幼「……」ぎゅ(13)

幼「……」ぎゅ

幼「……」ぎゅう……

幼「……」



国公立前期入試の日、目を覚ますと窓の外は一面真っ白だった
テレビから流れるキャスターは雪が夜まで降り止むことはないという意地の悪い天気予報を淡々と告げていた
幸い電車は止まっていなかったが、念のために早く家を出た

試験会場まで、一時間

多少のダイヤの乱れはあったものの、時間の余裕は十分にあった
吐いた息が白くなって空気に溶けていった

誤字

テレビから流れるキャスターの声は、雪が夜まで降り止むことはないという意地の悪い天気予報を淡々と告げていた

それは改札を通って、駅を出た時だった

不意に着信音が鳴ってそれが幼友からのものだと分かったその時に、なんともいえない悪い予感が背筋に走った

幼友「幼が、幼がぁっ、幼が……」

聞き取れないほどかすれた声がスピーカーから聴こえた瞬間には、既に走り出していた

発車寸前の電車に駆け込んだ

男「はぁっ、はぁっ」

試験のことは既に頭から飛んでいた

男「あぁ……、あぁ……」

声にならない声が口から零れ出る




幼友「今朝、急に容態が悪くなったって……」

幼友「もう……、長くないかも、しれないって……」

駅から病院までは直線500メートル

果てしなく長い500メートルだ

ロビーで幼友が待っていた

男「幼は?」

幼友「……」

幼友は答えなかった

待合席に座り、ずっと床を見ていた

階段まで走る

202の病室まで




病室のドアを力を込めて引いた













幼「……」





病室の窓から灰色の空が見えた

その日は夜まで雪が降っていた

病院の前には海岸が広がっている

冬の夜、海はそこにあるだけで冷たかった

幼友「寒いね……」

男「……」

幼友「……」

隣から微かな泣き声が聴こえた

男「……」

遠くに小さな光が見えた、漁船だろうか

男「点滅してる」



次の日は、抜けるような青空だった



傘を持って出かけないと、そう思った






終わり

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