智香「裏返しマイサイト」 (65)



所々地の文あり

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「智香っ!!」

「若林!大丈夫か!?おい!!」

「……っ!」

「アキレス腱が……早く保健室に!」

「きゅ、救急車も呼ばなくちゃ!」

「若林!もう少し、もう少しの我慢だからな!!」

「……はいっ……」

「よかったな若林。あまり大きな怪我にはならなくて」

「はい!」

「智香!よかったぁ……」

「えへへ。心配かけちゃったね」

「……もう、跳べるのか?」

「もうお医者さんからは大丈夫って言われてますっ」

「そうか。じゃあ無理はしないで低めからでいいからな」

「はいっ!」


「……あ、れ?」

「智香?どうしたの?」

「あ、あれ?何か……足が全然動かなくて……」

「えっ!?ちょ、ちょっと!まだ治りきってないんじゃないの!?」

「う、ううん。そうじゃないの。そうじゃなくて……あ、あれ?う、動けっ!動けっ!」

「……」

「ねぇ、若林さんって知ってる?アキレス腱痛めたのがトラウマになって、走り高跳びができなくなっちゃったっていう……」

「全国を狙える実力だったのに……残念ね……」

「……っ」

「智香……」

「……だ、大丈夫っ☆アタシ、絶対飛ぶから!」

「……本当に辞めるのか。若林」

「このままここにいても、お荷物になるだけだって思って」

「そうか……お前がそれでいいなら俺は何も言わない」

「今まで……ありがとう、ございましたっ」

「……すまんな、若林」

―――事務所―――

智香「おはようございますっ☆」

モバP「おう、おはよう智香」

ちひろ「おはようございます智香ちゃん」

真尋「やっほっ、智香ちゃん!」

智香「今日は真尋ちゃんと一緒にお仕事なんですよねっ☆」

モバP「ああそうだ。真尋のスポーツチャレンジ・生放送スペシャルのVTR収録でな。チアリーダー役として出演してもらう」

真尋「この前の長距離マラソンは辛かったなぁ!私、短距離型だからさー!」

智香「今回は何をするんですかっ?」

モバP「走り高跳びだ」

智香「……えっ?走り、高跳び……」

真尋「智香ちゃん?」

智香「あ、ああいえ。何でもないですよっ☆ ただ、以外と難しそうだなって思って!」

真尋「うん。そうなんだよねー!企画が出てから何回か自主練はしてるんだけど、少しでもタイミングがズレるとうまく跳べなくてさー!」

智香「そうみたいですねっ。空中で反るための柔軟性も必要みたいですし!」

真尋「私、走る競技ばっかやってたから、柔軟性はあんまり自信なくて……そうだ!智香ちゃんって体凄い柔らかいよね!」

智香「そ、そうですかっ?」

真尋「うんうん!ほら、試しに前屈してみてよ!」

智香「こ、こうですかっ?」グニャ

真尋「凄い凄い!手のひらが床に付いてるよ!」

モバP「スポーツアイドルたるもの、見習えよ真尋」

真尋「うん!やっぱり毎日柔軟体操とかした方がいいのかなー?」

智香「……あ、あはは」

ちひろ「プロデューサーさん。そろそろ時間ですよ」

モバP「えっ?もうそんな時間ですか?」

ちひろ「今日のロケはいつもの場所とは違う場所でやるので、早めに出た方がいいかと思いまして」

モバP「ああ、なるほど……ちひろさん。ありがとうございます」

ちひろ「いえいえ」

モバP「そんじゃ真尋、智香。少し早いけど行くぞ」

真尋「うん!」

智香「……」

モバP「智香?」

智香「え?あっ、はいっ☆」

モバP「……体調が悪いんなら、休むか?チアリーダー応援のシーンはまた別の日に収録すればいいし……」

智香「大丈夫ですっ。すみません、ぼーっとしちゃってて!」

モバP「智香が大丈夫ならいいんだが……それじゃ、行ってきます」

ちひろ「はい。行ってらっしゃい!」

―――競技場―――

真尋「うおー!ひろーい!!」

モバP「おーい真尋ー。あんまはしゃぐなよー」

真尋「本当にここでやるの?!」

モバP「ああ。なんてったってスペシャルだからな。生放送当日はお客さんも沢山来るぞ」

真尋「ホント!?緊張してきたー!」

モバP「今から緊張してどうするんだよ……」

智香「……」

モバP「さて今日の予定だが……今日は一日目という事で、とりあえず今の真尋がどれくらいまで跳べるのかの測定をする。で、その後、智香の応援チアリーディングVTRの収録だ」

真尋「うーん……自己ベストが165だから、そのくらいまでは飛べると思うんだけど……」

モバP「じゃあまずは肩慣らしも兼ねて150くらいから行ってみるか?」

真尋「そうだね!じゃあ軽く走ってくるね!」

モバP「おう。準備体操も怠るなよー」

真尋「わかってるって!」

モバP「そんじゃ俺達は少し離れて真尋の様子を見てよう」

智香「は、はいっ☆」

モバP「(……やっぱり智香、朝から様子が変だな)」

―――数分後―――

真尋「……うっし!準備おっけーだよPさん!」

モバP「とりあえず150からスタートする。無理はするなよー!」

真尋「了解っ!」

モバP「アイツの事だから、どうせ自分の限界に挑むんだろうな……」

智香「……」

モバP「……智香。本当に大丈夫か?少し顔色が悪いぞ?」

智香「だ、大丈夫……大丈夫な、はずですっ」

モバP「はずってお前……」

智香「だって……ずっと前に……もう……」

モバP「……智香?」

真尋「そんじゃ、まひろ、行っきまーす!」ダッ

モバP「えっ。ちょ、いきなりすぎるだろ!スタッフさんも困惑してんじゃねぇか!」

スタッフ「ああ、大丈夫ですよ。いつもの事なので」

モバP「……後でアイツ説教だな」

スタッフ「あはは……」

真尋「……ふっ!!」ダンッ

智香「っ」ヒュッ

スタッフ「……150オッケーでーす!」

真尋「まーね!私にかかればこの程度……」

モバP「この程度じゃなくて。いきなり過ぎるだろ。お前いつもこうなのか?」

真尋「当たり前じゃん。跳べる!って思った時にスタートの合図待ってたんじゃ跳べるものも跳べないよ!」

モバP「わからない事もないんだが……」

真尋「その時その時を大事にしていかないと!……って、あれ?智香ちゃん?!す、凄い汗だよ!?」

智香「はっ、はっ……」

モバP「お、おい智香!?すみません誰か!!」

智香「だ、大丈夫ですっ。そういうのじゃ、ないですからっ」

モバP「明らかに大丈夫じゃないだろ!」

真尋「そうだよ智香ちゃん!辛いなら辛いって……」

智香「違うん、です。これは……」

モバP「真尋はここで待機!測定は今日中に終わらせないとだから、スタッフさんの指示に従ってくれ!」

真尋「う、うん。わかった」

スタッフ「救急班、急げ!」

智香「どうしてっ、今更……」

モバP「すみません、智香をよろしくお願いします!」

スタッフ「わかってます!」

智香「……どうして」

―――病室―――

智香「……」

医者「とりあえず、何かの病気というワケではないですね」

モバP「そうですか、よかった……」

医者「一種のパニックによる発作、といった所でしょうか」

モバP「パニックによる発作?」

医者「心的外傷……トラウマを刺激された事により、呼吸困難等の症状が出てしまう事です」

モバP「トラウマ……」

医者「何か、心当たりはありますか?」

モバP「……」

智香「……」

医者「そうですか……今日中にやった事を思い返してみて、何か心当たりのような物を見つけたら、それを極力避けるようにする事が一番です」

医者「とりあえず体は何ともないので、本日中に退院できますよ。では、私はこれで」

モバP「……智香」

智香「……走り高跳び、です」

モバP「やっぱりそうか……朝、今日は走り高跳びの収録だって言った時から、様子が変だったからな」

智香「アタシ、アイドルになる前……正確には、チアリーディングに出会う前、陸上をやってたんです」

智香「陸上では走り高跳びの選手をやってて……大会でも、優勝を狙えるってみんなから期待されてたのに……」

智香「……アキレス腱を、痛めてしまって。それから、走り高跳びができなくなってしまって」

智香「でも、いくら今日の収録が走り高跳びと言ったって、あれから何年も経ってるし、しかも自分がやるんじゃないから大丈夫って思ってたんです。だけど……」

モバP「真尋が跳ぶのを見て……こうやって、発作が出てしまったと」

智香「……はい」

モバP「そうか……わかった。ならチアのVTRは他の子にやってもらおう」

智香「えっ……」

モバP「無理をしてまた発作が出ても困る。だからチアができそうなやつのうち、誰かに都合をつけてもらうよ」

智香「だ、ダメですっ!そんなの、そんなの……!」

モバP「……じゃあ智香は、次は発作が出ないという自信があるのか?」

智香「……それ、は」

モバP「発作が出ないだけじゃない。走り高跳びを見る事を苦だと感じる事なく、真尋を応援できるのか?」

智香「……っ」ギリッ

モバP「お前が今回の収録を楽しみにしてた事はわかる。久しぶりに、チア関係の仕事だったからな」

モバP「だけど……今回ばっかりは……」

智香「……わかり、ました」

モバP「……ごめんな、智香」

智香「……」

―――病院―――

モバP「……」

芳乃「ぶおー」

モバP「うおおっ!?」

芳乃「……そなたー。そこまでびっくりする事はないと思うのー」

モバP「いや、病室から出てきた瞬間ほら貝を鳴らされたら誰だってビックリするだろ」

芳乃「何やら難しい話をしていたのでー。入るに入れなかったのですー」

モバP「もしかして、智香のお見舞いに来てくれたのか?」

芳乃「はいー。収録先で倒れてしまったと風に聞きましてー。急いでやってきた次第ー」

モバP「そうか。……だけど、今は入らない方がいいかもしれない」

芳乃「どういう事でしょー?」

モバP「……楽しみにしてた仕事が、自分の過去のせいで出来なくなって、凄く傷ついてると思うから」

芳乃「つまりー。悩み事という事ですー?」

モバP「そんな軽いものじゃ……」

芳乃「悩みを解決するのはー。この依田が芳乃のお仕事でしてー。この件はわたくしにお任せくださいー」ガラッ

モバP「お、おいちょっと!?」

―――病室―――

智香「……ひぐっ、えぐっ」

智香「どうして、今更っ、こんな事になるのっ」

智香「もうっ、こんな気持ちになるのはっ、あの時だけで十分なのにっ……」

芳乃「お邪魔するのでしてー」ガララ

智香「……芳乃、ちゃん?」

モバP「おい芳乃……!」

芳乃「そなたは外で待っているのー」ガララ ピシッ

智香「……」

芳乃「……少し、そなたとお話をしたいと思いましてー」

智香「……そっか。な、何かなっ?」

芳乃「笑顔を無理に作らなくてもいいのでしてー。そなたが辛いのはわかっているのでー」

智香「……うん」

芳乃「まずー。あの方が言った事は間違っていないのでしてー」

芳乃「応援とはつまり、言霊の一種でしてー。実は応援する側の生気を、応援される側に分け与えるという呪術とも言える代物でー」

智香「えっと……?」

芳乃「簡単に言うならばー。応援する側の元気がないならー、分け与えられる生気は小さくなるのでしてー」

芳乃「つまりはー。いくらそなたが他の人間に生気を分け与える量が、凡人に比べて多くてもー。心が応援する事を苦だと感じている限りー、分け与えられる量は凡人に劣ってしまうとー」

智香「……」

芳乃「だからあの方の代理を立てるという案はー。間違っているワケではないのでしてー」

智香「……わかってます。Pさんが間違ってないっていうのは、わかってるんです。でも、でも」

智香「アタシ自身が原因で、楽しみにしてた事ができないのが、悔しくてっ……!」

智香「陸上を辞めたあの日、この気持ちは嫌というほど味わったからっ、だから!」

芳乃「……ならばー。どうして、それを乗り越えようとしないのでしょー?」

智香「乗り越えようとしたんですっ!でも、走り高跳びのセットを見るだけで、足が動かなくなってっ!」

芳乃「それはー。乗り越えようとはしていないのでしてー」

智香「……っ」

芳乃「乗り越えようと思うものならばー。いくらでも方法はあるのでしょー?例えばー、走り高跳びのセットを見るのが辛いのならー、セットを無くして飛んでみるという方法もありますしー」

智香「それ、は」

芳乃「つまりそなたはー。自分の臆病さを言い訳にしてー。自分から乗り越えようとしていないのでしてー」

智香「……」

芳乃「……少しー。昔話をしましょうかー」

智香「昔話……?」

芳乃「昔々ー。あるところにー。不老不死の少女がいたのでしてー」

芳乃「そんな神にも等しい力を持っていたその少女はー。住んでいた村の人々からいじめられていたのでしてー」

芳乃「ですが年月が経てばー。彼女をいじめていた彼らは寿命を迎えて一人、また一人と消えていきー」

芳乃「気がつけば少女は一人になっていたのでしてー」

芳乃「一人になってしまった少女は新しい村を探しー。そして優しい人々のいる村にたどり着いたのでしてー」

芳乃「そこで少女は考えたー。不老不死だという事を、村の人に伝えたらどうなるかー」

芳乃「少女はこの人達なら自分を受け入れられると信じていてもー。いじめられた経験からー、なかなか打ち明ける事ができなかったのでしてー」

芳乃「そんなある日、村を化物が襲ったのでしてー」

芳乃「少女は、自分が不老不死である事を利用し、化物の生贄になればー。村や人々が助かるとわかっていたのでしてー」

芳乃「だけど、自分が不老不死である事をばらしてしまえば村の人々はもしかしたら受け入れてくれないんではないか。またいじめるのではないかと思うとー、体が動かなかったのでしてー」

智香「……」

芳乃「そうこうしているうちに村は全滅、少女はまた一人になりー……ずーっと、一人ぼっちで暮らしていたー……というお話でしてー」

芳乃「少し方向は違うかもしれないですがー。彼女もまたー、自分の臆病さを言い訳にしてー、大切な物をなくしたのでしてー」

芳乃「そなたには、彼女のようにはなって欲しくないのでしてー」

智香「あのっ……少し、一人にさせてもらえませんか?」

芳乃「……わかったのでしてー。ではー、わたくしはこれでー」ガララ

智香「臆病さを、言い訳にして……」

―――アタシは今日からみんなの応援をする事にしたよっ☆

智香「自分で、逃げ道を作って……」

―――……ごめん。アタシ、もう陸上はやらないって決めたんだ。チアリーディング1本で行くよっ

智香「大切なものを失って……」

―――本当は……走り高跳びを続けたかったよ!でも、アタシ、もう足が動かないんだ……

智香「……そんなのは、アタシも嫌だっ」

―――……もう一度、跳びたいな

―――病院 屋上―――

芳乃「ぶおー。ぶおおー」

芳乃「むー?燕ーどうしたのでしてー?」

芳乃「……測定が終わったー?して、彼女はどれくらい跳んだのでしてー?」

芳乃「160……流石ですねー。では目標は170あたりに設定されるのでしょうかー」

芳乃「報告ありがとうなのでしてー。引き続き、よろしくでしてー」

芳乃「……若林、智香」

芳乃「そなたにはー……彼女……依田芳乃のようにはなってほしくないのでしてー」

芳乃「……ぶおー。ぶおおー」

―――翌日 競技場―――

真尋「Pさん、智香ちゃんは……?」

モバP「……とりあえず、代理を立てるという方向で話を進めてる」

真尋「そっか……」

モバP「……心配か?」

真尋「うん……智香ちゃんのあんな様子、初めて見たし……」

モバP「……俺もだよ。だから正直、戸惑ってる」

真尋「……ううん、あたし達までアンニュイになっちゃダメだよ!Pさん!」パチン

モバP「……真尋」

真尋「だってさ!智香ちゃんに自分が原因で、私に心配かけて生放送で失敗したなんて思わせたくないから!」

モバP「……ああ、そうだな!だから、絶対成功させるぞ!」

真尋「うん!」

芳乃「ぶおー」

真尋「うわあああああ?!」

モバP「……芳乃。それは驚くからやめろと言っただろう」

芳乃「どうもわたくしがいるのにー。故意的に無視されている気がしたのでー」

モバP「いや、どうして芳乃もここにいるんだって聞きたかったが、考えてみれば芳乃はどこにいても不思議じゃないと思ってな」

芳乃「……それはどういう意味なのでしてー?」

モバP「自由人って意味だよ……それで、何でここにいるんだ?」

芳乃「もちろんそれはー……応援をするためなのでしてー」

モバP「応援?いやだが芳乃がチアできるなんて聞いた事が」

芳乃「まぁ、できなくはないのですがー……今回は、北川真尋の応援ではなくー。別の方の応援に来たのでしてー」

モバP「それってどういう……」

智香「はぁっ、はっ、Pさんっ!」

モバP「智香!?」

真尋「智香ちゃん!?えっ、そ、その格好……」

智香「え、えへへ……昔の体育着、引っ張り出してきたんですけど、まだ大丈夫ですよねっ?変じゃないですよねっ?」

芳乃「ブルマが眩しいのでしてー」

モバP「……お前、どうして」

智香「……アタシ、決めたんです」

智香「もう、何かを乗り越えようとせずに、諦めるのはやめようって!」

モバP「……大丈夫、なのか?また発作が出たりしたら……」

智香「……もしかしたら、またダメかもしれないですけど……」

芳乃「ぺいっ」ピシッ

智香「ひゃんっ!?」

芳乃「始める前からそんな弱気なのは許さないのでしてー」

智香「……うんっ、そうだねっ☆きっと大丈夫です!」

モバP「……わかった」

真尋「Pさん?!」

モバP「お前がそう言うのなら大丈夫だと信じるよ」

スタッフ「お待たせしましたー……ってあれ?若林ちゃんは応援役じゃ……」

モバP「すみません。おりいって少しご相談が」

スタッフ「は、はぁ……」

真尋「……智香ちゃん」

智香「何かなっ?」

真尋「ううん、そうだね!Pさんと一緒!智香ちゃんがそう言うのなら大丈夫!」

芳乃「わたくしもいますからー。心配はないのでしてー」

真尋「それは逆にちょっと心配なんだけど……」

芳乃「むー、なにをー」ペシペシ

真尋「い、痛くないけどなにこれ!?凄くむず痒い!」

モバP「話をつけてきた」

智香「あ……」

モバP「智香、やっぱりチアは別の誰かに変わってもらう」

智香「……わかりましたっ」

モバP「その代わり智香には……真尋と一緒に、生放送に出てもらう!もちろん、競技者としてだ!」

真尋「えっ、それって……まさか!」

モバP「真尋&智香のスポーツチャレンジ・生放送スペシャルに予定変更だ!」

智香「……えっ、ええええええっ?!」

芳乃「……まぁ、なんとなーく。予想はしていたのでしてー。ぶおおー」

―――数分後―――

真尋「おし!準備運動完了!」

智香「私も終わりましたっ☆」

モバP「よし、じゃあ練習の前に少し集まってくれ」

真尋「なになにPさん?注意事項なら昨日聞いたよ?」

モバP「今日は注意事項じゃなくてな。真尋の目標値を発表しようと思う」

真尋「目標値?」

モバP「つまり、生放送の時に跳ぶバーの高さだ」

真尋「なるほど!」

モバP「……今回の真尋の目標値は、自己ベストの165cmの更に上。170cmだ!」

真尋「おー!目標は高ければ高いほどいいよ!よっしゃ、燃えてきたー!」

モバP「……同時にこれは、智香の目標値としても設定させてもらう」

真尋「えっ……ちょっとPさん!?智香ちゃんは……」

智香「その高さで、大丈夫ですっ」

真尋「智香ちゃん!?だ、だって170だよ!?そんないきなり……」

智香「……」

芳乃「彼女を信じてあげてくださいませー。何か考えがあっての事なのでしょー」

モバP「……聞いてもいいか?」

智香「前に、陸上をやっていた頃の自己ベストが175cmだったんです。ですからっ」

モバP「ブランクも相まって、相当キツイと思うぞ?」

智香「……やり遂げてみせます!」

モバP「よし。智香がこう言っているんだ。真尋もいいな?」

真尋「……わかった!一緒に頑張ろう!智香ちゃん!」

智香「はい!」

芳乃「ではー。そなたはこちらですー」

智香「う、うんっ」

モバP「えっ、芳乃が指導するのか?」

芳乃「いいえー。わたくしはスタッフに準備をお願いしただけなのでしてー」

モバP「準備って……マットと踏み切り台だけ?」

芳乃「どうも話を聞くとー。走り高跳びのセットを見るとー。パニックになってしまうみたいなのでー。原因を取り除いてみた次第ー」

モバP「……わかった。智香は芳乃に任せるよ」

芳乃「任されたのでしてー」

智香「っ」ギュッ

芳乃「……これだけでも、まだ怖いのでしてー?」

智香「……大丈夫。大丈夫だよっ」

芳乃「ぺいっ」ピシッ

智香「ひゃっ?!」

芳乃「力みすぎなのでしてー。まずは力を抜きましょー」

智香「そ、そんな事言われても……やっぱり、緊張もするしっ、怖いし……」

芳乃「やっぱり怖かったのでしてー?」

智香「……うん。怖い」

芳乃「何が怖いのでしょー?」

智香「もう一度、傷つく事が、怖いっ」

芳乃「ですがきっとー。貴方の中にはもっと怖い物があるはずですー」

智香「……傷つく事を恐れて、大切な物を、諦めるのが、怖いっ」

芳乃「それがわかっていれば、もう大丈夫でしてー」

智香「……うんっ!若林智香、行っきまーす!」ダッ


向かい風が吹いている

奇しくもアタシがアキレス腱を痛めた日と同じ、向かい風

でも、今となってはその風も心地よい

地を蹴ってスピードを上げていく

同時に、心音も高鳴った

初めて走り高跳びに出会った、あの日のように

ダン!と小気味よい音が響いた瞬間、アタシの視界は裏返った

芳乃「気分はどうなのでしてー?」ヒョコッ

智香「……最高っ☆」

芳乃「それは何よりー」

智香「芳乃ちゃん」

芳乃「なんでしょー?」

智香「空ってさ……青いんだよっ!」

芳乃「……そうですねー。いつの時代も、空は青いのでしてー」

智香「うんっ☆」

―――数日後 競技場―――

智香「真尋ちゃん急いでっ!スタッフさん待ってるよっ!」

真尋「わかってるわかってる!」

モバP「芳乃!智香と真尋が来た!もういいぞ!」

芳乃「わかりましたのでしてー。では、撤収ー」タタッ

モバP「智香!真尋!芳乃と入れ替わりで競技場に!」

智香「わかりましたっ☆」

真尋「まだ走るのー!?」

モバP「お前が遅刻したからだろうが!昨日散々注意しただろ!」

真尋「だってさー!」

芳乃「……できなくはないと言いましたがー。まさか本当にチアリーディングをやる事になるとは思わなかったのでしてー」

モバP「すまんな芳乃……真尋が遅刻した分の、埋め合わせみたいな事やらせて」

芳乃「いえー。代理がいないのであれば仕方ない事ですー。それよりそなたー。この服は似合いましてー?ふりふりー」

モバP「はいはい似合ってるよ」

芳乃「むー。返事が適当すぎるのでしてー」

智香「芳乃ちゃん、アタシの代わりにありがとっ☆チアの服も似合ってるよっ☆」

真尋「ごめん芳乃ちゃん!その代わりと言っちゃなんだけど、絶対に170跳ぶから!」

芳乃「……はいー。頑張ってくださいー」

モバP「よし!そんじゃスタッフさん!よろしくお願いします!」

真尋「……智香ちゃんさ、緊張してる?」

智香「もちろんっ☆」

真尋「そうは見えないなぁ……だって、本番直前の日に175に目標値上げたじゃん!」

智香「真尋ちゃん言ってたじゃないですかっ。跳べると思った時に跳ばないとダメだって!」

真尋「……うーし。なら私も175に変更しちゃおうかなー!」

モバP「いやいや勘弁してくれよ……」

スタッフ「ああ。多分大丈夫ですよ。若林ちゃんのをそのまま使えば」

モバP「……マジっすか」

真尋「そんじゃ175に変更でお願いします!燃えてきたー!」

智香「アタシも燃えてきたよっ☆」

モバP「……ん?何ですかこれ?……お客様からの、智香への手紙?」

智香「アタシに……ですか?」

モバP「ああ。とりあえず中に不審物は入ってないみたいだが……」

智香「あ……これ、先生ですっ」

モバP「先生?」

智香「アタシが陸上やってた時の、顧問の先生……」

智香「……すみません。これ、持っててもらえませんかっ?」

モバP「え?読まないのか?」

智香「時間もないですし、それに、アタシは今でも跳べるって事を見せるのが、何よりの返事になると思いますからっ☆」

モバP「……そうか!じゃあ、行ってこい!」

智香「はいっ!」

真尋「そんじゃ、智香ちゃん!行っくよー!」

智香「せーのっ!」

真尋&智香『みなさーん!今日は生放送の場にお集まりいただき、ありがとうございまーす!!』


おわり

智香ちゃん誕生日おめでとうございます

あとさりげなく芳乃ちゃんを人外にしてごめんなさい

物語の展開が結構急(誕生日だと前日夜に気がついたため)でしたが楽しんでいただけたなら何よりです

ではここまでのお付き合いありがとうございました

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