カカシ「復讐か……」 (86)
「カカシ、お前を拘束しなければならない」
穏やかな窓の外とは対照的に、執務室は薄暗い。
反論よりも、ナルト達の前で確かめなければいけないことがあった。
「五代目は、俺が手を下したとお思いなのですね」
目線をあわせないまま、綱手様は言った。
「ああ」
もう、この場でなにを言おうと全てが無駄だ。
背後からはナルト達の視線が突き刺さる。
あんな話を信じたのか、と騒げるだけの反抗心も俺にはなかった。
「カカシさん、行きましょう」
後ろ手に手首を拘束された俺は、扉をこえる前に一度だけ振り返る。
しかし、ナルトもサクラもサスケも五代目も、誰も俺の方を振り向きすらしなかった。
どうすることも出来ず、俺は執務室を後にした。
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がっつり地の文で、オリキャラでまくりですが、読んでいただけると嬉しいです!
今週号読んでねーだろ?ウスラトンカチ
あれは一週間くらい前のことだ。
俺達はある任務に向かっていた。
内容はどうってことない農作業で、任務先に問題があったわけでもない。
依頼人にも、問題はなかったはずだった。
しかし、俺は思い出してしまった。
親父と過ごしたわずかな間に、親父が口にした名だ。
「キョガクまで」と呟いていたのを耳にした事があった。
「どうした?」
五代目がいぶかしげに俺の顔を見る。
「いえ、なんでもありません」
なら早く行け、とさして気にする様子もなく、五代目は俺たちを送り出した。
俺は依頼書の名前の欄をながめながら、親父の言葉の意味を考えていた。
「どうしたんですか?さっきからおかしいですよ」
サクラがそう発言したのをきっかけに、ナルトも俺の横に並んだ。
「みょーに真剣な顔してさ。
先生が真面目な顔してるなんて、気持ち悪ぃってばよ」
一人先を歩くサスケも、ちらりとこちらを見た。
上手い言い訳も思い付かなかったので、そのまま答えた。
「俺、依頼人を知ってるかもしれない」
「かもしれないって、なんで?」
親父からキョガクという名前を聞いたことがある。
そうナルト達に告げた。
「ふーん。じゃあ、先生の父ちゃんの友達だったりして」
「そうかもな」
会えば分かる。
分からなければ、それはそれでいい。
その程度の気持ちで歩いていた。
ナルト達の話題も、もう別なものに変わっている。
なんとなく三人の後ろ姿を目で追って、俺はいつも通り自来也様の小説を取り出した。
驚いたのは、それから数十分後。
依頼人と顔を合わせた時だった。
依頼人の呼吸が止まる音が、俺には聞こえた。
「はじめまして。
任務を請け負います、木の葉のはたけカカシです」
はじめまして、という挨拶に安心したのか。
キョガクの顔のひきつれがとれた。
「右から、うずまきナルト。
春野サクラ。
うちはサスケです。
よろしくお願いします」
ナルトが元気いっぱいに挨拶し、サクラも後に続いた。
サスケはわずらわしそうに、任務についてたずねる。
「それで、俺達は何をすればいい」
「畑を耕して下さい」
サスケに答える姿は、もう緊張が解けたようだった。
クワを手渡し、キョガクは去っていく。
俺の心の内も知らないで、任務は始まった。
「なぁ、カカシ先生。
土遁で一気になんとかなんねぇの?」
「……ん?じゃあ、使ってみるか」
俺は煙玉で一度姿を隠し、地中からナルトの足を引きずり込んだ。
「なにすんだってばよ!」
「土遁、心中斬首の術」
「土遁ならなんでもいいってわけじゃねーぞ!」
首だけで騒ぐナルトの髪を、なんとなく輪ゴムで縛ってみる。
出来上がったちょんまげヘアを見て、サクラは腹を抱えて笑った。
サスケは口をへの字にして俺を見た。
こんな下らないことで笑える俺は、幸せなんだろうとぼんやり思った。
次の日、また同じ道を歩く俺の前を、ナルト達が歩いている。
俺は本を読むふりをしながら、依頼人のことを考えていた。
結論から言うと、俺はキョガクを知っていた。
たしか、親父の友人だった男だ。
親父が自殺する直前に、訪ねてきていたのも思い出した。
だからといって、それが何を意味するのか確かめる気はない。
どうせ全ては過去の話だ。
任務さえこなせば、会うことも二度とないだろう。
考えている間にキョガクの家へたどり着き、倉庫からクワを取り出した。
「なぁなぁ、今日こそスッゲー土遁を見せてくれよな」
ナルトがせっついてくるので、昨日と同じ印を組み、地中に引きずり込んだ。
今日は100均のカチューシャを用意してある。
ファンシーなイチゴの飾りを見て、サクラは吹き出した。
サスケも笑いをこらえている。
ナルトにカチューシャをつけ、そのまま農作業に戻った。
ナルトが何か叫んでいるが、俺達は笑いながら無視を決め込んだ。
「ご苦労様です。お茶でもいかがですか」
全身土まみれのナルトをよけるように、依頼人が昼飯を持って現れた。
俺はなんて断ろうか考えながら、ナルト達に休憩の号令をかける。
俺を除いて、一人二個ずつおにぎりを食べることになった。
「私もご一緒させて下さい」
構いませんよ、と気がつくと答えていた。
キョガクは俺の隣で、お茶を飲み、おにぎりを頬張っている。
それだけなのに、俺はなにか不愉快だった。
「おっちゃんって、先生の父ちゃんのこと知ってっか?」
出し抜けにナルトが質問するので、一瞬だけ固まってしまった。
キョガクは俺の顔をひきつりながら見る。
「私のこと、覚えていたのですか」
「いえ。申し訳ありませんが、名前に聞き覚えがあるくらいです」
とっさに嘘をついた俺を信じたのか、キョガクはうつむきながらポツリと言った。
「カカシ君のお父さんとは、親友だった。
……あんなことになるまでは」
「あんなこと?」
ナルト達は続きを聞けるものだと思っている。
だが、俺はキョガクの目を見た。
「キョガクさん。子供達にあの話は」
「ああ、すいません」
三人共まだ何か聞きたそうにしていたが、俺も依頼人も何も言わなかった。
そうしている内に、それぞれ食べ終わったようで、俺達は任務に戻った。
三日目の朝、遅刻してこない俺をナルトは不審げに見た。
「一体どうしちゃったんですか」
サクラやサスケまで、怪しむような目で俺を見る。
少しがっかりしながら、気にするなとだけ告げた。
遅刻しなかったのには、一応理由がある。
ほぼ日課になっている慰霊碑通いが、今日はなんとなく気分が進まなかった。
ただそれだけのことなのだが、ナルト達はまだこちらを見ていた。
少し面倒くさくなった俺は、先頭を歩くことにした。
ポーチから小説を取りだしページをめくる。
ナルト達も別の話題に移ったらしかった。
「ねぇ、あのウワサ知ってる?」
サクラがもったいつけた言い方で、二人に話しかけているようだ。
「あのウワサって、なんだってばよ」
「えー、アンタ知らないの?
サスケ君は知ってるわよね?」
「いいからさっさと言え」
俺は小説を読みながら、会話に耳を傾けた。
「あのね。
どこか名前も知らないような里が、木の葉と手を組んで子供をさらってたんだって」
「ホントかよ」
「多分ね。
私は戦争中のことだって聞いたけど。
その里にさらわれた人が、最近本を出したらしいのよ」
「ふん、くだらねーな」
サスケの反応があまり良くなかったためか、サクラは俺にまで話をふってきた。
「カカシ先生はどう思います?」
「どう思うって言われてもね」
濁して終わりにするか迷ったが、話すことにした。
「ま、一応事実だよ」
「えっ!」
聞いてきた本人が一番大きな声をあげた。
ナルトやサスケも驚いているようだった。
「戦争孤児なら、行方が知れなくなっても誰も気にはとめない。
忍者でも同じことだ。
仲間があの子は死んだと言えば、死んだことになる。
本当は連れ去られていたこともあったみたいだね」
ナルト達はそろって下を向いた。
やはり、こんな話をするのは失敗だったのかもしれない。
落ち込む姿を見たら、俺も連れてかれた事があるなんて、話す気は起きなかった。
「さて、今日も土遁を使って欲しいだろ?」
ナルトは少し驚いてから、首を横にふった。
ふてくされている。
俺はカバンから大きなアフロを取り出して、残念だと呟いた。
「大丈夫です、先生。
私がおさえてますから」
すかさずサクラがナルトのワキに手を回し、後ろから羽交い締めにした。
逃げようと暴れるナルトの腕を、サスケまでもが捻りあげている。
「イッテ!マジふざけんなってばよ!」
俺がやることは、ただ一つだった。
任務先へたどり着くまで、ナルトはぶすくれて一言も喋らなかった。
だが、畑に着くとすぐ、クワも持たずに突然印を組み始めた。
「土遁、ゴセイバイシキモク!」
よく分からない新術は、ナルトの足元に大きな穴を作り出す。
間の抜けた叫び声と共に落ちていった。
「助けてー」
「もう、なにやってんのよバカ」
俺はクワを降り下ろして空を見た。
今日はいつもより太陽が眩しい。
少しめまいを感じながら、畑を耕し続けた。
それから何時間か経つと、腕に風呂敷を抱え、依頼人がまた現れた。
「カカシ君はいらないんでしたっけ」
「ええ」
「でも、一応用意したので良かったら食べて下さい」
「お気遣い、ありがとうございます」
俺は真っ白なおにぎりを、視界のはしへ追いやった。
>>3
読んでないです……
というかコミックス派です
ヤバいですか?
今日も俺の隣で、当たり前のようにキョガクは食事をとっている。
ナルトがどうでもいい疑問を投げかけた。
「オッサン、カカシ先生の父ちゃんと親友なんだよな?」
「ああ……。そうだよ」
「先生の父ちゃんって、どんな感じなんだ?」
そんなこと俺に直接聞けばいいのに。
そう思ったが、俺じゃ答えなかったかもしれないとも思った。
サクラやサスケも、少し興味をひかれているようだ。
「とても優しい人でした。
優しすぎて、いつも貧乏クジを引いているような。
忍としての才能は人一倍輝いて今したよ」
「あっそうか。先生の父ちゃんもやっぱり忍者だったんだな」
「あれ、カカシ君から話は聞きませんでした?」
「全っ然。俺達、未だに先生の名前しか知らねぇってばよ」
「そうなんです。好き嫌いも教えてくれないんですよ」
俺は思わず頭をかいた。
今なら、好き嫌いぐらいなら話しても良いのだが、そんな機会もなかったと思う。
こんなに不満に思われていたのかと、少しだけ反省した。
「それは残念ですね。
友人としてはお父さんの話、聞かせてあげて欲しいのですが」
「きっと、キョガクさんの方が詳しいと思いますよ。
俺はまだ6才でしたから」
「ああ……。
確かに物を理解するには難しい年ですね」
キョガクはなんでもないことのように言った。
「私は、君のお父さんの最後の任務にも同行していたんですよ」
俺は耳を疑った。
これはマジで期待
期待
「オッサンも忍者だったのか?」
ナルトが的外れな質問をした。
「ええ、あの任務からしばらくは続けていましたよ。
しかし、私は辞めざるをえなくなったんです」
「なんでだよ。怪我でもしたのか?」
その時、鳥の鳴く声を聞いて、俺は我に帰った。
高い声は召集を意味している。
俺達は任務を切り上げ、帰らなければいけなくなった。
「代わりの者がやって来るかもしれません」
キョガクは首を横にふった。
「君達がまた来るまで待ちますよ」
木の葉へ戻る道を、後ろ髪を引かれながら走った。
五代目に呼び出されたのは俺だけで、ナルト達は、可能ならまた明日から任務に向かうよう指示を出されていた。
ナルトは任せてくれと、威勢よく答えた。
俺は何か嫌な予感がしたが、なにも言わなかった。
「カカシ、すぐにこの男を捕まえてきてくれ」
どうやら護送中の犯罪者が逃げ出したらしい。
わざわざ呼び出されて向かうのだから、相当覚悟しなければならないのかもしれない。
不安そうに見つめるナルト達に、俺は笑顔を作った。
「ま、俺も頑張るから、お前らも頑張ってちょーだい」
はい、と力強い声が俺を送り出してくれた。
こんな時、あいつらの担当上忍で本当に良かったと思う。
俺は他里への道を何時間も走った。
寝ないまま次の日の朝を迎えた頃、道中で護送班と合流し問題の男を見つけた。
手裏剣の空を切る音が無数に響く。
気がつけば一対一になってしまった俺は、手裏剣を避けきれず地面に崩れ落ちた。
「へっ、ザマァねぇや……」
男は変わり身に気がつかず、顔をひきつらせて笑っている。
だが、俺に背後をとられ、すぐに笑みを引っ込めた。
俺は後ろから、男の首を腕で捕まえた。
「残念だったな。アンタには木の葉へ来てもらう」
ひきつった顔をこちらに向け、男は驚いたような声を出した。
「ア、ア、アンタ。はたけカカシか?」
少し迷って、俺はうなずいた。
「へへっ、やっぱりな。
な、なぁ、取引しようぜ」
男は卑屈な声で笑いだす。首を締める力を強めた。
「金で買収しようってか?なめられたもんだ」
「ちげぇ……!アンタの知りたい事を教えてやる……」
俺は少しだけ考えて、力を緩めた。
咳き込む男に、答えを迫る。
「さっさと話せ」
「に、逃がしてくれるなら」
「内容によるな」
嘘をついた。はずだった。
逃がす気などこのときは毛頭なかった。
「へへっ、なんで俺が捕まってんのか、アンタが誰に捕まったのか教えてやるよ」
「何を言ってる。俺は捕まってなんかいない」
「アンタが6才の頃だ。お、覚えてるだろ?」
思い当たるのは、あの事件だけ。
俺が人さらいにあった時を思い出した。
「なんだ、お前一体何を知っている?」
男は口の端を歪めて、話始めた。
「取り逃がしただと!お前がついていながら!」
「申し訳ありません」
夕日に照らされた執務室で、俺はひたすら頭を下げた。
護送班の連中も、皆うなだれている。
そんな俺達を見て、五代目も落ち着いたようだった。
「まぁいい。逃げられてしまったものは仕方がない。
追って捜索隊を出す」
ほっ、とため息が聞こえてくる。
だが、俺はため息をつく気にはなれなかった。
「結果はどうであれご苦労だった。
下がって良いぞ」
護送班はそそくさと部屋を退室した。
しかし、俺はその場を動かなかった。
「どうした、カカシ」
「五代目にお聞きしたいことがあります」
「……それは、二人でないと話せないことか?」
「五代目次第です」
すっと手をあげ、五代目は横にいたシズネを退出させた。
おそらく天井裏の暗部も消えたのだろう。
俺は五代目の目を見据えて話した。
「私を疑っていますね?」
五代目は、強い瞳でこちらを見返した。
「なんのことだ」
「今回の任務、なぜ私を呼び戻したのか分かりました」
俺も五代目も、目をそらさない。
「わざと逃がしたのか」
「いいえ。隙をつかれて毒にやられてしまいました」
「隙をつかれて、ね。
相手はそこまでの手練れだったのかい?」
五代目の声が冷たい響きを帯びる。
「アイツに聞かされた話の内容が、私にとっては衝撃的なものだったのです」
「衝撃的?」
「ええ。ですが、そんなことよりも、はっきり言わせてもらいます」
俺は大きく息を吐き出し、綱手様の鋭い瞳を見返した。
「私は、アイツの執筆に手助けをしたりはしていません。
木の葉の機密を漏らすようなことは、一切していませんよ」
「それを今信じろと?」
「どうせ信じて頂けないのなら、こんなやり方ではなく、
はっきり態度に示していただいた方がマシです」
そう、俺は久しぶりに怒っていた。
なにがこんなに俺をイラつかせるのか分からない。
寝不足だからだろうか。
ただ、俺はイラついていた。
「……悪かった」
「なにがですか」
「お前を試すようなことをして、すまなかった」
五代目は目線をそらし、目を伏せた。
「お前がアイツの出版を手伝ったのなら、アイツをわざと逃がすだろうと思っていたんだ」
「そうでしょうね。
アイツは私の父親について、色々と本に書いたみたいですから」
「ああ。あれを読んだときお前が協力したのではと、疑った。
そうでなければあんな内容は書けないと思ったんだ」
「よく考えてみて下さい。私は当時6才だったんですよ。
親父についてなんてほとんど知りません」
「そうかもしれない。
だが、違うかもしれなかった」
五代目は再び俺を見た。
「お前が聞いた衝撃的な話というのは、サクモのことか?」
「そうと言えばそうですが、少し違いますね」
「少し違う?どういう事だ」
「親父が里中から非難され、助けた仲間からも罵られたことは当時からわかっています」
茶色く透き通った瞳が少し揺れ、五代目は下を向いた。
「私が聞いたのは、誰が私を人買いに売ったかということです。
親父が死んだ直後、6才の時に一度、私は人さらいにあったことがあるので」
ああ、と五代目は答えた。
どうやら知っているようだった。
気分が何か落ち着かず、俺は不機嫌そうな声を出していた。
「私をさらったのは親父の仲間だった男だと、そうあの男から聞きました」
「そうか……」
「五代目なら知っているんじゃありませんか?
誰が私を売り飛ばしたのか。
あの男は名前までは言わなかったんですよ」
「そんなこと知ってどうするんだ」
「ただの好奇心ですよ。
なにもする気はありません」
しばらく沈黙が流れたのち、五代目は静かに言った。
「悪いな。私には分からない」
それは機密事項だった、と五代目は言った。
なら調べて下さい、と俺は返した。
どうして俺は、こんなに苛立っているのだろう。
「調べようもないんだ。
当時の資料が見当たらなくてな」
俺は頭を下げて部屋を出ようとした。
そんな俺を、五代目の声が追いかける。
「アイツの書いた本は、木の葉と丑三つ隠れの人身売買を暴露した物だった。
木の葉の里でも、ましてや他里で出版されていい本じゃない。
本の内容からしても、アイツはお前の味方じゃないはずだ」
分かってますよ、とだけ答えて、執務室を後にした。
部屋から出て廊下を歩いていると、前からナルト達が歩いてくるのが見えた。
「これから報告か?」
ナルトは一瞬顔をこわばらせて、目をそらした。
サクラやサスケも下の方を向いている。
「どうしたんだ。なにかあったのか?」
ナルト達は答えようとしないので、俺を諦めることにした。
やはり少しだけショックだった。
じゃあなと声をかけ、ナルト達の横を通りすぎる。
すると、ナルトだけはこちらを振り向いた。
「あのさ!」
何かを振り切るような、悲しい声だった。
「どうした?」
「あのさ……先生に聞きたいことがあるんだ」
「何を?」
ナルトは口ごもりながら答えた。
「明日、話すってばよ」
俺は、分かったと答えた。
何を聞かれるのか、見当もつかない。
ただ不穏な空気が流れるだけだった。
俺は早くこの場を立ち去りたくなって、瞬身の術を使った。
家にやっとの思いでたどり着き、扉をしめる。
どっと疲れが出たようだった。
「なんなんだ、一体」
どうしてこんな目にばかり逢わなくてはいけないのだろう。
今夜は用事があったのに、俺は酒を飲んでベッドに体を放った。
今日は、窓際の写真を見る気も起きなかった。
任務五日目の朝、俺はぼんやりしながら身支度をした。
昨日は護送の任務だったので、一日おいての農作業になる。
昨日のナルト達の顔が思い出され、顔を会わせるのが億劫だった。
「おはよう」
それでも、任務を休むわけにはいかない。
俺の姿を見て、ナルト達には緊張が走ったようだ。
俺は心底うんざりしてしまい、それ以上は声をかけず出発した。
こんなに明るい道をうつむいて歩く俺達は、なんて陰気なんだろう。
つい耐えきれず、ナルトに話しかける。
「なにか、俺に聞きたいことがあったんじゃないのか?」
だが、ナルトは着いたら話すと答えるだけで、暗い目をしている。
話しかけたことを少し後悔しながら、俺達は無言で歩き続けた。
数十分後、依頼人の家が見え始めた時、ナルトが駆け出した。
サクラやサスケもあとを追いかける。
仕方なく俺もついていった。
「おいオッサン……オッサン!」
泣きそうな声で、ナルトは扉を叩いていた。
一体何があったのか分からないが、ただ事ではないらしい。
わけを話させようとするより早く、ナルトはどこかへ駆け出した。
「俺が探す!
サクラちゃんとサスケは、カカシ先生と一緒にいてくれ!」
「アンタだけじゃ無理よ!」
そう言い返しサクラも走り出す。
サスケもあとを追った。
「先生は動かないで下さい!すぐに戻ってきますから!」
サクラの声を最後に、三人の姿は畑の方へ消えた。
俺は仲間と別れる嫌な感覚をもて余した。
どうしても、オビトの後ろ姿を見送った時を思い出してしまう。
「……口寄せの術」
どうせ後悔するなら、行動しておくべきだ。
忍犬達にナルト達のあとを追うように指示し、俺はキョガクを探しに行くことにした。
忍犬をキョガクの捜索にあてなかったのは、心当たりがあるからだ。
近くの森から、なにやらおかしなにおいがする。
おそらく毒物であろうにおいをたどり、俺はにおいのもとにたどり着いた。
森の奥にはキョガクともう一人、あの男が待っていた。
「アンタは昨日の」
護送班から逃げ出した男が、キョガクの首を後ろから絞め、ひきつり笑いを浮かべていた。
「へ、へへっ、待ちくたびれたぜ」
「なにをする気だ。キョガクさんを離せ」
「キョガクさん?さんだとよ。本当に気がついてないんだな」
「何をだ」
「こいつはア、アンタの父親のカタキなんだぜ」
呼吸が止まった。
それはキョガクの方も同じだったらしい。
その様子だけで、俺にとっては十分だった。
「ホントのことをさ、教えてやれよ。へ、へ」
「違うんだ。私のせいじゃない……」
「なにが違うんだよ。
この人を、人買いに売り飛ばしたのもアンタなんだろ?」
「いや、それは」
俺は気がつかない間に、殺気を出していたらしい。
森のざわめきがピタリとやんだ。
「ひっ……。違う、俺のせいじゃない。
アイツが……アイツが勝手に俺達を助けたんだ!」
俺が何も言わないのを良いことに、キョガクはベラベラと喋り出した。
「俺達はみんな覚悟を決めていた!
忍者なんていつ死んでもおかしくはない。
だからアイツが助けに来ることなんて、はなっから期待しちゃいなかったんだ」
「アイツってのは、親父のことか」
「そ、そうだ。
アイツは俺達を助け出した。里の掟に逆らってまで。
掟より俺達を選んだなんて聞こえは良いよな。
だが、そんなのはアイツのエゴだ!」
「なんだと?」
「木の葉は当然のように、アイツを非難した。
そのとばっちりを俺達も受けた!
俺達だって、アイツを非難するしか逃れる方法は無かったんだ!
そうだろ!?」
キョガクは興奮して怒鳴り始めた。
その声を聞けば聞くほど、俺の心は冷めていった。
「それで、結局アンタらは親父を裏切ったのか」
「先に余計な事をしたのはアイツの方だ!
助けてくれなんて頼んじゃいねぇのに……!
しかもアイツは、俺達が寝返ったとたん死にやがった!
非難の矛先はどこへ向くと思う!?
俺達だよ!」
今すぐあの首を絞められたら、どんなに気分が良いだろう。
俺は冷えきった目をしているのだろうと思った。
「もう一人の仲間もサクモを追って自殺した!
木の葉には俺だけが取り残され、俺は忍者を辞めざるを得なかった……!
全部お前の親父のせいだ!」
俺は、全てを忘れキョガクに殴りかかった。
後ろの男は、止めようとしなかった。
キョガクは押さえつけられたまま、えずいている。
「俺を売り飛ばしたのはなぜだ。
なぜそんなことをする必要があった?」
「そりゃあ、旦那が怖かったからでしょうよ」
それまで黙って見ていた男が口をはさんだ。
「俺が怖い?」
「そうそう。いずれ成長したアンタに、復讐されるのが怖かったんだ」
「馬鹿馬鹿しい……!」
俺はキョガクを睨み付けた。
今までの不幸は全て、こいつのせいだと思うほど黒いものが渦巻いた。
オビトやリンのことさえも、キョガクのせいにしようとし始めていた時だった。
「誰か来たな」
気配は俺も感じ取っていた。
多分、ナルト達のものだ。
そう思った瞬間、俺は我に返った。
「ナルト……」
そしてそれが隙になった。
「やめてくれぇ!」
気がついた時にはもう遅く、キョガクの腹は横にかっ切られていた。
反射的に吹き出す血を押さえ、崩れ落ちる体を受け止めていた。
「なんてことを……!」
「アンタが望んでいた事だろう?へへっ、じゃあな」
男を追いかけたかったが、そうもいかない。
俺は急いでポーチから針と糸を取り出した。
そんなとき、ナルト達が目の前に現れた。
「きゃああああ!」
血まみれの俺を見て、サクラが青ざめる。
ナルトとサスケも、その場に固まったまま動かない。
「早く医者を呼んでこい!」
傷を縫合しながら、俺は怒鳴った。
三人はビクッと体を震わせ、すぐに走り去った。
「俺は……死にたくない……!」
涙目になりながらキョガクが掠れた声を出した。
俺は必死に針を動かした。
だが、流れ出る血液が異常なほどに多い。
恐らく毒のせいだろう。
それでも手を動かしながら、キョガクにたずねた。
「あの男は一体誰なんだ」
少し間を置いて、キョガクは答えようとした。
「俺の……」
その声を最後に、キョガクは息を引き取った。
半開きのまま固まった目には、涙のあとが残っている。
助けられなかった。
しばらく呆然としていた俺に、足音が近寄って来た。
「先生!医者のにーちゃん連れてきたぜ!」
俺は振り返ることも出来ず、手遅れだと呟いた。
医者は死亡を確認し、首を横にふった。
「あとで木の葉に呼ばれるかもしれません……でも、今は帰って頂けますか」
やっとの思いでそう告げると、医者は去っていった。
取り残されたナルト達に、俺は何も言葉をかけられなかった。
「なぁ……これ、一体どういう事なんだよ」
ナルトの暗い声が背後から聞こえてくる。
それでも、返事をすることさえ出来なかった。
「どういう事だって聞いてんだよ!」
なんて答えたらいいか分からない。
ただ怒りの感情が先走った。
「なぁ、聞こえてんだ」
「俺がやったって言いたいのか!」
やっと言い返せた声は野太く、大人の怒鳴り声が響いた。
ナルト達は凍りつき、ショックを受けている。
はっとして頭を抱えたが、それでは何も解決しない。
なんとか頭を整理して、ナルト達に質問をした。
「……お前ら、何を俺に聞きたかったんだ?」
片膝を立てうつむく俺に、ナルトは立ったまま答えた。
「キョガクのオッサンのこと、恨んでるのか聞こうと思ってた」
「こいつに何か言われたのか」
「自分達は先生の父ちゃんを犠牲にしたって。
だから自分の娘は先生に殺された。
自分も殺されるかもしれないって、言ってた」
「娘……?なんのことだ」
俺が顔をあげると、ナルト達は疲れた目をして、俺を見下ろしていた。
「先生と同じ班だった、のはらリンって女の子だ。
覚えてんだろ」
俺はまた声を出せなくなった。
そんな俺をナルト達は、責めるように見ている。
そんな、と呟いた。
「リンがキョガクの娘……?そんなバカな」
それ以上何も言えなくなった俺に、サスケが追い打ちをかける。
「殺したことは否定しねぇのか」
俺は答えられず、号令をかけた。
「里に……帰ろう……」
やはり誰も何も言わなかったが、サスケとナルトはキョガクの体を抱き起こした。
俺もゆっくり立ち上がり、先を走るナルト達の後を追う。
話しかける気力もなければ勇気もなく、俺は黙ってついていくだけだった。
死体を抱えたまま、五代目のもとへ向かおうとするナルトをとめ、監察医のところへよった。
そして執務室にたどり着いた俺は、扉を叩いた。
「はいれ」
血まみれの俺を見て、五代目は眉をひそめる。
俺は重たい口を動かして、事情を説明した。
「……という訳です」
ナルト達は、最初は俺の説明を驚きながら聞いていた。
しかし、話が突拍子もなさすぎたのだろう。
あまり信じてはいないようだ。
五代目は暗い顔をしたまま、ナルト達にも説明を求めた。
「それで、俺達がたどり着いた時には、先生もオッサンも血まみれだった……」
ナルトの説明を聞き終え、五代目は目を伏せたまま言った。
「お前を拘束しなければならない」
俺は、牢屋に閉じ込められた。
今日は疲れてしまった。
座っている気力すらない。
俺は床に横になった。
リンがキョガクの娘だというのは、どういう事だろう。
あの男はキョガクのなんなのだろうか。
どうして俺が恨まれなきゃならない?
色々な思いが頭の中を駆け巡った。
もう疲れたのに、謎がとけるまでは、休めないことを悟った。
うんざりしながら、俺は起きあがる。
「せめて、親父の任務のことさえ分かれば……」
しかし、当時の資料はなくなっていると五代目は言っていた。
本当か嘘かも分からないが、確かめるすべも今の俺にはない。
俺に何か出来るとすれば、あの男の後を追うことだけだ。
人身売買の暴露本を出した、あの男を。
俺は鉄格子を雷切で切り裂き、難なく脱出した。
きっと、五代目も本気で俺を拘束する気は無かったのだろう。
そう思うことにした。
薄暗い廊下を抜け、俺はキョガクの遺体のもとへ向かった。
物陰に身を潜め、タイミングを待つ。
しばらくして、俺は検死結果が書かれた用紙を手に入れた。
『はやがねキョガク本人と確認。
特殊な形状の刃物で切り裂かれた痕跡が残る』と書類には記されている。
俺は傷跡の写真も小説に挟み、ポーチにしまって廊下に戻った。
その瞬間、暗部に囲まれた。
「カカシさん。牢にお戻り下さい」
温度のない声が、廊下に響く。
「頼むから見逃してくれ」
「できません」
俺は仕方なく、両手を上にあげた。
暗部は俺のポーチを探った。
「……書類はどこへ!」
「俺は知らないね」
雷遁影分身を解くと、暗部たちは雷に包まれた。
これで分身を囲んでいた廊下の暗部は、しばらく足止めできるだろう。
だが、俺の目の前の暗部もなかなか手強そうだ。
「なんでそう、しつこいかね。
俺なんか逃げ出したって支障はないでしょ」
「そんなことはありませんよ」
アナタは写輪眼を持っていますからね、と暗部は素っ気ない声で言った。
写輪眼のカカシと、自分で名乗った訳ではない。
だが、俺はオビトの代わりに写輪眼を肩書きのように背負い続けるのだろう。
雷切で突破しようと印を組むため腕をあげた。
しかし、いつの間にか後ろにいた暗部が、俺を羽交い締めにした。
「はなせ!」
派手に暴れる俺を縛りあげたのは、根の忍者だった。
「なんのつもりだ。なぜここに根の者がいる」
「ダンゾウ様がこの者に用があるらしい。
火影様にも許可はもらっている」
「しかし……それならば、仕方ない」
暗部達は、縛られたのが俺だと騙されてくれたらしい。
暗部が消えるのを待って、俺はまた影分身の術を解いた。
縄だけを残して、しばられていた俺の姿は消えた。
「さて、行くか」
俺は、根の姿に変化したまま走り出した。
里を抜けるのがこんなに簡単な事だとは思わなかった。
拍子抜けしてしまったほどだ。
もしかしたら五代目は俺の味方なのかもしれない。
そんなことを考えながら数分走ると、キョガクの家が見えてきた。
誰もいないことを確認し、中に入る。
いたって普通の玄関に、写真が二枚飾ってあった。
片方の写真には、4才くらいの女の子が写っていた。
この子がリンなのだろうか。
あまり直視は出来ず、隣の写真を見た。
緑色の写真立てには、キョガクの隣で笑う女性と男の子の写真が収まっている。
奥さんと息子といった感じだ。
俺はそれも小説に挟みこんだ。
さらに家の奥へ進み、手がかりを探して家捜しを始めた。
ついでに、タンスの服ももらっていくことにしよう。
俺のベストは、未だキョガクの血にまみれている。
洋服を取り出した時、さらにすみの方に何かがあるのを見つけた。
どうやら薬ビンのようだ。
手にとり、慎重にふたを開けた。
「うっ!」
嫌なにおいが辺りに立ち込める。
俺はすぐにふたを閉めた。
このにおいは嗅ぎ覚えがあった。
昨日、森から漂ってきたにおいと同じで、逃げ出したあの男に盛られた毒と同じであることも思い出した。
あの男の首を後ろから絞めていた時、隙をつかれ腕に針を突き立てられたのだ。
体の自由が奪われ、男は逃げていった。
おそらく、その時の毒と同じものだろう。
俺は小瓶もポーチにいれて、服を着替えてから外に出た。
マスクはコンビニで使い捨てのやつを買うことにしよう。
外はまだ明るく、風は爽やかだ。
散歩でもしたくなる昼下がりに、俺はキョガクの殺害現場へ向かうことにした。
キョガクの家からそれほどかからず、森の奥にたどり着いた。
木の葉はまだ、調査には来ていないらしい。
俺は血まみれの地面に目を凝らした。
すると、ゼリー状に固まった血液を見つけることができた。
専門ではないのでよく分からないが、毒物による反応で凝固したものらしかった。
もし、この毒に木の葉の監察医が気づいていたら、俺が殺した訳じゃないと証明されるだろうか。
あまり期待はせず、ポケットから別の小瓶を取りだし、血のゼリーをいれて封をした。
あの男の行方については、一応パックン達を呼び出して、においをたどってもらった。
だが、そう簡単に行方は分からなかった。
「一体なにがあったんだ」
パックン達はさっきの騒動を途中まで見守っていたそうだ。
口寄せを解いていなかったことを思い出した。
「ずっと森にいたのか?」
「いいや。お前達が死体を抱えていくのを見送って、帰らせてもらった」
「そりゃそうだよな。ごめん」
「そんなことより、大丈夫なのか?」
かなり追い詰められていたようだが、とパックンが言った。
俺は本当のことを話した。
「俺は復讐したことになっているらしい」
全てを聞き終えて、パックンは顔をしかめた。
「バカみたいだな」
俺もそう思う、と答えた。
用事があるというパックンの口寄せは解かずに、俺は忍犬たちと別れた。
オレンジ色に染まり始めた空を見上げ、顔を叩く。
「行くぞ」
慣れない服を見にまといながら、次の手がかりを探しに走った。
今確かめなきゃいけないのは、ナルトがどこから医者を連れてきたか、だ。
地元の医者なら、キョガクについて何か聞けるかもしれない。
数分走り続けていると、カラザクリニックという看板を見つけた。
あの医者がいることを祈りつつ、扉を開けた。
「このクリニックにいらっしゃる医師の方は、カラザ先生だけですか?」
「ええ、そうですよ」
受付の女性に面会を頼むと、番号札を渡された。
「他にも順番待ちの患者さんがいらっしゃいますから」
「五分でいいんです。今すぐ会わせて頂けませんか」
「お急ぎなんですか?」
「ええ。私は木の葉の上忍なんです。
正式な要請ではないのですが、ぜひお話を聞かせて頂きたくて」
「なんだ。それならそうと言ってくださいよ」
額当てを見せたおかげで、なんとか取り次いでもらえることになった。
診察中だった患者と入れ替わり、診察室へ入る。
「ああ、アナタはさっきの」
「ええ。お時間を作って頂きありがとうございます」
部屋で待っていた医師は、運良くあの医者だった。
俺はキョガクについて、話をふった。
「そうですね。
風邪やインフルエンザの時なんかは、よく来ていただいていました。
なのに、あんなことになるとは……」
「ご家族の話はお聞きになりましたか」
「はい、少しだけですが。
息子さんがいると言っていましたね」
「息子ですか?」
「ええ。娘さんもいらっしゃったようです。
二人とも亡くされたようですが」
娘とはリンのことなのだろうか。
息子は誰なのだろう。
もう少し話を聞いてみることにした。
「キョガクさんのお子さんについて、もう少し聞かせて頂けますか」
「いいですよ。
とは言っても、あまり知っている訳ではないですけど」
人の良さそうな医師は、眼鏡を外し、膝の上で組んだ指を見た
「息子さんは8才の頃に亡くされたそうです」
「8才ですか。随分と早いですね」
「戦禍に巻き込まれたのだと聞きました。
それ以上は分かりません」
「娘さんの方はどうですか」
「そうですね。
娘さんとは6才の頃に生き別れになったと。
親戚の家に預けていたようです」
「娘さんが亡くなったのはいつですか?」
「確か、娘さんが13才だった時だと思います。
報復されたんだと呟いていましたよ。
意味は私にも分かりませんが」
「たずねなかったのですか?」
「たずねても答えてくれなかったんです。
曖昧に誤魔化されてしまいました」
時計を気にし始めたカラザ医師に、俺は最後の質問をした。
「二人の名前を教えて下さい」
「えーっと、ドウタクとリンだったと思います」
「そうですか。ありがとうございました」
俺は丁寧に頭を下げて、クリニックを後にした。
キョガクの娘が、あのリンだったのかは分からない。
しかし、亡くなった年頃といい、情報はいかにもリンだと言いたげだ。
新たに手に入ったドウタクという名前をメモ帳に記し、俺は宿に泊まることにした。
今日はなんとか手持ちの金で収まったが、明日以降はどうなるか分からない。
情報収集がてら、とりあえずツテを頼ろうと布団の中で決めた。
「リン、こんなところで名前を聞くなんてな……」
俺はメモ帳を手に取り、ドウタクと書かれたページを開いた。
明かりが消えた部屋の中、月明かりに照らされて名前が浮かび上がっている。
「ドウタク……知らないな」
明日、情報屋に聞けば何か分かるだろうか。
片手でメモ帳をポーチにしまい、目を閉じた。
それから数時間後、宿屋から出た俺は、数キロ離れたパチンコ店を目指すことにした。
簡単な地図を辿りながら、初めて通る道の先に、見慣れた建物が見えてきた。
「いらっしゃいませー」
中はタバコの煙と熱気が渦巻いている。
端の台の前に座る女の肩を叩いた。
だが、女は振り向かなかった。
もう一度、肩を叩く。
「なによ、今いいとこなんだから……」
「おい」
「うるさいわね!邪魔しな……ああ、アナタね」
声をかき消されそうな騒音の中、俺は金を借りることになった。
「へぇ、珍しいこともあるものね。
アナタが私から金を巻き上げるなんて」
「君ならもう知ってるでしょ。
木の葉から容疑者扱いされて、金もおろせないんだよ」
「そういえばそうだったわね。
木の葉はもう、アナタが犯人だと断定してるみたいよ」
「やっぱりな」
おそらく、木の葉の内部にもあの男の仲間がいたのだろう。
キョガクの農場での任務は、あまりにもタイミングが良すぎた。
まるで俺達が向かうことを分かっていたかのようだった。
木の葉の下忍のスケジュールを知ってるやつが、タイミングを計ったのだ。
そして、俺を見事にはめた。
俺はため息をついた。
「面倒に巻き込まれるのはごめんよ」
パチンコ台から目を離さず、冷めた口調で情報屋は言った。
「巻き込みやしないよ。
ただ、いくつか聞きたいことがある」
「お金を出させた上で、情報まで欲しいって?
それは、いくらなんでも厚かましいんじゃない?」
「事が解決したら、いつもの三倍払うよ」
情報屋は無言のままだ。
「四倍でどうだ」
目をチラリとこちらに向け、しみったれた服を着た女は言った。
「ついてきた」
案内されるがまま、俺は掘っ立て小屋にたどり着いた。
「いつもだったら、こんな面倒なことには関わらないのだけど」
アナタだから特別よ、と女は言った。
「ありがとな」
「やめてよ、気持ち悪い。
で、何が知りたいの?」
「はやがねキョガクの息子と娘について。
それと『木の葉と丑三つ隠れの虚像』という本についても頼む」
「最近出版された、人身売買についての本だっけね。
アナタはここで待ってて」
そういうと、彼女は床を持ち上げて、現れた階段を下っていった。
どうやら地下に部屋があるらしい。
しばらくして、階段を登る足音が聞こえた。
「待たせたわね。勝手に読んで」
俺は手渡された書類を見た。
真っ先に目についたのは、のはらリンという文字だ。
親戚に養子にとられ、名字が『はやがね』から『のはら』に変わったとあった。
「キョガクがリンの……」
俺は何度も文章をたどって、強引に目を離した。
ここで留まっている訳にはいかないのだ。
リンの父親まで見殺しにしてしまったのだとしても、俺はあの男を追いかけるしかない。
書類を握りしめる俺を無視して、情報屋はタバコに火をつける。
リンについては、それ以上の収穫はなかった。
>>41
ついてきた、じゃなくて、ついてきて、です。
すいません……
次にドウタクの書類に目を通す。
話に聞いていた内容とは違い、俺は情報屋の方を見た。
「このドウタクって奴は、8才の時に死んだんじゃなかったのか?」
「さあね。私に分かるのはそこに書いてあることだけ。
ドウタクは8才で人買いに買われてる」
情報屋の言う通り、二十数年前に行方不明になったと書いてあった。
さらに目を疑ったのが、なんとドウタクは俺とほぼ同じときに人買いにさらわれていた。
しかし、それ以降の記録はなかった。
「ドウタクのこと、他に記録はないのか?」
「ないわ。人買いに買われた子供なんてそんなもんね。
アナタは運が良かった方よ」
さすがに、俺のこともよく覚えているらしい。
少し居心地の悪さを感じながら、あの本についての書類を見た。
新しい紙に走り書きで記されていた。
『吸収された丑三つ隠れと、木の葉隠れの人身売買を暴露した本。
はたけサクモとはやがねキョガクについての記述あり。
出版は逢魔ヶ隠れなどから』
そこで情報は止まっていた。
「丑三つ隠れの里は、もう無くなっていたのか」
「とっくの昔、10年以上も前の話よ。
丑三つは逢魔ヶに吸収されたの」
「逢魔ヶに?」
「丑三つは戦争で稼いでいた里だったから、忍界大戦が終結したら立ち行かなくなったのよ。
そこに逢魔ヶ隠れが目をつけて、経済的な支援をする代わりに合併しようと持ちかけたのね」
「そんなに簡単に合併できるものなのか?」
「全然。どちらの里からも反対の声があがって、10年以上経った今も確執があるわ」
「そうだよな……」
「しかも、今は丑三つにとって不利な本が出回っちゃったから、さらに対立が深まってるみたいね」
「この本のことか?」
「そう。それは丑三つと木の葉の取り引きについての本だからね。
木の葉はそれほどでもないけど、逢魔ヶでは少し騒ぎになってるみたいよ」
「そうなのか」
もう一度、書類にざっと目を通す。
あの本の作者については、何も書かれていなかった。
あの本の作者について、彼女にたずねた。
「本の作者は誰か分からないのか?」
「あれ、書いてない?」
「ああ」
「そうね、分かっているのは名前だけよ」
「なんて言うんだ」
「ネイチって言うの。今のところ情報はこれだけ」
「そうか。ま、助かったよ」
「だから、やめてちょうだい。
アナタはただ金を払えばいいのよ」
「そりゃま、そうだな。
それより、よく資料があったな」
「丑三つの本が出版された時、キョガクについて調べたのよ。
それをアナタがたまたま聞いてきただけ」
「たまたま、ね」
ネイチという名前をメモ帳に記し、掘っ立て小屋をでた。
外の空気を吸い、少し伸びをした。
彼女はタバコを踏み潰して、俺をちらりと見た。
「それにしても、センスのない服ね」
「キョガクの服を頂戴したんだ。
俺の服は血まみれだったから」
「血まみれ?」
「……いや、なんでもない」
「……そう、まぁいいわ。これからどうするの?」
「そうだな。
確かめたいこともあるし、一度木の葉に戻って、いろいろと調べてみようと思う」
「そういえばアナタ、まさか里抜けしてきたんじゃないでしょうね」
俺が何も答えないので、彼女はため息をついた。
「本当に昔から変わらないわね。自分だけでなんとかしようとするところ」
「今回は君を頼ったでしょ」
「そうじゃなくて。
少しは里の人に頼ることも覚えた方がいいわよ」
「説教はやめてくれ。じゃあな」
背を向けた俺を四倍だからね、という声が追いかける。
声の主に手をひらひらふって、走り出した。
木の葉に忍び込まなければいけないなんて、なんとも情けないが、見慣れた門の近くまで到着してしまった。
結界は暗部の暗号を使って突破すれば、なんとかなるだろう。
俺は暗部の姿に変化して、里に侵入した。
五代目はきっと、この時間は木の葉病院に居るはずだ。
今なら顔を会わせずに済む、と思う。
資料室にまでは難なく入り込むことができ、ほっとため息をついた。
「遅かったじゃないか」
突然響いた声の方を振り向くと、綱手様が腕を組み立っていた。
「病院に居るだろうと思ってましたよ」
「なに、お前を待っていたのさ」
こちらへ歩み寄る姿を見て、俺は観念するしかなかった。
しかし、もしかすると五代目は俺の味方なのかもしれない。
確認するなら今しかない。
「五代目。アナタは私の味方ですか?」
「さぁね。お前の助けになるかはお前次第だ」
五代目は俺に茶色く横びろの封筒を手渡した。
「資料が無くなったというのは嘘だ。悪いな」
中身を確認すると、キョガクについてや親父の任務についての資料が入っていた。
俺は封筒を脇に抱えた。
「五代目なら分かってくれてると思ってましたよ」
「よく言うよ。影分身をよこしたくせに」
「あ、バレてました?」
綱手様は気まずそうにこちらを向いた。
「キョガクのこと、すまなかった」
「俺を捕まえたことですか?」
俺はなんでもないことのように言った。
「それもある。
だが、私が最初からキョガクの素性を把握してれば、任務を回すこともなかったからな」
「なんだ、任務をあてたのもわざとかと思いましたよ」
「あいにく、なにも知らなかったよ」
この書類に目を通すまではな、と綱手様は呟いた。
目を通したあとはなぜ、とは追及しなかった。
「お前の部屋から、逢魔ヶのクナイが発見されたよ」
「キョガク殺害の凶器ですか」
「ああ、傷の状態と一致したらしい」
「らしい、ですか」
「私は火影だからね。そうそう動けないんだよ。
警戒されないよう泳がせているのさ」
五代目は内部の協力者にも気がついているようだ。
「さすがですね」
「いや、私に出来るのはこの程度だ」
綱手様は真剣な眼差しをこちらに向けた。
「自分で解決するつもりなんだろ」
はい、と俺は頷いた。
五代目は俺に背を向け、歩いていった。
「協力者は任せておけ。頑張れよ」
綱手様の後ろ姿に頭を下げる。
足音が遠ざかっていった。
俺は分身から封筒を受け取り、公園で資料を確認することにした。
公園には子供が多く走り回り、はしゃぐ声は楽しげだ。
片隅のベンチを陣取り、書類を一枚取り出した。
「トオト城の任務について、か……」
それは親父の最後の任務地だった。
ここで仲間を助けたために、親父は自殺するしかなくなった。
資料には、はたけサクモは一度里に帰還したとあった。
「わざわざ助けに戻ったのか」
里には無断で仲間を助けに行き、多大な損害を出したと書いてある。
見捨ててしまえば良かったものを、なぜ引き返したのだろう。
俺には分からなかった。
「次はキョガクについてか」
キョガクは手練れの忍だったらしい。
毒を扱うのが上手く、一族秘伝の毒は大いに役にたったそうだ。
はやがね一族の毒は何種類かあり、成分の解析は不可能である。
そのため解毒することは容易ではなく、キョガクの活躍は目覚ましかった。
しかし、十数年前に忍者を辞めた。
俺が人さらいにあって、里に戻ってきた直後に里を離れたらしかった。
「妻と娘をおいて、ね……」
やがて母親も早くに亡くし、はやがねリンはのはら夫妻の養子になり、息子のドウタクは行方が分からないままだ。
封筒には、さらにもう一枚だけ書類が入っていた。
「ネイチ……!」
俺はメモ帳を確認した。
書類に記された名前は、確かにあの本の作者のものだ。
書類の書き方からして、木の葉のものではなく、明らかに他里のものだった。
おそらく逢魔ヶの忍者登録書だろう。
驚くことに、右上に貼られた子供の写真は、キョガクの家に飾られた男の子の写真とそっくりだった。
「ネイチはドウタクだったのか……」
ドウタクがさらわれた年と、元丑三つでネイチが忍者になった年がピタリと重なった。
あの本の作者はキョガクの息子だったのだ。
では、なぜ息子であるネイチがキョガクを殺したのだろう。
半年前に忍者を辞めたとあるが、関係あるのだろうか。
まだ、俺には分からない。
「逢魔ヶ隠れに行ってみるか」
地図を頼りに、俺は逢魔ヶ隠れに向かうことにした。
それから何時間か走ったが、やっと三分の二に到達したところで日が暮れた。
適当な宿屋が見つからなかったので、野宿することになってしまった。
鬱蒼としげる草むらに一人横たわる。
虫の声が妙に物悲しく感じた。
「せめてあいつらが居たらな……」
ナルト達を巻き込みたいわけではない。
ただ、ナルトがそばではしゃいで、サクラが笑って、サスケがたまに言葉をかわしてくれたら、どんなに心強いかと思う。
いつも隣で眠っていた三人の姿を思い出そうと、俺は目を閉じた。
数時間後、目を覚ました俺は少しだけマスクをとった。
深呼吸をして新しいマスクをつける。
コンビニで買った使い捨てのマスクは、あと三枚に減っていた。
少し面倒だが、また買いにいくしかない。
そうしなければいけない理由が、俺にはあった。
あれは俺が人さらいにあった時だ。
だが、それを人に話したことはなく、これからも話はしないだろう。
息苦しいマスクをつけたまま、逢魔ヶ隠れに走った。
そして、さらに数時間がたち、俺は逢魔ヶ隠れの門の前にいた。
入るには当然、手形が必要だ。
しかし、そんなものを持っているはずもなく、忍び込むしか方法は無かった。
木の葉と同じように、高い塀でぐるりと囲まれており、なかなか隙が見つからない。
それでも写輪眼で里の結界を確認すると、チャクラの薄いところが見つかった。
そこらへんの石に人口寄せの術式を書き、薄いところから里の中へ放り込んだ。
「口寄せの術」
チャクラを練ると石の術式が反応し、俺は俺自身を里の中へ口寄せするという仕組みだ。
結界を通ったのは石ころだけなので、もしかしたらバレないかもしれない。
古典的なやり方ではあったが、とりあえず里の中へと入り込んだ。
誰に変化するか迷って、俺はキョガクに変化した。
いくらチャクラの薄いところを狙ったとはいえ、すぐに気がつかれる可能性も高い。
慎重に素早く、情報収集をすることにした。
手っ取り早く調べるには、里の中枢に入り込むのが一番だろう。
しかし、そこまでのリスクを犯す必要はない。
俺は、ちょうど道を歩いていた男に声をかけた。
「なんだ?」
「ちょっとお聞きしたいことがあるんですが、ね」
俺が写輪眼を見せるのと同時に、男はふらふらと歩き出した。
俺は横を歩き、急いで質問をした。
「ネイチという名を知ってるか?」
「知ってる……裏切り者だ……」
「裏切り者?どういう事だ」
「アイツは丑三つの出身なのに……丑三つにとって不利な本を書いた……」
「それ以外に知ってることは」
「サイウという婚約者がいる……」
「サイウ、か」
俺は幻術を解いた。
「んー……」
「大丈夫ですか?」
「あれ、俺は……」
「急にぼんやりされるので驚きましたよ」
「あ、ああ。すまねぇ」
「それで、先ほどからお尋ねしているのですが、サイウさんのお宅はご存知ないですか?」
「ああ、あそこの角曲がってすぐだよ。
葵荘の五号室だ」
「ありがとうございます」
男は首をかしげながらどこかへ歩いていった。
この分なら幻術をかけたことが、すぐにバレる事はないだろう。
俺は五号室へと向かった。
しばらく歩いていると、葵荘と書かれた表札が塀にかけられているのを発見した。
「こんにちは」
「はい」
扉を叩くと、サイウと呼ばれた女性が現れた。
「どちら様ですか」
「はやがねキョガクと申します。
ネイチさんについてお話を聞かせて頂けますか」
「キョガク……!」
彼女の表情が険しく変わった。
「今さら何をしに来たんですか。
あの人はもうここにはいませんよ。
このあいだ木の葉に連れていかれたんですから」
「知っています。ですから、アナタに事情をお聞きたしくて」
「事情?そんなのアナタの方が知ってるでしょう!
アナタが彼を捨てたんだから」
「捨てた?」
話が飲み込めない俺の目の前で、女性はドアを閉めた。
「帰って!話すことなんてないわ!」
どうすることも出来なそうなので、俺は一か八かで変化を解いた。
正真正銘、俺の声でサイウに話しかけた。
「申し訳ありません。
本当のことをお話ししますので、ドアを開けていただけませんか」
チェーンのついたドアを、女性はゆっくりと開けた。
「本当のことってなんですか。
さっきの人はどこへ行ったんです?」
「俺がキョガクさんに変化していました。
本物のキョガクさんは亡くなっています」
「亡くなった……?」
「俺の本当の名前は、はたけカカシです」
俺の名前を聞いたとたん、扉はまた閉まってしまった。
無理に押し入るのも気が進まないので、俺は諦めることにした。
どこか他の奴をあたろう、そう考えた時、チェーンのついていない扉が開いた。
「……中へどうぞ」
サイウが複雑な顔をして、こちらを見ている。
俺は五号室に招かれる事になった。
俺は逢魔ヶ隠れから出来るだけ距離をとりながら、メモ帳を開いて彼女の話を思い出した。
サイウという名のあの女性は、ネイチ、すなわちドウタクと、今月にも結婚する予定だったらしい。
しかし、三ヶ月前からドウタクが何かにとりつかれたようになり、先月にはあの本を出したのだという。
三ヶ月前に一体何があったのか。
サイウはリンの名前を出した。
俺は俺なりに三ヶ月前の事を思い出していた。
それはちょうど、再不斬たちと戦ったあとの事だった。
俺は木の葉の執務室に、三代目に呼び出されて向かった。
「カカシ……お前に伝えなければいけない事がある」
「なんでしょう」
三代目は思い悩んだ顔をして、机を見つめていた。
「お前たちの今回の任務の成果は、素晴らしかったとワシは思う」
「ありがとうございます」
「しかし、霧隠れはそうは思わなかったらしい」
重苦しい空気が執務室に流れる。
俺は三代目の言いたい事が分かってしまった。
「抜け忍を取り逃がしたと、霧が言っているのですね」
「ああ。再不斬たちはクーデターまで起こそうとした罪人だ。
霧の方でも後を追っていたらしい」
「それが木の葉の……私たちの介入によって滅茶苦茶になったと」
「そうだ。お前らに非はないのに庇いきれなかった……すまない」
笠で隠れてしまい、もう三代目の表情は見えなかった。
それでも、どんな顔をしているか俺には分かる気がした。
「霧に何を言われたんですか?」
聞きたくもない答えを、俺はたずねた。
沈黙が続き、三代目はやっと口を開いた。
「リンの……のはらリンの遺体を渡せと言われた」
呼吸が止まった。
「……霧隠れは、麻薬汚染が深刻なのは耳にしたことがあるだろう。
ガトーカンパニーと水の大名が手を組んでいるからなのじゃ。
本当のところは、カシラを潰されたガトーの手下が大名を煽り、霧に圧力をかけたらしい。
霧が木の葉に何らかの責任をとらせるようにな」
「でも、渡すのがリンである必要はないのでは……」
俺が責任をとればいいのではないか、という言葉を三代目は否定した。
「リンは三尾の人柱力だ。
三尾の実験の経過を知りたい。
木の葉への要求はそれだけだと霧は言っている」
「ですが、明らかにこの要求は理不尽では……」
「ワシも他の策を探したのじゃ。
しかし、霧は頑として他の案を受け入れなかった。
大名に言われたのか、まるで、大事なものを取り返そうとしているようだった……」
「……三代目はお受けになったのですね」
すまない、と俺に繰り返すだけだった。
面白い
「三代目は悪くありません。
これは俺の独断が招いた結果です。
そもそも下忍達にとって、適したランクではなかったのに、里と連絡をとろうともしなかったんですから」
俺は自分でも驚くほどスラスラ喋っていた。
「だから、これは俺の責任です。
本当に申し訳ありません」
頭を下げる俺に、三代目はまた、すまないと言った。
「どうか、謝らないで下さい。
それより、お願いしたいことがあります」
「なんだ?」
「リンの遺体は、俺に届けさせて下さい」
「そんなに自分を追い詰めないでくれ。
お前にそこまでさせる気はない」
「お願いです。
ケジメをつけさせて下さい」
「しかし……」
「せめて自分の手でリンを送り出さなければ、俺はきっと一生後悔するでしょう」
少し間があいて、三代目は頷いた。
俺はもう一度頭を下げて、スコップを取りに部屋を出た。
三ヶ月ほど前の出来事だった。
>>59
ありがとうございます!泣きそうです
俺は空を見上げた。
丸い月が俺を照らしている。
ナルト達の顔がふとよぎった。
あいつらには、リンの話はしていない。
聞いたらあいつらはなんて言うのだろうか。
俺のことを罵るだろうか。
それとも、なんだかんだ言ってもまだお子様だから、自分を責めるかもしれない。
絶対に告げる気はないので、答えは一生分からないが。
ドウタク、いやネイチは妹の遺体を霧に渡された事がショックだったのだろう。
サイウから聞いた話も合わせると、奴は木の葉と逢魔ヶ隠れを混乱させたかったらしかった。
ネイチは、木の葉から丑三つ隠れに売り飛ばされたのだ。
そして名前をネイチに変え、運良く丑三つ隠れの忍になった。
その後、丑三つは逢魔ヶに吸収され、ネイチは逢魔ヶの忍者になった。
サイウと婚約し、幸せだった時に、奴は左腕に大怪我を負った。
左腕の怪我は忍者を続けられないほどではなかった。
しかし、丑三つ出身で人買いに買われてきたという経歴が、ネイチを追い詰めた。
里から見捨てられ、ネイチは忍者を辞めるしかなく、一気にどん底へと突き落とされた。
それが半年前の事だった。
追い討ちをかけるように、ネイチはリンのことも知ったのだろう。
その時に俺への復讐にとりつかれてしまった。
俺以外にも、木の葉や丑三つ隠れに復讐したかった。
だから、元丑三つと逢魔ヶの対立が深まるように、わざと丑三つの汚点を書いた本を出したのだ。
木の葉での反応は、サクラが噂話のネタに使う程度だったが、逢魔ヶ隠れでは効果てきめんだった。
さらに、はたけサクモの話を組み込むことで、俺への復讐も果たそうとしたのだろう。
少しだけネイチのやろうとした事が分かった気がした。
俺は、サイウから貰った本をポーチから取り出した。
本の中にはこんな一節がある。
『掘っ立て小屋の地下で、俺はお前を待っている』
この文だけ、他の文章から浮いていた。
俺は走り出した。
「あら、来たわね」
寝ないまま何時間も走りっぱなしだった俺を、情報屋が出迎えた。
「地下にネイチがいるんだな?」
「ええ。金の話だけど、あれはもういいわ。
だから、チャラにしてちょうだい」
「脅されてたのか?」
「アナタに自分のことを話したら、私が木の葉の情報屋だって言いふらすってね。
おかげで根城を変えなきゃいけない」
「ごめんな」
「いいのよ。
そろそろ足を洗おうと思ってた頃だし」
情報屋は、大きなリュックを掛け声と共に背負った。
「もう行くのか」
彼女は俺に背を向けた。
「まぁ、ここまでやったんだからアイツに会ってあげなよ。
元気でね」
女は振り向かずに手をひらひらさせて、歩いていった。
「じゃあな」
俺も彼女に背を向け、深く息を吸った。
「これで最後だな」
床を引き剥がし、地下への階段を降りた。
「待ちくたびれたぜ。へへっ」
薄暗い地下室には、裸電球が一つ頼りなく灯り、蛾が光にまとわりつくよう飛んでいる。
だだっ広い部屋の中心にネイチは立っていた。
「もう、演技はいい。
お前のことはサイウさんから聞いた」
ネイチは少しだけ表情を変えて言った。
「演技なもんかよ、なぁ。
俺はずっとこうやって生きてきたんだ」
背筋をすっと伸ばし、ネイチは俺を見た。
「ずっと人様の顔色うかがって、こびへつらって生きてきたんだよ」
俺もネイチを見た。
「それは俺のせいじゃない」
ネイチは大声で笑い始めた。
「はははは!俺のせいじゃない、か。
笑わせてくれるぜ。
ここまでたどり着いたくせに、全然分かってないんだな」
「いや、色々と調べさせてもらったよ」
話してくれたサイウの顔が浮かんだ。
「俺をかばったせいで、お前は人買いに売られたんだ」
「……サイウから聞いたのか」
「ああ」
ネイチは静かに語り出した。
「俺がはやがねキョガクの息子、はやがねドウタクだった時のことだ」
ゆらゆらと飛ぶ蛾を、ネイチは見ているらしい。
「ある任務で親父がミスを犯した。
おそらく死ぬ運命だった。
そんな親父を、木の葉の忍は見捨ててきた。
俺はその木の葉の忍に言ったんだよ。
「人殺し」ってな」
ネイチはなぜかにやつきながら話している。
その理由がなんとなく俺にも分かる気がした。
「自分の息子と似たような年の俺に、そんなこと言われてショックだったんだろう。
なんと、そいつは任務先に戻って親父を助けてきやがったんだ。
里に大きな損害を出してな」
「その木の葉の忍ってのは、はたけサクモのことだな」
「ああ。
木の葉の白い牙はガキの言うことに振り回されて、自殺に追い込まれちまったんだなぁ」
俺は何も答えなかった。
「ウチの親父もアンタの親父と同じくらいバカでね。
白い牙が死ぬ直前に、とどめさしに行きやがったんだ。
どうして俺を助けたんだって、白い牙に怒鳴ってた声が聞こえたぜ。
追い詰められたアンタの親父は自殺した」
「そして、今度はお前の親父さんが標的にされたんだな」
「ああ、里中から非難されたよ。
親父も追い詰められて、腹いせにアンタを人買いに売り飛ばそうとした」
「腹いせね……」
汚い、という言葉がぴったりな気がした。
キョガクの感情にあまり違和感を覚えない俺も、薄汚れているのだろうと思った。
「いつか復讐されるのを恐れてたってのも本当だ。
なんせあの白い牙の息子だからな。
自分なんか簡単に殺られると思ったんだろう」
「お前は、それを止めてくれようとしたんだよな」
「それもサイウから聞いたのか」
「ああ。色々と話してくれた。
止めようとしたせいで、お前も巻き添え食らったってのもな」
「そうだ。俺は必死になって止めたんだよ。
なに考えてんだってな。
そうしたら、『こんなことは良くあることだ』って言われた。
後になって分かったが、親父はとっくに人身売買に手を染めていたんだ」
木の葉と丑三つの人身売買のルートを作っていたのは、キョガクだったのだ。
そう本に書かれていたのを思い出した。
きっと、それは間違いではないのだろう。
「それでも俺はやめるように言ったよ。
で、真顔で親父に言われたんだ。
『そういえば、お前が原因だったな』ってマジな声でな。
そうして、俺まで人買いに売り飛ばされた」
「だから親父さんを殺したのか」
「違うな。親父はお前が殺したんだ」
ネイチは腕を組んだまま、人差し指を立てた。
俺がなにも言わないので、またベラベラと話し出した。
「そのあと、俺は運良く丑三つの忍に拾われた。
他の奴は奴隷になったりしてたからな。
俺は本当に運が良かった。
名前はネイチに変わったが、新しい人生を歩き始めたはずだった」
「はずだった?」
「霧のやつらが、やっと掴んだ俺の人生を邪魔しやがったんだよ。
俺は血に目をつけられて、霧に無理やり連れていかれたんだ」
俺は予想外な言葉に少しだけ驚いた。
ネイチは顔を歪めて笑った。
「はやがね一族はな、尾獣を封印するのに適した体を持った一族だったんだ。
うずまき一族ほどじゃないけどな。
俺も霧で初めて聞かされて驚いたよ。
それと同時に不運を呪った。
いつまで俺は他人の思惑に振り回され続けるのだろうと、さすがに頭にきたよ」
ネイチはまた腕を組み、俺とは目線を会わせず下の方を見た。
「けどな、そんな俺の人生はもう終わりかけていたんだ。
霧に捕まって何かの検査機にかけられた結果、人柱力向きではないと判断されたようだった。
用済みになり、切り捨てられそうになった。
そんなとき、俺は急に妹のことを思い出したんだよ」
まさか、と思わず声を出した。
「そう、俺はとっさに妹の名を出した。
木の葉でのほほんと暮らしているであろうリンの名前を、俺は口にした。
アイツなら三尾の器になれるかもしれない。
俺なら連れ出せると言った。
俺は殺される代わりに、妹を連れ出すよう命令された」
俺は言葉を失った。
「リンと別れたのは、俺が8才の頃でリンが6才の頃だった。
アイツの方は俺のことを覚えちゃいないだろうが、俺はアイツがよちよち歩きした時から知っていた。
そして恨んでいた」
暗い目をしながら、ネイチは話続けた。
「俺は他里で名前を変えてまで生きているのに、お前は木の葉で何事もなく親父やお袋と暮らしているんだろう。
そう思ってた。
だから、リンを身代わりにすることに罪悪感はなかった」
「リンを……連れていったのか」
「ああ。けど、木の葉にたどり着いた俺は驚いたよ。
リンの名字はのはらに変わり、アイツは親戚と一緒に暮らしてた。
俺を見て、アイツは驚きながら泣いた。
そして笑った。
花が咲いたように笑った。
俺は懐かしさに、胸を潰されそうになった」
俺の頭にもリンの笑顔が浮かんだ。
「リンは俺が兄だと最初から気づいていた。
俺はリンから親父やお袋のことを聞いた。
親父は俺やアンタを売り飛ばしたあと、アンタが戻ってきちまったんで、慌てて忍者を辞めて里を離れたらしい。
結局アンタが何も証言しないもんだから、容疑者にはならなかった」
証言しなかったのではなく、出来なかったのだ。
当時、俺はなにも話せなかった。
今でも話せないのは変わらないし、マスクも外すことはできない。
それに、キョガクが犯人だと俺は知らなかった。
きっと証言は無意味だった。
「けれど、親父はアンタから逃げるように里を離れたから、周囲からは犯人扱いされたんだ。
お袋はそれに耐えきれず、体を悪くして死んだとリンは言った」
ネイチはどんどん早口になっていった。
「俺はそれを、霧に向かう道中で聞いていた。
リンがどんな酷い目に逢おうと、俺は死にたくかったからな。
でも、俺はまた驚いたよ。
リンから聞く話はあまりにも悲惨なものだった。
リンは義理の両親から虐待を受けていた」
俺はリンの暗い目を思い出した。
気づかなかった事が悔やまれる。
だが、時折見せた暗い表情に気が付いたのは、大人になってからだった。
「それだけじゃない。
最近仲間が死んだのだと話してくれた。
しかも、好きな相手があの白い牙の息子なのだと俺に言った。
本当に辛いときに、俺に会えて良かったと、リンは笑った」
「リン……」
「リンの変わらない天使みたいな笑顔を見て、俺は気づいてしまった。
ずっと恨んでいた相手は、最愛の妹だったのだと。
俺はリンを守らなくてはと思った」
「……急な心変わりだな」
「そりゃ理解できないだろうか。
だが、そう思わせるぐらいリンの笑顔は懐かしく、本当に天使みたいだった。
しかし、もう遅かったよ。
リンは霧に連れ去られた。
俺の名を叫びながら……」
俺にもリンの泣き叫ぶ声が聞こえてきそうだった。
俺は目をつむった。
「そして、リンは霧に利用されることになった。
俺はなんとか助け出そうとしていたんだ。
なのにお前が現れた。
お前はあっさり……本当にあっさりリンを殺した」
リンを殺した。
そう、確かに殺したのは俺だ。
だが、それをお前が言うのか。
「リンはアンタのことが好きだったんだ。
なのに、アンタは里のためにリンを殺した。
しかも、それじゃ飽きたらず、三ヶ月前、アンタはリンの遺体まで霧に渡した。
アンタの尻拭いにリンは利用された!」
ネイチの視線が俺をしっかり捉えたのを感じた。
霧にリンの遺体を渡したのも、俺の責任だ。
しかし、そもそもリンは誰のせいで死に追いやられた?
「だから、俺はあのクソ親父なんかと組むふりをして、アンタに復讐することにしたんだ!
木の葉の里にも俺と同じようなやつがいた!
白い牙の一件で巻き添え食らった奴の娘だ!」
巻き添えだと?白い牙が、親父が死んだのも、誰が原因か分からないのか。
ネイチは興奮しながら言い捨てた。
「アンタら親子は何人もの人生を巻き込んでんだよ!
俺を破滅に追い込んだのはアンタらだ!
疫病神が!」
俺は目を開けた。
「ふざけるなよ。勝手なことばかり言いやがって」
自分でも驚くほど、低い声だった。
「どうして俺が責められなきゃならない……?
お前に俺を恨む権利があるのか?」
俺はネイチを睨み付けた。
「お前の父親が俺の親父を殺したんだろ。
お前がリンを、死に追いやったんだろうが……!
お前らが俺の人生を滅茶苦茶にしたんだろ!」
渾身の力で、ネイチを殴り付けた。
鈍い音が響き、歯が飛んでいった。
「ぐっ……!」
立ち上がったネイチは俺を睨み返し、身構えている。
俺は拳を握りしめた。
「……もういい」
「……は?」
ネイチは怪訝な顔をした。
「もういいって言ってんだよ。
じゃあな」
俺は地下室を出ようと、背を向けた。
ネイチの声が俺を引き留める。
「待て!ふざけるな!
何がもういいだ!
俺の方は何もよくねぇ!」
俺は仕方なく、ネイチの方へ振り返った。
「お前の話を聞いて、よく分かった。
俺らはバカみたいによく似てるんだよ」
本当にバカみたいだと思った。
ネイチは訳がわからないという顔で、さらに怒鳴った。
「アンタなんかと俺が似ててたまるかよ!」
「分からないならそれでいい。
ただ、俺にはもうここにいる理由はない」
「なんだと……」
「お前、俺に殺されるつもりだったんだろ?」
一瞬目を大きく開き、ネイチは薄笑いを浮かべた。
「へへっ……なに言ってんだよ」
「悪いけどな、俺はお前を殺す気はないよ」
「……アンタ、俺が憎くないっていうのかよ」
「憎いね。だからぶん殴ったでしょ」
「ふざけんなよ……アンタにとってその程度のものなのか!?
白い牙が死んだのは俺の親父のせいなんだぞ!
リンがアンタの前に飛び込んだのも、俺のせいなんだぞ!
アンタ自身がそう言ったんだ」
俺は無言でネイチを見た。
ネイチは顔をひきつらせた。
「……ッ!」
再び背を向けて歩き出す俺に、ネイチは怒鳴った。
「……それでも、俺はアンタが憎い!」
ネイチはクナイを構えて走り出した。
俺は振り返り、よけずに受け止めた。
鋭い刃が腹に突き刺さる。
「なっ……!」
「……これで、チャラだ。
いいよな?」
刺さったクナイを引き抜き、床へ放り投げた。
「サイウさんを迎えに行ってやれよ」
俺は地上へと続く階段をのぼった。
ネイチは追いかけて来なかった。
しばらくゆっくりと歩いた。
先ほどまでとはうって変わって、世界は静かだ。
風の音がさやさやと流れていく。
俺は空を見た。
オレンジ色に染まった空に、雲が気持ち良さそうに浮かんでいた。
そして俺は倒れた。
このままなにもしなければ、失血死するだろう。
俺は目を閉じた。
「カカシ先生!」
驚いた俺は、思わず目を開けた。
ナルト達が走ってくる。
幻だろうか。
「大丈夫か!?カカシ先生!」
「どうしようサスケ君!」
「とりあえず傷を押さえるしかねぇだろ!」
俺は仰向けにされ、腹を押さえられた。
パックンまで俺を見ている。
「お前らどうして……」
尋ねずにはいられず、ナルト達の顔を見た。
「俺達、カカシ先生のことが心配で……そんなときにパックンが来たから、案内してもらったんだってばよ」
「ごめんなさい、私達カカシ先生のこと疑ってた。
けど、やっぱり先生が復讐したりするわけないって思ったの」
サスケも気まずそうな顔をしている。
俺はパックンの方を向いた。
「用事ってこれだったのか」
「どうしても、こいつらを説得したくてな。
まぁ、説得の必要はなかったが」
「で、五代目の許可をとって追いかけて来たの?」
誰もなにも答えないので、俺はため息をついた。
「帰るぞ、木の葉の里に」
「帰るって、その傷じゃあ動けないんじゃ」
「こんなのちょっと縫えばなんとかなるよ。
あっち向いてろ」
俺が針と糸を取り出したのを見て、ナルト達はぞっとしたようだった。
だが仕方がない。
俺はチクチクと自分の腹を縫った。
「さぁ、行くぞ」
サクラにもらった応急手当てのセットも使って、サスケの肩を借りて、俺は立ち上がった。
ナルトはオロオロしながらも、ずっと俺を気にかけてくれた。
俺達は木の葉へ向けて歩き出した。
「俺ね、お前らに会えただけで嬉しかったのよ」
病院のベッドの上で、俺はナルト達に告げた。
「な、なに言ってんだってばよ」
「バッカじゃないですか?」
「ふん……」
三人ともそっぽを向いたが、そんなことでも俺は笑ってしまう。
本当にかなり嬉しかったのに、ナルト達はわかってないなと思った。
「邪魔するよ」
突然、ノックもしないで五代目が病室に入り込む。
完全にビビっているサクラを無視し、五代目は俺に話しかけた。
「お前が持ち帰ったビンと、新たに見つかった巻物が決定的な証拠になったよ」
「巻物ですか?」
「ああ。
この巻物が見つかるまで、キョガクの体内の毒は、お前が調合したことになっていたんだ」
「なんの巻物なんですか?」
「はやがね一族の毒の調合について記した秘伝書だ。
これによると、あの毒ははやがね一族の毒薬だったらしい」
「そんなもの、一体どこから」
「私宛にどこからか届いたんだ。
たまたまな」
「たまたまですか……」
ネイチは俺を許してくれたということだろうか。
ひとまず、俺の容疑は晴れたようだ。
「お願いしたことについては、どうなりました?」
五代目は頭をかいた。
「んー、あれだ。悪いのは全部ドウタクという男らしい。
中忍試験のときに観客として、木の葉へ潜り込んでいたんだ。
その男が色々と企んでいたみたいでね」
「ドウタクが、ですか」
「だから、ネイチは関係ないし、木の葉の内部に協力者はいなかった。
ちゃんとそいつらを呼び出して、協力者はいないと言っておいたよ」
「綱手様らしいですね。
本の出版に関してはどうなったんですか?」
「それも、ネイチは勝手に名前を使われていただけだと、木の葉は判断した」
「じゃあ、ネイチは」
「木の葉は追いかけはしないよ」
「ありがとうございます」
ネイチはあの本のせいで丑三つに帰ることは出来ないだろう。
だが、もう木の葉に追われることはない。
せめて、どこかであのサイウという女性と暮らしていけることを願った。
「礼はいらないよ。
だが、これで本当にいいのか?」
俺は窓の外を見た。
ポカポカの陽気に子供の声が混ざって、いかにも平和そうだ。
「もしかしたら、俺がドウタクになっていたのかもしれないですからね」
「お前が?」
五代目は短く笑った。
「心配すらな。お前なら大丈夫だよ」
ナルト達が居るからな、そう言って五代目は病室を出ていった。
綱手様と入れ代わりで、自来也様が現れた。
「お前ら!こんな辛気くさいところにいないで、一楽に行くぞ」
「え、おごり!?」
ナルトが飛び付いた。
「もちろん」
「ナルト達におごらせるつもりでしょう」
俺が横やりをいれると、自来也様は大人げなくふくれた。
「なにを言う!ワシが食い逃げなんてするわけないだろ!」
「食い逃げって自分で言ってるじゃないですか」
「ぐ……もういい!
せっかくおごってやろうと思ったのに!」
「待ってくれってばよ!行くって!」
ナルトは一目散に自来也様の方へ走り去った。
サクラちゃんも行くだろー、と叫ぶ声が廊下から聞こえる。
「サスケ君も行くなら行くけどぉ」
また、サクラはぶりっこしてサスケを見た。
仕方ないと言う代わりに立ち上がるサスケを見て、サクラはやったーと叫びながら、廊下へ走っていった。
「アンタの分も貰ってきてやるよ」
サスケが俺の方を見ないで言った。
俺は当然、いらないと答えた。
無言で部屋を出ようとするサスケに、声をかける。
「ありがとな」
サスケは少し笑って、なにも答えず部屋を出た。
俺はもう一度窓の方を見た。
太陽の光が眩しく、それ以上に、外から聞こえるナルト達の声が眩しく感じた。
終わり
読んでいただきありがとうございます!
カカシ先生のマスクについてですが、うまく書けなかったので割愛しました。すいません。
今までに書いた
三代目「ナルトはお前に任せる」
サスケ「何で俺を連れ戻しやがった……!」
カカシ「春野サクラ……!」←グロ
も読んでいただけると嬉しいです。
本当にホントにありがとうございました!
乙
乙
おつかれさん
乙
面白かったよ
過去の作品も全部読んできた
また書いてくれー
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