男「復讐」 (9)
「面白ェじゃねえか!!!」
左腕から放たれたストレートパンチが顔を捉える。
「ッ!?」
間髪をいれずそれを避け、僕は不良の――隙だらけの懐に入り左肩に掌底を叩き込む。
「これが……! 今の僕の……実力だ!」
× × ×
その日も普段と変わらない、何の変哲もない日だった。
放課後を知らせるチャイムは毎日同じ時間に鳴るし、
担任の先生は毎日同じセリフを吐いてホームルームを締めくくる。
僕――名前男、齢16歳が変わらない日常に退屈していたかといえばそうではない。
自分で言うのもなんだが性格は内気で消極的だ。
外見に関して言えばもやしっ子という単語が似合うようなひょろ長く痩せ気味な体格で黒のショートカットヘアーに黒縁眼鏡。
顔つきは中性的でスカートを穿くと女性と間違えられる。
そんな何一つ自慢する所がない僕は――いやそんな僕だからこそ平穏に暮らしたいと一心に思っている。
平穏に暮らせるだけで幸せなんだ。
だから人とは関わらない。友人なんてものは作っても意味がなくて、むしろ痛い目にあう。
僕はもうあの時のような思いはしたくはないのだ。
そんなことを考えているといつの間にか教室は僕一人を除いて誰もいなくなっていた。
廊下からは未だに喧騒が聞こえるが、教室は静寂を保っている。
ここだけ隔離されたような――ここだけ別世界なのではないかとそう思わせる。
開いた窓から入ってくる風でカーテンはなびき、バサバサと揺らめく音と共に心地よい風を感じさせる。
教卓においてあったチョークは風で転がっていき、スパァーンと音を教室全体に響かせながら落下する。
けどその音すらも今は気持ちが良い。
余韻に浸っていると胸ポケットに入れていた携帯電話が振動した。
何事かと思い開いてみればメールが一通。
『はやく帰って来なさい』
母からだった。
時計にふと目をやると驚くことに19時を周っており教室に一時間もいたのかと気付かされる。
「そういえば今日みたいテレビがあるんだ」
その事も思い出し急いで荷物をまとめて教室から駆け出す。
下駄箱についたあたりで窓を閉めていないことに気付いたが戻っている暇はない。
僕は躊躇することなく靴を履き下駄箱を後にした。
――窓を閉めに戻っていればあんなことにはならなかったのに。
× × ×
今日はもう寝るわ
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