勇者「勇者なのに魔王の攻撃くらってハゲた」 (12)


魔王「余が築く世界に貴様の居場所はない!」

勇者「人の城にコソコソと侵入してきた臆病者が、えらそうな口を!」

魔王「貴様こそ!」

魔王「余の術を頭部にくらってなお、そのような口をきくか」

姫「わ、わたくしを庇ったせいで……」

勇者「ご心配にはおよびません、姫。必ずあなたを護ってみせます!」

勇者「この命にかえても!」

姫「でも! あなたの頭、もってかれてますわ!」

勇者「……はい?」


姫「髪の毛を、ごっそりと」

勇者「……」


魔王「タマをとろうとしたのに。思わぬ結果になったな」

勇者「オレの頭が……ツルツルになってる、だと?」

魔王「しぶとくその頭に食らいついてる髪が、あるにはあるぞ」

姫「だけど、これでは……」

魔王「ああ。吹けば消えること確実。風前の灯のようにな」

勇者「ああぁぁ……オレの髪が……」

姫「ゆ、勇者! 気をしっかりもって!」

勇者「オレの髪をかえせえええええっ!」


一ヶ月


僧侶「わたしたちは、どうして地下牢に幽閉されたのでしょうか?」

勇者「オレに聞くなよ」

僧侶「では、僭越ながらわたしの予想を言わせていただきます」

勇者「どうぞ」


僧侶「勇者さまがハゲてるから」


勇者「……たしかにハゲてるよ、オレは。ええ、ハゲてますよ?」

勇者「でもこれは名誉のハゲなんだぞ!」


僧侶「たしかに」

僧侶「その頭は、身をていして姫様をかばった結果ですからね」


勇者「なのに、この村の連中ときたらっ!」

勇者「勇者って名乗った瞬間、手錠かけて地下牢にブチこむなんて……!」

僧侶「牢屋に入れるまでの流れがあざやかで、驚きました」


勇者「アレか!? 勇者なのにハゲてるからか!?」

勇者「ハゲって罪か!?」

勇者「だからオレをこんな場所にぶちこんだのか!?」

勇者「だったらもう一度言うぞ! オレのハゲは名誉のハゲだ!」


僧侶「結局、姫様はさらわれましたけどね」

勇者「うっ」

僧侶「とりあえず落ち着いてくださいまし」

僧侶「下手に騒いでストレスをためると、残っている髪まで抜けますよ?」

勇者「……うい」


勇者「そうだな。今はハゲのことを気にしても仕方ねえな!」

僧侶「さすが勇者様。いい意味で開き直るのが早い」

勇者「あったぼうよ」

勇者「まあ戦士と魔法使いは、村の連中を上手にまいたしな」

僧侶「ええ。脱出の好機は、一時間もしないうちに訪れるでしょう」


僧侶「せっかくなので、今のうちに勇者様に聞いておきたいことが」

勇者「なんだよ?」

僧侶「頭に回復系の魔術、使わなかったんですか?」

勇者「……………使ったよ」

僧侶「使ったんですか」


勇者「ありったけの魔術をふりかけてもらったんすよ」

僧侶「どなたに?」

勇者「国直属の賢者」

僧侶「賢者の回復魔術をあびた人間は、
   天へとのぼる階段から、転げ落ちるとさえ言われてますけど」

勇者「オレの頭には効かなかったよ」

僧侶「まあ、ハゲとは言ってみれば毛根が死んでる状態」

僧侶「どんな魔術も、死んだものは復活させられないってことですね」

勇者「言っとくが。まだオレはあきらめてないぞ」

僧侶「はあ」

勇者「この旅の目的は、魔王をたおすこと」

勇者「そして。オレの髪を取りもどす手段を見つけ出すことだ」

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