不幸厨の幸い (124)

提督「……よし、ひと段落」

山城「お勤めご苦労様です。書類の方、随分と貯めていらしたようで」

提督「ここの所、出撃やら何やらで忙しかったからな。ついつい」

山城「職務を怠慢する軍人。そんな人が私たちの提督だなんて不幸だわ……」

提督「い、言ってくれるな。まあ、貯め込んだ事実がある以上なにも言い返せんが」



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山城「不幸だわ……」

提督「まだ言うか」

山城「提督がこの頃お忙しかったせいで全然ふたりで過ごす時間がありませんでした」

提督「………………」

山城「ようやく晴れの休みかと思えば貯め込んだ執務。不幸だわ……」

提督「すまん。今度、食事にいこう」

山城「今度、ですか……そうやって流されるんですね。不幸だわ……」

提督「今日いこう! 今日! Today!」

山城「今日中に「それ」終わるんですか?」

提督「…………」チラッ

(まだまだ残ってる書類の山)

提督「おぇ」

山城「はぁ……不幸だわ」

提督「終わらせる! 絶対に終わらせるから!」

山城「現実を見てください」

提督「…………」

山城「提督……」

提督「はい、なんでしょう山城さん」

山城「その書類の山、私に半分ほど分けてください」

提督「…………いいのか?」

山城「秘書艦の務め、ですから」

提督「ありがとう、山城」

山城「では早速取り掛かりましょう」

提督「えっ、あの、俺、ひと段落したから休憩とか」

山城「……不」

提督「あー、わかったわかった! やります! すぐやります!」



山城「不幸だわ」

提督「だから悪かったって」

山城「休みの日なのに提督と一緒に仕事しているなんて……不幸だわ……」

提督「…………ああ」

提督「俺も休みの日にまで山城と一緒に仕事するなんて……不幸だ……」

山城「……」クスッ

提督「……」ニヤッ


fin

提督「朝から鎮守府へ出勤。ふわ~、眠い」

提督「えっと今日の予定は演習に会議に、ふわぁ」

山城「あくびをする時は口に手を当てるのがマナーですよ」

提督「や、山城!? いつからそこに?」

山城「先程からずっといました」

提督「す、すまない。寝ぼけてて気づかなかったんだ」

山城「提督に目の前を素通りされる秘書艦の私の存在感って……不幸だわ……」

提督「それにしても山城、どうしてお前がここにいるんだ?」

山城「秘書艦としてなるべく側でサポートをするために提督がいらっしゃるのを待っていました」

提督「なるほどな。いい心がけだ。でも、そこまで頑張らなくていいぞ」

山城「え……」

提督「鎮守府に付けば嫌でもお互い側にいるわけだしな。山城もこんな朝からじゃ辛いだろ」

山城「………………はぁ」

提督「なんだよ? いきなりため息ついて。知ってるか、ため息を一つすると幸せが一つ逃げていくんだ」

山城「心配しないでください。もうとっくに不幸ですから……」

提督「?」

山城「私の気持ちを察してもらえないなんて、提督と私の絆は……その程度のだったんですね。不幸だわ……」

提督「気持ち? 山城がこんな朝早くから俺のことを待っていてくれたのは……」

提督「………………待って……いてくれたのは……」

山城「…………」

提督「つまり……俺と一緒に?」

山城「今更気づくなんて……不幸だわ……」

提督「あ、あはははははは……」

提督「そういうことなら最初からそう言ってくれれば良かったのに」

山城「気づいてほしい、という女心です」

提督「いじらしい女だ。まあ、俺は山城のそういう所に……」

山城「何かおっしゃいましたか?」

提督「いや、何でもない。そうだ、山城。どうせ俺を待つんだったら、これから俺の家に迎えにきてくれてもいいんだぞ」

山城「なっ……なななな何を言ってるんですか!?」

提督「いやあ~、だってその方が鎮守府まで一緒に歩く距離が増えるだろ。あっ、何なら俺のために朝食を作ってくれてもいいぞ」

山城「そ、それってまるで通い」

提督「おいおい、真に受けるなよ。冗談だ。少しお返しをしてやりたかっただけだ」

山城「…………」

山城「提督に弄ばれるなんて……不幸だわ……」

提督「ほら、拗ねてないでいくぞ」

山城「……はい」

提督「山城、手を出してくれ」

山城「はい?」

提督「ほら」ギュッ

山城「あっ……手」

提督「これで機嫌直してくれ」

山城「手を握って一緒に、こんな所を他の艦娘に見られたら噂になってしまう……不幸だわ……」

提督「ああ、そいつは不幸だな……でも離すつもりはない」

山城「くすっ、怖いもの知らずですね……不幸だわ……」


fin

提督「お昼か」

山城「昼食はどうするつもりですか?」

提督「今日はな」

山城「食堂ですよね。私もです、ゆっくりと出来るはずの食事の時間まで提督と一緒……不」

提督「いんや、今日は弁当を持ってきてある」

山城「え?」

提督「いま財布の中身が少し心許ないんでな。自分ちで作ってきた」

山城「……そ、そうですか。提督、料理できたんですね」

提督「一人暮らしだし多少はな。山城は昼どうするんだ?」

山城「…………食堂で食べてきます」

提督「そうか。分かってると思うが午後は演習だから」

山城「あまり食べ過ぎるなよ、ですか?」

提督「そういうことだ」

山城「…………わかりました」ガチャ

山城「…………はあ」

山城「独りで昼食……不幸だわ……」

夜、鎮守府付近艦娘用寄宿舎(戦艦区画)、台所

山城「痛い! ……やっぱり不幸だわ……」

扶桑「山城、鍋を見て。焦がすわよ」

山城「は、はい! 姉さま!」

日向「あの二人、いや山城は何をやっているんだ」

伊勢「そりゃあ料理でしょ?」

日向「まぁ、そうなるな。だが私が聞きたいのは何故、山城が料理をしているかだ」

長門「既に夕食の時間は終えたはずだが」

陸奥「あら、あらあら。そういうこと……」

長門「ん……陸奥、分かるのか?」

陸奥「さあ、どうかしら~」

金剛「山城分かりやすいネー」

翌日、鎮守府

山城「提督、そろそろお昼です」

提督「もうそんな時間か。あっという間だな」

山城「提督、今日の昼食もやはり」

提督「ああ、弁当だ。山城は食堂か?」

山城「いえ……今日は私も、よいっしょ!」ドン

提督「!?」

山城「お弁当です」

提督「そ、そうか……それにしても随分と大きいな。お重じゃないか」

山城「うっかり作りすぎてしまって」

提督「食べきれるのか?」

山城「いえ、とてもじゃありませんが。このままでは食べ残したお弁当が無駄になってしまいます……不幸だわ……」

提督「…………」

山城「…………」ジィ

提督「…………」

山城「…………」ジィイ

提督「……なあ、山城。もし山城さへ良ければ、その弁当を分けてくれないか?」

山城「ええ、いいですよ」ニコッ

提督「そ、それじゃあ、適当に掛けててくれ。お茶を淹れてくる」

山城「別にそれぐらい私が」

提督「いやいや、そこまでやらしたら頑張って料理をしてくれた山城に悪いからな」

山城「!?」

提督「手に巻いてある絆創膏は、そういうことだったんだな。あっ、今更隠しても遅いぞ」

山城「不幸だわ……」

提督「そう言うな。さあ、お茶もはいった。食べよう」

山城「はい」

提督「山城、ありがとう」

山城「……うっかり作りすぎただけです。勝手に勘違いされるなんて……不幸だわ……」


fin

提督「なあ、山城はいつも自分のことを不幸だ、って言ってるよな」

山城「はい。実際、不幸ですから」

提督「だったら、たまには不幸から脱却してみないか?」

山城「とは言いますがどうやってですか?」

提督「いい方法があるんだ。山城、手を前に出してくれ」

山城「? わかりました」スッ

提督「でだ、山城の手に……俺の手をくっつける」

提督「手と手のシワを合わせて幸せ!……なんてな」

山城「…………」

提督「すまん、何か反応してくれ。辛い」

山城「こんな下らないことに付き合わされるなんて……不幸だわ」


fin


提督「まいったな」

山城「提督」

提督「山城……今から帰るところか」

山城「はい。どうかされたんですか?」

提督「いや、この天気さ」

山城「雨ですね」

提督「ああ、すごい勢いだ。今朝は降っていなかったのにな」

山城「私、雨はあまり好きではありません。視界が悪くなって敵を捕捉しづらいですから」

提督「戦闘が始まれば自分の目が頼りになるわけだしな。しかし、ホントにまいったな」

山城「提督、その封筒は?」

提督「今日中に出さなきゃいけない書類なんだが、こうして足止めを食らってる」

山城「提督、もしかして傘を」

提督「お恥ずかしながら。油断した」

山城「……傘、入りますか? 郵便なら寄宿舎に帰る途中にありますし構いませんけど」

提督「嬉しい提案だが、その傘じゃ二人入るのはキツいだろ」

山城「提督が書類を出し損ねて評価が下がると、その提督が率いる私たちの評価も下がる……不幸だわ……」

提督「分かった分かった。入らせてくれ! ホントお前の不幸には勝てないよ」

山城「ふふっ、不幸なら誰にも負けませんよ。さっ、提督入ってください」

提督「悪いな。傘持つぞ。代わりに封筒を頼む。こればっかりは濡らすわけにはいかないから」

山城「わかりました。とは言え、流石にはみ出てしまいますね」

山城「濡れてしまうなんて……不幸だわ……」

提督「自分から傘に入れと言っておいて」

山城「何かいいましたか?」

提督「なんでもない。ほら、傘を山城の方に寄せるから我慢してくれ」

山城「それでは提督が濡れてしまいます」

提督「気にするな。山城と封筒を濡らすわけにはいかないからな」

山城「でも……」

提督「じゃあ、帰りがけに寄宿舎に寄らせてもらうか」

山城「えっ!?」

提督「濡れて冷えた俺の体を温めてくれるかい、山城?」

山城「セクハラを受けるなんて……不幸だわ……」


fin

「不幸だわ……」

 鎮守府から少し離れた艦娘の寄宿舎。そこの台所で山城は自分の身に降りかかった不幸を呪った。はぁ……と、ついついため息が出てしまう。
 不幸の始まりは提督からの一本の電話だった。

「すまない、山城。急な呼び出しを食らった。直ぐに行かないといけないんだ!」

 余程急いでいたのか提督は、秘書艦である山城にそれだけ伝えると一方的に電話を切った。
 久しぶりの休み。今日は二人で街に買い物へ行く予定があった。
 しかし、その予定はあっけなく潰れてしまった。不幸だ。 
 早起きをして気合を入れて化粧をした。時間をかけて髪も念入りに梳かした。姉の扶桑の勧めで香水もつけた。
 唇にもうっすらだが口紅をさした。あまり色がきつくない、自然な感じが出るように薄い桃色のだ。
 自分のできる限りの努力をして、女を着飾った。
 それも全て無駄になってしまった。

「せっかくの休日なのに二人の時間は、ほんの数秒の電話だけ。不幸だわ……」

 山城は自分を象徴する言葉をつぶやきながら、火にかけた鍋の様子を見る。
 鍋の蓋を開けるとモワッと蒸気があがった。
 化粧なんか崩れてしまえばいい。どうせ今日は顔のことを気にしたって意味はないのだ。見せたい相手がいないのだから。
 山城は熱い蒸気を避けることもせず顔で受け止めてやった。顔が熱く濡れる。皮肉なことに化粧は大して崩れなかった。
 鍋からほんのり甘い香りがする。
 見るとジャガイモや人参、牛肉がグツグツと音を鳴らしながら鍋の中で震えていた。昼食として作っている肉じゃがだ。
 肉じゃがは、別に好きでも嫌いでもない。
 ただ――提督が作って欲しいと言うことが多いので、作る回数が多くなり自然と得意料理になっていたというだけだ。。
 山城は菜箸を使って、鍋の中身をかき回す。

「不幸だわ……こんな量、私ひとりで食べきれるわけないじゃない」

 肉じゃがの量は明らかに一人分を超えていた。3人分近くある。
 ついつい、いつもの量で作ってしまった。提督はよく食べるのだ。
 余った分は誰か他の艦娘にでも分けよう。そんなことを考えながら料理をしていると

「何を作ってるんだ?」後ろから声がかかった。
「肉じゃがです」山城は振り向くことなく作業を続けながら答えた。
「いいね。この香り……俺好みだ。山城が作ったのか?」
「はい……………………え?」

 そこまで会話をして山城は後ろから聞こえた声が男のものだとようやく気づいた。驚き振り向くとそこには提督がいた。


「提督、どうしてここに?」
「会議自体は鎮守府でしてたからな。さっき区切りがついて午後の会議まで少し時間が空いたんだ。もし良かったら一緒に昼でもどうかな、と思ってここに来たわけだけど。山城がいてよかった」
「そういうことだったんですね」
「山城いま大丈夫かな? 何か別の予定を入れたりしてないか?」

 提督は申し訳なさそうな顔をしながら山城に聞いてきた。今朝の電話のことを気にしているのだろう。
 なにせ予定を一方的に潰してしまったのは提督だ。責任を感じていた。

「予定ならありますよ」
「そうか……残念だ」提督は作戦が失敗した時のような沈痛な表情した。
「というより、たった今予定が入りました」
「え?」
「私は提督と一緒に昼食を食べる予定があります」

 山城は提督をからかうように小さく笑った。
 楽しみにしていた予定を潰されたのだ。これくらいの仕返しはしたっていいはずだ。
 山城の言葉に、提督はしばらく固まっていると山城と同じく小さく笑った。

「ひどい奴だな、山城」
「提督に言われたくありませんね」
「全くこんなからかわれ方をされるなんて……俺は不幸だな」
「おまけに私の手料理のせいで外食もできませんね」
「ああ、自分の食べたいものを食べれない。不幸だな」
「しかも、肉じゃがなんて……不幸ですね」
「ああ、ホントに不幸だ」

 二人は不幸さの欠片も感じさせない顔をしながら昼食の準備をする。
 やがて準備を終えると昼食を食べ始めた。
 提督は山城が提督の好みに合わせて作った肉じゃがを美味いうまいと言いながらご飯と一緒に食べた。
 そんなどこか子供っぽく無邪気に舌鼓を打つ提督を山城は優しく見つめていた。
 不意に提督と目があった。すると提督の食事の手が止まる。

「どうしました、提督?」

 もしかして口に合わなかったのだろうか。だとしたら本当に不幸だ。
 山城は憂いのある表情で提督に顔を近づける。二人はジッと見つめあった。

「山城……」
「はい……」
「今日はいつもより綺麗だ」

 ポロっと提督の心から漏れた感想に、山城は少しはにかむと顔を隠すように下を向く。どうやら努力は無駄にならなかったようだ。
 心の準備もなしにそんなこと言われるなんて……

「不幸だわ……」

 fin

いつも思うんだけど台本?脚本?形式で書ける人ってすげーよな、よくあんなにセリフがポンポン浮かぶ

「そこで私の放った主砲が見事に敵を沈めたの!」

「ふふふ、それはお手柄ね。姉として、同じ戦艦として鼻が高いわ」

「私の活躍、姉さまにも見ていてほしかったな」

 暑い夏がようやく過ぎて、日が暮れるのが少しずつ早くなってきた秋の日。 

 寄宿舎の大広間で私と扶桑姉さまは語らいの時をもっていた。

 内容は今日の出撃について。姉さまはお休みでしたけど、私は他の皆さんと一緒に出撃したの。

 夏の出撃は日差しがとても強いですが潮風もあって意外と涼しい。

 でも、今日の出撃は少し寒かったわ。

 背負っている艤装の放熱のおかげで背中まわりはそこまで寒くないけど、真正面から受ける秋の風はうっすら冷たく微かに顔がこわばったりもした。

 これから本格的に寒くなるし、寒さ対策はしっかりしなくちゃいけないわね。特に足の辺りとか。後で秋冬用の生地の厚い暖かい白足袋をタンスから出しておこう。

 そういえば私や姉さまは素足を晒してる足の方だけでいいけど他の戦艦の皆さんはどうなんだろう?

 特に長門型の長門さん、陸奥さん。それと大和型の武蔵さん。

 長門さんと陸奥さんはお腹を出してるし、武蔵さんに至っては服を羽織っているけど実質、上半身サラシだけだし。

 お腹なんか冷やしたら痛くなって動きも悪くなるだろうし腹巻でもするのかしら?

 少し想像してみる。
 
「ビッグ7の力、侮るなよ!」凛々しい表情で海を駆ける長門さん。でも腹巻。

「さ~て、止めを刺すわよ!」余裕といった様子で敵を追い詰めていく陸奥さん。でも腹巻。

「この武蔵の主砲。伊達ではないぜ!」自慢の46センチ砲で勇ましく敵を沈めていく武蔵さん。でも腹巻。

 …………プッ。堪えきれずつい小さく噴きだしてしまう。ダメ、お腹痛い。

 だって何をやっても腹巻なのよ。

 どれだけ凛々しくても、どれだけ大人の女性に相応しい余裕があっても、どれだけ勇ましくても、ぜーんぶ腹巻っていう記号に上から書き換えられちゃう。

 これって不幸だわ。
 

山城視点でやってみるねー

「山城、どうかしたの? 急に笑い出して……」

「い、いえ何でもないわ」 
 
「そう? ならいいけど……」


 少し不思議そうな顔をしながらお茶を飲む姉さま。
 
 危ないあぶない。もし私が理由もなく笑う変な妹なんて誤解されたら生きていけないわ。

 気を取り直して、私は自分の活躍を姉さまに語ります。 

 姉さまは私の話を優しい微笑みを浮かべながら聞いてくれます。ああ……幸せ。願わくばこの時間が永遠に続けばいいのに。

「やーましろっ!」

 すると後ろから快活な声が聞こえた。この声は……

「比叡さん」
 
 癖っ毛なのか横に跳ねた髪が印象的な金剛型の艦娘、比叡さん。

 私が扶桑姉さまとよく一緒にいるように、比叡さんも姉妹艦である金剛型の皆さんと一緒にいるから普段あまり話をする機会はないけれど何の用かしら? 

 比叡さんは親指を立てた拳を動かして外への扉を指した。それを追うように扉に目を向ける。

「提督からお呼び出しだよ。ついさっき買い物帰りに玄関で声かけられてね」

 人参やジャガイモ、玉ねぎとかが入った布袋を見せる比叡さん。もしかしてカレーを作るの?

 研究熱心なのはいいことだけど、それに付き合う金剛型の皆さんは少し不幸ね。

「あっ、扶桑さんも一緒にどうですか? 比叡のカレー改」

 ちょっと!? 姉さまを巻き込まないで! というかカレー改って何!? 壊の間違いじゃない?

 比叡さん、あなたの作るカレーは大抵がハズ……前衛的な味になるのよ。割合的に言えばニーハチ。

 でも比叡さんの言葉には少しの悪意もない――真っ直ぐだから断りづらいのよね。だから私も何度かカレーの餌食に。美味しい時は本当に美味しいんだけど。

 姉さまも断りづらいのか何だか曖昧な顔をしてらっしゃるわ。あれ、どうやって切り抜けようか必死に考えている顔だわ。

「比叡、私は夕食をもう済ませてしまっているの。折角のお誘いだけどごめんなさいね」

「そうですか。なら仕方ないですね」

 姉さまの嘘をあっさりと信じると比叡さんは「気合! 入れて! 作ります!」って言いながら台所の方に消えていった。


「危なかったわ。もしあれで食い下がられたら……」

「心中お察しします、姉さま」

「山城、提督が待っているわ。行ってあげて」

 そうだった。比叡さんのカレーで動揺してたけど待ち人がいるんだった。早く行かないと。

 でも、それは姉さまとしばしの間、お別れしなければいけないということ。本当はもう少し一緒にいたいのに。

 まったく提督は分かってません。どうして、よりによってこのタイミングなんですか。

 せめて後一時間いや30分遅くくれば、こんな気分にならなかったのに。

 どうせ会うなら幸せな気分が続く方がいいじゃない。幸せな時間の一つを無理やり終わらせて次なんて不幸よ。

「はあ、せっかくの姉さまとの時間が」

 私はため息をつくと立ちあがって玄関に向かう。それを見る姉さまの顔は何故か笑っている。

 歩きながら、ほんの少し先の未来を思い描く。 

 あからさまに不機嫌な顔で会ってやろう。私の顔を見て、戸惑う提督の顔が浮かぶ。

 ついでに文句もつける。理由は伏せてね。そこで怒ってることに気づいて、慌てるに違いない。
 
 クスッ……いい気味ね。あっ、私いま悪い顔してる。

 きっと提督は、私がどうして怒ってるかも分からず必死になって原因を考えるんでしょうね。

 その時の提督の頭の中は、私のことでいっぱいで、私だけのことを考えていて……

「不幸だわ……」

 おもわず出る口癖。でも言葉と裏腹に私の顔は笑っていた。


 fin 

読んでる人ぜんぜんいないだろうけど何かやってほしいネタある?

提督と山城の出会いとか二人がここまでの関係になったきっかけのエピソードがみてみたいです

提督がしばらく出張で居なくて寂しがる山城とか

超読んでるんですけど

超読んでるんですけど! 提督love勢に追われてる提督を見る山城とか

中破でいつも以上に服が破けて恥ずかしがる山城


 陽の光を受けて青く輝く海の上に、軍艦が1隻浮いている。

 それは人類にとって未知の外敵である深海棲艦に対抗する力を持つ艦娘を戦場へ送り届けることを目的としたものだった。

「旗艦・山城より入電! 敵艦隊の撃滅を確認とのこと!」

「ようし、各艦娘は帰艦。回収が完了次第すぐに帰港するぞ。新手と出くわすのは御免だからな」

 艦橋内で通信士と副長のやり取りを聞きながら提督は今しがたの戦闘を振り返る。

「天龍と飛龍が小破。山城が中破。被害はそこまでじゃないか」

「艦娘の連携がとれていましたね」副長は満足そうに言った。

「日々の演習の賜物と思いたいな。さてと先任(先任将校の略であり副長の別名でもある)少し席を空ける。後のことは任せていいかな?」

「分かりました。提督というのは大変ですね。艦娘の情緒的な支援……でしたか」

「そういう教本に載っている味気のない言い方はしなくていい。頑張った彼女たちを労う、それだけさ」

 堅苦しい表現をする先任に提督は苦笑しながら戦いを終えた彼女たちがいる場所へ向かった。

 ・
 ・
 ・  

 格納庫では機関室ほどではないが油臭い匂いがむわっと鼻にくる。

 整備班たちは最前の戦闘で破損した艤装の修理や整備で忙しそうだ。手袋や作業着、顔が油で黒くなっている。

 提督が油の匂いに包まれながらしばらく待っていると向こうからピンク色と特徴的な語尾の艦娘――卯月が走ってきた。

「しれいかぁ~ん! たいだいまぴょん!」

 卯月は無邪気に提督にとびつく。

「おかえり、卯月……おっとと」

「しれいかぁ~ん! うーちゃんの活躍みてくれた?」

 胸に飛びついてきた幼い体を優しく抱きかかえると、提督と卯月は同じ目線の高さになった。

 提督を見つめる卯月のクリッとした愛らしい瞳が「ほめてほめてー!」と語っている。

 提督は卯月の願いを早速叶えてやる。

「ああ、大活躍だったぞ」卯月を下ろしながら「MVPものだ」と続けて、卯月の頭を撫でた。

「えへへ……これが睦月型真の力でっす! えへん!」

 卯月は小さな体を大きく見せるようにして胸を逸らす。卯月は本日の出撃で最も敵に損害を与えたのだ。

「あー悔しいな。私がもっと上手く当てられたら卯月ちゃんじゃなくて私がMVPだったのに」

 卯月の後ろでショートヘアの艦娘――飛龍は言葉ほど悔しそうな顔はしておらず卯月のことを慈しむように見てた。

 仲間の活躍が純粋に嬉しいのだろう。

「飛龍は艦載機で敵を翻弄してくれたんだ。制空権も確保できたし、十分すぎるほど働いてくれたよ」

「そう言ってくれると嬉しいですね。頑張った甲斐があります!」

「おっと吾輩を忘れてもらっては困るぞ、提督よ。今日の勝利の流れは吾輩が作ったも同然なのだから」 

 今度は黒髪をツインテールにした艦娘――利根はアピールするように前に出た。

 提督は利根の活躍を言葉にする。

「利根の索敵機はやっぱり優れてるな。敵の実態が把握出来るっていうのは指揮をするこっちも楽になる。正直かなり助かるよ」

「そうじゃろ! そうじゃろ! 戦いとは索敵という初手で決まるのじゃ!」

 利根は少し興奮気味にそう語った。艦隊の眼を自負する利根にとって索敵を褒められることは最大の賛辞なのだ。



「索敵もいいけど正直いって地味ネー」

「なぬ!? 金剛、今の言葉はどういう了見じゃ!?」

 はしゃぐ利根の後ろから少し不機嫌な顔をした戦艦の艦娘――金剛がやってきた。

「やっぱり艦隊の華は私みたいな戦艦のド派手な砲撃ネー! 提督もそう思うでショ?」

「戦艦は火力が段違いだからな。一撃で戦局をひっくり返せる」

「流石、提督わかってるネ! これからも私の活躍をしっかり見てなきゃダメだヨー!」

 金剛は提督の顔を自分に向けるとジッと提督を見つめた。見つめた提督の瞳に自分の顔が映る。

 それは逆も同じ。

 二人の顔の距離はそれほどまでに近い。

  
「ふん……そうは言うが肝心の華は添えられたのか? 今日は随分と外してた気がするぞ」 

「なっ!? 利根、提督の前で私に恥をかかせる作戦ネ!?」

「いやいや、吾輩は今日の出撃について冷静に分析してみただけじゃが」

 挑発するように笑みを浮かべる利根を見て、金剛は不敵に笑う。

「OK……そのFight買ったヨ!」

「艤装のないお主など吾輩の敵ではないのじゃ!」

 金剛と利根は相手を掴みながら、ほっぺたを引っ張り合う。

 二人のキャットファイトが始まると卯月は「二人とも頑張るぴょん!」と応援を始めて、飛龍は苦笑いをしながら見つめていた。



「なんだぁ、またやってんのか? 金剛と利根のやつ」

「天龍……ああ、相変わらずだよ」

 眼帯をした艦娘――天龍がやって来ると提督は金剛と利根の方を顎で指した。

 天龍はヤレヤレといった様子でため息をつく。

「……ったく、ついさっき出撃してきたと思えないくらいの元気だな」

「元気なのはいいことさ」

「他人事みたいに言うなよな。あの喧嘩の原因は提督なんだからよ」

「ハハハ、違いない。でも、あの間に俺が入ったら余計に酷くなるぞ。ここは事態を静観して嵐が過ぎるのを待つとしよう」

「ムカつくけど的確な判断だな」

 おどける提督に天龍はクックッと笑う。提督も釣られて小さく笑った。 

「それで提督、オレにお褒めの言葉はなしかい?」

「さて、どうだったかな……」

 提督は顎に手を当てて考える。天龍はそれをどこか楽しそうな顔で見ていた。

 提督のそれがあくまで「間」を取るためのポーズでしかないことを天龍は知っている。

 褒めるべき点は、指揮をしていたのだから既に分かっているという話だ。

「天龍は勇ましく先陣を切ってくれたな。皆を引っ張ってくれて頼もしいよ」

「まあな。ほら、俺ってこんな言葉使いだろ? だからあいつら引っ張るのが仕事だと思うんだよ。気持ちを、ガーッと盛り上げるっていうかさ」

「戦意は大事だ。気持ちで負けたら、そのままズルズルだからな。そこを理解している天龍は頼りになる」

「……」

「これからも期待しているぞ、天龍」

「はっ! 一層に奮起いたします!」

 提督がそれまでの砕けた態度とは一転、毅然とした態度で言うと天龍はピシッと敬礼をした。

 天龍のキレのある敬礼に提督は力強くに頷くと

「気合が入りすぎだ。もっと肩の力を抜いてくれ。それじゃあ、あそこの二人のこと言えないぞ」

 態度を再び砕けた『いつもの提督』に戻した。

「……そうやっていきなり風向き変えんなよ」

 からかわれた天龍はそっぽを向いた。よく見ると髪の間から出た耳が赤くなっている。 

「ほら、もう俺はいいだろ。旗艦のお姫様が待ってるんだ。行ってやれよ。今なら役得が拝めるぜ」

「役得?」

 その意味が分からず提督は首を傾げる。

「行けば分かるって」

 天龍は悪戯っぽい笑みを浮かべて提督の肩を押した。


 提督が山城の元にたどり着くと山城は艤装の取り外し作業をしているところだった。

 中破した山城の艤装は無惨なもので砲身はへし曲がり、所々が焼き焦げてる。

 もっとも弾薬に引火して爆発するという最悪の事態は避けれているようだ。

 山城は艤装を外そうとしているが、もぞもぞと動いているだけで肝心の艤装が外れない。

「何かあったのか、山城?」

 気になった提督は後ろから声をかける。

「ああ、もう! 被弾で艤装が歪んで上手く外せないなんて……不幸だわ」

 聞こえていないのか山城は苛立たしげに呟くだけだった。

 提督は近くの整備班を呼ぼうと辺りを見回す。

 だが誰もが忙しそうでとても山城のフォローに入れるという状態ではなさそうだ。

「仕方ないな……」

 整備班ほどの専門知識はないが基礎程度は叩き込まれてる。多少の手助けは出来るだろう。

 提督は近くに落ちていた厚手の手袋をはめると山城の艤装に触れた。

 ズッシリとした鉄の感触と艤装の持つ熱が布越しでも十分に伝わってくる。

「……誰っ!? なんだ、提督か」

「手こずってるみたいだな。手伝うぞ」

「あ、ありがとうございます。提督、すみませんが艤装を固定しててくれますか?」

「分かった。ワイヤーを使って……」

 提督は艤装に鉄のロープを巻きつかせて固定する。

「いいぞ、山城。押さえつけた」

「分かりました。そ……れっ!」

 山城は体に力を入れて動かす。ギリギリとワイヤーが鳴る音がすると山城の体は艤装と離れた。


「大丈夫か、山城…………」

 提督が山城を気遣い、駆け寄ると言葉を失った。

 巨大な艤装の影で隠れて見えなかったが、山城の服は敵の攻撃を受けてボロボロに破れ、半裸同然の姿になっていた。

 陶磁器のように白い肢体が惜しげもなく晒されている。

 天龍の言っていた役得とはこういうことなのだろう。

 提督はおもわず山城の裸身に釘付けになった。

「提督?」

 山城は振り返り、提督のことを見る。

「…………」

 無言で注がれる熱い視線に山城は今の自分の状況を把握した。

「やだ……ダメ! 見ないでください!」

 山城は顔を真っ赤にして抗議した。

「あ、いや……すまん!」

 提督は謝りながら顔を逸らすが、横目でチラチラと山城の体を見つめる。

 艶やかな黒髪。白く細い首からなだらかな肩へのラインは細身ながらもしっかりとした筋肉を秘めた上腕へと続いていた。
 
 艦娘がただ美しいだけではなく、戦うために存在するということを思い出させる体つきだ。

 二の腕から手の甲、指先へと続く線は優美で女性美が主張されている。

 破けた赤いスカートからは引き締まった臀部が見えた。

「チラチラ覗かないでください! バレてますよ!」

「分かったわかった。山城、これを使え」
 
 提督はおもむろに上着を脱いで、それを山城の前に突き出した。

「ふへ?」

 提督の不意の行動に山城は意図が分からずキョトンと首をかしげた。

 提督は山城に自分の上着をそっとかける。男モノの軍服は山城の上半身をすっぽり収めた。

「あ……」

「これで少しはマシになるだろ?」

「…………」

 耳元で囁かれると山城は借りてきた猫のように大人しくなり、無言で小さく頷いた。

「後で今日の出撃に関する反省会を行う。それまでに着替えておいてくれ。上着はその時までに返してくれればいい」

 自分のしたことに気恥ずかしさを覚えた提督は、それだけ言って早々に立ち去っていく。

「こんな汗臭い服を羽織るなんて……不幸だわ」

 山城は自分の体をつつむ服をそっと抱きしめていた。


 Fin

>>41を書くために>>40みたいな状況になってしまった
まあ、>>40は別で書いていく、>>39
>>38は間違いなく長くなるから後回しやな、すまーん

 お昼の鎮守府。

 午前のお仕事が終わり、頑張って働いた皆がゆっくりとご飯を食べて過ごす憩いの時間。

 私、実はこの時間が好き。

 出撃した時って艦の上の生活に切り替わるわけじゃない? 

 そうなると周りの青い海全部が深海棲艦のテリトリー。静かで穏やかな――天国と思える場所が一瞬で、硝煙とオイルと沈めた敵の血肉で満ちた――地獄に変わる戦場に身を置くの。

 たった1隻の艦と乗員が生き残るためには、常に敵を警戒していないといけない。

 緊張状態の中で食べるご飯なんて喉を通りづらいし、食べても味なんてほとんど分からない。

 だから、こうして鎮守府で敵のことを気にせず過ごせる何気ない時間ってスゴく貴重だと思う。 

 …………不幸なことだけど戦いに身を置いている以上、万が一だってあるわけだし。

 ああ、ダメダメ。こういうことは考えちゃダメよ。

 提督だって言ってたじゃない。最悪の事態は、それが見える位に近くにやって来たら考えればいい、って。

 それもそうよね。来るかも分からない未来に怯えるのも変な話だし。

 頭さっさと切り替えないと……そうそう、今は楽しいお昼の時間。

 私は手元にある扶桑姉さまが作ってくれた赤い扶桑の花が刺繍された白い包みをジッと見る。

 包みの中にはお弁当。

 少しだけ早起きして作った、一人で食べるには多い、あの人が好きな肉じゃがが入っている――そんなお弁当。 

 今日の肉じゃがはいつもと一味違う。

 比叡さんのカレー改(アタリ)を参考にして、肉じゃがをカレー風味にしてみたわ。

 いつもと同じ味付けだとあの人も飽きちゃうだろうし、メリハリは重要よね!


 あの人はまだ執務室にいるのかしら? 

 少しだけ足早になる自分に驚きながら執務室に向かっていると後ろからバタバタとうるさい音がしてきた。

 もう騒がしいわね、何なのよ。折角の気分が……不幸だわ。

「ちょ、ちょっと待ってくれ~~~~!!!!」

 廊下に響いたのはあの人――提督の情けない声だ。

 提督は白い軍帽を片手で抑えながら何かから逃げるようにすごい勢いで廊下を走っている。

 その後ろで提督に負けないスピードで艦娘のみんなが追いかけていた。

「提督、lunchの時間だヨ! 一緒に食べようヨー!」

「榛名と食べましょう! それが提督の任務です!」

「司令、美味しいところ見つけたの! 食べに行こう!」

「提督、栄養バランスを考慮した大鳳のスペシャルランチはどうですか!」

「今日の玉子焼きは自信作なの! 絶対に食べてもらうんだから!」

「提督の好きなメニューのデータを全て把握している私が作ったお弁当に死角はないわよ!」

 はぁ、またやってるわ……

 私はおもわず頭を抱えた。

 提督を追いかけているのは、金剛さん、榛名さん、酒勾さん、大鳳さん、瑞鳳さん、夕張さん。

 この時間になると大抵、あの人たちが提督とお昼を食べようと誘ってくるのよね。

 ………………………………。

 まったく……みんな、そんなに提督とお昼ご飯が食べたいものなの?
 
 お昼ご飯なんてたった3、40分じゃない。そんな短い時間一緒にいるからってどうなのかしら。

 無意味よ、無意味。だからさっさと辞めるべき。

 私だったら間違いなく提督じゃなくて扶桑姉さまとお昼を共にするわ。

 そうよ、戦いで活躍するのは私たち艦娘。

 だから艦娘同士が相互理解を深めて、実戦での連携をより強化するために艦娘同士で食事をとるべきね。

 ま、まあ、私は秘書艦として提督の側にいなくちゃいけないから提督と一緒に食べなくちゃいけないけど。

 ……って、なにバカなこと考えているのかしら、私。

 提督を追いかけるみんなの目、とってもキラキラしてる。

 迷いがないっていうか、全力っていうか。

 私には無いものを持っていて、本当はすごく羨ましい。

 

とりあえずここまでね

 私、臆病なのよね。みんなみたいにグイグイ攻めれない。大胆になれない。

 どうしても気後れしちゃう。

 あー! だから、こういうのがダメなのよ。

「うわああああああああっ! だ、誰かああああああ!」

 視線の先で情けない叫びを上げながら走る提督の姿が大きくなってくる。

 みんなに追いかけられている提督――なんか腹が立つわね。

 いっそお昼休みの間中追われて走る不幸を体験すればいい、なんて考えちゃう。ヤキモチよね、これ。

「あっ…」

「!?」

 すると私と提督の目があった。提督は明らかに視線を送る。

 頼む、山城! そんな風に訴えている感じだ。

 助けるか。それとも無視するか。

 一瞬、助けようか悩んだ。だって提督、ハッキリ断ってくれないんだもの。

 俺には山城がいるからダメだ!くらいに言ってくれたら私だってもっと…………まあ、提督にも立場があるから難しいんだろうけど。

 このまま無視するのは簡単だけど、それで提督が誰かとお昼を一緒にするのは面白くない。

 イヤよ。私以外でなんて。

 もう……こんな手間のかかる人が私の提督なんて不幸だわ。

「はい、皆さんストップです」   

 私は提督と艦娘のみんなの間に無理やり割り込んだ。障害なんて物ともしないみんなだけど、流石に同じ仲間である私を前にしたら足を止めた。

 これ以上走らなくて済んで安心したのか、提督は私の後ろで安堵のため息を漏らしていた。全く人の気も知らないで。

 っていうか、提督、微妙に私と距離遠くないかしら!? いつでも逃げれるようにちゃっかり距離とってるわね。

 盾がわりなんてやっぱり私って不幸だわ。

「提督」

 振り返って、口だけを動かして「あ・わ・せ・て」の合図。提督は一瞬不思議そうな顔をしたけど直ぐに察して真面目な顔つきをした。

「どうした?」
 
「大本営より通達文が。直ぐに目を通すようにと」

 こういう時、秘書艦の立場って便利よね。有りもしないことでも、いかにもな事としてでっち上げられる。

「そ、そうか……分かった」

 提督も私の嘘を嘘だと分かっているからか、顎と軍帽の鍔を引いて笑ってる顔を隠した。

 慣れてないことを……とか思ってるのかしら。

「そういう訳だから皆すまない。お昼はまた今度だ。行くぞ、山城」

「はい、提督」

 踵を返して執務室の方へ歩いていく提督の後を追う。後ろの方からはブーイング混ざりの声がいくつか聞こえていた。
 
 また今度、か。そういう期待をせるようなことホントは言って欲しくない。

 提督にとって何気ない一言でも私たちにとっては次への頑張りに繋がってしまうんですよ。

 これ以上ライバルを手強くさせないでほしいのに。
 
「Hey! 山城! 今日は譲ってあげるネ。でも今だけだヨー! 提督、I love you!」

「…………」

 特に金剛さんは。私が欲しいものを持ってる一番羨ましい人だから余計に。


 執務室に入ると提督は軍帽を脱いで軽く首をひねって骨を鳴らした。

「助かったよ、山城。あのまま鎮守府中をマラソンするのは嫌だったからな」

「あまり余計な世話を焼かせないでくださいね。秘書艦は提督の小間使いというわけではないんですよ」

「分かってるって」

「大体、誘いを断ればいいじゃないですか。そしたら走ることもなくなると思いますよ?」 

「可愛い女の子の好意ってのは無碍に出来ないものさ」

 提督は私の悪態を聞きながら机の近くに置いたカバンから弁当包みを取り出した。

 流されたような気がして少しカチンときた。

「顔ですか?」

「それもある。男だしな。まして、ぶつけてきてこっちの心を響かせてくる娘なら尚の事」 

「風見鶏……」思わず口から言葉が漏れた。

「言ってくれるなあ」

「否定はしてくれないんですね」

「間違ってはいないからな。ほら、昼にするぞ」

 それが当然のことのように提督は私に席を座るように促した。

 最初から私と食べるつもりだったってこと? 何よ、ちゃんと分かってるじゃない。

 だったら何で最初から皆の誘いを……時々この人が分からなくなる。

 扶桑姉さまの編んだ包みを開いて、大きめのお弁当箱を並べていく。

「あれ? 提督、ご飯だけですか?」

 提督が開けたお弁当箱には白いご飯が四隅きっちりと詰まっていた。ゴマ塩すらかかっていない一面真っ白なお弁当。

 ……………………提督、頭が不幸な人なのかしら。
 
「俺におかずは必要ない」

 キッパリと言い切った提督は箸を私のお弁当箱の中にあるカレー風味の肉じゃがに伸ばした。

「山城が作ってきてくれるからな。うん……美味い。流石だよ」

 満面の笑みで私が作ってきた肉じゃがを頬張る。……本当に分からない人ね。

 でも提督が私の作ってきた料理に満足してくれてるっていうは分かるわ。そういうの嘘つけない人だし。 

 提督が私のことを本当はどう思っているのかは分からないけど……いや、分からないからしっかりと頑張らないと。

 今はリードはしていても、本当の本当の本当に最後――全てが終わった時にこの人の隣に私がいるかは分からない。

 だから皆みたいに、とは言えないけど私も少し大胆に攻めてリードとらないと!

 自分の箸で肉じゃがを摘むと、提督の前に差し出す。

「て、提督……あ、あ~ん」 
 
 うぅううううぅうっああああああっ! 恥ずかしい……顔が熱い。真っ赤になってるの自分でも分かる。


「山城、お前……」

「こ、好意は無碍に出来ない。ましてぶつけてくる相手なら尚の事。そうですよね?」

「ああ、もちろんだ」

 提督は全てを察したように優しげに笑うと肉じゃがを食べた。

 何だか弄ばれるようで不幸だわ。でも、やっぱり嬉しいのよね。

 私って単純ね、不幸だわ……ふふっ。


 fin

>>39行くけど、ここ読んでる人は形式どーしてほしい?
最初の方みたいにセリフだけか、地の文つきか
セリフだけの方が間違いなく早く投下できるけど

目に付きやすいように一応ageとくわ

「あ゛あ゛ぁ~~潮風が気持ちいい。やっぱり演習は中に引きこもるより外だよなぁ。酒を飲む時と同じだ」

 普段、座学を寝ている隼鷹さんも実技の日は起きているのよね。まあ、体を動かすわけだから起きざるを得ないとも言うけど。 

 その隣で響が小さな鼻をつまんでいる。

「隼鷹、酒臭いよ。昼間飲んだでしょ?」

「分かってないねえ、響。艤装も、それを扱うあたしらの体も火が入ってなきゃ、まともに動かねえだろ? 体を温めるためにも酒は必要なんだ。あたしは演習でいい結果を残すために酒を飲んだんだ」

「お酒と燃料は同じじゃないと思うけど……」

「んなことはどうでもいいんだよ。なあ、ところで響ぃ~~今度ウォッカ持ってきてくれよ。この間お前が受け取った、えと何だっけ、ビール何とかっていう新艤装」

「Верный(ヴェールヌイ)だ。なんでもお酒と絡めないでほしいな」

「そうそう、そのビールヌイ」

「…………」

「それ、ウォッカで有名な国で作られたんだろ? 調整はお前が提督と一緒に行ってやったみたいだし。だったら、その時の縁で向こうの技術班から餞別か何かでもらってるはずだ!」

「貰ってないよ。私は酒を飲まないからね。大体、仮に貰っていてもあげないよ」

「ちっ、仕方ない。自前の酒で我慢するか……ングッ」

 隼鷹さんは上着の内ポケットからシルバーのボトルを取り出すとそれに口をつけた。

 響は呆れた顔をする。あの顔、多分隼鷹さんのボトルの中身はお酒ね。

「まだ飲むの? いい加減体に悪いよ」

「酒は百薬の長だ。それにあたしの体に何かあっても、海に戻せばいい」

「良いわけないだろ。綺麗な海を汚すなんて許さないよ」

「固い女だねえ……うっ!?」

 突然、隼鷹さんが口を抑えた。お酒が入って赤らんでいた顔が見るみる青ざめていく。寒さに耐えるように体は小さく震えていた。

「どうしたの?」

 それまで呆れていた響も異変を感じて流石に心配そうな顔で隼鷹さんの顔を覗き込んだ。

 でも、まあ……想像つくわよね。

「やべえ……戻しそう」

「ええ!? そんないきなり、ああ、もう! だから言ったのに! っていうか昼間にどれだけ飲んだの!? 何かエチケット袋は」

 隼鷹さんのカミングアウトに響は驚いて、キョロキョロと辺りを見回しながら隼鷹さんの胃の中の捌け口をさがす。

 でも、ここは海。周りには海水しかない蒼い大地。当然、エチケット袋なんて都合の良いものはあるわけもない。

「…………じぃ~~」

 すると隼鷹さんは響のある一点を見つめていた。響は視線に気づくと隼鷹さんが見ているものに気づいた。

 それは響の頭にあるものだった。

「ねえ、隼鷹……どうして私の帽子を見てるのかな?」

 響は冷や汗をかきながらゆっくりと後ろに下がる。それを追うように今にも戻しそうな隼鷹さんは震える手を、響の真っ白な帽子に伸ばした。

「なあ……いいだろう、響?」

「嫌だからね! 絶対に嫌だからね!」

 隼鷹さんの真意を読み取った響は両手でしっかり帽子を守る。

「だ、大丈夫だ。きちんと洗って返すからさあ」

「そういう問題じゃない! ほら、鎮守府までそんなに遠くないんだから我慢してよ。ついて行ってあげるから」

「……す、すまねえ。うぷっ」

 隼鷹さんは自分より小さな響の肩を借りながら、鎮守府の方角へと進んでいった。 

 響、介護係なんて……あなた不幸ね。

やべ、響だから帽子は白じゃなくて黒だ
スマン

 演習が始まると艦娘たちは自分たちの練度の向上を目指して、演習に励む。
 
 そんな中、私は足につけた簡易的な艤装で海に浮かんでいるだけだった。

 誤解が無いように言っておくと別にサボっているわけじゃないのよ? この間の出撃で破損した艤装の修復がまだ完全に終わっていないの。

 おかげで今の私は艦隊不参加(ドッグ入り)。出撃はおろか演習にすらまともに参加することも出来なくて他の艦娘の演習の様子を見学することしか出来ない。

 艦隊の中心である旗艦がドッグ入り……不幸だわ。冗談にもならない。

 それもこれもこの間の出撃のせいよ。本当にあの時は不幸だったわ。艤装はボロボロ。おまけに提督に肌を見られるなんて。

 まあ、代わりに提督の上着を貸してもらえたから全部が全部不幸ってわけではなかったのよね。

 少し汗臭い男の人の――提督の匂いを感じられたから。

 まるで提督に後ろから抱きしめてもらっているみたいで………………臭いのに甘い幻惑…………触れる唇…………重なる体………………って、キャー! こんな時に何を考えているのよ、私は!?

 頭の中で描いていた他の人には絶対に見せられない恥ずかしい映像を急いで消して、真っ赤になっていた顔を両手で隠して、辺りを見回す。

 良かった、誰も気づいていない。不幸は未然に避けれたようね。

「いいか! 大体の狙いは艤装がフォローしてくれるが微調整と撃つタイミングはお前たち自身だ! それをしくじれば当てれる弾も明後日の方向に飛んでくぞ!」

 遠くから聞こえる声の方を見ると男言葉で指導に当たる本日の演習担当教官(艦)である木曽さんがいた。天龍さんと同じで眼帯の目立つ人だ。

 木曽さんは整列している艦娘たち――駆逐艦の砲撃の指導をしているみたい。

 駆逐艦の娘たちは横に並んで、各自構えをとって遠くにある無数のダミーを狙って砲撃をしている。

「おいっ! 望月、しっかり構えろ!」

 木曽さんは砲撃の音にも負けない声で眼鏡をかけた一人の駆逐艦、望月を叱咤した。

「あーい」

 ダルそうに返すと艤装をゆっくりと構える望月は。他の駆逐艦が次々と砲撃を行う中、望月はあくまで自分のペースで動いていた。

 木曽さんは何か言いたそうな顔をしていたけど黙って見ていた。

 望月の艤装の砲塔の遠く先を見てみるとダミーが動いている。

 確か……あの形のダミーは他のより動きが速かったはずね。ダミーには演習用のペイント弾が当たってないからか色がついてない。

 頑張って当てようとしている娘もいるけど、ダミーの速さに焦って射線がずれたりして弾がダミーの横を通り過ぎている。

 望月、木曽さんを前にしてあれを狙うなんて大胆ね。見栄をきって外したら叱咤だけじゃ済まないわよ? 間違いなく拳骨は来ると思うわ。

「射線は……この辺かなぁ。いよっと!」

 眼鏡の奥で目を細めて当たりをつけた望月がトリガーを引いた瞬間、砲撃音が鳴り響いた。

 数瞬後、高速で動くダミーにベチャッと何かくっついた音がする。演習用のペイント弾が着弾した音だ。

 周りの駆逐艦たちが信じられないものを見るような目で呆然とダミーを見つめていた。

「おぉー、いいねぇ」

 自分の成果を見て満足した望月は、構えを解いて体をほぐすように少し動かした。直後、駆逐艦たちから歓声が湧く。

「やるじゃないか、この怠け者め」

 それまで厳しい顔をしていた木曽さんは顔を綻ばせると望月の頭をクシャクシャと撫でた。

 望月はくすぐったそうに片目をつむるけど頭の上に置かれる手を払わないで受け入れていた。

「外すとまた狙ったりしなきゃいけなくて面倒くさいから。どうせなら1発で決めたいし」

「全くやる気のない駆逐艦だ。実力はある癖に……な。一緒に出た時は今みたいにしっかり頼むぞ?」

「あい……」

 望月は少し照れながら頷いていた。

 木曽さんって厳しい所もあるけど根は優しいから慕われているのよね。


「失礼します」

「おかえり、山城」
 
 午後の演習を終えて執務室に戻ると机での書類作業をしていた提督は一旦、手を止めて笑顔で迎えてくれた。

「疲れただろう。今なにか用意する」

「それ、艦隊不参加(ドッグ入り)している私への嫌味ですか?」

「見学だって必要なことさ。さっ、座って待っててくれ」

 ソファーに腰をかける私を見た提督は、最近執務室に入れた新品の茶色い棚から二人分のカップ(お揃い)と四角い金属の缶を取り出して、テーブルに置く。

 テーブルの脇には既にカップと同じデザインの白いポッドが用意してあった。演習が終わって、私が帰ってくる時間は大体決まっているから蒸らす時間も考慮して事前に用意していたんでしょうね。

 マメな人。そんな気遣いなんて別にしなくていいのに。私は提督と一緒にいる時間が大事であってお茶の味の善し悪しなんてそこまで。

 でも逆の立場だったら私、提督みたいなことしているんだろうな。不思議よね、自分が「される」側だと気にしないのに「する」側だと気にしちゃうって。

いい所見せたいってことよね。それが好きな相手なら尚更……つまり、つまりよ、提督は私のことを…………

「どうした山城、顔が赤いぞ?」

「な、なんでもありません!」

「? ……そうか」

 提督がポッドからカップへ紅茶を注ぐと白い湯気と一緒にリーフのいい香りが立つ。続けて缶のフタを開けると中にはクッキーが入っていた。

 ふと思い出す。この紅茶とクッキーは前に金剛さんが提督に持ってきてくれたやつだ。しかも恋文付きで!

 あの人はホントに油断も隙もないから苦労するわ。

 提督は金剛さんに返事を書いたのかしら。以前どうしたのかって聞いたら提督は笑って「読んだよ」としか言わなかった。

 ……なんか提督と金剛さんって怪しいのよね。どこがと聞かれると答えにくいんだけど私を含めた他の提督を慕っている艦娘とは少し違った繋がりがあるような気がする。

 紅茶を飲みながらチラッと提督の顔を見る。ヘニャとした柔らかい感じの顔で紅茶とクッキーを美味い美味いと言って堪能している。

 素なのか、それとも演技なのか。ああいう振舞いのせいで読みづらいのよね。多分、金剛さんとのことを聞いても簡単には聞き出せないんだろうなあ。

「演習はどうだった? 見学していた以上誰かを見ていたんだろう?」

「そうですね。今日は望月が凄かったです」

「望月、あいつが?」

 興味を持ったのかクッキー缶に手を伸ばした提督の手が止まった。

「はい。高速で動くダミーに砲撃を正確に命中させていました」

「雷撃演習は?」

「同様に。詳細と全体の練度に関しては後から木曾さんが提出する演習日誌を読んでください」

「そうか……ここ最近の演習日誌を読む限り望月は調子が良いみたいだし直接見てみたいな。山城、一週間後の演習担当教艦は?」

「赤城さんですね」

 私はすぐさま頭の中に暗記してある予定表を開いて確認すると提督の質問に正確に答えた。これも秘書艦の勤めよね。

「なら後で会った時にでも言っておいてくれ。演習のメニューに紅白戦を入れるように、と」

「分かりました」

 紅白戦か。文字通り紅と白二つに分かれて擬似艦隊を組んでの模擬戦。提督が注目するのは望月だろうけど他の艦娘のことも当然見るわけだから皆さん気合入るんだろうな。

 一週間後だったら艤装も修理し終わっているだろうし私も頑張らないといけないわね。

「しかし一週間後ですか。けっこう先ですね」

「そうか?」

「はい。提督のことですから直ぐに見たいと言って明日にでもすると思いましたから」

「そうしたいが用事が出来てな。しばらくここを空けることになった」

「え?」

 ここを空ける? 鎮守府にいないってこと? 提督が?

 突然のことに飲んでいる紅茶のほんのり苦い味も忘れてしまった。

「どういうことでしょうか?」

 動揺している自分を隠して聞いてみる。

「山城たちが演習中に大本営から一報来てな。緊急で会議があるそうだ」

「……」

 お昼の時に言った嘘が本当になるんて……不幸だわ。不幸すぎる。

「で、ですが! その間の出撃における指揮はどうするんですか!? 提督は艦隊を率いる司令塔なのですよ!」

 頭の隅では無理だと分かっていても、提督を引きとめようとしておもわず強い口調で抗議してしまう。

「そこは問題ない。うちには優秀な副長――先任がいるからな。指揮に関しては先任に任せるよ。ただ先任は熟考してしまうタイプで判断が遅い時があってね。それは致命的なミスに繋がることがある。だから予防線という意味で艦隊には必ず教艦に就いている艦娘を入れておく様に命令してある。彼女たちの下す素早い「現場の判断」は指揮をするこちらの判断よりも正しい時があるからな」

 抗議は私の強い口調とは真逆の淡々とした、指揮をしている時と同じ何処か冷たい声でアッサリと返された。

 バカよね、私。

深海棲艦から国と世界の海を守るため存在する数ある鎮守府の一つのトップに立っている程の――言わば国防の要でもある人が何も考えなしにここを離れるはずないじゃない。

「でしたら私も同行します。提督の秘書艦として!」

 みっともないと思いながら尚も私は食い下がった。それでも提督は静かに首を横に振った。

 なんだか提督に拒絶されているようで悔しさで唇を噛み締めてしまう。提督にそんなつもりは少しもないのに。

「いつ行かれるんですか?」

「明朝には出る」

「そうですか……」

 視線を落とすとカップに残っている紅茶に映る自分の顔はジト目であからさまに不満な顔をしていた。

 そんな私の顔を見た提督は苦笑して

「今日の夜は食事に出かけよう。明日の準備も兼ねて早く上がるつもりだからな」

 と優しい笑顔で誘ってきた。

 ああ、ズルい。その優しい顔と声はズルい。
 
 そんな大人な態度をされたら意地を張っている私が子供みたいでみっともないじゃない。

 恥ずかしくなって私は顔を逸らす。扶桑姉さまだったら大人っぽく余裕のある態度を見せることが出来るんだろうなあ。

「どうかな、山城? 今晩は空いているかい?」

「……美味しい店を期待しています」

「ああ、任せてくれ」

 私の子供っぽいわがままにも提督は笑顔で応えた。



山城改二おめでとう

 バンッ!

 その時、大きな音と一緒に執務室の扉が開いた。

「Hey! 提督! 話は聞かせてもらったネー!!」

「こ、金剛!?」

「はあ…………不幸だわ」

 どうしていい雰囲気なのに、こう沸い……出てくるのかしら。まさかタイミング狙ってた訳ないわよね?

「提督、私に黙って出張とは水臭いヨ」

「立ち聞きしていたな。そういうのは余り良くないぞ」

「Sorry。でも伝えてくれない提督も提督だネ。健やかなる時も病める時も。夫婦とは運命共同体なんだヨ! 大事なことはいの一番に伝えてくれないと」

 金剛さんは自然な動きで提督の手を包むように両手で掴んだ。

 何やってるんですか? 頭が不幸にでもなったんですか?

 そもそも金剛さんと提督は別に夫婦でも何でもないんだけど。

「それはすまなかった。妻を心配させてしまうとはな」

 おどけるような気障ったらしい口調で提督は空いた手の方を金剛さんの手に重ねる。

 提督も悪ノリしないでください! そういう態度が!

 でも手と手を取り合う二人の姿は悔しいけどすごく様になっている。

 自信なくしそう……不幸だわ。

「それで何の用だ。食事の誘いならまた今度にしてくれ。今晩は空いてないぞ。とても大事な用事があるからな」

「とても大事な用事……」

 金剛さんは私の方を見ると納得したような顔をする。

「I see。そういう事ネ」

「そういう事だ。こればかりはいくら金剛でもな」

「提督……」

「まあ、いいネ。所詮はリードがある『だけ』なんだから。私の用事はこれだヨ!」

 金剛さんは服の袖に手を入れると一枚の紙を取り出すとジャジャーン!なんて効果音がついていそうな勢いで提督に突きつけた。

 私と提督は顔を見合わせて、それを覗き込む。

 えと何なに……

「休暇嘆願書?」

 提督が紙の一番上に書かれた文字を読み上げると私の方に「聞いているか?」って視線で訴えてくる。

 私は首を横に振った。休暇嘆願書なんて聞いたこともないわよ。そもそもそんな書類あったかしら?

「これに提督の承諾をしてもらって私は提督と一緒に出張先に行くネー!」

「「はあ?」」

 おもわず提督と私の言葉が重なった。

 ドヤ顔って言うんだっけ? 金剛さんは名案とでも言いたげに自信に溢れた顔をしている。

「金剛さん、ぬ・す・み・聞きしていたなら分かるとおもいますけど艦娘の同行は許可されていません。ですよね、提督?」

「ああ、そうだ」

 確認を取ると提督は頷く。すると金剛さんはチチチと舌打ちしながら指を振る。

 な、なによ……その余裕な態度。

「提督が今回の出張で艦娘を連れて行けないのは会議の内容が艦娘を参加させられない、つまり聞かせられない程にsecretなものだからでショ?」

「金剛」

 提督が諌めるような厳しい目つきをするけど金剛さんはスルリとかわすように背を向ける。そっか。そういう考え方も出来るのね。

「ところで提督、出張先で泊まる所は決まってル?」

「いや、まだだ。向こうについてから適当に探すつもりだったからな」

「そこがkey pointだヨ!」

 金剛さんは振り返って提督と向き合うとビシッと指差した。

「提督が出張にいっている間に休暇をもらった私も提督と同じ場所に旅行へ行って、その間ふたりで同じ場所に泊まればいいネ!」

「な、なななななななっ!? 何を言ってるんですか金剛さん!」

「何って休暇を貰った私が提督の出張先に旅行して、そのついでに同じ場所に泊まるって言ってるんだヨ? 同行は禁止されていても『たまたま同じ場所で居合わせた』なら単なる偶然だから仕方ないネ」

「そんなのただの屁理屈です! そもそも偶然じゃなくて確信犯じゃないですか!」
 
「ネーネー、提督、部屋はどういう所にする? 和室それとも洋室? 私はやっぱり洋室がいいネ。それも二人部屋! 大きめのダブルサイズのベッドでサー、あっ、でも一人部屋の狭いベッドの上で身を寄せ合うのも悪くないネー!」

 聞きなさいよ!

「提督がお仕事を頑張っているときは部屋で大人しくしているからそれ以外の時間は全部ぜーーーーんぶ私に頂戴! その代わり私もバーニングLOVEを完全燃焼させるから!」

 ば、バーニングLOVEを完全燃焼って……ただでさえ押しの強い金剛さんなのよ?

 その金剛さんがこれ以上提督に攻めの姿勢をとるとしたら……その……アレよね…

『夜戦』

 頭の中でその二文字が派手で大きめなフォントで部屋に隠してある少し(少しよ?)過激な恋愛小説の1シーンが浮かび上がる。

 二人は真っ白な綺麗なベッドの上で互いを求め合って朝まで愛を囁きあうの。

「ダメダメ! 絶対にダメよ! 不幸だわ!」
 
 気づけば私はパニックになっていた。

 私はあ~ん、をするだけでもすごく緊張するのにそんなハードルをどんどん上げられたらどうすればいいのよ!?

「さあ、提督! この休暇嘆願書に提督の署名と印鑑をお願いネ!」

「…………まったく」

 提督は少し呆れたような顔をして休暇嘆願書に手を伸ばす。
 
 ああ……もうダメね、不幸だわ。今まで沢山の不幸を経験してきたけどこれは桁違い。

 不幸に絶望して目の前が真っ暗になった時。

 ピシッ! 何かが弾かれる音がした。

「Ouch!」

 金剛さんが悲鳴をあげて、おでこを抑えていた。少し赤くなってる。提督が金剛さんのおでこにデコピンしたみたい。

「どう考えたってダメに決まっているだろ」

「ガーーーーーーン!」

 ショックを受けた金剛さんの手から休暇嘆願書が枯れ木の最後の一葉みたいにひらりはらりと虚しく舞い落ちる。

 ふぅ~~~~。私は心の中で安堵のため息をついた。

 これぞ不幸中の幸いね……最悪の事態は避けれそう。


「提督! どうしてですカー!」

「優秀な戦艦をみすみす艦隊から外せるか。強い奴は活躍しなくちゃいけないんだ」

「むぅー!!」

 まだ納得のいかないのか頬を膨らませる金剛さん。すると提督は金剛さんの赤くなったおでこを優しく撫でる。

「あ……」

「俺の代わりに皆を守ってくれ」

 私に向けた時と同じ優しい笑顔をする提督。その笑顔は私だけのものなのに……不幸だわ。

 金剛さんは頬を弾かれたおでこと同じくらい赤くさせると顔を逸らした。

「ズルい。そんな風に頼まれたら応えるしかないヨ……」

「提督として艦隊の指揮を取っているからな。相手を誘い込んだり、追い詰めたり、距離を取ったり。相手より優位に立つ。そういうズルい立ち回りは得意なんだ」

「フフッ……私はしてやられたって訳ネ。怖い人だヨ」

 軽口を交わす金剛さんは、これ以上はダメだと悟ったのか踵を返して執務室を出て行く。

 扉を閉めようとする瞬間もう一度だけ提督の方を向いて「See you again」と言いながら可愛らしくウインクした。

 金剛さんがいなくなると執務室は台風が去った後みたいに静かになった。

「何とか凌げたか。本当にあのバイタリティは脱帽ものだな」

「はい……何度も不幸にさせられます」

 だからこそ絶対に負けられない。

「さあ、仕事に戻ろう。山城、手伝ってくれ」

 提督は床に落ちた休暇嘆願書を拾い上げると私に手渡すと自分の机へ戻ろうとする。

 改めて私はそれをマジマジと見つめる。何よ、これ……金剛さんの字じゃない。お手製ってこと?
 
 道理で見覚えがないはずね。こんなの受理されるはずないじゃない。

 受理されるはずが…………

「山城?」

「提督……これお願いします!」

 ダメで元々……でも、もしかしたら私なら! 艤装も修理中だからイケるかも!

そんな微かな期待をしながら私は金剛さんが落とした休暇嘆願書を見せてみる。

 提督の返答は

「……」

 しばらく無言の後に

 ピシッ!

「あうっ!?」

 デコピンだった。痛い、不幸だわ……


山城にね「あうっ!?」を言わせたかっただけなんだ……
そしてまったく出張にいけない提督……早く山城を寂しがらせないと

 提督が仕事に戻り、私もその手伝いを始めて数時間……

執務室の窓から差し込む夕日で部屋全体を橙色に染めあげる頃になると提督は懐から時計を取り出して時間を確認した。

「よし……山城、上がるぞ」

 パチンと時計の蓋が閉じて提督は今日の執務の終了を私に告げた。いつもより二時間ほど早い。

「はい、分かりました」

 整理を頼まれた書類の四隅を揃えてファイリングして棚に戻す。

 この後は提督と食事。それを考えると期待で胸がドキドキしてしまう。

二人だけで執務室っていう小さな箱みたいな空間で静かに仕事をするっていうのも好きだけど、やっぱり一緒に楽しく喋ったり食事したり楽しく過ごせるのが一番いいわ。

「あら、提督……それに山城も」

「姉さま!」

 執務室を出て、二人で廊下を歩いていると向こうから扶桑姉さまがやって来た。

「提督、本日の執務は終わりなのですか?」

「ああ。これから山城と食事にな」

「そうですか。山城のことお願いしますね」

 姉さまは目を細めて、信頼している――でも、どこかプレッシャーのある笑顔を提督に向けてくる。

うぅ……姉さま、私のことを心配してくださっているのですね。 

姉さまが私の姉さまで本当に良かった。山城は感激です!

「任せてくれ。女性のエスコートは男の義務だ。恥はかかせない」

「まあ……フフッ」

 提督が相変わらずの気障なセリフを自信満々に吐くと、姉さまは少し驚いた顔をした後に手を口元にやりながら小さく笑った。

「やはり提督なら安心ですね。山城、楽しんできなさい」

「はい! 姉さま!」

 優しい笑顔を向けてくれる姉さまに私は力の限り応える。

「提督に恥を欠かせてはダメよ?」

「は、はい…姉さま……」

 姉さまの顔がついさっき提督にしたものと同じものに変わった。プレッシャーかけないで、姉さま……


 鎮守府の外に出ると提督が既に呼んでいたのか車が1台止まっていた。

 後部座席に並んで座ると提督は運転手に行き先だけを手短に伝えた。

 街中を走り、車がたどり着いた場所は服屋の前だった。

 あれ? 私たち今から食事に行くのよね?

「まずはお色直しだ」

 提督は私の疑問に答えるように言うと車から降りた。

「わあ」

 提督についていく様に中に入った私はおもわず小さく声をあげた。

 店内には色鮮やかなドレスがいくつも並んでいた。

 中を一歩一歩進む毎にあちこちに飾られている美しい光沢を放つドレスに目をやってしまう。

 同じ色でもデザインが違ったりして見ていてちっとも飽きない。一着ずつじっくり見たいくらい。

まるで服の花畑に来たような気分になった。
 
 でも、その華やかな雰囲気になんだか自分がひどく場違いな気もした。

 私って普段から不幸だって嘆いているから湿っぽくて暗い女でしょ?

 姉さまなら似合いそうなこの美しい花畑も私がいたらズーンと花たちが萎れてしまいそう。
 
 不幸だわ……

「なるほど。あの娘が……」

「まあね。山城には赤か白で頼むよ。着ているもので分かるけどあいつにはその二色がとても似合う」

「かしこまりました。それにしても」

「うん?」

「いえ、あなたのお母さま――奥さまも若い頃には赤や白の服をよくお召になっておりましたので……旦那さまはそんな奥様を大変気に入っておられました」

「へえ……そうなんだ」

「女性の好み、旦那さまに似たのでしょうか?」

「どうだろう。顔立ちは似てきたって言われるけど」

 私が勝手に落ち込んでいる脇で提督はメガネをかけた初老の女性の店員と親しげに喋っているみたいだけど内容までは聞こえない。

「山城、気に入ったのはあるか?」

「えと、その……どれも私には勿体無いくらい素敵だからよく分からなくて」

「そういう時はプロの意見を聞くのが一番だ。頼んだよ」

「はい」

 初老の店員さん――おばさまは示し合わせた様に朗らかに応えると掛けられているドレスを二着、私の前に持ってきた。

 先に見せてもらったのは鮮やかな赤いドレスだった。

 深紅というより朱色な――ちょうど私や姉さまのスカートと同じ色の、扶桑姉さまと同じ名前をもつ花と同じ色のドレス。

 とても情熱的な色。扶桑の花は南国の花だっけ。なら納得ね。

 次におばさまが見せてくれたのは、赤いドレスとは対照的で落ち着いた感じのある白いドレスだった。

 雪のように白い生地には薄い桃色がさしていて可愛らしさがある。

 そういえば白い扶桑の花びらの端はピンク色になっていたわよね。偶然かしら?
 

 私は悩んだ。どっちもすごく魅力的じゃない。

 赤いドレスで大胆にいくか白いドレスで清楚でいくか。

 私のキャラクターを考えると白い方が合っているような気がする。

 赤なんて背伸びしなくてもいいと思うのよ? やっぱりこういうのは自分の身の丈にあったものを選ぶべきよね。

 …………まあ、この発想は守りというか逃げなのは分かってる。

 そりゃあ私だってこんな素敵な赤いドレスを着て、提督の視線を釘付けにしたいわよ? 

 赤って目立つし男の人をこ、興奮させる効果があるって聞いたことあるし。

 でも、こんな大人っぽいドレスが私に似合うのかしらって臆病になってしまう自分が出てきてしまう。

 私自身恥はかきたくないし、姉さまに言われたように提督にも恥をかかせたくない。

 攻めろ! 攻めるのよ!と私を鼓舞してくる私と、ここは手堅く!と諌めてくる私。

 心の中で二人の私がぶつかり合って巻き起こる葛藤の嵐。

 不幸だわ……私はどうすればいいの!?

 神さま仏さま、そしてそれ以上に尊い姉さまどうか私を導いてください!

 すると祈りが天に通じたかは分からないけど頭の中で姉さまが私にかけてくれた言葉が聞こえてきた。

「山城、楽しんできなさい」

 ……そうよね、折角の機会だもの。こういう時こそ冒険しないと。

 ありがとう姉さま。

「どちらになさいますか?」

「こっちの赤い方でお願いします」

 私が赤いドレスを選ぶと提督は「ほお」と意外そうな声をあげた。やっぱりそう思うわよね。

 一瞬やっぱり白にした方がいいかもなんて考えたけど、心が白へ傾いてしまうより早くおばさまは

「こちらへどうぞ」

 と言って、私を試着室に案内してくれた。これで逃げ場がなくなったけれど、そのおかげで最後の決心はついた。

 試着室へ向かう途中、一度振り返って提督の方をみる。楽しそうに手なんて振って……お気楽なものね。

 いいわ……見てなさい! いつもと違う私で驚かせてやるんだから!


 二、三十分程で着付けを終わらせると私は提督の前に着飾った自分を披露してみた。

「ど、どうですか?」

 赤いドレスと白いモコモコのついたファーショール――紅白ふたつの大輪の扶桑の花が私を包む。

 おばさまはとてもお似合いですよ、と言ってくれたけどやっぱり感想を言ってもらうまでは少し不安と緊張でドキドキして……

「いいね……俺好みだ」

 提督は、芝居がかった風ににやりと笑う。

 よっし!! よっし!!!! よく赤を選んだ、私!

 私は片手を握りしめて分からない程度の小さなガッツポーズをした。

 すると提督はスッと私に近づいくと私の手を取ってグイっと引き寄せた。

 私はあっ、と小さな悲鳴をあげたけど提督にされるがままに身を任せた。

 頬に温かい感触が走る。提督の手だ。

 添えられた提督の手が動いて、私は提督を見上げる形になった。

「本当に綺麗だ」

「提督……」

 すぐ近くには提督の顔。今つま先立ちすれば届くかしら。その唇に……

 ほんの少し足先に力を入れる。

「コホン……お時間の方は大丈夫なのですか?」

「おっと、そうだった。つい夢中になってしまっていた」

 おばさまの咳払いに提督は私から距離をとった。

 うぅ……不幸だわ。いや確かにこんな所でしようとした私も私だけど。すみません、おばさま……。

「さあ、山城。いこうか」

 提督は優しく微笑み、私の前に手を差し出す。

 私はその手を離さないように強く握った。

白を選んで提督の軍服と合わせるのも良かったかもなあ…レースグローブなんかもつけてさ
まあ、文章じゃあんまり伝わらんだろうけどwww
出してほしい艦娘とかいる?

 提督が連れて行ってくれたお店はイタリアンレストランだった。

 オレンジ色の温かみのある照明で照らされた店内に真っ白なテーブルクロスとレトロなウッドチェアに品の良さそうなスタッフ。いかにも高級店という印象。

 提督が近くにいたスタッフに目をやるとスタッフは提督の軍帽と私の着ていたファーショール(店に入る前に脱いでおいた)を預かってくれた。

 そこから流れるように別のスタッフが私たちを案内してくれて少しの待ち時間も感じることなく席についた。

 こ、これって、あれなのかしら。か、顔パス!? 

 普通に考えれば予約しておいたってことなんだろうけど……じゃあ、いつしたの?

 提督は仕事の間は執務室から出てないから予約の電話を入れる暇なんて無かっただろうし……

 それとも出張の通達が届いた時点でここまで計画立てていた? それなら私が演習から帰ってくる間に予約をとればいいし、このスムーズな展開にも納得がいく。
 
 でも、そこまで都合よくコロコロいくものなの?

 頭の中で思考がいくつも枝分かれして色々な答えにたどりつくけど、どれもピンとこない。

 バカバカしいと切り捨てられるような小さな可能性すら「もしかしたら……」と思えてしまう。

「山城は甘いのがいいか……アスティを二つ」

「かしこまりました」

 悶々とする私を他所に提督はスタッフにアスティとかいう名前の何かを頼むとワイングラスと一緒に「asti」と書かれたラベルの酒瓶が来た。

 グラスに注がれるアスティは綺麗な薄い金色で気泡を立てている。

「炭酸……スパークリングワインですか?」

「ああ。いわゆる食前酒だ。合わせて軽めの料理も直ぐに出てくる」

 提督はそっとグラスを掲げると私もそれに倣う。

「何に乾杯するんですか?」

「そうだな。山城と過ごすこの瞬間に、というのはどうかな?」

「それだと私がいつも乾杯になってしまいますから何か変ですよ」

「なら山城は俺と過ごすこの瞬間に、で頼むよ」

「さあ……どうしましょうか」

 私は曖昧に笑って流した。

 明日からしばらく会えない訳だし、いま提督と過ごすこの瞬間が大事っていうのは私自身すごく分かっているつもり。

 だからといって面と向かってそういうセリフを口にするのは別。恥ずかしいのよ!

 それを分かっている提督は小さく笑っている。不幸だわ。

 まあ、口には出せないけれどせめて心の中では言っていいかもしれないわ。

 提督……あなたと過ごすこの瞬間に

「「乾杯」」

 どちらからともなく私たちの声は重なる。

 お店の静かな雰囲気を壊したくなかったからグラスを傾けて音を出すことはしない。
 
 初めて飲んだアスティは甘く爽やかな味だった。


しばらく食事シーンが続きます

 お酒の適度な炭酸が食欲を刺激してくれると軽めの料理が運ばれてきた。

 皿には茄子に白いチーズを乗せて焼いたものがあった。チーズの上には半分にカットされたプチトマトとバジルで飾りつけられて色合いも綺麗だ。

 軽めというだけあって大きさも一口サイズ。居酒屋とかにある突き出しと同じようなものかしら?

 食べてみると茄子とチーズ以外にもトマトの味がする。プチトマトじゃない。あっ、茄子とチーズの間にトマトソースがあるのね。なんだかピザを食べてるみたい。

 これは確かにお酒のおつまみにいいかも。今度やってみようかしら。トマトソースはトーストに塗るピザソースで代用すればいいだろうし。

 次に来たのは前菜の鰯の漬け物――マリネが運ばれてきた。皿の端に添えられているレモンを絞って回しかけた後にナイフで一口サイズに切ってみる。

 しっかり漬け込んだのか本来赤身である鰯はかなり白っぽくなっている。

 口に運ぶとさっぱりとした味と肉厚な食感がやってきた。

「この時期の鰯は脂がのってすごく美味いんだ。でもその分少しくどくてな」

「あっ……だからマリネにしてさっぱり目に」

「そういうこと。他にも味に刺激をつけるために胡椒を挽いたり、漬ける段階で刻んだ唐辛子やタマネギを混ぜたりして工夫するんだ」

「へえ……」

 前菜を食べ終えてグラスのワインが空になると見計らっていたようにスタッフが新しい皿と、それにワインとグラスを持ってきた。

 テーブルの上に置かれた皿には黒胡椒とたっぷりの粉チーズの掛かったカルボナーラが盛りつけられている。

 あれ?

 私はふと違和感を抱いた。見た目はカルボナーラのはずなのに何か違う。

 全体的にカルボナーラがパスタの色のままっていうか黄色いのよ。

 私の知っているカルボナーラはもっとこう……白くて、全体がベタ~って感じ。

 そう……ソースよ! かかっているソースが白くない。

「ソースに生クリームを使っていないから白くないんだ。使うのは溶き卵……卵黄だな」

 提督は私の違和感に対して、そう答えた。

 なるほど。黄色いのはそういう理由があるのね。

 太い平麺のパスタには絡みついた卵のソースと粉チーズが生みだす濃厚な味わいと黒胡椒のピリッとした辛味がいい感じに釣り合っている。

「ワインは濃厚なカルボラーナに合わせて白の辛口にしてある。甘口のアスティとはまた違って美味いぞ」

 提督に促されるままに飲んでみると口の中に酸味が広がる。

 うぅ~~辛い! でもスッキリとした味わいね。辛口のワインを挟むことで濃厚なカルボナーラを飽きさせない。そういう意味合いがあるのかしら?

 口直しで食べるお寿司のガリみたいな。

「提督って料理に詳しいですね」

「そうか?」

「そうですよ」

 とぼけちゃって。今だって色々と語っていたじゃない。

「このお店のこともそうですし、さっきの服屋でもおばさまと親しげに話していましたけど提督って一体何者なんですか?」

「俺か? 俺はな……」

 疑問をぶつけてみると提督は少し悩むように、それでいて勿体をつけるように笑う。

 早く言いなさいよ。どうせしょうもない事を言うんだろうけど。

「宇宙人だ」

 ……………………不幸だわ。本当にしょうもない答えが返ってきた。

 宇宙人……宇宙人って。予想の斜め上というか荒唐無稽というか、とにかく呆れるわ。

 私じゃなかったら百年の恋も冷めていたわよ?
 
 パスタが終わったら次は肉料理。赤身のある牛のサーロインステーキが運ばれてくる。

 いわゆるパスタから続くメインの料理。イタリアのコース料理はパスタのプリモピアット(第一の皿)と肉や魚のセコンドピアット(第二の皿)って続くのが主流……なんだそうよ。
 
 なんでそんなこと知っているのですか?と聞いたら「提督だからだ」という答えになってない答えが返ってきた。

 香ばしく焼かれた肉に散らされたスライスにんにく、ちぎったハーブのおかげで食欲がそそる匂いがする。

 予め肉は切られていて断面のピンク色も綺麗ね。周りが茶色で内側がピンクってことは焼き加減的にはミディアムかしら。

 ひと切れ口に入れて食べると芳醇な香りと肉の食感。

 焼きすぎてないから肉も柔らかくて、肉汁がとんでないから口の中いっぱいに肉汁が溢れてくる。

 因みに料理に合わせて提督が頼んだワインは赤。

 味付けにスパイスを多く使ったり肉そのものに脂肪が多くて味が重い肉料理には、それに負けないくらい深く濃い味わいの赤ワイン、逆に魚料理は味付けに酸味もの(さっきの料理でいうなら鰯のマリネ)が多いからあっさり目の白ワインが合うんだとか。

 肉料理には赤、魚料理には白が鉄板って聞くけどそういう理由があるのね。要は組み合わせの問題ってことね。

「美味いだろ?」

「ええ、とても」

「気に入ってくれたようでなによりだ。やっぱり美味い料理はいい。人の心を豊かにする」

 提督は楽しそうに語り、料理に舌鼓を打つ。


 美味い料理……か。

 確かに私は美味しい店を期待しているとは言ったけれど、それは私を置いて出張してしまう提督へのちょっとしたイジワルというか、素直になれない自分を誤魔化すための言葉というか。

 まさか本当にここまでのお店に連れていかれるなんて思いもしなかったわ。

「あの……」

「うん、どうした」

「提督はどうしてここまで私にしてくれるんですか?」

 姉さまに言われたから? それとも男のプライド?

 そういう勘ぐりは無粋と分かっているけど……どうしてもね。ここまでしてもらったのは初めてだし。

 すると提督は、それが当然のように優しい声で言った。

「俺は山城に誓った言葉を守っているだけだよ」

 私に誓った言葉……それは忘れられない私の心の中にずっと刻まれている言葉。
 ・
 ・
 ・
 山城、君が不幸だと嘆くなら俺はそれ以上の幸せで君を笑顔にしよう。

 ――どうして私のことをそこまで?

 俺が君に惚れているからだ。
 ・
 ・
 ・
 不幸以上の幸せ。それが提督の誓い。

 なんて勘ぐりをしてしまったんだろう。自分の浅はかさを恥じてしまう。

 提督が私に向けてくれる想いは綺麗なガラス玉の様に一点の曇りもなくて。

 ただ私を愛しているから。提督にとっては、それだけで十分なのね。

 食後のデザートに運ばれたのは茶色と白の層が特徴的なケーキ、ティラミス。

 冷たくて、優しい甘さの中にあるほんのりとした苦味が特徴的だった。

 スゴく美味しいけれど、これを1つしか食べられないのはすこし不幸だわ。

 こういう時にたまに艦娘のみんなと行くケーキバイキングのあるお店の偉大さが分かってしまうわね。

 このティラミスみたいに極上のを1品か、それともケーキバイキングみたいにそこそこのを沢山か。どっちも魅力的よね。

 まあ、極上のを沢山食べれたら、ありがたみが無くなってしまうから1品だけでいいんだろうけど。

 最後の占めにエスプレッソを飲んで、提督との食事は終わった。

 提督は軽く手で会釈するとスタッフは「ありがとうございました」と言って、それでおしまい。

「あの……提督、お会計は?」

「そういうのを聞くのは無粋だな」

 ホントに何者なのよ……

 お店を出ると行きと同じ車が止まっていた。

 私と提督は車に乗るとおばさまの所でドレスを返して、夜の街から離れていった。

 帰り道の道路は街灯も少なくて車のライトが一番強く光を発している。いくつもの灯りで煌びやかに飾った夜の街と比べてあまりにも寂しいわ。

 寂しいといえば私自身もそう。もう赤いドレスで着飾った別人のような私じゃなくて普段の姿の私。

 その落差になんだかため息が出てしまう。シンデレラって魔法が解けた時こんな気分だったのかしら。

 心の中を満たしていたはずのあたたかい気持ちが秒単位で名残惜しさに変わってしまう。

 やがて車は寮の玄関に停まった。ああ、どうしてこんな早くについてしまうの。

 夢のような素敵な時間の終わり。提督とのお別れ。

「それじゃあな。明日からしばらく頼んだぞ」

 私を玄関まで送り届けた提督は背を向けて去っていく。

「……っ!」

 不意に走って提督を力いっぱい抱きしめたい衝動に駆られた。

 夜の闇の中に消えていく提督の後ろ姿を見ているとなんだかホントにそのまま消えてしまいそうな気がしたから。

 まだ走れば余裕で間に合う。もう少し一緒にいて、と求めれば提督は「ああ」と応えてきっと時間の許す限りいてくれる。提督はそういう人だから。

 けど追いかけることは出来ない。これ以上は甘えられない。

 ここはグッと我慢するところよ。

 私は提督と素敵な時間を過ごした。それの何が不満なのよ?

 そう! 私は満たされている! だからしばらく会えなくても平気! 山城は大丈夫です!

 自分でもよく分からない気合で力強く自分を鼓舞して寮の中へ入ると足早に自分の部屋に戻った。

「…………」

 電気も点いてない真っ暗な部屋は痛いくらい静かで寂しさが一気に襲ってきた。

 うん、ダメ、無理ね。空元気じゃあ誤魔化せない。

 会えないなんて……不幸だわ。

アニメ始まったけど山城がまだ出てこないのは一体どういうことだろうか…
まあ、山城はカメラ向けられるの苦手そうな気もするが

 カーテンの隙間から入る朝日で目を覚ますと時計の針は5時半をさしていた。

 5時半…5時半ねえ。

 いつも通りの時間ね。いつも通り『提督のお弁当を作るために早起きしている』時間。

 でも、今日からしばらく提督は出張でいない。

 だからお弁当を作らなくてもいい。その分の時間、いつもより長く眠れたはずなのよ。

 不幸だわ……これじゃあ早起き損じゃない。三文の得どころか損失ね。

 二度寝じゃないけどもう少しベッドの中で暖を取ろう。流石に朝は寒いし……

 軽く寝返りを打って朝日が差し込む窓の方を見ると早朝の灰色が掛かった白い空が見えた。

 その時、ふと空――というより外のことが気になった。

 提督はもう家を出たのかしら。明朝には出ると言ってたし、もしかしたらこの近くを歩いてたりして。

 あの窓を開けると荷物をもった提督が見上げて、私が出てくるのを待っているの。

「どうしたんですか? 早く行かないとダメですよ」って言うと提督は「行く前に山城の顔を一目見たかったんだ」なんて気障なこと言うの。

 朝日に照らされた提督はどこか触れてはいけないような神秘さを帯びていて、夜の暗闇の中に消えたりなんかしないで遠くへ行ってもその姿は確かにあって、私はその背中を小さくなるまでずっと見送る。

 ………………ないわね。そこまでイメージを膨らませた所で私はおもわず自分にツッコミを入れた。

 いくらなんでも都合が良すぎる。いるわけないじゃない。

 バカらしいと切り捨ててまた寝返りをうちながら別のことを考えようとした。

 提督がいないなら今日のお昼は扶桑姉さまと一緒にしようかしら。

 どこか静かな所で姉さまと語らいながらのお昼ご飯。きっと楽しいひと時になるでしょうね。

 その様子を思い浮かべると私の中でやる気が出てきた。

 そうね、せっかく早起きしてるんだもの。このまま惰眠を貪るのは勿体無いわ。

 こうしてる場合じゃない。早く起きて姉さまのためにお弁当を作らなくちゃ!

 やることが出来た私はガバッと布団を剥ぐと急いで着替えた。部屋を満たす朝の冷たい空気はいい眠気覚ましになる。

 部屋を出ようとする時にチラリと窓の方を目が移った。

「…………」

 馬鹿ね。どうせ結果なんて分かりきっているじゃない。無意味よ。それなら急いで扶桑の姉さまのお弁当を作った方が有意義じゃない。

 でも、見るだけなら一瞬よね。あれよ、鍵を閉めたはずなのに鍵を閉めたかどうか気になって確認する、あれと同じ。

 窓に近づいて下の景色を一度だけ覗き込む。

「ふふっ……」

 私は少しでも期待していた自分を嘲笑った。

近いうちに投下するね
放置しててすまん

 執務室には私以外誰もいなかった。外から聞こえてくるカモメの鳴き声が遠い。

 ゆったりとした時間の流れのせいで「ふぁ……」おもわず欠伸が出てしまう。

 いけない、ウトウトしていたわ。でも仕方のないことだと思う。

 私は秘書艦。提督をサポートするのが仕事。けれど今、私のいるサポートするべき提督がいない。

 もちろん提督の代理として先任がいるけれど先任は

「自分はあくまで代理なので提督の仕事に踏み込むことは出来ない」

 なんて言って仕事が振られないから私のすることは何もない。ハッキリ言って暇なのよね。眠くもなるわよ。

 壁にかけてある時計を見つめてみるけれど針の動きは変わらない。

 同じ時間を全く同じ間隔で刻み続ける。そんな時ふとおもいつく。

「掃除でもしようかしら」

 別に執務室は特別汚れているわけじゃない。でも私は何かをすることでこの退屈で不幸な時間を忘れたかった。

 そう……これは環境整備よ。提督の仕事の能率を上げるために必要なことなの。

 やっぱり綺麗な部屋の方が気持ちよく執務も出来るでしょうし。これって立派な秘書艦の仕事じゃない?

 やるべき仕事を造り出した私は割烹着と三角巾をつけて、急いで掃……環境整備を始めた。
 
 天井にある照明や棚のてっぺんの高い所をはたきの柄を伸ばして落としていった後は脚立に登って、雑巾で拭いていく。

 すると本棚の中に並べられた無数のファイルの一つに目が止まった。背の部分には『演習録』と書かれている。

 演習録には私たち艦娘の演習に関する記録が全てここに載っているの。まあ、これは過去の物だけれど。

 提督はここにある記録を鑑みて編成を決めていると聞いているわ。

「私の評価もあるのよね」

 自分の実力は把握しているつもりだけれど他人からどういう風に見られているのかは興味があった。

 私は演習録についている『戦艦』と書かれた付箋の所を開いてページをめくっていく。

 扶桑型2番艦 戦艦『山城』、見つけたわ。

さて私の評価は……ええと、日にちは一ヶ月くらい前ね。評価を担当した教艦は…………扶桑姉さま!?

 私は緊張で身を固めた。ねねねねね姉さまから直々の評価。これは心して見ないといけないわね。

 ゆっくりと視線をおとしていって艤装操作による移動や戦闘時の航路選択、攻撃の命中精度や対空能力やその他諸々の評価の項目を見ていく。

 良、可、良、可、可、可、優、可、可、良、可、可、優、可、可、良、可、良、可、可、優、可、etc……

 最後まで見終わった所で静かに演習録を閉じる。

「姉さま、ちょっと厳しくありませんか?」

 私はこの評価をした半年前の姉さまにおもわず愚痴をこぼした。

 確かに私にはまだまだ至らない部分はありますよ。でも私なりに結構がんばっているわ。実戦でMVPを取る時だってあるのよ?

 それなのに……姉さまはお慕いしていますがこの評価は少し不満です。

 姉さまの評価はどうなのかしら。同じ扶桑型なのよ? そこまで違いはないんじゃないかしら。

 不満と疑惑が混じる私は少し乱暴にページを戻して扶桑型1番艦である姉さまのページを開いた。

 時期は二ヶ月前で担当教艦は長門さん――周りにも自分にも厳しい人よね。私も演習中に何度か指導を入れられたことがあったわ。

 私は自分の時と同じように、いや自分の時以上に真剣に姉さまの評価を頭から見ていく。

「……………………」

 やがて全ての評価に目を通した後、私はしばらく執務室の天井を呆然と見つめた。

「はあ」

 ため息。

「不幸だわ」

 そして口癖。

 流石です、姉さま……


不意に思いついたから置いとくね


提督「お前の姉の名前の花があるだろ? 花言葉は『繊細な美』だそうだ」

山城「繊細な美! まさに姉さまのためにある言葉ですね!」

提督「他にも『新しい恋』というのがあるらしい。そう言えば最近、扶桑の俺を見る目が……」

山城「えっ!? ダメです! いくら姉さまでも提督は……」

提督「山城?」

山城「でも姉さまなら…………あー、うーっ!!」

提督「山城!」

山城「……あっ」

提督「……」

山城「……」

山城「不幸だわ……」

提督「ごまかすんじゃあない」


fin

 午後の演習。艤装の修復が終わっていない私は昨日と変わらず艦娘の演習を見学していた。

 青い空の真ん中で輝く太陽。でも、その輝きが生み出す光は激しすぎない穏やかで温かな光。

 その光を浴びているとなんだかこっちの気分まで穏やかで晴れやかな気分に……

「禍々しい邪悪な気を感じます。これは……敵!?」

「赤城さん、それは違うわ」

 近くで一航戦のお二人の声が聞こえた様な気がしたけれど、気のせいかもしれない。

 はあ……不幸だわ。気分は最悪ね。

 提督はいないし、好奇心で読んだ演習録では姉さまとの実力差を思い知らされるし、ホント散々よ。

 おまけにあの後、姉さまとお昼を一緒にと意気込んだのはいいものの肝心のお弁当を寮に忘れてしまう始末……不幸だわ。

 姉さまの「山城はあわてんぼうね」という苦笑気味の言葉が胸に痛かったわ。

 なんで今日に限ってこんなに不幸が連鎖するのよ……

「……城さん、山城さん!」

「えっ、あっ、はい?」

 私を呼ぶ声に顔を上げると本日の教艦の妙高さんが心配そうな顔をしていた。

 大人っぽい雰囲気の漂う綺麗な艦娘の妙高さんは知性的で落ち着いていて(この辺は姉さまに近い)、秘書艦の私が言うのもなんだけれど秘書っぽい見た目の人よね。

「顔色が優れていませんけれど大丈夫ですか?」

「いえ……平気です。お気になさらず」

「そうですか、でも無理はしないでくださいね」

 労わるような柔らかい表情で私に語りかける妙高さん。こういう所をみると姉さまと似ているけれどやっぱり違うわね。

 姉さまは静かな口調で諭すタイプだから。

「見学ですし本当にダメそうな時は鎮守府に戻られても結構ですから」

「は、はい……お気遣いありがとうございます。皆さんの邪魔にならないように少し移動します」

 私は足に力を入れて、その場を離れようとした。けれど動こうとした瞬間、私の体がフワッと舞う。

「キャッ!」

 小さな悲鳴をあげた頃には私の体は勢いのまま転んでいた。

 水面が派手な音を立てて飛沫を上げる。

 艤装が構成してくれる力場のおかげで体は沈むことはなく水面に尻餅をつく形になった。

 けれど、

「うぅ……お尻が痛くて冷たい……」

 打った所をスカートの上からさするけれど、すっかり濡れていて不快だ。後で着替えないと……

 滑って転ぶなんてありえないわ。艤装での移動なんて私たち艦娘にとっては人が陸で歩くのと同じくらい当たり前で簡単なことなのに。

「や、山城さん、本当に大丈夫ですか?」

 妙高さんが戸惑いながら聞いてくる。まさか艦娘が海の上で転ぶなんて思いもしなかっただろうし当然よね。

 ああ……もうホントに何なのよ! 不幸だわ。

山城じゃないけれど良ければこちらもどーぞ
口内ベタベタべたつきストレートティー(ヴァジュラ風味) - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1429721605/4-)

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年09月15日 (月) 16:53:58   ID: kyTvY5ck

ふう、、、ケッコンしよう、、、

2 :  SS好きの774さん   2014年10月19日 (日) 03:56:02   ID: bChNICqq

いいな、こういうの

3 :  SS好きの774さん   2014年11月17日 (月) 19:30:43   ID: wFwZYq_b

それにしてもここの俺の嫁艦、デレデレである

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