「プロデューサーって、いつ寝ているんでしょう?」(30)

誰の言葉だったか、事務所で呟かれた何気ない一言。
確かに、765プロにシンデレラガールズ、さらにはミリオンガールズと200人以上を1人でプロデュースするプロデューサーだ。人間離れにもほどがある。
一体いつ寝ているのか。
一体いつ休んでいるのか。

事務員にアイドル全員が謎に思っていたことだったが、あえて誰も口に出していなかった。
が!一度声に出てしまえば後は早い。もともと全員が謎に思っていたのだ。
伝播するように口々に囁かれ、一つの結論に行き着くことになる。

「わからないなら、プロデューサーを観察すればいいじゃない!」

こうして、事務員とアイドル達によるプロデューサー観察が始まる……

Case1

春香「おはようございます!プロデューサーさん!」

日が昇り気温が徐々に上がり始める頃、事務所のドアを元気良く開ける少女がいた。

P「春香か、おはよう」

今日もまた同じ光景が広がっていた。
綺麗に並べられた机、書くスペースがなくなるほどに書き込まれたホワイトボード。
そんな事務所の真ん中で、今日もプロデューサーはキーボードを軽快に叩いていた。

春香(今日もいるんだ、プロデューサー…)

相変わらず事務所に居座るプロデューサー。
昨日皆で話し合った結果、皆でプロデューサーを観察しようとなった。

春香「プロデューサーさん!今日はいつ事務所に来たのですか?」

P「俺か?……30分前だったかな」

明らかに動揺するプロデューサー。
それもそのはずで、彼は自宅などには帰っていないのだ。
そんなことをアイドル達に知られては心配を掛けるだけだと、あえて偽りを告げた訳である。
無論、それをアイドル達に悟られ探られているわけなのだが。

千早「おはようございます」

春香「千早ちゃん!おはよう!」

事務所に千早が入ってくる。
何気ない挨拶を済ませる春香だが、さりげなくアイコンタクトを送っていたことをプロデューサーは知らない。

P「千早か、おはよう。さっそくなんだが……」

さっそく始まる仕事の打ち合わせ。
何百人ものアイドル達をプロデュースする彼なのだが、一体どんな方法でスケジュールを調整しているのだろうか。

千早「プロデューサー、少しお話があるのですが…」

打ち合わせのさなか、千早がプロデューサー観察作戦の火蓋を切って落とした。

P「どうした?何かミスでもあったか…?」

いつ何時でも仕事の話を持ち出すプロデューサーに、千早を始めアイドル全員が呆れていた。

千早「そうではありません。プロデューサー、明日は時間を取れますか?」

P「明日か?んー…ちょっと無理かな」

気まずそうに返事をするプロデューサーに、珍しく食いつく千早。
普段は大人しく仕事をこなす千早だが、今日の如月千早は一味違う。

千早「どうしても相談したいことがありまして…駄目ですか…?」

女の必殺技、涙目で上目遣い。

P「……わかった、時間は朝になるけど、それでもいいか?」

千早「はい、私も午前から仕事がありますので、その前にお願いします」

先方如月千早、早速行動を始めた。

春香(プロデューサーさん!空気ですよ、空気*)

Case1 翌朝

千早「おはようございます、プロデューサー」

朝一番、少し眠そうにしながら千早が事務所にやって来る。

P「おはよう千早、朝早くからすまんな」

千早「構いません、私がお願いしたのですから」

遅刻するはずなどない、昨日仕事を終えたその時から、ずっとプロデューサーを観察していたのだから。

千早「プロデューサー、一つ確認しますが、今日はいつ事務所に来ましたか?」

P「今日か?千早が来た30分前くらいかな」

千早「そうですか…わかりました。早速ですが、ここの部分についてですが…」

プロデューサーは嘘をついている。
千早は知っている、彼が自宅に帰ることなく、小さな明かりの中で仕事を続けていたことを。

千早(プロデューサー…少し無理をしすぎです。少しくらいなら私達も自分でできるのに…)

P「ここはこうで、そこはもう少しトーンをあげた方がいい感じになるな」

千早「ありがとうございます。それでは仕事に行ってきます」

P「あぁ、気をつけてな」

千早が仕事のため、事務所を出て行く。
1人になり静かになった事務所の真ん中で、再びキーボードを叩き始めるプロデューサー。

P(…皆、頑張ってるなぁ…)

ディスプレイに映し出された仕事の成績を眺めながら、1人感心するプロデューサー。
皆が皆、割り振られた仕事を一生懸命こなしている、それがプロデューサーの働く原動力でもある。

P「さてと、これを終えたら次は…」

バタンと、突然開く事務所の扉。

やよい「おはようございます!プロデューサー*」

Case1 昼時

やよい「プロデューサーさん!お茶菓子入りました~」

P「お、わざわざありがとうな」

いつもは雪歩がお茶を入れてくれるのだが、生憎仕事で事務所にはいない。
今日はたまたま居合わせたやよいが入れてくれた。

P「やよいの入れたお茶も美味しいな。千早はお茶に塩を入れていたなぁ…」

やよい「千早さんも一生懸命入れてくれたに違いないです!それよりプロデューサー、明日時間ありますか?」

P「(やよいもか…?)明日は昼過ぎなら大丈夫だが、やよいは大丈夫か?」

やよい「はい!ありがとうございます*プロデューサー*はーい、タッチ*」

パンッ

やよい「いぇい*お仕事行ってきます*」

事務所から太陽が去って行く。
いつもニコニコやよいが去った事務所には、再びキーボードの叩く音が鳴り始めた。

P「…今日も残業かな、何日家に帰ってないだろうな」

自虐的に呟くプロデューサー。
だが、残業だけで何百人ものアイドル達を管理できる彼は、本当の意味で凄いのだろう。
くっと背伸びをした後、休憩を取ることなく仕事にとりかかりはじめた。

やよい(プロデューサー…明日、楽しみにしててくださいね)

ーー3ーー

馬娘「羊さ~ん」ゆさゆさ

羊「んぁ~」ゆらゆら

馬娘「起きて~」ゆさゆさ

羊「……ん? ……あさ?」

馬娘「あ、起きた。 昼ご飯たべーー」

羊「……おやすみなさい」

馬娘「あ、いや、ご飯……」

羊「」くーくー

馬娘「ああ、もう!!」

鳥美「どうかしたの? えっと……」

馬娘「また忘れちゃったの? 馬娘だよ」

鳥美「そうだった。 馬娘よね」

すみません。間違えました。

Case2

P「小鳥さん、そこの書類を取ってもらっていいですか?」

小鳥「はい、プロデューサーさん。たまには休みを取ってくださいね。有給、溜まりに溜まっちゃってますよ」

P「ははは…皆が頑張ってくれてるのに、俺だけ休みだなんて申し訳ないですよ。…っと、少し席を外します」

急に鳴り出した携帯を片手に、事務所を出るプロデューサー。
ディスプレイを見ると、着信相手はやよい。
そういえば、今日はやよいと会う約束があった。

P「やよいか?どうした?」

やよい「プロデューサーさん!外に来てください!」

突然かかってきたと思えば、急に切れる通話。
何事かと思い、駆け足で階段を降りるプロデューサー。

P「(エレベーターいつ直るんだ…)やよい!何かあったのか?」

やよい「プロデューサーさん!ちょっと来てください!」

P「はぁ、はぁ...やよい、そんなに急いでどこへ...」

やよい「着きました!どうぞ!」

やよいを追いかけ走り続けたプロデューサーは、既に息が切れてクタクタになっていた。
改めてアイドル達が日々のレッスンをいかにこなしているかを感じさせられた。
やよい(春香さんの言うとおり、プロデューサーさんを疲れさせました!)
クタクタになったプロデューサーを半ば強引に自宅に連れ込むやよい。
その目的は知っての通り、観察である。

やよい「今お茶を入れますね~」

P「あぁ...ありがとう...」

グッタリと座り込むプロデューサー。
彼はふと思いついた、自分も少しレッスンに参加しようと。
やよいがお茶を入れるまでの間、キョロキョロと室内を見渡した。
平日の昼時、やよいの家族はそろって学校に行っており、とても静かで過ごしやすい空間だ。
かといって、騒がしいのも悪くはない。

やよい「お待たせしました!どうぞ!」

やよいの入れてくれたお茶をズズッと啜る。
雪歩の入れるのとはまた違う味、これはこれで体全体に染み渡り、疲れきった体を芯から温めて癒してくれる。

P「ふぅ...っと、何の用事だったんだ?」

やよい「(えっと、春香さんはこの後...)と、とりあえずゆっくりしていってください!」

春香の作戦通りにいくなら、この後はプロデューサーにゆっくり休んでもらう予定だ。
しかし、彼が仕事をやり残していることが気にかかるやよいは、それをうまく実行できずにいた。
これも、やよいなりの気遣いなのかもしれない。

P(...そういえば、ここのところゆっくりと休みをとってないな...)

今頃そんなことに気がつくプロデューサーは、ある意味末期なのかもしれない。

P(皆が一生懸命仕事してくれて、その事務処理を俺がこなす...うん、いいじゃないか、休みなんかなくても)

やよい「それでですね、プロデューサー...」

1人思いにふけるプロデューサーに、もじもじとしながら話しかけるやよい。
次の瞬間、お茶を飲む手を止めて氷のように固まるプロデューサーがいた。

P「...やよい、今何て言った?」

やよい「え、えっと......一緒にお風呂に入りましょう!疲れているときはお風呂が一番ですよ!」

いくらやよいといえど、もう十分に女の子である。
まだまだ発育途中ではあるが、服の上からでもわかる柔らかな膨らみと、ぷりんとしたお尻、程よい肉付き...
一瞬ではあったが、ゴクリと生唾を飲み込んでしまった。

P「何を言ってるんだ...?やよい、風邪でも引いたのか...?」

当たり前の反応である。
プロデューサーが自分の担当アイドルとお風呂など、スキャンダル以前の問題だ。
そんなことが世間に知られたら...というか入ること自体大変問題である。

P「そんなことより...ほら、事務所に帰るぞ。俺もやよいも仕事があるんだしさ」

かくして、やよいのお色気癒し作戦は失敗に終わった。
そもそも、こんなことを考えたのは天海春香であるのだが。


春香「くしゅんっ!風邪でも引いたのかな...?」

千早「春香...それはいくらなんでも強引すぎるわ...プロデューサーだから大丈夫だとは思うけれど...」

Case3

アイドル達が次々に作戦を実行するも、その全てがあえなく撃沈していた。
伊織は水瀬財閥の勢力を駆使して素行調査と捕獲をするも失敗。
雪歩がお茶に睡眠薬を入れても効果が現れず、貴音がラーメン屋のはしごに連れて行ったがただ食べるだけになってしまった。

春香「はぁ...どの作戦もうまくいかないね」

雪歩「私もだめだめでしたぁ...穴掘って埋まってますぅ...」

真「雪歩!!これ以上事務所に穴を開けたらただのアトラクションになっちゃうよ!!」

がやがやと事務所が騒がしくなる。
当初はプロデューサーの観察が目的だったのだが、いつの間にかただのデート?のお誘いになってしまっていた。
先輩アイドルがことごとく撃沈する中、事務所の扉がふと開かれた。

杏「...あれ、プロデューサーはいないの?」

春香「あ、杏ちゃん!ちょうどいい所に!!」

杏「え、何...?私はプロデューサーが飴をくれるからって来ただけなのに...うわ!ちょっとやめて......」

春香達御一行に拉致され、地獄の輪の中へ放り込まれる杏。
その光景を扉の近くで生暖かく見守る凛達。

凛「うわ、私だけはあの中に入りたくないな」

卯月「そんなこと言って、凛ちゃんもプロデューサーとデートしたいんじゃないの?」

凛「私はそんなことどうでも......ふんっ」

機嫌を損ねた凛はポスッとソファーに座り込んでしまった。
それを一緒に来た卯月と、後ろからやって来た未央と楓がじっと見つめていた。

未央「凛、何か嬉しそうだね...」

楓「喜びながらタバコを吸う...ニヤついている...ふふっ...」

未央「凛はタバコ吸ってないからね、楓さん...」

春香「...とういうわけなんだ!凛ちゃんたちも協力してくれるよね?」

凛(結局巻き込まれた...)

あらかたの事情を聞いた凛達5人は、揃って溜息しか出なかった。
そもそも、何故こんな変な人たちがトップアイドルになれたのか、そこから疑問に思ってしまう。
実力は確かなものなのだが...

卯月「そもそも、直接聞けばいいじゃないですか」

杏「そうだよ...皆でお願いすれば一日くらい休んでくれると思うけれど...」

後輩の提案に、先輩アイドルたちは揃って黙り込んでしまった。
この子達、やはりできる...ッッ!!
ではなく、その発想はなかったと言わんばかりの顔である。

千早「その発想はなかったわ...私たちが72をしても動じなかったのに...」

貴音「千早、自虐になってますよ」

響「うがー!自分完璧だと思ってたのに...後輩に先を越されちゃうぞー!!」

こいつらばかだ、真正のばかだと、凛達は呆れて溜息しか出ないでいる。
しかし、事情を聞いて馬鹿なことに提案をしてしまった彼女たちに、もう逃げ場は残されていなかった。
先輩たちの無駄な威圧感に、怯えることなく呆れしかなかった。

凛「はぁ...つまり、私たちが先輩方の後を引き継げばいいということですか」

楓「南の島で大騒ぎ...バカンス...ふふっ...」

未央「流石に失礼だよ楓さん...」

Case3 翌日夜

P「ふぅ、とりあえず一区切りだな」

ある程度の仕事を終え、今日も残業かと当たり前のように背伸びをするプロデューサー。
彼にとって仕事とは、息をすることと同様なのかもしれない。
冷蔵庫からコーヒーを取り出し、コップに注いでいると凛がゆっくりと歩み寄ってきた。

凛「プロデューサー、ちょっといい?」

P「(珍しいな、凛から話しかけてくるなんて)どうした?何か相談か?」

凛「違うよ、プロデューサー、ずっと事務所で仕事してるでしょ。たまには休みとりなよ」
ギクッと、コーヒーを入れる手が震えるプロデューサー。
まさか、自分が寝泊りを半年も繰り返していたことがバレてるとは思いもしなかった。
無論、事務所のアイドル達をはじめ、事務員や社長、全員に知れ渡っているのだが。

P「休みならちゃんと取ってるさ。昨日だって11時には帰ったし...」

凛「嘘、半年くらい休みとってないでしょ。皆知ってるんだよ」

凛の真っ直ぐな眼差しに、何も言えなくなってしまうプロデューサー。
確かに、彼はまったくと言っていいほど休みをとっていない。
しかし、それはあくまで彼女達をトップアイドルへと導くためであり、決して社畜とかそんなものではない。

凛「プロデューサーが私たちのために頑張ってくれてるのはわかってる。でも、たまにでも休まないと、いつか体壊しちゃうよ。そうなったら私も、皆悲しむから」

そう言って、静かにプロデューサーの腰に手を回す凛。
その頬は、ほんのりと赤く、熱を帯びていた。

凛「ね、たまにはゆっくりと休んで。私たちだって、できることは自分でするから、ね?」

P「...はぁ、やっぱり敵わないな。わかった、そのうち予定を合わせて休みをとるよ」

凛「絶対だよ?約束だからね」

事務所の中で、小さく指切りが交わされた。

閉幕

春香「やったね!プロデューサーさんが休みをとったよ!」

凛「誰のおかげだと思ってるの...まったく...」

卯月「そんなこと言っちゃって。あーあ、私もプロデューサーさんとぎゅーってしたかったなぁ...」

凛「あ、こらっ!!それは絶対に言っちゃだめって...!!」

ガヤガヤと賑わう765プロ事務所。
アイドル達をはじめ、事務員や社長までもがプロデューサーの休み祝いで笑顔を絶やさなかった。
こんなことでお祭り騒ぎになるのだから、プロデューサーが休みを取るたびに765プロではお祭りが行われるのだろう。

響「はいさーい!自分、ちんすこう作ってきたぞー!」

楓「沖縄の男性...ちん、すこう...ふふっ...」

未央「楓さん!!それはだめ、絶対!!」

皆それぞれが持てる力を発揮し、見事プロデューサーを休ませることに成功した。
一時は諦めかけた時もあったが、先輩後輩の砦を壊し、全員が結束したことは将来にとっても大きな経験となるだろう。
彼女たち765プロのアイドルたちは、また一歩、トップアイドルの座へと近づいたのかもしれない。

貴音「それにしても、あなた様は何をして休みを過ごしているのでしょうか...?」

真美「そういえば気になるよね→亜美、確認しちゃう?」

亜美「いいね→真美。兄ちゃんの歩行調査だ→!」

律子「それをいうなら素行調査よ、まったく...ほら、仕事よ仕事!」

律子の一言でそれぞれが自分の仕事場へと向かうため、事務所を後にする。
プロデューサーがいないとこんなに大変なのかと、改めてプロデューサーの敏腕に驚かされた。
カタカタとキーボードを叩く音が響く事務所に、遅れてやって来た人物がいた。

小鳥「あら、伊織ちゃん。皆ならさっき仕事に...」

伊織「小鳥、律子、あのバカは休みでもバカだったわ...」

P「はい、はい、宜しくお願いします!」

携帯を片手に、自室で仕事取りに励むプロデューサー。
やはり、彼に休みをとるということは無理だったのかもしれない。

P「ふぅ...次の幸子の仕事、チーターとかけっこか...勝てるかな?」

fin?

短いですが、これで終わりです。

また機会があれば書いてみようと思います。

それでは、ζ*'ヮ')ζうっうー!

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