エルフの日暮れ(174)

 今日で何日目だろうか?
 ヒト族の村に程近い丘の上の切り株で私は暮れゆく空を仰ぎ見た。
 私は、私達は人間とは違う時間間隔を生きているが、正しければ今日で一週間だろうか?
 太陽が山間に沈んで間も無く月が昇ってくるだろう。
 私が一人であの人間を待って帰路に着いたのは何回目だ?
 私の感覚からすれば本当に短い時間だが、ヒト族の一週間はひとつのサイクルに値すると聞く。
 確かに、私たちの間でも一週間は一つの単位として存在する。だが、正確には月の満ち欠けを基準としている中でのサイクルなのでほんの一瞬の出来事だ。
 でも私はそれだけの期間を律儀に待っていたという事になる。
エルフ(やっぱり、私が間違っていたのだろうか?)
 落ちてゆく太陽とともに私の心にも影が差す。
エルフ「そうか、そうだよな……ヒト族の言葉など少しでも真に受けた私が馬鹿だったのだ……」
 自嘲気味にひとりごちる。
 いや、そもそも人間に興味など持った私が悪いのか。
 彼との出会いを思い出す。

すみません。コメント遅れました。初投稿です。
おかしなところあったらアドバイスお願いします。

 それは、私が興味本位でヒト族の村に赴いた時の話だ。
 ヒト族と私達エルフは余り仲が良いとは言えない。
 だから私が人間に興味があるとつぶやいた日の夜には長老が慌てて真意を聞きに来たくらいだった。
 長老はヒト族などと関わっても良い事など無いと朝まで私にとうとうと説教して帰っていったが、私は数日後、結局好奇心を抑えられずにこっそり村を離れて自分の村に一番近いヒト族の村の前に立っていた。
 私は持ち前の長耳が目立たぬように耳が隠れるくらいのフードをかぶり、村の門をくぐって慎重に人ごみに混じっていった。
 静かな私の村と違って喧騒に満ちたヒト族の村に私は少なからず興奮を覚え、あちこちを見て回る。
 見る物聞く物がエルフのそれとは違い、私はついつい止めておけば良いのに、酒場にまで入ってしまった。
 カウンターまで行くと、店のマスターと思われる優しそうな男が声をかけてくる。
 見た目は青年だが、ヒト族の事だからきっと私よりもずっとずっと若いのだろう。
マスター「いらっしゃいませ、何を飲みます?」
エルフ「あー、えー……」
 そこでやっと自分の最初の過ちに気が付く。
 私はエルフ。私は成人しているので酒は飲めるし、酒場といえば酒だが、酒は司祭が祈りを捧げた月酒しか飲んだ事が無い事に。
エルフ(まいったな。人間の飲む酒の種類なんかさっぱり判らないぞ……)
 それからしばし悩んで。
エルフ「ヤ、ヤギの乳を……」
 その瞬間酒場全体に爆笑の渦が巻き起こる。

改行少ないですか。
わかりました。
ちょっと直して投下します。

 どうやら見慣れぬ私の行動を皆で見ていたらしい。
 しかし何故笑われたか解らない私は顔を真っ赤にしてキョロキョロするばかりだ。
 斜め後ろに座っていたガタイのいい男に至っては私を指を差し、
涙まで流して笑っている。

太男「聞ぃたかアイツ! 酒場に来てヤギの乳だってよ! どこの田舎部族だよ! まさかエルフか?」
 その言葉にドキリとし、私はフードを更に深く被った。

マスター「ヤギの乳ですか? 申し訳ありませんが、当店には扱いが……」
 マスターが苦笑しながら気まずそうに聞き返してくる。
「お、可笑しかったでしょうか? すみません。育ちのせいか、酒の種類がわからず思わず注文してしまっただけなので、なにかオススメがあればそれでお願いします」
「わかりました。では……あ、ふむ。ちょっと待ってください」
「はい?」
 マスターは不意に一考すると、酒瓶の並ぶ棚の裏に消えて行き、すぐに革袋を持って戻ってきた。

マスター「ヤギの乳自体は無いのですが、先日、私の祖母が田舎からやってきましてね。自家製のヤギの乳酒を置いていったんです。一般品ではないし、量も少ないので店には並べていなかったのですが、これでよろしければお出ししますが……宜しいですか?」
 マスターの優しい申し出に私は思わず嬉しくなり、少し声を上ずらせながら。


エルフ「ハ、ハイ。頂きます!」
 興奮気味に返事をするとまた爆笑の渦が巻き起こった。

エルフ「それじゃあお代は……どうしましょうか? 一応、これだけ持ってきてあるのですが……」
 小さな革袋から小さな四角い金と銀の塊をジャラジャラと出してみせる。
 ヒト族の村相場はわからないし、ヒト族の金貨や銀貨など持っていないので、村の冶金屋に頼んでどうにでも使えそうな物を作ってもらったのだ。
 マスターは金と銀両方を手に取って珍しげに眺める。

マスター「貨幣、では無いんだね?」
「す、すみません。うちの村、物々交換の方が多くて、あまり遠出する人も居ないので……冶金屋に頼んで作ってもらいました。純度は申し分ないはずです。相場が判らないので、必要な分だけ取ってください」
 私がそう言うと、マスターはまた苦笑し。

マスター「君ねぇ、人慣れしてないのは分かるけど、こんな場所で下手な事は言うもんじゃないよ。相手が相手なら良い食いモノにされちゃうよ? しかもこんな高価な金属持ち歩いて。例えるなら鶏が調味料の袋背負って、更に鍋持って歩いてるようなもんだよ。とりあえずこれは全部仕舞ってくれる? 危ないから」

エルフ「え、でもお代……」
 するとマスターは不意に私に顔を寄せてほかの客に聞こえないように小声で囁きかけてくる。

マスター「悪いけどうちのばーちゃんの乳酒にゃこの銀の粒一個も多すぎて釣りが払えないよ。どうせタダで貰ったものだし、今日はサービスって事で、ね?」
 そう言って微笑んだ。

すみません、小説方式で書いたのに付け足ししてるので名前抜けしてることがあります。

気をつけますね。

エルフ「あ、ありがとうございます……」

 私達が顔を離すと、マスターはこれみよがしに「お代は貰った。さあ、ゆっくり飲んでくれ!」と叫んだ。
 私は思わぬ人間の優しさに戸惑いつつも乳酒の入った革袋と木の盃を抱えると、マスターに会釈してカウンターを離れて適当に席に座った。
 座ったのはなるべく店が一望出来そうな場所。
 人間がどういう風に酒を飲むのか見たかったからだ。
 ちなみに同じテーブルに座っている人間はいないが、隣の席には先ほど私の事を嘲笑った太ましい男が座っている。
 雰囲気からしてこの店の常連だろう。
 彼の席には他にも目つきの鋭いロングヘアの女性や、気の優しそうな男など数名座っている。
 誰もが幅が彼の半分位のサイズだ。
 皆、私の事を気にしているようだった。

 それもそうだろう。どうやらこの酒場は人は疎らなれど顔見知りの集まりのような店のようだったから。
 そこに見慣れぬ人間の私が――実はエルフだが。やってきたのだから。
エルフ(こういう時ってどうしたら良いのだろうか? うちの村にこんな騒がしい酒場はないぞ?)

 私達エルフの酒盛りと言ったら神聖な集まりでの静かな儀式か、個人宅で集って個人的に飲み合うくらいだ。
 だから宿屋はあっても酒場自体が無い。
 よっぽど賑わしくても豊穣祭くらいだ。
 それでもここよりは静かだ。うん。
 話しかけてみようか? でも誰に……?
 そのとき目に入ったのは私を嘲笑った男だった。

エルフ(口は悪そうだが、世俗の知識は豊富そう……)
 いや待て、話しかける前に良く様子を見てから話しかけた方が良いだろう。
 そう思ってその日は誰にも話しかけず、マスターに貰った乳酒を袋の三分の一程飲み干してから店を離れた。
 ちなみに乳酒をそれ以上飲まなかったのは、マスターの個人的な物だと聞いたからだ。
 袋はそんなに大きくはなかったが、それを無償で分けてくれたとは言え、マスターが口をつけたかも怪しいのに無闇矢鱈に飲み干すのは気が引けた。
 だから申し訳程度にして袋はマスターに返した。
 マスターは全部飲んでも構わなかったのに。と言ったが、適当な理由をつけて返した。
 次行く時はお礼に月酒でも持っていこう。
 後は酒の相場というものもある程度聞いたので、次はヒト族が作った酒を飲んでみようと思う。
 この時点では私は“彼”に出会ってはいない。
 しかしこうして、私の酒場通いが始まった。
 これがどんな結末を生むかも知らずに。

今日は初めてなので書き溜めはこれだけです。
また来ます。

内容は面白いと思うけど改行が少なくて読みにくい
どちらかというとssより小説っぽい感じだから小説投稿サイトの方がいいんじゃないかな?
ここじゃもったいない内容だと思う

ちょっと即興で書いてきました。
投下しておきますね。

>>12
おうふ……

帰ったほうがいいですか?

サーセン小説書きです……楽しい内容がいっぱい書いてあるので挑戦したくなりまして。

なんか場違いみたいなので大人しく巣に帰ります……。

え、いいんですか?

じゃあ、続けますね?

エルフ「シュ、シュワシュワだ!」
 マスターに勧められて初めて飲んだ麦酒に驚きの声を上げる。

 この日は初めて酒場を訪れてから二週間ほどたったくらいだっただろうか。
 私は乳酒のお礼の月酒と、酒と等価と思われる黄銅の粒を手に再び酒場を訪れていた。
 私が黄銅の粒を渡すと、「僕が言っていたものよりまた上等なものが来た」と苦笑してまずはこの麦酒を差し出してくれた。
 今日は黄銅の粒一つで私の心ゆくまで飲んで良いらしい。ただし、私が黄銅の粒を持ってきたのは内緒にするようにとキツく言い含められた。
 どうやらヒト族にとって鉱物はとても価値が有るものらしい。

 ちなみに月酒を渡すと、非常に珍しがられた。
 マスターは月酒を見たことがないらしく、この酒がどういうものか訪ねてきたが、エルフの酒などと言えるはずもないので村の特産品で、自分も良く分かっていないと誤魔化してカウンターを離れて今に至る。

 だが今日も誰かに話しかけられそうな隙は無い。

 誰も彼も盛んに何かを話していて、付け入れられそうな様子が全く無いのだ。
 だが、話の内容だけは聞き耳を立てておく。

 最初に来た日は結構空いた店だと思ったが、そうでもないらしい。
 長時間テーブルに座っていると入れ代わり立ち代わりテーブルの面子は変わり、話題も変わるのが見える。

 時には時事らしき内容が書かれた板を持った男が入ってきて、皆にネタを振って小銭を稼ぐ姿も見えた。
 板を持った彼の事は皆“瓦師”と呼んでおり、金を払ったものだけが板を手にして読める仕組みになっているようだ。
 
 瓦師が帰った後は瓦師の持つ“瓦板”の内容で持ち切りになる。
 お金の無い人間は読めた人間から内容を聞いていた。

 そこで驚いたことが一つ。

 瓦師から情報を買っていた人間の一人に私を嘲笑したあの太ましい、見た目野卑な人間が混じっていたという事だ。
 世情に詳しそうだとは思ったが、お金を出して情報を買うほどの人間だったとは。

 人は見た目に寄らないと思った。

 ちなみに彼のテーブルの人間は全員、瓦師から情報を買い、瓦板を読み回していた。
(そんなに買いたくなるような内容でも書いてあったのだろうか? 次に瓦師が来たら私も買ってみよう……)

 そう思いながら盃に口を付けるも、飲み慣れない麦酒の発泡感に顔をしかめた。

改行増やしてみました。
まだ読みにくいですか?

とりあえずもう少し投下しますね。

このぐらい改行してあれば大丈夫だと思いますよー。

支援。

 その日の帰り、色々な酒を飲んでフラフラになりながら立ち去ろうとして店の外に出る私にマスターが慌てたように追いかけて声をかけてきた。

マスター「ねえ君! もしかして次もあの金属粒、持ってくるのかい?」
 その問に小さくうなづくとマスターが溜息を吐く。

エルフ「ええ、あれしか持っておりませんので……」

マスター「君ねぇ……最初も言ったけど、それだと危ないよ? うちの店だから融通してるようなもので、他の店だと何されるかわからない。今度、今日持ってきた黄銅の粒で良いから一つ持っておいで。金や銀は困る。うちも裕福じゃないからね。ここらへんで通用する貨幣に換金してあげよう」
 その言葉に一気に酔いが醒めた気分になる。

エルフ「本当ですか?!」

マスター「ああ。見てるこっちがハラハラするしね。それじゃ、次はいつかわからないけど、またおいでね」
 そう言って見送ってくれた。

 私も大きくてを振って立ち去ると、後ろの方でマスターに客が話しかける声が聞こえた。
 うん、人間の村もなかなか良いものじゃないか。
 長老が言うほど悪いもんじゃないじゃないじゃないのか?

 貨幣が手に入るなら次は酒場以外の場所も行ってみたいものだ。
 更なるワクワク感を胸に私は帰路に着いた。

>>25
ありがとうございます!

かなり改善されたと思う

でも >>12 が言う様に結構しっかりしてる感じだから、ここじゃちょと勿体無いかもね

>>28
ここも結構面白いものがあると思ったから勉強させてもらおうと思いました。

はい、ありがとうございます。

だ・れ・も・見てない内に……投下>///<

?「ちょいと失礼するよ」
 朔月の夜遅く、私の家に長老が来た。

エルフ「ちょ、長老……どうしたのですか? こんな夜遅くに……」
 長老は1000年は軽く超えた年月が顔の皺に刻まれた、村でも数少ない長寿の男性である。
 ちなみに私は今更だが女性だったりする。
 
 私の生まれ育った村は豊穣の恵みを司る血筋のせいか女性が生まれやすく、村民の三分の二近くが女性だ。
 長老は種の存続のために数少ない男性の中でも長寿の人間の中から選ばれることが多く、長老候補及び長老に限り一夫一妻ではなく一夫多妻制をとっている。

 勿論、それには多くの妻を維持できるだけの財力も兼ね備えてなくてはならないが。
 それが私の村のしきたりであり、その認識が後に私の足を引っ張る要因の一つになる事はこの時予想していなかった。
 長老は私の引きつる顔を見るなり溜息を吐く。
長老「その様子だと、噂通り人間の村通いを続けているようだな。あれほど人間には容易に近づくなと釘を刺したというのに」
エルフ「………」

 長老の嘆きに思わず無言で床に正座して肩を竦める。返す言葉が無い。
長老「冶金屋も人の村に行くなら手伝わなかったと言っていたぞ? お前は本当に分かっていない。人間にとって金属がどれだけ価値のあるものか、ましてや我らエルフが加工したものと判れば、人の村はきっと大事になるはず。一体もう、どのぐらい使って、しまったんだ?」
エルフ「えーと……」
 思わず視線を逸らす。

長老「黙っとらんでちゃんと言うてみぃ!」

 そう言って長老は手に持っていた樫の木で作られたごつい杖で私の頭を叩いた。
エルフ「痛てっ! 黄銅ふた粒ですぅ……」

 その言葉に長老が目を丸くして聞き返す。
長老「黄銅ふた粒?! サイズは?!」

エルフ「私の親指の頭くらいの……これって多いんですか? 少ないんですか? 酒場のマスターは金貨5枚と銀貨15枚と銅貨50枚に交換してくれました……もしかして私騙されちゃいましたか? 私はそれでも十分すぎるくらいだと思ったんですけど……」
長老「はー……お前さん、良い人間に出会ったみたいだな。いや、そのレートはかなり良い方だ。お前が本当に何も知らない田舎者だと思ってオマケしてくれたんだろう。その話で良く分かった。もうそれで人間の事は良い思い出にして、村通いは止めなさい。確かに、そういう優しい人間が居るのも確かだが、通い続ければきっと辛い目に遭うことも出てくる。悪い事は言わない。もう止めぃ……解ったな?」

 そう言って皺の中に隠れた鋭い目付きを覗かせて私を睨む。
エルフ「うっ……わ、かりました……」
 彼の迫力に思わずそう答えると、長老はもう一度深く溜息を吐いて私の家を去っていった。

 しかし。
 解ったと返事をしたものの、まだ村には3回か4回くらいしか通ってないし、折角換金してもらった貨幣を使った買い物も全然していない。

(瓦版だって読んでない……)

 長老は私の何倍も生きていて、色々な経験をしているから、きっとエルフとして、村の長として正しい事を言っているのだろう。

 でも、私は長老じゃないから、長老が見てきたものを見てきたわけじゃない。

 理屈は解っても理解しきれるはずがない。

 おもむろに立ち上がると、テーブルの上に置きっぱなしにしていた貨幣の入った布袋の前に立つ。

 確か、あの麦酒一杯が銅貨2枚。あの血みたいに赤いワインとかいう酒がひと瓶銀貨1枚。

 瓦版が銅貨5枚……袋を開けて貨幣をジャラジャラと弄りながらマスターから聞いたり小耳に挟んだ情報を反芻する。
 そして、店は酒場だけじゃないのだ。
 この村にもあるように雑貨屋や、食べ物屋、ううん。きっと私が知らない店が沢山あるんだ。
 それを運良く出会えた優しい人間とちょっと触れ合って、運良く手に入れられた貨幣を手にしただけでおしまいにしろって?

 そんなの、我慢出来る訳無いじゃないか。
(出来る訳……無いじゃないか……)

 握り締めた銅貨が、指の隙間から数枚こぼれ落ちて、静かな土間にチャリチャリと寂しげな音を立てた。

 数日後の早朝。

(長老ごめんなさい……私、やっぱり暫く村を離れます……)

 私は色々考えた結果、自分が納得いくまで村を離れる事にした。

 私が人間の村に出入りしてる事実は思った以上に広まっており、長老だけでなく親族や友人達も説教にやってきた。

 村を根城にしてる限り理解の無い言葉をずっと聞かされる事になるだろうと判断した私は、一旦村を離れて生活する事にしたのだ。
 野営の装備は少し重いけど、精霊の力を借りれば野営地までそんなに労せず行ける。
 生活は少ししにくくなるけど、人間の村には近くなるし、少しくらいの不便は我慢しようと思う。

 それまでは人間の足で三日ほどの距離を精霊の力を借りて半日ほどで移動していた。
 野営地は人間の村から精霊の力を借りずとも二時間くらい歩けば着く湖畔だ。

 ウンディーネと相性が良い私。
 実はその湖はいざという時のために小さな頃から仲良くさせてもらっていた古い精霊の住処でもある。

 私は人の世界がどうしてももう少し見てみたいんだ。

 例え最終的に傷つく事になろうとも。

 村に泣き帰る事になろうとも。

 そして私は村を後にしたのだった。

 去っていく私の後ろ姿を、溜息と共に見送る姿があるとも知らずに……。

 そしてまもなく私は人間の村でようやく“彼”との出会いを果たすのだ。

 村を離れてから私は、前よりも頻繁に人間の村を訪れるようになった。
 といっても、今のところ何をしていいか分からず、適当に村を回ると結局酒場に入り浸って、安酒をちびちびと飲みながら人間観察するだけだが。

 正直いい加減飽きてきた。
 最初は物珍しかった酒場の喧騒も、慣れてしまえば何て下らない事か。

 期待を膨らませて読んだ瓦版はただのゴシップ紙で、やれどこぞの貴族が不倫をした、最近の若者は礼儀がなっていないだの、教会の禊用の泉が汚された。きっと蛮族亜人がやったに違いない! などの偏向記事が書き連ねてあるばかりだった。
 こんなものに人間は麦酒2杯分以上のお金を出して読んでいるのかと思うと呆れてしょうがない。

 まあ、国からの御布令もちゃんと書いてあったりもするので、読んでおかないと困る時は困るかも知れない。
 でもそこら辺は皆の話に耳をそばだてて注意しておけば良いだけの話だと私は判断し、私は3回読んだところで瓦版の購読は止めた。

 その日も時間を持て余して酒場に来て、空になった盃を手に人間達を観察していた。

 折角だから今日こそは話に混ざろうと思って何日目だろう?

 私からすれば皆下らない話に花を咲かせているが、とても楽しそうだ。

 この村で、酒場で、エルフは私一人……そもそも私がエルフだという事は誰も知らない事。

 マスターはずっと一人で壁にへばりついている私の事を気にしてくれているようだが、立場上話かけては来ない。

 あの大柄で野卑な男は人に喧嘩をふっかけておちょくるのが趣味らしく、しょっちゅう言い争いをしているが、最終的にあの男が相手を言い負かしている。
 あの髪が長くて目つきの悪い女もだ。

 口は悪いが頭はすこぶる良いらしい。

 人間とはああいう風に強さを見せつける生き物なのだろうか?

 私の村では決して見ることのない光景だ。

 もしかして私も人間らしく振舞うとしたら、彼の様に振舞うと良いのだろうか?
 そんなことを考えながら私はマスターにようやく本日二杯目の酒を注文しに立ち上がった。

エルフ「マスター、麦酒とワインとウイスキー飽きたから、他のお酒無い?」

マスター「お、おかわりかい? そろそろ昼だけど、おつまみも注文していく? っていうか、ずっとうちの店で良いの? 他にも美味しい店、あるよ? よかったら紹介するけど……」

エルフ「一人、怖い……」
 私は何だかんだ言って、長老の言葉が耳に残っていた。
 良い人間ばかりがいる訳じゃない。エルフが混じっていたらきっと傷つく。
 人の事知りたい反面、その言葉や酒場の人達を見ているとマスターがいる場所以外に行くのをどうしてもためらってしまうのだ。

マスター「そっか。じゃあ、今日はメニューにはないんだけど、かみさんがグラタン作れるから一つ増やしてもらおう」

エルフ「ありがとうございます」

 そう言ってマスターは店の裏方に一旦消えていくと、間も無くマスターの奥さんが調理に入ったのか、歌声が聞こえてきた。

マスター「うちのかみさんは料理上手でね、ロウソクも使わないで歌だけで時間ピッタシなんだよ」

エルフ「凄いですね。私の料理は見た目です。ロウソクって結構手に入れるの大変ですからね」

マスター「そうなのかい? この村に住んでるとそういう不便は感じないけど、使わないに越した事はないのは確かだよ。かさめばそれなりの金額になるからね。それにしても君の故郷は結構大変なんだね」

エルフ「ええ、ミツバチの巣から作るので。代価に渡すものもそれなりのものじゃないと……だから料理ぐらいじゃホイホイ使えませんね」
 なーんてマスターには言ってはみたが、半分嘘で半分本当。エルフの料理は精霊頼りで、ロウソクは明かりくらいにしか使わない。

 明かりのためにいちいちウィル・オー・ウィプスやらなんやらを呼び出していたらキリがないけど、料理ばかりはお湯沸しや火加減は精霊に手伝ってもらっている。

マスター「蜜蝋かぁ……それはまた珍しい。納得だな。グラタン、出来上がったら持って行くから、今日は残りの時間このドブロクでもどうだい? 安くて量があるよ。最近通い詰めみたいだし、ちょっと心配なんだよね。君のお財布」

エルフ「何から何まですみません」
 そう言って私はドブロクが入ったピッチャーを受け取るって席に戻ろうとして、ふと足を止める。
 その様子に気がついたマスターが声をかけてくる。

マスター「どうしたの? 何か気になる事でもあった?」

エルフ「あの、ちょっと伺いたいのですが」

マスター「何?」

エルフ「ここら辺の人って、この酒場に集まる人のように喋るのが普通なんですか?」

 その質問にマスターはうーんと唸ると、「どうだろう?」と疑問符を付けた。

エルフ「違うんですか?」

マスター「そうだと言えばそうだし、違うと言えば違う。ここはみんなのストレス発散場所だからね。普段仕事や家庭で我慢してる事を酒に任せて流されてみたりする人もいれば、そういう人にわざわざ絡みに来る人も居るし、本当人それぞれだから、自分の自然体で過ごせば良い、としか答えようがないねぇ……」
 そう言ってマスターは苦笑する。

エルフ「じゃあ、彼は?」
 あの大柄で野卑な男に視線を向けて尋ねる。

マスター「ああ、彼ね。彼は……何というか、この店を楽しんでる人、かな? 色々な意味で。仲良くなれたら楽しい人だけど、目を付けられると、面倒くさいかも知れない……ここだけの話ね?」

エルフ「ふーん……」
 仲良くなれたら楽しい人なのか。
 確かに頭は良いみたいだし、口調が悪いのも論戦を楽しむための誘い罠だけなのかもしれない。
 マスターの説明で私は彼に興味が沸いてしまった。
 それが大きな失敗を呼ぶとも知らずに。

 私はエルフとして、知的生物として、私はこの時まだまだ幼かったのだ。
 自分よりずっと年下の人間にも敵わない程に。
 長老がキツくもう人間に近づくなといった意味。
 それはこの後嫌という程思い知らされる事になる。

 ドブロクをちびちび飲んでいると、マスターの奥さんが作った熱々のグラタンが目の前に置かれる。

マスター「ほい、お待ち」

エルフ「ありがとうございます。これが、人……ゲフン、この地方のグラタン……美味しそうですね」

マスター「ホワイトソースから何から何までかみさん特製だからな。ここでしか食べられない味だぞ。よく味わってくれごゆっくり」
 そう言ってマスターは去っていった。
 グラタンを食べていると、隣の席から話し声が聞こえる。

太男「ハハッ……それでよ、その女がスゲーエロくってよ。旦那が居るっていうのに男食いまくりでスゲェらしいんだ」
キツ女「ヤダー。クスクス」
 あの野卑な男達の会話だ。

太男「ま、俺くらいになると、相手が居ようが居まいが関係無しにイチコロだけどな」
キツ女「すごい自信ね。私は自分のダーリン一人で手一杯よ」

太男「まぁな! でもお前はそこがエラいところだと思うぜ。結婚してなきゃひと晩お付き合い願いたいところだ。がっはっはっは!」
 はぁ、今日も随分お話に花が咲いていますね。話のネタに私は苦笑する。
 その時ふとマスターの言葉が脳裏に蘇る。

『彼は仲良くなれば良い人だよ』

 そして私は、つい口を挟んでしまったのだ。

エルフ「そんなに沢山の女の人を囲えるなんて、随分お金持ちなんですね」

 私の一言に彼らの会話が止み、凝視する視線が突き刺さってくる。
 あれ? 何かおかしい事でも言ったかな?

太男「おい、それどういう意味だ」
 急に太ましい男の口調がドスの利いたものに変わり、私は首を傾げる。

太男「え、言葉通りですけど……たくさんの女の人を養えるなんてすごいじゃないですか。うちの村なら長老クラスですよ? しかも相手が居ても魅惑できる自信があるなんて、相当なご加護の持ち主とお見受けしますが……」
 その言葉で更に空気が淀むのを感じた。

 私は解っていなかった。親しくない人間が他人に向かって異性やお金の絡む話を簡単にネタにしてはいけない事を。

キツ女「ちょっとあんた! 馬鹿にしてるの?! 最近ずっとこの店に居るのは知ってたけど、いきなり話しかけてきた内容がそれな訳?!」
 ロングヘアの女性がいきり立つように立ち上がる。

エルフ「えっ?! えっ?!」

 私は彼女が怒っている理由が分からず、戸惑う。
 その時だった。

すみません間違えました

エルフ「そんなに沢山の女の人を囲えるなんて、随分お金持ちなんですね」

 私の一言に彼らの会話が止み、凝視する視線が突き刺さってくる。
 あれ? 何かおかしい事でも言ったかな?

太男「おい、それどういう意味だ」
 急に太ましい男の口調がドスの利いたものに変わり、私は首を傾げる。

エルフ「え、言葉通りですけど……たくさんの女の人を養えるなんてすごいじゃないですか。うちの村なら長老クラスですよ? しかも相手が居ても魅惑できる自信があるなんて、相当なご加護の持ち主とお見受けしますが……」
 その言葉で更に空気が淀むのを感じた。

 私は解っていなかった。親しくない人間が他人に向かって異性やお金の絡む話を簡単にネタにしてはいけない事を。

キツ女「ちょっとあんた! 馬鹿にしてるの?! 最近ずっとこの店に居るのは知ってたけど、いきなり話しかけてきた内容がそれな訳?!」
 ロングヘアの女性がいきり立つように立ち上がる。

エルフ「えっ?! えっ?!」

 私は彼女が怒っている理由が分からず、戸惑う。
 その時だった。

?「お~~~カミーラァ~~~~僕の愛しのカミーラァ~~~~♪」
?「まあサンジェルミ~♪ 会いに来てくれたのね~♪」

 二人の男の歌声が私達の会話を遮った。

エルフ(何事?!)

 その歌声に私も太ましい男達も気を逸らされる。

 声の方を見やると、若い男二人が派手なポージングで寸劇を行っていた。

太男「お前達、何やってるんだ?」
 太ましい男が二人に声をかける。

 すると赤髪の男がさわやかな様子で挨拶してくる。
赤髪「やあみんな。今日は男二人で恋愛劇を見に行った帰りで、面白かったから再現していたところなんだ」

 そう言いながら私の座っているテーブルに声も掛けずに座る。 しかも私の真隣に。

 もうひとりは黒髪で、太ましい男のテーブルの方に座った。

太男「そうか。この酒場で顔みるの久しぶりだな。何してたんだ?」

赤髪「や~~~最近仕事が忙しくってね。やっと一息ついたところなんだ。ところで俺の隣にいる人は? 会話してたみたいだけど?」
 そう言って赤髪の男はフードで隠れた私の顔を覗き込もうとする。

太男「とんでもねぇ失礼な田舎者だよ。最近ずっとそこにいたと思っていて、やっと口開いたと思ったら俺の事馬鹿にしやがった」

エルフ「わっ私はそんなつもりじゃっ……! うちの村じゃたくさんの妻を目取れるのは名誉の証なんですよ!?」

太男「知るかよ、そんな辺境の村の掟なんざ。俺は不愉快に感じたんだ」
 そう言って鼻を鳴らす太ましい男。

エルフ「そ、それは失礼しました。私本当に何も知らなくて……これから気をつけます……」

太男「これからも糞もあるか」

赤髪「ま、まあまあ。この子も悪気があったわけじゃないみたいだし、勘弁してやってよ。俺の顔に免じてさ!」
 赤髪の男はしょんぼりする私の頭をフード越しに撫でながら男を取りなす。

太男「お前の顔なんてどうでもいいんだよ。気分悪りぃ……帰る。マスター!お勘定!」
 そう言って彼等は忌々しそうに私を横目に見ながら去っていった。

 そしてこれが私と彼の出会いになるのだった。

とりあえず一区切りです。
更新は不定期です。

赤髪「なるほどねぇ……君はあの人と仲良くなりたかったのか。また無謀な事を……」

エルフ(無謀……?)

 事情を聞いた赤髪の男は困り顔でそう言った。
 それと、さっきの寸劇は私達の会話を中断させるために咄嗟に行ったらしい。

 情報整理すると私はとても危険な立場に置かれていて、この男が止めに入らなければもっと危ない状況に陥っていたようなのだ。
 つまり私は彼(ともうひとりの黒髪)に助けられたらしい。

 私は彼の言葉を反芻する。
エルフ(無謀……無謀……? 人間と意思を交わそうとしただけで無謀って何? マスターやこの人と会話しているのと何が違うというのだろう? 確かに、しきたりの違いという認識違いで彼を怒らせてしまったが、無謀とまで言われることなのだろうか?)
 私は頭を悩ませる。
エルフ「……彼と仲良くしようとするのは無謀な事なのですか? マスターは仲良くできれば楽しい人だと言っていましたが」
 私は思わず男に尋ねる。
 すると男は困った顔のまま、唸りつつ一考して答えた。

赤髪「まあ、確かにマスターの言うのも間違ってない。彼は非常にユーモアのある人間でもあるのは確かだ。だが、彼は非常に分別を要求する人でもあるから、今回のような導入は非常に不味かったとしか言えない」 

エルフ「つまり、話しかける話題を間違えたという認識で間違いないでしょうか?」

赤髪「簡単に言えば、そうだね」

エルフ「そうですか……」

 男の返答に私は項垂れる。
 初めてマスター以外で仲良くしたいと思った人間との接触に初っ端から失敗してしまった。
 そのショックは決して小さくなかった。

赤髪「でもまあそんなに落ち込むなよ。これから挽回するチャンスはいくらでもあるさ。俺も協力するからさ。今回の失敗は君がこの村や地域の事を何一つ知らなかった事がが原因だろう? 知らなかったら知れば良いんだよ。無知は罪って言うけど、知ろうとしない方がよっぽど罪だ。死罪に値するかもね。君は、違うんだろ?」

エルフ「違います! 私はもっと、みなさんのことが知りたいんです! でも、今はマスターくらいしか信用できる人がいなくて……だからずっと酒場にいました」

赤髪「それを聞いて安心した。俺、ちょうど仕事が一段落してしばらく暇なんだ。村の事が知りたいなら手伝ってやるよ」

エルフ「えっ……!」
 その言葉に思わずマスターの方を見ると笑顔で大きく頷いていた。
 どうやらこの男は私が多少気持ちを預けても大丈夫な人間らしい。 

赤髪「大丈夫かな?」

エルフ「お、お、お願いしましゅ!」
 緊張してちょっと噛んだ。

 次の日、早速私と彼は村の散策に出た。
 私がいつも酒場以外の店は覗くだけで入った事が無いと言ったら、オススメの店を案内してくれると言ったのだ。

 初めて酒場以外の店に入れる。
 マスター以外の人間と一緒にいるのは初めてだが、彼が帰った後にマスターが彼の事を優しくて良い人だとベタ褒めしていたので、あんまり緊張していない。

赤髪「おはよう。今日もフードローブ姿なんだね。他に服とか無いの?」

エルフ「それは……」
 無い事はないが、他の服は耳が目立ってしまう。

 言い淀んでいると彼は何かを察して、溜息を吐いて何事もなかったかのように「まあいいか」と呟いた。
 理解ある人で良かった。

 これが人間の距離感の取り方というものなのだろうか?
 人が気にしていそうな事は訊かない。覚えておこう。
 あ、私達も同じか。そこら辺は。

赤髪「何処の店から行きたい?」

エルフ「雑貨屋さん! 綺麗なとんぼ玉がいっぱい置いてある店があった。値段によっては村の子供たちのお土産にしたい」

赤髪「ほう、それは良いね。その店、どっち?」
 実は入らなくても店頭の品揃えだけは結構チェックしてあったのだ。
 後は店に入る勇気だけが必要だっただけで……。

エルフ「こっち!」
 指差し足早に向かっていく。
 5分ほど歩くとその店があり、色とりどりのとんぼ玉や民芸品が並んでいた。

赤髪「ああ、この店か。君結構目ざといね。この店、まだ開店して間も無いけど、結構人気の店なんだよ」

エルフ「そうなんですか?」

赤髪「それじゃあ……見たいもの、あったんでしょ? 見ておいでよ」

エルフ「はい!」
 私は改めて店の前に立ち、店構えを一望する。
 この日は良く晴れていて、店頭のガラス細工達がまだ日が昇りきらない太陽に照らされてキラキラと輝いており、私の興奮を更に煽った。

 まずは店頭から。
 私の親指頭より少し小さいとんぼ玉の一つを手に取って眺める。
 人間の作った細工を間近で見るのは実はこれが初めてだ。

エルフ(ほうほう、これはなかなか……人間はこれを精霊の力に頼らずに作り上げているの……?)
 もう片方の手で銀混じりのとんぼ玉も手に取る。

エルフ(うわっこんな高等技術を使った細工がたったの銅貨4枚? でも銀の精度は私達のものよりずっと粗悪だ。一体どんな精製をしているのだろう? 色が煤を塗したみたいに黒くくすんでいるじゃないか)
 だからこそ、エルフやドワーフが精製した金属が人の間でものすごい価値が有る事を私はまだ知らなかった。

赤髪「とんぼ玉、好きなの?」
 不意に男が訪ねてくる。

エルフ「あ、いえ。単にこういう形での細工が見慣れないだけです。うちの村は言っちゃあなんですけど細工物の技術で言えばここより遥か上です。ですが、他の地域の物も悪くないな、って思ってみてました」

赤髪「へえ、君の田舎って結構凄いんだ? 見る機会があれば見てみたいものだな」

エルフ「確か私が野営してる場所に幾つかお気に入りを持ち込んでいたと思うので、機会があったら見せましょうか?」

赤髪「まあ、機会があればね。ところで何か欲しい物あった?」

エルフ「そうですね~値段的にはどれも手頃なので数種類混ぜて買ってみても良いかなって今考えてる途中です。やっぱりガラス細工が綺麗です。このとんぼ玉が麦酒1杯分で、あそこの実験用フラスコみたいの、本体部分が薄くてすぐ壊れそうですけど、面白いから麦酒4杯分出しても良いかなって考えてます。

赤髪「フラスコみたいの? ああ、ペコポンか。あれはガラス細工だけど、口で拭いて遊ぶやつで息を吹き込むと、ペコペコ音がするんだ……っていうか、君の金銭基準って麦酒なんだね……」

エルフ「最初に覚えたのがそれなもんで……」
 苦笑する男の言葉に私は恥ずかしげに頭を掻いた。

赤髪「そうか、君のところは工芸細工が発達しているのか……じゃあ、逆にこういう簡素な細工は見たこと無いかもしれないね」
 そう言って男は一つ何かを手に取った。
 それは木ではない材質で出来たT字のアイテムで、男はその柄を両手で挟むとすり合わせた。
 すると、それは勢い良く青空に舞い上がった。

エルフ「わあ……」
 思わず感嘆の声を上げる。

赤髪「竹とんぼさ。竹は君の村の近くに生えているかい?」

エルフ「生えてますけど、あんなものが作れるような丈夫そうな竹は生えていませんね」

赤髪「これは最近開発された最新のおもちゃで、密かなブームなんだぜ? ちなみに一つ麦酒1杯分(笑)」

エルフ「買った!」

「「まいどあり~」」
 私達の会話を聞いていたらしき店主と男の声がハモった。

 この日は雑貨屋で色々買い物をしていただけであっという間に昼を回ってしまったので、買い物は一旦止めにして、いつもの酒場に昼食を兼ねて向かうことにした。
 私は両腕いっぱいに買い物をしてご満悦。しかも持ちきれず男にも一部荷物を持って貰っていた。
 私は断ったのだが(精霊にこっそり頼めば良いので)彼の男としての矜持が許さなかったらしく、人間として振舞っている私は一旦彼の好意に甘える事にした。

エルフ「マスター! ただいまー!」

マスター「いらっしゃい! いっぱい買い物してきたみたいだねー」

 だが、店に一歩足を踏み入れた瞬間。
 澱んだ空気が私を包んだ。

エルフ「っ……?!」

 私は慌てて辺りを見回すと、それは店のあちこちから向けられる私への視線だった。
 特に強いのは、あのいつもの席に座る――太ましい男からの視線だった。
 この時はまだ、自分の周囲に起こった異変……自分に向けられる敵意というものをまだちゃんと理解していなかった。

 今思えば何て甘ちゃんだったんだろうと思う。
 あの時点で何か気がついて策を講じていれば――自重していれば――私は失わなくて良いものが沢山あったのだろうと後悔してやまない。

エルフちゃん蟻地獄編始まる……予定。

なぜこんなに面白いの書けるのに人の少ない深夜vipに来たんだ

>>57
面白いですか? ありがとうございます。
ここに投稿してる人がいて、釣られて投稿してます。
ちなみに更新行きました。

 私が今まで感じたことのない店の空気に絶句して立ち尽くしていると、声がかかった。

?「おーい、こっちこっち!」
 声をかけてきたのは赤髪の男と寸劇を行っていた黒髪の男だった。

赤髪「お、来てるな。さ、こっちに行こう」

エルフ「う、うん……」
 男に促されて座ったのは、私がいつも座っている席とは違う、店の隅っこの席だった。
 私はその一番奥のコーナー部分に座らされ、目の前に赤髪の男と黒髪の男が座った。
 まるであの太ましい男から覆い隠すかの様に。

黒髪「二人で買い物行ってきたんだって? 良いのか? この子声からして女の子っぽけど、彼女妬かない?」

赤髪「ははっ。あいつには買い出しと酒場に行くとしか言ってないよ。あいつはインドア派だし、この子ならフードローブで傍目から性別見分けにくいから大丈夫じゃないんかな?」
 黒髪の問いに赤髪の男は苦笑しながら頭を掻いた。

エルフ「彼女さん居るんですか?」
 私が尋ねると、彼は照れくさそうに「まあね」と答えた。

黒髪「コイツの彼女スッゲー嫉妬深かくてさ。俺、ちょっと心配で先に酒場に来てお前ら待ってたんだ」

赤髪「だから居たのか。何だか仕組まれたみたいに居たからどうしたのかと思ったぞ」
 二人の会話会話を聞いて、どこの種族も色恋沙汰は難しいのだなと何となく思った。

 しかし、この黒髪が先に酒場に来ていたのは他にも意味があった事は後で知る事になる。
 そして私がどうしてこんな店の隅に座っているのかも。

 その日から私の酒場での定位置は赤髪の男を始めとして出会った顔見知りを中心とした人達が座る場所が席となった。
 二人はしきりに色々な人を紹介してくれた。

 男の人も居れば女の人も居て、私は徐々に広がっていく人の輪に喜びが隠せなかった。
 だが、店の澱んだ空気は晴れること無く、ふとした時に感じる舐めるような視線に不安を募らせた。

 そして、私が座る席はいつもあの男の視線を遮るように配置されていた。
 私はその意味がまだ理解できていなかったので、最初の失敗を払拭したい気持ちがあるのにあの男から遠ざけられるような場所に座らされている状況は何となく座りが悪くてしょうがなかった。

 そして私達が談笑してる間も、あの男はあの目つきの悪い女と一緒になって相変わらず下らない論争をし、勝って自分の強さをアピールする行為を繰り返していた。
 下らないといっても人間の事を知りたい私にとっては興味深い内容もそれなりにあったので、加わりたかったが、最初の失敗で彼の機嫌を損ねてしまったという事実が安易な手出しは危険だと私に学習させていた。

 それでも私は一生懸命人間のしきたりや常識を学び、あの太ましい野卑な男が女と二人で大勢の人間を相手をしているのを見かけたある日、私は思い切って発言してみた。
 この時の話題は既に論争が終わった後の雑談だった。

 そのくらいなら私でも混ざれると思ったのだ。

 ちなみに仲良くなっていたメンツは誰一人居らず、私一人だけしかいなかった。

 マスターは黙ってグラスを拭いていた。

キツ女「全く、常識ってものが解ってないわよね。これだけ周りの人間が否定してるのにいきがっちゃってさ」

太男「最後の方は負け犬の遠吠えでしかなかったなw」

キツ女「あいつはそうは思ってなかったみたいだけど」

太男「新しいバカの発見だな。しばらく楽しめそうだ」

 楽しめそう? どういう意味だろう?
 人間の思考回路はまだまだ解らない事ばかりだが、彼の論破は賞賛に値すると私は感じたのでそれを素直に伝えてみる事にした。

エルフ「あの……」
 私は慎重に声をかけると、太ましい男と他の取り巻きがジロリと私の方を見た。

太男「・・・・・・・・・」

エルフ「私も、あなたの言ってる事は間違っていないと思いました。毅然と理屈を述べる姿はかっこよかったですよ! 私も婚礼の儀式は地方によって違いはあるかもしれませんが、郷に入れば郷に従うべきだと思います!」

太男「・・・・・・・・・」

 太ましい男は私の言葉に何も言わなかった。
 忌々しそうに舌打ちすると、私など居なかったかの様に取り巻きとの談笑に戻った。

 他の人間達もそうだ。
 私の事など存在していないかのように男と話をしている。

エルフ(あれ……?)
 何だろうこの感覚。

 無視? 今私は無視されたの?
 何で? 私は彼を褒め讃えたのに。

 状況が理解できずに立ち尽くしていると、後ろから肩を叩かれる。
 振り向くと見慣れた赤髪の男の笑顔があった。

赤髪「どうしたの? ボーッとしちゃって」

エルフ「あ……その……」
 そして私は腕を引かれて店の隅の席に座った。

 席に座ると、たった今あった話を彼にした。
 私の話を聞いた男は、頬杖を突きながらちょっと寂しげに微笑んだ。

赤髪「そっか。無視されちゃったか……まあ、あの人気難しいからな……でも、時間掛ければきっと仲良くなれる日が来るんじゃないかな。君、良い子だし……」

エルフ「そうですかね? 出来ますかね……?」

赤髪「出来るさ。た、多分……」

エルフ「多分ってなんですか多分って」

赤髪「何でもモノはやりようって事だよ。現時点じゃ俺も君を励ます事しかできないからさ」
 確かに。あの男の私に対する心象は悪いままだからな。

エルフ「でも何でそんなに私に親切にしてくれるんですか?」
 そう尋ねると、男はポカンとして、少し考え込むと。

赤髪「何だか見てて危なっかしいっから、かな? 今のところそうとしか言えない」
 危なっかしい……なんだか子供扱いされてるような単語が私に伸し掛る。

 こう見えても私はエルフ。お前ら人間より何百年も長く生きているのだぞ?
 しかし何百年長く生きていても、年齢で考えればひよっこもひよっこに過ぎない人間とのコミュニケーションに四苦八苦し、目の前の男やマスター達の助けが無ければこの集落でろくに過ごすことすらできない有り体。

 人間から見たら私の方が余程ひよっこということか。
 一番最初に貨幣を知らずにマスターに苦笑されたことまで思い出して落ち込む。

赤髪「そういえば、君……幾つなの? ずっと俺より年下だと思ってたけど……年下かと思えばどこか落ち着いた部分もあるし……」
 キ、キターーーー!
エルフ(え……こういう時って幾つって答えれば良いの? エルフとしての実年齢? それとも人間換算年齢? でも私、自分が人間に直すと幾つか判らないかもしれない。先日やっと成人の儀を終えて……って言ってももうそれも100年は前の話だし……ああっもう!)
 私は脂汗を流しながら重い口を開いた。
 私は適当に誤魔化すという術を知らなかった。
 だから仕方ないので……。

エルフ「さ……3……さんじゅっさい……ですぅ……」
 実年齢の十分の一を実年齢とする事にした。

 ちなみに人間における三十歳がどのぐらいの年齢に当たるのかは良く解っていない。
 そして恥ずかしげに顔を両手で覆った。

赤髪「さ、30……?! 俺より年上?! うっそ!!」
 男は驚きすぎて思わず椅子を倒しながら立ち上がった。
 椅子が倒れる音で衆人環視が集まるが、男は何事もありませんというジェスチャーをし、座り直す。

エルフ「………」

赤髪「……それ、マジな話?」

エルフ「ええ、まあ……」

赤髪「君、もしかして結構良い家柄の家の子だったりする?」

エルフ「家柄……? うーん一応私達は豊穣と恵みを司る一族の中でも口伝を担う家系ではありますが……」

赤髪「ふむ……なるほど。で、今回この村に来たのは? 今更の話だけど」

エルフ「他の村が、見てみたかったんです……自分の村だけで育って伝統という役割を守って終わるのも面白くなかったので……」
 人間が見たかったとは言わなかった。
 それは自分が人間ではない、人間から見たら亜人であると告白するも同然だったから。

赤髪「なるほどねー……何か色々納得した。君の世間知らず加減はそこから来ていたわけか」
 世間知らず……率直な単語がグサリと胸を刺す。

赤髪「その年齢、黙っていた方が良いよ。世間一般で三十歳って言うと、それなりの立場築いていてもおかしくない年齢だし、ましてや女の子になると、行き遅れって言われる年齢だから」
 行き遅れ……! グサグサ!

 私たちエルフの間では300歳くらいでは結婚してなくても普通なのにっ。
 人間ではおしゃぶりがやっと外れるような年齢で行き遅れ……!
 カルチャーショックで私はもう虫の息だった。

エルフ「ななななるほど。いろいろ勉強になるなー……外の世界は……」

赤髪「何か声が死にそうな感じだけど大丈夫?」
 そう言って男はおもむろに私の顔を隠すローブをめくった。

エルフ「わひゃっ……!」
 いきなりめくられ、変な声が出る私。男は私の顔を覗いたまま、固まる。
 そして男は静かにローブから手を離すと、暗がりでも判るくらい赤い顔で一言。

赤髪「これも見なかったことにする……」
 と呟いた。
 私は何故男の顔が赤いのか分からず、只々首を傾げるばかりだった。

 そして次の日から私の太ましい男攻略大にステージ2、開幕。
 しかしそれは後に全て裏目に出ることになる。

 私が考えたのは、兎に角彼と、あの目つきの悪い女を褒めちぎる事だった。
 といっても、本音しか言っていないつもりである。

 しかし、毎度無視され、赤髪の男や他の仲間に慰められる日々が続いた。
 あまり話しかけすぎてもいけないのではとアドバイスされれば、距離を置いてみたり。

 彼らが話し合っていた内容に自分なりの解釈を述べてみたり。
 だがそれらは全て無駄に終わった。
 太ましい男も、目つきの悪い女も、相変わらず私の事など存在しないかのように振る舞い、私の解釈を皮肉るような事さえ言ってくる事もあった。

 私は一生懸命考えた。
 何が悪いのだろう? 私が空気が読めないから彼と仲良く出来ないのだろうか?

 マスターに意見を求めても「人の心は難しいからねぇ……」と言うばかりで参考にはならなかった。
(どうしたら、どうしたら私は彼と対等に意見を交わすことが出来るのだろう?)

 彼とディスカッションを交わせたら、とても有意義だと思うのに。
 しかし考えど考えど、答えらしい答えは出ては来なかった。

面白いと言われて嬉しいであります!

 とある深夜。
 私が野営地に帰宅した後の話である。

 太ましい男は店内に“私”が居ないのを確認すると、深い溜息を吐いて忌々しそうに呟いた。
太男「今日もようやく帰ったか。あの田舎者。アイツ、この村に一体何しに来たんだ?」

キツ女「噂によると見聞を広めるために田舎から出てきたらしいわよ」

太男「マジか。ホンマものの田舎者か。だからかあの空気の読めなさは。あの空気の読めなさはガチすぎて同じ空気も吸いたくねぇ……」
 本気でうんざりだと言わんばかりに太ましい男は椅子の背もたれにぐったりと身体を預ける。

キツ女「あたしもよ。でも、どうやらあの子、私達の事本気で世を憂える賢者くらいに思ってるみたい。この間なんか子供の弁当作った話したくらいで聖母見るような尊敬の眼差し向けられちゃったわ。うっざい……あの子、どんな環境で育ったのよ……」

モブ「ネーさんあれですよ、あの田舎者、新手の構ってちゃんとかじゃないですか? 言ってること結構めちゃくちゃだし。自分が正論だと思ってる事垂れてりゃ人が聞いてくれてるとかマジで思ってるんですよ! 俺、確信しました!」
 髪の長い女の隣に座っているハスッ歯な痩せ男がゴマをするように合いの手を打つ。

太男「ずっと無視で済ましてたが、そろそろ実力行使に出るか? あんなのにずっと付きまとわれちゃ旨い酒も不味くならァ……」
 そう言いつつ、店の隅に座る赤髪と黒髪の方をチラリと見る。

「「・・・・・・・・・」」
 太ましい男が言わんとしてる事を察して身体を強ばらせる二人。

太男「聞いてんだろお前ら。最後通告だ……俺も鬼じゃねぇ。それにここは大衆の酒場だ。人出入りは遮られねぇ。せめて、あの馬鹿が俺のところに寄ってこないようにしろ。返事はいらねぇ。わ・か・っ・た・な!!」
 最後の語尾を強めて言葉を締めると、太ましい男は盃に残っていたワインを煽った。

「「・・・・・・・・・」」
 二人は返事をしなかった。いや、出来なかったのだ。

 太ましい男は実は只の客ではない。下手な返事は自分達の立場も危うくする可能性がある。

 ちなみにマスターは皆の会話に口を挟まず、ただ黙々と自分の作業をしていた。
 マスターすら今の会話を聞こえない振りをしている――そういう事なのだ。

 赤髪と黒髪はおもむろに立ち上がると、店を出た。
 それと擦れ違うように一人の男が店に駆け込んで行くが、二人は気にしなかった。

エルフ「おはよーございます!」
 その次の日、その日も私は朝から酒場を訪れていた。
 だが、それを待ち構えていたかのように赤髪の男が険しい表情で腕を掴み、店外に連れ出される。

エルフ「ほえ?」
 何も知らない私は、店に入るのを遮られて疑問符を浮かべる。
 そしてそんな私に彼はとても言い難そうに口を開いた。

赤髪「あのさ……」

エルフ「なんでしょう?」

赤髪「俺、考えたんだけどさ、あの男とそんなに頑張って仲良くしようとしなくても良いんじゃないか? 俺達、友達だよな? 他にも友達何人も出来たよな? もうそれで良いと思わないか?」

エルフ「へ?! なんで急にそんなこと言うんですか?!」
 つい昨日まで協力すると言っていた彼が180度態度を変えた事に驚き、私は戸惑う。

赤髪「昨日君が帰った後に何人か顔合わせしたから君の事少し話し合ってみたんだよ。そりゃさ、俺も君の気持ちを汲んで少なからず協力する気でいたし、してきたけどさ……最近の君の玉砕振りを見ていたらやっぱり心が痛くって……だから……」

エルフ「嫌です!」

赤髪「えっ……嫌って……俺達と仲良くするだけじゃ何が不満なんだ?」

エルフ「不満はありません。でも、何か妥協するわけじゃないけど、何か違う気がするんです!」
 そう。そもそも私とあの彼はエルフと人間。

 正体を知られていたら会話すら叶わない立場だっただろう。
 でも今は人間と思われている。

 人間として負の感情を取り除いてコミュニケーションが取れたなら、それは……エルフと人間の関係改善にも役立つのでは? と少し前から考え始めていた。
 だから諦めるという選択肢は出来るだけ取りたくない。
 それが私の判断だった。

赤髪「でも、どう見ても君は彼に嫌われている。彼ももう、意地とか言うレベルを超えている! これ以上は君が傷つだけだよ。お願いだから俺の話を……願いを聞いてくれ……!」

エルフ「ね、願い?!」
 願い――そういう彼の言葉には何らかの必死さが滲み出ていた。

エルフ(何だろう。この違和感は……)
 何故、彼はこんなにも私とあの男の接触を絶とうとするのか?

 でも詳しく話してくれそうな気配はない。ただ兎に角察してくれという空気だけが伝わって来る。
 種族が違う私が分かるくらいだから彼は本気で私を止めようとしているのだろう。

エルフ(でも何故……?)
 解らない。解らないけれど――……。
 今は彼の忠告を聞いた方が良い気がした。

エルフ「わ、分かりました……彼との接触は今後控えます。残念ですが……」
 そう言うと彼の強ばった表情が解けてホッとしたものに変わる。

赤髪「良かった。分かってもらえて嬉しいよ……その代わりみんなで色んな所案内するからさ。まだ酒場と雑貨屋と大した店回ってないだろう?」

エルフ「え、ええ……」
 彼のありがたい申し出に必死に笑顔で答えようとするが、どうしても顔が引きつってしまう。
 だが、私も「今は」引き下がるだけのつもりだった。

 彼を安心させ、時間をかけて酒場に馴染んでいけばきっとまたあの男と和平を結ぶチャンスが巡ってくるだろう。
 それを信じて――……。

 彼は約束を違えなかった。
 酒場くらいしか馴染みの店がなかった私とほかの仲間と一緒に色々な場所を回った。

 劇場という場所も初めて入った。
 エルフの村でも演劇は行われるが神代の頃から伝わる伝説の再現が殆どで、創作戯曲などが演じられたり、そういうモノが催される場所もなかったので興奮した。

 私が初めて観たのは彼が黒髪の男と行っていた寸劇の元になった恋物語だった。
 オリジナルはこう言っては何だが……あんな滑稽なものではなく、実際にあったことを見せつけられているかのような気分にさえなるようなロマンティックなもので、終演後にネタにしたら失敬なと二人で怒っていた。

 他にもたまたま巡業に来ていたサーカスや、時には彼等のとっておきの花畑に連れて行ってもらった事もあった。

 エルフは自然の申し子。
 しかも私は豊穣と恵みを司る一族の人間。
 人の村の近くに咲く、珍しい花に興味を示さないはずがなかった。

 それから村に帰るまで度々、気が向けば訪れて土地の精霊達と語らう事もあったが、それは人間の友人達には秘密の事である。

 兎に角何でも凄く楽しかった。

 人の村には私の知らないもので溢れていて、丸でおもちゃ箱をひっくり返したかのようだとも思った。

 だが、気になる事もあった。
 色々な場所に連れてって貰えて、見せて貰えるのは嬉しいが、それと比例するようにあの酒場の滞在時間は減っていった。
 慣れてくると一人で村を回ることもあったので、その間はみんなは何をしてるのだろうと思いを馳せたりもした。

 そして事は私の居ない所でどんどんと進んでいっている事に私はまだ気が付いていなかった。

今は筆が進む時期らしい。

 ある日の事だった。
 昼頃久々に酒場に行くと、何だかざわめかしかった。
 いつもの店の隅に黒髪の男がいたので捕まえて理由を聞いてみると、驚くべき事を教えてくれた。

黒髪「あいつが消えたんだよ」
 あいつとは赤髪の男の事である。

エルフ「え、どうして?」

黒髪「ついに彼女さんに耐え切れなくなったらしくてさ、仕事もほっぽって雲隠れだよ。あいつの雇い主も怒り通り越して呆れてるよ。あの二人の不安定さは、知ってる奴の間じゃ有名だったからな……」

エルフ「そうだったのか……」
 そんな様子、一切私には見せなかったのに。

?「心当たりはあるの?」
 そう訪ねたのは赤髪・黒髪共通の友人である亜麻色の髪をした妙齢の女性である。

黒髪「うーん。喧嘩して俺の家にやって来る事は度々あったが、姿を消すまではしたことはなかったから……これはきっともう本気で逃げる気だな。下手すると村からも逃げてる可能性もあるぞ。彼女さん、最悪あいつを殺しかねないからな……」
 そう言って黒髪は手を組んで深刻そうな顔を載せる。

エルフ「こっ殺す?! 村から出る?! そんな!!」
 せっかく仲良くなったのに。
 そんなあっけない別れがこの世にするなんて……信じたくはない。

亜麻「あの子、本当猟奇的なところがあるからねー。あの人の前の彼もある意味殺しかけたって聞いたわ。本当か知らないけど……」
 亜麻色の女性は呑気な口調で恐ろしい事を言ってのける。

エルフ「やっぱ殺すの?! 彼は何でそんな人と付き合っていたのですか?! 生き物が不必要に命を奪うのは何があってもあってはならない事だと思います!」

黒髪「男女関係って、色々あるものなんだよ……」
 そう言って二人は顔を合わせて溜息をハモらせると、私の肩をポンポンと叩いてから立ち上がって店を出て行き、私一人がポツンと残された。

 いつもなら一人でも酒の一杯でも頼んで時間を潰しているところだが、こんな話を聞かされた後では飲む気にすらならない。
 私も席を立つと、店を後にした。
 その後ろ姿を太ましい男とその仲間達が何かを考えるように見詰めていた。

(今日はどうしようかなー。あの人の居ないしっていうか、だいじょうぶなのかな……彼女さんに殺……)
 いや、考えたくもなかった。

 あの優しい彼がこの世から居なくなってしまうなんて。
 しかもそんな色恋沙汰なんかで。

 でも、心配だ。
 あの人はマスターの次に私に色々教えてくれた大事な人だ。

 いつかは正式にお礼をしたいと思っている。
 だから今死なれては困る。

 だから、生きていて欲しい。
 そう思って私は空を仰ぐと、太陽に雲が被さろうとしていた。

(あ、あの掛り方はひと雨来るな……)
 そう思って私は酒場に引き返した。

 酒場に戻った瞬間に空から雨粒がポツポツと落ち始め、あっという間にその勢いを増した。
エルフ(危なかったー)

 そして改めて店内を見やると、また黒髪の男と亜麻髪の女の人が居たのでそちらの方へ座る。
 二人とも思いつめた表情だったのに、私の存在を確認すると何もなかったかのような笑顔を浮かべた。

 どうしてだ。赤髪も彼等もどうしてこんな顔をするのだろう?
 今していた表情は一体何だったんだ?

 何故、みんな私に何かを隠すような顔をする?
 赤髪は態度を180度変えた後に失踪した。私が思うにこの失踪は彼女さんだけのせいじゃない気がするのだ。

 エルフの感は妙に当たるから、そんな気がする。

 そして今、彼等は思いつめた顔をしていたはずなのにそれを誤魔化した。
 彼等は私に何を隠している?

 私だけが蚊帳の外だ。

 しかし、態度の豹変の意味を、今の表情の変化の意味を今ここで問い詰めて答えてくれるだろうか?
 否。たぶん答えてくれないだろう。
 これも感だ。

 答えはこの店の空気にある気がする。
 その時だった。

太男「あーあー。こんなに嫌われてるのによく店に顔出せるよなぁー」
 不意にあの太ましい男がこれ見よがしに派手に呟いた。

キツ女「ホント。気付いてないんだか気付かないふりをしてるんだか」
 それに続くようにあの目つきの悪い髪の長い女も続けて言う。

 二人の言葉に過敏に反応し、身体が震えそうになる私。
 だがその瞬間。
 亜麻色の髪の女が手を掴んでぎゅっと握ってくれる。

エルフ「・・・・・・っ!」
 揺れる視線で亜麻色の髪の女から黒髪の男の方も見ると、目が「耐えろ」と言っていた。
 私はフードを深く被って顔を隠すと、動揺を隠すように、自分の姿を隠すように奥の席へと座った。

 気がつくと目の前に酒ではなく水が入ったピッチャーと杯が置いてあった。
 二人のどちらかが気遣って持ってきてくれたらしい。

 しかし誰も口を開かない。
 私も話しかけるような気分では無く、酒を注文しに行く気力もなく、ピッチャーの水を飲み干すと二人にさよならを言って野営地に帰って行った。

 そしてそれからも何日も何日も気は重いが酒場に顔を出した。
 何故ならば私は友人達がどこに住んでいるかを知らず、赤髪の男の安否を知る術はここしか知らなかったからだ。

 だが今までのようには長く店に居る事はなくなった。
 あの太ましい男と目つきの悪い髪の長い女の言葉が耳に残っていて、加えてある意味心の支えだった赤髪の男も居ないのでは店に居る意味は無い。

 顔見知りの一人でも居れば多少滞在することもあるが、基本的には赤髪の男の安否を確認するためだけに行くだけになりつつあった。
 それがあの太ましい男の狙いとも知らずに。

 赤髪の男がいなくなってどのぐらい経った頃だろうか。
 依然として彼は見つかないまま時は過ぎて行き、皆諦めモードに入った頃。

 私は酒場で時間を潰さなくなった分、村を回って村の事にも大分詳しくなっていた。
 その事によって、酒場に居られなくなったのは残念だが、自分がいかに酒場という場所に甘えていたのかも実感した。

 最初は森で調達していた食料も、村のフェアー(市場)でも調達することを覚え、ヒト族の食材で料理する楽しみも見出し始めていた。
 そんな日の帰り。

 いつものように野営地に向かう途中。
 私は周囲を確認して誰も居ないことを確認すると、顔を覆うフードを脱いで大きく息を吐いた。

エルフ「プハー……」
 耳を隠すためとはいえ、ずっとフードをかぶり続けているのは実は少しきついものがあったりする。
 フードを剥いだ瞬間、布に収めていた錦糸のような長い髪の毛の房が胸元に散らばる。

エルフ(やっぱり何だかんだ言って素が一番だなぁー……)
 そう思って地面に一旦持っていた荷物を置くと、背伸びをして、フードで折れ曲がっていた耳もピコピコと気持ち伸ばす。
 よし、帰るか。
 そう思って荷物を抱えた瞬間、物凄く近くからそれなりの質量のある生き物の気配を感じて私は警戒する。

エルフ(何?! 熊?! やだちょっと対話詠唱……!)
 あわあわしながら荷物を散らばし、精霊を呼ぶ体制に入ろうとすると、意外な声が聞こえた。

?「あれ、そのローブ……もしかして……」

エルフ「へ?!」

 その声に顔を上げると、木の間から見慣れた赤髪の男が顔を出していた。
 しかしその身なりは少し薄汚れ、健康的だった頬は痩け、無精ヒゲもまばらに生えている始末。明らかに何かから逃げていたという風体だ。
 だが彼の姿を見た瞬間。私は抑えていた感情が溢れ出るように涙を流していた。

エルフ「あなたは……やだっ! 今までずっとどこに行っていたんですかっ!? みんな……みんなみんな心配してましたよ!! 私もっっ!! ふぇーん……」
 両手で口を押さえて肩を震わせて泣いていると、視界を覆うように男が目の前に立つ。
 ちなみに男の身長差は頭一つ分くらいあるので、私の頭の先が丁度彼の肩に来る感じだ。

赤髪「ごめん、ちょっと色々あってさ……心配かけちゃったみたいだね……」

エルフ「馬鹿っ……バカ、ばか馬鹿馬鹿ぁ……!!」
 ポカポカと彼の胸板を殴るが彼は私の拳から逃げようとはしなかった。

赤髪「で、ところでさ……聞きたい事があるんだけど……ていうか、これはもう君やっちゃったよね?」

エルフ「な、何ですかぁ……?」
 胸を叩く体勢のまま男の顔を見上げると、そこには引きつった笑顔が有り、ジェスチャーで耳を指差していた。

エルフ「あ……っ!」
 今度は私の身体から血の気が引いていくのを感じる。

赤髪「そっか、君……エルフだったんだ……なるほどね。見聞を広める年齢にしては30歳って結構行ってるし、顔が若すぎると思ったんだ」
 顔……ああ、あのフードを覗かれた時の事か。

エルフ「隠していてごめんなさい……って言うか、私の事、怖くないのですか? 私エルフですけど……」 瞳に涙を湛えたまま尋ねると、男は苦笑したまま言った。

赤髪「君、僕が怖くなるような事した? それに君を見て怖いと思う人はまず居ないんじゃないかな? エルフだって判れば偏見持つ人はいるかもしれないけど……ところで涙拭いてくれない? その顔で泣くのは反則。俺も一応男だから……目に毒……」

エルフ「ええ、折角再会できたんですしね。泣くより笑うようが良いですよね……」
 私は袖で涙を拭うと満面の笑みを浮かべた。

赤髪「ちっがーう!」

エルフ「へ……?」
 何故か地面でもんどり打つ彼を見下ろし、私は只々疑問符を浮かべるのだった。

赤髪「そうかー実際は300歳だったんだね。見た目的には20歳前後……下手したら未成年に見えてもおかしくないよ? その見た目。よくマスターにお酒売ってもらえたね」
 私達はあの後、一緒に私の野営地に行き、テントの中で一緒に夕食をとっていた。

エルフ「実はもう少し行ってるんですけどね。私も細かい歳は忘れました。お酒……多分フードを被っていたからじゃないですか?」

赤髪「違いねぇ。そもそも、エルフって時点で村にすら入れなかっただろうからな。それにしてもこのスープ、不思議な味付けだなー。どんな調味料使ってるの?」

エルフ「ああ、これですか? 胡椒苔っていう辛味のある苔を少し入れてあります。人間とあまり交流しない私達は、ヒト族の村のフェアーに並んでる調味料のほとんどが手に入りません。胡椒苔って言うのも相当する名称がなかったのでエルフの名称をを強引に人間の言葉に直したらこうかな? って思って言ってみました」

赤髪「ふーん」
 男は私の説明に不思議半分関心半分、といった様子でスープに再び口を付けた。

エルフ「あ、そう言えば……雑貨屋さんに行った時に、機会があれば私達の細工も見せるって言いましたよね。良かったら折角ですし、今見せましょうか?」

赤髪「お、それは是非是非」
 男の言葉に頷くと荷物の中から一つのペンダントを持ち出す。
 それは非常に緻密な模様が刻み込まれ、中心に青みがかった緑色の石が嵌った細工がしてあるものだった。

エルフ「どうぞ見てください。ミスリル鋼で出来た私のお守りです」

赤髪「お、おい……いきなり見せるのがとっておきすぎるだろ、それもミスリル鋼って……少しは警戒しろよ……一応相手はお前らエルフと仲が悪い人間だぞ?」

エルフ「何だか、あなたなら良い気がしたんです。ちなみにロケットになっていて、私の魔力が込められた血が収められています」
 そう言ってペンダントを開くと、赤茶けたモノが一滴内側にこびりついていた。

赤髪「うわっ……なんだこの細工。俺、一回宮廷に出入りしている宝石商の品物見たことあるけど、流石にここまでの品物は見たことがないぞ……エルフってすごいんだなー…・…。ちなみにこれって、付けておくとどういう効果があるんだ?」

エルフ「生命の危機にさらされた時に一度だけ、身代わりになってくれます。でもそのためには暇を見て精霊と対話して力を込めていざという時効果が効率良く発動するようにメンテナンスしておかないといけないんですけどね」

赤髪「ふーん……」
 男はその話を聞くと、それきり細工の話は訊いてこなくなった。
 多分何を見ても自分の知識では追いつかないと判断したのだろう、と私は思った。

 それから食事を終えると、男が自分が失踪していた間の話を面白おかしく話してきたり、私達がどれだけ心配していたかを話したり、とめどない会話を交わした。
 やはり彼女さんから逃げるために色々ふらついていたらしい。

 そこまでして逃げる彼女さん……人間の女の執念……恐るべし……!
 そして一通り話し終えると、彼は帰ると言い出したので歩いて30分くらいのところまで一緒に歩いてさよならをした。

 彼は仕事場にも謝って復帰すると言っていたし、私がエルフだということも黙っていてくれると約束してくれた。

 そう、これで日常が帰ってくるのだ。
 私は彼の背中が見えなくなるまで見送ると、ウキウキとした気持ちで野営地へ戻っていった。

――彼女は俺の姿が見えなくなるまで見送るつもりのようだ。
 俺は振り返らずに村へと向かって歩いた。振り返ることが出来なかった。

 300歳の世間知らずのエルフ。
 ああ、本当に彼女は世間知らずだ。

 酒場で出会っただけの俺をあんなに信じ込んで、心配して探し回って、見つかったら自分の事のように喜んで泣いて、自分の住処にまで招き入れて、自分の命とも言えるものまで人間の俺に晒して……。
 最後まで俺が何故こんな場所に居たのかさえ考えもしなかった。

 俺もそれを利用して誤魔化した。
 あんな純粋な涙を見たのはどのぐらいぶりだろうか?

 罪悪感で押しつぶされそうだ。
 でも俺は――今は――逆らえない。
 俺は砂を食む思いで下唇を噛んだ。

小休止

 再会した私達。
 私から酒場であった事を聞いた男は、私と会う時は極力酒場は避ける様になった。

 私もマスターの顔が見れないのは寂しいが、他のみんなも居るし、実はマスターとは早朝にフェアーに行くと店の買い出しに来ているところに鉢合わせする事があるのでそれはそれで良いかなと思った。
 人間の友人達、特に男は私に村を沢山案内してくれたので、今度は私が彼に森を案内すると提案してみた。
 ただし男だけに。

 何故ならば私がエルフだと知っているのが彼だけで、私が教えたいのはエルフだから知っている森の知識だったから。
 本当なら他の皆にも見せてあげたかったが、私の素性がこれ以上広まるのは余り良いとは言えない。

 人間の友として良い人でも、種族が違うと判った瞬間人間はどう変わるかわからない。
 男が態度を変えずにいてくれているのはほぼ奇跡のような事例だと思う。

 私が世間知らずとはいえ、そのくらいの判断は出来る。

 その日、男が仕事を終えるのを待って村を出ると、村から程近い丘へと向かった。
赤髪「こんな所に来て、一体何をしようって言うんだ? 何もないただの丘じゃないか」

エルフ「そう見えますか? 普通の人間には、そう見えるかもしれませんね」

赤髪「何だそれ……」
 私は周囲の草叢を探り、『あるもの』がちゃんとあるかを確認すると、男に問いかける。

エルフ「あなたは近くに川もないのに蛍が飛んでいるのを見た事はありますか?」

赤髪「蛍? 蛍は川がなけりゃ生きていけないだろう……あーでも、仕事仲間の誰かがチラリとどこかで見たとかどうとか……」
 男は記憶を手繰るように視線を上に飛ばして顎を撫でる。

エルフ「ふふ。たまに居るんですよね。人間でも見えちゃう人が。それ、蛍じゃないです。妖精です」

赤髪「妖精?! 俺達にも見えるのか?」

エルフ「はい。ある程度能力があるか、地域条件が揃えば人間でも裸眼で視認する事が出来る事があるんですよ。今日はそれを見せに来ました」

赤髪「ど……どういうことだ」
 動揺しているらしい男に自慢げに説明を続ける。

赤髪「先日から何回かかけて確認したところ、この丘の周りにフェアリーサークルが偶然形成されているのを確認しました。自然に出来たフェアリーサークルは一種の結界の原型です。ここなら、私が少し働きかけるだけであなたでもハッキリと見えるはずですよ」
 そう言って私はエルフの古語で詠唱を始める。

 エルフの古語は人間には発音しにくく、意味も難しいのでひとまずは割愛させてもらう。
 現代語詠唱でもよかったのだが、少し発音が難しいものの、やはり古い呪文の方が詠唱が短く力も篭もりやすいので私はこちらの方を好んで使う。

 1分程唱えていると、草むらから淡い黄緑色の光が幾つも舞い上がってくる。

赤髪「うわっ……なんだこれっ! 蛍っぽい色してるけどもっと濃いし、でかい!」

エルフ「これは、いわゆる木霊とかに近いピクシーの仲間です。あなたにも判りやすく人の形をとってもらいました。ほら、指を出してください」

赤髪「・・・・・・・・・」
 男が私に言われるがまま右手の人差し指を差し出すと、大きさ7cmくらいのピクシーが一匹戸惑いがちに指の周りを飛び回る。

エルフ「彼は安全な人間ですよ」
 私がピクシーにそう告げると、ピクシーはおずおずと指に腰を下ろす。

赤髪「感触は、無いんだな」

エルフ「実体はありませんから。私が干渉してあなたに判りやすい姿に見せているだけです」

赤髪「そうなのか」
 私の言葉に納得したような納得してないような怪訝な表情で、男は自分の指に停まったピクシーを顔の間近で眺めようとする。

 ピクシーの身体は光る硝子細工の様に半透明で、男は珍しいそれを何度も顔に近づけたり遠ざけたりしている。
 間も無くピクシーはジッとしているのに耐え切れなくなったのか、男の指から飛び去ってしまった。

赤髪「あっ」

エルフ「ふふ。人慣れしてないのです。勘弁してあげてください」

赤髪「それもそうだな……」
 そう言って空を見上げると、夜の木々を縫うように無数の光の玉が乱舞していた。

エルフ「どうですか気分は?」

赤髪「こんな光景、初めてだ。こんなものを見たなんて人に話したらきっと俺は狂人扱いされるな。生誕祭のオーナメントなんか目じゃないくらい綺麗だ……でもこんなの、俺一人で見ちゃって良いのかって思う」

エルフ「生誕祭?」

赤髪「俺達人間が信仰してる神が地上に降りたとされる日のお祭りさ。すごく賑やかで楽しいぞ」

エルフ「へえ、人間が信仰する神ですか。私達は精霊と共に生きているのでそういう信仰はありません。でも、お祭りは楽しそうですね」

赤髪「後4ヶ月もすればやってくる。その時君がまだこの村に縁があったなら、楽しみに来れば良いよ」

エルフ「4ヶ月後ですか。だったら、もっと人の村に慣れてますよ、私」

赤髪「・・・・・・・・・」
 何故かその瞬間、男は押し黙ってしまった。
 私は何故男が黙ってしまったのかよく解らなかったが、その時は二人で見上げるピクシーの舞う空を眺める時間が楽しくて、幸せで……細かい事はどうでも良かった。

 それから度々私達は二人でフェアリーサークルでピクシーと戯れ、森の妖精達を紹介して回った。
 だけど何故か、あの秘密の花園の精霊達は自分達の事は黙っておいてとうるさかったので、言われた通りに男にもあそこの精霊達の事は黙っておいた。
 村に近すぎるが故に色々見すぎてしまっていて、本当に人間が怖いのだろうと私は思った。

エルフ「今日も好い日ですね」

赤髪「……ああ、そうだな」
 今日は男の仕事がオフの日で、朝から一緒に村を散策していた。
 彼は戻ってきてからずっと私と一緒にいる。

 逃げ回っていた彼女さんはどうしたのだろう? 逃げ切ったの?
 私と歩いていて安全なの? 殺されるかもしれないって言っていたのに。

 色々な疑問がよぎるが、人間の色恋沙汰は解らないし、彼も何も言わないし、私も一緒に居たいので何も聞かないでおいている。
 その日は妙に男の様子がおかしかった。

 しきりに何かを気にしていて、私に何かを言いたげな様子だった。
 彼女さんの事だろうか?

 そう言えば寂しいから気分紛らわすの付き合ってって言ってた事があったっけ。
 それもあって一緒に居る時間も増えた。

エルフ「なんだか調子悪そうだけど、大丈夫ですか?」

赤髪「……いや、そうでも……ああ、そうかも。久しぶりに酒場に行かないか? 久々にマスターに顔でも見に行こう。あの男も居るかもしれないが、俺がちゃんとフォローするからさ……」
 彼の提案に戸惑う。
 しかし、マスターの顔をまともに見ていなくて寂しく思っていたのは確かだ。

エルフ「うーん。じゃあ、ご飯食べるくらい……」

赤髪「うん、じゃ……行こうか……」
 そう言って彼は私の手を取った。
 急に手を握られてびっくりする私。でも何故か、彼の手は妙に汗ばんでいた。
 まるで緊張しているかのように。

 間も無く私達は酒場に着いた。
 店に入ると、意外な声がかかった。

太男「よう、久しぶりだなー田舎者」
 あの太ましい男からだった。

 彼から私に声をかけてくるのは初めての事だった。
 どういうことだろう?
 入口で戸惑って立ち尽くしていると、彼は続けて言った。

太男「座りな。たまには話しようぜ。俺と話したかったんだろ? 良いぜ。久々に見かけたから構ってやるよ」

 私はなんだか不安になって赤髪の男の方を見やると困った顔をしながらも「行っておいで」と後押しするように背中を押した。
 その時男の手が妙に震えていた事には気が付かなかった。

 何も知らない私は、それに後押しされるように深呼吸すると、店に入り太ましい男の対面の席に着いた。

小休止

 店内は人がそれなりに居るのに妙に静かだった。
 まるで私たちのやり取りに聞き耳を立てているかのように口を利くものは少なく、無数の視線が向けられているのを感じた。

太男「まあ、まずは一杯飲めや」
 そう言って太ましい男は私の目の前に置いてあった盃に上等そうなワインを注いだ。

エルフ「・・・・・・・・・はぁ」
 どうしてだろう。あんなに話したかった男が目の前にいるのに、あんまり嬉しくない。
 寧ろ、不気味ささえ感じる。

 急に私と飲みたいだなんて、一体どういう風の吹き回しだろう?
 そう思いながらも勧められるがままワインに口をつける。

エルフ(旨い。私がいつも飲むモノより数段上の酒だ)
 そのまま思わず一杯全部飲み干してしまう。太ましい男はその様子をニヤニヤと見つめている。

太男「ところで、お前がここに来てどのぐらい経った? 村には慣れたか? 聞けば見聞を広めに来たらしいじゃないか。田舎くんだりから良く来たもんだなぁ」

エルフ「ええ、お恥ずかしながら何も知らず、見た事も無いものばかりで、あなたにも私の常識知らずな言動や行動で不快な思いをさせてしまいましたね……その節は本当に失礼しました……」
 私はそう言って深々と頭を下げた。

太男「まあ良いさ。お前がこの村に溶け込もうと懸命に勉強していたという話は皆から聞いている。それを聞いて私も少々意地悪をしすぎたと思っていたところだったんだ。そうしたら今日はお前が姿を現したじゃないか。好い機会だと思って誘わせてもらったんだ」

エルフ「そうだったんですか……」
 彼の言葉に喜びが沸く。やはり誠意を訴え続けていればどんな相手にも届くのだ。
 長老、私……頑張りました!

 太ましい男も私が嬉しそうに微笑むとうんうんと頷いておつまみも勧めてくる。
 私は勧められるがままそれを口にする。

太男「旨いか?」

エルフ「はい。とても」

太男「と、話は変わるが……これに見覚えはあるか?」
 そう言って太ましい男はおもむろに私の前に銀色の粒を一つ出した。
 それは私が村の冶金屋に頼んで作って貰った貨幣代わりの銀粒だった。

エルフ「これは私の……何故、これをあなたが?!」
「やはり君のだったか。私の仲間が君が歩いて行った後に落ちているのを見つけて持ってきたんだ。私はびっくりした。こんな綺麗な銀を見た事が無かったからね。だから少し時間とお金はかかるが、宮廷鑑定士に頼んで調べてもらったら、これは人間の精製方法で作られた物では無いとの回答が返って来た」
――人間の精製方法で作られたものでは無い。
 その響きに背筋に冷たいモノが走る。

エルフ「何が言いたいのですか?」

太男「まだ言葉が必要か? この銀は、エルフかドワーフの技術じゃないと難しい純度で作られているって言われたんだよ。亜人。お前の体格だ。エルフだろう。顔を見せてみろ!」

エルフ「いやっ!」
 そう言って太ましい男は乱暴に私の顔を覆うフードを捲った。
 その瞬間、酒場にどよめきが走る。

 フードがめくられ、長い耳と錦糸のブロンドが流れ落ちる。

太男「ほほぉう……流石エルフ。噂通りの美しい顔をしている。流れるような繊細な髪質、この頬などヴィスクドールを思わせる肌理の細やかさだな」
 強引に顎を掴まれ、鼻先まで顔を近づけられ、酒臭い吐息が鼻を突いた。

赤髪「止めろ! 彼女に何をしているんだ! 彼女とは金属の取引の話だけをすると聞いたから僕は少しくらいなら協力していいって言ったんだぞ?!」
 太ましい男の様子に赤髪の男が駆け寄ってこようとするが、太ましい男の仲間らしき男達に遮られる。

エルフ「え?!」
 私は耳を疑った。
 赤髪の男の言葉に。

 金属の取引? 協力? 一体何の話……?
 私は話が読めぬまま、一旦太ましい男の手を振り払い距離を取ると、太ましい男と赤髪の男を交互に見る。

赤髪「ち、違うんだこれは……!」

太男「何が違うんだ? この人殺し」

赤髪「なっ……?!」
 太ましい男の言葉に赤紙の男は青褪め、酒場は更にどよめく。

太男「これ以上余計なこと喋られたくなかったら、そこで大人しくしていろ。青二才。おい、エルフのメスガキ。お前はこの男に売られたんだよ。二束三文でな」
 売られた? その言葉に私は赤髪の男を絶望的な眼差しで見る。

赤髪「違う! 俺は……俺は……!」
 赤髪の男は何かを言おうとして躊躇っている。

太男「違わないだろ。お前は保身のためにメスガキのお守りしていただけだ。私が父上と交渉している間に故郷に逃げ帰らないようにな」
 太ましい男の言葉に身体が震える。
 私は、騙されていたのか? 折角信用できる人間ができたと思っていたのも全部、全部、全部全部全部まやかしだったのか?!

エルフ「マスター!」
「・・・・・・・・・」
 思わずそう叫んでマスターの方を見るが、沈鬱な表情で俯いたままだった。

エルフ「あっ……」
 それで全て悟り、絶望でその場に膝を折る。
 でも何かおかしい。身体が、痺れて……私はそのままクテンと倒れこむ。

太男「どうやら薬が効いてきたみたいだな」

エルフ「くす……り……?」
 それと同時に酒場の外に馬の鳴き声と蹄の音と重苦しい車輪の音が聞こえた。

太男「お、こっちも到着だな。お前を載せる馬車が来たぜ……へへ、父上への説得は少し掛かったが、お前を献上すれば俺はこんな湿気た村でもう暇つぶししなくて済むんだ。俺はな、こう見えてこのあたりの領主の息子でよ、本来なら継承順位1位だったんだ。だけど俺は娼婦の息子。でも他に男がいなかったからずっと領主になるための勉強をさせられていたんだ。なのによ、18年前、なんの間違いか正室の何人かに男が立て続けにポンポン生まれちまって、一気に順位が下がっちまった。俺はずっと次の領主として育てられてきたってのによ……母親が娼婦ってだけで……当然文句を言ったさ。文句を言い続けたさ。そしたらこんな村に押し込められちまった。でもそれも終わりだ。エルフのメスに金銀財宝……それを代価に少し大きな街を任してもらえることになって、そこの統治が上手くいけば継承順位を準一級まで引き上げてくれるって約束を取り付けたんだ。聞けばお前300歳だってな。何世代でも楽しめそうじゃないか……後、勿論だが村の場所も吐いてもらうからな」

エルフ(領主の息子……暇つぶし……じゃあ、あんなに懸命に討論していたのは……別に誰かと意見を交わしたかったわけじゃなくて……ただただ知識に任せて鬱憤ばらししてただけ……私はこんな下らない男に憧れていたのか……)
 力の入らない身体のまま涙が溢れ出てくる。

 私の長い髪の毛が掴まれて引きずられて行く感触がする。
 このままだと本当に連れ去られてしまう。

 私は急いで体内の水分に干渉して、胃に溜まっている毒を含んだ内容物をぶちまける。

兵士1「うへぇ! この女、吐きやがった!」
兵士2「汚ねぇ!」

 噴水のように飛び散ったゲロに私を引きずっていた男二人が驚いて手を離す。
 毒を強制排出したことにより、胃壁で吸収されてしまった分はしょうがないが、多少マシになり、私は呪文を詠唱すると、空中の水分を圧縮し、それを足場に高速移動して酒場の外に脱出する。

 水分圧縮の副次効果で店内はカマイタチの嵐にもなり大混乱にもなった。
 外に出て空を見ると偶然曇っている。

 よかった。雲を媒介にウンディーネが大量に呼べる!
 私は攻撃に特化はしていないが、応用すれば似たような精霊術は使える。

 逃げるだけならそれで充分な筈だ。
 抜けきらない毒で体の動きはまだ鈍いが、精霊に頼れれば、一先ずどこかに身を隠す事くらいは容易い。

 さて、どこに身を隠そうか?
 すると、少し先に見覚えのある精霊が手招きしているのが見えた。

エルフ(あれは……秘密の花園の……!)
 私は精霊に導かれるまま、秘密の花園に身を隠した。
 確かにここなら追手もすぐに見つけに来ないだろう。
――あの赤髪達が口を割らなければ。

 私は花園に着くと、導いてくれた精霊と、花園に生える古樹の主であるドライアードに礼を言う。
 導いてくれたのはドライアードの眷属だ。

エルフ「ドライアード様、この度は助けていただき有難うございます……」

ドライ『何、エルフも同じ妖精仲間。助け合うのは当然。それに、頼まれていたからな……』

エルフ「頼まれていた? どういう事ですか?」

ドライ『あの赤髪の青年だ』

エルフ「あの彼が……? 彼は妖精が見えなかったはず。なのに何故……」
 予想外の人物の存在を出されて頭が混乱する。彼は私を売ったのではなかったのか?

ドライ『うむ、見えていない。見えていないが、それを承知で何度も頼みに来ていた。自分はしくじった……自分のせいでお前が苦境に立たされるから、そのときはよろしく頼む、と……』

エルフ「い、いつ頃の話ですか……?」

ドライ『いつごろの話だったかな……我々は時間間隔が人とは違うからよく判らないが……後一つ。“フェアリーサークルのことは絶対話さない。必ず迎えに行く”とも言っていた。私に分かるのはここまでだ。さあ、早く逃げなさい。私がお前を呼んだのはこの伝言のためだけだ。ウンディーネも待っている』

エルフ「わかりました。有難うございます」
 だから精霊達はここに二人で来るなと言っていたのか。
 やっと納得できた。

 こうして私は命からがら逃げおおせたのだった。
 幸運にも荷物は持ち去られる途中に遭遇したので取り返して野営場所を移し、赤髪の男の言葉を信じてフェアリーサークルに通う日々が始まった。

 それが、今日までの話である。
 そして一週間経っても、赤髪の男は姿を現す様子は無かった。

 太陽が山間に身を沈めてゆき、また夜がやってきた時。
 人の気配と足音がフェアリーサークルに訪れた。

 だがそれは一人ではなく、複数の人間の気配だった。
 振り向くとそこには太ましい男の憎らしい顔と、数人の兵士と、見るも無残にボロボロになった赤髪の男が兵士に拘束されている姿があった。

太男「よう、メスガキ……久しぶり。この男吐かせるのに少々手間取っちまった。さあ、お迎えの時間だ。お城のベッドでダンスパーティの時間だ」

 そういって太ましい男は嫌らしくも勝ち誇った笑みを浮かべ、赤髪の男はがっくりと項垂れた。
 私はあまりの事に声が出ず、口を押さえて後ずさった。

小休止

結構誤字脱字多重多い……見落とし……orz

できればエルフには救われてほしい

でも久々のファンタジー物楽しいー。
これから始まる戦闘シーンを何パターンか考えていて、どれ採用しようか、悩む。

>>105
感想ありがとうございます。
それはこのまま見守ってあげててください。

赤髪「すまない……すまない……俺のせいで……」
 ボロボロの赤髪の男が力の無い声で泣きながら謝る。

太男「ふふ、コイツはお前の事がよほど大切だったらしい。友としてか……オンナとしてかは知らないが……丸一週間、何されてもここの事は一言も吐かなかったのだぞ。いじらしいと思わないか? でもな、コイツも人の子。いや、芸術家の性といえば良いのか。コイツは実は画家と戯曲作家をやっていてな。アトリエにある描き途中の絵や楽譜をアトリエごと燃やし尽くすと脅したらやっとここの事を教えてくれたよ。お前は所詮人ではないと思われていて、人の作り出す作品以下の存在……」

赤髪「違う!」
 太ましい男の言葉を遮って赤髪の男が叫んだ。

太男「んむぅ? 今、お前に発言を許した覚えはないが?」
 その言葉と共に兵士が赤紙の男の顔を棍棒で殴る。だが、男は黙らなかった。

赤髪「俺が、俺がアトリエを守りたかったのは……初めて出会った美しい妖精との思い出を踏みにじられたくなかったからだ……すまない。本当に謝ることしかできないが、俺は……こいつに……はめられて……仕方なくて……でも、思い出だけは綺麗なまま残したくて……あれ、自分でも何を言っているのか分からなくっがっ!」
 再び棍棒で顔を殴られ赤髪の男は沈黙する。

太男「自分で自分の女殺しておいて、何がはめられただ。むしろ私は救済者だ。片付けに困っていた死体を問題無く処理してやったんだ。感謝して貰って当然だと思うんだがな」
 その言葉で私は何となくだが全容を把握できた気がした。

 嫉妬深い彼女――喧嘩の絶えない二人――きっとこの太ましい男はそれを利用して、赤髪の男の弱みを握ったんだ。

――時は戻って男の失踪前。
彼女「アンタ最近田舎者の娘と仲良くしてるらしいじゃないの、私というものがありながら!」
 赤髪の男の彼女はとても嫉妬深く、自分の知らない人間関係を聞きつける度にヒステリーを起こしては男を悩ませていた。
 今回もどこから聞きつけてきたのか、酒場で出会ったローブの田舎娘の話に怒り猛っていた。

赤髪「仲良くもなにも、ただの飲み友達だし、村を知らないって言うから少し案内してやった程度だ。愛してるのはお前だけだから安心しろ! な!?」
 こんなやりとりをするのは何度目だろう。正直男はうんざりしていた。

彼女「嘘、私いつも怒ってるからもうウンザリって顔に書いてあるわよ! 付き合いの長い私がわからないはずないでしょ? でも絶対アンタ離さないんだから! アンタは私のもの……私以外の女と歩くたびに原稿破り捨ててやる……!」
 そう言って彼女は書きかけの楽譜の束にガッと手を伸ばした。
 その瞬間、反射的に身体が動いてしまった。

赤髪「や、止めろ……それはまだ――……!!」
 思わず全力で突き飛ばしていた。彼女が手を掛けようとしていた原稿は、初めて大手劇場からの依頼で書いていた力作で、上手くいけば出世作になる予定の作品だった。
 そして女は運悪く柱の角に頭をぶつけて、血を流しながら崩れ落ち、しばらく泡を吹いた後、動かなくなってしまった。

赤髪「お、おい……お前……だい、じょうぶか……? おいっ! おいっ!」
 抱き起こして揺らしてみても反応は無い。どう見ても死んでいる。
 そんな時だった。
 家の戸をノックする音が聞こえた。

赤髪(こんな時に誰だ?!)
 男は焦る。彼女の死体も隠せていないのに。

赤髪「は、はい。ただいまーー!」
 返事だけはしておく。
 出る前に彼女のことは何とかしないと……。
 だが、すぐ後ろで声がした。

?「おやぁ? 彼女さんどうしたんだい? 調子悪そうだけど……」
 そこに立っていたのはニマニマと厭らしい笑みを浮かべた太ましい男だった。

赤髪「あんた、何で勝手に俺の家に入って……!」

太男「何だか忙しそうな空気がしたから、勝手ながらお邪魔させてもらったよ。それで、その彼女は?」
 太ましい男は赤髪の男が抱き抱える彼女の死体を指さした。

赤髪「まさかあんた……」
 彼女に変な情報を吹き込んで怒らせたのは――……。
 太ましい男が更に意地の悪い笑みを浮かべた。

太男「正直、殺してしまうとは思っていなかった。喧嘩を取りなす事で借りが作れたら良いくらいに思っていたんだけどね。幸か不幸か、結果的に彼は私の手足になってくれると約束してくれて、君に関する情報も色々教えてくれたよ」
 私は太ましい男の話と、赤髪の男が置かれた立場に絶句する。

 そんな状態に置かれた赤髪の男を私は責める気になれなかった。
 赤髪の男は現実から目を背けるように渋面で私から目を逸らしている

エルフ「こ、この下種……」

太男「お前はこれからその下種のペットになるんだ。私からしたらエルフの様な亜人の方がよっぽど下等民族だと思っているが」

エルフ「申し訳ありませんが、私はそのような要求は受け付けられません。後、彼はもう開放してあげてください。私の身柄は差し上げられませんが対価なら用意します」

太男「ほう、対価。この男に見合う対価か。何が用意出来ると言うんだ?」
 太ましい男の問いに、私は腰元を探ると、布袋を取り出し差し出した。

エルフ「確か人間の間では私達が精製した金属がとても値打ちがあるそうですね。この袋の中には私が持ってきた冶金屋に作って貰った金や銀が全部入っています。それと彼を交換してください」

太男「・・・・・・・・・」
 私の申し出に太ましい男は考え込む。
 袋はそれなりの膨らみを持っているから、傍目にも結構な量が入ってるのが判るはず。

太男「ふむ、そこのボロ雑巾と金銀が入った袋か。悪くない相談だな……良いだろう。その男はその袋と交換してやろう」

エルフ「本当ですか? でも、先に彼を私の20フィート(約6m)まで連れてきて下がってください。私が彼を回収したら同じ場所にこの袋を置きます」

太男「分かった。おい、その男をメスガキの前へ」
 兵士二人が指定された位置に赤髪の男を連れて来て下がる。

 すかさず私は彼に駆け寄り、安否を確認する。
 彼は服から見えている部分全てが痣や傷だらけで、着ている服も破けており、食事も満足にしていないのかすっかり痩せこけていた。
 そして私の顔を見るとボロボロと涙を流した。

赤髪「本当に済まない。花園の精霊にも約束したのに……結局喋ってしまった……」

エルフ「もう良いんです。あなたは悪くないです。悪いのは、あの男……はめられてしまったんだから仕方ないですよ」
 そして私は地面に金銀の入った袋を置いて、彼を担ごうとした時。

太男「やれ」
 不意に太ましい男が兵士達に号令を出した。

エルフ「えっ?!」
 不意の強襲に私は反応が遅れ、担いでいる男を庇う形で袈裟懸けに兵士の刃を受けてしまう。

赤髪「貴様ぁ!!」
 赤髪の男が私を突き飛ばして兵士達の前に立ち塞がる。
 私は地面に転がり、流れ出る自分の血を掌で掬って身体を震わせる。

エルフ(一体何が起こったの? 話はもう着いたんじゃなかったの? 何で私は、血を流してるの?)

太男「傷ついてるようだが意識くらいはあるようだな。聞いているかメスガキ。確かに、その男は金銀でくれてやると言ったが、私のこれからの立場その程度の金銀やボロ雑巾の命くらいでは賄われないんだよ。私は男をくれてやるという約束は守ったが、その後何もしないという約束はしていない……お前ら、その男はどうでもいいからあのメスガキを連れてこい! 少々傷物になってしまったが、丈夫なエルフの事だ、傷は浅そうだからつばでも付けておけばその内治るだろう」
 その言葉に頭が怒りで沸騰する。

 確かに傷は血の量に反してそんなに深くはない。
 動けない傷ではない。ということは一番危ないのは、赤髪の男の方……!

 次の瞬間、金属音が激しくぶつかり合う音がしたかと思うと、兵士達がぽかんとしながらキョロキョロし始める。
 私の姿を見失ったのだ。

エルフ(インビジブル……)
 私は素早く精霊に働きかけて空気中の水分を調節すると、光の屈折率を弄り、自分の姿を隠したのだ。

エルフ(くっ、湖に近ければもう少し大掛かりな術が使えるものを……)
 ついてない事に空に雲は少なく、ウンディーネを呼ぶ媒体になりそうな水分も空気中に少なく、水分だけに頼っていてはこの状況を打破できそうにはない。
 とりあえず今は私に気を取られていて赤髪の男が無事なのが幸い。

エルフ(次はどうする……後利用するとすれば、周りの木々……!)
 ウンディーネと相性の良い私はウンディーネと相性の良いドライアードの術式も使おうと思えば使える。あとはシルフ……。

エルフ(混合術式はまだまだ練習中だったけど、今はそんな事は言ってられない! ドライアード様の力を活発にして、そこから連鎖的にウンディーネ様に働きかける! この術式は古語で言うには難しいから現代語式で……)

エルフ『古きに住まう大いなる木々の御霊達に助けを請う。その太くしなやかな幹をしならせ、万物を穢さんとする不届き物に罰を与えよ。そして木々を助け給うウンディーネ、彼等に更なる力を与え給え』
 私の呪文に合わせて、地面に埋まっていた木の根っ子が太さを増し、兵士達をひっくり返していく。

「「わあああああ!!」」
「な、何だ何だ?! あのメスガキはどこに消えたんだ!!」
 太ましい男も天変地異のような光景に慌てている。

 混乱に乗じて兵士と一緒に転がる赤髪の男を回収しようとするが、自分自身も自分の術でデコボコになった地形のせいで移動に苦労する。
 私にそんなに沢山の術を一度に発動する実力がないせいだ。

エルフ「くっ……あと少し! ああっ!!」
 だが、運悪く赤髪の男は転がりに転がり、太ましい男の前に落っこちてしまう。
 それを見て悪どい笑みを浮かべる太ましい男。

 もう逃げる体力も無い赤髪の男に、落ちていた剣を拾って突きつけて叫んだ。

太男「おいメスガキ!! どこかで聞いているんだろ?! 今姿を現すならこの男は殺さず逃がしてやる。大人しく投降して来い!! また変な術使っても殺す!!」

 その光景に私は青褪め、慌ててインビジブルを解いて叫んだ。

エルフ「止めてえええええ!!」

太男「ふん、出てきたな。さあ……大人しくこっちに来い……」

赤髪「ダメだ! 来るな! 俺のことはいいからもう故郷に帰れ! そしてもう人里に近づくな!」
 赤髪の男が叫ぶが、私は歩みを止めず、太ましい男に近づいて行く。

太男「よーし、良い子だ。引っ捕えろ」
 私は兵士に拘束された。

太男「じゃあ、コイツはもう、用済みだな」

エルフ「えっ……」
 太ましい男が赤髪の男に剣を振り下ろす。

エルフ(そんな、約束が……)
 私は咄嗟に兵士を振り払うと、赤髪の男と剣の間に割って入った。

赤髪「ああ!!」
 次の瞬間、剣が私の胸を貫いていた。

太男「あーーーー!! 貴様、なんてことを……私の貢ぎ物が……継承権が……うぐっ?!」
 だが次の瞬間、太ましい男の身体を、太い草の蔓が貫き、その巨体が崩れ落ち、それを見ていた兵士達は恐れをなして散り散りに逃げていった。

 後には剣に貫かれたエルフの女の身体と、生き延びた赤髪の男と、太ましい男の遺体だけが残された。
 赤髪の男が急いで彼女のから剣を抜くも、刺された場所が悪かったらしく血が止まる様子がない。

赤髪「おい、おい……しっかりしろよ……お前まで居なくなっちまうのか? 俺は何人人を犠牲にして……何人殺せば良いんだ? うわ、わあ、あああああああああああ!!」
 深い慟哭が真っ暗な丘に響き渡る。
 そんな時だった。

?「案ずるな人間の青年よ……」
 地の底から響き渡るような声が森から響いてくる。
 赤髪の男はハッとしたように顔を上げて声の主を探すと、草叢から老エルフと思われる人物が現れる。

赤髪「あなたは……?」

老エルフ(長老)「わしか? わしはただの老エルフじゃ」

赤髪「エルフ……彼女の仲間ですか……?」

長老「まあ、有り体に言えばそういう事だな。」
 そう言って、彼は皺だらけの顔はしているが、ヒゲのない顎をさする。

赤髪「そうですか彼女の……すみません……私が不甲斐ないばかりに……彼女は……彼女は……」

長老「だから案ずるなと言っておろう。よく話を聞け。お前はこの子が本当に死んだと思っているのか?」
 老エルフの言葉に赤髪の男は頷くと、持っている杖で胸元を差し。

長老「ちょっとそこを探ってみろ。まあ、男におなごの胸を探れというのも変な話だが……」

赤髪「わ、わかりました」
 言われた通りに剣で切り裂かれた名書から胸元を捲ると、見覚えのあるものがあった。
 銀色に輝く青い石の嵌ったペンダント。

――ミスリル鋼のペンダントです。一度だけですけど、私の命の身代わりになってくれるんです。 彼女の言葉が蘇る。

彼女の声が蘇る。
赤髪「これは……」

長老「これは一族の人間なら一つは持っている命綱じゃ。胸を貫かれて危ない状態ではあるが、彼女はこういう事態のためにこれの手入れを欠かさなかった。そろそろかな?」
 不意にペンダントが青い光を放ち、眩い光に赤髪の男は思わず眼を閉じる。

 そして、次に目を開けた時には彼女も、老エルフも姿を消していた。
 そして彼女が横たわっていた場所には、青い石を失い、黒ずんだ銀色に変わったペンダントが落ちていた。
 男はそれを拾い上げて立ち上がると、黙って満天の星空を見上げた。

 エピローグへ――。

伏線回収出来たかな?

~エピローグ~

 穏やかな日差しが窓から差し込む中、いつもの様に子供達がはしゃぎまわる声が裁縫に精を出す私の耳に聴こえてくる。
 今日は冬に向けてキルトのカバーを作っていた。

 すると不意に入口の戸が開き、耳の長い子供たち数人がわらわらと入ってくる。

子A「今日はお姉ちゃん!」

子B「ねえねえ、おねえちゃんって人間の村に行ったことがあるってホント?」

子C「人間の村ってどんなトコー?」

 いきなり入ってきたかと思えば急な質問攻めに、私は針の手を止めて苦笑する。
 そして、穏やかな声で答えた。

エルフ「ええ、本当よ。でも……私達が暮らすには少し過ごし辛いかも知れない」
 そう言って、胸元に手を当てる。

子B「お土産もらったお兄ちゃんとかお姉ちゃんがいたよね? まだ余ってるー?」

エルフ「ごめんなさい。持ってきた分しか無いの。本当はもう一回くらい買いに行きたいくらいなんだけど……」
 そう言って頬に指を当てて考え込む仕草をする。

子A「行かないのー? ほしいー!」

子C「あたしもー」

子B「私もー!」

 うーん。でも、人間に分けてもらったお金切れちゃったから……。

子C「おかねっていうのがないと手に入らないの?」

エルフ「そうなの。用意できないことはないんだけど、ここからその準備をするとトラブルになりやすいの。私が人間の村に行った時にそれで問題起こしちゃってね……あんまりもうしたくないの。ごめんね……」
 私が優しく謝ると、子供達は意外とあっさり引いてくれた。

子B「ちぇー、つまらないのー」

子A「なーんだ」

子C「あ、でも。機会があったら教えてね。私もとんぼ玉欲しい」

エルフ「うん。機会があったらね」
 子供達は残念そうに去っていった。

 あれからどのくらいの時間が経っただろうか。
 赤髪の男を庇って剣で刺されたところまでは憶えているのだが、次に気が付いた時はもうこの村に居た。

 そして目覚めると、傍らには長老が立っていた。
 私は長老を見るなり、泣いて泣いて泣きじゃくった。

 そして謝った。長老の忠告を聞かなかった事を。
 それから自分の愚かしい行動で沢山の人達――人間を苦しめてしまった事を懺悔した。

 長老は何も言わず私の頭を撫で続けてくれた。
 私がようやく泣き止んだ頃、長老はポツリポツリと語り始めた。

 誰しも若い時は無茶をし、傷つき、そこから学んで成長するものだと教えてくれた。
 勿論傷つくのは自分だけじゃなくて巻き込まれる人がいて、それを見て自分がどういうふうに反省して今後に活かすのかが大切かを語ってくれた。

 長老も若い頃は結構無茶をした方だと言っていた。
 だから私が人里に行きたいと言った時に駄目元で止めに来たのだと言っていた。

(駄目元って事は、口で言っても無駄だって最初から思われてたってことか……)
 そして私は以上の経験を通して、異種族が関わり合う難しさを知った。
 だから私は子供達のおねだりを断ったのだ。

 もう一つ気掛かりだったのは……赤髪の男の事。
 彼は今どうしているのだろうか?

 長老は生きていると言っていたが、その後は?
 あの太ましい男は死んだらしい(長老が始末した)が、彼は人を一人殺している。

 その事はどうなったのだろうか?
 でもそれはあの太ましい男の謀略で、彼自身に直接的な罪はないと私は思っているが――……。

 私は少し考えた結果、もう一度だけあの村に行ってみる事にした。
 少しだけ――少しだけ様子を見に――……。

 そして私はまた誰にも声をかけず、フードローブ姿で早朝村を抜け出してあの村へ向かった。
 まあ、きっと長老は私の行動などまた見越しているのだろうけど、止めに来なかったので黙認していると判断させてもらおう。

 懐かしい森の道を移動し、村の前に立つ。
(あれ……門構えが随分立派になってる……前は木造だったのに……しかも村から町に変わってるじゃないの)
 門に書いてある文字を読んで軽く驚く。

 早朝に出たから丁度今は昼近く……日が大分高くなってきている。
 軽く陽を仰ぎながら村の中に入ると、村の中も大分風景が変わっていた。

(町並みも石造りの家が増えてる……まるで別の街だわ)
 確か、あそこにあったのが雑貨屋……無い。
 花屋さんが……ホテルになってる。

(え、じゃあ、酒場は……?)
 あの、嫌というほど通いつめた、因縁の酒場を探して道を辿っていくと、あった。

 なんとあの酒場だけ昔とあまり変わらぬ佇まいで残っているではないか。
 だが、だいぶ老朽化が進んでいる。

 嫌な思い出もあるけど楽しい思い出もたくさんある。
 私は何だか懐かしくなって中に入ろうとすると、扉が開かない。

 よく見たら錠前が掛けてあるじゃないか。
 どういうことだろう?
 戸惑いがちに店の周囲を探っていると、一枚の看板を見つけた。

――巨匠の馴染みの店跡。

 そう大きく煽りが書かれ、下に細かい説明が書かれていた。
『昔この酒場には一人の無名の戯曲作家が通いつめていたが、ある時を境に名作を連発しは始め、この町から飛び立っていった。我々は彼を誇りに思う。故にこの酒場を記念に残しておくことにする』

 その説明でピンときた。
(あの赤髪の男の事だ! 彼、何事も無く成功できたんだ……良かった……)

 私はホッとすると、不意に持ってきた貨幣の確認をする。
 子供達にはもう残ってないと説明したが、実のところ騒ぎのせいでそんなに使ってなかったのだ。

 折角だから買い物でもして子供達を驚かせてやろうかな。そんな事を思った。
 幸い街を適当にぶらついてるだけで子供が喜びそうなおもちゃを売っている店を見つけられたので買い物をしたら、私の持っている貨幣が随分古いと軽く驚かれた。

 でも買い物は無事に済ませられたので良しとする。
 では、帰ろうか。
 でもその前に……。

 私はもう一箇所寄りたい場所があった。
 あのフェアリーサークルである。

 あの時の戦闘で大分荒らしてしまったのでその後の様子が気になっていたのだ。
 行ってみると驚く事に何事もなかったかのようにただの丘に戻っていた。

 だが、草叢を探ってもフェアリーサークルの跡は見当たらなかった。
 きっと長老の仕業だろう。

 その代わり、私が腰掛けていた切り株が生きていたのか一本の木に成長していた。
 太さから……大体30~40年くらい?

 ああ、もうそんなに時間が経っていたのか。
 それじゃあ色んなものも変わるはず。
 あの時の人間達もどのぐらい生きているか判ったものじゃない。

エルフ(本当に、短期間で色々あったなあ……)
 村で過ごした時間に思いを馳せていると、背後から声が掛かった。

?「おや、こんなところに人とは珍しい」
 それは年老いた男性の声だった。
 振り返ると白髪と、額に幾つか老人班が浮いた男性が立っていた。
 しかし背筋はしっかりとしており、かくしゃくとした様子だ。

エルフ「今日はおじいさん。私は旅のものです。日差しが強くて少しこの樹の下で涼んでいました」
 咄嗟にそんな言い訳をする。苦しい言い訳ではなかっただろうか?

老人「そうですか。確かに、そんなフードローブを纏ったままこの季節歩くのは少しきついものがあるかもしれませんね。ちょっと失礼しますよ」
 そう言って彼は樹の下に腰を下ろした。そしてわたしにも声をかけた。

老人「あなたも座りませんか?」

エルフ「そうですね」
 私は誘われるがまま老人の隣に腰を降ろした。

老人「ここで人にあったのはとても久しぶりです……そうですね……多分、30年以上は昔かもしれません」

エルフ「30年以上? あなたはそんな昔からここに通ってるんですか?」
 老人の言葉に私は軽く驚く。

老人「ええ、昔友人に教えてもらったのがここでして……それ以来気に入って、実はもうこの近くの町には住んでないのですが、帰郷する度に寄っています」

エルフ「こんな何もない場所、教えてもらって……何が面白くて通っているんですか?」

老人「なんででしょうね……ここを教えてくれた友人はとても自然に詳しい子で、この一見何もない場所でいろいろなものを見せてくれたことを覚えています。あの子が居ないと何一つ解りませんが、あの子が見せてくれたものの思い出が懐かしくて、ついつい寄ってしまうんですよ……」
 老人の言葉に何故か胸が騒ぐ。

エルフ「変わった子だったんですね……ちなみにその子は、一体どんな子でしたか?」
 気がついたら、ついそんな質問をしていた。

老人「その子は……あなたみたいにフードローブを被った可愛い女の子でしたよ?」

エルフ「あなたは……」
 私は思わず口を押さえて肩を震わせる。瞳から熱い雫が溢れ出てくるのを感じた。

赤髪「お久しぶり、元気だった?」
 そう言って微笑んだ男の笑顔は衰えていても変わらない、忘れもしない赤髪の男の笑顔そのものだった。

【完】

終了です!
設定やプロットは正直消化しきれなかったけど、自分なりに読みやすさ考えたら
このボリュームになりました。
もっと書き込みたいところとか結構ありましたが、省きました。

でも楽しかったです。
感想頂けたら嬉しく思います。

後、ここに投稿するの初めてなので、質問とかあれば受け付けます。

皆さん有難うございます。
ファンタジー熱と、戦闘シーン消化したい熱がぶり返してきたので
また話を考えて投下したいです。
実はエルフちゃん攻撃魔法あんまり使えないって縛りがあって、それも戦闘シーンの短さに影響してます。
伏線張って殺さないのがやっとでした。

次回作に活かしたいと思います。

余計なお世話だが、>>1の文章はss形式ではなく完全に小説形式で書いたほうがいいかなと思った

もし>>1が良かったら次は小説投稿サイトで書いてみて欲しいです

>>132
コメント有難うございます。
実は私はSS方式というのに慣れておらず、この作品は先に小説で書いてから、
SS方式っぽく直してあるだけだったりします。

一応小説サイトの垢もあるのですが、小説サイトに投下するには更新頻度が高くないせいか
すぐ流れてしまい、コメントが付かず、今自分がどこに居るのか迷子気味だったりします。

そんな時に友人がここに投稿していて、コメントが素早くつくのを見て、お恥ずかしながら精神的に乞食っぽくなっていた私は
自信を付けたくて今回投稿に踏み切りました。

まあ、自分的にも多分私は異色なんだろうなーと思いつつも、寂しがりなので、間借りさせてもらえると嬉しいです。
やっぱりコメントはモチベーションです(泣)

今回久しぶりに自分の作品に少しでもコメントらしいコメントがついたの見て
この通りあっという間に一本書き上げてしまいました。

先に書いてる同人原稿より先に書き上げてしまいました。
ちなみに私のイベント参加頻度は数年に一度です。
その数年に一度用の原稿追い越しちゃったエルフちゃんでした。

小説スタイルは嫌いじゃない

>>135
キャラの名前抜いてもそのまま読める仕様になってます。

一応初めての投稿で誤字脱字切れ痔色々盛り沢山なので、今回のは一応転載不可にしておきますね。
する人居ないと思いますけど、修正したいのにできなかった部分が結構あるので。
次回チェック強化します。   しますが、どうしても出るヌケ。
悩ましい。

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom