近畿地区新人戦 個人戦翌日
憧「気晴らしに外に出て来たけど、特に行くとこないなー」
憧「……2位かー」
憧「せっかく奈良で開催されて宥姉も応援に来てくれてたから、優勝したかったのになー…」
憧「まあ宥姉が引退して、人数足りなくなっちゃったから団体戦にはエントリーできず」
憧「初めて出た個人戦で準優勝だから十分すぎる気もするけど…」
憧「うーん…でもなー…」
憧「優勝したのが千里山でも姫松でもなくて、あんな子だなんて…」
憧「あーもうっ!やっぱむしゃくしゃする!」
友香「あ、あのー…」ハァハァ
憧「ん?あ、あんた!」
友香「こ、こんにちは」
友香「な、何を一人でつぶやいてましたんでー?」
憧「な、なんでもないわよ」
憧「てか、こんなところで何してるのよ。近畿1位さん」
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友香「い、一位とかたまたまなんでー」
友香「荒川さんが出てたら絶対負けてたんでー」
憧「そりゃあ、まあそうよね」
憧「チャンピオンが引退した今、あの人に勝てる人なんていないわよ」
憧「でも今回はアジア大会と日程が重なって欠場」
憧「ある意味ラッキーだったわね、お互いに」
友香「でー…」ハァハァ
憧「ていうか、すごい汗ね…」
憧「こんなところで一人で何してるのよ?」
憧「大会終わったから観光?にしても、一人って変よね」
憧「剱谷の人たちはどうしたのよ?」
友香「え、えっと、今日はみんなでお寺に行ってたんです」
友香「そこで座禅っていうのをしたんですけど」
友香「私正座が苦手でー…」
憧「それで走って逃げ出して来たと?」
友香「はいでー…」
憧「いやいや、部員の人たち絶対心配してるでしょ」
憧「早く戻ってあげなさいよ」
友香「正座はしたくないんでー…」
憧「はあ…まったくねー」
憧「知らないけど早く戻った方がいいと思うわよ」
憧「それじゃあね」
友香「あ、ま、待ってくださいなんでー」
憧「何よ?」
友香「ぶ、部長にはちゃんと連絡します」
友香「夜には戻るって伝えますんでー」
友香「だ、だから、あの…」
友香「わ、私に奈良を案内してください!」
憧「は、はい?」
憧「私が?あんたを?」
友香「だめ…ですか?」
憧「いやいや、なんで私なの」
憧「ほとんど初対面みたいなもんなのよ?」
友香「…私奈良に来たの初めてなんでー」
憧「ああ、帰国子女なんだっけ?」
友香「そ、そうなんでー!」
友香「だから詳しい人に案内してほしかったんでー」
憧「だからって私じゃなくても…」
憧「チームメイトと観光した方が楽しいでしょ」
憧「そもそも私そんなに市内に詳しくないっていうか…」
友香「やっぱり…だめなんでー?」ウルウル
憧(やばっ……あーもう、泣くのはずるいって…)
憧(そんなに座禅がしたくないわけ…?)
憧「はあ…分かった。案内してあげる」
友香「ほ、ほんとなんでー!?」
憧「そんな目されたら敵わないって」
友香「あ、ありがとうございます!」
憧「てか、さっきからその中途半端な敬語はなんなの?」
憧「同じ1年だしタメでいいわよ」
友香「ありがとうなんでー、あ、新子、さん…?」
憧「憧でいいって」
憧「どうせ今日一日一緒にいるんだし」
友香「わ、わかったんでー、憧…ちゃん…///」
憧「…まあいいわ」
憧「ほらじゃあ行くわよ、近畿1位さん」
友香「友香でー」
憧「へ?」
友香「私の名前は森垣友香でー」
友香「私もちゃんと名前で呼んでほしいんでー!」
憧「…分かった。悪かったわね、友香」
友香「はいでー!」
憧「じゃあまあ、今日一日よろしく」
友香「こちらこそ、よろっ!」
憧「って言ってもどこに行くのよ?」
友香「でー?私は全く分からないのでー…」
憧「観光コースも私に決めろってわけね、全く」
憧「そうねー…じゃあまずはベタに大仏でも見にいく?」
友香「だいぶつ?」
憧「あぁ、えーっとそうね…」
憧「大きな人の像…ビッグスタチュー?」
友香「あ!スタチューオブリバティーでー?」
憧「いや、あれと比べられるとさすがに…」
友香「それで、その大仏ってのはどこにあるんでー?」
憧「東大寺っていうお寺の中にあるの」
友香「お寺……もう正座は嫌なんでー…」
憧「いやいや大丈夫だって!座禅なんて絶対できないから」
友香「よかったでー…」
憧「ここ、奈良駅あたりだからそんな遠くないわよ」
憧「とりあえずバスに乗って行こっか」
友香「りょうかいでー!」
――――――
――――
――
憧「ふう…ちょうど乗れたわね」
友香「ナイスタイミングでー!」
憧「たぶん10分程度で着くからひとまず休憩ね」
友香「まだ何もしてないんでー」
憧「どうせこれから疲れるんだから今のうちに休んどくの!」
憧「それにしても…まさかあんたが優勝するなんてねー」
友香「自分でもびっくりなんでー」
憧「まあ確かに、友香は団体のときも強かった気がするけど」
憧「本当は阿知賀4人でベスト4独占するつもりだったのにさー」
憧「それを邪魔されちゃうんだもん」
友香「阿知賀にだけは負けたくなかったんでー」
友香「団体で負けたリベンジでー!」
憧「あのときは勝ったといっても超ぎりぎりだったけどね」
友香「……あの後、莉子ちゃんすごく落ち込んでた」
友香「それに先輩たちと戦える最後の大会だったんでー」
友香「だからみんなのためにも絶対勝ちたかったんでー!」
憧「……で、そのみんなに心配かけてこうして抜け出して来たと」
友香「そ、それとこれとは関係ないんでー!」
憧「ま、今回は私の負けだったけど」
憧「次戦うときはそうはいかないわよ!」
友香「のぞむところでー!」
憧「とは言っても、戦う機会なんてとうぶんなさそうよねー…」
友香「次のインターハイでー?」
憧「そうだ!晴絵に頼んで、剱谷に練習試合を申し込めばいいじゃん!」
憧「もう今年のインハイは終わったから練習試合も自由だよね」
友香「阿知賀と練習試合でー?」
憧「そっ!私たちが剱谷まで行ってあげるから!」
友香「いいね!楽しみなんでー!」
憧「でしょー?」
友香「………そのときはまた兵庫観光に付き合って欲しいんでー…///」ボソボソ
憧「あ、次降りるわよ、準備して。…ん?どうかした?」
友香「……なんでもないんでー」シュン
友香「おー、大きな赤いお寺でー!」
友香「これが東大寺でー?」
憧「いや、これは別もの」
憧「春日大社っていうの。東大寺と一緒に世界遺産になってるのよ」
憧「ちなみにこれはお寺じゃなくて神社ね」
友香「なにが違うんでー?」
憧「そ、それは私も分からないけど…」
憧(やばっ…巫女がそれ分からないってまずいよね…)
憧「…まあ神社は、日本の神を祀るところなのよ!」
憧「しかも神社には、本坪鈴っていうガラガラするのが基本あるのよ!」ドヤッ
友香「なんで鈴が置いてあるんでー?」
憧「それは……」
憧「…だああああああ!もうっ!だから奈良詳しくないんだって!」
憧「私の分からない質問するの禁止!」
憧「とりあえず春日大社はまた今度にして、東大寺に行くわよ」
友香(今度………?)
憧「ここからは歩きね。まあ10分くらいで着くから」
友香「じゃあ走ったら5分で着くんでー!」ダッ
憧「ちょっ待って!待ってってば!」ガシッ
憧「もう…なんで走るのよ」
友香「だってせっかくの奈良観光、時間がもったいないんでー」
憧「観光地は人も多いんだから走らないの!」
憧「他の人の迷惑だし、はぐれちゃったらどうするの」
友香「ごめんでー……」
憧(まったく…しずばりの無駄体力ね)
憧「どうせすぐ着くから、ほら行くわよ」
友香「今度こそこれが東大寺でー?」
憧「そっ、ってもうさっきから東大寺には入ってたんだけどね」
憧「で、これが奈良の大仏よ」
友香「ほんとに大きいんでー」
友香「それにポーズもなんか面白いんでー」
友香「答え分かるけど自信満々に思われるのが恥ずかしくて」
友香「控えめに手を挙げる莉子ちゃんみたいでー!」
憧「なによそれ…でもあのポーズにも意味があるって聞いたことあるわよ」
友香「へー、どんな意味があるんでー?」
憧(―――墓穴掘ったあああああああっ!)
憧「…携帯で調べてみる」
憧「『奈良の大仏 手 意味』っと……あ、あった」
憧「『あの手の形は、[せむいよがんいん]と呼ばれています』だって」
友香「……私まだ日本語が苦手で……英語で説明してほしいんでー」
憧「大丈夫、日本暦16年の私もさっぱりだから」
友香「それにしても人が多いんでー」
憧「そりゃあ奈良一番の観光地だからねー」
憧「私たちみたいに観光しにくる人がたくさんいるのよ」
憧「ん?どうかしたの、友香?」
友香「あれ、あそこ、大仏の目の前のところ」
友香「あの人、見たことある気が…」
憧「え?……あ!あの人」
憧「千里山の、一年生!確か……二条さん?」
友香「なんかずっとお祈りしてるんでー」
憧「千里山の人たちも今日は観光してるってことかな?」
友香「話しかけに行ってみるんでー!」
泉「……」
泉「私が1年生では最強なはずや……」
泉「あんな剱谷とか阿知賀の1年とは格が違うんや……」
泉「私が最強なはずやのに………」
泉「いや、今回の大会はノーカン」
泉「そう、荒川憩が出てない時点でノーカン!無効な大会や!」
泉「本番は次!次で私が高1最強なことを証明する!」
泉「そのためにも……仏様、次の大会では私を勝たせてください!お願いします!」
憧「こっんにちはー」
友香「どもっ!」
泉「へ?あ、あんたら!」
友香「昨日はお互いお疲れ様でー」
友香「何をお祈りしてたんでー?」
泉「べ、別に何も祈ってへんわ!」
泉「はよう園城寺先輩が元気になるようにとかそういうのや、そういうの!」
憧「ああ…園城寺さん、あれから大丈夫なの?」
泉「幸い特に異常はなくて、すぐに退院できたで。通院はしょっちゅうしてるみたいやけど」
憧「そう…よかった」
泉「いやー、あんたらにまで心配かけてしもうてたんやな」
泉「なんか申し訳ない………ってちがああああう!!」
憧・友香「?」
泉「昨日の1位と2位がこんなとこでなにしてんねん!」
泉「いやまず、だいたいなんであんたが優勝してんねん!」
泉「2年に負けるならまだしも、格下の高校の1年に負けるなんて」
友香「たまたまなんでー」
友香「次はもう優勝できないと思うんでー」
泉「っ!そうや!今回は荒川憩がおらんかった!ただの消化試合や!」
泉「勝負は次!そんときはあんたら二人ともまとめて倒したるからな!」
泉「そこで高1最強は誰か決着つけよやないか!」
友香「望むところでー!」
憧「てかあんた一人で観光してるの?」
泉「いや、他のみんなもそこらへんおるで」
泉「千里山みんなで観光しよるからな」
「いずみー、バスもうすぐ出るでー」
憧「げっ、この声は……」
憧「なんで江口セーラがいるのよ!3年でしょ!?」
泉「先輩は推薦で大学決まってるから、ずっと部活に顔出してくれてるんや」
憧「そうなの…」
憧「…友香、行くわよ!」
友香「え?」
憧「ほら早く!じゃあまたね、千里山の人!」
泉「お、おう…」
友香「あ、待って憧ちゃん!置いてかないでー!」
泉「あ、おい!あんたら!今度会ったときは絶対倒すから覚悟しときやー!!」
憧「はいはーい」
友香「はあ…なんでそんなに急いで戻って来たんでー?」ハァハァ
憧「あの人に絡むといろいろとめんどうなのよ」
憧「それよりあんた、人見知りじゃなかったの?」
友香「人見知り…でー?」
憧「だって私に話しかけて来たときは、敬語だったしなんか挙動不審っぽかったし」
友香「私そんな変だったんでー!?」
憧「でも、さっきの千里山の人には普通に話してたしさ」
憧「なに?私がそんなに怖そうに見えたってわけ?」
友香「ち、違うんでー!」
友香「たぶん…憧ちゃんに案内をお願いしたかったから…その…緊張したんでー…」
憧「ふーん…まあいいけど」
憧「それにしてもあの人、私たちに敵対心かなり持ってたわね…」
友香「二条さんでー?」
憧「うん。強豪千里山のレギュラーだから負けが許されないんだろうけど…」
憧「私たち、まぐれでも1位と2位になっちゃったからこれからは警戒されるかもね」
友香「有名になったんでー?」
憧「まあ名前は覚えられたでしょうね」
友香「なんか、ちょっと嬉しいんでー!」
憧「でもその分研究されるから、楽に勝てなくなるわよ」
憧「とか言って、有名になるのは私も悪い気分じゃないけど」
友香「そういえば、二条さんって昨日は何位だったんでー?」
憧「………さあ?」
憧「さーて、じゃあ次はどこに行こうか?」
友香「私おなかが空いたんでー…」グー
憧「そういえばもうそんな時間ね」
憧「おっけ、じゃあお昼ご飯食べに行こっか」
友香「でー!」
憧「そうねー、何か食べたいものある?」
友香「奈良って何が有名なんでー?」
憧「うーん…なんだろ」
憧「奈良漬?まずご飯じゃないしね…しかも友香は苦手そうよね…」
憧「お好み焼き?いや、兵庫にもあるしなー…」
憧「ラーメン?いや、どこにもあるよね…」
憧「あああああ!もう!だから奈良詳しくないって言ってるのにっ」
憧「しょうがない!また先生に頼るわよ!」
友香「…先生?」
憧「ここらへんに釜飯のお店があるらしいからそこに行くわよ!」
友香「誰に聞いたんでー?」
憧「だから先生よ!地図まで出してくれるんだからほんと優秀よねー」
友香「阿知賀の先生はすごいんでー」
憧「世界中どこでもすごいのよ!」
友香「世界レベルなんでー?もっとすごいんでー!」
憧「そっ、あんたの携帯でもできるのよ」
憧「…ってことはやっぱ私いらないじゃない!まあいいけどさあ」
友香「?」
憧「さっ、おなか空いたし早く行くわよ」
友香「歩いていくんでー?」
憧「うん、10分程度らしいから」
憧「もう走らないでよね」
友香「大丈夫なんでー………ひゃあっ!」ドサッ
憧「え!?なに?どうしたの?」
友香「あ、あれ……」ユビサス
憧「え?どれよ?誰もいないじゃない」
友香「人じゃなくて……あの…大きな……」
憧「?……あーあれね。大丈夫だって、襲われたりしないから」
友香「でもあんなツノが……ひっ…こっち来る……」ブルブル
憧「心配ないって、この子たち人に慣れてるから」
憧「ほーら、ツノにだって普通に触れるんだから」ナデナデ
憧「友香も触ってみなよ」
友香「い、いや……絶対無理でー……」
憧「大丈夫大丈夫!ほら、手貸して」パシッ
友香「えっ…?」
憧「ほーら大丈夫でしょー」
―――ビクッ
友香「ひっ!う、うわあああああ」
友香「やっぱり無理でええええええええ!!!」ダダダダッ
憧「あ、ちょっと待って!走らないでってば!」
友香「………怖かったんでー」ハァハァ
憧「はあ…はあ…やっと追いついた」ハァハァ
憧「もう…走らないでって言ったのに」
友香「ごめんなさいでー……」
憧「いやまあ、さっきのは私が悪かったわ」
憧「まさかあんなに鹿を怖がるとは思わなくて」
憧「友香って意外にびびりなの?」フフッ
友香「び、びびりじゃないんでー!」
憧「あはは!でも、さっきの友香、ちょっとかわいかったよ」
友香「か、かわいい……でー?」///
友香(……そういえばさっき手を握られたんでー///)
友香(怖くてそれどころじゃなかったけど、柔らかくてあったかかった気がするんでー///)
友香(もっと我慢してれば、もっと長く手を握って貰えたかも……)
友香(ああもう!私の馬鹿っ!)
憧「……友香ー?どうしたのー?」
友香「なんでもないっ!やっぱり私はびびりなんでー!」
憧「?」
友香「ほら!早くお昼ご飯食べに行くんでー!」
憧「…あれ?仕切るのは私の担当だったはずじゃ……?」
憧「着いたわ、ここらへんのはずだけど…」
友香「……もしかしてあれでー?」
憧「うわっ行列じゃん!」
友香「おなか空いたんでー……」
憧「しょうがない、並ぶわよ!」
友香「でえー?」
憧「せっかく来たんだし、並ぶってことはおいしいお店なはず!我慢よ我慢!」
友香「観光も大変なんでー……」
憧「あれ?あの列の一番後ろの人……」
やえ「お、阿知賀の中堅じゃないか」
やえ「奇遇だなこんなところで」
憧「こんにちはー、小走さんこそ何してるんですか?」
やえ「ふっ、これだからニワカは困る」
やえ「行列に並んでいるに決まってるだろう!」
憧「あっ、そうですか……」
やえ「ところで隣の子はどちら様?」
友香「森垣友香でー、剱谷高校の1年生でー!」
やえ「ほう、剱谷か。椿野美幸は元気かい?」
友香「先輩をご存知なんでー!?」
やえ「剱谷は、私たち晩成とよく戦った相手。それも同じ先鋒だからな。多少の交流はある」
友香「あ!あなたがあの奈良県1位、晩成の小走やえさんなんでー!?」
やえ「いかにも。兵庫の1年生にも名が知れていたか」
やえ「有名になるのも困り者だな」
やえ「君たちも有名になれるよう頑張れよ、1年生諸君」
やえ「私のように大会で好成績を残せば、自ずと知名度もついてくるさ」
憧「………この子昨日の試合で近畿チャンピオンになったんですけどね」
やえ「なっ――――――」
やえ「いや、そんな……まさか……私ですらベスト4が最高なのに……」
やえ「ほんとうなのか……?」
友香「まあ……ほんとうなんでー」
やえ「……そうか、どうやらこちらがニワカだったらしい」
やえ「大変失礼した、近畿チャンピオン。これからも剱谷は安泰ということか」
憧「ちなみに私は2位でーすっ」
やえ「んなっ―――――!?」
やえ「それで?その1位2位どうしが、今は仲良くデートということか」
友香(で、デート……///)
憧「いやそんなんじゃないですよー!」
憧「ただ頼まれて私が観光ガイド役をしてるだけです」
友香「……」シュン
やえ「…なるほど、そういうことか」
やえ「それでお昼にここを選んだと」
憧「はい。ただネットで調べて、出てきたのがここだっただけなんですけどね」
憧「小走さんもネットを見て来たんですか?」
やえ「はっ、まさか」
やえ「ニワカは相手にならんよ」
やえ(灼が美味しいって言ってたから来たなんて言えない…)
憧「でもこんな並ぶんですねー」
やえ「それだけ美味い店なんだろう」
憧「それは分かるんですけどー…やっぱおなか空いて…」
友香「私もおなかぺこぺこでー…」
やえ「ときには我慢も必要なんだよ、麻雀と同じさ」
友香「麻雀でー?」
やえ「空腹を耐えることで、美味しいご飯にありつけるのさ」
やえ「麻雀だって、鳴きたい気持ちをぐっとこらえて、面前で手を作る」
やえ「それが高い点数につながるだろ?」
やえ「まあ、スピート重視のお前さんには分からんかもしれないな」
憧「むう……私だって面前で頑張ることぐらいありますよ!」
やえ「はは、そうかい悪かった」
やえ「ほらそうこうしてる内に順番が来たぞ。よく我慢したな」
――――――
――――
――
友香「ああー美味しかったんでー!」
やえ「うん、さすが灼が言うだけのことはあったな」
憧「え?灼?」
やえ「あ…いやなんでもない」
やえ「それより、二人は次はどこに行くんだ?」
憧「何も考えてないんですよねー」
憧「私もあんまり奈良市内に詳しくなくて…」
憧「あ、そうだっ!小走さんも私たちと一緒に観光しませんか?」
憧「市内のこともっと知ってる人がいてくれたら私も嬉しいし!」
やえ「ほう、おもしろそうだな」
友香(でー……)
やえ「だが残念ながら用事があるから、私は行くことはできないな」
友香(でー)ホッ
やえ「その代わりと言ってはなんだがおすすめのスポットを教えよう」
やえ「剱谷の…森垣…だったかな?ちょっとこっちに来て」
憧「え、なによ?私は聞いちゃ駄目ってことなの!?」
やえ「どうせ行くんだから、そのときまでのお楽しみってことさ」
やえ「ちょっとそこで待っててくれ」
やえ「さ、じゃああっちの公園にでも行こうか」
友香「え?ここじゃ駄目なんでー?」
やえ「いいからいいから、はい行くよー」
友香「それでおすすめの場所ってどこなんでー?」
友香「正直、私地名とか全然分からないから、言われてもそんな覚えられないんでー」
友香「やっぱり憧ちゃんに言った方がいいんじゃ…」
やえ「……」
やえ「単刀直入に聞く」
やえ「お前、あの阿知賀の子のこと好きなのか?」
友香「え……」
友香「……」
友香「…………」
やえ「図星のようだな」
友香「……なんで、分かるんでー?」
やえ「そりゃお前、反応が分かりやすすぎるからな」
やえ「私じゃなくても分かったと思うよ」
友香「え……?じゃあ………」
やえ「いや大丈夫だ。阿知賀のやつはまだ気づいてない」
友香「よかったでー…」
やえ「よかった、か……お前、気持ちを知られたくないのか?」
友香「だって…憧ちゃんに知られたら気持ち悪いと思われる…」
友香「もう会ってくれないかも知れないんでー」
やえ「じゃあ、その気持ちを伝えずに、このままさよならするんだな?」
友香「う……」
やえ「私は、結構お似合いだと思うぞ」
友香「え……?」
やえ「私もある一人の女を好きになってしまった同類だ」
やえ「お前を見てたらどうしても人ごとだとは思えなくてな……」
やえ「だが私もまだ気持ちを伝えきれていない臆病者だ」
やえ「こんなニワカでもいいのなら、協力させてほしい」
友香「……はい、ぜひお願いしますっ!」
やえ「ふふっ、決まりだな」
やえ「では…まずこれからのデートコースを考えよう」
――――――
――――
――
友香「おっまたせー!」
憧「もう遅いっ!どんだけ待たすのよ」
友香「ごめんでー」
憧「あれ?小走さんは?」
友香「用事があるからって帰ったんでー」
憧「そっか、残念」
憧「で、いったい何を話してたわけ?」
友香「奈良の観光地について聞いてたんでー」
憧「ふーん…で?何か行きたいところは決まった?」
友香「うん!」
友香「私、あの山に登りたいんでー!」
憧「や、やまー!?」
友香「やえさんに夜景がきれいって聞いたんでー!」
憧「あー若草山って確か新日本三大夜景になったんだっけ」
友香「ここから頂上も見えるし、すぐ登れるんでー!」
憧「残念でしたー!あの後ろにあと2つ山があって、3つ目の山が頂上なのよ」
憧「まあそれでも30分程度で登れるけどね」
友香「へーそうなんでー」
憧「でもあそこ5時までしか登山道開いてないはずよ」
憧「夜景見るためなら車で行かないと…」
友香「じゃあ行きは歩きで、帰りはタクシーで戻るんでー!」
憧「うーん…ま、それでいっか」
友香「てか、なんで憧ちゃんなんでこの山について詳しいんでー?」
友香「さっきまでずっと奈良詳しくないって言ってたのに」
憧「身近に山オタクがいるから、嫌でも覚えるのよ!」
憧「ほらじゃあ、閉まらないうちに登っちゃうわよ!」
「一人150円になりまーす」
憧「はーい」
友香「でー」
「ありがとうございまーす」
友香「山登るのとか初めてでー!」
憧「そうなの?神戸にも山あるでしょ?」
友香「山があっても、登る機会なんて普通ないんでー」
憧「そっか…私たちの感覚がおかしいのか」
憧「初めてなら気をつけた方がいいわよ。……まあ」チラッ
友香「ルンルンでー♪」ピョンピョン
憧「その元気よさなら大丈夫か…」
憧「小走さんには、ここのことをずっと聞いてたわけ?」
友香「他にもいろいろ聞いたんでー!」
友香「阿知賀と晩成の練習試合の話とか」
憧「ちょっ、そんなことまで話してたの!?」
憧「だからあんなに遅かったのね、もう」
友香「もー?」
友香「やえさんいい人だよねー」
憧「そうねー。ちょっと上からだけど、私たちのために壮行試合もしてくれたし」
憧「実際あのおかげでインハイ決勝まで行けたんだと思うわ」
友香「だよねー!いい人でー、かわいくて、優しくて、頼りがいもあって」
友香「ほんとすてきな人だと思うんでー!」
憧「…そうだね」ムッ
憧「それなら観光案内も小走さんに頼めばよかったのに」ムスッ
友香「でも……やっぱりそれよりも憧ちゃんの方がいいんでー」
憧「え?」
友香「私の急なお願いを聞いてくれて、一緒に観光してくれてる」
友香「迷惑ばかりかけてるのに、なんだかんだ嫌な顔ひとつせずに私に付き合ってくれてる」
友香「そんな優しい憧ちゃんが一番なんでー!」
憧「なっ……///」
憧「べ、別に私だって楽しくないわけじゃないし」
憧「だからいいのよ全然!」
友香「ふふっ、ありがとうでー!///」
友香「って頂上…?もう着いたんでー?」
憧「だから言ったでしょ」
憧「3つ山があるんだって!ここはまだ一つ目」
友香「ってことは、あと二つでー」
友香「どんどん登るんでー!」
憧「ほんと元気ねー」
友香「だってエネルギー源が近くにあるからねっ!」
憧「?」
友香「到着でー!」
憧「ふう…友香歩くの速すぎだってー、もう疲れたよー」
友香「あそこにベンチがあるから、そこで休むんでー!」
憧「そうしよー」
憧「でもどうする?夜景見るなら太陽が沈まないと」
憧「日の入りまであと1時間ぐらいあるよ」
友香「それも計算済みでー!」
友香「じゃーんっ!弁当を持って来てるんでー!」
友香「運動しておなかが空いただろうから、これ食べながらゆっくりするんでー!」
憧「えっいつのまに!?」
憧「…てか、友香ってそんな気の利くやつだっけ?」
友香「……」
憧「……これも、小走さんが?」
友香「」ギクッ
憧「なるほどねー…そりゃ友香がこんなこと考えてるはずないもんねー」
友香「…のど乾いた?ジュース買ってくるんでー!!」ダッ
憧「あっ逃げた」
友香「おまたせでー!」
友香「あれ?まだ食べてなかったんでー?」
友香「食べててよかったのに」
憧「そんなことするわけないでしょ」
憧「さっ、早く食べよ!」
友香「はいでー!」
「いただきまーす」
友香「おいしいんでー!さすがやえさん、美味しいお店も知ってるんだ」
憧「うん、おいしいよ!」
憧「ありがとね友香、お弁当買って来てくれて」
友香「え、それは、やえさんのアイデアでー…」
憧「ううん、それにジュースもありがとう、友香!」
友香「ど、どういたしましてなんでー…///」
友香「ごちそうさまでー!」
憧「ふう…おいしかった、なんだかんだでもう外は暗いわね」
友香「夜景が見えるんでー!?」
憧「見れるはずよ、展望台に行ってみよっか!」
友香「うわぁー……すごいきれいなんでー!」
憧「私も夜景は初めて見たけど、ほんときれいね……」
友香「憧ちゃんの家はどこなんでー?」
憧「いやー…さすがに見えないでしょ、私の家吉野だし」
友香「じゃあ私の家…」
憧「絶対無理っ!」
憧「でもやっぱりカップルが多いわねー…」
憧「女二人で来てる私たちってちょっと変なのかな?」
友香「…そんなことないんでー!」
憧「…?」
友香「…憧ちゃん」
友香「…憧ちゃんは、今好きな人いるんでー?」
憧「好きな人?」
憧「うーん…阿知賀は女子校だからねー」
憧「あんまり男の子の知り合いいないんだよねー…」
友香「べ、別に男の子じゃなくても……」
憧「ん?」
友香「……例えば、ほら、阿知賀の大将の子とか…」
憧「しず?」
憧「まあしずは好きだけど、友達としての好きだしなー」
憧「そういう友香はどうなのよ?」
憧「好きな人いるの?」
友香「…わ、私は………」
友香「………いるんでー…」
憧「えーっ!そうなんだ!」
憧「もしかして、剱谷の先鋒だった3年生の人とか?」
友香「椿野先輩でー?」
友香「先輩は先輩でー」
友香「優しくて大好きだけど、それだけでー」
憧「…そうなんだ」
友香「……憧ちゃん」
憧「なに?」
友香「……」
友香「…私ね、憧ちゃんのことが……」
友香「憧ちゃんのことが……す、す……」
憧「す?」
友香「す……す、すごい怖いと思ってたけどほんとは優しかったんだね」
憧「へ?何よいきなり」
憧「私やっぱり怖そうに見えたの?」
友香「え、えと、だっていろんな人にタメ口だし……」
友香「い、いや、もう怖いだなんてまったく思ってないけど」アタフタ
友香「ち、ちょっとトイレ行ってくるんでー!」ダッ
憧「あっ…ちょっと友香!」
憧「…」
憧「……」
憧「……もう」
憧「やっぱりびびりなんだから……」
友香(ああ……結局言えなかった……)
友香(ごめんなさい、やえさん……)
友香(せっかく協力してもらったのに……)
友香(私……やっぱり……ダメだったでー……)
友香(……)
友香(憧ちゃんのところに戻ろう……)
友香(憧ちゃんとさよならするまでを楽しむんでー…)
友香「…ただいまでー!」
憧「あ、友香」
憧「さ、じゃあ帰るわよ」
友香「え…?」
憧「ちょうどお姉ちゃんが迎えに来てくれたの」
憧「だからタクシーに乗らなくても帰れるわよ!」
憧「友香、どこまで送ればいいの?」
友香「えっと…じゃあ…奈良駅まで……」
憧「りょーかいっ、じゃあお姉ちゃんよろしく!」
望「はいよっ」
友香「ありがとう、でー…」
友香(……)
友香(……この車が奈良駅に着いたら)
友香(終わっちゃう……)
友香「ねえ…憧ちゃん」
憧「なに?」
友香「…憧ちゃんは今日この後どうするんでー?」
憧「せっかくお姉ちゃんが来てくれてるから」
憧「そのまま乗せてもらって家に帰るかなー」
憧「市内から私の家って、帰るの結構大変なんだよねー」
友香「そう…なんだ……」
友香(…やっぱり…もう終わり…だよね……)
友香「」ピロピロ
友香(ん?メール……?)
友香(あっ…莉子ちゃんから……)
『友香ちゃん、頑張ってーっ!』
友香「……」ウルッ
友香「……うん」
――――――
――――
――
憧「はい、到着!」
憧「じゃあ私は友香を見送りに行ってくるから、お姉ちゃんちょっと待ってて」
憧「行こう友香」
友香「はいでー」
友香(私頑張るんでー……莉子ちゃん…やえさん)
憧「さて…友香たちは今日兵庫に帰るの?」
友香「いや、今日まで泊まって明日の朝に帰るんでー」
憧「そうなの?じゃあ、ホテルに送った方がよかったんじゃ…?」
友香「ホテルはすぐそこなんでー」
憧「そうなの、ならよかったけど」
友香「憧ちゃん」
友香「今日は本当にありがとうなんでー」
友香「憧ちゃんのおかげで、今日一日とっても楽しかったんでー」
友香「憧ちゃんさえよければ……また私と遊んで欲しいんでー……」
憧「……」
友香「……ダメ……でー?」ウルウル
憧「……友香」
友香「……はいでー」
憧「私もね、すごく楽しかった」
憧「友香と一緒にいれて、今日はすごくいい思い出になったよ!」
憧「だから、次は友香が兵庫を案内してよね!」
憧「……私の……彼女としてさ」
友香「―――う、うんっ!」
友香「……って、でええええ!?」
友香「え、どういう……いま…何て?」
憧「もう二度と言いませーんっ」
憧「びびりな友香が悪いんだからね!」
友香「え……う……」
憧「で、返事は?」
友香「……よ、よろしくお願いします///」
友香「……実は…私、憧ちゃんのこと、ずっと前から気になってたんでー」
憧「え?前っていつ!?」
友香「インターハイのときくらい…」
友香「ほとんど、一目惚れだったんでー……」
友香「だから今日初めて会ったとき緊張しちゃって……」
憧「ああ…だから挙動不審だったのね」
友香「ほとんど話したこともなかったから、どう接していいか分からなかったんでー…」
友香「でも、今日たくさんお話してみて分かったんでー」
友香「……やっぱり私は憧ちゃんが大好きなんだってことが」
友香「明るくて、優しくて、今日一日私のために一緒にいてくれた、そんな憧ちゃんが」
友香「私は大好きなんでー!」
憧「…私だって」
憧「ずっと振り回されてばかりだったけど」
憧「いつも元気いっぱいで、笑顔で」
憧「そのくせちょっと気を利かせてみたり」
憧「ずっと私のことを気遣ってくれてた」
憧「そんな友香と一日一緒にいたら」
憧「好きになっちゃうに決まってるじゃない!」
友香「……うわああああああん」
憧「え!?」
友香「うぅ……ほんとに……嬉しいんでー……」グスッ
憧「もう……笑顔がいいって言ったばかりなのに」
憧「私は友香の笑顔が好きなんだから泣かないでよ」
友香「うぅ…ごめんでー」ゴシゴシ
友香「…いっし!もう泣かない」
友香「これからはずっと憧ちゃんが好きな私でいるんでー!」ニコッ
憧「なによそれ…」アハハ
「友香ちゃーん!」
憧「ん?誰?」
友香「莉子ちゃん!?」
莉子「友香ちゃん、ごめんねー」
莉子「邪魔しちゃったよねー…」
莉子「どうしても心配だったから…」
友香「ううん、大丈夫。もう終わったから」
莉子「終わったって…えっ…じゃあ…?」
友香「」グッ (ガッツポーズ)
莉子「わああ…友香ちゃんすごーい!」
憧「ええっと……どういうこと?」
友香「ああえっと……実は正座が嫌で抜け出してきたってのは嘘でー!」
友香「最初から憧ちゃんと会うために、走って街を探してたんでー!」
憧「はあー?ああ、だから汗だくだったわけ!?」
友香「見つからないかと思ったんでー!」
憧「そりゃ私市内の人間じゃないし、あそこにいる方が珍しいわよ」
憧「そんなちょっとの可能性にかけてたってわけ!?」
友香「……それだけ憧ちゃんのことが好きだったんでー」
憧「……もうっ」
憧「もうこれからはそんなことしなくても普通に連絡してよね」
憧「時間あるときは遊び行くからさっ」
友香「私もまた来るんでー!」
憧「兵庫に行ったときは観光案内お願いね」
友香「お願いでー、莉子ちゃん!」
莉子「ええ!?私なの!?」
友香「だって私兵庫のこともあんまり分からないんでー」
憧「私が行くまでに調べとくのよ!」
憧「帰ったらすぐ晴絵に頼んで、練習試合申し込むんだから!」
友香「分かったんでー!憧ちゃんに楽しんでもらえるよう考えとくんでー!」
憧「ちゃんと麻雀の練習もしときなさいよ」
憧「次戦うときはリベンジするんだから!」
友香「望むところなんでー!」
「憧ー、そろそろ行くよー」
憧「あ、私行かなきゃ…」
憧「じゃあまたね友香、元気でね」
友香「憧ちゃんこそ」
憧「……」
友香「……」
憧「……」
友香「……」
憧「ふふっ」
憧「明るさが取り柄の私たちがこんな別れ方とかだめよねっ」アハハ
友香「どうせ恋人同士、いつでも連絡とれるんでー!」アハハ
憧「じゃあね友香、次会うときは負けないから!」
憧「首を洗って待ってなさい!」
友香「楽しみにしてるんでー!」
カンっ!
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