真姫「それは線香花火のようで」 (200)


色々ドロドロ病ん病んします

鬱要素あり

若干のエロ要素あり


時系列等関係なし








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ツバサ「ねえねえ最近面白いグループを見つけたの」


あんじゅ「なにそれ」


ツバサ「見て」


あんじゅ「うーん、9人か」


あんじゅ「見た目は……あ、このハーフの人すごい綺麗。それ以外は……普通?」

英玲奈「どこにでもいそうだが」

ツバサ「うーん、そうなんだけどね、なんか感じたのよ。すっごく大きなグループになりそうって」


あんじゅ「珍しいわね」

ツバサ「そうね……こんなの初めてよ。だから楽しみなの」


英玲奈「まあこのグループが大きくなったら、その時は見る目があったということか」

ツバサ「プロデューサーとかもいけちゃうかもしれないわね?」

あんじゅ「で、グループ名は?」




ツバサ「ああ――µ’sっていうの」

◇◇




ことり「……」



穂乃果「どうしたの、急に話があるなんて」


ことり「うん」


ことり「……」

穂乃果「?」



ことり「穂乃果ちゃん、私、私ね――好きな人、出来たの」


穂乃果「え!?」


ことり「……突然ごめんね」


穂乃果「私も知ってる人?」

ことり「うん」

穂乃果「……誰、とか聞いても大丈夫?」



ことり「今日はそのことを話しに来たの」



穂乃果「そうだったんだ、ってそうだよね。これが本題じゃないなんてありえないよねあはは」

ことり「それで、私……海未ちゃんのことが……好き、なの」






穂乃果「え……?」



穂乃果「海未、ちゃん?」


穂乃果「ぇえええええええ!?」

穂乃果「本当に!? イケメンとかそういうんじゃなくて!?」


 ただただ衝撃だった。海未ちゃん? あの海未ちゃん?

ことり「う、うん」


穂乃果「そっか……へえ、そっか」

ことり「ずっと、ずっと好きで……でも言えなくて……」

ことり「こんな気持ち気がつかなければ良かったって思ったこと、何回もある」

穂乃果「ことりちゃん……」

 正直なところまだ実感は出来ていなかった。それでも目の前にいる目を腫らしたことりちゃんの様子が冗談とかそういうのじゃないのを表している。



ことり「でも、でも……もう抑えきれなくて……でも言えなくて……こんな弱い私が嫌いで……」

ことり「私は……変わりたいの。海未ちゃんに自分の想いを伝えて、強くみんなみたいに強く」

ことり「でも、全然わかんなくてっ!!」



穂乃果「……」

ことり「少しだけ、ほんの少しだけでいいから」



ことり「――力を、貸して下さい」

 ことりちゃんはそう言って頭を下げた。



穂乃果「……うん、いいよ」

穂乃果「でも、あくまで私は力を貸すだけだよ?」

ことり「分かってる。穂乃果ちゃんにやってもらうことなんてほとんどないかもしれない」

ことり「それでも、知ってて欲しかったから穂乃果ちゃんには」



穂乃果「うん」



穂乃果「伝わるといいね、海未ちゃんに」


ことり「……うん!」




 そう言って涙をいっぱいに溜めて微笑んだことりちゃんと、夕陽が沈むのが重なって……私も全力で応援しようってそう思ったんだ。

◇◇







絵里「ぁぁう」


希「まーたうなだれとる」

にこ「なにまた穂乃果のこと?」


絵里「悪い!?」

にこ「悪いわよ」

絵里「うぐ」



にこ「うじうじうじうじして、早く告白しちゃいなさいよ。好きなんでしょ? 好きなら告白するしか手はないじゃない」

絵里「で、でも」

希「穂乃果ちゃんが告白してくれるとでも思ってるん? 無理無理、絶対無理や」

希「あの子はそういうことに興味が本当にないから」




にこ「でもこっちから告白すれば意識させることも出来るはずよ。だからほら、早く告白しなさいヘタレ」




絵里「ぅぅ、あああ、もう! なんで二人してそんなに私への風当たりが強いのよ!」

希「いや、最初は優しくしてあげてたやん……」




絵里「そうだったかしら」

にこ「あんたがいつまでもうじうじしてるから、そりゃ面倒になってくるわよ」

絵里「ぅぅ」


絵里「じゃあ私はどうすれば――」


にこ「……あんた同じこと何回言わせるつもりなのよ」

希「ま、がんばってな」


絵里「ちょっと!!」



絵里「はぁ……もう、どうすればいいの。告白?」




絵里「……無理よ穂乃果に告白なんて……」

◇◇


凛「かよちーん」

花陽「どうしたの」

凛「なんでもなーい」

花陽「そっかあ」




真姫「……おわり?」


真姫「なんでもなーい、でそっかで終わるの?」

凛「どうしたの?」

真姫「いや、あなた達本当仲良いなって」




凛「?」

花陽「?」

真姫「自覚ないって凄いわねー」


凛「どうしたの急に」


真姫「いや、本当になんでもないのよ」


凛「ふぅん?」

凛「かよちん今日泊まり行っていい?」

花陽「あ、どうだろ。多分大丈夫だよ」

凛「やったー!」

凛「あ、真姫ちゃんも来る?」


真姫「私は遠慮しとくわ。二人の中にいたらおかしくなりそうだもの」

凛「どういうこと?」

真姫「ま、そういうことよ」




凛「?」

◇◇






真姫「……友情、ねえ」

希「どうしたん真姫ちゃん」

真姫「いや、ちょっとね」



真姫「私さ、あんま仲良い友達いないのよね」

希「まあ……」

真姫「今はみんなと友達になれたけど、凛と花陽とか二年生三人とか見てると……なんていうのかしらね」

希「まあ積み上げてきた時間が違うってのもあるからね」

希「ウチだってえりちとは高校からやし」

真姫「羨ましい、とかそういうんじゃないけど凄いなって思う。単純に」

希「?」

真姫「ずっと同じ人と何十年も付き合っているわけでしょ? そんなの想像もできないっていうか」

希「そうかな?」

真姫「もうほとんど家族みたいなもんじゃない」

希「流石にそこまでは……うん、いきそうやね。その五人は」


希「……長い関係は良いもんやけど……節目節目で引き裂かれようと何度もされてきてるはず」

真姫「どういうこと?」


希「それぞれの立場や関係が変化していく時。例えば高校に上がる時。たまたま穂乃果ちゃん達は同じくクラスだったけど、それが違ったらどうやろ」


希「たまたま同じ学校だったけど、穂乃果ちゃんだけ違う学校だったらどうやろ」

真姫「……」



希「ま、友達関係ってのは偶然の重なり。どんなに長くなっても、節目節目の関係の入れ替わりには抗えないもの」




希「だから――友達関係はどんなに長く続いても案外脆い、とウチは思うよ」



真姫「……ふぅん、大変そうね」

希「何を人ごとみたいな。まあウチもあんなに長い友達関係を築いたことないから、妄想でしかないんやけど」


真姫「じゃああの五人は、小さい頃からずっと引き裂かれる可能性があったのを乗り越えて今も仲良く友達やってるってことよね」


真姫「……やっぱり少しだけ羨ましいかもしれない」



希「真姫ちゃんにも仲良い友達、一人居たんやっけ」


真姫「……そのことはいいじゃない。私とあの子は五人みたいには慣れなかったんだから」

希「……そうやね」



希「でも仕方ないことや。不変なものなんて絶対ないんやから」



希「誰かが変わりたいって思った瞬間、それは周りを傷つける。そういうものよ」


真姫「……いまいちわからないわ」


希「いつかわかるかもね。ごめんね、なんか説教みたいになって」


真姫「別に構わない」


希「ま、絶対に壊れない絆。ウチはそれを信じてみたい」


希「ウチらがそうなれたらって、思うの」

真姫「……いいんじゃないの」



希「それには真姫ちゃんの協力も必要なんやけどなー?」

真姫「はいはい」


◇◇




 その日の帰り道は、いつもより会話が少なかった。



 いつも通り海未ちゃんと話していたはずなんだけれど、あんまり話が続かなくておかしいなって思ってたら……ことりちゃんの様子が変だったことに少し時間が経って気がついた。



 ずっと下を向いて、唇をきゅっと噛み締めながら歩みを進めている。


穂乃果「……」



 ことりちゃんが私に告白をしてから何日かが経った。



 私は特に何をするでもなく過ごしていたんだけれど、ことりちゃんにそのことを聞いてからというもの二人のことを意識するようになっていた。




 会話する時も、今ことりちゃんは何を考えてるんだろう。とか。もっとことりちゃんと海未ちゃんが話せるように少し引こうとか。


海未「ことり?」

ことり「ひゃい!!」

海未「?」



ことり「ぁ……な、なんでもないよ」

 顔を真っ赤にして、ぶんぶん頭を振ることりちゃん。そこにいつもみたいな落ち着きは無かった。


 不意にことりちゃんと目が合う。

 何か訴えてくる、そんな目。



穂乃果「……」


穂乃果「私、そういえばお買い物頼まれてたんだった!」

海未「そうなんですか?」

穂乃果「今から行ってくる!」

海未「今からですか?」



穂乃果「うん! ことりちゃんと二人で帰ってて!!」

海未「わ、わかりました」



ことり「穂乃果ちゃん……」


 またことりちゃんと目があって、私は頑張れっていう意味をこめて、強く頷いた。


 ことりちゃんもそれに対して、同じく強く頷いた。



穂乃果「じゃ!!」



 二人に背を向けて、逆方向に歩き出す。きっとことりちゃんが今日色々蹴りを付けるはず。




 がんばって、応援してるから。

◇◇



ことり「……」


海未「全く穂乃果ったら」

海未「ことり元気ないですね?」


ことり「あ、いや」


ことり「……」


海未「何か困っていることでもありますか?」

ことり「……」



 海未ちゃんは立ち止まって、私のことを真っ直ぐに見て来ました。海未ちゃんの瞳に吸い込まれるような感覚。目の前の海未ちゃんを見ているとなんだかポーっとしてきて……。




ことり「ねえ海未ちゃん」

海未「なんですか?」





ことり「――好き」




 勝手に口が動いて、勝手に言葉が零れ出ていた。




海未「え?」

ことり「好きなの、海未ちゃんのことが、ずっと前から、好き、だったの」




 濁流のように、想いが溢れる。言葉が溢れる。涙も溢れる。


 昔からそうだけど、私は感情が高ぶるとすぐに泣いてしまう癖があるみたい。



 今回も例外じゃなくって、海未ちゃんに自分でもなにを言っているのかわからなくなるくらい言葉をぶつけた。海未ちゃんは困ってるだろうないきなり告白されてしかもその相手が一人でベラベラ喋った挙句泣き出すんだから。






ことり「ひっぐ……ぇぐ……ごめ、泣いちゃ、て」




ことり「でも、言わなきゃって、想って……ぅぅぁ……」




海未「ことり」ギュッ




ことり「ふぇ……」

ことり「海未、ちゃん」


海未「私も、ことりのことが好きです。ずっと、前から」




海未「だから泣かないで下さい」


ことり「う、そ……」


ことり「う、ぅぁああああああ」


 海未ちゃんは泣かないでって言ったのに、それとは逆に涙は決壊したかのように溢れ出てきました。鼻も詰まって、もう声も変になっちゃってる。





 嘘だと思った。海未ちゃんが私のことを好きだなんて。でもこの温もりを感じているとそれはウソじゃないって、言われているような気がして。


 この涙は、今までの涙とは違う。それだけははっきりと分かった。

海未「……ことり」


海未「……あ、あの……私もことりが好き、なのですが……その」


 依然強く抱きしめられたまま、海未ちゃんは口を開いた。少し低めの声が私の耳元で心地よく響く。でもその声は少し震えていて、海未ちゃんも緊張してるのかななんて思ってしまう。


 海未ちゃんはそれ以上何も言わなくなって、なにやら煮え切らない言葉をぶつぶつと吐き出している。私もそろそろ涙が止まってきて、冷静に頭を働かせることが出来た。

ことり「海未ちゃん?」


海未「ぁう……だから、ことり……私もあなたのことが好き、です」

ことり「……わ、私も好き」



海未「……ですから、私とお付き合い、して、くだ……さい」



ことり「え?」



 意外すぎる一言。

 なんで海未ちゃんがそんなこと? それは私が言ったはずなんだけど……。


 あ、そういうことか。私は好き、とは言ったけれど付き合って欲しいとは言ってなかったんだ。


ことり「……海未ちゃんに言わせちゃったね」


海未「これくらい……言わせて下さい」



ことり「ふふ……私でよければ、よろしくお願いします」





 今日私は海未ちゃんと幼馴染の他にもう一つ新しい関係を作ることができました。

 ありがとう穂乃果ちゃん。

◇◇


凛「真姫ちゃんもいこーよー!!!」

真姫「別にいいって言ってるでしょー?」

凛「きっと楽しいからー!!」

凛「かよちんの部屋で三人で寝るの!!!」


真姫「なんでそうなるのよ!?」


凛「だって前来なかったから」

真姫「いや前は断ってたでしょ」

真姫「だから今回も――」

花陽「私も、真姫ちゃんに来て欲しい……かな」


真姫「……花陽まで何言い出すのよ」


凛「なんで凛が誘ってもいやいや言うばかりなのに、かよちんが誘ったらそんな態度!?」

真姫「凛がうるさいからよ」


凛「えー?」

真姫「それに花陽の家でしょ? 花陽が許可くれないと行こうにも行けないわ」

花陽「来てくれるの?」

真姫「そ、そういったわけじゃ」

凛「やった!」

凛「いこー!!」


真姫「ちょ、ちょっとー!!」


◇◇


真姫「はあ……無計画にも程があるわ」


花陽「ご、ごめんね」


凛「まさかかよちんの家が都合悪いなんて」

花陽「……ごめん」

真姫「いいわよ別に」


真姫「ま、ちゃんと次は誘ってよね」

凛「え?」


凛「うん!!」




花陽「――あれ、私達ポテトなんて頼んだっけ」


真姫「私が頼んだの。食べて」

凛「いいの!?」

真姫「ええ」




凛「ありがと!! お泊り出来なくてもこういうのもいいね!」



真姫「ふふ、そうね」


また次回。視点がコロコロ変わりますのでご注意を。

◇◇


絵里「……ねえあなた達はどっちから告白したの」


にこ「……どっちだっけ」

希「にこっちやろ……忘れんでよ」

にこ「ああそうだった。放課後二人で話してる時にさらっと言った記憶があるわ」



絵里「さらっと?」

にこ「なんかよく覚えてないんだけど、本当に雑談してる中でさらっと」



絵里「全然わからない」


にこ「あのねえ告白なんて適当にさらっと言っちゃえばいいのよ」

にこ「私も昔はすっごい希のことが好きで、だからこそ自然に言えたんだと思うし」



希「なんか恥ずかしいね」

にこ「今更何よ」


絵里「……ほんとあなた達って不思議よね」


絵里「昔恋人だったのに、今でもこんなに仲が良いなんて」


にこ「別れた理由が理由だしねえ?」


希「うーん、まあそうやね。お互い友達としての相手が好きだったみたいで」


にこ「それでも4ヶ月は付き合ってたけどね」



絵里「き、キスとかしたの?」


にこ「……」

希「それ聞く?」


絵里「あ、いや、気になるじゃない!」


にこ「まあ……したけど」


絵里「へえ……」

希「……やっぱ恥ずかしいなあ」



にこ「……そうね」


にこ「まあとにかく、好きって気持ちがあるなら早く言った方がいいわ」



にこ「穂乃果が絵里のこと、気持ち悪いとか邪気に扱うと思う?」

絵里「いや……」

にこ「でしょ、それなら言っちゃいなさい。私達だってもう卒業しちゃうんだから」




絵里「そう、よね」




絵里「……私、穂乃果に告白するわ。いつになるかわからない、けど。絶対」

希「応援してるね!!」


◇◇



穂乃果「本当!? おめでとう!!!」



 翌朝、ことりちゃんが合流した時、海未ちゃんと付き合い始めたということを報告された。



 私は全然力になれなかったけれど、ことりちゃんの想いが海未ちゃんに伝わったんだって思うと私まで嬉しくなってしまった。


 だから海未ちゃんに想いを伝えられたのもことりちゃんの力だよ。


 ことりちゃんは強いよ、弱くなんかない。



ことり「えへへ……」


海未「ぁぅ……」


穂乃果「応援してて良かった!! ことりちゃんなんて言って告白したの!?」



ことり「そ、それは……」


穂乃果「……」ワクワク

ことり「海未ちゃんしか知らなくていいことなの!!」///

ことり「ほ、他の人には……」


穂乃果「あー……そっか、そうだよね!」

穂乃果「海未ちゃんもことりちゃんのことが好きだったなんて……本当良かった!」

ことり「穂乃果ちゃんが応援してくれたおかげだよ?」


ことり「ありがとね」


海未「あ、あの……恥ずかしい、です」

穂乃果「顔真っ赤ー」

海未「あ、当たり前です!」

海未「ぅう」

ことり「そんなに恥ずかしがらないでよ!」


ことり「みんなにもこのことちゃんと言わなきゃなんだから」

海未「ええ!? 言うのは穂乃果だけではないのですか!?」



ことり「当たり前だよ! µ’sのみんなにもちゃんと言わないと」

海未「しかし……」

ことり「言います!」


穂乃果「あはは……」

ことり「じゃそろそろ学校行こうか」


穂乃果「そうだね!」


ことり「海未ちゃん、手、繋ご!」


海未「ええ!?」

海未「だ、ダメですよ!!」

ことり「いいからいいから!」


 そう言ってことりちゃんは顔を真っ赤に染め上げる海未ちゃんの手を強引に掴んだ。

 恋人になれて初めての朝。


 ことりちゃんの今の気持ちはどんなものだろう。もう嬉しくて嬉しくて海未ちゃん以外は目に入ってない、感じかな。


穂乃果「……」


 そのまま歩き出した二人。

 あれ、そういえばいつも私が中心に居て、二人のことを見ていたなあなんて思う。



 今はことりちゃんが中心に居て、それにくっついている海未ちゃん、少しだけ離れて私。



穂乃果「あれ……」



 ささいなこと。自分の胸の中に湧いてくるよくわからない感情に、名前はつけられそうになかった。

◇◇



海未「あの……」


希「急にどうしたん」



海未「えと……あの」


ことり「ふふ」


凛「どうしたの何かあったの」


海未「……む、無理です恥ずかしいです!! ことり……」


ことり「仕方ないなあ」



絵里「ことり?」


ことり「――私と海未ちゃん、付き合うことになりました」





にこ「は?」


絵里「……え?」


真姫「ど、どういうこと!?」

ことり「私……ずっと海未ちゃんのことが……その、好きで……」


海未「……///」



絵里「……へえ」

希「おめでと!」


にこ「全く、全然気がつかなかったわ」

にこ「穂乃果は知ってたの?」



穂乃果「私も今日知ったばかりだよ。好きってのは前から聞いてたけどね」


花陽「なんだか素敵だなあ」

凛「ずっと一緒に居て、ついに恋が実ったってこと? 映画みたい!」


海未「そ、そんな大層なものでは……」


絵里「まさか海未がそういうことになるなんてね……そういうのには厳しいと思ったんだけれど」



海未「……絵里の言う通り、なのですが。……その、私もことりのことがずっと……」

希「海未ちゃん本当表情に出やすいなあ。ええやん両想い!」



花陽「いいなあ両想い……」

凛「凛はかよちんのこと好きだよー?」


希「凛ちゃんは友達としてやろ」

凛「そうかな。うーん、わかんない」



海未「あの、これからもお騒がせするとは思いますけれどよろしくお願いします」

ことり「お願いします」




 こうして、ことりちゃんと海未ちゃんは両想いとなり、私達µ’sの中に初めてカップルが生まれた。



希「先を越されてもーたね」

絵里「本当ねえ」


絵里「ことりが海未のことを好きだったなんてなんか意外」

希「どういうこと?」

絵里「いやあ、海未は穂乃果のこと好きなのかなあって」

希「ああ……なるほどね」


真姫「……絵里は穂乃果のこと好き、なの?」


絵里「……ええ。言わないでね?」

真姫「へえそうなんだ」


真姫「なんだかみんな恋愛恋愛って、私にはわからないわ」



絵里「……私もそうだったんだけどね……その人のことしか考えられなくなる、そんなこともあるのよ?」


希「真姫ちゃんはまだ子供だからわからんよねー?」

真姫「な、わ、わかるわよ!!!」


希「ふふ、大丈夫大丈夫。いずれわかるって」

真姫「もう……」



凛「真姫ちゃんー?」

花陽「早くいこーよ」




希「今日どこか行くん?」

真姫「あ、花陽の家に泊まりに……」


絵里「お泊りか……」


希「へえ」ニヤニヤ


真姫「な、なによ」

希「まあるくなったなあって」

真姫「どういう意味」

希「んー、わかるやろ?」


真姫「わからないから聞いてるの」


希「ふふ、ま、楽しんできてな」


真姫「……もう。バイバイ」

希「じゃあね」



絵里「じゃあ」




希「真姫ちゃんがお泊りかあ。本当丸くなったねえ」

絵里「まるで保護者ね」

希「うふ、そうかもね」


希「私……みんなが大好きだから」


絵里「……そうね」


希「だから少しだけ怖いって思うことがあるの」

絵里「なに?」

希「もし何かあって、みんながバラバラになってしまったらって。何か新しいことがある度、怖くなってしまうんよ」


希「だから、ことりちゃんと海未ちゃんが付き合い初めたのも、少しだけ怖い……」

絵里「……希。そんなこと考えてたの?」

希「うん。だからウチは、えりちが穂乃果ちゃんに告白するのも――」

絵里「……大丈夫よ、きっと。断られても私は大丈夫。辛いけど、大丈夫」


希「そう……」


希(ウチが怖いのは、成功した時のこと……付き合い初めてお互いを深く知ってしまったら……もう前みたいに戻れない)


希(でもこんなこと、言う意味はない、よね)


希(変わらないものなんてないんやから)

◇◇

ことり「海未ちゃん一緒にかえろー!!」

海未「も、もう……」

ことり「ね?」

海未「わかりました」

ことり「大好きー!」ギュー


ことり「帰ろ帰ろ!」

海未「あ、でも穂――」



ことり「バイバイみんな!」

穂乃果「あ、バイバイ!」



ガチャ



絵里「まったく、盛ってるわね」

にこ「こっちまでおかしくなっちゃいそうよ」



希「ことりちゃんの声、普段でも十分ふわふわしてるのに海未ちゃんに話しかける時はもっと凄くなるね。甘すぎて……甘すぎるね」



にこ「ことり達先に帰っちゃったけど、一緒に穂乃果は帰らないの?」

穂乃果「え? あ、うーん」

穂乃果「今日は別にいいかなーって」



絵里「ま、恋人同士の時間だものね」


穂乃果「……」チクリ


穂乃果「あはは、そうだよね!」



穂乃果「幸せそうで私も嬉しいな!」

絵里「穂乃果が手助けしたんだっけ?」


穂乃果「ううん、全然してないよ。ほとんどことりちゃんが一人でやったもん」

絵里「そうなの」

希「ことりちゃんもなかなかやるねー」

にこ「どこかの誰かさんとは大違いね」


絵里「ちょっとにこ!?」

穂乃果「……?」




絵里「あ、あの違うのよ穂乃果?」

穂乃果「なにが?」

絵里「あ、な、なんでもないわ!」

穂乃果「変なの」


にこ「ふふ」




絵里「その、穂乃果は恋愛とか、興味ないの?」




穂乃果「私?」


穂乃果「私は……どうなんだろ。わかんないや」

穂乃果「今は好きな人がいるとかそういうのは無いんだけど……。いずれそういうのもしてみたいとは思うよ」



絵里「そう……」


穂乃果「もし誰かに告白とかされたら……それはそれで考えちゃうかもね?」


絵里「!?」


にこ「へぇ」


にこ「そういうこと興味なさそうだと思ってたわ」



穂乃果「うーん、私だってもうすぐ17歳だよ? 華のセブンティーンだよ……?」

穂乃果「今は他に集中しなきゃいけないこともあるから気にならないけどね」



絵里「なるほどね」


穂乃果「じゃあ私そろそろ帰るね!」

絵里「ええバイバイ」



バタン


絵里「ふ、2人とも!!」


にこ「……なによ」


絵里「これ、チャンスあるわよね?」

にこ「さあどうかしら」

絵里「ど、どうして」


希「覚悟決めたって言ってたやん。もうそんなことで揺れてたら始まらんでしょ」

絵里「そ、そうね……」

希「それよりさ、少し気になったことがあるんよ」

にこ「なに」


希「いや、ことりちゃんと海未ちゃんが穂乃果ちゃんのことを置いて行ったのが……」


絵里「ああ、確かに少し気になったわ。海未は穂乃果のことを気にしてたみたいだけど」

にこ「別に心配ないでしょ。ことりはちょっと浮かれてるだけなんじゃない?」


希「そうだといいんやけど……」


◇◇


凛「さ、真姫ちゃん一緒に寝よ!」



真姫「うぇぇ……でも」

凛「入るよ大丈夫!」

凛「真姫ちゃん真ん中ね!」

真姫「別に私は床でも……」



凛「だめー」






真姫「うー、やっぱり狭いわよぉ」


凛「ほらこうやって三人でくっつけば……ね?」



花陽「電気消すねー」

真姫「……あんまりくっつかないでよ2人とも」



花陽「だってそうしないと入らないから……」

真姫「むぅ」

凛「真姫ちゃんあったかーい」

真姫「やめてよ!」

凛「でもかよちんよりはあったかくない!」

真姫「知らないわよ……」

真姫「もう寝る!」




凛「だめだよ真姫ちゃん。電気消してからが本番だよ?」


真姫「どういうこと?」

凛「なんだかワクワクしない?」

真姫「……まあ」

凛「でしょでしょ? こうやってみんなで限界になるまでお話するのが好きなの」



真姫「ふぅん」


花陽「あの、私……恋バナとか、してみたい」


凛「恋バナ?」



花陽「その、好きな人を言い合うの」


凛「好きな人、か」

凛「凛はかよちんのことが好きだよ?」

花陽「え……わ、私も凛ちゃんのこと好き」





真姫「……お邪魔かしら?」


凛「あ! そんなことないにゃ! 怒らないで、凛は真姫ちゃんのことも大好きだから!」

花陽「私もだよ?」




真姫「だ、だからなによ///」

真姫「あれ、でもこれって恋バナなの?」

凛「……どうなんだろ」

凛「ことりちゃんと海未ちゃんみたいになるのが恋愛だから……」


花陽「やっぱり私たちにはまだ早いのかな?」

凛「そうかもね」



凛「じゃあ次は何について話そうかなー」

真姫「別にそんないちいちテーマを決めなくても――」



 こうして私の初めてのお泊りは終了した。


 こんなことが出来る友達ができるなんて、思わなかった。私はこの居場所が大好き。だから、ずぅっと今の関係が続くといいな。

◇◇


穂乃果「一人で帰るのなんて久しぶりだったなあ」

穂乃果「……うーん、悪くはない、かも?」

穂乃果「でもやっぱり寂しいな」

穂乃果「明日は2人と一緒に帰れるかな」




絵里『恋人同士の時間だもんね』



穂乃果「……ぅ。でも! 私も2人と友達、だし……」


穂乃果「いいよね、2人と一緒に居ても?」


穂乃果「……」


穂乃果「……いいん、だよね?」




 大丈夫。大丈夫と自分に言い聞かせる。


 別にことりちゃんと海未ちゃんが恋人になったからって何かが変わるってことでもないはず。

 なんだか胸がぎゅーって締め付けられるような感じ。



 そりゃあ少しくらいは気を使うよ? 恋人だもんね?


 私だって恋人が出来たら二人きりの時間は大切にしたいし。





穂乃果「うん! こんなことで悩んでちゃだめだよ!!!」

◇◇


穂乃果「おはよう海未ちゃ――」



ことり「え!? そうなの、でもことり、そんなの聞いてないよ?」


穂乃果「ことりちゃん?」


ことり「え、あ、おはよう!」

海未「おはようございます」



ことり「"ことり"、やってないよ……」


穂乃果「……?」

 


 待って、待って。色々おかしいよ? あれ、まずなんでことりちゃんがここに居るんだろう。



 ことりちゃんの家は私と海未ちゃんの家よりも少し離れているから、いつも途中まで海未ちゃんと行くんだけど。


 なんだか海未ちゃんにことりちゃんがお願いしてるみたい? 手をくっつけて頭を下げて――。




ことり「"ことり"の為にも、お願いします!!!」


 うんやっぱり変だよ。ことりちゃん、自分のことは私って言ってた気がするんだけど。




 そもそも何のことをお願いしてるのかな。


穂乃果「何の話?」




ことり「あのね……"私"ね……今日までだった宿題完全に忘れてて」


 あれ、私って言ってる……?



穂乃果「珍しいね」



海未「そういう穂乃果はどうなのですか?」

穂乃果「ふっふっ、私はちゃーんと終わってます!!」



穂乃果「他の友達に見せて貰っただけだけどね!」

海未「全く……」


ことり「ぅぅ」



海未「まあ、仕方ありません。ことりが忘れるのも珍しいですし、今回は見せてあげます」


ことり「本当?」

海未「ええ」

ことり「ありがと♪」

 海未ちゃんが行きましょうとそう告げると、ことりちゃんは海未ちゃんの手に自身の指を絡ませた。



 うわわ、恋人繋ぎ……。


 海未ちゃんの様子を見てみると、これまた顔を真っ赤にして今にも倒れてしまうんじゃないかって思う。


海未「こ、ことり……穂乃果もいますから……」



穂乃果「っ……」



 少しだけ後ろを歩いていた私の耳には、確かにそう聞こえた。


 穂乃果もいるから。


 私がいるから、堂々と手も繋げないってこと?


 私がいるから?


 違う、きっと海未ちゃんにそんな気持ちはないはず。私がただ捻くれた考え方をしているだけ。



穂乃果「えへへ、ラブラブだね?」



海未「もう……こ、こんな手の繋ぎ方……///」

 海未ちゃんは手を振りほどこうとするけれど、ことりちゃんが耳元で何かを囁いた。

 そうするとまた真っ赤になって、俯き抵抗をしなくなった。





穂乃果「そ、そういえばことりちゃんはなんでここにいたの?」


ことり「えっとね、海未ちゃんと早く会いたいなって思ったら足が動いてて」

穂乃果「なるほどぉ」




 二人の後ろを歩く。二人は視線を交わし合う。私の方に視線が向けられることはほとんどない。


 もちろん私が話しかければ振り向いて話してくれるんだけれど、すぐにお互いで向き合ってしまう。


 それが校門まで続いた時。



「穂乃果ー!」


穂乃果「あ、ミカ」

 クラスの友達が私におはようと声をかけてきた。その為に少しだけ立ち止まって私も挨拶を返すんだけど……。



穂乃果「……あれ二人は?」


 いつの間にか二人の姿が目の前から消えていて、よく探して見ると、生徒達の間の先に二人の姿が見えた。


穂乃果「……」


「どうしたの?」


穂乃果「ううん、なんでもないよ」


 いつもなら一緒に行ってくれるのに、立ち止まってもくれなかった。



 なんだか辛い。少しだけ、だけど……辛い。



穂乃果「……」


◇◇



穂乃果「やっとお昼だぁ!」

穂乃果「お腹ずいだぁ……」


海未「ふふ、穂乃果ったら」


ことり「今日もパン?」

穂乃果「今日はパン……じゃないの」



ことり「珍しいね?」


穂乃果「うん、お母さんが暇だったからお弁当作ってくれたー」


ことり「へえ」

 そんなことを話しながらいつもみたいにお弁当を広げる。

 なんだ、いつもとなにも変わらない。

 私が少し気にしすぎてただけなのかな?



ことり「そろそろテストだねー」

穂乃果「まだ三週間もあるよ?」


海未「穂乃果はいまからしないと間に合いませんよ」

穂乃果「大丈夫大丈夫だってー」


海未「全く」

穂乃果「あ、海未ちゃんそれ美味しそう! ひとくちちょうだい!」


海未「いいですよ」


穂乃果「あーん」

海未「はいどうぞ」




ことり「……」





ことり「――いいなぁ、穂乃果ちゃんは」





ことり「ねえ海未ちゃん……"ことり"にもちょうだい?」




穂乃果「っ」ゾクッ



海未「いいですよ」




 な、なに今の。

 一瞬だけど、ことりちゃんの雰囲気が……。



ことり「ふふ、本当だ! 美味しいね!」


 気のせい、だよね。


 



 それはほんの少しの綻びだったけれど……私達の関係が変わったことを表していたんだ。




◇◇




一週間後



ことり「海未ちゃんお昼ご飯食べよー」

海未「はい」








穂乃果「……」


 ことりちゃんがそう言うのと共に私はパンだけ持ってこの教室を後にする。

 向かう先は生徒会室か、部室。

 生徒会室の方が教室から近いからそっちに行ってみようかな。




穂乃果「あ、絵里ちゃん希ちゃん」


絵里「あ、いらっしゃい」


 既に希ちゃんと絵里ちゃんがお互いにお弁当を開いて口に運んでいた。


 私も椅子を引っ張って、腰を下ろす。


穂乃果「はぁ……」




絵里「穂乃果? 最近元気ないわね?」

穂乃果「え、そうかな?」



穂乃果「それよりお昼食べよ?」



 海未ちゃんとことりちゃんが付き合い始めてから一週間と少しが経ちました。



 もうこのことは学校全体に知れ渡って、海未ちゃんのことが好きな人にとっては衝撃だったんじゃないかな? でもみんなことりちゃんなら仕方ないってなるの。


 だってずっと一緒に居た私の目から見てもことりちゃんは可愛いから、他の人からみたらもっと可愛いんだと思う。


 そんなかっこいい海未ちゃんと、可愛いことりちゃん、考えてみれば最高にお似合い。



 最初は私もいつも通りでなんとかなるかなって思ってたんだけど、なんだか少しだけ居心地が悪くて……。



 登下校と、お昼の時間を二人と共にすることは無くなってしまった。



 海未ちゃんにそのことについて聞かれて、気を使っている、なんて言えるわけもなくて適当なウソをついたんだけど……。


希「最近ここ来てるけどどうしたん?」



穂乃果「え、あー……迷惑、かな」

絵里「迷惑ではないけれど」

絵里(むしろ嬉しい)


絵里「気になるのよ」



絵里「何かあったなら言って欲しいわ」


 半ば逃げるように私はここに来た。ここに来れば大体絵里ちゃんや希ちゃんがいるし、部室に行けば他の人がいることもある。

 居心地の良い場所がある。


希「……海未ちゃんとことりちゃんは?」



穂乃果「二人でご飯食べてるよ」



希「穂乃果ちゃんはええの?」


穂乃果「だって……」

穂乃果「――少しだけ、居心地が……悪くて」




希「っ……」


希「それは、なんで?」


穂乃果「……わかんない」


希(聞かなくても、わかることか)


絵里「ことり、最近海未にべったりだものね。練習中のペアとかも絶対海未だし」

希「仕方ない、とは思うんやけど……うーん」


希「穂乃果ちゃんは大丈夫?」


穂乃果「うん! 二人が幸せそうなのは私も嬉しいから」


希「そっか……いつでもここに来ていいからね?」

穂乃果「えへへ、ありがとね」

◇◇



希「居心地が悪い、か」


にこ「どうしたの急に」


希「いや、穂乃果ちゃんが最近ウチのとこにお昼食べに来てたんやけどなんでか聞いたらさ……」


にこ「ことりと海未がイチャイチャしてて一緒に居るのが辛いと」


希「まあ、そんな感じ。そんなストレートには言ってないけど」

にこ「そりゃそうよ。ことり本当にべったりじゃない。あれは束縛とかしそうねー」


希「うーん、確かにわかる気がすふなぁ」

にこ「束縛なんてするやつの精神がわからないわ」

希「確かに一回も束縛されなかったね?」

にこ「別に信じてたしね」

希「あらら、嬉しい」


希「――ちょっと不安なんよ」

にこ「何が?」


希「ずっと三人で一つ。三人で時を過ごして来たものが壊れてしまうんじゃないかって……」


にこ「……なるほど」


希「喧嘩とかすることはあってもすぐに仲直りしてるみたいだったし……でも今回は喧嘩なんてしてない。それでも居心地が良くない、なんて……」


にこ「……」


希「少しだけ気を付けた方がいいかも」

にこ「気をつけるってなにを。ことりにイチャイチャするなとでも言うわけ?」

希「そういうわけじゃないんやけど……うーん」


にこ「幼馴染……ねえ」



ガチャ



凛「練習練習~」




希「お、一年生」


にこ「幼馴染……?」

花陽「どうしたの?」


にこ「あなたたちって幼馴染、よね?」


凛「凛とかよちん? そうだよ」



にこ「……いやでも、三人だもんね。――真姫ちゃん」


真姫「なによ」



にこ「あなた、凛と花陽の間に居て、居心地悪いって思ったことはある?」


真姫「はあ? なによ急に」

にこ「いいから」


真姫「……」


凛「あるの!?」

花陽「ぅ……私悪いことしたかな」


真姫「いや……最初の頃は居心地悪かったわよ。というか最近まで」

凛「ぇえ!?」


真姫「そりゃそうよ。あなた達仲が良すぎて、私なんて居てもいなくても同じなんじゃないかとか……いない方が二人にとっていいんじゃないかとか」


凛「そんなこと思ってたの?」


花陽「そんなことないよ!!」



にこ「ふぅん、真姫ちゃんもそんなこと思ってたのね」

真姫「……仕方ないでしょ」


真姫「で、どうしたの急に」


にこ「いや、なんでもないの。ちょっと聞きたかっただけよ」


にこ「……」



希「……過ぎた関係は……関係を壊す、か」

◇◇



ことり「本当に久しぶりだね、海未ちゃんがことりの家に来るなんて」


海未「そうかもしれませんね」


海未「相変わらず私の部屋とは大違いですね」

ことり「海未ちゃんが来るからちゃんと掃除したんだよ?」



海未「本当ですか? 別に気をつかわなくても良かったのに」


ことり「ううん、だめだよ!」


ことり「ふぁぁ……眠くなってきた」



海未「明日も練習ですからね」

ことり「うん……」


ことり「一緒にねよぉ?」

海未「はい」

ことり「恥ずかしがらないの?」


海未「一緒に眠るくらい、なら」


ことり「えへへ、そっか」

ことり「電気消しまーす」





ことり「もっとこっちよって?」

海未「こ、こうですか……」


ことり「ことりのお顔と、海未ちゃんのお顔こんなに近くなってる」


海未「……///」



ことり「……ことりね海未ちゃんとこんな関係になれて、本当に幸せなの」

海未「私もですよ」

ことり「……そっか。嬉しい」


ことり「あったかいね」


海未「最近暑くなってきましたからね」

ことり「もう、そういうことじゃなくて!」



海未「くす、冗談です」

ことり「もお」



ことり「……好き」

ことり「ことりは海未ちゃんだけのものだよ?」


海未「……私もことりだけのものです」



ことり「……言ったね?」


海未「え?」

ことり「ことりだけのモノなら、色々しちゃっていいんだよね?」


ことり「海未ちゃんに着せたいのが沢山あるの!」


海未「うぇぇ……どうせまた恥ずかしい衣装じゃないですか!」

ことリ「大丈夫、ことり以外には見せないから!」


海未「全く……」


ことり「海未ちゃん……」


海未「……」


ことり「……」スッ


海未「……っ」ゴクリ



海未「……ん」チュッ



ことり「えへへ……」


ことり「私、ファーストキス、だよ?」

海未「そうだったんですか」

ことり「海未ちゃんは?」

海未「私もです。……待って下さい、か、顔が、焼けそうです」



ことり「海未ちゃんの顔、すっごく熱いね」

海未「当たり前、です」

海未「キス、なんて……ごめんなさい、身体が勝手に……」

ことり「ううん、すっごく嬉しい。本当に、泣きそうになるくらい」

ことり「今夜は素敵な夢が見れそう」

海未「ふふ、そうですね」


海未「おやすみなさい、ことり」


ことり「うん、おやすみ海未ちゃん」






「大好き」

また次回。

◇◇




 後悔していた。

 何にって言うと昨日の自分の発言に。




 居心地が悪い、だなんて。まるで二人が悪いみたいな言い方をしてしまった。二人はそんなつもりはないはずなのに。

穂乃果「はぁ」


 朝の憂鬱な気分がさらに深まってしまった。

 そんな気分を振り払うかののうち、携帯電話を手にして、朝一番SNSを開く。



穂乃果「ぁ……」



 そこには、ことりちゃんの家に海未ちゃんが泊まりに来たというものが書いてあった。


 私、そんなの知らないよ?



 ご丁寧に写真まで載っていて、とても楽しそう。



 いいな、私も行きたかったな。前までなら絶対誘ってくれていたのに……。


穂乃果「……こんなのみなきゃ良かった」


 すぐにSNSを閉じて、またベッドに身体を預ける。


 もう私は仲間はずれなのかな。2人にとって邪魔な存在なのかな?

 私がいなければ2人は2人の時間を楽しめるんだもんね?



 だからお泊りにも私を呼んでくれなかったんだよね?



穂乃果「……」


 

 ただ誘ってもらえなかっただけ、誘ってもらうのが当然だなんて考えている私が傲慢なだけ。


 そう、私が悪いんだ。2人は何も悪くない、恋人としての時間を楽しく過ごしただけ。



穂乃果「うん! 練習、行こう」


 飛び跳ねるようにベッドから身を起こし、支度をする。


 身体を動かせばこんなことすぐに気にならなくなるって!


 強引に自分の心を切り替えて、私は練習に向かった。

◇◇




希「……二人でお泊りか」


にこ「あぁ、ことりのやつ?」

希「楽しそうな写真載っけてるね」



真姫「なに見てるの」


希「これや」

真姫「あぁ」


希「そ、これにことりちゃんが海未ちゃんと二人でお泊りしてる画像載っけてたんよー」


真姫「ふぅんいいじゃない楽しそうで」


希「まあそうなんやけど……」


にこ「穂乃果のことでしょ」


希「うん、最近元気無かったから大丈夫かなって」


希「あの三人はいつも一緒で、三人で一つだった。それなのに、なんだか少しずつバラバラになってきているような気がして」



希「穂乃果ちゃんはああ見えて繊細だから、一度沈みだすと……」


真姫「……」



にこ「考えすぎよ」

希「そうかな」

にこ「ネガティブになるとそっちに傾いちゃうでしょうが」








穂乃果「――おっはよー!!」


にこ「……朝からうるさいわね」

穂乃果「えー、酷いよ……」


希(穂乃果ちゃん一人、か)

穂乃果「今日はなにするんだっけなー!」



 はたからみたら穂乃果ちゃんはいつもよりも元気で、落ち込んでいる様子なんて微塵も感じなかった。


 やっぱりウチの考えすぎ、なのかな。


 ああやっぱりウチって臆病。せっかく手に入れられた居場所が壊れしまうんじゃないかって、みんなを信頼してないから、だよね?

 もう少し、みんなを信じてみよう。



 夏休みまでもう少し、できることは精一杯。

◇◇


二週間後







ことり「はぁはぁ……んぅぅ」




海未「……はぁはぁ、ごめん、なさいことり」




ことり「……ううん、いいの」

ことり「こうやって、海未ちゃんと肌をくっつけてるととってもあったかくて……」

海未「……でも、学生なのに、こんなこと!!」


ことり「誘ったのはことりだよ?」

海未「誘ったといっても、私が勝手に暴走したせいで……」

海未「私はことりに、欲情して……なんの為に私は武道に関わってきたのか……」

ことり「大袈裟だよ、人間だって動物だもん」




ことり「そんなに自分を責めないで? ことりは海未ちゃんとこういうことができて、本当に嬉しいって思ってる」



ことり「恋人同士で、一番幸せな時間って思えるの」

海未「ことり……」


海未「責任はとります。こんなこと、してしまって」


海未「こ、ことりのこと、幸せにしますから!!」

ことり「くすくす……もう本当に大袈裟だなあ」

ことり「全国の恋人はこれくらいのことしてるよ?」

海未「しかし……」


ことり「知らない世界に連れて行ってくれて、ありがとね?」

ことり「――気持ちよかったよ?」



海未「ぁぅ……////」



ことり「ことり達ちょっと早い、かな?」

ことり「まだ一ヶ月も付き合ってないのに、こんなこと……」


海未「早いと思います」

ことり「あはは、だよね」



ことり「でも……一緒に居た期間は本当に長いから……」

海未「……そうですね」



ことり「あ、あのね海未ちゃん」

海未「?」


ことり「こ、こんなこと言うと引かれるかもしれないんだけど……」


海未「私はことりが何を言っても引いたりしませんよ?」

ことり「あのね……あの、もう一回、シたい……な」


海未「っ」キュン





海未「……だ、だめです! 明日も練習があるんですから!!」

ことり「むぅ……」







海未「――それに、明日は穂乃果の勉強を見てあげないと」



ことり「っ……」


ことり「……穂乃果ちゃんの勉強、か」


ことり「そう、だよね」



ことり「……でも私としたくない理由が、穂乃果ちゃん、なの?」


ことり「それだったら嫌、だな」

ことり「私といる時に他の人の話はして欲しくない」



海未「……いきなりどうしましたか?」



海未「自分の身体は大事にしてください?」

ことり「……うん」


ことり「ごめんね、変なこと言っちゃって」


海未「いえ」



ことり「海未ちゃんだーいすき!」





海未「あ、穂乃果からメールですね」

ことり「……」


海未「明日の勉強会は絵里と希に頼むからいい……と言ってます」




ことや「そ、そっか」


ことり(あれ……なんで私、嬉しいって思ってるの……?)


海未「最近穂乃果と話せていないので、いい機会だと思ったのですが……」

ことり「……」

ことり(穂乃果ちゃんの名前を出されると……モヤモヤする)




ことり「じゃあ明日も練習終わったら一緒に居ようね!!」


海未「私達も勉強しないとですね」


ことり「えー?」


◇◇

図書室



穂乃果「……」

絵里「本当に私で良かったの?」

穂乃果「絵里ちゃん頭いいから!! どうして?」

絵里「いや、ねえ?」


希「そうやね」

穂乃果「私は二人に勉強見てもらいたかったんだよ?」

希「ウチは頭そんな良くないんやけど……」

穂乃果「うーん、お話相手!!」



希(本当だったら海未ちゃんとことりちゃんに教えて貰うって言ってたのに……)



希「穂乃果ちゃん、流石にこの追試で決めないと夏休みなくなってしまうよ?」

穂乃果「わ、わかってる……」

希「わかったなら頑張ってな」

絵里「……穂乃果だからそこは違うって今教えたでしょ?」


穂乃果「ええ!?」




希「じゃあウチはにこっちのとこ行ってくるね」





――――


希「あれ、真姫ちゃんも」

真姫「ええ」



希「また広報かなにか?」





にこ「そうよ」


希「頑張るね」

にこ「当たり前でしょ」


にこ「……あ、ここのスクールアイドル活動停止、か……」


にこ「期待してたけど、どこもこんなんばっかね」


希「ウチらもそうならんようにしないとね」


希「ねえにこっち……µ’s、おっきくなってきたね」

にこ「そうね」

にこ「今でも信じられないわ」

希「くす……そうやね」



希「ねえ、穂乃果ちゃんのことなんやけど」

にこ「……」


にこ「本当に心配症ね」

真姫「穂乃果も大分いつも通りじゃない」


にこ「でも希の気持ちがわからないでもないわ」

にこ「最近めっきり海未とことりと話してるのを見なくなったし、それに、今日も本当は海未とことりが穂乃果の勉強見てあげるはずだったのに自分から断ったんでしょ?」


真姫「……一ヶ月前からは想像つかないわね」

希「……」


希「――凜ちゃんがさ、最初の頃真姫ちゃんのこと拒絶してたって話を聞いて、ウチはもっと怖くなった」


にこ「なんの話?」


真姫「……凜はね、花陽と私が仲良くなるっていうか……間に入ろうとした時に間に入るなってそう言ってきたことがあるの」

にこ「凜が? そんなこと言うように思えないけど」



真姫「そうなのよ。次の日にはもう凜は拒まなくなってたけどね」

にこ「あの子らしい」


希「凜ちゃんは花陽ちゃんのことを本当に大切に思ってる。独占欲は結構強い、と思う」




希「ウチらからしたらそれは恋愛感情に近い位置にあると思うんよ。本人はそんなふうに思ってないと思うけど」


真姫「凜が恋愛感情? 花陽に? それは無い気もするけど……」


真姫「でも強い独占欲ってのはわかる気がするわ」

希「凜ちゃんの良いところはそれを仲良くなった人には示さないってこと、かな」



希「多分凜ちゃんの中でお互いは一番同士っていう確固たるモノがあるから。口には出さないし、本人も思ってないけれど本能的にね?」

にこ「あれね、未知のモノは怖いってやつね」


にこ「私達は花陽のことを自分から取る存在じゃないって、凜の中では識別されたってことね」

真姫「……なんかむかつく、とってやろうかしら」



希「まあそういわんで」



希「――最近ね、ことりちゃんが穂乃果ちゃんに向ける目が怖い気がして」


にこ「怖い?」

希「海未ちゃんと話したりすると、睨むというか」


真姫「穂乃果もあの二人といると居心地悪いとまで言い出しちゃったしね」



希「凜ちゃんとことりちゃん、なんだかそういうとこ似ている気がして」



希「……何もない、といいんやけど」


>>84
間違ってました。ご指摘感謝です。

◇◇

夏休み



穂乃果「海だぁー!!!!」


穂乃果「遊ぶ――」


海未「練習です」


海未「なんの為に真姫が別荘まで貸してくれたと思っているのですか!!」


海未「だいたい、やっとテストの追試が終わったからって浮かれすぎなんです」


ことり「……」


海未「穂乃果わかりますか!?」

海未「私は心配してるんですよ!?」

穂乃果「ああもうわかったからあ!!」





希「なんか久しぶりに見たこの光景」

真姫「そうね」

海未「穂乃果、お話があります、こっちへ来て下さい!!」

穂乃果「え!? やだやだやだ!!」





ことり「――海未ちゃん」


海未「ことり……」


ことり「穂乃果ちゃんも色々終わって反省してるって」

海未「しかし」




ことり「――いいから穂乃果ちゃんの手、離してあげて……?」




希「……ぁ」ゾクゾク





海未「そ、そうですね」


海未「穂乃果、気をつけて下さい」

穂乃果「ふぁい」


真姫(……あの日希に話を聞いてからあの三人を観察してるけど……やっぱりことりが意識的に海未と穂乃果を引き離してる、ように見える……?)


真姫(……ことりは海未にはっきりとした恋愛感情を持ってる。穂乃果が海未を取っちゃうんじゃないかっていう不安から独占欲が働くってこと、よね)



真姫(私達は海未を取ることはないってことりは判断してるのか……私は海未と二人きりになることも多いのになんでかしら)




凛「いいじゃん!! みんなもう水着に着替えてるにゃ!」

海未「ダメですよ凛!」

穂乃果「ねーねー遊ぼうよー」


希「少しくらいいいんやないかな」


海未「しかし……」


絵里「まだ夏休みも始まったばかりだし、思い出も欲しいと思わない?」

海未「……」


海未「仕方ありませんね」

海未「ただし、明日からはこうはいきませんよ?」


にこ「やったー!!」

海未「にこまで……」


穂乃果「いこー凛ちゃん!!」

凛「うんー!!」


絵里「元気がいいわね」

真姫「本当よね」


真姫「二人は水着にならないの?」


海未「遊ぶとは思っていなかったので……」

ことり「私も……」


海未「今から着替えてきますね」

絵里「できるだけ早くね」

海未「はい」

ことり「いこ!」



希「よーし、海なんて久しぶりやからウチも遊んじゃうよー!」

◇◇


ことり「可愛い水着だね」

海未「そ、そうですか?」

海未「ことりこそ……」


ことり「ありがと!」


ことり「~~♪♪」ユサユサ

海未「……」



海未「あ、あの……その」

ことり「?」


海未「こ……ここ、ここで、しませんか?」


ことり「え?」



海未「ぅ……」

ことり「い、今からえっちしたいってこと!?」

ことり「でもみんなが……」


海未「そ、そうですよね。すみません、ちょっとどうかしてました」

ことり「――ふぅん、海未ちゃんことりとえっちしたいんだぁ。真姫ちゃんの別荘なのにー」

海未「そ、それは……」

ことり「――いいよ」

海未「え?」




ことり「ただし、海未ちゃん、ことりの前で一人でイけたらね」


海未「……そ、それはことりの前で自慰行為をしろと!?」


ことり「うん」



海未「む、無理ですよ!! そこまでしてしたいとも思いません! わ、忘れて下さい!!」

ことり「む……」


ことり「ことりがみたいの」

海未「嫌ですよ……」

ことり「おねがぁい……」




海未「ぅ……で、でもしたことがありませんし……」

ことり「ないの?」


海未「あるんですか?」

ことり「言わせないでよ……」

海未「いや言わせようとしてるじゃないですか……」


ことり「したことないならさ、教えてあげる。これで私と出来ない時も少しは寂しさを紛らわせるよ?」スッ



海未「ふぁ……」

ことり「はい、後はお好きなように」


海未「どうすれば……」

ことり「……ことりにされてる時のこと思いだして、それとおんなじように身体を触ってみて?」

海未「こ、こうですか」

海未「ふっ、ぁ……」





ことり「そうそうそうやっておっぱい触って――」




◇◇




絵里「まったく、海未とことりはいつまで着替えてるの」

穂乃果「あはは、本当だよね」



穂乃果「ん、あれ」


絵里「ないの?」

穂乃果「持ってきたと思うんだけどなあ」


 みんなでビーチバレーをしようよって話を絵里ちゃんとしてて、私は持ってきた荷物の中にあるはずのボールを探していた。


穂乃果「……ないや。別荘に置いてきちゃったかな」

絵里「それならしなくてもいいんじゃない?」

穂乃果「えーしたいよー」


穂乃果「私、とってくるね」


絵里「あ、うん」


タッタッタ

 すぐに別荘まで駆けて、私は荷物を置いた部屋に向かう。


 あれ、どこだったかな。確かおっきなベッドがある部屋に荷物を置いたんだよね。


 確か階段を登って、あ、そうそうこの辺。




穂乃果「海未ちゃんとことりちゃんどこ行ったのかなー?」


穂乃果「うーん――」



「んっ……はぁん……海未ちゃ……」




 私が荷物の置いた部屋のある通路まで来るとなんだか、声が聞こえた気がした。


 自然に私の足はその場にはりつけられたように動かなくなる。その代わりに全部の神経が、耳に集中して、先ほど聞こえてきた声の正体を掴もうとしている。



穂乃果「ごくっ……」




ことり「海未ちゃん……そこ……ゃ……んぁぁっ!!」



穂乃果「!?」


穂乃果「こと、りちゃん?」




 声の主はすぐにわかった。だって、ずっと一緒にいた幼馴染。

 そして、その甘い声が叫んだもう一人の名前。



海未「ことり……綺麗ですよ」

ことり「いやぁぁ……」



 少しだけ低音な声が甘い声の中に割り入ってくる。


 海未ちゃんとことりちゃん、二人がなにかしている。

 何かっていう予想くらいは、ばかな私でも出来てしまう。


 でも私の好奇心は抑えることなんて出来なくて――。



穂乃果「っ――」


 開けられている部屋の中を覗き見た時、私の目が捉えたのは絡み合っている幼馴染二人の姿。

 深いキスを繰り返して、お互いの大事なところをまさぐり合う行為。

穂乃果「……」


海未「んっ……ふぁ……」

ことり「もっと声聞かせて?」



 二人とも何をやっているの? なにをやっているの?

 二人だけで、全く私の普段の理解からは超えたことをする。


 二人の姿は生々しくて、私はこれが恋人なんだって、これが二人の見ている世界なんだって怖くなった。


 普段見せている穏やかな表情じゃなくて、お互いに貪りあって……私はそれを見ているだけで震えが止まらない。

 知らない、こんな二人、知らない。



 私がのほほんとしている間に二人は二人だけであんなことをしている。




 もう私なんて、二人のことを見ていることしかできない。当事者になれなくて、今まで全部一緒に色々やってきたのに、私が二人にとってはなんの存在にもなれていないって言われているようで――。

穂乃果「ぅぅ……」


 目を離して、その場に崩れ落ちる。一緒に涙も零れ落ちる。


 私は邪魔だよね。


 私が二人にくっついてなければ二人はこういうこといっぱいできるもんね?


 聞こえてくる嬌声が激しくなると、それに応えるかのように私の中からさらに涙が溢れてきた。


 あんなものを見てしまって、私はことりちゃんと海未ちゃんに今まで通り接する自信がない。



 嬌声が響く中、私はなんとか足に力を入れて立ち上がる。こんな声が聞こえている中にいたらどうにかなっちゃうかもしれない。


 ふらふらと階段を降りて、リビングへ。






絵里「――穂乃果!」

穂乃果「ぅ絵里……ちゃん?」


 

絵里「どうしたの!?」


 あれ、どうして絵里ちゃんがここに居るんだろう。ああそうか、戻るのが遅かったから様子を見に来てくれたんだね?


穂乃果「なんでも、ない」


 目をそらそうとするけれど絵里ちゃんは私の手を握りしめて、その青い瞳で私のことを真剣に見つめる。


 そして本当なの?って聞かれれば、吸い込まれるみたいに……嘘なんてつけない。


 自分の気持ちに嘘なんてつけない。

 今まで抑えていた想いが全部決壊して、私は絵里ちゃんに思い切り抱きついた。


 その後は何を話したかあんまり覚えていない。

 とりあえず、泣きながら抱きついて、あったことを話した気がする。







絵里「……そう」


穂乃果「勝手だってわかってるけど、二人が恋人だってことも、わかってるけど!!」


穂乃果「寂しくて……!!」

穂乃果「私は二人がどんどん遠くに行っちゃう気がして、怖くて怖くて!!!」


穂乃果「二人とも、あ、あんな顔して……ぁぁ……」

絵里「……」


穂乃果「ぅぅ……ごめんね……私がわがままなだけ、なのに」

絵里「……」

絵里「確かにわがままかもしれないわね?」

絵里「二人が恋人同士なのは本当だし、その……えっちとかするのも当然だと思う。場所は自重して欲しいけどね」



絵里「でも……穂乃果の気持ちもわかる。ずっと何年も何十年も三人で一つ、だったんだものね……」


穂乃果「う、ん」



絵里(二人は穂乃果にとっては本当に大きな存在だったのね。たった一ヶ月くらいの間でもう穂乃果がこんなになっちゃうなんて……)

絵里「よしよし」

穂乃果「私……私……!!」



穂乃果「ぅう、ぅあああああああ」




絵里「……」

◇◇






穂乃果「……」



真姫「ねえ、なんか穂乃果の様子がおかしくない?」

にこ「そうね……」


海未「一体どうしたのでしょうか」



絵里(あなた達のせいなんだけどね……)




海未「穂乃果、どうしましたか?」


穂乃果「っ……ひ……海、未ちゃん」

海未「え?」


希(怯えてる?)

穂乃果「大丈夫、大丈夫だから心配しないで!!!」

海未「あ……」


海未「穂乃果?」

希(やっぱりおかしい、今までだって気を使っていたけれど、こんな態度を取ることは無かった)


絵里「……ちょっと穂乃果疲れちゃったみたいで、休ませてあげて?」


海未「珍しいですね……」

絵里「……」

希(何か知ってるね……)


穂乃果「ごめん、私、別荘戻ってるね?」


海未「……わかりました」



凛「どうしたんだろ」


絵里「あー、あの、私もちょっと別荘戻ってていいかしら」


海未「絵里もですか?」

絵里「ええ、ちょっとね?」

にこ(穂乃果のことかな……)



にこ「じゃ私達は遊びましょー!」


にこ「ほらことりと海未もいつまでもイチャイチャしてないで、海に入ったらどうなの」

海未「イチャイチャなんて……」

ことり「一緒に入ろ!!」

海未「ぅ……」




凛「……かよちん、凛達もいこ!」

花陽「う、うん!」




真姫「……どう思う」

希「さあ、どうやろ。えりちに任せるよ」

希「後で聞いとこ。じゃ真姫ちゃんウチらも遊ぼ」


真姫「……なんだかそんな気分じゃないけれどね」


途中凛が凜になってしまっていました。
また次回。

◇◇



絵里「大丈夫穂乃果?」

穂乃果「絵里、ちゃん」



穂乃果「ごめんね、さっきは」

絵里「いいのよ」

穂乃果「……」

絵里「……」


穂乃果「……」ガタガタ


絵里「怖いの?」


穂乃果「う」コクリ


絵里(……幼馴染の二人の夜の顔を目の当たりにして、そりゃ怖くもなるわよね)

絵里(穂乃果は純粋だから、あの二人がしていた行為も受け入れられない可能性も高い……)


絵里(もしかしたらトラウマになっちゃった可能性もある)



絵里「安心して、大丈夫、大丈夫だから」ギュッ


穂乃果「絵里ちゃん……」




絵里「きっとみんなまだ遊んでるだろうし、二人でお話してましょうか」

穂乃果「……うん!!」


◇◇



希「やっぱり全く海未ちゃんとことりちゃんの方を見ようとしないね」

絵里「まあ、そりゃそうよ」

希「まさかそんなことがあったなんてなー。どうしようもないことやけど……穂乃果ちゃんは辛いやろね」

絵里「ええ」


希「えりちが支えてあげてな」

絵里「可能な限りはね」

絵里「でも、いくら私がしてあげてもあの二人との関係が改善しない限り、穂乃果はずっと落ち込んだままだと思う」

絵里「しかも今はまともに会話も出来てないし……」


希「ちょっと、穂乃果ちゃんは合宿どころじゃないかもしれんね」


絵里「なんでこんなことに」


希「あの二人があんなに恋愛にのめりこむなんて思ってなかった。どっちかっていうとことりちゃんやけど」



ことり「ええ海未ちゃん、おかしいよぉ!」


海未「いや、しかしこれが適切なのですよ!」

ことり「ぅぇえ」

海未「ほら、ここはこう火をつけて……」

絵里「本当常にイチャイチャしてるわね」

希「そのイチャイチャしてるのを見るたびに穂乃果ちゃんは思い出しちゃう……」

希「二人のことやから部外者が口出しはよくないかもしれんけれど、これ以上穂乃果ちゃんに悪影響があるようなら言わないとダメやね」

絵里「そうならないことを願うばかりね」

穂乃果「――二人ともー! 早く花火しようよー!!」

絵里「わかってるわー!!」

希「行こっか」

絵里「ちょっと凛、穂乃果危ないでしょ!!」

凛「これを回しながらー、ぶーんて走ると、ね、すごいでしょ!!」

凛「あつっ!!!」

絵里「ほらいわんこっちゃない」



絵里(相変わらず二人でいるわね)



絵里「あれ、真姫は……」





真姫「……」パチパチ


絵里「一人でなにしてるの」


真姫「ぁ……」ポト


絵里「あら、線香花火、落ちちゃったわね」

真姫「ええ」


真姫「……」

絵里「どうしたの?」

真姫「……本当に、楽しいなって」

絵里「え?」

真姫「いや、今までこんなことしたこと、なかったから」

絵里「ふふ」

真姫「……なに笑ってんの」

絵里「真姫も可愛らしいなと思いまして」

真姫「馬鹿にしないで」


絵里「まだまだこれからよ? 楽しいことがいっぱいあると思う」

真姫「……どうかしらね」

絵里「期待しちゃってるくせに。にやけてるわよ」

真姫「うるさい!」

真姫「でも……本当にそうなら、いいわね」

絵里「ええ」


真姫「さっき落ちちゃったから、また線香花火やる」

絵里「あ、私もやるわよ!!」



◇◇

一週間後



海未「穂乃果」

穂乃果「ひっ……ぁ、ごめん、トイレ行ってくる」

海未「……穂乃果……」




絵里「……」




 結局あれから穂乃果が海未とことりとの関係を修復することは無かった。

 夏休みも本番に入って、いよいよという時にこれだからかなりの障害ね。



 時間が解決してくれるって思った問題も、全然そんなことはなくて……それ以前に穂乃果から話をきくところによると学校で二人がキスをしてるところを見たりと、状況は加速している。




 部室から出て行った穂乃果を追いかけるように私もトイレと一言言って部室の扉を閉める。


 ここ最近穂乃果と話す機会が格段に増えた。

 夜電話をしたり、二人で遊びに行ったり。私は穂乃果のことが好きだからこの状況は本当に嬉しいんだけど、今告白とかそういうのは穂乃果にとってもよくない。



 ただでさえ揺れる精神を私なんかでさらに揺らしたくない。

 私が告白しても穂乃果は何も思わない可能性もあるけどね?


 穂乃果も私に色々話してくれるのはそんな感情があるわけじゃないってのは私も分かっている。頼ってくれるだけで幸せだから。




絵里「こんなところに居たの」


穂乃果「絵里ちゃん……来てくれるって思った」

絵里「ふふ、なによそれ」


 空き教室にいた穂乃果は、疲れたような笑顔を私に見せる。

 今まで気を遣う必要なんてなかった居場所が突如気を遣わなければいけない場所になって、さらに恐怖を覚える場所になってしまったんだから……疲れるのも当然ね。

穂乃果「ねえ、またお話しようよ」

絵里「いいわよ」


 お話。

 穂乃果は私とお話と言って、言葉通り色々な話をすることが好きなようだった。

 なにか一つを決めてそれについて二人で話し合う。最近穂乃果はピアスのことについて話すことが多い、開けるつもりなのかしら?



穂乃果「昨日は……チーズケーキの話だったから……」

絵里「チョコレートケーキとか?」

 冗談よというと穂乃果は馬鹿にしないでってタコみたいに赤くなる。

穂乃果「今日はね――恋愛について」



絵里「え?」


絵里「恋、愛?」


穂乃果「うん」

絵里「どうしたの急に」

穂乃果「いや……」

 本当にどうしたんだろう。穂乃果は、口ごもって俯く。

 今までの傾向からして、恋愛なんてワードが出てくるとは思えない。


絵里「――なにかあったの?」


穂乃果「いや、特に何もないんだけどさ」


絵里「?」


穂乃果「絵里ちゃんて好きな人、いる?」



絵里「……え」


 なんで、急にそんなこと。急すぎてわけがわからない。頭の処理が追いつかない。



絵里「えと」

穂乃果「?」



絵里「――穂乃果のことが、好き」



穂乃果「え……?」

穂乃果「私!?」


絵里「ぇ、あ……」


 言ってしまった。

 なんで私は、こんなあっさり……なんか意識しないで気がついたら……。

 そういえばにこが好きって気持ちが溢れてきたら自然と言葉が出るなんて言っていたけれど、本当だったみたい。



絵里「ごめんなさい、急に……」


穂乃果「ほ、本当に私?」


 問い詰めてくる穂乃果の顔なんてもう見れなくて、私は視線を地に落とす。顔もおかしくなるくらい熱くて、どうにかなっちゃいそう。


 

穂乃果「……」


穂乃果「私はそういうのよく、わかんない、けど……」

穂乃果「告白されたら、ことりちゃん達みたいにお付き合いするかしないか……決めるんだよね?」




穂乃果「なら……」



絵里「いや別に私は……」



穂乃果「――絵里ちゃんなら、いいよ?」

絵里「え……」


絵里「なに言ってる、の?」

 ちょっとよくわからない。なに? なんなの? 私、知らないうちに無意識的に告白してて、それで穂乃果にまた負担かけちゃうって思ってたところなのに。


 目の前の穂乃果を見ると、穂乃果もさっきまでの私と同じように顔を真っ赤にして、俯いていた。


絵里「……付き合うってどういうことか分かってる?」

穂乃果「ことりちゃん達みたいなことでしょ?」

絵里「なら――」

穂乃果「絵里ちゃんは優しくて、私が落ち込んでるときに一番に声をかけてくれて……私のがそういう感情かはわからないんだけど、絵里ちゃんが私のことを好きって言ってくれて、本当に嬉しかった」

穂乃果「こんな半端な気持ちじゃダメなのかもしれないけれど……」


穂乃果「ダメ、かな」



絵里「穂乃果……」


 この日、またµ’sにカップルが生まれることになった。


 そしてまた壊れていく、関係は変わっていく。


◇◇



希「おめでとさん♪」


希「えりちはねーかなり前から穂乃果ちゃんのことが好きってウチに相談してたんよ?」

穂乃果「え、ええ!?」

穂乃果「そうなの!?」




絵里「もう、余計なこと言わないで……」

穂乃果「……顔真っ赤ー」

絵里「もう!!」

穂乃果「あはは」


希「もうみんなには言ったん?」

絵里「ええ、さっき言ってきたわ」



希(少しまえからいい雰囲気のことが多いなって思ってたけど、まさか付き合うなんて。一体なにがあったんかなー)

希(穂乃果ちゃんもえりちと一緒にいる時は楽しそうやしね)


穂乃果「じゃあ私そろそろみんなのとこ戻るね!!」


希「うん」


ばたん。


絵里「……なんだか実感湧かないわ」


希「穂乃果ちゃんと恋人になったって聞いた時はびっくりした」

絵里「そうよね」

絵里「でも、本当に良かったのかしら」

希「?」

絵里「たたでさえ穂乃果は今繊細なのに、私がいきなり告白してよかったのかなって」

希「結果がそうなってるんだから良かったってことなんやないの。だって穂乃果ちゃん、えりちといる時、本当に楽しそうだよ?」



絵里「そうかしら」

希「確かに幼馴染との関係は凹んでしまったかもしれない。でもその分のへこみをえりちなら埋められる」

絵里「そうだといいんだけど……」

希「大丈夫、きっといい方向に進むよ」




希(穂乃果ちゃんが心から笑う顔を見たのは久しぶりだった。それだけえりちの力が凄いってことなんよ……?)

希「ふふ」

絵里「?」



◇◇


4日後


海未「……」

ことり「最近元気ないね?」

海未「はい」

ことり「どうしたの?」

海未「穂乃果のことで……」

ことり「穂乃果ちゃんがどうしたの?」

海未「なんだか避けられている気がして」

ことり「ことり達に気をつかってくれてるだけじゃないかな?」

海未「そんなようには……」


ことり「……」

海未「私、穂乃果のところに行ってきます」

ことり「え?」

ことり「ことりと二人でいようよ」

海未「……こればかりは譲れません」

ことり「む……わかった。ことりも行こうか?」

海未「いえ、一人で行かせて下さい」

ことり「……」

◇◇

希「穂乃果ちゃん、大丈夫?」

絵里「穂乃果……」

穂乃果「ぁ……ぅぁ」ガタガタ

 穂乃果の身体はまたしても震え出し、心の中のトラウマを呼び起こす。

 今回の原因は、海未とことりが練習前の屋上で交じりあっていたことだった。完全な行為じゃないらしいけれど、前に穂乃果が見たトラウマを呼び起こすには十分すぎることだ。

絵里「穂乃果……」

穂乃果「えりちゃ……」

 私がいくら抱きしめても穂乃果が海未とことりに対する態度を変えることはなかった。そのせいで最近は海未がなんだか落ち込んでいて、部の雰囲気は少しだけおかしくなってきている。

絵里「……ごめん、希、私もう我慢出来ない」

希「え?」

絵里「ことり達に直接言うわ」

穂乃果「――だ、ダメだよ!」

絵里「え?」

穂乃果「あ、あの二人は幸せなの。私が邪魔しちゃったら……」

絵里「……そうかもしれないけれど、あの二人は少しやりすぎなのよ?」

絵里「それを注意するだけだから」

希「……」

――

海未「失礼します」

絵里「海未……」

穂乃果「え……!?」

穂乃果「ひっ……」

海未「……穂乃果」

穂乃果「ち、近づかないで!!」

海未「どう、して……」

海未「穂乃果、どうしてですか!?」

海未「どうして最近私を避けるんですか!?」ガシッ


穂乃果「いや、いやぁぁ!!!」

絵里「落ち着いて」

海未「しかし……」


絵里「穂乃果がこうなってるのも、あなた達のせいなのよ?」

海未「どういう……」

絵里「あなた達、最近ハメを外しすぎてるんじゃないかしら」

海未「っ」

絵里「……学校でもどこでもキスして、しかも合宿では――」

海未「見てた、んですか……」


絵里「穂乃果がね」


穂乃果「……」


海未「ぁ……ぁ」


絵里「あなた達二人が付き合いだしてから、穂乃果はずっと悩んでいたのよ?」

絵里「ずっと一緒だった幼馴染とも気楽に話せなくなった、居心地が急に悪くなったって」

海未「……」

絵里「だから登校する時もお昼食べるときも、あなた達とは一緒じゃなくなった」

絵里「これも全部あなた達が引き起こしたことなのよ?」

絵里「少しは周りをみなさい」

海未「……」


希「えりちその辺で……」


絵里「穂乃果がどれだけ苦しんだと思っているの!?」

絵里「あなた達は幼馴染なんでしょ!? そんな変化も気がつけないほど溺れているの!?」

海未「……」



海未「――ごめん、なさい」


海未「私は、なんてことを……穂乃果がそんなことを思っているだなんて思いもしませんでした」

海未「穂乃果、これからは気をつけます。穂乃果にそんな思いをさせないように気をつけます……」


海未「本当にすみません……。私は、穂乃果は一番の友達だと思っています……だから前みたいに笑って下さい」

海未「穂乃果の笑顔にいつも私は助けられて――」


穂乃果「――ごめんね」

穂乃果「私のわがままなのに、海未ちゃんにそうまで言わせちゃって……」

穂乃果「私ね、ずっと三人でいろいろしてきて、一人だけ置いて行かれるんだって思うとすっごく怖くなっちゃって」

穂乃果「私こそ、ごめんね」

海未「穂乃果……」


海未「はい……」



絵里「一件落着、かしら」


 穂乃果の笑顔はいつにも増して輝いていて、それが心からのものだと気がつくのはすぐだった。

 私は恋人だけれど、それだけでは穂乃果の中の溝を埋めることは出来ない。

 悔しいけれど、ほんとに幼馴染の絆ってすごいのね。



海未「私がことりにもこのことを言っておきますから、安心していて下さい」

穂乃果「でも……」


海未「いいんですよ。では」

◇◇



海未「ということで――」


ことり「なにそれ」

海未「え」


ことり「穂乃果ちゃんのために海未ちゃんとの時間減らせっていうの?」

海未「そうは言っていません。私はことりのことは大好きですし、二人で居たいとも思います」


ことり「ならそれでいいと思う」


海未「……絵里に言われて気がついたんです。穂乃果は私達にとって大切な大切な友達なんですよ?」

ことり「そう、だけど」

海未「最近穂乃果との時間を作れなくて……穂乃果のことを何も考えていませんでしたから」


ことり「穂乃果ちゃんには絵里ちゃんがいるじゃん」


海未「それとこれとは別です」



ことり「……海未ちゃんがそういうなら、"仕方ない"ね」


海未「分かってくれて嬉しいです」

海未「好きですよ」ギュッ

ことり「ふぇ……えへへ」

◇◇

3日後



絵里「結局、あれで良かったんじゃないかしら」

希「そうやねえ」

希「衝突した時はどうなるかと思ったけど……」

絵里「心配しすぎよ」

希「臆病なだけや」

希「……変わらないってことがどれだけ難しいか、分かってるはずなのにね」

希「穂乃果ちゃんのこと、寂しい想いさせちゃダメよ?」

絵里「分かってるわ」

絵里「あの日から三人でいる時間も増えたし、前よりも居心地がよくなったって言ってたわ。きっと海未が気がついてくれたからよね」

希「へえ!」

希「えりちは嫉妬とかせんの?」

絵里「嫉妬? しないわよ、あの三人は一つじゃないと私もなんか気分悪いじゃない?」

希「……みんながみんなえりちみたいなら、世の中から恋幕での争いなんてなくなるんやけどね」

絵里「……そうね」

◇◇

ことり「……」



ことり「やっぱり嫌だよ……」

海未「え?」

ことり「なんで穂乃果ちゃんといる時は恋人じゃないことにするの?」

海未「私達がずっとベタベタしていたから、穂乃果が嫌な思いをしたのも事実です。だから、そうするべきかと」

ことり「おかしいよ……」

海未「ことりとの時間もちゃんと作りますから、ね?」

ことり「……」

ことり「じゃあなんで明日デートしてくれなくなったの」

海未「穂乃果が宿題を見て欲しいって」

ことり「……やだ」

ことり「デートしたい」

海未「ことり……」





ことり「――最近海未ちゃん、ことりといる時も穂乃果ちゃん穂乃果ちゃんばっかり!!!!」



ことり「ことりといる時は他の人の話はしないでって言ったじゃん!!」

ことり「穂乃果ちゃん穂乃果ちゃんてそんなに穂乃果ちゃんが好き!?」

ことり「どうでもいいよ穂乃果ちゃんなんて!!!」

ことり「ことりは海未ちゃんがいればそれでいいから!!」


海未「っ……」


海未「――本気で、言ってるんですか」



海未「本気で言ってるんですか!?」

ことり「……」


海未「最低です……」

海未「最低、です!! ことりが友達のことをそんなにも軽視する人だなんて思いませんでした!!」

海未「――今日はもう帰ります」

ことり「ま、待ってよ!!」


海未「離して下さい!!」

ことり「」フルフル


海未「……離して下さい!」

 海未ちゃんの怒鳴り声が、ことりの部屋に響く。

 ことりを睨みつける海未ちゃんの鬼のような表情は今までで一度も見たことがない、心からの怒りの顔。



ことり「っ……ごめん」



 ことりの部屋から出ていこうとする海未ちゃんの手を慌てて掴んだそれはすぐに振り払われてしまった。

 その行為がなによりもショックで、ことりは足に力が入りません。
 追いかけようと思っても、愛おしい背中はもうことりの先には無く、既に締められた扉だけがそこにはありました。


ことり「ぅぅ、海未ちゃ……やだ、行かないで……」



 初めてだった。今までで初めて。喧嘩なんて一度もしたことがない私は海未ちゃんがあんなに怒ってしまってどうしていいかが全くわからなかった。

 喧嘩したらどうすればいいんだろう。もしこれで別れるなんて言われたらどうしよう。なんでこんなことになっちゃったんだろう。



ことり「穂乃果ちゃんが悪いんだ……」


ことり「……穂乃果ちゃんが、ひひ……はは」

ことり「うん、そうだ。私と海未ちゃんの邪魔ばかりして、いくら幼馴染だって、許せないよ……?」


 応援するって言ったのに、今度は寂しい? 意味がわからない、穂乃果ちゃんのことを信じてたのに。


 前からずっと溜まってきた黒い黒い感情はもう抑えられそうにない。

 でも大丈夫、少しだけ話をするだけ、だから。

 今度話があるってメールしないと。そう思って携帯電話を取り出して画面を確認。SNSから通知が来ていることに気がついた。

ことり「なんだ、他の人のフォロー情報か」


 ことりには関係ないことだ。でも一回開いてしまったら、しばらく見ていなかった他人の情報が気になってしまう。そのままスクロールして見ていくと――。






穂乃果@――――

明日は海未ちゃんとことりちゃんと久しぶりにお勉強ー!


ことり「っ!!」

ことり「あはは、あはは、ふざけないで……」

ことり「お話だけじゃ、すまない、かもね?」

◇◇
◆◆


絵里「ごめんなさいね、手伝って貰って」


海未「いえ、あんなに重い荷物を一人でもとうとしてた時はびっくりしましたよ」

絵里「希も今日はいなくてね」

海未「だったら二回に分けるとか……」

絵里「頭が回らなかったわ」



絵里「今回まとめる人――ああにこがいたわね」

海未「ことりと穂乃果もいますから大丈夫ですよ」


海未「……穂乃果とどうですか」

絵里「え!?」

海未「ふふ、その様子だと、幸せみたいですね」

絵里「えっと……」

絵里「まあ、ね」







ことり「――ふざけないで!!!」


絵里「っ!?」



海未「この声は?」


 先にある空き教室、からだろうそこからキーンとする叫び声が聞こえてきた。ふざけないで、そう言った声はどこか聞き覚えがあって、でもその声の主が叫ぶところなんて見たことない。


 海未もこちらを向いて一度頷くと、気配を消して、空き教室を覗き込んだ。


海未「ことりと穂乃果?」

絵里「なんで二人が」

 教室の中心で向かいあっている二人。ことりが穂乃果を追い詰めているような、そんな感じがする。
 だって、穂乃果は下を向いて、今にも泣き出しそうなんだもの。


ことり「――ねえ、なんとか言ってよ」

ことり「私と海未ちゃんの邪魔しないで!」


海未「邪魔……?」

穂乃果「邪魔なん、て……」


ことり「してるの!!」バンッ


穂乃果「ひっ……怖いよ」

絵里「なに、してるの?」

 そう呟いた声に海未もこの光景が信じられないといった表情で、ふるふる首を横に降った。

ことり「ねえ、昨日海未ちゃんとのお勉強楽しかった?」

ことり「私から海未ちゃん奪って楽しい?」

ことり「海未ちゃんは私の恋人なんだよ?」

ことり「でも穂乃果ちゃんが邪魔するから、私は穂乃果ちゃんといる時は恋人として接することが出来ないんだよ!?」

ことり「ねえ、あなたのせいで私は海未ちゃんとの時間が減ったの!!」


ことり「ねえ、ねえ!!!」


ことり「絵里ちゃんじゃ満足出来ないの……? 二股……? ねえ、なんとか言ってよ……」

ことり「穂乃果ちゃんのせいだ……穂乃果ちゃんが悪いんだよ。お願いだから邪魔しないで、お願いだから。――邪魔なの」


穂乃果「ぅ……うぅ、ごめん、なさ……」


 ことりの言葉一つ一つが、穂乃果の心を抉ったのが分かった。それに穂乃果が耐えられるわけもなく、目元を覆いながら崩れ落ちた。それを見下すことりの口元は妖しく歪んで、そこには幼馴染の絆など存在していない。

ことり「泣きたいのはこっちだよ?」

ことり「泣けば全部済むなんて、思わな――」


 耐えられそうにない。穂乃果のことをあんなに。守ってあげなきゃ、恋人なのよ、私は。


 そこから先は一瞬だった。私が動き出すより前にすぐそばに居た海未の姿が消えて、教室に目を向けるとことりのもとに向かう海未が見えた。

 なにをするかは容易に想像がついた、ことりの恋人である海未だけど、穂乃果のこともとても大切に想っている。それをあんなに罵詈雑言を浴びせたことりに対する心情は――。


 止めなきゃ、そう思った時には私の足は動き出していた。


 海未がことりの肩を掴んで、それになんのことか分かっていないことりが困惑の表情を浮かべるよりも前に――。

 パァン!!!



 その場には乾いた音が響いた。私の足もその音と共に止まって、二人を見つめることしか、出来なかった。



海未「最低です……あなたは最低です!!!」


海未「穂乃果のことをそんなふうに思っていたなんて!!」

ことり「海未ちゃん、なんで……」




ことり「こ、これは……ち、違うの海未ちゃん!!」



穂乃果「う……ぅうううう」



海未「……」

絵里「大丈夫?」

穂乃果「う、ん」

 崩れ落ちている穂乃果に手を添えると、一層穂乃果の嗚咽は強くなってガタガタと震える身体に声も共に震える。


海未「……もういいです。私とことりが恋人になってしまったから――」

ことり「待って、やだよ……海未ちゃん……!」

ことり「手も繋いだよ? キスもしたよ? エッチだってしたよ?」

ことり「ことりの全部、全部海未ちゃんにあげたよ? 海未ちゃん幸せにしてくれるって……!」

ことり「だから、だから!!」



海未「――ごめんなさい、ことり……私と、別れて下さい」




 その時のことりの表情はわからない。こんな場面見たくもないし、聞きたくもなかった。

 私は今だに泣き止まない穂乃果のことを抱き寄せて、視線を地に落とす他なかった。

 やがてことりの嗚咽が耳を揺らして、そのまま崩れ落ちる音が鼓膜を揺らした。酷く、嫌な音。誰かがいがみ合って、生まれる、不快な音。


 海未といえども、今何を言っても無駄になるだけだろう。ことりが元気になるためにはそれこそ海未が今のは嘘だったと言う他ない。

絵里「穂乃果、ちょっとごめんね」


絵里「海未、穂乃果をお願い」

 立ち上がって、今にも泣いてしまいそうな海未に言う。私はことりに話がある。

 海未はそれを察してくれたのか、小さく頷いて、私の横を通り過ぎて行った。

 悔しいけれど、幼馴染のことは幼馴染に任せてしまおう。

 海未が大丈夫かと声をかけて、うんと言う穂乃果の声が聞こえた。肩を担がれて立ち上がった穂乃果の顔は、下を向いていたせいで見えなかった。

 そのまま二人が出ていくと、崩れ落ちたことりは悲鳴のような叫び声を上げる。甘くて可愛らしいことりの声は今やキーンとしたもので、とても……不快だ。

絵里「ことり」

ことり「ううぅああああああああ!!!」

絵里「……」

ことり「海未ちゃぁん……」



 いつでも海未はことりを助けて来たんだろう。小さい時からずっと、ずっと。だからもしかしたらヒーローみたいな存在なのかもしれない。だからこそ、そのヒーローと特別な関係になれたっていうのはことりの中に歪んだ感情を生み出してしまった。

 今だってことりは泣いているけれど、もしかしたらそうすれば海未が助けに来てくれるっていうのが本能的に分かっているからなのかしら。



絵里「ことり」

 しばらく泣き止むのを待って、声をかける。


絵里「……なんで海未があんなに怒ったのかわかる?」

ことり「……」フルフル


絵里「私と穂乃果は恋人、だけど……あなた達三人には多分勝てないわ」

絵里「ずっと一緒に生きて来たんだもの。それもただ生きて来たんじゃなくて、すいもあまいも知りつくして、お互い支え合って……」

絵里「悔しいけれど、穂乃果が最終的に頼るのはあなた達2人なのかもね」

絵里「それはきっと穂乃果だってそう。ことりは恋人だから一番てことに変わりないけれど、穂乃果は友達の中で一番だったの。何かあれば穂乃果に相談するし、海未は穂乃果のことを本当に大切なのよ」

絵里「大切な人を馬鹿にされたら怒るわよね?」



ことり「……」

絵里「私も、ことりが穂乃果を泣かせて怒っているのよ?」

絵里「でも、あなた達はこんなことで崩れるような絆じゃないってことはよく知ってる」

絵里「謝れば穂乃果だって、海未だって許してくれるわ」



ことり「うん……ひぐ……ごめん、なさい……」


絵里「うん、いいわよ。まず一人。私は許すから」

ことり「あり、がと……ぅぅ」



絵里「さ、みんなのとこ行きましょう」

ことり「うん……」


絵里「目、真っ赤よ」


ことり「そうだよね……ちょっとトイレ行ってからみんなのとこいくね」

絵里「ええ」

◇◇




 私が部室に入った時には、既に海未がみんなにこの事情を話した後だったようで、重苦しい雰囲気とみんなの視線がのしかかってきた。


希「……ことりちゃんがそんなこと……」


穂乃果「ごめん海未ちゃん……私のせいで……ごめんね……!!」


海未「……いいんです。ことりもきっと今日のことで反省してくれるでしょうから」

にこ「流石に酷いわね……」

真姫「あのことりがねえ……」

凛「……恋愛……」


希「恋愛って、怖いものやね」

にこ「そうね……」

にこ「私達、幸せだったのかもね」

希「うん」



絵里「……みんな、お願いがあるの。ことりが謝ったら、許してあげて?」

絵里「あのこは海未のことが好きすぎて、おかしくなってたのよ……」

希「もちろん許してあげるよ」


穂乃果「私も謝らなきゃ。私のわがままでことりちゃんに、あんなこと言わせちゃった」

海未「私も……ぶってしまいました……」

絵里「意外と感情的になりやすいのね?」

海未「そう、みたいです」

海未「……」

海未「みんな、本当にごめんなさい。私がことりに溺れていたせいで、こんなことになってしまって。きっと、迷惑もかけたと思います。本当にごめんなさい」

にこ「本当よまったくー」

にこ「私だってあんたらが隠れてキスしてるとこみたんだからー」

海未「ぅ……すみません」

海未「ことりにも二人で謝って、仲直りしないとですね」

穂乃果「うん」


絵里「そういえば、そろそろことりが来るころじゃないかしら」


絵里「遅いわね……」


絵里「……」

絵里「ねえ、ことりのカバンてある?」


海未「……今日は 教室にカバンを置いていたようですが……」


真姫「……遅すぎる?」

絵里「ええ」

 もしかしたら、そんなことがよぎる。


絵里「靴箱みてくるわね」


◇◇



絵里「なかったわ……」

絵里「番号も間違ってないはず」


穂乃果「……帰っちゃったの?」

海未「ことり……」


希「ショック、だったんやろね。本当に海未ちゃんのことが好きだったから」

海未「……」

真姫「そんなにショックだったなら、今声かけても無駄じゃないかしら。そっとしてあげた方がいいわ」

にこ「そうね。下手に声かけても傷が深くなるだけ」


絵里「……」


海未「私は……これで良かったんでしょうか」


真姫「さっきはいいって言ってたじゃない」

海未「……」


希「まだ好きなんでしょ?」


海未「……」


 一度は明るくなりかけた雰囲気がまた、暗く淀んで行く。

希「今日は練習、無理そうやね」

絵里「……そうね」


絵里「またあした……今日と同じ時間でいいかしら」


 ことりがいない。それだけだけど、大きな問題。私達µ’sに幼馴染三人の問題は大きく影を落とす結果となった。


◇◇


凛「……」

花陽「どうしたの?」

凛「なんだか、恋愛ってさ、怖いなーって」

花陽「そう、だね」

凛「凛もことりちゃんみたいに考えちゃう時が来るのかな?」

花陽「どうだろうね」

花陽「私はまだ恋愛なんてしたことないけれど、多分恋愛ってのはハイリスクでハイリターンなんだと思うよ」

凛「どういうこと?」

花陽「自分の全てをさらけだすわけでしょ? いい方向に進めばいいけど、悪い方向に進んだら傷ついちゃうよね……」

凛「そう、だね」

凛「やっぱり凛には早いにゃ……」


花陽「そうかな?」

凛「そうだよ!」


凛「今日は真姫ちゃん来ないってー」

花陽「忙しいもんね」

凛「そうだよねー」

凛「じゃあ今日は一緒にお風呂入ろー」ダキッ


花陽「うん、いいよ」

凛「かよちんだーいすき!」


◇◇


二日後


穂乃果「ことりちゃん、来ないね」

海未「……」

希「そう、やね」

絵里「誰かメール送ったりとかは?」

海未「私が……」

穂乃果「私も……」


絵里「そう……その様子だとダメみたいね」

にこ「……どうすんのよ。とりあえず8人のポジションも考えといた方がいいんじゃない」

穂乃果「……やだよ」

穂乃果「8人なんて……」

にこ「じゃあどうするってのよ!」

にこ「……あんたらがことりに何か言ってそれは意味あるのかしら?」

穂乃果「っ……」



凛「……」




絵里「穂乃果、とりあえず今日は8人のポジションを考えましょう?」

穂乃果「絵里ちゃんまで……」

希「……」


穂乃果「分かった……」

◇◇


凛「なんだか変だにゃ……」

花陽「何が?」

凛「ことりちゃんがいないと部活の雰囲気がキュッと張り詰めたみたいな感じで」

花陽「なんとなくわかるかも」

凛「ふふ、そういえばさーかよちんまーたおっぱいおっきくなったからことりちゃんに言わないとだねー?」

花陽「う、そうだよね……。恥ずかしいなぁ……」

凛「凛なんて全然おっきくなんないのにー」

花陽「凛ちゃんはそのままでも可愛いよ」

凛「……そ、そうかな……」


凛「か、かよちんはさこれからどうするの?」

花陽「久しぶりにアイドルショップ行こうかなって」

凛「あ、そうなんだ!」


凛(凛が行っても意味ないよね)

凛「じゃあ凛はここで」

花陽「ばいばい」

◇◇

花陽「わ……すごい……」

花陽「いいな、これも、いいな」

花陽「でも……お金無いしなぁ……ぅう、我慢我慢」




花陽「まあでも色々チェックは出来たし……今日は帰ろうかな」





花陽「ふぅ、帰ろっか」



花陽「……?」

花陽「あれ、は」


花陽「ことりちゃん?」


花陽「雑貨屋さんに入っていった……。行ってみよう」





花陽「なに探してるんだろう……」

花陽「……」

花陽「ことりちゃん?」



ことり「っ!?」

ことり「花陽ちゃん……」


花陽「なにして――」


ことり「!?」ダッ


花陽「え!? ま、待ってよ!!」


 何か探し物をしていたことりちゃんは、私が声をかけた瞬間、大きく目を見開いてそのままどこかへ駆け出した。

 私も反射的に足を動かして、ことりちゃんを追った。


花陽「待ってよ!!」


 店を出て、人通りの少ないところに出る。路地裏を利用されて、一瞬見失ったけれど、まだついていける。


 でも私よりことりちゃんの方が体力があるからこのままだと――。

ことり「――きゃっ!!!」



花陽「ことりちゃん!? 大丈夫!?」


ことり「いったぁ……」



花陽「膝結構擦りむいちゃってる……」

ことり「……」

花陽「歩ける?」

ことり「っ……」

花陽「……おんぶしてあげるね」

ことり「い、いいよ……」

花陽「ダメだよ、とりあえず近いからウチに来て?」

ことり「……」






◇◇


花陽「ただいまー」


ことり「お邪魔します……」

ことり「ごめん、重いよね……」

花陽「ううん、大丈夫」

花陽「座って? よいしょっと……」


花陽「靴脱がせたら、私の部屋で手当てするね」

花陽「階段も……上がれないよね」

花陽「うんしょ……」


ことり「うぅ……」


花陽「人をおんぶするなんて初めてかも」



ギシギシ


花陽「掃除しておいてよかったー」

花陽「あんまり動いちゃダメだよ、薬とってくるから」


ことり「う、ん」


 ことりちゃんをベッドに座らせて、私は一階へ。凛ちゃんは怪我をすることが多いから、怪我の治療は慣れてる。

 治療用の道具を持って、部屋に戻ると、まだ俯いていることりちゃん。

ことり「ごめんね」

花陽「ううんいいよ、凛ちゃんで慣れてるから」

ことり「そうなんだ」


ことり「痛っ……」

花陽「ご、ごめんなさい! 結構勢いよく行っちゃったね……」

花陽「……どうして逃げたの?」


ことり「……」


花陽「言いにくいかな、じゃあさ、どうしてあそこの雑貨屋さんに居たの?」

ことり「次の衣装のことを考えてて、どんなアクセサリーとかつけるといいかなって……」


ことり「……練習には行ってないけど」


花陽「そっか、みんなの衣装考えててくれたんだね?」



花陽「ありがとう」ニコッ


ことり「……」


ことり「……聞いてるんでしょ、海未ちゃん、から」

花陽「……」

花陽「関係ないよ?」

ことり「え」

花陽「確かに、穂乃果ちゃんには酷いことを言ったのかもしれない。でもそれだけでことりちゃんのことを嫌いになんてならないよ」

ことり「……」ジワッ


花陽「ことりちゃんも不安だったんだよね? 私はまだ恋愛とかわからないけど、海未ちゃんのこと、好きだったんだもんね?」

花陽「……ちょっとやり方は間違ってたのかもしれないけど……私はその気持ちは大事、だと思うよ」



ことり「ぅ……」


花陽「……」


ことり「怖くて……みんなに会うのが怖くて……まだ海未ちゃんのことが、好きで……忘れ、られなくて……!」

 ことりちゃんは拳をぐっと握りしめて、ポタポタと肌に涙が零れ落ちる。

花陽「……」

 こんなことりちゃん初めてだ。本当に海未ちゃんのことが好きだったんだね。

ことり「でも、冷静に考えてみたら……穂乃果ちゃんに酷いこと言って……穂乃果ちゃんに顔見せられないよ……」


花陽「そうだよね。怖いよね……。でも穂乃果ちゃんね、ずっと言ってたんだよ。私のせいで2人が分かれちゃったって、ごめん、ごめんて」

ことり「……穂乃果ちゃんのせいじゃない、のに……」

ことり「私が悪かったのに……」


花陽「なら、謝らなきゃね? 穂乃果ちゃんなら、きっと許してくれるよ」

ことり「……でも」

花陽「はい、これで大丈夫。しばらくは痛むけど、我慢してね」


ことり「ありがと……」


花陽「私、ことりちゃんがいなくて、本当に寂しかったんだよ? 私だけじゃない、みんなね」

ことり「……」

花陽「まず電話から、どうかな?」

ことり「電話?」

花陽「うん、声だけなら顔見なくていいでしょ?」


ことり「……」


花陽「大丈夫」ギュッ

ことり「ふぇ……?」

花陽「あ、ごめん。なんだか身体が勝手に……」

ことり「花陽ちゃん……」



ことり「ごめん、無理だよ」


ことり「――海未ちゃんのことが好きだから。海未ちゃんは……私のことなんて、どうでもいいんだ……」



花陽「そんなことないよ!!」

ことり「ひっぐ……ぅぅ」


ことり「幸せしてくれるって……言ったのに……」

ことり「そうだ……海未ちゃんは穂乃果ちゃんのことが好きなんだ……」

ことり「ことり……捨てられちゃったんだ……」


ことり「ふふ、はは……ぅぁあああああああ」


花陽「ことり、ちゃ……」

 なに、これ。なにが起きてる?
 ことりちゃんは笑ったり泣いたり、完全に情緒が保てていない。それほどまで海未ちゃんのことが……。

 頭では穂乃果ちゃんも海未ちゃんも悪くないって分かっているのかもしれないけど……もう心がそんな状態を受け入れたくないって言っているみたいだ。



花陽「大丈夫、大丈夫だよ?」ギュッ



ことり「ぅう、海未ちゃぁん……ひっぐ……独りにしないでぇ……」


花陽「っ……」



 ことりちゃんの肩がとても小さく感じた。震えて泣いて、何かに怯えているみたいに海未ちゃんといい続けた。

 私がしている行為は意味があるのかな。こうして抱きしめても…意味はあるのかな。

◇◇




ことり「今日はごめん……」


花陽「ううん」

ことり「……」


花陽「じゃあ気をつけてね? 歩ける?」

ことり「なんとか大丈夫」

花陽「……明日も練習こないの?」

ことり「……」


ことり「衣装はちゃんと考えるから」

花陽「来て欲しいな」

ことり「ごめん……」

花陽「そ、っか」



ことり「」ギュッ

花陽「ことりちゃん……どうしたの?」

ことり「しばらく、こうさせて……」

花陽「……うん」









凛「――あれ……なに、してるの?」

凛「なんでことりちゃんが?」


凛「しかも、ことりちゃんとかよちん……なんで抱き合ってるんだろう……」


凛「……」モヤモヤ

凛「なんか……変な気分」


凛「今日は帰ろう……」







ことり「少しだけ安心出来た気がする」

花陽「本当? 力になれたなら嬉しいな」

ことり「……また来てもいい?」

花陽「いいよ」

ことり「ありがとう。じゃあ、今日は帰るね」

ことり「ばいばい!」

◇◇


海未「……」

海未「私は、どうすれば……」

穂乃果「ことりちゃんのこと?」

海未「……はい」

穂乃果「今でも好きなの?」

海未「わかりません……でも私のせいでことりは変わってしまった。それは事実ですから、私なんかが恋人になっちゃダメなんです」



穂乃果「ごめん……」

海未「穂乃果が悪いのではありません……」

海未「私が自分を止められなかったから……」

穂乃果「正直驚いたよ、海未ちゃんもああいうことするんだって……」

海未「……すみません」


穂乃果「ことりちゃん、どうしたのかな」

海未「……」


穂乃果「一緒に、謝ってくれる?」

海未「勿論です。私が許されるかは……わかりませんが」

穂乃果「私もだよ。そしたら仕方ないね」

海未「ええ……」


◇◇






ことり「――今日も来ちゃったけど……いいかな?」


花陽「うん、勿論」


 ことりちゃんがうちに初めて来てから数日が経ちました。夏休みも半ばになって、そろそろ憂鬱な気分に追われます。


 ことりちゃんはうちが気に入ったようで、最近よく来るようになった。安心するんだってさ。





ことり「えへへー」

 こうやって無邪気にベッドに寝転がることりちゃんの膝の傷はすっかり治ってしまった。それでも一人でいるときは泣いていることが多いらしい。


 まだことりちゃんの中には海未ちゃんがいる。別れてしまったっていう事実が海未ちゃんとことりちゃん2人を苦しめている。





 私は恋愛とかそういうのは全然わからないけど、ことりちゃんの力になれるならそれでいいかな。

 私と一緒に居て安心出来るっていうのなら、一緒に居てあげたい。




花陽「今日ね、新しい曲を作ろうってなったんだよ」

ことり「へぇ!」

花陽「ことりちゃんも参加したかったらすぐに言ってね。私、そしたらみんなに話してあげるから」

ことり「うん……」


ことり「みんなには私が花陽ちゃんと会ってること、言ってないよね?」

花陽「大丈夫だよ、誰にも言わないから」

ことり「ありがと……」

花陽「ううん」



花陽「苦しんでる人がいるのに放っておけないよ」


ことり「花陽ちゃん……」

ことり「ねえ、さっき凛ちゃんと電話してたでしょ?」

花陽「うん」

ことり「いいの、断って?」

花陽「……うーん、凛ちゃんは私がいなくても大丈夫だから」

ことり「……」

花陽「凛ちゃんは強い子だから!」

花陽「ずっと一緒に居てわかるんだ。私は背中ばかり見てきた、私は付いていくだけだったから」



ことり「私もね……海未ちゃんや穂乃果ちゃんの後ろを付いていっただけなんだ」

ことり「ずっと支えてもらって……気がついたら海未ちゃんのことすきになってた」

ことり「花陽ちゃんは……凛ちゃんのことを好きとか、そういう感情はあるの?」

花陽「ないよ。凛ちゃんは大切な友達だから。関係が壊れるのは怖いしね?」

花陽「海未ちゃんが穂乃果ちゃんに向ける感情と同じ、かな」



ことり「海未ちゃんが穂乃果ちゃんに向ける感情……」

ことり「分かってるよ……そんなこと、分かってる……でも!!」

ことり「私は……どうすればいいの……?」

ことり「この気持ちは……どうすればいいの……?」



花陽「……」

ことり「ごめんねまた……」


ことり「今日は帰るね」

花陽「早いね」

ことり「うん」

◇◇


凛「はぁ……」

真姫「珍しいわね」

凛「なにが」

真姫「そんなに元気ないの。生理?」

凛「凛はそんなに重くないから別にこんなにならないにゃ……」


真姫「羨ましいわ。私重くて」

凛「ふぅん」


凛「……」

真姫「何かあったの?」

凛「……かよちんがね、最近全然遊んでくれないの」

真姫「花陽が?」

凛「……」


凛「どうしたんだろう……嫌われちゃったのかな」

凛「嫌われたら、どうしよう……かよちんと話せなくなるの……?」

凛「やだ……やだよ!!!」


真姫「ちょっと落ち着きなさい」

凛「でも!!」


凛「こんなに断られたの初めてなんだよ!? しかも理由も教えてくれないで!!!」

真姫「花陽にだって事情があるはずでしょ?」


凛「真姫ちゃんがかよちんの何を知ってるのさ!」






真姫「……」


 なんで、なんでここまで凛は花陽のことで変わってしまうんだろう。

 昔、一度だけ凛が豹変した時を見たことがある。凛とかよちんの間にどうして私が入ってくるのか、というものだった。

 酷く排他的。その期間は一日しかなかったけれど、今の凛はその日の凛に近いような気がした。


 

真姫「そりゃあなたに比べたら花陽のことはわからない。でもね、わからからこそ言えることだってあると思う」

真姫「花陽が凛を嫌いになるわけないでしょ?」

凛「……ごめん、そうだよね」



◇◇

凛「なんでかよちん……遊んでくれないんだろ……最近全然遊んでないにゃ……」

凛「さっきの電話だって、全然相手してくれなかったし……」

 凛は気がついたら、かよちんの家の前まで来ていた。家は本当に近いから、対した労力じゃない。ここにいればかよちんの顔が見れる気がして。


 どうしてこんなことしているんだろう。今日だって練習で顔を合わせたから寂しがる理由なんてないのに……。


 最近のかよちん、なんか変。


 凛と話している時もずぅっと何か考えてる。

 凛のことなんて見てくれてない。なんで? そんなこと今までなかったのに。


ことり「花陽ちゃん今日もごめんね」


花陽「もう何回言わせるの?」




凛「え?」

 かよちんの家から出てきた人、ことりちゃん?

 なんで? 凛がかよちんの家に言っていいか聞いた時ダメって言ったじゃん。


 なんで。


ことり「……またいい?」

花陽「うん」

ことり「……」ギュッ

凛「っ……!?」


凛「……は?」

凛「やだ、やだ……なに、なんなの……?」

凛「やだよ、やだよやだやだやだ!!」

 何が? なにが嫌なの? ことりちゃんがかよちんと抱き合って流のが嫌なの。なんでそんな風に抱き合うの?

 ことりちゃん、どうしてそんなことするの? かよちんは凛と一緒にいるんだよ? 凛とかよちんは幼馴染なんだよ?



凛「どうしてことりちゃんがかよちんと凛の間に入ってくるの?」

凛「ふふ……」


凛「いいもん、かよちん……」


ことり「明日、お泊りしたいな。花陽ちゃんの家に」

花陽「いいよ、大歓迎!」

花陽「他の人は……呼ばない方がいいね……」

ことり「ごめんね?」

◇◇




凛「……」


希「八人フォーメーションも大分形になってきたねえ」

絵里「そうね」

穂乃果「いいことじゃないんだけどね……」

にこ「そんなこと言っても仕方ないじゃない」

にこ「誰かことりと会った人とかいないの?」


凛「……」チラッ



花陽「……」



凛「ねえかよちん、昨日なにしてたの?」


花陽「え? 特になにも……あ、ちょっと用事があって……」

凛「ふぅん」


花陽「どうしたの急に」



凛「かよちんは凛のこと好き?」

花陽「好き、だけど……どうしたの?」

凛「好き、かぁ……へ変嬉しい」

希「……?」


凛「ううん、なんでもないよ!」



真姫「何か凛変じゃない?」

凛「そう?」ギュー

花陽「もう凛ちゃんたら」

凛「すきー」



希(なんか、おかしい……)チラッ


にこ「……」コクリ



希「トイレ言ってくるねー」

にこ「私も!!」

◇◇



希「……気づいた?」

にこ「ええ」


希「凛ちゃん、おかしすぎる」

にこ「いつもとは違うスキンシップの仕方だったわね」

にこ「――まるで恋人同士みたいな」

希「……あの2人は恋人ってわけじゃないよね?」

にこ「そうでしょ」

希「……前に凛ちゃんが花陽ちゃんに恋愛感情に似た何かがあるって言ったの覚えてる?」


にこ「……」

にこ「なるほどね」

にこ「それが表に出始めたってことね」

希「何かあったんやね。凛ちゃんの中に眠る独占欲を強く刺激するものが」


にこ「もしかしたらあの子……心の深い所で、自分達は恋人かなにかって思ってるんじゃないかしら」

希「なるほど……」

希「全然わからないけど、注意してみよう?」

にこ「そうね」


◇◇


凛「えへへ、かよちん……凛のこと好きだってー」

真姫「さっきからどうしたのよ」

凛「好きってことはさ、かよちんは凛のことを一番に見てくれるってことだよね?」

真姫「凛?」

凛「嬉しいにゃ……かよちんかよちーん」

真姫「……」

凛「凛ね、



ガララ


凛「あ、かよちん!」

凛「ねえねえ今日泊まり行っていい? 2人でお風呂入ろ!!」



真姫(2人……前まで私も誘ってくれたのに)

花陽「あ、ごめん。今日は……」

凛「ダメなの……?」

花陽「ごめんね、また今度ね?」

凛「うん……」

真姫(やっぱり変……)


凛(またあの顔だ……何か考えてる顔……)ギリリ


凛「ねえ、凛のこと好きなんでしょ?」

花陽「そりゃ、そうだけど……」

凛「ならどうして?」

凛「どうして凛と遊んでくれないの? 用事があるの? なんの用事があるの? 今までこんなことなかったよね?」


真姫「ちょっと、凛――」


凛「凛とかよちんの間に、入ってこないで……」


真姫「っ……」


花陽(どうして凛ちゃん、こんなに……でも今日はことりちゃんが……)



花陽「り、凛ちゃんは知らなくていいこと、だから」





凛「……」プツ……




凛「嘘、でしょ?」




凛「凛に、隠してること、あるよね?」



花陽「ないよ」


凛「あるじゃん!!」ガシッ


花陽「きゃ」

真姫「ちょっとやめなさい!」

凛「うるさい、なぁ!!」


真姫「あなた自分がなに言ってるかわかってるの?」


凛「わかってるよ、だから邪魔しないでよ!」


ガチャ




絵里「どうしたの、外まで声が聞こえてるわよ」


希「おっきい声出してどうしたん

凛「……」


希「どうしたん?」


花陽「……凛ちゃんなんて嫌い!!」ダッ




凛「かよちん!!」

真姫「ダメ!!」ガシッ


凛「離してよ!!」

真姫「っ」フルフル



凛「かよちん!!!」



にこ「凛、一体どうしたっていうの」


凛「嫌われた、嫌われ……た?」

凛「……はは」



真姫「……」


凛「ぅぅ……」



◇◇

にこ「遊んでくれない、ねえ……」

希「たったそれだけのことであんなきなるんかな」

絵里「その時に何か隠してることがあるか問い詰めていたのよね?」

真姫「ええ」

絵里「なら、凛は花陽が隠してることをもう知ってるのかもしれないわね」

絵里「今まで隠し事なんてなかったから、余計凛を追い詰めたんだと思う」

にこ「……」

にこ「幼馴染ってめんどうね」


希「強固に築かれた関係だから……それが崩れる時はそれなりの代償があるってこと、やね」

希「ことりちゃん達もそうやけど」



絵里「とりあえず、明日凛とみんなで話をしましょう?」

希「ことりちゃん達みたいになる前にね」


真姫「ええ……」

◇◇

凛「……」


凛「な、んで……ことりちゃんが……」


 この前と同じように、凛はかよちんの家が見える角から様子を伺っていた。

 しばらく待っていると、やっぱりことりちゃんがかよちんの家に入っていくのが見えた。

凛「かよちんは凛のモノだよ……ことりちゃんにはあげない……触らせない……」

 かよちんが凛と話している時もことりちゃんのことを考えていたんだと思うと、胸の中から何かが湧き上がってくる。

プルルルフル



凛「あ、もしもしかよちん」

花陽『どうしたの凛ちゃん……』

凛「……かよちんは凛のこと一番だと思ってる?」

花陽『……』

凛「――今ことりちゃんといるの?」

花陽「え……?」





凛「カーテン開けてみて」




 電話越しにバタバタと動く音が聞こえて、見上げる先のカーテンと窓が一度に開く。驚いた表情を浮かべるかよちんは既に電話を切っている。

花陽「なん、で」


凛「……凛が一番なんでしょ!?」

花陽「……これは」

 ことりちゃんの姿は見えないけど、きっとそこにいる。

凛「かよちん、降りてきてよ」

花陽「……」

凛「――降りてきてよ!!!」

 静まり返った夜の住宅街に、凛の声が木霊する。かよちんはびくっと身体を震わせて、小さく頷いた。

 すぐに玄関の扉が開いて、寝巻き姿のかよちんが出てきた。

花陽「凛ちゃん……」


凛「こんばんわかよちん」

花陽「あ、あの……」

凛「ことりちゃんが入っていくの、見ちゃった」

花陽「……ご、ごめんね」

花陽「ことりちゃんの為にも、みんなには秘密にしようって」

凛「どうしてこんなことになったの?」

花陽「街でことりちゃんをみかけて、目の前で怪我しちゃったから治療の為にウチに招き入れたのがきっかけで……」


凛「……凛よりことりちゃんの方が大切なんだ?」



花陽「そ、そういうわけじゃないよ!!」

花陽「ただ、ことりちゃんは凄い傷ついてて……」

凛「かよちんは優しいね」

凛「凛がことりちゃんより傷つけば、凛のことを見てくれる? ことりちゃんじゃなくて、凛のことを見てくれる?」


花陽「な、なに言ってるの!? おかしいよ凛ちゃんどうしたの!?」

凛「凛はおかしくなんかないよ?」

凛「ふふ、じゃあまた明日ね」

花陽「え……」





◇◇



ことり「凛ちゃんどうしたの?」

花陽「ううん、少しだけ用事があったんだって」

ことり「そっか……」


ことり「……ねえ花陽ちゃん」

ことり「もし、海未ちゃんと会って話をしたら、この気持ちは少しはすっきりするのかな……」


花陽「……話してみないとわからないね」

ことり「そう、だよね」

ことり「辛いよ……」

ことり「海未ちゃんのこと考えるだけで、おかしくなっちゃうのに……会って話なんて……」



花陽「少なくともこのまま私と一緒に居ても……辛いだけ、だと思うな」

ことり「……」

花陽「勇気出してみよう?」


花陽「私が背中を押してあげるから」



ことり「花陽ちゃん……」


ことり「うん、ありがとう……」

◇◇



凛「ふふ……」


凛「いったぁ……ぅうかよちん……」

凛「痛いよぉ……」

凛「凛、こんなに痛いよ? こんなに苦しいよ?」ポタポタ

凛「ふふ、もっともっとすれば……もっと凛だけ見てくれるよね?」

凛「いっぐぁっ!! ……ふぅふぅ……ふふははは」



◇◇



凛「おっはよー!!」

凛「あれ、真姫ちゃんだけ?」

真姫「……おはよう、まだみんな来てないわね。まあすぐ来るわよ」

凛「そっかあ」


凛「かよちんまだかなー」


真姫「……」


真姫「――ねえあなたその手首どうしたの?」


 凛の手首が包帯でぐるぐる巻になっている。

凛「んー?」


真姫「……」


凛「別にどうもしてないにゃ」


真姫「……みせなさい」

凛「なんで、やだよ」

真姫「見せて!」

凛「ちょ、やめてよ!」


凛「これはかよちんにだけ見せるの!!」

真姫「……どういう意味……」



 なんだか、すごく嫌な予感がした。

真姫「あなたもしかして自分で――」


穂乃果「おはようー」

海未「おはようございます」


穂乃果「どうしたの?」

真姫「いえ……」


穂乃果「凛ちゃんその手首……」






希「やっほー」

絵里「おはよう」

にこ「……おはよう」


凛「あとはかよちんだけかー」



凛「あ、ねえねえみんな聞いてよ。昨日ねことりちゃんを見たの」


穂乃果「え!?」

凛「かよちんの家に入っていったよ」

海未「花陽の家に?」

凛「うん」



希「どういうことやろ」



ガチャ



花陽「おはよう」

凛「あ、かよちん!!!」

ことり「――……」


海未「こと、り……」

真姫「ことり!」

穂乃果「来てくれたんだ!!」

ことり「……うん」

凛「……」


ことり「穂乃果ちゃん、あのね……本当にごめんなさい……」

ことり「私……酷いこと言った。本当に本当に……ごめんなさい」

穂乃果「ううん、わたしがわがままだったからいけないの……応援するって言ったのに……」

ことり「……」

 みんなが幼馴染三人の行く先を見守る。いや、正確にはみんなじゃない、凛は……凛だけは三人のことなんて見てない。

海未「ことり――」

ことり「……」

海未「ごめんなさい……叩いてしまって」

ことり「ううん」

ことり「……海未ちゃん、私たち、もう恋人じゃないの?」ジワッ

海未「……」

ことり「やだよ……ねえまた――」

海未「ダメです……私と恋人になる前のことりは……こんなにすぐ泣く人じゃありませんでした」

海未「それは多分私と恋人になったからというのもあると思います。ダメなんです……私といると……」

ことり「そんなのどうでもいいよ……今度は穂乃果ちゃんのことも大切にする……だから……」

ことり「ことり達、もう前みたいに戻れないよ……?」

ことり「海未ちゃんのことを考えるだけで辛くて……好きで」

海未「……」

ことり「……どうして、どうして私じゃダメなの!?」

ことり「どうしてぇ……!!!」

海未「私だって……まだあなたのことが、好きなんです!! でも……私はことりと居ると自分が自分じゃなくなるみたいな……制御が出来なくなってしまうんです」

海未「だから穂乃果に寂しい思いもさせましたし、みんなにも迷惑をかけた!! 私はみんなのことも大切なんです! ことりと一緒になってしまったら……また、迷惑をかけてしまいます」

ことり「いいよ、大丈夫だよ!! ねえ、また恋人に戻ろう!? 今度は失敗しない、ねえ、だから!!」

海未「ことりが今そうなっているのも――」



凛「――ねえねえかよちん見て!!!」


 海未の声がことりに届くよりも前に、凛の大きな声が部室の中を支配した。

 それに振り向いたのは花陽だけじゃなくて、全員だった。


花陽「――え?」



にこ「あんた……なによ、それ」

希「っひ……」



絵里「……凛」



凛「えへへ……」



 全員が息を飲むのがわかった。凛は花陽に近づいて、包帯から解放された右手首を見せつける。

 酷い刃物の後。自分で斬りつけたであろうその跡は深くて抉れている。

 きっと激痛に違いない、だって全然傷口が塞がっていない。


真姫「凛……あなた何してるのよ!?」



凛「んー?」

真姫「なにしたかってきいてんのよ!!」

凛「凛はかよちんのことが好きなだけだもん」

凛「凛はかよちんのことが好き。かよちんも凛のことが好き。でも最近ね、ことりちゃんのことばっかり見るんだよ」

凛「なんでかって聞いたらね、傷ついてるからなんだってさ。なら凛がことりちゃん以上に傷つけば、かよちんは凛のこと見てくれるよね?」

 妖しく微笑む凛の目にはもう花陽以外は入っていない。傷口がさらに開いて、ポタポタと落ちる血はその場にいる全員を硬直させるには十分すぎた。

凛「ねえかよちん、ことりちゃんのことなんかみないでよ。凛のことだけ見てよ」



凛「ねえ、ねえ!!」ポタポタ


花陽「ひっ……」


真姫「とりあえず手当を――」


凛「なんで凛とかよちんの間に入ってくるの!?」

真姫「……っ、と、友達だからよ!」


凛「凛はかよちんに治してもらいたいの、邪魔しないでっ!!」


ことり「……凛ちゃん、どうしたの、もうやめようよ?」

凛「凛からかよちんを取ったくせに……」

ことり「そ、そんなつもりは……」


凛「海未ちゃんのことが好きだっていう口実でかよちんのところに通いつめてたのはなんで!?」

凛「おかしいじゃんそんなの!!」

ことり「ち、ちが……」

花陽「……」


花陽「ごめんね、凛ちゃん」

希「……」


花陽「私、凛ちゃんがそんなに苦しんでたって、わからなかった……ずっと幼馴染だったのに……ごめん……ごめんなさい……」

凛「ううん、いいんだよ。凛は全然気にしない。だから凛のことだけ見てよ」

花陽「私のせい、だね」

 どうして凛はここまで執着するんだろう。何があったか、正確なことは何もわからないけど……凛はことりのことを、ううん私たちを恋愛の敵としてみなしたってことなんだろう。

 だから、私たちがする行為をことりがすると激しい嫉妬に駆られてしまった。

 それでおかしくなっちゃって……もう花陽のことしか見えなくなってしまった……。


花陽「ごめん……凛ちゃん……とりあえず……保健室行こ? そして病院にも……」

凛「かよちんがついて来てくれるなら、どこでもいいよ!」


花陽「ごめん、みんな……ちょっとだけ練習、休むかも」

 そう言って花陽は凛の肩に手を添えて、部室から出ていった。



真姫「……なに、あれ」


希「……にこっち」

にこ「ちょっと速すぎるわね」

にこ「だって私たちといる時はほとんどあんな様子見せなかったのに、いきなり……」

希「凛ちゃんは本当に繊細な心を持ってたってこと……」


希「凛ちゃん……」





ことり「ぅ……ぁ……」ガタガタ




 凛が部室から出ていって、一つ何かが終わってしまったような感じがした。誰もおいかけないのは、もう手遅れだってことが心の奥でわかっているから。でも、まだ終わらない。このどこから始まったのかわからない負の連鎖は全てを巻き込む。


ことり「花陽ちゃ……私……どうすれば、いいの? や、やだよ……」ガタガタ


希「ことりちゃん?」


海未「ことり……?」


ことり「やだ……近くにこないで……海未ちゃん……好き、好きなのぉ……」


海未「……」

海未「ことり……」



穂乃果「ことりちゃん……」

ことり「独りにしないでぇ……ひっぐ、花陽ちゃ……」

ことり「海未ちゃ……ぅぁ……」




真姫「なによ……なにが起こっているのよ……!!」


真姫「なんなのよ!!」


希「……」



 誰も、何も言えなかった。状況もほとんどわからない。部室の音はことりの嗚咽だけで満たされていた。


◇◇


数日後

海未「……すみません」

穂乃果「ううん」

海未「穂乃果にだって時間が必要でしょう?」

穂乃果「それより海未ちゃんが心配だから」

穂乃果「一人でいたら、泣いちゃうでしょ?」

海未「……」

穂乃果「ことりちゃんのこと、好きなんだよね?」

穂乃果「……私が邪魔しちゃったから」



海未「それは関係ありません! 私が……私がことりをあんな風に……」

プルルルル

穂乃果「あ、ごめん」


穂乃果「もしもし」

絵里『穂乃果……あの、今日は……』

穂乃果「あ……!! 絵里ちゃん。……ごめん。えと……」


絵里『まさか……忘れてたの?』

穂乃果「あ、いや……そういうわけじゃ……」

絵里『いまどこにいるの?』



海未「すみません……すみません……ことり……すみません……」ガタガタ


絵里『また海未の家?』

穂乃果「う、ん」


絵里『……』


絵里『今日は一緒にいられるって言ったじゃない』

穂乃果「ごめん……」

絵里『謝ってばかりじゃない。この前だってそうだった』

穂乃果「……ごめん」


絵里『……もういい!!』


絵里『海未と楽しくやってればいいじゃない!!』


穂乃果『ぁ……絵里ちゃ――』


穂乃果「……」


海未「穂乃果……私のことは……



穂乃果「大丈夫……大丈夫だから」

穂乃果「……」

穂乃果「海未ちゃんは、私がいないと、ダメでしょ……?」

海未「でも、それでは……」


穂乃果「絵里ちゃんとは……もうダメかもね。本当はね、今日デートしようって言ってたんだ」

穂乃果「でも、海未ちゃん、どんどん悪くなって……放っておけなくて……放ってデートなんて、出来ないよ」

海未「っ、すみません」

◇◇



絵里「もう……」

絵里「なに言ってるの、私……」


真姫「……」

真姫「本当にきいててよかったの?」

絵里「……ええ、醜いところみせちゃったわね」

真姫「……」

絵里「……どうすればいいのよ」

真姫「絵里……」

絵里「どうすれば……」


 携帯電話を置いて、頭を抱え込む。絵里からきくところによると、本当は今日2人で一緒に遊ぶつもりだったらしい。

 でも、最近穂乃果は海未につきっきり。絵里のことを気にかけることも少なくなったらしい。


 だから電話するところを聞いていて欲しいって言われて……。


真姫「絵里も、冷静さを失ったら終わりよ?」

絵里「わかってる……でも、つい……」

絵里「もう、穂乃果は私のこと……」


真姫「……」

 ポツリと呟かれた言葉。それに対してかける言葉を私は持ち合わせていなかった。

真姫「ごめん、私、これから」

絵里「ええ……花陽のところに行くのよね」

真姫「そうよ」

絵里「……あの2人は、なにをしているのかしら」

真姫「さぁ……でも、必ずまた復帰させて見せるから」

絵里「……よろしくね」

◇◇


真姫「花陽……」ピンポーン

ガチャ


花陽「はい……っ」

花陽「真姫ちゃ……」


真姫「久しぶり」

花陽「どうしてここに」



真姫「あなた達が、あれから練習にも来なくなって、しかもメールも返してくれないし」

真姫「それが理由よ」


花陽「……」


 花陽は、酷く酷く悲しい表情を浮かべた。なんで、なんでそんな顔するの?
 私がせっかく来たのに、なんで……。



花陽「ごめんね……練習、行けない」


真姫「……どうして」


 一体、なにが彼女をそうさせているんだろう。あの時、µ’sに入る時、きっと花陽は人生で一番勇気を出した決断をしたはず。

 そうして手に入れた物を、いとも簡単に手放す、なんて。


 私の問いに、花陽は何も答えなかった。それとも答えられない、のか。


真姫「――凛?」


花陽「っ……」ビクッ

真姫「凛なのね」


花陽「――ち、ちがっ」


凛「かよちーん?」


花陽「り、んちゃ……」


真姫「居たのね、久しぶり、凛」



凛「真姫ちゃん」


花陽「ご、ごめんね凛ちゃん。誰にも会わないって言ったのに!! 違うんだよ? ま、真姫ちゃんが勝手に!!」


凛「そっか、ううん、いいんだよ。さ、いこ?」

 花陽は慌てた様子で凛に訴えかける。そして凛は優しく笑いかけて、花陽を奥にひきずり込もうとする。


 私は、2人にとって邪魔、なの?

 違う、そんなわけない。行ってくれた、友達だって。

 花陽は慌てた様子で凛に訴えかける。そして凛は優しく笑いかけて、花陽を奥にひきずり込もうとする。


 私は、2人にとって邪魔、なの?

 違う、そんなわけない。行ってくれた、友達だって。


真姫「待って!!」ガシッ

花陽「真姫ちゃん……」


凛「……なに?」





真姫「……凛、あなたが花陽になにを言ったかはわからない」

真姫「でも、花陽はあなただけのものじゃないでしょう!?」

真姫「花陽には花陽の人生があるし、やりたいことだってある! それをあなたが縛っていいわけない!!」

真姫「凛、あなたは自分が弱いから花陽にすがっているの。自分の弱さで花陽を花陽の人生を縛りつけるんじゃないわよ!!」


凛「……何回言わせるにゃ……。凛と花陽の間に入ってこないでって」


真姫「なんで入っちゃいけないのよ、私たち友だ――」



花陽「――うるさいっ!!!」バンッ



真姫「きゃっ!」


真姫「なんで、花陽……?」


 意味がわからなかった。私は気がついた時、すでに硬いコンクリートに尻もちをついて、入りかけていた花陽の家の敷地から外に出ていた。

 突き飛ばされた? 花陽に?


 尻もちをつきながら2人を見上げると、花陽は凛に寄り添って、大丈夫、大丈夫かと聞いていた。




真姫「……」


 しばらくそれを呆然と見ていると、花陽が私を見下ろして、いままでみたことがない表情を浮かべていることに気がついた。




花陽「……最低。最低だよ」


花陽「凛ちゃんは傷ついてるの!! わからないの!? こんなに、こんなに!!!」

花陽「そんな凛ちゃんの傷をさらにえぐるようなこと言って何が楽しいの!?」

花陽「本当に大丈夫? ごめんね、凛ちゃん……」



花陽「……もういい、もう来ないでっ!!!」




真姫「ぁ……まっ……」


バタン


 手を伸ばした先は花陽だった、だけれど……もうその先に花陽はいなくて、閉められた扉。

 急に静かになった様に感じた住宅街に一人取り残されてしまったような感覚。




 どうすればいいかなんてわからず、私はそのまま立っていることしか出来なかった。

◇◇






数日後


 このグループが、日に日に衰弱していく様子を見るのは辛かった。

 ことり本人から話をきくところによると、海未のことで花陽にずっと話をきいて貰っていたらしい。

 だとすればそれは心の支えを失ったってことで……。

 海未に続いて二回も心の支えが無くなるってことは想像出来ないけれど、ことりは立ち直れなそうにない。そう理事長から聞いた。家でも叫んだり泣いたり。

 理想の中の海未しか、ことりを安心させられる人はいない。






 あの日以来、凛と花陽も練習に参加しなくなった。

 ことりの精神も全く落ち着かなくて、海未はそのことで、自分を責め続けて、体調を崩してしまった。海未はまだことりが好きだと、そう言った。海未は見た目以上にことりに依存していたのかもしれない。
 
そんなんで練習なんてとてもじゃないけれど出来る状態じゃない。まともなのは半分もいないんじゃないかな。



希「……」


にこ「……酷いわね」

絵里「ええ」


絵里「私たち、何も出来なかったのね」


 三年生は最早諦めかけている様子だった。穂乃果は海未のことを支えることで手一杯だし、ことりももう誰からの干渉すら絶ってしまっている。花陽と凛に関しては今どうしているのか全くわからない。




真姫「ねえ、私たち、あの子達にとってなんだったのかしら」


 力になりたい、でも向こうが求めてくれない限りはどうしようもない。向こうから拒絶されてしまったら、どうしようもない。


 凛があんなになったのだって、私が早く凛の様子に気がついていればらこうはならなかったかもしれない。


希「……」


にこ「恋愛って……なんでこんなことになるのかしら」


にこ「あんたと穂乃果だけは……こんなにならないで」

真姫「ちょっと……にこちゃん」

絵里「……いいの」

希「えりちは大丈夫、とっても強いから」

真姫「希!!」






絵里「……」

絵里「私が、強い……? 馬鹿言わないで……!!」

希「え?」


絵里「今だって……穂乃果に会いたくて、おかしくなりそうなの。ずっと、海未のところにいて……私だって……信じたいけど……でも!!」


絵里「こんなのダメだってわかってる! みんながこんな気持ちになって疑心暗鬼になったのも見ているから!」

絵里「……海未は穂乃果にとって一番大切な人。そんなのわかってるのに……」


絵里「ごめんなさい……こんなこと言って」

希「……ごめん」


絵里「……これからどうなるのかしら」



希「ここ何日か、ウチら四人だけしかいないね」

真姫「……」




絵里「――しばらく活動を休止しましょう」

にこ「はあ!?」

希「そうするしか、ないね」


にこ「なによ、なに言ってんのよ!」

希「だって仕方ないやん!!」

希「ウチだって、みんなともっと色々なことにしたかった……でも」


希「でも――µ’sは九人じゃなきゃ、ダメなの」ポロポロ



絵里「希……」

にこ「でも……」


真姫「賛成よ」


真姫「こんな状態でやってても意味なんてないわ」

にこ「私は一人でもやってるから……」

希「にこっち……」

にこ「あんた達がそんな臆病な人達だったなんて思わなかった。もう勝手にしなさい!」


希「にこっち!!」

にこ「もうここに来なくていいっ!!!」

バタン‼︎



希「ぅ……」


絵里「希……」



 こうして私たちµ’sの活動停止が決まった。どこからか溢れ出してしまった負のエネルギーは私たち全てを飲み込んでしまった。

 どうしてかわからない、原因もわからない。ただ、関係性の変化っていうのは時に大きな渦となる。

 たまたま、それともこうなる運命だったのか、その渦は私たちを食らいつくして、飲み込んでしまった。


 この先、いつ活動が再開するのか、それとも再開出来る日が来るのか、それは誰にも分からない。


 もうすぐ夏休みも終わる。この休みが明けた後の私たちは、一体どうなっているのかな。


真姫「……」

 私は居場所がなくなってしまう。このグループの活動も出来なくなって、凛と花陽以外に友達もいない。もうその2人すら……友達と言えるのだろうか。また、今までみたいな生活に戻ってしまうの?



 私がこのグループに入ってからこ時間は、今までで一番楽しかった期間。思い返せばそうだ。楽しいことはすぐ終わるというけれど……。


真姫「早すぎるわよ……」

 私にとって少しの間の輝き。まるで線香花火みたいだったなーなんて思いながら、今までのことを振り返ってみる。

 さしずめ……いまの私たちは、途中で落ちた線香花火って、ところかしら。あの日線香花火を途中で落としていなければ……なんてそんな神がかり的なことを思うけれど、そんなことに意味はない。



真姫「ぅ……」



絵里「真姫まで……」

絵里「やめて……泣かないでよ……」


希「ひっぐ……」

絵里「お願い、お願いだから……!!」



◇◇


あんじゅ「あーそういえばさツバサの言ってたスクールアイドル」


英玲奈「……µ’sだったか」


あんじゅ「――活動休止だってー」

ツバサ「……嘘でしょう?」

あんじゅ「本当だって、ほら」


ツバサ「……」



 事情により、現在活動を休止しております。




ツバサ「……」



あんじゅ「まあ、最近勢いあったからもしかしたらって思ったけれど……その辺のと変わらなかったわねー」


ツバサ「そうね……」

英玲奈「クス……ツバサにプロデューサーは無理そうだな」

ツバサ「む」


英玲奈「さあ、そろそろ練習をはじめよう」





ツバサ「……」


あんじゅ「ツバサ……?」



ツバサ「いえ……」

あんじゅ「なら早く」








ツバサ「――わかった、すぐ行くわ」


バタン







おわり。

これに似てるやつ。

にこ「人という漢字
http://ex14.vip2ch.com/i/responce.html?bbs=news4ssnip&dat=1403687901

希「弱さの代償」
希「弱さの代償」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1407248246/)



これで終わり。では。

変換ミスではあり得ないなそれ
れんまくって間違って覚えてたのか・・・


>>絵里「悔しいけれど、穂乃果が最終的に頼るのはあなた達2人なのかもね」

絵里「それはきっと穂乃果だってそう。ことりは恋人だから一番てことに変わりないけれど、穂乃果は友達の中で一番だったの。何かあれば穂乃果に相談するし、海未は穂乃果のことを本当に大切なのよ」

穂乃果だってそう、だと繰り返しになるから海未だってそう、じゃないかと思った。勘違いならすまん


>>凛「好き、かぁ……へ変嬉しい」

??


パクり指摘で焦ったのか知らんがちょっと雑だ

漢字変換とパクり云々はなんとも言えないけど
鬱だって最初に書いてあるのに、自分で読んで作風に文句付けるのはなんか違う気が…
ちょっと性的嗜好が歪んでるだけで、こんだけ書いてるんだからラブライブ!が嫌いなことはないんじゃない?

>>177
まあ「嫌いなんじゃ…?」と思うこと自体はありでしょ
内容自体を批判してる感じでもないし

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年10月19日 (日) 18:01:15   ID: JGWziTNk

また同じ展開のことうみw
頭いかれた>>1とその同類以外からのことうみに対する評判がどんどん落ちるな
全部同じやつが書いてるのかってほどことうみは差がないな
穂乃果をごみとして扱うぐらいなら最初からだす必要なくね

2 :  SS好きの774さん   2014年10月23日 (木) 04:15:22   ID: eui3MnbC

>>1
落ち着けよssが終わってから評価すればいいだろ

3 :  SS好きの774さん   2014年10月23日 (木) 13:25:06   ID: MZa-BL-d

読まなきゃいいのに
それか自分で書けば?

4 :  SS好きの774さん   2014年10月25日 (土) 02:50:43   ID: rwYX6-9h

こういう展開は好きだけどね。
9人もいるんだし、昼ドラみたくしようと思えばこうなる。

5 :  SS好きの774さん   2014年10月25日 (土) 03:35:19   ID: Nmx6VjPm

ラブライブにドロドロものは合うな…楽しみにしてます

6 :  SS好きの774さん   2014年10月25日 (土) 18:48:48   ID: fTl6fxye

最初に注意書きあるんだから読む前に引き返せばよかったのに

一年生の方がどうなるか気になる

7 :  SS好きの774さん   2014年10月25日 (土) 23:09:15   ID: Nmx6VjPm

注意書きが書いてあるのにそれを読まずにぐちぐち文句たれるやつはなんなのかねぇ…お疲れ様でした

8 :  SS好きの774さん   2014年10月25日 (土) 23:42:43   ID: rwYX6-9h

一瞬、にこまきのやつ書いた人かと思ったら違うのか。

9 :  SS好きの774さん   2014年10月26日 (日) 00:03:14   ID: fbVMO-8Y

最初と最後にA-RISEに語らせるとこは良かったと思う

10 :  SS好きの774さん   2014年10月26日 (日) 00:27:02   ID: YzXlIaEg

ああ、やっぱりにこまきのやつと同じ人だったのか。

11 :  SS好きの774さん   2014年10月26日 (日) 01:13:15   ID: LQ0-9_P2

何故1年生達は2年生の状態をみて学習しなかったのか…w

12 :  SS好きの774さん   2014年10月27日 (月) 12:44:39   ID: FjxO__tA

この人のシリアス作品好きなんだけど、俺の一番好きな穂乃果が毎回酷い目にあってて悲しいw
ことりとはもう決別するしかないし、海未とも離れることになるだろうから可哀想すぎる

たまにはいい思いさせてあげてや〜

13 :  SS好きの774さん   2014年10月27日 (月) 13:40:13   ID: 6h4tFgIL

これはいつもの酷いことうみとは違うと思うけどな。野暮だって分かってて言うけど、登場人物の精神年齢に差がありすぎたなあ。俺は穂乃果が一番好きだけど、面白かったと思うよ

14 :  SS好きの774さん   2014年10月27日 (月) 16:24:57   ID: vuAPBFSh

パクリ作者の作品に価値などないw

15 :  SS好きの774さん   2014年10月27日 (月) 18:39:48   ID: TDI25g1X

狂信者もアンチも炎上者が気持ち悪いと思ったわ…もちろんパクりはいけないがな

16 :  SS好きの774さん   2014年10月27日 (月) 20:51:48   ID: cyArphWn

中立を装って中傷する奴が一番きもいわ。

17 :  SS好きの774さん   2014年10月27日 (月) 22:03:06   ID: TDI25g1X

16もキモいわ

18 :  SS好きの774さん   2014年12月28日 (日) 01:32:42   ID: T3i4TNUI

面白かったけど、せっかく穂乃果と真姫で作った対比を放棄しちゃうのは失敗だったと思う。
この軸で最後まで書いてたら傑作足りえた

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