【SideM】水嶋咲「それは星のように瞬いて」 (52)


注意書き

・アイドルマスターSideMの水嶋咲ちゃんが主役と思しき、二次創作です。一応シリーズ内でのクロスなのかも
・二次創作なので実際のSideMと違い、時空が歪んでいます。
・具体的にはジュピターが961を離れて10年くらい後にSideMの面々が登場したという設定。でもジュピターは出ません。
・その為、Pは特集記事のポニテの人じゃないです。P含め、オリキャラっぽいキャラがそこそこ出てきます。
・というかバレバレ。NGでBみたいな感じ
・SSの拙さも然ることながら、投稿は初めてなので色々お見苦しい点があります。

ご容赦いただけましたら、お付き合いお願いします。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1410876207

レッスンスタジオ

神谷「」

咲「」

巻緒「」

P「レッスンお疲れ様」グッb

巻緒「あ、ありがとうございます」

咲「うう、疲れたぁ~……」

神谷「……昔を考えるとちょっと情けないな」

P「レッスンは普段の運動とは体の使い方が違いますからね。次第に慣らしていきましょう」

咲「でもそう言う割にはプロデューサー、結構スパルタでハイペースじゃん……」

巻緒「トレーナーさんがOK出してるのに目標上げちゃうし……」

神谷「実演もやってくれるとは思ってなかったよ。見るからに上手かったし、トレーナーさんもレベルが高いって」

P「……ダンスには覚えがあるんですよ。昔やってましたから」


巻緒「へぇ~、そうなんですか。あそこまで踊れるのは憧れますね」

P「嬉しいなぁ。じゃ、休憩したら延長してもうワンセットやろうか」

巻緒「」

咲「ろ、ロールーー!!」

P「いや、冗談だよ。もうちょっとやりたいのは山々だけど、そう簡単に延長もとれない。第一、体を壊したら困るしね。」

咲「よ、よかった~。この後もレッスンだったら終電だって間に合わないかもだし」

P「あ、それなら僕が送って行くよ?」

咲「え゛」

P「いや、そういう意味じゃなくて、遅い時間なら僕が送るってだけだよ。電車が無くなるまでレッスンなんてしないって。僕が保たないし」

巻緒「で、ですよねー……」

P「それじゃ、そろそろ着替えてこよう。もうそろそろ涼しくなってきたし、風邪引くといけないからね。」


――
―――

「お誕生日おめでとう、咲」

咲「おじーちゃんおばーちゃん、ありがとうございます!」

「咲のために、買ってきたんだよ」

咲「えへへっ、なんだろー、楽しみー!!」

咲「あれ、なんで?」

「咲にぴったりの、カッコいい黒のランドセルだよ」

咲「赤とか、かわいいのじゃないの?」

「何を言ってるんだ?」

「男の子が赤いランドセルなんてしてたら、おかしいでしょ」

「咲は男の子なんだから、黒が似合ってるんだよ」

「黒いランドセルが嫌なんて、男の子なのに気持ち悪い」


気持ち悪い


―――
――


レッスンスタジオ 休憩室

P「咲ちゃん!」

咲「――ふぇっ!?」

P「咲ちゃん、おはよう」

巻緒「おはよう、サキちゃん」

咲「お、おはようございまーす……」

P「そんなに疲れてた?夜寝れなくなると体に悪いから、もうちょっとだけ起きてないと」

咲「分かってる。寝不足はお肌の大敵だもんね!……あれ、そういえばかみやは?」

巻緒「そうなんだけど、トイレに行く途中に道に迷っちゃったらしくて……。ちょっと遅れるみたい
咲「……それって全然ちょっとじゃなくない?かみや、ここにたどり着けるの?」

P「あはは……。一応ちゃんと迎えは送ってあるから大丈夫だよ」

咲「迎え?」


P「ま、到着するまで気長に待ってよう。到着したら、神谷さんに淹れてもらってお茶にしようか」

P「今日は特別にケーキも持ってきたしね」

巻緒「!本当ですか!!食べたいなぁ……!!」

咲「ロールったら必死になりすぎー。ケーキ好きここに極まれり、って感じ」

P「こらこら、食べるのは揃ってから……」

P「……いや、ちょっと余興に利きケーキしてみようか?」

咲「そういえばロールの特技だっけ」

P「番組か何かで企画に使ってもらえそうだし、どれくらいなのかちょっと確認しておきたいんだ」

巻緒「望む所です!」

咲「それじゃ、目隠ししておいてあげるね☆」

巻緒「しっかり隠してね!久々だから本気で当てたいんだ」

P「それじゃケーキを持ってきて……」

P「1口分を切り出して。じゃ、口開けてね」

巻緒「あむ」

P「どう?」

巻緒「おいひいです!」


巻緒「なんだろうな……。スーパーとかでよくある冷凍してあった安いケーキじゃなくて、お店の手作りケーキに近い……。ちゃんとしたお店の設備で作ってるのかな」

巻緒「でもこの辺りのお店とはレシピからして違う。ウチのケーキとも違うけど、味は似てる……」

咲「……へぇ~、そこまで分かっちゃうんだ」

巻緒「うん。でも東雲さん程の出来じゃないかな。けど、アスランさんは専門外だからここまで出来るとは思えない。これは結構慣れた人が東雲さん流と似たうやり方で作ったケーキだと思う」

巻緒「ウチに近い味の手作りで、東雲さんでもアスランさんでも無い、こなれた人がちゃんとした設備で作ったケーキ。……ずばり、プロデューサーの奥さんが東雲さんのレシピをアレンジして作ったケーキです!」

P「す、凄いなぁ。ホントは「食べたこと無い手作りのケーキ」って言ってもらおうと思ったんだけど。ほぼ正解だよ」

巻緒「ほぼ?」

P「……実は僕が作ったんだ。レシピは東雲さんのを参考にしてね」メガネクイッ

咲「えっ、プロデューサーってケーキ作れたんだ!」

巻緒「今日みたいに厨房で、仕込みの手伝いをしてるのは知ってましたけど、ここまで……」

P「昔は料理もお菓子も良く作ってたんだ。あの二人の手伝いをしてたらイヤでも刺激されちゃってね。朝、東雲さんの手伝いがてら作ってきたんだ」


ガチャ

???「おまたせー。神谷さん連れて来たわよー」

P「お疲れ様。思った以上に早いね」

奥さん「こういうのには慣れてんのよ、個人的にね」

神谷「はは……申し訳ない」

神谷「……で、咲はどうして巻緒を目隠ししてるんだ?」

奥さん「……っていうか、ケーキ!」

咲「あ、ごめんロール!」

巻緒「その、利きケーキしてたんです」

P「僕がやってみて欲しいって言って」

奥さん「あ、あんたねぇ……このっ」

P「うわっ?やめてよ、眼鏡に指紋付けないで~!」

奥さん「ケーキがあるからこの面子で食べよう、って神谷さんと話してたってのに~!」

P「ご、ごめん。ちょっと巻緒くんの特技、見てみたかったんだよ」

巻緒「俺もねだっちゃいましたから、その、もう止めてあげて下さい」

奥さん「……まぁいいわ。ムキになるような事でもないし」フキフキ

神谷「元はと言えば俺が迷って遅れたせいですしね。話してた通り、紅茶を入れてきます」

P「あ、ありがとうございます。お詫びじゃないですけど、ケーキの方は僕で準備します」

奥さん「じゃあケーキ切り分けといて。私お皿とか持ってくるから」


咲「……」

巻緒「サキちゃん?どうかした?」

咲「え?いや、その。……プロデューサーと奥さん、なんだかんだで仲いいなぁって」

巻緒「夫婦だもんね」

咲「ロールはああいうの憧れる?」

巻緒「どうだろ?俺は、今はアイドルとケーキの事でいっぱいかな。素敵だとは思うけど」

咲「ま、そうだよね」


奥さん「じゃ、あんたは利きケーキに使った残りね」

P「ええっ。……って、それはもっともだけどさ。そこは……夫思いの妻として……」

奥さん「10年も付き合いあるのにまーだそんな夢見てんの?」

P「だよね。期待はしてたんだけど」


巻緒「でも、若干お尻に敷かれてるのは悩んじゃうかな」

咲「あははっ。そーだね!」

咲(でも……。)

咲(あたしはあの人みたいに、笑いたいな)

咲(だから……)


―――
――


Cafe Prade

カランカラン

アスラン「おお、カミヤ!竟にこの漆黒に包まれた館へと舞い戻ったか!」

神谷「ああ、ようやく戻ってきたよ」

アスラン「カミヤ、今宵は疲労が極まっているな……」

奥さん「すみません。ウチの旦那がレッスンで張り切り過ぎちゃって」

アスラン「ああ……げに恐ろしき儀式よ……」

奥さん「……アスランさんには手加減しとくよう釘刺しときますんで」

神谷「お願いします。あれだとアスランは死んでしまう。せめてスパルタの方向性を変えて欲しいですね」

奥さん「ホントすみません。あの馬鹿はすぐはしゃいじゃうんで」

神谷「まぁ、うん。嬉しいんだろうなってのは分かります。ただ、上級者としての感覚でやり過ぎな気が……」

神谷「それにしても、プロデューサーさんがダンスをやっていたのは、意外だったな」

アスラン「そうなのか?主はその容貌からマキオに通じる趣を持っていると思っていたが……。我は当然としてカミヤ達を凌ぐ舞踏を披露するとは」

アスラン「……」


奥さん「ところで、東雲さんはどうされたんですか?」

アスラン「ソーイチローであれば早々に闇の中へと帰還したぞ」

神谷「予定より大分遅れたからな……ん?ということはまさか」

アスラン「ゲマトリアの修正は任すとの託けだ」

神谷「」

奥さん「え、ええと、それって……?」

神谷「……う、売上の計上はやっておけ、という意味ですかね。ちょっと、行ってきます」ダッ

奥さん「……凄い勢いでいっちゃった」

アスラン「カミヤは数を弄ぶことが苦手なのだ……。それでいて、この館の富はカミヤとソーイチローのみが触れ得る禁忌」

奥さん「手伝えないって訳ね。……一声掛けてから帰るしかないかな」

アスラン「いや、その前に些か、訊きたき事があるのだが、良いだろうか?妃が許すのであれば答えて頂きたい」

奥さん「別にいいですけど……何ですか?」

アスラン「その……妃は、かつて偶像だったのか?」

アスラン「かつて、その姿が投影されているのを記憶しているのだ」

奥さん「……TV出演していたのを覚えててくれてたんですか?まぁ、自慢じゃないですけど、当時はそこそこ人気が――」

アスラン「それもだが……我が悪魔として未熟な頃、その姿から想像も付かぬ程鮮やかに糧の儀式を行う偶像がいた」

奥さん「?」

アスラン「そして妃が傍ら、補佐をしていたのを覚えている」

奥さん「えっ」

アスラン「……妃よ、出来ればでいい。答えていただきたい。よもやその傍らにいつも居たのは」

ガチャ

神谷「いやぁ、助かったな……」

アスラン「か、カミヤ!?どうしたのだ!?早すぎるぞ!?」

神谷「ああ、なんだかんだで売上の方は殆ど東雲がやってくれてたよ。締めをやっておけということだったようだ」

奥さん「そ、そうだったんですか。それは良かった」

神谷「あはは、全くだ」

神谷「それにしても、二人とももう帰ったかと思ってたよ。何か用事でも?」

アスラン「いや、そういう訳では。少しばかり瑣末な謀議を行っていた」

神谷「そうか。じゃ、そろそろ店も締めてしまうから、ふたりとも帰りは気を付けてくれよ」

奥さん「お、お疲れ様でした~」

ガチャン

奥さん「その、アスランさん。さっきの話ですが」

アスラン「いや、必要ない」

奥さん「え?」

アスラン「我は過ちに犯していた。我が主の前世を探らんとする暴挙、容赦を頂きた……」

アスラン「あっ」

奥さん「……」


―――
――


数日後

某TV局 ディレクター私室


P「失礼します」

番組D「んーーー? 誰?」

P「先程の『クイズDe当てまShow』に出演させて頂いたCafe Pradeのプロデューサーです」

番組D「ああ~~~。どーもどーも。で、どうされましたぁ?」

P「事故の件についてです」

番組D「はあ?」

P「うちの水嶋咲は女装アイドルです。メイクやウィッグが崩れる事は極力避けたいし、せめて対策をさせて欲しい」

P「そちらにもその事情を汲んで頂いた結果、『水落ちNG』という条件で出演させて頂いたはずです」

番組D「そーだっけ?」

P「……にも関わらず、本番でいきなりプールに落ちるペナルティのあるコーナーに解答者として呼ばれ、」

P「挙句は『誤作動』が起きて、水嶋はプールに落下。応援席の卯月やアスランが闖入する自体になりました」

番組D「あーー、それね、別にいーよ、美味しいっちゃ美味しいしさ。NGシーンっつーの?もしかしたら、咲ちゃんもそこら辺を期待して予定に無いことやってくれたんじゃないかな~?」

P「水嶋は協調性を大事にする子です」


番組D「そーかねぇ?なんだかんだでさ、咲ちゃんって色物っていうか変な話、紅一点だし。それを周囲のイケメンが守るってのは本人も気持ちーだろうし、ウケもいいじゃない?」

番組D「俺もよく知らないけど、そういう目で見てるファンもいるワケだしさ。そこら辺活かすのも」

P「『俺の手腕』。……また『演出』ですか?懲りないですね」

番組D「……」

番組D「……なんだお前、さっきから。俺が誰なのか分かってるのか?」

P「よく知ってますよ。急原ディレクター」スチャ

番組D「ん……?」

P「お久しぶりです」

番組D「えっ……?嘘だろ……?」

P「嘘じゃないですよ。そうだ!あの部屋ってまだ」

番組D「!?わ、分かった!」

P「いや、僕もちょっと確認したいかなーって」

番組D「それだけは止めてくれぇ!」


ラメェ……



某TV局 楽屋

神谷「まさか、番組ディレクター直々に謝罪してもらえるとは思わなかったな」

東雲「それにしても『正直すまんかった』って謝罪としてどうなんや……」

咲「……あたしは、別にいーよ。自分の罪認めてくれたわけだしさ」

巻緒「でも、アクシデント狙いでわざわざあんな事したのに、なんででしょうか……?」

アスラン「それは……確証は無いが、主らが、我らと同じ偶像であったからやも知れぬ」

東雲「……初耳ですね。プロデューサーさん、昔はアイドルだったんですか」

巻緒「『主ら』って、それ奥さんも、ってことですか?」

アスラン「そうだ。以前妃に疑惑を問うた所、真実であると」

神谷「なら、ディレクターの件はその時のコネかもしれないな」

東雲「それならそれで出演の時に考えて貰わんと、困りますよ」

ガチャ
P「……最近はすっかり大人しかったんです。ハプニングなんかも年に数回でしたし」

咲「プロデューサー……。奥さんも、来てたんですか」

奥さん「ちょっと用事もあったのよ。何より旦那の教え子の晴れ舞台なら祝福ぐらいしたいじゃない。……出来なかったけどね」

アスラン「主は、あの下郎を知っているのか」

P「うん。……色々あってね」

奥さん「あのハゲ……もとい、セクハラディレクターは当時から有名でしたから……」

巻緒(うわぁ……。ふたりとも苦虫を噛み潰したって感じの顏してる……)

P「これまでは尻尾を出さないようにやってたみたいだけど、どうも今回は足下を見られたみたいだ」

神谷「……天下のジュピターがいる315プロといっても、俺達自身は経験が浅い。実力も伴ってるとは言い難いからな」

東雲「CDデビューもまだですからね。体張ってなんぼやろと、文句も言わんと思われたいうことですか……」

咲(……違う。そうかもしれないけど、きっとそれだけじゃない)

P「今後はあのディレクターの関わる番組のオファーは受けないでおくよ。今はもうあのクイズ番組しかないみたいだけどね」

巻緒「それじゃ、次はケーキの食べ歩きみたいな番組とかどうでしょう!」

P「……そんな都合のいい仕事、あると思う?」





咲(仕事が、無くなっちゃった)

咲(全部あたしのせいだ)

咲(あたしは、男のくせに女の格好して……)

咲(だから……)


―――
――


夜 咲自宅

咲「……注文、っと」

咲「コレで、いいんだよね……?ちょっと高いけど」

咲「……」

咲「決めたんだ」

咲「いつか、僕はあたしになれなくなる」

咲「だから、僕は……」

咲「女の子にならなきゃ」



――
―――

ザー

咲「……雨なんてついてないな~」

咲「それに……駅員さんだってさ。確かにトイレを独り占めしてたのは悪かったけど」

咲「……何も変質者見つけたような目で見なくたっていいじゃん」

咲「そう思うでしょ?」

ザーッ

ミニブタ「ブヒッ」

咲「おっと。雨、止まないねー」

咲「どうしよっか……」

「大丈夫?」

「女の子が体冷やしたらだめだよ」

咲「あ、ありが」

「あれ」

咲「え?」

咲「なんでそんな目で見るの」

「なんだ、男か」



気持ち悪い



―――
――


Cafe Prade

咲「……」

咲「また、いつの間にか寝ちゃった」

咲「って、まだ大丈夫だよね?時間は……うん。まだ5時」

咲(ロールはそーいちろーに色々教えてもらってて、あたし達と入れ替わりに、かみやとアスランはプロデューサーとレッスン)

咲(誰もいない。家で受け取るワケには行かなかったから、今日、ここしか無かった)

ピンポーン
咲「!来た……!」



アリガトウゴザイマシター!

咲「……」ドキドキ

咲(よし、早速開けて……)ガサゴソ

咲(この錠剤を……飲もう)プチ、プチ
咲(……これで、……変わるんだ……!)

ガチャ


奥さん「失礼しまーす。すみません、神谷さんいますー?」

咲「え?!」

奥さん「あ、咲ちゃん。神谷さんは?」

咲(な、なんでなんで?!なんでこんなときによりにもよってプロデューサーの奥さんに見つかっちゃうの?!)

咲(なんとかやり過ごして……)

咲「えっ、あっ、その、か、かみやさんはレッスンに……」ポロッ

ジャララ……

咲「ああああっ!?」

奥さん「あ、あららら……!薬を飲む途中だったの?」

咲「は、早く拾わないと……」

奥さん「ごめんね、咲ちゃん。私も手伝うから」

咲「い、いえ、その!奥さんは別に手伝わなくっても!」

奥さん「そんな訳にも行かないわよ。私のせいだし……って、ん?この箱……」

咲「……!」

奥さん「……咲ちゃん、これって、何のお薬?」


咲(ま、まずい!ごまかさないと……!)

咲「さ、サプリメントです。その、外国の」

奥さん「……」

奥さん「嘘よね」

咲「な、何で疑うんですか!ホントに……」

奥さん「エストロゲンって言ったかな……確か商品名はエストロモン」

咲「!」

奥さん「女性ホルモン剤よね、これ」

咲「……はい」

奥さん「処方箋は?」

咲「ない……です」

奥さん「……」

奥さん「悪いことは言わない。飲むのはやめなさい」

咲「な、なんで?」

奥さん「いいからやめなさい。これは預かって……」


咲「嫌ッ!!」

咲「嫌ったら嫌だもん!!あたしは、あたしは……」

奥さん「個人で勝手に飲んでいい薬じゃないのよ。軽い気持ちで飲んだりしたら」

咲「軽い気持ちじゃない!!!あたしは、本当に女の子になりたいの!!」

咲「なんで邪魔するの!?あたし本気だよ!生半可な気持ちじゃないもん!」

咲「奥さんみたいな人には、あたしの気持ちなんてわかんないよ!」

咲「どうせ、男のくせに女のカッコなんかして気持ち悪いって思ってるんでしょ!!」

奥さん「咲!!」

咲「っ……!」

ガチャ

東雲「ちょっと?どないしたんです、大声で怒鳴り散らして……」

巻緒「サキちゃん……?なんで、泣いてるの?」

咲「そーいちろー……、ロール……」

巻緒「奥さん、何があったんです?サキちゃんも、なんで泣いて……」

東雲「なんや事情があったんは分かります。……そこの薬が原因やろうということも」

巻緒「クスリ……?」

咲「ロール、違うの、あれは」


咲「あれは……あたしが、女の子に……」

巻緒「サキちゃん、それって……」

東雲「……それは、いけませんね。ひとまず、二人とも落ち着いて下さい」

咲(ロール……。ロールも、そーいちろーも、そういう目で見るんだ……)

咲(きっと、アスランもかみやも……プロデューサーも……)

咲「……!!」ダッ

巻緒「サキちゃん!?」

東雲「水嶋さん!!」

咲「ついて来ないで!!」

咲(みんな、みんな、嫌い!!)

―――
――


レッスンスタジオ

P「ただいま帰りましたー。トレーナーさんから聞きましたけど、レッスンの方、上々みたいで……」

アスラン「」

P「アスランさん!?」

神谷「アスラン……大丈夫か」

アスラン「だめです……ぼくはもう……だめです……」

P「サタンが居るのにキャラが崩壊してる……。下手に口を出さないようにトレーナーさんに任せたけど、やっぱりおねがいしてた基本方針のメニューからしてキツかったのかな……」

神谷「いや、俺も見てて大丈夫かと思ったんですが、トレーナーさんが帰った直後に気が抜けて疲れが来たみたいで……」

アスラン「だ、大丈夫だ主よ……。我が限界を見定めようとしただけのこと……。まだ雌伏の時……些か時をくれ……」

神谷「調子は戻ってきたみたいですね」

P「それじゃ休憩にしましょう。ちょっとしたニュースもありますし」

神谷「ニュース?」


P「さっき外してた間に最終調整をした仕事があるんです。これがその資料で」ペラッ

神谷「このリスト……まさか」

P「例の件の前哨戦ですね。」

神谷「なるほど」

P「はい。いやぁ、765プロのプロデューサーからこれをもぎ取ってくるのはキツかったですよ。全然容赦してくれないし……」プルルル

P「あれ、電話……?」ピッ

P(い、嫌な予感)

P「はい、もしも」

『ちょっとアンタ!!咲、咲ちゃん見なかった!!?」

P「うわぁっ?!どうしたの?」

『どうしたもこうしたも……咲ちゃんがお店出て行っちゃったのよ!』

P「ええっ!?なんで?」

『……私のせいかもしれない。あの子――』

―――
――


P「……分かった」

奥さん『ごめん』

P「謝らなくていいよ。それでどうにかなるわけじゃない」

奥さん『私、巻緒くんに心あたりがないか、聞いてみる』

P「僕も神谷さんたちに聞いてみる」

奥さん『ごめん、それじゃ』ピッ

P「咲ちゃん……」

神谷「……プロデューサーさん、咲に何かあったんですか」

アスラン「サキ……!?どういうことだ、主!!」

P「それが――」


―――
――


土手 高架下



巻緒「……サキちゃん、ここに居たんだ」

咲「……」

巻緒「戻ろう。みんな、心配してる」

咲「分かってる。分かってるよ」

巻緒「じゃあ」

咲「分かってるけど、じゃあどうしたら良かったの?」

咲「あたしはどんどん『あたし』じゃなくなっていくんだよ。『僕』にならざるを得なくなる」

咲「だったら、少しぐらい変えようとしたっていいでしょ!」

巻緒「それは……」



奥さん「それは、そうかもしれない」

巻緒「奥さん……」

奥さん「巻緒くん、ちょっと咲ちゃんと聞いててくれないかな」

巻緒「……分かりました」

咲「……」


奥さん「咲ちゃん。私はね。知ってるんだ」

咲「……何を?」

奥さん「薬で女の子になろうとして、人生を壊しかけた馬鹿な人を」

咲「……」

奥さん「昔、あるアイドルがいた」

奥さん「そいつは、いくじのない奴で女々しくて、そして、とても優しい男の子で……それが何を思ったか、アイドルとしてデビューしようとしたのよ」

奥さん「けど、事務所の社長からは男性アイドルとしてのデビューはさせて貰えなかった。当時は男性アイドル冬の時代だったこともあったけど、なによりそいつが、才能があるくせにまるで女の子みたいに可愛かったから」

奥さん「そいつは、女の子の振りをしてデビューした。……ちょっと違うけど、咲ちゃんの先輩ね」

巻緒「ほ、本当なんですか?俺、初耳ですよ」

咲「……あ、あたしも知らない」

奥さん「当然よ。誰もそのことに気づかなかったの。心は男の子だったけど、本当に女の子みたいな姿だった」

奥さん「やがてトップアイドルとして名を馳せるようになっても、事務所の社長みたいなごく一部を除いて、同期のアイドルさえ……気づけなかった。そして、そのうち男である事を諦めて、女性アイドルとして生きようと思いつめてたのよ」


巻緒「でも、そんなことって……」

奥さん「もちろん、それにも限界が来た。体はより男になりつつあった。だから……」

咲「まさか、その人も……」

奥さん「……ええ。秘密が漏れないよう、変わりつつあることを誰にも知られないよう、1人で、こっそりとね」

咲「……」

奥さん「けど、それがまずかった。とっくに覚悟していたはずなのに、あいつは変わっていく自分の体に堪えられなくなっていって……」

奥さん「ある日、死ぬしか無い、と悟ってしまった」

咲「……」

奥さん「あの日のことは良く覚えてる。まるで、近くのどこかに出かけるみたいに、あいつは窓を開けて、身を乗り出した」

奥さん「命に別状はなかった。あまりに発作的すぎて、死ねるような高さでもない所から飛び降りたから、骨折すらなかった」

奥さん「けれど、体は変わってしまっていて、心も完全に壊れる寸前だった」

奥さん「咲ちゃん、私は貴女に……」

咲「違う」

奥さん「……」


咲「あたしは違うよ。あたしはその人みたいに諦めたりしてない。辞めるつもりじゃない、変わりたいのも少し違う」

咲「本当のあたしに近づきたいの」

咲「その人にとっては男であることが本当だったんでしょ。あたしは違う。」

咲「子供の頃から、きっと産まれた瞬間から、あたしは女の子であることのほうが本当だったんだ。それなのに男だった。そうじゃなきゃいけなかった」

咲「あたしだって、黒じゃなくて赤いランドセルが欲しかった。でもずっと我慢してたんだよ」

奥さん「咲ちゃん、けど」

咲「産まれた時からずっと、なにもかも女でいられた人なんかに、あたしの気持ちはわかんないよ。あたしはもう我慢したくない」

咲「邪魔しないで。全然違う、その人とあたしを勝手に重ねないで!」


???「……そうだね」

P「たしかに、君は彼とは違う」

咲「プロデューサー……」

巻緒「どうしてここを……?」

P「神谷さんから聞いたんだ。ここは、今の咲ちゃんにとって始まりの場所らしいからね」

咲「……」

P「……先に言っておくよ、咲ちゃん」

P「僕は、君が女性として生きる為の治療を受ける事を否定するつもりはない。女性ホルモンだって投与する必要だってあるかもしれないと思ってる」

咲「え……?」

巻緒「!」

奥さん「ちょ、ちょっと…?!」

P「でも、今日みたいなやり方だけは絶対に認められない」


P「さっきも言ったとおり、君は彼なんて比較にならないくらい『女の子』だ」

P「だから、君にとって女性化は必要なものかもしれない。きっと、彼の様に死を望むことはないと思う」

P「でも、知識では知ってるはずだ。心から女性になることを望んだ人達でさえ、その心に耐え切ることが出来ないくらいの負担が掛かることがあるってこと、それも薬の効果だってこと」

P「元々の心持ちなんかじゃどうにもならないかもしれないことなんだ。だからそれだけは避けて欲しい」

咲「だから……結局、男が女になることは危険で、だから今のあたしは諦めろっていうの?」

P「咲ちゃん」


咲「分かってるよ。治療を受けられないかもしれない歳だってこと。それでも、あたしにとっては早く叶えたい、夢への一歩だから」

巻緒「咲ちゃん、落ち着いて」

咲「ロールは黙ってて。プロデューサーも、危険だから女になるのは止めろって言うの?」

P「違う」

咲「違わないよ!『僕』に、『あたし』の夢を諦めろって言ってるようなものじゃない!!」

P「違う!!僕はただ、君に、咲ちゃんに、」





P「『私』みたいになってほしくないんだ!!」





咲「……!!」

奥さん(……言っちゃった)

咲「それ……って……プロデューサー」

巻緒「まさか、さっきの『アイドル』って」

P「そう、僕だ」

奥さん(……)

P「咲ちゃん、さっきも言ったけど、君と彼……いや、『私』は違う」

P「私は皆の、つかの間の夢になろうとした」

P「けど、君の夢の先には、色んな人の希望があるんだ」

P「だから、君にはその道を行って、夢を叶えて欲しい。夢をあきらめることも、閉ざすことも、しないで欲しいんだ」

P「そして、自分を壊してしまうことも」

P「本当の自分をちゃんと取り戻し、手に入れる。それが、君というアイドルが成すべきことなんだって思ってる」

咲「あたしが……成すべきこと」


P「……本当は、僕に夢を語る資格なんて、なかったんだけどね」

P「ずっと黙っておきたかった」

P「でも、こうなった以上、しなきゃいけないって思ったんだ」

P「先輩、だからね」

咲「プロデューサー……」

奥さん「ま、アスランさんは、察しちゃってたわよ。料理番組に出てた時の『腕』を覚えてたみたい」

P「えっ、本当に?……やっぱり、アスランさんて妙にすごいよなぁ」





アスラン「フハハハハハ!!喚んだか、主よ!」


P「うわあっ!?い、いつの間に!?」

神谷「プロデューサーさんの告白の、少し前からかな。アスランとここ以外の場所を探してんだが、ちょっと道に迷いかけてね」

東雲「その神谷と合流したんですよ。やっぱりここが怪しいかと」

奥さん「け、携帯に連絡して貰えばよかったのに」

東雲「これですか?」

奥さん「あ」

東雲「まあ、事が事やし。気が動転しても仕方ないですね」

神谷「それにしても、さっきのは驚いたな。プロデューサーが咲の先輩だったとは」

アスラン「主は以前より美の妙薬に関する知恵をサキに授けていたからな。あり得ぬことではないと思っていたが」

東雲「ほんまアスランさんは妙な事に鋭いですね……」

P「……ごめん、皆。隠してて」

東雲「自分は昔、引退するまで女装をばらさなかったアイドルでした、……なんてそうそう言える訳ないやないですか。まぁ、私らと同じ『ワケあり』やった言うだけのことです」

P「東雲さん……」

神谷「平坦な人生を歩んでる人なんてそうそう居ないさ。そもそも俺たちは、CafePradeはそういう集まりだしね」

神谷「だから。これからもよろしく頼むよ、プロデューサー」

P「はい!」

巻緒「そうです!美味しいケーキを作れる人に、悪い人はいません!」

奥さん「巻緒くんは相変わらずね……」


アスラン「おお、そうだ主よ!カミヤから、ここに召喚される間、我らに新たなる詠唱を授けんとする謀りがあることを聞いたのだが!」

P「あ、そうだった。ホントは一段落してから伝えようと思ってたんだけど、いい機会だ」

巻緒「えっ!?じゃあ俺たち、ようやくCDデビュー出来るんですか?」

P「いや、CDデビューというか……」

P「カバーアルバムなんだ」

東雲「カバー、ですか。一体なんの曲を?」

P「いや、まだ候補しか決まってない。この資料にまとめてあるんだけど」

咲「え、これって……」

巻緒「往年の、765プロの名曲じゃないですか!」

P「うん。まぁこれこそコネってやつかな。765さんのPと知り合いで、この企画を持ちかけられたんだ」

P「男性アイドルの歌う765プロアイドルの名曲、ってコンセプトでね」

東雲「これは……やりがいがある、いうもんやありませんね」

神谷「代表曲レベルの楽曲までリストアップされてるとは」

P「またあとで、それぞれどの曲を歌うのかをミーティングをするから、早いうちに歌いたい曲を幾つか選んで欲しい」

P「最終的に向こうのPからも審査が入るからね。手は抜けない」

アスラン「承知だ!フハハハ、我の詠唱を持ってすれば容易きこと!」

東雲「踊りやないからってあんま調子に乗らんほうがええですよ。猿も木から落ちるとは、よういうたもんです」


P「それで、咲ちゃん」

咲「……!え、えっと……何、プロデューサー」

P「ちょっとえこひいきかもしれないけど、君には、特別に渡したい曲があるんだ」

咲「えっ……?」

P「あるアイドルの持ち歌だったんだけど、君に受け取ってもらいたい」

咲(そのアイドルって……)

P「この曲は、今の自分を越えるための曲。歌う人間と共に成長し、その人を成長させてくれる曲」

P「咲ちゃん。君には、この曲と共に歩んで欲しい。この曲と込められた思いを、受け継いで欲しいんだ。」

P「お願い、出来るかな」

咲「……はい!」

P「よかった……」

P「じゃ、今から事務所に帰って歌ってもらおうか」






咲「え」

咲「えええ~~~!!!そんなの逆立ちしたって出来っこないよぉ~~!!」

P「この曲の持ち主は、初めて聞いてから1時間もしない内に、本番に臨んだんだからね。それに挑戦するくらいの意気がなきゃ歌いこなせないよ?」

奥さん「ま、みんなを騒がせた罰だと思いなさい。私もアドバイスしてあげるから」

咲「う、うう……」

巻緒「サキちゃん、ファイト!」

アスラン「主より賜った祝言だ。この空に響かせてみよ!」

神谷「いやいや、流石に今ここでは歌わないし歌えないぞ」

―――
――


移動中 社内

咲(奥さんと二人きり……ちょっと気まずいかも)

咲(でもこれって、仲直りしろ、ってことだよね)

咲「その、奥さん」

奥さん「どう、その曲」

咲「えっ、あ、はい。すっごくいい曲だなって」

奥さん「うんうん。そうでしょ。作った人からして凄いんだから」

奥さん「もちろん、歌ってる奴も、ね」

咲「……今日は、すみませんでした」

奥さん「私には謝らなくていいわ。ちょっと感情的になっちゃったけど、嫌なことを繰り返さずに済んだんだから」

咲「……」

奥さん「でも、やっぱり貴女が行くのは茨の道だと思う」

奥さん「自分だけじゃなく、皆の力を借りて支えてもらって。それでようやく歩いていける。だから」

咲「……だから?」

奥さん「頑張って」

咲「! ……ありがとうございます!」

>>41
ミス 社内→車内


奥さん「ま、私も旦那が新しい世界に旅立たないよう、頑張るわ」

咲「え?」

奥さん「なんだかんだで咲ちゃん可愛いから。男だからって努々油断しないようにしないと」

咲「そ、そんな変なことしないですよ~!」

咲「……そういえば、なんで神谷さんを探してたんですか?」

奥さん「……もうしばらくしたら、お店にお手伝いに行けなくなるかなーってね」

咲「えっ?な、何で?」

奥さん「ま、夫婦の事情ってやつかな」

咲「……?」

奥さん「それよりも練習、練習!ちゃんとアドバイスしてあげるから!」

―――
――


315プロ 

咲「つ、ついに来ちゃった……!」

東雲「機材の方はOKです。水嶋さん、大丈夫ですか?」

咲「う~~……た、タンマ!気持ちの整理を……」

巻緒「頑張れ咲ちゃん!」

神谷「奥さんのアドバイスを活かせれば大丈夫だ!」



P「……」

奥さん「何よ、感無量ってわけ?」

P「そうかもしれない。プロデューサーを始めてきて、一番嬉しい時なのかも」

奥さん「そう……でも、もっと嬉しいこと、あると思うわよ」

P「あはは、そうだね。きっとみんな、もっと輝けると思うし、トップアイドルだって目指せる」

奥さん「そうじゃなくて、その……」

P「?」



奥さん「今日は、その……私たち、『3人』で帰るんだから」

P「??いや、神谷さんとアスランさんは1人で、咲ちゃんと巻緒くんは東雲さんが送っていくんじゃ……」

奥さん「……そーよね、こんな回りくどい言い方じゃわかんないわよね……」

P「???」

奥さん「……家に帰ったら話します」

P「う、うん。分かった」

奥さん(……気が早いけど、ランドセルは咲ちゃんに見繕ってもらおうかな……)

奥さん(この子が気にいるようなのを、ね)


アスラン「宴の準備は整ったか、サキよ。さぁ、この夜とその帳に、詠唱をもって煌きをもたらすのだ!」

咲「よし、大丈夫大丈夫。……水嶋咲、パピっと頑張りまーす!」

奥さん「ふふ、それじゃー歌っていただきましょう。曲は水嶋咲で……」





 So, I love you, my darling. And stay for ever.
 It's dazzling like a star, I'm falling for you……




おわり

よし、誰かとは言わないけど、誕生日の一日遅れには間に合ったな(白目)

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