レッサー「『新たなる光』の名の下に集えよ、戦士」 ~闇、海より還り来たる~ (1000)

このSSは以下の物語の続きとなっております

鳴護アリサ「アルテミスに矢を放て」 ~胎魔のオラトリオ~
鳴護アリサ「アルテミスに矢を放て」 ~胎魔のオラトリオ~ - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1396305392/)

宜しければそちらをご覧頂いた上でお読み下されば幸いで御座います


※業務連絡。前スレは私(>>1)が依頼を出していないのですが、勝手にhtml化されました
従ってここも勝手に落とされる可能性があるため、先に言っておきます

お付き合いくださった方に感謝を。ではまたどこかで

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1413944245

――ロンドン ガトウィック空港

上条「うおー……体、バッキバキだ……」

レッサー「伊達に『Eco-Army(環境狂徒)』とついてはいませんねぇ」

上条「だな。エコノミーって――お前今発音違くね?」

レッサー「気のせいですよ。気のせい。Queensはアメリカ英語に慣れてると聞き取りづらいらしいですから」

上条「そんなもん、か?詰め込み型の英語教育の弊害がここに……」

レッサー「あ、ちなみに『日本の英語は実用的ではない!』とホザくバカが一定周期で出没しますが」

レッサー「あれ、海外の論文読む時にキッカリとした文法知ってないと手も足も出ませんからね。真に受けても損しますんで、注意して下さいな」

レッサー「常識で考えるか現地で暮らせば分かる事ですけど、日本だって学校や役所のテキストと日常会話は違うでしょ?」

上条「文語体と口語体の違い?」

レッサー「に、近いでしょーかね。そもそも英語英語つったって、誰しもが同じだけ使えるのは『幻想』でしてね。訛りが酷かったり、語彙が少なかったり」

レッサー「そうですね……ハリウッド映画を字幕でご覧になった事は?」

上条「何回かある。テレビの深夜映画で」

レッサー「直訳と一緒にスクリーンに映っていると、『あ、なんか字幕と比べて台詞少ねーな』みたいなのありません?」

上条「こないだ見たホラー映画で、ヒロインの子が『あっちから来たわ!?』が『There!?』だった」

レッサー「慣用句、『over there(あっち)』を更に略して『There』でしょうかね。あのトラック映画のセンス、嫌いじゃないです」

レッサー「てか、大体『分かりやすい単語と単文のオンパレード』ですよね?ま、実際の話し言葉より更に単純化した作りになってんですが」

レッサー「その理由としては『子供から大人まで、また英語を大して知らない人間にも分かりやすいような脚本』だからです」

レッサー「誰でも理解出来るようにレベルを下げている、と言っても過言ではないかと」

レッサー「大人でも新聞とテレビみたいな『バカでもわかった”つもり”になれる媒体』にしか触れない人、結構居ますからねぇ」

上条「おい止めろ!今度は誰にケンカ売るつもりだ!?」

レッサー「いやですから、別に普通の人はそれでいいじゃないですか。だって政府の公文書や学術論文に触れる機会はないですし?」

レッサー「『ただ意思疎通が出来るレベル』であれば、少しの英単語憶えとけば何とかなります――と、言いたいんですが」

レッサー「実際にこちらの新聞のWEB版を読めば分かりますけど、専門用語もさることながら割と難しい言い回しは出てくる訳で。タブロイドでも無い限り」

レッサー「『日本人が習う英語は日常生活では使えない!』のが真であれば、『新聞を読むのは日常生活の一部ではない』の証左になってしまいますよねぇ」

上条「結局どっちなの?意味あんの?ないの?」

レッサー「私は日本人ではないのであんまり実感は?ただ『大人が子供に話を合わせるのは簡単だが、その逆は難しい』とだけ」

レッサー「更に付け加えるのであれば、宣うバカどもの大半が、学術論文や外電には縁も縁もない人間ばっかって事ですよ」

レッサー「ていうか、そもそも、元々は」

レッサー「『大抵の国では英語を使わないとまともに本が読めない』って事情もあるんですが、まぁそれはいいでしょう」

レッサー「……あんまり掘り下げるとブーメランが刺さりますし」

上条「つーかそれ、お前らの植民地のせいじゃねぇの?あぁ?」

レッサー「失敬な!アメリカさんだって今や世界の最先端じゃないですかっ!」

上条「……お前、アメリカ独立戦争って知ってる?」

レッサー「し、知りませんねー?ネコ耳だなー?」

上条「ネコ耳じゃなくて初耳な?お前日本語バカにすんのもいい加減しろ、な?」

上条「てかアメリカの自由の女神、イギリスから独立した時にフランスから貰ったって習ったぞ」

レッサー「……えぇえぇ、そん時からあのクソヤローはブリテンの邪魔ばっかしやがってますよっ!悪いんですかっ!?」

上条「当時の国際情勢として植民地は合法なんだっけ」

レッサー「『劣等な人種を導いてやらねばならない』をまともに信じていた時代ですから。ま、今でも形を変えて残っては居ますが」

レッサー「ありますでしょ?――『自分達が正義だと思い込んで、悪い奴らを皆殺しにする』ってぇ話は割と」

上条「……魔術師と能力者、スタート地点は違ってもゴール地点はどうして同じなんだろうな?」

レッサー「向いてるベクトルは同じだからじゃないですかね?中世に『神』を目指した錬金術師達」

レッサー「表に居続ければ『科学』となり、裏へ潜れば『魔術』となる、ですか」

レッサー「医療科学の最先端はアンチエイジングにIPS-cell。どちらも人類の寿命を延ばしてくれるでしょう……が」

レッサー「言い方を変えれば『不老』であり、魔術サイドが追い求め続けてきた目的の一つですがねぇ」

上条「不老不死、出来んの?」

レッサー「戦いましたよね?ついこないだも」

上条「『団長』……」

レッサー「あれは肉体の大半を捨ててシリンダーの中の”脳”だけになる。ある種のSFチックな術式でしたが」

レッサー「……ただアレ、『よく見たらコレ霊装じゃね?』ってぇ気もしますがね」

上条「人体改造しすぎだろ。似たようなの科学サイドでも居たけどな」

レッサー「概念としちゃ魔術サイドの方が先ですよ。エジプトのミイラと復活なんかまさにそれです。ただ中途半端でしたが」

レッサー「レディリーさんのように『人としての機能全てを保ったまま』は極めて高難度です。それが出来たら神話になるレベル」

レッサー「でも『体の一部だけ』とか、『意識の一部だけ』はたまーにありますし。聞いた事ありません?地縛霊的なの?」

上条「あれも術式なのか?趣味悪ぃよな」

レッサー「便利は便利かも知れませんがねぇ、私はちょっとゴメンでしょうか」

レッサー「なんつっても学習できない以上、予めプログラミングされた状況にしか対応出来ませんしぃ?」

レッサー「だったら遺言書いた方が地球に優しいってもんですよねっ」

上条「……幽霊って、環境の敵なの?」

レッサー「さぁ?どうなんでしょうね?」

上条「お前が断言したじゃん!」

レッサー「あー、いやいや。これ割と核心的なお話ですがね、魔力って基本自分で精製するじゃないですか」

上条「聞いたなー、ここ数日はそればっかだよ」

レッサー「でも幽霊、体ないんで魔力作れないですよね?ねね?」

上条「そう、だな。言われてみれば」

上条(って事は風斬も?拡散力場の力で存在しながら、記憶はどこかに依存しているのか?)

レッサー「だからまぁ?そう言った不思議存在が実在するとしても、『外部』――つまり『龍脈』からの力をエネルギーにしてんじゃないかと」

上条「聞いた事ある。『霊道』だっけか」

レッサー「これぞまさに『霊・ライン』なんっつっちゃったりしてー、あははーこやつめー!」

上条「――さて!そろそろ体もほぐれたし、バスターミナルへ行こうぜ!」

レッサー「待ちましょうか?女の子に恥ずかしい思いをさせるなんて紳士じゃありませんからっ!」

上条「いやぁ、流石に今のはオッサンでも言わないもの」

――バスターミナル

上条「――てか向こうを出たのは夕方なのに、あんま時間が変わってない?」

レッサー「日付変更線は一本、地理的にも近いですからね。んで、どうしますか?」

上条「どうって?あ、足を何にするかって話?」

レッサー「も、含めてのご相談ですけど。今日はどうすんですか?」

上条「え?まだ夕方――を、ちょい回ったばっかりなのにか?」

レッサー「学園都市も18時ぐらいを過ぎると公共の交通機関がなくなるんじゃ?」

上条「まぁあっちは建前上、学生集めて勉強のための都市って事になってるからな。でも都会は別だ」

レッサー「うーん?でももうサフォークまでの便がありませんよ?」

上条「……はい?」

レッサー「正確にゃあるんですが、あれは事前に予約が必要でして。私達には乗れませんし」

上条「まだ深夜じゃねぇのに?」

レッサー「日本の首都と一緒にしないで下さい。サフォーク州は人口約70万の地方都市です」

上条「70万ならかなり多いだろ、それ」

レッサー「同じ大きさのサイタマーの10分1程度。ま、EUじゃ普通なんですけどね」

上条「その例えがよく分からんが、とにかく足がないのは理解した。んー、どうしたもんか……」

レッサー「ここに一泊、もしくは行ける所まで行く、の二択でしょうな。後者はお勧めしませんが」

上条「その心は?」

レッサー「飛び入りで、しかも外国人を泊める所は大枚はたかないとまず無理です」

上条「大概だな、イギリス」

レッサー「……あのですねぇ上条さん、ロシアでは何とかなりましたけど、あんまり外国をナメてるとマジで死にますからね?」

上条「いやぁ言い過ぎだろ、それ。だって海外で何かあったニュースになるし、そんな数多くないだろ」

レッサー「そりゃ『死体』が出てくれば問題になりますがね。『行方不明』とか『失踪』だったら話題にもなりませんし」

レッサー「人が多いと相乗的にアイタタな人間も増えますから。カモにされやすいジャパニーズは要注意」

上条「……見方が穿ってんなー、お前は」

レッサー「綺麗事だけ言ったって役には立ちませんからね。んで?」

上条「……」

レッサー「どーしました?」

上条「今気づいたんだが、未成年二人でホテルに泊まれるのか……?」

レッサー「ホンットに今更ですね。結論から言えば『場所による』としか」

レッサー「バックパッカー向けの一泊数百円フロ無しメシ無し扉無しは、わざわざ身分証なんて出させませんし」

上条「無いモン多すぎるだろ!?扉はつけてあげて!」

レッサー「もしくは真っ当な所でもチップを弾めばイケます。ま、そこまでして身分隠す意味があるのかどうか分かりませんけど」

上条「レッサーさん、君のお名前なんつーの?」

レッサー「やっだなぁ上条さん!レッサーちゃんに決まってるじゃないですかっ何言ってやがるんですかねっ!」

上条「何か意味はあんだろうから、あんま突っ込まねぇけど……うーん?」

レッサー「てか海外のゲイには日本人が大人気で――」

上条「――ここはやはり地元のレッサーさんにお願いしましょうかねっ!よっ、生粋のイギリスっ子!」

レッサー「任せて貰いましょうかっ!ではまずモーテルに行って明るい家族計画を話し合いましょうねっ!ささお早くっ!」

上条「既成事実を作ろうとすんなよっ!?つーかその計画はきっと明るくはねぇもの!」

レッサー「おんやぁ?何か勘違いされてません?せんせん?」

上条「な、何がだよ?」

レッサー「『モーテル』ってのは『モーターホテル』の略であって、旅行者達が車のまま出入り出来るようなホテルの意味ですよ」

レッサー「エロい事するホテルだなんてハレンチなっ!んもうっ上条さんのエッチスケッチハイタッチ!」

上条「昭和だな?お前らに日本語教えたヤツ、昭和以前の生まれだよね?」

上条「はー、そうなん?俺、てっきりモーテルっつったらエロい所だけかと」

レッサー「てかフツーのホテルでもしますし、専門という意味はありません。これもマジの話です」

レッサー「……ただまぁ先生のメル友が愚痴ってたんですが、帰国子女の子と遠出した際」

レッサー「『あ、少しあそこで休んでいきませんか?』と言われ、思考が停まった過去があったという……!」

上条「ちょっと何言ってるか分からないですね」

レッサー「ま、二次元にしか興味無いんで、事なきを得たんですが!」

上条「事無いけど、それある意味大事になってるよね?つまりその家は断絶って意味だもの」

レッサー「ま、適当に車でも借りるか、私らのアジトへ行くかの二択としましょうか」

上条「モーテルは……ちょっと気が引けるよなぁ」

レッサー「大丈夫、上条さんの貞操は私の貞操を賭けても守りますから!」

上条「命じゃねぇの?レッサーさん、仰ってる事が恥女ですよ?」

レッサー「もし万が一!上条さんの貞操が危うくなった場合!この私が責任持って先に頂きますっえぇ!」

上条「あ、俺知ってる。等価交換ってヤツだよね。もしくは”無理心中”」

レッサー「てか上条さんだって女体に興味の一つや二つおありでしょう?だったらこう、もう少し弾けてもいいんじゃないんでしょうかね」

上条「まぁ……あるけどさ、っつーかバスターミナルで話すようなもんじゃねぇよ!」

レッサー「や、別に誰も聞いてませんから。ねーちんに話してご覧なさいな?ほれほれ」

上条「どう見てもお前年下……」

レッサー「やっぱりロ×じゃないとダメだとか?」

上条「やっぱりの意味が分からない!てかどこのどいつだ上条×リ説広めやがったのは!」

レッサー「ヒロインの胸がペッタンコの時は足繁く遭遇していたのに、育ってからは記憶の彼方へと追いやったと評判の上条さんではないですか!」

上条「ってか誰情報がちょっと教えてくれないかな?俺そいつの幻想とかぶち殺しに行かないといけないからさ」

レッサー「『巨乳好きというのも実はカモフラージュで、実は貧乳こそ神が与えたもうた奇蹟なのよ!と言っていたのよな』」

上条「そっか……今度は天草式も敵なのか……」

レッサー「そんな疑惑を払拭するためにも!」

上条「だから近寄るな腕を取るなおっぱいを押しつけようとすんな!若い娘さんがはしたない真似すんじゃありません!」

レッサー「でも嫌いじゃないでしょ?」

上条「大好きに決まってるさ!おっぱいに貴賤はない!」

レッサー「どう見ても節操が無いだけですありがとうございました――で、ホントの所はどうなんです?」

上条「おっぱいの話?」

レッサー「恋愛の話です。私は別におっぱいでも構いませんっつーかむしろウェルカムですが!」

上条「俺はノーサンキュー……いやだから、ストレートに言うと」

レッサー「ストレートじゃない?肌の白さと病みっぷりが堪らない、ですか」

上条「それ掛け算だよね?お前の俺を誰と掛けたの?何となく分かるけど」

上条「俺だって男だし、つーか女の子に話すようなこっちゃないんだが、ほら、ドキってする瞬間あるじゃんか?」

レッサー「ありますあります、性欲持て余すんですよねっ」

上条「オブラートに包んでんでしょーが!?もっと気ぃ遣いなさいよ!」

上条「だから!その、『あ、ちょっと良いな?』みたいなので一々付き合ってらんねーだろ!そっちはタダのエロだし!」

レッサー「つまりムラッとくる頻度は結構あるものの、それで別にコロッと行ったりはしないと?」

上条「そうそ――違うな?そこまで身も蓋もない言い方はしてない!」

レッサー「いやぁ別にノリで付き合っちゃっても良いと思うんですよねー――って誤解されんのは嫌ですから最初に言っておきますけど」

上条「おいお前今度はどんな暴言吐くつもりだ……?」

レッサー「『新たなる光』、全員処女ですんでご安心を」

上条「その情報は激しくレアだが俺が聞いていい話じゃねぇっ!?つーかどんな方法で知った!?」

レッサー「ヒント!『女子校』」

上条「レッサーさん、詳しくお願い出来ませんか?スール的なお話なんですよね?」

上条「――ってお前ら共学じゃん!騙されないからな!」

レッサー「途中までノリノリだったくせに……まぁある霊装で『魔女』にしか発動出来ないものがありまして」

レッサー「十字教の言い伝えでは『魔女は生まれた時から処女では無い』というえらーくエロいもんがあり、そっち関係です」

上条「なんだその、日本の年齢制限ありゲームの設定みたいなのは」

レッサー「いい加減念を押すのも面倒になってきましたが、マジです。マジである話です」

レッサー「これもまたガチな話なんですが、魔女狩り中の聖職者が『こいつら冤罪だったらどうすんの?』と訊ねられた際」

レッサー「『もしそうでもあの世で神様が救ってくれるからヘーキっしょ?』と宣ったクソバカ十字教徒が歴史に名を残しています」

上条「お前ら人様をモンキーモンキー言うけど、言えるだけの資格はねぇよな!?結構蛮族だよね?」

レッサー「で、こないだソレ試したら全員ダメでした。良かったですよねぇ?」

レッサー「私的には、なんだかんだでランシスが一番早く居ボーイフレンド作りそうな気がしますが」

上条「……この会話、もう止めねぇ?いい加減色々とマズ過ぎるだろ」

上条「つーかな。そもそもっていうか前から聞こうと思ってたんだが」

上条「レッサー、お前俺が好きなの?」

レッサー「前世の頃から愛してましたっ!」

上条「……ありがとう。ペラッペラの言葉でも嬉しいよ……」

レッサー「信じてませんね?いったいどうやったらこの私の真摯なBeeeeeat!が伝わると言うんでしょうか!」

上条「真摯じゃないから伝わらないんだと思うよ?」

上条「特に巻き舌でビィィィィト!っつった辺り。どう聞いても波紋流す気満々だもの。新日の中邑かと思ったし」

レッサー「何だったらフランスの大統領をぶん殴って証明して差し上げましょうか!?」

上条「それ、お前がしたいだけだよね?フランスを国家レベルでガチ嫌ってるだけだもんね?」

レッサー「よぉぉっし!それじゃ意味も無く全裸になって駆け回るのも辞さない覚悟です!」

上条「それもお前がしたいだけだよね?つーか辞しろ、自重しろや恥女」

レッサー「全裸になれる勇気……!」

上条「ヤダ格好良い!?……か?何か騙されて――うん?」

レッサー「どうしましたか?昔お付き合いされていた方がロンドンに?」

上条「止めろ。ムダにフラグを立てるんじゃない!……いや、そうじゃなくて」

上条「……なーんか、こないだからレッサーに違和感があんだよな。なんだこれ?」

レッサー「実はですね、ブラを」

上条「待とうか?場合によっちゃコンビニで下着買ってこい!」

レッサー「と、言う訳で子供は何人ほど欲しいですか?」

上条「高校生相手に重すぎるわっ!?お前だって中二ぐらいじゃねーか!」

男「――おーーーい!当麻、当麻じゃないかーーー!」

上条「……誰?――って父さん!?」

レッサー「『性的な話をしていると親御さんが来る』、テンプレではありますかねぇ」

上条「気まずいよ!?つか流石にそこまでは!」

刀夜(男)「そこでいたいけな少女相手に家族計画を話しているのは当麻じゃないか!」

上条「どっから聞いてたんだ父さん!?しっかり把握してるじゃねぇか!」

刀夜「息子の事なんて父さんはお見通しさ!それよりもどうしてここに?」

刀夜「ヨーロッパに課外学習中だって聞いたけど、ロンドンに居るんだっけ?」

上条「あ、ヤバ」

レッサー「――初めましてお父様っ!上条さんのホストファミリーやってる者です!」

上条(ナイスだ!レッサー!)

刀夜「あ、これはどうも愚息がお世話になっております。私、当麻の父親の上条刀夜と申します」

レッサー「いえいえっとんでもありません。私は上条さんのムスコのお世話をしたいと常々――」

上条「ちょっとタイムな?父さん、待っててくれないかな?」

上条「俺、ちょっとこの子幻想殺してこないといけないから、時間貰える?」

刀夜「こら当麻!日本語が達者では無いだけだろう!失礼な事を言うもんじゃ無いよ!」

刀夜「些細な言い間違えぐらい、男子たるもの笑って済ませ」

レッサー「いや、ぶっちゃけ体だけでも良いって言ってんですけど、中々ガードがお堅いんでねー」

刀夜「……」

上条「待ってくれ父さん!これはこの子が勝手に言ってるだけで!」

刀夜「し、詩菜さん……!当麻が!当麻がいつの間にか大人に……!」 ピッ

上条「おいコラ母さんに連絡取るんじゃねぇ!つーか何を報告するつもりだ!?」

刀夜「いや、お赤飯的な」

上条「男の場合でも作るのか……?」

レッサー「ま、ジョークはともかく、宜しくお願いしますお義父さん」

上条「レッサーさん、字、字ぃ間違ってるよ?いい加減にしないと後で幻想殺すからな?」

刀夜「君にお義父さんと呼ばれる筋合いは無いねっ!」

上条「父さんもなんでここで否定から入るの?それ娘さんの彼氏に言う台詞じゃ無いかな?」

刀夜「一度言ってみたかった……あ、でも」

上条「な、なに?」

刀夜「もしかしたら言えるかも知れないな!確率は半々だし」

上条「聞きたくねぇっ親のそういう話は特に!」

レッサー「仲が宜しくて結構ですねぇ。私なんて、ほら、当麻さんテレちゃって」

刀夜「こらこら、当麻ー。あんまり恥ずかしいからって邪険にするもんじゃ無いぞ?」

上条「コイツ外堀から埋めてきやがった!?」

レッサー「あ、いや、いいんですよ。私なんか当麻さんにとっては、何でも無いんですから。きちんと弁えてますからっ!」

上条「……なにその『弄ばれた挙げ句、捨てられるの前提で付き合ってる』みたいなの……?」

レッサー「事実ですよね?」

上条「何にも無かったのは間違いないけどな!」

刀夜「……」

上条「と、父さん?これは違うんだよ、このバ――子は俺で遊んでいるだけで!」

刀夜「……少しお話ししようか、当麻?オシャレなカフェもあるみたいだし」

刀夜「まぁ、母さんに報告するかどうかは、内容次第かなぁ」

上条「俺はっ!無罪だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?手ぇなんか神様に誓って出してねぇさ?!」

レッサー「……ま、”だからこそ”なんですけどねぇ」

――ガトウィック 南ターミナルのスターバックス

刀夜「……ふーむ。話を聞くに当麻は悪くないみたいだね」

上条「言ったよね?俺最初に無罪だって!」

刀夜「ただね、もうちょっと女性の機微を理解した方がいいと思うんだよなぁ。私は」

上条「いや父さんに言われる筋合いは……」

レッサー「てーかお二人には言う資格は無いと思いますよ、えぇ」

刀夜「迷惑をかけなければいいってもんじゃないだろ?お前は男の子なんだから、女性を守って然るべきだ」

上条「まぁ、うん」

レッサー「あ、そちらに関しては過不足無くして頂いてます。若干過剰かも知れませんけど」

レッサー「……ただその、ちょっと言いづらいんですけど」

上条「何だよ?俺別にいかがわしい事なんかした覚えねーぞ?」

レッサー「言っても?」

上条「どうぞどうぞ」

刀夜「当麻、それはフリだぞ?」

上条「えっ?」

レッサー「たまーに長時間トイレに籠もる時があるんですが、あれは一体ナニをしているんでしょうかねっ!?」

上条「突っ込まないであげて!?確かにそれはある意味後ろ暗いけども!」

刀夜「××だね」

上条「オイ!なんで堂々としかもちょっと誇らしげに答えてんだ父さん!?

刀夜「あ!詩菜さんに連絡しないと!」

上条「ケータイ寄越せ?ぶち壊されたくなかったらな!」

レッサー「仲、よろしいんですねぇ」

上条「お陰様でたった今暴力沙汰になりそうだけどな!」

刀夜「何を言ってるんだい?これから君も――」

刀夜「――”家族”になるんじゃないかッ……!」

上条「なんでその話に繋がるの?仲間になりたそうにしてたから?」

レッサー「お義父さま……!」

上条「お前も付き合うよな!父さんテキトー言ってるだけから!」

刀夜「君にお義父さんと呼ばれる筋合いはないよっ!」

上条「え!?ここでもっかい突き放すの!?」

レッサー「……ぬぅ、中々やりますな!当麻さんをここまでのツッコミ使いにまで育て上げただけの事はある!」

レッサー「さぞや名のあるボケ家庭だとは薄々気づいていましたが、まさかこれほどとは!」

上条「俺の価値ってツッコミだけ?確かに特殊な家庭環境がなければ、ここまでスルーせずに拾うのもどうかと思うが」

刀夜「まぁそこはそれ夫婦仲の異様に良い家族であれば」

上条「……なぁ?俺が荒んでたのって家庭環境が原因じゃねぇの?」

上条「『夜の街を徘徊していた』的なのは、父さん達を見てると居たたまれないだけじゃねぇのか?あ?」

レッサー「ちなみに話を戻しますとベイロープ辺り、『放っておくのだわ』と言いつつ、顔真っ赤なのが超可愛いですな」

上条「まさに今居たたまれないのは俺だから!?レッサーさんもう少し空気を読んであげて!?」

レッサー「ダチョウ的な意味で?」

上条「一般教養だっ!」

刀夜「……そうか、当麻が元気でやってるようで何よりだよ。語学の方も達者になったんだろうね?」

上条「語学?なんで?」

レッサー「(カミジョー、設定設定ー)」

上条「ん、あぁっ!勿論だぜ!そりゃもうペラペラさ!」

レッサー「……オノマトペ、古っ」

上条「ウッサいな!昭和だって良かった事一杯あっただろ!」

刀夜「そうか、それじゃ、えっと――」

上条「(マズe!この展開じゃ父さんが英語で話しかけてくるパターンだ!)」

上条「(全然分かってなかったら疑われちまう!)」

レッサー「(おっと当麻さん!ここは私の言うとおりに喋って下さいな!)」

上条「(レッサー……信じて、いいのか?)」

レッサー「(今更じゃないですか!この私のナニ誓いますとも!)」

上条「(何か引っかかるが、頼んだ!)」

刀夜「『How about the business of the London market?』」
(ロンドン市況の景気はどうですか?)

上条「『Will you have the daughter from such a talk?』」
(そんな話よりもあなたに娘さんは居ませんか?)

刀夜「『Should I become independent Scotland?』」
(スコットランドは独立すべきですか?)

上条「『Money is decided to the aim. Please do not let me say because I am shameful. 』」
(金目に決まってんだろ。言わせんな恥ずかしい)

刀夜「『What idea do you of the immigrant have?』」
(移民についてのあなたはどんな考えを持っていますか?)

上条「『I love little girl with the fair hair. 』」
(金髪ロリはぁはぁ!)

刀夜「……」

上条「(良し!意味は分からなかったが何とか誤魔化せたぞ!)」

レッサー「(……ちょっと罪悪感が……)」

刀夜「……ま、まぁイギリスジョークまで言えるんだったら、結果は出てる、かな……?」

レッサー「ポジティブ過ぎんのもどうかと思いますよねぇ――んで?」

上条「何?」

レッサー「いえ、当麻さんではなく、もう一人の上条さんの方です。どうしてまたイングランドまでいらしたのか、と」

上条「ん、あぁそうだよな。父さん確か証券会社のアドバイザーやってんじゃなかったっけ?そっちの仕事?」

刀夜「当麻、私達には守秘義務というのがあってだね。仕事上で知り得た情報を気軽に話す事は出来ないんだよ」

刀夜「もしもそれを漏らしてしまえば、不自然に利益を得たり、損をする人達が出てくるかもしれないからね」

刀夜「幾ら親子であっても気軽に話せない事だって――」

上条「『――あ、もしもし?母さん?当麻だけど』」 ピッ

刀夜「当麻?今、父さん良い事言ってたよね?」

上条「『今、イギリスのロンドンで父さんとお茶してんだけど、これ何の仕事?』」

上条「『え?そんな事より女の影?見える所には居ないなぁ』」

刀夜「よし当麻!父さん今から機密情報でも何でも喋っちゃうから、取り敢えず携帯を切ろうか!」

レッサー「……似たモン親子。上条さんもいつか尻に敷かれるんでしょうかね」

上条「まっさか!ある訳がない!」

レッサー「現状見るに――」

上条「良し!話を聞かせて貰おうじゃないか!」

刀夜「だね!」

レッサー「ホンットに似てやがんなこの親子」

――10分後

レッサー「サフォークの保険金調査、ですか。こいつぁまた……」

上条「……なぁ?」

刀夜「具体的には言えないけれど、イングランド――っていうか、イギリスはNHSの国だからさ。どうしてもね」

上条「えぬえいちえす?」

レッサー「国民健康サービス、の略でしょうか」

レッサー「ぶっちゃけ『ブリテン国民or合法的に滞在している外国人は格安か無料で医療が受けられる』って話ですな」

上条「へー?そりゃ凄いな……あ、でも」

レッサー「えぇお察しの通り問題は山積みに。良い面もありますがね」

刀夜「日本と違って、診察を受ける際には予約が必要でね。早くて数日、長いと数週間とか割とあるんだよ」

刀夜「あ、勿論緊急性のあるものは別だけどね」

上条「……風邪引いたら、直ぐ病院、とかじゃねーのな?」

レッサー「えぇですから、死なないようにってか、『つなぎ』として薬局やネットで薬を買い、凌ぐ事が迫られます」

刀夜「日本でも『ネットで専門的な薬を売らせろ!他の国では実施されているのに!』と引き合いに出されるけど」

刀夜「余所の国では長い待ち時間があるからだね」

上条「日本じゃ長いっつっても、一日の終りには看てくれるもんな」

レッサー「ちなみに『私的診療』として、特別料金で待ち時間なし!みたいなのも横行してますね。ナイショですけど」

刀夜「他にも住んでる地域によって医療レベルや料金がバラバラだって現実もある」

上条「なんでまた?」

刀夜「大都市の医学部と町医者の違いかな?どうしても前者の方がより高度になるだろう?」

レッサー「で、この保険制度、『基本的に住んでる地元の診療所しか選べない』ってぇデメリットがありまして。田舎だとアレなんですよ」

上条「欠陥、とまでは言わないが……なんか、なぁ?」

レッサー「待機時間も今では改善されましたが、それを嫌う人間が海外まで行って医者にかかったりします。場合によっては無保険で」

上条「辛いだろそれ!?」

レッサー「あの世へお金は持っていけませんからねぇ、えぇえぇ」

刀夜「後は……不正な診療報酬の要求かな?エセ医療って知っているかい?」

レッサー「せめてホメオパシーぐらいは言ってあげましょうよ。やってる当人は大真面目なんですから」

上条「あー、雑誌の広告に載ってたな。そんな単語」

レッサー「『××を摂取すると○○病になる!よしならば××を薄めに薄めた△△を摂取すれば抵抗力が!』ってぇ話」

上条「治るの、それ?」

レッサー「逆に聞きますけど、それで治るんだったらエイズもエボラも根治治療されてると思いませんか?」

刀夜「まぁ、正しくはホメオパシー”も”含む疑似医療行為だね。うん。『自然のまま』を優先して現代医学の否定」

刀夜「自然分娩へ拘った挙げ句どうしようもなくなって救急車を呼ぶ」

刀夜「当然臨月の、しかも受診回数がゼロ回のクランケを受け入れる所なんかない。当たり前だよ。最後の最後で泣きつくなんて」

刀夜「しかしその結果だけを過剰に宣伝し、『日本の医療体制は崩壊した!』と宣伝しまくった羽織ゴロも居たね」

上条「……あれ、そういう話だったのか?」

刀夜「『と、いうケースもあった』のが正しいかな。全てじゃない」

刀夜「臨月かそれに近い状態だったら、首の上に頭が乗っている人間であれば、入院させて様子を見る」

刀夜「……そして何よりも『親』として失格なんだよ。その人達は」

レッサー「ま、そういう事例もあるって事ですね――てか、その関係で?」

刀夜「これ以上は流石に言えないけどね」

上条「そっか。父さん、こんな仕事もやってんのか」

刀夜「本職は証券会社だからね。今回は急な話だったんだけど、当麻に会えたしラッキーかな?」

レッサー「(ね、上条さん上条さん)」

上条「(はい?)」

レッサー「(私の下着は青のローレグですなんですけど)」

上条「(今必要か?その話父さんの前で内緒話する意味は無いよね?)」

レッサー「(噛んでません!わざとです!)」

上条「(うん、知ってた)」

レッサー「(何かきな臭いですね)」

上条「(なんでだよ?要は医療保険詐欺じゃねぇか)」

レッサー「(えぇ、お義父様が調査されているのはそうでしょうけど、それはあくまでも『枝葉』ではないかと)」

上条「(枝……木があるって事か?)」

レッサー「(詐欺をするからには『した連中』が居る、もしくはかも知れない可能性がある訳でして)」

レッサー「(証券マンがわざわざ出張る程の事案じゃありません)」

上条「(正しくは『証券取引室』で、証券会社じゃないんだけど……言われてみれば、確かに)」

レッサー「(サフォークでは何らかの『異変』が現在進行形で起きており、その一端が詐欺となって表面に現れたんじゃないかと)」

上条「(異変?)」

レッサー「(まだ確証がないのでお話し出来ません。何とかしてお義父様がお持ちの資料、見られませんかねぇ)」

上条「(流石に仕事の中身までは無理じゃねぇかなぁ……)」

上条「あー……つーかかなり言わせちまった気がするけど、大丈夫なの?結構人が居るんだけど」

レッサー「あぁスタバって何かPC持ち込んで作業してる人居ますけど、あれ『フリ』だから問題ありません」

上条「フリ?」

レッサー「だって普通に考えればどこの業界にも社内秘の一つや二つある訳でして」

レッサー「にも関わらず、こんな所で堂々と扱うのは神祖級のバカかやってるフリに決まってるじゃないですかーヤダー」

上条「まぁ……言われてみればオープンカフェとかでして良い事じゃないよな」

レッサー「ってかそもそも『超』貧弱なLAN回線で何やろうってんですか?公共LANだから情報盗まれまくりますし」

レッサー「つーかこんな所で仕事やったとしても、普通の神経を持っていれば集中なんか出来る訳がないですし。だから『フリ』ですよ」

レッサー「大方ニートか無職か失業者が『こんな所でも仕事出来るんだ俺カッコイイ!』って酔うためにやってるだけですから」

上条「あの……そのぐらいに、うん。何かさっきよりも気持ちお客さんの数が減ってきてるし!」

上条「いいじゃないアピールしたって!格好つけぐらいはさせてあげても!」

レッサー「や、でも恐らくはアピールする以上、対象的なモノはある訳でして。具体的には『店員さん』とか」

刀夜「ここの店員さんは世界各国、『顔も審査基準に入ってるよね?』と思いたくなるぐらいだからね。それ目当てで」

レッサー「でもそういう店員さん達、似たような社会人気取りのドリーマーを腐る程見てきてる訳でして――多分!」

レッサー「『お、また来てやがるよこのクソ野郎。チラチラこっち見ながら長居してっから気持ち悪ぃんだよなぁ』程度にしか、はい」

上条「謝って!?全国の純粋な気持ちでスタバ来てるお客さんに謝んなさいよっ!?」

刀夜「作家さんなんか、煮詰まるとビジネスホテルとかに籠もるしね。なんでわざわざ公共スペースでしなきゃいけないんだって話だよ」

刀夜「『雑音の中でも集中出来る俺!』を、やりたいんだろうけど。そもそも『そんな所で集中出来るんだったら自宅でも大丈夫』だからね」

刀夜「むしろ移動時間を考えるとマイナス要素しか見当たらない、っていうね」

上条「父さんも加勢しないで?明らかに気まずそうな顔して引き上げるお客さん増えてるし!」

上条「……なんかもう居たたまれなくなってきた。俺、追加注文頼んでくる」

レッサー「だったら私も」

上条「あ、お手洗いにも行きたいから」

レッサー「じゃそっちも一緒に」

上条「そうだな。一緒に入ればエコだもんな――ってバカ!なんて言わねぇよ!?なんで一緒なんだよ!?」

上条「そもそもエロにはなってもエコにはならないな!」

刀夜「……当麻、ノリツッコミまで立派になって……!」

レッサー「エコとエロをかける辺り、中々どうして機転も利きますしねぇ」

上条「ウッサいな!着いてくんなよ!絶対に!絶対だからな!」

レッサー「……あれ、着いて来いって言ってんでしょうか?」

――スタバ

刀夜「――で、君は『そっち側』の関係者で合っているよね?」

レッサー「違いますけど?」

刀夜「……あれ?間違った?」

レッサー「――ってのは冗談ですけど、やっぱり分かりますかね?」

刀夜「そ、そうだよね?なんかそれっぽい感じがしたから……あぁ!そうそう!」

刀夜「前にね。ウチの家族で旅行に行ったんだよ」

レッサー「はぁ」

刀夜「その時、カンザキさんっていう、妙に女っぽいシナを作る巨漢の外国人さんと一緒になってさ」

レッサー(イギリス清教の『聖人』、神裂火織……いえ確かに長身ですけど、『巨漢』?男性へ使う単語じゃないでしたっけ?)

刀夜「その男の人と同じ感じがするんだ」

レッサー(流石は上条さんの父親。国際的な投資銀行のアドバイザー――所謂『知的傭兵』は伊達ではない、ですか)

レッサー(……ま、往々にして鷹が鷹を生む事はあれど、鳶が鷹を生む事はまずないですからね。妥当は妥当だと)

レッサー「それで?わざわざ人払いまでかましてどんなお話が?――まさかっムスコの彼女に手を!?」

刀夜「誤解にも程がある!?どこの世界に自分の子供よりも年下へ手を出す……」

レッサー「って話は良くあります。むしろデフォです」

刀夜「……だね。私の顧客にも恋人を一杯持ってる方が、割と多いよ」

刀夜「で、その、私が聞きたいのは、だけどさ」

レッサー「えぇお察しの通りです。『こちら側』のお話です」

刀夜「どんな話か、聞いても?」

レッサー「なーに大した話じゃありません。よくある話っちゃ話です」

刀夜「そ、そう?だったら良かったんだが」

レッサー「ただちょっと世界の滅亡を目論む悪の秘密結社が居て、そいつらと戦ってるだけですから」

刀夜「……」

レッサー「一応幹部四人の内、半分はぶっ飛ばしましたけどね」

刀夜「……えぇと、なんだね、こういう時何と言うべきか、迷うんだが」

レッサー「はい」

刀夜「人としてはいけないかも知れないのだけれど、当麻を外す訳にはいかないん、だよね?」

レッサー「んー……まぁ、なんとかなるとは思いますよ、『なんとか』は」

刀夜「なんとか”する”のではなく、なんとか”なる”のかい?」

レッサー「えぇはい、”なる”です。」

レッサー「世界のどこかで誰かが殺されていても、それは『なんとか』なるでしょうね」

レッサー「私達が抱えてる問題を、いつか誰かが、無償で何の瑕疵も無く、見返りも求めずに解決してくれる――」

レッサー「――っていう『可能性は決してゼロじゃない』んですから。そう信じるのも結構でしょうな」

刀夜「……私も仕事柄国際情勢には詳しい方だけれど、それは」

レッサー「はい、皮肉で言ったんですよ」

レッサー「今回の事件、上条さんが絶対不可欠という訳ではありません。むしろ否応なしに巻き込まれた被害者、と言って差し支えないでしょう」

レッサー「ですので最初から居なければ――そうですねぇ、死人はざっと今の数万倍程度手に収まったかと」

刀夜「数万……!?」

レッサー「ユーロトンネルは年単位で封鎖、下手すれば両出口一帯が『毒ガス』で大量に事故死扱い」

レッサー「お次はフランス市内が閉鎖されて戒厳令が布かれ、ユーロ経済は大混乱――で、済めば御の字ですかね」

レッサー「このないだのは……直接影響はないですか。ただこの先も体を奪われる被害者が永遠に出るだけで」

レッサー「そんな風に『なんとか”なる”』筈でした――ですが!」

レッサー「上条さんは嫌々ながらも引き受け、途中何度も離脱する理由と機会を得たにも関わらず、しませんでしたよ」

レッサー「そうして『なんとか”して”』きたんです」

レッサー「偽善者達が平和な国”だけ”で平和を叫び、独裁国家やテロリストの靴を舐めるのは真逆」

レッサー「『する必要なんてこれっぽっちもなかった』――と、言うと上条さんに怒られそうですけどねぇ」

レッサー「『たまたま巻き込まれたお友達を助ける』ってぇだけの、シンプルで且つどうしようもないぐらいの正論」

刀夜「……そうか、当麻は」

レッサー「部外者がこう言っちゃ何なんですがね、上条刀夜さん」

レッサー「あなたがすべきなのは初対面の女の子相手に、ふざけてご機嫌を取る事ではありませんよ、えぇ」

レッサー「恐らく息子さんの『不幸』に気遣っているんでしょうが、それは、違う」

レッサー「あなたがすべきなのは、まず胸を張る事」

レッサー「そして同時に誇りに思う事――あなたのご子息が助けた人達を、です」

刀夜「……」

レッサー「親御さんとしては到底納得行くものではないでしょうし。ご心配なく、とは口が裂けても言えません」

レッサー「何よりもまず、私は事実を口にしてすらいませんが――ただ一つだけ、宣言はしておきましょう」

レッサー「『Arthur829(永劫の旅路の果てに再び戴冠する王)』の名前に誓って、上条さんは助けます」

レッサー「……ま、保険代わりだと思って頂ければ」

刀夜「……父親としては、そんな危険の場所へは行って欲しくない、って思うんだけどねぇ」

刀夜「……やっぱり我が侭なんだろうか?」

レッサー「まさか。人として当たり前の話です。子供を心配しない親が居れば、そらちを恥ずべきでしょう」

レッサー「とはいえ決断されるのは上条さんご本人です。未成年で、しかも学生でしかない。だから理不尽だ、と仰るのかも知れません」

レッサー「ですがしかし、決断なんていつどこでだってやって来るものです。予告無しに来るのが普通でしょうし」

レッサー「何にせよ上条さんは自らの意志で戦さ場へ足を運んでいます。納得しろとは言いませんが、せめて理解はしてあげて下さいな」

刀夜「……君は、当麻とは長いのかな?」

レッサー「うーむむむむむむむ……?トータルで言えば二週間ちょい、ってぇトコでしょーかね」

刀夜「そうなの?そんな風には見えないけど」

レッサー「最初は殺すつもりが逆に命を助けられて、次は第三次世界大戦中のロシアへ逃避行しただけです」

刀夜「00○のシリーズにありそうな話だよね、それ」

レッサー「ある意味核心を突いていそうなご指摘ありがとうございました、えぇ本当にもう……ってか、そういう話ではなく!」

レッサー「繰り返しますが、あなたはただ胸を張ってるだけで良いんですよ。誰に対しても引け目を感じる所なんかありゃしませんって」

刀夜「……そうか。ありがとう」

レッサー「いえいえ、お気になさらず――あ、でもあなたに問い正したい所が一つだけ」

刀夜「なんだい?」

レッサー「不幸がどうこうじゃなくて、もぉぉぉぉぉっとタチ悪ぃ、『アレ』」

刀夜「うん?だから何?」

レッサー「あ、トイレから出て来たんでちょい見てみましょうか」

当麻『……えぇっと、注文注文』

ドンッ!

当麻『あ、ごめん――じゃなくてソーリー?』

刀夜「どこかのレディと肩が当たったね。謝ってる」

レッサー「普通はここで終るんですよ。普通ならば」

レディ『――』 グッ

刀夜「うん?当麻が女性に胸倉捕まれてる?」

レッサー「何か言ってますが、聞こえないので私が読心術を」

レディ『――シッ!静かに!このまま動かないで!』

上条『何?動かないでってどういう意味だよ?』

レディ『黙ってて!少しだけで良いから!』

バタバタバタバタバタ……

刀夜「おや?突然店内に黒服の集団が入ってきた?」

レッサー「どう見ても訓練された人間――”っぽい”ヒト達ですねぇ」

レッサー(歩くとギシギシ音がする辺り、球体関節の”人形”なんでしょうが)

……バタバタバタバタバタ

刀夜「――と、思ったら直ぐに出て行ったね。誰かを探しているんだろうか?」

刀夜「てかあからさまに怪しいトイレの前で抱き合ってる二人をスルーしてるよね?」

レッサー「はい、まぁ、えぇっと。仕様です」

上条『なんなんだよ突然――ってイタっ!?』

レディ『気安く触れないでよこの変態っ!』

上条『……はぁ?お前何言ってんの?』

レディ『……じゃあね』

カツカツカツカツ……

刀夜「行っちゃった。何なんだろう、あれ?」

レッサー「――いや、まだ終っていませんよ!見て下さい上条さんの足下を!」

上条『……うん?なんだこれ、宝石?』

上条『――じゃねぇな、これ。内側から光ってる……』

刀夜「フラグだよね?私が言うのも何なんだけど、相当面倒臭い部類へ入るフラグに決まってるよね?」

レッサー「……えっと、まぁ見て下さいよ。まだ話は終ってませんから」

上条『さてっと、交番に届けたもんか――っとあん?』 グッ

女の子『……』

刀夜「いつの間にか現れた女の子が当麻をシャツを掴んでる……」

レッサー「……えぇ、私にも感知出来ない程の早業ですよ、はい……」

上条『どしたー?迷子かー?パパかママと一緒じゃないのか?』

女の子 ブンブン

上条『そっか、それじゃ警察――いや、空港だから迷子センター行くしかねーな』

上条『つっても子供――あぁ、すいません、店員さん、この子が飲めそうなメニューってある?』

上条『キャラメルとミルク……そうそう、コーヒー入ってないの』

刀夜「当麻!随分立派になって……!」

レッサー「てか英語しか使えないのに、キャラメルとミルクの単語だけで注文する上条さんのメンタルって……」

上条『お待たせー。どうぞどうぞ、飲みなよ』

女の子『……?』

上条『大丈夫、お兄ちゃんが払ったから。な、店員さん?』

女の子『……』 ゴクゴク

上条『あーあとすいませんけど、この子連れて行けるような所ってあります?迷子センター的なの』

上条『何?カード?クレジットカード寄越せ的な話?』

上条『首?……あぁ社員証みたいに下げてるのね。オーケーオーケー』

上条『よし、それじゃちっと見せて貰って――』

上条『……?』

上条『――どっか、行った……?』

刀夜「……何かまた一瞬で消えたんだけど、これはどういう事なのかな?」

レッサー「多分、選択肢的なアレでしょうな。やっぱり」

レッサー「落とし物をどうするか、はたまた念のため迷子センターへ行くか行かないかでルートが変わるのかと」

刀夜「ルートって何?日本語ではなんて言うのかな?」

ボス『――と、言う訳でな。少し顔を貸すんだよ、勿論拒否権はないぞ!』

上条『何?なんでお前暫くぶりにあった瞬間命令口調なの?つーかどっから現れやがったボス!?』

刀夜「おやおやー?今度はまた新しいフロイラインが出て来たねぇ。かなーり非合法的な感じの」

ボス『それは違う!それは違うぞ愚か者めが!』

ボス『お前は目を開いているのか?本当に?そう言い切れるものか?』

ボス『たったこれだけの真実へ行き当れずに、目が見えると思ってるのかバルドルめ!身の程を知りたまえ!』

ボス『光は暗闇を照らすものの怪物が出る!見えなければ存在しなかったものを”識る”のが、果たして賢明と呼べるのだろうか?』

ボス『蓮の華が開くのは、それ即ち適した主が現れる時に決まってるだろうが!』

ボス『さぁ、宣言せよ!キャメロットの猪とは違う!世界の綻びを魔神の喉元へ突きつけてやれ!』

上条『……えぇっと通訳の方ー?誰かこの電波系金髪ロリの子の言語を翻訳してあげてー?』

上条『つーか隠れて見てねぇでさっさと出て来やがれマーク!』

通訳『あ、すいません。ボスは12才児なのに中二病を発症してるもんで』

通訳『意訳すると、「次の方どうぞ」、ですね』

上条『次?次って何?』

修道女『おんや?上条さんじゃねぇですかい。どうしたんです、こんな所で?』

上条『また出やがった!?今度は何?何なの?』

修道女『相変わらずボケボケっとしたお顔をしてやがって何よりです……全くこっちは大変だってぇのに、暢気なもんですね』

通訳『事件でも起きたのですか?』

修道女『そっちでも把握してるでしょーに。例のアレ、「亡霊騎士団(ワイルド・ハント)」の連中ですよ』

修道女『つーか暇だったら手伝っちゃくれませんかい?生憎こっちは万年人手不足でしてね』

刀夜「……えっと……」

レッサー「……えぇまぁ、はい。既に何となーくお察しかとは思いますが」

刀夜「当麻の周囲に、段々と女の子が集まって来て……る、よねぇ」

レッサー「面倒なんでぶっちゃけますけど――上条刀夜さん!」

刀夜「あ、はい」

レッサー「『不幸』がどうこう言う前に、もっと反省すべき所はありませんかね?」

レッサー「具体的には『アレ』をどうにかしろっつってんですよ!」

レッサー「遺伝にしても程かあるでしょうが!?この短時間に何人とフラグ立てれば気が済むんですかっ!?」

レッサー「不幸不幸と言う割にはラッキースケベを連発しますし、本当に不幸なんですかねっ!?」

刀夜「……はい、なんかもう、色々とすいません。でもコレばっかりは遺伝だから」

レッサー「遺伝?DNAの中に悪魔が居るってんですか、あ?」

刀夜「私の父さん、当麻の爺ちゃんも、まぁ似たような感じだから」

レッサー「よく断絶しませんでしたね?主に痴情のもつれや嫉妬で」

刀夜「詩菜さんと結婚した時は大変だったよ……」

レッサー「すいません、目の前の上条さん見てるだけでお腹イッパイなんで、その話はキャンセルして貰っても構いませんかね?」

刀夜「あ、君さ」

レッサー「はい?」

刀夜「『当麻さん』から『上条さん』へ戻っているよ?

レッサー「ウルセェですよクソ親父。つーかこういう所だけ鋭い親子って……」

刀夜「まさに遺伝だね!」

レッサー「……誰かこの人達のゲノム殺してくれませんかねぇ……?」

10代後半の少女「――おや、そこに居るのは確か」

レッサー「はい?どちらさんで?」

刀夜「――あぁ君は確か、パブに居た――」

10代後半の少女「あの時は驚いたぞ。まさかの人の身で『危険域』から抜け出るとはな」

刀夜「いやいや、おじさんの経験だよ。君とは違って少しだけ長く生きているからね」

10代後半の少女「……長さで言えば我らの方が種族として長命なのだがな。ま、生き方が違うか」

10代後半の少女「ともあれそなたには世話になった。その借りを返したいと思っていた所だ」

刀夜「あーいやいや、。別にお礼される程のもんですもないさ。それに私はもう貰っていますからね」

10代後半の少女「……?した憶えなどないが?」

刀夜「言ってくれたじゃないですか――『ありがとう』って」

10代後半の少女「……っ!」

刀夜「チャーミングなお嬢さんにそう言われたら、お釣りが足りないっても――おや?」 ガシッ

10代後半の少女「……ダメだな、私は。どうやってもそなたを諦めきれないらしい」

刀夜「フロイライン?どうかしましたか?」

10代後半の少女「一緒に来てくれ!森が大変なんだ――」

刀夜「ちょ!?ちょっと待って――」

……

レッサー「……あれ?本当にどっか行った……?てか今の女性、耳がヤケに尖っていたような……?」

レッサー「エルフの女騎士がスーツ着てたらあんな感じ……」

レッサー「……」

レッサー「……」 ポクポクポクポク

レッサー「……!」 チーンッ

レッサー「えぇっとぉ、鞄にー」 ガサゴソ

レッサー「ねんがんの、ないぶしりょうを、てにいれたぞ!」 キリッ

今週の投下は以上となります。お付き合い頂いた方に感謝を


レッサーの魔方名凄まじいな
上条家(男)は相変わらずのフラグ建築力

乙です。
毎週楽しませてもらってます。

色々あるだろうけど、定期的に投稿続けてくれててありがたい。

本編でレッサーが触れてたことだけど、
日本で世に言う「英語力」ってなんなのさって勉強してて思う…考えさせられたよ。

>>25
原作でも絡んでほしいんですが、一介の魔術師に果たして出番が来るのか、と

>>34
あくまでも個人の体験の域を出ない話ですが、素直な感想を書いています
「人に素早く分かりやすく伝える」のか目的の日常会話と「正確に精密で瑕疵の許されない」公的文書、違って当然

これを勘違いするとエラい事になりまして、日本の近くにある某自称TOEIC大国出身のパイロットが英語を碌に聞き取れず、
旅客機事故を起こしそうになったというエピソードもあるぐらいです

――『明け色の陽射し』 ロンドンにあるアジトの一つ

レッサー「――うーむ。結論から言えば真っ黒でしょうかねぇ、こいつぁ」

バードウェイ「どれ、見せてみろ」

レッサー「なんて言いましょうか、素人ですらどこから突っ込んで良いのか困るレベルですよ」

バードウェイ「……30代の若人がCF、しかも立て続けに10人だと?馬鹿げている」

バードウェイ「疑ってくれと言ってるようなもんじゃないかね、これは」

レッサー「でっすねぇ。しかもジギタリスすら常備してなかったせいで、応急処置も出来ずにそのまま、と」

バードウェイ「よくもこんなチャチな書類で保険金が下りたもんだが……あぁ”だから”か」

レッサー「ですね。逆に杜撰すぎて下りなかったもんで、当――上条さんのお父様へお鉢が回って来たのでしょう」

バードウェイ「他にもホメオスパシー系が『なんて良心的なんだ!』と思えるような内容、感動すらも覚えるな」

レッサー「って事はやはり?」

バードウェイ「ま、二種類の詐欺に関してはクロ。だがそれが連中の仕業とは限るまい?」

レッサー「いやぁそれがですねぇ。担当医の名前、読んで下さいな」

バードウェイ「……あぁ。聞いた名前だな、どこかで」

レッサー「ですなー。あからさま過ぎて罠を疑うレベル」

バードウェイ「むしろ罠ではない、と言うのが不自然なぐらいだが……さて?」

レッサー「……えぇ!」

バードウェイ「……」

レッサー「……」

バードウェイ「なぁ、一ついいか?」

レッサー「あい?」

バードウェイ「私が折角内部資料を解説してやってるのに、あの馬鹿者はどこで何をしてるんだっ……!?」

レッサー「あー……あちらを」

上条「――マジ?この食材使って良いのかっ?」

マーク「勿論ですとも。何せ上条さんのためにご用意させて頂いたものですから」

上条「え、俺?なんで俺のために?」

マーク「ウチのクソガ――もとい、ボスがね。実は『そろそろあの馬鹿者が来てもおかしくないな!』なんて言ってまして」

上条「あ、そうなんだ?占いスゲーな」

マーク「約十日前から」

上条「凄くなかったな!?九日は外してんじゃん!?」

マーク「いえいえ、ほらユーロトンネルで大暴れしてましたよねぇ?アレ見てボスが」

マーク「『……成程成程。ARISAの護衛か……これは流石に一人の手には余るだろう……ククク』」

上条「やだ脳内再生率ハンパじゃない」

マーク「『どうせ私達、”明け色”に泣きついてくるんだろうが、そう安売りはせん!たまには痛い目を見るがいいさ!』って宣いやがったんですが」

マーク「でも実際にご一緒なさったのは、そちらのお嬢さん方でしょう?だもんでボス大恥、ザマーミロ的な?」

上条「あ」

バードウェイ「……」

マーク「しっかも挨拶ぐらいしてくれても良いのに、スルーしてさっさとイタリアへ向かいましたよね?それでもう、ボス激怒」

マーク「未練タラッタラで、上条さんから『助けて!?』的な連絡が入るかも?ってずっとソワソワしてましてね」

マーク「そうしていたら『網』に上条さん達がロンドンへ来るって――って、どうしたんですか?何か、いやーな顔してますけど?」

上条「マークー、後ろ後ろー」

マーク「何ですかそれ。日本のモーストフェイバリットコメディアンじゃあるまいし――」

バードウェイ「マァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァク……ッ!!!」

マーク「違いますってボス!?これは危険がピンチですから!?」

上条「気持ちは分かるが混乱しすぎだろ」

マーク「てか上条さんっ!なんで言ってくれなかったんですかっ!?」

上条「だって遅れだもの。お前が悪っそうな物真似してた時、既にボスからタゲられてたし?」

マーク「確かにそれは不回避ですけど!?ソレだってもう少し傷が浅いウチに止め――」

バードウェイ「――る、と思っていたか?」

マーク「……いえ、ですけあばばばばばばばばばばばばはばばばばばっ!?」

バードウェイ「ほーら、お前”も”大好きな虐殺ウサギだぞー?」

レッサー「良い感じにスパークしてやがりますね。アメリカの処刑はこんな感じでしょうか」

上条「……なんだろう?俺には縁も縁もないのに、何故か寒気が……?」

レッサー「そういう時には人肌で暖め合うのがセオリーですなっ!」

上条「イギリスの常識が世界で通用すると思うなよっ!?」

バードウェイ「そんな常識持った憶えはない。捏造しないで貰おうか」

上条「あー……なんか、ごめんな?挨拶もしなくって」

バードウェイ「終った話だ。貴様に人並みの社交性を求めた私が愚かだったさ」

上条「終ってないよね?根に持ってるもんね?」

バードウェイ「……私だって少しばかり期待はしていたのだからな、少しだけ、だが。勘違いはするなよ?」

上条「……バードウェイ」

バードウェイ「お前がどんなマヌケ面を晒して無様にDOGEZAを決めるか、心の底から楽しみにしていたのと言うのに!」

上条「期待の方向性が違うなっ!?発想からして歪んでやがる!」

上条「……まぁいいや、メシ作っちまうから。二人とも手ぇ洗ってこい」

バードウェイ「わかった――行くぞ、どうした?」

レッサー「素直になれよツンデレ」

バードウェイ「黙れ、殺すぞ」

――食事後

上条「で、なんでバードウェイさん居んの?」

バードウェイ「成り行きだよ。路頭に迷う馬鹿者共を見捨てておくのも気が引ける」

上条「マークの証言と180度方向性が違うんだが……まぁいいや」

上条「それよりもお前らが父さんの鞄を勝手に開けてる件について!」

レッサー「や、ほら、なんかエルフの女騎士っぽい人に拉致られてましたでしょ?なのでお荷物は預かるのが筋じゃないかと」

上条「どこ行きやがった父さん!?仕事放り出してまで!」

レッサー「それで手数料的なお駄賃のような意味合いで、まぁちょろっと見るぐらいは良いんじゃねぇかな、と」

上条「……いやぁ、うん。それはちょっとスルー出来ねぇなぁ」

バードウェイ「ま、気にするな。彼には彼の仕事があり、私達とは道が異なるだけだ」

上条「同じだよね?サフォークって言う所まで同じだったもんね?」

バードウェイ「どっちみち同行は出来なかっただろう?お前は父親を危険地帯へ向かわせるつもりだったのか?」

バードウェイ「何のかんのと理由をつけて断念させるか遅らせる、違うか?」

上条「まぁ、そうなんだけどな」

レッサー「そんなにお堅いこたぁ言いこっなしってヤツですよ、えぇ。大事の前の小事とは言いましたでしょう」

上条「……父さんがどっかの誰かに拉致られたのが、『小事』?」

バードウェイ「携帯電話はどうした?先程何か話していただろうに」

上条「あー……衛星電話らしくてさ。会社に連絡して欲しいって頼まれたんだよ」

レッサー「ほら!やっぱり無事――」

上条「――『当麻、エルフって本当に居たんだな!』っつってんだけど、これ、無事か?」

レッサー「あー……」

上条「どう考えても頭イタイか、もっとイタイ状況に陥ってると思――なに?」 トスンッ

バードウェイ「――では話を始めようか」

レッサー「ぐぎぎぎっ!幼女を胡座の上に乗せるなんて!上条さんの変態っ!」

上条「お前一部始終見てたじゃねぇか!?どこに俺の自由意志があったと!?」

レッサー「嫌がる素振りも見せないなんてドンだけ好きモンなんですかっ!」

上条「や、別にいいかなって」

レッサー「幼女の仄かにミルク臭い体臭を胸の奥へくんかくんか吸い込んでガイアの息吹を感じつつ!」

レッサー「丁度お尻辺りにツンツンしながら、『ホラ、俺の妖怪さんがどこかに居るか、ウォッチしてご覧?』とか言うつもりなんでしょう!?」

上条「レッサーさん、それ妖怪じゃなくて『”幼”怪』。べとべとさん親戚のペ×ペ×さんの話じゃね?」

レッサー「『幼怪体操、しようか?』」(キリッ)

上条「どんな体操?あ、もしかして青信号の車道で踊ってたのは、『行っとけ!』みたいな比喩が込められていたの?」

上条「てか前から思ってたんだが。そんな素人じゃ考えつかないような発想をする方が、どっちかっつーとおかしくねぇかな?」

上条「明らかに堅気の人の発想じゃねぇもの!どう見てもその筋の玄人だもの!」

レッサー「余談ですが、『イノケンティウス』と『芋けんぴ薄っ!?』って似てません?」

上条「フリーダム過ぎるわっ!?天丼の三段目には同じ系統のネタ持ってくるのがセオリーでしょぉぉぉぉっ!?」

上条「確かに芋けんぴはほんのちょっと似てるけどさ!ここで前振りもなく飛び出すネタじゃないし!」

バードウェイ「……おいお前達。さっきから黙って聞いていれば、人を特殊性癖用のカテゴリーへ入れないで貰おうか」

バードウェイ「多少幼さを残すとはいえ、明らかなレディに暴言を吐くのもいい加減にし給えよ」

上条「だって子供じゃん?普通の女の子だったらしないし?」

レッサー「せめて膨らみを抑える乳バンドをつけないと、おっぱいはおっぱいと呼べませんねぇ、はい」

レッサー「今ぐらいの膨らみだと――”おっ”ぐらいが適当かと。あ、多少オマケしてですよ?」

バードウェイ「――よし、表へ出ろ。猪の牙をへし折ってやる!」

上条「コラ暴れんな!大人しくしとけ!」 ナデナデ

バードウェイ「はーなーせっ!気軽に撫でるんじゃないっ!」

上条「あー、レッサーいいから話進めてくれ」 ナデナデ

バードウェイ「……っ……!」

レッサー「嫌なら別に退けばいいんじゃないですかね、どっちも」

上条「何?」 ナデナデ

バードウェイ「……」

レッサー「この『幻想殺し』……なんかこう、イラっと来るって言いましょうか。や、まぁいいんですけど」

上条「だから俺の能力にはそんな意味は無いと何度言ったら」 ナデナデ

バードウェイ「……くっ、殺せ!」

上条「アレ!?いつの間にか妙な能力獲得してたのっ!?」

レッサー「幻想とロ×を開発する能力……!なんて恐ろしい……!?」

上条「怖いけど、それある意味で幻想殺せてないよね?あとむしろ殺されるのは俺の社会的立場だよね?刑法的な意味で」

レッサー「――さて!これ以上は条例が怖いので突っ込みませんが!書類の内容から説明しますけど――」

上条「条例?どこの条例?非存在が存在しちゃう系の条例なの?」

レッサー「えぇっとですね。書類に拠ればこの方――というか医療団体は二つの嫌疑がかけられています」

レッサー「一つはスタバでも言った国民保健サービスで不正診療をし、要求してるといった所でしょうな」

上条「疑似医療行為だっけ?」

レッサー「ですな。お父様が仰っていた通りっちゃ通りでした――んが!」

上条「……」

レッサー「んーーーーーがーーーーーーっ!!!」

上条「そ、それでっ!?」

レッサー「でもその資料は『参考資料』でして、本命は別にあったみたいです」

上条「医療報酬じゃなくて?」

レッサー「えぇ。だってそっちは儲けが少ないですからね。だもんでそんなに派手にはやってないかと」

上条「充分大事だと思うが……それじゃ何を?」

レッサー「まぁぶっちゃけ保険金詐欺ですな」

上条「……もしかして?」

レッサー「ご想像の通りの、いやーな感じの方ですね。保険金かけて『事故死や病死』する的な話」

上条「ガチじゃねぇか……!」

レッサー「考えてみればお父様は民間の方なんでしょう?なら、同じく民間保険会社の依頼を受けたんでしょうな」

レッサー「国民保健サービス云々はあくまでも参考。っていうか、もしそっちか主目的だったら国が動いている筈です」

上条「……敵、ヤクザかよ……」

レッサー「『だったらまだ良かった』んですがねぇ。生憎それがそうでもないらしくて」

上条「またまたー、ヤクザ以上にタチ悪いのってそうそう居る訳がないじゃないですかー」

レッサー「完全に熱湯風呂的なお約束へ入ってますけど――ま、こちらをご覧下さいな」

上条「診断書……?ほ、ホラ俺ドイツ語とか見せられてもね!」

上条「いや残念だわー、英語だったら読めたのにー」

レッサー「え?なんでブリテンでドイツ語なんて使うんです?」

レッサー「日本と違ってドイツから医療技術仕入れた訳じゃないですからね、勿論英語で書いてありますけど?」

上条「……ごめんなさい」

レッサー「いえいえ。分かります分かります、好きな子の前だと格好つけたくなっちゃいますもんねー」

上条「不本意な解釈をされてる……!?ポジティブで結構だが!」

レッサー「それにお見せしたいのはホラ、下の医師の署名欄」

上条「どこ?」

レッサー「ここですよ、こーこ」

上条「また達筆に筆記体だが……えぇっとW=ウェイトリー……ウェイトリィ!?」

レッサー「ブリテン風の発音だとウェイトリ”ー”ですね」

上条「関係者?それとも本人?」

レッサー「こっちの資料には60過ぎの初老の男性だと書いてありますねぇ。なので本人ではないかと」

レッサー「とはいえ、偶然の一致として片付けるにはおかしい――ん、ですがねぇ」

レッサー「その前に少し情報を整理しません?気になる事がありまして」

上条「ん、あぁ良いけど。大した情報は持ってないぞ」

レッサー「それは上条さんの『主観』であり、情報の価値のあるなしは別問題です。でわでわ質問!」

レッサー「髪はロングが好き?それともショートの方がいいでしょうか?」

上条「似合ってりゃなんでも。あんま奇抜じゃなければ別に」

レッサー「……」

上条「……」

レッサー「……上条さんっここはツッコむ所じゃないですかねっ!?」

上条「逆ギレじゃねぇか!?『あ、やっぱそっちか!』とは思ったけど、一応答えてんじゃん!?」

レッサー「……どーにもこう、マンネリ感が拭えませんが……まぁ気を取り直しまして真面目に!」

上条「本当だな?フリじゃないんだよな?」

レッサー「ってかもうそれ自体が『押すなよ!?』って感じになっちゃってんですが。あんまりボケても話が進まないので、えぇ」

レッサー「『濁音協会』――通称『S.L.N.』、一度は滅びてんですよね?」

上条「って言った、よな?ステイルからのまた聞きだが」

レッサー「ずばり、『いつ』の話?」

上条「10年前、ローマ正教が関係してるらしい」

レッサー「『必要悪の教会』は?」

上条「イギリスのサフォークにも居たらしくて、知り合いの先輩達がカタをつけたって」

レッサー「にゃーるほど、うむむむ……」

上条「それが何か?」

レッサー「おかしくないですか、それ?」

上条「矛盾は無い……よな?あ、マタイさんに直接訊きゃ良かったか」

レッサー「ではなく。『必要悪の教会』が、ですよ」

上条「うん?」

レッサー「仮に今から行くサフォークが、『S.L.N.』の残党なり後継者だったとしましょう。仮にですよ?」

レッサー「『わざわざ残党を残すような生温い処置を連中がする訳が無い』じゃないですか」

上条「……説得力、ありすぎるよな」

レッサー「良くて皆殺し、悪くて地図上から街そのものが消えていても不思議じゃ無い、って言うのにですよ」

レッサー「なーんか不自然だと思いません、これ?杜撰っていうか、手落ちってのも、違いますかね」

レッサー「あぁっと日本語で――あ、そうそう!『示し合わせたかのように』です!」

上条「『必要悪の教会』がグルって可能性も?」

レッサー「ゼロでは無いでしょうが、流石にそこまでは落ちぶれてないと思います。あんまり酷いようだったら、ウチの先生が介入してるでしょうし」

上条「先生も魔術師なのか?」

レッサー「昔はぶいぶい言わせてた、なんつってますけど怪しい所です。ま、それはともあれ」

レッサー「『必要悪の教会』、つまり『清教派』に歪みがあれば他の二派閥がここぞとばかりに潰すでしょう。なので主導では無いかと」

レッサー「ですが、『清教派』内部の誰かさんが意図的に隠した、とか?」

上条「……それもある話だな」

バードウェイ「……おい」

上条「ん、どした?」

バードウェイ「撫でる手が止まっているぞ馬鹿者が!」

上条「え!?そこキレる所なの!?」

バードウェイ「重要情報をくれてやると言っているんだ。そのぐらいしてもバチは当たらんさ」

上条「ってもお前、10年前だったら流石に憶えてはねーだろ」 ナデナデ

バードウェイ「ん、んんっ……まぁ、そうなん、んっ!だ、がっ……っ!」

レッサー「すいません上条さんとバードウェイさん、絵面がエロ同人みたいになってますんで、ナデナデはお話が終了してからで宜しいでしょうか?」

上条「ユカタン?」

レッサー「あぁ、いいですいいです。上条さんはどうかそのまま、汚れの無いまま育って頂きたい」

バードウェイ「……まぁ、その、なんだよ。私は関わっていない、先代ボスが殲滅に参加したという話を聞いただけだ」

上条「それじゃマークから詳しく話を聞け――」

マーク「……」

上条「――は、まだ復活してねぇな」

バードウェイ「ヤツもまだ若いから知らんよ。そうじゃなく、時間の話だ」

バードウェイ「私が聞いた分だと、『私が生まれる前に殲滅した』と」

レッサー「……っ!?」

上条「ふーん?それじゃ伝聞でしか知りようが無い――って、レッサー?」

レッサー「えと、12才児って言いましたよね、あなた?」

バードウェイ「”児”は余計だ」

レッサー「……食い違ってますよね、これ」

レッサー「『必要悪の教会』が滅ぼしたのが『10年前』で――」

レッサー「――先代『明け色の陽射し』が参加したのが『最低でも12年以上前』――」

レッサー「――なんでしょう、これは……?」

上条「バードウェイの勘違いじゃ無いんだよな?」

バードウェイ「まさか。お前でもあるまいし」

上条「ですよねー……だったらステイルが面倒臭くてテキトーぶっこいたとか?」

レッサー「で、済めば良いんですけどねぇ。今まで、そんなケースありました?」

上条「……大体、最悪の伏線になって帰って来ました……鮭の稚魚が大きくなって川を遡るようにねっ!」

レッサー「中々ドラスティックな人生で結構ですな。しかし、むー……?」

バードウェイ「直接お友達に訊いてみろ。禁書目録でも構わないが」

上条「いや、それがさ。最近連絡取れないんだよ」

レッサー「最近?具体的にはいつ頃から?」

上条「イタリア入ったぐらい。『団長』とやり合う前」

レッサー「信用出来る方なので?」

上条「あぁ、一点においては世界の誰よりも。だから『協会』の殲滅には一番熱心にやってる筈だ」

レッサー「……そうですか、んー……?」

上条「何だろうな、これ?不自然っつーか、気持ち悪――」

上条「――いや、不自然なのは今更、か?」

レッサー「なんです?他にも何か?」

上条「建宮――天草式十字凄教の知り合いとも話したんだが、色々と納得が行かねぇなって事だよ」

上条「向こうの作戦が杜撰で行き当たりばったりだって」

レッサー「あぁ成程。確かに、ですな。私もそう思っていましたよ」

レッサー「戦力を小出しにするのは下策中の下策。ムダに仲間を死なせたい目的でも無い限りはしません」

レッサー「あれだけの術式と霊装を持ちながら、最初の一回以外は全て幹部が組織単位でバラバラに動いている」

レッサー「しかも『団長』に限っては夢に二人を閉じ込め、何をしたかったのかも不明と来てますし」

上条「最初は単純な時間稼ぎだと思ったんだが、終ってみれば一瞬。もっと長かったら襲撃されてたのかも、だが」

レッサー「あー、その可能性も否定出来ませんねー」

上条「……?」

レッサー「上条さん?」

上条「……そういやステイル――『必要悪の教会』と最後に会った時、変な事言ってやがったな、って思ってさ」

レッサー「変な事、ですか?」

上条「んー……?や、でもあれは関係ないのかも?説明が面倒臭いから、『新しい友達に訊いてみれば?』的なニュアンスだったし」

レッサー「ですから、具体的にはどのような?」

上条「――『アルテミスの猟犬はどこから来たのか?』――」

――イギリス東部高速列車 朝

上条「……」

上条「……お?」

上条(明るい?てかここ、電車の中――痛っ!?)

上条(全身、あちこちが殴られたように痛い……痣にでもなってるみたいだ)

上条(俺、レッサー達と話してた、よね?なんでこんなトコ――)

レッサー「上条さん!」

上条「レッサー?」

レッサー「良かった、気がついたんですね……私、どうしようかと心配で」

上条「おいおい、お前らしくないな。心配なんてさ」

レッサー「一体どこへ捨てようか、もう……!」

上条「処理の心配っ?まずは病院連れてってあげて!……っ!?……」

レッサー「あー、大声上げるからですよ。少しとはいえ怪我人なんですから」

上条「その怪我人を、意識の無いまま列車に乗せるのもどうかと思うんだが――何があったんだよ?」

レッサー「憶えてないんですかっ!?凶悪な魔術師の襲撃を受けたんですよ!」

上条「そう、だっけ?」

レッサー「上条さんは必殺の一撃を消しきれずに直撃。意識を刈り取られたのを見て、私が担いでさっさと逃げ出しました」

レッサー「いやー、あと少しあの場に居たら命は無かったでしょうね」

上条「……そっか。ありがとなレッサー」

レッサー「いえいえ、どういたしまして」

上条「あ、なんか段々思いだしてきた……」

――回想 『明け色の陽射し』 ロンドンにあるアジトの一つ

バードウェイ「だから私は最初に言ったじゃないか、『アルテミスの猟犬共め』と」

上条「聞いてねぇよ。つーかお前最後に会ったの学園都市で俺の下腹へ穴空けた以来じゃんか」

バードウェイ「……あぁ思い出したよ」

バードウェイ「確か学園都市の路地裏で、背後から有無を言わせず、雄々しくドリル的なモノを私へ突き立てようとしたんだったか」

上条「言い方!?それだとまるっきり性的な意味で犯罪者じゃないですかっ!?」

レッサー「え!?届いたんですかっ!?まっさかぁ、幾ら何でも」

レッサー「……あ、いやでもこの身長差で、フルパワー時にならなんとか……?」

上条「コラそこ指で大体の目算をしない!アリサ居ねぇからって露骨な下ネタ解禁になった訳じゃねーから!」

レッサー「ちなみにドリル……あっ!比喩的表現ですよねっ分かります!」

上条「違うよ?そういう意味じゃないよ?日本人男性には多いけど、俺が必ずしもそうだって訳じゃなくてだ」

上条「あのドリルは工業的なアレでね、決してドリルがドリるみたいな暗喩は」

上条「だからもうアマゾンでリドル・ドリル先生の、勘違い新作がね、読めなくなっちゃったのは少し寂しい」

バードウェイ「しかもその後、何が気に食わなかったのか、私の頬を叩いて『俺がお前を利用すりゃいいだろグヘヘヘヘ』とか言ってたな」

レッサー「真性じゃないですかヤダー」

上条「逆じゃなかったかな?」

レッサー「ではやっぱり仮性で?」

上条「表へ出ようか?テメェの幻想ぶち殺してやるよっ……!!!」

バードウェイ「殺し合いは余所でやれ。近所迷惑だ」

上条「だから!俺の話はどうでも良いんだよ!お前らには関係ないし!」

レッサー「……」

バードウェイ「……」

上条「何?なんで気まずそうなの?」

レッサー「――しかしまた、アルテミスですか。予想の範疇であったとはいえ、嬉しくも有り難みもない話ですよねぇ、はい」

バードウェイ「よく分からんが、相も変わらず波瀾万丈な人生で羨ましいものだよ、なぁ?」

上条「望んだ憶えはないっ!俺は平穏に生きていたいだけなのっ!」

レッサー「で、あれば禁書目録さんを警邏組織へ不法侵入で突き出し、毎回突っかかってくるビリビリさんを刑事告訴すれば良いでしょうに」

レッサー「それが出来なかったからこそ、今のご自分があるって自覚して下さいな」

バードウェイ「馬鹿が馬鹿みたいに悩んだって馬鹿だから分かりはしないんだよ、この馬鹿」

上条「……二人の正論に俺のMPゴリゴリ削られていく……!」

レッサー「馬鹿って認めるんですか……ま、さておきましょう!『おバカな子程可愛い』って母親から言われ続けてる私が言うんだから間違いありません!」

バードウェイ「普通に諦観の境地へ達しているだけだな」

上条「お前をそこまで伸び伸びと育てやがった親には、正直ちょっと興味ある」

レッサー「アルテミスの話は憶えておいでで?」

上条「『エンデュミオン』って男の人が居て、その人に恋をした神様だっけ?」

バードウェイ「それは『セレーネ』だ。ま、後に同じ月の女神であるアルテミスと合一・同一視されるがね」

上条「ステイルが言ってたのは、その『猟犬』って単語。関係あんのかな?」

レッサー「あちらさんがエンデュミオンと関わりのあるアリサさんを狙ってる以上、意味を持つ可能性が高い――いや、むしろ」

レッサー「『分かっていて』情報をこちらへ流した可能性が」

上条「と言うと?」

バードウェイ「機密情報は上から口止めされていて言えない。だが世間話は出来る」

バードウェイ「特にお前はMagicの”M”も書けないド素人だ。だからある程度『解説”してやる”』必要がある」

バードウェイ「その過程で、たまたま、偶然、何かの拍子で」

バードウェイ「確信に近い何か、真実へ至る道標、迷路を抜ける毛糸玉を与えてしまっても、それは偶然だから仕方がないと」

バードウェイ「ましてや相手は何も知らない相手。重要性なんて気づく訳がない――誰かに話さない限りは」

上条「的確に黒い説明ありがとうボス……言われてみれば、建宮もやったら説明台詞多かった気がする……」

レッサー「内容、憶えてます?」

上条「……何となくは、まぁ何とか!」

レッサー「バックログでもありゃ良いんですけどねー。ま、基本的な所から行きますか」

レッサー「上条さんは『アルテミス』についてどの程度まで知識をお持ちですかね?」

上条「俺?そうだなぁ……名前と、あと月と弓の神様ぐらいか?」

上条「ゲームに出てくる『アルテミスの弓』的なのは、大抵最強レベルの弓装備だっつーぐらい」

レッサー「大体合ってますし、その知識でほぼ把握してると言っても過言ではありません」

上条「お、褒められた?」

レッサー「ただし『一般人としては』という注釈が入りますがね」

上条「……ガッカリだ」

バードウェイ「それでいいんだ。魔術師知識を持っていたとしても、日常生活では使い道に困る」

レッサー「中二病が治らないのも厄介ですしね――それでは、そうですねぇ、どこからお話ししたものか」

バードウェイ「神性からで良いだろ。背景を知る上で必要不可欠だ」

レッサー「ですなぁ。では上条さん、今『アルテミスの弓超強ぇーハンパねー』と仰いましたが」

上条「言ってない。俺そこまで言ってないわー」

レッサー「『どうして強いのか?』と考えた事は?」

上条「狩猟の神様だから、だな。獣を射る弓の扱いが上手いって事なんだろ」

レッサー「合ってます。では『どうして狩猟の神であるのか?』とは」

上条「……そこまで深くは考えねぇって。『そういうもんだ』と」

レッサー「ま、神様なのでそんなもんですよ。それもまぁ正しい理解っちゃその通りなんですが」

バードウェイ「アルテミスの逸話として、弓矢を持ち山野を駆け抜ける姿が言い伝えられている」

バードウェイ「また彼女へ仕える巫女達は熊を真似る踊りを捧げる。従者の一人であったカリストは純潔を失うと熊の姿へ変えられた話もある」

バードウェイ「同時に生まれたばかりの身でありながら、母の出産に立ち会い、弟のアポロンを生ませた――よって妊婦や出産をも司る、そうだ」

バードウェイ「特にエペソス――トルコのエーゲ海東端にあった都市では、アルテミス神殿と神像が残っており」

バードウェイ「その姿は『多数の乳房を持つ』形をしている」

上条「へー」

バードウェイ「だがしかし、これは矛盾しているんだ。それも明確に」

上条「どこが?つーか神様や神話に矛盾も何もあったもんじゃ――」

バードウェイ「ギリシア神話のアルテミスは『純潔と狩猟の神』で――」

レッサー「――エペソスのアルテミスは『豊穣と出産、そして狩猟の神』なんですよねぇ」

上条「……はい?」

バードウェイ「『カリストは純潔を失い雌熊への姿を変えられた』んだが、『豊穣の女神がそんな事をする道理がない』と思わないか?」

バードウェイ「もしカリストが身ごもっていたら?そうするとアルテミスは『自身が加護を与えるべき妊婦へ罰を与えた』話になる」

レッサー「『純潔の神』と『豊穣・出産の神』は明らかに相反するんですよねぇ、これが」

上条「アルテミスは出産の神様、妊婦さんを守る神様であって」

上条「妊婦さんになるためには……まぁ、その、なんだ。すべき事をしなくちゃならない訳で」

上条「でもそうするとアルテミス的にはNGだって話か?矛盾、つーかおかしいだろ!」

レッサー「その疑問へ対する回答としては『アルテミスは元々オリンポスの神ではなかった』でしょうかね」

上条「え?ギリシア神話に出てくるんだろ、だったら」

レッサー「えぇ出て来ますよね、ギリシア神話『にも』ね」

バードウェイ「というか、ギリシアは多数のポリスで構成された連邦国家だ。それぞれの地域や支配都市で文化は異なる」

バードウェイ「それらの神話を統一、集合化させたのがギリシア神話。例えば――ヘルメス。英知と盗賊の神、ヘルメス神は知っているか?」

バードウェイ「愚か者に華を持たせてやれば『盗躁』の神と言ってやらなくもない」

上条「靴関係で素早さを上げてくれる神様?」

バードウェイ「彼女――もとい、彼は元々エジプトが由来の智恵の神だ。それを信仰する人間達がギリシアへ加わり、神話に組み込まれた」

上条「あー、建宮と似たような話したかも。『征服者が被征服者の神を墜とす”以外”の神話も作られる』って」

レッサー「まぁそれも結構あるんですが、中には比較的穏健な国家・民族融合もありましてね」

レッサー「その場合、二つ以上の神様が一つの国家に存在する矛盾が生じます。さて、それを解消するにはどうすれば良いでしょうか?」

上条「それが、『同一視』、か?」

レッサー「ピンポーン!正解!」

バードウェイ「……ま、そこまで大掛かりな話ばかりじゃなく、『信仰の上書き』だってある」

バードウェイ「『今まで○○と信じられていたものが、実は××のお陰だった』的な話だよ」

レッサー「十字教も一時期盛んにやっていましたよねぇ、これ」

上条「十字教が?何か敵対する宗教を邪教認定して攻撃してるイメージがあんだけど」

バードウェイ「それ”も”正解。ただそれ”以外”にもやっていたのさ」

レッサー「聖人や神の奇跡を紐解いていけば、実は別の信仰の一形態や異教の英雄だった、みたいな話です」

バードウェイ「そうだな……マーリン、知っているか?アーサー王の使いっ走りの魔術師だ」

レッサー「……あのぅ、それはちょっと」

上条「名前は何となく。何やった人なのかまでは知らない」

バードウェイ「奴は夢魔の血を引いていて、高い魔力の才能を受け継いだんだが、邪悪な気質も同居していた”らしい”んだよ」

バードウェイ「だが彼は赤子の際に十字教の洗礼を受けたため、邪悪からは守られたんだとか。はっ、中々笑える話さ」

上条「笑えるって、なにが?」

バードウェイ「当たり前の話だが、ローマ正教は魔術の行使を禁じている。少なくとも表向きはな」

バードウェイ「魔術を使う人間を嫌い、『魔女狩り』をしたのは好例だよ」

バードウェイ「だというのに歴史上に名を残すような『”魔術”師』が、十字教の洗礼を受けたお陰だと宣伝していた時期があった」

レッサー「……色々あったんでしょうねぇ、えぇきっと」

バードウェイ「ま、それと同じく二柱――いや、下手をすればもっと『たくさんのアルテミスが存在した』んだよ」

上条「……あのぅ?すいません、何言ってるか本気で分からないです」

レッサー「ギリシアのアルテミス、そしてエペソスのアルテミス。そのどちにも共通しているのは『狩猟の神』であるという側面」

レッサー「ですから元々別だったものが、時代を経るにつれ同一視されて行った、というのが定説になっていますね」

上条「……あり得るのか、そんな事?」

レッサー「うーむ……まぁ、『時代と価値観の変遷』というファクターもあるかも、ですね」

レッサー「古代、人は狩猟で生計を立てて居た――もしくは非常に高いウェイトを占めていた、のは分かります?」

上条「稲作文化が出来る前か?」

レッサー「プラス伝わった後だって、中々毎年安定して育てられるなんて有り得ないですからねぇ」

レッサー「病気に冷害、洪水や干ばつが一度でもあれば稲は駄目になりますし」

バードウェイ「近代灌漑が定着する前、また稲の品種改良が出来る以前であれば不安定なのは当たり前だ」

バードウェイ「現実問題、現代農耕バリバリの日本の農家だって、毎年同じだけ採れるとは限らん」

上条「……にゃるほど。それじゃ昔は今よりももっと狩りが重要だったのな」

レッサー「私の口癖取るの禁止。次したら全裸になりますよっ!」

上条「いや、俺の知り合いにもう一人使う奴が居るが」

バードウェイ「恥女は放置しておくとして、それでも文化が発達すればある程度の食料が定期的に入ってくるようになる」

バードウェイ「と、なれば『豊穣』よりも『統制』の概念の方が大切になるな」

上条「統制?」

バードウェイ「道徳、モラルと言い換えても良い。要は『共同体を安定して維持するために人口節制をしよう』だ」

レッサー「子沢山が一般には美徳とされていますが、実は昔の出産は結構な賭けですからね」

レッサー「産後の肥立ちが悪ければ母親はさっさと死にますし、そうすれば赤子も運命を共にします」

上条「誰かに育てて貰うのは?」

バードウェイ「母乳は赤子へ免疫力を高める効果がある。現代では各種医療技術の前に霞む効果だが、近代以前は神の奇跡に等しい」

レッサー「また栄養状態が脆弱なので死産も多かったでしょうしね。安易に数を増やすと、文字通り共同体が崩壊しかねません」

上条「だから『純潔』の神……」

レッサー「文化が成熟して行くにつれ、神が新しい属性を獲得するのは割とある事ですよ」

バードウェイ「過去の帝を神として奉り、武神として崇め――そして現代へ至れば平和の神に早変わりだ」

バードウェイ「日本の、確か八幡神とか言ったな」

レッサー「尤も、文化は成熟するだけとは限りませんよ。腐敗するのも珍しくはないですが――さて、実はこの二柱のアルテミス」

レッサー「『オリジン』が存在するんですね。旧い、とても旧い神が」

バードウェイ「ちなみにこいつが言っている『オリジン』は『原型』の他に『血統』という意味も含んでいる」

バードウェイ「日本語英語ではあまり縁がないだろうが、『German Origin』でドイツ系とも使うから憶えおくと良い」

上条「例題だと”From”ばっか使ってたな」

レッサー「日本から来るのは日本人だけですが、アメリカから来たってアメリカ系アメリカンとは限りませんからねぇ――で、話の続きなんですが」

レッサー「その『アルテミス・オリジン』もまた狩猟の女神であり、月を司る役割を持つ――」

レッサー「――キュベレーって呼ばれる神ですな」

バードウェイ「こいつもまたタチの悪い神でな。アルテミスと同じく、人身御供を好んだり、人を獣へと変える神性を持っている』

バードウェイ「しかも古代特有の価値観によって、それは『正しい』行為だと肯定されていたのさ」

上条「あー……あれ?ちょっと良いか?」

レッサー「Dカップですけど?あ、アリサさんはEに近いDです」

上条「そんな地雷を踏み抜くような質問はしてない!?」

バードウェイ「――と、私の方を見ながら釈明する理由を言ってみろ!」

上条「だから俺じゃねぇって!?……てか全員分の知ったけど、得はしてない!………………事も、ない!」

レッサー「素直で結構ですな。んで?」

上条「てーかさっきからずっと気になってたんだが――アルテミスとキュベレーって名前、つい最近も聞いた憶えがあんだよ」

レッサー「そりゃお話ししたからですよ。『エンデュミオン』の術式の際に」

レッサー「アルテミスはキュベレーの系譜、そして同時に女神セレーネもキュベレーと同じ」

レッサー「そんでもってアルテミスはセレーネとも同一視されましたからなー」

バードウェイ「アルテミスは恋人オリオンを自らの手で射殺し、死後天空へと上げて星座にする」

バードウェイ「対してセレーネは恋人エンデュミオンを永遠の眠りへとつかせた」

バードウェイ「……ま、アルテミスがセレーネだとすれば、二人の男を愛した訳だが。さて」

バードウェイ「どちらも愛した恋人を不老不死にしてしまったのだよ」

上条「……なーる。そんな状況――歴史的に『密接』だってのに、ステイルが何の含みもなくヒントを寄越した筈が無い、か?」

バードウェイ「どういった意図で発したのかは、充分に疑ってかかるべきだがな。向こうの企みに乗ってやる義理はない」

上条「義理はないけど……義務は、まぁ?」

レッサー「あちらさんの虎の子である、禁書目録縛りプレイですからねぇ。そこら辺を突かれると、ま、色々と」

バードウェイ「厄介な男め。どうせならその男もデレさせれば話は早かったのに」

レッサー「いいですねー!今からでも遅くはないのでするべきだと思いますっ!」

上条「無茶言うなよ!?つーかどっかの00○じゃあるまいし!取り敢えず女の子を味方につけるスキルなんて持って――」

上条「……」

上条「……も、持ってないよ?いや全然全然?何のことか分からないし?」

レッサー「『不幸』で獲得したCP、どこに遣っちゃったんでしょうねぇ」

バードウェイ「言うな。察してやれ」

上条「おい止めろ!人の半生をキャラメイク失敗したみたいに言うんじゃない!」

バードウェイ「……ま、そんな訳でアルテミスにも『猟犬』へ纏わるエピソードがある」

バードウェイ「ある猟師が山中で犬を連れて狩りをしていたら、偶然にもアルテミスが水浴びをしていたのを覗き見る」

バードウェイ「激怒した女神は猟師を鹿へと変え、彼の連れていた猟犬に襲わせて殺した」

上条「古代のラッキースケベは代償が重いなっ!?」

レッサー「もしこの猟師がドMだったら、アルテミスがツンデレだった可能性も……!」

上条「神話を穢すな。ヘロドトスに助走つけて殴られんぞ」

レッサー「上条さん、もし神話だったら大体何回ぐらいブタに変えられてます?」

上条「そうだねぇ、結構な回数――待て!鹿は分かるがブタと言われるのは心外だ!」

バードウェイ「ちょくちょくコントを挟むな馬鹿者共が。もう少し真面目にやれ」

レッサー「と、現在進行形で抱っこされてる幼女に言われましてもねぇ」

バードウェイ「仕方がないだろ、こいつが喜んでやってる以上」

レッサー「あー、まぁ確かにそうですけど」

上条「コント挟んでるのはお前らだよね?真面目にやろう?」

レッサー「……真面目に話すと『エンデュミオン』からドデカい不発弾が出て来そうで……」

バードウェイ「何の話だが知らんが、『ただの狂信者でしたー』で済む訳がないだろう。腹を括れ」

バードウェイ「ま、私には関係の無い話だが。良い気分だ、ザマーミロ」

上条「ボスっ!?俺にはボスが必要なんですよっ!」

バードウェイ「コラ離せ!レディに気安く触るんじゃない!」

上条「おっ?お前もしかしてくすぐりに弱いの?へー?」

バードウェイ「だから!気安いぞ馬鹿者が!」

レッサー「上条さん上条さん、絵面がとてもアウツッ!に、なってますよ?都条例的な意味で!」

レッサー「あと嫌がってるバードウェイさんも、抜けようと思えば楽に抜けられますよね?魔術で身体能力強化してますもんね?」

バードウェイ「あぁ居たのか、レッ――トイットビー?」

レッサー「ついに私の名前がイジられるようにまで!?ある意味光栄な間違われ方ですが!」

バードウェイ「小遣いを渡すからどこかで遊んでこい。邪魔だ」

バードウェイ「えぇと……まぁ二時間もあれば終るだろうから、うん」

レッサー「邪魔ってなんですかっ!?邪魔って!?って普通に喋ってますし!」

レッサー「あとその的確な予想は私の想定と同じですよチクショー!」

上条「ほーら、くすぐっちまうぞー?」 ムニムニッ

レッサー「そして私達の会話をスルーしてイタズラしてる上条さんも如何なもんですかね。主に頭とか」

バードウェイ「そこは私の胸だッ!!!」

上条「え?真っ平らなのに?」

バードウェイ「――よし、死ね」

チュドォォォォォォォォォォォォォォーンッ……!!!

――イギリス東部高速列車 朝

レッサー「――と言う、口にするのすら憚られる恐ろしい出来事が!」

上条「俺がバードウェイに吹っ飛ばされただけじゃねぇか!しかも理由がしょーもないな!」

レッサー「いやぁ、それは上条さんデリバリーに欠けるってぇもんですよ」

上条「デリカシーな?特にレッサーさんにも欠けてないですかね?」

上条「てかお前が言ってた命が無い云々の話はっ!?確かにぶち切れてらっしゃいましたけども!」

レッサー「実に危ない所でしたねっ!あそこで上条さんが天然を出さなければ。今頃あなたの命は尽きていたでしょう――」

レッサー「――そう!人生の墓場的な意味で!」

上条「ウッサいわ!上手くもないしドヤ顔止めなさい」

レッサー「レギュラーがこれ以上増えると私の存在価値が……」

上条「相手は子供だろ?つーかマークが言ってたけど、兄貴が欲しいみたいな感じだって聞いたぞ」

レッサー「上条さん」

上条「な、何?」

レッサー「兄妹の方が萌えるじゃないですか!」

上条「一部だけな?一部の特殊な性癖の皆さんだけを、さもマイノリティみたいに言うな!」

レッサー「年上のお姉さんはお嫌いで?」

上条「……か、考えた事も無いなっ!」

レッサー「明確なお返事ありがとうございました――と、いい加減テンションも温まってきたと思うので、話を戻しましょう」

上条「上がったっつーか、上げられたっつーか。お陰様でな」

レッサー「『猟犬』の話は後回しにして、取り敢えず今後の方針を決めません?サフォーク――ダンウィッチへ着くと、人目もありますし」

上条「人目って……ヤバいのか?」

レッサー「可能性は充分に。少なくともウェイトリィを名乗る医師が居て、彼の団体では不正診療と保険金詐欺が行われているのは確実」

レッサー「ですが、この二つの案件自体は、魔術が絡まなくとも結構な頻度で起きてます」

上条「行ってみたは良いが、全然関係ありませんでしたー、って?」

レッサー「そん時ゃブリテンの司法にお任せするしかありませんでしょ?」

レッサー「私達はフツーの一般国民、捜査権も逮捕権も持っちゃいませんしね」

上条「うーん……?」

レッサー「あー……分かりましたよっ!そんな捨て犬みたいな目で見ないで下さいなっ!どーにも最近胸が痛いんですから!」

上条「胸?病気なのか?」

レッサー「ちょっとさすってみます?多分恋の病だと思うんですよ」

上条「あからさまな罠はノーサンキューで!あと恋をしたらもっとキョドるわっ!」

レッサー「……チッ……」

上条「ホラやっぱり」

レッサー「ま、まぁ状況次第と言う事にしましょうか。犯罪の証拠を掴んでしまったら、通報するのも国民の義務ですしね」

上条「まぁ”偶然”掴んじまったら仕方が無い、よな」

レッサー「偶然って怖いですからね、えぇはい」

上条「でもさ、根本的な話へ戻るんだが、俺らみたいな素人がノコノコ行って証拠掴めるような相手なの?」

上条「たまたま街を歩いていたら、『助けて下さいっ!?』って重要な証人とぶつかるとか、普通はないだろ」

レッサー「上条さんに限っては非常にありそうな展開ですが――難しいでしょうね、そこも」

上条「主導してんのはどっかの病院。って事は潜入も?」

レッサー「正しくは病院”も”経営している所でして、副業なのか本業なのかは怪しい所ですが」

レッサー「ウィリアム=ウェイトリィ院長、彼が主催している宗教団体は『House of Mistletoe(ヤドリギの家)』」

上条「……あぁ正体が『濁音協会』だったら、病院経営してようが実態はカルトだわな」

レッサー「ネットで調べた限りじゃ、十字教のイギリス清教後継を名乗っていますが、実際には認められていません」

レッサー「というかウェイトリィ氏が神父であった経歴はなく、ある日突然『神の声を聞いた』んだそうで」

上条「ねぇ?なんでその人『自分は頭イタイ人です』って自己紹介してんの?何か決まり事?」

レッサー「ふむ。他人の見ている世界って、興味ありません?」

上条「見ている世界?また唐突だな」

レッサー「蝶や蜂だったら紫外線が見てるでしょうし、猫だったら夜目が利いたり」

上条「あぁ分かる分かる。俺達はRGBの三原色で世界を見てるけど、トリや爬虫類はもう一つ多いんだっけ?」

上条「そっちで見たらどんな風に見えるのか、興味あるよな」

レッサー「って言う話じゃないんですけど」

上条「一秒前の俺の共感を返せコノヤロー」

レッサー「ではなく、そうですねぇ……あ、上条さん、昨日ターミナル歩いてて転びそうになったじゃないですか。憶えてます?」

上条「あぁ。どっかのテレビ局が点字ブロックの上へ荷物置いてて邪魔だったからな」

レッサー「……実はここだけの話なんですが!」

上条「大事な話?」

レッサー「えぇ、恐らく気づいているのはごく一部の人間だけです。ですから決して他言しないようにお願いしますね」

上条「任せろ!……あ、でも電車の中でするような話じゃ――」

レッサー「……ブリテン政府はね、以前から高騰する医療費の削減を憂いていました。毎年結構な割合で社会保障が増大して行っているんですよ」

レッサー「ま、日本と同じく医療技術の進歩により平均寿命が高くなっている。それ自体は喜ぶべき事なんですがね」

上条「だな」

レッサー「当然支出が増えるって事は、どこかから別の予算を持ってくる必要があります。歳出削減が出来なかったら、増税なり国債を発行するなりする必要があります」

レッサー「何故ならば『社会保障とは天から降ってくる訳ではない』のでありまして、無理なく維持出来るような制度を作られねばいけませんので」

レッサー「『予算の組み替えで100兆円の埋蔵金』とか、『国債を発行せず、増税をしなくてもやっていける』とやらかしても」

レッサー「失業者と倒産を量産した挙げ句、株価を地獄へ叩き込んだ政府があったそうですけど、一体どこのどちらでしょうね?」

上条「日本の黒歴史には触れないであげて」

レッサー「でもまぁ政府が増税を決めれば国民の反発は必至――なので、手段を変える事にしたんだそうです」

上条「……なんか壮大な話になってんだけど、それと道でコケるのとどう関係が?」

レッサー「しっ!――すー、はー、すーはー、すーーーーーー…………」

レッサー「――上条さん声が大きいでぇぇぇぇぇぇぇすっ!!!」

上条「お前のほうが大きいよね?ってか明らかに深呼吸までして息整えてから、全力で声張ったよね?」

上条「俺のメル友が劇団取材した時教わった腹式呼吸、なんでレッサーさん舞台役者の真似事してんの?」

レッサー「……だから、政府はこう考えたんですよ――『人が多いのなら減らしてしまえば良い』って」

上条「……はぁ?」

レッサー「ヒットラーも恐れるような悪魔の計画!それは今ブリテンで着々と進行されている……っ!」

レッサー「上条さんも罠にかかる所だったじゃないですか!?よく思い出して下さい!」

上条「……コケそうになったのが、陰謀?」

レッサー「そうです!政府は人を転ばすように、職安の最新技術を仕入れているのです!」

上条「スゲーな職安。そりゃニートも戦々恐々としてんじゃねーかな」

上条「てか人を転ばせる装置って何?どんな超技術があったらそんな事が出来んの?」

レッサー「プラズマと新堂派、後オレゴンエネルギーで出来るって書いてありました――ネットに!」

上条「なんで世界を揺るがす最新技術がネットでダダ漏れしてんの?本当にヤバかったら速攻で消されるよな?複合的な意味で」

上条「あと新堂派じゃなく振動波な?俺は新堂さん、もっと歌手として評価されてもいいと思うが」

レッサー「確かに――そう!確かに『人を転ばせるだけ』ならば大した話じゃありません!それ単独ではね!」

レッサー「ですが昨日上条さんかスベった所はど・こ・かっ!思い出してみて下さいなっ!」

上条「人をスベったとか言うな人聞き悪い!……場所?場所って、そりゃ駅前だろ」

レッサー「あれが本当に転んだとすれば――車へ突っ込んでいた可能性も捨てきれないでしょう?」

上条「いやぁ無いって。『不幸』な俺だって人並みの反射神経はあるから、仮に転んだとしても車道まで突っ込みは」

レッサー「……そうですね。上条さんはきっとしないでしょう――少なくとも”今”は」

レッサー「ですが!あと半世紀程経った後!お歳を召されて足腰が脆弱になった状態であれば――」

レッサー「――結果、どうなるでしょうね?」

上条「……まさか!?」

レッサー「そうっ!ブリテン政府は社会保障を抑制するために人工的な間引きを画策!」

レッサー「駅前の歩道でコケる兵器を開発し、お年寄りが勝手に車道へ出て事故に遭うように仕組んだんですよっ!!!」

上条「な、なんだってーーーーーーーーーーーーーーーーー!?」

レッサー「……」

上条「……えっと」 ピトッ

レッサー「何ですか?人の額に手ぇ当てて――まさか!?」

レッサー「聞いた事があります……極東の島国では壁ドン!して好きな相手へ好意を伝えるという風習があるという……」

レッサー「ならばきっとこれもプロポーズのつもりですかっ!」

レッサー「良いでしょうっ!受けて立ちましょうかコノヤローっ!!!」

上条「おい、その島国って日本の事じゃねぇだろうな?てか『壁ドン!』海外にまで伝播してやがんのか!?」

上条「つかレッサーさん、キミさっきからどんな電波受信してんの?いや、たまーに居るけどな政府陰謀論吐く人」

上条「てーかベイロープに連絡取りたいから、携帯貸してくんない?」

上条「あ、心配はしなくて良いぜ?全世界がお前の敵に回ったとしても、俺やアリサ、ベイロープとランシスはお前の味方だ!」

レッサー「フロリスは?」

上条「なんか『面倒クセー』って言って逃げそう」

レッサー「あー……そんなイメージですよね。実際にも否定出来かねるんですが」

上条「『ハロウィン』の時もそんな感じだったしなー」

レッサー「『――狂人の話は支離滅裂だという人がいるが誤りである。狂人の話というのは彼らなりの論理で一貫しているからだ」』

上条「おい、またなんか受信しやがったのか」

レッサー「『他人への不信で狂った者は、日常のあらゆる事象に”誰かの陰謀”を感じ取る』」

レッサー「『散歩で転んでも愛用のステッキが折れても飼い犬が逃げても、それは全て自身を陥れるための陰謀なのである』」

レッサー「『つまり狂人を論破することは不可能だ。何故なら常人にとって全く関係ないものが、狂人の理論では破綻せずに結びついているから――』」

上条「レッサー?」

レッサー「――以上、我が国が誇る文豪にして批評家、『ギルバート=ケイス=チェスタートン』氏のお言葉です。意訳がかなり含まれていますが」

レッサー「もしも『気狂いの視点から世界を俯瞰すれば、上条さんがコケたのも誰かの陰謀に見える』というお話」

上条「……つまり、今レッサーがやったみたいに、頭イタイ人は自分が頭イタイって分からないのか?」

レッサー「むしろ逆で、『周りが全部頭イタイのであり、自分が正常だ』ぐらいの確信はしているかと」

レッサー「『自分が正しくて他は全部狂っている』と思い込むので、彼らにしてはそれが正気なんでしょうかね」

レッサー「もし他人が偉そうに見えたとしたら、それはご自身が下水の中で汚物まみれになって誰からも軽んじられ蔑まれているだけ、ですから」

レッサー「真っ当に胸を張って生きていれば、せめて疚しい生き方をしていなければ、人に対して妙な先入観を持ったりはしないでしょうし」

レッサー「それが出来ないって事、無意識的に自分が劣等であり僻んでいるのを認める証左だと」

上条「……なーんかな。俺だったら他の人と違っていたらさ。『もしかして俺が違ってる!?』って疑うけどな」

レッサー「でね。気狂いの特徴の一つとして、異常なまでに自己愛と自己評価が高いんですよ」

レッサー「例えば……あぁ、『俺が評価されないのは××のせいだ!』とか、『他人が俺の言う事を信じないのは××が圧力をかけているからだ!』等々」

レッサー「『自身の意見は絶対であり、万人が支持すべき真実』……ぐらいには思ってんでしょうかねぇ、これが」

レッサー「ネタで言うんだらまぁ可愛いもんなんですが、本気な分タチが悪いですよ」

上条「でもそれ、結構居るよな?大小の差はあるが、頻度としてはかなり」

上条「陰謀論じゃないしにしろ、霊感があるとか、政府が○○とグルだとか」

レッサー「……ま、個人がどう考えるのは自由ですし、例え偏執狂であっても他人へ害を及ぼさないのであればスルーされますよね」

レッサー「親兄弟や周囲にとっては堪ったモンじゃないでしょうが。ともあれ」

レッサー「――んで、そんな彼らの行き着く先が『ネオ・ペイガニズム』なんですよ。日本語にすれば『復興異教主義』」

上条「あぁ『昔あった信仰っ”ぼく装った”新興宗教』だったか」

レッサー「ただベースとされる宗教はもう踏んだり蹴ったりで、えぇもう大変らしいですよ」

上条「……そういや、その話が出た時に、ランシスが無表情でぶち切れてた気が……?」

レッサー「ランシスの故郷である北アイルランド、そしてアイルランドには今もケルティックな文化が残っていますからね」

レッサー「発祥の地かどうか、はともかく、今そこに住んでいる人間にとって、子供の頃から慣れ親しんだ世界であり」

レッサー「それを第三者が好き勝手に解釈を加え悪用すれば、決して良い気持ちにはならないですからね」

上条「てーかさ。そもそも頭イタイ人がそっち系、カルトへハマる理由は何?どんな心境の変化があれば受け入れられるの?」

上条「そういう人ら――てか、根拠も証拠無く陰謀論ぶち上げる人だったら、むしろ逆に警戒しそうなもんじゃね?」

レッサー「より正確に言えば『他に受け入れて貰える場所が無い』ですね」

上条「あー……」

レッサー「家族や友人からも腫れ物扱いなので、ますます妄想は膨らむ一方。やはりどこかで誰かに認めて貰いたい」

レッサー「だからといってそういう人達には何もありませんからね。それこそ何も」

上条「何も?」

レッサー「例えば趣味があればそっちへ没頭するじゃないですか?政治活動であっても、実生活で調べたり政党へ入ったりするでしょう」

レッサー「仕事で忙しかったら他人に構ってる暇は減りますしね。真っ当な職であれば、ですが」

上条「耳が痛いな!何の事か分からないけども!」

レッサー「何だってそうですけど、評価というのは実績へ対して付いて回るもんです。良かれ悪しかれ」

レッサー「だってのにそっちの人らは何もしない何も出来ない何も知らない、という三重苦」

レッサー「ありもしない妄想の中に生き、ネット掲示板で他人を口汚く罵るぐらいしか出来ません。やれません、と言った方がいいんでしょうかね?」

レッサー「詳しくは実物を見ながらお話ししますが、どっちとも『現実を見ていない』んです」

レッサー「『世界経済はユダヤ人が支配している!!!』的な陰謀論、ありますよね?」

上条「ロックフェラーがフンダララでアメリカがどーたらして、日本人を家畜にするヤツな」

レッサー「一部の財閥がユダヤで占められているのは本当です。つーか聖書の頃から金融と商人で食ってきた連中なんで当たり前なんですが」

レッサー「我が国のシェイクスピア卿がヴェニスの商人とか書いてますんで、良かったら見てやって下さいな」

上条「金貸しの人がユダヤ人だっけか」

レッサー「基本小金を持っていたり、横の繋がりが強ければ政治権力と結びつくのは世の常……ま、さておき上条さん」

レッサー「ユダヤ人ユダヤ人言いますけど――『ユダヤ人のハーフ』とか、『ユダヤ人のクオーター』って聞いた事あります?ますます?」

上条「え?」

レッサー「無いですよね?てかあったらそれは逆に怖いんですが」

上条「言われてみれば聞いた事無い……日本から遠いせいかな?」

レッサー「違います。だって『ユダヤはユダヤ”教徒”を意味してる』んですからね」

上条「……はぁ?何、ごめん、どういう事?」

レッサー「詳しい説明をすれば長くなるんで省きますが、ユダヤ人には白人も黒人もアラブ人もアジア人も居ます」

レッサー「ですが彼らは全員『ユダヤ人』なんですよ。ユダヤ教だから、ユダヤ人であると」

上条「何!?だったらユダヤって民族的な括りじゃねーのかよっ!?」

レッサー「ステレオタイプのユダヤ人像、お髭を生やしてラビの帽子を被ったのはアシュケナージであり、最も旧い一派です」

レッサー「ドイツ周辺に住み、厳しい律法を守る人達。ただそれ”だけ”を指してユダヤと呼ぶ事は無いですが」

レッサー「あちこちに移り住み、人種も混血しているから、という事情もあるようですがねぇ」

レッサー「起源の一つはヘブライ人がバビロンに囚われた――所謂『バビロン捕囚』の際、ユダ王の臣民であった事、とも言われていますが」

レッサー「イスラエルが現在出している公式見解としては、『ユダヤ人を母とする者またはユダヤ教徒』であり、人種は関係ありません」

レッサー「だ、もんで『世界経済はユダヤ人が支配している』は『ユダヤ教徒が占められている』に直結するんですが――」

レッサー「――これ、もし本当なら『ユダヤ教徒は金融関係の仕事に就いてはいけない』という差別ですよね?ま、人種でも同じなんですが」

上条「……だなぁ」

レッサー「『特定の○○を××が独占している』のが陰謀だとすれば、G7のウチ約六ヶ国は十字教徒ですよね。あ、何代か前も日本の総理は十字教徒でしたが」

レッサー「これは十字教の陰謀ですか?それともただの偶然?」

上条「偶然だろ。だって少し前までG8でロシアも入ってたが、ウクライナのいざこざで抜けたし」

上条「第一十字教はイギリス清教、ローマ正教、ロシア成教の三つで、仲は良くなかったな」

レッサー「ですなぁ。十字教徒のカルテル的なものがあれば、離脱は出来なかったでしょうね」

レッサー「てーかそんなにユダヤ人が世界を支配()してるんだったら、パレスチナはとっくに地図上から無くなっているでしょうし」

レッサー「ついこの間のガザ紛争も世界各国大非難だったじゃないですか?最初に手を出したのはパレスチナがユダヤ人捕まえて焼き殺した上」

レッサー「いざ戦闘が始まってみれば、どう見てもイスラエルへ繋がる軍事侵攻用の地下トンネルが続々と発見され」

レッサー「病院などの国連施設や本来中立にするべき所へ兵士をかくまったり、イスラエル側からの攻撃勧告を国民へ伝えずに女子供を盾にしたり」

レッサー「果てはその攻撃で亡くなった人間をLIVE中継……反吐が出ますよねっ!」

上条「楽しそうに言うな」

レッサー「――と、言うように『現実』を見ていないんですよ、彼らは。この程度専門書ですらない、世界史の教科書を開けば載ってる程度のお話です」

レッサー「『世界を支配出来るような超絶的に頭が良くて金のある人間が、自分達にクリティカルな意見を放置するか?』って話もね」

レッサー「そもそも言えばサブプライムローンの破綻とリーマンブラザーズ社の倒産から始まるアメリカ初の世界不況」

レッサー「アメリカ自体、一年の間に地方銀行が100行以上倒産する憂き目に遭っています。当然、財閥系も例外ではなく」

レッサー「私がもし世界経済を仕切る立場か、日本をエサに出来るんだったら、何とかしてますけどねぇ」

上条「……もし『闇の勢力()』があったとしても、『その程度』って事なんだよな」

レッサー「何よりもまず証拠が何一つないんですが――”彼ら”に言わせれば『証拠がないのが証拠』なんだそうですよ、えぇ」

レッサー「例えの『ユダヤ人支配説()』に、『実はユダヤ人は宇宙人だった!』と属性の一つや二つ着いても矛盾しません」

レッサー「元々がチラシの裏に書いたような陳腐な陰謀論なので、むしろ少しでも”認めてくれる”相手が居ればコロっと騙されると」

レッサー「……ま、カルト側にすれば『養分』なんでしょーがね」

上条「……オイ。そんな厄介な連中んトコ潜入すんのかよ!?」

レッサー「必要とあれば仕方が無いでしょうなぁ……あ、そん時は夫婦役で!」

上条「残念。俺の国じゃ結婚出来ない年齢だ」

レッサー「ブリテンならオーケーですよ?」

上条「堂々と嘘を吐くんじゃありません!」

レッサー「ま、そんなに危機感を持つ必要はありませんて。まだ『濁音協会』関係だと決まった訳じゃないんですから」

上条「そ、そうだよね?安心して良いんだよな?」

レッサー「あ、確か上条さん、この調査が終ったら実家へ帰ってパン屋を継いで裏の水門を見に行きつつレッサーちゃんへ告白するんでしたっけ?」

上条「フラグ立たすなよ!?しかも長いわアクロバティックだわで収集がつかない!」

レッサー「私へ告白は否定しなかった、だと!?」

上条「好きは好きだし信頼もしてるが、今んとこはそんな予定はない」

レッサー「じゃ、私からするって事で」

上条「はいはい。楽しみにしてる」

レッサー「………………………………いよぉっし!」 グッ

上条「何?なんでそこでガッツポーズ?」

レッサー「いや別に何でも?――あ、ほら見えてきましたね。駅の所へノボリが」

上条「さて、鬼が出るか蛇が出るか……」

レッサー「どっちも出てますけどね。『団長』は死人なので”鬼”。安曇阿阪はそのまんま”蛇”ですし」

レッサー「順番からすれば『神』ってトコでしょーか」

上条「……ま、なんとかするさ。今まで出来たんだから、これからも」

レッサー「私達の戦いはまだ始まったばかりですよねっ!」

上条「止めろ!打ち切りフラグを立てないであげて!?」



”――Welcome to Dunwich――!!!”

今週の投下は以上となります。お付き合い頂いた方に感謝を

結局一スレに収められなかったので、「一話=12万語」の字数制限を取っ払いました
書くのが楽です。ほぼ世界史と宗教史の話しかしてませんけども

乙!

上条さんは明け色に協力頼もうとしてましたよね

ただ、アリサは学園都市の使者ってなってるから、政治的な理由で駄目になったけど

乙です

レッサーさん、完全にバードウェイにくわれてたw
カミやん、寮監好きはカモフで実はやっぱり…

字数制限解除むしろウェルカム

>上条「つーかお前最後に会ったの学園都市で俺の下腹へ穴空けた以来じゃんか」

ああ、このSSてば、オティヌス最終決戦より前のお話なんですね。納得なっとく。
あと上条さん、「ゆかたん」気に入りすぎて高速言語っぽくなってますが。

てか、B C D D<E E と揃ったんですね。
上条さんよりどりみどりじゃないですかやだー

>>61
レッサー「――でも実際の所、私らも『明け色』もイギリス清教や学園都市からの危険度は大差ない訳でして」
レッサー「むしろ実在すら怪しい結社である『明け色』の方が、実は対外的には”まだ”やらかしてない訳ですしおすし」
レッサー「ぶっちゃけ政治的な駆け引きどうこうは100%ブラフでしたサーセンwwwwwww」
鳴護「じゃあなんでレッサーちゃん達は当麻君を助けたのかな?かな?」
鳴護「先週のお話でレッサーちゃんが『当麻君』って呼びかけて、途中で止めたのと関係あるとか?」
鳴護「レッサーちゃんも当麻君を当麻君って呼べばいいと思うよ!ね、当麻君!とーまーくーんー?」
鳴護「ほら、ちょっとこっち来てくれるかな。レッサーちゃん言いたい事があるんだって!」
レッサー「ここまでまさかの腹黒キャラが!?しかも追い込みハンパねぇですねっ!」
(※フィクションです)

>>62
バードウェイ「べ、別にデレてなんかないんだからなっ!これは、そう……げ、下僕へ対する主人の哀れみだよ!」
マーク「(言えない!その態度が余計一部の属性にクリティカルしてるなんて言えない……ッ!)」

>>63
つ 『そして静かに幕を開ける。ある反撃の烽火』

>>64
ロ×にとっては罰ゲーム

――サフォーク州 ダンウィッチ

上条(――そんなこんなでやって来たダンウィッチ。学園都市から離れて何やってんだろ?とか思わないでもないが)

上条(父さんの鞄はバードウェイんトコに置いてきたまま。ボスならきっと父さんを上手く助け出してくれるよ!多分!」

上条「……」

上条(……再登場フラグになんねぇだろうな、これ?父さんもバードウェイも後から合流したりして)

レッサー「あー、ありますあります。『実はフラグで本命は背後から刺す!』みたいな作戦」

上条「レッサーさんちょっとシーで?俺今モノローグで忙しいから――てか、まぁいいが」

上条「しかし思ったよりか都会的なんだな。ロンドンやパリの郊外っつっても通じるレベル」

レッサー「一体どんなのを想像してやがったんですか。あんま聞きたくないような気もしますけど」

上条「ホラー映画であるような、閉鎖的な住民総出で監視されるような感じ?」

レッサー「定番ですねー。旅行者の被害妄想も否定出来ませんが」

上条「実際に来て見てれば想像とは正反対。コンクリとビルと街路樹、あと通りの反対側に見えるのはマックだし」

上条「日本と違うのはガンガン自己主張する駅前の看板が少ないぐらい?」

レッサー「ですなー。つーかまぁ現代都市なんざ、どこだってこんなモンっちゃこんなモンですね」

レッサー「Frog Eaterはパリの都心を観光用に割り振ってるんで、『洗濯物を通りに干すのはダメ』とだとホザいてますが、そこまでは」

上条「日本だって京都とか、古い観光地は似たような感じだな。コンビニの外見を地味ーな色で塗ったり」

レッサー「『歴史』を誇るのであるならば、今もそこへ住む人間達の営み――『現在』も含まれて然るべきだとは思うんですが……」

レッサー「それ言ったらNINJAも同じでしょうかね」

上条「お?忍者好き?」

レッサー「好きか嫌いかで言えば、まぁそちらさんが騎士に憧れるぐらいには、好きな人間が多いですよ。SAMURAIと並んで」

上条「って事は微妙だって話か?」

レッサー「んー……むむむむ?これ言うと、もしかしたら上条さんの幻想をぶち壊すかも知れないんですが……」

上条「ドンと来い!微妙にネタ振りにも聞こえるが!」

レッサー「……ここだけの話、NINJAはもう居ないらしいんですよっ……!」

上条「うん、知ってた」

レッサー「流石は上条さん!学園都市の”闇”を垣間見てきただけの事はありますよねっ!」

上条「それ関係ないな?多分『サンタさんか実在するどうか?』と同じ比率でバレてんじゃねぇかな?」

レッサー「テレビで見ました!」

上条「じゃお前はハリーさんが空飛んでたら、イギリスにもハリーさんが居るっつーのか?あ?」

レッサー「魔術師ならホラここに」

上条「……お前らみたいな想像の枠外とNINJA比べられてもなぁ……」

レッサー「ま、余所様の文化なんて長く滞在しない限りは理解出来ませんて。日本だって『地元の人間』からすればワザとらしい観光地ありますでしょ?」

上条「……あぁ成程!そう考えると納得出来る気がする!ロンドン塔にイギリス人ほっとんど居なかったし!」

レッサー「TEDに拠れば『普段は行かないが、ロンドンから去る祭に高確率で訪れる』という結果も出ていますし」

レッサー「日本で言えばTOKYOタワー?」

上条「……一旗揚げようと上京してきて、でも途中で挫折して故郷へ帰る。けどその前の思い出に……?」

レッサー「よくある話ですが、笑うに笑えない話ですよねぇ。かといって上京を制限する訳にもいきませんし」

レッサー「ちなみに似たような話が19世紀末の”British Empire(大英帝国)”でもありましてね」

レッサー「植民地にあったインドに貴族の次男三男が行って豪遊。物価が安いんで色々と好き勝手出来たんですが」

レッサー「そのおバカさん達がいざ帰国しても生活レベルを下げられず、実家の富を食い潰す始末で、えぇ」

上条「前から薄々気づいてはいたんだが、お前ら結構BAKAだよね?」

上条「百歩譲ってまぁ植民地時代なのは許そう?日本だけがヘイトされまくってんのは許すつもりはないけど、そこは置いておくとして」

上条「でも仮にも世界の半分近く持ってたにも関わらず、食文化はスルーしまくったのって一体どういう訳?カーチャン寝込んでたの?」

レッサー「あー……まぁ、イングランドでね、メイドを雇うのが流行ったんですよ。19世紀の初め……だったと思います」

上条「ふむ。生活に余裕があればいいんじゃないか?結果的に女性の社会進出にも一役買った訳だし」

レッサー「資産家は自力で雇ったんですが、無い所は『メイドの格好して家に通うメイドもどき』を雇う人間が出ましてね」

上条「ホラやっぱり」

レッサー「しかも果てには『メイドにする目的での誘拐や人身売買』すら横行する始末……」

上条「お前ら日本のエセメイドにどうこう言ってやがるが、本場からしてダメじゃねぇか!?どんだけメイドさんに憧れてんだよっ!?」

レッサー「上条さんはお好きでしょうかね?」

上条「嫌いじゃねぇが知り合いに一人、蜜蜂みてーなメイド服着ながら、そのクセ仕事はきっちりこなすメイドが居てな……」

レッサー「学園都市恐るべし……!朝のメイドさんから夜のメイドさんまできっちり用意しているとは!」

上条「時間帯区切ったのに何か意味あんの?夜は別に家事とか任せないよね、ご近所迷惑だから」

上条「……あぁ、まぁある意味学園都市の闇が生み出したと言えなくもねぇかな……先輩クロいし」

上条「つーか先輩、あんな妹さん居るなんて一言も教えて貰えなかった……よな?多分そうなんだよな?」

レッサー「教えたら速攻手ぇ出されるじゃないですかーやだー」

上条「待とうか?君らいい加減、そこら辺の認識をだな、そろそろ改めるべきって言うか」

上条「つーかそもそも手ぇ出す出さない以前の問題で、俺は未だアレは新品なんだから、その誹りを受ける筋はないって言うか」

レッサー「仮性ですねっ!」

上条「その話は終った筈だ!蒸し返すんだったら俺にも考えがあるぞ!」

レッサー「ほう?このレッサーちゃんロリ巨乳へ対し、どんなイヤンバカンをしてくれるのかやって貰いましょうか!」

上条「考えがあるとは言ったが、実行に移すとは言ってない!」

レッサー「日本人的発言ありがとうございました――てか」

レッサー「そろそろ昼ご飯にしません?丁度あそこにマックありますし」

上条「……前にも言った筈だが、出来ればご当地メシ食いてぇんだが」

レッサー「そりゃ夕飯に取っといて下さいな。ご飯を食べたら泊まる所を探さないと」

上条「ホテル、先に探すか予約しちまった方がいいんじゃ?」

レッサー「いえいえ、”こっち”はかなり都会的なので問題は無いかと。最悪『ヤドリギの家』に言えば泊めて貰えるでしょうしね」

上条「……その最悪はお断りしてぇよなぁ――”こっち”?」

レッサー「えぇ。私達が今居るのは『新市街』。そして――」

レッサー「――『旧市街』は大規模な火事で一度焼け落ちているんですよ、そう――」

レッサー「――『10年前』に」

――ダンウィッチ 旧市街

上条「……」

上条(『新市街』から20分程、のろのろと走るバスから降り立った瞬間、俺は眉を潜めた)

上条(そこが酷く寂れた朽ちた都市、日本の田舎にも見られるような所だったから――では、ない)

上条(俺達を遠巻きにして見つめる、どこか魚類めいた感情の籠らぬ男達――でも、なかった)

上条(俺が嫌悪を憶えたのは『臭い』。この旧市街に漂っている何かの臭い)

上条(故郷を離れた旅行者は旅先の臭いに閉口する、って話を土御門から聞いた事がある)

上条(日本は醤油臭いとか、インドがカレーっぽいとか、ハワイが花の匂いだとか。イギリスだと”石畳”だって)

上条(話半分に聞いたんだが――今にして思えば本当だった部分もある)

上条(人は自分の体臭に気づかない。あまり強いものでない限り、それが『日常的』なものとして認識はされない)

上条(同様に俺達が暮らしている生活圏の中では、余所からやって来た人間でも無い限り特別な臭いを嗅ぎ取る事はない)

上条(……でも、ここの臭いは、なんか違う。なんかな)

上条(例えるんだったら、赤錆と海水の中に、焼け焦げた何かを突っ込んだような……)

上条(大きな火事があってから10年経ってるってのに、臭いが消えていないのか……?)

レッサー「……こりゃマスクでも買ってきた方が良かったでしょうかねぇ。どうします?雑貨屋さんでも探してみます?」

上条「いや、さっさと探しちまおう――てかさ?」

レッサー「はい?」

上条「俺ら、なんでこっち側来たの?」

レッサー「観光?」

上条「――あ、ごめん俺先に帰るわ」

レッサー「待って下さい!ジョークに決まってるじゃないですか!」

レッサー「もうっ!上条さんのあ・ば・れ・ん・ぼっ!」

上条「スゲーなその単語使われたの初めてだよ。後この場合正しい日本語は『あわてんぼ』であって『暴れん坊』は別だ」

レッサー「それではわたしが上条さんの初めてを奪ったので、上条さんが私のはじ――」

上条「言わせないよ!?幾ら日本語で意味通じないからって往来で喋って良い事といけない事がある!」

上条「てか旧市街って言われてるぐらいだから、もっと人は多いもんだと思ったけど……なぁ?」

レッサー「あぁイングランドにも関わらず中東アジア系ばっかでしょ?実質スラム街ですからねぇ、こっちは」

レッサー「ぶっちゃけちょっとした治外法権になってますんで、私から離れないで下さいな。絶対にね」

上条「……一部の言葉だけを抜き出せば、ちょっとラブコメっぽいんだけどなぁ」

レッサー「おんやぁ?私はそれでも構いませんけど?」

上条「ここじゃなかったら、な」

上条(って事はレッサーが狙われる可能性も充分って話かよ。俺がしっかりしないとな)

上条「……見た目は可愛いんだけどなぁ、お前」

レッサー「にゃっ!?」

上条「つーかお前、今からでも戻った方がいいだろ。こっちは俺が適当に調べとくから」

レッサー「えっと、それじゃ今からホテルへ戻ってしっぽりしましょうっいや大丈夫大丈夫っ!エロゲ情報ではビギナー同士でも平気らしいですからねっ!」

上条「真面目な話だ!あと多分その情報はソースからして間違ってるよ!」

レッサー「どうでしょうね、それは?まぁ二人の証言が食い違っているのは確かですが!」

レッサー「では実践して確かめるという事で一つ間を取りましょう!」

上条「良し!それじゃ確かめ――ってバカ!ならないよね?それお前しか得してねーもの!」

上条「……いやまぁ、俺も嫌いじゃないんだが!もっと自分を大切にだね」

レッサー「ま、ここいらは日が暮れない限りはまず問題ないでしょう。ではちょっくら聞いてきますな」

上条「待て待て一人でどこへ行くつもりだ」

レッサー「路地裏入ってチンピラボコって情報をゲットしようかと」

上条「……いい加減にしろ」

レッサー「――はいな?」

上条「いい加減にしろって言ったんだよ!?お前は魔術師かもしんないけどさ!」

上条「”一応”女の子なんだから、”一応”危ないとかって思えよ!」

レッサー「あのぅ、”一応”連行されると私のエンジェルハートが傷つくんですが。”一応”は女の子なんで」

上条「マジな話、注意してくれないか?俺は知り合いの子が酷い目に遭うなんて、想像すらしたくない」

レッサー「……上条さんから『女の子』扱いされるのは、嬉しいやらくすぐったいやらですがねぇ……まぁ分かりましたよ」 ギュッ

上条「……なんで俺の腕を取ってんですか、レッサーさん?」

レッサー「私は基本、『護る』方なんで『護られる』のは苦手なんですよね、これがまた」

上条「守る?……でもお前ら、どっちかっつーと国家転覆狙ったテロリストじゃ?」

レッサー「アレも『護る』ためにやったつもりですが――あのババアが『noble obligation』を放棄したんで、まぁ良しとしましょう」

上条「のーぶる?」

レッサー「人々の盾であり剣となるべき人物が、その責をブリテン国民へ押しつけた――『王権』の否定……それもまた時代の流れ、人の選択肢なんでしょうが」

上条「何?」

レッサー「いえなんでも。あ、それよりも上条さん!もっとくっつかないと私の貞操が危険でピンチです!」

上条「任せろ!……でもこれおかしくね?守るのに腕組む必要はないですよね?」

上条「って言うかですね、俺の腕に敬語にならざるを得ない程のアレが、ふにょんふにょんしてるって言うか!」

上条「やっぱフロリスやランシスとは一線を画す破壊力的な!みたいな感じで、はい!」

レッサー「そしてゆくゆくは私が上条さんの貞操を!」

上条「あれ?もしかして狙われるのって俺の方なのか?」

レッサー「ククク……こうして入れるのも今夜が山田っ!」

上条「お前日本のテレビから知識仕入れるのもいい加減にしろ、な?」

上条(――と、真面目な話を振ってもあっさりスルーされちまったんだが。なんつーかまぁ、人生経験の差っていうか、修羅場の差?)

上条(レッサーがそこら辺のチンピラ相手に後れを取るとは思えないが……ま、俺が気をつけていればいいだけの話――ってそうそう)

上条(最近、っていうか旅が始まってから少しあった”違和感”。それの正体がここへ来てようやく分かった)

上条(俺がフィアンマをに殴りに行く途中、不安と後悔――インデックスへ申し訳ない気持ちで一杯になってた時)

上条(少しぐらい危険な方法でも急ごうとしていた俺は、随分とレッサーに助けられた気がする)

上条(俺が少しでも落ち込んだ顔を見せようものなら、即座に慰めようとしてくれた――体を使って)

上条(不安で心が押し潰されそうになっていたのも、明るく活を入れてくれようとした――体を使って)

上条(他にも憂鬱な考えに嵌まりそうな時にも、元気に励まそうとしてくれた――体を使って)

上条「……」

上条(あれ?もしかしてこれいい話じゃないな?ただ単にハニトラ食らってただけだよね?)

上条(むしろ傷心の俺相手につけ込もうとする、ドス黒い打算的なものが……)

上条(……ま、まぁ!動機はどうであれ助かったのは事実だし!感謝はしてるさ!)

上条(ただ、そのレッサーに『何か違うな?』って違和感があったのも事実で)

上条(『新たなる』の友達と一緒なんだから、違って当然なのかも、と考えてはいたんだが――)

上条(旅が始まってから初めて、そして数ヶ月ぶりに”腕へ抱きついてる”のを見て)

上条(どこかホッとしてるのを自覚した……なーんか嫌な予感もするんだけどなぁ、これはこれで)

上条「……」

上条(……うん!今考えても仕方がないからな!後でゆっくりと考えよう!)

上条(アリサやレッサー、ベイロープにフロリスとランシス。どうせこの旅が終ったら俺はお役御免だし)

上条(アリサはともかく――じゃ、ないか。現役アイドルに早々会えるって訳がないだろうし、イギリス組も同じ)

上条「……」

上条(――良し!先送りしても問題はないよなっ!どうせこのままウヤムヤになるだろうしっ!)

――雑貨屋

レッサー「すいまっせーん、これとこれ下さいな。あとミネラルウォーターも!」

おばさん「ん、あぁ銘柄は一つしかないけどいいかい?」

レッサー「あと道も少し教えて欲しいんですが――」

上条(――と、交渉事はほぼ全てレッサーにやって貰ってる。だって英語だもん!)

上条(いやでも進歩はあったんだぜ?自動翻訳アプリと環境に慣れたせいでリスニングは何とか)

上条(話すのは自信がない。まぁ多少おかしくても突っ込み禁止で)

レッサー「で、その時私が言ってやったんですよ――『お前のその幻想は一方通行だ!』ってね!」

上条「混ざってる混ざってる。しかもその内容だとただの勘違いを指摘してるだけだな」

おばさん「アンタ達観光なのかい?こんな辺鄙な所にまでわざわざ」

レッサー「まー半分半分ですかね。残りはちょっとした調査でして」

上条「10年前に火事ありましたよね?どれだけ復興が進んだのかをレポートにしようかと思っています」

おばさん「……あぁ、あったねぇ。ありゃ酷かったよ」

上条「良かったらお話を聞かせて貰えませんか?」

おばさん「話すのは構わないけど、あんまり憶えていたいモンじゃないからねぇ。曖昧でも良いんだったら」

上条「すいません。お願いします」

おばさん「あの日は寒い冬の日でね――ってお兄さんはジャパニーズかい?そっちの子は違うみたいだけど」

上条「えぇ――」

レッサー「――いやぁよく『似てない兄妹だな』って言われますがね。正真正銘の兄妹ですよ」

レッサー「ホラホラ、髪の色なんかそっくりでしょ?」

上条「(お前またそういうワケ分からん嘘を……)」

おばさん「言われてみれば似てるかも知れないねぇ。悪かったよ」

レッサー「(ま、基本的に言ったもん勝ち的な所ありますから)」

上条「(よく分からねぇよイギリス文化!)」

おばさん「で、ジャパニーズなら分からないかも知れないけど、イングランドの冬はカラッカラに乾いて雨が降らないのさ」

おばさん「だから少しの小火でも大火事になって、北区は派手に焼かれちまったって話。それだけだね」

レッサー「北区ってぇと、駅から出て右側の?」

おばさん「そうそう。ここいら辺は大丈夫だったんだけどねぇ。病院と教会が焼けちまってさ」

レッサー「教会、ですか?馬糞投げられ機――じゃなかった、イギリス清教の教会は健在だった筈ですけど」

上条「お前今別に噛まなかったよね?ものっそい明瞭に発音したじゃねぇか」

レッサー「ここへ来る前に見ましたが、どう見ても19世頃の建築様式でしたが」

おばさん「ん?……あぁそうだよねえ、余所から来たお客さんには分かんないかもだけど、この街には教会が二つあるのさ」

おばさん「古くからある教会と、新しく出来た教会の」

上条「それ、もしかして――」

おばさん「『ヤドリギの家』って言うんだけどね、知らないだろうねぇ、外の人は」

上条(ここでその名前が!?)

レッサー「変わった名前ですね、ってか初耳です。イギリス国教会派?それともイギリス清教系カトリック?」

おばさん「ははっ!やだよお客さんったら、そんなちゃんとしたもんじゃないさ!」

レッサー「……はい?」

おばさん「北区には元々ウェイトリー先生って、代々お医者様をやってる人が居てね――あ、元々は移民だったらしいんだけど」

おばさん「先生が立ち上げた教会なんだよ」

レッサー「胡散臭っ!?」

上条「オイ!言葉を選べよ!気持ちは分かるが!」

おばさん「そーよねぇ?普通はそう思うじゃない、『ウェイトリー先生忙しすぎて』みたいに心配しちゃったわよ!みんなでね!」

レッサー「(おや意外。否定しないどころかむしろ話に乗ってきましたね)」

上条「(ってかもしかしてこの人も元患者か?だったらヤバくねーかな)」

おばさん「でも先生は、そのホラ?ボランティアもやってたのよ。移民の子とか、お金のない家庭の子供を集めて学校を作りたかったみたいで」

おばさん「そう言った支援をするためにReligious……えっと」

レッサー「『Rreligious corporation?』」

おばさん「あ、それそれ!それをアレするために立ち上げたって!」

上条「(何?)」

レッサー「(宗教法人、ですね)」

おばさん「まぁ後は孤児を受け入れたり、ゴロツキを集めて仕事をさせたり、ここいらも治安は良くなったのさ。でもね」

レッサー「そこで10年前の火事に繋がると」

おばさん「噂じゃ先生も火傷したって聞いたねえ」

レッサー「聞いた、ですか?でしたらおばさんはもう罹ってないと?」

おばさん「ないわね。確かにウェイトリー先生にはあたしが生まれた時、取り上げて貰ってからの付き合いだったけどさ」

おばさん「わざわざ新市街にまで行くのはちょっと面倒でしょ?」

上条「(あぁイギリスの保険制度じゃ、地元の医者にしか医者に掛かれないんだったか)」

レッサー「新市街?って事はそちらで今もやってらっしゃるんですか?」

おばさん「興味があるんだったら行ってみれば――とは言えないわよねえ、ちょっと」

レッサー「ですなぁ。あまり病院に良い思い出もありませんし」

おばさん「そうよねえ。あ、ごめんなさいね、長話しちゃって」

レッサー「いえいえタメになりました、ような気がします。ね?」

上条「ん、あぁそうだな。ありがとうおばさん」

おばさん「どうしたいまして――あ、そうそう!」

レッサー「はい?」

おばさん「病院跡地はガレキが残ってるからね!近づいちゃ危ないよ!」

上条「フラグじゃねーか」

レッサー「むしろダチョウですな」

――旧市街

レッサー「――それで先程のお話の続きなんですが」

上条「あぁ」

レッサー「私がデレたんですから、そろそろ上条さんもデレては如何でしょうかね?」

上条「続ける場所間違ってねぇかな?オルソラばりに巻き戻ってんぞ」

上条「それとお前は最初からずっと一貫して、表面上はデレてるっほいがなっ!表面上は!」

レッサー「心外ですねぇ。陰日向から尽くしているというのに!」

上条「『ベツレヘムの星』、俺を置いてさっさと帰ったのはだーれだ?」

レッサー「言いますけどね。むしろあそこはミーシャさんだかってロシアの魔術師さんや研究者解放して、『星』の能力を削いだんですからね?」

レッサー「そもそもで言やぁ何のお手当も無しに、あそこまで付き合ったレッサーちゃんに感謝しやがっても良いんですけど!」

上条「前も言ったかもだが、感謝はしてんだよ。感謝は。でもな」

レッサー「ではこちらへ『ありがとう!上条当麻より!』と書いて頂きましょうか!」

上条「そのカーボン紙の下にある用紙、ちょっと見せて貰っていいかな?なんか日本語の書類っぽいからさ」

上条「あと婚姻届は直筆のみ有効だから、俺の想像通りのブツだったら受理して貰えないと思うよ?」

レッサー「――んで、今のお話どう思います?」

上条「間違いなく犯罪だな」

レッサー「いえ、今のネタ小話ではなく」

上条「何?それじゃお前小ネタに婚姻届何枚も持ってんの?」

レッサー「いえ!今のマジ小話ではなく!」

上条「たまーに俺、何がレッサーさんをそこまでボケに駆り立てるんだろうって不安になるんだが……」

レッサー「愛ですよ、あ・いっ!言わせたがりですかっンもうっ!」

上条「だから俺は、お前の直ぐ小芝居へ逃げる所が信用ならないんだけど……」

レッサー「ではなく、『ヤドリギの家』ですよ。感想としちゃどんなもんですかねってお話です」

上条「意外とまとも……か?問答無用で『お前も人形にしてやろうか!』ぐらいは覚悟してたんだが」

レッサー「その方はKISSのパクりな上、政治的に斜め上の発言で悪魔()としての株を大暴落させましたんで、ノータッチでお願いします」

レッサー「『Clever&Crazy』、要はマンソン路線で行こうとしやがって大失敗。私だったら地獄へ帰りますけどね」

上条「普通こういうのって、中の人よりも外の人の方が判断キツいじゃん?」

レッサー「ですなぁ」

上条「おばさんの言ってる内容はよく分かんなかったけど、まぁ好感触か」

レッサー「ですねぇ。もそっと電波的でアイタタタな話を期待していたんですが、若干拍子抜けしたぐらいです」

上条「何かボランティアみたいな事業するために、宗教法人始めましたって言ってたな」

レッサー「病院は……あー……日本の場合ですと医療法人へ入り、管轄の部署が少し違うんですね。向こうさんの資料読んでみない事には何とも言えませんが」

レッサー「より広義の福祉的な事業をするには社会福祉法人、だったような?」

上条「うん?だったらそっちですればいいんじゃないのか?」

レッサー「えぇはい、ですから宗教法人を取りながら、他の法人も兼任してるんでしょう」

レッサー「日本ではどうか知りませんけど、こっちじゃ教会が慈善団体を”経営”するのは良くある話です。なので恐らくはその線じゃないかと」

上条「移民を雇ってどうこうって話は?」

レッサー「おばさんはゴロツキと言っていましたが、実態は不正移民でしょう。不法入国と不正滞在、違法就労のセット」

上条「こんな田舎で?街は街だけど、ロンドンとかに比べれば全然だよな?」

レッサー「田舎の方が取り締まりはヌルいですし、職を求めてるんだったらトラック使えば少しの時間で移動出来ますからね。荷台で我慢すれば、ですが」

レッサー「そんな彼らを雇用すれば、結果的に昼間から暇を持て余してウロウロしてる人間が減り、結果的に治安向上へ繋がると」

上条「何となくは分かったが。でもそれじゃ”宗教”法人を取った意味が分からないぞ?フツーに法人やボランティアした方がいいんじゃねぇの?」

レッサー「あぁそこら辺はお国柄ですね。基本的十字教以外は敬遠される所もありますんで」

レッサー「形だけでも『それっぽい』スタンスを取る必要性があったんじゃないか、と」

レッサー「不正移民であろうが、職を与えれば住人として認知されますし。何よりもまず経済に組み込まれます」

レッサー「更にぶっちゃけますと宗教法人の場合、グレイな支出や胡散臭い活動費も『経費』として計上出来る面があります」

レッサー「なので節税対策――と、いう名の脱法行為が行われている、と考えるのが自然でしょうな。だもんで真っ当は真っ当ですよ」

上条「まぁ、なぁ?」

レッサー「……ただ、ですねぇ。正直な感想としては『出来すぎている』んですよ」

レッサー「あ、長編で呼ばれるとのび○の存在意義が消失するとか、そういう話じゃないですからね?」

上条「レサえもんそれ違う人だよ!俺的には『あれ?これ別に出来○君居たら問題が解決してるよね?』ってガキん頃から思ってたけどさ!」

レッサー「さっきも言いましたが宗教団体が『慈善事業』をする話ってぇのは良く聞きますよね。NPO、知ってますか?」

上条「そんぐらいは流石になぁ。ボランティアとかする人らだろ?」

レッサー「ですがこれ、『法律的には医療法人や宗教法人も入る』んですね」

上条「……はい?非営利団体なのに?」

レッサー「狭義のNPOにした所で『組織を運営出来るだけの報酬』は認められてますからねぇ。当然ですが」

レッサー「『自分達が適正だと思う分の報酬を受け取る』権利、も含めてのNPO。上から下まで全員無報酬はただの妄想ですよ」

レッサー「むしろ『”非営利”団体』を意図的に連呼している節もあるぐらいですからね、えぇもう胡散臭いったらありゃしませんよ」

上条「先生質問でーす!」

レッサー「好きなシチュは邪教集団を壊滅させた後、昇る朝日を見つめながら『ランシス達の分まで幸せになろう?』『……はい』です」

上条「聞いてないな?あとその設定だとランシスさん死んでねぇかな?」

レッサー「政略結婚とはいえ人の嫁をNTRった挙げ句、パーティ壊滅に晒しておきながら堂々と余生を全うした相手にどうしろと?」

上条「言葉の意味はよく分からないが、『お前が言うなモルドレット!』ってツッコミが浮かんだよ。何だろうな、これ?」

レッサー「――と!上条さんの仰ったように『だったらなんで猫も杓子もNPOになるん?』ですが」

上条「せんせー、俺まだ質問してませんが!……まぁ聞きたいのはその通りだが」

レッサー「税制面での優遇措置、並びに各種で高まってる知名度を利用した政治・宗教団体への勧誘目的でしょうかね」

レッサー「……ま、政治団体と宗教団体の境をどこかに引くかで、一悶着ありそうですが」

上条「……聞いていい話なのか、それ」

レッサー「『このせかいはカミサマがおつくりになりますた。だからカミサマ(オレサマ)にしたがわないヤツぶっ殺ぎゃー』――これはまぁ『宗教』ですよね?」

上条「後半部分は何かとアレだが、まぁ、そうだな」

レッサー「『地球は生きていまつ。一個の生命なんでつ。だからこの地球を汚すイエローはぶっ殺ぎゃー』――これは?」

上条「後半同じだったし、もしかしてイルカの名を借りたテロリストの事?」

レッサー「『世界から武器を無くせば平和に以下略』」

上条「色々な意味で面倒臭くなりそうだからって、ぶん投げるなよ!」

レッサー「『やってる当人からすれば大真面目、しかし端から見れば狂人の戯言に等しい』事、結構ありますよね?ま、好きでやってるんでしょうが」

レッサー「そんな人らが隠れ蓑にしていたり、確信犯――正確には”故意犯”としてNPOを開くというのはままある話で」

上条「あー……成程。神様ってのは信んじる人にとっては『居る』わな。科学サイドがどうじゃなくって、そう思ってる」

上条「同じベクトルでそういう人らも『神様じゃないけど信じきってる』って流れかぁ……」

レッサー「えぇまぁそーんな感じでしょうかねー。いやー個人が何を信じようが、信じた挙げ句に身上潰そうが勝手なんですがー」

レッサー「それでまともに生きている方々の足引っ張るバカも居るんですから、大人しくハイキングでもしてやがれって感じですかね」

上条「……分からなくもねぇがな。俺も『不幸』でババ引いた口だから、まぁな」

レッサー「個人が個人の趣味の範疇でおバカする分にゃ結構なんですがねぇ。大抵親兄弟から友人知人職場と迷惑かけまくりで――と」

レッサー「そろそろ着きましたねぇ、『北区』」

――旧市街 北区

上条(そこへ足を踏み入れた瞬間、俺は思わず口元を抑えそうになった……というのも)

上条(何度かイノケンティウスで焼かれかかった時、人間の体を焦がす嫌な臭いを嗅いだ。つーか俺の体なんだが)

上条(何とも言えない生理的に不快な異臭。それがまだこの通り一帯から漂っている……)

上条(道の両端はポツポツと再建した建物と、火事のまま放置されたガレキが積み重なっていて、何とも表現しがたい)

上条「10年、経ってんだよなぁ?」

レッサー「再建が遅い、ですか」

上条「住宅は住む人次第だろうけど、土地の方は更地にしちまえば良かったんじゃねぇの?」

レッサー「多分、その答えは新市街の方にあると思いますよ。あちらが元々、開発の優先順位は高かった訳で」

レッサー「こっちへ新しく家を建てるよりか、向こうへ移った方がいいんじゃね?みたいな考えなのかと」

上条「なる。向こうの方が新しい上に治安も良さげだしなぁ」

レッサー「むしろそうやって旧市街から人が流出すればする程、街は寂れてしまうんですが――まぁ、政治的な観点から見れば?」

レッサー「新市街の方へ重点的に住人を移して、でもって発展させる。すると当然人が集まって土地は足りなくなる」

レッサー「そうした動きが出始めたら、次は旧市街の再開発計画を立てるって考えじゃないかと」

上条「よく考えてんなー」

レッサー「シムシテ○8段は伊達じゃないですよっ!」

上条「伊達だな?驚くぐらいのハッタリで、少し感心した損したわ!」

レッサー「ですけど、そんなには外れてはいないかと。計画が実現出来るかどうかは別にして――さて」

上条「病院、か。宗教施設も兼ねてるんだっけ?」

レッサー「名義だけでしょうがね、恐らくは」

――ウェイトリー記念病院跡

上条「あー……」

レッサー「一応残ってるっちゃ残ってますねぇ、これは」

上条「外枠はほぼそのまま、遠くから見れば健在に見えない事もない、か?」

レッサー「ですが壁も所々剥げ落ちてますし、内部は火事でボロッボロ」

レッサー「何よりもまずこの臭いじゃ、正直暮らしたくはないですがね」

上条「都市伝説で登場するような、廃病院のイメージそのまま……夜中には来たくねぇよなぁ」

レッサー「でっすよねー!」

上条「だよなー!」

レッサー「……」

上条「……」

レッサー「――それでですね。実はこの街の名産品が『うなぎゼリー』でして」

上条「おい!帰ろうとするんじゃない!ここまで来たんだから中、見るだけ見とこうぜ!」

上条「あと悪名高い『うなぎゼリー』は俺だって知ってるわ!先輩からトラウマと一緒に植え付けられたからなっ!」

レッサー「いやぁ、でもなんかめっさ臭いですし?煤だらけゴミだらけで服汚れそうだなーと」

上条「そうだけども!だからってこのまま帰る訳に行かないだろう!?何のために来たのか思い出せよっ!?」

レッサー「愛の逃避行?」

上条「良し!そろそろお前にも日本の礼儀を教えてやらないとな!」

レッサー「おっ?なんです急に?」

上条「日本には”UMEBOSHI”っていうツッコミの一つがあってだ」

レッサー「No!?それいつもベイロープから貰っていますんでノーサンキューです!」

上条「『ヤドリギの家』がシロならシロでも別に構わないんだよ!ちょっとアレな感じであっても俺達の脅威じゃないから!」

上条「今はとにかくアリサを狙うキ×××を何とかしないと――」

レッサー「……また、アリサさんですか……」

上条「……レッサー?」

レッサー「いや!いいんですよ!私、分かっていましたから!」

レッサー「上条さんの中にはアリサさんが、ずっと前から居るって――分かって、いましたから……っ!」

上条「ねぇよ。つーか一々友達相手に好き嫌いとか失礼だろ」

レッサー「アリサさん、最初は少し蟠りもありましたよ?嫉妬って言うか、羨ましかったんですよ」

レッサー「上条さんに側に居られた、ただそれだけの理由が!」

上条「……いやだからね?そういう話じゃなくって」

レッサー「でも今はもう友達じゃないですかっ!?一緒に辛いアレコレをくぐり抜けてくれば情だって移りますよっ!?」

レッサー「あんな……」

上条「……レッサー。そうか、お前きちんとアリサと友達になってくれたんだな」

レッサー「そりゃ当然ですよ。『奇蹟の歌姫』ではない『鳴護アリサ』さんはもう、私の友達の一人であり――」

レッサー「――大切な、仲間、なんですから……!」

上条「……あぁ!」

レッサー「その状態からNTRのって、超興奮しますよねっ!」

上条「いい話が台無しじゃねぇかっ!?友達だとか仲間だって話はどこへ家出しやがったっ!?」

上条「そうじゃないだろっ!?そんな事実はないけど、つーか自分で言ってて悲しいけど!アリサのために身を引くって展開じゃないのっ!?」

レッサー「いえむしろ『仲の良い友達を裏切る事での背徳感』で盛り上がる事間違い無しかとっ!!!」

レッサー「大丈夫です!この私は口の堅さに関してはベイロープから、『紙風船』と呼ばれるぐらいの信頼を得ていますのでっ!」

上条「ベイロープは多分『ペラッペラで直ぐ飛ぶし、物に当たったら割れる』って意味でしそう呼んだんだと思うよ?」

上条「なぁ?今からいいからチェンジ出来ないかな?レッサーさんじゃなくて、他の人呼べない?」

上条「それとも今からでもバードウェイにDOZEZA決めるか……?」

レッサー「てかあのツンロリ、携帯で呼び出せば普通に来そうな感じですけどねー」

上条「……うんまぁ、なんだかんだで来るとは思うよ?あの子、面倒見はいいから。でもな?」

上条「呼び出せば呼び出したなりの”対価”として、一体何を失うハメになるか……っ!腎臓とか肺とか持って行かれそうで怖えぇんだよっ!?」

レッサー「鋼っぽい錬金術ですか。っていうか失うより増えると思いますよ、家族的なものが」

上条「てか今スルーしちゃったんだが、”ツンロリ”って何?どんなジャンルなの?流行ったらまた問題にならないかな?」

レッサー「何を勘違いしたのか、『壁ドン!』すらCMで流れたんでしたっけ?笑いものにしようって悪意アリアリで吐き気がしますっ」

上条「……いやまぁ話戻すけどな。中入るのそんなに嫌か?俺も嫌だけど」

レッサー「ホラだって『Keep Out!(立ち入り禁止)』のテープがですね」

上条「貼ってあるけどさ!でもこれ――これ……?」

レッサー「おっ?気づきました?」

上条「……これ、なんで貼ってあんだよ?火事は10年前だっつーのに……!?」

レッサー「近隣付近、今通ってきたデパートはスルーでしたよね。『立ち入り禁止!』の看板はありましたが」

レッサー「しかもこれ――あ、後ろ側の粘着力が落ちてませんなー。いやぁもう面倒クセー状況ですねオイ」

上条「……あのぅ、このテーブってさ?”事件的なもの”が起きた現場とか、部外者が入らないように張るんですよね?こう、周りをグルグルと?」

レッサー「はい、そうですね。”事件的なもの”で警察さんが出張った時に、です」

上条「……」

レッサー「……」

上条「……う、うなぎゼリー」

レッサー「あい?」

上条「外見はグロいけど、オイシイ……ん、だよね?」

レッサー「ぶっちゃけ日本の煮凝り知ってると、『残飯?』レベルですが」

上条「いやでも!食べてみないと分からないじゃないか!というか食べても居ないのに批判するのは良くないよ!」

レッサー「えぇまぁ仰ってる事はある意味真理を突いているんですが、そのロジックだと『女性の心理は女性にしか分からない』、つまり」

レッサー「『男性は××コ切って性転換しないと女性を語ってはいけない』って暴論へと繋がるんですが」

上条「これ以上To LOV○るはゴメンだよっ!?つーかなんで俺ばっかりこんな目に!?」

レッサー「カミジョー、少し前の『アリサを守るとかナントカ』思いだせー?あとTroubleの単語も違うぞー?合ってるっちゃ合っていますが」

上条「見なかった事には……?」

レッサー「したい、ですけどねぇ。つーか私も戦略的撤退をお勧めしたい所なんです――が」

上条「が?」

レッサー「どーにも上条さん。熱烈なファンの方とか、身に覚えはありませんか?」

男A・B・C・D「……」

上条(イギリス人じゃない……?顔立ち見るにインドとか中央アジア……って事はこいつら移民か!)

レッサー「Pakistaniでしょうかね。最近イングランドで騒ぎを起こしていますし」

上条「俺の友達ではないなぁ。もしそうだったらこんな修羅場にはなってない」

レッサー「え?でもいつか刺されそうだってマタイさんに予言されてませんでしたっけ?しかも童×のままで」

上条「やっぱアレそういう意味だったのかよチクショー!?」

レッサー「さぁ!迫り来る男達、上条さんの明日はどっちだ!?」

上条「普通に来る予定だよ?別に見えないとか、そういう話じゃないからね?」

レッサー「このまま無抵抗で上条さんがオッサンどもから前から後ろから……悪くないですねっ!」

上条「おいテメェ今どんな想像しやがった!?」

レッサー「――上条さん、向こうは歴戦の魔術師だと見受けられます!このまま二人で一緒に戦っては不利かも知れません!」

上条「お、おぉ?それで?」

レッサー「なので私が逃げている間に上条さんは時間を稼ぐ作戦で行きましょう!コードネームは――」

レッサー「――『くっ、殺せ!』です!」

上条「ごめんな?おっさん達少し待っててくれないかな?」

上条「俺ちょっとこのバカと拳で語り合わなくちゃいけないから!幻想とか殺さなきゃいけないからな!」

上条「一体何をどうやって『殺して下さい!』って懇願するような状況に陥るのか、言ってみやがれゴラァァッ!」

レッサー「『上条さんの貞操を狙って現れた第三の刺客!レッサーちゃんの奮闘虚しく連れ去られる上条当麻!』」

上条「あれ?狙われてんのって俺の貞操なの?なんでそっちがメインになってんの?」

レッサー「『鍛えられた筋肉の海に意識を刈り取られそうになる中、上条当麻が思い浮かべるのは幸せだった日々の事……』」

上条「次回予告するぐらいだったら余裕じゃないかな?てか向こうも『何言ってんだろコイツ?』って空気読んでくれてるし、話せば分かってくれるんじゃないの?」

レッサー「『……あぁ、あん時レッサーに童貞切って貰えれば良かった……!』」

上条「軽いよね?なんで俺敵に捕まってんのに、割としょーもない事ばっか考えてんの?」

レッサー「『こんな快楽に陥るのも悪くないぜ……ククク!』」

上条「俺のキャラブレすぎだろ!?気持ちいいのか抵抗してるのか一貫性がないなっ!」

レッサー「『そして現れる謎の女の影!突如現れた上条当麻の現地妻を相手に戸惑う取材班!』」

上条「アニメ風予告じゃなかったの?取材班だと昭和の面白探検隊シリーズと被るよね?」

レッサー「『レッサーちゃんは上条当麻の心を救えるのか!?凍り付いた心を溶かす事は出来るのであろうか!?』」

上条「むしろ今、俺がお前への不信感で凍り付きそうなんですけど」

レッサー「『次回、”ザ・ガンジー”!すべからく見よ……ッ!!!』」

上条「いやなんか、次回予告とかしっちゃかめっちゃかになってんだが……」

レッサー「と言う訳で、Please?」

上条「嫌だよっカマ掘られるのはっ!?」

レッサー「じゃ、じゃあ私が犠牲になります!その間に逃げて下さいっ!」

上条「待て!?お前それあの有名な『どうぞどうぞ』の前フリじゃないのか!?」

レッサー「――てなワケで、ですね」 ザワッ

上条「レ、レッサー?」

レッサー「あまり、こっちとしちゃ事を荒立てたくないでしてね。えぇもう本当ですよ?」

レッサー「なんで一応は『逃げる時間を差し上げた』分だけ、人道的配慮だと思って下さいな」

上条(なんつー殺気だ!?つーかコイツ本気で――)

レッサー「『――Please, Go to the grave(あなたのための墓穴へどうぞ)』」

男達「――!?」

???「……何をしている。というか相変わらず女連れだな、お前は」

上条(そう、男達の後ろから出て来たのは――褐色の肌を持った女の子だった)

上条(男達が、スッと身を引いた所を見るに、指導者的な立場の子なのは間違いがない……が、見覚えがあるような?ないような……?)

レッサー「あ、あ、あ、あなたはっ!?まさか――」

上条「知ってるのかレッサーっ!?」

レッサー「――本当に現地妻がしゃしゃり出てくるとはっ1?流石に斜め上でした!!!」

上条「あ、ごめんな?今少し大事な話をしてるから、向こうで待っといて貰えるかな?」

???「誰が現地妻だっ!わ、私はそこのお節介な男の妻になった憶えはないぞ!」

レッサー「……しぃぃぃぃぃっかりフラグ立ててるじゃないですかーヤダー」

上条「待て!?人を人でなしみたいな目で見ちゃいけませんっ!」

レッサー「いやでもあちらさんはお知り合いのようですよ?」

???「お前、まさか憶えてないと言うのか……っ!?」

上条「憶えてる!今ちょっと突然すぎて整理がついてないだけであってだ!俺はきっと憶えてる筈だ!」

レッサー「その言い方自体が憶えてないって証拠なんですけど――まぁ、そちらさんとはお目にかかるのは初めてですんで、自己紹介でもしましょうか」

レッサー「私は『新たなる光』のレッサーちゃんと申します。あなたがブリテンの敵にならない限りはヨロシク」

上条「その自己紹介もどうかと思うが……」

???「随分とご挨拶だが……まぁ名乗られて応じないようでは、我が一族の名が廃る」

レッサー「褒められましたっ!」

上条「皮肉だよ?」

???「私はソーズティ、ソーズティ=エキシカ」

ソーズティ(???)「『天上より来たる神々の門』の魔術師――だった、者だ」

――ウェイトリー記念病院跡 一階ロビーがあったと思われる広場

上条「あぁうん、憶えてた憶えてた!ただちょっと前とはイメージが違ってたから」

上条「前はさ?ホラ、パンツ見えそうな超ミニスカ制服着て――」

ソーズティ「言うなバカ!私の中であれはなかった事にしてるんだから!」」

上条「あー……姉ちゃんに何か言われた?」

ソーズティ「『……そういうお店?』って一言だけ……正気に戻った最初の会話が……ッ!」

ソーズティ「姉妹の再会……感動の対面だったのに……!!!」

上条「ウレアパディーも肌色多めな服、つーか布きれ着てたもんな……」

レッサー「すいません、そのお話を詳しく」

レッサー「あと、もう使わないのであれば、そのミニスカ制服とやらを譲っては頂けないでしょうか?」

上条「ダメだ。あればソーズティが着るからまだ許せるんであって、お前が着ると完全に恥女扱いになる」

ソーズティ「人の潜入服になんて言い草だ。中の学生達もそう変わらない格好だったろうに!」

レッサー「まぁおっぱいが大きいとリアルですもんね。分かります分かります」

ソーズティ「……お前」

上条「そこまでー!つーか喧嘩しない!仲良くしなさい!」

ソーズティ「……ふんっ」

レッサー「喧嘩なんてしてませんとも。ただソーズティさんは暫くぶりに会ったのに、このバカは気づかないし女連れだわで、機嫌斜めであって」

上条「女連れ……よく分からんが――お前今、俺の事”このバカ”って言わなかった?ねぇ?」

レッサー「それで?どうしてIndianの元魔術結社の方がイングランドに居るのでしょうか?」

レッサー「しかもタイミング良く、私達が調べようとしていた廃ビルの中から。偶然とは、思いにくいですよねぇ」

ソーズティ「……」

レッサー「おんやぁ?聞こえてませんかー?もっしもーし?」

上条「俺も聞きたい。二人で逃げられたのか?怪我とかしなかったか?」

ソーズティ「……それは、別に。魔術結社は全滅した事になっているのだから、追っ手がかかる訳でもない」

ソーズティ「それに姉は不完全だが『ブラフマーアストラ』を扱える。相手になんかなるもんか」

上条「発動条件厳しいんじゃなかったっけ?……まぁ、いいや。お前らが無事なら」

ソーズティ「無事。無事か。傷を負わなかったのはその通りだが、今や私達は死んだ身だ。故郷へ帰れる訳もない」

レッサー「なので比較的インドから来やすい旧宗主国のイングランドですか。まぁ納得ですな」

ソーズティ「……そうだ」

上条「姉ちゃんも近くに居るの?」

ソーズティ「いや、ロンドンに居るな。体調は思った程安定していない……病人、ではないのだが」

ソーズティ「だから私が”ここ”へ来た。代理人に過ぎないのさ」

上条「ふーん?……はい?代理人?」

ソーズティ「何?何故そこで首を傾げるんだ?」

レッサー「上条さん、ここは一つ」

上条「あぁ言っちまった方が早い、つーかお互いのためになると思う――ソーズティ!」

ソーズティ「な、何だ?」

上条「っと、今から話す事は他言無用でお願い出来るか?」

上条「あ、ウレアパディーとか信じられる人に言うのは良いけど、それ以外に広まると拙い」

ソーズティ「またお前はトラブルに巻き込まれているのか。そうなんだろうな、それは」

ソーズティ「お前が命を助けた相手も、お前にとってはただの日常に過ぎない、んだよな」

上条「ソーズティ?」

レッサー「聞くのは野暮ですよ。察せないのであれば黙っていましょうか――それとも」

レッサー「『知ってて』したんでしたら、前歯全部ヘシ折って差し上げますけど?」

上条「だから何の話だよっ!?ペナルティが重いし!」

ソーズティ「……ただの愚痴だ。益体も無い」



――10分後

上条「――で、調べていたらお前達に会った、ってのが流れだな」

ソーズティ「『エンデュミオン』……ただの軌道エレベータではないと思っていたが、まさかそんな仕込みがあったとはな」

レッサー「おや?ソーズティさんもアリサさんの関係者でしたか?」

上条「の、少しの話だ。直接の関係者じゃないが、まぁ後で話すよ」

ソーズティ「……納得しがたいが、お前がまた危険な所へ首を突っ込んでいるのは理解した」

上条「その理解、正しくないと思うよ?」

レッサー「合ってます合ってます。ど真ん中ですよ」

ソーズティ「ではこちらの経緯を話す――よりも、まずその、『病死』した人間の名前は分かるか?」

上条「えっと……書類は?鞄の中だからバードウェイんトコか」

レッサー「こんな事もあろうかと思いまして、実はデジカメに撮ってあります。見ます?」

ソーズティ「見るのはそちらに任せる」

上条「はい?」

ソーズティ「――死んだ者の名は、Pawaskar、Trivedi、Chandrababu。誰か一人でも該当しただろうか?」

レッサー「”一人”ではなく”全員”アタリですね……あっちゃー、こりゃまた面倒臭そうな展開になりそうですよ」

上条「え、なんでお前が死んだ人の名前知ってんの?」

ソーズティ「順を追って説明するか……移民、というものは大抵横の繋がりを持っている」

ソーズティ「繋がりを持っている――と、言えば聞こえは良いが、良くも悪くも裏社会のそれと大差ない」

レッサー「ま、それは『生活互助会』でいいのでは?パキスタン系と違って完全なマフィアではないんでしょう?」

ソーズティ「当然だ!あんな面汚しどもと一緒にしないでくれ!」

上条「えっと?」

レッサー「つまり、ソーズティさんは探す側の人間だったんでしょうな。今回『事故死』された方達を」

ソーズティ「彼らはある日、『仕事を見つかった!』と言い残して姿を消したんだ。探すに決まっているだろう」

上条「じゃあ、調べた先に行き着いたのが――」

ソーズティ「この街、そしてお前達に出会った」

ソーズティ「最初は面倒だから穏便に追い払おうとしたんだが……ちっこいのがパキスタニと間違えて皆殺しにしようとしただろ?」

ソーズティ「だから嬉しくもない再会をしてやっただけだよ」

レッサー「Oh……またですか!またレベルの高いツンデーレがここに!」

ソーズティ「ツンデーレ?霊装の名前か?」

上条「やめろ!ソーズティをMOEで汚染するんじゃねぇ!あとツンデレをインドの神様っぽく言うな!」

ソーズティ「まぁしかし、パキスタニどもの最近の凶行を見るに心中は察するが」

レッサー「ありがとうございます、インディアのお嬢さん」

上条「あのー、パキスタニって何?マフィアか何かの名前?」

レッサー「パキスタン国出身の人間をPakistani。直訳すればパキスタン人」

ソーズティ「それがなんで侮蔑の象徴となっているのかは、そのガキから聞け。私は口にしたくない」

レッサー「詳しくは後程しっぽりと。出来ればこのまま忘れて下さると有り難いのですが」

上条「忘れるのも含めて、分かった。しかしそれにしても穏便な話じゃないよな。誘拐されたって事か?」

レッサー「というよりは自発的に居なくなった所を食い物にされた、でしょうか。実際に『病死』した上で保険金が下りているのですから」

ソーズティ「保険金は当然、家族宛てではないのだろうな?」

レッサー「ですねぇ。『ヤドリギの家』が全額受け取っています」

上条「……真っ黒だな。灰色じゃなく、真っ黒」

レッサー「何ともまぁ剣呑なお話ですよね――ですが、私は少し腑に落ちないんですけど。ソーズティさん」

ソーズティ「ん?」

レッサー「あなたはここへ『生活互助会』としていらしたので?それとも『魔術師』としてのお立場でしょうか?」

ソーズティ「言葉遊びは好かない。はっきり言ったどうだ」

レッサー「これは失礼を。では簡潔にお伺いしますが――」

レッサー「――あなた方は『ヤドリギの家』を魔術結社として捉えておいでなのですか?」

ソーズティ「ノーコメントだ」

レッサー「……それはちょっとあんまりじゃないですかねぇ。こちらばかり情報を開示して、そちらさんは黙りってぇのは」

ソーズティ「……」

上条「レッサー、言い過ぎだ」

レッサー「……いや、まぁ巻き込みたくないってのは理解出来ますがね。私も素人さん巻き込んで良い気分はしませんし」

レッサー「ですがここで情報出し渋っていた所で、事態が改善するする訳もなく。ましてや」

レッサー「あなた一人の手に余るのであれば尚更人に頼るべきです。私達が解決出来るかは別として、解決”策”が出るかも知れません」

レッサー「どうせお話を聞くにお姉さん以外に”こっち”の流儀を知らず、辟易してるんでしょう?さっきの男達みたいに」

上条「さっきの?」

レッサー「えぇソーズティさんは『やらせた』と仰いましたが、どう見ても殺気的なものが混じっていましたんでね」

レッサー「魔術師相手に素人さんが叶う訳がない。それを知らない”程度”に闇を使った人間――つまりチンピラ未満だと」

レッサー「恐らくは部下は部下なんでしょうが、勝手に暴走しやがって渋々顔を出さざるを得なかった、が真相でしょうな」

上条「……あぁ確かにそうだな。知り合いなんだから、普通に出て来ても良かったんだし」

レッサー「それをしない、出来なかったって事は、部下の制御すらままならない環境である証左」

レッサー「意地を張ってる場合じゃないと思うんですがねぇ、違いますか?」

上条「……俺からも頼むよ。お前が学園都市に来た時だってそうだったろ?」

上条「俺やソーズティだけじゃなく、インデックスやステイルの力も借りられたからこそ!ウレアパディーを止められたんであって!」

上条「俺だけじゃ頼りにならないかも知れないけど、こっちのはただの恥女じゃないんだ!」

レッサー「待ちません?唐突に人を恥女呼ばわりはまぁ事実だから良いとして、今シリアスですよね?」

ソーズティ「……分かった。お前を信じよう」

上条「ありがとう!」

レッサー「あれ?おかしいですね?ちょい前にアリサさんに説教カマした時とデジャブが――」

レッサー「――はっ!?これはまさか前世での記憶……!?」

ソーズティ「お前”は”信用出来るんだが」

上条「レッサーさんレッサーさん、お前の言動に耐性ついてない子だと頭イタイ子にしか見えないって自覚しよう?」

上条「特に俺が信じられないのは、既に上着を脱ぐ体勢に入っているって所とか。重点的に」

レッサー「いやこれは何となく流れで、つい?」

ソーズティ「お前、気づいてないのか?」

上条「だよなぁ?」

ソーズティ「そっちじゃなく、お前だよ、お前」

上条「俺?」

レッサー「言うだけ無駄、つーか痛くもない腹バラすってんなら、こっちにも迎撃の用意があると言っておきましょうか」

ソーズティ「痛くないのなら迎撃する必要性も無い筈だが、まぁ良い。こちらも難癖つけられるのは面倒だからな」

上条「何の話だよ」

ソーズティ「気にするな。お前に理解出来るんだったら、とっくにどうにかなっている」

レッサー「お気になさらず。周囲が勝手に盛り上がっているだけの話ですので、その内落ち着く所へ落ち着くかと――まぁ?」

レッサー「その時には後ろから刺される覚悟をしておいた方が良いかもしれませんけどね?」

上条「ほっ、良かった!俺には関係なさそうな話だな!修羅場とは無縁の俺にはねっ!」

ソーズティ「えっと?」

レッサー「そっとしてあげましょう。頭のどこかで見当はついているんでしょうが、業の深さに理解を必死に拒んでいるようです」

ソーズティ「正直、『ざまあ見ろ』的なワクワクも否定しがたいが」

レッサー「私の立場としちゃその前に仕込んでおきたい所ですがねぇ……や、でも五人で守ればナントカ……?」

今週の投下は以上となります。お付き合い頂いた方に感謝を

乙!!

少なくともイギリスはペラッペラの服を着て、媚びを売りまくるのをメイドと認めたくないんでしょ

金持ちのステータスみたいなもんだし

ま、それを差し引いても
メイドが嫌いな男なんて存在しないわ!!

>上条(いやでも進歩はあったんだぜ?自動翻訳アプリと環境に慣れたせいでリスニングは何とか)

おお、原作で関西のおばちゃん呼ばわりされてたのに、わずか十数日(?)で……
上条さんてば、やれば出来る子だったんですねっ

確かに今までは、問答無用で外国に放り出されたり、一刻も早く目的地に着かなきゃいけなかったりで、現地で勉強なんでする暇なかったしなあ。

よっしゃ!上条さんの嫁候補のソーズティちゃんやんけ!
天上より来る神々の門のテーマは割と好き

乙です

うなぎゼリーそんなに凄いのか…
ライスプディングとかハギスとかも、アレらしいよね。
ライスプディングは、美味しそうな気もするけど

ソーズティ懐かしいわぁー、姉妹共々エロい格好してたな、そういえば。
あと褐色肌の女の子って良いよね

上条さんのDOZEZAなるものを見てみたいぜ

>>88
レッサー「マジレスをすると私が語った内容は事実です。エセメイドもメイド誘拐も含めて」
レッサー「ただ英国のメイド雇用は女性の社会進出と教育の場の歴史でもありましてね」
レッサー「具体的には女の子がメイドとして雇用されると、家事だけでなく礼儀作法から何からみっちり仕込まれるんですよ」
レッサー「場合によっては玉の輿も狙えますしねっ!これがホントの二重の意味で仕込ま――」
(※暫くお待ち下さい。「ルソー 孕ませる 10年で5人」のワードでググってはいけません。絶対にするなよ!絶対だからな! )
レッサー「ま、まぁ日本でお暮らしだとあまり馴染みはないでしょうが、第二次世界大戦以前の女性の立場は基本的に『財産』扱い」
レッサー「ヘレン=ビアトリクス=ポターはご存じで?我が国が誇るピーターラビットの作者です」
レッサー「彼女は植物学者になりたかったんですが、『女性だ』という一点だけでなれませんでした」
レッサー「ちなみにポター女史は弁護士の父と紡績商の母の間に生まれ、小さい頃から家庭教師により高い教育を受けてきた身です」
レッサー「当然、彼女以外の恵まれていない子達は、逆にメイドになる事で社会進出を果たそう、という先進的な動きでした」
レッサー「日本の丁稚奉公によく似ていますかね。成果を出せれば店舗ののれん分けや、店を継ぐケースもありましたし」
レッサー「ここら辺の事情を鑑みると、メイドが如何に大事な存在であるか分かりますよねっ」
レッサー「メイドが好きかより誰のメイドが好きかで自分を語りましょうよ……ッ!!!」
(※まぁぶっちゃけますとイングランドのは「メイド」で、日本のは「メイド”さん”」)

>>89
上条「体験談から言わせて貰うとそんなに難しく考える事はないぞ?滞在とかするんだったらともかく、旅行ぐらいだったら別にそんなに話せなくても大丈夫だから」
上条「そうだなぁ……例えば、いつものようにサイフとパスポートと荷物全部盗まれたとしよう。でもここで慌てちゃいけないんだ」
上条「初心者だとまず慌てて大使館へ駆け込むだろ?妥当なんだが、それだとやっぱ滞在時間が勿体ないし、スケジュールがメチャクチャになるんだよ」
上条「それが嫌なら、たまたま残ってた観光用の地図を持って道行く女の人に聞いてみるんだ。最初の予定で行く筈だった場所へ、どうやって行けますかって」
上条「そうすると大体その子は逃亡中の某国王女か、家出中のお嬢さんだから、ビンタされるか殺されそうになるんだけど」
上条「彼女を追って魔術師か能力者が現れるから、一緒に逃げるんだ。あ、ここポイントな?殺されたら死んじゃうから注意してくれよ?」
上条「で、なんやかんやアレコレあった挙げ句、一週間後には解決してるだろうから、その後もう一度言えばタダで連れてってくれるぜ?」
上条「な、簡単だろ?」
上条「ただちょっと、日本へ帰った後、その子や敵対してた組織の元女幹部(ロリ)が押しかけて来るけどなっ!」
刀夜「当麻……!すっかり立派に成長して……!」
バードウェイ「いい加減にしとけ馬鹿親子。というか『不幸』以前にもっと負い目に思うべきカルマがあるだろうが!」
(※真面目な話、EテレのTEDを半分程度聞き取れればリスニングは何とかなります。旅行代理店のツアーでぞろぞろ行くのが一番安全で楽)

>>91
本編登場はアリサさん以上に絶望的。レディリーさんはちょい名前出ましたけど、アリサさんは……
というか嫁候補”以外”の方が少ないんじゃないかとか言ってみたり

――廃病院 個室

上条(俺達が通された部屋は意外に綺麗だった……まぁ、廃墟にしてはという但し書き付きでだが)

上条(むかーしガキの頃に作った――と、思う――”ひみつきち”的な雰囲気で、捨てられたソファやら机が並んでいる)

上条(電気は通ってない筈なのにある冷蔵庫。そこから冷たい飲み物を取り出し、ソーズティはゆっくり話し始めた)

ソーズティ「お前達の分はないぞ」

レッサー「上条さん後で買ったげますから、今は大人しく」

上条「そんなに俺物欲しそうな目で見てたかな?いや別にさっき買ったお茶のペットボトルあるし」

上条「……つかイギリスだと緑茶に砂糖入ってんのな?日本でも麦茶に入れるご家庭があるらしいけど」

レッサー「インドのチャイの影響でしょうかね。超絶に甘ーいミルクティーは受けがいいので」

ソーズティ「言っておくが、あれはSサイズをちびちび飲むものであって、西洋人みたいにリッターサイズの紙コップで啜るのは別だ」

レッサー「アメリカの常識をEUにまで広げないで頂きたい。イングランドはまぁまぁマシだと自負していますからねっ!」

上条「まぁまぁで自負すんなよ。日本も最近はメタボ多いがな」

ソーズティ「肥えられるのは富の象徴――”だった”時もあるが、お前達の国は貧しいほどカロリーコントロールが出来ずに太ると聞くな」

上条「インドも経済発展スゲェって聞いてるけど、違うのかよ?」

ソーズティ「前よりはマシになったがまだまだだ。地政学的リスクが高すぎる」

レッサー「西側のパキスタンではジハーディスト”を、名乗っているテロリスト”の活動が盛んで、冷戦状態」

レッサー「商業都市ムンバイは何年か前に派手に爆破され、その犯人達を完全には捕まえてはいませんし」

レッサー「東を向けば貧困村を狙って毛派の浸透が続いており、一部では独立を宣言する始末」

レッサー「国が大きいと憂鬱の種も尽きまじ、ですか」

ソーズティ「どちらにせよ、故国を離れた私達にはもう関係無い話――で、だ」

レッサー「あなたがここにいる理由、それをキリキリ吐いて下さいな」

ソーズティ「……始まりは『ブラフマーアストラ』だ。終ったと思っていたアレが」

レッサー「えぇと、『ブラフマーアストラ』……?名称からするに『創造神ブラフマーの武具』って所でしょうが」

上条「お、合ってる。弓だっけ?」

ソーズティ「姉の霊装はそうだな。必中必殺、距離も壁も関係なく、弓を放てば命中する術式だ」

レッサー「また中二心をくすぐるチート武器ですなぁ。嫌いじゃない、むしろ使ってみたいです!」

レッサー「……でもやっぱり、使用条件お厳しいんでしょう?」

上条「通販みたいなノリは止めなさい。割と深刻な話なんだから」

ソーズティ「『アストラ』に合わせるための体のチューニングを少々。被験者は何人かいたが、生き残っているのは姉だけだ」

レッサー「……ま、そうですよね。魔術の規模に比例して扱いにくくなるのは当たり前ですが」

ソーズティ「後は『三つ以上の流れ星を同時に確認する』必要性がある」

レッサー「それ絶望的じゃないですか――って、あぁ成程成程。それで『エンデュミオン』に絡んだと」

上条「正しくはその前にあった『デブリストーム』だな」

レッサー「そっちもまたお名前から察するに『スペースデブリをどうにかしちまうぜ!』的な、トンデモ技術なんでしょうねぇ……」

ソーズティ「だがあの戦いの中、どこかのお節介焼きのバカに潰され、アストラは本来の力の大半を失った」

ソーズティ「今では”やや”強い霊装の域を大きく超えるものではないがな」

レッサー「あー、いますよねぇ。どこでもそういう人って。無関係なのに首突っ込んできてドヤ顔で説教マカす人」

レッサー「『仲良く出来るんだったら、最初っからやってるっちゅーの!』的な」

上条「……すいません。ホントもうね、色々とすいません……」

ソーズティ「今言ったように『アストラ』の起動条件の一つには、三つ以上の流れ星が必要だ」

ソーズティ「しかしだからといって、霊装を片手に持ちながら、望遠鏡で一晩中流れ星を探している訳ではない」

上条「……シュールな絵面で、それはそれで見てみたいが」

レッサー「あ、それ私も不思議に思ったんですよ。『ブラフマーアストラ』、確かに超強そうな感じですけど、『実戦で使えるのかよ?』と」

上条「破壊力は並の魔術と文字通り桁違い。精度に関しちゃ……あー……ウレアパディーが”当てる”つもりがなかったんで、体験はしてない」

ソーズティ「当然だな。姉が本気を出してさえいれば、お前なんかに膝を屈する筈が無い」

上条「あ、シスコン発見。仲が良いのは結構だけどなー」

レッサー「……私の話が途中なのにこの始末……」

上条「あぁごめんごめん。それで?」

レッサー「……えっと、ですね。普通は、てか常識的にそんなに流れ星見ませんよね?しかも同時三つとか無理ゲーかと」

レッサー「『エンデュミオン』――てーか軌道エレベーターやらスペースデブリを遣い、作為的に起こさない限りは、まず」

ソーズティ「その通りだ」

レッサー「天文学がある程度発達してりゃ、流星雨を予知出来るっちゃ出来ますけど……それにしたって都合良く、タイミング良く起きる訳がありません」

レッサー「なのでその霊装、『実は待機時間を挟める』仕様なのではないでしょうか?」

上条「どういう事?」

レッサー「そうですなぁ……『流れ星が流れる前に、三回お願い事をすれば叶う』っておまじない――お呪い、ありますよね?」

上条「あぁ、某ネットラジオで『津へ!津へ!津へ!』なら出来るかも?つってたやつか」

レッサー「あのお呪い――って言いますか『術式』の受け付け時間は『流れ落ちている間』です。分かります?」

上条「まぁな。どう考えても子供の願掛け用のおまじないなのに、発動条件がシビア過ぎて、入り口にすら立てないもんな」

レッサー「でもこれが逆に『流れ星が流れてから○○秒以内』だったら、楽勝じゃないですか?それと同じ」

上条「あぁ成程。起動してから使うまでの時間に余裕があれば、戦闘に入る前に起動しといてー、って使い方も出来るのか」

ソーズティ「……驚いたな。意外と考えてるじゃないか」

レッサー「褒められましたっ!……おや?”意外”と?」

上条「レッサーさんは若く見られますからねっ!その歳にしてはって意味だと思うよっ!」

ソーズティ「お前の連れにしては、だよ」

上条「あれあれー?フォローをしたらこっちに流れ弾が跳んで来たぞー?」

ソーズティ「原理はその女の推測の通りだ。予め流れ星三つを”確認”し、”起動”させておく」

ソーズティ「そうしてから実際にブラフマーの弓を引くまで、ある程度タイムラグが認められている――の、だが」

ソーズティ「……先程も言ったように、姉はずっと夜空を見上げているのでは、ない」

レッサー「意外にロマンチストで、初恋の人がトチ狂っても待っていたりしそうですけどね」

上条「レッサーさん、黙ろうか?それは言っちゃいけないと思う」

レッサー「『兵無し!』と言い切った割には次から次へと残党がですね」

上条「それも止めようね?当時はこれ以上話膨らませるつもりはなかったって、監督言ってんだからさ?」

ソーズティ「なので当然、当たり前のように天体観測自体は、それ専用の術式に任せっきりになっている――と、ここまでが前提の話だ」

ソーズティ「細々とした説明が嫌になるぐらい、前座の話と言えなくもないんだよ」

上条「要はお前のねーちゃんが夜空を観察してる術式使ってる、って話だよな?」

ソーズティ「そうだ。その通りだ――だから今からする話は、完全に『偶然』だったんだ」

ソーズティ「……そうじゃないと、おかしい……!」

レッサー「もし?どうされました?」

上条「……言い辛い事なのか?だったら無理に話さなくても――」

ソーズティ「――20XX年11月末。お前達はどこで何をしていた?」

上条「はい?なんでまた」

ソーズティ「答えろ、いいから」

レッサー「私は、私達はイギリス清教さんから逃げ回っていましたねぇ。つっても表面だけ、形式上だけなんでヌルいもんでしたが」

レッサー「キャーリサさんの取り計らいがなければ、『必要悪の教会』の抹殺対象になってしてもおかしくはありませんでしたが……まぁ?」

レッサー「それを除けばいつもの通りでした」

上条「反省しないの?少しは省みようよ、ねぇっ!?」

レッサー「残念!私の辞書に『反省』の二文字はありまんせんよっ!」

上条「そんな辞書は返品してきやがれ、つーかお前の辞書日本語表記なんか?」

上条「……と、俺は何してたっけかな……?」

上条「佐天さんとテレビ番組――あ、いや誰かと暮らしてた――のも、違うな。バードウェイと――」

上条「……いやいや。そんな事もしてない。えっと……あぁ、そうだ。アリサのライブの手伝いしてたんだよ」

レッサー「アリサさんの?年越しコンサートでしたっけ?」

上条「の、準備で大忙し。一ヶ月以上前からリハビリとか歌のレッスンとかさ。シャットアウラが手ぇ離せないってから、俺に頼みたいんだと」

レッサー「……アリサさん結構強かだと思うんですが、どうでしょうねぇ――で、私達のプライベートがどう関係が?」

ソーズティ「……『彗星』、来ていたな?」

上条「すい……?あぁ!あったあった!そう言えば去年の11月頃の話だっけ?」

レッサー「はい?ありましたっけ?」

上条「百年に一度だか、千年の一度だか、ボジョレヌーボーのコピペみたいに宣伝しまくった彗星の話。あー、あれ11月だったかー」

レッサー「えーととと……あぁ、そういやあった……ような?ランシスが何か言ってた気がしますけどね」

レッサー「『イカロスの羽根』がどーのこーのと……」

上条「イカロス?」

レッサー「ギリシャ神話のミノタウロス閉じ込めた迷宮作ったダイダロスの息子です」

レッサー「蝋で出来た翼で天空に跳んだのは良いものの、太陽に近づきすぎて羽根が溶けて墜落死した伝承が」

上条「あ、それとある意味同じだな。去年来てた彗星も、太陽に近づきすぎたら溶けちまったんだよ」

上条「彗星は氷とチリでて出来ているからさ」

レッサー「へー?寓話みたいなお話もあるもんですにゃあ」

上条「猫になるの禁止――で、あの彗星がどうしたって?」

上条「『世紀の天文ショー()』って言ってたのに、何か残念すぎる結末だとは思うけどさ」

ソーズティ「……おかしいと思わなかったのか?”それ”を」

上条「どれ?」

ソーズティ「世界中の天文学者、そして魔術師達が彗星を観察していたんだぞ?単位は数万を超える数のだ!」

ソーズティ「それだけの数の『プロ』が居たというのに、誰一人彗星が蒸発した結末を予測出来なかったんだよ!」

上条「だってほら?実際に消えてる訳だしさ」

レッサー「……指摘されてみれば、確かに、ですね」

上条「おい、レッサーまで」

レッサー「我々魔術サイドが天体の運行、天文学について有史前から研究していたのはご存じでしょうかね?」

レッサー「各種の壁画や創造神話を紐解けば、もっと言えば『暦』を創り上げたのも我々ですし――」

レッサー「――何より、『エンデュミオン』もまた星辰が深く関わっていますでしょ?」

上条「それは、推測だって」

レッサー「ローマ正教さんの元トップが言うんだから、まず大きく外してはいないでしょうな」

レッサー「てか、あの人が外すんであれば、他の魔術師にも予想は不可能と言っても過言ではありませんよ。そういう人です」

レッサー「なので当然、昨年の彗星も魔術師にとっては興味深い研究対象であったのも確か、ですね」

上条「お前らは違ってたみたいだけどな」

レッサー「んー、まぁそこはそれ”次”の仕込みに忙しかったって言いましょうか。ま、そんな感じでアレでしてね」

ソーズティ「と、同時に科学サイドでも観察の対象になっていただろう?アマチュアの天文学者から、重力レンズを観察しようとする学者まで幅広く」

ソーズティ「だというのに、それだけの面子の人間が揃っていたにも関わらず、『太陽に近づきすぎたから蒸発』なんて締まらないオチが予測出来なかったのか?」

上条「……なあ、ソーズティ。なんかさ、俺の気のせいかもしないんだけど、さっきからお前の話を話を聞いているとだ」

上条「あの彗星、本当は太陽の側をきちんと通り過ぎる筈だったのに、誰かが――”何か”が干渉して蒸発させられた、っていう風に――」

ソーズティ「――ここで姉の話へ戻る」

上条「おい、聞けよ」

レッサー「上条さん、『聞いた』上での結論ですよ。恐らくはね」

上条「でも、俺の話を踏まえるって事は」

ソーズティ「姉が星辰を観察している霊装は、太陽系内で動きがあったり、また逆に大気圏を通過する物体があれば動きを察知出来る」

ソーズティ「……ただし、地球を離れれば精度は格段に落ちる。殆ど気休めみたいなものだったらしいんだが」

ソーズティ「その日――いや、あの日はほんの気まぐれで」

ソーズティ「『太陽に近づいたら最も彗星が尾を引く』――とかってWEB記事を見て、楽しみにしていたんだそうだ」

上条「ちょっと可愛いな……って事は段々と元の人格が回復してるんだな、良かった」

ソーズティ「だから珍しく彗星が太陽へ近づく瞬間、姉は目視ではないものの魔術的に観測をしていたら――」

ソーズティ「――『喰われた』んだよ」

上条「…………………………うん?」

ソーズティ「だから、彗星が、突然、『喰われた』んだ」

レッサー「待って下さい、ちょっと待って下さい?『喰われた』ってぇのは、一体全体どういう比喩表現でしょうか?」

ソーズティ「姉曰く、彗星の端からムシャムシャと。まるで蚕食のように――と、言っても分からないか」

ソーズティ「白いシャツへインクを垂らしたみたいに染みが広がって」

ソーズティ「気がついたら、『喰われた』彗星は残骸しか残っていなかった、と」

上条・レッサー「……」

ソーズティ「そして姉の霊装には大気圏を横切る物を、大まかにではあるが察知する能力があった」

ソーズティ「その『網』には幾つのかテレズマ、魔力の流れを捉えていたんだ。日にちは忘れたが、長くても数週間前にだ」

上条「もしかしてその魔力を放った奴らが!?……や、違う、か?仕込むにしては早いしな」

レッサー「……いえ、多分上条さんの想像で合っていますよ。地球から太陽まで約1億5千万キロ、光速で表すのであれば約8.3分です」

レッサー「また自転と公転、更には彗星の場所を予測して『仕込む』のであれば、どんなに遅くとも数日前には放たないと間に合いません」

ソーズティ「先にも言ったように、魔術師連中も彗星には興味津々だ。だから誰かが何かの術式をかけた――と、その当時は思っていたんだろうが」

ソーズティ「お前達と同じ結論へ至った姉は『今、”喰わせた”のはあの魔力じゃないだろうか?』と、ようやく逆算し始めた」

ソーズティ「幸いにも姉は賢明なので、苦労もなく三つの大まかな場所を探査出来たんだよ」

上条「三つ?今三つって言ったか?」

ソーズティ「あぁ、『三』だ。『ブラフマーアストラ』が天空からの星を欲するのに対し、地上から魔力の矢を放ったのは三箇所」

ソーズティ「一つ目は日本、それも沖縄近郊の海中から」

ソーズティ「二つ目はイタリア、国境近くの森の中から」

上条「……安曇阿阪と『団長』……!?」

レッサー「……うわぁ、私この先聞きたくないですねぇ……」

上条「俺だってそうだよっ!?だってまだもう一つ残ってるもの!」

ソーズティ「文句を言うな。聞いたのはお前達、自己責任だと思え――そして、三つ目は――」

ソーズティ「――ここ、『ダンウィッチから放たれた』ようだ」

――廃病院

上条「……『星喰い』なんて出来――」

レッサー「――ますよ?現実逃避されている所で恐縮なんですけど」

上条「どうして君達は大抵大概なの?魔術師だからって何やったって良いって訳じゃないんだからねっ!」

レッサー「ツンデレ風味で嫌いじゃないですが――いえ、ですから『魔術理論上は』というヤツでして」

上条「……科学サイドの『理論上は可能性がある』みたいなもんか?」

レッサー「それに近いですなぁ。てか散々お話ししましたでしょ?古今東西の終末神話」

レッサー「その中には太陽を食べたり、撃ち落としたりするお話が少なからずありますんで、えぇ」

レッサー「上条さんのトコの神話だってありますよね?終末じゃないですが、『皆既日食』とニートの神話」

上条「ニート言うな。アマテラスが天の岩戸?だかへ隠れたら、太陽も陰って姿を消したって話か」

レッサー「そう!そうしてここはレッサーちゃんのターンですなっ!」

上条「取り敢えず脱ぐな恥女。そういうのは日食が起きてからにしなさい!」

ソーズティ「早々蝕が起きてたまるものか。次に起きるのは確か月食だった筈だ」

レッサー「ま、そんな感じで日食・月食の類は神話として存在し、術式や霊装に取り込まれてもいます。他にえっと……」

レッサー「北欧神話であればラグナロクの果てに、太陽神ソールはスコル狼――フェンリルの息子に追い付かれ」

レッサー「その体だけでなく、太陽をも呑み込みまれてしまう運命を持っています」

上条「あれ?俺がゲームとかで知ってる範囲じゃ、オーディンがフェンリルに呑まれるんじゃなかったっけ?」

レッサー「あぁそれはですよ。書き手によって、また翻訳者によっては解釈も違うんですよ」

レッサー「例えば太陽神ソールは一説にはオーディンの化身の一つであり、スコルもまたフェンリルそのものであった、という話もあります」

レッサー「二つの神は共にラグナロクで狼に呑まれるため、混同されて伝えられてますから注意して下さいね?」

上条「何に注意するんだ、何に」

レッサー「ゲームやラノベの知識を真に受け、神社の前でドヤ顔で彼女に語り出す方がたまーにいるらしく」

レッサー「偶然そこに居合わせた、通りすがりのサラリーマンが」

レッサー「『あの、カンピオー○!の”鋼と蛇”は、別にあれメジャーな学説じゃないからね?』」

レッサー「『そもそもで言えば、気候も風土も民族性も違う信仰を体系づけるのは不可能だって話でさ』」

レッサー「『なんかもう、そこまで行くとラプラスの方程式みたいな、オカルトになっちゃうから気をつけてね?』と優しく指摘される大惨事が!」

上条「放っておいてあげて!?サブカルからそっちへ行く人だって結構居るんだから、道を閉ざすのは止めてあげて!?」

レッサー「後、大抵は神職僧籍神父さん、当たり前ですけど神学を修めているので、生半可な知識だけで語ると、100%恥をかきますから」

上条「注意するってそういう意味なの?」

レッサー「まぁラグナロクで弑されるのがオーディンかソール、呑み込むオオカミがフェンリルとスコル――」

レッサー「――『そのどちらも正しく、間違っている』かも知れませんしねぇ」

上条「……禅問答?」

レッサー「アルテミスが二柱居たように、他の神だって同じルーツが別々に別たれ、時代を経て再統合される事もままあります」

レッサー「北欧神話は幾つかの民族の融合、それに伴った神話の再編成が繰り返されてますねぇ」

レッサー「なので似たような名前の巨人が複数居たり、太陽神ですら似たような役割の神様がカブりまくってる状態です」

ソーズティ「――口を挟ませて貰う。その北欧神話の太陽神ソールだったか?」

ソーズティ「彼のルーツは『リグ・ヴェーダ』――インド神話の『スーリヤ』だと言う説がある」

上条「どんな神様?」

ソーズティ「そのまま太陽神だ。生まれつき高熱を発し、馬が引く戦車にのって天を翔る。太陽の動きは彼の動きそのままだと伝えられている」

レッサー「他にもローマ神話じゃ、全く同じ名前の太陽神ソールが居ますからねぇ?後にヘリオスやアポロンと同一視されましたが」

上条「北欧神話とはズレがないかな?時代的な意味で?」

レッサー「ズレ?ビッ×的な意味で?」

上条「なんでここでギャルの話が出るんだっ!?アバズ×じゃなくて、ズ・レ!」

レッサー「――と、上条さんがご所望のようですので、取り敢えずここはソーズティさんと私がですね」

ソーズティ「なぁこの恥女殺していいか?どうして突然脱ぎ出すんだ?」

レッサー「ズー×ーが好きなんじゃねぇかなって、前々から何となく察しては居たんですがねー……それに!」

レッサー「もしかしたら途中で乱入してくれるかも知れませんし!」

ソーズティ「……おい、そこでツッコミ放棄して『べ、別に悪くないとか思ってるんじゃないんだからね!』って顔した男、いい加減止めてやれ」

上条「どういう顔?その技術の特許取れれば人類は新しいステージへ行く発明になんじゃねぇかな?」

レッサー「顔をどうにかした所で電光掲示板程度のウザさを量産するだけど思いますが……それで、時代とは?」

上条「いやだからさ、北欧神話の歴史って古いんだろ?だったらどっちが先かとか言えないじゃないかな、って」

レッサー・ソーズティ「……」

上条「え!?俺またなんか変な事言ったか!?」

レッサー「……ソーズティさん、インド神話――てーかヒンドゥー教の成立は何年ぐらいでしたっけ?」

ソーズティ「アーリア人の何かが約紀元前2000年、なので大体原型が創られたのは紀元前16世紀前後だろうな」

レッサー「アーリア!?アーリア人ですって!聞きましたか上条さんっ!」

レッサー「この女言うに事欠いて『Aryan(高貴な)』って言いましたよねっ!」

ソーズティ「何か言ったかヒットラーの叔父貴ども。あの騒ぎのお陰で、アーリア人を名乗ると胡散臭い目で見られるんだが?」

レッサー「人種で一括りにされると、同じっちゃ同じですがねぇ――ともあれ、上条さん。上条さんの所の神話はいつぐらいで?」

上条「神話……一番古いのは古事記と日本書紀だな。西暦712年……ぐらいだった気がする」

上条「一応それまでの伝承は口伝として残ってたらしいんだが、文字として残し始めたのはそのぐらい、と教科書に」

ソーズティ「口伝が伝わっていたのはいつ頃から?」

上条「えっと……紀元前7世紀ぐらい?自称だけどな」

レッサー「ちなみに西暦とはキリストが生まれた年を基点としています」

上条「いや、そんぐらいは分かるし」

レッサー「で、先に上がったローマ神話は紀元前8世紀頃から、王政ローマが始まった時が最初ですかね」

ソーズティ「とはいえローマ神話の殆どはギリシャ神話を取り込んだものだ。ルーツはもっと深いだろうな」

レッサー「ちなみにギリシャ神話もまた紀元前15世紀頃から始まってます。文化の興りはアーリアンと同じくらいですかねぇ」

上条「歴史的に見れば同じぐらいの時期に大きな文明が出来た、か」

レッサー「ま、それだけ人類の生活レベルが安定してったんでしょうな。お互いに影響を与えた可能性もありますがね」

レッサー「で、北欧神話、幾つかのエッダを基にした神話群へと話は華麗に舞い戻るんですが!」

上条「普通でいいよ?お前が張り切ると大抵惨事になる――俺がなっ!俺だけがなっ!」

レッサー「北欧神話にも日本神話で言えば記紀神話、十字教のバイブルみたいなものがあります。それが『エッダ』」

ソーズティ「ヒンドゥー教の教典である『リグ・ヴェーダ』は紀元前12世紀、ただし紀元前18世紀頃の話が書かれている」

上条「……ちょっとドヤ顔だ……」

レッサー「アーリアン国家の成立その時期ですし、まぁ矛盾はありませんな。『時代を遡って書く』のは割とありますんで」

レッサー「ま、どこぞの西暦13世紀の書物だけに『紀元前50世紀にアジアを支配していた!』と書いた偽書を正史と言い張り」

レッサー「世界中の学会から実質上の出禁食らってる民族もありますが、まぁそれはともかく――てか、ちなみに!」

レッサー「上条さんは北欧神話ってどのぐらいに出来たモンだと思います?あ、設定ではなく歴史書が書かれた時期として」

上条「設定言うな。尊重してあげろや」

ソーズティ「設定云々言ってたら、どの神話も宇宙開闢まで巻き戻るからだよ」

上条「つってもなぁ……?あー……北欧神話だろ?よくあちこちで見るし、つーか敵も味方も使いまくるし!」

ソーズティ「……切実な問題だな、それは」

上条「例えがアレで恐縮なんだが、ゲームとかでも比較的上位にあるよな?だったらかなーり古いんじゃね――」

レッサー「残念!ハっズレです!」

上条「まだ言ってねぇよ!つーか話振ったんだから最後まで言わせろ――何?それじゃインド神話よりも新しいの?」

レッサー「ですねぇ」

上条「んじゃローマ神話ぐらい?」

レッサー「もっと若いです」

上条「だったら十字教、紀元0年か?」

レッサー「もう一声!ガンバって下さい!」

上条「記紀神話の8世紀?」

レッサー「まだです!まだ諦めるような時間じゃありません事コトよっ!」

上条「お嬢言葉になってんぞ。それじゃ一体いつ?あ、逆にもっと古いとか?」

レッサー「結論から言いますと――『エッダ』が編纂されたのは『13世紀』です。13世紀」

上条「……はぁ?」

レッサー「ですから神話にしちゃ、かぁなーり若い部類へ入りますねぇ、えぇ」

上条「待て待て!?神話って言うよりも時代的には中世へ入んじゃねぇのか!?」

レッサー「ですな」

上条「そんな時代に成立したのか……日本だと鎌倉時代だぜ」

レッサー「ちなみに『エッダ』も古の物語を編纂した、という形を取っているため、実際に9世紀頃まで遡るんじゃないかなーと」

ソーズティ「……あぁ、だからか」

上条「ん?でもそれにしては扱いデカくないか、北欧神話?不自然なぐらいに?」

レッサー「まぁ十字教以外で自分達に関わりのある”それっぽい”神話を求めるとすれば、一番近いのは北欧神話ですからねぇ」

レッサー「オペラなど歌劇や音楽、また絵画や彫刻など芸術畑のモチーフとして選ばれていましたからねぇ。そーゆーの」

上条「芸術ねぇ……あ、でもそれっておかしいよな?」

レッサー「何がです?」

上条「歌とか絵画は信仰の一部だったんだろ?芸術じゃなくて、宗教を補強する感じでさ」

レッサー「えぇ仰る通りですよ、”最初”はね」

上条「最初?」

レッサー「十字教、特にローマ正教が台頭してからはですね、オペラとかで『神様とかの文句言っちゃらめぇ!』って規制が厳しくなりまして」

上条「言ってないな?そんな言い方はしなかった筈だよな?」

レッサー「絵画も同じく。えぇっとぉ、これはぁ、あんまりぃ、乙女の口から言いたくはないんですけどぉ」

上条「じゃいいや。次の話へ移ろうぜ」

レッサー「ですが上条さんがどうしてもと仰るのであれば!あ・れ・ば!仕方がなく私が辱めを受けようじゃないですかっ!」

上条「……」

パタン……コトン

上条「……ソーズティ?冷蔵庫からペットボトル取り出して、なに?」

ソーズティ「えっと、なんだ、その?」

ソーズティ「甘いグリーンティでよければ、飲むといい。だから、な?」

上条「その優しさが逆に痛いわっ!?てか俺の状況を理解してんだったら改善を!パートナー交代をっ!」

上条「今からでもいいからっ!もっとツッコミで俺の喉が枯れない相手を!」

レッサー「あっはっはっはー!やですねぇ上条さん、そんな羽目になったらマタイさんの予言が早まるだけじゃないですかー、もぅっイ・ケ・ズっ!」

上条「……な?」

ソーズティ「同意を求められてもな……休憩にしようか、少し」

上条「あ、ごめん。トイレある?」

ソーズティ「この階の端、ストリートから見えない所へ簡易トイレが設置してある。そこを使え」

レッサー「ありがとうございます。では上条さんご一緒に」

上条「あぁそれじゃ失礼して!……とか言わないからね?流れと勢いだけで持って行けると思うなよ!?」

――休憩中

ソーズティ「さっきのアレはなんだ?」

レッサー「ツンエロを気取ってみたんですけど?」

ソーズティ「……そこは普通、『何のことだ?』じゃないのか!?」

レッサー「心当たりがあり過ぎで何がなにやら自分でも把握し切れていません!」

ソーズティ「威張って言う事ではないと思うが……そうじゃない。さっき特定の神話を意図的にスルーしなかったか?」

ソーズティ「正確には『英雄譚』なんだかな」

レッサー「気のせいじゃないですかね。する意味がありませんよ」

ソーズティ「そうか。だったらいい」

レッサー「ですねー」

ソーズティ「……」

レッサー「……」

ソーズティ「何を」

レッサー「はい?」

ソーズティ「何を、話したらいいんだ。こういう時は」

レッサー「……はい?何を急に」

ソーズティ「『結社』で育った身だから、あまり同年代とのコミュニケーションには慣れていなくてな」

レッサー「あー……はい、成程、なんとなくですけどお察してました。割かし良くある話――と、言っていいのかどうか迷う所ではありま――」

レッサー「……」

ソーズティ「アリマ?」

レッサー「……あれ?ちょ、ちょっと待って下さい!私気づいちゃったんですがっ!大事な事にねっ!」

ソーズティ「うるさいな。どうした?」

レッサー「初めてお会いした時から『あるぇ?この子ツンデレ?』って思ってたんですけど、それもしかして狙ってるワケじゃなくて!」

レッサー「上条さんにどこか刺々しいながらも劣情混じりの態度を取っているのはっ!まさかっ!?」

ソーズティ「そんな事実はないぞ!過去一度だってな!」

レッサー「妙に距離感掴めてねーなー、とか感じたのももしかして――素、だった……!?」

ソーズティ「……悪いか」

レッサー「まただ!?またいと高きクソッタレは私の前へ『天然モノ』という刺客を送って来やがったんでしょうか……!!!」

レッサー「つーか私別に神様に恥じるような行いはしてませんともっ!誓って品行方正な生き方しか来ませんでしたよっ、えぇっ!」

レッサー「ただちょっとシスコン拗らせたり、ガリア征服したノリと勢いでティベリウスぬっ殺しただけじゃないですか!」

レッサー「あまりにもあっさり事が運んだせいで、歴史書から一人ローマ皇帝が削り取られるとかありましたけど!」

ソーズティ「お前が何を言っているのかが、分からない」

レッサー「あと、すいません。ぶしつけな質問で恐縮なのですけど」

ソーズティ「何だ急に」

レッサー「あなたのカップ数を教えては頂けないでしょうか?」

ソーズティ「本当にぶしつけだな!?話の流れも理解できん!」

レッサー「あなたがAだと上条さんがロイヤルストレートフラッシュ(性的な意味で)揃える可能性が出て来ましてねっ!」

ソーズティ「私を巻き込むな!あとお前小声で『性的な意味で』って言わなかったか!?」

レッサー「せーてーきーなーいみでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

ソーズティ「オペラっぽく大声で言い直せばいいモンじゃないぞ!?」

レッサー「いえこれは消臭○の最後のフレーズですな。あ、ご存じでした?消○力は長州○さんにちなんで名付けられたそうで」

ソーズティ「というか、上条当麻!さっさと戻って来い!ツッコミが間に合わないし私ではカバー出来ない!」

レッサー「――と、言った具合にですよ」

ソーズティ「なに?今度は何を言い出した?」

レッサー「話題でしょうが、話題。別に何か話さなっきゃいけない決まりでもあるまいし、好きにすればいいんですよ。好きにね」

ソーズティ「好きに……?」

レッサー「ま、魔術結社と違って対人コミュで四苦八苦しそうですけどねぇ、それにしたって要は経験ですよ、場数ですよ」

レッサー「『人に嫌われるから話さない』とか『人に好かれたいから話さない』とか、人によって色々あります。そう人によってね?」

レッサー「お喋りで社交的な人間は厚意を集めますが、逆に嫌う人種だって居ます。当然、好みは画一的なものではないですから」

レッサー「ま、万人受けするような方法はありませんし、仮に表面取り繕っても長持ちはしませんからね」

ソーズティ「……」

レッサー「なのであなたは、あなたの思うように行動をすればいいと思いますよ。私は」

ソーズティ「お前は……そう、していると?」

レッサー「えぇ勿論。覚えている限りでは、ずっとね――あ、そうだ」

レッサー「あくまでも一般的ですが、こういう時、女の子同士でする定番のお話がありましてね――」

――廃病院 廊下

上条(……いや、焦った。手ぇ洗えないのかと一瞬ビビったが、水道が生きててよかったよ)

上条(まぁうん、アレな方法でアレしてるんだろうが!突っ込まない勇気!最近それがあるって分かったよ!)

上条「……」

上条(ソーズティの方も、相変わらずっちゃ相変わらずミニスカ――じゃなかった、元気そうでよかった)

上条(ウレアパディーのエロ――元気な!そう、元気な姿も拝みたかったが!……あれ?)

上条(ソーズティは代理で来てる……って事は、再登場する可能性が……!?)

上条(あのお姉さんキャラおっぱい時々透けコスが本邦初公開、だと……!?)

上条「……」

上条(ちょっと何を言ってるのか分からないな!つーかキャラがブレてる!本当の俺はこんなんじゃないよ!違うんだからねっ!)

上条(ま、まぁまぁ?相変わらずツンツンしてるし、問題はな――)

レッサー『……――……』

ソーズティ『……――……?――!』

上条(――い。むしろ楽しそうにやってるな)

上条(レッサーと意外と相性が良かったのかも?あぁ見えて気を遣う方……かも、知れないし!俺以外には!)

上条(ガールズトークって言うんだっけ、こういうの?アリサ達と旅してる時には、俺が最初から入ってたから、あんましなかったが)

上条(ちょっと興味はある、かな?)

上条「……」

上条(や、でも盗み聞きは良くないっつーかさ。ほら?礼儀みたいなの、あるじゃん?)

上条(親しき仲にも礼儀あり!大事だよねっ人間関係!)

上条(なので、まぁ?少しだけ?少しだけなら聞いても――)

レッサー『――や、でも最後までダメダメでしたよ?結局私の体には手ぇ出そうとしませんでしたしねぇ?』

レッサー『で、その時ピコーン!と閃いたんですよっ!プロミネンス○のように!』

ソーズティ『その”ように”が分からないが、それで?』

レッサー『”あ、こいつやっぱペ×かショ×なんじゃね?”ってね!!!』

上条「違う!断っっっっっっじて、違うわっ!!!」

レッサー「おや上条さんお早い還りで」

上条「つーかテメー何ソーズティに吹き込んでやがるっ!?どうせまたある事無いこと言ったんだろうが!」

レッサー「私の知り合いの釣った魚に餌をやらないクソヤローの話をですね」

上条「そっか、それじゃ俺じゃないよなっ!胸が痛むけども気のせいなんだよなっ!」

上条「……てーかさ俺の幻想を返してよ!?ガールズトークで何言ってるのか期待した人達に謝って!?さぁっ!」

レッサー「あー、はいはい。居ますよね、少なからず期待してる層が、どの時代にも」

レッサー「ぶっちゃけますけど、女子会だったり、女の子の集まりで喋ってる内容は大抵『悪口と自慢話』ですからね?いやマジな話」

レッサー「誰それがムカツクーとか、こないだ彼氏に買って貰ったんだけどーとかとか。基本、愚痴と金と男です」

レッサー「ファミレスでダベってる時、ギャル系JKの会話聞こえますよね?スッゲー下品にガンガンパンツ見せながら」

レッサー「あれを全年代でやってると思って下されば、まぁ正解ですな」

上条「レッサーの鬼っ!悪魔っ!高千穂っ!いいじゃない!別に本当の事ぶっちゃけなくたっていいんじゃねぇかよ!」

上条「……絶望した……!女の子の実態に絶望した……!」

レッサー「勝手に幻想を抱いといてなんつー言い様ですか。ねぇ?」

ソーズティ「お前は夢を見すぎだ。少しは実態を見つめろ」

上条「人が席を外した隙に仲良くなりやがってチクショー!俺は部屋に戻るぞ!こんな所に居られるか!」

レッサー「それ、死亡フラグ」

上条(……と、レッサー達は仲良くなりましたとさ。レッサー”達”はねっ!)



――廃病院 個室

レッサー「で、エロの話へ戻すんですが」

上条「戻すな戻すな。戻るんだったら本題へ戻れ」

レッサー「ほら、中世から近世にかけて、教会が絶対的な権力を持ってたじゃないですか?神聖ローマ皇帝すら虚仮にしたり」

レッサー「なんて言いましょうか、芸術というのはエロなんですよ!エ・ロっ!エロがあれば空だって飛べるさ!」

上条「お前ついさっき話しにくいっつってたよね?その設定はどこ行ったの?飛んでっちゃった?」

レッサー「えっとですね、これはマジ話――てか、これ”も”マジ話なんですが、絵画ありますよね?ルネッサンス以降の」

上条「あんま詳しくはないが、美術の教科書でパッと見た名前ぐらいは暗記させられてる。それが?」

レッサー「まぁ何となくのイメージでいいんですけど、ルネサンス以降の絵画には『異教のワンシーン』が多いですよね?」

レッサー「例えばヒエロムニス=ボスの『悦楽の園』、時代が経ってはゴヤの『我が子を食らうサトゥルヌス』なんて代表ですが」

レッサー「他にも魔女のサバトを描いた絵なんかゴロゴロ出て来たりしますが――あれ、不思議に思いませんでした?」

上条「本場だろ?別に珍しいこっちゃ――」

レッサー「『キリスト教が絶対的な価値観を支配している中、あんな絵が評価されたのか?』と」

上条「言われてみれば……そうだよな?確かにルネサンス以降、ギリシャ神話の神様やジークなんとか?って英雄の絵とか増えたよなぁ?」

上条「あとレッサーさん?多分故意犯だとは思うんだけど、『十字教』な?そこ間違えないでやって?」

レッサー「おっと失礼、加味ました!」

上条「違う!わざとだ!字が違う!」

レッサー「神は死んだ……ッ!」

上条「深いなっ!?哲学的なテーマがありそうっ!」

レッサー「ゆかたん?」

上条「ゆかたん!」

ソーズティ「戻ってこい。いつまで経っても本題へ入れん、というかユカタンとはなんだ?半島か?」

レッサー「つーかですねぇ、ぶっちゃけますと当時の宗教画はガッチガチに硬いモンでした。当時”は”ですが」

レッサー「当然エログロの需要もあったんですが、教会側に睨まれるので描けませんし――というか芸術の成り立ちはご存じでしたっけ?」

上条「宗教色が強い、んじゃなくてスタート地点から既に宗教や信仰の一部だっんだよな?」

レッサー「ですです。なので罰当たりな――エロいポーズのマリア様描いたりしたら、そりゃもう大変だと」

上条「日本でもご覧の有様になるっつーの。こっちで観音様の裸……」

上条「……」

上条「日本よりも西洋の話だな!さぁ進めてくれ!」

レッサー「流石は『観音様=全裸』というスラングが残る国。かくありたいものです」

上条「知ってんじゃん!?」

レッサー「でもまぁどこにだって異端児は居るもので、そう言った連中が取った手段が『異教の神を仰々しく描く』でした」

レッサー「ただただ背徳的におぞましく、伝説も伝承も二の次で絵柄優先。そしてこれがまたウケてしまいましてね」

レッサー「まぁアレを表現するために魔女が好んで描かれたりと、なんだかなぁ的な」

上条「……お前ら、俺達をエロの魔改造屋みたいに言うけど、お前らも大概だよね?この旅始まって大概言うの、通算何回かも忘れたけどさ」

上条「十字教の締め付けが全盛期の時代に何やってんだよ!?エロか!?古今東西エロが文化の原動力なのかっ!?」

レッサー「私が目標としている方の一人に、ボッティチェリのヴィーナス誕生という絵画がありましてね」

上条「……そうだなぁ、あれ確かにキリスト教すっ飛ばして、ローマ神話の女神だもんなぁ……」

上条「待て?お前今目標って言わなかったか?」

レッサー「恥女の鏡ですよねっ!」

上条「全世界的なプレイじゃねぇかっ!?親御さんショック死するから自重しろよ!」

レッサー「でも最近はネット解禁で『あ、これどうすんだろう?』みたいなエロ画像がですね」

上条「もういい語るな!お前の野望は野望に留めとけ!」

レッサー「もうっ!上条さんったら、独占したがりなんですからっ!」

ソーズティ「微塵もそんな様子ないんだが。で?」

レッサー「あぁ脇道に逸れまくりやがりましたが、教会の一方的な文化の締め付け、そいつがいつまでも続けられる訳がないんでして」

レッサー「彼の有名なヴィーナスの誕生も、ボッティチェリがメディチ家という強い後ろ盾があったから済んでいたんですが」

上条「あ、あのー?レッサーさんとソーズティさん、少しいいかな?」

上条「これ、どこまでマジ話?フィクションの部分はどこから?」

レッサー「……えーとですね。正直に言いますと、別に『これマジ?こんなエロい絵画あっていいの!?』みたいな記述はないんですよね、えぇ」

レッサー「また文豪として著名なマーク=トウェインはティツィアーノの『ウルビーノのヴィーナス』についてこう扱き下ろしています」

レッサー「『全世界に存在する絵画の中、最も下品で下劣でわいせつな絵画である』」

レッサー「『オスマン帝国の奴隷監獄向けにでも描かれた代物で、あまりにも下らない絵だったので受け取りを拒絶されたのだろう』」

レッサー「『他のどこに飾るのにもばかげた作品だから、美術館に飾られているに違いない』と」

上条「ボロックソじゃんか」

レッサー「余談ですがトウェインはアメリカ南北戦争時に『南軍』として参加、後に脱走しているのも興味深いと言えましょうかね、えぇ」

上条「何?」

ソーズティ「『嘘吐きの自己紹介』だ」

レッサー「ともあれ今まで清貧と清潔、そして貞節重視で宗教画を描かせてきました。文字通り焼いてきたんですね、”どっち”も」

レッサー「が、しかし貴族や諸侯、豪商の台頭により、相対的に十字教の権力は落ちてきました」

レッサー「最初は貴族の露悪趣味だったのかも知れません。道楽で集めた描かせただけの代物でした――ですが」

ソーズティ「『異端が溢れると異端が普通に置き換わり、普通が異端へ置き換わる』、か」

レッサー「ですなぁ。ルネッサンス美術が異教の神々やその信仰群――『ペイガン』を取り入れ、認知されます」

レッサー「南北戦争に”奴隷存続側として参加した挙げ句、脱走した臆病者”のマーク=トウェイン大先生は否定していましたが」

上条「その形容詞、要るか?」

レッサー「『仲間を裏切らない敵』と『誰とでも寝る味方』、私はどちらを尊敬すべきか決めているタチですので悪しからず」

レッサー「あっ、勿論私は上条さん一筋なんでっ!浮気はしませんからっ!」

上条「浮気も何も付き合ってすらいないな!」

レッサー「トウェイン氏の作品には高確率で『脱走した黒人奴隷』が登場しているので、思う所はあったようですが」

レッサー「ただ黒人奴隷をモチーフの一つとして盛り込んでいる反面、インディアンをステレオタイプの悪役として出してガッカリですが」

レッサー「アメリカさんの自由民権運動、特にアフリカ系の自由民権運動について評価出来るんですが、その一方インディアンについては無頓着なんですよねぇ」

レッサー「ともあれトウェイン氏が貶そうと美術館へ飾られ、且つ高い芸術的評価を得ていると言うのは、特定層だけでなく価値があると判断された証拠です」

レッサー「更に時代が経つと、ワーグナーの『ニーベルングの指輪』やウェーバーの『魔弾の射手』とか、異教や十字教以外の伝承取り扱ったものが増えます」

レッサー「まぁ創作物も縛りがあるのとないのでは段違いですし、散々やって飽きられたお決まりの結論に飽き飽きとしてしまうのは無理もないコトです」

上条「十字教の影響力の低下か?」

レッサー「に、加えて富の分散でしょうかね。経済規模が拡大するに連れて、教会”以外”の力も強くなります」

レッサー「大衆、一般庶民へ文化が伝播するのも結構なんですがねぇ……まぁ、それはそれでまた、後々深刻な問題を生み出す訳ですが」

レッサー「エルギン=マーブルの『白い神像』などの大罪を積み重ね――さて!」

レッサー「こうして北欧神話はヨーロッパで高い認知度と市民権を得ていったと!ご静聴ありがとうございましたーっ!」

上条「……あぁうん、長かったけど、まぁ言いたい事は何となく分かった」

レッサー「なので北欧神話とギリシャ神話については、断片的ながらも知名度は高い訳ですし、文化としても取り込まれています」

レッサー「日本で例えるならば……西遊記や封神演義、でしょうかねぇ」

レッサー「あれもまた他の国の神々のお話ですけど、日本で道教を信仰する方は極めて少数でしょう?神農辺りは意外とありますけどね」

上条「俺達は自分達のエロを肯定するためには使ってねーよ!」

レッサー「女体化って良いですよねー?私は魏ルートの続編どうなるか楽しみにしてたんですが、ライターさん替ってぶん投げやがりましたし」

上条「すいませんしたっ!!!」

レッサー「ふむ。素直で結構です」

ソーズティ「……長くなったが、大抵の宗教で太陽は太陽神が運航しているか、そのものであったりするんだ」

ソーズティ「だから時折起こる日食や月食も、太陽に何か危害を加える存在が居て、そいつらの仕業だと説かれている」

上条「……当然、それを模倣するような術式や霊装の類があったっておかしくはない、と」

ソーズティ「逆に無い方が不自然だな。『太陽を喰らうオオカミ』なんて、飼い慣らしたらさぞかし便利だろうし」

レッサー「ちゅーか気になってたんですけど、ソーズティさんのお姉さんの霊装、『ブラフマーアストラ』で同じ事は可能でしょうかね?」

上条「なんで今それを聞くんだよ?関係な――く、ないのかっ?」

レッサー「『インド神話に出来る』事でしたら、他の神話でも再現可能でしょうからね。そこから向こうさんの目的と手段が掴めるかも、ですし」

レッサー「……ただですねぇ。メリットに見合うかどうかの価値があるかと言えば、どうかなー?つった所ですか」

上条「もし持てたらスゲーじゃん?オティヌスの『槍』みたいに、世界だって滅ぼせるんだろ?」

レッサー「えぇまぁ。太陽や月、星を撃ち落とせる程の魔術であれば、威力はそれはもうスンゴイものなんでしょうが――」

レッサー「――でも『撃ち落とす”だけ”』なんでしてね、これが」

上条「はい?だけってナニ?」

レッサー「ですからオティヌスの槍は『全知全能である主神オーディン』を象徴する霊装です」

レッサー「なのでもし完成すれば、槍を手にした者も全知全能の力を得る――と推測されてますでしょ?」

レッサー「一度世界を終らせて新しく創るのも良し、今の世界へ手を加えて遊ぶのも良し。それが出来る”筈”ですからね」

レッサー「対してフェンリルにしろ、その他『星喰い』を使ったとしても、そこでお終い。ただの超威力の魔術ってだけです」

上条「核兵器を持ってたら凄いし、抑止力もなるよね?みたいな話なんじゃねぇの?」

ソーズティ「規模が大きすぎるんだよ。ケーキを切り分けるのにミサイルを飛ばして、その尾羽を使うバカはいない」

上条「本当にバカだな。そいつ」

ソーズティ「キッチンナイフがなければペティナイフ、それもないのであればフォークを使えば事足りる」

レッサー「もしかして上条さん、『大は小を兼ねる』とか言い出すのかも知れませんけど!それは違いますからねっ!」

上条「よく分かったな。確かにケーキ切るにミサイルはないと思うけど、知り合いだったら日本刀でスパっとやりそう」

レッサー「……今なんか、乙女心が傷ついた音がしたような気がしますが、違いますよ!それは断じて違いますからねっ!?」

レッサー「小には小の良さがありまして、そうじゃなければJSっぽい需要があれだけある説明がつきませんよ!」

上条「その大小は別だよな?別ジャンルの話じゃないか?」

ソーズティ「その知り合いは置くとして、普通はしないだろう。何故ならば『非効率』だからな」

上条「お前らが効率・非効率言うのかよ」

ソーズティ「失敬な。私達は目的のために手段を選ばないだけであって、手段は選別するんだぞ!」

上条「通訳ー?誰か通訳の方いらっしゃいませんかー?」

レッサー「いやですから、前言ったじゃないですが。『威力のデカい術式ほど困難になる』って」

レッサー「ソーズティさんも仰ったように『人一人を斬り分ける』のが目的であれば、デカい威力は必要無いんですよ」

ソーズティ「そんな猟奇的な表現はしていない」

レッサー「多少オーバーキルでも、まぁ爆弾を用意するとかその程度の発想へ留まるでしょうなぁ」

レッサー「テロに見せかけたり、不特定多数を巻き込んで犯人探しを難しくする、という意味合いでは、たまに使われますからね――で」

レッサー「それで『ブラフマーアストラ』で同じ事は可能でしょうか?出来るのであれば条件等もお聞かせ頂きたい所です」

レッサー「当然、同じかそれ以上の『代償』を必要とするでしょうし、ね?」

ソーズティ「……詳しくは姉に聞いて貰うのが確かだ。なので推測でよければ」

上条「頼む」

ソーズティ「可能か不可能であれば、可能だ。太陽も月も無理だが、彗星程度であれば吹き飛ばせるだろう」

レッサー「あっちゃー……」

ソーズティ「ただし!『ブラフマーアストラでは相性が悪い』と言っておく。破壊力の面であればな」

上条「どういう意味?」

ソーズティ「ヒンドゥーの最高神は三柱、トリムールティと呼ばれている神が居る――在る」

ソーズティ「一柱が『創造の神ブラフマー』。姉のアストラが力を得ている神だな。世界の創造をした」

ソーズティ「二柱目が『維持の神ヴィシュヌ』。太陽神でもあり、世界が無事に運行するのを司っている」

ソーズティ「最後に『破壊神シヴァ』。暴風と水害の神でもあり、世界を滅ぼす役割を持つ」

ソーズティ「ヒンドゥー教は、この三最高神のどれかを崇める事が多く、それぞれブラフマー派。ヴィシュヌ派、シヴァ派を名乗っている」

上条「あと二つは聞いた事がある。やっぱゲームでだが」

レッサー「あの、ちょっとお聞きしても良いでしょうか?脱線しますけど、私前から気になっていたんで」

ソーズティ「なんだ?結社の最奥に関わらない事であれば」

レッサー「いえいえ、そんな大層なお話しではなくてですね。それぞれ三つの宗派に分かれてるんですよね?この場合、あなたはブラフマー派ですか?」

ソーズティ「私ではなく結社がそうだった、だな。特にこだわりはないが」

レッサー「三つの宗派が揃っていて、よく争いになりませんよね?つかなってたり、私の知らない所で?」

ソーズティ「……面倒だが……『バラモン教』とやらを知っているか?お前達が勝手に名付けたんだが」

レッサー「えぇ、ヒンドゥー教と並ぶぐらいで、聖典も同じヴェーダ使ってるんじゃないでしたっけ?」

ソーズティ「あれは正しくは『Brahmanism(ブラフマニズム)』、直訳すれば『ブラフマー教』なんたよ」

レッサー「え、ちょっと待って下さい!?それ、つーかだったら、ヒンドゥー教ブラフマー派でも良いじゃないですか!?」

ソーズティ「ちなみにヒンドゥー教も実はお前達がつけた名前だ。だから定義が割と曖昧でメチャクチャなんだよ」

レッサー「……なんか、すいません」

ソーズティ「なのでお前達がしているような、十字教内部での抗争は”あまり”していない。政治的な原因もあるが……『アバター』という概念があるからな」

上条「あ、映画で見た」

ソーズティ「正しくは『アヴァターラ』、化身とか権現という意味で、えぇと……」

上条「あ、大丈夫。日本にもそういう逸話かなり残ってるから。アレだろ?『神様仏様が姿を変えて助けに来てくれた』みたいな?」

ソーズティ「合っているな。それで例えばヴィシュヌには10の化身があり、その中に『ブラフマーとシヴァも含まれている』んだ」

上条「……あい?それって」

ソーズティ「ちなみにブラフマー派によれば『ヴイシュヌとシヴァはブラフマーの化身』であるし、シヴァ派によれば以下略」

レッサー「なんつースケールのデカい解決方法ですか、それ」

ソーズティ「ただヒンドゥーには宗派以外にカースト制度があるからな。そっちで騒ぐ余裕がなかったとも言える」

ソーズティ「それに最近は改善もされてきて、都市部では自分達のカーストを知らない人間も増えている。私もその類だ」

レッサー「……大変なんですねぇ」

ソーズティ「今の説明で分かったと思うが、ブラフマー自体は『創造神』であって、『破壊神』ではない」

ソーズティ「単純に破壊を求めるのであれば。シヴァ系の力に頼った方が確実で、しかも楽だな」

ソーズティ「だがしかし!『ブラフマーアストラ』ですらシヴァに勝るとも劣らない威力を持たせた姉は、並の魔術師ではないという話だ!」

上条「おい、長々と話した結論が『ねーちゃん大好き』かよ」

レッサー「どこの世界にもいらっしゃるんですねぇシスコニアンの方」

上条「止めろ!?勝手に単語を作るんじゃない!」

レッサー「スーリスト?」

上条「それはちょっと見てみたい……いや!一般論だけどな!」

ソーズティ「どんな一般論だそれは。で、最適とはお世辞にも言えないが、『ブラフマーアストラ』が半壊する前であれば……」

ソーズティ「彗星程度なら打ち抜ける……と思う、が。代償に姉が『持って行かれる』のは間違いない」

ソーズティ「一度に振る流星の数が万を超えれば、大した代償無しでも撃てると聞いた憶えもあるが」

上条「意図的にしないと無理だよな」

ソーズティ「だから、現実的には不可能だ」

レッサー「神が使う武器を人が扱おうとするならば当然、”そう”なるでしょうねぇ。分かりましたよ、無理言ってすいませんでした」

レッサー「しっかしまぁ妙な縁ですよねぇ。『エンデュミオン』で一度交わっただけの道が、またここで交わるだなんて」

レッサー「一応確認しておきますけど、わざわざこちらまで足を運ばれてんですから、『星喰い』の魔術は阻止するおつもりなんですよね?」

ソーズティ「いや……姉次第かな」

レッサー「おっとぉっ!まさかのここでノータッチですか!?」

ソーズティ「『魔術師』と『互助会』、どちらの立場であっても無視は出来ない……が、単独で事を起こして、勝てる相手か?連中は?」

レッサー「私達でしたらちゃっちゃと締め上げちまうつもりですがね。勝ち負け以前にアリサさんが――ねぇ上条さん?聞いてます?」

上条「ん?あぁごめん。ちょっと考え事してた」

レッサー「Aじゃないそうです。私の見立てだとB以上C未満」

上条「何の話?あとそれ答え言ってるよね?何となく分かるけど、つーか俺、他に考えそうな事ないって思われてんの?」

レッサー「二重の意味で、『おおむね』は!」

上条「学園都市帰ったらさ、お前に是非紹介したい子がいんだよ。『柵川中の核弾頭』って俺が心の中で呼んでる子なんだが」

ソーズティ「戯れ言はいい。それで、どうしたって言うんだ?」

上条「んー……?あのさ、偶然かも知んないけどさ。気になったんだよ」

レッサー「ですからどのような?」

上条「ソーズティの姉ちゃん――ウレアパディーの霊装は『弓』だよな?」

ソーズティ「そうだな。他の説ではチャクラムのような投擲武器とも言われているが、まぁ弓だ」

上条「なんで、弓?」

ソーズティ「詳しく説明すると更に長くなるから簡単に説明れば、ブラフマーは創造神だ、この世界の」

ソーズティ「なので存在は宇宙に留まり、私達の世界を常に俯瞰している――という概念があり、そんな神が持つのは『弓』だと」

レッサー「『宇宙』、そして『私達の世界』……って事ぁ『流れ星』でしょうか?」

ソーズティ「発動条件の『三つの流れ星』とは『ブラフマーが放つ試し矢』を意味しているんだ」

上条「試し矢?」

ソーズティ「あぁ。目標との距離を測ったり、弦の張りを確かめるために射る。準備体操のようなものだ」

レッサー「三つも?」

ソーズティ「ブラフマーは四顔四腕。なので一本に弓を持てば、矢は当然四つとなる」

上条「誰が矢をつがえるんだ、とか突っ込んだら負けなんだろうな、きっと」

上条「つかお前!それこないだ説明端折ったじゃねーか!?ステイルの推測と違ってるし!」

ソーズティ「詳しく聞かれなかったからな。私に言われても困る」

レッサー「まぁまぁ、今は上条さんお話を伺いましょう。それが何か気になるんですかね?」

上条「あぁいや、大した事じゃない。ないとは思うんだが、ブラフマーの使う武器は『弓』だわな」

ソーズティ「しつこいぞ」

上条「でもって『エンデュミオン』――の、恋人だったアルテミス?だかも、使うのは――」

レッサー「……『弓』、ですよねぇ」

上条「これ、偶然か……?」

ソーズティ「……」

レッサー「上条さん」 ポンッ

上条「何?何レッサーさん俺の肩へ優しく手ぇ乗せてんの?」

レッサー「昔の偉い人はどうしようもなく困難な状況に置かれた際、こう言って諭したそうですよ」

上条「へぇ、なんて?」

レッサー「――『考えるんじゃない!感じるんだ!』と!」

上条「お前それ面倒臭くなって説明ぶん投げた人の台詞じゃねぇかよっ!?」

上条「そもそも偉人ですらないし!核シェルターに入る時、『あ、ちょっとゴメンな?もう少し詰めて貰える?』って一言ありゃ主役になってた人だなっ!」

レッサー「てゆーか、死の灰被ってから結構長く生きてんのって逆に凄いですよねっ!」

上条「だから!今からでもいいから誰かパートナーを変えてくれようっ!?誰でもいいからさっ!」

レッサー「ちなみにフラグ的には、その台詞が出た時点でルート確定ですな-、いやーめでたいっ!」

上条「贅沢は言わないからっ!シリアスの時にボケを撃ち込んで来ない相手であれば……!」

今週の投下は以上となります。お付き合い頂いた方に感謝を

関係ないですがNARUTO完結おめでとう御座います。コミックス派なのでまだ内容は知りませんが

乙!

アー○ー王も女性化してたけど、イギリス人はどう思うんですかね?


というか、もともとラン○にいろいろ役目とられた感のあるペディ○ェールさんの扱いどうなってるんだろ
例の英雄譚もいろいろごちゃ混ぜされてるし

>>92
フロリス「んーとねーえ?ウナギゼリー(煮凝り)は騙されたと思って食ってみればいいジャン?」
フロリス「試しだよ、T・R・Y!!!ダイジョーブ!ワタシが保証するから、一回だけ、ね?一回でいいから!」
フロリス「想像してみなよ?ジャパンでSUSHI食べに来たらさ、ガイジンが入ってきて『お勧めを』みたいな?カッコイイよねー?」
フロリス「同じだって。イングランドのレストランで、『うなぎゼリー、大盛りで!』つったらカッコイイよ?ワタシ好きんなっちゃうかもなー?」
フロリス「周りの客がね、ドヨってると運ばれてくるんだよ、例のブツがだ!」
フロリス「見た目はワルい!ぶっちゃけキツい!でもね、でもキミが口に運んだらきっとこう思うワケだ!」
フロリス「――『騙された!?』って、ね」
(※ライスプティングなどの「米を牛乳で煮炊きするお菓子」はスペイン語圏に多いですが、おはぎを食べられる日本人であればまぁなんとか。
が、しかしハギスは料理以前に私が偏食のため食べられませんでした。生の魚介類全般と火を通してもホルモン系と血液入ってるのは無理。
あとアレなのは「イギリス料理」であって、「イギリスの菓子料理」は普通に美味しい。ただし注意点もあるにはありまして、特に各ご家庭で作るプティング系。
「この家のクリスマスプティングは来年も食べたいぐらい美味しい」と言うと、フツーにプロポーズになるため上条さんも含めてご注意。
また『断章の~』で仕立屋のじーちゃんが「ばあさんのプティングをお見舞いしてやるぞ」と言っているのも、「ファミリーとして迎えてあげるよ」という意味が。
……てかまぁ、文化的な小ネタがちょこちょこ入っているのですが、一体如何程伝わっているやら……)

>>93
バードウェイ「だよなぁ?そう思うよなぁ?」
バードウェイ「普段、上から目線で見下してるヤツが、羞恥に顔を赤らめながらプルプルしながら頭を下げるのは」
バードウェイ「イギリス淑女としちゃ必見の価値があると思わないか、ん?」
上条「俺、身長以外で見下した事ないよね?てか淑女はそんな事言わない」

>>115
インデックス「基本、イングランドを構成しているのはイングランド国教会なんだよ。わかるかな?」
インデックス「子供が生まれたら近くの教会で洗礼をして貰って、お休みとかには教会へ行って”みさ”に参加するんだよ」
(※イングランド国教会はプロテスタント”ではない”ので要注意。ヘンリー8世が教皇を廃したカトリック)
インデックス「また種々折々の季節や、特別なお休みの日に触れる文化もイングランド国教会のものなのかも」
インデックス「それに対して”あーさーおう”は伝承の一つでしかなく、おとぎ話みたいな感じで伝わっているんだね」
(※エリザベス女王がエロゲに出たら、まず100%国際問題へと発展しますが、アーサーは時代が遠すぎて現実感がない。
実在した君主ではなく、『キリスト教が来る前に居たかも知れない王様の一人』なので、重要視”しすぎる”と逆にマズいですから。
とはいえ、某吸血鬼がナチ殺しまくるマンガへ登場する女王を見た知り合いのイギリス人曰く、「格好良いぜババア!」と)
ステイル「……巷にあふれるミニスカサンタを取り締まれって、わざわざデンマークから抗議される訳ないだろ。バカじゃないのかい、君は」

>>117
ランシス「……イギリス版では『アーサー王の悲劇』、フランス版では『ランスロットの騎士物語』になってる……」
ランシス「えっと……昔見た話では、王妃グィネヴィアが嫁入りの最中に盗賊に襲われ、旅をしていたランスロットが助け出す」
ランシス「アーサーに感謝されたランスローは円卓の騎士へ加わるが、忠義と恋の板挟みになる……的な感じの」
ランシス「多分……ランスロー、今の物語見たら『あれ?俺こんなヒドい事したっけ?』と思う筈……!」
(※国によって人気のある騎士が分かれますので、物語の構成や比重も変わります。戊辰戦争でも地域によって捉え方が違うのと同じでしょうかね。
ネタバレになるのであまり詳しくは語れませんが、アーサー王物語の原型が出来たのは北欧神話よりも古く、尾びれ背びれが付くのも仕方が無い。
また”双剣騎士”のベイリンが手にした『カッシウスの長槍』、”巨人殺し”のベオウルフが手にした『黄金柄の大剣』には、シチュとか類似性があったりします)

――翌日 新市街某所・受け付けカウンター

レッサー「――ついに飲み屋でばったり意気投合!あぁ!それが悲劇の始まりだとは誰も思わなかったのです……!」

上条「レッサーさん?テンション高くないですかね?入れるギア間違ってますよー?」

レッサー「私が物心ついた時から聞いていた”お兄様”が、まさか!まさか運命の人だったなんて!」

上条「なんで育てた人、その人の外見は言い聞かせてこなかったの?むしろそれ狙ってたんじゃね?」

レッサー「風雲急を告げる新展開!新キャラ登場でテコ入れを図る編集部の思惑は如何にっ!?」

上条「テコ入れだと思うよ?今、君がゲロったように」

レッサー「こないだ某スレを見ていたら、『さすおに』ってスラングがあったんですけど、なんか卑猥な響きですよねっ?」

レッサー「『一体ナニをさすさすするするのん!?』みたいな!」

上条「れんちょ○禁止!俺にボケるのやめて交渉に徹しなさい!」

レッサー「おーいえー――で、ついこの間も隣の奥さんがですね――」

上条「……」

上条(……さて、状況を整理しようか。したくもねぇが!つーか薄々分かってるだろうが!)

上条(俺達が居るのは、そう新市街の――)

上条(――『ヤドリギの家』、教団本部だよっ!やったぜパパ!明日もホームランだ!)

上条「……」

上条(……どうしてこうなった……orz)

――回想 廃病院

レッサー「ま、ウジウジ考えていても仕方が無いってぇもんですよね、えぇえぇ。相手がどう出ようと致し方ありませんし」

上条「まぁ……ここまで状況証拠が揃ってりゃ、スルーする訳にも行かない、よなぁ?」

レッサー「Break by Hitting! (当たって砕けろ!)の精神で、一つ」

上条「それ間違ってないかな?直訳すると『当てて壊せ』って意味だと思うんだけど……」

上条「つーかさ、大丈夫かイギリス?俺の知ってる限りじゃ、先進国ん中でも先進国だと思うんだが」

上条「幾ら規格外のキチガ×相手だからって程があるだろうに!つかさ、イギリスって治安悪いの?頭が悪いのは別にして」

レッサー「場所による――と、言いたいんですがねぇ。えぇ出来ればそう言いたかったですよ」

レッサー「今月頭、イングランド中部のヨークシャー州ロザラムでねー、パキスタニの集団犯罪が出て来まして」

上条「パキスタニ……あぁパキスタン人だっけか。麻薬?ギャングみたいなもん――」

レッサー「少女や少年へ対する暴行・脅迫・誘拐・人身売買ですな」

上条「じゃ、ないのな……」

レッサー「あ、ちなみに暴行というのは『傷害罪』という意味では”ない”ので、勘違いなさらないで下さいねー?」

上条「あぁ、だからソーズティ、パキスタン系だっつわれてキレてたのな。そりゃ分かるわー」

ソーズティ「我が国の民度が高くないのは理解しているが、あちらと同列に扱われるのは心外すぎる!」

上条「い、いや?キレる気持ちは分かるけどさ、それってやっぱり個人の犯罪なんだろ?」

上条「だったら国籍がどうこうじゃなくて、例外で全体を見極めるようなのは止めるべきだと思うんだよ、うん」

レッサー「頭に蛆が湧いたような素敵な発言ありがとうございました。でもそんなあなたがDIE好きですっ!」

上条「お、おぅ?ありが、とう?」

ソーズティ「割とストレートに『死ね』だが……」

レッサー「いやまぁ上条さんの”そういうところ”は、私大好きですけどね。綺麗な国に住んで優しい両親に恵まれ、他人を疑おうとしない所が特に」

上条「止せよ、照れるだろ?」

レッサー「……皮肉が通じないのがタチ悪ぃですが――まぁいいでしょう。『16年で1400人』です。被害者の数、分かってるだけで」

上条「……はい?今なんて?」

レッサー「16年と1400人。あ、桁間違ってないですからね?釘刺しておきますが」

レッサー「ちなみにロザラムの人口は約26万人、サッカーチームもあります。今は二部リーグだったような……?」

上条「え、マジで!?それ大問題じゃねぇのかよっ!?」

レッサー「えぇ大問題ですよ。私もちょぉぉぉぉぉぉっとオシオキに行こうかなって思ったぐらいですし」

レッサー「しかもこれ、何が最悪かってのは地元の行政、地方議会と警察と役人が把握してたらしいんですよ、16年前から」

レッサー「が、しかし加害者の殆どがパキスタニだと言う事で、『人種差別』と呼ばれるのが怖くて突っ込めなかったそうです」

上条「酷い話だな。日本じゃ全然知らなかった」

レッサー「そちらさんも『口に出してはいけないあの人達』が居ますでしょ?キーワード的にもドンピシャですからねぇ、この場合だと」

レッサー「マスコミさんお得意の『報道しない自由』を使えば、あらこの通り!スコットランド独立で未来はバラ色に!……みたいな」

レッサー「ちなみにロザラムの移民は8%程、多くがパキスタニかカシミール系だと」

上条「移民が罪を犯して、それを糾弾すると『人種差別』ねぇ……」

レッサー「イングランド以下、EUは旧植民地からの移民を多く受け入れてきましたが、この手の事件が続くとノーサンキューですな」

レッサー「てか、上条さん上条さん。ブリテンの都市はスクールバスが多いって、ご存じでしたか?ロースクールでは高確率で送迎つきです」

上条「そうなの?」

レッサー「ちなみにこの点だけ取り上げて『英国は素晴らしい!日本はなんて遅れているんだ!』と言い出すバカが出ますが」

レッサー「この措置、一見近代的でモッダーンな制度に見えますけど、真逆。ま・ぎゃ・く!」

レッサー「ぶっちゃけますと『こっちの営利誘拐は身代金を要求されるケースは稀』なんです、えぇ」

上条「……理由、聞きたくねぇなぁ……碌な話じゃないんだよね、やっぱり?」

レッサー「戦いましょう!現実と!」

上条「やかましいわ!出来れば一生縁が無い環境で暮らしたかったっ!」

レッサー「いえですがね、上条さん?確かに今まで縁が無かったのは幸運であり、幸福な事だとは思いますよ」

レッサー「とはいえ現実は現実。例え今まであなたの目と耳の届く範囲になかっただけで、存在自体はしていたのもまた正である、と」

上条「つまり?」

レッサー「いずれこっちへ住むんですから、今の内に慣れて貰いませんと困りますよ!全く!」

上条「そんな予定は金輪際無いな!誘拐でもされない限りは!」

レッサー「で、誘拐されても戻って来ない話へ戻るんですが……」

上条「な、なに……?」

レッサー「『話は戻るのに、子供は戻って来ないとはこれ如何に?』」

上条「不謹慎な事言うんじゃありませんっ!幾らフイクションだからってねっ!」

レッサー「言っときますけどね、これ全く誇張してませんですから、はい。てーかフィクションの方がどれだけ救われたでしょうかね」

レッサー「ロザラムもこれからする話も現実ですよ、えぇそりゃもう」

レッサー「……ま、引っ張るような話じゃないんですが、子供それ自体が目当てなんですよ。単純に」

レッサー「身代金なんて端金を要求するよりも、ある程度の規模でシンジケートでドナドナされていく話ですなー」

レッサー「売られた先で然るべき筋の、特定層向けの映像作品へ主演させられた挙げ句、アラブの富豪に買われれば”まだ”幸せな部類でしてね」

レッサー「普通は体が大きくなるとスナ――――」

ソーズティ「――そこまでだ。イングランドの恥をそれ以上晒すな」

上条「……凹む、ってか、なぁ?」

レッサー「まぁそんな訳でブリテンだから、と言って安全とか安心とか思ってるんじゃないんですからねっ!」

上条「なんでツンデレ風?その言い方だと『安心してもいい』って意味になんねぇかな?」

レッサー「最近上条さんも随分旅慣れて来たようですが、中途半端な慣れが一番怖いですからね。注意して下さい」

レッサー「当たり前の話ではありますが、『言語は通じても言葉が通じない』ってケースままありますよね?」

上条「あるなぁ。特に最近思い当たる点が、お前とか」

レッサー「特にですね、下手に語学に堪能になってしまうと『相手の悪意にまで気が回らない』という事が起きるんですよ」

上条「なにそれ?」

レッサー「ホラ皆が皆、私のように裏のない人間ばかりじゃないですよね?」

上条「その意見には異論がある!」

レッサー「――と、今のがもしクイーンズで話されたら、上条さんどう思いますか?」

上条「あっ、あー……何となく分かる、気がするわ。それ」

上条「英語翻訳すんのに集中しすぎて、言葉の裏側に気付けない、みたいな感じか」

レッサー「面白い――と言うのは不謹慎ですけど、ぎこちなく喋ってる時には警戒心が働くようなんですが、慣れてしまうとそのシチュに酔う?ハマる?」

レッサー「不必要にキョドる必要はありませんが、夕方以降観光客が一人でコンビニ行ったら、30%で強盗に遭うと思って下さい」

上条「イギリスでもそうなんだ……」

レッサー「あ、いえ日本人が狙われてるのはも否定出来ませんけど、そんくらいの気持ちで居て下さいな――と、言うワケで!」

レッサー「道端で幼女や少女を見かけても、決して後をつけちゃいけませんよ?」

上条「人聞きワルっ!?つーか結論それかよっ!?」



――現在 『ヤドリギの家』・受け付けカウンター

上条「……」

上条(あれ?ここに居る説明になってなかったな?)

上条(つーか今の回想は国が出している渡航情報よく見とけ!的な話だったよ……)

上条「……」

上条(ちなみに海外安全情報ってNHKがWEBラジオやってるから、聴くだけ聴いておこうなっ!お兄さんとの約束だよっ!)

上条(まぁでも?巻き込まれる時には何やったって巻き込まれるんだよね!俺とか俺とか、あと俺とか!)

上条「……」

上条(あー……もっと後だ。ソーズティが雑談続ける俺らにキレたんだったか)

――回想 廃病院

ソーズティ「そちらの事情も理解はした、というか出来た」

ソーズティ「切羽詰まってはいないものの、急を要する事案であるのは否定できん」

上条「そうか?向こうは長い間、ここに根を張って――じゃないな、巣を張ってるんだろ」

上条「なら、俺達だけじゃなくて『必要悪の教会』やローマ正教、あと……あー……」

上条「バードウェイんトコの『明け色の陽射し』に手伝って貰えたりとか……」

レッサー「『グレムリン』のような”World of Enemy(世界の敵)”クラスならともかく」

レッサー「『濁音協会』の最後の一社、『双頭鮫(ダブルヘッドシャーク)』如きにそれは難しいでしょうね」

上条「なんでだよ?ローマ正教も俺達の受け入れに同意してくれただろ」

レッサー「そりゃあれは『学園都市の使節受け入れ』ですんで、合同攻撃とは訳が違います」

レッサー「そもそも『必要悪の教会』のお膝元で、外国の魔術師を受け入れて対処すれば、それ即ち『解決能力の欠如』と宣伝するのと同義です」

上条「面倒臭ぇなぁ、その柵み」

レッサー「マフィアも魔術結社も、『どんたけキチガ×か?』ってぇのは重要ですよ、えぇもう」

上条「一緒くたにまとめんなよ」

ソーズティ「大体合っているな」

上条「合ってんの!?……あぁでも、お前はねーちゃんがアレされてんだよな……」

レッサー「まぁ魔術師は悪い意味でアグレッシブ過ぎますからね、人の迷惑顧みる事すら一切無い訳で」

レッサー「なのでそういうバカどもへ睨みを利かせるため、取り締まる方はドギツくエゲツなく進化しなければいけなかったのでありますよ!」

上条「レッサーさん、語尾語尾。キャラブレてますよー?」

レッサー「……いやぁ、でもですねぇ、なんつーかまぁ、誤算みたいなのもありまして」

上条「な、なに?何となくオチが読めるけど」

レッサー「上条さん、今まで何人ぐらい魔術師と殺りあって来ました?」

上条「殺りあった憶えはないが……そうなー?」

上条(ステイル、神裂。あとインデックス……の、中の人?外の人?)

上条(アウレオルス、土御門、闇咲、シェリー、アニェーゼ達三人、オリアナ、ビアージオにヴェント)

上条(テッラ、アックア、レッサー達四人、キャーリサもカウントしとくか一応)

上条(フィアンマ、サンドリヨン、サローニャ、マリアン、トール……ん、時、バードウェイともやり合ったっけ)

上条(他にはソーズティ、ウレアパディー、ラクーシャ、ハリーシャ、ベイリー姉妹)

上条(んでもってレディリー……は、ノーカンでいっか。直接殴り合ったのはシャットアウラだし)

上条(でもって合計――あるぇ?妊婦さんの魔術師と戦った気が……ま、いっか)

上条(一、二、三……)

レッサー「……軽い気持ちで聞いたんですが、上条名人、長考へ入ってしまいました」

ソーズティ「いや、普通魔術師と早々戦り合うか?悩むくらいの数をこなす前に死ぬだろ?」

レッサー「ま、そこを何とかしてきたのが、上条さんの上条さんたる由縁と言いましょうかね――あ、スマフォでテキストに起こし始めました」

上条「……32、人?」

レッサー・ソーズティ「「多っ!?」」

上条「言っとくが、お前達も入ってるんだからな?あ、負けたオティヌス入れて33人か」

レッサー「あの人の姿をした災厄相手に、生きて帰って来られただけで儲けものですよ」

上条「手も足も出なかった、つーか斬られたけどさ。最初の一回で」

レッサー「何を弱気になってるんだか上条さん!あなたの本質は『右手』なんかじゃないでしょうっ!?」

レッサー「私――いや、私達は分かっていますからねっ……!」

上条「レッサー……!」

レッサー「上条さんの何がタチ悪ぃかって、『右手』なんかよりもホイホイフラグ建てる謎能力ですよねっ?」

上条「ガッカリだ!?なんか多分変な持ち上げ方しやがったから、絶対落とすとは思っていたがなっ!」

レッサー「アレでしょ?オティヌスと戦ったって、なんやかんやしながらも最後はフラグ建てて攻略すんですよ、えぇ」

レッサー「『だがしかし俺はお前の下乳を見過ごす事が出来ないっ!……いやっ!』」

レッサー「『むしろそのブラになりたい……!!!』」

上条「どういう状況?どんなシチュになれば俺は熱くオティヌスに性癖カミングアウトする羽目になるの?」

上条「つーかしねーよ!人を節操無しみたいに言うな!」

レッサー「おありなんですか、節操?」

上条「……そ、それで?俺に戦った魔術師の数を数えさせた理由は?」

ソーズティ「逃げたな」

上条「……男にはな。負けると分かってたら逃げないといけない時もあるんだよ……!」

レッサー「それだとタダの臆病もんですが――まぁ、なんで聞いたのかは難しくはありません」

レッサー「魔術師ってば超個人主義ですよね?『組織』とか『結社』に所属していても、自分の利益のためにはあっさり裏切りますし」

レッサー「そもそも『無力な人間が力を得よう』という所から出発しているため、そうならざるを得ないんですがねぇ」

上条「能力者でも一緒っちゃ一緒だがなー」

レッサー「ここで質問。今数えた面子の中で、『相手が怖いからやっぱしません』的な人、居ました?」

上条「フロリス」

レッサー「その子以外でお願いしますっ!あとその子はヤレばデキる子ですからっ!どうか長い目で見て上げて下さいなっ!」

上条「アンジェレネ――は、アニェーゼ部隊限定で気張ってたか。そう考えると居ないわな」

レッサー「それと同じく、なんぼ『必要悪の教会』がおっそろしい取り締まり方をしても、折れるような信念ではないでしょうね、と」

上条「納得だなぁ、それ」

レッサー「とはいえ中途半端な素人さんが、こちらへ手を踏み入れないよう抑止する効果……に、もならないですね」

レッサー「組織名知った時点で、引き返しの付かない所にまで来ている訳ですからねぇ」

上条「やだなぁレッサーさん、その言い方だと俺がもう一般人じゃないみたいじゃないですかー」

レッサー「そう聞こえませんでした?」

上条「俺は一般人のつもりなんだがなっ」

ソーズティ「その自称一般人とやらに殴り飛ばされた魔術師は多そうだが」

レッサー「ともあれそんな感じで突っ張ってる以上、余所様からの応援を受け入れるのは相応のビッ×でないと」

上条「ピンチな?今スルーしそうになったけど、それだと意味合い大きく変わるからね?」

ソーズティ「字的には合っているとも言えなくもないが……では、『必要悪の教会』自体に助けを求めるのは?」

上条「連絡がねぇ……付け方が分からないんだよなぁ。少し前までは定期的に情報のやりとりしてたってのに」

レッサー「あ、私は信用してませんからね」

上条「いやお前そう言うけどさ」

レッサー「イングランドにここまで大きな『協会』の支部だか本部だかあるってぇのに、情報一切寄越さなかったんですからねっ!」

レッサー「それに無辜の国民をテロリスト扱いして抹殺しようしてやがったんですから!私達みたいな善良な一般国民をねっ!」

上条「マジモンのテロリストからここまで嫌われるって事は、いい仕事してだんなぁ『必要悪の教会』」

ソーズティ「何をしでかしたんだ、この女?」

レッサー「ちょっとクーデターをですね」

ソーズティ「……旧植民地からすれば褒めてやりたい所だが、よく無事だったな、それ」

上条「まぁまぁ。組織として信用出来ないかもだけど、個人は信用出来るしな?……一点において、だが」

レッサー「(……これ、恐らく上条さんへの”鎖”ですよね?)」

ソーズティ「(信頼出来る個人を用意しておいて、組織ではなくそいつを信用させる……よくある手口だな)」

レッサー「(どれだけ個人が信用出来たとしても、その人が下っ端である限りどうしようもないんですがねぇ、えぇもう)」

ソーズティ「(滑稽と言えばそれまでだが、この男らしいと言えばその通りか)」

上条「何?」

レッサー「いいえちょっとロシアのルーブルが変動性に移行してた件について少々」

ソーズティ「そんなので騙されるか」

上条「そっかー、最近の魔術師は為替相場にまで詳しいんだなぁ」

ソーズティ「そんなので騙されるのか!?」

レッサー「てな感じで『必要悪の教会』は信用出来ません。少なくとも最初の時点でそのお友達さんから情報を貰えていませんのでね」

上条「友達じゃねーし、ただの知り合いだし」

レッサー「はいはいツンデレ乙ツンデレ乙。と、まぁそんな感じで『必要悪の教会』に頼るのはNGですね」

上条「待ってくれよ!放置してるんだったら、放置してるだけの理由があるんじゃ――」

レッサー「んじゃ帰ります?このままアリサさんの所へ」

上条「それは……」

レッサー「私は上条さんの意見を尊重しますよ?決して強制したり、無理強いしたりはしませんのでね」

上条「……そういう訳にも行かねぇだろ。このまま放置したら、ツアー終ったのに問題は解決してません、てな事になりかねない」

レッサー「賢明な判断ですな。向こうさんには向こうさんの思惑があるのは当然。こちらがそうであるのと同じく、です」

上条「優先順位なのかも知れないな。アリサとイギリス、下手に刺激しない方がいいとか思ってるのかも。イギリス清教の上の人はさ」

レッサー「それ相応の筋を通してくるのであれば、配慮すべき事柄もあったんでしょう――が」

レッサー「今回のこれは、曲がりなりにも同盟組んでる相手へ対しては少々不誠実ですな」

上条「……うーん」

レッサー「まぁ尤も、上条さんがお帰りになっても、私一人で突っ込むんですけどねっ!」

上条「俺の選択関係ねぇじゃん!?尊重するとか言う話はどこ行ったのっ!?」

レッサー「ですから『止めもしませんが、自制するつもりもない』という事で一つ」

上条「ほんっっっと!ブレねぇな!フリーダムすぎる所が特に!」

レッサー「アリサさんとの個人的な友情というウェイトも大きいんですが、今回はそれ以上に――」

レッサー「――彼らが『ブリテンの敵』で在り続けるのであれば、それは私の敵と同義ですから」

――現在 『ヤドリギの家』・受け付けカウンター

上条(――てな感じで、ノリで勢い、愛と勇気を友達にして俺達は潜入を試みているんだが……)

上条(ソーズティは失踪したインド人達の関係者と疑われるのを恐れて別行動――つーかウレアパディーと合流してから決めるんだそうで)

上条「……」

上条(俺達と一緒に行動するのが嫌とか、意図的に避けられているとか、そういう事じゃないよ?多分違うと思うな?)

上条(俺としては年上お姉さんキャラの出番が……まぁ、色々あるよねっ!包容力的な意味で!)

上条「……」

上条(……んで、今は受け付けで名簿?宿帳?みたいな所へ名前や住所とか書いてるんだ。施設の見学には必要だとかで)

上条(……そして俺と苗字同じにして、『兄妹ですが何か?』とごり押しするレッサーさんが……)

上条(少しぐらい話を盛るのはいいと思うんだけど……)

レッサー「――で、私は白ひ○海賊団の二番隊隊長になったんですが」

上条「話盛り過ぎじゃね?もう原形留めてないもんな?」

上条「あとその設定だと、俺は体が伸び縮みするファンタスティックフォ○っぽい人じゃないかな?」

レッサー「え、でも部分には伸びたり縮んだりしますよねっ?」

上条「全世界の約半分はな!しかも意図的にやってる訳じゃないから!生理現象だから!」

受付「あのー?カミジョウさん?」

レッサー「おっと失礼しました!話が逸れましたンねっ!」

上条「逸れてる逸れてないで言えば、最初っから本題に入ってねぇよ!?」

レッサー「どこまでお話ししましたっけ……あぁそうそう!」

レッサー「父は将来、アテ×を守る聖闘○を量産すべきためにですね」

上条「今日はジャンプ系で攻めるの?新旧スター系だってのは認めるけどさ」

レッサー「あれ、実子である必要性皆無じゃないですかね?あのヒゲ別に特別な人間って訳じゃないし、養子でも条件満たしてたのでは?」

上条「だからその設定アニメ版ではなかった事になってたんだよ!別に誰が困る訳でもないし!」

レッサー「”こちら側”から解釈を入れるとすれば、ゼウスがあちこちへ種を蒔いた神話を踏襲してるんでしょうが、その設定は生かされませんでしたしねぇ」

レッサー「――と、見て下さいよ!こんなに息が合ったツッコミとボケ!それはもう魂の兄妹以外に有り得ませんでしょうっ!」

上条「”魂の”つってる時点で血縁否定してるじゃねぇか」

受付「……あ、はい、分かりましたので、もういいです。えっと――誰かー?」

女性「はーい、ただいま参りまーす!」

受付「今、担当の者が参りますので、彼女の指示に従って下さい。後、勝手な行動や写真撮影はくれぐれもしないで下さい」

レッサー「(フリですかね?)」

上条「(常識的な注意だと思うよ?)」

女性「えっと、はい、お待たせ致しました。わたしは『ヤドリギの家』でDeaconを勤めております、テリーザと申します」

上条「でーこん?」

テリーザ(女性)「あ、日本語だと『助祭』……えぇと司祭様をお手伝いする係、みたいな感じです」

レッサー「お上手ですね」

テリーザ「いえそんな。実家でホームステイを受け入れていたので、簡単な日常会話を少しだけ」

レッサー「いやいや、充分ご立派ですよ。私達日本人が聞いてもお綺麗な日本語で。ね、兄さん?」

上条「誰が兄貴だ」

レッサー「(上条さーん、設定お忘れでー?)」

上条「んんっあぁっ!確かにレッ――言う通りだなっ!」

テリーザ「ありがとうございます」

上条「てか、ごめん。案内の前にタイムいいかな?いいよね?ちょっとお話が」

レッサー「あ、すいませんねー。兄はちょい前までニートやってたもんで、テリーザさんみたいな美人さんとお話しすると蕁麻疹――」 グィッ

レッサー「(って、何なんですか?あんま挙動不審だと怪しまれますよ?)」

上条「(……聞きたいんだけど、お前名簿になんて書いた?名前も日本風にしたの?)」

レッサー「(そりゃ当たり前ですよ。私をなんだと思ってるんですか)」

上条「(あー、ごめんごめん。で、なんて書いたの?)」

レッサー「(”上条れっさぁ”)」

上条「(まず改めるのはお前の方じゃねぇのかっ!?幾ら日本にDQN増えたからって、そんなトンデモネームつけるかっ!)」

レッサー「(人の名前になんつー言い様ですか!謝って!コードネームつけた先生に謝って!)」

上条「(良し!この事件が終ったら、お前に魔術を教えたヤツに会わせて貰おうじゃねーか!きちんと落とし前つけるからな!)」

上条「(てかお前、『レッサー』って何よ?フロリスとかランシスみたいな名前じゃダメだったの?」)」

レッサー「(ベイロープ外してません?)」

上条「(変わってるけど、ファミリーネームだったらあんのかな?って)」

レッサー「(――”Balin Low Pool(死の淵のベイリン)”なのでしょうがねーんですけど、あれ)」

上条「(はい?今なんて?)」

レッサー「(ベイロープは綺麗系に見せて意外と可愛いですよね、と)」

上条「(あぁそりゃ俺も同感――って、んな話はしてねーよ!)」

レッサー「(往生際が悪いですよ、乗りかかった船なんですからドンと行きましょう!)」

上条「(うん、だからね?お前はその船を乗り込む判断材料が『あ、これ面白そうじゃね?』的な感じでだ)」

上条「(君、アレでしょ?普通の船の隣にウサギさんがオプションで付いてくる泥船があったら、そっち選ぶよね?それをまず改善してだな)」

レッサー「あ、はい。タイム終了でーす」

テリーザ「じゃこちらへどーぞー?」

上条「二人とも話を聞きやがれ!」

――『ヤドリギの家』教団 通路

上条(――テリーザさんに連れられて、教団内部をテクテク歩く俺達だが――)

上条(――まず、『ヤドリギの家』教団は新市街の外れにあった)

上条(「これだったら別に旧市街でも良くね?」、ぐらいに駅から遠いし、わざわざ移転する意味があったのかは分からない)

上条(ま、とにかく郊外の方に『教団』使節はあったんだよ。外見はだなー……あー……)

上条(ポジティブな言い方をすれば『窓のないコロッセウム』、言葉を飾らなければ『刑務所』)

上条(5mぐらいの高い壁で周囲を囲まれた、何とも言えない光景ではある)

上条(旧市街の火災が10年前、という事はどんなに新しくても建てられて10年は経ってない……の、割に古さが目立つっていうかな)

上条(塀のカビたか汚れだかが、妙に人の顔に見える……なんか心理学的な用語あった筈だ)

上条(……日が陰って来て、余計に印象へ暗い何かを感じさせるんだろうか……)

上条(内部へ入って分かった事だが、中には巨大な建物が幾つかある)

上条(一つ目が外壁と一体化している――)

テリーザ「えっと、今わたし達が居た場所は『本館』になります」

テリーザ「余所からいらしたお客様や、信徒の皆さんが外へ行かれる際には必ずあそこを通って出入りします」

上条(『本館』っていうよりは検問所っぽい感じだけどな)

レッサー「他に出入り口はないんでしょうか?ほら、火事とかあったら大変ですしねぇ」

テリーザ「非常口が幾つかありますので、そちらを利用して頂ければ大丈夫ですよ」

上条「ですよ、って」

レッサー「まぁまぁ。それで?」

テリーザ「今から向かう先は『第二聖堂』になりますね。右手の大きな建物です」

上条(学校の体育館ぐらいの大きさの教会――”っぽい”建物だ)

レッサー「十字架が架けられてはいませんけど……工事中か何かで?」

上条(あぁ『ベツレヘムの星』には十字教教会の十字架が勝手に集められたんだっけか)

上条(……あそこに引っ付いてた霊装とか、北極海に落ちたまま回収されなかったら、また問題になりそうじゃね?)

上条「……」

上条「フラグじゃないよ?全然?そういうんじゃないからね?」

レッサー「誰に話してんですか兄さん。つーか不審者ですよ」

上条「お前にだけは言われたくねぇが、てかテリーザさん」

テリーザ「はい?」

上条「第二、って事は第一は遠くにある、アレですか?」

テリーザ「はい、あちらが第一聖堂ですね。昔はあそこしかなかったので、第一・第二とは呼ばれていなかったそうですが」

上条「へー?……あれ?目が何か、おかしいな……?」

レッサー「どうしました?」

上条「こっちの聖堂は何か真新しいのに、あっちのはスゲー古っぽいていうか」

レッサー「言われてみりゃ確かにそうですな」

テリーザ「あちらは元々、昔からあった教会をそのまま利用してますので」

上条「教会を?」

テリーザ「はい、教会をそのまま」

上条「あぁっと……単刀直入に伺いますけど、ここ、十字教じゃないんですよね?」

テリーザ「いえ、十字教ですけど?」

上条「あ、あれ……?」

レッサー「言ったじゃないですか兄さん」

レッサー「ホームページにも書いてありましたよね、ウェイトリ”ー”先生はお医者様であられるのに、信仰の徒としても目覚められたとか」

テリーザ「あー……あのHP見ちゃいましたかー。あれ、どう見ても怪しい新興宗教にしか思えませんよねー……」

上条「その痛々しい反応、何か間違ってるとか?」

テリーザ「えぇっと、何からお話ししたものか、っていうか別に秘密にしてる訳じゃないんですけど」

テリーザ「十字教にも色々と派閥がありまして、ですね。中には『神の子』の再臨を説く方達も居ますし」

テリーザ「逆に『この世界は偽物の神が創った』と主張されている方も居ます」

レッサー「(前者がモンタノス派、後者がグノーシス派ですね)」

上条「(お前、詳しいな?)」

レッサー「(一身上の都合で十字教徒さんとはよくドツキあってますからねー。昔から)」

テリーザ「そのどちらも、古い十字教の一派なんですけど、大体2世紀ぐらいにはなくなっちゃってるんですよ」

レッサー「(グノーシス派は4世紀まで続いた上、マニ教へ継承されて15世紀の中国まで存在が確認されていますけどね)」

上条「(……お前ら、大航海時代にウチまで渡ってきたもんなぁ……そう考えると十字教ってスゲーな)」

テリーザ「わたし達も、実は昔からずっと隠れ続けて来た十字教の一派閥なんです。まぁ昔は異端だ邪教だ、と排斥されたんですが」

テリーザ「今の世の中そういう時代じゃありませんし、どうせなら大々的に復活させよう――とウェイトリー主教がお考えになりました」

レッサー「なーるほど。それは確かに仰る通りですなぁ」

レッサー「性別や民族の壁を取っ払おうってぇ、カオスな動きが続いてる中、古い信仰の一つや二つ復活してもおかしくはない、と」

テリーザ「ですよねっ、そう思いますよねっ?」

レッサー「(それが本当に『旧い信仰』だったのか、疑問が残る所ではありますけど)」

上条「(なぁ、レッサーさん?)」

レッサー「(詳しくは後程。まだ彼らの尻尾が掴めていません)」

レッサー「それで?『ヤドリギの家』の皆さんは、一体どちらのどなた様で?」

テリーザ「Trinity、と言って分かるでしょうか?」

上条「三位一体だっけ?名前ぐらいしか知らない」

レッサー「兄さんは日本暮らしが長かったですからねー」

テリーザ「Trinityとは、父なる神、神の子、聖霊から成り立っていますよね?」

上条「そのぐらいだったら何とか――何?」 チョンチョン

レッサー「(――上条さんっ!大変な事に気づきました!)」

上条「(どうしたっ?まさか――敵の魔術師の攻撃かっ!?)」

レッサー「(お姉さんの口から『乳なる神』って聞くと卑猥です!」

上条「(お前もう口を開くなよっ!?あと、日本には「エッチだと思う方がエッチなんだ」って格言があってだな)」

上条(ちなみにテリーザさんは大学生ぐらいの地味めの女性。化粧も殆どしてないし、案内役だから抑え気味にしてんだろうけど)

テリーザ「ですがこの考え、『神の子は代理人に過ぎない』という所から出発したグループがあります」

上条「代理人?確か、他の人の罪を背負ったんだよな?」

テリーザ「正確には『代理人の一人』でしょうかね。聖人の方々のように、たまに降臨されては奇跡を起こす、という感じで」

上条「(その考えだと神裂も……まぁ身ぃ削ってるっちゃ削ってるが)」

レッサー「(神の子の否定――アリウス派確定ですなー)」

テリーザ「神の子は偉大ですが、あくまでも養子に過ぎず、特別神聖視するには及ばない――というのが、本教団での考えです」

上条「なんでまた?」

テリーザ「この世界は父がお造りになりました。そして」

レッサー「えっ?すいません、今ちょっと聞き取れなかったんですけど、誰が造ったんですか?」

レッサー「”誰”が造ったのか、大きなお声でもう一度どうぞっ!さんっはいっ!」

上条「すいません、この子病気なんですよ。脳と性癖がちょっとアレでして、無視してやって下さい」

テリーザ「は、はぁ?……それで、世界を造った後、神の子が生まれるまでは時間がかかっていますよね?」

テリーザ「アブラハムの子らが子孫であったとしても、時が経ちすぎています。その間、神はただ見守っていたのではないと」

上条「……あーっと、つまり『神様は神の子以外でも、ちょくちょく奇蹟を起こしてた』から、みたいな感じですか?」

テリーザ「はい。父の愛は万人へ等しく与えられています、ですので『神の子』”だけ”を神聖視するのは差別である、と」

上条「差別?」

テリーザ「だって人の命は誰だって同じでしょう?なら誰が特別だと、そういうのは差別だと思うんですよ」

上条「そう、か?な、レッサー?」

レッサー「乳の愛……!」

上条「あ、ごめんね?お話続けて貰えますか?」

テリーザ「あ、すいません。こんな所でお話ししちゃいまして、本当でしたら寄宿舎の方でお茶でもお入れする筈だったのに」

上条「いえそれは別に。聞いたのはこっちですし――てか、寄宿舎ってのは、あの?」

テリーザ「えぇ、あの建物です。ホテルっぽいですけど」

上条(10階ぐらい建てのビジネスホテルっ”ぼい”建物。修学旅行で泊まらせられるような感じの所だ)

上条(この中で一番大きな建物――じゃ、ないんだ。もっと大きな建造物がある)

上条「それじゃ、あっちの病院っぽいのは……やっぱり?」

テリーザ「はい。ウェイトリー主教の病院です」

テリーザ「先程も言いましたが、えぇと、その、例えば神の子は他人を癒やすという奇蹟を用いました」

テリーザ「けれどそれは他の人間でも、現代であれば医学と医術によって為し得ますでしょう?」

テリーザ「それは『誰にでも出来る普通の事』だと主教は説かれています」

上条「医療を誰でもってのは、無茶だと思うけど」

テリーザ「この国の保険制度はご存じでしょうか?」

上条「はい。公的診療だと数週間かかるんでしたっけ?」

テリーザ「……えぇ。大分良くはなったんですけど、これでも」

テリーザ「酷い時には歯医者にかかるのが一ヶ月先、みたいなのもありましたし」

上条「そりゃ……うん、酷いな。虫歯になったらどうするんだっての」

テリーザ「そういう時――あ、今でもありますけど――には、フランスへ行って日帰り診療を受けたり、他には私的診療を受けたり」

テリーザ「空いた時間で個人的に看て貰うしか、診療は受けられませんでしたから」

上条「”でした”って事は、もしかして?」

テリーザ「はいっ!ウェイトリー教主は誰でも診療して下さるんですよっ!」

上条「へー、そりゃ凄い」

テリーザ「ただ、外からの患者さんが多い分、どうしても軽い症状の方は後回しになってしまいまして」

テリーザ「なので一部は病室だけでは足りず、寄宿舎の方へお入り頂いてます」

上条「病院も大きく見えるけど……あぁ別に患者さんが泊まる部屋だけって事もないか」

上条(まとめるとだ)

○『ヤドリギの家』教団施設

外壁は高い壁がぐるっと囲んでいる。5・6mぐらい?
出入り口は『本館』は呼ばれる所のみ、ただし非常口(※EXITマーク)があるらしい

第二聖堂(新しい)
第一聖堂(古い。教団が施設を造る前からあった)

寄宿舎(と、いう名のホテル。10階建てぐらい)
病院(一番大きな建物。県立の総合病院クラス)

上条(ざっとこんな感じ、かな?今の所、パッと見て怪しいのは……)

上条(第一聖堂かな?「な、なんとこれは失われたあの信仰ではありませんかっ!?」みたいに、レッサー騒ぎそう)

上条(――て、そういやさっさからレッサーがやけに静かだな……?)

上条「レッサー?」

レッサー「うーむむむむむ……テリーザさん、ちょいとお話が逸れるんですがね?」

テリーザ「はい、何でしょうか?」

レッサー「こちらで行われているのは公的診療ではない、私的診療、ですよね?」

テリーザ「そうですね」

レッサー「お気を悪くしないで頂きたいのですが、私的診療である限り、保険制度の対象外ですよね?もしくは比率が低い筈」

レッサー「なのによくやっていけるなぁ、と思いまして」

テリーザ「あー、やっぱりそこ気づいちゃいますかー」

レッサー「失礼ながら、お金をお持ちの方”だけ”が患者であるならば、充分にPayは出来るのでしょうけど、どーにもそうとは、ですね」

上条(俺達以外にも患者――もしくは、信徒?の人らとは結構すれ違う)

上条(カジュアルな格好をしている人は少なく、殆どが病院着かテリーザさんみたいな質素な服。そして)

上条(肌の色が違う、ソーズティと同じインド系と思われる人達か)

上条(移民だったら、というか最初からお金があれば移民になんかならない訳で)

テリーザ「……あの、ここだけの話で?ネットとかに書かないで下さいね?」

上条「どうぞどうぞ。つーか他人へペラペラ喋る程、英語が堪能って訳じゃないですから」

テリーザ「ウェイトリー”先生”はあまり、その宗教の方は熱心じゃない、らしくてですね」

テリーザ「どっちかって言うと、慈善団体とか、税金対策のためにやってるって、司祭さんから聞いた事があります」

レッサー「あぁ言われてみれば確かに。宗教団体と言うよりかは、オープンキャンパスみたいな感じですよね」

上条(この鬱々とした閉塞感の中でよく言えるよな。お世辞なんだろうけど)

テリーザ「なので、こう治療と言ってもかかるものはかかる訳でして。その辺りを寄付金とか、信徒の方々からカバーして頂いてる、のではないかと」

上条「それじゃ俺達と同じアジア系の人らが多いのはなんでですか?」

テリーザ「さぁ……?あ、でもインディアンとパキスタニの皆さんは、介護のお仕事をされていますよ?」

レッサー「ならそれが目的じゃないですかね。言っちゃなんですが、正規の看護師・介護士として雇用するなら、相応のお手当が必要」

レッサー「また労働環境によっては職業互助会――労働組合から睨まれますからねぇ」

レッサー「でも『ボランティア』や『宗教活動の一種』であれば、免許や資格のない人間でも雇用出来ますし」

テリーザ「その言い方だと、ちょっと……」

レッサー「なら好意的に解釈すれば――ある程度経験を積めば、後々免許を取るのにも役に立つ、ってぇ所ですかね」

上条「節約のためにやってるって?」

レッサー「流石に専門的なのは任せられないでしょうが」

テリーザ「成程ー、そういう意味があったんですねーっ!」

レッサー「と、納得されてる方も居ますし、いいんではないでしょうか」

上条「職業訓練の一環だってなら、アリはアリ、か」

テリーザ「お二人はこれからどうされますか?」

レッサー「第一聖堂が見たいですし、出来れば古い信仰にも興味がありますかねぇ」

上条「院長先生が力入れてないんだったら、あんま聞く意味は無いかもしんないけどな」

テリーザ「いえいえっ!確かにウェイトリー教主はあまり熱心ではないらしいですけど!」

テリーザ「でも司教のお話はそれはもうっ評判が良くてですねっ!」

レッサー「ミサには私達のような部外者も参加しても構わないのでしょうか?それとも直に会えたりとかします?」

テリーザ「流石にそれはお忙しいので、きちんとした用件でもなければお断りさせて頂いていますが……」

テリーザ「その、ミサの方であれば『体験入信』コースというものがありまして」

上条「あー……なんとなーく、あのホテルっぽいホテルの目的が分かった気がする」

レッサー「奇遇ですねぇ、私もですよ」

テリーザ「なんと!今なら『二泊三日体験コース』がえっと……今日のポンドがこれで、日本円へ換算すると……」

テリーザ「お二人ならは500ドル!たったの500ドルで体験出来ますよっ!」

上条「おい、急に営業トークになったな、あぁ?」

テリーザ「いえあの、ですけど中々人気ですので、騙されたと思って体験されては如何でしょうか?」

レッサー「聖堂だけ見せろ、ってのは」

テリーザ「すいません。信徒の方以外には公開しておりませんので」

上条「ちょっとタイムいいですか?」

テリーザ「あ、どうぞどうぞ」

上条「(――って話なんだが、どうする?)」

レッサー「(質問に質問で返すようで恐縮ですが、どうもこうも?)」

上条「(ですよねー……選択肢なんかないって話だわな)」

レッサー「(潜入目的で来たんですから、観光者の物見遊山に紛れるのはこれ幸いですが……さて?)」

上条「――分かった。んじゃ二人でお世話になります」

テリーザ「はい、こちらこそ至らぬ所もありますが。と、お二人のお荷物はそれだけでしょうか?」

レッサー「いえ、新市街のモーテルに置いて来てますね」

テリーザ「あぁ丁度良かった。わたし、これから車で街まで買い出しの用事がありますので、ついでで宜しければお送りしましょうか?」

上条「あー、すいません。お願いします」

――新市街 ホテル入り口

テリーザ「では1時間ぐらいで買い物は終わると思います」

レッサー「そちらの手伝いはしなくても?」

テリーザ「そうですねー。でしたら、時間が余ったら直ぐそこのマートまで来て頂ければ助かります」

レッサー「わっかりました!では――」

パタン、ブロロロロロロンッ

上条「今、一瞬『外車乗ってるなスゲー』と思った俺は小市民なんだろうか……?」

レッサー「あー、分かります分かります。私も日本行ったら、『日本車ばっかだ!?』とカルチャーギャップ受けるのと同じで」

上条「あ、イギリスには有名な車メーカーなかったっけ?」

レッサー「大抵何でも揃える日本とドイツが異常なんですよコノヤロー。日本・ドイツ・イタリアと、嘗ての枢軸国がシェア占めてるって……」

上条「だったらフランス――は、嫌だろうから、アメリカ製の買えばいいじゃんか」

レッサー「……上条さん、アメリカがどちらから独立したかご存じで?」

上条「あー……それじゃ日英同盟にまで戻って日本車を買おうぜ!」

レッサー「あん時、ウチが下手に租界を求めて居なければそうなってたんでしょうがねぇ――で、ですが」

レッサー「取り敢えず10分ぐらい経ったら私の部屋で打ち合わせでもしましょうか。つっても今後の方針確認ですけど」

上条「やっぱり向こうじゃ盗聴されてるとか?」

レッサー「目をつけられていれば可能性は充分に。ある程度は術式でカバー出来るとは言え、100%は無理でしょうからね」

上条「あぁお前そういう小細工苦手っぽいもんな」

レッサー「その評価は概ね合っているので言い返せませんが、そうではなく、えー、例えば防音の魔術を使ったとしましょう」

レッサー「イメージとしちゃ、結界みたいなので辺りを覆うような感じでしょうかね。こう、ビニールハウス的な感じで」

レッサー「確かにその魔術を使えば、範囲外へ出る音量は大幅に減退され、中で銃を撃っても『空耳かな?』レベルにまで抑えられます」

上条「悪用前提の魔術だな」

レッサー「ですがこれ、欠点がありまして『音は漏れないが魔術を使ったのがバレる』と」

上条「魔力が感知出来ちまうんだよな。ランシスが言ってた」

レッサー「相応の魔術師が居た上、常に近くで監視していれば、という但し書き付きですがね」

上条「そこまで警戒されてるんだったら、魔術の一つや二つ使ったって今更だわな」

レッサー「と、言うような細々とした話をしたいので」

上条「ん、分かった。10分後に」

レッサー「鍵は開けておきますからっ!遠慮無くどうぞっ!」

上条「それ罠だよね?俺からかって遊ぶ気満々だよな?」

――ホテル 個室

カチャン

上条「……」

上条(さてさて、荷物をまとめてと……大して荷物自体ないんだが)

上条(それこそ着替えと携帯ぐらいしか持ってきてないし、大半はローマの部屋に置いてきたままだ)

上条(大半つってもこっちで買ったお土産だとか、イタリアの朝市で貰ったジャムの瓶とか、そういうのばっかだけど)

上条(他にも……ARISAのライブで使った使用済みケミカルライトとか。封切ってないのと一緒にぶち込んである)

上条(10分、10分あればシャワーでも浴びれるかな?旧市街で焦げ臭い臭いが染みついたままで、気持ちは良くない)

上条「……?」

上条(……あれ?シャワー室、誰か――まさか!?)

上条(――敵の魔術師かっ!クソッタレ!こんな所にまでっ……!)

上条(どうするっ?レッサーを呼んで――いや、それはマズいか。こっちだけじゃなくて、あっちの部屋にも潜んでる可能性がある!)

上条(だったらまずこっちのヤツを無力化させてから、合流するのがベストだろう!そうと決まれば――)

上条「……」

上条(イチ、ニ、の――――――サンッ!)

上条「――動くな!お前の魂胆は分かっているぞっ!!!」

ソーズティ(※シャワー中)「――ぅえ?」

上条「」

 慌てて胸元を隠そうとするソーズティであったか、それは無駄だったと言えるだろう。
 少女と女性の半ば辺り、未だ成長中であろう胸の膨らみは細やかなものであったが、少女の細腕では隠しきれない程には、女性らしい曲線を描いている。

 対象的だったのは、全体のボディライン、シルエットとも言うべきだろうか。成熟した美しさは別の、どこか背徳的な妖しさをも潜むぐらい、細く、華奢だ。
 男が片手だけを回してしまえば、容易に手折る事すら出来るだろう――そう、一輪の花のように。

 だが、上条にとってそれはもう望めない事でしかなかった。何故ならば彼の片手は少女の肩へ、そしてもう一方は彼女の手首を握っていたからだ。
 暴漢を取り押さえようと乗り込んできた彼にとって、もう既に立場は逆転している。守る側から危害を加える側へと。

 腕の中で恥ずかしそうに――実際そうであろうが――身をよじるソーズティであったが、片腕を捕まれたままでは満足に抵抗は出来ない。
 むしろ逆に、羞恥に顔を歪ませ、頬を赤らませて、彼女の褐色の肌が熱を帯びる様は、とても扇情的であった。

 手を離せばいい。視線を逸らせばいい。悲鳴を上げればいい。そう理性ではどこか訴えている。そう、どちらともがだ。
 しかしどちらもしない。出来ない。若さ故の過ちの如く――。

 シャワーの水滴がソーズティの肌を滑り、流れ落ちる。上条の黒い瞳とソーズティの翠玉色の瞳が、何度も何度も交差する。
 最初はオドオドと伺うように、次第に大胆に、そして最後には予定調和のように。
 恋人がキスを交わすように、視線は絡みつき、離れられず、囚われる。

「その……」

 口を開いたのはどちらの方が?何を言おうとしたのか?
 それすらももどかしく、二人の距離は縮まって――。

レッサー「F×cking!!!なんってこった!?」

上条・ソーズティ「「どわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」

レッサー「何やってんですかっ!?つーか何やってんですかっコノヤローっ!?」

レッサー「人が目を離した隙にこれですかっ!ラッキースケベどころか、今本番突入しようとしてませんでしたかっ!?」

レッサー「それどもアレですか!?日本人のエッチとは『HENTAI』のHじゃなく『HON-BAN』だったんですかっ知りませんでしたっ!」

レッサー「てか親子揃ってやたら滅多にフラグ建てるのもいい加減にしといて下さいなっ!」

上条「ま、待て!?レッサーこれには深い訳があるんだっ!」

ソーズティ「ち、違うぞ!?別に私は誘ってなんかないんだからな!」

レッサー「違うでしょぉぉぉぉっ!そうじゃないでよすねっ!?違いますからねっ!」

レッサー「なんで勝手にヒロイン交代してんですかっ!?ラッキースケベは私の役割でしょうがっ!」

上条「すいません、ちょっと何言ってるか分かんないです」

レッサー「てか地の文要ります?適当に流せばいいのに、あそこまで詳細且つインモラルに描写する必要性がどこにあるのかと濃い乳時間!」

上条「小一時間な?お前も混乱してんだよな?」

レッサー「むしろ淫乱ですよ!」

上条「むしろの意味が分からない!?」

レッサー「そもそもアリサさんの時にも思ったんですが、あれ別に絡むのランシスじゃなくて私でも良かったんじゃ?」

レッサー「トリスタンとイゾルデ伝説のダメバージョンだってのは分かるんですが、結局手ぇ出してましたし!」

上条「本格的に落ち着けレッサー!ワケ分からなくなって何言ってるのか分からない!俺もそうだけど!」

レッサー「この――泥棒猫がっ!人が折角シャワー浴びて誘惑しようと思っていたのに、先に済ますとは……!」

上条「人の事とやかく言える立場じゃねぇな!故意にしかけてる時点でタチはもっと悪いよ!」

ソーズティ「いえ、その、私も被害者なんだがな……?」

上条「そ、そうだぞ!俺が悪いのは間違いないが、ソーズティは悪くないだろ!」

ソーズティ「廃病院はシャワーなんか無いからな!お前達を待ってる間に済ませてしまおうって考えたんだよ!」

レッサー「いや、鍵かければ良かったじゃないですか、つーか私の部屋のシャワー使えば良かったじゃないですか?」

レッサー「なんでわざわざ上条さんの部屋だと分かっていながら、シャワー浴びる必要があったですか?さぁなんで!?どうして!?」

ソーズティ「……ぅ」

レッサー「どうせアレでしょ?『あ、このシャワーであの男もオ×ったんだなー』とか考えながら、一戦始めたんですよね?」

レッサー「『まるで一緒にシャワー浴びてるみたい!』的な想像を――」

上条「いい加減にしとけ。お前そろそろ出禁食らうからな?本気でだぞ?」

レッサー「じゃあ上条さん!お言葉ですが上条さんはおかしいとは思いませんでしたかっ!?」

上条「何がだよ。あんな場所に居たら、体洗いたくなるのは当たり前だろ?」

レッサー「違いますって。そっちじゃなくてもっとそもそも論のお話です」

上条「そもそも論?また妙な単語出て来やがったな」

レッサー「いいですかっ!ここは曲がりなりにも敵地!アウェイです!」

レッサー「例えるならば三十路のおっさんが正月に実家へ帰ったばりに、敵しか居ません!」

上条「結婚しろしろウルセーの?実体験なのか?」

レッサー「そして対象はいっぱしの魔術師!戦闘訓練を受け、気配を察知するぐらいはお茶の子さいさいなねっ!」

上条「その単語、生で使う奴始めて聞いたが……で?」

レッサー「そんな人間が『シャワーやお風呂と言った、一番無防備になる状態で周囲への警戒ゼロ』ってどんだけですかっ!?有り得ませんよっ!」

上条「言われてみれば……!」

レッサー「ですから、きっと×ナってたんではないかと」

上条「選べよ!言葉を!タダでさえアレなんだから!」

レッサー「全くもう!人が折角早めに来て上条さんの裸を拝もうとしなければ!今頃は大惨事になっていた所ですからね!?反省して下さいな?」

上条「お、おぅ……?ありが、とう?」

ソーズティ「……なぁ?コイツの方がタチ悪くないか……?」

レッサー「ちゅーか、私が折角ウヤムヤにしようとして上げているのに、いい加減手を離したらどうです性的犯罪者さん?」

上条「ヒドっ!?絵面だけを見ればそうだけど!」

レッサー「状況証拠でもバッチリですがね。親告罪なので立件されないだけです、ありがとうございました」

レッサー「はっ!?……それとも3Pがお好みだとか……?」

レッサー「――宜しい、受けて立ちましょうかっ!レッサーちゃんがエロゲで身につけた奥義をお見せしましょう!」

上条「これ以上はカオスになるから止めてくれっ!?あとエロゲでは勉強出来てないから!」

レッサー「ま、立つのは上条さんなんですがね」

上条「だからお前も恥じらいを持ってあげて!」

今週の投下は以上となります。お付き合い頂いた方に感謝を

パソコンまた壊れました (´・ω・`)

上条さん…アニェーゼを部隊で数えたら200人プラスされて、天草式入れたら50人近く増えるよね?

乙です

リアルだと年上の方が好きだなんだけど、フィクションのラキスケは背徳感的な意味で同世代の方がいいことに、今更ながら気づいた
後、上条さんの敵の魔術師ネタは脳内再生完璧でいつも笑っちゃう

イギリスも移民の問題とか大変なのね…
パキスタンといえば、平和賞の子の自伝読んで感銘受けてググってみたら、色々言われてて、うーん…ってなった

パソコンは犠牲になったのだ…


ふーん二割五分か。意外と男性率多いね当麻くん。

それでさりげなくエツァリさんがハブられてるのは、偶然なのかな?かな?

乙!!
軽くググったんですけど、イギリス車ってほとんど外国メーカーの傘下なんですね
そりゃ買えんわ

レッサーがラッキースケベ担当って言ってたが
ラッキースケベを未然に防いでるよね
誘ってるように見せれば警戒するし、近寄らないよね
もしかしたら本当は恥ずかしいんですね

「いや落ち着いて読み直そうぜ!」
「ラッキースケベの直接描写って、このシリーズではこれが初めてだよね!?」
「他のケースはたいがい『当ててんのよ』的なシチュエーションだったし!」
「だから、人を指さして『最後の、そして永遠の助平チャンピオン』みたいに形容しなくてもさあ!!」

「んじゃ、間接的な描写を数えてみようかジャパニーズ?」
「描かれていない逸話も含めると……うん」
「五人パーティでも、指が足りなくなってしまうのだわ」

「 ―――――― 」

「と、当麻くん!私のターンもあるって、信じてるからねっ!?」

田中さんには科学とか魔術抜きの上条さんと女の子(たち)がデートするようなの書いてほしい
それが無理なら1レスの小ネタとかでいいから『(上条さんが)女の子に壁ドンやってみた』とか『愛してると言ってみた』がみたい
あ、乙です

>>141
つか天草式だったら、上条さんがベトベトした粘液をBUKKAKEて、おっぱいに顔を埋めながら無理矢理押し倒した挙げ句、
意識のないのをいい事に彼女が大事にしていたモノを奪った浦上さんってキャラが居たり
(本編7巻P151、漫画版9巻P134参照。スマイル君付きバレッタ留めポニテ・ドレスソード・ニーソの子)

>>142
円周「んーとねーえ、マララお姉ちゃんちゃんスッゴいよねっ!お兄ちゃんが大好きな17歳だよ!17歳!」
円周「BANG!!!されたのが14歳の時でー、ブログを書き始めたのは11歳かー。って事は計6年の活動なんだねー」
円周「でもねぇ?同じ平和賞貰ったカイラッシュ=サティヤルティおじちゃんはさ、児童労働を改善する活動に取り組んでてさ」
円周「劣悪な環境に置かれた子供達を保護した後、職業訓練をする施設を行政と一緒に作ったんだって!」
(※下手に親元へ帰すと「また売られる」ので)
円周「1980年からざっと34年間、国内で生涯をかけて取り組んできた、少なくとも第一線で活動する人と」
円周「海外でブログと講演会周りでガッツリ稼いで本国には寄りつきもしない人」
円周「カイルおじちゃんとマララお姉ちゃんが同じ功績を得るなんて、おかしいよね、って意見が結構あるみたいだしぃ?」
円周「何よりもまずパキスタン国内では、アメリカがTTP(パキスタン・タリバン運動)への対テロ戦を張っていて」
円周「無人攻撃機が民間人を誤爆しているのに「どうしてそっちは非難しないの?」って本国では非難されていたりするんだよ」
(※ただし同国内ではTTPの意向に沿ったマスコミもある上、マララ女史はオバマ大統領と面会した際、軍事介入を止めるように訴えています)
円周「他にもね、マララお姉ちゃんはさ、オックスフォードに通いながらアメリカの大学院に通うのが夢なんだって!凄いね!」
円周「ってかこの間、賞を貰った時にこんな事も言ってたんだけどぉ」
円周「『賞は私が前進する勇気を与え、自分を信じるに値すると示してくれた……授業のテストや試験の助けにはなりませんが』」
円周「調子に乗ってるよねー?わたしは大好きだけど」
(※マララ女史の活動は素晴らしいものではありますが、と前置きをしておきますが、問題にされているのは『活動期間・内容・実績』の三つ。
期間は前述の通り、内容も『国外から母国の人権状態の改善を訴える”だけ”』、実績は……という感じですし。
他にも女性の人権問題以前に、もっと悲惨な人身売買に取り組んでいる団体からすれば、ヌルいの一言。
特にパキスタンで歓迎されていない理由の一面として、女性に発言権が皆無である上、「不幸な人は自身が不幸だと気づいていない」事ですか。
パキスタン以外でも言える事ですが、小さい頃からそれが普通で当然だと思っていれば、自身の境遇について疑問に思わない。思”え”ない。
当事者にとっては「頼りがいがあって暴力を振るわない旦那様」を探す方が大切である――と、ですね。
また別口の問題点としては、イギリス国内で不法滞在のパキスタニの旗頭に使われるんではないか、との懸念が。
……本人の意志とは裏腹に、「ノーベル平和賞の○○」という肩書きは素人さん騙すのにピッタリですからね。洋の東西を問わず”連中”は権威に縋るのが大好きだと)
円周「でさでさ、わたし、思ったんだけどねっ」
円周「>>142お兄ちゃん、実はさ、アレなんじゃないかなぁ?好きなんだよね、わたしやレヴィちゃんみたいな」
円周「未発達でペッタペタな方が好きなんでしょ?わかるわかる、あるよねー、そーゆーの」
円周「でもでも、リアルでやっちゃうと問題あるから、BABAAに逃げてるんだけなんだよね?違う?」
円周「逃げちゃダメだよ!自分に素直にならなきゃ!」
円周「だから、さ?お兄ちゃんのその穢らしい欲望、円周にだけコッソリ教えて?ね……ッ?」
マタイ「……善人の善意すら棄教の道へ陥ろうと言うのに、いわんや悪人の悪意たるやだ」
(※女史は間違いなく「善意」で変えようとしている……ですが、だからといって『良い方向』へ変わるとは限りません。
当たり前ですけど「善意を悪用しようとする悪意を持つ人間」もまた少なからずいますから。
それ以上に度しがたいのは『善意であればなんだって許されると思っている』層……福島に住んでるとつくづく実感します)

>>143
海原さんは素で忘れていましたごめんなさい。いやでもあれ出来レースみたいなもんだったし

>>144
レッサー「ロータスとテヴィーアという超お高いスポーツカーメーカーがあるにゃあるものの、普通は手が届きませんしねぇ」
レッサー「ブリテンの製造業は60年代まで造船を筆頭にブイブイ言わせてたんですが、次第に金融工学()へぶっ込んで製造業は冷え込みました」
レッサー「ベントレーはキャベツ野郎に買収されてしまうで散々ですよ、えぇもう」
レッサー「とはいえユーロ通貨導入の際、自主独立の危険性を訴えて導入しなかった辺り、EUん中ではマシだったりします」
レッサー「ちなみに私が言ったのはネタであって、街じゃフツーにワーゲンやフィアットほ目にします」
レッサー「そして車がぶっ壊れた時、『ファシストにまた騙された!』と、叫ぶのまでがテンプレ」

――シティホテル

レッサー「で、上条さんがソーズティさんを無理矢理手込めにしようとしていた件についてですが」

上条「終ったよね?俺が言うのも何なんだけど、場面が切り替わったのに引っ張る必要無くないか?」

レッサー「てかベッドの上に女物の着替えが放置される時点で、『あ、誰かシャワー使ってんなー』って疑いません?」

レッサー「一体どういう思考回路を辿れば、『シャワー使ってる人がいる→敵の魔術師の攻撃だ!』に繋がるのかと」

上条「でもですね、反論しますと割合俺は襲撃を喰らってる身でしてね?」

レッサー「ちなみにシャワー中のラッキースケベって何回あります?」

上条「そうだなー?インデックスに神裂にオルソラにバードウェイにアリサ――ってそんなにないよ!?日常茶飯事じゃ決して!」

レッサー「現実と戦いましょうとは言いましたが、常識と戦ってどーすんですか。つーかバードウェイさん、着々と王道フラグ積み重ねてる気が……?」

上条「レッサーに常識説かれるのは心外なんだが……」

レッサー「と、言われる私の方こそが心外ですがね――もう少しでお迎えが来るので手短に」

ソーズティ「ん、あぁ、どうか……した、か?」

レッサー「ほら見なさい上条さん!ソーズティさんさっきから目ぇ合わせくれませんよ?」

上条「……本当にごめんなさい……っ!反省してますからっ!」

レッサー「でしたらここは一つ、責任取って私と結婚するしかないですなー」

上条「責任の取り方間違ってなくね?てーかお前の入ってくる余地は無ぇよ!」

レッサー「ま、それはさておき私達の方針は先程と同じです。体験入信二泊三日コースに参加する事にしました」

ソーズティ「罠じゃないのか?」

レッサー「だったら正面から粉砕するまでですね。こう、ガッツーンと」

上条「罠じゃなかったら?」

レッサー「裏口から入って粉砕するだけですかね。こう、ドッカーンと」

上条「粉砕するのは決定かよ……ま、放置するつもりはねぇけどもだ。で、ソーズティはどうするんだ?」

上条「何だったら俺の妹枠で付いて来るか?向こうは来る者拒まず、みたいな感じだったし」

ソーズティ「……うわぁ」

レッサー「よっ!上条さんの妹マニアっ!このシスタープリンセ○っ!」

上条「違うよっ!?どっかのおバカが無理矢理血兄妹として登録しやがったから、その流れが続くんだと思ったんだ!」

上条「……後、レッサーさんはその黒歴史持ち出さないで貰えるかな?メーカーがある意味伝説作ったっつーか、Nice Boat!っつーか……」

ソーズティ「そうだな……姉と合流もしたいが、それ以前にだ」

ソーズティ「ここに居る面子全てが潜入したら、後続との連絡役が居なくなる、な」

上条「あぁ納得。乗り込んだ人間も身動きが取れなくなったら、後から来る奴らに事情とか説明しなきゃいけないよな」

レッサー「なら携帯のアドレス、宜しいですか?こちらの身内のも渡しますんで」

ソーズティ「いいのか?」

レッサー「えぇそちらと同じく使い捨てなので、この件が終ったら破棄しますし」

上条「勿体なくね?折角仲良くなったんだから、メールぐらいはしようぜ?」

レッサー「個人的にはある一点で気が合うとは思いますよ。思いますが――下手に繋がりを持ってると、ご迷惑をかけるかも知れませんし?」

ソーズティ「必要最低限、あくまでも『一時的に共闘しただけの仲』なのが、一番楽でいい」

上条「あ、だったら俺の携帯に登録しようぜ?」

ソーズティ「話を聞けこのバカ!」

上条「いや聞いてるし?俺だったら別に迷惑かけてくれて構わないし、問題は起きないだろ?」

レッサー「……諦めましょうソーズティさん。こちらさんを説得するのは時間の無駄かと」

ソーズティ「……ちっ」 ピッ

上条「お、来た来た――ってメールアドレス、デフォのまま変えてなくね?半角英数字のの羅列になってる」

ソーズティ「……いいか?私は今回の一件が終ったらこの携帯は捨てるし、番号も使わないからな?」

上条「ん?あぁいいんじゃね、そん時には変更したアドレス送ってくれれば」

ソーズティ「だから――っ!」

レッサー「はい、どうどう。ですから無駄だと」

ソーズティ「本当に……この男は……!」

上条「な、何?」

レッサー「お気になさらず――ってか、そろそろお時間ですので」

上条「おけ。それじゃちょっと行って来るよ」

ソーズティ「――待て。姉からの予言がある」

レッサー「予言ですか?伝言ではなく?」

ソーズティ「予言だ。姉は『ブラフマーアストラ』を使う手前、星詠みに長けている」

ソーズティ「星座や星の運行だけではなく、星辰を使った占いも結社随一……”だった”」

上条「なんで過去形?」

ソーズティ「『チューニング』された副作用だと思ってくれ。なので気休め程度ではあるが……」

上条「充分だ、それで何だって?」

ソーズティ「『――樹が幻視(みえ)る』、だそうだ」

上条「木?ツリーの木?」

ソーズティ「いや正確には、”Wooded”だ」

レッサー「『木に覆われた、木が生い茂った』という形容詞ですな」

上条「教団の場所は新市街の外れ……だけど別に、周りに木ばっか生えては、無かった、よなぁ?」

レッサー「昔はどうだか知りませんが、再開発計画の真っ只中ですしね。切り出した土地であるのは間違いないでしょうけど」

上条「やっぱりケンカする相手が『ヤドリギの家』だから『樹木』なのかな?」

レッサー「『生い茂った』所へ主眼を置いているのか、何かを隠しているのを暗示している可能性もありますね」

ソーズティ「解釈を私に求められても困る」

上条「うーん……ま、分かったよ。注意しとく、ウレアパディーに『アリガトな』って伝えといてくれ」

ソーズティ「……」

上条「どしたん?」

ソーズティ「……と、その、妹からもだな。聞いてはいるんだ、聞いては」

ソーズティ「伝言、というか、その、だな」

上条「うん?」

ソーズティ「『無事に帰ってこい』と」

上条「……あぁ、任せろ!」

レッサー「あのぅ?すいません、ちょ、ちょっといいですかね?」

レッサー「ソーズティさん出るお話間違えてませんかね?ここはレッサーちゃんがシメる所じゃないんでしょうか?」

レッサー「あと上条さんもヒロイン間違っちゃいません?目の前に超絶ぷりちーな私を放置しておいて、褐色スレンダー系にフラグを立てる暴挙を――」

レッサー「――はっ!?さてもしや……っ!?」

上条「お前が何を考えてるのかは知らないが、それは、違う」

レッサー「やはり貧乳にしか興味が無いと……!」

上条「違うっつってんだろ!何となく展開は読めてたけどなっ!」

レッサー「あぁこのおっぱいが憎い……!私が人様よりも豊満な胸でさえなければ……!」

ソーズティ「……なぁ、さっきから私をチラチラ見てるそこの女。喧嘩を売ってると解釈して間違えてないだろうな?」

上条「止めて下さい!?正体不明の魔術結社以外に敵を作りたくはねぇよ!」

レッサー「あー、最近ずっと肩が凝るなー。なんででしょうかねー」

上条「レッサーさんも不用意に喧嘩売るのは自制しなさいよっ!」

レッサー「不用意にフラグ量産する職人さんには言われたくないですがねぇ」

――『ヤドリギの家』教団本部 寄宿舎・厨房

テリーザ「上条さんっ、次こっちの皮剥きをお願いしますねっ!」

上条「はいっ!」

レッサー「上条さんっ!次は下――」

上条「ボケるんだったら後にしなさいっ!今ちょっとおにーちゃん手が離せないんだから!」

レッサー「手が離せないのであれば……ハッ!今が好機……ッ!」

上条「ベイロぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉプ!何だったらランシスでもいい!」

上条「この際フロリスでもアリサでも文句言わないからっ!誰か相方交代してくれっ!」

上条(あの後、ものっそいデカいスーパーで迷子になっていたテリーザさんを回収して、大量の食料品と一緒に本部へ帰って来た)

上条(こんなに大量に買いこんで大丈夫か?――と、思ったんだが)

上条(寄宿舎――つかホテルの厨房だ。そこへ押し込まれてエプロンを着せられた上条兄妹(嘘)は、延々下拵えをさせられる羽目に……!)

おばちゃん「中々やるねえアンタ達!」

レッサー「マムっ、イエスマムっ!光栄であります!」

おばちゃん「よく言ったわ!ジャガイモ追加してあげるわね!」

レッサー「……くたばれクソババア……」

おばちゃん「何か言った?」

レッサー「マムっ、ノーマムでありますっ!」

上条「お前も馴染みすぎだ」

上条(意外と戦力になってるレッサー。手料理は色々な意味でお見舞いされたけど、まぁまぁ……うん、手際はなかなかだ!手際はな!)

上条「……」

上条(……おかしいな?仮入信とはいえ、どうして俺はメシ屋のバイトっぽい事をやってんるだろう……?)

レッサー「そりゃ兄さんが帰りの車ん中で、『あ、自炊はするんで』みたいな事を言ったせいだと思いますが」

上条「独り言に突っ込み禁止――て、声に出てたか、今?」

レッサー「いや、そろそろ面倒臭くなってんじゃねぇかなって思いまして。私と同じく」

上条「合ってんのは合ってるがな」

上条(ちなみに調理班は俺達の他にテリーザさんとおばちゃん達7人、計10人のチームで作ってる訳で)

上条(何人分作るのは分かんねーが、気合い入れないと……なんつーか、保たない)

上条(どのぐらい大変なのか想像出来ないのなら、『ディナータイムのファミレスのキッチン』を見て貰えれば、何となく分かるだろう)

上条「……よし!」

おばちゃん「お、いい気合いだね!若いんだからしゃっきりしないと!」

レッサー「(余談ですが、こっちのオノマトペは後日私が上条さんへレクチャーした上、日本語へ変換してますんで悪しからず)」

上条「そうだな、俺達の戦いはこれからだっ……!」

レッサー「だからそれ死亡フラグですってば」

――その頃 暗き森の奥深く

ダークエルフ「……ふっ、愚かな人間め!この地球に巣くう癌細胞共が!」

ダークエルフ「貴様らがどれだけ母なる大地を穢し、母なる世界樹を傷付けてきたのか――その身に刻むがよい!」

刀夜「……」

ダークエルフ「どうした人間!恐怖の余りに口が利けなくなったのか!?それとも矮小さに震えが止まらんか!?」

ダークエルフ「蚊の如き僅かな寿命しか持たぬ身で!我らの悲願に口を挟もうなどとは傲慢が過ぎる――」

刀夜「……傲慢。成程、傲慢ですか。確かに、私達人間はそう称されるのでしょうな」

刀夜「『この世界へ対して傲慢である』――そう仰る方程、逆に傲慢なんですがねぇ」

ダークエルフ「何?なんだと?」

刀夜「えぇですから、私達人間の振舞い――自然を廃し、時には種を絶やしてまで利益を得ようとする」

刀夜「それをあなたは『傲慢』だと仰いました。でもそれは『あなたの身勝手な意見にしか過ぎない』んですよ」

ダークエルフ「……貴様!この期に及んで我らを愚弄するのか……!?」

刀夜「愚弄などしていませんよ。しているとすれば、それはあなた達自身でしょうに」

ダークエルフ「貴様は何を――もしや気が触れ――」

刀夜「『自分が理解出来ないものは狂人扱い』ですか……やれやれ、それでは人間と変わりませんな」

刀夜「自分達と違うものにあぁだこうだと理屈をつけ、排除をする。相互理解を謳いながらも、端からするつもりもない」

刀夜「よくまぁそれで、自分達が人間よりも優れていると豪語出来ますな――」

刀夜「――それこそがまさに『傲慢』であると言うのに、ですよ」

ダークエルフ「――この!言わせておけ――」

刀夜「――黙りなさい!あなた達が高貴だ何だと語るのは結構だが、そう自称するからには相応しい立ち振る舞いするべきだ!」

刀夜「丸腰の相手へ段平を突きつけ、討論に叶わないのであれば暴力へ訴える!そのやり口のどこが正統な振る舞いかと言っているんだ!」

ダークエルフ「……く」

刀夜「……宜しい。確かに私は喧嘩も碌にした事の無い人間だが、自分の命を守るのであれば棒きれでも拾って戦うつもりはある!」

刀夜「訓練を積んだ君達には叶うべくもないだろう。だが妻と息子、家族を守るためには躊躇わないよ」

刀夜「そんな人間を一方的に弑したという汚名が欲しければ、幾らでもかかってきなさい!さぁっ!」

ダークエルフ「……口は達者だな、人間」

刀夜「いや、まだまだだよ。君達が本当に屈辱を味わうのはこれからだ」

ダークエルフ「何だと……?」

刀夜「君達は私達人間を傲慢だと言ったね?その理由として挙げているのは『他の種を滅亡させる』のが根拠なのかな?」

ダークエルフ「そ、その通りだ!この世界は共存出来る筈なのに――」

刀夜「それは一体『誰』が言ったのかな?」

ダークエルフ「誰でもだ!そんな常識エルフの子供だって知っている事だぞ!」

刀夜「それはつまり、君の場合だとご両親か、近しいご親族の方から教わったって事で良いのかな?」

ダークエルフ「ああ、そうだ」

刀夜「つまりそれは『君達の一族の独り善がりな思想』って事なんだよね?」

ダークエルフ「……我が一族に対する愚弄、流石に捨て置けんぞ……!」

刀夜「ふーん?なら聞くけど、私の考えは合っているのかな?まぁ単純な話――」

刀夜「――『君達の一族が大地や世界樹から聴いた』んじゃないんだよね?違う?」

ダークエルフ「当たり前だ!我々のような概念の意志を持っていない相手と言葉が交わせるものか!」

刀夜「なら君達、どうやって『自然はこういう風に考えているに違いない』って判断したの?だから根拠は、何?」

ダークエルフ「根拠などお前も常に目にしている筈だ!」

ダークエルフ「この大地!この星では生命が循環している!お互いに支えあっているんだ!」

ダークエルフ「地球が生まれてから数十億年!我らはそうやって生きてきたんだ!」

刀夜「――恐鳥類って知ってるかな?ディアトリマ……は、有名な筈なんだけど」

ダークエルフ「鳥?鳥の話が何故出てくる?」

刀夜「恐竜が滅亡した原因は色々言われているが、急な気候の変化に対応出来なかった、という見解が未だ多勢だね」

刀夜「巨体故に温度変化に弱かった、との説は最近じゃ否定されつつあるけど……まぁ、さておき。絶滅後の話だ」

ダークエルフ「まさか『恐竜が絶命したのは人類の仕業では無い、だから人間だけを責めるの間違っている』等と言うつもりじゃないだろうな?」

刀夜「まさか。超時空宰相HIDEYO-SHIでもあるまいし、何でもかんでも責任を押しつけるつもりは無いよ」

刀夜「私が言いたかったのは、『その後直ぐ哺乳類の時代は来なかった』という点だね」

ダークエルフ「……?お前達が教えている歴史とは」

刀夜「同じだね。サラッとしかやらないので、意外と知ってる人間が少ないってだけでさ」

刀夜「実は哺乳類が天下を取る前に、世界の大半を鳥類が占めていた時代があった」

刀夜「――と、言うと怒られそうだけど、少なくとも食物連鎖の頂点に恐鳥類っていう、2mを超える肉食の鳥がいたんだよ」

刀夜「ディアトリマ、フォルスラコス、ケレンケン。200kgを超える大型の肉食鳥類で、紛れもなく頂点にあった」

刀夜「――が、今は姿を消している。当たり前だけど絶滅したからだよ、哺乳類肉歯目の台頭によって」

刀夜「その肉歯目だって食肉目――今のネコ科が出てくると、絶滅するんだけどね」

刀夜「胎盤の有無、肋骨の骨の数が影響してるんじゃないか、って指摘はあるけど、実際の所はまだ解明されてはいないかな」

ダークエルフ「だから、一体」

刀夜「つまりね、別に『人間が存在するずっと以前から、絶滅は生命の歴史そのもの』なんだよ」

刀夜「恐らく、植物以外で最も長い間食物連鎖の頂点に立ち続けた恐竜であっても、同じ種がずっと君臨はしなかった」

刀夜「獣脚類のティラノサウルス、スピノサウルス、アロサウルス。どれもが食物連鎖の頂きへと立ちながら、絶滅しているね」

刀夜「隕石が落ちた訳でも無く、核戦争や宗教間の対立があった訳でもなく」

刀夜「ただ『エサとなる大型草食動物を採り過ぎた』なんて、マヌケな理由でだよ」

ダークエルフ「……」

刀夜「住み分け?共存?この地球にそんなもの、どこにも無かったよ」

刀夜「それどころか肉食恐竜が草食恐竜を食い尽くす、なんてのは日常茶飯事。ある種が他の種を絶滅させるのは当たり前だ」

ダークエルフ「そ、それでもだ!食物連鎖であるのならば仕方が無い!人間とは違う!」

刀夜「……君は、君達は『食物連鎖だったら他者を害するのも許されるが、それ以外ではいけない』って考えなの?ふーん?」

刀夜「例えばイルカは趣味で他の生き物を襲ったり、リンチを加える性質がある。『娯楽』としてだ、と言われているね」

刀夜「イルカの他にも狼が羊を襲うのが確認されているね。面白半分に殺して、一部だけしか食べなかったりさ」

刀夜「他に寄生虫は自身が食す訳でも無いのに、自らの宿主を操って、他の生き物へ食べさせる習性がある」

刀夜「食虫植物はどうだい?『光合成で満足出来ないで、他の命を奪うのは傲慢だ!』とは言わないよね?」

ダークエルフ「それでもだ!人間は娯楽のために!自らの目的のためだけに命を奪う!それこそが自然の原理から外れているんだ!」

刀夜「――って、『誰』が言ったの?」

ダークエルフ「それは……」

刀夜「地球さんが言ったのかい?『最近ニンゲンって奴らが調子乗ってるよねー?』とか」

刀夜「それとも世界樹の意志とかがあるのかな?ねえ、どうなんだいそこら辺の所?」

ダークエルフ「い、言わなくって――」

刀夜「言わなければ、分からないよ!大切な事になればなる程、意思疎通を綿密にしないといけないんだ!」

刀夜「それが親子であったとしても!すれ違う時はどうやったって間違えるんだよ!」

刀夜「そりゃね、確かに面白半分で誰かを傷付けたり、滅ぼしたりはしちゃけないさ。少なくとも『ニンゲン』の持つ倫理感に照らし合わせて、私もそう思うよ」

刀夜「けど実際の所。君達は自然の代弁者でも何でもない訳で。自然の声を聞こえる訳でも無く、誰かに選ばれたのでも無い」

刀夜「ただ『自然はこう思っている”に、違いない”』と勝手に決めつけ、代弁するだけの存在じゃ無いのかな?」

刀夜「生物学をかじっていれば、絶滅なんて珍しくも無いし、有り触れた現象の一つにしか過ぎない」

刀夜「その一点だけを殊更に強調し、さも私達人間が劣等種であるかのように判断し、交わりのを拒み、排除する」

刀夜「……君達の方が、圧倒的に『傲慢』だと思えるけどね」

ダークエルフ「……」

刀夜「……とは、いえだよ。君達の指摘も間違っちゃいない。というよりも、一部に限っては本質を突いていると言っていい」

刀夜「だからこそ、本来は温厚であろう君達がこれだけ怒ったのも理解もするし、共感もしよう」

刀夜「そう――そこから、始められないかな?」

ダークエルフ「何を、言って……」

刀夜「君達が『弓なり病』と呼んでる病は、私達の世界で『破傷風』と呼んでいるものだよ」

刀夜「死病であり、毎年数十万人程度の人間が命を落としている」

ダークエルフ「……そうか、そちらの世界でも病は存在するのか……!」

刀夜「だがしかし、それは世界での値であって先進国での死者は殆ど居ない」

ダークエルフ「居ない……?」

刀夜「ゼロじゃない。けれど限りなく低い」

ダークエルフ「そんな治療方法があるのか!?ならば――」

刀夜「あくまでも素人考えであるし、そもそも見立てが間違いなのかも知れない」

刀夜「だけれども、たまたま持っていた抗生物質が族長さんの娘さん?だかにも効果があった事から、少なくとも症状の改善は見込まれるよ」

ダークエルフ「なら、我らにも――」

刀夜「ただし!当たり前だけど対価を支払って貰わないと、薬は譲れない」

ダークエルフ「何故だ!?強欲な人間よ、貴様らは我らの弱みへつけ込もうとするのか!?」

刀夜「いや、そうじゃないんだ。仮に……例えば、ここで私が私財を投げ打って、君達を助ける事は出来るんだよ」

刀夜「薬もまぁそこまで高いものではないし、不可能ではない」

刀夜「でも、それじゃ何の解決にもならないんだ。君達が代金を支払わなければならない分を、私が肩代わりしているだけなんだから」

ダークエルフ「……」

刀夜「仮に……そうだね、私が生きている限り支援を続けたとしても……精々30年。私の息子へ託したとしたも、まぁ60年が限度だろう」

刀夜「それを過ぎたら君達はどうするつもりだい?また誰か人里へ遣わして、助力を求めのかな?」

刀夜「その人間が君達を救うだけの力を持っているとは限らないし、また君達の事を暴露しないとも限らないよね?」

刀夜「君達が今の生活を続けたいのであれば、情報が外へ漏れるリスクは最小限に留めた方がいい」

ダークエルフ「……なら、我らはどうすれば良いんだ?貴様に縋り、善意に頼るのも駄目だと言うし、他の者を招くのもダメだと言う」

ダークエルフ「このまま死を待つのが、自然の掟だと言うのか……!」

刀夜「だからその考えが『傲慢』だって言ったじゃないか、私は」

刀夜「人が生きる死ぬのに運命なんてないよ。結末が決まってる?神様が決めた道がある?」

刀夜「それとも幸運と不幸の量が決まっている?馬鹿馬鹿しい。そんなものがある訳がないじゃないか!」

刀夜「仮にだ。もしそんなクソッタレなものがあるって言うんなら――」

刀夜「――その『運命』、私がぶち壊すだけだからね……!」

ダークエルフ「貴様……」

刀夜「現役の証券マンを甘く見ないで欲しい。こう見えても口八丁と伝手には自信がある」

刀夜「今問題になっているのは二つ。『当面の間の薬代』と『持続的なケア』の必要だって事だよ」」

刀夜「後者は然程問題はない。幸いにして、君達は長い命と高い知識がある」

刀夜「……多少見目麗しいのは問題と言えば問題かも知れないが……まぁ、使いようによっては武器にもなる」

ダークエルフ「……?」

刀夜「『自分達の自分達で作ろう』って話さ。私達の世界へ来て」

ダークエルフ「我らに貴様らの術を学べと言うのか!?」

刀夜「一族のためだろ、嫌だとは言わせないよ?」

刀夜「それとも君達のちっぽけなプライドが、これから生まれてくる子供の命よりも重いんであれば、好きにすればいいさ」

ダークエルフ「……くっ!」

刀夜「そして当面の問題だが――この草、えっと」

ダークエルフ「……ただの薬草だが、それがどうかしたのか?」

刀夜「高い滋養効果がある。これで特許を取れば一財産は楽に築けるだろうね」

ダークエルフ「ときよ……?」

刀夜「詳しくは省くけど、まぁこの草を育てて売れば儲かるって事さ」

ダークエルフ「……なら、その代金でコーセーブシツとやら買えばいいのではないか?」

刀夜「草は草だよ。いつまで経っても同じ値段で売れるとは限らないし、より効果の優れた物が出れば価値は下がる」

刀夜「『アンボイナ事件』――昔は香辛料が金の一掴みと同じ価値があるとされ、戦争やその寸前にまで発展する事はしばしばあった」

刀夜「が、そこまでして手に入れた物品であっても、暫くすれば価値が下がって以前のように利益を得られなくなる」

刀夜「それに君達の場合、もう少し事情が違うんだ……えぇっと、これはアフリカの難民キャンプで支援をした時の話なんだが」

刀夜「ある国で内戦が起こった。事の始まりはベルギー人が『聖書の教えに従って』人間を仕分けし、反目が高まったのが原因なんだが」

刀夜「ともあれ何十万人が殺し、殺され、多くの人間が難民として隣国へ押し寄せたんだ」

刀夜「当然、私達は彼らを見捨てては置けず、大量の援助物資や金銭が届いた――それは『善意』でだ」

刀夜「……でもね、『善意だからと言って必ず成功する』とは限らないんだ」

刀夜「可哀想だからという理由で、あれもこれも支援しすぎると駄目になるんだよ」

刀夜「『困った時に誰かが助けてくれる』――そう、信じ切ると人は堕落してしまうんだ」

ダークエルフ「……」

刀夜「例えば今回の件。悪い竜が居て、君達だけでは歯が立たず、どこかの勇者を連れてきて倒したとしよう」

刀夜「これはダメなんだ。一度これをしてしまうと、二度三度、困難が起きる度に外部へ依存してしまう体質が作られる」

刀夜「自分達だけでどうしようもない事態を、外部へ救いを求めるのは良い。けれどそれ”だけ”になってしまうのはダメだ」

刀夜「だから私達はまず井戸を掘った。他からの綺麗な飲料水を運ぶのではなく、次から難民だけで掘れる技術を教えた」

刀夜「次に厳しい気候でも実る作物の作り方を教えた。その次には子供に勉強を教えるようになった」

刀夜「安定して余裕が生まれれば、他の国の助けがなくとも他人を助けられるようになる。そういう仕事も私はしてきた」

刀夜「私は、っていうか御坂さんのお仕事なのだけれど、まぁそのうち紹介するかも知れないね――さて」

刀夜「君達も結論を出して欲しい。そうすれば私も君達の助けになる事が出来る」

ダークエルフ「……大丈夫、なのか?人間は強欲だというのに……」

刀夜「私は段平を突きつけられても一歩も引かない男だよ?それに比べれば、恐い物なんてないさ」

――エルフの集落 宴

刀夜「……ふう」

十代後半の少女「隣、いいだろうか?」

刀夜「ん?えぇ構いませんよ――っと、ちょっと詰めて貰えるかな?うん」

???「……」

十代後半の少女「宴は嫌いか?主賓のそなたへの感謝であるというのに」

刀夜「あー……いや、そんな事はありませんけどね。どうにも、嫌いというよりも、苦手かな、と」

十代後半の少女「ふむ?」

刀夜「私が何かした訳ではなく、元々はこちらにの皆さんは解決出来るだけの能力と危機感を持ってらしたんですよ」

刀夜「それにちょっと方法を出しただけで、私は特別に何をしたという訳でもありませんから」

十代後半の少女「……剣の針山へ飛び込んでおいて、何を言う」

刀夜「あぁあれはブラフですよ、ブラフ。先様が本気でしたら、流石に突っ込む勇気なんかありませんでした」

十代後半の少女「では彼女は本気ではないと?」

刀夜「私にはそう見えましたよ。焦りはあるものの、どこへぶつけたら良いのか分からない――って彼女!?」

十代後半の少女「ダークエルフの族長の娘だからな。立場は私とほぼ同じだ」

刀夜「鎧着てたから分かりませんでした……そっかー、キツい事言っちゃったかなー?」

十代後半の少女「そなたが気に病む必要は無いさ。誰かが言ってやらねばならない事だ」

刀夜「若いのにご立派ですね」

十代後半の少女「だから私達は見た目通りの年齢では――いやなんでもない」

刀夜「お若いのはいい事ですよ。ウチの女房なんてね、学生の頃から全然変わってなくっですね」

十代後半の少女「……その話、今は聞きたくないな」

刀夜「あ、すいません。前に話しましたっけ?」

十代後半の少女「そうじゃない!……そうじゃ、ないんだ」

刀夜「えーっと……?」

十代後半の少女「私は、そなたがその女性の話をする度、胸が――」

刀夜「はっはっはー、おじさんをからかうもんじゃありませんよ。ご婦人の言って良いジョークではない」

十代後半の少女「冗談、冗談か……そうだろうな、そなたにとっては――」

刀夜「あのー?」

十代後半の少女「……だが!それでも私は構わない!」

十代後半の少女「質の悪いジョークであっても!私にはっ、そなたが――!」

刀夜「……ちょっ!?ダメですって!私には妻と息子が!」

十代後半の少女「……大丈夫だ。森を救った英雄殿の子であれば、大事に育てられよう!」

刀夜「そういう問題じゃないですってば!確かにそっちも気になりますけど!」

十代後半の少女「それにホラ?息子さんにも弟か妹が居た方が喜ぶだろう?」

刀夜「当麻が?いやぁ、……どう、でしょう?」

十代後半の少女「幸い我が一族には『好きな相手へ幸運を与える』ギフトを授かる身だ!なので兄妹を作れば、その子が息子さんの不幸を解決出来る!」

刀夜「そ、そうでしょうか?」

十代後半の少女「その通りだ!だからこれは決して浮気などではない!大切な一人息子を救うためなんだ!」

刀夜「な、ならしょうがない、ですかね?当麻のためだったら!」

バードウェイ(???)「――と、少し待て。いや大分待とう、大馬鹿者の父親」

刀夜「えっと……?」

十代後半の少女「はい……?」

バードウェイ「『誰だっけ?』みたいな顔をするんじゃない!ずっと居ただろうが!少し前にも席を譲ってるし!」

刀夜「あぁうん憶えてますよお嬢さん!現地の子でしたよね?」

バードウェイ「貴様の息子の将来の嫁のレイヴィニア=バードウェイだっ馬鹿者がっ!!!」

バードウェイ「ずっと居たぞ!貴様がこっちに連行されてから、直ぐに追い付いたわっ!」

バードウェイ「森の中ではゴブリンに襲われそうになった時にも助けたし!オークにアッーされそうになったのも助けてやってたんだよ!」

バードウェイ「つーかほぼ横に居ただろ!?なんだ貴様ら!?代々尽くす女はスルーする異能でも拗らせているのかっ!?」

刀夜「あー、そうなんだ?ありがとうございました」

バードウェイ「ん、あぁいや別に恩は高く売っておくつもりだったから――じゃ、ないっ!」

刀夜「ちょ、首がっ!?首が絞まってますよ!?」

バードウェイ「あの馬鹿者共がさっさと貴様を見限って去った挙げ句!加齢臭臭い親父の世話を任せられた身にもなってみろ、なあぁっ!?」

バードウェイ「しかも見捨てて帰ろうとの提案を蹴って、最後の最後まで面倒を見るわ!」

刀夜「い、良い事じゃないですか!人助けですよっ!?」

バードウェイ「知らんし、興味もない。破傷風拗らせて死ぬのも、コイツらにしては『弱肉強食』なんだろう?放置すれば良かったじゃないか」

バードウェイ「そもそも破傷風自体、Tetanus bacillus――破傷風”菌”が体内へ入って神経毒を生む仕組みだ」

バードウェイ「言ってみれば連中の大好きな『自然と一体化して栄養になる』んだぞ?それを否定するのは酷な気がするがね」

刀夜「や、でも別に生きれるんでしたら生きた方が得じゃね?みたいなですね」

バードウェイ「そもそも世界は輪廻を繰り返している、という考え方自体がおかしいんだよ」

バードウェイ「この宇宙が誕生した時に在ったのは水素とヘリウムだけ。ビッグバンで爆発的に広がり、濃度の濃い薄いで密度に変化が生じて重力が生まれる」

バードウェイ「その後、重力によって物質が圧縮されたり、星が限界まで押し潰されると希土類を初めとした鉱物が生まれるんだ。最初からあった訳じゃない」

バードウェイ「地球が生まれるのですらたった46億年前、原初の生命が産声を上げたのは36億年前だという説もあるがね」

バードウェイ「『たった一つの種子から全ての命がリンクしてる』証拠もなく、同時多発的に生まれた兄妹達を糧にしなければならなかったろうし」

バードウェイ「それに原子核の中の陽子の寿命は10”溝”年。10の32乗のも年月を経れば崩壊してしまう運命が待っている」

バードウェイ「原子を構成する物質が消えれば、全てのものは無へ帰すというのにな」

バードウェイ「万物が姿形を変えて円環になっているという『幻想』は、無知な人間の妄想に過ぎんさ――さてと」

バードウェイ「いいから帰るぞ。今から戻れば顔ぐらいは出せるかも知れんからな」

刀夜「あとキミ、当麻の嫁っつったけど、レッサー=チャンさんって娘さんがもう既にエントリーしててだね」

バードウェイ「ホンッッッッッッットッに!どうでもいい所ばかり耳ざといな貴様らは!どういう教育を受けてきたのか、あ?」

刀夜「……あの、ウサギの前足っぽいロッドがグリグリと当たってるんですが……」

バードウェイ「『Choose whether to return or to die? (帰るか死ぬか、選ぶといい)』」

刀夜「……待って下さいよ!まだこっちで話す事もあるし、戻ったら戻ったで手続きとかしなくちゃいけませんから!」

バードウェイ「――なら一人で帰るとしよう。なぁに心配はいらないさ、『戦士として立派な最期だった』と伝えてやるから」

刀夜「した憶えがありませんが!?でもちょっと男心に惹かれるものがあるフレーズですなっ!」

バードウェイ「嫁と馬鹿息子には『現地で年上のババアを捕まえてヨロシクやってた』と」

刀夜「それ伝えると本当に立派な最期になっちゃいますから!主に詩菜さんの手によって!」

バードウェイ「それが嫌ならさっさと帰るぞ。種としてとうの昔に終った連中の面倒など見てられんよ」

刀夜「……いやいや、バードウェイさん、私の本業を舐めてもらっては困ります!」

バードウェイ「……ほぅ?面白い事を言うな、親子揃って笑えんジョークが好きだと見える」

バードウェイ「この私へ対して、どうにかするだけのジョーカーを君が持っているとでも?……はっ、馬鹿馬鹿しい。寝言は寝てから言い給え」

バードウェイ「そもそもだ。取引というものは相手が欲しいカードを持っていなければ話にならん」

バードウェイ「うだつの上がらない加齢臭臭いサラリーマンに、一体何が用意できると言う言うんだ加齢臭臭い?」

刀夜「……なんか加齢臭臭い連呼されて、スタン○使いみたいになっちゃってますけど――これを」 ピッ

バードウェイ「携帯電話がどうし――まさかっ!?」

刀夜「確かにあなたはお強いのでしょう、えぇ。片手で私を振り回す時点で、ただの子供な訳はありませんからね」

刀夜「――ですが!あまり大人を舐めるなよお嬢さん?こういう戦いも出来るんだ!」

バードウェイ「……」

刀夜「言葉も出ないだろう!その写真は当麻の小学生の頃の写真だ!レアものだぞ!」

刀夜「ほーら、他にも中学生の時とか!少しグレてた頃の写真だってある!」

刀夜「これが欲しければせめてもうちょっと滞在を許して下さい!あと妻にはさっきのはナイショでお願いしますっ!」

バードウェイ「あー……その、なんだ。人助け、なんだよな?」

刀夜「は、はい、人助け、ですね」

バードウェイ「ならまぁ、少しだけなら?」

刀夜「ありがとうございます!」

バードウェイ「……ちなみに聞くが、これ以外にもあったり?」

刀夜「当麻が詩菜さんのお腹に居た頃から、一眼カメラで撮りまくりましたが何か?」

バードウェイ「――よし!ならばさっさと片付けて行こうか!人助けをするのに理由はいらないしな!」

刀夜「えぇ全く!なんか釈然としませんが!」

十代後半の少女「あの……私は?私の恋心はどこへ行けばっ!?」

バードウェイ「墓場まで持っていくと良い。なんなら手を貸そうか?」

十代後半の少女「……すいませんでした」

刀夜「よーし!父さん頑張ってお仕事してるからな、当麻っ!」

刀夜「何か忘れてる気もするけど!まぁそれは考えない方向で一つ!」

バードウェイ(ダンウィッチの調査……本職放り出して、減給で済めば良いけどな)



刀夜「詩菜さん違うんだよ!?これは浮気じゃなくって――そう、敵の弁護士の陰謀だ……ッ!!!」 ~祝祭のウンディーネ~ -完-

――『ヤドリギの家』教団本部 食堂

レッサー「――って展開になってると思うんですがねぇ、今頃」

上条「なってねぇよ!人の父親をそんな異世界ファンタジーさせてんじゃねぇ!」

レッサー「まぁ、バードウェイさんは計算高い割に面倒見も良いですから、途中でほっぽり出すのはないと思いますよ」

上条「父さん……一体どこで何やってんだろうなぁ。あの女の人に連れられてトラブルに巻き込まれてんだろうけど」

レッサー「恐らく私の想像とそう大差ない面白展開になってる筈ですが――血として!」

上条「おっとレッサーさん、それ以上俺のDNAをDISるのは止めて貰えるかな?」

上条「最近は”血”の一言でアレコレ片付けられる傾向が強いが、これ以上俺の心を折らないで……!」

レッサー「最近じゃ事実を正確に伝えたり、誤りを指摘するとヘイト呼ばわりされますからねぇ――と、ソース取って貰えますか?」

上条「……お前の方が位置的に近いけどな、ほれ」

レッサー「あざーす」

上条「お前もお前でダメな日本語ばっか仕入れてくるねっ!」

レッサー「いやいや、語学で大切なのは『生の会話』ですんで」

上条「ま、一理あるな」

レッサー「辞書の例文とか読んでも、極めて穏当なものしか載ってないんですよね、これが」

レッサー「書類書く時や公式な場では相応しいんですが、それ以外じゃちと堅苦しいですよね」

上条「まぁ、それはそうかもな」

レッサー「なので2c○で浪○を買ってですね」

上条「そこまでする必要はないよ!?明らかに書き込む気満々じゃねぇか!?」

レッサー「○人は『アフィだ!金儲けなんて許せない!』って言わないんですかねぇ?」

上条「サーバーには維持費が必要だ、ぐらいは流石に分かるだろ……」

レッサー「ま、潰したいと思っている特定層は居るでしょうが、今更手遅れでしょうしね」

上条「その話はどうでもいいよ!黙って飯を食おうか!」

上条(――怒濤のメシ作りが終り、おばちゃん達を含む俺達は食堂で食事を取っている)

上条(メニューは自分達で作った残り。量は……まぁ少し足りない気もするが、余らせるよりはマシだろうか)

上条(ちなみに一番人気メニューは『大豆マヨネーズのポテトサラダ』という謎の代物だった)

上条(このマヨネーズはアレルギーや肥満防止のために卵を不使用……なん、だが、まぁ味はお察しとか)

上条(他の料理もまぁアレなんだけどな!流石イギリス飯!舌が痺れる憧れる!)

レッサー「……はて?今誰かがブリテンを貶したような……?」

上条「ごめんなさい、多分それ俺です」

レッサー「あ-、分かります分かります。外人のロ×は可愛い子多いですしね」

上条「惜しい!三大欲求カテゴリは当たってたけど、そっちじゃなかった!」

レッサー「ブリテン飯に関しちゃこんなもんですよ?あ、なんでしたら今から私が作りましょうか?」

上条「12時間煮込む謎料理は余裕がある時にしてくれ。あとアレ料理方法少しアレンジすれば、化けると思うが」

テリーザ「あの、お疲れ様でした?ご苦労様でした?――で、合ってます?」

上条「日本じゃ前の方が多いですね」

レッサー「ですが日本語的には『ご苦労様で御座いました』が正しいらしいですけどね。逆に失礼に当たるんで、わざわざは使いませんが」

テリーザ「本当に助かりました。前からもう、人手が足りなくて足りなくて」

上条「テリーザさんは助祭?なんでしょ。なのに食事まで作るんですか?」

テリーザ「お仕事は信者の方や体験入信の方のお世話が殆どですよ。助祭には就かせて貰っていますが」

レッサー「助祭そのものが『信徒の中から選んだ世話人』を指す場合が多いですからね。てかいつもこんなもんで?」

テリーザ「お恥ずかしながら、その人手が……」

上条「手伝って貰えばいいんじゃ?」

テリーザ「えぇはい、皆さんからお金を支払ってらっしゃるので、『手伝いなんかするか!』みたいな」

レッサー「あー、お客様なんですか。居ますよねーそーゆーヒト」

上条「……じゃなんで俺達に」

テリーザ「以前『N○と言えない日本人!』という本をですね」

上条「間違ってねぇけど、少し言葉を選んで欲しかったな!」

レッサー「ついでに言えば日本人、『NO!!!』なんて言いませんしね」

テリーザ「だ、大丈夫です!今は少しだけローテーションがおかしくなってるだけで!今新しく信者の方に手伝って貰う筈ですから!」

レッサー「思った以上にやっつけですが、そこまでしなくてもおばちゃんズ増やしたらどうです?」

上条「おばちゃんの信者を増やせって?どんな勧誘しろっつーんだ」

レッサー「ではなく、先程伺った所では彼女らは信者ではなく、近く民家からの通いだそうで」

上条「……なんでまた?」

テリーザ「さぁ、なんででしょうね?」

上条・レッサー・テリーザ「……」

上条「――ってお前中の人なのに知らねーの!?」

レッサー「上条さん、敬語敬語ー」

上条「お前も設定忘れてんぞー?」

テリーザ「わたしが悪いんじゃなくてですね、その、お手伝いして頂いていた方達が急に居なくなっちゃいまして」

テリーザ「作って下さってたインド料理、皆さんに大好評だったんですけどねー」

上条(インド料理?居なくなった?)

レッサー「(話を合わせて)」

上条「(……あぁ)」

レッサー「へー、そりゃ残念だったですねー、兄さん?」

上条「だな。俺達も食べてみたかった」

テリーザ「上条さん、ご兄妹でお料理得意ですものね。やはりそちらへ?」

上条「少しですけど調理関係に興味があったりするんで、その料理にも興味津々だったりします」

テリーザ「ナンって言う平べったいパンと、そこへ挟んで食べるスープみたいな感じで。それはもう何種類も作って下さってたんですよ」

レッサー「インド北部、世界に広まってるタイプのインド料理ですな」

テリーザ「あ、調味料残ってるけど見ます?」

レッサー「あるんですか?」

テリーザ「えぇ私物の幾つかがそのままで。急なお話だったんですねー」

上条「見せて貰えるんだったら、それっぽい風の料理も出来るかも知れませんよ?」

テリーザ「本当ですかっ!?い、今取ってきますから!」 ガタッ

上条「そんなに走らなくても――と、行っちまったか」

レッサー「……上条さんの料理スキルが、フラグ建てる以外で始めて有効に使われている……!」

上条「確かに――じゃねぇよ!薄々気づいてはいたけど!何か釈然としないな!」

テリーザ「――と、お待たせしました。これです、これ」

上条「缶ですね。コリアンダー、クミン、カルダモン……あぁ、これだったらスープカレーが作れます」

テリーザ「……あのー、もし良かったらなんですけど」

上条「あぁ作るのは別に――」

レッサー「――構わないんですけど。私達が勝手に使っても良いんでしょうか?えっと、そのIndianの人達に断りもなく」

テリーザ「チャンドラーさん達、前から自由に使っていいって仰ってましたし……ただその、インド料理をカレー粉なしで作れる人は、ですね」

レッサー「職人か本場の人、もしくは好感度狙いで料理憶えてる人ぐらいしか居ませんよねー?」

上条「ねぇレッサー?俺、その中だとどれに分類されんのかな?」

レッサー「まぁそこら辺の仕込みは兄さんと私でちょいちょいとするとして。ってか何人分ぐらい作れば良いんですか?」

テリーザ「大体寄宿舎に泊まってる方は100人ぐらいでしょうかねぇ。病院の方は数に入っていませんが」

上条「そういや入院してる人も居るんですよね?……姿を見なかった、ような」

テリーザ「あちらでは別に厨房がありまして、そちらで入院食を」

レッサー「あー、素人が作って良いもんじゃないですからねー」

上条「てかこっち来てから司祭?さんとかに見かけた憶えがないんだけど」

テリーザ「いやあの、わたし達四六時中きちんとした正装をしてるって訳じゃないんで……」

レッサー「あぁそれじゃ、気づかなかっただけですれ違ってたりはしてたんですかね」

テリーザ「かも知れませんねー。でも大体は病院の方で奉仕活をされているので、ミサでもない限り直接お話しする機会はないですけど」

上条「ミサねぇ」

テリーザ「明日の午後から第二聖堂へ司祭様がいらっしゃいますので、お二人とも行かれてみては如何でしょうか」

レッサー「その言い方だとテリーザさんは参加なさらないんですか?」

テリーザ「私はその時間、子供達のお世話をしないといけませんので」

上条「本当にお疲れ様です。てか人、増やせないんですか?」

レッサー「チャンドラー某さん達みたいに厨房班として、信徒の方から割り振って貰うとかは?」

テリーザ「話してはいるんですけど、中々上の方は現場の苦労を分かって頂けないようでして……」

レッサー「あー……だからIndianの方、他に稼ぎ口があってそちらへ流れた、と?」

テリーザ「そうなんですよっ!折角仲良くなったのに!わたし達には挨拶すらしてくれなかったんですから!」

テリーザ「そりゃお金も大事てすよ?移民だって立場も分かりますし、わたし達よりもご苦労されてるのは知ってますけど!」

テリーザ「せめて!仲良くなった子供達にお別れを言うぐらいの時間はあったんじゃないですかねっ!」

レッサー「――”なかった”のかもしれませんけどね、時間」

テリーザ「はい?」

上条「ま、そんな訳でインド”風”料理を作るのは任せて下さい。ただし仕込みがあるんで、明日の夕飯ぐらいになりますけど」

テリーザ「あ、はい。お願いします」

レッサー「ミサに出てからなんで。それまでどうしましょうか?」

上条「他の施設の見学と、時間余ったらテリーザさんのお手伝いでいいんじゃね?」

レッサー「また直ぐに新しい女性を口説こうとするなんて!幻滅しましたっ!」

上条「はいそこ初対面の人に嘘教えない!大体俺が手を出した事はない!」

レッサー「助けられた後に人生踏み外す方が続々と」

上条「――じゃ、テレーザさんまた明日!お休みなさいっ!」

テリーザ「あ、はい、おやすみなさい……?」

レッサー「すいませんねー、ウチのはテレ屋さんですから」

上条「お前もオッサンみたいな事言ってないでさっさと行くぞ!」

――寄宿舎 404号室

上条(――と、テリーザさんと別れた俺は割り振られた部屋にやって来た)

上条(404号室。4階の階段から近い場所にある角部屋だ)

上条(作りは完全にビジネスホテル。日本のと違って簡易電気コンロや冷蔵庫はない)

上条(ダブルベッドにトレイ兼用シャワールーム。小さな玄関がついてるのはちょっと驚いた)

上条(取り敢えず街で買っといた水とお菓子、簡単な筆記用具――あぁ後、携帯の充電もしとかねーとな)

レッサー「あ、先にシャワー浴びちゃいます?それとも一緒に?」

上条「じゃ一緒が良いな――ってバカ!?なんでレッサー居んの!?」

レッサー「気づくの遅っ!?最初からずっと居ましたのに!」

上条「お前の部屋は隣ですよ?ゲラゥッ!!!(Get out)」

レッサー「……流石に英語がお達者になりやがって幸いですよ、えぇもうご立派な巻き舌で!」

上条「お陰様でパニック映画で使う各種スラングと悲鳴の類は憶えたぜ!使う機会も結構意外にあるよ!やったね!」

レッサー「その空元気が素敵ですよっ!シャインっ!」

上条「……空元気っていう名の現実逃避だけどね!」

レッサー「なんつーんですかねぇ、こう、追い詰められてる上条さん見ると超楽しいんですよ」

上条「発想が人類のそれじゃねぇぞド外道め!」

レッサー「つーか上条さん!えぇ上条さん!カミジョーさーーーーーん!」

上条「なんで五七五っぽく言うの?最後ニュアンスが『消臭○』になってたけど?」

レッサー「私がね、何の考えも無しにここまで来たとお思いで?だとすれば甘いですよ!カレーの甘口ばりに甘いですから!」

上条「カレーの甘口は別に『辛さ抑えめ』であって、糖度が高いって訳じゃない……」

レッサー「まさか――私が上条さんを『兄さん(はぁと)』って呼んで疑似兄妹プレイをするためだけに、身分を偽ったとでも!?」

上条「お前ならやりそう。つーかやってる真っ最中じゃねぇか」

レッサー「……兄妹!えぇ兄妹!兄妹であればなんだって許されます!そう――」

レッサー「――ひとぉつっ屋根の下にお泊まりする事だってね!」

上条「――あ、俺今から部屋変えて貰うように頼んでくるわー」

レッサー「待って下さい!?本気で変えるってどういう事ですか!?」

レッサー「そこはホラっ!ラブコメでよくある展開のように、修学旅行で女子部屋に来た男子のように!」

レッサー「『あ、先生が見回ってるから帰れない!だったらしょうがないよなー?』ってなぁなぁで済ませる所じゃないんですかねっ!?」

上条「フィクションな?お前が拘ってるのはフィクションだから許されるんであって、現実でやっちゃうと気まずいよね?」

上条「昼間、俺がラッキースケベで壮絶な自爆かましたように、すればする程相手からは嫌われるからな?」

レッサー「いやぁソーズティさんの事であれば、フリだと思いますけどね」

上条「ないない。だったらもうちょっと俺の人生に潤いがあったっていいもの!」

レッサー「『恥ずかしい所を見られてるのに気持ちいいビクンビクン!』的な?」

上条「黙れ恥女!お前を基準に物事を計るな!」

上条「つーか別の意味で身の危険しか感じねぇんだよ!主に恥女に狙われる貞操の危機的な意味でなっ!」

レッサー「あ、なら私が添い寝して恥女を追い払ってあげましょうか!ささ、お早く!」

上条「そっかー、それじゃお願いしよっかなー――なんて、言うかッ!」

上条「ルパ○から犯行予告来てんのに、ガードマンに不二○ちゃん雇うやつはいねーよ!だってアイツらグルだもん!」

レッサー「いやでもしかし、ここは敵地ですよぉ?いつ何時、敵から襲われるか分かったもんではありません!」

上条「ま、まぁな?それには一理ある」

レッサー「なので私が上条さんの貞節が穢される前に頂こう、と!」

上条「やっぱり理はなかったな?つーか俺の周りは敵ばっかじゃん!?どうしてこうなった!?」

レッサー「や、私も初めてなので特殊なプレイは明日以降にして頂ければ幸いですが」

上条「だからね?お前はもう少し女性としての慎みをだね」

レッサー「服を着たままの方がお好きで?」

上条「全裸で迫ってこられるよりは、まぁ――ってそんな話もしてねぇよ!」

レッサー「――魔術師的な盗聴・盗撮は仕掛けられていません」

上条「大体お前は――って何?何の話?」

レッサー「いえ、ほらここまで騒いだら『何やってんだコイツら?』って疑問に思うじゃないですか」

レッサー「なので術式なり霊装を起動して確かめる――てぇのが、人間の心理だと思うんですよ」

上条「……成程。それがないって事は多分盗聴はされてないだろう、って事か」

レッサー「はいっ!ですので今の内に!」

上条「だな」

レッサー「あ、先にシャワー浴びちゃいます?それとも一緒がいいですかね?」

上条「会話をループさせてんじゃねぇっ!」

今週の投下は以上となります。お付き合い頂いた方に感謝を

刀夜編完結……!


そういや写真があるはずなんだよな
原作で実家が全くといっていいほど絡まないからアレだけど絡めばそこから過去をいろいろ推察できるのに私情ではほとんど学園都市出ねーもんな上条さん

刀夜さんを見ていると、当麻の右手というのは本当に「ただの道具」なんだなあ、と実感します。
自分のやりたいこと、隣にいる人を助けたいという欲望を叶えるための、道具の一つ。
本当に核となっているのは、この親から受け継いだ、向こう見ずで熱い血なのだ、と。

あとフラグ。

乙です



十代後半の少女「幸い我が一族には『好きな相手へ幸運を与える』ギフトを授かる身だ!なので兄妹を作れば、その子が息子さんの不幸を解決出来る!」

刀夜「そ、そうでしょうか?」


不幸な未来しか見えないんですけど

>>146
ランシスさん編の次回予告でランシス×アリサ……
ついでに言えば最近のホラー・パニック映画じゃサービスカットは無い傾向が強いです……あぁ思い出した
こないだですね、『51』ってパニック映画見たんですよ。内容はETとエイリアンとインビジブル足して10で割ったような感じ。3じゃなくて10で
で、そのパッケージ、”金髪ねーちゃんが半裸で触手的なものに汁ダラダラ”のパッケージでして
http://www.amazon.co.jp/51%EF%BC%BB%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%95%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%BB%E3%83%AF%E3%83%B3%EF%BC%BD-DVD-%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%82%A4%E3%82%BD%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%AD%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%B3/dp/B005OPIM2O
――が、見たら『そんなシーン一秒たりとも存在しなかった』ってオチで、逆に超面白かった
いや、確かに金髪ねーちゃん出てくるのは来るんだけど、触手持ってる奴とは遭遇しない上、剥かれる事もないし
そいつも別に触手をメインに使ってる訳でもなくて、ただのデザインだけっていう素敵な展開でしたよ、えぇ


>>147
上条「お、おぅ?壁ドン?流行ってんのそれ?」
上条「カップメンのCMで新おにぃがやってんのしか見た事ないんだが……じゃちょっと知り合いにやってみるわ」

上条 ドンッ!
麦野「カウンターで腹パンっ!」
上条「あべしっ!?」

上条 ドンッ!
絹旗「きゃーやだー超こわいじゃないですかー?わたしを超追い詰めてどうするつもりですかー?」
上条「分かってるよね?企画の意図を誰よりも正確に理解してるよね?」

上条 ドンッ!
フレンダ「ちょ――何!?何なのっ!?何だって言う訳よっ!?」
フレンダ「てゆうか顔近っ!?近いって訳っ!」
フレンダ「文句があるんだったら勝負つけようじゃないっ!ただもうちょっとだけ離れてからねっ!」
上条「意外と乙女……」

上条 ドンッ!
滝壺「……」 ボー
滝壺「……」
滝壺「……?」
滝壺「……ん」
上条「反応が遅いなっ!?……まぁこれはこれで保護欲を掻き立てるが!」

上条 ドンッ!
佐天「きゃーーーっ!?壁ドンきたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
佐天「マシですかっ!?現実にやる人初めて見ましたよっえぇっ!結構近けーし圧迫感がバクバクだ!」
佐天「つーか写メ撮って良いですかっ!良いですよねっ!初春に自慢しないと!」 パャシッ
上条「この流れだと初春さんからビリビリにバレて俺が抹殺される展開だなっ!」

上条 ドンッ!
インデックス「なにとうま?何かくれるのかな?」
上条「……あぁ、うん。お前そっちのアニメは見ないもんな」
上条「……ただインデックスの場合、『分かって』そうしてる可能性もあるけど」

上条 ドンッ!
バードウェイ「お――何だ貴様!何のつもりだ馬鹿者が!?」
バードウェイ「下らん!実に陳腐だなぁ、上条当麻?」
バードウェイ「このような見下げ果てた行為に価値を見いだすとはな!」
バードウェイ「何をするつもりかは知らんが!やってみろこのクズが!」
バードウェイ「……」
バードウェイ「……その、早く……しろ?」 プルプル
上条「逃げないの?言ってる間にドーン!とか出来るようね?ボスならね?」
上条「なのになんでお前目ぇ瞑って顎上げて、つま先立ちになってんの?」
上条「これ完全にキスしちゃう格好だよね?受け入れ体制万全だよね?違う?」

上条 ドンッ!
円周「ん――ちゅっ、じゅ、ちゅ、ん……んぅっ、ちゅっ」
円周「――んむ、んーーーーーーちゅっ」
円周「……もう、お兄ちゃんってばエッチなんだから!」
上条「お前にだけは言われたくねぇよ!?……なんか汚された気がする……!」

上条 ドンッ!
シェリー「あ、悪い。今ちょっと忙しいから後でな?」
上条「ドライだ。予想通りっちゃ通りだけどさ」
シェリー「その……あと、出来れば空いてる方の手は肩を掴んだ方がいいと思うわよ?」
上条「意外に知ってたな!?イギリス女子寮の悪影響がここに……!」

上条 ドンッ!
レッサー「よっしゃ来た!今脱ぎますから暫しお待ちを!」
上条「企画が違げぇよ!脱線しまくってるよ!」
レッサー「いやでも私が見たシチュではこの後体育倉庫にですね、連れ込まれてアンアン言わされ――」
上条「それエロゲな?なんでバレる可能性あんのに学校でおっ始めてんの?バカなの?」

上条 ドンッ!
ベイロープ「きゃ!?」
上条「……」
ベイロープ「……きゃ、キャーリサ王女殿下は意外にフランクなのよ――って!何笑ってるんだわ!」
上条「アドリブに弱い」

上条 ドンッ!
フロリス「っとぉ!?なに、どーしたジャパニーズ!?敵襲か……ッ!?」
フロリス「つーかビックリさせんなよー、何様だーあー?」
上条「ベタベタはしてこない……猫をビックリさせた感じ?」

上条 ドンッ!
ランシス「はい?」
上条「壁ドン自体にあんまり興味はない、かな?」

上条 ドンッ!
鳴護「な、なにかな当麻君?お顔が近いんだけど……?」
鳴護「っていうか、そのっ!インデックスちゃんにわ、悪いよっ!良くないってば!」
鳴護「……こ、こういう事するんだったら、その、冗談とかじゃ、良くないし!」
鳴護「もっときちんとした感じで!その、順番とかあるんじゃないんでしょうかってあたしは言いたいですっ!」
鳴護「うんっ、だよねっ……そう、だよ……?」
鳴護「だから、その、言ってくれないと、あたしは分かってあげられないよっていうか」
鳴護「……うん、あたしも、ずっと前から――」
上条「なんだろうこの、女の子女の子した感じ……!」

上条「以上。実験に参加した女性達にはネタばらしをして、ぶん殴られるか責任を取れと迫られたんだがコノヤロー」
(※尚、台詞と内容は某所でやってる人気投票を”やや”反映しています)

みんな安定した反応だなー

……うん、分かってるのよ?私、このSSじゃヒロインどころかいつもチョイ役だし。
どの話でも、何となくアイツに避けられてるし。
とうとう人気投票でもランク落ちちゃったし。
でも、さ。(キョロキョロ)周りにいないから言うけど―――やっぱり羨ましい、わよね。壁ドンなんてさ。
いや、オチがどうなるかくらい、自分でも想像つくわよ?
どうせ「ふにゃ~」で「ビリビリー!」で「どわあっ!?」(パッキーン!)だもんね。パターンよパターン。
それでも……うん。
素直になれなくて暴力的で常識無いのも自覚してるけど。
上でやられてる子たちと比べても、……その、気持ちで負けてるとは思えない。
やっぱり私は、アイツ、が好―――

「おー、なんだこんなとこにいたのか。いや実はお前に試したいこt」

「にゃあああああああっっっ!?!?!?」 バリバリ ドーーーンッ

「学園都市の外壁吹っ飛ばすくらい、上条さんのこと嫌いですかっ!?」

ディ・モールト、ディ・モールト良いぞ!
リクして良かった!
わざわざ乙ですありがとうございました

個人的にはシェリーが顔を赤らめて照れた感じならパーフェクト

>>170
タイムテーブル見るに7/20(第一巻)→10/19(22巻終了時)、新約のグレムリン東京湾決戦が11月らしいんで、
まぁ過去がどーたら以前に生きるので精一杯じゃないかと
ちなみにこのSSは劇場版から約一年後の話となっています――本当に?

>>171
レッサー「上条さんのお父様ならこのぐらいは言ってくれる筈」
レッサー「ただし善意でやっても、結果的に歴史へ名を残すような大失敗もままある話でしてね」
レッサー「合成の誤謬は経済だけではなく、政治や国際情勢でもしばしば起こり得ます」
レッサー「善意は善意でいいですし、そこを疑うつもりはもありませんけど、青木大和(仮名・小4)さんみたいなのは少なからず居る訳で」

>>172
ありがとうございます

>>173
レッサー「上条さんのお父様ならこのぐらいは言ってくれる筈……ッ!(震え声)」
レッサー「いや流石に手を出したりはしないんじゃないかなと思わなくも無かったりする気がしないような感じがしないでもないかも知れません」」
レッサー「血継限界・フラグ乱立というカルマを持っているので、手を出さなくとも……男には負けると分かっていても戦わなく(以下略
(※まぁ――遺伝って罪だよね (`・ω・´))

――『ヤドリギの家』教団本部 寄宿舎404号室

レッサー「まぁこちら側的には安全とは言え、そちら側にまでは踏み込めませんからね」

レッサー「どんだけ魔術的な要素を排除したとしても、電子的なマイクとかあったら台無しですよ。台無し」

レッサー「なのでフォローを適切なお願いしたいな、と」

上条「フォローって言われても、俺別に盗聴のスペシャリストじゃねぇからな、あー……探すだけは探しとくか」

上条「つっても、ピンホールカメラの穴なんて簡単に見つかる訳がないし……一応飾ってる絵の裏側とかも見とく?」

レッサー「あぁそれは止めとい――いや別に何でもありませんよ?」

上条「ネタだよね?ビジネスホテルに多い怪談的な話じゃ無いんだよね?」

レッサー「臨!兵!闘!者!皆!陣!烈!海!王!」

上条「わぁいっ本格的な九字印だねっ!レッサーさんってば多芸なんだからーあははー!」

上条「てかお前、最後『烈海○』になってなかったか?確かに人智を超えてるが、召喚して応えてくれる程暇人じゃねーぞ?」

レッサー「『ボクシングがしたいです……!』」

上条「安○先生呼ぶな呼ぶな!確かに何事もなかったかのように帰って来そうだけどな!」

レッサー「いや流石に今のはネタですがね。曰く付きのホテルだってーのはホントですよ、えぇ」

上条「……まぁ、なぁ?失踪者まで居るんだから、下手すりゃ前使ってた部屋かも知れないし」

レッサー「人の生き死にだけであれば、病院なんかスッゴい事になってますからね。気にするだけ無駄ってぇもんじゃないかと」

上条「つーかさ。前々から気になってんだけど」

レッサー「先生は女性ですよ?」

上条「そ、そっか!話が捗るよねっ!――ってそんな事じゃねぇよ!」

レッサー「スリーサイズ教えて差し上げたい所ですが、本人曰く『可変』だそうで」

上条「なにそれこわい――じゃなくてだ。マジな話、幽霊って居んの?」

レッサー「を、使役する魔術や霊装は結構ありますよね。日本でも犬神なんてそうでしょ?」

上条「あー……犬をお腹空かせて殺して、その恨みパワー的なので、って奴か」

上条「あれも犬を殺してんだから、怨霊的なもんを使ってる……」

レッサー「正しくはアレ、単に貨幣経済が村落共同体へ入り込んだ弊害なんですけども。ま、オカルトって良いですよねぇ」

レッサー「『実はこれこれこういう魔術があったんだ!』でまだ救いもありますが、そうじゃなかったら――」

上条「何々?またなんか秘密にアレコレがあるんか?」

レッサー「他に『黄金』系で有名なのは、罪人の手を切り落として作った『栄光の手(Hands of Glory)』って霊装でしょうか」

上条「……バードウェイんトコ、えげつない霊装作るんだな……」

レッサー「あ、だから上条さんに固執しているんですねっ」

上条「やっだなぁボスがそんな事する訳な――」

上条「……」

上条「――さて、盗聴器を探そうか!」

レッサー「『やりかねないよなあのロリっ子なら!』とお後が宜しいようで――さてさて」

レッサー「てか携帯で調べればいいじゃないですか、盗撮カメラ?」

上条「無茶言うなよ。シャットアウラから預かってるヤツだけど、流石にそんな面白機能は無い」

レッサー「ではなく。おや?ご存じでない?」

レッサー「携帯電話のカメラは赤外線を映すんで、暗視カメラが起動していれば感知出来るんですよ。こう、ピカーッと」

レッサー「テレビのリモコンを押してる所を見てみると、光ってるのを確認出来ます」

上条「へー?良く知ってんな」

レッサー「ラブホで鏡の裏に仕掛けられてる場合が多いので、一度試すのをお勧めしますよ。いやマジでやっとけ」

上条「使う機会が……!てかちょっと見直したのに、素直に褒めたくねぇ雑学だな!」

レッサー「ただし赤外線以外は感知しないので、暗視カメラ以外には通用しない――と、ありませんかね」

上条「まぁ灯りも消してねぇし、今から起動してるってのも有り得ない話だな」

レッサー「てか上条さんこそ、曲がりなりにも学園都市の人間なんですから。こう、超技術でパパッと発見!みたいなのは出来ませんか?」

上条「だから無茶言うなっつーのに。確かにこの携帯は最新式らしいけど、流石にそっちまでは――」 ピッ

上条「……うん?」

レッサー「どうしましたか――っとちょっくら拝見しますよっと……?」

レッサー「アプリに……なんか、ありますねぇ」

上条「……ありますねー、何か」

レッサー「『対盗聴・盗撮監視ウィザード』……」

上条「……起動してみよう」 ピッ

上条「えっと何々……『あなたが今居る場所を選んで下さい』」

上条「『屋外・車内・室内・地下』……室内を選んでと」 ピッ

上条「『次に手にしている携帯電話を床へ一度置き、数秒経ってから天上近くまで掲げて下さい』」

上条「……」 トン……サッ

レッサー「シュールな絵ですなー。暗黒太極拳?」

上条「俺もそう思うが……『続けて携帯電話を床へ置き、両耳を手で覆いでゆっくり10秒数えて下さい。その準備が出来たら”次へ”を押して下さい』」

上条「何の意味が?」 ピッ

レッサー「この場合私はどうな――つっ!?」

上条「レッ――くっ!?」

イイィィィィィィィィィィィィィィィンッ!!!

レッサー「――?」 パクパク

上条「――」 パクパク

上条(喋ってるのに超高い金属音で全然聞こえない!……あ、でもこれ10秒待てば――)

――ィィン…………

レッサー「――えますか?もしもーし?」

上条「……何とか」

レッサー「これ、充分音波兵器にもなりやがりますね。学園都市恐るべし!」

上条「……てかアプリ動かす前にヘルプ見なかった俺が悪いんじゃ……?」

レッサー「『――現在検出中――』と、今のは一体何が?どんな意味があったんですか?」

上条「ちょい待ち。ヘルプ――と、これか」

上条「『このアプリケーションは各種電磁波の感知、並びにマイクロフォンのダイヤフラムを無効化させる効果があります』」

レッサー「”無効化”の”効果がある”って、何か英語を日本語へ置き換えたような感じですね」

レッサー「てかこの時点で大体の単語の意味が分からないんですが、電磁波?航空機の計器が狂うから機内での使用を断られる、のは知ってますけどねぇ」

上条「病院で携帯電話を使うと影響があるから、電子機器は電磁波出してるって事か?」

レッサー「あー、分かるような気がします。無線型だと盗聴・盗撮した後に電波を飛ばす必要がありますから」

上条「そうか。受信機と発信器兼ねてるんだな……また日常生活で要らん知識が……!」

レッサー「私は個人的に借りパクしたい所ですがね、そのケータイ。で、続き読んじゃって下さい」

上条「『ただし日常使われるようなものは自動的に除外されるため、お持ちの機器を損なう事はありません。※1』」

レッサー「こめじるしいち?」

上条「ヘルプの別の項目へ飛ぶみたいだ。多分免責事項じゃね?万が一壊れても弁償しないぞ、とか」

レッサー「アバウトですなぁ、ハイテクの割に」

上条「ヘルプ見ずに動かした俺は何も言えない……と、終ったみたい。『検出ゼロ』だって」

レッサー「なら良し、ですかね」

上条「ええっと、一応※見てみるか?」

レッサー「はい、一応は」

上条「ポチッとな――あれ、テキストファイルが開いた」


無題1.txt
○効果――盗聴・盗撮の感知
○原理――電子機器が発する電磁波の感知。また各種可視不可視光の探知
○要注意――ダイヤフラムを無効化させる際、超音波が出るのでくれぐれも注意して下さい。特に上条さん


上条「……あー、俺ヘルプファイル作ってくれた人に心当たりあるわー」

レッサー「HAHAHA!中々やりますねーっ、島崎信長さんとやら!」

上条「柴崎信永さんな?名前似てるし声も多分そっくりなんだろうけど、あんま突っ込まないであげて、なっ?」

レッサー「てか出番あり過ぎじゃ無いですかね?モブのくせに」

上条「お前が何を言ってるのか、俺には一切分からないな?出番って何?どういう事?」

――404号室 20時頃

レッサー「――ではシャワーは私が先で宜しいでしょうか?」

上条「オルソラばりに巻き戻ってんぞ。宜しくねぇな……あぁいや、浴びるのは自由なんだが、話終ってからにしろ」

レッサー「成程っ浴びない方がお好みなんですかっ!JCの体臭が気になるお年頃ですもんねっ分かります!」

上条「あれぇ?日本語喋ってるのに通じないなー?これは英語で喋った方がいいのかなー?」

レッサー「『Hey, Mike!どうしてユーの寝室には勲章が飾ってあるんだい?HAHAHAっ!』」

上条「バグったの?どうして小ネタを披露し始めるの?」

レッサー「『それはね――ワイフと寝たからに決まってるじゃないか!』」

上条「内容黒いよね?笑えないっつーか、笑っちゃいけないって言うか」

レッサー「『――ところでビリー?どうして俺の寝室に勲章が飾ってあるって知ってるんだいカチャリ』」

上条「『Run away Mikeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeee!?(マイク逃げてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?)』」

レッサー「このジョークのキモはですね、『ブッサイクなワイフが実はNTRていた』という驚愕のオチがつく所です!」

上条「この小ネタ挟む必要あったかな?会話の流れ自体に違和感しか沸かないっつーかさ」

上条「あとMikeどうなったの?アメリカ魔法で『こらっ』ってされちゃったの?」

レッサー「――さて、外部への情報漏れがなくなり、私の小粋なアメリカンジョークが逆転満塁ホームランをした所で本題へと戻りますが!」

上条「そんなにかっ飛ばしたかな?むしろ顔面当てに来てないか?」

上条「つーか別に今の小ネタは誰に聞かれても良くない?」

レッサー「あ、ちなみにホームステイ先のご家庭で家主のおじいさんが、東洋人との初対面で掴みに持ってきて盛大に滑ったという実話が……!」

上条「止めてあげて!?そのおじいさんの失敗談広めるの止めてあげてよう!」

レッサー「後日お孫さん曰く、『相手がキョドるのを見て楽しむ病気なのよ!』だ、そうで」

上条「計算尽くじゃねぇか」

レッサー「で、さっきのどう思いますか?」

上条「サラダが一番美味しかった」

レッサー「そっちじゃないですね、つーか天然モノはこれだから嫌ですよ、えぇ」

上条「ようやくお前がアリサと別のステージへ立ってると認めやがったな!」

レッサー「私は、ほら、『新キャラとして出したらステレオタイプのヒロインよりも大人気で、ヒロインに抜擢!』みたいな?」

上条「ゆき○さんはいいじゃない!5周差ぐらいリツ○先生に勝ったのに、まさかドラマで罰ゲーム喰らうなんて誰も想像しなかったし!」

レッサー「ヴッ○先生の配役が本物のビッ×ってナメてんですか?あぁ?」

上条「映画版はね……うんまぁ、でもあの作品は基本、ナギ○君とカル○君しか見てないし、他は基本オマケ的な感じだから」

レッサー「薄い本の殆どがどっちか主役、もしくはどっちも主役ですからねぇ」

上条「……俺には関係ない話だけど、あぁいうののモチーフにされるんのってどうなんだろうな?」

上条「特にイギリスの皆さんにはアーサーさん女体化の件で何回謝ればいいか……っ!」

レッサー「ちょいお待ちを……んむむむむむっ!」

上条「レッサー?」

レッサー「『あーワシワシ、アーサーやち』」

上条「どっからアーサーさん呼びやがった!?しかも日本語だし!どこの方言だよ!?」

レッサー「『モルドレッドはムラっと来てやったき。反省はしてるちや』」

上条「いや確かにぶっちゃけっとそうなるけどさ!何かホンモノっぽい!」

レッサー「『女体化のぅ。まぁいいちや?ワシ別に関係ないし』」

レッサー「『つかアレやき?今のアーサー王伝説って殆どがワシの活躍と違うちや』」

上条「あ、そうなん……ですか?」

レッサー「『そーそー。ワシ、ローマ皇帝倒した憶えないし、そもそもティベリウスっちゅー皇帝はおらんちや』」

レッサー「『ほら、聖杯知っとるちや?ベイリン卿に取りに行かせたの』」

レッサー「『あれも元々は十字教の聖人譚とわっちゃになって、統合したんちや』」

上条「わっちゃ?ごっちゃ的な意味?」

レッサー「『”カッシウスの長槍”と”廃皇子のキャリス”、あとワシが持ってる”絶対王剣”なんてそのままちやね』」

上条「すいません。意味がよく分からないです」

レッサー「『多分ボンは関わる事になるき、そん時にもう一度教えて貰えばいいちや』」

上条「やだなー、人間そう何度も世界を賭けた戦いに巻き込まれる訳ないじゃないですかー」

レッサー「『それ、強い敵に攻撃した後の”やったか!?”と同じ種類のフラグやき』」

上条「フラグ管理に詳しいなテメー!?てーか設定ぐらい守れよ!」

レッサー「――はっ!?今までは私は一体何を……!?」

上条「訛りのきついじーちゃんになってたよ?君、ホント無駄に多芸だよね?」

レッサー「てな訳で、我々イングランド人はそんなに大した事は思っていません」

上条「意識あったじゃねぇか。把握してんだよな?」

レッサー「円卓の騎士を取り扱った映画は国内外で何本も出ていますし、小説その他は数限りなく。例えるならば!」

上条「な、ならば?」

レッサー「メガテ○が宗教問題へ発展しないとの同じですかねー」

上条「ホンットごめんなさいよっ!ロクな事しやがりませんねっ俺ら!」

レッサー「POKEMO○も中東で『これ偶像崇拝じゃね?』とプチ国際問題になりかけた前科もありますがねぇ。あ、ちなみに」

レッサー「妖怪ウォッ○は『デフォルメしたとは言え、異国の神そのまんま』なんで、さぞや楽しい事になると期待しています!」

上条「輸出されんのかなー、あれ?コロコ○とのタイアップだから、ポケモ○と売り方は同じっちゃ同じだけどさ」

レッサー「悲しいかなアーサー王もそれに近い感覚になってますでしょうか。妖怪さんも元を辿れば神様だって感じでしょ?」

レッサー「アーサー王伝説、確かに私達イングランド人にはそこそこ馴染みも愛着もありますが、まぁ激怒する程のもんでもないかなー、と」

上条「モノによるけど……まぁ大抵は良いポジだし」

レッサー「そもそも、アーサー王とは『十字教が来る前に統治していた”と、される”王』なので、歴史的にそれ程重要視されていません」

レッサー「日本もブディズム伝来してからガッツリやるのであって、神代を長々としたりはしないのと同じですかね」

上条「……成程。仏教は誰それが広めたとか、どんな教えだとか細かく教わってんな」

レッサー「そもそも扱いどうこうで言うんだったら、十字教どんだけ悪役になってると思ってんですか?あとアメリカ政府とCIA」

レッサー「ついでに言えば、30年ぐらい前の映画は必ずソビエトのスパイが必ず問題起こしてましたし。いやはや時代は移ろうもんですなー」

上条「意外と怒ってないようで安心はしたが……そんなに軽くて良いもんなのか?」

レッサー「『ワシは意外と温厚やきね?あ、ただしガッリーとランスローは許さんちや』」

上条「出て来るな来るな。じーちゃんは仕舞っとけ」

レッサー「まぁ流石に『アーサー王はフランス人だった!』みたいな事を、国主導で広報しやがったらぶち切れると思いますけど」

上条「ないない。人様の神話や文化を窃盗するような蛮国が21世紀にある筈がないって」

レッサー「日本人の我慢強い所は美徳だと思うんですが、我慢に我慢を重ねて一線を越えると超危険ですからね」

レッサー「チャーチルも楽勝ムードがプリンス・オブ・ウェールズ沈められて涙目ですし。猫ではなく虎だと自覚を持って欲しいものです」

上条「意味が分からんが……あ、ごめん。話を戻そう」

レッサー「……」

上条「……レッサーさん?」

レッサー「……私は大変な事に気づいてしまいました……!」

上条「またネタなんだろうが、言うだけ言ってみ?」

レッサー「『新たなる光』、全員分のカップサイズは既に言ってしまっていた、と!」

上条「と!じゃねーよ!やっぱりネタじゃんか!」

レッサー「ちなみにユーロトンネルの中でベイロープがDカップだと私は言いました」

レッサー「ですがイタリア国境付近、キャンピングカーの中でベイロープがゲロったのはE!Eですってよ奥さん!」

上条「奥さんじゃねーし。把握も――して、ないよ?うん、全然全然?」

レッサー「これは別に間違いではなく、私が把握していたよりもしっかり育ってやがったのが原因です!勘違いした訳じゃないですから!」

上条「お前は誰に向かって説明したんだよ」

レッサー「『か、勘違いした訳じゃないちやっ!』」

上条「だからアーサー王(仮)は仕舞っとけよ!出来れば棺桶まで持ってってやれ!」

上条「つーかお前でもアニメっぽい声で言われると萌えんのが腹立つな!」

レッサー「魔術師の皆さんは呪文詠唱に腹筋使うので、大変なんでしょうね。きっと」

上条「いやだからそれよりもだ!さっきテリーザさんが言ってたインドの人ら」

レッサー「チャンドラ某さんら、お三人の事ですか」

上条「名前もう少し長くなかったかな」

レッサー「書類上はチャンドラバーブ。ですが呼びづらいので愛称だったり、最初からチャンドラと名乗っていたのかも知れませんね」

上条「『もっと稼ぎの良い仕事が見つかった』、だから居なくなった――」

上条「――テリーザさんへ何も言わずに、だ」

レッサー「との”自称”ですがね」

上条「テリーザさんが嘘吐いてるって?」

レッサー「善良な人であっても私のように嘘を吐きますし、逆に嘘を吹き込まれた可能性もありますよーっと」

上条「そうだな――ってお前今”善良”に自分を含めてなかった?ねぇ?」

レッサー「他にもそのIndianが正真正銘のIndianであった保証もない訳で。ぶっちゃけ不法移民が別の国に成りすますのは常套手段だったりします」

上条「そうなのか?」

レッサー「パスポートもあって無いようなもんですからねぇ。ブリテンじゃ特にパキスタニがIndiaだって偽るケースが多く」

レッサー「……まぁ元々、宗派が違うだけで同じ国であったんですが、分離してから数十年で国力と民度に段違いですからねぇ」

上条「でも今回は失踪した人らに成りすます必要はないだろ?」

レッサー「恐らくは……うーむ、名簿か写真を見たい所ですが」

上条「テリーザさんが知ってるんだったら、こっちで持ってる写真を見せるとか?」

レッサー「私達兄妹の設定をお忘れですか?観光ついでのビジターにしては不自然過ぎます……が、まぁ?」

レッサー「彼女が信用出来ると判断するか、もしくは最後の手段として身元を明かすのは選択肢の一つですなぁ」

上条「前の方は分かるけど、後ろのはなんで?」

レッサー「『私達は国から委託された企業の調査員ですよ』と身バレさせる事で、相手に手を出しづらくさせる感じです」

レッサー「実際にゃ違うんですが、流石に私達まで処分して事を荒立てるのは有り得ません――」

レッサー「――あちらさんに正気が残っていれば、ですが」

上条「……魔術結社なんですよねー、多分」

レッサー「宗教法人の名を借りたブラックな企業だってのは確定でしょうがね」

上条「でもろそれにしちゃ、なんつーかアバウトすぎないか?俺達の管理もそうだし、何か信者や体験入信の区別が付いてないって言うか」

レッサー「信者、信者ねぇ……そっちも気になるんですよ」

上条「何が?」

レッサー「実はさっきのご飯の最中、男女20人ぐらいに聞いてみたんですよ」

上条「お前よくそんな暇あったな?」

レッサー「いえ、ぶっちゃけサボってる間に聞き込みの口実で作っとけ、的な」

上条「後でベイロープさんに伝えとくからな?たっぷりケツを……」

上条「……」

上条(いやでも20人だぞ?20人。捌いた人数が100人前後だって話で、その5分の1だ)

上条(サボり目的でその数に聞き込める筈がないっつーか、出来たらスゲェつーか)

上条(レッサー、確かにアホみたいな言動が多いし、実際にアホだと思うけど)

上条(やったらアバウトな性格と、誰からもある程度好かれる言動と物怖じしない芯の強さ)

上条(あと万が一バレたとしても『尻尾』?だかって、異様に機動力を上げる霊装で突っ切れば、逃げ切るのは難しくもない)

上条(って事は、レッサー今回の件にピッタリなんじゃないのか?俺なんかよりもずっと)

レッサー「お、おぅ?どうしました?私のケツをペロペロしたいんですか?」

上条「そんな話はしてなかったな!あと俺はそんなに――」

上条「……」

上条「……話を戻そうかっ!」

レッサー「上条さん、大体の性癖をカバーされているのは頼もしいやら恐ろしいやらで……」

レッサー「んで、話を伺った所、皆さん体験信者――面倒なので以後、在家信者と仮称しますね」

上条「在家?仏教用語じゃなかったか?」

レッサー「システムが修道院よりもブディズムに近いので、あくまでも仮の話としてです」

レッサー「つーか普通の修道院でしたらホイホイ出たり入ったりは出来ないんですから――と話が逸れましたが」

上条「分かった。仮な、仮」

レッサー「すいません、よく聞き取れなかったんでもう一回Repeat Please?」

上条「黙れ恥女。真剣な会話にちょくちょくセクハラを挟むな!」

レッサー「はっはっはー!残念ながらこの私は物心ついてからネタとマジを区別した憶えがありませんなっ!」

上条「本当に残念だな。主にお前の頭がだが」

上条「……いやでも、アリサの前で大分セーブしていたんだからな、そこを思い出せよ」

レッサー「や、その今だから言いますけどね、アレはアレで打算の産物なんですよね、えぇ」

上条「打算?」

レッサー「私の貞操を賭けても良いぐらいに確信してるんですが、アリサさんきっと意味が分からないまま連呼しますでしょ?」

レッサー「『当麻君当麻君っ!【ピーーーーッ】って何だろう?【ピーーーーーツ】ってどういう意味があるの?』――みたいに」

上条「あー……うん。そう、な?」

レッサー「天然と着痩せがタッグを組まれるとタチ悪ぃんですよ!なんですかっあのっ無邪気なエロさは!」

レッサー「なんかこう、たまーに油断してノーブラの時とかあるじゃないですか?あん時は同性でもついペロペロしたくなる無防備さがですね!」

上条「ごめんな?なんか話振った俺が悪かったから、そのぐらいに」

上条「あとアリサのノーブラ情報は言わないであげて?いや別に俺が直接見たいとうそういんじゃない、ないんだけど」

レッサー「……や、まぁそんな感じで在家信者の人らと話してみたんですが、居なかったんですよ。一人も」

上条「何が、つーか誰が、か?」

レッサー「出家信者――つまり、ここで集団生活している”筈”の人達が」

上条「……何?」

レッサー「えぇっとですね。一応こちらさんは修道院のシステム”の体裁”を取っているんですよ」

レッサー「主教が一番偉い人で、司祭が聖職者。テリーザさんみたいなのは助祭として」

レッサー「ブラスしてヒラの出家信者を多く抱えてる筈なんです。だというのに、居ない」

上条「……最初から居ない、みたいなオチはどうだ?ここって病院が……補助金や待遇改善目当てで宗教法人になったんだろ?」

レッサー「えぇそれは『テリーザさん.の自称』ですけどねぇ」

上条「引っかかる言い方だな」

レッサー「敷地内にある教会、あぁ少しお話ししましたっけ?アリウス派の事」

上条「三位一体を否定したとか何とか」

レッサー「アリウス派は異端認定されたんで、十字教会としては徐々に消えていったんですよ」

上条「物理的な意味で?」

レッサー「つっても初期キリスト教なんで苛烈なもんじゃなかったですがね。例えばアリウス派の聖堂をちょちょいと作り変えたり」

上条「十字教な?……あ、でも十字教で異端認定即ぶっ壊そうぜ!みたいなイメージがあるんだが」

レッサー「でもない――事も、ないんですが、TPOに応じたり空気を読んだりしますよ、一応は」

レッサー「古代であってもヒパティアの悲劇やら、アレクサンドリア大図書館へ放火したりする暴挙をしていますし」

レッサー「逆にパルテノン神殿を取り壊さず教会として改築したり」

レッサー「また特にイベリア半島では、イスラムと十字教で征服したりされたりの攻防が繰り返されてきました」

上条「だからモスク風の十字教教会とかあんのな」

レッサー「ですです。スペインのアンダルシア州にあるコルドバ聖マリア大聖堂なんか典型的な例でしてね」

レッサー「なので、あの第一聖堂”もしも本物であれば”世界遺産へ登録されるレベルの文化遺産かと」

上条「正直に言っていい?」

レッサー「どーぞ」

上条「超胡散臭ぇ」

レッサー「同感ですな。もしも本当にアリウス派の聖堂であるならば、ただ正直に申告すれば良いだけの話です」

レッサー「それこそ病院そっちのけで収益を上げられるぐらいには、と」

上条「それもそれで気になったんだよな。なんか、なんかこうおかしくないか?」

上条「いや、確かにさ。イギリスの医療制度がおかしいってのは分かる。歯医者に数週間なんて、俺なら耐えられそうにもないしさ」

上条「当然困ってる人が居て、それに対して打開策を採るのも分かる――けど、それが『宗教興して税金免除』ってズレ過ぎてねぇかな?」

レッサー「介護士を移民で、ってのも何かおかしいですよねぇ。それこそ失業者を雇えばいいんですからね」

上条「人件費の安さとは言ってたけどな。んー?」

レッサー「それもまた『エサ』にしか見えませんがね、私にゃ」

上条「……ともかく話は分かったよ。怪しい施設が二つある。第一聖堂と病院」

レッサー「そのどちらかが出家信者さんの暮らしている場所も兼ねている――ま、常識的に考えれば病院なんでしょうけど」

上条「実は聖堂の地下に大空間が!……的な展開はないか?」

レッサー「ホラー映画とインディ系では王道中の王道ですよねぇ。私も超好きな展開ではありますが」

レッサー「ですが地下があったとしても、精々カタクームぐらいのもんで、そう大規模なもんじゃないかと」

上条「カタクーム?」

レッサー「イタリア語でカタコンベ。地下墳墓の事ですよ」

上条「それはそれでテンション上がりそうだ」

レッサー「まぁ中世ヨーロッパじゃ土葬+地下墳墓のコンボによって、一度黒死病で絶滅寸前にまで陥ったと言えばロマンがありますけど」

上条「ロマンかな?むしろ恐いっつー感想しか出て来ねぇけども」

レッサー「しっかもですねー、そん時に猫居るじゃないですか?猫?」

レッサー「あれが『悪魔の使いだ!黒死病をばらまいている!』と猫狩りまでやったもんで、いやー被害が広がる広がる!あっはっはっはー!」

上条「ねぇ、お前らって意外と蛮族だよね?肉食系以前にアホじゃないかな?」

レッサー「ちなみにギリシャ正教会じゃ未だに土葬です。こないだ正教会が『火葬した場合は破門するし、葬儀もしないよ』って声明出してましたね」

上条「コメントし辛いな!」

レッサー「ギリシャでは何人かの市長が『墓所が足りないから火葬にしようよ!』つってんですが、今まで火葬場が作られていません」

レッサー「ついでに火葬が合法になったのは2006年。宗教的にはまぁ好き勝手やりやがれとは思うんですがねー」

上条「何か言いたそうだな?」

レッサー「あ、分かります?んー……なんつーかですね、私も一応は十字教徒なんですよ。上条さんがブディストであると同じぐらいには」

上条「熱心ではないのな」

レッサー「えぇですがまぁ、詳しいのは学校の勉強プラス、いつ敵に回っても対処出来るようにって感じです」

上条「お前らその発想が恐えぇよ!」

レッサー「心外ですなー。後悔役に立たず、ということわざがですね」

上条「言っている意味は正しいけれど、それ俺の知ってることわざじゃねぇよ。先に立たずだ」

レッサー「いざ敵さんに追い詰められてから、『あぁあん時勉強してれば良かったな』と思っても遅いでしょ?それと同じかと」

上条「意外と考えてる……流石はリーダー?」

レッサー「疑問系なのが気になる所ですが――で、そのアリウス派なんですけど」

上条「戻ってる戻ってる」

レッサー「いえ、戻ってないんですよ。彼らアリウス派が異端とされた、その原因ってヤツです」

上条「教えが十字教とは離れてるから、じゃないのか?」

レッサー「とんでもない。それだったら原始十字教には教皇や司祭も居ませんでしたからね」

上条「教会内の派閥争い、とか?」

レッサー「備後!」

上条「字、違くね?BINGOじゃね?」

レッサー「アリウス派は三位”非”一体論を唱えて負けたんです――その相手はどちらで?」

上条「……三位一体論」

レッサー「ですです。今の教会の根幹を成している概念ですな。それを唱えた派閥が『アタナシオス派』と呼ばれる人です」

レッサー「彼自身、ギリシャ正教と呼ばれる一派の一員だったのですが、こう言い残したのが有名ですね――」

レッサー「――『神が人となったのは、人が神になるためであった』と」

――404号室 20時30分頃

レッサー「――と、ここだけ聞くとひっじょーに物騒な印象を受けるでしょうが、実際には違いますよー?恐くないですからねー?」

レッサー「『神になった』とされているのは、あくまでも神の子だけであり、原罪を引き受けた結果――と、教えているので、えぇ」

上条「引きはしないが……何?お前ら三位一体ってそういう意味だったのか?」

レッサー「特にギリシャ正教ではそういう教えが浸透しています。なので」

上条「……あぁ、だから『火葬の否定』に繋がんのか。火葬すると復活出来なくなるから」

レッサー「ちなみに『火葬如きで復活出来ないなんで、お前の親父も大した事ねーなwwww』とこっちで言うと、まず間違いなく殴られるので注意して下さいな」

上条「言わないだろ。つーかそのぐらいは俺だって分かるわ」

レッサー「絶対ですからね!絶対に言わないで下さいよっ!」

上条「あれ?俺言えって振られてんのか?」

レッサー「ま、信仰ですし、誰に迷惑かけている訳ではないのでいいんですけどね。今の所は」

レッサー「ただお墓を量産しても経済的ではないですし、何よりも観光で食ってるギリシャにとってもあまり宜しくはないと」

レッサー「なのでどこかでどういう風に折り合いをつけるのか、それとも”つけない”のか、興味津々ですな」

レッサー「代表的なのは『カーゴ・カルト』ですがまぁ、興味があれば携帯でお調べ下さい」

上条「話が脱線しまくってるが、まぁカタコンベで興奮した俺も悪いとしてだ」

上条「問題はどうやって調べるか、って話だよな」

レッサー「私は『こちら側』の警報・トラップならば探知出来ますけど、上条さんは?」

上条「ぶち壊すしか出来ません……!」

レッサー「『クラッシャー』とは縁遠い性格なのに、どうしてこうなった的な矛盾を感じますが、まぁいいでしょう」

レッサー「第一聖堂には今晩にでも忍び込んでみます。ただ病院は」

上条「そっちは俺がするよ。取り敢えず正攻法で『お手伝いしたいんですが』って言えば、掃除ぐらいはさせてくれると思う」

上条「……まぁ奥にまでは踏み込めないだろうけど、雰囲気ぐらいは何とか」

レッサー「さっきの携帯電話のアプリ、拡張機能とか無いんですかね?」

上条「拡張って?」

レッサー「防犯カメラや盗聴マイクを無効化させるだけではなく、探知出来る機能です」

レッサー「もっと言えば後日侵入する際の下調べ、ってな感じで」

上条「分かった。連絡取って聞いてみるわ」

レッサー…そこはヘルプ読めばいいと思うんですがね」

上条「専門的な事は専門家へ聞くのかベストっ!素人が手を出したら大抵失敗しますからねっ!」

レッサー「……妙に実感のこもったお言葉ですね。それじゃちょっくら行ってきますよと」

上条「え、今からなのか?」

レッサー「逆に聞きますが、今からじゃない理由が分かりませんってば」

レッサー「出来れば深夜がベストなんでしょうが、この時間帯であれば『つい気になって来ちゃいましたテヘペロ』が通用しますし」

上条「んーむ……まぁ、しょうがないか」

レッサー「ですね。適材適所と言いますし」

上条「じゃ、行くか」

レッサー「はいっ!――って待ちましょうかジャパニーズ!」

上条「あ、フロリスっぽい」

レッサー「いやですから自制してくれませんかね?ぶっちゃけ邪魔なんですけど」

上条「や、でもさ?」

レッサー「お気持ちは非常に有り難いのですが、ありがた迷惑という言葉もあったりなんかします」

上条「Oh……」

レッサー「一応言っときますけど、私は『新たなる光』の中では、片手で数えられるぐらいの強さを持っていますんで」

上条「そうかー……あれ?お前らって四人じゃなかったっけか?」

レッサー「禁則事項です(はぁと)」

上条「うわウゼー……ドヤ顔で言い切るのが更に腹立つわー」

レッサー「ガチムチでやるんだったら、ベイロープにも勝つ自信はあるんでご心配なく」

上条「ムチは要らないな?」

レッサー「ご褒美ですが何か?」

上条「だからっ!お前はそうやって話を煙に巻くの止めろっつってんだよ!」

レッサー「Oh, ワタシニッホンゴワッカーリマセンHAHAHAHAHA!!!」

上条「今更だ!散々刃○ネタで盛り上がったろ!」

レッサー「……それじゃ上条さん、心配して下るのであれば一つだけ約束して下さいませんか」

レッサー「そうすれば私、きっと無事に帰ってこられると思うんですよ……ッ!」

上条「待て待て。確かに色んな意味で心配はしてるが、そーゆー話はしてない」

レッサー「私この戦いが終ったら故郷へ帰って実家のパン屋を継いで、肝試しに行ったらC君が格好をつけたがって寺生まれってスゴイんですって!」

上条「それ、フラグ違いじゃね?怖い話で『あぁこれ作り話だな』とあからさまに分かるパターンだな?」

レッサー「ネタとして読む分には面白いんですがねぇ――と!今の説得で分かって頂けたでしょうが!」

上条「説得1ミリもやってなくね?ネタ話だけだよね、いつものように?」

レッサー「あー、面倒臭い。だったら上条さんは出入り口の確認でもしてきたらどうですかー?」

上条「何か投げやりだな」

レッサー「いやまぁ、聖堂攻めるついでに回ろうかとは思っていましたが、やって下さるのであれば任せようかと」

上条「出入り口って、本館か?」

レッサー「ではなくEXIT――非常出口の方ですな」

上条「場所は見取り図にあった筈だけど?」

レッサー「実は鍵がかけられていて出られませんでしたー、なんてのはゴメンですから、その確認をばお願いしたいなと」

上条「鍵?非常口に施錠してあったら意味無ぇだろ」

レッサー「――って事が割と結構な頻度で起きてましてね、えぇもう」

レッサー「例えば火災が起きたスタジアムから逃げ出す人が逃げ出せず、そのまま――と」

上条「あー……そんな事件たまーに見るな」

レッサー「『警備上の都合』で閉められているのはままある話。なので様子と場所を確認して下さるだけでも違うかと」

上条「納得はしてないが……まぁ、理屈は分かった」

レッサー「おや?『レッサーちゃんと離れたくないの!?』とダダをこねるターンですよ?」

上条「茶化すなよ。俺だってバカじゃな……い、事もないんじゃないかなって、たまーに思うけどさ!」

レッサー「途中から思いっきり曖昧になってますけど。つーかそんぐらいは言い切りましょうよ」

上条「『尻尾』を持ってるお前に、あの程度の壁なんて関係ねーだろうし――だから、多分」

上条「何かあった時に俺やテリーザさん、他の奴らを逃がすためだってんだろ?違うか?」

レッサー「……どーにも、そう面と向かって言われるとサブイボが走るってもんですがね」

上条「そう難しいこっちゃねぇよ、相棒」

レッサー「……っ!」

上条「なんだかんだで付き合いも長いだろうが。ただの頭イタイ子――」

上条「……」

上条「――頼りにはさせて貰ってんだから、な?」

レッサー「待ちましょうか?てーか本格的に待ちましょうよ、ねぇ?」

レッサー「まず『頭イタイ』の訂正から入りませんか?今のままだと上条さんの中では、私がまるで頭イタイ子みたいに聞こえるんで」

上条「え?はっきり言っていいの?」

レッサー「良いワケないじゃないですかっ!?本人には知らせない方が幸せだって話もあるんですよっ!」

上条「いーから行くぞ」

レッサー「えぇ、そう、ですね?……イヤちょっと待って下さい!せめて、せめて人をイタイ子扱いだけは何とかっ……!」

――21時 『ヤドリギの家』教団本部・外周部

上条「……」

上条(俺は非常口を探しに、レッサーは第一聖堂を探索に――と、一見桃太郎のおじいさんとおばあさんのような役割分担だ)

上条(でも実際には俺が泣きついたような感じになっちまってるし、まぁ気を遣ってくれたのは明白な訳で)

上条「……」

上条(あ、最近のモモロタウって知ってる?何か、一部の学校だと『おばあさんが洗濯に行くのは差別だ』って、役割が逆転してんだってな)

上条(その内、『結婚する相手がおばあさんなのは同性愛者へ対する差別だ!』とか言い出して、きっとおじいさんとおじいさんが仲良く暮らしてたとか……)

上条(……誰得?つーか違和感ありまくりじゃねぇか。じーちゃん二人で暮らすってどんだけだと)

上条(桃太郎も『女の子じゃないと差別だ』とか言い出すんだろうなー……あ、でも全裸で桃から飛び出すのはどうなんだろう?)

上条「……」

上条(桃を梨へ変えて、ふなっし○の中の人爆誕!みたいな……逆に見てみたいな。子供にはトラウマ量産するだろうが)

上条「……」

上条(……みたいな馬鹿な事を考えながら、俺は警備のアルバイトのように外周部を歩いている)

上条(定間隔で非常灯が並んでいるので、それ程苦労はない――事もない)

上条(それぞれの建物の周囲には草が刈られてるから、別に歩きにくいって事も無かったんだが)

上条(流石に広い敷地内全部には手が回らないようで、ちょっとした藪を踏み分けながら行く必要があった)

上条(……ただ、気候上、イギリスの方が寒くなるのが早いみたいで、半分ぐらいは枯れ草だ。思ったよりも苦労はしてるけど)

上条(日本と同じ島国、えっと北緯で言えば――) ピッ

上条(――ロンドンが北緯51度。札幌が43度、仙台が38度だからスッゲー北だな!)

上条(こっち来て思ったんだが、てか何となくヨーロッパは落葉樹が多いな?たまにある松林の他は全部そうだ)

上条(生物の授業で習った感じじゃ、日の光の少ない冬に葉を落とすのは『効率的』なんだそうだが)

上条「……」

上条(効率的……効率的、なぁ?本当にか?)

上条(確かに、冬は葉を落として冬眠した方が有利――とは、一見思える。でも)

上条(だったら熱帯はどうなる?葉を落とす必要が無い程、温かい地域にだって落葉樹は生えている)

上条(反対にこっちでも松林は――多分植林だけど――見るし、何なんだろうなとも)

上条(生物の多様性は整然としている一方、どう見てもこれ要らねぇだろ的な進化を遂げたヤツも少なくない)

上条(だからって完全に淘汰された訳でもなく、きちんと現代まで生き残ってるのも多い。変な虫とか)

上条(かと思えば俺達が『合理的じゃね?』と思うようなものが、逆に主体じゃないってのもある。食虫植物とか)

上条(光合成も出来るし、タンパク質も取り込める最強生物!……って誤解されてるんだが、実際にはそうじゃない)

上条(虫を補食する器官――閉じる葉っぱだったり、消化液の溜まった瘤なり、ベタベタした花をつけるのにも、養分は必要だ)

上条(有名なハエトリグサ、ギザギザの葉が閉じるタイプのは、数回しか虫を捕らえられないそうで、限界を超えると葉が枯れる)

上条(他にもあんまり遊んで開閉し過ぎると同じく枯れて、葉が無くなれば本体は弱るし最悪枯れっちまう……『効率的』には程遠い)

上条(……つっても、まぁ?地球には星の数ほど種が居る中、環境だって全く同じな筈もなく)

上条(一つの種だけが全ての環境に適応して繁栄する、って考え方がおかしい。その環境に応じて住み分けが出来ると)

上条「……」

上条(……俺がなんでこんな事を考えているのかと言えば――)

上条「……いや別に意味は無いよ?ただちょっと暇だってだけで――と、またかよ」

上条(俺は4つめのバツ印をパンフ――簡単な見取り図――へ書き込んだ)

上条(確かに非常口はあった。図面そのままの場所に、きちんと非常灯の誘導先通りに)

上条(けれどその扉は金属製で、硬く錠が下ろされている。とてもじゃないが万が一の時、直ぐに逃げられるような感じじゃない、と)

上条「……」

上条(『本部』の施設には余裕がある。建物と建物の間は少なくとも数十メートル、端から端までランニングすればいい運動になるぐらいの距離だ)

上条(なので一つの建物で火事が起きたとしても、建物から出ればまず安全)

上条(――なん、だがなぁ……うーん……?)

上条(車の出入り出来るのが『本館』――つまり、受付を兼ねた門しかない。非常口も通れる程大きくない)

上条(そこを塞がれちまったら、壁を重機で倒すかヘリかなんかで救助――も、無理か。火事の煙や上昇気流の中、飛ばせたら自殺行為)

上条「……つーかな、初めて見た時も思ったんだが――」

上条(『ヤドリギの家』の、高い高い外壁は)

上条「……外敵から守る『鎧』か、それとも『監獄』か……?」

――同時刻 第一聖堂前

レッサー「……っと」

レッサー(はーいっそんな訳でやって来ましたっ第一聖堂っつーかアリウス派聖堂前!)

レッサー(外から見た感じフツーの教会っぽい!バロック式だから遡っても300年ってトコですかねっ!)

レッサー(それじゃーSearch&Destroy(検敵必殺)、逃げる敵はミナゴロシで逃げない敵はミナゴロシだぜヒャッハー!!!)

レッサー「……」

レッサー(突っ込んでくれる人が居ないと寂しいですね、えぇえぇ)

レッサー(……ま、上条さんがいらっしゃらない分、ちょっとだけポロリ的な展開があるかも、ですが)

レッサー(主に手足や内臓的なモノが、ですけど――さて)

レッサー(建築様式からして比較的近代に建てられた感じですな。精々200年前後)

レッサー(アリウス派が廃れた西暦4世紀。とてもじゃないですが、その頃からあったようには見えません――が!)

レッサー(外側は完全にリフォームしてしまって、中身――地下墳墓や内装を変えないって可能性も無きにしも非ず、と)

レッサー(あ、これは珍しい事ではなくてですね。十字教の苛烈な支配を受けた植民地に多いんですが、”ガワだけ”それっぽく装うってのが)

レッサー(インカ・アステカ帝国はSpik野郎に滅ぼされましたが、ところがどっこい地下じゃ信仰は途絶えておらず)

レッサー(西洋風の教会の下へ、カタコンベと称して人骨で作った素敵な神殿をおっ建ててたり、中々良い感じですかねー)

レッサー(アフリカでも同様。現地へ宣教師を何代も派遣した挙げ句、ようやっと十字教会を建てる運びと相成りまして)

レッサー(喜び勇んだ本国の司教サマが乗り込んだ先で見たものとは……!)

レッサー「……」

レッサー(……ボケが単独行動すると色々な意味で辛いですね。いや割りとマジで)

レッサー(これはさっさと片付けで早々に合流せねば……!)

レッサー「……」

レッサー(あ、ちなみに司教さんが見たものとは『アフリカ式に魔改造されてる教会と信仰』だったそうです)

レッサー(興味がある子は『黒いマリア像』で調べてみてねっ(はぁと)!)

レッサー「……」

レッサー(……さっさと済ませましょうか、はい)

――第一聖堂 内部

レッサー「」

レッサー(鍵無し、警報無し、監視用の術式も霊装も無し……監視カメラ系は存じませんが)

レッサー(内部もまた……普通な感じでしょうか?夜目が利くまで――いや、灯り?)

レッサー(ゆらゆらと闇に揺れる三つの炎……まさかっ!?這い寄る混沌ニャルラトホテプ――!!!)

レッサー「……」

レッサー(『燭台の灯りじゃねーか』ってツッコミが返ってこないのは、寂しいですねぇ)

???「……あの-、誰か、いる――」

レッサー「――シィッ!」

ダッン!

???「あ……がっ!?」

レッサー(『槍』を展開していて正解でしたねー)

レッサー(まっさか『ボケに対してツッコミが返ってこなくてしくじった』なんて知られたら、ベイロープに何発尻叩きされる事か……!)

レッサー(てか反射的にぶっ倒しましたけど、こちらさんはどちら様で?……テリーザさんだったらシャレになんねーですなーHAHAHA!)

???「ちょ、だ、誰ですか!?僕は司祭です!怪しいもんじゃありませんからっ!」

レッサー「お名前をぷりーず?」

???「ウェイトリーで――」

メキメキメキメキメキッ……!!!

???「か、つっ!」

レッサー「……へー?ふーん?ほーお?聞き覚えありますよねぇ、てーかどっかでお会いしましたっけ?」

レッサー「てかあなた方ご兄弟、お顔も似てますし声もそっくりで見分けつかないんですよねー……あ、そっか。こうすればいいんですよねっ!」

ミシミシミシミシミシッ!!!

???「あがががががががががかっ……!?」

レッサー「もっと悲鳴を聞けば思い出すかも知れません。ほらほらー、いい声で鳴いて下さいな」

レッサー「あ、でも大声を上げたら手元が狂っちゃうかもなんでー、注意して下さいね?」

???「あなたは『新たなる光』の」

レッサー「――はい、減点いーち……っと!」

ベキッ!

???「――!?」

レッサー「言いましたでしょう?ウェイトリー――ウェイトリ”ィ”さん?態度からして弟さんですかね」

レッサー「『よ、余計な事を言ったら腕ヘシ折るんだから勘違いしないでよねっ!』って」

クリストフ(???)「……」

レッサー「『聞いてませんよ!一言足りとも聞いてませんからっ!?』と心の中のツッコミが入った気がしますけど、賢明なご判断で」

レッサー「ではでは聞きたい事は山程あるんですが……そうですねぇ、どっから手をつけたもんか悩みますなぁ」

レッサー「どうしましょーねぇ?どっから聞けばいいんでしょうかねー?迷うなー?どうしよっかなー?」

レッサー「あ、じゃなんかリクエストあります?『こんなん喋りたいぜ!』みたいなの、リスナーの皆さんへ言っときたい事とか?」

クリストフ「……」

ボキッ!

クリストフ「――っ!?」

レッサー「やっだなぁ言ったじゃないですかー、『質問に答えられなかったらもう一本をヘシ折る』って!クリストフさんったらドMなんですからっ!」

クリストフ「…………っ!」

レッサー「いやいや、睨まないで下さいな。あなた方がぶっ殺してくれやがった方々はこんなもんじゃなかったですからね?」

レッサー「『アレ』に生きたまま喰われて、自分が何故死ななければいけなかったのかすら分からず亡くなった方に比べれば、ですが」

レッサー「あと素人さん相手に、魔術結社総動員で追い回しやがったお礼もしなきゃいけませんかねー?どうしましょうか?」

レッサー「……や、でもあれですよね?ここであなたをぶっ殺すのは簡単ですけど、もっと情報を聴き出した方が有意義と……うーむ」

レッサー「そうですよねっ!人間LOVE&PEACE!何事も話し合いが大切ですもんねっ分かりますっ!」

レッサー「なのでクリストフさん、こうしませんか?あなたは私に聴かれた事を、ショージキに答えて下さい。ただそれだけで結構です」

レッサー「もしも私が欲しい答えを嘘偽り無く返して頂ければ、結社名に誓ってあなたを解放しましょう。どうです?」

クリストフ「……」

レッサー「お返事は?あ、首を縦に振れば肯定、横に振れば否定で」

クリストフ「……」 コクコク

レッサー「良かったー、私こういうの苦手でしてね。どうにも交渉事は気が短いもんで、えぇ」

レッサー「いっつもベイロープから叱られるんですよ、『どうしてあなたってば我慢出来ないのだわ!』と。いやー成長したなぁレッサーちゃん!」

クリストフ「……」

レッサー「おっと失礼しました。両腕ヘシ折られたままじゃ痛いですもんねー、さっさと質問終らせちゃいましょうか」

クリストフ コクコク

レッサー「ではではっ!結社名『黄昏きゅんきゅん騎士団(らぶらぶシャットアウラ)』に於いてお尋ねします――」

レッサー「――地獄って、あると思います?」 ヒュゥンッ

クリストフ「!?」

メキメキメキメキメキメキッ――グシァアアッ……!!!

レッサー「……」

レッサー「あるぇ?お返事がありませんねー?もしもーし?クリストフさーん?」

レッサー「そんな頭蓋が割れて脳をはみ出させた挙げ句、全身から血を流してピクピクしちゃってどうしたんです――はっ!?」

レッサー「まさかこの私のミリキに興奮して鼻血的なものを!?しかも全身を使ってリアクションする程情熱的に!?」

レッサー「いけませんいけませんっ!私には心に決めた上条さんという方がっ!お気持ちは嬉しいんですけども!」

レッサー「……」

クリストフ「……」 ピクピク

レッサー「……はぁ、やっぱりボケしか居ないと面白くありませんね、えぇ」

レッサー「あなた方がユーロトンネルで命を奪ったブリティッシュ188名、プラス62名」

レッサー「加えて私の古い友人達と新しい友人へ危害を加えた対価には、ちと程遠いですが――」

レッサー「――足りない分は、私がそっちへ行った時にでも利子をつけて頂く、という事で一つ」

レッサー「……」

レッサー「『古きものはより古きを誇り、朽ちるものは朽ちるがままに――』」

レッサー「『――されど千夜に褥を重ねようとも、旧き燭台の火は消えず――』」

レッサー「『――”ブリテンの敵”に報いの慟哭を、願わくば安寧の死を』」

――第一聖堂内

レッサー(さてさて、ウェイトリィ兄弟の片割れは始末しました)

レッサー(暗闇から急に襲撃されましたからねー、いやー危なかったー、いやホントマジでマジで)

レッサー「……」

レッサー(……この路線で行きましょう!どうせ上条さんは上条さんですから気づきっこないですし!)

レッサー「……」

レッサー(……とはいえ、さてどうしましょう、って事になりますねぇ。こんな時間にこんな場所で、教団――結社の幹部が何をしてたんだか)

レッサー「……」

レッサー(昼間は人目や信者が絶えない。一般人は入れませんが、在家・出家信者ならば出入りは自由……とすると)

レッサー(何か隠しているものが――)

レッサー ゴソゴソ……

レッサー「燭台の火が風で揺れてる――室内なのに、ってぇ事は――」

ギギギィイッ……

レッサー「……地下墳墓、あっちゃいましたかー」

――地下墳墓

カツ、カツ、カツ、カツ、カツ……

レッサー(地下墳墓……スペイン語でカタコンベ、クイーンズでカタクーム)

レッサー(基本的に十字教下での埋葬は土葬が基本。ギリシャみたいに現代まで続いている所も多いですけど)

レッサー(ただまぁ、あくまでも普通に穴掘って棺へ入れて埋めるのがスタンダードなんで、カタクーム自体は一般的ではありません)

レッサー(なんつってもきちんと埋葬しないと、黒死病を媒介するネズミとノミの養殖場になりかねませんし、昔はホラ教会自体が都市の中心だったんですね?)

レッサー(……今はまぁ交通機関が発達したので、そうでもありませんが、文化や政治の中心が教会でした)

レッサー(と、なれば屍体が安置されてる場所と、私達の生活空間が近しければ近しい程、感染症その他の危険性も高まる訳で)

レッサー(テンプルが村落の外れにあった日本とは違う、って感じですか)

レッサー「……」

レッサー(――と、私もあまり詳しい訳ではないんですがー、まぁ普通……なん、でしょうかね?)

レッサー(石をくり抜いて掘られた長い長い廊下、その両脇に幾つもの横穴があって)

レッサー(その一つ一つに白骨化したご遺体が……ナムナム。あ、宗派違いました)

レッサー(衣類を漁れば生前の身分ぐらいは分かるんですが……ま、そこまでする程の事も無いで――しょう?)

レッサー(行き止まりだと思ってた壁に、ドア?しかもこれ、新しい……?)

レッサー「……」

レッサー「あー……何か言ってましたっけ……どっかの『右席』さんがトチ狂ったのが、前の『濁音協会』と関わったせいだって」

レッサー「ちゅー事は、このさきにあるモンは中々SAN値を削られる代物……さてさて?」

レッサー(戻って上条さんに相談――は、酷でしょうかね。この先にあるのがドヅキイ現実だったとして、知らずに済むんでしたらそっちの方が)

レッサー(とはいえ、逆に上条さんがどこまで絶望するのかを見てみたい気もしますが……まぁ、今回はご縁がなかったと言う事で)

レッサー「……」

レッサー「べ、別に心配してる訳じゃないんですからねっ!」

レッサー「……」

レッサー「……ボケの単独行動は控えた方がいいでしょうかね……」

ギギィッ……

レッサー(扉を開き、持ってた燭台を掲げると――視界へ入ったのは)

レッサー「……………………花?いや、草……?」

レッサー(テニスコートぐらいの大きさの空洞、その床一面にびっしりと生える”紅い”草、ですか?)

レッサー(燭台を左右に振っても目に入ってくるのは、草、草、草。照明でもあれば、と天井を照らしてもライトの類は無く)

レッサー(そもそもこんな暗闇で草育てる意味が……?)

レッサー(麻薬か魔法薬の原料?確かに毒々しい紅色はそれっぽい感じではありますが、うーん?)

レッサー(何か引き抜いたら『ヒャッハーーーーっ!』とか奇声を上げられそうで恐いですけどね)

レッサー(風もない――完全な地下で空気の流れなど感じられないのに――ユラユラと揺れて――いや!)

レッサー「……動いてる、んですか?植物なのに?」

???「――ようこそ、俺達の楽園へ」

レッサー「と、期待を裏切らないお出ましで感謝感激ミナゴロシ――っと!」 グォンッ!

レッサー(私が生んだ火球は背後から響く声の主へと突き刺される――!)

???「――BattleRam!(破城槌!)」 バシュウンッ!

レッサー(――前に、召喚した肉色の蔦で迎撃される……おや?この術式は)

レッサー「……あるぇ?その、ちょっとお伺いしたいんですか?」

???「何?俺痛いのは好きじゃねーんだけど」

レッサー「その、あなたの頭からはみ出てるのって、脳髄ですよね?」

???「おう!ちょい前に通り魔っぽい魔術師にやられた傷だな!」

レッサー「全身所々出血されてるいるのも、どっかで見覚えがあるんですが?」

???「あぁ!ちょい前に尋問のフリして処刑された名残だなっ!!!」

レッサー「待って下さい!それじゃあなた!」

???「残念。俺ぁ別にクリストフだって名乗った憶えはねぇよ……あぁそうそう」

アル(???)「地獄はそんなに楽しい所じゃ無かったぜ?帰って来たくも無かったが」

レッサー「死なない、もしくは死ねない術式ですか……てーか『濁音協会』そんなんばっかりですな」

レッサー(少し前まで屍体にしか見えなかったアルフレドさんの体が、赤い蔦のようなもの――要は召喚するのと同じ――で繋ぎ合わされていきます)

レッサー「……ふむ。それは好都合ですね」

アル「何?」

レッサー「あなた達が殺した188プラス62人分、利子つけてぶっ殺せるって事でしょ?」

アル「やってみ?そんだけの魔力が続くんだったらな」

レッサー「そちらはこちらの台詞でもありますよ、えぇ。ジークフリートでもあるまいし、ただの人が不死なんて術式出来る訳がありません」

レッサー「なのでその『再生回数』ですらも、魔力――”残機”が無くなってしまえばフツーに死ぬ。違います?」

アル「当たりだな。ただその”残機”がどんだけあるのは秘密だが」

レッサー「そっちの方が楽しいじゃないですかやだー。黒ヒ○危機一髪みたいに死ぬまでずっと楽しめるんですから、あらら私ってば超ラッキー」

アル「人を新発売のソイソースボトルみたいに言うなや。こっちも痛ぇのは痛ぇんだよ!」

レッサー「ならますます重畳かと――で、まぁまぁどうします?ってもこっちとそっちの解決方法は一致している訳なんですが」

アル「だよなぁ?なんだかんだ言った所で、する事は一緒――てか、前もしなかったか?こんな会話?」

レッサー「でっすよねぇ?前にもありましたよねー、こーゆー会話!」

レッサー・アル「「……」」

アル「俺は魔法名『Geat013(門にして鍵)』、魔術結社『双頭鮫(ダブルヘッドシャーク)』のアルフレド=ウェイトィ」

レッサー「私は『新たなる光』のLess-Arthur、魔法名『Arthur829(永劫の旅路の果てに再び戴冠する王)』」

アル「……まぁ、あれだよな?決まってるよな?俺達が揉めた時の解決方法、みたいなのは」

レッサー「ですなぁ。私も色々悩むよりか、そっちの方がシンプルで好きですねぇ」

レッサー・アル「「あっはっはっはっーーーーーーっ――」」

レッサー・アル「「……」」

レッサー・アル「「――もう、殺す――ッ!!!」」

今週の投下は以上となります。お付き合い頂いた方に感謝を

レス頂いている方へのお返事が遅れぎみですが、全部ありがたく拝見しておりますのでご心配なく

おっつし☆

>「なんかこう、たまーに油断してノーブラの時とかあるじゃないですか?」

「呼んだかしらあ?」

乙!!

上条(桃太郎も『女の子じゃないと差別だ』とか言い出すんだろうなー……あ、でも全裸で桃から飛び出すのはどうなんだろう?)
桃キュン○ードって糞パチ原作のアニメがありました…
あれは萌え重視?だけど

役割や差別と区別の違いが分からないアホ共に限って、本当に平等にすると不平不満のオンパレードなんですよね

乙!壁ドンされないソーズティーさんェ
ヒロインズの壁ドンの反応が可愛すぎる

そして上条ママンなら旅行から帰ってきた刀夜さんの挙動で浮気がバレそう

>>177
上条「……」
上条「……え、俺?なに?また行ってこいっつーのかよ!?」
上条「いや別に嫌じゃ無いけど……ビリビリだろ?ただでさえ死亡フラグ立ってるような気がするんだけど」
上条「『なにすんのよビリビリー!』みたいな感じでだな。音だけ聞いてるとハニーフラッシ○だな」
上条「つーかさ、北欧で俺一敗貰ったんだけど、あれどういう理屈?ビリビリのビリビリって効かないんじゃ無かったの?」
上条「つまりあれ喰らうって事は、俺これ以降ビリビリと接触すると危険がピンチだよって意味なんだよ!」
上条「まぁ……うん、レッサー達の旅もこれからは笑い減るみたいだし、ちょっくら行ってくるわ」


上条 ドンッ
御坂「――ッ!?」
上条(お、言葉も出ないぐらいにビックリ――ってか改めて思ったけど、この企画の趣味悪りーな!倫理的にどうよ?)
上条(てか麦野とインデックスとベイロープとフロリスからは、ネタバレ後に殴られたんだが……何?苦行?)
上条(平然としてたのはシェリーぐらいだったし……やっぱ大人なんだよなぁ、なんだかんだ言って)
上条(つーかこれ、男女逆の立場だったら恐いんじゃ……?)
御坂「――み」
上条(お、反応あった)
10032号(御坂)「――ミサカルートをお望みですか、とミサカは心の中で『ヒャッホウ』と叫びながら聞き返します」
上条「ヤベぇ!?ミサカ違いだった!?」
10032号「いいえ間違いではありません、むしろ間違いを犯すのはこれからだぜ、とミサカは嬉々として告げます」
上条「どっから憶えて来やがったその単語!?あと表情がさっきから変わってねぇしな!」
10032号「さぁ、壁ドンが来たからには次のステップへ進みたいと思いますが、とミサカは近距離戦を提案します」
上条「なにそれこわい。つーか壁ドンって先になんかあるの?袋小路しか俺には見えないけど」
10032号「えぇまぁ取り敢えず――あちらを」
上条「あちら?」
御坂「……」
上条「違うんですよっ!これはですね、不幸な行き違いがあっただけでっ!決っして、決してそういうんじゃなくっ!」
上条「これはきっと恐らく俺が不幸が干渉した結果じゃねぇかなって!そう、不幸が悪いんだよ!」
御坂「……最近ね。ちょっと、小耳に挟んだんだけど」
上条「……御坂、さん?」
御坂「あの女王様気取りにも、手ぇ出してたんだだって!?あぁっ!?」
御坂「人が折角!黒子にも触らせなかった、おっ……コ゚ニョゴニョ……を触られて!」
10032号「いや、その例えはおかしいだろ、とミサカは冷静に突っ込みます」
御坂「『あぁやった私のターンが来た!』と思ったら!この仕打ちって!」
御坂「今度はあのナイスバディ(※巻き舌)が参戦してくるっつーのはどうこう事だコラァァァァァァァァァァっ!?」
上条「……あ、あの、ちょっと。ちょっと良いですかね?」
御坂「何よ。はっきり言いなさいよ!」
上条「お前の言う女王様ってさ――”どの”女王様の事?」
御坂「SHI-NEっ!」
上条「あ、コナンのネタであったヤツだ。てか普通、”shine”ぐらいは分か――」
……ドーン……
10032号「お後が宜しいようで、とミサカはコッソリ逃げ出します」

>>179
――女子寮 夜

シェリー「……」
アンジェレネ「あ、あのっ。シェリーさんお食事はどうされるんですかーっ!?」
シェリー「……メシ?」
アンジェレネ「え、えぇっ!今日はですねー、シスターオルソラが作って下さった、それはもう美味しいパスタがですね」
アンジェレネ「グランデかと思いきやティ・モールト!味のロンドン塔とはこれ如何に!?」
シェリー「あー……面倒だから食べて良いわよ。食欲が無いの」
アンジェレネ「え、えーっ?体調でも悪いんですかー?」
シェリー「ってワケじゃねぇんだが、あー、私の分は食ってていいわ」
アンジェレネ「わ、わっかりましたシェリーさん!わたしにお任せをっ!」


――シェリーの私室

パタン
シェリー「……」
作りかけの石像『――』
シェリー「――ふんっ!」
作りかけの石像 ガシャーン、パラパラパラパラパラパラッ……
シェリー「このっ!人がっ!どんなっ!気持ちでっ!」
ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガンッ
シェリー「つーかっ!私もっ!もうちょっとっ!あるだろ反応がっ!」
ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガンッ
シェリー「慣れてねぇのよっ!『きゃあっ(はぁと)』とか言えるんだったら人生変わってるわクソがっ!」
ガンッ、ガンッ……


――廊下
アニェーゼ「……シェリーさんまた壁パンしやがってますけど、余っ程煮詰まってんですかい?」
アニェーゼ「こないだも、何とかってぇ展覧会用に出すStatueん時も……いや、ここまで荒れてましたっけ?」
オルソラ「うふふー、シェリーさんもまだまだ乙女なので御座いますよ」
アニェーゼ「……はぁ、そうですかい」
オルソラ「ちなみに『学探』の一話でフッたのは、伏線なので御座いまして」
アニェーゼ「どこまで巻き戻ってんですか?てーか何の話です?」
(※――との展開までは考えてたんですが、人気投票で振わないキャラに割くのも不義理かなと
御坂さんのお話は……色々と面倒臭くなってきたので、正直そろそろ店じまいにしたい気分ですが)

ベイロープがあと十年成熟すれば、シェリーさんみたいになるかな。

またまたディ・モールト良い!
読者様風情の厚かましい要望にお答えしていただきありがとうございました
ここは>>1様のスレですし、>>1様が書きたいものを書き、書きたくない・書きづらいものを強制させるところではありません
どうかご無理をなさらぬよう

乙です


「やったぜついに顕現ですねレッサーさんのスタンド!じゃ私のは【ハルク判官】で震えるぞHeart!(※巻き舌)」
「待てまて待とうか核弾頭at柵川中学。
 作者さんが愛称から経歴・魔法名まで一致させてる苦労に比べて、君のどの辺にその武者の要素が被ってるの?
 あとハルク違う」
「魔法名『Crow013(天を佐〈たすけ〉し涙の御曹子)』ですねっ」
「ムリヤリ感ハンパねえなっ?わりといろんな英雄に対応しちゃいそうな異名だし!」
「北海道から大陸に渡って隣国の騎馬征服王になっちゃうって、エキサイティングな晩年ですよねー」
「いいじゃん!?後世の人たちの夢と願望から生まれた伝説くらい受容してあげたって!
 国家主導でゴリ押しに広報してくるどっかとは全然事情が違うんだからさあ!!」
「そうすると弁慶は初春でー、伊勢三郎は白井さんでー、あ、御坂さんには妹さんいるそうだから佐藤兄弟でO.K?」
「いやそんな『西遊記の猪八戒は誰やんの?』的に割り振られても!?初春さん弁慶説はちょっと心惹かれるが!
 それとそのキャスティングだと真っ先に退場するの御坂さんだよねっ?」


『学園探訪』、また(単発でも)待ってます!

レッサーさんは神聖ブリタニア帝国をどう思ったのか気になる

>>176>>205>>207
ありがとうございます

>>178
「愛してる」は上条さんのキャラ的に言わなさそうなので、見送る運びとなりました。ネタ的に旬のものなので良い機会だったと思います

>>206
上条「よぉしっちょっと壁ドン(in体操着服)してくらぁっ!」
御坂「待てやゴラ反応が露骨に違うぞ!」
上条「たゆんたゆんと(´・ω・`)比べるのは――てか常盤台の体操着スゲーな。普通透けるのに何ともないぜ!」
御坂「あのアマ、ああ見えて天然なトコあるから、気づいてないんじゃない?」
上条「てか原則の設定だと、俺と一方さん脳障害ありすぎじゃね?」
御坂「正しくは特殊な『記銘力障害(Merksto¨rung)』であって、『そのレベルに留まる訳が無い』障害なのよね」
上条「……つまり?」
御坂「特定の人や事柄だけに留まらず、発症した段階で日常生活が送れない重篤な障害になってるって事よ」
御坂「他にも記憶が失われるぐらいのダメージを負っているんだから、深刻な後遺症も併発してないとおかしい訳で」
御坂「卵のパックを落としちゃったとして、当然卵にはヒビが入ったり割れるわよね?」
御坂「「んで、当然そのぐらいの衝撃が起きたんだったら、外箱も潰れてなければおかしいのよ」
上条「流石は『幻想殺し』だ!なんともないぜ!」
御坂「んー……」
上条「ど、どうしたの御坂さん?目が何か恐いんですけど?」
御坂「……余所の女に盗られるぐらいなら、私が一生面倒看て上げるわ……っ!!!」
上条「やだなぁ御坂さん、冗談にしてもタチ悪――」
御坂「……愛してるわよ、ずっとね」 プスッ
(※フィクションです)

>>208
あれはパチンコの販促+タイアップ企画の一環なので、取り敢えずやっとけみたいな。税金対策的な意味で
知り合いがマジハロ廃人(回転数全国一位ホルダー?イベントへの優待券を貰える程)なので、そっちの話もよく聞きますが、
新人声優がよく起用されているため、ギャラが少ない駆け出しには貢献している面があるんだとか
(シンデレラブレイドの二作目のように、コストが高くなればあっさり切るという清々しい程の合理主義)

社会でそれなりの立場にある女性の一人、我が上司曰く「女の敵は女である」と
真っ当に働くのも自由だし、同時に素敵な旦那様捕まえて子供が大きくなるまで専業主婦になりたい、って希望の女性は少なからず居る訳で
また専業主婦になるのも個人の自由だし、親と同居しながら介護も兼ねて――なんてのもよくある話。田舎では、ですが
にも関わらず、同じ女性であるのに専業主婦を「豚」と罵り蔑む自称フェミニスト共を×したくなるそうです
社会進出だけを物差しにして上下を決めないと気が済まない。他人を落とせば自分が上がると思い込んでいるのでタチが悪い

一言で言えば日本のフェミニスト共が言っているのは、「私がモテないのは男が悪い」ですからねぇ。「草食男子」と同じく
東欧の人身売買、パスキタンを筆頭にしたムスリム国家での自立の権利、最近加わったISISの異教徒を奴隷にする話とかが山積しており、
たかが職種すら差別差別言う人間が目にすれば発狂するぐらいの事案なんですが、外国にはスルーしている上、
国内であってもエロ産業全般へ関わる女性の人権啓発には何一つ手をつけない当たり、自己満足にしか過ぎませんが

知人が海外で聞かせられた(ブラック)ジョークの一つに、
A「どうして先生(or弁護士or活動家)はゲイ(or中国人)を守るのにはパレスチナ(orチベット)は守らないんだい?」
B「そりゃ自分の選挙区にゲイは居るけど、アラブ人は居ないからさHAHAHA!」
ってのがあります。大体はそーゆー事ですかねぇ

>>209
いやですから(今回の話や過去作の)ヒロインではないので
浮気は流石にしないでしょうが、上条家が背負ったカルマは深すぎるような気も……
修羅場をくぐったオッサンですら手玉に取る暗殺教室の渚君とは違い、同性には(今の所)効果が無いのが救いっちゃ救い

――翌朝 厨房

上条「……」

テリーザ「おはようございます上条さん――って、凄いDarkCircles(クマ)出来てますよ……?」

上条「……あ、ども。おはようございます……」

テリーザ「日本人は枕が変わると眠られなくなる噂、本当だったんですね」

上条「そんな噂無ぇよ、つーか始めて聞いたわ」

テリーザ「お元気な妹さんは、まだお休み中で?……あー、昨日張り切ってましたもんねー」

上条「ごめんなさい、あの子あれが素なんですよ。信じられないと思いますが」

テリーザ「うふふ、お兄さんの顔になってますよ?心配性の」

上条「100%錯覚だと思いますがね、根拠は特にありませんがっ」

テリーザ「日本からわざわざいらしたんでしたらお疲れでしょうしね」

上条「え?朝食おばちゃん達が来てないから、圧倒的に手が足りないんじゃ?」

テリーザ「ですから主婦の方は朝お忙しいですね、と言う理由で朝は簡単にトーストとハムエッグです」

上条「本場のハムエッグですね!」

テリーザ「……どうして”本場”なんですか?」

上条「いやなんか外国の朝飯ってそんな感じなんで?」

テリーザ「聞き返されましても……あ、ちなみに”ハムエッグ”という単語はこちらにはなく、単純に”Ham and Eggs”とだけ」

テリーザ「『イギリス料理で唯一褒められる』と評判なのが朝食だって、ジョークもあるくらいですから……」

上条「レッサーは言わなかった、よなぁ?」

テリーザ「『朝食を一緒に食べませんか?』は、兄妹じゃなかったら少しだけ刺激が強いかも知れません。恥ずかしがり屋さんなんですね?」

上条「……あぁ、うん、まぁある意味そうかも?」

テリーザ「なので今日はアイルランド・ブレックファストにしましょうか。おばさん達に分けて頂いたトマトも大量にありますし」

上条「アイルランド風……へー、もしかして地域によって違うんですか?」

テリーザ「イングランド風、スコットランド風、アイルランド風、ウォルシュ風、全てひっくるめて”フル・ブレックファスト”です」

テリーザ「パンの代わりにお粥やシリアル、スコーンがメインになったり。ジャムや半熟卵を乗せて食べると、これが美味しくてですねっ!」

テリーザ「スコットランドの方ではハドクの燻製が出たりもします!しますっ!」

上条「なんで二回言った?……いや、じゃなくてですね」

上条「そんなに朝飯は拘るのに、昼夜その他が軒並み壊滅的だってどういう理屈?」

テリーザ「――はい、と言う訳でアイリッシュ・ブレックファストを作っちゃいましょうか!」

上条「だから聞けよ話をブリティッシュ!レッサーと言いボスと言いどうして人の話をキャンセルすんだよ!」

テリーザ「って言っても、サラダの代わりに油で炒めたトマトをお出しするだけですが」

上条「あ、そうなんですか?」

テリーザ「焼きトマト……は、馴染みがないですよね」

上条「前にナポリタン――じゃなく、アラビアータ風パスタ唐辛子無し作った時、トマトの皮を直火で炙ると剥きやすくなるって試しました。茄子と同じですよね」

テリーザ「どちらもナス科ですから……私もやってみようかな?」

テリーザ「後、わたしはナポリタン大好きですっ!アメリカのケチャップ使った日本料理ですよねっ」

上条「……よくまぁご存じで。てかテリーザさん、日本の事に詳しいですよね?」

テリーザ「あ、はい。昔実家の方で日本人の方をホストファミリーとしてお世話した事が」

上条「あー、言ってましたね。それで日本語を?」

テリーザ「はい、学校でも専攻……」

上条「うん?」

テリーザ「ま、まぁいいじゃないですかっ。それよりも今は朝食を作らないと!」

上条「ん、あぁはい。そうですね」

上条(露骨に話題を変えられたが……まぁ、突っ込むのは野暮なんだろうな)

上条(テリーザさん、見た感じ18・9歳ぐらいか。俺の知ってる子だと、五和っぽい気がする)

上条(俺達の世話をしてるって事は出家信者か?……後で聞いてみよう)

上条「……」

上条(フライパンに油を布きながら、俺は昨日の事を思い出していた――)

上条「……」

上条(……いや、回想しないよ?別に何があった訳じゃないしな。ただ)

上条(レッサーと別れてから数時間後、真夜中に差し掛かるかって頃にメールが届いたんだ)

上条(内容は極めてシンプル。こんな感じ)


――Title 『RACCOON』

せたんのかーたぜーにー、せたんのたかーぜたになったてー


上条(……文字化けしたんじゃなく、このままだ)

上条(あー……うん、昔さ?ガキの頃のマンガに『暗号文』的なのあったよな?小学生か、その前に見るような感じの)

上条(”RACCOON”って事は”タヌキ”つまり――)

上条(――暗号文から『た』を除くと真の意味が現れるんだ……ッ!!!)

上条「……」

上条(……こんなしょーもない事をする俺の知り合いなんて一人しか居ない……!)

上条(つーか日本人なら誰だって解けるわっ!……と?)

上条(……や、まぁ逆に考えれば日本人でもない限り解けないナゾナゾでもあるんだが……クレバーなのか、これ?)

上条(ま、まぁまぁ!とにかく!暗号を解いてみたよ!そうしたらばだ!)


『せんのかーぜーに○、せんのかーぜになっ○ー』


上条「……」

上条(誰だって知ってるフレーズだけど、そこしか知らないで有名な曲じゃねぇか!)

上条(……その、なんだ、この歌詞の中に、『探さないで下さい、そこに私居ないんで』的なものがあるから、多分その繋がりだは思うんだが……)

上条(何やってんのか知らねぇけど、この小ネタ挟む間に連絡出来なかったかな?もしくは事情説明でも良いが)

上条「……ま、そんな感じでね。朝まで警戒してたらKONOZAMAなんですけどねっ」

テリーザ「上条さーん、ちょっと焼き過ぎなんでは……?」

上条「っとすいません」

――朝食後 厨房

上条(100人分――と、思ったが実際には半分ぐらい。テリーザさん曰く「まだ寝てる」――の朝食を作り、同じメニューを食べ終った)

上条(時間までに来ない人はトーストと冷めたスープを勝手に食べるシステム。ま、妥当か?)

上条(レッサーの食事はスコーンとペットボトルに入れたコーヒーを持ってってやる――という設定で、テリーザさんに許可して貰った)

上条(昨日の夜から何も食ってないだろうし、いざという時に直ぐ食べられるように)

上条(……っても、今日の夜までに帰って来ないようだったら、深夜に第一聖堂へ乗り込むつもりだが)

上条「……」

上条(……あんま役に立ってないなぁ、俺。この旅が始まってから思ってたんだけどさ)

上条(電車の中では露払い、スタジアムでも時間稼ぎ、挙げ句夢の中では……)

上条(ワトソン役?つーかツッコミ役か?段々役立たずのレベルが上がってる気がする!)

上条(……ま、今から立ち位置を交換して貰う訳にも行かないだろうし、俺は俺でするべき事をしよう。出来るだけの事を)

上条(適材適所、本当にそうだか怪しいもんだが。他にやるべき事も無く)

上条(レッサーがいない分、その代わりの”目”として憶えおかないと……!)

テリーザ「……あのー、上条さん?」

上条「あ、え、あはい?何?」

テリーザ「今日これから、どうされるんですか、って聞いたんですが」

上条「これから、ですか。えぇっと、確か第一聖堂で開かれるミサは午後からですよね?」

テリーザ「いえ、第二聖堂です。新しい方の」

上条「夕飯はそれが終ったら仕込むとして、テリーザさんは出ないと」

テリーザ「えぇ子供達と遊ぶ約束がですね」

上条「その子達も俺達みたいな体験入学――じゃなかった入信した人の子供なんですか?」

テリーザ「あ、いえ司祭様や病院で働いている方の、です」

上条「義務教育的に大丈夫なんですか、それ?」

テリーザ「えーと……はい、わたしとか教員免許を持った人間が居ますし、何とかなるんじゃないかな、と」

上条「……あの、すいません。昨日の夜、レッ――妹とも話した事なんですけど」

テリーザ「はい?」

上条「ここの教団、アバウト過ぎじゃないですか?そんなのでやっていけるのかなと」

テリーザ「……えぇはい、わたしも上条さんの仰る事はよく分かりますし、実際に司祭様へ相談した事もあります――けど」

上条「けど?」

テリーザ「……すいません。外の方にお聞かせするような話では、愚痴になっちゃいますので」

上条「別に俺は構わないですけど」

テリーザ「そ、それよりも上条さんっ、午前中は何をされるんでしょうか、とお伺いしたかったんですよ」

上条「俺ですか?そう、ですね。妹が起きて来なかったら、第一聖堂でも見学したいかなーと」

テリーザ「そうですか……それじゃマズいですかね」

上条「あ、何か仕事あるんだったらやりますよ?どうせ妹待ちですし」

テリーザ「でしたら、そのー、非常に申し訳ないんですが、えっとですね」

テリーザ「……うーん、妹さんがいらっしゃったら是非にとお願いしてたんですが」

上条「男手だとマズいとか?」

テリーザ「あ、いえいえっ!そんな事は全然!そうじゃなくてですね、その子供達と遊んでくれたらなーと」

上条「あぁ確かに。子供から懐かれそうな感じだもんな……メンタルが近いっつーか」

テリーザ「そこまでは言いませんけど、フレンドリィな方ですよね?」

上条「フレンドリィつーか……ルナティック?まぁ、仲良くなれそうな気もする。でも俺だって結構得意ですが?」

テリーザ「あ、それじゃお願いしちゃっても構いませんか?わたしはお洗濯とお掃除をやっちゃわないと」

上条「あぁ時間かかるんですよねー。全自動で2時間とかフツーだし」

テリーザ「?日本だと違うんですか?」

上条「最速で15分とか?」

テリーザ「早っ!?」

上条「脱水入れても20分ぐらいで終るコースあるし、普通は一時間洗濯機回してる事なんてないですかねー」

テリーザ「もしかして学園都市の最先端技術とか、でしょうか?」

上条「学園都市から来たのは来たけど、普通の家庭向け家電だって同じです」

テリーザ「上条さんっ!」

上条「あ、はい?」

テリーザ「学園都市から、っていうのは……?」

上条「言ってませんでしたっけ?ほら、これ学生証」

テリーザ「凄いですっ!何か超能力みたいなの使えるんですよね!?」

上条「あー、残念。俺は使えませんよ」

テリーザ「あ、そうなんですか?……あ、それじゃこう見えてもとても頭が良いとか?」

上条「こう見えて……まぁ、普通だなぁ」

テリーザ「秘密道具的なあれとかどうです?」

上条「あんまハイテクな機器は持ち出すの禁止されてる。技術流出がどうのって」

テリーザ「……」

上条「……何?」

テリーザ「なんか、こう、わたしの想像していた学園都市のイメージと違います……」

上条「ガッカリしてんのは分からない事もないですが、都市240万人中、能力を実用レベルで使えるのは一部だけですからね?」

上条「それにしたって『突き抜けた』連中は持て余されてる気もしますし」

テリーザ「なんだ……意外と普通?専用のカリキュラムとかないんですか?」

上条「俺の通ってる高校じゃこれっつって別に?」

テリーザ「子供達喜ぶと思ったんですけどね」

上条(学園都市に居ながら、魔術師達とケンカしてる時間の方が長いだなんて言えない……!)

上条「あ、でもこういう施設や乗り物があるとか、他の能力者がこんなん居るとか、差し障りのない範囲でなら言え――」

テリーザ「是非それでっ!わたしも聞きたいですしっ!」

上条「――るって、食われたんだがまぁはい、じゃそれで」

――病院

上条 コツ、コツ、コツ、コツ、コツ

上条(リノリウムの無機質な床、真っ白に塗装された壁と天井)

上条(カエル先生のトコじゃ、小児病棟はもっとライトブラウンの明るい色で統一されていた。なんでも色が心へ与える影響がどうとか)

上条(暖色系と寒色系、どっちがリラックス出来るかって言ったら、やっぱり暖色系の方が脳波が安定する実験結果も出ている)

上条(最近ではそこから踏み込んで、古民家風の、要は木目調がある壁紙も人気があるんだとか)

上条「……」

上条(てか今の時代、ログハウスでもない限りは木目調なんて縁が無いはずなのにな。何かホッとするらしい)

上条(先輩が前に書いたレポートで、長期間の宇宙ステーションに滞在する飛行士達がどこに集まる傾向かあるのか、っての)

上条(自室か?談話室か?それとも研究室か?友達の部屋とか?……以上の答えを思った奴は残念、外れだ)

上条(答えは水耕栽培や無重力下での植物実験をしているプラント、要は植物の所へ集まったんだってさ)

上条(プライベートな時間はそこで過ごす……やっぱ地上を離れると余計に緑を求めるみたいな感じなんだろうな)

上条「……」

上条(てか先輩、なんで超絶頭良いのに俺と同じ高校通ってんだろ?能力が無くたって研究職としてはやってけそうだけども)

上条(まぁ……帰ってたら聞いてみよう――この戦いが終ったら、学園都市へ戻って先輩に答えを貰うんだ……!)

上条「……」

上条(完全に死亡フラグですありがとうございました……てか、レッサーと俺、ちょくちょく踏んでるけど大丈夫かな?死んだりしないよね?)

上条(――と、考えながら来た訳だが)

――Salon-A(談話室A)

上条(飾り気も何にも無いルームプレート。指定された場所はここで合ってる)

上条(受付から途中、ナースさんの一人ともすれ違わなかったのは……まぁ、朝が早いからか?)

上条(ちなみにここの病院は一・二階が診察室と検査室?で、三階から上がずっと入院患者”等”の部屋だそうで)

上条(出家信者もこっちに泊まり込みで介護しているんだって話。でもってその人らの子供達の面倒を看るのが俺の仕事)

上条(……さて、出来れば内部の話も聞きたい所だが)

コンコン

上条「おっはよーございまーすっ……?」

子供達「……?」

上条「こんにちは、上条です。日本から来ました、よろしくー」

子供達「……」

上条「あぁテリーザさんから何も聞いてないか?午前中一緒に遊ぶ事になったんだけどさ」

上条「あー、良かったら自己紹介なんてしてくれると嬉しいかなー、なんて」

男の子「……あの、いいか」

上条「Please?」

男の子「なんか、不幸っぽい顔してるよな?」

上条「どんな顔?つーか顔で判断すんなよ!大事なのはハートだろ!」

男の子「なんか、こう、俺の父ちゃんがよく小銭を落とすんだけど、雰囲気が」

女の子A「あー……そうだねー、ケインのお父さんみたいな感じかも?」

女の子B「……うん」

上条「……もしかして、お前のとーちゃん道でよく女の人とぶつかったりしない?」

男の子「するする!それでよくからまれたりするぜ」

上条「居るんだな、どこにも俺みたいなの――で、君はケインでいいのかな?」

ケイン(男の子)「あぁケイン=パワスカァだよ。こっちの小さいのがカレン」

カレン(女の子A)「カレンです。いじめないでね?」

上条「しないしない。で、そっちのもっと小さい子は?」

女の子B「……」

ケイン「クリスタ――クリスって言うんだけど……まぁ、そんな感じかな」

上条「宜しく、上条当麻――トーマって呼んでくれ」

クリス(女の子B) コクコク

上条「全部で三人なのかな?他にお友達とかは?」

カレン「一週間前まではセレナちゃんがいたんだけど、お父さんと一緒にかえっちゃったんだってー」

上条「セレナちゃん?」

ケイン「あぁスッゲー歌がうまくてさ。キーボード弾いてくれたりもしてたんだよ、ほらそこの」

上条(部屋の隅の方、金属製のラックに収まっているのはキーボードだ……ってもパソコンの奴じゃなくて、鍵盤の方)

上条(……なんかアリサの持ってるのと似てんな。まぁどれも基本的には同じなんだろうけどもだ)

クリス「……トーマお兄ちゃん、弾ける、の……?」

上条「んー……ちょい待ち、電源は」

ケイン「コードはこれ」

上条 プツッ……ジャーン

カレン「わぁ」

ケイン「弾けるんだ、兄ちゃん?」

上条「ほぼ毎日、アリサの歌の練習に付き合ってから、まぁ簡単な伴奏ぐらいは何とか」

クリス「……ARISA――ARISAっ!?」

上条「食いつき良いなっ」

ケイン「クリスはこの間のロンドン公演でファンになったんだってさ。兄ちゃんもか?」

上条「ファンっつーか、友達?」

カレン「ホントっ!?」

ケイン「オイ!子供相手だからってウソつくなよ!」

上条「いやマジだって――ちょい待ち、今写メ出すから」 ピッ

クリス「ARISA……!」

ケイン「兄ちゃん達一緒に写ってる……コラ?よくできてんなー」

上条「コラ言うな!アイドルとの集合写真作って喜ぶ程、俺は寂しい人生送ってないわっ!」

カレン「てーかクリケットのユニフォーム着たお姉ちゃん達?何かの試合の後なの?」

上条「試合って言うか、まぁユーロトンネル抜けた直後だけどさ」

ケイン「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?」

カレン「ケインうるさいよ!」

上条「俺を指さして、どしたん?」

ケイン「俺、トーマ兄ちゃん見た事あるなって思ってたんだよ!どっかでさぁ!」

上条「俺を?人違いじゃないのか?」

ケイン「音楽番組、昨日やってた!」

上条「あー……フランスのか。マネージャーがちょっとアレだから代役で出たヤツな、はいはい」

上条「つーかあれ、フランス以外でも流れてんのか……?生き恥が拡散され――うん?」 クイクイッ

クリス「……トーマお兄ちゃん、ARISAのお友だち、なの?」

上条「だからそう言ってんだろ。信用無いなぁ」

ケイン「じゃ学園都市から来たのか!?スゲー!」

上条「先言っとくけど、能力は使えないからな」

ケイン「……うわー、テンション下がるー」

上条「いや、実際そんなもんだぜ?殆どはレベル2以下で日常生活じゃ役に立たないから」

ケイン「えー、火使えたら格好いいだろ」

上条「じゃ聞くがケイン、お前日常生活で火ぃ使うか?機会があるって?」

ケイン「あ、あるだろ!色んな事に!」

上条「例えば何?」

ケイン「んー……悪いやつと戦う時、とか?」

上条「銃使った方が早いよ。よっぽど高火力――強い能力でも無い限りはな」

上条「家の中ではコンロがあるし、バーベキューでマッチ忘れた時ぐらいかな?」

カレン「悪いやつをやっつけろ!」

上条「いや、そうそう悪い奴居ないよな?こっちから探しまくるのもおかしいし、警察の仕事だ」

上条「それとも何だ。世の中には『悪の秘密結社バードウェイ』みたいなのがあって、対抗するためにヒーローになるんか?あ?」

ケイン「……なんだよ。夢がねーじゃん」

上条「って言われてもなぁ。諦めろ、現実なんてそんなもんだよ」

クリス クイックイッ

上条「あぁごめん、何?ARISAの曲以外は、ドラク○の祠のテーマぐらいしか弾けないよ」

ケイン「なんだその限定的な持ち曲は」

上条「中学へ入ってからは大体合唱ばっかしてたからなぁ。ジュニアスクールん時以来、あんま触ってな――」

クリス クイックイッ

上条「あ、度々ゴメン。で、なに?」

クリス「……お話し、したい」

上条「してんじゃん?」

クリス「じゃなくて……その」

カレン「ARISAちゃんにってことじゃないかな?クリス、大っファンだから」

上条「成程。話すか、うーん……?」

ケイン「ケチケチすんなよ。いいだろ話ぐらい」

上条「あぁいやそう言う訳じゃなくてだ。そのな、今アリサはイタリアでコンサートの準備してんだけどさ」

ケイン「邪魔したらわるい、よな」

上条「……うーん?取り敢えずメールだけでも送ってみるよ」

カレン「あ、それだったらあたしたちの写メ送らない?こんなファンがいますよーって」

クリス「……うん」

上条「あー、そうだな。んじゃ並んで並んで」

ケイン「あ、俺が撮るよ。トーマ兄ちゃんも写ってた方がレス早いような気がするし」

上条「なんで?」

ケイン・カレン・クリス「……」

上条「オイ待てガキ共!その顔を見合わせて『やれやれだぜ?』みたいなリアクションにはどんな意味があんのか言ってみろ!」

ケイン「それじゃ言うけどさ――」

上条「聞きたくないなっ!」

カレン「……トーマお兄ちゃん、子供……」

上条「……いいかい?男ってのはねいつまで経っても少年だって事なんだよ、主にメンタルが」

ケイン「いっしょにすんなよ――はい、撮るぞー、いち、にの――」

カレン「あ、待って待って!クリスー!」

クリス「う、ん」

ケイン「――さんっと」 パシャッ

上条「撮れた――なんか、妙に近いような気がするけど……?」

カレン「なーに?」

上条「……うん、気のせいだよ。きっとな!」

――イタリア バチカン市国

鳴護「……うーん」 モグモグ

フロリス「どったの?食事が進んでない――事もないみたいだケドさ」

鳴護「いやー、なんか当麻君達連絡ないなって」

フロリス「連絡って。まだ二日ジャン?ARISAってば心配性かー、ん?」

鳴護「心配は……うんまぁ、しているよねぇ。色々な意味で」

フロリス「あー……だーよねぇ、するねぇ、色々な意味で」

ベイロープ「あなた達、さっさと食べないと片付かないんだけど」

鳴護「あ、すいません。もう少しだけ」

ベイロープ「ステージで歌いっぱなしなんだから、カロリー遣うのは理解出来るのよ?
でもね」

ベイロープ「その細い体(除く一部)のどこに山盛りあったスコーンが消えるのかと……?」

鳴護「やですよぉ、まるで人をビックリ人間みたいに言わないで下さい」

ランシス「……人体の神秘を――その胸が!」

鳴護「……や、でもあたしベイロープさんよりも小さいですし?」

フロリス「つってもワタシやランシスよりは大きいんだよねー。レッサーとタメだし」

ベイロープ「……あのおバカが今頃どんなヘマをしているのかと思うと……!」

ランシス「近くに居ても遠くに居ても、胃が痛い……」

鳴護「ま、まぁまぁ。お気持ちは分かりますけど、今頃当麻君がボケを捌いてるんじゃないかなー、なんて」

フロリス「ちゅーかジャパニーズの貞操が心配だぜ、いや割かしマジでさ」

ランシス「あのヘタレが……?」

鳴護「レッサーちゃんヘタレ扱いなんだ……?」

ランシス「ヘタレもヘタレ……他人の恋愛事に首突っ込むけど、いざ告白されるとキョドる」

鳴護「慣れてそう――あ、いや遊んでるって意味じゃなくてですよ?その、性別とか関係無しに仲良しになるタイプじゃ無いんですか?」

フロリス「その認識であってる――ん、だケドねー。ワタシら、言う程青春してるワケじゃないんだな、これが」

鳴護「そうなんですか?」

ベイロープ「現役アイドルと同じ、ってのは言い過ぎたけどね。えっと、能力は才能の他に時間を費やせば費やす程、比例するわよね?」

鳴護「ですねぇ。あたしなんかいつまで経っても、中々垢抜けなくて、はい」

フロリス「外見は、ってかアリサその台詞余所では言わない方がいーよ?刺されたいんだったら別だケドさ」

鳴護「はい?」

ベイロープ「ま、勉強にしろスポーツにしろ、持って生まれた才能も当然ある――けど、その才能にだって大小があるわ」

ベイロープ「だから最終的にはどれだけ打ち込んだか、時間を遣ったのかに実力は正比例するの」

鳴護「まぁ、はい、そうですよね」

ランシス「……で、私達の場合だと、クーデター未遂の引き金を引けるぐらい、魔術的にはそこそこの腕を持った魔術師、だと」

フロリス「一流には少し足りないけど、ヨンイチなら聖人にだって勝つ自信はあるゼ!……ワタシはしないケド」

ベイロープ「おいそこ、反省しなさいよ!そーゆーとこを!」

鳴護「まぁまぁ、それで?」

ベイロープ「……なので私達も!当然!それ相応の訓練やら魔術的な能力を高めるために日々研磨している――」

フロリス「――つまり、ヤローと遊んでる時間なんてほっとんど無いワケさ。Ah-Ha?」

鳴護「あ、あいむすたんっ!」

ラシンス「だからこうして四人が四人とも毒牙にかかる……あ、ごめん。アリサも入れて五人か」

鳴護「――さってと!それじゃ今日も元気に歌の練習をしようっと!」

フロリス「そーゆートコ、誰かさんに似てるよーねぇ」

人工音声『メール・ガ・キタ・ヨ』

ランシス「ミ○さん?」

鳴護「うん、お友だちから貰ったんだけど、中々難しくて――って、当麻君からだ」

フロリス「おっ、ようやっと近況報告かよ。タルんでなぁ」

鳴護「……」

ベイロープ「中身はなんて?あ、もしかしてプライベートなの?」

鳴護「……っていうかね、その、写メが同封されてきたんだよ、うん」

ランシス「……誘拐された姿、とか?」

鳴護「じゃないけど!じゃ、ないんだけとも、うーん?これはちょっと……」

フロリス「いーから見せ――Oh,,,,,,」

ラシンス「どれ……あぁ」

ベイロープ「何よ、三人して」

鳴護「ベイロープさんも、どうぞ……?」

ベイロープ「ありがと……何……?」

ベイロープ「『お世話になってる先でARISAのファンの子達と仲良くなりました』」

ベイロープ「『ARISAの大ファンでどうしてもお話ししたいと言っているのですが、良かったら話してやってくれませんか?』……」

ベイロープ「何よ、普通じゃない」

フロリス「フツーじゃないぜ!その後、スクロールさせてみ?」

ベイロープ「……はい?」

ランシス「いいから」

ベイロープ「んー……………………」

ベイロープ「……」

ベイロープ「……あぁ、はいはい。フツーじゃ無いわね、これは」

鳴護「当麻君がっ、当麻君がまだ旅先で女の子を!?」

フロリス「しかもかなーり犯罪的な臭いがするよね」

ラシンス「……それも、ふ・た・り」

鳴護「なんかもう一ヶ月以上合ってないような気がするのに!来たのは犯罪っぽいメールだよ!?」

ベイロープ「流れでそうなったんだろうけど、この距離感は……」

――ダンウィッチ

上条「時差はどんぐらいあんのか知らないけど、まぁ数時間も待てば返事――」 ピピピピッ

上条「来たな、早速――『もしもし?上条ですが』」

アリサ『……あの、当麻君さ』

上条「『何か久しぶりだなー。どう、元気?トラブルとか起きてない?』」

アリサ『その子達は、ちょっとまだ犯罪と思うよ?』

上条「『よし!待とうか鳴護さん!君は恐らく三人の悪魔にたぶらかされているから!』」

上条「『多分率先して煽った羽根生えた悪魔、そして地味ぃに煽った爪の生えている悪魔』」

上条「『最後に何となく流れでノッたおっぱいの悪魔が近くに居る筈だ……ッ!!!』」

鳴護『……流石に本気にはしてないんだけど、うん、まぁまぁ、かな』

上条「『なら良かった』」

鳴護『当麻君は?危ない目に遭ったりしてないかな?』

上条「『信用無いなぁ、俺」

鳴護『誰か新しい女の子のお風呂を覗いちゃったりしてない?』

上条「『……し、信用無いなぁ、俺っ……!」

鳴護『今、ドモったような……?』

上条「『――と、言う訳で!朝から無茶ブリで悪いんだけど、良かったら話してくれませんかねー、と!』」

鳴護『怪しいし……帰ったら皆で聞くからね?そこら辺を中心に』

鳴護『で、お話しするのは、うん、いいけど……英語、なんだよね?やっぱり?』

上条「『ちょい待ち』――クリス、お前日本語は」

クリス「『ハナセマス、スコシダケ』」

ケイン「テリーザ姉ちゃんから教わってるからな、俺達」

上条「子供の方が語学の上達が早いっては聞くけど――『だ、そうだ』。それじゃ替るよ、はい」

クリス「『モシモシ……?』」

カレン「……クリスのあんな顔、久しぶりに見た」

上条「そうなのか?」

カレン「うん。一番仲良かったセレナちゃんが居なくなって、ずっとさびしそうにしていたからからねー。あーぁ」

ケイン「つーかトーマ兄ちゃん、マジでARISAと知り合いだったんだな!スゲー!」

上条「凄いのはアリサであって俺は全然だよ。無いよりはマシ、かも知れないぐらいの感じだし」

ケイン「えー、そうかー?」

カレン「ARISAちゃんも、きっとトーマお兄ちゃんが好きだと思う――あ、次はわたしが話したいっ!」

上条「そりゃ嫌われてはねぇだろうけどさ。つーかな、お子様共。男女であっても友情は成り立つんであってだ」

上条「直ぐに好きだなんだって結びつけるのは、それこそお子様の発想だぞー?」

ケイン「カレン、聞いてないし。つーかいなくなる前のとーちゃんも同じ事言ってた」

上条「お前の父ちゃん何してたんだよ――何?居なくなった?」

上条(ケインはイギリス人にしては肌が濃い。それと『パワスカァ』って確か――)

上条(――居なくなったインド人の一人のファミリーネームか……!)

ケイン「ん、どーした兄ちゃん?」

上条「ん、あぁいやいや。悪い事聞いたよな、ごめん」

ケイン「いいって。ここでの暮らしも悪くないし、てか前に住んでた所よりかずっと良いよ」

ケイン「なぁ、それよりトーマ兄ちゃんってえらい人なんだろ?司祭様みたいに」

上条「違う、けど。何?」

ケイン「……クリスとカレンのことだけどさ。二人とも親に合わせてやってくれないかな、って」

上条「……会えない、のか?

ケイン「……うん。俺は、まぁとーちゃんの事だから、どっかの悪い女に引っかかってんだし、いいんだよ」

ケイン「でもあの二人は、やっぱ子供だからな」

上条「そっか。良い兄貴やってんだな、お前」

ケイン「そんなんじゃねーよ!ただ、とーちゃんが帰って来て、女の子ほったらかしにしてたら怒られるだけだからな!」

上条「って事は、カレンとクリスの親御さんはここの中で働いてるんだよな?だったら――」

ケイン「……会いに行っても、直ぐ見つかって連れ戻されるんだよ。なんかこう、水族館っぽい部屋の中にいるんだけど、こっちからは聞こえないらしくて」

上条「水族館……ICUか?……て、だったら病気か何かじゃねぇのか?」

ケイン「……わかんない」

上条「だよなぁ。うーん……」

上条(『濁音協会』も気になるが、それ以上にカレン達の両親の事も気にかかる……さて?)

上条(もしもこれが本当に何かの病気で隔離してるだけ、とかならまぁ理解は出来る)

上条(……想像したくは無いが、末期癌とかで――いや、違うな?それだったらむしろ、肉親には会いたがる筈。俺ならそうする)

上条(下手に動いて警戒されるのは危険――いや、それはない。それだけはない)

上条「な、ケイン」

ケイン「何?」

上条「その部屋って、何階の何号室だ?」

ケイン「調べてくれるか!?」

上条「確約は出来ないけど、俺の出来る範囲であれば何とか調べてみる」

ケイン「ありがとうな、兄ちゃん!」

上条「気にすんな。それで?」

ケイン「カレンのかーちゃんとクリスのとーちゃん、8階の812号室――エレベーターから一番遠い部屋だよ」

上条「分かった」

カレン「――トーマお兄ちゃん、アリサちゃんが替ってってっ!」

上条「ありがとう。あ、ケインは?」

ケイン「俺はいいや。日本語、あんま得意じゃ無いし」

上条「そか――『もしもし?』」

鳴護『えっと……嬉しいは嬉しいんだけどね?そのさ、なんかこう――』

上条「『あーごめんな、忙しい時に無理通して貰っちゃって』」

上条「『俺もアリサと話したかったし、その内借りは返すからツケといてくれ、なっ?』」

鳴護『……』

上条「『もしもーし?』」

鳴護『当麻君はそういう所がズルいと思いますっ!』

上条「『……なんで俺怒られたの?……ま、まぁレッサーから連絡が行ってると思うから、詳しく話はしないけど』」

鳴護『え?レッサーちゃんから?』

上条「『あれ、違う?』」

鳴護『ちょっと待――』

フロリス『――あー、ハロハロー?フロリスだケドー?』

上条「『おっす。お前も何か久しぶり』」

フロリス『二日経ってないジャーン?なんだー、ジャパニーズはワタシが恋しいとかかー?』

上条「『……ある意味な』」

フロリス『……ふぇ?』

上条「『レッサーのボケを一人で千切っては投げ孤軍奮闘している立場からすれば、もう一人ぐらいツッコミ要員が欲しかった……!』」

フロリス『苦労してんなー。ま、ワタシに声かけてかなかったそっちが悪いね』

上条「『……みんな怒ってたり、する?』」

フロリス『うんにゃ別に?アリサは「またか」みたいな感じで、ランシスは無反応』

フロリス『ベイロープはコッソリ合流しようとしてたみた――あぁ、ゴッメーン!本題に入る!入るから!』

上条「『なんで二回……?あと向こうの電話口で一体何が起きてんだ……?』」

ランシス『……単刀直入に言えば、レッサーから連絡来てない』

上条「『……はい?あ、ランシス』」

ランシス『正しくは、一昨日の夜?「明け色の陽射し」から逃げた後、貰ってないって言うか』

上条「『あぁ……そうか、了解。後から送っておく』」

ラシンス『……気をつけてね?ジョークじゃなく……』

上条「『お、心配してくれるのか?』」

ラシンス『もし何かあったら、ダンウィッチ火の海にしそうな身内が二人……』

上条「『止めて上げて!?仮に何かあったとしても一般人は逃がして上げて!』」

上条「『てかお前、今二人って言わなかった?もしかして俺そんな過激派と喋ってんのかな?』」

ランシス『……アリサに替る?』

上条「『んー……いいや、取り敢えずは。それじゃまた』」

ランシス『んー……』 ピッ

ケイン「……あの、兄ちゃん、ちょっといいか?」

上条「おう?」

ケイン「ハーレム要員、いっぱいなんだな?」

上条「子供がそんな言葉使っちゃいけません!どこで憶えて来たのっ!」

ケイン「否定しろよ。そこ大事だろ」

――バチカン

ランシス「……はい、ありがとう」

鳴護「あ、はい……」

フロリス「ん、まぁ用件がアレだったケド、元気そうでよかったジャン、ねー?」

ベイロープ「そうね。相変わらずっていうか、レッサー側に居なかった、わよね?」

ランシス「居たら騒ぐし……きっと単独行動してる。間違いない」

フロリス「あのイノシシを止めるのは誰にも出来ないしねー。ね、アリサ?」

鳴護「ぅぇっ?あー、う、うん?そう、だよね?」

フロリス「どったん、いつもよりボーっとしてるよ?」

鳴護「んー、ちょっと気になる事が」

フロリス「……ボケがスルーされた……!」

ランシス「まるでちょくちょくイヤミを言うサブヒロインの立ち位置」

ベイロープ「黙ってなさい二人。それは何?大事な事?」

鳴護「って訳でもない、と、思うんですけど」

フロリス「あ、分かったアレじゃね?『他人と仲良くするのにダシに使いやがって!こっちは忙しいんだプンプン!』みたいなカンジ?」

鳴護「そんな事はっ!?ファンの子とお話し出来て嬉しいよ?ホントだからねっ?」

鳴護「ロンドン公演、母子家庭の親子さんをご招待するプログラムで来てくれたみたいで、とっても楽しかったって言ってくれたし!」

ラシンス「それは良い事……じゃ、何が引っかかってるの?」

鳴護「何かね、施設みたいな所で子供達をまとめて生活してる、って言ってたんだけど。そこでセレナちゃんってお友だちが居たんだって」

鳴護「その子があたしの曲とか、キーボードで演奏しながら歌ってくれて、ファンになったのはそれがきっかけだってお話」

ベイロープ「まぁ、いいんじゃない」

鳴護「……ただ、その、セレナちゃんが歌ってくれたあたしの曲の中に、なんか別の人のお歌も入ってたみたいで」

フロリス「あー……分かる分かる。プロデューサーが一緒だと、楽曲もそっくりになるのってあるよねぇ」

鳴護「『一番気に入った曲』として、誰かの曲をあたしのみたいに言ってくれたんだけど、最後まで言い出せなくて……」

ベイロープ「ま、仕方がないんじゃない?そもそもが向こうの勘違いだし、マ――あの男に後からメールでも送れば」

鳴護「それはそれで夢を壊しちゃいそうで、何か恐い気がするんですが」

フロリス「その曲”だけ”を気に入ってんだったらともかく、全体のウチの一つだから放っておきゃいージャン」

フロリス「つーか好きなシンガーとの直接会話で、違う曲を絶賛するなんてトラウマもんの失態だぜ。いやマジで」

鳴護「うーん……?」

ラシンス「……ちなみに、なんて曲?」

鳴護「えっとねー、確か――」

鳴護「――『セカイヨオワレ~WORLD END~』、だって」

――『ヤドリギの家』教団本部 病院談話室

上条「で、俺は言ってやったんだ――『いい加減目を覚ませよ!』」

上条「『もしもお前達が自分の復讐しか見えないってんなら、誰を犠牲にしても巻き込んでもしていた!』ってな」

ケイン「……あのー、兄ちゃん?学園都市の話してたんだよな?」

上条「ん、あぁ今もそのつもりだけど?」

ケイン「なんで途中からラノベになってんだよ!ズレてるだろ!」

上条「『ズレじゃない桂だ』」

ケイン「あれ?そんな人出て来てたっけ?」

上条「ま、そんなこんなで毎日退屈はしないぜ!退屈だけはな!」

カレン「涙目になるぐらいつらかったんだね……よしよし」

上条「!?」

テリーザ「お疲れ様でーす。みんなー、上条さんに迷惑かけてないー?」

クリス「お姉ちゃん……」

テリーザ「……あれ?上条さんが半泣きで慰められ――こら、ケイン!」

ケイン「俺じゃねーよ!兄ちゃんが勝手に泣き出したんだよ!」

テリーザ「てか大の男の人が泣くって、よっぽどじゃないと……」

上条「……テリーザさん」

テリーザ「はい?」

上条「俺、今日からここの家の子になるっ!」

テリーザ「あぁはい、そういう与太話は後でどうぞー。お昼ご飯持ってきましたから、さ、食べて下さい」

上条「……なんか少し、レッサーの気が分かったような気がする」

上条「てかもうそんな時間ですか?あ、昼の手伝いするの忘れてた……」

テリーザ「いえいえっ、とんでもないです。本当はお客様なのに、こうやってみんなと遊んで貰ってるだけで、もうっ」

クリス「トーマ、おもしろかった、よ?」

カレン「もうちょっとステキだったら良かったんだけど」

テリーザ「こーら。失礼ですよあなた達!」

上条「……ま、事実だしなぁ」

ケイン「苦労してんだなぁ……」

上条「まぁな」

ケイン「そっちじゃなくって、兄ちゃんのまわりの子達だよ」

上条「はい?」

テリーザ「あー、はいはい。お喋りはそこまで!早く食べちゃって下さい、ケインも!」

ケイン「うーす」

上条「俺は食堂で食べればいいのかな?」

テリーザ「えぇ、メニューが違いますから」

上条「てか、コイツらの方がきちんとした食事になってる」

上条(パンと肉類、あとサラダにゼリーと牛乳。学校の給食みたいなメニューだ)

テリーサ「ちょっと、その」 クイッ

上条(外で、って事ね。了解了解)

上条「それじゃまたなー」

カレン「トーマお兄ちゃん、午後は来てくれないのー?」

上条「ミサに出て、その後夕メシの支度も手伝うって約束しちまったからな。ちょっと難しいと思う」

ケイン「ミサぁ?お前、あんなのに出るのかよ!?」

上条「あんなの?」

テリーザ「ケイン!」

ケイン「姉ちゃんだって言ってたじゃないか。あんなのは、ただの――」

テリーザ「――上条さん、こちらへ」

上条「でも」

テリーザ「いいですから、どうか外へ」

上条「……ん、でもその前に――ケイン」

ケイン「……なんだよ」

上条「そのな、俺昨日買い出しへ付き合ったから分かるんだけど、お前らの食ってるものってテリーザさんが買ってきてくれたんだよ」

ケイン「それがどうしたんだよ!姉ちゃんにとっては仕事なんだろ!?」

上条「ま、そうだな。それは間違いない。けど」

上条「昨日、大量の買い出しとは別に、プリンとかゼリー後お菓子買ってたんだよ。会計別にしてたから、後ろの客がいやーな顔してたから憶えてんだ」

上条「んで、ここまで話せば想像つくだろうが、お前らが食ってんのまさにそれだわな」

カレン「それ、どういうお話なの?」

上条「多分、『教団』の方じゃ『テキトーにやっとけ』ぐらいの指示しかされてなくて、テリーザさんが自腹切ってしてくれたんだと思うよ、それはな」

ケイン「……だから、なんだよ」

上条「この人はお前の敵なんかじゃねーぞ、って話だ。少なくとも悪意でどうこうしようとしている人間じゃ、ない」

上条「俺の言ってる意味、分かるか?」

ケイン「……あぁ」

上条「だったらお前はやるべき事があるに決まってる。そっちのちっさい子達にしてるのと同じだ。何かあったら世話になった人も守らなくちゃいけない」

ケイン「俺が?まだガキなのにか?」

上条「歳も立場も肩書きも、誰かを助けたいんだったら関係ない。言い訳にも理由もならいし――ただもし理由があるすればだ」

上条「――お前が男だからに決まってんだろ」

――病院 廊下

テリーザ「……」

上条「はっきり聞くけど、ケインは居なくなったインド人の子供だよな?」

テリーザ「それは――」

上条「『良い職場を見つけた』ってのは本当なのか?それとも『誰か』から聞いた事なのか?」

テリーザ「……上条さんは、どうして」

上条「……ケインの親父さんは、もう亡くなってるんだ。そして保険金が『教団』へ下りる事になっている」

テリーザ「そんなっ!?」

上条「三人が三人ともだ。死因は……えっと、CF?だかってバードウェイが言ってたな」

テリーザ「『……Cardiac Failure……!』」

上条「カーディ?何?」

テリーザ「日本語では『心不全』です……」

上条「あれ?それ確かよく分からない死因の時につけられるんじゃ……そうか。『病院』だもんな、ここは」

上条「医者が共犯だってなら、死因なんて幾らでも誤魔化せる。イギリスの医療がザルだからって、幾ら何でも!」

テリーザ「……知らないんです」

上条「知らない?ここで生活しているのにか?」

上条「ケインのとーちゃん達とも知り合いだったんだろ?不思議に思わなかったのかよ!?」

テリーザ「だって――分かる訳ないじゃないですかっ!?わたしは!ただの!学生で!」

テリーザ「偉い人達から言われるだけしか!出来る事も少なくてっ!」

上条「……てかさ。聞こうとは思ってたんだけど、テリーザさんはどういう立場なんだ?」

上条「助祭――って言う割には雑用しかしてないし、情報も殆ど知らな――」

テリーザ「知りません!本当に分からないんです、何もかも!」

テリーザ「わたしだって!チャンドラーさん達が、そういう事になってるだなてん、知らな――」

上条「あぁ、ごめんな。俺が悪かった。責めるつもりはなかったんだよ、ただ話を聞きたくてさ」

テリーザ「……」

上条「その、それじゃ順番に教えて貰っていいかな?答えたくない事は答えられない、で構わないから」

テリーザ「……お話出来るのは、その、何にもないんですよ、ホントに!」

上条「ケインの事は?」

テリーザ「ケインのお父さん達が居なくなって、司祭様からお聞きしたぐらいで!」

テリーザ「子供達の事をお伝えしても『直ぐに会える』ってだけ!」

上条「司祭様なぁ。えぇっと、確認するけど主教って人は、ウェイトリーさんで合ってるよな?」

テリーザ「はい……主教、もしくは教主……ウィリアム=ウェイトリー……わたしは直接お目にかかった事はありませんけど」

上条「ならテリーザさんの”上”の人は?」

テリーザ「ウェイトリー司祭です」

上条「同じ名前って事は、家族の誰か?」

テリーザ「えっと、一人息子だってお話しになっているのを聞いた事があります。名前は確か――」

テリーザ「――クリストフ=ウェイトリー……」

――病院 8階・廊下

上条 カツ、カツ、カツ、カツ、カツ

上条(想像はついていた筈だ。ウィリアム=ウェイトリー医師が啓いた新興宗教)

上条(当然関わってる――っていうか、残っている『濁音協会』の幹部は二人。ウェイトリィ兄弟)

上条(ダンウィッチの呪われた双子――とは、一体誰の言葉だったろうか?)

上条(……聞いてもないのに答えをポンポン返してくれる相方は、俺の隣には居ない、が)

上条「……」

上条(……これ、思ったよりも深刻な状況じゃないのか?あ、いや、俺達がって事じゃなくイギリスがって意味でだ)

上条(どっかの街であった移民の、しかも10年以上に渡る犯罪すら取り締まれていないのに)

上条(明らかな魔術結社の恒常的な犯罪が、一体どうして放置されてんだよ?『必要悪の教会』はどうしたっつーんだ!)

上条(こんな時に助けてくれるのがアイツらの仕事――いや、待て待て。そう、じゃないな。それは、多分、違う)

上条(俺が知っている『必要悪の教会』の仕事は、特に対魔術師戦で共闘する事が多かった。けど、それは違うんだ)

上条(ステイルの得意な術式――それは『魔女狩りの王(イノケンティウス)』だ。名前が本質を表しているとすれば……)

上条(『教会』――それも、『必要悪』の連中にとっての”本業”は、きっと『魔女狩り』だ)

上条(異端とされる魔術師や魔術を悪用する奴らを粛正するのが仕事)

上条(……だと、すれば。本来この状況なんてのは当然看過出来るような事はない。それをしちまえば存在意義にすら関わる)

上条「……」

上条(でも、実際にステイルや建宮、神裂と言った連中の気配すら感じられないのはおかしい。確実に問題視しているのは間違無いのに)

上条「あー……」

上条(と、なると順番が逆か?ステイルが言ってた『10年前に壊滅させた”らしい”』とバードウェイが言った『生まれる前に壊滅された”筈”』の食い違い)

上条(バードウェイは12歳児だし、最低でも2年のズレがあるって事だが……うーん?これが何を意味しているのか……?)

上条(あの過剰なぐらい気違×が揃った面子で、わざわざ放置させるだけのメリットが――)

上条「……」

上条(……いや、放置して”た”、とすればどうだろう?)

上条(『濁音協会』と『必要悪』、多分それなりの地位に居る奴が癒着か何かしてて、見逃してやった、とか?)

上条(イタリアからイギリスにかけて、二つの十字教だけじゃなく、『明け色』も加わった大規模な駆逐戦。それが12年以上前の話で)

上条(その後、イギリスに潜んでいた奴を倒した――と、偽って匿い始めたのが10年前……そう考えれば辻褄が合うな)

上条「……」

上条(時間の差異はそれで説明が付くとして、ステイル達が介入してこないのは何故だ?)

上条(万が一、今の上層部も『濁音協会』と繋がっていたとすれば、妨害の一つでもある筈……)

上条(けれど俺達は完全に放置プレイ。助けても貰えないが、邪魔もされない。どっちつかず、ニュートラルって言った方が良いかな?)

上条(介入はしてないし、して来ないのは一体どういう意図があ――)

上条「……魔女狩り」

上条(――あぁクソッタレ!そういう事かよ!)

上条(『必要悪の教会』はイギリス清教に害を与えるものへ牙を剥く!その本質は『魔女狩り』であって『救済』じゃない!)

上条(インデックスの知識だって、本来は魔女の脅威へ対してとか言ってやがった!)

上条(そんなイカれた連中が!ここでこうしてご機嫌に異端ゴッコしやがってる連中を見つけたらどうする?)

上条(問答無用で全員『粛正』か、それに近い事をされるに決まってるじゃねぇか!)

上条(ステイル達が接触して来ないのも、多分『私達は”まだ”気づいていませんよー?』ってポーズのためで!猶予期間みたいなもんか!)

上条(俺達が失敗するか、制限時間を超えたらアウト……クソ!)

上条「……」

上条(……それ”だけ”だろうか?本当に?たったそれだけが理由?)

上条(『必要悪』の方はそうかも知れないが、『ヤドリギの家』は……?その裏に居る『濁音協会』はどう考える?)

上条「……」

上条(フランスの病院の前で、建宮は確かこんな事を言ってた筈だ。えっと)

建宮『それだけじゃなく佯狂――気狂いを装っていたとすれば?』

建宮『裏で色々画策しているのを悟られないようにするため、わざと狂っているフリをするのよ』

上条(『狂っていると、”装って”いる』……どこが?この場合は当て嵌まるのか?)

上条「……」

上条(……対応、だな。運営方針って言うか、アバウトすぎる経営、どう考えてもギリギリ回してる上、余裕の欠片もない教団運営……)

上条(俺達――少なくとも”俺”はおかしいと思っていた。法人格もそうだし、テキトーな運営方針もそう)

上条(……でも、それは当然だって思ったんだよ。連中がそういう筋違い、常識外れをするのは当たり前だって受け入れるようになっちまってた)

上条(行動が異常、言葉が異常、魔術が異常、そして安曇阿阪に『団長』、アルフレドにクリストフみたいな幹部連中)

上条(奴らは最初から『自分達は狂った一団である』と強調しまくっていた――)

上条(――そう、不自然な程にだ!)

上条(それらが全てポーズ、演技だとしよう……まぁ安曇や『団長』はおかしかったのかも知れないが、ウェイトリィ兄弟までは同じだって保証は無い)

上条(だとすれば、この『ヤドリギの家』の運営自体も、それも医療保険詐欺みたいな、しょーもない犯罪へ手を染めたのは何故……?)

上条(直ぐに目をつけられそうな犯罪をして、バレるリスクが高まってまで得られるリターンは……)

上条(素人目にも行き当たりばったりな行動で、曲がりなりにも『教団』一つ維持出来る筈がない)

上条「……維持?」

上条(……そうだ。答えは最初っから出ていた……)

上条「常識的に考えれば、至極真っ当な人間なら誰でも思い付く……!」

上条「ウェイトリィは『ヤドリギの家』を捨てるつもりだったのか……!」

上条(顔を出して堂々と名乗って、しかも12年前の事件の残党だと言えば、普通は過去の事件を洗い直すのが当たり前)

上条(当然、『濁音協会』――じゃない、『双頭鮫』も見越していた!)

上条(だからそり隠れ蓑である『ヤドリギの家』の運営も疎かになるし、保険金詐欺みたいな急場凌ぎの犯罪もする!)

上条(つまり最悪の最悪、ここは連中にとってはいつでも切り捨てられる準備がしてある、不要な施設である訳で……)

上条(しかも『善意の信者』って盾がある分、『必要悪の教会』も強硬手段へ訴えるのを躊躇っているのかよ、クソッタレ!)

上条(ついでに言えばアルフレドの術式は空間移動。中途半端に追い詰めても楽に逃げる自信がある。だから!)

上条(クリストフが司祭としてのうのうと活動しやがってる、と!)

上条「……」

上条「あーーーーーーーーがーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」

上条「……」

上条「……よし、切り替えよう……!」

上条(優先順位は……ケインの頼み、カレンとクリスの両親の事か?まずはだ)

上条(合流させてから、無理矢理にでも退団してほしい所だが……まずは話すのが先)

上条(アルフレドをぶちのめすのはレッサーと合流しないと、どうしようもない――つか、そっちもそっちで気になるけどなー)

上条「……」

上条(……しかしさぁ、こんな展開になってくると二人で乗り込んできたのが悔やまれるよな。ベイロープ達の助けがあったら良かったのにって)

上条(……や、でもそれも違うか?こっちが『新たなる光』や『必要悪の教会』、『明け色の陽射し』とかのオールスターズで来たら逃げ出してる筈で)

上条(『たかが二人』って油断してくれてるから、未だに逃げ出してない感じ……か?)

――病院 8階・812号室近く

上条「……」

上条(……正直に言おう、いや思おう?まぁどっちでも良いか)

上条(俺はケインから話を聞いた時、『水族館みたいな』って表現でICUを思い出したんだ)

上条(生命維持装置に繋がれて、患者の家族とはガラス板一枚隔てて入らなきゃならないような。よくテレビで見るヤツ)

上条(……アックアん時に俺も入ったらしいが、あの事件は途中から記憶が曖昧で――まぁいい)

上条(とにかく。そんな先入観があったから、きっとカレン達の親御さんも似たような感じなんだろうな、と思っていた)

上条(……思い込んで、いた)

上条「……」

上条(単刀直入に言えばICUじゃなかった。廊下側がガラス貼りになっていて、そこから室内の様子が見えるって、異様な作りになっていただけであって)

上条(心の病気になっちまった人の処置で、そういうのは聞いた事がある。自傷をしないように見張るためには仕方がない……と、割り切らなきゃいけないんだろう)

上条(けどな?六人部屋をわざわざガラス貼りにする理由って何だ?)

上条(治療って単語よりも『実験』って言った方がしっくりくる。そんな違和感が、あった)

上条「……」

上条(それでもだ。まだ患者同士、他愛の無いお喋りや読書、ラジオをイヤホンで聴いたり、テレビを見てたんだったら、まぁ分かる)

上条(病気や怪我は辛いんだろうが、だからといって治療に焦る事無く行くのも大切だから)

上条「……」

上条(けれど外から見た患者達はそうじゃなかった)

上条(何をする訳でもなく、ベッドへ横たわって天井を眺め続けている様子に、俺は寒気を憶える程異質だった)

上条「……」

上条(そして俺が最も目を引きつけられたのは患者達の頭だった)

上条(程度こそ違うが、全員が示し合わせたかのように一部から全部がそうである――)

上条(――あの、風も無いのに揺れる紅い髪は、なんだ……ッ!?)

今週の投下は以上となります。お付き合い頂いた方に感謝を

レスするついでに色々書いてるのは好きでやってますから、どうかお気になさらず

おっつし☆

乙なんだよ

テリーザさんがかなり良い味。
イメージでは、麦藁色の髪を無造作に後ろで束ねて、鼻にちょっとそばかすが散っていて……

五和とアリサを足して、メンタル面を5で割った感じ、かな。
常人はそんなものですよね。誰もが戦士になれるわけではない。

乙!!

子供たちの名前の元はメタルサーガシリーズ?

フロリスの上条さんへの呼称はジャパニーズで固定なのかな
あ、個別エンドで変わるんですね分かります

>>212
シェリーさんと比べて人生狂わすようなトラウマ抱えてる訳ではないですから、あぁはならないでしょう。多分
ただまぁあの世界の魔術というのは、『自身が世界を変革するため力』なので、
一体どこをどうしたら『ヘイムダルの雷』へ行き当たるのか気にかかる所ではあります

SSでちょい書きましたが、ヘイムダルが『知の角笛』を手に入れた時、『傾聴』――つまり聴力引き替えにした論があります
オーディンの片眼と同じく、アスガルド全域へ轟く霊装のために犠牲にせざるを得なかったと
その副効果として、ヘイムダルは監視の任を負っていたにも関わらず、炎の巨人達がビフレストを渡ってくるまで気付けませんでした
(同様にオーディンは”眼”、つまり『未来を見通し予測する力』を失い、智恵を得たのに終末から逃れられなかった)

またわざわざ同じ雷を選ぶのであれば、『帯』や『槍(手袋)』とも親和性の高いトール神をセッティングするのが楽な筈
にも関わらず、わざわざ『ヘイムダルの雷』を選んでる辺り、何かを犠牲にする未来が暗示されているのかも知れません
加えて『傾聴』を捧げてしまったヘイムダルのように、『騎士派』の企みを看過出来ずに利用されてしまいましたしね
(ちなみに『神ですら権能を捧げる事で扱える霊装』なのだから、『人間ならばその命(or匹敵する膨大な魔翌力)を差し出す必要がある』とSSでは解釈しています。
ベイロープさんは捧げるべき心臓を人様に預けたため、命までは取られませんでしたが……まぁそれはそれで)

以上の原作の設定を踏まえながら予想すれば、某かのジレンマか二律背反に悩む未来が待っているような気がします
例えばブリテン全体の国益を守るのか、それとも独立派に手を貸すのか――という感じで
極めて個人的にはスコットランド王族の子孫(※は、このSSでの設定)で、独立の旗頭になって家族と仲間の間で板挟みに、と話を膨らませられるかも知れません

まぁそれはさておき、レッサーさんはともかく、あの面子では個性の薄いベイロープさんがこの先生きのこれるか……ッ!
キャラ的にフロリスさんが再登場してかっ攫う予感がしないでも(※珍しく上条さんに敵意を持つ女性なので)

>>213
すいません。面倒だと言ったのは”ここ”であって、読んで下さる方でありません。SS読み書きするスレで何やってんだか、と

>>214>>241>>242>>246
ありがとうございます

>>215
佐天「おーぅっ応援ありがとーっ!まさかあたしも『幻想御手』のゲストの筈が、いつの間にかグッズ連発されるぐらい人気になるとは思わなかったよ!」
初春「……大覇星祭編のラストも、まぁポジ的には三角関係のフラグが立ったと言えば、その通りですしねー」
佐天「今年も薄い本が厚くなるねっ!」
初春「去年は……はい、フレなんとかさんが大人気かと思いきや、食蜂さん一色でしたから……」
佐天「アタリだと思うんだけどなー、フレンダさんの声、可愛ぇぇし」
(※てかウチの人気投票、フレンダさんに一週間で66票ぶち込んだのは誰だコノヤロー)

>>216
レッサー「マジレスすると、我がブリテンがイギリス帝国(大英帝国)と呼ばれた時代は幾つかあり、その内一時代は『世界の40%』という説もあります」
レッサー「ですがねー……やっぱりどうやっても維持するためにはコストが必要なんですなー。あ、これはお金だけじゃないですよ?」
レッサー「アメリカ大陸を手放さざるを得なくなったのも、フランス野郎の横やりが入った訳ですし、それを撥ね除けるだけの軍事力は必須」
レッサー「制海権を徐々に強化――でも、ないですかね。WOP野郎の無敵艦隊()ボコったのは15世紀ぐらいだったですし」
レッサー「南下したインドを統一した後、アフリカ、アジア――と手を広げていったら、極東の島国から手酷いカウンター喰らって軍事ボロッボロ」
レッサー「呼応するようにアジアで独立運動が広がり、我が国の植民地を失いましたからねぇ。White supremacyが砕けた瞬間でもあります」
レッサー「服を着るにしても、背丈に合ったものを選ぶのが当たり前。領土にしろ同じくと」
レッサー「なんつーか、まぁ今のアメリカさんと同じで、手広くあれこれやり過ぎると失敗しがちだっつー話ですな」
レッサー「かといって対テロ戦争の手を止めてしまえば、ISISのような忌子が生まれる訳でしてね」
レッサー「責任の有無、また善悪すらも通り越して、今まさに少数派のキリスト教徒が物のように売買されているのが現実」
レッサー「ウクライナとクリミアでもそうですが、これを止めるには戦力を送り込む以外に止める術はないんですよ」
レッサー「どれだけ理想を語ろうが、どんな素晴らしい正義感を持とうが、『暴力を止めるだけの暴力』がなければ意味が無い」
レッサー「そんなあなたに私の好きな言葉をプレゼント。いやぁMANGAって素晴らしいですねぇ」

『目前で進行中のレイプをやめさせるには、説教ではなく力が必要で、それもレイプ後ではなく事前に』 by士郎正宗

>>243
「都会の学校へ出て来たが、馴染めなくて別の所へ行ってしまった」という設定。現実にも割と良く居ます
>常人はそんなものですよね。誰もが戦士になれるわけではない。
に関しては(以下略

>>244
特に考えていませんでした。伏線もあるっちゃありますが、大したもんでもなく
メタルマックスシリーズは4のキャラデザが酷い+ダウンロードコンテンツ多すぎで未プレイです。ブラゲー辺りからなんかちょっとなぁと
俺の好きだったMMはこんなんじゃない!もっと最終盤に出て来た戦車が重くてバギーより使えないとか、
クソ長い東京タワーへ登ってもクズアイテムしか手に入らないとか、デタラメなバランスじゃなきゃ!
そうだ、無いんだったら作れ(以下略

>>245
上条「個別エンドなー……想像つかねー」
上条「いやでもどっかにフラグの神様とか居て、その人がパパッとやってくれるんだったら――」
フラグの神様「あ、どもフラグの神様です」
上条「何やってんの佐天さん?ついに脳まで達しちゃったの?」
フラグの神様「いやなんかこう、ノリでやっとけ!みたいな感じらしくてですね、こうお鉢が回ってきたって言うか」
上条「てーか壁ドンの設定、基本個別エンドじゃねーの?俺、麦野さんとか絹旗さんとか面識無いと思うんだけど」
フラグの神様「まぁそれはそうなんですけどねー。でもあの反応だと、現在籠絡中の五人は恋人さんじゃないですもんね?」
上条「あー……まぁ確かに。他の子も違うけどな!」
フラグの神様「なのでフラグ立った状態でリトライっ!よっ、やったねっJC殺し!」
上条「過去の俺がよりにもよってキャラ被ってるJC二人と関係あったなんて……!」
フラグの神様「あれ、意味よく分かんなかったんですけど、『自殺したと思った子が生きてた』で良いんですよね?だったらハッピーじゃ?」
上条「俺に言われてもな。なんかこう、たゆんたゆんだったのは憶えてる」
フラグの神様「あたしもですね、実は『佐天さん巨乳説』がフェブリク錠10mgとお風呂入った時に肯定されましたし」
上条「誰?俺とは面識無いけどフェブリじゃなかったかな?どんな辞書入れてたら予測変換出来るの?」
上条「てか変な所で医学の知識がちょいちょい出――」
フラグの神様「――はい、ではやって来て下さいなっ!壁ドンLover's ver!いつものように!」
上条「そしてまた君はいつものように人聞きが悪いなっ!」
フラグの神様「なんか収集つかなくなる予感がするんですが、以下は個別エンド以後のお話になりまーす」


――壁ドンLover's ver
上条 ドンッ!
フロリス「っとぉ!?なに、どーしたジャパニーズ!?敵襲か……ッ!?」
フロリス「つーかビックリさせんなよー、何様だーあー?」
上条(あれ?反応は全く同じか?)
フロリス「……あっ!あんなトコにレッサーが服着て歩いてる!」
上条「マジでっ!?――ってそれ、当たり前じゃ――」
フロリス チュッ
上条「」
フロリス「……ってか、恥ずかしいからここまで!あ、後はワタシにはムリだかんねっ!そいじゃっ!」
上条「……負けず嫌い、ってか顔真っ赤で逃げてった……」
(※ちなみに名前に関しては二章の終わりにチラっと呼んで以降、基本恥ずかしくて使ってない……筈。多分)

――第二聖堂前

上条「……」

上条(見ているだけで”持って行かれそう”になる、悪夢とも幻想ともつかない光景を後にした――逃げ出した、と言ってもいい)

上条(あの紅い髪――魔術がそれに類するものなんだろうが、こう、異質すぎて手を出す気にはならなかった)

上条(ヘタに『幻想殺し』で弄ったら大変な事になりそうで恐い、が)

上条(俺だけじゃ情報を集められても正しく判断が出来ない。罠だったら?それとも何か必要な措置だったりしたら?)

上条(罠だったとしてだ。俺一人がダメージを貰うのはまだいい、良くはないけども、まぁ?)

上条(でもあそこで空中を見続けている、カレン達の両親にまで被害が及んだらどうする?)

上条(訳の分からない術式を無効化!流石は『幻想殺し』だ!……で、終る程。いや)

上条(終らせて”くれる”程、『濁音協会』はまともな相手じゃない。自分達ですら改造する相手が、他人の命なんか惜しむ筈が!)

上条「……」

上条(魔術が使えないのは仕方がないとしても、知識はないと厳しい……あぁ、病気に似てるかもな)

上条(病気になってから今までの健康が幸せだったと実感して、また健康になると病気の事を忘れちまうような)

上条「……」

上条(……や、まぁ?俺もね、科学の知識があるって訳じゃないんだよね、って話なんだが)

上条(いつか土御門に『熱膨張って知ってるか?』をドヤ顔で言いきった所、次のような一連の台詞を頂きました。では、再現スタート)

土御門『なぁカミやん?カミやんはバカなの?死ぬの?』

土御門『鉄筋コンクリートって知ってるかにゃー?うん、ほら、家とか橋とか建てる際に使う工法なんだにゃー』

土御門『あれは両方の熱膨張比がほぼ同じだから出来るんであって、他の組み合わせだから無理なんだぜい』

土御門『で、カミやんは「ポットのお湯を零したら、マンションが熱膨張で倒れました」みたいな話聞いたのかい?うん?』

土御門『ないよね?たかが”沸騰水程度の温度”でなる訳がないよね?』

土御門『確かに軽機関銃――鬼軍曹が小隊の殿として面制圧に使うのは、秒間数十発って撃つ”場合”もあるから、バレル自体が赤熱化する場合もあるんだぜい』

土御門『で、理科の実験とかでバーナー使ったよな?なんかこう、マッチの火を近づけると、ボって点火してビビるの』

土御門『あれの温度が大体1300から1600℃、ローソクの火が1000℃だと言われてるにゃー』

土御門『火の付いてる煙草にしても、吹かしてない状態で400℃。どう見ても立派な凶器だから、よい子の皆は煙草を人に向けちゃダメだぜぃ?』

土御門『で、カミやんは理科の実験で何やってたんだにゃー?バーナー使ってビーカー炙る実験しなかった?』

土御門『そん時に金網使ったよね?そうそう、鉄の網』

土御門『鉄の輪っかみたいな手が着いた棒の上へ網乗せて、その上にビーカー乗っけて、上からバーナーで炙るみたいな』

土御門『多分煮沸させるまでだから、10分以上は火ぃ使ってたんだと思うけども、どう?熱膨張で変化してたか?』

土御門『うん、だからな。1000℃以上の高熱で数分間炙って、ようやくうっすい鉄は少し赤くなるかどうかぐらいなんだよ』

土御門『でだ。クソ寒い貨物室の中、しかもたった100℃前後のお湯へ数十秒浸して、熱膨張で銃がイカれるってどう思う?ねぇ、カミやん?』

土御門『もしそれが本当ならば、お鍋の中に鉄の針を浮かべてグツグツ煮れば、変形出来るって事になるよな?違うか?』

土御門『カップ焼きそばと一緒に鉄を入れとけば、たった三分で熱膨張!みたいな?』

土御門『後ね後ね、最近の旅客機って安全面と効率考えてコンロをつけてない機体もあるんだにゃー?』

土御門『だってさ、お茶にしても沸騰したまま出す訳じゃないよな?だから精々60℃ぐらいまでしか上がらない電気ポットがあって』

土御門『火傷するような温度で出すとバカが直ぐ訴訟起こすよね?あれの対策に「最初から○○℃までしか上がりませんが何か?」って』

土御門『機内食にしても、基本カートにコード繋げれば温まるような感じになってっから、あんまり、こう、分かるよな?カミやんは?」

土御門『……あぁうん、なぁカミやん?俺は別に怒ってないよ?全然怒ってる訳じゃないんだぜ?ホントにな?』

土御門『別に全世界のガンマニを代弁して言ってるとか、そういう事じゃないんだ』

土御門『ホラ、俺ってば能力も魔術もまともに使えないじゃん?だからこう、物理的な暴力に頼らざるを得ないっていうかさ、うん』

土御門『だもんで銃器の仕組みや構造を可能な限り知っておかないと、仕事に差し障るっつーか、まぁそっちの話なんだけどさ』

土御門『あと、謝っとくけど、俺今キャラ作ってる余裕がないから気にしないでな?怒ってる訳じゃないんだ』

土御門『例えば中東各国や赤道直下の紛争地域でも銃は使われてるのね、スッゲー暑い所だと思ってくれれば分かるんだが』

土御門『でさぁ、よく「車のボンネットで目玉焼き作ってみた」的な動画あるじゃん?うん、あの衛生的に引くヤツ』

土御門『流れから何となく分ると思うけど、あれ相当熱くなってんのね。具体的に何度かは調べてないけども』

土御門『ま、そんな悪条件の中でも軍や警察、特殊部隊は仕事しなくちゃならないんだよ。銃を持ってだ』

土御門『当然、熱湯ぶっかけられたぐらいでジャムるような、そんなシロモンだったら使えないよね?撃てないよね?』

土御門『銃を使うのは主に屋外が殆どだし、そんなヤワな作りしてねーんだわ、これがな』

土御門『あと、ついでに言えば銃の熱でバレルやフレームが変形するって事故もあるにはある』

土御門『さっき言ったように個人携帯出来るギリギリのレベルである、軽機関銃がーみたいな話は聞くよ?そりゃな?』

土御門『でも、ハンドガン程度、複雑な機構もなんもなしで”撃てなくなる”なんて話、ノーライセンスのデッドコピーでも聞かないからな?』

土御門『特に最近の、つーかここ近年じゃ強化プラスチックを素材にして、軽量化と近距離でも振り回しに長けたモデルが多く作られている』

土御門『特にアメリカなんかはベトナムで高温多湿のジャングル、中東で高温乾燥って超悪条件の中、戦って来た訳で』

土御門『アメリカの強みはアホみたいな物量なんだけど、それにプラスして「経験値の蓄積」って側面もあんのね?』

土御門『具体的には軍を定期的に動かして、あちこちで実戦経験積ましてる感じでさ。故意はどうかは知んないけど』

土御門『でもそれってば武器も同じな訳。色んな修羅場で、散々酷使されれば経験積んでより強いモデルへと昇華されていくんだよ』

土御門『従軍する兵士の命を守り、敵対する連中をぶっ殺すために、銃器も職人の手によって進化させられてきた歴史がある』

土御門『銃器の歴史は裏を返せば人殺しの歴史――って感想を否定するつもりはない。俺もそうだと思ってるし』

土御門『でも同じ人殺しの道具であるならば、剣や甲冑が美術品として持て囃されるのはどうしてだ?』

土御門『そこに何か人を引きつけるものがあって、共感する人間が多く居るからだ。研磨に研磨を重ねた機能美へ対して』

土御門『いいか?銃をバカにするな、カミやんが助かったのは鉄の熱膨張じゃなく、相手がアマチュアで弾を詰まらせただけだ』

土御門『普通は――というか、素人でもない限り新品の銃なんて使わないんだよ』

土御門『耐久性や撃ち方、銃は同じ工業規格で大量生産されているとは言え、一つ一つ癖がある』

土御門 『だからプロってのは事前に試し打ちを繰り返して自分の銃の癖を把握してるんだ』

土御門『フィギュアスケートの選手が、本番でいきなり新品シューズを使うか?使う訳はないよな?』

土御門『他にも特殊部隊なら必ず予備の武器を持つのが常識だとか、銃だけに頼ってるだけで素人未満の格闘術だとか』

土御門『なんつーかまぁ、俺は別にガンマニアでもミリオタでもない。ないんだけど、一言だけ言わしてくれ』

土御門『もしも俺がそのバカだったら、カミやん確実に撃たれて殺されてたからな?』

上条「……」

上条(……と、言うようなですね。有り難いマジ説教を頂きました)

上条(ガンマニアの琴線に触れる何かを踏み抜いたらしい、俺が)

上条(てかさ、今になって思い出してみると『熱膨張って知ってるか?(ドヤァ)』って下り、居るか?)

上条(コーヒーぶっかけてコンテナん中から出て来た所を、俺が無言でボコって終わりにすれば良かったし、そもそも他の武器使われた日には……)

上条「……」

上条(……あ、何か土御門思い出したら落ち着いてきた。そうそう、余裕を失ってどうすんだっつーの。ホントに)

上条(『必要悪の教会』のタイムリミット、んで逃げる気満々の『濁音協会』。どっちも正直ムカツクが、焦って事態が好転する訳もない)

上条(むしろ正常な判断力を鈍らせて、見るべきものを見失う……それじゃ意味がない)

上条(俺にしか出来ない事――見て、聞いて、憶えて……知ろう。ただ、するだけだ……!)

上条「……」

上条(と、決心を改めたのは良いんだが、ミサが始まる第二聖堂前には人集りが出来てた)

上条(誰も中に入る様子がない。こりゃ聞く必要がある――と、その前に)

上条(スマホの自動翻訳アプリを起動、耳に無線式のイヤホンをかけてっと……よし)

上条「あの、すいません?何かあったんですか?」

青年「ん?あぁ何でも落書きがあったんだって」

上条「落書き、ですか?」

青年「あぁほら、見てみなよ。青いペンキで書かれているから」


『ヒント――ドラえも○』


上条「タヌキじゃねぇよっ!ネコ型ロボットだよ!つーか日本語だとバレるしっ!?」

青年「TA、NUKI?フランス語か?」

上条「いえ別に何でもっ!酷い事するヤツが居るんですねっ!」

青年「中もヒドいもんだよ。悪魔の呪文みたいな詩が、壁一面にバーッと」

上条「……ど、どんな内容なんですか……?」

青年「そう、だな。ええと……『TAN-TAN, TANUKI-NO-KINTA――』」

上条「冒涜的で口に出すのも憚られるおぞましい内容ですね!俺にはサッパリ理解出来ませんが!」

青年「そうだなぁ。なんで人の嫌がる事をするんだろうな」

上条「あ、あはははははーーっ!じゃ、俺はこれでっ親切にありがとうございましたっ!」

上条(乾いた笑いともに俺はさっさと逃げ出そ――)

青年「Hey!(おい!)」

上条「あ、はい、なんでしょうか……?」

青年「ミサは第一聖堂で行われるそうだ。急がないと間に合わないぞ」

上条「……あなたは行かないんですか?」

青年「俺達はこれを消さなきゃならん。それに」

上条「それに?」

青年「あの説教は、食後に聞くと胃がもたれる」

――第一聖堂

上条「……さて」

上条(俺があのにーちゃんに理由を訊ねるよりも、『早く行かないと閉められるぞ!』との言葉に背中を押された形になった)

上条(ま、実際にその通りで、少し小走りで向かった第一聖堂は、今まさに入り口が閉じられそうになっていた)

上条(出家信者と思われる、フード付きのシスター服っぽい女の人は俺を見ると無言で扉を上げてくれた)

上条(少しくぐもった音を立てて戸が開き、教会の中へと迎えられたんだが……まぁ、予想に反して普通だった)

上条(アニェーゼと初めて会った教会、まさにそんな感じの『普通』な感じ。これと言って特別を感じさせる事もなく)

上条(装飾品とか調度品の知識はない――いやだったら『何の知識ならある?』と聞かれると困るが――俺でも、そう大して価値の高そうなものはないような気がする)

上条(ただ……それは別にしても奇妙な違和感があるっつーか、うん)

上条(どうにも言葉にしがたい何か……うーん?なんだろうな、これ)

上条(……そんな思いをひとまず横へ置いておき、俺は空いていた座席へ腰を下ろした)

上条(まぁ、アレだ。結婚式場とかである教会の作りと同じだな。中央が通路になってて、その脇を長椅子が何個も並んでいるタイプの)

上条(新郎新婦が真ん中通って、奥の教卓みたいなものの前まで行って神父さんに『汝病める時も健やかなる時も~』とかな)

上条(違和感とは別にして、祭壇?の後ろの所がビニールシートに覆われてる……レッサーかな?もしかしてあの子が何かやらかしたの?)

上条(……いやこれ、相手が相手だからまぁまぁ許されるかもしんないけど、そうじゃなかったらタチの悪いチンピラだよな……)

上条(あ、ちなみにレッサー曰く。普通の教会には教卓なんてなく、司祭や牧師が座る長椅子が置いているのが一般的なんだそうだ)

上条(……ま、そりゃ説教するのには座ってた方が楽だし、立場的に上の人が立ってんのに座ったまんまってもアレだし)

上条(とにかく俺は一番後ろの席にありつけた。ここからなら前がよく見え――は、しない)

上条(そうだな、今ちょっと座る前に見えた感じだと、大体……80人ぐらいかな?全部足せば)

上条(前の方へ座っているのは服装――シスターさんっぽい人達。あ、男の人っぽいのも居るな――が、大体二列ぐらいを占拠してる)

上条(正直、フード+後ろ姿だから、背格好ぐらいしか判断材料がない)

上条(その後ろはずーっと俺達みたいな普通の格好をした連中が並ぶ。性別は半々、歳も……やっぱよく分からん)

上条(時々隣の人同士が会話をしてるから、ハリボテとかじゃないんだろうが……まぁ、疑ったらキリが無い)

上条(相手の懐へ飛び込んだ以上、覚悟を決めるし――)

リィンゴーン、リィンゴーン

上条(鐘の音……?鐘楼なんて無かった筈だが……スピーカーか?)

上条(古さ故か、少し音程の外れたベルの音が響く……あぁ10年前にはこの教団は出来てたんだっけか)

上条(学園都市に居ると気づかないが、どこだって最新の音響設備なんて用意できる訳もなく、設置する意味も無い)

上条(今聞いているスピーカーも、年代物を引き取って来たのかも知れない。それとも)

上条(それよりもずっと前からあって、使い続けているとしたら?)

シーン……カッ、カッ、カッ、カッ

上条(誰かのささやき声も止み、静かになった場を縫うように――引き裂くように、俺達の前へ姿を現す)

上条(――クリストフ=ウェイトリィがだ!)

――第一聖堂 ミサ

クリストフ「――さて、では説教を始めましょうか……説教、うーんあまり僕は好きじゃないんだけどね、この言葉は」

クリストフ「僕たちは同じ人間であり、その上も下もない――というのが建前だけれど、実際にはそうじゃない」

クリストフ「それが間違いだというのは誰でも分かる。それこそ子供だって常識だろう」

クリストフ「しかし是正されないんだから、それだけの『何か』が働いているって事だが……ま、良いだろう。さて」

クリストフ「まず最初に主が御座す。そして『光あれかし』と言葉を発せられ、この世界が光に満ち溢れた」

クリストフ「しかしそれだけではまぶしかろうと『闇もまたあれかし』と望み、一日の内、半分は光で、半分は闇に覆われる事になった――『AMEN(かくあれかし)』」

信者達『AMEN……』

クリストフ「そしていと高きあの御方はその御業にて、太陽を創り、大地を創り、我々人を創った――と、聖書では説いているがこれは不十分だ」

クリストフ「残念ながら、というか正直な所、僕達――僕達の一派は『三位一体』を否定している。否定せざるを得ない」

クリストフ「とは言っても、『神の子』の奇跡を疑っているのではないよ、不心得者よ。決してそのような事はない」

クリストフ「『あの方』――は、良い。善悪で言えば善の頂きへ立つ御方へ、僕達は疑問を差し挟む余地すらない」

クリストフ「『神の子』――これもまた、当然の如く否定する要素を持たない。けれど――」

クリストフ「『聖霊』――いや、『教会』はどうだろうか?君達はどう思う?」

クリストフ「少なくとも『神の子』がおわした時には存在しなかった。教皇も司教も司祭も助祭も」

クリストフ「教皇はペテロの意志を継いでいると言うが……さぁ?それも怪しいもんだけれどね」

クリストフ「文字通り一国一城の主へ収まり、そしてまた豪勢な服を着て世界中の信徒へ手を差し伸べる」

クリストフ「たった一度足りとて、『神』の声を聞いた事無く、選挙と人気で決まる。それこそがナンセンスさ」

クリストフ「……」

クリストフ「……恐らく、誰もか感じているんじゃないかな?彼らが僕達とは違う道を歩いている事に」

クリストフ「僕らの信仰、そもそも『神の子』が声を上げた時には身分も格差もなかった」

クリストフ「ただ、『神の使徒』として全てが等しく平等に、いと高き方から愛されていた――『AMEN』」

信者達『AMEN……』

クリストフ「実際に、彼らが創ったという聖書は不完全なものであったようだ。最新の科学では神が人をお造りになるまで、相当な時間がかかったのも事実」

クリストフ「はっきり言ってしまえば、聖書なんてのは教会が創った紛い物なのさ。だから間違う」

クリストフ「だってそうだろう?僕らの神は全知全能、その方が仰った事をそのまま記せばそれが現実だった筈なのに」

クリストフ「教会はずっと嘘を吐き続けて来たんだよ。そうじゃなきゃガリレイの頃から弾圧なんてしなかった」

クリストフ「嘘吐きの特徴だね。嘘を吐いて、その嘘がバレないように嘘を吐く」

クリストフ「そしたまたその嘘が嘘だと――って風に延々と嘘を吐き続けなければいけない。そのジレンマに陥ったんだ」

クリストフ「今じゃ聖書はフィクション満載のファンタジー、その内ハリウッドで映画されるかもね?あ、されてるんだっけ?」

クリストフ「ジャンルはファンタジーで。ポッターに勝てると良いけどね。難しいかも?」

クリストフ「……」

クリストフ「父は――あ、いやあの方ではなく、物理的な意味で。この病院長にして教主のウィリアム=ウェイトィは、こう提唱した」

クリストフ「『人が人になるためには、敬虔な信仰と揺るぎなき努力が必要である』と」

クリストフ「人類の歴史は神から与えられたもうたモノであるとは言え、苛烈の一言だ」

クリストフ「『発生の時代』、マグマと硫酸の海で『ゆらぎ』から生命は生まれ」」

クリストフ「『闘争の時代』を牙も爪も持たぬ人類は潜り抜けてきた」

クリストフ「『文明の時代』へ至ると、僕達はその他の生き物と一線を画した。これに反論する人は少ないだろう」

クリストフ「だがしかし、だけれども、だというのに――だ」

クリストフ「……自問自答してみるといい――『これだけ文明が進み、人類は霊長と言えるぐらいに進化したというのに、この虚しさはどうした?』と」

クリストフ「『この世界は満たされているにも関わらず、自分の手には何も残っていないのは何故だ?』と」

クリストフ「おかしいと思わないかな?これだけ、多くの発見をし、発明もし、文明も発達した」

クリストフ「だというのに、僕達――いや、はっきりと言おう、『君達はどうして空虚に囚われている』んだろうか?」

クリストフ「それはね、神が居ないからだ――」

クリストフ「――君達の神は殺されたからだ、他ならぬ君達の手によって」

信者達『……』

クリストフ「と言っても物理的な意味なんかじゃない。とはいえ霊的な話でもなく……そうだね、世の中には善の行いと悪の行いがある」

クリストフ「悪とは他人から奪う事、そして善とは他人へ施す事。誰だって知っている事だ」

クリストフ「でも、君達はしているかい?誰かへ手を差し伸べてきた事があったかな?」

クリストフ「隣人を愛するように、家族を慕うように、そう神は仰ったようにだ」

クリストフ「君は、君達は誰かから奪い、傷付けるような事はあっても、逆に与える事はしなかったんじゃないかな?どうだろうか?」

クリストフ「少しでも心当たりがあれば手を上げ……あぁいや、いいか。上げようが上げまいが、神は見ておられる――今、こうしている間にも、ずっと」

クリストフ「……」

クリストフ「……シンプルな、驚く程に単純な言葉で言ってしまえば『だから』だよ

クリストフ「君達が空虚に包まれている理由は、ただただその理由に尽きる」

クリストフ「『悪を成し善を軽んずる』……そうしていれば、神の存在を見失って当然の話だよ。違うかな?」

クリストフ「そりゃ堕落していれば神のお姿が見えよう訳が無いさ。ただそれだけの話」

クリストフ「……」

クリストフ「うん?話は終ったよ?神を信じない人間へ言うべき事は言ったからね」

クリストフ「ここから先は、もしそうだと知った上で打開したい人間のみが知るべきだ」

クリストフ「だから僕の話が的外れだと思ったり、飽きたと思ったら出て行けば良いさ。この教会の扉はいつでも開いているのだから」

クリストフ「……」

クリストフ「……ふーむ?いいかな?誰も出て行かないみたいだけど」

クリストフ「ま、話を聞いたからと言って入信しろとか、追加料金を払え、みたいな事は言わないから安心していい」

クリストフ「……いやまぁ、払ってくれるんだったら有り難く貰うけど――さて」

クリストフ「さっきも言ったように『悪は他人から奪う事、善は他人へ施す事』だね」

クリストフ「それをしていれば君達が抱えている『空虚』もいつか満たされるよ」

クリストフ「他人へ奉仕する喜びというか、他者と繋がってさえ居ればね」

クリストフ「自宅へ帰ってママの肩でも揉んでやるのもいいし、ここの病院で少しばかり働いてくれると嬉しい、かな、僕は」

クリストフ「……」

クリストフ「しかし、残念な事にさ。僕らは正論を言ってるつもりだが、中々外には伝わらないんだ」

クリストフ「多分、『善』が伝わるのはマズい人間達が邪魔しているんだと思うが……そうだな、例えば」

クリストフ「『国』なんてのはそうだよね?僕達が汗水流して働いて得た、正当なる賃金をなんだかんだと名目をつけて奪ってしまう」

クリストフ「これは『悪』の仕業だ。他人から奪うんだからね」

クリストフ「例えば……生まれながらして富める者が富を独占してしまう。政治家や資産家の家に生まれた、というだけで将来が決まってしまう」

クリストフ「親が貧しい者から奪った富で肥え肥り、他人から盗む事だけに長けた大人になる」

クリストフ「たかだか生まれが違うだけで、百万長者の息子として一生を安楽に暮らす者が居る」

クリストフ「その反面、貧しい家庭に生まれ、一生100ユーロ紙幣を見ない者だって居るね」

クリストフ「……これのどこが『平等』なんだい?」

クリストフ「他にも――ほら、ここにもパキスタニやインディア、アジアンだって居るだろう?彼らを受け入れられないのは『悪』だ」

クリストフ「たまたま生まれた国が、ほんの数百キロ離れているだけで壁を作ってしまう社会……そんな『悪』の中に僕らは生きている」

クリストフ「20世紀は『闘争の世代』が再びあった時代だと言えよう。人類が過剰なまでの力を手に入れ、この世界が危うくなる程に」

クリストフ「たかだか一国の指導者がボタンを気まぐれに押せば、世界の殆どが死の灰で覆われる。そんな時代だった」

クリストフ「しかし僕達は変える術を知っている。嘗てジョン=レノンが説いたように、この世界には国も民族という垣根もあってはいけないんだ」

クリストフ「『神の子』がおわした世界に差別はない。ただ、等しく神の元で平等だった」

クリストフ「でも、今は違うよね?誰かの都合で引いた国境線で僕らは区切られ、手を取り合う事も、こうやって喋る事も満足に出来ない」

クリストフ「いつからだろう?僕達が肌の色や人種、国籍や言葉で分かたれるようになってしまったのは?」

クリストフ「例えば畑を耕す仕事がある。例えば書類に判を押す仕事がある。例えば株価のグラフと睨めっこする仕事がある」

クリストフ「これは全て等しく仕事だ。けれど得られる対価は海と山ほども違う」

クリストフ「恐らく最も体を酷使し、時間も費やしているのは僕らなのにね」

クリストフ「これ、おかしいと思わないかい?同じ仕事――で、すらないのに搾取され続ける側とする側が明確に分かれている」

クリストフ「仕事ですらそうなんだから人種なんて酷いものだ……そうそう、移民にしてもだ」

クリストフ「彼らは様々な理由から故郷を捨てなければいけなかった人間達だ。ノーベル賞の候補に挙がった女の子もそうだね」

クリストフ「彼女の境遇を想像してみれば分かるように、社会的弱者であって、僕達は彼らを受け入れなければいけない」

クリストフ「僕らが、僕らの神の信仰に準ずれば、同じ神の国へ住まう住人として手を差し伸べるのは当たり前だ」

クリストフ「……」

クリストフ「……僕らは確かに過ちを犯すよ。生きていればそうだし、それは『神の子』が背負われたとは言え、消えて無くなった訳ではない」

クリストフ「だから僕達は、僕達の『善』を成すためだけに『悪』と戦わなければいけない」

クリストフ「一人一人は無力かも知れない。今はまだ誰からも理解されないかも知れない」

クリストフ「でも、だからといって戦わない理由にはならない。恐いと言っている間にも『敵』は動きを止めないのだから」

クリストフ「それは『国』であったり、『教会』であったり」

クリストフ「僕達は絶対の『善』だ。何一つ曇りもない、正真正銘の『善』」

クリストフ「考え、学び、知り、実践している――これもまた『正義』の行いだよ」

クリストフ「神が望んだ世界――少なくとも、弱者へ対して施しを与え、共に生きようとする。それは万人が否定する事は出来ない」

クリストフ「『悪』に取り憑かれて、他者から奪うだけのものに成り果てていない限りは」

クリストフ「……」

クリストフ「僕達は神の御許に於いて例外なく平等である。しかしこの国、この世界がそうだとは程遠い……!」

クリストフ「だから、僕達がこの世界を変えていかなければならない!平等や平和を邪魔する『悪』と戦い、勝利しなければいけない!」

クリストフ「僕達は神の代理人である!教会や牧師達よりもっと純粋で、しかも『善』と共にある!」

クリストフ「恐るる事なかれ、考える事なかれ、神の国はもうそこまで来ている――」

クリストフ「――『AMEN』」

信者達『……AMEN……!』

パチ、パチパチパチパチッ……

クリストフ「……ありがとう、あぁありがとう。ふぅ、疲れるね。また若いつもりなんだけとさ」

クリストフ「さて……じゃ、何か質問がある人は挙手を――」

上条「はいっ」

クリストフ「――して、くださ、い……」

――ミサ

上条(……まぁ、半分ぐらいアホらしくて聞き流してたんだが……)

上条(これ、逆にチャンスじゃねぇのか?ここで張り切ってクリストフを論破すれば、信者の人も離れると)

上条(人が少なくなれば巻き込まれる人間も減るし、変に動きがあっても必要最低限の犠牲で済む……とは、中々割り切れないけどな)

上条(ま、ダメ元でやってみるしか――つか、予想以上にクリストフ”司祭”、ビックリしてやがんな!)

上条(俺らが侵入してるなんぞ、とっくにバレてるもんだと思っていたが……バカ兄貴の性格上、伝えてなかったとか?)

上条(……有り得るなー。だって魔術師だもん)

上条「はーい、はいはいっ!俺っ!」

クリストフ「だ、誰か居ませんかー?」

上条「おいこっち見ろやテメェ。視線逸らしてんじゃねぇぞゴラ?あ?」

クリストフ「……はい、そこのチンピラの方。どうぞ」

上条「あ、ども、初めまして正義のヒーローさん。通りすがりの一般人ですが、ちょっといいですかね?」

クリストフ「出口はあちらですよ?」

上条「あ、こりゃご丁寧にどうも――ではなくてですよ、ちょい前に格好良い事言ってたじゃないですか?『善』がどうこうって」

クリストフ「えぇ、はい」

上条「胡散臭ぇ」

クリストフ「……はい?」

上条「だから胡散臭ぇつってんだろ」

クリストフ「はぁ、それで?」

上条「……」

上条(……しまった。クリストフがパニクってんの見たら、何言うか忘れた……!)

クリストフ「あぁっと、はい、お気持ちは分かりますよ。ジャパニーズの方」

クリストフ「よく分からないもの、もしくは受け入れがたいものへレッテルを貼って見えない聞こえない分からないフリをするのはよくある事です」

クリストフ「では、こちらから伺いましょう――あなた、そしてあなたと同じ能力を持つ人間が居たとしましょう」

クリストフ「ま、実際に瓜二つと言う事は無いので、同程度の仕事を出来る能力を持っていた、と」

クリストフ「ですが、その人物とあなた、同じ仕事を同じだけするにも関わらず、評価は賃金が全く違う」

クリストフ「あなた貰う筈だった賃金、その倍も彼が貰っているとすればどうします?不公平でしょう?」

クリストフ「今のはあくまでも喩えですが、これと同じ……いや、もっと悪い現象が現実に起きているのです!」

上条「うん、だから何?」

クリストフ「……はい、ですから」

上条「同じ能力持ってたって、同じように評価される訳ねーだろ。バカじゃねぇのか?」

クリストフ「バ……どういう、意味です?」

上条「お前の言ってる事を実践すればだ。会社とかで長年働いてるおっちゃんと、新人の仕事が同じだったら賃金も同じにしろって話だよな?」

上条「今までの実績もガン無視して、それっておかしくねぇかな?」

クリストフ「それは……その、男性が!受け入れるべきなんですよ!」

上条「仮に学校が同じで、歳も離れて無くて、成績も同じぐらいの学生がさ。入社試験で面接受けるとするよな?」

上条「会社側が一人しか欲しくなかった時はどうすんだ?『片方だけを受け入れるのは差別だ!』つって騒ぐのか?」

上条「それやったら二度と騒がれるのはゴメンだから、同じ学校からは取らなくなると思うが……間違ってるかな、俺」

クリストフ「……」

上条「もう一回言う。『胡散臭い』んだよ、お前らは。正論が正論過ぎる」

上条「誰かから奪うのが『悪』、ねぇ……?言っている事は分からなくもないが――」

クリストフ「……Paganだ」

上条「はい?ペイガン?どっかで聞いたな」

クリストフ「この者はPaganだ!耳を貸してはいけない!」

上条「……あぁ、はいはい『異端者』的な意味ね。つーかお前、それ」

クリストフ「彼の言っている事に耳を貸してはいけない!彼は差別主義者だ!」

クリストフ「僕達の『善』を成す行動に嫉妬している何も出来ない藁の人よ!我らの前から立ち去り給え!」

信者『……そうだ!去れ!』

信者『去れ、去れ、去れ……!』

信者『女の敵は疾く去れー』

上条(幼稚園のイジメレベルの酷さだが……大の大人が大真面目にやってんのを見ると、悲しくもあるな)

上条(俺一人突き上げたって、そりゃテメーらの力不足を露呈するようなもんだっつーのに)

クリストフ「私達は負けないぞ!汝は審判の日に父によって裁かれるのだ!」

信者『裁かれろ、Pagan!』

信者『報いを受けるのはお前達の方だ!』

信者『女の敵は地獄へ落ちろー、然るべき報いをー』

上条「……あれ?」

クリストフ「どうした!我らの団結力に恐れを成したかっ!」

上条「いやあの、そうじゃなくって、なんかおかしくないか?」

信者『去れ、悉く去れ!』

信者『異端者に慈悲など下らぬ!棄教者には地獄が待って居るぞ!』

信者『いいぞもっと言ってやれー、つーかエンマ様に下を抜かれてしまえー』

信者『ぶっちゃけ××コもげろー、女の敵ー』

上条・クリストフ・信者「「「……」」」

信者『ハーレムルートだと一人分の取り分が少なくなるんだぞー、そこら辺をわかれー』

信者『おにー、あくまー、たかちほー。櫻井×がウスラってるなんて酷い事言うなー』

信者『……』

信者『……おや?いつのまにか静かになってる……?』

上条「……おい、そこのバカ。どさくさ紛れに俺をDISってるヤツ」

信者『お、呼ばれてますよ?』

上条「お前だ、お・ま・えっ!フード被ってんのに前髪と金髪のメッシュがはみ出てるちっこいヤツ!」

上条「隣の人に全責任なすりつけてないでさっさ脱いでこっち来なさい!バレってからとっくに!」

信者『やだ……こんな大勢の中で脱げだなんて――興奮するじゃないですかっ!』

上条「おい恥女、いい加減にしとかないと、こっちにはベイロープにチクるっていう奥の手が――」

信者『――はいっ!そんな訳でですねっ色々ありましたがぁぁっ、ダサい修道士服を抜けばこの通り――――』

レッサー(信者)「可愛い可愛いレッサーちゃんでしたっ!残念っ!」

上条「何やってんの?つーかお前何やってんの?」

レッサー「まぁまぁ上条さん、それは後程しっぽりと。今は先に解決しなきゃいけない問題ありますでしょ?」

上条「あぁ、まぁなぁ?」

上条(殺気立ってる――いや、立って”た”『ヤドリギの家』教団の連中か)

上条(流石にレッサーのこの登場は意表を突かれたようで、緊迫した雰囲気に水を差した形になっているか)

上条(……クリストフの扇動次第で、また元へと戻れるだろうが……さて)

レッサー「ではでは適材適所、『ディベートさせたら最終的に手が出る女!』と学校で有名だった俺が替わりましょう!」

上条「適材かな?それ手ぇ出ちゃってるよね?」

レッサー「どうです、クリストフ司祭様?女の子相手だとヤル気出ないタイプですかー?」

クリストフ「……その言い方は癪に障るが……いいよ、好きにすれば」

レッサー「あざーす!……で、なんでしたっけ?『奪うのが悪で、施すのが善』ですか?」

クリストフ「その通りだよ。僕らは常に――」

レッサー「あ、すいません。そういうのお腹いっぱいなんで結構ですが――質問を」

レッサー「あなた方が『奪われた物』って一体なんでしょうかね?」

クリストフ「それは僕達が汗水流し――」

レッサー「あ、お金でしたっけ。思い出しました、そうそうそんな事言ってましたよねー、そういや」

レッサー「えぇっと、ですなー、どっから話したもんか迷いますが、あぁっと」

レッサー「『公共サービス』の概念ってご存じですか?」

クリストフ「……国が道路を作ったり、年金――」

レッサー「はい結構です。他にも色々ありますけど、そのために遣われていますね。なので国の予算HP見れば書いてありますよ?」

レッサー「どんな予算を組んでどのように遣われたのか、全て具体的に書かれていますね。当たり前ですけど」

クリストフ「だか――」

レッサー「はい、お次。えっと、『能力が等しいのに対価が違う』ですか?あー……居ますよねぇ、そういう人、いつの時代にも」

レッサー「私が知っている限りでは、ここから東へ数千キロ程離れた場所にある国家が、つい20年ぐらい前まで掲げてた思想です。所謂」

レッサー「『社会主義』ってヤツですな」

レッサー「あぁ勘違いしてないで下さいな。私は別に個人の主義主張を否定するつもりはありませんよ?」

レッサー「ですがねー、何一つの例外なく、駄目になっちゃったんですよ、社会主義ってのは。今も名前だけ残っている所はありますけど」

レッサー「理由は色々あるんですが、あなたが最初に仰った『等しく』ってのがネックでしてね?」

レッサー「全てに等しく、可能な限り差を作らないようにしたんですよ。それが彼らの考え方であり、理念ですからね。それ自体は至極真っ当なものです」

レッサー「で、生活水準にしろ労働水準にしろ、ある一定のラインを設けて合わせる必要があります」

レッサー「『金持ちが貧乏になる』のは簡単なんですよ。身上を潰してしまえば良いだけの話ですからね」

レッサー「財産を持っていれば没収して国庫へ入れれば良い。本人とご家族以外はお得な話ですな――が!」

レッサー「『貧乏が金持ちになる』のには、それ相応の財産が必要です。そう、『他人よりも多いお金』が必要だと」

レッサー「……うんまぁ、ここまで言えば分かるでしょうが。社会主義の行き着いた先は『全員等しく貧乏になった』んです」

レッサー「全員不幸になった――ま、それはそれで幸せなのかも知れませんし、理念だけを掲げて肥え肥る共産党員に比べれば遙かに真っ当ですが」

レッサー「『能力』にしても、それを測る人間が必要であり、またそれを国家が決めねばいけません、個々人ではなく『国家』が」

レッサー「さてどれだけ膨大な手間暇がかかったのか、想像がつきます?」

レッサー「仰る事は分からないでもないんですが、何一つ現実的ではありません。それこそ国家か、それに近い存在が全ての価値観を決めてしまう世界ですからね」

レッサー「んで、前の話へと戻るんですが、あなた方が奪われたと仰ってる財産、それが公共サービスに遣われているのはご存じですよね?」

レッサー「高齢者の福祉から若年層の教育。人々が暮らす生活空間を整える公共事業」

レッサー「更には外国からの侵略を守る防衛、また私達の声を代弁するに代理制間接民主主義で選ばれた議員のセンセイ方」

レッサー「これら全てを指して、『奪われた』ですか?へー?」

クリストフ「なにが――」

レッサー「可笑しいですねぇ、笑っちゃいますよあっはっはー!」

レッサー「どうせアレでしょ?『負担しているんだからサービスを受けるのは当然だ』とか『多くが無駄に遣われている』とか言っちゃうんでしょ?」

レッサー「じゃ、どうしますか?どうしたいんですか?」

クリストフ「ど、どう?」

レッサー「えぇですから具体的な代案をどうぞ?出来れば『○○部門の××事業が不採算である』と言って頂きたいですかねぇ」

レッサー「……Please?」

クリストフ「……」

レッサー「言えないでしょう、どうせ?どこが無駄で無駄じゃないとか、あれこれ改善すべきとか言うのは簡単ですよ――そう、『口』だけは」

レッサー「でも具体的に、実行へ移す案はお持ちでないのでしょう?ただただ理想の姿がこうあって、それにすべきだ、そうしましょう――」

レッサー「――そんな『寝言』しか言えないんですから、あなた方は」

クリストフ「気をつけろ!この女は異端だ!」

レッサー「って、あーぁ言っちゃいましたか、言っちゃいましたよね-、その言葉を」

レッサー「『こっちが待っていた』とも知らずに――てかクリストフさん、あなたお兄さんに比べて数段落ちますなぁ」

クリストフ「何を」

レッサー「あなた方は言いました、『弱者には施しを与えるのか善なのだ』と。ま、否定はしませんが」

レッサー「私もこちらの上条さんも、正しい意味ではあなた方と同じ十字教徒ではありません」

レッサー「私の方は一応そうなんですが、ツンツン頭はハレムを肯定する宗教の方です」

上条「さりげなく捏造すんなコノヤロー」

レッサー「なので十字教アリウス派を名乗るあなた方からすれば、まず間違いなく『異端』であり、”Pagan”であると。それを踏まえてお聞きしますね?」

レッサー「あなた方の『善』や『施し』とは、たかだか信じる神が違っただけで排斥する理由になるんですか?」

クリストフ「……っ!」

レッサー「ならばここにもいらっしゃいますよね、移民の方。彼らは間違いなく十字教ですらないのですが、彼らも排斥すべきだと?」

レッサー「もしそうでないのならば、移民だけを贔屓にして私達を排除する――立派な『差別』ですよねぇ?」

レッサー「あなたが散々仰った『神の元に平等あるべき』は『ただし異教徒と別派閥は除く!』という薄っぺらい物であったと」

レッサー「教会を散々恣意的だと非難されていましたが、あなたの方が酷いんじゃないですかね?どうです?」

クリストフ「……」

レッサー「ちなみに今クリストフ司祭様が仰ったのは『詭弁』の、『ネームコーリング』もしくは『ラベリング』という手法ですねぇ」

レッサー「逆立ちしても闇討ちしても、勿論正面からも勝てない程に理論武装した相手とかいますよね?そんな絶望的な状況で卑怯者がよく使います」

レッサー「勝てる目算が無いので、『相手への人格攻撃をして相手が用いるロジックを貶める』手口」

レッサー「たっとっえっばー、ですねー。ある政治家は『○○という政策があり、××という成果を出してきた』と選挙で言います」

レッサー「彼の言う事は正論なのでー、野党側は別の政策やらを取り上げて攻撃材料にしなければいけません。しかしそれをする頭は無い」

レッサー「なので彼らは、『上から目線だ』とか『世襲だ』とか『頭が悪い』等々、個人への中傷に徹するしか無かったんですな」

レッサー「そうすれば『相手の議論へ踏み込む事無く、相手を貶める事が出来るから』です」

レッサー「……ま、そんな人格攻撃をした瞬間に『自身は正攻法では勝負を挑む事すら出来ない負け犬』だと証明してしまっているんですがねぇ、えぇ」

レッサー「その証拠に言えば言う程、使えば使う程効力を失っていくんですよ。正常な人間から見れば一目瞭然で、議論にすり替えだと気付くんですがね」

レッサー「そしてこの『ラベリング』、通称レッテル貼りは『使っている本人をダメにする』という副作用がありまして」

レッサー「成功体験って言うんですかね?こんな簡単で単純な詭弁を使い、勝利してしまったら手放せなくなります」

レッサー「要は『相手個人の文句を言っていれば、どんな議論へ対しても通用する――”と、思い込める”』んですから」

レッサー「実際には二度三度繰り返す内に、それがご自身へ対するレッテルを貼ってるに過ぎません。どんなものかは口に出したくもありませんけどね」

レッサー「んで、以上を踏まえてクリストフさーん?言えるもんならばもう一度どうぞー?なんでしたっけ?Pagan?」

クリストフ「……っ!」

レッサー「あー、あとついでに私は優しいんで簡単な経済学についてレクチャーしたいと思うんですが、まぁ普通のサラリーマン居ますよね?」

レッサー「その方の生活費を1、でもって納税額も1としましょう。えぇ体感なので細かい事は言いっこ無しでお願いしますよ」

レッサー「で、彼の納めた1の税金。これを遣えば1――つまり誰か一人を生活させる事が出来ます」

レッサー「ま、学費なり保険なり、お歳を召された方への年金だとしても良いでしょう――あ、これはあなた方の言う『善の施し』になるんですかね」

レッサー「んーでー、同じくお金持ちは100、場合によってはそれ以上納税をします」

レッサー「それによって助かる人は普通のサラリーマンの100倍以上だと……分かります?私の言っている意味?」

レッサー「今のは個人の例であり、税金の多くは法人税が占めていますが、まぁアレですよ」

レッサー「『金持ちの方が他者ヘ対する貢献度』に於いて、一般人を遙かに凌ぐんですね」

レッサー「それが不正なお金だと、または汚い方法で稼いだとあなた方は言うのかも知れません。誰かから『奪った』とね」

レッサー「ですが、ある一定額はそうやって『弱者への施し』に有効活用されている現実もあるんですよ」

レッサー「で、あなた方は具体的にどんな活動をされていますか?納税や寄付金で誰かの助けになっているとか?」

レッサー「それともボランテイア活動をしている……いや、それも違いますよね」

レッサー「あなた方がやっているのは、この『ヤドリギの家』を肥らせるためだけ」

レッサー「奉仕活動と言う名の脱法介護も、信者さんによる討論の場も、全てが教団の営利目的に適っています」

クリストフ「う、嘘を吐く――」

レッサー「私はね、クリストフさん。一身上の都合からPatriot(愛国者)を名乗ってるもんなんですが、全ての根本というのは国家なんですよ」

レッサー「ご両親が大事――いいですよねぇ、パパンとママンには迷惑ばっかかけてますから、いつかご恩返ししたいものですな」

レッサー「兄妹が大事――兄弟仲が宜しいのは結構ですなー。ヨスガると目も当てられませんが」

レッサー「家族が大事――私もいつか素敵で浮気性じゃない旦那様が欲しいものですよ」

レッサー「仲間が大事――これも嫌いじゃありませんなー。私もそうですし」

レッサー「故郷が大事――ま、イングランドにスコットランド、北アイルランドにウェールズ。郷土愛は大切ですからね」

レッサー「色々な『大事』の範囲がありますよね?他にも会社で会ったり、同好の士達であったり、色々とあるでしょう」

レッサー「それら全てをひっくるめた、最大単位が『国家』なんですよ。恐らくあなたには理解出来ないでしょうが」

レッサー「私が、私達がブリテンの国益を守るというのは、その上に乗っている国民を守るためです」

レッサー「この世界には家族を愛する人間が居て、仲間を愛する人間が居て、郷土を愛する人間が居る」

レッサー「そして、国を愛する人間が居る。ただそれだけの話です……ま、なんですかね」

レッサー「この国を恨み、この国を騙し、この国を嘲り、この国を裏切る」

レッサー「そんなあなたにアドバイスをして差し上げましょうか。優しいなー、さっすがレッサーちゃん!」

レッサー「まずここに、10ポンド紙幣があります。これは国が発行しているものですが――」

レッサー「――どうしてこれが、『10ポンドの価値を持つか?』と考えた事はおありでしょうか?……ないですよねぇ、きっと」

レッサー「その理由は『国家が10ポンドだと価値を保証しているから』です。分かりますか?」

レッサー「例えばこれがメモ用紙に書いた『じゅっぽんど』であるならば、何も買えませんし、他の貨幣との交換出来ません」

レッサー「何故ならばその紙は何の価値も誰の裏付けもない、ただの落書きだからです」

レッサー「ですがこの紙。発行に数ペニーしかかかっていないのに、10ポンドの価値を持ちます。それは何故か?」

レッサー「それも『ブリテン国家がそう保証しているから』以外の答えはありません」

レッサー「……ま、他にも大体そうなんですよ。あなた方が不朽のものだと『勘違い』している人権ってありますでしょ?」

レッサー「人らしく生きる権利だとか、表現の自由だとか――アレも全て、何一つ例外なく、『保障しているのは国』です」

レッサー「そうですねぇ……」

レッサー「我々がか少し前まで植民地にしていた香港。あそこでは中国国内で唯一、言論の自由が認められていました――そう『ブリテン国家』によって」

レッサー「私達が私達のルールに則り、住人へ対してそう保障し、維持を続けていたからです」

レッサー「統治者が件の帝国主義の亡霊どもへ替わると、あっさりその『保障』は打ち切られ、言論の自由はなくなりましたよね?それが、現実」

レッサー「……なんてーか、ですね。世の中には不思議な人達もいらっしゃいましてね」

レッサー「『人権とは人が生まれながらにして持つ権利だ』なんて仰る方が居ます。言うのは勝手ですが……あー……バカでしょ?ぶっちゃけ」

レッサー「言っちゃなんですが、『人が最低限度の暮らしが出来る権利』なんてのは、ある程度豊かな国じゃないと出来ません」

レッサー「言い方は悪いんですが、それこそ『金持ち』を多く有していないと、他者の面倒を丸々看るなんてのは不可能です」

レッサー「視点を少し変えればウクライナに南スーダン、そしてイラクで絶賛活動中のISISの皆さんはどうです?」

レッサー「そちらへお住まいの方々は人権を与えられなかったのですか?それとも無くしてしまったとか?」

レッサー「その答えも簡単ですよね。『国民を保障する国家にその力が無い』だけの話」

レッサー「……はぁ、バカバカしい。どうしてこんなロースクールで習うべき事を言わなければいけないのか、と」

レッサー「あー、そうそう、それじゃ簡単な実験をしてみましょうか。簡単なね」

レッサー「あ、すいませんクリストフさん、ちょっとこちらへどうぞ」

クリストフ「……僕?」

レッサー「いいじゃないですか、別に取って食う訳じゃなし――あ、もそっと右、そうそう、そこがベストです」

レッサー「ではでは、私のお話の締めへ入らせて頂こうと思うんですが――とおっ!!!」

クリストフ「な、何を――」

レッサー「『――Please, Go to the grave(あなたのための墓穴へどうぞ)』」

ガッ

クリストフ「何――だぁぁぁっ!?」

ビリビリビリッ……ドーンッ

信者『司祭様……!?』

上条「ちょ!?レッサー、お前跳び蹴りって!?」

上条「つーか大丈夫か!?ビニールシート破った先に落とし穴?なんで?」

レッサー「今、私は傷害罪を侵しました。ぶっちゃけ現行犯です。イラッとしてやりましたが、反省していません」

上条「しなさいよ、反省を」

レッサー「でも普通は、少々イライラしたからって手を出しませんよね?だって捕まりますから。ですが!」

レッサー「この『捕まえて・裁判にかけ・刑を執行する』という一連の流れ。これ全て国家がやっているものです」

レッサー「もし仮に、この国がきちんと機能していなければ、暴力へ対して弱い者が搾取され続ける地獄のような光景が見られるでしょうね」

レッサー「あなた方の安全を保障し、また自由に言動が行えるように取りはからっているのも、全て『国家』が保障してくれてるんですよ、えぇ」

レッサー「今、あなた方がやっている事、仰っている事は――」

レッサー「――平和な場所で反撃しない相手に『自由』だの『平等』だと言った、聞き心地が良くて中身の無い言葉で批判する――」

レッサー「――言わば『思想家ごっこ・活動家ごっこ』に過ぎませんな」

レッサー「誰もが反論しにくい綺麗事を言い、自己満足に浸るだけの」

レッサー「目的があるのでしたら政治的な活動をすれば良いでしょう?我が国はそれが出来る権利を、全ての人が正しく保有しているんですから」

レッサー「でもあなた方はしない。どうしてでしょうね?」

レッサー「答えは簡単、『胡散臭い』からです。私の相方が言ったように、地へ足をつけて真っ当に生きている人間からすればそう見えるんですよ」

レッサー「受け入れられないのは分かってる。だからこうして、地味ーに人を騙くらかして詭弁を振うしか出来ないと」

レッサー「この世界で一番偉いのはあなた方ではない――誰かを『導いてやらなくてはいけない』なんて傲慢な考えを持った人間では、決して」

レッサー「そして当然、私のような法を法とも思わないような無頼の輩でもありません」

レッサー「毎日毎日を正直に生き、自分の頭で考え、誰かを愛し、誰かから愛される――」

レッサー「――そんな『普通』の人達ですよ」

――寄宿舎404号室

上条「レッサー……脱げよ」

レッサー「灯り、消して下さいね……?」

上条「違げーよ、何雰囲気作ってんだよ!俺はただ応急手当するから上着を取れっつってんだ!」

レッサー「暫しお待ちを!絶好の大義名分を得た今、全速力でマッパになりますから!」

上条「やってもいいが、俺は逃げるからな?」

レッサー「ちゅーか心配しすぎなんですよ。私達には魔術でちょいちょいと治せますから、そんなに心配しなくても」

上条「多分、だけどさ。『魔術で治してる最中なのに血が滲むぐらいの大怪我』なんだろ?」

レッサー「気づかれたくない所にだけ気づきますよねぇ、相変わらず」

上条「心配すんな。こう見えても怪我は大小しょっちゅうしてるから、手当には定評があるぞ!」

レッサー「いやその、そっちはあんまり心配してないんですがね、その」

レッサー「ぶっちゃけ肌見せるの恥ずかしいかなー、なんてですね」

上条「……」

レッサー「……」

上条「……くっ!お前ホンモノのレッサーをどこへやったっ!?」

レッサー「居ますよー、あなたの目の前、NOW!」

上条「俺の知ってるレッサーは嬉々として全裸になろうとする筈だ!」

レッサー「自業自得とは言え、何か凹みますねぇその評価」

上条「んで、無理矢理脱がすのと『右手』で無理矢理脱がすの、どっがいい?」

レッサー「実質上の一択だと思うんですが……まぁ、抵抗する力も無いんで、お願いしますね」

上条(つってレッサーは『N∴L∴』のアウターを恥ずかしそうに脱ぎ、背をこっちへ向ける――)

上条(――恥ずかしそう!?あのレッサーが!?)

上条「……騙されるな!これはきっと罠だ!」

レッサー「てーか寒いんでちゃっちゃとやって下さいな。あと声に出てます」

上条「お、おぅ……!」

上条(後ろ向きにベッドへ座ったレッサー、後ろからシャツをまくって、と)

上条(斬られた痕?数本の横に伸びる傷口からは血が滲んでいる)

上条(ブラの背中部分がない、って事は――)

上条「……」

上条(コイツ、ノーブラじゃねぇか!?)

上条(……うん、不謹慎だよね。分かってるよ!でも男の子だから仕方がないじゃんか!)

レッサー「……おや?どこかでオオカミさんが叫んでいるような……?」

上条「幻聴じゃないかな?この部屋には紳士しかいないし」

上条(と完璧に誤魔化して、テリーザさんから預かった救急箱から消毒スプレーとガーゼ、あと包帯を取り出してーと)

上条(……テリーザさんにやって貰えばいいんじゃね?って、今思ったけど……まぁ、いいか。兄妹設定だし)

上条(さっさと消毒し――)

レッサー「……上条さん」

上条「エ、エロい事なんて考えてないよっ!?本当だからねっ!」

レッサー「何かもう、その反応だけでお腹いっぱいなんですが……違います。そういうんじゃなくて、ですね」

レッサー「さっきのお話、どう思いました?」

上条「どっち?」

レッサー「どっちも、ですね」

上条「正直に話していい?」

レッサー「どぞ」

上条「クリストフの話はちょっと共感出来る所もあった」

レッサー「……どこら辺が?」

上条「面接の話」

レッサー「実体験だったんですか、あれ!?」

上条「バイトだけどなー。俺の場合、トラブルに巻き込まれて面接すら受けられない事が何度か……!」

レッサー「心中お察しします、えぇ」

上条「だからこう、なんだろうな?そんなに変わらない奴が、楽なバイトばっか狙って落としてる、みたいなのはちっと思うよ」

上条「不公平だよな、って」

レッサー「……ですかねぇ」

上条「でもな、俺が知ってんのはそれだけじゃない。知り合いに学園都市の第三位――」

上条「――と、第一位と第二位と第五位と第七位が居るんだけど」

レッサー「ほぼコンプリート!?内外からも謎の存在とされているのに!」

上条「話聞くとスゲーなーとか、羨ましいなーとかは思っちまう、よなぁ?そんなに俺達と歳も変わんねぇのにってな」

上条「でも会って話して、付き合ってみれば――その『立場』だからこそ悩んでる事があってさ」

上条「悪い大人に騙されて実験をさせられて、その責任を取ろうと死ぬ気になった奴も居る」

上条「どんだけ止めて欲しくても、誰一人として手を伸ばしてくれなかった奴も居る」

上条「……よく、憶えてないんだが他にもあるっぽいが、それはまだ思い出せそうにはない」

上条「俺が何を言いたいのかって言えば、誰だって自分の立場で悩んでんじゃねーの、って事だな」

上条「キャーリサ……は、極端な例かもしんないけどさ。あんだけイギリスの事を大事に考えて、手を汚すなんて考えられないだろ」

上条「外からはとても華やかな世界に見えるけど、実際には大違いだ」

レッサー「あの方々は基本、自由意志というものが制限されがちですからね」

レッサー「国を立て直すために命だけでは無く、ご自分の名誉すらも賭けているんですから、ご立派なものですよ」

上条「だから俺は、その個人がどーたらってのは『隣の芝生は青い』ってのだと思ってる」

上条「『当事者じゃないから分からない』し、『当事者じゃないから好き勝手言える』ってだけで、なんかこう、無責任だ」

上条「そりゃ犯罪とか、セレブ?の特集番組見ると『何やってんだコイツら』的な感想はあるけどなー」

レッサー「……その」

上条「――はい、終わり。服着て良いぞー」

レッサー「杞憂って言葉知ってます?」

上条「はい?杞憂?」

レッサー「昔々中国に居た男が、毎日毎日『天が降って来るかもしれない!?』と怯えて暮らしていました」

レッサー「それが故事になって『杞憂』という言葉が生まれました」

上条「取り越し苦労……俺もどっちかっつーと、その男のタイプだな」

レッサー「これね、私なんですよ」

上条「はい?どういう意味?」

レッサー「私がさっき語ったお話――それは全て私にとっては事実であり、真理でもあります」

レッサー「どこへ出しても恥じる事無く主張しますし、ブリテンに誓って正しいと思っています」

レッサー「……ですがねー、ある人にとっては私も同じ、『空が落ちてくるぞ』と」

上条(治療が終ってシャツを下ろし――たん、だが。レッサーはこっちを振り向かない)

レッサー「こう言っちゃ色々と角が立つんですが、『論破されるには論破されるだけの知識』が必要なんです」

上条「お前、それ言っちゃいけない台詞だろ」

レッサー「上条さんはクリストフさんの説教を『胡散臭い』と切って捨てました。それは恐らく経験に裏付けられたお言葉なのでしょうな」

レッサー「ですが、全ての人が同じような体験をしているかと言えば、生憎そうではありません」

レッサー「生まれてから寿命以外で人の生き死には触れず、また暴力とも無縁である人間だって居る――いえ、それはとても幸運なのですが」

レッサー「自らの国家が国家であるための武力を忌諱し、また国によって国内での自由や権利を認められているのに国家を恨む」

レッサー「そんな方は、結構居るんですよ。残念な事にね」

上条「……」

レッサー「ISIS――イラク・シリアのイスラム国へ参加する若者が増えている。それも先進国からって、お話はご存じで?」

上条「なんでその話に……?」

レッサー「Please?(どうですかね?)」

上条「あぁ知ってるよ。日本人でも誰か、大学生が行こうとして捕まってる」

上条「……あと現地へ取材に行った、女の子っぽい名前の男の人?は、向こうで改宗して元気に暮らしているらしいな」

上条「処刑されるよりかは大分良いけど……なんか、なぁ?」

レッサー「あれも根っこ自体は同じなんですよ。聞いた事ありません?」

レッサー「『どうして俺は能力を持っているのに、世間からは相手にされないんだろう』」

レッサー「『それはきっとこの社会が悪いからだ。そうに違いない』」

レッサー「『だったら俺が正しい方向へ導いて”やる”必要がある』――みたいなの」

上条「それ、クリストフの……!」

レッサー「最初に誤解を解いておきたいのですが、ISISへ参加するのはムスリムではなくただのテロリストです」

レッサー「ただ、その背景にあるのは移民とムスリムの関係もありましてね」

レッサー「えーっと、まぁ、中東の本国を離れて欧米へ行きますよね?移民として本国を捨てて逃げてきます」

レッサー「でもそこは異境の地。文化も人種も言語も全く違いますし、生半可な努力では受け入れられません。不法移民であれば余計に」

レッサー「それでもまぁ?移民一世ならば、本国がどのような所で、逃げるだけの理由があったからと自身を納得させられるそうです」

レッサー「向こうに比べれば、こちらは天国であると――ま、そのただ乗りしている社会保障は私達の積み上げたものなんですが」

レッサー「で、今テロリストへ合流するのは二世や三世が多いんですよ」

レッサー「彼らは生まれた時から本国を知らず、異境の地の住人として暮らしています」

レッサー「ですが彼らもまた肌の色、国籍の有無、言語などによって『区別』されるんですよ」

レッサー「テレビをつけてみればコメンテーターが平等と融和を唱え、新聞を開けば社説で平和と自由を訴えているのに」

レッサー「そこで、先程の台詞へ行き当たり、終ってしまいます」

上条「……自分達の住んでる場所で、受け入れられないから、か?」

レッサー「ですがねぇ、それもまた当たり前の事なんですよ」

レッサー「ブリテンでパキスタニの事件があって、また数年前にはロンドン暴動で移民が暴れまくって国民感情は惨憺たる有様です」

レッサー「確かにまともな移民も居るでしょう。というかまともなのが殆どなのでしょうな。そこは否定しませんし、してもいけません」

レッサー「でもそれとは別に感情というものがありまして、ここまで人様の国で好き勝手するならお前ら帰れよ、という動きが加速しています」

上条「右派勢力だっけ?」

レッサー「だけじゃないですね。スイスとか、移民の数を制限し始めた国も出て来ています」

レッサー「……そうやってまた、行き場を無くす、無くした先に両手を広げWelcomeしているのが――」

上条「……テロリスト!」

レッサー「Exactly。これと言った意味も大義も無く、自分が置かれてる現状を国へと逆恨みして攻撃する人、居ません?」

レッサー「何を勘違いしたのか、『そういうの』にハマってテロの道へと走る……ま、自分探しの旅の一環と言えば、そうかも知れません」

レッサー「もう帰っては来れないでしょうけど」

上条「……」

レッサー「ISISを指して『狂人の群れ』と言う方も多いようですが、実はアレある意味では全く理に適った行動なんですよ」

上条「アレがか!?誰が考えたって無茶だろ!?」

レッサー「無茶?具体的にどうぞ」

上条「いや、だからさ?連中のやってる事ってテロだよな?」

上条「石油採掘施設奪ったり、異教徒奴隷にしたり、外国人捕まえて殺したり身代金取ったりとか」

上条「確かにアメリカとか、EU諸国嫌いな奴は喜ぶかもしれねーけどもだ。どう考えたって無実のイスラム教徒にまて迷惑かけんだろ?」

レッサー「あ、何人かのイスラム指導者が『ISISはムスリムでは無くテロリストである』と声明を出しているので、そこは間違えないで下さいね」

レッサー「――んで上条さん。正解!……てか、なんだかんだでピンポイントに理解しますよね、そーゆーの」

上条「はぃい?正解?何が?」

上条「俺が今言ったのって、『テロリストが好き勝手やれば、関係ない人達まで白い目で見られる』って話だよな?」

レッサー「えぇ、その通りですね。で、その”あと”が問題なんです」

上条「後?どの?」

レッサー「欧米、というか十字教圏内では『ムスリムとアラブ人が白眼視される』と。すると?彼らはどこへ行きます?」

上条「……あっ!」

レッサー「ですね。『通常のコミュニティから弾き出されれば、過激派という極端な思想へ走る場合が多い』んです」

レッサー「むしろ真っ当なムスリムまでもが忌諱されるようになれば、それだけISISへ入ったり共感したりする人間も増える、と」

上条「最悪だな、そいつら!」

レッサー「『ここ』もある意味、そうなんですよ。例えばテリーザさん居ますよね?」

上条「待て待て、どうしてあの人の名前が出て来るんだよ?テリーザさんとお前はあんま話してないから分からないだろうが、あの人はまともだぞ?」

レッサー「……むぅ。私が居ない間にあんな事やそんな事を……!」

上条「してねぇよ。俺がどんだけシモ緩いと思ってんだ?」

レッサー「えっとですねー」

上条「――話を戻そうか!シリアスな話へねっ!」

レッサー「んじや聞きますが――どうしてその”まとも”な人が、”まともじゃない”ここに居るんです?」

上条「え?どうしてって、そりゃ本人へ聞いてみないと」

レッサー「お歳から察するに大学生、教員免許がどうってならば間違いないでしょうな」

レッサー「そんな方がどうしてここなんかに居るのか、分かりませんか?」

上条「……居場所、か?」

レッサー「つーまーりー?」

上条「都会の大学へ出てきたものの、中々馴染めなくって。どうしようか悩んでいたら……」

レッサー「でしょうね。恐らくは『そこ』へつけ込んだんでしょうな」

レッサー「確か数ヶ月前から居る、みたいなお話でしたよね?」

上条「ん、あぁそう言ってたけど」

レッサー「ならば休学か退学――あ、今は休み明けなので、今から戻れば何とかなるかも知れませんかね」

上条「……どういう話だ?」

レッサー「彼らの手口はですね、『先鋭化』するんですよね。言い換えれば『社会からの孤立』とでもなるんでしょうか」

レッサー「例えば上条さん、私達の想像――は、少しばかり酷いですが――が正解だとして、テリーザさんが学校に馴染めないとしましょう」

上条「本当に失礼だよな。何となく正解な気もするが」

レッサー「彼女へ適切なアドバイスをするとしたら、どんな風に言います?」

上条「あー……趣味のサークルにでも入ってみたり、誰か同郷の人と話したり……」

上条「最悪、転校すんのもアリじゃね?確か、こっちの学校って日本よりも緩いんだよな?」

レッサー「ですなぁ。なので私もそれプラス休学も含めてアドバイスをするでしょうが――で、『教団』の場合は『囲い込む』と」

上条「囲い込む……?日本語合ってんのか、それ?」

レッサー「えぇ、割とマシな言い方をしてそれですから、多分合っていると思いますよ。表現を変えるならば『依存させる』と」

上条「……成程」

レッサー「まず長年の親友のように親身に、そして両親のように鷹揚になって、相手を受け入れます」

レッサー「愚痴があるなら何時間でも聞きますし、寂しいのであれば常識の範囲内で側に居るでしょう。ここだけを聞くとぉー」

上条「良心的だよな……あ、もしかしてスッゲー金取るとか?」

レッサー「ブーっ!不正解!だったら『まだ』分かるんですが、取らない分だけタチが悪い」

上条「悪い、のか?良いんじゃなくって?」

レッサー「悪いですねぇ。即金へ走れば『あ、こいつら金が目当てなんだ』と分かるでしょうに、それをしないので実に巧妙です」

レッサー「で、まぁ最初はタダで色々やっていると、当然段々依存していきますよね?よねよね?」

上条「よねが多いが、まぁそうだな。でもそれはそれでいいんじゃね?生活に余裕が生まれれば、新しい環境にだって馴染むだろ」

レッサー「ところがどっこいハム太○!」

レッサー「……」

レッサー「そういや最近――」

上条「言うな。時代の流れなんだ。ゴジ○シリーズにトドメを刺した俺の敵なんだ……!」

レッサー「同時上映で『お前ら、マーティングって言葉知ってる?』と突っ込まれたラインナップですからねぇ、えぇえぇ」

レッサー「で、昔ゲームをしていたらハム○郎の中の人がですね」

上条「他人ですよ?名前が違うんだから違うに決まってんじゃん故意曜日!」

レッサー「てか、上条さんぶっちゃけますけど、たかだか都会へ出て来ただけで凹む上、自己解決も出来ない人間のメンタル」

レッサー「そう、急激に改善されるなんて事、ありますかね?」

上条「あー……うん、分かるような?」

レッサー「なので大抵――と、言い切ってしまうと角が立つので、賢いレッサーちゃんは”中には”と言い直します――は、そのままズルズルと、はい」

レッサー「具体的には依存しまくって、むしろそっちが本業みたいになってしまうんですよ。もうずっぽりと」

上条「あちゃー……」

レッサー「んで、会社や学校、そういうのを放り出してハマればハマる程、今度は社会復帰が困難になっていきます」

レッサー「そして気がつき、周囲を見渡しても相手にしてくれる人は居らず――」

レッサー「――唯一残った『無私の友人』とやらの一員になる、と」

上条「……嫌な話だな、それ」

レッサー「ま、この場合『教団』という『宗教団体』だっただけで、他にももっとタチの悪い所は一杯ありますからねぇ」

レッサー「政治団体であったり、環境保護団体とか、他にも”市民”運動団体でしょーかねぇ」

レッサー「『宗教の体裁を取っていない”だけ”の宗教』なんてのは、腐る程ありますから」

上条「や、神様崇めていないんだったら宗教じゃなくね?」

レッサー「教会ってのは突き詰めれば神の代弁者、預言者なんです。あれこれスンナとか、戒律守れよとか、『神の名に於いて』言う人達です」

レッサー「が、そうじゃなくて『自然環境は悲鳴を上げている』とか、『鯨は怒りの声を上げている』とか、ガイアの声を聞くような人達居ますでしょ?」

上条「居るなぁ。測定器よりも高感度の鼻血出す人とか」

レッサー「多少胡散臭くても、信者獲得は巧妙にすれば難しくもありませんからね――特に若い女性には利用価値がありますんで、重宝されるでしょうな」

上条「お前」

レッサー「実際に子供達の世話を一任された上、私達のような体験入信の勧誘者にもなっていますし――っておや?何か変な想像しませんでしたニヤニヤー?」

上条「ニヤニヤ口で言うなよ!」

レッサー「……ま、”そういう所”も少なからずあるらしいので、上条さんの妄想もあながち間違いではない、と」

レッサー「どっかの島国の自称小学四年生が、実は二十歳でNPO法人の代表だった所からも、胡散臭いものは多々ある訳で」

レッサー「アレも蓋を開いてみれば、『最大野党のシンポジウムのレギュラーゲスト』や『その野党の次期党首と懇ろ』、『その野党の帰化済み議員と懇ろ』」

レッサー「『その野党の元代表兼元総理の息子が副代表を勤めるNPOで同じ副代表』とか、こっちならば政党潰れるぐらいのダメージなんですがねぇ」

レッサー「……」 トスッ

上条「レッサー?」

上条(コテン、とそのまま横になるレッサー)

レッサー「……でも、ですがねぇ。私たまーに思うんですよ」

レッサー「言ってみればここもある種の楽園じゃないですか?」

上条「ここが?こんな所がか?」

レッサー「私達は『外』を知ってますでしょ?もっと自由に、しかも幸せなケースなんか幾らでも見ているからそう言えるのであって」

レッサー「ここでこうして、知識も能力もない人間達だけが寄り添って生きる――それはそれで幸せなんじゃないですかねぇ、と」

上条「……」

レッサー「ここで『国が悪い!企業が悪い!平等な社会を作れ!』って、妄想を土台にした高層ビルぐらいの陰謀論をおっ立てて内に籠る」

レッサー「現実を直視せずに、自分達がどうした存在であるかすら知らずに生きていく――そうした方が、実は幸せなんじゃないでしょうか?」

レッサー「……だから、この人達にとっての杞人は私」

レッサー「『空が落ちてくるぞ!』と有り得ない事を言って不安にさせる、滑稽な嘘吐き……それが、私ですよ――っと、上条さん?」

上条(どーにもらしくないレッサーの頭をくしゃりと乱暴に撫でる……こっちから顔は見えないが)

上条「……聞いた事無かったんだがな、そういや。お前の魔法名は何だ?」

レッサー「え?」

上条「何を考えて、何をしたいと思って、その名前へ決めたんだ?」

上条「今、お前はその名前に恥じない行動をしているか、なぁ?」

レッサー「私の、魔法名……」

上条「俺の戦友は知り合いのために最強であろうと誓った!」

上条「俺の知り合いは救われぬ人のために戦うと決めた!」

上条「……な、レッサー?お前にだってあるんだろう?――イギリスのために命を賭けるような、そんな誓いが!」

レッサー「……」

上条「だったら胸を張れよ!誰から何か思われようが関係ないじゃねぇか!お前の『誓い』はその程度で揺らいじまうようもんなのかよ!?」

レッサ-「ヒッデー言い方ですな、それ」

上条「少なくとも俺は!俺やアリサは!お前達が無理矢理にでも助けて貰った事には感謝してるんだからな!」

上条「この奴らだってそうだよ。今はまだ理解出来ないかもしれない。そしてもしかしたらずっと分からないままで恨まれるかも知れない。でもな!」

上条「この先に待ってんのが袋小路なのに!居なくなった連中のように『病死』するかも知れないのに!黙って居られる訳がないだろうがよっ!」

上条「お前は何だ、レッサー?」

上条「何のために在る?何がしたい?何をすべきだ?」

上条「それは俺なんかに言われなきゃいけない事か?どうなんだよっ!?」

レッサー「……魔法名『Arthur829(永劫の旅路の果てに再び戴冠する王)』、そして――」

レッサー「――『Less-Arthur(未だ満たさぬ英傑の聖杯)』……」

上条「――はい?れす、あー?」

レッサー「憶えておいて下さいな。いつか轟く英雄の名前ですから」

上条(そう言って振り返ったレッサーの、その顔に陰はなく)

上条「うっせぇな元テロリスト。少しは軟禁されてるキャーリサ達を見習いやがれ」

レッサー「反省、してると思います?」

上条「お前もキャーリサもする筈無いですよねっ!」

レッサー「……てーか、流石のレッサーちゃんも疲れましたよー。思わず愚痴を吐いてしまうぐらいには、えぇ」

上条「俺の方の話はさっき伝えたけど、結局お前何やってたの?ドラえも○に恨みでもあるとか?」

レッサー「や、別に大したこっちゃないんですけど、万が一分からなかったらと思いまして!」

上条「気持ちは有り難いんだが、もっと別の所にだな。気を遣うにしてもだ」

レッサー「あー、ねみぃ……ちっと寝ますわ」 ゴソゴソ

上条「聞きなさいよっ人の話をなっ!」

レッサー「上条さん、その、手を」

上条「『右手』か?」

レッサー「ではなくてですね、こう、眠るまで握ってて欲しいかなー、みたいな」

上条「……まぁ、構わないけど」

レッサー「では私は左手を。あの日あなたが掴んで下さったように」

上条「あの日?」

レッサー「……ちょっとだけなら、イタズラしちゃっても良いです……よ……」

レッサー「……」

上条「おーい?レッサーさーん……?」

レッサー「…………くー……すー…………」

上条(何やってきたのかは分からないが、まぁ戦いがあったっぽいのは事実で)

上条(俺なんかに愚痴り、目ぇ瞑って直ぐに寝息を立てるぐらいには、消耗している訳で)

レッサー「……」

上条(こうやって見てると女の子なんだよなぁ。他の子達もそうだけどさ)

上条(……ま、側に人が居るとよく寝付けないだろうし、手ぇ離して――)

レッサー ギュッ

上条(――力強っ!?こいつ霊装解くの忘れてんじゃねぇのか、ってぐらいに握って離さない!)

上条(つーか俺も自分のベッドで寝たいんだが……昨日、眠れなかった分取り返したいっつーかさ)

上条「……」

上条(ベッドは……ここにあるよな。既に一人寝てるけど、更にシングルだけども)

上条(詰めれば、まぁ、何とか?) ゴソゴソッ

レッサー「……すぅ……」

上条(狭いのは狭いが……ま、いいや。俺も色々あって疲れた……)

上条(つーかレッサーの握力スゲェな。本当に解除し忘れたとか?……いやぁ、ナイナイ。そんな『ブラつけたまま寝た』みたいな話――)

上条「……」

上条(そういや、No-Bra(※巻き舌)でしたっけ……確か、えっと……Dカップ&現在成長中さんが!)

上条(……待て!落ち着け!そういう事じゃない!)

上条さんの下条さん(ちなみに海外では”Braless”って言うんで、検索する時は間違えないで下さい)

上条さんの下条さん(他にもスラングとして”Tit”と”Babe”でレッツトライ!)

上条(黙ってろ兄弟!久々に出て来たと思ったらそれか!?……いや違う!何か違う!)

上条(てーか『ちょっとだけなら』みたいな事も言ってたし、す、少しだけなら……?)

上条「……」

上条(……だ、ダメだ!信頼してる相手にそんな事するなんて最低だよ!)

上条(俺達は兄妹!設定でも兄妹は兄妹だ!エッチな事を妹にするお兄ちゃんなんて居ませんっ!)

上条(……はぁ、疲れてんなー、俺も。なんでこんな状態でエロい事考えるんだか。情けない……)

上条(さっさと……眠ろう……余計な事、考え、る……)

上条(……前、に――)

上条 スー……

レッサー「……」

上条「……」

レッサー「…………………………………………………………………………ちぇっ」

今週の投下は以上となります。お付き合い頂いた方に感謝を

最終章、最短で来週、遅くとも年内には終ると思います

ちなみにクリストフの台詞は何年か前に選挙事務所へ潜り込んだ際に拝聴した、某労組幹部と政党議員のお言葉をほぼそのまま引用しています
……しかしISIS+移民の現状解説と、寸止めハーレム系ラブコメが同居してるSSって混沌とし過ぎてる気も……?

さすが釣った魚に餌をやらない主義の上条さん!
さらには他人(の女の子)の弱気につけこむことに定評のある上条さんだ!
おっつし☆

博識ですね上条さんの下条さん。

もうすぐ終わりかあ……なにか淋しい。

ていうか、ここまでストーリー的にも伏線的にもフラグ的にも広がりまくった話が、あと数回でどうやって完結するんだろう?
あと、鳴護さんにも!にも!!

乙!!
田中○樹の創○伝って作品がありましてね
その中に、尖った石が戦車の腹部を突き破ったのがありました
理由が戦車の居住性を高めてエアコンを付けたから、鋼板を薄くしたって意味不明な理由でね

特に意味なく破壊された戦車に比べりゃ、熱膨張なんざ…

壁ドンフロリス最高でした
まさか個別エンドの話題を出しただけでここまでのモノが返ってくるとは

ありがとうございます・・・! フラグの神様・・・! ありがとうございます・・・!

ぅおー来てたー!乙っ
てーか、そっかぁ。もう終わりが近いのかー……
……は、ハーレムEDがダメでも“アフター”なら何したって許されると思うの

貴重なレッサーたち主軸のスレが終わってしまう....
レッサーマジで好きです、はいw

レッサーと上条の共闘シーンはないんですか?

クリスマスssとかはやらないのかなー(チラ

ああ……もう、今週で……終わってしまうのか……

よくぞここまで書き切って下された
もう一頑張りですたい

一年間ホント乙ですわ

今回のssは時事ネタけっこう多くて、わりとカオス
おかげで知識は増えたけど

ラストでもアリサの影が薄かったら泣く

>>276
上条「おい!人聞きの悪い事言うなよ!俺が女の子の人生狂わしてるみたいな言い方は!」
上条「そんな事ないよな、なぁっ?」
御坂「えっ?」
インデックス「えっ?」
神裂「えっ?」
姫神「えっ?」
妹達「えっ?」×9969
風斬「えっ?」
シェリー「えっ?」
五和「えっ?」
オルソラ「えっ?」
アニェーゼ「えっ?」
ルチア「えっ?」
アンジェレネ「えっ?」
オルソラ「えっ?」
リドヴィア「えっ?」
ヴェント「えっ?」
キャーリサ「えっ?」
レッサー「えっ?」
バードウェイ「以下略だ。反省しろ馬鹿者め」

>>277
下条さん(えぇまぁ学問だけではありませんけど実践も必要でして、ある程度失敗をすれば伸びも違います)
下条さん(先週、ですかね。少しお伝えしたい事があったので某大使館とイングランドの新聞社へお手紙を出させて頂いたのですが、その際に翻訳ソフトを使いました)
下条さん(翻訳された英文を推敲していると、「ユダヤ人」を「Jew」とそのまま翻訳されていたものですから、適宜「Jewish」へと直しました)
下条さん(これはですね、「Jew」自体には「高翌利貸し」という意味合いが含まれているため、日常会話では避ける傾向が強いからです)
下条さん(そのま使っても直ぐに問題へ発展する事はまずありませんが――まぁ日本人を”Jap”というぐらいの蔑称”と、受け取る人が居る”ので注意するのが宜しいでしょう)
下条さん(代替としては「Jewish」ですが、これは形容詞で「ユダヤ人の」の意味なので、日本のテスト等で使ったら不正解になります)
下条さん(確かに学校や教材のテキストで学べるものは大きいですし、使い方によっては有用です)
下条さん(ですが現実社会では必ずしも型通りのものが正しいとは言えず、柔軟な対応と経験がものを言う場合もあります)
下条さん(公文書ではわざわざ民族を指定してまず書く機会は無いと思いますが、日常会話で使う時にはご注意下さい)
下条さん(では失礼致します。機会があればまたどこかでお目にかかれたら素敵ですね)

――『ヤドリギの家』 21時過ぎ

テリーザ「……」

テリーザ(上条さん達、来なかったな……てか、お夕飯二人分取っておいたのに……)

テリーザ(勿体ないから食べる?……や、でも太っちゃうのは、何か、嫌かな)

テリーザ(それともレッサーさんの怪我が酷いとか?救急車呼んだ方が良いとか?)

テリーザ(『穴に落ちた』って言ってたけど……第一聖堂に、穴?Catacombあるっては聞いた、っけ?)

テリーザ「……」

テリーザ(何か、体験入信の方が大勢途中で帰っちゃいましたし、あぁお掃除もしないと)

テリーザ(レッサーさんが『やらかした』って言ってたのは、一体……?)

テリーザ「……」

テリーザ(……ま、いいか。明日になったら考えよう、買い出しもしないと)

テリーザ(今日のみんなはお利口さんにしてたから、お菓子を買って――あ、レッサーちゃんも欲しがるかな?)

テリーザ(みんなよりも少し大きい――一部分的はわたしよりも――から、14・5歳ぐらい?)

テリーザ(あの歳でわたしよりしっかりしてるし、見習わないと――)

リィンゴーン、リィンゴーン、リィンゴーン、リィンゴーン……

テリーザ「……こんな時間に、鐘……?大聖堂で、何か――」

テリーザ「……」

テリーザ「……見て、来ないと」

――『ヤドリギの家』教団 敷地内

リィンゴーン、リィンゴーン、リィンゴーン、リィンゴーン……

テリーザ(鐘の音、っていうかスピーカーの音が鳴り続けている。音程が少し外れて、音も一定していないのは同じ……だけれど)

テリーザ(こんな夜中に鳴った事なんて一度も無い。事故?故障?それとも誰かの悪戯?)

テリーザ(昨日の夜に落書きをした人が居るから、夜はあまり出歩かないで、って上条さんには言われてた……けど)

テリーザ(一応、責任者の一人としては見過ごしちゃいけないと思う……し)

テリーザ「……」

テリーザ(へ、変な人が居ても、大声を上げれば大丈夫だよね?ね?)

テリーザ(スピーカーを制御しているのは病院だって聞いた事があるし、取り敢えずそっちへ――あれ?)

テリーザ「……?人……?」

テリーザ(第二聖堂へ向かう石畳の所に誰か倒れ――じゃない、二人?)

テリーザ(暗くてよく見えないけど、片方がもう一人を押し倒し――)

テリーザ(――って!それ拙いんじゃ!?)

テリーザ(えっと!こういう場合警察――は、多分間に合わないし、誰か人を――も、どうだろう?)

テリーザ「……わたしが、やらな――」

女性「――ぁ」

テリーザ「――え?」

テリーザ(地面に押し倒されている方が”男”の人、で……上に乗っているのは、女の人……?)

テリーザ(苦しそうにもがいてる大柄な男の人を、子供でもあしらうように簡単に押さえつけ――)

テリーザ(――その女の人は、頭を男性へ擦りつけるように、いや、実際に押しつけていた――)

テリーザ(――『紅い』髪を……?どうして?)

ズルッ、ザリザリザリザリッ

テリーザ「――ひっ!?」

テリーザ(紅い紅い女性の髪が、まるで魚を捕らえるようにブワッと広がり、男の人の頭部を包み込む……)

テリーザ(ランに似た花が花弁を広げ、捕食しているような……)

ゴキュッ、ポキュッ、ギリ、ギリギリギリギリギリッ

テリーザ(何かの砕ける音、租借されるような音――決して”起きてはいけない音”が紅いツボミの中から響き)

テリーザ(……す、数秒だったのか、数分だったのか、時間の間隔がマヒするぐらいに、長い間ぼうっと見ていた事に、わたしは、気付く)

テリーザ(そして、”気付く”のはわたしだけの特権などでは有り得なく)

男性「――く、はぁぁぁ」

テリーザ(夜目にもはっきりと分かる!男の人もまた、ほんの少し前ではそれじゃなかった――)

テリーザ(――そんな”紅い”髪などしてなかったのに!)

女性「――ああぁ」

男性「――ぃぃいあぁっ――」

テリーザ「――あ、ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

テリーザ(二人の手が伸びわたしはあっさりと地面に引き倒されわたしはわたしはわたしは――)

テリーザ(血と意識が入り込んで入り込んでいたいイタイ痛い居たい――)

テリーザ(――誰かと痛みをわたしは痛いわたしは意識が他人の境が――)

テリーザ(――混迷改善並列均等平等……わたしは、ヒトリジャナい――)

???「――の人か――ら――」

テリーザ「――だれこれはすきこれはすきでもキライキライキライき――」

???「――手を、離しやがれっ!」

パキイィィンッ……!!!

――404号室 回想

レッサー「――結論から言いますと『濁音協会』はクトゥルーでは”ない”でしょう」

上条「……ナニ突然……?俺まだちょっと眠いんだが……」

レッサー「私はお腹が空きました。あ、スコーン頂いてますよっと」

上条「あぁそれは別に。昨日買っといたお菓子も良かったら食べたらいい」

レッサー「感謝です。昨日の夜から飲まず食わずで、スプラッターハウスでしたから」

上条「……何やってたんだよ。てかまずそっち話すのが先だろうが」

レッサー「話すっつっても大した事は……第二聖堂に落書きしてーの、でもって第一聖堂行ってーの、ですからね」

レッサー「んで、そこの地下墳墓でウェイトリィ兄と戦闘になって、明け方近くまでぶちぶち殺してたんです」

上条「ぶちぶち殺す……?長州弁か?」

レッサー「250まではSATSUGAI数カウントしてたんですが、面倒になって途中から止めました」

上条「お前は誰と戦っていたんだ?てーかクラウザ○さんみたいな言うなや」

レッサー「だって死なないんですもん、アルフレドさん」

上条「死なない?」

レッサー「どこをちょん切っても、煮ても焼いても凍らせてもダメ。全然」

レッサー「最初に駅で会った時、なんか植物のツタだか、内蔵だかみたいなの召喚してましたでしょ?」

レッサー「あれの小さいのが、体をスライスさせる度にニョキニョキ伸びて再生させていました」

上条「……グロぉ」

レッサー「や、でも痛みはあるようで、最後の方は『もう殺してくれ!』と叫んでいましたし」

上条「悪のボス相手にお前は何して来やがったんだよ!?」

レッサー「割かし有意義な時間を過ごせたとだけ……しかしあれ、とてもじゃないですが『殺しきれる』ようなもんじゃないですよ」

レッサー「再生までのタイムラグが非常に早い上、本人が原形を留めていない状態でも意識があり、魔術を行使出来る」

レッサー「ぶっちゃけ体の殆どが炭化した状態でも反撃してきましたから、相当強力な術式でしょうな」

上条「で、結局半殺しにしてきただけなのか?」

レッサー「いえ、いい加減魔力が枯渇しそうになってきたので、細切れにした後、凍らせて埋めておきました」

上条「そこだけ聞くとどっちが悪役か分かったもんじゃないけどな!」

レッサー「地下墳墓から上がってみれば、見回りに来た出家信者の方に鉢合わせ、取り敢えず眠らせて成り済ましていました」

上条「相変わらずお前はアクティブ過ぎる!てーかその時点で俺に連絡入れろよ!」

レッサー「あ、すいません。ちょっと出血が酷かったんで、意識が朦朧と……」

上条「ならしょうがないけど……大丈夫なのかよ」

レッサー「取り敢えず意味も無く全裸になってみないと分かりません!」

上条「お前が朦朧としてんのは意識じゃなくて正気だ――てか、つーことはお前」

レッサー「えぇ、まぁ。私も『病院』の中で僅か数時間とは言え生活をしたんですが――」

レッサー「――上条さんが見た『紅い髪』、あれが信者の方にもバァッと広がっていまして」

上条「まさかとは思うが、生まれつきとか染めんのが流行ってるとか、そういうネタじゃないよなぁ?」

レッサー「で、あれば気が楽なんですがねぇ――んで、ここで”クトゥルーではない”へ戻るんですけど」

レッサー「何回かバラしている時、アルフレドの体に描かれていたタトゥーが僅かーに、発光してたんです」

上条「タトゥー――入れ墨かが?なんでまた」

レッサー「元々入れ墨ってのは原始信仰、アミニズムの頃から存在する由緒正しい魔術ですからね。マフィア崩れが素人さん脅すためのもんじゃありません」

上条「たまーに萌えイラストのモンモン入れて台無しな人も居るみたいだがな!」

レッサー「アレもある意味『近寄るな(頭が)危険!』の看板持ってるようなもんですし、アリっちゃアリかと」

レッサー「んで描いたあったのはルーンでした」

上条「内容は?」

レッサー「そんな余裕まではありませんでした……が!多分、これで確定したと思います」

レッサー「『濁音協会はクトゥルーの魔術師ではない』と」

上条「名前を騙って屋やがっただけか!」

レッサー「安曇阿阪は古い”Shin-Tou”、『団長』も同じく”古代エジプトの不死魔術”」

レッサー「ウェイトリィ兄弟が使っているのは”ルーン”――よって北欧魔術以外には有り得ません」

上条「って事はお前らと同じって訳か」

レッサー「あ、いえ正確に言えば私達は偽装しているので違うんですが」

上条「偽装?なんでまた」

レッサー「そんな事よりも今はアルフレドの不死魔術の真相を解き明かす方が先決ですな!」

上条「お前も俺も、都合が悪くなったら大声張る癖なんとかしようぜ?」

レッサー「いいですかー?魔術師に取っては術式と霊装を解明されると文字通り命に関わりますからね!バカにしたもんじゃないんですよ!」

レッサー「相手に弱みにつけ込んでドヤ顔で籠絡させる誰かさんの手口そのまんまじゃないですかねっ!?」

上条「概ね同意はするけどもその”誰かさん”について詳しく頼む?何だったら肉体言語で話し合う準備もあるが」

レッサー「何か前にも言いましたが、『不死』自体は神話でもよくある設定なんですよ」

上条「待てやコラ。何かスルーしちゃいけない話題のような気がするんだよ!」

レッサー「一神教に於ける神様は大抵不老不死、というか全知全能である事が多いですし、多神教に於いても、まぁ大抵はそれに近いですよね」

上条「……だったらこの場合も絞れないんじゃないのか?そんだげ溢れてるって事は」

レッサー「とも、限らないですよねぇ。何故ならば”私達は神ならぬ凡夫の身”だからです」

上条「お、おぅ?」

レッサー「一時期その界隈で流行りました”等価交換”って言葉ご存じですか?」

上条「鋼で錬金術なアレだろ?鋼なのか金なのか分からんけど」

レッサー「ですから魔術師的に『金』とは神の肉体と同義であり、金の精製は『神になる』事を意味しているんですってば」

上条「冗談だよ。俺だってそのぐらいは憶えてる……よ?」

レッサー「その”……”が激しく怪しい気がしますが……まぁ良いでしょう。ぶっちゃけスコーンとお菓子じゃ足りなかったので、手短に話したいと思いますが」

レッサー「『大掛かりな魔術を使う際には、それ相応の代償と準備が必要となる』んですね、前に言いましたが」

レッサー「『ブラフマーアストラ』が”三つの流れ星を同時に見る”ように、無茶な条件下でのみ発動する術式が多々あります」

上条「理由は自前の魔力だけじゃ足りず、時には他から――『龍脈』や『レイライン』から補給する、って感じ?」

レッサー「補給というか、そっちがメインの動力源ですかね。人の魔力なんで微々たるもんですから」

上条「……アックアや神裂やバードウェイは?」

レッサー「まず聖人のお二方は後回しにするとして、あのドSロリを筆頭に”普通”の魔術はごまんと居る訳ですよ。あなたの目の前にも居ますけど」

レッサー「なんて言いましょうかねー、『明け色の陽射し』には魔術結社『黄金夜明』の数百年、下手すれば千年単位の秘術が蓄積されている訳で」

レッサー「そのノウハウを幼い頃からカ・ラ・ダに叩き込まれてる相手が、普通かどうかは怪しいもんですがねぇ」

上条「体、強調する必要あったかな?ないよね?」

レッサー「なのでドSロリ実はヘタレ受けさんはさておき、一般的な魔術師の話をしますと」

レッサー「まぁ人によって、魔術の流派によって魔力精製の方法は違いますし、霊装によっても威力は変わります」

レッサー「同じ術式や霊装であっても個人差はあります。てーか化学反応じゃないんですから、違ってて当たり前で」

レッサー「元々の魔力や体質、経験、そして異世界からの汚染を防ぐ呪的防御等々によって上下するのは当然ですね」

上条「運動、みたいなもんか?慣れてる人がするとそんなに疲れないが、そうじゃないと辛いって言う」

レッサー「あー、そうですなぁ、LEDってご存じで?青色発光ダイオード」

上条「うん、知ってるね。まさにもろこっちの話だな」

レッサー「おっ、なら話は早い。あれの『電力を既存の照明よりも遣わない』って特性について話して貰おうじゃ――」

上条「――と思ったけど勘違いだったわー。全然別の分野だったなー」

レッサー「……せめてWEBぐらいは見ましょうよ。一応そっちに居るんですから」

レッサー「……ま、色々端折りますとですね、既存の照明は発行する際に『熱』を伴うでしょう?白熱電球にしろ、蛍光灯にしろ」

レッサー「それが殆ど無い分、ロスが無いだけLEDはコストパフォーマンスに優れているという訳でして」

上条「へー、科学って凄いんだなー」

レッサー「……まぁ魔術も習熟すれば原理は同じで、ある程度までは魔力を切り詰めて遣えるんですよ。例えば」

レッサー「物語に出て来るお髭の生えた老魔導師、体力も生命力も若者には適いませんよね?」

レッサー「でも魔術や霊装をバンバン使える。それは『効率的』に魔力を精製出来るから、と言う理由が強いんですなー」

レッサー「体力や生命力を数字化すると、若者は100、老魔導師は20ぐらいだったとしましょうか」

レッサー「ある魔術を使うとして必要な魔力は10。単純計算で若者は10回、老魔導師は2回しか使えません」

レッサー「ですが『効率的に魔力を精製』できるのであれば、老魔導師の消費は5、または1ぐらいで済むでしょう」

レッサー「反対に若者が未熟であれば魔力変換のロスが大きく、一回の魔術で100使用する場合もあります」

上条「成程なー、つまり神裂やアックアは老魔導師枠だって事な?」

レッサー「いえ、全っ然見当外れです」

上条「今までの流れ全否定っ!?」

レッサー「その枠へ入るのはドSロリロリ実はヘタレ受けだいしゅきホールドさんですなぁ」

上条「やめろよっ!?さっきから恐くてスルーしてるけどそれ以上ボスにオプションつけないであげて!?」

上条「どうせ俺が言った事になって、『こらっ(殺)』って責められるんだからねっ!」

レッサー「その方達――『聖人』や『右席』と呼ばれる人間は『才能がある』んですよ」

レッサー「大半の魔術師がそうであったのとは違い、『力の無い者達がそれを補うために選んだ』のではなく」

上条「神裂も才能がどうっつってたっけかなぁ……?」

レッサー「『聖人』ってのは生まれながらにして莫大な魔力を行使出来たり、『右席』は人よりも容易にテレズマを扱えたりします」

レッサー「後者は先天的なものではありませんが……ま、少なくとも聖人さんの方はって事ですかね。さて」

レッサー「ここでつい先日、マタイさんが仰っていた事へと戻るんですが……」

レッサー「……憶えてます?アリサさんと上条さんがなんて言われたかって」

上条「地脈の……聖人、だっけか?」

レッサー「おっ、備前です!」

上条「お前が言いたかったのって備後じゃないかな?吉備国を三つに分けて、備前、備中、備後って名付けたんだけどさ」

レッサー「お二方とも大した訓練も受けず、かといって何の代償も支払わず、”力”の行使が出来る」

レッサー「その”力”は龍脈ではないか、という仮説でしたよね?大丈夫ですか?着いて来られますか?」

上条「ま、まぁ何とか!」

レッサー「さて、問題です。私達の専門用語――というか、相手の力を表す表現の一つに『聖人級』というものがあります」

レッサー「その『聖人』が一般の魔術師と同じような存在だと思いますか?」

上条「違う、よな?文字通り桁違いの力なんだし」

レッサー「そうですよねぇ。今のさっき言った”力のロスが限りなくない老魔導師”であったとしても、良くて互角」

レッサー「”戦闘に長けた聖人”ともすれば、逆立ちしたって勝てませんよ、えぇ」

上条「何が、言いたいんだ」

レッサー「まぁぶっちゃけますとね、『ズル』してんじゃねかなぁ、と」

上条「ズル?」

レッサー「えぇ。普通の魔術師がセコセコ命や精神力削って魔力へ変換してんのに対し――」

レッサー「――『聖人』は龍脈から恒常的に力を得てるんではないでしょうか?」

――404号室 回想

上条「あー……うん、確かに。それは、分かる気がする」

レッサー「や、まぁ?私もですね、人生経験はそこそこあるんで才能やら天然やら着痩せとか、色々目にしてきましたよ、はい」

上条「天然はともかく、着痩せ関係なくないか?」

レッサー「世の中は公平でないように、人間にも持って生まれた才能や能力、適正ってのか歴然と存在するよねってぐらいは、オトナですし」

レッサー「ただねー、ウチのフロリスを。逃げに徹していたのを一発KOだなんて、どうにも納得行かないんですよ」

上条「フロリスが機動力高いのは知ってるけどさ」

レッサー「言っちゃなんですが、トンズラさせたら色々な意味で逸材だってのに!」

上条「本気、出してなかったんじゃね?それっぽい霊装もない奴に追いつけるかー、みたいに?」

レッサー「あ、すいませんっ納得しちゃいましたっ!まず間違いなくあのアマなら考えそうですもんねっ!」

上条「うんまぁ、そこはそうなんだけど、納得しなかった体でな?一つ」

レッサー「あー……それじゃ言いますけど、『人間の限界』みたいなのはどうやってもありますよね?」

レッサー「100mを10秒未満で走るのは出来ても、5秒は流石に無理じゃね?的な」

上条「俺の知り合いのバディに出来る奴が……」

レッサー「生身の話です、生身の。魔術と異能抜きにして、どうしても突破出来ない壁は存在します」

レッサー「どんだけ体を鍛えようが、何代スポーツへ打ち込もうが、どうやっても種族としての限界ってのはありますし」

レッサー「……ま、努力を否定するつもりもありませんが、少なくとも『フェア』じゃねぇなぁと思いまして」

上条「……レッサーも」

レッサー「はいな?」

上条「レッサーもさ、才能とか生まれとか、気にした事あんの?」

レッサー「んなっ!?なんつー言い方ですか!人を野生児みたいに!」

上条「だよなぁ」

レッサー「おっぱいはもう少し欲しいですけど!ベイロープぐらいには!」

上条「そっちじゃねぇよ!バストサイズと才能一緒にすんな!」

レッサー「『貧乳はステータスだ』とは言いますが、実際に誇ってる方は知りません。えぇ、悲しいですがそれが現実ってモンですよ」

上条「全周囲に敵を作るの止めよう?誰も得しないんだから、な?」

レッサー「てか才能があろうがなかろうが、結局の所は”するかしないか”でしょうに」

レッサー「目の前で轢かれそうになってる子供が居たら、届くかどうかは別にして、間に合うかどうかも関係なく、普通手を伸ばすでしょ?」

レッサー「それだけの事に才能も何もありませんって」

上条「……気軽にクーデター未遂を起こした人は違うよねっ!」

レッサー「おやおやー?残念ですが、私はこれっぽっちも反省してませんので皮肉にはなりませんよー?」

上条「……で、聖人と人間の限界がどうしたって?」

レッサー「さっきも言った”普通の魔術師が辿り着けた最高峰”が老魔導師レベル、それも殆どはそこまで届きやしません」

レッサー「幾ら魔力のロスを減らしたとしても、人間としての”器”が有限である以上、どこかで限界は来る筈なんですよ」

レッサー「だってのに聖人さん達がキワモノ揃いの魔術師の中ですら、異常な力を持ってるってのは、ねぇ?」

レッサー「更に言えばマタイさんが言っていたように、テレズマを筆頭とする『異界から流れ込む力と知識』だって、国や地域で変質しますし」

レッサー「他にも『原石』っていう……生まれながらにして、力を操れる能力者が居るんですよ。アリサさんもその類ですね」

上条「てーかさ、マタイさんに言われた時も思ったんだけど、土御門がアリサの事『聖人候補』だって」

上条「もしかして、魔術サイドじゃ『聖人』と『原石』の区別って無いのか?」

レッサー「『聖人』の定義は『神の子の力、または特徴を受け継いだ』ですからねぇ」

レッサー「十字教へ異教の神々が『聖人譚』として取り込まれていきましたし、『神の子』の特徴とやらも他のドグマで再現可能ですから」

上条「お、おぅ?」

レッサー「十字教徒の旧い一派が極東島国のルーツと酷似している、というトンデモ説はさておき、共通項もある訳で」

レッサー「神話が普遍的な無意識という土台の上へ成り立っている限り、類似性は否定出来ませんが」

上条「えーっと、アレか?お前が言いたいのは、『聖人』も『原石』も全部ひっくるめて『龍脈』から力を得ていると?」

レッサー「はいな。バードウェイさんも仰っていたでしょう」

レッサー「『自然環境の組み合わせで、たまたま能力者が育つ環境が整っていたのが”原石”』」

レッサー「『原石とは地球環境に影響されて能力を得た者達なのよな!』と」

上条「後半別人じゃね?ラジオなんとかん時、俺のアパートで言ってた奴か」

レッサー「この場合の『自然環境』とやらが『龍脈』と関係すんじゃないかなー、と」

上条「……ふーむ」

上条(俺の知り合いで『原石』――学園都市へ来る前から能力を使えたのは……姫神か)

上条(『吸血殺し』が環境で生まれた、ねぇ?何か意味があるのか?)

レッサー「――で、なんで長々とこんな話をしたかと言えば。ウェイリトィ兄の『不死』魔術』、あれも一介の魔術師にどうこう出来るもんじゃないですなー」

レッサー「再生回数、速度、精度……どれ一つとっても異常の一言です」

上条「じゃ、あいつも聖人枠なんじゃ?」

レッサー「いえ、それも違うと思います。もしそうであれば『弱すぎる』んで」

上条「……少なくともレッサーが殺しきれなかった相手が『弱い』のか?」

レッサー「上条さん上条さん、最強の盾と矛があります」

上条「あ、知ってる矛盾って意味だろ?」

レッサー「やっぱ盾が受けですかねぇ?」

上条「矛盾してるな!?その設定から!」

レッサー「つーか考えてみても下さい。聖人だったらば……その身体能力の高さから『滅多に死なない』んですよ」

レッサー「素の状態で格闘攻撃はおろか、銃弾ひょいひよい躱す相手が、わざわざ防御に特化する必要は無いですし」

上条「あー……言われてみれば、アックアん時もあんま防御には無頓着だったなぁ」

レッサー「プラナリアみたいに再生魔術を極めるよりも、攻撃系の術式へ力入れた方が効率的でしょうしねー」

レッサー「とはいえ、あの能力は異常……そこら辺が解明する鍵かな、と」

上条「聖人ではない、けど龍脈か何かに関係する可能性はある、と」

レッサー「他に私達が持っている判断材料としちゃ、あの『紅い』草でしょうかね」

上条「地下にビッシリ生えてたんだっけか……俺が見たのは『紅い』髪だが」

レッサー「恐らくは同一のもの……なんでしょうが、生憎どちらも私の知ってる限りでは存じませんなぁ」

レッサー「ムスッペル……炎の子らやスルトは、イメージ的にはそうですけど」

上条「逆に考えてさ。北欧神話に龍脈をどうこうする話とかないのか?」

レッサー「そうですねぇ……私の先生が唱えていた説で、印象深かったのが一つ」

レッサー「これはもしかしたら上条さんの今後にも関わるかも知れない事ですが、オーディンの逸話ってどのくらいご存じで?」

上条「ゲームやアニメで見た知識だと……超強い槍を持つ、北欧神話の偉い人、片眼……ぐらいか」

レッサー「グレムリンの実物さんっぽい人にお会いしたんでしたっけ?」

上条「……あぁ、意味が分からないぐらいの下乳だった……!」

レッサー「や、まぁ……そこはそれ、そういう霊装だって事で一つ……んで、なんで片眼になったかは?」

上条「えっと……『知識』を得るためだっけか?智恵の泉の水を飲むため、だった気がする」

レッサー「えぇ、オーディンは自らの片眼を世界樹の麓に湧く泉、ミーミルへ沈める事で智恵を得たとされています」

レッサー「ちなみに泉を管理していたのが巨人ミーミル。彼の名前から泉はそう呼ばれてた――ん、ですが」

レッサー「あの魔神さんがどっから力を得ているかなー、とか考えませんでした?」

上条「そこまでの余裕はなかった、かな?お前も考えるのはちょっとアレだし」

レッサー「結論から言いますと、ウチのもふもふは『ミーミルの泉から汲み上げてんちゃうのん?』と」

上条「なんでその人関西弁入――待て待て、『汲み上げる』?」

レッサー「あくまでも推論の域を出ませんが、その『泉』が龍脈を意味しているのではないか、と」

上条「……つまりオーディンは眼を差し出したんじゃなく」

レッサー「『自身の一部を担保に入れてラインを構築した』――と。仮定のお話ですがね」

上条「……」

レッサー「どうしました?」

上条「……なぁ、その『ラインを構築』ってのは、魔術的に繋がるって意味なんだよな」

上条「こう物理的に繋がっていなくたって、力を利用出来る、みたいな?」

レッサー「科学サイドの有線型決戦兵器じゃあるまいし、魔術は”経路(パス)”が一度繋がれば、滅多な事では破壊出来ませんよ」

上条「アルフレドの再生――不死魔術も、どっかから魔力を得てるってのが、お前の推論なんだよな?」

レッサー「ですです。それが『どこか』か、判明すればパスを壊せると思いますんで」

上条「俺の『右手』は?」

レッサー「断線ならば確実に出来るでしょうが、それって確か『永続的・持続的に流れ込み続ける力』には弱いんですよね?」

レッサー「触ってる瞬間に殺せても、手を離せば再生が始まったら目も当てられないですから。まぁ、そのまますんなり倒せる可能性もゼロじゃありませんが」

上条「喧嘩売ってきてるだけに、それは無いと思うが……他にヒントは?」

レッサー「空間移動魔術、あとツタだか内蔵だかを召喚して攻撃する術式。呪文は……」 ピッ


『混沌を媒介に開け虚空の門』

『原初の言葉を知りたる異形の知性』

『全にして一、一にして全なる者』

『漆黒の闇に生まれ落ちて産声を上げろ』


レッサー「――でしたね」

上条「こりゃ丁寧にどうも。てか文字に起こしてんのか」

レッサー「素敵な感じに中二病でしたんで、つい――てか、これ殆どクトゥルーの『ヨグ=ソトース』そのまんまですね」

レッサー「不定形で輝く球体、永遠に泡立ち続ける触手の塊……と、ワッケ分からない描写をされる神性の一つです」

上条「空飛ぶスパゲッティモンスター?」

レッサー「に、近いでしょうかねぇ。ここの教団の教義もアレな感じですし」

上条「だよなぁ。『ヤドリギの家』なんて言ってる割に、自立がどうとか言っているしなぁ」

レッサー「……」

上条「自由も権利も国に守られてるっつーのに、一体何をどこまで求め――」

レッサー「……上条さん、今の台詞、もう一回言って貰えません?」

上条「国も権利も?」

レッサー「じゃなくて!『トコロテン、食うかい?』と――!!!」

上条「言ってねぇよな!?つーかそれ誰の台詞だ!」

レッサー「――ヤドリギですよ!ヤドリギ!」

上条「だからそれ、教団の名前じゃ」

レッサー「ではなく!アルフレドの使ってる魔術は『ユグドラシルに生えたヤドリギ』を利用してるんですよ!」

上条「すまん。全く分からない」

レッサー「ヤドリギ自体、北欧圏では信仰の対象とされてきました!それ自体が生まれ変わりを示すシンボルとして!」

レッサー「それが『世界』を表している世界樹ユグドラシルへ生えていれば、空間移動も可能になるって理屈です!」

上条「だから待てって。お前が何を言ってるのか」

レッサー「北欧神話では巨大な一本の世界樹、そこから枝分かれした先や根元にそれぞれの世界が存在し」

レッサー「中にはその巨大な枝葉や幹の上に大地があり、文字通り”世界樹”なんですよ」

上条「まぁ……うん」

レッサー「それぞれの世界は独立しているものの、繋がってはいる――そう、『世界樹』を渡りさえすれば移動出来る……!」

レッサー「世界樹は門であり、扉であり、世界であり、全てである」

レッサー「そして恐らく何よりも誰よりも生まれ落ちた存在でしょうし!」

上条「呪文にも一致するか!」

レッサー「世界樹の概念を導入すれば、空間を超え、『経路』を繋ぐ事も出来ます――が!どこかまでは分かりません、ね」

レッサー「龍脈を操る魔術師にしてはショボイですし、聖人よりも強いかと言えばどうかですし」

レッサー「かといって個人の魔術だけじゃ、到底足りない術式を行使している……」

上条「――なぁ、その、リンクって?繋がるのって1箇所だけかな?」

レッサー「世界樹の応用でしたら、根も幾つか分かれるでしょうし、またヤドリギに特化していれば数の制限はないでしょう。それが?」

上条「……『紅い』髪、つーかあれが、あれこそが――」

レッサー「……あ!」

上条「――世界樹の『根』なんじゃないのか……?」

――『ヤドリギの家』教団 敷地内 現在

パキィィンッ……!

上条「――と、消えた消えた」

レッサー「魔術サイドで良かったですかねぇ。でないと今頃『見せられないよ!』の大盤振る舞いだったかと」

上条「どういう意味?

レッサー「ですから脳へですね、直接ぷすっと接続して」

レッサー「そこで『右手』を使えば弄った部分がずしゃあぁっと流れ出そうな感じで」

上条「……うん、俺らは基本改造好きですもんね……」

テリーザ「……?」

レッサー「……ふむ。『再接続』する様子はない、と。立てます?気分悪くないですか?」

レッサー「……てかこれ、『元に戻る』んであれば、下手に手ぇ出せませんな……ちっ」

上条「物騒な事を言うんじゃない!」

レッサー「HAHAHAHAHA!何言ってるんですか!一発だけなら誤射かも知れませんよ!」

上条「少なくとも日本人でそれを真に受ける奴ぁいねぇよ!つーかわざとだ!」

テリーザ「え、いま、わたし」

上条「あーっと、ですね。なんつったら説明出来るのか……」

レッサー「『一、悪い奴が居ます。二、私達は正義のエージェント。三、あなたは騙されていたんだっ!』」

上条「待て待て。楽に流れ作業で済ませようとすんな!」

テリーザ「……やっぱりそうだったんですかっ!?」

上条「あんたもいい歳っつーか、多分俺より上なんだから疑えよ!」

レッサー「ちょい前まで『接続』してましたからねぇ、意識が朦朧としてるんではないかと思いますが」

男「……ん、何なんだ……?」

女性「……」

上条「男の人は気付いて、女の人は気を失ったままか……あ、こっちの人、第二聖堂でペンキ落としてた人だ」

レッサー「推測ですが、接続時間へ正比例してんではないでしょうかね?こちらの女性は服装からして出家信者っぽいですし」

レッサー「てーか時間が惜しいので、上条さんはちゃっちゃと行って下さいな。こっちの片付けは私がやっときますから」

上条「おけ。んじゃ打ち合わせ通りに――レッサー」

レッサー「『ここは私に任せて上条さんは先へ行って下さい!なーに、退路の確保なんざお手の物ですよ!』」

上条「間違ってる間違ってる!無理にフラグを立てようとするんじゃない!しかもそれピンチになるやつだ!」

レッサー「『……やぁ、こんな夜に一人で散歩かい?良い趣味をしている――でもね』」

レッサー「『――選ぶが良いよ。ここで死して輪廻の枠へと還るか。それともこのボクと黄昏の住人となるのかを、ね?』」

上条「ラノベやエロゲでよくあるプロローグっぽい!その子が大抵吸血鬼でメインヒロインなのな!」

レッサー「『私……この戦いが終ったら、あの人へ好きだって言うんです……!』」

上条「それはそれで過去メインヒロインが、サブヒロインに出番奪われた挙げ句、作者が扱いに困って無理矢理死亡フラグ立てるシーンだねっ!」

レッサー「ってな感じで、また後で」

上条「おうっ!上手くやれよ?」

レッサー「お任せ下さいな。ではでは」

――『ヤドリギの家』教団 敷地内

レッサー「さってと、それじゃ皆さんは本館からお外へ出てて下さいな。多分敷地外へ行けば追って来ないでしょう」

レッサー「もしかしたら、こわーいお兄さんお姉さんに保護されるかも知れませんが、ま、そこはそれこんなアイタタタな組織に入ったご自分を恨んで下さい」

レッサー「上条さんが絡んでいる以上、命までは取られたりはしないでしょうが……多分!」

男「多分かよ!?てか一体何がどうなっ――」

レッサー「話している時間も勿体ない、てかいつまでもここに居ると襲われますんで、さっさと避難して下さい。ハリーハリーッ!」

男「……仕方がない。こっちの女も連れてきゃいいんだよな?」

レッサー「テリーザさんに担げるとは思えませんし、お願いしますよっと」

男「わかった――っしょっと!先行くぜ」

テリーザ「……」

レッサー「詳しい事情は私達、どちらかが生きて帰れたらお話しする事を前向きに検討する方向で調整するようにお約束はしませんから、あなたもホラ」

テリーザ「……あのっ!」

レッサー「はい?」

テリーザ「お願いしますっ!どうかっ、わたしに替わってあの子達を助けて下さいっ!」

レッサー「あの子達、ですか?えぇと、もしかして上条さんがお知り合いになった方達ですか?」

テリーザ「はいっ!あの子達は『病院』の中で暮らしてて!」

レッサー「にゃるほど。『紅髪』がウヨウヨいる中へ取り残されている、ですか。こいつぁ厄介ですなぁ」

テリーザ「わたしなら何でもしますからっ!ですからっあの子達を助けて下さいっ!」

レッサー「いえ、お断りします」

テリーザ「……え」

レッサー「では私は先を急ぎますので、どうぞテリーザさんもお早く避難を――」

テリーザ「待って下さい!?ちょっとレッサーさんっ!」

レッサー「はい?すいませんが、今少し急いでいるので手短にPlease?」

テリーザ「いやだからっ!あの子達はまだ子供で!戦えないんですよ!?」

レッサー「その情報は知ってますけど?」

テリーザ「ますけど、じゃなくって!」

レッサー「追加情報を頂けるのは有り難いのですが、その……正直な所、子供達の個人情報をこれ以上追加しても使い道がなくてですね」

レッサー「むしろこうやってあなたと無駄な時間を過ごす分だけ、危険がピンチになるんですがねぇ、はい」

テリーザ「ムダ!?わたしがお願いしているのがムダだって言うんですか!?」

レッサー「――あ、それじゃこうしましょうか。テリーザさん、あなた今さっき『なんでもします』って仰いましたよね?よねよね?」

テリーザ「レッサーさん……!」

レッサー「両手を重ねて前へ出して下さいません?こう、渡す物があるので」

テリーザ「は、はい?――って重い!?」 グッ

レッサー「今渡したのはグロック17というハンドガンです。ご存じですか、銃?引き金を引けばBANG!!!と鉛玉が銃口から飛び出す仕組みになってます」

レッサー「あ、セーフティ外してありますから、決して人には向けないで下さいね?”人”にはね、決して」

テリーザ「あ、あのっ!」

レッサー「総弾数は17発、普通の人間であれば数発も当たれば行動不能か死にますから。ではっ、そーゆー事でっ!」

テリーザ「待って下さいよっ!?そんな、いきなり銃を渡されても!」

レッサー「さっきの男性が隠し持っていたんで、コッソリかっぱらいましたけど、まぁ非常時なので拝借しても罪には問われないと思いますよー?」

レッサー「どっかの国――恐らくはイングランドの諜報機関の人間でしょうけど。わざわざオーストリア系に偽装しなくたって、ねぇ?」

テリーザ「違います!そんな事を聞いてるんじゃなく!」

レッサー「『何でもする』って言いましたよね?」

テリーザ「言いましたけど!」

レッサー「なら、ご自分で行かれたらどうです?幸い、あなたの手の中には出来る武器がありますし」

テリーザ「いえでもわたしっ!銃なんて撃った事のないタダの学生ですからっ!」

レッサー「大丈夫大丈夫、誰にだって始めてはあるものですよ。テリーザさんにとって、今日がたまたまその日であったってだけで」

レッサー「今回の敵、捕まっても殺されやしませんし、『接続』されるだけで済みますからね、えぇ」

レッサー「……ま、私と上条さんが失敗すれば、施設ごと『強制焼却』コースが待ってるんでしょうけど――10年前と同じく」

テリーザ「わたしは!普通の学生で!銃を持った事なんてありませんし!誰かと争った事だって!」

レッサー「オーケー分かりましたテリーザさん、落ち着いて、ね?いい加減、私がブチ切れてあなたを殴り飛ばす前に、一つお話をして差し上げましよう」

テリーザ「な、なにを……?」

レッサー「物事ってのはですね、『出来る・出来ない』の二択だと勘違いをされてる方が多いんですよ」

レッサー「マルマル出来るからバツバツだとか。出来ないからしないとか」

レッサー「でも実際にはそうじゃない――か、どうかは知りませんが、少なくとも私はこう思っています」

レッサー「――『するか・しないか』と」

レッサー「例えばあなたの家に強盗が入ってきたとしましょう。あなたは不戦の誓いを守って逃げるとする。ま、それもいい判断だと思いますよ?」

レッサー「ですがしかし家にはあなたの家族、ご両親やご兄弟、そして夫や子供達が居ます。全員連れて逃げるなんて出来そうにありません」

レッサー「さて、どうします?」

テリーザ「それとこれとは関係が――!」

レッサー「ないでしょうか?ならば私がお話し出来るのはここまでです。ではサヨウナラ、Good Night(良い夜を)」

テリーザ「――レッサーさん!?」

レッサー「……あなたが私達へ良くして下さった、その恩義へ対する礼として、あと少しだけお付き合いしましょう」

レッサー「テリーザさん、あなたは頑なにご自分で災禍の中へ飛び込むのを躊躇っておられますが、それは何故?」

テリーザ「わたしなんか……何の、力もなくて!」

テリーザ「だからっ……きっと、誰かの足を引っ張るだけで!」

レッサー「ですよねぇ。それには同意しますけど――なら、どうします?」

テリーザ「どう、って……?」

レッサー「あなたは、あなたが抱えている問題を解決するために、何かリアクションを起こしましたか?」

レッサー「子供達を助けたい、それは結構です。むしろこんな危機的状況の中、他人を考えられる余裕があるのは素晴らしいと掛け値無しに私は思いますよ」

レッサー「……ま、そうじゃなかったら、強制的にでも切り上げているんですが」

レッサー「でも、ですね?『抱えている問題を解決としてくれるスーパーヒーローさんは、一体いつになったら来てくれる』んでしょうか?」

レッサー「五分後?十分後?一時間後?それとも一日後?」

レッサー「あなたがピンチになっている所へ颯爽と現れ、何の見返りも無しに、あなたが望んだままの優れた能力を振ってくれる――そんな存在が」

テリーザ「……」

レッサー「私はあなた――いえ、あなた方の生き方を否定しません。それもまた宜しいでしょう」

レッサー「どうしようもならない現実を目の前にして、誰かの厚意に縋る”だけ”だって」

レッサー「具体的な解決策を模索せずに、誰かがいつか、自分達の望む通りに世界をどうにかしてくれる――と、信じる”だけ”なのも」

レッサー「あなたが共感している思想のように、銃を床へ置き、寛容と共存、そして一方的な淘汰と摩擦の道を辿るのですら、”自由”だと思いますよ?」

レッサー「……ね、テリーザさん?厳しいですか?私が言っているのは、とても厳しい事だと思われるでしょうね。ま、否定はしませんよ」

レッサー「ですがね、ここやあなたの周囲に居る人達のように、上っ面だけヘラヘラと相手に合わせて、何でも肯定する――それ、優しさだと思います?」

レッサー「もしも私がもう少し誠意のない人間であれば、きっとこう言ってこの場を後にしていたでしょうね」

レッサー「『わっかりましたテリーザさん!彼らの事は私が全力でお助けします!ですからあなたは早く安全な場所へ向かって下さい!』」

レッサー「『もし子供達が無事に帰ってきた時、あなたが怪我でもしていたら悲しみますから!』――なんて、言いそうですよねぇ?」

レッサー「あなたがそんな気休めの言葉が欲しいのですか?あなたが、あなただけが心の平穏を得るためだけに」

レッサー「ですが私は少ない時間ながらも、あなたを友人だと思っています」

レッサー「従って具体的に出来る事を示し、手段を与え、可能性を示唆しています。ま、可能性は低いですが、子供達が助かる方法を提示しています」

レッサー「あなたはどうしたいんですか?どうすればお気に召します?」

テリーザ「わたし……」

レッサー「繰り返しますが、『するか・しないか』なんですよ」

レッサー「目の前に大切なものがあって、それをクソッタレがぶち壊して台無しにしようとしている」

レッサー「勝ち負けも関係なく、力を持っているかどうかすら関係ありません」

テリーザ「……」

レッサー「さ、どうします?」

テリーザ「――わた、しは」

――第一聖堂

上条「……」

上条(遠くで喧噪が聞こえる……多分『紅髪』が暴れてるんだろう……)

上条(俺が駆けつければ解除出来る。だが、それをしてしまえば大本である奴らを止める人間は居なくなる、と)

上条(一応俺達がミスった時のために、ベイロープ達とソーズティにはメールしてあるが……援軍は期待しない方が賢明だとか)

上条(つーかさ?俺の読みが正しいんだったら、ステイル達が近くでスタンバってる筈でさ?)

上条(最悪の最悪、突っ込んできて37564……する、ぐらいだったら手伝ってくれたっていいと思うんだけどなぁ、俺は)

上条(ブラックっつーかダークって言うか。どんだけ宿命割り振ってんだよ)

上条「……」

上条(……さて、と。緊急用の懐中電灯を手に、俺は聖堂の中へ入っていく)

ギィィッ

上条(中には灯りもなく、当然真っ暗で……ライトの光だけを頼りに進む)

上条(教壇……説教台?結局レッサーに正式名称を聞くの忘れたまま、昼間クリストフが蹴り落とされた穴へ近づく)

上条(……今じゃビニールシートもなく、銀色の脚立が穴の中へ突っ込まれている……や、有り難いっちゃ有り難いが)

上条(ここまで体裁を取り繕わなくなった、ってのはやっぱり連中がここを切り捨てる用意はしてるって事か)

上条(下手すりゃ地下へ降りても『遅かったな明○くん!また会おう、さらばだ!』って既に撤収済みだったり)

上条(そん時ゃあのバカを追いかけんのか……ユーウツだ)

上条「……はぁ」

――第一聖堂 地下墳墓 突き当たりの”紅い”花畑

???「『……Happy birthday to you,』」

上条(聞き慣れた――く、はなかったが――声が、歌が響く)

???「『Happy birthday to you,』」

上条(闇の奥に浮かぶのは三つの……眼?――な、筈は無いか。ロウソクの明りだ)

???「『Happy birthday, dear Mnma』』

上条(マンマ?イタリア語でかーちゃんだっけ?)

???「『Happy birthday to you.……』

上条「お前のかーちゃんの誕生日なのか、今日は?」

アルフレド(???)「俺のっつーかさ、俺達のだわな。てか今日が誕生日って訳でもないんだけども」

上条「いやお前ケーキにロウソクまで用意して、曜日違うって」

アルフレド「食べる?昼間、街のケーキ屋で買ってきたやつだけど?」

上条「何やってんの?お前レッサーに半殺し、っつーか何回も全殺しされてんじゃなかったのかよ?」

アルフレド「いやな、カミやん。あの女だけは止めとけ、ノリが良いのは認めるけども、ノリで刺されそうじゃん?」

上条「否定しづらいがな……殺しても死なない奴に比べればマシだと思うぜ?」

アルフレド「はっはっはっー!甘いなカミやん!昨日俺が受けた拷問アレコレ!カミやんがまかり間違って恋人になっていたら喰らう可能性がある訳だぜ!」

上条「ち、ちなみに一番どれがキツかった?」

アルフレド「One inch Cutting(一寸刻み)」

上条「……苦労してんだなぁ、お前も」

アルフレド「本気なのか狂ってるのか、それとも本気で狂ってんのかね。あの子は」

アルフレド「さて、と。ダベんのも楽しいは楽しいが、聞きたい事あるんだろう?さっさと済ませて楽しい事しよーぜ?」

アルフレド「それともアレか?バディがクリストフぶっ壊すの待ってる、とかか?」

上条「……読まれてんなー、ムカツクぐらい」

アルフレド「そこへ思い付くってんなら、今更俺がドヤ顔でネタばらしすんのもなんかぁ。一応やっとく?」

上条「お前その体――と、信者の人らの『紅髪』って、『世界樹』なのか?それとも『ヤドリギ』?」

上条「ここにも生えてるって事は無機物も対象になる、とか?」

アルフレド「ん?あぁいや、『世界樹の根(Root Yggdrasil)』は有機物対象だぜ」

アルフレド「コンセプトが『人間の並列化と魔力の共有化』だから、そこまで手を広げる必要も、余裕もないんだわな」

アルフレド「むしろ無機物にまで手を広げられるんだったら、それこそこの大地のレイ・ラインへパイル打ち込んだ方が早い」

アルフレド「……ま、リンクは出来るだろーが、確実に暴走して全滅エンドだが」

上条「そんなに難しいのか――じゃなく!有機物?この花畑が?」

アルフレド「紅い草みたいに見えてんのが全部根だし、花を育ててる訳じゃねーんだ」

アルフレド「ウィリアムなんだよ、これ全部。もう変質してっけども」

上条「ウィリアム?どっかで聞いたような……?」

アルフレド「いやだから、クリストフの親父さん」

上条「どこに?」

アルフレド「あー……右手をご覧下さい、お客様」

上条「右手っつーかお前の後ろな?土と草しか見えないが」

アルフレド「ご紹介します、ちったぁ姿は変わってますが、これ全部――」

アルフレド「――ウィリアム=ウェイトリィ主教様です」

――病院

 荷物搬送用の裏口、本当は少しだけ傾いていて鍵の締まりが悪い。
 軽く力を入れれば外れる。こうやって――。

 カタン。

 ……思っていたよりも大きな音が心臓が止まりそうになるが……そう簡単に止まってはくれない。
 見つかってしまえば楽なのに、とは……そう、うん、思えないような、気はしていた。

 非常灯を頼りに、月明かりすら差さない廊下をゆっくりと歩いて行く――レッサーさんが言うには、『紅頭(レッドキャップス)』は幾つか。
 体力は人以上だけれど、五感は人よりも落ちる――”筈”だって。

 リンク?……されてる以上、脳で使う注意力や集中力が散漫になる、とか……?意味がよく分からないけど、『歩きスマホをするのと一緒』?

 ……とにかく、見つからないように、進む……。

 エレベーターを避け、非常階段をおっかなびっくり登り……途中、何度か『紅頭』と鉢合わせそうになって肝を冷やした――けど。
 近づくとレッサーさんから預かったお守り袋が震え、存在を伝える。こちらが積極的に動いていなければ、側を通り過ぎても気づかなかった。

 それに下の階からは突発的に悲鳴や爆発音、あとそれとどこかで聞いたようなレッサーさんの高笑い……きっとわたしのためにしてくれる筈で。

 昼間でも薄気味悪かった廊下を通り、子供達の部屋へ向かっていると――見慣れた、一度は恩人だと信じた人が、そこへ居た。
 今ではもう、全ての元凶であると知ってしまい、そんな考えも浮かんでは来ない。

 わたしは、その元凶の人の前へ立った――そう、素手のままで。
 皮肉っぽくなればいい。そう思い精一杯の悪意を込めて言うつもりが。

「こ、こんばんは――クリストフ司祭」

 声は震えてしまっていた。

――病院

クリストフ「はい、こんばんは。どうされましたか?ええっと……テリーズさん?」

テリーザ「テリーザです、司祭様」

クリストフ「あぁそうでしたっけ?すいません、あまり物覚えが良くないもので」

テリーザ「……いえ、それは別に。その、どう、したんですか?こんな所で?」

クリストフ「質問へ質問で返すのはマナー違反ですが……まぁ、収穫、とでも言うんでしょうか。この場合」

テリーザ「……」

クリストフ「どこからお話ししたものか……まぁ『繋がって』頂けたので、どんなものかは分かって貰えたかと思います」

テリーザ「……何なんですかっ、あれは!」

クリストフ「『独りは、辛かった』?」

テリーザ「……っ!」

クリストフ「『だから、誰かと同じ価値観を共有したい』――それが僕の父、ウィリアムが受け継いだ理念だ」

テリーザ「ウィリアム医院長が?」

クリストフ「……科学を志した人間が、最後に行き着いたのが魔術だったってのは、どうにも皮肉が効きすぎてる気がするけどね」

――第一聖堂 地下墳墓

アルフレド「最初はな。どっかの野良魔術師が売り込んできたらしい。『不死の研究をしてみないか?』って」

上条「胡散臭っ!?」

アルフレド「まぁまぁカミやんそう言うなよ。木を隠すなら森の中、屍体を欲しがるんだったら病院ってのはセオリーだぜ?」

上条「良く信じたな……てかカミやん言うな」

アルフレド「脅されてた、っては言ってたが怪しいもんだわな。当時ですら四肢再生ぐらいはやってのけたんだし、そりゃ憑かれるわ」

アルフレド「んでもまぁ?やっぱコストの面?人一人を再生させるにはコストがかかりすぎってんで、再生魔術としては頓挫するんだ」

アルフレド「頓挫、っつーか正確には『濁音協会』の崩壊だわな」

アルフレド「イタリアに拠点を置いて色々やってんたんだが、ローマ正教の逆鱗に触れて壊滅」

アルフレド「イングランドにあった支部も『必要悪』の奴らにやられてお終い……に、なる筈だったんだが」

アルフレド「たまたまここで研究していた魔術師は、人嫌いっつーか、『濁音』の連中の中でも異端だったようで」

アルフレド「残党狩りがここを見つけるまでに二年もかかった……ま、結局焼かれたらしいぜ?異端らしくな」

アルフレド「残党狩りに来ていた『必要悪の教会』の魔術師は、建物と研究結果をあらかた焼いたが――人までは躊躇ったんだよ」

アルフレド「理由までは分からないが、シロだと踏んだ人間には手を出さず、必要最低限だけ焼いて居なくなった。それが10年前の話だ」

上条「……ステイル、じゃないよな……?」

アルフレド「が、しかし研究結果はしっかりと残っていた。それがあいつ――クリストフだ」

アルフレド「あいつは生まれながらに『調整』を受けていたし、『紅髪』を生み出す事も出来た」

アルフレド「言ってみれば、あいつ自身が霊装になっちまってるような感じか?アンテナっつーか、ブースター?それとも無線LAN?」

アルフレド「ただウィリアム院長自体、魔術と関わるのはもうこりごりだってんで、変な力を使わせるつもりはなかったんだよ。一応は」

アルフレド「……だがなぁ、その、『繋がった』連中には分かるらしいんだが、あれ、重度のドラッグよりもタチが悪いんだわ」

上条「繋がった?」

アルフレド「元々は少ない魔力を多くの人間から集めるための『根』って発想だったんだが、手段と目的が入れ替わる」

アルフレド「お優しいウィリアム院長殿は、あくまでも他人を助けるために『紅髪』を使い、『並列化』させてったんだよ」

上条「……何のために?」

アルフレド「さぁ?俺にも分かんね。何かこう、ネットワークで意志共有するのが楽しいとかじゃねーの?」

アルフレド「居るよな、現実世界にも居場所がないからって、ネットん中で暴れ回る可哀想な病人が」

アルフレド「何がしたいのかもテメェじゃ分からねぇし、かといって何が出来る訳でもねぇから何となく暴れる、的な」

アルフレド「他にも居場所がどうだ、自分探しがどうだって、一般の道から外れている連中を助けているウチに、いつの間にか大所帯だ」

アルフレド「そいつらを救うために、とは言っていたが……さて?どこまでが本当だか怪しいもんだがな」

上条「お前は『繋がって』ないのか?」

アルフレド「考えた事もねぇな。俺は俺だし、誰かと溶け合って混じり合うなんて寒気がするね」

アルフレド「生きるのが辛いんだったら死にゃいい。そこまでして無理に生きる必要はねぇよ」

アルフレド「今の自分が嫌だったら、死ぬまで別の名前と仮面をつけて生きればいいじゃねぇか。『本当の自分』なんつーもんはねぇさ」

アルフレド「……ま、それがここの現状だぜ。あ、他にも俺らは『双頭鮫』で一稼ぎしてっけどな」

上条「……そこまでして、ウェイトリィ院長が助けたかった人達って、なんだ?」

アルフレド「さぁな?ここの土塊だか肉塊だかよく分からんブツに意識がありゃ、そこら辺突っ込んで聞けるんだがね」

アルフレド「もしかして『繋がって』みればペラペラ喋るかもな。試すかい?」

上条「俺はいいや。あんまそういう悩みには向いてない」

アルフレド「向いてない?」

上条「ウジウジ悩むよりか、さっさと解決するために動くのが性に合ってるって事だ」

アルフレド「それはそれで残酷だと思うがね。全部の人間がカミやんみたいに、即断即決出来る奴ばっかじゃねぇよ」

アルフレド「……ガラにもない事、承知で言わせて貰えれば、こいつは『居場所』になりたかったのかもな」

アルフレド「社会から外れたり、ついて行けなくなった奴の、さ」

アルフレド「人間としての多様性が増える――それは天才を量産する事にも繋がっけども、同時にアウトサイダーを生む土壌もある」

上条「……だからって、こんなのは……違う、だろ?」

アルフレド「だよなぁ?俺もそう思うわ」

上条「一つだけ聞きたい」

アルフレド「あん?」

上条「お前ら、結局何がしたかったんだ?アリサに迷惑かけて、関係ない連中まで手にかけて!」

上条「どれも、誰も彼も全員碌でなしだったが、なんで表舞台へ出て来やがった!?」

アルフレド「……言ったじゃねぇか、上条当麻。最初にな」

上条「何?」

アルフレド「俺達の悲願は――『シィ』の復活だってな!」

上条「話がかみ合わねぇな!相変わらず!」

アルフレド「分かってた事じゃねぇかよ、何を今更!滅びた文明が滅ぼした文明相手へ言うのは恨み節だって相場は決まってる!」

アルフレド「お前らの神が俺達の神にすり替わった時から、ずっと戦いは始まってんだよ!」

アルフレド「『さぁ、扉は開いた!泥と血に塗れた算段者よ、彼らの王の喉笛へと噛みつかん!』」

アルフレド「『我らアルテミスの猟犬なり!偉大なるフェンリル狼の血族を誇れ!』」

アルフレド「『肉体の檻を捨て新たな仮面を授けろ!』」

上条(何だ……ッ!?アルフレドの体が――)

上条「……変わって、ないよな?」

アルフレド「期待裏切って悪いんだが、ここでデカくてグロい姿に変化したって当たり判定増えるだけだろ」

アルフレド「何か得するんだったらまだしも、見た目だけバケモノになったって効率悪ぃだけじゃねぇか」

上条「……じゃ、なにやったんだ?」

アルフレド「んー、別に大した事はしてないぜ?てか、そっちの狙いがアンテナヘシ折って、こっちを断線させるって感じだろ?」

アルフレド「だから今の内に限度額一杯まで引き出そうって話だ」

上条「魔力――お前それって!」

アルフレド「魔力は生命力や精神力を削って精製している。普通はどっかてセーフティがかかって、危険域になったらストップする」

アルフレド「――んが、外部からの命令で死ぬまで搾り取るのも出来るって話だ」

上条「お前は……!」

アルフレド「さぁ、俺を殺してみせろ上条当麻!その力で!その『右手』で!」

上条「……分かったよクソッタレ。付き合ってやるよ!――」

上条「――お前と、お前らの『幻想』!ぶち殺すってな!」

――病院

クリストフ「――個人が個人という殻の中へ閉じこもれば、理解し合える筈も無いさ」

クリストフ「だから、繋がって、共有すれば悩む事はない……君も、一度は体験したろう?」

クリストフ「あの、冷めた一体感と狂奔の渦、感情が平坦に歪みもなく同一化していく感覚」

クリストフ「一つの事に熱狂していれば、他全てを忘れられ――」

テリーザ「……子供達を!」

クリストフ「――る、って君も人の話を聞かないよね。兄さんも酷いものだけどさ」

テリーザ「あなたが言っている事は正しい、とは思います。少なくともわたしは、ここへ来て助けられた、助けて貰ったと感じていました」

クリストフ「それは良かった」

テリーザ「わたし達が”逃げ”て、あなた達に騙されたのは仕方がありません」

テリーザ「ここではないどこかに救いを求めて……結果的に、あなた方は助けてはくれたんですから……」

テリーザ「――でも!子供達は関係ありません!彼らは両親に連れて来られただけです!」

クリストフ「そうだねぇ。彼らは流石にお金にはならないだろうから、面倒看るしかないだろうし」

クリストフ「でも彼らを心ない迫害から守るためにも『繋がって』、価値観を共有するのが一番じゃないかな?」

テリーザ「……な」

クリストフ「考えてもご覧よ。子供達は移民の子、しかも十字教徒ではない異教徒だ」

クリストフ「心ない国へ任せてしまえば、迫害されてるのは目に見えている。だから僕達で受け入れる、それが最善だろうね」

テリーザ「そんな……そんな事って!」

クリストフ「そんな事?僕達が実現させようとしているのは、差別も格差もない平和な世界なんだよ?そこに居られるのは幸せな事じゃないのかな?」

テリーザ「ケイン達が幸せかどうか決めるのはあなたじゃありません!ケイン達自身ですよ!」

クリストフ「年端もいかない子供達が、かい?判断力も社会経験も無い、ともすれば善悪の区別すら覚束ないというのに!」

クリストフ「責任を負わせるのは酷だと思うよ……それにそもそも」

クリストフ「大人だろうが子供だろうが、道に迷う人間達を導くのが僕達の使命だよ」

クリストフ「『僕達は正しい』んだ。だから他人を『導いて”やる”』義務がある」

テリーザ「……ありがとうございます、クリストフ”さん”。今まで本当にお世話になりました」

クリストフ「うん?」

テリーザ「あなた方にはとても感謝しています。今までわたしがどれだけバカだったかって、気づかせてくれた。それだけですが」

テリーザ「……わたしは、きっと弱いんでしょう。何が正しくて間違っているのか、それを決めるのも一度は他人へ委ねたから分かります」

テリーザ「自分の道を通すのは、他の人に何と言われても我を通すのはきっと大変な事……」

テリーザ「誰か他人の心の隙間を、ともすればバスに乗り遅れそうな人間を集めて、騙して、善意を装っていたとしても……」

テリーザ「……そんなわたし達の居場所になって下さって、本当にありがとうございます」

クリストフ「そうだね。看過出来ない単語が幾つか出て来たけど」

テリーザ「……ですが、誰かを『導いてやる』なんて考え方をした、そんな人達が本当に誰かを救えるでしょうか……?」

クリストフ「今、君は助かった、と言っていたような気がするが?」

テリーザ「……他人と仲良くしたり、共存する事……それはきっと、どちらかが譲ったり、譲り合ったりする事だとわたしは思います」

テリーザ「……でもあなた達は違う!自分達が正義だと一点の曇りもなく、主張を押しつけているだけじゃないんですかっ!?」

テリーザ「あなた方にとっては対話とは『自分達の意見を受け入れる事』であって、他人の意見へ耳を貸そうとした事がありますかっ!?ないでしょうっ!?」

テリーザ「他人を尊重しろと言いつつも、決して自分達が他人を尊重するつもりもなくて!そんな生き方のどこが正しいって言うんですかっ!?」

クリストフ「……あー……まぁ、そうなんだけどさ」

テリーザ「クリストフさん……?」

クリストフ「良く気付いたね、って褒めてあげたい所なんだけど、ってかよく自分一人でそこまで考えられたね、って」

クリストフ「大抵はさ、良い所までは行くんだけど、放棄するんだよ――ってあぁ、これは体験談ね?『繋がって』る人達の」

クリストフ「教団へ入る時に色々捨てるじゃない?学校だったり会社だったり、家族だったり」

クリストフ「そういう自分達が捨ててきたもの、それを直視出来ないから『正しい』って思い込むらしい」

クリストフ「童話の『青い鳥』も、幸せは最初からあったって話だけれど……あれは主役が子供達だから学習出来た」

クリストフ「ある程度歳を重ねただけで大人になったと”思い込んだ”人間達には、受け入れたくても無理なんじゃないかな、きっと」

クリストフ「大人になるのは『成長』する事だ。学び、知って、大きくなる……ただ、それだけなんだけどね――と?」

クリストフ「もおぉっ兄さん!?また無茶な使い方してぬ――あぁ、ごめんごめん。こっちの話」

クリストフ「……捨てるんだったら、こう……いや今更だよね、全てが」

クリストフ「――さて、君が成長したのは嬉しく思うし、僕達の助けが要らなくなったのも……まぁ、寂しいけれど良かったと思うよ」

クリストフ「それで?これからどうするんだい?」

テリーザ「子供達を――」

クリストフ「『助けて下さい』ってDOZEZAでもするのかな?それとも泣いて『お願い』でもするの?」

テリーザ「……っ!」

クリストフ「成長したのは喜ばしい所だけれど、出来ればもう少しだけ早く気付いた方が良かったのかもね」

クリストフ「この世界には名目やお題目も気にしない、話し合いも通じない連中がごまんと居るんだよ――『僕達』のように」

クリストフ「軍隊を無くしても、兵器を減らそうが戦争は無くならない。警察署を閉じても犯罪者が居なくならないのと同じように」

クリストフ「この世界には悪の道をそうだと知って進む人も居れば、それを正義だと言い聞かせて進む人も居るよ」

クリストフ「そう言ったバカ共に君が何が出来る?対話?それとも平和と友愛を説いて回るのかな?」

クリストフ「君はどこかのハリウッド映画の主人公のように、腕っ節と悪運が強い刑事って訳じゃ無い」

クリストフ「かといって今から前世の力が発動するの?そんなものがあれば、だけど」

クリストフ「君は『普通』の人間だ。普通の家庭に生まれて、普通に育てられ、普通に生きてきた。ただそれだけの」

クリストフ「そんな君に何が出来るんだい?」

クリストフ「……けれどそれはみんな”そう”なんだよ。何かが出来る特別な人間の方が少ないんだ。だから――」

クリストフ「――『逃げ』る」

テリーザ「……」

クリストフ「だから今回もそうすればいい。どうせ逃げるのは初めてって訳じゃないんだろう?また繰り返すだけ、簡単な事さ」

クリストフ「……君にはまだ、逃げ場所があるんだから――羨ましい」

テリーザ「っ!」

クリストフ「DOZEZA……じゃ、ないけど、どうしたの屈んで?気分でも悪くなったのかい?」

クリストフ「出来れば子供達ぐらいは助けてあげたいけれど、その彼らは彼らで別の役割を負っていたから」

クリストフ「……うん、まぁ気にしなくて良いと思うよ。あと数時間もすれば、ここもまた炎が蹂躙するだろうし」

クリストフ「楽に死ねるさ。きっとね?」

テリーザ「……い」

クリストフ「うん、なんだい?」

テリーザ「クリストフ!クリストフ=ウェイトリィ!」

クリストフ「だからな――」

テリーザ「子供達を、返せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

クリストフ「んなっ!?銃――」

パァァンッ……

――地下墳墓

上条「いい加減に――しろおぉっ!」 ガッ

上条(何度目かになる拳をアルフレドへ叩き付けても、持て余す程の手応えしか返ってこい)

上条「いっつ……!」

上条(壁ドンしているような、ってか人の体よりも木を殴ってる感触だ)

アルフレド「オイオイ好き勝手言ってんじゃねーぞ。よく『殴ってる拳も痛い』っつーが、一番痛いのは殴られる側なんだからな!」

上条「黙ってろボケ!服の下になんか着込んでるクセしやがって!」

アルフレド「や、着てないよ?ただちょっと樹木化してるってだけで」

上条「皮膚の下の方がタチ悪いだろ――っと!」

パイイィィィンッ……!

アルフレド「……効かない、事もねぇがな」 シュゥゥゥゥゥ……

上条「……クソッタレ」

上条(そう、効いてなくはないんだ。相手の運動能力も人並み――少なくとも攻撃が全く当たらない訳じゃ無い――ただし)

上条(『右手』が当たれば当たった瞬間だけ、魔術が解除される感覚が伝わる――触れた『瞬間』だけは)

上条(手を離したら直ぐに再生が始まる。なら掴んでいれば効果は持続する?……いや、それは危険すぎる)

アルフレド「『破城槌!』」

上条(アルフレドの両手から『世界樹』のツタが襲い掛かる!)

上条(数本まとめて『右手』で打ち消すが、間に合わなかった枝葉が俺の体へ浅い傷を刻んでいく!)

上条「――ってーなコラ!お前の攻撃手数多すぎんだろ!?」

アルフレド「いやいや、ぶっちゃけ全力ではカマせてないんだわ。これが」

上条「あぁ!?」

アルフレド「魔力にだけは不自由しないんだが、お前がちょこちょこ一撃入れてくる度に霧散させられる訳で」

アルフレド「ほら、アレだよ?後列キャラが待機時間長い+スタン属性攻撃喰らってるようなもんで、大技を仕掛ける暇がねぇんだよ」

上条「あぁ……そういや、フランスの駅でベイロープ『知の角笛』と相打ちになってたっけ」

アルフレド「五行の土剋水、雷は金気か水気か議論が分かれるんだが、天災の一つとしちゃ水害の水気へ入るんで。単純に相性の問題だ」

アルフレド「『アレ』をぶっ倒した後の疲労困憊した魔術師相手に、勝った勝った威張るつもりはねぇがな」

上条(ジリ貧だな。このまま削っていけばいつかは――あぁ、いやそれはマズいのか。『根』を張られてる人らの命が危ない)

上条(とはいえ俺の持ってる手札じゃ火力不足なのは否めない……ならどうする?どうすればいい?)

上条「……あぁ、うん、そうだよな」

アルフレド「どうした?なんか執行予定が決まった死刑囚みたいな悲壮な顔してんだけど?」

上条「いつもこんな感じじゃね、みたいな慣れっつーか」

上条「むしろ今回は知り合いに迷惑をかけないで済むから、どっちかっつーと楽っつーかねっ!」

アルフレド「同情したらいいのか笑っていいのか、リアクションに困る……」

上条「笑えばいいじゃない!あぁ笑えばいいじゃないか!」

アルフレド「お前のかーちゃん若作りー」

上条「母さんは関係ないだろ!?笑う所がそこか!?」

アルフレド「お前のとーちゃん……あ、いやごめん。なんでもない」

上条「待てよ!?お前父さんの何を知ってるんだっ!?」

アルフレド「――はーい、チャージ完了。死ねよバーーーカっ!」

上条「しまっ――」

アルフレド「『混沌を媒介に開け虚空の門』」

上条(野郎っ!馬鹿話している間にきっちり間合い取ってやがった!間に合うかっ!?)

アルフレド「『原初の言葉を知りたる異形の知性、全にして一、一にして全なる者』」

上条(つーかこんな密室、しかも地下でデカい術式ぶっ放せば二人とも生き埋め――ってまさか!)

上条(そうなっちまってもアルフレドは死なない!俺と違って!)

上条(最初から地下墳墓で戦っていたのはそういう狙いが……!)

アルフレド「『漆黒の闇に生まれ落――んくっ!?』」

上条(当然胸を押さえて――これなら、間に合うか……っ!?)

アルフレド「『――ちて産声を上げろ!――叫べ、破壊――』」

上条「――の、前に――」

パキィィィンッ……!!!

――病院

テリーザ「……はぁ、はぁ……」

クリストフ「……か……はっ……?」

テリーザ「……クリストフ、さん……?」 カタンッ

クリストフ「……」

テリーザ「クリストフさんっ!?血が、血を止めな――」

ガシッ

テリーザ「――あ、くぅっ!?」

クリストフ「――はーい、減点一。『一度攻撃した相手には死ぬまで攻撃を続ける』のがセオリー」

テリーザ「なんっ……で、平気……!?」

クリストフ「そして減点二。『武器は死んでも手放さない』ように」

クリストフ「こう、硬く握っていれば死後硬直と筋肉の反応で敵に鹵獲されにくくなるから。ま、取り乱して落とすなんてのは論外だけど」

クリストフ「最後に減点三。『魔術師には関わるな』……ま、アレだよ」

グググッ

テリーザ「……!?」

クリストフ「アニメなんかで弱点丸出しにしたデザインの敵って居るよね?あれを反面教師にすべきだと思うんだ」

クリストフ「確かに僕はアンテナだけれど、『能力自体はアルフレドよりも上』なんだよ。むしろ兄さんが掠め取ってるだけで」

クリストフ「とはいえ、中々意外性があって良かった。弱肉強食って世界の真理へ行き着いたのは評価出来るよ」

クリストフ「本当ならば『根』を植え付けるのがいいんだろうけど……少し、痛かったしね。や、少しだけど」

クリストフ「だから君はここで殺してあげよう。人としての尊厳を保ったままで、ね?」

ギリギリギリギリギリッ!

テリーザ「意識が――とお、く――」

――地下墳墓

上条「……あいたたた……クソ、吹っ飛ばされたか……」

上条(術式が発動する瞬間に突っ込んだはいいが、中途半端に完成していたせいで弾けた?……ま、そんな感じだろう)

上条(てか今、何があった?なんでアルフレドは一瞬固まったんだ?)

アルフレド「……まぁ、アレだよ。魔術ってのは決して万能なんかじゃねぇよって事だ」

上条「生きてるよなー、このぐらいじゃ」

アルフレド「神話とかに出て来る、超絶スゲェ霊装を再現したとすんだろ?確かにそいつぁ絶大な威力を持つ。再現率にも因んだが」

アルフレド「ただ同時にオリジナルに近ければ近い程、オリジナルが有していた弱点も再現しちまうのさ」

アルフレド「『夜の間しか使えない』とか、『竜相手にしか効果を発揮しない』とかな?」

上条「それじゃお前の術式も?」

アルフレド「『世界樹の根』は世界樹の特性を分割して、何人かの間で共有する仕組み」

アルフレド「従って術者同士、ある程度痛みや衝撃がリンクする仕様でもある……クリス、撃たれやがったな」

上条「撃たれた?」

アルフレド「どうやら戦ってんのはお前の相方さんだけじゃねぇようだが、まぁ気休めにしかならないだろうな」

アルフレド「ちなみに俺達の天敵としちゃ……世界樹の根を喰らうニーズホッグ、竜か蛇の術式。もう一つあるが、そいつぁナイショだ」

上条(誰だ?誰が戦ってる)

アルフレド「つー訳で続きしようぜ?俺も楽しいのは楽しいんだけども、いい加減飽きて来た」

アルフレド「もう一度、デッカイの行くぜ?生き埋めにならないように注意しろや!」

上条「ふざけんな!その前にぶっ飛ばす!」

アルフレド「ハッハァ無駄無駄!何度ぶん殴ろうが、俺は死なない!死ねないんだよ上条当麻!」

アルフレド「何度だって何度だって何度だって何度だって何度だって何度だって何度だって何度だって何度だって!!!」

アルフレド「俺が死にたくっても死ねないんだっつーのに、よおぉっ!」

上条「そいつぁテメェの都合だろうがアルフレド!俺の知ったこっちゃねぇよ!」

上条「何度でも復活するってんなら、死ぬまでその『幻想』ぶち殺してやるよっ!!!」 ガッ!

パキィイイイイィィィィッン……!!!

アルフレド「だからムダだっつってんだろジャパニーズ!お前の『幻想殺し』で俺達の悪夢は消せねぇ、ん、だ……よ?」

アルフレド「……あ、あれ?」

上条「再生、しない……な?」

アルフレド「……」

上条「……」

アルフレド「あ、ごめんちょっと今から塾の時間で」

上条「お前の、そのふざけた『幻想』は――!」

アルフレド「待て!?シメに入るな!その台詞は俺的に死亡フラグ――」

上条「――俺がぶち殺す……ッ!!!」

パキィイイイイィィィィッン……!!!

――病院

ギリギリギリギリッ

テリーザ「あ……く……!?」

クリストフ「ま、アレですかね。『奇跡は起きないからこそ、奇跡と呼ばれる』のが真理でしょうね」

クリストフ「テリーズさんも、キャラに合わない事をしてさえいなければ、多少は寿命も延びたでしょうに」

クリストフ「いや……テリーザさん?テリーゼ……?どっちでしたっけ……まぁいいか」

クリストフ「所詮、普通の人間に出来る事なんて決まってる。分不相応な事をするから、報いがあるってだけの話」

テリーザ「……」

クリストフ「あ、すいませんね?もう少しでオチますから、その後は適当に処分――」

???「『"Goddess Guna to run in the sky must start. "』」
(天空を駆け上がる女神グナーよ、疾走れ!)

???「『"It is neighs of wolf's fang, giant's fist, and children of the flame that approach the chaser. "』」
(追手に迫るは狼の牙、巨人の拳、炎の子らの嘶き!)

???「『"If it colors, it approaches the scarlet, and the coming madman doesn't destroy everything, the earth doesn't raise the groan. "』」
(大地は緋色に色づき、迫り来る狂人が全てを滅ぼさんと唸りを上げん!)

???「『Soldiers of it is possible to stand up Ordin. The honor that scatters in the battlefield is yours. 』」
(さぁ立て父の戦士達よ!戦場に散る名誉はお前達のものだ!)

???「『"Kill the enemy, kill the companion, and kill and carry out even the end. "』」
(敵を殺し!仲間を殺し!終末すら殺しつくせ!)

???「『――Ragnarok, Now!)』」
(――神々の黄昏が来た!)

クリストフ「この声は……!昨日の魔術師!」

???「――『高く駆ける者(グネーヴァル)』……最大出力……ッ!!!」

ヒュッン――

クリストフ「――あっがぅぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

――ドゥン……ッ!!!

???「薄汚い手で私の民に触らないで下さいな、クソ野郎」

テリーザ「…………レッ、サー……さん?……げほげほっ」

レッサー(???)「フロリスみたいに音の壁は越えられませんがね、調子乗ってるバカ蹴り飛ばすには悪くない塩梅です」

レッサー「てーか良くやりましたねぇ、テリーザさん。ご自身の事すら満足に出来ない事なのに、よくまぁご立派に時間を稼がれました」

レッサー「なので、そんなあなたにプレゼントを――と、背中から降ろすの、手伝って貰えません?」

テリーザ「けほっ……背中に誰か、抱えてる?」

ケイン・カレン・クリス「……」

テリーザ「この子達……!?」

レッサー「暴れたんで意識は失わさせて貰いましたよっと。隠れているのを見つけるのは少し骨が折れましたが」

レッサー「……そして更に骨が折れたのは、私の金メッシュを『紅髪』と勘違いして引っこ抜こうとしやがりましたからねっ!将来が楽しみですなっ!」

テリーザ「レッサーさん……!助けて……くれたんですねっ!」

レッサー「勘違いするのは勝手ですけど、気分が良くないので訂正しておきますね、テリーザさん」

レッサー「今回、このクソッタレ共相手に戦場へ立ったのは私、上条さん、そして――あなた」

レッサー「”私”が助けたのではなく、”私達”が助けた。それ以上でも以下でもありませんよ」

テリーザ「……ありがとうっ!本当にっ、ありがとうございます……!」

レッサー「あ、ここまで来るのにあらかた『紅髪』は行動不能にしときましたんで、逃げるんでしたらば、どうぞお早く」

クリストフ「……つっ……!」

テリーザ「気をつけて下さい!あの人は!」

レッサー「えぇ知ってますよ。あのタイプは昨日も戦いましたし?」

レッサー「……再生速度がもう一体よりも速いんで、こっちの方が『核』なんでしょうな」

クリストフ「……それは、正解だけれどね」

レッサー「繰り返します。早く逃げて下さい」

テリーザ「……ですが!」

レッサー「ぶっちゃけ足手まといです。それよりもあなたにはもっと大事な役割がある、違いますか?」

テリーザ「それは……」

レッサー「大切なのはご自分が何をしたくて、何を出来るのかを見定める事ですよ。時には手を汚す事も必要ですが、『今』はそうじゃない」

テリーザ「……レッサーさん、どうか、どうかご無事で!」

レッサー「あいあい、そちらも足下気をつけてどーぞ」

――病院

クリストフ「……君は、逃げなくていいのかな?」

レッサー「何故?勝てる相手からわざわざ逃げる必要はないでしょう、それこそ時間の無駄ですな」

レッサー「そちらさんこそ、尻尾を丸めて逃げ出さなくても良いんでしょうか?……ま、逃がすつもりなんてありませんけどね」

レッサー「てーか、私の読み通りでしたねぇ。こんな大規模に人を巻き込む術式、アンテナ役が居るってのは予想がついてましたが」

レッサー「――恐らく、”それ”は間違いなんですよね?よねよね?」

クリストフ「……何を」

レッサー「それはあなただとして、お兄さんの役割は……あぁ、『祭司』ですね。文字通りの」

レッサー「世界樹信仰――ドルイドが嘗て行っていたヤドリギ信仰は姿を変え、十字教にも影響を与えました」

レッサー「クリスマスツリー、『神の子』の誕生を祝う際に使われるリースも『豊穣』と『再生』を表すヤドリギの木が添えられます」

レッサー「それは即ち、古代の信仰も十字教のシンボルとして取り入れてる訳ですな。過去の信仰を上書きしながら活用出来ると」

レッサー「んがしかぁし!これには副作用もあります。長所だけを取り入れるつもりが、逆に『ヤドリギ』の属性に引っ張られると」

レッサー「『豊穣』が前に出て来すぎて、『クリスマスリースの下ではキスをしても良い』という風習が残ったのは、微笑ましいですかね」

レッサー「けれどあなた方は、違う。昔々の信仰、世界樹信仰よりも旧いヤドリギ崇拝を扱うには『樹』だけでは足りなかった」

レッサー「あなたが並列化させた『世界樹の体現』であるならば、お兄さんは『世界樹を奉る祭司』であるのでしょうな」

レッサー「幾ら龍脈ではないとはいえ、大きすぎる魔力を扱うのに並の魔術師一人の手には余りますからね」

レッサー「なのでお兄さんが使える知識は、あくまでもあなたの簡易劣化版。実際に同じ蹴りでもあなたの方が再生速度が速い、と」

クリストフ「……そこまで分かっているんだったら、どうして君は残ったんだい?」

クリストフ「『終末』の滅びすら生き残った『世界樹』であり、十字教にすら留めを刺されなかった存在だ」

クリストフ「さ、兄さんですら『殺せなかった』君に、どうして僕をどうこう出来るって言うんだい?」

レッサー「あー……っと、ですねぇ。昨日もあなたの演技をされているお兄さんへ言ったんですが――」

レッサー「――あなたはやっぱりお兄さんに比べれば数段劣りますな」

クリストフ「あの企画外のバカと同一視されない方が、僕には嬉しいけれど?」

レッサー「……あぁ納得。ホンモノはそういうリアクションですか……」

レッサー「そうですねー。あの時点で『どっちか』が核だと思っては居たんですよね。どっちかだって」

レッサー「なので『殺さないでやった』のに、そこら辺を理解していない」

クリストフ「『世界樹』を滅ぼす魔術ねぇ?ニーズボッグが根を食い荒らす逸話はあるが、それが原因で枯れたという話もないし」

クリストフ「正直、ハッタリにしか思えないんだけど」

レッサー「ザクセン人の神話には世界を支える巨大な樹木の話が出て来ます。その名を『イルミンシール』」

レッサー「またその樹は実在し、大地に根を張っていたんですが……カール大帝によって切り倒されたそうです」

レッサー「本質は『ゴルディアスの結び目』でしょうね。旧来の悪しき慣習を打ち払う、英雄の一撃」

クリストフ「英雄……まさか!?」

レッサー「いいえ、違いますよ。”それ”は多分あなたが考えてるものとは違う」

レッサー「私はカール大帝”如き”なんかじゃありません――さて」

レッサー「では一つ、良い事を教えちゃいましょうか」

レッサー「私が今回、大事な所で単独行動しているのか『これ』があるからです」

レッサー「流石に将来敵対する可能性が高い魔術結社のお膝元で、ジョーカーを晒す程露出狂って訳でもありませんし」

レッサー「”彼ら”が監視しているのは”あなたがた”ではなく”私達”なんですよねぇ、えぇえぇ」

レッサー「だから手を出してこない。私達がどんな術式や霊装を持っているのか、知るために――ってのは、私の想像ですがね」

レッサー「なので今回は『影』だけをご覧に入れましょう。カーテナですらあの騒ぎ、下手に抜いたらシャレになりませんしね」

レッサー「ではでは、ごきげんよう。さよなら、サヨナラ、然様なら」

クリストフ「ちょっと待っ」

レッサー「『I vow to thee, my country, all earthly things above――,』」
(祖国よ私は誓う)

レッサー「『――Entire and whole and perfect, the service of my love――』」
(比類なき完全なる愛を捧げん)

レッサー「『Be upcoming of my sword from the bottom in the fountain――.』」
(――泉より来たれ我が剣――)

レッサー「『――”X”!!!』」
(――”エックス”!!!)

――地下墳墓

……ドォン……!………………グラグラグラグラグラッッ!!!

上条「地震……?」

アルフレド「いやぁ、活断層はこんなトコになかった筈だ……お前の相方がやらしたんだろうぜ」

上条「レッサーが?」

アルフレド「それ以外に何があるっつーんだよ、俺の体見てみ?」

上条(俺が殴り飛ばした部分、肩口辺りから徐々に色が黒ずんで行き……土塊に返っている、のか?)

アルフレド「クリストフとの『経路』が経たれた……じゃ、ねぇな。パス自体は繋がってんだが、機能してねぇ」

アルフレド「つーコトは『世界樹の根』術式自体がぶっ壊れたって意味でもあるし……おめでとう、お前らの勝ちだわ」

上条「……繋がるとか、繋がらないとか、俺にはお前達が理解出来なかった」

アルフレド「だろうな。ま、人間そんなもんだ」

上条「……でもさ、お前は信じたか?」

アルフレド「何?」

上条「クリストフを信じていたように、誰かを!もっと早く信じる事が出来ていれば!こんな事には!」

アルフレド「……泣きそうな顔すんなよ、カミやん。俺達の罪は俺達のもんだ。誰にもそれは譲らない」

アルフレド「人と人が心底理解し合おうってのが、土台無理な話なんだ。親兄弟ですらそうなんだから、他人なんてもっとだ」

アルフレド「……ともあれ、「『濁音協会』もここで終わり、か……くく、やっと死ねる……!」

上条(そう言って笑った姿は、今まで見てきた皮肉そうな笑顔とは違う。心の底から笑っているような……きっと見間違いなんだろうけど)

上条「……なぁ、アルフレド」

アルフレド「言うなよクソッタレ。お前らは正しい事をしたんだ、胸を張れや……あぁ、愚痴ぐらいは聞いて欲しいもんだがな」

上条「喋るなよ!お前、もう体が半分も残ってないんだからな!」

アルフレド「つれない事言うなよ。どうせこれで最後なんだろうから、ヴィランの愚痴ぐらい聞いて貰ったって」

上条「……」

アルフレド「……あぁ疲れた、これでようやく終わりになれる」

アルフレド「マンマ……俺は――」

上条「……アルフレド?」

上条(さぁっと。地下室では絶対に吹かないはずの風が吹き――)

上条(――辺り一面に咲き誇っていた『紅髪』が吹き飛ばされるが――)

上条(――宙に浮いたまま、地面へ落ちる時間すら待てずに、溶けて、消えた)

上条(……こうして俺達と『濁音協会』の戦いに終止符が打たれた)

――『ヤドリギの家』 本館・外側

ステイル「――あぁ暫くぶり。元気――じゃないようで何よりだよ、全く」

上条「相も変わらず出会った瞬間に皮肉かコノヤロー!折角頑張ったんだから、『お疲れ様です』ぐらいは言えよ!」

ステイル「何の事だか僕にはさっぱりだね。こっちで突き止めた『濁音協会』の本部を勝手に壊滅させたのは君達じゃないか」

ステイル「僕達がせっかく準備をしていたって言うのに、どうして無駄な事をするんだか」

上条「またわざとらしい……まぁ立場的にそうなるだろうが」

上条「その……ここの人達、どうなるんだ?まさか、皆殺しとかにはしないよな?」

ステイル「それこそまさか。然るべき施設で引き取って、社会復帰をさせるんじゃないかな。出来るかどうかは別にしてだ」

ステイル「どうなるかは彼ら次第だろう。立ち直れる者も居れば、そうじゃない者も居る。それだけの話さ」

上条「……そっか」

ステイル「じゃ僕は後始末があるからこれで――と、そうそう」

上条「何?」

ステイル「酷い顔と怪我をしているから、きちんと医療テントで看て貰い給えよ。特に顔」

上条「やったんぞ?あ?顔二回言う必要無いじゃないか!」

ステイル「それじゃまた――あ、今のは社交辞令であって、僕としては二度と君には会いたくもないのは、言うまでもないよね」

上条「さっさと行きやがれ!お前になんか後片付けで苦労しろ、一杯しろ!」

レッサー「何呪いかけてんです?」

上条「礼の一つも言えない子供だと思えば……子供か?ステイル?」

レッサー「まぁまぁいいじゃないですか。終りよければ全て良し、ですよ」

上条「その終わりがいつもにましてグダグダだって話なんだが……あ、テリーザさん達も」

テリーザ「あ、お疲れ様です」

ケイン「おっす」

クリス「お兄ちゃん、傷だらけ……?」

カレン「平気?包帯巻いた方がいいんじゃない?」

上条「大丈夫、慣れるから!慣れてるからねっ!」

レッサー「なんで二回言ったんです?」

上条「俺よりもケイン達は大丈夫だったか?」

ケイン「……ん、こっちのねーちゃんとテリーザ姉ちゃんに助けて貰ったからな」

レッサー「ってもこの子が頑張らなければ少し危ない所でしたよー」

上条「そか、よくやったぞーケイン」 ナデナデ

ケイン「撫でるな!ガキ扱いすんな!」

カレン「ケイン照れてる」

クリス「むー……」

テリーザ「あ、ホラホラ。上条さんはお怪我されてますから、その辺で」

ケイン・カレン・クリス「はーい」

テリーザ「あなた達も膝とか擦り剥いてるでしょ?テントで手当して貰わないと」

ケイン「じゃ、また後でな」

カレン「んーん」

クリス「……ん」

上条「おー、薬が染みても泣くなよー?」

テリーザ「……あの、この度はお二人に助けて頂いて、その、感謝の言葉もありません……」

上条「止めて下さいよ。俺は殆ど何もしてませんし」

上条「レッサーから話聞きましたけど、ケイン達を助けに行ったのもテリーザさんがやった事で、凄いと思いますよ?」

テリーザ「いえそんなっ!わたしなんでまだまだです!」

上条「で、なんですけど……ケイン達って、この後……?」

テリーザ「施設、でしょうね。カレンとクリスのご両親はご健在ですけど、まだ意識が……」

上条「そう、なりますよね。やっぱり」

テリーザ「その、ですね。わたしが引き取ろう!とも思ったんですが……」

テリーザ「やっぱり、まだ学生のわたしじゃ無理っぽいって言われちゃいました……」

上条「そうですか……」

テリーザ「自立も出来ていないし、社会的にも未熟で、自分の事で手一杯……そう、思い知らされました」

テリーザ「……でも、ですね。今回の事件、色々と恐い目にも遭いましたけど……わたし、少しずつやっていこうと思います」

テリーザ「何が出来るって訳じゃないですが、地に足をつけた生き方をして、普通に生きようと思います」

テリーザ「ケインもカレンもクリスもお友だちです!一緒に暮らせなくたって、わたしが訊ねていけば良いんですから!」

上条「テリーザさん、強くなりました?」

テリーザ「……まだまだですよ、全然。そのっ!」

テリーザ「上条さんには、三人も待っていますし!イングランドへ来られたら、ですね!」

テリーザ「……会いに来て頂ければ、嬉しいな、なんて?」

上条「あぁ。その時は連絡しますよ」

テリーザ「……はいっ!」

カレン「――お姉ちゃーん、クリスが泣いてるー」

テリーザ「と、すいませんっ、失礼しますっ!」

上条「あ、はい。それじゃまた後で」

上条(……まぁ、収穫らしい収穫もあった、か?)

上条(……なんだってそうだ。前を向いて歩いて行ける奴も居れば、フラフラしてる奴もいる)

上条(中には道の先が気になって、中々進めない奴だって居る――てか、それは当たり前の事で)

上条(そういう奴らへ『”優しく”手を差し伸べる悪意』、そして『”厳しく”突き放す善意』……)

上条(……受け取り方は本人次第、生かすも殺すも自分次第なんだろうが――)

レッサー「……あのぅ、すいません、ちょっと良いですかね?なんかモノローグで締めくくろうとしている最中で恐縮なんですが」

上条「あ、ごめん?何?」

レッサー「私は?」

上条「あー……」

レッサー「むしろ終盤で頑張ってたの私だけですね?上条さんはアニキとイチャコラしてましたよね?」

上条「アニキ言うな!それ以外の部分は否定し辛いが!」

レッサー「……あー、もういいんですいいんです。どうせ私も上条ハーレム団の一員となって、使い回される運命にあるんですから」

レッサー「頑張ったのに!折角、が・ん・ばっ・だ・の・にっ!誰も褒めてくれないなー、寂しいなー、チラッチラッ?」

上条「だから擬音を口で言うなと……あー、そのレッサーさん?」

レッサー「はいなっ!」

上条「良くやってくれた、ありがとうな」

レッサー「いえいえとんでもないっ!我が国のためなら火の中水の中!」

上条「褒めがいねぇよ……アイタタ」

レッサー「あ、ほらやっぱりテントで看て貰いましょうよ。肩貸しますから」

上条「俺は後で良いって。今は子供や重傷者優先でして貰ってるらしいからさ」

レッサー「今回のMVPなんですから、特別待遇でも良いと思うんですがねぇ……あ、それじゃせめてあそこのベンチに座りませんか?」

上条「立ってんのも辛いし、まぁ丁度良いな」

上条(レッサーと並んでベンチに座る)

上条(忙しそうな『必要悪の教会』――つーかアニェーゼ部隊の姿も見えるんだが、正直疲れて一歩も動けない)

上条(……ま、怪我が大した事無いってのは良かったけど。いつもに比べればねっ!)

レッサー「ではでは、レッサーちゃんは公約を果たそうと思います」

上条「公約?なんか言ってたっけ?」

レッサー「まぁ直ぐに分かるかと。あ、上条さん、ちょっと失礼しますね?」

上条「ん、あぁ別に――」

レッサー「失礼ついでにもう少し体を下げて貰えます?あと目を瞑って下さいな」

上条「いいけど、お前これキスする体勢みた――」

チュッ

上条「!?」

上条(柔らかい感触が唇に一瞬だけ触れ、驚いて目を開ければレッサーのニヤニヤ顔――)

上条(――いつもの俺をからかって、おちょくって、バカにしている笑い顔――)

上条(――”では”なかった)

上条(至近距離で、お互いの吐息がかかるぐらいに近いのに)

上条(逃げも、しないで)

レッサー「単刀直入に言いますが、上条当麻さん」

上条「お、おうっ!」

レッサー「あなたが好きです。お慕いしています。私と結婚を前提にお付き合いして下さいませんか?」

上条「……はい?お前それジョーク――」

レッサー「――だと思います?なんだったらもっとドヅキいの喰らわせましょーか?」

上条「――じゃ、ないですよねっ!本気になんですよねっ!……いやいやっ!待て待て!」

レッサー「待ちましょう、どうぞ?」

上条「お前、今までネタじゃなかったのかよ!?」

レッサー「えぇまぁそういう所も無きにも非ず、っていうか、ぶっちゃけ上条さんイジって楽しんでました!」

上条「ホラやっぱり!」

レッサー「や、その、なんて言うんですかね、こう……恥ずかしいじゃないですか?」

レッサー「なのでテンション無理にでも上げてかないと、間が持たない感じですよ、えぇ」

上条「……恥女がそれ言うか?」

レッサー「言っときますけど、物心ついてから私のマッパを見たのは、殿方じゃ誰も居ませんからね?」

上条「……なんだろうな?その言葉は当たり前なんだけど、聞いてホッとするっていうか……」

上条「……つーかさ、なんで俺?自慢じゃねぇけど、俺だぞ?俺?」

レッサー「えぇ知ってますよ。てか上条さんはご自身に価値がないとお考えで?」

上条「だってタダの高校生だぞ、俺」

レッサー「なら私に全部下さいな、お代は私を全部差し上げますから」

上条「全部って、お前」

レッサー「誰があなたをどう低く見積もるのも結構ですけど、私はそうは思いません」

レッサー「この『想い』は私のものですから、どなたさんにも否定させるつもりも、譲るつもりもありませんよ」

上条「でも、お前はイギリス大好きなんじゃ……?」

レッサー「愛国者はどの国にも居るでしょうが、国と添い遂げたケースは聞いた事がありませんけどね」

上条「じゃ――」

レッサー「恐らく『国と俺とどっちが大事?』的な質問をしようって気配なんで、先に言っておきますが、その質問は間違っていますよ」

レッサー「よく『仕事と私、どっちが大事なの!?』的なドラマありますけど、それと同じで両立出来るもんでしょう、普通は?」

レッサー「もしもブリテンと上条さんが対峙するとなれば、普通はどちらかを説得するか、間を取り持ったりします」

レッサー「それも適わないってんなら、私は上条さんを殺してから後追いしますんで、それでどうです?」

上条「どうって言われてもな……」

レッサー「信じたくなければそれでも結構ですよ。なんでしたら覚悟を試すために抱いて下さっても構いませんし?」

上条「……俺がそんな事すると思うか?」

レッサー「ですねぇ。実は分かってて言ってます、そこら辺は」

上条「いや、その、な?」

レッサー「私は私の本音をお伝えしたかったんで、お返事も今すぐ頂けなくても構いませんよ。ですが――」

上条「が?」

レッサー「――私は逃がすつもり、ありませんので。精々覚悟を決めて下さいな」



――胎魔のオラトリオ・最終章 『ダンウィッチ・シティ』 -終-

























――胎魔のオラトリオ 『プロローグ』 -終-























――予告


――10月8日 学園都市 スクランブル交差点

街頭テレビ『――はいっ!という訳でですね、ARISAさんが戻ってきましたよ学園都市に!』

街頭テレビ『なんと今日はツアーのシメ!凱旋ライブが行われんですよー!』

街頭テレビ『えっと、チケットは完売しているんですが――なんと!今回は全世界にLIVE中継をするんだそうで!スッゲーですね!』

街頭テレビ『だからあなたも今日はネットでARISAの歌声に聞き惚れろ!いいか、絶対だからな!』

ペーペーポー、ペーペペポー……

上条「……」

人工音声『信号が赤に変わります。ご注意下さい』

上条「………………はっ!?」

上条(いかんいかん。気が抜けてた……つーか思わず見入っちまったな、大迫力だぜ巨大街頭テレビ!)

上条(いやー、まぁ短い間に色々あって疲れたよなー、流石の上条さんも色々あり――)

上条「……」

上条(――どうしようっ!?俺レッサーにコクられた返事まだしてない……!)

上条(いやいやっ、突然じゃん?そんな素振りも何も無かったのに、急にだぜ?急に)

上条(心の準備とか全然してねぇのに、つーか俺の人生で恋愛的なフラグが立ったのは初めてなのに……!)

上条「……?」

上条(……今、一万回弱『死ね!』って罵られたような気がする……)

上条(うんっ、きっと気のせいだ!そういう事にしよう!)

上条「……」

上条(そう、だな。あんま考えても仕方がないよな!だって今日はARISAのコンサートだし!)

上条(LIVEが終ったらアリサに相談するのも良いかも!だって仲良くなったみたいだから!)

上条「……?」

上条(なんだろうな……?今もなんか『痴情のもつれで刺されるから止めてあげて!?』ってツッコミが聞こえたような……?)

上条(ま、まぁ相談するかはともかくとして!今日はめでたい日だから考えないようにしようか!うんっ!)

上条(LIVEの優待券も貰ったし!今日は無くさないようにサイフへしっかり入れたよ!)

上条(俺はほんのちょっとだけ人様より運が悪いかも知れない!だがしかぁし!そうやって学習が出来る人間なのさ!)

上条(そう、サイフへ………………あれ?)

上条(さっきからズボンのポケットがやけに軽い、っつーかさ。うん)

上条(もしかして街角でバイトのおねーさんにポケットティッシュ貰った、時、に……)

上条(サイフごと落としたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?)

上条(マジか!?よりにもよってアリサの晴れの日に!『絶対来てよね?絶対だからね?』って何回も念を押されたのに!)

上条「……」

上条(いやでも、実はあれ、ダチョ○なフリである可能性も――ある筈がねぇな!)

上条(……どうしよう……風紀委員?白井に探して貰う、か?)

上条(……いや、でも警備で忙しいって言ってたっけか……あぁクソ、普通に届け出すしかねぇよなぁ……)

上条(最悪、シャットアウラに泣きつくしか……また嫌味を言われるんだろうけど、仕方が――)

PiPiPi、PiPiPi……

上条(ケータイ?……もしかして拾ってくれた人が俺に連絡をくれたのか!?)

上条(ありがとう神様!真っ当に生きてきた俺へご褒美なんですね分かりますっ!)

上条「『もしもぉーし!!!』」

バードウェイ『――もしもし?私だが』

上条「『あ、すいません間違えました。かけ直しますっ』」

バードウェイ『そう嫌そうな声を出すんじゃない。まるで私が嫌われているかのように錯覚するじゃないか』

上条「『……あのな、ボス?嫌ってはない、嫌ってはないんだが、タイミングで的にSOBAD(残念)って言うかな?』」

上条「『悪くはないんだけど――あ、もしかしてまた魔術師絡み?』」

バードウェイ『――いや、ちょっと気になる結果が。あぁ、占いのな』

上条「『占い?タロットだっけ?』」

バードウェイ『気にするかしないかはそっちの勝手。好きにすればいい』

バードウェイ『お代は要らんよ。充分に貰っている』

上条「『脇腹に鉛玉……』」

バードウェイ『――あぁウルサイ。あれは助けてやっただろうが』

バードウェイ『とにかくお前は下ばかり見ているから転ぶんだ。たまには空を仰ぎ給え』

バードウェイ『ではないと足下を掬われるぞ?いいか?忠告はし――』

ピッ

上条「……出来れば財布落とす前に言って欲しかったです、ボス……」

上条(空を仰ぐ、ねぇ?ぼーいずびーあんびしゃす、だっけ?『少年世大志を抱け』か)

上条(ゴミゴミとした都会で空を見ろっても、ただ危ないだけだと思うんだがなぁ)

上条(……あ、一番星みっけ。良い事あるかも)

街頭テレビ『――それと今日は月蝕の日ですねー。大体17時過ぎですから、ARISAのライブと重なりますねぇ』

街頭テレビ『カウントダウンとかもするんでしょうか?世紀の一瞬をアイドルと一緒に見れるプレミアチケット!うーん、私も行きたかった!』

上条(月蝕……LIVE会場から見れんのかな?……あー、なんかサプライズ用意してるって言ってたっけか)

上条(楽しみは楽しみだけど――あれ?空?)

上条(『空を見上げろ』ってバードウェイの忠告、最近どっかで聞いた……ような?)

上条(どこだっけかな?あんま良い思い出はない――って事は『濁音協会』関係だよな)

上条(予言の詩かなんか、えーっと、消してなかったら……) ピッ

上条(……これか)


『ヒトは命の旅の果てに智恵を得て、武器を得て、毒を得る』

『即ち“偉大な旅路(グレートジャーニー)”』

『現時刻を以て世界へ反旗を翻す』

『我らは簒奪する。全てを奪いし、忘れた太陽へ弓引くモノなり』

『汝ら、空を見上げよ。我らの王は容易く星を射落さん』

『“竜尾(ドラゴンテイル)”が弧を描き、歌姫は反逆の烽火を上げる』

『――黒き大海原よりルルイエは浮上し、王は再び戴冠せ給う』


上条(去年のアイソン彗星をぶっ飛ばしたって書いてあるんだよな、確か)

上条(でもこの詩の殆どは解読されないまま、ブラフだって事でまとまったんだ……うーん?)

上条(これがもし、『予言』だとすれば……?)

上条(最初の二行、人が旅をどうこうってのは『四時代学説(オラトリオ・ドグマ)』に似ている)

上条(『発生の時代』、マグマと硫酸の海で『ゆらぎ』から生命は生まれ)

上条(『闘争の時代』を牙も爪も持たぬ人類は潜り抜け)

上条(「『文明の時代』で文明を造り上げ)

上条(『神殺の時代』で宗教からも脱却する――だっけ)

上条「……」

上条(ユーロトンネルで戦った『アレ』。単細胞生物から多細胞生物に進化する敵だった)

上条(フランス市内で戦った『安曇阿阪』。牙と爪で人を捕食する人類の敵……で)

上条(イタリア国境近くで戦った『団長』は推理……調査と推測、結論に至る文明のあり方ではある、か)

上条(んでもって最後に戦った『ウェイトリィ兄弟』は、『世界樹と祭司』……つまり、旧い旧い信仰と戦い、勝利した……)

上条「……」

上条(予言、着々と成就してねぇかな……?気のせい、にしては引っかかる……)

上条(太陽がどうってのも、散々堕ちたアルテミスがって説明も受けてたし……いや偶然、だよな?)

上条(詩の最後から二行目、『竜尾(ドラゴンテイル)』と『歌姫』……なんか、モニョる)

上条(念のため誰か知り合いに――ステイル?いやステイルの番号知らないし、問題があれば無理矢理にでも連絡入れてくるだろう)

上条(とすれば俺の知り合いで天文学に詳しそうなのは土御門と海原、科学的サイドからも入れると先輩か)

上条(プラスして占星学にも詳しそうなのは……土御門だな。よしっ!) ピッ

土御門『――もしもーし?』

上条「『もしもし?あ、ごめん。今ちょっと時間ある?」

土御門『や、別にいいんだぜい。舞夏がいつもに世話になってるし――てかどう?元気してる?』

上条「『してるしてる。最近は芹亜さん――雲川先輩の妹さんがちょくちょく会いに来てくれてるし』」

土御門『俺的にはちょっと複雑だにゃー。雲川姉妹には借りが出来ちまったぜい』

上条「『お前まだ戻って来れねぇの?いい加減妹さんが心配してんだから、連絡ぐらい入れてやれよ』」

土御門『そうしたいのは山々なんだが……まぁ仕方がないんだ。年内にはどうにか、とは思うが』

上条「『そん時は教えてくれよ。クラス一同でお祝いすっから』」

土御門『あぁ楽しみにしてるぜい――で、本題はなんだ?』

上条「『そのさ、大した事じゃないんだが、気になる事があってさ』」

土御門『それ自体フラグだと思うが、まぁ言ってみ』

上条「『天文用語に”竜尾(ドラゴンテイル)”ってないよね?』」

土御門『あるぜ』

上条「『だよなー?無いよなぁ?やっぱ俺もそう思ってたんだよHAHAHAHA!』」

土御門『話を聞くんだにゃーカミやん。思いっきし現実逃避してるトコ悪いんだが、俺も暇じゃないんで』

上条「『MAJIDE?』」

土御門『MAJIDE。簡単に言えば”月の降交点”だにゃー』

上条「『……あのぅ?全然簡単じゃないんですけど』」

土御門『交点って知ってる?天体の軌道が交わるポイントを意味してんだけどさ』

上条「『天体の軌道……地球から見た、見せかけ上の動き、だっけ?」

土御門『そうそう。課外学習のプラネタリウムで見たろ?あれあれ』

上条「『……あったっけ?』」

土御門『あったんだよ。んで太陽の軌道は”黄道”、月の軌道は”白道”って言って。黄道に白道が交わるのを交点つってんだにゃー』

上条「『なる、ほど?』」

土御門『黄道を南から北へ通過する点を昇交点、北から南へに行く点を降交点』

土御門『前者をドラゴンヘッド、後者をドラゴンテイルと呼んでるんだにゃー』

上条「『月の軌道が太陽の軌道と重なるのが、交点。で、北から南へ行く時に交わるとドラゴンテイル?』」

土御門『だぜぃ』

上条「『何となくは分かったが……で、天文学じゃなくて、魔術サイド的にはどうなんだ?』」

土御門『あー……ストレートに聞きたい?それども遠回しがいい?』

上条「『かかってこいや!』」

土御門『ほぼ最悪だにゃー、あっはっはっはー!』

上条「『お前本当に言葉選ばなかったな!?もう少し思いやりを持ってあげて!』」

土御門『まぁ待つんだ。本当に最悪なのはラーフだから』

上条「『ラーフ?』」

土御門『占星術には九曜、日月火水木金土の七曜に加えて、羅護星と計都星って星があるんだぜぃ』

上条「『一週間は分かるけど、ラゴとケイト?そんな星あったか?』」

土御門『どっちも”地球の周りに存在するが、普段は見えない天体”だと扱われてんだよ』

土御門『えっとインドの神話にラーフって神が居るんだ。そいつは不死になる酒、アムリタを盗み飲もうとする』

土御門『しかしそれを見た太陽や月がヴィシュヌ神へ告げ口をし、ヴィシュヌは怒ってラーフの首を刎ねた』

土御門『が、ラーフは既に喉元までアムリタを飲んでおり、首のままで不死になってしまう』

土御門『逆恨みしたラーフは、太陽と月を執拗に追いかけ、呑み込むが、胴体がないので直ぐに出て来る』

土御門『日蝕と月蝕が起きるのはラーフの仕業だと語り継がれているんだ』

上条「『日蝕と……月蝕、かよ。よりにもよって』」

土御門『あぁ心配すんなよカミやん。ドラゴンテイルはケートゥの方だから』

上条「『……いい星、なのか?』」

土御門『ううん、ラーフと同じぐらいの凶星だにゃー。だって元々ラーフの首から下が天に上がったって話だし』

上条「『上げすぎじゃねぇか!きちんと管理しろよ!』」

土御門『ラーフは人面蛇体の神らしくてな。だからケートゥも細長い姿で現れる。なので彗星や流星はケートゥが起こしたってな』

上条「『……ま、まぁ最悪じゃない分、いいのか?』」

土御門『あー、あとカミやん、カミやんには実に悪いお話があるんだけど。どう?聞く?』

上条「『聞かないって選択肢はないんだろ!どうせな!分かってるよ!』」

土御門『今俺が言った昇交点と降交点の話、言い伝えによってはそっくりそのまま入れ替わってるんだにゃー』

上条「『……つまり?』」

土御門『ドラゴンテイルが日蝕・月蝕を表すラーフ、ドラゴンヘッドが彗星・流星を示すケートゥって言い伝えも、実は結構ある』

上条「『いい加減だなインド神話!』」

土御門『つーかどしたん?何か聞きたい事があるんだったら、俺に話してみろよ、なっ?』

上条「『……土御門……!』」

土御門『俺達は友達だぜぃ、カミやん!困った時には助け合い、楽しい時には分かち合う!それが友情ってもんですたい!』

上条「『こないださ、ラノベ読んだんだよ。ラノベ』」

土御門『ラノベねぇ。んで?』

上条「『そん中、クトゥルー崇拝するって言う魔術結社が予言みたいなのを残してて、半分ぐらい実現してんのな』」

土御門『……へー』

上条「『そいつらの残した予言の中、半分ぐらいは当たってて、もしかしたら残りも当たるかも知れないんだよ』」

土御門『……』

上条「『もしもーし?聞いてるかー?』」

土御門『お、おぅっ!聞いてるぜカミやん!それで?』

上条「『お前に電話したのも“竜尾(ドラゴンテイル)が弧を描き”ってフレーズがあっ――』」

土御門『――タイムだカミやん!今なんつった?その予言だか詩だか、もっかい言ってみ?』

上条「『“竜尾(ドラゴンテイル)が弧を描き”』」

土御門『カミやんカミやん、今日のニュース見た?昨日でもいいけどさ』

上条「『今XX学区の街頭テレビ見てる。あ、今日月蝕だってさ』」

土御門『……カミやんはさー、蝕がどうして起きるか分かるかい?うん?』

上条「『なめんな、そんなくらい知ってるわ。他の星との間に別の星や地球の影が入って見えなくなるんだろ?』」

土御門『せいかーい!特に月蝕は地球の影へ月が入って起る現象なんだ!今日の夜には見られるんだい!やったねっ!』

上条「『……なんかもう、無理にでもテンション上げないと言えない内容なのか……?』」

土御門『ちなみにー、さっきも言った通り占星術的には”月が喰われる日”だから凶日だぜ!しかもそれだけじゃない!』

土御門『なんと今日は月蝕だけじゃく降交点の日でもあるんだぜぃ!流石カミやんそこにシビれる憧れる!』

上条「『おい止めろ!なんか俺に責任があるみたいに言うんじゃねぇ!』」

上条「『……つーかマジ?凶兆の二倍盛りって!?」

土御門『普通の蝕でも滅多に一致しないから、大々凶日さ!魔術的には魔王ラーフの首と体が揃うってんでもう最悪に、オ・ト・クっ!』

上条「『……』」

土御門『……』

上条「『……マジ?』」

土御門『うん、現実。リアルだぜぃ』

上条「『おかしいだろぉぉぉぉぉぉぉぉぉが!?なんで魔術のプロが揃っててこの有様なんだよ!』」

土御門『……俺の推測だが、”クトゥルー系”だって言ったよな?なら分からないでもない』

土御門『トゥルーだけじゃなく、精神的な汚染が酷そうな場合は、個々の案件の分析は分担させてやるんだ』

土御門『……ま、その程度でも持って行かれる時は持って行かれるんだが』

土御門『で、その情報を元に責任者が予測したり、対策を練る――が、そいつに東洋占星術の知識が乏しかったら?』

上条「『何やってやがんだよステイル!』」

土御門『だけ、を責めるのは筋違いだぜぃ。ネクロノミコンとの相性上、禁書目録抜きでアレコレやったんだろうぜ』

土御門『……恐らく、”甘え”が出たんだろうな。禁書目録は当代最高の知識量と分析力を持つ――が!』

土御門『今まで頼りっきりになっていれば、他は鈍る……と、まで言うのは言いすぎか』

土御門『仮にも魔術結社が仕掛けたトラップなら、相手の裏をかいて当然』

土御門『”イカレたフリをしながら、誰よりも計算高く振舞う”のだって、騙された奴が悪いんだ』

上条「『……分かったよ土御門。ありがとうな』」

土御門『……すまん、カミやん。俺はこれ以上手伝えそうにない』

土御門『代わりっつってはなんだけどさ、海原か一方通行を頼れ。俺の貸しだって言えば、話ぐらいは聞くだろう』

上条「『な、土御門。魔術的に”予言”ってのは、外しちまえば効果を失う。で、合ってるよな?』」

土御門『そうだが……』

上条「『一方通行も海原も自分達の生活がある。俺の都合で巻き込む訳には行かないよ』」

上条「『他にも事情を話せば助けてくれそうに奴も居るが、そっちも同じく。”実はただの嫌がらせでしたー”って線も消えてないし』」

土御門『……一人で何とかするつもりか?』

上条「『まさか。旅が始まって以来、ずっと俺”達”でやって来た訳で』」

上条「『今回も同じだ。俺一人じゃ何にも出来ないけど、全員でかかれば何とかなるに決まってるさ』」



――胎魔のオラトリオ 本編最終話 『闇、海より還り来たる』予告 -終-

今年のSS更新はこれで以上となります。お付き合い下さった方に感謝を
結局、年内には終りませんでしたが。では良いお年を


レッサーちゃんマジヒロイン

あっちの話とつながっているわけね

電話の内容の意味が分からない人は断章のアルカナを読め

やはりシリーズの鍵を握るのはボスか

しかし田中さんは本当にボスが好きなんだなあ
俺もボスとフレンダとフロリスが特に好きです

待て。
そうすると、「彼女」は本当に「この上条」とだけ電話をしているのか……?

>レッサー「愛国者はどの国にも居るでしょうが、国と添い遂げたケースは聞いた事がありませんけどね」

Less-Arthurからの口から発せられると、重い台詞だ……

田中さん、来年もヨロシクです!!

>>279>>282>>286>>287
”プロローグの最終章”が終わり、”本編最終話”がようやく始まりました
もう暫くアリサ編&オーラス+伏線回収にお付き合い下さい
流石にあと4ヶ月は続かないと思うので、丸一年する事はない筈

>>280
田中先生のアレをリアルで読んでいた世代ですが、当時ですらミリオタさんを筆頭に騒がれたのを憶えています
ただ私が思うに、あの事件の本質は先生が、
「戦車如きにエアコンが効いてて乗り心地最高!でも紙装甲てwwww」
と恐らく自衛隊を揶揄するためだけに不十分な取材で物を書いた所でしょう

第一次世界大戦後、戦車も対BC(Bio&Chemical)戦用の装備が求められます。第二次後はそれにN(Nuclear)が加わると
そのため外気を遮断&フィルタリング出来る空調設備が必須
また日本の場合ですと季節によって高温と多湿、または冷温と乾燥、欧州戦線よりも搭乗員へかかる負担が大きい背景があり、
同時”専守防衛”の理念、つまり『敵を打ち払うまでずっと戦うが、こちらから攻めたりはしない』が戦車にも反映されています
相手が退くまで何日・何週間も守り続ける――つまり『その間、不必要なストレスを搭乗員に与えない』よう設計されていると

同じく戦車の底板というのは、航空戦力に次ぐ戦車の宿敵である地雷から守らなければいけないため、石に当たった程度で穴が開く訳がない
――と、いうような、ミリオタでもガンオタでもないようなド素人にすら適わない程度の、お粗末な思考しか持っていない所が問題

フィクションの作中で政治批判をするのは勝手でしょうが、嘘を吐いて貶める権利は持っていません
(※ちなみに自衛隊は専守防衛が命題なので、機動戦闘車――無限軌道を廃した装輪車が、確か来年度ぐらいに完成する筈です。
あれも攻め込まれてきた際に素早く展開したり、島嶼部への侵攻へ対応出来るように、軽くて空輸しやすい戦車へと移行しつつあります。
勿論日本に責める気満々のあの国とあの国とあの国を想定してのものでしょうけど……てか、日本の周りは台湾以外碌な国がねぇな)

>>281
前にも書きましたが、書いてて楽しかったです。お気になさらず

>>283
取り敢えず書いてみましょう。あなたの物語はあなたにしか書けません

>>284
それもこれから

>>285
体力がですね、色々と

>>288
折角欧州舞台にしてんですから詰め込めるモン詰め込もうと。書き始めた時にはロシア行けなくなるとは思いもしませんでしたが
国際・政治・経済・移民・歴史はほぼ100%事実。魔術云々にしても、宗教史から見て嘘を書いた憶えはありません
つーかですね、ロシアのウクライナ侵攻の件でもそうですが、現法王フランシスコがダライ=ラマ猊下との面会蹴って、
アメリカとキューバの仲介に手ぇ出したり、昨年はほんっっっっっっっっっっっっっっとに地雷を埋めまくった一年でした

ともあれイニシャルヒロインはアリサさんですので、今後の活躍にご期待下さい

>348、>350
ありがとうございます

>>351->>361
一昨年~去年頭にかけて書いていたSS、”バードウェイ「ようこそ、『明け色の陽射し』へ」 ~断章のアルカナ~”をご覧下さい(宣伝)
バードウェイアフターでボスが電話していた相手が――という伏線。まさか使うとは思いませんでしたが
ついでにシェリーアフターで「ウェイトリーの兄弟は『彼らの存在を正式に肯定する事は現時点で難しい』~」ってのもあったりします

バードウェイ「いや、その、なんだね。こう、期待をするのは結構なんだが――そうだな、例え話をしようか」
バードウェイ「ネトゲでPC同士がプレイヤーを組みLV上げをしようとしても、中々経験値は溜まらないよな?」
バードウェイ「実態はどうであれ、強キャラが着いている以上、おんぶに抱っこでは育つものも育ちはしまい。それと同じだ」
バードウェイ「まだしも自分で足で立つのであれば、力の大小に関わらず共に戦うのも許してやろう。でなければ資格もない」
バードウェイ「だからこの物語の主人公は私達ではない以上、私の役目はここまでなのだよ」
円周「(……って言ってる割には、刀夜おじちゃんとか、警告とかしてないかなぁ?)」
シェリー「(むしろ親父の件がなければ、ハプニングを装ってサフォークまで行きやがったわよね?)」
バードウェイ「[ピーーー]ぞ外野」
円周「あと言ってるレヴイちゃんか全然育ってない件について。具体的にはA」
バードウェイ「――表へ出ろ  出来損ないめ!回想シーンで死んでるっぽい事を思い知らせてやる!」
円周「――うんっ、うん……!そうだよね、こんな時『木原』なら受けて立たなきゃいけないんだよね……ッ!!!」
シェリー「外でやれロリペドども」

>>362
好きは好きですが、少なくともヒロインとして書いた中で、誰かを贔屓した憶えはありません……と、思います
仮に私が不必要にボスへ入れ込んでいたとすれば、この話は彼女のお話になっていたでしょうし
(こちらの主旨が「自由にSSを読み書きする掲示板」なので、それもアリだとは思いますが)
あくまでもここでの主役はアリサさんと『新たなる光』の面々だけになっています

あと個人として一番好きなキャラは黄泉川先生です――って言うか、てか良い機会だから言うけどもだ
よく似たような話になって、年上お姉さんキャラ(大体BB×扱いされる)を上げると、
「えっ!?」or「あーうん、そういうのいいから。本音は?」って反応の二択になるんだコノヤロー
洋食屋でイタ飯作ってるシェフが和食好きだっていいじゃねぇか

>>363
知人からオーブン料理を教わった時、「何度もオーブンを開けて火加減を見ちゃダメなのよ!」と叱られた憶えが
外気が入って中の温度が低くなれば、膨らんだミートパイも萎んでしまう事もあります
ちなみに彼女の怒った顔が好きだったので、わざとやっていたのは一生の秘密です

>>349
レッサー「待ちましょうか?取り敢えず待ちません?」
レッサー「違いますよね?そうじゃないですよね?」
レッサー「私のお話が終ったんですから>>349さんみたいに『レッサーちゃんマジ天使!』みたいなのが普通じゃないですかね?」

>>364
○○サー「国のために生きる自由があるちや。国のために死ぬ自由もあるちや」
○○サー「どっちぃも決して楽な生き方では無いやき……が、それでも、ちや」
○○サー「虎は死して皮を留め、人は死して名を残す、とは言うちや」
○○サー「んが、人だって名前以外に託せるものはあると思うちや」
○○サー「時代も世代も越え、信じる神すら乗り越えて”英雄譚”として語り継がれるからには」
○○サー「それ相応に人の心を揺さ振る”何か”があると思いますが――」
○○サー「――それは共感や嘲り、それとも渇望なのかは知りませんがね」

>>365-366
はい、今年もどうぞご贔屓に

『ここまでのあらすじ』


――イングランド某所 某学校のクラブハウス

???「……まずは小麦粉・卵・デンコを用意しますぅ!ココ大事!よう聞きぃ!」

???「あ、デンコって知っとぉ?デンコちゃん言うても電弧ちゃんちゃうよ?勘違いしたらあかんで?」

???「デンコ言うんはデンプンの粉の事やん。そないな事も知らんと自分アレやで?ガッコとかでハブられんで?」

???「それをなー、こう、ボールの中へ入れて――かき混ぜますぅ、こぉ、菜箸でね」

???「菜箸無ぅかったら別に割り箸とかでもかまへんよ?要は下町の味やし、あんま鯱張んのもアレやゆーこっちゃね」

???「軽く塩振った後、泡立てて――メレンゲの出来上がり!完成!ガラガラ!」

???「――ってちゃうやん!?これ生クリーム違うからな?つーかレッサーも見てないで止めぇよー、もーホンマかなわんなぁ……」

???「でもだいじょーぶ!こんな事もあろうかと前もって混ぜ合わせたものがありますぅ!」

???「ホラここに空のボールが――って無いやん!?空やんっ!?ワイが作っといた生地はっ!?」

???「てかランシスぅ?アンタが持っとぉお好み焼き的なブツは何なん?てーかそれ先生の練った生地で作ったんちゃうんかな?ん?」

???「ワイが作る前に鉄板で焼き始めるってどういう事?学級崩壊?」

???「え、何?『お約束だと思った……?』……あー、そりゃしゃーないわー、ワイもそこまでボケが用意されてたら乗るわー」

???「それじゃ新しく生地を作って――て、無いやん?おっかしーなぁ?確かに五人分はあったんやけど」

???「……」

???「『"There is a usurpation. Though it isn't unusual. "』」
(下克上ってあるやんか?珍しくもないねんけど)

???「『"The hunter is hunted by the hare, and the rabbit is eaten by the grass. "』」
(狩人は野兎に狩られるしぃ、兎は草に食まれんねんな)

???「『"Could TIME FATHER capriciously cause it a little?Unpleasantly and seriously in seriousness. "』」
(偉いオッサンよ、ちぃと気まぐれ起こしてくれませんかー?いやマジでマジで)

???「『"Change, Coagulate, and time doesn't advance ahead――. "』」
(流転しぃや、凝固しぃよ、時は必ずしも前に進むとは限らないよって――)

シュゥゥゥッ……

???「……」

???「――はいっ!ってなん訳でアレなんですけども!アレがアレしてどないやっちゅーねん!ヤったんねんや、あぁっ!?」

???「頑張ってワイが造り直した生地!これを使いますぅ!」

???「『そのぐらいで魔術師使うな』?いやいや使ぉてへんよ、いや全然全然?」

???「見とったやん、アンタら見とったやんか?なぁ?」

???「『ランシスがあんあん言ぅとぉ』?知らんて、ワイ別に時間戻したりとかしてへんって!」

???「仮に!仮にもし使ぉたとしても!それはきっとアレや、アレに決まっとぉ!」

???「こう、女の子が好きな男の子のお弁当作る時とか、そう『おいしくなぁれ!』みたいな!そのぐらいよ?ホンマに」

???「まぁ使ぉたっちゅーかな、うんまぁ、アレやね。使ぉたか使ぉてへんかの二択やったら使ぉてると言えるかもしれへんよ?」

???「や、でも別にそれは魔術じゃないし?ワイは別に魔術だなんて思ってないし?」

???「だからまぁ、ノーカン?まぁまぁノーカンでいいんとちゃうかな?」

???「てーかそろそろたこ焼きプレート温もぉてきてるから、次の行程行ってもいい?つーか行かんと」

???「次に大切なんは鉄板かなー。こう、あんま熱くし過ぎても焦げるし、温ぅても生焼けやしね」

???「ホットプレートにごま油垂らしぃの、あ、少しキッチンペーパーで拭くのがコツよ?あまりギドギドでもあかんで?」

???「湯気が出るぐらいになったら、生地をドーーーーンっ!さ、後は時間との戦いや!」 ジュゥゥゥゥゥッ

???「かかってこんかいガリア兵にマルキスト共!ワイらの大英帝国は負けへんでぇ!」

???「見ぃや!ぶつ切りにしたタコちゃんを放ぉり込んで、素早く!菜箸使ってひっくり返すっちゅーねん!」

???「あ、ケンミンショ×だかなんだか知らへんけど、『関西人は粉モノを焼かない』なんて嘘や、嘘嘘」

???「ケツもんだだかチチもんだたか言う、正露○ジジイの寝言なんか真に受けへんといてぇな?これワイとの約束やで?」

???「んで、キレーにひっくり返しよったら、後はもうほぼ完成やね」

???「あんま時間かけとぉと、中のフワッフワがカリッカリになってまうんで、ガワが出来たらもう上げた方がエエよ」

???「ま、硬いのが好き言うのもおんねんけど、ワイは認めんよ!何がフワッフワしてないのはたこ焼きちゃうわ!別の食べもんやわ!」

???「あ、取り上げる時にはたこ焼きを崩さないようにするんがポイントやで?でないとたこ焼きとは言えへんし」

???「――で、後は船の上にでも、皿の上にでも取って出来上がりー、っと」

???「後は熱いウチに出汁につけて食べれば最高や!冷めないうちに、ホラ、みんなで仲良く食べぇよ!」

???「……何?どうしたん?何か、変な顔して――『これ、たこ焼き違ぉう』?」

???「な、な、な、何を馬鹿な事を言うてますのん!?ワイに間違いなんて言葉はあらしませんて、いやマジで!」

???「ちゅーかアンタら、ワイの事舐めすぎちゃうん?こう見えてもワイ『魔術師の中の魔術師』的な事も言われてんてねんよ?」

???「なんか知らんけど、Adob○さんから妙にリスペクトされてるし……何やろね、あれ?中二病?」

???「それにホラ、たこ焼き作らしたらブリテン一っちゅーか、まぁ――」

???「『だからたこ焼き違う』?……またまたぁ、そんなにワイをからかうのも大概にしぃ。趣味悪――」

???「『出汁で食べるのは、明石焼き。そもそもデンコ入れない』……?」

???「『しかも地元では明石焼きじゃなくて、卵焼きって言う』……?」

???「……」

???「……い、いや知ってたで?うん、大体8、9割は知っとったよ?」

???「つーか明石焼きもたこ焼きも大体同じやん?粉モノのタコ入れんねんで、カブっとるわ」

???「だからまぁ、正解って言うか、こう、間違いじゃないやん?ニアピン賞ですやん?」

???「こうあえて、みたいな?」

???「……」

???「――って知るかボケぇ!またワイになんの相談も無しにケンカしさくりおって!」

???「『レッサー達なんで昨日もおとついも来なかったんやろー?インフルかなんかかー?』」

???「『ま、ええわ。そないな事よりテレビ見よ、テレビ――ってレッサー何フランスにケンカ売っとぉ!?』」

???「ビックリしたわ!なんでアンタらARISAとテレビ出てへんねんな!レッサーはよう言ぅたけども!」

???「ちゅーかワイは?『新たなる光』のアドバイザー的なワイは要らない子ですのん?」

???「アレですやん!『生き物の世話は最後まで看る』って教わなかったんかアンタら!?」

???「ある日突然ここぉ来なくなるし!しかも連絡は取れへんわ、どないやっちゅーねんな!」

???「冷蔵庫の中にはドクペしか入ってへんし!お菓子もフロリスの食い散らかしたのしかないわで!」

???「センセー拾われた子犬やったらガリッガリに飢えて死んでますぅ!冷たくなって今頃アンタら号泣してんよ!いやマジで!」

???「ワイが飲み食い必要無いから良かったもののぉ!謝って!きちんとワイに謝って!」

???「大体そんな無計画やから、アレやん?ベイロープの男運みたいに焼きが回ってくるっちゅー話やね」

???「ええか?誰も見てないと思っても、お天道様が見ぃ……何やベイロープ?どしたん?」

???「……あぁ、いや別に今のは例えよ、例え?別にアンタの男運が悪いなんて言ってへんよ?」

???「ベイロープの場合、男運以前にまず男を見る目が――あ、いやなんもないですぅ!独り言ですし!」

???「――ってベイロープ、どしたん?センセーは健康器具ちゃうよ?そんなぎゅっとしても握力トレーニングにはイタタタっ!?」

???「って千切ったらアカン!?幾らセンセーもふもふしとるからって千切ったらダメやん!?」

???「増えるから!センセー増えちゃうから!前にもゆうたと思うケドも!」

???「ゴメンて!センセー悪かったて!?だか――」



~10分後~

???「……いや、あんな?確かに今のはワイも悪かったかもしれんけどやな」

???「こう、アンタらももう少しレディとしての慎み持った方がええんとちゃうん?いやマジでマジで」

???「ベイロープの凶行を指さして笑ぉてたレッサーとフロリス、我関せずでお好み焼き作って鰹節が踊るのを観察しとぉたランシス……」

???「ワイはもうアンタらの女子力の無さが心配で心配で。もうちょいワイを見習わなアカンよ?」

???「ベイロープは……アレやんな。周囲から『出来る女!』みたいに思われてて、婚期を逃しそうやし」

???「ランシスも協調性無くてぼっちまっしぐら」

???「フロリスはなー……気がついたら一人だけ彼氏が出来てそう」

???「レッサーもちゃっかりしよるから、結婚一番早そうやね。ま、子供ぎょうさんこさえてブリテンのためにしぃや」

???「ま、その前に立派な旦那はんみっけんのが先やけどねっ!アンタらにはまだまだ早いかもしれんけど!」

???「……どしたん?なんで全員視線外して微妙な空気になっとんのん?」

???「なんやろう……触れてはいけない所に触った的な、バツの悪さを感じんねんけど……?」

???「ま、まぁええわ。そんな事よりも旅の話を聞かしてぇな。ワイも興味もあるし」

???「ユーロトンネルでは……『アレ』?いや、アレ言うても分からんて。なんか渾名とかないのん?」

???「”ショゴス”……あー、納得やね。それ以外にはないわー」

???「しかし『進化』する敵なぁ……アンタらの意見は科学サイドっちゅー話やけども」

???「そもそもで言えば、『進化』って何やの?っちゅー話やね」

???「あー、あれやん。こっち側とあっち側で見解が分かれるんよ」

???「現時点でのあっち側の見解だと『進化とは自然選択と遺伝子浮動』だって言われとるけどな。分かる?」

???「ダーウィニズム、もしくはネオダーウィニズム言うねんへんて」

???「もっと簡単に言え?無茶プリ止めてぇな、ワイただの魔術師やで?」

???「え、何?『Ado○e一押し』?いややわぁ、そんなんちゃうし!もっと言ぅて!」

???「まぁ簡単に言えば『自然選択』らしいんよ。例えばフィンチっちゅー鳥がおるんやけど、個体によってクチバシの大きさが違ぉんやて」

???「雑食性のフィンチと昆虫食のフィンチを比べると、後者がキツツキみたいに細いクチバシを持っておぉたり」

???「捕食率が高いフィンチは硬いクチバシやったり、環境に合ぅた進化をしてい”た”ってのがスタート地点やね」

???「今では『環境に合わせて優れたものが進化した』って考えから、『環境に適応したものが生き残った』って変わっとるけとな」

???「……ま、優生学とアーリアン学説ごっちゃにしたらあかんよ?そんな子ぉは要らん子やからな?」

???「で、これが正しいか正しくないか、ワイには判断つかへんのよ。つーかあっち側でも論争がされてるぐらいやし」

???「ただ”こちら側”の理屈から言えば、進化論は間違いやねん。分かるか?」

???「そぉや。大抵の神話っちゅーんは、『神代に神々が創ったのが最高にして最上』ってなっとぉやろ?」

???「十字教なんかでも『楽園』から追放されるまでは、少なくとも平和に暮らしていた、っちゅー話やし。他も大差ないで」

???「確かに魔術自体の技術は上がっとぉ。それは確かにワイが保証したるで」

???「けどなぁ……上がっとぉのは魔術師としての”平均”レベルであって、トップは下がってる気がしてなぁ」

???「例えば古代にはモーセやら十二使徒、他にもごっつい魔術師は仰山おったわー」

???「中世にもパラケルススやサンジェルマン――もとい、サンジェルミっちゅうオカマがな」

???「ほんで、近代になるとクロウリーの『黄金夜明』が有名や、有名やねんけど……それ以降はパッとしないねんな」

???「……ま、あっち側の技術が進んで、ワイらがアングラへ潜るしか無かった、言うのも大きいけども」

???「そんな訳で――何、フロリス?『長い』?長いて!どういう意味!?」

???「聞いたのはそっちやんか?ワイ丁寧に説明しとるし……そんな事も言われてもなぁ……」

???「ま、まぁええわ。ザックリ言うたると、『グレムリン』おるやんか?」

???「他にも魔術師一杯おるけど、大抵は『神話を模した術式・霊装』やんね?むしろ強ければ強い程、古くて旧い方が使われる」

???「結局アレなんよ。ウチらの業界じゃ神話を再現してなんぼ、みたいな所があるからなぁ」

???「だから必ずしも魔術師的には新しいものが正しいとは限らへん。新しい概念を探すのは大切よ?大切やけど……」

???「その概念が正しい、もしくは有効であるかは別の話やで?知られてないんは有利やけど、落とし穴もあるかも知れんのよ」

???「新薬と同じやね。劇的に改善が見込まれる可能性がない訳ではない……ものの、どんな危険な副作用が現れるか分からへん」

???「まぁ、そう言った意味じゃワイらが長年蓄積してきよった魔術知識も、全体のレベルを押し上げるのに一役買ってるっちゅー形なんかな」

???「なので、『アレ』やったか?『進化』っちゅー特性は珍しいんやけど、多分ワイらの流儀とは違うわ」

???「ただ……少しだけ懸念があるねんけど、まぁええわ。恐らく今更言ぉてもどうしょうもないと思うし」

???「次に出て来たんが『安曇阿阪』かぁ……知っとるよ?顔見知りっちゅー訳や無いけども」

???「こいつもある意味同業他社との戦いやったなぁ、ほんま。あ、知らん?」

???「『進化論』の通りだとすれば、最終的に邪魔になるんは人類やねん。いやマジで」

???「なんつーかなぁ、種族ってのは分化、そして環境に適応出来なかったら淘汰やからねぇ」

???「こんだけ人類が繁栄すれば、そりゃ規格外の奴らも『多様性』って形で出るわな。それがいい事かどうか分からんけど」

???「……たまーに現れるシリアルキラーとかサイコパスっておるやん?ワイらの国でも”Jack the Ripper”みたいなのん」

???「あれも戦時下で敵国兵士を殺せば英雄やし、さっき言ぅたアーリアン学説も時と立場を間違えなければ、チャーチルやルーズベルトになれるんよ」

???「あちらさんでは『生物学的に優れた』を定義しよう――ぶっちゃけ科学も姿を変えた錬金術と変わらへんねん」

???「こっち側が神を讃える『賛美歌』のに対し、あっち側が人を讃える『人類賛歌』のような気がしてしゃーないわ」

???「人を神格化――ありとあらゆる方面へメスを入れて分析しぃの、最近じゃ魂まで定義づけしたれ、みたいな動きもあるし」

???「それって一種の科学信仰なんかなぁ、とかワイも思ぉとるけどなー……て」

???「三番目がイタリア国境近くの『団長』かぁ……古代エジプトの魔術師やったっけ?」

???「流石にカノープス壺使ぉたキワモノなんてワイも知らんて!そないに無理ブリされても困るし!」

???「そもそもワイはコノハト出身やし、暑い国はあんま好かんねん――って、言ぅてへんかったっけ?」

???「……や、でもな?術式自体は割とメジャーなんよ?何言ってるか分からんと思うんやけとも、あー、アレや」

???「エジプトでの『復活』関係の術式でまず頭に浮かぶんは、ミイラやろ?」

???「……」

???「(……Mummy is Mammy……)」 ボソッ
(……お前のかーちゃんミーイーラー……)

???「いや別に何も言うてへんよ?気のせいちゃうかな?」

???「あぁっとな、アレやで、ミイラっちゅうのは死後の世界での復活を願うために作られた――のは、知らん奴はおらんと思うけど」

???「その基になったのが『オシリスとイシスの伝説』やね。まぁかいつまんで言うと……」

???「オシリスは体を14に分割されて殺されましたー、嫁のイシスは頑張って甦らせますー、でもパーツが一つ足りませんー」

???「なのでオシリスは冥界の神として復活しましたー、マル」

???「ちゅー訳でミイラを復活させる術式はオシリス、もしくはイシスのものが殆どや――ん、ねんけども」

???「活躍したんはイシスやし、そもそもで言えばイシスへ知恵を授けたんは、書物と智恵そして時と夜を司るトート神やねん」

???「またトートはギリシャ神話のヘルメス神とも同一化され、ヘルメス・トリスメギストっちゅー神格を形成する」

???「有力な近代魔術師の一人であるアレイスター=クロウリーも『トート神のタロット』を作らしとるしやな」

???「またゼウスを先導する道の神として、鳥は用いられて……あー、なんやったかな?」

???「ヘルメスの遺産管理人で、鳥頭だか鳥回しだか言う一族がおったような気ぃがするけど……ま、ええわ。アンタらと関わる事はないやろ」

???「『夢の中で探偵もの』……んーやっぱり『夜』のトートの霊装ちゃうんかなー、とワイは思うわ」

???「しっかしわざわざ夢の中で殺す意味が分からんわ。誰かに化けられるんやったら、関係者攫ぉて――」

???「……」

???「……殺す?連中最初っからやる気ぃあったんかな?」

???「どぉにもそこいら辺、あっちの人らと一回話し合わないといかんもかもなぁ」

???「……ええわ。それも緊急っちゅー事は無いやろ。そっちは壊滅したんやし――と、そうそう」

???「『ダンウィッチの双子』……つか、兄弟か」

???「クトゥルー神話の方じゃ、まぁ蕃神の子ぉらやんな。どっちもが」

???「門がどぉたら言うのんもヨグ=ソトースの神性に合ぅてるし、『クトゥルーの魔術師』かぁ、と個人的には楽しみにしとったんやけど」

???「いざ蓋を開ければ『世界樹を特定多数へ植え付けた並列化・魔力のストレージ化』……どやろなぁ?」

???「魔術師的には興味深いテーマなんやけど……んー……?不完全燃焼っちゅーかな、なんやこう、納得行かへんわー、うん」

???「や、アレやで?昔から魔術の並列化とか、他の人から魔力頂いてまおうって発想はあったんやで?」

???「龍脈や『Feng-Su(風水)』へ手ぇ力入れたり、一番分かりやすいのんは合唱やね、賛美歌とかの」

???「一つの祈りが世界を変える――なんて、どっかのセカイ系のフレーズにありそうやけども、だったら千の祈りはセカイを滅ぼせるんとちゃうん?」

???「ローマ正教には『歌』を媒介してテレズマを集め、攻撃する術式があるっちゅう話やね。ま、それもまた当たり前なんやけども」

???「『歌』自体、そもそもが神や精霊、この世界へ感謝する儀式魔術だった過去があって、ずっと信仰の一部として使われてきた訳やんか」

???「ルネッサンスとオペラで切り離し、娯楽へと堕落させた――昇華させたんが、元の姿へ戻るだけ。何とも皮肉な話やね」

???「……しかし直接生身の人間へ霊装を接続させる……意識の並列化……どっかで聞いたような話やなぁ?」

???「ん?まぁ思い出さへんのやったら、大した事あらへんのやろ。大丈夫、ワイの記憶力を信じぃ」

???「ともあれ文化も技術もそうなんやけども、決して前へ進むだけとは限らんのよ」

???「あ、一定の蓄積はしとるで?してるんやけども、こう、定期的にプッ壊してんの。そやなぁ……」

???「ローマ帝国なんてそうやん?あんだけ広い国土と政治システムや文化を持ったにも関わらず、滅ぶ時は滅びよぉ」

???「エジプトもそうやし、ギリシャもそう。現代ですらあのレベルまで文化水準を満たしてる国は、そうそうないとちゃうんかな?」

???「奴隷制度やし君主政治やけど、民主主義でも失敗する時は盛大にコケるしなぁ」

???「なので時たま発掘されるオーパーツも、パチモンを除いてはアンティキティラの歯車のようにホンモンも混じっとぉよ」

???「あー……そのな、あんま言いにくいねんけど、ワイらは『ロマンチシズム(ロマン主義)』ってのがあったんよ」

???「例えばフランス。18世紀のフランス革命から、19世紀の7月革命までガンガン内戦やっとったんやけど」

???「そん時に『あーもうなんか王政派もブルジョア派も胡散臭いわぁ。ウチらそんなんコリゴリやでぇ』って思想が背景にあったんよ」

???「ロマンチを代表する芸術家としてはドラクロワの『民主の自由を導く自由の女神』やな」

???「フリジア帽被っておっぱい丸出しにしたねーちゃんが、民衆の死体の上で旗振ってるヤツなー。見た事あるやろ?」

???「ワイ的にはあの絵画、『同朋の屍体を足蹴にして勝利を喝采する』ってぇ姿で、どぉにも気に入らんのやけど……さておき」

???「あの絵にはドラクロワ自身とされる人物が描かれ、また」

???「『レ・ミゼラブル』の登場人物であるガヴローシュのモデルになった”ピストルを持った少年”の姿が描かれとる」

???「知っとぉ?レジスタンスで6月暴動で戦死した不労児やね」

???「ドラクロワは自身の姿を描いて勝ち馬に乗り腐ったの対し、ユーゴーは政治家としてナポレオンに接し、一時は支持する」

???「やけども独裁政治が強まって見限り、ベルギーへ亡命してミゼラブルを完結さしたんやから、フランスも捨てたもんやないで」

???「……ま、王政廃した10年後にたかだか司令官だったナポレオン皇帝にする辺り、フランスはフランスやなぁ、っちゅー感じやけど」

???「で、ドラクロワの絵の中で、最も特筆されるんべきなんはおっぱいねーちゃん、フリジア帽の女や」

???「この女、『マリアンヌ』の象徴とされてるんやけど……まぁ、ぶっちゃけ『自由の女神』やねんな」

???「はいレッサー中指立てんといてぇな。気持ちは分かるけども!19世紀にアイタタタタ言うのもあかんよ!」

???「……や、まぁ、なんちゅーの?ぶっちゃけワイも困んねんけど、フランス革命の象徴が、この『フリジア帽被った女』なんよ」

???「『なんで女神?なんでこいつら同朋ぶっ殺しておいて自由とか言うのん?』ってツッコミは禁句やで?フランス人へしたらメッチャ怒られるわ」

???「まぁこの場合、女の被ぅとる『フリジア帽』っちゅーのが大事や。ここテストへ出るで?」

???「いや、ネタやのぅてマジで。フランスの文化人類学のテキストに載っとったもん」

???「……この帽子な。外見は……まぁググっみるのんがいっちゃん早いんやけど、例えるんやったら、とんがりコー○?」

???「サンタさんのくしゃってなっとぉ帽子あるやん?あれの先っちょのポンポンとって、垂直に立たした感じやよ」

???「ちなみにフリジア帽のルーツは古代ローマ言われとぉてやね。自由身分の解放奴隷が被っとったもんよ」

???「これはその当時から『自由と解放』のシンボルとして取り入れられよって、ローマ皇帝カリグラが硬貨のデザインに使ぉたり」

???「キューバやコロンビア、ニカラグアの国章としても使われとぉで」

???「あ、ちなみに単純化させる都合で、帽子じゃなく三角形にする場合もあってや。その三角形を指して『フリーメーソンのシンボルだっ!!!』ってぇ宣ぉと」

???「まともな義務教育受けとぉ人間からは狂人扱いされるから、レッサーとランシスは注意しぃや?ギャグでも言うたらいかんよ?」

???「で、この帽子はなんかフランスじゃエライ大切にされとる。何でもフランス国家へ対する忠誠の証、みたいな所があるらしくてやな」

???「ルイ16世って――そうそう、最初のフランス革命で処刑された王や」

???「彼が処刑される前、フランス市民がよってたかって被せた帽子、それもまた『赤いフリジア帽』やったんよ」

???「要はアレやね。『お前は今まで奴隷やったけど、俺らが革命興して解放してやったん!』みたいなノリやね」

???「他にもなー、ストラスプール大聖堂がフランス革命の余波を受けて壊されそうになったん」

???「そん時にもフリジア帽、そう、デッカイの」

???「それを大聖堂の尖塔へ被せる事で破壊を免れたんやって!凄いなぁフリジア帽!」

???「……うん?ベイロープ、ワイは正気やで?だから額に手ぇ当てて心配しなくってもいいんやで?」

???「あとピコピコでペット霊園の検索し始めたフロリスさんには後でお話があります。帰らんといてぇな!今日という今日はお説教したるさかい!」

???「うん、何を言ってるのか本気で分からないと思うんやけど、まぁそこは『フランス野郎だから』で納得しときぃ」

???「『平等主義に反してるやん!ぶっ壊さなあかんでコレしかしぃ!』で尖塔壊そうとした革命軍もそうやし」

???「『このままじゃマズいねんな……そや!建物にフリジア帽被せたら壊されへんかも!』と思った司祭達もや」

???「あと他には……そうそう、ワイらの方面からすれば『神の子』が生まれた時に祝福をしに来た東方三賢者」

???「初期キリスト教の絵画やイコンだと、彼らもまたフリジア帽を被った姿で現れとぉ」

???「ただ、これもまた十字教が浸透するに従って、三賢者自体が『王』であるとの解釈が進み、被らされへんようになるんやけどな」

???「これは当たり前の話やねんけど、美術にしろ文化にしろ、当時の思想や知識を背景にしとる事が殆どや」

???「十字教が『庶民から輩出された民』であったローマの帝政時代。そこでは『解放奴隷の徴を持った東方三賢者』に祝福され」

???「『権威を得て教会や王権の礎となった』以降は『異国の王である東方三賢者が頭を垂れる』っちゅー風にや」

???「もっとぶっちゃけるとなぁ、東方賢者の祝福を授ける術式ってあるやん?そうそう、赤ん坊が病気しないとか健康になるぅいうん」

???「あれをするにしたっても、賢者達の立ち位置をどこへ置くかで、効果や内容が変質しよるからな?くれぐれも注意したってや」

???「神話や逸話、伝承や英雄譚を再現して術式や霊装へ換えるにしたって、どの時代や誰主観で大いに変わるし」

???「……ま、ワイの霊装貸した時から何度も言うてる事やからなぁ。今更やけど」

???「――で、や。フランス革命をきっかけにロマンチシズムが勃興するんよ」

???「どっかの極東の島国じゃ、『浪漫』ってぇ単語になって伝わっとぉらしいけど、そのロマンやね」

???「あー……これな、要は古典主義にエゴと個人感情を持ち込んだものなんやけど……まぁある意味歴史の分水嶺だっちゅー学者もおるねん」

???「古典主義もそうやねんけど、基本『ギリシャとローマ時代などの過去や異郷に楽園を見い出そか』っちゅー話やよ」

???「……ブルジョアの俗物主義、教会主体の教条主義から脱却するためには、過去の栄光よもう一度!みたいな事なんかなぁ」

???「ま、まぁそれ自体は悪い事じゃないんよ?ワイの王様の名前へ誓ってもええけど、昔を大事にするのは大切やで」

???「19世紀、産業革命の直前にも関わらず、よりにもよってざっと1800年前の帝政時代&多神教時代っちゅーのもな?」

???「十字教の影響から逃れるために、どっか適当な逃げ場を過去の栄光の中へ求めたんかなぁ、のもな」

???「……ただなー、違うねんよ」

???「『たこ焼きじゃないですよね』?……ってウッサいわ!その話は終ったっちゅーの!センセーの傷エグるんは止めてあげてよ!?」

???「違ぉて!そうじゃ無ぉて!人種が違ぉとるのよ、マジで!」

???「ギリシャの歴史を見てみぃや。東ローマ帝国滅亡以降400年近くオスマントルコ帝国やったんよ」

???「一応、改宗せぇへんでもギリシャ正教徒のままでおられたんはおられた。けど、さっさと亡命しようる正教徒も大勢おったようやし」

???「そもそも純血かそれに近いギリシャ人はおらず。現在ギリシャ人を名乗ってるんのはスラブ人やっちゅー話」

???「はっきり言って人種的にはトルコと変わらん……割に、トルコ系キプロス人とギリシャ系キプロス人で仲違いしとぉしやな」

???「……なんちゅーかなぁ、こう、『勘違い』しよったんよ。誰も彼も」

???「ただの主義主張に留めておけば良かったのに、『自分らはあの偉大なローマ・ギリシャの後継者やで!』って思い込んだんよ」

???「皮肉な話やね。十字教の影響から逃れるために、異郷の文化に縋ってみたら、今度は囚われとる」

???「あ、言っとくけど、それはワイらも例外やないよ?ちゅーか一部はもっと酷いんよ」

???「ロンドンにある大英博物館に行った事ある――って、修学旅行で行くわなぁ、普通は」

???「ほいじゃアテネから借りたパルテノン神殿の一部が飾られとるのは――あぁ、そうそう、あの病的までに真っ白のな」

???「材質が大理石やから、そうなるんやけども――」

???「――あれ、オリジナルは『極彩色』だったんよ。あ、飾られとぉのはオリジナルやで?レプリカでなくて」

???「んーとなぁ、19世紀のエルギン=マーブルっちゅー外交官がな、派遣先のギリシャ――当時はオスマン帝国から借り受けたんよ」

???「その当時はアホのナポレオンがギリシャに侵攻しぃ、それを追い払ったんがイギリスっちゅー事でエラい感謝されとった」

???「その後色々あって、パルテノン神殿の彫刻群――俗に”マーブルズ”言ぅ大英博物館へ寄贈されたやけども」

???「それを勝手にな『Cleaning』したんよ。こう、極彩色だった表面をガリガリ削って、大理石の字が出るまで徹底的に」

???「……その暴挙の引き金になったんが『ロマンチシズム』や」

???「『ギリシャは偉大な文化を築いていた』」

???「『よって同じく偉大な自分らはギリシャは自分達のルーツに相応しい』」

???「『だからギリシャの彫刻も”ホワイト”でなければいけない』」

???「……実際の所、地図を見ても分かるように、ギリシャ自体は東方・南方文化の影響を思いっきり受けとる」

???「クノッソスの迷宮壁画を見れば分かるねんし、ナイルを描いたフレスコ画も見つかっとぉ」

???「……」

???「なんちゅうかな……ワイの考えやけど、19世紀から20世紀にかけての『狂奔』は神を殺した所にあると思うんよ」

???「ロマンチシズムが、先に言ぉたアーリアン学説や優生学と結びついたんやな」

???「『偉大な祖先を持つ自分らは、この世界を支払いするに相応しいんや!そうに決まっとぉ!』的な考え」

???「初めは方便だったかの知れんよ。十字教やローマ正教からの脱却を計るため、新しい価値観を探すために過去の文化へ行っただけなのかも知れへん」

???「……けどな。現実の話、『信じ込んだ』んよ。心の底からな」

???「その後、何が起きて誰を殺したんかは、誰でも知っとぉ筈やけどな……」

???「……あぁ、ごめんな?ワイの話が長くなってしもうて、ホントはこんな話しとぉ無かったんやけども」

???「……ただ、アンタ達がもしかして遠い未来……や、少し前まで相手して来た連中の事ぐらいは知っとかあかんな思っ――」

???「――分かっとぉよ!ちゃんと言うから聞いてな!?特にレッサーとフロリスとランシス!ちぃとベイロープを見習ぃ!」

???「……なんですのん。金払っても聞きたい言うような話してんのにこの仕打ち……!アンタらいい加減にしときぃよ!」

???「あー……さっき言ぅたフィンチ、ダーウィン・フィンチっちゅー鳥の話あったやろ?あれ実は今も変化してんねんて」

???「そやフロリス。『進化』やのうて『変化』やね。生態学的には違ぉ思うけど、ワイとしてはそう言うしかないわ」

???「クチバシの長いフィンチは短く、クチバシの細いフィンチは太く」

???「クチバシの硬いフィンチは柔らかく……っちゅー風にやね」

???「まぁ……んなぁ?ぶっちゃけて言うけど、フィンチを変化させとぉんは『観光客』や」

???「毎年ぎょうさん来よぉ観光客が、なんも考えとんとフィンチへ餌を与えぇ」

???「フィンチは楽に食事出来るから、個々の特性が少しずつ失われとってん」

???「……これなぁ、ロマンチシズムと、この直後に起きたアーリアン学説と同じやねん」

???「『前後の脈絡抜きにして、整合性もへったくれもなく”都合の良い結論”へと飛びつく』ねんよ」

???「ローマの直系?ギリシャの正当後継者?……アホかっちゅーねん。もしオマエらがそうやったとしたら、どっちも滅びてへんよ」

???「自分達の願望のために過去ねじ曲げた挙げ句、理想や願望の中にしかない楽園を追い求める……つける薬もあれへん」

???「……そいでな、タチ悪ぅ事に今の状況とよぉ似てんねん。このロマンチシズムが」

???「ネオ・ペイガニズムっちゅー『異教の滅びた信仰”の名前を借りた新興宗教”』へ救いを求めたり」

???「『Eco-Army(環境テロリスト)』みたいな、神さんの居ない宗教へハマったりなぁ?」

???「『ここではないどこか』や『これではないなにか』を探しぃ、現実社会をスポイルしくさる人間が」

???「ダーウィン・フィンチみたいに、楽やからーちゅーて餌付けされた連中が」

???「なんも考えんと、耳障りのいい用意された結論へ飛びつくと碌な事あらへん」

???「アレやで?ISISみたいなダボハゼに入る連中もそうやで?」

???「行き場がない、ちゅーか社会からハブられたり、なんか上手く行かん人間はおるやんか?一定数は」

???「まぁそれ自体はしゃーないと思うんよ。こんだけ人がぎょーさんおれば、そりゃついてけん人もおって当然や」

???「そういう人間にええ加減な事吹き込んで騙してんのが連中や。あ、テロリストだけや無いよ?」

???「アンタらが戦ぉた魔術結社の人間達もそうやで?そこは理解してやってや?」

???「ただ、な?だから言ぅて手加減する必要はないよ。いやマジで」

???「人並みの判断力が持っとって、人並みに善悪が分かるんだったらやったら行かん事は分かるやろ。ちゅーか」

???「ええ歳こいてその判断も出来ひんねんやったら、色んな意味で終っとる。そんなアホはぶん殴ったり」

???「……うん?どしたんみんな?微妙なお顔やで?」

???「『その話は終った……』?終ったてどういう事よ!?ワイ知らんもん!」

???「知らんがな!ちゅーか誰よ!?ワイの大事なお話と被らせたんは!?」

???「あー……日本の?『幻想殺し』……アンタらが散々迷惑かけたお人かー……」

???「ワイどないして頭下げたらええか分からんよ!いやマジで!」

???「え、でも……別に会う必要はないんよね?機会もないし」

???「いやー残念やわー、実に残念やわー、でも会えへんかったら謝る機会もないしー……って何?」

???「チケット?日本語やね、何々……『ARISAの学園都市凱旋LIVE優待券』……?」

???「あー、ShootingMoonツアーの締めくくり?最後は自分んとこで……ふーん?」

???「アンタら招待されとるん?へー……?」

???「……」

???「や、ワイも――『連れてかない』!?まだ何も言うてへんやないのんっ!?確かにそれ的な事やけど!」

???「なんでぇな、連れてってぇよ!ワイ別にもふもふやし、チケット要らへんやん!」

???「なんやったらぬいぐるみに成り済ますから!ワイそういうミッション得意や!」

???「『立場的にマズいんジャン』?フロリスぅ、アンタよういちびぃ事言ぇんなぁ?」

???「これはアレやで?純粋な気持ちやで?科学の街で観光とかしたいとか思うてへんよ?いやマジでマジで」

???「ほらどうせ、連中倒したっても、まだ残ぉとる”シィ”倒さなあかんやん!?」

???「やったらワイも着いてって、こうサポートするわ!頑張るから!」

???「……ん、何?『”シィ”倒すってどういう事』?」

???「や、アレですやん。アンタらまだ話は終ってへんやろ、ちゅーかボス倒してないやんか」

???「このまま放置しとぉてもええねんけど、『幻想殺し』だけじゃまず勝てへんね」

???「地脈だけやのぉて黄道宮からもマナ集めよぉさかい、タチ悪ぅ――」

???「――え、何なん?なんや、『初耳やで!?』みたいな顔しよってるし、なんかワイ余計な事言ぅた?」

???「またまたぁワイ担ごうたってそうは問屋は降ろさへんのよ。センセー最初に言うとるやんか」

???「アイソン彗星喰ぉたんは『蝕』の権能やん。魔王ラーフと同格かそれ以上の力を持つ魔神の術式」

???「並の魔術師には感じ取れへんかもしれんけど、獣帯でマナが枯渇し始めて、白道へ流れ込んどぉわ」

???「あと『濁音協会』が『Society Low Noise』名乗ぉてんのも、あの魔神を崇めてますよってにっちゅー事やん?」

???「かなわんなぁ。ワイ、前からずっと言ぅて――え?何?」

???「『聞いてない』?いやいやっ!ダチョ○ちゃうねんからそれはないで!」

???「なんぼワイでもアンタらの命がかかっとる以上、相手の情報出し惜しみする程薄情な子とちゃうわ!」

???「見ぃや!ほら、きちんとレポートに書き直してワイのNokiaからメール送ったわ!履歴をよ!」

???「ほぉら見ぃ!きちんと下書きの所にあるやん!なっ!?」

???「……」

???「……いや、違うんよ?そういう事じゃないねんな、多分アンタらの想像とは違ぉとるよ?」

???「や、確かに一見すると、ワイが魔神に関するレポート書いたまま、送信するん忘れてたように――って何?ベイロープ?最後まで言わせてぇな」 グイッ

???「ちゅーかレッサーもフロリスもランシスも、なんでワイを掴もぅとするん?……はっ!?」 グググッ

???「……そかそか、恐かったんやね?なんぼエゲつない霊装持っとる言ぅても、アンタらはまだ子供やもんね……!」

???「やったら甘えてもええねんやで?このワイが全部受け止めたるさか――あ、あれ?なんか引っ張る力強ぉなってへん?気のせいやろか?」

???「あ、甘えんのは受け止めたるねんけど、もう少しだけ優しゅう――ってイタタタっ!?痛いですやんかっ!?」 ギュゥゥゥゥッ

???「そんなに全力で引っ張ったら千切れんねんて!?しかも個体個体が自我持つからっ!」

???「火の○の生命編みたいに誰が誰でワッケ分からん事になるからダメやって!」

???「てか悪気は無かったんよ!見てみぃこのレポート!きちんと書いてあるやろ!?」

???「それにアンタらも悪いやんか!?なんや旅が始まっとぉ思ぉたら連絡も碌に寄越さひんし!」

???「ワイが!ワイがどれだけ心配しくさった事か!」

???「ある意味アンタらはワイの娘にも等しぃんのんに!ワイがどれだけ心痛めとったかっちゅー話――」

???「――ってランシスさん?ランシスさんはこっそりワイのケータイの履歴探すの止めてぇな?それプライバシーと違うん?」

???「ワイ、確かにもふもふやし人権もないねんけど、気ぃ遣ってくれてもいいとちゃうかな?空気読め的なアレやで?」

???「てかアンタ前から言ぉ思ぉとったけど、そういうトコあんねんな?計算高いっちゅーか、結構腹黒い割に大胆っちゅーか」

???「あとレッサーな、今小声で『ダイター○カムヒアー』言うても誰も拾えへんよ?」

???「”大胆”と”ダイター○3”かけたと思うんやけど、ワイみいなツッコミにCP振ってる人ぐらいしかキャッチ出来ひんからね?」

???「なに?『勇者指令ダグオ○を拾った奴が居る』?……世界は意外と広いんやねぇ……」

???「……」

???「……えーっとなぁ、ほれ。誰が悪いとか犯人捜しは止めよか?なぁ?」

???「別に誰も悪くないんちゃう?ワイはそう思うよ?」

???「……ま、でも敢えて!敢えて犯人捜しをするんやったらば!」

???「バンナ○が悪い――って待ちぃな!?またセンセー言い終わってへんよ!?処刑執行するんやったら最後まで言わせてぇな!?」

???「いや、あんな?出たやん、Gジェ○?」

???「携帯ゲーム機で新作出しよらんと、なんかモバゲーばっかりやんか?」

???「しかも最新作言う割にはアレもコレもシステム廃止しよるし、何が新作やねんっちゅー話や」

???「なんかもうアレよね。格ゲーが複雑化しすぎて初心者離れて行きよったのとは対象的に、SLGは単純化しすぎるとダメやね」

???「ベーシック機体の導入とOVER WORL○のコアインパクトは良かったんよ。最初から強すぎんのも引くし、任意で難易度上げられんのも」

???「ただなー、多段ヒットと変形機構無くして、アシュタロ○の存在意義を奪ぉたのは納得いかんし」

???「あとスキルが個人で選べるようになったやろ?あっれーはダメダメよ?汎用性が高過ぎると、弱キャラ育てる意味が無くなんねんなー」

???「他にもワイ的にはザンスパイ○のスペシャルアタックの演出、元へ戻して欲しかったやんなー」

???「てかザンスパは誰に乗せるかんでセンス分かれるやんか?あ、ワイはエリス=クロー○に乗せとぉねんけど」

???「パイロット服も機体の色とオソロやし、個人的にはザンスカのテストパイロット的な感じっちゅー解釈をやね」

???「おとうちゃんがザンスパの開発者で、エリ○がテストパイロット的な」

???「マリ○主義がこれ以上広まんのを恐れたおとうちゃんが、娘に機体託して逃がすねんな」

???「追っ手と戦ってるウチに、マー○らのキャリベに保護され、傭兵として戦い始めぇ」

???「つっても最初からザンスパは使えへんよ?逃げ込んだ直後はブラックボックスの塊みたいなもんやし、整備班もよう直されへんやろ」

???「なんで鹵獲したMSを開発しとる間に――ってのがいいと思うわ」

???「……てか、レイチェル……どないしよるんかなぁ……?デバイスレイ○の頃からのファンにはキッツイねんな……」

???「うん、まぁそんな感じでもうすぐデンドロ作れんねんね。ちょっと夢中になってた言ぅか、あるやん?そうゆうの?」

???「むしろワイ頑張ったんちゃうんかな?序盤のステージでコツコツと――ってギィヤアアァァァァァァァァァァァっ!!!?」

???「削除だけはっ!?削除だけは堪忍しぃや?!てかアンタらそれでも人の子ぉかい!?」

???「ジ○からデンドロまで作んのにどんだけ時間遣ぉた事か!人の努力を足蹴にしよってからに!」

???「アンタを育てたヤツ出て来ぉ!ワイが直々にお説教したるわ――」

???「――って育てたんワイないかーーーーーーい!ルネッサーーーーーー○!」

ピッ

???「ってレッサオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォアアァァァァァァァァァァァァっ!?」

???「アンタ――アンタホントに何してくれよったんかっ!?ワイがどんだけの思いでフルバーニア○育てたかっちゅーねん!」

???「宇宙適正以外アホみたいに低いのんに、紙装甲だから使い辛いの我慢してやなぁ!」

???「後々ネオジオン○設計用に取っとこう思ぉたワイの開発計画を――何?」

???「『消してない』?そ、そうやんな?アンタらそないな酷い子ぉちゃうもんね?」

???「信じとぉたよ!ワイはアンタらがそないな外道やな………………うん?」

???「……あるぇ……?ユニット一覧にフルバニおらへんね……?」

???「その代わりに見慣れない赤いユニットが……どらどら?」

???「あー、ガーベ○やんね、これ」

???「……」

???「開発しとるやんっ!?てかこれワイの欲しかったMSちゃうよ!」

???「しかもこれ発展性が改ぐらいしか無ぉて、どん詰まりですやんか!?」

???「これでガチャ回すしか手に入ら――って何よ?何でみんなでセイセーもふもふしとぉん?」

???「なんか、こう、手で適当に大きさ見繕ぉてるようで、ごっつ不安になんねんけど……?」

???「や、まさかワイを適当な大きさに千切って持ってこうとか、そういう事やあらへんよね?アンタらそこまで外道とちゃうもんね?」

???「成り行きとはいえ、魔術師の師匠であるワイを100均でよぉ売れるドイツ製の消しゴムスポンジみたいにカッティングせぇよね!」

???「――てか携帯ストラップ取り出して目算立てる止めてぇな!今まさにワイの危惧が現実になろうとしてるやん!?」

???「だから千切るのはアカ――」

プチッ



――『ここまでのあらすじ』 -終-

今週の投下は以上となります。お付き合い頂いた方に感謝を

今年もどうか宜しくお願い申し上げます

乙でごんす



???「あ、ケンミンショ×だかなんだか知らへんけど、『関西人は粉モノを焼かない』なんて嘘や、嘘嘘」

初耳ですけど、元お昼の顔はソース文化を知らなかったんですね

鳥頭て。レヴィちゃん聞いたら怒るでセンセ。

先生は禁書で言うと誰に似てます?後カップ数オ教えて。

>>384-385
ありがとうございます

>>386
ケンミンショーの”大阪人が他からこういうイメージで見られるが辛い”というコーナーで、
「大阪人は粉モノを自分では焼かない!」というトリビアが披露されました
従って地方の鉄板屋さんのような、店から素材買って客が焼くような店で、

(`・ω・´) 「大阪人なんだから綺麗に焼けるよね!」

と期待されるのがプレッシャーだとか何とか。いや、どっちも個人差の範疇だろうと

あの番組ですねー、郷土史囓ってる人間にとってはある意味宝の山”だった”事もあるんですが、
最近はどうにも目新しさや斬新さ、そして地元の人間でも知らないような超ローカルなネタを出してくるので、あまり当てにならない
この前にも私の地元が「ラーメンに酢を入れる1!!」と紹介されていて愕然とした経験があります
私の友人親兄弟、親戚へ至るまで誰一人そんな風習を知らないという

>>387
???「うぇ!?まだ続いとぉの、あの一族!?」
???「もう呪いかっちゅーぐらい、当主がロ×しか産まれんよって、いっつか滅ぶ思うてんやけどねー」
???「……この世界、意外とペ×はおったっちゅー事か。生物としての多様性からすれば有り難い……ん、かな?そうでもないな?」
???「い、いや別に悪気はないんよ!ちょっとビックリしただけで!」
???「ええっと、その――そうそう!エジプトのトート神、あの神さんは鳥頭人体やねんよ!いやマジで!」
???「てかエジプトさんは獣頭の神さんごっつおるやんか?それを指してワイは言うただけよ?誤解したらあかんよ?」
???「……ちなみにトート神の頭は『朱鷺(トキ)』、で司る権能は『書物と智恵そして時と夜』や」
???「ほいでトートの聖獣はトキとヒヒ、そいでギリシャのヘルメスの聖獣はトキと鶏やねんな」
???「ルーツが同じかどうかはド別れしてもぉたけど、合一のモノが地域を越えて崇められると”あぁ”なるんよ」

>>388
???「イヤやわぁ、ワイにえっちぃ事聞ぃてどなんするん?」
???「ヘンな事に使ったらアカンよ?ワイと約束するんやったら教えてもええけど……どうするん?」
???「はい、ゆーびーきーりーげーんまーん、ウッソ吐いたら日本にもレコンキスタかーますっ」
???「ゆっびきった!……と、約束やよ?」
???「ちゅーかワイ、チチバンド着けた事あらへんしカップ知らひんのよ……ちょぉ待ちぃな。今スリーサイズ測るよって」
???「誰かー!?誰かおらんー?ちょっとメジャー持ぉて来ぃー!」
ランシス「……はい?持ってきたけど、なに?」
???「うん、なんか企画でな。ワイのチチバント知りたいんやて」
ラシンス「…………えぇっ?」
???「なんで驚くん?そこ驚くとこちゃうちゃうんかな?」
ランシス「や、いいけど……ケモナーだって人権はあるし」
ランシス「てか、変身した後なら需要はあるかも、だけど……」
???「知らんて!ワイは結構前からこれやっちゅーねん!」
ランシス「……うーん……?」

~五分後~

???「えっと、トップとアンダーの差やったっけ?」
ランシス「……アンダー、あった?」
???「――はいっ!ちゅー訳でスリーサイズを発表しよぅと思います!」
ラシンス「ドコドコドコドコドコドコ……」(←口でドラム)
???「パッパパーン!ワイのサイズは上から16・57・19!ごっついわがままな数字やね!」
(※メーカー公式です)
???「あ、数字はそれぞれ、耳の付け根・身体のくびれ・しっぽの付け根、な?」
ランシス「だから誰も得をしない……っていうか、人に変身した後を教えるべき」
???「そうなぁ……学園都市発やったら、ネットで活動しとる『扶桑彩愛』を2、3歳若ぉした感じ?」
???「それ以外やったら、別の世界のアバターで『近濠菜緒』っちゅうのもあるんけど」
ランシス「なんでどっちもちんまいの?」
???「相手を油断させるためやね。け、決してお菓子とかアメちゃんよぉ貰えるとかそんな理由では、決して!」
(※イメージ画像。フィクションであり、現実・非現実のマーリンとは一切関係がありません)
http://up3.viploader.net/jiko/src/vljiko101708.jpg
(※てかロシアのクリミアとウクライナ侵攻が無かったら、ロシア成教でワシリーサさんがこのポジに収まった筈であり、
ここまでもふもふが出張る展開ではありませんでした)

あと今日Eテレ24時からの地球ドラマチック、SS内で語った「飛べ!模型グライダー~英仏海峡を越えられるか?~」なので暇だったら見ましょう
なんつかー、しょーもないから



――『闇、海より還り来たる』

――2014年10月8日8時過ぎ ロンドン『必要悪の教会』 ステイルの私室

Chirp, chirp, chi-chi-chi-rp……

ステイル「………………」

ステイル「……寝てないよ?}

ステイル「今のは少しウトウトしてただけで、僕はずっと起きてた」

ステイル「嘘だというのであれば、まず異論を挟んだ方が証明すべきじゃないかな?」

ステイル「……」

ステイル「……あぁクソ、眠ってた……」

ステイル「……」

ステイル「……ちなみに、極東の島国じゃスズメの鳴き声を『Chun-chun』と言うらしいね」

ステイル「……」

ステイル「……顔、洗って来よう……」

~10分後~

ステイル トントン、ポシュウウッ、ジジジジジジ……

ステイル「……ふうー……」

ステイル(朝食も採らずに――いや、採”れ”ず、徹夜明け……)

ステイル(……あの女狐め!何も、こんな時に溜まってる仕事を押しつけなくたっていいだろうに)

――『必要悪の教会』・廊下 回想

ステイル「……げっ」

スチュアート「人を見たりに『げ』とは、最近の若者言葉も変わりたるものなのよなぁ、ステイル?」

ステイル「いいえ、そんな事は全くありませんとも。色あせぬ名画のようにお美しい最大教主」

スチュアート「それは遠回しにババアだと申したる候?」

ステイル「急いでいますので、失礼しますね」 スッ

スチュアート「否定はされし方が良かれなのよ!?――って、あらあらまぁまぁ、これはこれは」

ステイル「言葉を何回も重ねるとバカがバカに見えますよ?」

スチュアート「んふふー、両手一杯にお菓子を抱えてどこへ参るの言うかしらー?レディへ持って行くには野暮だと申したるけどー?」

スチュアート「もし私なら花束の方が好み足りけるのだが?」

ステイル「あの子が帰って来ているでしょう?なんでも『日本のお菓子が食べたい』ってダダ捏ねたらしくて」

ステイル「なので仕方が無く、と」

スチュアート「ステイル!あぁステイルよ!」

ステイル「あ、すいません。そういうのいいんで」

スチュアート「何か忘れたりし事は無きか?」

ステイル「忘れている事、ですか?急を要する案件などは特に無かったようですし」

ステイル「『S.L.N.』の掃討は終了、事後処理で行政との折衝が幾つか残っているだけ――ですが、それは僕の管轄ではありませんし」

スチュアート「んむ、概ね合うているのよ。この私もようやく昨日、金冠ババアと別れられて気分爽快だわ」

ステイル「……一応、国のトップを”金冠ババア”呼ばわりは……」

スチュアート「だけれども!私の所へ連中の報告が上がって来ないというのは怒り心頭なりしの!」

ステイル「報告……あぁ、今作っている最中です。確かに作業が遅れているのは事実ですが」

ステイル「というよりも、最大教主?あなたが『この情報は集団が共有するのはマズい』と仰ったため、僕一人でまとめる必要になっ――」

スチュアート「すーてーいーるー、すーいーてーーーーるーーーーーーーー!」

ステイル「ですから、なんです?」

スチュアート「あらあらまぁまぁどうしたことなりし事なりけるのかしらー?」

スチュアート「まさか禁書目録が里帰りしただけなのに、まさか業務に差し障りがあるとはなぁ?」

ステイル「それとこれとは別の話だと思いますが?」

スチュアート「これは私の有能なる部下のために、禁書目録を早ぉ返さねばならないたるかしら?かしらー?」

ステイル「(……このクソババア、調子に乗りやがって……!)」

スチュアート「んー?何か申したかー?んんー?」

ステイル「……分かりました。ではこれを届けたら直ぐにでも取りかかります」

スチュアート「あー、いやいや。それには及びたりける事無かれ、なのよ」

スチュアート「ここはほれ、親切で友愛深い上司が代わりに運びたりけるゆえに」

ステイル「……極東の島国じゃ、”友愛”って言葉は」

ステイル「『故人献金を受けた現役総理大臣の担当秘書が、次々と事故で亡くなるが全く報道されない』とか」

ステイル「『現役総理大臣がテロ支援国家に亡命中のテロリスト、その息子の政治団体へ政党ぐるみで億単位の献金をしていても報道されない』とか」

ステイル「『総理大臣になる議員が政権交代直後、外国人の互助会へ顔を出して”選挙協力ありがとう”と言っても報道されない』って」

ステイル「『自称ジャーナリスト様に取って都合の悪い真実を国民へ報道しない権利』、を指して”友愛”というらしいですが」

スチュアート「うむ、それは知らなかったことあるけりよの!」

ステイル「面の皮が厚い――年輪か」

スチュアート「なので早くレポートを書く作業へ移りたれ!」

ステイル「……ちっ」

スチュアート「素直で良きかな良きかな――あ、もう一つ」

ステイル「まだなにか?」

スチュアート「提出を終えるまで禁書目録へ会いに行くのは禁止なりけるので、注意する事ぞ」

ステイル「なっ!?」

スチュアート「ではそういう事で失礼致すのでー」

――2014年10月8日8時20分過ぎ 現在

ステイル「……ふぅ」

ステイル(徹夜も三日目となると堪える……っていうか、児童虐待じゃないのかい?とも思う訳だが)

ステイル(別に手早く済ませたい訳じゃないが、まぁ――まぁ、色々あるんだよ)

ステイル(って言うか鳴護アリサ――ARISAの凱旋コンサートの日だっけ、開演は確か夕方からか……)

ステイル(あの子も行きたがってたろうに、結局どうしたのかな……)

ステイル(妖怪年増ババアinロンドンめ!……報告書なんて今まで碌に目を通した事なんて無かったろうに!)

ステイル(第一調べるんだったら僕達なんか通さず、訳の分からない諜報員を使っているんだし!)

ステイル(サフォークでもそうだ!……『取り敢えず傍観なりたけるので、手出し禁止の事――ただし!逃げ出す信者が居れば保護するように!』)

ステイル(後は丸投げ。いつもの通りと言えばそうなんだけどね)

ステイル(オルソラを保護した一件のように、事態が解決した上、気が向けば説明はしてくれる……が)

ステイル(今回は何が気に食わないのか。計画の全貌すら僕は知らない……だと、言うのに)

ステイル(現場での指揮その他諸々の責任者は一任されてる。これを『信頼』と呼べはしないだろうね)

ステイル(結局、僕達がした事は民間人の保護、そしてバカ二人の確保と簡単な手当) ピラッ

ステイル(どこに書いたか……な、と。これこれ)

ステイル(『ヤドリギの家』教団施設、その施設の殆どは既存のそれと変わりが無かった)

ステイル(10年前に作られた建物が殆どで、最初から設計へ入っていた――の、とは少し違う)

ステイル(フォーマットの関係というか、ホテルはホテルだし、病院は病院としてしっかり建てられている)

ステイル(隠し部屋やら、各種怪しげな監視用の機器も無く。ホント、いい加減だよね)

ステイル(関係する魔術資料は病院の診療記録アーカイバの棚の中にあったし。や、まぁ素人が見ても身は分からないだろうが)

ステイル(残った連中を確保した後に、施設内の……えーっと、第一聖堂、だっけ?昔からある教会の方)

ステイル(そこの地下墳墓の中には、まぁブラッグロッジらしい”もの”が一杯あったけれど」

ステイル(まずは居なくなった人間達、そしてウィリアム=ウェイトリィ院長兼主教の屍体)

ステイル(一番奥、増設された部屋に原形を留めていない程、言ってみれば土に還るぐらいにボロボロになっていた)

ステイル(当然肉体の生命反応は無し。しかしクリストフ=ウェイトリィの術式、『世界樹の根』で生き長らえていた可能性はある)

ステイル(術式を埋め込まれて、無理矢理魔力を吸い出れられるのが、『生きて』居るのだとすれば、だけれど)

ステイル「……『世界樹の根(Root Yggdrasil)』」

ステイル(元々は前身であった、というか本来の『濁音協会』で研究がされていた術式か)

ステイル(言わば魔力の共有化――ある意味社会主義っぽい気もするけど、まぁ発想自体は悪くはなかった)

ステイル(個人で精製出来る魔力量はたかが知れている。ならば引き上げてしまえば強くなる、という概念)

ステイル(ポーカーで手札が5枚じゃ少ないからって、10枚へ増やせば強い役が出来るだろう、かな?)

ステイル(気持ちは分からないでもないし、多分に共感……というよりは同情する所もあるんだけれどね)

ステイル「……えぇと、昔の資料――どこ行っ――あった」

ステイル(新しい『濁音協会』の魔術師は途中でこの術式の開発を放棄した。いや、せざるを得なかった)

ステイル(あのバカなルーン使いが魔術師と資料破棄をしただけで、共同研究者であったウィリアム医師を放置したからだ)

ステイル(人道的?違うね、あの男にすれば『合理的じゃない』だけだったんだろう……今はもう知りようもないんだが)

ステイル(どうにも制御なんて出来ない状態になった――筈、だった)

ステイル(その”神”の、方向性を決める相手――そう、アルフレド=ウェイトリィが居なければ)

ステイル(アルフレドの遺体……も、また殆どが炭化しており、原型は全く留めていなかった)

ステイル(『幻想殺し』が殺した……のなら。僕の敵はもっと弱っちくて楽だったんだろうけどね)

ステイル(これもまた副作用なんだろう。術式が切れたら院長を筆頭に、肉体の限界が来ていた人間達はそのまま屍体へ戻ったように)

ステイル(最初から生きていたのかも怪しい所だが――まぁそれは些細な事だ)

ステイル「……」

ステイル(この話、『濁音協会』の中心に居るのは紛れもなくアルフレドだ)

ステイル(パワーダウンしたとはいえ、弟と同じ時空間魔術を使いこなす)

ステイル(厄介な再生能力も、使い方さえ間違えなければ教皇級の魔術師と渡り合えるだろう)

ステイル(対外交渉能力も長けているらしく、『野獣庭園』や『殺し屋人形団』を巻き込む事さえやってのけた)

ステイル(ただでさえ個人主義が強い魔術師の中、限りなくフリーダムにやっている連中を?どうやって?)

ステイル(今時の自称魔術結社じゃあるまいし、自前のHPを持ってメールアドレスを公開してるじゃあるまいし)

ステイル(フツーの組織でも利害関係の擦り合やせ、お互いをどう出し抜くか、はたまた裏切るかと忙しいのに)

ステイル(どうやって渡りをつけたのか。残念ながらそこら辺の資料は残されていなかった)

ステイル「……」

ステイル(……そう、『なかった』んだよ)

ステイル(教団本部に残されていた魔術的な資料、その殆どはクリストフと『世界樹の根』に集約されていた)

ステイル(クリストフがどう産まれて、どのように改造されたのか……施術を施したのはウィリアム院長であったらしい)

ステイル(まるで――という言い方は正しくないんだろうが――モルモットのように事細かに記録が残されていた)

ステイル(……よくもまぁ付け焼き刃の魔術知識でどうにかしたもんだ、と褒めてやりたいぐらいだけれどね。ただ)

ステイル(普通、魔術師は他人に知識を盗まれるのを酷く嫌う。ま、僕らだけではないし、当たり前だけどね)

ステイル(なので研究資料を作ったり、残したとすればそれは他人には解読不能な所を入れたりする)

ステイル(異国の文字で書いたり、人によってはオリジナルの文字を作ったりするそうだ)

ステイル(アレだね。どっかのバカが不用意に表へ出してしまったヴォイニッチ手稿なんかが最たる例だ)

ステイル(中には最も大切な部分へ意図的に嘘を混ぜたりもする……ん、だけど)

ステイル(この先生はどうやら医者としての癖が抜けない上、僕達の流儀を知らないようで、実に正確且つ丁寧に記録を残してくれていた)

ステイル(……まぁ、自分が不治の病になったからって、誰かに研究を引き継いで貰うつもりだったのかも知れないが)

ステイル(なんだかんだで院長先生は多くの命を救ってきた。無償に近く、献身的で、人望をそれなりに集め、同業者から疎まれて)

ステイル(だがその結果、魔術に手を染め、全てをスポイルしてしまったんだが……)

ステイル(……この一件が表へ出る事はないのだから、彼は人格者として名を残すだろう)

ステイル「……」

ステイル(ただその魔術資料の中から、また病院の医療記録と出産記録の中にも)

ステイル(教団の残した裏帳簿のようなものですら、その名前は残っていなかった――)

ステイル(――『アルフレド』という名前が)

ステイル(信者――真っ当な判断を残しながら運営していた、テリなんとかって女――へ聞いても、『お兄さんが居たんですか?』とビックリされるし)

ステイル(他の人間へ聞いても大抵同じ反応が返ってくるだけ。いい加減飽きた――とシスター・アンジェレネの報告書には書いたあったよ)

ステイル(二人とも外見はそっくりだった)

ステイル(これはまぁ双子だったとすれば説明がつ……かない事もないし、あの双子が魔術的に同調しているのであれば、まぁまぁ分からないでもない)

ステイル(『他人の意志を受けて振舞う』特性がある以上、どっちかの外見をコピーした可能性もある)

ステイル(けれどクリストフですら載ってる出生記録や戸籍、その他研究データの中に、アルフレドが一切登場してこないのは何故だ?)

ステイル(几帳面を通り越して、神経質なまでに記録を残していた老医師)

ステイル(自らの息子を差し出す事すら厭わなかったのに、どうしてもう一人の息子には無頓着なのか?)

ステイル(セオリーであるなら、情も排した僕達の流儀に則るのであれば、素体を二つも手に入れられた以上、どちらかを『予備』とするか)

ステイル(もしくは医師が高翌齢である以上、助手兼後継者と目論むのが自然だと言える)

ステイル「……」

ステイル(ウェイトリィ老医師が研究データをそのまま残していたように、素人ならではの発想がある、か……?)

ステイル(……考えても仕方がない。次へ移ろう) ピラッ

ステイル(次は……あぁなんだっけ?子供達の数が合わない?)

ステイル(名簿と生き残った連中、そしてそうではなくなった人間)

ステイル(彼らのすり合わせをしていたら、一人だけ行方不明になっていた。そうアニェーゼ達からの報告があったと)

ステイル(なんだろうね、こうワープロソフトで数字を入れて見積もり出したら、何かズレてるとか。一人だけってのも気に入らない的な)

ステイル「……」

ステイル(……多分、あのバカどもは勘違いしているだろうけど、今回の件、僕達は遊んでいただけじゃないからな?)

ステイル(戦いってのは戦いそのものも大切だけれど、それ以上に前後も大切でさ)

ステイル(サフォーク騒動もそう。事件の前には他からの間諜も入ってて、そっちとの調整もしなきゃいけない)

ステイル(また当然騒ぎが大きくなって、施設内から警察へ通報してきたら、それも何とか誤魔化す必要がある)

ステイル(中から逃げてくる信者達の保護、怪我人の手当、また彼らを受け入れられる施設の確保)

ステイル(終ってからは彼らの身の振り方や事情説明をしなければいけない)

ステイル(――以上全てを『魔術なんて存在しない』前提で進める必要がある。それも、速やかに)

ステイル(……昔の記録を読んでいると、だ。関わった人間皆殺しだなんて、物騒な話はいくらでもあるし、今でも必要があれば躊躇いはない)

ステイル(けれども実行へ移した話が殆ど聞かないのは……良い事なのかな?)

ステイル(この世の中、人一人消すのがどれだけ難しいか。親兄弟に親戚知人に友人、メル友だかSNS繋がりにツイッターやフェイスブック……)

ステイル(他人と”繋がる”ツールが発達しすぎて、どこから足がつくか分かったもんじゃない)

ステイル(また科学サイドほどの徹底的な情報操作――という割には甘い気もするが――も出来ない。パソコンに魔術はかからないからだ)

ステイル(いったん広まった情報は回収不可――何代か前のイギリス王子が未成年と淫行したスキャンダルも、手が着けられなかったしね)

ステイル(国家権力と繋がってるとは言え、それらの『隠滅』する対象が広がれば広がるほど面倒臭くなっていく訳だからね、これが)

ステイル(……まぁ、魔術と魔術師の存在をある程度知らせた上で共謀するのであれば、まだ楽なんだが……生憎、味方にすら僕らを知られる訳には行かない)

ステイル(なので僕達がどうしているかと言えば、『放置する』んだよ。ある程度知っただけの人間であれば)

ステイル(どこかの熱血バカの東洋人の場合、僕らがあの子を連れ帰ったとしよう)

ステイル(そうすればあの幼女ホイホイは何らかのアクションを起こす筈――っていうか、絶対に、起こすね。賭けてたっていい)

ステイル(周囲へ話して助けを求めるのか、ネットで暴露して支持を得るのか)

ステイル(もしかすると直接乗り込んでくる――って可能性が一番高い気がするけどね)

ステイル(――ただ、現実は非情なんだ)

ステイル(いきなり『悪い魔術師が友達を攫っていったんだ!』とぶち上げて、一体どれだけの人間が信じると思う?)

ステイル(動画があっても合成だと判断されるだろうし、ネットにしろ相手にされない。”良くて”売名行為と思われるだけで、最悪――)

ステイル(――ただの”気狂い”と判断され、あのBBAキラーを信じる者は居なくなる)

ステイル「……」

ステイル(……ん?ふと思ったんだが、というか……これはきっと三徹した僕の妄想なんだろうけど)

ステイル(あの子とラッキースケベ量産機が出会ったのは『偶然』なんだろうか?)

ステイル(その後の世界状況にしろ、魔術サイドでは僕達イギリス清教が一人勝ちしている状態――CPを女運に全振りした男によって、だ)

ステイル(最大教主はもしかして、最初からそれを狙って……?)

ステイル「……」

ステイル(……えぇとね、そのだ。世界には『方向性』とか、『規則性』なんてものはないんだよ)

ステイル(何も無い所で転んだとしても、それは悪の組織の陰謀ではなく、ただ単に転んだって結果があっただけで、それ以上の意味は無い)

ステイル(世界も同じく。日々目まぐるしく様々な者や物が変わってるけれど、そこに特定の意図された動きはない)

ステイル(そしてそれを説明”出来る”と信じ込んでしまえば、『何でも出来る悪の組織が仕組んでいる!』って結論へ行かざるを得なくなる)

ステイル(信じるのはまぁ勝手だけれど……そこまで行くと宗教の範疇だね)

ステイル(……たまーにさ、オカルトや政治関係の匿名掲示板を覗く事があるよ。趣味じゃないけどね)

ステイル(どこでどう危険な知識が広まっていやしないか、確かめるのが目的――なん、だけども)

ステイル(中には『一国の宰相レベルでしか知り得ない情法』やら、『マフィアと政治家が癒着している』的な話もチラホラとある)

ステイル(訳知り顔で教えて”やる”という人間はどこにでも居るけれど、あれを見ていつも思う――)

ステイル(――そんな重大情報握ってんだったら、マスコミか第三国で発表すればいいじゃないか)

ステイル(日がな一日、朝から晩までハロウィンもニューイヤーも関係なく書き込む彼ら、そのバックボーンの方が興味あるけれど)

ステイル(ほぼ全てが例外なく出所も分からない風聞の類、良くてゴシップ紙の『消息筋』からの伝聞)

ステイル(よくまぁ信じる気になれるというか……そのメンタルを褒めるべきかもしれないね。僕はゴメンだが)

ステイル(魔術も存在が隠され続けているのも、そういう益体もない人間のお陰なのかも)

ステイル(情報の氾濫。それが返って信憑性全てを失わせてしまうのに気付けない)

ステイル(もしもあの歩くフラグ製造器目当てに最大教主が画策した、なんてのは妄想もいい所だろうな)

ステイル(……とはいえ疑念は残る、しかし確かめる方法が。方法、ねぇ?何か……)

ステイル(いっそのこと、何か適当な用件を作ってしまってだ)

ステイル(あのフラグ未回収で個別ルートに派生出来てない男を、最大教主に引き合わせてしまえば……?)

ステイル(あのBBAずっと昔からあの姿らしいし、適齢期を通り越しているのは間違いない)

ステイル(二人を結びつけてしまえば、あの子の貞操も……!)

ステイル「………………ふむ?悪く、ないね、むしろ良いな」

ステイル「これはジョークじゃなく、本気で実行へ移し――」

上条(想像)『初めまして!今日から”必要悪の教会”の一員になった上条です!』

ステイル(……)

トントン、ポシュッ、ジジジジジジ……

ステイル「……ふー……っ……」

ステイル(今、『必要悪の教会』ロンドン女子寮を爛れたハーレムにするビジョンが一瞬浮かんだ……疲れてるんだな、僕は)

ステイル(……えっと……なんだっけな。何で頭が痛かったんだっけ……)

ステイル(……あぁ、そうそう。足りないんだよね。、女の子一人)

ステイル(特徴を書き出して……警察か。僕らじゃ『双頭鮫』の方の活動まで手に負えない)

ステイル(あっちの方はマフィアだって話だが、生憎そう言ったアウトローな人間に知り合いは居な――)

ステイル「……」

ステイル(……『明け色の陽射し』、か。居たな)

ステイル(あそこのマニア向けボスの妹を助けたんだったか。ある意味貸し一つ……いや、ドナーティのホロスコープも含めて差し引きゼロ)

ステイル(上手く手懐けた男を、不幸にも僕は一人知っている。知っているけれど……頼りたくはない)

ステイル(……ま、最悪の最悪、アニェーゼ辺りから情報を流して貰えば良いさ。借りを返すのは僕じゃないし)

ステイル(さて、ではその子の特徴をレポートに……って何?USBメモリ?書類じゃなくて?)

ステイル(wavデータ……あぁ関係者からの聞き取りはしてあると……だったら最後までしてほしいけれどね)

ステイル(ま、仕事なんだから聞きますか。さて――)

――MC201410XX-XXXX

女S「あーテステスー、聞こえてるかー?」

女S「突然こんなモン渡されてもな、私は専門じゃねぇんだけどよ」

女O「大丈夫なので御座いますよ、ほらここがマイクになっておりますので」

女O「ギザギザが振り切ったままになっていなければ、適量で録音されているとのお話で」

女S「ギザ?あぁ、これね。名前は分かんないけど、ミキサー的なアプリについてるヤツか」

女O「それで『エレーナとイワンはもう家に帰ってんだ』とは、一体どういうお話なのでしょうか?」

女S「どこまで巻き戻ってんだ!?てかいつの話よ!?」

女O「あ、ボリュームが振り切ってます」

女S「いや、だから!大声上げさせてんのは誰だ!」

女O「シェリーさんではないでしょうか?」

女S「確かになっ!実際に声張ってんのはあたしだけれども!そういうこっちゃなくてよ!」

女S「つーかこれ、私の名前言ってるし……あぁ面倒クセェ、つか良いか別に。どうせあの若オヤジが聞くんだよな」

女S「だったら勝手に編集でもしてろっつーの。で、来てるのかしら?」

女O「はい。先程からずっとこちらに」

女S「見られてんじゃねぇかダメダメなとこ……まぁ、それも別にいいや」

女S「それで?あなたの名前は?」

女O「オルソラ=アクィナスと申――」

女S「あなたじゃないわね!?っていうか今、明らかに私はそっちの人を見てたでしょうっ!?」

女O「で、こちらの方がシェリー=クロムウェルさんといって、美術大学で教鞭を――」

女S「おい誰かコイツを連れて行ってくれ!」

女O「相手に信じて頂くにはまず自分から、で御座いますよ?」

女S「時と場合よね?今、話をちょっと聞くのに必要はないわよね、主に私達の個人情報は?」

テリーザ「え、っと、その、いいでしょうか?」

女S「あんっ?」

テリーザ「ごめんなさいごめんなさい!わたしは何も見てませんっ!だから命だけは!」

女S「……何?このリアクション?睨んだのは悪かったけどよ」

テリーザ「上条さんから『取り敢えず謝っとけば何とかなる!』って」

女S「なる……か?」

女O「多分その名前が出た時点で、恐い方は手出し出来ないと思いますよ」

女S「まぁ別にだ。取って喰おうって訳じゃないのよ、少し聞きたい事があるってだけで」

テリーザ「は、はぁ」

女O「あなたが子供達のお世話をされていたと聞きましたが、それで合っておりますでしょうか?」

テリーザ「あ、はい。基本的にわたしが、していました」

女S「子供達は三人だけ?名前を言って貰ってもいい?」

テリーザ「ケインとカレン、クリスタです」

女S「……んー……それじゃ、少し前には女の子が居たんだよな?」

テリーザ「いいえ、居ませんでしたよ」

女S「何?」

テリーザ「わたしが請け負った、っていうか勉強を教えていたのはあの三人だけですし。他に子供が居たなんて知りません、けど」

テリーザ「それが、何か?」

女S「あー……ちょっと待って貰って構わないかしら?少し、他の子の話とも合わせないといけないから」

テリーザ「後であの子達と会わせてくれるんですよねっ?」

女O「勿論で御座いますよ。それでは少し世間話等を――」

――私室

ステイル(……知らない?どういう事だ?)

ステイル(もう一人の子供、名簿には載っていた筈だけど……) ピラッ

ステイル(……いや、こっちの帳簿には記載されていない。それじゃこの先生が言っていた事が正しい、筈だが)

――MC201410XX-XXXY

女A「はいどーも。それでは自己紹介しちまってくださいよ。まずは名前を」

ケイン「……ケイン、ケイン=パワスカァだ」

女A「ケイン?ケインですかい?」

ケイン「……なんだよ」

女A「いえね、名簿にはパワスカァってぇ名前はあるんですが、ケインではねぇんじゃねぇですか?」

ケイン「……カイエンヌ。長いしイギリス風じゃないから、ケインって言ってるんだよ

女A「へー?女の子みたいな名前ですね」

ケイン「……だよ」

女A「はい?今なんて?」

ケイン「女だよって言ったんだ!」

女A「あー……まぁ、二次性徴前ですし、美少年に見えるっちゃ見えますがね」

ケイン「俺はどうだっていいだろ!それより何の用で呼んだんだよ!?」

女A「あーもう、興奮しないで下さいな。お友達とは用事が済んだらお引き会わせますし

ケイン「……」

女A「あなたの『立場』ってぇヤツには同情しますがねぇ、そう誰彼構わず突っかかってたら、最後には誰も相手にされなくなっちまいますよ?」

ケイン「アンタに何が分かるんだよ!歳だって俺とそんなに変わりないじゃないか!」

女A「分かるってもんですよ。だって私も孤児ですから」

ケイン「え」

女A「両親を殺されてストリートチルドレンまっしぐら。いやー、毎日が大変でしたねぇ」

女A「色々あって、仲間と一緒に助けられましてね、流れ流れてロンドンまで来ちまいましたよ、えぇ」

ケイン「……」

女A「確かにあなたは『不幸』なんでしょうけど、それはそれ、これはこれ」

女A「同情を引きたいのと、世界を相手にして生き残っていくのは別の話ってぇ話です」

女A「人間、どうやっても一人で何か生きられっこねぇんですから、どっかで折り合いをつける必要がある。違いますか?」

女A「差し出される手が善意か悪意か?……経験上、多分そんな事で悩んでるんだと思いますけど」

女A「どっちだって良いんですよ。善意であれば成長してから恩に報いれば良いし、悪意ならばさっさと逃げ出せば」

女A「このくそったれな現実であっても、手を差し出してくれる物好きは意外と少なくねぇようでしてね」

女A「折角拾ってくれるって人が居るんですから、少しは前向きに考えてはどうでしょうかね――と、柄にもなく説教しちまいましたね。すいません」

ケイン「……こっちもゴメン」

女A「いえいえ。では改めて質問なんですが――」

女A「――あっこの教団、子供は何人居ましたか?」

ケイン「四人だったよ。最後は三人になっちまったけど」

女A「……ですよねぇ。あなた方からの聞き取り調査じゃ、そうなってますよねぇ」

ケイン「セレナはまだ見つからないの?」

女A「……えぇまぁ。そうなんですけど、えっと……それじゃ、あなたがご存じの特徴とか教えて貰えませんか?」

ケイン「前にも言ったよな」

女A「念のためにですよ」

ケイン「アジア――たぶん、東洋人だった。日本語も話せたから、日本人なんだと思う」

ケイン「二週間ぐらい前に来て、また居なくなっちゃったけどさ」

――MC201410XX-XXXZ

女AN「え、えーとですね。それでは今からあなたの尋問――じゃなかった、取り調べ――でもない、えぇと……」

カレン「質問?」

女AN「そ、それです!質問!質問をしたいと思います!」

カレン「緊張してるの?誰か大人を呼んできた方が良いんじゃない?」

女AN「し、失敬ですねこのお子様は!わ、わたしはきちんとしたシスターですよ!」

女AN「そりゃちょっとは若く見られますし、『全く、シスター・アンジェレネは!』とよくシスター・ルチアに言われますけど……」

カレン「あ、シスターさんアンジェレネちゃんって言うんだ?」

女AN「はっ!?巧みな誘導尋問!?」

カレン「わたしカレン。カレン=スウェドバーグって言うのよ。ヨロシクね」

女AN「は、はぁよろしくお願いします……?……じゃ、なくてですね!」

カレン「セレナちゃんの事を話せば良いのよね?えっとねぇー」

女AN「……な、なぜか会話の主導権があっちに……?」

カレン「肌がねー、すーーーっごくキレイなんだよ!Ceramics(陶磁器)みたいに白くてさーぁ?」

カレン「髪と眼も黒――っていうよりは、夜の色?見つめられたら、なんかヘンな気分になるしー」

女AN「へ、へー?写真とかないんですかねぇ?」

カレン「クリスが描いた似顔絵ぐらいはあるけど、わたしたち携帯電話も持ってなかったからねぇ」

カレン「クリスはママに懐いてたからなぁ」

女AN「……ま、ママ?」

カレン「うん。セレナちゃんってね、すっごい大人っぽいんだけど、意外とワガママなのよ」

カレン「わたしたちに『ママ』って呼ばせたりとかね」

――MC201410XX-XXXZ

女L「……」

クリス「……」

女L「……その、ですね」

クリス「……!?」 ビクビクビクビクッ

女L「しょ、初対面の女の子にここまで怯えられるとは……」

女L「(事情が事情なので分かってはいても、堪えますね)」

女L「(しかし……やはり年が近いシスター・アニェーゼやシスター・ルチアの方が適任だったのではないでしょうか?)」

女L「(特に精神年齢の近――いけませんいけません!シスター・アンジェレネをガキだなどと思っては!)」

女L「(さて、この状態をどうしたら良いのでしょうか……?こんな時、あの子にするんだったらどうするか――)」

女L「(――って、考えるまでもないですが)」

女L ギュッ

クリス「っ?」

女L「大丈夫、あなたは一人ではありませんよ」

女L「苦しい時も、病める時も、不安で押し潰されそうになっている時ですら、あなたは決して孤独ではありません」

女L「天におわす、いと高きあの御方が、私達をご覧になっているのですから」

クリス「……」

女L「……私達は、とても弱きものです。体もそうですし、心はもっと」

女L「けれど、常にあの方は私達がどのような行いをしているのかを見て下さっています。ですから、ね?」

クリス「……ママ?」

女L「そう、ですね。慈悲深き聖母マリアも、あなたのお母様と同じようにあなたを見守り続けてくださるでしょう」

女L「ですから、あなたは真っ直ぐに生きなければいけません。誰に恥じる事無く、誰に後ろ指を指される事無く」

女L「誰かを陥れ、偽りの幸せを手に入れたとしても、それはきっとあなたの手には余る事でしょう」

女L「正しく生き、正しく死ぬ。そうする事によって初めて安寧と幸福を得られます」

クリス「……よく、わからない、けど」

女L「……今はそれでも構いませんよ。ただ、あなたが決して――そう、決して一人ではないと――」

クリス「それ、ママも言ってた……」

女L「そうですね。あなたのお母様はとても敬虔な方だったようです」

クリス「……違う、そうじゃなくって。その」

クリス「”おかあさん”ではなくって、”ママ”が」

女L「えぇと……なんて?」

クリス「つらいことや、くるしいこと、いっぱいあるだろうけど……」

クリス「……ほんとうにイヤになったら、ママのお名前を呼んでって」

女L「ママ、名前……?」

クリス「――そうすれば、いつだって『むかえにいくよ』って」

――ステイル

ステイル ピッ

ステイル「……なんだ、これは……?」

ステイル(この子の言ってる”ママ”ってのは、子供達にしか見えない”ママ”――セレナって子、だよな?)

ステイル(やや年長の子供が、お姉さん風を吹かせて年下の子供に”ママ”と呼ばせる……まぁ、それはある、かも知れない)

ステイル(それは確かに、特殊な環境下へ置かれた子供達にとっては救いだ。それは、いい)

ステイル(だがなんだろう、これは?気味が悪い。まるでオバケの話をされているみたいで)

――MC201410XX-XXAA

女S「それじゃあなたはそのセレナってぇ子を見た事はないのよね?」

テリーザ「えぇ、はい。子供達から話は聞くんですけど、居ないものは居ませんし」

女S「放置してたのかよ?」

テリーザ「あ、いえ具体的に続くようでしたら、何かしようと思っていたんですが、そのっ!」

テリーザ「あれぐらいの子供が、『大人達には見えない友達』を持つのって、割とあるらしいんですよ」

女O「イマジナリーフレンド、では御座いませんか?」

テリーザ「それです、それっ!」

女S「なんだそりゃ?幽霊みたいなものなの?」

女O「お友達が居ない一人っ子が、悪戯に作りだした疑似人格のようなもの、でしょうか?」

テリーザ「ですね。子供に取ってみれば現実と空想の境が曖昧ですし、また想像力も豊かですから」

女S「ふーん?ごっこ遊び、みたいな感じ?」

テリーザ「お人形さん遊び、しませんでしたか?あ、小さい頃ですけど」

女S「あー……」

女O「シェリーさんは今も現え――」

女S「やったわね!小さい頃には!」

テリーザ「あれの延長線上みたいな感じじゃないかなー、と……というかですね」

テリーザ「わたしも気にはなったんで、何回か『ご飯を一緒に食べられない?』とか、『先生とお話しさせてくれないかな?』とか」

テリーザ「本当に誰かもう一人居るんだったら、保護しなくちゃいけませんから」

女S「って言い切るって事はだ」

テリーザ「はい、そんな小さな子なんて居ませんでしたよ」

テリーザ「わたしがあの子達のお世話をするようになって二ヶ月ぐらいですけど、その間は全然」

女S「……ふぅん。それじゃ、まぁ……問題ない、よな?」

女O「で、御座いますのですよ」

女S「それじゃ以上で質問を終え――」

女O「ではこちらへどうぞ。子供達がお待ちなのですよ」

女S「だから!勝手に話を――」

プツッ

――MC201410XX-XXAB

女A「そうですかい、他には何か?」

ケイン「ARISAの歌をよく弾いて歌ってくれたよ。すっげー上手でさ!」

女A「弾いた、のは何で?」

ケイン「んーと、キーボード?って言うのか?あの、電子ピアノ?」

女A「……あー、ありましたね。古そうなのが」

ケイン「後は何かあったっけ……?あ、お姉さんぶるっつーか、”ママ”って呼ばせようとしてたな」

女A「それはどうして?」

ケイン「俺に聞くなよ。クリスは懐いてたけど、俺とカレンはそういう歳でもないからな」

女A「……はい、まぁこんなもんでしょうかね」

ケイン「長いよー」

女A「それでは、こっちへどうぞ?お友達は……まだ終ってねぇみたいですが」

ケイン「あ、やった!お菓子食べてていいのか!?」

女A「どーぞどーぞ。今、紅茶でも――」

プツッ

――MC201410XX-XXAC

女AN「ま、ママですかぁ?なんか、子供ですよねぇー?」

カレン「そうよね?わたしも笑っちゃったもん……あ、でもクリスはよくママって言ってたから、良かったんだと思う」

女AN「そ、それでは他に何かセレナさんについて、ありますかぁ?」

カレン「んー、そうねぇー……?日本語が上手かった、かな?やっぱり」

カレン「わたし達に、先生も教えてくれたけど、セレナちゃんの方がずっと上手かったし?」

女AN「そ、そうなんですか?どんな風に?」

カレン「気がついたらおぼえちゃってる、みたいな感じかな?こう、頭の中へスッと入ってくるみたいな」

女AN「そ、それは羨ましいかも……」

カレン「『お兄ちゃんに失礼のないように』って、頑張っておぼえたんだよー?ね、ねっ?エラいエラい?」

女AN「ふ、ふーんだっ!わたしだってすこしぐらいなら話せますよーだ!」

カレン「あ、そういう事言うかな?あなたって意外――でもないけど、子供っぽいよね?」

女AN「こ、こ、子供ぉ!?このわたしのどこが子ど――」

プツッ

――MC201410XX-XXAD

クリス「……ママはね、おまじないが、とくいなの」

女L「お呪い、ですか?あまり……まぁ、良いでしょう。で、どのような?」

クリス「……わたしたちに、ぱぁっとすると、ぺらぺらになれるんだって……!」

女L「そ、そうですか……?それは良かった、ですね、えぇ」

クリス「むかしむかしにも、おなじことがあったんだけど、こんどはもうおきないんだって」

クリス「だから、おっきなお城をつみあげても、言葉をうしなわずにいいんだよーって」

女L「昔、とはいつの――」

カチャッ

女A「――っとすいやせん!シスター・ルチア緊急事態です!」

女L「はい!敵の魔術師の攻撃ですか!?」

女A「いえその……シスターアンジェレネが、尋問中の子供に泣かされた、って……」

女L「はいっ、ただちに戦闘準――はい?」

女A「……」

女L「あの……シスター・アニェーゼ?今とてもとても残念な言葉が聞こえたような気がしたんですが……?」

女A「……今、シスター・オルソラとシェリーさんで慰めてますが、その……」

女L「……」

クリス「……?」

女A「……も、もう終わりで良いじゃないですかね?他は全部終っちまってるようですし!」

女L「そう、ですね……」

プツッ

――私室

ステイル「…………………………」

ステイル(音声データは以上だし、シスター・アンジェレネのこれからも不安でいっぱいだけれど……)

ステイル(……なんだろうな、これ?今の会話の中に、とても気持ち悪い何か、見落としているようなものがある気がする……けど)

ステイル(あまりにも残念過ぎるオチで、思考回路が働かない……まぁ、良いだろう)

インデックス「――っ!――――――ってば!」

ステイル(子供達にしか見えないのだから、それはきっと子供達にしか影響を――)

インデックス「――ねーえ!聞いてるのーーーー!?」

ステイル「あぁもうウルサいな。今ちょっと手が離せな――」

ステイル「……い」

インデックス「……?」

ステイル「――って君!?どうしてここに居るんだい!?」

インデックス「さっきからずっと呼んでるのにその反応っ!?おかしくないかな!?」

ステイル「ん、いや、ごめん……か?少し考え事――と、仕事をしていてね」

インデックス「めっ!だよ!聞いたんだからね!」

ステイル「……いや、そこまで怒られるのは理不尽だと思うんだがね」

インデックス「そうじゃなくて!あなたはご飯を食べてないって聞いたんだよ!」

ステイル「………………はぁ?」

インデックス「あーくびしょっぷ、って人が『仕事が好きしゅうて好きしゅうてしようがない』」

インデックス「『あぁ誰かあのロンゲ神父へご飯を運んでくれる剛の者はおらんのか……!?』って!」

ステイル「……なんかおとぎ話の鬼退治になってるけど……」

インデックス「だから私が、わーたーしーがっ!持ってきた上げたんだもん!」

ステイル「……あのクソ女……!まさかこのためだけに仕掛けやがったのか……!」

インデックス「ありがとうは?」

ステイル「……ありがとう、ございます」

インデックス「よし!それじゃ食べ終わるまで私が監視してるからね」

ステイル「……いや、そこまでして貰わなくたって――」

インデックス「……あれ、これ”シィ”なのかも」

ステイル「――構わないんだが、まぁ別に邪魔をしないんだったらば吝かではな……」

ステイル「……何?」

インデックス「この魔術シンボルの解釈間違ってるよ?だってこれ”シィ”だもん」

http://tanakadwarf.web.fc2.com/images/c.png

ステイル(しまった!?『濁音協会』のシンボルマークを見られた!)

インデックス「ねー?ねーってば!聞いているのー?これ間違っ――」

ステイル「マズい!目を閉じるんだインデックス!精神汚染される可能性がある!」

インデックス「眼?……瞑れって言うんだったら、瞑るけど……それ、意味無いかも」

ステイル「だってこれは『クトゥルー』の”シィ”だ!君の中に眠る魔導書、ネクロノミコンに悪影響を与えるかも知れないんだよ!」

インデックス「あ、そういう心配?だいじょぶだいじょうぶ、それだったら問題ないと思うよ。だってこれ――」

インデックス「――『クトゥルーの”C”じゃない』んだもん」

ステイル「………………何?今君、なんて……?」

インデックス「これは『くとぅるー』の”シー”じゃなくて!別の”シィ”なんだよ!」

ステイル「いや待ってくれ!これは”シー”――何かの頭文字、Cだろう!?どう見たって!」

インデックス「あー……それ、勘違いかなのかも。ってか描いた人がイジワルなんだと思うけど」

インデックス「これはアルファベットの”シー”じゃないの!もっと古くて厄介な”シィ”なんだよ!」

ステイル「……分かった、オーケー、落ち着こう?」 ボシュッ

インデックス「あーもう、たばこは体に良くないんだよ!」

ステイル「良いから話を続けてくれ。場合によっては今から日本へ飛ばなくちゃいけなくなるんだ!」

インデックス「……また?またとうまなの?」

ステイル「中心に居る訳じゃないが、その周辺をうろちょろしてやがるね、相変わらず」

インデックス「……わかった。それじゃ結論から言うけど、この文字は――」

インデックス「――『シグマ』なんだよ」

ステイル「僕の知ってるΣ(シグマ)とは、大分違うようだけれど……ってか、似ても似つかな――」

インデックス「だから!『”小文字”のシグマ』!」

ステイル「……似てる、かな?だって”σ”だろう?」

インデックス「違うんだよ!それは『現代ギリシャ語』のシグマであって、昔のじゃないんだってば!」

インデックス「分かるかなぁ?ここ!ここに”点”がついてるの!」

ステイル「……えっと、アルファベットの”C”の、丁度真ん中辺りに”点”がついている?」

ステイル(『濁音協会』のシンボルは、水に映った波紋のようなものが背景にある。その中央部……言われてみれば”点”っぽく見えない事もない)

インデックス「昔のシグマは、『三日月形のシグマ』であって、単語自体が特別な魔術記号の役割を持ってるんだって!」

インデックス「それはクトゥルーなんかよりもずっと優しく残酷で!とてもとても旧い神なんだよ!」

ステイル「クトゥルーよりも、旧い?」

インデックス「……」

ステイル「どうしたんだい?」

インデックス「……そっか。もしかしたらそれが目的なのかも!」

インデックス「だって『あれ』もクトゥルーと同じ。死して夢見みながら、永劫の果てに再臨が約定され――」

ステイル「……?」

インデックス パタン

ステイル「――!?インデックス、インデックスっ!?」

ステイル(まさか本当にネクロノミコンと干渉したってのか!?……クソ、僕のミス――)

インデックス「……ぐぅ……」

ステイル「……………………うん?」

インデックス「……ぐー……むにゃむにゃ……」

ステイル「……なんだこれ?てか、寝てる……?」

インデックス「……それはわたしのなんだよ!……うーん……」

ステイル(特にこれと言った異常は見当たらない、っていうかこんなベッタベタな寝言を言うが、敵の攻撃である訳がない、か?)

ステイル(魔力の流れを調べてみても……吐きそうなぐらい濃密で、這い寄るように不快なものが充満している……)

ステイル(良かった、”いつもと同じ”じゃないか……)

ステイル「そう……いつもと同じ、く……?」

ステイル(何か、間違っている、かな?何かおかしいような気がする……)

ステイル(ここは僕の部屋だ。とは言っても仕事部屋でしかないが)

ステイル(窓の外へ目を向けても、そこには夜空にポッカリと満月が浮かんでいる)

ステイル(あぁそうだ、今日は月蝕だったな。だからきっとおかしく感じたんだろう)

ステイル「時計は……AM9時16分……なんだ、もうこんな時間か」

ステイル(こんな真夜中まで起きていたのであれば、この子が眠ってしまうのも仕方がない) トサッ

ステイル(彼女をソファへ寝かせて……僕はどうしようか?)

ママ「――ぼうや、妾の可愛いぼうや」

ステイル「なんだい母さん――何?かあ、さん……?」

ママ「闇の帳はとうに降り、良い子はもう眠る頃」

ママ「夜更かしする悪い子は、狂ったザントマンがやってくる」

ママ「『Danced and Turn(まわれまわれ)』と声をかければ、哀れな父は塔から落ちた」

ママ「お勉強は明日にしましょう?あなたの役目はもう終わり」

ステイル「これは勉強じゃないんだけど……ま、あ、母さんが言うんだったら、うん」

ママ「煙草は消しておくれ。プロメテウスの道標はぼうや達には必要無いものだから」

ステイル「これを、消す?消した方が良いのかな?」

ママ「今まで辛かったろう?だから、しっかり消してお休み――妾の可愛い、ぼうや」

ステイル「そう、だね――」 ジュッ

ママ「はつかねずみがやってきた――」

ステイル「……でも、どうせ――眠るんだったら」

ステイル「この子の、となり――」

ママ「――はなしは、おしまい」

ステイル「………………」

ステイル ……スゥ

ママ「…………………………………………………………………………きひっ」

今週の投下は以上となります。お付き合い頂いた方に感謝を

おっつし☆

相変わらず面白え
原作相当読み込んでるよね田中さん

>ステイル(最大教主に引き合わせてしまえば……?)

なかなかの最強カップルになりそうな予感が。
年上で髪が長くて管理人(ていうか管理職)で……
あれ、上条さんどストライク?

「ひさびさの登場なんだよ!」
「具体的に言うと、1年4ヵ月ぶりの台詞かも!」
「なのに、これだけの出番っぽいのはあんまりかも!」
「メインヒロインとして、どうかなって思うんだよ!」

「…………主役のSSがあるだけ、良いじゃない(バチ…ビリ)」


『この向日葵を、あなたに』大好きです!

>>417
ありがとうございます

>>418-419
一応ファンと自称してはいます。鎌池先生のご本は書店で発売されている範囲でほぼ揃えていますので
(アニメ一期特典の神裂SSと一番クジのS賞?以外は大体ある筈)
が、コアな方には到底及ばないレベルです。ガンダムSEEDに例えるならば、濃いファンがレーゲンブルデュエルで私は精々デュエルダガーぐらい

ただまぁ好きか嫌いかに関しては、「嫌いだったら書いてない」を判断基準にして頂ければ幸いです
これも前に書きましたが、「好きを証明する」には「書く」以外の方法が無い。時間遣って証明する他にどうしようもないと
口先でどうこう言うのは誰にでも出来ますが、第三者に認められるのはそれ相応の行動が必要です

ですが……禁書目録を書いていなければ、恋姫無双か銀魂、英雄×戦姫、サモンナイト、Gジェネ辺りをやってたよーな……

>>420
”お姉さん”か、どうかは正直怪しい所ですが、年上は年上としてヒロインへ据えてみるのも楽しそうですね
面倒見の良さとズバ抜けた包容力から相性は良い筈です。ピンクのシスター服もお手製だって設定もありますし

――2014年10月4日(土) 路上

佐天「ちゃんらーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんっ!」

佐天「初春っ!愛してるよ!薄い本的な意味でねっ!」

佐天「やぁって来ました『学・園・探・訪』!くぅーーっ!ついに昼間の時間帯にまで侵略しちゃうぜ!」

佐天「いやー色々ありましたねぇ。思い起こせば下積み時代からコツコツと――は、してなかった気も?」

佐天「グッダグダの深夜番組から初めて、ぶっちゃけロケと称してあちこち遊び回ってただけ、みたいな……?」

佐天「――はいっ!そんな訳で始めようと思うんですがねっ!」

佐天「今日は何とスペッシャルンなゲストが来てます!やったねっ!」

佐天「てゆーかタイアップ企画じゃないと昼間になんか来れないよっ!何かそんな感じはしてたけどさ!」

佐天「では張り切ってどうぞっ!『奇跡の歌姫』ことぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

佐天「アァァァァァァァァァァリィィィィィィィィサァァァァァァァァァァァさんの登場ですっ!」

鳴護「あ、はい、どうも。ARISAです……」

佐天「なんですかー?テンション低いですよー?折角なんですからもっと上げていかないと!」

鳴護「そうじゃなくて、さっきからアンチスキルの皆さんが『あそこで声張ってる子、なんなんだろう?』ってマークしてるみたいだし?」

佐天「カメラの前のJC大好きと着痩せマニアとファンに一言どうぞっ!」

鳴護「はい、頑張りますっ。よろしくお願いしますっ」

佐天「てか、お久しぶりですよー。ヨーロッパツアーは大丈夫?食べ物に困ったりとか?」

鳴護「えぇ、はい。レッ――スタッフの皆さんが良くして下さったので、不自由とかは全然。はい」

鳴護「イギリスでもタンドリーチキン、とっても美味しかったです!」

鳴護「向こうでも色々な方にお会いしましたし、楽しかったですよー」

佐天「ほっほぅ?例えばどんな方ですか?」

鳴護「ファンの方は勿論ですけど、旅先で仲良くなったお友達とか。レッサーちゃん見てるー?」

佐天「おっと!そこら辺は後で突っ込んで聞きたいものですが、まずはタイトルコールを読み上げて貰いましょうか!」

佐天「主にノルマ的なあれがあるんで」

鳴護「えっと、カンペカンペ――『がくえんとしななだいふしきたんはっじまっるよーー』」

佐天「続きはCMの後でっ!ちゃかちゃんっ」

鳴護「『ご覧の番組は、”未来に生きる?いいや今のは残像だ!”で、お馴染みのTATARAグループの提供でお送りします』」

上条「――ちょっといいかな?」

佐天「なんですかカメラマンさん?」

上条「さっきからボケがタダ流れになってて、誰も拾おうとしないんだけど、これ問題ないかな?てか軽く放送事故だよね?」

上条「一つ一つ拾っていくと、まずアリサの紹介がJC・着痩せに続いてファンが三番目に来るのおかしくないかな?」

上条「あとツアーの感想はいいと思うんだけども、食事から聞くのってどうなの?」

上条「アリサもアリサで『タンドリーキチン、イギリス料理じゃなくね?』とか考えよう?」

上条「レッ――は、まぁフリーダムだし、一応向こうの立場も配慮しよう?」

鳴護「それだとマタイさんぐらいしか居ないんだけど……」

上条「そこは、ほら!ファンだって誤魔化しゃいいじゃん!あっちは去年のクリスマスコンサート褒めてくれてたしさ!」

上条「ついでに言わせて貰うとTATARAさんのキャッチフレーズがおかし過ぎんだろーが!?」

上条「”Innovation that excite○”とか!”面白カッコいいぜ!”みたいなのだったら分かるけども!」

上条「何をどうやったら中二病拗らせるんだよ!?あと、出来れば俺に読ませて欲しかった!」

佐天「『人生に於いて言ってみたい台詞』、の上位へランクインしそうな台詞ですもんねー」

上条「つーかボケ二人ツッコミゼロって、武闘家四人で魔王倒しに行くようなもんだよね?」

上条「最初のダンジョンで『あれ?回復誰も使えなくね?』とか、新しい街で『武器屋で誰も新調出来なくね?』って不安に思わないかな?」

上条「もしくはモンスター四体で塔を登るような感じかな?つーか正攻法から行くとカミ結構強いし、詰んでるよな?」

佐天「理論上はクリティカル連発すれば何とかなるかも知れません!」

上条「それ『アイドルと結婚する可能性はゼロじゃない』って毒男が言ってんのと同じだよね?否定はしないけどさ」

上条「でも浜面の中(予定)の人がアレして、関係掲示板が怨嗟の声に包まれてるのを見ると……」

佐天「玉蟲(オーム)ばりの怒りが世界を覆っちゃってる気がしますよねっ!」

上条「ある意味君達も地雷原に立っている訳だが……俺はいいと思うんだけどなぁ、大人なんだからさ」

上条「てか、番組このままじゃツッコミ無しのグダグダしたもんになるけど、いいの?こんな番組だったっけ?」

佐天「いつもは初春とか御坂さんや白井さんも巻き込むんで、誰かは拾ってくれるんですけどねぇ」

鳴護「二人で商店街レポートした時も、こんな空気だったよね?」

佐天「あれはあれでニコ○のように、視聴者さんがツッコミ入れるんで好評だったようですが!」

上条「……いいのかなー?俺が昔見てた頃のテレビって、もっと手の込んだ作りしてたような……?」

佐天「あ、それじゃ上条さん適当にツッコんできて貰えますか?水曜どうでしょ○みたいに、カメラマンさんが入ってくるのってありますし?」

上条「……絶対に視聴者から抗議殺到すると思うが……まぁ、今更だけどねっ!」

上条「アリサも少しはツッコもう?アイドルとしても拾う勇気を忘れないであげて!」

鳴護「それ、アイドルに必要なスキルとは思えないんだけど……」

上条「そう!そんな感じでもっと元気に力強く断言して!」

鳴護「だからそれやっちゃうとあたしの中のアイドル像とはかけ離れるんだってば!」

佐天「あ、Aパート入りまーす」

――ファミレス

佐天「――はい、そんな訳で移動してきましたファミレス。和食レストランで、デザートのスイーツが充実している所ですよー」

鳴護「今日のオオスメはブルーベリーパフェとダブルモンブランかぁ、迷うなぁ」

佐天「あ、取材費と称して食事代はせしめてあるんで、どうせだったらドカーンと注文されてもいいですよ?」

佐天「『TATARA』さんがねっ!スポンサーの『TATARA』グループさんが張り切っちゃいましてねっ!」

鳴護「スポンサーさん連呼するのはどうかと思うけど……」

佐天「いえ、視聴率はイマイチ奮いませんが、カルトなファンを味方につけたようでDVDの売り上げは中々なんですよね」

佐天「ただ何故か1万枚刷っても必ず30枚余るという謎の現象が!」

鳴護「ファンの人が結託してるー、みたいな?」

佐天「それにしたって意味がないと思うんですよねー、って注文決まりました?」

鳴護「大丈夫ですよ」

佐天「では、すいませーん!注文良いですかー?」

鳴護「佐天さん、呼び出しのボタン付いてる……」

店員「――はい、ご注文お伺いします」

佐天「ドリンクバー三つとケーキセット一つ。アリサさんは?」

鳴護「パスタランチと本日のお勧めランチ」

佐天「おぅ?お昼ご飯まだだったんですか?しかもカメラマンさんの分も注文するなんて、中々気が利――」

鳴護「――と、天ぷら盛り合わせとと揚げ出し豆腐、鶏の唐揚げ」

佐天「――す、よ、ねぇ?」

鳴護「カレイに煮付けに鯛のあら炊き、ぶり大根と豚の角煮と、あと、そうだなー」

鳴護「牛肉ときのこのクリーム煮、牛肉とトマトのオイルソース炒め、牛肉の香味揚げ、牛肉のベーコン巻き」

鳴護「ビーフステーキにビーフシチューと牛タンのワイン煮、かな?」

佐天「……あの、すいません?」

上条「こっち見んな。つーかアリサは普通に食うから」

佐天「そっちの心配じゃなく、予算的なものがですね」

上条「あ、すいません。柴崎さーん!どうせどっかで隠れて尾行(ツケ)てんでしょー?」

柴崎「――ご無沙汰しております。あ、マネージャーの柴崎と申します」

上条「えっと……うん、その、な?」

柴崎「委細承知しておりますので、ご心配は必要無いかと存じます」

佐天「……あっのー?たった今まで隣の席でノーパソ打ってたサラリーマンさんが、何がどうしたらマネージャーさんなんでしょう?」

佐天「てかあからさまに堅気っぽくねぇぜ!って感じなんですが」

上条「前職――前々職がSP?だかって話で、うんまぁそんな感じで」

柴崎「あ、すいません。カメラNGなのでアリサさんへ向けてて貰えますか?」

上条「嬉々としてスイーツ注文する姿はファンにも知られたくねぇだろ!」

佐天「いやぁでもギャップ萌え!みたいなのは期待出来るかもですよ?」

上条「ギャップっつーか、そのまんまな気がするが……」

佐天「あー、テレビではよく拝見してましたし、こないだ食べ歩き番組ご一緒させて頂いた時にも見たんですけど」

佐天「あれはまだ力の片鱗に過ぎなかった、と?」

上条「真の魔力を隠している魔王風に解説しないの。つか見てみてぇな、その放送事故番組」

アリサ「――以上でお願いしますっ!」

店員「え、えぇっと?これホントにいいんですか?」

上条「POS端末の容量超えた、だと!?」

柴崎「自分から詳しくご説明致しますので、どうかお話を続けて下さい」

上条「すいません。つーか心底お疲れ様です」

柴崎「ぶっちゃけEUの方がまだ楽だったとか、決して口には出しませんが」

上条「言ってる言ってる。てかどんだけブラックなんですか」

佐天「――はいっ!という訳でARISAさんが大食いキャラだって再確認した所で――」

鳴護「いやだから、普通だって言ってるんですけど……あたしのお友達にも同じくらい食べる女の子も居ますし?」

佐天「食べた栄養がどこへ行っているかはお察しですけども!気になる人は写真集買うと分かるかもよーっ?」

鳴護「せ、せくはら反対でーすっ。だめ、ゼッタイ!」

佐天「セクハラも何も。ほぼ毎日初春のスカートめくってるあたしに死角はなかった!」

鳴護「死角っていうか、資格の間違いじゃ……?」

佐天「LIVEのブイ見ましたけど、ボディライン出まくり&超谷間見せつけるChuCh○系ドレス着て、何を今更だぜって感じでは?」

鳴護「あたしだってあんなの着るとは思わなかったよ!しかも最後の割には気を遣ってくれてるらしくて、転んでもいいようにショーパン仕様だったし!」

佐天「それでヨーロッパのライブツアーはどうでしたか?」 チラッ

鳴護「あ、カンペ見た」

佐天「ノルマの中に『8日に開催する凱旋ライブの宣伝もしてあげてね?』って、ディレクターさんから言われてまして、その前フリに」

佐天「『さり気なくね?あくまでもさり気なくだからね?絶対にさり気なくだからねっ!?』――と!」

鳴護「うん、だからそれフリじゃないもんね?」

佐天「いやーあたし、実はちょっと怒ってまして。お友達になったじゃないですか?」

鳴護「うん、あたしはそのつもりだけど……?」

佐天「忙しかったのは分かりますが、メールの一本もくれなくて寂しかったかなー、なんてですね」

鳴護「あー……はい、いやほんと、それはゴメンなさい」

佐天「一体上条さんとどんな爛れたツアーをしていたのかと小一時間!」

鳴護「してないよっ!?……し、してない、よね?」

上条「アリサも否定する時ゃはっきり否定する!あと残念な子はその場のノリで爆弾放り込むんじゃねぇ!」

佐天「まぁまぁ生放送じゃなかったら後で編集出来ますし――で、進展も含めておねーさんに言ってみ?んん?」

上条「考えろ、なぁ?場合によっちゃ俺がARISAファンから闇討ちされるんだからな?」

上条「ただでさえ今はビリビリの追っ掛け達から『そろそろ社会的に消す?』みたいな――」

上条「……あ、それじゃ今と変わらないですよねー。そっかー、AHAHAHAっ!」

鳴護「当麻君、眼が死んだお魚さんみたいになってる……!」

佐天「ま、まぁ流石に今のは冗談ですって!冗談!」

佐天「あとファンの皆さんはくれぐれも自重して下さいねっ!誰も得をしませんから!早まった真似をすると回り回って」

佐天「『くっくっくっ、お前のファンがしでかしたんだから、誰が責任を取るかわかってんだろうなぁビリビリビリっ!』的な展開に!」

上条「ビリ一個多くないか?あとそれ多分佐天さんの脳内俺なんだよね?」

佐天「あ、ビリは服を破る擬音です!」

上条「佐天さん、俺会う度に言ってると思うけど、君あんま頭良くないよね?」

上条「『佐天さん巨乳説』には個人的に色々思わない所がない訳でもないと認めざるを得ないかも知れないけど、もっと成長しよう?精神的にね」

上条「初春さんのスカートめくり、通称公然露出プレイ(軽)にしたって、あれ下にショーパンツ履いときゃいいだけじゃねぇかな?」

佐天「あ、それ一回あったんですが、あたしが脱がしにかかったら諦めたらしくて」

上条「……初春さん、大人だよなぁ……」

鳴護「た、多分小学生時代の延長でやってるから、大きくなれば分かる、よ?」

上条「このまま育ったらいつかどこで地雷を踏み抜きそうで怖いが……ま、まぁ初春さんがフォローしてくれるだろうな!」

鳴護「全力で投げたよね、今?手に負えないからって人任せにしたよね?」

佐天「んでー?どうなんですかー、そこら辺はー?」

柴崎(カンペ) サッ

鳴護「『当――上条さんはスタッフとして、よくして下さってますし、年も近いので良いお友達だと思っています』……です!」

上条「今更”上条さん”つっても、編集出来るんだからいいと思うんだけどさ……」

佐天「あ、いえそっちじゃなくて。ツアーの方どうでした、ツアー?」

佐天「予定で行く筈だったロシアもキャンセルして、イタリアで二回やったんでしたっけ?」

鳴護「ですね。あたしも急なお話でビックリしましたー」

佐天「ユーロトンネルでも事故とかありましたし、心配したんですよ?もー!」

鳴護「えっと、はい、ありがとうございます……?」

柴崎(カンペ) サッ

鳴護「『ユーロトンネルでは混乱した中でも、多くの方が冷静に対応しようとしていたお陰で、被害は最小限で済みましたし』」

鳴護「『またロシアとウクライナの事は、一刻も早く両国の努力によって解決するように願っています』」

佐天「あの、マネージャーさんはアリサさんにカンペ読ませてないで、ご自分で言ったらいいんじゃないですかね?」

上条「台無しだなっ!?カンペ見てんだからバラすの止めてあげて!?」

鳴護「て、いうか、佐天さんの方はどうだったの?」

佐天「そう、ですねぇ……別にフツーっちゃフツーでしたけど……あ、そういえば!」

佐天「去年の『エンデュミオンの奇跡』の前ぐらい、あたしや初春達でステージ上がったじゃないですか?」

佐天「前のマネージャーさんに誘われて、あたし達にもステージ衣装着せて貰ったの!」

鳴護「……ステージ、壊れちゃった時のお話だよね?」

佐天「ですねー。もうすぐ一周年って事でその映像を流してたんですが――」

佐天「――実家の母がその動画を見たらしくてですね、はい」

鳴護「あー……見られちゃったかー」

佐天「当然、激おこ」

鳴護「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!嫁入り前の娘さんにあんなハレンチな衣装着させてすいませんでしったっ!」

上条「そう、か?俺も見たけど、可愛かったよ?」

佐天「あざーす!……ではなく、母は言いました!」

佐天「『なんて事でしょう!恥をお知りないな、涙子!』」

鳴護「……あたし、佐天さんのお母さん知らないけど、多分キャラ違うような気がする……」

上条「てかその口調の母親からこの子が産まれる筈がねぇよ」

上条「や、でも内容的には合ってるか?露出は少ないようで絶対領域超えてたしなぁ」

鳴護「……当麻君?」

上条「一般論です!一般論!」

佐天「『――ノリで初春さんに負けるなんて、もっと前に出るべきでしょうが!』」

鳴護・上条「「言いそう」」

佐天「――と、厳しい訓戒を受けたような、受けてないような?」

上条「……どこまで盛ってると思う?」

鳴護「言われた、のはホントだろうし……『もっと前へ出ろ!』も、佐天さんのお母さんならやってくれる筈……!」

佐天「いやもうホント心配性でしてねー――で、アリサさんのお母さんはどうです?」

鳴護「あたし?」

上条「(それ地雷!)」

鳴護「あたしは――そう、ですねぇ。事情があってお母さんの事はよく分からないんですけど、その」

鳴護「佐天さんとお母さんの距離感って羨ましいですよねー。お友達!みたいな感じで!」

上条(……アリサ)

佐天「ですかねぇ?こないだもですよ、『アイドルデビューはしないの?』みたいな感じで、えぇ」

鳴護「あ、だったらウチの事務所から出ちゃう?ってもあたしの個人事務所だから、あんまり大きな事は出来ないけど、安心だよ?」

佐天「マジっすか!?ネタじゃなく!?本気と書いてホンキって読む方の!?」

上条「それ、普通じゃね?」

鳴護「うん、マジマジ。なんだったら初春さんや御坂さん、白井さんと一緒にどうかな?」

佐天「いいですねー、それじゃユニットを組んだりしたり?例えば――」

佐天「――『スフィ○』とか?」

上条「縁起悪っ!?」

佐天「てかスフィ○ポーズ、寝かせてないで真っ直ぐ立てると『カネ』って見えなくも――」

柴崎(カンペ) サッ

鳴護「『ただ今一部の演者により不適切な発言がありましたが、それは実在・非実在する個人や団体に関するものではありません』」

鳴護「『仮に同じ名前であったとしても、それは偶然でありフィクションであるため、何ら関係性は御座いません』……と」

上条「スゲーな!こんな長文事前に用意してあったとしか思えない!」

鳴護「……あたし、どんなポカをやらかすと思われてるのかな?」

佐天「てかマジ話ですか?本当に?ネタではなくって?」

鳴護「大丈夫!絶対に安心だからねっ!」

上条「……何があったんだ、アリサ」

鳴護「聞いてよ当麻君っ!?だってあたしシンガーソングライター枠で応募した筈なのに、気がついたらフリフリの衣装着て踊ってたんだから!」

上条「やだ、そこだけ聞くと芸能界って超こえぇ」

佐天「素敵な感じで魂の叫びを感じますし、あっちのジャーマネさんも目を逸らしていますよ」

鳴護「もう一人でネットラジオのMCやるとかライブのMCやるのは寂しくて寂しくて……」

上条「誰か雇えばいいじゃん?他の事務所とか」

柴崎(カンペ) サッ

佐天「『最初はリーダーがやる気になったので、全力で止めた結果、誰も出来ない有様に』……って、変なカンペですね?」

上条「佐天さん佐天さん、君気付かなくて良い所には100%の確率で気付くよね?狙ったように踏み抜くもんね?」

鳴護「歌歌えとか踊れとか言わないから、MC関係だけでも前向きに考えてくれないかなっ?具体的には今度のライブから!」

佐天「お友達が困ってるんなら、お手伝いしたいんですけど……んーむ?」

鳴護「あ、じゃ収録終ったら事務所へ来て貰えるかな?大丈夫、細かい内容を詰めるだけだから!軽い気持ちで!」

佐天「どうしましょう?何か『否が応でも逃がさねぇぜ!』って強い意志が見え隠れするんですけど」

上条「……んー……無責任だけど、一回やってみてダメだったらそん時に考えればいいんじゃね?」

佐天「また無責任な」

上条「てかアイドルの相方のMCなんて、生涯にどんだけ出来るんだっつー話でさ」

上条「胡散臭い事務所は腐る程あるけど、アリサんとこは身内だけで回してるからまず大丈夫だよ?」

上条「なんつってもアリサが出来るぐらいだから」

佐天「ですよねぇ、アリサさんが出来るぐらいですもんね」

鳴護「あれ?何か引っかかるな?」

上条「芸能界って、何だかんだ言っても同業他社の壮絶な足の引っ張り合いじゃんか?だから居れば居る程擦れてくるし」

上条「でもアリサはそんな中に居てもデビュー前から変わらないだろ?だから安心出来るよね、って意味で!……多分!」

鳴護「……当麻君」

佐天「チョロっ!?」

上条「黙っていような?拗れるからさ」

柴崎(カンペ) サッ

上条「『元・暗――じゃなく、専門のスタッフが居るので、相手が能力者でも安心・安全を保証させて頂いております』」

鳴護「お給料も、えっと……お給料制+歩合制で……基本が一ヶ月これだけ、かな?」

佐天「え?これ年間じゃないんですかっ?」

鳴護「あとこの他にも、ボイトレとか演技の授業とかの経費は全部事務所持ちだし」

鳴護「準社員扱いになるから、初春さん達とユニット組めば同じ寮に住めるよ?あ、勿論費用はこっち持ちで」

上条「おいバカ止めろ!現役アイドルが生々しいカネの話を電波に乗せるな!」

柴崎(カンペ) スッ

上条「『そろそろ次の展開を考えていたので、丁度良いと思います』――って、アンタも乗り気かっ!?」

上条「中途半端にアイドル路線は良くないって!ファーストアルバム出してから、その後CDの仕事が来なくなった声優さんだって居るんだからな!?」

佐天「え?CDって出せば売れるんじゃないんですか?」

上条「鬼っ!悪魔っ!高千穂っ!出来る子の理論で世界は回ってなんかないんだからな!」

柴崎(カンペ) サッ

上条「ホレ見ろ!マネージャーさんだってこう言ってるぞ!」

上条「『TariTar○関係で結構売れています』――よし、戦争だ!全員でボケ倒すつもりなら俺にだって考えがあるぞ!」

上条「さっきから気になってたんだけど、どうツッコんでいいか分からなかったツッコミをするからな?覚悟しとけよ!」

佐天「その心は?」

上条「『学探』はどーした?」

佐天「――ぁっ」

上条「素で忘れてやがっただろうが!今までのほぼ雑談じゃねぇかよ!いつも事っちゃいつもの事だけど!」

佐天「――はいっ、って言う訳で始まりましたけどね-、『学園探訪』」

佐天「あ、お久しぶりですー、アリサさん?お元気でしたかー?」

上条「無理だろう。アリサ相手に腹芸とか通じないと思うよ?」

鳴護「へ、編集さんが頑張ってくれれば、何とか!」

芝崎(カンペ) サッ

佐天「『ではCMへ行きまーす』……はい、Aパート終了ですね。今の内に休んどきましょう」

店員「あの、お料理出来ましたので運んでも宜しいでしょうか?」

佐天「あ、お願いしまーす」

鳴護「佐天さん、さっきの話冗談じゃないからね?本気で考えてね?」

佐天「事務所へ伺えば良いんでしたっけ?正直、キョーミ津々ではあるんですがねー」

柴崎「あ、送迎でしたら、遅くなってもご自宅まで車を出しますのでご心配なく」

佐天「……なんか、外堀から着々と埋められてる気がするんですけど」

上条「怪しげな所だったら殴ってでも止めるけど、アリサんトコならスタッフの人も知ってるし大丈夫」

上条「流石に今日話聞くのはアレだと思うから、日を改めて初春さんと一緒に行けばいいんじゃね?」

鳴護「むー……仕方がないかなぁ」

柴崎「上条さんの仰る通りです。事を急いでも碌な事にはならないかと」

上条「言って上げて下さい」

柴崎「近日中にご実家の方へ菓子折を持って伺いますので、暫しお待ちを」

上条「お前も大概過保護だよな?何?シャットアウラから伝染ったの?」

佐天「あ、そろそろBパート始まりまーす」

――ファミレス

佐天「ってな訳でご飯も運ばれてきましたし、食べながらお話ししましょうか。では――」

佐天・鳴護「「いただきまーすっ!」」

佐天「んー……っ!美味しいっ!よくあるファミレスかと思いきや、中々やりますよねっ!」

鳴護 モグモグ

佐天「計算された味って言うんでしょうか、こう、品質を落とさずに一定以上の味を提供する――そんな凄みさえ伝わって来るような一品です!」

鳴護 モグモグ

佐天「しかもお値段リーズナブル!あたしのような学生にも優しいっ!よっと、店長良い仕事してんなっコノヤロウッ!」

鳴護 モグモグ

佐天「……」 チラッ

上条「……」

鳴護 モグモグ

上条「――ってしろやリポーターを!?何一心不乱に食ってんの!?」

鳴護「――もぐ?」

上条「口の中の物飲み込んでから!アイドルが失態見せないで!」

鳴護「……って、何?あたし何かやっちゃったのかな?」

佐天「いえあの、あたしらがフツーに黙々と食べていたら、放送事故になるんじゃ?」

鳴護「……あぁっ!そうだよねっ!」

上条「慣れろよ。一年以上もアイドル兼食べドルやってんだから」

鳴護「……食べドル?それきっと良い意味じゃないよね?」

佐天「お、あたし知ってますよ。元フードファイターでいい歳なのにケバい格好した女の人瞬殺したから、誰が呼んだか『ガチで食べるアイドル』」

佐天「略して、『食べドル』!」

鳴護「あれは……あの人が食事の後毎にお手洗いで吐いてたから、『苦しいんだったら無理して食べない方が良いですよ?』って言っただけだもん!」

佐天「それを生放送でカマして、視聴者がほぼ全員アリサさんの味方になったという……!」

上条「あー……あの人らは命削ってるから、どっかで止めた方が良いんだよな、きっと」

上条「誰がどう見てもどっかで『処分』してないとオカシイのに、同じ局で『子供の貧困率がー』とか言うんだからどうしようもない」

佐天「てか更に本題へ戻しますけど、アリサさんってオカルト的な話はお好きですか?」

鳴護「えっと……」 チラッ

柴崎(カンペ) サッ

鳴護「『怖いのはあまり好きじゃないですけど、都市伝説ぐらいだったら、はい』」

上条「……しかし手慣れてるよな。一体どんな修羅場をくぐったのか想像もつかないが!」

柴崎「(修羅場と言うよりは適当にあしらうのを憶えただけですが)」

柴崎「(今の音楽業界でメジャーデビューする意味はほぼありませんし、いつ芸能界から干されても構わない、というスタンスで)」

上条「終ってんなぁ、音楽業界も」

柴崎「(レコード社との専属契約で囲い込まれるより、CDリリース限定契約で充分やっていますから)」

上条「超絶不況の時だって、アニメ・ゲーム業界だけは売り上げが変わらなかったのに、『ネットか悪い!』って言った時点で終わりだろ」

佐天「あー、それじゃこの間やってた番組見ました?『世界の超常現象スペシャル!』的なの」

鳴護「あー、見ました。大の大人がUFOや幽霊について熱く語るんだよねっ。マネージャーさんに『リアクションの勉強になるから』って言われて、はい」

佐天「目の付け所が違うと思いますけども……ど、どうでした?」

鳴護「ピタゴラスだか、ソクラテスだか、有名な大昔の学者さんのお話ありましたよね?」

佐天「ありましたありました!その時代に書かれている地図が、今と殆ど変わりがないってオカルト!」

佐天「やっぱりですねー、あたしはあると思うんですよー、オーパーツ的なものがねっ!」

佐天「あ、知ってます?オーパーツ?言ってみればロスト・テクノロジィ(※巻き舌)の産物って言うんでしょうかねぇ」

佐天「他にもアンティキテラの歯車とか――」

鳴護「その学者さん、UFO的なものに乗せて貰ったら、もっと正確な地図が描けるじゃないでしょうか、ねぇ?」

佐天「……えっと?」

鳴護「確か芸術家や数学者としても有名な人で、天才だったらば、こうもっと寸分違わぬような地図!が、出来るんじゃ?」

鳴護「ていうかそもそも、あたしが宇宙人さんでその人を乗せたんだったら、『あ、ここ少し違うよ?』みたいな監修すると思うんですよね」

鳴護「なんだったら余ってる地図とか、置いてくって発想は無かったんでしょうか?」

佐天「えーっと…………そう!心霊動画!あれは怖かったですよね!」

鳴護「あー、ありましたよねぇ。こう、事故があった場所へ酔っ払った男の人が行くって」

佐天「そうですそうです!その人達が不謹慎にもバカにするような言動をした結果、その事故で亡くなった女性の生首が――」

鳴護「でもあれ、普通動画撮らないよね?」

佐天「……」

鳴護「酩酊してる割にはアングルもしっかりしてるし、女性の声を認識してますし」

鳴護「都会の雑踏の中、あんな小さな声を酔っ払った状態で聞き分けるなんて凄――」

佐天「他にも!滝壺から這い出る女性の霊――」

鳴護「這い出てる、って事は重力的なものは感じてるんですよね?」

佐天「そうですよっ!」

鳴護「髪は何故か斜め下固定になってませんでした?おかしいですよね?」

鳴護「あと他にもムービー撮ってる筈なのに、三脚が撮影しづらい自由雲台になっているのはなんかこう、はい」

鳴護「あ、自由雲台ってのはパン棒がついてないのモデルで、スチルカメラでよく平行移動――」

上条「いい加減にしておこう、なぁ?アリサさん天然発揮するのも大概にしないと」

上条「今、俺が口を挟む暇も無い程、鮮やかな流れでオカルト瞬殺してったけど、お願いだから番組のタイトル思い出して上げて?」

上条「つーかカメラ詳しいな。趣味かなんか?」

鳴護「写真集撮影の時に、カメラマンさんが空いてる時間に教えてくれたの」

柴崎(カンペ) サッ

佐天「『ちなみに女性です』、ですか。ガード堅いですよねー」

上条「てかあの番組、俺も『しょぼっ!?』って見てて思ったけども!もうちょっと他に振るのないのっ!?」

佐天「えー、無茶ブリはそっちだと思いますが、あぁっと……あ、はい、ありましたありました。都市伝説の方」

佐天「『スレンダーマン』ってご存じですかー?」

鳴護「あー……やってたよねぇ、てかアレも『ゲームソフト撮るかな?』って――」

佐天「ありましたよねっ、ねっ!?」

鳴護「……あ、うん、ごめんなさい……」

上条「え、なに?俺知らないや。途中から見たし、どんなの?」

佐天「ググればいいんじゃないですか?」

上条「番組は!?確かにボケを天然に轟沈されて悔しかったのは悪かったよ!ツッコミ忘れてメシ食ってた俺の責任だけどもさ!」

上条「今度メシでも作るから!機嫌直して、な?」

佐天「やたっ!ゴチになりまーすっ」

鳴護「当麻君、そーゆーのが……まぁいいけど」

上条「おぉっと!何を言っているのは分からないな!」

柴崎(カンペ) サッ

上条「『修羅場ですね(死ねばいいのに)』――おい、カッコ必要かな?これあんたの本音って意味なんだよな?」

佐天「まぁまぁまぁまぁっ!過ぎた事は水に流して!都市伝説、『スレンダーマン』の解説をしちゃいましょうねっ!」

上条「いいけど……スレンダー?」

佐天「特殊な性癖を隠すために、あえて『スレンダー』と言っている人達の話じゃないですからね?」

上条「うんまぁ、リアルにそういう人達も居るけどさ。そんな話してなかったよな中学生?立場を弁えて、な?」

佐天「実はロ×ペ×なのにカモフラージュするため、『お姉さん好き!』と公言してる人の話でもないですから!」

上条「それは君、遠回しな宣戦布告なのかな?公共の電波に乗せる意味ってあるか?」

佐天「あ、すいません。紙と何か書く物ありませんか?あった方がイメージしやすいんで」

柴崎 ササッ

上条「ありがとうございます。って書くの俺かよ」

鳴護「先入観ない方が書きやすいと思うよ。複雑でも無いし」

佐天「ですねー、それでは『スレンダーマン』の特徴!”スレンダーである”!」

上条「まんまだな……や、でもそうじゃなきゃ噂にならないか」

上条(スレンダー、スレンダーなぁ?) カリカリ

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上条「……こんな感じ?」

佐天「絵心の欠片もありませんが、もっとです。もっと」

鳴護「だね。あ、顔はのっぺらぼうだから、このままでオケ」

上条「足長くすればいいのか……っと」 カリカリ

上条(何か少女漫画の登場人物みたいな。リアルなデッサンするんだったら、このぐらいの頭身は”スレンダー”だろう)

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佐天「足りませんなー、もう二声ぐらいずいーとっ!」

上条「そんなになのかっ?……や、まぁ都市伝説なんてそんなもんだとは思うけど」

上条(これ以上、足伸ばせないから裏に改めて書こうっと。あ、少し透けてるが……いいか)

上条(きゅっきゅっとー……あ、ヤベ。やり過ぎた)

上条(針金細工みたいになっちまってるけど、クツ描いてーと)

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上条「どうだ!」

佐天「少し短いですが、まぁこんな感じですねー」

鳴護「だねっ」

上条「やだ超目立つじゃない――てか、これパースおかしいだろ!どう見ても3mぐらいはあるし!」

佐天「ですから”スレンダー”マンなんじゃ?」

上条「あー……ツッコんだら負けなんだよな、きっと」

鳴護「他にも特徴なかったっけ?スーツを着てるとか」

上条「いやだから、この時点で超目立つし……」

佐天「ちなみに全身白いという設定だそうです」

上条「俺の知り合いにも二人白いの居るけどさ、あいつら遠くから見ても分かるもの」

上条(服っぽいの着せてー……)

佐天「あ、下半身は裸だそうです」

上条「なんでだよっ!?それ怪人じゃ無く変質者じゃねぇーか!」

鳴護「無いんじゃないなか、サイズ的に?」

上条「……だったらなんか巻いて置こうよ、方向性間違ってんだろ……」 カリカリ

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上条(……いやもう子供の落書きだけど……良しとしよう、うん)

上条「……完成だよな?もうスーツ着てる辺りで設定的にはお腹いっぱいなんだけど、これ以上乗っけないよね?」

鳴護「や、それが、ねぇ?」

佐天「お気の毒ですが、スレンダーマン最大の特徴がまだ一つ残っておりましてね、えぇはいっ!」

上条「な、なんだってーーーーーっ!?」

佐天「ナイスリアクションっ!それは何かと言えばっ!」

上条「よっし!かかってこいや!」

佐天「何とぉ――背中からたくさんの触手が生えているっ!!!」

上条「盛り過ぎじゃねぇか!?つーかスレンダーマンの設定考えたヤツ出て来いや!俺が説教すっからな!」

上条「背が高いのは100歩譲ってありとしよう、なぁ?のっぺらぼうももしかしたらあるかも知れないよ?そりゃ?」

上条「妖怪の神様ものっぺらいぼうとぬっへっほふの類似性とか、ベトベトさんとベトサントの共通性について語ってるしな!」

上条「妖怪っつーか昔の都市伝説っぽい話に、ムジナってのもあるぐらいだから、まぁあるかも知れないけど!」

上条「スーツ着てるのも『あ、こりゃ全裸で歩かせると目立つよな?』的な判断したんだと思うから!それはそれで良いさ!」

上条「でもな!触手どっから持って来やがった!?アレか?ジャパニメーションの弊害か?なぁ?」

上条「『なんかインパクト弱い……そうだ!触手生やしとけ!』みたいな感じか?あ?」

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上条「……もうこれ、属性混ぜすぎじゃねぇの?つーかこれでいいのか?」

上条「てーかどっか見た事あるよ!アメコミのヴィランでこーゆーの居なかったっけ?」

柴崎 コトッ

上条「ノーパソ?これは……どっかの公園で子供達が遊んでる写真だよな?」

佐天「あーこれスレンダーマンの有名な画像ですね。左側、遊具の後ろ辺り見て貰えません?」

上条「陰になって……あ、女の子と背ぇ高くて腕が、ぐにょんってなった奴が映ってる……」

佐天「そう!これがまさにスレンダーマンなのですよ……!」

鳴護「これ、望遠レンズの圧縮効――」

佐天「怖いですねぇ、恐ろしいですよねぇっ!スレンダーマンはあなたの身近に潜んでいるのかも知れませんよっ!」

鳴護「だからその、佐天さん?さっきから言っ――」

柴崎(カンペ) サッ

鳴護「『こ、こわーいなー!どうしよう佐天さん、あたしスレンダーマンに遭っちゃったらー?』」

上条「茶番じゃねぇか。徹頭徹尾そうだけどもさ」

佐天「ご心配なく!苦しい時!そんな時!頼りになるのは『噂』もリサーチ済みでありますんでっ!」

上条「あー、あれか?口裂け女には『べっこう飴』や『ポマード』って言うのと同じで」

鳴護「聞いた事ある。『ベトベトさんベトベトさん、先へお行き』みたいな」

佐天「しかもこれ、学園都市だけに広がっている噂らしいんですよ。あ、ネタでは無くマジです。初春情報ですから!」

上条「へー?学園都市も人多いからなぁ、ローカルな都市伝説も生まれるんだー?」

佐天「なんかですね、怖い都市伝説に追い詰められたとしましょう。バネ足ジャックでもスレンダーマンでも良いですが!」

佐天「そんな時、こう叫ぶと助けてくれるんだそうです――では、ご一緒に!」

佐天「『助けてー、カブトムシさーーん!!!』」

上条・鳴護「「……」」

佐天「って言ってくれなかった!?」

上条「事前に知らされない、っていうか正直、いつもの『初春愛してるぞー!』が来るもんだと身構えたんだが」

佐天「………………チッ」

上条「あ、こら女の子が舌打ちするんじゃありません!」

鳴護「それじゃ今の冗談じゃ無くって、本当に?――って噂を聞くのもどう思うけど」

佐天「はい、そうです。なんでも路地裏で危険な目に遭いそうになったら、そう呼べば白いカブトムシが助けてくれるそうです」

上条「……白い、カブトムシ?」

佐天「おっと上条さん!それは何かを知ってる顔ですなっ!」

上条「いや知らないよ?やだー佐天さん、幾ら俺でもカペド虫の知り合いなんて居ないって!」

佐天「カペドむし?」

上条「噛みました。他意はありません!」

鳴護「当麻君が必死になるって事は……あっ」

上条「天然さんも空気読もうね?あ、ほらステーキ美味しそうだぞー?」

鳴護「……当麻君はあたしを子供だと思ってもぐ?もぐもぐっ!」

佐天「やべぇ両頬に肉詰め込むアリサさん超可愛えぇぜっ!」

上条「佐天さんも自重しなさい――てかカオスすぎるわ!なんでオカルト系深夜番組でこんな展開になってんだよ!?」

上条「……使える場面あるか?さっきからどう超編集した所でまともな部分はないと思うんだが……」

上条「てかもう完全にフリートークという名の雑談だけで、俺らがファミレスでしてるレベルの話しかしてねぇしな!」

佐天「ちっちっち!ナメて貰っちゃあ、困りますよ上条さん!こう見えて『学探』は結構長く――は、やってないですけど!」

上条「だから、そーゆートコがね?」

佐天「さっきから編集編集言いますけどねっ!そこはそれあたしの培った手腕で!立派に番組を作ってますし!」

上条「その一点の陰りもない澄み切った笑顔、俺は信じてやりたいんだが……!」

鳴護「うん、やっぱりあたし佐天さんもアイドルに向いてると思うよ。主にそーゆートコが」

佐天「つーかこれ、生放送なんで編集出来ませんしねー」

上条「…………………………うん?」

佐天「や、ですから記念すべき第一回目と同じく、生ですっ!LIVEですわ、えぇはい」

上条「……待て待て?さっき『生放送じゃなかったら後で編集出来る』って」

佐天「えぇ言いましたねー。でも『生放送じゃない』んで、ざーんねーん!ナマなんで編集出来ませんっ!つーかこれも流れています!」

上条「――ってバカじゃねぇのかっ!?編集出来ると思ってアレコレ言いまくったよ、俺!」

上条「放送事故ギリギリいっぱいの食レポートとかも流れてんのかっ!?アリサも聞いて――る訳はねぇよな!」

鳴護「あたしはまぁ、別に?この間の商店街巡りもそんな感じだったし?」

上条「お前ら未来に生きすぎるだろ!もうちょっと色々キチンとしようぜ、なあぁ!?」

佐天「『未来に生きる?いいや今のは残像だ!』――で、お馴染みのTATARAグループの提供でお送りしていますっ!」

鳴護「あ、繋がったよ!凄いね当麻君!繋がった繋がった!」

上条「だからアイドルが繋がった繋がった連呼するんじゃありません!コラ素材にされるから注意しなさいっ!」

佐天「――と、言う訳でお送りしてきました『学園探訪』!今日もきっちり何にもしませんでしたがご愛敬!」

佐天「あ、ここでアリサさんから告知があるそうですよー?」

上条「あれ?俺をスルーする流れなの?」

鳴護「今度の8日?にライブやりますっ。チケット……は、もうないけど、ネットで見られますんで、応援よろしくお願いします」

柴崎(カンペ) サッ

鳴護「『新曲、”夜と月のパヴァーヌ”のお披露目にもなります。どうぞお時間が許すようでしたら、是非ともご覧下さいねっ(はぁと)』」

上条「……こんなんでシメるの?こんなんでいいの?」

佐天「では最後!リスナーの方からメールが届いてまーす!」

上条「最後の最後にメールて――あれ?募集してなかったよな?」

佐天「ハンドルネーム、『目覚めるとゲコ太になっていたい』さん!」

上条「やだ俺その人知ってる。てかそれフツーに友達からメール貰っただけだよね?」

佐天「いつもメールありがとー!あ、今度素敵なアクセのお店見つけたんで、行きましょーねー?」

上条「公共の電波使って言う事じゃねぇよ!TATARAさんもう少し厳しくして上げて!?」

佐天「えぇっと――『佐天さんARISAさん、マネージャーさんとその他の人こんにちは!』」

鳴護「あ、お久しぶりです御坂さーん」

上条「だーかーらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

佐天「あー、ウッサいですよ!お静かに!メール読めないじゃないですか、良い所なのに!」

上条「……あのさ?もしかしたらなんだけど、もう嫌な予感しか――」

佐天「『ARISAさんShootingMOONツアー成功おめでとう御座います!一ファンとしてとても嬉しいです!』」

鳴護「ありがとー」

佐天「『これでアイドルからも見事に脱却され、本格派シンガーとして確立されていくんだと思います』」

上条「……お、意外とまとも、か?」

佐天「『今後、学園都市だけではなく、海外でも積極的に活動されるのを寂しく思いますが』」

佐天「『以前からの応援している私としては、胸が一杯になります』」

鳴護「……ありがとう、うん、本当に……!」

上条「御坂……いい話――」

佐天「『――で、そんな世界的アーティストになったARISAさんなのに』」

佐天「『横で親しげに名前で呼んでいるツンツン頭とは、一体どういうご関係なんですか?』」

上条「待て!違うんだ!これはきっと――」

上条「――敵の魔術の攻撃なんだ……ッ!」

鳴護「あ、決め台詞出た」

佐天「――と、言う訳で今回の『学園探訪』はこの辺で!謎は次回だ!解明したいと思います!」

上条「待て、待てって!?お前これこのまま終ったら、俺見てる人になんて思われ――」

佐天「本日のゲストは歌手兼食いドルのARISAさんでしたー!では、ご一緒に別れのご挨拶をどうぞ!せーのっ」

佐天・鳴護「「うーーーいーーーはるーーーーっ!愛しーーーてーーーるーーーぞーーーーーーーーっ!!!」」

上条「違うんだ!俺は罠に填められただけで――」

プツッ

――2014年10月4日(土) 路上・夜

 学園都市の夜は早い――と言うと語弊があるかも知れないが、交通機関は早々に仕事を止めてしまう。
 学生の本分は勉強である、を建前に大体夜7時前後にはバスも電車も終電になる。親元を離れた学生達が主役の街である以上、一定の歯止めは必要だろうから。
 なので多少友人との遊ぶ時間を作ろうとするのであれば、土日や祝日。普段よりも授業が少ない日に宛てるのは当然。それは学園都市でなくともそうだろうが。

 そんな浮かれた学生の一人、佐天涙子はコンビニ帰りに考えていた。
 『学探』の収録を無事に終え、残った時間を鳴護アリサとのお喋りに費やし――若干一名、脱兎の如く逃げ出した先輩はさておき――気がついたら終電を逃しそうなので、お開きにした。

 流石に今日はファミレスでお腹いっぱい食べたし、自炊もするよう気分じゃなかったので、コンビニで朝食のパスタとサンドイッチを買い、さっさと帰る事にする。

(ママに見つかったら叱られちゃいそうだけど……ま、たまにはいいよね?……てか)

(アイドル、ねぇ?あたしが?マジっスか!やったね初春!)

 話が唐突すぎてついていけない部分は多々あれど、友達を助けるのには吝かでは無い――以上に。

(……むぅ。憧れだよねぇ、アイドルって)

 煌びやかなステージへ立ち、ファンの前で華やかな衣装を身に纏い、歌う。

(憧れない女子などいるもんか!いや、居ないっ!)

 能力の大小、少なくとも今では大切な友人の一人だと思っている御坂美琴へ対する劣等感。それが表に出て来る事はもうないであろうが。
 ただ、それはそれ、これはこれ。
 同世代の女の子、しかもアイドルとして活躍している人間へ多少思う所がない、と言う程に無欲でもなかった。
 それを”欲”と呼ぶにはあまりにも細やかであったとしても。

(アイドルになれるかは分からないけど……うーん?MC、ぐらいならやってみたいよーな?)

 ……と、単純に自身が今まで歩んできた道、それと異なるものを提示された喜びで満たされていた、というのがザックリと彼女の心情を表している。
 誰しもが、大抵は、子供の頃に夢見たものが、思いがけなく手が届きそうになるとすれば、浮かれるのも無理はない話である。

 ――だが、しかし。

 開いている道は決して一つではなく。またそれはアカルイミライが約束されているとは限らない。
 悪意で人を騙す者は勿論、善意で人を騙す者も少なくない世界で。

 この少女は――”そういう”道へ踏み込む事も躊躇いはしないのだから。
 そして何気ない日常の落とし穴はそこかしこに、空いている。

 人里離れた大森林の中に。
 寄る辺のない廃村の奥に。
 誰も知らぬ深海の果てに。

(あれ――?)

 そして当然、学園都市の路地裏もまた一つ。ぽっかりと、這い寄るように。

 ”闇”が。

(今……路地裏へ入っていった人、なんか、なんかこう……おかしかった、よね?)

(くたびれたスーツを来たおじさん、なんだろうけど……)

(”頭”が真っ白だった、っぽい?)

 つい先程まで語っていた『スレンダーマン』のように。

 禿頭――僧侶のような剃髪ならば地肌の色が見えるだろう。夕暮れを過ぎ、夜になった頃に見たいものでは決してないけれども、まぁ居るかも知れない。
 ”カリキュラム”関係や一部の体育教師――『警備員』を兼ねている――がしている。そう彼女の記憶にはあった。
 おぼろげだが、航空自衛隊出身のパイロットとして予備役にあるとか何とか。日直で名簿を届けに行った際に聞いた事がある。
 ……まぁ、「何でツルッパゲなんですかねっ!」とストレートに聞いて、隣の少女が卒倒しそうになったのは余談ではあるが。

 しかし、つい今しがた目にしたものは、街灯の乏しい光量にすら映える”白”。
 そうそう見間違えるようなものでは、ない。

(……ってもどうしましょうかねー?包帯を巻いていましたー、なんてオチだったらそれはそれで笑えるけど)

(つなぎ目みたいなのも無かったし……うーん?)

(……ま、勘違いだったら、『ごめんなさい!』すればいっか!いいよねっ!)

 こうして佐天涙子はおっかなびっくりながらも、深淵を覗き見る暴挙へと及んだ。

 ……だが忘れる事なかれ、然れど教訓が生かされる事もなく。

 長く深淵を覗く者を、深淵もまた等しく見返すのだから。

――路地裏・夜

 コツ、コツ、コツ、コツ、コツ、コツ……。

 決められたリズムを保ちながら、目の前の『それ』は路地裏を歩いていた。
 遠目の上に暗がり、よく分からないビールケースや段ボールが積まれてる中を、ペースを落とさずに一定間隔で。規則正しく、と言えば語弊があるか。

(『アレ』……おかしい、よね?)

 恐怖心よりも好奇心を優先させた結果、佐天涙子は謎の人物を尾行していた。というよりも、してしまっていた。
 最初は慣れぬ――事も無く、割とある話だが――尾行と緊張で、何度か不用意に音を立ててしまっていたが、気付かれる心配も無かったようだ。
 ビール瓶を倒そうが、立てかけられた自転車に引っかかろうが、尾行されている『それ』は振り向きもせずに歩いていたからだ。

(てか、なんだろー、あれ?UMA?それとも妖怪さん?)

 外見はずんぐりむっくりとしたスーツ姿の男性。体型からすればやや小さめで小太りであるぐらい。”スレンダー”とはお世辞にも評しがたい。
 けれど後ろから見る分には、その頭部が真っ白な何かになっているように見える。
 フードのようなゆったりしたものでもないし、タイツのような光沢があるのでもない。

(だったらあれは何……?ロボット?)

 怖いよりもコミカルで、何かのマスコットキャラクターかゆるキャラに……頑張れば見える、かも知れない。
 ゆるくないゆるキャラが大量増殖しているのであれば、もしかしたら自身の知らないだけ――。

 コツ――。

(あ、角曲がっちゃった――急がないと!)

 慌てて追いかける。しかし彼女はここで気付かなければならなかった。
 願わくばもっと先、尾行を始めたその瞬間に悟るべきであった。

 そうすればきっと小さな冒険は中止されていただろうから。

 時に――佐天涙子は中学生である。
 一部の知り合いになんだかんだと言われていながらも、その本質は未だ学生の身分に過ぎない。

 従って、今日のような『学探』収録の日ですら制服を着て撮影に臨んでいる……まぁ、特定の誰かが『実は中学生好きだ!』という噂があるから、とかでは決して無い。
 多分、恐らくは……きっと。
 なので彼女の今の服装は棚側中学の制服であり、履いている靴も学校指定の革靴であった。

 ……そう、”音を出しやすい靴”を履いている。だというのに。

 『相手の足音が響く一方、自身の靴音が響かない』という異常な状況を察すれば……この結果にはならなかっただろうか?

(…………あんれー…………?誰も、居ませんなー…………?)

 結果から言えば、正体不明『それ』を彼女が見失う事になった。
 ぽかんと広がる夜の帳、路地裏でや拓けた広場のような一角。
 この先に道はもう無く、唐突に消えてしまった。それが全てである。

(うっわーっ!マジですかっ!?これ心霊体験じゃないですかっ!)

(やっべぇマジテンション上がってきた!取り敢えず誰かに連絡を――)

 けれど、『彼女をが”それ”を見失った』としても。
 だからと言って『”それ”が彼女を見失った』とはイコールではない。

 コツ、コツ、コツ、コツ……。

「――え?」

 たった今見失ったと思っていた”それ”が――。

「――っ!?」

 真上から聞こえてきたのだから。

 コツ、コツ、コツ、コツ……。

 『それ』は雑居ビルの壁面に張り付いて身じろぎもせず。
 だというのに、コツコツという耳障りな音は鳴り止まない。

「え、ぇっと、その――ですね?あ、あたし、ケーブルテレビの――」

 するっ、と。壁面から『それ』は音も無く飛び降り、彼女の前へ立った。

 正面から見た『それ』は目も鼻もない。まさにのっぺらぼう、としか言いようがない顔立ちをしていた。
 その真っ白な顔面に唯一あったのは、真一文字に閉ざされた口。
 何かガムでも噛んでいるかのように、定期的に上下している。

「ご――ごめんなさいっ!あたし、そういうつもりじゃなくって!」

 数歩タタラを踏んで後ずさる。しかし『それ』は足を向けず、ただ。

「――ひっ!?」

 ぬるっと、伸びた。
 たった3m程、足を伸ばして距離を詰める。『それ』の上半身が近づいてくる!

 コツ、コツ、コツ、コツ……。

 耳障りな音は鳴り止まない――それは、足音ではないから。
 至近距離にまで迫り、ようやく彼女はそう悟る。

 何故ならばそのコツコツという音は、『それ』の口元から聞こえる――。

『コッ、コッ、コッ、コッ、コッ、コッ』

 ――歯ぎしりだったから。

「や、やだっ!こっちに来ちゃ――」

 突然、ミチリという音と共に『それ』の背中が弾け飛ぶ。
 中から出て来たのは触手の塊、ウネウネとフィクションでしか有り得ない動きで、彼女の手足を絡め取る。

「……そ、そんなの、聞いて――てか、本当に!?」

 噂であった筈だ。昼間面白可笑しく語っただけ、ネタにして笑い飛ばしただけの『それ』が。
 今まさにスレンダーマンが彼女の目の前へと顕現していた。

『コッコッコッコッコッコッコッコッコッ』

 カチカチと歯を鳴らしおぞましい吐息が顔にかかる。恐ろしくて目を瞑りながら――それでも、諦めてはいない。

 ふと――こんな状況下でも、思い出した事があったから。

(そうだ――都市伝説があったんなら、あの”噂”も有効かも知れない……!)

「た、助け、助けて――」

 恐怖で混乱しながらも彼女が呼んだ相手とは。

「助けて!――――――上条、さ――」

「――それは、ルール違反ではないのかな」

『がぁぁげぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?』

 怪物の嘶きと共に、至近距離で感じていたプレッシャーがかき消えた。

「とは言え、今際の際に好いた相手の名を呼ぶのもまた、佳きかな」

(……だ、誰?)

「力は言葉になり、言葉は力とならん。原初の言葉がそうであったように」

 恐る恐る目を開けると――そこには闇に溶け込むようなローブを着た『誰か』が居た。
 暗くて顔は見えない。けれど声からすれば相当年上の男性。

 どうやったのかは分からないが、『それ』を壁際にまで弾き飛ばしたようだ。

「あ、あのー?」

「すまないが、もう少しの間だけ目を瞑っていては貰えないだろうか?」

「えっと……?」

「あまりレディにお目にかけるものでも無いのでね――『ジョン・ポールの断頭鎌(Sacred Death)』……!」

 ザン、とローブの男は右手に持っていた巨大な鎌を一振りする。その姿はまさに『死神』としか呼べないものであった。
 『それ』とは優に数メートル以上も離れているにも関わらず、広げようとしていた触手をまとめて断ち切る。

 だが男はそれでも満足しなかったらしく、ヒュゥンっと片手だけで鎌を投擲する。

『ゲガガガガガガガガガ……っ!?』

 鎌は空中で綺麗に回転し、『それ』の体の中央に突き刺さり、壁へと縫い止める。
 男は躊躇いもせずに近づき――壁に刺さった鎌を軽々と引き抜いた。

『……カギュッ!?』

「死を欺く奇跡は私の師だけが手にした力だが、力を合わせれば我々とてその秘密を明かせるだろう――が、だ」

「されど神ならぬ人の身でするには傲慢の罪と知るが佳い――」

「――弁えよ、俗物が」

 パンと両手を合わせて謳う――そう、何回、何百、いやそれ以上に手慣れた言葉を。
 あるがままに振舞うその言葉を。

 神の代理人たる彼は、厳かに奉る。

「『”Holy, holy, holy ! Lord God Almighty Early in the morning our song shall rise to thee”』」
(聖なる聖なる聖なるかな。三つに居まして一つなる神の御名を、朝跨ぎ起きてこぞ褒め奉らん)

「『”Holy, holy, holy merciful and mighty! God in Three Persons, blessed Trinity!”』」
(聖なる聖なる聖なるかな。神の御前に聖らも冠を捨てて伏拝み、御遣い達も御名を褒めん)

「『”Holy, holy, holy ! tho' the darkness hide thee, Though the eye of sinful man thy glory may not see,”』」
(聖なる聖なる聖なるかな。罪ある眼には見えねども、慈しみ満ちたる神の栄えは類無き)

「『”Holy, holy, holy merciful and mighty! God in Three Persons, blessed Trinity !”』」
(聖なる聖なる聖なるかな。御手の業にて三つに居まして一つなる、神の御名を褒め奉らん)

「『”――AMEN(かくあれかし)”』」

 ジュウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……。

『デゲリ、リィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィイッッッっっ!!!』

 『それ』は青い炎に包まれ、悲鳴を上げながら徐々に小さくなっていく。
 最後の一片まで燃え尽きたのを確認すると、ローブの男は改めて――。

「――では少し眠りたまえ。なぁに、悪夢など直ぐに忘れるさ」

「待っ、待って下さ――」

「あとあぁいう場面でこそ、いと高き御方の名を呼ぶべきだが……まぁ、それもまた佳いだろう」

「あたしまだっあなたにお礼を――」

「『”Requiem ? ternam dona eis Domine et lux perpetua luceat eis. ”』」
(主よ、永遠の安息を彼らに与え、絶えざる光でお照らしください)

今週の投下は以上となります。お付き合い頂いた方に感謝を

ついでに先週分の伏線回収。多分これ以降誰もツッコまないので
ステイルさんが「気持ち悪い」且つ「見落として」いたのは、二つ

まずは『子供達の日本語の習熟度』が一つ
テリーザさんが来たのは二ヶ月前、だというのに子供達が簡単な日常会話が出来るのは異常だという点

もう一つは『イギリスと日本の時差』
『コンサート開演は夕方』であっても、それは”現地時刻での話”
で、ロンドンと日本の時差は9時間。日本の方が早く……まぁ手遅れなんですけども

おっつし☆

インフルエンザに罹ってしまったので来週は更新できないと思います。申し訳ありません

ok
お大事に

――2014年10月4日(土) 路上・夜

老人「――残念であるが『スレンダーマン』は既に著作権登録が為されているのだよ」

老人「元々はアメリカの電子掲示板コミュニティから発祥し、それを面白可笑しく肉付けしていった、というのが始まり」

老人「こちらにもあるだろう?タチの悪い匿名掲示板を元に発展していく都市伝説、のような何かが」

老人「人々が好きな残酷でやくたいもない話――『友達の友達から聞いた話』と語られるような、そんな噂話」

老人「……まぁ普通の精神であれば、著者が”著作権”として登録はしまい。した以上某かの目的があると判断すべきであろうな」

老人「……そして、その噂を鵜呑みにした。下らない悪ふざけと金儲けの作り話が一人歩きし、現実に事件は起きる」

老人「アメリカ北部のウィスコンシン州で、12歳の少女二人が同級生を滅多刺しにした事件だ」

老人「捕まえられた少女達曰く、『スレンダーマンの手下になるため、人を殺す必要があった』のだとか」

老人「幸いにも被害者は命を取り留めたが、勿論今後の人生が穏やかなるものとは言えないであろう。そう、願ってはいるがね」

老人「そして何よりも、この少女二人が『自分自身の人生を閉ざしてしまった事』がだ」

老人「……この二人は最長で65年の懲役刑が科される可能性があり、この先ずっと過ちを悔いて生きねばならない」

老人「『人は生まれながらにして原罪を負う』――胸に突き刺さる佳き言葉であるが、何も坂道でより重き荷を背負い込む必要もあるまい」

老人「彼女達が求めれば信仰が助けとなり、杖となり、また友となろうが……それもまた酷く険しい道が約束されている」

老人「そして当のスレンダーマンの父親は、この件に関して『ノーコメント』だそうだ」

老人「顔と心が無いのは息子と同じく」

佐天「……」

老人「フィクションをフィクションと割り切るのは当たり前の話であるが、それとは別に引かなくてはならない一線がある」

老人「君もそうだ。花や月を追いかけろとは言わないが、もう少し分相応なものをだね――」

佐天「……あ、あのー、すいませーん?」

老人「何かな」

佐天「どうしてあたしは見知らぬナイスミドル――を、ちょっとだけ通り越したオジサンと並んで歩いているんでしょーか、と?」

老人「お世辞は有り難いが私は通りすがりの老人だよ、お若い方。物忘れに関しては……判断を保留するが」

老人「なぁに幾ら照れるからといって、道に迷っていた私を駅の近くまで案内する程度の善行、忘れてしまわなくとも佳かろうに」

佐天「でしたっ、け?……まぁいっか。人助けですよね、人助けっ!」

老人「……これはこれで心配になる反応である、な」

佐天「はい?」

老人「あぁ気にし――ては欲しいが、まぁ今は佳いだろう」

佐天「てかスレンダーマンのお話でしたね?既に人様の著作物だったってマジですか?」

老人「この話題を振ってきたのは君からだった筈だが……そうだ、間違った話ではないよ。残念だがね」

老人「アメリカの匿名掲示板で面白可笑しく奉り上げ、偶像を作りだし、実際に『一人歩き』してしまった事例だ」

老人「……知っているかい?この下らない顛末が露になるまで、Cultural anthropology――」

老人「――文化を扱う学問の中では、『神話が形成されゆくモデルケースの一つ』として名前が挙がっていたんだが」

佐天「……その、起きちゃったんですよね、事件?」

老人「『起きるべくして起きた』事例でもあるな。狂人を真似、狂人を演じ、狂人を辿ればそれ即ち狂人なのだから」

老人「……反対に、首足処を異にするのが得意なだけ若造であっても、三重冠を戴き金と銀の鍵を預かれば尊敬を集めるように」

老人「意味も無く人を殺める”神”を造り上げれば、それが人を弑するのは必定」

老人「だから私達は『ここ』へ神を降ろす事なんてしなかった。いや、出来なかったが正解か」

老人「人の身で『塔』を積み上げれば、必ず報いが待っている。それだけの話だな」

佐天「あのー?」

老人「すまない、脱線したようだが……とにかく”スレンダーマンはいない”」

老人「あくまでもフィクションであり物語に過ぎない。”そんな存在が私達へ影響を与える事など出来やしない”んだ」

老人「だから”君が路地裏へ入ってしまっても、怪物には襲われない”と」

――パキイィィィッン……

佐天「ありゃ?今なんか音が――それも、どっかで聞いたような……?」

老人「お若い方、これで分かっただろうか。そうそうGhostの類は存在しないという事を」

佐天「でっすねぇ。特に『スレンダーマン』が実在しないのはガッカリです、えぇガッカリ」

老人「で、あれば不用意な冒険は慎む事だ。暗がりにいるのは人ならぬ者だけではなく、人のならず者も多いのだから」

佐天「まっかせて下さいっ!なるべく前向きに検討するであろう事をお約束しますよっ!」

老人「……君には約束という概念がないのかな?」

佐天「いえそんなっ!『安請け合いをさせたら棚中一!』って二つ名がですねっ!」

老人「どこかで聞いたような話だが……それもまた佳かろう。受難を経て人は強くなれる――と」

老人「Station……あぁ着いたようだね。わざわざ案内してくれてありがとう」

佐天「いえいえっ!あたしの家も直ぐ近くなんで。ついでです、ついで」

老人「善行が美徳と分かってはいても、中々実行へ移せないのが世の常だよ」

佐天「いやぁそれほどでもありませんなっ!それほどでもねっ!」

老人「……君の将来が酷く不安になってしまうんだが、それはきっと気のせいではないのだろうな」

老人「ともあれ、助かったよ。ありがとう、お若い方よ」

佐天「あ、いえいえどういたしましてっ――て、ですね、ここのだけ話で良いですから、ちょっとお伺いしい事が」

老人「ふむ?」

佐天「イアン=マクダーミ○さんがお忍びでどうしたんですが?てかぶっちゃけサイン下さいなっ!」

老人「全く以て他人だね。彼はスコットランド人で私はドイツ人だから」

老人「俳優のような人生を歩んではいるが、未だに気取った台詞の一つも言えやしない。だから」

佐天「だから?」

老人「子供はもう、家へ帰る時間だ」

佐天「ぶーぶーっ!」

――2014年10月5日(日) オービット・ポータル本社 応接間

上条(オフィスビルの建ち並ぶXX学区の一等地。その端っこの方にオービットの本社はある)

上条(レディリー――直接会った事ないんだが――って人が会長やってた頃には、もっと中心部にあったらしいんだが)

上条(ARISAの芸能プロ事務所、『黒鴉部隊』だけを残して整理したんで、もっと小さい所へ移ったんだそうで)

上条(芸能事務所兼警備会社って何?とか思わなくも……まぁいいか)

上条(ともあれ、俺は先日の報酬を受け取りにやって来た訳だが……)

テレビ『――!――!!』

上条(つけっぱなしのテレビは海外局のデモを流している)

上条(日本語のキャプションじゃ、『報道の自由を守れ!』と入っているけれど、彼らが口にしているのはもっと別の言葉)

上条(中には『見せられないよ!』的なあからさまなスラングなのに、ゴールデンタイムで堂々と流してるし)

上条(……全く、外国語分かんねぇだろって適当な事しやがって……ま、俺も耳が慣れなければ分かんなかったんだろうが)

上条(……ネット漁りゃ幾らでも原文出て来るだろうに、こんな事やってっから――)

柴崎「お待たせ致しました」 ガチャッ

上条「あ、お疲れ様です」

柴崎「上条さんにご尽力頂いたEUツアーの報酬が揃ったのですが……本当に宜しいので?」

柴崎「何もキャンピングカーに設置されていた調理器具でなくとも、それ以上の物をこちらでご用意出来るのですか……」

上条「あれだって外のと比べれば数世代先だろ?ウチにあるよりもずっと新しいし、使えるんだったら勿体ないなー、って」

柴崎「まぁ……技術流出の懸念からして、あの車は外部企業からすれば宝の山みたいものですからねぇ」

柴崎「このお話が出る前から回収は予定しておりましたので、当社としても構わないのですが」

柴崎「それで設置の日時は如何致しましょう?大体半日もあればシステムキッチンへの換装は可能です」

上条「それはいつでも構わないよ。寮の管理人さんには言っておくから、鍵も開けて貰えると思うし」

柴崎「分かりました。では今週中には終らせる方向で」

上条「ありがとうございます」

柴崎「――と、上条さんに於かれましてはARISAの護衛、大変ご迷惑をおかけしました」

柴崎「オービット・ポータル社、並びに『黒鴉部隊』を代表して、再度深くお礼申し上げます」

上条「や、そんなっ頭を上げて下さいよっ!俺は別にそんな大した事はっ!」

柴崎「本来であれば社長、シャットアウラが頭を下げるのが筋なのでしょうが……その」

上条「あ、いいですよ。忙しいんでしょう?」

柴崎「『あの男に頭を下げるぐらいなら、アイツを殺して私は生きる!』と」

上条「殺人予告っ!?てか感謝の欠片も持ってねぇよな!」

柴崎「いやいや、ただの照れ隠しでしょうからお気になさらず」

上条「そ、そうですかね?」

柴崎「リーダーが誰かを殺す殺すというのは……そう、ですね。仕事で敵対した相手と上条さんぐらいでしょうし」

上条「それってつまり俺も敵であって、殺るのに躊躇しないって事じゃないですかね?」

上条「てか『黒鴉部隊』大丈夫?あれがリーダーってやってんのって不安を憶えるんだが……」

柴崎「……えっと、まぁ戦闘面に関してだけ言えば、リーダーの”能力”と”クルマ”さえあれば学園都市上位陣へ食い込むのではないかな、と」

柴崎「『エンデュミオン』も生身でなければ負ける事はなかったでしょうしね」

上条「そっかな?瞬間的な攻撃力だけで言えば、ビリビリのファイブオー――」

柴崎「――はい!と言う訳で上条さん!最近どうですかっ!?学業に恋愛っ青春してますかねっ!」

上条「何?急に?」

柴崎「プラン名を知ってるだけで行方不明者を絶賛量産中のお話はそこまでに!自分はどんな意味があるのは存じませんが!」

上条「結構詳しいじゃねぇか。『暗部』繋がり――って言うかさ、前から気になってたんだけど」

上条「『黒鴉部隊』の扱いってどうなの?やっていけてんの、経済的な意味で?」

柴崎「元々は企業の私設治安維持部隊で、今は外付け保安部の扱いです」

上条「違いが分からん。てーか違うの?」

柴崎「以前はレディリー会長などスポンサーが一つでした。契約期間中はそれ以外とはお付き合いしないと」

柴崎「今は複数の企業が資金を出し合って雇われている、でしょうか」

上条「ふー、ん?」

柴崎「深いお付き合いをするよりも、浅く手広くやりましょう、と言うだけの話ですかね」

上条「てかあの多脚戦車を民間の警備会社が持ってるだけでおかしいわっ!」

柴崎「あれはKONGOHインダストリィの試作機でして。本来工業ラインには乗らなかったものです」

柴崎「なので、あんな最新技術を惜しげも無く使い続けるのは無理でしょうけれど」

柴崎「派手に動きすぎてARISAさんへ迷惑かけるかも知れませんしね」

上条「『エンデュミオン』も世間的には事故扱いだからな……ゴシップ紙を除いては」

柴崎「あぁあれは確かに驚きましたね。日刊ゲンダ×でしたか」

柴崎「彼らは社会に一定数いる層、『何かよく分からないが、世界には陰の組織がいる!』と思い込んでいるのが購買層ですから」

柴崎「たかだか週刊誌如きに暴露されるような『陰の組織』が居て、しかも絶大な力を持つ筈なのに放置されるのか、という疑問に行き当たらない……」

柴崎「幸せなんでしょうね、きっと」

上条「未来に生きてんだから、許してあげて!」

柴崎「ま、そちらはきちんと名誉毀損で係争中ですのでご心配なく。学園都市的にも突かれると拙いので、ご支援を――おっと何でもありませんよ」

上条「汚い!大人って汚い!」

柴崎「汚いのは大人の専売特許みたいなものですからね。正攻法で潰しに行ったって構いはしないのですが――と、あれが良い例でしょうね」

上条「あれ?」

柴崎「テレビでやっている、あれ」

上条「フランスでテロかました件か」

柴崎「当該する新聞社に関しては自業自得、宗教差別を煽っていれば過激派は嬉々としてテロを起こしただけの話かと」

上条「言論の自由って話――では、あるけどさ」

上条「普通の人達も一緒くたにしてバカにするようなのは、ちょっと違和感がある……」

柴崎「過去にも日本の五輪誘致が決まった際に”手が三本のガリガリに痩せこけた力士”を風刺として載せていましたし」

柴崎「反対に同紙を揶揄したコメディアンや、『新聞じゃ銃弾は防げなかったね!』と風刺画を書いた少年を逮捕してみたり」

柴崎「自分達が他人を蔑み、莫迦にするのは自由――しかしその逆は受け入れない」

柴崎「よく言われるユダヤ陰謀説、ありますでしょ?アレも同じく」

柴崎「自分が憶えている限り、日本で出版社を廃刊へ追いやった事はありますけど、それはあくまでも”合法的”な範疇での事」

柴崎「少なくとも今回のようなテロはしなかったですからね」

上条「……一緒にしていいのか、それ……?」

柴崎「テロを起こしたのはあくまでもテロリストであり、ムスリムではないので何とも言えませんがね」

上条「つーかアンタの人質云々の話がほぼ的中してて怖えぇよ!どんなんだ!?」

柴崎「そりゃ情報を意図的に取り込んでいるからに決まってるでしょう?BBCやCNN、場合によってはアルジャジーラも普通に見ますし」

柴崎「……ま、傭兵なんてのは人様の不幸で食ってるから、情報に聡くなって当たり前だな」

上条「柴崎さん、口調口調」

柴崎「おっと失礼――と、報酬の受け渡しは以上となります。が、上条さん」

上条「あい?」

柴崎「イギリス人のお嬢さん方の連絡先などはご存じではありませんか?もしお持ちでしたら、当社の方からお礼がしたいのですが」

上条「知ってる、は知ってるけどなー……レッサー達、好きでやってんだから要らないと思うけど」

上条「つーか今、何やってんだろ――」

柴崎「上条さん上条さん、テレビ見て下さい」

上条「はい?……あ、デモの最前列にプラカード持ってる子が」

『Ukraine. → It doesn't know. 』
『Tibet. → It doesn't know.
『France. → Going mad 』

『The French defends the freedom of the expression of France. 』
『It doesn't know even though the people how many die in other countries. 』

上条(えっと直訳すると『フランスが攻撃された時ばっか自由自由言ってんじゃねーよ!』的なニュアンスだけど)

上条「これが何だって?フランス人でも中々思い切った事言うなー、とは思うけどさ」

柴崎「……見覚え、ありませんか?」

上条「見覚え?AHAHAHAHA、やだなー柴崎さん、幾ら俺だってテレビに知り合いが映り込むなんて、そんな偶然中々――」

レッサー(※テレビ中継)『Free Tibet! Free Ukraine!』

レッサー『Will the socialist following invent Piketist? Fellow France only with mouth! 』

レッサー『Is the freedom of expression only in France? Frog Eaters!』

上条「何やってやがんだレッサーさあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!?」

柴崎「直訳しますと『フランス人はフランスの表現の自由にしか興味ありませんが何か?』」

柴崎「『てーか社会主義の次はピケティニストか、いい加減にしろ口だけフランス野郎!』……ですかね」

上条「てかレッサースゲーな!?わざわざアウェイに乗り込んでフランスへ喧嘩売るって!嫌がらせにも芸が細かいし!」

柴崎「や、でもこれ、拙いですよ」

上条「え、なんで?明らかに頭オカシイけど、こんぐらいは別に許容範囲じゃね?」

柴崎「えぇまぁ日本ではその通りなんですけど、フランスでは『テロに荷担するのは違法』って法律がありまして」

レッサー『ちょっ!?何で私が取り押さえられるんですかっ!?聞いてませんよ、どーゆー事ですかっ!?』

上条「……あぁ、うん。こうなるのな」

レッサー『てーかランシスはっ!あの子はどこへ逃げやがったのかと濃い乳時間!……いやそうじゃなくて!最初に計画持ってきたのはあっち――』

レッサー『――おのれ!もしやこれはあのガキの罠かっ!オカシイと思っていましたよっ!チケット奢ってくれるなんて上手い話はねっ!』

レッサー『私を裏切るとは良い度胸をしてやがりますなっ!バストサイドに反してですが!』

レッサー『……と、まぁ私は騙された方ですんで、被害者的なアレでして……』

レッサー『よしこうしましょう!ここは一つお互いに引き分けって事で手を打ちましょうか!我が宿敵の裏切りに免じてねっ!』

レッサー『――って具合に、イイ感じでまとまったんでレッサーちゃんはこれにてドロンっと――』

レッサー『――と、お待ち下さいな!乙女の柔肌にそう簡単に触れないで貰いましょうか!……え、あなた女?マジで?』

レッサー『何か見た目がゴリラ・ゴリラ・ゴリラっぽいんで、てっきりプロのゴリラーの方とばかり』

レッサー『てかもう市井のゴリラ・ゴリラ・ゴリラって事で、つまりは服を着たゴリラ・ゴリラ・ゴリラである空○先生ではないですよねっ分かります!』

レッサー『と、言う訳で私は野生のゴリラを探しに旅へ出ようかと思――オイ待てやめて止めくぁwせdrftgyふじこふじこ』

上条「……警官に、連行されてったよな……?」

レッサー『って言うか私、世代的に増山さん以外のを聞くと違和感がどーにも拭えないんですが』

上条「黙ってろ!日本人だと思われるからねっ!」

柴崎「」 ピッ

柴崎「――はい、と言う訳で宜しくお願いしますね」

上条「ぶん投げたよね?もう何か色々と面倒臭くなって投げたよな?」

柴崎「彼女達の組織としての特性上、多少イリーガルな要求をされても、まぁまぁTPOで融通しろとの命令です」

上条「国際問題だけは起こしてくれるなよー、頼むからな!」

柴崎「リーダーも、あぁ見えて上条さん達には本当に感謝していますからね。なので少しでも恩を返したいではないかな、と」

上条「だったらその感謝の分だけでいいから、俺への敵意を割り引いて欲しいんですけど……」

柴崎「いいじゃないですか。それだけインパクトがあるって事ですから」

柴崎「自分なんて、もう何年も名前で呼んで貰った憶えが……」

上条「コードネーム使ってるからじゃね?仕様って言うかさ」

柴崎「必要最低限のサプライズは用意してありますけど、出来ればそれまでに伺いたい所ですよねぇ」

上条「おい待て?あんた今なんつった?また俺の知らない所でなんかしようとしてんじゃねぇか!?」

柴崎「お気になさらず。誰も損はしないと思いますから、えぇ――と、そんな事よりもこれからのご予定は?」

柴崎「お暇でしたら、少しお付き合い頂けませんか?学生のお立場からご意見を頂きたく」

上条「あー、ごめん。アリサから『お買い物に付き合って!』って言われて――何?意見?」

柴崎「デートですか……あぁ、それで先程からリーダーと話し込んでいるのですね」

上条「……具体的に何言われてるかは聞きたくないけどな!つーかシャットアウラ過保護過ぎんだろ」

柴崎「否定は出来ませんがねぇ」

上条「友達と遊びに行くぐらいで心配て、なぁ?」

柴崎「あ、すいません。やっぱり否定出来ます。リーダーの心配はご尤もです」

上条「お前らいい加減にしとけ、な?主従揃って人を魔王並に危険指定してないでくれる?」

柴崎「何を言ってるんですか上条さん!。冗談でも言って良い事と悪い事があるでしょうに!」

上条「お、おぅ?ごめん、なさい?」

柴崎「――魔王はね、殺せるんですよ……?」

柴崎「合法的に、この世から、消す事が、出来るんですね?分かりますか、自分が言っている事が?」

上条「それ、どういう意味かな?まるでどこかに殺したくて殺したくてしょーがない奴が居るみたいな流れになっちゃってるよ?」

柴崎「ともあれそんな訳でARISA専属スタッフの上条さんへ、学生さんのお立場からお伺いしたい事が御座いまして」

上条「俺の肩書きがちょっと見ないうちにレベリングしてあんだけど、どいつの仕業?」

柴崎「割とマジ話なので、えぇ」

上条「や、まぁまだ来る気配もないし……聞くけどさ。何?」

柴崎「取り敢えず、こちらを。先週のARISAの予定表となっております」

上条「見て良いの?実は興味あったり」

柴崎「どうぞどうぞ。大したものではありません……えぇもう本当に」

上条「んじゃちっと失礼して……何々、火曜日・全部出るまで帰れま――って、あのあれか?食べ物屋さんでベスト10出るまで注文するのか?」

柴崎「コンサートとNewシングルの告知ですね」

上条「ゴールデン出られるんだから凄いよなぁ……で、次、水サスの収録?」

上条「『東京近郊の隠れたグルメ点レポート!ゲストはあのアイドルが!』……ふーん?」

柴崎「コンサートとNewシングルの告知ですね、はい」

上条「なんか、こう……いや、気のせいだよな?俺の勘違いなんだよね、きっと?」

柴崎「……ま、続きをどうぞ」

上条「スケジュール、てーかテレビの仕事はもう一本か……あーっと」

上条「『金スペ!芸能人一芸選手権!』」

上条「『新星フードファイターARISAに対する挑戦者現る!?君は今、皇帝の怒りを目にする……ッ!!!』」

柴崎「コンサートとNewシングルの告知……ですね、えぇ」

上条「……」

柴崎「……これ。アイドルの仕事じゃないですよね?」

上条「ようやく危機感を共有出来た事に嬉しく思うわ、うん」

上条「つーか言ってんじゃん!?俺ずっと前から指摘してたじゃんかよおぉっ!?」

上条「食べドルからフードファイターにジョブチェンジしかかってますよって!結構前っからさあっ!」

柴崎「……いえ、それがですよ?シングルも初動セールスでミリオンには届かないものの、60万枚まで売り上げていますし」

柴崎「アルバムに関してはお陰様でミリオン達成、写真集とイメージビデオも着痩せで中々の評判を誇っていますし」

上条「……なんだろうな。シンガーとしちゃいいんだろうが、友達としては若干イラッとするって言うか」

柴崎「ARISAが彼女さんであれば、その思いは当然なんでしょうが、そうでない以上ただのモヤモヤに過ぎませんよ」

上条「分かってるよ」

柴崎「……だから、そこで聞き分ける時点で分かってなんかないんですよ」

上条「はて?」

柴崎「で、当社と致しましては長く皆さんに愛されるARISA――との認知を固めるべく、謎のシンガーソングライターでなく、素のARISAの魅力をお届けしようと!」

上条「ダメじゃない。だってもうこれアイドル路線じゃないもの。明らかに”フード”とか”グルメ”みたいな定冠詞つきそうになっちゃってるもの」

上条「そうそう日常会話で使わないよね?トリ○でも言う程グルメグルメ使ってないからな?言っとくけど」

上条「や、まぁ……確かにARISA――じゃない、アリサのメシ食ってる姿は見てて、勇気が出そう?」

柴崎「伸び伸びやらしてみた結果、お芝居でもなく堕落でもなく、どこをどうミラクルを起こして食べドルへ行ったのか……」

上条「ある意味当然の帰結だと思う。つーか事務所側のミスじゃねーのか?」

柴崎「でもですね、意外とこれはこれで好評でして。実は本を出さないか、という企画が上がっています」

上条「あぁ写真集以外で?良い……良い話だ!食べドルから脱却出来る!」

柴崎「タイトルが――『あたしの愛した二○』」

上条「ラーメン○郎のタイアップじゃねーか!?出てない!食べドルから一歩も脱却出来てないよっ!?」

上条「てかナメてんだろ事務所?あ?正直に言ってみ?」

柴崎「……アリサさんが乗り気でしてねー……『おやつ代わりにピッタリだねっ!』と、はい」

上条「あるんだ、二○?学園都市にも?……今度探してみよう……」

柴崎「――と、こんな感じなんですけど、どうしましょう?」

上条「お前これ、俺が『いいんじゃないですかね!』って言うと思ったの?」

柴崎「認知度は確かに間違いなく上がっているのですが、こう、一発屋的なルートへ入ってしまってるのではないでしょうか」

上条「いやまぁ……アリサの性格上、こうなるのは分かってたようなもんだし?」

上条「フードファイターとしての人生を歩き始めるのも、まぁそれはそれでいいんじゃないかな?」

柴崎「ぶっちゃけますね?もう面倒ですし、そろそろ妹に甘い”と、いうポーズ”のリーダーが折れる頃でしょうから」

上条「何だよ急に」

柴崎「――今のARISA、不自然だと思いません?」

上条「不自然、って言われてもな。何が?」

柴崎「その、正直下世話な質問だとは思うんですけども、ですがね」

上条「ん?あぁ良いって別に。男同士だし、気にするようなもんじゃ」

柴崎「では遠慮無く伺いますが――」

柴崎「――上条さんは今回のツアーで一体何人の少女を毒牙にかけたのでしょうか?」

上条「下世話すぎるよねっ!?しかもその言い方だと俺がどんだけ悪い奴だって話しだし!」

柴崎「偶然を装いながらも一体幾度か弱い少女を、その凶暴な右手の下へ組み敷き、羞恥の顔を赤らめる様を下卑た顔で舐るように見入ったんですか!」

上条「あれおかしいな?『ラッキースケベで押し倒した』を客観的に言うと、そこまでヒドく聞こえるんだー?へー?」

柴崎「上条さんは今まで食べたパンは数えていない派で?」

上条「残念ながら新品未使用だコノヤロー!文句があるんだったらかかってこい!」

上条「あとついでに言わせて貰えるんだったら、男女の差無く憶えてる方が健全だと思うがな!」

柴崎「……てっきり既成事実の一つや二つあると思いましたが、それも無かったのですか?」

上条「無かっ――ぁっ……無かった、よ?いやマジで?うん、全然全然?何一つとして、疚しい事は無かったよ?」

柴崎「それもおかしな話なんですよねぇ。あの年頃であれば恋の一つや二つ、興味はおありでしょうに」

柴崎「こちらの用意したスケジュールを文句一つ言わずにこなす……出来た子だと褒めるべきなのでしょうが、どうにも」

上条「……待て待て、いや待って下さいよ?」

柴崎「はい?」

上条「前にも言いましたけど、アイドルが恋愛とか事務所的にはNGなんですよね?」

上条「だったらアリサ――ARISAも我慢してやってる、ってだけの話じゃないのか?」

柴崎「我慢しているように見えます?」

上条「……無い、ですよねー。分かりますっ」

柴崎「慣れない環境下でのストレスはおありでしょうが、その他は至って自然体。しかもワガママらしいワガママは一度だけ」

柴崎「年頃の娘さんなのですから、もう少し色々あっても構わないと思うんですよねぇ」

上条「前にも言ってたよな、確かそれ」

柴崎「えぇ、護衛は上条さんに着いてきて欲しいとの一回だけです」

上条「……あれ?そうなの?」

柴崎「言い、ませんでしたっけ?……まぁどうせお気づきでしょう、流石に」

上条「何となくはそうなんじゃないかな、とは思ってた」

柴崎「学園都市側は”たまたま教育実習中になる常盤台の生徒”を提示したのですが、無理がありすぎるだろうとこちらで却下」

柴崎「次に大人げないアリサさんのお姉さんが出張ろうとして、同じく重武装過ぎてあちらから却下」

上条「年齢的には高校ぐらいなんだろうが、シャットアウラは何か無理があるよな」

柴崎「さてどうしようか、と迷っていたら――『当麻君が良いと思いますっ!』」

上条「俺の自由意志は?」

柴崎「嫌だったら見捨てて帰れば良かったのでは?」

上条「友達以前に、人としてそんなフザけた真似が出来るかっ!」

柴崎「……まぁ『水着の露出が激しい!』だの『日高さんが好きすぎて脇が痙る』と言った残念エピソードは結構ありますが、それはまた別でしょうかね」

上条「……ふーん?水着、着たんだ?」

柴崎「ホルターネックなので、其程露出高いって訳じゃ決して。ただ」

上条「た、ただ?」

柴崎「やっぱりその、強調されてしまうのがイヤラシくて――もとい、嫌らしくてお蔵入りとなりましたが」

上条「日本語って難しいよねっ!」

柴崎「で、そのデータがここに」 ピッ

上条「言い値で買おう!幾らだっ!?」

柴崎「――と、言った具合に誰しもがエロ根性の一つや二つ持っているんですよ、えぇ」

柴崎「朴念仁を気取っておきながら、こうして同性同士での会話となればエロ話も結構出ますしね」

上条「騙したなァァァァ!騙してくれたなァァァァァっ!?」

柴崎「あ、すいません。そういうの結構なんで……画像は後でコッソリ転送しておきますから」

上条「友情!プライスレス!」

柴崎「――話戻しますけど、アリサさん、何かおかしくありませんか?」

上条「天然だよ!つーか言ってやるなよ!」

柴崎「冗談ではなく真面目な話ですよ」

上条「……おかしい、ってのは」

柴崎「無理をしている……いえ、演技をしている、でしょうか?何か不自然なんですよね」

上条「マネージャーの仕事もやるようになったから、タレントの演技にも口を出すようになったって?」

柴崎「皮肉はよして下さいよ。仰りたくなるのも分かりますが、これは自分がボディガードをやっていた頃の経験から判断しています」

上条「護衛する人を観察するのも仕事のウチなんだっけ」

柴崎「はい。ストレスが元で体調を崩されたり、仕事に支障を来してしまっては誰も幸せになれませんからね」

上条「……じゃ何が変だ、って思うんだよ?」

柴崎「性格上有り得ないのは分かっているんですが、こう……とても上手い演技を見せられる感じがします、ね」

上条「演技?てか天然じゃなくって?」

柴崎「それも含めて、と言いますか。その……余りにも”それっぽく”振舞い過ぎる」

上条「うん?意味が――」

柴崎「……キャラ、っていうんでしょうか?えぇと――」

柴崎「――これは割と有名なお話なんですが、アイドルの語源はご存じで?」

上条「英語じゃ”偶像”って意味だったか」

柴崎「まぁ『最初から偶像っつってんだから、彼女らがキャラ作ってて当たり前だろ』、的な結論へと持っていくために多用されます」

上条「キャラ作るのは誰だってそうじゃね?」

柴崎「ですね。個人的には商売でやってる以上、最後まで演じ続けて欲しいとは思いますが」

柴崎「今のアリサさんも似たような感じではないか……というのが、自分の個人的な感想です」

柴崎「周囲の期待に沿うように、のも少し違いますかね。アイドルとしてなりきれない女の子であれば”こう”振舞うような」

柴崎「ファンの方の受けが良いのも、業界の流儀に染まらないピュアなアイドル――という願望を写し出しているように」

上条「考えすぎだろ。アリサがそこまで器用に生きてる訳じゃない」

柴崎「ただのアイドル、もしくは普通の能力者であれば自分もそう思ったんですがねぇ。ですが」

上条「……『奇跡』」

柴崎「こう言ってはなんですが……えっと、というか正確には教えられていないのですが」

柴崎「アリサさんの『異能』は『誰かの願いや願望を汲み取り、現実を改変する』ものですよね?」

上条「あれ?教えられてないのか?」

柴崎「大まかにだけは。その話もレディリー前会長から少しだけ聞いただけで、後は別に。仕事に関わるようなものでもありませんし」

上条「っと待て待て。だったら柴崎さんはアリサの『体』の事は知らないのか?」

柴崎「異能を制御出来ず、ある程度叶えてしまうって話ですし。それも不幸なものでない以上、気にする必要もないかと」

上条「シャットアウラとの関係は?」

柴崎「何を今更……あぁ、『柴崎が褒めていた』件の仕返しですか?上条さんもお人が悪い」

上条「や、そう言うんじゃないんだが……まぁ、頼む」

柴崎「『88の奇跡』の際、あの船に乗り合わせた記憶喪失の少女、彼女の『異能』のお陰で乗客乗員は全員助かった――リーダーのお父様を除き」

柴崎「なので『どうして助けられなかった!?』との確執――とも、呼べない八つ当たりをしていたのが『エンデュミオンの奇跡』であって」

柴崎「が、今ではお父様の意を酌み、身寄りの無いその少女を妹として引き取ろうとしている……で、合ってますよね?」

上条「あぁうん、そう――だよな」

柴崎「前にお話ししましたでしょうに。アリサさんの個人情報を集めたのは自分だと」

上条(……この人は、アリサがどこから来たのかを知らない)

上条(アリサがどこで生まれたのか、どんな存在なのかとか、心を許しているにも関わらず、だ)

上条(何も馬鹿正直に言う必要なんてどこにもない……ん、だが、なんかこう、寂しい)

上条(家族同然――てか、笑って命を賭けてくれるような、家族以上の繋がりを持っている人なのに……)

柴崎「聞いてますかー?もしもーし?」

上条「ん、あぁごめんごめん。続けてくれ」

柴崎「で、あちら側の事は存じませんが――サンタさん、幾つぐらいまで信じてらっしゃいました?」

上条「憶えてないけど……多分早い段階だと思うな」

柴崎「自分もその口です。嫌な子供だったので、一つの疑問が頭について離れませんでした」

上条「あー、あれか。『どうやっ一晩で回るんだ?』みたいなの?」

柴崎「惜しい!……『どうやって子供達の願いを聞き分けるのか?』ですね」

上条「世界中に子供が何人居るんだっつー話だわな」

柴崎「実際にはデンマークの公式サンタさんへ、毎年数多くの子供達からお手紙が寄せられていますから、恐らくそちらを参考に――と、言葉を濁しておくとして」

柴崎「ですがアリサさんの『奇跡』は、一体何を基にして人々の要望を汲み取っているのでしょうか、と話は繋がります」

上条「……成程。普通、”誰かの思いのを叶える”んであれば、当然『それが何かを知る』のか大前提か……!」

柴崎「一応は能力者の端に居る者が言うのもアレなんですが、不思議パワーでパパッと処理しているのは間違いないですよね」

柴崎「その謎パワーの部分が『共感』なのではないかと思いまして」

上条「共感、ってーとあれか?誰それにシンパシー感じるー、みたいな?」

柴崎「そこまで大げさなものでも無く、何となく場の空気読んだりする人とか」

上条「……ある意味、アリサとは対極にあるんじゃないのか……?」

柴崎「……あのですねぇ、上条さん。っていうか上条さん?」

上条「二回言うなよ。そんなに大事でもないのに」

柴崎「戦わなきゃ、現実と!」

上条「なんで俺が現実見てない前提で話が進められてんだよ!?」

柴崎「いやいや、アリサさん空気読みますよね?それも過剰なぐらいに」

上条「そう、かな?俺はあんまり」

柴崎「ご自分が誘拐されそうになっていたのに、あれだけ怖い素振りも見せず振舞うのって、そう出来る事じゃありませんよ」

上条「あ、それは――」

柴崎「大の大人だって、その筋の人間であっても自身が敵意を以て狙われている、と分かれば萎縮して当然」

柴崎「まだ10代半ばなのに、ご立派なものです」

上条「でも、話を聞くに”それ”がアリサの能力じゃないのか、って言いたいんだろ?」

柴崎「あくまでも仮定ですがね。『狙われているにも関わらず、健気に頑張るアイドル!』的な、”周囲からの思いに共感している”んじゃないかと」

柴崎「……いや、自分で言ってて何か違う気がしますね。お耳汚しでした、今のは忘れて下さい」

上条「別に良いけど……違う、ってのは何が違うって思ったんだ?」

柴崎「大した事ではありませんが……まぁ、その、人間誰しもが他人と共感する能力は持っていますよね?」

上条「だな。空気読んだり、映画や小説に泣いたりするしな」

柴崎「他にも意見に納得したり、反発する事もありますが――でも大概、どれだけ共感したとしても、人格が左右される事は無いでしょう?」

柴崎「……まぁ、基本的には、とごく一部の例外を除いておくとしても」

上条「その例外が聞きたいとは思わないが……ま、そうだよな」

柴崎「従ってアリサさんが『能力』の一環として、共感力に優れているとしてもですよ?」

柴崎「まさかキャラ全体がまるっきりの別人へ切り替わってしまう――なんて事は、無いでしょうからね」

上条「……いや、それは」

上条(有り得る……話ではある。だってアリサは――)

柴崎「上条さん?どうしました?」

上条「……や、なんでもない。それよりアリサ、遅いよな」

柴崎「今頃リーダーから何吹き込まれるかと思うと、少し頭が痛い気もしますけど」

上条「シャットアウラに関しちゃ自業自得な部分は一切無い!……筈だ!」

柴崎「言い切れない所が素敵ですし、また実際にそうであるのも減点ですな。自分には関係ありませんが」

上条「てかむしろ恩人なのにどうして扱いが悪いんだろうか……?」

柴崎「あ、そうそうデートの帰りが遅くなるようでしたら、自分へ連絡して下さい。車で拾いに行きますから」

上条「過保護――と、までは言い切れないか。アイドルだもんな」

柴崎「……いや、そっちはあまり心配してないんですが、その上条さんを地の果てまでも追いかけかねない方に心当たりがありまして」

上条「肉親の情が深いのは結構だけどなっ!思い知らされる立場以外であれば!」

柴崎「なので『終電終っちゃったね……どうしよっか?』的にアリサさんが遠回しに誘って来た時以外は、ケースバイケースでお願いします」

上条「お前アリサ信用してなくね?なんだと思ってる?」

柴崎「――と、いらしたようです」

上条「……あぁうん、そうだね。ツッコんじゃいけないんだろうな……」

柴崎「自分がリーダーを食い止めてる間に、ささ、お早く!」

上条「たかだか遊びに行くだけでどんな苦労が!?」

今週の投下は以上となります。お付き合い頂いた方に感謝を

乙です

>>421
いやほらあの、うん、あれじゃないですかね?こう、一回書いた的なアレがですね、はい
っていうかステイルさんレベルの知識ならともかく、禁書目録さんレベルが出張ってきた瞬間に「諦めれば?」(CV安西先生)するので
御坂さんに至っては私如きが書かずとも、人気投票一位でしたし、えぇまぁはい

……少し真面目に解釈をすれば、『禁書目録(※インデックスではなく)』の欠点は”優秀すぎる”点でしょうか
万能且つ強力無比な解析・分析能力を持つ反面、『必要悪』では同系の専門職に欠けているのでは?と踏んでいます
使徒十字の際、最大教主自ら霊装の確認をしてましたし、あれ最初から彼女が動いていれば刺突杭剣じゃないって看過されたでしょうに

>>449>>451>>469
ありがとうございます

>>454-455
40℃近い熱を出したのは小学生ぶりでした。インフルの簡易検査キットが超痛かった

――電車内

鳴護「……いやもう、ホントゴメンなさい……ウチの身内が余計な事を」

上条「う、うん。大丈夫!当たらなかったから何とかないから!」

上条「もう少しで眼が一つ増えてニャルラトホテプ状態になるところだったけども!元ボディガードさんの機転で事なきを得たから!」

鳴護「……柴崎さんによーーーーーーーくっ言って貰ってますから!どうか今回の事故は内密に!」

上条「まさか銃まで持ち出すとは……いやうん、まぁ慣れてるからさ?割と良くある話だしねっ!」

鳴護「銃を突きつけられるのが”よくある”で済ませる方もどうかと思うんだけど……」

上条「ま、ショットガンじゃなかった分だけ余裕かな!当たり判定的な意味で!」

鳴護「FPSじゃないよね?現実の話だから戻ってきて当麻君っ!?」

上条「ま、まぁよくある話だから気にしなくても良いよ?シャットアウラも当てるつもりがあったんだったら、うんっ」

鳴護「そ、そうだよねっ!お姉ちゃんが本気になったら証拠一切残さずに闇討ちするもんねっ!」

上条「その納得のされ方もどうかと思うんだが……まぁいいや」

鳴護「と、とにかくっ!本日はお日柄も良くありがとうございましたっ!」

上条「終ってる終ってる。テンパってるのは分かっけど、もう少し余裕をだな」

上条「てかアリサ、いつもみたいな服着てないな」

鳴護「いつも、って……あぁ、テレビの?」

上条「そっちもだけど、ファッション誌とかでも着てんじゃんか?が、がーりー?」

上条「いかにも『女の子女の子してますっ!』みたいなのじゃなくて」

鳴護「あー……当麻君的にはあーゆーのが好み、なのかな?」

上条「別にそういうつもりはないけど、ってか今のアリサの服も可愛いと思うし」

鳴護「あ、ありがとう?」

上条(ちなみに今のアリサの格好は、出会った時とほぼ同じでピンクのワンピースとデニム。あとペガサスのワンポイントが入った帽子)

上条(歌の中にも出てたっけかな、確か)

上条「や、そうじゃなくって『本で着てるんだったら』みたいな話でさ」

鳴護「……えっと、どこから話したものか迷うんだけど……うーん、スタイリストさんのお仕事って知ってる?」

上条「名前は知ってる。名前だけは」

鳴護「タレントさんや、テレビに出る人の衣装やアクセサリーを用意してくれる人、かな?分かりやすく言えば」

上条「ま、私服で出る訳にもいかねーからなぁ」

鳴護「だからリアクションする芸人さんが、着てる服を汚して『買い取りになるじゃねぇか!』みたいなのも、衣装はレンタルだから」

上条「って事は雑誌とかのモデルやってる人らも?」

鳴護「当然、そのスタイリストさんが選んだお洋服を着てます、はい」

上条「……たまーにさ民法や地方局でバブルっぽい、肩パッド入ったスーツ着て原稿読んでるおねーさん見るのは――」

鳴護「予算とか……うんっ!提携してるアパレルさんの問題とかじゃないと思うなっ!」

上条「芸能界の闇がまた一つ露に……!」

鳴護「大げさだよー。出版社とテレビ局が組んでブームを起こしたのに比べれば、全然だし?」

上条「ステマじゃねぇかよ」

鳴護「という訳で、あたしはプライベートガーリー系を着るのはあんまない、かな?」

鳴護「っていうか考えてみようよ当麻君。まず落ち着いて」

上条「な、何を?」

鳴護「ファッション誌を参考にしたり、そのまま真似するって人は多いけど――」

鳴護「――モデルさん自身が雑誌まんまの格好で歩いていたら、それはもう笑いを通り越して怖いだけだよね?」

上条「……あぁ確かに。テレビ衣装で通り歩いてたら、違和感しかねーもんな」

上条「や、でも奇抜すぎてネタか罰ゲームとしか思えないような人も……?」

鳴護「それはどっちみち目を合わせちゃいけない人なんだと思うよ。あたし、セーラー服着たおじいさん見た事あるし」

上条「有名人らしいけどな……ってか、モデルやってる人の意見なんてそんなもんか」

鳴護「読者モデルさんとか居るよね?雑誌とかと契約している人」

鳴護「仲良くなった女の子から聞いたんだけど、海外はもっと大変だって」

上条「あー……契約社会だしキッカリしてそう」

鳴護「モデルさんなんか179cmで49kgあると”太りすぎ”って言われるみたいだし」

上条「正直、想像もつかねー世界だ……てかフィクションの設定でしか出て来ないレベルだろ」

鳴護「オフィシャルだけじゃなく、プライベートもスポンサーの商品を使ったり着たりしなくちゃいけないー、みたいな?」

上条「ARISAもそんな感じ?」

鳴護「『使っちゃダメ』は、ないよ?あ、サンプル品って新商品を貰ったりするけど」

上条「それはちょっと羨ましい」

鳴護「……化粧品とお茶だし、ねぇ?」

上条「お前は今、全国の飲料メーカーと化粧をしなければいけない妙齢のお嬢さん方に喧嘩を売ったからな?」

鳴護「○郎か吉野○のお仕事待ってますっ!」

上条「もうアリサさんは、フードファイターとして第二の人生を歩めば良いんじゃないですかね?俺は応援しているから」

鳴護「せめてアイドルはっ!シンガー的な要素は残してて欲しいかなっ!」

――XX学区 大型商業施設

上条(てな感じで電車とモノレールを乗り継いでやって来た、某学区の大型商業施設。つーかショッピングモール)

上条(地上12階建て地下2階の超巨大なデパート。この規模の店があるかどうかで『都会』かどうかの区別になる……筈、なんだが)

上条(学園都市の中では『まぁ、大きめだよね?』の一言で流される程度の施設だ)

上条(商業施設もそうだけど、研究施設を含めても飛行場や軌道エレベータなんて非常識なシロモンがある訳だし)

上条(今更ツッコんだり驚いたりはしないんだ、あぁ)

鳴護「あ、当麻君当麻君っ!見て見てっ!あっちのスロープの先が透明になってるよっ!」

鳴護「てかお空飛んでるみたい!どうやってるのかなー?スッゴいよねっ!」

上条「あぁそうですよねっ!だから取り敢えず俺の名前連呼するのは止めてくれないかな?」

上条(EU観光と同じテンションで盛り上がってる鳴護さん。その純真さを忘れないで欲しいが)

上条「……」

上条(てか芸能人だっつーのに、囲まれる事もなく。むしろ誰に気付かれる事無く移動出来た)

上条(芸能人オーラ皆無だし、連れの俺が地味ぃだってのもあるだろうけど、それで良いのか?アイドルやってんのに?)

上条(……ま、ツアー始める前までは俺も少し緊張したけど、今は大分慣れちまったしなぁ)

上条(”女の子”なのは間違いないんだが、どっちかっつーと妹?カテゴリ的にはレッサー以上フロリス未満……どういう意味だ?俺も分からんが)

上条「……」

上条(まぁ……アレだよ。多分俺の想像なんだけどさ、って自分で言ってて悲しいが!まぁそれはスルーしてだ!)

上条(彼氏彼女とかカップルとか同棲したりするじゃん?なんつーか将来の予行演習みたいなー、感じでさ)

上条(俺はまぁ……好きな人が出来たら一緒に暮らしたいし、その延長が――うん、まぁ、アレだよな?パパパーン、的なね)

上条(でもまぁ、外で会って少し遊んで帰るだけの関係じゃ、相手の裏って言うか、素顔みたいなのは分からない訳で)

上条(外面を良く見せようと演技するんだったら、大抵は誤魔化せるだろうし――けれども)

上条(いざ一緒に暮らしてみれば、それこそおはようからおやすみまで一緒に居る訳で。当然相手の粗も見えるし、その逆もある)

上条(だから良くも悪くも素の相手が分かる……の、を先に体現済みの相手ってどうなんだろうな?)

上条(ぶっちゃけすっぴん――いや、今もそうだけど――から、アリサのパンツ洗ったりしてるし)

上条(リビングで寝落ちして楽譜にヨダレ垂らす姿なんかも見てるんだが……)

上条「……」

上条「……まぁ、良いか。今更だし、今更」

鳴護「何?どうしたの?」

上条「や、別に。あんま緊張はしねぇよなって」

鳴護「え!?しないのっ!?」

上条「……してんの?」

鳴護「し、してないよっ?うんっ」

上条「……」

鳴護「……ふぁいっ!」

上条「レッサーとは別のベクトルで大丈夫?妙にキョドってませんか、アリサさん?」

鳴護「少し、眠れなかった……かも?」

上条「気分悪いんだったら無理すんなよ。どっかで休むか?」

鳴護「来ばっかで流石にそれはないと思うけど……うん、大丈夫!ヘーキヘーキ!」

上条「なら良いけど――てか、今日は買い物?」

鳴護「あ、ゴメンね当麻君?忙しいのに付き合って貰っちゃって」

上条「いやいや、それは全然。EUから帰って来てからアリサと遊べなかったし、嬉しいよ」

鳴護「昨日の公録の打ち上げに出れば良かったのに。佐天さんも残念がってたよ?」

上条「死ぬ程イジられるからねっ!これ以上ツッコミで喉枯らしたくねぇさ!」

上条「……てかアイドル?あの可愛いけど残念なフラグ構築の神様が、芸能界入りすんの?」

鳴護「と、取り敢えず次の凱旋LIVEのMCはやってくれるって!」

上条「やだ即断即決男らしい――てか、思い切りが良すぎる!もう少し悩めや!」

鳴護「事務所としてはDJとかの相方から始めて貰う、って」

上条「まぁ……素人をいきなりデビューさせるのは特殊な業界ぐらいしかないしなぁ」

鳴護「あたしのただ流れになってるボケを捌くのに期待するんだって!」

上条「人選間違ってるよ?巨大隕石破壊しにいくのに、工兵卒の軍人じゃなくてオッサン送り出すのと同じぐらい間違ってるな?」

鳴護「ね?おかしいよねぇ?あたし天然じゃないのに」

上条「よっし待とうかっ!まだ時間10時ちょいなんだけど、俺の喉がツッコミで枯れるからそれぐらいになっ!」

鳴護「――とはい、これお願いしますっ!」

上条「何?突然……封筒、とメモ?」

鳴護「えっと、今日はその、お買い物を手伝って欲しいなーと思って、うんっ」

上条「それは構わないけど……」

鳴護「ちょっと分量が多いんで、当麻君にはそっちのをお願いしたいと思いますっ!」

上条「それも構わないんだが……メモの内容、ジ○ニャンのぬいぐるみとか、R-GAG○とかなんだけど……?」

鳴護「詳しくは後で説明するからっ!今はとにかく急いで、ねっ?」

上条「まぁ……分かった。それじゃ手分けして――」

鳴護「じゃ、よろしく――ゴメンねっ?」 パタパタパタパタッ

上条「おーい、走ると転ぶぞー……ってもう行ったか」

上条(婦人服売り場へ突撃をかけるアリサを見送り、さて俺はどっから買い物をしようかと)

上条(てか妖怪ウォッ○とガンダ○ってアリサの趣味とは思えないな。誰かへのプレゼントか?うーん?)

上条「……」

上条(……ま、考えても仕方がない。さっさと買い物をして合流しよう)

上条(つーか買い物ねぇ?何か買いにくいものなんかな……?)


※メモ
ジバニャ○
オプティマス・コンボ○
Rフィギュアシリーズ・R-9DP3 KENROKUE○
ワールドタンクミュージア○ エレファント重駆逐戦車
ご当地ふなっし○・詰め合わせ


上条(あー……ガキの頃好きだった、男の子のオモチャってヤツね。了解了解。そりゃアリサ買いづらい筈だわ)

上条(てかこのRフィギュア欲しいな!パイルバンカー超強ぇじゃん!)

上条(在庫があったら買おう――て、何だ?メモの裏にもまだ何か書いて――)


※メモ・裏
超機動少女カナミン インテグラル・変身セット(小)
プリキュ○・変身セット(小)
アナと雪の女○・衣装セット(小)


上条「アリサあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

上条「戻って来いっ!つーか戻って来て下さいっ!俺には、俺には荷が重すぎるじゃねぇかよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

上条「……え!?マジで?本当にこれ俺が買うのか……?」

――XX階 女児用玩具売り場

子供A「わ、すっげーこれSRのア○じゃね、ってミサカはミサカは言ってみる?効果は『場にあるカードの全凍結』だって!」

子供B「だったら大体こっちの方がカッコイんだ!『常在戦場ムシブギョ○・白カブトムシver』だし!」

上条「……」

上条(デパートの中は、うんまぁ、真ん中が吹き抜けになってるタイプの感じでさ)

上条(ただただ機能だけ、効率性だけを重視した造りじゃなくて、もっとこう感覚的に来場者へ癒やしを与えるコンセプト――らしい)

上条(……ま、裏事情、っつーか前一緒に来たビリビリが解説した所に拠ると)

上条(『昼間は吹き抜けから日光を取り入れて照明節約出来るし、防災面でもレスキューを入りやすくなってる』んだそうで)

上条(初めて来るショッピングモールだって言うのに、まるで下調べで資料一式暗記しているかのような正確さで知識を語ってくれた……)

上条(ゲコ太好きにも程があるよなー。や、別にいいんだけどさ)

上条「……」

上条(……今、『もげろ』って大量のツッコミがあった気が……?まぁいいや!今の俺には関係ない事だしっ!)

上条(それより今はもっと大事な事がある!……てか、マジでどうしよう……?)

上条(や、アレですよね?買ったんだよ、大体はね。プラモとか超合金的な奴は)

上条(売り場が違ってたから、少しだけ迷った事を除けば順調に。あぁそりゃもう恐ろしいぐらいになっ!)

上条(つーかむしろ普通?俺より年上の大きなお友達が群がっていたり……うんまぁ、有り難いですよねっ!何の事か分からないけども!)

上条(……ただその、残りっつーかさ。魔法少女変身セット的なのは……どうしよう?)

上条「……」

上条(つーかさ、つーかさこれマジ話――ってビリビリが言ってたんだけども)

上条(最近の大手のデパートにあるオモチャ売り場って、男児用と女児用が離してあんだってさ。いやマジで観察してみ?一ブロックぐらい、微妙に距離開けってから)

上条(……まぁ、なんつーかな?こう、少子高齢化に於ける新規購買層開拓って言うのかな?)

上条(所謂トマ=ピケティってマルキスト崩れのポピュリストが提唱する”富の再分配”)

上条(彼の故郷で彼の支持する社会党が実施した富裕税、その概念がそのまんま果したもんなんだけど、結果は散々)

上条(だって一つ二つ国を変えれば税金は違う訳で、そっちへ逃げれば税が回避されるのは当たり前)

上条(富裕層のフランス離れが進み、結局政府の財政が悪化しましたよーチャンチャン的な……)

上条「……」

上条(何が言いたかったと言えばだ、売り場に行くよな?お前らっつーか俺らが!大きなお友達が新商品を漁る訳さ!)

上条(だからお母さん達から『大丈夫?』的なクレームが定期的に入ってるらしく、ネタ抜きで女児用オモチャ売り場とは距離が……うん)

上条(……や、まぁ?アレだよね?好きなのは良いと思うし、ガキに混じって吶喊すんのも、良いとは思うんだよ。個人の自由だし)

上条(だけどデータカードダ○の前で陣取るのだけは止めてあげて!?覇王色の覇○出してんのかってぐらい引いてるんだから!)

上条「……」

上条(……さて、そんな厳しい昨今の風当たりを鑑みて、だ)

子供A「てか最近のライダーは車に乗ってるからライダーって言うのはオカシイんじゃ?ミサカはミサカは業界通っぽく振舞ってみたり!」

子供B「にゃあにゃあ。大体ロボットに乗り込むのはライダーとしての義務を果たしてないんだぞ」

子供A「はっはっはー!お子様を騙してオモチャを買わせるような策略にこのミサカが釣られるかとミサカはミサカは言ってみる!」

子供B「って言う割には、大体箱から手を離してないし。説得力に欠けるのだ、にゃあ」

上条(どっかで見たようなお子様二人(※幼女)が、女児用オモチャ売り場で熱くライダー談義をしている……)

上条(つっても手に持ってるのは所謂”変身セット”的なアレであり、男児用オモチャじゃない。つーか売り場は少し離れてるし)

上条(この二人を掻き分けて、しかも変身セット×多数をレジまで持っていく……)

上条(重いよ!高校生が背負うミッションにしては難易度が重すぎるよ!)

上条(これだったらまだフロリスとパリ市内飛び回ってた方が楽だった……背中に、ふにょんっ、てのが当たってたし!)

上条「……」

上条(……覚悟を決めよう。簡単だって、ほら、ただレジへ持っていくだけ――)

――脳内シミュレーション

上条『すいません、これとこれ――あと、これ下さい』 キリッ

店員『いらっしゃいま、せ……』

上条『何か問題でも?』 キリッ

店員『い、いえ別に!』

上条『あ、贈答用なので包んで貰いますか?』 キリッ

店員『畏まりましたっ!暫くお待ち下さい』

上条『えぇ、お願いします』 キリッ

上条(……あれ?これで良いんじゃね?)

上条(妥当っていうか、この路線で行けば『低年齢層女児玩具を買い漁る不審者』でダメージも最小限に抑えられる!完璧だ!)

上条『……』

上条(……そうかな?最小限っつってっけども、充分社会的にAUTOな損傷受けてないかな?)

上条(てか知り合いにでも見られたら一発でヤバいし――)

子供A『おにーさん、女の子のオモチャをたくさん買ってるんだね、ってミサカはミサカは驚愕を露にしてみるっ!』

上条『ま、待ってくれ!これは違うんだ!敵の魔術師の攻撃なんだ!』

子供B『個人の趣味は大体人それぞれだしー、どうこう言うのはよくないのだ』

子供B『中には「いい歳なのに女の子の服を買うお友達が居る」って浜面も言ってたし!』

上条『HAMADURAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!?ガキになに吹き込んでやがるだよおぉぉぉぉぉぉっ!!!』

子供A『そっかそっかって、ミサカミサカは納得したフリをしてネットワークへ情報を――』

上条『やめて俺の社会的立場が死んじゃうっ!?』

――XX階 女児用玩具売り場

上条「……」

上条(普通に買うのもダメ、っぽいな。少なくともこのどっか見たようなお子様二人が居る間は)

上条(他の売り場にはないし、アリサに『無かったよ?』って言うのも信頼裏切るようで困る)

上条(あ、それじゃ逆転の発想って奴でさ。いっその事、事情を説明してみたらどうだろうか?)

上条(見た感じ悪い子じゃないだろうし、話せばきっと分かってくれる――)

――脳内シミュレーション

上条『――てな訳でさ、実は俺友達から頼まれてるんだよ』

子供A・B『『……』』

上条『な、何?どうして沈黙?』

子供A『えっと、あのね?世の中には多様性に満ち溢れているよねっ、てミサカはミサカは遠回しにお話を始めてみるんだけど』

上条『なんか長い長い説教の前フリみたいだよね?主に俺がボスから喰らう感じの』

子供A『だからこう、自分のせーへきが他人と違っててもね、決して恥じる必要は――』

上条『違うわボケ!完全に勘違いしてんじゃねぇかよ!?しかもガキの割に聡いし!』

子供B『心配はいらないのだ、にゃあ!私の知り合いにもバニースーツ着せるのに必死になってる浜面が一人』

上条『察してあげて!?珍しく彼女持ちの浜面さんなんだから周囲は生暖かく見守ってあげて!』

子供B『でも最近、大体バニーさんなら誰でもいい的なアバウトさを感じるしー』

上条『出て来い保護者っ!どういうシツケをしたらこんなガキが出来やがるんだっ!?』

白い人『――なンかァうちの子がァしましたかァ?あン?』

上条『ゴメンなさい。人違いで――って止めろ!?デパートの中で能力使うんじゃぎゃーーーーーーッ!?』

――XX階 女児用玩具売り場

上条「……」

上条(えっと……何だろうな?なんで詰んでんの?リバーシで四隅取られてる状態からスタートしてね?)

上条(や、落ち着け。取り敢えず考えろ!何か方法はある筈だ!)

上条「……」

上条(このお子様共が絡んできて駄目になるんだったら、最初から追い払えばいいんじゃね?ちっと可哀想だけどさ)

上条(なんかこう、アレだよ!勢いで誤魔化してみればいいんじゃね?)

――脳内シミュレーション

上条『モモンガーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!』

子供A・B『『』』

上条『お前らどっか行け!行かないと――』

白いカブトムシ『――垣根パーーーンチっ!!!』 ベシッ

上条『そげぶっ!?』

白いカブトムシ『さっきから黙って視――見ていれば!まず私が相手になりますよっ!このロリコ×の風上にも置けない外道が!』

上条『垣根ー、×リの時点で道踏み外してんぞー?その道に迷い込んだら転生出来なくなるって噂だぞー?』

白いカブトムシ『”Yesロリコン!Noタッチ!”あの日私達が立てた誓いを忘れたとは言いませんよ!?』

上条『してねぇな?何かお祭り騒ぎっぽい大乱闘には巻き込まれたけど、そんな話は特にしてなかったな?』

白いカブトムシ『例え天が許そうともこの私が許しません――そう!』

白いカブトムシ『キングカイザーゼギオ○と呼ばれた私がねっ!』

上条『それ違う人だ。戻って来ーい』

――XX階 女児用玩具売り場

上条「……」

上条(てか金髪の女の子が鞄につけてるアクセサリって、垣根だよね?)

上条(さっきまで眼が緑の安全色だったのに、ちょい前から赤の警戒色へと切り替わってんだが)

上条(しかも鞄が揺れてるにも関わらず、こっちを向いて微動だにしない……どんだけ警戒されてんの、俺?)

上条(ちなみにカブトムシには瞼がないらしい。てか他の昆虫にもあるのか?ないっぽいけど)

上条(……なんだろうな。脳内シミュレーション悉く失敗するって尋常じゃねぇよな……)

上条(まるで呪われてるかのように、俺の人生がギャグに組み込まれていく未来が幻視える……!)

上条「……」

上条(これはもうアリサに『ゴメンナサイ』して、せめて一緒に買って貰うしかないか)

上条(うんまぁ、それが妥当だよね?そもそもミッション自体が難易度高すぎみたいな――)

子供A「――ジーーーーッと擬音をつけて、さっきからミサカ達の後ろで苦悩している人をミサカはミサカは見てみたり!」

子供B「あ、浜面の友達の人だ。にゃあ」

上条「……見つかった!?」

白いカブトムシ『……いや、そりゃ見つかるでしょう。何やってんですか?』

上条(こうなったらもう、手段はアレしか残されていない……!)

上条(逃走でも排除でもなく!だからといっておもねる事もない第三の選択肢!)

上条(俺はそれを――選ぶ!)

上条「えっと……これとこれと、これか」

子供A「あ、ア○のドレスだねー、ってミサカはミサカはちょっと欲しいなって思ってみた!」

子供B「にゃあ。まだまだお子様なのだよ、大体あれは――」 パシッ

子供B「――って、なんで私の手を取っ」

上条「――俺の」

子供B「にゃあ?」

上条「――俺のためのこのドレスを着てくれないか……ッ!?」

子供B「んにゃーーーーーーーーーーーーーーーっ!?」

子供A「プロポーズ来たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?ってミサカはミサカはネットワークに中継してみたり!」

白いカブトムシ「」

上条「大丈夫だ!資金はある!君に苦労をさせるつもりは――」

金髪「――って人の妹に何やってる訳ーーーーーーーーーよっ!」

ゲシッ

上条「そげぶっ!?」

金髪「いいからこっち来る!あと、アンタ達はあっち行きなさい、つーか速やかに逃げるって訳!」

子供B「あ、あれ?」

金髪「いいから早く!このボケは結局私がシメるから!」

上条「――ってぇーなコラ!テメなに全力で蹴り込んでんだよ!?」

金髪「……ちっ、生きてた訳か!」

上条「生きてたか、じゃねーよ!?こっちはマジで頸の骨折れるかと思ったぞコノヤロー!?」

上条「大体アレだ!いきなり人様に攻撃加える理由なんて――」

上条「……」

上条「ま、まぁそれは置いておくとして!」

金髪「おい、そこの不審者。自覚があるんだったら反省しなさいよ!どう見たって変質者だって訳だし!」

上条「……待ってくれ、これは誤解なんだよ!ほら、荷物見ろ!」

金髪「……子供のオモチャ……よね?……やっぱり!?」

上条「じゃねーよ!頼まれてんだっつーのに!こっちのメモ!ほらっ!」

金髪「あー……女の子の字で書いてあるけど……何コレ?罰ゲームって訳?」

上条「多分違う。メモ書いた子も他のフロアで買い物してっから、分担だ。分担」

金髪「低年齢層向けのオモチャを買わせるのって、相当ドSか麦野か天然じゃないと無理じゃない?」

上条「天然だな。その中で言えば……ってイタタ」

金髪「どうしたの?そんな怪我しちゃって」

上条「オ・マ・エ・だ・よっ!突然お前が飛び膝くれやがったせいでしょーが!謝って!俺に謝って!」

金髪「……結局、事故みたいな訳だし?」

上条「……まぁ、確かに不審者っぽくはあったけどな」

金髪「てかさっきの何な訳?人の妹にドレスがどうとか、ナニ姉を差し置いてプロポーズしくさってんの?」

上条「した憶えはねぇよ!……や、子供にはちょっと分かりづらかったかもしんないけどさ」

上条「こう……『俺の代わりにこのドレス買ってきてくれない?良かったら一着あげるし?』的な」

金髪「……それ結局、変質者の手口とどう違うの?」

上条「人を変態っぽく言うな!断じて俺はノーマルだ!」

金髪「ふーん?ま、それじゃ悪かったって訳よね」

上条「反省してるんだったら、まぁいいけどさ」

金髪「綺麗に入ってすっきりしたー。やっぱいいわー」

上条「してないですよね?金髪さん全然反省してないですもんね?」

金髪「あ、そいじゃこうする訳よ。私が手伝うってのは?」

上条「……え?マジで?いいの?」

金髪「出血――じゃなくて、お詫びねっ!お詫びでっ!」

上条「何?さっきからクラクラするのは出血してるせいかー、そっかー」

金髪「待っててね!今ダッシュで買って――」

上条「……」

――XX階 女児用玩具売り場

店員「――客様!お客様!」

上条「………………っと、はい……?」

店員「お気分が悪いのでしたら、医務室までお運び致しましょうか?それとも救急車を――」

上条「あぁ、いえ平気です。頭が少し痛いですけど」

店員「そう、ですか?お連れ様がいらっしゃるなら、お呼び出しを致しますが」

上条「それも大丈夫――てか、俺なんで倒れてたんですか?」

店員「え!?それは存じませんが……頭の所、少し赤くなってますけど」

上条「……あぁあの金髪に殴られたんだっけか。クソ、少し痛むな――って、あぁ」 ガサゴソ

上条(変身セット(女児用)は買っといてくれたのか。なら、俺が文句言う筋合いじゃねぇな)

上条(出来りゃ起こしていって欲しかったが……まぁ、いいや)

上条「すいません。ちょっと立ちくらみがしたみたいですけど、もう大丈夫です。ご迷惑をかけました」

店員「ならいいのですが……あ、もしご気分が優れなければ、近くの店員か警備員にでも申し付けて頂ければ」

上条「あ、はい。ありがとうございます」

上条(――さて、頭にダメージを負ったが無事に買い物も済んだと)

上条(てかあの金髪の子、妹だって言ってたよな?つー事はあのちびっ子二人のねーちゃんだと)

上条(ビリビリをちっこくしたのが”打ち止め”で、一方通行が世話してるんだっけ……あぁロシアにまで行った思い出が)

上条(あん時も理不尽によく分からない理由で攻撃されたが……まぁ一方通行らしいっちゃらしいか)

上条(でもそっちとは無関係だろうし、もう一人の金髪の子)

上条(浜面と垣根が面倒看てる、フレメアって女の子の身内だよな。なんつっても似てたしさ)

上条(『暗部』繋がりで色々あって、元のメンバーの妹さんを代わりに保護って中々出来るこっちゃねぇよな。俺も見習わないと――)

上条「……あれ?」

上条(確か――”保護”したんだよな?ねーちゃんの代わりに。つまり今の子がしないからって)

上条(でも今フツーに居たよなぁ?つーか蹴りかますぐらいには超元気だった訳で)

上条(だったら何で浜面達、今の子に代わって妹さん守らなきゃいけないんだろ?)

上条(何か……おかしい、よな……?)

上条「……」

上条(……ま、いいや。妹さんの方もそんなに驚いてはなかったようだし、何か事情があんだろ)

上条(下手に首突っ込むのも何だから、向こうから相談して来た時にでも訊いてみよう――)

――ショッピングモール 吹き抜け

上条「『――あー、もしもしー?……うん』」

上条「『こっちは終った……いや別に?ちょっと時間かかったけど、それ以外は』」

上条「『そっちは……あぁ、婦人服売り場には行けないしなぁ――うん?終った?ならいいか』」

上条「『けど、なに?……はい?メモ、無くしちゃった?』」

上条「『……』」

上条「『もしかしてなんだが……変身セット……?』」

上条「『……俺が持ってるメモの裏に、書いてあっ――』」

上条「『……』」

上条「『いや大丈夫だったよ!いやマジでマジで!全っ然問題なんて起きなかったし!』」

上条「『だってここは学園都市だもの!昭和テイストな勘違いコントシーンなんて無かった!皆無だったよ!』」

上条「『お金も間に合ったから――うん、だから、そのアレだよ』」

上条「『ジュースの一本でも奢ってくれれば――バカヤロウっ!貧乏学生をナメんなっ!』」

上条「『野菜ジュースだって一食になるんですからねっ!……や、そういう事じゃなくて』」

上条「『だからまぁ……うん、気にする必要は』」

上条「『てか――やっぱさ、俺、思うんだよ』」

上条「『――アリサは笑ってた方が可愛いって』」

通行人A「……ちっ」

通行人B「ちっ」

通行人C「リア充なんて死ねばいい」

上条「おい通行人ども失せろ失せろ!つーか雑踏で話してると結構聞き耳立ててる奴居るけども!」

上条「『――ん?あぁいやいやこっちの話――えっと?今?』」

上条「『8階の……吹き抜け?……そうそう、真ん中辺りの。うん、ベンチで』」

上条「『あぁいいって、こっちから――婦人服売り場は、うん、なんかこうTo LOV○るの予感しかしないからパスでお願いします!』」

上条「『……いや、トラウマがね?別に俺は悪くな――な、無いよ?きっと!』」

上条「『――ん、りょーかい。待ってる――はい?』」

上条「『ナンパ?しないしない……なんてだよっ!?俺をどういう眼で――』」

上条「『……』」

上条「『……ゴメンナサイ、その節は多大なご迷惑を……』」

上条「『……はい、はい、待ってますから。はい、それじゃ……』」 ピッ

上条「……」

上条(何だろうな……凄まじいプレッシャーが電話の向こう側からして。思わず敬語になってしまった)

上条(や、でもさ?俺アリサに対してセクハラ的なのはしてないよね?)

上条(精々出会った時に転ぼうしたアリサに押し倒されたり、インデックスと一緒にフロ入ってるのを見たり)

上条(旅行中にも似たような感じだったし、うんまぁそんなには……)

上条「……」

上条(……死にたくなるぐらいに罪悪感がヒシヒシと。俺、どんだけ嫁入り前の娘さんの裸見てんだっつーの)

上条(そのくせ彼女イナイ歴=年齢……どっか間違えてません、神様?)

上条(神様がくれたものは不幸にしてもNo buts(※異議無し)っていうか。俺の人生ネタにして、一杯引っかけてんじゃねぇかってぐらいですね)

上条(つーか今になって思い出してみれば、あん時のアリサ不必要に”たゆんっ”てしてたから、多分ノーブ――)

上条(――ま、いいや。例の変身セットはアリサの天然が発揮されただけみたいだし、良かった……嫌な事を俺に押しつけるような子じゃなくて!)

上条「……」

上条(『最初から確認の電話一本入れればいいじゃねぇか』的なツッコミが聞こえそうだが……男なら振り返らない!買っちゃったし!)

上条(……ま、あの金髪の子にイイ感じで貰ったハイキックの痛みが、ずきずき痛む訳だが……気にしない事にしよう)

上条(ぶっちゃけアリサ――ARISAとしてナンパされたりすんじゃねぇの?ってのが不安っちゃ不安だけど)

上条(幸いここのショッピングモールは私設警備員がしっかりしてて、柄の悪い客はお引き取りを願うように――)

青ピ「――あ、ちょっとすいません?少しだけお時間構いません?――そうっ!」

青ピ「ボクとあなたの将来について話し合いませんかっ!?」

OL「あ、結構です。失礼します」

カッカッカッカッ……

青ピ「……」

青ピ「あ、すんまへんそっちの二人連れのお嬢さん――あ、彼氏待ち?」

青ピ「彼氏らしい人らはあっちでナンパしとったで?いやいやマジマジ、ホントやって!信じて――」

青ピ「――あー……彼氏さん?や、違うんや?そういうんやなくって、えっと――」

青ピ「――あ、プリキュ○がノーブラ学園の制服着て歩いとるで……ッ!!!」

青ピ「……よし!今の内に逃げよか!」

上条「おいさっきからそこのバカ何やってんだ!?つーか分かるだろ!彼氏ヅレ手ぇ出してる時点でオチがな!」

上条「人が折角一息ついてんのになにやらかしてんだ、あぁっ!?」

上条「あ、後そっちの女の子二人、『ノーブラ』に超反応した彼氏さん達は悪くないからね?誤解しないであげてな?」

上条「何だろうな……こう、男に取っては『タマネギを刻んだら涙が出る』ぐらいの生理的な反応だから?当たり前だから!」

青ピ「あれ良く聞いたらノーブル学園だっちゅー話やね」

上条「うん、だからこのバカは俺が引き取るからノーカンでお願いしますっ!一応フォローもしたし!」

――ショッピングモール 吹き抜け

青ピ「やー、助かったでカミやん。もう少しであの男共に俺の108の必殺技が炸裂する所やったわー」

上条「あぁうん、いいんじゃね?なんだったら今から呼んで来――」

青ピ「残念っ!ほんとーーーーーっに残念やわー!ボクの秘められた能力をお見せできへんで!」

上条「……いや、まぁいいんじゃないかな?平和でさ、つーか面倒臭ぇから」

上条「てかお前何やってんの?」

青ピ「ナンパに決まってますやんか?」

上条「明らかにお断りされてたのに?」

青ピ「きょ、今日はちょっと日が悪いんちゃうかな?きっとアレやね、昨日換装した右手のサイコガ○の具合がな」

上条「コブ○さん巻き込んでんじゃねーよ!あの人は何やったってカッコイイんだからな!」

青ピ「あ、てか誘いましたやん!金曜に!学校で!」

上条「用事あるって断ったじゃんか」

青ピ「その用事って何ですのん?見た感じ買い出しっぽい感じですけど」

上条「そりゃお前――」

上条(今ユーロチャートで人気上昇中!オリコンでも上位ランキングへ食い込み、写真集の売り上げもベスト5に入る期待のアイドル!)

上条(最近じゃフードファイター顔負けの大食いを披露してくれるA・RI・SA!)

上条(彼女に頼まれて買い物に付き合ってるだけだろ――)

上条「……って言えるかあぁっ!?」

青ピ「あい?どうしましたん、急に?」

上条「いやいやっ!何でもない!何でもないよ?つーか君はどうしてココに?」

青ピ「ボクは新しい出会いを求め――」

上条(……よし!青ピが自分語りに入っている間に考えろ!アリサがこっちへ来る前に!)

上条(どうせアリサの性格上、天然を発揮してフロア間違うとか、そういうボケをして時間を稼いでくれる筈!その間に何とかし――)

鳴護 キョロキョロ

上条「ストレートに来ちゃったっ!?」

青ピ「で、ボクが『フルコースはあと三つかな。お前は?』ってドヤ顔で言ってやったんよ!」

上条(……良かった……ボケがただ流れになってて気付いてる感じはしない……今の内になんとかしないと!)

上条(メール打つのも不自然だし、俺のハンドサイン8級を生かすチャンスだ!)

上条(えっと、『今ちょっと立て込んでるから、あ・と・で』) カクカク

鳴護「あ、当麻君だっ!とーまくーーーーーーーーーーーーーんっ!!!」

上条(絶望的なまでに空気読まねぇな!?流石はアリサだ!何ともないぜ!)

青ピ「『ぽんきっつぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!』、そうボクがぽんきっつぁんを止めなんだら、今頃大変な事になっとったな……!」

上条(そしてこのバカはグルメの話から霊媒する先生の話へ移ってる……よし!まだ誤魔化せる!)

上条(『いやだから、今ちょっと忙しいから』) カクカク

鳴護「……?」

上条(マジかっ!?アリサが止まった……!俺の願いが珍しく天に通じ――)

鳴護「あれ?聞こえないのかな?それじゃ――」

鳴護「――とーまくーーーんっ、やっほーーーーーっ、こっちこっちーーーーーーっ!!!」 ブンブンッ

上条「分かってた!こうなる事は分かってたさ!」

上条「日々重ねたボイトレの成果が充分に出た、素晴らしい発声ですよねっ!」

通行人A「……あれ、あの子どっかで――?」

通行人B「声も聞いた、よなぁ……?」

上条(マズい!周囲の人間が気付き始めてる……こうなったら逃げるしか!)

上条「あ、ごめんちょっと幼児を思い出したからそれじゃっまた学校でなっ!」 スッ

青ピ「あ、カミやんどしたん?なんやの急に」

上条「詳しい事は後から話す!今急がないと危険がピンチなんだ……!」

青ピ「……カミやん……!?」

上条(――良っし!青ピは騙せた!)

鳴護「あ、当麻君。お待たせー。クレープとジュース買ってきたけど、どっちがいいかな?」

鳴護「ジュースはタピオカ・ナタデココ増し増しと、アロエ炭酸で。あ、オマケしてくれんだって!」

鳴護「それでねー、クレープはケバブとトルコアイスのトッピングと焼き鳥を載せたのが新商品だって言ってたよっ!凄いねっ!」

鳴護「あ、あと出来れば一口欲しいな、なんて?ダメかな?」

鳴護「あたしのもあげるし――ほらっ!トレードだから!女の子同士でよくやるのと一緒だから!」

上条「ごめん。もう無理だわ」

鳴護「え、なに?」

上条「てかアリサさんは自覚を持てよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?アイドルなんだから!ア・イ・ド・ルっ!なんだからな」

上条「明らかにそれっぽい雰囲気出す所じゃねぇ――」

青ピ「――えっと。カミ、やん……?」

上条「HAHAHAHA!ワタシ、ニッホンゴ、ワッカリマセーン!」

鳴護「いや、流石にそれは無理がありすぎると思うよ……?」

青ピ「てか、そっちの子もしかしてARI――」

上条「――そんなお前に『幻想殺し』っ!」 バスッ

青ピ「そげぶっ!?」

上条「――良し!誤魔化せた!……今の内に逃げよう!」

鳴護「多分、何一つとして誤魔化せてないと思うんだけど……?」

上条「――大丈夫!ギャグシーンだから場面転換すれば無かった事になるよっ!」

鳴護「当麻君、現実と戦わないと!?」

上条「いいから!――ほら、手っ!」

鳴護「あ……うんっ!逃げよっ……!」 ギュッ

タッタッタッタッタッ……

青ピ「……ボクの、出番は……?」 ガクッ

――XX学区 鳴護院 昼過ぎ

上条「ここは……?」

鳴護「うん、と……あたしの実家、かな?」

上条「実家って……」

上条(アリサと一緒に逃げ出した後、軽く――いや、俺の三食分の量を超えてたが――食事を取って、また電車で移動)

上条(下町風のXX学区で降りて、徒歩20分ぐらいの住宅街の一角にその建物はあった)

上条(一見すると教会風、けれど十字架が見当たらない聖堂。それと付属している小さな学校のような施設)

上条(校庭のようにも見える大きな庭からは、子供達が遊ぶ声がする……あぁこれは)

女性「……おや……?そこに居るのは――アリサ?アリサではないですか?」

上条(開けっ放しになっていたドアの向こうから女性――おばさんよりも、少しだけ年かさの女性の姿が見えた)

上条(母さんよりも上、多分憶えていないけどばあちゃんよりは下、って所か)

鳴護「い、院長先生、こんにちはっ!」

女性「……アリサ、あぁアリサ!相変わらずあなたはそそっかしい子ですよ!まだ治りませんか!」

鳴護「えと、その……ごめんなさい?」

上条(珍しく緊張してるらしいアリサと、そんなアリサに少しキツ言い方をするこの人。正直俺はムッとしたんだが)

女性「家へ帰ったら『ただいま帰りましたよ』ですからね?全くもうあなたと来たら……」 ギュッ

鳴護「……はい、院長先生……ただいま」

上条(言葉の上だけ叱責する形を取りながらも、目元の皺を深くしてアリサの両手を握る)

上条(……なんだろうな。たったこれだけでなんか泣きそうになる。てか、ここが――)

上条(――紛れもないアリサの”実家”なのか)

――鳴護院 応接間

女性「今、お茶を入れますからね。お客様も座ってお待ちになって」

鳴護「あたし手伝いますっ」

女性「あなたはお手伝いする方に決まってるでしょう、アリサ」

女性「あ、頂き物で佳いお紅茶があるのですよ――でもあなたは量の方が良かったんですよね?」

鳴護「院長先生っ!当麻君の前でそういうのはっ!」

女性「あらあらまぁまぁ。アリサも人の眼を気にするお年頃ですか。私が老ける訳ですよ」

鳴護「院長先生ったら!またそういう!」

上条(なんか……仲、いいな。ほぼ俺が置いてきぼりになってるけども)

上条(少しだけホッとするような……とは言え知らないアリサの姿を見て、モヤッとするような?)

鳴護「当麻君、真に受けちゃ駄目だからね?先生はからかって楽しんでるだけで!」

女性「からかってなんかいやしませんよ。なんでしたらアリサが大食い大会で獲ったトロフィーを持ってきましょうか?」

鳴護「んなっ!?アレ捨ててって言ったのに!」

上条「ま、まぁまぁ。俺もアリサ――さん、が大メシ喰ら――健啖家だって知ってますから」

女性「それは重畳ですよ。この子ったら細いくせによく食べますでしょう?なので殿方に吃驚されるばかりで」

女性「でも安心だわ。少し不幸だけど真面目そうなお相手で」

鳴護「……あの、先生?今日はそういう用事で来たんじゃないんですけど……」

女性「分かってますよ。けれどお友達を連れてきたのは初めてでしょう?なら、少しは言わせて貰いま――」

鳴護「あ、それじゃあたしっ――プレゼント渡してくるからっ!」

上条「プレゼント?あ、それじゃ俺も一緒に――」

鳴護「当麻君は疲れただろうし、先生と一緒に待ってて!?ねっ!?」

上条「お、おぅ……」

鳴護「それじゃ行ってくるから、うんっ」 パタン

女性「まぁまぁ忙しなくてごめんなさいね?あの子、普段はもう少し大人しいのだけど」

上条「いえ、多分純粋に嬉しいんだと思いますよ?院長先生にお会いして」

女性「そう?……うふふ、ありがとうね、えっと――」

上条「上条です。上条当麻です」

女性「あら、ご丁寧にありがとう。私は鳴護由里です。鳴護院の院長をしているのよ」

上条(言葉言葉はたまにキツくなるが、基本上品なばーちゃん――つったら怒られそうだが、そんな感じだな)

上条(俺が会った事が人で一番似てるのは……エリザードさんか?あそこまで豪快じゃないけど)

上条「鳴護”院”の、鳴護さんって事は」

由里「えぇ。この孤児院で母親――と言うよりは、おばあちゃん役をしているわ」

――鳴護院 応接間

鳴護『――こーらっ!大人しく並ぶ!ってかあぁもうふざけないっでって!』

鳴護『お姉ちゃんいい加減にしないと怒――ひゃぁっ!?ちょっと、どこ触って――』

鳴護『お、おっきくなった、けど――そうじゃないよ!関係ないし!』

鳴護『大きくして貰っているって誰に?ねぇ、そこら辺はっきりさせ――』

上条「すいません。あっちの部屋がメッチャ気になるんで見て来ていいですか?」

由里「殿方が婦女子の間に入ってはいけませんよ」

由里「それにあの子達も、アリサが帰るのをずっと待っていましたから。余りに無粋な事は止して上げて下さい」

上条「はぁ」

由里「上条さんの様子だと、アリサからは何も?」

上条「えぇまぁ。『買い物に付き合って欲しい!』って流れで、着いてきただけです」

由里「それは……珍しいですね」

上条「珍しい、んですか?」

由里「はい、あの子は大体一人でする事を好むので……それだけ上条さんへ気を許しているんでしょうが」

上条「大げさですって。ただ知り合いで、荷物持ちが欲しかっただけじゃないですか」

由里「そう、でしょうか。上条さんが仰るのであれば、きっとそうなのでしょうね――あ、お紅茶が冷めますよ?」

上条「あ、はい。頂きます……あ、美味しい」

由里「それはよう御座いました……にしても驚きましたよ。あの子が誰かを連れてくるなんて」

上条「そう、ですか?アリサ――さんは」

由里「アリサでよう御座いますよ?」

上条「……アリサは、別に自分の出自をオープンしてますし。そもそも他人への気遣いが細やかで、良い子だと思います」

上条「だから別に隠しておきたいんじゃないんですから、知り合いの一人や二人、連れてくるでしょうに」

由里「ですから、余計に、ですよ」

上条「はい?」

由里「言い方は良くないのですけど、やはり当院のような身寄りのない子供達のための施設は、あまり他の方がいらして気持ちの良いものではありませんよね?」

由里「なんて言うのでしょうか……引け目、みたいなものを何となく感じてしまう方が多いようでして」

上条「……あぁ分かる気がします」

上条「俺も両親からの仕送りとかして貰ってますけども、だからっつって真面目にやってるかって言えば、うーん?って感じですから」

上条「俺みたいな人間からすれば、その、やっぱり思う所はありますよね。情けないっていうか」

由里「えぇ、そうですね。上条さんのように真っ正面からご自分の内面と見つめる方も居ますし――」

由里「――中には”それが出来ない余り”に私達を莫迦にする方もおりますよ」

上条「……はい、居ますね。そういうのも」

由里「でも、アリサは他人への思い遣りがあり、とても優しい子です」

由里「ですから、そんな子が連れてきた――『迷惑をかけても大丈夫と思った』上条さんは、特別ですよ」

上条「……だと、嬉しいんですけどね」

由里「そうですよ。私はおばあちゃんだから分かります」

上条「アリサは――もっと、誰かに頼ってもいいと思います」

上条「アリサの人生は……やっぱりアリサ自身でどうにかなきゃいけないですし、それが当たり前だと思います」

上条「どんな業――ってのは言い過ぎですけど、誰だって同じように生きていれば壁に当たるし、挫折もします」

上条「最終的に解決するのは自分ですし、出来るのも自分しかいません。それは、絶対に」

由里「……えぇ」

上条「……でも、だからって何でも、自分一人で背負い込む必要はないと思うんですよ」

上条「友達に愚痴れば楽になりますし、なんだったら暫く同じ道で肩を貸したっていい」

上条「何も一人で解決しようとしなくたって――」

由里「――鳴護、って変わった苗字だと思いませんか?」

上条「は、はい?」

由里「この施設も十字教の教会だったのですが、学園都市の建設でどこかへ行ってしまいましてね」

由里「再開発計画で移住してきた私の父が買い取ったんですよ」

上条「……」

由里「父はね、あまり多くは語りませんでしたが、どこか北の方で宮司をやっていたらしいんです」

由里「何でも神職の儀式の一つに、弓を使ったものがありまして――と、お若い方は存じないでしょうが」

上条「……もしかして梓弓ですか?」

由里「よくご存じですこと。もしかして上条さんも?」

上条「あ、いや。知り合いが少し」

上条(闇咲逢魔が使ってたな)

由里「何か悪い事があると、弓を射るフリをして弦を鳴らして厄を払う――父はそう申しておりましたよ。確か鳴弦の儀でしたか」

由里「その儀式を取り扱う一族で、ですから『鳴護』と名乗るのを許されました」

上条「……なるほ、ど?」

由里「昔は家名を賜る事自体はとても名誉ある事で、それはそれは誇らしい事だったんです――と、父がよく零していましたが」

由里「でも、ご一新の後では皆様が名乗られたでしょう?だから有り難みも減ったんだ、ともよく愚痴っておりましたわ」

上条「……なんつーか、アレな親父さんだったんですね。気持ちは分かりますけど」

由里「でもね、上条さん。中には名前のない子だっておりますのよ?特にここは、”そういう事”も多いですから」

上条「……」

由里「そんな子達を集めて、同じ苗字に――家族になるのは私達の誇りですよ」

由里「細やかなプレゼントですし、大したものでもないでしょうが……それでも」

由里「『あなたは決して一人ではない』と。忘れさせないためにも」

上条「……ご立派です。ですけど」

由里「それはきっと、あの子が気付けなければいけませんよ。そうでなければ価値がありませんもの」

――2014年10月5日(日) オービット・ポータル本社近く 夜

上条「――えっと、ここまででいいのか?別にビルまで送ってもいいけど」

鳴護「……ん、大丈夫。何かあったらワンコール鳴らさなくてもお姉ちゃん駆けつけてくれるだろうし」

上条「するなよ?絶対にするなよ!?巻き添え食らうのは俺なんだからな?」

鳴護「そこまで振られると乗った方がいいのか迷うんだけど……」

上条(あれから――鳴護院で少し早めの夕食をご馳走になり、さっさと帰って来た)

上条(ちなみに俺は一部のガキにはやったら警戒されてたんだが……やっぱアリサは人気あるらしい)

上条(……ま、得体の知れない人間だから、仕方がないんだろうが)

鳴護「今日は本当にありがとうございましたっ!鳴護アリサでしたっ!」

上条「おい、番組シメるみたいになってんぞ。これはこれでレアなのかも知んねーけどさ」

鳴護「いや、うーん、ほら?……アレじゃない?いざ、っていう緊張しててさ」

上条「緊張?別れの挨拶に何言って――」

上条「……」

上条(え、何?緊張ってどういう事だ?なんでさよなら言うだけなのに、緊張する必要が――まさか!)

上条(レッサーに続いて二人目か……!?)

上条(……なんて展開、ラブコメじゃあるまいしある訳ねー。少なくとも俺の所にはやってこないよっ!残念ながらなっ!)

上条(……けど、そうすると一体何を――?)

鳴護「コホン……では、当麻君っ!しっかり聞いてねっ!」

上条「お、おう……」

鳴護「本日、現時刻を持ちまして!あたしこと鳴護アリサは――」

鳴護「――上条当麻君を卒業したいと思いますっ!」

上条「……………………はい?」

鳴護「あれ?納得してない、って顔だよね?」

上条「むしろ今のどこに納得出来る要素があったかと。つか何?卒業ってどういう事?」

鳴護「や、EUツアーの時から思ってたんだけど……その」

鳴護「……あたしね、当麻君に迷惑ばっかりかけてるじゃない?」

鳴護「だから、どこかできちんとした区切りみたいなのをつけなきゃって、前から思ってんだよ」

鳴護「……最後だし、ちょっとワガママ言いすぎたかも知れないけど。ゴメンね?」

上条「いや――そんな事は……」

上条「俺はアリサに迷惑なんてかけられた憶えなんて、ない!」
鳴護「俺はアリサに迷惑なんてかけられた憶えなんて、ない!」

上条「!?」

鳴護「――ってさ、やっぱり『当麻君だったらこう言ってくれるだろうな』って考えてた台詞そのままだよ?」

上条「……」

鳴護「当麻君は優しいから……うん、そう言うのも分かってた、つもり」

上条「アリサっ!」

鳴護「だから、そのお友達をやめるとか、もう知り合いじゃありませんよー、ってのじゃなくって、その」

鳴護「これからは、当麻君に甘えちゃダメだと思うんだよ。そうしたら、多分、どこまでも寄りかかっちゃうから」

上条「いいだろ別に!友達に頼って何が悪――」

鳴護「――レッサーちゃん、当麻君に告白した、んだよね?」

上条「――っ!」

鳴護「お返事はどうするのかなー?とか、気にはなるけど……うん、その、ね?」

鳴護「今日みたいなのは、やっぱり『デート』だと思うんだよ。うんっ」

鳴護「好き同士な女の子と好きな男の子が一緒に遊んだり」

鳴護「大事な場所へ連れて行ってみたりするのって――あ、違うからねっ!?今は一般論であってあたしが当麻君好きだとかじゃなくってだよ!?」

鳴護「だから、その、こういうのは」

鳴護「……もう、やめに、しないと……ね?当麻君?」

上条「……」

鳴護「じゃないと、ほらっ!レッサーちゃんに悪いから!」

鳴護「あたしは……もう、大丈夫だから!一人でも、なんとか生きていけるから!」

鳴護「だから、だから……ッ!」

上条「……アリサ」

鳴護「だからもう、あたしは、鳴護アリサは――」

鳴護「――今日で上条当麻君を。卒業、します」

上条「アリサっ!」

鳴護「いいかな、当麻君。これはきっと当たり前の事なんだよ」

鳴護「あたしがもし逆の立場で、さ?もし当麻君と付き合ってた未来があったとしたら」

鳴護「あたしじゃない誰かと、楽しく笑ってる当麻君を見るのは、とても……辛い、って思うよ……?」

上条「だからって!こんなやり方する必要があるのかっ!?」

鳴護「それとも――当麻君はさ、あたしを彼女さんにしてくれるのかな?」

上条「っ!」

鳴護「もしそうだったら、スッゴく嬉しい事だけど……」

鳴護「……でも、そうじゃなかったら、いつかどこかで”こう”しなくちゃいけないんだよ。分かるよね?」

上条「……」

鳴護「……やっぱり、ここでキスしてはくれないんだね、当麻君。少し期待してたんだけど、さ」

鳴護「うん、だから、こうなってしまったから――」

鳴護「――あたしのお話はここで、終わりだよ――」

鳴護「――さよなら、当麻君」

今週の投下は以上となります。お付き合い頂いた方に感謝を

最初のプロローグの伏線回収やうやっと出来ました

アリサ……

この作者さんのシリーズで、上条当麻がここまで追いつめられるのは初めてではないでしょうか。
ハーレムルートやらおちゃらけた態度など許されない、自分と向き合わなければならない、本当の危機。

どうする、『幻想殺し』!?

乙です

今のライダーは車に乗っててもライダーを名乗る理由がちゃんと描かれてるからセーフ

金髪の登場に喜んでいたらなにやら存在そのものが不穏なフラグに・・・

金髪の登場に私も喜んでます。
アンケートに100票以上投じた甲斐がありました。

アレ、貴方の仕業だったのかw

>上条(彼氏彼女とかカップルとか同棲したりするじゃん?なんつーか将来の予行演習みたいなー、感じでさ)

うん、さすが銀髪の幼女以上少女未満の子と半年以上同棲してる男の言う台詞ですよねコノヤロー

――オービット・ポータル本社近くの近く 夜

柴崎「……」 ピッ

柴崎「『――あ、はい。柴崎で御座います。いつもお世話になっております』」

柴崎「『それでですね、アリサさんが――はい?今なんと?』」

柴崎「『止めて下さい。ARISAさんのアイドル生命絶たれますから』」

柴崎「『”泣いてた”って……や、そう言うんじゃなくてですね、事情がありまして。はい』」

柴崎「『……いやですから、現役アイドルの保護者が猟奇殺人はマズいですよ!』」

柴崎「『たださえ新興事務所潰したいマスコミが、ARISAのスキャンダルも狙ってるって言うのに』」

柴崎「『……報道各社がトップニュースで連携するに決まってるじゃないですか。どこだって紐付きなんですから』」

柴崎「『落ち着いて下さい!ですから、その……』」

柴崎「『上条さんが何かされたのではなく、アリサさんが――』」

柴崎「『それ結論変わってませんよね?何があっても抹殺したいっていう強固な意志が感じ取られるのですが……』」

柴崎「『まぁ……同性としては共感しなくもないですが、隣の芝生へミントを植えたからといって、自分の庭に桜が咲く訳じゃないですからね』」

柴崎「『短期的にはそれで良くても長期的にはボロが出ますし、どう考えても意味がない――と、そうじゃなく』」

柴崎「『何と言いましょうか……事実上はフッてしまったので、どうかそっとしておいてあげ――』」

柴崎「『――やめてください。抹殺の話へループしてますよ』」

柴崎「『じゃ、ないです。”フられた”のではなく、逆の”フッた”です』」

柴崎「『……』」

柴崎「『……はい。アリサさんが上条を、ですね』」

柴崎「『……飲んでませんよ?血液濾過フィルタがあるからアルコールは分解されますし』」

柴崎「『いやマジです……はい?』」

柴崎「『敵の魔術師の攻撃じゃあ無いと思いますよ?つーかお前ら根本的なとこで似てんな!』」

柴崎「『――と、いうのは冗談として……あぁいえ、その、本当は本当です』」

柴崎「『詳しくはプライベートな事なので、直接聞いてくだ――知りませんよ。そこまでは』」

柴崎「『……はぁ?会いに、って……こんな時間に?』」

柴崎「『ダメです、ダメダメ。ここでリーダーが下手打って参戦したら、確実に修羅場になります。自重して下さいね』」

柴崎「『いや、あー……アレですよ、見解の違いって言うか、まぁ至極ご尤もな意見なんですけども』」

柴崎「『誰かがいつかは言う必要があったと思います。トドメを刺したのがアリサさんだけって話で、えぇ』」

柴崎「『……ま、刺したのか刺されたのかは微妙な所ではありますけどね……』」

柴崎「『……はい?何ですか?』」

柴崎「『バカじゃないですかね』」

柴崎「『いや別ですって。話を聞いて下さい、リーダー』」

柴崎「『確かに彼氏彼女は大切ですし、そりゃティーンエイジにとっての恋愛は大切だと思いますよ?』」

柴崎「『中には強烈なトラウマを抱えて、二次元へ走る人間が居るとか居ないとかって話も聞きますし』」

柴崎「『けれど、別に、最初に付き合った者同士が墓場まで付き合う、なんて決まりは無いですよね?少なくともこの日本では』」

柴崎「『むしろご夫婦になるのはそうでない場合が多いでしょうに』」

柴崎「『幼い頃のあれこれ、若く未熟な精神故に色々やらかしてしまって、黒歴史に認定するのもよくある話です』」

柴崎「『なんでしたら奪えばいいじゃないですか?それのどこが悪いので?』」

柴崎「『むしろ相性の合わない相手と一緒に居る事の方が不幸……と、私見ですが』」

柴崎「『……はぁ?子供ですか……って、あぁ。リーダーも子供でしたっけ』」

柴崎「『そりゃまぁ、その、あーっと……女性は男性とは違うので特殊かも知れませんがね』」

柴崎「『”恋愛経験の有無で人を好き嫌いする”って話、たまに聞きますけど。結局――』」

柴崎「『――”その程度で揺らぐようであれば、その程度の想い”だって事なんですよ。分かりますか?』」

柴崎「『……本当に相手を慕っていれば、その相手の過去は気にならない――ま、人として最低限のルールを守っていれば、という前提がつきますけど』」

柴崎「『少なくとも、その、リーダーは――』」

柴崎「『……』」

柴崎「『……いえ、何でもないです。こっちの話で』」

柴崎「『ともかく今は、ですよ?お二人が距離を置いて考える事が必要かと』」

柴崎「『普通に考えて”友達以上恋人未満”なんて関係、そう長くは続く訳が無い』」

柴崎「『それがお一人であれば、まだ自然と恋人になったり、また離れたりはしたんでしょうが……まぁ』」

柴崎「『一応形の上では上条さんがフラれているので――はい、そうですよ』」

柴崎「『何も一回ダメだったからって、諦める必要なんてないんですってば』」

柴崎「『……リーダー?』」

柴崎「『……いやいやっ!そこは諦めて下さいよっ!?何”クルマ”出そうとしてんですか!?』」

柴崎「『てか絶対に失敗しますって!きっと謎の力で”クルマ”が壊れて、アンダースーツのまま投げ出されるラッキースケベが起きますから!』」

柴崎「『なので妙なフラグを立てないためにもここは自重――』」

柴崎「『……』」

柴崎「『……いや、すいません。あの、実はですね、自分は前々から思っていたんですが』」

柴崎「『気分を悪くしないで下さいよ?推測ですからね――あぁやっぱり言っちゃっていいのかな、これ』」

柴崎「『怒りませ――あぁはい、もう怒ってる?分かりました。言いますけどね』」

柴崎「『その――リーダーって、上条さんと接触する機会を増やす”ため”に目の敵にしてませんか?』」

柴崎「『や、なんつーかフランスでも思ったんですが、アリサさんに攻撃されてブチ切れてた、って言うよりもですね』」

柴崎「『スタジアムに鬼気迫る形相で”クルマ”を走らせたのは、どう考えても上条さんが心配で心配でしょうがないって感じで……』」

柴崎「『他にもバチカンでアラミド繊維の対刃対弾対BCNスーツ……あ、はい。あの黒いボディスーツ』」

柴崎「『あれ、別にリーダーが空気読まないんじゃなくって、もし万が一お二人に何かあった場合、直ぐになんとか出来るように、とか?』」

柴崎「『今にして思えば……アリサさんと上条さん、”どっち”に嫉妬していたのかも怪し――』」 プツッ

柴崎「『もしも?聞いてま――切られた……』」 ピッ

柴崎「…………………………はぁ」

柴崎(手帳手帳……あった) ゴソゴソ

柴崎(あの様子じゃARISAとして活動するのは……いや、やれと言えばやるでしょうが、出来るかは別問題)

柴崎(とはいえLIVEまであと三日。明後日はリハで丸一日潰れるし、キャンセルさせるのは無理)

柴崎(ARISAのコンディション、というかモチベーションは最悪でしょうから、LIVE自体をキャンセル――)

柴崎(――する、のもアリでしょうが、今は別の事に打ち込んで気を紛らわせた方がいいでしょうかね)

柴崎(それで失敗するのであればそれだけの話。そして歌姫としての人生が終ってしまったとするならば、その程度だったと)

柴崎(今のように惰性や周囲からの期待へ唯々諾々と応えている――ただそれだけで仕事を続けるのであれば、さっさと引退した方がアリサさんのためでしょうし)

柴崎(……そもそも子供をあそこまで追い詰めたのは、まず間違いなくツアー強行のツケ)

柴崎(勿論自分達大人が不甲斐ないせいですし……一度普通の女の子に戻って考え直すのもアリでしょうか)

柴崎「……」

柴崎(しかし上条さんは変に気を遣っていたような?あちら側関係で何かある、とか?)

柴崎(……ま、想像は想像に過ぎませんからね。LIVEが終ればレディリー前会長も帰還しますし、『エンデュミオン』関係が明らかになるのかも)

柴崎(取り敢えずは明日の番宣マラソンはキャンセルさせて、流石に一日はブランクを入れた方がいいでしょうしね)

柴崎(……しかしまぁ、なんだってこのタイミングなんだか。ShootingMoonツアーの大トリ、一番大事な所でなくたって、ねぇ?)

柴崎(裏を返せばそれだけ、って事でもありますが……さて)

柴崎「全く、二人でフラれるとは……今日はなんて夜だ」

男「――でも、ないですかねー。今夜はいい夜ですよー?」

柴崎「はい?」

男「綺麗な空じゃないですか、まるで生き返ったかのように。ほら、もうすぐ地獄の門が開こうしていますねー」

柴崎(なんでしょう……頭イタイ人なのは分かりますが……)

柴崎(神父さん?なんかカリアゲのカラアゲ議員のように幅の広い襟を立ててる、変わった青いローブ)

柴崎(全面に大きく十字教のシンボルであるクロスが描かれている……ですが)

柴崎(何故かその服は大きく上下に引き裂かれていて、テープのようなもので辛うじて留められている、と)

柴崎(都会の突き抜けたモード系ファッション?何かのコスプレでしょうか?)

柴崎(自分と同じか少し上ぐらいの歳なのに……いや、好きは好きで良いんでしょうが)

柴崎(そんな事よりも地獄の門が開く?触ってはいけない類の人か)

柴崎「えぇと……」

男「全く、本当に全く!何が悲しくて審判を待つ身である私が!どうしてこんな所にまで来なければいけないんですねー?」

男「これもまたお導きとあらば吝かでは無いのですが、どうやらそういう訳でもないようですし」

男「何が悲しくて売女の猟犬にまで身を窶さなければいけないのか……はぁー、溜息が出ますねー」

柴崎(何か言い出しましたね、それもスッゴい事を)

柴崎(学園都市以外にも異能者がいるのは分かりますけど、まさかこんな所でウロついている筈も無いでしょうし。だとすれば彼は――)

柴崎「では、自分はこの辺で失礼します。良い夜を」

男「あ、失礼。待って下さいよ、まだ話は終っていませんのでねー」

柴崎「すいません。先約がありまして先を急いでおりますから」

男「あなたはこんな言葉をご存じですか」

男「――『良い異教徒とは死んだ異教徒だけである』、と!」

柴崎「殺気――!?」

男「これはこれで幸運なのかも知れませんねー……ッ!」

柴崎「っ!」

男「……」

柴崎(銃を抜く暇もなく、また能力で”糸”を飛ばす時間もなく――)

柴崎(――相手がイギリスのお嬢さん達ならば、クリティカルで首を刎ねられている!)

柴崎「……?」

柴崎(……ぐらいの隙はあったのに、何の衝撃も襲っては来ない。どういう事で?)

柴崎(目の前の不審者の視線は、何故かこちらの手帳に留まっていた)

男「フランシスコ……?」

柴崎「え、えぇ、そう書いてありますが――てか、よくこの暗闇で見えますね」

柴崎(暗視ゴーグルでもしていないと、月明かりがあっても流石に見えるような明るさではないですが)

男「フランシスコさん?あなたのお名前ですか?」

柴崎(その名前は以前ボディガードをした時に使った偽名――にも、関わらず)

柴崎(護衛対象の子供からその名前を入れた手帳をプレゼントしてくれたので、何となく使ってるだけ、ですが)

柴崎(……何か返答次第で戦闘になりそうな雰囲気ですし、馬鹿正直に言うのも危険)

柴崎(と、なれば芸能事務所で培った詐術のスキルで切り抜けるしかないですかね!)

男「日本人に見えますけど、もしかして?」

柴崎「えぇはい、十字教の洗礼名ですね。フランシスコという名を頂きました」

柴崎(……正しくはメキシコシティの駅前で買ったスポーツ紙に載っていたプロレスラーの名前です)

男「宗派は?」

柴崎「えっと……」

柴崎(フランシスコ……確か歴史の教科書に載っているのは、イエズス会でしたっけ?)

柴崎「イエズス会、だと思います」

男「イエズス会……あぁ南米で多いですし、もしかしてそちらで執り行われたのですか?」

柴崎「はい。以前仕事で行った際に」

男「なんだそうだったんですかー。それなら最初に言って下さいよ、危ない所だったじゃないですか」

柴崎「それは、どうも?」

男「と、すればこの地獄にも我が神を尊ぶ同胞はいるという事ですか……なら、手は出しにくいです」

男「しかし南米ですか。あそこはイエズス会の裏庭になっていますし、『解放の神学』やらなんだで、神の栄光が届きにくい所ですからねー」

男「信徒20億の内、5億が固まっているためそろそろ教皇も出さなければいけないでしょうねー」

柴崎「あの、すいません。出てますよ?」

男「はい?」

柴崎「ですから先代教皇マタイ=リース猊下が引退され、確か今の教皇の出身は南米のイタリア系移民の方だったかと」

男「なんと!退位されたのですか!あの番犬がよくまぁ……」

男「と、言う事は失敗したんですか……ふむふむ、個人的にはザマーミロですが、後進が愚物過ぎて混乱するでしょうねー」

男「……それも恐らく計算済みなんでしょうが――」

柴崎「では夜も遅いですし、自分はここで失礼します」

男「はい、お引き留めしてすいませんでした。あなたに神の加護があらん事を」

柴崎「ありがとうございます。では、良い夜を」

柴崎「……」

柴崎(……何だったんだ、今のは……?)

――2014年10月5日(日) 上条のアパート 深夜

上条「……」

上条(いつもの部屋、灯りをつけずベッドに寝そべりながら、白い天井を眺めている……)

上条(アリサと別れた――物理的な意味で――後、”偶然”現れた柴崎さんに見つかり、車で自宅まで送って貰った)

上条(何故か車内は気まずい雰囲気で包まれていたが、何も訊いては来なかった)

上条(……きっと俺が言うまで黙っててくれたんだろうが……そういう気分でもない。てか言えたもんじゃねぇしな)

上条(自宅前まで送って貰った所までは何となく憶えているが……なんだろう?その後が曖昧だ)

上条(灯りをつける気力もなく、ましてやメシを食う気も失せていたので、さっさと寝る事にした)

上条(インデックスが居ない部屋で、ベッドを使うのは実に久しぶりな気もしたが……特にこれと言った感慨はない)

上条(少しだけイギリス清教でやれてんのか心配になったが……)

上条(……今、顔を合わせたら泣いてしまうかも知れない。だから)

上条「……」

上条(例えばの話、世界を滅ぼそうっていう魔王が居たとしよう)

上条(特に意味がある訳でもないのに、何となくお姫様を攫って洞窟の横穴へ押し込めたり)

上条(呪われた鎧を人間へ送って、空気を読んで仲間を増やしてみたりするような感じに)

上条(まぁ、頑張って勇者か暇人が魔王が倒しお姫様も助け出した。それでメデタシメデタシだと)

上条(もしかしたら頑張って倒した裏ダンジョン最深部の悪魔に、『暇……なのか?』と連呼されるかも知れないが)

上条(……でもさ、お姫様が勇者と結婚するかって言ったら、それはまた別の話だろう?)

上条(こないだ読んだラノベだったら『貴族的なアレコレ』で、政略結婚させられるかも知れないけど)

上条(実はお姫様には昔から懇意にしている幼馴染みが居て――って方が、よっぽどありそうな話だ)

上条(……ま、悪い奴から助けてくれたんだら、少なからず厚意は抱くと思うんだが……決して好意とイコールになる訳でもない)

上条(危険な状況下で起きた吊り橋効果だって話かも知れないし……)

上条(……ちなみにレッサーが嬉々として話してたんだが、海外の似たような童話として騎士が龍を討伐する話があって)

上条(その見返りに王様が王女様をくれるんだが――)

上条(――騎士は断って、何と王様へ『王子様をくれるよう』に頼み、二人は末永く暮らしましたとさ、ってのがマジであるらしい)

上条(ネタじゃないぞ?ネタの方が少ないぐらいだし!)

上条(どっかで何か、盛大な勘違いしているような……つーかどう考えても自爆じゃねーかと思わないでもないんだが、きっと分からないんだろうな。それは)

上条(相手の尊厳を認めるのと、自分達の価値観を一方的に押しつけるのとでは全く意味が別なんだが……)

上条「……はぁ」

上条(特殊な性癖且つ非常識な人間はともかく――つーか、そんな事で現実逃避して場合じゃなくてだ。一体何が起きた――)

上条(――俺がだらしないせい?……否定は……うん、まぁ、し辛いっていうか、出来ないけども!)

上条(何か様子がおかしかったのは、はしゃいでるんじゃなくって、最初から”こういう”事だったんだろう)

上条(昨日の夜、寝付けなかったのも、メモを書き分けるのを忘れたのもきっとそのせい――か、どうかは怪しいな?素でやってる可能性もあるけどさ)

上条(……てか、うん。アリサの言ってる事は分かるし、尤もではある、よな)

上条(そんな訳で姫神以来のキッツイ説教を喰らった訳だが……あれ?)

上条(姫神に説教なんて貰ったっけ……?いつ?どこで?)

上条(あんま憶えてないが……まぁ、いいだろう。今はこっちの話だ)

上条(確かにレッサーから告白され、今んとこ保留で逃げている――いや逃げてないよ?返事を待って貰ってるだけって話だからね?)

上条(あのキ――もとい、えっと……ドラスティックでフリークス的な性格だが……まぁ、ぶっちゃけ俺の知り合いじゃ珍しくもない)

上条(誰かのために、何かのために笑って死ねるような、そんな普通じゃない女の子だ)

上条(一部金髪メッシュにした黒髪とイギリスっぽい容姿――イギリスっぽいってなんだ?よく分からんが、なんかこう、シュッとしてるって言うかな)

上条(後はやっぱりおっぱ――発育が非常に宜しい。てか将来が楽しみ――という説もあるな!一部にねっ!)

上条「……」

上条(嬉しくない――訳が、ない。つーか混乱もしてるし、まだ二割ぐらいはネタじゃねぇかって疑っては居るが)

上条(それでも……打算だとは思ってはいない。皆で旅して気付いたんだが、レッサーはそんな事出来るような器用なタイプじゃなかったからだ)

上条(良くも悪くも一直線、変な方向へ突っ切る事もしばしばあるが、そこは仲間のフォローで何とかする)

上条(胃壁をガリガリ削られるベイロープは苦労人――と、最初は思ってたんだが)

上条(実際にベイロープがトラブルを持ち込むのもあるようで。去年の『ハロウィン』がそうだったそうだ)

上条(あぁ見えてイギリス以外には割と冷たい……まぁ、確認する機会はなかったけど、そうなのかも知れない)

上条(ただ俺の感想から言わせて貰えれば、そこは『器』の問題な気がする)

上条(ベイロープぐらい物わかりがいいと、危険且つ仲間のリスクが高まれば、さっさとそれ以外を”切る”事もあるだろう)

上条(それを情が無いと言うか、仲間思いだと言うのか、それは個々人が決めれば良い事だ)

上条「……」

上条(……いやいやレッサーだよ、レッサー)

上条(勇者指令ダクオ○ネタを再開一発目で振ってきた謎の外人……)

上条(謎って言うか、レッサー達のネタ知識は”先生”って奴が教えてるらしいし、一体何者なのかそっちも興味があるが)

上条(悪い子じゃない。イタイ子ではあるが)

上条(好きか嫌いかの二択で言えば、迷い無く好きだって言える。それは間違いない……ん、だけどさ)

上条(その”好き”がどんな種類の好きかってのは、こう、なんか、分からないって言うかな)

上条(兄妹みたいに、ぎゃーぎゃー言いながらアホみたいにはしゃぐレッサーと、喉を枯らしながらフォローする俺の姿は想像出来る)

上条(むしろヨーロッパで買い出しに行くと、大抵そんな感じだったし、俺も楽しかった)

上条(……ただ、なぁ?それ以上となると……うーん……?)

上条(度々ラッキースケベ+ハニトラっぽいものは発生してるんだが……)

上条(俺だって男だし?やっぱり少なからず興味はある訳で……少しだけな?基本ジェントルだけどさ)

上条(エロい眼で見た事もない事はない。たまーにね?いつもじゃないよ?うん、全然全然?)

上条(いや、うん、だから、こう……恋人とは違うんじゃねぇかな、っては思わないでもなかったりしないでもない。どっちだよ)

上条「……」

上条(……ただ、それはアリサにも言える事だ)

上条(妹――と、までは言わないし、好きかと言えばこっちも同じく好きだと即答するだろう)

上条(女の子だってのも理解はしてるし、そのご立派な――ゲフンゲフン!も、まぁ分かるのは分かるよ!事故だけどなっ!)

上条(でも、さぁ……?)

上条(ダンウィッチでレッサーに告白された時にも言ったんだが、実感が、なぁ?)

上条(少なくとも、だけど。俺に懐いてくれている女の子は結構居る。例えば……そうだな)

上条(インデックス、ビリビリ、神裂、小萌先生、姫神、御坂妹、風斬、オルソラ、アニェーゼ、ルチア、アンジェレネ、五和、吹寄にキャーリサ)

上条(他にもバードウェイ、黒夜、サンドリヨン、クロイトゥーネ、雲川姉妹にソーズティや常盤台の金髪おっぱいの人。他にも居た気がするが)

上条(そいつら全員に俺は友達だとか恩人だと思ってるから、胸を張って『好きだ』って言える。それは絶対に……ま、気恥ずかしいから本当に言うかは別にしても)

上条(そして多分……一部にボスとかボスとか、あとボスとか怪しいのは居るけども、彼女達だってちょっとぐらい厚意は持ってくれてると思う)

上条(でもだからってさ?全員が俺に恋愛感情を持ってるなんて有り得ないだろ?それどんなラノベだって話だ)

上条(だから、レッサーに告白されても実感が沸かないって言うか――)

上条「……」

上条(……今、ものっそい数の『死ね』って罵声が聞こえたような気がするんだけど……気のせい、だよね?何か覚醒したとかじゃねぇよな?)

上条(脳裏に兎の前足の形をした電流棒のシルエットが……頭が痛い)

上条「……」

上条(……ま、誠実じゃないってアリサの言い分も分かる。逆の立場だったら、多分モニョるだろうし)

上条(でも『レッサーよりもアリサが大事だ!』なんて、俺が即答するのも……なんか、違う)

上条(俺にとってみれば二人とも大事な仲間で、友達だ。それに優劣つけるのって、なぁ)

上条「……」

上条(けどなー、なんかこう、アリサもアリサでおかしかったって言うかさ?)

上条(何を考えてるのは分からないが、悩んでるのも分かる。つーか分かっちまうよ、あんだけ追い詰められた顔してんだから)

上条(デート云々の話は抜きにしても、出来る事があれば力になってやりたい――と、俺は思う訳だ、と)

上条(幸い――不謹慎かも知れないが、レッサーに暫く会う予定はない。連絡先は知ってるけど)

上条(……その前にアリサだよな、やっぱ。ツアーのオーラスが控えてるってのに、あんな調子でやれる訳がねぇよ)

上条(つってもなー。俺一人が頭抱えても、都合良くいいアイディアなんか出て来ないし)

上条(アリサと仲の良い誰か……佐て――初春さんに、相談してみようっ!うんっ!)

上条(……なんだろう、うん?別に今、『あ、この子に任せたらイージス艦もタイタニックなるよね?』とか思ってないからな?)

上条(悪い子じゃない、むしろいい子なのは間違いないんだが……残念なんだよ、色々と)

上条「……」

上条(……よっし!悩んでたって仕方がない!トールにも言われたけど、バカなんだから考えたって仕方がない!行動しないと!)

上条(レッサーに告られたのはさておくとして!今はアリサ――ARISAの悩み解決を手伝うしか!)

上条「……」

上条(……問題を先送りしただけじゃね?)

上条(いや、そうじゃなくてだ、その――)

コン、コン

上条(問題があったら、まず一つずつ解決しようってアレでね?べ、別に流されてる訳じゃないんだからねっ!)

上条「……」

コン、コンッ

上条(……いかん。一人でやってても白々しいだけだ)

上条(や、別にレッサーを蔑ろにしてるって訳じゃなくてですね?こう、俺にだって色々と気持ちの整理的なものが――)

コンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンッ

上条「――てかさっきからコンコンウルセェなっ!?インデックスさんやっ小腹が空いたからって窓ガラス叩いてアピールするのやめなさいっ!」

上条「幾らひもじそうにしたっておウチにあるご飯は全部食べたでしょっ!後は明日の朝ご飯なんだからねっ!」

上条「もう俺は土御門さんちへ『あ、あのー、ご飯余ってませんか?』って聞きに行くのは嫌なんですよっ!?兄貴が帰ってきたら遠回しなカツアゲって怒られるだろうし!」

上条「だからインデックスさんもいい加減大人になっ――」

上条「……」

上条「……インデックスは」

上条(今、イギリス清教の実家へ帰っている最中で……)

上条「……居る、筈が――」

コンコン、コンコンコンッ

上条(ベランダへ続くガラスの扉、その手前、室内には誰の姿も見えない。勿論インデックスもだ)

上条(その代わりに白のカーテンが引かれ、外へ光が漏れないようになっている。そう)

上条(けれど今は灯りも消した暗い部屋。いつの間にか月が昇ったのか、青冷めた月の光が逆に差し込んでいる)

上条(影が。ベランダには誰かの影が映り込み――)

上条(――こんこん、と今もガラスを叩いている……)

上条「……誰、だ……?」

少女「あ、ごめんね当麻君?急に来てビックリしちゃったかな?」

少女「ちょっと近くまで来たもんだから、ご挨拶しとこっかなー、みたいな?」

上条「――アリ、サ?」

少女「うん、そうだよね。アリサ、鳴護アリサ――」

アリサ(少女)「――アリサは”わたし”なんだよねっ」

――上条のアパート 深夜

上条「――じゃ、ねぇよ!?急にどうしたんだ!?女の子が一人で出歩いていい時間じゃ――」 ガラガラッ

上条(カーテンとベランダへ続くガラスを開ける。するとそこに居たのは予想通りの人物だった)

上条(……いや、そう、かな?アリサはアリサなんだが、その、格好が……?)

アリサ「どうしたの当麻君?」

上条「ん、いや、その、服……?」

上条(夜色――深い紺色のワンピース、他に荷物らしい荷物もなく、不自然な所もない――か?)

上条(限りなく満月に近い月明かりの下、青冷めた光に照らされたアリサは――)

上条(――鳥肌が立つぐらいに、神々しいまでの美しさを誇っている……!)

上条(見ているだけで泣きたくなるような、何か、ずっと前に交わした約束を忘れているかのような)

上条(――切ない感情が暴走しそうになる……)

アリサ「――大丈夫だよ、当麻君」

上条「……アリサ!」

アリサ「わたしはずっと、当麻君の事だけを考えているから」

アリサ「喜びよりも、悲しみよりも、ただあなたの事だけを想っているから」

アリサ「だから、大丈夫」

上条「お――」

アリサ「やだ、当麻君ったら泣いちゃって!どうしたの?何が悲しいのかな?」

上条「ちが、違うんだよ!これはきっと――」

アリサ「あ、だったら少しお散歩しようっか?ここじゃ月もよく見えないだろうし」

アリサ「行こ、当麻君」 スッ

上条「あ、あぁ……」

上条(アリサと繋いだ手はただただ冷たく、人の温もりなど欠けていて)

上条(それでも俺は何故か安堵してしまう。記憶が無い筈なのに!憶えてなんか無い筈なのに!)

上条(それでも思い出すんだ!昔々母さんに手を引かれた事を!泣き虫だった俺を優しく包んでくれた母さんの手を!)

上条(ちょっと待て!?これはどう考えてもおかし――)

アリサ「――ね、当麻君、知ってた?」

上条「アリ――」

アリサ「――出会った時からね、ずっとずっと好きだったんだよ、当麻君の事が」

上条(そう言って俺とアリサはベランダから飛び降りる。仲良く手を繋いだままで)

上条(……あれ?何か忘れてるような……?)

――青冷めた月の下

上条「えっと……アリサ?」

アリサ「うん?何かな?」

上条「俺の部屋って、確か10階ぐらいじゃなかったかな……?」

アリサ「やっだなもうっ当麻君ったら!”10階から飛び降りたら死んじゃう”よっ」

上条「そう、だな。それはそうならないとおかしい」

アリサ「うんうんっ、だったらわたし達が平気だって事は、”10階じゃなかった”んだよ。簡単な話だよね?」

上条(反射的に振り向いた俺の目にはいつものアパートが見える……な)

上条(俺の部屋がある階以下を無理矢理切り飛ばしたような)

上条(デコレーションケーキを不格好に切断したみたいなアパートがあるだけだ)

上条「あれ?一階、だっけ?」

アリサ「違うの?」

上条「ん、あぁいやゴメン?勘違いしてたみたいだ」

アリサ「だよねー、当麻君が急に変な事言い出すから驚いちゃったよー」

上条「や、でもさ――」

アリサ「あ、ほらほらっ!見てみてわたしのお友達がっ!」

上条「へぇ、アリサの友達?ビリビリとか佐天さんとか?」

アリサ「新しいお友達かな?それとも旧いのかも?」

上条「どっちだよ」

アルフレド「こんばんは、カミやん」

上条「あぁ、こんばんは」

クリストフ「こんばんは、上条さん」

上条「あぁ、こんばんは」

団長「……」

上条「あぁ、こんばんは」

安曇「こんばんは、ニンゲン」

上条「あぁ、こんばんは」

アレ「テケリ・リ」

上条「あぁ、こんばんは」

アリサ「えーっとね、この人達はわたしに逢いたかったんだって」

上条「ふーん?やっぱアイドルだと人気あるんだ?」

アリサ「違うよ当麻君、そうじゃないってば!それは”あたし”じゃない?」

アリサ「そうじゃなくって”わたし”の方!」

上条「どっちでも同じじゃねぇか」

アルフレド「待てコラ。テメー俺達の苦労知ってんのか!?この面子集めんのにどんだけ俺が大変だったか!」

上条「知らねーよ。つーかカミやん言うな!」

クリストフ「ま、まぁまぁ。兄さんもホラ、こういう性格だから友達も居ないんで」

クリストフ「なんで上条さんには、こう空気的なものを読んで欲しいなー、みたいな?」

アルフレド「ダグオ○のOVA、男のシャワーシーンがあるのってどう思う?」

クリストフ「兄さんそれ事故だよね?仲良くなる第一歩で勇者指令ダグオ○の、しかも一部の掛け算する人に大人気なOVA版の話題から入るのってどうかな?」

クリストフ「それもう最初から打席に入るバッター殺しに来てると思われてても仕方がないよね?」

団長(※アニメ声)「嫌いじゃないです!むしろバッチ来い!」

クリストフ「『団長』さんも素を出すの止めませんか?ここへ来てアニメ声の鉄仮面巨体ってどういう特殊なジャンルの企画ものにも引っかかりませんからね?」

安曇「交尾だな、うん」

アルフレド「ビンゴっ!」

クリストフ「止めろっ!濁音協会が実はホモネタ大好きだとかっ根も葉もない噂が広がるから余計な事は言うなっ!?」

安曇「ホモとかけて腐女子と説く、その心は?」

アレ「テケリ・リ」

安曇「上手いな、と安曇は畏敬の念を隠さない」

クリストフ「上条さん!さぁ早くこっち側へいらして下さい!ツッコミが、ツッコミの絶対数が足りていませんから!」

団長(※アニメ声)「クリストフさんはツッコミがお好き……メモメモ」

クリストフ「ぶっ飛ばすぞ?あぁ?僕はまだもう一回変身残してんだからな?」

上条「……なんか楽しそうだな、お前ら」

アリサ「だよねー、時々ついていけなくて困っちゃうけど」

上条「いいって。アリサが穢れるから知らない事は知らなくて良い」

アリサ「そうだねー、気枯れちゃったら滅びるだけだもんねぇ――っと、着いたっ!」

上条「ここは……?」

――XX学区 『88の奇跡 記念の碑』

アリサ「あ、もうついちゃった。早いねー、やっぱり」

上条「あっちには折れた『エンデュミオン』が……」

アリサ「ん、跡地だね。ここは『88の奇跡』――」

アリサ「――つまり、スペースプレーンが不時着した所だよ」

上条「……あぁ、シャットアウラの親父さんの……」

上条(墓石のように立ち並ぶレリーフが88の影を作っている……いや、俺達を入れれば丁度90か)

アリサ「三日後――あ、いやもう日付変わったから二日後に、”あたし”のShootingMoonツアー、ラストステージをする場所でもあるし」

上条「あ、骨組みはもう組まれてんのな」

アリサ「……に、したって『アルテミスに矢を放て』かぁ……バカにするのも程があるって言うか」

アリサ「ま、いっか。どっちみち全部終るし」

上条「アリサ……?」

アリサ「……えっと、昼間ゴメンね?当麻君、いきなりで驚いちゃったよね?」

上条「あぁうん、確かに少しだけ」

アリサ「……怒ってる?傷ついちゃった?」

上条「怒ってはないって!俺が気づかなかったのを指摘してくれたんだから!でも!」

アリサ「でも?なーに?」

上条「……でも、本当に少しだけ、ほんのちょっとだけど――」

上条「――アリサに否定されて、距離を取りたいって言われたのは、痛かったな」

アリサ「そっか――」 ギュッ

上条「アリサ……」

上条(避ける間もなく引き離す力もなく、極々自然にアリサは俺を抱き締める)

上条(温もりは全くなく、どこか作り物めいた冷たさが俺の体を、心を、魂を醒ましていく)

上条(カップへ注いだ珈琲が冷めるように……これは、もう――)

アリサ「もう泣かなくなんていいんだよ?これからはずっとわたしが守っていてあげるよ」

アリサ「世界が当麻君を受け入れなくっても、わたしは当麻君を受け入れるから」

アリサ「どんなに辛い現実が貴方を傷つけようとしても、わたしが、あなたを守るよ――」

アリサ「――ずっとずっと。10の32乗の果て、この世界から元素が消えて――」

アリサ「――この宇宙から全ての熱量が奪われたとしても――」

アリサ「――ただ、当麻君だけを」

上条「……」

アリサ「だから――眠ろう?」

アリサ「だってもう、『ここが終着点』だから」

アリサ「当麻君はよくやったよ。充分に頑張ったから」

アリサ「『暗い暗い海が見える……その淵には最果てが無く、ただただ赤黒い白い緑の鱗が敷き詰められ――』」

アリサ「『――遠き大海原より帰り来たる。慟哭と怨嗟と赤子の泣き声、それは――』」

アリサ「『――夜の女王の凱旋』」

――2014年10月8日(水) 上条のアパート 夕方

上条「……」

上条(……あれ……?)

上条(今、アリサが来てたような……?)

上条「……」

上条(いや――夢、だよな。流石に今のは)

上条(カオスな夢だったが……まぁ、いいや)

上条(あ、でも一応確認……うん、ここは上の階になってるよな。いつも通りに俺のアパートだ)

上条(やー、なんか疲れてんのかなー?なんだかんだで長旅だったし、疲れが完全には抜けてないのかも)

上条(悪夢を見させられんのは『団長』でコリゴリだ。ったく)

上条「……」

上条(――じゃ、ねぇよ!?今日ってARISAのコンサートの日じゃねぇか!)

上条(てかもうこの時間だと始まって――ん、な) ピッ

上条「……やっちまった……」

上条(ただでさえアリサから叱られたばっかなのに、約束すっぽかしちまうなんて最悪だ!タクシー拾ってでも行かないと!)

上条(つーか柴崎さんがサプライズゲストがあるとか何とか言っていたし、多分俺の知り合い――)

佐天『――はーーいっ!お疲れ様で御座いますっ!ARISAの”盗んだハートはここですよ?”でしたー!』

上条(……ケータイで見れるLIVE映像では、立派にMC補佐をやってる佐天さんの姿が……!恐ろしい子っ……!)

上条(何だろうな?長年ラジオのMCやってる声優さんばりに板についてる……相変わらず謎の才能を発揮する子だな!)

上条(ネタ抜きでARISAと妹分としてデビューしそうな……まぁいいや)

佐天『そしてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!本日はなんとスペッシャルなゲストがいらしてますっ!』

佐天『その名もォォォォォォォォォォォォ!――ハマダァァァァァァァァァァァ!!!』

ハマダ?『あ、どーもー。ハマダでーすっ!』

ハマダ?『って違いますよ!?ドラマ主演はキツかったかも知れませんけど、いつまでもそのネタで引っ張らないで!』

佐天『いやいや、あれはこう堀○さん絶頂期の作品と、同じ配役でやらせた制作側に問題があると思いますよ?』

佐天『てかあれ誰がやっても比較されるでしょうし、ネタにされまくるんで関係ないかと!』

ハマダ?『ですよねっ!』

佐天『あー、でも個人的にはNH×時代劇でスンゴイ視聴率叩き出した時に、”ファンの人見捨てるの早っ!?”て』

佐天『あれ以来、あまり地上波ではお見かけしないんですが、お元気で――』

鳴護『――はいっ!と言う訳でハマダさんがゲストに来て貰っていますよーっ!次は一緒に謳いますっ!』

ハマダ?『いやあの、ハマダ呼ばわりはいいんですけど、地味に古傷抉るの止め――』

上条(自重しよう?佐天さん少しは自重しような?)

上条(当人は純粋な気持ちなんだろうけど、真っ正面から毒を吐くのってどうかな?良くないよね?)

上条(アレは明らかに『時代劇の主な視聴層である中高年』に対して、『ハマダさんが数字を持ってる層が学生層』ってマーティングに失敗した典型例であってさ)

上条(例えば仮面ライダーに暴れん坊将○出すような……いや、それは需要があるのか?嫌いじゃないけど)

上条(個人的には暴れん坊少納○が好きだが……まぁいいや)

上条(さっさとタクシー拾っていかないとアリサに泣かれる!ついでにシャットアウラに殺されちゃうよねっ!)

――2014年10月10日(金) 通学路 朝

上条「……ふぅ」

上条(遅れて駆けつけたARISAのラストライブだったが、俺のDOZEZAのお陰で事なきを得たよ!頑張ってな!)

上条(……というよりも、どうやらみんな俺がまたどっかでトラブルに巻き込まれてる、って思ってたらしく、逆に心配して貰ってた)

上条(勿論そんな事無いから、正直に寝過ごしたって申告したんだけど……)

上条(アリサを筆頭に『分かってる!うん、分かってるから!』とヒジョーに温かい態度で許して貰った)

上条(いや、違うんだが。つーか皆の善意が重いんだ!……まぁいいや。何かで埋め合わせしよう)

上条(……てか、三日ぶりに会ったアリサは特に変わった様子もなく、平然としていた)

上条(拍子抜けした感じだったが……ま、それもそれでいいだろう。うん)

上条(ただ少し、頼って貰えなかった寂しさはあるが――)

青ピ「おっはよーーーさんっ!カミやんっ!」

土御門「そこは『まいど!』じゃないのかにゃー?おはよー、カミやん」

上条「二人ともおはよー――土御門?土御門かっ!?」

土御門「はいにゃー?土御門さんがどうかしたかにゃー?」

上条「お前っ!お前――」

土御門「な、なに?」

青ピ「どうしましたん?朝っぱらかに痴情的な縺れかいな?」

上条「違うっつーの!何で俺が土御門と争う必要があるんだ!」

青ピ「ほいじゃ、どうしましたん?」

上条「え?いや――」

上条「――なん、だっけ?何か心配したのは憶えてるんだけど」

土御門「どうしたんぜぃカミやん。朝からボケてないで教室行くにゃー」

上条「ん、あぁ、そうだな」

今週の投下は以上となります。お付き合い頂いた方に感謝を



テッラさんw

姫神からの説教……「向日葵」のときか。
ここでも、繋がりがひとつ。
そして、それを徐々に認識し始めている、という。

ひょってして―――もっと大きな枠の何かが始まろうとしている?

オーズの映画が暴れん坊将軍の銀幕デビュー作っていうのも色々と凄い

早くレッサーさんらが来てくれないと大変なことになりそうで怖いです・・・
そして早くフロリスに会いたいです・・・

DOZEZAって何?DOGEZAじゃないの?ほんとどうでもいいことだけどこれがほんとにわからない
「っ」が田中さんには鬼門なのかな、これの前後の誤字脱字率が凄いね
あと前の投稿文の「ご一新」って「ご維新」じゃね?
頑張ってください

不幸なる者が甦る。

幽閉された前会長は復帰し、生死不明のスパイが帰還。散ったはずの歌姫が再びあの舞台へと立つ。
一万三十一人の実験は無かったこととなり、塑像家の親友は魔術を習い、右席前方の弟は遊園地のアトラクションを楽しむ。
人々は不幸を忘れてゆき、不幸な事実は無かったことにされてゆく。

このユートピアは、待て、どこかで目にしたことがないか?

誤字脱字が少々気になるな
内容は相変わらず面白い
乙!

真っ二つ組 復活ですね

>>499-500、>>502
ありがとうございます

>>501
追い詰められているのはどっちの方か、という疑問が無きにしも非ず。まぁ最期だし少し真面目(っぽい)展開にしています

>>503
初代ライダーこと藤岡弘が変身する際、”バイクに乗って変身ベルトに風を当てて風車を回す”のが転じて仮面ライダーと
バトルホッパーの最期に涙したのはいい思い出……クウガ以降見てませんが、シリーズが進む度バイクロッサーの弟並に重要度が下がっていくような……
知り合い曰く、「ダイザー辺りからおかしい」と。いっそ円谷プロの黒歴史、REDMANばりにはっちゃけてくれると嬉しいですが

”還り来たる”のはどこから?

>>504
一応ですが教育的指導、以後常識の範囲内に留めて下さるようにお願いします。意図的にやってしまうとアンケートの意味が無くなってしまいますので

>>505
なんかモリモリ金髪さん票が増えてビビったのは内緒です

>>506
『向日葵~』でも書きましたが、二人の立場上どっちかが意図的にモラトリアムを終わらせない限り、同棲とは呼べないかと
また仮に誰かとくっついても銀魂のぱっつぁんのように、「誰かが泣いてる」ってだけで彼女置いて走り出すと思いますが

――放課後 校外

上条「さってと」

土御門「――あ、カミやん。俺ら遊びに行くんだけど、カミやんはどうするんだぜぃ?」

上条「俺?俺は……行きたいけど、今日は麺類と冷凍食品が5割引の日なんだよなぁ」

青ピ「その言葉を聞いて、『あぁカミやんならそう言うよね!』と納得してまう所が悲しいわー……」

上条「死活問題ですからねっ!特にウチにはっ!」

土御門「そっかぁ?そんな風には思えないんだが……大丈夫だぜぃ!カミやんの魂胆は分かってる!」 ポンッ

上条「……なんで俺の肩を叩くんだ?」

青ピ「うん?どういう事ですのん?」

土御門「俺達は俺達で楽しむから、ガンバって!こいつには俺がしっかり教えとくから!」

上条「いやあの、あんま遅くなんないんだったら行きた――」

青ピ「ちょっ!?土御門引っ張らんとい――」

上条「おーい?俺の話を聞けー……?」

土御門「ファィッ!」 グッ!

上条「お、おう……?」

――帰り道 アパート近くの公園

上条(……うーっし。買い忘れは……無し、と)

上条(パスタに米に冷凍食品、これで二日は持つだろう)

上条「……」

上条(……てか何で俺こんなに買い込んでんだろ?非常時でもあるまいし?)

上条(腐るようなもんじゃねぇから、別に良いんだけど――)

御坂「……」

上条「……?」

上条(おっ、ビリビリだ。ジュースの自販機の前で何やっ――あぁ、またかよ)

上条(自販機ちょいさーしてジュースゲットなぁ?ナチュラルに犯罪なんだがなー)

上条(つーか仮にもお嬢様学園の生徒が窃盗はマズいよな。よし!ここは一つ!)

上条(小銭小銭……あった。今日は奢ってや――)

御坂「……」 チャリンチャリン

御坂「……」 ピッ

御坂「……」 ピーッ、ガチャンッ

上条「フツーに買いやがったっ!?」

御坂「急に何なのよっ!?久々にあったと思ったら第一声がそれかっ!?」

御坂「もっと、こう!色々あるのにツッコむ所そこなのか!そこ大事かあぁぁぁああんっ!?」

上条「いやだって、ビリビリさんアレじゃないですか?ジュースを買ってるなんて珍しいじゃないですか?」

御坂「いきなり失礼な事言われてる――ってか、ケンカなら買うわよ?今ならもれなく電撃が付いて来るし!」

上条「待った!?今はそんな話をしてなかった!そうじゃなくて!」

御坂「ケンカ売ってるんじゃなかったら何なのよ?言ってみなさいよ!!」

上条「そりゃお前、ビリビリが自販機で金払ってジュース買うなんて――」

上条「……」

上条「――普通だよね?」

御坂「何で疑問系なの?」

上条「あるぇ……?」

御坂「てか今時のヤクザだってそんな因縁つけないわよ、幾ら何でも――はっ!?」

御坂「こ、これはもしかして合法的に私へケンカを売って、仲良くなるフラグが……!?」

上条「あ、すいませんー。それじゃ失礼しますー、さよならー」

御坂「あ、はい。さよな――待って待って?どうしてアンタはいつも脱兎の如く逃げようとするの?」

上条「ご自分の胸に聞いてみたらいいんじゃないですかねぇ?」

御坂「ちょ、ちょっと待ちなさいよねっ!」

上条「……はい?」

御坂「胸だなんて――あたし達、まだ早いと思うのよ!」

上条「おい中学生。今スッゲー事言ってるから気付いてあげて?なっ?」

御坂「で、でも痛くしないんだったら――少しだけねっ?少しだけっ!」

上条「取り敢えず御坂さんも、ハウスっ!戻って来ーい!」

上条「夕方とはいえ住宅街の公園で高校生がJCの胸触ってたらそれだけで通報されるわっ!?」

御坂「アンタ……」

上条「それにビリビリは触りたくなる程のボリューム感はないですよね?」

御坂「シ・ネ(はぁと)」

――アパート近くの公園

上条「……」

上条「……はっ!?」

上条(おかしいな?俺は御坂と話していた筈なのに……すっかり夜になってる?)

上条(落ち着いて考えよう……一体何があったのか、を!)

上条(まずは黒焦げになってる俺の服と鞄、スーパーで買った卵は袋の中でスクランブルエッグになっている……)

上条(そして俺の頭は昔懐かしドリ○のアフロ状態に……!)

上条「……」

上条(……うん、電撃喰らっただけなんですけどね。はい)

上条(てーか漫画的なアレじゃなかったら俺の命がピンチだったよ!全く!)

上条「……」

上条(……これは余談なんだけど。いや、決して御坂にイラッとした訳じゃなくてだ)

上条(あくまでもこれは一般的な科学の知識の話だから誤解しないで聞いてほしい)

上条(雷、まぁ自然界の落雷の話なんだが、『落雷』って言うよな?文字通り『雷が落ちる』って意味で使う)

上条(昔は父さんや年輩の男の人から怒られる時にも、『雷が落ちる』って言ってたらしく、有名ではある)

上条(哲学科のソクラテスは奥さんがアレな人だったらしく、ある時怒られた後に水をぶっかけられた。その時に言った台詞が)

上条(『雷の後に雨が降るのは当然の事』と宣ったそうな……うん、紀元前5世紀ぐらいにはその概念があったって事で)

上条(また昨今のゲーム事情、超有名な勇者マンガでも使われてるから、みんな『落雷』は知ってるよね?)

上条(そうそう。あの、雷雲からドーン!って奴。あれ格好いいよなー?)

上条(だから大抵の人は雨雲の中に雷の元――まぁぶっちゃけ帯電してて、それが地上に降りてくるのは何となく分かる)

上条(実際に、雨雲の中にある電気が地上へ放出されんのが雷なんだから、間違いではない……そう、間違い”では”ないんだ)

上条(でもそれ”だけ”でもない。実は”地表側からも放電している”んだな、これが)

上条(地表はなんだかんだ言って地電流が流れてる。俺達に影響ある程じゃないけど)

上条(で、上の雲から来る雷をステップリーダー、下から来る雷をストリーマって言うんだが)

上条(その二つが結びついた後に、本格的に電流が流れる仕組みになってる)

上条(つまり『雨雲側・地表側、両方から雷が流れている』ため、”落”雷と呼ぶのは正確ではない……!)

上条「……」

上条(……なので御坂さんが落雷のメカニズムを利用しているのであれば、俺の体からもストリーマが出なければまず当たらない訳で)

上条(当然俺の体からそんなもんが出る訳がない)

上条(てか放電系の兵器が全く開発されておらず、精々テーザーガンぐらいだってのは、電撃の指方向性に問題があったと)

上条「……」

上条(べ、別に詳しくなんかないよ?どっかで負けたのが悔しいとかそういう事じゃないからな?)

上条(どうせ何か不思議パワーでホニャララしてんだろうし、きっと落雷とは違うんだろう!きっとな!)

上条(何だろうなー……『右手』はたまーによく分からない動きをするし……)

上条(『龍脈を操る力』だっけ?全部が全部、打ち消すよりはそっちの方が好ましくはあるんだが……)

上条「……」

上条(……帰ろう)

――アパート前

上条「……あ、管理人さん」

管理人「お帰りなさい、”釣った魚にエサをやらないクソヤロー”ちゃん」

上条「管理人さん?出会い頭にコークスクリューぶち込むのは止めませんか?」

上条「心当たりはないですけど、その渾名を聞く度に古傷負ったボクサーのように胸が痛むんですよね。心当たりはないですが!」

管理人「先生が人間関係を円滑にするのには、まず渾名をつけるのが良いと」

上条「渾名って言うか、それ悪口ですよね?俺には全く心当たりありませんけども!」

管理人「それじゃ……”女が絡むと勝率100%になるクソヤロー”ちゃんでは如何でしょうか?」

上条「要ります?そのクソヤロー一押し何とかなりませんかね?」

上条「最近キツくなって自制し始めた金剛力ナントカさん最盛期ばりにプッシュしてませんか?」

上条「てか何だろう……?俺の期待していた『管理人さん!』とは何かイメージ違う……!」

管理人「何でしたら姉を呼びますか?」

上条「ノーサンキューで!管理人さんのお姉さんはキャラが濃すぎますから!」

管理人「そうですか。それは残念です」

上条「はぁ……」

上条(恋査さんって俺の寮の管理人さんはいつもこんな感じだ。寮生一人一人に変な渾名をつけ、そっちで呼ぼうとする)

上条(あまり表情を変えないもんだから、本気だか冗談なのかの境が分からん……全部本気だったりしてな?)

上条(ちなみに土御門は『夜は真っ暗グラサン金髪ちゃん』、インデックスは『ボア・シンのシスターちゃん』と割と無難なものなのに)

上条(何故か俺は戒名代を奮発した位牌のように、やったら長くヒドい渾名をつけられてしまう……)

上条(土御門は曰く、『愛情表現じゃないかにゃー?』……まさかね)

管理人「今日はどうしたんですかクソヤロー?随分と遅いようですが」

上条「管理人さん略しすぎじゃないですかね?もう完全に親の敵相手にしてるレベルの暴言ですもんね?」

上条「えっと……今日はスーパーへ行ってたもんで、はい」

管理人「スーパー、ですか?確か昨日も行ってらした、ような?」

上条「ウチの子は食べるもんですから、色々とやりくりが大変でして」

管理人「ボア・シンのシスターちゃんが?……そう、なんですか……」

上条(何か一人で考え込む管理人さん。なんか変な事言ったか?)

上条「じゃ、俺はこの辺で」

管理人「はい、それじゃ――あ、そうだ」

上条「はい?」

管理人「お帰りなさい――上条さん」

上条「……ただいま帰りました」

上条(管理人さんヒャッホゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!)

上条(いいねっ!流石は管理人さんだぜ!抑えるべき所はしっかり抑えてる!)

上条(浜面が『バニーさん、あーバニーさんいねーかなー、空から落ちて来ねーかなー、』なんてふざけた事言ってたが!それは甘えだ!)

上条(バニーさんはそっちのお店行けば結構居るし、何だったら彼女にDOGEZAして着て貰えばいいっ!)

上条(だが、しかぁし!管理人さんは!寮の管理人さんはそれが出来ない至高の存在……ッ!)

上条(分かるか!?管理人さんはなぁ、ただのコスプレで再現するのは不可能だ!何故ならば――)

上条(――管理人さんとは”生き様”だからだ……ッ!!!)

上条(素人が決して真似出来ない天使!エロメイドやエセバニーやエセ幼馴染みが席巻する荒んだ世の中で光を放つ本物……!)

上条(それが、それこそが管理人さんという存在だ……!)

上条(良かった……親元離れてこのアパートへ引っ越してきて本当に良かった……!)

上条(何故かここには寮の管理人さんが居たんだから!そりゃもうご機嫌さイャッフー――)

上条「……」

上条(……あれ?おかしくないか、これ?)

上条(俺が住んでるのは『アパート』。最近では賃貸マンションって言うらしいが、まぁ部屋を借りて住んでる)

上条(だってのに何で、『寮の管理人さん』が――)

管理人「”釣った魚に餌をやらずに酷使した挙げ句、記憶ネタでなかった事にしている腐れ外道”ちゃん?」

上条「すいません、俺心当たりないです!ないったらないですからっ!」

管理人「どうしたんですか、エレベータ前でぶつぶつと」

上条「ん、あぁいや別に大した事じゃないんです」

上条(まぁわざわざ聞くような事でもないか。学園都市、どこだって学生が住んでんだから、寮みたいなもんだしな)

――上条の部屋

上条「たっだいまーーー」

インデックス「おかえり、なんだよ」

上条「ゴメンな、遅くなっちまって?今日はちょっと公園で傷害事件が起きてだな」

インデックス「ふーん、通り魔は怖いんだよ」

上条「メシは作っちまうから、お前は洗濯物取り込んでくれないか?」

インデックス「え、ごはん?とうま、ご飯作るの?」

上条「ん?ハラ減ってるよな?」

インデックス「うん、そりゃもうペコペコなんだけど……」

上条「だったら早く作っちまうよ。今日は何にしようかなーっと」

インデックス「うん、だからその作ってあるんだけど」

上条「作って……あぁ、スープカレーとひじきの煮物があるか――」

上条「――あ、隣からのお裾分けか?」

インデックス「何言ってるのか分からないよ。それ、わたしが作ったんだよ」

上条「へーインデックスが――インデックスがっ!?」

インデックス「ちょっと!どうしてそこでお驚くのかな!」

上条「待ってくれよ!?お前まさか――!」

インデックス「だって今日はわたしの当番なんだもん!作るに決まってるでしょ!」

上条「当番……?」

インデックス「冷蔵庫、ほらっ」

上条「何々……?」

上条(扉に貼られているチラシ。その裏に書かれたカレンダー、そこを見ると今日の料理当番はインデックスになってる……)

インデックス「それにお洗濯はとっくに取り込んだし!子供扱いは酷いんじゃないの!?」

上条「いや、でもお前って現代機器触ると壊すんじゃなかったっけ?」

インデックス「もー!とうまはイジワルなんだよ!それは最初の頃だけなんだよ!」

インデックス「いくらわたしだって一年も経てば料理ぐらい出来るようになるし!」

上条「そ、そうだっけ……?」

インデックス「……どうしたの、とうま?また悪い魔術師と戦ったのかな?」

上条「ごめんごめん。何か調子が狂っててさ、まぁ気にしないでくれ」

インデックス「だったらまずうがいと手洗い!ご飯はわたしがちんしとくから!」

上条「……はーい」

――上条の部屋

インデックス「――それじゃ、いただきます」

上条「いただきま――あれ?」

インデックス「どうしたの、とうま?」

上条「インデックス、ご飯の量どうしたんだ?」

インデックス「量って……普通だけど?」

上条「普通ってお前……なんか俺より少なくないか?しかも質素、っていうか肉が一つもないし」

インデックス「……あのねぇ、とうま。とうまには何回も言ってんだけど、わたしはシスターさんなんだよ?」

インデックス「神様に仕えるニンゲンが、贅沢するのは良くないんだよ」

上条「……そう、だっけか……?」

インデックス「心配してくれるのはうれしいけど、わたし達にとっては粗食も修行みたいなものなんだからね?」

上条「そっかー……なんか、悪いな。俺ばっかり」

インデックス「うん、それはいいんだけどね――それより今日のお買い物、ちょっと多すぎないかな?」

インデックス「二人で食べるにしても一ヶ月分ぐらいは――って、あ、別に責めてる訳じゃないんだよ?」

インデックス「ただとうまにしては珍しいかなーって」

上条「多い……そうか、多いよな。やっぱり」

インデックス「とうま?」

上条「……ごめん。なんか考え事しながら買い物してたから、つい買い過ぎちまったみたいだわ」

インデックス「保存出来るものばっかりだったら、それは別にいいんだけど」

上条「だよな」

インデックス「……反省が足りないのかも……」

上条「すいませんでしたっ!だからリアルスネークバイ○だけばご勘弁を!」

インデックス「誰も噛みついたりなんかしないんだよ……てか、とうまはわたしをどういう眼で見てるのかなっ!?」

上条「いやっ、ほんっとーーーーにゴメンな!なんか悪い夢でも見てたみたいで!」

インデックス「夢かぁ。どんな夢なの?わたしは出てるんだよ?」

上条「んー……大したもんじゃないかな?ここよりももっと、皆がぶっ飛んだ性格だった気がする」

上条「インデックスなんかな、こう有り得ないぐらいの量のメシを食う食いしんぼさんになってた」

インデックス「……女の子として、それはちょっと勘弁して欲しいのかも……」

上条「ほかにもビリビリがビリビリって攻撃してきたり、ドM仕様の世界――」

インデックス「びりびり?あぁあの短髪の子?」

上条「……何で俺は、ビリビリをビリビリだって呼んでるんだ……?」

インデックス「とうま?」

上条「ん、あぁいや何でもないよ。それよりお前、メシこんなに美味かったっけか?」

インデックス「そ、そうかな?そんなに褒めてもおかわりぐらいしか出て来ないんだよっ!」

上条「それで充分だよ」

――ある日 公園

浜面「――大将!何も言わずにこれを預かってくれっ!」

上条「……お前、俺を呼び出しておいて第一声がそれってどうなの?」

上条「つーかこれデイバック――って予想以上に重っ!?何入ったんだ?本?」

上条「預かるのは構わないんだけど、これ中身何よ?ヤバいブツだったら絶対に嫌だからな」

浜面「……や、あのな?俺、恋人居るじゃんか?」

上条「滝壺さんな。あ、体調まだ悪いのか?クリスマスの前辺りに入院したって聞いたんだけど」

浜面「滝壺が?誰から聞いたんだよ。ここ暫くは問題ないし」

上条「ごめん。だったら俺の勘違いだけど――それで?」

浜面「だからその、体調も良くなってきたしぃ?俺達恋人じゃん?ラブラブじゃねぇかなって」

浜面「あぁ見えてジャージの下は結構ワガママなボディがだな」

上条「止めろ!知り合い同士のそういう話は聞きたくない!」

浜面「で、やっぱ俺としては将来、てか死ぬまでずっと一緒に居たいし!予行演習みたいな感じでしようなってね!話し合ってたんだよ!」

上条「近い近い。近所のガキが『BL?あれってBLなのっ!?』って期待した目で見るから、もう少し離れろ」

上条「てか予行演習って何?婚約でもすんのか?」

浜面「BINGO!惜しい!」

上条「浜面、”ビンゴ”は当たってる時に使うからな?余所で使うなよ?」

上条「お前が笑われる分には良いんだが、ちっこい金髪の子が影響受けたら不憫すぎる……」

浜面「あ、それは大丈夫だぜ。こないだフレメア、『チキン南蛮弁当』を『キチン何番』って間違えてたから!」

上条「ホォラ見なさい!やっぱりダメな子の影響が出てるじゃねぇか!」

浜面「いやいや。麦野と絹旗に任せた方が危険だから!超ドSの英才教育されっちまうし!」

上条「麦野さんなんて超綺麗じゃん?絹旗さんも可愛いし」

浜面「お前、元暗部の女ナメんなよ?……あ、prprしたいのは否定出来ないが!」

上条「そこは彼女居んだから否定しとけ」

浜面「で、だ。その、予行演習ってのは同棲しよっかなーって」

上条「あー、はいはい。そっかー、同棲かー」

浜面「……何?何で俺を『死ねリア充め!』みたいな目で見てんの?」

上条「そう思ってるからだけど?」

浜面「大将も同棲してなかったっけ?なんか、小っさいシスターコスの子と」

上条「あぁインデックスは預かってるだけだし。恋人とかそんなんじゃないよ」

上条「てか向こうが信頼してくれてんのに、裏切る訳にはいかねぇだろうが」

浜面「それは別の意味ダチョウ的な意味で『止めろよ!?絶対に手を出すなよ!?絶対だからな!』ってるだけど思うけど……」

上条「やだなー浜面さん。そんなラノベの主人公みたいに、『俺は周囲の女の子全員から惚れられてる!』みたいなイタイ幻想ある訳ないじゃないですかー」

浜面「……大将がそれでいいっつーんなら、俺は別に何も言わないが」

上条「てか同棲なー。いいんじゃね?個人的にはモゲろって思うけどさ」

浜面「だろ!?これで滝壺もバニーコスを着てくれる筈さっ!やったねっ!」

上条「いや、その理屈はおかしい」

浜面「でさー、やっぱさー?同棲っつったってお互いに好みが100%合う訳じゃないじゃんか?」

上条「それは分かる。てか当たり前だわな」

浜面「だからな、こう滝壺に合わないであろうモノを預かってて欲しいんだよ!頼む!」

上条「それは構わないし、理屈も正しいと思うんだよ。ここまではな。ただ……」

浜面「ただ?」

上条「重さと手触り、あと動かした時にプラスチックがカチャカチャ言ってる時点で、中身が想像つくっていうかさ」

上条「俺の想像が正しければ、これの中身って本とDVDじゃね?」

上条「てーかこれ、ただのエログッズだよな?」

浜面「BINGO!」

上条「用法は当たってるけど予想は裏切って欲しかったよ!」

浜面「頼むっ!俺の魂を預けられる相手っつったら大将しかいねぇんだよ!」

浜面「世界が敵に回ってもね!大将だったらきっと俺を裏切らないでくれるだろっ!?なっ!?」

上条「これがエロ本とエロDVDじゃなかったらいい話なんだけどな……」

上条「つーか滝壺さんに全部話せ――」

浜面「ッケンなよ!全部粉砕されるに決まってんじゃねぇか!」

上条「そんな嫉妬深かったっけ?たかがエログッズだぜ?」

浜面「……考えても見ろ。もしも自分の彼女がジャニーズグッズを集めていたとしよう……!」

浜面「どう考えてもムラムラしながら見てるに決まってる!」

上条「だから、その理屈もおかしい」

浜面「だって俺だったらARISAの写真集見てムラっとしてるもん!女の子だってそうに決まってるさ!」

浜面「アイドルのファンはみんなそうだよ!男女関係なくエロい事したい筈だ!」

浜面「そうじゃなかったらアイドルのイメージビデオでアイスバーとフラフープとバランスボールがよく出て来る訳ゃねぇさ!」

上条「……多いよねー。その内のどれか一つは必ず入ってるもの」

浜面「無邪気に笑顔を振りまいてるARISAがおっぱいがたゆんたゆん揺れるのでまず一杯!」

浜面「そしてプールで水着を直す姿を見ておかわり!」

浜面「最後にワンピースでベッドの上をゴロゴロしておっぱいが潰される様子を見てかっこ――」

上条「――ふんっ!」 バスッ

浜面「そげぶっ!?」

上条「あ、ごめんごめん。つい手が出ちゃって、なんかイラッたしたからつい」

浜面「――な!?俺の言った通りだろ!?」

上条「……まぁ、分かったよ。俺が預かろう」

上条「ただ責任は持てないからな?俺の部屋は結構攻撃されてるし、なんつっても同居人が居るんだから」

上条「最悪、全部破棄されっちまう可能性だってあるから。文句は言うなよ?」

浜面「問題ねぇよ!俺んトコに置いておくよりは安全だから!」

上条「どんな彼女だ」

浜面「ハダカのおねーさんが個室で体を洗ってくれるお店へ行くと100%バレる」

上条「彼女持ちで風×行くんじゃねぇよ!?そっから間違ってるわ!」

浜面「疚しい事は何にもしてないよ!あくまでも双方の合意に基づいているだけで!」

上条「お前もう別れちまえよ。勿体ない以前にアレがアレ過ぎるわ」

浜面「反省するからっ!エッチなお店にはもう行かないから、なっ!頼むよっ!」

上条「一回だけだぞ?シモの不祥事起こしたら証拠として麦野さんに引き渡すからな?」

浜面「俺を殺す気かっ!?」

上条「またまたー。あんな優しそうな人が酷い事する訳ねぇって」

浜面「大将は分かってないだ・け・だ・ぞっ!あいつはターミネータ○とかち合っても余裕でシメられる女だからな!」

上条「可愛く言うなや……あーっと、俺も知らないんだけど――」

上条「浜面追いかけてロシア行ったり、浜面のために格上の垣根とやり合ったりして。しか対価を求めない尽くす女だって」

浜面「字面ではな?もっと壮絶なアレコレがあったんだが、つーかそれ誰から聞いた?」

上条「超超言ってる子」

浜面「KI-NU-HA-TAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!?テメェ俺になんか恨みでもありやがるのかよおぉっ!?」

上条「てか前から思ってたんだけど麦野さんて浜面に惚れてるっぽくね?」

浜面「お、俺には滝壺という立派な恋人かだな!浮気なんかしないさ!」

上条「じゃこのエロ本捨てても良いよな?」

浜面「待とうか?まずは浮気の定義から話し合おうや?」

上条「街中で薄手の服を着ているお姉さんが居て、ついつい目で追ってしまいました」

浜面「ノットギルティ!」

上条「彼女以外の人と二人っきりで遊びに行きました」

浜面「……ノ、ノットギルティ……」

上条「言葉に詰まるのはえーな!?」

浜面「仕方がないんだよ!ウチで預かってる小学生守らなきゃいけないんだから!」

上条「あぁそれなら無罪だわ」

浜面「……パンツ見ても無罪だよね?」

上条「……無罪、かな?多分、きっと、うん、俺はそう思うよ」

浜面「大将って火の粉がかかりそうになると判定甘くなるよね?」

上条「――分かった浜面!お前のソゥル!俺が確かに預かった!」

浜面「ありがとう!一生恩に着るぜ!」

上条「こんなんで一緒に恩に着られても嫌だよ!」

浜面「中身は見ていいけど汚すなよっ!それじゃ頼んだっ」 シュタッ

上条「おー……それじゃーなー……」

上条「……」

上条(中身……どうせアレだろ?バニーさんでしょ?詰め合わせでしょ?)

上条(『バニーさん8時間!』とか、『ギリギリモザイ×!バニーさん!』とか)

上条(『彼女のバニーさん当ててみろ!』等々、色物ラインナップで攻めてるんだろうな……)

上条「……」 ガサゴソ

上条(……違うんだよ?そういう事じゃないんだ、うん)

上条(これはだね、その、アレだよ!念のための確認だらかな!勘違いするなよ?)

上条(どんな危険なブツを託されたのか分かったもんじゃないし……うん)

上条(今日のインデックスさんのバイトは遅番だったし、ダッシュで帰れば充分……)

上条「……」

上条(インデックスがバイト?どこの?色んな勢力の魔術師から狙われてんのに?)

上条(いつからだ?てか何のバイト――) ガサゴソ

『スケベで優しいノーブ×管理人さん』
『欲求不×の管理人さんのいる独身寮』
『癒され荘5号館 ~管理人さんはFカッ○~』
『妄想女子寮 管理人さん×××らせて』
『水谷ケ○の平成未亡人下宿 狙われた管理人さん』
『パーフェクトボディ 独身童○寮 ~管理人さんのハンパない×振り~』
『癒され荘 ~管理人さんはHカッ○~』
『管理人さんは未亡○』
『いつでも真剣な優しい世話焼き巨乳管理人さんに×される』
『KISS×60× 管理人さんのポニーテール』

上条「……」 スッ

上条「えっと……」 キョロキョロ

上条「か、体鈍ってたわー、うん。最近運動してなかったわー」

上条「なんか走りたい気分だわー、あーすっげー走りたいなー」

上条「……」

上条「――良し!走ろう!ダッシュで帰ろう!べ、別に疚しい事は無いんだからねっ!」

上条「つーか浜面さんっナイスだ!良い趣味してるじゃねぇかコノヤローっ!」

上条「俺の戦いは――」

上条「――――――――――――これからだ……ッ!!!」

――自宅

インデックス「――とうまっとうま!大変なんだよっ!」 ガチャッ

インデックス「てれび見て、てれびっ!すっごいことになってるかも!!!」

上条「……ッ!?」

インデックス「てれび見――」

上条「……」

青年(※テレビ)『管理人さん!管理人さぁんっ僕は、僕はもう我慢出来ません……!』

管理人さん(※テレビ)『や、やめてっ!主人が、主人が見てますから……ッ!』

インデックス「……て、ほしいんだけど……」

上条「……」

青年『前の旦那がなんだって言うんですか!美神さんの事は僕が幸せにしますからっ!』

管理人『あぁ……横島君、せめて電気だけは――』

上条「これはきっと敵の魔――」

インデックス「……」 パタンッ

――10分後

インデックス「――とうまっとうま!大変なんだよっ!」 ガチャッ

インデックス「てれび見て、てれびっ!すっごいことになってるかも!!!」

上条「お、どうしたんだーインデックス?そんなに息切らせて」 シュッシュッ

インデックス「……ファブリー○?」

上条「あぁ、幽霊除けにも効くって言うから」

インデックス「……」

上条「……」

インデックス「――で、大変な事が起きてるんだよ!とうま!」

上条「あぁ!一体何が起きたって言うんだ!?」

インデックス「(……ちょっとわざとらしいかも)」

上条「(素に戻るな!テンションで流せ流せ!)」

インデックス「(っていうかぶっちゃけ、わたしはとうまがお風呂場でごそごそしてるのをいつも聞い――)」

上条「(あ゛ーーーーーーーーーーーーっ!!!聞こえないなーーーーーーーっ!!!あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!)」

インデックス「――とにかく!てれびつけててれび!」

上条「お、おぅっ!」 ポチッ

男(※テレビ)『――何?バカじゃねぇのかお前?何言ってやがんだ?』

男『専攻言ってみろ……あ?ジャーナリスト?なんだそれ。喧嘩売ってんのか』

男『テメェらどうせ何にも分からねえんだから、ただ俺が言ったそのままを書けばいいんだよ!』

男『どうせ学園都市以外の自称”専門家”とやらも理解出来ない――当たり前だろ。バカじゃねぇのか?』

男『少なくとも”能力者”開発にどれだけの国や機関が成功してるんだ?アメリカか?ロシア?イギリス?』

男『無いだろ?だからお前らが俺達をおかしいと思っても、クソみてーな妄想ソースにした薬にも毒にもならねぇ記事しか書けねぇんだよ』

男『テメェの頭が足りなさすぎて理解出来ないものを、人様に簡単に教えられる訳ね――何?ってテメェも来――』

テロップ『暫くお待ち下さい』

上条「……色々な意味ですげーけど……これ、何?」 シュッシュッ

インデックス「うんファブリ○ズはもういいから。そうじゃなくてね、その――」

女(※テレビ)『――はい、ってな感じで数多君から私、木原病理が替わってお答えしまょうすからねー』

病理『あ、質問がある方は挙手でお願いします――はい、さっきの朝ナントカ新聞の方』

病理『えぇはい、そうでーす。先程も言いましたが”学園都市は魔術師の存在を肯定”するんですよー』

上条「んなっ!?」

病理『私達が気違い――あ、ダメ?この言葉は使ってはいけない?』

病理『いいじゃないですか。別に気違いに気違い言ってる訳じゃないですから』

病理『てーか差別差別言うんだったら、まずあなた方の”イスラム国”を何とかすべきだと思いますよ?』

病理『相手はテロリスト、しかも国家ではないのに国家を僭称した上』

病理『在日トルコ大使館や在日ムスリム団体が”一般的なムスリムと混同するから使わないでくれ!”つってんのに使い続けるよーな人達に言われたくは』

病理『なので諦めて下さいな、えぇ。平和な場所で半減期しない相手に、表現の自由という名目で暴言を投げかける事しか出来ない卑怯者さん達』

病理『ネットメディアの勃興と共にあなた方の存在価値は無きに等し――』

テロップ『暫くお待ち下さい』

上条「……コント?新手のコントなの?」

インデックス「いやぁ……違うと思うんだよ、多分」

数多『――はい、つー訳でキチガイお姉さんは帰った訳だが――何?まだ続けんの?』

数多『面倒臭ぇ、つかー配付資料に全部書いてあんだろうがよ。字も満足に読めねぇのか三下ども、あぁ?』

数多『あぁ……だから、魔術はあるっつってんだろ。現実に。この世界によぉ』

数多『俺達はそういう連中と手ぇ結ぶ事にしたんだよ』

上条「まさか……っ!?」

数多『信じたくないんだったら信じなきゃいい。好きにしろよ、テメェの人生だ。俺には関係ねぇよ』

数多『けどな。テメェらがそんなクソの掃きだめの中で足掻いて、”魔術なんか無い!”つってる間にも俺達はさっさと置いてくんでー』

数多『聞いてるかい?学園都市の敵にもなれねぇクソの集団共!』

数多『俺達が仕切る世界にテメェらの居場所はねぇんだよ!古臭ぇ科学信仰に縋り付いたまま――死ね!』

インデックス「……これって」

上条「まさか――『グレムリン』か!?学園都市と一緒になるっていのうかよ!」

インデックス「……どうだろ――あ!」

上条「どうした?」

インデックス「もし、もしそうなったら!『グレムリン』と学園都市が協力したら――」

インデックス「――わたしは、もうここには居られないんだよ……ッ!」

上条「インデックス!?」

神裂「――いえ、大丈夫ですね」 ヒョコッ

上条・インデックス「「おおぉぉぉぉぅっ!?」」

神裂「あ、すいません。驚かせてしまいましたか」

上条「誰だって天井裏から降りてくればビックリするに決まってるわボケっ!」

インデックス「これがNINJA……!」

上条「インデックスさーん?この人は一応お前さんのトコの聖人さんだぞー?」

神裂「いえあの、天草式十字凄教にも透波乱波(すっぱらっぱ)の類はおりますので、あながち間違いでも無いかと……」

上条「すっぱらっぱ?」

インデックス「どっちもNINJAの意味なんだよっ」

神裂「なので、その、あまり怒らないで頂けると助かります」

上条「つー天井裏で何やって――」

神裂「私だって!私だって好きで居たかった訳じゃないんですよ!?」 ガックンガックン

上条「ま、のまままままままま待てっ!?俺が首がむち打ちがっ!?」

神裂「土御門のクソヤローに『あ、ドッキリさせてやったらカミやん喜ぶぜぃ?』と言われたから!仕方が無くっ……!」

上条「……なんかすいませんね」

神裂「……いいえ別に」

上条「てか天井裏?土御門も何考え――はっ!?」

インデックス「どうしたの、とうま?」

上条「か、神裂さん?ちょっとお伺いしたい事があるんですけど……その」

上条「もしかして結構前から天井裏に潜ってた、的な……?」

神裂 コクコク

上条「って事は俺のあんな姿やこんな姿も――」

神裂「お嫁に行けませんっ!お、お、男の人があんな事やこんな事するなんてっ!」

インデックス「……とうま?」

上条「……」 スッ

神裂・インデックス「?」

上条「……」 パタン

神裂「……出て行きましたね」

インデックス「何なのかな……?」

タッタッタッタッ……

神裂「あ、戻って来ました」

インデックス「嫌な予感がするんだよ。”てんどん”は三回までってお約束で……」

バタンッ

上条「大変だインデックス!テレビを見てみろ!」

インデックス「何が何でも責任を取りたくないって強い意志を感じるんだよっ!」

神裂「出来れば私もあれは流石にノーカンがいいですよ……」

上条「――で、何の用なんだよ?」

神裂「あ、いえ、その前にこれをお納め下さい」 スッ

上条「箱?」

インデックス「くんくん……あ、お蕎麦の匂いがするかも」

上条「ビニールでラッピングされてんのにスゲーなそれ……って蕎麦?」

神裂「引っ越してきましたので、隣に。引っ越し蕎麦という物ですね」

上条・インデックス「「……はい?」」

神裂「先程、テレビで記者会見をしていたチンピラと病み女の言った通り、今日から学園都市は魔術サイドと提携するんですよ」

神裂「流石に一朝一夕では為し得ないため、あなた達の護衛も兼ねて私達が派遣されました」

上条「そうなのか?あのヤクザっぽい人が言う分だと、まるで『グレムリン』辺りと手を結んだっぽい感じだったぞ?」

神裂「あー……いえ、それ”も”事実ですけど……」

上条「どれ?」

神裂「ですから、はい。実物を見た方が早いかと」

アナウンサー(※テレビ)『――では続きまして、魔術師の方をご紹介しましょう。えっと――』

隻眼の女(※テレビ)『――いや紹介は不要だ。そのぐらいは自分で出来るさ』

上条「ってコイツは!?」

オティヌス(隻眼の女)『久しぶりだな、愚民よ』

インデックス「ってことはアレなのかな?学園都市はイギリス清教と『グレムリン』と手を結ぶって事なの!?」

インデックス「そんな事したらパワーバランスが一気に崩れちゃうかも……!」

神裂「あ、いえ、違います。正しくはイギリス清教と『グレムリン』だけではなく」

神裂「そうじゃなくって『全部』と提携する事が決まりました」

上条「全部?全部ってまさか――?」

オティヌス『――その通りだよ。学園都市はイギリス清教、ローマ正教、ロシア成教』

オティヌス『それに様々な魔術結社も含まれる――』

オティヌス『――この”グレムリン”もな』

上条「……はい?本気で意味が分からない……」

オティヌス『だから、戦争はもう終ったんだよ。こちらとそちら、もう魔術だの科学だのを理由に戦う事は無くなったのさ』

オティヌス『後、残されているのは加盟を拒んだ雑多な連中だが……それもまぁ、勝手に滅ぶだろう』

上条「勝手に?」

オティヌス『そう。勝手にだ。我々がこの道を選んだ以上、魔術と科学の結合は早まり、それぞれの分野での研鑽は比類無き発展を遂げるだろう』

オティヌス『そうだな……例えるのならば、私達がライフル銃で武装しているに対し、参加を拒んだ連中はフリントロック式の銃で時代が止まる事になる』

オティヌス『おめでとう、HERO。この世界にはもう闘争の必要性は無くなったのさ』

上条「そっか……あれ?」

上条(俺、どうしてテレビの中のオティヌスと喋ってんだ?)

オティヌス『――だが、つまらない。予想の範囲内過ぎで意外性の欠片もないな』

オティヌス『そっちへ行く。少し離れろ――そう、ポニーテールの女はもっとだ』

神裂「?何を、言って――」

ジジッ

上条(また――ノイズが!?)

オティヌス「――と、みすぼらしい部屋だな。発情した雄の臭いもする」

上条「オティヌス!?どうやってここへ!?」

オティヌス「それは別にどうだっていい。説明してやっても今のお前には分からんさ。そんな話よりも――貴様!」 ガッ

上条「くっ!?」

神裂「手を離しなさい魔神オティヌス!これは明らかな協定違反ですよ!」

オティヌス「黙っていろ。お前が天井裏で何をしていたかバラされたいのか、うん?」

神裂「な――」

インデックス「一体なんなん――」

オティヌス「そっちの無理してキャラ作って幼い言動をしてる女も同じだ。風呂場で籠ってる間にお手隙じゃない理由を話されたくなかったら、分かるな?」

インデックス「……」

上条「な、なんなんだよ?これは!?」

オティヌス「……なぁ、こんなものか?こんなものだったのか?」

上条「何が……だっ!?」

オティヌス「私の『敵』はこの程度の存在だったのか、と訊いている……!」 ギリギリッ

上条「か、は……!」

オティヌス「随分といい趣味をしているので、挨拶でもしようと顔を出してみれば……このザマか!なぁ?」

オティヌス「……これでは、駄目だ。この程度では私を殺すなど夢のまた夢に過ぎん」

オティヌス「私の宿敵がたったこれっぽっちの存在だとは……」

上条「……」

オティヌス「……ま、それ―――だろう。貴様がどう――――すれば――」

???『久遠に臥したるもの――』

オティヌス「私以外の魔神――――に、終わりの来ない永遠――」

???『――死することなく――』

オティヌス「――――――夢――――喰われて――――」

???『――怪異なる永劫の内には――』

オティヌス「――」

???『――死すら終焉を迎えん』

上条「――」

???『―――――――――――――――――――きひっ』

――ある日 自宅

刀夜「あのな当麻、今日は大切な話があるんだよ」

上条「……何、父さん?その前フリは色んな意味でフラグだと思うんだけど」

上条「まさか家族が増えるとか、母さんが知らない弟妹が出来るとか、そういう事じゃないんだよね?」

刀夜「お前は父さんの事をどんな目で見ているんだ……?」

上条「フラグ特級建築士兼・人たらしマスタークラス」

刀夜「はっはっはー、こりゃ一本取られたねー!」

上条「笑ってんじゃねぇよ。ある意味常時不幸のバステよりも厳しいんだからな!」

刀夜「ラッキースケベの採算は取れてないかな?」

上条「……まともな相手であれば、押し倒したりおっぱい触った時点で人間関係が破綻するんだけど……」

刀夜「だがしかぁし!苦しい時!そんな時!頼りになる野郎!略して――」

上条「クソ野郎だよね?銀×で見たなそのネタ?」

刀夜「諦めないと。ウチの家系はじーちゃんの頃からそうだから」

上条「業が深いぜ上条家……!」

刀夜「……いや、当麻はそう言うけどさ。はっきり言って損ばっかりしてる訳じゃないだろう?」

刀夜「例えばそれを切っ掛けにお友達になったり、所帯を持つ事だってあるし」

上条「まぁ、そうだけど」

刀夜「でも流石にね、詩菜さんと一緒になってからは困る時もあるよね?当麻だって望まぬTo LOV○る!に巻き込まれたくはないだろうし」

上条「父さん、字間違ってないか?トラブルってそんなウキウキな発音だったっけ?」

刀夜「でも大丈夫!ご先祖様から代々伝わる一子相伝のこの技を使えば!どんなラッキースケベだって防げるって話さ!」

上条「マジでっ!?……てかそんなスゲー方法があるんだったら早く教えてくれよっ!」

刀夜「ダメダメ。この技は心身共に成熟した人間でないと使いこなせない。下手に使うと逆に怒りを買うからね」

刀夜「……それにホラ?やっぱり口では嫌がっていても、思春期のラッキースケベってなんだかんだで嬉しいだろ?」

上条「否定はしないなっ!肯定も出来ないけど!」

刀夜「じゃ今から父さんがやってみるから。当麻も練習してみなさい」

刀夜「これをマスターすればラッキースケベもし放題!何をやっても許されるよ!」

上条「母さんにチクるぞ?」

刀夜「だから父さんはあんまり使ってないよ!甘んじて詩菜さんを含む制裁を受けているんだからね!」

上条「あー……まぁ言われてみれば確かに。そんな便利な技があれば使ってるもんな」

刀夜「では――こおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……ッ!!!」

上条「気を練っている!?……あ、父さん」

刀夜「なんだい?今、集中しているから手短に頼むよ!」

上条「技に名前とかって無いのかな?それっぽい必殺技みたいな?」

刀夜「DOGEZAだ」

上条「ごめん、その技もうマスターしてる」

――ある日 学校 昼休み

青ピ「しかしまぁアレやね。『科学と魔術の合同研究』なんて、人生どないなるか分からへんね」

上条「だよなー。俺も話聞いた時はビックリしたぜ」

上条「しかも何が驚いたかって、意外にすんなり受け入れられるっつーところがな」

土御門「個人的には思う所がないわけじゃないんだが……ま、前から囁かれていた事ではあるんだ」

土御門「錬金術で使う媒体や試薬、それを科学サイドの最新技術で加工すれば、出来上がるものが桁違いの霊装になるんじゃないか、って」

土御門「まぁアレだな。魔術師が魔術に使う素体だが、それを科学サイドの力で造るって思想だ」

土御門「純度の高い金や銀などの鉱物、不純物を極限にまで取り除いた純水」

土御門「他にも死霊系ではクローニングされた動物での研究が進められていると」

土御門「また反対に、人体の組織や精神の働きも各種魔術師のイニシエーションで解き明かされつつある……何とも、だなぁ」

上条「大丈夫なのか?」

土御門「今の所は順調、ただしこれからに問題を孕んでなくもないぜぃ」

土御門「記者会見で木原数多が世界へ対してケンカ売ったように、この流れに乗り遅れた魔術結社は技術面で数段落ちるだろう」

土御門「もし仮に、そんな奴らか反旗を翻したとしても魔術と科学の両方から瞬殺されっちまうにゃー」

上条「……仲良くしてくれるのは、正直嬉しいんだが……」

土御門「あー、分かってる分かってる。カミやんが言いたいのはアレだろ?今までそれで食ってた奴らがハブられるって事だろ?」

土御門「ま、何とかなると思うぜぃ。電卓が発明された時、『人はもう必要無いんじゃないか!?』と言われてたが、そうはならなかった」

土御門「ショベルカーやトラック、土木用の重機が普及しても同じく」

土御門「むしろそれらを利用して、よりグレードの高い世界になっていく……」

青ピ「――か、どうかはまだ分からないんちゃいます?確かに世界的に豊かになったんは確かですけど」

上条「どういう意味で?」

青ピ「ネットコンテンツもそうやけど、今、ボカロとDTPソフトの普及で誰でも音楽を作れますやん?」

青ピ「ただそれらが『神作!』なのか、それとも駄作を量産しとるのかはまだ分からん、っちゅー話ですわ」

上条「駄作言うな。俺FREELY TOMORROWとか、オケで歌ったりしてるんだからな」

土御門「『大衆が認める文化』と『大勢が認める文化』の、違いだぜぃ」

土御門「ある国でトップになったって、世界レベルで見れば微々たるもんだし、的なお話だにゅー」

上条「語尾語尾……ま、分からないでもないが」

土御門「ま、今の所、錬金術や冶金関係での協力も進んでいるし、後半世紀ぐらいは仲良く出来ると思うぜ」

土御門「幸い、『魔術がある=神の奇跡も存在していた!』的に、嘗ての信仰へ目を向けようって運動も盛んになってる……」

土御門「……」

上条「どした?」

土御門「いや……気のせい、だろう。きっと」

土御門「俺がここで何をしたとして、機械仕掛けの神は停まらない……」

青ピ「はい?」

土御門「いやそんな事よりもカミやん、”トコロテン食うかい?”なんつったりして!」

上条「唐突にどんな話振りやがるっ!?校内にトコロテン持ち込んだのか!?」

土御門「別に何でもないにゃー。そんな事よりお昼の放送が始まるぜぃ」

上条「お昼の放送?そんなんあったっけか?」

青ピ「もしかして……噂のアレかい!」

上条「知っているのか雷電!?」

青ピ「うむ、とある中学で伝説を作った幻のお昼の校内放送……!」

青ピ「そのDJをやった生徒が今年ウチの学校へ入ってきたという噂を聞いた事がある……!」

上条「そ、そいつはまさか――!?」

校内放送『チャッチャッチャララ、チャッチャッチャララ……』

上条「世にも奇妙な物○のテーマっ!?縁起ワルっ!?」

上条「てーかこの時点で誰が分かったよ!?残念な子でしょ?違うのかっ!?」

佐天(※校内放送)『はーいっ!と言う訳で今日もやって来ましたよー、お昼の放送!』

佐天『皆さん午前中の授業どうでしたかー?頑張りましたー?』

佐天『あたし?あたしは全っ然駄目でしたよ!あっはっはっはー!』

佐天『だってホラ、いるじゃないですかハゲ?そうそう、学年主任の!』

佐天『あの人がエロい眼で見てるかと思――』プツッ

……

上条「……終わったな、あっさりと」

青ピ「まさかあのアホ番組を生で聴けるとは……感動やねっ!」

上条「感動っつーか、佐天さん内申点大丈夫か?つーかよくこんなフリーダムな番組流しやがるなこの学校!」

佐天『――はいっ、という訳でものっそい怒られましたっ!佐天涙子がお送りする校内放送ですっ!』

佐天『皆には見えないかも知れませんが、ハ――あ、いや学年主任が見てますからねっ!穏便に行きましょう穏便に!』

佐天『では、今日も皆様からのメール届いてますんで、ちゃっちゃと読み上げちゃいましょうか!でーでんっ!』

佐天『ラジオネーム”ソウケン”さん、お手紙ありがとうっ!愛してるぜっ!』

上条「お前だろ?」

青ピ「な、何を言っているのか分からへんなぁ」

佐天『”佐天さん、こんにちは”、はーいこんにちは!』

佐天『”ボクぁ前々からずっと気になっていた事があります。それを考えると夜も眠れません――”』

佐天『”――ぶっちゃけ今どんな下着履いてんのか、おっちゃんに教えてご覧はぁはぁ”』

上条「メシ終わったら黄泉川先生んトコな?絞って貰え?」

青ピ「だだ、だからボクちゃいますやんっ!つーかただの他愛ない悪戯ですやんっ!」

上条「やっぱお前じゃねぇか。つーかさ、こういうセクハラは良くな――」

佐天『ローライズですね』

上条「答えんなよっ!?元・柵川中の核弾頭おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

佐天『あ、色はブルーで上とお揃いですけど?それが何――』 プツッ

上条「『何か?』じゃねぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?つーか空気読め!空気をなっ!!!」

上条「君が放り込んだ爆弾で野郎はおもっくそ想像しているし!女子は女子でドン引きしているからっ!」

青ピ「……てか迷いもなく言い切りよった……」

ピーンポーンパーンポーン

学年主任(※校内放送)『ただいま内容に著しく風紀を乱すものがありました事を謝罪致します』

上条「そりゃな?」

学年主任『尚、今読み上げられたメールを送った持ち主は食事が終わった後、職員室まで来るように』

学年先生『黄泉川先生ではなく、男の体育先生達がやる気になっておられます』

青ピ「嘘ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」

学年主任『では、引き続いて連絡事項――何?』

学年主任『ちょっと待っ――違――』

桂『ずっとスタンバってました』

上条「違う人来ちゃった!?」

桂『黒髪ロンゲは涙子殿とキャラが被ってるのがいけませんかっ!?』

学年主任『待ってくれないかな桂君?君アレだよね?関係ないよね?何一つ?』

学年主任『あと君、佐天さんとキャラ被りをしてるって言うけど、君らの共通項は”人類”以外にないからね?』

桂『だがしかし課長殿も被っ――あっ』

学年主任『オイテメー今人の頭見て何か言おうとしなかったか?あぁ?』

学年主任『やったんぞ!?いつでもやったんぞコラ?これはただちょっと大きめの額であって、メット的なものを被ってないからな?』

学年主任『こないだ夕方五時のNHKにキダタロ○先生が出て、若い頃を写真とエピソードで振り返ろうって企画だったんだが』

学年主任『視聴者はエピソードそっちのけで、いつキ○先生がテイル・オ○!したのかにしか興味ねぇんだよ!』

桂『そもそも冒頭のタモさんとの絡みを無った事にしたのはどういうこ――主任殿!せめて!せめて一太刀ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!』

学年主任『うん、だからね桂君?君一太刀って言ってっけど、さっきから斬られてるのは主に俺だよね?被害担当で弄られてるのは俺だけだよね?』

学年主任『佐天さんとの合わせ技で、言葉の暴力でズタズタに斬られまくってるのに、これ以上追い打ちかけるの止めてあげて?なっ?』

学年主任『あとエリザベス先生、この番組は基本音だけなんで桂君の後ろでプラカード持ってても伝わらないと思うな、うん』

学年主任『多分ザベス先生もそこら辺確信犯――つーか故意犯だと思うんだけど、プラに書いてある内容エゲつないもんね?』

佐天『何々……”ビッ×先生が本物のビッチってどういう事?”うん、それはだねー』

学年主任『佐天さん、君教室帰れって言ったよね?黄泉川先生に説教して貰う前に、ご飯食べてきなさいって言ったもんね?』

桂『グレートマザー、超ドン引いたんですけど』

学年主任『うん、だからもう帰ってくれないかな?ネタ的にヤバ――』 プツッ

上条・土御門・青ピ「「「……」」」

青ピ「あぁっと、やね」

上条「誰が収集つけるんだ、この大惨事……」

土御門「きょ、今日!」

青ピ「今日?」

土御門「今日の放課後、二人はなんか用事あるかにゃー?」

青ピ「ボクぁないですけど。カミやんは?」

上条「俺はインデックスのバイト終わりを待ってて、帰るつもりだけど」

土御門「だったら丁度良かったぜぃ。実はな、ウチの家の――つーか、あー……まぁ遠い親戚が入学する事になったんだにゃー」

青ピ「あぁ土御門んとこは由緒正しい魔術師の家系やったっけ?」

土御門「それそれ、そっち関係の。で、入学したのはいいんだけど……ほら?五月病、みたいな?」

上条「中々馴染めない、か?」

土御門「そうそれ!なんか前の学校からいきなり切り離されたんで、友達も居なくてだにゃー」

青ピ「――分かっとる!皆まで言うな土御門!」

土御門「だから二人には友達になって欲しいんだわ」

青ピ「言ってた!?ボクが格好つけたの無視しおった!?」

上条「おけおけ。そういう事だったら喜んで協力させて貰うよ」

土御門「なんかこう理屈っぽい子だから、禁書目録も一緒だと助かるんだが……」

上条「それも込みで俺はいいぜ」

青ピ「ちなみに女の子?男の娘?」

土御門「……それは合ってのお楽しみって事でも、一つ」

青ピ「なんや嫌な予感がするんやけど……まぁいいわ!その話乗ったる!」

土御門「……悪いな、二人とも」

――放課後 コンビニ前

上条(後一時間ぐらいか……さて、どうしたもんか)

上条(立ち読みするとインデックスに怒られるし、コンピニコーヒ○でも買って、ちびちび飲むか……)

少女「――解答一。あなたは私に甘味を与えればいい」

上条「また突然現れやがったな!……甘いものがどうこう言ってるって事は、ミーシャの方か?」

ミーシャ(少女)「解答二。その通りだと肯定する」

上条「てかお前も来てたとは意外だが……ガムは持ってないしなー、うーん……?」

ミーシャ「勧告一。早くしないと『御使堕し』が暴走する可能性が無きにしも非ず」

上条「天使が堂々と脅迫しやがった!?……ま、まぁネタなんだからスルーするけど!」

上条「あ、それじゃアイスでも食うか?食べた経験は?」

ミーシャ「解答三。無い」

上条「手持ちの金だと……ホームランバ○でギリギリ二本か。よし、それじゃ待ってろ」

ミーシャ「勧告二。購入する所を観察したい」

上条「それじゃ一緒に行こうか」

――コンピニ

インデックス「いらっしゃいませー……ってとうま」

上条「お疲れー。迎えに来たわ」

ミーシャ キョロキョロ

インデックス「……また女の子!?しかもちっちゃいし!」

上条「誤解だからね?」

ミーシャ「解答四。『アイスを買ってやるからついてこい』と」

上条「ショートカットしすぎじゃないですかね?なんかモニョる展開になっちゃってるなー、こやつめーHAHAHA!!!」

インデックス「……とうまがヘンな事する人間じゃないのは分かってるけど……」

上条「精神衛生上悪いから、さっさと買って出て行くよ――おーし、これだ」

ミーシャ「質問一。このケースの中にあるのが『アイス』?」

上条「そうだ。つっても俺が帰るのは銀色の、四角形の奴だけな」

ミーシャ「質問二。何か違いはあるのか?」

上条「小さいから値段が安い!けど侮ってはいけない!」

上条「なんと、このアイスには『当たり』が入っていて、当たるともう一本が無料で貰えるんだよ!」

ミーシャ「お、おぉ……!」

上条「なので自分の分は慎重に選ぶように!」

ミーシャ「……」 スッ

上条「良し、それじゃ俺はこっちを買おう」

――コンビニの外

ミーシャ「……これは!」

上条(表情が変わらない――つーか見えないまま、モグモグとホームランバ○を食べるミーシャ)

上条(実家とロシアで二回程殺されそうになったように思えないが……まぁ、いいだろ)

上条(こうやって一緒に車止めへ座ってアイス食ってる仲になれれば、そうそう戦う必要も出て来ないだろうし)

上条「どうだった?」

ミーシャ「解答五。何も描かれていなかった」

上条「それじゃ残念」

ミーシャ「質問三。そっちは?」

上条「俺は……当たった!ラッキー!」

ミーシャ ジーッ……

上条「あー、分かった分かった。これやるから交換してこい、な?」

ミーシャ「……えぇと」

上条「店員さんに『アイスの当たりが出ました』って言えば通用すっから」

ミーシャ コクコク

ジーッ、パタン

上条(拷問服を除けばまぁ普通の子なんだよな。喋りがちっと硬いけど)

上条(慣れれば気にならないし、何言ってるのかも分かりやすいっちゃ分かりやす――)

上条「……」

上条(……ちょっと待て。何かおかしいな……?)

上条(何がおかしい……?学校か?友達か?それともインデックスが?)

上条「……」

上条(……違う!それは違う!)

上条(おかしいのは『何か』じゃない――『全部』だ!)

上条(俺を取り巻く環境自体が!どう考えてもこんなに風にすんなり科学と魔術が融合出来る訳がない……!)

上条(そして何よりも!他の事全てよりも不自然極まりないのは――)

上条「――俺が”当たり”を引く筈がない……ッ!!!」

――パキイイイィィィィィィィィィィィィィィィィィィンッ……!!!――

今週の投下は以上となります。お付き合い頂いた方に感謝を

>>529>>531
DOGEZAですね、すいません

この世界でイスラム国出来ても瞬殺でしょ

乙!
ワクワクさせてくれるぜ



こんな幸せな世界も良いと思います

賢者モードの辺りは首吊りたくなるが

乙です

やっぱりDOGEZAであってたか
お話し的には7、8割くらい?
長く続いて欲しいがどういうendかも気になる
頑張ってください

>説明してやっても今のお前には分からんさ。

ついに、オティヌス降臨!
この世界の「魔」とは、どう絡むのか。
そもそも、「世界」とは絡むのか―――?

ああそうか、『上条当麻が幸せになる世界』だから違和感が起きたのか...
ヅラ、お前は体操してろ

乙じゃ!

>>524
ありがとうございます

>>525-526
SSでも使い辛い(キャラは濃いんだが、原作に忠実だとどうしてもアレな人になる)と評判のテッラさん
働き者の無能と怠け者の無能、どちらが有害かは如何ばかりか

>>527>>530>>532
オーラスにするつもりはありませんが、結果としてなってしまったらご愛敬。一期一会はよくある話

>>528
フロリス「心配ご無用!ワタシが活躍する場はまだまだこれからサッ!」
フロリス「魔神【自主規制】を【自主規制】して【自主規制】になった世界――だがしかし世界にはまだ暗躍する影一つ!」
フロリス「ウェールズで発生する謎の連続人体発火……人が生きたまま消し炭になるまで燃え上がる!」
フロリス「科学では解明出来ない謎に立ち上がる『新たなる光』プラス一名!」
フロリス「『S.L.N.』の残党共の再会!事件現場に現れる黒犬!旧伯爵家で代々続く血の因縁!」
フロリス「恐ろしい相手に次々と仲間達がリタイアする中、ワタシが見た真実とは……ッ!!!」

フロリス「『フロリスアフター ~紅焔のバーゲスト ~』!2015年春!堂々公開未定!」

フロリス「『――バスカヴィルの魔犬を見たモノは――』
フロリス「『――――――――――――――――――死ぬ』」

フロリス「応援アリガトー、愛してるぜー!」

【~同時上映~】

?「ひとぉつ!人妻の生き血を啜り……」
?「ふたぁつ!ふしだらな後家さんを……」
?「みぃいつ!淫らな未亡人を――」
?「――退治てくれようキダ・タロ○!!!」
学年主任「違うよね?君それただの人妻好きってだけだよね?退治する要素一個もないもんね?」
桂(?)「ヅラじゃない桂だ!」
学年主任「キダ先生は関係ないよね?オレ別にヅラの話してないもんね?」
桂「新春特番スペシャル!暴れん坊将ちゃんwith攘夷志士!」
学年主任「おいヅラお前それ将軍ンンンンンンンンンンンンンンンンンンンン!?」
桂「あなたのヘッドにィィィィィィィィィィ!テイル・オン!!!」

……たまーに余所様のSS読んだ後に自分のを読み返すと、基本シモ・エロ・グロ・パロ・悪ふざけしかなくて死にたくなりますよ、えぇ(´・ω・`)
っていうか上条さんの夢の中に真壁出すの忘れちまったぞコノヤロー

――薄暗い部屋

老人の声「――魔神の魔力が消えたな。予想よりも早かったが、まぁ、それもまた佳きかな」

上条(なんだここ……てか、どっかで聞いたような声が……?)

レッサーの声「では『新たなる光』を代表して私が致しましょうかねー。よっこいせっと」

上条(あ、レッサーの声だ)

ベイロープの声「待て待て。何しようとしてんのよ?」

レッサーの声「いえ、ですからね。ようやっと上条さん『常夜(ディストピア)』の影響から抜けたって訳じゃないですか?」

フロリスの声「爆心地でモロ直撃受けた割にはリカバリ早いしーねぇ。よね?」

老人の声「で、あるな。『右手』が少なからず影響したか、もしくは別の存在の介入があったのか」

老人の声「途中、隻眼の鴉が幻視えたが……様子見であろう、な」

レッサーの声「でもホラっ!今は一分一秒が惜しい所じゃないですかねっ!」

レッサーの声「なーのーでー!ここは一つ!私がしっかりきっぱりすっぱりどっきり目覚めさせようって話です!」

ベイロープの声「つまり?」

レッサーの声「こう、ぶちゅーっと。ドギツいのを一発」

ベイロープの声「……やれやれ」

レッサーの声「待ってつかーさい!?真面目な話ですってば!だからエィアンクロゥ(※巻き舌)は最期まで聞いてからどうぞ!」

ベイロープの声「真面目な部分はどこにもなかったでしょーが!」

フロリスの声「ベイロープに一票、うん」

レッサーの声「や、そういうんでなく……えっと、はい、今の状態は『茨姫』と同じでしょう?」

レッサーの声「なのでこう、恥ずかしいけどレッサーちゃんが物理的に一肌脱ごうかと!」

ベイロープの声「服を着なさい恥女」

老人の声「糸紬の針が刺さって昏睡する王女、目覚めさせるのは王子の口付けだったかな」

レッサーの声「ナイスフォロージ×イ!お礼にウチの先生をF×××して構いませんよ!」

少女の声「ちょっ何言うてんのレッサー!?ワイはそんなに軽ぅ女とちゃうよ!」

老人の声「――だがしかし、それを課すのはグリム童話であり、他の類型版では勝手に姫が目覚めているがね」

老人の声「むしろ12番目の魔法使いが『100年の眠りの後に目覚める』と変えたのだから、そちらの方がオリジンには近いだろうな」

レッサーの声「あんたさっきからどっちの味方ですかっ!?全裸になりますよっ!」

老人の声「本当に止めてくれないか。場合によってはその首を狩らねばならん故に」

上条(……てか、何の話してんだ?イバラヒメ?)

上条(もしかして俺が起きてるって知らないのか?ふーん?)

上条「……」

上条(……お、起きなかったら、その――して、貰えるんだよね?きっと?)

上条(い、いえ別に期待なんかしてないからねっ?どうせアレでしょ?誤魔化されるんでしょ?分かってるもの)

上条(こう、”先生”とか言うモフモフしてるらしい人にーとか、もしくはじーちゃんの方にー、とかさ)

上条(期待なんかしてないよ!散々今まで裏切られて来た過去が――)

ランシス「――ん、ちゅっ」

 脳髄に電撃が走る。そう一瞬身構える隙も無い程にその一撃は鋭かった。
 俺が驚いて目を開けると至近距離には見知った少女の顔――しかも、いつもの無表情では無く、仄かに赤く色づき上下した、得も言われぬ艶を含むものだった。

「ん……れろ、ぅん、じゅ……ちゅっ」

 彼女との接点。深く繋がった舌と舌が卑猥な水音を立てる。
 どちらが求めているのか、求められたのかの境を曖昧にし、ただただ深く絡みつく。
 最初に貰った一撃は俺の理性をズタズタにし、人としてのタガを壊そうとする。

 もはや役に立ちそうにもないモラルを奮い立たそうと、俺は――。

「んっ、んっ、んっ、んっ……ちゅっ!れろぉ……ぢゅっ、ちゅるるっ!」

 ランシスの舌使いは実に狡猾で、こちらが求めれば引き、引けば際限なく求めてくる。
 あぁ気持ちいいんだという自覚すらなく、俺の意識が彼女一色に侵食されてしまう。

 覆い被さってくる彼女を押しのける選択肢は、もう、無い。
 俺はただ、その慎ましやかな胸へ手を伸ば――。

レッサー「――って何やってんですかっ!?何しくさってんですかランシスぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!?」

レッサー「いや分かりますけど!交尾ですよねっ!大好きですっ!」

ベイロープ「レッサー、自重」

レッサー「てーかいつもいつもいつもいつも!あなたってヒトは人のモンに手ぇ出すの早すぎやしませんかねっ!」

ランシス「……ごめん、レッサー」

レッサー「なんです?言い訳があるんだったら言ってみて下さいな!納得するかは別にして!」

ランシス「……友達の好きな相手NTRのって超興奮する……!」

レッサー「変態だアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!?」

ベイロープ「……寝取る、っていうかあの子まだよね?確か」

フロリス「ツアー中に何も無ければその筈だけど、その割には舌使いがエロかったよねー」

上条「――ハッ!?俺はどうしてここに!?」

フロリス「あー、ゴメン。そういうのいいから、意識あるの全員わかってたケドさ」

フロリス「つーかジャパニーズの方も『揉もう!』ってカンジに手が固まってるジャン?」

レッサー「今まさに『愛する撫で撫で』と書いて、愛撫と読む行為をしやがろうとしてませんでしたか?」

上条「違うんだよ!これはきっと一方通行が俺のベクトルを操ってだな!」

レッサー「言うに事かいて親友売りましたよ、あの人」

上条「今回の件!俺はむしろ被害者だよっ!」

上条「『あ、どうせまたギャグで流すんだろ?分かってるよヘヘン!』的に余裕ぶっこいてたらこれだもの!まさか舌入れて来るとは思わなかったもの!」

上条「つーかお前フリーダムにも程があるだろ!?俺の知ってる残念な子だってここまで無茶はしねーよ!?」

ランシス「いぇーい……」

上条「……てか人生初のディープなアレが!こんな訳分かなねぇ場所で!しかも勢いで!ネタで!」

レッサー「ではここは一つ私が消毒する方向で」

上条「止めろっ!?近づくなっ!?お前らはあらゆる意味でガチだから本気でしてくるって分かってんだからな!」

フロリス「でも気持ち良かったんだよね?」

上条「最でした」

レッサー・フロリス・ベイロープ「「「じー……っ」」」

上条「いや、あのー……」

ランシス「……ぶい!」

老人「――すまないが、そろそろ前向きな話をして貰いたいのだが、佳いかね?」

レッサー「本音は?」

老人「外でやれ、外で」

フロリス「……や、あの今外へ行ったら『常夜』に呑まれて終わるんだケド……」

ベイロープ「遠回しに『死ね』って言われてるのよ」

上条「……てーか、ここはどこだ?どっかの倉庫の中っぽいのは分かるんだけど」

レッサー「いやいや上条さん。確かに倉庫は倉庫ですけど、タダの倉庫じゃございませんな」

上条「特別な場所なのか?」

レッサー「まぁともあれ、色々不愉快なアレコレがありましたが、おはようございます、上条さん――」

レッサー「――人類最後の砦へ、ようこそ」

――2014年10月8日16時過ぎ(回想)

上条「『あ、ごめん土御門!最後にもう一つだけいいかっ!?』」

土御門『知識ぐらいしか手伝えないが……なんだ?』

上条「『今日の月蝕、もしも大規模術式が仕込まれてるとしたらいつだ?』」

土御門『形式による、な。相手が”どの”系統』にもよる』

上条「どの?」

土御門『”当たり”はついてないのか?どの神話の、何を模した術式とか?』

上条「『連中が自称してたのはクトゥルフ……ただ、実際に幹部連中が使ってたのは、えっと……』」

上条「『安曇阿阪の古神道にルーツを持つ獣化魔術。”団長”の古代エジプト……多分屍体を操る魔術」

上条「『ウェイトリィ兄弟の世界樹と一体化する、北欧神話系の魔術……』」

上条「『あと、もう一つ。”アレ”って言うクリーチャーが居たけど、そっちは科学サイドのバケモノらしい』」

土御門『……安曇の、つーかミシャグジの獣化魔術は興味あったにゃー……帰ったら詳しく』

上条「『それはいいんだが……どうだ?分かるか?』」

土御門『……手持ちのカードが少なすぎる。ステイルから話を聞けばまだ分かるかも知れないがな』

上条「『俺、ホットライン持ってねぇんだよ!信用されてないですからねっ!』」

土御門『ステイルとしちゃ”馴れ合わない”つもりだったんだろうが、どう考えても裏目に出ている』

土御門『ま、今からあいつと連絡取ったとしても対策は取れない。つーか多分間に合わない』

土御門『これはステイルの資質がどうこうじゃなく、”必要悪の教会”はイギリスの特務機関だから仕方が無いと』

上条「『で、どうだ?』」

土御門『もう一度言う。情報が少なすぎる。カミやんの期待には応えたいし、推論も幾つが出せるが混乱するだけだろう』

上条「『……そっか』」

土御門『とにかく!今日の月蝕が始まるのは18時過ぎ、終わるのは21時50分……ぐらいだった筈だ』

上条「『その四時間弱の間になんとかすればいいのか……そうすると余裕はある、のか?』」

土御門『残念、そうじゃない。確かに月蝕は結構長いんだが』

土御門『相手の思惑によっては”月蝕が始まるのがトリガー”になってるのも充分に考えられる』

土御門『天岩戸って知ってるか?日本神話のアマテラスが閉じこもるヤツ』

上条「『何となくは。太陽が隠れるから真っ暗になるって話だよな』」

土御門『太陽は大抵の神話では万能神や最高神を兼ねているんだ。神話の中心に置かれて、絶大な力を持つ存在として描かれている』

土御門『だから”その存在が一時的に消え去る月蝕”ってのは、途轍もない凶事だって概念があるんだ』

土御門『邪術に分類されモノであれば、月が見えなくなった時点で完成するだろうが』

土御門『完全に月が隠れるのは20時前後、それまでが勝負だろうな』

上条「『……』」

土御門『どうした?』

上条「『……ARISAのライブ、18時から開演、途中何度か休憩が入って22時に終わるんだ』」

上条「『このコンサートは”エンデュミオンの奇跡”――つまり、一年前にあった”事故”の記念式典……』」

上条「『だから普段は夕方になると終わっちまう電車やバスも、送迎って形で学園側が動かしてくれる』」

土御門『……』

上条「『……けど、おかしいだろっ!?何でわざわざ月蝕の日に重ねてする必要があるんだっ!?ただの平日に!』」

上条「『そもそもエンデュミオンってのは月の女神の恋人なんだろっ!?どうしてここでも”月”が関係してくる……っ!?』」

上条「『それに……ツアーの名前は”Shooting MOON”……最初っから仕込みだったのかよ!?なぁっ!』」

土御門『……カミやん、らしくないにゃー。もっとシンプルに考えようぜぃ?』

上条「なんだって?」

土御門『”どのレベルで誰が”とか、”いつからどうやって”ってのは今考えるべきじゃないにゃー』

土御門『何故ならば”答えが出ようが出まいが、現在直面している問題”には全く関係ないからだぜぃ』

上条「『それっ!……そう、なのかも知れないが!』」

土御門『今カミやんがすべきなのは、魔術知識に乏しい頭絞って考える事じゃない。他にすべき事があるだろう?』

土御門『”幻想殺し”でもなく、”第三次世界大戦の英雄”でもない、お前にしか出来ない事が』

上条「『……』」

土御門『なーんか難しく考えてるみたいだけど、人間出来る事なんてのは決まってるんだぜぃ?』

上条「『でも、俺は……』」

土御門『だから難しく考えんなつってんだにゃー。悩んで解決するんだったら魔術も科学も必要ないすぃ?』

土御門『つーかやって来ただろ、ずっと?カミやんはさ』

上条「『俺が?』」

土御門『その”右手”はさ、ただ魔術や異能をぶっ壊すだけの、そんなチンケなモンじゃなかったよな?』

土御門『下らない陰謀や考え、誰かを踏みにじって当然、騙して当然――』

土御門『――そんな”常識”を何度も何度もぶっ壊して来た。それはどうしてだ?』

土御門『カミやんにとってたまたま出会っただけ、何の得も見返りも無しに死にかけた事なんてしょっちゅうだ』

土御門『だってのに何でカミやんは色々なモンをぶっ壊した来た訳だ?』

上条「『それは……』」

土御門『あぁ』

上条「『……常識だとか、当然だとか、規則だとか、理だとか……』」

上条「『そんな下らない理屈で、人をどうこうしたり、なっちまうような奴を……見て、居られなかっただけ、だな』」

土御門『今回の”これ”もそうだよな?なーに悩んでんのかこの土御門さんにゃ、ちぃっと分からんけど――』

土御門『――お前は、お前だ。好きなようにやってみればいい』

上条(……アリサの事か……)

土御門「『納得出来ないんだったら、出来るまで足掻いて見せろ。ウジウジ悩んでるなんてらしくない』」

上条「『土御門……』」

???『――黄昏へ赴く前に、貴様までエインヘリャルとなられても困るからな――』

上条「『土御門……?何?』」

土御門『――ん、いや?何か混線したっぽい』

上条「『そう、か?』」

土御門『――とにかーく!今大切なのは”月”だぜぃ!月!』

土御門『今はただアルテミスの猟犬共には目も暮れず、魔術儀式の妨害だけに集中しろ!いいか?』

上条「『分かった!何とか……いや』」

上条「『俺が思う通りにやってみるわ。いつもと同じように』」

上条「『出来る出来ないじゃなく、立ち向かう所から一歩ずつ』」

――2014年10月8日16時半(回想) 路上

上条(……土御門から情報を聞けたのは良かった)

上条(アリサにフラれた――のか、どうか今もよく分からないが――後、色々と消化不良を起こしてたアレコレも、解決出来そうな目処が立ったと)

上条(どっちみち俺が尻込みしてたってだけの、情けない話ではあるが……まぁ、気付いただけマシだろうな)

上条(シャットアウラには歯の一本二本折られるかも知れないけど……うんっ、カエル先生がねっ!頑張って付けてくれるよHAHAHA!!!)

上条「……」

上条(さて、ARISAのコンサートまで二時間切った。俺は電車とバスで行くつもりではあった)

上条(ただなー、今ちょっと問題があってだなー)

上条(……サイフ落としちまったって、深刻な問題がですね、えぇ)

上条(カードその他もサイフん中だし、家には小銭ぐらいしかない)

上条(舞夏に借りるのもアリだが、最近帰ってくるのは18時前後だって事が多くて、それじゃ手遅れ)

上条「……」

上条(……いや?勿論アリサ達に電話をしたよ?したんだけど繋がらないんだ)

上条(ライブ直前のクソ忙しい中、応対出来ないのは分かるし、仕方が無いから事務所やホールの方へかけたんだよ。そりゃな?)

上条(でも『ただいま担当者が外しておりますので』と、クレーマーや頭イタイ用のテンプレ対応をされてしまった……)

上条(『アリサに話を通してくれ!』とか、『シャットアウラに伝言頼む!』とかじゃなぁ……現実なんてこんなもんだとは思うが!)

上条(これが映画だったら、たまたま受付の人が電話を取った所に柴崎さん辺りが出くわす――ってなるんだよ!お約束守りなさいよっ!)

上条(あれじゃないかな?フィクションだったらアリサ達の方へ場面が移ってから、俺が会場の前まで、パッと移動してるパターンじゃないか?)

上条(どっかの宇宙と戦争するネタ映画のように!これだからリアルは!)

上条(やっぱリアルって厳しい……まるで俺にフラグが立てば立つ程厳しくなっていくような……?)

上条「……」

上条(冷静に行こう、うん。落ち着いて考えろ)

上条(コンサートホール――つーか記念式典用の特設会場まで、こっから歩いて行けるじゃない距離ではない。出来たとしても半日は必要)

上条(公共の交通機関は無理、だったらヒッチハイク――も、きっと俺がしたらヤクの密売人の車と一緒になってトラブルが起きるに決まってる!)

上条(なら誰かに送っていって貰う、か?俺の知り合いで車持ってんのは小萌先生に黄泉川先生……)

上条(でも今は平日の夕方。思いっきり仕事中だよな、黄泉川先生は警備員かも知んないけどさ)

上条(だとするとここはやはり誰かに金を借りるのが一番だ!だって俺は持ってないし!)

上条(ここは一つ、苦しい時!そんな時!頼りになる浜面さん!) ピッ

上条「『あ、もしもし浜面――』」

浜面『あ、丁度良かった大将!カネ貸し――』

上条「『あ、ごめん。間違えました』」 プツッ

上条「……」 ツーッ、ツーッ、ツーッ……

上条(えぇっと……他に友達はっと)

上条(一方通行……悪くないが、巻き込んじまうなぁ。同じ理由で姫神と吹寄もNG)

上条(先輩……も、なんか最近急がしいらしいし、妹さんも舞夏が遅いんだったら、遅いだろう……)

上条(他には佐天さん初春さん……うーん?佐天さんはMCの手伝いするんだっけか、だったら電話するだけでも――) ピッ

上条「……」

上条(そりゃ切ってるよなぁ、電源。あと一時間と少しで本番だもの)

上条「……」

上条(……俺、友達少ない、のか……?もしかして)

上条(そんな筈は――うん、まぁ今は非常時だし!考えない事にしよう!今はなっ!)

上条(どうやって移動するか、そっちの方が大事だ!優先順位を間違えないようにしないと!)

上条(決して!『俺、土御門と青ピ以外に同性の友達居なくね?』と考えちゃいけない!今はもっと大切な事がある!)

上条(どうやってライブ会場まで向かうか……あ、そういや)

上条(たんま頼みたくない、つーか俺だと大丈夫か不安だけども。一応試してみる価値はある)

上条(……ダメだったら小萌先生に頼むしかなくなるが――)

――路地裏

上条「……」

上条(人気無し、ゴミも無し、社会のゴミも無し、ビリビリも居ないと)

上条(シチュとしちゃいいんだが、果たして俺が出来るかどうか。ま、やってみるだけはしないと)

上条「…………………………すぅ」

上条「助けてカブトムシさああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!!」

シーン……

上条「……あれ?」

上条(やっぱ佐天さん情報じゃ駄目か?垣根が幼×ウォッチしてるって話は聞いてたんだが、俺は対象外か?)

上条(どうしたら……そうだ!)

上条「助けてカペドムシさああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!!」

白いカブトムシ「――少しお話をしません、上条さん?主に何故カブトムシからカペドムシへ変わったかについて」

上条「え?だってお前――」

白いカブトムシ「違いますよ?何を言おうとしていたのか分かりませんけど、多分それは違うと思いますから」

上条「幼女に振り回されてるって評判の垣根さん?」

垣根(白いカブトムシ)「物理的にですよね?キーホルダーになって鞄に装着されていれば、誰だって振り回されますよね?」

上条「正月にやってた深夜映画でさ、ゾンビコップってのがあってだな。”ザ・グリード”で一部に有名なトリート=ウィリアムズ主役の」

垣根「”一部に有名な”って時点でもう違いますよね?有名じゃないですもんね?」

上条「ラストで主人公と相棒が『生まれ変わるんだったら美女の自転車サドルになりたい』つって終わるんだけど、どう思う?他意はないんだけどさ」

垣根「他意しかありませんよね、それ?上条さんにして珍しく遠回しに『お前の生き方それでいいの?』って聞いてますよね?」

垣根「ある意味気を遣ってくれたと言えなくもないですが、幼女のマスコットになるのに不満があるのであれば聞きますよ、えぇ」

上条「すまん垣根!手を貸して欲しい!」

垣根「明らかに頼み事をする態度ではありませんでしたが……まぁ、私で出来る事であれば。それに」

垣根「こちらも聞きたい事がありましたので、丁度良かったです」

――学園都市 上空

垣根「――で、聞きたい事なんですが」 ブゥーーーーーーーーンッ

上条「降ろしてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」

垣根「今週の頭、日曜日にお会いしましたよね?えっと……上条さんがプロポーズした方の子です」

上条「と、飛んでるっ!?俺飛んでるよっ!?ちょっとしたナウシ○並に飛んでるなっ!」

垣根「その子がどうしても聞きたいと言っていたので、私も上条さんを――」

上条「頭がフットーしちゃうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!?」

垣根「余裕ありますよね?割とネタに走ってますもんね?」

上条「余裕なんてねぇよコノヤロー!?こんな高速飛行に耐えられる程人体は強くねぇもの!」

上条「てーか俺の予想と違う!空をファンシーな動物に乗って飛ぶのってガキの頃の夢の一つだったけどさ!」

上条「今の俺の状態ってなんだよ!?上じゃなくて下!どう見ても『キメラアン○にエサとして攫われる一般人』状態だろ!?」

垣根「カブトムシの構造上、背中――腹と頭の付け根に翼があるんで、相当小さくないと角に捕まって飛ぶのは無理かと」

垣根「それに『右手』で触られると、多分存在自体がキャンセルしてしまうので」

上条「……だからって六本の足でガッチリ捕まえて輸送されてんのは、どう見ても獲物としか……」

上条「Gフライヤ○状態つっても分かんねぇかも知れないが」

垣根「カブトムシのは基本樹液しか口にしませんからね。飛翔しながら捕食行動をするトンボに比べれば、飛行性能も数段落ちます」

垣根「そもそも体が堅く大きいのも、他の昆虫に先んじて蜜を食べるため、という説もあり――」

上条「だったら未元物質でトンボ型になればいいんじゃね?もしくはメーヴ○的な?」

垣根「……」

上条「……」

垣根「……」 ヒュンッ

上条「あ、テメっ!?スピード上げやがったな!都合が悪くなったからって誤魔化そうとしてんじゃねぇ!」

上条「てーか目が開けていられないぐらいの強風……前にもフランスで高高度落下罰ゲーム喰らったけど!あれぐらいの衝撃じゃねぇか……!」

上条「……」

垣根「上条さん?」

上条「あ、なんだ。そう考えてると二度目か。大した事無かったな!こっちの高度なら墜落しても死なないかも知れないし!」

垣根「前向きすぎます。罰ゲームの内容も気になりますが、私はバイク程度の速さしか出していませんので」

上条「つーか俺が頼んだ事と違うよ!俺がして欲しかったのはアリサ達と連絡取りたかっただけだし!」

垣根「飛ぶ前に言いましたが、何故かここ最近ノイズが走るんですねぇ。こう、ザザッと」

上条「ノイズが?つーかお前らどうやって意思疎通してんの?」

垣根「電波のような、赤外線のような……なんて言うんでしょうかね、こう、光は『波』の性質を持つと言えば分かりますかね?」

垣根「とはいえ無線は所詮無線なので、電波の強弱によって届くが影響が違う。これは拙いと」

垣根「何故ならば人間の脳波が数Hzであり、幾ら電気系能力者として言っても世界中に張り巡らすには現在のインフラを遙かに凌駕する出力が必要」

垣根「ですので私達は『未元物質』に媒介にし、独自のネットワークを構築す――」

上条「オーケー分かった!不思議能力でカバーしてんだな!」

垣根「分からないんでしたら、別にそれはそれで構わないんですが……というか、正確性であれば第三位を頼った方がいいのでは?」

上条「疑問に疑問を返して悪いんだが、話を繋いでハイサヨウナラ、で納得すると思うか?」

垣根「その言い方だと私を巻き込んでもいいように聞こえますが……」

上条「他に頼れる野郎が居ないんだよ!頼むっ!」

垣根「まぁ否やはありませんよ。学園都市の平穏を守るためであれば断る理由など何も――それに聞きたい事もありましたしね」

上条「俺に?」

垣根「はい、前に――最初にお会いした時のバカ騒ぎ、憶えていますか?能力者達が女の子一人を追い回したあの日」

上条「日曜に会ったフレメアって子の争奪戦してたんだよな。今は浜面預かりになってんだっけ?」

垣根「ですね。その子のお姉さんについて少し」

上条「あの子のねーちゃん……あぁ!俺に見事なハイキックくれやがった奴か!」

垣根「ですね。そっくりだったでしょう?フレンダ=セイヴェルンさんです」

上条「外見は似てたが……妹さんは性格がもっとこう、大人しそうな……いやよく分からんが。それで?」

垣根「あの子のお姉さん――つまりフレンダさんがですね、一年ぐらい前から行方不明なんだそうです」

上条「行方不明……穏やかじゃねぇなぁ」

垣根「妹さん、フレメアさん曰く『大体おねーちゃんが死ぬわけないのだ!にゃあ!』らしいので、其程心配はしていなかったと」

上条「その言葉が信じられるんだったらな。浜面達はなんて言ってんだ?」

垣根「何か事情があるのは間違いないので、フレンダさんにお会いしたのを伏せて話した所、『遠い所に居る』と」

上条「浜面、その言い方だと亡くなってんだろ。縁起でもない」

垣根「あくまでも比喩表現でしょうがね」

上条「詳しくは聞いてないのか?」

垣根「成り行き上、護衛を任されているとはいえ新参ですからね。『アイテム』の皆さんに信用されているとはとてもとても」

上条「浜面が?いやでもアイツ――」

垣根「『アイテム』は私の『スクール』と抗争した過去があるので、気持ちは分かりますがね」

上条「……あぁ元『暗部』なんだっけか」

垣根「あ、一応断っておきますが、私達は『アイテム』の誰も殺していませんからね?」

垣根「むしろこちらのメンバーの一人が殺され、一人が今も意識不明、残った一人も行方不明」

垣根「私の『未元物質』で最終的に勝ちは拾いましたが、抗争的にはどう考えても私達の負けですし」

上条「あー……今思ったんだけど、垣根ってフレンダって人と顔見知りだったのか?」

垣根「能力で『アイテム』のアジト聴き出しただけで、後はノータッチです。『あぁそういえば居たっけ?』ぐらいの」

上条「雑だなオイ」

垣根「私も抗争終了後、一方通行にボコられて何ヶ月かは意識不明でしたから……」

上条「……あの頃は荒んでたって、巨乳ミサカが愚痴ってやがったなー……」

垣根「もう一人の生き残り、『心理掌握』、今頃何してんでしょうかねぇ……」

垣根「……ま、そんなこんな事情がありまして。言葉を濁された以上、某か含む所はある訳ですし、あまり無理に聞き出すのも」

上条「そっかー」

垣根「ですから上条さん、何かご存じだったら伺いたいなと」

上条「……うーん。教えてやりたいんだけど、俺も殆ど知らない。つーかKOされちまったし」

垣根「そう、ですか……ま、元気そうでしたし、心配はいらないかも知れませんね」

上条「だな。ヤバかったら最初っから浜面んトコへ助けを求めるだろうし」

垣根「ですね」

上条「浜面は能力者相手に少し厳しいかもだけど、麦野さんみたいな綺麗で優しくて強いなんて、そうそう居ないしな」

垣根「――えっ――?」

上条「何?浜面にも似たようなリアクション貰ったんだが」

垣根「第三位と親しい、んですよね?」

上条「友達だと思ってるが、それとこれと何の関係が?」

垣根「でしたら一度『麦野沈利とはどんな女か?』って聞いてみるのをお勧めしますよ。無理とは言いませんが」

上条「あ、あぁ」

垣根「『暗部』時代でも良い噂は聞きませ――ツッ!?」

上条「垣根?」

垣根「……すいません。少し――ノイズが……あ、リ」

上条「無理すんなよ!一度下に降ろせ!」

垣根「……はい……ッ」

――2014年10月8日17時(回想) 『Shooting MOONツアー』ライブ会場 関係者控え室C

佐天「えぇーっとー、ここがこうなってー、ARISAさんが出て来たら、あたしが下がってー……」

佐天「あ、休憩時間もあたしが繋がなくちゃいけないんだっけ……うーん?」

コンコン

佐天「はい、どーぞ?」

初春「あ、失礼しますー」 カチャッ

佐天「おっ、初春良い所に!」

初春「しませんからね?MCは絶対にしませんからっ!」

佐天「えー、なんだよー、しようよー、ね?」

佐天「一回だけ!一回だけで良いからっ!?ね?」

佐天「絶対に気持ちいいからっ!病みつきになるからっ!」

初春「佐天さん言い方がスッゴクいかがわしいです、はい。危険なドラッグをお勧めにしてるようにしか聞こえませんよ」

佐天「『風紀委員』でもナンシーさんが問題になってるんだっけ?いけないよねっ!」

初春「……『幻想御手』で一時昏睡になった佐天さんが言っていい台詞じゃないですよ?」

佐天「……」

初春「佐天さん?」

佐天「どーーーーーーーーーーーーーーーーしよーーーーーーーーーーーーーっ!!!」

初春「だからですね、私がいつもいつもいつも言ってるように」

佐天「あたしまたなんかノリで引き受けちゃって!見たっ?!客席っ!?」

初春「聞いてませんね?いつもの事ですけど」

佐天「満員御礼だよっ!やったねっ!」

初春「混乱してるのもよく分かります……ですからね、いつも言っているようにですね」

佐天「うっひゃーーーーーーーっ!!!第一声どうしようっ!?『あたしの歌を聴け!?』」

初春「やめてください!ARISAさんのホームなのにアウェイの洗礼を浴びそうですから!」

佐天「あ、今月の電撃大○見た?オブジェクトがアニメ化されるんだってさ!」

初春「戻ってきて下さい。現実逃避しても、あと一時間ちょっとで本番だって現実は追っかけてきますから」

佐天「駄目だよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!あたし、こういうの苦手でさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

初春「あー……『エンデュミオンの奇跡』のプレイベントで、御坂さん達とアイドル衣装着た時もアガってましたもんねー……」

初春「てか佐天さん、意外に打たれ弱い?」

佐天「だ、だって将来の旦那様以外に肌を見せるのはちょっと、じゃない?」

初春「私のスカートを毎日毎日めくってる人の台詞じゃないですよっ!?」

佐天「つーかさー、心臓バクバクでさー。もうどうしよっかってカンジでさー」

初春「逃げるって選択肢がないんですから、さっさと諦めて下さい。てか台本を読み直して確認した方が――」

佐天「触ってみる?マジでスッゴイ事になってるから」

初春「聞いてませんね?……気持ちは分かりますけど、そんなにテンパらなくたって」

佐天「いいからっ!ほらっ!」 ギュッ

初春「さ、佐天さんっ!?」

佐天「……どう?分かるかな?」

初春「……はい、すっごく早いです。ていうか」

初春「また大きくなってません?なんかこう、厚みが増してるって言うか」

佐天「……この間、スーパー銭湯行ったよね?」

初春「あー、ありましたねぇ」

佐天「御坂さんが『裏切り者!?』みたいな顔芸をしてあたしの胸を見てるんだよ……!」

佐天「いいじゃん別に平均よりか下だって!需要はあるんだから1」

初春「てゆうか御坂さん、あのスペックで胸まであったら完璧超人過ぎますしねー」

佐天「……」

初春「……」

佐天「……言っていいかな?」

初春「……言わないで下さい。何となく想像はつきます」

佐天「密室でおっぱい触らせてるのって、あたし達完全に百合カップルだよね?」

初春「言わないで下さいって言ったじゃないですかっ!?」

初春「てか、どっちもノーマルなのにこんな事したら完全にギルティ――」

カチャッ

柴崎「あ、すいませーん!予定が少し変わりましたので、打ち合わせを――」

佐天・初春「……」

柴崎「……」 パシャッ、ピロリロリーン

柴崎「……失礼しました」

初春「待って下さい誤解ですからっ!?これは事故ですっ!」

柴崎「分かってます分かってます。思春期にありがちな異性への嫌悪感を拗らせて、つい盛り上がっちゃっただけですもんね」

初春「それっぽい理屈で冷静に捏造しないで下さい!だから違いますって!」

初春「ていうか今写メ撮る必然性はありましたかっ!?」

柴崎「上条さん喜びそうですよね」

佐天「あ、確かに」

初春「佐天さぁんっ!?」

佐天「いやほら、目の前でパニクってる人を見ると落ち着くじゃん?」

初春「否定して下さいよぉ!ただでさえ、クラスにいると妙な視線が飛んで来るんですから!」

柴崎「交尾ですね!」 グッ

初春「だーーーかーーーらーーーーーーーーーーっ!!!」

~5分後~

柴崎「――と、いう風に変更が入るそうです」

佐天「『ポラリス』歌って、ARISAさんのオープニングMCに入って――」

佐天「――その直後にサプライズゲスト、ですか?」

柴崎「ですね。その時にゲストの紹介文は……まぁ、ノリでお願いします」

佐天「わっかりました!悪ノリさせたら柵中一と呼ばれたあたしに任せて下さい!」

柴崎「では宜しくお願いしますー――と、そちらが噂の初春さんですか?」

佐天「はいですっ。あたしの親友ですよー」

初春「その紹介も……はい、初春飾利です。こんにちは」

柴崎「初めまして、クロウ――じゃない、えっと名刺……取るの忘れてしまいましたか、まぁいいや」

柴崎「もしもこちらの業界にご興味があれば、どうぞお気軽にお尋ね下さい。興味本位でも全然構いませんから」

初春「は、はぁ」

柴崎「ていうか初春さんも可愛いらしい方ですね」

初春「いえいえっ。そういうのは、はいっ」

柴崎「声優さんに似てるって言われません?徳島出身なのに西葛西出身って宣った方に」

初春「言われた事はありませんねっ!残念ですけど!」

柴崎「もし興味があったらニコイチで売り出しますんで、気軽に仰って下さい。では失礼します」

初春「ありがとう、ございます……?」

パタン

初春「……なんか、話に聞いていたよりも軽い人ですねー」

佐天「ARISAさんのマネージャーだから、やり手だとは思うんだけどねー。あたしが本格的にデビューすんだったら専属さんがつくんだって」

初春「二人とも軽くて心配になりますけど……」

佐天「だよねー、あっはっはっはー!」

初春「同意しないで下さい!」

――2014年10月8日17時過ぎ(回想) ライブ会場近くの駐車場

垣根「あ――が……!」

上条「大丈夫か垣根っ!?待ってろ、今医者――いや獣医さん?を連れてくる!」

上条(ライブ会場――ARISAの特設ステージはこっから見えるぐらい駐車場に軟着陸した)

上条(ARISAを見に来た人の車で駐車場は満杯。警備員も居ない――てか居たら色々聞かれてヤバかったと思う)

上条(会場まで走って行けば10分もかからない。けど、垣根を見捨てるのは出来ない!)

上条(幸い看病する時間ぐらいはありそうだが……一体どこへ連絡すれば良い?カブトムシのお医者さんなんて知らねぇぞ!)

上条(どう考えても”能力”関係だし、カエル先生か御坂に頼るしかないのか?)

垣根「ど、動物病院は少し専門が違いますよね……」

上条「分かってるよ冗談だ!救急車呼ぶな?能力者でも治してくれる腕のいい先生知ってるから!」

垣根「いえ、それは、問題あり――」

上条「垣根?」

垣根「り――り、リリリリ、リリ……リッ!」

上条(突然金切り声――というよりは金属が軋む音を立て始める)

上条(かすかに開いた羽根が蠢動し、今まで明確に紡いでいた言語から耳障りな騒音へ変わった)

上条(一見すると不規則だが……やっぱりよく聞いても不規則にしか聞こえない)

上条(つーか何やってんだろ?外見が虫相手に何だが、バグか?)

ギシッ、ギギギギギギギギッ

上条(近くに停めてあった自動車の窓ガラスが、垣根の声――というか、出す音に共鳴して悲鳴を上げる)

上条(多分俺の、というよりかは人間の耳には聞こえない周波数の超音波が出てる?)

上条(モールス信号でもあるまいし、何やって――)

上条(……ちょっと待て。モールス”信号”?)

上条(垣根は言ってた筈だ……何言ってるのか理解出来なかったけど、垣根同士で無線通話みたいのはしてるって)

上条(その垣根が言ってた『ノイズ』。それってつまり、誰かが、何かを送信してたのを垣根が拾ったんじゃないのか?)

上条(アナログラジオでデタラメに周波数を変えていたら、海外のチャンネルへ繋がったように)

上条「……」

上条(でも垣根はラジオじゃない。能力者としての力は学園第二位だ)

上条(割と無茶な一方通行の後塵を拝しては居るが、一緒に戦った感じ相当頼りになる)

上条(そんな”超”能力者、学園に七人しか居ない強度5能力者――)

上条(――ある意味規格外の規格外とも言える存在に、”エラーを引き起こす程の強さで干渉出来る”ってのは、一体どんな――)

黒いカブトムシA「リ――リィ」

黒いカブトムシB「――リリリリリリリリ」

黒いカブトムシC「リリリリリ――リリリリリィ」

上条「……垣根が増えた――?つーかこいつらどこに隠れてたんだ?」

上条(垣根と同系統。大きさも大体同じ巨大カブトムシがのっそりと姿を現す)

上条(その色は垣根と異なって夕闇に溶け込むような漆黒だが……)

垣根「――違、います!コイツらは私じゃ――ない……ッ!!!」

上条「何?」

垣根「私とは――違う!」

黒いカブトムシ達「「「――リリリリリリリリリリリリリリリリリリリリッ!!!」」」

上条(内臓を掻き混ぜるような不快な鳴き声――俺は、”これ”を知っていた!)

上条(ドス黒い半透明の、体の中には用途不明の球体状の臓器が浮かんでいる奴らをだ!)

ブチャアァァァッ……!!!

上条(黒いカブトムシが鳴き声が叫び声へと変わり、内部から爆発したかのように輪郭が崩れる!)

上条(死んだのか、そう俺が息を吐く間もなく――)

上条(――『アレ』は再度産声を上げた……ッ!!!)

ショゴス『テケリ・リリリリリリリリリリリリリィィィィィィィィィィィィィィィィィィィいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃッ!!!』

――2014年10月8日17時20分(回想) ライブ会場ステージ

スタッフA「あーい、こっちオーケーです!バリメ問題なーし!」

スタッフA「え、なに?急げ?急いでるわボケっ!こっちも大変なんだよ準備!」

スタッフB「――っとすいません。チーフ、こっちいいっすかね?」

スタッフA「もぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!やーめーろーよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!またトラブルかよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」

スタッフB「や、すいませんっ!でもあれ、ナントカしないといけないっす!」

スタッフA「どこ?つーかアレ――Oh……」

スタッフB「ね?誰かが樹のセット倒したらしくて、先っちょ折れてますよね?」

スタッフA「うそーん……誰よ本番まで一時間切ったのに仕事増やしたバカはっ!」

スタッフB「リハん時でもクレーンカメラ当たっちまったっすかね?」

スタッフA「あー、そうかもなー。連中大手テレビ局の下請けだっけか?」

スタッフA「PV作る関係上、なんか乗り込んでやってるっつー話だけどさ。態度悪ぃから他のスタッフから嫌われまくってるしー?」

スタッフA「……ま、元々テレビ局離れた出来損ない集めて作った、要は官製天下り先なんだが……質ですら素人に劣るんだから救いようがねぇな」

スタッフB「何言ってるのかわからないっす!」

スタッフA「カネんなんだよ、カ・ネ!CD売れなくなったけど、ミュージックビデオ――日本じゃプロモーションビデオは結構ハケるからな」

スタッフB「そうなんすか?」

スタッフA「あれ?お前映像監督志望じゃ無かったっけ?……まぁいいや、なんつーかミュージシャンも二極化してっからなー」

スタッフA「安っすいステージでお茶を濁すのと、セカオワみたいにガッツリ世界観立ち上げて、専用のステージにすっげーカネかけるの」

スタッフA「そのせいでチケット代上がっちまうけど、PVで回収するー、みたいなのな」

スタッフB「あぁあるっすよね。『アリーナツアー完全収録!』ってカンジの」

スタッフA「ライブに力入れるのはファンのためでもある――が!同時にPVとして高く売れるかどうかの試金石でもあるんだわ」

スタッフA「そこら辺を上手くやってんのはジャニー○系だ」

スタッフA「個人的な好き嫌いはともかく、演出その他やったら凝ってんのはPVとしてライブ映像撮るのが前提だしー?」

スタッフA「固定砲台みてーにドッシリ座って微動だにしない木っ端アイドルに比べれば、比べるまでもなくエンタテイナーとして成立している……」

スタッフA「……ただそこまでしてタレントの価値を引き上げても――」

スタッフB「おっす!自分ARISAの着痩せにしか興味無いっす!」

スタッフA「お前……まぁいいや。予備取りに行くぞ、予備……仮説倉庫の方にあったっけか。あぁ面倒臭ぇ」

スタッフB「お疲れ様っす!」

スタッフA「お前も来るんだよ!樹ぃ一本運ぶのにどんだけ大変か分かるだろ!?」

スタッフB「ちっす!行くっす!」

――仮説倉庫

スタッフA「つったくねぇーなぁ。どこしまったっけか……」

スタッフB「あ、チーフ。ちょっといいっすか?」

スタッフA「お、見つかったか?ナイスだ!」

スタッフB「や、そうじゃないんすけど。ちっと気になって」

スタッフA「何だよ。言うだけ言ってみ?

スタッフB「ARISAちゃんのツアー、『Shooting MOON』っすよね?」

スタッフA「だなぁ」

スタッフB「なんでそんな名前なんすか?」

スタッフA「今更っ!?つーかお前今日ツアー最終日じゃねーかよっ!?」

スタッフB「うっす!自分はバイトでARISAちゃん見れるかもって急遽来たクチっす!」

スタッフA「だっけか?あー……それじゃしょうがな――く、ねぇよ!ホームページとブログに詳細載ってんだろ!」

スタッフB「ゴチャゴチャしてて分からなかったっす!」

スタッフA「次の写真集発売は何時だっけ?」

スタッフB「っす!写真集『ゆめ日記』は来月発売でありますっ!」

スタッフA「把握してんじゃねぇか。つーかエロにかける情熱を読解力に繋げろよ」

スタッフA「あとそれインタビューDVDであってエロはなかった筈だ」

スタッフB「ARISAちゃんの着痩せにしか興味無いっす!」

スタッフA「……ちゅーか、カミやんがいっからどう考えても無理筋なんだが……」

スタッフB「何か言ったっすか?」

スタッフA「うんにゃ別に何も。つーか、あー……どっから話したもんか。『Shooting MOON』の意味は分かるか?」

スタッフB「直訳で『月を撃て!』……っすよね?」

スタッフA「あー、大まかなストーリーはアレだ。昔々ある所に女の子が居ました」

スタッフA「彼女は悪い神様に意地悪されて、暗い暗い森の奥へ攫われてしまいました」

スタッフA「彼女はずっと助けを待っていましたが、王子様はやってきません。誰も彼女を助けようとはしなかったのです」

スタッフA「だから彼女は自ら森の外へ出ようとします。森中で出会った――なんだっけか?えっと……まぁいいか」

スタッフA「王様と殺し屋、竜とならず者、そして滑稽なピエロを友にして」

スタッフA「ですが彼女を逃がさないように悪い神様はまた閉じ込めようとします」

スタッフA「彼女は仲間の力を借り、勇気を振り絞って矢を放つ――って感じだな」

スタッフB「あ、あれ?自分が聞いていた話とは違うっすけど……?」

スタッフA「ま、気にすんな。どっちみち今日で”全部”終わっから」

スタッフB「そうっすねー」

スタッフA「つーか無ぇなぁ!どこ行きやがった――おい!出て来いや!」

スタッフB「待つっす!?怒鳴ったって相手はただの樹っす!」

スタッフA「そろそろ出番だ!目ぇ覚めてんだろ――」

アルフレド(スタッフA)「――クリストフ!」

ガタガタガタッ

――同時刻(回想) ライブ会場裏口

武装警備員達「……」

少女?「――まぁ、その、なんだな」

武装警備員A「止まれ!それ以上近づくな!」

少女?「丸腰の相手に銃を向けるとは物騒な。暫くぶりに戻って来れば外連味のある対応も嫌いではないぞ、嫌いでは」

少女?「だがしかし折角”わい”を”えっくす”へ変えたのだから、それなりの反応が欲しいというか、何と言うか」

少女?「新しい靴を買ってお披露目する気分、とでも言おうか」

武装警備員B「両手を頭の上へ上げて膝をつきなさい!これは警告じゃない!従わなければ撃つぞ!」

少女?「待て待て。戦さをしに来たのではないよ、とアズ――」

ダダダダダダダダダダダダダダッ!!!

武装警備員B「おい貴様!なんで撃った!?」

武装警備員C「え?こっちの警告無視したからっしょ?だから、バーンって」

武装警備員B「相手はまだ子供だぞ!?」

武装警備員C「能力者かもしんねぇだろ!上――『木原』さんから言われてんの忘れたのかよっ!?」

武装警備員B「だからって貴様……」

武装警備員C「俺には後がねぇんだよ!ここで首になったらラボへ送られるって脅されてんのに!」

武装警備員C「お前だってそうだろ!?能力も使えねぇ以上、俺達はこうやって役に立つってアピールしな――」

少女?「――心配してくれるのは嬉しいのだが、と安曇は前置きをするが」

安曇(少女?)「まさか安曇阿阪がこれだけでどうにかなると思ったのか、と問おう。ニンゲン?」

武装警備員B「こいつ……能力者か!」

安曇「違う。安曇は魔術師だ」

武装警備員C「――で?魔法使いが何の用だ!アイドルのコンサートなんかに来る意味があるっつーんだよ!?」

安曇「ぼらんてぃあ、という奴だ。少しだけ露払いをし――」

ダダダダダダダダダダダダダダッ!!!

武装警備員B「撃てえぇっ!手を休めるな!」

安曇「……ふぅ。話は最後まで聞くものだが、まぁいいだろう」

武装警備員A「コイツ――何で銃弾喰らってんのに平然としてやがんだっ!?どんな『能力』を……!」

安曇「おーばーきる、という言葉を知っているか?」

武装警備員B「ひぃっ!?死――」

安曇「『元素集約』」
(ながれ・はじめ)

安曇「『神気収斂』」
(ながれ・ひらけ)

安曇「『水面切断』」
(ながれ・きれる)

キュポッ

武装警備員B「あ、く……」

安曇「静かに。人の話は黙って、聞く事を安曇は勧めよう」

武装警備員A「な、水の……刃!?」

安曇「話を戻すが、おーばーきる、という言葉がある。専門用語かどうか知らないが、過分にだめーじを与えて殺してしまう事だ」

安曇「実際に戦いとなれば、相手がそう易々と回復しないように、出来るだけ深い傷を与えるのは当たり前であるが――それでも常識が、ある」

安曇「お前達の持っている銃がそうだ。ニンゲンを殺すに最適の武器で、最大で10発、当たり所が悪ければ一撃で殺せるな?」

武装警備員C「知らねぇよ!つーか何の話だよ!?」

安曇「……そちらから聞いてきたのに、それは少し無体だと安曇は思うが……まぁ、それもいい」

安曇「ま、一言で言えば威力が足りないのだよ。単純に」

安曇「ニンゲンはニンゲンを殺すための武器を造った。それは良い」

安曇「牙も爪も鱗も無い弱者が武器を手に取るのは当たり前の事だ、と安曇は褒めてやろう」

安曇「だ、けれど、だがしかし、かといって――いや、最後のはなんか違うか?」

武装警備員C「おい、誰かアレ持って来――」

安曇「『水槍招来』」
(ながれ・おちる)

ズガガガガガガガッ!!!

武装警備員C「……」

武装警備員A「お、おいっ!?何で殺しやがった!?」

安曇「『人の話は最期まで聞きましょう』、そうご母堂に教わらなかったかな?……と、すれば仕方が無いか」

安曇「……まぁ、結論から言えば『ニンゲンを殺すに最適化された武器では安曇を殺せない』というだけの話だよ、ニンゲン」

安曇「瞬間的に鱗を硬化させ、水の鎧を何重にも纏えばさして痛痒も無――」

武装警備員A「――死にやがれ、バケモノぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

バスッ――ヒュゥッ、ズドォォォォォォォォォォォォォォンッ……!!!

武装警備員A「……」

武装警備員A「……へ、へっ!」

武装警備員A「ど、どうだ……やったぜバケモノ!人間様ナメんなよ!」

武装警備員A「どんだけテメーがバケモノじみてるからって、無反動砲喰らえば粉々になるに決まっ――」

安曇「――ては、ないな」

武装警備員A「――ひぃっ!?」

安曇「危なかった。もう少しで消音結界が切れる所だったぞ、ニンゲン」

安曇「そういった意味では健闘賞をくれてやってもいい……ふむ、そうだな。そうしようか」

武装警備員A「……へ?な、何?」

安曇「お前は中々見所がある、と安曇は言っている。良かったな」

武装警備員A「そ、そうかっ!なら見逃し――」

安曇「――だから”糧”となる栄誉をくれてやろう」

武装警備員A「……はい?」

安曇「『綿津見ニオワス大神ヘ奉ル――』」
(しょくじのじかんだな)

安曇「『――同胞ノ血ヲ以テ盟約ト成セ、我ラガ安曇ノ業ヲ顕現セン』」
(では、いただきます)

ゴリゴリバリゴキゴキュッ!

――2014年10月8日17時40分(回想) ライブ会場近く

上条(クッソ……!思ったよりも時間取られちまった!)

上条(『アレ』――もとい『ショゴス』は俺と垣根で何とか粉々にした)

上条(確かに『科学サイトのクリーチャーじゃね?』みたいな事を言われてたが、まさか垣根の『未元物質』で造られた化け物だとは……!)

上条(垣根曰く、『あくまでも同類だが既に別の進化を遂げている』ため、制御どうこうは不可能だそうだ)

上条(バゲージシティで科学サイドの奴が使ってたって、そう言えば先輩の妹さんから聞いた憶えがある……!)

上条(UMAっぽい形態になる……つー事は”架空生物”って話で!)

上条(もしかしたら『ショゴス』に変化したのを、どっかのバカどもが確保しやがったのか!クソッ!)

上条(つーか連中何考えてやがる!?こんな所で『ショゴス』野放しにしたらどんだけ被害が広がるか!)

上条「……」

上条(……どう考えても俺の足止めなんだろうが、捨てて置けないし、垣根に頼む事になった)

上条(ノイズによる頭痛は酷いようだが、逆に言えば相手の位置もある程度分かるんだそうで)

上条(距離取って戦えば何とかなると。後でなんか奢っておこう。何をだよ?)

上条(カブトムシなんだから、こう角飾り的なアレか?そうするとドラク○のモンスター装備っぽくなるが……)

上条(というか人型になれるのにどうしてカブトムシ……?)

女の子「――おにーさんっ」

上条「……はい?」

女の子「あのこれ、落としましたよ?」

上条(知り合い――では、ないな。舞夏ぐらいの大きさで、ショートカットにしてるのもよく似てる女の子だな)

上条(こっちに差し出し来たのはビニール袋、コンビニやスーパーとかで使われてる白いのだ)

上条(中にはなんかたくさん入って……蛍光塗料で塗られた30cmぐらいの棒?)

上条(サイリウム――は、商品名か。ケミカルライトが何本か入ってるな)

女の子「それじゃ、頑張ってね!」

上条「おいっ!これ俺のじゃ――」

上条(――ないぞ、という暇も無く女の子は走り出してしまった。追いかけるのにも時間が……)

上条(押しつけられたが、返すにも時間が惜しい――取り敢えず会場へ持ち込んでから、落とし物として届けるか……)

今週の投下は以上となります。お付き合い頂いた方に感謝を
予定ではダンウィッチ(レッサー編)の33万語よりは短くなると思います。多分

それはさておき、私のメル友のお姉さんの友達のツンツン頭の人がバレンタインを貰ったそうなんですが、
ホワイトデーに返すのは『誰』へでしょうか?先着一名

一方通行

乙ッ!

>パシャッ、ピロリロリーン

柴崎さんっ 三万でどうですか!?

えっと、今思ったんだけど。
シャットアウラがヘタすりゃ中学生ってことは、
柴崎さん、あなたも一方通行をフルスロットルで爆走する人?


シャットアウラを高校生辺りとしても、普通に犯罪じゃね?

>>563
真面目な話――か、どうかは微妙な所ですが、禁書世界にISISがあったとしても、”有志連合軍()”でどうこうは出来ないと思います
第三次世界大戦で東西バランスは崩れっぱなし、つーかロシアから独立しようとする、例えばチェチェンを主とした地方が群雄割拠するでしょうし、
そこへ格差屈指の格差を誇る共産主義国家()が突貫して領地と資源狩りの局地戦に突っ込むのは目に見えています
そっちにリソースを振らねばならないため、構っていられる余裕はないかと

確かに現実世界でのイラク・シリアは石油資源を抱えてる以上、非常に重要な場所なのは間違いないんですが、
あっちの世界には学園都市の超技術があり、化石エネルギーからの依存度が大幅に低い可能性が高いです
従って中東も戦略的には然程重要だとは見なされず、東西の椅子取りゲームから外されると

構図としちゃ南スーダンでISISと同等かそれ以上のテロ集団が跋扈しているにも関わらず、各国にとって旨味がないため放置されています
というかISISは先進国からの戦闘員が出張ってる事以外、既存のテロリストとやっている事は然程変わらず
ノーベル平和賞のマララ女史を襲撃したパキスタンのタリバンも10年以上前からやってる訳で

あと個人的なお願いとして、日本政府と在日トルコ大使館並びに在日ムスリム協会が、
「イスラム国という呼称は通常のイスラム教・信徒・諸国について偏見が生じかねる」ため、使わないように訴えています
多くはISIS(Islamic State in Iraq and Syria=イラク・シリアのイスラム国)、ISIL(Islamic State in Iraq and the Levant=イラク・レバントのイスラム国)」が妥当かと

>>564>>566>>570
ありがとうございます

>>565
もしも科学と魔術が手を取り合えば――ですが、サローニャのような自然系魔術師はダメージを受けますし
引っ越して職を新しくすればハイ終わり、ではない分問題も山積しています

>>567
三月中には多分終われず、四月にもつれ込むでしょうが。33万語だった『ダンウィッチ~』よりかは少ない筈、多分(ここまで約13.7万語)
そう言えば『アイテムの一員に~』から丸二年になるんですよねぇ

>>568
オティヌスとの決着は上条さんの長い長い旅、その一番最後になるでしょう。この物語での主役は彼女ではありません。ソーズティさんも同じく
……問題は新ヒロインが登場して新しいフラグが立てられて追い付かなくなってる事でしょうか

>>569
上条さんの違和感抜粋ダイジェスト

○インデックスの女子力アップ――上条「ずっと暮らしてれば慣れんじゃね?」
○インデックスのシスターらしさ――上条「そりゃまぁ、うん。シスターってこういうイメージだよな」
○自販機攻撃をしない御坂――上条「犯罪ダメ!ゼッタイ!」
○科学と魔術が共存する世界――上条「俺達が諦めなければ出来る未来だ」
○管理人さん――上条「いいよねっ!管理人さんって!」
○浜面の秘蔵コレクション――上条「ちなみに全部実在するタイトルだ」
○貞子ィヌスの説教――上条「ちょっと何言ってるか分かんないですね」
○DOGEZA伝承――上条「いやぁ……うん、父さんなら、な……」
○ミーシャとの和解――上条「話せば分かってくれるさ!……あ、つーか俺ロシアでぶっ飛ばしたんだっけ、話す前に」
(ここまで大した矛盾を感じず)

×コンビニでアイスが当たる――上条「俺に当たりクジが回ってくるなんて絶対に有り得ない!そうだこれは夢に違いないな!敵の魔(ry
↑気付いた切っ掛け

――同時刻 ライブ会場 関係者控え室A

鳴護「」 ソワソワ

シャットアウラ「……」

鳴護「」 ソワソワソワ

シャットアウラ「……」

鳴護「」 ソワソワソワソワ

シャットアウラ「……落ち着けアリサ。気持ちは分か――ら、ないが、緊張しすぎだろう」

鳴護「緊張なんかしてないもんっ!落ち着いてるもんっ!」

シャットアウラ「やっべぇアリサ超可愛い」

鳴護「お姉ちゃんキャラキャラ」

シャットアウラ「おっとアリサ?衣装にゴミがついているなとってあげるよそうしようそうしようっ」

鳴護「そんなありがちなセクハラPみたいな展開……薄い本でも少ないと思うよ?」

シャットアウト「似たような事をやった奴がいて、手首を外したという報告が上がっているが?」

鳴護「偶然って怖いよねー。ディレクターさんがあたしの方へ転んで来たと思ったら、柴崎さんが受け止めてくれて」

鳴護「たまたまその時に変な力を入れちゃったから、こう、ポキッと綺麗に外れちゃったって」

シャットアウラ「”偶然”と”たまたま”が重なるか……ま、そういう話もあるかも知れないな」

鳴護「やっぱり柴崎さんは流石だよねー。その後、救急車を呼ぼうって話になったんだけど、慣れてるらしくて、こうパキパキ」

鳴護「でも『暫く離れていたので加減を忘れた』って、入るまでが大変だったんだから」

シャットアウラ「傭兵崩れの元ボディガードだからな。荒事には慣れている筈だが……ま、現場を離れていれば仕方がない」

鳴護「ディレクターさんが失神するまでグリグリやってたんだけど、最後の方は『もうしませんから!?』って号泣してたんだけど……」

シャットアウラ「……健在じゃないか、あの狸が……」

鳴護「……えっと?」

シャットアウラ「その後はそういう事故は無かったか?」

鳴護「何故か女性のタレントさん以外、近づいて来ない事に……」

シャットアウラ「ふむ……今期の査定を少し上げておこうか」

鳴護「ど、どうして……?」

コンコンコンコン

鳴護「ひゃいっ!?」

柴崎「あ、お疲れ様です」

鳴護「……はぁ」

柴崎「アリサさんそろそろステージの方へ移動お願いします――というか、私の顔見て露骨に溜息をつかないで下さいよ」

シャットアウラ「気持ちは分かるが」

柴崎「リーダーまで……」

シャットアウラ「いや、そういう意味では無く。ほら、あの――分かるだろ?」

柴崎「……えぇはい。上条さんですかね、やっぱり心配もしますが」

鳴護「……当麻君、どうしたんだろ……あぁ、やっぱり怒っちゃったのかなぁっ!?」

シャットアウラ「――少し出かけてくるから、後を頼む」

柴崎「落ち着いて下さい、お二人とも。特にリーダー、ダダ漏れになってる殺意をせめて取り繕ってからに」

シャットアウラ「口がきければいいんだろう?死んでいなければいいんだよなっ!」

柴崎「リーダーは少し黙ってましょう?アリサさんも暴走を止めて下さいな、この人はやる時はやりますし、やるなっつー時もやるんですから」

柴崎「というかアリサさん、そんなに落ち込む事はありませんから」

鳴護「落ち込むもんっ!だってあたし当麻君に酷い事言っちゃったし!」

柴崎「……何があったかは知りませんけど、喧嘩の一つや二つ友達だったらするでしょうに」

鳴護「それは……するかも、だけど」

柴崎「普通は親兄弟ですら同じ考えなんて持っていませんし、同じだからって喧嘩しない訳でもありません。同族嫌悪って言葉もありますからね」

柴崎「仮に上条さんが怒ってらしたとしても、それをリカバリすればいいんですよ。何が悪かったかを考え、謝るなり話し合うなりすればいい」

鳴護「うー……っ」

柴崎「唸らない。ほら、リーダーからも」

シャットアウラ「やっべぇ渋るアリサも超可愛い」

柴崎「あ、すいません。リーダーはちょっと見回り行って貰えませんか?」

柴崎「なんかスタッフから『黒ずくめで中二っぽい格好した髪の長い女をよく見るけど、あれどこの関係者ですか?』ってよく聞かれるんで」

鳴護「あー……」

シャットアウラ「なにっ!?それは本当かっ!?」

柴崎「せめてトラウザースーツ着れば、まだ関係者だって分かるのに……分かるのに!」

柴崎「私が公安並みに地味ぃなスーツ着て気配消してるのに、どうしてこの人は……!」

鳴護「ま、まぁまぁ……うんっ!お疲れ様ですっ」

柴崎「……さておき。喧嘩云々も少し横に置くとして、相手は上条さんですからねぇ」

柴崎「どこかで異世界に召喚されて世界を救う勇者に――なんて、ありそうじゃないですか?」

鳴護「そこまでは流石にないんじゃ?……絶対に、とは言い切れない所が怖いけど」

シャットアウラ「噂では第三次世界大戦のロシアに居たという話もあるし、中心に居たのはあいつなのかもな」

鳴護「まさかー。だったら学生なんてしてないよー」

柴崎「ですね。幾ら上条さんでもロシアへ行ってまで喧嘩買うとは思えませんし、単身乗り込む程無謀ではないでしょう」

柴崎「仮に行っていたとしても、『飛行機乗り間違えた』とかいつもの不幸に寄るものではないでしょうか」

鳴護「当麻君、神様に弄られてるんじゃないかってくらいやらかすよねぇ」

柴崎「今日遅れてるのだって、財布落としたとかチケット無くしたとか、そういう理由――おっと失礼」 PiPiPi、PiPiPi

柴崎 ピッ

柴崎「――で、しょうからね」

鳴護「当麻君だもんねー、うん。」

シャットアウラ「なら連絡を入れてみてはどうだろうか?あ、いや心配している訳じゃないがな」

柴崎「えぇ勿論。お二人は仕事上電源を切っているでしょうから、私の方から何回か呼び出してはいるのですが」

鳴護「……やっぱり、捕まらないんだ?」

柴崎「えぇ。先程から何度か間違い電話もかかってきますし、混線しているのかも知れませんね」

シャットアウラ「バカ言うな。学園都市だぞ、ここは」

柴崎「と、言われましても」

鳴護「それにチケット忘れちゃったら入れないかー……」

柴崎「はい。なのでスタッフや警備の方には『ツンツン頭の学生が来てチケット忘れた』or『敵の魔術師の攻撃が』と言ったら呼ぶよう伝えてあります」

鳴護「なんてソツのない対応っ!?当麻君言いそうだけど!」

柴崎「ま、残念ながら今以て連絡は来ていない訳ですけど」

柴崎「ただまぁ、取り繕うようで恐縮ですが、ARISAが歌えばステージ周囲には届きますし、街頭テレビや携帯でも聞けます」

鳴護「あたしの歌が……届く?」

柴崎「あ、ちなみに幾ら心配だからってMC中にさっさと来るよう呼びかけてみるのは駄目ですからね?」

柴崎「幾ら生放送中だから、誰も止めることが出来ないからと言って、好き勝手するのは絶対にいけませんよ?絶対ですからね?」

鳴護「そっか……うんっ!そう、だよね!」

シャットアウラ「おい、アリサ!」

鳴護「あ、そろそろ時間だしっ!それじゃ行ってくるよ!」

柴崎「はい――あ、廊下に先導のスタッフが居ますから」

シャットアウラ「だから――!」

パタン、タッタッタッタッ……

柴崎「若いっていいですよねぇ」

シャットアウラ「……貴様。分かってるいるんだろうな?」

柴崎「私はただ禁則事項を言ったまでで、責められる憶えはありませんが何か?」

シャットアウラ「……本当にクロウ7か?キャラが変わってる気がするんだが」

柴崎「まぁまぁ。それよりもリーダー、少しお話ししたい事案が」

シャットアウラ「アリサはやらんぞ」

柴崎「いや別に欲しくは」

シャットアウラ「あんな可愛いアリサが要らないって言うのか!?」

柴崎「ボス、頭冷やしましょうか?出来ればトランキライザー貰ってくる方向で」

柴崎「……いやいや。そんな話より少し気になる報告が上がって来てまして」

シャットアウラ「あいつの事か?」

柴崎「あ、いや大した話ではないんですけど、駐車場の方でトラブルがあったらしくて」

シャットアウラ「トラブル?」

柴崎「何でも『妙にデカいカブトムシを見た』とか何とか」

シャットアウラ「充分に大した話だとは思うが……『アレ』じゃないのか?スライム状の何かとか」

柴崎「ではないそうです。というか交通誘導係からウチのスタッフの又聞きなので」

シャットアウラ「……ふむ」

柴崎「白カブトムシの方は一端覧祭でも存在が確認されていますし、その後も姿を見せていると」

柴崎「目立った破壊活動はしていないため、優先度は低かろうと思うのですが……確認して来ましょうか?」

シャットアウラ「いや……いい。私が行こう。私の方がフットワークは軽いし、能力の相性もある」

柴崎「分かりました。どうかお気を付けて」

シャットアウラ「何かあったらステージ脇の『クルマ』でアリサと逃げろ。責任は全て私が負う』

シャットアウラ「『ARISA』を狙っているとすれば、さっさと逃げ出すのが最も周囲への被害を抑えられるだろうしな」

柴崎「了解。ではご武運――と、お待ちを」

シャットアウラ「何だ?何人か連れて行けと言うのか?」

柴崎「それは当然ですが……ではなく、裏口は通らないで下さいね。分かっていると思いますが」

シャットアウラ「あぁ『暗部』の連中が居るんだったか」

柴崎「アンチスキルの方が有り難いんですが、純粋な戦闘力で言えば彼らの方が上ですしね」

柴崎「多少腕に覚えがある、程度の人間じゃ蜂の巣にされて終わりですから」

シャットアウラ「仕事上でも関わり合いにはなりたくはないな。ARISAのイメージが悪くなる」

シャットアウラ「……それも分かった――が、一つ、いいか?」

柴崎「はい?」

シャットアウラ「ふと思ったんだが、例えば不幸な男がスタッフ用出入り口から入ろうとしたとしよう。例えばの話だが」

柴崎「ま、正面から『チケット忘れました』と言うよりは、裏側へ行った方が賢明でしょうね。上条さんと顔見知りのスタッフも出入りしますし」

シャットアウラ「今行ったら『暗部』に始末されるんじゃないのか?」

柴崎「あぁご心配なく。ウチのスタッフを一人回しておきましたんで」

シャットアウラ「ならいいが……」

柴崎「そんなに心配でしたら、探しに行かれたらど――」

シャットアウラ「――ではまた後でな!いいか?アリサに何かあったら全身義体に改造だからな!」

柴崎「……上司がブラック過ぎます……!」

――2014年10月8日17時50分(回想) ライブ会場裏口

上条「何だよ……これ……ッ!?」

上条(裏口から入った俺が見たのは血の海)

上条(鉄錆の臭いが鼻を突き、元々はベージュ色に塗られた通路のあちらこちらに人体――”だった”モノが転がってる……!)

上条(血痕は天井を汚し、部位欠損が酷すぎて元は何人だったのかも――)

上条「……うっぷ」

上条(フランスでロシアでバゲージで、色々な所で人の死に触れる事はあったが……これは酷い)

上条(あまり直視したくない傷跡から、大型の肉食獣に襲われたのかのよう――)

ピタツ

上条(背後から冷たい何かが首筋へ押し当てられ、俺は『やっちまった』事を把握した……)

――同時刻(回想) ライブ会場二階招待席・個室

ケイン「うわっー!スッゲェ!なんか、なんかキラキラしてる!」

カレン「ケインみっともないのよ。落ち着いて」

ケイン「だって見ろよ!ステージがあんなだし人いっぱいだし!」

カレン「……テンションに表現する言葉がついて来ないのは分かるけど……うん」

カレン「照明とかも綺麗だしねー。さすがは学園都市、かな……ってあれ?」

ケイン「どした?」

カレン「ステージの上にクリストフ神父様が居るよ?」

ケイン「神父様が?……あ、マジだ。神父様がブルゾン着てるトコはじめて見た」

カレン「おっきい樹みたいなのを設置してる。なんだろねー、あれ」

ケイン「てか何やってんだろうな。服も作業着だし」

カレン「アリサお姉ちゃんのお手伝いしゃないの?用意してるんだったらさ」

ケイン「似てるだけかもしんないけどなー。ほら、クリスも見てみろって!」

クリス「……」

ケイン「クリスー?」

カレン「あー、酔っちゃったのかもしれないねー。タクシーで移動する時間も長かったし」

ケイン「ん、俺テリーザ姉ちゃん呼んで来る!」

クリス「……待って、違う、から……」

カレン「違うって何が?気分悪くないの?」

クリス フルフル

クリス「トイレか?あ、それとも二階席だから怖いのか?」

クリス フルフル

カレン「じゃ何かな?お姉ちゃんに言ってみて?」

クリス「……ママ、こない……」

カレン「あー……そっちかぁ……」

ケイン「セレナなー……うーん」

クリス「……『よんでくれればいつだってむかえにいくよ』って」

ケイン「でもな。セレナにはあれからずっと会ってないしなー」

カレン「ねぇ?大体先生達もひどいよねー。セレナちゃんをオバケ扱いしちゃって」

ケイン「あ、それ俺も思ってた。なんで居るのに居ないなんて話になってんだろ?」

カレン「知らない。大人が何考えてるなんて分からないもの」

ケイン「だよなぁ……」

クリス「……ママ、きてくれない、の……?」

ケイン「わー泣くな泣くな!だって来ないもんは仕方がないだろ!」

クリス「……ぅっ」

カレン「こらケイン!おっきな声出さないの!」

ケイン「お前だって出してんだろ!」

クリス「……ぅぅっ……!」

カレン「あ、ゴメンゴメン?喧嘩なんてしてないからねー?ほら、仲良し仲良し!」

ケイン「そ、そうだぞー!俺とカレンは姉妹みたいに仲良しだからなー!」

クリス「……うん。なかよし……えへへ」

ケイン「(……なぁ)」

カレン「(なーに?)」

ケイン「(いっっっつも思うんだが、この面子で一番強いのってクリスだよな?)」

カレン「(だよねー。わたしも実はそう思ってた)」

クリス「……ママ、こない……」

ケイン「ま、まぁ仕方がないと思うぜ?こればっかりはセレナがいそがしいのかもしんないしさ?」

カレン「そうねー。セレナちゃんだってARISAのコンサート見たいとは思うけどねー」

クリス「ん、だから……これ」

ケイン「何だこの紙切れ……ってあぁ、セレナが教えてたおまじないの呪文か」

カレン「なつかしいよねー。みんなでやってたっけー」

ケイン「そうそう。これを唱えたらパってセレナが出てきてな。あいつ、どっかで隠れて見るんだぜ」

カレン「だよねー。そうじゃないと説明できないし」

クリス「……おまじない、すれば来てくれてるんじゃないの……?」

カレン「あー……クリスにはちょっと分からないかー。なんて言うかなぁ、こう、サンタサンさん的なギミック?」

ケイン「……んー、するだけしようぜ?」

カレン「ケイン、本気で言ってる?」

ケイン「や、するだけしてダメだったらクリスも納得すると思うんだよ。だよな?」

クリス コクコク

カレン「えー……子供じゃないんだからー。えー……」

ケイン「これでもし来なかったら、えっと……セレナはいそがしいんだって分かるだろ?な?」

クリス「……ん、だったらがまんする……し」

カレン「しょうがないなぁ、ケイン貸し一つだかんね?」

ケイン「俺がか!?……てか、カレンおまじない嫌いだったよな、なんで?」

カレン「なんでって言われても困るけどさー……なんか、こう、頭痛くならない?」

ケイン「気のせいだろ。おまじないで何か起る――いやなんでもない!だよな!?」

カレン「や、気のせいじゃなくてたまーに寒気が――」

クリス ジーッ……

カレン「――しないしない!うんっ!きっと気のせいなのよ!」

クリス ホッ

ケイン「ま、まぁアレだな?気のせいはいいとして、やってみようぜ!」

カレン「そ、そうね!セレナが決めたおまじないだし効果があると思うしー!」

クリス「……ん、する……」

ケイン「押し切られたけど……それじゃ」

カレン「……やだなぁ……」

クリス「カレン……」

カレン「うんっ!ってのはジョーク!ジョークだから!」

ケイン「あきらめろ。つーか別に大した手間でもないし……つか、これ一体何語だ?」

カレン「ニホンゴ……だと思うよ?セレナちゃんのおまじないで読み書き出来るようになったし。意味は分からないけど」

ケイン「……うーん。俺はまだ信じてはないが……どうなんだろうな、これ?」

カレン「セレナちゃんってば人驚かすの好きだし、どこかに隠れてるのかも」

ケイン「ありそう……ま、それでもいいや」

ケイン・カレン・クリス「『……三相の月に在す三柱の女神に請い奉る』」

ケイン「『上弦の月には創造者クロトー――』」

カレン「『――満月には維持者ラケシス――』」

クリス「『――下弦の月には破壊者アトロポス』」

ケイン・カレン・クリス「『我が前に偉大なる御身を喚び給う』」

ケイン「『虚空を縁取る旧い女神は糸を紡ぎ――』」

カレン「『――真円に虚空をくり抜く旧い女神は糸を計り――』」

クリス「『――嘲笑う悪魔が虚空に残す女神は糸を切る』」

ケイン「『生まれよ、全ては女神から生まれし生命』」

カレン「『留まれよ、全ては女神にて留まれし生命』」

クリス「『死すれよ、全ては女神へと死せりし生命』」

ケイン「『女神の肉体は大地となり命を育む』」

カレン「『大地はその命を削って豊穣の恵みをもたらし』」

クリス「『やがて地は砂となり万物は灰となる』」

ケイン・カレン・クリス「『女神よ姿を現せ』」

ケイン・カレン・クリス「『嘗てあり、現にあり、未だあらん女神の名に於いて請い願わん』」

ケイン・カレン・クリス「『我らの縁が逆しまに時を結ばん』」

???『……我を呼び出すパンドゥラの子らへ訊ねん』

???『我が名は三相女神の一柱、魔女の王にして三つ辻の主』

???『死の女神にして死者どもの女王たるヘカーテと呼ぶ存在か?』

クリス「『否、それは否。汝は下弦に非ず』」

クリス「『故に我らが逆縁を結ぶ彼の女神に非ず』」

???『……我を呼び出すパンドゥラの子らへ訊ねん』

???『我が名は三相女神の一柱、狩人の王にして処女の主』

???『豊穣の女神にして獣どもの女王たるアルテミスと呼ぶ存在か?』

カレン「『否、それは否。汝は満月に非ず』」

カレン「『故に我らが逆縁を結ぶ彼の女神に非ず』」

???『……我を呼び出すパンドゥラの子らへ訊ねん』

???『我が名は三相女神の一柱、原始の王にして巫女の主』

???『慈母の女神にして夢魔どもの女王たる【χχχχ】と呼ぶ存在か?』

ケイン「『是、それは是。汝は上弦に座す』」

ケイン「『故に我らが縁を結ぶ【άάάά】』」

ケイン「『蝕の権能持つエンデュミオンの恋【οοοο】【ςςςς】』」

???「『時よ【χχάοςχάοςχάοςάχάοςχάοςχάοςχάοςχάοςχάοςος】』」

――同時刻(回想) ライブ会場二階招待席・個室近くの通路

テリーザ「……えっと、買い忘れは……」

テリーザ(ジュースにクレープと……あとケーキ?あの子達の分だけあれば、最悪いいですよねーと)

テリーザ(『ARISA手作り風ケーキ!』とロゴが入ってる謎のお菓子も買ったし……)

テリーザ(手作り”風”……イタリアンの娼婦風アラビアータ的なあれでしょうか?なんか有名な名物料理?)

テリーサ(試食させて貰っても普通に美味しいパウンドケーキだったし……)

テリーザ(っていうか子供達が上条さんに作って貰ってたケーキと味も風味も全く同じ……流行りなんでしょうかね?)

テリーザ(あ、それともARISAがレシピ本も書いてるとか?……やんなっちゃうなー、歌も上手いし料理も得意上手って羨ましい)

テリーザ(それともまさか逆で、上条さんに泣きついた結果、ARISA商品として上条さんレシピが広がってるとか……?)

テリーザ「……」

テリーザ(いや、幾らなんでもそれは。ていうか子供みたいな妄想……はい――っとここだっけ)

テリーザ「……」

テリーザ「あのー、ごめんねー?わたし両手が塞がってるからー開けて貰え――」

ガチャッ

テリーザ「あ、ありがとうございますー。てか、ケイン?あなたの言ってたグッズ?は売り切れ――」

???『……』

テリーザ「……はい?」

テリーザ「え、その、ちょっと――はいぃっ!?」

テリーザ「いやこれは、何っていうか、えぇとその、はいっ!?っていうか!」

テリーザ「こんな所で何してるんですか――――――――――――お母さん!」

――2014年10月8日18時00分(回想) ステージ上

鳴護 スゥ……

鳴護「『みんなーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!あたしのライブに来てくれてありがとーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!』」

観客 オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!

鳴護「『EUツアーも楽しかったけど、やっぱ地元もいい感じでーーーーーーーーーーーーーーすっ!!!』」

観客 A・RI・SA!A・RI・SA!A・RI・SA!A・RI・SA!A・RI・SA!

鳴護(……当麻君、聞いてるかな?それとも見てくれてるかな?)

鳴護(ヒドい事言っちゃった、その、お詫びにはならないかも知れないけど……)

鳴護(あたしは――歌うから……ッ!!!)

鳴護「『それでは第一曲――』」

鳴護「『――”グローリア”!!!』」

観客 ウオォォオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!

――2014年10月8日18時過ぎ(回想) ライブ会場裏口

上条(マズい!ライブが始まっちまった……!)

???「――と、上条さんじゃないですか!?」

上条「この声――柴崎さんか!?」

上条(背後から俺に銃を突きつけていたのは、顔見知りの元ボディガードだった)

上地要(……『どうやったら見渡しが効く通路で後ろを取れるんだ?』とか思うが、この人も謎が多い)

柴崎(???)「一体何が起きてるんですか?この通路は?ここに居た『暗部』は?」

上条「良かった……いや、良くはないが話が通じる相手が居て良かった!」

上条「頼む柴崎さん!まだ何も終わってなかったんだよ!早くライブを止めないと!」

柴崎「落ち着いて――は、無理ですか。この屍体の山を見れば何となく理解は出来ますし」

上条「アリサを避難させてくれ!あと観客達もだ!」

柴崎「……よく分かりませんがとにかくステージへ急ぎましょう。詳しいお話はその間に!」

上条「分かった!」

――2014年10月8日18時6分(回想) ステージ上

鳴護「『――――――っ!!!』」

観客 オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!

鳴護「『――はい、って言う訳で”グローリア”でしたー。ありがとうございますー』」

鳴護「『でね、お約束の”あれ”って言って分かるかな?分かるよね?分かっちゃうよね?』」

鳴護「『なんかあたしも”キャラ的にどうなの?”とか思わないでもないんだけど、うん』」

鳴護「『でもま、ツアーでも散々やって来たし!皆さんも一緒に行きまっしょう!』」

鳴護「『……それじゃ、せーのっ!』」

鳴護「『アルテミスにーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!』」

観客 矢を放てえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ……!!!

鳴護(あたしはいつものように、ライブの演出として。何も持っていない両手で矢を放つ)

鳴護(今日は月蝕が起きる――怖いぐらいに綺麗な満月へ向けて)

鳴護(ひゅん、と心の中で効果音を付けるけど……何回目だろうか?)

鳴護(ちょっと……所じゃなく恥ずかしいけど『世界観的な演出』って言われて仕方なく、うんっ)

……

鳴護「……?」

鳴護(いつものライブではこの後に少しだけお話ししてからもう一曲)

鳴護(フリートークを入れてー、新曲を歌ってーと大変なお仕事だ)

鳴護(……けれど、今日は違った。決定的に何かか違っていた)

鳴護(あたしが放った矢は、38万kmの宇宙を越えて――)

鳴護(――アルテミスに、届いた……!)

……コォォォォォ……

鳴護(どこかで大気が渦を巻く。雲一つ、空には何の染みもない)

鳴護(これがまだ、雲が浮かんでいれば風に流される姿が見えたんだろうけど……)

鳴護「……」

鳴護「……月、が――」

鳴護(あたしが射貫いた月が――)

鳴護(――異常なスピードで『蝕』が――)

佐天『――はいっ!ARISAさんお疲れ様でしたー!大丈夫ですか?なんかぼーっとしちゃってますけど?』

佐天『――ってブーイング止めて下さいよ!?あたしはきちんとしたMC補佐なんですから!』

鳴護(佐天さんの声がどこか遠くから聞こえ、どよめく声をブーイングと勘違いしたみたい)

鳴護(けれど間違いだ。きっと彼らはあたしと同じものを見ているに違いない)

鳴護(普通であれば数時間かけてゆっくりと訪れる”月蝕”。それが何倍、何十倍もの速さで起きているのだから――)

佐天『……では、本日のサプライズゲストぉぉぉぉぉ行ってみましょうか!』

佐天『……ってこれ……』

佐天『マジで読むんですか?本当に?』

佐天『ってかこれ中二過ぎますけど……まぁいいや!ノリで突っ切りましょう!』

佐天『改めましてサプライズ!ついに来やがった本日の主役ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!』

佐天『”夜の女王”さんの登場でぇーーーすっ!はい拍手ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!』

パキイイィィィィィィィィィィィィィィィィィンッ!!!

鳴護(世界が壊れる音がした。当麻君が”力”を遣うような、ガラスっぽい何かが壊れる音)

鳴護(……でも、これは何かが決定的に違ってた。そして、間違って、いた)

鳴護(当麻君が『幻想』を殺す力だとしたら――)

鳴護(――それとは、真逆の……)

――同時刻(回想) ステージ上・袖

上条「――『夜の女王』!?どうして佐天さんが呼び込むんだよっ!?」

上条(アリサが空へ向けて矢を放つジェスチャーをしてから、テレビの早回しのように猛烈なスピードで月蝕が始まりやがった!)

上条(このまま放っておけば数分もしないで月は闇に覆われる……!)

上条「――いや、まだだ!今から俺の『幻想殺し』があれば!」

上条「どっかのこのクソ気持ち悪い月蝕の”核”になってる魔術がある筈だ!そいつを潰せば――」

柴崎「お待ち下さい上条さん」

上条「待てる訳――あがっ!?」 ガシッ

上条(俺は背後にいた柴崎さんに床へ引き倒され、両手を背中で絞り上げられる……ユーロスターの中での再現だ) ギリギリギリギリッ

上条(尤も、締め付ける力は段違い!下手をすればそのまま折られるんじゃねぇかってぐらい、加減をされていない!)

上条「何を――しやがるっ!?このクソ忙しい時にボケてんじゃねぇぞコラァァっ!!!」

柴崎「……」

上条「柴崎さん?もしかしてあんた機械の調子でも悪――」

柴崎「……くくっ」

上条「……おい、だから時と場合考えろつってんだろ!?笑ってないでさっさと手ぇ離せ!」

柴崎「あぁ、すいません。あまりに面白いのでつい笑いが」

上条「……何?」

柴崎「まだ分からないんですか――」

上条(たった今まで耳元で聞こえていた柴崎さんの声は、一瞬で女のそれに変わる!)

上条(聞き覚えのある。多分に毒を含んだ声へ!)

柴崎「――『お・きゃ・く・さ・ま』?」

上条「お前もしかして――『団長』なのかよっ!?」

団長(柴崎)「ようこそいらっしゃいました――『悪夢館(Nightmare residence)』へ!」

団長「覚めない悪夢に終わらない悪夢、当館ではたくさんの悪夢を取り揃えて御座います!」

団長「スプラッターにサスペンス!ゴアが効いたギニーから、盆踊りまで何でもご用意させて頂いております!」

団長「お客様はどんな悪夢がお望みですか?どうかお気軽にお申し付け下さいませ!」

上条「アリサ――アリサ!逃げろっ!ここから離れれば――」

鳴護「……」

上条「アリサ!おいっ……テメェら何かしやがったのかよ!?」

アルフレド「――いんや、まだしてないぜ。”まだ”な?」

上条「お前まで生きてやがったのか……!?」

アルフレド「また会えて嬉しいぜカミやん。安曇の野郎もどっかにいる筈なんだが……居ねぇな。メシでも喰ってんだろうが」

アルフレド「『俺らが何で生き返ってんだ?』的な説明は、超長くなるから後から誰かに聞いてくれよ、な?」

アルフレド「そんな機会が来れば、だけど」

上条「ふざけんな!お前ら本当にふざけやがって!」

アルフレド「ふざけてないですー、こっちは真面目ですー!」

上条「バカにしてる決まってんだろうが!『濁音協会』にしても何がクトゥルーだ!何が旧い神様だよ!」

上条「お前らが呼ぼうとしてやがんのは『月』関係の魔神だろ!?最初から全部欺すためだけに!」

アルフレド「あー……違うんだな、それが。それは勘違いだな」

アルフレド「確かに俺らは『クトゥルー系だった濁音協会』の名前を使ってるけど、クトゥルー系だって言った憶えはないし?」

上条「……」

アルフレド「いやだから、最初っから言ってんだろう?つーか手紙送ったよな?もしかして読んでねぇの?」

アルフレド「まいったなー……えっと」

団長「『ヒトは命の旅の果てに智恵を得て、武器を得て、毒を得る』」

団長「『即ち“偉大な旅路(グレートジャーニー)”』」

団長「『現時刻を以て世界へ反旗を翻す』」

団長「『我らは簒奪する。全てを奪いし、忘れた太陽へ弓引くモノなり』」

団長「『汝ら、空を見上げよ。我らの王は容易く星を射落さん』」

団長「『“竜尾(ドラゴンテイル)”が弧を描き、歌姫は反逆の烽火を上げる』」

団長「『――黒き大海原よりルルイエは浮上し、王は再び戴冠せ給う』……」

アルフレド「なっ?」

上条「だから!それのどこが――」

アルフレド「――見上げてみろよ、カミやん。つーか無理か、『団長』見させてやれ」

団長「はっあぁーい」 ギギッ

上条「がっ……!」

アルフレド「折れるからそのぐらいにしとけ……で、見えるだろ?」

上条「……」

上条(満月はもう半分以上が欠けてしまってる。しかも”蝕”の速さは加速している……)

上条「……月だろ……つーかな」

アルフレド「お?」

上条「このクソッタレども!何がルルイエだっ!?何がクトゥルーだよっ!?」

上条「よく分かんねぇけど大海原もクソも関係なかったじゃねぇか!?月だぞ、月!」

上条「散々俺らを引っかき回して置いて!結局ブラフでしたー、ってオチじゃねぇかよっ!?」

アルフレド「あ、あーっ、そういう事?てかカミやんまだ理解してねぇの?ふーん?」

アルフレド「ま、百聞は一見にしかずって言うし?見てればわかるって――と、そろそろだな」

上条(蝕が――漆黒が月を喰らい尽し、辺りが闇に覆われる)

上条(目の前で起きている異常も、観客達は演出の一部だと思って呆然と眺めるだけ……)

上条(……まさか、だな。幾らなんでも異常過ぎる!)

上条(シャットアウラやアンチスキルが乗り込んでこない所を見ると、何かのタチ悪ぃ大規模術式でも動いてんだろうが!)

アルフレド「――さぁ!我らの神の凱旋だ!旧支配者の帰還だ!」

上条(周囲がほぼ闇一色に染め上げられる中、一筋の光が月より差し込んでいた……)

上条(最初は針の先程しかなかったのに、段々と太さを増し、人一人が入れるぐらいの大きさになる)

アルフレド「……見えるか、『幻想殺し』?我が神はどこから来てる?」

上条「……真っ暗な、月……だろ?」

アルフレド「――ガリレオ=ガリレイが月を観察した時、”そこ”は水を讃えていると判断したそうだ」

アルフレド「ま、後にあれは剥き出しの玄武岩が密集してっからそう見えるだけ、って解されちまうんだがな」

上条「黒……?水――」

上条「……月の、水、黒い――」

上条「ってまさかお前!?」

アルフレド「そーそー、だから最初っから言ってんじゃんよ、俺らはさ?」

アルフレド「『黒き大海原よりルルイエは浮上し』ってな」」

上条「いやいやいやいやいやいやいやっ!待て待て待て待てっ!?」

上条「それじゃ何かっ!?お前らが言っていたルルイエ!海から帰還するってのは――」

アルフレド「ニヤニヤ」

上条「――『月の海』から還ってくるって意味だったのかよっ!?」

アルフレド「『濁音協会』――『Society Low Noise』、『S∴L∴N(サルン)』……これは俺達の神のアナグラム」

アルフレド「わざわざ英語の”シー”じゃなく、ギリシャ語の”シィ”を旗印にしたのも、そうだ」

アルフレド「『三日月のシグマ』なんつー、バレッバレのサインを何度も出していた訳だが」

上条「……あ」

アルフレド「てな感じで、出番です」

???『――』

上条(月から差す光の柱、地球の歴史史上最初にして最大のスポットライトの中へ、誰か人影が入り込む)

上条(すると青――よりも黒い、夜の色を纏った光の玉が一つ、また一つと現れては膨らんでいく……!)

上条(大きさを増していくに連れて、徐々にその輪郭がはっきりとしていき……”それ”が人によく似たものだと分かってしまう!)

アルフレド「産声を上げろ母よ!閉ざされた偽りの世界へ反逆者の鬨の声を轟かせよ!」

上条(ちょっと待て……!これは、『知ってる』ぞ!俺は一度だけこれと同じ光景を見た記憶がある!)

上条(サナギのような光の塊が割れ、閃光が暫し周囲を焼き――)

上条(――そいつは、俺が知ってるアリサと全く同じ顔をしてやが――)

アルフレド「暗い暗い海が見える……その淵には最果てが無く、ただただ赤黒い白い緑の鱗が敷き詰められ――」

アルフレド「――遠き新月の黒き海より還り来たる。慟哭と怨嗟と赤子の泣き声、それは――」

アルフレド「――夜の女王の凱旋だ!その名も――」

アルフレド「――――――――――『魔神”セレーネ”』……ッ!!!」

セレーネ『――わたしが、うまれた』

――(回想) ステージ上

上条(俺は”そいつ”を知っていた!)

上条(深い紺色のワンピース!月蝕の中、一筋だけ差す光の下で、青冷めた光に照らされたアリサに似た”何か”を!)

セレーネ『――』

鳴護「……っ!?」

上条(金縛りにあったように微動だにしなかったアリサへ魔神は近づく!)

上条「テメ――うぐっ!?」

団長「邪魔はいけませんよぅ?ね、大人しくしましょう?」

アルフレド「そうだぜカミやん。言ってみりゃ感動の再会だ、俺らが手ぇ出すのは野暮ってもんだろ」

上条「感動……?」

アルフレド「――ってまだ気付いないのかよ。つーか見てみ」

セレーネ『……アリサ』

鳴護「あなた、は?」

上条「アリサ!だから逃げろっ!逃げて御坂のトコまで走れえぇっ!!!」

アルフレド「だからウルセェっつーのに。黙って見とけや」

セレーネ『……お、おぉ……!』

鳴護「……っ」

セレーネ『アリサ、あぁ、アリサ……っ!』 ギュッ

鳴護「……………………はい?」

上条「なんで………………ハグしてんだよ、魔神がっ!?」

セレーネ『わたしの可愛いアリサ!やっとこの腕の中へ戻って来たのね!』

鳴護「……おかあ、さん……?」

上条「騙されんな!そいつは魔神だ!俺達とは違う存在だから!」

アルフレド「……あーぁ、言っちまったなぁ」

上条「何がだ……っ!?」

アルフレド「確かに魔神――つーかセレーネは”異質”だわな」

アルフレド「肉体も心も魔力で出来ている。ただし常に龍脈やその他から力が流入され続けるってんで、カミやんの『幻想殺し』じゃ殺せない」

アルフレド「そう、”異質”なんだよ!お前達とは違う!バケモノだ!」

上条「それが、どうしたっ!」

アルフレド「最初に会った時も言ったけどさ、カミやん」

アルフレド「『俺達はバケモノのフリをした人間で、そいつは人間のフリをしたバケモノだ』……だっけか?今にしてみれば懐かしい」

上条「そいつ?」

アルフレド「セレーネは彼女を喚ぶ俺達の声に応じた!そして――」

アルフレド「――鳴護アリサも”同じ”なんだよ!」

上条「――」

アルフレド「まさかカミやんさぁ?”それ”がフツーの人間なんて思ってた訳じゃないよな?あぁ?」

アルフレド「魔術と異能が氾濫して来ている世界ですら、尚異質のモノ!」

アルフレド「『他人の願望を集約させて”奇跡”を起こす』なんざ、お前らが誇るベクトル操作系能力者にも届かない存在だ!」

アルフレド「どこまで行っても『個人』として完結している奴と、祈る人間が多ければ比例して力を増す『奇跡』!」

アルフレド「だが安心しろカミやん!俺達の業界じゃ有り触れた話だよ!」

アルフレド「鳴護アリサみてーなケースはしばしば地上に存在し、こう呼ばれてきたんだ――」

アルフレド「――『神』と」

上条「アリサが……!?」

アルフレド「そのもの、つーよりか『魔神の欠片』ってのが正しいのかな?親父じゃねぇから詳しくはねぇんだが」

アルフレド「どっちみちまともなニンゲンの筈がねーだろバーーーーカっ!!!」

アルフレド「……な、カミやん?最初から分かっていた事だよな?つーか俺は最初に指摘したよな?」

アルフレド「言いたくて言った訳じゃねぇが、一応『規定』として必要最低限の警告はしなきゃいけなかったんだよ」

上条「……何の、話だ……?」

アルフレド「あぁ今、俺が何を言ってんのか分からないんだったら、考えるだけムダだから聞き流せ」

アルフレド「最初っから他人を理解する気が無きゃ、理解なんて出来る訳がないからな」

上条「……」

アルフレド「手段は幾らでもあった筈だ。『恋人』にするなり、『親友』になるなり、なんだったら『家族』を作っちまえば良かった」

アルフレド「でも、お前はそれをしなかった。お前達はそれをしようとはしなかったんだよ」

アルフレド「『鳴護アリサ』という個人を、上っ面だけで理解し、理解した”つもり”になっていた」

上条「そんな事は――!」

アルフレド「無いか?」

上条「無い!……筈、だ」

アルフレド「ならどうして踏み込まなかった?腹を割って離す事すらしなかった?」

アルフレド「聞き分けの良すぎる妹に、姉は溺愛する”フリ”をして誤魔化した――そう、誤魔化しだ」

上条「……待てよ!シャットアウラは違う!本当にアリサを――」

アルフレド「自分の父親だけが殺され、また盛大に人生を踏み外させて、『暗部』とそう大差ない環境を押しつけられたんだ」

アルフレド「歳だけで見たらカミやんと同じ、下手すれば年下じゃねぇのか?」

アルフレド「それが盛大な八つ当たりであっても、アリサが実は恩人であったと分かっても早々納得出来る訳がない」

アルフレド「それが『人間』ってもんだよな、なぁ?」

上条「……」

アルフレド「他の人間も似たり寄ったり、カミやんもそうだが、大切な所には踏み込まずに傷つかないでいようとする」

アルフレド「……ま、それ自体は賢明な判断だと思うぜ?ことアリサに関しちゃ一生を背負うぐらいの覚悟が必要になる」

アルフレド「だが――これも運命なんだろうなぁ。ここでこうしてセレーネが復活しなかったとして、いつかどこかで破綻はしていただろうし?」

上条「……」

アルフレド「ん?なに?何か言いたそうだけど?」

上条「――お前は」

アルフレド「『何でこいつペラペラ喋ってんの?死ぬの?』的な事か。だよなぁ?」

アルフレド「つまりこりゃアレだぜ。よくある恋愛SLGのバッドエンドって話」

アルフレド「口説き落とすのに失敗して女の子からフラれた後、親友ポジの男友達がやって来てアレコレ駄目出しされんのと同じ」

アルフレド「好感度が足りねーとか、あそこであのイベントを起こさなかったーとか、選択肢を間違ったーみたいなの」

アルフレド「人生なんざループも周回も有り得ぇんだから、ムダだとは思うぜ。嫌いじゃないがな」

アルフレド「……俺はお前達を神に誓って愛しているし、フェアに行こうって看板掲げている以上、もう少し忠告しなくちゃいけない」

上条「フェア、だって?お前らのどこが!」

アルフレド「犯行予告も予言も出した。念のため安曇阿阪に襲撃させて、こっちが本気だって姿勢も示した」

アルフレド「結果はご覧の有様だがな。うん?」

上条「……だからって!」

アルフレド「カミやんが見てんのは表側だけなんだよ。月で言えばこっち側だけ、反対側に何があるのかも分からない」

アルフレド「――って今言ったけども、それすらも物事の本質とはかけ離れているんだわ」

上条「……何の話だ、さっきから!」

アルフレド「……ま、カミやんが望むんだったら、そういう”夢”を見て一からやり直せばいいんじゃね?好きにしろよ」

アルフレド「俺の秘蔵コレクション、お勧めの管理人さんセットは、どっかで手に入るようになってっから退屈はしない――と、そろそろ終わりだな」

上条「終わり?」

セレーネ『――辛かったでしょう?苦しかったでしょう?』

セレーネ『この世界はあなたにとても残酷で、悲しませるような事ばかり』

鳴護「……それは」

セレーネ『アリサ、あなたはとても良い女の子。優しくて、素直で、良い子なの』

セレーネ『でも、そんなあなただからわたしは心配しているのよ。生きていくのは、辛いんじゃないかって』

鳴護「……」

上条「アリサッ!そんな奴の話なんか聞くな!どうせデタラメ言ってるだけだ!」

上条「ってかテメェらさっさと離しやが――れ?」 スッ

団長「まっ」

アルフレド「離したぜ?行けばいいんじゃね」

上条「……お前らは後からぶっ飛ばすからな!」

アルフレド「ガンバレー、俺はそんなカミやんを応援してっから」

上条「……アリサを離せ、魔神セレーネ……だっけか?」

上条(アイドル衣装着たアリサが、黒いワンピース着た偽アリサに抱き締められている……どんな薄い本だ)

上条(オティヌス程の力――つーか殺気やプレッシャーは感じられない、つーか皆無だな)

上条(俺が夢の中で見た『アリサ』と酷似している……ただの偶然な訳はねぇから、あん時から存在”は”してたんだろう)

上条(……実際に肉体を得たのは、たった今なんだろうけど……)

セレーネ『……当麻。あぁ当麻なのね!?』

セレーネ『わたしはあなたも心配していたのよ?さぁ、もっとこっちへ近づいてお顔を見せて?』

上条「お前、何の話を――」

セレーネ『詩菜もとぉっても良い子なのだけれど、刀夜はあの通りにやんちゃでしょう?だからあなたが真っ直ぐ育つかどうか心配してたの』

セレーネ『途中、悪い子達に騙されそうになったけれど、あの子達を恨まないでやってね?あの子達も居場所がないから』

上条「なんで……お前が父さんと母さんの事を知ってる、んだ……!?」

セレーネ『きひっ、知ってるわよ。二人ともわたしの子供達なんだから』

セレーネ『刀夜がいつからおねしょしなくなったのかとか、詩菜が実はセロリが嫌いなんだけど、当麻のために我慢して食べてるとか』

セレーネ『”おかあさん”なんだから、全部分かってるに決まってるでしょ?』

上条「……いや、待て待て!つーかお前はアリサの母親だけじゃなかっ――」

セレーネ『ね、当麻。当麻なら分かるわよね、わたしの言ってる事』

セレーネ『この世界は辛い事が多すぎて、生きていくのはそれだけで苦痛だって』

上条「……違う!そんな事は無い!」

セレーネ『こら当麻!嘘はついちゃ駄目だって詩菜に教わったでしょ!……あぁでも』

セレーネ『七歳の時の事なんか憶えて居ないわよね、当麻の病気もあるし。そうね――あ、そうだ!こうしましょう!』

ジジッ

上条(何だ、これは?俺の視界がブレ、る――)

上条(目の前には……子供?どっかの居間かリビングで、泣いている女の子が居る……)

上条(俺が見ている光景はその子と近くにある割れた花瓶を往復する――つまりこれは、誰かの視線か?)

女の子『……とーまくん、どうしよう……わたし』

男の子『あー……かあさん、怒りそうだもんなー、これは』

上条(視界の中には居ない男の子の声が響いた。多分この視線の持ち主、俺はその子の視点になってこれを見てるんだと思う)

女の子『ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇんっ!しーなママにおこられちゃう!』

男の子『泣くなっておとひめ!……あぁもう、ここは俺に任せろ!』

女の子『ほんとうに?とーまくんがたすけてくれる、の?』

男の子『俺がこわしたっていえばゲンコツ一つですむだろうし、おとひめを泣かせるよりはずっといいよ』

男の子『だから、ほら、なきやんで、な?』

女の子『う、うんっ……!……あ、そうだ!』

女の子『だったらとーまくんはわたしの”おにーちゃん”だね!』

男の子『おにーちゃん?なんで?』

女の子『あのね、ママがいってたの。”おにーちゃんはいもうとをまもるもの”なんだって』

男の子『ふーんおばさんが?まぁ、おとひめがいいんだったらべつに』

女の子『うんっ!よろしくね――”おにーちゃん”っ!』

ジジジッ

上条「――かっ!?」

上条(ヘッドマウントディスプレイを突然剥がされたように、視界は”今”の俺へと戻される)

上条(何だ今のは?幻覚には間違いないようだけど……当麻?男の子は当麻って呼ばれてたような?)

上条(女の子の方は『おとひめ』……去年の夏に会った従妹の子も”乙姫”って名前だった気がする……)

上条「……今のは、なんだ?」

セレーネ『当麻の記憶よ?懐かしかったでしょう?』

セレーネ『この後、詩菜に二人して怒られて――たった二人で家出しちゃったもんね』

セレーネ『途中駄菓子屋さんによって、飴で出来た指輪を買って』

セレーネ『乙姫と結婚式挙げちゃったのよね、わたしは憶えているわよ』

上条「それは、おかしい!」

セレーネ『思い出した?きひひ、当麻は忘れん坊なんだからね』

上条「出来ないんだよ!俺には!記憶が壊れちまってるから!」

上条「だから『当時の俺から見た記憶』なんて残ってる訳が――」

アルフレド「――その答えは『龍脈』だよ、カミやん」

上条「……何?」

アルフレド「魔神セレーネは地母神にして『万物の妣(はは)』って特性を持っている。生きとし生けるもの――特に人類全ての母親だわな」

上条「……意味が分からねぇよ!」

アルフレド「『アイドルがファンに期待する人格を演じる』のと一緒だぜ、要はな」

アルフレド「魔神セレーネも既に備わっている神性を再現するだけ。だからお前やアリサの母親であり、同時にお前の両親の母親でもある」

アルフレド「当然全ての知識は『龍脈』から知識と共に汲み上げられる訳だ」

上条「そんな事は――」

アルフレド「無い、か?ま、カミやんがそう思いたいんだったらそれで良いと思うぜ?」

アルフレド「否定だけ続ければ事態が解決する、ってんならそれはそれで、な」

上条「おい、今の話は本当なのか!?」

セレーネ『当麻はわたしの子よ?アリサも、詩菜も、刀夜も、乙姫も』

セレーネ『クリストフに阿阪だってそうだし、トゥト=アンクも帝督も、みんなみんなわたしの可愛い子達だから』

上条「トゥト……?」

セレーネ『ね、当麻。次はわたしへ正直に答えて頂戴?当麻は今までずっとずっと苦しかったよね?辛かったでしょう?怖かったでしょう?』

セレーネ『望んでもいない”力”を与えられたせいで、あなたはしなくてもいい苦労をしてきたのよのね?』

上条「それは……」

セレーネ『アリサも同じ。ずっと幸せになりたかっただけなのに、たった”それっぽっちの願いしかなかった”のに』

セレーネ『アリサの夢はもう、叶えられそうにも無いのよね』

鳴護「……おかあ、さん」

セレーネ『よく頑張ったわね、一人でずっと戦ってきたのでしょう?わたしはあなたをずっと見て来たから知っているの』

セレーネ『でも、もう終わらせましょう。全部終わりにするから――』

セレーネ『――アリサ、わたしの”中”へ還っておいで……?』

上条(慈母のように優しい笑みを浮かべたセレーネ!アリサと瓜二つの顔だから、余計にそれが敵意あるものとは到底思えない!)

上条(けれど!”それ”は何か不吉な予感がし――)

上条(――俺は『右手』をアリサへ伸ばしていた……ッ!!!)

上条「行くな、アリ――」

鳴護「……当麻君、ね、当麻君?」

上条(伸ばした手がアリサに届く――その、ほんの数瞬前!)

鳴護「……ありがとう、当麻君――」

パキイイイイイイィィィィィィィィィィィィィィンッ……!!!

上条「あ、あ、あアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァっ!?」

上条(ガラスの割れるような音を響かせ、アリサは輝く月光の中へ消えてしま――)

セレーネ『……きひっ、きひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひっ!!!』

上条(俺はガックリと膝を突き、届かなかった『右手』を眺める)

上条(何も考えられなくなったその耳へ、アリサ――ARISAによく似た、だけれど異質な歌が流れる……)

地平に沈む陽を眺め、高揚する心
二度と昇らないように祈りを捧げる

閉じた瞼の裏に浮かぶ。在りし日の姿
老いに負けた様子は神々しくもあり

世界よ終れ、君はなんと美しい
これ以上、愚かさを晒す前に
時計の針は止まり、螺旋を描いて地へ堕ちる


葬列に加わる月を眺め、高鳴る胸
二度と還らないよう、華を手向ける

組まれた手がふりほどかれぬよう、切に祈る
もう動かない躯を殯の寝所へ

世界よ終れ、君はなんと美しい
時計の針は止まり、虚ろへと呑まれる
生に破れた様子は空々しくあれ
世界よ終れ、君はなんと――

上条(その歌詞が、その曲が、アリサがずっとキャンピングカーの中で作っていたものであり、聞き覚えがある)

上条(どうしてアリサは居ないのに、誰が歌っているのか。何のためにしているのか――)

セレーネ『セカイヨオワレ――』

セレーネ『――――――――”常夜(ディストピア)”……!!!』

上条(世界が、俺が生きてきた世界が闇に包まれていく……)

上条(いつもの夜じゃなく、もっと重厚で押しつけがましく、それでいて優しい滅びが地に、空に、海に)

上条(セレーネの歌声へ合わせるように、ステージ設置されていた『樹』が大きく成長し始め……)

上条(幹の太さは樹齢数千年をたった数秒で駆け抜け、枝葉からは茨のような棘が、青い蔦が地面を這っていく……)

上条(魔術か、はたまた『奇跡』なのか。ステージ上から見える人達は次々に昏倒するか、茨のついた蔦に絡み取られていく……)

上条(……あぁクソ、俺も酷く眠いな……)

上条(……俺の友達も助けられない……なんて……)

セレーネ『当麻、当麻もお眠りなさい?良い子はもうおやすみの時間なのよ?』

上条「そう……かな、母さん……?」

セレーネ『闇の帳はとうに降り、良い子はもう眠る頃』

セレーネ『夜更かしする悪い子は、狂ったザントマンがやってくる』

セレーネ『”Danced and Turn(まわれまわれ)”と声をかければ、哀れな父は塔から落ちた』

上条「あ……ぁぁ……」

セレーネ『夜更かしするような悪い子は、ザントマンが来てしまうわ』

セレーネ『でも大丈夫。これからずっとわたしが当麻を守ってあげるから』

セレーネ『ずつとずっと、お休みなさい――』

上条「………………」

???「――にゃーるほど、上条さんってば以前からもしや、とは思っていたんですが」

上条(この声は………………だれ、だ……?)

???「やはりおっぱい好きを拗らせて、マザコン属性の持ち主でしたか。メモメモ」

ヒュゥッ、ゴオオォォウンツ!!!

セレーネ『あら……?あなた達は――』

???「『知の角杯』!!!――フロリーーース!」

???「オーケー!まーかせて!」 グッ

上条(俺を誰かが茨の中から引っ張り出そうとしている……?)

上条(……放って置いてくれ。俺は眠いんだ――)

???「ちょっ!?抜けないんだケドー!?ヘルプー?HurryHurry!!!」

???「『……我が剣は友のために在り――』」
(……My sword exists for the friend――)

???「『――声高らかに謳おう魔剣アロンダイト!』」
(――Aroundight expressed in loud voices!)

ズォォォンッ!!!

上条(空中に浮く感覚……か?)

セレーネ『あらあら。みんなどうしたの?どうしてわたしを受け入れないのかしら?』

老人「――戯けた事を抜かすではないか。”シー”ではないCharlotよ」

セレーネ『あら……?あなた――ヨーゼフ?ヨーゼフよね?』

老人「――人は土へ還り、物は砂へと還る。それがコトワリ故に定められた領分というものだな」

セレーネ『……まだ、気に病んでいるのね。可哀想なわたしのぼうや……』

老人「だが貴様は泡に還れ。死していと高き御方の御許へ還る事すら許されん」

セレーネ『あれは事故だったのよ、だってそうでしょう?命じたのはあの子、だからあなたは悪くないの』

老人「ただただシャボンのように弾けるが佳い――」

老人「『Der Ho"lle Netz hat dich umgarnt!』」
(地獄の網が貴様を絡み取った!)

老人「『Nichts kann vom tiefen Fall dich retten,』」
(奈落への墜落から貴様が帰る術は無く)

老人「『Nichts kann dich retten vom tiefen Fall!』」
(奈落への墜落から貴様を救う法も無い!)

老人「『Umgebt ihn, ihr Geister mit Dunkel beschwingt!』」
(暗闇に沸き立つ悪霊達よ、あれをとりまけ!)

老人「『Schon tra"gt er knirschend eure Ketten!』」
(あいつはすでに、歯軋りしつつ、貴様達の鎖に繋がれている!)

老人「『Triumph! Triumph! Triumph! die Rache gelingt! 』」
(勝利だ!勝利だ!勝利だ!復讐が果たせるぞ!)

老人「『――Der Freischu"tz!!!』」
(――魔弾の射手!!!)

ヒュウッン――――――――リイイイィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィッ!!!

老人「――これが『教皇級』、だ」

今週の投下は以上となります。お付き合い頂いた方に感謝を
今週で回想終わりです

雲川先輩――は、未読ですが、はいむら先生の画集でやってませんでしたっけ?

おっつし

そもそものライブツアー名が『Shooting MOON』。
「仕方なく」「ツアーで散々させられてきた」アリサの『アルテミスに矢を放て』で、最後の扉が開いた。
と、いうことは。

まさか……だよな?シャットアウラ。

じゃあ雲川後輩の方でどすか?

>>595-600
作中作のネタ用、しかも一人っつってんのに無茶ブリする皆様の愛でこのスレは成り立っていますコノヤロー

>>601
ありがとうございます

>>602
上条さん乙。新刊お疲れ様です

>>603
クロウ7(CV.島崎信長)「違うんですよ。そうじゃないんですよ」
クロウ7「『88の奇跡』が起きたのは3年前。その時のリーダーの格好は”前髪アップにしてデコ出したチュニック風ワンピ”でした」
クロウ7「つーかどう見ても小学生、しかも下手すれば高学年ですら――は、まぁさておき小6だとして12歳だと仮定しましょう」
クロウ7「なのであれから3年経っているためプラスしても15歳……」
クロウ7「……」
クロウ7「えっと……多少大人っぽいとは言え、たった15、6の小娘を雇い主に黙って解放し」
クロウ7「『自分に指示できるのはただ一人。リーダー!あなただけです』(ドヤァ)……」
クロウ7「……」
クロウ7「べ、弁護士を呼んで下さい!自分には黙秘する権利がある筈です!」
一方通行「よォ、新入り」
海原「良いですわね!JCはっ!」
青ピ「せやね!ホグらは今日から友達やん?」
一方通行「――俺らさンにン!産まれた時こそ違えェどォも!」
海原「――兄弟の契りを結びしからには助け合い!――」
青ピ「――同じ暦に産まれへんよっても、死は等しい訪れんよう誓ぉ!」
クロウ7「帰って下さい」
桃香「ねぇねぇ愛紗ちゃんっ。あそこでわたしたちの真似っこしてる人が居るよ?」
愛紗「しっ!目が穢れますから桃香様!」
鈴々「ロリコンはだめなのだ。にゃはははははははははっ!」
クロウ7「だから帰って!つーか誰?」
第一位(匿名)「や、別にィ?ガキ一人保護すンのは義務みてーなもンだしィ?」(←打ち止めと一緒にお風呂)
第二位(匿名)「ですよね。能力者にとっては当たり前だと言えるでしょうね」(←フレメアとおはようからおやすみまで一緒)
第三位(匿名)「そ、そうよね?可愛いものに引かれるのは当たり前よねっ!」(←フェブリと一緒にお風呂)
第四位(匿名)「……ま、そのあれよね?」(←フレメアとry
第五位(匿名)「やだぁ、この人達、こ・わ・い・ぞっ☆」
上条「業が深すぎるだろ学園都市」(←幼女ハンター)
バードウェイ「あぁ全くだな」(←幼女ハンターの嫁候補。インデックスさんと肩を並べry
アルフレド「カオスだねぇ。俺でも負けるが」
(※シャットアウラの身長・体型は見た感じ土御門さんちの舞夏とほぼ同じ、最高でも中学生だと思います)

>>604
日本の場合、青少年保護育成条例により”18未満へのチョメチョメ禁止”……なん、ですが
当事者が18歳未満同士であれば適応されませんし、また『婚約者だ!』と言い張れば脱法も可能
エロ本・エロゲと同じで完全淘汰には程遠い状態です

これがまた海外行くとですね、下手な所では宗教とカネが更に絡むので手に負えない
キリスト系ではナチュラリストを名乗る”業者”がまずそうですし、自家発電はNGでもそそっちはOK的なトコもあります
またパキスタンや南アフリカで跋扈しているイスラム教”っぽい”ものが現地で魔改造されてますし

それに何より始末が悪い点は『バカに育てられた子供達はまず間違いなくバカになる』所でしょうか
初代はカネなり権力なり、ビジネスだと割り切っていたとしても、次世代は建前を思い込んで取り返しがつかなくなります
特に”そっち”系の集団でありがちなのは、性教育関係をガキの頃からさっさと解禁しているため、出生率が高い・早い・若い
しかもただ育てるだけにしたってカネがかかるので、教育を身内内で完結させるため四則演算や読み書きすら怪しい

……最悪なのは、そういう環境で育った子が成長し「俺らっておかしくね?」と気付いて社会復帰しようとします
が、教育レベルが低すぎて職にも就けず、常識と価値観が違いすぎて周囲に馴染めず、結局また元へ戻ってしまうと
(※以上は”最悪”の一例なので極端過ぎる話ですが。ある意味マララ女史の指摘は正しいと言えます)

――XX学区 薄暗い倉庫 現在

上条(……記憶がフラッシュバックで甦る――その内、何割かは明らかに”俺”以外の視点もあった)

上条(記憶が混濁している?どこまでが夢で、どこからが現実なのかの境界が曖昧だ……) フラッ

レッサー「――と、あぁもぅ急に立たないで下さいな。まだ魔術の影響が抜けたばっかりですし」

上条「……セレーネ……?……そうか、俺はあの魔神に――」

上条「――っ!?アリサは!?アリサはどこに居るんだよ、なあっ!?」

レッサー「落ち着いて下さい!上条さんが焦っても、その、事態は、ですね?」

上条「……アリサ」

上条(あの時、アリサの手を掴めなかった俺の『右手』は、軽く鬱血するぐらい強く強く握り締めていた……)

上条(……何も掴まず――掴めなかった筈の手の中に、堅い感触が残っている)

上条「……」

上条(左手で硬直している指を一本一本押し開くと、そこにあったのは、握られていたのは――)

上条「……アリサの、ブローチ……」

レッサー「上条さん……」

上条(元々はシャットアウラの親父さん――てか、より正確にはお袋さんの持ち物だったらしい。どっちにしろ大切な形見には違いない)

上条(それを――『88の奇跡』の時、アリサが生まれた時に唯一身につけていた――)

上条(――これが切っ掛けになって『肉親』である二人が出会ったんだから、価値はどれほどのものか想像もつかない)

上条(アリサが旅の間中、ずっと大切に肌身離さず付けていた――一部ランシス情報――のがここにある……)

上条(この、意味は――)

上条「――っしゃ……ッ!」

レッサー「あの……気合い入れてどうしました?」

上条「ん、あぁ、ちっと行って来るわ。出口出口――EXITは、ここか」 ギィィッ

上条(近くにあった非常口を開けると、当たり前のように月蝕が続いていた)

上条(あるべき所に月は無く、僅かにリングのような輪郭が浮かんでいる……差し詰め、空に開いた黒い虚な穴か)

上条(その中心部から光の柱が一直線に地上へと差して……逆かも知れないが)

上条(柱自体は満月と同程度の月明かり、照らし出されている地上の光景は異常・異様・異質と)

上条(ステージにあった『樹』か伸びたと思われる”蔦”が、ビッシリと地表を覆い尽くして)

上条(ぱっと見、南アメリカ辺りの朽ちた都市、遺跡に様々な植物の根や蔦が絡みついてる、ような風情がある)

上条(けれど昏い緑青の檻の下、俺達が誇った学園都市の建物や設備はまだ若く)

ミチッ、ミチミチミチッ……

上条(それに何より……夜目でも分かるぐらいの速度で成長している――という『悪夢』)

ランシス「……外、ダメ、ゼッタイ」

上条「いや、少しだけ見てくるだけだから直ぐに戻るよ?いやマジでマジで?」

レッサー「……それどう聞いてもフラグにしか聞こえないんですが?」

上条「あの光の柱に魔神が居るんだろ?ちっとぶん殴ってくるわ、うん」

ベイロープ「待ちなさい!まだ何も現状が分かってないのに――」

上条「あ、ごめん。今急いでっからさ。詳しくは後から聞くよ」

フロリス「……あーもー、しょーがないなージャパニーズ」

上条「……フロリス?」

フロリス「ま、身を以て体験してくればいージャン?多分そうじゃない納得しないっしょ、ウン」

レッサー「おっと!そうは行きませんよフロリス!あなたの考えは読めました!T.E.D.!!!」

ベイロープ「Q.E.D.ね?アメリカのプレゼン番組よね、確か」

老人「日本語訳が時折極めて杜撰になる仕様で、『アドリア海の女王』を『女王』と超意訳する番組でもあるな」

ランシス「ヴェツィア共和国の異名をただの女王名だと混同している……歴史的な知識に乏しい」

少女の声「翻訳者に専門の知識が無ぉと仕事にならへんからねー」

上条「お前らも脱線すんな!……あれ?一人多い?」

レッサー「あの魔神の魔術にもっかい上条さんを放り込んで、割と面白い寝言を聞くなんて非道な行為っ!この私の目が黒いウチは許しませんコトよっ!」 チラッ

ランシス「なんでお嬢言葉……?」

上条「おいレッサー、お前今気になる事を言わなかった?魔神の魔術って何?」

上条「つーか寝言って――まさかっ!?」

レッサー「例えば隠された性癖をペラペラ喋るとか!また例えば秘められた願望をフルオープンするとか!」 チラチラッ

レッサー「!そういうのは黒歴史になりますからゼッタイ!ゼッタイにしちゃダメですからねっ!」 チラチチラチラッ

上条「お前それ完全にフリじゃねぇかよっ!?つーか何の話をしてやがる!?」

フロリス「ま、行きゃー分かるさ!オーケーでわでわ――」

上条「待ちやがれ!だからせめて事前に説明をだな!」

フロリス「――『常夜(ディストピア)』、被害者ァァァァァァァァァごしょーたーいっと!」

ゲシッ

上条「あイタっ!?お前何後ろから蹴りくれ――」 フラッ

ジジッ、ザザアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ……

――とある日 スーパー・『ホワイトデー特設コーナー ~送られた気持ちを3倍返し!けれど想いはプライスレス!~』

上条「……」

上条(頭の悪そうなキャプションのついている、何とも言えない特設コーナーの前へ俺は立って居た。つーか近所のスーパーなんだが)

上条(一ヶ月前は『これでもか!』ってぐらいチョコが並んでたが、今はマシュマロ、クッキー、キャンディにホワイトチョコがひしめき合ってる)

上条(そう――これはホワイトデー用にスーパーが設けた特別なステェージッ!だッ!)

上条(ある意味、そうある意味っ!ここは男の甲斐性が試される所だと言えよう……何故ならば!)

上条(例えそれが義理であっても、男はゲスい下心のために3倍返しをしなくてはならないからだ……!)

上条(これが母さんや乙姫辺りだったら『あ、うんアリガト』で済ます!それはゼッタイに本命ではないからだ!)

上条(だがしくぁぁぁぁし!もしもこれが万が一本命だった場合!確実にフラグを立てるためにもきちんとお返しをしなければいけない!)

上条「……ふぅ」

上条(……えぇまぁ義理なんですけどねっ!分かってたよっ!俺フラグ立てた憶えが無かったしぃ!)

上条(てゆーか全員が全員くれる時に『義理なんだから勘違いしないでよね?(平然)』って言ってきたんだからなアハハン!勘違いのしようがないぜ!)

上条「……」

上条(……うん、もう少し夢ぐらい見させて貰ってもいいと思うんだよ、俺は)

上条(現実なんて知りたくなかった!せめて、せめてお返しが終わるぐらいまでは『あ、もしかしてコイツ俺の事好きかも!?』ぐらいの夢を!)

上条(たった一ヶ月弱!なんかしんねーけど二月は28日までしか無ぇから丁度四週間!その間ぐらいはねっ!)

上条(これはもしや陰謀では無いだろうか……?もし2月が31日まであれば、俺達は3日長く夢を見続けて居られたのに!)

上条「……」

上条「……どうしてこうなったチクショー……」

――バレンタインの日

一方通行『よォ』

上条『黙れ。殺すぞ』

一方通行『なンでオマエ荒れてンだ?あァ?良い事でもあったかよォ?』

上条『お前にはっ!お前にだけは分からねぇだろチクショー!非モテに生まれついた俺の宿命をっ……!』

一方通行『非モテェ?』

上条『言ってみろ!俺の名前――じゃなかった、今日は何の日っとぅっとぅー!』

一方通行『超早朝のラジオのミニコーナー出したって、誰も分かンねェぞ』

上条『ヴァレンティヌス司祭が殉教なされた呪われた日だぞ!?喪に服すのがマナーではないかね!?』

一方通行『そンなキャラ変えてまで言う事か?あァ?』

一方通行『……つかバレンタインなンざ下らねェ。ンなもんに一々構ってンじゃねェよ』

一方通行『そもそもが外国、しかも十字教同士でプレゼント交換すンだけの話じゃねェか。俺達が一喜一憂してやる必要なンかねェし』

上条『……うん、そう、だよな?俺達は由緒正しいブッディストだもんな!』

一方通行『俺は違う』

上条『”聖人”つったらアレだろ?神裂やアックアみたいな一人民族大移動が暴れ回った話だろ?』

上条『それでローマ皇帝激おことか、そんなのに決まってるしー、なんだそっかー』

一方通行『舐めンな。ローマ皇帝そのぐらい処刑しねェだろ』

上条『つーかさつーかさ一つ聞いていいかな?一方通行さぁん?』

一方通行『ンだよ』

上条『お前が左手に抱えてる紙袋、何か重そうなんですけど――』

上条『――何が入ってるのかな?』 ググッ!!!

一方通行『取り敢えず右手振りかぶンのやめろ。教えてやっからよォ』

上条『あ、あぁゴメン……?何か、こう体が「念のために戦闘態勢を整えとけ」ってガイアが囁いてだな』

一方通行『大変だなァ。お前のガイア』

上条『で、何入ってんの?』

一方通行『チョコだな』

上条『アクセラレェタァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアァァァァァァァァァぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!』

一方通行『煩ェよ』

上条『ら、打ち止めさんから、ですよね……?』

一方通行『いやァ……なンか、歩いてたら女どもがな』

上条『む、昔助けたとか?あ、実は幼馴染みだったとか!?』

一方通行『あァ?一々憶えてらンねェだろ』

上条『って事は……』

一方通行『……まァ、通りすがりなンじゃねェの?』

上条『絶望したっ!聖なる日ですら格差のある現代日本に絶望したっ……!』

一方通行『呪われた日なンじゃねェのかよ』

上条『民主主義がなんだ!平和平等が何だって言うんだ!少なくとも――俺には平等じゃない!』

一方通行『機会平等と結果平等を混同してンぞ』

上条『……つーか一方通行!俺とお前にどんだけ差があるって言うんだよ!?』

上条『お前が持ってて俺にないものなんて――』

上条『――二枚目の顔と学園序列第一位で稼いだ財産とニヒルな人生観ときめ細かい白い肌とサラッサラの髪とどこか陰があってクールっぽい性格と性格とどう考えてもヘタレ受けにして見えない所――』

上条『――ぐらいだろっ!?』

一方通行『ほぼ完璧に理由把握してンじゃねェか。てかそこまで言われると逆にウゼェわ』

上条『俺だってただちょっと不幸で貧乏そうで今時流行らないツンツン頭でパッとしない容姿にラッキースケベを拗らせてどこへ行ってもトラブルに巻き込まれるだけなのに!』

一方通行『完璧な自己分析だなァ、オイ』

上条『運と間の悪さにかけては誰にも負けないぞっ!』

一方通行『……あー、そォいや俺の借金ってどうなったンだっけか……?』

上条『聞けよ話をっ!今大事な所なんだからねっ!』

一方通行『……そォ、か?なンか壮絶にマゾい事してるだけにしか見えねェよ』

上条『……え?何?お前どっから、つーか誰からそのチョコ貰ってきたの?』

一方通行『いやァ……電車乗ったンだわ。普通に』

上条『キメ顔で?』

一方通行『どンな顔だァ?俺いっっっっつもキメてるみたいに見えンのか、あァ?』

上条『い、いやだってモテるんだから!やってんのかなって思うし!』

一方通行『普通にだ、普通に……で、座席一杯だったから立ってたンだよ』

上条『うん』

一方通行『したらOLが”あのォ、これ受け取って下さい”って』

上条『あぁ”保証人になってくれ”って?あるある』

一方通行『違ェな?ンな話これっぽっちもしてねェよな?』

上条『え、でも俺結構そういう事あるよ?』

一方通行『……』

上条『や、やだなー一方通行。冗談キツいぜー!』

一方通行『……うンまァ、ンな感じであったような……うン』

上条『そっかー……あれ?それにしても量多くね?それだけじゃないよな?』

一方通行『あァまァ、他のは……そォだな、モノレール降りてからそこのコンビニ寄ったンだよ』

上条『キメ顔で?』

一方通行『キメ顔推しすぎじゃねェか?つーか俺どんだけキメ顔しまくってんだよ、一一一か』

上条『あっれー……?だったらなんでそんなにモテる理由が分からない……?』

一方通行『俺にはオマエがどンだけなのかの理由が分からねェが……ま、コーヒー買おうってな?』

上条『あぁ金のコーヒーな。あれ隣にスッゲー似てるお茶が置いてて紛らわしいんだよなー』

一方通行『そしたら”あのゥ、良かったらこれっ!”って』

上条『なぁ一方通行?生まれ変わりってあるかな?』

一方通行『来世に望みを賭けンじゃねェよ』

上条『おかしいだろっ!?なんでオマエがそンなにモテンですかァァァァァァァァァァァァァァ!?』

一方通行『俺の真似する辺り、余裕あるみたいだなァ』

上条『チクショウっ!俺だって、俺だってなぁ!やれば出来る子なんだよ!』

一方通行『ふーン?』

上条『年末に買った宝くじが当たっていれば今頃きっとキャッキャウフフに違いなかったのに!』

一方通行『100%カネの力だろ。カネが尽きたら終わンだろ』

上条『買う時に俺がキメ顔だったら今頃は……!』

一方通行『ねェな。それだけはねェよ』

上条『お金があればご飯をたくさん食べられるんだよ……ッ!!!』

一方通行『……オマエの後ろにどっかで見たシスターの影が重なるンだが……』

上条『……よし!』

一方通行『お、吹っ切れたか?』

上条『――死のう!』

一方通行『すっきりとした顔で超絶後味悪ィ事言ってンじゃねェぞ!?』

上条『だってさー?もう何かアレじゃん?逆立ちしても敵わないじゃんか?』

一方通行『……俺に言うンじゃねェよ』

上条『てーか女の子だって見る目がねぇよ!俺のキメ顔だってなかなかのもんだからな!』

一方通行『何?さっきからキメ顔連呼してっけど、俺になンか含む所でもあンの?』

一方通行『ゴリラ・ゴリラ・ゴリラばりに推して来るよなァ?』

上条『大体お前はさ?実質的には0歳児、かつ外見的にも幼×枠をお風呂に入れてハァハァしてる真性――』

パシッ

上条『……だって、の、に?』

一方通行『やめよっかァ、あン?俺、目立つの嫌いなンだけどォ、爆殺ぐれーはすっからよォ?なァ?』 ギリギリギリギリッ

上条『あ、すいませんすいませんっ調子に乗りましたすいませんっ!』

一方通行『脳血栓ぎりぎりまァで血の流れ遅らせンのも楽しそうだなァ、オイ』

上条『助けてー!?おまわりさーん!?』

一方通行『あとォ最近力もついて来たしィ?野郎一人分の頭蓋骨握り潰すなンざ楽勝だなァ、オイ?』

上条『サーセンっ!サーセンしたっ!俺が悪かったからもう少し手の力さんを抜いてあげて!?』

一方通行『……ちっ』

上条『……お、おぉ……頭が割れるように痛い……!……まさかここへ来てレッサーの気持ちが理解出来るとは……!』

一方通行『余計な事言おうとすっからだ……つーかさァ、あンまオマエの交友関係に首突っ込みたくねェンだけども』

上条『嫌な前フリだな』

一方通行『オマエ、そンなにモテなかったっけか?くれそォな女の一人や二人に心当たりはねェの?』

上条『……』

一方通行『第三位なんかそれっぽくね?盗人側が言うのもなンなンだが、仲良かったろ』

上条『……くれると思うか?』

一方通行『今ここに居ないンだったら……まァ、事実がどうであれ、その資格はねェわなァ』

一方通行『つーか欲しいンだったら持ってけよ、これ』

上条『あれ?お前甘いもん苦手――じゃ、なかったよな?』

一方通行『まァ俺は普通に食うが……何入ってっか、分かったもンじゃねェが』

上条『日頃の行い悪ぃもんなー、そかそかー』

一方通行『……否定はしねェが……まァどンだけ”まとも”なのがあンのか分っかンねェが全部やるよ』

上条『――いや!それはちっとマズいだろ?』

一方通行『なンで?』

上条『嫌がらせや悪戯目的は論外だけどさ、それでも中には好意でくれたのもあると思うんだよ。そん中には』

上条『だったらせめてまともなのは食べるのが男の義務だと思う!』

一方通行『……一万ちょいのクローンぶっ殺した奴に好意もクソもねェだろ』

上条『それはお前の考えであって俺は知ったこっちゃねぇし。バカじゃねーの?』

一方通行『バッ――!』

上条『少なくとも俺は。お前がちっこい御坂背負って半泣きでロシアまで乗り込んできて、プライドもなんもかなぐり捨てたのを知ってる訳』

一方通行『泣いてねェ』

上条『ま、チビ御坂が懐いてるみたいだし?あの子が保護者になってんだったらバカもやらかさないとは思うし?』

上条『黄泉川先生みたいな物好きも居るんだから、中には知った上で付き合ってくれる子だって居るんじゃねーの』

一方通行『……クソが』

上条『いい話してたよね?なんで暴言吐かれたの?』

一方通行『オマエなンぞに同情される程、俺はチンケな生き方はしてねェよ!』

上条『ふーん?』

一方通行『……信じてねェな?だったら――あ、これ持ってろ』

上条『バレンタインにチョコ入った袋渡されてもな……これはこれでプレッシャーだなっ!』

一方通行『……チョコ欲しい、つったよなァ?あ?』

上条『いやだからお前のを奪うつもりはないって!くれた人に悪いし!』

一方通行『……待ってろ』 スッ、プシュー

コンビニ店員『いらぁぁしゃぁぁっ!』

ガタン。プシューッ

上条『いやお前何コンビニ戻ってんだよ?つーかトイレ?トイレタイム的な話なの?』

上条『……』

上条『……腕にかかるリア充の重みが切ないぜ……!つーか俺、何やってんだろうなぁ……?』

ガタン。プシューッ

コンピニ店員『あ、ありあっさぁぁっ!』

一方通行『……』

上条『何か買ってきた……お帰り?どしたん?あ、ほら荷物返すよ』

一方通行『……やるわ』

上条『お、おぉサンキュ――』

一方通行『……』

上条『……ごめん。ちょっといいかな?』

一方通行『ンだよ』

上条『もしかしてね、もしかしてなんだけどさ?俺の多分勘違いだと思うんだけど――』

上条『――お前これチョコレートだよな?』

一方通行『……食いたかったンだろ?』

上条『主旨が違げぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇよっ!!!』

上条『違うもの!そうじゃないもの!そういうこっちゃねぇんだものさァァァァァァァァァァァッ!?』

上条『テメコラ普通に気持ち悪ぃよ!?なんで男友達からチョコゲットしてんだぁぁぁぁぁぁぁっ!?』

一方通行『だから欲しいって――』

上条『なんだよっ!?どういう意味だっ!?』

一方通行『……オマエがな、俺レベルまでモテんのは無理だ。それは分かンだろ?』

上条『分かってるよそのぐらい!……あ、いや分かりたいとは思わねぇけど!』

一方通行『だからな?俺がオマエにのレベルにまで落とせば、格差はなくなンだろうが!』

上条『それ違ぇぇぇぇぇぇよっ!解決方法が間違ってるもの!』

上条『お前がやってる事は”全員幸せには出来ないから、全員不幸になれば平等だね!”つってるのと同じだっ!』

上条『なんかこう色々とイッちゃった魔王辺りが”生きとし生けるもの皆ぶっ殺せば平等だぜ!”みたいな論理でしょーが!』

上条『誰も得をしないしっ!つーかお前も俺も大怪我しかしねぇじゃねぇか!なああオイッ!?』

上条『つーか何?お前ホントに学園序列第一位なの?レベル5になるとみんなどっかバカになるの?死ぬの?』

一方通行『……ンだとォ?』

上条『お前が怒るターンじゃねぇよ!?何キレてんだ!』

一方通行『……他の女からは貰っても、俺からは貰えねェって言うのかよ……!』

上条『落ち着こう、なっ?まずは取り敢えず深呼吸しようぜ?』

上条『うん、そうしたら次にここがどこか思いしだしてみようか?うん、そうだよね大通りだよね?人が一杯いるもんね?』

上条『そんな中、お前がたった今ホザいた台詞と、さっきから連続してモメてる俺らはどう思われるかな?』

上条『どう考えてもバレンタインで修羅場を迎えるゲ×カップルにしか見えないよね?違うかな?』

一方通行『でもオマエが欲しいって――』

上条『はぁいストップ!!!それ以上言うと俺の右手が黙ってないぞー?”そげぶ”って言っちゃうぞー?』

上条『……や、まぁ俺がバカ話したのも悪かったとは思うけどさ。知り合いに見られたら大事故になってたからな?注意し――』

佐天 パシャッ、ピロリロリーン

上条・一方通行「「……」」

佐天『あ、すいませーん!目線こっち貰えませんかー?……あ、そうそういい感じです、いい感じ』

佐天『では、キメ顔でもう一枚。おっ、いいですねー』

佐天『あたしの実家にある薄い本、京×いおり○に書いてあった”目で×してくれと言っている!”って感じで、ディ・モールトです!』

佐天『でははい、チーズ――』 パシャッ、ピロリロリーン

佐天『――と、はーいありがとうございましたっ!それじゃあたしはこの辺でっ!』

佐天『あ、御坂さんにはあたしっからよーーーーーーくっ!伝えて!おきますんで!それじゃっ!』

上条『待ちやがれぇぇっこの悪魔ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァぇぇぇぇぇっ!!!』

上条『テメコラ分かってるだろっ!?佐天さんキミ絶対に分かっててやってるよねっ!?』

佐天『なーんーのーこーとーかー、わーかーりーまーせーんーなー?』

上条『清々しいまでに棒読みだよなっチクショーっ!!!』

――バレンタインの日

上条『どこ行きやがった佐天さん!相変わらずトラブルに巻き込まれ率と解決方法を他人に丸投げすんのは一流だな!』

雲川『なんかよく分からないんだけど、相変わらず意味不明な事になってるんだなぁ』

上条『あ、先輩!丁度良かった!今ここに棚中の制服着た核弾頭飛んでこなかったかっ!?』

雲川『……もしそれがこっちへ来ていたら、私は死んでると思うんだけど?』

上条『……そっか!ならいいや!それじゃっ!』

雲川『――と、待ちたまえ後輩』

上条『なんだよ先輩!?俺は今殺人を本気で考えてる所なんだからな!』

雲川『……よりにもよってバレンタインの日まで殺伐としているんだけど……まぁ、これをやろう』

上条『これ――もしかしてっチョコか!?』

雲川『そうじゃなかったらそれはそれで謎だろうけど。ま、可愛い後輩へのプレゼントという事で』

上条『……ぐすっ……』

雲川『なんで泣く!?』

上条『せ、先輩っ!俺……俺、先輩の事誤解してたみたいですっ……!』

雲川『そ、そう?』

上条『てっきり先輩はどっか二面性があって裏ではスッゲー怖ぇ事やってる陰険女で!』

上条『俺には決して言えないような!あんな事やこんな事をしでかしてるんじゃねぇかなって!』

雲川『比較的速やかにそれを返せ。ほら早く』

上条『お願いしますっ!これだけはっ!どうかこれだけは許して下さいっ!』

雲川『というか後輩、幾ら義理とは言え、もっと言うべき事はあると思うんだけど?』

上条『ありあしたっ!でも出来ればあと20分早く欲しかったですっ!』

雲川『なんで時間指定?……ま、手作りだからね。少し時間がかかってしまった、と言っておくけど』

上条『え、マジで?これ先輩の手作り――』

上条『……』

雲川『なんだね、その沈黙は?』

上条『……や、雲川先輩?ちょっと聞いていいですかね?』

雲川『はい?』

上条『作ったって聞いたけど、雲川先輩って自炊派でしたっけ……?』

雲川『失敬だな。私は色々忙しいけど、そうじゃない時はするよ』

上条『この間さ、舞夏――繚乱家政に通ってる知り合いんトコへ、先輩の妹さんが遊びに来てたんだが――』

雲川『……待て待て。そんな話聞いてないんだけど』

上条『そん時、”姉のマンションへ入ったと思ったら、そこは腐海だった”という貴重な証言がですね』

雲川『何言ってやがるあのアマっ!?』

上条『他にも”部屋を掃除するぐらいだったら引っ越す”という暴挙を繰り返してるらしい、とも』

雲川『……違う!あれはちょっとアルバイトが多忙だったために時間が無かっただけで!』

上条『忙しいのは分かるけどさ、そこまでものぐさな先輩に”手作り”とか言われても……』

雲川『私の生活態度はさもかく!そのチョコに関しては手を抜いた憶えはないと言っておくけど!』

雲川『某国からから”ここ十年で最高の出来上がり”と言われているのチョコレートドゥとココアパウダーをわざわざ輸入させ!』

上条『ボジョレーのコピペみたいになってんですが……』

雲川『一流の菓子職人も裸足で逃げ出す料理人を拝み倒して用意したんだけど!』

雲川『確かに私が作った訳ではないけど、それなりに時間も労力をかけているのを評価して欲しいね』

上条『そりゃ……うん、ありがたいが――ん?待ってくれ先輩』

雲川『何?』

上条『材料取り寄せたのはどちら様?』

雲川『妹だな。流石に食材の善し悪しまでは分からない』

上条『実際に作ってくれたのは?』

雲川『それも妹だな。あまり褒めたくは無いけど、あの子の料理スキルは一流のパティシエ以上だし』

上条『じゃこのチョコ、実質妹さんからじゃね?』

雲川『だが金を出したのは私だけど!』

上条『センパイセンパイ、ぶっちゃけていいにも程があるからな?節度を守りません?』

雲川『大体その理屈が通るんだったら市販のチョコの大半は工場制だし、専門店で作っているパティシエだってほぼオッサンだけど!』

上条『俺達の幻想殺すような真似は止めてくれません?つーか年上なんだから弁えろ!』

雲川『そもそもチョコレート自体が完成しているのに、それを溶かして再形成するのは非効率的じゃ?』

上条『だったらなんで俺にくれたっ!?アレだろ?チョコと見せかけて俺の心を折るつもりだろ、なぁっ!?』

雲川『……まぁ冗談はさておき、妹が作ったチョコレートは本気で美味しいから、ありがたく食べるといいよ』

上条『……最初っからその言葉以外は要らなかったと思いますが……』

雲川『というか急いでなかったかな?』

上条『あ、そうだっ!忘れてたっ!――それじゃ雲川先輩っ、また学校で!』

雲川『あぁ、車には気をつけるんだぞー……と』

――バレンタインの日

フロリス『おいっすー』

上条『おっすフロリス――ってフロリス?なんでここに?』

フロリス『んーーーーーーーーーーーーーーーー?……野暮用?』

上条『そこまで溜めるぐらいのは野暮用って言わなくねぇかな?……まぁいいか』

上条『そんな事よりこっちへドヤ顔で走ってきた中学生見なかったか?』

フロリス『見たいけど、見なかったかなーそれ』

上条『そっかー……クソっ、本格的に見失っちまったかのかよ!』

フロリス『どったん?またトラブルー?』

上条『あぁ!ヤツは俺の大事なものを盗んでいったんだ。それは――』

上条『――社会的信用をなっ!!!』

フロリス『そんなとっつぁんは嫌だよねぇ、ウン。てーか社会的信用を盗まれるってどんな状況?』

上条『……男には、負けると分かっていても戦わなければいけない時があるんだ……!』

フロリス『何かのパクリっぽい台詞ジャン?……ま、いいけどさ、これっ、はいっ!』

上条『包み紙……まさかお前これっChocolateか……ッ!?』

フロリス『体験留学の結果が出てて何よりな発音だぜ。ん、まぁそういう日じゃ無かったっけ?』

上条『フロリーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーースっ!!!』

フロリス『なんで号泣っ!?』

上条『ここまで!ここまで来るまで!俺が、俺がどんだけ飛び道具喰らってたか……!』

フロリス『あー……分かる、ような?分かりたくないよー?』

上条『義理でもスッッッッッッッゲー嬉しいぜ!ありがとうなっ!』

フロリス『――へ?義理?』

上条『え、義理……じゃ、ないの?』

フロリス『い、イヤイヤイヤイヤイヤっ!?義理に決まってるし!つーか義理以外に有り得ないし!』

フロリス『そんなんじゃないから?誤解すんなよジャパニーズ?』

上条『……ギリギリ言われると、それはそれで俺の繊細なハートがブロークンなんだが……そうだよなぁ、やっぱ』

上条『そこそこ長い付き合いなのに、未だに苗字すら呼ばれてない時点で――』

フロリス『あー……ウン、それはね?ワタシの乙女心的なアレがアレしてアレしたっちゅーかサ?』

フロリス『分かるジャン?……あ、いやレッサーとアリサに悪いケド』

上条『ま、ともあれありがとうございますフロリスさん!一生大事に飾っておきますから!』

フロリス『いや食べなよ!?どんな嫌がらせだ!?』

上条『ま、そっちの野暮用は分かった――ん、だけど。そっちの子は?』

フロリス『あー……どっちかっつーとこっちが野暮用なんだケド』

フロリス『まーあれがあーしてあーすると、野暮用を先に片付けるとrehash(二番煎じ)になるみたいなー?』

上条『意味が分からん』

フロリス『ぶっちゃけると飛行機の中で一緒になった。つーかジャパニーズに用事なんだって、ホラ』

サンドリヨン『……あぁ、分かっている』

上条『お前も久しぶりー。クロイトゥーネん時は助かったよ』

サンドリヨン『いや……私の借りを替わって返してくれたのだから、例には及ばない』

サンドリヨン『例えそれが頼みもしないものであったとしてもだ』

上条『……そーすか』

フロリス『(大っ体こんなカンジ?絡みづらいったら、ウン)』

上条『(服も服だしなぁ……お疲れ様でした……)』

サンドリヨン『私のドレス、綺麗でしょう?』

上条『ん、あぁよく似合ってるよ。このヒラヒラは霊装かなんか?』

サンドリヨン『そうね。これは”白雪姫”の逸話を再現した霊装で――』

フロリス『――と、ゴメン!ワタシちょっと用事あるから先に帰るよっ』

上条『(あ、テメ裏切ったな!?)』

フロリス『学園都市も珍しいしねー!そいじゃっ!』

上条『……なんだろうな。逃げるように去って行ったが……』

サンドリヨン『気を遣ってくれたのよ。さっ、行きましょうか』

上条『いや、行くってどこに?』

サンドリヨン『今日はバレンタイン、お世話になった人に感謝の贈り物をする日――日本は違うみたいだけど』

上条『まぁ……なぁ?』

サンドリヨン『だから私もランチを作ってきたの。どこでご一緒しましょう?』

上条『メシかー……確かに腹減ってるし、非常にありがたい話だけどさ』

サンドリヨン『急な話だったから、間に合わせの食材で済ませてしまったのだけど』

上条『とんでもない!俺はなんだって食べるよ!』

サンドリヨン『そう?それじゃ良かったわ、無駄にしなくても良かったのだから――』

サンドリヨン『――”わたしのおべんとう”召し上がれ』

上条『……あれ?なんか寒気が――』

――バレンタインの日

上条(さて……どうしよっかな、これから)

上条(メシも喰ったし、何故か成り行きでチョコも貰ってしまった――勿論義理ですけど何か?)

上条(雲川先輩、フロリス、チョコじゃないけどサンドリヨン……あとカウントしていいのかわっかんねぇが一方通行……)

上条(……あれは体を張った渾身のネタじゃねぇかとも思うが……まぁいいや。忘れる事にしよう。うん)

上条(でもま、義理とは言え女の子三人からプレゼント貰った訳だし!これで俺も勝ち組の仲間に!)

男A『――おいおい、そこの絶世のお嬢様よぉ?バカにしてんのか、あぁ?』

上条『……ん?』

男B『そうだぜこのナイスバディのお嬢様さん。人にぶつかっといて何も無しで行こうってんじゃねーだろうなー?お?』

上条(――女の子が絡まれてる!?助けに入らないと――!)

食蜂『やだあ、こ・わ・い・ん・だ・ゾ☆』 チラッ

上条『……』

男A☆『テメコラバカにしてんのか?幾らテメーが超絶可愛いからって、俺達は怖い怖い社会のゴミなんだからなっ☆』

男B☆『そうだぜ!誰かが助けに入ってくれないと大覇星祭選手宣誓に選ばれた可憐なお嬢様にエッチな事し・ちゃ・う・ぞ☆』

食蜂『誰かぁ、誰か私をた・す・け・て☆』 チラチラッ

上条『……』

海原(本物)『おい君達!一体何をしげぶっ!?』

男A☆『空気読め、な?出て来んなよ三下☆』

男B☆『テメーは御坂さん相手に交尾力してりゃいいだろクソが☆』

食蜂『きゃあ、きゃあ☆』 チラチラチラッ

上条『ごめんな食蜂さん。俺、前からいっぺん言おうと思ってたんだけど、君も結構頭悪いよね?』

上条『取り敢えずそっちの男の人達は、色々な意味で黒歴史抱え込むから解放してあげて、な?』

食蜂『上条さぁん――っ!!!』

男A☆『なんだコノヤロー?白馬の王子様気取りやがって何様だ☆』

男B☆『かかって来いや!この美しいお嬢様をテメーみたいな王子様に渡さないん・だ・ぞ☆』

食蜂『だめぇ、上条さん私のために戦うなんて!』

上条『……あぁうん、お約束だけはしたいのね?それじゃするけどさ……』

上条『――って右手じゃ食蜂さんの能力解けるんだよな?だったら珍しく左手で――』

上条『……すぅ』

上条『俺はっ!お前らなんかに負けないっ!負ける訳がねぇさ!』

上条『かよわ――い、かどうかは別にして!ただの女の子――でもない、一般人――じゃ、ない相手に!』

食蜂『真面目にしないと、この子達の命が危ないんだゾ?』

上条『み、ミラクルリリカルキルゼムオールパァァァァァァァァァンチッ……!!!』 ヘロッ

男A・B☆『ぐあぁぁぁぁぁぁぁっ!?』 ペチ、ペチッ

食蜂『あ、ありがとうございます☆せめて、お名前だけでもぉ』

上条『名乗る程のものでは御座いません』

食蜂 ピッ

男A☆『……やっとく?ポキって☆』

男B☆『……やった方が言う事聞くかしらぁ?ペキって☆』

上条『通りすがりの上条当麻高校生ですヨロシクネっ!両親二人に兄弟無し(多分)の一人っ子ですねっ!』

食蜂『危ない所をありがとうございましたぁ。お礼に、これを』

上条『危ないっつーか、この茶番を考えたヤツの頭の方が危ないと思うんだが……何?チョコ、だよな?』

食蜂『ここわぁ、女子力を発揮しちっゃたんだぞ☆』

上条『だったら小芝居挟まずに最初から素直に欲しかったんだが、食蜂さん……』

食蜂『み・さ・き・ち、って呼んで☆』

上条『”ち”は余計じゃね?愛称なのかもしんないけどさ』

食蜂『そんな事より、上条さん今からお暇かしらぁ?』

上条『男二人に絡まれた設定は無視なの?ねぇ?もう少し、整合性的なものを重視しないと編集さんに怒られるんだからね?』

食蜂 ピッ

男A☆『……最近流行りのチート異世界勇者じゃ納得しないんだって。だったらリアリティ追求のためにやっとく?ポキって☆』

男B☆『……演出的には土つけるのもいいかしらぁ?ペキって☆』

上条『いいですよねっ異世界召喚!俺も異世界行って世界を救いたいわー、超救いたいわー!』

食蜂『私ぃ、前から疑問に思うんだけどぉ。なんでわざわざ不慣れな外の人に助けて貰う必要性がぁ――』

上条『チュートリアルを神様や世界の管理者に懇切丁寧にやって貰――いやごめんなんでもないですっ!いえーい!チート最高だぜ!』

食蜂『その勇者様も、ハーレム構築に熱心だけど大抵世界を救おうなんてそっちの――』

上条『大切だから!名前も知らない人のためよりもっ!自分の知り合い優先させた結果だからっ!』

食蜂『そもそも卓越した錬金術()を持ち込んだら、今までそれでご飯を食べていた人が首を括――』

上条『――みさきっつぁん!』

食蜂『……なぁに?』

上条『――それより僕と踊りませんか?』 キリッ

食蜂『……喜んで』

――とある日 ホワイトデー特設コーナー

上条(と、言うような事がだね。あった訳で)

上条(あの後は別に……うん、特に何も無かったよね?全然全然?)

上条(食蜂さんとクレープつついてブラブラしてたら、ビリビリに絡まれて死にそうになったり)

上条(家へ帰ろうとしたらレッサーの襲撃を受けて俺の貞操がピンチになったり)

上条(帰ったら帰ったで、異常に機嫌の悪いインデックスさんに噛み殺されそうになったけど……まぁ?)

上条(いつもの事ですよねっ!うんうん、よくある話だっ!)

上条「……」

上条「……あれ?涙が……泣いているのは……俺?」

上条「……」

上条(……まぁ、ネタはともかく、そんな感じで平常運転だった。どんなだよ)

上条(ともあれ4プラス1人にお返ししなきゃいけない。礼儀として)

上条(最初にも思ったが、これはあくまでもジェントル的なアレだからね?決して場合によってはそのまま逆告白的なアレじゃないからな?)

上条「……」

上条(……すいませんごめんなさい嘘ですっ!俺だって人並み彼女ぐらい欲しいですっ!)

上条(まぁ……その、下心が皆無って訳じゃない。ないんだが、うーん?お返しをするに至っては優劣つけるのもアレだし?)

上条(かといって俺の手持ちは限られている分、全員にそこそこのを送るか、それとも一人には奮発してその他はお茶を濁すか、の二択となる)

上条(手作りって線も捨てがたいが……土御門の『重い』の一言で瞬殺された)

上条(俺の料理はお菓子作りまでカバーしてなかっ”た”んだけど……同居人のお陰でめきめき腕が上がってきている)

上条(最近はだな。時間をかけてじっくり作るフルーツグラタンも習得した!本格的だねっ!)

上条(舞夏から『繚乱家政大学だったら実技推薦あるぞー』と、言われて正直迷っている所だ)

男「――オイ!テメコラ!」

上条(在学中に調理師免許取ってだ。後はどっかに店を構えたい――が、早々上手くは運ばないだろうし)

上条(コネを駆使すれば億単位で利子・返済不要の資金が集まりそうな気もするが……それやっちまったら人として終わるだろうしなぁ)

上条(ビリビリ辺りに頼んだら、一生ものの選択肢になりそう……)

男「お?聞いてんのかコノヤロー!?ぶっ飛ばすぞテメー?」

上条「――と?」

上条(殺気から声をかけていたらしい男は、ゴリラっぽいオッサンだった)

上条「……つーか誰?」

男「いいからその手を離せよコノヤロー。テメーが何やってんのか分かってねぇようだな、あぁ?」

上条「分かってねぇって、いきなりなんなんだよ?俺はただ売り物のチョコ、手にとって見てるだけじゃねぇか!」

男「だからそれがダメだって言ってんだろコノヤロー!」

上条「いやだから意味が――」

男「チョコはな――溶けるんだよッ!」

上条「知ってた」

男「違ぇよ!そういう意味じゃねぇよコノヤロー!」

上条「だからどういう」

男「俺達は飢えたジャッカルなんだよバカヤロー!」

上条「ごめんなさい。本当に意味が分からないです」

男「だからよ!お前がその箱を長々と握ってりゃ中のチョコは溶けんだろうが、なぁぁっ!?」

上条「握る、ってあんた人聞き悪ぃな!俺は手にとって成分表示見てただけでしょうが!」

男「そこに戦いはあるのか?」

上条「無ぇな?多分誰とも戦っては無いと思うぜ?」

男「あー、だがよ!テメーが持ってるベルトはゴディバなんだよ!」

上条「ホワイトチョコな?プロレス王座戴冠した憶えはねーぞ?……いやいや」

上条「まぁ確かにゴディバだけどさ。それとこれとになんの関係があるんだよ?」

上条「そりゃ確かに悪意持って商品傷つけるバカも居るだろうが、俺はフツーに手に取って見てただけだからな?」

男「いいか?テメーゴディバの直営店行った事があんのかよバカヤロー?」

上条「無いけど。つーか日本にあんのか?」

男「三越にあんだよ。気になるんだったら行ってみろ!」

男「それでな。ゴディバのチョコは繊細なんだ。職人が作ってから、ずっと冷蔵保存すんだよ」

男「トラックで運ぶ時も、船に乗せる時も、店でショーウインドゥへ並べてからもずっと低温保ったままなんだよ!どういう意味が分かるか?あぁ?」

上条「なんでそこまでする必要があるんだ?ゴディバは確かにお高い系のチョコだって有名だけど、店じゃフツーの温度で売ってるだろ?」

男「それは本物のゴディバじゃねぇ!いや――」

男「飢えたジャッカルじゃねぇんだよ!!!」

上条「ジャッカル推すな?あんたがジャッカルかそうでないか、いい加減にはっきりさせた方が良いんじゃねぇの?」

男「直営店じゃずーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっと冷やしたまんま。お客様にも冷えた状態で提供すんだよ!」

男「そうじゃねぇと繊細な味が!一流のショコラティエによって作られた味が、損なわれっちまうだろうが!」

上条「それはっ……そう、だな」

男「テメーの手に出来たフライパンダコ、それを見りゃ一端の菓子職人だって事ぁ分かるさ。だって俺は”スイーツ”だからな?」

男「だがよぉ、お前がそんな品質管理をナメてるようじゃいけねーだろ。違うか?」

上条「……くっ!悔しいがあんたの言ってる事は正論だ……!」

男「ま、確かにゴディバは美味ぇ。温度管理をデタラメにしちまっても、ぶっちゃけ少しぐらい溶けちまっても美味いぜ?」

男「だがよ。どうせだったら美味いまんま、最高の状態に限りなく近い状態で食われた方が職人にとっちゃ嬉しいだろうな」

男「テメーだってそうだろうが!折角作ったメシ、冷めてるよりも早く食って欲しいんだろ!?」

上条「確かに!」

男「でも、だからってこのチョコが不運だったとは言わねぇよ。雑草みてーに踏まれて揉まれて、品質管理もクソもしてねぇこの店が悪いんじゃねぇ」

男「けどよ?逆に言えばアバウトに扱う事で、管理費を安く済ませられるっつー一面もあらぁな?分かるかよ?」

上条「安く……そうか!価格を抑えられれば、チョコを食べられる人が増えるのか……!」

男「ま、そーゆーこったな。俺ぁゴディバなんざ知ったこっちゃねぇし、潰れるんだったら潰れたって構わねぇがよ」

男「食うヤツが気持ちよぉーーーーーーーーーーーーーく食うんだったら、それでいい話だろ、あ?」

上条「……俺が、間違ってた……!」

男「ま、気にすんなにーちゃん。スイーツ好きのオッサンの戯れ言だわな」

上条「待ってくれ――なぁ、あんた一体誰だったんだ?」

男「俺か?俺はよぉ――」

真壁(男)「――スイーツ真壁ってんだコノヤロー」

――特設コーナー

上条(さて……何か変なノリで一騒動あったが、まぁそれもまたいつもの事ではある。悲しいけども!)

上条(ホワイトデーのお返しを本格的に選ばなければいけない……ッ!)

上条(しかも何か、あくまでも俺の予感だがこの選択肢がオチを決める筈だ!オチってなんだろ?よく分かんねぇけども!)

上条(雲川G(ドス)先輩、フロリス、シンデレラ、おっぱ――じゃなかった食蜂さん。そして大穴の一方通行……これだけは避けたいが)

上条(ここで俺が取るべき選択肢は――)

上条 スッ

店員「あ、いらっしゃいませー。プレゼントですかー?メッセージカードをおつけしましょうかー?」

上条「あ、はい。お願いします」

店員「文面はこちらへお書き下さいねー」

上条「えぇっと……新日○プロレス、真壁とう――」

金髪「ちゃん、らーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんっ!!!」 ゲシッ

上条「そげぶにっ!?」

金髪「バカじゃない訳っ!?っていうかバカじゃない訳よっ!?」

金髪「違うでしょっ!?どう考えてもそっちのフラグが立ってなかった訳だし!」

金髪「どう考えてもあーしてこーしてこうなって!最後には『HAMADURAAAAAAAAAAAAAAAAA!?』的なオチになるに決まってんでしょうが!」

上条「いやその理屈はおかしい――ってお前この間、デパートで蹴りくれやがったヤツか!名前は確か――」

金髪「そうそう。憶えてる訳よね?」

上条「――ヌレンダ?」

ヌレンダ(金髪)「惜しいっ!キーボードでニアミスだからっ!そのもーーーひとつ右っ!」

上条「お前このボケを正確に拾うなんてタダモンじゃねぇな……!?」

ヌレンダ「あぁうん、もうそーゆーのいいから。さっさと起きて起きて!」

上条「起きるって、えっと?」

ヌレンダ「いやこっちにも都合があるって訳でー……うーん?どうしよっかなー?」

ヌレンダ「夢の中で死ねば目が覚める、って話はよく聞く訳よね?」

上条「おいバカやめろ!?お前らが立てたフラグ回収すんのは俺なんだぞっ!?――って、今お前」

上条「『夢』、って言ったか……?」

ヌレンダ「って言ってた訳ね、”これ”が」

上条「――『夢』」

ヌレンダ「あ、覚めるみたい。それじゃま――」

ジジッ、ザザアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ……

――XX学区 薄暗い倉庫

上条「……ここは……?」

レッサー「目が覚めた、っちゅーか頭が冷えましたかね上条さん?」

上条「……夢。あぁそうか、俺は夢を見ていたのか……」

ベイロープ「正しくは『常夜(ディストピア)』ね」

ランシス「射程距離無限、効果時間永遠……一度見たら、まず単独じゃ抜け出せない」

上条「俺は『右手』があるのに喰らっちまったのか……」

老人「『継続して流れ続ける力』を打ち消すのは不可能。よって常在型の大規模術式には膝を折られねばならんと」

上条「でもレッサー達が起きてるって事は……ここは安全なのか?それともそもそも夢の中にまだ居たりするとか?」

レッサー「前者ですな。『教皇の結界(ハイエロファントグリーン)』をジジ――そちらさんが張って下さいましたし」

少女の声「でも完全に防げた、ちゅーんのも怪しいんよ。結界の中でも時が止まっとぉ」

少女の声「皮肉な言い方をしよぉと、ワイらが『胡蝶の夢』を見とぉ可能性もあんねんで?」

上条「胡蝶の夢……?」

ベイロープ「男が胡蝶となった夢を見、覚めた後こう思ったの。『自分が夢で胡蝶となったのか、胡蝶が今夢の中で自分になっているのか?』って」

上条「……教科書に書いてあったな。それを今のケースに当てはめるなら……あぁ」

上条「『俺達はセレーネの影響を受けず、対策を取ろうとしている――って”夢”』を見てるかも、か?」

レッサー「ま、そうだったらそうだったでチェックメイトなんですけどねっ!HAHAHAHAHAHA!!!」

ランシス「……そこまで考えても仕方が、ないし」

老人「仮にその夢を見ていたとしても、最後は魔神を倒して幕が引かれるだろう。ならば我々が見破る術も無いのだよ」

レッサー「でっすねぇ――ってフロリス?もしもーし?」

上条「あ、テメよくもこの間蹴りくれやがったな!」

フロリス「……」

ベイロープ「現実時間だと30分も経ってないのよね」

レッサー「てかフロリス、さっきからお口チャックマンでどうしま――」

フロリス「――訂正を!訂正を要求する……ッ!!!」

上条「あい?つーか俺?」

フロリス「ジャパニーズの頭の中でのワタシはあんなカンジなのっ!?あれは幾らなんでも……チョロ過ぎるし!なんだアレっ!?つーかダレっ!?」

レッサー「いやぁ、大体正確にエミュレートしてたような気がしますよ?」

フロリス「……ほぅ。あれがワタシだと?」

レッサー「わざわざチョコ一個届けに学園都市までやって来たものの、本人目の前にしてヘタれる所なんか、実にそれっぽいかと」

フロリス「……表へ出やがれ」

レッサー「すいません。ショゴスの群れ相手にするのメンドイです」

上条「ちょ、ちょっといいかな?レッサーさんや?」

レッサー「あーはー?」

上条「今の、ってもしかして……俺の夢の話、だよね?」

レッサー「狙ったように奇天烈な展開でしたねっ!むしろアレが日常茶飯事かと思うとドキがムネムネしますっ!」

上条「逆逆――じゃなくてね、えぇっ!?だって夢なんだろ!?俺の!?」

レッサー「えぇなので部外者である私達は当然誰が何を見ているのか、サッパリスッパリドッキリ分かりません――」

上条「だ、だよねっ!俺の夢は俺だけのもんだよねっ!」

レッサー「――んー、が!生憎『常夜』の罹りが弱かったのか、それとも『右手』のお陰なのかも知れませんが!」

上条「が?」

レッサー「上条さんが夢の中で喋っていた台詞、及び登場人物と思われる方の台詞――」

レッサー「――どっちも寝言で喋ってましたよ?」

上条「――」

レッサー「フロリスが夢の中へゲストとしてお招き頂いたのは、恐らく『寝る直前に見たものが夢に出やすい』ってジンクスじゃないですかね、きっと」

レッサー「枕の下へSeven-Gods!!!のイコンを入れる的な!ロマンチックです!」

老人「『長き夜の、遠の睡りの皆目醒め、波乗り船の音の佳きかな』」

老人「宝船の術式は紛れもなく夢関係の術式であるし、立ち位置上今は距離を置くべきだと思うが……」

少女の声「夢ん中でもみょーーーーーーーにっ、『夢を見続けていたい』的なニュアンスも多いしぃで、あれも何かの強制力が働いとぉわ」

少女の声「気になんのはなんや雑音が混じっとぉた感じがするんやけど、どこかしらと混線しとるんかな?」

レッサー「あと私の個人的な感想ですが、夢の中のSATENさんとやらがどうしてあんな行動を取ったとか言えば!」

レッサー「『バレンタインに折角チョコ持ってきてみたらば同士でイチャイチャしてやった!反省はしていない!』ってトコかと」

レッサー「ま、あくまでも夢ですんで。『もしもSATENさんだったらこうするだろう』と、上条さんが考えたのを反映しただけに過ぎな――」

上条「こぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉせぇぇぇぇぇぇぇぇよォォォォォォォォォォォォっ!殺してくれよぉぉぉぉぉっ!?」

レッサー「大丈夫です!管理人さんの下りは見るに見かねたジジイ以外全員で観察してましたから!」

上条「ほぼ全員で見てるじゃねぇかよぉぉぉぉぉぉっ!?なんだお前らっ!?なんなんだよっ!?」

レッサー「なんですか上条さんっその言い草は!むしろご褒美じゃ無いですか!」

上条「ちょっと意味が分からないですね」

レッサー「『あ、苦しそうですし――開けて、みましょうか?』ってネタで言ったら誰にも反対されませんでしたよっ!」

上条「……見たの……?」

レッサー「ちょ、ちょっとだけ……?」

上条「……」 ギイィィィィィィッ

レッサー「か、上条さん?そっちはお外ですよ?つーか非常口開けるとショゴス入ってきますから危険ですよー?」

上条「……な、レッサー?俺、考えたんだけどさ」

レッサー「そんな素敵な笑顔を浮かべたままでナニやろうとしてるんですかっ!?お外へ行ったらまた面白可笑しい夢を見せられる羽目に――」

上条「夢の中へ――行ってみたいと思いませんか?」

レッサー「あ、なーる。そこに繋がる訳ですかー!こりゃ一本取られましたねー!」

ベイロープ「いいから戻ってきなさいマイ・ロード。話が進まないのだわ」

今週の投下は以上となります。お付き合い頂いた方に感謝を

リクエスト頂いてから反映されるまで時間がかかるのは仕様ですのでご了承ください

おっつし☆
最初一方通行出たときはどうなることかと思ったけど美少女に視姦されるというこのスレではMっぽい上条さん的には大変喜ばしい展開でしたね(白目)まあ一方通行が一番長かったけど
ただ一つ、選択肢はもう一つあった。チョコレートを作ってくれた雲川後輩という選択肢がなッ!

>>661
スジを通せば『最初』の一方通行さんガチホモを書くべきだとは思いますが……まぁなんだかんだでイチャイチャしていたのでいいかな、と
大体週一でここに来ているため、リクエストには遅れてしまいます

乙かレッサー

乙!!

苦しそうだから開けたって、誰が開けたんだ?
どうやって閉めたんだろ?

そっかー
かんざきさんじゅうはっさいは、アン○レ・ザ・ジャイ○ントだったのかー

なんだかんだ、みんなの無茶ブリきいてくれるあたり、良い人だわさ

乙です

―――えっとつまり、おべんとうの「食材」調達をしたら、サンドリヨンさんてばさらにロリ化してしまった、ということでO.K?

あと日本語しゃべれるようになったんだ。

>>635-637
いつもありがとうございます

>>638
匿名「それは考えすぎかと。リーダーそこまで遠回しに計画練る前に、ナイフ一本で特攻かますでしょうし」
匿名「と言うのも自分達はどこまで行っても『科学サイド』に過ぎないんですよね」
匿名「科学に関する知識やノウハウはあっても、一々どれに魔術的な記号が――みたいなのは分かりませんからね」
匿名「振り付けやライブのコンセプト、相当根深い所から侵食されていますしねぇ」
匿名「えっと、ホラ何年か前にどこかの金剛力ナントカさんがプロペラダンス披露した事がありましたが」
匿名「今にして思えばあの奇特な動きも魔術的な何かがあった可能性が……!」
匿名「……」
匿名「……あの、すいません。自分倉庫に転がされてるんですけど、どなたか助けに、えぇ」
匿名「煙草を吸いながら待ってるんですけど、先程から女の影がチラホラ見えて超恐い」
匿名「上条さんらしき人の絶叫が聞こえてから、廊下からは這いずる音とすすり泣く声が……バイ○?サイレントヒ○?」
匿名「てかここまで来て……最期の戦いに不参加って……所詮は名無しの限界……」
匿名「やっぱ……上条……さんは……オッサンよりも…………」
匿名「ロリ…………ああ、母さん…………」
セレーネ「ぼうや、私の可愛いぼうや!きひっ!」

>>639
個人的には加群さんとくっついて欲しかったり
ただ芹亜さん、病理さんの凶行止められなかったのか?とも思いますが

――XX学区 薄暗い倉庫

上条「さて、と」

レッサー「上条さんの上条さん、ご立派でしたなぁ」

上条「俺のトラウマ弄るの止めてあげて!?場面変わったんだからねっ!」

上条(俺の魂の叫びはさておき……いいのか?本当にそれでいいのか?)

上条(レッサー達の場合、アリサも含めて旅の間に色々あったしなぁ……よくよく考えれば今更感がしないでも……まぁいいや!後で考えよう!後で!)

上条(決して先送りにするんじゃないが!今考えるべき事は他にある!……よね?そうだよな?)

上条(改めて室内を見てみると――ここはどうやら何かのガレージらしい。しかも普通の家が数戸入るぐらいの大きさの)

上条(シャッターの高さと幅は車よりも遙かに大きく、天井がちょっとしたホール並み……ヘリコプターか何かの格納庫?飛行機にしては狭いし)

上条(幸いトイレや水回りの施設も備え付けられているようで、暫く世話になる分には問題はなさそうだ)

上条(そんな中、俺達が居るのは会議室っぽい部屋。十畳ぐらいかなー?)

上条(真ん中に折り畳み式の長机が二つ並べられており、机の上にはLEDランタンとライトが数個。照明はそれだけ)

上条(他には……つーか暗くてよく見えないが、コンビニの弁当やパン、ペットボトルもある……あれ?)

上条(ふなっし○となんか綿アメみたいなもふもふ人形が置いてあるが……ツッコミ待ち?ツッコミ待ちなの?ねぇ?)

上条「……」

上条(光源、つーか机の周りへバラけたパイプ椅子へそれぞれが座っていた、と)

上条(入り口近くからレッサー、フロリス、ランシス、ベイロープ。反対側には――)

老人「何かね?」

上条「……いえ、別に」

上条(黒いローブとフードを目深に降ろし、肩へ巨大な鎌をかけているじーちゃん……つーかこの声どっか聞いた事があるが!)

上条(その隣には――これも、人形?ゴスロリツインテのデッカイ人形が座っている……)

上条(等身大フィギュア?リアルなドールさん?どちらにしろ流石は学園都市だぜ!欲望=実現化させる流れがハンパねぇ!)

上条(つーか俺の席……他にパイプ椅子無ぇな……あ、それじゃ)

上条 ヒョイッ

人形「……」

上条(机の上に置くのも邪魔か……あ、だったら膝の上にでも置いておくか) トンッ

上条(見た目が後ゴテゴテとしてっから重そうだが……意外に軽い?)

上条(あー、なんか温けえなこの人形。しかも柔らかいし、良い匂いがする) モミモミ

レッサー「あのぅ……上条さん?」

上条「なに?」 フニフニ

レッサー「流石にその仕打ちはどうかな、って思――」

ベイロープ「――レッサー!」

レッサー「や、でもですねっ!」

ベイロープ「……仕方が無いのよ、ね?私達はランシスとは違うんだから」 チラッ

ランシス「おいベイロープ、私のどこを見ながら何を言ったのか説明して貰おうじゃないか?あ?」

上条「何の話だよ?」

老人「……まぁ自ずと誤解であると知れるだろう、な」

レッサー「まさかっ、まさかここまで『明け色の陽射し』による精神汚染が進んでいたとは!」

レッサー「やはり私がゴダイヴァ婦人のように一肌脱がねば……!」

フロリス「だーってろ恥女。あとワタシらの国の聖人をプレイで穢すなよ」

上条「……本気で何の話だ?」

老人「君が先程言っていた”ゴディバ”の語源になっている”ゴダイヴァ婦人”という聖人の話がある」

上条「聖人……神裂みたいな?」

レッサー「全裸で街中を徘徊した恥女ですなーっ!しかもかれこれ1000年程前に!」

上条「黙ってろ恥女。そんな聖人居る訳ねぇだろ」

マタイ「……いや、事実だけを述べればその通りである」

上条「スゲーな十字教っ!?懐が深いなんてもんじゃねぇ!」

老人「領主である夫へ『税金を安くすべきだ』という苦言を毎日していたら、『お前が素肌のまま街を歩いたらそうしよう』と言われ実行しただけの話」

上条「売り言葉に買い言葉じゃねぇか」

老人「夫人がその通りにしたが、その素肌は神々しくて誰も直視出来なかったそうである」

老人「唯一コッソリ覗き見ようとしたトムという男がおり、彼の名前をもじって『Peeping Tom』が覗きの代名詞となった」

上条「全世界のトムさん超とばっちりですよねっ!」

老人「当時の価値観――十字教に於いて『女性は価値ある財産』という前提を踏まえていなければ理解出来んよ」

レッサー「――はい、って言う訳でなんなんですけどねっ!話が進まないんで現状をまとめる前に自己紹介しましょう!自己紹介!」

上条「旗色が悪くなると仕切り出すな、お前」

レッサー「ここでお会いしたのも多生の縁!まずは得られた情報の前に信頼し合えるようになりませんとっ!」

上条「……いや別に、今更自己紹介して貰わなくたって――」

レッサー「『新たなる光』のレッサーちゃんですなっ!Dですっ!」

上条「やめろ!個人的には嬉しいがその死神っぽい人がいい加減ブチ切れるから自制しやがれっ!?」

ランシス「……多分私もキレる」

老人「誰が死神だね。失敬な」

上条「その鎌と黒いローブと顔が見えない所ですかねっ!バードウェイが持ってるタロットに描いてあったそのままの姿が特にっ!」

老人「それは失礼をしたな。何も脅すつもりは無かったのだが」

老人「故あって名前と所属は明かせないが……そうだな――」

老人「――イアン、とでも呼んでくれたまえ」

上条「なにやってんすかヨーゼフ=アロイス=ラッツィンガーさん、洗礼名マタイ=リース前教皇さん」

上条「”ラッツィンガーZ”でググると謎のコラ画像が大量にヒットする有名人さんですよね?」

マタイ(老人)「立場上”ここ”へ立つのは許されん事なのだよ。察してほしいものだが」

上条「隠す気ゼロですよね?同一人物説が出るぐらいにそっくりなイアン=マクダーミ○、ぶっちゃけダース=シディア○名乗る辺り、ノリノリですよね?」

マタイ「世界で夜更かししている人間は恐らくここだけだ。少しぐらいは遊び心があっても佳いだろう?」

上条「……まぁ、助けて貰ってる時点で文句は言えないんだが……いいか」

マタイ「ともあれ老人の枯れた腕で佳ければ、猫の手代わりになるだろう。ローマ正教では無く、一介の魔術師として扱ってくれたまえ」

フロリス「……『教皇級』が一介って」

ベイロープ「突っ込んだら負けなのだわ。魔神相手にするんだからね――と、次。私は『新たなる光』、ベイロープよ」

ランシス「同じく、ランシス」

フロリス「フロリスだケドー」

机の上のぬいぐるみ「あぁんもー、アンタらもうちょい愛想良ぉせんとアカンよー?ごめんなー?ウチの子ぉらが迷惑かけ――」

上条「もふもふが喋っ――てかさっきからしてた女の子の声はこれかっ!?」

机の上のぬいぐるみ「あ、初めましてー上条はん。ほんっっっっっとにウチの子ぉらがねっ!色々やらかしたみたいでっ!」

机の上のぬいぐるみ「――って誰がもふもふやねんよっ!?ワイもふもふちゃうよっ!何言うとぉ!」

机の上のぬいぐるみ「見てみぃ!この綿アメの質感そのまんまボデー!そして高級開運羽布団も逃げ出す弾力性!」

机の上のぬいぐるみ「ちょい前に流行っとぉビーズクッションよりもフッカフカになっとぉのはワイしかおらんよ!」

机の上のぬいぐるみ「――ってぇもふもふしとるやないかーーーーーーーーーいっ!ルネッサーーーーンスッ!」

ベイロープ「レッサー、ゴー」

レッサー「イエェッスマム!カッティングして携帯用クリーナーにしてやりましょう!」

机の上のぬいぐるみ「って待ってぇな!?ほんのお茶目やんかっ!?ワイはただ、この居たたまれない空気を軽く――」

上条「……ごめん、これ、何?」

机の上のぬいぐるみ「いややわぁ上条はん、コレやのて『まぁりん』言うてええんよ?」

上条「まぁりん?」

机の上のぬいぐるみ「誰がまぁりんやねんっ!ワイはアンタを初対面の女の子名前呼ぶよぉな子ぉに育てた憶えはないわっ!」

上条「いつの間にか俺の母さん設定になってんな?」

机の上のぬいぐるみ「いやんっ!ばかんっ!ワイがそう気安ぅ――アイタタタタタタっ!?レッサー無言で千切らんといてぇよ!?」

上条「えっと……?」

マタイ「聞いた事はないかな。通称、『魔術師の中の魔術師』」

ベイロープ「『善良なる夢魔』、『賢者』、後は……」

ランシス「……『塔に囚われる運命を持つもの』……」

フロリス「他にも『ペンドラゴンの遺産管理人』も、自称してたっけー?」

レッサー「……ぶっちゃけ紹介したくないんですが、この方――つーかもふもふが『新たなる光』の後見人にして、私達の”先生”――」

レッサー「――マーリンです!」

マーリン(机の上のぬいぐるみ)「まいどっ!おおきにっ!」

上条「あぁどうも。上条当麻です」

マーリン「反応薄っ!?」

上条「いや、お前――あんた?」

マーリン「まぁりん、って呼んで?」

上条「つーかこれ、ゲーム雑誌で見た事あんぞ?このもふもふ」

レッサー「あー……まぁ擬態みたいなもんですかねぇ。コロッコロ外見と口調を変えるんで、多分何かの霊装か魔術の切れっ端だと思うんですが」

上条「人格あるのに?」

レッサー「まぁそのお話は後程詳しく。まだもう一人残っていますんで、自己紹介」

上条「あ、あぁ――ってお前、全員分終わっ――」

膝の上の人形「――っては、無いのよね」

上条「人形が喋った!?」

レッサー「そのリアクションがおかしいですよ。フツーもっと早く気付きません?」

マーリン「ええなー、ワイもあのリアクションが見とぉ」

上条「いや!だって!あ、あれっ!?」

マタイ「……では、及ばずながら私が”年上の大先輩”を紹介するとしようか」

上条「年上?マタイさんよりもかっ?」

マタイ「君の膝の上のレディは、『88の奇跡』、そして『エンデュミオンの奇跡』――」

マタイ「――二つの『事件』を画策した張本人にして元凶」

マタイ「シャットアウラ=セクウェンツィア嬢にとっては敵、鳴護アリサ嬢にしてみれば産みの親。そう」

レディリー(膝の上の人形)「――レディリー=タングルロードよ。宜しくね」

――倉庫

上条「……『88の奇跡』、『エンデュミオンの奇跡』の……」

レディリー「もっとはっきり言ってくれてもいいのよ?――『この人殺し』って」

上条「……」

レディリー「どうしたのかしら、ボーヤ?手が震えているわよ?私を抱き締めてくれるのは嬉しいけれど、もっとデリケートに扱えわなきゃいけないわ」

上条「お前が!シャットアウラの親父さんを!」

レディリー「私が憎いのだったら、その『右手』で首を絞めてみたら如何かしら?」

レディリー「あの子にもナイフで刺されたけれど、もっと刺激的だったわよ?」

レディリー「あなたのリードが上手ければ、私逝っちゃうかも知れないわね。試してみれば?」

上条「……くっ!」

レッサー「(……あのぅ、すいません?ちょっといいですかね?)」

ベイロープ「(……何よ?今シリアスシーンだからあなたの出番は無いでしょうが)」

レッサー「(ベイロープ?いい加減にしないと『Mission!失われた聖杯を探して!』を起こしますよ!)」

ベイロープ「(ふぅん?それは私の右手があなたのシリを潰すよりも早いの?)」

レッサー「(Nooooooooooooooooooooooooッ!!!?レッサーちゃんのケツは8ビートを刻むものでは御座いません事よっ!?)」

ランシス「(……ナイスドラム!)」

フロリス「(いいぞーもっとやれー)」

レッサー「(えぇい!この中に私の味方は居ないんですかチクショー!)」

マーリン「(……全く、ホンマ誰に似たんか。ワイは悲しいわぁ)」

ベイロープ・フロリス・ランシス「「「お前だよ」」」

マーリン「(ま……まぁまぁそれはええやん!犯人捜しは!)」

マーリン「(ンな事よりもレェェェェェェソゥゥゥゥゥゥゥゥッ!なんや?言いたかったちゃうん?)」

フロリス「(や、だからそーゆートコがだよ、ウン)」

ランシス「(てーか誰かの芸風に似てる……)」

レッサー「(まぁ聞いて下さいな、私の恥的好奇心が疼くんですよ!こう、ニョロニョロっと!)」

ベイロープ「(確かに恥ずかしいわよね)」

レッサー「(で、なんですが――あのお二人、一見こうシリアスなシーンへ入ってるように見えません?)」

フロリス「(見えるも何も、実際そうジャン?)」

レッサー「(いやでもですね。フツーこのシチュになったら正面から向き合いますよね?こう、『お前ぇぇぇ!』みたいに)」

レッサー「(でもお二人は相変わらず抱っこしたのと抱っこされたまま、これ不自然じゃないですかね?)」

マーリン「(あー……言われてみればそやねぇ。ギャグシーン終わっとぉねんから、抱っこしてる意味無いわなぁ)」

ランシス「(……んー、あれもおかしいかも)」

レッサー「(どれです?)」

ランシス「(レディリー、さっきから下向いてプルプルしてる、ような……?)」

レッサー「(どーれ……ほほうっ確かに!ナイスですランシスっ!流石人様の顔色伺って伝説(レジェンド)になっただけはありますよねっ!)」

ラシンス「(……照れる)」

レッサー「(ちっ、いい加減耐性ついて来やがりましたかこのムッツリ変態め!)」

ベイロープ「(ムッツリじゃ無い変態が居るとでも……あ、ごめんなさい。私が間違ってたわ)」

レッサー「(どうして私の顔を見たのか納得行きませんが――謎は全て解けた……ッ!!!)」

ランシス・マーリン「(な、なんだってぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?)」

フロリス「(……なんだろうな。アウェイなのに緊張感が)」

レッサー「(まずは思い出してみましょう!上条さんがこの部屋へ入って来た時の事を!)」

レッサー「(上条さんは何をトチ狂ったのか、躊躇いもせずレディリーさんを椅子から乱暴に引きはがし!無理矢理自身の膝の上へ載せたのです!)」

ベイロープ「(間違ってないけど、言い方……)」

レッサー「(しかもその後!ドールと勘違いしたまま、いたいけな幼女の体をちっぱいモミモミクンカクンカしやがあああああぁぁ羨ましい!)」

ランシス「(どっちが?)」

レッサー「(するのもされるのも嫌いじゃないです!)」

フロリス「(変態だ――って分かってたケド)」

レッサー「(んが、しかぁぁぁぁしっ!その実レディリーさんは生身の人間だと分かった!それもある意味今回の元凶と言える存在!)」

レッサー「(なのに!なーのーにーっ!上条さんはレディリーさんをその膝から退かそうとしない、退こうとしないの理由があるとすれば――)」

ベイロープ「(すれば?)」

レッサー「(上条さんの下条さん、もしかしておっきしてませんかね?)」

マリーン「(あー……)」

レッサー「(ていうか百戦錬磨のロリババアがみょーーーーーにっ顔赤らめてプルプルしてるのは、下条さんの感触がアレでビビっているのではないかと!)」

フロリス「(そんなしょーもない理由?)」

レッサー「(てか逆に聞きますけど、この理由以外に抱っこしたまま宿敵ゴッコする必要性、あります?ないですよね?)」

マーリン「(相手は靴屋のアハスエルスとファンデルデッケン船長にも遭ぉた言ぅとる魔術師やのに?)」

マーリン「(や、別に珍しゅうはないけどなっ!ワイは二柱の他にカッシウスとも遭ぉとぉわ!むしろマブやしぃ!)」

レッサー「(そこで無駄に対抗意識を出されてましても……や、私は『だからこそ』なんだと思います)」

ランシス「(……どういう意味?)」

レッサー「(確かに経験値は膨大でしょうが、逆に言えば経験に拠らないシチュエーションに弱いのではないかな、と)」

レッサー「(マニュアルは完璧にこなすのに、いざっていう時のアドリブに弱い人って居ますよね?)」

マーリン「(おるなぁ。トリスタンなんかテスト本番でぽんぽん壊す子ぉやったわー)」

レッサー「(あのええかっこしぃは気負いすぎただけだと思いますが――レディリーさんの場合は、『不死に慣れすぎた』点かと)」

レッサー「(人生経験が豊富すぎる上、最悪『いつ死んでも構わないむしろWelcome』なので、急な展開につけていけない――いこうしない、と)」

レッサー「(『88)の奇跡』なんてそのままでしょう?『最も古参の魔術師の一人』が不確定要素一つで計画が破綻する辺りなんか特に」

ベイロープ「(意外と真面目に分析してんのね)」

レッサー「(……従ってレディリー=タングルロードの弱点を挙げるとすれば――)」

レッサー「(――『ラッキースケベに弱い!』との結論が導き出されますな……ッ!!!)」

ベイロープ「(三秒前の私の感心を返せ)」

レッサー「(やですよぉベイロープ。私だってこう見えて成長してるんですから、胸回りを中心に)」

ランシス「(内面は全っ然成長してない……)」

レッサー「(……くっくっくっく!レディリーさんとやら、確かにあなたは『不老不死』かも知れません)」

レッサー「(オートマタを駆使し、噂に拠れば一国を攻め落とす程の戦力を保持している……ですが!)」

レッサー「(あなたが今まさに腰掛けている男性はまさに天敵!誰にも予測がつかないラッキースケベを繰り出す悪魔!)」

レッサー「(流石に長い時を生きていると言っても、まさか今からマジ話をするというのにこんな羞恥プレイをされるとは夢にも思わなかったでしょう……!)」

ベイロープ「(してたらそれはただの変態よね?常日頃から変態願望持て余してるだけだよね?)」

フロリス「(……つーかエロ絡めるとレッサーの推理力ハンパねぇぜ!)」

マーリン「(ワイが言うのもアレなんやけど……教育、間違ぉたんかな……?)」

上条「……」

レディリー「……」

レッサー「(図星だったのか、お二人ともフリーズしちゃってますしね。個人的にはあのプレイを交代して欲しい所ですがねっ!)」

マーリン「(プレイ言わんといてよぉ。ちゅーか行って来ればええんちゃうの?)」

レッサー「(いやでも、ですね……ちょっとお耳を拝借――)」

マーリン「(え、なんやのん?別に今でも小声で喋っとぉ――)」

レッサー「――――条――ペ――じゃねぇかなって――」

マーリン「嘘おぉっ!?マジで?ロ――――なん?」

レッサー「その証拠――――――で、あれが――――で。ランシス――」

マーリン「――ぁぁ、ロリ――――」

ランシス「――じゃない――」

フロリス「――他にも――――――小さい子――――」

ベイロープ「――――――無反応――――やっぱり――――ド野郎」

上条「……あの、すいません?ちょっといいですかね?」

上条「さっきから不吉なワード見え隠れさせながら、こっち見てるってプレッシャーなんですけど!

上条「つーかこっちでは空気読んで欲しいんですけどねっ!!

レッサー「でもですねペド条さん」

上条「憶えがねぇなっ!俺は無罪だし!」

レッサー「まぁ確かに仰りたい事は分かりますし、個人的にはぶち込みたい術式もあるんですがねぇ。アリサさんの友人の一人としては、ですが」

レッサー「でもそれは置いておきません?取り敢えず、ではありますが」

上条「いやだってさ!」

レッサー「ですから、取り敢えず、という形でですよ――つーか、『何故』レディリーさんがどのような経緯でここに居るのかご存じで?」

上条「それは……知らない」

レッサー「EU親善ツアー、ARISAとして出張る見返りっつっちゃなんですけど、ラグランジュポイント上でぽっちの彼女の救出を願いました」

上条「それはフランス辺りで聞いた」

レッサー「で、まぁエンデュミオンの記念式典なんで、元会長に出張って貰ってサプライズ!感動のご対面!……と、用意してあったそうですよ。ね?」

レディリー「……ええそうよ。私としてはそれなりに楽しく眠ってはいたんだけど」

上条「助けて、貰えなかったのか?逃げだそうとか?」

レディリー「そうね……ラグランジュポイント、静止衛星軌道って分かるかしら?」

上条「地球の引力と、外へ飛び出す力が均衡している所、だよな」

レディリー「そのポイントの『幅』は最低でも数キロはあるし、当然エンデュミオンに脱出艇なんか設置してなかったわ」

レディリー「幾ら私が『死なない』からといって、何も考えずに外へ出ればその宙域を永遠に漂うだけだもの」

レディリー「空気が無い状態なのに、意識がはっきりとしたまま永遠に漂うのはゴメンよね」

上条「……」

レディリー「仮に地球の引力の範囲内であったとしたって、落下する一を間違えれば海のど真ん中。サメに食い荒らされれば面倒な事になる」

レディリー「……あの状態の中、『死ねない』私が取れる選択肢は、体を冬眠させる事ぐらいかしら?」

上条「……お前も、大変だったんだな……」

レディリー「慣れてしまったわね、とっくに」

レッサー「私は当事者ではないので判断を下せませんが、少なくともアリサさんは帰還を望み、シャットアウラさんも同意しています」

レッサー「なのでここは、この場面でレディリーさんを責めるのは筋違いではないかと」

上条「分かった……ごめん、レディリー」

レディリー「ええ、最初から気にしてなかったから」

上条「そこは気にして欲しかったが……」

マタイ「口を挟ませて貰うのであれば、彼女――レディリー=タングルロード女史はギリシャ系魔術師の最高峰、しかも『予言巫女(シビル)』たる存在だ」

マタイ「魔神セレーネを相手取る以上、彼女の助力が無ければ勝機は見い出せまい」

上条「微妙に自作自演臭がしないでもないが、大丈夫か?」

レディリー「裏切る・裏切らないで言えば、『裏切”れ”ない』でしょうね。上条当麻さん?」

レディリー「だって私が探していた答えを持っているのは、あなたですもの」

上条「俺が?」

ベイロープ「……ま、ぶっちゃけアレよね。レディリーが執拗に挑発してたのもそれが原因なのだわ」

上条「俺をか?面識ないんだが、恨まれる憶えも……ないな、多分」

フロリス「そーじゃなくってさ。『右手』って事ジャン?」

ランシス「それがあれば『死ねる』から……」

レッサー「怒った勢いで殺しくれれば、それはそれで御の字、といった所でしょうかね」

上条「……あぁ納得――は、出来ねぇ。つーか実験――」

レディリー「――は、してるのよ。さっきからね」

上条「お前――その指っ!?」

レディリー「軽く噛んで血が滲んでるだけだから不要よ。痛いのは痛いのだけれど」

レディリー「見て?再生してない!あなたの膝へ乗った直後にしたのに、傷が塞がらないのよ!」

レッサー「……にゃーるほど。妙にレディリーさんがハイだったのは、上条さんのラキスケで精神攻撃喰らってる訳じゃ無かったんですか」

上条「当然だよっ!お前のネタと現実をごっちゃにするなっ!あとラッキースケベを略すな!」

レディリー「……うふふ、ボーヤにとっては私みたいな子に欲情するのは嫌なのね?可哀想、素直になれないだなんて」

レディリー「いいわ。こう見えて口が堅い方だから、あなたの堅さは内緒にしておいてあげるから、ね?」

上条「オイコラテメぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」

レッサー「……え、もしかしてここへ来てヒロイン追加ですかっコノヤローっ!?ぐぬぬ……!」

ラシンス「あー……しかも、ちっちゃいっていうキーワードが意味しているのは……」

フロリス「ロリパニーズには本命の可能性だと!」

上条「待とう?俺達仲間だよね?そう思ってたのはもしかして俺だけなのかな?仲良くやって来たじゃない?ほらっ!イギリスからイタリアまで!」

レッサー「いや、無理じゃないですかね?初対面から10分足らずで幼女を墜とした方にどーしろと?」

上条「だから誤解に決まってんだろうが!懐かれる意味が分からないし!」

マタイ「『現時点で自身を殺せるのは一人だけ』と、言う事であろう。信仰上の都合により、あまり看過したくはないがね」

レディリー「司祭様、司祭様はアハスにもそう言うのかしら?」

マタイ「私は司祭ではなくあの方の信徒に過ぎん。なので私見ではあるが、悪戯好きのジャック共々、最後の日まで与えられた使命を果すべきのが佳いであろう」

マタイ「……ま、異教の徒にまでとやかく言う程不寛容ではないが」

上条「何を……?」

マーリン「宗教的な話やね。どっちかっちゅーたら内輪話の――で、ワイからも聞きたいんやけど、ええかな?」

レディリー「答えられるモノであればね、妖精さん」

マーリン「いややわぁ、ワイそんなに褒めても女の子同士はノーサンキューやで?」

上条「(性別あったのか?あのもふもふ?)」

レッサー「(女の子を自称してはいますが、初めて遭遇した時にはテディベ○っぽいぬいぐるみでしたね)」

上条「(性別以前に生物なのか?)」

レッサー「(いいですかー上条さん、よく考えて下さいよー?図鑑にあんなナマモノは載ってないでしょう?)」

レッサー「(そもそも生物として成立してないんですからねー?)」

上条「(お前に現実を説かれる日が来るとは思いもしなかったが……)」

マーリン「ちょっそこっ聞こえとぉよ!人をなんだと思ぉとるんっ!」

上条「あ、すいません」

マーリン「人をあないなベアファッ×ーと一緒にせんといてぇな!」

上条「怒る所そっちか!?」

マタイ「熊は時としてグリズリーを意味し、ソビエト連邦の暗喩となる――つまり、ルーズベルトにはまさにテディ”ベア”であった訳だ」

マーリン「アメリカ野郎はいつかニューヨークのマリアンヌごと潰そぅんのは確定としてぇ――上条はんも薄々気付いとぉとは思うんやけど」

マーリン「『常夜(ディストピア)』ん中だと、誰も彼も不老不死になっとぉん違ぉかな?そう――」

マーリン「――まるでアンタの『祝福』のよぉに」

――倉庫

上条(改めて――レディリーへの個人的感情は置いておくとして、俺達は話し合いを続ける事になったが)

上条(考えてみれば『88の奇跡』を起こす前のレディリーも、誰かの被害者かも知れない)

上条(……シャットアウラの親父さんを間接的に殺し、他の87人も同じようにしようとした……)

上条(けどあの事件がなければアリサが生まれなかった、のも確かではあると。うーん?)

上条(少なくとも、即処刑的な話をアリサは望んでいない。シャットアウラも同意している。そうレッサーに指摘された)

上条(俺がいつだったか、病室へ見舞いに来てくれた神裂に言った台詞)

上条(『今回はたまたまアイツが悪かったけど、これからもずっと悪くあり続けなきゃいけないなんてルールはない』、か)

上条(……『死にたくても死ねない』苦痛がどれだけ辛いか。俺には想像すら出来なかったが)

上条(”そっち”もなんとかしてやりたいが、取り敢えずは世界を元へ戻してからだな。出来れば穏便に行きたいもんだが、インデックスに頼るしか方法はない)

上条(……ともあれ、俺はマタイさんに用意して貰った――惨状を見るに見かね、倉庫から予備を持ってきてくれた――新しい椅子へ座り)

レッサー「よっこいしょっと」 トスン

上条「レッサー、お前はあっち。つーか重い」

レッサー「やはりロ×の重みでなければおっきしませんかね?」

上条「自重しろ、なっ?ローマ正教20億人の元トップと相席してんだから!」

マタイ「佳い佳い。彼の猪と魔術師には幾度も苦杯を嘗めさせられてる故に、今更態度一つで悪くは思わんさ」

上条「何やりやがったのレッサーさん?何をすりゃ好感度が”これ以上下がらないねっ!”ってトコまで来ちゃってんのかな?」

レッサー「少なくとも”私”はなにもしてないんですけどねぇ、はい」

フロリス「その元トップに気を遣わせて椅子を持って来させんのはアウトジャン?」

上条「ひ、非常時だから!仕方がないし!」

マタイ「それも含め、佳い。どうせ失敗すれば人類が滅亡する騒ぎ、ともすれば最期ぐらいは無礼講でも構わんさ」

上条「サラっと重い事言いやがりましたよねっ!」

ベイロープ「諦めなさい。私達以外の人類はアテにならないみたいだし」

ランシス「……先生も言ってたけど、それ、ホント?」

マタイ「世界中が、とまでは言わんが、多くが『常夜』の効果範囲へ収まったのは間違いあるまい」

レッサー「根拠はどちらから?」

マタイ「先程――体感時間で四時間程前、バチカンから通信用霊装経由で連絡が来た。それを境に音沙汰が途絶えているからだ」

マーリン「何か動くんやったらこっちの情報を欲しがるやろうし、”そっちはどないなん?”っちゅー連絡は来る筈なのに来ぃへんと」

上条「内容……聞いてもいいのかな」

マタイ「ただ一言――『La notte(夜)』と」

レディリー「時差を考えればイタリアも昼間……世界自体が呑まれてると考えるべきよね」

上条「世界が、ってそれ大げさじゃないのか?学園都市ぐらいだったら、まぁ納得出来るが」

マタイ「バチカンは常に何十、何百もの対魔術結界で覆われている。だというのに連絡が途絶えた時点で異常過ぎる」

フロリス「通信用術式にジャミングされてるってセンは?」

マーリン「無い、とは言えへん。言えへんけどもや……そーゆー”希望的観測”に頼ぉるんはマズいわ」

マーリン「少なくとも月が月蝕中に停止しぃの、そのまま留まりぃの、住民全部昏睡しぃの、の三重苦で」

マーリン「その中心部であるここへドローン一機飛んで来ぃひん時点で、世界もイワされとるちゅー事やね」

上条「俺達が判断を下すには情報が少なすぎる……!」

マーリン「あんなー上条はん、当たり前の話やけど『全てを知るもの』なんちゅーのはそもそも居ないんよ」

上条「だからって」

マーリン「仮に居たとしても、そいつは今ワイらの味方にはおらんもん」

マーリン「あ、やからって全部『知る努力』を怠るのは可哀想ぉな子やで?それはただ現実逃避やし」

マーリン「やから誰でも、自分達の今持っとぉ手札だけで勝負せなあかんよ」

上条「それが役無しでも?」

マーリン「ワイは何回か、クズのカードを振り上げてディーラーをぶん殴った人間を見とぉ」

マーリン「……懐かしぃわ。マタイはんの持っとぉ”それ”もまたそぉやし」

上条「鎌、か?」

ベイロープ「『ジョン・ボールの断頭鎌(Sacred Death)』……14世紀のイングランドに於いて当時ローマ正教が絶対だった時代の話」

ベイロープ「『アダムが耕しイヴが紡いだとき、誰がジェントリだったのか』――と、農民に説いて回り、捕縛された神父の名前ね」

ランシス「……後にワット・タイラーの乱――農民の反乱により獄中から救い出され、彼は一振りの鎌を手に再び戦いへ赴き……」

フロリス「最期は政府に反乱を鎮圧され、”首吊り・内臓抉り・四つ裂きの刑”ってフルコースで処刑されましたとさ、チャンチャン」

上条「前も言ったけど、お前らも中々の蛮族だよね?人様をどうこう言えないぐらいには無茶してるもんな?」

ベイロープ「スコットランドの騎士、ウィリアム=ウォレスと同じ刑なんだけど、まぁそれは見せしめみたいなもんだし」

レッサー「彼の死後、彼が使っていた大鎌は密かに回収され、圧政や権力者に抗う者の象徴」

レッサー「また正しい目的を持ちながらも、無力な者の前へ必ず現れる――そう、なんで、ですがー」

レッサー「『それ』は本来ウチが所持するものではないでしょうか?良かったら返して下さいませんかねっクソジジ×?」

上条「あ、ごめんなさい。この子ちょっとアレなんです」

マタイ「これは私的な持ち物なのだが……まぁ、私が命を落とした後にでも回収したければすれば佳い」

マタイ「老い先短いこの年寄りに暴力が振るえるのであれば、だが」

上条「やめてあげてっ!?この子は何やっても本気で回収するんですからっ!」

レッサー「いやぁ上条さんが私を正しく理解されているのは嬉しいですがねー……生憎、そう出来たら簡単だったんですよ、これがまた」

レッサー「十字教関係の映画は大抵名作と超駄作の二択なんですけど、上条さんは今までにどんな映画を見ましたか?」

上条「なんだよ突然。何の話?」

レッサー「いいですから、ほらPlease?」

上条「『ベン・ハー』ぐらいしか……だな」

レッサー「なら『The Cardinal』、邦題で『枢機卿』という映画を是非お勧めします。1963年の映画ですかね」

レッサー「若く理想の高い神父が現場で働き挫折したり、異教や信仰、。はたまた第二次世界戦中の教会の立ち位置など、当時はとても踏み込んだ内容でした」

上条「へー」

レッサー「当然ですね、この映画を作るに辺り、ローマ正教の教理省という所から人を招き、彼の指示を前提に映画を作ったんだそうです」

上条「あ、知ってる。教理省ってマタイさんの居た所だろ?」

レッサー「ですね、つーかこの人です」

上条「はい?」

レッサー「ですから『半世紀前、既に教理省のトップに立ちながら映画を主導した』のが、こちらのラッツィンガーさんですよ、えぇ」

上条「……はい?」

レッサー「うんまぁ、更にぶっちゃけますとこのシジ×、ローマ正教の重鎮の一人としての地位を固めていました」

レッサー「たった36歳にも関わらず、ローマ正教の実質的なスポークスマンとして活動してたんですねー」

上条「……マジですか?」

フロリス「ついでに言ったらねー、イギリス清教の教会派にも『ローラ=スチュアート』って人が居るんだよ、ウン」

ベイロープ「『必要悪の教会』のトップで、政治的な駆け引きに長けている悪魔、と呼ばれてはいるわね」

上条「『禁書目録』を作った奴なんだよな、確か……そりゃ血も涙もない、嫌な人間なんだと思う」

ランシス「……そんな人と半世紀以上、ほぼ一線に立って互角以上に渡り歩いてきたのが……この人」

マタイ「……評価してくれるのは有り難いが、私は『右席』の暴走も止められなかった間抜けだよ」

マーリン「いやぁ、そぉは言うけどもやな。そもそも『右席』連中が好き放題やらかしてるんやったら、学園都市は無かったんちゃうかな?」

マーリン「フィアンマみとぉな魔術師を抱えとぉのに、乗っ取られなかったやん?」

上条「あー……成程。フィアンマはフランスとロシアに手ぇ伸ばしてたみたいだけど、そもそもで言えばローマ正教を総動員してれば良かったんだよな」

レッサー「ロシア成教が幹部連中ほぼスポイルされている所を見ると、浸透具合は相当なもんだったんでしょうが」

レッサー「物事の中核を担っていたローマ正教に於いては、『右席』の一人を除いては粛正らしい粛正も無く、どんだけこのジ×イって話です」

マーリン「ウチの子ぉらと戦わしても……まぁ真っ向からやっても完封喰らうやろうねぇ」

レッサー「何を弱気な!ブリテンのアーティファクトを取り返すために命を賭けてなんぼってもんでしょうが!」

レッサー「さぁ我らが『新たなる光』の団結力をみせて差し上げますコトよっ!」

フロリス「あ、ゴメン。ワタシは興味無いし」

ベイロープ「この状況下で味方減らしてどうするのよ、自重しろ」

ランシス「時には裏切る勇気も必要、多分」

レッサー「見たか!親より強い絆を持った一致団結ガン○団!」

上条「いいから涙拭けよ。あとその団は変態レベルが高すぎるからペッてしなさい、ペッて」

マタイ「繰り返すが買い被りである上に”これ”は君達には必要のないものであろう?」

マタイ「今更この程度の霊装が無くとも、君達は困らない筈だと」

レッサー「や、や、や、やだなー?そんな事無いですよー?」

ランシス「わざとらしい演技禁止……」

マタイ「ふむ。以前から我々の議題に上がっては居たのだが、『カーテナ・オリジナル』――円卓の騎士が一人、トリスタンの佩剣」

マタイ「イギリスの王権の象徴にして、持つべき者が持てば絶対の力を持つ霊装となる……まぁ、それは佳いであろう。伝説の霊装とは斯くあるべきだ」

マタイ「この『ジョン・ボールの断頭鎌(Sacred Death)』がそうであるように、巨悪を討ち滅ぼす力を持つのは当然と言えよう」

マタイ「だが――”それ”を。恐らく……いや、確実に最低でも数世紀以上、王室派・騎士派・教会派のそれぞれが探し求めていたモノを――」

マタイ「――何故”たかだか魔術結社にも及ばない組織如きが、こう容易く手に入れられるのか?”と」

レディリー「興味あるわね、その話。良かったら教えてくれないかしら?」

レッサー「あー、やっぱそう来ますよねー……つーかどっちも検討はついているでしょうに、白々しいったらありゃしませんよ」

マタイ「私の過去を散々持ち出して於いて佳く言――」

上条「――なぁ、ちょっといいか」

マタイ「好いてもいない闘争の歴史なぞ、誰の救いにもならないが?」

上条「や、別にもっと聞かせろって話じゃ無くてさ。最初に言っておきたいと思うんだよ」

レッサー「『俺、この戦いが終わったらハーレムを作るんだ……ッ!』」

ベイロープ「レッサー、ハウスっ!」

レッサー「わふーーっ!」

マーリン「この子ぉは……ホンマになぁ」

ランシス「てゆーか元凶は先生だと思う」

マーリン「え?なんやって?」

フロリス「だから、そーゆートコがなんだぜ」

上条「いいからお前らも話を聞け!大事な事なんだから!」

マタイ「軽口でも叩かねばやってられん、という話なのだろうがな」

上条「とにかく!今は俺達がお互いに牽制し合ってる場合じゃねぇだろう?」

上条「失敗したら人類全滅って話なのに!あーだこーだ言っても始まらない、それは分かるよな?」

レディリー「ま、そうよね」

上条「出し惜しみ、組織のしがらみ、今までの因縁とかあるんだと思うよ。それはな?」

上条「でも今は!今だけでいいから!その柵を忘れてくれないかっ!?」

上条「大事な人や守りたいもの、お前達にだってあるんだろう?――俺と同じように!」

上条「だから手を貸して欲しい!頼むっ!」

レッサー「……」

上条「それでトラブルが起きるようだったら、俺が何とかするからっ!この通りだっ!」

マタイ「……頭を上げてくれたまえ、これ以上恥を晒す訳には行かん」

マーリン「……やんなぁ。ワイらが出し惜しみすんのもアホ過ぎるわ」

上条「だったら……?」

レディリー「私の靴を嘗めてもいいのよ?」

上条「ヤダこの人ぜんっぜん主旨を理解してねぇ」

レッサー「なんでしたらこの私が!」

ベイロープ「黙ってなさい恥女」

マタイ「ともあれ心配する所はあい分かった……と、いうよりもまだまだこの歳で不徳の致す所だ。謝罪しよう」

上条「止めて下さいよ!?俺はただ、ワガママ言ってるだけですから!」

マタイ「そう卑屈にならなくとも佳い。人類の命運を背負っている時点でせせこましい事を言っていた我らに責がある――マーリン卿」

マーリン「マーリンでええて。”まぁりん”でもええし?」

マタイ「……それは個人的に嫌だが、『ジョン・ボールの断頭鎌(Sacred Death)』、騒動が終結したら持っていくと佳い」

レッサー「マジですかっ!?」

マタイ「元々はイギリス清教の騎士から託された物。アックアが帰国する際にでも渡そうとは思っていたが、王室派や教会派の手に渡らなければ佳いだろう」

マタイ「……それに我が闘争の歴史もそろそろ引き際やもしれん。老兵は死なず、ただ消え去るのみ」

上条「(引き際”かも”って……気になってたんだけどマタイさんって幾つ?)」

レッサー「(88歳ですね。その上、現役の『教皇級』魔術師)」

上条「(米寿なのに現役って……!)」

マタイ「この夜、この場所にて起きた事は一切語らずと、神と聖霊の名に於いて誓おう」

マーリン「なら『新たなる光』もそれに倣ぉて誓うわ」

マーリン「我が魔術と永劫に眠る王の円卓にかけて、協力者の情報を漏らして不利益を与ぉ真似はせぇへん」

マタイ「私はローマ正教の一員では無く、ただのマタイ=リースとしてこの場にいる。よって手の内を吹聴されても構わないんだがね」

上条「(すいません、解説の人?)」

レッサー「(『余のフォースを真似出来るのであればやってみるがよい、ジェダ○よ!』)」

レッサー「(『尤も、我がフォースはジェ○イ如きに扱えるものではないがな!フゥワーッハッハッハーッ!)」

上条「(あー……)」

レディリー「私は別にこちらの手札を晒しても構わないのだけれど、一つだけ約束して欲しいわね」

上条「誰にも言わないって?」

レディリー「そうじゃなく。魔神の件が片付いたら、私を殺す方法を見つけるか、殺して欲しいのよ」

上条「何ともまぁ、嫌な条件だな。それ」

レディリー「……最低でもあなたの協力があれば死ねそうだし、どうかしら?」

上条「……」

レッサー「上条さん」

上条「……分かった。ただしこっちにも条件を出していいか?」

レディリー「この体でいいんだったら、好きにしてくれても構わ――」

上条「俺が構うわっ!そんな趣味は無いっ!絶対にっ!絶対だからなっ!」

レッサー「ナイスダチョ○!」

レディリー「お金?それとも名誉?私の持ち物で良ければ、遺産全部をあなたへ譲るわよ。それでどう?」

上条「欲し――く、はないが、そうじゃなくって、その、出来ればもっと穏便な方法を探してみたいんだよ」

レディリー「具体的には?」

上条「俺の知り合いに魔術師が居るし、インデックスに頼んで、あんたの呪い?だかを解除したいんだ」

上条「呪いさえ解ければ、普通の人と変わらない体になるんだろう?」

レディリー「そうね……あなたにだったら乱暴にされるのも嫌いじゃないけど、痛いのはあまり好きじゃないわね」

上条「だったら!」

レディリー「期限を何年か決めて、その間に成果が出せなければ――というのは如何かしら?」

上条「それは……」

レディリー「何もあなたに殺して欲しいだなんて言わないのよ。ただ最期まで手を握ってくれるだけでいいの」

レディリー「ある意味、ロマンチックな展開よね?」

上条「……分かった。それで頼む」

レディリー「ええ、契約成立ね」

――倉庫

上条「――んじゃ改めてよろしく。人類最後の七人、ケンカしてる場合じゃねぇんだからな」

マーリン「ややわぁ上条はん、自分数えんの忘れとぉよ?」

マーリン「ひと、ふた、み、よ、いつ、む、なな、やー――ほらぁ、八人おるんやからねっ!」

上条「あ、あぁうん、そう、だね?ごめん、な?」

レッサー「(数え忘れたんじゃなく、『若干一名、人類だとカウント出来なかった』の間違いじゃないですね?)」

フロリス「(そこは……ホラ、スルーする優しさも必要ジャンか)」

ラシンス「(……てか、何類?)」

ベイロープ「(生き物に分類して良いのかしら……)」

マーリン「アンタら憶えときぃ!ワイもシメる時はシメへんねんで!?」

上条「ま、まぁまぁ」

マタイ「その霊装だか術式だかの興味も尽きない所だが――まず、現状分析から始めようか」

マタイ「質問や疑問があればその都度言ってくれたまえ」

上条「俺も口挟んでいいの?」

マーリン「上条はんもARISAツアー始まぉてから、ウチの子ぉらから色々聞いとぉやろ?だったらある程度の知識は持っとぉ筈や」

マーリン「ちゅーか科学サイド代表として頑張ってぇな、んん?」

上条「普通の高校生には荷が重すぎる……!」

レディリー「そう難しく考えなくてもいいのよ。私達魔術師にとっては常識でも、あなた達にとっては違う事もあるわよね?」

レディリー「そういう『綻び』を指摘してくれるだけでも大分違うから」

上条「……やってみる!」

マタイ「では現状、『常夜(ディストピア)』から始めよう」

マタイ「効果は『不老不死』、射程範囲は『地球上』、効果時間は『不明』」

マタイ「……ただし『時間が停止している』ため、効果時間が来るとは思えない」

マーリン「『幻想殺し』でも解除出来へんシロモノやんねー……」

上条「……最初から詰んでませんか?」

レディリー「いえ、セレーネは”まだ”勝ち目がある存在よ」

レディリー「もしこれがアルテミスやヘカーテだったら、この街は確実に全滅してるわね」

上条「えっと……?」

レディリー「アルテミスは『必中・必殺・射程無限』の弓を持つ女神、ヘカーテは『死者達の女王』にして生贄を好む魔王」

レディリー「あ、どちらも狩りを好む女神で、人間を獣へ堕とす権能を持っているから――分かるわよね?」

マーリン「人類全てが眠っとぉのは”まだ”マシなんよ、これが」

上条「……相手にしたくねー……!」

マタイ「比較的温和、しかも人間へ対し敵対関係でないセレーネであるが故に、辛うじて誰も死人を出さずに済んでいる」

上条「……つーか、さっきから疑問に思ってたんだけどさ、その『不老不死』ってのは本当なのか?」

上条「効果範囲内――結界の張られてない外へ出れば、俺でもガッツリ魔術に罹るのは体験済み……だけども」

上条「それと不老不死が繋がるのは、イマイチ実感が湧かない」

上条「『不死』は人で試す訳にはいかないし、『不老』の方だって、なぁ?」

マタイ「それは近くの雑貨店で買い物をした時に観察している」

上条「え!?食いもん買ってきたのマタイさんか!?」

マタイ「『歩く教会』よりやや強い霊装のお陰だ」

上条「……や、そのフード付きローブの事なんだろうが……どう見ても死神にしか……」

マタイ「『鎌』と同じく、個人的に収集したものであるから十字教式のものではない」

マーリン「いやぁ、なんやそれ言ぉか迷っとったんやけど、ケルトの獣王ケルヌンノスの臭いがプンプンしよぉな……?」

レディリー「ま、教会を遡れば異教の聖堂だった過去も珍しくないわ。素敵なお召し物よね」

マタイ「……ともあれ。その際に幾つか自動車事故を起こしている所があり、助けようとしたのだが」

マタイ「誰一人として起きているものはおらず、また怪我をした者も居なかった。車自体が大破しているのに」

上条「ならまだ”マシ”なんだな。しかし一体何で『眠り』なんだ……?」

レディリー「可愛いボーヤ、セレーネとエンデュミオンの悲恋は知ってるかしら?」

上条「エンデュミオンって人に女神セレーネが恋をしたんだけど、老いる相手に耐えられなくなって不老不死を願った、だっけ?」

レディリー「そうよ。エンデュミオンを眠りにつかせたのはゼウスであったとも言うし、セレーネ自身だとも言われているわね」

レディリー「――つまり『魔神セレーネにとって眠りとは祝福』なの」

上条「……はい?」

レディリー「あなたはもし、目の前の恋人があなたよりもずっと早く死んでしまうと分かったら、泣くかしら?それとも嗤う?」

レディリー「どんなに手を尽したって、神に祈っても悪魔へ魂を引き渡そうとしても、死の手が恋人を連れ去ろうとしてるのよ」

レディリー「そうなったら悲しいわよね、とぉーっても」

レディリー「けれど、眠ったままであればずっと一緒に居られる。世界が滅ぶその瞬間まで寄り添っていられる――なんて、素敵なお話だわ」

上条「……待ってくれっ。その、セレーネがしたのか、それともやって貰ったかのはともかく!エンデュミオンは不老不死になったんだよな!?」

レディリー「ええ」

上条「だとしたら、この状況……『人類全体が眠らされている』ってのは――」

上条「――『セレーネにとっては”善意”でやった』って事か……ッ!?」

マタイ「バチカンで、私は鳴護アリサ君の能力……いや、『奇跡』をこう分析した」

マタイ「彼女は『願い』を叶え”させ”るために生まれ、『龍脈』を恣意的に操れる能力だと」

マタイ「だからきっとアリサ君を媒介にする事で、魔神セレーネは我ら人類の『願望』を読み取ったのであろう」

上条「……待ってくれ!確かにアリサの『奇跡』はそういう能力かも知んないけどさ!」

上条「でもおかしいだろっ!?人類全体を無理矢理眠らせちまうなんて!それのどこが『願いを叶える』って事に繋がるんだっ!?」

レディリー「愚かしくも愛おしいボーヤ、あなたは答えを知っているのよ」

上条「俺が、か?」

レディリー「あなたは見て来たでしょう?体験してきたでしょう?」

レディリー「セレーネが愛し子に見せた『夢』はどんなものだったかしら?」

上条「……」

レディリー「血も凍るような惨劇?文字通りの悪夢?それとも救いのない英雄譚?」

レディリー「そうじゃなかったわよね?『あなたが望んだ世界』は、決してそんなものではなかった」

レディリー「魔術と科学が共生しながらも、ほんの少しだけの摩擦で済むような優しい優しい世界」

レディリー「女の子を意味も無く侍らせるでもなく、誰も彼もが均等に、けれど決して結ばれない世界」

レディリー「……年上の女性に甘えるのは、個人的には好感が持ててよ?ねぇ?」

レディリー「楽しかった?誰も彼もが幸せに包まれ、ほんの少しだけ、物語のスパイス程度に『不幸』が起きる――」

レディリー「――そんな『夢物語』は」

上条「……魔神セレーネは、『神』だ。それもよく分からないが、途方もない力を持つ……」

上条「人類に対しては好意的、しかも恋人が人間だから余計に感情移入してしまう」

上条「自我があるのかどうか分からない、分からないが――彼女はこの地に降り、『濁音協会』のクソッたれどものお陰で肉体を得た」

上条「……ここまでは、合ってるか?」

マーリン「ワイらの予想と同じや。続けてぇな」

上条「……そんな彼女は『全ての母』って属性?だか制約を持つ、んだよな?」

マタイ「恐らくはキュベレー神が残っていたのだろう。地母神として、万物の産みの親でもある――と、いう『設定』だ」

上条「アリサと……なんつったらいいのか、共感?アリサが『奇跡』を起こす能力の前提、つまり」

上条「『他人からの願望を無意識の内に汲み取る』能力、それが働いた……?」

レディリー「LIVE会場に居た者、ネットで中継を見た者――歌を聴いた者全てへセレーネは影響を与えるのよ」

レディリー「それが更に呼び水になって、世界は月の光すらない暗闇に覆われる……」

上条「……だか、決して無限ではない。幾ら神様だからって、魔神だからって全ての人間の願いを叶えるなんて不可能だ……!」

レッサー「『フランス野郎を37564』なんて、物騒な考えを持ったテロリストだっているでしょーしねぇ」

フロリス「おいテロリスト」

ラシンス「……人の数だけ、世界がなければ……無理」

ベイロープ「……そういう、事か……ッ!」

上条「だから『セレーネは世界を創った――”夢”という世界を』――」

上条「――その中であればどんな願いだって、思いのままに叶えられるから、かよ……ッ!!!」

マタイ「……魔神の行動理由と原理はその通りであろう、な」

マーリン「……なんちゅうか、平和っちゃ平和なんやけど……うーん?」

レディリー「神も悪魔も、私達とは違う次元でたゆたうエネルギーみたいなものよ」

レディリー「そこに本来人格は無いし、あっても『こちら側』と関わりが無いのだから、気にする必要もなかったわ」

レディリー「実際に『あちら側』の存在がどれだけ自我が希薄なのかは、オティヌスのような『人をベースにした神』を見れば分かるわよね?」

レディリー「オーディンという異物を取り込んでいるのに、彼の神が持つ制約や性質、その他諸々を全て無視して奔放に力を行使出来るのだから」

マタイ「もしもオティヌスが『神話のオーディン』をトレースしなければいけないのなら、そもそも性別からして成り立たない」

マタイ「神話の時代には男が死を生み、女が生を産む。その理からは逃れられん」

マーリン「なーる。ちゅー事はセレーネはその逆、『神話にあるがままの神』で合っとぉ?」

マーリン「そぉ考えると、あないな自我っぽい自我に欠けとぉモノになるんかなぁ」

レディリー「ボーヤが言ったように、魔神セレーネの行動原理はあくまでも”救い”ね――」

レディリー「――それが本当の救いになるかどうかは、また別なのだけれど、ね?」

今週の投下は以上となります。お付き合い頂いた方に感謝を
説明回・前編終わり


※【速報】レディリー、次回ヒロイン(ロリ枠)に内定【嘘】

乙です。相変わらず面白い

やった!金髪ヒロインが増えた!!



やったね上条ちゃん!ロリが増えるよ!

えっと上条さん。
良いと思うよ?別にバイ(一通)でも管理人趣味(愛査さん&むぎのん)ロリ(カウント不能)でも。
嗜好はそれぞれだし。うん。

でもさすがに、一瞥しただけの等身大幼女人形を自然に膝抱っこしたあげく、モミモミフニフニくんかくんかの果てにおっきしちゃうのは、人類としてどうだろう?

運良く生身(レディっち)だったから、ロリ疑惑方面へ話が逸れたけど。
これが真正の人形だったら、常夜うんぬんより先に人生終わってない?

なんで人形と勘違いしたんだろって思ったけど、佐天さんも勘違いしてたね

今回の新刊は円卓ネタあって、まさかの出番ありかと思いました

乙です

レディリー、カーズ様状態にならないで良かったね

>>663>>688
ありがとうございます

>>664
レッサー「そこはそれ、私がパンツを掴んで脱が――」
フロリス「――そうとしてフリーズしたヘタレッサーに替わってワタシが――」
ベイロープ「――する二人をアイアンクロウで止めた――」
ランシス「――後に……私がペロンってしてから――」
レディリー「――あら、可愛いわね?と私が鼻で嗤い――」
マタイ「――その後、トイレから戻ってきた私は、主犯四人に教皇級DEKO-PINGを炸裂させた後――」
マーリン「――何事も無かったかのよぉに、そっ戻しぃのワイは、マタイはんから監督責任で説教をなー、うん……」

>>665
(握力一覧・単位;キログラム)
16 平田宏美(声優)
30 成人女性平均
50 成人男性平均
55 田辺誠一(俳優・高校時代)
60 野生の空知(ドワーフ・高校時代)
74 山口久美子(ごくせん)
80 野村政孝(サッカー選手)
80 高橋名人(ライター)
80.3 栗山巧(プロ野球選手)
90 遠藤正明 (アニソン歌手)
93 把瑠都(元関取・現役時代)
100 魁皇(元大関・中学時代)
100以上 室伏広治(ハンマー投げ)
120 琴欧洲(元大関・現役時代)
200 チンパンジー
200以上 美堂蛮(奪還屋)
200以上 ブロッケンJr.(アイドル超人)
400 ゴリラ(空知先生)
(※神裂クロウで蛮ちゃんのスネークバイト再現出来ないと思いますし、実質180ぐらいじゃないかと)

土御門「いやでも手を使わずに胸を使った方がカミやん喜ぶんじゃね?」
神裂「?ですから手を使わずに胸でするとは一体?」
土御門「さぁやってみせるんだねーちん!年上上司がサンタコスご奉仕羨ましいぜぃカミやん!」
神裂「違う人ですね?確かに出番は私の比ではないでしょうが!」
神裂「あと胸を使うのはどういう意味が……?」

>>666
本当にあった怖い無茶ブリ(※あくまでも噂話です)

某エロゲーの説明書の裏話。まぁ今は紙芝居式の殆どですし、体験版を事前にしていればきちんと見る方は少ないと思います
とあるメーカーさんで説明書をある担当に任せたんだそうです。その、デザインとかレイアウトとかも丸投げ
基本的に其程大事なものではないため、その担当はかるーく考えていたんですが……その、原稿提出直前になって枚数変更があったそうなんですよ
ぶっちゃけ「ページ数が増えるぞ!やったね!」と。いや全然やってないんですけどね
が、しかしこれ当初の予定ではシナリオライターさんが番外シナリオ書く予定だったのに、それがポシャッて枚数削った筈”だった”

にも関わらず説明書は枚数多いままで発注したらしく、さて、どうやって余白埋めようか?的な感じに
……まぁ、普通はこの時点でおかしいなー、とか思って上に掛け合うのが普通なんでしょうけど、その担当はやる気を出しました
「これは無茶ブリだけど、上手く乗り切ったら正式社員あるで!」と
幸いにも枚数増減させても値段はほぼ一緒だったため、勝手にレイアウトを変更して頑張ったそうなんですよ、えぇ

まぁ、担当はね。あくま余白を埋めるため、説明書に人物紹介を入れる事にしたんです
キャラの立ち絵を乗せて、簡単な説明と声優が誰それかってのを書いて増ページさせました
それ自体はまぁ、悪くない判断ですし?勝手にやったとしても怒られる類のものではありませんでした――

――そう、そのキャラ紹介に『事件の黒幕キャラの紹介文に、”コイツが黒幕”って書く』ヘマをやらかさなければ!
(※流石にもっとマイルドな書き方でしたが、若干ミステリものなので致命的だったようです)

……信じるも信じないもあなた次第です……(`・ω・´)

>>667
あのサンドリヨン――というかあそこの登場人物は一部を除き、”上条当麻の夢”です
従って「本人ならこう考えたり、こうするんじゃね?」と、上条さん主観だけで再構成されています
そして当然夢ですし、細かいディティールまでは再現されにくいため、サンドリヨンが日本語を喋ったり、
また”強い印象(※人体っぽいケーキを指導した張本人)”に引きずられて猟奇的な性格を帯びた、と

※多少真面目に考察すると、「灰被り姫」自体、視点を変えれば『力の無い少女が魔術を得て復讐する物語』なので、
サンドリさん自体の性格は「身内に甘く、敵には容赦せず、裏切りは容赦しない」と言った所でしょうか

確かグリム初版では義姉達が、ガラスの靴を無理矢理履くためナイフで足を切り落とし、
結婚式か、行く前に姉達は白鳩に両目をくり貫かれ失明するエピソードがありました
シンデレラがガラスの靴とドレス、カボチャの馬車を貰う相手は魔女――中世には『死別した本当の母親の形見』へ差し替えられました
(※教会的には『聖人・天使が起こした”奇跡”はOK、でも”魔法”は悪魔の業だからダメ』という見解なので)
……どう考えてもシンデレラはお母様似の魔女ですありがとうございました

また彼女の持つ『”灰”かぶり』自体も、西方教会の灰の水曜日、四旬節にもルーツを見いだせます
(※四旬節=イエスのエルサレム入城~受難~死を祈念する期間。これが終わると復活祭、所謂イースターの始まり)
そもそもキリスト教では土葬が基本、しかし吸血鬼は死ぬと灰へ姿を変えるようなので、魂の無い化物は灰、みたいな解釈があり、
それを身に纏う以上相応のアレがアレしている感じです

尚、ヨルダン人パイロットがテロリストどもに火刑で処刑されたのも、アブラハムの子である聖典の民三兄弟の内、
イスラム教もまた火葬は『甦るための肉体が無くなる』という理由でNGです。従ってアレは最大級の嫌がらせですね
(※GHQが東条英機らの遺体を燃やし、東京湾にバラ撒いたのと同じレベル)

――倉庫

上条「――はーいっ質問」

レディリー「レデイに年齢を訊ねるものではないわよ?」

上条「そんな事は聞いてねぇよロリB――じゃないですよねっ!お姉さんっ!」

レッサー「おや珍しい。上条さんが地雷を回避しましたねぇ」

マーリン「アレやね。『死ぬよりも辛い事がある』を体感させられとぉなかったんやね」

マタイ「個人的にも興味があるのだがね。アンブロシアの果実をいつどこで、どのように食べたのか、は」

レディリー「あら、こっちの”ボーヤ”を私に興味があるのかしら?」

レディリー「でもダメね。あなたのパパは魔女に騙されちゃいけないって釘を刺していたし」

マタイ「デルフォイの巫女殿に諭されるようでは、嘆いたらいいのか喜んだらいいのか分からんがな」

上条「いやあの、だから、質問あるんですけど……」

マタイ「失礼した。続けたまえ」

上条「あ、はいどうも……えっと、まずなんだけど、魔神の人格云々って信じられんの?」

マーリン「人格――っちゅう言い方もアレやけど、性格の事っちゅう話?」

上条「あぁ。確かに今、なんつーか人類ほぼ全員眠ってる状態……良くはないが、最悪って訳でもないよな」

レッサー「外の時間が文字通りFreezeしているような感じですから」

上条「それについて不思議に思ったのが二つ。まず『人格』がどうなってんのか知りたい。それとも性格って言った方がいいのかな?」

マーリン「神の人格……日本語にしたらおかしいんやけど、まぁ人格のままでええんちゃう?」

マーリン「英語やと人格も性格も”character”で同一視されとぉからね」

フロリス「ワタシ、ニッホッンゴ、ワッカリマセーン」

ランシス「難しいよねー……」

上条「で、今のセレーネは取り敢えず人の味方……まぁ、一応は自分の恋人へ対するのと同じく、こう、善意っぽい押しつけで眠らせてる」

上条「これが突然心変わりする、みたいな事は起きないのか?」

レディリー「例えば?」

上条「あぁそっちは二番目の質問と被るんだが……その、クトゥルー系の魔術が存在するんだよな?」

マタイ「その通りだ。魔術も存在もするし、邪教集団も確認されている」

マーリン「一年くらい前、天草式十字凄教がそいつらとロンドンでドンパチやっとぉよ」

上条「連中、フランスでそのドンパチやった天草式の奴から聞いたんだよ。『世界を滅ぼす術式は存在する。しかし世界が滅びた事は無い』って」

上条「なんで?って聞いたら、『単純に魔力が足りないとか、世界を滅ぼす方法はあっても実行に移せない』……って言われた」

マーリン「やね」

上条「クトゥルー系でよく言われる、『ルルイエ浮上して人類総発狂してBADEND!』は、起りようがない……だって言うのに」

上条「一つ方向性間違えれば、一つめの質問で言ったような『人格が変わる』――」

上条「……いや、それよりももっと単純に、気が変わる?何か癇癪を起こしてもいいし、イラッとしたのでもいい」

上条「そんな、本当に少しの気まぐれでこの世界は滅ぶんじゃないのか?」

マーリン「あー……」

上条「前に聞いた時には『魔力とかが絶対的に少ないから、理論上は可能だが不可能に近い』って言われた事が、だ」

マタイ「……ふむ。そのどちらの質問へ対して、応じる答えは一つであるな」

マタイ「まず分かりやすいように後者の疑問から答えるが――『理論上可能な事をしてしまった』だけの話だ」

上条「……また、うん、なんつーかなっ!」

マーリン「多分クトゥルー系魔術師の説明した時、ウチの子ぉらから聞いたと思うんやけど……『クトゥルーは”ある”』んよ。少なくとも魔術としては」

マーリン「あのヌメヌメタコ野郎が死して眠っとぉルルイエが浮上すれば、世界人類全てが発狂する――っちゅー魔術もある」

マタイ「……ただ、『それを実行に移す』ためには莫大な量の魔力が必要となる。その行為を指して『理論上でのみ可能』とされてい”た”」

上条「……」

レディリー「ただの魔術師と聖人の違い、あなたは教えて貰ったかしら?」

上条「えっと……携帯見てもいいかな?確かメモってる筈だから」

レディリー「仕様のない子ね」

上条 ピッ

上条(携帯は……アンテナが三本立ったまま、しかし時間は18時6分――さっき起きた時に確認した数字のままだ)

上条(時間が止まっているのであれば、『電波』もまた停らなきゃおかしいんだが……まぁ色々あるんだろ!不思議パワーがなっ!)

上条「……人は魔術を行使するのに、魔力が必要になってくる」

上条「デカい魔術、威力の高い魔術、効果時間が長い魔術……とにかく大規模な魔術を使おうとすればする程、比例して必要な魔力を支払わなくてはならない」

レッサー「デカいと威力、意味被ってませんか?」

ベイロープ「ヘタレッサー、静かに」

レッサー「止めてくれません?その名前浸透しそうで怖いんで、本気で止めてくれませんかね?」

上条「当然強い魔術の方が有利なんで、基本的には出力を上げる傾向がある」

上条「でも魔力は無尽蔵って訳じゃないし、威力が高ければ疲労もデカい」

上条「補助器具?みたいな感じで霊装を使ったり、また経験と修練によっては多少節約出来る?」

マーリン「『ただの魔術師』の最高峰、14の頃からドイツ軍へ入りぃの、74年鍛えに鍛え上げたとぉのんがマタイはんやね」

マタイ「せめて戦時中はノーカウントにして貰えないだろうか?私はFoo Fightersを相手にしていただけなのだから」

レディリー「彼の総統閣下は魔術へ傾倒していた”噂”もあったわね、都市伝説なんでしょうけど」

レディリー「その”遺産”を引き継いだのは誰なのかしら?興味深いわね?」

上条「だから!そーゆーの禁止!仲間――つーか運命共同体なんだから仲良くしましょうっ!」

マタイ「……聖槍騎士団の話は作家へ任せるとして、まぁ魔術の使い方に関しては多少上手いと自負しているがね」

上条「どんだけ効率がいいのか興味はあるが……さておき、魔術の話だ」

上条「個人の修練、もしくは経験値?以外にも魔力を供給できる方法がある。技術っつっていいもんか迷うが、まぁ方法と言っとくか」

上条「それは『外部から力を取り入れる事』、だ。例えるんだったら、そうだなー……」

上条「あぁ、携帯電話と同じか。内蔵されてるバッテリーを消費して電話をかけたり、メールのやりとりが出来る」

上条「でも使っている内にバッテリーは減り、遣えば遣う程早く電池切れになっちまう」

上条「そうすると後は充電しなきゃ使い物にならない……まぁ、魔術師に言い換えるんだったら、『疲労で倒れて、寝たら回復した』、かな?」

上条「んで、最近の携帯は通話以外にもネットやゲーム、音楽プレイヤーの機能もついている。一昔前のパソコンよりもずっと性能は上だし」

上条「……ただ、色々な用途に使えば当然バッテリーが切れるのが早くなる――だから」

上条「『外部電源を用意し、携帯に繋いで使う』と」

レッサー「流石は上条さんっ!的を得ていますなっ!」

マーリン「全くやんねっ!」

マタイ「……『的を射ている』が、正しいのだが……」

レッサー・マーリン「「……」」

フロリス「……えっとー?なんつーんだろな、こう、親が授業参観へ来てやらかす、的な?」

ラシンス「……ボケてないのにボケ扱いされるって……ふふ」

レディリー「概要は大体合っているわね。『個人の魔力では足りない魔術に、外からの力を遣って発動させる』の」

マタイ「大昔……いや、現代に於いても人身御供の類はある。アレもまた『外部からの魔力の供給』に他ならない」

マリーン「やけんど、今は効率が悪ぅ言うてそぉゆぅのはあんま聞かんなー。どっかにはあるんやろうけど」

上条「で、今の流行り――つーかセオリー?なのが、『天使の力(テレズマ)』、『龍脈』……だっけか?」

レディリー「テレズマを『位相の力』と別物にカウントするのであれば、もう一つ加わるのだけれど、ね?」

上条「ま、『外部からエネルギー引き込んで使いましょう』って概念なんだろう」

上条「少なくとも個人が個人の魔力で完結出来るよりも圧倒的に強い!……が、同時に」

マタイ「制御と使い勝手が極めて悪くなる。それこそ人の器にて扱える総量は決まっておる」

マーリン「や、でも十字教って『天使の力』、ぎょーさん使ぉてへん?使ぉてるよね?」

マタイ「身の丈に合っただけ、と言っておこう」

レディリー「まぁ、兎にも角にも扱いづらいのよね。規模や威力に正比例して」

レディリー「例えばどこかの洗脳兵器も決められた時間に定められた場所、しかも限定された星座の下でしか効果が出ない、って言うし」

上条「あー……『使徒十字(クローチェディピエトロ)』か」

マーリン「龍脈やマナが扱い易こぉたら、そもそも科学がここまで発展してへんよ」

マーリン「現代魔術師は誰も彼も秘密主義に隠避主義拗らせとぉから、後は衰退するか指咥えとぉしかないかもしれんなぁ」

マタイ「あなたがそれを言うのか……!」

マーリン「科学も魔術もどないだってええねんよ。それがワイの愛し子ぉらのためになるんやったらな」

上条「質問いいかな?ふと今思ったんだけどさ、魔術師の中でそういう”外部からの力”を使ってる奴ってどのぐらい居るんだ?」

マタイ「珍しくもない、というのが結論であるな。君が知ってる範囲に於いては、シスター・アンジェレネが居ただろう?」

上条「あぁはい、何か巾着袋飛ばしてたちっこいドジっ子シスター」

マタイ「あれも聖典にある逸話を再現している……が、少々練度が足りないとの報告が上がっていたようだが」

マーリン「なんちゅーか、大抵は使っとぉけども……『それやったら自分のマナでええんちゃう?』的な魔術師も仰山おってぇなーぁ」

マーリン「最近はどぉも『目的のために魔術を使ぉ』じゃなく、『魔術を使ぉたいだけ』っちゅーんのが増えて来とぉわ」

上条「『魔術は一度絶望した人間が辿り着いた先、だから基本的に魔術師は超個人主義』、みたいな話をバードウェイから聞いたぞ?」

レディリー「そのおちびちゃん、旧い魔術結社の子でしょ?だったら『現実が見えていてもそう言うしかない』のよ」

上条「……ボスの言ってる事が間違いだって?」

レディリー「魔術はね。そう、中世から近世にかけてはそういう側面があったのも事実よ」

レディリー「何かに絶望したり、大事なものを奪われた人が復讐のために身を焦がす技術――何故ならば『当時はそれ以外に頼れるものが無かったから』よ」

レディリー「『ジョン・ボールの断頭鎌』然り、魔術は弱者が強者へ立ち向かうための『手段』としては中々のもの”だった”のだけれど――」

レディリー「――『今』は違うわよね?」

マーリン「言い方はアレやねんけど、テロ起こそ思ぉたらカラシニコフ用意した方が早いしぃ?」

マーリン「魔術をいっちょ前に『使える』魔術師こさえるには、何年もかかるっちゅーねん!アホか!」

レディリー「今の円卓、その子達は随分習熟度が高いわよね?昔から教えてたのかしら?」

マーリン「この子ぉらは相応のリスクも負っとぉ。力に見合っただけの対価は支払ってる……ちゅーか、そうでもせんと力振るえんのは知ってるやんか」

上条「あー……まぁ何となくは分かる。『魔術スゲー!』ってよく思うし。でもその『スゲー魔術』ってのを使いこなすために、どんだけ練習したんだっても」

マタイ「魔術師一人を生み出すよりも、軍隊を編成させて現代兵器で武装させた方が効率的ではある」

上条「アックアやフィアンマみてーなワンマンアーミーは?」

マタイ「一個旅団、下手をすれば一国を敵に回しても勝利を掴める魔術師……確かに強くはあるが、”個”の力だ」

マタイ「両者ともに全盛期は精々10年と言った所か。ピークを過ぎてもあの力を振るえる保証など無い」

レッサー「……そのフィアンマの一撃を、誰一人犠牲を出さずに受け止めた人が言っても説得力はないんじゃないですかね……?」

マーリン「ウソかホントか知らへんけど、教皇には『ローマ正教同士での殺生禁止』っちゅー制約があるらしいんよ」

マーリン「よって第二次世界大戦中も、同じローマ正教寄りやったドイツに手ぇも足も出せへんかった、的な噂がなぁ」

マタイ「罪人を裁くのに位階の有無は関係あるまい――その上、”我”が強すぎて二人ともどこかへ行ってしまったままだよ」

上条「個人に強すぎる力が集まっても不幸になる、か。効率的には程遠いような」

フロリス「人一人をBANG!しようと思ったら銃はあるしー?なんだったらRV車で突っ込んでもいいワケだ……あ、よくはないケドさ」

マーリン「科学が氾濫して魔術師の絶対数が減りぃのー、んでもってマスターが減れば弟子も少なくなりぃーの、で、もうどないしたらええのか分からんし」

マーリン「そぉかと思えば”ファンタジー()”に憧れてこっちへ入りとぉ言う子ぉらもおるしなー。なんやワッケ分からん事になっとぉ」

ランシス「魔法使いが主役のラノベが流行ったりする、し?」

マーリン「いやいやっ!言う程簡単ちゃうよ!?魔術知識のガード無ぉて位相知識にアクセスしよぉたら発狂間違いなしやんか!」

上条「……いやあのさ?これ多分俺の思い過ごしなんだろうけどさ、ちょっといいかな?」

上条「一般的――ってカテゴリーへ含めていいのか分かんないけど、霊能者とかオカルト系の自称”見えちゃう人”居るよな?」

上条「クラスや学年に一人ぐらいは居て、何か幽霊やら電波的なものを受信してる――って”自称”してる人……」

上条「もしかして、なんだけど……?」

レッサー「あぁそれ恐らく『中途半端に位相知識とチャンネルが合っちゃった』人でしょうな」

上条「マジか!?だからなんか、こうっ!アイタタタ的な奴らばっかりなのかっ!?」

レディリー「普通の魔術結社ともなれば、そうならないように段階を踏んで儀式を行うのが当たり前」

マタイ「一切の手続きをせず、また何の予備知識も無く深淵を覗けば、深淵からも覗かれるのは必定と言えような」

マーリン「つってもまぁ影響なんて微々たるもんやし、当人が無視するんやったら無視出来る程度のもんやて?」

マーリン「なんちゅうても魔術らしい魔術を行使してへんのやから、大した影響を受ける訳が無いし?」

上条「……な、ならいいのか……?」

レディリー「感受性の強い子供がフェアリーや妖精を幻視るお話はよくあるわ。大人になったら忘れてしまう不思議な物語」

レディリー「はしかみたいなものかしらね?あなたはどう、そんな優しい時間は?」

上条「……俺の話はどうでもいい。話を戻す――か、どうか分からないが」

上条「そうすると今のセレーネの状態は、どう、なんだ?この地球全体を眠られる術式――」

ランシス「……『常夜(ディストピア)』……」

上条「――を、維持してるのは一体”何”の魔力を使ってるんだろうな……?そこを突けば俺達にも勝ち目はある……」

ほぼ全員「……」

上条「……な、なに?どしたの?皆で俺見てさ?」

レッサー「意外と考えてますね、と」

上条「やだなーレッサーさん!こう見ても俺イギリス清教が誇る禁書目録や『必要悪の教会』やポニテ聖人!」

上条「ローマ正教の錬金術師やシスターさん達に『神の右席』連中!」

上条「ロシア成教にグレムリンにテロリストに能力者以下略!まるでブルース=ウィリ○張りに活躍してるんですからねっ!」

マタイ「その割に魔術知識を憶えようとすらしていないのは、どうかと思うのだが……まぁ佳いだろう。人は城、人は生け垣であろうな」

マーリン「んー……ワイらもまぁ囓っとぉけども、やっぱレディリーはんが本職やんなぁ?」

レディリー「そう、ね。この話は私が不老不死になって、そして――」

レディリー「――『88の奇跡』と『エンデュミオンの奇跡』でやろうとした術式にも関わってくるわ」

上条「……いいのか?」

レディリー「良いも悪いも無いわね。どっちみち何も感じてなんかいないし?」

上条「反省しろよ、そこは。そこだけは」

――倉庫

レディリー「結論から言えば『魔神セレーネは龍脈から力を得ている』と、私は推測しているわね……というか」

レディリー「『濁音協会』が仕掛けた魔神の受肉させる術式、あれは”私がしようとした原理をほぼそのまま踏襲している”と言った方が良いかしら?」

上条「……原理だけ?魔術って事じゃなくて?」

レディリー「あなたはこの地球に龍脈――地脈、レイ・ライン、マナの通り道……」

レディリー「呼び方は色々だけれど、ここはあなたへ敬意を表して『龍脈』で統一するわね?」

上条(俺の『右手』を見ながらレディリーは嗤う……大覇星祭ん時、出まくった情報だだ漏れすぎじゃねぇ)

レディリー「龍脈の概要はご存じ?」

上条「何となくは……スッゴイ魔翌力が地球上に走りまくってる感じ?」

レディリー「とても大雑把に言えばそうね。ここもそうだし、深海の最も深い場所にも、砂漠の真ん中にだって龍脈は流れているわ」

レディリー「ネット回線よりも広く細く、それこそどんな所だって龍脈は通っているの」

上条「てー事は何か?アイツは太い龍脈にでも……」

レディリー「どうしたの?」

上条「……いや、前にさ。俺とアリサが『地脈に介入出来る力を持つかも?』ってマタイさんに言われた事があったんだよ」

マタイ「もう少々断定的であったと思うが」

マーリン「ワイも同意見やね。二人の異能を”魔術的に解釈すれば”そうなるんよ」

レディリー「私も――と、言いたい所だけど、それがどうかして?」

上条「あぁ、だから、セレーネの前でアリサ、が……」

レッサー「……上条さん……」

上条「……いや、大丈夫。大丈夫じゃないけど、今は落ち着いてる」

上条「――アリサは、消えちまった。あの魔神の前でだ」

上条「俺はそれが”セレーネが魔神に吸収された”って、割と最悪の状況を考えていたんだが……」

上条「……けどさ、”あの時点でセレーネは完全に具現化してた”よな?」

上条「月蝕が始まって、月が完全に見えなくなった時点でセレーネはセレーネとしての力を使いやがった」

上条「だから俺以外にも居たスタッフ連中がステージへ上がれなかった、と」

レディリー「続けて頂戴」

上条「だから――だから、何となく、だけどさ。話の流れだと『セレーネがアリサを取り込んでパワーアップした!』みたいな感じになりそうだよな?」

上条「でも、それは何か違うような気がする。アリサが龍脈を操れたとしても、その”前”段階からセレーネは力を使えたんだから」

マーリン「……ふぅむ。筋は通っとぉね。アリサはんの体質を考えたら”消え”るのもアリかもしれへ――」

ベイロープ「レッサー、ゴーッ!」

レッサー「イェエッマム!!!」 ブチブチブチブチッ

マーリン「ちょ千切らんといて!?ワイはただ最悪の状況を想定しただけやんかっ!?」

上条「……レッサー」

レッサー「あ、ご自分でケリつけます?『幻想殺し』でやっちゃいます?」

マーリン「そんな殺生なっ!?ワイの人生ここで終わるんかいっ!」

上条「まぁ、そのぐらいにしといてくれ。俺は大丈夫だし、もふもふの言い分も分かるから」

レディリー「……話を戻すけど――あなたの推測、合っていると思うわよ?」

上条「え?」

レディリー「『魔神セレーネは鳴護アリサさんを取り込んでいない』のに、私は命を賭けてもいいわね」

上条「本当にかっ!?」

レディリー「えぇ、だって『たかだか龍脈一本で”常夜”の維持なんか出来っこない』ものね」

上条「……うん?」

レディリー「考えてご覧なさい。龍脈は世界中のどこにでもあるのよ?大小は変わるけど、それこそどこにだって」

レディリー「それを、たかが一本だけを支配下へ置いて所で、この術式は成せないわ」

上条「えぇっと……出来れば、その、俺にも分かるように頼む」

マーリン「要は『龍脈の確保なんて難しゅう無いわ』っちゅー事やね」

マーリン「古代に作られたストーン・ヘンジに磐座、中世に立てられた大聖堂や神社仏閣。その多くが太い龍脈の上に乗っとぉ」

マーリン「でも、『それを利用して世界全てへ影響与えるような術式』なんて、見た事ないやろ?」

上条「そう……なのか?」

マタイ「様々な神話、様々な民族、そして様々な終末論がある」

マタイ「十字教の黙示録、古代マヤとアステカの太陽を食べるジャガー、北欧神話のラグナロク……実に様々だ」

マタイ「そして当然、『世界を終わらせてしまえるような術式や霊装』もまた存在する。正しいやり方を踏めば世界が滅ぶ」

マタイ「が、しかし我ら人類は未だ滅びてなどおらぬ。これは何を示しているのか?」

上条「……クトゥルー系の魔術と同じく――『魔力が足りない』……?」

マタイ「それが、答えだ」

上条「あーーーっと……古今東西、色んな国でその地域地域の龍脈を支配していたと」

上条「で、それを使ってその地域ぐらいには魔術の影響を与える事が出来た……」

上条「でもって世界をぶっ壊すような魔術もあって、きちんとした手順を踏めば発動する……だが」

上条「……『魔力』が足りない。だから世界が壊れる事は無かった……と」

上条「……」

レディリー「答えが出ないのであればヒントを上げるわね。感謝してくれてもいいのよ?」

上条「お願いしますっお姉さんっ!」

レディリー「い、いい返事ねっ!」

フロリス「(チョロっ!?)」

レッサー「(流石は相性特性が『ロリ:◎』でダメージ二倍の男……!)」

レディリー「……私が”死ねない”理由。まだ言ってなかったけれど、始まりは……そうね」

レディリー「十字軍、第何次かは忘れたけれど、たまたまデルフォイまで迷い込んできた騎士が居たのよ」

レディリー「彼は遠征軍の唯一の生き残りで、もう手の施しようのない怪我をしていたのだけれど……最期を看取ろうとした私へ、ある”種”をくれたわ」

マタイ「……アンブロシア……」

レディリー「そうね。ギリシャ神話で神々が食べる果実。ベルセポネを冥界へ縛り止めた黄泉の柘榴」

レディリー「それを口にしてしまってからずっと――『龍脈からマナが永続的に補充され続ける』のよね」

上条「……」

レディリー「お陰で歳も取れなくなったし、怪我をしても死ねずに再生してしまう。困ったものよね」

マタイ「人は人の器にしか収まらず、また収めなければいかん……いや、あなたが最も痛感しているだろうが」

レディリー「私は何度も死のうとしたのよ。でもその度に龍脈からは絶えずマナが注ぎ込まれて死ねなかった」

マーリン「あるぇ?待ってぇな。断線自体は難しくなかったとちゃうのん?」

レディリー「断線”自体”はね。ただ何回切っても新しい龍脈からアクセスされて、結果は分かるでしょう?」

マーリン「……難儀やなぁ。祝福も過ぎれば呪詛やねんし」

レディリー「だか私はこう考えたのよ――『龍脈へ力をぶつけて相殺してしまえばいい』って!」

上条「ま、待て待て!それおかしいだろ!」

レディリー「何よ」

上条「だってさ!龍脈ってのは地球のどこにだってあるんだろ?」

レディリー「そうね」

上条「で、しかも魔術師が自由に龍脈を扱えようになれば、神様みてーな力を得られる?」

レディリー「私は『巫女』だから、あまりそっちには興味無かったのだけど」

レッサー「(あー、納得。そうでなければ、今頃ペロポネソス半島辺りに魔術帝国築いて皇帝になってたでしょうしねぇ)」

上条「そんな力に対抗出来るっつったら……『天使の力』?それとも『位相の力』?」

レディリー「両方、ハ・ズ・レ」

上条「じゃあ……?」

レディリー「答えは――『天空』よ」

――倉庫

上条「天空?龍脈は……えっと、地脈、だっけ?天脈みたいなもんがあるってのか?」

レディリー「概念としては正しいわね。『Zodiac』と呼ばれる……日本語でなんて言えばいいのかしら……?」

マーリン「『黄道帯』やね。黄道十二宮って聞いた事あらへん?」

レッサー「ゴールドな聖闘○つった方が分かりやすいでしょうか」

上条「星座……あぁ!天空ってのは星空の事かよ!?」

レディリー「大地に龍脈が流れているように、星辰の彼方からも魔術師は力を呼び込んでいたの」

レディリー「だから私はシャトルに乗った”88人”を、星座とリンクさせて膨大なマナを呼び込もうとしたのよ」

マーリン「ま、ぶっちゃけと生贄捧げたんやろ」

レディリー「ええ、惜しい所までは行ったのだけれど、失敗してしまったわ」

レディリー「……ただ本当に失敗だったかどうかは今も分からないわね。だって――」

レディリー「――『鳴護アリサが生まれた』んですもの」

上条「……お前の実験は間違ってたし、もう一回とか言い出すんだったら殴ってでも止めるけどな」

上条「でもアリサが生まれたのは、この世界に来てくれたのだけは……!」

レディリー「ありがとうボーヤ。あとで優しいお姉さんからご褒美をあげるわね?」

上条「要らねぇ。つーかレッサーがグギギ言い出すから話し続けてくれ」

レディリー「そう?残念ね」

レッサー「……最近はボケる前にボケを潰すなんて――そんなあなたを愛していますっ!」

上条「残念、俺はそうでもない……『88の奇跡』の裏側は分かった。つまりは地上の龍脈だけじゃなくて、星空にも龍脈が流れてるんだ?」

マタイ「より正確を期すれば星だけではなく、太陽や月も同じであるな。星辰の”星(せい)”は星を表し、”辰”は天体を表している」

マーリン「古来から太陽崇拝は勿論の事、月信仰も多いんよ。それはつまり”そういう事”やね」

レディリー「膨大なマナを星辰から引き込んだ――けれど、私の願いは叶わずにアリサを地上へ産み落としたわ。それが『88の奇跡』」

レディリー「……元々、マナには方向性があり、地上と星辰をぶつければ相反する……と、思ったのに、実際にはただ一つに収束されてしまったわ」

マーリン「まぁ、そぉやんね。どっちも『指方向性の無い魔力の塊』なんやから、一足す一は二ぃになる筈や」

レディリー「だから私は、『地上と星辰、それぞれの龍脈に属性を付加する事にした』の」

レディリー「エンデュミオンという『塔』を造り上げ、魔術的な意味を持たせて、アリサを組み込んだ!今度こそ死ねる!そう思ったわ!」

マタイ「具体的にはどのような?」

レディリー「バベルの塔そのものね。昔から魔術的に”塔”は傲慢と不破、そして破壊が確約されているシンボルでもあるの」

上条「バードウェイのタロットでも、塔は上下どっちでも悪い意味になる唯一のカード、だっけ?」

マタイ「……その塔は神の家なのだが……まぁ佳いだろう」

レディリー「私は『橋』を架けたかったのよ。天空と地上を繋ぐ、魔術師的な橋を」

レディリー「そうすれば黄道宮を流れる膨大な天空のマナ、そして地上を流れる龍脈のマナ。その二つを以てすれば容易に死ねる――」

レディリー「――そう、考えたの」

上条「……だがアンタは失敗した。成功する訳が無かったんだよ、そんなものは」

上条「アリサが居て、シャットアウラが居て、インデックスやビリビリが居る――」

上条「――俺達が居るんだからな……ッ!」

レディリー「……そう、ね。結果としては術式の核として組み込んだアリサ」

レディリー「彼女が魔術の方向性を『奇跡』へ変える事により、私は誰も居ないエンデュミオンの残骸へ取り残されてしまったわ」

レディリー「832年の人生で初めの体験だったけれど、中々刺激的だったわね?」

上条「……それが『エンデュミオンの奇跡』の真実か……!」

レディリー「禁書目録からは『仮に術式をやっても死ねない』と言われ、どうしたらよかったのよ……!」

上条「レディリー……」

マタイ「双方共に落ち着きたまえ。特にあなたは演技を止める事だ」

上条「演技?誰が?」

レディリー「久しぶりに心が浮き立つのだけれど、ダメかしら?」

マーリン「そのまま演技が本気になるだけちゃうん?するだけ墓穴やと思うわー」

レディリー「なら、おフザケはここまでにして――と、言っても『エンデュミオン』のお話もここまでなのよね」

上条「あーっと、だな。整理するとだ。龍脈ってのは地上に流れてるモンだけじゃない……」

上条「天空、星辰……太陽や月、星座とかからも地球に流れている。だから『エンデュミオン』って宇宙エレベーターを建設して、魔力を取り込もうとした」

上条「……ごめん。正直、頭がパンクしそうだ」

マタイ「先程までの議論で言えば『地上の龍脈一本を制した所で、”常夜”術式を発動させるのは不可能』という結論が出た」

マーリン「一本で足りひんやったら、数増やせばええんちゃう?ってのんがキモやんね」

上条「……セレーネが利用したのは龍脈と月の魔力か……ッ!?」

レディリー「と、考えるしかないでしょうね」

レディリー「月蝕の中、天空から降り注ぐ光の柱、”あれ”によって地上の龍脈と月からのマナを結びつけ、『常夜』を維持してるの」

上条「光の柱――月光か。いやでもそしたら……普通の満月と同じじゃないのか?」

上条「月”蝕”なんだし、月の光量は途中限りなくゼロに近くなるんだろ?だったら満月の方がマナ――魔力を集められやすいんじゃ?」

レディリー「そうね。月は魔術と密接な関わりを持っているのは事実よ」

レディリー「新月の夜には吸血鬼が跋扈するというし、満月が輝く夜には獣人が遠吠えを上げ、三日月の元にサバトを開く」

レディリー「なんて言うのかしら、全てが全て満月の日に儀式を行うんじゃなくて、用途に合った月の形を選んでいるのよ」

レディリー「その中でも月蝕は必ず満月の日に起き、真円から暗闇へ姿を変えるのよ」

レディリー「地球へは月の光が流れ込み、月は地球の影に穢される――世界を滅ぼすような術式にはピッタリだと思わない?」

上条「や、でもさ?まだ納得がいかない!」

レディリー「Please?」

上条「前にレッサー達から聞いたけどさ!『月蝕は魔術的にも大きな意味を持つ』って!」

上条「アンティなんとかの歯車の時も、月蝕の直前に王様を交代してって聞いたし!」

マーリン「アンティキテラ島の歯車と古代バビロニアの『供犠王(King sacrifice』の話やね」

マタイ「日蝕と月蝕は不吉なものと考えられており、その直前に王座へ罪人をつけ、その命を以て汚れを祓う、だったか」

マーリン「紀元前20世紀にはサロス周期が発見されとぉて、8時間の時差以外は”蝕”を予言出来たんやからなー」

上条「そこだよ、そこ。俺が不思議に思ってんのは」

レディリー「どこ?」

上条「そんな昔っから日蝕月蝕は予想出来てたし、月の満ち欠けも……原理はともかく、周期自体は完璧に把握してたんだろ?」

上条「だったらどっかのバカが『あれ?これ上手く行けば世界滅ぼせんじゃね?』的に突っ走らなかったのはどうしてだ?」

レディリー「『術式を発動させたが、維持し続ける事は出来なかった』のよ、単純にね」

上条「維持出来ない?」

レディリー「南アメリカに存在するインカ・アステカ帝国の遺跡群は数あれど、その多くが放棄されていた話はご存じかしら?」

上条「あれ?スペインに滅ぼされたんじゃなかったっけ?」

レディリー「勿論民族のとして死をもたらしたのはスペイン人だけれど、殆どの都市はそれ以前に人が離れていたのよ」

レディリー「それは、どうしてかしら?」

上条「どうし――て、ってまさか……?」

レディリー「あくまでも私の妄想だけどね、使ったのよ『世界を滅ぼす術式』を」

レディリー「元々両帝国は強烈な終末信仰を土台にしていた。なら試してみたっておかしくないじゃない?」

上条「それ、暴論じゃないか?」

レディリー「例えばあなたのキッチンにあるペティナイフ。それを使って人を傷付けるのは簡単よね?」

レディリー「でもあなたは決してしない――『理由がない』からと」

上条「当たり前だ」

レディリー「しかし日本ではあなたと、あなたが抱えている現実とは違い、毎年ペティナイフで人を殺める事件が起きているわ」

レディリー「この世界には理屈や真理が人の数程あって、時として狂気を孕んだ幻想が産まれる事は珍しくもないのよ。憶えておきなさい」

上条「……」

レディリー「ともあれ『彼らは世界を滅ぼす』術式を使ったの。満月の夜にか、月蝕の日にか、太陽の下であったのかは分からないけれど」

レディリー「が、『起動はしても維持は出来なかった』のね。どれもこれも術者自身や仲間を消滅させるだけに留まった」

レディリー「そう、それは単純な理由。『維持出来る魔力が足りなかった』だけ」

上条「……でも、俺達の目の前で世界は終わっている――レベルの、魔術が行使されているって事は、だ」

上条「地脈と月蝕、それ以外からも魔力を引っ張ってきている?」

レディリー「――とは、考えにくいのよ。だってそれ以外の魔力を感じない」

レディリー「コロンブスの卵的な発想よね。盲点と言えば盲点だけれど」

上条「うん?」

レディリー「もっと単純、けれど今まで誰も出来なかったのよ」

レディリー「月蝕を触媒にすれば莫大な魔力を引き込める――『月の光』と『地球の影』の二つを用いて、星辰とパスを繋げられるから」

レディリー「そこに地脈をプラスしてしまえば、大抵の魔術は行使出来る……手順を間違えなければ、ね?」

レディリー「……でも『月蝕が起きているのは一瞬』なの。長くても精々数分なのよ」

レディリー「だからその一瞬を利用して魔術を行使しても、その維持までには魔力が回らない」

レディリー「それが今までの魔術サイドの常識」

マタイ「補足しておくが、普通の魔術師であれば生涯通して尚、龍脈一本をある程度制御出来れば”稀代の天才”と謳われるレベルであるな」

マーリン「国家・民族レベルでの英雄でもない限り――」

マーリン「――もしくは『適格者』っちゅー名の聖人でもない限り、到底為し得ん事やねぇ……」

レディリー「けれど魔神セレーネは私達魔術師の中でも、というか魔術師という枠そのものを超えていた」

レディリー「過去の魔術師は”蝕”の瞬間に魔術を発動させる……まぁ『供犠王』のように、”その瞬間”だけを効果的に利用したのに」

レディリー「セレーネが取った手段は単純にして明快、バカバカしいぐらいにどうしようもない手段。そう、それは――」

レディリー「――『月蝕になった瞬間に時を停めた』だけ」

上条「………………………………は?」

レディリー「だからずっと月蝕――月光と地球の影を通じた太いパスが星辰と繋がってる状態なのよ。二つの『レイ・ライン(力の道)』が常時接続されていると」

レディリー「だから無茶な『時間停止』と『地球全て』なんて、神様ですら成し遂げなかった魔術が行使されている……の、かしらね?」

上条「……頭痛い……」

レディリー「お大事に。けれどこれはチャンスなのよね」

上条「時間停めるようなラスボス相手にか?」

レディリー「逆に言えば『相手が魔神だとしても、”常夜”を維持するのに月蝕を利用する必要があった』のよ」

レディリー「もし、自由に世界を眠らせるだけの力があるんだったら、わざわざこの日この夜を狙って魔術をかける必要がないわ」

上条「……そうか……!相手が魔神だって言っても、魔術的なセオリーからは逃げられないのか……!」

レディリー「むしろ逆ね。私達と違って受肉した肉体を持たないからこそ、性格も性質も魔術や神話に捕らえられているの」

レディリー「……ま、セレーネの人格云々については休憩が終わってからにしましょう。少し話し疲れたわ」

上条「お疲れー」

――倉庫 休憩中

上条(てな感じで各自休憩になった)

上条(マタイさんが近くのコンビニから買ってきた――正確には代金と引き替えに持ってきた――軽食を口にする)

上条(机の上に無造作に置いてあったお茶のペットボトルは、たった今冷蔵庫から取り出したように冷たく、喉を潤してくれた)

上条(……一部の人がボルビィッ○とコントレック○とエビア○を『縁起悪いから捨てましょう!』と言って騒ぎになったが、まぁいつもの事だ)

上条(ライブの乱入騒ぎから何時間経ってるんだろな?さっきまでテンションが高かったから疲れは殆ど感じなかったんだけど……)

レッサー「――ちわっ!お隣宜しいでしょーか?」 ストンッ

上条「座ってる座ってる。俺の了解得る前に座ってるじゃねぇか」

レッサー「何でしたら膝の上に座ってキャッキャウフフでも一向に構わないんですけど?」

上条「ナイスだレッサー!珍しく気を遣ってくれたな!」

レッサー「その反応が私のピュアな乙女心をガリガリと削るんですが……」

レッサー「にしても疲れましたねー、いやホンットに」

上条「お前は大喜利やってなかったかな?空気読んでは居なかったよね?」

レッサー「ではなくっ!その前に色々面倒だったあったんですよ、憶えてませんか?」

上条「面倒?あぁ学園都市まで来んのが?」

レッサー「それもNO!一体全体誰が上条さんをここまで引っ張ってきたと思ってらっしゃんですか……ッ!!!」

上条「……あぁ成程。そう言う面倒ね。悪かったよ、ありがとな?」

レッサー「いえ実際にお姫様抱っこして連れてきたのはマタイさんなので、お礼を言われる筋合いはないですね」

上条「レッサー関係ねぇじゃん!?面倒な要素皆無じゃねぇかっ!?」

レッサー「あぁいやいや。これは所謂優しさでしてね」

レッサー「『ジ×イにお姫様抱っこされるぐらいだったら、私に引っ張られてきた』って勘違いされている方がいいんじゃないかなー、と」

上条「優しい嘘を吐くんだったら最後まで吐き通しなさいっ!それが全員のためなんだからっ!」

レッサー「優しい嘘ですかー……うーむ、どうなんでしょうねぇ、それ」

上条「それ?」

レッサー「あのアルなんとかさんも言ってたそうじゃないですか――『アリサに踏み込まなかったお前らが悪い』って」

レッサー「なんて言いましょうか、こう、ショックですよね。控えめに言っても」

上条「お前も……あの場に居たのか?」

レッサー「いえ、マタイさんからのまた聞きですよ。会場の外で『ショゴス』と遊んでいました」

上条「あぁそうか。お前らもアリサに招待されたんだよな」

レッサー「宿泊しているホテルが襲撃されたんで、急いで駆けつけてみれば敵の攻撃で足止め」

レッサー「まんまとアリサさんを持って行かれたようですしねぇ、これがまたムカつきますが」

上条「……アリサは――」

レッサー「『帰ってくるか』、ですか?」

上条「……どうなんだろうな、って思ってさ」

レッサー「どう、とは?」

上条「俺はアリサに戻ってきて欲しい。それは絶対にそう思うしブレるつもりもない、けど――」

上条「――アリサにとってはどうなんかな、って思ってさ」

レッサー「あー、はいはい。何だその事でしたか」

上条「何だってのは、何だよ」

レッサー「なんて言いましょうか、超個人主義の国出身の人間から言わせて貰いますと、『勝手にすればいいんじゃね?』と思いますよ、えぇ」

上条「意外と割り切ってんだな……」

レッサー「私は生憎アリサさんの人生へ対して責任は取れませんからねぇ。アイドル路線放棄して食べドル目指すのも生き残り戦略ですし」

上条「そんな話はしてなかったな?俺もたまに心配になるが」

レッサー「生きるのも同様。友人としてお話を聞いたり、悩み事を相談するのはウェルカムですけど、実際に手助けするのにも限界、ありますよね?」

上条「……認めたくねぇけど、あるよな」

レッサー「私の手だって長かないですし、誰だってそうでしょうからねぇ」

上条「……アリサがさ、なんか様子おかしいなってのは分かってた。分かってたんだけど……」

レッサー「踏み込む気にはならなかった?」

上条「……最悪、『あぁこいつウゼェな』って俺が嫌われる分には構わないんだが、その」

上条「逆に俺が口出していい問題か?ってもな、うん」

レッサー「……ですねぇ、分かります分かります」

上条「だよな?だから――」

レッサー「――だから、取り敢えず引っ張り出しましょーかね。ちゃっちゃと!」

上条「はい?」

レッサー「何です上条さん?『コイツ俺の話聞いてねぇ!?むしろ俺が残像だ!』みたいな顔して」

上条「残念、前半分だけしか合ってねぇ……いやいや、レッサーさん?違うよな?ここそーゆー場面じゃなくね?」

レッサー「そういうって、どうゆう?」

上条「だからさ。『アリサはそっとしておいた方がいいんじゃねぇかな』みたいなだ」

レッサー「えぇはい、ですから。『そうかも知れませんね』って言いましたよね?」

上条「あ、うん。だよね?よかったー、話聞いてないのかも思ったー」

レッサー「やですよ上条さん。私にだってアリサさんにはアリサさんのご都合があるって分かりますからねー」

上条「だ、だよね?」

レッサー「でも『アリサさんの都合やらを酌んでやる必要性もない』ですよね?」

上条「……いや、だからさ!」

レッサー「面倒臭いんでぶっちゃけますと、私にとってアリサさんは友人ですけど彼女が何を望んで何をしたかったのか、ってのはあんま興味無いです」

上条「興味、ってお前」

レッサー「つーかアリサさんにはアリサさんのお考えがあるんでしょうけども、私には知ったこっちゃありませんね」

レッサー「私はただ、この場、これ以降アリサさんに会えないのが嫌なので、全力で助けるだけです――」

レッサー「――それが仮に、アリサさんが望まなくたって、です」

上条「……アリサの意志は関係ないって?」

レッサー「最初に『残された友人がどう思うか?』をぶっちぎりやがったのは向こうですからね。遠慮するつもりなんてありませんよ、私は」

レッサー「曲がりなりにも友人と称する仲なのに、一っっっっっっっ言も相談しくさらずに逃げやがった相手を、どう慮れと?えぇえぇ」

上条「レッサー、お前もしかして……怒って、る?」

レッサー「やだなー上条さん、”怒ってない訳ない”じゃないですかー、あっはっはっはっはー」

レッサー「私が上条さんへ正々堂々コクったのに怯えて、勝負もせずにトンズラ決めた女にそれ以外の感情があると思います?」

上条「え?なんだ――」

レッサー「――とは、言わせませんよ?つーか何となく気付いてらっしゃるでしょうに」

上条「……」

レッサー「そりゃ切っ掛けなり『濁音協会』の思考誘導もあったでしょうが、根本的な所はそこでしょ?違います?」

上条「それは……分からないよ。俺達はアリサじゃないんだから」

レッサー「でっすよねぇ、ですから聞き出しに行きましょうか」

上条「……え?」

レッサー「難しい話は何一つもありません。『私が気に入らないから』って理由だけで、アリサさんを助けたいと思います、えぇ」

レッサー「アリサさんの意志?希望?知ったこっちゃないですよ、私は私のしたいようにするだけですからね」

レッサー「それで嫌われたり、余計な事すんなって言われるんだったら、それはそれで構いません……何故ならばっ」

レッサー「……今、この世界のままだと、アリサさんは文句一つすら言ってくれませんからね……」

上条「レッサー……お前、強いな」

レッサー「惚れました?」

上条「結構、好きだ」

レッサー「――なーんつったりして!このっ!『幻想殺し』っ!」

上条「だから俺の右手に『女殺し』的な意味は無いとあれだけ……」

レッサー「どうせ皆に言ってるんでしょうっ!?この、イ・ケ・ズ☆」

上条「日本語の意味間違ってるよ?それどこの可愛いけど残念な子から教わったの?」

レッサー「……照れません?」

上条「素に戻るなよっ!?俺だってどうしたらいいのか分かんねぇし!」

レッサー「さ、流石に、なんかこう、アリサさんが居ないのにー、みたいなのは卑怯かなぁ?と思ったりなんかしちゃったり?」

上条「……俺に言われてもなぁ」

レッサー「……」

上条「……」

ランシス「……上条ロ×名人、レッサー9段(恥女)、共に長考へ入りました……」

マーリン「どぉですかなぁ解説のフロリスさん。ここまでの両者の戦いっぷりは?

フロリス「そうですなー、ワタシの見た感じだケド」

フロリス「『あ、ちょっとお花摘みに行ってきますねっ!』とバレッバレの言い訳で抜け駆けしたレッサー9段(変態)ですが」

フロリス「いざ対戦となると冷静さにやや欠けてるようですねー」

マーリン「ほぉ?例えばどないな感じですか?」

フロリス「ウン、まー唐突なギャグを挟んで間合いを計ってみたかと思えば!またそれとは別にシリアスな話をしてみたりと!」

フロリス「ここでレッサー9段(変態)が常日頃座右の銘にしている、『IはHの後に来る!』を実践していれば、二人ともパンツ脱いでる頃ですからねー」

フロリス「にも関わらず、まるでローティーンが初めて男友達と遊ぶ時のように、きっちり椅子を離して間合いを取っていますよー」

マーリン「……あぁしゃーないなー。こりゃ緊張でカッチカチやて」

フロリス「だからここは上条(×リ)名人が、一部ファンから『ヘタレ条』と呼ばれるのに倣い」

フロリス「肝心な時になんだかんだでヘタレるレッサー9段(変態)も『ヘタレッサー』と呼んだ方が――」

レッサー「待ちましょうか?えぇマジで待ちませんか?」

レッサー「てかヘタレッサーって本気で止めて下さいなっ!なんか定着しそうで嫌ですからっ!」

ランシス「……ロシアまで二人旅してたのに、手も足さない……ぷぷっ……!」

レッサー「あなたと一緒にしないで欲しいですかねっ!取り敢えず上司の相方をNTRる人はンねっ!」

上条「……や、ごめんな?ちょっと待って、つーか教えて欲しいんだけど」

フロリス「Pardon?」

上条「その、フロリスさん達……いつから、見てましたか……?」

フロリス「レッサーがヘタレて膝の上に座るのを断念した所からジャン?」

上条「つまり最初からって事ですよねっ!分かりますっ!」

ベイロープ「一応『やめときなさい』っては言ったんだけどねー……」

マーリン「何言うとぉベイロープっ!ワイの可愛ぇ教え子が頑張っとぉたら見守るんが筋ってもんやで!」

ランシス「本音は?」

マーリン「ヘタレッサー超オモロイわぁ」

レッサー「ええいっ!どいつもこいつもっ、私の味方は居ないんでしょーか!」

フロリス「てかこの狭い倉庫で聞くなってのが、ウン?」

ベイロープ「無茶よね」

上条「……無茶じゃなくないか?別に部屋は他にもあるし、マタイさんもレディリーも居ないよね?ピーピングってないもんね?」

フロリス「いやぁ、アレジャンか?こう、取り敢えず壊しとけ、みたいな?」

ランシス「……人の幸せ……ぶちこわしー」

上条「オマエらってほんっっっっっっっっっっっとにアレだよな?これでもかって言うぐらい協調性ないよな?」

レッサー「なんと……!北斗の星の隣で輝くあの星は……ッ!?」

上条「それは凶兆星な?正しくは死兆星だし、無理にフラグ立てようとすんじゃねぇ!」

マーリン「こないなボケまで拾うとはっ!……話に聞いとったけど勇者司令ダグオ○拾ぉたのは伊達やないんかっ!?」

レッサー「ね?言いましたでしょ?」

上条「オイコラそこの変態師弟コンビ、ツッコミの手腕よりまず言うべき事があるんじゃないのか?あ?」

マーリン「てかこの明石焼きおかしゅうないか?何やソースドッバぁかかっとぉよ?」 モグモグ

上条「あ、テメ俺が最後に食べようと思ってたたこ焼き食いやがったな!?」

マーリン「何言ぉてんの上条はん、こんなんたこ焼きちゃうよ?あ、知らんかー?関西人やないと分からんのかもなー」

マーリン「ええ?たこ焼きっちゅーんは、こう、もっとしんなりしとぉてな、こう出汁につけて食べるねんよ?分こぉ?」

マーリン「それに何やのこのマヨと鰹節は!……まぁ美味しい、美味しいけど違和感バリバリやねー」

マーリン「あぁこぉ言ぅん『マネラー』言うんやったっけ?あるある、食いモンの味よぉ分からんっちゅーな。うん」

マーリン「まぁ、コンビニでのスナックやし?あんまやいのやいの言ぅんは大人げない――」 ツンツン

マーリン「……何?何なんレッサー?今ワイが上条はんに大阪風たこ焼きの真髄をやな……」

マーリン「うぇ?『これ明石焼き違ぉ、ホンマのたこ焼き』て?何言ぉてんの、ややわぁ、センセからかわんといてぇな」

マーリン「アレやろ?なんやこう、上条はんの前でワイ担ごう的な感じやろ?ワイは分こぉ――何?違ぉ?そうやないの?」

マーリン「『だから出汁で食べるのは明石焼きで、ソースと鰹節かけて食べんのがたこ焼き』……?」

マーリン「……」

マーリン「知っとぉ、うん、ワイ知っとったよ?いやマジで?全然全然、な?」

マーリン「ま、知っとぉ、っちゅーか、その、アレよね?大体合ぉてたやんか?うん、素材的なモンは一緒やったし?」

マーリン「だから、こうアレやん?ニアピン賞的な……そうそう、惜しかったんよ?惜しかっとぉ」

マーリン「……」

マーリン「――ってぇ知らんわボケぇ!幾らワイやっても極東の国のローカルフードなんか一々抑えてへんわっ!手ブラかっ!?」

マーリン「そもそも何やねんっ!誰や明石焼きとたこ焼き間違ぉて憶えてた奴が悪いとちゃうんか、なああっ!?」

マーリン「出て来いやぁ!ワイがケ×から手ぇ突っ込んで奥歯ガタガタ言わしたるさかいっ!」

マーリン「――ってぇ教えたんワイないかーーーーーーいっ!ルネッサーーーーーーーーーンスっ!!!」

ベイロープ・フロリス・ランシス「「「レッサー、ゴー」」」

レッサー「あー、最近ユニットバスの汚れが取れないんですよねー。あ、丁度いい所にスポンジが」

マーリン「あいたたたたっ!?だからワイを千切らんといてぇな!?しかもスポンジて!ユニットバスの汚れ落とすのにセンセーは不向きちゃうかなっ!」

マーリン「せめて!せめてキャベツ野郎の消しゴムスポンジと混同せんと!鏡的なものをこするちょっとお高いシートの扱いにしてぇな!」

上条「お前らもう帰れよっ、な?ネタだよね?途中から完全にコントへ入ったもんね?」

上条「てかコントしたかったら世界を元へ戻してからにしなさいっ!今ちょっと忙しいんだから!」

今週の投下は以上となります。お付き合い頂いた方に感謝を

明日でこのSSも丸一年、トータルで薬94万語でした。お付き合い下さっている方、本当にありがとうございます

おっつし

100万語近くかー、乙です

サイトの方、クオリティ高くてビックリした

乙!!

マタイ「その割に魔術知識を憶えようとすらしていないのは、どうかと思うのだが……

基礎の基礎すら覚える前に物語が終わるんじゃない?

乙かレッサー

『ヘタレッサー』流行るといいね!

レッサー可愛い

上条さんなら先生にもフラグ建てそうだな

ていうかベイロープだけキスしてないじゃん

>>688
フロリス「ワタシは?アン?」

>>689
上条「俺、ロリじゃないよ?」
レディリー「あら奇遇ね。私もロリじゃないわよ?」
上条「そう――だけど!一応間違っちゃないが最近厳しいんだから弁えてあげて!?」
海原「つまり合法ロリですよねっ分かりますっ!!!」
上条「お前もういい加減、海原君に皮返してやれ、なっ?ヘタすると本物が暗部抗争に巻き込まれるんだから!」

>>690
○証言一
匿名L「や、あのですね。ネタに決まってるじゃないですか?流石に修羅場りそうでしたから、とっさに。えぇえぇ」
匿名L「私の小粋なジョークのお陰で誰も血を見ずに済みましたし!ナイスプレーと呼んでもいいんじゃないですかねっ!」
匿名L「K条さん(仮名)の尊厳が傷付けられる以外に被害はありませんでしたし!」
匿名L「ですので実際にアレがアレしていたのかまでは確認出来ていません!ぶっちゃけしたかったですがっ!」
○証言二
匿名L「私?どうかしら、あまりに衝撃的で憶えないわね。多分だけれど」
匿名L「後ろからいきなり未発達な乳房を――」
(※~続きは製品版にてお楽しみ下さい~)
匿名二「――だからあの子が先に私へ悪戯したんですもの。少しぐらいは仕返ししたっていいじゃない、ねぇ?」
○証言三
匿名K「だから俺は無罪だ!レッサーが適当言ってるだけの冤罪だ!」
匿名K「これはきっと敵の魔術――(ry
(※真相は二人しか知らないので悪しからず。ただその、種としての本能的なアレでアレするケースがあったりなかったり)

>>691
ですねー。私もレッサーさんはアーサー関係の設定持ってる――と、勝手に思っていますんで
余談ですが、高名なピアニストさんに『アーサー・レッサー(※フルネームです)』という方が。多分元ネタ

>>692
原作じゃ回収されるまで絶賛放置プレイ中、しかも酸素が恒常的に無い状態(酸欠で死亡→復活の無限ループ)
加えて古典SFじゃ「真空へ投げ出されると血液が沸騰して爆発する」的な描写もよく目にしますが、その前に窒息死します
ですがレディリーさん(とカーズ)の場合、そのまま永遠に「フットーしちゃうよおおおおおっ!!1」的な……いやマジで

――倉庫

レッサー「ではまずロ×の定義から決めましょうか!私はたてす――」

上条「してないな?俺達が休憩入る前にそんな、マタイさんでも助走をつけて殴るレベルの不道徳な話は?」

レッサー「『エルフだから幼く見えるけど年上なんだもん!』は嫌いじゃないです!嫌いないじゃないですけど、こう脱法的な匂いがしますよねっ!」

レッサー「かといって最近雨後タケのように増殖しつつある×リドワーフも如何なものかと!」

レッサー「ドワーフとはオトコの世界!ガチでムチなウホッ!なヒゲの世界に幼女が入ってくる余地などありませんなっ!」

ランシス「……でも、キライじゃない?」

レッサー「むしろ好きです!ろ×ぷにが重武装してるのって萌えるじゃないですか!」

上条「おい先生。アンタの生徒、何とかしろ」

マーリン「いやぁ、ドワーフは許しとぉてもええんちゃうかな?そうでもせんと人気出ぇへんよ」

上条「意見を求めてんじゃねぇよ!?止めなさいよお弟子さんを!」

マーリン「白雪姫に出とぉ七人の妖精も本来はドヴェルグやし。もう少し知名度があったって」

マーリン「ネズミのアニメになってもぉてから、可愛いイメージが先行しよぉるし」

上条「別に人気出たって良い事なくね?日本に伝来して女体化&アイドル化したアーサー王とか、碌な事にはなってないよね?」

マーリン「ええんちゃうかなー。王様も手ぇ叩いて喜びはるよ、多分」

上条「ベイロープさん、そろそろお願い出来ますかね?」

ベイロープ「……本当にゴメンなさいね?不出来なっ!バカ二人がっ!」 ギリギリギリギリギリッ

レッサー・マーリン「「あいたたたたたたたたたたたたたたたたたたたっ!?」」

フロリス「そしてネタ振ったのに制裁から逃れる子が」

ランシス「……いえーい」

マタイ「楽しそうで結構な事であるな」

上条「すいまっせんこの人達、脳の病気なんですよHAHAHA!!!」

マタイ「皮肉を言った訳ではなく、またそういうのも佳いであろうと言う事だな。あまり根を詰めるのも宜しくはない」

マタイ「魔術的な話ばかりで息が詰まるだろうから。適度な息抜きに関してはどうこう言わんさ」

上条「あ、いえそれは別に……ま、正直ワケ分からん話も多いですけど、慣れました」

上条「そっちサイドの話はイギリスに居た頃から、憶測含めてずっとしてきたんで……」

マタイ「そう、か……が、朗報と言って佳いのかは知らないが、セレーネの魔術がどうという話はもうここ以外、またこれ以上長々と語られはしないだろう」

上条「なんでまた?」

マタイ「私達が最後の七人だ。よって次の戦いで、セレーネに敗北を期すれば再チャレンジする事無く世界は滅ぶからだな」

マタイ「幸いなのは負けても命奪われる事無く、永遠に死すら超越して夢見続ける事だが」

上条「責任重大ですねー……」

マタイ「失敗した所で、この場合、この壇上へ立ち、戦う資格を持っているのも私達しかおらん」

マタイ「従って文句を言われる筋合いもないし、失敗した所で責められる事も無い。気楽にすれば佳い」

上条「そういう達観もどうかと思うんだが――もとい、ですが」

マタイ「さて……では話の続きとしようか。『魔神セレーネの現状』は何となく分かったであろうが」

上条「地球にある龍脈、それにプラスして星辰?にある龍脈からも力を引っ張ってきている」

上条「なので馬鹿げた魔術、『常夜(ディストピア)』なんてのを維持出来る……ですよね?」

マタイ「そうだな。彼奴は”理論上は可能だが、とても実現性が低い”事を見事成し遂げた訳だ」

上条「二つの龍脈、どっちからも最大出力で力が流れ込む一瞬……言ってみれば”最も力が溢れる状態”」

上条「その瞬間に『時を停める』事で、最高の状態をキープしている……つーか馬鹿げてる気がするな……」

マタイ「その通りだ。実際にも馬鹿げている――の、だが」

レディリー「それを果せたのは、偏にセレーネの魔神としての”特性”なのよね」

上条「特性?」

レディリー「あなたもさっき言ってたでしょ――”人格”って」

上条「違くないか?人格と性格は……ま、近いような気もするが」

レディリー「そうね。”人の場合は”そうかしらね?」

マタイ「だが我々の相手、”最初から魔神として生まれ落ちた相手”にとってすれば同じようなもの……だろう?」

レディリー「そう思うわね、私は」

上条「どう違う?」

マタイ「その話をする前に、君は私が以前話した『テレズマや位相の力には矛盾がある』と言う事を憶えて居るかな?」

上条「ベーオウルフだかってベイロープにちょっと似た英雄の話、だっけ?。確か……」

上条「昔々あるところに英雄が居ましたー。彼はスッゴイ武器を使って巨人や竜を殺し、王様になりましたー、的な話」

上条「その英雄が持っていたスッゴイ武器、その特性っつーか、まぁ持っていた効果を踏んだ剣の術式はある」

上条「当然霊装もあるし、魔術として成立もしている。その魔術の源、パワーソースになってんのは――」

レディリー「――位相の力――」

上条「――なので、やっぱり『ベーオウルフの神話世界』があって、その世界なり何なりから来ている筈なんだが……」

上条「……そうすると『ベーオウルフ当人が使っていた剣、それはどこの世界のどんな位相の力なんだ?』って矛盾が出て来ちまう、だよな?」

マタイ「然り、だ」

上条「正直、アタマ痛い……」

マーリン「あー……他に例えるんなら、カリバーンって知っとぉ?ワイらの王様の剣やねんけど」

上条「あぁ有名だよな、ゲームでもよく出てる――って、エクスカリバーじゃなかったっけ?」

マーリン「とも、混同されとるんやけど。実はアレ使ぉ前にカリバーンっちゅう剣持っとぉたんよ」

マーリン「有名な岩に刺さっとぉ剣の伝説聞かへん?『この剣抜きよったら英雄やでこれしかしぃ!』みたいな」

上条「あるある。ネタ武器で岩に刺さったままの剣も含めて」

マーリン「王様の剣は岩に刺さった剣がオリジンやっちゅー話もあるし、またその剣は一回折っとぉて別にあの剣を手に入れたっちゅー話もある」

上条「……マーリンじゃなかったっけ?」

マーリン「忘れるやんっ!ワイだって脳の容量に制限はあんねんで!」

上条「レッ――フロ――ラン……ベイロープ?」

レッサー「待ちましょうか?今何で私・フロリス・ランシスの顔を華麗にスルーして、ベイロープへ説明を求めのたのか、じっくり理由を教えて貰えませんかね?」

上条「真面目かどうか」

レッサー「ならしょうがないですよねっ!真面目じゃないですもんねっ!」

フロリス「BooBoo!」

ランシス「心外……」

ベイロープ「はいはい。文句は後で聞くから――てか、先生は大体こういう感じよ」

上条「またいい加減な……」

マーリン「しゃーないやんな。ワイやってマーリン本体やないんやし忘れる事だってあるわいな!」

上条「……どっちかっつーとキャラの方に問題がありそうなんだが……それで?岩に刺さった剣がどうしたって?」

マーリン「あーうん、そいでな。このカリバーンの魔術もあるんよ?術式にしとぉたり、霊装として組んどぉよ」

マーリン「ワイの王様の佩剣の力を借りよ思うんは結構有名なんやけどね……ま、これ魔術的に言ぉたら……」

マーリン「『アーサーの伝承っちゅー世界が先に居ぉて、そっから位相の力を拝借しよる』……これは分こぉ?ええかな?」

上条「大丈夫。しっかりついて行ってる……と、思う」

上条「魔術師連中が神話を再現して、えっと別の世界から位相の力を得たり、十字教の魔術でテレズマを使うって話だろ?」

マーリン「そうやね。それで合っとぉ、合っとぉんやけども――」

マーリン「――『ほいじゃ、この剣誰が刺しよったん?』とか疑問に思わへんかな?」

上条「誰が……?」

マーリン「別に岩に刺そぉた剣でなくてもええんよ。泉の妖精から貰ぉた剣でも同じ事やねん」

マーリン「少のぉても伝説級の剣やねんね?やったら誰それの神さんの剣でしたー、っちゅー話かも知れへんやんか?」

マーリン「やったら別に、王様の剣としてや無ぉて最初からその神さんの佩剣として使ぉたらええやん?やないと二度手間やんか?」

上条「……すまん。分からん」

マーリン「上条はんが言ぉた『位相の力』あるわな?岩に刺さっとぉ剣ことカリバーンも、当たり前のようにその『位相の力』で再現出来よぉねん」

マーリン「王様の伝説を踏襲する事によって、カリバーンの特性を持っとぉ魔術が使えんねんな。ここまでは分ぉ?」

上条「あぁ、何とか」

マーリン「『でもカリバーン、最初っからカリバーンやったっちゅー訳でもないやん』か?」

マーリン「ンな名剣ホイホイ岩に刺さっとぉて放ったらかしかい。なんでやねん、アホかつちゅー話よ」

上条「そこも、まぁ分かる。アーサー王が使うぐらいの剣だったら、他の騎士や神様が前の持ち主でもおかしくは無いだろうし」

マーリン「ワイが言いたいんのは”そこ”やね。そこの矛盾が激しい言いたいねんな」

マーリン「なんちゅうかなー。ワイ――ちゅーよりもマタイはんとレディリーはんも同じ考えなんやろうけど――が出した、龍脈へ対する一つの考察。それは――」

マーリン「――『龍脈の中に記憶も溶け込んでへん?』やね」

――倉庫

上条「記憶が……溶け込んでる?」

マタイ「前にも言ったように、『天使の力と位相の力は、龍脈が姿を変えただけの別ベクトルの力では無いのか?』へ戻る」

マタイ「英雄が存在し、その記憶が蓄積されればそれに準じた世界が生まれる――の、ではなく」

マタイ「『龍脈の中に記憶と共に蓄積されていく』、のではないかと私は思う」

上条「あー……英雄は過去何人も存在し、そういった連中の武器や逸話を昇華させた魔術がある……」

上条「……これはつまり『英雄が力を持つ位相』の存在を示している……けれども!」

上条「そうするとその英雄当人は、一体どこから力を得ているのか……?」

マーリン「その疑問へ対する答えの一つが『位相の力の正体=龍脈』っちゅー説やんね」

上条「話が唐突すぎないかな……これ」

レディリー「いや、そうでもないわよ」

上条「お前までそう言うのかよ……」

レディリー「言うわね。だってそうじゃないと『クトゥルーの位相』なんてありえないじゃない?」

上条「……はい?」

レディリー「クトゥルーがあるかないかで言えば、”ある”のは分かるでしょ?クトゥルーの流儀に倣って魔術も行使出来る――」

レディリー「――これが意味しているのは『”クトゥルーの位相”とやらどこかにあって、そこから力を引き出している』のよね」

上条「……あぁ。そうじゃないと力が使えないだろうし」

レディリー「でも、けれど、だからといって『20世紀に半ばになるまで、人類はクトゥルーを知らなかった』のも確かよ」

レディリー「――だって『クトゥルーはラヴクラフトの創作』だから」

上条「……フイクションの魔術でも、魔術が使えるってのはおかしくないか……?」

レディリー「ふふ、おかしいわね――でも、”それは今に始まった事じゃない”でしょ?今更何を言ってるのかしら」

上条「なんだよ」

レディリー「フィクションがどうの、って言えば『全部が全部創作』じゃない」

上条「――っ!?」

レディリー「神も、悪魔も、天使も、全ての神話という神話がどれ一つ例外なく現実にあった出来事では無いわ」

レディリー「もしそうであるのならば、この世界は何度か滅びていないとおかしい――大抵の神話にある終末によって、ね?」

マタイ「……立場上、その物言いは止めてくれる助かるのだが……」

マーリン「まーまー。堅い事言わんと」

レディリー「でも『魔術はある』のよ。あなたが散々見て来たように、様々な国の、様々な人達が、何千年も前から使い続けてきたの」

レディリー「当然、『位相の力とテレズマ』も含めてね」

上条「……なぁ、ちょっと整理してみたいんだが、いいかな?」

マーリン「ええよ。時間は幸いなんぼでもあるしな」

上条「まず前提条件として、また絶対の条件としても『魔術はある』んだよな。それは、分かる」

上条「その力の源として必要なのは”魔力”。その一番基本的なやり方は個人が持つ――っつーか生命だかを転換させて精製する」

上条「他にも龍脈から引っ張ってきたり、後は今言ってた『位相の力』があると……」

上条「……で、その位相の力は俺達が普通は認識出来ない、言ってみれば別世界の力であって、そこから魔力を取り出すみたいな感じ?」

上条「副作用としては生半可な知識ですれば、発狂する危険性も含んでいる、か」

上条「……ただこの『位相の力』は正直、よく分からん……」

上条「”クトゥルー”みたいに、20世紀の作家が書いた物語の位相世界が出来てしまう事もあるし――」

上条「――”英雄的な行為”をした人間が居れば、その人間に対応する位相がまた生まれる……ん、だよな?」

マーリン「日本にも日本武尊(やまとたけるのみこと)っちゅー英雄居ったやん?あの子ぉは神様ちゃうよね?」

上条「どうだろうな……?直接どこそこの神様とは関係なかった、筈」

マーリン「タケルが天叢雲剣(あまのむらくものつるぎ)を使ぉて、火攻めを凌いだっちゅー逸話が出来た」

マーリン「そっから叢雲は草薙剣言われ火伏の象徴となりぃの、タケルの名前で耐火の術式生まれよぉた」

上条「俺が知ってる科学とは大分かけ離れている……」

上条「物理や化学なんかそうだが、まず世界には法則があってそれをどうやって調べるか、って話だからな」

上条「エントロピーの増大?それとも人の思い?……自分でも言ってて混乱してきた……」

レディリー「忘れなさい。考えても答え合わせが出来るとは限らないのだから」

レディリー「それよりも『現実にある』以上、それをどう使うかが問題でしょ?」

上条「……そうだな。少なくとも今は、アレコレ世界の真理を探すターンじゃねぇか」

レディリー「――と言って直ぐに悪いのだけれど、その『真理』とやらの仮説はあるのよね。そう、それが――」

マーリン「『全部の不思議パワーは龍脈ちゃうん?』って話やねっ!」

上条「言い方!」

マーリン「や、言いつくろぉても仕方がないてすやん?ワイらは少なくともそぉゆぉ風に術式組み立てとぉし」

レディリー「逆説的な話になるけど、”龍脈に記憶が蓄積される”って仮定すれば納得出来るのよ。色々とね」

上条「そうか?位相も龍脈も同じだとしても、あぁ勿論仮にだけどな。仮に」

上条「『龍脈は扱いづらいけど、強い』のに対して、『位相は扱い易い、でも発狂するかも!』じゃ性質全然違うよな?」

マーリン「それは『溶媒』の問題やとワイは思っとぉ」

上条「溶媒?」

マーリン「溶媒違ぉかな?なんちゅーたらええのか……対価?リターン?」

マーリン「ともあれワイが想像しとぉんのはアレや、『龍脈は力の取り出し方によって、対価も変わる』って話や」

マーリン「龍脈をどうこうしょ思ぉたら、まず大掛かりな儀式魔術が必要やんか?風水なり、時間なり、天気も関係しよるわ」

マーリン「しかも扱いづらい分だけ、ワイらが支払う対価は少なくて済むやん」

マーリン「に、対して『位相の力』自体はお手軽やん?こう、元となる自身のマナをスターターにしぃの、そっから魔術起動出来るしぃ」

マーリン「でもそのお手軽な上に、制御もし易い分、龍脈よりも圧倒的に魔力を喰うねんよ」

マーリン「ベテランでもヘタ踏んどぉたら廃人になったっちゅー話聞かへん?」

上条「あー……俺の知り合いの錬金術士に、一人」

マーリン「そうなってまうんは『力を引き出す際に記憶をキーにしとる』んやないかって」

上条「記憶を?」

マーリン「さっき言ぉたカリバーンの魔術使ぉとするやん?そしたらまず『記憶』を使って龍脈にアクセスするねんな」

マーリン「やけど龍脈っちゅーんは膨大や。力も記憶も、下手すれば天地開闢からのずっと溜め込んどぉさかい、一々見とぉたら狂うわな?」

マーリン「やからそこで必要になってくるんが『記憶』なんよ。分かる?」

上条「……記憶……?」

マーリン「アレやね。上条はんには馴染み深いと思うんやけど、奇しくも『インデックス』――”索引や見出し”みたいなもんやね」

マーリン「辞書で語句を探すんやったら、一々最初から順番に目ぇ通さへんよね?や、まぁそうゆう人もおるかも知れへんけど」

マーリン「まぁ、まずは単語の頭と合ったスペルを引きぃの、次は二番目の文字と合ぃのー……っちゅー風に探すわな。それと一緒やん」

マーリン「ネットで分からない事調べよ思ぉたら、まず適当なワード入れて検索するやんか?アレも同じで」

マーリン「『特定の魔術知識を持っていれば、その知識に対応した力を素早く狂わず引き出せる』ってな」

上条「……分かる、ような気がする」

マタイ「私はそこまでは考えていない。方向性を決めるものだと思っている」

マーリン「なんなん?」

マタイ「個人の魔力をコップに入った水、そして龍脈に流れる魔力は海と考えている」

マタイ「量も違えば性質も違う。よって個人が使うためには方法を選ばなければならない」

マタイ「ひしゃくに掬うなり、バケツに汲むなり、場合によっては水鉄砲に溜めたり、濾過した後に田畑へと引き込むのもある」

マタイ「あまりに膨大故に、そうやって”記憶”をトリガーにしなければ制御も覚束ない。そう私は考えているよ」

上条「レディリーは?」

レディリー「私は『鍵』だと思っているわ。更衣室にあるような鍵とロッカーね」

レディリー「ロッカーを開けるためには鍵とそのロッカーの場所が分からなきゃいけないわよね?そんなカンジよ」

上条「……成程。理解……は、完全に出来ないが説得力はあるような気がする」

マタイ「流石に最終的な結論こそ違えども、大まかな方向性は一致した訳だが――さて」

マタイ「以上の推論から更に仮定をし、ようやく君の疑問へ応えられるのだが……セレーネの性格の話だったか」

上条「あ、はい。なんか大分昔の気もしますが」

マタイ「あれも同じだ。龍脈に溶け込んでいる性質上、学習したり変化を来すのは難しいだろう」

上条「そもそも『そういうモノ』として龍脈に記憶が刻まれているから、か?」

レディリー「セレーネは幾つか他の女神と混同されている話は知ってるかしら?」

レディリー「地母神キュベレイ、弓箭神アルテミス、ラミアの母ヘカーテ。他にもローマ神話へ組み入れられてディアナやルナとも呼ばれたわね」

レディリー「……尤も十字教では悪魔に堕とされて魔女ヘカーテとされてようだけれど?」

マタイ「異教の神々を貶めるのはいつの時代、どこの信仰でも変わりはせぬよ。私達にだけ責任を求められても困るが」

レディリー「――と、ボーヤが泣きそうになっているのは置いておくとして、どれだけ名前を変えられようと、人格を歪められそうになっても彼女は変わらないの」

レディリー「ギリシャ神話にあるがままの魔術を組めば、彼女は今も変わらず力を貸してくれるわね」

上条「あー……実はそれ、俺も不思議に思ってたんだよ」

レディリー「何かしら?」

上条「ギリシャ文明、昔は反映したんだろ?人口は知らないが、まぁ今の時代にまできっちり残ってるぐらいには発展していた」

レディリー「エルギン・マーブル然り、アテネのパルテノン神殿も十字教の聖堂として改造されたのだけれど。まぁいいわ、それで?」

上条「でもさ、今、現実、少なくとも生活している人間の中、ギリシャの神様達を崇める人って少ないよな?」

上条「居ないとは言わないけども、『ゼウス様に祈りを捧げてウンヌンカンヌン』的な、俺がイメージするような信仰をしてる人はごく少数じゃねぇかなって」

マタイ「であるな。今のギリシャはギリシャ正教会と呼ばれ、東方正教会の流れを汲む人間が殆どであるか」

上条「信じる人が居ないのに、その神様が絶大な力を持ってるのっておかしくないかな?」

上条「ギリシャもエジプトも、あくまで文化として研究対象にしてる人間は多いんだろうが……そこはどうなんだろう?」

マタイ「それもやはり『力は刻まれた時点から増減しない』と仮説を立てておるよ」

上条「増減しない……って事は、一回『○○は××である』って記憶されちまったら、完全固定?」

マタイ「なのであろうな。そうでなければ現代で信者など殆ど居らぬギリシャ神話にエジプト神話、それらをモチーフにした魔術師が存在出来なくなってしまう」

レディリー「私もギリシャ神話を主とした『予言巫女(シビル)』なのだけれど、それなりの魔術師としてやっているわ」

レディリー「それ――オティヌス、だったかしら?世界を滅ぼす力を持つ魔神の一柱」

レディリー「今は信仰としてほぼ成立していない北欧神話、信者の数と正比例するのだったら脅威にはならないわよね?」

上条「成程。だから『固定』か……」

マーリン「やねぇ。だから”アレ”も天災みたいなもんやと思った方がええよ」

マーリン「見た目はキレイなねーちゃんやけども、神話にある通りの性格のままカミサマはカミサマっちゅー話やんね」

上条「……オティヌスは違うよな?好き放題やってるし」

マーリン「あれは『受肉しとぉ人間が神と呼ばれる魔術師になってもぉた』やん?」

マーリン「ベースが人間やから、『神話の中のオーディン』とはかけ離れとぉ行動を取れるねんな、うん」

マタイ「ある意味、『神に至る道』は一般的な魔術師としての本懐とも言えようが……かといって黙って見ている訳には行かないか」

レディリー「あ、オティヌスと戦う前に約束は果たしてね?」

上条「分かってるよ!どうせこっちが一件落着しても敵は敵だからなっ!」

マタイ「ともあれ。神の性格、人格については以上と言った所であるか」

マタイ「……勿論これはこの世界、この時間軸での”推論”に過ぎはしないのだが、な……」

上条「ありがとうございました……てか、話し合いって選択肢が無くなっちまったんだよなー……」

レディリー「『セレーネとしての性質に沿った形での対話』で、あるならば可能でしょうけど、彼女に魔術を止めて貰うのは無理でしょうね」

レディリー「だってこれはセレーネにしてみれば”善意”なのだから」

マタイ「人の形しとぉだけで、あれはただの魔術の結果に過ぎんわ。下手な仏心出さんと、退治するのが一番やね」

上条「もふもふのぬいぐるみに言われても説得力は皆無だが……あと、もう一つだけ、大事な事聞いてもいいかな?」

マーリン「Please?」

上条「――で、アリサはどうすれば助けられるんだ?てかどういう状況?」

ほぼ全員「……」

上条「世界救うのは大事だと思うし、手を抜くつもりも無い。無いんだが……俺にとっては同じぐらいアリサも大切だ」

上条「だから、その……」

マーリン「あー、分かっとぉよ。上条はんの友達大事言うんのも分かるわ」

マタイ「意外だな。マーリン卿であれば見捨てると思ったが」

マーリン「ちょっと!?人聞きの悪い事言わんといてぇよ!ワイやって義侠心ぐらいもっとぉ!」

マーリン「アホみたいに交尾好きな王様を最期まで面倒看とぉたの誰やと思うてるんっ!?」

レッサー「いよっ、マーリン大先生!フォローの達人いつもありがとうございますっ!」

レディリー「最初からランスロットを王様に立てれば良かったんじゃないかしら?」

ラシンス「……盲点だったッ……!」

レッサー「よしましょうよっ!?アーサーさんだってきっと頑張ってたんですからっ!」

フロリス「通用した、と思う?」

ベイロープ「無理でしょうね。ペンドラゴンの血筋を持っていなければ、ただの簒奪者よ」

上条「なんでお前ら仲間割れしてんだ」

マーリン「ま、まぁ細かい話は後々するよって――で、アリサはんの事やねんけど。あれなー、多分なー」

マーリン「『濁音協会にとってすれば、アリサはんが消えるのも計画の一環』やったんちゃうかな、ってセンセ思うとんのよ」

マタイ「……そうか。その可能性が……」

上条「え?どういう話?」

マーリン「アリサはん――と、上条はんが『龍脈イジれる力があるかも?』みたいな話はしとぉ……あぁ、してるんやね?じゃ話は早いわ」

マーリン「今までの話聞いとぉ、上条はんどないな解決策出したらええと思う?」

上条「話変わってないか?」

マーリン「ええから。言うてみ?」

上条「あぁうん、それじゃ素人考えだけども――やっぱ『龍脈』じゃね?」

上条「セレーネの術式を維持してるのも、下手をすれば存在自体に関わってるのも龍脈みたいな感じだし?それをどうにか切り離せば――って」

マーリン「マタイはんとレデイリーはんは?」

マタイ「右に同じく」

レディリー「私達の力で押し切れない以上、それがベターでしょうね」

マーリン「んむ、ワイも同じ考えやね。天空と地上、どっちか片方からでも断線させるだけで相当有利に立てる……筈やねんけどもー」

マーリン「当然それが面白ないわー、っちゅう連中からしたらアリサはんは天敵やんな」

上条「アリサが?」

マーリン「なんやかんやでセレーネが完全体になっとぉのも、アリサはんのステージのせい――あ、責めとぉんやないよ?客観的事実としてな?」

マーリン「少なくとも『幻想殺し』っちゅー異能で、あれもかれも全否定する上条はんよりかは」

マーリン「『奇跡』で方向性を持たせた力を振うアリサはんの方が脅威やねんな。敵さんにしてみたらば、や」

上条「だからアリサを封じた……?」

マーリン「あくまでも結果論やけども――裏を返せば、魔神セレーネ討伐にアリサはんの力は絶対に必要やっちゅー話や」

上条「もふもふっ……!」 モフモフモフモフモフモフモフモッ

マーリン「ちょ、やめてぇなどこ触っとぉ――ッ!?」

レッサー「……ぐぎぎぎっ!私ですらあんなもみくちゃにされた事なんて無いのに……!」

フロリス「や、されたら大問題ジャン?」

レディリー「……その、いいかしら?」

マタイ「私で佳ければ、聞こう」

レディリー「ずっと不思議に思ってたのよ。私が戻ってきてから、とてもビックリしたのだけど」

レディリー「そもそも、って言えばいいのかしら?それとも今更なのかも知れないけど――」

レディリー「――『どうしてアリサが戻ってる』のよ?」

マタイ「とは?」

レディリー「『エンデュミオンの奇跡』を仕掛けた人間が言っていい事じゃ無いのだけれど、あの『奇跡』の代償は重いわ」

レディリー「ラグランジュポイントからの大質量落下、万単位で死人が出る筈だった未来を変えたのよ?当然あの子の負担も相当のもの――」

レディリー「こっちへ戻ってきてから調べたけれど、一度は完全に消えたのよね?シャットアウラと一つになって」

レディリー「なのにどうしてあの子はまた一人の人間として生まれたの?どうやって?誰が?」

上条「『奇跡』だからじゃね?俺やインデックス、シャットアウラやビリビリみたいなアリサの友達やファンの人が”願った”結果とか?」

レディリー「……」

上条「納得出来ないって顔だな。マーリンさんはどう思う?」

マーリン「……もうワイお嫁さん行かれへんよ――責任取ぉて結婚して!」

上条「戻って来い。真面目な話をしてるんだから」

マーリン「ワイも割かし真面目やねんけど……そやんねー、んー?」

マタイ「……まさか――!」

上条「どうした?」

マーリン「あー……気付きよぉたなぁ。流石って褒めてええのか分からんけども」

レディリー「……私から言った方がいいかしら?どうせ憎まれるのは慣れているし」

マタイ「……いや、私が言うべきであるな。彼との約束もある事であるし――と、上条当麻君」

上条「は、はい?」

マタイ「あくまでもこれは私の推測、あまり根拠の無い与太話なのだと思って聞いて欲しいのだが――」

マタイ「――『鳴護アリサ君は”魔神セレーネの欠片”』ではないのかね……?」

――倉庫

上条「………………………………はい?今なんて?」

マタイ「鳴護アリサ君を、彼女存在自体を我々の流儀で定義するのであれば、真っ当な人間とは言えないだろう」

マタイ「むしろ龍脈の力で構成された、ある種の魔術によって維持されている存在である、と」

上条「……」

マタイ「……気を悪くしたのであれば――」

上条「あ、いや別に?分かってた事だし?」

マタイ「――謝罪し……何?」

上条「あ、いやアリサの存在がどうこうを知ってたって訳じゃ無いけど、アリサは『88の奇跡』の時に生まれたんだ」

上条「正直、何を今更って感じなんだが……?」

マタイ「ではなく。私は、私達はアリサ君が魔神のように、予めプログラムされた存在であると言っ――」

上条「あぁそれはない。ないない、そんな訳ねぇって」

マタイ「……?」

上条「アリサさー、初めて会った時盛大にコケてさ?こう、路上でキーボードをアンプに繋いでライブやってたんだけど」

上条「そのコードに躓いてパタン!ってな。着痩――いや!インデックスさんに制裁を貰いましたけどもだ!」

マーリン「上条はん?なんのお話を――」

レッサー「黙って聞きましょうよ、我が師マーリン」

レッサー「……”これ”が私の宿敵にして愛しい人ですからね、えぇ」

上条「後はステイル達に襲われてたから、俺んちで匿う事になったんだけども――なんだろうな?こう、家の鍵閉めないで風呂入るのって有り得ないよな?」

上条「い、いや!俺は悪くないんだよ!むしろ被害者と言えるだろうし!」

レディリー「何を、言っているのかしら?」

上条「他にもな。意外とあぁ見えて臆病かなと思うだろ?でも『エンデュミオン』でしっかり自分の役割もこなすような、そんな子なんだよ」

上条「……そんな子、なんだよな」

上条「”それが全て演技だった”訳がねぇだろう、なぁ?違うか?」

上条「何の力も無く――少なくとも本人はそう思ってて、たたアイドルになりたいために一生懸命頑張ってる女の子が、だ」

上条「俺にはただフツーに生きるだけの女の子だったよ?それ以上でも以下でもねぇ」

上条「……魔神がどうした、龍脈が何だってんだよ。アリサが人形?……冗談じゃねぇ」

上条「アリサは、アリサだ……ッ!生まれがどうであれ、生き方がどうであっても!そこだけは変わらない――」

上条「――俺の、友達だ……ッ!!!」

マタイ「だが――」

上条「もう一回言うぞ?……あぁいや何回だって言うし、本人にも言ってやるつもりなんだが――」

上条「――魔力の塊だろうが!龍脈の記憶だろうが!そんなのは関係ねぇ!アリサは、アリサだからだ!」

レディリー・マタイ「「……」」

マーリン「(……なぁ)」

レッサー「(はいな?)」

マーリン「(勝ち目、あるん?)」

レッサー「(無かったら諦めます?)」

マーリン「(……やんなぁ……)」

上条「……あぁゴメン。なんか熱くなっちまった」

マタイ「……いや、謝罪をすべきなのはこちらの方であるが……本当に、今日という日は88年生きていても、如何に未熟であるか気付かされるな」

レッサー「流石上条さんっ!その無闇矢鱈に広いストライクゾーンは伊達じゃないですよねっ!」

上条「聞いてなかったよな?お前は、俺の話を、聞いては、いなかったよね?」

レッサー「『人間かどうか<性欲』?」

上条「誰かこのおバカの幻想殺してあげてー、出来れば物理的にバールのようなモノで一つー」

レディリー「……ま、ボーヤの性癖はともかく、アリサの存在意義もさておき……少し、不自然よね」

上条「性癖は冤罪極まりないんだが……不自然てのは?」

レディリー「アリサは『”奇跡”を望まれ生まれた』のよ。最初は」

レディリー「人間が”助かりたい”と思う、最も古くてシンプルな魔術と言い換えてもいいわ」

レディリー「『エンデュミオン』も同じ。大勢の人の『願い』を受け取り、アリサは奇跡を再び起こし、その存在は霧散した――」

レディリー「……筈、なのに。けれど『エンデュミオンの奇跡』が叶った後、誰が何を望むと言うのかしら?」

上条「俺達、じゃダメなのか?他の可能性も……あぁ、アリサは一回消えちまったけど、実は完全に消えなきゃいけない程じゃなかった、とか?」

レディリー「そうよね。龍脈にアクセス出来る”かも知れない”あなたが居れば、それも簡単なのでしょうけど……でも、違うわ」

レディリー「あの時点ですら制御はおろか、自覚すらしていなかったあなたが『奇跡』を起こす可能性。ゼロじゃないでしょうけど、難しいわよね」

レディリー「だとしたら第三者の介入だと考えた方がおかしくはないわ」

上条「『濁音協会』……!」

マーリン「ウチの子ぉらにはメール出したんやけども、幹部連中が繋がっとぉラインは『月』やったんよ」

フロリス「(あ、さり気なく事実を捏造してるヒト、ハッケーン)」

レッサー「(後で皆で千切って、ARISAの2ndアルバムの特典にでもしてやりましょう)」

マーリン「安曇阿阪――ちゅーか安曇一族は海洋民族であって、優れた海上移動能力を持ってたんよ」

マーリン「当然、移動するには月の満ち欠けから天候、また方角云々を知るためにも星座や月の運行を熟知しとらん話にならん」

マーリン「また自然石信仰そのものが、”満月の形をした自然石を崇める”事もあり、それがミシャグジ神とも言われとぉ」

上条「石の神様だってのは教えられたが、その形が月を示していた?」

マーリン「獣化魔術、所謂狼男に月は付きモンやんか?ある意味必然っちゃ必然やな」

マーリン「エジプト魔術師も時と夜の神であるトート神関関係やし、世界樹も月を内包するっちゅー逸話もあるわいな」

マーリン「よってウェイトリィ兄が天の龍脈使ぉて、何や似たような連中に声かけたんちゃうかな」

上条「アリサがあのバカ共に利用されたとして……その、立ち位置って言うか、役割みたいなのは何だったんだろうな」

上条「誰かが言ってた『アルテミスの猟犬』って言ってたが、何か関係してるのか?」

レディリー「アルテミスは狩人の神でもあり、その猟犬はとても獰猛で賢く、生贄を好んだのよ」

レディリー「その方法は人間を獣へ変えた上で、自身の弓で刈るか、猟犬に襲わせていた……」

マタイ「だから我々は、というか君達も含めて『濁音協会』がアルテミスの猟犬だと思い込んでいた訳だ」

マタイ「善良なる者を狩る、無慈悲で荒ぶる女神の手先だと」

マタイ「しかしそれは違った。彼らが、彼らこそが生贄であり、鳴護アリサが猟犬だったのだよ」

上条「意味が……分からないんだが」

マーリン「四時代学説、オラトリオドグマやったか」

マーリン「『発生の時代』――マグマと硫酸の海で『ゆらぎ』から生命は生まれ」」

マーリン「『闘争の時代』――牙も爪も持たぬ人類は潜り抜け」

マーリン「『文明の時代』――他の生物を出し抜いて霊長を自負し」

マーリン「『神殺の時代』――で、自らの母親をも手にかけた」

マーリン「一見『人類が人類たらしめている』ってだけの話やねんけども、何の事はないわー」

マーリン「要は『これ全部魔神生み出すための儀式魔術』やったんやねーHAHAHA!」

上条「言葉が軽いわっ」

マーリン「鳴護アリサはんっちゅー、”魔神の欠片を宿した存在”へ自分らを間接的に殺させる事によぉて、連中セレーネを産み出そうとしとぉ」

マーリン「……ある意味『胎魔のオラトリオ』でもあんなぁ。魔神のための聖誕歌、アレルヤーアレルヤー、主は来ませたりーと」

レディリー「……『エンデュミオン』から新たに生まれた存在が居るとすれば、それはきっとセレーネ以外に居ないでしょうしね」

マーリン「魔術的には『アレ』――ショゴスやったっけ?――を核にしぃのでセレーネを受肉させとぉ」

マーリン「同時進行で幹部共の命を捧げぇので、アリサはんの魔術的価値を高めぇのしよぉると」

マーリン「んでライブの最中、月蝕を使ぉてアリサはんが月とパスを繋ぎよったら、それを横から掠め取ぉ、やね」

上条「……掠め取った、か……ふーん?」

マーリン「お?どないしましたん上条はん。エラい悪い顔してまっせ?」

上条「いや、思ったんだけどさ。今スゲー魔力が地上に流れ込んでんじゃん?こう、ぶわーっとさ」

マーリン「その擬音どころで済まない勢いなんやけど……そいで?」

上条「連中がやったように、それを俺らが横からかっ攫うってのは出来ないかな?そうすればアリサももう一回、こっちの世界へ引っ張り出せると思うんだけど」

マタイ「確かに道理は叶っているし、至極正しくはあるな。その発想は実に佳い」

上条「だったら!」

マタイ「だが、結論から言えば――難しいと言わざるを得ない」

上条「なんでだよっ!?マタイさん達スッゲー魔術師じゃなかったのかよ!?」

マタイ「言ってみれば規格の違いだな。術式によって力を得られる位相が異なれば、それに介入するのは極めて困難であるのだよ」

マタイ「ある程度属性――”人格・性格”とやらが合えばまだ話は変わるのだが」

上条「相性の問題……みたいな感じ?」

マタイ「そうだな。儀式魔術であれば”式”を書き換える事で流用は出来る」

マタイ「アテネ神を崇めていたパルテノン神殿が、後に十字教や回教の聖堂として利用されたように可能は可能なのだが……」

マタイ「今まさに運用中の魔力へ干渉したり、別の目的のために遣うのはあまり例が無いな」

上条「インデックスは割と簡単にやっていた気がするんだけど?しかも魔力無しで」

マーリン「猫に育てられとぉ虎は大きゅうなっても自分は猫やと思うんやってな。人んちで飼ぉた犬も同じや」

マーリン「誰も彼もが真実をそのまま教えるとは限らんし、相手が子供やからって事実を話すとは限らんよって」

上条「何の話……?」

マーリン「あ、独り言やさかい気にせんとぉいてぇな。記憶を吹き飛ばされた相手が”竜”なんてぇのは偶然に決まっとぉやん、いややわー……ま、それはエエとして」

マーリン「現実問題、全然の別モンをどぉこぉしよ言うんは無謀やけども、同属性を利用した介入なりは、理論上可能っちゅー話やね」

上条「あ、なんだ出来るんだ」

マタイ「魔神セレーネが持つ属性、相性、人格、性格……とにかくそういったものは……そうだな」

マタイ「『夜』、『王』、『月』……これならばまだやりようはある。難しいが不可能ではない」

マタイ「だがしかし――『死して永遠に夢見る』。この特性はセレーネ特有のものであり、これに合わせるのは至難の業だろう」

マタイ「……仮に探し出したとしても、ヒュプノスまたはクトゥルーの魔術師……まともではないだろうしな」

上条「そんな……マタイさんでもなのか……?」

マタイ「私は十字教全般を嗜み程度にしか修めておらん。ギリシャ系魔術は知識として持つに留まっているだけだ」

上条「レディリーは?レディリーならきっと!」

レディリー「私は可能ね……ただアリサを助ける力にはなれても、龍脈そのものをどうこうするのは無理かしら」

上条「ギリシャ系の魔術師なのにか?」

レディリー「教えてあげるわね。使用可能な魔術が”一つの神話系体系全て”って言うそっちのボーヤが異常なの」

レディリー「私の魔術の特性は『予言巫女』なのよ」

レディリー「神託を得、未来予知を行い、助言を与えるのは得意でも、具現化した魔神相手に正面切って相手取る自信は無いわね」

レディリー「だから――そうね。アリサに関しては、タルタロスの門を開くぐらいしか手を貸せないけれど」

上条「タルタロ……?」

レディリー「ギリシャ神話の”冥界”。竪琴弾きのオルフェウスが死んだ妻を迎えに行った、あの世よ」

レディリー「一説に拠ればオルフェウスは我が託宣の神の息子であるとも言うし、そりぐらいは、ね」

上条「冥界……別位相の世界って事か?」

レディリー「本来はそうなんでしょうけどね。けれど”位相の力=龍脈”説に拠るのであればまた意味は違ってくるのよ」

レディリー「別世界が存在せず、ただ龍脈の中に力と記憶が蓄積されているのなら、”誰か”がそこへ行ってアリサ――」

レディリー「――『鳴護アリサの存在』をこちらへ引き上げる必要があるわ」

レディリー「まさかとは思うけど……ここまで来てダダを捏ねたりはしないわよね、お・う・じ・さ・ま?」

上条「当然だ。アリサには直接会って言いたい事が溜まってるんでな」

レディリー「私が手を貸せるのはその程度かしらね」

上条「いや充分だよ。アリサを迎えに行けるんだったら、合流してからセレーネを殴ればいいんだよな?」

レディリー「簡単に言うわね」

上条「問題は魔神が引っ張って来てる二つの龍脈だよな……でもまぁアリサを連れ帰るのはなんとか目処が立った訳だしっ!」

上条「……いよっし!何とか勝ち目も見えてきた!みんな、ありがと――」

レッサー「ジャストアモーメンッ!!!お待ち下さいなっ上条さんっ!嗚呼上条さんっ!」

レッサー「シメの台詞へ入ろうとしている所で恐縮ですがっ!誰か大切な人をお忘れではないですかねっ!具体的には――私とか!」

上条「あ、ごめんな?今少し立て込んでるから、もう少しだけ待ってて、な?」

レッサー「止めてくれませんか?そのネタ抜きに問答無用で子供扱いするの止めてくれませんかね?」

上条「いやいや、俺知ってるもの。マタイさんやレディリーと違って、『新たなる光』は散々共闘してきたじゃんか?」

上条「ベイロープは……”角”」

ベイロープ「『知の角笛(ギャッラルホルン)』よ」

上条「フロリスは背中の”翼”」

フロリス「『金の鶏冠(グリンカムビ)』ジャン?」

上条「ランシスのは”爪”」

ランシス「……『死の爪船(ナグルファル)』」

上条「んでもってレッサーが”尻尾”」

レッサー「『高く駆ける者(グネーヴァル)』ですな」

上条「どう考えても北欧神話メインじゃなかったのかよ」

レッサー「……ふっふっふ!”ふ”が三つ!」

上条「すいません、そろそろベイロープさん任せちゃって構いませんかね?」

レッサー「丸投げ良くないと思いますっ!上条さんのお仕事はツッコミなんですから自覚を持って下さいなっ!」

上条「だからお前らって北欧神話メインだろ?だったら……」

上条「……あれ?おかしくねぇか、それ」

レッサー「ようやっと気付いて頂けたようで幸いです!つーかこのままハブられたどうしようかと思いましたが!」

上条「お前らの先生、つーかマーリンさんなんだよな?だったら教わる魔術も――」

レッサー「神の配剤といいましようか、それとも見えざる手が働いたのかは存じませんが、最期の最期で面目躍如ってカンジでしょーかねぇ」

レッサー「やはり”これ”は『私達の物語』だったってだけの話ですか、えぇはい」

上条「レッサー……?」

レッサー「私達にとっちゃ北欧神話ってのはブラフでしてね。本来得意としている魔術を、ただただ北欧式にアレンジして見せかけてるだけなんですよ」

レッサー「ご指摘にあった四人が持つ霊装にした所で、元を辿れば『一つの霊装をバラした』ってシロモンですしねー」

レッサー「あまりにも今の私達の手には余るんで、わざわざ別の役割を持たせた上で管理している、ってだけの」

マーリン「まぁ自分らにネタバレさすんのもアレやろし、ワイから紹介させて貰うとや――」

マーリン「ウチの子ぉらは”Rex Quondam Rexque Futurus”――『The Once and Future King(かつての、そして未来の王)』――」

マーリン「――王冠を。一度はその栄光を戴いたんやけど、戦さ場にて命を散らした騎士達、そして――」

マーリン「――未だアヴァロンにて死すら超越しながら眠りについとぉモノ――」

マーリン「――ブリテンに仇なす敵が現れとぉたら再び戴冠する。それは――レッサー、アンタの魔法名名乗りぃ」

レッサー「でわでわ改めまして、ご紹介ありがとうございますっレッサーちゃんですが、その名もなんと――」

レッサー「――魔法名、『Arthur829(永劫の旅路の果てに再び戴冠する王)』」

マーリン「今代のアーサー王やんね。うん」

上条「…………………………は?」

――倉庫

レッサー「どうですかっお客さん!ここへ来て我ら『新たなる光』の株は大高騰!一躍ヒロインへ躍り出ましたよっ!」

レッサー「折角魔神が出て来たって言うに!このまま『あ、あれまさかあの術式か……ッ!?(掠れ声)』要因になるかとヒヤヒヤしていたんですが!」

レッサー「シ○の暗黒卿や合法塩漬けロリババ×が出てきてさぁ大変!戦力的には雷○役に収ま――あのぅ、ちょっといいですかね?」

上条「うん?……あぁ、熱はないようだな」 ピタッ

レッサー「先程から何故に上条さんは私の額へ手を当ててらっしゃるのかと――はっ!?」

ランシス「……知っているのか○電……!?」

レッサー「うむ!これはもしや極東の島国で行われている求婚の儀式、”KABE-DONG”の亜流!」

レッサー「ルート確定したエロゲー&乙女ゲーでよくある、”DEKO-PITA”に違いない……ッ!」

上条「しっかりやってんじゃねぇ雷○役。しかも確かにデコ熱計りはそういうシチュで使われるけどな!」

上条「……や、そうじゃない、そうじゃないんだよレッサー?うん、お前はよくやってくれたんだ。俺はそう思ってる」

上条「だからな、こう、取り敢えずはこの戦いが終わったら精神――じゃなく心療内科行こう、なっ?」

レッサー「優しくしないで下さいよ!つーか多分旅が始まって初めてマイルドな対応がこれですかコノヤロー!」

レッサー「でも、そういう所キライじゃないですっ!結婚して下さいっ!……ブリテンのためにっ!」

ラシンス「(あ、ヘタレッサー日和った……)」

マーリン「(身体的接触に耐えられなくなっとぉな。初心やんねぇ)」

フロリス「(あーあ。ここでギャグに走るってどんだけ)」

ベイロープ「(しっ!聞こえるわよ)」

レッサー「しっかり聞こえてますからねっドチクショー!てか私の味方は居ないんですかっ!」

上条「まぁ冗談はともかく、心の病は現実を見つめ直す所から始める必要があるぞ?だから、一歩一歩着実にだな」

レッサー「ですから人をキチガ×扱いは止めて下さいな!違いますから!そーゆーんじゃないですから!」

レッサー「確かに!私はアーサー名乗りましたけど、別にそれは生まれ変わりとかアーサー王の子孫とか中二病拗らせたんじゃないですからねっ!」

上条「お前も相当ヒドい事言ってるんだが……それじゃ何?ただ魔術として、アーサー王系魔術師って意味なのか?」

レッサー「広義としてはそれで合っていますけど、狭義に於いてはその通りではないですかねぇ――」

レッサー「――より正しくは『英霊の特徴を人工的に移植した』魔術師です」

上条「人工的に?」

レッサー「えぇと『位相の力=龍脈』論、これは実はそれなりの認知度があったのは確かなんですけどもー」

レッサー「それを実際に移したのがそこのもふもふ、我が師マーリンなんですね」

マーリン「おおきにっ!まいどっ!」

上条「……てかこれ、何?UMAみたいな謎生物なの?それとも霊装の一種?」

レッサー「魔力を感じますし、自我っぽいのがあってに学習もしますからね。少なくとも私達レベルの魔術師を導ける以上、ただのホラ吹きではありませんが」

レッサー「ま、それはともかくこのもふもふは自称1000年前からその理論に目をつけ、実践してきたらしいんですよ、はい」

レッサー「そうですねぇ……『聖人』って居ますよね。イギリス清教の神裂さん、『神の右席』のアックア、王室派のメイド聖人」

上条「やだ最後の超見たい」

レッサー「上条さんならばお分かりでしょうが、彼ら・彼女らは先天的な性能に満ち溢れた存在であり」

レッサー「並の魔術師では到底叶わない高みにあると言えるでしょうなー」

上条「それが”才能”ってんだから羨ましい限りで。神裂も堂々としてりゃいいのな」

レッサー「で、その聖人がどうして天賦の力を行使出来るのかはご存じで?」

上条「えっと、あー……ごめん。説明されたかも知んないけど憶えてねぇわ」

レッサー「十字教に関しては『神の子に似た身体的・魔術的特徴を持っている』のが条件ですかねぇ」

レッサー「例えば聖痕であったり、特異な生まれであったり――日本にも古くは『厩戸御子(うまやどのみこ)』という方がいらしたとか」

レッサー「ま、そちららその筋のプロが居ますんで、興味があれば訊ねるのも宜しいでしょうが――さて!問題はここからです!」

レッサー「『聖人』とは強力無比な魔術師。現代兵器が台頭する中ですら『核兵器よりも始末が悪い』と言われる程の存在ですよ」

レッサー「当然、『”聖人”になろうとした魔術師』も居てもおかしくありませんよね?ねっ?」

上条「なろうとした?」

レッサー「聖人を聖人たらしめているのは『神の子の特徴に似る』という一点」

レッサー「またアックア氏のような、史上最大の聖人である『ベツレヘムのマリア』の加護も受けた二重聖人であり――」

レッサー「――これは『聖人に似るのも聖人としての資格を得られる』裏返しでありますなー」

レッサー「そしてまた当然、十字教の魔術は今日も平常運転をカマしやがっているので、十字教の位相世界が存在するのも確定」

レッサー「私達の世界とは僅かにズレた世界があり、そこに存在する”神の子”と似た特徴を持つが故に力を得られる……と、ここまではよくある話です」

レッサー「ま、聖人的なものを量産するお話は古今東西からたまにあったらしく、そしてまた例外なく成果を出せずに歴史の闇へ消えていきました」

レッサー「ローマ正教さん辺りは何か情報を持っているでしょうが、少なくとも今まで量産が確認されていないため、失敗してるんでしょー、ねぇ?どうです?」

マタイ「黙秘する」

レッサー「そんなこんなで聖人は聖人だけが独占していたんですが――そこへ先程も言いましたが、『位相の力を龍脈ではないか?』と思ったキチ――我が師ですな!」

マーリン「レッサー、後で少しお話しょか、うん?」

レッサー「位相の力の根源とされているものが、実は龍脈の記憶であり、私達魔術師はそこへアクセスしているに過ぎない、という”仮説”」

レッサー「もしその仮説が正しいのであれば、『聖人が聖人たり得る絶対条件、”神の子”と似るとはなんやの?』と思いました」

レッサー「でー、まー、なんだかんだで試行錯誤を繰り返した結果ー、擬似的に『聖人のようなもの』を造り出す事に成功します」

レッサー「それが『初代アーサーを含めた私達』と相成ります」

上条「……理論、飛びすぎてないか?」

レディリー「擬似的な聖人……もしかして『記憶』かしら?」

レッサー「せいかーいっ!流石は合法ロ×!」

上条「合法の時点で×リじゃねぇよ」

レッサー「そして流石はペ道を究めんとする男!『犯罪じゃないと燃えないんだぜ!』と宣う男らしさに痺れないし憧れもしません!」

上条「人の発言捏造すんな!あとそのペ道は一方通行で戻って来れない修羅道だなっ!」

レッサー「上条さんの性癖はともかく、マーリンは『龍脈から力を引き出すのには、対応した記憶を用い検索している』との自説を立てます」

レッサー「よって彼が取った方法とは――」

レッサー「――『龍脈の記憶を魔術師へと書き込み、魔術の行使をより容易にした』と……ま、具体的にはどうしたかって言えばですね」

レッサー「『円卓の騎士として戦った記憶を持って』いるんですよ、私達はね」

今週の投下は以上となります。お付き合い頂いた方に感謝を

長かった魔術云々の今週でほぼ最後。ようやくヒロインの出番が……!

久々に炸裂した、上条節……

いいね。ヒーローはやっぱり、こうでなくっちゃっ!!!

すげー もうレッサーのあだ名はセイバーでいいな

乙乙!とりあえずレッサーが可愛いw

アーサー王……ペンドラゴン……竜の頭……

もふもふ(センセ)って、構造的にはアリサと同じ感じなのかな?
上条にもふもふもふっ(セクハラ)されたけど、消えたり苦しがったりしてないし。
あと、着痩せしてました上条さん?

ロンドン史上最悪の盗難が先日発生したらしい 被害額は360億円だってさ 大丈夫か?

何週か前の話題ですみません。

常夜(バレンタイン)で、上条さんの夢が、みさきちを(ほぼ)完全に再現してたけど。

 1.上条が深層心理で食蜂を憶えていた。
 2.操祈の夢と当麻の夢が深い所でシンクロしていた。
 3.「龍脈の記憶」から汲み出していた。

考えられる理由としては、こんなところか。
なんにせよ、目覚めた後も上条がこの夢を憶えていたら……嬉しいなあ。

>>713>>717
ありがとうございます

>>714
シャットアウラ「オービット・ポータルは社畜を求めている!諸君らの成績次第ではアリサ直属になる事も可能だ!」
シャットアウラ「ただし!最低でもアリサが信用した相手で、守れるだけの胆力があればな!」
シャットアウラ「身体的にはダブル・デカスロン(二十種競技)で私以上のスコアを叩き出せば、口は出さない」
シャットアウラ「ちなみに私はワンデイデカスロンで、フル装備を背負いながら男子メダリスト並のポジションにいるが」
シャットアウト「加えて出さないのは口であって、手足はまた別だな?」

>>715
「異能を行使出来るには10年かけてセッティング」(byバードウェイ)ですが、その基礎となる概念自体、神話体系だけであれば半日で終わります
神話や民話にも科学と同じくセオリーがあり、そこを抑えていけばある程度は対処出来るようになります。所謂”類型論”
神話での『英雄・蛇・鋼・姫』、後民話では『○○譚』と呼ばれる物語の雛形を憶えれば、後は他の国の他の神話でも通用します

ただ問題として、とあるの世界の魔術観は既存のそれ(※現実世界であるとされていたモノ)とは違い、
”ミョルニルに接続してアーク溶断ブレード”→数分で手足ボロボロ
”旧全能神トールのアレがアレして必ず勝てる位置に瞬間移動”→グレムリンの主要メンバー殲滅しても余裕
という神話原典を考慮しない仕様。しかも私が調べた限り「トールにそんな性質ねぇし、精々農耕神か天候神だろ」的なツッコミが

>>716
レッサー「やめましょう?それ本気で広まったら恥女としてのイメージが台無しじゃないですか!」
フロリス「お前は恥女のドコに誇りを持っているんだ?あ?」

>>718
マーリン「そのフラグはもぉ立っとぉ――や、いたたたゴメン?ちょ、冗談やからね?」
レッサー「主人公補正がかかっています。別名”中二病”」

>>719
――ある日の『新たなる光』アジト(ラクロス研究会・部室)
フロリス「つーかさ。前から思ってたんだケド、ベイロープって彼氏作らないの?」
ベイロープ「……知ってるでしょう?敬遠されてる、っていうかさ」
ベイロープ「どっかのおバカが『許嫁と引き離された悲劇のヒロイン』って噂を流してくれやがったせいで!」
レッサー「な、なんてヒドい事を!よーしそんな外道にはブリテンに替わって私がオシオキしますから!」
ベイロープ「だ・か・ら!噂を流した元凶が!」
レッサー「ヘルーープ!?レッサーちゃんのケツはprprするもんであって引っぱたくのは説明書には載っていませんよ!?」
フロリス「部室で盛るなレズ二人……や、ま、あれジャン?ワタシらも悪いっちゅーかさ」
フロリス「もふもふが頼りになんない分、ベイロープに頼りっぱでアレかなーと」
ベイロープ「ん、あぁ別にいいのよ。あなた達の面倒看るのも勉強だしね」
レッサー「そうだっ!良い事考えました!」
レッサー「私達ベイロープが彼氏作るまで抜け駆けしないってのはどうです?自嘲的な意味で」
フロリス「あー、いーねソレ」
ベイロープ「……ま、一人前の魔術師になる前に抜けられても困るし、私は当分彼氏なんて作らないわよ?」
レッサー「じゃいいじゃないですか!それで決定!女同士の友情フォーエバー!」

ランシス(モノローグ)「……この後、少女達が同じフラグを立てられる事になろうとは思いもしなかった……ッ!!!」
マーリン(モノローグ)「女同士の友情!プライスレスやんね!(=一円にもならない)」

――倉庫

上条「記憶を……?」

レッサー「えぇまぁ、円卓の騎士として戦ったという記憶が。どうにも曖昧ですし、実感は余り湧いていないんですが」

上条「何か危なそうな響きなんだが、大丈夫なのか?」

レッサー「やっだなぁ上条さんっ!当たり前じゃないですかっ!」

上条「だ、だよな?」

レッサー「危なくない訳がない、に決まってますよ」

上条「――え?」

レッサー「獣化魔術って憶えてます?こう、ケモナーに大人気な?」

上条「日本だけな?しかも特定の球団ファンだけだよな?」

レッサー「最近は一般ユーザーにまで着実に裾野が広がっているようですし、聖書にもノアさんという元祖ケモナーが居ます!」

レッサー「ま、あれのウンチク――てか、『どうして獣化すると正気を失うのか?』で、推論出しましたよね?色々と?」

上条「確か……安曇は『人間の本質が獣』で、俺の想像が『ハードウェアのエラー』って感じか」

レッサー「『人間の脳では獣の肉体を制御しきれない』でしたよね。ですがそこから踏み込みます」

レッサー「獣化の最終形態は”獣”へ転ずる事そのもの。ま、狼だったり熊だったり、エルクやバッファローへと姿を変えるのが究極なんだそうですよ」

レッサー「ここら辺はネイティブの精霊魔術と祖霊呪術を参考にどうぞ……てか、不自然だと思いません?」

レッサー「何故、心身共に獣へ転じたのに生きているのか、と」

上条「えぇと……?」

レッサー「今の化学では人の脳味噌を他の動物へ移植出来ません……ま、狂った超科学の学園都市でも無い限りは、ですが」

レッサー「同様に近親種であっても頭脳を取り替えるのは出来ないんですよ。科学サイドでは、ですが」

レッサー「何故なら『脳が他種族のフォーマットとは違うから』です」

レッサー「しかし魔術サイドでは獣化を用いれば哺乳類はおろか、爬虫類や両生類へなる事は出来ます。脳の規格は違うというのに、どうして?」

レッサー「一体どこをどうすれば、人の脳でも異なったフォーマットに耐えられるんでしょうね?不思議パワーでちょいちょと、的な?」

上条「――もしかして、それも――”記憶”かっ!?」

レッサー「えぇはい、ぶっちゃけ獣化魔術も『龍脈から動物の記憶』的なものを取り込んでるんじゃねぇかなーと」

レッサー「四足歩行の仕方、牙の使い方、目の見方……そう言った様々なものを、クラウドみたいにインストールしてるんではと」

レッサー「ユングの『集合的無意識』はご存じですかね?」

レッサー「『人間の無意識の奧底に人類共通の素地、つまり集合的無意識が存在する』と宣ったオッサンです」

上条「なんだっけかな……『世界の神話に共通項が多いのも人類が繋がってる』とかなんとか……ゲームの知識だけどさ」

上条「古今東西、太陽の神様が一番偉かったり、生死の概念がどこでも似たり寄ったりしていたり、とか」

レッサー「ま、文化人類学的には概ね否定されているんですが――ここで一ぉつ!私達の世界に魔術は歴然と存在しますっ!」

レッサー「人類のまほろばから、言ってみれば槍持ってウホウホ言っていた時代には儀式魔術の跡が確認されているんですよ!」

上条「ニュアンスがアレだけど……それで?」

レッサー「いや、ですから『その頃から龍脈使ってたから、イメージが均一化したんじゃね?』ですかね」

レッサー「アフリカで太陽崇め始めた部族が居て、当然位相世界――”と、言う名の神話の記憶”が龍脈へと刻まれます」

レッサー「その記憶が呪術師と呼ばれていた魔術師、また上条さんのやアリサさんのような龍脈使いによって『知られる』と」

レッサー「シンクロニシティ――これもまたユングによって提唱された説であり」

レッサー「『人類は集合的無意識下で遣り取りしている。従って世界各地で同時多発的に似たようなムーブメントが起きる』的な?」

レッサー「都市伝説なんかそうですよねー。あっちもこっちも似たようなお話はありますしー?」

上条「……それが、アーサー王伝説とどう関係が?」

レッサー「えぇ、ですから『アーサー王物語も都市伝説の一つ』なんですよね、はい」

上条「……は?何?ごめん、意味が分からない」

レッサー「『ブリテンにアーサー王という王は居ない』んですよ。大切なのでもう一度言いますが『アーサー王は居ない』と」

上条「や、でもさ!」

レッサー「少なくとも遺跡の類、また聖遺物も残されては居ませんしー。何と言ってもアーサーが戦った”と、される”ローマ皇帝」

レッサー「ルキウス=ティベリウスという皇帝は存在しません……あ、モデルになった方は居ますけどね」

レッサー「ですが――『アーサー王は在る』んですよ」

レッサー「古くは5世紀ぐらいに確認されており、広まったのは9世紀。そして爆発的に認知されたのは12世紀まで待たねばいけませんが」

レッサー「『ブリテン救国の英雄』、『最初にして最後の王』、『聖剣王』……そう、様々な伝説や逸話を持ち、二つ名をほしいままにし」

レッサー「円卓の騎士と呼ばれる勇壮無比な騎士達を持つ偉大な王――」

レッサー「――という『伝説が在った』」

上条「……」

レッサー「時に上条さん。日本の英雄ヤマトタケルの伝説はご存じで?」

上条「草薙の剣がどーたら、ぐらいしか知らない、けど」

レッサー「逸話はダース単位で残ってるんですが、まぁ一例を挙げますと――」

レッサー「――兄を殺し熊襲建兄弟を女装して殺してヤマトタケルの号を貰い出雲へ行っては出雲建と太刀合わせした後に意味も無く殺し草薙剣を貰って東征を命じられ草を払って何故か草薙剣を置いて伊吹山の神と戦い死んだ――」

レッサー「――って感じです。まぁ英雄譚としてはベーシックなもんですが――」

レッサー「――さて、これ『一人』で出来ますかね?」

上条「出来る、んじゃねぇのか?だって神話の話だろ?だった盛られてても仕方がないっていうかさ」

レッサー「全部がノンフィクションだとは言いませんがねぇ。それでも不思議だとは思いませんか?」

上条「どこがだよ?」

レッサー「車はおろか、街道すら満足も整えられていない時代にどうして一人が活躍出来るんです?無理ですよね?」

上条「神話だろ?少しぐらいの矛盾は――」

レッサー「いえですから。神話ってのは少なからずその当時の史実を含んでいるんですよ。ある程度はね」

レッサー「なので何割は似たような事実はあった。しかし一人の人物が成したのは不自然。以上から導き出される答えとして」

レッサー「『ヤマトタケルとは官名ではないか』という学説があります」

上条「官名?」

レッサー「人物の名ではなく、そういう役職があったと。荒事専門、暗殺誅殺を得意すると兵士でしょうかね」

レッサー「その人物が名乗っていたのが『ヤマトタケル』だったのに、後々それが人名として見なされていった、と」

レッサー「そしてお話は華麗にアーサー王へと戻るんですが、彼もまた似たような存在ではなかったのかと」

レッサー「彼の物語は強大な敵へ仲間と立ち向かい、そして死ぬ。たったそれだけの物語――」

レッサー「――王ではなく、権力や時には教会、異民族へ猛然と反逆し、死した英雄達――」

レッサー「――彼らの生き様、そして死に様が『アーサー王伝説として統合し、”アーサー”を創り上げた』んですよ」

上条「アーサーは一人じゃなかった?」

レッサー「はい。その当時、中世で起った様々な騎士物語が蓄積され、一つの形を取り、名前を得た」

レッサー「それがたまたまアーサー王でした」

レッサー「その証拠に――という言い方もどうかと思いますが――彼の仲間である円卓の騎士達も、元々は別の神話や英雄譚から来ています」

レッサー「例えば『双剣の騎士ベイリン』。彼はデンマークの英雄ベーオウルフをモチーフにした存在であり」

ベイロープ「……」

レッサー「はたまた『湖の騎士ランスロット』。彼はギリシャ神話の『冥界下り』をも内包する旧い英雄です」

ランシス「……」

レッサー「そして『淑女の騎士フローレンス』は――」

フロリス「……」

レッサー「――はいっ!てな感じでねっ!」

フロリス「ぶっ飛ばすぞコノヤロー」

レッサー「仕方がないじゃないですか!フローレンスはほぼ失伝してるんですから!」

マーリン「あれはガヴェインがクー・フーリンのルーツを持っとぉ以上、戦場でかち合わせた息子……や、ないんかなと思われとぉ」

上条「何?」

レッサー「ま!そんなこんなでアーサー王伝説も!人々の間に認知された以上魔術大系として存在するんですよ!何か文句でも!?」

上条「なんでキレてんだよ」

レッサー「――ま、このウチの先生が似たような術式を魔術師へ教えてきた、って背景もありますがね」

レッサー「……アーサーとは”希望”なんですよ。かつてガリアに支配され続けたブリテンの民の象徴」

レッサー「一度は全ての異民族を打ち払い、ブリテンに大いなる平和と統一をもたらした最初の王」

レッサー「……そして命潰えた後も、永劫に等しき時をアヴァロンにて死して眠り――」

レッサー「――再び我が国へ危機が訪れれば、甦って戴冠する最後の王……っ!」

上条「……なーる。お前が、お前らがアーサー王ってのは納得行かないんだが……」

レッサー「ちゅーかですね上条さん、ええ上条さん。なんでかなー?どうしてなのかなー?とか思いませんでしたか」

レッサー「『どうしてコイツらたかが小っさい魔術結社なのに、カーテナ・オリジナルの場所知ってんの?』とか」

レッサー「『ブリテン三大派閥の”騎士”派に賛同してんの?』みたいに」

上条「そこも”騎士”繋がりか……!」

レッサー「私もこのもふもふ、自称マーリンを怪しいとは思いましたけど、マジモンのカーテナ情報持ってた時点で『アタリ』ですからねぇ」

レッサー「そもそもあのクーデター未遂の思想、『王足りうる者が王座につく』って思想自体、私達寄りっちゃ寄りですな」

レッサー「それになにより、私は別にアーサー王が何であろうと、そして偽物であろうがなかろうが、知ったこっちゃないんですよね」

レッサー「この国を護り、戦う力があればホンモノであろうがニセモノであろうが、別にどうだっていいんですよ」

上条「それが――記憶を失っても?」

レッサー「失う、ってのも少し違いますかね。段々と混線してるだけですから」

上条「混線?」

レッサー「私が子供の頃、好きなものは山羊のチーズでした。知ってます?臭いチーズなんですが」

上条「聞いた事だけはある、けどさ」

レッサー「それ、実は”私食べた事が一度もない”らしいんですよ。笑っちゃいますよねー、あっはっはっはー!」

上条「……」

レッサー「えぇまぁこんな感じで、私がアーサー関係の術式や霊装を多用すると『書き換え』が進んでいくらしいんですよ。いやー、困っちゃいますよね?ね?」

レッサー「使いすぎると最終的に、龍脈へ溶け込んでいるアーサーの王の記憶と置き換わるそうですが……」

上条「……俺は」

レッサー「はいな?」

上条「俺は、どうすればいい?」

レッサー「別に何も?」

上条「助けて、やれないのかよっ!?」

レッサー「いやですから。直ぐにどうこうって訳ではないですし、魔術に習熟すれば記憶の侵食は収まるらしいですよ?」

上条「だからって!」

レッサー「――お待ちを上条さん、あなたは私にこう言わせたいんですか?こんな下らない事を私の口から言わせて聞きたいと?」

レッサー「――『私は私』ですよ」

上条「……ッ!」

レッサー「記憶が少々イカれようが、アーサーに侵食されようが、それは私が望んでした結果です」

レッサー「それにホラ!良い事だってあるじゃないですか!」

上条「良い事、なんか……!」

レッサー「私が力を持っているおかげで、アリサさんを助ける事が出来る。助けようとする事が出来る」

レッサー「世界中の人間がリタイアしてる中で、私達だけが望みを持てる――」

レッサー「――これ、ラッキーだと思いません?せんせん?」

上条「……」

レッサー「『夜』と『月』、そこからの帰還という属性に対しては『アヴァロンからの凱旋』」

レッサー「『死して永遠に夢見る』――もまた、『永劫の果てに戴冠する王』で代用可能……」

レッサー「それにアーサー王が眠る墓所には月である異説もありますし、丁度いいっちゃいいですかなー」

レッサー「つーワケで承りましょう。魔神セレーネが繋いでいる龍脈、星辰からのレイラインの乗っ取りとぶった斬りを」

レッサー「あ、私達こう見えても『斬る』事に関しては得意ですからご心配なく!」

レッサー「こう見えて割と有名な『聖剣』何本か持ってますんで!」

――倉庫 深夜?

上条「……」

上条(魔神セレーネへの対抗策を話し終わった俺達は、それぞれ別の部屋で仮眠を取る事になった)

上条(相変わらず時計は18時6分を指したままで停まっているし、あれからどれだけ経ったのかは分からない……)

上条(欠伸を噛み殺した俺を見て、『これ以上悪くなる事はまず無いでしょうしね』とレッサーが言い出してお開きになった)

上条(女性陣は仮眠室へ、俺は会議室で毛布一枚に包まっている)

上条(マタイさんは……うん、あれだよ。今この部屋には居ない)

上条(『少し露払いをしてくる』ってね、うん。なんでも『ショゴス』が姿を変えたザントマン?的なものが徘徊してるんだとか)

上条(……大きい鎌持って黒いローブ着て……どう見ても死神です、ありがとうございました)

上条(夜中コンビニ行く時に出会ったら泣いて謝るわ!もしくは『あ、お迎えが来たな』って覚悟決めるわ!)

上条(本人曰く、インデックスの着てた”歩く教会”と同系統のローブなんだそうだが、俺触ったらハニーフラッシ○すんのかな?)

上条(……まぁいいや。元気なじーちゃんで)

上条「……」

上条(話し合いも一応はまとまった、と思う。ある意味完璧だと言える……ッ!)

上条(1.まず全員で乗り込みます)

上条(2.状況に応じてガンバレ!あ、なるべく死なないように!命は大事だよねっ!)

上条「……」

上条(……突っ込まないで上げて!?だってこれ以上決めようがないし!)

上条(俺がレディリーの術式かけて貰って、何か冥界下りをするのは確定)

上条(と、同時にレッサー達が”X”の魔術をかけてセレーネと龍脈の切り離しにかかる……本人曰く、斬り離し、だそうだが)

上条(その間、マタイさんとマーリンさんはセレーネとアルフレド達の相手……)

上条(……簡単ですよねー……言うのだけは)

上条(決まってるのはこの倉庫じゃなくあっちの光の柱の近くで、要は龍脈のより側でやった方が成功率が上がる――)

上条(”かも知れない”ん、だそうだ。あくまでも楽観的予想に基づく判断……いやまぁ、何となくは分かるけどさ)

上条(どんだけ細い綱渡りをしようとしているのか、その高さはどれくらいなのか、そう俺は聞くだけ聞いてみた)

上条(『考えるな!感じるんですよ!』と、不死身の病人もビックリの精神論が帰って来たが……)

上条「……」

上条(話し合いはまとまった、というか強引に押し切られた、つった方が正しいのか)

上条(目的があり、解決方法がある、だからする。それだけの話なんだが)

上条(レッサーたちの話を聞いて、どうにも後髪引かれるっつーか、納得しがたいって言うのか)

上条(”覚悟”決めてる相手に俺が文句つけるのは……いや誰だってそうか)

上条(グレムリン――”元”グレムリンの魔術師トール。フロイライン=クロイトゥーネん時に共闘した)

上条(善悪に拘らない――言っちまえば『そんなのどうだっていい』ってあっさり切り捨てるような連中と違って、気のいい奴だった)

上条「……」

上条(……いや、今にして思えばそれも何か違うのかな?たまたまアイツが気に食わないから、ってだけでさ)

上条(まぁけど、トールみたいな自称グレムリンのナンバーツーであっても、”代償”を支払ってる)

上条(溶断ブレード?だかって伸ばした光の筋、『右手』でも消せない程の出力の術式……)

上条(何でもかんでも焼き切る、超々長いバーナーだったが……それも自分自身の出力じゃ耐えきれないらしく、両手はベッキベキに折れてた……)

上条(なんとかかいくぐってワンパン入れたけど……その後、ワッケ分からない一発貰って俺はダウン。トールじゃなかったら確実に殺されてたが)

上条(全能神のとしてのトール、だっけか?……普通の雷神トールですらそんだけの代償支払ってんだから、きっと相当なモノなのは間違いない)

上条「……そう考えるとオティヌスもどうなんだろうな?魔神って言われるぐらいの魔術師になるためには、一体何を捧げたんだが――」

上条「……」

上条(人は生きるために色んなものを犠牲にしている、とは言う)

上条(食べ物を最初に、次に衣服や住居、そして大抵『それら感謝しなくてはならない』って結論へ落ち着く)

上条(それ自体は尤もだし、同意するのは当たり前だが……でも同時に、誰かは何かを犠牲にしてる)

上条(生きていくためにはお金が必要。だから労働を対価に差し出す。これは、正しい)

上条(親が子を育てる――最近は違うって人も居るみたいだが――のも、これも正しい)

上条(国が国家を維持するため、公共の利益を行うために国民へ負担を求める。それもきっと正しいんじゃないか思う)

上条(……けど、さ)

上条(レッサー達、俺の知り合いやら友達が、体張って戦うってのか、なんか、納得がいかない)

上条(インデックスの時、御坂の時、姫神の時、シェリーの時、一方通行の時、オルソラの時、アニェーゼ達の時……)

上条(どの時だってこの世界は俺達に優しくなんかなかった。誰かの、何かの思惑で振り回されたり、押し潰されそうな奴は居る)

上条「……」

上条(……でも。だからこそ俺は”でも”という言葉を使いたい)

上条(世界の犠牲になってる奴が居る。悲鳴すら上げられないで、身を縮こませている子供が居る)

上条(”でもそれを助けるために戦わなきゃいけない”ってのはあるのか?)

上条(あぁいや。俺一人だったら何も考えずに突っ込むさ。今までも、そしてこれからも)

上条(……ただ、俺の知り合いが傷ついてまで、ってのは正直見ていたくはないんだよなぁ……)

上条(誰かが傷つくんだったら俺が傷つけばいい。誰かを囮にするんだったらば俺がなればいい――)

上条(――と、バードウェイに言ったら頭イタイ人扱いされたが……まぁ、本音ではある)

上条(俺がすり減る分にはいいんだ。それは”覚悟”しているからな。だけど……)

上条(俺と同じように、”覚悟”を決めた連中が居て、そいつらが俺みたいに突っ込んで、苦しんで、とてもじゃないが見合った対価を得られない、ってのは……)

上条(……見ていて、とても辛い)

上条(だから俺は一人でロシアへ向かったんだし、バゲージもそうした。学園都市で一緒に走ったのもトールだけ……)

上条(……一人で抱えきれる問題なんてたかが知れてる。何でもかんでも一人でやろうなんてのは無謀だ。分かってる)

上条「……」

上条(……今、こうしている間にも。ほんのささやかな眠りが一時中断しているだけで……)

上条(理不尽な世界に押し潰されそうとする人間は確実に居るだろう……そんな確信なんてしたくはねぇんだけどさ)

上条(そうすると、誰もがずっと等しく眠り続けるのは『祝福』で間違いない、か)

上条「……」

上条(生きてれば嫌な事なんざ分単位であるし、どっかへ逃げ出したいって思う事もしょっちゅうだ)

上条(……ロシアから帰って来た俺を待っていたのは、小萌先生の怒濤の補習地獄……!あれは思い出したくもない!)

上条(……や、流石に俺のしょーもない悩みと一緒にするのはどうかと思うが、うん)

上条(って事はもないのか?誰でも”日常”って現実と戦ってる訳だし、他人にすれは笑っちまうような事でも、当事者は大真面目だったりするしな)

上条(だからアリサが”消え”たのも理解も出来るし共感も出来る……はいそうですか、って受け入れられるのは論外としても)

上条「……」

上条「……夜、早く明けねぇかなぁ……」

――常夜 『光の柱』近く

マタイ「……」

アルフレド「『月がキレイですね?』」

マタイ「あれ程不自然な月の光に感慨を覚えはせんよ。不気味以上の感想を持たん」

アルフレド「やだネタにマジレスされてる!」

マタイ「その手の台詞は好いた相手に言うのが佳いであろうな。この世界に居れば、だが」

アルフレド「違いねぇ。てかようこそ前教皇猊下、わざわざ足をお運び恐悦至極に存じます」

マタイ「正しくは『名誉教皇(Papa emerito)』であるな。表面だけの礼儀などいらぬ」

アルフレド「つーかあんたの後任大丈夫?同性愛の肯定とアルメニア人虐殺持ち出して調子ぶっこいてるけどさ」

アルフレド「他に人居なかったの?あんなゴミみたいな野郎じゃなくてさ」

マタイ「佳い。失敗し失望となるのであればそれもまた佳いであろう」

マタイ「十字教とて聖人も居れば狂人も俗物もその幾倍もおったわ。気を急いだ若者に振り回されるのも、時として必要な事である」

マタイ「木についた虫を焼き殺してはならん。枝を振って落とすのが最善であるが故に」

アルフレド「……おー怖ぇ。俺達は狂ってるが、あんたらもどうしてるわ」

アルフレド「アレだろ?要はバカ一人、Goatをモルグへ送ってマナ溜める、みたいな話だろ?エゲツねー、ローマ正教エゲツねーわ」

マタイ「たかが一代の失敗如きどうという事も無し。我らローマ正教は最初の信仰の徒よ」

アルフレド「……でっすよねーっ!反シオニストの一番前で旗振ってたのって十字教ですもんねーっ!分かりますっ!」

アルフレド「リメンバー魔女狩りにリメンバー奴隷狩り!ブレない十字教さんマジかっけぇっ!」

マタイ「否定はせんさ。それが我らの歩いてきた道であるからな」

マタイ「――が、過去に過ちをしたからと言って、今この場に於いて正義を行わない理由はならんな」

アルフレド「ヒデェな。俺達はただ親切でやってるってだけなのに」

マタイ「そこだ。そこが分からんのだよ、貴様らは何が目的だ?」

マタイ「『世界を滅ぼす手段がある』――そう、これ自体は珍しくもない。フィクションに限って言ってもよくある話だ」

アルフレド「だなぁ。どっちかっつーと冷戦中の映画でよくある展開――きっと、これから”は”増えるだろうがね」

マタイ「なので『世界を守りたければ』と言って脅迫するのが常であろうな」

マタイ「が、貴様らは何もしない。なんの警告も無しに世界を滅ぼした。何故だね?」

アルフレド「え、なに?マジで聞いてんの?うわっ!マジか!」

マタイ「驚くような話ではないと思うがな」

アルフレド「だってさ!フツー聞かねぇじゃん?だって言ったら対策立てられちまうし!」

アルフレド「アレだよな、何かラノベで敵と戦う事になって、『ふはははは!この攻撃はナンチャラカンチャラの神の力を~』って言うかい?」

アルフレド「どう考えても頭にエラー抱えてるかバッファが足りねぇと思うんだが、どう思うよ?、なぁ――」

アルフレド「――『団長』ッ!!!」

団長『はっあーーーいっ☆』 グォンッ!!!

マタイ「――」 パシッ

団長『――い?』

マタイ「『”――AMEN(かくあれかし)”』」

ヒュゥンッ

団長『い、いっいっいっいっいっいっいイイイイイイイイイイイ……ッ!?』

アルフレド「……え、一撃……で?」

マタイ「流石は『ジョン・ポールの断頭鎌』。鉄仮面ごと斬れる……」

マタイ「……あぁ、それともこの仮面自体がどこかの為政者がつけていた物なのかね?」

マタイ「だとすれば相性としては『簒奪する者への反逆』を持つ、この鎌では少々オーバーキルだったかな。残念だと言えよう」

アルフレド「これが、教皇級かよっ!?」

マタイ「ん?あぁいや、そういう訳でないのだよ。アルフレド=ウェイトリィ君、それはきっと君の勘違いだ」

マタイ「ここで少々暴れても誰も死なぬ。我々の破壊に巻き込む事も巻き込まれる事もないのだよ」

マタイ「そう言った意味では貴様らの売女に感謝しなくてはならないかも知れんな」

アルフレド「おーい。素が出てるぜ、元ナチスの対空部隊さんよぉ」

マタイ「失敬、子供達の目がないもので、つい」

アルフレド「てか俺は!?俺達だって善良じゃねーけど立派に生き――」

マタイ「――『ショゴス』なんだろう?」

アルフレド「――て、いるんですけど、って思ったりなんかしちゃったり?」

マタイ「貴様らの肉体は一度滅びた。復活出来ぬように、念入りに、何度も、灰にした上で、だ」

マタイ「が、しかし貴様はそこに居る。そこに在る。記憶もそのまま、以前と変わらぬ魔術を行使すらやってのける」

マタイ「だというのに『常夜』の影響下からは逃れられている。何か防御の霊装や、例外事項となっている素振りもない」

マタイ「かといって『全てに平等』である売女が、わざわざ貴様らだけ優遇するとも思えん。何か秘密があるのは明白であるな」

マタイ「なので、この夜の元でも活動している『ショゴス』ども――今はザントマンとなり、売女の眷属扱いなのかね。恐らくは」

マタイ「貴様らはそのショゴスで肉体を造り、龍脈からの記憶を複製された……といった所であろうな。違うかね?」

アルフレド「……マジすか。てーかこのジジイ現役の頃よりタチ悪いじゃねぇか!」

マタイ「最初は……そうだな。貴様らは龍脈から力を遣っていたのだろう?他の魔術師とそう大差は無いように」

マタイ「しかし運が悪かったのか、はたまた”ギフト”があったのか。貴様らは『祝福』を受けた。関わり過ぎのだ」

マタイ「『深淵を覗き込む者は深淵からも覗かれる』の、言葉の通り、貴様らも『月の魔術』の影響を受けすぎた。その結果行き着いたのが――」

マタイ「――『魔神セレーネの眷属化』。つまり生きながらにして彼女の思想を植え付けられた存在と成り果てた」

マタイ「ネットワークで繋がれた現代のように”意識の混同と統一化”を果した……どうかね?」

アルフレド「……」

マタイ「魔導を志す者が、悪魔の道へと足を踏み外す話はよくある。私も腐る程貴様……君達のような魔術師を見て来たよ」

マタイ「同情もしよう、哀れみも持とう、そして救済の手を君達へ差し伸べよう」 チャキッ

アルフレド「随分物騒な手ぇなんですけど!どう見ても凶器にしか見えないし!冷たく尖っててイヤラシイ!」

マタイ「手の冷たい人間は心が温かいと言うだろう?」

アルフレド「ナイス教皇級ジョーク!HAHAHAHAHAHAッ!」

マタイ「遺言はそれで佳いか?それともHAIKUを詠むかね?」

アルフレド「どっちもノーサンキューだ!……つーかまぁ、大体合ってるけど。観察力ハンパねぇぜ」

マタイ「隠す気も無くよく言う。どうせまたショゴスが居る限り、時間を置いて復活するのであろう?」

アルフレド「ん、まーそれも正解……では、あるんだが残念!あんたの推測は一つだけ間違ってるぜ?」

マタイ「ふむ?」

アルフレド「答えは無しだ!ヒントも無しだ!」

アルフレド「精々気がついた後に地団駄踏んで悔しがりな!」

マタイ「――もう佳いかね?君の後にもう一仕事しなければならん」

アルフレド「ここまで来てまさかの雑魚敵扱いっ!?」

マタイ「『”Dies ire, dies illa solvet seclum in favilla teste David cum Sibylla”』」
(怒りの日、その日はダビデとシビュラの預言は成就し世界が灰燼へ帰す)

マタイ「『”Quantus tremor est futurus, quando judex est venturus, cuncta stricte discussurus. ”』」
(審判者は現出し、全てが厳しく裁かれる。その恐ろしさは如何程か)

マタイ「『”Kyrie eleison. Christe eleison. Kyrie eleison. ”』」
(主よ、哀れみたまえ。神の子よ、哀れみたまえ。主よ、哀れみたまえ)

マタイ「『”Agnus Dei, qui tollis peccata mundidona eis requiem.”』」
(この世の罪を取り除く神の小羊よ。彼らに安息を)

マタイ「『”Agnus Dei, qui tollis peccata mundidona eis requiem.”』」
(この世の罪を取り除く神の小羊よ。彼らに安寧を)

マタイ「『”Agnus Dei, qui tollis peccata mundidona eis requiem sempiternam. ”』」
(この世の罪を取り除く神の小羊よ。彼らに永久の安らぎをを)

マタイ「『”Sanctus, Sanctus, Sanctus. Dominus, Deus Sabaoth. Pleni sunt celi et terra gloria tua.”』」
(聖なる、聖なる、聖なるかな。万軍の神よ、主よ。天と地はあなたの栄光に満ち溢れ)

マタイ「『”――Megiddo”』」
(――滅びの日よ、ここに)

アルフレド「まさか!?メギドのひか――」

――ヒュゥッ………………ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガカガガっ!!!

今週は短いですが投下は以上となります。お付き合い頂いた方に感謝を

マタイさん、カッコイイわあ。若い頃はK条さんばりにモテたのではと推察。
ひょっとして某最大教主とロマンスがあったりなかったり?

外伝とかぜひとも読みたいけれど、その場合は強力な相方がいないとなあ。
なんせ「マスター オブ ボケ殺し」(別名「マジレス爺さん」)だし。

マーリンは最愛の女性に裏切られたらしいけどレズなのか?

>>1の知識量と禁書愛は並じゃあないな
素晴らしい

サイト10万アクおめでとです。
10万3000までもう少し

今週は近所のご老人方がインフルに集団感染&病院送迎と看病(パシリ)をしていたため、書く暇がありませんでした
宜しければまた来週お越しくださいませ

大変そうだな…お疲れ様です

レッサーとかみんなヤンデレ化しそうだな

ゆっくりでいいですぜ。

>>738
上条「応援ありがとう!次の人気投票でも頑張るよ!目指せ火野超え!」
上条「どっかのバカがやってる人気投票ではヒロインしか選べないし!公式でガンバル!俺頑張るから!」
(※てか女性で読んで居られる方はいるんでしょうか?基本ハーレム&スラップスティックなんで……)

>>739-740
ローラ「おーーほっほっほ!セイバーの名を名乗りたければ私の屍を越えたりけるのよ!」
レッサー「ぬぅ!?流石は中の人!大御所パワーと相まって凄い闘気が……!?」
ローラ「近接格闘メインのアスラ○にセイバーガンダ○給わさろうのは、もしかしてイジメなりきこと?」
レッサー「それセイバーガンダ○ですよね?『カガ○は今泣いているんだ!』で部下の方を半泣きにさせた人ですもんね?」
レッサー「てかアムフォルタスとスーパーフォルティスが完全に被ってますし、ザフトのエンジニア病んでますよね?」
ローラ「私の推測だとカーテンのシャーってする所をシャーってなんなくてシャーにしたいためにシャーって」
桂「アスラ○じゃない桂だ!」
レッサー「上条さんっ!?ツッコミ役の上条さんはドコ行ったんですかっ!?あなたのお仕事が溜まってますよ!」

>>741
レッサー「ありがとうございますっ!私のママンにも『おバカな子ほど可愛いわよね』ってよく褒められますっ!」
ラシンス「……それ、意味違う」
フロリス「そして多分この反応も照れ隠しなんだぜ?」

>>742
そう考えると神様(※鎌池先生)が用意されているキーワードにも『ドラゴン』があったりしますなぁ。詳しい考察はこの下の下の下のに書きましたんで、参考までにどうぞ

>>743-744
マーリン「見ぃやレッサー!これが大人のミ・リ・キやんなっ!」
レッサー「でっすね先生っ!なんか知りませんけど大人気ですよっ!」
マーリン「言ぅて、もっと言ぅてぇや。ワイがどれだけゴイスーかって!」
レッサー「と、大人気なもふもふですが、作中で千切ったもふもふはARISAさんの2ndアルバム”Pray”の初回特典で有効利用してまーす」
レッサー「流川ガールズにも出演され声優デビューも果したARISAのニューアルバム!お近くの販売店にてお求め下さい!」
マーリン「待ちぃ?それちょっと待とぉ?うん?」
アリサ「や、あの、だから私の出番……うん、出番がね?」

>>745
現イギリス首相、デイビット・キャメロン氏は公務員の大幅削減を掲げ、教師・軍人そして警官の給料一割削減を唱えています
なので『通報装置が働いて警官が店の前までやって来たのに店内まで確認しなかった(外から侵入された形跡がなかった)』、
もろにモチベーションが裏目に出たのではないかと。勿論警察の大失態ではあるでしょうが
キャメロンはスコットランド独立の住民投票を通した上、「独立しないでくれたら優遇するよ!」で大失態を演じた首相なので、まぁお察しかと
そんなイギリスさんですが、来月7日に行われる総選挙次第でスコットランド民族党(去年の住民投票先導した人達)が躍進する可能性があり、
「サボテンが花をつけたようだ」(※意訳:ちょっと何言ってるか分かんないですね)的な国家にとって致命的なダメージを受ける未来も

>>746
ぶっちゃけ夢を見たのは皆様の無茶振りですが、理屈を考えるとすればあの場面では1と3ですね
あくまでもこのSSだけの設定(とはいえ原作の裏設定これじゃ?と予想していますが)で解釈すると、

1.上条さんは龍脈を操れる能力者。ただし生い立ちが不幸なので、幻想を”否定する”使い方しか出来ない
2.龍脈には力と記憶が溶け込んでいる
3.上記の能力には”記憶”が深く関係する(幻想を壊す=元へ戻す=”元の状態を知っていなければならない”。修理と同じで『正常な状態』を知らなければ直しようがない)
4.上条さんが女の子を救えなかった後悔の念(or罪の意識)で”無意識的”に記憶を封じている

のが、みさきっつぁんの真相ではないかと踏んでいます
「実は記憶無いんです」程度のカミングアウトで延々悩んでた以上、救えなかった人間への慚愧の念は如何ばかりか

更に踏み込むとタイトルである”禁書目録”そのものが神様(※鎌池先生)のダブルミーニングではないかと

現時点では『十字教で禁じられた魔術知識、10万3000冊の魔導書知識を知る』インデックスさんですが、
彼女の正体も『龍脈を書物に見立て、人間が活用するための目録』が本来の目的ではないかと疑っています
(ミサカネットワーク制御役&インターフェースである打ち止め、同様にAIM拡散力場ではヒューズ=カザキリやエイワスのように)
フィアンマが優れた魔術師であったのは間違いないでしょうが、禁書目録を支配下へ置くだけで第三次世界大戦を引き起こせるのは、
流石にチート過ぎるような気もします。上条さんの記憶が無いのと知ったのも、龍脈の記憶へアクセスしたと考えれば……

他にも「幻想殺しが神の加護を打ち消している」と言った『神』とは一体何を指すのか?
また敵対者の術式へ介入したり、ボスが禁書目録の知識を利用して『オティヌスの槍』を”再現”したり、
「魔翌力が無いから魔術を使えない」のもただの自己申告でしたし、司波達也さんのような”大規模術式を常に維持している”のも確定
(”自動書記”は常時発動型の術式でしょう)
トドメには”竜王の殺意”で”記憶”を消去したり、それっぽい行動は取っていますか

だがしかしここいらの設定を生かした、インデックスさんが大活躍するお話はやってこないんだ、うん (´・ω・`)
あとついでに言わせて貰えるならば、幾らギャグパートとは言え、みさきっつぁんオリジナルはあんなに頭ユルくは無いと思うんだ
(甘える、って意味でネタに走る可能性はあると思いますが)

>>760
まぁ”最愛の女性”が必ずしも恋人を指すものではないのが一点。次にマーリンの原型はウェールズ民話の”マルディン”だとする説があります
彼は森に住む狂った”予”言者なのですが、彼には双子の妹が居り――という設定があります
マーリン自体、『おとーちゃんが夢魔だけど洗礼受けたんで平気!』であるというキリスト教史観に染められています
なので、時系列的には怪しい所ではありますが、マーリンはマルディンの逸話が変化したものではないかと

ついでに言えば『塔へ閉じ込められる』のはラプンツェルを筆頭として、呪術的に女性である場合が多いですね
更に更に言うのであれば、当時の価値観だと『魔法を使う男性=魔法使い=宗教的にグレイ』、『魔法を使う女性=魔女=完全アウト』
よってもしもマーリンが女性であった場合、どれだけ偉大な魔法使いであっても宗教的にNG。即処刑か幽閉(何年か経って病死)となります
と、考えると”最愛の女性”を『マーリンの母親』へ置き換えてみると、『マーリンの性別を知る唯一の人物』とも解釈出来ます
その母親が裏切った、とすればマーリンの性別とは――

……などと理屈を捏ねてみましたが、英雄×戦姫が好きなんですよコノヤロー。べ、別にSSの伏線になってる訳じゃ無いんだからねっ!
乙女ゲー辺りで、主人公マーリン(男装の少女)にしてアーサーやランスロットを攻略するのとかありそう……

>>761-762
知識自体は丸暗記せずとも、タグつけて持っているだけで財産になります。仕事で関連資料を持つのは一般的ですが、全て暗記している方は少数
「この仕事の○○は××はあの本に詳しく書いてあったっけかな?」と適宜引き出すのが肝要かと

例えば……マタイさんは新約聖書・賛美歌・聖誕歌・魔弾の射手(オペラ)・レクイエム(オペラ)の句をアレンジ
レディリーさんはオリジナル、もふもふは真夏の夜の夢(オペラ)とオリジナル、『新たなる』は北欧系にアレンジしたアーサー王物語とイギリス”連邦”の伝承と偉人

当たり前ですが上記全ての内容を丸暗記などしていません。大切なのは『そういう資料がある”と、知っている”』事です

>>763
ありがとうございます。ハッシュ?が嫌いなので基本入れていませんが、来て下さる方が多くて感謝感謝です

>>759


――『旧約 とある魔術の禁書目録』



 シトシトと降る雨の中、纏わり付くように空気が重い。

(多少の熱い寒いぐらいならば、聖別を受けた『歩く教会』が無効化してくれるのだが)

 絡みつくような不快感を極力表には出さず、少年は手に持った鎌を握り締める。
 鎌、と言うのには少しばかり言葉が足りない。何故ならばそれは紛れもなく凶器であったからだ。

 修道服を着た少年、ともすれば少女とも見間違う程度には小柄だ。
 だというのに大鎌の柄はその身の丈を越え、刃渡りは少年の腕を優に越している。
 金属らしい鈍色を放つそれは、明らかに不相応な鋭さを湛えている。

 これがまだ純粋な農作業用であるならば、もしくは少年達の居る場所が麦畑であるならば良かったのだろうか。
 木を隠すには、の喩えではないが、大勢の農夫に混じって麦の穂を刈っていればまだ話は分かる。

 けれど少年が息を[ピーーー]ように蹲っているのはあぜ道であり、少なからず生温い雨に晒されていた。
 また少年の着込んでいる神父服――正しくは修道服――は、黒を通り越して漆黒に染まり、どこか血の臭いをも漂わせる一品である。
 これを見た者が居れば、まず好意的な解釈は望めないであろう。

(……ま、それも佳い、か)

 自虐気味に自嘲する。はたまた逆かも知れないが。
 何故ならば彼が今からしようとしている仕事は、『暗殺』だから。

――回想

「分かるかいヨーゼフ?神の御業というのは絶対であるべきだ、と!」

 指揮者のように男は妙なポーズを取りながら熱弁する。心の中で、またか、と舌を巻きながらも少年――ヨーゼフは頷いた。

「……はぁ。そうですね、えっと――」

 名前は……なんだったろうか?というかこの男は誰だ?
 この――腐った肉の詰まった”モノ”はなんだろう?何が言いたいのか?

「私はっ、私が思うに!この世界には神の奇跡で溢れている!いるんだ!いるに違いない!」

 名前……アルフ?ラッシーが佳いか?それともヴィークが似合うだろうか?
 この『神の犬』に相応しい名前は。

「――だ、だ、だ、だからっ!私はっ!むざむざとは――」

「……あぁ済まない。申し訳ないのだがね」

 ザシュ、と大鎌をほんの僅か横へずらす。

「あ、か――」

 たったそれだけで男は首を失い、胴は目的を失い床へと倒れる。
 ……尤も、生きているかそうではないだけで、最初から男に目的などあったのかは分からないが。

「……」

 ヨーゼフは近くにあった”槍”を回収してから丁寧に血を拭き取ると、今し方殺した男へ背を向け、部屋を後にしようとする。
 いつもの事ではあるが……いつもよりも”上”は大騒ぎしていたような?そんな疑問が頭の中へ浮かぶが、口には出さない。
 なんでもユダヤ教の祖父を持つ、売れない画家崩れと聞いていた。
 それがたまたま”槍”を手にしてから、魔術国家の樹立――とかいう『幻想』に囚われた、とか。

 命を刈った相手に敬意も湧かず、かといって感情の軛が揺れる事もない。
 祈りの言葉を捧げようとも思ったが、彼は確か自らが神になろうとしていた筈。だとしたら少しばかり失礼になるかも知れない。

 なのでその代わり、ヨーゼフは死んだ男へこう呟く。

「――『幻想(ゆめ)』を見るのなら、寝てからの方が佳い」

――現在

 そろそろ薄暗くなってきた――元より昏かったのだが――空を仰ぎ、ヨーゼフは一つ溜息をつく。
 名前が思い出せない。この間、命を奪った”神の敵”とやらは一体どんな名前であったのだろうか?
 名前が思い出せない。今日この場で、命を奪う”神の敵”とやらは一体どんな名前であるのだろうか?

 興味は無い。だが、それもまた――。

(……佳い、か)

 少年にとってすればよくある事であり、日常の一コマに過ぎない。
 血塗られた闘争の日々は誰に誇れるものではないが、決して卑下をしているのでもない。
 ”歴代屈指”と呼ばれた異端審問官の職にあるのは喜び、神へ奉仕するのはただそうであるべきだ、と。
 実際にそれは間近ってはいないのだろう、きっと、多分、そう、恐らくは。

 ……カッカッカッカッカッ……。

 粘りけのある不快な雨のカーテンの奥から、今時珍しい馬車の音が響く。
 あれに乗っているのが”神の敵”だそうだが、名前は……?

(……いや、何かおかしい……か?)

 雨の中を駆けてくるにしては少し――いや、かなり早すぎる。
 徐々に露になってくる馬車の全貌が明らかになると、ヨーゼフは目を剥いた。

「御者が居な――なん、だ――ッ!?」

 閃光。視界が一瞬で白く染まり、反射的に着衣の祈り――防御の術式――を編む!

(襲撃計画が漏れた?それとも見破られるほどの相手なのか?)

 自答するも応える声は無く――そしてまた衝撃の類も無かった。

(……何故?)

 ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥゥ、ギギイィンッ!!!

 風の刃が、”馬車の真後ろから何者かが放った”魔術が、馬車の車輪を切断する。
 ぐしゃあぁぁ、と馬車全体の輪郭が歪み、残っていた車輪もひしゃげ、派手な音を立てて横転する。

(襲撃者?こちら以外にもか?)

 ヨーゼフと同じ黒服はこちらに気付かぬまま、半壊した馬車の扉へ手を掛ける。
 幾つか選択肢が脳裏を過ぎり――ヨーゼフが大して迷いもせずに、その掌を襲撃者へと向ける。

 ――そう、不遜にも”神の敵”を奪おうとした愚か者へ。 

「『Der Ho"lle Netz hat dich umgarnt!』」
(地獄の網が貴様を絡み取った!)

「『Nichts kann vom tiefen Fall dich retten,』」
(奈落への墜落から貴様が帰る術は無く)

「『Nichts kann dich retten vom tiefen Fall!』」
(奈落への墜落から貴様を救う法も無い!)

「『Umgebt ihn, ihr Geister mit Dunkel beschwingt!』」
(暗闇に沸き立つ悪霊達よ、あれをとりまけ!)

「『Schon tra"gt er knirschend eure Ketten!』」
(あいつはすでに、歯軋りしつつ、貴様達の鎖に繋がれている!)

「『Triumph! Triumph! Triumph! die Rache gelingt! 』」
(勝利だ!勝利だ!勝利だ!復讐が果たせるぞ!)

「『――Der Freischu"tz!!!』」
(――魔弾の射手!!!)

 悪魔ザミエルが狩人へと渡した”魔弾”、それを模した術式は青白い炎の形を借り、狙いと違わず襲撃者へ飛ぶ!

「――っ!?」

 何者かは慌てながらも防壁を構築する。
 ギギギギギ、と魔術で急造された盾が悲鳴を上げるが、砕け散る前に『魔弾』を魔力の盾で防ぎきった。
 反射的に取った術式でもこの精度、敵が並々ならぬ実力であるのは間違いない。

 ――が、しかし。

 ずぷっ。

「あ――」

 新たな襲撃者の胸、そこには既に大鎌が突き刺さっていた。
 先ほどの魔術自体が陽動――ではない。ただ追尾性と持続性の高い魔術を放った後、距離を詰めて鎌を振っただけである。
 言葉にすれば単純極まりないが、最大限警戒されている中、相手に気取られる事無くやってのけるのは至難の業だ。

 ……ヨーゼフにすれば、それもまたいつもの事ではあるが。

「……Amen(かくあれかし)」

 屍となった襲撃者の死体を退かし――また祈りでも捧げてやろうか悩んだが、止めた――代わりにドアへ手を掛ける。
 転倒の衝撃で歪んでいた扉をこじ開け、中の人物へ大鎌を――。

 時が、停まる。

 ヨーゼフの目に入ったのは美しい金の束――では、なく、肩で切りそろえた綺麗なブロンド。
 次に確認出来たのは少年と同じぐらいの背丈、つまり対象が子供の姿をしていた事だ。

(これは……なんだ?一体――)

 左手に持った『ジョン・ボールの断頭鎌』は動かせない。魔術を放とうにも腕がピクリとも動かない。
 何かの魔術に囚われてしまったのだろうか、そうヨーゼフ判断し舌を噛みきろうとする――その、僅か数瞬前。
 ”神の敵”は微笑んだのだ。

「あなた、あなたが助けてくれたの?ありがとうなんだよ!」

 正面からそう言い切られた。誤解だ、と否定するのが怖かった。

 文字を憶えたての子供のように、悪く言えば少々挙動不審な者のように少年は口ごもる。
 それはまさに年相応のものであり、それが可笑しかったのか”神の敵”はこれ以上無いほど相好を崩す。

「私の名前はね――」

「――ローラ、ローラって言うんだよ?」

(……あぁそうか。彼女がそうだったのか……)

 彼女が名乗った名前、それはまさにヨーゼフが手に掛けなければいけない者と同じであった。

「ローラ――ローラ=スチュアート……ッ」

「あ、ごめんなんだよ?もしかしたらあなたはわたしを知ってるのかも知れないけど」

 そう、”神の敵”は。 

「わたしはあなたを憶えてあげられないみたいなんだよ、ごめんね?」

 これはとある物語。
 決して語られない物語。
 かつてありそして今もあり、しかし未来は閉ざされた物語。




――『戦場の咆吼は彼方へと消える』

 戦いは、終わった。
 大勢が殺され、一人が生き残り、一人が死に損なった。ただそれだけの顛末。
 敵味方が死に、それ以外も死に、とてもではないが関わった全てが等しく不幸になった。たった二人だけの戦争。

「……佳い、もう泣かなくても佳いのだ」

 血だらけの躰を引きずって、返り血と刀傷、数える気にもならないぐらいの魔術を受け、”着衣の祈り”はもう既に役割を果していない。
 全身が油の切れた操り人形のように軋むが……少年はこれ以上少女の前で無様な真似を晒す訳には行かないのだから。

「バカっ……!どうして!あなたが!一人で、戦っ……て!」

「善意に代価など要らぬ。そしてまた厚意に代償を求めてはいけない」

 違う。そんな事を言いたいんじゃない。そんな”下らない”事を言いたい訳なんて、ない。
 あまりにも正論過ぎるが故に、ともすれば胡散臭い台詞なんて言いたくはなかった。言うべきではなかった。

 だが――少年は気付いてしまった。”それ”を口にすれば何が待っているのか、何を意味するのか。
 それは紛れもなく目の前の少女の誇りを傷付けてしまう事に。

「……これで佳かったのだ、これこそが佳かったのだ。そうでなければ、君は――」

「――善人め」

 少女はその歳に合わぬ凶相――精一杯の睨みを効かせ、少年を睨む。

 あぁそうか、そう言う事か。私は彼女の言う通りなのであろう。そう少年は悟る。
 助けを求められ、命を賭け、命を捨て――しかし何も求めない。

 『無償の愛とは如何に残酷』なのであろうか。

 好意であれば相手にも受け入れられるかも知れない。打算的であっても同じ事だ。
 けれど、”これ”はあくまでもただ『隣人を助けよ』という”神の言葉”に従ったものだ。

 だから、そう、だから――。

「……君でなくとも、私は、助けた。救いを求めるのであれば、それが、仕事だ」

 宗教的な理由により、信条的な欲求により助けた。そうでなくてはならない。そうであるべきだ。
 義務に従ってやっただけ、ならばそこに感情の入る余地はない。

 少年に狂信的台詞を向け、仕事を依頼した司教達がそうであった。
 絶望的なまでに非人道的な任務であったとしても、それは”狂信”の名の元に肯定される。
 一を切り捨てて百を助けるような選択肢であっても、一を殺す事には代わりはない。

 ならばどうする?正義のために不正義を為し、善のために悪を成す、そんな矛盾を解消出来るのか?
 答えは”狂信”だ。自身らが狂っている、イスカリオテのユダの如く命じられたままに生きれば、それは免罪符となり得る。

 少年の上司達もそうであったのもだろう。自分達は信仰に狂い、無慈悲な命令を無垢な少年へ下す人間達だと。
 だから――そう、だから。

 ”命じられた少年に罪などないのだ”、と。

「君は”たまたまそこに居ただけ”に過ぎない。私の前にだ」

 少年が歩く轍は狂信である。ならば目の前の少女を死力を尽して助けた事であっても、”偶然”なのだ。
 ……そこに入る感情など入ってはいけない。疑いすら許されない。

 だからこの物語はここで終り。これ以上は続かないし、交わった道も永遠に途絶える。

 背を向け、今にも途絶えてしまいそうな意識に活を入れながら、少年は次の戦場へと足を運ぶ。
 風向きか、はたまた妖精の悪戯か。少年の耳に消えそうな言葉が届いた。

「けれどあなたは笑っていたでしょう――この善人め!」



 少年が少女と出会い、幻想を殺して禁書目録を手にすると言うだけの――。
 ――そう、それは”先代”達の物語。



>>>『旧約 とある魔術の禁書目録』 へ続かない

鎌池先生ごめんなさい鎌池先生ごめんなさい鎌池先生ごめんなさい悪気は無かったんですホンットにごめんなさいもうしません
偉大なるタイトルの名前パクるなんてもうしませんごめんなさい

――倉庫

……ドゥォ……ンン……

上条「……お?」

上条(どこかで爆発音……なんだろう?)

レッサー「大変です上条さんっ!ステージの方で魔力の反応が!」 ガチャッ

上条「なんだって!?――待て待て、少し待とうかレッサーさん?」

レッサー「あい?」

上条「君、殆どタイムラグなしで来たよね?もしかして扉の外で待機してなかった?」

レッサー「さすおにー」

上条「略すな。それとお前みたいな妹を持った憶えはない!」

レッサー「てか扉の外でスタンバってましたが何か?」

上条「正々堂々開き直られてもアレなんだが……なんでまた?」

レッサー「上条さんへイタズラ(性的な意味で)しようとする輩からガードするために決まってるじゃないですか!」

上条「俺らの国ではな、『絵に描かれた虎を退治しろ』って無茶振りをされたお坊さんの話があってだ」

レッサー「あ、知ってます知ってます。屏風ごと焼き払うんでしたっけ?」

上条「惜しいっ!それをやらかした人は織田信長って人だよ!」

レッサー「何度か触れましたが、神官が武装すると碌な事になりませんからねぇ」

レッサー「――って、そんな事より危険がピンチですよ上条さんっ!どこかのNTRり大好き女があなたの貞操を狙っています!」

上条「鏡鏡……うん、レッサーさんは洗面所まで行って鏡見てきた方が良いんじゃないかな?」

レッサー「ではあなたの瞳に映った私を見ると言う事で一つ!」

上条「待て!脱ぐな!スカートに手をかけてないでドアの所まで下がれ!あと一秒前の台詞を思い出してあげて!」

レッサー「さっすが私の愛する上条さんっ!結婚してイングランド国籍になって下さいっ!」

上条「ホンッッッッッッッッットにブレねぇなそういうトコが!悪い意味で!」

レッサー「という訳で上条さんの童貞を守るために、まず私が頂くという事でお一つ。はい」

上条「前にも使ったネタだからね?自重しようか?」

マーリン「(……や、今さっき、『ブリテン』やのぉて『イングランド』ちゅーた辺り、緊張しとぉよね?)」

ラシンス「(……ん。いつもブリテンブリテン言ってるのに……)」

レッサー「ウッサいですねっ!私にだって噛む時ぐらいあるでしょーが!」

ベイロープ「はいはい、レッサーもそこまでしなさいな。それより現状確認ね」

上条「『新たなる光』の四人、じゃなかった五人は居る」

フロリス「でもジーサンは居ない――あ、犯人分かっちゃったカモ?」

レディリー「消去法で分かるわよね。もう一人のボウヤが居ないって」

ランシス「……んっ……魔力派が……あはっ……!」

レッサー「変態だーーーーーーーーーーーーーーーっ!?」

上条「だから鏡見ろつってんだろ。てか助けに行かないと!」

レッサー「いやぁ助けって言うか、マタイさんが仕掛けたんだと思いますけどねぇ」

マーリン「上条はんには分からんかもやけど、多分アンタ以外でセレーネに一番ブチ切れとぉんはあのお人やしなぁ」

上条「なんでまた?そりゃ世界をイジられて怒ってんのは分かるけどさ」

レッサー「にゃんだかんだで十字教の本質は『唯一神』至上主義ですからねぇ。異教の神々は即敵ですし」

上条「や、でも北欧神話の話とか普通にしてなかったか?」

レッサー「殺虫剤の開発者が必ずしも虫好きだとは限りませんよね?」

上条「……納得した」

マーリン「盗聴を警戒して打ち合わせなしで突っ込んだんちゃうかな。『法王の結界』ちゅーても相手が相手やし」

レッサー「ま、予定より少しだけ前倒しになりましたが、向かいましょうか決戦へ」

上条「おう!――って俺は?俺このまま外出て良いんだっけ?」

マーリン「確実に『常夜』の影響を受けよぉな」

上条「ダメじゃんか。てかお前らよく平気だな」

レッサー「右手の、これ、ほらこれこれっ。分かりますかね?」

上条「人差し指に指輪……?あ、宝石の中で炎が揺れて――魔術、だよな?」

レッサー「えぇ、『英知の灯台(Fire of Surtr)』。名前は仰々しいですが、ただ持ち主の魔力を消費して光るだけの霊装です」

レッサー「消費も極小なので、駆け出しの魔術師が魔力維持の練習するのによく使われる――ん、ですが」

レッサー「どうやら『常夜』の性質上、”明りを灯している相手”には効きが弱いようでして」

上条「明り?」

マーリン「向こうさんの術式が『夜』言ぉ事やんね。やから火のついたタイマツや燭台さえ持ってさえいれば、即影響を受けへんのよ」

上条「……だったら起きてる人、結構居るんじゃないのか?」

マーリン「日常的に火のついた長モン持っとぉ人、ワイは人としてどぉか思うんやけど……」

レッサー「ちなみにレディリーさんとマタイさんは、お洋服そのものがある種の結界になってますし、我が師マーリンは――」

マーリン「なん?」

レッサー「――なんかこう、もふもふした超パワーかなんかで『幻想殺し』もキャンセルしてますし、いいんじゃないですかね」

マーリン「待ってぇな?ワイの扱いおざなりちゃうん?お?」

マーリン「こう見えてもアレやねんよ?今でこそマーリン言われとぉけど、昔はこう見えてもブイブイ言わせとぉ――」

上条「で、俺はどうすればいいのかな?魔術は使えないし」

マーリン「あるぇ?最近誰もセンセをリスペクトしてへんね?なんで扱い適当なん?」

レッサー「えぇ、ですので。”これ”をどうぞ」

上条「これ?――ってサイリウム、だっけ?」

レッサー「上条さんを回収した際、お持ちでしたのでついでに持ってきました。流石にタイマツ片手に乗り込むのは辛いでしょうしね」

上条「……懐中電灯とかマグライトじゃダメなのか?」

レッサー「白熱電球であれば、中のクロム線が燃焼している――と、言えなくもないですが、LEDライトは辛いかも知れませんね」

レッサー「魔術の属性的に、というか”夜の闇”を打ち払うには灯の点った道標が必要ですから」

上条「でもサイリウムって確か化学反応じゃ……?」

レッサー「それを言うのであれば燃焼だってそうでしょう?現象に意義を見いだすか、行動に意義を生ませるのか違いでしょーかね」

レッサー「あ、多分ポケットに突っ込んでるだけで効力あると思いますんで、それでお願いします」

上条「了解。あ、効果時間が切れたら?パッケージには……大体6時間って書いてあるけど」

レッサー「文字通りタイムリミットでしょうね、それが」

上条「厳しいが……ま、いつもやってる事だな」

レッサー「ですね。ではでは参りましょうか」

上条「……あぁ!」

――LIVE会場近郊

上条「……」

上条(空へ出た俺達を歓迎する者――”モノ”は誰も居なかった)

上条(幸いにしてマタイさんが文字通りの露払いをしてくれたんだろう。感謝しないと)

上条(青ざめた月の光――けどそれは空から降り注いではいなかった)

上条(月があると思われる場所には、夜空を隅で塗り固めたような漆黒の穴が口を開けている)

上条(その中心部から伸びる光の柱、光源らしい光源はそれ以外にはなかった)

上条(街の至る所を覆う世界樹?だか言う、茨の蔦は会場やステージ近辺でプッツリと途絶えていた、んだが)

上条(まるで蔦だけを吹き飛ばした魔術のように……”まるで”じゃなく、事実その通りなのかも知れないが)

フロリス「センセー、これってジーチャンが?」

マーリン「十字教の対個人系”最悪”の術式やな」

ランシス「……最悪?」

マーリン「まず相手に気取られんよぉ結界張っとぉ閉じ込めますぅ。次にそん中へ超々高熱の塊召喚してぇの、結界ん中で反射反射さしよぉ」

マーリン「逃げ場を失ぉた熱が延々結界ん中で反射しよぉから、魔力消費の割りにエゲつない術式としては有名なんよ」

マーリン「そもそも魔術的な熱量やから、燃料も酸素も要らんし核融合もせぇへん……『メギドの火』言ぅたかな?十字教の名前やと」

レディリー「ちなみに十字教の術式へ組み込まれる前は『ファラリスの雄牛』、または『モロクの聖竈』と呼ばれていたわね」

上条「……不用意に検索したら精神的ブラクラ踏みそうな響きだよなっ!」

マーリン「人は『常夜』の影響下やし無傷なんは当然として……建物に溶けた跡はないなぁ?」

上条「建物の時間も停まってんじゃないのか?停まった時間の中にいるから、変質はしない、的な理由で?」

レッサー「あーはい。ラノベの古代都市でありそうな設定ですよねぇ」

レディリー「魔術師的にも再現は可能よ?コスト的にも到底見合わないってだけで」

マーリン「クロノスからノルン三女神まで時間信仰から転じとぉ神さんは多い――てか、魔神セレーネは三日月のシグマを聖印に持っとぉし」

マーリン「三相女神に当て嵌められとぉ役割は『末子』。茨姫で糸紬で刺された逸話もミックスされとぉ」

レディリー「……あぁ成程。世界を覆い尽くす茨は何かと思っていたけれど、意外にロマチックな理由だったのね」

マーリン「時の一つ二つ停められとぉても今更やけど、ロマンあるかいな?」

レディリー「素敵じゃない?だってお姫様を起こす王子様がこちらに居るのだから」

レッサー「王子様()」

上条「人を指さすのは良くないと思うんだよ、うん」

レディリー「あなたがアリサを助けに行く役目でしょう?他に誰か王子様が居るのかしら?」

上条「柄じゃないって意見は?」

レッサー「どうしてお嫌であれば、そうですねぇ……魔術的にも相性が良さげなのは――」

レッサー「誘拐された王妃グィネヴィアを救い出したランスロット卿――の、魔術を得意とするランシスに任せますけど、どうします?」

レッサー「ま、高確率で百合の花が雄々しく咲き乱れちゃったりする展開が待ってるかも、ですが」

マーリン「あー、『助けろとは言ったが手を出すなとは言われていない』、やったっけ?」

ランシス「……それほどでも……!」

ベイロープ「反省しなさい、ね?」

上条「……と、当然俺が行くに決まってるさ!あぁっ!」

フロリス「そしてそこの百合厨、満更でもない顔しないよーに」

レッサー「……今にして思えば(性的な意味で)ラシンスはアリサさんに懐いていましたし、運命だったのかも知れませんね……ッ!」

上条「台無しだよ。お前が小声で”性的な意味で”つってる時点で全てがぶち壊しだからな?」

マーリン「グィネヴィアを攫ぉたんは冥府の王子っちゅー異伝も残されとぉし、そこいら辺なんかシンクロする部分があったんかもなぁ」

上条「それじゃもしかしてランシスが俺のベッドへちょくちょく潜り込んできたのも?」

ランシス「……あ、ごめん。それ性癖」

上条「お前っレッサー以上にフリーダム過ぎるわっ!」

フロリス「一応、『同衾する男女の間に剣を置く』のはトリスタンとイゾルデの逸話の再現なんだケド……」

ベイロープ「この子が考えてる訳ないわよね」

レッサー「あのぅ、それよりもですね?今上条さんが仰った『私以上にフリーダム』がどうしてツッコミとして成立するのか、というのをですね」

レッサー「てーか『レッサーよりも』がツッコミの対象になる時点で、私のハートがブロークン的なアレなんですけど」

マーリン「反省しぃよ?アンタもぉちょいクレバーにならんと」

ベイロープ「先生、レポートは?」

マーリン「誰にでも失敗ぐらいはやらかすよって!ウン、いやマジで!」

上条「盛り上がってる所悪いんだが、そろそろ行くぞー?」

レッサー「っと失礼しました」

上条「――よし、それじゃ改めて行こうか!」

レッサー「作戦名――『行き当たりばったり』!」

上条「……ま、いつもの事なんだがなっ!」

――『Shooting MOONツアー』ライブ会場 特設ステージ

上条(マタイさんが放った――と、思われる――魔術のおかげでステージ上の異物、茨の蔦や根は一掃されている)

上条(アルフレドに『団長』、マタイさん……魔神の姿も見えない)

上条(あるのはただ光の柱だけ――だが、何か染みのような……?棒きれが刺さっている……?)

レッサー「……『ジョン・ボールの断頭鎌』ですね。一体何があった――の、かは想像つきますけど」

上条「刃の殆どが柱へ食い込んで、棒みたいになってんな……もしかしてマタイさんが倒したってのは?」

マーリン「あの程度で殺せるんやったらワイらで終わらせとぉ――し、セレーネ殺す”だけ”はせぇへんよ」

上条「なんで?」

マーリン「あ、レッサー、フロリス、ランシスとレディリーはんは術式の準備宜しゅう。今のウチにしときぃ」

マーリン「ベイロープも――気張って来ぃや、踏ん張り所やからな?師匠置いて弟子が先にアヴァロン行くよぉな親不孝はしたらアカンよ?」

ベイロープ「先生の場合、ほぼ全員看取った側だと思うけど……はい、戻って来るわ」

上条「マーリンさん?」

マーリン「ん?まあこっちの話や……えっと魔神クラスの戦闘力やったら、わざわざ龍脈破壊せんでもセレーネは殺せるんよ」

マーリン「なんや言ぅてもセレーネの神としての位階は、アルテミスやヘカーテよりも格段に落ちとぉ。天草式の『神殺し』なら勝算もあると思うわ」

マーリン「当然マタイはん――先代教皇はそれに類する『神殺し・神堕とし』の術式は使える筈やしね」

上条「んじゃなんで?」

マーリン「……ただなぁ、当然セレーネ倒した後、龍脈の流れは元へ戻るんよ。それは分ぉ?」

上条「良い事だろ。それは」

マーリン「やんなぁ。やけど――アリサはんは帰って来ぃへんよ?それでもええのん?」

上条「それは……っ!」

マーリン「幸い、今は龍脈が活発に動いとぉ。やから助け出す――こっちの世界へ『引っ張り出す』んやったら、これ以上の機会は無いんよ」

マーリン「やからマタイはんが気ぃ遣ぉてくれたんちゃうかな、ってワイは思っとぉ」

上条「そう、か」

上条(約束――したんだよな、確か。『アリサを守って欲しい』って)

マーリン「……ま、『神殺し』の術式そのものの成功率の低さから言っても、ワイらがするように搦め手、龍脈から崩した方が勝算も高いんやけけど――」

上条「けど?」

マーリン「――あぁ、うん。なんや変なオブジェやな思ぉたらそぉいう事かい」

上条(彼女――もふもふ――の視線の先にあるのは光の柱……ではなく、それに刺さった死神の鎌)

上条(今更なんだろう?と、思っていると――)

上条(――柱に打たれた鋼鉄の楔を掴む手が柱の”中”から現れる――)

上条(――そう、光の柱の突き刺さっていた大鎌を引き抜く、その細い手は――)

上条「――セレーネ……ッ!」

セレーネ『――ヨーゼフ?わたしの可愛いヨーゼフはどこに行ったの?』

セレーネ『かくれんぼはもうお終い。鬼はあなたを捕まえるわ』

セレーネ『泣き虫ヨーゼフ。あなたはいつも笑ったままベソをかいていたわね』

セレーネ『だからもう還りましょう?あなたが生まれた馬小屋へ、わたしに背負われ泣き止んだままで』

上条(アリサの姿のママで無邪気に笑うセレーネ……だがどこか、空虚な深淵を覗いてるかのような寒気がする……!)

上条(言葉ヅラでは子が親を心配している感じだし、薄く笑った顔には母性みたいなものがある――だが)

上条(逆に言えば”それしか”無い。人の母親である前に、一人の人間である筈なのにどこか作り物じみている)

上条(……あぁ、こいつは”からっぽ”なんだろう。アリサとは違って)

マーリン「早ぉ!レディリーはんのトコへ!」

上条「了解!マーリンさんも気をつけて!」

セレーネ『当麻?この声は当麻――と、あなたはだぁれ?』

セレーネ『死の臭い。嗅ぎ慣れた血と産道の臭い……あぁこれは、これはコノートの』

セレーネ『旧い旧い地母神の欠片がどうし――』

マーリン「嫌やわぁ、そんなん言いっこなしやんね?乙女の過去を詮索するなんて、ええ趣味やないんよ」

レッサー「乙女()」

マーリン「レッサーウッサいよ!ワイが珍しゅうシリアスになっとぉねんから邪魔せぇへんといて!」

マーリン「てかさっさと術式の準備組ぃよ!上条はんとアリサはん戻って来ぉたら即ぶった斬るんやし!」

セレーネ『アーサー?アーサー達も来ているのね!……あぁ良かった、心配していたのよ』

セレーネ『お友達も来ているのね?わたしの可愛い子供達、さぁわたしにお顔を良く見せて頂戴?』

マーリン「待ちぃな。ワイの子供達へ手ぇ出したら許さへんよ」

セレーネ『あなたの子供……?』

マーリン「今更話し合いはなしや、魔神セレーネ。アンタが顕現した以上、もう倒す以外に子供達を救う方法は無いんよ」

セレーネ『子供達を?……あなたは一体何を言っているのかしら?』

マーリン「話して分かるとも思えん――少しだけ、アンタの”時間”、盗ませて貰ぉな」

マーリン「『”Fragment of the goddess to die in Connacht orders it. ”』」
(Connachtに死す女神の断章が命じんで)

マーリン「『”Fill the cup with the blood of the fairy king who hangs out Triskelion. ”』」
(三脚巴を掲げる妖精王の血で杯を満たしぃ)

マーリン「『”Goddess that worships the authority, evil, frenzy, and the three pillars must raise the roar. ”』」
(権威、悪、狂気の三柱を崇める女神が咆哮を上げぇよ)

マーリン「『”Red Honey kind with a bad hobby must melt to the earth and utter one's first cry. ”』」
(趣味の悪い赤蜂蜜種は大地へ溶けてもぉて産声を上げぇよ)

マーリン「『”Through the house give glimmering light, By the dead and drowsy fire.”』」
(館の中がまだ薄明るいけども、もう火は消えかかって眠そうになっとるやんか)

マーリン「『”Every elf and fairy sprite Hop as light as bird from briar, ”』」
(さぁさぁ、妖精どもはみんな跳ね廻れ跳ね廻れ、茨から鳥が飛ぶように)

マーリン「『”And this ditty, after me Sing, and dance it trippingly.”』」
(そうしてワイが音頭を取るから、それについて歌って、身軽に踊るんよ)

マーリン「『”First, rehearse your song by rote To each word a warbling note.”』」
(まずはお前さん、素面で歌ぃ。一言一言に節をつけぇの)

マーリン「『”Hand in hand, with fairy grace Will we sing, and bless this place.”』」
(皆が手を取り合って、霊妙な声で歌を唱って、この家を祝福してや)

マーリン「『”Trip away, make no stay, Meet me all by break of day.”』」
(駈けて行きぃや。ぐずぐずせんと。夜が明けるとまたみんな一緒になるさかい)

マーリン「『"Change, Coagulate, and time doesn't advance ahead――. "』」
(流転しぃや、凝固しぃよ、時は必ずしも前に進むとは限らないよって――)

マーリン「『”――A Midsummer Night's Dream”』」
(――真夏の夜の夢)

……ザリザリザリザリザリザリッ!!!

セレーネ『――――――――――――――――――?』

マーリン「コノハトの大地下墳墓から喚び寄せた影の鎖やんね。月齢に応じ、新月に近ければ近い程”影”の鎖は強度を増すんよ」

マーリン「本来満月の日には出しても意味はないんやけど、月蝕やったら下手な夜よりも威力は増すっちゅーねん」

レッサー「ナイスっもふもふっ!流石はAdob○一押しだけはありますねっ!」

マーリン「おおきにっ!応援ありがとうなっ!このまま完封しとったるわっ!」

セレーネ『――ぼうや、わたしの――』 ミシッ、ミシミシミシミシミシミシッ

マーリン「……あ、ゴメン。やっぱダメやったわー、何となくやけどそんな予感してたわー」

レッサー「ですよねぇ。私も『あ、フラグ立ったな』って言ってて思いましたもん」

ベイロープ「いい加減にしなさい変態師弟コンビ。全部終わったらケツを引っぱたくのだわ」

マーリン「や、ま、まぁ時間稼ぎやったら充分……ちゃうかな?うん、多分多分っ!イケるでしかし!」

上条「……なぁ、アイツら大丈夫か?俺がアリサ連れて帰ってきたら全滅してましたー、みたいなオチは嫌だからな?」

レディリー「いいんじゃない?あなたが絶望に悶える顔はとても楽しそう……ッ!」

上条「いい加減にしやがれ合法ロ×!違法×リのバードウェイにだってそんな暴言吐かれた事は――」

上条「……」

上条「……な、ないよ?うん、無いと思うな?」

レディリー「気が合いそうね、『明け色の陽射し』の子だっけ?」

レディリー「ま、冗談よ。魔術師マーリンの名に相応しく、古代ケルト系の影の女神の術式は見事としか言えないわ」

上条「その割には……なんかこう、なぁ?」

レディリー「魔神相手に時間を稼げるんだから、それ相応の実力って事――さて、それじゃここへ横になってくれるかしら」

上条「あぁはい……これでいいか?」

レディリー「それじゃ気を楽にして。今、あなたの精神を龍脈――冥界へ繋げるから」

上条「繋げる?」

レディリー「詳しく話すのは私の役目じゃないし、また『予言巫女(シビル)』として正解を知らせるのも禁じられているわ」

上条「よく分からないんだが……」

レディリー「そうね……『答えを知っている者には回答権が永遠に失われる』、って言えば分かるかしら?」

レディリー「シュレディンガーの猫のように、箱の中身を観測してしまえば、それはもう結果を固定してしまう事に繋がるの」

レディリー「”私が知る冥界”と”あなた達の知る冥界”のイメージが混ざれば、それはもうクノッソスよりも手がつけられないわ」

レディリー「そもそも、入っているのはシュレディンガーじゃなく、ウルタールの猫かも知れないしね?」

上条「……うん?」

レディリー「これ以上は何も言えないのだし、あなたの騎士さんへ任せるべきでしょうけれど――そう、ね」

レディリー「だから私はあなたへ掛ける言葉はこれだけ。そう、たったこれだけ――」

レディリー「――あの子の『幻想』を殺してあげて、ね?」

上条「それ俺、割と得意な方だ」

レディリー「良いお返事よ、素敵だわ――それじゃ、目を瞑りなさい」

レディリー「『”It's considerable Endymion that expands in the sky, and it dies and it is a sleep lover. ”』」
(天空に伸びる大いなるエンデュミオン、死して眠りし恋人)

レディリー「『”It's delivery musician's harp to his god. ”』」
(彼の神へ届け楽師の竪琴よ)

レディリー「『”Labyrinth that dives on ground is internal organs of the giant who permanently lies. ”』」
(地に潜る迷宮回廊(ラビュリントス)は永久に横たわる巨人のはらわた)

レディリー「『”Sea of entrails is exceeded, and the galley carries heroes to the death. ”』」
(臓腑の海を越えて、ガレー船は英雄達を死地へと運ぶ)

レディリー「『”Whenever the musician Orphean plays the harp, the gate of the nether world gives jarring. ”』」
(楽師オルフェウスはその竪琴を爪弾くたび、冥界の門は軋みをあげる)

レディリー「『”Music sheet must be drawn by the twinkle of a star, and the star that floats on the night sky must tie. ”』」
(星の光で五線譜を描き、夜空に浮かぶ星辰をつなぎ止めろ)

レディリー「『”It deprives the excitement of heavens it and the excitement to the pantheon blood. ”』」
(天上の熱狂と血が神々への熱狂を奪う)

レディリー「『”The offering will awake the thorn from the rent before long. ”』」
(供物はやがて綻びから茨を芽吹かせる)

レディリー「『”It turns and it is possible to turn, and the thorn must be spun and it is necessary to twist up to spinning into Ariadne's string. ”』」
(回れ回れ、糸紬は茨を紡いでアリアドネの糸を縒りあげよ)

レディリー「『”Become an Orphean guidepost gotten off in Tartarus. ”』」
(タルタロスに降りるオルフェウスの道標となれ)

レディリー「『”Ah and the traveler must hang out torch. The light of wisdom doesn't reach even the bottom in a yellow fountain. ”』」
(嗚呼、タイマツを掲げろ旅人よ。英知の光は黄泉の底にまでは届かない)

レディリー「『”Travel from which the half of thine's body was requested started now. ”』」
(汝の半身を求める旅は今始まったのだ)

レディリー「『”It's possible to rage, and it rages. The earth becomes a soil from sand, and it transmogrifies it from Taiki to young leaves about trees. ”』」
(逆巻け、逆巻くのだ。大地は砂から土になり、木々は大樹から若葉へと姿を変えよ)

レディリー「『”The tower where the heaven is defiled changes and the spiral is drawn. As for all, the inversion takes the place of all in the inversion. ”』」
(天を穢す塔は転じて螺旋を描け。全ては逆しまに、逆しまが全てに取って代わる)

レディリー「『”An eternal musician descends on the netherworld. The person who plays the lyre obtains the temporary death. ”』」
(永遠楽師(オルフェウス)は冥府へ下る。竪琴弾きは仮初めの死を得る)

レディリー「『”The bridge has already been built. The stairs to which it goes down the memory of descending on the earth in the pillar. ”』」
(橋は既に架けられた。大地へ下る記憶を柱に降りる階段が)

レディリー「『”The appearance can be shown, it is possible to show, and show――. ”』」
(その姿を現せ、現せ、現せ――)

レディリー「『”――Endymion reverse”』」
(――エンデュミオンの逆さ塔)

今週も短めでしたが投下は以上となります。お付き合い頂いた方に感謝を
来週は帰省予定なので多分更新出来ないでしょうが。どうかよい休日を


アーサー王物語を乙女ゲーにするなら、マーリンよか聖杯探索のヒロインディンドランあたりじゃね?
そういや禁書ヒロイン多いのに、男装僕っ娘いないんだよなあ

新たなる光メンバー全員が実は男の娘みたいなトンデモ展開

ぐわあああっっっ!?
読みたい!
『旧約 とある魔術の禁書目録』、全編すっげえ読みたい!!!
リクエストに応えていただいたことは三拝九拝ですが、蛇の生殺し、という言葉も知ってらっしゃるか?
自分で書け、ったって、書けるわけ無えよおっ!!

イアン、じゃなくてヨーゼフとナタリーじゃなくてローラの運命や如何に!?

てか上条さんがラキスケかますと死にかけるけどベイロープへダメージいくのか?不憫だな…

レッサー達のメインssとか貴重なうえに
、このss内容超面白いから終わってほしくないわー
レッサーファンとしてサイコーだーー

まぁ最後はランシスが全部掻っ攫っていきそうだがww

>>765-766、>>768
内、一家庭は介護の名を借りたDV(70過ぎの妻へ徹夜して手ぬぐい交換しろとか)とホザいてやがっていたので、
社会福祉協議会に通報してから、民生委員の方を招いてきっちりお話しさせて頂きました
……×旗取って「意識高い系」を僭称する人間に限って、どうして身内を軽々に扱えるんだか

>>767
レッサー「何言ってるんですか!別に恋愛ゲームじゃあるまいし、ステディになってハイ終わりなんてなりませんよ!」
レッサー「NTRって×んでNiceBoat!最近はインスコした一個上のフォルダ破壊で話題をかっ攫いましたが!」
レッサー「安西先生も仰っているように!諦めたらそこでゲーム終了ですよ!諦めませんからねっ!」
上条「おまわりさんこっちです」
(※超前向きなダメ人間の最たるものとして、『フェイスレス司令』という方が居たり居なかったり)

>>786
ディンドランさんも好きですが、個人的には一緒に旅をしてバカ騒ぎしたり泣いたり笑ったりする方が好みです
てか薄桜○以降、「護られるだけじゃなくて護りたい!」主人公が増えた気がします。いや上司からの受け売りですが

男装僕っ子、あー……パッと出て来る禁書キャラは居ないですかねぇ
初期の一方さんには「実は女じゃね?」的な話も出てましたが、中の人がおかもっさんに決まってから霧散しましたし

ジャンヌ・ダルクがそうであったように、中世キリスト教では男装しただけで(因縁つけられて)火刑になる時代でした
(※当時は女性が人前で歌う事すら忌諱されており、オペラでもメゾソプラノ・ソプラノを少年がやっていました。
数が足りなくなるとカストラートという去勢し、声変わりを意図的に抑えた歌手を量産した時期もあります)

だがしかし我が国では神代からヤマトタケルが女装し、白拍子が男装して舞い、最古の古典文学の一翼を女性が担(ry
てゆーか万葉集の時代から、貴族だけではなく名も無い人間が歌を詠むなど民間レベルで豊かな文学(ry


また清少納言からはや1000年、暴れん坊少納言の諾子たんは俺のよm(ry

>>787
カナダで逮捕者まで出した準にゃんに比べればまだまだ。薄い本だと御坂さんに装着率が高いですが

>>788
二年前からつい最近もメールの返信でお話しさせて頂いていますが、あなたの物語はあなたご自身しか書けません
そして書くのは才能の有無以前に、”書きたいから”以上のものではないかと。最初は誰でも素人です。取り敢えず書いてみましょう

……『旧約~』を真面目に書くのであれば、半世紀以上前にも生きていたキャラが必要でしょうかね
魔術サイドから放逐される前のアレイスターさん、他には……ロキ?グレムリンの名前+ちょい役はどこへ行ったのか

真面目に書かないのであれば、ローガン(ウルヴァリン)とアルケイディ(オメガレッド)辺りを絡またり、
黒歴史になってる初代キャプテン・アメリカ(※マッカーシズムver)を出しても面白いかなと思います
”魔術と科学が交差する時、物語は始まる”のであれば、異能者集団であるミュータントとの邂逅は必然なのかも知れません

>>789
ベイロープ「スコットランドでは”Clan”と呼ばれる氏族達が集まって一つの国家を成していたのよ」
ベイロープ「てか今ネトゲのクランクラン呼んでるけど、その発祥はスコットランドの氏族制度がオリジンね」
ベイロープ「なので私達スコットランドの騎士達は、個人ではなく家族や家系へ対して捧げられるものが多”かった”の」
ベイロープ「……」
ベイロープ「私?私は一人で充分でしょ」
ベイロープ「一生涯に二君も三君も仕えるのは、誰とでも寝る女と同じなのだわ」
(※最初から”こういう↓”伏線でしたので、キスも含めて……ベイロープさんが修めているのは双剣の騎士ベイリンの逸話を用いた魔術ですが、
彼はアーサー王やその仲間達が負うべき『汚れ役』を担い、聖杯を得るために命を落としたとも解釈出来ます)

>>791
ありがとうございます。が、長い旅もどこかで何かの形で終わるものです

――『エンデュミオンの逆さ塔(Endymion reverse)』

上条(一瞬の酩酊感、数秒の浮遊感、そしてブレーキなしで線路へ突っ込んだような目眩がエンドレス)

上条(ジェットコースターの線路が途中でブチ折れて、勢いそのまま空中に投げ出された感じ……)

上条(空を飛んでいるのか、地面へ落ちているのか……二つの感覚は似ているようで、結末は正反対だ)

上条(……まぁ、俺は落下してるんだろうけどさ――なんて、少し心配になるぐらい、奇妙な浮遊感を体験した後)

上条(倒れこんで前のめりになり、床へ手を着いた……床?) ペタッ

上条(てか横になってた筈なんだが……なんで立ってたんだろうか?不思議パワーかなんか?)

上条(……取り敢えず『目的地へ着いたは良いものの、勢いつきすぎて死んじゃいましたテヘペロ』的な事故にはならずに済んだ、と)

上条(レディリーの魔術が成功したんだったら、アリサの居る場所に繋がってないとおかしいんだけど……暗くてよく見えないな)

上条(前の方、ずっとずっと前にどっかで見覚えのある、白と緑色の非常灯がある。そう、両手振ってダッシュしてるポーズのヤツ)

上条(……うん、つーかだな。さっきから俺が触ってる床自体、ほぼ毎日のように見てるっつーか、通ってるっつーかさ)

上条「……」

上条(ポケットへ入れといたサイリウムを灯り代わりにして、周囲を照らしてみると……)

上条(俺の予想通りの光景が広がっていた――なんて、どっかの探検隊みたく気取るつもりはないが、ぶっちゃけるならば!)

上条「……夜の、学校だよな……?」

――深夜の学校?

カツ、カツ、カツ、カツ……

上条(サイリウムをトーチ代わりに取り敢えず探索してみよう。取り敢えずは)

上条(なんつーか殺風景通り越して無機質な極々当たり前の学校の風景が広がっている……なんで?どして?)

上条(見た感じ、ウチの学校とは少し違う造りになってるみたいで、教室の入り口にあるクラス表記――1のAとか――は)

上条(……書いてはないか。ちゃんとタグは付いているんだが、真っ白のまま表記されていない)

上条(出入り口の扉には半透明のガラスが張ってあって、クラスの中を何となく伺う事が出来るが)

上条(……このシチュで誰か残ってたら超恐ぇよ!つーか居ないよ!居たってオバケか何かに決まってるだろうし!)

上条「……」

上条(……いやいや、待てよ。なんでお化けが怖いんだろう?)

上条(オバケは確かに神出鬼没だし、つーか時には命を狙われるから怖いんだよな、うん)

上条(最近の流行りは『ンボオオオォォ』らしいが……まぁ、やってられないよな。そりゃさ)

上条「……」

上条(……でも、オバケには実体が無いよな?少なくとも撲殺的なアレとか、焼殺的なアレとか、針刺してスパーン的なアレはない)

上条(てか基本、怖がらせるだけしか出来ないんであって……)

上条「……」

上条(魔術師の方が怖いじゃねぇか!誰とは言わないが!マジモンでタマ取りにかかってくる分、実体持った魔術師の方がタチ悪ぃわ!)

上条(あー良かった。魔術師の敵が居て良かったわー。だからオバケなんて怖くはないわー)

上条「……」

上条(……虚しいな。他に、他には何か無いのか?)

上条(他に――あ、下り階段と……なんだこれ?意味不明のアルファベットが壁に)

上条(”Tartarus-B001”?たーたーうす、ってなんだろ?新しい食いモン――な、ワケはないだろうから、ここの場所の名前?)

上条(”001”は施設の番号?階数だったらココが一階って意味になるか)

上条(……ま、降りてみる……)

上条「……」 カッカッカッ

上条(階段は途中に踊り場があって折り返しの付いたタイプだ……あぁ、ちなみに)

上条(窓はそこかしこにある。階段だけじゃなくて廊下にも)

上条(……でもただあるだけだ。外は完全な暗闇、光源の一つも無い感じ)

上条(下手に鍵開けて出たらどうなるのかも怖いが……考えないにしよう、と) カッ、カッ

上条(んで、降りてきた先で俺が見た文字は)

上条「”Tartarus-B002”……?なんで増えてんだよ?」

上条(間違いなく下り階段だった筈だが、どうしてプラスされて――あぁそうか、Bは地下室のBか!」

上条(そういやボスに『地下室は”Basement”の略でBだからな?』って教わったっけか。忘れてたなー)

上条(……なんでそんな話したんだろ……?……ま、今は急ごう)

上条「……」

上条(……うん、アレだよな。俺今大変な事に気づいちまったんだけどさ)

上条(普通、ホラ?”0○”みたいな書き方する時って、最初から全体数が分かってるって事だよな?)

上条(何か画像ファイルや資料を用意する時にとかさ、通し番号っつーの?使う順番や整理しやすいように、ファイル名の頭に番号振るじゃん?)

上条(例えば”00 立ち絵透過画像A”、”01 背景B”みたいな感じでさ)

上条(……や、まぁ問題はファイル数なんだよな、ファイル数。うん)

上条(最初から9個のファイルだったら、頭につける番号は1から9までで構わない)

上条(けど二桁になるようだったら、01、02って振った方がパソコン的には後々分類し易い……ん、だけどさ)

上条「……」

上条(……俺が今居るのは”002”階。そう、ゼロゼロがつく……って事はアレだよ。この表記の仕方だとな)

上条(『最低でも三桁、100階を超えるぐらいにまで地下は続いてる』ってオチじゃねぇだろうな……?)

――Tartarus-B053

カッ、カッ、カッ、カッ、カッ

上条(嫌がらせのように延々続く階段を降りて来ている。大体体感時間で2、3時間かなー?)

上条(最初のウチはダッシュで駆け下りてたんだが、途中からは体力の消耗――いざ何かあった時、ヘロヘロじゃどうしようもない――を考え、今は小走り程度だ)

上条「……」

上条(東京タワーには大展望台ってのがあるんだ。大体地上120mぐらいの高さで、特別展望台よりも下にある)

上条(そっから下には専用の階段がついていて、降りたい奴は階段でゆっくり降りられる――ただし!その数は590段!)

上条(途中でエレベーターとかも利用出来ないんで注意しろ、って但し書きが貼ってあるらしい。割と親切……親切か?そうかな?)

上条(でー、だ。話は変って『エンデュミオン』が建てられる前まで世界一高い建物として、ギネスに載っていたのが”バージ・カリファ”ってビルだ)

上条(……てかなんで俺がそんな雑学知ってんだろ?頭の中に浮かんでくる……ま、土御門辺りが喋ってたんだろ。ともかく)

上条(それでそのビル本体の高さが636m、160階建て。あー、という事は大展望台の5倍ちょいの高さだわな)

上条(階段数を変換するんであれば、5×590……2950段。つまり160階を駆け下りるんだったら、そんだけ苦労すると)

上条(んでもって仮に!仮にだけど階数表記がカンストする999階まで降りるとしたら……えっと)

上条(……約18400段……?高さで計算するとぉ――)

上条(――3970m?富士山プラス200mじゃないですかやだー)

上条「……」

上条(や、まぁ下りだし?休憩挟みながら行けば無理じゃないよ?時間は食うけどな?)

上条(ただ、帰り道。アリサ連れて登れるのか?この階段を?)

上条(あっちの世界じゃレッサー達がセレーネの時間稼ぎをしてくれてっけど、間に合うのか……?)

上条(お約束だと『時間の流れが外とは違う!』的な調整やら主人公補正が入るんだろうが、俺は主人公って訳じゃねぇし)

上条(アリサがどこに居るのか、そもそもここがレディリーの言っていた場所なのか、それすらも分かってはいないと)

上条(『答えを知っている者には回答権が永遠に失われる』……なんかの謎かけっぽく言われたのが、多分ヒントになってんだろうけどなー)

上条(……まぁ、魔術も使えない上、完全アウェイである以上、足使って探す以外に方法はないんだよ、多分)

上条(てかここ地下53階まで降り居てきたのはいいんだが……実際に目に見えて変ってるのは階数表記以外にはない)

上条(容量が足りずマップの使い回ししてるRPGのように、どんだけ降りても変わる様子が見られない……あー、クソ。考えてても仕方がないか)

上条(本当に降りてるのかどうか、壁に落書きでもすりゃ分かるかもだが……どうしたもんかな?)

上条「……」

上条(……むぅ。立ち止まってても仕方がない。どっかの教室にでも入っ――)

……。

上条(――て?なんだ?何か今聞こえたような……?)

…………。

上条「……子供の、声……?」

――Tartarus-B053 『   』教室

ギギギィ……

上条(声の出所を辿るのは予想以上に難儀した。あちこちから聞こえる”ような”感じで、変な風に木霊した結果なんだろうが)

上条(三回ばかり空の教室を覗いた後、階段から数えて四つ目の――相変わらず名前は空欄だった――教室を開けると、彼女は、居た)

少女「……どこぉ……」

上条(俺の方へ背を向けて、顔は見えない……てか暗いからな。こっち向いてたとしても分かったかどうかは怪しい)

上条「……?」

上条(こんな所に……子供が一人で?たった一人で、非常灯の灯りもない教室に?)

上条(えっと、これはもしかして――)

少女「どこぉ……あたしの、あたしの――」

上条(少しだけ嫌な予感に捕らわれていると、少女はいつの間にか俺の目の前にまで迫り――)

少女「――あたしの”おかお”はどこへ行ったのぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」

上条(――顔の左半分が鋭利な刃物で切断されたように欠け、真新しい断面から血を流す女の子が、ニタリと笑っていた……!)

少女「ね、お兄ちゃん知らない?あたしのあたしの、おかお、半分だけどっか行っちゃったんだよ」

上条「……」

少女「ねぇねぇ、あたしのあたしの――」

上条「――ん、あぁ、悪い。ちょっと待ってな」

少女「え?」

上条「ハンカチ――は、ないか。ティッシュは……あ、珍しく持ってたな」 ゴソゴソ

上条「はいこれ。あ、傷口を押さえとけ、気休めだけど止血ぐらいにはなるから」

上条「つーか暗くてよく見えねぇな。ほれ、廊下行くぞ」 グィッ

少女「……はい?」

上条「いや、だから大怪我してんだろうが!何かの能力だか魔術だか知らねぇけど!どうしてそんなになるまで放っといたんだよ!」

少女「……ご、ごめんなさい?」

上条「てか保健室とかってねぇのかな?……あぁクソ!こんなんだったら他の教室も虱潰しに探しとけば良かった……!」

少女「や、その、こわく、ないの……?」

上条「怖いに決まってんだろ。何言ってんだよ?」

少女「だ、よね――」

上条「……気づいて良かったよ。あのまま泣いてんのに気づかなくて、そのまま下行ったらどんだけ怖ぇか分かったもんじゃねぇさ」

少女「はい……?」

上条「カギが遠慮なんかしてんな!ケガしてんだったら尚更だよ!」

少女「……」

上条「とにかく!さっさと応急手当するから着いて来――」

少女「……ありがとう……」 スゥッ……

上条「いやいや、俺まだなんもしてねぇし。つーかまだ助けられっか分かってないからな?」

上条「地上まで行けば知り合いのカエル先生が絶対に何とかしてくれるんだが……携帯で呼べないかな?救急車の代わりに」

上条「てか先生も寝てるんだっけかー、確か。でも先生なら『患者さんのためなら起きてなきゃね?』ぐらい言って平気っぽいケドなー」

上条「ま、なんにしろ一人で悩むよりかマシだろ?頼りになんないかも知んないけ――ど?」

上条「……?」

上条「あれ……?どこ行った……?」

上条「てゆーかたった今まで手ぇ握ってた筈なのに……」

上条「……」

上条「あ、なんだ!ただの転移能力者(テレポーター)だったんだな!そっかー、いや納得納得!」

ベイロープ「違うと思うのだわ。それは、それだけは絶対に」

上条「マジで?」

ベイロープ「うんまぁ、マジで。てーかタルタロスの迷宮回廊(ラビュリントス)歩いてたら顔面無くなった能力者と出会うってどんな確率なの?」

上条「家に帰って来たらベランダにシスターさんが引っかかってたり、マッ○でダベっていたら巫女さんが通りかかってさ」

上条「ちょっと裏路地を歩けば御坂妹に遭遇するし、父さんが天使を降ろしちゃうよ!やったね!」

ベイロープ「あ、ごめんなさい?その話長くなるんだったら、後からして貰ってもいいかしら?」

ベイロープ「てか部分部分だけ抜き出すと、とてもシャバでは聞こえないような単語か……」

上条「偶然って怖いよねっ!神様も俺を狙い撃ちだよ!」

ベイロープ「そーゆーのいいから現実を見なさい、現実を」

上条「現実……ってか、ベイロープさん?だよね?」

ベイロープ「”さん”は要らないって言ったでしょ」

上条「なんでここに居んの?」

ベイロープ「そりゃ死んだからに決まってるでしょ」

上条「死ん――てかもう全滅したのかっ!?レッサー達もあっさりと!?」

ベイロープ「あー、違う違う。そうじゃなくってね、私の場合は魔術の副作用――ていうか、言ったような憶えがあるんだけど」

ベイロープ「ていうかそもそもここは、擬似的に造り上げられた冥界であって、死んでも魂が還る場所ではないの」

上条「え?どゆ事?」

ベイロープ「だから『銀塊心臓(ブレイブハート)』で、私の心臓はあなたに預けておいたでしょう?」

上条「…………………………はい?」

ベイロープ「んー、取り敢えず移動しながら話しましょうか。時間も有限なのだし」

――Tartarus-B058

ベイロープ「最初に断っておくけど、私はあなたが『冥界下り』の術式をかけられた直後に死んだのよ」

ベイロープ「だからあの後どうなったのかは知らない。タイムラグは10秒ぐらい……」

ベイロープ「でも『こっち』へ送り込まれたのは数十階分離されている、ってコトは時間の流れ方が相当早いようね」

ベイロープ「私達に取ってすればいい話でしょうけど――って、聞いてる?」

上条「聞いてねぇよ!?」

ベイロープ「よし!引っぱたくから四つん這いになりなさい!」

上条「そっちじゃなくて!俺そんなドギツいペナルティあるなんて聞いて無かったって意味で!」

ベイロープ「力を得るには対価を支払って当然。それは私達の業界じゃなくても同じ事よ」

上条「いや、でもさ!」

ベイロープ「あー……ランシスがどうしてアンアン言ってるのは知ってる?『罪人の馬車』って術式なんだけどね」

上条「あぁ知ってる、な。確か『魔剣』だかを扱うには魔力が足りないからって、その魔力を集めるために常時感知してる、だっけ?」

ベイロープ「ランスロットの『アロンダイト』は聖剣にして魔剣の性質を持つ、特別な霊装だかに仕方がないっちゃないのよね」

ベイロープ「『死の爪船(ナグルファル)』も広範囲へバステとデバフバラまく霊装だから、余計に魔力喰らいだし」

ベイロープ「ま、”ランスロット”の術式が、威力も高いけど魔力も遣う、って特性を持っているように、私がリンクしている”ベイリン”も癖がある」

上条「レッサーがアーサーって聞いた時にはテンション上がったが、ベイロープもやっぱりアーサーの仲間だったのか?」

ベイロープ「『デンマークの英雄ベーオウルフ』――”が、アーサー王物語に取り込まれた”のが私の騎士。双剣の騎士ベイリンね」

ベイロープ「逸話は色々あって、『聖槍を敵に使ったが、敵だけじゃなく城・土壌が永遠に呪われ』たり、最期は実の弟と相打ちになって死んだり」

ベイロープ「どうにも『命を賭ければ賭けただけ威力を増す』らしいわ」

上条「……はた迷惑な……!」

ベイロープ「あ、それに別に本当に死んだ訳じゃないから。あなたが仮死状態になったから、それに引っ張られて来ただけだと思うわ」

ベイロープ「どうせ冥界で死人に襲われてるだろうから、護衛には丁度いい――」

ベイロープ「――って思ってたのにっ!どっかのおバカはっ!誰彼見境なくフラグを立ててるしっ!」 ガクガクガクガクガクッ

上条「落ち着っ!?てっ!?俺がっ!?首がっ!?折れっ!?」

ベイロープ「折角先生からシリアスに送り出して貰ったのに、もう台無し……!」 スッ

上条「オーケー落ち着こう?多分ココはあの世っぽい所なんだけど、その鉄の爪で殴られた死んじゃうと思うから?ねっ!?」

上条「……てかそれ、根本的な解決になってなくないか?俺が死んだらベイロープも引っ張られるんじゃ?」

ベイロープ「……魔術的には『一回死んだ』から、もう『銀塊心臓』は解除されているわ。多分」

上条「といいんだかなぁ……」

ベイロープ「ま、来た以上、あなたは私が護るわ。トー……マイマスター!」

上条「解けてんだよな?魔術チャラになったのにマスター呼ぶのはおかしくないかな?」

上条「つーかその呼び方、前から突っ込もうと思ってたけどお前がマスター言いたいだけじゃねぇのか?あ?」

ベイロープ「スコットランドの貴族で、どっちかって言うと『姫様』って傅かれる方だったから、その……騎士に憧れる、みたいな?」

ベイロープ「ウチは基本的に”女系”継承だから、色々と実家が面倒臭いのよ」

上条「独立問題で揺れてるしなぁ」

ベイロープ「『スコットランド万歳!我ら民族の悲願を!』とかホザく連中は居るんだけれど、男爵位は金銭で売買出来るし」

ベイロープ「綺麗事だけを宣って現実を一切省みなさいバカどもに、小さい頃から振り回されてみなさい。誰だって護る側に回りたくなるから」

上条「分かるよーな気がしないでもないが……まぁいいや。俺も一人で歩くのは不安に思ってたし、有り難いよ」

ベイロープ「前教皇猊下が露払いをしてくれた以上、『新たなる光』も少しは役に立たないとね――と、来たわ、私の後ろへ」

上条「おうっ!――いや、俺も戦うし。つーか来たって何が?俺58階まで来るのにたった二人しか会わなかったんだけどさ」

ベイロープ「それは……”そう認識した”以上、世界は変わる」

上条「認識?」

ベイロープ「ヒント、あの世につきものと言えば?」

上条「……死んだ人?」

死人達『おおぉ、おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉうぅぅ………………』

上条「――って言った側から!?今まで出てこなかったのに!」

ベイロープ「でも――”死人は所詮死人に過ぎない”わ」

ベイロープ「”生前どれだけ強かろうと、今は龍脈の中に存在する記憶”……だから」

ベイロープ「だから”私の『知の角笛(ギャッラルホルン)』で容易く撃ち払える”……ッ!!!」

ズバチィイッ!!!

上条(ベイロープの構えた『槍』からルーンを纏った雷が辺りを包み込む!)

上条(俺達の降りる階段の先、そして背後に迫っていた得体の知れない何を軽々と吹き飛ばし――)

上条(――僅か数秒にも満たない時間で、周囲の死人を殲滅する……)

ベイロープ「さ、行きましょう?」

上条「……宜しくお願いします」

――Tartarus-B066

上条「てか聞きたい事が腐る程あるんですけど」

ベイロープ「あ、ちょっと待っ――」

バリバリバリバリッ

ベイロープ「――と、何?」

上条「お、おぅ……」

上条(死人――亡者の群れを雷で一掃して、また俺達は歩き始める)

上条「聞きたい事は一杯あるんだけどさ、まずここはどこなんだ?あの世?冥界、って言うのか」

上条「オバケ――てか、死んだ人が出るのは何となく分かるけども、どう見てもここは夜の学校。しかも日本風だし?……や、海外の学校なんて知らないが」

上条「てか確か50階ちょいまでは誰とも遭遇しなかったのに、どういう理屈だろう?深度的な話か?」

ベイロープ「本当に一杯ね、えぇっと……まず、異界とか隠世、天国と地獄、日本じゃタカマガハラやニライカナイは知ってる?」

上条「概念だけは。全部『あの世』って括りなんだよな?」

ベイロープ「そうね。人が死んだらその魂が逝くとされている所であったり、神々が住まう地であったり」

ベイロープ「天国やアヴァロン、妖精王オベロンが住む”常若の国(ティル・ノ・ナーグ)”、浄土にエインヘリャル――勇敢な戦士の魂を集めたグラズヘイム」

ベイロープ「これらを仮に”楽園型冥府”と呼ぶとしましょうか」

ベイロープ「反対にタルタロスやコキュートス、ゲヘナやパンデモニウムにヘイヘイム。そっちは地獄型冥府ね」

ベイロープ「日本の『常世(とこよ)』、”常に変わらずの世界”は楽園型……けれど元々の原型は『常夜(とこよ)』――”常に夜の世界”」

ベイロープ「これは地獄型冥府から楽園型へ転じた例であり、ブッディストの史観が原始信仰と交わっ――」

ベイロープ「……」

上条「どったの?」

ベイロープ「……『知らない筈の知識を知ってる』、か。流石に数多くの魔術師が目指しただけはあるわね、これは」

ベイロープ「カダスへ旅だった愚者カーター。彼が何を求めたのかは理解出来なかったけれど……その代償は『知識』」

ベイロープ「賭けた命、失った正気程に対価が釣り合うとは思えない……まぁいいわ」

ベイロープ「で、多くの場合、それら『異界』は”ここではないどこか”に存在すると考えられてきたのよ。空の果て、海の向こう、地の底とかね」

ベイロープ「でも科学が発達して、人が行ける場所は格段に増えたし、足を運べないような所でも何があるのかは分かってしまった」

ベイロープ「空の果てには宇宙が広がり、海の向こうには別の大地が在り、地の底には個体のまま太陽の表面温度に等しい鉄があるだけ」

ベイロープ「”プレスター=ジョン(異邦より来たる十字教王)”は居ない、って分かっただけ進歩っちゃあ進歩かも知れないわね」

上条「すいません。全っ然わっかんないんですけど?」

ベイロープ「あぁゴメンなさい。えっと、結論から言えば『異界はある』のよ」

ベイロープ「天国であったり地獄であったり、妖精が住む国も、エルフやドワーフの隠れ里も存在はするのよ。それが――」

上条「……『龍脈の記憶』か?」

ベイロープ「そうね。そう考えた方が説明がつく事の多いの」

ベイロープ「古今東西で似たり寄ったりの終末論、そしてどこの国でも共通して語られる『あの世』のテンプレート」

ベイロープ「天国も地獄も、その物理的には存在する余白はなく、ただ概念としてのみ存在し、”情報”として語られるに過ぎない――の、だけれど」

ベイロープ「きちんとした手順を踏めば、いえ下手をすれば偶然迷い込んでしまう事もあるわ。それが『異界』って存在」

上条「けど実際には存在しない、し。後、前にも言ってた『位相世界』だっけか?それらも龍脈の側面にしか過ぎない、って説がある」

上条「だとすれば俺が、俺達が居るこの場所はどこなんだ?どう見ても深夜の学校で肝試ししてる感が強いんだが……」

ベイロープ「大雑把に言えば『異界』で、もっと正解に言えば『冥界』なのは間違いないわ」

上条「ここが?学園モノRPGの学校ダンジョンにしか見えないのに?」

ベイロープ「付け加えるとトー……『マイマスターが思った冥界』が正しい」

上条「なんで俺の名前にオプションつけたの?もしかして今までマスターマスター言ってたのって恥ずかしいだけか?あぁ?」

ベイロープ「真面目な話よ!」

上条「そうだな!……そうかな?」

ベイロープ「オルフェウスの冥界下りの話はどこまで?」

上条「死んじまった恋人助けに冥界まで乗り込むんだけど、結局ダメだった、ぐらい?」

ベイロープ「それを『龍脈』という単語を使って、魔術的に解析すると?」

上条「えーーーーっと、だな。まず”異界は物理的に存在しない”のが、前提だっけか」

上条「でも俺達がこうしているように、つーか”魔術的には存在する”のも分かってる」

ベイロープ「そうね。それで”位相世界は龍脈の一形態”だとすれば……?」

上条「……『冥界を含む異界は”個々人が龍脈にアクセスし、情報を得て見た夢”』……か?」

ベイロープ「と、先生には教わっているわね」

上条「相変わらず謎のもふもふだぜ……!」

ベイロープ「龍脈からこぼれ落ちたマナの破片?だから時々『フィクションのマーリンの性格・性質をトレース』したりするし」

ベイロープ「オリジナルのマーリンが造り上げた術式だか霊装なんでしょうけど、あなたの『右手』でも消えなかった、という事は」

上条「『常に魔力が供給されている』?」

ベイロープ「正解……ちょっと期待したんだけどね」

上条「何を?てーか扱い悪くないか?」

ベイロープ「あの子達と先生の間で苦労する私は……っ!」

上条「ま、まぁまぁ!それはきっとレッサー達が大人になったら改善すると思うさ!」

ベイロープ「……あの子達が”オトナ”になるとでも?」

上条「良し!そんな事よりも現状を把握するのが大切ですよねっ!ですもんねっ!」

ベイロープ「ま、それは別に諦めてるからいいんだけど……ではなくて、冥界の話ね」

ベイロープ「なんて言うのかしら、こう、所謂『異界探訪譚』は様々だけれど、あくまでも『冥界下り』は手段であって目的じゃないのよ」

上条「手段?」

ベイロープ「そう。オルフェウスは恋人エウリディケを甦らせるのが目的であって、冥界へ下るのは死んだ彼女を連れて帰るため。ここまではいい?」

上条「だな」

ベイロープ「でももしこれが、”他に死者蘇生の手段”があれば、わざわざ冥界まで来たりはしないのよ」

上条「神話にツッコむのもどうかと思うんだけど……」

ベイロープ「いやそうじゃなくて。彼がしたのは『儀式魔術師の一種だった』ってのが、こっちの見解ね」

ベイロープ「人は、特にオルフェウス自体は魔術師でも何でもなく、ただ優れた楽師であるだけの存在だったわ」

ベイロープ「冥界から戻って来た後はオルフェウス教団を立ち上げるけど……まぁ、少なくとも冥界へ下るまではただの人よ」

上条「……悪いんだが、何を言いたいのか――」

ベイロープ「と”同じよう”に。ギリシャ神話にはある悲恋が伝えられているの。それが――」

ベイロープ「――『セレーネとエンデュミオン』」

上条「あー、うん。そうだけどさ。それとどういう関係が?」

ベイロープ「セレーネはエンデュミオンが老いるのを悲しみ、自らの手、もしくはゼウスへ頼んで死して眠る存在へと引き上げた」

ベイロープ「『死者の復活よりも難しい奇跡をアッサリと行っている』のは、分かるかしら?」

上条「あーはいはい、成程。そういう事かよ。何となく話は見えてきた……つまりだ」

上条「オルフェウスって”人”は大切な相手を生き返らせるため、わざわざ死後の世界まで行かなきゃいけなかった。これに対して」

上条「エンデュミオンは”神”によって、割とすんなり不老不死の力を手に入れる事が出来た……」

上条「この両者の違いなんなんでしょうかー、って話か?」

ベイロープ「その通りね。エンデュミオンは、まぁ分かるでしょう?」

ベイロープ「魔神セレーネやより上位存在であれば、地上で起きてるような事をやらかすのも可能――あくまでも”神”だから」

ベイロープ「けれどオルフェウスはどこまで行っても楽師でしか過ぎない。実際に仲間を助けるために命を落とし――」

ベイロープ「……?」

上条「うん?」

ベイロープ「『楽師オルフェウスの死後、彼の竪琴の腕を惜しんだアポロンにより星座へと列せられた』……って、誰かが言ってる」

ベイロープ「『だからアポロン神の巫女たるシビルが、冥界下りの術式を使える』のね」

上条「誰と話してんだ、さっきから?」

ベイロープ「えぇごめんなさい。話が途中だったわね――と、結論から言えば『”冥界下り”自体が一つの儀式魔術』なのよ。要は」

上条「そりゃ……そう、じゃないのか?生身の人間が死んだ人らの世界へ行く、ってのは」

ベイロープ「違う。そうじゃなくて――思い出して、『この世界の神話のほぼ全てがフィクションである』のと同様に、『位相世界も存在しない』わよね?」

ベイロープ「だったらどうして、そのわざわざ存在しない筈の世界へ行かなければいけないの?」

上条「位相世界――俺達が天国とか地獄とか呼んでいる世界、それらは無かったと」

ベイロープ「そうね。少なくとも存在はするが干渉をかけてくる事はなかったわね」

上条「が、実際には同じく過去の魔術師、もしくはそれっぽい力を持つ奴らが行った話が残っている……」

上条「例えばオルフェウスは死人の復活だが……後一歩の所で失敗した」

上条「だが同じように。死人なり不老不死っていう力を、ゼウスなりセレーネなりは大したデメリットも労力を支払わずに行使している」

上条「この差は何だ?神様と人の違い?それとも立ち位置の違い?」

ベイロープ「仮に、セレーネ達魔神も元は魔術師だったとすると?」

上条「――『魔術師としての力量の違い』、か!?」

ベイロープ「龍脈は力と記憶が流れ込んでいる――それも地球開闢からずっと。下手をすれば過去だけじゃなく平行世界も網羅しているアーカイバ」

ベイロープ「途轍もなく大きい図書館のようなモノだと……あぁそう、”あなたのように”そう言った方が正しいのかしらね」

上条「うん?」

ベイロープ「教えない。教えたら噛みつくって言ってるし、『ありさのために働くのは当たり前なんだもん!』だって」

上条「……そりゃ怖いな。つーかここでまたお前の世話になんのかよ」

ベイロープ「で、その子が流してくれる知識に拠れば、超々大図書館は知識の宝庫なのは間違いないのよ。全ての答えがあり、また力がある」

ベイロープ「だからその記憶――”魔神”と呼ばれる存在達は、意識的または無意識的に龍脈の力を行使出来るんじゃないかって」

上条「成程。だから神様的な奴らはホイホイ復活とか出来て……でも、オルフェウスは違うんだよな?」

ベイロープ「そうね。何の知識も何も持たない素人が放り込まれても、どれをどうしたら分からないし、予定に下手を打ってしまうかも知れない」

ベイロープ「そうして途方に暮れている所で、龍脈を理解するために発動”させる”魔術が『冥界下り』なのよ」

上条「論理が……跳びすぎてないかな?」

ベイロープ「ゲームでチュートリアル、あるわよね?RPGだったらシステム面を教えたり、戦闘方法や軽く世界観をレクチャーするの」

上条「あるある。『初心者クエスト』だよな。大抵盗賊かゴブリン倒しに行くヤツだ」

ベイロープ「それと同じ。『楽に死人を復活出来ないから、きちんと手順を踏んだ』のが冥界下りの魔術ね」

上条「復活させるための、チュートリアル?」

ベイロープ「オルフェウスの話を単純にすると――」

ベイロープ「『1.死人の世界へ行く』」

ベイロープ「『2.死人の中から相手を選択する』」

ベイロープ「『3.サルベージして生き返らせる』――って流れになるけど……」

上条「……あれ?その流れって、パソコンでファイル探すのと同じじゃね?」

ベイロープ「そうね。パソコンだったら検索機能で呼び出せるけど、龍脈は違うでしょ?」

ベイロープ「そのために『冥界』って概念を造り出した上、『下る』事で特定の情報を選別し、『連れて帰る』行為で肉体の再構成を謀る、と」

上条「つまり、夜の学校っぽい冥界を造りだしたのも――」

ベイロープ「龍脈を操る力が無い、または力を行使出来ない人間にとってすれば、龍脈の知識は猛毒よね」

ベイロープ「下手に触れてしまえば、忽ち発狂してしまうような禁断の知識よ」

上条「……位相世界がそうだったよな。『平行世界からの力を行使するために、神話的な知識をひたすら学んで汚染を防ぐ』……」

ベイロープ「理屈はそれと同じなのでしょうね。膨大で得体の知れないデータを扱うために、わざと可視化させ、日常の延長線のような”世界”を構築する」

ベイロープ「効率の面”だけ”で言えば、コマンドラインインタプリタ方式のインターフェースが最も良かった……」

ベイロープ「けれどそれじゃユーザーにかかる負担が大きすぎるため、後にグラフィカルユーザインタフェースへと切り替えられ、多くの人間の扱いを容易にしたと」

上条「すいません。ちょっと何言ってるか分かんないです」

ベイロープ「科学サイドがそれでいいの?本当に?」

上条「つまり……この世界は俺が造ったようなモンなのか?『冥界下り』って術式――つーかアリサを助けへ行くための手順を、楽に踏めるように」

ベイロープ「魔術サイド的には『橋を架ける』とも言われるわね。北欧神話のビフレストがそう」

上条「理屈は分かった、ん、だけどさ。俺の造った世界にしちゃ矛盾がチラホラ見えるんだが」

上条「まず……死人は?あいつらまで望んだ憶えはないんだけどなー」

ベイロープ「それは龍脈の記憶に残っていたモノが呼び起こされた――の、だし」

ベイロープ「そもそもで言えば『夜の学校にはお化けが出るかも?』とか思わなかった?もししたのであれば、それに引っ張られるわ」

上条「誰だって思うんじゃねぇかなぁ、それは……てか、この冥界ってヤツが俺の想像だったら、もっと簡単に行けた筈じゃないのか?」

上条「延々階段下りマラソンするんじゃなくて、こう、エレベーターか何かで、すーっと行けるような感じで」

ベイロープ「『答えを知った者は回答権が失われる』。この場合、最初から冥界の話を聞いていたら、素直に世界を造れた?」

上条「……」

ベイロープ「繰り返すけど『冥界へ下る』というプロセスは、それ自体が儀式魔術の一部であり、龍脈の力を御し切れない者にとっては絶対に必要なのよ」

ベイロープ「魔術の制御に長けた、聖人か教皇クラスの術者でもない限り、最初から最善の答えを掴めるなんて有り得ないでしょ」

ベイロープ「もしも最初に『龍脈と接続したら自由に出来る世界が広がっているから、最短でアリサを助けに行ける』って聞いてたら、実行に移せた?」

上条「そう言われると……無理、なのかなぁ?」

ベイロープ「『何でも自由に叶う力』は魅力的ではあるけれど、諸刃の剣でもあるのだわ」

ベイロープ「夜の学校へ迷い込んで、『この世界には出口がないのかも知れない!?』なんて思い込んだまま固着すれば、死ぬまで閉じ込められるのよ」

上条「怖っ!?本気で怖っ!?」

ベイロープ「信じたり、奇跡を願う想いは、人が言葉を獲得するよりもずっとずっと昔――原初の魔術と呼べる代物よ」

ベイロープ「だからこそ、術者である当人が『心の底から思い込まなければいけない』し、逆に疑えば魔術は効力を失うの」

上条「あー……前にケンカした錬金術師に、そういうの居たなぁ……」

ベイロープ「ま、アレよね。”世界はもう完全に固まった”し、アリサの記憶が何階ぐらいにあるのか、”何となく分かっている”んでしょう?」

上条「さっき『知の角笛』使った時もそうだけど、妙に強調してやいませんかね?何か不自然なぐらいに?」

ベイロープ「いいから!どんな感じで!?」

上条「そう、だな。何となくではあるけど、近づいて来てるような気がしないでもない」

ベイロープ「具体的には?」

上条「地獄の999階マラソンかと思ったけど、多分……100階までには、行けそう……だと思う!根拠はないが!」

ベイロープ「”この世界はあなたが造ったのだから、その考えは正しい”わよ」

上条「だと、いいんだけど――ベイロープ?」

ベイロープ「……」

上条「どうしたんだ、急に立ち止まって――まさか、敵かっ!?」

ベイロープ「ん?いいえ、そういうんじゃなく、ないんだけど……ま、適材適所ってあるわよね?」

ベイロープ「あまり気が進まないのだけど……仕方がないかなって思うわ」

上条「はい?」

ベイロープ「先に言っておくと、私は先に帰るわね。だって”この先には死人が出ない”のだから」

ベイロープ「少なくとも”他の人間にも介入はされない”だろうから、私の道案内はここで終わるのだわ」

上条「そっか……ありがとう、色々と教えて貰っちまって」

ベイロープ「……正直、助けになりたいのは山々なんだけど、これ以上第三者が首を突っ込んでも害にしかならない――って先生が言ってたし」

上条「いやいやっ!とんでもないっこちらこそっ!」

ベイロープ「――で、悪いんだけど、手、出してくれない?」

上条「手?」

ベイロープ「そうそう、『右手』を、ね……えっと――」

上条(ベイロープは俺の前で片膝をつくと、こっちの右腕を取って引っ張る)

上条(何?って疑問に思う前に――)

上条(――俺の『右手』とベイロープの唇が軽く、触れた……)

ベイロープ「それじゃ、またあっちで逢いましょう――トーマ!」

パキィィイィンッ………………!

上条(消え行く彼女へ、俺は黙ったまま頷いた……!)

――青冷めた光の柱の下

ベイロープ「――か、は……っ!」

レッサー「『おお、ゆうしゃ”べいろーぷ”よ、しんでしまうとはなさけない』」

ベイロープ「ネタはいい!状況説明!」

ランシス「んー……一分ぐらいしか経ってない、と思う」

上条「……」

ベイロープ「器を壊されては……ないようね。セレーネはっ!?」

フロリス「あっちでセンセーとレディリーが対処中――なんだケド、異変っちゃあ異変が一つ」

ベイロープ「何――って、これ?障壁なの?」

フロリス「ワタシらが”X”の準備を始めて、ジャパニーズが冥界行ったらすぐ、ぐらいかな?」

ベイロープ「私達を逃がさないように……じゃ、ないか。魔力が十字教の、って事は」

レッサー「あのジーサンの仕業でしょうな。周囲に集まってきたショゴスを近づけないためにだと」

フロリス「ワタシらがこっち来たから、不要なリソース振り切ったんだろうケドさ。何で隠れたままなんだぜ?」

レッサー「術式が発動している、しかも我々がセレーネを囲んだ後で、であれば自動起動の線はないでしょうから……」

レッサー「どっかで隠れて様子を伺っている可能性は高いですかね」

ランシス「私達が失敗した時の……後詰め?」

レッサー「ともすれば私達諸共粉砕するんじゃねぇか、ってガクブルもんですがね」

フロリス「うえー、メンドー」

レッサー「間に上条さんアリサさんいらっしゃるんで、無茶な事はしないでしょうが――で、ベイロープ。あっちの首尾はどんなもんでしたか?」

ベイロープ「……ん、えぇ上々よ。悪くはなかったわ」

フロリス「ジャパニーズに”刷り込み”するんだっけか?」

ベイロープ「そうね。あれだけ言っておけばイメージも安定するでしょうし、取り敢えず道は繋がったと思う」

レッサー「上条さんの魔術知識が無い所へ、専門家のフリをして都合の良い冥界をインプリントする……」

レッサー「流石は意外とコスい伝説を数多持つ我が師マーリン!そこに痺れる憧れる!」

ラシンス「……よっ、弟子の教育を大抵間違えた男……っ!」

フロリス「アンタらが言うな。つーか反省しろ」

レッサー「まぁまぁともあれ、わざわざタルタロスまで出張お疲れ様で御座いましたよ。えぇえぇ」

レッサー「『双剣の騎士ベイリン』が一度死んで下さったおかげで、儀式魔術の段取りもスムーズに行きましたし。お陰様でね」

レッサー「とはいえ、こっちも術式の組み立ても佳境になってきたんで、少し休んだら手伝っ――とぉ?おんやー?」

ランシス「……ん?」

レッサー「気のせいだったらアレなんですけど……ベイロープ、あなたタルタロスで何かありましたね?」

ベイロープ「……」

レッサー「あ、言いたくないんだったら聞きませんけど。どうせ龍脈関係でいやーんな記憶を幻視たせいでしょうから」

ベイロープ「……いや、違うの。そうじゃないのよ、その」

フロリス「珍っ!?ベイロープが言い淀むなんて、どんな事件だっ?」

ラシンス「しー……茶化すの禁止」

ベイロープ「えぇ……私は、あなた達に謝らないと、いけないのよ……っ!」

レッサー「ど、どうされました?いやマジで様子がおかしいですよ?」

ベイロープ「――私、あなた達に約束したわよね?『あなた達が一人前になるまで面倒看る』って!」

ベイロープ「それまでずっと恋愛しないって!そう誓ったの、憶えてる!?」

フロリス「(……ウン?言ったっけか、そんなん?)」

レッサー「(私もぶっちゃけ初耳じゃねぇかなって思うんですけど、どうですかね?)」

ランシス「(あった……ほら、ベイロープが悪い男に騙されそうになって、レッサーがぶち壊した時……)」

フロリス「(何回目?いっちゃん近いンじゃないよね?)」

ランシス「(……それは忘れた……)」

レッサー「(うーむむむ?そういやそんな記憶もあるような、ないような?)」

レッサー「……」

ランシス「(……どう?)」

レッサー「(やっぱりないですねっ!一々ネタにマジレスしてられませんし!)」

フロリス「(や、でもさ。ここで”Have you injured the head?(ちょっと何言ってるのかわっかんないですね)”って言ったら、ベイロープブチキレるっしょ?)」

フロリス「(顔真っ赤にして半分怒ってるカンジだしぃ?)」

ランシス「(そう?……なんか恥ずかしくってモジモジしてるような……)」

レッサー「(――まーかせて下さいな!ここは一つ、『空気を読まない女Best3』に四年連続で入った私に!)」

フロリス・ラシンス「「だから、そーゆートコだよ」」

ベイロープ「……何?」

レッサー「いえいえなんでも御座いませんともっ!お気になさらずにねっ!」

レッサー「そんな些細な事よりも!聞くだけ聞きましょう――それでどうしました?」

ベイロープ「そんな、そんなっ大切な約束をしたのに!私はあなた達に黙って抜け駆けを――」

レッサー「あい?」

フロリス「ヘ?」

ランシス「……?」

ベイロープ「――マスターの手の甲へ!口づけをしてしまったの……!」

レッサー・フロリス・ランシス「「「ヘー、ソウナンダー」」」

ベイロープ「別に手を握るだけで良かったのよ!?あの場面、あの場所で!『右手』がきちんと働いているって、効果を証明するためにはね!」

ベイロープ「だけど、私は、皆を、裏切っ――」

レッサー「――ベイロープ」 ポンッ

ベイロープ「……?」

レッサー「顔を上げて下さいな、ベイロープ」

ベイロープ「……けど」

レッサー「裏切る・裏切らないの定義は色々ありますけど――私は、少なくともここに居る仲間達は、そんな事であなたを裏切り者だと呼びません……ッ!」

レッサー「だって――だって仲間じゃないですか!ナ・カ・マっ!」

ベイロープ「……レッサー!」

フロリス「そ、そうだよねー、ウン!べ、別にキスぐらいするし!全然裏切りなんかじゃないって!」

ランシス コクコク

ベイロープ「あなた達……!」

レッサー「はいフロリスさん今イイ事言いやがりましたねっ!なんつっても若い男女なんですから、キスの一つや二つや三つしますよねっ!普通ですよっ!」

ベイロープ「そ、そうなの?」

フロリス「あー……ホラ!親愛的な意味でだよ、ウンっ!きっとそうだって!」

レッサー「そ、そうですよっ!抜け駆けだって仰いましたけども!そんな事ぐらいで我らの友情が揺らぐモンですか!」

レッサー「むしろアレですな!後から事実が発覚したとしても!それはどうかノーカウントでお願いしますっ!」

ベイロープ「……ありがとう!」

フロリス(※抜け駆け一番手)「い、イイよ?うん、全然全然?」

ラシンス(※抜け駆け二番手)「……まぁ……そういうこともある。テンション上がると、しゃーないー……」

レッサー(※抜け駆け三番手)「ですよねっ!分かりますっ!」

マーリン「――なぁ、なぁて。ちょっとエエかな?」

レッサー「おっとどこからか幻聴が?私のガイアが囁いてるんですかね?」

マーリン「あんまガイアはん仕事さすのどうかと思うわ。ちゅーか休ましたりぃ、な?」

マーリン「てかジブンら、さっきから聞いとぉけど、なんや楽しそうないの?うん?」

マーリン「てーかレッサー?さっきワイの悪口言ってへんかった?気のせいかな?」

マーリン「余裕あんやったら、もぉちょっとこっち手伝って欲しいんやけど……」

レッサー「すいませんっ!スグに術式展開に移りますんで!」

マーリン「……ま、最悪の最悪、上条はんアリサはんが帰って来る前に発動せなアカンかもしれへんから、そのつもりで」

ベイロープ「そんなに切羽詰まってるの?」

マーリン「やー……そうやね。ま、なんつったらいいのか分からんけど、分からんけども――」

セレーネ『きひっ!きひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひっ!』

マーリン「敵さんがエッラいやる気でなぁ」

セレーネ『ぼうや達はかあさんの邪魔をするの?こんなにもわたしはあなた達を愛してるのに』

セレーネ『それともごっこ遊び?もうそんな歳だったかしら……子供が大きくなるのは早いものね』

セレーネ『それじゃ遊びましょ。あなたの好きなごっこ遊びで、母さんは何の役をすればいいのかしら?』

セレーネ『おとぎ話の鬼の役?それとも悪い王子様の役?七人の小人さんも可愛らしいわね?』

セレーネ『それとも――あぁ、アァ、嗚呼!レディリー!あなたは――そう!茨姫の王女様だったのね!』

セレーネ『だったらわたしはこう言えばいいのかしら。ご本の通りに、悪い悪い魔法使いを演じればいいのね』

セレーネ『そう、そうね、”魔法名”よね?ぼうや達がごっこ遊びをする時、名乗っていたのは』

セレーネ『お名前と……番号?わたしも?わたしも必要なの、それ?』 ジジッ

セレーネ『……うふふ。母さんはね、母さんは世界に一人しか居ないから、番号は要らないの。どう?凄いでしょう?』

セレーネ『わたしはセレーネ、オリンポスに住まう三日月のシグマ――』

セレーネ『――ペルポネーソスに墜り至る、子供達の妣(はは)――』

セレーネ『――――――”Selene(月は無慈悲な夜の女王)”……!!!』

――Tartarus-B099

……カツカツカツ、カツ

上条「――さて」

上条(降りに降りて来た99階。いや、1階からスタートだから正確には98階か)

上条(時間の感覚はずっと前にどっかへ行ってる。急いで来たつもりではあるんだが)

上条(ここを降りれば100階に降りるのと同時に、俺はアリサの記憶へと繋がる……らしい)

上条(ただ……どんな形になるんだろうな?出会って手ぇ引っ張ってさぁ終わり、って簡単には行かないような気がする)

上条(この冥界は俺がイメージした、要は”連れてくる手順を踏むための仮想世界”……魔術サイドの話でバーチャルな概念もどうかと思うが)

上条(と、すれば当然この先にもそれ相応の世界があってだ、それなりの手段を取る必要性がある、と)

上条(……まぁ、無理矢理攫う訳にはいかないだろうし、それだけだと多分解決にはならないし?)

上条(こればっかりは『右手』でぶん殴ってもなぁ?てーかそれをやっちまったらタダの暴力だわな)

上条(一応――俺は”否定する”目的にだけ、ぶっちゃけると『幻想を殺す』方面以外には使ってなかった『幻想殺し』)

上条(でも今『冥界下り』の術式の中でも、働くのは働いている……あぁ『団長』とやり合った時の夢と同じか)

上条(思い起こせばアウレオルスん時だって、『全てをキャンセルする力』”だけ”だったら全部無効化していた訳で)

上条(俺の認識に能力が左右されていたんだろーなー、うん)

上条「……」

上条(ま、なるようになるだろ!悩んでも仕方がない!)

上条(――あの世だろうが、『夢』ん中だろうが、どこだって行って――)

……プツッ……

――朝 自室

チュンチュン、チュン……

上条「………………」

上条「……ね、寝てた……?いや、寝ちまってたのかな?」

上条「寝オチした、にしちゃしっかりパジャマへ着替えてる……し」

上条「……」

上条「……あれ?俺パジャマ派じゃなかったよな?Tシャツ派なのに何で着て――」

ガチャッ……

鳴護「――あ、当麻君?起きてたんだ、おはよー」

上条「お――は、よう?」

鳴護「朝ご飯作っちゃってるから、顔洗って降りて来てねー」

……パタンッ

上条「……」

上条「えっと……外国の話だ。英語圏ではスズメの鳴き声をChirpで表すらしい。あ、マジ話な?」

上条「てか小鳥だけじゃなく、虫の音も同じ単語で一括りにしてるらしく、やっぱり俺らとは感性――つーか文化の違いか」

上条「他にも、ホラ。夏の夜とかに鳴く虫の声ってあるじゃんか?スズムシとかクツワムシとかのリーリー、ガチャカヂャってのさ」

上条「あれ全般が雑音にしか聞こえないんで、虫嫌いには日本の田舎は敬遠されて――」

上条「……」

上条「……オーケー落ち着こうぜ?レッサーに聞かされた驚愕の小話を思い出している場合じゃない!もっと大切な事がある!」

上条「ツッコミ所は色々あるが――最大のポイントは!」

上条「……すぅ……」

上条「――――――アリサが料理、だと……ッ!!!?」

今週の投下は以上となります。お付き合い頂いた方に感謝を

今週から平常運転へ戻ります――とは言っても、長くはないと思いますが。多分

ベイロープデレデレでクソワロタwww



恋愛をしないって誓いはベイロープ編で破ってなかった?

フロリスってキスしたっけ?

でもマーリンはキスしてないよね(ムチャブリ

「常夜」で上条が目覚めるとき、ランシスがディイイイップ!な口づけしてたよね、公衆の面前で盛大に。
あれを「抜け駆け」じゃなくて「ネタ」としてカウントしてたんだとすれば―――

……ベイロープさん、抱きしめたいわあ。

「魔導図書館」もまた、この常夜の中で闘っているのか。
それとも、

レッサー「都合の良い冥界をインプリントする……」

ための、ベイロープのブラフなのか。
願わくば、前者であらんことを。

後にこれはベイロープ最後の輝きと呼ばれます

遂にベイロープまで攻めだしたか アリサ空気だな

面白い!!!

>>792
ランシス「……ある意味アーサー王はNTRれるのが最大の見せ場……ッ!」
ランシス「……むしろ主役を食う覚悟がある……!」
(※ランスロットがフランス出身の騎士という”設定”があり、尚且つアーサー王物語が成立しつつあった時代、
イングランドはフランスだけでなく、一度はデンマーク王国の支配下に置かれました。
最終的に独立を果したものの、長らくフランス系の国王が占めていたため、ランスロットもそれ相応の立ち位置だと)

>>815
ベイロープ「デ、デレてなんかないわ!これが素よ!」
レッサー「続きはベイロープアフター、『Order of the Thistle ~魂は雷鳴へ還る~』を待て!」
(※しません)

――リビング

上条「……」

上条(洗面所で顔を洗った後、良い匂いがする方へやってきたんだが……)

上条(そこはキッチン一体型のダイニング、テーブルの上には簡単な料理が並んでいる)

上条(てかまぁトーストとサラダ、炒めたベーコンに、ポーチドエッグ――熱湯に卵を落として固めた簡易ゆで卵――なんだが)

上条(旅行中に俺が散々作ったメニューと同じ、違いは……あぁ机の上にある鉢植えぐらい?)

上条(ベランダに置いた方がいいんじゃないかな、と思ったりなんかもする)

上条「赤い……パンジー?」

鳴護「アネモネ、って言うんだけど……昨日お花屋さんで貰った時にも聞いてたよね?」

上条「そ、そうだったかなー?」

鳴護「そうだよ、てか当麻君が『これがいいんじゃ?』って言うから――」

上条「あぁうんごめんなっ!その話は後から聞くから!今はメシ食べちまおう、なっ!?」

鳴護「また勢いで誤魔化そうとしてるし……いいけど」

上条「お、おー!アリサの作った手料理は美味しそうだなー!」

鳴護「そ、そっか、な?……もう、早く食べちゃってねっ」

上条(怒ってる――の、とは少し違うかな。語尾がちょっと弾んでるし?)

上条(……ま、迂闊な事は言わないよう注意するとして、まずはメシ。メシなぁ……)

上条(……俺がこんだけ戦慄してるのには理由があるんだよ、割と真っ当な……)

上条(アリサ――つーかARISAのオフィシャルグッズ作ろうって話が持ち上がったんだ。ツアー会場で売れるような、って要望で)

上条(『食べ物の方が回転率が早いですし、”料理が出来て家庭的”アピールにもなります!』ってな。誰とは言わないがしっかりマネージャーの一存で)

上条(ケーキやら軽食やらのレシピ作りを”手伝った”のが、俺って事になってる……まぁ、ほぼ原案から監修まで俺がやったんだけども!)

上条(そん時に『アリサってどのぐらい料理出来んだ?』って流れになるよな?てか日常会話として聞くさ。礼儀みたいなモンだから)

上条(……やー、あのな?アリサの名誉のために言っておくとだ。決して不味いとか、そもそも料理が苦手って話ではない。そこはな?)

上条(よくある『素材へ対する冒涜』的なトンデモ料理とはかけ離れた、実に”ある意味”家庭的な料理であったと俺は言おう)

上条(また同時に味自体も悪くはない――所か、フツーに美味しい。俺は好きな味だし、多分日本人なら『まぁアリだよね?』って言うぐらいの腕だよ)

上条(自炊派の学生さんらしく!俺も少なからず共感したけどもだ!)

上条(ただなぁ……その、なんつーかさ、ほら?アリサはインデックスと同じだろ?体質的にって言うか?)

上条(人様よりも遙かに食うんだが……その、アリサもだから、な?)

上条(『取り敢えず得意料理作ってみよっか?』的な話になって、アリサが作ったのは――)

上条(――『お好み焼き”丼”』だったんだよ……ッ!!!)

上条「……」

上条(ダメだもの、炭水化物の上に炭水化物乗ってけるもの、まさに食のテンドン……あぁ用法的には正しいのか)

上条(アイドル像を確実にぶち壊す、ある意味『幻想殺し』以上のブツが出て来やがった!みたいな)

上条(……ま、そりゃな?趣味ででもやってない限り、普通の女子中学生がスイーツ作れる筈も無いし)

上条(……色々とイメージがアレなんで、今回は自粛する方向で俺が代役を買って出た、と)

上条「……」

鳴護「ん、食べないの?ていうか、さっきからお料理を前にして挙動不審なんだけど……」

上条「あ、あぁ!頂きますっ!」

上条(――ていう経緯を知ってるから、『朝イチでアリサの手料理!?』と驚愕したんだが……目の前にあるのは普通の朝食だ。”普通”の)

上条(メニューもまぁ無難だし――ポーチドエッグは日本じゃあんま見ないけど――量も常識の範囲内だ)

上条(アリサも”体質”上、ウチの欠食児童ばりに食べる必要があった筈なんだが……)

上条(……まぁいい!ここは一つ食べるしか――)

上条 モグモグ

鳴護「どう、かな?」

上条「……あれ?普通に美味しいぞ?」

鳴護「朝から暴言!?ていうか何っ!?グルメ漫画ごっこでもしてるのかなっ!?」

上条「――分かった!分かったぞ!」 ガタンッ

鳴護「や、あの当麻君?ご飯食べてる時にバタバタするのは埃立っちゃうかなー、なんて」

上条「お前――」

鳴護「は、はい?なんでテンション高いの?」

上条「――鳴護アリサじゃないな!?正体を現せっ!」

鳴護「あ、はい。違いますけど」

上条「ですよねー、そりゃ同じに決まってますよ――って今なんつった?」

鳴護「え、だから違うよって――」

鳴護「――だってあたし、”上条”アリサだもん」

――通学路

上条 テクテク

鳴護 テクテク

上条(結論から言うとアリサはアリサじゃなかったんだよ!……何を言ってんか分からないと思うが!)

上条(心配ない!俺だってこれっぽっちも事情を把握出来ていないからな!)

上条(あの後、華麗に『待ってくれ!これはきっと敵の魔術師(以下略)』によって事なきを得たが!とっさの判断にしては頑張ったよ?)

上条「……」

鳴護 チラチラッ」

上条(事なきを得たかな?さっきからアリサさんが心配そうにこっち見てんだが?誤魔化しきれてないよね?)

鳴護「ね、当麻君、アタマ大丈夫?」

上条「その聞き方は傷つくなっ!他意がないのは分かってるけども!」

鳴護「え、何が?」

上条「……ん、あぁイヤ大丈夫大丈夫!何かちょっと混乱してるだけだからさ」

鳴護「……むー」

上条「アリサさん?」

鳴護「……知らないっ」

上条(……何だろうな、ご機嫌斜めだ……?何か地雷踏んじまったのかな?)

上条(しかし怒らせた割には俺の制服の裾を掴んでたりするんだが……なんで?)

上条「……」

上条(えーっとだな。ここは普段の通学路だ。俺がいつも通ってる道の)

上条(周りには同じように登校する生徒達で溢れている。きもーち早めに家を出たんで、少しだけ人が少ない気がする。少しだけだけど)

上条(で、当然俺が着ているのは制服。アリサも同じく制服)

上条(仲良く学校へ向かっている――ってなんでだよ?ウチの学校、中等部は無かったよなぁ?)

上条(制服のタイプはウチの女子と似たセーラー。や、まぁセーラーなんてどこでも似たり寄ったりだけどさ)

上条(……どっかで見たような気がしないでもなかったり?……まぁいいか。イヤーな予感がしない訳でもないが)

上条(てーゆーかココどこだよ?てっきりアリサの夢かなんかと思ってたら、なんかこう、違くね?イメージしてたのよりさ)

上条(てっきりアレだ。鬼かゾンビや不死身の病人がヒャッハー!してる世紀末的な世界で、そっからアリサを見つけるモンだと思ってんだが……)

上条(もう見つけちゃったよ!つーか一番最初に出会った第一冥界人?がアリサさんだったよ!)

上条(しかも何?同棲?同棲的なカンジなんですかね?)

上条(……こう、『アイドルとヒミツの同棲生活!』みたいな、円盤やビジネスって書いてある漫画雑誌にありがちな展開?)

上条(極めて個人的には憧れなくもないけども……なんだろうな、寸止めラブコメしてる場合じゃねぇだろってツッコミがですね。はい)

上条(ていうかコレ、俺の妄想なんか?アリサ一人連れ戻すために造った世界はコレか?)

上条(父さんが余所様に『やったね!家族が増えるよ!』って展開じゃ無いんだよね?夢なのにリアリティ追求してないよな?)

上条(下手に突っ込んだ事聞いて、それが地雷になってるかは分からない。とんだマインスイーパか、それとも海戦ゲーム)

上条(俺達の関係性が分からないし、聞いて警戒させんのも良くはない……と、すりゃ)

上条(そう、だな。取り敢えずは様子見の方向で。穏便に、あくまでも波風を立てないでだ)

上条「……?」

上条(……あれ?そういやこんな展開以前にもあったよう――)

佐天「おっはよーーーーーーーーーございまーーーーーーーーーーーーーすっ!!!」

上条「来やがったなっ柵中のパンジャンドラムっ!?なーんかフラグ立ててる予感はしてたんだよっ!?」

佐天「上条さんも、上条さんのお兄さんもどーもですっ!てゆーかテンション高いですなー?」

上条「誰のせい?誰が原因だと思って――はい?」

佐天「『何かいいことでもあったのかーい?』」

上条「やめろ。何が何でもボケようとするんじゃなくてだ――お兄さん?」

佐天「はい?お兄さんはお兄さんじゃないんですか?――ハッ!?まさか」

上条「ネタはいい。誰がお兄さんだ、誰が」

佐天「ユー」 ピシッ

上条「……誰の?」

佐天「ハー」 ビシッ

鳴護「……はぁ」

上条「アリサの、って事は――」

上条「……」

上条「――俺はアリサの兄貴だったのか……ッ!?」

佐天「あの、すいません?上条さんのお兄さん、アタマ大丈夫ですかー?割とマジで聞きますけど」

鳴護「当麻君、朝からにこんな感じだから……うん」

初春「やー、でも前からと言えばそんな気もしますしねー?あ、おはようございます」

上条「その認識もヒデェな!?あ、おはようございますっ初春さん!」

初春「はい、おはようございます」

佐天「どうもですっ!」

上条(三人とも同じセーラー……棚川中学の、だと思う)

上条(てー事は、アレか。アリサも佐天さん初春さんと同じ学校なのは確定か)

上条(友達だから妥当な所ではあるんだが、常盤台よりかは、まぁ……?)

上条(あとアリサの関係は『兄妹』か。それにしては『当麻君』呼び?……いや、俺兄弟居ない――と、思うから分からいが)

上条(割と穏当な所ではある、か?変人扱いと引き替えに確認出来ただけ、良かったっちゃ良かった、の、かも知れない)

上条(に、しても俺の印象酷いな!通学路で奇声上げても『前からこんな感じ』で、流されるなんて……!)

上条(ゆ、夢の中だし!デフォルメ入ってるから!大げさになってるだけだから!)

鳴護「――君?当麻君っ、聞いてるのかなっ!?」

上条「は、はいっ!?」

鳴護「二人ともわたしの友達なんだからデレデレしないの!みっともないんだからねっ!」

上条「は、はいっゴメンナサイっ!」

鳴護「大体ねー、当麻君って人は可愛い子を見たら――」

佐天「(ね、初春初春?)」

初春「(なんですか佐天さん?)」

佐天「(上条さんのお兄さん、あたし達と会わせたくないってんなら時間ズラせばいいと思うんだよねっ!)」

初春「(しっ!佐天さん空気読んで下さいよっ!?)」

佐天「(ていうか毎日毎日、仲良く一緒に投稿している時点で、ある種のツンデレ的な!)」

初春「(それご兄妹に使っていい言葉じゃないですからね?弁えましょう、ねっ?)」

佐天「まぁまぁ朝から雷落とさなくってもいいじゃないですか、別にあたし達は上条さんのお兄さんには興味無いですし?」

上条「分かってはいるんだが、断言されるのも嬉しくはないな」

佐天「んー、あたし的にはもうちょっと甲斐性的なものが欲しいかなー、なんて思ったりしますよ」

佐天「具体的には上条さんに家事一切任せて、頭が上がらない所なんて特にっ」

初春「ですかねぇ。上条さん、家事を理由に中々遊べないんで、改善して頂けばなと。はい」

上条「その設定を突かれると何も言えないんだが……料理ぐらいだったら手伝おうか?」

鳴護「えー、当麻君のお料理ー?」

上条(……なんだろうな。この夢の設定、現実戻った時にアリサが憶えてたら相当モニョりそうな内容だよな)

上条(真面目に考えれば、学園都市の生徒は一人暮らしが多い分、家事全般ある程度こなせて当たり前になってるし)

佐天「――で、放課後に御坂さん達と遊ぶ約束になってるんですよ。上条さんもどうですかー?」

上条「え、ビリビリが?」

佐天「そっちの上条さんではなく、妹さんの方で。あ、来たいってならウェルカムですけど?」

上条(佐天さんに上条さん言われると、反射的にどうしても俺の事だって思っちまうな)

鳴護「当麻君、直ぐ御坂さんや白井さんと暴れるからダメだよ!ゼッタイ!」

上条「って事で妹からもNG喰らった所で、今日ぐらいはのんびり遊んで来たらどうだ?」

上条(自宅、どうなってっか調べてみたいしな)

鳴護「えー……当麻君、わたしが居ないとコンビニのお弁当かファーストフードで済ませようとするし……」

上条「いいじゃねぇか、あのジャンクな味が無性に恋しくなるんだよ!」

上条「お前らだって『これ、何から採った着色料か知ってる?』みたいな色のアイス食うだろーに!」

初春「女の子のスイーツは例外です!断じて!」

佐天「よっ!ナイスフォローっ!」

鳴護「ナイスって程じゃないと思うけど……うん、じゃ分かったよ」

上条「遅くなるんだったら迎えに行くし、あんま迷惑を掛けんなよ?」

佐天「ご心配なく!あたしが掛ける担当ですから!」

上条「佐天さん、俺前から思ってたんだけどさ、自覚あるんだったら治そう?な?」

上条「あんま俺も人のこと言えないけどさ、踏んだ地雷の処理ぐらいは人任せにしないてだな」

――教室

キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン……

吹寄「起立、礼っ!」

小萌「はい、お疲れ様なのですよー。まだ二時限残ってますけど、頑張って下さいねー」

小萌「特に!誰とは言いませんが問題児の自覚があったり、単位がぎりっぎりの子達はっ!」

土御門「おっおぅ!言われてるんだぜぃ、カミやん?」

上条「あっはっはっはーっ、ヤダなぁ土御門君!どう考えてもお前の事じゃねぇですかコノヤロー!」

小萌「はいソコ!お互いに責任のなすり付けあいをしている二人なのです!注意して下さいねっ!」

上条・土御門「「へーい」」

小萌「ではさっさとお昼ご飯を食べて元気をチャージして下さいね」 ガラガラッ

上条(――と、ようやく昼休みになったんだが)

上条(この世界には幾つか、いや幾つも欠けているものがあった)

上条(今の遣り取りにあった不自然さ……まず青ピが居ない。欠席じゃなく、在籍自体してなかった)

上条(同じく姫神、そして俺の知ってる殆どのクラスメイトが居ない……いや、居るには居るんだが)

クラスメイトA「上条ー、メシどうすんだー?弁当?学食行くんだったら一緒に食わね?」

上条「や、持ってきてないから購買部行くわ」

クラスメイトA「そっかー、んじゃまた今度なー」

上条「おーう」

上条(――と、どっかの誰かに話しかけられたんだが……俺はコイツのことを知らない)

上条(もっとはっきり言えば、このクラスでは土御門と吹寄、小萌先生以外、誰一人として知らない人間へ入れ替わっていた)

上条(にも関わらず、向こうはこっちを普通のクラスメイト扱いしてくる訳で。ハブられるよりかはいいけどな)

上条(あとおかしいのはそれだけじゃない。この学校、元々俺が通っていた学校は高等部しかない。まぁ普通の高校だよ)

上条(それが何故か中高一貫校なってーの、しかもアリサと棚川中の二人が通ってる設定だわな)

上条(しかも校舎同士が繋がってるらしく、また生徒の行き来も制限されていない……)

上条(それが何で分かるかって言うとだ――)

土御門「おーいカミやーーーーーんっ!妹さんが来てるぜぃ!」

鳴護「し、失礼します……」

上条「おー、どうしたアリサ?何か忘れモンか?」

鳴護「当麻君っ、お弁当忘れてたし!」

上条「……ん?あぁありがとうな、つーか悪いな、わざわざ持ってきて貰って」

鳴護「い、いいけどっ……うん」

佐天「あのぅ、すいません?『だったら登校中に渡せばいいんじゃねぇかな?』ってツッコミは切らしてるんですかね?」

佐天「あと『目立ちたくないんだったら呼び出せば?』はスルーなんでしょうか?」

初春「佐天さんっ空気読んで下さい、ねっ?朝から言ってますけどもっ!」

鳴護「と、当麻君がダラしないからいけないんだもんっ!」

佐天「いや”もん”って……萌えますが!」

初春「ですからですね、そのー」

上条(――と言った具合に、割と結構な頻度で会いに来てるんだわ、これが)

上条(嬉しくない事はないんだが、その……周囲からの生暖かい視線、殺意と怨嗟の籠って視線が痛いっつーか)

上条(青ピが居たら今頃助走をつけて殴りに来ている筈だよ、ホント)

鳴護「えっと、わたし達もこれからご飯なんだけど……一緒に、する?」

上条「あー、悪いけどちっと用事が」

鳴護「そっか。それじゃまた後で」

上条「あぁ。弁当ありがとうな?」

佐天「『べ、別に当麻君のためなんかじゃないんだからねっ!勘違いしないでよねっ!』」

初春「……すいません。佐天さんがいつもいつも」

上条「……いえ、お察しします」

土御門「ナイスツンデレッ!」 グッ

上条「……こっちもすいません。その、アレなクラスなんで、はい」

初春「……はい。そちらもお察ししてますので……」

――屋上

上条(アリサの捨てられた子犬のような視線を何とか撥ね除け、俺は目的の相手を屋上へ呼び出していた)

上条(……ま、呼び出すも何も、教室から一緒に歩いて来たんだけどさ)

土御門「……ごめん、カミやん」

上条「うん?」

土御門「オレ、オレっ!ずっと前からカミやんの事が――ってオーケー待とうか、なっ?」

土御門「空気読まなかったのは謝るから、俺の幻想を殺そうとしないでくれ!具体的には『男女平等パンチ』を降ろせ?」

上条「……悪いが今、一杯一杯なんだよ!八つ当たりっぽいのは謝るが、真面目に付き合ってくれ!真面目に!」

土御門「カミやんが追い込まれてる、って事は――やっぱ魔術師関係か?本当に不幸の女神に愛されてるんだぜぃ」

上条「……残念。今度の敵は月の神様なんだよ」

土御門「うん?」

上条「あー、まぁそれは良いんだ。良くはないが置いておこう」

上条「事情を説明するのは……今日は先に質問だけさせてくれ。下手すると時間が無いからな」

土御門「分かった。それで俺は何を答えればいいんだ?」

上条「今日は何日だ?」

土御門「XX月XX日だ」

上条「えっくすえっくす……?本気で言ってんのか?」

土御門「流石の俺でもシリアスな場面でボケ倒す度胸はない。カミやんが”時間が無い”つってんだから、相当ヤバい状況だろうしな」

上条「……悪い。それじゃ明日は何日だ?」

土御門「XX月XY日。つーかこれぐらいだったらカレンダー見た方が早いぜぃ」

上条(土御門のスマートフォンには字面通りの文字が月日欄へ入ってる……壮大なドッキリを仕掛けない限り無理だろう)

上条「それじゃ……10月8日に俺と電話で話した内容は憶えてるか?」

土御門「じゅう……なんだって?いつ?」

上条「10月の8日。俺から電話を掛けたんだ」

土御門「いつの話だ?俺は何をしてた?」

上条「いや、聞いてんのは俺なんだが……まぁその反応で分かった。それじゃ次、えっと……『濁音協会』って知ってるか?」

土御門「知らな――いや、聞いた事はある。イタリアを中心に暗躍していた魔術結社の筈だが、もう大分前に潰されたな」

上条「アルフレド=ウェイトリィの『双頭鮫』、”団長”の『殺し屋人形団』、安曇阿阪の『野獣庭園』――」

土御門「前から順番にイタリア系、都市伝説系の魔術結社だな。最後のには……関わるな、つっても無駄なんだろうがな」

上条「そいつらの近況とか、何か知らないか?」

土御門「それだったら『必要悪の教会』に訊いた方がいいと思うぜぃ?流石に存在自体が疑問視されてる連中までは、噂程度しか知らない」

土御門「憶測で物を言うのも出来るんだが……相手が相手だから、あんま変な先入観持っちまうと足下を掬われるぞ」

上条「……それでもステイル達の初期情報とほぼ同じってのは、スゲーと思うが……あぁ、最後に一つだけ」

土御門「おう、ドンと来い!」

上条「――お前、今どこに住んでんだ?」

――教室 授業中

上条「……」 カリカリカリ

上条(一生懸命に板書を取る――ん、じゃなく、土御門から仕入れた情報を整理している、と)

上条(分かってはいたし、覚悟もしてたんだが、『あれ』は俺の知ってる土御門とは微妙に違うっぽい)

上条(まず”土御門は俺のお隣さんじゃない”事だ)

上条(朝起きてメシ食ったあの家、大体の造りや壁紙は元居た俺のマンションにそっくりだ)

上条(実際玄関を出てみれば……いつもと同じ光景。まぁマンションも部屋も同じだったと)

上条(けど、前の部屋は二人暮らし出来るような広いスペースはなく――どうやら、隣三軒分をぶち抜いた造りになってるっぽい)

上条(なので当然、以前住んでいた住人である土御門兄妹は別の所に住んでいた。それも”ずっと”住んでいた設定になっている)

上条「……」

上条(一瞬『お家賃、お高いんでしょう?』と考えてしまった俺は穢れちまったのか……!まぁいいや!スルーしよう!)

上条「……」

上条(……で、だ。他に分かった事は、この世界の住人である土御門――面倒だから土御門B――も魔術サイドの知識を持っている)

上条(当たり前っちゃ当たり前の話ではあるんだが……けど、これは非常に大きな意味を持っている、と思う)

上条(何故ならば『俺は土御門が魔術師知識に詳しい』だなんて、”一言も漏らした事はない”からだ)

上条(勿論魔術師だって正体バレはしてないし、精々『歴史に詳しい』とか、『英語に詳しい』程度しか言った憶えはないと)

上条(だって言うのにだ。土御門Bはきちんと魔術知識を持ってるし、有効に活用している)

上条(しかも一部、ごく限られた人間しか知らない話……よって土御門Bは、俺の知ってる土御門の”記憶”を持っている)

上条「……」

上条(――だ、けどもだ。土御門Bがオリジナルしか知らない、もしくは持っていない知識があるのは良いさ。ガワだけ似せた別人って事もないだろうし)

上条(そうすると矛盾する部分がある――『どうして”濁音協会”が瓦解した事実を知らないのか?』と)

上条(土御門みたいに、情報管理に命を賭けてる連中ならば知っていた当たり前。しかも俺は電話で本人に相談している)

上条(”アレ”が本人で無い可能性もあるが……まぁそうだとしても、どこかで土御門は裏事情へ耳を澄ませている訳で)

上条(……自信過剰を承知で言えば、俺の動向には気を配ってくれてるんじゃねぇかな、とも思う。アイツの性格なら、きっと)

上条「……」

上条(はっきり言おう)

上条(『この世界はアリサが造った』と、俺は踏んでいる)

上条(俺のクラスメイトがたった二人しか再現されていないし、小萌先生”以外”の先生も知らない人達にすり替わっているからだ)

上条(……旅の間にアリサへ話した憶えがあるんだよな、俺のクラスはどうなのか?みたいな雑談だったか)

上条(そん時に名前と軽く説明したのか土御門に吹寄、あと小萌先生もだ……青ピもしたような気がするんだが……まぁいいか)

上条(そんな訳で、俺のクラスにも関わらず、本当のクラスメイトが二人しか居ないってのは『情報不足』なんだと思う)

上条(この世界を造ってる――てか、アリサが知ってる範囲から逸脱しているから、なんかこう適当に辻褄を合わせた感じ)

上条(本来居るべき人達、現実世界でのクラスメイトや他の先生達が配役されていないのは、偏にアリサが知識を持っていないから――なん、だけども)

上条(多分、それは合っていると思う。この世界はどういう構造なのか分からないが、アリサにとって都合の良い願望みたいなので出来てる、か?)

上条(けどなぁ。そうすると矛盾が幾つか出て来るんだよなぁ。なんつーかキャラの作り込み?駆け出しの作家に説教する編集みたいな言い方だが)

上条(土御門達は俺が少し話しただけでも違和感は全然ない。むしろホッとするような安心感があるぐらいだ)

上条(でもそれを――『そこまでの再現度』をアリサの記憶によって出来るか、って言えば無理だと思う)

上条(多分憶えているのは名前ぐらい、精々『こんなキャラなのかも?』程度なんだろう。てか普通は一々調べたりもしないだろうし)

上条(土御門が魔術サイドに詳しいのは、アリサが知りようもない事実……だっていうのにな)

上条(他にも”夢”にしては、少々セコイっつーか、『お前本当にそれでいいのか?』的な設定も見え隠れする)

上条(細かい所では家事全般のベテラン設定、性格も天然か無くなってしっかりしてる感じか)

上条(……あと食事量も。密かに気にしてたんだろうなぁ……戻ったらイジるの自制しよう)

上条(そして何よりもツッコミ所なのは『俺の妹』だって所だよ!何で妹!?)

上条(メリット皆無じゃねぇか!自分で思ってて悲しいけどもだ!)

上条(それとも家族が居ない分、兄貴分として懐かれてるのかな……?……ま、そんな所だろう、きっと)

上条「……」

上条(ともあれ以上が現況だわな。状況証拠からしてアリサの見ている夢の中にいるっぽい)

上条(アリサを連れて帰れれば俺達の勝ち……けど無理矢理引っ張って行って良いものなのか?)

上条(……俺も夢を見ていたから、分かる。居心地が良くて、少し不条理で、それでいて不安の無い世界……)

上条(そこから『抜け出させる』ためには、どれだけの覚悟が要るか……)

上条「……」

上条(『夢』は願望の集まりだと思われている。潜在的無意識がどーたら、アーキタイプ?がどうこうは横に置くとして、この夢はそうだろう)

上条(と、すれば間違いなく、この場所で俺が担ってる役割――それもまたアリサが望んだ結果だって事だ)

上条(逆算と一緒。結果と数式から問題を割り出すように、きっと答えは既に揃っている。必要な『鍵』が)

上条「……」

上条(……現実でアリサが抱えていた悩みも、きっと――)

上条「――よし!やってやるっ!」

教師「カミジョー、授業中」

上条「はいっ!すいませんでしたねっ!」

上条(……締まらないなぁ、俺は)

今週の投下は以上となります。お付き合い頂いた方に感謝を

おっつし☆

フッた(フラれた)けど一緒にいたい→兄妹化
フッた(フラれた)けどやっぱり好き→名前呼び
当麻君もお友達がいないと寂しいよね→中途半端な登場人物
あ、でも私あんまり知らないから当麻君の記憶から補完してもらおう→キャラブレしない登場人物
アリサの作った世界(夢?)だったとしたらこんな感じなのかな
お話的にはアリサさんのヒロイン化現象がとまりませんね

上条さんが家族になれば全て解決だな ハーレムエンドしか見えねえw

なんか……なんか引っ掛かる。
具体的にどうとは言えないけれど、これまでの展開と比べると、上条さんの推理は「分かり易すぎる」。
本当にこの世界は、アリサ〈だけ〉の夢なのか?

佐天さんとレッサーキャラ被りすぎw



アリサからハブられる青髪wwwwww

イギリスの皆さんは納豆食えますか?僕はマーマイト食えません。

>>816
『誰か(※アーサー役)以外を主と認める』のがゴメンですね
フロリスさんは……同者同意の上ではしてなかった、ような?

>>817
マーリン「やってもエエけど千切られんのはワイやん?分こぉ?」
マーリン「岩に刺さった剣見たら『抜くなよ?絶対に抜くなよ!?絶対だからな!?』言われとぉて、そら抜くけども」
マーリン「Happy Tree Friend○のよぉにホッピングで惨殺されよぉ未来が見えんねんけど……」

>>818
――ブリテン・ザ・ハロウィン直後
ベイロープ(あっちゃー……失敗か。切り捨てられるのは予想してたけど、レッサーが無駄死にしなくて良かったか)
ベイロープ(ぶち壊したのと助けた人間が同じで、怒ればいいのかしら、ね?)
――”ベツレヘムの星”電撃戦へ向かうレッサーを見送った後
ベイロープ(……行ったか。ま、集団で行くよりか、あの子一人で行った方が)
ベイロープ(でも妙に一人で着いていくのに拘ってた……まさか、恋、とか?……まさかね?)
(※諸事情により中略)
――ツアーの旅行中
ベイロープ(勢いとその場のノリで君主に認めてみたけれど……悪くないかしら?)
ベイロープ(つかレッサーだけじゃなく、他の子達も近いような……?)
ベイロープ(もしかして――)
ベイロープ「……ま、私には関係ない話なのだわ」
(※そして最終話へと至る)

>>820
マーリン「えっとやねー、『思ひつつ寝ればや人の見えつらむ。夢と知りせば覚めざらましを』ってぇ詩があるんよ」
マーリン「古来から”夢ん中で他人に会うんは、その相手が会いとぉ思ぉてるんよ”っちゅー信仰がおぉた」
マーリン「やからこの場合、龍脈自体の”記憶の塊”っちゅー側面か、それとも”夢を渡ぉ術式”のどっちかを使ぉたんやないかと」
レッサー「ヤボな事は言いこっなしですよ。人の想いは現実を変える、それたでいいじゃないですか」

>>821
『N∴L∴』の皆さんには多重唱術式でもう一つ出番があるかも――無事帰れれば、ですが

>>822
暫くはアリサのターン

>>823
ありがとうございます

――夕方 自宅

上条「たっだいまー……と」 カチャ

上条(放課後になって、いつものように商店街を通って帰って来た訳だ。まぁ取り敢えず家事でもやろうかと……やってる場合じゃねぇような気もするが)

上条(『あ、そういや冷蔵庫の中身見ないで買ったら、食材無駄にするんじゃね?』と、結局何も買わずに)

上条(……ま、一応収穫らしい収穫も無い訳じゃなくてだ。途中にある楽器屋件CD屋へ寄って、探してみた)

上条(店員さんにも訊いて、バスん中で携帯使って探してみても『ARISA』って歌手は居ない事になってる……)

上条(嬉しくはねぇが……この『状態』をアリサが望んでるって話なんだろうか?)

上条(頑張ってアイドル――てか歌手になるよりも、俺とダラっと暮らす方が『望み』なのか?)

上条(それでいい、ってアリサが思うのは勝手だと思うし、俺が口を挟むようなこっちゃない事も知ってる。知ってはいるつもりなんだが……)

上条(……けど、やっぱりアイドルとしてのアリサが居なくなってしまうのは、少し寂しいな……)

上条「……」

上条(――と、悩んでても仕方がないな!今は……洗濯物を取り込んでから、メシの支度――)

上条「……」 ガラガラッ

上条(ベランダで揺れてる洗濯リング――正式名称は知らないが、輪っかに洗濯バサミがついてるの――から衣類を外してー、と)

上条(ちなみに海外では洗濯物を室内に干すのが一般的。治安の問題か?)

上条(自販機が置いてあるのは警察署と病院、あと空港と駅ぐらいにしかない。それもあえて紙幣を使えなくして盗難防止にするそうで)

上条(日本のHENTAIもどうかと思うが、欧米は何つーか獣レベルに退化しつつあるんじゃねぇか、と時々思う。いやネタ抜きでさ)

上条(てゆーかですね。こう、旅行の間、家事全般を取り仕切っていた俺にとって、パンツとブラの一つぐらい何だって話ですよね)

上条(そう――お母さん!まるでこうお母さんのような広い心で!疚しい心なんか一切無いよ!本当だよっ!)

上条(だから、だからですね、こうアリサのパンツと随分大きめのブラを手にとっても!いやーんな気持ちになんかならないしぃ!) カサッ

上条「……」 チラッ

上条(……?あれ……?何か違和感が……なんだろう?)

上条(このブラ、ホックの数が三つだと……!?今までは二つしか無かったのに……!)

上条「……」

上条(説明しよう!ブラジャーの規格には色々あるけれども、その中でホック数はカップと密接な関わりがあるんだ!)

上条(止めるカップの大きさに比例して、ホック数の大小は変わる――ぶっちゃけAは一つなんだ)

上条(だってホックさんへ対する負担が小さいからねっ!Aはおっぱいの”お”ぐらいしかないから、ホックさんが頑張らなくても済むんだよ!良かったねボスっ!)

上条(でもほら、なんだ!カップ数が上がるにつれ、ホックさんの負担は増大していく……従ってホック一つだけでは力不足……!)

上条(だから大体Aは一つ、D以下は二つ、って具合に決まっていて――旅の間中ずっとアリサのホックは二つだったんだ……筈!)

上条(だというのに今!今のホックさんの数は三つ……この現実から導き出される答えとは――)

上条(――『アリサはまだ成長している』んだよ……ッ!!!)

上条(普段ゆったりとした服ばっか着てるからろ、一部で『着痩せ』説が佐天さん巨乳説ばりに噂されてはいたが……!)

上条(まさか夢の中で厳しい現実に直面するとは思いもしなかったっ!やったねっ!)

上条(このおっぱいソムリエ(※志望)の上条当麻にかかれば、この程度の謎は容易く解決出来るのさ!)

上条「……」

上条(……なんだろうこのテンション……?徹夜明け?徹夜明けなのか?)

上条(てかバードウェイをイジって後からアババババハ言わされないだろうな?あの違法ロ×妙に鋭いしさ)

上条(ま、まぁさっさと取り込んで、アリサの部屋まで持っていこうな、うん)

――マンション?

上条(簡単に、新しくなったアパートの中を見て回る。特に自室を中心に)

上条(俺の部屋は現実での部屋と全く同じ。ただ他にもアリサの部屋やリビングもあると)

上条(所謂共用スペースに置いてある物で目立つ物は特にない)

上条(妙に現実的っていうか、どうせ夢なんだから乾燥機やスチームオーブンぐらいはあったっていいと思うが……俺もアリサも小市民だからなぁ)

上条(可能性としては”俺”に合わせた生活レベルかも知れないが……まぁいいや)

――アリサの部屋

上条「……お邪魔しまーす、よっ……と?」 ガチャッ

上条(畳んだ洗濯物を届ける――という口実で――ため、アリサの部屋へ来てみた)

上条(まぁ……フツーの部屋だな。拍子抜けするぐらいアッサリとしている)

上条(勉強机に本棚に、後はベッドやクッションその他。俺の部屋と違うのは壁紙の色が暖色系ぐらい、だろうか?ぱっと見は)

上条(クローゼットはあるけど、流石に中までは調べるのは……うん、ちょっと、だよなぁ?切羽詰まってきたら仕方が無いかも知れないけどさ)

上条(他には何か――ん?なんだこれ?)

上条(ベランダへ続くサッシ窓の手前に……望遠鏡、か?)

上条(形からして天体望遠鏡、けどアリサって星空見るような趣味持ってたっけ、か?聞いてないだけで、隠れた趣味なのかもだが)

上条(そう言えば――ARISAのファーストアルバム、『ポラリス』か。あれは天体の名前なんだよ、とインデックスに教わった気がする)

上条(アルバムの名前つけんのは流石に本人だろうし、って事はアリサは結構天体に詳しかったりしたのか?初耳過ぎる)

上条(アリサが黙っていた理由……今は思い付かないな。それよりか――うん?)

上条(入り口からは死角になっていたベッドの下に何かある、な?なんだろ?)

上条(……これがもし俺だったら『管理人さんセット!』が出てきて大惨事になるんだが……持ってないよ?俺は持ってないけどね?いやマジで?)

上条(……少なからぬ罪悪感を誤魔化しつつ、俺はベッドの下にあった”それ”を引っ張り出す)

上条(意外と手触りは柔らかくて、重い?てかキルティングの袋?)

上条(家庭科の実習で作った、なんて言ったら良いのか迷うフワフワの生地、あるよな?それで出来た薄べったい長方形の袋だ)

上条(アリサの手縫いなんだろう。ペガサスと星のアクセントがついて、ほんの少し縫い目が曲がってたりするけど、どこか優しい感じがする)

上条(そんな見た目に反し、結構ずっしりくる袋の横についてるチャックを開くと――)

上条(――中に入っていたのは『キーボード』だった)

上条(初めて会った時、そしてLIVEで使っていたのとも違う。二回り程小さく、そして年期を感じさせる造りになっている)

上条(でも、俺はその楽器に見覚えがある。あって当たり前だ)

上条(……旅の最中、アリサが大切そうに、そして熱心に何度も何度もキャンピングカーの中で曲の練習をしていた)

上条(……その時に弾いていたキーボードだから)

――リビング 夕食中

上条・鳴護「「――頂きます」」

上条(あれからちゃっちゃと夕食の支度をしていたら、アリサは帰って来た。特にイベントも起きずに)

上条(スキルアウトに絡まれました助けてー、みたいなイベントが起きんのかと思えば、そういう事もなく)

上条(つーか現実の学園都市とは違って、電車やバスが夜10時ぐらいまで運行してるんだと。当然人の目も多い訳で)

上条(そもそも風紀委員×二人にビリビリが居て滅多な事が起きる筈が――)

上条「……」

上条「――極々一部で『女上条』とも囁かれてる、悉くフラグを踏み抜く柵中のフライングパンケーキさんがね、うん」

鳴護「パ、パンケーキ?食べたいの?」

上条「うん?……あ、いや独り言、かな?」

鳴護「疑問で返されても……っていうか、当麻君お料理上手かったんだねぇ、ビックリしたよ」

鳴護「これだったら当麻君にお手伝いして貰うのもいいかもねー」

上条「んーアリサの見よう見まね、だな。俺はアリサのご飯の好きだしっ!」

鳴護「ありが、とう?ん?んん?なんか上手く言いくるめられているよう、な?」

上条「真面目な話、アリサはしたい事とかないのか?部活でもいいし、委員会とかどうだろ?」

鳴護「急にどうしたの?朝から様子がおかしいんだけど」

上条「……流石に朝のアレで反省したっつーかさ。アリサに負担ばっかかけちまうような、碌でもない兄貴にはなりたくないんだよ」

上条(と、いう建前を前提にして話を進めてみる。アリサに自由な時間を与えた方が、何をしたいのかってのが見えてくるだろうし)

鳴護「うーん、あたしは別に負担だなんて思わないんだけど……」

上条「まぁまぁ。暫くは試しに色々やってみようぜ、な?」

鳴護「むぅ……あ、そうだ、その、違ってたらゴメンね?ゴメンなんだけど、あたしのお部屋、入った、の、かな……?」

上条「あぁ。畳んだ洗濯物届ける時にちょっと。嫌だった?」

鳴護「ううんっ!イヤじゃない、イヤなんかじゃない、けど、その」

上条(あれ?意外に怒られないが、なんか変な反応だよな)

上条(よくある年頃の娘さんの話で聞く、『わたしの部屋に入るなんて信じられない!?』みたいな拒絶じゃない)

上条(うん、やっぱりそこはだな。俺とアリサの信頼関係っつーか、なんだかんだで付き合いも長いしさ)

上条(ましてや今は兄妹だって設定なんだから、当然だよなっ!)

鳴護「えっと……当麻君っ!」

上条「おぅっ!」

鳴護「……下着、あんまり使わないでね?着られなくなるから?」

上条「より最悪の方向で勘違いされてんじゃねぇかっ!?誰だ『信頼されてる』とか言った奴ぁ出て来やがれっ!?」

上条「つーかアリサさんも微妙に理解を示さないで!?逆に居たたまれなくなっちゃうから!」

鳴護「や、別にいいと思うんだよっ!当麻君の女装姿、きっと可愛いと思うから!」

上条「着ねーよ!?なんで着る方向になってんだ、つーかそれはそれで方向性の違う変態だろ!」

鳴護「そ、そうなのかな?だったら何に使うの……?」

上条「え?」

鳴護「え?」

上条「……」

鳴護「……」

上条「――そ、そうだよねっ!世の中には女装が好きな変態さんがいるもんねっ!俺は違うけど!」

上条「そいつはきっと女装したいために女物の服が欲しいんだと思うよ!詳しい事は分からないけどさ!」

鳴護「あ、やっぱり」

上条「俺は違うっつってんだろコノヤロー」

鳴護「えっと、当麻君が着ちゃうと伸びちゃうし。胸回り以外はサイズも小さいと思うんだけど」

上条「えっ?」

鳴護「えっ?」

上条「……」

鳴護「――と、言う事で今度あたしが佐天さん初春さん達と一緒に選んでくるからっ!」

鳴護「きっと当麻君にもメンズブラ似合うと思うよっ!」

上条「なんだその人生の公開処刑。死ぬよね?その面子にお知らせしたら、確実に社会的にも抹殺されるよな?」

上条「多分ビリビリにも情報漏れて、合法的な殺人に発展する可能性すらあるんだからなっ!いやマジで!」

――夜 自室

上条「……ふぅ」

上条(何故かしっかり出ている宿題を片付け、俺はベッドへ倒れ込んだ)

上条(ある意味、世界を救うよりも優先度の高い誤解は解けた……いやー、割と危なかったんだけどさ)

上条(……正直、『レベルの高い変態さんはprprするんですよ』なんて言えない……っ!)

上条(他のご家庭の親御さんの気持ちが少しだけ理解出来たような……主に性教育について)

上条(言いにくいんだよなぁ、やっぱ。男は黙ってても悪い意味で調べるけど、女の子はそうでもない――割に)

上条(可愛い子はマジモンの変態に騙される可能性が高いから、早めに釘を刺して置いた方が賢明ではあると)

上条(つーか何で俺こんな事で悩んでんだ?関係ないよね、本題とは)

上条(……さて、情報を整理しよう)

上条(まず『胸回り以外はサイズも小さい』……つー事は、あれだ?)

上条(平均的な高校生の胸回りよりも、アリサの方が大っきいという事に……!)

上条(つまり!日本全国6000万の男子諸君が憧れるシチュ、『裸に男物のワイシャツ』をもしアリサが実行すればだ!)

上条(何と言う事でしょう!胸の所がたゆんたゆんでパッツンパッツン――って違う違う、そっちじゃねぇよ。何でシモの方へ全力ダッシュしてんだ)

上条(あ、ある意味大切な情報だけど!夢のある話でもあるなっ!)

上条「……」

上条(あー……疲れてんなぁ、俺。正直寝そう、つーか寝たい。そもそも夢の中で熟睡出来るんだろうか……?)

上条(えぇっと……何考えるんだっけ――あぁ情報の整理?つっても大した話が出そろった訳じゃないしなぁ)

上条(家事を手伝うよっつったら、そんなに否定もしなかった。つーか満更でもない感じ)

上条(嫌がってた訳じゃないから方向性としては合ってる……筈、だな)

上条(後は……あぁ望遠鏡の事聞く忘れた。明日でいいか)

上条(星、星ねぇ?そんなにアリサが詳しいイメージはない……と?)

上条(あーっと『ポラリス』だったっけ?ファースアルバム、ケータイで調べてっと) ピッ

上条(何々……『ポラリス (Polaris) は、こぐま座α星、こぐま座で最も明るい恒星で2等星。現在の北極星である』か)

上条(ここでまたセレーネに関するアレコレが出てきたら、超イヤんな感じだったが、そんな事もないと)

上条(あーでも、こぐま座ってギリシャ神話から取られてんだっけか?……いやでも、熊だぜ、熊?月の女神と関係がある筈が――) ピッ

上条(『詳しくはおおぐま座を参照』……対になってんのかな?) ピッ

上条(『森のニンフにカリストという活発な娘がいた。大神ゼウスがカリストに恋をし、
二人の間にアルカスという男の子が生まれた』)

上条(『これを知ったゼウスの妻のヘラは怒り、カリストを恐ろしい熊へと変える』)

上条(『やがてアルカスは立派な青年に成長し、ある日彼が獲物へ向かって弓を引く。それは熊にされた自身の母親、カリストだった』)

上条(『これを見たゼウスは驚き、矢がカリストを射殺す前に二人とも天へ上げて星座とした』)

上条(『母親カリストがおおぐま座、、息子アルカスがこぐま座。母は慕うように息子の周囲を回転する』か、酷い話だが、まぁ神話ってそんなモンだよな)

上条(この場合、ポラリスはこぐま座、息子の狩人の方だな――って何だ?まだ続きがある?)

上条(『※一説にはカリストは女神アルテミスの侍女でありながら純潔を破ったため、アルテミスが罰として熊に変えた』……)

上条「……」

上条「……もう、寝よう……」

――零れ堕ちそうな満月の下

 一面に咲くアネモネ――『アドニス』とも呼ばれる花畑。地平の果てまで続く緋色の絨毯。
 ただ二人、染みのように花園を穢すのは年若き男女。
 横たわった少年は青ざめた光に照らされ、物言わぬ骸を彷彿とさせ――。
 ――また彼の側に寄り添い、少々硬めの髪を撫でる少女は、誰に聞かせるでもなく呟く。

「わたしはずっと、あなただけを考えているから」

「喜びよりも、悲しみよりも、ただあなたの事だけを想っているから」

「――だから、大丈夫」

 呟きは闇に溶け、風は静寂を運ぶ。アドニスが身じろぎでもしない限り、それらは破れる事もなく。

「ありがとう――当麻君」

「”わたし”を探しに来てくれて――」

「――”捕らわれて”くれて、本当にありがとう」

 花々は匂い立つばかりに咲き誇る。ギリシャでは『冥府の花』とも呼ばれる、その花言葉は迷信じみている。
 記憶に無い筈の、到底知りようもなかった知識が少女の口から語られる。

「『儚い夢』、『薄れゆく希望』、『暫しの恋』、『真実』、『君を愛す』……そして」

「『嫉妬の為の無実の犠牲』……うん、そう、だよ。きっと、これは、そうなんだと思う」

 天空に浮かぶ月はその姿を変ず、見渡す限りのアドニスの園へ足を踏み入れる者も居らず。
 静寂と静謐、痛々しいまでの沈黙が支配する場で、少女はただ飽きるでもなく少年の髪を撫で続ける――。

「大好きだよ、ずっとずっと側に居るから、ね」

 ――終わる事のない『幻想』の中で少年は微睡む――。

「……当麻君」

 ――そう、世界が終わるまで。ずっと。

――朝

鳴護「頂きます」

上条「はい、召し上がれ――と、俺も頂きます」

カチャカチャ

鳴護「……むー……」

上条「何ですかアリサさん?朝からムームー言ってオカルトか?」

鳴護「……何だろうね、味付けから調理まで、あたしレベルを追い抜いてるって言うかな」

鳴護「こう、お母さん的な熟練度と手際の良さを感じるんだけど……練習でもしてた?」

上条「ふっ、まさかの才能があったって事だよなっ!」

鳴護「……家事の?」

上条「……無いよりはいいんじゃないですかね。無いよりは」

鳴護「そりゃあった方がいいとは思うけど……うんっ!素敵な才能だよ、ね?」

上条「HAHAHA!!!微妙に空気読んでんのがイラっとすんなチクショー!心遣いは有り難いけどもだ!」

鳴護「ていうか当麻君は女の子のフラグ関係に全部の運を遣ってるよね、割と本気でそう思うよ」

上条「止めろ!前にも言ったが俺の人生をキャラメイク失敗した残念な子みたいに言うんじゃねぇ!」

鳴護「……前に言われたんだ、それ?」

上条「……あぁっ!」

上条(――さて、会話の内容から分かって貰えた――筈はねぇだろうな、と思うが!なんでこう穏やかにメシ食ってるのかと言えばだ!)

上条(まぁ……なんだ、結論から言えば『イベントが起きない』んだよ!)

上条(ここへ来てから今日で三日目の朝、アリサとの極々フツーの日常生活をしているだけだ。いやホントに)

上条(スタバへコーヒー買いに行ったり!夜のコンビニへチーズ(※パルメザン)を買いに行っても何も起きない!)

上条(ていうかアレは市内で女子高生殺人事件が起きたのに、フラフラ出歩く新約のオマージュだよ!突っ込んだら負けだし!)

上条(……や、まぁ?平和なのはいい事だ、いい事なんだけども……その、平和すぎてどっから切り込んだもんか、って悩みがだな)

上条(試しにアリサへ話を振ってみよう。割とストレートに)

上条「あー、アリサ。お願いがあるんだけど」

鳴護「はい?」

上条「――俺と一緒に帰らないか?」

鳴護「ん、いいよー。それじゃ校門前で待ってる?それとも当麻君の教室まで行こっか?」

鳴護「当麻君んトコのホームルーム長いんだよねぇ。小萌先生は人気あるんだけどさ」

鳴護「あ、でも吹寄先輩が『二バカが脱線させるからねっ!』って言ってたよ?当麻君も反省しないと」

上条「あれ!?その設定ってこっちでも有効なの!?」

鳴護「せっ、てい?」

上条(――お分かり頂けただろうか?大体こんな感じだ。マジボケで返されてるのか天然なのかよく分からん……両方かもだけど)

上条「違うんだ!これきっと敵――」

鳴護「あーでもなー、今日から学園祭の出し物の打ち合わせする、みたいな事言ってたから」

鳴護「予定変わりそうだったらメールするね?」

上条「最近俺のボケをスルーするようになってきたよね?……てか学園祭?一端覧祭じゃなくて?」

鳴護「イチハナ――うん?」

上条「あぁいやいやこっちの話」

上条(って言う間にイベントだよな、これ)

上条「何するんだ――ってのを決めるのか」

鳴護「だねぇ。佐天さんはお化け屋敷、初春さんは食べ物屋さんがしたいんだって」

上条「佐天さんは想定内ではあるんだけど、初春さんは予想外だなっ!」

上条「……あー、けどそうでもない、のか?なんだかんだで風紀委員やってるし、運動量は凄いだろうから結構食うのか?」

鳴護「ゆ、友情は裏切れないよねっ!」

上条「うん、その反応で大体分かったわ。別に良いと思うけどさ」

鳴護「当麻君達は決まったの?」

上条「まだ話も出てない……んが、まぁ屋台辺りに収まるんじゃねぇかなぁ、多分」

鳴護「文化祭で屋台なの……あ、クレープとか?」

上条「――ま、どうせやるんだったら楽しみたいからな」

――空き教室 授業中

上条(まぁ……何だ。事態はこれっぽっちも前に進んでない訳だわな、これが)

上条(流石に三日も居るとこの世界のルールらしきものは何となく把握してる。把握だけだが)

上条(基本的にループしてるんじゃなく、”XX年XX月XX日”みたいな、季節無視した毎日が続いている)

上条(どこかでまた振り出しに戻るのか?それとも螺旋のように終わらないのか?)

上条(……結末の定められているテレビみたいに、いつプッツリとスイッチが切られてもおかしくはない……と、いう以前の問題で)

上条(”あっち”では時間の流れこそ違うが、今も戦ってるのは間違いないんだ、それは)

上条(……だが、”こっち”の世界で俺が出来る事は限られている。つーか白旗上げたいぐらいに全っ然分からねぇし!)

上条「……」

上条(魔術サイドの流儀を学ぼうにも、今から図書館へ行ったって間に合わない。つーか役に立つモンが置いてある可能性も無いだろうし)

上条(よくある、”テスト前になってあん時勉強してりゃ良かった!?”みたいな。同レベル括るのもどうかと思うが)

上条(……つーかさ、フイクションだったらこんな時、都合良く『実は○○は××だったんだよ!』的な解説キャラが現れてくれる筈なんだが)

上条(……残念な事に、夢っぽい感じでもフィクションには違いないと……俺もヒーローって柄じゃねぇしな)

上条(何でも一人で解決出来て、誰も傷つけずに悪者だけ倒してくれて、超絶頭が良くてモッテモテの……)

上条「……」

上条(……考えるだけでヘコむなっ!何とか俺にも分けてくれませんかねっ!特に最後の所なんかねっ!)

上条(――と、まぁ愚痴ってはみたものの、無いものは仕方がない)

上条(確かに”図書館”は無いし、魔術サイドの流儀――特に龍脈どーたらに詳しい奴が都合良く教えてくれる、なんてご都合主義も起きる訳がない)

上条(――突然だが『この世界はアリサが造っている』と仮定しよう)

上条(この高校も土御門B達も、アリサがそう望んだから――”居る”と思っているから、こうして現実の設定をほぼ踏襲してる)

上条(でもその”設定”、土御門のキャラやら持ってる知識は、絶対にアリサが知りようのないものだった……と、すれば)

上条(『やっぱり龍脈の記憶に接続して、土御門Bの情報を得ている』んじゃねぇかなと)

上条(あー、アレだ。大分前に先輩からプラプラ?みたいな名前のプログラムの話を聞いたんだよ)

上条(そのプログラムではオブジェクトなんとか?って方式を取ってるらしくて、データを一元的に管理してるんだと)

上条(RPG作るとして戦闘シーンでの敵のHP変えたら、他のデータ――例えば敵図鑑や仲間にした時のHPも一緒に変更してくれる、みたいな)

上条(また逆に独立させるのも出来るらしいんだが……まぁ意味は分からないんだけどねっ!それはともかくっ!)

上条(アリサが、というかこの世界に『龍脈に置いてあるデータを元に造られた人間』が居るのは確定だと思うんだよ。誰が創造主役なのかはさておき)

上条(だとすれば俺も、俺が龍脈を扱えるのであれば同じ事が出来る……筈!多分!きっと!)

上条「……」

上条(……ただなぁ、”誰”を呼ぶかってのが、なぁ?)

上条(一連の事件に頭っから突っ込んでるのは『新たなる光』の四人)

上条(詳しそうなのはマタイさんにレディリー……ただ、二人ともアリサとは顔見知り程度であって親しくはない)

上条(んで、もふもふinマーリンさんも役に立ちそうなんだが……そもそも『アリサはマーリンの存在自体知らない』ワケで)

上条(……なんでこうアリサとの関係性を気にするかと言えば、やっぱりここは彼女の夢だと思うんだよ、俺は)

上条(そんな所へ、『今まで顔も知らないorあまりよく知らない第三者』を無理して呼べるんだろうか……?)

上条(そうすると……まぁそもそも少ない選択肢が、更に限られていくんで……気が進まない)

上条「……はぁ」

上条(つってもな、時間も無いし、進展もない以上遊んでる訳にも行かない――よし!)

上条「『右手』……こおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ……ッ!!!」

上条「龍脈よ!俺の希望に!俺に力を貸してくれっ!」

佐天「……」

上条「頼む!『幻想殺し』!俺は、俺はっ!アリサの幻想をぶち殺さなくちゃならないんだよっ!」

佐天「……」

上条「だから”アイツ”を!嫌で嫌で仕方がないけども!”アイツ”を呼ぶのを手伝っ――」

佐天「……」 パシャッ、ピロリロリーン

上条「――て、欲しいんですけど……?」

佐天「あ、ゴメンゴメン?気にしないで、続けて下さいな、ね?」

上条「何やってんだぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?棚中のふなっしー○!?」

佐天「あ、今スレ立ててるからちょいお待ち下さいなっ!」

上条「待って?!本気でシャレにならないからそれ!炎上した挙げ句本人特定されちゃうから!」

佐天「【この画像格好良くしてくれ】K上T麻△100【もう格好良いだろ】」

上条「やめろよぉ!俺はもう半泣きなんだから追い打ちすんなよぉ!」

上条「てゆーかそのスレ100まで続いてんのか!?どんだけ俺注目されてんだよ!」

佐天「ナイス空回りwwwwww」

上条「佐天さんそのぐらいに、ね?それ以上はいい加減俺の男女平等パンチが捗るっていうかさ」

上条「つーかなんでこんなとこに居んの?絶対痛々しい感じになるだろうから、わざわざ授業サボってやってんのにだ!」

上条「ある意味俺の坂張りみたいな剛運で!どうして最悪のタイミングで来やがった!?神様に愛されてるにも程があるわっ!」

佐天「いやいや、違うでしょー。そっちから呼んどいてなんつーか言い草ですか」

上条「呼んだ?……待て待て、俺が呼ぼうとしてんのは佐天さんじゃない――」

佐天「分かりましたか?理解出来ましたか?」

上条「――お前、誰だ?」

佐天「私は常に悪を欲し、却って常に善を為す、彼の力の一部です」

上条「……?」

佐天「やぁ、久しぶりですねランドルフ!相変わらず銀の鍵を探しているのかな?んん?」

佐天「賢人バルザイですら届かぬ極みへ、死して夢見る邪神のねぐらへようこそ!歓迎はしませんが、ゆっくりしていきなさいよ!」

上条「この――ワッケ分からん気狂いの台詞――お前はっ!」

アルフレド(佐天)「やぁカミやん、私を呼ぶだなんて何かいい事でもあったんですか?」

――空き教室

上条「どうして佐天さんの外見してんだよ!?魔術か!?あとキャラも何か違うし!?」

アルフレド「待て待て待て待て。そんなにいっぺん聞かれても答える口は一つだけなんだから」 ピツ

上条「その割には悠長にアップローダへ画像上げてるよね?些細な嫌がらせに手を抜かねぇな!」

アルフレド「まず最初の疑問から答えるとだ――『オブジェクト指向はそんなに万能じゃない』」

上条「そんな話はしてないよ!何かちょっと通っぽく言ってみたかっただけじゃんか!」

アルフレド「――ま、ここはおっかねぇ下乳魔神に監視されてねぇから、好き放題出来るっつー話なんだが」

上条「下乳魔神?」

アルフレド「この姿は俺用のグラフィックが存在しねぇから借りたんだよ。ほら、なんつーの?」

アルフレド「昔のゲームで色変えた敵が出て来るよな、アレと同じで」

上条「なんだその超ゲーム理論。ソフト解析したら、画像入ってなかったみてぇな話じゃねぇか」

アルフレド「正解!カミやんにはみんな大好きJCの自撮り写メをプレゼント!」

上条「佐天さんの外見使って遊んでんじゃねぇ!あと修飾語が多分間違ってるわ!」

アルフレド「あ、エロいこと考えた?でもこの姿、制服の下は再現されてないから、脱げねぇんだわ」

上条「……頭痛い……」

アルフレド「あとやっぱ術者――この場合カミやんの力&イメージ不足だわな。”ここ”へ介入するんだったら、もっと強引にしないと」

アルフレド「つーかさ、何で俺よ?カミやんには愉快の仲間達が一杯居るんじゃんか?」

アルフレド「魔導図書館に魔導書解析のプロ、他にもアンブロシア食った巫女さんハァハァ差し置いてさ?」

上条「巫女さんに余計なオプションつけんじゃねぇよ!気持ちは分からないでもないが――あー、その、なんだ」

上条「インデックスに――とは、最初に思ったんだが、今回の事件の当時者じゃないだろ?」

上条「実際にお前らと戦った経験でも無いし、龍脈云々の話もマタイさんやレディリーから聞いた訳でも無いし」

上条「お前らの情報だけ渡されて『はい、きちんと判断してくれ!』っのは無茶振りが過ぎる」

上条「だったら……まぁ、現在進行形で敵だとは言え、事件の中核から何から知ってるお前から話訊いた方が早ぇだろ、と」

アルフレド「――成程、交尾だな?」

上条「違うっつってんだろバーカ!ボケる回数が外見に引っ張られてんぞ!つーかいい加減元の姿へ戻れよ!」

アルフレド「え、女子中学生嫌いか……ッ!?」

上条「好き嫌いの二択で言ったら好きな方だが、絶対にお前の”好き”って意味じゃない」

アルフレド「俺が本当の事を言うって保障は?そもそも敵味方で協力してやる義理もねぇ筈だわな」

上条「そりゃお前、『夢』だからだよ。ここは」

アルフレド「ふむ」

上条「だから『俺の目の前に居るのは本当のアルフレド=ウェイトリィじゃない』んだ」

上条「この世界に居る土御門Bや小萌先生達みたいに、『龍脈の記憶から再現した存在』なんだよ」

アルフレド「ふむふむ」

上条「そして何よりもここ、『夢』みたいなもんだ。多分アリサに管理者権限がある世界」

上条「その世界へ介入出来るのは実証済みだし、何よりも”こうやって”お前を再現出来ている――つまり!」

上条「ある程度の縛りをこっちで『そうなる』って思っちまえば、お前は好き勝手出来ない!どうよ!」

アルフレド「俺もこの夢に出ているNPCで、カミやんの都合の良いように動け、って事な?了解了解」

上条「俺自体に龍脈を読み込んで、知識を得る力は……多分あったとしても使いこなせはしないんだろうしな」

上条「なんかこう、一発逆転みたいな感じで『試してみたら出来ました!』みたいな展開有りっこないんだよ!少なくとも俺の人生においてねっ!」

アルフレド「荒んでんなーカミやん。まぁ言いたい事は尤もだし、その通りだと思うがさ」

アルフレド「……つーか”本人がそう思い込”んじまったら、”それが現実に反映する”特性持ってる以上、ネガティブな思いは負の連鎖へ繋がるんだが……」

上条「だからこうして専門家をお呼びしましたっ!どうだっ!」

アルフレド「カミやんさ、今自分が何言ってるか分かってるか?」

アルフレド「難しく言えば『友情パワー』、簡単に言えば『丸投げ』だからな?」

上条「……いやぁ、一人解決できることなんてたかが知れてるじゃん?」

アルフレド「や……まぁ、やれって言うんだったらするけど……いいか」

上条「――と言う訳で!キリキリ答えて貰おうかっ!嘘は吐くなよっ!」

アルフレド「あー……最初に断っとくけどさも、どこまで行っても『俺は俺の知識しか持ってねぇ』んだよ」

上条「はい?」

アルフレド「なんつーかさ、今NPCやってっけども俺オリジナルの持ってる知識量を超えたりはしない――あー、写本みたいなもんか」

アルフレド「原書をどんだけに忠実に写そうが、オリジナルを越えた知識は無い、みたいな感じで」

上条「あぁ――待てよ、そしたら土御門Bの情報が古いのはどうしてだ?」

アルフレド「最新verだと都合が悪い――この場合、夢の持ち主にとって――情報でも抑えてんじゃねーの?だから無意識的に古い奴を引っ張ってきた」

アルフレド「ま、”龍脈に情報を更新出来ない状態”になってるだけかもしれねぇが――次」

アルフレド「テメーで言うのも何なんだが、俺達は今敵味方になって戦ってるわな。元々仲良しって関係でもねぇ」

アルフレド「だから嘘が吐けないとしても、都合の悪い情報を隠したり、言うべき事を言わなかったりすんのは可能なんだよ」

アルフレド「――つーか、まぁ?”そっち”はむしろ俺の得意分野だし?正直、負ける気がしねぇんだわ」

アルフレド「カミやんには人選からやり直すのをお勧めするぜ。マーリン辺りで手ぇ打っといたらどーよ、あぁ?」

上条「あぁ分かってる。伊達にバードウェイや土御門に鍛えられてはない」

アルフレド「あん?」

上条「お前が言った説明――『本当の事を全て言わない』のは、今言った台詞にも該当するんだよな?」

上条「例えば――『お前らにとって都合が悪い事を話したくない』んで、”他の奴から聞いてくれ”みたいな?」

アルフレド「……そうだぜ。それも当然含まれてんだ――が、正直”そっち”を全部バラせって命令はお勧め出来ねぇんだ」

アルフレド「何だったら試してみ?ウチの幹部連中の正体バラせー、的な感じに」

上条「それじゃお言葉に甘えて、『団長』は」

アルフレド「――正式名称トゥトゥ=アンク=アムン、俗称ネフレン=カ。俺の眷属の一柱だわな」

上条「とぅとぅ?」

アルフレド「日本じゃアレだ、ツタンカーメンっつー名前で呼ばれるエジプトの王様だぁな」

上条「……おい、『嘘は吐けない』つってんのに嘘全開じゃねぇか!」

上条「映画にマンガで引っ張りだこの超有名人が、どうして魔術結社のボスなんかやってんだよっ!?」

アルフレド「いやいやマジで!本当なんだってば!最期まで聞けよ、なっ?騙されたと思ってさ?」

上条「騙された、っつーか騙す気満々としか……」

アルフレド「いやー、なぁ。アイツもあぁ見えて苦労してんだわ。なんつっても有志始まって以来の宗教改革を断行した王様なんだから」

上条「ツタンカーメンがか?」

アルフレド「あいつの、トゥトゥの時代にゃ神官共がつえー勢力を持ってたんだわ。アテン信仰、太陽神信仰の一派なんだけども」

アルフレド「で、トゥトゥは別口のアメン神を持ち上げて、生臭共から権力を取り上げようとしたんだが――見事に失敗」

アルフレド「挙げ句にその二代後、ホルエムヘブ――当時将軍だった野郎が王女を娶り、トゥトゥの親父さんの代から存在自体を抹消しやがった」

アルフレド「ここら辺の逸話がまさに『暗黒のファラオ』つー話になって、いつの間にか『忌々しい生贄の儀式をした!』噂が一人歩きしてんだが……」

アルフレド「……皮肉にも歴史から存在を消されたお陰で、盗掘の被害に遭わずに済んだ、って面もあんだよ」

アルフレド「そのせいで世界一有名なファラオになったんだから、人生ってヤツぁわっかんないもんだねぇ」

アルフレド「ちなみに俺的な解釈としては、アメン神の”父親”――つまり『神の父』扱いにして、”神父”という呪的意味を持たせている」

アルフレド「『存在自体が”ない”神父』なんて、笑っちまうよなぁ、なぁ?」

上条「……」

アルフレド「なぁカミやん、そんな訳でだ、そんな訳でさ」

アルフレド「分かったかよ?理解出来たかよ?”俺達”サイドの話をさ?」

アルフレド「どこが真実?どれが事実?俺が嘘を吐いてないって言う証拠は?」

上条「分かる訳――ねぇだろ!そんなものがっ!?」

アルフレド「あぁ細かい証明や説明しろっつーんだったら、俺はするぜ?イジワルしてる訳じゃねぇんだからな、そこは」

アルフレド「折角こっちへ来たんだ。何分でも何時間でも何日でも何年でも、カミやんか魔術の秘奥を納得するまで懇切丁寧に教えてやんよ」

アルフレド「俺って優しいよなぁ?よくクリストフからも言われるよ、『良い性格してますよね』って」

アルフレド「でもな、けどな、そうするとな――”あっち”で待ってる連中はどうなるんだ?間に合うのか?なぁ?」

上条「……」

アルフレド「――っていうか上条当麻さんよぉ、あんまり”俺”を舐めてんじゃねーぞ?あぁ?」

アルフレド「嘘を吐けないからって騙す方法なんぞ腐る程あんだよ。分かるか?引っかき回す方法なんてもんはな」

アルフレド「俺に勝ちたいんだったら、対情報戦のスペシャリスト『明け色の陽射し』か、似たような存在である『木原』でも連れ来やがれ」

アルフレド「たかだか16、7年の人生程度じゃ力不足にも程がある」

アルフレド「そもそも、第一、前提からして”これ”はどういう事だと思う?俺は今何を言っているんだ?」

アルフレド「俺がわざわざお前を挑発するような事を言ってる――”この”事象はどういう目的があると思うんだ?なぁ?」

アルフレド「怒らせて意固地にさせて俺の話を吹き込むため?それとも善意の忠告?もしくはただの時間稼ぎって線もあるな」

アルフレド「そもそもの前提、『俺が正気だって』証明が誰がしてくれるんだ?狂人の妄想である可能性は否定出来ないよなぁ?」

アルフレド「他にも”俺”がお前の創造物だって証明は誰がする?オリジナルが乗り込んで来た可能性だってあるだろうに」

アルフレド「つーかアリサから目ぇ離してていいのかよ?今こうしている間にもショゴスの群れが向かって――」

上条「――いや、だからな。アルフレド=ウェイトリィ」

上条「お前が親切で言ってるのか、それとも何か悪っるい計算で言ってるのか。その判断は俺には多分つかないと思うんだよ」

上条「こちとらただのケンカ慣れしただけの高校生だ。人の顔色伺って真偽見極める何て芸当、出来る訳がねぇさ」

上条「確かに俺一人で聞いたんだったら、嘘吐けない条件だって騙されるかも知れないな。それは」

上条「……でも、問題は、つーか論点はそこじゃないんだよ」

上条「俺が大事にしているのは『アリサを助ける』事だ……あぁ勿論世界も助けたいけどな……何つったらいいのかな、えっと……」

上条「『蜘蛛の糸』って分かるかな?日本文学だから知らないか……」

アルフレド「天界から神が罪人助けるために縄を垂らすんだろ?類型フォークロアに”地獄のニンジン”があるから知ってる」

上条「何その民話スッゲー興味ある……が、そうじゃなくてだ」

上条「今、俺は”そういう”状態なんだよ。周り見渡しても完全アウェイでどうしたらいいのか分からない」

上条「そこへ助けになる”かも”知れない糸が降りて来たら、それが細かろうと、茨で編まれてようが掴むよな?」

上条「ただ、それだけの話なんだよ」

アルフレド「……」

上条「……つーか、どうなんだろうな?俺のイメージ次第では『協力的なアルフレド』みたいな設定も出来る筈……か?」

上条「まぁ、あんまり愛想が良くても胡散臭いか。そうだよな」

アルフレド「………………クク」

上条「お?」

アルフレド「カハハハハハハハハハハハハハハッ!そうだぜっ!それでいいんだよカミやんっ!そうでないと困るっ!」

アルフレド「質問が悪かったのだなランドルフ!……あぁ、あぁ!否だ!お前はランドルフなどではなかった!」

アルフレド「あのせせこましい旅人でないのかっ!……クク、そうか、そうだなっ!貴様はオルフェウスだ!正真正銘のな!」

アルフレド「恋人の記憶を弦にして妻恋歌を奏でる楽師!神秘学の入り口でもたついたあの間抜けとは違ったか!アッハハハハハハハハハハハハハハハハハハっ!!!」

上条「大丈夫か、お前……?」

アルフレド「あぁこれだから!これだから私は貴様達を見捨てられないんだ!」

アルフレド「この忌々しく愛しい可能性――『銀の鍵』がっ!『耀くDeltoidal icositetrahedron』を持った少年よっ!」

アルフレド「暗黒の産んだ驕れる奇跡は妣の闇夜と古い位階を争い、空間を搾取しようとする!」

アルフレド「ただし幾ら骨折ってもそれが出来ぬのは、奇跡が捕われて物体に粘り着いているからだ!」

アルフレド「物体から流れて物体を美しくし、そしてその行く道は物体に妨げられる!」

アルフレド「あれでは私の見当では奇跡が物体と一緒に滅びてしまうだろうよ!遠からぬ内にな!」

上条「……?」

アルフレド「ならば止めて見せろよ少年よ!魔神に穢された世界を存続させる未来があっても構わないだろう!」

アルフレド「この『無――」

プツッ、ツーッ、ツーッ、ツーッ、ツーッ、ツーッ………………

――空き教室

上条「……」

アルフレド「――おーいカミやん。聞いてるかー?おーーーいっ!」

上条「――お、おぅ?寝てませんっ!起きてますっ!」

アルフレド「先生に指されたんじゃねーよ。つーか人が折角気分良く話してんのに爆睡しようとするのって、人間的にどうなんだ?えぇ?」

上条「ご、ごめん……?いやでも今」

アルフレド「俺もヒマじゃねぇ――事も、ねぇけどさ、カミやんの時間は有限なんだから、有効に遣った方がいーんじゃね?」

上条「お前は違う、のか?」

アルフレド「さっきも言ったが、”今の俺はNPCと一緒”なんだわ。例えるならばRPGで『○○村へようこそ!ゆっくりしていってね!』つってんのと同じ」

アルフレド「だからこっちの世界で悪さしようとしても出来ない――に、プラスして容量が足りない」

上条「さっきも言ってたな。バッファがどうとか」

アルフレド「幾ら龍脈の力を遣えるからっつっても、無限に行使出来る訳じゃない……ま、一見すると無限に近い有限の枠はあるんだが」

アルフレド「それでも”無意識”にアレもコレも出来るような、片手間でどうにかなるようなもんじゃねぇよ。流石にな」

アルフレド「少なくとも『夢』って形で、テメーに都合の良いように形作ってるなんざ、必要最低限の行使すら”出来てない”んだ」

アルフレド「その証拠に”上条当麻が世界の強制力を受けつけていない”んだし」

上条「俺が?」

アルフレド「分かりやすく言えば、今カミやんはこの夢の持ち主にとって都合の悪い事をしている訳だ。無理矢理目ぇ覚まそうってな」

アルフレド「でもそれは本人が望んでいる訳じゃない――だから本来ならば『強制力』が働いて、そんな事出来なくされられっちまう」

上条「……随分協力的だな」

アルフレド「そこは”上条当麻がそう設定した”んだろうぜ?俺は特に他意はねぇが――ともあれ」

アルフレド「俺の場合も”上条当麻がそう設定した”以上、この教室にこの姿で縛られるんだよ」

アルフレド「だからまぁ、質問があれば随時受け付けるが……何度も言うように、俺はお前に協力してやるつもりはない」

アルフレド「そこら辺を覚悟したんだったら、幾らでも頼ってくれても構わないんだぜ?」

上条「……上等!こっちは折角掴んだ解決への筋道なんだ、離してたまるかよ!」

今週の投下は以上となります。お付き合い頂いた方に感謝を

実在性ミリオンアーサーの円盤化おめでとうございま、す?

おっつし☆
アリサのターンだけどもそういやアリサは敵(かもしれない)ってことを忘れてた
こういうピンチに登場する女の子が一気にヒロインレースの先頭に立てそうなものだけど登場したのは佐天涙子型アルフレド=ウェイトリィNPC体
まあバレンタイン企画?で一方通行だけでも発言してたし田中さん的にはそういうのもアリなんですかねぇ
話的にもヒロインレース的にも重要っぽい場面が続きそうでどうなっていくか楽しみです

使うって聞いた瞬間にGを想像した私は汚れていますか?

アリサがついにベイロープさんに並んだ!?

てめえ上条、てめえは胸しか見れねえのか? 胸は尻の代用品でしかねえんだよ!!!!!

ベイロープ心臓なかったら力出せなくね?

なんのかんので佐天さん出番めっちゃ多い!
ていうか、夢の中の方がより生き生きしてるつーか、アルくんのキャラまで喰うとは恐るべしフライングパンケーキ!!

このアルカリみたいなおっさん嫌い マーリンにチェンジ

>>836
あー……詳しくは本編にてご確認下さい

>>837
それも選択肢の一つですが、回答としては正しいかは別にしても
最善を求めて次善を嫌い、最悪へ突っ走る事もしばしばあります

>>838
えーと上条さんも知識自体は平均的日本人のそれと同じですので、
上条「冥界……?何か暗くて死んだ人がいっぱい居る所だよなー、きっと」
と”思い込む”のが普通だったんですよ。本来であればその意識を反映して、おどろおどろしい冥界になったでしょう

――が、実際に見たものは極々普通、緩め学園ドラマであり”何度か体験済みの世界”です(※含むフロリスの回し蹴り)
ていうか鳴護さんの意志が反映されてる”ぽい”時点で【(」・ω・)」うー!(/・ω・)/にゃー!】ですので
ついでに言えばこのSSはクトゥルーもんですし、当然這【ゆっくりしていってね!!!!】のも道理でしょうか
おや文字化【χάοςχάοςχάοςχάοςχάοςχάοςχάοςχάοςχάοςχάοςχάοςχάοςχάος】――

>>839
東西を問わず、”突っ走る女子”はこんな感じに収まるんでしょうかねぇ
ただ同じLawサイドでもLightとDarkでは天地程も違い、片方が特攻野郎Aチーム、もう片方がグリーンウッドですので

>>840
鳴護「だ、だって当麻君からお話聞いてないし!」
上条「だ、だってアリサの情操教育に悪いし!」
青ピ「……挙げ句、原作ですらも名前忘れてんのをネタにされるん始末や……!」
土御門「ここまで引っ張ると『実はスッゴイ伏線でした!』じゃないと読者が暴れるんだぜぃ」
(※個人的には木原一族だと思っています。ある意味二次元へ逝っちゃった方ですので)

>>842
上条「オーケー。それじゃちょっと試してみよう」

上条「――今日の朝メシは建宮から貰った納豆!日本の伝統的な発酵食品ですよっ!」」
上条「食べられなかったら、こっちのパンにマーマイト・ペーストを塗ったのが用意してありますんで、好きな方を――」
レッサー「おっ、中々いけますねこのNattoとやら!」 ガツガツ
フロリス「あー……悪くないネー」 ガツガツ
ランシス「……おかわり」 ガツガツ
上条「……意外とよく食うな。お前ら」
ベイロープ「この子達は……その、魔術で使う触媒ってあるのよ。こう、所謂ゲテモノの類」
上条「触媒?」
ベイロープ「具体的にはコウモリの羽とか乾燥させたヒキガエル、あとヤモリの黒焼きとか」
ベイロープ「先生が『魔女たるモンはこれぐらい食ぉて当たり前やよ!』って」
上条「……食ってんの!?マジで!?」
ベイロープ「食ってんのよ、マジで」
上条「コウモリの足をおやつ代わりに食う連中には隙が無かった……ッ!」
レッサー「――てかこれはあの幻の!茨城県日立市小木津駅駅前でしか売られていない、おぎつ納豆……!」
ランシス「……事前に予約すれば、藁包みという昔の納豆スタイルで販売してくれる……」
上条「なんで知ってんだ、なんで知ってんだよ!?」
(※日本の納豆でも好き嫌いは地域によって変わりますからねぇ。見える地雷ならば回避可能なのですが、
グレイビーソース(小麦粉と肉汁ベースにした、生臭いデミグラスソース)という、口に入れるまで分からないブツも多々ありますし。
私も鯖寿司系は無理、てか生の魚介類全般ダメです。ゲテモノ食については超電磁砲円盤特典の第二弾を参照の事)

――空き教室

上条「――じゃ、核心から聞かせて欲しいんだが」

上条「こっちの世界、つーか”冥界”っておかしくねぇかな?あぁいや、実はこんなモンでしたーって話かもしんないけどさ」

上条「俺が想像していた”冥界”のイメージとは大分違うし、そこら辺はどうなってんだ?」

アルフレド「あ、見て見てカミやんっ!女子が校庭で大縄跳びやってるっ!」

上条「聞けよテメェ!人が折角『時間が無いんだったら巻きで行こう!』って気にしてんだからな!」

アルフレド「やっぱアレじゃんねー?『女子にはブルマしか認めない!』みたいな派があるらしいけど、俺はハーフパンツ派だわ」

アルフレド「てかブルマ見た事無い奴が殆どだっつーのに、フィクションでこれでもかとブルマ押しは何なんだろう?」

上条「だから聞きなさいよっ、ウェイトリィ兄弟のアホ担当の方っ!」

アルフレド「ん?……あぁすまん。少し興奮しちまったぜ」

上条「何か『取り乱しました』みたいに言ってるけど、字面通りの意味で変態だからな?」

アルフレド「みんな大好きっJCっ!いえーいっ!」

上条「佐天さんの顔と声で言うなっ!佐天さんはこんな事言わない――かも知れなくもないかも知れないがっ!」

上条「――ってJC?ここ高校だぜ?」

アルフレド「中高一貫校だからじゃねーの?日本だと都市部の土地高いってんで、他の学校と共同で使うトコもあるらしいぜ?」

上条「いやだからなんでお前が日本の教育現場を知っているのかと」

アルフレド「お、アリサちゃんだわ。おっぱい揺れてる」

上条「え、マジで?」

アルフレド「あ、ほれ。今跳んでるピンク髪のポニテてんんてポニテもいいよなぁ」

上条「あー……あれ?」

鳴護『……!』

佐天『……!?』

アルフレド「どしたん?」

上条「あーいや、今アリサがジャンプしてる時さ、こう両手を胸の前へ持ってきて、グッ!ってしてるよな?」

上条「こう、ちょっとしたボクサーがガード固めるみたいに、拳を握って方ぐらいの高さで持っていく、カンジの」

アルフレド「昔風に例えると”ぶりっこのポーズ”……知らねぇか。知らねぇだろうなー、それじゃ」

アルフレド「今風に言えば『ファイトだ!まだ戦えるだろ!』っつってる松岡修○のポーズだわな」

アルフレド「『コロンビア!』の腕伸ばす前でも通じそうだが……それが何よ?」

上条「よく見てみれば、たまーに他のコも似たようなカッコして跳んでるし、あれって何か意味あんのかな?」

アルフレド「あー、それ……何つーか、聞きづらいトコに気づくよな」

上条「いや、それほどでも」

アルフレド「褒めてはねぇ、ねぇんだが。あー……」

上条「ヒントっ」

アルフレド「『新たなる光』だとレッサーちゃんとベイロープちゃんはする、他はしねぇか。する必要が無ぇっつーかな」

上条「……んん?」

アルフレド「俺の知ってる範囲で言えば……禁書目録はしない、御坂美琴もしない、木原円周もしない」

アルフレド「”する”のは『必要悪』の魔導書解析シスター、同じく聖人サムライガール」

上条「なんだそのナゾナゾみたいなのは……?」

アルフレド「『新たなる光』のボスさんはしない。噂じゃぼんっきゅっぼんっ!らしーんだが、俺のナイアが違うと囁いてる」

上条「どこ情報?ガイアも大概だけど、ナイアさんって誰?つーかボスも情報操作杜撰すぎやしません――か」

アルフレド「分かったかい?」

上条「まさか――サイズ、か?要はおっぱいのっ!?」

上条「いやでもしかし、それと両手を”ぐっ”てするのと因果関係があんのか……?」

アルフレド「――ンンンンンンンっ!正解っ!」

アルフレド「考えてもみろっ……おっぱいは――揺れるんだよ……ッ!!!」

上条「あん?そのぐらいは誰だって知ってるわっ」

アルフレド「……そうだな。それは、そうさっ!ある意味世界の真理でもある――だが、それ故にだ!」

アルフレド「”おっぱいがたゆんたゆんすればする程、女子にとっては運動が困難になる』んだ……ッ!」

上条「それが――まさかっ!?」

アルフレド「そう、その通りだよ『幻想殺し』!陸上女子を筆頭に一流アスリートには中々巨乳は居ないっ!」

アルフレド「何故ならばそれはデカすぎる女性の象徴が、運動する時は邪魔になるためだ!」

上条「すると?」

アルフレド「――つまり、女子が胸の前で”ぐっ”てしてジャンプするのは、おっぱいが不必要に揺れるんでっ!」

アルフレド「こう、左右から寄せて上げて押さえる事によって弾まないようにしているんだよ……ッ!!!」

上条「な、なんだってーーーーーーーーーーーーーーっ!?」

鳴護『……』

佐天『……』

アルフレド「……」

上条「……」

アルフレド「……なぁ、カミやん?」

上条「……なんだよ」

アルフレド「キス、しよっか?」

上条「なんでだよっ!?どの流れでそうなるっ!?」

アルフレド「いや折角二人っきりだし、何となく流れでさ」

上条「鏡見ろ変態。テメー今誰の皮被ってやがるっ!」

アルフレド「それだっらたカミやんも俺と同じだなっ!」

上条「違うよ?違うからな?一体何の事だか分からないけど、違うと思うよ、うん」

上条「もしも仮にそうだとしてもだな、日本人男性の約7割がですね」

アルフレド「いいじゃん別に。一回だけ、一回だから、なっ?」

上条「しねーよ!そもそもお前ヤローじゃねぇかよっ!?」

アルフレド「あ、もっとロ×の方が良かった?ごめんなー」

アルフレド「ただこれ以上ロリ×リっとした体型となると、名無しのモブしかいねぇけど――それでも良いかな?」

上条「良い訳がねぇな?一体どこの世界で『そ、それじゃヨロシク!』なんて言い出す奴がいんだよ、あぁ?」

アルフレド「21世紀の日本では『男の娘』ってジャンルがだな」

上条「ウルセェよ!現代日本のある意味病巣を全体の縮図であるかように語るなっ!」

アルフレド「つーか別に俺は好きでこの格好してるんじゃねーぞ?カミやんのイメージ不足で『龍脈』の力を扱いきれなかったのが、”第一”の原因」

上条「だからって幾ら何でも佐天さんの姿になんなくっても……?”第一”?」

アルフレド「あの子もまぁ、俺と特性が似通ってんかんなぁ。『幻想殺し』の亜種と言えなくもねぇ」

上条「佐天さんが?」

アルフレド「俺の推測だが……例えばコイン投げて表が出る確率は50%、2分の1だわな」

アルフレド「裏が出るまで連続してコイントスする実験を、そこいらの通行人にやって貰ってーの」

アルフレド「10回連続で表が出る確率は1024分の1、つまり1024人に1人出ればラッキーでーすねHAHAHA!!!」

上条「要点を言え、要点を」

アルフレド「だからアレだ。コイントスして10回中10回表を出す奴が居るんだよ、可能性だけは」

アルフレド「それと同じく、あの子――つーか、この子も確実にフラグ踏み抜く体質じゃねぇのか」

アルフレド「『立ち入り禁止』の立て札がついてる建物へ入るバカは居なくはない。確率的には近所のガキから肝試しまで結構居るだろう」

アルフレド「ただ、そん中で全部のフラグぶち抜くのは滅多に居ねぇわな」

上条「ある意味俺と同じだよなー……不幸が重なる不幸体質」

アルフレド「ま、嘘なんだけどな!」

上条「嘘かよっ!?意味の無ぇ嘘吐くなよ!」

アルフレド「いいやぁ、意味はきちんとある。その証拠に、ホレ」

キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン

アルフレド「な?」

上条「時間稼ぎかチクショーっ!?てかする意味あんのかよ?」

アルフレド「知らね。個人的な嫌がらせだし」

上条「お前さっきから――」

アルフレド「ま、いつでもココでスタンバってるからゆっくりしてきてねっ!その間に世界が終わってるかもだけど!」

上条「……ここに居るって言ったら?」

アルフレド「好きにすりゃいいんじゃね?ただカミやんのお友達の性格からすると、探しに来そうだし」

アルフレド「そん時に”JC”と”密室”で”二人っきりのひ・み・つ授業”なんてバレたら、超絶楽しそーだぜ」

上条「鬼っ!悪魔っ!高千穂っ!お前のとーちゃんモーナー×っ!」

アルフレド「おっとカミやん!アイスに罪はない筈だぜ!」

上条「……頭痛い……あ、そうそう。一応釘刺しとくけどさ。お前この教室から出るなよ?」

アルフレド「何?監禁プレイ的な?」

上条「違げーよ。佐天さんは自分のそっくりさん見てもぶっ倒れないと思うが、その」

上条「――『あ、ドッペルゲンガー発見!よつしゃーーーーーーーーー!!!』とか何とか言って、持ち前の狂運使って追い回しそうだから……ッ!」

アルフレド「するだろーなぁ。この子の性格だったらば」

上条「不便かも知れないけど、メシとトイレは俺が何とかするから」

アルフレド「やべぇ監禁プレイ超興奮する!」

上条「だから佐天さんの外面で言うなっつってんだよ!JCなんだから自制しろっ!」

アルフレド「あーイヤイヤ気遣ってくれんのは有り難いんだが、俺はNPCでしかも”上条当麻が造ったモノ”なんだわ」

アルフレド「だから”飲食不要”だし、”普通の人間とは違う”ぜ?」

上条「もしかしてこの教室も……?」

アルフレド「あっちじゃ存在しなかったか、他のクラスだった筈だろ?なのに空っぽだってのは、”他のNPCには認識出来ない”って訳だ」

上条「へー。夢みたいにご都合主義だな」

アルフレド「いやだからさ、つーかまだ気づいてなかったのか?鈍いにも程があんだろ、そのウチ後ろからブッスリ刺されるぜ」

上条「それは地元で体験済み――らしい。てか何だよ鈍いって?」

アルフレド「――ここ、『鳴護アリサの夢ん中』だっつーのによ」

――昼休み

キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン……

上条「……」

上条(……何かどっと疲れた……SAN値が減ったって感じでさ)

上条(あの野郎よりにもよって佐天さんっつージョーカー引きやがって!外見がアレな分カオス増量中だよ!やったね!)

上条(てーか他に人選は無かったのかと小一時間……居ないんだよな、きっと)

上条(まぁ……なんか途中から協力的になってるみたいだし、あれで納得するしかないだよなー、これが)

上条(――てか”ここ”がアリサの夢ん中?『冥界』じゃなく?)

上条(思い当たる節は幾つもあって『ま、こういうもんなんかな?』で納得しちまってたけど、違うじゃねぇか。それも全っ然)

上条(しかも人が教室引き返すタイミングで言いやがって!授業がまともに入らなかったし……)

上条「……」

上条(……あー、まぁアレだし。元々授業は聞いてなかったって話もあるんだが、それはさておき)

上条(今はあのヤローからどうやって騙されずに済むか、対策を練るのが大切だな、うん)

上条「……」

上条「助けてー土えもんっ!?」

土御門(デス声)「『どぉしたんだぜぃカミ太くぅん?またミサアンに虐められたのかぁい?』」

上条「振っといて言うのもなんだが、意外に上手いな……じゃなくて、相談したいんだがいいか?」

土御門(デス声)「『てれれっれってれー、”バールのようなモノー”!』」

上条「解決しねぇよ!?一瞬スっとするし解決した気にはなるが、根本的な問題はより根深くなるよ!即逮捕懲役的な意味で!」

土御門(デス声)「『”こんにゃくー”』」

上条「元春君?教室だからね?確かにそれ使えば落ち着くだろうけどもさ」

土御門「で、何?教室では言えないような話か?」

上条(あぁ成程、気を遣ってくれた――待て待て、これ他の連中には『エロ関係の話をしてくる』っと取られるんじゃ……?)

上条「……いや、気持ちは有り難いがここで大丈夫。つーか大した話じゃないんだが――」

上条「――詐欺師に騙さない方法ってあるかな?」

土御門「あるけど、カミやんには無理ですたい」

上条「言い切りやがったなチクショー!?」

土御門「だって相手の目線や会話パターンから真偽を読んだり、色んな伝手を使って情報の裏取りするなんて出来る?」

土御門「プロ中のプロは”こっち”の方法で見分けようとしても、嘘を心底本当だと思い込むから、嘘発見にも引っかからないんだぜぃ?」

上条「……ごめんなさい」

土御門「つっても俺がしゃりしゃり出たり、他の連中の力が借りられるんだったらそっちを頼るだろーすぃ……あ、それじゃ心掛けだけでも教えとっか」

上条「身につくかどうかはともかく、お願いします」

土御門「って一個だけだから、難しく構える必要は無い――でだ」

土御門「『腕の良い詐欺師は基本的に嘘を吐かない』んだ。知ってた?」

上条「――――――――は?」

土御門「その『何言ってんだコイツ?』的なツッコミを無視すると、つーかカミやん、詐欺師が詐欺師って呼ばれるのはどうしてだか知ってるか?」

上条「そりゃ……お金や財産を巻き上げるから?」

土御門「それは”結果”であって由縁じゃないにゃー。てかお昼食べたいからさっさと結論言うとだ」

土御門「――『嘘を吐いて”騙す”』のが、本質だ。いいか?大事なのは”騙す”点だからな?」

上条「嘘を吐くんじゃなくて?人を騙すんだったら嘘を吐かないと無理だろ?」

土御門「違うぜぃ。それも”手段”であって目的じゃない――例えばカミやんが誰かを騙して金を巻き上げるとする」

上条「しねーよ」

土御門「例えが悪いんだったら、こう、あるだろ?『参考書が欲しいからお小遣い出して』みたいに親へ泣き付くとか」

上条「あぁ聞くなぁ、そういうバカ話。実行に移すかは別にして」

土御門「そん時さ、尤もらしい嘘吐くよな?『学校でみんな持ってるんだ!』とか、『持ってないと仲間へ入れて貰えない!』とか」

上条「その例は失敗してるようにしか……」

土御門「だよなー、だったらカミやんはどうする?」

上条「んー……正直に言うのが一番なんだろうけど……出来ないからそうしてるんであって――」

上条「明日の授業で使うんだ!、みたいな?」

土御門「そうだな、そうやってそれっぽい――つまり『有りそうな』話をでっち上げるんだ」

土御門「これは”嘘”を吐いた話。ご両親がしっかりしてれば騙されないだろうし、事実関係を調べれば嘘だってバレちまう」

土御門「だが”ここ”までは素人の話。ホンモノは更に凄い。なんつっても――」

土御門「――”嘘を吐かない”んだから」

上条「あー……何となく分かってきた」

土御門「基本的に事実だけを積み上げていくんだよ。相手に信用させるため、疑われないためにだ」

土御門「そうやってある程度信頼を積み上げた後、致命的な所、ここぞという所で大嘘吐いて騙すのが一流の詐欺師」

上条「……納得」

上条(『濁音協会』もそうだったよな、確か。自分達が死ぬ事すらも計算尽くで、俺達を欺くためにやった事だ……)

土御門「『海外の恵まれない子に支援の手を!』つって募金箱持ってんのは三流。『うわー、こいつら胡散クセー』って思われて終わり」

土御門「『ペットボトルのキャップを集めてワクチンを!』は二流か。途中で金を回さなくなったし」

上条「あー、居たなぁ」

土御門「『私達は国連です!国連の下部組織です!』でお金を集めるのは一流。”募金を全部チャリティーに遣うとは言ってない”連中だにゃー」

上条「……その例えが正しいかどうかはさておき、言いたい事は、分かった」

土御門「他にもよくあんのは『事実の一部分だけを殊更に強調』すんのが流行りだにゃー。なんつってもワンフレーズでバカにも簡単に使えるし」

土御門「刺されて出血多量で死にかかってる奴の耳元で、『輸血をする感染症になるリスクが高まる!過去のデータでは0じゃない!』って煽る」

土御門「ソイツを刺した犯人が包丁持ってウロウロしてんのにはノータッチ。全然関係ないリスクばっか取り上げ――ん、のも、また情報操作の一環だしぃ?」

上条「……確かに」

上条(思えばアルフレドも『時間が無い時間が無い』って必要以上に連呼していたような……)

上条(もしも『タイムリミットを待つ方が奴にとって利益になる』んだったら、わざわざ俺に教えたりはしない、か)

土御門「とにもかくにも、腕の立つ詐欺師程事実しか言わない。嘘がバレたら元も子もないからな」

上条「……土えもんさ、随分詳しいけどそっちの人じゃないんだよね?『口先の魔術師』とか呼ばれてるなんて事無いんだよな?」

土御門「まー似たようなモンだにゃー。本来有るべき理を曲げて都合の良いように解釈・変遷するってお仕事だしぃ」

土御門「とにもかくにも、詐欺師が詐欺師だって言われる由縁は、必ずどこかでボロが出るんだぜぃ。現実との乖離が破綻を来す」

土御門「具体的には結婚詐欺師が結婚した話は聞かないし、和牛売って儲かった例も皆無」

土御門「だから連中は破綻するのを知ってるから、どっかで必ず『致命的な一撃』をこっちへ入れて来るんだわ」

土御門「ま、どこでその『致命的な一撃』を入れて来るのか、カミやんには分からないと思うぜぃあっはっはっはっー!!!」

上条「今までの説明全否定っ!?」

土御門「ただなーカミやん、これは多分カミやんにしか出来ない事があるんだ」

上条「……なんだよ。『右手』でどうこうしろって話じゃないだろうな?」

土御門「それはただの『手段』だ。もしも他の誰かにくっついてたら、きっとそれはただの右手へ成り下がったんだろうが」

土御門「それよりも詐欺師ってのは”自分の持っていきたい方向へ話を進める”んだ」

土御門「自分の思い通りの展開へ持っていくために、あれこれ話を誘導すると」

上条「……例えば?」

土御門「カミやんは今、喉が渇いていない。また近くに飲める水道があるから心配もしていない」

土御門「でも詐欺師は水を売りたい。だったらそいつはきっとこう言うんだ」

土御門「――『この水は霊験あらたかな富士山系から汲まれたものです!古の修験者のみが口にしていたと言われる!』」

土御門「『どうです、?そこのあなた!今ならばお安く提供しておりますよ!不幸が治るかも!』」

上条「じゃ、じゃ一本だけ買っちゃおうかなっ?」

土御門「みたいな感じ。あ、ちなみに日本製のミネラルウォーターの34%が山梨県だからろ、大なり小なり富士山系の水脈を使ってる」

上条「騙された……のか?」

土御門「いんや何も騙してなんかないぜぃ?富士山で密教系験者が居たのは本当、連中が水を飲んでたのもそうだし」

土御門「治る”かも知れない”んだから、嘘は何一つ吐いてない」

上条「あー……」

土御門「この話のキモは『水を飲みたくなかったカミやんに水を買わせた』――思想誘導だな。難しく言えば」

上条「対抗する手段は?」

土御門「そうだな、カミやんに出来そうな――いや、にしか出来なさそうな事であれば、『考えを曲げない』事だぜぃ」

上条「うん?」

土御門「詐欺師はあれこれ自身に取って都合の良いように言ってくる。騙す相手に間違った選択肢を掴ませるためにだ。ここまではいいな?」

上条「あぁ」

土御門「だったら『信念をねじ曲げない』事で、相手の望む選択肢をぶち壊す――どうだ?」

上条「……あぁ確かに。それ多分、俺出来そうだわ」

土御門「だろ?」

モブ「おーい、カミジョー!妹さん来てんぞー!?」

上条「分かったー!……ありがとう、土御門」

土御門「気にすんなよ、エインヘリャルの勤めを果したまでだ」

上条「映、倫?」

鳴護「もうっ、当麻君またお弁当忘れて!」

佐天「や、ですからそれ朝言えばいいんじゃないかなー、なんて思ったりなんかするんですけど?けどー?」

初春「佐天さん空気読んで下さいっ」

上条「相変わらず癒やしなのかカオスなのか分からん……!」

――昼休み 屋上

上条・鳴護・佐天・初春「「「「ごちそうさまでした」」」」

佐天「あーそうそう、お兄さん聞きましたよー。おウチで家事手伝いするようになったんですよね?」

上条「まぁ……少しは反省したって事で一つ」

初春「ご家庭の事は色々とおありでしょうけど、家事は出来て越した事は無いと思いますよー」

上条「あんま突っついてくれるなよ。俺だって流石に悪いと思ったからさ」

鳴護「そうだねぇ。当麻君が手伝ってくれるから、有り難いは有り難いんだけどね……」

佐天「――はっ?!まさかこれは思春期の娘さんにありがちな、『パパの下着と一緒洗って欲しくないんだもん!』ですかっ!?」

上条「そんな事ねぇよ!……な、ないよね?」

鳴護「あ、そういうのは全然全然?昨日もわたしの下着畳んでくれてたし?」

佐天「よっ!このっ変質者っ!」

上条「佐天さんその言い方はどうかと思うんだ?つーか曲がりなりにだけど、家族同士の間柄だしさ」

上地要「てか君キャラブレなさすぎだよね?どこ行っても賑やかしするのが宿命なの?」

鳴護「ただ、その、昨日今日始めたばかりの当麻君のお料理が、わたしの作ってたご飯よりも美味しい、ってのはちょっと納得行かないかも……!」

佐天「あ、それアレじゃないんですかね?化学調味料的なものを大量に混入しているとか?」

上条「そこまでして見栄張りたくはないな。何よりも体に悪そうだ」

初春「あ、でしたら別のものが入ってるなんてどうでしょうか?」

上条「人を炎上寸前のツイアカみたいに言わないでくれるかな?」

初春「そうですねぇ、例えば”愛情たっぷり”みたいな?」

佐天「ナイスフォローっ!」

上条「いやぁ、入れてない事ぁないけどさ」

鳴護「でも、それだったらあたしの方が美味しい筈じゃないかな?」

上条・佐天・初春「「「えっ?」」」

鳴護「えっ?」

全員「……」

佐天「――と、言う訳で見事にオチた所でご提案が!」

上条「アリサさん反省しような?アンタッチャブルな子ですら踏み込むの躊躇ってんだからね?」

全員「……」

佐天「――と、言う訳で見事にオチた所でご提案が!」

上条「アリサさん反省しような?アンタッチャブルな子ですら踏み込むの躊躇ってんだからね?」

鳴護「ごめん、意味がよく分からないんだけど……」

上条「目ぇ逸らしてる時点で気づいてるよな?てかほら、こっち見なさい!顔真っ赤にしながら言っても説得力無いですよっ!」

鳴護「し、しーらないなー?」

上条「だーかーらっ!」

佐天「……なんだろうね、この兄妹。『所構わずイチャイチャしてんじゃねぇよ』って突っ込めたら気が楽なんだけど……」

初春「ほぼ言ってますよ、それ」

佐天「つーかもしお兄さんさえ宜しければっ!放課後メンズブラ買いに行くのついてっていいでしょーかっ!」

上条「却下だ!てゆーかその誤情報どっから持って来やがった!?」

上条「一体どこのアリサさんがデマ流しやがったんですかねぇ!?」

鳴護「うん?でも昨日のあたしのブラ……で、朝のアレだから、そうかなーって」

佐天「すいません、詳しく訊いてもいいんですかね?どうにも禁断っぺぇ臭いがプンプンするんですけど!」

上条「人様にお聞かせ出来るような楽しい話じゃないですかね、はい」

初春「……犯罪的なお話でしたら、私がお力になれると思いますよ?」

上条「どう考えても信用されてないっ!?」

鳴護「それ、御坂さんへ直で連絡行くんだよね?……うわぁ、御坂さん当麻君に厳しいから」

上条「止めてあげて!?主に俺が死んじゃうから!」

キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン……

佐天「と、お時間ですねー。そいじゃまた放課後ー」

鳴護「当麻君もお勉強頑張ってね」

上条「あぁ――って待ってくれ」

佐天「はい?」

初春「話の流れから佐天さんじゃないかと……」

鳴護「……えっと、大切なお話?」

上条「でもない。あー、その朝の話だけどさ、今日ちょっと予定入っちまって」

鳴護「……むー」

上条「ごめんな?いつか埋め合わせするから」

鳴護「あーうん、分かったー。それじゃご飯もわたし作っちゃってもいいのかな?」

上条「悪い、それも頼む。遅くなりそうだったら連絡するからさ」

佐天「ちなみにご予定ってのはなんですか?早く終わりそうだったら待ってますけど?」

佐天「てかブラ初心者なんですから、お一人で悩むのはよくないですもんねっ!ゼッタイっ!」

上条「うん、早く終わってもメンズブラ買いには行かないからね?」

鳴護「どうせ小萌先生にお呼ばれとかそーゆーのでしょ?行こっ!」

佐天「あー、怒らせちゃいましたねぇ」

上条「君が多少なりとも煽っていたような気がするんだが……」

初春「……すいません。いやホンっっっトに、えぇはい――と、すいません、お兄さん」

上条「はい?」

初春「ちょっとご相談したい事がありまして、今晩連絡取っても宜しいでしょうか?」

上条「ん、あぁっと?初春さんが?俺に?」

初春「はい。連絡と言っても”風紀委員”用のチャットがあるので、そこで」

上条「……分かった。何時頃?」

初春「今日は早番ですんで、日付を跨ぐ前でしたらいつでもオーケーです――ってどうしました?」

上条「いや、こんな時『浮気ですかっ!?いやーえっちすけっちわんたっちー!』って騒ぐ子が静かだな、と思ってさ」

佐天「初春、言われてるぞー?」

上条「佐天さん、俺ずっとずっとずっと前から言おうと思ってたんだけど、君あんま頭よくないよね?」

上条「果てしなくボケ体質かだって思ってたんだけど、それ以前に問題があるもんね?」

佐天「やー、今のは流石にわざとですけど、結論的には初春と同じなんで」

上条「ふー、ん?」

初春「それじゃまた後で、失礼します」

佐天「んじゃまたでーすっ、いあいあ」

上条「あぁ」

今週の投下は以上となります。お付き合い頂いた方に感謝を

おっつおっつ
上地要クッソワロタ

新たなる光のボス? マーリン巨乳説か?
てかアルフレド包茎かよ!?

アルくんと掛け合いしてるときのカミやんのツッコミが、
レッサーのボケを捌いてるときよりも、
佐天さんのやらかしをうっちゃってるときよりも、
アリサの天然を慈しんでるときよりも、
ずっとずうっっと輝いて見えるんやけど、
これってボクの気のせいなん?

もし救い出せなかったらどうなるんだ? 残された新たなる光は?

乙です!!!

>>884
もし上条さんが殺されたら皆が怒り狂って世界が滅ぶまである

>>862
BL系は、というか何でもそうですが、『物語に必然性があればどんな内容でも書く』のを信条としています
従って『アイテム~』でソフトコアがあり、以降には基本存在しないのも、あれは『最初から通じ合う事ありき』で構成を組んでいたためだと
血と硝煙に塗れた彼女らの生き様には、時として万の言葉よりも一つの行動と覚悟を示さなければいけないでしょう

他に決まりがあるとすれば、『良い子は幸せにならなきゃいけない。この世界にはそういうルールがある』、ですかね

>>863
青ピ「素直になって――エエんやで?」
(※世間一般のHENTAIさんはそーゆー目的らしいので、K条さん(仮名)の発想が正しいんだと思います。
ただまぁホラ、何も知らない相手へ知らせるかっつーのはまた別というか。アリサさんの将来の恋人さんは苦労しそうですね)

>>864
お気の毒様で御座いますが、これ以上の出番は……そもそもベイロープさんの死、銀塊心臓の伏線アレコレは、
双剣の騎士ベイリンが円卓騎士の中でも早々にフェードアウトしたのを踏まえています
ですので第一話の時点で、冥界下りの先導役兼露払いは彼女が勤めるものだと構想を立てていました

>>865
バードウェイ「よく言った貴様!跪いて足を舐める権利をやろう!」
マーク「すいませんボス。多分その方、別にちっぱい様を擁護してるとか、そう言う事じゃないと思いますよ?」
フレンダ「そうよねっ!やっぱり美脚こそが全てって訳よ!」
上条「お前も首突っ込んで来んなや」

>>866
『銀塊心臓』の副作用は”心臓を託した相手(を守り切れず)が受けたバステを術者も負う”です
作中では『右手』を切断された時にベイロープさんが傷を負い、また仮死状態になって引きずられた二点
殆ど呪いに近いものですが……上条さんが”魔術的に死んだ”ため、現在は解除されているものと思われます
ちなみにもし魔神との交戦が起きなければ、マーリンがドルイド式の類感呪術の一つ、「ウィッカーマン」で解除する予定でした

>>867
『人間に限らず動物の赤ちゃんが可愛い』という現象がありますが、これを『外敵からの防衛策』であるという学説があります
まぁ簡単に言えば可愛くてよちよちした子供には危害を加えづらい”かも知れない”程度の効果ですが
同様に数多居るモブと既存のチップセットの中で、”上条当麻が手を上げにくい”人間の姿をわざわざ取ったとも

そもそもチップセットに関して言えば、クリスがアルに似ているのか?それとも逆なのでしょうか?
鏡に映った姿が果たして本当に鏡像だと言えるのだろうか?自分によく似ているが、左右別の存在はどこから来ているのか?
ともすればこちらが鏡の中で、向こうが現実の――と、思い始めると統合失調症のサインですので、お近くの心療内科までどうぞ
(or「世にも奇妙な世界へようこそ」ですね)

>>868
メタ的な話になりますが、フィクションに発生する悲喜交々、探偵ものに登場する難解なトリック然り、また恋愛ものに出る嫌味なライバル然り
謎は主人公に解決される運命を持ち、ライバルは引き立て役or噛ませ犬としての宿命を持っています
そしてまたこの状況下でヴィランが登場する事にはそれなりの意味はあるかと

詐欺師の定義とは『相手を騙す』点にあるのであれば、『敢えて真実を言って貶める』のは誰の仕業でしょう?
”騙されていた”のであれば被害者として免責されてる行為であっても、最初から経過と結果を知って下せば共犯者

例えるならば……そうですね、”なんか知んないけどクローン二万人ぶっ殺してレベルアップしようぜ計画”も、
当事者達へきちんと説明した上で為されていれば、未だにプランは動き続けていた筈なんですよ
[ピーーー]方も殺される(クローン提供した)方も納得済みの”共犯者”として

殴る蹴る、異能に魔術に超科学を使った戦いもあるでしょうが、無限に並べられた偽りの選択肢の中から事実を掴み取るのもまた戦いでしょう
……ま、選択肢の中に正しいものが入ってる保障もありませんが

――放課後 空き教室

佐天?(体操着)「……あの、上条さん。あたし、こういうの良くないと思うんですよ、はいっ」

佐天?(体操着)「だって、ホラ――え?」

佐天?(体操着)「『ここは使われてない第三倉庫だから、誰にも気づかれない』……っ!」

佐天?(体操着)「待って下さい!あたし、あたしっ!アリサさんに許されない……はい?」

佐天?(体操着)「『フハハハハハ!南斗六星の帝王にして聖帝たるこの俺は、誰の許しも請わぬ!』……!?」

佐天?(体操着)「まさか、まさかあなたは――聖帝サウ、ザー!?南斗六聖拳”将星”の男!」

佐天?(体操着)「『滅びるがいい……愛とともに!!』」

佐天?(体操着)「逃げてぇー、ケェーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!?」

上条「――取り敢えず落ち着け、な?お前がウェイトリィ兄弟の頭悪い方だっつーのは分かってるからさ」

上条「順番に突っ込んでいくと、普通の学校に第三倉庫なんて、ない。つーかどんだけ備品余ってんだ。捨てんだろ。邪魔じゃねぇか」

上条「次に俺はサウザ○さんじゃねぇな?なんで唐突に持って来ちゃったの?イチゴ味が売れてるから乗っかっとけみたいな感じ?あ?」

上条「てゆーか状況的にまとめような?どうしてサウ○ーさんが佐天さん体育倉庫へ呼び出した挙げ句、ケンシロ○と戦うの?」

上条「佐天さん関係ないじゃない。戦うんだったらケンシ○ウさんとサシですればいいじゃない。てか一般人巻き込むなよ!迷惑だから!」

上条「あと君ポジション的にリ○ちゃんなの?完全に傍観者だよね?話振っといて丸投げだもんね?」

上条「最後に佐天さんはそんな事言わな――」

上条「……」

上条「……な、なんでショートパンツ?」

アルフレド(佐天?)「うんアレだよな。なまじっかキャラを知ってるだけに、完全に否定出来ず話を逸らせようとしたのは評価するぜ」

アルフレド「てゆーか自分でも割と忠実にエミュレートした部類へ入るんだが……」

上条「確かに言いそうだけども!可愛いけど残念な子だから!」

アルフレド「てかさ、『明け色の陽射し』じゃなくって『あ系ロリ陽射し』だと思うんだよ、俺は」

上条「おっと時間稼ぎは止めて貰おうかっ!決してバードウェイさんが怖くて言ってるんじゃないけども!」

上条「つーかテメーその話題俺へ振って、『あ、確かに!俺も前からそう思ってた!』って言うのと思うの?バカなの?死ぬの?」

アルフレド「てゆーか12歳児をボスにしてる魔術結社ってどうなんだ?魔術師以前に人として大丈夫なのか?」

上条「あー……うん、まぁ?マークさん達は幸せそう……でしたよ?見た感じだと――ってお前」

上条「さっき『明け色の陽射しは知らない』みたいな事言ってただろ。なんでボスの個人情報把握してんだよ?」

アルフレド「あぁそれは『新たなる光』の方。ロリ幼女がボスやってる方は、先代の頃から俺らとやり合ってる――し」

アルフレド「つーかヒマだったら『龍脈』辿って情報仕入れてたんだよ」

上条「……またお前碌な使い方してねぇんだろ?」

アルフレド「……アリサちゃんのパンツくんかくんか……あっ」

上条「冤罪過ぎるわっ!それっぽく言ってんじゃねぇよ!?」

アルフレド「大丈夫だぜ!思春期の男なら一度は通る道だ!」

上条「その道、一般的には外道って言うよな?てか誰も彼も異性の下着を手に入れられる環境じゃないだろうし!」

上条「つーかお前本当に魔術結社のボスなのか?割と前から思ってたけどさ」

上条「アホみたいにフットワークが軽いし、ぶっちゃけアホだろ?なぁ?」

アルフレド「あーダメダメカミやん。また俺のペースに呑まれてんぞー?いいのかー?」

アルフレド「折角ARISAとのデートを袖にして来てんだから、もっと楽しい話をしようぜ。俺にとっては、だけど」

上条「……あん?知られると何かマズいのか?」

アルフレド「いんや別にぃ?現実からどれだけ顔を背けても、現実はダッシュで追いかけてくると思うがね、まぁいいさ」

アルフレド「俺が止めとけって言ったのは、まず間違いなく理解出来ないだけだから、無駄だと思ってさ」

アルフレド「でもま、聞きたいんだったら言うぜ。”俺はそういう風に造られてる”んだしぃ、それは仕方が無いからな」

アルフレド「つってもまー、大して面白い事も無ぇんだわ、これが」

アルフレド「……つーかさ、つーかね、テメェで言ってて悲しい事この上ねぇんだけどもだ」

アルフレド「”俺の顔なんて誰も知らない”ぜ?いやマジで悲しいんだけどさ、多分誰一人として見た事ぁないレベル」

アルフレド「てか失礼だよなー、誰が貌(かお)の無いスフィンクスやっちゅーねん!あそこまでシャクレてへんわ!シュッとしとぉわ!」

上条「大阪人になるの禁止」

アルフレド「マーリンの真似した――てか、あれ正確には大阪でも京都でもなく、神戸弁たぜ」

上条「キャラ作り全部パチモンじゃねーか!」

アルフレド「まぁまぁカミやん。そうしないと、”そういうこと”にしないと蜂蜜酒(ミード)の女王は現世へ出て来られないのさ」

アルフレド「下乳魔神が50%の確率に縛られているのと同様、メドヴーハもまた力に対して義務を負う存在。好き勝手出来る筈も無し」

アルフレド「……まぁ俺と違って、”出口のない迷路を造ってはいけない”とか、”手札を開示したままゲームをしなくてはならない”なんて楽しい制約は架されてねーけども」

上条「さっきから――というか、ここへ喚んでから変な単語が入るが、何か意味あるのか?」

アルフレド「あぁブラフだねぇ、それはきっと多分恐らく」

アルフレド「時間稼ぎのために無為で無駄で無益な会話だ。そこに込められているのは何も無い筈、だ」

アルフレド「ミードを呑むのはハスターかビヤーキーか?あのもふもふの正体をバラしてやってもいいが、それで興に欠ける」

上条「……?」

アルフレド「それともカミやん、”オティヌスのような魔神が過去に居なかった”とでも思うのかい?この世界をぶっ壊ギャー!な奴らが、一度足りとも存在しなかったと?」

上条「それは――マタイさん達と話した”終末”論か。一度も滅びてない世界を根拠に神話はフィクションだっていう」

アルフレド「居たんだよ。世界を穢す魔神が居れば、当然世界を護る魔神だってな」

アルフレド「地を這う蟲が天を飛ぶシャンタク鳥の懊悩には気づくまい?いいか、突け!突くがよいランドルフよ!」

上条「――千夜一夜物語」

アルフレド「ん?王の気を引くために毎夜物語を聞かせた次女の話がなんだって?」

上条「あの話は最終的に『子供が出来たら王様は丸くなりましたよチャンチャン』で終わるけど、今はお前の妄想に付き合ってる暇はねぇよ」

上条「魔神云々の話は個人的にも気になるが……それよりも話を進めろ、本題のだ」

アルフレド「おっぱいっていいよねっ!」 グッ!

上条「そんな話してねーわ!あとその皮着て無駄にエロい単語言うなっ!」

アルフレド「あー……俺の顔が売れてないって話だっけか?まぁ自慢にもなんないんだけどさ」

アルフレド「少なくとも”銀(ズィルバー)”のマタイ=リース前教皇、”魔神”オティヌスみてーに顔が売れてるって訳じゃねぇのよ」

上条「『必要悪の教会』も……お前らなんか知らない、つってたっけ……?」

アルフレド「ま、それが現実側に居る”俺”の話で、こっちからはこっち側の役割――てか義務を果そうか」

アルフレド「一々説明すんのメンドイんだけどよ、しねぇと存在自体が固着出来ねぇから」

アルフレド「カミやんがGMだったなら、わざわざ一から説明する必要も無かったんだが……まぁ、いい」

上条「いや別にそこまで詳しくは訊いてない。それよりも――」

アルフレド「昼の話だろ?ちょっと待てって順番ってもんがある」

アルフレド「結論だけ聞いたって、過程を理解出来なきゃ意味無ぇんだけどよ……いいだろ、サービスだ」

アルフレド「繰り返すが、ここは『鳴護アリサの夢』なのは確定、そしてまた――」

アルフレド「――『冥界』でもある」

――空き教室

上条「どうしてそれが分かった?龍脈の記憶か?」

アルフレド「待て待て。カミやんはそっからまず勘違いしている、っつーか順序立てて俺に話をさせねーからそうなるんだ」

アルフレド「お前、龍脈を『なんでも出来るスッゲー力!』とか考えてんだろうが、んなこたぁーないぜう」

上条「ぜう?」

アルフレド「噛んだんだよ突っ込むなよ――全知全能には程遠いし、蓄えられてんのは知識であって情報ではない……あー、例えばだ」

アルフレド「上条兄妹()が昨日の夜の会話は記録されてる。何を言ったのか、何をやったのか、何も出来なかったのか」

上条「外角高めに攻め込んでくんな」

アルフレド「ただ誰が何を考えているとか、何をしたいだとか、そういうのは『記録』として残らないため、閲覧するのは無理だと」

上条「……俺が日記でも書いていれば?」

アルフレド「その日記の記憶を呼び出せば分かる――し、今、カミやんがやってるように適当なNPCとして召喚して聞き出すのもアリ」

アルフレド「ある意味、俺はファウスト博士に呼び出されたメフィストフェレス……つって分かるか?」

上条「お前が今、姿借りてる子から聞いた……どこだったか、いつだったかは忘れたけど」

アルフレド「流石は『龍脈使い』。無意識の内に接続してやがるのか、それは結構!世界は順調に壊れつつある!」

上条「あぁ?」

アルフレド「今のは”ここ”の本題とは別――で、戻すけど、そのファウスト先生ってのは民間伝承なワケだ」

アルフレド「ドイツの都市伝説、と言っても過言ではなく、大体16世紀ぐらいに編纂された書物には姿を見せる」

アルフレド「で、だ。こっからが大切なんだが、昔っから悪魔召喚の儀式はあるわな?ソロモン王、旧約聖書には既に書かれている由緒正しい魔術の一系統」

上条「個人的には、まぁロマンを感じなくもないが……」

アルフレド「『エロイムエッサイム、我は求め訴えたり』、か?まぁ連中も俺と同じで人間が大好きだからなぁ。力を貸してやりたくなる気持ちは分らないでもない」

アルフレド「でも実際には呼び出した悪魔に大嘘吐かれたり、逆に食い殺される事件が頻発した――ん、だが」

アルフレド「これを『龍脈』で解釈すればどうなる?」

上条「えぇっと――」

アルフレド「――と、時間が惜しいからさっさと話を進めるぜ」

上条「聞いた意味ねぇな!有り難いけどもだ!」

アルフレド「悪魔ってのは”ユーザーインターフェース”に過ぎないんだよ。言ってみればネットに繋いだパソコンと同じだ」

アルフレド「『龍脈』に人間が直接繋いでもワッケ分からんから、間に何か噛ませて分かりやすくしようぜ!って、『発明』されたんだわ」

上条「悪魔を”発明”?発明ってどういう事だよ?」

アルフレド「悪魔を喚んだお話にはテンプレがあるよな?例えば生きてる内は力を貸すが、死んだ後には魂寄越せとか言うの」

アルフレド「他にも『知識が欲しい』って願ったにも関わらず、召喚法自体が間違ってて嘘八百教わるのとか」

アルフレド「更に酷いのになってくると、正体は悪魔なのに『僕は悪いスライムじゃないよ!』って偽る奴とか」

上条「あー……有りがちだよなー、そういう話。最後のは何か違うが」

アルフレド「でもこれおかしくね?てゆーかバカじゃねーの?って思わね?」

上条「なんでだよ?悪魔は――というか、少なくとも言い伝えられてる悪魔は、なんかこう、力や知識を持ってるんだろ?」

上条「だったらそういう連中から知識や力を借りたいのは、当然じゃないのか?」

アルフレド「うん、『それじゃ別に悪魔である必然性はない』よな?」

上条「うん?」

アルフレド「だからさ。別に悪魔でなくたって良くね?神霊に天使、聖霊に精霊。人間へ味方してくれる連中はごまんと居る筈なのに」

上条「あー……成程。そりゃそうだよな――ってまたお前!本題から逸れてるし!」

アルフレド「逸れてねーよ、ストレートだよ!つーか魔術云々の説明はクソ長いわ、しかも概念だけ素人へ教えるんだから時間かかって当たり前なんだよ!」

上条「信用出来ねー」

アルフレド「……いやだから。、俺にも魔術師――ではないけれども、一度決めたルールは破れないとかあんだって!……ったく信用ねぇなぁ」

上条「おい、ユーロスターん中での大量殺人犯。忘れてんじゃねーぞコラ、あ?」

アルフレド「俺達は”法的には”一回死んでるし?そこら辺は免責して欲しいところだがねぇ?」

上条「心配要らん。『人権?なにそれおいしいの?』って連中がね、腐る程居るから……ッ!」

アルフレド「やだそれ超コワイ――てか、お前が話逸らしてどーすんだよ。元へ戻すとだ」

アルフレド「昔は――『精霊』を喚んでいたんだよ。所謂原始信仰、アミニズム時代の話だ」

アルフレド「まだ神は神という形を取れず、万物に精霊が宿ると信じられていた時代、マッドマンは精霊を喚び、語りかけようとした――」

アルフレド「――が、失敗した。何故ならば精霊は気まぐれで、人の望みを容易に叶えてはくれなかったからだ」

アルフレド「だから人間は精霊を捨て『神』という概念を生み出した」

アルフレド「次の時代、人々は全知全能である神を慕い、敬い、憎み、そして神への道を至ろうとした」

アルフレド「いと高き御方の侍従を守護天使として従え、エロヒムの息子を喚ぼうした――」

アルフレド「――が、これもまた失敗した。何故ならば神の御業は偉大すぎて、到底人の手には余るものだったからだ」

アルフレド「だから人は神へ背を向け『悪魔』という概念を生み出した」

アルフレド「その結果どうなったのかは、カミやんは知ってる筈だな?」

上条「……」

アルフレド「中世に勃興した錬金術然り、古代に消えた獣化魔術に夢魔術と同じく、召喚魔術も今のセオリーからは遠く取り残されてしまったんだわ」

アルフレド「つーのもアレだ。『召喚魔術は動作が極めて不安定』って側面を持ってるからだ」

アルフレド「悪魔を召喚出来たとしても、まずまともにこっちの言う事は聞かない。どころか逆に命を奪おうとするのが当たり前」

アルフレド「また”世界の真理”とやらを教えてくれと頼んで、嘘八百吹き込まれるのも日常茶飯事。なぁ?せめて契約ぐらいは守って欲しいところだが」

上条「……完全に脱線してねぇかな、これ?」

アルフレド「前フリが長くて恐縮なんだが――あ、じゃ、こうしようぜ!実は俺カミやんに言ってなかったんだけど、”この教室の時間の流れは遅い”んだよ」

上条「そう――って待て待て!さっきは普通に流れてたじゃねぇかよ!」

アルフレド「いやなんか俺が龍脈に繋いだせいじゃねぇの?何か”外の時間の10分の1ぐらいになって”んぜ?」

上条「嘘くせー」

アルフレド「だから”この俺は嘘を吐けない”って設定になってんだよ。いい加減納得した方がお前のためでもあるんだがな」

上条「……まぁいいや。それで?」

アルフレド「今までのを龍脈で解釈すると――てか、今上げた例、精霊に神に天使に悪魔だっけか?あれ全部『龍脈』へ繋がるためのインターフェースだよな?」

アルフレド「携帯でもパソコンでも、最近は時計型端末でもいいさ。とにかく『凄い力を持つモノにあやかって、力と知識を手に入れよう』的な話さ」

アルフレド「けど、人類がほぼ有史以来続けてきたにも関わらず、上手く行かなかったよな?所謂『世界の真理』とやらの知識を知る事は出来なかった」

上条「……科学や物理学に取って代わられてるよなぁ、そこら辺は」

アルフレド「いやーだからな?失敗し続けてきたのは理由があるんだよ、理由がな」

上条「や、でもさ。お前が言ってんのが本当だったらば、万単位、下手すればもっと多くの魔術師が龍脈に繋いで、情報を探ってんだろ?」

アルフレド「だなー」

上条「それでも悉く失敗してきたってのは、難易度が超ムズいとかじゃねぇの?大体龍脈の制御自体キツいって話じゃんか?」

アルフレド「あー、違う違う。そこっからまず間違ってる、間違ってるんですよ上条さん」

上条「佐天さんのフリ禁止」

アルフレド「――だって『龍脈の中に答えなんかあるワケねーじゃん』か?」

上条「…………………………はい?」

アルフレド「いやだから。龍脈ってのは全知全能じゃない、それっぽく見えるけどな」

アルフレド「この星が死ぬ時は枯れるし、枯れるまで遣えばこの星は死ぬ。また”貴様ら”が『天の龍脈』と呼んでいるビヤーキーの流れ。あれだって星が死ねば効力は無くなる」

アルフレド「無限に近いが有限なんだわな――なんですよねぇ」

上条「……」

アルフレド「でも、”それ”はただ記憶と力を溜め込んでるだけの何か、に過ぎないって話ですよ。意識も無ければ自我も無く、方向性すら無いエネルギーの塊」

アルフレド「例えば……そうですね。上条さんちで出た昨日のお夕飯あるじゃないですか?ご飯に手作りハンバーグ、あ、デミグラスではなくてトマトソースがベースの」

アルフレド「より正確にはグネーデル風お肉マシマシなんですけど、アリサちゃんは気づいてくれなかったですもんね?」

上条「……正解」

アルフレド「そういう”記憶”は蓄積されるんですけど、けどそれってただの知識であって真実とか真理とか、そう言うもんじゃ無いんですよ、えぇえぇ」

上条「それじゃ――何を見た?何を知ったんだ?」

上条「神様や悪魔を呼び出そうたとして、知識を求めた人達は誰に何を教え込まれたんだ?」

アルフレド「それもまた『龍脈の記憶』を不完全なままに知っただけ。『万能薬の作り方』を知りたい医者には『誰かが残した万能薬”っぽい何か”』のレシピを」

アルフレド「それを鵜呑みにしたパラケルススは多くの患者へ水銀を呑ませて殺したぜ。おー、コワイコワイ」

アルフレド「また『不老不死』を求めた貴族の女には『不老不死になれる”だろうと言われた”』方法を」

アルフレド「バートリ=エルジェーベトは女子供を鋼鉄の処女へ架けて血を搾り取り浴びるようになった……ま、最期にはそのオモチャで処刑されたらしいがね」

アルフレド「――だからこの世界に絶対不変の真理なんてものは無い。あったとしても龍脈の中には存在しない」

アルフレド「何故ならば龍脈とは『ただ記憶と力を溜め込んでいるだけ』だからだ」

アルフレド「……言い方を変えるとすれば、”誰かが知っていた事しか知らない”んだ。未知の現象を捌くような能力では決してない、オーケー?」

上条「……でも、それっておかしくないか?現に今、世界は全部眠っちまってるワケだろ?」

アルフレド「それもまた”そーゆー風に設定された”からだよ。矛盾すっかもしんねぇけど、魔神セレーネはギリシャ神話を忠実に再現しているだけ」

アルフレド「万能薬も不老不死も再現自体は可能……ただし、『それに見合う代償を支払う』のが前提」

上条「あぁ……それが龍脈の支配とかに繋がる、か?」

アルフレド「土地や国を支配して、権力者の思いのままに呪的要素を取り入れよう、って思想は古くからある。風水(Feng-shui)なんかそうだ」

アルフレド「だから『龍脈を繋がってる間は不老不死』だとか、『リンクしてる間だけ病が治る』みたいな感じ?」

アルフレド「レディリーみたいな”成功例”は滅多にねーんだわ」

アルフレド「そういう基礎的な所を疎かにして超々ショートカットを使用としたって失敗するよねー、が結論なんだが――さてさて」

アルフレド「以上の話を下敷きにして話を進めるが――この世界、どうにもこうにも”手抜き”だって思わないか?」

アルフレド「曖昧な設定にいい加減な人間関係。ぶっちゃけ矛盾点を上げればキリないぐらいの杜撰さ」

アルフレド「『龍脈』の記憶を生かしきれれば、つーかそのものの中なのにこれは一体どういう事だ――」

上条「アリサの『夢の中』だから、か?」

アルフレド「――正解。もっと正しく言えば『冥界に居る鳴護アリサが見ている夢』だって話さ」

上条「……俺が連れ戻しに来たんだから、アリサが居るのは不自然じゃない。むしろ居ないと困る。けど」

アルフレド「そうだな。それは正しい」

アルフレド「上条当麻――”神浄討魔”でも無意識下に潜むイドの怪物からは逃れられない」

アルフレド「ほぼ全ての人類が闇夜を恐れるように……”ここ”――つまり『冥界』もまた、そんな在り来たりのものになる筈だった。ならなければいけなかった」

アルフレド「実際に幾ら規格外とは言っても『冥界下り』が、”深夜の学校”という分かりやすいイメージとして創造されたのだからな」

上条「だって言うのに、俺が今ヌルい学生生活をしてる居るのも」

アルフレド「そうだな。鳴護アリサがそう望んだからだ」

――空き教室

上条「『常夜(ディストピア)』だっけか?セレーネが使ってる大規模術式、あれの影響がここまで来てる?」

アルフレド「とは違うな。系統自体は似たような感じだが、もっと脆くて弱々しい印象を受ける」

上条「って事は、アリサ、か?」

アルフレド「魔神セレーネの欠片なんだ。似たような力の一つや二つ、使えてもおかしくはない――し」

アルフレド「魔術師が――というか”原初の魔術(プリミティブセンス)”に言葉も術式も必要は無い。ただの純粋な思いが――」

アルフレド「――『奇跡』を産んだんだ」

上条「……まぁ、そう、なんだろうな」

アルフレド「類人猿から一歩踏み込んだ辺りで、もうそういう原始信仰は興っていた。そこら辺は各地の壁画でも眺めるか、土器でも探せばいい」

上条「本物の『冥界』はどうなってるんだ?」

アルフレド「あぁちょい待ち……えーっと――――――っ!?」

上条「うん?」

アルフレド「……アクセス権限がありません、だな。どっかの誰かが邪魔してるっぽい」

上条「アリサか?」

アルフレド「ここで”佐天ちゃんが全部の黒幕でしたー”なんつったら逆にスゲーよ。むしろ尊敬するわ」

アルフレド「……まぁ”冥護アリサ”にとっちゃ、当然の役目かも知れねぇが」

上条「……なんでアリサは――」

アルフレド「まー、そこまでは知らね。てゆーか俺よりもカミやんの方が知ってそうだけど、なぁ?」

上条「……」

アルフレド「そもそもこの夢自体、カミやんをハメるためだけに展開してた、ってのも怪しい話だし?……あ、そうだ!」

上条「解決策が?」

アルフレド「俺と同じようにさ、『鳴護アリサを造って聞けばいい』んじゃね?」

上条「っ!」

アルフレド「好きなよーにあれこれ聞けるし、嘘だって吐けないからカミやんが知りたい事、なんだって分かるぜ?……あー、いいアイディアだな、それ」

アルフレド「そうすれば『本物』のアリサちゃんと話す時も有利になると思うぜ?いやマジでさ」

上条「……本物の?」

アルフレド「俺も含めてだけどさ、ここに居んのは全員NPCじゃん?外側だけ似せた何か。魂の籠ってない、行動だけを模倣させたシロモノだわな」

アルフレド「文字通り『夢』の中の存在であって、薄っぺらいもんさ」

上条「や、でも、土御門――俺の友達は現実と殆ど変わりはなかったぞ?」

アルフレド「でもここは現実じゃない。龍脈から引っ張り出された記憶を基に構成されたBotだ。モシ”本物っぽく”見えるんだったら、それはただ単に術式が凄いだけだわな」

アルフレド「あー……アレだ、『スワンプマン』って知ってるか?思考実験の一つなんだけどさ」

アルフレド「男が沼地へ足を踏み入れた時、落雷が落ちました。男は絶命しますが、何かの化学反応が起きて泥から男と全く同じ組織、記憶を持つ沼男が生まれます」

アルフレド「彼は『あれ?俺なんでこんな所に居るんだろう?』と少し訝しがりながらも男の家へ帰宅し、服を着替えて眠り、翌朝には男の職場へ通勤するでしょう、ってヤツ」

アルフレド「上条さんはこの沼男――スワンプマンをどう位置づけるんですか?男とは別の存在?それとも意志を引き尽く存在とでも?」

アルフレド「あなたが出会って話した土御門元春センパイには魂があったのか、なかったのか、さぁどっちの料理ショ○?」

上条「……」

アルフレド「おっと!魂のあるなしを私に聞くのは止めてくださいね?あったという記憶も無数にあるし、なかったという記憶も同じだけあるんですから!」

アルフレド「ぶっちゃけ、ここに居るのは全員スワンプマンですよ。上条さんは意識を繋いでるから例外としても、他の全ての生き物は『似ているだけの何か』」

アルフレド「特に鳴護アリサなんてその最たるものでしょう?」

上条「アリサが?」

アルフレド「違和感、ありましたよね?現実に住み、あなたが話して触れ合った鳴護アリサと”アレ”は同じでしたか?」

アルフレド「違いますよね?そうじゃ、なかったですよね?ねぇ、上条さん?」

アルフレド「あたしが今、佐天涙子の外見と口調を真似してるのと同じく、”あれ”もまた龍脈から記憶を取り寄せて再生させているだけの――」

アルフレド「――言ってみればスワンプマンに過ぎないんですよ」

上条「……けどっ!」

アルフレド「『アリサだったらこんな事しない』って、何回思いました?一回?二回?それとももっと?」

上条「夢、なんだから仕方がな――」

アルフレド「の、割にはシャットアウラさん居ませんよねぇ?インデックスさんも、新しくお友達になったレッサーさん達もですか」

アルフレド「全部、自身の、都合の良いように、設定し、そして楽しんでいる」

アルフレド「上条さんのお友達のアリサさんって、そんな身勝手な方でしたっけ?」

上条「……」

アルフレド「えぇ分かってます分かってます。否定したいお気持ちは分かってますよ、所詮はNPCに過ぎないあたしが言うのもなんなんですがね、お察ししますよー」

アルフレド「でもですね、そういって上条さんが悩んでいる間にも地上ではグーグー寝こけている方々が居るって事、忘れてやしませんかー?」

上条「皆が」

アルフレド「ですです。だからどっちみちこの世界は終わらせる必要があるんですな、いやー辛い!ヒーローは辛いですねっ!」

上条「……どうすればいいんだ」

アルフレド「簡単じゃないですか、つーか今まで散々やって来たじゃないですか」

アルフレド「いつものよぉぉぉぉぉぉぉぉにいぃっ!あなたが為(し)て来たよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉにぃぃぃっ!」

アルフレド「すれば!いいんじゃ!ないですかねっ!」

上条「この、世界も?」

アルフレド「正しくは偽りのアリサを、ですね」

上条「……」

アルフレド「……ま、繰り返しますが気持ちは分かりますけどね。あたしも人類大好きなんで、手に掛けるのはあまり……まぁ大好きですけど」

アルフレド「暇だったんであなたの旅の記録を見てきましたが、旅の間中、色々な話を聞いたでしょう?見てきましたよね?」

アルフレド「例えばネオ・ペイガニズム、例えば不法移民問題に環境テロリスト、例えば善意の独立主義者、例えば無力な平和主義者」

アルフレド「種々様々な問題の根底にあるのは『幻想が現実を絞め殺しに来ている』って結論でしょうか」

上条「幻想が、現実を……」

アルフレド「美しい世界、平和な世界、希望の世界、理想を持つのは大いに結構。むしろそれがないと前向きには生きて行けない――かった、んですが」

アルフレド「いつの間にか目的と手段を取り違えて幻想を見るようになった、と」

アルフレド「現実を積み上げていつしか幻想に辿り着こうとしていたのが、幻想を造り出して現実にしようとした」

アルフレド「だがそれだけ幻想を掲げようが、ご立派なお題目を掲げようが、無理なものは無理だし希望は叶わないからこそ美しい」

アルフレド「その結果が”これ”だ。理想主義者が現実主義者を罵り、貶め、穢そうとする」

アルフレド「『俺達の理想が叶えられないのは連中が邪魔をしているからだ!』……って理論、よく聞くだろう?」

アルフレド「『自分達の現状が悪いのは誰かのせいであり、改善すべきなのは自分達以外の誰か』」

アルフレド「よくある『他者の意見を取り入れろ』って言ってる奴に限って、人の話を全く受け入れようとしないのと同じ」

アルフレド「……そんな世界になっちまったんだわ、これが」

上条「……」

アルフレド「――でも、そんな奴らの世界は”優しい”んだよ」

アルフレド「現実に起きている汚いアレコレ、深刻で致命的な物を直視せず、直視出来ずに自身の妄想と願望で塗り固めた城を建てる」

アルフレド「その中で生きるのはさぞかし楽しいだろう。綺麗事だけを言って、相手に偽善を押しつけて生きるのは」

アルフレド「俺にはただの墓穴にしか思えないがね。爛れきり、腐りかけた躰で月を見上げながら口笛を吹く死体の唄だ」

上条「この世界も……優しすぎる」

アルフレド「ん?……あぁ、あぁ、そうだなぁ」

上条「俺とアリサは……まぁ、傍目に見ればケンカしながらも仲の良い兄妹だし、不幸らしい不幸も起きはしない」

上条「外の情報が入ってこないから分からないけど、多分もしあるとすれば平和な世界が広がっているんだろう、きっと」

アルフレド「全てが全てスワンプマン――ある意味ショゴスと同じく、外見だけ人よく似せた、人モドキの暮らす世界がかい?」

上条「だからって!」

アルフレド「だから、だよ。外の現実世界の人間、眠ったままにしてーのか?あ?こっちの世界の魂の無い何かに遠慮して?」

アルフレド「――虫酸が走るぜ、上条当麻。貴様はそんなに弱いものではなかっただろう?」

上条「……」

アルフレド「散々、ずっとずっとずっとずっとずっと!あの時もこの時も『幻想』を殺してきたんだろう!?違うかっ!?」

アルフレド「それが誰かを救うために!貴様自身も傷つきながら『右手』を振って来たんだ!それと同じだよ!」

上条「俺が――」

アルフレド「……なぁ、上条当麻。私は貴様達に敬意を抱いている。それは、本当の話だ。この貌(かお)に賭けたっていい」

アルフレド「私は永遠に嘲笑いながらも、それでも心のどこかでは羨望していたのだろうさ――」

アルフレド「――その、強さと可能性に」

上条「お前は――」

アルフレド「だから、という証拠にはならないかも知れないが、私から言えるアドバイスはこれ以上はないよ。今語った事が全てだ」

アルフレド「引き延ばそうと思えば幾らでも出来たのに、それをしなかったのは私の誠意だと思って欲しい。信じるも信じないも自由だがね」

アルフレド「後は貴様がその拳を振うだけ……いや、それもしなくていいかもしれない。何せ、ここは『夢』の中だからな」

アルフレド「鳴護アリサへ『ここは夢だ、お前はアリサなんかじゃない』――と、そう告げるだけで全ては終わるだろう

上条「……?」

アルフレド「あー、『夢の中で夢だと気づいたら目が覚める』って体験した事が無いか?それと同じ原理だよ」

アルフレド「中には明晰夢もあるが……この場合は関係ねぇだろうしな」

上条「……話、色々とありがとうな」 スッ

アルフレド「いいって話だ。まだ決心がつかないんだったら、いつでも来ればいい。相談ぐらいには乗ってやらなくもねぇ」

上条「……なぁ」

アルフレド「はいな?」

上条「俺がアリサを否定したら、今のアリサは消えて無くなるのか?」

アルフレド「夢から覚めればそこに居た人間は消えるのと同じだ。お前が感じてるのはただの感傷に過ぎない」

アルフレド「……ま、割り切れ、っつー方が無茶かもしんねぇけどさ、でも――」

上条「分かった……それじゃ」

アルフレド「あぁ、”また”逢おうぜ?」

………………パタン

――昇降口 夕方

上条「……」

上条(アルフレドの言った通り、時間は殆ど経ってない。割合話し込んでたのに、下校時間にはまだかなり余裕がある)

上条(知り合い――じゃ、ないんだけど――声を掛けてくる生徒もチラホラと)

上条(……けど、こいつら全員俺の概念で言うところの”人”じゃない訳で。現実世界、つーか地上に居る”ホンモノ”は今頃ずっと眠り続けている、と)

上条(とは言ってもゼロから造り上げた人格じゃなくって、現実のどこかで生きて生活していた人ら)

上条「……」

上条(……答え合わせをした後に言うのはフェアじゃ無いが、何となくはそうじゃないかな、とは思っていた)

上条(”ここ”がアリサが望んだ世界、見たい夢の中でだって。少しの違和感はどうしても拭えなかったんだけどさ)

上条(俺が”兄”、アリサが”妹”……これはきっと、あの日フラれた件が影響しているんだろう)

上条(恋人は……つーか彼女居ない歴=年齢の俺が言うのもなんなんだが、まぁ、その延長線である夫婦だって別れるケースはある)

上条(”死が二人を分かつまで”と誓い合った二人が別れるのは、一体どんな気持ちが……苦しいに決まってるだろうけど)

上条(でも、それでもだ)

上条(兄妹は、肉親という血の繋がりがある関係は、早々壊れたりはしない。それは当たり前の話だ)

上条(俺も兄妹が居ないから分かんないけどさ……記憶を失っても父さん母さんとの絆が絶たれなかったように)

上条(家族の繋がりは強固なもの――だと、信じたい)

上条(……けど、アリサはそうじゃない)

上条(生まれが特殊な上、『アイドルになりたい』って願いも、本当は『お母さんに会いたい』って裏返しだ)

上条(俺が、俺達が当然のように持っているモノすら、アリサは持っていなかった。だから――)

上条(アリサが俺に求めてる役割は”そう”なんだろうか……?それが夢だって言うのか?)

上条(恋人ではなく、ただの兄妹としてつかず離れずに居られる間柄)

上条「……そんな――」

上条(――そんなささやかな夢さえ、見続けるのがいけないのかよ……ッ!?)

上条(とてもいじましくて、誰かに話したら笑われちまいそうな、欲の無い生き方がアリサにとっては大切なんだよ!)

上条(それを――そのささやかな幸せを!他愛の無い『幻想』を!)

上条「――俺が――」

上条(――殺せる、のか……?)

――校門 夕方

上条(赤い夕焼けが目に染みる……少し寒いか。なんつっても外は10月なんだし)

上条(……でも昨日までは意識した憶えすらない……俺の心理が反映してたりな?……あのアホに訊けば良かったかも)

上条(なるべく余計な事を考えないように校門を抜けようと――したら、そこには見知った顔があった)

鳴護「あ、当麻君」

上条「アリサ?」

鳴護「ぐ、偶然だよねっ!」

上条(校門の横の柱へ背を持たれながら、小さく手を振る――っていうかさ)

上条(少しでも目立たないように端っこの方へ行こうとしてるんだが、何やってんだこの可愛い生物)

上条「あー……っと、待った?」

鳴護「うん、けっこ――じゃないよっ!全然だし!」

上条「手」

鳴護「て?」

上条「出して、手」

鳴護「……こう、かな?」

上条「……ん」 ギュッ

上条(差し出されたアリサの手を握る……それはとても冷えていて、ずっと長い間待っていてくれたと分かる)

上条(包み込んだ掌がじんわりと温かく、これは、この温もりが――)

上条(――『幻想』だって言うのかよ……ッ!)

鳴護「……当麻君?泣い――て?」

上条「ん!?……あぁごめん、少し夕日が目に染みた、んだ――たぶん」

鳴護「そ、そう?大丈夫」

上条「――帰ろう。俺達の家へ」

鳴護「でも当麻君、その」

上条「うん?」

鳴護「……ううん、ないでもないよ――たぶん」

上条「……その、さ?」

鳴護「うん?」

上条「今日、ちょっと大事な話がある、んだよ」

鳴護「うん」

上条「だから帰ったら――あ、いやご飯食べて少し経ったら、ぐらいかな?あんま遅くなるのもなんだしさ、やっぱり」

上条「その、アリサの部屋行っていいか……?」

鳴護「……うん」

上条「そっか。それじゃ夕メシは俺が――」

鳴護「――あたしが!」

上条「あぁ」

鳴護「……わたしが、作らせて欲しいかな、って」

上条「……うん、頼む」

――自室 夕食後

上条「……」

上条(重すぎる空気のまま、俺達は食事を終えた。なんかアリサも察しているようで、会話らしい会話もなく)

上条(……つーか何食ったか憶えてない……なんだっけか?まぁいいけど)

上条(約束したのは食事の後、だから。そろそろ行ってもいいんだが――どうしても先延ばしにしたい。気後れする、っていうかな)

上条(……そういや、初春さんと約束したっけ?何か相談があるって)

上条(時間はいつでも良いって言ってたが、今の内に聞いといた方がいいか……あぁこれも現実逃避なんだろうが) ピッ

上条(携帯のブラウザ起動してー、風紀委員のページへ移動してー……チャットルーム、幾つかあるな。何々……?)

上条(『定期相談会★122』、『【黄泉川先生】おっぱい【殴られたい】』、『【この仕事】ヒャッホゥ【ブラックすぎないか?】』……)

上条(『白井さんに罵られるスレ★666』、『初春さんの花ちょっと取って見た』、『最近”ですの!”ってガキに言われるんだけどあれ何?』)

上条「……」

上条(大丈夫か?ウチの風紀委員のアタマ大丈夫か?こんなんで学園の平和は守られてるの?)

上条(夢、だからだよね?ホンモノはきっとこんなにアホアホしくないよね……?)

上条(えっと……『K条さんいらっしゃーい!』……うん、ここだね。ここしかないもんね)

上条(あとスレタイっつーかルームの名前、誰考えたのか分かっちゃったもの。残念な子だよね、まず間違いなく) ピッ

上条(てかこのチャットは入室しないとログも含めて閲覧出来ないのか、ってログインするのにはどうしたら――あれ?)

UH『あ、お疲れ様ですー。お待ちしてましたー」

STN『遅いですよー、もーっ!』

上条(――て、俺操作してないのに?てかUHが初春さん、STNが佐天さんだよな)

上条(実名ほぼそのまんまだが……初春さん居るし、セキュリティは問題ないんだろう)

KJ『こんばんは、てかこれ勝手に繋がったんだけど、そういうもんなの?』

UH『えぇはい、そうだと思います、よ?』

STN『え?初春、上条さんのお兄さんのIPは把握済みだって言ってなか――』

上条(なにそれコワイ――って、STNさんのログが瞬時に消されていく!?)

UH『ないですよね?全然そういうことはないですからね?』

KJ『だ、だよね?携帯からのアクセスは電話会社の管轄だもんね、素人が出来るこっちゃないよね?』

UH『はい、そうですよ。風紀委員がルール違反なんてする訳ないじゃないですかー』

上条(この会話に佐天さんが絡んでこない時点で恐怖しか感じないんだが……アレだよな?これもきっと夢の中だけの設定だよね?)

上条(てか佐天さん、なぁ?あのカオスなアホ魔術師に顔付き合わせて話したから、どうにも違和感があるっていうかさ)

上条(可能性は無いって分かってるんだけど、成り済ましてるかもって思っちまうんだよな)

STN『――で、お兄さん!大っ事なお話なんですけど!』

KJ『はい』

STN『KJってキングジョ○の略みたいでカッコイイですよねっ!』

上条(良かった。本物だ)

KJ『話それだけなら帰っていいかな?今ちょっと取り込んでてさ』

UH『待って下さい!まだ始まってもいませんから!』

KJ『てかUHさん、勤務中なのに喋ってて大丈夫なの?』

STN『あ、初春は電子世界に関してはマルチタスクいけますんで、交通網監視しながらちょちょいのちょいってもんですよ!』

KJ『凄い凄いってはよく聞くんだけど、直接見た事はないからなぁ』

KJ『それはいいとして、本題は?』

UH『はい、その文化祭についての事でご相談がありましてですね』

STN『あたし達のクラスはメイド喫茶するって決まったんですよ』

KJ『中学生にしちゃ俗っぽかないかな?てかよくそれ女子が反対しなかったよな』

上条(大抵こういうのはヤローの悪ふざけと無駄に強い一致団結で決まるんだが……いや、俺もクラスで提案されたら、ノリで一票投じるだろうけど)

UH『いえ、女子も”メイド服着たい!”って方がかなりの人数……』

KJ『未来に生きてるよな!悪い意味で!』

UH『てゆーかSTNさんが居る時点で、”校内一悪ノリするクラス”みたいな認識でですね……』

KJ『……あぁ。中等部の職員室で先生方が頭抱えてる姿が目に浮かぶ……!』

UH『――ま、それはいいんですよ!大惨事にならないようにわたしが監督しますから!』

KJ『それもうフラグですよね?』

UH『でその、ご相談ですけど。喫茶店での出し物です』

KJ『?』

STN『喫茶店って、”キッ!佐て――』

【――STNさんが退室させられました――】 ピッ

上条(初春さんが怒った!?)

UH『はい、出しものです。折角なのでメイドさんの服を着て色々やってみようかと』

UH『その一環で、ですね――上条さんに歌って頂きたいな、と思いまして』

KJ『上条さん――あぁいや、アリサに?』

UH『はい、っていうか上条さんとても歌お上手じゃないですか?前からカラオケご一緒させて貰った時から思ってたんですけどね』

KJ『へー?』

UH『あと、校内コンクールで伴奏もされてましたし。なので出し物としてどうかなー、と。はい』

KJ『あー、メイド喫茶であるようなミニライブみたいな感じ?』

UH『はい。他のお店との差別化を図るためにも、是非』

上条「……」

上条(これには……どう答えればいいんだ?)

上条(どうせ今日中には終わる世界、終わらせなければいけない世界だ。だから『話しておくよ』って安請け合いすんのが正しい、筈だ)

上条(俺が今会話してる”これ”も忠実に再現した何かであって、本人では無いから)

上条(幾らそっくりでも初春さんじゃないんだ)

上条「……」

上条(……でも、それじゃなんか納得がいかない。いく訳がない)

KJ『俺に相談してきたのは、アリサが渋ってるから?』

UH『えぇ、そうですね』

KJ『嫌がってる相手にさせるのは、俺も気が引けるんだけど……?』

上条(そう、だよな。少なくともこっちの世界のアリサは、歌がそんなに好きじゃないみたいだし)

上条(昔はそうだったのかも知れないけど、今はそんなに、って感じだ……本当のアリサじゃないんだから、仕方がないのかも知れないが)

UH『……なんて言ったらいいのか、よく分からないんですけど……』

【――STNさんが入室しました――】 ピッ

上条(あ、また来た)

STN『――と、やっと繋がりましたよ。何してんですかねぇ、つーか何やってんですか』

KJ『いや、君のは自業自得だし』

STN『むしろここまで尽しているというのに、相変わらずつれないお返事で――さてさて』

STN『なので時間も惜しいので簡潔に言いますけど――アリサさんの歌、すっげー上手いってご存じですか?ある意味プロ級の』

KJ『それは……多分俺が一番知ってる』

STN『えぇまぁそうでしょうとも。上条さんならそうなんでしょうが――でも、歌ってイヤイヤやってて、あそこまで上手くなるもんですかね?』

KJ『え?』

STN『才能ってあるじゃないですか?特定のジャンルに強かったり弱かったり、適正みたいなもんですかね』

STN『それってスタートラインが違うってだけの話じゃないですか?』

STN『成長すればする程、上へ行けば行く程伸び悩みもしますし、限界に悩む事だってあるでしょう、はい』

KJ『どういう話?』

STN『でもそれ”だけ”――ただ歌が上手いだけで続けられるもんですかねぇ、ってぇお話ですよ』

STN『誰かに敵わないからしないとか、誰かに伝えたくてするって話でもなく。どんだけ歌が好きで歌うのが好きなんだコノヤロー!』

KJ『うん?』

STN『例え目的が他にあっ――としても――――は、それで――』

STN『歌が好きなのを――――――誇る――――――――――――――』

【――ゆっくりしていってね!!!――】 ジジッ

プツッ

上条「……切れた?ネットにも繋がらない?」

上条「……」

上条(大体の主旨は分かったけど……佐天さんは何が言いたかったんだろ?)

上条(つーか俺を”上条さん”、アリサを”アリサさん”って呼んでたが……まぁいいか)

上条(なんだかんだでこの世界のアリサにも、心配してくれる友達が居る……それは絶対に喜ばしい事なんだろうが。だけど)

上条(俺は、そんな優しい世界を殺さなくてはいけない、のか……?)

上条「……」

上条(……そろそろ、行こう、か)

――青冷めた光の柱の下

レッサー「――――――あだッ!?」 バチッ

フロリス「Oh, おかえりー、どーだったー?」

ランシス「……流石のフロリスも心配?」

フロリス「べ、別にそんなんじゃないしー?これはタダの社交辞令だし!」

レッサー「だ、誰も私の心配をしやがらねぇとはどーゆーことですかコノヤロー……!」

ベイロープ「はいはい。そういうのいいから、さっさとポジションへ戻る」

レッサー「ベイロープまでこの仕打ち!?」

ベイロープ「いやだからヤバめなのよ。割とマジで」

レッサー「MAJIDE?」

ベイロープ「セレーネが私達へ危害を加えるつもりがないのが幸いしてる、って状況。もしも別の魔神だったら消し飛ばされてるわね」

レッサー「……だとしてもなーんか超ヤッベェ気がするんですけど!大丈夫なんですかねっもふもふっ!?」

マーリン「あー、うん。心配はあらへんよ!弱気になっとぉアホ見んで!」

マーリン「一応こっちにはアルビオン最大の災厄と、”最期にして最高”の『シビュレの巫女』がついとぉ!」

マーリン「ギリシャ系、北欧系、ティル・ノ・ナーグ系とドンと来ぃや!なんやったらカバラや十字教やったって対抗魔術カマしたるわ!」

ランシス「……あ、それフラグ……」

マーリン「でも飛行機だけは勘弁な!――ってランシスぅ、アンタまたワイがボケ終わる前にツッコミしたらアカンて言ぉたよね?前にも言ぅたよね?」

セレーネ『あら?あらあらあら?』

セレーネ『鬼ごっこするには人が足りないわね。ヨーゼフはどこへ隠れてしまっているの?』

セレーネ『……きひっ!探しましょう!わたしだけじゃない、他のぼうやも呼んで楽しく、ね?』

セレーネ『ケンカをしては駄目よ、仲間外れもしちゃいけないわ』

レディリー「……待って!?あなたは何をしようとしているのよッ!?」

レディリー「そんな、そんな事をしてしまっては!『境界』が――」

レディリー「――この世とあの世の堺が壊れれば、死人が現世へ甦るのよ!?」

セレーネ『「”That's, the beach is on the beach in the the North Sea. The name is called the beach of Nazuki. ”」』
(即、北海の浜に磯あり。名は脳(なづき)の磯と言ふ)

セレーネ『「”Height is one height. The pine tree is prepared up. ”」』
(高さ一丈許。上に松の木を生ず)

セレーネ『「”The villager has the cave from the beach to the beach in the west though it comes and goes in the morning and evening and the person drags his tree branch. ”」』
(磯までは、邑人朝夕に往来する如く、又木の枝も人の攀引する如くなれども、磯より西の方に、窟戸あり)

セレーネ『「”It's six shakus the height area for each. It's poriferous in the cave. The person doesn't put it. It knows neither depth nor shallowness. ”」』
(高さ広さ各六尺許。窟内に穴あり。人入ることを得ず。深浅を知らず)

セレーネ『「”The person who mischievously visits the vicinity in the cave in this beach dies without fail. ”」』
(夢に此磯の窟の辺に至る者は必ず死す)

セレーネ『「”Therefore, it holes and it decreases the remark about the slope and the nether world of the hell until being arrive soon when the layman old――. ”」』
(故に俗人古より今に至る迄、号(ナヅ)けて黄泉の坂、黄泉の穴と言へり――)

マーリン「うん、詰んどぉわ。出雲国風土記なんてワイよぉ知らんしなぁ」

レッサー「でっすねぇ。つーかあなたが対抗策打てる魔術系統バラしたんで、日本の古神道系へシフトしたんじゃないですか?」

マーリン「おおっと流石は魔神やんねっ!それはうっかりさんやったわー、失敗してしもぉたわー」

レッサー「こやつめー!あははー!」

レッサー・マーリン「「にゃーはっはっはっはっはっー!!!」」

ベイロープ「――現実逃避しているHENTAI師弟コンビ!さっさと対策出しなさい!」

マーリン「無理やて!だってアレ超広範囲の黄泉帰り術式なんやって!」

マーリン「この世界を限定的に『冥界』へ繋ごぉ、概念だけしか知られてへんかった術式なんよ!」

レッサー「――ぶっ放します、”X”?」

マーリン「相殺出来るかも、やけど――そぉやったら上条はんアリサはん帰って来とぉたら、切り札も無ぉなるねん」

マーリン「……しゃーないなー。コレばっかりはワイの宿命みたいなもんやかさい。ワイがなんとかせんとアカンやろなー」

レッサー「……もふもふ……ッ!」

マーリン「”Less-Arthur”、そこは『マーリン』言うべきやないの?んん?」

マーリン「お約束ってあるやん?人がこう折角この筐体の全魔力遣ぉて抑え込もうとするんやったら、もっと悲劇的なシーンちゃうかな?」

マーリン「ま、エエわ!ホンマにっ!センセはアンタらみたいなデキの悪い生徒の面倒看きれませんわっ!」

マーリン「ワイは一足早くアヴァロン向かっとぉから!アンタらはゆっくり来ぃや!分かっとぉ!?エエな!?」

レッサー「先生っ!」

マーリン「……ま、後は任せたで――と、そうそう、上条はんに伝えといてくれるか」

マーリン「『えいえんは、あ――』」

セレーネ『――死人は墓から這い出て家路へ就き、生者は両手を広げて迎えるの!そう、それはとてもとても素敵に違いないわ!』

マーリン「――ってぇまだネタ喋っとぉ最中やないのっ!?」

セレーネ『蜂蜜酒の女王、アルビオンの旧い旧い支配者さん、あなたの出番はここで終り――さようなら、サヨウナラ、然様なら』

セレーネ『「”All high heaven fields are dark, and nakatsu-kuni of Ashihara is already dark. ”」』
(爾(かれ)高天原皆暗く、葦原中つ国悉(すで)に闇し)

セレーネ『「”As a result, it goes in an eternal night...... ”」』
(此に因りて常夜往く……)

マーリン「アカ――」

キィン――――――ギギギギギギキギギィィイッンッ……!!!

今週の投下は以上となります。お付き合い頂いた方に感謝を

上条さんの下す選択とは如何に――何事もなければあと2~4回でオーラスとなります

成る程。STNはレッサーか!

乙です

なんだかんだでフロリスも上条さん命なんだなぁ

これマーリンヒロイン化の流れじゃね?

いよいよオーラスかあ……感無量。
最後最大の敵は、やはり鳴護アリサ。
というより、彼女に対する、彼自身の想い。

原作でのヒーローは、完璧に幸福な世界を○○○した。
この世界の「上条当麻」は、ちっぽけな幸せを―――どうするのだろう?

>>911
くっそきもい

上条さんなら誰も予想できない答えを出すかも?

上条さんならアリサとセレーネで親子丼しそう

>>881
K条(仮名)「おっぱいが嫌いな男はホ×だ」
青ピ「いや、ゲイも胸筋は嫌いじゃないんよ?」
K条「え?」
白井「女子だって大好きですわよ」
御坂「えっ?」

>>882
ユダヤ教にはコンムユニオンと言う聖体割礼の儀式があります。赤子の頃に切ってしまおうという思考で、
同聖典の民であるキリスト・イスラム教でも奨励されて”る”所もあります
ただし昨今の風潮では子供へ対する虐待ではないかと言われ、徐々に減少傾向となっているようですが
(しかもどこをどう解釈したのか、アフリカでは少女への女性器切除が横行し、術中・術後の杜撰な手当で結構死んでいます。
確か何年か前にワリス・ディリー女史も告白されていた筈)

アルフレドに関しては……”現実世界に沌を構成する因子”が皆無なため、弟の身体を複製して使っているという設定です
なので兄弟ではなく、ただのクローンと言った方が正しくはあります
多少余談ですが、よく「日本人男性の7割が~」という表現も聞きますが、劣等感を煽る商法はそこかしこにある上、
以上のような文化的・宗教的側面を無視したシロモノですので、まぁ相手にしないで下さい

>>883
”異性の年下”と”同性の年上(+嫌いな相手なのでどんなツッコミしてもいい)”のであれば対応は分かれるかと
ノリの善し悪しではなくテンションの違いでしょうか
付け加えるのであれば、優秀な詐欺師程善人を装うものです

>>884>>886
『どう考えても間に合わない』状態になったら、流石に『新たなる光』が用意中の術式を起動するでしょうが、
セレーネは今電源二つ(天の龍脈と地の龍脈)に繋いでいるため、どっちかを切断出来れば良い方
その状態で魔神との戦闘へ突入すれば……まぁ、勝てれば大金星、でしょうか?

ちなみに全員敗北すれば”[ピーーー]ない”状況のまま、人類以下全生命が死して夢見る事になるでしょう。マトリックスの世界

>>885
ありがとうございます

――アリサの部屋

コンコン、コンコン

鳴護「――はい」

上条「えっと……上条だけど」

鳴護「うん、知ってた。てかそうじゃない方が怖いかも?」

上条「友達がお邪魔していい時間帯には少し遅いしなぁ。お泊まりとかだったら別だけど――入っていい?」

鳴護「あ、はいどうぞー」

上条「お邪魔しまーす……って、暗いな。電気点けないのか?」

鳴護「うん、今夜は、その――」

鳴護「――月が、綺麗だから」

上条(暫く目を凝らしていると……ベランダから差し込む月の光に圧倒される)

上条(下手な街灯よりも明るく、そして俺が現実で見たモノよりも大きく)

上条(”偶然”満月だったのか、それとも毎日が”こう”なのか……)

上条「……」

上条(……そう言えば俺、こっち来てから月見た憶えがねぇよな?つーか夜の記憶が殆ど――)

鳴護「……当麻君?」

上条「――ん?あぁ、いやゴメン、なんでもない。多分俺の勘違いだと思う」

上条(今更辻褄の合わない事の一つや二つ、あっても構ってはいられない。意味があるのかも怪しいし)

鳴護「座る所……ベッドでいいかな?」

上条(俺を出迎えてくれたアリサは部屋着――では、なく)

上条(いつか、最初に出会った時着てた、袖が長いワンピース?にデニム。流石にキャスケは被ってないが)

上条(びみょーに、部屋着としちゃ気合いが入ってるような……?)

上条(つーかさ。年頃の兄妹とは言え、男女がベッドの上で二人っきりって……考えすぎか?こんなもんなの?)

上条(現実でも散々知ったが、アリサの距離感は独特だよなぁ。勘違いしそうになるって言うかさ)

上条(……あぁいやアリサの、じゃなく――)

上条(――”アリサに似た何か”であって、アリサそのままではないんだ……)

上条「……」

上条(――本当に?)

上条(……てかアリサは――”この”アリサはここが夢だって知ってるんだろうか?)

上条(いやー――知らない、よな?アルフレドは『本人に夢だと気づかせる』事で、この世界を壊せるっつってたし)

上条(それを……俺の『手』で壊す、ってのは、一体どんな皮肉なんだか)

鳴護「あのー、当麻君?さっきからフリーズされると、一体何のお話なんだろう、って流石にちょっと不安になるんだけど……?」

上条「あーゴメンゴメン。なんかさ、アリサの部屋に入るのも久しぶりかなって思ったらさ」

鳴護「つい昨日も入ったし、メンズブラ買うって話もあったよね?」

上条「そ、そうでしたっけー?あははーっ!」

上条(ヘタクソか!?つーか俺こんなに会話下手だったったけ?)

上条(緊張してんのは間違いないだろうが、もうちょっとこう、自然に話を持ってけないか?自然にだ)

上条「あーっと、その……アリサ!」

鳴護「はい?」

上条「最近、そう――学校!学校とかどうかな?」

鳴護「なんでお父さん風……?てか毎日一緒に行ってるよね?」

上条「あー、ほら、なんだ?」

鳴護「いや聞かれても……」

上条「頑張ってるかね!あははー!」

鳴護「……当麻君、不自然にも程がないかな?何かスッゴイ緊張してるのが、初対面の人でも分かりそうなぐらい挙動不審だよ?」

上条(マズいな……なんか会話会話……当たり障りのない――)

上条「――そうだ!学園祭!」

鳴護「”そうだ”って言うのが気になるけど……あぁうん、あるよねぇ、学園祭」

上条「そっちじゃメイド喫茶するんだって?」

鳴護「あー……………………それ?」

上条「何ですか何なんですか今の長いタメは?」

鳴護「や、何の話か何となく分かっちゃったから――アレだよね?展開としてはアレしかないもんね?」

鳴護「どうせまた佐天さんにアレコレ吹き込まれたとしか……」

上条「と、友達を疑うのは良くないんじゃないかな?うんっ!」

鳴護「そしてそうじゃなかったら、当麻君が妹のクラスの出し物を正確に把握しているっていう、ある意味過保護な保護者さんになっちゃうけど……?」

上条「初春さんから相談を受けました、はい」

鳴護「直ぐにお友達を売るのもどうかと……」

上条「ま、誰から聞いたのかはいいとしてだ!具体的には何をするのかねっ!」

鳴護「テンションで乗り切ろうとするのは悪い癖、かも?」

上条「俺の話はいい!それよりもメイドさんに興味があるんだが!」

鳴護「当麻君当麻君、誤魔化そうとしてメイドさん好きの変態さんになっちゃってるからね?」

上条「……てかメイド喫茶っでどーよ?何となくは想像つくけど、どこをどう拗らせたら、中学の学祭でどんな悪魔合体だ」

上条(それがアリサの願望だってんなら、メイドさんになりたかった?……いやぁ、佐天さんNPCの仕業っぽいよなぁ)

鳴護「大体想像つくと思うけど、佐天さんがね」

上条「……あぁもうその単語で大体想像つくもの。何となく」

鳴護「『安西先生!バスケがしたいです!』って」

上条「あ、ごめんな?やっぱつかなかったわ。つーか喫茶店の話はどこ行ったの?」

鳴護「で、気がついたらいつの間にかクラスの半数以上の賛成票を握っていて」

上条「……民主主義って、たまーにやらかすよなぁ。都市伝説のレミングスみたいな、厄介な自殺願望でも抱えてんのかね」

鳴護「初春さん情報によれば、『メイド服が着たい女子が意外にノリノリだった』という分析も……!」

上条「へー……?ちなみアリサさんは?」

鳴護「だ、大事だよねっ!友情っ!」

上条「しっかり賛成に回ってんじゃねぇか」

鳴護「だってホラっ!『学園祭でメイド喫茶に決まったからイヤイヤ着た』って体裁なら着れるもん!」

上条「意外と計算高ぇな中学生。いや、STさん(仮名)の悪影響がここにまで……?」

上条(アリサ達のメイドさんは見てみたい気がする。ちょっとだけ、ほんのちょっとだけだが)

上条(誤魔化すように笑うアリサはとても自然で、ただの女の子にしか見えない)

上条(……それも俺の知ってる彼女にしか……)

鳴護「と言うか初春さんもね、『学年が上がってからツッコミ役が増えて楽になったとかも思ったら、実はボケだった』って……どういう意味なんだろう……?」

上条「割とストレートに毒吐かれてんだと思うが……で、だ。こっからが本題なんだけどさ、その」

上条「アリサは今の生活、幸せ……か?」

鳴護「幸せなんじゃないかな?最近当麻君もお手伝いしてくれるようになったし」

上条「あぁいやそういう意味じゃなくて、なんつーかな、こう、もっと観念的っていうか?」

鳴護「……哲学的なお話、なのかな?」

上条「でもなくて――そう、例えばこれも初春さん達に相談されたんだが、学祭でミニライブ的な事もやりたいんだそうで」

鳴護「あのさ、当麻君?ちょっと、ちょっとだけでいいから想像して欲しいんだけどね」

鳴護「学園祭でメイドさんをしながらノリノリで歌うのって、痛々しくないかな……?」

上条「そう言われると否定しにくい感じになるが……まぁ、それは置いておこう。学祭の話はともかくだ」

上条「そっちじゃなくて――その、歌なんだけど」

鳴護「あー……当麻君、なんか引っ張るねー。この間からさ」

上条「昔、いつだったかは忘れたけどさ。アリサ、『アイドルになりたい!』って言ってたよな?」

鳴護「あー、あったあった。懐かしいよ」

上条「その夢さ、今からでも追いかけてみる気とか、ないのか?」

鳴護「……えっと当麻君?もしかして佐天さんの言葉、気にしてたりするのかな?」

上条「……そういうワケじゃねぇけどさ」

鳴護「や、別にわたしは当麻君のお世話をするために、歌を辞めたわけじゃなくて。なんて言ったらいいのかな、んー……っと?」

鳴護「当麻君だってアレだよね?ちっちゃい頃に野球選手になりたいー、みたいな事言ってたもんね?」

上条「言った……ような?」

鳴護「でも今は素振りとかしてないし、野球用具一式は実家に置いて来ちゃったし」

鳴護「それと同じ、かな?」

上条「……そう、かな?」

鳴護「そうだよ……うん、きっと、そうじゃないといけないなんだよ」

上条「いけないのかな?」

鳴護「大人になる、ってそういう事なんじゃないかな。って当麻君に言うのもおかしいかも、だけど」

上条「ん、続けて」

鳴護「……”夢”は誰だって持ってるし、誰だって叶えようとするよね。それは良い事なんだろうなー、とは思う。うん、思うよ」

鳴護「でも、どこかで、いつかは諦めたり、もっと現実的なものを追いかけたりするすんじゃな――」

上条「はい、ストップ。そこまでー」

鳴護「まだ途中なんだけど……うん、おかしな事は言ってないつもりだよ。ふつーの人だったら当たり前の事だし」

上条「そうだなぁ。正直、俺もその考えは正しいと思うんだが。だけどさ」

上条「もっとシンプルに聞きたい答えてほしい」

鳴護「……どうぞ」

上条「――アリサは『歌』が好きか?」

――アリサの部屋

鳴護「それは……」

上条「今から話す事は支離滅裂っつーか、ワケ分からない話になっかもしんねぇけど、まぁそこは流して欲しい。つーか、ください」

鳴護「う、うん」

上条「なんつーかな、一緒に暮らしてて思った。違和感って言うのかな?」

鳴護「……わたしと一緒には、イヤ……?」

上条「ん、そっちじゃなくて。つーかそっちには文句がある筈もねぇ……ある意味ファンに撲殺されそうな予感もするが」

上条「……んな話じゃなく、こう、なんかおかしいな、物足りないな、って感覚」

上条「あるべき所に収まる物がなくなってて、なんか不自然に隙間が空いてる、ていうか?」

上条「きっちり並べた本棚なのに、一冊だけ本が貸し出されてる?真ん中辺りが抜けてる感じ」

鳴護「言いたい事は何となく分かるよ。わたしが『あんまり趣味に時間を割いてない』ってお話なんだよね?」

鳴護「それだったら男女で違いがあるし、それに家事が終わった後には課題とかもしなきゃいけない、し?」

鳴護「だから当麻君が言ってるのは、違ってる、と思う」

上条「……あぁそうだな。勘違いかもしれないな、俺の」

上条「俺は普段アリサが何やってるのは知らないし、歌に代わる”何か”があってもおかしくないんだろう」

鳴護「て、ゆうか、無趣味な人はあたしの周りでも結構――」

上条「――ま、それはそれとして、だ。最初の質問に答えてくれねぇかな」

上条「『歌』は好きか、って質問にだ」

鳴護「……えっと」

上条「……ごめん。なんか嫌な聞き方になっちまったが、責めてるつもりはないんだよ。本当に、ごめん」

鳴護「……ん、いい、けど」

上条「ただ、その……アリサにはさ。ずっと前から言いたかった事があるんだ」

鳴護「うん?」

上条「”あの時”、俺が届かなかった――手を、伸ばせなかったから。だから」

上条「それを今、言いたい……聞いて、くれるか……?」

鳴護「……はい」

上条「嘘は吐いたっていい」

鳴護「――え?」

上条「取り繕うために、曖昧な態度で何となく笑ってたっていいんだ」

上条「辛い現実から逃げ出したって構わないんだよ。現実と戦いたくなければ、それでもさ」

上条「それがアリサにとっての”幸せ”だって言うんだったら……俺はいいと思う」

上条「少なくとも――『”こんなもの”は正しくなんかない!』なんて言って、問答無用でぶち壊すような真似はしない」

上条「……誰かに騙されてもない限りは、だし。何も考えずに、楽な方楽な方へ来たってなら問題はあるけど――そうじゃ、ないんだよな?」

上条「考えて考えて、アリサが悩み抜いた結果だってんなら、俺はその考えを尊重するよ」

鳴護「……」

上条「でも、どんなに嘘が上手くなっても、愛想笑いが得意になっても」

上条「辛い現実から逃げ回るのが癖になっちまっていてもだ」

上条「絶対に、嘘を吐いたり、誤魔化したり、逃げちゃいけないものが、あるんだ」

上条「……あぁ別に、それを『俺に嘘は言わないでくれー』みたいな、在り来たりの上っ面だけの言葉を掛けるつもりはねぇよ」

上条「そんな無責任な事、気軽に言ってていい事じゃない。つーかホイホイ言うような奴は逆に信用出来ない」

上条「そうじゃなくて、俺がアリサに分かって欲しい事は――」

上条「――『お前の好きなものから、逃げるな』って事だよ」

鳴護「逃げ、る……?」

上条「好き、なんだよな――”歌”?歌うのが、さ?」

上条「だったらさ、逃げないで、誤魔化さないで、アリサが好きな歌に正面から向き合おうぜ」

鳴護「でも、それはもう終わっ――」

上条「俺は……俺はアリサを応援してやりたいとは思ってるし、『助けてほしい』って言われたら助ける。それは絶対だ」

上条「アリサの友達、イン――佐天さんや初春さん、御坂に白井も多分なんだかんだ言いつつ、助けてくれると思うぜ?」

上条「特にアレだ。御坂なんかツンデレだから、文句言い言い駆けつけるんだよな、絶対」

鳴護「それは当麻君にだけだと思うけど……」

上条「……けど!厳しい事を言うようだけども!」

上条「俺なんかの力はちっぽけだし、応援するって言ったって大した事は出来ない」

上条「『能力』もそうだし、社会的にはどこまで行ってもただの学生――稼ぎもない扶養家族の身分だ」

上条「俺が持ってる全部を投げ打って――友達や学校、家族とか知り合い全てを切って、アリサ一人だけの力になるのは……」

上条「……出来ない、とは言わない。言わないが――それをしちゃダメだと思う」

上条「だから――そう、だからだ」

上条「アリサが最終的に、誰よりも親身になって、誰よりも一生懸命に、誰よりも長い間応援出来るのは――」

上条「……やっぱり『アリサ』自身なんだと思うよ」

上条「辛くて挫けそうになった時、何もかも嫌で投げしそうになった時、最終的に気張って支えてあげられるのは」

上条「他の誰でもなく、アリサ自身がしなければいけない事なんだ」

上条「だから、嘘を吐かないでほしい。自分の好きなものを否定しないでほしい」

鳴護「……」

上条「……俺は、アリサの歌が好きだよ。楽しそうに歌っているアリサも好きだ」

上条「あー……っと、多分こんな事言っても分からないんだろうけどさ?アリサが歌ってくれる事で、もっともっと多くの人を幸せに出来る可能性もある」

上条「例えば……アイドルになるって夢を叶えたり、ツアーやってイギリス人の女の子達と仲良くなったりしてさ」

上条「きっと楽しくなる。そういう未来が来ると思う!確実に!」

上条「この世界は、アリサが思っているよりか、ずっとずっと優しくてさ?」

上条「きっとアリサが、本気出して頑張れば!願いは――」

上条「――『奇跡』は起きるんだよ!きっと!」

鳴護「……当麻君」

上条「……きっかけは違ってたのかも知れない。『歌が好きだから歌う』って事じゃなくてさ」

上条「つーかそうなんだろう。本人申告なんだしな」

上条(アリサの”おかあさん”を探すための手段として、たまたま歌を選んだのかも知れない)

上条(”アイドルになる”のは手段であって、本当にアリサが欲しかったモノは別にあったのかも知れない)

上条「……けど!だからって!目的を好きになっちゃいけないって事もねぇだろ!」

上条「……佐天さんが言ってたぜ?『あんだけ上手いのは、歌が好きじゃないと取り組めない』とか、珍しく真面目な話」

上条「好きだったろ、歌うのは?好きになったんだろう、歌うのが!」

鳴護「――っ!」

上条「だったらさ!胸張って堂々と!『あたしは歌が大好きなんだ!』って言えばいいんだよ!」

上条「人と人が繋がる目的だったそうだよ。最初はただのファンだったかも知れないし、通りすがりの人間だったって事もあるだろう」

上条「でもそれが、何回も何回もあって話をして、お互いに気に入れば最終的に友達へ落ち着く事だってある」

上条「始まりはなんだっていいんだ。結果だってどうだっていい」

上条「もっと、こう、もっとだ!アリサは好きに生きてくれても構わないんだ!」

鳴護「……」

上条「……悪い。話が脱線してるし、何言ってんのかも分からねぇと思うが、これだけは。これだけは言わせて欲しい」

上条「――そう、だから俺は――」

上条(”アリサ”と会話して良かった。これで俺はようやく――本当に、ようやく決心する事が出来た)

上条(……アリサだけじゃない。佐天さん、初春さんに土御門……どんだけの人に背中を押されて、どうにか結論を出せた)

上条(……格好悪ぃ。つーか”ホンモノ”のヒーローだったら大して悩まず、スッパリ決めるんだろうけどさ)

上条(悩んで悩んで足掻いてみっともなく騒いで……そしてどうにか、”当たり前”の話へ気づいたなんて)

上条(やっぱり俺は頭が悪いし、英雄になんかなれっこねぇさ)

上条(……そう言った意味じゃ、レッサーだったらコンマ二秒で”この”結論へ達しそう……羨ましい、正直)

鳴護「……当麻君?」

上条「――『この世界”も”護る』よ、アリサの夢が叶えられるように」

上条「アリサが幸せに生きていくために、戦うさ」

上条(目の前の”アリサ”を助けるために)

上条「……何が世界を救うだクソッタレ!」

上条「他人を犠牲にしてまで救われる世界なんて、何も救われてねぇのと一緒だろうがよ!」

上条「そんなクソみてーな『現実』は――――――」

上条「――――――――――――――俺がぶち殺す……ッ!!!」

――アリサの部屋

鳴護「当麻君――当麻君は、優しいんだか厳しいんだか、分からないよ」

上条「悪い。なんか上手く言えなかった」

上条「けど言わなくちゃいけない気がするんだ。不格好な言葉だけど、今、全部を――」

上条「――自分に正直になってやれ、アリサ」

上条「そのために、この世界が必要だって言うのなら、アリサはここに居ればいい」

上条「それが幸せなら――世界の一つや二つ、救うだけの価値はある」

上条「それが俺の戦いだよ」

上条(――って、言うのは簡単だよな、ホントに)

上条(さてさて、俺がこれからしなきゃいけないのは……まず学校に忍びこんでーの、アルフレドを叩き起こしてーの)

上条(現実へ戻る方法と、あとは魔神セレーネを何とかする方法を教えて貰う!それで解決だ!)

上条(つーかあのアホ、『過去にも厄介な魔神が居ましたー』みてぇな事言ってやがったよな?テンパってて聞き逃したが)

上条(セレーネレベルでヤバい奴だったとして、今まで世界が終わらず続いて来た――つまり、裏を返せば『何らかの方法で撃退した』って話だ)

上条(その方法を聞き出せば、対魔神戦でも応用が利く……と、いいなぁ。つーかさ?)

上条(あんだけ大口叩いて、『やっぱアリサ連れ戻せませんでしたテヘペロ』つったらレッサー達に半殺しされそうな予感……!)

上条(なんて言おう?途中で心配になって引き返してきた?あ、道に迷ったってのもアリだな)

上条(それはそれで半殺しが全殺しに移行しそうな気もする。つーか俺だったらそうするわ。ツッコミ所満載だもの)

上条(だがしかぁし!俺には上条家伝来のDOGEZAがある!)

上条(……ってバカな話じゃなく、それで”この”世界は救われるだろう)

上条(ただ……気になる事があるとすれば、俺が居なくなった後の俺――”この世界での上条当麻”の扱いだ)

上条(まぁNPCが何事もなく埋め合わせるんだろうが……それはそれでなんか変な気分だ。イヤだっつーかさ)

上条「……ともあれ、アリサは気にしなくていいからな?」

鳴護「当麻君――」

上条「何も心配すんな。自分が幸せになる事だけを考え――」

鳴護「――――――『お兄ちゃん』」

上条「――てぇ?」 トスッ

上条(思いの外、軽い衝撃――と、俺はアリサの顔を見つめながら、そんな事を考えていた)

上条(顔?なんで正面にあるんだ?俺達は並んでベッドに座ってた筈なのに――)

上条「……アリサ?」

上条(――なんて、ベッドに押し倒された俺は現実逃避をしていたんだが)

上条(……ぽたぽたと生暖かい雫が俺のシャツを濡らし、そこでようやく現実に追い付く)

鳴護「当麻君っ、当麻君っ、当麻君っ!」

上条「オーケー、落ち着きましょうかアリサさん?具体的には、落ち着こうな?俺もお前も?」

上条(残念、追い付いてはいなかった!)

上条「てかアリサ、泣いて――?」

鳴護「わたし――あたしねっ!ずっと――歌ッ――歌を……っ!」

鳴護「好き、なのにっ!……大好きで大好きでっ!」

鳴護「でもっ!それじゃっ!――」

上条「……あーうん、そう、だよな。そうなるわな」

鳴護「……」

上条「ん、どし――」

チュッ

上条「んぐっ!?」

上条(一瞬だけ、とても良い匂いのするアリサの体が俺に触れ、離れる)

上条(残ったのは――唇に残る――)

上条「ってちょっと待て!?俺達こっちじゃ兄妹設定だぞっ!?」

鳴護「――ぅ」

上条(アリサは小さく何かを言ったが、よく聞き取れなかった。だがその代わりに)

パキィィインッ……!!!

上条「ちょっ!?世界が――」

鳴護「ありがとう――『お兄ちゃん』」

――還らざるアドニスの園 月下にて

上条「――壊れる!?」

上条「……」

上条「……うん?」

上条(目眩と酩酊感……レディリーに冥界へ繋いで貰った時によく似た感覚)

上条(前後だけでなく上下も覚束ない……てか横になって寝てる、のか?俺は?)

鳴護「――あ、急には立っちゃダメ!ずっと寝てたんだから!」

上条「……そう、か?」

上条(俺の顔の直ぐ近くで聞こえるアリサの声……えっと、どういう事だ?)

上条(俺が横になってるのは確定。で、見上げるとアリサの顔――と、満月が浮かぶ夜空。いつの間に屋外へ出たんだ?)

上条(頭の下、枕が非常に柔らかいし、見上げたアリサのおっ――げふんげふん!って事は膝枕ですね!やったよ!)

上条(じゃ、ねーわ。男の憧れるシチュだけれども、どういう状況?)

上条「えっとアリサさん?」

鳴護「――た」

上条「”た”?」

鳴護「た、他意はないよっ、うんっ!全然全然全然っ!これっぽっちも!」

上条「うん、何が?」

鳴護「親愛の情的なアレだから!感極まってフライングしちゃったとか、そういうことじゃないんだからねっ!」

上条「お、おぅ。よく分からんが、分かった」

鳴護「……分かってない。全然分かってないよ当麻君っ……!」

上条「あい?」

鳴護「ううん、別になんでもないよ?」

上条「そ、そうか?何かちょっとキレてるっぽいんだが――まぁいいか」

鳴護「あたし的には良くないんだけど……」

上条「つか起きるわ。よっと」 スッ

鳴護「ぁっ」

上条(上体を起こして――思ったよりも長く膝枕されてたようで、体がバキバキ鳴る――周囲を見渡すと、そこは花畑だった。しかも同じ花だけの)

上条(いやぁ……花畑よりも並びも大きさも混沌としてるから、自生してるだけなのかな?それにしたって地平線まで同じ光景が続いている)

上条(圧巻には違いないが、どこか寂しく――何か切なく、怖い。具体的に、と訊かれても答えようはないんだが)

上条(てかこの花、どっかで見覚えが――あぁ、テーブルの上に飾ってあった花か!)

上条「パンジー!」

鳴護「アネモネ、かな」

上条「そうだ!そんな名前だった!」

鳴護「……うん、当麻君にそーゆーのは期待してないけど……うん、しないつもりだけど」

鳴護「これ別名”アドニス”って言って、冥府の花でもあるんだよ」

上条「へー、そうなんだー?綺麗な花なのにな」

鳴護「綺麗、だからじゃないかな。綺麗過ぎるから、きっと」

上条「……ん?『冥府の花』?」

鳴護「うん」

上条「じゃここが?」

鳴護「『冥界』、かな?」

上条「……”あの”世界は……?」

鳴護「終わったよ。目覚めた、とも言うけど」

上条「……」

鳴護「……当麻君?」

上条「――クソっ!」 ガッ

鳴護「当麻君っ!?」

上条「俺は――俺はっ!救えなかった、のかよ……ッ!」

鳴護「……」

上条「あの世界を!アリサが幸せになれる世界をっ!」

上条「約束したのに!心配しなくていいって!”あの”アリサとっ!」

上条「俺は”また”アリサを助けられなか――」

鳴護「当麻君――」 ギュッ

上条「アリサ……?」

鳴護「そんな事ないよ、あの子は――」

鳴護「――あの子は”あたし”だから」

上条「アリサ、と?」

鳴護「夢の中で当麻君が大事にしてくれた女の子は”ココ”に居るよ」

鳴護「”あたし”は”わたし”で、”わたし”は”あたし”」

上条「……?」

鳴護「臆病な”あたし”と意地っ張りな”わたし”。どっちも同じ『アリサ』だから」

鳴護「当麻君はきちんと、助けてくれたよ?」

上条「でも俺っ!」

鳴護「前にも言ったよね――”わたし”が」

鳴護「『わたしはずっと、当麻君の事だけを考えているから』」

鳴護「『喜びよりも、悲しみよりも、ただあなたの事だけを想っているから』――だから」

鳴護「あっちでもこっちでも、当麻君がどれだけあたしを思って、わたしのために行動してくれたのか、知ってるよ」

上条「じゃ――俺がやって来た事は」

鳴護「無駄じゃない。当麻君の思いは届いているよ――ここに」

上条(そう言ってアリサは自分を抱き締めるように手を握る)

上条(……あぁ、そうか。”あの子”もアリサだったんだな)

上条(”夢”を見るだけじゃなく、その登場人物として物語に出ていた女の子)

上条(そんな彼女を、俺は救えた……!)

鳴護「でもね当麻君。当麻君はズルいと思います!」

上条「……何が?」

鳴護「フツー、こういう展開になったんだったら、『一緒に着いて来い!お前が必要なんだ!』じゃないのかなぁ?」

上条(ジョーク、なんだろう。アリサの声は拗ねているようで、構って欲しい響きがあった。そう、それは――)

上条(『夢』の中で出会った、あの少しだけ意地っ張りな女の子によく似ていた)

上条「あー……それな。実は俺も思ったんだよ、ちょっとはな」

上条「なんかこう、そっれぽい台詞言って、『右手』でどうこうすればいいんじゃねぇかなー、的な感じに」

鳴護「……アバウト過ぎないかな、それ?」

上条「けど、それじゃきっとダメなんだよ。ダメだと思ったんだ」

上条「アリサが、アリサ自身の思いで、判断して帰るって思ってくれないと」

上条「……今は良いかもしれないけど、いつか必ず破綻しそうな気がして、さ?」

鳴護「……うん、ごめんなさい」

上条「無理矢理に手ぇ引っ張るよりか、自分の足で歩いて欲しかったんだよ」

上条「俺が――俺達がアリサを助けるのは当たり前だし、これからも」

上条「……でも結局、アリサが現実を変えたり、自分を変えようと思ってるんだったら、さ?」

上条「まず自分から『変えよう!』って動かないといけないんだ。それは」

上条「……嫌な言い方だけど、誰かの善意に縋って生きたり、誰かの言う通りに生きてるのって、生きてる意味があるか?」

上条「一歩一歩、自分の速さでっつーかさ……あぁ、すまん、俺も上手く言えない」

鳴護「……ううん。何となく分かるから」

上条「つーかさ、一体何が起きてたんだ?最近のアリサの不安定さ?なんて言ったらいいのか分かんねぇんだけども」

上条「”あたし”と”わたし”の二人のアリサが居たって事か?二重人格的な?」

鳴護「んー、そんなに大げさなもんじゃないよ。どっちも同じ『アリサ』なんだから」

上条「……そっか」

上条(アリサがそう言うんだったらそうなんだろう……てか、何となくは想像もつくし)

上条(”あたし”の方のアリサは素直で良い子だった。アホ曰く、『気持ち悪いぐらい不自然』に)

上条(見てて心配になるぐらいまで溜め込んで、不満を爆発させるような……まぁ、俺も悪かったんだが)

上条(対して”わたし”の方のアリサは比較的ズバズバ言うし、あんま素直になれてない感じ)

上条(俺に対してもワガママ言ってきたり――あの程度をワガママと言えるのかはさておき、そんな性格)

上条(誰だって――『人間』であれば持っていて当然の二面性に過ぎない。その程度の違いだ)

上条(どっちが正しく、また悪いって訳でもなく)

上条(どちらかが欠ければ不安定になるような、ただそれだけの話)

鳴護「――さて、それじゃレッサーちゃん達も頑張ってるみたいだし?」

上条「だな。つーか地上大丈夫かな?帰ったら滅んでましたー、的なドッキリは勘弁だぞ?」

鳴護「……誰が心配?」

上条「そりゃレッサーだけど?主に頭の問題で」

鳴護「むー……レッサーちゃんにポイント稼がれる感じがするー……」

上条「うん?」

鳴護「ううん、なんでも?――あ、そうだ、当麻君」

上条「はい?」

鳴護「”わたし”に『好きなものは好きだって言っていい』って言ったよね?あの時言ったもんね?」

上条「あぁ言った。けどそれが?」

鳴護「……ほんとーーーーーーーーーーーーっにっ!言ってもいいんだよね?好きだ、大好きだって?」

上条「当たり前だろ。つーか遠慮してんなよ」

鳴護「……分かった。それじゃ楽しみにしてて、ね?」

上条「あぁ!……あれ?何か寒気が?」

鳴護「それじゃ、当麻君!」

上条(アリサが伸ばして来た手を自然に取る)

上条(その手は――どこで繋いだ手とは決定的に違い、とても温かく……あぁ、そうか)

上条(これは――『幻想』じゃねぇんだな……!)

鳴護「一緒に、帰ろ!」

上条「そうだ――な?」

ゴボッ、ゴボゴボゴボゴボッ!!!

上条(”それ”は脈絡無く、アドニスの花畑に現れた)

上条(大雨の日に溢れる下水のように、狭い空間を縫って現れる”それ”)

上条(周囲の花々を薄汚く染め上げる程に、黄色い水溜まりが姿を現す)

鳴護「当麻君?」

上条「――俺の後ろへ」

鳴護「う、うんっ」

上条(アリサを後ろへ庇い、俺は”それ”を書面に見据える……ほんの少し目を離しただけなのに、また姿を変えようととしていた)

上条(黄色い水溜まりは大きく伸び上がり、人の背丈程の大きさになった――かと、思えば、ブルブルと震えて伸びたり縮んだりを繰り返し)

上条(表面を覆っていた液体を振るい落とし、不格好ながらも人の姿を模した形を取る)

上条(……顔の無い人間を、人と呼ぶのであれば、だが)

泥人形?「ゴボ……ゴボ……ッ!」

上条「こいつ……スワンプマン、か?」

泥人形?「――正解、だぜ……”カミやん”」

上条(不明瞭なまま、”そいつ”は俺の名を呼んだ……てか、この喋りは)

上条「……アルフレド……?」

アルフレド(泥人形?)「とんでもねぇ、あたしゃ神様……ゴボゴボッ」

上条「無理してボケようとすんな!」

鳴護「えっと、誰?」

上条「アルフレド=ウェイトリィ――の、NPC?何つったらいいのかな……あぁ」

上条「アリサが夢の中で他の人達を造ってただろ?あれと同じように、俺もこいつを呼んで色々アドバイスして貰ってたんだ」

上条「本人って訳じゃないし、別に害を与えるとかそういう事もしなかったよ」

鳴護「……当麻君、それは」

上条「てか夢の中全部憶えてるんだったら、俺とこいつが空き教室でダベってたの、知ってんじゃないのか?」

鳴護「……空き教室?」

上条「あぁ。買い物に行けなくなった日の話――ってアリサ?」 グッ

鳴護「知らない、わたしは知らないよ、そんな事!」

上条「ま、そりゃそうか。全能って訳じゃないんだろうし」

鳴護「そうじゃなくて!その日の当麻君は教室でお友達に相談されてたんだよ!」

上条「――はい?」

鳴護「それにっ!この人が夢の中の存在だったんなら――」

鳴護「――どうして今、”外”に居るの……?」

――アドニスの園

上条「え?でもこいつ、龍脈の事とか教えてくれたぞ?アリサを助けるためにアドバイス、っつーか」

上条「……ま、結果的には全部ガン無視しちまったけどさ」

アルフレド「んー、カミやんさ。俺を信じてくれんのは嬉しいんだが、最初に言ったよな?」

アルフレド「『俺はお前達の敵』だってさ。フランスの駅の話、憶えてねーかい?」

上条「あぁ知ってる、けど。お前は俺が造り出した――」

アルフレド「そうそう。確かに俺はお前が造り上げた存在だな、だからこうして不格好な姿しか取れない」

アルフレド「だがねー、カミやん。カミやんには言ってなかったけど、俺の特性の一つには”Crawling Chaos”っつーメンドクセー特性があんだよ」

アルフレド「そいつぁ”嘘が本当になり、本当が嘘になる”んだ、つ・ま・り!」

アルフレド「『嘘が吐けない』という本当が嘘になったんだよ!」

上条「そう、なのか?いやでもお前は色々助言を――」

アルフレド「嘘を尤もらしく吐く方法は幾つもあるが、その中の一つには『真実の中へ嘘を埋め込む』ってな手段がある。情報操作の基本だぜ」

アルフレド「そいつを利用して都合の良いようー事を運ぼうとしたんだが……まぁなんだ。お前なんで夢ん中のアリサを肯定したんだよ?」

アルフレド「あそこでぶち壊してもこの世界は終わったのに、情でも湧いたかい?」

上条「あー……それな。俺もどうかと思うんだが、我ながらっつーかさ」

アルフレド「俺のプランを見破った?……そんな雰囲気じゃねぇしなぁ」

上条「プラン?」

アルフレド「いや、俺の計画じゃ『龍脈を殺す』つもりだったんだわ、これが」

上条「――――――は?」

アルフレド「んーまず龍脈って力は膨大じゃん?それを打ち消そうとしても、この星が生きてる限りは無理だってな」

アルフレド「だから俺は考えた――『だったら龍脈自身の力を利用して。自殺させてやればいい』ってな」

アルフレド「要はアレだ。体のデカい奴とケンカするんだったら、無理矢理ぶん投げちまえば、そいつが自重でダメージ受ける感じ?」

アルフレド「ゲームで言えばつえー魔法を使う敵に、魔法反射でぶっ殺そうって発想だわな」

上条「それと俺の力にどんな関係が?」

アルフレド「うん、だからさ。カミやんにアリサを否定させる、ただそれだけなんだよ」

アルフレド「冥界みてーな、龍脈の深部に近い所でそれをやらかせば、龍脈自体が死に絶えんじゃね?と」

上条「……俺にそんな大層な力は無ぇよ」

アルフレド「てかカミやんは現実世界で散々やった来たじゃねーか、その『右手』で」

上条「……?」

アルフレド「存在意義の否定、存在理由の否定。鳴護アリサが自身の意義を否定して消えたように、龍脈もまた否定すれば消えんじゃね?」

アルフレド「――ま、『右手』を媒介に自殺させようとしたんだが、大失敗だなーもー!大赤字にも程がある――つーかさつーかさ、カミやんさ」

アルフレド「なんで鳴護アリサを殺さなかったんだ?ただ否定するだけで良かったのに」

アルフレド「俺の正体を見破った――てぇ、顔じゃねぇよな」

上条「……あぁそれか。完全に騙されてたし、怪しいとは思ったけど……言い訳だしなー」

上条「騙す騙されないで言えば、俺は小学生にも騙される自信があるっ!」

鳴護「当麻君……」

アルフレド「私が……小学生と同じ扱いかね……」

上条「つーかアルフレド、俺はお前が『何』なのかも知らねぇ」

上条「ここまで引っ張る上、魔術師サイドに殆ど情報が漏れてないんだから、相当だってのは分かる」

上条「そんな相手があれこれ、事実と嘘をバーゲンセールみてー引っ張り出してきて並べたんだ。騙されない自信はない!」

鳴護「や、だから当麻君は胸張って言う事じゃ、ね?ないから、うん」

上条「でも結局さ、この世界ってのはシンプルに出来てると思うんだよ」

上条「騙す騙されない以前の話で、それがどんなに理不尽だろうが、絶対に守らなきゃいけない一線ってのもあるんだ」

上条「俺が子を守ったり、子が親を守ったりすんのと同じ」

上条「目の前で転んだ相手へ手を差し伸べるのに、理由なんて要らないのと一緒」

上条「夢の中だろうが、現実だろうが――」

上条「――俺が”友達”を否定する事は、ない。絶対にだ」

鳴護「……」

上条「お前は誰かを騙すのが得意なんだろう。でも、これだけは憶えとけ」

上条「どんなに嘘を重ねようとも、俺達は正しい選択肢を――」

アルフレド「――人が人を殺すのに、何が必要だと思う?」

上条「なんだよ急に」

アルフレド「凶器?……それは違う。凶器なんかなくても人は殺すだろう」

アルフレド「それとも狂気?……それも違う。狂気なんかに縋らなくても、人は正常に人を殺すだろう」

アルフレド「人が人を殺す理由――それは『善意』だ」

アルフレド「『俺は正しい。俺達は正しい。責任は全て向こうにある』――どっかで聞いた事はねーかい?」

アルフレド「イギリスの政治家、アーサー=ポンソンビーは第一次世界大戦中、政府が行ったプロパガンダを10の要素にして発表した」

アルフレド「『一、我々は戦争をしたくはない』」

アルフレド「『二、しかし敵側が一方的に戦争を望んでいる』」

アルフレド「『三、敵の指導者は悪魔のような人間だ』」

アルフレド「『四、我々は領土や覇権のためではなく、偉大な正義のために戦う』」

アルフレド「『五、そしてこの大義は神聖なものである』」

アルフレド「『六、我々も誤って犠牲を出す事がある。だが敵はわざと残虐行為に及んでいる』」

アルフレド「『七、敵は卑劣な兵器や戦略を用いている』」

アルフレド「『八、我々の受けた被害は小さく、敵に与えた被害は甚大』」

アルフレド「『九、芸術家や知識人も正義の戦いを支持している』」

アルフレド「『十、この正義に疑問を投げかける者は裏切り者だ』」

アルフレド「……ま、こいつぁ極端な例だが、俺はカミやんへこう囁いたんだよ。憶えてるかい?」

アルフレド「『”世界のため”にアリサを殺せ』ってだ」

アルフレド「疑わなかったろう?納得したろう?」

アルフレド「『何かのために誰を殺す』――”善意による同族殺し”をだ!」

上条「……」

アルフレド「お前は正しい道を行った――だが、お前でなければどうなった?どうしたと思う?」

アルフレド「悲劇のヒーロー気取りで嬉々として殺していただろうな!この世界ごと!」

アルフレド「私の顧客は全世界にごまんと居るぞ!そして皆が皆賢人ばかりとは限らない!」

上条「――悪い、アルフレド」

アルフレド「あん?」

上条「お前の言葉はもう俺には届かない」

上条「人は、ってかまぁ誰だって完璧な奴は居ない。どんな聖人君子だって、悩みもするし失敗もするさ」

上条「歴史が証明しているように、最善を求めた挙げ句、最悪の結果になっちまう”可能性がある”のも知ってる」

上条「……でもだからっつってさ、何も選択しない、何も選ばない――」

上条「――『前へ進もうとしない』のは、ただの自殺と何が違う?」

アルフレド「へぇ」

上条「……気持ちは分かる。俺も器用な人間なんかじゃないから、いつだって間違って、失敗ばかりやらかしちまう」

上条「それで迷惑かけんのもしょっちゅうだぜ……いや自慢は出来ねぇが」

上条「けど!そんな俺を、ダメだからって叱ってくれたり、グチグチ言いながらも背中を押してくれる奴らが居る」

上条「こんなバカな俺のために必死になって戦ってくれる仲間が居る」

上条「……俺はそれがたまらなく”幸せ”なんだと思う。なんだ、じゃないな。絶対にか」

上条「もう迷ったりは出来ないんだ。散々みっともないとこ、見せちまってるから」

アルフレド「……」

上条「俺達を――”人間”をナメてんじゃねぇぞ……!いつまでもいいようにされてる程、俺達は弱くはない!」

アルフレド「結構!それはそれで大いに結――ゴボッ……クソ、時間切れ、ゴボッ」

上条(泥の体が、貌の無い泥人形がゆっくりと崩れていく……)

上条「会いたくはねぇが……また、会うんだよな?」

アルフレド「俺の性格だとこの”先”で待ってる筈――つーかカミやん、気合い入れて行けよ?」

上条「何がだよ」

アルフレド「オルフェウスを筆頭に、黄泉帰りで失敗したのは帰り道だ」

アルフレド「禁則事項は幾つかあって、『見るな』『交わすな』『振り返るな』……が、この場合は無視しても――ゴボッ」

アルフレド「通路の――先――扉――ある」

アルフレド「そこへ――かぎ、を――」

バシャアァァッ

上条(人は土へ還り、物は砂へ還る……マタイさんの言葉だったっけか)

上条(俺が教えて貰った『龍脈』の話。どれもこれも”そう解釈している”だけの話であって、結論じゃあない)

上条(全ての記憶が蓄積されている――それは、裏を返せば俺達の魂みたいなものが、最終的に行き着く場所なのではないか?)

上条(……ま、妄想にしか過ぎないが――もし、そうであれば、この泥人形の魂はどこへ行くのか?)

上条(最初から無かったのと、失われたのでは全く違う。俺の目には”あった”ようにしか映らなかったが……)

鳴護「――当麻君、そろそろ」

上条「……あぁ。今度こそ――帰ろう!」

――青冷めた光の柱の下

……イィギギィン……ッ!

レディリー「……生きてるかしら、『新たなる光』さん?」

ベイロープ「……一応は、ね。レッサー!」

レッサー「あいあい、フロリスとランシスの生存も確認。ちゅーか無傷ですなぁ、”我々”は」

ベイロープ「どういう事よ?」

レディリー「……マーリンが相殺させようとした魔力の余波、こっちまで来ていたのよ。偶然だろうけどね」

レディリー「私と違って、あなた達は死んだら死んじゃうでしょ?だから、肩代わりしてあげたのよ」

ベイロープ「先生はっ!?」

レディリー「ここに居ないんだから、もう、どこに居ないんじゃないかしら?知らないけど」

ベイロープ「……っ!」

レッサー「ベイロープ、今は」

ベイロープ「……えぇ、分かってる」

レディリー「……お取り込み中に悪いのだけれど、時間が無いから私の話を聞きなさい」

レッサー「時間、ですか?」

レディリー「障壁貼るのにちょっと無茶しちゃってね。内臓全部”持って行かれた”みたいなのよ」

レディリー「呪術を返す時によくある”逆凪”。死ねはしないんだけど……多分、ボウヤが帰ってくるまでは、眠、って――」

レディリー「……」

フロリス「――ほい回収っと!」 ドサッ

ランシス「……どうする?」

レッサー「どうもこうもないでしょうね。レディリーさんは古参の魔術師の一人」

レッサー「……とはいえ、元々が占術系でして直接戦闘は不向き。人形造ってサポートさせるのがメインだと」

レッサー「ぶっちゃけご自分の仕事――上条さんを冥界へ送り込んで下さった時点で、ノルマはこなしてるっちゃこなしてますしねぇ」

ランシス「しかも不死身だから、放って置いても死なない……!」

ベイロープ「はいストップ。手伝ってくれた人に鞭打つの禁止ね!」

フロリス「むしろこのヒトの場合、ポックリ逝ってくれたほーがご褒美だーよねぇ、ウン」

レッサー「ある意味、『さっさと一抜けしやがった』状態でもありますが――さて、どうしましょうかねぇ、これ」

レッサー「曲がりなりにも一流以上の魔術師が二人……もとい、一人と一匹が数分しか時間稼ぎ出来ませんでしたしねぇ、えぇえぇ」

レッサー「いやー参っちゃいましたよねーっ!あーはっはっはっはっはーっ!」

ベイロープ「……なんかもう、頭痛くてツッコム気にもなれないのだわ……」

フロリス「てかマジでどーすんだぜ?ワタシらにできる事ってもうなくね?」

ランシス「霊装は”X”の準備で稼働中だし、起動に魔力遣っちゃってる、し……」

レッサー「起動しようと思えば出来るんですけど……問題は後始末ですかねぇ、壮大な」

フロリス「ウン?後始末って?」

レッサー「えぇっとですね、セレーネは大丈夫……」

ランシス「術後の硬直でフリーズしてる……」

ベイロープ「……先生が使ったのは『呪い返し』の亜種だったんでしょ。だから元々の威力が高ければダメージが増える」

レッサー「流石は故・もふもふ。やっつけ仕事やらせたら円卓一ですな!」

ベイロープ「勝手に殺すな。あとやっつけ言うな」

レッサー「いやぁ、実はですね。倉庫でもふもふから聞いてたんですけど――なーんか今、自転が停まってるっぺーんですなー、はいー」

フロリス「自転?」

ランシス「地球の回転だよね……」

フロリス「や、知ってるケド!なんで?つーかマジで?」

レッサー「や、ですから今。月は月蝕のままで固定状態ですから、地球か月の自転は停まったままなんですよ」

レッサー「そうじゃないとフツーにズレますからね、天球の位置が」

フロリス「月が固定されているだけって可能性は?」

レッサー「と、すると他の天体が干渉する可能性がありますし、10月8日の18時6分でフリーズしてると考えられる、と」

ランシス「月が固定されてるだけでも、ウィッカには大打撃……」

ベイロープ「そして星空が見えないから確認出来ないけど、最悪なのは公転周期からも外れてれば……人類どころか生命滅亡よね」

フロリス「どゆこと?」

ベイロープ「地球から太陽を無くすとどうなる?」

フロリス「……終わるよねぇ、そーしたらさ」

レッサー「えぇ、ですから『アリサさんの帰還』――要は、”元へ戻せる”可能性がある方へ賭けたんですがねぇ」

フロリス「つーことはアレか?中途半端にセレーネを倒しても、その後始末で人類滅びるって話なん?」

ベイロープ「それに今、セレーネが接続している龍脈は二つ、星辰の龍脈と大地の龍脈」

ベイロープ「これがまだ片方だけならば、断線させて存在自体を消す事が可能でしょうけどね」

レッサー「これがまだ『幻想殺し()』が手元にあれば話は違うんでしょうけど!」

ベイロープ「カッコ笑いをつけない。あれでも私達の生命線なんだから!」

レッサー「従って、現状我々が出来る事は皆無に等しく、ただただダベる事が精々なのですが――」

レッサー「向こうさんはやる気なんですよねぇ、こういう時に限って」

セレーネ『……どうして……』

セレーネ『どうして、わたしの言う事が聞けないのかしら……?』

レッサー「話が通じるとは思えませんがね、人類最後の一人として啖呵を切らせて貰いましょうか。セレーネさんとやら」

セレーネ『よい子はもう夢の中、起きているのはあなた達だけなのよ』

レッサー「夢ってのは目的であって手段とは違う。見るのは勝手ですが、それにハマって現実を忘れるようじゃまだまだ」

セレーネ『それともぼうや達は悪い子なの?かあさんとっても悲しい、悲しいわ』

レッサー「夢に生きるのもいいでしょう。否定はしませんよ。少なくともこの可能性に満ち溢れた世界では、それもまた自由の一つです――が!」

セレーネ『……そうよ、こうしたらどうかしら?みんな、仲が良いみたいだし――』

レッサー「夢なんていう下らないモノで私達の可能性を殺すな!」

セレーネ『でも少し――痛いかも知れないけれど――』

レッサー「あなたには分からないでしょう!?人類が積み上げた英知と希望を!泥と血に塗れながらも掴み取った王冠を!」

セレーネ『――許して、ね?駄目なお母さんを許して……』

レッサー「人類の歴史に楽な道など一つもありませんでしたよ!どの時代でもどの世界でも、見ている先は違えでも必死に前へ進んできたって言うのに!」

セレーネ『可愛いボウヤ達を――』

レッサー「そんな独り善がりの『幻想』は――」

レッサー・セレーネ「『――殺して――』」

セレーネ『――しまう、かあさんを許して?』

レッサー「――差し上げましょう、我が名『Arthur829(永劫の旅路の果てに再び戴冠する王)』にかけて……ッ!!!」

セレーネ『「”Der Ho"lle Rache kocht in meinem Herzen, Tod und Verzweiflung flammet um mich her!”」』
(地獄の復讐が我が心に煮え繰りかえり、死と絶望がこの身を焼き尽くす!)

セレーネ『「”Fu"hlt nicht durch dich Sarastro Todesschmerzen, So bist du meine Tochter nimmermehr.”」』
(あなたがザラストロに死の苦しみを与えないならば、お前はもはや私の娘ではない)

セレーネ『「”Verstossen sey auf ewig und verlassen, Zertru"mmert alle Bande der Natur, Wenn nicht durch dich Sarastro wird erblassen!”」』
(勘当されるのよ永遠に、永遠に捨てられ、永遠に忘れ去られる。血肉を分けたすべての絆が。もしもザラストロが蒼白にならないなら!)

セレーネ『「”Ho"rt Rache, - Go"tter! - Ho"rt der Mutter Schwur.”」』
(聞け、復讐の神々よ!母の呪いを聞け!)

セレーネ『「”――Der H_lle Rache kocht in meinem Herzen
(――夜の女王のアリア)

レッサー「……と?何も起きませんねぇ、これは」

フロリス「ドヤ顔で言っといて失敗したんジャン?」

ベイロープ「だったらどんだけ楽かって話よね」

ランシス「……?」

レッサー「て、さっきから空見上げてどうしましたか?」

ランシス「おかしい……?」

フロリス「ウン?……あーあー、星のない夜空なんだケド、なーんかおっかしいカンジ?するよね?」

レッサー「そう……でしょうかね?私の目にはそんなに違いは分かりませんが」

ベイロープ「――そうじゃない!”何か”が!」

レッサー「空が――落ちてくる……!?」

セレーネ『……きひっ!ぼうや、わたしの可愛いぼうや達!』

セレーネ『心配しなくていいのよ。”今度”は良い子に生まれてきなさい、ね?』

セレーネ『それともみんなはそのままがいいのかしら?』

セレーネ『それでも心配は要らないわ、すぐに黄泉帰らせてあげるから』

セレーネ『だから、ほんの少ぉし、少しだけチクッとするかも知れないけれど』

セレーネ『目を閉じて、お祈りしましょう?――かあさんと一緒に、ね?』

セレーネ『愛しているわ――――――――ぼうや』

セレーネ『世界よ終われ!あなたは美しい!』

セレーネ『過去既にあったモノも、今嘗てあったモノも、永遠の虚無に等しいわ!』

セレーネ『さぁ、わたしが護ってあげる!わたしの揺り籠でずっと揺蕩いなさいな!』

セレーネ『きひっ!きひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ……ッ!!!』

今週の投下は以上となります。お付き合い頂いた方に感謝を

早ければ来週完結。スレ間に合うかな……?

マーリン本当は死んでないし、そうだとしても上条さんがいる以上どうにでもなりそうだな

そうか。龍脈をキーとして見れば、『お兄ちゃん』なんだなあ。
つっちー、同志が出来たよやったね!

乙です

来週で最後か…寂しいな

今思えば色んなところに最終話の伏線があったな

シャットアウラ出てきてないけど、出番ないんかな?

杞憂の話はフラグだったか

>>907
途中からですが、つーか妙にSTNさんがフレンドリー過ぎると思った人は正解
アーサー王はマーリンによって育てられたため、一部の夢魔の魔術を使える物語もあるそうです

>>908
ありがとうございます

>>909
フロリス「ち、違げーし!そんなコトないし!」
フロリス「そんな目で見るんじゃない!ワタシはレッサーとは違うんだっつーの!」
レッサー「いつのまにかツンデレを会得してるだなんて――フロリス、恐ろしい子っ!」

>>910
マーリン「そんなワイの活躍が見たい子ぉは『英雄×戦姫GOLD』をプレイするんやで!」
(※私の主観ですが、二次創作物に於いてオリキャラの類が出しゃばるのは論外だと思っています。
活躍するのもいいですし、悪役としてのさばるのもいいでしょうが、本来の主役やヒロインを喰ってはいけない。
よって最後の最後で困難へ立ち向かうのも、最初の五人なのも当たり前ですか)

>>911
真面目な話、去年の比較的頭の方で「このSSの上条さんは弱め」とのレスを頂きましたが、
何でもかんでも『右手』で解決するのではなく、対話と理解そして成長をテーマにしています

SS中、上条さんが「俺は万能のヒーローなんじゃない」と言っていますが、もし仮に彼が魔神並のチート力を持っていたとしましょう
そうすれば最初から『新たなる光』が参戦する事もなく、またしたとしても置物状態だったと
また鳴護さんが冥界に捕われても、上条(チート)「アリサは俺が一生守る!だから帰ろう!」
なんつって無理矢理引っ張ってくれば……永久就職おめでとうー的な、何か違う気がします

ヒロイン達は誰一人、何一つ苦労などせず、悩む事もなく、成長もしない。ただ要所要所でぬるま湯のような戦い”っぽい”事をして、
主人公が来るまでの繋ぎとして頑張る――みたいな話は、登場人物の人格を虚仮にしているとしか
(まぁ好みの問題でして、余所様のお話を否定はしませんが)

>>912
申し訳ないのですが、このスレで一番気持ち悪いのは>>1(私)です

>>913
二つ前のお返事にも関わる事ですが、『逃避を肯定して、自己解決を促す』という商業誌では難しい展開になったと思います
どんな問題であれ、まず自身が解決しようとするのが第一歩であり、誰かが助けてくれるのを待っているのは違う、と
なのでEUを筆頭とした様々な現実を知った上で、よりリアルな解決方法を取って欲しいと
(※ただし現実ではチベット然りウイグル然り南スーダン然り、本当に苦しい人間は助けを求める声すら上げられず、
自己解決なんて以ての外という事もままあります……そして大抵の場合、『そういう』弱者は”金にならない”ため人権団体様は取り上げない)

>>914
上条「だから使ってない!新品未使用だよっ!」
レッサー「え、新古品ですよね?」
上条「ちょっと何言ってるか分からないですね」

――新章突入


――学校の帰り道

上条「……」

上条(今日の帰りは……肉屋さんで豚バラ肉が安いっと)

上条(ハンバーグにしようか?それともロールキャベツにしようか?)

上条(ミートソースと絡めてお肉たっぷりパスタも捨てがたい……ん?)

キラッ☆

上条(何か落ちてるな……?なんだろう……) ヒョイッ

上条(コンパクト?……あぁオモチャっぽいやつだから、女の子が使うヤツ――)

上条(落とし物かな。どっかに名前でも書いて――)

ピカーーーーーーーーーーッ!

上条「うわっ!?光っ――」

上条(――光が収まって、何?何が起きた?)

小さいチンピラ『やあ、僕の名前はハマッヅラヅラ!妖精の国から来たヅラ!」

上条「……」

小さいチンピラ『陽性の王国がピンチなんだヅラ!だから助けてほしいヅラ!』

上条「あ、すいません。人違いです。それじゃっ!」 パチンッ

小さいチンピラ『コンパクトを閉じないで欲しいヅラ!?人違いなんかじゃないヅラよ!」

上条「えーっと、そのアレだ。どっから突っ込めばいいのか……」

上条「まずアレじゃね?こういう時の定番って、妖精さんが出て来るんだよな?こう、もふもふっとした」

上条「なのにお前どっからどう見てもそこら辺のチンピラを小さくしたようにしか見えないんだが……?」

小さいチンピラ『チンピラじゃないヅラ!ハマッヅラはハマッヅラって名前があるヅラ!』

上条「いやだから、口調だけ可愛くされても……」

ハマッヅラ(CV.日野聡)『人間の多様性を否定するのは良くないヅラ!』

上条「声も妙に格好良いしな!違和感ハンパねぇぜ!」

ハマッヅラ『そんな事よりも魔法の国が大変なんだヅラ!助けて欲しいヅラ!』

上条「アレでしょ?なんかこう変身して世界を救ってよ、みたいな展開なんでしょ?」

上条「日曜朝にやってる物理的に戦う変身ヒロインものの話なんだよなぁ?」

ハマッヅラ『そうヅラ!ぶっちゃけ魔法の国なんてどうでもいいヅラ!』

上条「設定は守れ、な?俺いつもいつも佐天さんに言ってるけど、その一線だけは守ろう、な?」

ハマッヅラ『……で、でも匿名掲示板を見てみても中の人がどうとか、パンツ見えそうとか、俺の嫁としか書いていないヅラ……』

上条「ごめんなさい!全国の俺達がごめんなさいっ!……いやいや、主旨は分かったけどさ」

上条「だから『変身ヒロインの相方探してします』って話なんだよな?」

ハマッヅラ『そうヅラ!ハマッヅラは何も考えずに戦ってくれるエロ可愛い子を探しているヅラ!』

上条「エロ?お前今エロっつったか?なぁ?」

ハマッヅラ『……でも最近の女の子はなりたがる子が少なくなっているヅラ……悲しいヅラ……』

上条「あー……そうだよなぁ。希望を持てない子が多いっつーか、現実的なんだろうけど」

ハマッヅラ『薄い本でエロい事されまくるのがイヤだって……』

上条「理由違くね?つーかそれはむしろ俺達なの?俺達がごめんなさいした方がいいの?」

ハマッヅラ『――そこでっ!トーマが変身すれば問題ないヅラっ!』

上条「――ごめん。俺ちょっと急いでるから」 ググッ!

ハマッヅラ『コンパクトを無理矢理閉めないでヅラッ!?中身出ちゃうヅラっ!』

上条「つーか無理だって!ムリムリっ!」

ハマッヅラ『何でヅラ?魔法の国がピンチヅラよ!?』

上条「具体的には?」

ハマッヅラ『えっと……こう、あれヅラ!少子高翌齢化と近隣諸国の軍拡、シーレーンの確保で大変なんだヅラ!』

上条「魔法いっこも関係なくね?ファンシー要素皆無だよね?」

ハマッヅラ『大丈夫ヅラ!魔法の国にはどんな敵が来ても絶対に守れるシールドがあるヅラ!』

上条「あーはいはい。イージスの盾みたいな感じ?」

ハマッヅラ『そうヅラ!この盾があれば絶対に戦争は起きないヅラよ!――その名も!』

ハマッヅラ『けんぽ――』

上条「はぁぁぁいっ!ストップーーーーー!それ以上出すと面倒臭いから!」

ハマッヅラ『ウクライナとチベットとウイグルにはこの盾がなかったヅラか?』

上条「――で、だ!俺が引き受けないのにはもう一つワケがある……ッ!!!」

ハマッヅラ『勢いで誤魔化すのは良くないヅラ』

上条「アレだろ?こう、俺も変身して戦うんだろ?」

上条「……流石に低年齢層女子向けの服着て戦うのは、さぁ?なんつーか抵抗しかねぇっつーか」

ハマッヅラ『あ、大丈夫ヅラよ。あの服には認識阻害装置っぽいものがついているヅラ』

ハマッヅラ『実際に、今までのヒロイン達は正体がバレる事はなかったヅラ』

上条「あー……まぁ確かに。言われてみれば身バレして大騒ぎになった、ってのはあんまないよな」

ハマッヅラ『そうヅラ!だから安心していいヅラ!』

上条「一応聞きたいんだけど、その認識阻害装置?ってどんな働きになってんの?」

ハマッヅラ『簡単ヅラ!ただ変身するだけで効果は現れるヅラ!』

上条「お、すっげーな魔法世界!……ていうかようやくファンシー要素が出てきた……!」

ハマッヅラ『魔法?使ってないヅラよ?』

上条「え?でも、認識を阻害するって――」

ハマッヅラ『や、だから使ってないヅラ』

上条「いやいや。だったらなんでそんなスゲー効果あんの?」

ハマッヅラ『そうヅラねー……例えば、学校で授業を抜け出して女の子が変身するヅラ?』

上条「あぁ。なんか戦って、また元へ戻るわな」

ハマッヅラ『で、クラスへ何事もなかったように戻ると、隣の子がこう言ってくれるヅラ』

ハマッヅラ『「あーうん!全然見てなかった、見てなかったよ!」』

ハマッヅラ『「ていうか他の子にもバレてないから!大丈夫だから!」』

上条「お前それ正体100%バレてんじゃねーか!?みんな気ぃ遣ってくれてんだよっ!?」

ハマッヅラ『トーマは人を疑うヅラか?気づいてないつってんだから、気づいてないに決まってるヅラ!』

上条「この世界には優しい嘘があるんだよ!女のお笑い芸人に『かーわーいーいー』って言うのと同じで!」

ハマッヅラ『そしてお家へ帰っても、ママさんはこう言ってくれるヅラ』

ハマッヅラ『「……あなたが決めたんだから、ママは応援しているわよ」ってヅラ』

上条「……おかあさん優しいなぁ……」

ハマッヅラ『あーでも、トーマの場合は男の魔法少女だからより強いハイパージャマーになるヅラね』

上条゜今の扱いでも相当だが……どんなの?」

ハマッヅラ『まず変身したまま街を歩いても、一般の人には見えなくなるヅラ!』

上条「お、おぉ?それは凄い、よな?」

ハマッヅラ『その証拠に誰も視線を合わせてくれないし、居ないものとして扱ってくれるヅラ!』

上条「引かれてんだよ!キチガ×を相手にしたくないから無視されてるのに気づいてあげて!?」

ハマッヅラ『なので安心ヅラ!さぁ早く変身するヅラ!』

上条「言っとくけどな、魅力的な所は一つもねーぞ?マイナスにマイナス足したってプラスにはなんねーんだからな?」

ハマッヅラ『もしトーマが変身してくれるんだったら”キュアラッキー”になるヅラ!』

上条「マジで!?俺がラッキーなの!?ラッキー名乗っていいの!?」

上条「アレだよね、響きからすると超絶幸運な魔法少女っぽいじゃん!」

上条「……あぁ、もしかして普段不幸だったのは、こういう時に運を溜めてるみたいな設定だったのか……!」

ハマッヅラ『キュアラッキーの能力(ギフト)は凄いヅラ!人類の半分が羨む能力ヅラよ!』

上条「そっか……俺にもそんな幸運が舞い込んできたのか……ッ!」

ハマッヅラ『まず……キュアラッキーが街を歩いてたとするヅラ、そうすると――』

上条「うんうん」

ハマッヅラ『――前を歩いていたおねーさんが風でパンチラするヅラ!ラッキーヅラ!』

上条「……うん?」

ハマッヅラ『そして家へ帰って手を洗おうとすれば――なんとシャワー中の妹どドッキリするヅラ!』

ハマッヅラ『他にも転んでおっぱいタッチするのは当たり前!出会い頭にキスするのもよくあるヅラ!』

上条「お前それラッキーはラッキーでも”ラッキースケベ”じゃねぇかよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」

ハマッヅラ『え、でも結構人気がある能力ヅラ?』

上条「あるかもしんねーけどさ!今の俺には不要だよ!つーかデフォでその力発動してるし!」

ハマッヅラ『ちなみにDVD版だと湯気が薄くなってエロが増えるヅラよ!』

上条「お前アレだよね?さっきから殊更にエロ強調するよね?」

上条「まさかと思うけど、『男なら取り敢えずエロで釣っとけば何とかなる』とか思ってねーだろうな?あ?」

ハマッヅラ『エスパー……ッ!?』

上条「――はーい、お疲れー」 ギギギギッ

ハマッヅラ『だからコンパクトを無理矢理閉めないでほしいヅラ!?中身出ちゃうヅラよ!』

上条「お前ニンゲン舐めてんだろ、なぁ?それともケンカ売ってんだったら買うぜ?」

ハマッヅラ『待つヅラ!トーマは最後の希望ヅラ!』

上条「最後て。また大げさな」

ハマッヅラ『他の四人はもう揃ってるヅラ!だからトーマさえ引き受けてくれればハピレスプリキュアは完成するヅラ!』

上条「スゲーな学園都市!こんなバカ話に騙されたヤツが他に四人も居んのかよ!?」

上条「あとハピネス(Happy-ness)じゃなくてハピレス(Happy-less)だと、幸せじゃないって意味になっちまうんだが……」

ハマッヅラ『あ、紹介するヅラ!仲良くするヅラよ!』

上条「いやだからやんねーって……あ、でも少しどんな面子か興味はあるな」

上条「――ま、いつものメンバーなんだろうけどもだっ!」

ハマッヅラ『第一のプリキュアは”キュアシスター”ヅラ!』

上条「あー……ビリビリ?御坂さんでしょ?シスターって言ったらね?」

上条「それともアレか。御坂妹辺りがやってんのか?あぁ?」

???「輝く光は妹の光、輝き穢す悪い子は――」

???「――妹に蹴られて死んじまえ――とうっ!」 シュッ

上条「出る台詞おかしくないか?あ、おかしいのは多分頭だと思うが」

土御門(キュアシスター)「――キュアシスター、見・参っ!」 ドヤァッ

上条「テメーかよ!?御坂さんじゃなかったよ!?」

土御門「てゆーかカミやん!第三位に比べれば、確かに俺は小物かも知れない――だがしかし!」

土御門「妹愛する熱きハートであるならば、誰にも負けない自信があるぜいっ!」

上条「違うよね?土御門さんと御坂さんの『妹』って意味が違うよね?」

上条「御坂の方はあくまでも『肉親として』なんだろうけど、お前は100%リビドーだもんね?」

土御門「何を言うんだにゃー!だとしても俺の方が妹を好きに決まってる!」

上条「否定しろよ。せめて性欲入っているところだけは否定しなさいよ」

土御門「じゃあ過去の事件を見てみるけど――第三位は妹が殺されても、結局不殺を貫いたよな?」

上条「あー……そう、かな?一応は」

土御門「でも俺はっ!舞夏が殺されそうになったらガンガンしたぜぃ!どーだ!」

上条「……そう言われるとお前の方が拗らせている気がするな、悪い意味で」

ハマッヅラ『どうヅラ!?凄い人材ヅラよ!』

上条「否定はしねぇが……」

ハマッヅラ『第二のプリキュア――”キュアスター”!』

上条「え!?まだ居るんだ?つーか物好きな……ん?スター?」

上条「あー、分かっちゃったもの。アレだろ?これ多分☆なんだよな?」

上条「おっぱい大きくて残念な食蜂さんでしょ?どうかな?」

ハマッヅラ『出て来るヅラ!キュアスターっ!』

???「輝く光は☆の光、輝き穢す悪い子は――」

???「――自分大好きごめんなさいよ――とうっ!」 シュッ

上条「てかスターとシスターってほぼ被ってねぇか?」

アレイスター(キュアスター)「――キュアスター、見・参っ!」 ドヤァッ

上条「理事長ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」

上条「何やってんだ理事長っ!?つーかテメー二次創作でもやって良い事悪い事があんだろ!?」

アレイスター「変身、変身……」

上条「な、なんだよ?」

アレイスター「魔法少女のパンチ×は研究のテーマに相応しい……!」

上条「アレイスターはそんな事言わない」

上条「最初の巻の方でローラさんとバカ話してたような気もするけど!あれはなかった事になってるからな!アニメでもなくなってたし!

ハマッヅラ『そして次が第三の刺客――』

上条「主旨変わってんだろ!プリキュアの紹介じゃねーのか!」

ハマッヅラ『”キュアウルフ”!出て来るヅラ!』

???「輝く光は獣の光、輝き穢す悪い子は――」

???「――俺の出番はどうなった――とうっ!」 シュッ

上条「ウルフ……?」

フェンリル(キュアウルフ)「――キュアウルフ、見・参っ!」 ドヤァッ

上条「……」

フェンリル「……」

上条「……誰?」

上条「名前からすっとグレムリンの正規メンバーっぽいけど、俺と絡んだっけ?」

フェンリル「……いや、絡んでない」

上条「あ、じゃあ誰かと戦った?」

フェンリル「戦った――が、その描写はバッサリと……」

上条「……ふーん」

フェンリル「でもお前とは会ってる!憶えてないか、トールと戦っただろう!」

上条「学園都市――は、違うか。誰も居なかったし。それじゃオティヌスの力を放棄させに言った時の?」

フェンリル「そうだ!その時に会ってる!」

上条「具体的には?」

フェンリル「……トール、座ってたよな?」

上条「座って――あぁ、クレムリンの正規メンバーボコにして、その上にな」

フェンリル「その中に……俺が」

上条「へー……?」

フェンリル「……」

上条「……」

ハマッヅラ『どうヅラ?』

上条「うん、絡みづらい」

フェンリル「バカなっ!?」

上条「いやー、だってなぁ?つーかなんでコイツもメンバー入ってんの?」

上条「もっとキュアロリー×とか、キュアお姉様とかイロモノ居たじゃん?」

ハマッヅラ『……トーマ、それは良くないヅラ。物語の登場人物には役割があるヅラよ』

ハマッヅラ『主役が何人居ても成立しないヅラし、悪役だけでもダメヅラ』

ハマッヅラ『適材適所、人には人の持って生まれた役目があるヅラね』

上条「まー、そうだけどさ。それじゃキュアウルフの役割って何だ?」

ハマッヅラ『噛ませ犬ヅラ』

上条「謝って!フェンリルさんに謝って!?」

上条「『あ、ウルフとフェンリルって二重の意味で噛みませ犬なんだなー』とか思って言っちゃ駄目だからな!」

ハマッヅラ『――さぁついに最後のプリキュアヅラ!』

上条「キュア要素一つもないよね?てか四人もバカが揃ったのか……!」

ハマッヅラ『カマァン(※巻き舌)――”キュアキャプテン”!」

上条「キャプテン?そんなキャラ居たっけか?」

上条「アドリア海の女王だったら、ビアージオなんかそうかもだけど……?」

???「輝く光は維新の光、輝き穢す悪い子は――」

???「――攘夷に代ってオシオキよ――とうっ!」 シュッ

上条「攘夷?」

桂(キュアキャプテン)「――ヅラじゃない、桂だッ!!!」 ドヤァッ

上条「作品の垣根越えて来んなよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」

上条「ていうか銀魂!?なんでお前が来てんだよ!?なあぁっ!?」

ハマッヅラ『ノリでヅラ』

上条「乗ってねぇよ!?全然乗ってなんかないからなっ!」

桂「ヅラじゃない桂だ!」

上条「だから話に割り込んで来んなよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

桂「ずっとスタンバっていました。ていうか涙子殿とはキャラが被っているからダメですか?」

上条「被ってねぇよ!確かにカオスな所は同じだけども!」

桂「なに、心配は要らん。これからは仲良くしようではないか、リーダー――いや」

桂「――キュアラッキー殿!」

上条「だぁぁぁぁぁぁぁぁかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁらあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

ハマッヅラ『あ、そうだトーマ!大事な事を言い忘れてたヅラ!』

上条「な、なんだよっ!?俺はもうおウチ帰りてぇんだよ!」

ハマッヅラ『この間テレビ見てたら”ノリの養殖”を”ロリの養殖”と聞き間違えたヅラ!』

上条「だからどーしたっ!?その話のどこが大事だっ!?」

ハマッヅラ『まな板に欲情するニッチな層もいるヅラ?』

上条「おっとボスの悪口はそこまでだ!じゃないと俺がハピネス注入され、ちま――」

バードウェイ「……」

上条「……違うんだ!これはきっと敵の魔術師の攻撃なんだよあばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばはばっ!?」

バードウェイ「人が、折角、加齢臭臭いオヤジを加齢臭臭い家へ送り届けて来てみたら!」

バードウェイ「言う事はそれだけかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!?」

上条「父さんにばばばばばばばばはば!?加齢臭臭いって連呼するのはばばばはばばばばは!やめばばばばばばばば!?」


――続かない

上条「俺が――プリキュアに!?」
上条「今夜、君の元へ」 ~Cry for the MOON~ - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1435022688/)

新スレへ移動して下さい

新章、大爆笑。
フェンリル……

佐天さん・レッサー・食鋒・フレンダ・バードウェイで、ブレザー戦士とかも良いかも。

みさきちはできれば単品に上条さんトッピングでお願いします

お前トー☆だろ絶対www

>『陽性の王国がピンチなんだヅラ!』

誤字じゃないよね、絶対。
もう、このメンバーに嵌りすぎてハマりすぎて―――腹痛い。

>>950
ああ、そう言えば上条さん(の声優さん)今やってるプリキュアになかなか美味しい立ち位置で出てたねえ

>>937
まぁアレは所詮ネタキャラですので……と、思います?

>>938
あの世界のシメとしても、「お兄ちゃんとして側に居てくれてありがとう」、ですね
ちなみに実妹という設定ですが、夢が続いたのであれば世間様から後ろ指も指される事なく平和に暮らしたでしょう

土御門さんは散々シスコン扱いされてますが、相手が舞夏さんだから、なので決して一般的なシスコンの枠には入らないような
つーか土御門家は本家・分家共に大勢でしょうから、リアル妹or従妹辺りから「おにいちゃん」と呼ばれてそうな気もします
(キュアシスターのネタを書いてる私が言うのもなんなんですが)

>>939
ありがとうございます。先週で決着、今週はエピローグ書いて終わりと相成ります
――というか、一年以上もやっていますので、どこかで区切りは付けなければいけません

>>940
今回のお話はきちんと構成立ててから書いた物ですので、きっちり入れてます
膨大な無駄話と雑談も、しないと伏線がバレッバレになってしまいますから苦労しました
そしてまたエピローグで回収する伏線もあったり

>>941
オチ要因として……まぁ今回のヒロインではないため、雑な扱いになっています

>>942
ありがとうございます。まさか気づいて頂ける方が居るとは思いませんでした
レッサーさん以下『新たなる光』の生き方がそれです

ただ故事と違う点は、彼女達は落ちてくる天を壊す方法を探した点にあります
(※勿論原作で彼女らがどういう経緯で結社を組んだのかは分かりませんが、
根本的な所は、「誰かがブリテンを良くするのを待つのではなく、私達がする」だと思います)

>>951
真面目な話、文化人類学に於いてフェンリルは結構重要な位置を占めています
神話の流れ的にアルテミスの猟犬(兼リュカオンなど人狼の系譜)が、
10世紀になり北欧神話へ組み込まれると、世界を終わらせる力を持つに至る流れに変化したと
先人が人口増加と共に生活範囲を広げる過程で、狼を含む獣達とテリトリーが被り、共存出来なかったのを示しています

これはインカ・アステカのテスカトリポカ等、『太陽を呑み込む終末の獣』と一致し、似たような概念と思想が洋の東西、
また赤道を挟んで両側に存在したのはとても興味深いですが

>>952
たまには超電磁砲第二期に出たのに、薄い本で殆ど触れられない方の薄い胸の幸も薄い金髪さんを思い出して上げて下さい
書く労力、というかこなれてないからエミュレートするの大変で。大体コスト(※書くのに必要な時間)的に換算するとこんな感じ

上条(1)、佐天(1)、アックア(1)、一方(2)、麦野(2)、フロリス(2)、食蜂(3)、ローラ(6)

>>953
若い内はよくある事で、「地球の重力とたゆんたゆんに魂を引かれるのはしょうがないもの」とシャアさんも仰っていますし
大体こんな主旨だったような?

>>954
純粋な誤字です。つーか三分で考えて十分で書いたSSなので、読み返してすらいません

>>955
確かに。濃いお友達から「チン×もげろ」と大合唱される光景が目に浮かびますねっ



――『ハピレスチャージプリキュア 第一話 ”誕生!キュアスター!?”』

――放課後

上条「あー疲れた、つーか疲れた」

青ピ「おつかれーカミやん……ってエライ憔悴しとるやん」

上条「……あぁうん、そのね、妖精の国がね」

青ピ「ごめんなカミやん?その馬鹿ワードにボクはどっからツッコんだええのか分からしまへん」

上条「……うん、気にしないでな。色々気苦労が重なっただけだから」

PiPiPi、PiPiPi……

上条「ケータイ?しかも非通知だ?」

青ピ「放っといたらエエんちゃう?なんやまたトラブルに巻き込まれるだけやで」

上条「いやぁ……そうなんだけど。でも一応――もしもし?」 ピッ

ハマッヅラ「あ、お疲れ様で御座います。浜面で御座います」

上条「普通に喋れんの!?つーか携帯で呼び出し!?」

青ピ「ほらやっぱり」

上条「ウルセェよ!つーか俺だって何となくは予想してたもん!」

青ピ「もんて」

ハマッヅラ「助けて欲しいヅラ!ピンチなんだヅラトーマ!」

上条「いやうん、主旨は分かった。分かったんだけどさ」

ハマッヅラ「ありがとうヅラトーマ!頼りになるヅラトーマ!」

上条「その、お前の語尾の直後に俺の名前が入ると、まるで俺がヅラだって言われてる気がしてイラっとするんだが」

上条「故意じゃないよね?偶然だよね?なんかこう、不自然に連呼してっけど」

ハマッヅラ「当然ヅラ・トーマ!」

上条「意図的じゃねぇか!?ネオ・ジオングみたいに言うなや!つーかもっと悪化してるし、人にモノを頼む態度じゃねぇからな!」

ハマッヅラ「そんな事よりもピンチなんだヅラ!助けて欲しいヅラ!」

上条「……何?どうしたの?むしろ助けて欲しいのは俺の方なんだけど」

上条「教えてもないアドレスへ得体の知れない着信が来るのって、そういう映画あったもんね?あーコワイコワイ」

ハマッヅラ「いいから来るヅラ!来ないと魔法の国が大変なんだヅラ!」

上条「ていうかお前、前回ツッコまなかったけど、妖精の国と魔法の国で、設定がブレッブレだよな?どっちかに決めろよ」

上条「どっちもファンシーっちゃファンシーだけど、設定ぐらいは守っていこう、な?」

上条「あと>>954は純粋に誤字だよ!三秒で思い付いて三十分で書いたSSにそんな伏線入れるか!」

上条「ある意味妖精モドキがいるのは陽性の国で合ってるが!」

ハマッヅラ「とにかく!メールで場所を送っといたヅラ!」 ピッ

上条「……切りやがったよ。どうすっかなー……」

上条「あ、そうだ青ピ!お前も一緒に――って居ねーし!?逃げやがったな!」

上条「キュアシスターコンプレックス土御門さんも……居ないと」

上条「他に誰が……」

学年主任「……」

上条「……」

学年主任「被ってない。これはちょっと額が広いだけなんだよ」

上条「オイ今の誰だ?」

――空き地

ハマッヅラ「遅いヅラ・トーマ!」

上条「その悪意のある呼び方止めろ。つーか来てやったんだから必要最低限の敬意を持ちやがれ」

上条「てかここどこだ?学園都市にドラえもんで出てきそうな空き地なんてあったのか?」

上条「PSPの『空き地のカミキリムシ』シナリオでも思ったけどさ、そんなに空き地ってあるか……?」

ハマッヅラ「話の展開ヅラ!仕方がないヅラよ!」

上条「まぁツッコんだら負けそうな気もするし――で、何?今日はどんなBAKAエピソードが起きんの?」

ハマッヅラ「待つヅラ!まだメンバーが揃ってないヅラ!」

上条「メンバー?学園長また来んのか?」

ハマヅラ「キュアスターは出オチヅラから、もう来ないヅラよ」

上条「出オチって言うなや!つーか選んだのお前だろ!?」

ハマッヅラ「キュアシスターとキュアキャプテンもなかった事になるヅラ。大人の事情ヅラ」

ハマッヅラ「言ってみればGディフェンサーが最初のサポートメカとして扱われるの一緒ヅラね」

上条「謝って!気がついたらGジェネから消えたGアーマーに謝って!」

上条「もしかしたらGファルコンDXみたいに合体後だけの機体で出るかもしんないじゃんっ!」

上条「……ん?そうすっと残ってるのって――」

ハマッヅラ「キュアウルフ待ちヅラ」

上条「フェンリルヒマだった!?」

ハマッヅラ「ドヤ顔でオリアナと絡んだ割には、ミサイル奪取失敗してるヅラ」

ハマッヅラ「つーかトールにボコられる前、『こいつなんで居んの?作戦失敗しやがったのに態度デカくね?』的なヅラ」

上条「やめてあげて!『これで俺達が一番乗りだ(ドヤァ)』っつった時に爆笑しそうになった人も居るんだからっ!」

ハマッヅラ「ま、そんな訳でキュア噛ませ犬は先に現場へ行って貰ってるヅラよ」

上条「今さっき『メンバーが揃ってないから待つ』のに、『先に行ってる』はどう考えても矛盾……」

上条「てゆーか名称違くね?そんな名前じゃなかったよね?」

ハマッヅラ「なんせグレムリンはもうないヅラから!本人も乗り気だったヅラ!」

上条「……それでいいのかフェンリル」

ハマッヅラ「で、トーマには予め話しておきたい事があるヅラ。つーかこないだ途中で帰っちゃったヅラし」

上条「あのカオスの中で居残ろうとする方がおかしいと思うが……」

ハマッヅラ「ハマッヅラ達がなんのために戦うか、説明しなかったヅラね?」

上条「妖精の国を救う、だっけ?それとも魔法の国か?」

ハマッヅラ「……この世界は狙われてるんヅラ!」

上条「先週と言ってること違くねぇかな?いつもいつも佐天さんへ言ってるけど、設定決めたら守ろう?なぁ?」

ハマッヅラ「――時にキュアラッキー!最近不思議な事件を体験してないヅラ?」

上条「うん?……あぁ言われてみれば確かに。これとか」

ハマッヅラ「ハマッヅラを指さすのは良くないヅラ。つーかこんなファンシー動物捕まえてなんて事をするヅラ?」

上条「お前ちいさいおっさん的なUMAの類だと思うが……特に無いなぁ」

ハマッヅラ「連日連夜取り上げていた事件が、パタッと取り上げなくなったりはしないヅラ?」

上条「おいテメー、今度はどんな虎の尾を踏みに行くつもりか言ってみろ!」

ハマッヅラ「キリスト教系米国在住の日本国”籍”男性医師が犯人だと分かった瞬間、どうして報道がシャットアウトされたヅラ?」

ハマッヅラ「ていうか日本人なら普通に『日本人男性~』なのに、何故『日本”国籍”の男性~』って言い方をするニカ?」

上条「――よ、よーし!今日もキュアラッキー頑張るぞおぉぉっ!フィクションだから!この世界を守るために頑張るからっ!」

上条「バカの語尾が変わったのにもツッコまないぞ!俺は何の事か分からないんだからな!」

ハマッヅラ「その意気ヅラっキュアラッキースケベ!」

上条「だから人にオプション付けんなや、なぁ?スケベって単語一つでラッキーも台無しだよ!台無し!」

ハマッヅラ「そうヅラねー……例えば、最近誰か知り合いが急に怒りっぽくなったり、攻撃的になったりしてないヅラ?」

上条「あーあるある――って知り合いじゃないけど、キュア関係の導入ってそんな感じだよなー」

上条「アレだろ?それが悪い奴らの仕業だから、なんとかしろー、的な感じか」

ハマッヅラ「中二病ヅラね」

上条「間違ってない!間違ってねぇけどよ!こう、もっと別の言い方あるじゃん!?」

上条「確かにそんな時期は誰にでもあるが!もっと、こう、なんだろ!気を遣って上げてよ!」

ハマッヅラ「それを何とかするのがハピレスチャージプリキュアヅラ!」

上条「……あぁ正式名称決まったんだ。つーかハピレスって『幸福以下』だから、あんま良い意味ねーぞ」

ハマッヅラ「まぁ中二病で困ってる子供達に、ラッキースケベがハピレスを注入するヅラ!」

上条「キュア付けろや。ラッキースケベって現象であって個人名じゃねぇんだからな!?」

上条「あー……うん。まぁやりたい事は分かったし、何となく方向性も見えては来たが……」

ハマッヅラ「よーし!それじゃキュアウルフと合流するヅラ!」

上条「……行きたくねぇ」

――学園都市某所のオープンカフェ

上条「――へ、来たものの」

上条「特に暴れたり、目立って悪さしてるような奴ぁ居ない、よなぁ……?」

フェンリル「おっす、お疲れ!」

上条「あー、はい、どうも。お疲れ」

ハマッヅラ「ホシはどうヅラか?」

フェンリル「……危険だぜ。完全にヤバい所まで来てる!」

ハマッヅラ「そうヅラか……なら、早くしないといけないヅラね!」

上条「待て待て。どこが、つーか何がヤバいんだよ?」

上条「俺が見た感じ、フツーにお茶してる連中しか居ねぇんだが……?」

フェンリル「……あれを見てみろ、キュアスケベ!」

上条「ラッキーは?そこを付けような?じゃないと俺の右手の出番になっちゃうゾっ☆」

上条「――ゾ☆?星?なんで今星が――」

食蜂『だからぁ、わたしは御坂さんに言ってあげたのよぉ」

食蜂『「野蛮力じゃ、オトコノコのハートはキャッチプリキュアできないん・だ・ゾ?」ってぇ』

縦ロール『流石です女王!御坂さんは殿方よりも女性に大人気ですものねっ!』

食蜂『そぉなのよねぇ。御坂さんももう少し落ち着けばいいのに……そうすれば』

食蜂『私のようなオトナの包容力が出るのに☆』

縦ロール『女王にかかれば殿方のハートを掴むのも造作ない事ですのね。流石ですっ!』

縦ロール『それで、その』

食蜂『なぁにぃ?』

縦ロール『女王は、ですね、やはり殿方とお付き合いされてた事がおありなんでしょうねっ!』

食蜂『え?』

縦ロール『えっ?』

食蜂『はァーーーーっ?はァーーーーーーーーっ!?』

縦ロール『……女王?』

食蜂『あ、ごめんなさいねぇ?今ちょっとゼブラの物真似に凝っててぇ』

縦ロール『グルメ四天王かと思いました!女王はステキですっ!』

食蜂『そ、それはいいとしてぇ……当然、でしょお?ほら、私みたいになると男の子が放置力してくれなくてぇ』

縦ロール『では今お付き合いされている方は……』

食蜂『え、ぇっとぉ、それはぁ――』

ハマッヅラ「分かったヅラ?」

上条「分かんねーよ、何一つとしてプリキュア介入する理由がねーよ」

上条「おっぱい大きいけど残念な子の食蜂さんが、色んなで意味で残念になってんのは否定出来ないけどな!」

上条「つーかボケがただ流れになってる……ッ!?ていうかボケが多すぎでどれからツッコめば良いのか分からないよ!」

ハマッヅラ「――そうヅラ!あれがまさにハマッヅラ達の敵ヅラ!」

上条「いやぁ……つーか別に暴れてないじゃん?攻撃的、って言う訳でもないしさ」

上条「まぁ会話の内容自体にアレかなー、と思わなくもねぇが、あのぐらいの歳だったら話盛っちまうも仕方がねーんじゃね?」

フェンリル「ハイジのバカっ!」 バシッ

上条「そげぶっ!?」 ゲフッ

フェンリル「お前っ、お前それでもプリキュアの一員なのかよ!?その程度の考えでプリキュアが勤まるとでも思ってんのかっ!?」

上条「なった憶えはねぇよ!つかお前なんでそんなにプリキュアに入れ込んでたよ!?」

上条「あと『ハイジのバカ』じゃなくて、言ったのはハイジだから『クララのバカ』が正しいんだよ!」

フェンリル「……確かに!初めは些細な嘘かも知れない、他愛のないお喋りから始まった、話を合わせる程度の嘘かも知れない」

フェンリル「だが!嘘は一回吐いちまうと、その嘘を隠すために嘘を吐かなきゃいけなくなるんだよ!」

フェンリル「そうしている間に、ドンドン嘘は大きくなっていく……!」

上条「や、否定はしねぇんだけど、それもうプリキュアの活動関係なくね?個人の問題だよね?」

フェンリル「俺は……俺は!そういう奴らを助けてやりたいためにプリキュアになったんだよ。俺みたいな奴になって欲しくなくて――」

フェンリル「――そう、『オオカミ少年』を産み出したくないんだ……っ!」

上条「え!?お前のフェンリルってそういう由来だったの!?」

上条「ていうかその台詞が正しいんだったら、お前仲間内からも嘘吐き呼ばわりされてるって話じゃねぇかよ!」

ハマッヅラ「……それ以上は言っちゃダメヅラ、トーマ」

上条「ハマッヅラ……」

ハマッヅラ「例えば……トールは雷神トールにちなんだ力を使っていたヅラよ」

ハマッヅラ「全能神トールとしての権能って何かなー、とワクワクしていたら、『相手に勝てる位置に移動』というフワッフワしたものだったヅラ……」

ハマッヅラ「『それ全能神関係なくね?』ってツッコミはしちゃいけないヅラ!」

上条「話、ズレてる」

桂「ズレてない桂だ!」

上条「おい今ノイズ入らなかったか?」

ハマッヅラ「他にもフレイヤやドヴェルグ、果てはロキみたいな神話を忠実に再現した幹部に混じって――」

ハマッヅラ「フェンリルはどうヅラ?つーかどんな魔術を使うのか知ってるヅラ?」

上条「知んないけどさ」

フェンリル「涎が川を作ったという伝説を利用して、龍脈や地脈のようななエネルギーを捻じ曲げて溝を造り」

フェンリル「任意の場所へ受け流す。逸らした際に、様々なものを飲み込ませて攻撃出来る……」

上条「おー、ちゃんとしてんじゃん」

ハマッヅラ「……どこかヅラ?」

上条「あぁ?」

ハマッヅラ「オオカミ要素皆無ヅラ!なんでヨダレ?つーかなんでそこ取り上げちゃったヅラ!?」

ハマッヅラ「つーかそれだけでフェンリル()名乗らせるんだったら、どんだけグレムリンは人材不足ヅラ!?」

上条「なぁお前、それ以上言うなとか言っといて、ボロックソに貶してねーかな?」

上条「何となく、お前の説明は擁護を装って真綿で首を絞めるような、俺の友達の弟のメル友の芸風に似てるんだが……?」

フェンリル「……大丈夫だ、キュアラッキー。俺はもう生まれ変わったんだ」

上条「その名で呼ぶな」

フェンリル「俺は悪の秘密結社、『グレムリン』の一員だった。その過去はどうやったって消せねぇ……」

上条「そこだけ聞くとダークヒーローの懺悔っぽいけど、要はお前ら世界レベルのテロリストだからな?」

フェンリル「そう言えばおかしいとは思ってたんだ……だって他のグレムリンのメンバーの本名誰も知らないし!」

上条「魔術結社だから当たり前じゃね?」

フェンリル「仲間なのに経験値とか言って直ぐ絡んでくる奴まで居るしさぁ!なんなんだよもう!?」

上条「おーいトール?お前行動一環してっげと、身内は大切にしてやれー?聞いているかー?」

フェンリル「……俺はもう俺の居場所を失うのが恐いんだ!だから――俺の生き様を見せてやる!」

上条「フェンリル……」

フェンリル「分かってくれたか!」

ハマッヅラ「いい話ヅラ……」

上条「ま、それはそれとして、あの残念な子にプリキュアが介入する理由って、結局なんなの?」

フェンリル「……」

ハマッヅラ「……」

上条「……」

フェンリル「――よし、新入り!お前はまだ経験が浅い!だから俺の仕事をよく見ておくんだ、いいな?」

上条「俺の質問に答えろよ!?何をするのかも不明だし、目的や行き先すらあやふやじゃねーか!?」

ハマッヅラ「大丈夫ヅラ!ここはキュアウルフを信じるヅラよ!」

フェンリル「……行って来る。とおっ!」 シュッ

上条「あぁ行ったよ……つーか何?変身しないの?」

ハマッヅラ「ここはAパートヅラ。取り敢えずは様子を探るヅラね」

上条「あぁあるなぁ」

ハマッヅラ「『どうせ話の展開上、絶対感染してんだから最初からプリキュアモードで殲滅すれば?』とか言っちゃダメヅラね?」

上条「まさにそのダメなのを言ってるのがお前だな?」

フェンリル『あの、すいませんお嬢さん?』

上条「つってる間にフェンリル突っかけたな。その度胸はスゲーが」

ハマッヅラ「外見はウルフカットの青年ヅラし、それなりに好印象ヅラよ」

上条「てか俺達のする事ってナンパなのか?だったら別に俺居なくてもいいんじゃ?」

ハマッヅラ「広義で言えば本家の活動も『因縁付けて半殺し』ヅラし、その意味では同じヅラね」

上条「やめて。本家さんにまで迷惑かけるのだけはやめてあげて!」

ハマッヅラ「――しっ!フェンリルが仕掛けるヅラ!」

上条「お、おう!」

フェンリル『――俺に首輪を付けて飼って下さいっ!!!』

上条「いきなりドMをカミングアウトしやがった!?」

ハマッヅラ「……いけないヅラ!まさかフェンリルの魔術属性がここで足を引っ張るとは……!」

上条「なんでもかんでも魔術のせいにするんじゃねーよ、あ?」

上条「少なくと神話のフェンリルさんは自ら捕われに行かなかったよ。立派なオオカミだったよ」

食蜂・縦ロール『……』

上条「そりゃドン引きだな!つーかリアクションがし難ぇしさ!」

フェンリル『散歩だけでもいい――全裸が好みなら、俺は甘んじて受け入れよう!』

上条「甘んじた方がハードル上がってねぇかな?」

フェンリル『だから――だから!』

食蜂 ピッ

フェンリル『イラッシャイマセー』

上条「……うん、まぁ、そうなるよね。なんでイラッシャイマセーなのかは分からないけど」

フェンリル『イラッシャイマセー、イラッシャイマセー』

食蜂『あっち行って、ねぇ?』

フェンリル『イラッシャイマセー』

ハマッヅラ「互いに互いの言葉を押し付けているだけヅラ、これは会話ではなかったヅラ……!」

上条「俺には何の事が分からないけど、本当に何を言ってるのか分からないが、これもうEx-iTだよね?」

ハマッヅラ「ナイス噛ませ犬ヅラ!」 グッ

上条「犬的な運命は変えられなかった!むしろ進んで受け入れたように見えたが!」

ハマッヅラ「――さぁ、場が温まった所でトーマの出番ヅラ!」

上条「そうかな?俺の目には食蜂さんとお友達が警戒色を浮かべながらこっちを見てるように見えるんだが……」

ハマッヅラ「大丈夫ヅラ!今トーマにハイパージャマーが働いているヅラ!」

上条「あ、その設定生きてたんだ?つーか変身してねぇぞ俺」

ハマッヅラ「正体不明のぬいぐるみと会話してる時点で、周りの人は居ないものとして扱ってくれるヅラよ!」

上条「そうだったよな!つーか確かに見て見ぬフリをしよう的な所あるけどさ!」

ハマッヅラ「心配いらないヅラよ。ハマッヅラがフォローするからトーマは指示に従えば良いだけヅラ!」

上条「指示て……あぁコンパクトで連絡取る、みたいなの?」

ハマッヅラ「けーたいヅラ?トーマは魔法みたいな事をヅラね!」

上条「お前と、お前らの存在全否定だな……あぁイヤホンマイクつけんのな」

ハマッヅラ「さぁ行くヅラ!フェンリルの意志を無駄しないためにも!」

上条「むしろアイツは自滅しに行ったようにしか見えなかったが……」 スッ

上条「――あー、はい、こんにちは」

縦ロール「申し訳ないのですが、お誘いでしたらお断りを――」

食蜂「上条さぁんっ☆」

縦ロール「あ、あら……?お二人はお知り合いでしたのですか、女王?」

上条「まぁ顔見知り程度――うん?」 ギュッ

食蜂「……他の子には言っちゃダ・メ・ダ・ゾっ☆」

上条「いや君、何言って――」

縦ロール「分かりましたわっ!……ってどちらへ?」

食蜂「大事なお話よぉ――と、今日は失礼するわねぇ」

縦ロール「はいっ!お部屋でお待ちしておりますわっ女王!」

上条「――って引っ張――」

――路地裏

食蜂「やだぁ上条さん……路地裏へ連れ込んで、何するつ・も・り?」

食蜂「か弱い私を連れ込んで――まさかっ!?」

上条「食蜂さん前から言おうと思ってたんだけど、会う度にユルくなってるよね?主に頭が?」

上条「ていうか君、俺の知り合いの可愛いけど残念な子とエロくて残念な子と話が合うと思うよ?残念繋がりで」

食蜂「あー、でも助かったわぁ。あの子、良い子なんだけど信仰心が強いっていうかぁ?」

上条「てか話盛るのも勝手だが、程々にしとけ。友達がどうこう以前に、後から後悔すんのはお前だからな?」

食蜂「……はぁーい。上条さんったり、折角二人っきりなのに、イ・ケ・ズ☆」

上条「うん、君これっぽっちも反省してないし、そもそも人の話を聞いてないもんね?」

食蜂「それでぇ?」

上条「うん?」

食蜂「私に何かご御用力だったのかしら?それとも御坂さん関係?」

上条「実は今、プ――」

上条「……」

上条「――なんて、言えるかっ!?イタイにも程があるし!」

食蜂「どぉしたのぉ?」

上条「あーっとな、なんつったらいいのか――」

ハマッヅラ『スケベ、スケベっ!聞こえるヅラか?』

上条「(キュアは付けようか?取り敢えずもうキュアスケベ呼ばわりでもいいけど、ただの悪口に比べれば)」

ハマッヅラ『大体ハマッヅラの考え通りに進んでいるヅラ!流石ワンテンポ溜めた甲斐はあったヅラ』

上条「(あぁうんそうなんだ……それで?俺はこっからどうすればいいの?)」

ハマッヅラ『まず肩を軽く抱くヅラ』

上条「お、おうっ」

食蜂「きゃあっ☆」

ハマッヅラ『次に左手で頭を撫でながら、右手で相手のあごを軽く上へ向けさせるヅラ』

上条「こ、こうか?」

食蜂「……やぁんっ☆」

ハマッヅラ『後はしっぽりと、な?』 ニヤリッ

上条「――ってお前これキスする五秒前じゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇヵっ!?」

上条「つーかシモ!?散々引っ張ってきてテメェの目的は下ネタなのっ!?」

ハマッヅラ『や、だから最初に少子高齢化で大変だって言ってるヅラよ?』

上条「嘘吐くなよ!?口から何となく出ただけのクセしやがって!?」

ハマッヅラ『報道規制って騒いでるヤツは、ブラックドラゴンの事件には何を言ってたヅラ?』

上条「マジやめとけ、な?それを書いたら終わりなんだからなっ!」

食蜂「上条さぁん……ま・だ?」

上条「お前も拒否れよ!?つーかさっきから格好が格好だからたゆんたゆんが俺の胸に当たってたゆんたゆんだよっ!?」

ハマッヅラ『――今ヅラ!キュアラッキー!必殺技を使うヅラ!』

上条「……あんの、必殺技?」

ハマッヅラ『あるヅラ、その名も”キュアドリル”――ッ!!!』

上条「待てやコラ?最後の最後で最悪の下ネタ振ってやがった度胸は認めるけどな!」

上条「ドリルってどういう事?股間に的な意味なの?バカなの?」

ハマッヅラ『背後から12歳児へ突きつけた実績もあるヅラ!』

上条「あれは本物な?ていうかお前の言う通りだったら、俺は別の意味で主役降ろされてるよ!絶対にだ!」

ハマッヅラ『さぁ覚悟を決めるヅラ!』

上条「いや、だからな――』

食蜂「……上条さんが、こんな、こんなにっ情熱的だなんて知らなかった☆」

上条「ヤベぇ!?なんかルート確定してエロシーン入る直前のヒロインみてーな事言い出したぞ!?」

食蜂「私も前から――好き、な・ん・だ・ゾ☆」

上条「お前はちったぁ疑えよおおおおおおおおおおおおおおォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォっ!!!?」

――翌日の放課後 空き地

上条「……」

ハマッヅラ「昨日はお楽しみでしたヅラね」

上条「楽しんでねーよ!あの後タイミング良く通りかかったビリビリに見つかってビリビリされたんだからねっ!」

ハマッヅラ「キュアラッキーはそういう能力ヅラね、ラッキースケベは起きるんだけど、最後までは中々行かないヅラ」

ハマッヅラ「まるでティーン向けのラノベのような展開を見せるヅラよ!笑っちゃうヅラ!」

上条「俺の日常DISってんじゃねぇぞコラ」

上条「……つーかお前らなんなの?何がしたいのか分っかんねぇつーかさ」

上条「昨日の……ほら、必殺技とかもあるじゃん?」

ハマッヅラ「ピュアドリルヅラね?」

上条「キュアドリルな?ピュアだと、こう、なんつーかさ!未使用品みたいな響きがするんだからキュアでいいじゃない!」

上条「なんであれが必殺技なんだよ。意味が分からん」

ハマッヅラ「社会的に必殺ヅラ!」

上条「人生の墓場的な意味かっ!?……いや、どちらにしろJCへ手ぇ出したら詰むけどな!」

ハマッヅラ「そんな事よりも今日は新しいプリキュアが登場するヅラ!」

上条「レギュラーの入れ替わり激しいなオイ。実際ほほ全員ゲスト扱いじゃねぇか」

ハマッヅラ「来るヅラ!二代目キュア・スター!」

上条「また学園長呼びやがったのか!?……あん?二代目?」

???「輝く光は☆の光、輝き穢す悪い子は――」

???「――最近薄い本で引っ張りだこ――とうっ!」 シュッ

上条「薄い本……?」

食蜂(キュアスター二代目)「――キュアスター、見・参っ!」 ドヤァッ

上条「出やがったな残念な子その三!?」

食蜂「今日からヨロシクねぇ☆」

ハマッヅラ「皆で仲良くするヅラ!」

上条「ごめん。俺、今日でプリキュアやめるわ」

~エンディングロール~

○キャスト
キュアスケベ――上条さん
キュアスター(二代目)――みさきっつぁん
キュアウルフ――殉職

キュアスター(初代)――引退
キュアキャプテン――行方不明

小さいチンピラ――浜面


ハマッヅラ、ハマッヅラ♪

上条「プリッキュアみてーに言うなや。つーか妖精が浜面である必然性も無いしキャラも違ぇし!」

上条「ていうか続かないよ!もう終わるんだからねっ!」


――『ハピレスチャージプリキュア 第一話 ”誕生!キュアスター!?”』 -終-



――『ハピレスチャージプリキュア 第二話 ”新たな仲間!キュアペアー!”』

――通学路

佐天「『――プリキュア、プリンセスエンゲージ!』」

上条「……」

佐天「キラキラキラ……ッ!じゃーーーーーーーじゃん!」

上条「……」

佐天「――変・身!キュアフローラ!」

佐天「『冷たい檻に閉ざされた夢、返していただきますわ! お覚悟は、よろしくて?』」

上条「……」

佐天「……えっと……」

上条「……」

佐天「……あのー上条さん?そろそろツッコんでくれないとボケがただ流れになるって言いますか」

上条「佐天さん分からないかな?さっきから俺が『他人なんです!』って知らんぷり決め込もうとしてんの気づかないかな?」

上条「見てみホラ、通行人の大半が引いてるよ?もしくは『あ、キュアローラだ!』って心の中でガッツしながら引いてる演技しているからね?」

上条「みんな『眠ぃなー。かったりぃなー』ってテンション下がってんのに、どうして君はいつもクライマックスなの?」

佐天「どうしてって……え、だって上条さんか募集してましたよね?」

上条「募集?俺が?」

佐天「ええはい、昨日学園都市裏サイトを見ていたら、『プリキュア募集しています!アットホームな職場で楽しいですよね!』と!」

佐天「『資格は”強さ!優しさ!そして美しさ!”お問い合わせはKM条T麻まで!』」

上条「やだイニシャルの意味ないじゃない。ていうか募集要項フワッフワしてやがんな!」

佐天「なのでどうでしょうかっ!あたしもプリキュアごっこで遊びたいです!」

上条「ゴッコ言うなや!中にはマジでやってる小さい子だって居るんだから!」

上条「ついこないだ地方のニュース、”七夕を短冊に吊る園児達”をぼーっと見てたら」

上条「願い事の中に『おおきくなったぷりきゆあになりたいです(※原文ママ・実話)』ってホントにあったんだぞ!」

佐天「でも実際に見たいのは小さいプリキュアであって、大きすぎるとついたアダ名が”キュアババ×”だって噂が」

上条「そのお友達はねー、高校生ぐらいだともうダメ!みたいな風潮はよくないと思うんだよ、うん」

佐天「てな訳であたしならホラぴったり中学生!みんな大好きJCですよっ!」

上条「佐天さんここ通学路!俺は毎日に通ってるから言葉には注意してくれよなっ!もう遅いだろうけど!」

佐天「なのであたしと初春っ二人でプリキュア!どうですかっ?」

上条「初春さんを巻き込まないであげて!あの子は人の子(※真っ当な子)だぞ!」

上条「……あぁうん、なんだ。期待持たせて悪いんだが、その求人票書いたの俺じゃなくてだな」

上条「身に憶えはないし、多分イタズラだと思うんだよ。陽性の国から来やがった野郎の」

佐天「え、ですけどKM条T麻の次に、括弧付きで”釣った魚に餌を与えないタイプ”って書いてありましたけど?」

上条「ますます身に憶えはないなっ!あぁ全く身に憶えなんてないともっ!」

佐天「――あ、すいませんっ!あたしちょっと用事があるんでここで失礼しますよっ!」

上条「聞けよ人の話を!俺がそのKM条T麻さんと別人だって納得してから帰れよっ!」

佐天「あ、後ケーブルテレビで夏の特番やるかもですから、スケジュール空けてて……あ、すいません、なんでもないです、はいっ」

上条「佐天さんキミ気を遣うポイント間違えてるよね?先様の予定あるなしに関係なくアポ入れるのが礼儀じゃないかな?」

佐天「ではまた今度ー、初春のパンツらを確認するお仕事が待っていますので!」

上条「ごめん佐天さん?やっぱ俺送って行こうか?最近学園都市では小さいオッサンっていうUMAが目撃情報もあって危険だしさ?」

上条「決して!決して一部で都市伝説になってる”ラッキーパンツ”を拝みたいとか!そういうゲスな考えは持ってないよ!潔白だし!」

上条「だから、だから――」

――放課後 学校の屋上

上条「……」 ピッ

Trrrrrrr、Trrrrrrrrrr……

ハマッヅラ『はい、もしもし浜面で御座います』

上条「キャラ作んの忘れてんぞ」

ハマッヅラ『その声はトーマヅラね。何かあったヅラか?』

上条「……あのさぁ、良い機会だから言っとくけどさ。つーかあんま言いたくないんだけども」

上条「フィクションでこういうシーンってあるよね。誰かからケータイかけてーの、『もしもし?お前誰よ?』みたいなの?」

上条「でもさ、それって着信した時に気づくよね?こう登録してあったり、番号非通知でかけてなければ?」

上条「ていう事はテメー俺の番号登録してねーだろ?あぁ?」

ハマッヅラ『――ちょっとごめんヅラ。電波が――遠くてよく聞こえないヅラ』

上条「誤魔化すにしてももっと手段あるだろ。学園都市で『携帯電話が使えない=ジャミング=面倒臭い』だ!」

ハマッヅラ『あー、やっぱり遠いヅラね。今ちょっとそっち行くから呼んでほしいヅラ』

上条「呼ぶって?どっかで落ち合おうって事か?」

ハマッヅラ『大丈夫ヅラ!ハマッヅラは妖精ヅラからそんなアナログな事はしないヅラ!』

上条「空飛んでくる?……あ、でも羽根は生えてないんだっけ。どうやって」

ハマッヅラ『お茶漬けサラサラヅラ!』

上条「”お茶の子さいさい”な?サラサラしてて夏場には食べやすそうだけどもだ」

上条「ていうかハマッヅラ、全体的に昭和だよね?中の人がオッサンでハマえもんを彷彿とさせるって言うか」

ハマッヅラ『古き良き時代ヅラ――って言う割には、最新のアニメを見てる層はどう思うヅラ?」

上条「俺達だな?記憶失う前の俺は確か、結構詳しかった気が……まぁいいや」

上条「つーか魔法?第三回目にしてようやっと魔法的な何か登場するの?」

ハマッヅラ「凄いヅラよ?Too-Tooファンシーヅラ!」

上条「お前その慣用句、『TOO二つ重なってるから”超々ものっそい!”って意味だと思ってんだろうが、下らないとか凄くつまらないって形容・副詞だから注意しろ?」

ハマッヅラ『さぁっトーマ!”ハマッヅラハマッヅラおいで下さい!”って唱えるヅラよ!』

上条「いいけどさ……『ハマッヅラハマッヅラおいで下さい』」

デデデド、デデデド、デデデド、デデデド……

上条「……なにこの曲?」

ハマッヅラ「『――汝が後に……!』」

上条「ジョーカ○様!?ってか俺の後ろへ瞬間移動って夢がねぇな!?」

上条「カテゴリー的には都市伝説だしお前やっぱりUMAじゃねぇかよ!」

ハマッヅラ「『望みを言うが良い!貴様もプリキュアにしてやろうか!』」

上条「聖飢魔○みたいに言ってんじゃねぇよ!しかもファンからすればどっちもご褒美だからな!」

ハマッヅラ「どうヅラ!妖精パワーでテレポーテーションしたヅラね!」

上条「やってるトコは怪人だよね?ファンシーな要素どっか行ってるもんな?いつ帰ってくるの?」

ハマッヅラ「プリキュアになれる所はファンシーヅラ!」

上条「なった結果がキュアラッキーだよ!ラッキー要素も一個もないし!」

ハマッヅラ「というかプリキュアに出演おめでとうヅラ!」

上条「俺じゃねーけど、まぁ……ありが、とう?」

上条「てか何の役?学生さん以外には情報入ってないんだけど」

ハマッヅラ「トーマはプリキュア見ない派ヅラか?」

上条「大体そうじゃねぇ、かな?あんま強くは言わないけども、俺達の年頃はそんなに見ないと思う」

ハマッヅラ「あぁじゃあ簡単に言えばオイシイ役ヅラ。主人公の女の子の学校の先輩役ヅラね」

上条「先輩……俺も可愛い後輩の子欲しいけど……」

ハマッヅラ「割と素に戻ってツッコムヅラが、その台詞余所で吐いたら1万弱の可愛い後輩が出来るから、注意した方がいいヅラ」

上条「え、なんだって?」

ハマッヅラ「――と、お約束も出たヅラし、ともあれテニス部の先輩で、主人公の子を前から知ってるって公式HPに書いてあったヅラ!」

上条「あー……なんか、うん、なんかなぁ?」

ハマッヅラ「ちなみにテニスを○ニスって書くとちょっと卑猥ヅラね?」

上条「ちなんでないよ?お前今、男友達だけンときしか言わないようなサイッテーなシモネタ言ってっからな!」

ハマッヅラ「何度も言うヅラが、ポジ的には『憧れの先輩枠』ヅラでオイシイヅラ」

上条「あぁまぁ否定はしねぇけどもだ。それってあれだよな?大きいお友達からは実況辺りで[ピーーー][ピーーー]連呼される立場じゃね?」

ハマッヅラ「そういう意味でオイシイヅラ!」 グッ!

上条「オイシイの意味が違うよ!?だってそれ芸人枠のオイシイだもの!」

ハマッヅラ「かといって本来のターゲット層である女児からは『だれ?』的にスルーされるから、商品化なんてされないヅラね!」

上条「いい加減にしろCV日野。調べたらお前の中の人(※予定)も敵幹部で出てるからな!」

上条「「キャラ的にマシュマ○ポジだから後半ヒッドい事になるかも知れないしなっ!

ハマッヅラ「あれはあれでオイシイとは思うヅラが……大人の都合で後半はストーリーが暗すぎるまでに変わってるヅラし……」

ハマッヅラ「『『見せてやろうじゃないの!大人たちにさ!』と言ってる割には、最終的に振り回されるだけ振り回されて終わったヅラ」

ハマッヅラ「……そもそも木星へ旅立ったジュド○がクロボンん時に独身ぽいヅラし、外伝ではル○と別れた的な台詞もあるヅラ……」

ハマッヅラ「……何かテンション下がってきたヅラ……死にたいヅラ……」

上条「――で、今回のプリキュアはどんな設定なのかなっ!?楽しみだーーーーなっ!なっ!?」

上条「折角プリキュアになったんだから!こう、それっぽい動機があるんですよねっ!」

ハマッヅラ「……ヒロインは、あー……言っちゃっていいのヅラか?」

上条「……何?何か言い辛い事があるのかよ。朝の番組なのに」

ハマッヅラ「なんかこう、プリンセスになりたかったヅラ」

上条「あー……はいはい。佐天さん、朝やってのはそれか!」

上条「……いやでもプリンセス?具体的にはどんな?」

ハマッヅラ「だからプリキュアになったヅラ!」

上条「そんなフワッフワとした動機だけで!?ていうかプリンセスになろうとしたらプリキュアになんの!?」

上条「……待て待て、落ち着け俺もお前も。多分混乱してる、きっと混乱してるから」

上条「昔々――か、どうかは知らないけども、確か黎明期の魔法少女、つーか魔女っ子?ってそういう設定多かったんだよな?」

上条「『魔法の国のお姫様が、人間界へ勉強に来ていて――』的な感じでさ」

上条「だからきっと!その女の子にも裏設定があって!実は魔法だか妖精の国の子孫みたいな感じだ!」

上条「そう考えるとプリンセスもありえる、よなっ!うんっ!」

ハマッヅラ「まさにパパさんが悪い遊びをして陽性の国ヅラねっ!」

上条「ウルセェよ!だからあれは純粋な誤字だよ!」

ハマッヅラ「ちなみに二人目のプリキュアは『生徒を守りたい』から、プリキュアになったヅラからその理論は破綻しているヅラ」

上条「関係なくない?それだったらプリンセス要素入ってないよね?」

上条「一般人には警察権はないからな?あ、警備員さんを筆頭に緊急時の逮捕権はあるけど」

上条「あんま言いたくないけど、この地球上でプリンセスになりたいんだったらすべき事は『既成事実』だよね?」

ハマッヅラ「駄目ヅラトーマ!そんな、そんな暴言は許されないヅラよ!」

上条「お、おう。ゴメンナサイ……?」

ハマッヅラ「ギリシャは67年まで王家と民主主義が共存してたヅラけど、軍人がクーデター起こして王家を廃止」

ハマッヅラ「数年でポシャッて民主主義へ戻ったようだけど、その後たった40年でデフォルトするヅラし」

ハマッヅラ「『ギリシャ人に民主主義は早かったんだ』なんて、酷い事をよくも言えるヅラねっ!?」

上条「お前な?国際問題レベルの暴言吐いているのは、お・ま・え・な・ん・だ・ゾ☆」

ハマッヅラ「と、言う訳でトーマ!ハマッヅラたちも新メンバーを集めるヅラ!」

上条「……あぁうん。朝もツッコんだけど、募集要項が『強さ優しさ美しさ』はマジ話だったのね……」

上条「つかテメー、なに人の名前使って募集かけてんだ?あ?」

ハマッヅラ「仕方がないヅラ!ハピレスプリキュアは第二話にして人員が足りないヅラよ!」

上条「キュア先輩のパシリとキュア理事長とキュアロン毛は仕方がないとしても、居ただろ一応レギュラー。孤高のキュアウルフさんが」

ハマッヅラ「ウルフは、その……失踪したヅラ」

上条「失踪!?……あ、別に意外でも何でもなかった。むしろそんな感じはしてた」

ハマッヅラ「最後の言葉が『コンビニへチーズ買いに行って来るわ』だったヅラ……」

上条「それLIN○辺りで流すショートメッセージじゃね?死亡フラグって訳じゃねーしさ」

ハマッヅラ「あれはヅラ……まぁ無名時代に散々お世話になっておきながらライツを貸し渋った結果、最終的に会社自体がポシャるという最悪の結末(※実話です)に……」

上条「業界の暗い話はやめてあげて!?消費者には夢だけお届けするモンでしょーが!」

ハマッヅラ「トーマは良い事言ったヅラね――まぁそんな感じで今回の企画は、新しいプリキュアメンバーを探すヅラよ!」

上条「企画言うなや……あれ?前回二代目キュア☆さん誕生しなかったっけ?一話ごとにリセットされてんの?」

ハマッヅラ「ミサキは友達と海に行くんでお休みヅラ。なんでも『シーズン中にもう一回約束を』とか言ってたヅラ」

上条「……へー。そうなの?」 ソワソワ

ハマッヅラ「何で分かりやすくソワソワしてるヅラか?」

上条「いや全然全然?気のせいじゃないかな、きっと?」

ハマッヅラ「まるでミサキのエロいバァァァディ(※巻き舌)を見たかったような反応ヅラね」

上条「察してるんだったら黙ってて欲しかったかなっ!否定はしないけどもだ!」

ハマッヅラ「なんだったら陽性の国に伝わる秘密のアイテムで二人の仲を取り持ってあげるヅラ?」

上条「遠慮する。どうせアイテムじゃなくて『アイテム』なんでしょう?俺が悲惨な目に遭うの分かってるもの」

上条「あと『妖精』な?妖精要素欠片もないけど、つーか某梨の妖精さんと同じイロモノ枠だったら納得出来るけど」

ハマッヅラ「……チッ」

上条「あれあれー?ファンシーキャラ(自称)が舌打ちしているぞー?」

ハマッヅラ「……」

上条「……どしたん?言いすぎた?」

ハマッヅラ「あ、いやいやそうじゃないヅラ。そういうんじゃないヅラね。そうじゃなくてヅラ」

ハマッヅラ「――ミサキのお友達は可愛かったヅラね、と」

上条「………………へー、ふーん?」

ハマッヅラ「手持ちの資料によると、片方は天然系無防備の可愛らしい女の子らしいヅラよ」

上条「……んー」

ハマッヅラ「そしてもう一人は黒髪ツインテダウナー系ナースさんヅラ!」

上条「属性盛り過ぎじゃね?」

ハマッヅラ「しかも能力の仕様上、『脱いだらスゴイんです!』的な感じヅラ!」

上条「え、どういう意味?」

ハマッヅラ「液体金属を遠隔操作出来る能力ヅラが……大きさや形状を本人と似せた方がコントロールが容易になる――つまり!」

ハマッヅラ「――ある意味”プレイ”ヅラ……ッ!!!」

上条「ふーん……?そうなんだ?あぁ別に興味はないけど」

上条「興味はない、ないんだけども――」

ハマッヅラ「……夏、まだまだ始まったばかりヅラ……」

上条「……そっか!そうだよ……っ!俺達の夏は始まったばかりだよな!」

ハマッヅラ「さっさとネタを終らせて新しい出会いを探せばいいヅラ!」

上条「――俺達の熱い戦いはこれからだ……ッ!!!」


――『ハピレスプリキュア』 -完-

――屋上

ハマッヅラ「いや終らないヅラよ。何さっさと終らそうとしてるヅラか?」

上条「だから関わり合いになりたくねぇんだよ!第一回から多分言ってるけどな!」

ハマッヅラ「今から新しいプリキュアをスカウトしに行かないヅラ?」

上条「良し!落ち着けハマヅラ――じゃなかったハマッヅラ!お前はきっと熱でやられてるから!」

上条「常識的に考えてみようぜ?まずプリキュアって大体中学生だよな?」

ハマッヅラ「みんな大好きヅラね」

上条「一部の人だけ――とは、言えなくなってきてるけどな!JC好きを拗らせて教師になる性犯罪者だって結構居るし!」

上条「……つーかそれにもかかる話なんだが、こう想像してみてくれよ」

ハマッヅラ「『――戦争のない世界を――』」

上条「『イマジン』――ってバカ!そんな触りづらい話はしてねぇよ!」

ハマッヅラ「たった四人ですら仲良く出来なかったのにwwwwwwwwwwwww」

上条「おい止めろ!そのアルバムの収録曲、『How Do You Sleep?』の中でマッカートニーをボロックソに貶してるとか言うな!」

上条「ていうか全世界で億枚レコード売ったのに『所有を批判』って始めて聞いた時、どんなギャグかと耳を疑ったわ!」

ハマッヅラ「ていうかレノン、多分そこまで深く考えてなかった説があるヅラ」

ハマッヅラ「アルバム発売の前年にはカンボジアへアメリカ軍が進軍してるヅラし、『取り敢えず書いとけ』みたいなノリだったんじゃヅラ」

ハマッヅラ「ていうかイマジンの著作権料だけでどんだけ稼いでると思っ――」

上条「話を戻すが、想像してくれよ!俺がプリキュアを勧誘してる姿をだ!」

ハマッヅラ「問題あるヅラか?」

上条「いやだから、こう、街で歩いてる中学生辺りをターゲットにするわな?歴代年齢層からすると」

ハマッヅラ「テンプレは14歳の中二ヅラ」

上条「あー……声かけるの、例えばシミュレートしてみるか……」

上条「『あ、すいません。ちょっといいですか?』」

ハマッヅラ「『なんですか?今超忙しいんですけど、ナンパなら超お断りですよ』」

上条「なんか堂に入った演技だか……まぁいいや」

上条「『お願いがあるんです!あなたにしか出来ないんだっ!』」

ハマッヅラ「『はぁ……超なんですか?あ、お金り貸し借りは超NGですけど』」

上条「『俺の――』」

上条「『――俺のプリキュアになって下さい……ッ!!!』」

ハマッヅラ「『……やだ、超素敵ですねっ!』」

上条「待てよ!?そうはならねぇだろエミュレート間違ってんぞ!?」

上条「そこは最後に俺へ窒素装甲腹パンが突き刺される所じゃねーのか!?あぁ!?」

ハマッヅラ「俺もそう思う」

上条「口調は守れ設定も守れ、あとお前は常識も守りやがれ!」

ハマッヅラ「……そこは盲点だったヅラ!」

上条「てか『プリキュアになりませんか?』ってやっすいA×スカウトマンじゃねぇんだから!もっと他に言い方ってあるだろう!?」

ハマッヅラ「……あ、じゃ言い方をアレンジすればどうヅラか?いきなりプリキュアの話を持ち出したら、悪の組織にバレてしまうヅラ!」

上条「あぁうんまだあったのな、その設定……ていうかずっとプリキュア以前に魔法らしい事もしてないし……」

ハマッヅラ「『綺麗な服を着て肉体労働して円盤になる簡単なお仕事しませんか?』、ヅラ!」

上条「完璧に胡散臭い。どんなに金に困っていても、それに手を出す女の人は居ないよ?男もだけどさ」

ハマッヅラ「いやでもハマッヅラがよく見る円盤では……」

上条「そういう企画だから、かな?あらゆる意味であれに素人は出てねぇよ」

ハマッヅラ「マジで!?『素人ナンパもの』に出た事あるってお店のおねーさん言ってたのに!?」

上条「嬢だよね?なんで知ってんのか俺も知らないけど、それは、ただのお店の人だよな?」

ハマッヅラ「アレもダメ、コレもダメ……ハマッヅラはどうすればいいヅラ……?」

上条「帰ればいいんじゃね?妖精さんは陽性の国へ帰るべきだと思うよ」

上条「ていうかそもそも、プリキュアさんが登場するようなピンチが起きてなくね?少なくとも誰かが襲われてるとか、そういう事じゃ――」

――ドサッ!!!

上条「って誰!?つーか空から降ってきた……?」

人影?「……、ろ……キュアラッキー……!」

上条「ウルセェよ。誰がキュアラッキーだ――って、その名前を知ってるって事は、お前――」

上条「――フェンリルか!?」

フェンリル「……キュアウルフだ……!」

上条「どうしたんだよ、傷だらけになって!」

フェンリル「……逃げ、ろ!早く、逃げるん、だ……!」

フェンリル「”奴ら”に見つかった!あの悪魔に……!」

上条「おい!なんでシリアスな展開になってんだよ!?ユルい話じゃなかったのか!?」

フェンリル「俺に構うな……時間ぐらいは、稼いでやるさ……!」

上条「フェンリル……!――いやいや待て待て、少し待とうぜ?つーか状況を整理しようぜ、なぁ?」

フェンリル「なんだ!?今はそんな事をしてる場合じゃ――」

上条「お前、なんかしくじって逃げて来たんだよなぁ?こう、闇の組織的なアレを調べに行って、命からがら-、みたいなよくあるシチュだけども」

フェンリル「奴らの力は絶対的だ!適う相手じゃない!」

上条「あーうん、それは分かった。分かったんだけど――」

上条「――それ、直接知らせに来る必要無くね?」

フェンリル「……」

上条「だからさ。別に携帯でもいいし、そもそもここは学校の屋上だしさ」

上条「気持ちは汲むし、有り難いは有り難いけども、お前がこうやって合流すんだったらば、俺の顔バレする可能性もあるって事だよね?」

上条「むしろ『圧倒的に強い』筈の敵から、割と簡単に逃走を許してる時点で……どう考えても俺の居場所を知らせるためにやってんじゃねぇかな、と」

フェンリル「――行け!ここは俺に任せるんだ!」

上条「やっぱりかテメー!?最初っから巻き込む気満々じゃねぇかよっ!?」

ハマッヅラ「ナイス噛ませ犬!」

上条「ていうか失踪したんじゃなかったのかよ!チーズ買いに行って!」

ハマッヅラ「まぁアレはアレで『ゲーム付き高額サプリメント』だと思えば、納得の出来ヅラ、という猛者も居るらしいヅラ」

上条「よく訓練されすぎだろ」

フェンリル「――危ないっ!?」

上条「フェン――」

フェンリル「ぐああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

ハマッヅラ「敵の攻撃ヅラ!?」

上条「いやあの、”俺を庇った”みたいな流れだけど、今自分から当りに行ってたよね?」

上条「しかもなんか霊装起動する時の光を確認してから、飛び込んでいったように見えたんだけど……?」

フェンリル「……ラッキー……ラッキー、無事か……っ!?」

上条「そういうお前はアタマをケガしてるよね?アイタタタ的な意味で大ケガだもんね?」

上条「だって知ってるもの俺。この後の展開は瀕死の人が不自然に蕩々と長台詞喋るんだよね?しかもはっきりと滑舌良く」

フェンリル「俺の……人せ――」

少女「――長い、黙れ」

ヒュゥッン、ゴカンッ!

フェンリル「――ッ!?」

上条「ウルーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーフッ!?殆ど喋らせないで退場させやがった!?」

少女「引っ込んでいろ、莫迦が」

上条「お前……なんて、なんて酷い事を!」

上条「ツッコミながらも一応付き合ってやろうと思ってたのに!途中でトドメ刺しやがったな!?」

ハマッヅラ「……トーマ、アレは、アレはマズいヅラ……!」

上条「あぁ?アレっつーか、攻撃して来たのはいつものバードウェイさんですよね?」

バードウェイ「ボスと呼べ、ボスと」

ハマッヅラ「違うヅラ!よく見てみるヅラ!」

ハマッヅラ「あれは――プリキュアに変身してるヅラ!」

上条「んー……?あ、そう言えばいつもと違――わ、ないな。同じ格好に見えるんだけど」

ハマッヅラ「(しっ!話の展開上そういう事にしておくヅラ!)」

上条「(そんな小芝居要るか?)」

ハマッヅラ「(おっとここにミサキ達の泊まる海の家の電話番号が)」

上条「なんで――なんでお前が魔法少女になってんだよ!?」

ハマッヅラ「そうヅラ!プリキュアになるにはファンシーで可愛らしいマスコットか必要ヅラよ!?」

上条「その条件だったら、こっちも不合格じゃね?だってお前可愛くないもの。ファンシーですらないし」

バードウェイ「愚問だな!こっちにはお前達のようなゆるキャラにすら届いていない妖精など居ないさ!」

バードウェイ「こっちは――本物だからな!出て来い!」

ハマッヅラ「あ、あれは――!?」

オティヌス「――ふ、見下げ果てた姿だな」

上条「魔神オティヌス!?なんでお前がそこに居るんだよっ!?」

オティヌス「魔神?……ふふ、そうじゃない。そうじゃないさ上条当麻」

オティヌス「私を以前の私だと思ってもらっては困る――そう、今の私はだ!」

オティヌス「”妖精化”したオティヌスだからなぁ……ッ!」

ハマッヅラ「やべっ!ホンモンだ!?」

上条「お前今なんつった?なぁ?すっげー気になる事言わなかったかな?」

ハマッヅラ「あと、トーマの見下げ果てた姿は大体いつもこんなもんヅラね」

上条「外野うるさい」

バードウェイ「どうだ上条当麻!妖精をも従えた完ッッッ璧なプリキュアだろう?」

上条「ちなみにお名前は?」

バードウェイ「キュア・ドエスだ!」

上条「やだなんか人気出そう」

ハマッヅラ「片方幼女ヅラし、ご褒美ヅラね」

バードウェイ「キュアラッキーが聞いて呆れるぞ!そんな幸運をエロとスケベと女運にしか使わないプリキュアがどこに居るかっ!」

上条「……あのー、バードウェイさん?台本、そう台本にそんな台詞無かったよね?アドリブのつもりなんだろうけど、激しく俺の心を傷付けてるからね?」

ハマッヅラ「……くっ!このままでは負けてしまうヅラ……!」

上条「フォロー無しかよ!?」

男「――あいや待たれいっ!」

バードウェイ「誰だっ?」

男「ひとーつ、人妻大好き――」

男「ふたーつ、ふしだらな人妻もイケるクチ――」

男「みいっーつ、淫らな人妻を――」

男「――退治てくれよう桃太郎っ!!!」

上条「お前徹頭徹尾人妻しか相手にしてねぇよ。つーかストライクゾーン狭すぎ――って、お前まさか!?」

桂(男)「キュア・キャプテン、華麗に推参!義により助太刀仕る!」

ハマッヅラ「キュアキャプテンが――」

上条「――帰って、来た……!」

バードウェイ「はっ!莫迦を言うなよロン毛が!お前がプリキュアなんて笑わせてくれる……!」

桂「何故笑うのだろうか、天人の子供よ。俺には可笑しい所など一つもあろうか」

バードウェイ「だからプリキュアには妖精が必要だと言っているんだ!見たところ、お前には――」

桂「ふははははははははははははははははははっ!心配ご無用!桂小太郎に死角など無い!」

桂「むしろ資格がないのにいつまで攘夷運動をやっていれば良いのかと鬱になるぐらいだわフハハハハハハ!」

上条「桂さん戻ってきて!そっちから先はあんま考えると戻ってくれなくなるから!」

上条「……いやいや、だからさ。これもアレでしょ?だってこの先のオチ読めるもの」

上条「多分、アレじゃん?キュアザベス的なアレが出て来てオトすんでしょ?」

桂「ぬう!流石はラッキー殿、俺如きの計画は既に見抜いてるというのか!」

上条「見抜いてるって言うか、まぁ……慣れ?諦め?」

桂「ネタバレしてしまったのならば仕方が無い!来ぉい、『キュアザベス』!」

キュアザベス「……」

上条「……うん?」

キュアザベス「な、梨汁ブシャー!」

上条「ふなっし○じゃねぇかよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?妖精は妖精でもこれ妖精違げぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」


上条「つーか返してきなさい!元あった所へ捨ててくるんだっ速やかに!」

桂「エリザベスが居ないのでな、取り敢えず急遽来て貰った!」

上条「確かに妖精だけども!ある意味この人も妖精ではないからな!年商8億の生々しい妖精だよ!」

ハマッヅラ「『――昏迷の時代は新たなプリキュアの参戦と共に、更に出口の見えない災禍の渦へと放り込まれる』」

上条「おいテメーなになーションで占めようとしてやがんだ?なぁ?」

ハマッヅラ「『戦況は全てに於て限界を示し、人の叡智は暴力によって切り裂かれ、踏みにじられようとする……』」

ハマッヅラ「『――だがしかし!闇を照らす大いなる光り、その名は、その名はァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!』」

キュアザベス「あ、よく分からないけど、参戦したほうがいいなしか?」

上条「やめてお願いつーか怒られるから」

ハマッヅラ「――次回!パピレスプリキュア最終回!――」

ハマッヅラ「『ネオジオング、舐めプしなかったら勝ってたくね?』で、会おうヅラ!」

上条「タイトルにすらなってない。プリキュア設定どこ行っ――」

プツッ――


――『ハピレスチャージプリキュア 第二話 ”新たな仲間!キュアペアー!”』-終-

長々とお付き合い頂きありがとうございました。ではまたどこかでお会いできれば幸いでございます
残りのスレは埋めも兼ねて「こういうSS読みたいかも?」などご要望ありましたら気軽にお寄せくださいませ
(※ジャンル不問・分類不問。ただし書くとは限りませんし、私が知ってる作品に限られますので、まぁあまり期待せずにどうぞ)

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年10月27日 (月) 20:45:34   ID: rWsQQepV

前のスレから読んでます、更新楽しみにまってます。

2 :  SS好きの774さん   2014年12月21日 (日) 13:16:28   ID: NykZTu0c

作者の主張をキャラに代弁させてるだけ
読み物として全く面白くない

3 :  SS好きの774さん   2014年12月23日 (火) 00:07:12   ID: XQrKom3t

俺好きだぜ?これ

4 :  SS好きの774さん   2014年12月24日 (水) 13:28:30   ID: bUqUelTO

俺も好きですよこれ?

5 :  SS好きの774さん   2014年12月26日 (金) 22:32:30   ID: l0YGr5pt

レッサー「なら私に全部下さいな、お代は私を全部差し上げますから」
これは可愛すぎるだろ!!

6 :  SS好きの774さん   2014年12月28日 (日) 23:18:19   ID: tRnGD06p

まあキャラ=作者の創造物だから、キャラは作者の考えが色濃く投影されるもんでしょ…と弁明してみる。
俺はこの作者のキャラは、ちゃんと生きてる感じがして好きだよ

7 :  SS好きの774さん   2015年01月24日 (土) 12:16:12   ID: EgCnh32y

お大事に

8 :  SS好きの774さん   2015年03月31日 (火) 22:50:53   ID: HhsD-Tqj

この作者ホント好き

9 :  SS好きの774さん   2015年05月16日 (土) 08:53:18   ID: 8D-vGZdu

題材が難しくて解説されてもチンプンカンプンなんだよな。
読み続ける気力が減って行く。

10 :  SS好きの774さん   2015年07月29日 (水) 11:22:49   ID: JnEbNHq_

読む気力ないのにdisる気力はあるなんて流石ですね~~

11 :  SS好きの774さん   2015年08月07日 (金) 13:06:56   ID: ybtvpxjl

休みの日の朝8時に「ぼくはあたまがわるいからわかりません」って書き込むのはどんだけ惨めな気持ちなんだろうな

12 :  SS好きの774さん   2015年09月09日 (水) 08:09:14   ID: nlR4cMcy

称賛コメ以外は徹底的に排除しないと気がすまないアホがいるみたいだな。

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