和「ステルスクール 桃色サヴァンと嶺上遣い」 (74)

ID:0xXjxiNbP

和「宮永少女の事件簿」の続きみたいなものでー

Prrr


ガチャリ


優希「こちら清澄探偵事務所だじぇ!何者だ、名を名乗れー」

優希「・・・フムフム、わかったじぇ!大船に乗ったつもりで待っているがいい!!」

優希「おーい、咲ちゃんっ!」

咲「ふわ~あ、なーに優希ちゃん?」ショボショボ


宮永咲は女子高生探偵である
普段は大人しやかな文学少女として、学校でも目立たない存在の彼女は
いざ事件に当たれば解決率100%を誇る凄腕の探偵に早変わりする・・・のだが
最近は少々寝不足気味なのだ。

咲「なんだか、ここ数日ずっと誰かに見られてる気がして・・・夜もぐっすり眠れないんだよ。気のせいだといいんだけど」

優希「のどちゃん、早く自首したほうがいいじょ。変態は犯罪なのです!」

主役の傍らに名アシスタント有り。
ポワロとヘイスティングス大尉、ラインハルトにキルヒアイス、風見ハヤトとアスラーダGSX。

そして宮永咲の側には、やっぱり原村和がいた。そのピンク色の脳細胞は
今日もフル稼働で様々なものを事務所備品のPCにインプットし続けているのである。

和「急になんですか、優希。最近昼間だけでなく夜も色々と忙しいので覗きなんてするヒマはないですし、
  私は愛の戦士であって変態ではありません。仮に変態だとしても変態という名の淑女です!」

優希「と、言っている今も手鏡を地面スレスレにかざしている のどちゃんなんだじぇ」

和「嫌ですね。女の子はいくつになっても、この手のコンパクトに憧れるものですよ」

和「テクマクマヤコン・テクマクマヤコン・咲さんの将来のお嫁さんにな~れっ!」

和「じゃーん、それはやっぱりのどっちでしたーっ」

咲「(スルー)優希ちゃん、さっきのは事件の依頼?」

優希「そうだったじぇ!所長の友達を名乗る人からの依頼だじょ!」

咲「場所は・・・あ、結構遠いところにあるんだ」

和「少し前から雨が降り出してるじゃないですか」

和「私は、南の島の出身なので雨が降ったら、お休みしなければならないのです」

和「くうっ!この雨さえなければ!天は正しいの者の味方では無いのですか!?」


天『そうだよ』


カラッ


咲「・・・晴れたね」

優希「所長の留守は私が事務所を守る!のどちゃんと咲ちゃんは存分に暴れてくるがいいじぇ!」

咲「と、送り出されてみたものの・・・」

駅アナウンス「本日9時頃発生しました事故の影響で、ダイヤに大幅な乱れが生じており・・・」

和「ガーンですね、出鼻をくじかれました」

咲「こんなことなら、バスにすれば良かったね」

和「仕方ありません、携帯の遅延情報でも反映されていませんでしたから」

和「全くこれだから単線ローカルのレスポンスは・・・」(偏見)

咲「まだ動くのに時間かかるのかなあ。さっき行っちゃったバスは二時間に一本で次は14時過ぎだし・・・」

和「難しそうですね。人身事故なんて喰いタン・ドラ1より見慣れている
  JR中央線なら、さっさと片付けてすぐにでも復旧するんでしょうが」(超偏見)

咲「とりあえず、依頼者の人に連絡いれておいた方が良さそうだn・・・


Prrr


咲「わっ、所長に持たされた携帯電話が鳴ってる!えっと、ボタンはこれでいいのかな・・・もしもし・・・?」

咲「・・・あ、はいっそうです。すみません、今駅なんですが、電車が停まっていてちょっと遅れちゃいそうで・・・」

咲「え、迎えですか?いえ、こちらまで来ていただくのは申し訳無いというか・・・」

???『大丈夫だぞー、もう見えたからなー。ワハハ』

ギャリギャリギャリ、キキーッ!!


智美「お待ちどう、送迎車の登場だー」

咲「あ、ありがとうございます。助かりました・・・」

智美「ちょうど学校の校内掲示板で運休情報が出ていてなー。たまには休講情報以外も見てみるもんだなー」

和「それでは、よろしくお願いします。それにしても広いワゴン車ですね。道中私たちは後部座席で相撲を取っているのでお構いなく・・・
咲「私は助手席でお願いします」

智美「よーし、それではしゅっぱーつ」

~30分後~


咲「ひゃーっ!揺れる揺れる!揺れるよー!」

智美「インベタのさらにイン!溝落としからのー、ブーストオン!」

咲「お姉ちゃん、ごめんなさいー。もう二度と冷蔵庫のプリン黙って食べないから、助けてー!!」

和「目の前に無防備な咲さんがいますが、さすがの私も生存本能にキャパを持っていかれて
  この状況では煩悩に50%しか集中できません!マイハニー、何か直接的な単語で私を昂奮させてください!」

咲「そんなことはいいから、もしものときはクッションになってー!」

智美「ワハハ、本当に仲良しさんだなー。名残惜しいだろうけど、もう着くぞー」

~鶴賀学園・高等部本校舎前広場~


咲「ぶ、無事に着いた・・・。現場の建物がこんなに神々しく見えたのは初めてだよ・・・」

和「諸悪の根源の掲示板らしきものがあります。腹立たしいことにダイヤは今しがた再開されたようですね」

和「その隣に校内案内図も立っています。蒲原さんたちの部室は、あちらですか」

智美「そうだなー。ここが丁度全体の中間地点だ」

智美「正面にあるのが本校舎で向かって左が体育棟。そして右の方に見えるのが文化部の部室棟だよ」

智美「うちの学校は土地だけは余っていて無駄に広いんだ。部室まで結構歩くけど、勘弁してくれなー」

咲「大丈夫です。今は自分の足で地面を歩けるだけで幸せな気分ですから」

和「ここに立っていても、また雨が降ってこないとも限りませんし早速向かいましょう」

~文化部棟3F・麻雀部部室~


智美「みんな、連れて来たぞー」

睦月「あっ、お疲れ様です。蒲原先輩」

佳織「今、お茶淹れますねー」パタパタパタ

ゆみ「お二人とも、よく来てくれた。蒲原とちょうど一緒だったか」

咲「初めまして。清澄探偵事務所の宮永咲です・・・」

和「そして私がアシスタントの原村和です」

ゆみ「何か顔色が優れないようだが、大丈夫か?」

和「・・・凶悪な敵との戦いに何とか生き残ったところです、お気になさらず」

ゆみ「そうか、鶴賀学園はただでさえ駅から遠い場所に立っている上に部室は校門から特に離れているからな」

ゆみ「お疲れのところ申し訳ないが、このまま依頼の話を続けてしまって構わないだろうか?」

和「はい、要件をお聞かせ願えますか?」

ゆみ「ああ、調査して欲しいのは開けられたロッカーについてなんだ」

咲「ロッカー・・・ですか?」

ゆみ「ここと反対側に建っている体育棟には、各部の倉庫もあってね。我々麻雀部のスペースも狭いながら与えられている」

ゆみ「普段使わないようなものは、そこにしまっておくんだが
   その中でも特に個人的なものは、備え付けのロッカーに入れてあるんだ」

佳織「といっても、大抵は智美ちゃんが持ちこんだものだけどね・・・」

智美「ワハハ、アヒルちゃんプロペラは評判良かったなー」

ゆき「今日はもう冬休みで、ほとんどの部は活動していない。私と蒲原は久々に来てみたんだが
   麻雀部も活動納めということで軽く東風戦をやって切り上げることにした」

ゆみ「そろそろ年末だし、帰る前に倉庫の整理でもして不要な物は持ち帰るか捨てるかしようと思ってな」

ゆみ「しかしいざ倉庫に入ってみると、ロッカーの扉が開けられていて、中の物も半分ほど無くなっていたんだ」

ゆみ「・・・といっても、元からマンガやら妙なパーティーグッズやらがゴチャゴチャ入っていたので
   いまいち何が無くなっているかは判断がつかないんだが。当の蒲原も含めて・・・」

智美「フシギだなー」ワハハ

和「開ける際、倉庫には確かに鍵がかかっていたんですか?」

睦月「はい。今朝、部室の鍵と一緒に職員室で借りて部室入り口近くのキーフックにかけておきました。鍵はその一本だけです」

睦月「部室を出て皆で倉庫に行く時には確実にそこにありましたが、
   それまでの間ずっと、フックにあったかというと定かでは・・・」

和「つまり、部員の誰かの犯行だと?」

ゆみ「考えたくはないが、可能性はある。だから久のところの探偵事務所で調べてもらおうと連絡を入れたんだ」

モモ「久って誰っすか!?先輩と、どんな関係何すか!!?」

咲「わっ、ビックリしたよ!まだ人がいたの!?」

和「まあ私は気づいてましたが・・・どちらにしろ怪しさ満天ですね」

和「どう見ても変質者ですし、もうこの人が犯人でいいんじゃないですか?」

モモ「失敬なおっぱいさんっすね、私は変態じゃないっす。仮に変態だとしても、変態という名の犯人っすよ!」

佳織(それじゃ、ただの最悪な人では・・・)

ゆみ「ま、まあそう言いたい気持ちも分からなくも無いが、ことはそう単純では無い」

ゆみ「不可解なことが、いくつかあるんだ」

睦月「今日私たちは9時過ぎに部室に集まって、早速打ち始めました。一人ずつローテーションする形式の東風戦です」

睦月「うちは初心者もいるので、全自動卓の東風戦といっても大体30分程かかります」

睦月「5戦一通り終わったのが12時前。その間余った一人は、自由時間でした」

和「つまり、それぞれ30分ずつアリバイが無いということですか」

ゆみ「しかし体育棟はこの文化部棟とは反対側だ。真っ直ぐ最短距離を通ったとしても
   普通に歩いたら片道10分以上、急いだとしても往復15分はかかる」

ゆみ「それに加えてロッカー自体にも鍵がかかっている、それも少し変わったな。仕掛けられていたのは、これだ」ゴロリ

咲「あ、オモチャ屋さんとかで似たようなの見たことあるよ。なんだっけ、これ?」

和「立体を回転させて面の色を揃えるパズル、ルービックキューブの一種です」

和「これは一面が3×3マスではなく5×5マスなので、正確には派生品のプロフェッサーキューブですね」

ゆみ「その通り。それをキーロックと連動させたものだ」

ゆみ「一度ロックしたら自動でシャッフルされ、パズルを解かないと鍵が開かない」

ゆみ「これをどこからか見つけてきた蒲原が、面白がってロッカーにつけてしまっていてな」

智美「心外だなあ、ユミちん。一時は部でも何分で解けるか流行ってたじゃないか、特にユミちんが一番ハマってたぞー」

ゆみ「まあ滅多に開けることはないし、防犯上も有効かもと当時は思っていたんだが、こうなると・・・」

咲「これって揃えるのに、どれくらいかかるものなんでしょうか?」

ゆみ「世界チャンピオンともなると1分足らずで解いてしまうらしいが、
   我々の平均達成時間は慣れてきても皆30分前後だった。これではとても間に合わない」

和「たまたま、その日は調子が良かったのかもしれませんよ」

和「10分くらいで解ければ、移動時間を考えても十分余裕があるでしょう?」

ゆみ「ところがそうはいかないんだ、上の部分を見てくれ」

咲「・・・タイマー、ですか?」

ゆみ「ああ、元々速さを競うパズルだからな。時間が測れるようになっているんだ」

ゆみ「スイッチを押すとタイマーがカウントを始める造りになっている」

ゆみ「今は全面揃えられてロックが外れ、クリアタイムが表示された状態だが・・・」

和「表示された時間は34分50秒ですか」

睦月「スイッチを押して一時的にカウントを止めることは出来ますが、その間はキューブを動かすことは出来ません」

和「確かに、これでは自分が自由になっている30分で全ての作業を完了させるのは不可能ですね」

和「ふんふむ。なるほど、分かりません。咲さんはどうですか?」

咲「・・・場所を変えて一人ずつお話を聞かせてもらえますか?特に自分が抜けたときを中心に・・・」

証言者1・津山睦月(第一戦抜け)


「職員室で鍵を受け取り、部室を開けたのは私です。9時のチャイムが鳴る数分前だったと思います

「既に蒲原先輩、妹尾さん、東横さんは部室の前で待っていました。部室を開けて中に入ると、間もなく加治木先輩もやってきました

「抜けている間にしたことですか?・・・同じ棟の1Fにある購買で、のど飴とカリカリ梅を買っていました

「私は車酔いしやすい体質なんです。もうお二人も知っているでしょうが、蒲原先輩の運転はかなりアレなので・・・

証言者2・妹尾佳織(第ニ戦抜け)


「部室に来た時にもういたのは、智美ちゃんだけでした。

「次に睦月さん、それで加治木先輩・・・えっと・・桃子さんは、いつ来たんだろ・・・?

「自由時間は、智美ちゃんの家のおばさんにお借りしていた編み物の本を探していました

「どうせ今日送ってもらうなら、ついでに返してお礼も言っておこうと思って

「私がいないとサクサク局が進むので、いつも30分より少し早めに戻るようにしています

「でも今日は結局ギリギリになっちゃった

証言者3・蒲原智美(第三戦抜け)


「私が部室に行った時にいたのは、モモだけだったなー。3番以内に来たのは久しぶりだ、今朝は頑張ったなー

「うちの学校はマイカー登校も許可を貰えればOKだけど、毎日車で来ているわけじゃないんだ

「今日は、みんなラッキーだったなー。お前たちも拾えたし、帰りも乗っていくか?なーに、遠慮は無用だぞー

「自由時間?んー、ブラブラしてた。ワハハ

証言者4・東横桃子(第四戦抜け)

「今朝の一番乗りは私だったっすね。いつもは加治木先輩か、むっちゃん現部長が大抵早いんすけど

「空き時間っすか。ただでさえ存在を認識されにくい私が、みんなが別のことに
 集中してるときに一人で何してても、あんまり証明にならないんすよね

「とりあえず 10:50に卓を抜けて、11:25にまた卓に着いたのは確かっすよ

「最後の対局の順位?加治木先輩(とプラスアルファ)との、帰り道シミュレートでそれどころじゃなかったっすよ

「かおりん先輩が純正九蓮を蒲原元部長に直撃したのを覚えてるくらいっす

「そんなことより、加治木先輩とのラブワゴン計画っすよ!
 先輩はああ見えて結構押しに弱いんす。きゃー、揺れるっすー!と抱きつけば、
 それはもういい匂いを醸しながら『到着はまだかー』と言いつつも案外嬉しそうに・・・以下大略
 

証言者5・加治木ゆみ(第五戦抜け)


「部室に着いたのは私が最後だった。これは珍しいパターンと言えるだろう

「空き時間は、部室やその周りの整理をしていた。やはり一年お世話になった場所だからな

「倉庫の片付けも、私が言い出したと記憶している。下りの列車が一時間2本に増える17時までは、まだ余裕があったしな

「ちょうど雨が降ってきたので、屋根のある本校舎の中を迂回して体育棟へ向かった為に多少時間がかかってしまったが

「そこで開けられたロッカーを見て、君たちの事務所に依頼をしたというわけだ・・・

和「以上で一通りの証言は終了です。他に何か気になっていることはありますか?」

咲「うーん、そうだね・・・誰かが嘘をついている?ううん、逆にこの証言が全部本当のことだと仮定すると・・・」

和(上の空ですね。全体の構図は出来上がりつつあるけれど、もう一押し足りないというところですか・・・)

和「今ならこっそり近づいて、へろへろとか きょいきょいとか いんぐりもんぐりまで出来てしまいそうです」

和「その衝動を抑えて、ひたすら待つ私。アシスタントの鏡、爆誕ですね」

睦月「加治木先輩・・・あの人たち、本当に大丈夫なんでしょうか・・・」

ゆみ「・・一応、事務所のダブルエースと聞いているんだが・・・」

咲「?・・・この冊子はなんですか?」

ゆみ「ああ、文集のようなものだ。6月にモモと妹尾が入ってくれて
   団体戦のチームが組めるようになったので、自己紹介がてら作ってみたんだ」

ゆみ「と言っても、ちょっとしたイラストやらプロフィールやらが載っているだけの簡素なものだが」

ゆみ「こんなものを作れるようになったこと自体が、当時は随分嬉しくてな」

咲「・・・・・・・・・」パラパラパラ

咲「なるほど、そういうことだったんですね・・・」

和「・・・!それでは、咲さん・・・?」

咲「うん。謎は・・・謎は多分解けたよ」

ゆみ「それは、今回の事件の顛末についての目星がついたということなのかな?」

咲「はい、先程の皆さんのお話を聞いての結論です」

咲「実は一人明らかに他とは違う証言をしていた人がいるんです」

佳織「えーと、それは一体誰なんでしょうか・・・?」

咲「・・・加治木さん、今日は朝からずっと電車が停まっていたんですよ」

ゆみ「なんだって!?」

咲「私たちがここに来てからもその前もずっと、他の皆さんは電車が停まり蒲原さんの車で
  帰宅することを前提に話し行動していましたが、あなただけはそうではありませんでした」

咲「和ちゃん、お願い」

和「正確にはJR飯田線の岡谷~七久保間が9時15分から落石事故のため、運休していました」

和「この学園最寄り駅のダイヤが完全に復旧したのは、13時10分」

和「その間遅延情報が携帯等のwebサービスにアナウンスされた形跡は、ゼロです」

ゆみ「い、いや・・・しかし私は・・・」

咲「そう、あなたは知らなかった。知る機会が無かったのですから、当然です」

咲「では、どうして他の部員の人達はそのことを知ることが出来ていたのでしょう?」

睦月・佳織・智美・モモ「「!!」」

咲「麻雀部以外の生徒がほとんど残っていないこの学園で、
  電車が停まっていたことを知る方法は一つ。本校舎前広場の校内掲示板だけです」

咲「文化部棟から体育棟に向かうついでに、最短経路上にあるあの掲示板を皆さんは見ていたんですよ」

咲「それも雨が降っていて、本校舎から迂回していれば広場の前は通りません」

咲「つまりその時間は今日の朝から正午にかけての間に限定されます」

咲「9時過ぎに東風戦の対局が始まりローテーションで抜ける度に体育棟の倉庫に行き、少しずつカギ解きを進めていたんです」

咲「各々の自由時間30分のうち、各自10分をパズルに費やしても残りは20分」

咲「移動その他の時間には、十分お釣りがきますから」

咲「そしてめでたく、ロックは解除。目的の物も手に入れることが出来ました」

咲「開けたロッカーはそのままに・・・またしまうときの手間を考えたら無理はありませんが」

咲「唯一の誤算はその日のうちに他ならぬ加治木さんの手で、倉庫がまた開けられてしまったということですね」

ゆみ「私以外の全員が。いや・・・しかし、そこまでする必要がどこにあるというんだ・・・?」

咲「私も、それが不思議だったんです。でも、この文集を見てなんとなく理由が分かりました」

咲「今日でなければならず、そしてあなたに黙っていなければならなかった理由が」

咲「加治木さんは言っていましたね、ロッカーの中にはパーティーグッズが入っていたって・・・」

咲「そして今日は12月21日。蒲原さん、もういいんじゃないでしょうか?」

智美「やれやれ、そこまでお見通しじゃしょうがないなー」

智美「ユミちん、まだ準備が中途半端だし ちょっと気まずいんだが、これを見てくれー」


バサッ


【かじゅたんイェイ~】


ゆみ「な・・・」

~5時間前・麻雀部部室~

智美「ワハハ。言ったろー、あそこならクラッカーも飾りもプレゼントも、当日まで見つからないって」

睦月「確かに。そもそも探す気も無くすような場所ですしね・・・」

モモ「木を隠すなら針葉樹林のなかっすか。あとはサプライズ誕生パーティーの準備をするだけっすね」

佳織「(キョロキョロ)ところで、今はそれどこにあるの?」

智美「ワハ・・?」

睦月「・・・まさか、まだ倉庫のロッカーに入っていて鍵も外して無いなんて・・・」

智美「あー、そんなこともあったような・・・」

モモ「どうするんすか!あれ解くのだけで30分かかるんすよ!界王様だってそんなうっかりミスしないっす!」

佳織「わわわ、もうすぐ加治木先輩来ちゃうよ~」

智美「まあ、なんとかなるさ。とりあえずいつも通りの態度でいくぞ、みんなー」

モモ「あとはそこの探偵さんが言った通りっすよ」

智美「いつから気づいていたんだー?」

咲「最初に違和感を覚えたのは、睦月さんが持ってきていた鍵の話でした」

咲「いわば、後からの突発的な思いつきだったはずの整理のために
  部室の鍵と一緒に事前に倉庫の鍵も借りていたというのでは、順番が合いません」

咲「・・・あとは行きの車内の強烈な印象も要因といえば要因ですが・・・」

智美「ワハハ、車で迎えに行ったのは失敗だったかー。今後は気をつけようかなー」

和「・・・それは誰のためにも、そうあって欲しいものです」

智美「じゃあ、もうプレゼントも渡してしまおうかー」

智美「ユミちんが部室の外に出ているあいだに運び込んでおいたんだ」

智美「しかし、このキューブのせいでえらい目にあったなー」フリフリ

佳織「もうー、そんなことしててこっちのロッカーにまで鍵かけちゃったりしないでよー」

智美「さすがにもう懲りたさー、ワハハ・・・ハーックション!」


ガチャリ


睦月「ガチャリ・・・?」

佳織「これって、ひょっとして・・・」

智美「しっかりロックされてしまったなー」ワハ…

モモ「小田和正の言葉にできないが、エンドレスで流れてるっす・・・」

和「新喜劇並のベタな展開です。仰け反りながらコケたほうが良かったんでしょうか」

咲「うーん、ちょっと困った事態だね。和ちゃん、お願いしてもいいかな」

和「これ以上コントに付き合ってもいられませんしね、わかりました」

和「失礼・・・」ジーッ


カシャカシャカシャカシャ

カチャリ


佳織「えっ?もしかしてこれって解いちゃったんですかー?」

睦月「しかも時間は・・・さ、30秒ジャスト・・・?」

和「6面が12面になったところで、組み合わせはせいぜい10の68乗通り。所詮ただの色合わせです」

和「咲さんとの共同生活を、毎日無限の可能性からシミュレートしている私の敵ではありません」

睦月「う、む・・・では私から。おめでとうございます、加治木先輩」

睦月「プロ雀士カード23番・藤田プロ10枚詰め合わせです。レアカードですよ」

佳織「私は手袋を編んできました。良かったら使ってくださいー」

モモ「”いつでもどこでもステルスモモが現れる券”っす!”ステルスモモが何でもしてくれる券”と併用も可っすよ!」

智美「そして、私はこれだー」

ゆみ「・・・これは・・・」

睦月「カード麻雀、ですか?」

智美「2年前の鶴賀祭前日、設営の待ち時間にユミちんが初めて麻雀をしてドハマりしたときと同じカードだー」

智美「次の日には入門書を買ってリベンジを挑んできたのも、懐かしい思い出だなー」

モモ「はー、いわば鶴賀麻雀部を結成させた立役者っすか」

智美「まあそこまで大げさなものでも無いけどなー、当時のクラスのメンツにも寄せ書きしてもらったぞー」

ゆみ「蒲原・・・」

智美「ワハハー。ユミちん、お礼なんて水くさいぞー」

ゆみ「だからといって、騒がせすぎだ!」


ポカリッ!

ゆみ「すまないな。私の早合点で散々迷惑をかけた上に、結局そのあとのパーティーまで付き合わせてしまって」

咲「いえ、楽しかったです。それに加治木さんも、とっても嬉しそうでしたよね」

ゆみ「全く!・・・こんな馬鹿な仲間たちを持って、私は幸せものだよ」

咲「私もそうだから分かります。和ちゃんも何だかんだで頼りになる人なんです」

ゆみ「ああ、そうだな。この今日という日が皆から貰った一番のプレゼントかもしれないと、そう思うよ」

ゆみ「・・・やれやれ。こんなこと、あいつらにはとても聞かせられないな」

咲「うふふ。向こうにいる和ちゃんたちも、案外そんな話をしてるのかもしれませんね」

モモ「これが今週分の写真と動画っす。レア度の高いシーンには先に印を付けておいたっすよ」

和「ご苦労様です。あなたの働きには毎回満足していますよ」

和「大作ムービー”24時間密着!おはようからおやすみまで、咲さんをみつめる のどっち”が完成したら20%offでお譲りします」

モモ「それはいらないっす。まあ私は報酬さえ貰えれば、仕事をこなすだけっすけどね」

モモ「プレゼントしたそばから捨てられないよう、せいぜい気をつけることっすね」

和「そんなオカルトありえません。クリスマスには感動巨編が完成していることでしょう」

和「・・・おおう、このシーンはいい素材になってくれそうです。全く、今夜も忙しくなりそうですよ、フフフフ・・・」



優希「私の脳内選択肢は、事務所PCのsaki-sanフォルダを開くことを全力で阻止しているんだじぇ。タコスうまぁー」ムシャムシャ



積(カン)!

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