過去作です。
――ルーマニアの某所にて。
少し早い真冬の足音が空から舞い散ってくるのに、ヘンゼルは気が付いて空を仰ぎ見た。
「姉様、雪が降ってきたよ」
「あら本当ね兄様。今朝は随分冷えると思ったわ。お仕事する時も指がかじかんで少し照準がずれてしまったくらいよ」
グレーテルは自分より大きな銃が入った可愛らしい柄の布包を背負い直しながら溜息を吐く。
「これからどうしようか。今からこの雪じゃ、報酬を依頼主の所に貰いに行く頃には列車が止まってしまう。
今はコーヒー1杯分のお金しかお財布に無いよ。お腹が空いた」
「そうね。困ったわね。そのお金じゃ2人でお菓子を分け合う事も難しいわよね。私もお腹が空いたわ」
「「こまったなぁ(わねぇ)」」
そう言いつつも2人にそこまで逼迫した空気は無い。
それもそうだ。
今は『仕事』をするようになってまともな食事にありつけるようになったが、施設を抜けて
2人で暮らす様になって、何日も水もろくに飲めないなんて事はままにあったから。
だからこんな状態に陥るのは久々と言えよう。
2人は暫く無言のまま予定通り駅に向かって歩いて行く。
『仕事』をしたら少しでも早く現場を離れて遠くに行った方が安全だからだ。
たとえ途中で電車が止まろうとも。
そんな中、ヘンゼルがふと歩みを止めた。
「あら、どうしたの兄様?」
「ねえ姉様、あれをご覧よ。あそこにパン屋さんがある」
そう言って指さす先には雪で仄暗い景色の中で煌々と明かりを灯す店があった。
「あら本当。パン屋さんね」
「ねえ、僕らみたいな子供がお願いしたら……今手持ちのお金でもパンの耳くらいは分けてもらえるんじゃないかな?」
ヘンゼルの提案にグレーテルはニコリと微笑む。
「それは名案ね。私達みたいな哀れな子供がお願いしたら、もしかしたら無償提供してくれる可能性だってあるわ。
してくれなかったら、また違う方法を考えれば良いんだし……」
と、話し合ったところで手に持っている荷物に目をやるグレーテル。
「……お願いするのにこれは持ってない方が良いわね。どこかに隠してから行きましょう」
「そうだね姉様」
そして2人は『仕事道具』を適当な場所に隠すと、パン屋の方へと向かった。
「いらっしゃいませ~」
2人が凍えるように店に入ると、中年の女性がにこやかに挨拶をしてくる。
ヘンゼルとグレーテルはその挨拶に対し、力のない笑顔を浮かべて、ユニゾンで「こんにちは」と挨拶をした。
「あらあら可愛いお客さん。しかも双子かしら? そっくりね。お使いかしら?」
女性の問いにグレーテルは小さく仕草で否定をすると、ヘンゼルが申し訳なさそうに言った。
「あの、申し訳ないんですけど……僕たちお金がなくて。パンの耳を分けていただきたいんですけど。お金はこれだけです」
そう言って両手に握っていた僅かばかりの小銭を見せてみる。
その瞬間女性の顔は何かを察したように哀れみの顔に変わり、溜息を吐く。
「……一応訊くけど、お父さんとお母さんは?」
「いない。小さな頃に死んじゃったの……」
と、グレーテル。
「そう……ちょっと待って。アンター。アンタァー!」
そう叫びながら女性は一旦店の奥へと引っ込んでいった。
それを見送ると2人はそっと視線を合わせて小声で「行っちゃったね」「そうね」と言葉を交わしあった。
間も無く女性が戻ってきて2人の所に寄ってくると言った。
「今日はもう雪が凄いし、時間も遅くなるからウチに泊まっておいき。ウチはこんな時間に行き場の無い子供に
パンの耳だけ渡して追い返す程冷たかないよ。安心して泊まっていきなさい」
女性の言葉に2人は眼を輝かせると。
「良いんですか?!」
「嬉しい!!」
とはしゃいだ。
「良いんだよ。ちょうどポトフを作りすぎて腐らせるかもって頭を抱えていたところだから、うちも大助かりだよ」
「「ありがとうございます!」」
2人はお辞儀をしながら女性に分からないように『やったね!』と顔を合わせた。
それから2人は1泊と思いきや、そのままパン屋夫婦のご好意でそのまま暫く家に滞在させてもらえることになった。
パン屋の家には何とヘンゼルとグレーテルと同じ年頃の双子まで居た。
パン屋の奥さんはそれもあって何だか放っておけなかったと言っていた。
ヘンゼルとグレーテルにしてみればとんでもないラッキーだ。
案の定雪で列車が止まって暫くは移動出来ないので、丁度良い滞在場所にもなった。
追っ手さえ付かなければ。
ある朝食時の事だった。
パン屋の旦那さんの方が2人の境遇について質問をしてきた。
「2人はあの日、どうしてあそこを歩いていたんだい?」
その質問に2人は視線を合わせると、ヘンゼルが答えた。
「友達が駅まで来てるって言うから会いに来たんです」
会いに来ただとそのままその家に滞在しなかった理由を訊かれるのでそう答えた。
「じゃあ、2人は何処からやってきたのかな?」
「んー今の所はブカレスクのお友達のところに挨拶は行ったけど、
基本的にお家はないかしらね。基本的には色んな場所を転々としてるわ」
グレーテルはそう答える。
「そうか……」
グレーテルの返事に旦那さんの声のトーンが落ちる。
ルーマニアではストリートチルドレンは珍しくはないからだ。
「……ブカレスクのお友達はどんな子なんだい?」
「優しくて良い人ばっかりだよ。みんな親が居ないからみんなで兄弟みたいに暮らしてるんだ」
「……そうか」
旦那さんはそこで会話を止めてしまった。
ヘンゼルとグレーテルはパン屋の家で穏やかな時間を過ごしていた。
もしかしたら生まれて初めてかも知れないくらい楽しい時間だと、家族の居ない2人は思った。
テレビをまともに観たのもこの時が初めてだった。
ヘンゼルはパン屋の男の子と一緒にアニメを見て、グレーテルは歌声美しい歌手に耳と眼を奪われた。
「その歌手が気に入ったの?」
パン屋の女の子が話しかけてくる。
「うん」
「私もその歌手好きなの。綺麗の声よね……まるで天使みたい」
「天使……そうね。本当に、溜息が出るわ……」
グレーテルは思わず真似して歌ってみる。
するとパン屋の女の子は目を丸くした。
「あらやだ。あなたの声も凄い! この歌練習したら歌えるようになるんじゃないの?」
褒められてグレーテルははにかむ。
「そうかしら?」
「そうよ! あなた、才能あるわ!」
そう言ってパン屋の女の子はグレーテルの手を取って自分の事の様にはしゃいだ。
それからグレーテルはその歌手が歌うビデオを延々見続けながら歌の練習を始めた。
そうして一ヶ月くらい経った頃。
2人で寝室用に間借りしている納屋で寝床に就きながら、ヘンゼルがポツリと口を開く。
「ねぇ、姉様。もう一ヶ月だよ。ここの家の人、僕達に出て行けって言わないね」
「そうね兄様。あの子達もとても優しくしてくれてとても優しいわ。もしかして私達、
このままこの家の子になれたりとかしちゃったりするのかしら?」
「それ、だとしたらすごいよね。僕達に家族とか家が出来るんだね」
「凄いわ……ねぇ、知ってる? 私、歌を憶えたの。とても綺麗な歌。天使の歌よ」
「知ってるよ。僕らが遊んでるところまで聴こえてくるからね。ところでさ、姉様」
「なぁに、兄様」
「彼らは僕らの事を置いていてくれてるけど、本当はどう思ってるんだろうね? 大人はいつも夜に話をする。
今からこっそり聞きに行ってみたら何か聞けるかも?」
「それは名案ね兄様。大人は本音を子供に言わないし、本当の事を知らないままは私も嫌。行ってみましょう?」
そして2人はそっとリビングの方に向かった。
――リビングは案の定まだ明かりが点いており、人の気配がした。
きっと夫婦の気配だろう。そして話し声が聞こえてきた。
「ねぇアンタ、やっぱりアタシにはあの子達をこの家から追い出す事なんかできないよ」
奥さんの声だ。
「しかしなぁ……話を聞く限り、あの子達は『アレ』の仲間である可能性が高いんだぞ? そうしたら一緒に暮らす俺達が危険なんだ。あの子達の血の一滴が劇薬に等しいんだ。
……ちゃんとした施設に渡せば、そう悪い待遇はされないはずだ。あの時代よりは……」
旦那さんが渋い声を出す。
「確かに、キャリアである可能性は高いけど、あの子達は被害者だよ? あの政権下の。ちゃんと検査して、白だったら引き取る形でどうだい? 子供なんて二人も4人も一緒だよ。
アタシャ見たんだよ。着替えの時に、服で隠れている場所が、傷だらけで……きっと普通の人生送れてないよあの子達。アタシは……アタシは……」
「じゃあ、黒だったらどうする? お前はちゃんとあの子達に施設行きを伝えられるのか?」
旦那さんの問いに奥さんが押し黙るのを感じた。
2人はそこまで聞いて納屋に戻った。
暫くの間2人の間に沈黙が横たわり、グレーテルから口を開いた。
「私達、やっぱりこの家の邪魔者みたいね」
「うん……僕達みたいのが普通の家の子になれるはずが無かったんだ」
「でも、この家の人にはたくさん優しくしてもらったわ。さっきの奥さんたちの会話だって、私達の事をとても良く考えてくれていたわ……でも」
「この家にはもういられないね……迷惑がかかる。お仕事も出来ないし」
「……でも、せめて何かお礼くらいはしたいわ」
「……でも、僕らは何にも持ってないよ?」
「どうすれば良いかしら?」
2人は俯いて考え込む。
そしてヘンゼルがハッとしたように顔を上げた。
「そうだ! 僕達にも出来る事が一つだけあった!」
「え、なぁに兄様?」
「天使だよ! この家の人を天使にしてあげようよ! そしたらこれからもずっと一緒に居られるし、困らせることも無いよ!」
ヘンゼルはそう言って満面の笑みを浮かべた。
グレーテルもそれに賛同するようにウットリと微笑んで手を組んだ。
「まあ、素敵! 確かにそれなら全て丸く収まるわね! あの人達も喜ぶわ! 決行はいつにするの?」
「早速明日で良いんじゃないかな?」
「そうね。ちょうど雪も和らいだし、絶好の天使日和だわ。それじゃあ明日に備えて寝ましょうか」
「そうだね姉様」
そして2人は明日の儀式を夢見て安らかな眠りに就いた。
早朝、朝食の時間。
「あら、綺麗な歌声。きっとグレーテルね」
奥さんが鍋をテーブルに置きながら微笑む。
「グレーテルったらもうビデオ無しでこんなに綺麗に歌えるようになったのね」
娘も息子も旦那さんも、グレーテルの歌声に耳を傾けて微笑んでいる。
そしてリビングの扉が開かれると、笑顔で斧を手にしたヘンゼルと、巨大な銃を手にしたグレーテルが立っていた。
「「みんな、おはよう!!」」
ルーマニアのある町で一家が惨殺される事件が起きた。
近所の人間は一瞬雑音のようなものが聞こえたが、あっという間だったからあまり気にしなかった、犯人らしき人物は見なかったと証言していた。
しかしタンスやレジスターが荒らされていたので警察は強盗殺人と断定し、捜査する事となった。
だが不可解な事が幾つかあった。
一家が殺される前に家に出入りしていたと言われる見知らぬ双子の存在が行方知れずになっている事。
そして一番不可解なのは、遺体の背中の肩胛骨の辺り両方にまるで翼をもぎ取ったかの様な傷が付けられていた事だった。
ヘンゼルが電車に揺られながらグレーテルに話しかける。
「洋服のサイズどう? 僕のは少し大きいけど、すぐにぴったりになるよね。さすが僕らと
同じ双子の家なだけあって、僕達が着るのにふさわしい服がいっぱいあったね」
「私もよ兄様。あの子少しおデブちゃんだったけど、ワンピースだからそんなに気にならないわ。
でも、これで私たちずーっと一緒ね。みんな天使になったんだから」
「うん、ずっと一緒。そうそう、お店のレジにお金があったのも良かったよね。
これで暫く困らない。本当に良い家に拾ってもらえたと思うよ」
「後は依頼主の所に急ぎましょ。雪のせいで一ヶ月も足止め食らっちゃったし」
「そうだね。じゃあ、そしたら次はどこに行こうか?」
「何処に行きましょうか?」
ふと蘇る皆の笑顔。
『ヘンゼルとグレーテル? まぁ! とてもメルヘンチックなお名前ね。双子のあなた達にぴったりよ』
『あなた天使みたい!』
そう、天使になった2人の大切な家族。
2人の歪んだ最大の愛情表現。
「アハハハハハ」
「ウフフフフフ」
無邪気な笑い声は電車の片隅にいつまでも響いていた。
ロックがグレーテル巧みなアナルセックスでレヴィから寝取られる展開はよ!
>>14
原作寄りの私はそういうの書いた事無いです……(震え声)
レヴィかエダで妄想したことはありますけど……
後は双子で……
他は、にょたロックで……
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