貴族「昔から奴隷(あなた)ってほんと反抗的ね、別に良いけれど」(85)

奴隷少年「―――」シャリシャリ

貴族少女「………」

奴隷少年「――…」シャリ…

貴族少女「……―」ペラッ

奴隷少年「…なあ」

貴族少女「…なにかしら」

奴隷少年「邪魔なんだけど」

貴族少女「…邪魔してないけれど?」

奴隷少年「お前がいるだけで邪魔なんだよ!」

奴隷少年「つか、本読むなら他の所いけよ。なんでわざわざ俺のところに…」

貴族少女「…いつものことじゃない」ペラッ

奴隷少年「ああ、そうだな。そしてその度「どっか行け」って言ってるよな、俺! このやり取り何度目だよ!?」

貴族少女「…何百度?」

奴隷少年「お前、マジでそろそろ聞き分けろよ…」

貴族少女「…あなたもそろそろ妥協なさい」

奴隷少年「…この分からず屋め」

貴族少女「…――」サワッ

奴隷少年「おい」

貴族少女「きれいに剥けてる」

奴隷少女「さわんな」

貴族少女「昔と全然違うのね」ナデナデ

奴隷少年「いじんな」

貴族少女「なめてもいい?」

奴隷少年「…我慢しろ」

貴族少女「このりんご、とても良い香り」

貴族少女「皮を剥くの、下手だったのに」

奴隷少年「いつの話だよ、それ」

貴族少女「私とあなたが喋れなかった頃」

奴隷少年「…はっ」

貴族少女「発音も上手くなった」

奴隷少年「そりゃどーも」

貴族少女「…ねえ?」

奴隷少年「なんだ?」

貴族少女「あなたが最初に口にしたここの言葉、覚えてる?」

奴隷少年「………」

貴族少女「どう?」

奴隷少年「さあな。忘れたよ」

貴族少女「…あら」

貴族少女「その言葉、誰が教えたかも?」

奴隷少年「先生か?」

貴族少女「…違うわ」

奴隷少年「じゃあ誰だ?」

貴族少女「……ほんとうに、覚えていないの?」

奴隷少年「嘘ついてどうすんだよ」

貴族少女「………」

貴族少女「むー」

奴隷少年「なんだよ」

貴族少女「やっ」

   シュッ――パシッ

奴隷少年「――おい」

貴族少女「ふっ」

   クルッ、シュッ――パシッ

奴隷少年「あ、あのな…」

貴族少女「はぁぁ――りゃっ、りゃっ、りゃっ」

   ピシッ、ピシッ、ピシッ

奴隷少年「やめんか!」

奴隷少年「なぜ何度も叩いてくる」

貴族少女「頭に衝撃を与えれば、思い出すかもしれないでしょ?」

奴隷少年「んな訳あるか!」

貴族少女「叩かれるのが嫌なら、ちゃんと思い出しなさい」

奴隷少年「どんな理屈だよ、それ…」

貴族少女「そりゃ」ピシッ

奴隷少年「あーのーなー!」

貴族少女「…あなたは私のものなんだよ」

貴族少女「だから、私の許しなく忘れていいことなどありません」

奴隷少年「…アホか」

貴族少女「忠誠心が足りない」

奴隷少年「あってたまるか」

貴族少女「あと頭も足りない」

奴隷少年「ちょっと待て」

貴族少女「どこで育て方を間違えたのかしら…」

奴隷少年「俺とお前は同い年だろうが!?」

また後で更新する。

貴族少女「けど、私の方が年上みたいじゃない?」

奴隷少年「そのちっけえ体で年上って言われても説得力ねえよ」

貴族少女「ほら、精神的に」

奴隷少年「どこがだ」

貴族少女「私があなたを導いてきた」

奴隷少年「わがままで振り回してきたの間違いだろ」

貴族少女「…私があなたの頭を振り回せば思い出す?」

奴隷少年「ねえよ! ってか何だその話題の戻し方!?」

貴族少女「ねえ」

貴族少女「さっきから手が止まってるわよ?」

奴隷少年「それはお前が話しかけてくるからだろうが!」

貴族少女「…なんであなたって、そんな怒りやすいのかしら?」

奴隷少年「そいつは大体お前のせいだな」

貴族少女「やっぱり私の育て方が…」

奴隷少年「だからそのボケはもういい!」

貴族少女「…うーん」

貴族少女「これは手詰まりかしら?」

奴隷少年「つか、なんでそこまで拘るんだよ」

貴族少女「だって大事な思い出じゃない」

奴隷少年「………」

貴族少女「……あ」

奴隷少年「ふーん」

貴族少女「えっと」

奴隷少年「…なあ?」

奴隷少年「それって、誰にとってって意味だ?」

貴族少女「………」

奴隷少年「………」

貴族少女「……―」ダキッ

奴隷少年「は!?」

貴族少女「―――」ギュー

奴隷少年「お、おい?」

貴族少女「――ねえ」

奴隷少年「な、なんだ―――」

   ガツッ!

奴隷少年「~~ッ」

貴族少女「…バカ」

   バタン

奴隷少年「ってぇ…」

奴隷少年「いきなり頭突きすんなよ」

奴隷少年「たく…」

奴隷少年「………」

奴隷少年「あの頃ねぇ」

次回はちょっと時間かかる。

   部屋の外

貴族少女「………」ウズクマリー

傭兵長「よお。嬢ちゃん」

貴族少女「…こんにちは、傭兵長」

傭兵長「頭抱えてどうした?」

貴族少女「…少し、頭が痛くてね」

傭兵長「そりゃ大変だな。二日酔いか?」

貴族少女「…私、まだお酒で馬鹿する気はないわよ」

傭兵長「わっはっは」

傭兵長「冗談だ、冗談。で、マジでどしたん?」

貴族少女「…頭をぶつけたの」

傭兵長「おっ、珍しくドジ踏んだな。何にぶつけた?」

貴族少女「…石、かしら」

傭兵長「転んでぶっけたか?」

貴族少女「…いいえ。立った状態で」

傭兵長「…随分と器用な真似するな、嬢ちゃん」

貴族少女「はぁ…」

貴族少女「それで、今日はどうかしたの?」

傭兵長「ああ。旦那に報告があってな」

貴族少女「お父様に?」

傭兵長「家庭教師の嬢ちゃんがな」

貴族少女「先生が?」

傭兵長「街に使いに出てたろ」

貴族少女「ええ」

傭兵長「そこで、憲兵にしょっぴかれたらしい」

貴族少女「…また?」

傭兵長「まただ」

傭兵長「ウチの客分ってのは先方に伝えたが、どうにも信用されないらしくてなぁ」

貴族少女「短剣は?」

傭兵長「ああ。嬢ちゃんに渡してあった、家紋の入ったアレか?」

貴族少女「ええ。あれなら身分を証明するものとしては申し分ないでしょう?」

傭兵長「あれなら忘れてったみたいだぞ」

貴族少女「」

傭兵長「あの嬢ちゃんも、妙なとこで間が抜けてるよな。いや、まったく」

傭兵長「報告ってのはそういうこったな。とりあえず書状の一つでも送れば問題ないんだが…」

貴族少女「何か問題が?」

傭兵長「ウチの傭兵(ろくでなし)どもは、調練の関係で今は動かせないんだよ」

貴族少女「あら」

傭兵長「書状を届けさせようにも、生憎ヒマなやつがいない状況でなぁ」

貴族少女「ふむ…」

傭兵長「なあ嬢ちゃん。ヒマそうなやつで、誰か心当たりいねえかな?」

貴族少女「いるわよ」

傭兵長「おお。そいつは助かる。で、誰だ?」

貴族少女「はい」ピョコ

傭兵長「………」

貴族少女「はい」ピョッ

傭兵長「…なあ」

貴族少女「なに?」

傭兵長「そりゃ嬢ちゃんが単に街で遊びたいだけじゃねえ?」

貴族少女「うーん。まあ、そうかも」

傭兵長「」

貴族少女「ダメかしら?」

傭兵長「んー。嬢ちゃんが誠意を見せてくれるなら、可にするぜ」

貴族少女「…お土産に、氷湖産の火酒でどう?」

傭兵長「を、2本な」

貴族少女「うーん…」

傭兵長「くっくっく。嬢ちゃん、人の上に立つ者ってのは気前が良くなくちゃ駄目だぜ?」

貴族少女「わかったわ」

傭兵長「」ニヤリ

貴族少女「買うのは2本、渡すのは1本」

傭兵長「…は?」

貴族少女「それでどうかしら?」

傭兵長「あと1本は?」

貴族少女「最初の1本を飲んだ後に渡してあげる」

傭兵長「へ? それなら最初から2本とも渡してくれよ」

貴族少女「ダメ。傭兵長のことだから、それでは飲み過ぎるでしょう」

傭兵長「」

貴族少女「どう?」

傭兵長「ったく…。嬢ちゃんには負けるよ」

貴族少女「? 何の話?」

傭兵長「いーや。了解した。それでいい。旦那には俺から言っとく」

貴族少女「ありがとう」

傭兵長「じゃあ護衛は奴隷の坊主でいいよな?」

貴族少女「………」

傭兵長「あいつなら馬にも乗れるから、嬢ちゃんは後ろに乗っけてもらえ」

貴族少女「…ええ」

傭兵長「あいつにも俺から言っとくわ。んじゃ、頼むぜ嬢ちゃん」

貴族少女「ええ。こちらこそよろしくね」

傭兵長「おー」スタスタ

貴族少女「………」

   『それって、誰にとってって意味だ?』

貴族少女「はあ…」

貴族少女「なんで私って、こんなに器が小さいのかしら…?」

傭兵長「って訳だ、頼むぞ坊主」

奴隷少年「って訳じゃねえよ、おいこら」

傭兵長「なんだ不満か?」

奴隷少年「使いなら俺一人で十分だろうが。あいつが行く必要ねえだろ」

傭兵長「…バカかお前」

奴隷少年「あ?」

傭兵長「せっかく嬢ちゃんと二人きりにしてやるんだから、もうちょい素直になれよ」

奴隷少年「馬鹿はてめえだ!」

傭兵長「そういやお前、おっぱい膨らんでるのが好みだったか?」

奴隷少年「他人の話聞けよ、おい」

傭兵長「たしかに嬢ちゃんはなぁ。顔はともかく、胸は日照りでやられた果実もかくやって程に潰れ―――」

   ―――チャッ

傭兵長「うおっ」

奴隷少年「話を聞くのと、このまま首をえぐられるの。どっちがいい?」

傭兵長「こええからやめろ、バカ」

奴隷少年「けっ」スッ

傭兵長「冗談の通じないやつめ」

奴隷少年「で、あいつが一緒に行く必要性…はあるのか? 一人で行けば十分なことに、二人で行くのは合理性に欠けると思うが?」

傭兵長「そういう難しいこと聞くなよ。頭が痛くなんだろ」

奴隷少年「どこまで馬鹿なんだてめえは!」

傭兵長「ただの使いにそこまで頭使ってもなぁ…」

奴隷少年「つ、か、え! 大体雇い主を護るのはてめえの仕事だろうが! 俺に押し付けんな!」

傭兵長「なるほど」

傭兵長「つまりお前さん、嬢ちゃんと二人っきりで照れてる訳か」

奴隷少年「うわ殺してえ」

傭兵長「しょうがねえなぁ。いい店紹介してやっから、夜にそこ行って気持ちに余裕作ってこい」

奴隷少年「…何の店だ?」

傭兵長「娼館」

奴隷少年「いらんわ!」

傭兵長「嬢ちゃんには黙っててやるぞ?」

奴隷少年「そういう問題じゃねえ」

傭兵長「おっぱい好きだろ?」

奴隷少年「死ね」

傭兵長「お前、まさか嬢ちゃんを…」

奴隷少年「な訳ねえ。絶対ねえ」

傭兵長「それはそうだな。お前にそんな甲斐性ねえもんな」

奴隷少年「節度と言わんか! …ったくてめえの頭には酒と女だけしかねえのかよ」

傭兵長「馬鹿言うなよ。あと金のことだって俺はいつも考えてるぜ」

奴隷少年「………」

傭兵長「とにかく嬢ちゃんのこと護ってやれよ」

奴隷少年「おい、話はまだ―――」

傭兵長「文句あるなら、嬢ちゃんに直接言えよ」

奴隷少年「」

傭兵長「ちなみに嬢ちゃんはすげえ楽しみにしてたぞ。何せお前と二人っきりでの旅だからな」ニヤニヤ

奴隷少年「…ウソつけ」

傭兵長「ウソじゃねえさ。んじゃ、俺との話は終わりでいいな?」

奴隷少年「………」

傭兵長「馬の方は手配しとく。出発は早めで頼むぞ」

  バタン

奴隷少年「…余計なことしやがって」

奴隷少年(あいつに、直接ね)

   『…バカ』

奴隷少年(誰が馬鹿だ、誰が)

奴隷少年(………)

奴隷少年「はあ…」

奴隷少年「明日の弁当でも拵えてやるか」スッ

   ギイッ、バタン…


   ………………


   …コンコン

   ガチャッ

貴族少女(…いない)

貴族少女(仕事、かしら?)

貴族少女(探しに行っても良いけれど)

貴族少女(急ぐことではないし)

貴族少女(それに、あの子と話すとしたらやっぱり場所は…)

貴族少女(………)

貴族少女「…うん」

貴族少女「待たさせてもらうから」ボフッ

貴族少女(………)

貴族少女(………)

貴族少女(……―)…ウト

貴族少女(―――)

貴族少女(――…)ハッ

貴族少女(…あぶない)

貴族少女(………)

貴族少女(珈琲…)

貴族少女(………)

貴族少女(あの子のいれた、こーひーがのみ、たい、な…)



   ………………

   ………………

   …バフッ
   
   スゥ、スゥ…

奴隷少年「………」

貴族少女「」スースー

奴隷少年(なんでいるんだ、こいつ)

奴隷少年(つーか、また勝手に部屋に入りやがって)

貴族少女「」スースー

奴隷少年(呑気な顔で寝やがって)

奴隷少年(………)

奴隷少年(…毛布、となりの部屋にあったよな)

   キイッ、バタン

   ガチャ――パタン

奴隷少年(かったりい)

貴族少女「」スー-スー-

奴隷少年(…そういや、今夜は俺どこで寝ればいいんだろ)

貴族少女「」スー-スー-

奴隷少年「………」

   『お前、まさか嬢ちゃんを…』

奴隷少年「――ッ」ブンブン

奴隷少年「…な訳ねえ。絶対ねえ」バサリ

貴族少女「」スー-…

奴隷少年(…しばらく様子見て、起きないようなら運べばいいか)スッ

貴族少女「…―――」…ジッ

奴隷少年「」

貴族少女「―――」チラッ

奴隷少年「………」

貴族少女「ねえ」

奴隷少年「…なんだよ」

貴族少女「毛布、かけてくれないの?」

奴隷少年「ッ! め、目覚めたならさっさと起きろ、この馬鹿!」

貴族少女「おはよー」

奴隷少年「…いま夜だぞ」

貴族少女「あー…」

奴隷少年「ほら、さっさと――」

貴族少女「おやすみー…」バフッ

奴隷少年「寝なおすな!」

貴族少女「えー…だめ?」

奴隷少年「お前がここで寝ちゃ、俺が寝れないんだよ」

貴族少女「そっか」

奴隷少年「わかったら、いい加減に――」

貴族少女「じゃあ一緒に寝る?」

奴隷少年「アホかてめえぇ!?」

貴族少女「あほかなぁ…」

奴隷少年「アホだよ、アホ。ったく、お前は…」

貴族少女「昔のことずっと覚えてる私って、やっぱりあほなのかなぁ…」

奴隷少年「………」

貴族少女「今日あなたとお話ししたよね?」

奴隷少年「…ああ」

貴族少女「あのときね、あなたが『忘れた』って言ったときね」

貴族少女「…私ちょっと腹が立ったの」

貴族少女「あなたが忘れたことは、私にとっては大事な思い出だったから」

貴族少女「ねえ…」

貴族少女「あなたが思い出してくれるなら、私は何でもするよ」

奴隷少年「…主が奴隷に言う台詞じゃねえぞ、それ」

貴族少女「そう?」

奴隷少年「そうだ」

貴族少女「そっかー」フフフ

奴隷少年「?」

貴族少女「…何でも、してあげる」

奴隷少年「」

貴族少女「えへへ…」


貴族少女「こういう言葉って、私らしくないかな?」

奴隷少年「…でもねえよ」

貴族少女「そう?」

奴隷少年「ああ。寝惚けたお前なんて、いつもこんな感じだ」

貴族少女「ふふふ。…それ、奴隷が主に言っていい言葉じゃないよ?」

奴隷少年「何を今更」

貴族少女「うん。私は寛大だね」

奴隷少年「…ばーか」


奴隷少年「…何でもするって言ったよな?」

貴族少女「うん」

奴隷少年「じゃあ、もう寝ろ」

貴族少女「………」

奴隷少年「明日は早いぞ」

貴族少女「…ねえ」

奴隷少年「なんだ」

貴族少女「ごまかしてる?」

奴隷少年「………」


奴隷少年「いや」

貴族少女「どうしたら、あなたは思い出してくれるの?」

奴隷少年「今、言ったろ」

貴族少女「私が寝たら、思い出してくれるの?」

奴隷少年「どうだろうな」

貴族少女「………」

奴隷少年「………」

貴族少女「…そう」…シュン


貴族少女「寝るわ」

奴隷少年「…明日は、俺が起こしてやるよ」

貴族少女「え?」

奴隷少年「朝になったら、名前を呼んでやる」

貴族少女「………」

奴隷少年「それでいいだろ」

貴族少女「…ねえ」

奴隷少年「なんだ」

貴族少女「それはどういう意味?」


奴隷少年「そのままの意味だ」

貴族少女「…もしかして、最初から?」

奴隷少年「なにをだ」

貴族少女「最初から覚えてたの?」

奴隷少年「…だから何をだよ」

貴族少女「………」

奴隷少年「………」

貴族少女「…いじわる」


貴族少女「意地が悪いわ、貴方」

奴隷少年「けっ。それこそ今更だ、バカ野郎」

貴族少女「うん。ばか」

奴隷少年「…そりゃ、どっちがだ」

貴族少女「どちら、かしらね…わかる?」

奴隷少年「…さあな」

貴族少女「ふふふ…」

貴族少女「そっかぁ。えへへへへ」

奴隷少年「気持ち悪ぃ」

貴族少女「…――」…オホン

奴隷少年「?」

貴族少女「『なにかあったら、私の名前を呼んで』」

奴隷少年「!」

貴族少女「『いつでもどこでも、私はそれに応えてあげる』」

貴族少女「『私は貴方の主』」

貴族少女「『だから私は貴方を絶対に独りにしない』」

奴隷少年「………」

貴族少女「この言葉、覚えてる?」


貴族少女「もっとも昔はこんなに流暢に喋れなかったけれど」

貴族少女「あの時は苦労したわ。貴方、こっちの国の言葉全然しゃべれないんだもの」

奴隷少年「………」

貴族少女「不思議ね。あの時は、あなたのために教えた言葉だったのに、今は私の方がこの思い出を大事にしている…」

貴族少女「ふふふ。こういうのも、馬鹿っていうのかしら?」

奴隷少年「…へったくそ」

貴族少女「え?」

奴隷少年「今の言葉の発音だよ。何が流暢だ、全然なっちゃいねえ」

貴族少女「そ、そう?」

奴隷少年「ったく…」

奴隷少年「あの時と、全然変わってねえのな、お前」

貴族少女「そんなことは―――え?」

奴隷少年「………」

貴族少女「あの時?」

奴隷少年「………」

貴族少女「あの時のこと、覚えてるの?」

奴隷少年「……―」フン

貴族少女「わあ」


貴族少女「どうしよ。寝たくない」

奴隷少年「寝ろ」

貴族少女「や」

奴隷少年「おい」

貴族少女「ねえ」

奴隷少年「だから…」

貴族少女「今夜、ずっと貴方と一緒にいたい」

奴隷少年「は?」




奴隷少年「―――はぁあ!? なななぬぁにゆってんだてめえはっ!?」


.

貴族少女「ねっ。いいでしょ?」

奴隷少年「何をトチ狂ってんだてめえ!?」

貴族少女「昔のこと、話そっ」

奴隷少年「」

貴族少女「ねえってば」

奴隷少年「…だよな。お前はそういうやつだ」

貴族少女「?」

奴隷少年「いや、すまん。気にするな」

奴隷少年「じゃねえ。寝ろ」

貴族少女「あら、いいじゃない」

奴隷少年「明日起こしてやらねえぞ」

貴族少女「構わないけど?」

奴隷少年「あのなぁ…」

貴族少女「詰めを誤ったわねー」

奴隷少年「…明日の朝、お前寝てたら置いてくが、それでもいいのか」

貴族少女「あら、平気よ」

奴隷少年「お前、朝弱いだろ」

貴族少女「うん。けど、この寝台であなたと一緒に寝れば大丈夫でしょ?」

奴隷少年「」

貴族少女「」ドヤァ

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