希「うちだけの太陽」 (40)
・ほののぞ
・ヤンヤン風味
・希キャラ崩壊注意
・時列系はにこ加入直後をイメージして頂けたら
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「なんだか最近機嫌が良いわね」
生徒会での仕事中、ふいにえりちがそう呟いた
書類から顔を上げるとうちをじっと見つめる青い瞳が目に入る
どうやら鼻歌を聞かれていたみたいで、くすくす笑うえりち
「わっ、聞こえてたん?」
「えぇ、随分とご機嫌みたいね」
まぁ確かに機嫌が良いのは事実なんやけどね、とびっきり嬉しいことがあったから
羞恥から赤が差した頬を掻きながらそう言う
そう、とびきり嬉しいことがあったのだ
今までの人生の中で一番と言ってもいいぐらい、うちは今幸せだと思う
「ちょっとな、欲しかったものが手に入ったんよ」
「欲しかったもの?服とか、占いの道具か何かかしら」
んー、確かにそういうのも欲しいと言えば欲しいんだけど…
「違うよ、お金じゃ買えない大切なもの」
「…恋でもしたの?」
「似たようなもんかな」
肩を竦めて言うと、えりちは不思議そうな顔をして首を傾げた
分かりずらいかもしれんけど、でも恋なんて言葉じゃ表現し切れないから
窓の外は少し暗くなって来ていたので、うちは鞄を持ってえりちに言った
「暗くなってくる前に帰ろっか」
「そうね、誘拐事件が起きたり、何かと物騒だし」
誘拐事件
数日前、うちの学校の二年生が一人で下校している最中に誘拐された
誘拐と言っても、その女生徒の目撃情報が一切ないため、本当に誘拐されたのかも不明
お金目当ての犯行だったら身代金要求の連絡が来るはずだけど、それもない
不審者などの目撃情報もなく、警察は頭を悩ませている
そう、ニュースでは報道されていた
「じゃあ、また明日ね」
「ばいばい、えりち」
皆は何も知らない
その女生徒の友人だって、うちの友達のえりちだって、知らない
ガチャリと音を立ててドアを開ける
この空間から、うちは“わたし”に戻る
「ただいま、穂乃果ちゃん」
「………」
誘拐された“高坂穂乃果”が、“東條希”の家にいることなんて、誰も知らない
希は我侭を言わない良い子ね、なんて昔から母親からよく言われた
転校とか引っ越しとか、嫌なことはいっぱいあったけど
自分が駄々をこねたところでどうにもならないのは分かってたから何も言わなかっただけ
あれが欲しいとか、これを買ってとか、そんなこと言えるほど、両親との時間はなかったし
だから、これが最初で最大の我侭
大好きな子を、誰の目にも触れさせたくないなんて我侭
「…希先輩、穂乃果を…帰して、ください」
怯えの混じった、けれど決して折れてない瞳で穂乃果ちゃんは言った
手錠のはまった手首は真っ赤で痛々しかった
あぁ、また外そうとしたんだ
昨日あれだけ怒ったのに懲りないなぁ、なんて笑みが零れる
「やだなぁ、希って呼んでって言ったよね?」
「先輩、ですから」
「ここは私の家なんだから、関係ないよ?」
「…部活に行きたいんです」
…ふぅん、こんな時まで部活のこと心配するんだ?
「っ!」
穂乃果ちゃんが息を呑んだ
涙が滲んだ目で私を見ていて、自分が酷い顔をしていることに気付く
あぁ、そんな顔しないで穂乃果ちゃん
私は穂乃果ちゃんを傷つけたいわけじゃないから
穂乃果ちゃんが私以外を気にかけるのが嫌
穂乃果ちゃんが私以外と言葉を交わすのが嫌
穂乃果ちゃんが私以外に触れられるのが嫌
穂乃果ちゃんが私以外に笑いかけるのが嫌
穂乃果ちゃんが私以外を視界に入れるのが嫌
いつからだろうか、そんな歪んだ想いが脳内をぐるぐる廻っていた
彼女が入学してから、声を掛けることは出来なかったけど、それでもずっと見ていた
私には出来ない生き方をする彼女への、憧れと淡い恋心
それがいつからだろうか、少しずつおかしな方向へと変わっていって
彼女がにこっちに手を差し出したのが、決め手となった
視線をやると、お昼にと買っておいたパンはきれいに食べられていた
朝と夕はご飯を作るんだけど、お昼は学校のせいで出来ないから
だから、彼女が好きだというパンを渡している
…今まで一度も朝ごはんも夕ご飯も食べてくれたことないけど
はぁ、と零れるため息
変な薬なんか入ってないのは目の前で食べてみせて、教えてるのになぁ
それとも私とは一緒に食べたくないっていう反抗なのだろうか
「そろそろ、お昼の一食だけじゃ辛いんじゃない?」
「………」
「すぐご飯作るから、今度は一緒に食べようね?」
「………」
全くの無反応。流石にこれは少し寂しい
穂乃果ちゃんが私の家にいて、私だけを見ていてくれるというのは言葉に出来ないほど嬉しいけど、
出来ればもう少し懐いて欲しいと思うのは高望みなのかな
手早く調理を済ましながら、穂乃果ちゃんが家に来た日のことを思い出す
えりちになかなか認めてもらえないと頭を悩ます穂乃果ちゃんに
「良い方法を教えてあげる」と言って家に呼んだ。それだけ
運良く誰にも見られることなく家まで来れたし、穂乃果ちゃんも誰にも言ってなかったから、
未だに警察も私には気付いていない
いやぁ、昔から運は良かったけどここまでとは思ってなかった
「穂乃果ちゃん、出来たよー」
作ったオムライスを皿に盛って、穂乃果ちゃんの元へ戻る
うつむいた穂乃果ちゃんの口元へ、食べやすいサイズに分けてスプーンを運んだ
…………やっぱり駄目かぁ
時間にして十秒ほど、スプーンを見つめるだけで穂乃果ちゃんは口を開けない
まぁ時間は幾らでもあるし、焦る必要はない
仕方がない、明日のお昼は多めに買っておいて…
ふと、手に持ったスプーンが少しだけ軽くなった
「!」
見れば、口を小さく動かす穂乃果ちゃん
食べて、くれた…?
「…美味しい?」
恐る恐る聞くと、無言で穂乃果ちゃんは頷く
食べてくれた…!美味しいって…!
頬が赤くなるのを感じて、嬉しくてどうしようもなくなる
初めて、穂乃果ちゃんが私の作ったものを素直に食べてくれた…!
「今日は昨日よりも磨きがかかってるわね」
「えへへ、分かる?」
今うちは締まりのない、だらしない顔をしてるんだろうなぁ
「どうかしたの?」
「んとな、昨日欲しいものが手に入ったって言ったやん?」
えぇ、聞いたわとえりちは卵焼きを口に運んだ
…穂乃果ちゃんは今朝もちゃんとご飯を食べてくれた
少しはうちに懐いてくれたと見ても良さそうだ
お祝いに今日の夕ご飯は少し豪勢にしよう
「少し懐いてくれたみたいなんよ、昨日の朝まではご飯も食べてくれなかったんやけど」
「あぁ…ペットの話だったのね、良かったじゃない」
それにしても、ペットなんて飼い始めたのね、今度見に行ってもいい?
駄目、それは駄目だよえりち
いくら親友のえりちでも、それだけは駄目
穂乃果ちゃんをうち以外に見られるなんて、考えるだけでも嫌なのに
そんな本音とは裏腹に、うちはにっこり笑って嘘を吐いた
「人見知りな子やから、ちょっとそれは我慢してなぁ」
「もっと人に慣れたら、うちの方から呼ぶよ」
皆の太陽だったあの子はもういない
これからはもう、うちの…私だけの太陽
誰の目にも触れない場所で、ずっと輝いてるから
終わりです
お目汚し失礼しました
ご飯食べたら依頼出してきます
依頼出した後に続き書くというのは大丈夫なんでしょうか?
依頼スレで取り消しを伝えれば大丈夫かと
ダメ
新スレ立てて誘導するといい
このSSまとめへのコメント
のんたんはやっぱり純愛乙女だな