、バス来たよ!」
アルミン(バスの中でも僕たちは話をした。と言っても、学校のことばかりだけれど)
アルミン(ああ、田舎は虫が多くて大きいことも。僕もまだ数週間だけど、風呂場に5cmくらいの蜘蛛が出た時は
怖くて素っ裸のままお爺ちゃんを呼びにいってしまったなぁ……だいぶ慣れてきたけど)
アルミン(クリスタの家は僕の所よりマリア高校側みたいだけど、朝は同じバスになるみたいだ)
アルミン(朝は30分に1本だけれど、エレンたちはたぶん1本遅いバスになるだろうなぁ)
アルミン(早起き頑張ってもらえれば、4人一緒に登校できるかな?)
アルミン(なんだか楽しいな。やっぱり引っ越してきて良かったのかも)
爺「なんじゃ、まだ起きてたのか」
アルミン「ちょっと考え事してたんだけど、もう寝るよ」
爺「夜更かしもほどほどにの」
アルミン「おやすみなさい」
爺「おやすみ」
―――――
―――
―
『私の名前は――トリア』
『――、壁の向こうに早く行こう』
『取り戻さないと……! 早くしないと遠くに行っちゃうから!!』
アルミン「……!!?」ガバッ
アルミン「ハァッ…ハァッ……ゆ、夢?」
アルミン「今の……あれ、どんな、夢、見てた……?」
アルミン「……」
アルミン「気のせい……いや、夢で、誰かと、話を。誰、と……」
・・・・・
…数か月経過。
アルミン「はぁぁ……」
エレン「でっけぇため息だな」
アルミン「夏は苦手だよ……暑いし汗でベタつくし、何より虫が多い」
エレン「虫嫌いを克服してやるって、一時期カメラで追ってなかったか?」
アルミン「そんなこともあったね。でもね、拡大して見てみた時のあの気持ち悪さは通常の比じゃなかった。
人間知らない方が幸せってこともあるって僕は悟ったね」
エレン「今は何撮ってんだ?」
アルミン「主に風景かな。たまにその辺にいる猫とか犬とか……野良はすぐ逃げられちゃうけど」
エレン「クリスタに頼んでみたらどうだ。あいつ動物に好かれるんだろ?」
アルミン「うーん……でも彼女、忙しいみたいだし」
エレン「人気だもんな。いっつも周り人だらけだ」
アルミン(人物像も撮ってみたいんだけど……頼めるわけないしなぁ)
アルミン「はぁー……」
エレン「そんなため息ばっかついてると幸せ逃げてくぞ」
アルミン「あー、もう君でいいや。今度モデルやってよ」
エレン「は? モデル?」
アルミン「うん。そろそろ人物撮ってみたいんだ」
エレン「ってもなぁ……あ、」
アルミン「?」
エレン「今週日曜さ、ローゼ高と練習試合やるんだよ」
アルミン「エレンも出るの?」
エレン「メインは3年の先輩達なんだけどよ。夏の大会終わったら引退だろ?」
アルミン「うん。うちの部もそうだね。それで?」
エレン「でも1年と2年の混合チームでも試合するんだ」
ジャン「オレは出るぜ」
エレン「……なんでお前いんだよ」
ジャン「ちょっと用があったんだよ。……ミカサは?」
エレン「先生の手伝いだかで職員室」
アルミン「ジャンは試合に出るの?」
ジャン「ほぼ確定ってやつだな。まぁお前は無理だろうが」
エレン「うるせぇな。どっちみちお前が出たくらいじゃ結果かわんねぇよ」
アルミン「え、どういうこと?」
エレン「今のローゼ高の主力部隊の半数が2年なんだよ」
アルミン「3年生もいるのに?」
エレン「高2であの身長は反則だろ!」
ジャン「そいつもだが、2年のくせしてやたら頭キレてチーム仕切ってる奴がいんだよ」
アルミン「へぇ……すごいな」
エレン「で、「さっきの話の続きだが、試合見にくるか?」
アルミン「え、いいの?」
エレン「いいだろ。他の奴らもたまに応援に来てるし。けど強いからって向こうのチーム撮るなよ」
ジャン「なんだ、写真か?」
エレン「人物撮りたいんだってよ」
ジャン「かっこよく撮ってくれるんだろうな?」
エレン「オレだって出てやるさ」
アルミン「動きのある写真か……難しそうだけど面白そうだね!」
エレン「よし決まりだな。じゃあ日曜は駅に6時半だ」
アルミン「は、はやいね……」
エレン「ローゼ高遠いんだよ……」
アルミン「ミカサは?」
エレン「女子は今回試合しないんだと」
ジャン「だからいい写真撮ってくれよ」
エレン「まぁどうせ来ると思うけど……」
ジャン「!? まじか!!」
アルミン「じゃ、君の寝坊の心配はしなくていいんだね」
エレン「……人を寝坊助みたいに言いやがって」
アルミン「ミカサが早く出た日に遅刻してきたのは誰だっけ?」
エレン「う……」
アルミン「日曜は6時半に駅に集合、だね。ミカサにも伝えなきゃ」
…日曜日、ローゼ高校体育館。
ユミル「お疲れさん」
マルコ「ユミル。応援来てくれてたんだ」
ユミル「可愛い弟のためにな」
ベルトルト「……来なくていいよ」
マルコ「せっかく来てくれたのにそう言うなよ」
ユミル「そうだぞ。親の再婚でひょんなことから姉弟になったんだ。
そろそろ姉ちゃんって呼んでくれてもいいんだぜ」
ベルトルト「……」
ユミル「せーっかくお前の幼馴染も誘ってやったのに」
ベルトルト「え……来てるの」
ユミル「ざーんねん。アニはミーナとおでかけしてました」
ベルトルト「……からかわないでよ」
ユミル「お? 怒ったか?」
ベルトルト「……」
ユミル「おーい、ベルトルトー?」
ベルトルト「……」
ユミル「ベルトルさんやーい」
ベルトルト「うるさいよ」
ユミル「ったくよう。来てほしいなら自分から誘えよ」
ベルトルト「そもそも君は勘違いしてる。彼女はただの幼馴染だ」
ユミル「へいへい。そういうことにしておきましょうかね」
マルコ「しかし今日は疲れたなぁ」
ユミル「さすがに新しいチームを率いるのは大変か?」
マルコ「それもあるんだけど……マリア高も強かったよ」
ユミル「ほー。向こう、いい1年入ったんだ」
マルコ「ああ。トロスト中のジャンとかね」
ユミル「………ジャン?」
マルコ「ひょっとして知ってた? トロスト中でエースだったんだよ。
てっきりこっちに来てくれると思ってたんだけど」
ユミル「…………」
マルコ「ユミル?」
ユミル「あ、ああ。名前くらいなら聞いたことがあったかもな」
マルコ「あともう1人ね」
ユミル「もう1人?」
マルコ「君、ものすごい睨まれるよね、いつも」
ユミル「睨まれる? 誰にだ」
マルコ「シガンシナ中出身らしいんだけど、エレンって子」
ユミル「ハ……ハハハッ」
マルコ「……ユミル?」
ユミル「なるほどな。今回はそう来たか」
ベルトルト「……何が」
ユミル「こっちの話だ。で、睨まれるってか?」
ベルトルト「何かした覚えないんだけど」
ユミル「大方、お前の身長が憎たらしいんだろうさ」
ベルトルト「好きでこうなったわけじゃ……」
マルコ「でも元気な子だよね。ジャンとは仲悪そうだけど、息はあってるというか。今後は気をつけないと」
ユミル「……次はいつ試合するんだ」
マルコ「来月の全国大会の後からなら、定期的にするんじゃないかな」
ユミル「じゃぁその時にでも睨まれるベルトルさんを見に来てやるよ」
ベルトルト「だから来なくていいって」
マルコ「でもユミルが来てくれた日は負けがないんだよね」
ユミル「勝利の女神ってわけだ」
ベルトルト「誰が……」
ユミル「私が、と言いたいところだが。まぁ真の女神は金髪碧眼で小さい女の子って相場が決まってるけどな」
ベルトルト「……」
ユミル「お前の幼馴染じゃないぞ? もっと小さくて可愛い子だ」
ベルトルト「ああそう」
ユミル「……ただ、私は会えないんだ」
ベルトルト「……?」
ユミル「んなことより、夕飯何食べたいよ? 今日は母さん仕事で遅くなるってさ」
ベルトルト「別に、何でも…」
ユミル「出前取るか、ピザとか久しぶりに」
ベルトルト「脂っこいから嫌だ」
ユミル「何でもって言ったくせに」
ベルトルト「ピザ頼むくらいなら自分で作るし」
ユミル「やりい。じゃぁカレイの煮付けで」
ベルトルト「……君が作ってくれるって流れじゃなかったの」
ユミル「面倒になったからピザ」
ベルトルト「はぁ……」
マルコ「相変わらず仲いいなぁ」
ユミル「当たり前だ、姉弟だしな」
マルコ「僕もユミルみたいなお姉さんがほしいよ」
ユミル「……可愛いこと言う子はこうだっ!」ワシャワシャ
マルコ「わっ、やめてよっ、ユミルっ」
ベルトルト「……帰るよ。疲れたし」
ユミル「おう。帰りにスーパー寄ってくぞ」
ベルトルト「カレイなかったらアジにして」
ユミル「ほんっと、いつでも何でもこなすよな、お前」
ベルトルト「褒めても何も出ないよ」
ユミル「じゃぁな、マルコ。また遊びに来るわ」
マルコ「またね、ユミル」
…月曜日の朝、バス内。
アルミン「それで、あの2人ってば試合中にも喧嘩しだすんだよ」
クリスタ「私も観に行けばよかったなぁ。面白そう!」
アルミン「今度一緒に行こうよ! 部外者1人じゃ心細くって……」
クリスタ「うん、家の用事がなかったら行ってみたいな」
アルミン「ああ、それでこの2人がマルコとベルトルト」
クリスタ「相手チームは撮らないでって言われてたんじゃ?」
アルミン「でも見てよ、ほんと背が高いんだ」
クリスタ「……ほんとだ。この人の隣に並んだら、私隠れられるかな?」
アルミン「あはは、でも彼くらい大きかったら隠れられるかもね」
クリスタ「あれ……これは?」
アルミン「ああ、これは間違ってシャッター押しちゃって」
クリスタ「…………え」
アルミン「消すの忘れてたや。ちょっとカメラ返し……どうか、したの?」
クリスタ「……」
アルミン「クリスタ?」
クリスタ「え? あ、うん、なに?」
アルミン「画像消すから、カメラ返してくれる…?」
クリスタ「え、消しちゃうの?」
アルミン「? 何か写ってた?」
クリスタ「あ……ううん、なんでも、ないの」
アルミン「……」
クリスタ「ただ…なんだろ、この女の人、誰かなって、思って」
アルミン「どの人?」
クリスタ「この、黒髪の……」
アルミン「……ピントあってないな。制服着てるから、ローゼ高の生徒っぽいけど」
クリスタ「……」
アルミン「知り合い?」
クリスタ「ううん……ここに、知ってる人はいないよ」
アルミン「うーん……」
クリスタ「ごめんね、変なこと聞いて。消しちゃって、いいよ」
アルミン「いや、帰ってパソコンに取り込んでみるよ。もう少し鮮明に出せるかもしれないし」
クリスタ「いいよ、そんなことしなくて」
アルミン「でも……」
クリスタ「ちょっと、気になったってだけだから」
アルミン「……」
クリスタ「いいの。ごめんね、変なこと言って」
アルミン「いや……」
クリスタ「そうだ、それで、試合中に喧嘩してどうなったの?」
アルミン「うん、顧問のネス先生が2人にゲンコツ落としてさ、そして――」
…夜。
アルミン「だめだ、加工してみたけど解析できないや」
アルミン「消してもいいって言ってたけど、すごい気にしてたよなぁ……」
アルミン「ローゼ高の応援に来てたなら、選手の恋人か家族、なのかな」
アルミン「他に写ってるのは……ない、か」
アルミン「今度またエレンについていって、探してみよう」
アルミン「機会があれば話しかけてみるか……変な人って思われるかな」
アルミン「うーん……」
アルミン「ここまでしなくても、いいんだけど」
アルミン「なんだろ、僕も気になってきたや」
アルミン「彼女の家、厳しいみたいだし。次も行けないんだろうなぁ……」
アルミン「そうだよ、だから僕が代わりに聞くだけなんだ」
アルミン「ここに写ってるのはあなたですよね。友達が知り合いかもしれないって言ってて、
だから……名前だけでも教えていただけませんかって聞くだけ」
アルミン「ついでにお写真も1枚……そうそう、写真部としての活動だ、ってどう見ても変な人だよ!」
アルミン「エレンがローゼ高の人と仲良かったらなぁ……聞くのも楽なんだろうけど」
アルミン「あ、ジャンなら知ってる人いるのかな。トロスト中の人はローゼ高に行ってる人のが多いって言ってたし」
アルミン「ジャンに頼んでみようか。でも僕そんなに仲良くないし……エレンからは無理だろうなぁ」
アルミン「ミカサから頼んでもらえたら一発なんだけど。クリスタのために秘密で知りたいって」
アルミン「でもエレンにも秘密で、とは言えないんだよな。エレンには秘密ごとをしたくないとか言われそうだ」
アルミン「エレンも秘密にされたら拗ねちゃうだろうし……あの2人、そういうところは許さないというか」
アルミン「やっぱりジャンに直接頼んでみるか……うう、仕方ない、これで勝負してみよう」
…翌日、1組教室。
アルミン「すみません。ジャン・キルシュタインはいますか?」
男「ジャン?……おーい、ジャン、かわいこちゃんが呼んでるぞー」
アルミン「かわいこちゃん……」
男「なに? ジャンの彼女?」
アルミン「ち、違うよ!」
ジャン「こないだの試合にも見に来てただろ。こいつは男だ男。女みてぇな顔してっけど」
男「だから手ぇ出したのかなって」
ジャン「オレは男にゃ興味ねぇよ」
男「ミカサちゃん一筋だもんな?」
ジャン「ばっ……、……で、何の用だよ」
男「告白しに来ました!」
ジャン「お前はあっちいってろ!」
アルミン「……そういえば日曜にもいたね。見たことあると思ったけど、制服だと雰囲気違ってわからなかったや」
ジャン「しかしお前がオレに用って、エレンと喧嘩でもしたのか」
アルミン「してないよ。その……ちょっとお願い事があって」
ジャン「お願い事?」
アルミン「ローゼ高にさ、知り合いいないかなって」
ジャン「なんでまた……いないことはないが」
アルミン「ほんと? ちょっと聞きたいことがあってさ」
ジャン「めんどくせぇことじゃないだろうな」
アルミン「……これ、なんだけど」
ジャン「写真……?」
アルミン「ここに写ってる人、制服着てるからローゼ高の人だと思うんだけど」
ジャン「……てっきりお前はクリスタにお熱だと思ってたが」
アルミン「えっ?!」
ジャン「お前も黒髪の魅力に気づいたのか」
アルミン「えっ、いやっ、違うんだ、クリスタが、その、この人誰だろうって!」
ジャン「……」
アルミン「……」
ジャン「…なるほどね」
アルミン「はは……」
ジャン「しかしなんで、こんなピンボケした女が?」
アルミン「それがわかれば苦労してないよ……」
ジャン「どうせクリスタにもエレンにも秘密で調べてくれ、だろ」
アルミン「う、うん」
ジャン「だーれがやるか! 面倒くさい」
アルミン「言うと思ったよ……」
ジャン「だったら最初から来るな。お前と一緒にいるとオレがあいつと仲いいと思われる」
アルミン「そうだよね……ああ、これ、こないだの試合の写真」
ジャン「お?……へぇ、結構うまく撮れて――!!!」
アルミン「あ、ごめん、そっちはミカサに渡すやつだった」ヒョイッ
ジャン「なっ! おまっ!!!」
アルミン「でもいい表情撮れたと思わない?」
ジャン「……思う」
アルミン「でも君には必要ないよね」
ジャン「……お前」
アルミン「なに?」
ジャン「最初から……このつもりで」
アルミン「なんのこと?」
ジャン「……クソッ。こいつ調べればいいんだろ」
アルミン「やってくれるの!?」
ジャン「期待はすんなよ、なんたってこのピンボケじゃぁな」
アルミン「ありがとう、ジャン! 君、実は親切な奴だと思ってたんだ!」
ジャン「お、おう。だから、その……」
アルミン「え、なに?」
ジャン「あー!! わかってんだろうが!」
アルミン「ごめんごめん、はい」
ジャン「……サンキュ」
アルミン「彼女がどうして気になったのかがわからないから、結果次第になるけど……
君が協力してくれたことは、ミカサにはちゃんと伝えておくから」
ジャン「……お前はやるやつだと思ってたぜ」ニヤッ
アルミン「ははは……まぁ、よろしくね?」
…翌月、ローゼ高体育館裏。
ミーナ「やっほー」
ジャン「おう」
ミーナ「調べてあげたよ、例の件」
ジャン「わかったのか?」
ミーナ「このミーナに不可能なことはありません。でも教えるには何かしてもらわないとなぁ」
ジャン「結果次第だな」
ミーナ「トロスト駅前に最近できた、パンケーキ屋さんがすっごく気になります」
ジャン「あれか……すげぇ人並んでるが」
ミーナ「友達とね、いつか行ってみたいなって」
ジャン「たかがパンケーキに1000円も出せねぇよ」
ミーナ「だからお願いしてるんじゃん?」
ジャン「結果次第って言ってるだろ」
ミーナ「はいはい。まず写真返すけど……この人、友達の幼馴染のお姉さん。たぶんね」
ジャン「たぶん?」
ミーナ「本人には聞いてほしくないでしょ?」
ジャン「ああ、そうだな」
ミーナ「つうか、あんたも知ってるやつだと思うけど。ベルトルトのお姉さんだよ」
ジャン「は? ベルトルトって、バスケ部の?」
ミーナ「そう。再婚相手の連れ子だから、血は繋がってません」
ジャン「じゃぁこの辺の出身じゃないのか」
ミーナ「ご名答。ベルトルトのお父さんが、勤め先で出会ったのがユミルのお母さん」
ジャン「ユミル、か。つまりこの時はベルトルトの応援に来てたと」
ミーナ「仲いいみたいだよ、2人。でも今日は来てないみたいだね。
まぁあんたと違っていつも試合に出てるし、毎回来てもつまんないか」
ジャン「うるせぇな。来月からはオレだってスタメンだ」
ミーナ「はいはい。で、報酬は?」
ジャン「ジュース1本でいいだろ」
ミーナ「けちくさっ! そんなだから彼女の1人もできないのよ」
ジャン「お前には関係ねぇだろ」
ミーナ「私に不可能はないって言ったでしょ?」
ジャン「……なんだよ」
ミーナ「ユミルを応援に連れてくることが可能だと言ってるの」
ジャン「……この流れ、つい最近も見た気がする」
ミーナ「来月の試合なら連れてこれるんじゃないかなぁ?」
ジャン「はぁ……」
ミーナ「私と友達の2人分よろしくねっ」
ジャン「面倒見きれねぇ。依頼主に伝えとく……」
ミーナ「やった! やっぱあんた相手だと2段構えでいとかないと。飲み物込みでよろしくね」
ジャン「……アルミン覚えてろよ」
・・・・・
ジャン「……」ブスー
エレン「なにふて腐れてんだよ。先輩方の最後の試合かもしれねぇんだぞ」
ジャン「うっせ。……ようアルミン、後でツラかせよ」
エレン「アルミンに何する気だ」
ジャン「こいつに聞かれてたんだよ、トロスト市の撮影ポイントをな」
アルミン「そうそう。せっかくトロスト市まで来たんだから、少し撮っていこうと思ってさ」
エレン「なんだ、そういうことか」
アルミン「そういうこと」
ミカサ「エレン、試合がはじまる」
エレン「よし、応援するぞ!」
アルミン「……ひょっとして、わかったの?」ヒソヒソ
ジャン「おう。今日は来てないけどな」ヒソヒソ
アルミン「さっき席外してたけど……」
ジャン「こっちに通ってるやつに聞いてたんだよ。ほら、あいつ」
ミーナ「……」フリフリ
アルミン「……君も隅におけないね」
ジャン「女のことは女に聞くのが早いだろ。近所に住んでるんだが、噂好きな女ってやつだ」
アルミン「へぇ……」
ジャン「来月は財布に数千円入れてこいよ」
アルミン「えっ」
ジャン「オレにだけ払わせるつもりじゃねぇだろうな」
アルミン「ははは……」
ジャン「次の試合ん時に、連れてきてくれるってよ」
アルミン「話せ、そう…?」
ジャン「お前が会計持つならな」
アルミン「う、仕方ない……」
ジャン「あいつの分はオレが出すにせよ、あいつの友達と……ひょっとしたら、その女の分な」
アルミン「……検討してたカメラのレンズは、後回しにした方がいいかな」
ジャン「はぁ……なんでこんな目に」
アルミン「ご、ごめん……」
ジャン「しっかり写真撮れよ」
アルミン「…1枚50円ね。現像代」
ジャン「出来によるだろ」
アルミン「僕をなめないでおくれ」
ジャン「ケッ。せいぜい稼ぐこったな」
このペースだと500レス以上行く予感。アルクリ編がまだ起承転結の起か承部分だし、エレミカ編が起で止まってる…
なお血の繋がらない姉ルートと幼馴染ルートのあるベルトルト編は読者の想像にお任せします
…1ヶ月後。ローゼ高体育館裏。
アルミン(はぁ……来てくれるかなぁ)
アルミン(顔はほとんどわからないし、名前がユミルってことしかこっちはわからないから)
アルミン(声をかけてくれるってことだけど……)
「……お前か、私に用ってのは」
アルミン「! は、はいっ! マリア高1年のアルミン・アルレルトです!」
ユミル「アルミン……」
アルミン「実は、その……本当に、お呼びたてして申し訳ないのですが――」
ユミル「ごたくはいい。要件だけ言え」
アルミン「は、はい! えっと……この写真を、見ていただきたいのですが」
ユミル「これは……私、か?」
アルミン「だと思うのですが。その写真を見て……友達が、誰だろうと言ってまして」
ユミル「……」
アルミン「知り合いなのかって聞いたんですけど、わからないって」
ユミル「……わからないのに私を探したのか」
アルミン「すごい気にしてたのに、知らない、もういいって意地になっちゃって」
ユミル「……」
アルミン「本当はこんなことすべきじゃないのかもしれない。でも、彼女のそんな姿、初めて見たから……」
ユミル「彼女……?」
アルミン「僕と同じ1年の子で、シーナから引っ越してきたんです」
ユミル「……名前は」
アルミン「クリスタ。クリスタ・レンズって言います。ご存じ、ですか?」
ユミル「……」
アルミン「……」
ユミル「……ハッ、お前、そいつに惚れてんのか」
アルミン「や、そのっ! そういう、わけじゃ!」
ユミル「そいつが私のことを嫌ってるとは考えなかったのか」
アルミン「考えなかったわけじゃない。だからあなたには秘密裏に会いたかったんだ」
ユミル「嫌ってたら何も聞かなかったことに、知り合いだったら会わせるつもりだったってわけだ」
アルミン「……はい」
ユミル「答えてやるよ。私は確かに、そいつのことを知っている」
アルミン「! ほんとですか!」
ユミル「だが向こうは私のことを知らない」
アルミン「どういう、ことですか」
ユミル「お前も覚えていないのだろう」
アルミン「え……?」
ユミル「これから話すことを信じるかどうかはお前に任せる。だが、私のことはクリスタに言うな。それが条件だ」
アルミン「……わかりました」
ユミル「単刀直入に話すと、私は以前クリスタにも……お前にも、会ったことがある」
アルミン「僕は、会ったことないと思いますが……」
ユミル「ああ。遠い昔、前世での話だ」
アルミン「は?」
ユミル「前世でも、その前でも、さらに前でも……私たちは会っている」
アルミン「は? え?」
ユミル「黙って聞け。かれこれ2000年だ。ただ記憶が完全に残っているのは、いつも私のみなのさ」
ユミル「前回は戦時中だったな。私とお前らは敵対関係にあって争っていた。
その前は……あいつは貴族で、私はみすぼらしい盗人だった」
ユミル「いつだって私は、あいつの傍にいてやることができない。
この繰り返される転生が始まる前、私の罪が招いた結果だろうな」
アルミン「罪……」
ユミル「裏切ったんだよ、あいつを。見捨てたんだ」
アルミン「……」
ユミル「転生を繰り返すたびに、お前らは記憶が薄れていく。だから……もう、私を見ても何も思わないだろ?」
アルミン「前世で、僕とあなたは……」
ユミル「なんて説明したもんかなぁ。同じ学校に通っていた仲間だったが、私はお前らに隠し事をしてたあげく裏切ったんだよ」
アルミン「……」
ユミル「本当は傍にいてやりたかった。でも……もう1人、助けてやりたい奴ができちまってよ」
アルミン「もう1人……?」
ユミル「どうも私はあいつの近くで転生しちまうことになったみたいでな。今回は弟になった」
アルミン「弟って、ベルトルト?」
ユミル「知ってたのか。ああそうか、ミーナとアニからお前に会うように言われたんだ。
お前のことだから下調べはしてて当然ってところか」
ユミル「あいつ、いつの時代も人見知りで引きこもり野郎なんだよな。私が高1の時に家族になって、
不登校から立ち直らせるために高校入学とともにバスケ部に放り込んでやったんだ」
アルミン「……」
ユミル「あの身長ならバレー部でも良かったんだが、見学の時にマルコがいてさ。
マルコなら世話してくれると踏んで入部届を勝手に出してやった」
アルミン「勝手にって……」
ユミル「そうでもしなきゃ友達つくらねぇからな。ま、結果的に活躍してるみたいだしいいじゃねぇか」
アルミン「それは、まぁ。けど、前世だなんて……」
ユミル「信じられないだろうが……ああ、エレンとミカサ、ジャンもそうだぞ」
アルミン「ええ!?」
ユミル「今回もエレンとジャンは喧嘩仲間で、ジャンはミカサにお熱なのに当のミカサはエレンにべったりか」
アルミン「どうして、それを……」
ユミル「だから知ってんだよ。私だけな」
アルミン「……」
ユミル「サシャとコニーは?」
アルミン「……同じクラスです」
ユミル「相変わらず馬鹿で食い意地張ってんだろ」
アルミン「……」
ユミル「キース教官はいるのか? 一度くらい髪の毛のある姿を拝みたいもんだが」
アルミン「……あなたの言ってることは真実だとして」
ユミル「おう」
アルミン「クリスタは、覚えていないわけじゃない」
ユミル「だろうな。頭の隅に微かに残ってるんだろ」
アルミン「いや……覚えていなくても! あなたは、それで、いいのですか!」
ユミル「いいんだよ……あいつが幸せに生きてくれたら、それで」
アルミン「……」
ユミル「友達、多いんだろ」
アルミン「……はい」
ユミル「お前も、友達なんだろ」
アルミン「……はい」
ユミル「なら問題ない。あいつには楽しく生きたいように生きて、笑ってて欲しいんだ」
アルミン「……」
ユミル「忘れてしまったんだ。その方が幸せだったんだろ」
アルミン「あなたは、辛くないんですか」
ユミル「私はお前らが生きて笑ってくれてりゃ幸せなんだよ」
アルミン「……」
ユミル「……そろそろ試合が始まる。お前も応援に来たんだろ」
アルミン「でも……」
ユミル「首を突っ込むな。私もこれ以上このことで話すつもりはない」
アルミン「なら、どうして僕にこの話を」
ユミル「座学1位だったお前が、記憶を失ってどんな反応するのか見たくてな」
アルミン「……」
ユミル「まぬけなツラも拝めたし。なかなか面白かったぜ」
アルミン「……ユミル」
ユミル「あ?」
アルミン「僕からクリスタに話すことはない。けど、君からは話すべきだと僕は思う」
ユミル「……」
アルミン「忘れてしまう方が幸せだというなら、君は忘れない方が幸せなんだろ?」
アルミン「だから君は、記憶を失くさない。僕は忘れてしまいたい過去だったのかもしれないけれど」
アルミン「君にとって、過去はまだ存在する現代みたいだ」
ユミル「はは……一本取られたな」
アルミン「……」
ユミル「そうだな。あの頃は楽しかった。何度もやり直したいと思ったよ」
アルミン「なら、」
ユミル「両方だよ。あの頃も楽しかったし、今も楽しい。2度もおいしいイカした人生だと思わねぇか?」
アルミン「……」
ユミル「そうだな……でも今回で、私も最後かもな。お前らの記憶もそこまで薄れてるなら」
アルミン「だからこそ、最後のチャンスかもしれない」
ユミル「しつけぇな。お前は昔から」
アルミン「ユミル」
ユミル「んだよ」
アルミン「さっきは知らないって言ったけど。僕は君のことを、たぶん覚えてるよ」
ユミル「ほぅ」
アルミン「クリスタが君のことを気にするように、僕も君のことが無性に気になったんだ」
ユミル「そうかいそうかい。けどもう忘れてしまえ」
アルミン「そうするよ。過去に囚われて生きたくはないからね」
ユミル「私への当てつけか」
アルミン「何も捨てられなきゃ何も変わらないって、僕は思うから」
ユミル「……」
アルミン「……もう行くよ。ごめんね、呼び出したりなんかして」
ユミル「ああ。アニとミーナにはうまいもん食わしてやってやれ。私は行かないが」
アルミン「うん。色々……ありがとう」
ユミル「……」
ユミル(覚えてる、か。そうだろうな、途中からお前の口調、昔みてぇだったよ)
ユミル(でも記憶は戻らなかった。ならヒストリアに話しても同じだろうさ……)
ユミル(ようやく平和な時代に、みんな生まれることができたのにな)
ユミル「……」
ユミル「あ、やべ。試合始まるわ」
・・・・・
…体育館内。
ミカサ「アルミン。来ないから探しに行こうと思っていた」
アルミン「うん……ごめん、ちょっと迷っちゃってさ」
ミカサ「……何かあったの」
アルミン「え……」
ミカサ「浮かない顔をしている」
アルミン「はは……ちょっとね。エレン、今日も出られたんだ」
ミカサ「ええ……応援、しよう」
アルミン「うん。そうだ、写真写真!」
ミカサ「……この前の」
アルミン「うん?」
ミカサ「とても、かっこよく撮ってくれていた」
アルミン「ふふ。僕さ、写真の才能あるかな」
ミカサ「あると思う。校内の掲示にも足を止めている人も多い」
アルミン「……ありがとう」
ミカサ「どういたしまして。でも」
アルミン「?」
ミカサ「許可を得ずに撮るのはいけない」
アルミン「う……」
ミカサ「エレンがびっくりしていた」
アルミン「ごめん……うまく撮れたから、エレンに渡した中にも入れちゃった」
ミカサ「……先に言っておいてほしい」
アルミン「ごめん……」
ミカサ「……その」
アルミン「……」
ミカサ「今日は、少し、化粧を」
アルミン「……ん?」
ミカサ「してきた、ので」
アルミン「……」
ミカサ「……」
アルミン「……任せてよ」ニコッ
ミカサ「……」ニコッ
アルミン「よし、応援しよう! エレーーーン! 頑張れー!!」
…ちょっと漫喫いってスラムダンク読んでくる
黒バスは読んだことないけど、それもかな
次の更新は来週です
ジャン(ボールを奪ったはいいが、オルオさんたちにはちゃっかりディフェンスがついてやがる…)
ジャン(ちっ、ここは俺がやり過ごすしかねぇっ!)
マルコ「させないよ」
ジャン「へっ、お前くらい俺にかかればっ!」
マルコ(くっ、なんて素早いロールターン……でも!)
マルコ「確かに、僕1人なら君は止められない」
ジャン「あ?……、なっ!?」
マルコ「後ろに構えていた彼にも気を回すべきだよ、ジャン」
ジャン「おい、エレン! ベルトルトはお前の担当だろ!」
エレン「オレのせいにすんなよ! あいついつの間にかいなくなってんだよ!」
ジャン「しっかりはりついてろ! くっそ…でけぇくせに存在感薄い厄介な奴だ」
オルオ「無理せずにこっちにパス回せ、新人」
ジャン「ああそうしてやりたいですよ、もっと前に出てきてもらえませんかねぇ?」
オルオ「俺は前に出てるぞ? お前が見逃しているだけだ」
グンタ「すまないな。向こうのディフェンスがきつくて、思うように前に出られん」
エルド「さすがはローゼ高だな。全国大会でも常に上位というだけはある」
エレン「関心しないでくださいよ……」
・・・・・
アルミン「……ほとんど一方的だね」
ミカサ「……」
アルミン「ローゼ高はマルコが指揮して、ケイジさん、ゲルガーさん、ヘニングさんの3人が
オルオさん、エルドさん、グンタさんにそれぞれついてるんだね」
ミカサ「そうみたい…」
アルミン「ベルトルトはエレンについてるのかな」
ミカサ「ついている、とは違う気もする」
アルミン「そうなの?」
ミカサ「エレンがベルトルトから離れないだけ。ベルトルトはあまり苦にしていない」
アルミン「ああ、そんな感じだね。身長があるから高めにパスすれば通るし……」
ミカサ「うん……」
アルミン「いや待てよ。ミカサ、ベルトルトってひょっとして」
ミカサ「?」
『あいつ、いつの時代も人見知りで引きこもり野郎なんだよな。私が高1の時に家族になって、
不登校から立ち直らせるために高校入学とともにバスケ部に放り込んでやったんだ』
アルミン「そうか…! ミカサ、次の休憩は!?」
ミカサ「もうすぐ、だけど」
アルミン「急ごう! 流れを変えられるかもしれない!」
こっちも牛歩で頑張るぞ…
アルミン「ネス先生!」
ネス「アルレルトか。すまんが写真なら後に――」
アルミン「作戦のことでお話があります!」
エレン「アルミン? どうしたんだ?」
アルミン「エレン、君はベルトルトから外れるんだ」
エレン「は? 何だよいったい……」
ネス「……詳しく話してみろ」
アルミン「ベルトルトは、バスケをはじめてまだ1年半なんだ」
エレン「な……まじかよ」
アルミン「しかもこれまで目立った運動の経験はない」
ネス「ふむ……」
アルミン「持ち前の体格とセンスがあるのは否定しない。でも、彼はこの試合で得点を入れていない。そうだよね、ミカサ」
ミカサ「そう。ずっと見ていたので、覚えてる」
アルミン「そうなんだ。ようするに……」
ネス「……シュートが苦手なのか」
アルミン「たぶん、ドリブルも。パスが通りやすいのは当たり前だけど、僕らはマルコの指示に騙されているだけなんだ」
ネス「なるほど。むしろベルトルトにボールを回して、その後のパスをうまく捌けば」
アルミン「僕らにも、勝機はあります」
ネス「……面白い。ならエレンはマルコにつけ」
エレン「俺が、マルコですか?」
ネス「ジャン、お前がベルトルトだ」
ジャン「けどセンセ、今の話じゃベルトルトにボール回すんだろ? こいつがマルコを抑えられるとは思えねぇんすけど」
ネス「だからだ。お前は目がいい」
ジャン「……」
ネス「ベルトルトについたとみせかけて、うまく回せ。状況を正確に把握して、次のパスを先読みしろ」
ジャン「……」
ネス「できるな?」
ジャン「……はいっ!」
ネス「もちろん、お前らも奪えそうなら動いていい。特にエルド」
エルド「はい」
ネス「流れが変われば相手に隙が生じる。そこは見逃すなよ、グンタ」
グンタ「はい!」
ネス「後輩においしいとこ取られたくなかったら、死に物狂いになってみろ、オルオ」
オルオ「けっ、やってみせますよ」
エレン「えっと……俺は」
ネス「マルコみてぇな奴は、冷静さを欠いた時にお前みたいなバカの追随が一番嫌なんだよ」
ミカサ「……」
ネス「おっと、熱血バカだったな。考える暇与えねぇくらい貼りついてろ!」
エレン「は、はいっ!」
ネス「……燃えてきたね。久々にいい試合になりそうだ」
マルコ「おや……」
エレン「よう」
マルコ「配置が変わったのかな?」
エレン「そんなとこだ。よろしくな」
マルコ「よろしく。これは一筋縄ではいかなさそうだなぁ」
エレン「そんなこと思ってねぇくせに」
マルコ「いや、僕は君のことを脅威に感じているよ」
エレン「そうか、ありがとよ」
マルコ(君のような諦めない心の持ち主は、きっとこれからマリア高を強くさせる。そんな気がするんだ)
マルコ(……ベルトルトにはジャンがついたのか。パスはなんとか回せそうかな)
ベルトルト「……」パシッ
マルコ(ケイジ、ゲルガー、ヘニングには向こうの3人にうまく封じられている)
マルコ(必死になってついてきてるけど、君はまだ荒削りだよ、エレン)ダッ
エレン「くっ!」
マルコ(ベルトルトは人のことをよく見てる。大丈夫、僕を信じてパスをくれ――!?)
ジャン「かかったな!」パシッ
マルコ「なっ!?」
ジャン「エルドさんっ!」
エルド「……」パシッ、シュッ
グンタ「……」パシッ、…ビッ
オルオ「……」パシッ!
オルオ「へっ……後輩にばっか目立たせるかよっ!」
パスンッ
アルミン「やった! 成功だ!」
ミカサ「……うん!」
マルコ「……」
マルコ(今のは……読まれて? いや、誘導、され――)
エレン「よっし、このまま行こうぜ!」
オルオ「うっせ! ボール行ったぞ!」
エレン「うおっ、くっそ、次こそは……!」
マルコ「くっ……」
ユミル「……なんだ」
アニ「空気が変わった」
ユミル「あ? お前来てたのか」
ミーナ「私もいるよ?」
アニ「ミーナが美味しいもの奢ってくれるって言うから」
ユミル「まぁ……応援してやれよ」
アニ「……」
ユミル「で、何が変わったって?」
アニ「空気」
ユミル「わかんねぇよ、もっとちゃんと説明しろ」
アニ「配置だけじゃない、配役も変わってる」
ユミル「……」
アニ「こっちはマルコが指令だろ? マリア側はあの金髪髷野郎だったみたいだけど」
ユミル「けど……?」
アニ「今はあの目つきの悪い奴だね」
ユミル「……ジャンか!」
アニ「名前は知らないけど、今ベルトルトについてる方」
ユミル「なるほど。指揮をジャンにさせるために、マルコから外したか」
アニ「……どうかな」
ユミル「あん?」
アニ「バレたんじゃない? アイツが経験少ないって」
ユミル「……」
アニ「ほら、また。ジャンってやつ? 彼はアイツの動きなんか見てないよ」
アニ「パスされた瞬間……いや、する前から走ってる」
アニ「ったく……パスしにくいからってオロオロしてちゃ奪われ……ああ、もう」
ユミル「……流れが変わったのは?」
アニ「休憩後。作戦練り直したんだろ」
ユミル「……」
アニ「はぁ。引きこもりなんかせずに昔からやってりゃ、もっと動けただろうに」
ユミル「あ」
アニ「?」
ユミル「やべぇ、まさか……あああ」
アニ「なにさ……」
ユミル「アルミンの奴……ネス班長のとこに!」
アニ「班長? 先生だろ」
ユミル「おう、先生な。あのキノコ頭が原因だ」
アニ「どういうこと?」
ユミル「マルコ―! 休憩だ、休憩! タイムタイム―!」
アニ「ちょ……」
マルコ「ユミル……どうしたの」
ユミル「1分しかないから単刀直入に言うぞ。ベルトルさんを外してミリウスを入れろ」
ベルトルト「……」
ミリウス「ぼ、僕!?」
マルコ「……その権限は僕にはないよ」
シス「ユミル、だったかな。どうしてそう思ったんだい」
ユミル「うちの弟は繊細なんでね。第4クォーターまで休ませたい」
シス「ふむ。……ミリウス、行けるかな?」
ミリウス「は、はい!」
ユミル「頑張れよー」
ミリウス(名前知ってたんだ……ベルトルトが教えたのかな)
シス「君の考えてることがなんとなくわかったよ」
ユミル「さっすがシス先生。ハゲに負けるわけいかねぇよな」
シス「……ネス先生は私の先輩だからね。このままではいずれ壁にぶち当たるとは思ってはいたが」
シス「ふむ。しかし……」
ユミル「?」
シス「周りには言ってないんだよ、ネス先生のアレは」
ユミル「あ」
シス「ローゼ高の生徒である君がどこから知ったかはさておき、他言無用だからね」
ユミル「は、はいぃ……」
ミカサ「……選手交代?」
アルミン「みたいだね……」
ミカサ「?」
アルミン「第4クォーターまでいければと思ってたんだけど。第3クォーター残り3分で、休憩は2分だよね」
ミカサ「そう」
アルミン「5分も休めば十分だよなぁ……きっと」
ミカサ「何を考えていたの?」
アルミン「えっと……」
ユミル「つーわけで、キノコ頭の坊っちゃんはお前のスタミナ切れも狙ってる筈なんだよ」
ベルトルト「……」
アニ「なんであんたがそんなこと話してんだよ」
ユミル「んー、大人の事情」
ベルトルト「……もしかして、前に言ってたこと?」
ユミル「ああ、それそれ」
アニ「……なに」
ベルトルト「僕も、よくわからないんだけど……前世がどう、とか」
ユミル「信じるも信じないもあなた次第ってやつだ。どっからか聞きつけてきたんだろ、オカルト好きが」
ベルトルト「……」
ミーナ「なにそれ、すごい気になる」
アニ「説明してくれるんだよね」
ユミル「しゃーねぇな。でも今は試合に集中してろ」
ユミル「第4クォーターの10分、後のことは考えずに全力で行けよ」
ベルトルト「……うん」
ユミル「幼なじみにいいとこ見せとけ」ヒソッ
ベルトルト「だから、違うって……」
アニ「ったく。体力なさすぎなんだよ」
ユミル「これでも肉ついてきたんだがなぁ? ほれほれ」
アニ「仕方ないね……特訓してあげるよ」
ベルトルト「えっ」
アニ「明日から。走り込み」
ベルトルト「いや、それは」
ユミル「おー、良かったなぁ」
アニ「あんたも付き合うんだよ」
ユミル「はぁ?」
アニ「ぶっ倒れたコイツ部屋まで運ぶのはあんたの仕事」
ユミル「かー、やってらんねぇ」
アニ「兄貴にも手伝わせるし」
ベルトルト「待って、なんでライナーまで」
アニ「昔からあんたのこと世話すんの好きなんだよ、兄貴」
ベルトルト「……」
アニ「言っとけば餃子でも作ってくれるんじゃない」
ベルトルト「う」
ユミル「ライナーの餃子うまいよな。大学なんか行かずに餃子専門店でも開けばいいのに」
ミーナ「ユミルは大学行かないんだっけ?」
ユミル「まぁな、私は既に大学3つ卒業してんだ」
ミーナ「……んん?」
ユミル「後でゆっっくり話してやる、と言いたいところだが、お前ジャンに駅前のパンケーキ奢らせるんだろ?」
ミーナ「ああ! そうだった! うう、パンケーキとオカルト話……」
アニ「私行かないから」
ミーナ「ええっ!? 女の子私1人にする気?」
アニ「甘ったるいのはあんま好きじゃないんだよ。それに知らない人と食べるのもね」
ユミル「話は後でアニに聞けばいいだろ」
ミーナ「……ならトッピングにベリーとシロップ追加しても怒られないよね」
アニ「いいんじゃない? 1人分浮くんだし」
ミーナ「後で! 絶対教えてよね!」
…試合終了。
エレン「途中までは良かったんだけどなぁ」
アルミン「さすがに作戦も露骨すぎたよ……」
ジャン「露骨?」
アルミン「引きこもりがそんなにすぐ体力つくわけないんだ」
ジャン「へぇ……お前、やっぱそうだったのか」
アルミン「あっ! いや」
ジャン「体つき見りゃわかるっての」
アルミン「うう……」
ジャン「しっかし、あの体格で動かれると迫力あるな」
ジャン「人並みにドリブルもできてたし、シュートだって身長ありゃレイアップなら決まるっつうか」
エレン「10分でバテてたけどな」
アルミン「狙ってたんだけどなぁ……やっぱりユミルは一筋縄じゃいかないか」
エレン「……お前、あいつのこと知ってんのか?」
アルミン「え?」
エレン「ユミルってやつ」
アルミン「いや……今日、話した、だけだ」
エレン「ふぅん。何か知ってる風だったからよ」
アルミン「……」
ミカサ「……何を話したの」
アルミン「えっ? あ、ベルトルトの取材、を」
ミカサ「……」
アルミン「いやほら、敵のこと知っておいた方がいいだろう? 僕にできることないかなって……ね、ジャン?」
ジャン「お、おう」
ミカサ「……」
アルミン「そうだ! 撮影ポイント教えてくれるんだよね!?」
ジャン「ああ……そうだったな」
アルミン「ごめんね、エレン、ミカサ。先に帰ってて!」
ジャン「よし……行くか、戦場に」
アルミン「う、うん……」
エレン「……なんかあったのか? あの2人」
ミカサ「……知らない」
…夜。
アルミン(うう……まだ胸焼けがする)
アルミン(結局、ミーナって子の友達も来なかったけど)
アルミン(女の子って、なんであんなに甘いものが好きなんだろう……)
アルミン(もしユミルも来てたら、あれこれ追加頼まれてお財布やばかっただろうなぁ)
アルミン(いやまて。何故、ユミルはそうするって、今思った?)
アルミン(本当に……僕らは、前世で会ってるんだろうか)
アルミン(昔は仲間だった、って言ってたけど)
アルミン(わからない……過去に、何があったんだ)
アルミン(いや、そんなこと考えたって仕方ない。とにかく今はこれをなんとかしないと)
アルミン「撮りすぎたよなぁ……あ、これうまく撮れてるかも。ジャンに売りつけなきゃ」
…2日後、マリア高。
エレン「だから、なんでオレんとこにミカサの写真が入ってんだよ」
アルミン「よく撮れてると思わない?」
エレン「まぁ……」
アルミン「ふふ。そういえば……昨日ピクシス先生と会ったんだけど」
エレン「神出鬼没のあの先生か」
アルミン「うん。で、今度シガンシナで個展開くから、僕らも何枚か展示してもらえることになったんだ」
エレン「へぇ、いつなんだ?」
アルミン「それが……今週末から2週間、だって……」
エレン「急だなぁ。んじゃ今から撮っても間に合わないのか」
アルミン「うん……明日までにピクシス先生にデータかネガを提出しなきゃなんだけど」
エレン「写真決まってんのか?」
アルミン「えっと……それで、相談なんだけど」
エレン「おう」
アルミン「この前のミカサの写真とか、どうかな?」
エレン「え」
アルミン「ミカサには、一応許可もらったんだけど……」
エレン「……アイツがいいって言うならいいんじゃねぇの」
アルミン「エレンにも聞いてみて欲しい、だって」
エレン「なんでオレが」
アルミン「君ってやつは……ま、僕は出すつもりないけどね」
エレン「だったらなんで聞いたんだよ」
アルミン「んー、コレとかどう思う?」
エレン「あ? ……ぜってぇやだ!」
アルミン「よく撮れてると思うけどなぁ」
エレン「無理! つかデータごと消せ!」
アルミン「え? だってコレ、君が初めて決めたゴールの瞬間だよ」
エレン「いや、それはいい、でもこれはやめろ」
アルミン「僕思うんだけど、君たちいいコンビだと思うんだ」
エレン「だからってオレとジャンを一緒の枠に入れんな!」
ミカサ「どうかしたの」
アルミン「あ、ミカサ。見てよコレ、よく撮れてるよね?」
ミカサ「それなら私ももらった。とてもよく撮れている」
アルミン「コレを個展に出してみようと思うんだけど」
ミカサ「そうするといい」
エレン「おい」
アルミン「後はコレと、コレと……この辺もどうだろ?」
ミカサ「うん……こちらも良いと思う」
アルミン「ほんと? じゃぁ先生に見てもらおう」
エレン「オレの意見は……?」
アルミン「ねぇ、コレとかどうかな」
エレン「……なんでローゼ高の連中なんだよ」
アルミン「許可取ったよ? ジャンの知り合いにローゼ高の子がいてさ、アドレス聞いて」
アルミン「写メ送って、マルコとベルトルトに聞いてもらったんだ」
アルミン「もし個展に出すことになったら見に来てくれるって」
エレン「はぁ……なに仲良くなってんだよ……」
アルミン「なんだかんだで2人とはLINEもはじめたよ」
エレン「……」
アルミン「昨日は夜遅くまでLINEしちゃったんだよね。なんか、僕たち気が合うみたいで」
エレン「へっ、そうかよ」
アルミン「この写真も、ぜひ出すべきだってさ」
エレン「」ブーッ
アルミン「うわぁ……」
ミカサ「……ハンカチ、使うといい」スッ
アルミン「ありがと、ミカサ……」
エレン「もういいよ、好きにしろよ……」
アルミン「やった! ありがとう、エレン!」
エレン「そいや、昨日オレの親父がお前んち行ったみたいだけど」
ミカサ「ええ、おじさんに来てもらった」
エレン「大丈夫だったのか?」
ミカサ「大丈夫。夜遅くにありがとうと言っておいて欲しい」
エレン「いいんだよ、家族ぐるみの付き合いなんだし」
アルミン「え……どこか悪いの?」
ミカサ「お母さん」
アルミン「……」
ミカサ「……赤ちゃんが、できた」
アルミン「!? おめでとう!って、だいぶ……歳、離れてるね」
ミカサ「そう。お母さんもびっくりしてた」
エレン「親父から聞いたけど、春にだって?」
ミカサ「3月か……4月のあたまくらい、らしい」
エレン「おー、あと半年くらいか」
ミカサ「うん」
アルミン「……ミカサ、嬉しそうだね」
ミカサ「そう、だろうか?」
エレン「男がいいなぁ」
アルミン「な、なんで君が希望するの」
エレン「え、だってミカサのキョウダイってことは、オレにとっても弟か妹ができるようなもんだろ」
アルミン「え……え?」
エレン「小さい頃から近所で暮らしてて、家族みたいなもんだし」
アルミン「……」
エレン「? 違うのか?」
ミカサ「……違わない」
アルミン「ああ、うん、そう……」
ミカサ「個展、楽しみにしてる」
アルミン「はは……が、頑張るよ」
ミカサ「クリスタには?」
アルミン「朝来る時、バスの中で声かけたよ」
ミカサ「そう。シガンシナ内なら、きっと来てくれる」
アルミン「そう、だね……」
アルミン(マルコとベルトルト……その後ろの彼女に、気づいてくれるといいんだけど)
ツヅク。明日から少し投下ペース落ちるかもしれない
…その週末。
アンカ「はぁ……」
グスタフ「ふむ」
イルゼ「やっぱり……」
アルミン「違い、ますね……」
ピクシス「ほっほっほ。こうして飾って並べてみると、印象も異なるじゃろう?」
アンカ「ええ。見間違えるほどに」
イルゼ「うう、もっと時間があればぁ……」
ピクシス「惜しむなら常に目を光らせることじゃて」
イルゼ「はぃぃ……」
ピクシス「しかし、主の画は見間違えたかと思ったぞ」
アルミン「え?」
アンカ「目に見えて、うまくなってますからね」
アルミン「そ、そうですか?」
ピクシス「技術はまだまだじゃがの。物事の本質を捉えようとする心が表れとる」
アルミン「……」
ピクシス「しかしそなたの祖父と友人はわかるが、これは何故選んだのじゃ?」
アルミン「えっと……彼らも、僕の友達、でして」
アンカ「ローゼ高の人と?」
アルミン「ええ。話す機会がありまして、なんていいますか……意気投合して」
ピクシス「ほぅ……」
アルミン「それで、撮らせてもらったんです」
ピクシス「これより良く撮れた写真もあったように記憶しておるが」
アルミン「その、彼らにも見に来てもらおうかと……」
ピクシス「……」
アルミン「……」
ピクシス「ふむ、まぁ良いわい。じゃが先ほども言うたが、おぬしの技術はまだまだじゃ」
アルミン「はい」
ピクシス「精進するがよい」
アルミン「はい!」
イルゼ「うう、私はどうなんですか……」
ピクシス「うん? 言わんといかんか?」
イルゼ「お、お願いします……」
ピクシス「ふむ……」
イルゼ「……」
ピクシス「……及第点といったところじゃの」
イルゼ「ほっ」
ピクシス「技術だけならこやつより上手じゃて」
イルゼ「ほんとですか!」
アンカ「技術だけ、ね」
イルゼ「……」
グスタフ「2人とも、物事を追求するのが得意と見えるが」
アンカ「そうね。でもアルミンの方がよく捉えられてるかしら?」
イルゼ「そ、そんなぁ……」
アンカ「ただ、アルミンの画にはバラつきが多いのよ」
アルミン「そう、ですか?」
アンカ「ええ。好きな物に対してはとことん追い求めていい画を捉えるのだけれども」
アルミン「……」
アンカ「物事を冷静に捉え、安定した画を撮ることに関してはイルゼちゃんの方が上よ?」
イルゼ「なんか……褒められた気がしないんですけど」
アンカ「ふふ。2人とも、まだまだ伸びしろがあるってことよ」
イルゼ「はぁ……」
アルミン「精進します……」
グスタフ「ところで、受付はどうするんです?」
ピクシス「今日は人を雇っておらん。お主らがしてくれるじゃろ?」
アンカ「もう……私たち、一応受験生なんですけど?」
ピクシス「うむ。じゃからイルゼとアルミンがの」
イルゼ「もちろん! お客様を案内しますよ!」
アルミン「僕もそのつもりでしたから。家がシガンシナですし、来週も大丈夫ですよ」
ピクシス「ほっほっほ。浮いた費用でうまい酒でも買おうかのぅ」
アンカ「……お酒は止められてるんじゃなかったんですか」
ピクシス「んぐっ……固いこと言うでない」
アンカ「いい? 2人とも。先生がお酒持ってきてたら遠慮なく取り上げて排水溝に流していいから」
ピクシス「わしの唯一の楽しみを……酷いわい」
アンカ「先生の健康のためです」
アルミン「……アンカさんって」ヒソヒソ
イルゼ「ええ。ピクシス先生に対して歴代でも類を見ない"お母さん"っぷりらしいよ」ヒソヒソ
アンカ「……聞こえてるわよ」
イルゼ「さ、さてアルミン! 受付の準備しよっかー!」
アルミン「そ、そうですね! みんな来てくれるかなー!」
アンカ「もう……」
グスタフ「いい後輩を持ったな」
アンカ「……そうね」
ピクシス「次はグラマーなお姉ちゃんが来てくれるといいのぅ」
アンカ「…………先生」
ピクシス「ほっほっほ。では、儂は一度席を外すでのぅ」
・・・・・
…翌週末。
アルミン(辺境地なのに、結構人来るなぁ……)
アルミン(トロスト市やエルミハ市のお役人さんに……ベルク新聞社の記者の人)
アルミン(受付してるだけなのに、名刺貰っちゃったよ)
アルミン(それだけピクシス先生の写真が素晴らしいのと、人望があるからなんだろうけど)
アルミン(……先週は、おじいちゃんに、エレンに、ミカサに)
アルミン(マルコ、ベルトルト、ミーナ……に連れられて、ジャンと、アニって子も)
アルミン(小さく写ってたのに気づいて、許可取ってなかったから睨まれたんだよなぁ)
アルミン(……正直、怖かった)
アルミン(『あれは恥ずかしがってるだけだから気にしないで』ってミーナに言われたけど)
アルミン(うーん、女の子って難しいや)
アルミン(そういえば、ジャン……道中でマルコたちと話してたみたいで、仲良くなってたなぁ)
アルミン(……)
アルミン(不思議だ。はじめて話したはずなのに、そんな気が全然しない)
アルミン(どこかに……記憶が残っているんだろうか)
アルミン(気にしないつもりだったけど、気になってくるじゃないか)
アルミン(……聞こうにも、ユミルは来てなかったけど)
アルミン「……はぁ」
クリスタ「どうかしたの?」
アルミン「え……ク、クリスタ!?」
クリスタ「こんにちは、アルミン」
アルミン「こ、こここんにちは!」
クリスタ「そんなに驚かなくても……誘ってくれたのアルミンだよ?」
アルミン「ご、ごめん……考え事してて!」
クリスタ「えっと……ここに名前書けばいいのかな」
アルミン「あ、うん。住所も……だけど、"シガンシナ"くらいまででいいよ。どこから何人来たか集計するだけだから」
クリスタ「"シガンシナ"……"クリスタ・レンズ"っと」
アルミン「えっと……おうちのことは大丈夫なの?」
クリスタ「家のことって言っても、大したことないの。それにピクシス先生の個展だって言ったら、勉強かねていってらっしゃいだって」
アルミン「そ、そっか。ご両親、教育熱心なんだね」
クリスタ「……」
アルミン「……クリスタ?」
クリスタ「ごめん、なんでもないの。それで、中は自由に見ていいのかしら?」
アルミン「うん。案内してあげたいんだけど……もう1人の受付の人が、いま席外してて」
クリスタ「ふふ。大丈夫、ちょっと見てくるね」
アルミン「戻ったら追いかけるから!」
・・・・・
アルミン(うう、イルゼ先輩戻ってくるの遅かった……クリスタ、もうあの写真見ちゃったかな)
アルミン(新聞社の人との話、そんなに楽しかったのかな。進路は出版系に行きたいって言ってたけど)
アルミン(2階に上がったのかな? ……あ! ちょうど僕の写真の前に)
アルミン「クリス……タ?」
クリスタ「……」
アルミン「……クリスタ?」
クリスタ「……」ポロッ
アルミン「!?」
クリスタ「あ……ごめん、どうしちゃったんだろ」
アルミン「どう、かしたの……」
クリスタ「なんでも……ないの」
アルミン「……」
クリスタ「ごめんね、ちょっと目にごみが――」
アルミン「……この人、だよね」
クリスタ「え……」
アルミン「この前の。実はこの写真選んだの、君にもう一度見てもらいたくて」
クリスタ「……」
アルミン「ごめん……こうでもしないと、見てもらえないと思って」
クリスタ「……うん。この人、だよ」
アルミン「どうして……何か、あったの?」
クリスタ「……わからないの。ただ、彼女を見ると胸が苦しくて」
『隠し事をしてたあげく裏切ったんだよ』
『本当は傍にいてやりたかった。でも……』
アルミン「……」
クリスタ「変、だよね……彼女に会ったことがある気がするの。夢、なのかな」
アルミン「いや……僕にも、そういうこと、あるから」
クリスタ「そうなの?」
アルミン「漫画や小説じゃないけど、前世なんてものがあったり、してね」
クリスタ「前世?」
アルミン「エレンもミカサも……ジャンも、彼らも。僕はどこかで会ったことがあるんじゃないかって」
クリスタ「……」
アルミン「君のことも」
クリスタ「私も?」
アルミン「うん。うまく言えないんだけどさ」
クリスタ「そっか……前世、なのかな」
アルミン「うん……」
クリスタ「アルミンにもわからないことあるんだ?」
アルミン「えっと、僕そんなに頭良くないよ?」
クリスタ「この前のテストでも1位だったのに?」
アルミン「なんで知って……」
クリスタ「入学式の時も答辞読んでたって、クラスの子が言ってたよ」
アルミン「うう……でも、まだまだ知らないことばかりだし……」
クリスタ「ふふ。世界は広いもんね」
アルミン「そうだよ。実はさ……海外に、ちょっと興味があって」
クリスタ「海外?」
アルミン「うん。東洋とか、テレビで見るだけだけど楽しそうじゃない?」
クリスタ「うーん、テレビあまり見ないんだけど……変なお祭りがあったりするんだよね?」
アルミン「そうそう。大人が化け物に扮して子供追いかけたりとか」
クリスタ「じゃあ将来は、世界を飛び回る写真家にでもなるの?」
アルミン「そこまで考えたことないけど……そういうのも、悪くないかも」
クリスタ「そうなっても、シガンシナで個展開いてくれる?」
アルミン「もちろん! シガンシナは僕の故郷だからね」
クリスタ「良かった。その時まで……私も、ここにいられるといいな」
アルミン「え……」
クリスタ「でも前世で会ったことあるなら、私とアルミン、どんな関係なんだろうね」
アルミン「えっと……今と、あまり変わらないのかも?」
クリスタ「同じ学生ってこと?」
アルミン「うん。一緒に通って、勉強して、訓練して」
クリスタ「訓練?」
アルミン「あれ、訓練? 何言ってんだろ、僕……」
クリスタ「変なの。でも訓練かぁ……戦時中だったりしたのかな」
アルミン「うーん……だとしたら、あまり思い出したくないかも」
クリスタ「そう、だね……きっと、たくさん辛いことあっただろうし」
アルミン「そうか……だから、僕たちは」ボソッ
クリスタ「アルミン?」
アルミン「あ……で、写真は、どうかな。コレとかよく撮れたと思うんだけど」
クリスタ「うん、思わず笑っちゃった。あの2人がハイタッチなんてすることあるんだ!」
アルミン「だよね! でもタッチした後気づいて喧嘩再開してさ」
クリスタ「あはは! らしいなぁ、ほんと昔から仲いいよね」
アルミン「そうそう。いいコンビだよ」
クリスタ「ミカサは? 間に入って止めたりしたの?」
アルミン「いや、ため息ついて……それを見たジャンがまた興奮しちゃってエレンの服掴んでさ」
クリスタ「うんうん。なんだか想像できちゃうよ」
アルミン「エレンも『服が破けちゃうだろ!』って……そこなの!?って」
クリスタ「先生も大変だろうなぁ……」
アルミン「ほんと。それでネス先生が――」
・・・・・
…翌週金曜日、マリア高校。
エレン「なぁ」
ジャン「あ?」
エレン「お前自分のクラスに友達いねぇだろ」
ジャン「ちげぇよ。オレはただ」
エレン「なんだよ」
ジャン「……なんでもねぇ」
アルミン「はは……」
ペトラ「あ、いたいたー!」
エレン「ペトラさん?」
ペトラ「お、ジャンもいるね。ミカサは……」
ミカサ「います」
ペトラ「うんうん。来月の第一土曜日と日曜日なんだけど、3人とも空いてる?」
エレン「来月ですか? たぶん大丈夫ですけど、何かあるんですか?」
ペトラ「実はね、リヴァイさんの試合シーナまで観に行こうと思って!」
エレン「! 本当ですか!?」
ペトラ「じゃーん! チケットもらっちゃったー!」
エレン「行く行く! 行きます!!」
ペトラ「そう来ると思ったよ、エレン。我々リヴァイ班に入れてあげようじゃないの」
アルミン「リヴァイ班?」
ペトラ「私、オルオ、エルド、グンタの4人で結成したの」
ペトラ「社会人になってもご活躍されてるリヴァイさんを応援する会だよ」
ジャン「あー……行きたいんですけど、その日は確か法事で」
ミカサ「……泊まり、ですか」
ペトラ「うん。ミカサはお母さんのことがあるから、泊まりはきついかな……?」
ミカサ「ええ……とても、観てみたいけれど」
エレン「オレは行く! 絶対行きますから!」
ペトラ「うんうん。じゃあとりあえず5人で行くって伝えとくね」
エレン「はい!!」
ペトラ「よし、そうと決まれば旅行の計画立てないと……任せてもらってもいいかな?」
エレン「いいんですか?」
ペトラ「いいのいいの。よーし、楽しくなってきたー! じゃ、部活でね」
エレン「はい!」
ミカサ「……」
エレン「リヴァイさんの試合かぁ……」ワクワク
ミカサ「あの人のプレイは、すごい。背は、小さいけれど」
エレン「んなこというなよ。…………小さいけど」
アルミン「リヴァイさんってそんなにすごいの?」
ジャン「スミス社と契約してんだよ、確か」
アルミン「スミス社って、あの?」
ジャン「ああ。社長がリヴァイさんのプレイをみて、気にいったとかで」
アルミン「すごいなぁ……」
エレン「お前らの分も土産買ってくるからな!」
アルミン「はは……それはご両親に許可貰ってから期待することにするよ」
エレン「う……ま、まぁ行けるだろ、うん」
アルミン「来月までお母さんのお手伝いたくさんしなきゃね」
エレン「……仕方ねぇな」
アルミン「さて、僕ちょっと図書室に」
エレン「勉強か?」
アルミン「ちょっと調べものかな。歴史書探してくるよ」
ミカサ「歴史書?」
アルミン「授業で習うとこ以外で、ちょっと気になることがあって」
エレン「はぁ……勉強家だよなぁ、お前」
アルミン「本を読むのが好きなだけだよ。じゃ、ちょっと行ってくるね」
エレン「おう」
…図書室。
アルミン(……戦争、か)
アルミン(これまでのことをまとめてみたけど、前世の僕たちは)
アルミン(『学校』に通っていて、何かしらの『訓練』を受けていたと思われる)
アルミン(訓練……どんな訓練だったかわかれば、時代背景もわかりそうだけど)
アルミン(いや、考えるんだ。たぶん僕は覚えてるはずだ)
アルミン(戦争に関する書物は、これか)ペラッ
アルミン(考えろ、感じとれ……!)
『落ち着け! まだ十分に引きつけるんだ!!』
『待て、待て、待て……今だ、撃て!!』
アルミン(そうだ……僕は、鉄砲を撃ったことがある。僕らは、兵士を目指していた?)
アルミン(確か……そう、弾は詰め込み式で、一発しか撃てなくて)
アルミン(だとすると、今から500年くらい前なのか?)
アルミン(その間に行われた戦争……兵士を目指す学校があって……)
アルミン(うーん……)ペラペラ
アルミン(だめだ、どれもピンとこない)
「ああ、アルレルト、ちょっといいかい?」
アルミン「あ、はい?」
アルミン(クリスタのクラスの、先生?)
「確か君、シガンシナから来てるよね?」
アルミン「ええ、そうですけど」
「クリスタ・レンズは知ってる?」
アルミン「クリスタが……どうかしたんですか?」
「ちょっとここ3日程休んでいてね。親戚に不幸事があったみたいで」
アルミン「それで……朝、会わないと思って心配してたんですが」
「帰りに、彼女の家にプリントを届けてもらえないかな?」
アルミン「僕で、よければ。でも家を知らなくて……」
「助かるよ。住所ならここ。地図もプリントしてあるから」
アルミン「……わかりました。この封筒を届ければいいです?」
「うん、3日分のプリントを届けてやってくれ」
アルミン「いえ。じゃあ帰りに寄りますね」
「すまないね、ありがとう」
・・・・・
2月中に終わらせられるように頑張る。というか次の別マガ発売までに…!
…クリスタの家の前。
アルミン(えっと……ここか。インターホン押してっと)ピンポーン
アルミン(……すごい数の監視カメラなんだけど)
アルミン(用心深い人なのかな? クリスタのご両親)
アルミン(まぁ……誘拐とか、あるかもしれないよね。可愛いし)
『……はい』
アルミン「あっ、マリア高校1年のアルレルトです。レンズさんのお休みの分のプリント預かってきてまして」
『……そこのポストに入れといてください』
アルミン「え? あ、はい」
『来週からは行かせますので』
アルミン「はい……失礼、します」
プツッ
アルミン「……」
アルミン(とりあえず……封筒はポストに入れて)
アルミン(声からして、お婆さんかな。ご両親は一緒に親戚のとこ行ってるか……)
アルミン(足が悪くてすぐに受け取れない、とかなのかな。にしても……)
アルミン(あ、そうだ。ふせんが確かあったから、メッセージ書いて封筒に……)カキカキ
アルミン(……これでよし)ペタッ
アルミン「……」
アルミン(来週からはまた一緒に学校行けるよね)
アルミン(帰って今週の写真整理でもするか……)
…翌週、月曜日。
アルミン(今日も朝のバスにいなかった。勇気出してクリスタのクラスに来てみたけど……)
「ん? 秀才君じゃないか、ウチのクラスになんか用か?」
アルミン「えっと……今日ってクリスタ来てる?」
「……クリスタになんか用かよ」
アルミン「最近休んでたみたいだから。先週末プリント届けたんだけど、休んでるなら今日の分も届けようかと思って……」
「クリスタなら来てるよ。女子と喋ってる」
アルミン「そ、そっか。ならいいんだ」
「他に用ないなら帰れよ」
アルミン「うん……」
クリスタ「あっ、アルミン!」
「ちっ……」
クリスタ「どうしたの?」
アルミン「いや、最近休んでたでしょ? 今日も朝のバスで見かけなかったからどうしたのかと思って」
クリスタ「……うん、ごめんね、心配かけて」
アルミン「大丈夫ならいいんだ。あ、プリント受け取ってくれた?」
クリスタ「あれ、アルミンが届けてくれたの?」
アルミン「うん。ふせん貼ってあったんだけど……」
クリスタ「……ごめん、見てないや」
アルミン「ふせんだったから外れちゃったのかな。でも良かった、元気そう……でもない、かな」
クリスタ「……大丈夫。あのね、通学なんだけど」
アルミン「うん?」
クリスタ「近くに住んでる親戚の人が、危ないからってこれから毎日送り迎えしてくれることになって……」
アルミン「え……」
クリスタ「だから、その……もう、一緒に通えないの」
アルミン「そ、そうなんだ」
クリスタ「うん……ごめんね。いつもお話できて、楽しかったよ」
アルミン「こちらこそ……」
「クリスター? どうかしたのー?」
クリスタ「……じゃあ」
アルミン「うん……」
アルミン「……」
アルミン(危ないって……確かに夜は暗くてちょっと危険かもしれないけど)
「話終わったんだろ? 帰れよ」
アルミン「うん……お邪魔しました」
アルミン(もう……喋る機会、なくなっちゃうのかな……)
…1ヶ月後の11月、写真部部室。
イルゼ「アールーミーン?」
アルミン「……」ボー
イルゼ「アルミン!!」
アルミン「は、はいっ!」
イルゼ「最近弛んでるよ?」
アルミン「すみません……」
イルゼ「写真もいまいちパッとしないし……何かあったの?」
アルミン「いや、その……」
イルゼ「ふんふん、恋のお悩みとみたよ」
アルミン「えっ!? こ、恋!?」
イルゼ「図星だね? 私の目はごまかせないから」
アルミン「いや、その……」
イルゼ「……」ワクワク
アルミン「恋の、悩みではないんですが」
イルゼ「ですが?」
アルミン「友達と……話す機会がなくなっちゃって」
イルゼ「どうして?」
アルミン「これまではバスの中で話せてたんですけど、向こうが車で送り迎えしてもらえることになりまして」
イルゼ「え? 送迎は基本ダメじゃなかったっけ」
アルミン「そうなんですか?」
イルゼ「よほどその子の体が弱いとか、家の事情とかじゃない限り」
アルミン「家の、事情……」
イルゼ「親が有名人で、子供の誘拐の恐れがあるとかさ」
アルミン「……」
イルゼ「心当たりあるの?」
アルミン「いえ……でも、どうなんでしょう」
イルゼ「その子の名前は?」
アルミン「……クリスタ・レンズって言いますが」
イルゼ「ああ、あの可愛い子ね」
アルミン「知ってるんですか?」
イルゼ「記者に情報は命よ? にしてもそんな噂聞いたことないけど」
アルミン「うーん……」
イルゼ「レンズ……そんな名前の有名人、聞いたことないけどなぁ」
アルミン「病気してる風には見えないし……」
イルゼ「ふむ……ここは私がひと肌脱いで」
アルミン「へ?」
イルゼ「聞いてきてあげよう!」
アルミン「ちょ、そんないきなり!?」
イルゼ「大丈夫、アルミンの名前は出さないから」
アルミン「待って、向こうは迷惑ですよ」
イルゼ「男なら! 押さなきゃでしょう!」
アルミン「いや……」
イルゼ「明日、またここに集合ね」
アルミン「はい……」
…翌日の放課後、写真部部室。
アルミン(先輩、遅いなぁ……)ソワソワ
アルミン(何をどう聞くつもりなんだろ……先輩が行ったら、同じ写真部だし僕が話したってすぐにバレるんじゃ)
アルミン(うわぁぁぁ、やっぱり止めておくんだったー!)
イルゼ「……おまたせ」
アルミン「お疲れ様、です……」
イルゼ「はぁ、困ったことになったわ」
アルミン「何があったんです?」
イルゼ「あの子、私を見た瞬間口元押さえて泣き出しちゃって」
アルミン「え」
イルゼ「『知り合いに似ててびっくりした』って言ってたけど……」
アルミン「あ」
イルゼ「アルミンその人知ってるの? そんなに似てる?」
アルミン「そういえば……どことなく、似てるかもしれません」
イルゼ「人間そっくりな人が3人はいるって言うけど、そんな身近にいるなら会ってみたいなぁ」
アルミン「……」
イルゼ「写真とか持ってないの?」
アルミン「えっと、確かスマホの中に……あった、この人ですけど」
イルゼ「……そんなに似てるかなぁ」
アルミン「うーん……髪の感じと、そばかすが?」
イルゼ「そばかすを馬鹿にしてないでしょうね」
アルミン「そんなわけないじゃないですか……」
イルゼ「ありがと。これなら会わなくてもいいや」
アルミン「……」
イルゼ「で、2人きりにさせてもらって、話をしたんだけど」
アルミン「はい」
イルゼ「送迎について聞いたのよ。どうやって申請したのかって」
イルゼ「別に責めるつもりはなくって、単純に知りたいだけって言ったんだけど」
アルミン「……」
イルゼ「家の事情、としか聞けませんでした!」
アルミン「はぁ……」
イルゼ「ま、写真部って言ったら情報元が君ってバレちゃったけどね」
アルミン「やっぱり……」
イルゼ「それで伝言預かってきたんだけど」
アルミン「!」
イルゼ「ふふ……聞きたい?」
アルミン「は、はい」
イルゼ「正直でよろしい。えっとね……
『ごめんなさい、話せないの。話したら、みんなに迷惑をかけてしまうかもしれないから』
『本当に、ごめんなさい。楽しかったよ……私のことは、忘れてください』
…だって」
アルミン「……」
イルゼ「似てた?」
アルミン「全く」
イルゼ「忘れて、迷惑かける、だなんて」
アルミン「……」
イルゼ「燃えてくるわ!」
アルミン「……まだ探るつもりなんですか」
イルゼ「記者としてスクープを追い求めるのは当然のこと、と……言いたいところだけど」
アルミン「……」
イルゼ「さすがに、あの子の思いつめた顔を見ちゃうとね。本当に、何かあるんだと思う」
イルゼ「ただ……悲しそうだったな」
アルミン「……」
イルゼ「本当に、このままでいいの?」
アルミン「仕方、ないじゃないですか……僕に何ができるっていうんです?」
アルミン「忘れてって言われたんですよ? 毎日一緒に通ってきてたのに」
アルミン「ええ……冷静に考えれば、クリスタは僕を庇ってる。何かの事件に巻き込まれつつあって」
アルミン「仲の良い人たちと、距離を置こうとしてる。そんなこと! 友達、なのに……!」
イルゼ「……」
アルミン「友達……なの、に……ヒック、頼って、くれなくて」
アルミン「いや、友達、だから……迷惑、かけたく、なくって……」
イルゼ「……うん」
アルミン「……」グスッ
イルゼ「君は、どうしたいの」
アルミン「僕は……」
イルゼ「……」
アルミン「わかり、ません……きちんと、考えないと」
イルゼ「そうね。今は感情的になってるから、正確な判断が下せないわ」
イルゼ「でも、もし彼女を助けたいと思うなら」
アルミン「……」
イルゼ「私も力になる。情報網ならあてがあるから」
アルミン「あて……?」
イルゼ「ベルク新聞社の、ピュレさんとかね」
アルミン「あ……あの時の」
イルゼ「そう。記者になりたくて色々聞くうちに、仲良くなったの」
イルゼ「危険かもしれないから、人に頼りたくないかもだけど……」
アルミン「……」
イルゼ「彼なら大丈夫。危険が怖くて記者なんかしてられないんだから!」
アルミン「……」
イルゼ「ひょっとしたらスクープかもしれないし……!」
アルミン「……」
イルゼ「いや、そっちが目的じゃないよ!?」
アルミン「わかってますよ」クスッ
イルゼ「あ、絶対今馬鹿にしたよね!? 学年1位の秀才だからって、年上を馬鹿にするなんて!」
アルミン「し、してませんよ!」
イルゼ「……まぁいいわ。今日はもう帰りなさい」
アルミン「……はい」
イルゼ「よく考えなさい。君にしかわからないこともあるかもしれない」
アルミン「僕にしか、わからないこと?」
イルゼ「友達、なんでしょ?」
アルミン「! はい……!」
・・・・・
…アルミンの部屋。
アルミン(僕は……どうすればいいんだろう)
アルミン(異常な監視カメラの数も、お婆さんが家から出てこなかったのも)
アルミン(僕を、警戒したんだ)
アルミン(ふせんは剥がれたんじゃない。クリスタに封筒を渡す前に、剥がされた)
アルミン(それから送迎が始まったのだから……関わらせたくなかったのかな)
アルミン(待て、その前に……親戚の不幸事があったんだっけ。それも原因かもしれない)
アルミン(先生に聞こうにも……きっと教えてくれないだろうな)
アルミン(送迎の理由も、先生には体が弱いと言っている可能性も否定できない)
アルミン「僕にしか、わからないこと……いったい、何が」
『あいつには楽しく生きたいように生きて、笑ってて欲しいんだ』
アルミン(……そうだ、彼女なら何か知ってるかも)
アルミン(鉄砲が開発された時代だと思って、500年くらい前って考えたけど)
アルミン(ユミルはあの時……2000年、って言ってたっけ)
アルミン(2000年前に鉄砲なんて……ないはずだけど)
アルミン(いや、確か『前回は戦時中だった』と言っていたから、その時の記憶なのか?)
アルミン(考えても仕方ない! 彼に、頼んでみるか)
プルルルル…
ベルトルト『アルミン? どうしたの?』
アルミン「ごめん、ベルトルト! 遅くに」
ベルトルト『構わないけど……何かあったの?』
アルミン「すごく変なこと頼むんだけど……お姉さんに、聞きたいことがあって」
ベルトルト『……』
アルミン「その、代わってもらえないかな、って」
ベルトルト『……』
アルミン「……ベルトルト?」
ベルトルト『……前世の記憶』
アルミン「え」
ベルトルト『ユミルの言う、前世の記憶に関係あるの』
アルミン「知って、るの?」
ベルトルト『君がユミルと話したあの日、みんなで聞いたんだ。誰も信じてなかったけれど』
ベルトルト『ユミルは……いつもふざけてるけど、嘘を言ってるようには見えなくて』
ベルトルト『家に帰って、もう一度……詳しく、聞いた』
アルミン「それで……」
ベルトルト『君は、思い出したの?』
アルミン「いや……ほとんど思い出せてない」
ベルトルト『だったら、思い出さない方がいいよ』
アルミン「どうして!?」
ベルトルト『僕は、聞かなければ良かったと思ってる』
アルミン「……」
ベルトルト『……それでも、君は聞きたいの』
アルミン「……うん。どうしても知りたいことがあるんだ」
ベルトルト『そう……』
アルミン「ユミルは……?」
ベルトルト『……』
アルミン「お願い、代わって」
ベルトルト『……明日、土曜日。時間ある?』
アルミン「明日? 大丈夫、だけど」
ベルトルト『まずは僕から……会って、直接話すよ。その上で、判断してほしい』
アルミン「……」
ベルトルト『ごめん……僕も、よくわからないんだ。どうしたらいいのか』
アルミン「うん……」
ベルトルト『ただユミルは……怖れてる』
アルミン「怖れてる?」
ベルトルト『自分1人が、記憶を持っていること。何故そんなことになったのか』
ベルトルト『身に覚えはあるみたいだけど、だから、その……』
アルミン「できることなら、関わらせたくない?」
ベルトルト『うん……忘れさせることができれば、いいんだけど』
アルミン「……」
ベルトルト『中途半端なのは、一番堪えると思う』
アルミン「そうだね……」
ベルトルト『……君が、何かを思い出そうとしてるのなら』
ベルトルト『芋づる的に、僕らの記憶も呼び起こすのかもしれない』
ベルトルト『でも……そしたら僕は、君たちに、何て言えば……』
アルミン「……明日、会って聞くよ。どこに行けばいい?」
ベルトルト『僕が、そっちに行ってもいい?』
アルミン「と、遠くない?」
ベルトルト『遠い方が……誰にも会わなくていいかな、って』
アルミン「……わかった。駅まで迎えに行くよ」
ベルトルト『ごめん……』
アルミン「いや。ありがとう、ベルトルト」
ベルトルト『うん……じゃあ、明日』
ピッ
本日ココまで
急展開でもまだまだ続く。まだ出てない人いるよっ
…翌日、アルミンの家。
爺「これはまた」
ベルトルト「えっと……お邪魔、します」
爺「大きいのぅ」
アルミン「192cmあるんだって」
爺「ほぅ……」
アルミン「10cmくらい分けてくれてもいいんだよ?」
ベルトルト「分けられるものなら……」
爺「では、儂は少し出かけるでの」
アルミン「うん、いってらっしゃい」
ベルトルト「いってらっしゃい……」
…パタン。
ベルトルト「……お爺さん、元気だね」
アルミン「ひ孫を見るまで死なないって言ってるんだ……」
ベルトルト「へぇ。じゃあ頑張らないと?」
アルミン「まだ僕らそんな歳じゃないし、そもそも相手が」
ベルトルト「……ふぅん」
アルミン「そういう君は?」
ベルトルト「僕?」
アルミン「こないだの個展、一緒に見に来てくれてた……アニって子とは?」
ベルトルト「え……」
アルミン「あれ、違った?」
ベルトルト「ち、違うよ……彼女とは、ただの、幼馴染で」
アルミン「……ふぅん」
ベルトルト「だいたい、今日はそんな話をするためじゃないだろ」
アルミン「うん。とりあえず、僕の部屋に行こうか」
…アルミンの部屋。
ベルトルト「えっと……君は、どこまで知ってるの?」
アルミン「2000年前、僕らは同じ学校……いや、訓練所に通う仲間だった」
ベルトルト「うん……」
アルミン「でもユミルは、君を助けるために僕らを裏切った」
ベルトルト「……うん」
アルミン「それだけ、かな」
ベルトルト「え、それだけ?」
アルミン「僕だってどうにかして思い出そうとしたんだよ? 図書室通って、戦争の本とか読み漁ったりしてさ」
アルミン「でも銃を扱ってたことまでは思い出せるけど、2000年も昔に銃なんて存在するわけないし……」
アルミン「考えれば考えるほど、矛盾が生まれてくるんだ。でも、ユミルの言ってることが嘘だとは思えない」
ベルトルト「それで……聞こうとしたの」
アルミン「うん。……教えて、くれるんだよね」
ベルトルト「……正直、話したくない。でも、」
ベルトルト「もしかしたら、僕を助けたことがきっかけで、ユミルだけ忘れられないんじゃないかって……」
ベルトルト「君に話すことで、何か解決策が見つかるのなら」
アルミン「そっか……ユミル、苦しんでるんだね」
ベルトルト「たぶん……」
アルミン「……」
ベルトルト「ユミルから聞いた話だから、又聞きになるし……その、」
アルミン「君が話せる範囲だけでいいよ」
ベルトルト「ごめん……なるべく、話すから」
・・・・・
アルミン「……」
ベルトルト「これが、僕の、聞いた全て……」
アルミン「……うん」
ベルトルト「……」グスッ
アルミン「……ありがとう、話してくれて」
ベルトルト「……ごめん」
アルミン「君が謝ることはないよ……その、今の君がやったことじゃないし」
ベルトルト「わかってる、けど……」
アルミン「お爺ちゃんだって、あの通り元気なんだ」
ベルトルト「うん……」
アルミン「それに君の話だと、悪魔の末裔は僕らの方だし」
ベルトルト「それでも、僕らは……」
アルミン「やめようよ、もう。エレンのお母さんも生きてる。みんな、生きてるんだ」
ベルトルト「……」
アルミン「こんなことなんかで、僕は……もう、友達を失いたくない」
ベルトルト「……アルミン?」
アルミン「え……」
ベルトルト「いや……」
アルミン「……たぶんだけど」
ベルトルト「うん……」
アルミン「君と僕は、友達だったんじゃないかな」
ベルトルト「……そうなのかな」
アルミン「少なくとも、兵士だった頃は」
ベルトルト「……」
アルミン「そんな気がするんだ。だから……」
アルミン「きっと、当時の僕は、君を恨んだだろうね」
ベルトルト「……」
アルミン「だからさ、もう裏切らないでよ?」
ベルトルト「……うん」
アルミン「あー……もう! ほんと、この話信じていいの?」
ベルトルト「僕だって、信じたくないんだけど……」
アルミン「ネットで"巨人"って検索しても、何も引っかからないんだけど」
ベルトルト「過去の文献調べても何もないよ。大きめの図書館まで足を運んだけど」
アルミン「バスケの練習は?」
ベルトルト「してるよ。君のせいで基礎体力作りからやり直しさせられてるけど」
アルミン「うーん、それじゃますますマリア高が勝てなくなるじゃないか」
ベルトルト「マルコも、前世で友達だったなら勘だと思ってたけど気をつけないと、って」
アルミン「勘?」
ベルトルト「あ」
アルミン「なんて言ってたの?」
ベルトルト「……言わないよね」
アルミン「それはどうだろう」
ベルトルト「エレンには気をつけなきゃ、だって」
アルミン「……なるほど」
ベルトルト「ユミルも、マルコにはそこまで詳しく話してないんだけど」
アルミン「まぁ、ね……」
ベルトルト「僕が……殺した、し」
アルミン「あーもう、暗くなるからその手の話はナシね」
ベルトルト「ご、ごめん」
アルミン「で、君の方でも調べたけど手がかりはないんだね?」
ベルトルト「うん……巨人がいたことも、そんな昔に文明があったことも、どこにも書かれてないんだ」
アルミン「ユミルには……聞けないよねぇ」
ベルトルト「聞けないから、君に話したんだろ」
アルミン「だから僕にだってわからないことあるって!」
ベルトルト「座学1位なんだから何か考えてよ」
アルミン「君こそその潜在能力発揮させなよ」
ベルトルト「……ぷ」
アルミン「……はは」
ベルトルト「おかしいな、ほんと昔から君とこうして話してた気がする」
アルミン「にわかには信じがたい話だけど、こればっかりは否定できないよね」
ベルトルト「うん……」
アルミン「そういえば、クリスタと話した時も感じたよ」
ベルトルト「クリスタか……そっちの高校にいるんだっけ」
アルミン「ああ、今度はこっちの話をしなきゃ。そもそも聞きたかったのは、クリスタのことなんだ」
ベルトルト「え、どうして……クリスタは、君たちと友達って、ユミル、が……」
アルミン「……」
ベルトルト「……何かあったの」
アルミン「クリスタが、何か事件に巻き込まれてるかもしれないんだ」
ベルトルト「え」
アルミン「クリスタのこと知ってるユミルなら、何か知らないかと思って」
ベルトルト「事件? こんな、平和なのに?」
アルミン「うん。もし、なんだけど……もしこの前世の話が、関係してたら」
ベルトルト「……まさか」
アルミン「ヒストリア・レイス……だよね」カタカタ
ベルトルト「……」
アルミン「……"レイス家"、なら検索結果に出てくる」
ベルトルト「待って。それクリックしちゃだめだ」
アルミン「あ……そうか、アクセス履歴」
ベルトルト「もし、本当に……関係してるとしたら、レイス家は」
アルミン「2000年前は、壁教関係者なんだっけ?」
ベルトルト「うん。ユミル曰く、王様を裏で操ってたとか」
アルミン「裏……いや、まさか、でも」
ベルトルト「何か思い当たるの?」
アルミン「クリスタが、話したら迷惑かけるから私のことは忘れて、って……」
ベルトルト「そんな、まさか……」
アルミン「どうしよう、これが本当のことだったら」
ベルトルト「……帰ったら、ユミルに聞いてみる。クリスタのことなら、気にすると思うから」
アルミン「うん。何かわかったらすぐに教えて」
ベルトルト「2000年経って……何かが、動いているのかな」
アルミン「そうなの?」
ベルトルト「『今回は色んな奴が集まってきてるな』って、ユミルが……」
アルミン「いつも全員揃ってたんじゃないの?」
ベルトルト「違うみたい。僕とユミル、アニ、ライナーは近くにいることが多いみたいだけど」
ベルトルト「クリスタとは、どうやっても近づけなかったんだって」
アルミン「今回は会おうとすればいつだって……まだ間に合う、何かが起こる前なら」
ベルトルト「もし、クリスタ……ヒストリアとレイス家が関係してるのだとしたら」
アルミン「ユミルの記憶がなくならない原因も、そこにあるかもしれない」
ベルトルト「うん」
アルミン「ユミルに伝えて。クリスタが、ヒストリアが危ないかもしれないって」
ベルトルト「必ず。だからそれまで、下手な動きはしないで」
アルミン「わかってる。僕らはこの時代じゃ、何の力も持たないんだ」
ベルトルト「試しに指先切ってみたけど、巨人化はできなかったし傷も治らなかったよ」
アルミン「……君、意外と馬鹿だったりする?」
ベルトルト「試したくなるだろ……自分が巨人だったなんて言われたら」
アルミン「そうかなぁ……」
ベルトルト「他に聞きたいことある?」
アルミン「うーん……思いついたら、メッセージ飛ばすよ」
ベルトルト「わかった。じゃあ帰るけど」
アルミン「ヘタな真似はしないよ。この膨大なメモを整理はするけどね?」
ベルトルト「うん。くれぐれも、気をつけて」
※ユミルは現在別マガで進んでる話の詳細は知らないという設定です。
・・・・・
アルミン(……まだ話してる最中かな)
アルミン(でも……こんなことが、本当に起こりうるんだろうか)
ピコン
アルミン(!……メッセージ?)
ベルトルト < 起きてるか?
アルミン < 待ってたよ! で、どうだった?
ベルトルト < ごめん、遅くなった
ベルトルト < ユミルと喧嘩して
アルミン < 喧嘩?
ベルトルト < 仲直りはした、今は隣で寝てる
アルミン < そっか
ベルトルト < 1つだけ確認したいんだ
アルミン < なに?
ベルトルト < アルミンは、クリスタのことどう思ってるんだ?
アルミン(え……)
ベルトルト < ただの友達に、命をかけようとは思わないよな
アルミン < どういうこと?
ベルトルト < 危険だからこれ以上関わるな、と言ったらどうする?
アルミン < そう言われたの?
ベルトルト < どうする?
アルミン(……)
アルミン < 忘れてって言われた時、悲しくて、悔しくて、でも
アルミン < 忘れることなんてできるはずなくて、だから僕は君に電話したんだ
ベルトルト < うん
アルミン < クリスタと一緒に学校行って、もっと話をしたい
アルミン < 僕なんかが、口出しすることじゃないのかもしれないけど
アルミン < あんな風に、笑顔を作ってほしくないんだ
アルミン < なんていえばいいかな
アルミン < 何も隠さずに、胸張って、笑って、生きてほしいんだ……
ベルトルト < 好きなのか? クリスタのこと
アルミン(……)
アルミン < 好き、なんだと思う…
プルルルル
アルミン「ちょっと、何言わせ――」
ユミル『よく言えました』
アルミン「…………へ?」
ユミル『ベルトルさんなら泣きつかれて寝てるぞ、隣でな』
アルミン「え? ええ?」
ユミル『こいつが考えそうな暗証番号なんかすぐわかるっての』
アルミン「いや、え、えええええ!?」
ユミル『影でこそこそ計画立ててた罰だと思えよ』
アルミン「いや、そういうわけじゃ」
ユミル『私が協力しなきゃ、どうせお前ら2人で行動するつもりだったんだろ?』
アルミン「……」
ユミル『危険だから私だけでいいってんだが』
アルミン「そんなの、させられるわけないじゃないか」
ユミル『ああ、こいつにも怒られたよ』
ユミル『まさかあんな風に感情出すことあるなんてなぁ。うん、姉ちゃんは嬉しい』
アルミン「ベルトルトは……ユミルのことが心配なんだよ。自分のせいでユミルの記憶がなくならないんじゃ、って……」
ユミル『わーってるよ。こいつの考えそうなことくらい』
アルミン「……」
ユミル『仲直りしたって言ったろ。珍しく私が折れてやったんだ』
アルミン「うん……」
ユミル『しっかし……190cm越えの大男に脅されると迫力あるな』
アルミン「ベルトルトが? 脅したの??」
ユミル『今時流行りの壁ドンされたぜ?』
アルミン「えっと……」
ユミル『"君がどうしても1人でやるっていうなら、僕も手段を選ばない"だってよ』
アルミン「へ、へぇ……」
ユミル『元戦士様のスイッチでも入ったかねぇ』
アルミン「……」
ユミル『気弱さを捨てりゃいい線行くとおもわね?』
アルミン「う、うーん、どうだろ」
ユミル『いや、世の中にはそれがいいって女もいるか』
アルミン「……」
ユミル『で、全てが解決したらお前はクリスタに告るんだよな?』
アルミン「どこからそんな話になるの!?」
ユミル『んだよ、しねぇのか』
アルミン「き、急に言われても」
ユミル『ククッ、早めに言わなきゃ他に取られてもしらねぇぞ』
アルミン「うう……」
ユミル『……嬉しかったよ』
アルミン「え?」
ユミル『お前がそんな風に、あいつのこと見てくれてたことがな』
アルミン「……」
ユミル『手を貸せ。お前の頭が必要だ』
アルミン「うん……!」
ユミル『お前のことだ。何か手はないか考えたりしたんだろ?』
アルミン「えっと……ベルク新聞社に、信頼できそうな記者がいるんだ」
ユミル『ほぅ? ベルク……聞いたことあるな』
アルミン「昔もあったとか?」
ユミル『あった気もするなぁ』
アルミン「もしかして、ユミル……全ては覚えてないの?」
ユミル『あのなぁ、昨日の晩飯じゃねぇんだぞ? 2000年も経ちゃ忘れることもあるっての』
アルミン「ま、まぁそうか。それで、連絡とってみようと思うんだけど」
ユミル『そいつに会うなら私もついてく』
アルミン「うん、お願いするよ。口は君の方がうまそうだ」
ユミル『だてに2000年と80年近く生きてねぇよ』
アルミン「今度からユミルのこと、大お婆ちゃんって言っていいかな」
ユミル『言ってみろよ。末代まで祟って化けて出てやるぜ』
アルミン「……やめとく」
ユミル『クククッ。まぁこいつは忙しいからな、私が主に動くことになるが」
アルミン「忙しい?」
ユミル『今日だって、熱っぽいからって部活休んだんだよ。いつの間にか家抜け出してやがったが』
アルミン「あ……そうだったんだ」
ユミル『文化部は多少休んでも平気だろ?』
アルミン「まぁね。じゃあ明日、さっそく記者の人に連絡入れてみる」
ユミル『ああ。大丈夫だと思うが、保険はかけとけよ』
アルミン「もちろん。最初は公衆電話でも使うよ」
ユミル『よし。じゃあ寝るわ、こいつ起きる気しねぇし……ベッドせめぇ』
アルミン「え……まさか」
ユミル『だから隣にいるって言ったろ』
アルミン「え、えぇ……」
ユミル『姉弟だし問題ねぇよ』
アルミン「うーん……」
ユミル『じゃあな、おやすみ』
アルミン「お、おやすみ……」
ピッ
アルミン「……」
アルミン(起きたらびっくりするんじゃないか、それ……)
ベルトルトの受難。攻略ルートはどっちでもいけるので読者の想像にお任せします
…翌週末、シガンシナ市。
ピュレ「まさかこんなに早く連絡が来るとは思ってもみなかったよ」
アルミン「すみません……いきなり電話しちゃって」
ピュレ「先週の金曜日、イルゼちゃんが『後輩から連絡がいったらよろしく!』って言われてたんだけど、公衆電話からだとはね」
アルミン「その、これは……」
ピュレ「窮屈で申し訳ないけど、車の中で取材させてもらうよ。大丈夫、外からは覗き込まない限り君たちのことは見れないはずだから」
ピュレ「子供を連れて高級料理店に入るわけにもいかないし」
アルミン「……」
ピュレ「……本題に入ろうか。まず最初の案件から」
ピュレ「『政府から情報を規制されることはあるか?』について」
ピュレ「あるとも言えるし、ないとも言える」
アルミン「どういうことですか?」
ピュレ「『今はこの情報を流さないでくれ』と頼まれることはある。政治的圧力がかかることもね」
ピュレ「でもそんなことは出版社としてやっちゃいけないことだ。それに表現の自由で守られているはずだし」
アルミン「……」
ピュレ「だから君の言う『失われた歴史があるかどうか』は……少なくとも、この数十年ではあり得ないよ」
ユミル「この数十年では、か」
ピュレ「2000年前の時代なら、情報規制がされてしまっていたら起こりうるかもしれないけど」
ピュレ「えっと、ユミルだったよね」
ユミル「ああ」
ピュレ「君は、本当に2000年前からの記憶を持っているの?」
ユミル「疑うのも無理はねぇよ。2000年前、この地方に国は存在していなかったことになってるからな」
ピュレ「ふむ……」
ユミル「残念なことに、私の記憶もそのあたりは不鮮明だ。なんせ別の国にいたんでね」
ユミル「いや……最初に死んだ時から次のユミルに転生するまで、100年近く経っちまってたのも理由だ」
ピュレ「原因は?」
ユミル「わからねぇ。ただ、その間にあの国は消えちまった」
ユミル「年号だって850年どころか、100年になってやがったんだ」
アルミン「時が……戻って、いたとか」
ユミル「700年を過ぎても、私が知っている世界とは程遠いものだったよ」
ユミル「考古学者としてこの地を調べたこともある。500年くらい前だったかな」
ユミル「その時は、当時使われていたブレードの破片を見つけることもあった」
ピュレ「しかし開発が進んで、都市が形成されるにつれ」
ユミル「ああ……形跡は失われちまったよ」
ピュレ「けどおかしいな。現代において都市の開発は遺跡発掘の後に行われるはずだし」
ピュレ「もし遺跡が発掘されたら、研究が終わるまで決して開発をしてはいけないはずだ」
ユミル「だから情報規制がなされてないか、って聞いたんだよ」
ピュレ「うーん……建築関係にあたってみるか」メモメモ
ユミル「ゼネコンの発注元に奴らがいたら、賄賂の可能性もある」
ピュレ「なるほどね……そこで2つ目の案件になるわけだ」
アルミン「『レイス家の歴史と構成について』だね」
ピュレ「レイス家は主にシーナに古くから拠点を置いてる、いわゆる財閥だね。最初に登場したのは1000年以上前にもなる」
ピュレ「政府の中にも関係者は多い。でも彼らの規模の財閥は珍しくないよ」
アルミン「でも2000年前は、そうじゃなかった」
ユミル「ああ。少なくとも壁教の中心にはいたはずだ。壁教の中心ってことは、つまり」
アルミン「王政府にも影響を及ぼしていた」
ユミル「ヒストリアもそのごたごたに巻き込まれていた。それが現代でも行われているのだとすれば」
アルミン「僕らを遠ざけた理由にもつながる……」
ピュレ「えーっと、僕にもわかるように説明してくれるかい?」
アルミン「ああ、すみません! えっと、ユミル……」
ユミル「私から話す。お前も又聞きじゃなく直接聞いとけ」
アルミン「うん……」
ユミル「おっと、ボイスレコーダーはなしだぜ」
ピュレ「やれやれ……大変な取材になりそうだ」
・・・・・
ピュレ「……困ったな、そんなことが本当に2000年前に?」
ユミル「ああ。でもなんで消えちまったんだ……私が死んだ後、何が起きたんだ」
ユミル「あいつは、自分の足で自由に生きたんじゃねぇのかよ……!」
アルミン「ユミル……」
ユミル「……くそっ」
ピュレ「記憶の改ざん能力……もしそれがレイス家のものだったとして」
ピュレ「うーん、この辺のやり取りは君も知らないんだよね」
ユミル「ああ。その時、私はヒストリアの近くにはいなかったからな」
ユミル「お前が覚えていてくれたらなぁ……」チラッ
アルミン「無茶言わないでよ……」
ピュレ「確定しているのは、アルミンを含めて『話したことがある』と感じるってことと」
アルミン「クリスタがユミルを見て、何かを感じて泣いてしまうこと」
ユミル「……」
ピュレ「証言としては薄いなぁ。ユミルの妄想に君たちが影響されてしまったとも取れなくはない」
アルミン「そんな……!」
ピュレ「僕は信じるけどね。でも多くの大人は無理だろう」
アルミン「……」
ユミル「だろうな。だからレイス家の裏を取ることができればいい」
ピュレ「それなら大スクープだろうね。政権が大きく揺らぎかねないよ」
ユミル「期待してるよ。真実を伝えるのがあんたらの仕事だろ」
ピュレ「ああ。創作話を書くわけにはいかないからね」
ユミル「で、頼んだのはもう1個あるよな」
アルミン「え?」
ピュレ「やれやれ……こんなことしたくないけど、はい」
アルミン「携帯……?」
ユミル「お前と私の分だ。連絡取るのに必要だろ」
ピュレ「未成年の君たちは親の承諾が必要だからね。だから彼女から頼まれてたんだよ」
アルミン「それでピュレさんの携帯教えろって言ったの……」
ピュレ「費用落とすのにロイさん説得させるのどれだけ苦労したか……」
ユミル「スクープ取れたらチャラにできるだろ?」
ピュレ「これで何もなければ、僕は左遷だぁ」
ユミル「ちょっと耳貸せよ」
ピュレ「はい?……………ええ、それ本当!?」
ユミル「調べてみな。情報筋は明かすなよ」
ピュレ「こ、これは大変だ……さっそく戻って調べにかからないと」
ユミル「こっちの調査忘れんなよ?」
ピュレ「も、もちろん!」
アルミン「……何を教えたの」
ユミル「某暗殺事件の黒幕について」
アルミン「……」
ユミル「家政婦は見たってやつだ」
アルミン「頭痛くなってきた……」
ピュレ「ああ、今日はアルミンに取材ってことでいいかな」
アルミン「え……」
ピュレ「ピクシス先生期待の新人!ってことでね」
アルミン「そ、そんな」
ピュレ「イルゼ君にはオッケー貰ってるよ。期待の新人2人現る!ってね」
アルミン「うう……」
ピュレ「大丈夫、地方版にしか載せないよ」
ユミル「ククク、良かったじゃねぇか。クリスタにアピールできるぞ」
アルミン「やめてよ……」
ピュレ「よし、帰って記事に取りかからなきゃ! 情報ありがとう!」
ユミル「ああ、調査は頼んだぜ」
…12月、ローゼ高体育館。
アルミン「ミカサ」
ミカサ「アルミン……来てくれたの」
アルミン「トロスト市の写真撮りにきたついでにね。試合……もうすぐ終わるのかな」
ミカサ「……」
アルミン「だいぶ、差がついちゃってるね」
ミカサ「……ベルトルトの動きが良くなってる」
アルミン「今まで体力がなくて力をセーブしてたみたいだから……」
ミカサ「……マリア側の、連携もうまくいってない」
アルミン「え? オルオさんたちの連携はウチの売りだったよね?」
ミカサ「ジャンが……うまく、合わせられていない」
アルミン「……」
ミカサ「指揮権はエルドさんに戻されているけれど、でもそれだと」
アルミン「ジャンが余計に動きづらくなってるのか……」
ミカサ「うん……」
アルミン(こないだのリヴァイさんの試合を観に行って、4人は親睦を深めることができた。それが原因だろうけど)
アルミン「エレンは……?」
ミカサ「エレンも、合わせるのに必死で、周りが見えていない」
アルミン「……」
ミカサ「悪循環」
ピーッ!
アルミン「……負けちゃったね」
ミカサ「うん……」
エレン「あー、くそ、あと少しなのに……」
ジャン「……何が少しだってんだ」
エレン「あと少しで何か掴める気がすんだよ」
ジャン「そうかよ」
エレン「お前こそ調子悪いんじゃねぇの」
ジャン「……」
エレン「おい」
ミカサ「エレン、タオルを」
エレン「おう、サンキュ」
ミカサ「……ジャンも」
ジャン「え……」
ミカサ「冬は体を冷やしやすい。すぐに拭いた方がいい」
ジャン「あ……ありがとよ」
ミカサ「……エレン」
エレン「ん?」
ミカサ「少し、リヴァイさんの影響を受けすぎているように見える」
エレン「なんだよ」
ミカサ「その、うまく言えないのだけれど……」
エレン「尊敬する人の真似しちゃ悪いってのかよ」
ミカサ「……でも」
ジャン「いいんだよ。やらせてやれよ」
アルミン「ジャン?」
ジャン「……どうせできっこねぇんだ」
エレン「どういう意味だよ」
ジャン「そのまんまだが? 自分の身の丈すらはかれねえ奴は体で覚えるしかねえだろ」
エレン「んだと?」
アルミン「ちょ、ちょっと、やめなよ」
ジャン「ケッ」
エレン「ふん」
…ユミル・ベルトルトの家。
アルミン「――ということがあって」
ユミル「ふーん」
アルミン「ピュレさんの捜査はまだ続いてるみたいだし、もうすぐ期末テストだし……」
アルミン「喧嘩なんかされちゃ、気が気でないよ……」
ユミル「あいつらの喧嘩は2000年前から続いてんだよ」
アルミン「でも……」
ユミル「ま、間に入ってた奴が当時はいたけどな」
アルミン「誰?」
ユミル「みんなの兄貴。今はアニのアニキだけどよ」
アルミン「アニのお兄さん?」
ユミル「私と同い年だ。高校卒業したら軍隊に入るってよ」
アルミン「へぇ……」
ユミル「でも今回は接点ねぇな、お前らと」
アルミン「うう……どうすればいいかな」
ユミル「知るかよ。そういうの得意じゃねぇんだ」
ベルトルト「……あのさ」
ユミル「おう、待ちくたびれたぞ」
ベルトルト「疲れてる人間に夕飯作らせるって、どうなの……」
アルミン「わあ、おいしそう。ほんとベルトルトって何でもできるよね」
ユミル「だろ? いい嫁になるよな」
ベルトルト「はぁ……」
アルミン「いただきまーす」
ユミル「まーす」
ベルトルト「……いただきます」
アルミン「うん、美味しいよ!」
ベルトルト「……ありがとう」
ユミル「でも、ジャンが放っておけっていうならそれでいいんだろ」
アルミン「そうなの?」
ユミル「あいつ、昔から周りを良く見てるからよ。今はうまくいってなくても、数ヶ月先のこと見てんじゃねぇの」
アルミン「……」
ユミル「つーことで、お前も練習の手抜くなよ?」
ベルトルト「抜いてないよ。期末テストの方もね」
ユミル「よろしい。ほんと出来る弟だお前は」
ベルトルト「……はぁ」
ユミル「ん?」
ベルトルト「なんでも……」
ユミル「なんだよ」
ベルトルト「進捗があったら教えてよね」
アルミン「うん。ピュレさんにはユミルにじゃなく先に僕に連絡するように言ってあるよ」
ユミル「あ? なんでそうなる」
アルミン「だって、ユミル1人で暴走しかねないでしょ?」
ユミル「……しねぇよ。さてはお前の指図か」
ベルトルト「出来る弟からの配慮だよ。ありがたく受け取っておいて」
ユミル「いらねー」
アルミン「でも連絡受けたら、僕らに教えながら1人飛び出して突撃しそうだよね」
ベルトルト「間違いなくね」
ユミル「信用されてねぇなぁ……」
アルミン「ピュレさんもそうした方がよさそうだね、だって」
ユミル「……」
アルミン「クリスタ助けるために巨人になったんだったっけ?」
ユミル「……」
ベルトルト「会いたいからって僕を脅したとか」
アルミン「日頃の行いだよね」
ベルトルト「そういうとこ今も変わってなさそうだし」
ユミル「ああーうるせぇ、とっとと食って期末テストの勉強でもしろ!」
アルミン「体力には自信ないけど、期末テストの自信はあるなぁ」
ベルトルト「僕も」
ユミル「こんの、優等生どもがぁぁぁぁあ!」
…12月半ば、マリア高校。
サシャ「やりました! なんとか乗り切れました! アルミン先生のおかげですね!」
コニー「……40点の壁は高いな」
エレン「くっそ……あと少しだったのに!」
アルミン「37点かぁ……」
ミカサ「……冬休みに講習受けないと」
エレン「ああ……部活になんて言おう」
ミカサ「正直に話すしかない。1日2時間の補講受けるだけでいいのだから」
エレン「その2時間、練習してぇよ」
ミカサ「試験前まで何もせず一夜漬けしたあなたが悪い」
エレン「母さんみたいなこと言うなよ」
ミカサ「……」
エレン「……ネス先生に話してくる」
ミカサ「……うん」
アルミン「ねぇミカサ、ちょっといい?」
ミカサ「?」
アルミン「エレン、あれからバスケの調子はどう?」
ミカサ「試験が始まってしまったから、家で筋トレしかできていないみたい」
アルミン「なるほど……なら、解決できてないのか」
ミカサ「うん……」
アルミン「ジャンは何か言ってるの?」
ミカサ「ジャン? ひょっとして知ってるいるの?」
アルミン「え、なにを?」
ミカサ「あ……」
アルミン「何かあったの?」
ミカサ「……エレンには言わないでほしい」
アルミン「うん」
ミカサ「実は、ジャン……最近マルコと練習するとかで」
アルミン「マルコと?」
ミカサ「うん。ジャンは、どちらかというとローゼ高校の方が近いから」
ミカサ「自分が他の4人とうまくやれないことが、なんていうか」
アルミン「悔しかったのかな」
ミカサ「たぶん。それでマルコに相談もしたらしい」
ミカサ「その時マルコに言われたのが、ジャンは弱い人の気持ちがわかるから、エレンの気持ちがわかるだろ、って」
アルミン「ジャンが弱い?」
ミカサ「昔、ジャンはいじめにあっていたらしい」
アルミン「もしかして、マリア高を選んだのは」
ミカサ「本人はいじめに屈せずにバスケに打ち込むことで今の実力があると言っていた」
アルミン「……」
ミカサ「だから、リヴァイさんに憧れる気持ちも、真似をしたくなる気持ちも、オルオさんたちと息をあわせたがるのも、わかると」
アルミン「でも、それじゃ……」
ミカサ「今は我慢の時だと言っていた。その時が来れば、力を貸してほしいと」
アルミン「……」
『あいつ、昔から周りを良く見てるからよ。今はうまくいってなくても、数ヶ月先のこと見てんじゃねぇの』
アルミン(本当に……よく見てる)
アルミン「でも、それだとジャンが」
ミカサ「うん。だから、時々練習に付き合ってくれないかと頼まれた」
アルミン「……」
ミカサ「エレンに内緒で、新しい技を完成させると」
アルミン「それは……うん、ジャンにはいい機会だとは思うけど」
アルミン(こ、今後のためなんだよね)
ミカサ「……エレンには」
アルミン「わかってるよ。春の試験は赤点取らせないように僕も助力するから」
ミカサ「ありがとう」
アルミン「あ、電話だ。ちょっと出てくるね」
ミカサ「うん」
アルミン(ここなら誰もいないな……よし)ピッ
アルミン「もしもし?」
ピュレ『やあ、元気だったかな?』
アルミン「忘れたんじゃないかと思いましたよ……」
ピュレ『ははは。こないだの記事は見てくれたかい?』
アルミン「イルゼ先輩と。先輩、ものすごく興奮してました……」
ピュレ『おかげで次のスクープも好きにやらせてもらえることになったよ。彼女には感謝しないとかな』
アルミン「それで……」
ピュレ『……適当に相槌打ってほしいんだけど』
アルミン「あ、はい」
ピュレ『やはり、裏取引があるみたいだね』
アルミン「そう、ですか……」
ピュレ『驚かないね?』
アルミン「覚悟はしていたというか」
ピュレ『ふむ。小鳥ちゃんは元気そう?』
アルミン「?……あ、たまにすれ違う程度でしか会えないので、でも」
ピュレ『……』
アルミン「元気、そうには……してます」
ピュレ『ふむ』
ピュレ『まだ調べきれてないけど……あの名前の戸籍は一族に存在してないんだ』
アルミン「……」
ピュレ『ちょっと調べるのに時間がかかりそうだよ。と言っても、アテはあるんだけど』
アルミン「そうですか……その、大丈夫なんです?」
ピュレ『ああ、大丈夫。辞表もすでにロイさんに渡してある』
アルミン「え」
ピュレ『何かあっても会社には迷惑かけない。もちろん君たちにもね』
アルミン「そんな、でも」
ピュレ『この事件は僕が取り上げなきゃいけない気がするんだ。ひょっとして前世の記憶なのかな?』
アルミン「……」
ピュレ『これが事実なら、世界が大きく揺れることになる』
ピュレ『僕の書く記事が、世界を動かすんだよ』
アルミン「ピュレさん……」
ピュレ『大丈夫。その瞬間を見るまでは死ぬに死ねないからね!』
アルミン「はは……」
ピュレ『じゃあ、年をまたぐことになると思うけど、お年玉は用意しておくよ。では、良い年を』
アルミン「はい。良い年を」
ピッ
…1月3日。
アルミン「ふぁぁ……」
爺「まだ眠そうじゃのぅ」
アルミン「おはよう……あれ、珍しいね。マラソンじゃないの?」
爺「今朝はこのニュースばかりでのぅ。会見が始まるぞい」
アルミン「会見?」
『これより、スミス氏の会見が始まります。インタビューを試みます』
エルヴィン『本日報道各社にお集まりいただいたのは、先日お送りした"資料"に関することをお話するためです』
『"資料"の入手先は?』
エルヴィン『それを今お答えすることはできません。ですが"資料"によるとかつてこの地には3つの都市が存在し――』
アルミン「!? これは……」
爺「あいてぃー?企業だったかのぅ? スミス社の社長さんが実は古物収集が趣味だったようじゃが」
爺「その縁で知り合った友人から、この地に関することを書いた古文書を譲り受けたとか」
アルミン「そう、なんだ……」
アルミン(これは、すごいお年玉だよ……)
エルヴィン『――もし皆様の手にこの件に関する書物ないし資料があるなら、ご提供をお願いしたい。無論、それなりの報酬はお約束致します』
エルヴィン『我が社が全力を持って。この地に隠された、真の歴史を解き明かします』
プルルルル…
アルミン「! ……もしもし」
ユミル『見てるか?』
アルミン「うん……すごいことに、なってきたね」
ユミル『ああ。しかしまさか、奴が出てくるとはな』
アルミン「奴?」
ユミル『お前、今、1人か?』
アルミン「えっと……部屋に戻る―――――うん、いいよ」
ユミル『こないだ調査兵団の話はしたが、あいつは調査兵団の団長だったんだよ』
アルミン「もしかして……」
ユミル『記憶を持っている可能性も高い。が、だったら何故今になって出てきたって話だ」
アルミン「古物収集が趣味だって聞いたけど……」
ユミル『もしかしたら記憶が薄っすら残っている程度なのかもな』
アルミン「……」
ユミル『確証を得たくて個人的に収集していたが、ピュレからの情報が入って何か思い出したか』
アルミン「ピュレさんからはまだ連絡来てないけど……」
ユミル『だったら、まだ動くなってことだろ』
アルミン「うん。スミス社長のところで情報を集めるつもりなんだろうね」
ユミル『じれったいが仕方ねぇ。連絡入ったらすぐこっちにも寄こせよ』
アルミン「もちろん」
ユミル『あとな』
アルミン「?」
ユミル『あいつのこと、頼む。すぐに動きだすことはないだろうが、何かしらあるかもしれん』
アルミン「うん」
ユミル『お前の方が今は近い。頼りにしてるぜ』
アルミン「だから先に会っていれば良かったのに……」
ユミル『うっせぇ。とにかく頼んだからな!』
ツー、ツー、ツー…
アルミン「……」
アルミン(今、僕が出来ること……)
アルミン(ピュレさんにメール、かな……下手に動くことはできないし)
アルミン(いや……)
アルミン「おじいちゃーん、ちょっと僕、外に写真撮ってくるね!」
爺「気をつけてのぅ」
…ツヅク。海外のはずなのに正月とかTV番組が日本っぽいのは仕様です。
風邪なんか知らない。むしろ風邪引くと書きたい。牛歩で、続けます。
…シガンシナ区。
アルミン(カメラ持って出てきたのはいいけど……会えるわけ、ないよなぁ)
アルミン(わずかな可能性に賭けてみたけど……!?)
アルミン「ク、クリスタ!?」
クリスタ「え……アルミン?」
アルミン「奇遇だね! あ、あけましておめでとう!」
クリスタ「お、おめでとう」
アルミン「昨日雪降ったからさ、写真撮ってたんだ。いい題材だと思ったんだけど、気づいたらこんなとこまで来ちゃってたや……」
クリスタ「ふふ。考え事と撮影中は周りが見えなくなるからね」
アルミン「あはは……そういえば、今朝のニュース見た? このあたりにも、昔は都市が存在していたのかな?」
クリスタ「あ……」
アルミン「写真撮りがてら何か手がかりがないかなと思って。あればスミス社に送って、お小遣いになればなー、と」アハハ
クリスタ「……そう」
アルミン「クリスタ……?」
クリスタ「あのね、さっきシーナにいる両親から連絡があって」
アルミン「……うん」
クリスタ「学校、3月までで引っ越すことになったんだ」
アルミン「え」
クリスタ「ほんとは今すぐって言われたんだけど、せめてみんなとお別れする時間が欲しいって、わがまま言っちゃった」
アルミン「クリスタ……」
クリスタ「少しくらい……いいよね。もう、会えないんだもの」
アルミン「会えないって……」
クリスタ「……ごめんなさい。これ以上、詳しくは、」
アルミン「ねぇ、クリスタ」
クリスタ「?」
アルミン(周りに人影はない。でもどこかで聞き耳を立てているかもしれない)
アルミン「あの、さ。写真、1枚撮らせてくれないかな?」
クリスタ「え?」
アルミン「君が、ここにいた事実を。友達だから……残したいんだ」
クリスタ「……」
アルミン「……ダメかな」
クリスタ「……いいよ。1枚だけなら」
アルミン「ありがとう。うう、でも緊張するなぁ……えっと、ほんとに1枚だけ?」
クリスタ「1枚だけ! 何枚もだなんて恥ずかしいじゃない?」
アルミン「よーし、なら撮影ポイントはこだわらせてよね!」グイッ
クリスタ「ちょ、アルミン、どこいくの?」
アルミン「……このまま、少し走りながら聞いて」ヒソッ
クリスタ「え……」
アルミン「君が今置かれている状況、たぶん僕はほぼ正確に把握してるよ。……ヒストリア」
クリスタ「!? どうして、それを」
アルミン「やっぱり。君が気になってた人から全て聞いたんだ」
クリスタ「……」
アルミン「彼女はクリスタのことを知っていた。いや、正確には君の前世のことなんだけど」
クリスタ「前世……」
アルミン「僕らは、前世で知り合っている。彼女には記憶が完全に残っていて、僕らも、僅かだけれども」
アルミン「今朝のニュース、あれは、僕も一枚かんでる。むしろ僕が動いた結果、かな」
クリスタ「やめて、私、人を、巻き込みたくない」
アルミン「さっき、わがままって言ったけど」
アルミン「クリスタ……君は、ここに残りたいんじゃないの?」
クリスタ「……」
アルミン「僕は、君と友達だと思ってる。友達とは、一緒にいたい」
アルミン「君は、どうしたいの?」
クリスタ「私は、私は……」
クリスタ「わからない、でも、私が望むことで人が傷つくのは嫌なの」
アルミン「はは、それなら大丈夫。なんたって、座学トップの僕が考えてるんだからね」
クリスタ「でも……」
アルミン「仲間も沢山いるんだ。会ったことない人も多いけど、僕らは、繋がってる。そして僕は、それを知っている」
クリスタ「……」
アルミン「はぁ、はぁ……ついた!」
クリスタ「公園……?」
アルミン「ここは日当たりもいいし、絶好の撮影場所だよ。うーん、どこにしようかなぁ」
クリスタ「……」
アルミン「よし! クリスタ、ここに立って!」
クリスタ「うん……」
アルミン「……」
アルミン(1枚だけ……大丈夫、うまくやれる)
アルミン(平常心、いつも通りだ。大丈夫、大丈夫……)
アルミン「……」
クリスタ「アルミン……?」
アルミン「うーん、表情が硬いなぁ……そんなに不安がらなくても、ちゃんと撮るよ?」
クリスタ「……」
アルミン「信じてよ」
クリスタ「……信じる?」
アルミン「うん。僕を、みんなを」
クリスタ「……」
アルミン「……」
クリスタ「……うん」
アルミン「! よし、約束だよ。いい写真撮ってみせるから!」
…カシャ
アルミン「……」
クリスタ「ど、どう?」
アルミン「……もう1枚、ダメ?」
クリスタ「だーめ。というか……私じゃ、ないみたい」
アルミン「そうかな? いい表情してると思うけど」
クリスタ「うーん……」
アルミン「これが今の僕にできる、精一杯かな。春になったら、もっといい写真撮るよ」
クリスタ「1枚だけじゃないの?」
アルミン「今は、ね」
クリスタ「酷い。騙したのね」
アルミン「人聞きが悪いなぁ。なんだったら毎日撮ろうか? 写真に慣れるのも大事だよ!」
クリスタ「毎日は、ちょっと……」
アルミン「じゃあ春にもう1枚ね」
クリスタ「……なんだか騙されてる気がする」
アルミン「ふふ。あ、まって、服に葉っぱが」スッ
クリスタ「……!」
アルミン「……うん、取れた」
クリスタ「……ありがとう」
アルミン「学校始まったら、教室まで持っていくね!」
クリスタ「……うん。じゃぁ私、そろそろ帰らなきゃ」
アルミン「ごめんね、いきなり連れ出しちゃって」
クリスタ「ううん。写真、楽しみにしてるね」
アルミン「よし、僕はこのまま駅まで撮影しに……いや、僕も一度帰って今の写真を保存するかなぁ」
クリスタ「ふふ。風邪引かないようにね」
アルミン「ありがとう。じゃ、また学校でね!」
アルミン「……」
アルミン(クリスタのポケットに、ピュレさんから貰った携帯の番号とメールを書いた紙を入れたけど)
アルミン(大丈夫、気づいてくれてる。会えた時に渡そうと思って持ち歩いてて良かった……)
アルミン(春まで。春までに、決着をつけなきゃ)
…マリア高。
エレン「よっ、アルミン」
アルミン「おはよう、エレン。今日は早いね」
エレン「今日は朝練なくってよ。……ミカサまだ来てないのか?」
アルミン「一緒に来たんじゃないの?」
エレン「いや……どうも1人で先に家を出たらしいんだが」
アルミン「……」
エレン「走り込みでもしてんのかな」
アルミン「ねぇ、エレン」
エレン「ん?」
アルミン「バスケ、最近どう?」
エレン「あー……」
アルミン「練習は?」
エレン「してるよ。してる、けど……」
アルミン「うまく、いかない?」
エレン「まぁ、な」
アルミン「……ちょっと来て」
エレン「お、おい、アルミン!?」
…体育館。
エレン「おいアルミン、どこ行くんだよ」
アルミン「シッ。静かにして」
「くっそ……まだまだ!」
「……ふっ」
エレン「……」
アルミン「トロスト市からマリア高に通うのは、結構大変だよね」
アルミン「君には教えるなって言われたんだけど」
エレン「……いつから」
アルミン「僕がミカサに聞いたのは、1ヶ月くらい前かな」
エレン「……」
アルミン「エレン、」
エレン「行くぞ」
アルミン「……」
エレン「……」テクテク
アルミン「……」テクテク
エレン「……なあ」
アルミン「……うん」
エレン「どうすりゃいい?」
アルミン「さぁ?」
エレン「さぁ、って……」
アルミン「どうすればいい、じゃなくて、どうしたいか、じゃないの?」
エレン「……」
アルミン「正直、今の僕は自分のことで精一杯なんだ。ミカサが誰と一緒にいようが関係ないよ」
エレン「なんだよそれ」
アルミン「聞いてエレン。僕、クリスタに告白する」
エレン「は? え?」
アルミン「4月になったら、彼女、シーナに戻るんだ。だから僕は……」
エレン「え、ちょっと待て、引っ越すのか?」
アルミン「家庭の事情でね」
エレン「いや、それは……まぁ、うん、わかった。てかお前、クリスタのこと好きだったのかよ」
アルミン「…………」
エレン「…………」
アルミン「はぁ……エレン、君はもう少しバスケ以外のことにもアンテナを張るべきだよ」
エレン「う……すまん」
アルミン「それまでに僕に出来ることをしようと思う。その上で、告白する」
エレン「……」
アルミン「だから、君たちのことに構ってられないんだ」
エレン「……そっか」
アルミン「うん」
エレン「仕方、ねぇよな。オレが悪いんだからよ」
アルミン「ま、今の君よりはジャンの方がしっかりしてるかな」
エレン「お前なぁ……いや、そう、なんだろうな。オレ、なんもできてねぇし。勉強もバスケもさ」
アルミン「……」
エレン「どうすりゃいいんだろな……どうしたいか、だったか……」
アルミン「とりあえず、勉強は日々の積み重ねだよね」
エレン「ああ……バスケ、どうすりゃうまくなるんだろ。練習してもなんか違うっていうか」
アルミン「僕以外の人には聞いてみた?」
エレン「エルドさんやグンタさん、オルオさんにも聞いたし……ペトラさんにも」
アルミン「ふむ……」
エレン「練習一緒にしてくれたりするんだけどさ……」
アルミン「ジャンには?」
エレン「聞けると思うか?」
アルミン「解決策は一番知ってそうだけど?」
エレン「あいつに聞くくらいなら、ローゼ高の連中に聞いた方がマシだ」
アルミン「それも有りだと思うけど…………あ、」
エレン「あ?」
アルミン「そうだ、リヴァイさんって……スミス社と契約してたんだっけ」
エレン「ん? そうだけど……」
アルミン「エレン! リヴァイさんに聞いてみようよ!」
エレン「は? 無理に決まってんだろ」
アルミン「連絡先は知らないの?」
エレン「聞いたけどよ……」
アルミン「前言撤回だ。僕も力になってみせる」
エレン「ん……?」
アルミン「だから、僕のことも助けて欲しい」
エレン「いや、それはいいけどよ。何すればいいんだ?」
アルミン「リヴァイさんの連絡先を教えてくれ」
エレン「はあ?」
アルミン「いいからいいから。交渉は任せてくれ」
エレン「はぁ……コレだけどよ」
アルミン「090……っと」
プルルルル…
エレン「おい」
アルミン「あ、突然のお電話失礼致します。マリア高校1年のアルミン・アルレルトと申し……ええ、エレンの友達で」
エレン「お、おい」
アルミン「彼に番号を聞きしまして。はい、はい……」
エレン「……」
アルミン「えっと、バスケのこともなんですけど、"巨人"についてご興味は――……はい! はい!!」
エレン「なんなんだよ……」
ピッ
アルミン「今日の夕方来てくれるって!」
エレン「シ、シーナから!?」
アルミン「うん。こっちに来る予定があったから、寄ってくれるってさ」
エレン「マジかよ! よっし……ああ、何聞こう!」
アルミン「今日の授業、ちゃんと受けるんだよ?」
エレン「ドリブル……シュート……いや、チームプレイ? 練習方法もか……」
アルミン「……聞いちゃいないね」
アルミン(ユミルの話では、リヴァイさんは調査兵団の兵士長。エルヴィン団長の右腕だったはずだ)
アルミン("巨人"については、まだ発表されていない。それで食いついてくれたってことは、リヴァイさんも何かを知っている)
アルミン(……繋がっている。ただ、手の内はまだ全て明かしてはならない。ここは慎重に事を運ばないと……)
アルミン「……」
アルミン「人のこと言えないな。僕も今日の授業は身に入らなさそうだ」
…放課後、体育館。
ペトラ「なんでリヴァイさんがここに? え、どうして?」
ハンジ「やあペトラ! 相変わらず綺麗だね、そして……うんうん」サワサワ
ペトラ「ハ、ハンジさん!?」
ハンジ「いい体してるよね、君。ここなんて、ほら」プニッ
ペトラ「もう、やめてください! 二の腕は!」
オルオ「…………くそっ」
アルミン「あの方は……?」
オルオ「リヴァイさんがマリア高にいたころのマネージャーだ。今はスミス社でリヴァイさんと一緒に働いているらしいが」
アルミン「はぁ……ま、女子のじゃれ合いですから」
オルオ「……」
アルミン「?」
グンタ「女子、か」
アルミン「え?」
エルド「マリア高の七不思議の1つだな」
アルミン「え??」
ハンジ「何か言ったかい?」
アルミン「ひっ!」
ハンジ「やあ、君がアルミン君だね?」
アルミン「あ……は、はい」
ハンジ「シガンシナに名医がいるっていうからついでに寄ったんだけど……」
ハンジ「リヴァイから話は聞いてるよ。面白い考察をしているそうじゃないか」
アルミン「あはは……どうも。名医って、ひょっとして」
ハンジ「グリシャ・イェーガー。エレンのお父さんだったとはね。これも縁かなぁ」
アルミン「どこか悪いんですか? リヴァイさん」
ハンジ「まさか? リヴァイは怪我しても驚異的な回復力で治っちゃうよ」
アルミン「じゃあ……」
ハンジ「でもいつ大怪我するかわからないからね。挨拶しておこうと思って」
アルミン「……」
ハンジ「じゃ、君たちはリヴァイにみっちり教えてもらってきなよ。私はこの子と歴史について熱く語り合いたいんだ!」
エルド「そういえば……ハンジさんは歴史マニアでしたか」
ハンジ「ふふ……歴史もいいけど、一番は生物学だね。特に人体の――」
グンタ「さ、俺たちも練習しよう。エレンにばかりリヴァイさんの相手させられんぞ」
ハンジ「ちぇ、つまんないなぁ」
アルミン「……」
ハンジ「……さて、本題に入ろうか。君はどこからあの話を得たのかな」
アルミン「ハンジさん……いや、スミス社長はどこまでご存じなんです?」
ハンジ「んん? ひょっとして信用されてない?」
アルミン「過去の歴史を紐解いて、何をなさろうとしているんですか」
アルミン(企業をあげての歴史解明だなんて、個人の趣味の範囲を超えている)
アルミン(スミス社長……調査兵団、団長エルヴィン・スミスは、その容赦ない手腕で貴族をも圧倒したという)
アルミン(いち企業の社長に収まっているだけの存在か? いや、歴史を利用して何か企んでいるかもしれない)
アルミン(リヴァイさんではなく、ハンジさんを僕に寄越したのは……ハンジさんが、この件を裏で担当しているということだろうけど)
アルミン(うう、この人も調査兵団関係者、だったはずなんだけど思い出せない。もう少しユミルから聞いておくんだった)
ハンジ「ふぅむ……真実を突き止めたい、だと満足のいく回答にならなさそうだね」
アルミン「……」
ハンジ「エルヴィンの考えることは私なんかじゃ計りかねるよ。私はただ、彼が欲しいといった情報を集めているだけにすぎない」
アルミン「欲しい情報……」
ハンジ「これを見てくれるかい?」スッ
アルミン(スマホ……画像?)
ハンジ「これが何の"装置"か、君は知っているね?」
アルミン「初めて、見ましたが」
ハンジ「そう。なら、これは?」
アルミン「……剣?」
ハンジ「黒金竹で作られたブレードだよ」
アルミン「黒金竹? 実在したんですか!」
ハンジ「この時代になって、黒金竹の産地は確認されていない。が、書物には幾たびか登場していた」
ハンジ「鉄よりも硬い植物だなんて存在するはずないとされていた。けど」
アルミン「ブレードと、この装置……」
ハンジ「そう。このブレードと装置に初めて出会った時、エルヴィンは確証したんだ」
ハンジ「『誰かが歴史を隠蔽しようとしている』ってね」
アルミン「歴史の、隠蔽……」
ハンジ「誰が何の目的でやっているのか。それを解明したところで何がしたいかまでは、残念ながら私にはわかりかねるよ」
アルミン「……」
ハンジ「さて、次は君が話す番だと思うけど」
アルミン「……"巨人"」
ハンジ「……」
アルミン「このブレードと装置は、"巨人"を倒すためのもの。違いますか?」
ハンジ「……その通りだ。2000年も昔に、こんなものを作れる技術があったとは信じがたいことだけれどもね」
アルミン「これが、僕の知っているものだとすれば……『立体機動装置』と呼ばれていたはず」
アルミン「我々人類は、2000年前、立体機動装置を用いて"巨人"と戦争をしていた」
ハンジ「当時の記録はほとんど残されていないんだ。
数少ない記録に書かれていることが真実か判断するための材料が、とにかく足りてなくてね」
ハンジ「巨人が世界を闊歩していたのも驚きだし、50mの壁に覆われていたことも信じがたい」
ハンジ「誰かが隠そうとしている。けれど、隠しきれずなかったものがやはり存在している」
アルミン「ベルク社の記者には?」
ハンジ「彼は情報元を明かしてくれなかったよ。それにまだ全てを聞いたわけじゃない」
アルミン「彼に……ピュレさんに話をしたのは、僕です」
ハンジ「……なるほど。できることなら、話の入手経路と詳細も教えて欲しいんだけど」
アルミン「入手経路を教えることはできません。ですが」
ハンジ「……」
アルミン「僕は、ある人を助けたいんです」
ハンジ「助ける?」
アルミン「歴史の隠蔽、それに巻き込まれている人がいます」
アルミン「過去の歴史に縛り付けられて今を生きるだなんて、そんなの……間違ってる」
ハンジ「人は過去を知り、そこから過ちを学び未来へ生かすことができる唯一の存在だと思うけれど」
アルミン「でも、断ち切る勇気も必要ではありませんか? 未来を、歩むために」
アルミン「古きを温め、新しきを知る。それも大切なことです。ですが……」
アルミン「過去に囚われていては、先には進めない」
ハンジ「……助けたい人というのは?」
アルミン「言え、ません……まだ」
ハンジ「まだ、か」
アルミン「その辺は、ピュレさんから聞いてください。今や僕よりも詳しいはずなので」
ハンジ「ふーむ、新しい情報は特になしかぁー……」
アルミン「す、すみません……期待させておきながら」
ハンジ「いいや。私が君の立場なら、同じことをしたと思うよ」
ハンジ「私のことを信用しないことで、かえって私は君のことを信用した」
ハンジ「少なくとも、君は歴史を隠蔽する側の人間ではない、ってことはわかったしね」
ハンジ「後はあの坊やにでも聞くとするよ。酒は弱いといいなぁ」
アルミン「あはは……」
ハンジ「でも、相当焦ってるんだね、君」
アルミン「え」
ハンジ「スミス社からの刺客がいたらどうするつもりだったんだい?」
アルミン「それは、その……」
ハンジ「考えていなかった、か。もしくはそこまでする人間ではないと、信頼する材料があったか」
アルミン「う……」
ハンジ「あはははは! それほどまで守りたい人かぁ…………彼女とか?」
アルミン「ち、違います!」
ハンジ「うーん、顔が赤いよ。若いっていいなぁ」
アルミン「うう……」
ハンジ「なるほど、君の事情は大体掴めたよ。その人を守るために、多少の危険は仕方ないということだね」
アルミン「はい……春までには、決着をつけなきゃいけなくて」
ハンジ「春? 転校しちゃうとか?」
アルミン「黙秘します」
ハンジ「ふふ。しかし……春まで、か。こちらも急がないといけなさそうだ」
アルミン「その、僕に出来ることは」
ハンジ「情報を提供してほしいところだけど、そうもいかないんだよね?」
アルミン「はい……すみません。色々確認したいこともあるので、今はまだ」
ハンジ「ま、いいや。これ私の連絡先。何かあったら」スッ
アルミン「ありがとう、ございます」
ハンジ「はぁー……しっかし、巨人かぁ……」
アルミン「本当に、いたんでしょうか」
ハンジ「いるよ! きっと! その方がロマンあふれるじゃないか!」
ハンジ「十数mの通常種に、50mの壁、60mの超大型巨人……! 嗚呼、考えるだけで興奮してきた!!」
アルミン「……ハンジさん?」
ハンジ「ねぇ、君、シガンシナの子なんだろ!? 新聞見たけど! この後の予定は?」
アルミン「えっと、ハンジ、さん?」
ハンジ「私の考察を聞いてみてくれないかい!? いや、当たってるかどうか教えて欲しいわけじゃなく、ただの考察だけど!」
アルミン「えっと……」
ハンジ「家まで送るから! ね、いいだろ!?」
アルミン「…………はい」
アルミン「その後、数時間に渡ってハンジさんの考察を聞かされたのは言うまでもなく」
アルミン「翌朝起きてきた僕に、お爺ちゃんから何かうなされていたぞと心配されたのでした」
…翌日。
…朝、バス内。
アルミン(うう、よく眠れなかった。ハンジさんに遅くまで電話で付き合わされて……)
アルミン(にしても、今日も朝練はないって言ってたはずだけど。エレンもミカサもバスにはいないし)
アルミン(でも……イェーガー先生に用があったみたいで、リヴァイさんとは一緒に帰ることもできたから、話はできたよね)
アルミン(何か解決口が見つかってるといいんだけど…………!?)
アルミン「エ、エレン!?」
アルミン(バスに乗らずに学校まで走ってるの? なんて無茶な……!)
…教室。
エレン「間に、あった……」
アルミン「おはよう、エレン……バスの中から走ってる姿が見えたんだけど……」
エレン「おう……昨日、リヴァイさんと話した、オレなりの結論、ってやつだ」
アルミン「……ごめん、ぜんぜんわからない」
エレン「リヴァイさん、最近……気にするほどでもないんだけど、足が張るみたいでさ。
それで親父に相談しにきてたんだ。親父、ミカサのお母さんの影響もあって東洋の知識もあるから」
エレン「針とかお灸とか。オレは何がいいのかさっぱりだけどよ」
エレン「で、2人の会話聞いてたんだけど。リヴァイさんもミカサも……あの2人、体の鍛え方がすごいんだよ」
アルミン「すごい?」
エレン「普通の筋トレもだが、体幹トレーニングもやっててさ。中・高校生のうちは鍛え方を間違えると体を壊すことになるんだってよ」
エレン「親父もスポーツ医学は専門外だけど、基本は知ってたみたいでさ。オレ、これまで特に相談したことなかったんだけど」
エレン「リヴァイさんの訓練メニューを聞いて、親父がオレ用に組みなおしてくれたんだ」
アルミン「それが、今日の走り込みになるの?」
エレン「ああ。母さんにも協力してもらって、朝からササミ食ってきたぜ」
アルミン「それは聞いたことあるな。運動の前後にタンパク質を採ると筋肉がつきやすいんだっけ?」
エレン「そうそう。で、無理をしない程度に朝から走り込みだ」
アルミン「た、大変そうなんだけど……」
エレン「毎日するわけじゃねぇからいいんだよ。とにかく……この冬の間に、体を作りかえることにしたんだ」
ミカサ「エレン、アルミン、おはよう」
アルミン「おはよう、ミカサ」
エレン「よう。ちゃんと間に合っただろ?」
ミカサ「でも……無茶はしないでほしい」
エレン「無茶したらお前のことだから止めに入るだろ。親父や母さんに何か言ってさ」
ミカサ「うん……」
エレン「負けねぇよ。お前にも、ジャンにも」
アルミン「え……」
エレン「話したんだよ、2人が練習してるの見たって」
ミカサ「……」
エレン「黙ってたのはアレだけどよ。オレもムキになってたのも事実だし」
エレン「だから、これからは正々堂々勝負しようってな」
アルミン「……」
エレン「オレだけ医学の手を借りるのは嫌だしよ。親父も週1くらいなら高校に来てみんなの体診てくれるって」
エレン「あと……リヴァイさんに言われたんだ」
エレン「『自分の力を信じても、信頼に足る仲間の選択を信じても。結果は誰にもわからなかった』」
エレン「『だから、まぁせいぜい、悔いが残らない方を自分で選べ』ってさ」
アルミン「悔いが残らない方……」
エレン「小難しいことは苦手だけど。少なくとも今のオレの力じゃ無理だってことはわかる」
エレン「だからミカサの力を借りたい。ジャンが先に話をしていたとしてもな。それで、話した」
ミカサ「私はいつでも構わない。先ほどジャンに話したら、ジャンも構わないと」
エレン「どうせ『エレンが泣きついてきたなら仕方ねぇ』とか言ってたんだろ」
ミカサ「……違わない」
エレン「けっ。すぐに追い抜かしてやる」
アルミン「まぁ……良かった。なんとかなりそう、だね?」
エレン「ああ。お前の方はどうなんだ?」
ミカサ「?」
アルミン「エレェェェェェン!」
エレン「あ」
アルミン「だ、大丈夫。日進月歩、少しずつ、着々と……」
ミカサ「…………」
アルミン「うう……」
ミカサ「ア ル ミ ン」
アルミン「はい……」
ミカサ「授業が始まる。話は後で」
アルミン「…………はい」
…放課後。
アルミン「……と、いうわけで」
ミカサ「……」
アルミン「それで、その、春までに……告白、を……」
ミカサ「4月から転校とは、私もクリスタから聞いていた」
アルミン「何か、言ってた?」
ミカサ「転校まで、思い出をたくさん作っておきたいと」
アルミン「そっか……」
エレン「オレに手伝えることあればいいんだけどよ」
アルミン「うーん、こればかりは……」
エレン「だよなぁ」
ミカサ「……エレン」
エレン「ん?」
ミカサ「そういえば、今日はエレンが体育館の準備係では」
エレン「いっけね、オルオさんに怒られる! ミカサ、後でな!」
アルミン「……」
ミカサ「……」
アルミン「……えっと」
ミカサ「私にも、何かできることがあれば言ってほしい」
アルミン「ミカサ……?」
ミカサ「アルミンには、感謝している。マネージャーにならなくてよかった」
アルミン「僕は何もしていないよ。ミカサを誘ったのはペトラさんだし」
ミカサ「でも、あの時一緒に回ってくれていなければ、私はバスケ部に入っていなかった」
ミカサ「マネージャーならエレンと一緒にいることはできる。でも、エレンと共に戦うことはできない」
ミカサ「同じ選手という立場でなければ、今回エレンも私に話してくれなかったと思う」
ミカサ「だから……ありがとう」
アルミン「ふふ。ミカサは、ほんとエレンのことが好きなんだね」
ミカサ「……そう、なのだろうか」
アルミン「え、違うの?」
ミカサ「違わ……ない。でも、エレンのことは好きだけれども、アルミンのことも好き」
アルミン「ふぇ!?」
ミカサ「ジャンのことも。クリスタも、サシャも、コニーも」
アルミン「はは……でも、エレンはその中でも特別、じゃないの」
ミカサ「……」
アルミン「違わない?」
ミカサ「……違わない」
アルミン「はぁー。エレンももう少し察しがよかったらなぁ。そこがエレンのいいところなのかもしれないけれど」
ミカサ「ふふ」
アルミン「ところで……ミカサは、どうしてバスケしてるの?」
ミカサ「え……」
アルミン「エレンほどバスケが好きなようには見えなくて。……ごめん、変なこと聞いてるかな」
ミカサ「……昔、エレンが」
アルミン「……」
ミカサ「言ってくれた。『だったら一緒にバスケしようぜ』と」
アルミン「……うん? ごめん、状況が掴めない」
ミカサ「ごめんなさい。説明が、下手で。ただ……昔、私は、人より少し力が強かった。少し足が速かった。少し勉強ができた」
アルミン(この少しって……だいぶ、だよね)
ミカサ「それで、周りからは怖れられていた」
アルミン「……」
ミカサ「暴力女だとか、怪物だとか。……外に出るのが怖くなった」
ミカサ「でもエレンは、何も言わなかった。かわりに、ボールをパスしてくれた」
ミカサ「変な子だと思った。でも……嬉しかった」
ミカサ「今では、バスケはエレンの次に好き」
アルミン「そっか……」
ミカサ「うん」
アルミン「あー、いいなぁ、幼馴染って」
ミカサ「アルミンも幼馴染になればいい」
アルミン「えーっと、幼馴染ってその名の通り、幼い時から親しくしていた人、だよね」
ミカサ「そう。私たちは、まだ子供。だから今からでもなれる」
アルミン「……」
ミカサ「?」
アルミン「ずるいなぁ、エレンは。こんな幼馴染がずーっと傍にいてくれてたんだから」
ミカサ「……」
アルミン「エレンばっかりずるいから、僕も仲間に入れてくれるかな」
ミカサ「構わない。私たちは、幼馴染だ」
アルミン「ありがと。……でも、そうだよね。僕らは、まだ、子供だ」
ミカサ「アルミン……?」
アルミン「子供。だからそれを最大限に使うことができる。……ミカサ、ありがとう。僕も頑張ってみる」
ミカサ「例には及ばない。でも……」
アルミン「うん?」
ミカサ「クリスタに告白したら結果を教えてほしい」ワクワク
アルミン「……はい」
ツヅク。GWあけてようやく落ち着いてきましたわい…
…ユミル・ベルトルトの家。
アルミン「ということで、欲しいものを決めよう。僕は一眼レフ用の新しいレンズかな」
ベルトルト「じゃあ……新しいバッシュと、制服」
ユミル「は? 制服?」
ベルトルト「……」
ユミル「お前、まさか……」
ベルトルト「……ごめん」
ユミル「また身長伸びたってのか? ああ!?」
ベルトルト「仕方ないだろ! 成長期なんだよ!」
ユミル「それ以上伸びてみろ、頭の上からフライパンで毎日叩いてやる!」
ベルトルト「好きでこうなってるわけじゃない!」
アルミン「まぁまぁ。で、ユミルは?」
ユミル「……車、かなぁ。卒業して免許取らなきゃだが」
アルミン「一気に値段が跳ね上がったね……レンズ、バッシュと制服、車っと」
ユミル「欲しいもののために報酬目当てで遺跡発掘ねぇ……」
アルミン「動機としては悪くないでしょ?」
ユミル「悪くはねぇが……」
アルミン「僕らはまだ子供だ。子供といえば好奇心旺盛な生き物で欲は果てしない」
アルミン「ユミルの考えでは、レイス側の人間と……エルヴィン団長は、少なからず過去のことを知っている」
アルミン「だから僕らが直接動くのは危険だと言った。僕もそうだと思ってた、けど……」
アルミン「だからといって何もしないのは、違うと思う」
ユミル「で、私の記憶から、遺跡物の残っていそうな場所を片っ端から捜索か」
アルミン「うん。ピュレさんには伝えてあるけど、彼らだけでは捜査が追いつかない気がするんだ」
アルミン「そこで僕らも直接動こうと思う。動機はさっき言ったとおりで」
ユミル「構わねぇけどよ、一般人も金目当てで探してるはずだ。今更残ってるか?」
アルミン「世界は広いようで狭く、狭いようで広い。人口の多くて狭いシーナはともかく、
マリアはまだ可能性があるんじゃないかな。シガンシナ方面のはずれの方ともなれば田舎だしね」
ユミル「シガンシナか……さすがにエレンの家の地下は処分されてるだろうが」
アルミン「巨人の謎が隠されてたんだっけ?」
ユミル「お前は知らなくていい。どうせ来世には完璧に忘れるつもりなんだろ」
アルミン「ま、そうだね。それに巨人化の薬なんて残っていたとしても処分した方がよさそうだ」
ユミル「ああ……さすがに、もう残っちゃいねぇと思うが」
ベルトルト「壁のあったとされる場所は、もう処分されてるよね」
アルミン「たぶんね。僕の家から少し歩くんだけど……山の方に行けば、何か残ってないかな」
ベルトルト「山か……そういえば君の家に行った時に見かけたな」
ユミル「ああ、お前はもちろんお留守番だからな。行くのは私とアルミン」
ベルトルト「……」
アルミン「部活があるでしょ? ちゃんと練習しないと。もうサボっちゃだめだからね」
ベルトルト「自分達だけ楽しんで……」
アルミン「エレンたちも最近頑張ってるんだから。新技開発もしてるし」
ベルトルト「ああそう、わかったよ。次の試合でもコテンパンに負かせてやるから」
アルミン「そうそう、その意気その意気」
ベルトルト「……はぁ」
ユミル「しかしそうなると、私とお前の関係性を作らなきゃか」
アルミン「そんなの」
ベルトルト「簡単だよね」
ユミル「あ?」
アルミン「僕とベルトルトが遺跡発掘を計画してるところに」
ベルトルト「ユミルが強引に入ってきて」
アルミン「手伝ってやるから分け前よこせと言ってきた、と」
ベルトルト「車、欲しいんだよね?」
ユミル「……」
ベルトルト「きっと僕らは企みがバレて脅されて、仕方なく……」
ユミル「……」
アルミン「うう、車に比べればレンズとバッシュなんて些細な欲だというのに」
ベルトルト「袖と裾の短い制服も、あと1年だし我慢するか……」
ユミル「お前ら……」
アルミン「……」チラッ
ベルトルト「……」チラッ
ユミル「よーくわかった、わかったよ。見つけてやろうじゃねぇか、エルヴィンがぶっ飛ぶような代物をな! 覚悟は……しとけよ?」
…休日。アルミン宅より北東の山の中。
アルミン「はぁ、はぁ……ずいぶん奥まで、来た、ね……」
ユミル「へばってんじゃねぇよ。ったく、お前はいつになっても体力ねぇな」
アルミン「そんなこと、言われても……」
ユミル「しゃーねぇ。休憩するぞ」
アルミン「はぁー……雪がまだこんなに残ってたとはね」
ユミル「そりゃあ山だからな。でもあん時の雪山訓練に比べりゃ屁でもねぇよ」
アルミン「そんな訓練あったの……」
ユミル「そういや、クリスタと……ヒストリアと約束したのは、雪山訓練だったな」
アルミン「約束?」
ユミル「私が秘密を明かした時、あいつは元の名前を名乗って生きろってな」
アルミン「ユミルの秘密って……巨人だったってこと?」
ユミル「ああ。それであいつは、ヒストリアとして生きる決意をしたんだ」
ユミル「でもその直後に、私はヒストリアのもとを離れた」
アルミン「ベルトルトを、助けるために」
ユミル「ほんと、あん時はやっちまったよ」フッ
アルミン「でも後悔はしなかったんだよね」
ユミル「まぁな。そこで私の話は終わり、故郷に帰って……いや、帰る前だったかな、死んだのは」
アルミン「巨人に襲われたの?」
ユミル「だったかなぁ……あれ? どうだったか」
アルミン「もしかして……全てを、覚えてるわけじゃない?」
ユミル「そう、なのか……? いや、でも私はあいつらと一緒に、故郷とやらに向かって」
アルミン「……」
ユミル「……」
アルミン「その辺に、ユミルの記憶が消えない秘密が隠されてそうだね」
ユミル「はぁ……なっさけねぇ。どっかに記録帳でも残しておくんだったな」
アルミン「ほんとだよ……それさえあればこんな遠回りしなくて済んだのに」
ユミル「そういや、このあたりか」
アルミン「ん?」
ユミル「ライナーとベルトルさん。もちろん2000年前のな。あの2人はマリア南東の山奥の村出身ってことだったんだ」
アルミン「マリア南東……シガンシナから北東だけど」
ユミル「距離的には、もうちょい北なのかもしれねぇけど。本当の故郷はずいぶん南になるが」
アルミン「そこには、何もないの?」
ユミル「ない。それは500年前にこの地に来た時に確かめたよ」
アルミン「レイス家が登場して1000年……さすがにそれだけ期間があれば主要ポイントの証拠は消せるよね」
ユミル「残っていたとしても欠けたブレードの破片に立体機動装置くらいだろうな」
アルミン「立体機動装置は、既にエルヴィン団長の手にもあるみたいだし……うーん」
ユミル「当時の書物でも出てくりゃいいんだが」
アルミン「書物といえば、僕らって訓練兵団に所属してたんだよね」
ユミル「ん……そうか、訓練時に使ってた教本……いや、訓練所なんかは既に手が入ってるはずだから」
アルミン「兵士を辞めた人が家に置いてたりは……したら、もうスミス社に送られてるか」
ユミル「古本屋、骨董屋……も、遅いか」
アルミン「はぁ……この辺も雪に覆われてて地面見えないし」
ユミル「……もう少し先まで行ってみよう」
アルミン「何かあるの?」
ユミル「あいつらが何の理由もなしに、この辺を故郷なんて言うはずがねぇ」
アルミン「……」
ユミル「もしかして、だが。シガンシナからローゼに行く前に、ここを通ったんじゃねぇか?」
アルミン「それで小さい村を見つけて、故郷にした……?」
ユミル「あり得なくはない。行くぞ、昼飯はもう少し後だ」
アルミン「うう、明日は筋肉痛確定だぁ」
…廃墟。
ユミル「……」
アルミン「……ユ、ユミル」
ユミル「ああ、こいつはとんでもねぇ」
アルミン「森の中に隠れてたんだ……だから、見つからなかった」
ユミル「写真だ、写真。送り付けるぞ!」
アルミン「写真なら任せて! ピントあわせて………よし」カシャ
ユミル「よっと……」ベキッ
アルミン「ちょ、ちょっと」
ユミル「これも送りつけてやんな」
アルミン「にしても、これは……」
ユミル「報酬は車どころじゃねぇぞ、なんてったって」
ユミル「鎧の巨人の抜け殻なんだからな!」
…3月…
.
アルミン(世紀の大発見と新聞各社に載せられたそれは、2000年も昔に滅びたとされている巨人の亡骸だった)
アルミン(ユミルが言うには、ライナーの鎧の巨人の、ただの抜け殻ということだけれども)
アルミン(それを証明する書類は存在しないため、僕らは偶然見つけたとハンジさんに報告した。もちろん、疑われはしたけどね)
アルミン(記憶のことは伝えなかった。マスコミに根掘り葉掘り聞かれるのは御免だからだ)
アルミン(もしかしたら記憶がまだ戻っていないだけで、今後戻る可能性は否定できない)
アルミン(もし記憶が戻ったら。過去に悩む人も出てくるだろう)
アルミン(報道によってベルトルトたち、ローゼ高校の人たちに記憶が戻ったらこちらで対処するとユミルは言った)
アルミン(だから、僕が担当するのはマリア高校の人たち。とはいえマリア高校で注意すべきなのはエレンとミカサだけでいいとか)
アルミン(ま、森の中から運び出される抜け殻を、目をキラキラさせて『すっげー!』と声を出してるところをみると大丈夫だろうな)
アルミン(通報者の名前は、個人情報保護のためにスミス社の社長と上層部のみ知ることにしてもらっている)
アルミン(家の近くということで、僕もマスコミからインタビューは受けたけど……)
アルミン(知ってたら僕が通報しましたと、隣のエレンと悔しがってみた)
アルミン(全国ニュースで興奮するエレンと悔しがる僕のツーショットが流されてしまったのは、まぁ仕方ないということで……)
アルミン(それを見たユミルには、ペテン師と言われてしまったけれど)
アルミン(報酬は車どころか一軒家を建てられそうな値段を提示されてしまった
アルミン(さすがにそんな額を受け取るわけにもいかず(ユミルは欲しそうだったけども)、保留にしてもらっている)
アルミン(あ、ベルトルトの制服は、ひとまずユミルのへそくりで新調することになったんだった)
アルミン(まぁこの一件で世間からはますます注目され、過去の歴史研究は国を挙げて行うと)
アルミン(先週末、ダリス・ザックレー副総理から発表されたのだった)
アルミン(そこで、僕らの遺跡調査は終わりにすることにした)
アルミン(あとはハンジさんとピュレさんからの報告を逐一受け取り、それを彼女……クリスタに伝える)
アルミン(クリスタも、今のところ記憶を思い出してはいない。ピュレさんから新しくもう1台携帯を手に入れて、彼女に渡してあるけれど)
アルミン(登録してあるのは、ピュレさんからもらった連絡用の僕とユミルの番号とアドレスだけだ。もちろん名前は別名で登録)
アルミン(もし誰かに見つかっても、知らない人のを拾った、交番に届けようと思っていたで通してもらうことになっている)
アルミン(というのも、クリスタ個人の携帯は通信記録を全て管理されているらしい)
アルミン(先日私メモを頼りに、学校のパソコンを使って送られてきたメールに書いてあった)
アルミン(よく考えたらあり得なくはない。しかしそれほどまでレイス家は何を警戒して……何を恐れているのだろう)
アルミン(連絡用携帯で情報のやり取りをしているが、クリスタは何もわからないという。ただ……)
アルミン(シーナに戻るのは、転校のためではない。結婚のためだ)
アルミン(相手の顔も名前も知らないそうだが、16歳になったクリスタと政略結婚をさせるために呼び寄せたいようだった)
アルミン(クリスタは、レイス家の当主であるロッド・レイスの愛人との子供)
アルミン(母親は既に他界しており、金の面で世話になっているし、実の父親ということもあり逆らうことはできないらしい)
アルミン(結婚相手も複数の中から選んで良いとか。相手はいい人だから、クリスタのためでもあると父ロッドに言われている)
アルミン(どうやら、正妻とその子供が事故に巻き込まれて亡くなってしまった、その代わりということらしい)
アルミン(でも、そんなの……僕なら嫌だ。だから正直な気持ちを聞かせて欲しいとお願いした。クリスタは、言った)
クリスタ『私、もっとみんなと一緒にいたい』
アルミン(だから僕は、彼女を助ける。それが彼女の願いなら)
アルミン(……いや、本当は『アルミンと一緒に』って言って欲しかったけど!)
アルミン(でも、まだ終わったわけじゃない。これからなんだ……!)
アルミン(それに、その……これがうまくいったら、クリスタも僕のこと見てくれるかもしれないし……)
アルミン(…………)
アルミン(ああ、違う違う。そんなことどうでもいい、僕は僕に出来ることをしないと! 友達として!!)
アルミン(まずは彼女の表での願いである『転校までにみんなと思い出をつくる』のに協力する)
アルミン(写真はたくさん撮った。クリスタのクラスメイトともだし、エレンやミカサたちとも)
アルミン(その流れで『エレンとミカサの試合を応援しに行く』という約束をしてもらっている)
アルミン(それが、今日。僕らは今、ローゼ高校に集まっている)
アルミン(シーナにはできるだけ近く。そのために、この日を待っていた)
アルミン(ここに来る途中、この辺では見たことない人たちとすれ違った。たぶん、クリスタのことを監視している)
アルミン(スーツ姿だったり、私服だったり。目を合わさないようにはしたけれど、かなりの数だ)
アルミン(それでも……作戦は、成功させなければ)
クリスタ「あ、始まるよ、試合!」
アルミン(でも、その前に『思い出』を作らなきゃね)
アルミン(誰が見ても、子供に見えるように振る舞う。ようにじゃなく、子供だからそれでいいんだ)
クリスタ「頑張れー! エレーン!」
アルミン「負けるなー、ジャーン!」
以下、バスケ知識の乏しい>>1による試合実況(参考図書:黒バス)が始まる……期待してはいけない!
マルコ「やあ、久しぶりだね」
ジャン「しばらく練習試合もなかったからな」
マルコ「なんだか雰囲気変わった気がするけど……何か秘策でも考えてきたのかな」
ジャン「さあな。でもこないだみたくストレートに負けるつもりはねえ。今日はオレたちが勝つ」
マルコ「はは、こっちも負けるつもりはないよ」
マルコ(オレたち、か。エレンとの問題は解決したとみてよさそうだな)
ピーッ!!
アルミン「よし、スタートボールはマリアだ!」
ミカサ「……」
クリスタ「特訓してたって聞いたけど、どんなことしてたの?」
ミカサ「エレンが動けるよう、ジャンの特技でサポートを」
クリスタ「ジャンがエレンを?」
ミカサ「ええ。ジャンには現状を瞬時に認識し、行動できる能力がある」
ミカサ「コート内を上から見るように、誰がどこにいるかがジャンにはわかる」
・・・・・
マルコ『うーん、これは言っていいものかな』
ジャン『あ? なんだよ』
マルコ『ジャンは目がいいし感覚も鋭いけど、それをもっと広げたらどうかなって』
ジャン『広げる?』
マルコ『司令塔は全体の把握が大切だろ? 目で見える範囲だけで処理してたら難しいってことかな』
ジャン『視野を広げろってことか?』
マルコ『ふふ。それは君が考えてみてよ。僕はヒントを与えるだけにしておくからさ』
・・・・・
ジャン(人の動きを把握するには、目の前の景色だけでは難しい)
ジャン(平面じゃダメだ、立体的にとらえなければ)
ミカサ『……立体的というなら、鳥のように上から眺めるということだろうか』
ジャン『そうか、鳥か! 上からコート内を見下ろせば、人の流れもわかる』
ジャン『もう1つの眼ってことか、マルコが身につけろって言ったのは』
ジャン(感謝するぜ、マルコ。まだ全部とは言えねえが、コート半分くらいならどこに誰がいるかがわかる)
ジャン(敵に塩を送ったことを後悔させてやるよ……!)シュッ
マルコ(!! 周りを見ずにパスか。どうやらもう1つの眼を手に入れたみたいだね、ジャン)
マルコ(さて……君の眼は、どこまで捕らえることができるのかな)
…ゴール下。
エルド「オルオ!」ビッ
オルオ「よっと」パシッ
ゲルガー「相変わらずお前らのパスは脅威的だが……させるか!」バッ
オルオ「へっ、止められるかな」
ゲルガー(なっ……フックシュート!?)
オルオ「1年にばっか目立たせてやるかよ……!」
ピーッ!
マルコ「ふむ……」
ヘニング「やるな。夏からだいぶ練習を重ねたようだ」
ケイジ「どうする?」
マルコ「作戦に変更はない。このままでいいよ」
ヘニング「つくづく、お前が敵でなくてよかったと思うぜ」
マルコ「どうかな。直に彼は僕らを超える存在になる」
ケイジ「えらく買ってるが……お前の眼にはそう映るのか」
マルコ「まだ時期じゃないけどね。夏のインターハイ予選までにどこまで伸びるか」
ケイジ「嬉しそうに言うなよ」
マルコ「ふふ、なんだろうね。ジャンとはいいライバルになれそうな気がして」
ベルトルト「……」
マルコ「どうかした?」
ベルトルト「いや……ひとまず、ジャンはマルコに任せるから」
マルコ「うん。ベルトルトは自分のタイミングで動いてくれていい」
エレン「ナイスシュートです、オルオさん!」
オルオ「へっ、調子乗ってんじゃねぇぞ1年」
エレン「はい! よっしゃ、オレもやってやるぜ。ジャン、パス寄こせよな!」
ジャン「欲しけりゃパスしやすい場所に移動しやがれってんだ」
グンタ「喧嘩はするなよ。さぁ、1本返していこうか」
アルミン「いい流れだね」
ミカサ「……まだ」
アルミン「?」
ミカサ「まだ、はじまったばかり」
ミカサ「戦いは、これからだ」
エルド「よし、もう1本行くぞ!」
グンタ「……」ビッ
オルオ「……(エルド、一本決めてやれ!)」ビッ
エルド「(ナイスパスだ、オル……)!?」
ベルトルト「……」パシッ
グンタ「な!」
オルオ「いつの間に!?」
ジャン(こいつ……さっきまでコート端にいたはずじゃ!?)
ジャン「おいエレン!」
エレン「だから、いつもいつの間にかいなくなってんだって!」
ジャン(どういう、ことだ……)
ケイジ「(相変わらずナイスカットだ)……ヘニング!」ビッ
ヘニング「オッケー、3Pいただこうか」バッ
ピーッ!!
アルミン「今のは……」
ミカサ「ベルトルトは、パスコースを読んで先回りをする」
アルミン「いつも?」
ミカサ「そう。パスをカットして、カウンターでヘニングさんの3Pを狙ってくる。ヘニングさんの3Pは、入る確率がとても高い」
ミカサ「落としてもゲルガーさんがリバウンドを取る。ローゼ高はいいチームだ」
アルミン「パスコースを見破るのは、そんなに簡単なの?」
ミカサ「ジャンのように、眼があれば」
クリスタ「でも、ベルトルトにはエレンがついてるんだよね?」
ミカサ「……なぜか、いつもマークを外されてしまうらしい」
アルミン「いつも……」
クリスタ「あっ、また! 体大きいのになぁ、いつの間にかパスコースにいるんだね」
アルミン「……」
クリスタ「バスケってこんなに動き激しいんだね。ボールを目で追うのがやっとだよ」
アルミン「! そうだ、それだ!!」
クリスタ「?」
アルミン「視線誘導、ミスディレクションだよ」
クリスタ「ミス、ディレクション?」
アルミン「相手の視線がボールに移っている間に行動するんだ。だから、エレンにはベルトルトがいなくなったように見える」
アルミン「いや、相手の視線を強制的に逸らさせて……視線を誘導させる技だ。手品とかでよく使われる技法なんだけど」
ミカサ「それを、ベルトルトが使っている?」
アルミン「その可能性は高い。元々ベルトルトはあの体格なのに影が薄い。友達とはいえ、いつの間にか後ろにいてビックリすることがあるんだ」
アルミン(僕も彼と同じ、元引きこもりだからね。ベルトルトも人の行動に敏感で、観察をよくしていても不思議じゃない)
アルミン「ネス先生! お話があります!!」
…第1Q終了。
エルド「ミスディレクションか……」
アルミン「こちらが慣れてしまえば使えません。効果はせいぜい第2Q後半か、第3Qには切れるかと思うんですけど」
ジャン「ちっ、やっかいな技使いやがって」
アルミン「ジャンの眼なら、ベルトルトを捉えることはできるよね?」
ジャン「はりついてりゃな。なんにせよ奴を止めなきゃこっちも反撃はしにくいか」
グンタ「16-24……巻き返せない差ではない」
ジャン「で、オレがベルトルトを止めた後は?」
エレン「オレが出るか?」
アルミン「いや、いつも通りエルドさんたちの連携プレイでまずは攻めてみてほしい」
アルミン「ジャンはマルコから眼の使い方を教わったんだよね?」
ジャン「ああ」
アルミン「マルコのことだ。きっとここでベルトルトをジャンが止めにくることくらい読んでるよ」
ジャン「……」
アルミン「開始早々、ジャンの動きに合わせてあちらも対応してくるはず」
アルミン「ジャンはベルトルトを見ながら、マルコの指示を見定めるんだ」
ジャン「簡単に言うなよ、眼だって最近使い始めたんだぜ」
アルミン「僕も見てみる。コートの上からね。2階からも観戦していいんだってさ」
アルミン「第2Q後の休憩は時間が取れる。変化がみられるならそこで作戦を改めよう」
アルミン「動きがなければ、エレンを主体とした攻めに回ってみて。判断はジャンに任せる」
オルオ「なら俺たちはいつも通りのプレイをしてりゃいいってわけだ」
エルド「オルオのフックシュートと、俺の3Pで攻めるか」
グンタ「ゴール下なら任せろ。ゲルガー相手でも奪い取ってやるさ」
ネス「よし、作戦は決まったな。お前ら気合入れてけよ!!」
…ローゼサイド。
マルコ「応援来てくれたんだ?」
アニ「……どうも。はい、水」
マルコ「ありがとう。私服とは珍しいね」
アニ「ユミルが今日は私服で行けってさ」
マルコ「そのユミルは?」
アニ「用事ができたとかで。来れたら来るとは言ってたけど、まぁ難しいんじゃない」
マルコ「それは残念。で、第2Qなんだけど」
ベルトルト「……アルミンがジャンと話してる」
マルコ「なら、君を止めにかかってくるかな」
アニ「アルミンって、あのキノコ頭だろ?」
マルコ「ああ、うん。個展で会ったよね」
アニ「相当頭がキレるみたいだけど、大丈夫なの」
マルコ「心配いらないよ。彼はバスケに関しては素人なはずだし」
アニ「……」
マルコ「なにより、君たちがベルトルトを鍛えてくれたおかげで、彼はフルで最後まで戦える体力を身につけたからね」
アニ「ふん。中学ん時からやってりゃよかったんだよ」
ベルトルト「でもあの頃の経験が今のプレイに繋がってるというか……」
アニ「身体作る時間削れば、もっと上のプレイを身につけることもできたろ」
ベルトルト「う……それは、そうだけど」
マルコ「まぁまぁ。それじゃ、作戦は話してある通りで」
アニ「試合後のことは考えるんじゃないよ」
ベルトルト「……わかってる」
マルコ「試合後?」
アニ「ちょっとね。ユミルとコイツからの頼まれごと」
マルコ「ふむ……」
ベルトルト「その、ごめん」
アニ「別に。悪いと思うなら試合でいいとこ見せてみな」
マルコ「はは、これは特訓の成果を見せないとだね」
第2Q
ジャン「……よう」
ベルトルト「やっぱり、君に変わったんだね」
ジャン「ああ。マルコに読まれてようが、まずはお前を止めなきゃなんねぇからな」
ベルトルト「僕を止めたところで、マルコは止められないよ」
ジャン「あ?」
ベルトルト「……」
ジャン(マルコを、止める……? どういう意味だ)
エルド(特に目立った変化は見られないが……)
オルオ(ジャンがベルトルトを止めてるからパスは回る。俺のシュートも入るし)
グンタ(エルドの3Pも何度か決まった。落としても俺がカバーすれば問題ない、が)
ジャン(なんだ、この違和感……)
クリスタ「ベルトルトを止めてから、点数入りだしたね」
ミカサ「ええ……流れではマリアが有利にも思える、けど」
アルミン「でも、なんだろう……ローゼ側の動きに変化が見えない」
ミカサ「……」
アルミン「ベルトルトが封じられることをマルコが予想しなかった? いや、予想したはずだ、なら何故何も変えてこない?」
ジャン(点は入るようになった。8点差は3点差に縮まった)
ジャン(第2Qは温存作戦か? もしくは、こちらの出方を見ているか)
ジャン(次の手を誘っているか、か。ヘッ、その手にはのらねぇよ。点が取れるならこのままでいい)
マルコ(……さすがに出してこないか。第2Qの間に、用意されたもう1つの手を見たいんだけど)
マルコ(エレン……君は、どんな手を使えるようになったのかな)
マルコ(仕方ない、こちらから仕掛けよう)ビッ
ベルトルト「……」パシッ
ジャン(ここでベルトルト……誰にパスだ? 位置的にヘニングさんに回してドリブル突破を狙うか)グッ
ベルトルト「……」スッ
ジャン「…………は?」
マルコ「彼の能力は僕なんかはるかに凌ぐんだよ、ジャン。成長しないわけがないだろう?」
ジャン「しまった、3P!?」バッ
ジャン(くっそ、たけぇ、届かねえ!!)
ピーッ!
アルミン「入っ、た……」
ミカサ「これは、厳しい」
クリスタ「えっと、ベルトルトは3Pも打てるの?」
ミカサ「そのようだ。あの身長から打たれると、並みの選手では届かない」
アルミン「並みの選手、か」
ミカサ「ええ」
ジャン(くそっ、こんな奴どう止めりゃいいってんだよ!!)
エレン「ジャン!」
ジャン「ああわかってる、仕方ねぇ、行くぞ!」
マルコ「……ゲルガー、ケイジ」
ゲルガー「おう、任せろ」
ケイジ「さて、どう攻めてくるかな」
…細切れ更新でスミマセン。黒バスSS(試合物)があまりなくてどう表現したものやら。
黒バス知ってる人は、そろそろ誰がどの役かわかるだろう…。ええ、ベルトルトはちょっと能力の高い、黛です。
ジャン(ここで流れを取り返さなきゃおしまいだ、最後まで追いつけっこねえ!)
ケイジ「おっと、抜かせないぜ」
ジャン(気が乗らねぇが仕方ねえ。仕事しろよ、エレン!)ダッ
ケイジ「!?」
マルコ(緩急のあるいいドライブだ。初見で対応するのは難しい)
マルコ(だが……)
ゲルガー「させるかよ!」
ジャン「……」パッ
ゲルガー(本当に眼が別んとこにあるんだな。俺と目が合ってるのに後ろから走りこむエレンにパスするとは)
エレン「っしゃ!」
ゲルガー「だが見えてる。見える相手なら止めてみせる!!」
エレン「はっ!」ダンッ!!
ゲルガー「うおおおおお!」バッ
マルコ「!」
ゲルガー「なん、だ……この跳躍力は!!」
エレン「お、らあああああ!」ガンッ!!
ピーッ!
エレン「やった! ゴール数1!!」
ジャン「ダンク決めりゃいいってもんじゃねえだろ!」
エレン「点取ったんだからいいだろ!」
ジャン「跳びすぎだ、馬鹿!!」
ゲルガー「ありゃーなんだ、まぐれじゃねぇな」
マルコ「あれが彼の武器なんだろう。しかし驚異的な跳躍力だ」
ケイジ「止めるにはやっかいだな……」
マルコ「……」
ヘニング「どうする? 司令塔」
クリスタ「わぁ……ダンクシュート、だよね。初めて見たよ」
アルミン「エレンの新しい技……というより、個性だね」
ミカサ「中学卒業した時は同じくらいだったのに、夏から身長も伸びた」
アルミン「成長期かぁ……僕も伸びないかな」
クリスタ「でも背の高いアルミンって想像できないかも?」
ミカサ「違いない」
アルミン「ええ、2人とも酷くない?」
クリスタ「でも、エレンよりゲルガーさんのが背が高いよね? すごく簡単に決めたように見えたけど……」
ミカサ「エレンは、人より少し高く跳ぶことができる」
アルミン「小学生の時からミカサを相手にしてきたからだよ……」
クリスタ「?」
アルミン「ミカサとエレン、ジャンの練習見せてもらったんだけどさ」
アルミン「2人を相手にしても、ミカサってば平然とシュート決めるんだよ」
クリスタ「え……2人とも男の子だよ? ミカサより大きいし」
アルミン「ミカサのプレイスタイルが型破りというか。片手でボール放り投げてゴールしちゃうんだもの」
クリスタ「片手で?」
アルミン「ゴール下でジャンが食らいついて、ミカサを封じようとしたんだけど」
アルミン「ジャンプしながらコートの白線超えて、ゴール裏からシュート決めた時は、僕ら呆けちゃったよ……」
クリスタ「……」
アルミン「そんなミカサからボール奪いたくて、とにかく高く跳んでボールを奪おうとしたんだって」
ミカサ「高く跳ぶことなら、エレンは誰にも負けない」
クリスタ「うーん、もしかしてミカサって、この中で一番強かったり?」
アルミン「する、んじゃないかなぁ……」
ミカサ「……」
…第2Q終了。
エレン「41-42、この流れなら追い抜いて……勝てるんじゃないですか!?」
オルオ「バーカ、勝つんだよ」
グンタ「ローゼ相手に初勝利、と行きたいところだが」
エルド「ハーフタイムの間に作戦練り直してくるだろうな……」
ジャン「……」
エルド「どうかしたか、ジャン」
ジャン「いえ……」
エレン「疲れたのか?」
ジャン「ちげぇよ。ちょっと作戦考えてただけだ」
アルミン「エレンのダンクから流れはマリアにあるけど、油断はできない」
ジャン「ああ、相手はあのマルコだからな」
アルミン「ベルトルトのミスディレクションはどうです?」
エルド「完全に切れてるよ。パスだけじゃなくシュートもできるとなれば注意するようになるものだ」
グンタ「あの長身から繰り出すパスやシュートは厄介だが……」
エレン「ならオレが! あいつ止めてやります!!」
オルオ「ほぅ……」
エレン「ミカサを止めることに比べれば、ベルトルトのが簡単ですよ。もう見失いませんし!」
エルド「まぁ……確かに、そうかもしれんが」
アルミン「とはいえ、結構大変だと思うけど……」
エレン「オレがベルトルトを止めますんで、皆さんで攻めてください!」
グンタ「やれやれ、後輩に言われちゃ頑張らんといかんな」
オルオ「ケッ。せいぜい調子に乗ってろ、お前の出番なんかなくしてやるよ」
ジャン「……」
アルミン「……?」
ジャン「ちょい顔洗ってきます」
エレン「ん? ああ……」
アルミン(ジャン……?)
ジャン(流れを取り戻すためとはいえ、楽に点が取れすぎてないか? 気のせいだといいが)
>>640
× ジャン(流れを取り戻すためとはいえ~)
○ ジャン(流れを取り戻したとはいえ~)
の、間違いデスネ。ヤッチャッタ★
第3Q
…2階。
アニ「……どうも」
アルミン「えっと、アニ、だよね。ベルトルトの幼馴染の」
アニ「そう。……へぇ、こっちからのがよく見える」
アルミン「上から見た方が、誰がどんな動きしてるかわかるからね」
アニ「あんたのとこの馬面のようにね」
クリスタ「ぷっ」
ミカサ「馬……」
アルミン「はは……やっぱマルコも気づいてたんだ」
アニ「ああ。それに、あんたが影でサポートしてるのもね」
アルミン「うーん、お見通しかぁ」
アニ「マルコの眼からは逃れられないよ」
アルミン「マルコの、眼?」
アニ「あんたらが何考えて企んでるか。エレンでベルトルトを抑え、ジャンの眼とドリブルで切り抜けて点を稼ぐつもりだろうけど」
アニ「マルコには"見えている"から」
アルミン「……」
アニ「ここから見てたらわかるんじゃない。マルコの見ているものの、一部がね」
ベルトルト「……」パシッ
エレン(来た……! パスか、シュートか。どっちでもいい、止めてみせる!!)
ベルトルト「……」ハァ
エレン「なに……ため息ついて」
ベルトルト「マルコの、予想通りだからさ」ビッ
エレン(くそっ、届かねぇ位置に!)
マルコ「……ああ。残念だよ、ジャン」パシッ
マルコ「もう少し俺を楽しませてくれると思ったんだが」
ダンッ…
マルコ「バスケの素人に作戦を考えさせて、お前は何をしていた?」
ダンッ……
マルコ「……失望したよ」
ジャン(来る!!)
……ダンッ!!
ジャン「ぐっ!」ガクッ
ジャン(完全に今のは右から抜く動きだった! なのに、左から……!?)
マルコ「恥を知れよ。思考を捨てた愚かな自分に」
ミカサ「アンクルブレイク……!」
クリスタ「え、なに?」
ミカサ「ドリブルなどのテクニックで相手ディフェンスの足を崩す技」
ミカサ「意図的に引き起こすことは難しい。でも、今のは……!」
ピーッ!!
クリスタ「ダンクシュート……」
アルミン「やられた……僕らは、マルコの手の平で踊らされてたんだ!」
アルミン「マルコもジャンと同じ……いや、もっと視野の広い、鷹の眼の持ち主」
アルミン「エレンが止めに入っても、マルコなら安全なパスルートに先回りすることができる」
アルミン「それにベルトルトの観察眼なら、先回りするマルコにパスも可能だ」
クリスタ「で、でも、エレンなら止められるんじゃ?」
アルミン「流れを取り戻すためとはいえ、エレンの特性を第2Qで見せてしまった。しかも何度も」
アルミン「見せさせられたんだ。逆にエレンの跳躍力を、ベルトルトで封じるために……!」
アニ「へぇ。よくわかってるじゃないか」
アルミン「マルコの眼は、視野の広さだけじゃないね」
アニ「あいつは鷹の目並みの視野の広さだけじゃなく、相手の動きを完全に視認、把握できるんだ」
アニ「全てを見透かす眼。あいつには、数秒先の試合展開が見える」
アニ「そこに並外れたバスケIQによって、試合運びも容易にさせるのさ」
クリスタ「そんな……」
アニ「チームの司令塔として、王の視点から試合を動かす。仲間うちじゃふざけて天帝の眼(エンペラーアイ)なんて呼んでるよ」
アルミン「エンペラーアイ……敵いっこないなぁ」
アニ「あまり参ってるようには見えないけど」
アルミン「素人の僕には見えないことはわかったんだけどさ」
アルミン「ジャンは、きっと気づいてたんだ」
…第3Q終了。
ジャン「エレン、お前はゴールを狙え」
エレン「は? なに言ってんだよ、あんなやつ止めてやるって」
ジャン「そこがマルコの狙いだったんだ。逆にお前を止めにきてやがる」
エルド「……なるほどな。そういうことか」
ジャン「そしたら今度はベルトルトがお前を止めにくる。だから、お前が決めろ」
エレン「……」
ジャン「道は用意してやる。オレが、マルコを抜く」
ゲルガー「おいおい、仕掛けるのは少し早すぎたんじゃないか?」
マルコ「大丈夫。僕らの勝ちに揺らぎはない」
ベルトルト「でも……あの様子だと、火がついたみたいだけど」
マルコ「まぁ、僕もちょっとムキにはなったかな」
ベルトルト「……」
マルコ「実はさ、アルミンには負けっぱなしで」
ヘニング「あのキノコ坊やか?」
マルコ「バスケじゃなくてチェスでね。コート上で負けたくはなくてさ」
ベルトルト「いつ、負けたの……?」
マルコ「ん? ここんとこずっとだよ。オンラインで対戦してるんだけど」
ベルトルト「ああ……」
マルコ「ま、ジャンと勝負したいってことでもあるんだけどさ」
マルコ「勝ちたいはずなんだけどな……」
ケイジ「いいんじゃないか。お前のそういうとこ、嫌いじゃないぜ」
マルコ「はは。やるからには負けないけどね」
ゲルガー「当たり前だ」
ベルトルト「……」
マルコ「ベルトルト?」
ベルトルト「……考えすぎなのかな、僕は」
マルコ「なんのことかわからないけど」
マルコ「僕らは友達だろ。だからこそ、容赦はできないよ」
ベルトルト「友達……だから?」
マルコ「うん。少なくとも僕はしてほしくないからね」
ベルトルト「……そっか」
マルコ「何か悩んでるなら後で聞くけど」
ベルトルト「いや、大丈夫。ボール貰ったら狙ってもいいかな」
マルコ「君が?」
ベルトルト「手加減はしないよ。君がそうであるように、僕も彼と対戦してみたいんだ」
マルコ「……いいよ。負けたら焼きそばパンだけじゃ済まないからね」
第4Q
ベルトルト(ユミルの話を聞くより前から。僕は君のような眩しい人間が苦手だった)
ベルトルト(はるか昔は君の敵だったと聞いて、ますます相容れない関係なのだと思っていた。けど……)
マルコ「ベルトルト!」ビッ
ベルトルト「……」パシッ
エレン(ゴールが近い。打ってくるなら止めてやる……!)
ベルトルト「……勝負、しようよ」
エレン「あ?」
ベルトルト「君と僕、どっちがより多くゴールを奪えるか」
エレン「……」
ベルトルト「深い意味はないよ。残り時間の間に多く点を入れた方が勝ちだ」
エレン「……いいぜ。受けてやる」
ベルトルト「ありがとう。……いくよ!」
アニ「……あいつ」
ミカサ「ベルトルトは、大人しい人だと思っていた」
アニ「エレンの影響、だろうね」
アニ「あいつには友達という友達がいなかったんだ」
アニ「なまじ人より何でもできたせいで、力の使い方に迷いが生じてさ」
アニ「背が伸びるのと反比例するかのように、目立たないよう振る舞うようになっていった」
ミカサ「……」
アニ「私には……変えられなかった」
ミカサ「でも、あなたは幼馴染なのでしょう?」
アニ「ただのね。あんたたちほど仲良くはない」
ミカサ「……」
アニ「男同士って、いいよね。単純で」
ミカサ「一度、話してみるといい」
アニ「あいつと?」
ミカサ「ええ」
アニ「何を?」
ミカサ「アニの思っていることを」
アニ「何も……変わりはしないさ」
ミカサ「戦わなければ、勝てない」
アニ「?」
ミカサ「と、エレンは言っていた」
アニ「……」
ミカサ「その……えっと、」
アニ「あんた、変な奴だね」
ミカサ「……ごめんなさい」
アニ「言いたいことは、なんとなくわかるけど」
ミカサ「わか、る……?」
アニ「話せばいいんだろ」
ミカサ「! うん……!」
アニ「はぁ……」
ミカサ「あの、アニ」
アニ「なにさ……」
ミカサ「友達に、なってもらえないだろうか」
アニ「……」
ミカサ「無理にとは、言わない……あなたとは、少し、気があいそうな気がした、だけだから」
アニ「……いいよ。携帯出しな」
ミカサ「! ありがとう」
エレン(信じてくれる、仲間と、友達と、家族のために……!)
ベルトルト(そして、もう1人の僕のために……!)
ベルトルト「負けるわけにはッ!」ダンッ!!
エレン「いかねーんだよ!!」バッ!!
ピーッ!!
ベルトルト「……まずは1勝、かな」
エレン「……次はあと3cm高く跳んでやる」
ジャン「……」パシッ
マルコ「まさかベルトルトが勝負を持ち掛けるとは思わなかったけど」
マルコ「おかげでこっちにも飛び火してしまうね」
ジャン「……そうだな」
マルコ(さて……エレンの脚力は驚異的だけど、君の磨き上げたテクニックを止めるのも容易ではない)
ジャン「……わりぃな」
マルコ「うん?」
ジャン「さっきの技、もう使えねぇだろ」
マルコ「……」
ジャン「いくら相手の動きを完全に視認できるとはいえ、試合中ずっとってのは集中力が持たねえ」
ジャン「本来ならこの第4Qで出すはずだったんじゃねぇのか。最後のダメ押しとしてよ」
マルコ「そうだね。でも眼がなくても対決しなきゃいけない日はきっと来る」
マルコ「夏までに君とは両方のプランで戦っておきたかったんだ」
ジャン「そうかよ。ならさっきの謝罪はなしだ」
マルコ「ああ。さぁ……来い!」
・・・・・
ジャン『畜生、勝てねえ……」
ミカサ『ふふ』
ジャン『どうやったらそんなに速く動けるんだよ』
ミカサ『練習あるのみ』
ジャン『はぁ……』
ミカサ『でも、今のジャンにも出来る方法がある』
ジャン『……』
ミカサ『見ていて』
・・
ジャン『……ん?』
ミカサ『わかる、だろうか』
ジャン『理屈は……わかった。いや、でも無理だろ!』
ミカサ『やってみなければわからない』
ジャン『ああ、くそっ。……もう1回だ!』
・・・・・
ジャン(オレはミカサほどトップスピードが速くねぇ)
ジャン(だが緩急をつけることで、相手に錯覚を感じさせることはできる)
ジャン(大切なのはトップスピードじゃない。速度を落としたときの「緩」だ)
ジャン(その差が大きければ大きいほど、相手を惑わすことができる……!)ダッ
マルコ(僕らの前に行われた、女子の試合を見て確信したよ)
マルコ(君はミカサのプレイを真似て、試行錯誤して自分のフォームに確立させたんだ)
マルコ(ほんとに、君たちの運動センスは恐ろしいよ。でも……)
マルコ「甘いよ、その程度じゃ僕は抜けない!」バッ
ジャン「……っ」ピタッ
マルコ「え……」
マルコ(トップスピードから、止まって、レッグスルー!?)
マルコ「くっ! ケイジ!!」
ジャン「もらっ、た……!」ダンッ!!
ケイジ「任せろ!!」
ジャン(くそっ、トップスピードからのレッグスルー、そしてクロスオーバーで逆狙い……まだ、完璧じゃねえ)
ジャン(態勢が崩れてる、このままじゃ抜けない!)
ジャン(マルコの奴、オレが踏み出すより一瞬早く味方に指示を出しやがった)
ジャン(悔しいが勝負は引き分けってところだな)ビッ
エレン「ジャン!」パシッ
ジャン「行け!!」
エレン「……ああ!」
ベルトルト「させない!!」バッ
エレン(ああ……クソたけぇ。まるでそびえ立つ壁みてぇだ)
エレン(でも、オレは)
エレン(この壁を乗り越えて)
エレン(外へ……世界へ跳び立つんだ……!)
アルミン「いけえぇぇエレン!!」
エレン「うおおおおおおお!!!」
ピーッ!!
「試合終了! 78-81、勝者、ローゼ高校!!」
-- 現在公開可能な情報(バスケ編) --
運動能力は原作ベースにしているので、黒バスを参考にしてもベルトルト>エレン≧ジャン>マルコのまま。
ただしマルコはエンペラーアイでのチートモード有り。
頭の良さはアルミン>マルコ。でもアルミンにはバスケ経験がないのでマルコには及ばない。
認識能力はジャン>マルコ。でもこの話では同期じゃなくマルコのが1つ年上だから、この時点では経験の差でマルコのが上。
王様大好き司令塔で人の能力を見出すからマルコは赤司ポジ。マルコが赤司ならベルトルトは黛ポジ。
でもベルトルトは以後ミスディレクションを捨てて戦う模様。
エレンは熱血バカで野性的なので火神ポジ。
ジャンは原作能力的にイーグルアイを所持させた司令塔とサポート役。ほんのり模倣(コピー)もあるかもしれない。
赤司もマルコも僕でもあり俺でもあるから、今回のマルコ様は挑発時に口調の調整。決め台詞は「頭が高い」じゃなく「恥を知れ」
だがマルコ自身の能力は普通ちょい上程度なのでアンクルブレイクの回数に制限を設け、
黛よりは身体能力が高そうなベルトルトを第4Qにて活躍させてエレンと対決。
ちなミカサは青峰。男子を含めて誰よりも強い。
色々パクりましたが、黒バスは一度読んだだけのニワカです。でも面白かったので興味もたれた方はぜひ読んでみてくだされ。
エレミカルートは部活動でなんやかんや、とは思っていたものの……各々の心理的成長と友情物語と因縁対決と、モリモリしてしまいました。
では次回よりアルクリルート、話の最終章に入っていきます。1000レスまでには終わりそうだ。
なお次の更新は……早ければ土日。遅くても1週間以内。
スポーツや戦闘シーンを会話形式で書くのは骨が折れる
が、通常シーンなら書きやすい。ということで土日どころか細切れだが投下していく…
エレン「3対2だ」
ベルトルト「最後のは時間外だろ」
エレン「勝負開始がお前のボールからなんだから入れろよな」
ベルトルト「入れても僕の勝ちなんだけど」
エレン「……」
ベルトルト「入っててもローゼの勝ちだけど」
エレン「うるせえ、夏には勝つからいいんだよ」
ベルトルト「そ。楽しみにしてるよ」
エレン「くっそ……」
ライナー「間に合わなくてすまなかったな」
ベルトルト「いいよ。手続きあったんだろ?」
ライナー「おう。晴れて来月からは兵士だ」
エレン「軍に入るのか? あ、ですか?」
ライナー「タメでいいぞ。知り合いが軍にいてな、そいつとの約束だ」
エレン「へぇ……でもお前なら立派な兵士になれるって」
ライナー「そうか?」
エレン「だってよ、この筋肉! すっげぇな、何食ってんだ?」
ライナー「ははは、肉食って鍛えてるからな。っておい、触るな触るな」
エレン「いいじゃねぇか、減るもんじゃあるまいし」
アルミン「なんだか……打ち解けちゃったね」
ミカサ「うん」
アルミン「体育館に現れた時はびっくりしたけど」
ミカサ「巨人かと思った」
アルミン「う、噂の? ないない……」
アルミン(元、巨人らしいけどさ……)
―
――
―――
アルミン『お疲れ、エレン』
エレン『おう……負けちまったけどな』
クリスタ『でもすごかったよ! 思わず息し忘れちゃうくらいだった!』
ミカサ『前回に比べたら雲泥の差。自信持って』
ライナー『あー、試合終わっちまったのか』
エレン『……』
ミカサ『……』
クリスタ『……誰?』
ライナー『ああ、お前らがマリアの…………』
クリスタ『……?』
ライナー『………………結婚し、グハッ』
アニ『遅い』
ライナー『お前なぁ、兄貴に蹴りいれるなよ』
アニ『悪いね。失礼なことしなかった?』
ライナー『……聞いちゃいねぇ』
アルミン『あ、うん、大丈夫。アニの、お兄さん?』
アニ『そう。筋肉馬鹿だけど』
クリスタ『お、大きいね』
ライナー『…………』
アニ『……ライナー』
ライナー『ん?』
アニ『アルミンと、ミカサと、クリスタ』
ライナー『ああ……お前か』
アルミン『ど、どうも』
ライナー『ベルトルトが世話になってる』
アルミン『えっと、今日は』
ライナー『気にするな。これからもあいつと友達でいてやってくれ』
アルミン『……うん。ありがとう』
―――
――
―
アルミン「にしても、あそこのパンケーキ食べに行くだなんて……」
アニ「こないだ食べ損ねたから。ライナーに奢らせるし」
アルミン「うう、思い出しただけで胸焼けしそう」
クリスタ「楽しみだなぁ」
ミカサ「うん」
アルミン「ジャンの奴……マルコと話があるからって逃げるなんて」
クリスタ「ところでミカサ、それ、暑くないの?」
ミカサ「これ?」
クリスタ「そろそろ暑くない? 似合ってるけど……」
ミカサ「……平気。暑くない」
アルミン「こないだの誕生日に、エレンに貰ったんだよね」
クリスタ「あー、そっかぁ」
ミカサ「……うん」
男1「……クリスタはお前か」
アルミン「! えっと、どちら様です?」
女「私たちはそちらのお嬢さんに聞いているのですが」
男2「車はあちらにご用意いたしました」
アルミン(3人……他は別の場所に待機か)
ライナー「なんだ、どうした」
男2「旦那様がクリスタ様をお呼びでね」
ライナー「ほぅ。クリスタ、こいつ知り合いか?」
クリスタ「……」
ライナー「知らないそうだが」
男1「……いいから来てもらおうか」
ライナー「悪いが知らない奴に友人を渡すわけにいかんのでな」
男1(こいつ……!)
ライナー「……ベルトルト。クリスタを連れて交番に向かえ」
ベルトルト「でも……」
ライナー「心配するな。この中じゃお前が一番この辺に詳しい」
ベルトルト「……」
ライナー「絶対に、何としてでも守れ。いいな」
ベルトルト「……ああ」
女「……聞こえているな、作戦変更だ。……ああ、そうだ」
アルミン「人を呼んでくる! アニ、案内してくれ!」
ライナー「よし……行け!!」
男1「ガキの分際で……!」
ライナー「お前も行っていいんだぞ」
エレン「何言ってんだ。喧嘩ならバスケの次に得意なんだよ」
ライナー「相手もなかなかのやり手だ。さすがにミカサを守ってはやれん」
ミカサ「……大丈夫」スッ
ライナー「おい」
エレン「3対3だ。ちょうどいい」
ミカサ「早く倒して、クリスタを守りに行く」
ライナー「……頼もしい奴らだな。怪我するなよ!」
…大通り。
アルミン「はぁ、はぁ……大丈夫? クリスタ」
クリスタ「う、うん。でも、私のせいで、皆が……」
アルミン「平気さ。エレンたちなら」
クリスタ「でも……!」
アルミン「僕と違って、強いからね」ハハ
クリスタ「でも……」
アルミン「何かあったらこの辺でってことだけど……」
アルミン(奴らにとって、試合後にそのまま帰らなかったのは予定外の出来事)
アルミン(クリスタには、これまでは何があっても予定通りに動いてもらっていた)
アルミン(もし学校行事で急な予定が入った時は、家に連絡を入れて許可を貰っての行動を取った)
アルミン(そうやって大人しくしていたから、今日の試合観戦にも許可が下りた。そんな日に、予想外の行動だ)
アルミン(駅方面に向かえば、このままどこかに逃げるのではないかと話しかけにくる)
アルミン(そこからどうやって、クリスタを逃がすか)
アルミン(待ち合わせ場所まで連れてくれば何とかするとユミルは言った)
アルミン(安全にクリスタを連れ出すためとはいえ……)
アルミン(この作戦は、できれば使いたくなかったけど)
アルミン(ローゼ高校の体育館更衣室で、クリスタとアニは互いの服を交換している)
アルミン(クリスタの制服をアニが。アニの私服をクリスタが)
アルミン(2人とも背が低くて、髪色は金。俯いて人の影に隠れれば、大人の目線では区別がつかない)
アルミン(ユミルの考えた案だけど、さすがにバレればアニが危険すぎる)
アルミン(僕もベルトルトも反対した。けど……)
ユミル『だからお前が守るんだ。もちろん、アニが嫌だと言えばこの案はなかったことでいい』
ユミル『今度こそ……クリスタを、ヒストリアを助けたい。頼む、この通りだ』
アルミン(頭を下げられて、僕らは何も言えなかった)
アルミン(アニへは日を改めてユミルから話がされた。彼女のお兄さんである、ライナーにも)
アルミン(前世の話だなんて頭がおかしくなったと思われても仕方ないのに)
アルミン(2人は、何も聞かずに受け入れてくれたらしい。記憶があるわけでもないのに)
アルミン(幼馴染の恩人であるユミルの頼みだから、という……それだけの理由で)
アルミン(それだけの理由……十分な理由、かな)
アルミン(無事でいてくれ、皆……!)
キキーッ!!
アルミン(大型トラック……! そんな、バレたのか!?)
ユミル「乗れ!!」
アルミン「ユ、ユミル!?」
ユミル「はやく!!」
アルミン「クリスタ、乗って!」
クリスタ「う、うん」
ユミル「……」
クリスタ「あ……」
ユミル「話は走りながらしよう。ひとまずこの帽子深く被って席につきな」
クリスタ「……はい」
ユミル「……」
アルミン「よし、大丈夫だ。気づかれてはいない……って、君が運転?」
ユミル「免許なんて持ってねぇよ。運転したことはあるがな」
アルミン「……車が欲しいって、まさか」
ユミル「察しがいいな。奴らもまさかトラックに乗ってるとは思わねぇだろ」
アルミン「何でもありだね、君ってば……」
ユミル「ククク。戦闘機で登場した方が良かったか?」
アルミン「はぁ……」
ユミル「ま、安全運転で走ってやる。シートベルトしてくれよ、捕まったらおじゃんだぜ」
…裏路地。
ベルトルト「……ダメだ。この先にも待ち構えてる」
アニ「用意周到だね。いつもこうだったの?」
ベルトルト「それだけ焦ってるんだろう。ひょっとしたら一家揃って国外逃走を企んでいるのかも」
アニ「やれやれ……パンケーキはおあずけか」
ベルトルト「甘いもの、好きだったの?」
アニ「ミーナに自慢されてね。そんなに美味しいっていうなら気になるだろ」
ベルトルト「じゃあ……また今度、皆で行こうよ」
アニ「……」
ベルトルト「アニ……?」
アニ「変わったね。以前のあんたなら、人を誘うことなんてなかった」
アニ「ユミルに感謝するよ。あいつが強制的にバスケ部に放り込んでくれなきゃ、こうはいかなかった」
ベルトルト「……」
アニ「私のこと、嫌いなんだろ」
ベルトルト「え……?」
アニ「ライナーは家にあげるけど、私が行くと居留守使うじゃないか」
ベルトルト「それは……」
アニ「いいんだ。私も人に好かれる性格してないのはわかってる」
ベルトルト「違う、そうじゃ、」
アニ「シッ。……どうやら気づかれたみたいだ」
「随分と警戒してるな……やはり逃走する気だったか。逃がすなよ、ラルフ」
ラルフ「俺はお前と違って優しく接する自信はあるぜ、サネスよ」
サネス「さぁて……大人しく来てもらおうか」
ベルトルト(2人……でも、やらなきゃ)グッ
サネス「抵抗するなら殺すぞ。お前みたいなガキ1人ヤるくらいなんともないからな」
アニ「下がって」
ベルトルト「ダメだ!」
アニ「……いいから」ジッ
ベルトルト「……」
サネス「そうそう、大人しくしてりゃ……グヘッ」
ラルフ「なっ……お前クリスタじゃ」
ベルトルト「はっ!」
ラルフ(この……なんて力、だ……)
ベルトルト「……」ギリッ
ラルフ(最近の、ガキは……発育が、よすぎ、だぜ……)ズルッ
ベルトルト「はぁっ、はぁっ……」
アニ「死んだ、の……?」
ベルトルト「いや……ライナーに教えて――――危ない!!」バッ
アニ「え」
サネス「この、クソアマァ!!」チャキッ
パァンッ!!
プルルルル…プルルルル…
ピッ
ユミル「もしもーし」
『おー、出たか。無事みてぇだな』
ユミル「まぁな」
アルミン「誰……?」
『なんだ、男いんのか?』
ユミル「この騒動の依頼者だよ、話しただろ。運転中だからスピーカー中」
『りょーかい。俺のユミルに手ぇ出すなよー』
ユミル「誰がお前のだ、マルセル」
マルセル『初めて会った時にビビッと来ました。俺にはこの人しかいないってな』
ユミル「そりゃどうも。だがお断りだ」
マルセル『104回目のお断りともなるとショックも受けねえ』
ユミル「数えんな。どうでもいい話なら切るぞ」
マルセル『まてまて、任務は無事遂行したぞ』
ユミル「おーそうか。よくやった。切るぞ」
マルセル『あー、ちょっとばかしアレなんだがな』
ユミル「……なんだ」
マルセル『ベルトルトがさ、貧血』
ユミル「……」
マルセル『拳銃持った相手からアニを庇おうとしてさ』
ユミル「……」
マルセル『銃声と返り血に自分が撃たれたと思ったんじゃねえかな』
ユミル「……ん?」
マルセル『撃ったのは俺。相手の腕にジャストミート』
マルセル『でも助かった安堵感と返り血見て貧血起こしてでヘタってらぁ』
ユミル「……あっそ。お仕事ご苦労様」
マルセル『ちょ、おい! ちったあ心配し――』ピッ
ユミル「ったく……」
アルミン「拳銃持った相手って……」
ユミル「どうやら先方は本気だな。何が何でもこいつを手にいれるつもりだ」
クリスタ「……」
ユミル「心配すんな。こんなこともあろうかと協力頼んでたんだよ」
アルミン「マルセルって、何者なの?」
ユミル「ライナーの知り合いつうか幼馴染。軍に入って戦闘機飛ばすのが男の夢で約束なんだとよ」
ユミル「最初は大学出てからって言ってたんだがな。高校卒業後すぐ行くことにしたみてえだ」
ユミル「で……アニを危険な目にあわすならって、マルセルに護衛依頼するわベルトルさんに格闘術教えるわ……」
ユミル「だからあいつらに心配いらねぇよ」
クリスタ「……」
ユミル「つうことで、私らの今後の予定だが」
アルミン「予定通りスミス社の本社に向かおうと思う」
ユミル「奴らも馬鹿じゃねえ。先回りしてんじゃねぇのか?」
アルミン「だろうね。ちょっと電話で聞いてみる」
プルルルル…
アルミン「もしもし、ハンジさん? ええ、僕です。そちらの状況なんですが……」
ユミル「……」
クリスタ「……」
ユミル「そういや自己紹介してなかったな。ユミルだ」
クリスタ「クリスタ・レンズ……」
ユミル「本当の名前は」
クリスタ「……ヒストリア。ヒストリア・レイス」
ユミル「アルミンからちょっとは聞いてんだろ」
クリスタ「はい……でも、前世に関係あるだなんて」
ユミル「信じられないか?」
クリスタ「……」
ユミル「私も信じたくはない。でも事実なんだ」
クリスタ「確かに……私、あなたのことを知っている。知っている、気がする」
ユミル「……」
クリスタ「教えてください。あなたには記憶があるんでしょう?」
クリスタ「私は、どうすればいいんですか。どうすれば、皆が幸せになるんですか」
ユミル「まだそんなこと言ってんのか、お前……」
クリスタ「こんなに話が大きくなるだなんて、私……」
ユミル「いい加減にしろ。皆の幸せだけじゃなく、自分のことも考えろ」
クリスタ「でも……!」
ユミル「ったく、あのな、なんで皆がお前のために動いているかわかるか?」
クリスタ「それは……あなたと、アルミンが」
ユミル「違う。友達だからだ」
クリスタ「……」
アルミン「……ごめん、ユミル。そこのコンビニに寄れるかな」
ユミル「なんだ?」
アルミン「携帯のバッテリーが切れそうなんだ。使い捨てでいいから充電器を買っておきたい」
ユミル「ほいよ。やれやれ、ちと休憩にすっか」
アルミン「……ごめん。ちょっと行ってくる」
…バタン。
ユミル「……気を遣わせたかね」
クリスタ「……」
ユミル「お前さ、何のためにイイコトをする?」
クリスタ「……喜んで、くれるから」
ユミル「同じなんだよ。友達だから、相手の喜ぶ顔が見たい。その人が笑うと自分も幸せになれる」
ユミル「泣いている人がいたら、抱きしめに行く。友達だからな」
クリスタ「……」
ユミル「皆お前を助けたいんだ。自らの意志で行動している」
ユミル「その意志を無駄にしたいならすればいい」
クリスタ「でも、私は……」
ユミル「お前が幸せなら、皆幸せなんだよ」
ユミル「友達って、そういうもんじゃないのか」
クリスタ「……」
ユミル「お前の幸せは、なんだ」
クリスタ「……皆の、幸せ。皆が笑って暮らせる、世界」
ユミル「ならその世界を作ろう。なぁに、お前にならできる」
クリスタ「……あなたは」
ユミル「ん?」
クリスタ「幸せ、なのですか」
ユミル「……」
クリスタ「あなたは、私のことを知っている。けど、私は知らない」
クリスタ「あなただけが皆を知っている。そしてあなたは、口は悪いけど皆のことを心配している」
クリスタ「私たちは、かつては仲間だったと聞きました」
クリスタ「そして私たちは、常に一緒にいた親友のようだったと」
ユミル「……ああ」
クリスタ「でも今の私には、あなたに何も返せない。あなたのことを、何も知らないから」
ユミル「返さなくていい。私は……私だけは、前世の記憶に縛られて生きている」
ユミル「前世でお前を置いてきた、その償いをさせて欲しい」
クリスタ「それで、あなたは幸せになれるの?」
ユミル「……ああ」
クリスタ「……」
ユミル「悪かった。あの時お前を置いていって」
クリスタ「……うん」
ユミル「へっ。知らねぇのに頷くなって」
クリスタ「し、知らないけど! きっと知ってるから!」
ユミル「どっちだよそれ」
クリスタ「だって……私」ポロッ
ユミル「……おい」
クリスタ「え……私、なんで泣いて」ポロポロ
ユミル「だぁぁぁ、泣くな! 私は泣かれんのが嫌いなんだよ」
クリスタ「だって、ヒック、わかんなくて」ポロポロ
ユミル「ったく……ほら」ギュゥ
クリスタ「……あたたかい」
ユミル「色々あったんだ。辛かったろ」
クリスタ「……」ヒックヒック
ユミル「……"人のために生きるのはやめよう"」
クリスタ「?」
ユミル「"私達はこれから、私達のために生きようよ"」
ユミル「かつてのお前が、言った言葉だ」
クリスタ「私が……?」
ユミル「ああ。私といれば"どんな世界でも怖くない"ってな」
クリスタ「クスッ。なにそれ、愛の告白みたい」
ユミル「私はしょっちゅうお前に愛の告白してたぞ。結婚しようって」
クリスタ「……私たち、そういう間柄だったの?」
ユミル「私はそれでも良かったんだがなぁ……」
クリスタ「えっと、その……」
ユミル「今はそれだと困るだろ?」
クリスタ「えっ」
コンコン
アルミン「入るよー?」
ユミル「困る、よな?」ヒソッ
クリスタ「あの、えっと!」
アルミン「はい、飲み物とサンドイッチ買ってきたけど」
ユミル「サンキュー。気が利く男じゃねぇか」
クリスタ「……」
ユミル「なぁ? クリスタ?」
クリスタ「!? う、うん、ありがとう、アルミン」
アルミン「どういたしまして?」
ユミル「さて、食いながらになるが……ハンジさんは何だって?」
アルミン「実はトロスト市内にも部下の人が配置されてたんだけど」
ユミル「にしてはレイス側のが行動はやかったよな」
アルミン「うん。どうも向こうにハンジさん側の作戦が筒抜けの可能性があるって」
ユミル「……スパイでもいんのか」
アルミン「いや、単純にレイス側の方が一枚上手というか」
ユミル「役にたたねぇな」
アルミン「無理もないよ。その……クリスタの前で言うのはアレなんだけど、レイスはその手のプロみたいだし」
アルミン「いくら頭がキレても、スミス社の人は素人だからね」
ユミル「そんな奴らに預けて大丈夫かね」
アルミン「そこは……証拠は揃ってるから。安全な場所まで行けば大丈夫じゃないかな」
ユミル「だいたいエルヴィンを信頼していいのか? あいつ何考えてんのかわからん節があるだろ」
アルミン「これは、ハンジさんに聞いたことなんだけど」
アルミン「スミス社長のお父さんは、教職者だったんだ」
ユミル「ほぅ?」
アルミン「歴史に精通していた人らしいんだ。ただ……不慮の事故でなくなったらしいんだけど」
ユミル「事故……」
アルミン「うん。ひょっとしたら、スミス社長の狙いは」
ユミル「復讐、か」
アルミン「……かもね」
ユミル「親の敵討ちのために自らも過去の歴史に興味を持ったか」
アルミン「同じく歴史に興味のあったハンジさんは、そういう縁で巡り合ったんだってさ」
ユミル「リヴァイ兵長は?」
アルミン「マリア高校を卒業した後、リヴァイさんは荒れてた時期があって」
アルミン「そのことをハンジさんから聞いたスミス社長がスカウトしたんだって」
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