勇者「魔王を倒しに行こうぜ」 (259)
戦士「なにお前、本当に勇者になれたのか!」
勇者「ああ、まさか勇者試験合格するとは俺でも驚いたよ」
勇者「これで勇者特権も思いのままだし、魔王も倒せば……」ゴクリ
勇者「って訳でお前も行こうぜ」
戦士「いいのか?! 悪いなー俺も勇者特権の甘い汁を啜らせて貰うぜ」
勇者「どうせ本気で魔王を倒す事を考えている奴なんていないだろうし」
勇者「のんびりやっていこうぜ!」
戦士「だけど俺もお前も旅なんてしたことないだろ? 大丈夫か?」
勇者「まあ適当に装備揃えていけば大丈夫だろう」
戦士「それもそうか」
勇者「とっとと準備して出発しようか」
勇戦(飢餓)「」
「……」
「……」ヒョイヒョイ
「……」ノッシノッシ
「そっちの成果は……おい、何だそれは」
「倒れてた」
「そうじゃない。人間じゃないか。そんなものを拾って来るな馬鹿!」
「しっかりとした鎧、助けたら少し位あたし達も助けてくれそう」
「行き倒れてたんだろ?! 金なんかないだろうし、無意味な期待をしてるんじゃない!」
「ったく、こっちだって分けるような蓄えないんだぞ」
「あら、劣等種のお二人は帰りがお早いですわね」
「よう落ちこぼれ」
「おかえり、出戻り」
「うるさいですわね! なによ貴女達のそれは! 遂に人食いに身を落とすの?!」
「そんなわけないだろう。ていうかお前がうるさいよ」
戦士「うぅう」
戦士「……こ、ここ、は」
ゴーレム娘「気付いた?」ノソリ
戦士「! ば、化け物、ゆ、勇者!」バンバン
勇者「うぐ……生きて? うおお!」
リザードマン娘「だからあたしは嫌だったんだよ」
ハーピー娘「あら……てっきり貴女が連れてきたのかと思いましたわ」
リザードマン娘「一人でこれを運べるのはこいつだけだろ」
ゴーレム娘「はい」ノ
勇者「……」パチクリ
戦士「ゆ、勇者! 俺ら! 俺ら食われるー!」
勇者「……」ドッ
戦士「ぐぇっごほ、げっほげっほ!」
リザ娘「おお、手刀」
勇者「……」ザッ
ゴレ娘「……土下座?」
勇者「助けて頂いたのに無礼な行いをした事をお詫びする」
リザ娘「へえ……人間にしてはまともだな」
……
戦士「えーとなんだ。俺らは攫われたんじゃなくて介抱されていたのか」サスサス
勇者「そうみたいだ……それにしてもここは? 君達は一体? 魔物ではないんだよな」
リザ娘「ここはあたしらが暮らしている場所、とっくの昔に廃墟になった町だ」
ゴレ娘「あたし達、人間と魔物のハーフ」
戦士「噂は聞いた事があるが……まさか実在しているとは」
勇者「君は……ゴーレムか?」
ゴレ娘「見ての通り」サッ
勇者「左腕と右頬が……触ってみてもいいか?」
ゴレ娘「いいけど?」
勇者「本当に石なのか……何ていうか凄いな」スリスリ
戦士「礫石作りのゴーレムって珍しくね?」
勇者「普通はレンガ作りだもんな」
ゴレ娘「ゴツゴツしてて嫌い」ムー
戦士「女の子には酷な話だよなぁ……そっちの娘はリザードマン?」
リザ娘「ま、あたしも見ての通りだ」
リザ娘「両足とも膝からと右腕に腹部と背中、左目とその周りがこんな有様さ」スッ
リザ娘「お陰で力には自信があるがゴレ娘には負けるからなぁ。ま、脚力なら自信があるぞ」
勇者「少し髪で顔を隠してるのはそれでか……ちょっと掻き揚げてくれないか?」
リザ娘「見ても面白い事はないと思うぞ?」サラッ
戦士「……見事に蛇眼だな」
ゴレ娘「リザ娘ちゃん可愛い」
リザ娘「いや、鱗肌とかあたしはうんざりしているんだけど」
戦士「すげー本当に鱗だ」
リザ娘「凄いけどこんな顔じゃなぁ……」
ハピ娘(ふふん、ここで麗しい私の出番ね)ファサ
リザ娘「それにしてもお前ら、あたしらに抵抗を感じないのか?」
勇者「驚いたけど普通に女性だし」
戦士「落ち着いていて見れば美人だしなぁ」
ハピ娘「ちょっと! 私を無視しないでいただけません?!」
勇者「え? 君もハーフなのか?」
戦士「てっきり羽をつけたコスプレかと思ったぜ」
ハピ娘「そんなわけ無いでしょ!」
勇者「にしても一体なんの魔物のハーフだろう……」
戦士「羽……鳥、ロック鳥やヘルコンドルとか」
ハピ娘「私はハーピーとのハーフよ。そこらの人の姿でもないハーフとは一線を画しているわ」フフン
勇者「ハーピー? 腕が翼じゃないのか?」
戦士「背中から生えてるよな。足も普通に人間だし……遺伝の仕方おかしくねえか?」
ハピ娘「何とでも言いなさい。この天使のような姿、そこの二人と違って、美しくない訳が無いじゃない」フフン
戦士「そこの二人がここで暮らす理由は分かるが、あんたはなんでここに?」
リザ娘「出戻り」
ゴレ娘「同じ落ちこぼれ」
リザ娘「こいつは元々あたしらと一緒に転々としていたんだよ」
ゴレ娘「魔物からは人間、人間からは魔物と蔑まれてた」
リザ娘「ある時、貴族に私の下に来ないか、とこいつが誘われたわけだ」
ハピ娘「ね、ねえ……その話はお止めになさらないかしら?」
勇者「聞きたい」
戦士「是非とも聞きたいな」
ハピ娘「うぐぐ」
勇者「にしても一体何処で貴族に見られたんだ?」
リザ娘「あー街道から外れたところだ。どっか住めそうな所が無いかと旅をしていたからな」
ゴレ娘「貴族、別の街道からショートカットしてきた」
リザ娘「で、話を戻すとだ。その数日後、凄い勢いで飛んであたしらのところに飛んできたんだ」
リザ娘「そして開口一番声高々に食われる!」
戦士「まーそりゃあそうだよな」
ハピ娘「違うのよ……違うのよ……」ブツブツ
勇者「?」
リザ娘「貴族に手羽先として食われそうになったそうだ」
戦士「何言っているか分かんね」
勇者「ただのカニバリズムじゃないか……」
リザ娘「しかも回復魔法が効くもんだから食べ放題とまで言われたとさ」
勇者「維持費を考えると鶏肉買って来いよと思ってしまうが……」
ゴレ娘「美しい女性の手羽先だなんて最高じゃないか、って言われたって」
ハピ娘「あれは恐ろしい体験でしたわ……鬼畜外道の成せる業ですわ」ワナワナ
戦士「さんざん色々言っていたが……あんたも人として見られていなかったという事か」
リザ娘「そういえば、お前達の名前は聞いたが何で行き倒れていたんだ?」
ゴレ娘「ご飯、改め川魚スープできたよ」コトコト
ハピ娘「全く私が取って来た魚とリザ娘さんの木の実だけですか」
ゴレ娘「十分贅沢。はい」スッ
勇者「かたじけない」
戦士「俺らは魔王を倒す為に旅を始めたんだが……甘く見すぎていた」
勇者「食料が尽きて行くも退くもできなくなったんだ」
戦士「最後に食ったのは焼いたイナゴだったな」
リザ娘「あたしらでもそこまではないな」
ハピ娘「それにしても貴方達が魔王を? 人間達は何をやっているのやら」
ゴレ娘「連合軍でGO」
リザ娘「多すぎると目立ちすぎて叩きやすくなるんじゃないか?」
勇者「一度は試みたが返り討ちにあったらしい」
戦士「だもんだから少数精鋭の暗殺って事で、試験に合格したものを勇者とし、様々な特権を与えているんだ」
リザ娘「え? 何か功績があって勇者を名乗っているんじゃないのか?」
勇者「試験に合格した、ぐらいしかないな」
ハピ娘「人の事をやれ魔物だの何だの蔑む割に、低能もいいところですわ」
ゴレ娘「あたし達でも魔物倒せる」
勇者「……」
戦士「そりゃあ基本的な能力値が違うだろうし……そういえばハピ娘は強いのか?」
ハピ娘「失礼ね! 私の手に掛かればそこらの魔物、いくら徒党を組もうとも薙ぎ払って差し上げますわ!」
リザ娘「肉体的には脆いが魔法が滅茶苦茶強いんだよ。典型的な魔法使いタイプって奴かな」
リザ娘「あたしは見ての通り武具の扱いに慣れているし、ゴレ娘も……まあ見ての通りインファイターだ」
ゴレ娘「むん」
勇者「でもそれは左腕だけの話だよな」
リザ娘「いや……この娘、左腕以外は細い癖して凄い力があるから」
ゴレ娘「左で勇者、右で戦士担いで運んだよ」
戦士「……マジか」
ハピ娘「そういった訳ですので、私達は魔物の襲撃なんて屁でもないですわ」
戦士「俺らよかよっぽど戦力なんだろうな」
リザ娘「まあ、こればっかりは血統による優位性だからな」
ゴレ娘「悲観はしてないよ」
ハピ娘「でもたまにはベッドで寝てみたいですわね」ハァ
勇者「……なあ、もし今の生活を改善できるチャンスがあったら、危険でも乗る気はあったりするか?」
リザ娘「危険の度合い次第だな」
ハピ娘「命の心配なく生きているのに、命を掛けるのもあれですわね」
戦士「あー……」
勇者「もし、そちらにその気があるなら、俺らと共に魔王を倒さないか?」
リザ娘「え?」
ゴレ娘「えー?」
ハピ娘「本気で言っているのかしら?」
勇者「割かし真面目なつもりだ」
リザ娘「可笑しな奴だ。あたし達と共にいれば迫害されるのはお前達だぞ」
ゴレ娘「それに町にも入れない」
勇者「多少の不便さはあるが、勇者の特権と言うのは実に嫌らしいものなんだ」ニヤリ
戦士「あー……そうだな、そうなんだよなぁ」ニヤ
勇者「今の話で関わる事として。勇者である者は国から様々な支援を受けられる。が、それは魔物の討伐数に比例する」
リザ娘「ふむ?」
勇者「三人が加わって、より敵を多く倒せるようになるとそれだけ給金や支給物資の量や質が上がる」
勇者「次に、勇者は如何なる言動を取ろうとも、多少の法なら触れてもお咎め無し、というか結構な事してるのに罰せられた者はまだいない」
勇者「更には仮に君達を魔物という扱いにしたとしても、魔物を連れる事を罰する法は無い」
ゴレ娘「町の中入れる?」
戦士「平たく言えばそれでどうのこうのは起きない、いや起こせないんだよ。勇者への誹謗中傷暴言その他諸々は、重罪扱いだからな」
ハピ娘「聞く限りですと、恐ろしく頭の悪い特権に聞こえますわね」
勇者「悪いのさ。殆どの勇者は悪さばかりしている。あんまりな法に触れないようにな」
リザ娘「しかもそれを裁けないなんて腐っているな」
戦士「腐っているさ。大概の勇者はな」
勇者「唯一どうにかできるのは国のお偉いさんクラスだが、そんな事をすればその勇者を輩出した国と気まずくなるからしない」
勇者「まあ……唯一とは言ったが、勇者同士の争いであれば罪に問われる事もないけどな」
戦士「とまあそんな訳だから、あんたら三人を仲間に加えるのはなんら問題ないんだなぁこれが」
ハピ娘「話は分かりましたがどうにも解せませんね。貴方方に何のメリットが?」
勇者「君達が凄い戦力である事。君達の野営経験は心強い事」
勇者「後は下心かな」
戦士「馬鹿! そこは隠せよ!」
ハピ娘「下、心?」キョトン
ゴレ娘「いやーん」
リザ娘「本気で言っているのか……? お前達、頭がおかしいんじゃないか?」
勇者「す、凄い言われ様だ」
戦士「しかも焦点はそこか」
リザ娘「ハピ娘はまだ分かる。悔しいがまだ分かる。だがあたし達は岩と爬虫類だぞ」
リザ娘「見ろ。あたしの右手を! この鱗だらけの肌に鋭い爪と四本の指の手だぞ!」
リザ娘「足だってそうだ! これが人間の女か! お前達の言う女か!」
戦士「そりゃあちげーな」
勇者「流石にな」
ハピ娘「あ、あっさり?!」
リザ娘「なんなんだよお前ら……訳が分からない」
勇者「いや一般的ではないけど問題無いというか」
戦士「余裕でいける。綺麗と可愛いし」
ハピ娘「ま、私が綺麗なのは当然ですけども」ファサ
リザ娘「……参考までに誰かどうか聞いていいか?」
勇者「前者がハピ娘さん」
戦士「えー? リザ娘もだろ?」
リザ娘「そ、そうか?」カァ
ゴレ娘「可愛い……」カァ
戦士「なんだこの爬虫類可愛いぞ」
ハピ娘「けれども、いざ旅立つとなると少々名残惜しいですわね」
リザ娘「確かに……住める所を探した中で安住と呼べるのはここが初めてだったからな」
勇者「聞いて良いか分からないが、その……親は?」
ゴレ娘「お父さんがゴーレム」
リザ娘「母がリザードマン」
ハピ娘「お母様がハーピーですわ」
戦士「いや俺らは存命の事を……え、ちょっと待て」
勇者「人間とは業が深いものだ……」
リザ娘「二人とは別の場所で暮らしていたんだが……まあ迫害が酷くて魔女狩りの体になってな」
ハピ娘「ゴレ娘さんと私はお母様と二人で、リザ娘さんはご両親共に暮らしていました」
戦士「夫にしてある意味本物の勇者がいるな」
リザ娘「あー……まあ、な。話を戻すが、人間達の攻撃が激しくなってな」
ゴレ娘「魔物は無差別に襲ってくる」
ハピ娘「ある時、私達三家族が偶然鉢合わせ致しまして……結果、人間達に包囲される事となってしまったのです」
勇者「あー……そうなるよな」
ハピ娘「お二人の親御さんが包囲の突破口を作ると共に、その場に残り足止め」
リザ娘「あたし達三人とハピ娘の母親がその場を離脱、が多数の弓兵の前にハピ娘の母親が盾となってあたし達を逃がしてくれたんだ」
勇者「そうか……」
リザ娘「ま、五年も前の事だ。気にするな」
ゴレ娘「もう吹っ切れた」
戦士「じゃあ……やっぱり三人共両親は」
ハピ娘「私の人間の父親とゴレ娘さんのゴーレムの父親はどうかは分かりませんがね」
リザ娘「ま、そんな訳であたし達三人協力して生きてきた中で、唯一家と呼べる場所がここだった訳だ」
ゴレ娘「……」
リザ娘「ゴレ娘?」
ハピ娘「忘れ物でもなさいましたか?」
ゴレ娘「行ってきます」ペコ
リザ娘「……ああ、そうだな。そうだよな。行ってきます」
ハピ娘「行ってきますわ」
……
勇者「俺達の最終的な目的は魔王討伐だが、他にも色々とやる事……いや、やれる事があるんだ」
リザ娘「やれる事?」
勇者「廃墟に集まる魔物の掃討。恐ろしく強い魔物を指名手配とする討伐」
勇者「危険区域への物資運搬、あるいはその区域の先への運搬……まあ魔物を倒す力あっての依頼だ」
*魔物の群れが現れた!*
ハピ娘「私達だけで十分な内容です事」
ゴレ娘「とーりゃー」ブォン
勇者「ただ、大きな町で三人を正式にPTとして登録しないといけないんだ」
*ゴレ娘を魔物の群れを薙ぎ払った! 魔物の群れに勝利した!*
戦士「こっからだと勇者ギルドがあるのは二つ先の町になるな」
リザ娘「勇者ギルド? そこが勇者達に関する情報を管理しているのか?」
勇者「町の勇者ギルドはPTの登録や、重罪人の報告、その他諸々の情報提供を行っているんだ」
勇者「都市の勇者ギルドでは更に勇者の登録、試験を行っている」
ハピ娘「勇者さんは魔法はいかほどで?」
勇者「簡単な魔法なら使えるよ。最も剣で戦った方が速いから、魔法なんて使わないが」
ハピ娘「……となると、私達の中でも勇者になれそうですわね」
戦士「まあ魔物っていう認識が高いから、流石に勇者に推薦はこいつがゴリ押せる発言力無いと難しいだろうけどな」
リザ娘「……待て、それだとそもそもにしてどうやって勇者ギルドまであたし達を連れて行くんだ?」
勇者「勇者が連れているって時点で誰も口出しできないさ」
戦士「触らぬ神になんとやらだ」
*魔物が現れた!*
ハピ娘「それならいいですけども……大きい町? は! わ、私がもしもまた」
リザ娘「……」スラン
勇者「別に貴族に売ったりしないって。ちゃんと守るし、勇者のPTになったら貴族だっておいそれと手を出せないからさ」
*リザ娘は魔物を三枚におろした! 魔物に勝利した!*
戦士「ごめん、そろそろ俺達も戦わせて。というか鍛えさせて」
*勇者と戦士は魔物の群れを斬り殺した! 魔物の群れに勝利した!*
ハピ娘「全く……あんまり遅いものですから欠伸が出てしまいましたわ」ファ
リザ娘「実戦経験はそれなりにあるのか?」
勇者「実際に魔物と戦った事は数えるほどだな。俺も戦士も対人剣術はそれなりの腕ってぐらいだし」
戦士「それなりって……俺とお前道場でもそこそこ上位をキープしてんのに」
リザ娘「へえ……飽くまで対人剣術磨いてて、これだけ戦えるなら結構なもんじゃないか」
ゴレ娘「勇者達格好良い」
戦士「おお、好感度が上がったっ」
ゴレ娘「リザ娘ちゃんも格好良い」
勇者(武具の有無……?)
町
戦士「この視線を独占する快感」ザワ ザワ
勇者「間違っても良い視線じゃないけどな」
ゴレ娘「……」ソワソワ
ハピ娘「……」ビクビク
リザ娘「二人とも……彼らの話を聞いていたのか?」
ハピ娘「だからと言って安心できるリザ娘さんがおかしいですわ」
勇者「部屋はどうする?」
リザ娘「流石にまだ正式なメンバーじゃないから隔離されると怖いな」
戦士「五人部屋ってあるもんかな……」
ハピ娘「あって良かったですわ」ホッ
リザ娘「流石にここであたし達三人だけにされたら心細いからな」
戦士「あんだけ強いのに?」
ゴレ娘「人殺しにはなりたくない」
勇者「……あー、うん、とりあえず俺らも付いているし寛いで欲しい」
ハピ娘「そうですわ! ここまで来たのですから十分に寛がなくては! 数年ぶりのまともなベッドぉ!」ボフン
ゴレ娘「ふかふか~!」ボッフンギッシギシ
戦士「……」
勇者「本人には聞けないが彼女の腕って……」
リザ娘「かなり重たいぞ」
リザ娘「……」ウズウズ
ハピ娘「どうしたのです? ベッドですよベッド。まともな壊れていないベッドですよ?」ポフポフ
リザ娘「あ、あたしはお前達みたく子供じゃないからな」ポス
リザ娘「……」ポフポフ
ゴレ娘「暖か~」ヌクヌク
戦士「可愛い過ぎる」フルフル
勇者「俺は今までどんな生活だったかを考えさせられて、同情を禁じえないというのにお前と言う奴は……」
勇者「夕食の前に買い物に行かないか?」
戦士「ハピ娘は回復魔法使えるのか?」
ハピ娘「当然ですわ」
リザ娘「だからあたし達も回復薬無しでやってこれたんだ」
勇者「だいぶ助かるなぁ」
ハピ娘「なんだかんだで勇者さん方もそれなりですし、火力が厚いと私は暇で暇で仕方が無いですわ」
ゴレ娘「前衛四人ー」
戦士「とすると、装備や食料品につぎ込む事が出来る訳か……」
店主(とっとと帰って欲しいなー……魔物のハーフなんぞ連れてるなんて、勇者ってキチガイ多すぎだろ)
ゴレ娘「美味しい!」キラキラ
ハピ娘「やはり調味料が揃っていると言うだけで幸せなことですわね……」パク
リザ娘「これが毎日食べられるのか……羨ましいものだな」モグモグ
勇者「……」パク
戦士「……」パク
ハピ娘「あら……貴方方には粗食だとでも?」
勇者「いや……」プルプル
戦士「一介の宿屋の食事がこんな豪華だなんて……」ズゥゥン
リザ娘「人間側も生活水準の格差が酷いのか……」
リザ娘「入浴はどうする?」
勇者「そちらに任せるよ。先でも後でもどうぞ」
ハピ娘「川で水浴びという訳でもありませんし、私達もどちらでもいいですわ」
戦士「いや……男の後は嫌とかさ」
リザ娘「冬場に川で水浴びする事に比べてたら大した事はないだろう?」
ゴレ娘「お湯ーお湯ー」ワーイ
勇者「俺、泣いてしまいそう」
戦士「せめてこの旅の間、幸せにさせてやろうぜ……」
リザ娘「数年ぶりのお湯は身に沁みるな」サッパリ
戦士「っぶう!」
勇者「ちょ、もうちょっとちゃんと着てくれ! 目のやり場に困る!」
リザ娘「お前達、本当にあたし達の事を……」
リザ娘「そーらそーぅら」ペロン
戦士「止めて! 嬉しいけど男として恥を晒す事になる!」
勇者「服を捲り上げるな! 貞節をもってくれぇ!」
ハピ娘「今までの反動かリザ娘さんが壊れましたわ」
ゴレ娘「勇者戦士ー」ペロン
ハピ娘「ゴレ娘さんさえ?!」
戦士「俺らも男だから……頼むからそういう挑発は止めてくれ」ガッシ
勇者「しかもこっちが暴発したら、確実に返り討ちにあって轟沈するし」ガッシ
リザ娘「ほんの冗談じゃないか」
勇者「目が本気だったように見えたんだが!」
戦士「あれで冗談な訳がない」
リザ娘「……そ、そりゃあ、あたしだって嬉しいし」ボソボソ
ハピ娘「……」ニヤニヤ
リザ娘「そこの手羽先喧嘩売ってるのか?」
ハピ娘「別に何でもありませんわよぉ?」ニヤニヤ
戦士(思ったんだが俺達って既に好感度高くね?)ヒソヒソ
勇者(友達、仲間……そんなレベルだろうけどなぁ)ヒソ
リザ娘「何を二人で話しているんだ?」
戦士「いやーははは。これからどうするかって話さ」
ハピ娘「それこそお二人だけで話されていても困りますわ」
リザ娘「全くだな」
戦士「は、はは……」
勇者「まー正直に話すと何気に三人から信頼されてるんじゃないか、って話をしていたんだ」
戦士(こいつ飄々とこういう言い方するから油断ならねえんだよなぁ)
ハピ娘「そういう事でしたか」
ゴレ娘「ハピ娘ちゃん出たよー。何の話?」ホカホカ
リザ娘「あたし達が勇者達を信頼しているって話だ」
ゴレ娘「ん~……逆」
勇者「え?」
ゴレ娘「勇者達があたし達を信頼してくれた。だからあたし達も信頼する」
戦士「……」ポカーン
リザ娘「一応言っておくが、言動はあれだがしっかりと考えている子だからな」
ハピ娘「後は殿方だけですわ」シットリ
戦士「……」ゴクリ
勇者「なまじっかスタイルが良い分、存在自体が危険だ」
ハピ娘「き、危険!?」
リザ娘「あたし達にはそこまで魅力が無いという事か……」
ゴレ娘「む~」
勇者「魅力と言っても一概には言えないんだよ」
戦士「リザ娘達はリザ娘達の良さがあるんだよなぁ……」ジー
リザ娘「戦士……目が本気だから向こうを向いていてくれないか?」
戦士「いやー良い湯だった。色んな意味で」
勇者「全くだな」ガサガサ
ハピ娘「でも貴方方は普段から利用されているのでしょう」
戦士「そういう言い方は止めて欲しいんだがなぁ……」
リザ娘「流石に意地が悪いな」
ゴレ娘「ハピ娘ちゃんお上品なのに卑しい」
戦士「えーショックだわー」
ハピ娘「そ、そんな事はないですわよ?」
戦士「てか勇者は何を見ているんだ?」
勇者「地図だ。折角だしどっか温泉とか寄ろうかと思ってさ」
戦士「もう旅行気分だな……お前」
ハピ娘「温泉!」
リザ娘「それは楽しみだが……流石にあたし達は入れないんじゃないのか?」
ゴレ娘「この体……」
戦士「どうにかなっちゃうのが勇者特権なんだよなぁ」
ハピ娘「それを享受する側とは言え、本当に腐っていますわね」
リザ娘「勇者は風呂が好きなのか?」
勇者「普通かなー?」
ゴレ娘「なんで温泉?」
勇者「できれば三人にも楽しんでもらいたいな、と思ってさ」
リザ娘「気を使わせてしまってすまないな……」
勇者「いや、君らが喜んでくれるなら俺らも嬉しいよ」
ゴレ娘「勇者格好良い」
戦士(不味い! 勇者ばかり株が上がっていく予感)ハッ
ゴレ娘「……こうして他の人と一緒に眠るの久しぶり」
ハピ娘「しかもそれが殿方というのも、私達には思いもしない事でしたわ」
戦士「正直俺、緊張しているんだけど皆普通すぎじゃないか?」
リザ娘「いくら男二人がかりとは言え、こっちは三人。一対一ならゴレ娘とあたしなら負ける要素もないし」ゴロリ
勇者「根本的な感覚が違うんだよなー」
ゴレ娘「そうかな?」
リザ娘「緊張……そうだな、明日が楽しみという意味では緊張しているな」
戦士「ワクワク的な?」
ハピ娘「そうですわね……こんな人間だらけの所で過ごす事が一時でもあるとは思いもしませんでしたわ」
勇者「さて、そろそろ出発するか」
ゴレ娘「朝ごはんも美味しかった」ウットリ
リザ娘「次の町まではどれくらいかかりそうなんだ?」
勇者「えーとだな、現在地がここで次の町がここだ」ガサ
戦士「確か丸三日くらいか?」
リザ娘「どれどれ」
勇者「そこからギルドがある町まで五日だから……大目に見て九」
ハピ娘「この距離なら七日で着きそうですわね」
ゴレ娘「補給しなくてもいけそう」
戦士「……え?」
*勇者と戦士の筋力と耐久が上がった*
勇戦「……」
リザ娘「でかいな……こんな所、近寄りもしなかったからな」
ハピ娘「よくもまあ人間はこんな雑踏で暮らせます事」
リザ娘「二人ともどうした?」
勇者「君達がいかにハードな生活だったか思い知った……」
ゴレ娘「あたしも疲れたよ?」ノビー
戦士「そうは見えない」
勇者「先にギルドに行こうか。正式なメンバーになっていれば、はぐれても問題ないし」
リザ娘「どういう事だ?」
戦士「この魔石の首飾りを見てくれ」
ハピ娘「青い魔石ですわね」
勇者「これを勇者並びにその仲間専用の装備として支給されるんだが、戦士のは戦士以外が持つと魔石が赤くなる」
勇者「本来の持ち主であるかどうかが判別できるようにしてあるんだ」
戦士「で、これをギルドに持って行って照会すると、どの勇者の仲間かを確認できるんだ」
ゴレ娘「あたし達が青い魔石を持っていると、孤立してても手が出せない?」
戦士「勇者の仲間の証だからな」
「え、えっと……」
勇者「彼女達は優秀な仲間だ。正式にメンバーとして迎え入れたい」
勇者「確か……勇者の了解されあれば、如何なる者も正式登録が行える、はずだったよな?」ギロ
「あ、は、はい……ではこちらの書類に必要事項を記入して下さい」
「こちらが書けましたらあちらの部屋へ向かって下さい。あちらで個々の魔力を魔石に込めて登録を行います」
リザ娘「へー綺麗なもんだな」
ハピ娘「しかしこれが男女兼用ですか」
ゴレ娘「首飾りー」キラッ
宿屋
リザ娘「そういえば勇者は何処へ?」
戦士「大きい町だから依頼が無いかを見に行ったよ」
ハピ娘「討伐、でしたか?」
勇者「ただいまー」
ゴレ娘「おかえりー」
戦士「どうだったよ?」
勇者「極秘の依頼があった」
戦士「なにそれ怖い」
勇者「国のお偉いさんと勇者のみが使って良い施設がある」
戦士「ああ、あれか」
リザ娘「施設……それが襲撃されているとかか?」
勇者「似たようなものかな。それは様々な地域を繋ぐ……テレポートができるような所なんだ」
勇者「一度使うと半月ほどは使えなくなり、大気中に含まれる魔力を吸収し、蓄えきると再び使えるようになる」
戦士「緊急時の移動にも使われる為、公にはされていないんだよな」
勇者「そこに今魔物が集まっているらしいが、近くに他の勇者がいないからな」
ハピ娘「なるほど……」
勇者「真面目に依頼をこなす勇者もあまり多くないが、これはかなり報酬がいいからな」
勇者「他に知れたらこぞって討伐に当たるだろう。やるなら明日だ」
ゴレ娘「腕試しー腕試しー」ブンブン
リザ娘「敵勢力はどの程度とされているんだ?」
勇者「野良魔物って事だが、状況が状況だから中堅クラスが指揮している可能性が高いって」
勇者「野良も数が多いから危険度はそこそこにされているな」
ハピ娘「雑魚如きいくら群れようと私の魔法で一蹴して差し上げますわ」
勇者「だろうと思って依頼を受けておいた」
勇者「あれが例の施設、祠だ」
戦士「旧時代のものだっけか?」
リザ娘「祠……ああ、そういえば聞いた事があるな」
ハピ娘「世界各地を繋ぐ祠とは聞いた事がありましたが、こんな所にある物だとは……」
ゴレ娘「敵いっぱい」
戦士「こっからでもよぉく見えるな」
勇者「距離2分の1マイル、敵構成……獣型大多数、犬鳥を確認」
勇者「ゴブリンの編隊確認、数10以上。オークソルジャー3、オークナイト1確認」
リザ娘「え?」
戦士「すげー大編成だな」
ハピ娘「ゆ、勇者さん?」
戦士「こいつ斥候の訓練も受けてたんだよ」
勇者「やっぱり数が多いなぁ」
リザ娘「どう立ち向かう?」
勇者「ハピ娘の魔法による砲撃後、前衛部隊で突入しよう」
戦士「普通だな」
勇者「いや……戦法らしい戦法は今回が初めてな気が……」
リザ娘「あたしが先陣で撃破」
ゴレ娘「あたしがどーん」ムン
戦士「だなぁ……」
勇者「何時も通り陣形! 行くぞ!」
陣形
勇 リ
戦 ゴ
ハ
戦士「本当に何時も通りだ……」
リザ娘「スタンダードに戦えるからな」
ハピ娘「跪き命乞いをしなさい!」キィィィン
ドンッ ドドンッ
勇者「ハピ娘の迫撃砲開始、全員突撃!」スラァン
ハピ娘「落石魔法の次は爆炎魔法ですわ!」キィィン
戦士「おっしゃあ! 切り込むぜ!」バッ
リザ娘「……」スラァン
ゴレ娘「ゴーゴー」ブンブン
*魔物の群れを殲滅した!*
戦士「で、これが祠か」
勇者「魔力が感じられない……こいつらまさか、祠を使ってここに来たのか?」
ハピ娘「だとすれば、ここから繋がる所は……」
リザ娘「……どうする? 復興に対する救援は国がすべき事ではないか?」
ゴレ娘「報酬は?」
勇者「リーダーとなる勇者の魔石に記録されているから、誰かにでっち上げられて横取りされる事はないよ」
勇者「……うーん、救援準備にも時間がかかるし、国ならこの先が何処に繋がっているかも把握しているだろうし」
勇者「復旧次第、俺らが先に行って様子を調べてみるか」
勇者「もしかしたら、まだ魔物がいて近隣の町が占拠されているかもしれないし」
勇者「……」キィィン
ハピ娘「……」キィィィン
戦士「誰か来た時の為の書置きは済んだぞ。出発は明日か?」
勇者「今から向かって野営場所が無かったら困るしな。魔力補填もそろそろ止めておくか」
ハピ娘「いきなり起動するものかしら?」
勇者「復旧直後は一時的に向こうと繋がるらしい。その場に居合わせると強制転移だ」
リザ娘「後どのくらいで魔力の充填は完了しそうなんだ?」
ハピ娘「そうですわねぇ……2,3時間といったところ」ィィィィン
ゴレ娘「あ、魔」ヒュン
ゴレ娘「力凄いあふれてる」ヒュン
勇者「……」ダラダラ
ハピ娘「……」ダラダラ
戦士「状況報告」
勇ハ「転移された」
リザ娘「と、というか……ここは何処だ……なんだこの寒さは」ガタガタ
勇者「勇者も利用を可としてはいたが、ある程度の魔物の撃破数や討伐数が無いと信頼が低く」ブルル
勇者「何処がどう繋がっているかは教えてもらえないんだ」
戦士「……やばい凍える」ガタガタ
ゴレ娘「どうするの?」
勇者「ここにいても凍える。外に出て町を探そう」
ビュオオォォォ
戦士「なんだこの猛吹雪……」
勇者「くそ……どこら辺だ」
ハピ娘「こ、これって……まさか」
リザ娘「数時間の内に吹雪を凌げる場所が確保できなければ死ぬかもな」
ゴレ娘「祠に篭城?」
リザ娘「……この状況で祠にいても明日まで生きていられる保証は無いだろうな」
勇者「駄目だ……現在地が分からない」
戦士「ど、どうするんだ……本当に祠で凌ぐのか?」
ゴレ娘「よいしょよいしょ」バッサバッサ
勇者「どんなに速くても救助は二週間後……この吹雪、すぐに止むとは思えない」
ハピ娘「いくら私でもあの祠を一晩中暖かくするには戦闘での消耗が激しすぎますわよ!」
リザ娘「しかし闇雲に町を探すのも……」
戦士「空を飛んで明かりを探したりとか」
ハピ娘「こんな吹雪の中飛ぶ鳥さえもいませんわよ! 地面に叩きつけられて終わりですわ!」
ゴレ娘「よいしょよいしょ」モソモソ
勇者「なんで雪なんか掘っているんだ……」
リザ娘「その手があったか!」
戦士「え? なに? かまくらでも作るのか?」
ゴレ娘「土見えた」ピト
ハピ娘「ゴーレム種は皆そうなのか……ゴレ娘さんは大地の声、というよりも地脈を通して情報を得る事ができるそうです」
戦士「おお、マジか!」
ゴレ娘「……あっちに人が住んでるっぽい」ピッ
リザ娘「い、急ごう」ガタガタガタ
勇者「なんとかもってくれればいいんだが……」
戦士「お……見えてきたぞ」ザッザッ
勇者「灯り一つついていない?」ザッザッ
リザ娘「まさか廃墟……」
ハピ娘「いえ……あれは窓に板を打ち付けているようですわ」
ゴレ娘「吹雪なのに?」
勇者「宿屋あるといいんだが……」
戦士「あの大き目のじゃね?」
勇者「戦士でかした!」
『……どちら様でしょう?』
勇者「この雪で困っている。五人いるのだが宿を頼めないだろうか?」
『……すみませんがその人数となると。この先に大きなお屋敷がありますので、そちらを訪ねられてはいかがでしょうか?』
勇者「分かりました。ありがとうございます」
『もしそちらも駄目でしたら向かいの家とこちらで、分散してお泊めしますのでまたお立ち寄り下さい』
勇者「? 感謝します」
戦士「勇者である事、何で言わないんだ?」
勇者「流石に状況がな……それにしても今のどういう意味だろう」
ハピ娘「な、何でもいいから早く」ガタガタガタ
リザ娘「一層冷えて……このままでは町中で死ぬぞ」
ゴレ娘「……」ガクガクガタガタ
『どちら様でしょうか?』
勇者「この雪で困っている。宿屋らしき所に訪ねた所、こちらに訪ねてくれと言われたんだ」
勇者「五人ほどいるのだが泊めては貰えないだろうか?」
『主に確認を取ります。今扉を開けますので』
戦士「た、助かった?」ブルル
勇者「もしも開いたら素早く入るんだ」
ハピ娘「わわ分かっているわよ」ガタガタガタ
リザ娘「ゴレ娘、あと少しだから」ガタガタ
ゴレ娘「ふぁぁ……」ガタガタガタガタ
バタン
勇者「ふう……」
メイドA「こちらでしばらく……」
ゴレ娘「ぁぁぅぅ」ガタガタ
リザ娘「……ふぅ」ブルブル
ハピ娘「ぅぅ……」ガタガタ
勇者「申し送れました。自分を勇者をしている者で、この者達は仲間です」
メイドB「……Aは早くご主人様の所へ」
メイドA「は、はい」パタタタ
勇者(駄目かなー……)ブルル
メイドA「どうぞこちらへ」ガチャ
勇者「随分と大きな扉ですね……」
メイド達「!」ザワ
勇者(大きい部屋にメイドがたくさん……それにやたらと荷物があるしこれは)
戦士「悪いが彼女達を暖炉の傍に行かせてやってくれないか?」
メイドA「そこ、もう少し詰めて」
主「君達が勇者一向かね?」
勇者「はい、この度は泊めさせて頂く許可を下さり、真にありがとうございます」
勇者「しかしこれは一体……」
主「とにかく君達もこの毛布に包まりなさい。客人に熱い飲み物を」
ゴレ娘「ぅぅぅ沁みるぅ」ガタガタ
リザ娘「今まで幾度と無く火の有り難味を感じたが、今日ほど有り難く感じた事は無いな」ブルル
ハピ娘「涙が出る暖かさですわ」
メイド達「」ヒソヒソ
主「君達も何と言う時期に来てしまったのやら」フゥ
勇者「色々と事故がありまして……」
主「何処かの国王直下の魔術士にでも転移魔法を頼んだのかね?」
戦士「そういう訳じゃないが……似た様なもんだ」
主「それでは知らないのも無理はないな。この地域は『氷龍の渡り』というのがあってな」
主「年に一度、必ず猛吹雪が続くのだよ。実際に龍がいる訳ではないが一年毎に強弱があって」
主「それがこの地に帰ってくる、この地を出て行くというのもあってそう言われているのだよ」
勇者「まさか今年は戻ってくる……」
主「その通りだ」
戦士「大災害だな……」
主「ここらの家は何処もこういった大きな部屋を持ち、寝る時以外は集団生活をするのだよ」
勇者「そういえば火らしきものは……あれは魔石?」
主「煙突は使えないからね。どうしても火炎系の魔法を溜め込んだ魔石を代用する他無いのさ」
勇者「あの……俺達本当に居ていいのですか?」
主「ここは大きいからね。緊急用に食糧の備蓄も多くしているから気にする事は無い」
主「何よりここで放り出すという事は死ねと言っているものだからね」
戦士「……本当に助かります。色んな意味で」
主「はっはっ、こちらとしても退屈な一週間、他所の国の話を聞いて潰せると思えば安いものだ」
ゴレ娘「勇者ー」モソモソ ギュゥ
勇者「おっと、もう大丈夫か?」
ゴレ娘「うん、暖かい?」ヌクヌク
勇者「ああ、暖かいよ。ありがとう」ナデナデ
主「噂には聞いた事があるが……魔物とのハーフかね」
勇者「……ええ」
メイドC「おかわり要ります?」
リザ娘「す、すまない……頂きたい」
メイドD「羽……大丈夫ですか?」
ハピ娘「……凍るかと思いましたわ」
戦士「すげー打ち解けているな……」
主「可愛らしいお嬢さん達だ。流石に一目見た時は皆警戒していたようだが、少し交流を持てばそれも払拭されて当然だろう」
戦士(雪国の人は大人だな)
勇者(全くだ)
メイドA「トイレはここを出て右に行くとあります。今晩からもっと冷え込みますので、外に出る時は二人以上でお願いします」
ゴレ娘「二人?」
メイドB「いざという時に困りますので。またその時に暖炉近くのこの魔石いくつか持って行ってください」
リザ娘「魔石……? ああこれ、あっつ!!」
メイドC「炎を蓄えた魔石ですので注意して下さい。持ち運びはこちらに入れて下さいね」
メイドA「入浴は三日後の昼間のみです。……どう致しましょうか?」
主「これだけいればいいだろう。男女別々で入るとしよう」
戦士(この人、このメイド達と入っていたとか羨ましすぎる! は! 俺一人だったらもしか)
勇者「……」ドゴ
メイドA「こちらの方が人数多いですし、ご主人様方が先に入り下さい」
主「お嬢さん方もそれで構わないか?」
リザ娘「問題ない」
ゴレ娘「大丈夫ー」
ハピ娘「迷惑をお掛けしてますし、お気遣い無く」
主「一日の大半はここで過ごし、就寝は四人部屋で眠るのだがどう分けたものか」
メイドB「部屋は二部屋余っておりますし、そこでお分けすれば」
戦士「やー……それは厚かましすぎて申し訳が無いような」
勇者「流石にな」
主「ふむ……では私は彼らと共にすれば、そちらのお嬢さん方の部屋だけで済むかね?」
メイドB「そうですね」
主「お嬢さん方は一つの部屋に三人で、君達は私と相部屋になるのだがよろしいか?」
勇者「それでお願いします」
戦士「にしても、これから更に冷え込むって信じられないな」
主「魔石がなかったら越せない吹雪だからね。下手をしなくても凍死する家が出たりもするものだ」
戦士「恐ろしい地域だ」
主「全くだがこうして上手く折り合いつけて生活できてしまうからな」
主「他の地域ではこんな生活はないだろう」
勇者「それはもう……どうりでここの床はこんなにふかふかな訳だ」
ゴレ娘「寝やすいー」ゴロリ
主「勇者と言えば、王様との謁見があるそうだが、どういう話をしたのだい?」
戦士「そういやそういう話だな。気になるな、話せよ」
勇者「なんか魔王の事とか色々と聞いた気がするな……」
『魔王とはここ数十年で現れたものではない……遥か数百年前から存在していた』
『秘密裏に各国の国王と共に協議を行い、不可侵条約を取り付けていたのだ。が、何故今になってこの様な侵攻を……』
『魔王は我々人間に比べると非常に長い寿命だと言う。未だに世代交代をしていないそうだ』
『とは言え、そろそろ老人と言う年頃のはずだが……よもや呆けによるものではないと信じたい』
勇者「あー……」
戦士「歯切れ悪すぎじゃね?」
主「よほど難しい事を言われたと見る」ハッハッ
勇者「何処から話せば良いか……」ウーン
『この話は外部には漏らさぬ事。無用な不安を煽る事となるのでな』
『因みに漏らした場合、重い刑罰がある事を忘れぬようにな』
勇者「と思ったら喋ったら投獄とかありえる」
主「それはいかんなぁ……」
戦士「どんな重要機密なんだ」
戦士「俺達の町は……」
主「それは中々……」
勇者(にしてもやたらと本棚が多いな……暇つぶし用か)キョロキョロ
メイドA「そちらの本はご自由にお読み下さい。土地柄の物も多いのできっと珍しいでしょう」
勇者「風土記とかですか?」
メイドB「あるにはありますが……読まれますか?」
勇者「是非とも」
メイドA「若い方がこちらを手に取るの……初めて見ました」
勇者「よく言われます」
戦士「お前伝承とか大好きだもんな」
勇者「大好物だ」
ハピ娘「そういった教養……私達にはとんとないですから羨ましいですわ」
リザ娘「時々、文字の練習とかしないといけないぐらいだしな」
ゴレ娘「使わないー」
勇者「時間はあるんだ。文字の読み書きをみっちり練習できるし、教えも出来るからな」
リザ娘「それは有り難いが果たして私達に使う機会があるのだろうか?」
主「さて、そろそろ就寝とするか、二人はこちらへ」
メイドB「お三方はこちらとなります」
ハピ娘「お二人ともお休みなさい」
リザ娘「お休み、また明日な」
ゴレ娘「ふあぁぁ……おやすみ~……」
勇者「ああ、お休み」
戦士「おう、お休み」
ハピ娘「う~ん、温いですわ幸せですわ」モゾモゾ
ゴレ娘「スー……スー……」
リザ娘「これから一週間近くここで生活か……少し気が滅入るな」
ハピ娘「体が動かせなくてかしら?」
主「……」
勇者「……」
戦士「……」
勇戦(気が滅入る)
二日目
リザ娘「……」ウズウズ
ゴレ娘「リザ娘ちゃんトレーニングしたそー」
ハピ娘「止めて下さらない? ご迷惑おかけしているのに悪臭を振りまくおつもりで?」
リザ娘「そんな事は分っている!」ウズウズ
戦士「じゃー気を紛らわせる為にも何かするか」スッ
ハピ娘「なんですの? その本は?」
戦士「簡単な学術書ってところか」
リザ娘「数学、か……」ペラ
ハピ娘「見るのも久しいですわ……」
戦士「学問苦手だが流石の俺でも三人になら教えられるぜ」フフン
ゴレ娘「おおー」
ゴレ娘「次こっちの本ー」
リザ娘「ここら辺はまだ覚えているな」ペララ
ハピ娘「この辺りから怪しいですわね……解説を、あら?」
戦士「」ビクンビクン
勇者「……これ結構レベル高い本なんだよな」
メイドA「つまりここでの式は……」
リザ娘「ふむ」
ハピ娘「思い出してきましたわ」
ゴレ娘「ふむふむ。ふむ?」
戦士「なんだよあいつら……めっちゃ勉強できるんじゃねえか」グス
勇者「俺でも分からないなーあそこら辺。混じって教わってくるかな」
戦士「一人にしないで!」ガッシ
三日目
リザ娘「ご教授願います」
メイドA「はい、畏まりました♪」
勇者「とりあえず三人はこの一週間、勉強会で乗り切りそうだな」ドササ
戦士「で、お前は?」
勇者「まあ、見ての通りかな」ドサドサ
主「その本……全て読むつもりかい?」
勇者「旅で使えそうな知恵を掻い摘んで、ですかね」
メイドA「~~~」
リゴハ「……」ガリガリガリ
勇者「……」ペラ ペラ ペラ ペラ
主「……」スス
戦士「……」
戦士「な、なんだこの疎外感……」
主「? 君も紅茶を飲むかい?」
戦士「お前ら楽しそうだな……」
勇者「そりゃあ楽しいよ」
リザ娘「勉学もたまにはいいな」
ゴレ娘「お勉強ー」
ハピ娘「本当に久々の事ですからね」
戦士「こいつら……勉強苦手なの俺だけかー」
主「ふむ……ならば私とチェスでも」
戦士「結局頭使う系?!」
メイドA「ご主人様……」フゥ
メイドC「はい、どうぞ」
ゴレ娘「ご飯♪ ご飯♪」
リザ娘「それにしても……一週間缶詰になるというのに、なんでこんなにしっかりとした料理なんだ?」
主「普段であればこの一週間、楽しみと言えばこれだからね」
主「何も無い部屋でしたらそれこそ魚すらそうは腐らない始末。備蓄さえあれば食材には困らないのだよ」
ハピ娘「このお屋敷で遭難したら凍死するという訳ですね……」
勇者「裏を返すと恐ろしい話だよな」
戦士「ああ……生きてるって心地がする」
勇者「これを機にお前も勉強に励めばいいのに」
戦士「それができたら戦士なんてやってねーよ!」
リザ娘「あたしは戦士肌だがこうして学問に励んでいるぞ」
ゴレ娘「勉強楽しー」
ハピ娘「それにしても……ゴレ娘さんより学問に疎い方がいるとは思ってもいませんでしたわ」
勇者「え? 二人とそんなにレベル違わなくないか?」
ゴレ娘「今日の勉強さっぱり分らなかった」
メイドA「え?! 熱心に聞いているからてっきり……」
ゴォォォォ
勇者「今日は一段と吹雪いていますね」
主「と言っても、私達にはもう普通になってしまったからねぇ。これくらいよくある方だ」
戦士「思ったんだけどよ、これって家が押し潰されたりしないのか?」
勇者「そういえばそうだな……これだけの吹雪が一週間。とても持ちこたえられるものとは思えない……」
主「そういえば説明していなかったか。朝方、非常に静かだとは思わないかね?」
戦士「そうだっけか?」
勇者「あれは偶然ではなくてそういう気象なのですか?」
主「うむ。そしてこの期間の雪だけは何故か大量の魔力が蓄積されているのだ。これも伝承めかせた要因なのだろうな」
主「して、朝方になると吹雪が止み雪が溶け、そして魔力が濃縮された雪だけが残る。これが一週間続くのだ」
戦士「ほー?」
勇者「……。あ? え? まさか雪水晶って!」
主「その通りだ。ここで採れる貴重な資源なのだよ」
戦士「雪水晶? なんだそりゃ」
勇者「お前には氷結石って言えば分るか」
戦士「それ……価値だけならミスリル銀を越えるっていうあれか!」
戦士「斬れば凍てつき、振るえば吹雪く! 天然の魔法剣の材料じゃねーか!」
勇者「とすると、この吹雪が止んだら……」
主「その通り、その採取が始まる。しかし日に長く晒されると雪水晶そのものが溶けてしまう」
主「日の出と共に雪雲が霧散していく。それから一時間の間のみだ」
戦士「どうやって回収すりゃあいいんだ?」
主「真水に漬けるだけでいい。と言っても一分は漬けないといけないから、水を撒くという方法はとれない」
勇者「完全に肉体労働ですね……俺達も手伝わせて下さい」
主「正直、若者が協力してくれるのは本当に有り難いよ」
戦士「あれって採取量めっちゃ低いって話だけど、俺らが手伝ったぐらいで宿泊代って足りるのか?」
主「上手く採取できれば十分すぎるほどになるかと」
四日目
リザ娘「へーそんなものがあるのか」
ゴレ娘「お高い」
ハピ娘「ミスリル銀より高価だなんて凄いですわね」
戦士「そこらの魔法剣よりよっぽど強力な武器になるしな」
勇者「まあ、それが手に入るんじゃなくて、その素材を宿代として採取してくるって話なんだけどさ」
リザ娘「食うだけ食って、去る事に比べればというところだな」
ハピ娘「真水に漬けるだけ、と言われましても……もっと具体的にはどうされているのですか?」
メイドB「シャベルで雪の根元を掘って雪を払う、そうしたら水桶にいれて一分後に取り出し」
メイドB「水を拭いて保管……これを四人一組で行います」
リザ娘「四人も……? 多くないか?」
メイドC「掘る人、雪を払い水桶に入れる人、水桶から取り出し拭く人、これら運搬し収納箱に収める人の計四人です」
戦士「根元……泥がついていると駄目なのか」
勇者「水に漬けた時に吸着して、不純物混じりになるらしい。武具には使えないんですよね」
メイドC「その通りです」
ゴレ娘「分担どうしよう?」
リザ娘「水から出すのが一番の重労働だな……」
ゴレ娘「あたしやろうかー?」
戦士「え? いや、だが」
ハピ娘「ゴレ娘さんの腕は感覚が鈍いらしいのですよ」
勇者「いや……あの腕で雪水晶を傷つけずに拭けるのか?」
リザ娘「だろうなぁ……」
メイドB「防寒防水グローブがありますからどなたでも大丈夫ですよ」
リザ娘「あたしとゴレ娘は使えなさそうだな」
ゴレ娘「雪払って水に入れるのやるー」
ハピ娘「私は水から引き揚げるのをやりますわ」
戦士「いいのか?」
ハピ娘「耐冷魔法をかけてやりますし、更に道具もあるのでしたら難しくないかと思いますわ」
勇者「運搬か雪かきか……」
戦士「水に漬けっぱなしって駄目なのか?」
メイドA「それをしてしまうと雪結晶の魔力が失われてしまうんですよ」
勇者「よし、作戦はこうだ」
勇者「俺と戦士が掘りまくる」
ゴレ娘「あたしが雪払って水桶に入れるー」
ハピ娘「私が雪水晶を取り出し拭く」
リザ娘「で、あたしが運ぶと」
勇者「何気にリザ娘も重労働だな……」
戦士「だなぁ……てかゴレ娘大丈夫なのか? 雪払うんだぞ」
ゴレ娘「平気平気ー」
リザ娘「あたしはまあ、この腕と足があるから大した事無いさ」
ハピ娘「リザ娘さんのその足が大いに役立つのって初めてじゃないかしら」
リザ娘「あたしが駆けつけなくちゃならない状況って、この二人と一緒にいるとないしな」
ゴレ娘「移動する時、皆で一緒」
戦士「? ああ、足並み揃えるって事か」
リザ娘「ま、久々に全力で突っ走ってやるさ。任せておけ」
八日目 早朝
メイドC「こちらが防寒具です。魔法が込められておりおおよそ一時間程度であれば」
メイドC「かなりの寒さを遮断できます」
戦士「雪遊びしたくなってきた」
勇者「雪水晶掘りの後に体力が残っていれば」
リザ娘「体力残らない勢いでやってもらって構わないからな」
ハピ娘「ゴレ娘さんとハピ娘さんはもっと寄って下さらない?」
ハピ娘「耐冷魔法を全力で施しますわよ」
主「さて、と。私も用意をするか」
メイドA「え?」
メイドB「ご主人様の防寒着はありませんよ?」
メイドC「元々お使いになっていたのも予備も、勇者様達にお貸ししてしまっていますからね」
メイドF「紅茶淹れてきますね」
主「毎年この為に体を鍛えているんだがなぁ……」
メイドA「もう間もなくです」
勇者「気合入れていくぜ!」
戦士「おう!」
メイドB「始まった!」キィィィン
リザ娘「な!」ブル
ゴレ娘「!」ブルブル
ハピ娘「なんて魔力……凄いわね」
勇者「よし、いくぞ!」
一時間後
勇者「」グッタリ
戦士「」グッタリ
ゴレ娘「終わった~」
ハピ娘「う、腕が痺れましたわ……」プルプル
リザ娘「流石にこれだけ走っていると疲れるな」フゥ
メイドC「……」
メイドA「すっご……」
メイドB「計測急ぎなさい」
勇者「やっぱシャベルを使う筋肉は剣では身に付かないな」
戦士「全くだ。明日は筋肉痛だ」
リザ娘「シャベルか……多分あたし達が使っても痛めるだろうな」
ハピ娘「それにしても私達の採取した量はどうだったのでしょうね……」
ゴレ娘「計測してるって言ってたー」
勇者「まだ出ていないのか? もう三十分は経ってるだろ」
戦士「面倒なのかねぇ」
戦士「にしてもゴレ娘の雪の払い方は斬新だったな」
勇者「雪水晶を持ったかと思ったらグルングルン腕を回し始めたからな」
リザ娘「遠心力でも使わない限り、ゴレ娘にあれを傷つけずに雪を払う術があると思っているのか」
メイドA「……は二階をお願いします。私達は外の板を外してきます」カツカツ
勇者「あ、計測終わりましたか?」
メイドA「はい、採取のご協力本当にありがとうございました」
戦士「ってか今何してんだ?」
リザ娘「氷龍の渡り対策を外しているところじゃないか?」
ゴレ娘「手伝うー」
勇者「よっと」ベリベリベリ
戦士「そういやぁ結局、どんぐらい採れたんだ?」
メイドB「あー……あは、ふふふ」
メイドA「B」
メイドB「失礼しました。ちょっと笑みが抑えられなくて」
勇者「でもそれだけ凄かった、って事ですよね」
メイドB「はてさてさてはて」
メイドA「何時も氷龍の渡りの後の晩は豪勢に振舞うんですよ」
メイドA「町としての採取量の報告とかも夕方ぐらいに届く事もありまして」
メイドA「各個に伝えられるのはその時がだいたいです」
戦士「食料とかどうするんだ? 備蓄で豪勢に、か?」
メイドB「渡りが終わった直後に近くで待機している行商がこちらに来るんです」
勇者「あー確かに書き入れ時か」
メイドB「腕に寄りをかけて振舞いますので、たくさん食べて下さいね」
勇者「あー……流石にもう一泊は」
メイドA「いえいえ、お気になさらないで下さい。主も是非と申しています」
主「皆、ご苦労だった。勇者君達も色々と手伝わせてもらいすまなかった」
戦士「いやー一宿一飯……ん? あれ?」
勇者「後も考えると八泊二十飯の恩だな」
主「明日の朝発つのか? もっとゆっくりしていってくれていいというのに」
リザ娘「流石にこれ以上ご迷惑をお掛けする事も……」
ハピ娘「そもそも宿ではありませんしねぇ……」
ゴレ娘「魔王も倒さないとー」
主「そうか、残念ではあるが致し方ない。また何時でも寄ってくれ」
主「さて、少し話もそれたが雪水晶の採取量についてだ」
戦士「お、待ってました」
メイドA「前年対比で……170%ほどの量になりました」
勇者「……うん? 170%?」
ハピ娘「私達だけで70%も……」
メイドD「実際の所、ご主人様は手伝われていない事を考えると……」
主「80%ぐらいだな。やはり若さには勝てんという事だな」ハッハッ
戦士「金額的にはどうだったんだ? 迷惑料差し引けたんか?」
メイドA「何を馬鹿な事を……後三ヶ月ほどこちらで豪遊していかれる気ですか?」
勇者「お、おお……」
主「さて、話はこれぐらいにしてそろそろ食べるとするか。冷めてしまっては元も子もないだろう」
ゴレ娘「ほれおいひい!」
勇者「すっげー……こんな豪華なもの、初めてかもしれん」
戦士「はっぐ、はぐ、っぷはぁ!」
リザ娘「このソース一体なんだろう」カチャカチャ
メイドF「そちらは山葡萄のソースですね。気候が気候ですから長持ちするんですよ」
ハピ娘「今度試してみようかしら……」
リザ娘「だな」
勇者「ああ……なんて贅沢だ。幸せだ」
戦士「全くだな」
リザ娘「今日はゆっくり休んで明日に備えるか」
ハピ娘「少し名残惜しいですわね」
ゴレ娘「……久々のお家だったね」
メイドA「やはり三人は根無し草をされて……?」
勇者「ええ、そんな所で出会ってこうして仲間になるよう交渉したんです」
翌日
勇者「お世話になりました」
主「ああ、また何時でも寄ってくれ。それと」
メイドA「はい、こちらに」
戦士「なんだ? 剣か?」
リザ娘「魔力を感じるな……魔法剣か」スラン
ハピ娘「蒼い刀身……綺麗」
ゴレ娘「氷の魔力……雪水晶?」
勇戦「え?!」
リザ娘「たあ!」ビュァン
ハピ娘「ほ、本物?!」
主「あれだけの量を採取してくれたのだし、私達にできる形で返したかったのだよ」
勇者「い、いいんですか……?」
戦士「これ絶対俺らの採取量よりも……」
メイドA「これでも黒字ですよ」
ゴレ娘「宿泊代はー?」
メイドB「……トントンですね」
勇者「えぇぇ……」
リザ娘「本当によろしいですか?」
主「その代りと言っては何だが、またこの時期に寄ってくれ」
戦士「なるほどそういう事か」
勇者「そういう事でしたら、有り難く使わせ貰います」
リザ娘「じゃああたしのお古は勇者に」
勇者「……」
戦士「……」
戦士「なんでそうなるんだよ!」
リザ娘「力任せに使う剣じゃない。言わば技の剣」
ハピ娘「であればリザ娘さん行きですわね」
ゴレ娘「お古も戦士向きじゃない?」
リザ娘「そういう事だ」
勇者「戦力的ヒエラレルキーが低いな……」
戦士「仕方が無いとはいえな……」
主「ここから西の山……こちらに面した崖に洞窟がある」
主「そこに魔王城の近くに通ずる道があるという。もしも早急に魔王城に向かうつもりなら」
主「そちらを行くといいだろう」
勇者「そんなところに道? だとしても距離がおかしいな」
戦士「てか、先週の魔物討伐の報酬は……」
リザ娘「勇者のペンダントに記録されているのだろう? であれば先の町でもいいんじゃないか」
ゴレ娘「ゴーゴー」
勇者「ふう……」ザッザッ
戦士「まだ距離があるなぁ」
リザ娘「だがこのまま行けば今日中には着けそうだな」
ハピ娘「詳しい位置までは分かりませんし、何処かに一泊すべきでは?」
ゴレ娘「寒いねー」ボスボス
勇者「この先の街道を右に曲がると宿があるらしいし、そこかなぁ」
戦士「あーあったけぇ湯に浸かりてぇ……」
リザ娘(贅沢な)
ハピ娘(なんて贅沢な事を!)
ゴレ娘(贅沢者ー)
宿屋
女将「ここは天然の温泉が湧いているんですよ。心行くまで浸かっていって下さい」
勇者「ふああぁぁ……」
戦士「たまんねぇなぁ……」
勇者「全くだな……ま、期せずして彼女らに温泉を体験してもらえて良かったよ」
戦士「……この壁の向こうに」ゴクリ
勇者「殴るぞ」
ゴレ娘「はふぅ~~」
ハピ娘「う~……何なんですのこの臭い」
リザ娘「これが所謂腐った卵の臭いか」
ゴレ娘「卵とか趣向品」
ハピ娘「私達には手が出せなかった代物ですわね」
リザ娘「飼う以外の選択肢がなかったからな。ま、今はある程度自由に食べられる訳だが」
ゴレ娘「あんまり感動なかったね」
ハピ娘「ですわね……」
リザ娘「……ん?」
ハピ娘「どうかしましたか?」
リザ娘「いや、ここに何かあるな……あれ? 卵か?」
ハピ娘「温泉でゆで卵を作って……この程度の温度でできるものなのかしら」
ゴレ娘「看板ー。温泉卵だってー」
リザ娘「ふむふむ、ん? 食べていいのか、これ」
ハピ娘「温泉卵……リザ娘さん、毒見をどうぞ」
リザ娘「お前……」
リザ娘「まあ、食べるけどさ」カンカン
ゴレ娘「あたしも食べるー」
リザ娘「ほら」パキャ
ゴレ娘「……? 半熟卵?」
ハピ娘「か、変わってらっしゃいますわね」
リザ娘「いざ、いただきます」
ウマーーーー!
勇戦「!?」ビクッ
勇者「な、何があったんだ向こうは?」パキャ
戦士「温泉卵、か? いやいや、叫ぶほどか?」ズルッ
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません