狩人「魔王を倒した勇者とは思えねーな」
勇者「うーん、あの頃は女神様の御加護があったしな」
狩人「そんな弱くなってるのか?」
勇者「力は変わってないけど、あの頃は一週間くらい走りっぱなしでも大丈夫だった」
狩人「まじ?」
勇者「なんで嘘つく必要があるんだよ」
狩人「じゃあ、今はどれだけ走れるんだ?」
勇者「たぶん感覚的には三日くらいかな」
狩人「そんな変わんねーじゃん」
勇者「いやいや、限界が見えないのと全然違うだろ」
狩人「凡人には分かんねーよ」
勇者「むぅ……」
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狩人「それで、なんでまた狩人になろうと思ったんだ?」
勇者「?」
狩人「魔王を倒したんだから一生養えるくらいの金をもらったんだろ?」
勇者「ああ、いや、もらってない」
狩人「なんでだ!?」
勇者「お、落ち着けって、酒場だぞここ」
狩人「あ、ああ、すまん。金の話になると熱くなるのは悪い癖だな」
勇者「ほんとよく狩りで我慢できてるな」
狩人「金になるからな」
勇者「そっか」
狩人「それより教えろよ。金をもらわなかった理由」
勇者「それは……」
勇者「自由が欲しかったから、かな」
狩人「自由……」
勇者「ま、まぁその話はいいじゃないか」
狩人(絶対嘘だな)
勇者「それより、次は何を狩るんだ」
狩人「んー、お前まだ一回も成功してないだろ。だからまずは弱い奴から行こうと思う」
勇者「えーーーーー」
狩人「……狩りは?」
勇者「繊細さと柔軟さ」
狩人「お前の勇者としての生き方は?」
勇者「正義と勢い」
二人「………」
狩人「決まりだな」
勇者「……はい」シュン…
受付嬢「ありゃりゃ、さっき討伐失敗したお二人さんだぁ」
狩人「……失敗したのはこいつだ」
勇者「………」
受付嬢「あはは、冗談ですよ」
狩人(この子、女狐の癖して可愛いよな)
勇者「はぁ……」
狩人「なぁ嬢ちゃん、今日の夜空いてない?」
受付嬢「一年は空いてないかなぁ」
狩人「そうですか……」ハァ
勇者「それより、この辺で初心者でも借りやすい魔物っている?」
受付嬢「おや、身の程を知ったんです?」
勇者「……はい」
受付嬢「可愛い人、今夜空いてない?」
狩人「おい!」
受付嬢「あはは、冗談ですよ。それならこいつを退治してほしいです」
狩人「……荒熊か」
勇者「荒熊?」
受付嬢「最近旅人を襲うんで苦情が出てたんです」
勇者「い、いや、俺は狩りを……」
狩人「荒熊の毛皮は需要があるんだよ」
勇者「そうなんですか」
受付嬢「殺し方が雑だと筋肉が固まって皮膚を破っちゃうので、死を悟らせないくらいの早業が必要です」
狩人「だから普通の狩人は手を出したがらないんだよ。凶暴な割に利益が少ない」
勇者「熟練者は?」
狩人「毛皮ごときに苦労したくねーよ」
勇者「そうか……」
受付嬢「受けますか?」
勇者「………」
狩人の理想郷と呼ばれる中央大陸の東部に位置するリーグル地方は海と山、谷と森に囲まれた自然豊かな土地だ。それ故に多くの種族、魔物、動物が棲んでおり、人間もまた土地の一部となることで共存していた。
狩人「戦えない者は南部の平原を通るしかないんだから、そこに荒熊なんて凶暴な魔物が現れちゃ大変だよな」
勇者「でも狩人達はメリットがないから倒さない……」
狩人「……軽蔑してるのか?」
勇者「いや、そんな生き方もあったんだなって」
狩人「それが普通の人間さ。自警団だって自分たちの土地しか守らない」
勇者「……そうだな」
狩人「さ、行こうぜ。今回こそ狩りを成功させるぞ」
勇者「おう」
狩人「それで、お前は馬鹿の一つ覚えみたいにまた――」
勇者「俺にはこれしか無理だよ」チャキッ
狩人「長剣は攻撃範囲も狭ければ刃こぼれもしやすい。その上――」
勇者「柄しか持てないから応用性もないって何度も聞いたって」
狩人「ならお前もこいつを使えって」
勇者「クルガナイフだろ」
狩人「この曲線美が分かるか?」ナデナデ
勇者(クルガナイフ、別名ブーメランナイフ。弓のように折れ曲がっていて普段は木のような感触。握るとその部分は手に合わせて固まる。そのまま横に振ると先端から形を変えていき刀のような切れ味を誇るようになる。引けば針のように尖りそのまま突くことで槍のように扱える)
狩人「この地方でしか採れない特殊金属とこの地方にしかいない天才的な鍛冶屋達によって作られる神器と呼ぶにふさわしい武器だ」
勇者「金とクルガナイフがあんたの命だな」
狩人「んなことねーよ。愛する娘たちこそが俺の命だ」
勇者「三人だっけ?」
狩人「……四人」
勇者「ま、またぁ!?」
狩人「……若気の至り……だ」
勇者(冒険者だったころに至る所で盛った結果がこれ……か)ハァ…
狩人「これからもその剣でやりたいなら今回は絶対に成功させろよ」
勇者「……分かってる」
狩人「いいか、その刃の断面は楕円形だ。荒熊の強力な筋肉と触れる箇所が多い分、首ちょんぱは難しいだろう」
勇者「だが、首以外にどこを斬れば……」
狩人「首以外にどこを斬るんだ馬鹿」
勇者「………」
狩人「知恵を絞れ。お前の武器はその剣だけか?」
勇者「俺の武器……」
狩人「それは自分で気づかなければ力にならない。わかってるだろ」
勇者「……ああ」チャキッ
荒熊「ぐるるるる……」
勇者「あれが……見た目はただの熊……」
狩人「と、思うだろ?」
勇者「え?」
荒熊「ぐぉぉぉおおおっ!」ジャキンッ
勇者(ひ、肘から剣が出てきた!?)
狩人「荒熊の腕には二本の骨がある。そのうち一本は外に出すことができる上に鋭利な刃物の代わりになる」
勇者「まじですか……」
狩人「まぁ今回は気づかれた時点で負けなのだから、あれは気にするな」
勇者「気にするな……って言っても…」チラッ
荒熊「ぐぉおおおおおおっ!」
勇者「……気になるだろ」ハァ…
勇者「なぁ、一つ聞いていいか」
狩人「なんだ? 俺の娘たちはやらんぞ」
勇者「……なぜ冒険者をやめて狩人を?」
狩人「そいつは単純だ」
勇者「え?」
狩人「俺みたいな取り柄のない人間が子供を育てるには、生き物の命を奪うしかない。……それだけだ」
勇者(……嘘かな…)
狩人「……ん、あれは…?」
??「………」
荒熊「グォオオオオオオッ!」グァッ
勇者「あれは!?」
狩人「知り合いか!?」
勇者「お、俺の元仲間だ!!」
僧侶「く、熊……」オドオド
荒熊「ぐぉおおおおおっ!」ガバッ
僧侶「ひ、ひぃいいいい!」
勇者「こっちだぁああああああ!!」
荒熊「!!」ダッ
僧侶「ゆ、勇者様!」
勇者「うぉおおおおお!」
荒熊「ぐぉおおおお!」ガバッ
狩人「……あのバカ…」チッ
勇者「はぁああ!」ブンッ
荒熊「ぐぉおおおおっ!」ザシュッ
狩人「相変わらず攻撃力はえげつねぇな」
勇者「炎よ!」ゴォッ
荒熊「ぐぉぉぉおおぉお!」ジタバタ
勇者「たぁああああ!」
勇者「はぁっ……はぁっ……」
僧侶「ゆ……勇者様ぁ……」グスッ
勇者「………大丈夫?」
僧侶「は……はいっ」
勇者「よかった」
僧侶「えへへ」
狩人「よかねーよ」
狩人「………」ゴスッ
勇者「うぐっ……」
僧侶「勇者様!?」
勇者「だ、大丈夫……」
狩人「大丈夫じゃねーだろ」
僧侶「あなた! 勇者様に向かって何をするんですか!?」ジッ
狩人「……うっ」
狩人(めちゃくちゃ美人で気が強い……俺好みだ…)ゴクリ
勇者「僧侶、今回は俺が悪いんだ」
僧侶「え?」
狩人「わかってるとは思うが、あれを見ろ」クイ
荒熊「」
僧侶「……?」
狩人「ストレスで皮膚がビリビリに破れてる」
勇者「………」
狩人「そもそもストレスを与えないようにしなくてはいけない相手に向かって炎魔法とはなんだ。獣が火を恐れるくらいガキだって分かるだろ」
勇者「……ああ」
僧侶「勇者様、さっきから何を……」
狩人「そして一番やってはならないことが……」
勇者「威嚇したこと」
狩人「繊細さの欠片もない。お前は獲物を殺したいだけか?」
勇者「俺は……」
僧侶「勇者様を馬鹿にしないでください!」キッ
狩人「馬鹿にされたのは俺達だ」ギロッ
僧侶「っ!?」
僧侶(この人のオーラ、普通じゃないです……)
狩人「なぁ勇者よ」
勇者「………」
狩人「お前らが倒した魔王と魔王軍がどうだったかしらねーが、
ここの生き物は純粋なんだ」
勇者「……分かってる」
狩人「いいや分かってない。お前は自意識過剰すぎる」
勇者「そんなことは……」
狩人「いいか、人も獣も自然界の中では部品に過ぎない。身勝手に荒熊の前を通ったお嬢さんのために虐殺して良い相手じゃない」
僧侶「っ!」
勇者「……俺は…」
狩人「……まぁいい。約束は約束だ」
勇者「………ああ」
僧侶「約束……?」
狩人達の宿『陽竜の巣窟』
僧侶「な、なんですかここ……」ピクピク
そこは、狩りに命を懸けている者たちの止まり木、個々の部屋という概念はなく男も女も関係ない。
女狩人(裸)「お、狩人ー、帰ってきたんかー」
狩人「久しぶりだな」
僧侶「は、裸……」カァ///
女狩人「今度お前の子供達にうまい肉食わせてやっからよー」
狩人「お前のって……サンはお前の子供でもあるだろ!」
僧侶「ふぇぇ!?」ビクッ
女狩人「あははっ! なんだったら二人目作るか!」
狩人「おめー力強すぎるからパス」
女狩人「あっはは! じゃあ――」チラッ
勇者「?」
僧侶「だ、だだだっ、駄目です!!」カオマッカ///
女狩人「なんだ勇者はこいつとできてたんかー」ガシッ
僧侶「ふぇ?」
狩人「ちょうどよかった。ちょっとそいつを頼むわー」
女狩人「いいのか!? 好きにして」ハァハァ///
僧侶「ひっ!?」ゾクッ
狩人「行くぞ」
勇者「僧侶、ちょっとごめんな」
僧侶「そ、そんなぁ……」フェェェ
狩人「おーい、武器っ子ちゃんいるかー」
武器っ子「あーい」
勇者「久しぶり」
武器っ子「あらら、勇者ちゃん。聖戦以来だねー」
狩人「なんだ知り合いかよ」
勇者「この剣を聖剣に仕立ててくれたのが彼女なんです」
狩人「納得の切れ味だな」
武器っ子「へへっ、まぁ何ていうかたまたまってやつ?」ニパーッ
狩人「……俺ロリコンじゃないけどさぁ、今日よかったら――」
武器っ子「私おじさんには興味ないもーん」ギュッ
勇者「へ?」
狩人「また勇者か……」ガクッ
勇者「武器っ子ちゃん……俺に――」
武器っ子「……幸せだねぇ」
勇者「?」
武器っ子「聖剣ちゃんはそんなに愛してもらって幸せだねぇって言ってるの」
勇者「………」グッ
武器っ子「新しい武器かぁ」
狩人「俺はこれと同じ奴がいいと思ってるんだが」
武器っ子「クルガナイフかぁ、見た目がなぁ」
狩人「うぇぇ!? ちょ、超かっこよくね!?」
武器っ子「スマートさの欠片もない下品な武器」
狩人「おいぃ! お前のご先祖様が創った武器をぉおおお!」
武器っ子「今の時代はこれかな」スッ
狩人「それは……」
勇者「箱?」
武器っ子「うん、魔力に合わせて形状を変える武器。試作品だけど使ってみる?」
勇者「う、うん」スッ
狩人「……なぁ武器っ子ちゃん、武器っ子ちゃんは魔力あんの?」
武器っ子「ううん、ないよ――」
狩人「勇者! 触る―――」
勇者「えっ」スチャッ
箱「」ブゥン
狩人「くっ!」ガバッ
武器っ子「おろ?」
勇者「箱が……槍に変わった」ドスッ
壁「」パラパラ
武器っ子「お、おお……すごいなー」
狩人「……ふぅ…」
武器っ子「メンテナンスは狩りが終わる度に来てね」
勇者「う、うん」
狩人「会いたいだけじゃねーの?」
武器っ子「そうだよー。勇者のこと大好きだからねー」
狩人「………」グスッ
勇者「……武器っ子ちゃん、一つお願いが……」
武器っ子「ん?」
女狩人「あ、お帰りんさい」ギューッ
僧侶「あ、あはは、あはははは(失った。いろいろと大変なものをうしなっちゃった……)」
勇者「行こう、僧侶」
僧侶「……あ、はい……あれ?」
勇者「?」
僧侶「勇者様、聖剣は?」
勇者「………」
僧侶「……?」
狩人「今日から三日間、新しい武器に慣れろー」
僧侶「新しい……武器?」
勇者「………」
僧侶「何でですか!!」ポロポロ
狩人「………」
勇者「僧侶、いいんだ」
僧侶「駄目です! あれはみんなを護ってくれた大切な剣です!」
勇者「いいんだ」
僧侶「駄目です!!」
勇者「狩人、行ってくれ。三日後に」
狩人「……ああ」ザッ
僧侶「まだ話は――」
女狩人「僧侶たん」グイッ
僧侶「んっ!?」
勇者「ちょ、ちょっと!?」
勇者(片手で僧侶を持ち上げた!?)
女狩人「少し、落ち着こうか」
僧侶「………」ポロポロ
女狩人「ほれ、フルーツジュース」
僧侶「あ、ありがとうございます」グスッ
勇者「………」
女狩人「武器、か」
僧侶「聖剣は何度となく仲間を護ってくれた大切なものなんです」
女狩人「護る……ね」
勇者「俺は……」
女狩人「いや、私から説明するよ」
僧侶「……?」
女狩人「僧侶は勇者が今何をしているか知っているのか?」
僧侶「……えっと、この辺りの治安を守る自警団か何かですか?」
女狩人「虐殺だ」
僧侶「え?」
勇者「………」
女狩人「勇者は今、己の利益のために生き物を殺している」
僧侶「……う…そです…」
女狩人「嘘じゃない」
僧侶「嘘です!」
女狩人「嘘じゃない」
僧侶「ぐっ……」ジッ
勇者「………」
中途半端ですがいったんここまでです。おやすみなさい
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