美穂子「私の上埜さんへ…」 (82)

サスペンスssです



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それは夏の暑さもとうに過ぎ去り、新涼が肌に心地よいある日の夕暮れ。

私が暗くなり人影もまばらになった部室を覗くと上埜さんが一人佇んでいるのを発見しました。

一太「あの…会長、今度の秋のクラスマッチの件でお話があるのですが…」

久「クラスマッチ?ごめん今忙しいの後にして貰える?電話かけなきゃいけないし…」

美穂子(麻雀部の部室に…あ!居ました!)

そう言って上埜さんは傍から携帯電話を取り出す。

一太「はぁ…それじゃあ、また今度お願いします」

久「ごめんね」

そう言うと上埜さんはまた電話の相手に夢中になった。

久「もしもし、私よ。うん…元気よ」

そのの声は、いつもの明るい調子に心なしか少しばかりの色艶が乗ってるような気がします…

久「うんわかった、じゃあね」

一体誰と話しているのでしょうか。

あんなに楽しそうに女性と話す上埜さんを見せつけられ、いけないとわかっていても私の心には黒い嫉妬の炎がちかちかと灯り始めます。

電話を終えると、上埜さんは部室を出て校門の前へとやって来ました。

久「ごめん、遅くなって」

美穂子「いえいえ、いいんですよ。呼び出したのは私なんですから」

久「それにしても美穂子、ここから部室の方を覗いてたでしょ?」

美穂子「え?す、すみません…つい気になって…」

美穂子(気付いてたんだ…私、なんだか覗きみたいな真似をして…)

久「別にいいわよ、美穂子になら見られても」

美穂子「ご、ごめんなさい」

久「それで何?用事って?」

美穂子「それは、今後の秋のコクマに向けて、清澄のみなさんと練習試合をと…」

久「そんなこと、電話で済ませればいいのに」

美穂子「用事があって近くに寄ったので、ついでに直接会って話した方が良いかと思いまして」

久「ふーん…あ!もしかして、私に会う為の口実だったりして…

美穂子「そ、そんな…」

美穂子(どうも彼女の悪戯な調子にドギマギしてしまいました…でも確かに直接会えることに期待してましたね…)

久「ふふ、それよりこれから時間ある?ちょっと寄り道して行かない?」

美穂子「先ほど副会長さんから何か用事があったようですが、よろしいんですか?」

久「えぇ、どうせ大した事じゃないしいいんじゃない?ねぇ美穂子ちょっとファミレスでおしゃべりしていきましょう」

美穂子「は、はい」

美穂子(ファミレスは私たちの他にも何人か学校帰りらしき学生で賑わっていました。私はあまりこういう所へ人とこないので内心ドキドキです…)

門松「特大パフェとアイスコーヒー、シフォンケーキをお持ちしました。」

久「うわ!でか…」

美穂子「大丈夫ですか?」

久「うん、なんとか…うひゃ…でも本当にデカいわね」

美穂子(好奇心から頼んだパフェが予想以上に大きかったようですね…そんな、何時もとは違って予想外に四苦八苦している顔も素敵だと思ったりして…)

久「う~ん…なかなか減らないわね、このパフェ…」

美穂子「すごい量ですね」

久「優希でも呼ぼうかしら」

美穂子「あ、あの…私も食べるのを手伝います」

美穂子(私たちはなんとか間食のメドをつけると余裕が出て来たのかおしゃべりの再開を始めます)

久「変な夢?」

美穂子「えぇ、何度も同じような夢を見るんです」

久「なになに?どんな夢?」

美穂子「ちょっと不気味で怖い夢…私がひさ…今の友達と仲良くしていると突然、目の前に昔の中学生頃の私が現れて手に持っていた刃物で私を切りつけるんです」

久「昔の美穂子が今の美穂子をねぇ…」

美穂子「はい、ちょっと怖くて」

久「ねぇ、知ってる?」

美穂子「はい?」

久「昔の自分が今の自分を殺そうとする夢は、今の自分の幸せを過去の自分が妬んでるからなのよ?」

美穂子「今の自分を…過去の自分が妬む…」

久「そうよ、だから美穂子がそんな夢を見たのは、今がとても幸せだという証拠ね」

美穂子「それを聞いて少し安心しました」

美穂子(そうですね…私は今とても幸せです)

久「あら?本当に幸せそうな顔してるわね」

美穂子「え?そ、そうですか…」どきどき

久「あたしと一緒にいるからだったりして」にっ

美穂子「えっ//」カァ…

久「ふふ、美穂子って本当に面白いわね」

美穂子「もう!からかわないで下さい!//」

美穂子(それから十数分程おしゃべりが続きましたが、私はあまり遅くなると華菜達に心配をかけるので早々に切り上げて帰る事にしました)

ファミレスから出て来た上埜さんが帰路につく…

私は、さきほどの電話の相手が気になって仕方がないようです。

少しだけ、上埜さんの後をついて行きましょう。

私の上埜さんが他の女と付き合っている訳がない、わかっているはずです。だけど…

疑いの心はとても重苦しく罪悪感が針のようにちくちくと私の胸を刺します。だけど、この不安を取り除くには他に方法がないんです。

どうか、こんな私を許して下さいね…

久「♪」

上埜さんのすぐ後より気付かれないようにして尾行する。周りも人気がなく薄暗いのでそうそうに見つかるようなことはありませんよね。

久「♫」

???「………」

あっ…

誰ですか?その方は…

只のご友人にしては親しそうに話す上埜さん…ここからでは会話の内容まではわかりませんが、その様子は電話の時と同じように楽しそうでした。

久「♪」

???「!?//」

上埜さんのほうから手を伸ばす、その女はためらいつつもゆっくり上埜さんの手を握り返しました…

上埜さんのほうから手を伸ばす、その女はためらいつつもゆっくり上埜さんの手を握り返しました…

あの、嫌な予感は本当だったんだわ…

私の上埜さんに…

勝手に会話し…

勝手に手を繋ぎ…

勝手に…

許せない許せないゆるせない…

二人は仲良く道を歩いて行きました。夕陽を背に、二つの影が消えるのを呆然と眺めるしかない私の姿は傍目から見ても滑稽でしょう…

あぁ、どうすれば…何を信じればいいのですか上埜さん…

その時、私の脳裏には煙が立ち昇るように、ある考えが浮かびあがってきました。

そうか…

上埜さんは心優しいゆえにその女から無理矢理迫られてるのですね。

わかりましたよ、私が必ず上埜さんをその女から救ってあげますね…ふふ…

久「最近、誰かに付けられてるような気がするのよね…」

まこ「お前さん、また他校の女子にちょっかいだしてるんじゃなにのかのう?」

優希「部長が口説いた女の子がそのままストーカーに…」

久「ちょっと!怖い事言わないでよ…」

和「心当たりはあるんですね?」

久「いえ…今は誰とも付き合ってないし、口説いても…ないわよ?」

和「何で疑問系なんですか?」

まこ「まぁ、少しでも思い当たる節があるのならこれからは自重すべきじゃのう」

久「うぅ…」

和「そうですよ、部長は少々軽すぎます」

久「そんなことないわよ…」

そうです!

上埜さんは私だけを見つめ続け、私だけに無限の愛を注いでくれているのですから、他の女性には何ら興味も関心もありません。軽い女だなんて誤解もいいところです。

まこ「ほう…でも、昨日はあんなに仲良さそうにしとったじゃないか」

久「あれはたまたま…」

優希「部長も好い加減にしないといつか刺されるじぇ」

久「!?」

和「優希、あまり好い加減な事を言っては駄目ですよ」

久「あはは…」

清澄のみなさんと上埜さんの何気ない談笑のさなか、ふと昨日の女の事を思い出します。

私たちの、二人だけの完璧な世界に彷徨く泥棒猫さん…

何処の誰だか突き止めて、あなたは上埜さんに好意を持っているようだけど、上埜さんはあなたには全然興味がないということをわからせてあげないと…

ふふ…待っていて下さいね。

その為にもこれからはあなたのことを毎日見守ることにします、安心して下さいね…

部活が終わると一人で帰宅する上埜さん、どうやら今日は様子が違うようで何時もの帰路から少し外れた場所へと向かっています。

まさか、またあの泥棒猫と会うつもりなのでは…

久「♪」

「やぁ!久、待ったかな?」

やっぱり…

上埜さんはあの勘違い女と会うつもりなんですね…

向こうより紫の髪をした女性が現れます、切れ長の瞳は鈍くぎらつき、顔の輪郭は爬虫類のような嫌らしさが滲み出ています。理知的な仮面の裏には獲物を狙う獰猛な捕食者のような顔がちらちらと見え隠れします。

久「もう!ゆみ遅い!」

ゆみ「すまない…それで昨日電話で話したことの続きなのだが」

久「そうそう、昨日美穂子からも言われたのよ、秋のコクマについてだけど…」

よく見れば昨日の泥棒猫とは全く違うようです。どうやら彼女は私の上埜さんと秋の大会についての話をしたいようですね。

上埜さんは清澄麻雀部という立場から、他校の部長とも交流があっても仕方がありません。

ゆみ「それではこの後食事でも一緒に…」

ですが、その部長同士という一線というのを飛び越えて上埜さんに近づこうとするなら…

久「ごめんね、今日は家の用事があるのよ」

ゆみ「そうか…残念だな」

どうやら上埜さんはこの女の邪な企みに気付いたようですね。

久「ごめんね、また誘ってちょうだい」

ゆみ「そうだな、今度は鶴賀の他のメンバーも連れて来るよ」

二人はそれから暫くとりとめの無い会話をし、一通りの用事が済んだ後別々に別れて行きます。

久「それじゃあね♪」

ゆみ「あぁ…」

上埜さんとは一旦別れ、私はこの女を見張ることにしました。

ゆみ「さて、モモが待っているし早く帰るか」

辺りがしんと暗くなり、カラスの声も次第に聞こえなくなってきました。

ゆみ「暗くなってきたな…急がないと」

さて、昨日の泥棒猫さんではありませんが上埜さんにちょっかいを出そうとしていたのは事実、少しお仕置きしてあげないとね…

ゆみ「ここであっているのかな?」

彼女はこの辺りの地理には詳しくないようで、自ずと人気の無い場所へと向かってくれるので好都合ですね。

ゆみ「しまった…道を間違えたか?」

彼女がスマホを取り出しそれを眺める、地図アプリに気を取られているのでしょうか…チャンスですね。

ゆみ「ふむふむ…あってるな…」

彼女が周囲に不用心になっている隙に、そろりと後ろへと近づきます。

私は道ばたに落ちてある手頃な石を掴むと、彼女の頭へと思いっきり振り下ろしました。

ゆみ「!?」

やりました!

鈍くとても大きな音を立てると、彼女はすぐさま前方へ血を流しながら倒れました。

ゆみ「うぅ…な、なんだ…一体…」

私はすかさず止めを刺そうと近づきました。

死ね!上埜さんの敵め!

ゆみ(誰だ…この制服…それに金髪見覚えがあるぞ…もしかして…)

ゆみ「や、やめ…」

もう一度、彼女の頭の上に石を振り下ろそうとした時です。

向こうより人の声がして私はふと石を地面に置きました、どうやら大声の出し過ぎで気づかれてしまったようです。とにかく他の人に見つかってはこの計画が台無しです。

「おい、そこに誰かいるのか?」

私はそこから早急に離れる事にしました。幸い、暗がりだったので顔を見られることなく逃げ切ることが出来ましたが…

泥棒猫さんにちゃんとお仕置き出来なかったのが残念ですね…

「おい!大丈夫か!今救急車を呼ぶからな」

ゆみ「す、すみません…」

次の日…

久「ゆみ大丈夫!?」

蒲原「ワハハ、来てくれたのか」

睦月「すみません…」

ゆみ「久、あぁ…大丈夫だ、まだ少し頭が痛むが脳に影響はないとお医者さんも言ってたよ」

モモ「先輩、りんご剥けたっすよ」

久「それにしも突然ゆみが病院に運ばれたと聞いてびっくりしたわ」

蒲原「ワハハ、それにしも通り魔に襲われるなんてな」

久「犯人の顔とか特徴とか覚えてないの?」

ゆみ「それがいかんせん暗がりなもので犯人の特徴につながるようなものは何一つ覚えてないんだ…」

久「そう…」

ゆみ(あれは…あの見覚えのある金髪と風越の制服は、確かに福路だった…)

ゆみ(しかし、それは私の勘違いかもしれない…幸い襲われたのは私一人だ、私の証言で悪戯に福路が疑われることになるようなことは避けたい)

ゆみ「本当に残念だよ…」

睦月「駆けつけた人も、先輩を見つけた時にはすでに犯人は影も形もなかったと言ってますし」

佳織「うぅ…私怖いですぅ」

モモ「カオリン先輩は特に可愛いから注意しなきゃいけませんもんね」

ゆみ「これからしばらくは部活は中止にする、みんなも出来るだけ一人で帰らず外では集団で行動するように意識してくれ」

睦月「うむ」

モモ「それじゃあ先輩、あーんして下さい」

ゆみ「モモ、ひ、ひとりで食べられるから…」

モモ「駄目っす!先輩は怪我人なんですから!はい、あーん♪」

久「ラブラブね」

ゆみ「おちょくるな」

モモ「先輩~」すりすり…

蒲原「ワハハ、それなら私もあーん」

佳織「もう、智美ちゃんは一人で食べられるでしょ」

睦月「うむ」

モモ(でも先輩のあの態度、何か隠しているようですね…例えば通り魔の特徴が先輩のよく知る人と同じだったとか…)

モモ(例えどんな人が犯人であれ先輩を傷つける人は許せないっす…)

お仕置きは失敗しましたがこの調子ならしばらくは大人しくしているでしょう…

それから、私は毎日上埜さんを見守ることにしました。

今日は姫松の大阪女…次の日は龍門渕の痴女と…

上埜さんには絶え間なく次々と発情期のメス猫共がうじゃうじゃと群がってきます。

そのどれもが上埜さんに気に入られようと下品な媚を売ってすり寄ってきます。

特に気に入らないのが鹿児島の黒糖女…

久「あら?滝見さんお久しぶり」

春「久しぶり…今度、みんなで長野へ旅行に行くのでそれの下見に来た」ポリポリ

前を揃えられた薄暗い緑の髪に、無感情そうな口元は普段会話には全く使わないことが窺い知れます。

瞼が降りて半開きになった瞳は、相手に媚び居るような嫌らしさを感じさせます。

どうやら彼女は私の上埜さんに遭う為にわざわざ鹿児島よりここへ来たらしいです。

ふふ…日本の端にまでその魅力を轟かせるのは、さすが上埜さんと言った所でしょうが…

久「もしかして私に会う為の口実だったりして?」

春「…//」

勘違いした雌猫さんにはお仕置きしないとね…

まこ「これこれ、あんまりからかわんときんしゃい…」

久「それにしても遠い所からわざわざご苦労ね」

春「はい。あと巴さんは風越の方へ挨拶してからこっちへ来るらしい、あそこのキャプテンが個人戦で姫様と対戦したから」

まこ「なるほどのう」

黒糖女がそのトモエだとか言う女と合流すると、次に向かう場所があるだとかで早々と上埜さん達と別れる。

二人で一緒に行動しているのが面倒ですが、なんとかいけそうですね…

春「福路さんとは話せた?」

巴「それが、何でも今は留守みたいで…代わりに久保コーチと話をしてきたわ」

春「ふーん…」ぽりぽり…

巴「さて、それじゃあ私たちが泊まる宿の下見でも…」

二人は暗い路地へと差し掛かる…

私はそこで待ち構えた…

春「誰?」

巴「あなた、風越の…」

今度は上手くいくようナイフを持参しています。

私の右手に持ったナイフが街頭の光を受けてギラリと光ると、二人は悲鳴をあげて一目散に逃げ出す。

私はすかさずそれを追った。

巴「やめて!?こないで!」

春「はぁはぁ…」

逃げる二人をただ追いかけているだけじゃない、私はあらかじめ計画しておいた通りに、二人を人気の無い袋小路へと追い込む。

ここならこないだみたいに誰かに来られることもなく安心して仕留められる。

春「うぅ…助けて…」

巴「こ、こないで…」

上埜さんを寝取ろうとした泥棒猫の癖に被害者ぶろうとするその態度が気に入りません。

横のトモエだとかいう女には悪いですが、二人まとめてお仕置きしないとね…

巴「キャ!?」

トモエの脇腹にナイフが刺さる、横の黒糖女は震えながらも私の手を止めようとしてくる。私はそれを片手で軽く払いのけた、黒糖女は後方へ大きく尻餅をつき動けなくなる。

巴「ぐっ…嫌ぁ…」

トモエの手が私の手を強く掴む、私は止めを刺す為にナイフを抉ろうとした。女は悲痛な叫び声をあげる、あともうちょっとだ…

その時、頭部に鈍い衝撃が走る。

黒糖女だ…

あのアマ動けないと思って油断していたら、咄嗟に岩を見つけてきてそれを私の頭の上に振り下げたのだ…

巴「うぅ…はるる…」

仕方が無い、トモエという女からナイフを引き抜くと、黒糖女の胸に目掛けてナイフを突き刺した。

見事に突き刺し黒糖女はそのまま悲鳴を上げて倒れた…

何とか二人をやっつけられたが黒糖女の反撃のせいで自分も怪我を負っている、ここはこれまでにして引き上げる事にした…

私は怪我の痛みに耐えながらもその場を離れた。

次の日、上埜さんにその黒糖女とトモエとかいう女が襲われたという話が知らされました。

優しい上埜さんは例え、興味の無い女二人と言えども自分に関わった人間が怪我をしたと知れば心を痛めるとても慈悲深い方のようです。

久「はい…はい…それで…わかりました」

和「部長…」

京太郎「あの二人は?」

久「なんとか一命は取り留めたけど、二人とも意識不明の重体ですって…」

優希「そうかじぇ…」

久「やっぱり私に会ったばかりに…」

和「そんな部長が気にすることないですよ…」

久「でも…ゆみも滝見さんも狩宿さんもまこも私と別れた直後に狙われてるわ」

久「洋榎も、国広さんも私と別れたあと怪しい影を見たらしいわ…」

久「私が…私がそんなに憎いなら私を襲えばいいのに…」

和(部長…親しい人が次々に襲われて辛いのですね、心中お察しします…)

優希「うぅ…なんだが私まで悲しくなってくるじぇ…」

和「優希…」

ガラガラ…

一太「すみません、染谷さんのお見舞いに来ました…」

彩乃「お邪魔します」

奈月「会長、染谷さん大丈夫ですか?これお見舞いの品ですと差し入れです、よかったら食べて下さい」

優希「みんな…」

和「副会長さん達、ありがとうございます。ほら、部長も頂きましょう?」

久「いらないわ…」

和「部長…」

彩乃「でも会長、少しやつれて…」

久「とにかくいらないの…気にしないであなた達だけで食べて」

一太「会長、自分に関わった人が次々に襲われて辛い気持ちはわかります。ですがそれは会長のせいではありませんよ」

久「なによ!わかったような口聞かないで!」

和「部長、いくらなんでもそれは…」

一太「原村さん、いいから…」

一太「確かに通り魔が次々に部長と親しい人を襲ったのは過去の会長の行動にわずかにも関係があるのかもしれません。しかし、本当に憎むべきはこんなことをした犯人でしょ?過去の自分を責めても何の意味もありません、そうじゃないですか?」

久「内木くん…」

一太「だから、僕達にできることは一日も早い犯人逮捕を願うことと、襲われた人達の怪我の回復や心のケアをすることなんじゃないですか?会長がこんなに萎れていたらますます犯人を喜ばすだけですよ」

久「そうね、ありがとう…少し元気がでたわ」

一太「そうです!会長はいつも通り飄々としていないと」

久「あら?そんなに飄々としてるかしら?私はいつも真面目よ?」

和「ふふ…部長」

優希「そうだ、犬!タコスを早くだせ!」

京太郎「お前はすぐそれだな…」

彩乃「あはは」

奈月「会長、元気を取り戻せてよかったですね」

久「私たちも食べましょう」

和「えぇ」

そうです、上埜さんは日陰者だった私を照らしてくれる太陽のような存在なんです。

このような取るに足らない人達の不幸でメソメソしていてはいけませんよね。

次の日…

和(私と優希は今日も染谷先輩のお見舞いに行きました)

優希「それにしても部長元気になってよかったじぇ」

京太郎「染谷先輩の怪我の方もなんとかなりそうだしな」

和「早く犯人が捕まってくれればよいのですが」

pipipi♪

優希「お?電話だじぇ?」

睦月『優希ちゃん!?』

優希「お?鶴賀の新部長さん、どうしたんだ?そんなに息を切らせて?」

睦月『モモが、モモが居ないんだ!』

和「東横さんが?とにかく落ち着いて話してもらいましょう」

睦月『私と、モモが加治木先輩の病室から出て行く時、怪しい影がこちらを覗いていて…はぁはぁ…とにかく、その時モモが消えたんだ!』

優希「モモちゃんが!?加治木さんには言ったのか?」

睦月『まだ…無用にパニックにさせるだけだから。他の人達にも連絡した、とにかくモモを見かけたら連絡して欲しい』

優希「わかったじぇ」

和「東横さん、心配ですね…」

京太郎「あまり迂闊な行動をしなければいいが…」

ふふ…あの子『私の先輩にどうしてこんなことを…許せない』とか言ってたっけ…

所詮は泥棒猫の連れね、くだらない考えで私と上埜さんの前に立ちはだからないで欲しいわ…

ステルス能力は少し厄介だったけど、その分人気を気にしないで簡単にやれちゃったわね…

待っててね上埜さん…

今にあなたの敵を全部やっつけますから…

蒲原「いたぞ!あそこの路地裏だ!」

睦月「モモ!?」

モモ「…」

佳織「キャー!!」

蒲原「早く、救急車を!」

睦月「う、うむ!」

睦月(遅かった…モモは路地裏の奥で血を流して倒れていた…)

睦月(私のせいだ…私がちゃんと止めてれば…)

優希「モモちゃん、見つかったようだじぇ…」

和「そうですか…」

優希「このこと部長には…」

和「そうですね…」

京太郎「糞ッ…」

和(とうとう通り魔による4件目の犯行がおこなわれてしまいました…)

和(一体誰がこんな酷いことを…)

和(それから数日、不気味なほど何も無い平穏な日常が続きました)

京太郎「おーい!部長は?」

和「なんでも風越にまでと」

京太郎「大丈夫なのか?こんなことがあったばかりだぞ?」

和「大丈夫ですよ、付き添いに福路さんと深堀さんが付いてますし」

京太郎「しかしなぁ、まだ犯人がこの辺りに野放しにされてるんだぜ」

優希「さすがにあのお相撲さんみたいな人が居るのに襲ってくる訳がないじぇ」

京太郎(しかし、襲われたのは滝見さんと狩野さんと染谷先輩と東横さんか…狩野さんは滝見さんと一緒に行動していたから襲われた訳で確かに二人とも部長と関係があるといってもいいな)

京太郎(四人とも恐らく同一のナイフで襲われたのに加治木さんは石か何かで後頭部を打撲させられてる…加治木さんのとは犯人は別なのか?)

優希「京太郎?」

京太郎(いや、たぶん加治木さんを襲ったのも同一の犯人だろう、最初の犯行の時は突発的だったと考えられる、計画して犯行をおこなったのはナイフを凶器に使い始めた滝見さんと狩野さんの事件からだろう…)

和「須賀くん?どうかしましたか?」

京太郎(もしかして加治木さんは犯人の特徴をちゃんと見た上で、あえて隠しているんじゃないのか?)

京太郎(犯人の特徴を言えば知り合いに嫌疑がかかる、それを恐れてあえて黙っていたんじゃないのか?だとすると犯人は加治木さんがよく知っているかつ部長と関係がある人物…)

京太郎(部長と関係があってなおかつ別れても無事だったのは部員の俺、和、優希、咲、学生議会の内木、菜月さん、彩乃さん、そして清澄以外では愛宕さん、滝見さん、国広さん、福路さんか…恐らくこの中に通り魔が…)

京太郎(そうか、もしかすると犯人は>>60かもしれないぞ…)

京太郎(愛宕洋榎さん…)

京太郎(考えてみれば彼女だけ明確な理由なく部長に会いに来たんだ)

京太郎(部長に特別な思いを抱く愛宕さんは部長を自分だけの物にしようと次々と部長に近づくものに制裁を加えていた…ありえるかもしれないぞ…)

京太郎「和!愛宕洋榎さんは今何処にいるかわかるか?」

和「愛宕さん?それならこっちを旅行するって暫く長野のあるホテルに…」

京太郎(なるほど…それなら一応、犯行は可能だな…)

京太郎「そういえば部長は?」

優希「なんでも風越に行くとか」

京太郎「!?大丈夫なのか?」

和「大丈夫でしょう、福路さんと深堀さんがついてますし」

京太郎(うーん…なにか嫌な予感が…)

???「…」

久「♪」

居ました、あの泥棒猫ですね…

私は二人の後を気づかれないよう付いて行きます。二人は段々と風越へ近づいていってます。

先ほどまで付いていたデブが用事か何かで居なくなったのは幸いですが、通り魔を恐れてか二人は人通りの多い道を選んでいるようです。これは厄介です。

風越へ到着すると上埜さんはあの泥棒猫と別れました。泥棒猫は未練がましそうにいつまでも上埜さんを目で追っています。

でもチャンスですね、これで上埜さんは一人になりました…

ちょうどこの通りをまっすぐに行った所に曲がり角があり、そこへと入れば人の来ない死角になります。

その時を狙いましょう…

久「…」

上埜さんが曲がり角へと入る、私はそこで待ち伏せしてます。

今だ!

私は一気に上埜さんへ襲いかかります。と、その瞬間体中に電気が走る衝撃が起こりました。私は突然のことに仰天して必死で後方へと倒れ込みました。

上埜さんがスタンガンを忍ばせていたようです…

久「残念ね…私がそう迂闊に一人で行動するとでも思ったの?あなたをおびき寄せる為にわざと襲いやすいような行動をとったのよ」

そんな、上埜さん…酷いです…

久「さぁ、警察に連絡を入れるわ…」

上埜さんは倒れ込んだ私に近づき、姿を確認しようとする。暗がりでよく見えなかったのか、私の格好を見るなり上埜さんは驚いたようです。

久(風越の制服に金髪の髪…もしかして…)

私は顔を隠しながら来た道を反対へと逃走していく。さすがに上埜さんも私を追って行くような危ない真似はしないようです。

久「待って!あなたもしかして…」

上埜さんの制止を振り切って逃げようとする。

すると前方になんとあの泥棒猫が現れました。

???「あの…やっぱり心配で…って!?あなたは!?」

久「えっ!?どういうこと!?」

しまった!

これでは私の計画が台無しです。それならばと私はその泥棒猫へ刃物を突きつけました。

私のナイフが泥棒猫の右胸を突こうとしたその時、私は背中から強い衝撃を受けて思わずナイフを落としてしまいました。

上埜さんです。上埜さんはそのままその泥棒猫へと駆け寄ります。

久「美穂子!大丈夫!?」

美穂子「は、はい…大丈夫です…それより久は?」

なおも私ではなく泥棒猫の方を庇う上埜さん…

私は先ほどの格闘と怪我で興奮状態になってきました。上埜さん、私のものにならないならいっそう二人まとめて…ふふ…

久「とにかくここは逃げて警察へ連絡しましょう」

美穂子「はい!」

逃がしませんよ…上埜さん…

私はすぐに上埜さんへと襲いかかりました。私は上埜さんの腕の携帯を振り払う、力では圧倒的に私の方が上です。スタンガンで再び攻撃してくる上埜さん、それを力づくで取り上げると、すかさず上埜さんに電流を浴びせ返しました。

スタンガンで軽い麻痺状態に陥った上埜さんを押しのけて泥棒猫の首根っこへと手を伸ばす…

美穂子「うぅ…苦しい…」

久「っ…み、美穂子…」

私はその首を手で力強く絞めた。頸部を圧迫された、泥棒猫は喘ぎ苦しみながらもかすかな抵抗を見せます。しだいに抵抗する力も弱くなり、相手の顔も真っ赤になっていく。

ふふ…あともうちょっと…

美穂子「ひ、ひさ…」

久「み、みほ…」

これが止めだと親指にぐっと力を入れる。まさに虫の息だ…

咲「部長!大丈夫ですか!?」

その時、曲がり角の向こうより人が現れる。宮永さんだ。

私はつい、新たな乱入者に気を取られ首を絞める手を緩めてしまった。

久「さ、咲!?」

咲「心配になって清澄に帰る途中、風越によってみたら一人で帰ったと聞いて、必死に探してみたんです!」

私のふいをついて泥棒猫は私の元から抜け出した。

美穂子「はぁはぁ…久!宮永さん!」

咲「と、とにかく警察へ連絡をしないと…」

連絡なんてさせない…

とにかくこの場は一旦、宮永さんを片付けないと…

久「咲!気をつけて!アイツ私が護衛用に持っていたスタンガンを奪ったのよ!」

私はスタンガンを宮永さんへ向ける。宮永さんは驚いて避けようとするがもう遅い。スタンガンがあと数センチというところまで近づくと私は後方の脇腹に鈍い衝撃が走るのを感じ思わず絶叫を挙げてしまった。

美穂子「はぁはぁ…」

泥棒猫が震えながらナイフを持っていた。あまりの痛みでスタンガンを握る手が緩んで落としてしまった。

上埜さんは泥棒猫を抱きかかえる、宮永さんはその隙に携帯から警察へと連絡した。

久「美穂子!」

美穂子「久…わたし…わたし…」

久「大丈夫、何も言わなくてもいいわ…」

咲「もしもし警察ですか!通り魔に襲われてます!はい!場所は○○で…」

すぐにパトカーのサイレンの音が響いて来る。もう駄目だ。

すぐに逃げなくては…私は脇腹を抑えながらすぐさま逃走を計った。

京太郎「おーい!部長!咲!大丈夫か!?」

和「咲さーん!」

優希「咲ちゃん!部長!それに風越のお姉さん大丈夫か!?」

洋榎「大丈夫か!?」

たくさんの人が集まってきます。それでもなんとか遠くまで逃げ切りました。

京太郎「犯人は!?」

久「向こうへ逃げたわ…」

京太郎「くっ…俺たちがもう少し早く到着できれば…」

優希「仕方ないじぇ、後は警察の人に任せて」

洋榎「なんや、逃げられたんかいな…まったく、人の事を犯人扱いしようって」

京太郎「いやぁ…だから謝ってるでしょ」

洋榎「まぁええわ…久も福路も無事やったし」

久「ええ…」

こっちの十字路をまっすぐ行き、あとはあの角を左へとまがれば…ふふ…こうなることも予想して逃走経路も確保しています。パトカーのサイレンが遠くなる、なんとか家まで帰れれば…

その時です、角に差し掛かった所、何やら人影が見えました…

ゆみ「ここは通行止めだ」

な!?待ち伏せ…

ゆみ「残念だったな内木一太…」

一太「な、なんでぼくのことを…」

ゆみ「風越の制服と金髪のカツラまで付けて、誰かさんのコスプレのようだが…全然似合ってないな」

一太「ちっ…お前…」

ゆみ「蒲原!」

蒲原「ワハハ、警察に連絡は済んであるぞ」

一太(サイレンがこっちへ…そんな!?せっかく逃げ切れると思ったのに…)

ゆみ「抵抗しても無駄だぞ、すぐに警察がここへ駆けつける。今、私たちを殺して逃げてもすぐに捕縛されるからな」

一太「なんで、僕がここへ逃げると…」

ゆみ「私は最初、襲われた時に見た風越の制服と金髪からまず福路を疑った、福路がなんらかの恨みを抱いて私に襲いかかった、そう考えた」

ゆみ「しかし、続いての滝見と狩宿、さすがに福路に二人をたった一人で襲うの力は無い。なら実は通り魔は男だと考えるほうが自然だと言うことだ」

ゆみ「最初の事件も私に姿を見られるなんて間抜けを犯したのも実はわざとなんじゃないかなと…」

ゆみ「そして通り魔の本当の目的は久に関係する者を葬ることじゃなくて福路の犯行に見せかけて福路の信頼を地の底へと追いやる事だったんじゃないのかなって…」

ゆみ「この辺の呉服店で最近、男性が風越の制服を受注していないか聞いて来たよ…そうしたらちょうどお前の名前があった…店員の話によると妹が風越に入学するからそのためと言ってね、もちろんお前に女の兄弟が居ない事も調べさせてもらった」

蒲原「ゆみちんの命令で実際に調べたのは私だけどな」

一太「あぁ…上埜さん…僕は…」

ゆみ「上埜さん?」

蒲原「清澄のヒッサの昔の名字みたいだぞ」

ゆみ「お前、久に…」

一太「中学一年の時、一度だけ会った…カツアゲされてる僕を救ってくれた上埜さん…僕の太陽だったのに福路とか言う女が…」

ゆみ「そうか…」

一太「なぁ?家に帰らせてくれないか?どうせもうどこへ逃げたって捕まるだろ」

ゆみ「…」

ゆみ「あぁ…好きにしろ」

一太「ありがとう…」

ゆみ(私は久が福路と行動すると知った時にあえて『あの角は人気が無いから通り魔に襲われる危険がある』と進言した)

ゆみ(責任感ある久が今回の事件で自分を責めていたのも知っていた、だからそう言えば自発的に一人で行動して囮になろうとすることも読めていた)

ゆみ(今回、たまたま推理が当たったとはいえ、こんな当てずっぽな推理、外れていたら大変なことになっていただろう…)

ゆみ(モモの仇を討つためとは云え、親友を危険に晒したんだ…ふふ…私は通り魔以上に最低な奴かもしれないな…)

蒲原「ゆみちん、帰ろうかモモが待ってるぞ」

ゆみ「あぁ…モモの容態も回復してきたしな」

その後、部屋から首を吊った内木一太の死体が発見される––

部屋には風越指定の制服と金髪のカツラが置いてあり、壁から天井一面にかけて『上埜さん』という文字と共に竹井久の写真が散りばめられていた。

死体には福路美穂子が自衛の為に付けたナイフの傷があり、その表情は苦悶に満ちあふれていたとのことだった––

カン!

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