狐娘「油揚じゃ!」男「油揚だ」油揚「どうも御無沙汰しております油揚です」 (31)

男「俺より油揚に反応たぁ随分な態度だな」

狐娘「ええい黙っとれ男、はよ寄越さぬか!」

男「そんなこと言うちっさい狐っ子にはあげません」グイーン

油揚「とはいえ既に揚げられているんですがね」ウエー

男「ハッハッハ誰がうまいことを言えと」グイーン

油揚「勿論味の方も美味いことこの上なしですとも」ウエー

狐娘「せい、っせい!」セノビー

男・油揚「ダッハッハッハッハwwwwwwwwww」ウエニグイーン

狐娘「ぬしら意地悪するなー!」ピョンピョン

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男「まあとりあえず油揚はお預けだ」

狐娘「うー」ジッ

油揚「そんなに見つめられちゃ油揚でも赤くなりますよ」

男「色々と話があってなあ。ほらおまえ、ここんところの土地神じゃん?」

狐娘「土地神にその言葉遣いはどうかと思うんじゃ」

男「んでもって俺神社の跡取りじゃん?」

狐娘「別名、神社んとこの放蕩バカ息子じゃの」

男「誰だよそんなあだ名つけたの」

狐娘「ぬしの父じゃ」

男「あんのクソ親父め跡継ぎ放棄しちゃるか」

狐娘「家業がなくなったら困るのはおぬしじゃろうに」

男「ところがそう困らないんだなあこれが。隣町のデカい神社んとこの娘と色々仲良くしてるし」ワキワキ

狐娘「……やっぱり放蕩バカ息子じゃの」

男「お? 嫉妬か狐っ子」

油揚「夫婦喧嘩とベタベタの油揚は犬でも食いませんよ?」

狐娘「なにをっ! 誰がこの大バカなんぞ!」

男「まあ話を戻すけど」

狐娘「むぅ~~っ」

男「ほら、西町の古神社あったじゃん? 山裾んとこの」

狐娘「年老いた土地神がいたのう」

男「あそこがなんだかの開発で潰されたらしくてな」

男「それでバランスが崩れたんだろう、怪異が起きてる」

狐娘「怪異というとなんじゃ」

男「付喪神の大量発生。本来土地神で抑えられて、時間をかけないとなれないはずの付喪神が、ひょんな拍子でぽこじゃか生まれてる」

狐娘「ほほう」

男「とはいえ生まれてるだけで、さほど影響はデカくない。が対処は早い方がいい」

男「でこいつもその一体なわけだ。買ってきた油揚に紛れてた」

油揚「な訳なのです」

男「いやあ急に喋りだしたんで驚いたのなんの。お袋はギックリ腰、じいちゃんは入れ歯をなくして親父はヅラをなくした」

油揚「いやはや申し訳ない」

男「しかし食い物の妖怪こそ聞いたことあるが、食い物の付喪神なんて聞いたことがない。それも聞きたくてな」

狐娘「ふむ。ない訳ではない、としか言いようがないのう」

狐娘「付喪神は時間と経験で力を持つのじゃ。それゆえ必然的に、腐る食べ物に付喪神がつくことは殆どない」

狐娘「それでもついたということは、じゃ。恐らく保存の効く大豆の状態で付喪神になったんじゃろう」

油揚「ううむ。さすがお狐様、ご名答にございます」

油揚「わたくしは工場の隅に転がった、一粒の大豆でした」

油揚「この度の偶然と、長らく放っておかれ、かつ再び加工ラインに乗った偶然によってわたくしはここにいるのです」

油揚「我々は大豆から作られます。大豆から豆乳に、豆乳から豆腐に、豆腐から油揚に。この豆乳の過程が肝でして」

狐娘「察するに、おぬし一体が薄く広がり、全ての豆腐・油揚に宿るのじゃの?」

油揚「ご明察。わたくし一粒が付喪神と成り、そして豆乳になるだけで、わたしくの一部が混ざった全ての油揚が付喪神になったのと同義なのでございます」

油揚「今でこそあなたの御前に出るため、油揚の付喪神になっておりますが、その気になればより数の多い豆腐の付喪神となることも可能にございます」

狐娘「そ、それならば、この町の油揚全部をここに連れ」

男「土地神が率先して怪異起こしてどうすんだ」

狐娘「じょ、冗談じゃ冗談」

男「シュールすぎるぞ町を行進する油揚の群れなんて」

男「ま、そこでだ。おまえの影響力をちょいと高めてもらえないかと思ってね」

狐娘「むう、できないこともなくもないが」

男「おや不服かね」

狐娘「ぬしの思っている以上に土地神の力を出すのは疲れるのじゃ」

狐娘「それなりの褒美が必要じゃのう……」チラッチラッ

男「油揚マシマシかお神酒がいいか?」

狐娘「そ、それもいいがのう……」

男「それとも俺の愛の言葉がいいか?」キメ顔

狐娘「それはいらん」

男「即答かよ」

油揚「それではわたくしの愛の言葉を」キメ顔

狐娘「もっといらん」

男「おいどうやってキメ顔した」

油揚「大変なのでしたらわたくしから一つ提案が。わたくしの出番にございます」

男「おまえの?」

油揚「前述いたしました通り、わたくしは一にして全の油揚に通じるのです。つまりわたくしを始点にお狐様の力を発揮すれば」

狐娘「ふむ、単にワシとこの神社を発生点とするより効率がいいのう」

男「中継地点みたいなもんか」

油揚「しかしそのかわりに、ですが。神の力とは付喪神にとっては心地よすぎるのでございます」

油揚「それゆえ、一斉にこの町の油揚が嬌声をあげるでしょう」

男「イカン、それはイカン」

男「どうにか抑える方法はないのか」

油揚「嬌声といえども一瞬にございますから」

男「女声の嬌声は一瞬でもアウトなんだよ!」

狐娘「おぬしが熱弁すると説得力が違うの」

男「家族PCでエロ動画見てた時のイヤホンプラグアウトの恐怖はおまえらには分かるまい!」

狐娘「分からんの」

油揚「分かりませんね」

男「神社の跡取りとしてこの町の青少年を同じ目に合わせる訳にはいかない!」

狐娘「その心意気は別所に使うべきだと思うのじゃ」

男「ほら、超高速で力を反映させれば」

油揚「申し上げました通り、付喪神に土地神の力は強すぎまして」

男「だめなのか」

油揚「ショックで四方に油が飛び散るでしょう」

男「なら大丈夫だろ」

狐娘「いや危険じゃ」

狐娘「油揚は低温で一度、高温でもう一度揚げるゆえ、料理前に湯通し必須なほど、見た目以上に油を含んでおる」

狐娘「特にこの油揚、わしへの貢物ゆえ高級品の厚油揚」

狐娘「厚ければ厚いほど無論油を含んでしまうのじゃ」

男「詳しすぎるだろ油揚マニアか」

狐娘「特にわしは……その……」

男「なんだよはっきりしろ」

狐娘「若い神ゆえ力の操作が不得手……でのう……」

男「だめじゃねーか狐っ子」

狐娘「それでもおぬしよりは長生きしとるわっ」

男「俺と張り合ってどうすんだよ狐っ子」

狐娘「ええいもう黙っとれ! 小6まで寝小便してわしに本気で相談したことを広めるぞっ!」

男「それは反則だろお稲荷様!」

油揚「油揚だけに油を売ってる場合では」

男「うまいこと言うはもういいわ!」

油揚「味の方も」

男「天丼もいらん!」

男「というか油揚よ、土地神の力が強くなればおまえも消えるんだぞ? いいのか?」

油揚「ハハ。わたくしは油揚、食われることが本分にございます。それに、これといって大層な我欲も恨みもない」

油揚「強いて言えば、これを機にお狐様に食われるのが油揚の誉れ、大往生にございます」

狐娘「さすがは食物の付喪神じゃの。男よ、おぬしはでりかしぃというものを持つのじゃ」

男「食べ物へのデリカシーなんて初めて聞いたぞ」

男「……ん? 食われる、か……」

狐娘「どうした男よ」

油揚「男『狐娘×油揚……いやリバもありかな……イカン興奮してき』」

男「思考捏造やめい!」

男「あれだ、付喪神も神だろう。多少差はあるだろうが同じ神の力だ」

男「なら狐娘がちょっとでいいから油揚を食って、油揚の力を取り込んだうえで影響範囲を広めればいいんじゃね? 油揚を伝ってじゃなくて、油揚と同調する感じで、さ」

狐娘「……ふむ」

男「どうよ」

狐娘「悪くないかもしれぬ。食物の付喪神を食らうなど、わしとて初めてじゃが」

男「そうと決まれば善は急げだ。……どうした」

狐娘「……油揚」

狐娘「付喪神となったのじゃ、この神社に神の一体として奉られるという手もあるのじゃぞ」

油揚「……ハハ。申し上げました通り」

油揚「土地神は土地を守り、風神雷神は嵐を起こしてこその神。ならば油揚の付喪神は、食われ糧になってこそにございます」

狐娘「……すまぬ。野暮なことを訊いた」

狐娘「では……食らうぞ」モスッ

油揚「ぁはふぁん」ビクゥッ

男「変な声出すな」


 そうして油揚を始点とした土地神の力は瞬く間に拡散
 見事に効力を発揮したのだった……

狐娘「……ふう」

男「お疲れ」

油揚「……」

狐娘「……なかなか愉快な付喪神じゃったの」

男「……ああ。面白い奴だった」

男「食うか? 油揚の残り」ヒョイ

狐娘「……いや、今はいい。つかれた」

男「付喪神だけに?」

狐娘「違うわっ! 冗談癖が感染っとるぞ!」

狐娘「まあ、この度の手間は寛大なわしとおぬしの間抜け面でよしとしよう」

男「はいはい、どうせ間抜け面ですよ」

狐娘「しかしじゃ!」

狐娘「度々の無礼の支払いは済んでおらん!」

男「何言ってんだよ俺とおまえの仲じゃないか」

狐娘「何の仲にもなっておらんわ!」

狐娘「しょうがないのう」

男「なんだよ……っと」ポフン

狐娘「……この度の無礼はこれで不問とする」

男「膝枕で済むなら安いもんだよ」モフモフ

狐娘「こ、こら耳を触るな! くすぐったい!」

狐娘「……油揚の奴は、あとで大事に食べてやる」

男「……」ナデリナデリ

男「さよか」モッフモッフ

狐娘「尻尾を揉むな!」

狐娘「……酒、まだあったかの」

男「なくても俺が買ってくるとも」モフリモフリ

狐娘「今夜は飲むとするか。油揚をつまみに」

狐娘「おぬしも飲むか?」

男「いつも付き合ってるだろ? もちろん飲むさ」フニフニモフモフ

男「日本酒と、焼酎でいいか」モッフンモッフン

油揚「あ、わたくしは芋焼酎が」

男「ただし油揚テメーに飲ます酒はねえ」

狐娘「いい加減尻尾と耳を揉むのはやめるのじゃ!」

                     糸冬

狐娘イチャモフを書こうとしたら土産の油揚が勝手に愉快に喋りだした

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